双葉杏「金食う虫も好き好き」 (34)

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・某日事務所

杏「あ~……」

杏「ああ~……」

杏「うあぁ~……」

P「…………」

杏「あっ……」

P「……? おい双葉」

杏「…………」

P「…………おいってば」

杏「…………はあぁ~……!」

P「おい~、ちょっとは静かにしろってば。こっちはお仕事してんだよ?」

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杏「んぅ~……なに? なんか用なのプロデューサー?」

P「なにか用かってお前さんね」

P「レッスンから戻って来たと思ったら、ソファーに転がりゴロゴロゴロゴロ」

P「シャツはお腹が出ちゃってるし」

杏「……っ!」サッ

P「スカートもめくれちゃってるし」

杏「……っ!?」ササッ

P「若い娘がなんて恰好してるんだ。お嫁に行けなくなりますよー」

杏「……む、むぅ。そん時は、プロデューサーに貰ってもらうから別にいいよ」

P「丁重に断っちゃうからな」


杏「中年の独り身がなに言って。慕ってくれる美少女が一人いるだけでも、果報者だって思わないと」

P「双葉よ。それを本気で言ってるんだとしたら、おじさん身の振り方を考えなきゃ」

杏「なに? 世間様にロリコンだってこと公表する?」

P「断り続けて来た見合い話を、片っ端から受けて回る」

杏「……なにさー。この、意気地なし」

P「見えてる地雷を引き取るような、若さはとっくに枯れちゃったよ」


P「とにかく、ソファにはキチンと座りなさい」

P「寝っ転がってもいいけれど、服装の乱れに気を遣う」

杏「はいはーい」

P「……どうした、今日は随分素直だな」

杏「なに? 言うこと聞いたらなんか変?」

P「いや別に、そこまで言うつもりじゃあないけども」

P「普段なら、もっとダラダラ言い訳してるだろ? ……素直過ぎるのは気味が悪い」

杏「たまにはそんな日だってあるよ」

P「たまにはそんな日だってあるか」


杏「そうそう、そんな日そんな日……あっ、プロデューサー」

P「ん、どうした?」

杏「話をちょっと戻すけど、スカート捲れてたってことは……見た?」

P「…………いや」

杏「見たんだ」

P「見てない!」

杏「見たんでしょ?」

P「見てないっ!」

杏「……ふーん。まっ、一応信じといたげる」

P「そうそう信じろ。ちょうどこう、スカートの裾がいい感じの位置に被っててな――」

杏「パンツのラインと被ってた?」

P「実に、見えそうで見えない限界ギリギリを攻めてたよ」

P「見ようによっちゃあ、『あれ? コイツ履いてないんじゃね?』的な――」

杏「……ふーん」

P「……あっ」

杏「語るに落ちたね。はい罰金」

P「しまった……昼飯代の五百円が」


ジャラジャラジャラ

杏「ふふん、いい音♪」

P「俺には恨みの鐘に聞こえるなー」

杏「……それ、ひょっとしてギャグで言ってる?」

P「は?」

杏「お金と鐘の音をかけた――」

P「……あのねぇ、そんなワケないでしょうが」

杏「そう? 結構好きそうに見えるけど」

P「…………嫌いじゃないよ?」

杏「でも、もしそうだったら寒いよね。大して上手くもないしさ~」

P「……悪かったなぁ、上手くなくて」


杏「けどさ、セクハラ基金も随分な額が貯まったね」ジャラジャラジャラ

P「……それ前から思ってたんだけど、もう少しマシな名前にしたらどうだ?」

杏「マシな名前? ……なんで?」

P「"基金"って資本のことだろう? なんだかセクハラするために貯めたお金みたいでな」

杏「別にお金を使うのは、事務所のみんなだからいいじゃん」

杏「遠征や旅行に行く時に、これがみんなのお小遣いになってるんだし」

P「それな。こっちもついつい見ちゃう手前、理不尽だなんてことも言えないしなぁ」

杏「若さは枯れたんじゃ無かったっけ?」

P「老人はな、若者の生気を吸い取るんだよ」


P「それと……さっきから何を唸ってたんだ? 悩みがあるなら訊いてやるぞ?」

杏「……そんな暇あるの? お仕事が忙しいんでしょ?」

P「ん……まぁ、今度のファン感謝用イベントの内容をな」

P「考えていたってワケだけど……握手会だのサイン会だの」

杏「ありきたりだね」

P「だろう? もっとこう斬新で、業界内外の話題になるような企画をってなぁ」

杏「ふんふんふん……。あっ、だったら良い考えが一つあるよ」

P「ほお、あまり期待はしてないが教えてくれ」

杏「前金制」スッ

P「がめつい奴め」

杏「商売上手と言って欲しいね。……えー、ではコホン!」

杏「題して、『出た! アイドルに飴あげよう会!!』」


ピッ!

P「あっ、依田か? 今事務所に物の怪が現れて困ってる――」

杏「へいへいへいへいプロデューサー! 話は最後まで聞きなって」


杏「いい? まず会場に棒付きキャンディを用意します」

杏「具体的にはチュッパチャップス。種類も沢山用意するといいよ」

P「ふむ……。それはあれか? 事前にパッケージコラボとかをしておくのか?」

杏「えっ、なんで?」

P「違うのか? なら……キャンディその物とのコラボレーション?」

P「"レッスン後の新田美波味"とか、"寝起きの緒方智絵里味"とか、"滴る鷺沢文香味"とかなっ!」

杏「…………」ジャラジャラジャラ

P「ああ悪いな。単に口が滑っただけだ――続けてくれ」

杏「……で、用意しておいたテーブルにアイドルをズラッと並べます」

P「それはあれか? 棒付きキャンディの女体盛り――」

杏「ジャラジャラジャラジャラ!」ジャンジャンジャラジャラ!!

P「すまん。欲望が駄々漏れただけだ――続けてくれ」


杏「……全く、隙あらばセクハラするんだから」

P「面目ない」

杏「べつにいいよ。お金がドンドン貯まるだけだし」

P「慈悲も無い」

杏「でさ、話を戻すけど」

杏「まずファンのみんなは会場の入り口で棒付きキャンディを一つ買うの」

P「一つだけか? 一本四十円ぐらいだぞ?」

杏「そこをなんと! 一本五百円でご提供!」

P「暴利っ!」

杏「そうでもないよ? 飴を用意したファンの人は、アイドルのいるテーブルの前までやって来て」

P「買ったばかりのキャンディを、アイドルたちの胸元に刺す!」

杏「バカ」ジャラジャラ


P「胸じゃないなら脇に挟む? それとも剥いてもらっちゃうの?」

P「あっ、ちなみに俺が言ってる剥くってのは、棒の先っぽについてる包装紙で――」

杏「バカ。女体盛りから離れなよ」ジャラジャラジャラジャラ!

P「分かった分かった悪かったよ! 音で威嚇するのは止めろ!」

杏「あーもうアウト。はい罰金」

P「はぁ? なんで?」

杏「乙女に向かって"イカ臭いのは"ってさ!」

P「"威嚇するのは"止めろと言ったんだ!」


P「全くどういう耳をしてるだか……」

杏「あ、それ聞いちゃう? ……こんな耳~」

P「やると思った!」

杏「でも好きでしょ?」

P「……うん、わりと」


杏「でね? ファンはキャンディを持ったまま、アイドルの前までやって来る」

P「ふむ」

杏「包装紙を剥がすのはセルフだけど、追加料金を払えばアイドル本人が剥いてくれます」

P「オプション料か。いくらなの?」

杏「それがなんと! ひと剥ぎたったの五千円!」

P「ヒュー♪ 流石は双葉だ、ぼったくるぅっ!」

杏「そうでもないよ? 追加料金を払わなかった人にはアイドルのキスが一瞬だけ」

P「ん?」

杏「でもこのオプションを追加すると、なんと! その場でひと舐めしてくれる!」

P「えっ、息子を?」

杏「おい独身」

P「ああ、財布が軽くなっていく……!」

杏「貯金箱は重たくなっていく~♪」ジャラジャラジャラ♪


杏「にしても脳内桃色なんだから。キャンディにたいしてに決まってるでしょ」

P「ですよねー」

杏「オプション無しなら、側面に一度のバードキス」

杏「オプション有りなら、一度口に含んですぐ返す」

杏「向こうは間接キスできるし、アイドルも座ってるだけで構わないし。飴も味わえて一石二鳥!」

杏「これぞ! 『出た! アイドルに飴あげよう会!!』」


ピッ!

P「あ、依田ー? 物の怪思ったよりも凶悪でなー」

杏「へいへいへいへいプロデューサー! 話題にも絶対なるよってば!」


P「そりゃ、話題にはなるだろ別の意味で」

P「主に週刊誌のスキャンダルでな」

杏「えー、折角考えた企画なのに~」

P「あのな、よしんば通ったとしてもだよ。プライドってもんが無いのかい?」

杏「プライドがあるからこそするんだよ! アイドルっていう名の付加価値を、最大限活かした新しいビジネススタイルじゃん!」

P「でもな、言葉を変えればこれはもう……売春だぞ?」

杏「処女は売って無いから平気平気」

P「しょっ!? しょしょしょしょしょしょしょしょ――!!!?」

杏「ちょっとプロデューサーってば落ち着いて! 下ネタ尽くしだったくせに!」


P「はぁ~……」

P「はあ~あぁ~……」

P「はあぁぁ~……恥ずかしい……!」

杏「全くさぁ……。自分から話題に触れといて、どうしてダメージを受けるかな」

杏「正直ちょっと気味悪いよ? オッサンが赤面してるのなんて」

P「お、お前がドライすぎるんだ!」

杏「現代っ子現代っ子」

P「軽い~……! オジサン若い子がもう分からないっ!」


杏「それとね、貞操観念についてはみんなキチンとしてるって」

P「そ、そうなの? 隠れて援交なんてしてないよな?」

杏「当然でしょ? もっと自分のアイドルを信用しなよ」

杏「大体さ、プロデューサーといつもいるから……その、なに? 反面教師……的な?」

P「反面教師? ……って、おい! ちょっと待て!」

P「お、俺は売るのも買うのもしてないぞ!」

杏「じゃなくて!」


杏「自分たちが"そういう目"で見られてることに対する自覚って言うか、心構えって言うか」

杏「あ~、杏たちの溢れて止まない魅力がさ? ファンの人たちを日々悶々とさせてるんだね~……なんて」

P「まぁ、ウチの子たちはみんな魅力的だからな。そういう気持ちになるのも仕方ない」

杏「……私も?」

P「お前さんはちょっと保留したい」

杏「酷いなー、いじけるぞー? しばらく立ち直れなくなっちゃうよー?」

P「よく言うよ。ウチの事務所で一番ゲンキンなのってお前だからね?」


杏「うん、まあその話は一旦置いといて」

P「戻す気なんて無いくせに」

杏「代わりに話の筋を戻したげるよ」

杏「とにかく――杏たちが綺麗な身のままでいるのは最低限のマナーとして」

杏「それに加えてちょこっとだけ、過激なことをしてあげるのもある種の恩返しなんかになるのかなって」

P「それで……ファンのみんなと飴あげ妖怪?」

杏「そこは人間の集いのままがいいな」


杏「と言うワケで、ウチのアイドルは全員新品処女なのだ!」

P「君、サラッととんでもない発言だよ」

杏「もちろん杏もしかりしかり」

P「ん~……悪い、あんまり興味ないな」

杏「あんまりってことは、ちょっとは気になってたりしたの~?」

P「ゴホッ、コホッ! おっほん!」

杏「なに、図星?」

P「……だってさぁ~。新田も鷺沢もちえりんも」

杏「はぁ?」

P「んっんぅ~……緒方君も」

杏「分かりやすい性癖してるよね」

P「へへ、よせよぉ」

杏「褒めてない褒めてない、褒めてあげられるワケが無い」


P「みぃんな素直ないい子だから。ちょっと押しの強い奴に迫られたらさ――」しなっ

杏「しゃなるなしゃなるな」

P「『あっ、そんな! ……いけません』――なんてな!」くねっ

杏「くねくねもしないで気味悪い!」

P「……特に杏、お前なんて」

杏「なに?」

P「遊ぶ金欲しさに、怪しい誘いもホイホイついて行きそうでな」

P「そうでなくてもちっこいから、無理やり連れ去られる可能性だって無きにしも非ずってもんじゃないか」

杏「うんうん分かる、分かるけど。本人に対してだいぶ失礼なことも言ってるよね」


杏「……うん。分かった、分かったよ」

P「え、なにが?」

杏「そんなに心配だったらさ……。プロデューサーが、杏の初めて貰っちゃう?」

P「いやホント、そういう誘いは結構なんで」

杏「なんでだよー。既成事実とか作ってさ、無理やり責任取っちゃえよー!」

杏「それで杏をさっさと引退させてよね! 毎日お仕事はもう嫌だー!」

P「ワガママだなぁ。仕事があるだけ感謝しなさい」

杏「……それにさっきも勢いで言ったけど」

杏「杏……ちゃんと新品だよ? 見る? 今から確認する?」

P「はぁっ!?」


杏「まっ、ひと目チラッと見ただけでも、責任をとってもらうけどね!」

P「……具体的には?」

杏「結婚、離婚、慰謝料請求」

杏「まんまと母子家庭になって、各種手当も頂きだ!」

P「なんて奴だ!」

杏「あっ、プロデューサーはベビーシッターとして雇ったげる。だってお金を稼がなきゃいけないでしょ? 養育費とか」

P「それだと偽装離婚な、犯罪だぞ」


P「そもそもな? 前から双葉には言ってるけど、俺オッサンだよ? いい歳した」

杏「知らないの? 歳の差婚ってトレンドだよ?」

P「どこ情報だよ」

杏「情報って言うか動機だね。残った遺産と未亡人」

P「不純ー!」

杏「それにそれに、プロデューサーって結構高給取りだしさー。お金の心配しなくていーし、お世話もちゃんとしてくれるし」

P「まあそれはこっちも? お前さんのワガママに付き合い始めて長いからな」

杏「だから杏のワガママ付き合いの延長で、このまま末永くお付き合いも――」

P「致しません」

杏「なにさ、ケチっ!」


P「それにな、自分を安売りするんじゃない」

P「お前さんはまだまだ若いんだ。これから良い出会いなんてそれこそ星の数程も――」

杏「いちいち選別するのが面倒だよ。手近にある星でいいってばさ」

P「俺は選びに選び抜きたい派」

杏「ほらここに! 眩いばかりの一等星っ!」

P「おお凄い! 怠惰の光に目も焼けそうだ!」

杏「そのノリのいいトコも好きだけどなー」


ポーン、ポーン、ポーン……。

杏「あっ」

P「あー……もうこんな時間か」

P「全くお前さんのバカ話に付き合って、仕事が全然進んでない」

杏「人のせいにしないでよ。企画もちゃんと出したじゃんか――よっと!」ゴロン

P「だから、あんなものは会議も通らないって……おい双葉」

P「言ったろう? ソファにゴロゴロ転がる時は――」

杏「服装の乱れに気をつけろでしょー……あ゛っ!」

P「……う、んっ!?」

杏「わわっ! わわわあっ!!!?」ササササッ!

P「え……えぇっ!?」

杏「……プ……プロデューサー」

P「あっ! ああ! なんだ? どうした!?」

杏「……今の……見た?」

P「えっ……」

杏「見た? 見えた? ……正直に言って」

P「…………ミテナイヨー」


P「本来布で覆われてるハズの場所にあるべき物が無かったって――」

杏「ばっ、ばばば、バカぁ! それ以上言ったら財産根こそぎ奪うからね!!」

杏「これは、その、レッスンきつくて! 思ったより汗で濡れちゃって! 今ちょうど洗濯室で乾かしてて――!」

P「分かった分かった言わないって!」

杏「絶対だよ! 絶対だからね!? 言ったら責任取って貰う――あっ!!」

P「はっ!?」


杏「そっか……。別に見られちゃっても困らないや」

P「いや困る! 困るぞ! 大いに困る!」ガタタッ!

杏「ちょっとプロデューサーどこ行く気!? この部屋からは逃がさないから!」

P「そこを見逃してくれ、後生だから!」

杏「やだ! 絶対判押させる!」

P「こっちは老い先も短いんだ!」

杏「だったら遺産を相続して、面白おかしく暮らすんだ!」

P「双葉ぁっ! このぉ、人でなし!」


杏「ふふっ、結婚離婚、もしくは土地付き遺産相続……!」

P「うぅ、妙だ! 双葉の瞳が欲の油で濁ってる……!」

杏「保険もきっと入ってるから、たんまりお金が転がり込む!」

P「……いつもより」

杏「失礼だな! 普段からギトギトしてるみたいに言わないで!」

P「執着してるから言うんだろ!?」

P「ああヤバい! だっ、誰か! 神さま! 助けてくれぇー!!」


ガチャ


芳乃「そなたー。わたくしのことを呼ばれましたかー?」

杏「えっ!?」

P「よ、依田ぁ……!」

杏「ちょっと待ってちょっと待って! ここで芳乃はズルいよぉ!」

芳乃「そう言われましてもー、先刻より何度も呼ばれておりましたゆえー」

芳乃「悪しき金の気に囚われの……杏殿、御覚悟をー!」

杏「あっ、やだ! そんなデッカイほら貝持って!」


ぶおおおぉぉぉ…………!!


杏「あ、うぅ……」ガクッ

P「おお……! みるみる床に大の字に」

P「た、助かったぁ……。ありがとう依田、ギリギリだったよ」

芳乃「いいえー、そなたのお役に立ててなによりでしてー」

芳乃「もう心配することもありませんー。杏殿に憑いていた悪しき気はー、全てわたくしがこの身に取り込みましたゆえ……」

P「そ、そうなの? 仕組みはよく分からないけど……」

芳乃「では、救いの拝み屋依田は芳乃――」スッ

P「うん? ……なんだい依田。その右手」

芳乃「お助け料は一億万円……。ローンも可、なのでしてー♪」

===
以上、おしまい。

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