ちひろ「みなさんにはライダーバトルをしてもらいます」 (52)


私たちの事務所は、アイドルみんなの仲がとってもよかったです。

仲良くレッスンをして、お仕事をして、おしゃべりをして…。

たまに喧嘩することもあったけれど、それはお互いがお互いのことを想っていたからで、数日経てば仲直り。

私はそんな事務所が大好きでした。

いつまでもそれが続くと思っていました。

でも今私の目の前にあるのは、無機質な裏返った世界と、絶望。

あの楽しかった日々は、ただの幻想だったんでしょうか?

……そんなわけない。

私はあの日々を取り戻したい。



だから、戦います。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1505484737


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未央「たぁ!!」ブンッ

ディスパイダー「ウボォォォアアア!!」ダッ

未央「っ!しぶりん!そっち行ったよ!!」



凛「ハァァァアアア!!」タタタッ


ガキィィィィン‼︎


ディスパイダー「グァ…!!」ドサッ

凛「卯月!今だよ!!」

卯月「は、はい!!」スッ



『ストライクベント』



ドラグレッダー「グオォォォオオオオオ!!」

卯月「っ……えい!!」グッ



ディスパイダー「グ、ガ……!!」


ドゴォォォォォオオオオオ‼︎‼︎


卯月「ふぅ…よかった、当たった…」

未央「ナイスしまむー!さすがだね!!」

卯月「そ、そんな…大したことないですよ」

凛「いや、みんなすごく動きがよくなってるよ。最初なんて、酷かったってレベルじゃなかったし…」

未央「あー…みんな足が震えて全く動けなかったしね…」

卯月「ま、まぁ私たちも成長してるってことですよね!!」



凛「とりあえず…今回は確か未央の番だよね」

未央「そだね!じゃあ遠慮なく…ボルキャンサー!!」



ボルキャンサー「キシャァァアア」パクッ

未央「はぁ…エサやりがこんなに大変だなんて、世話の焼けるペットだねぇ、まったく…」

卯月「あはは…そうですね…」



ペット…確かにそうも言えるのかもしれません。

私たちがそれぞれ契約しているモンスター。

この子たちの力を借りることで、私たちは鏡の中の世界『ミラーワールド』に棲む他の『ミラーモンスター』と戦うことができます。

そしてそのミラーモンスターの魂をエサとして契約モンスターに与える…こんな感じで私たちの飼い主とペットの関係は成り立っています。

ただ…私たちにそのエサを与える力がないと判断された瞬間に契約は破棄、飼い主はペットに食い殺されてしまうようです。


だから私たちは絶対に、戦う運命からは逃れられない。

あの日このカードデッキを手にしてから、私たちに平穏な日々というようなものはありません。

最近はずっとモンスターと戦ってばかりです。

私たちはエサやりを三人順番で回しているので、どうしても戦闘の回数が増えてしまいます。

でも、こんなの私一人では絶対にできないと思うから…凛ちゃんと未央ちゃんには、とっても感謝してるんです。



凛「さて、それじゃ事務所に戻ろっか」

未央「だね!う~ん、やっぱりレッスンより何倍も疲れちゃうなぁ~」ノビー

卯月「ですよね…いくら三人で協力してるとはいっても、こういうのは慣れないですし…」

凛「まぁ慣れたいとも思わないけどね」


─事務所─


未央「はぁ~疲れた~」グデー

卯月「もうこんな時間…早く帰らないとですね」

凛「今は夏休み中だからまだマシだけど、学校が始まったらもっと厳しくなるね…色々と」

未央「勉強とアイドルとモンスター退治を全部かぁ」

卯月「うぅ、考えたくもないですぅ…」


ガチャッ


P「ん、卯月たちか」

卯月「あっプロデューサーさん!お疲れ様です!」

P「おう、お疲れさん。こんな時間まで事務所にいるなんて珍しいな。自主レッスンでもしてたのか?」

凛「まぁそんなところかな…」

未央「体力がつくっていう面で言えば、間違ってはないね…」

P「?よく分からんけど無理は禁物だぞ。何事もほどほどにな?」

未央「ほーい!」


当然、モンスターと戦っていることは誰にも言ってません。

言ったとしても、こんな突拍子もないこと信じてもらえるか分からないし…。

そもそも信じてもらえたとしても、余計な心配をかけてしまうだけだから。



凛「プロデューサーはまだ仕事残ってるの?」

P「ああ、まゆと智絵里とかな子が一緒に撮影だったんだけど、三人を現場から家まで送る仕事が残ってるよ」

卯月「こんなに遅くまで撮影ですか…大変ですね」

P「そうなんだよ、俺がもうちょっと上手くスケジュールを立ててやれてればなぁ……おっと、そろそろ行かないと」ガタッ

凛「いってらっしゃい。気をつけてね」

P「おう!お前たちも、もう遅いから気をつけて帰れよ!また明日な!!」

未央「うん!」

卯月「お疲れ様でしたー!」


ガチャッ



卯月「……」

卯月(また明日…かぁ)


─帰り道─


未央「…今日も無事に終わったね」

卯月「そう、ですね…」

凛「……」

未央「…明日も…大丈夫だよね」

卯月「…っ……」

未央「他のみんなも…私たちと同じ考えだよね。とにかく生きるために戦ってて、殺し合いなんて──」

凛「当たり前だよ」

卯月「凛ちゃん…」

凛「今日までずっと戦ってきて、他の子とは誰一人、戦闘どころか出会ってもない。きっとみんな上手くやってて、ずっとこのままの日々が続くだけだよ」

未央「うん…」

凛「確かにこの状況がベストだとは到底思えないけど、同じアイドルの仲間と戦うくらいだったら……」

卯月「…そうですね」



あの日私たちは、ちひろさんに突然会議室に呼ばれました。

誰が居たかはあまり覚えていませんけど、他にも数人のアイドルが集まっていました。

そこで告げられた言葉。

まるでアニメや漫画の中の世界で出てくるような台詞でした。



『みなさんにはライダーバトルをしてもらいます』



殺し合いをして生き残った一人だけが、なんでも願いを叶えることができる。

だから、戦え。


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四つ葉のクローバーを見つけると願いが叶う、なんてよく言いますよね。

私は、その言い伝えは本当だと思ってます。

実は私、四つ葉のクローバー探しが趣味なんです。

それで、アイドルになってからよくするお願いっていうのがあって…。



『事務所のみんながずーっと仲良く一緒にいられますように』



えへへ…他の人からしたら、ちっちゃなお願いだって思われちゃうよね。

普通の人は、『お金持ちになりたい!』とかお願いするのかな…。

でも、私はこれでいいんです。

私は、アイドルのみんなと仲良くお仕事をしている今がとっても幸せで……これ以上を望んだら、きっと神様に怒られちゃいますから。



だから、なんでも叶えられる力なんて、私はいらないんです。


─撮影所・楽屋─


智絵里「……」

智絵里「……はぁ…」



まゆ「あら、どうしたんですか智絵里ちゃん?ため息なんかついて…」

智絵里「あっまゆちゃん……ううん、なんともないんです。ただちょっと、撮影が長くて疲れちゃって…」

かな子「疲れたときには糖分を摂るといいよ!はいっ、手作りクッキー!!」スッ

智絵里「あ、ありがとうかな子ちゃん…」

かな子「まゆちゃんもどうぞ~」スッ

まゆ「うふふ、ありがとうございます……モグモグ…うん、いつも通りとっても美味しいです♪」

かな子「よかった~」

智絵里「……」

かな子「智絵里ちゃんも食べてみて?」

智絵里「あっ、うん…」パクッ

かな子「……どう…?」



智絵里「…とってもとっても美味しいです♪」






かな子「よかった~」ホッ

智絵里「ふふっ」



かな子ちゃんとまゆちゃんと私の三人でお仕事をするっていうのは今まであんまりありませんでしたけど、この二人とはすごく仲がいいです。

同じユニットを何度か組んだことがあるっていうのが大きいのかな。

かな子ちゃんはいつもお菓子を持ってきてくれたり、まゆちゃんは些細なことでも相談に乗ってくれたり…二人ともとっても優しいんです。

そして…こうやって何気ない会話をしている時間が、私は大好きです。



かな子「そろそろプロデューサーさんが迎えに来てくれる時間かな?」

まゆ「そうですねぇ…早く来ないかしら…」

智絵里「約束の時間までは、あと五分くらい……っ!?」


キィィィィィイイイイイン‼︎


智絵里(耳鳴り…まさか……あっ!?)



エビルダイバー『……』

智絵里(か、鏡に……そっか、最近モンスターと戦ってなかったから…)



かな子「智絵里ちゃん?どうかした?」

智絵里「あ、えっと……う、ううん。なんでもない…」


智絵里(い、今はダメ!もう少し待って!!)

エビルダイバー『……』サッ


智絵里(危なかった…あと少しで、かな子ちゃんとまゆちゃんが…)

まゆ「……」


ガチャッ


P「お待たせ!ちょっと遅れちゃったか?」

かな子「プロデューサーさん!」

まゆ「大丈夫ですよぉ。時間ぴったりです♪」

P「おっ、それはよかった。三人とも撮影はバッチリだったか?」

かな子「はい!とっても楽しくできました!!」

まゆ「もちろんです。プロデューサーさんの担当アイドルなんですから」

智絵里「……」

P「ははっ、それは頼もしいな」



P「智絵里も、大丈夫だったか?」

智絵里「えっ、あっ、はい!バッチリでした!」

P「そうか!偉いぞ!!」グッ‼︎

智絵里「……えへへ…」




P「よしっ、それじゃ帰るか!」

智絵里「…はいっ!」



何気ない日常に、急に入り込んできた異常。

すごく怖くて、不安で、泣いてしまうときもあるけれど…

みんなと楽しく過ごすために…幸せに過ごすために…



智絵里(明日は、やらなきゃ)



私は、頑張ってみます。





まゆ「……ふふっ」


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─────


ちひろ「……」

ちひろ「……」

ちひろ「……さて…」

ちひろ「カードデッキを渡してから、二週間ってところですか…」

ちひろ「ようやくチュートリアルが終わって、ゲーム本編に入っていく頃かしら…」

ちひろ「そろそろ動き出す子たちが出てくるでしょうね…」

ちひろ「…まぁ、だいたい予想はつきますけど」

ちひろ「……」

ちひろ「……」

ちひろ「…面白くなってきそうですね」


─翌日・事務所─


智絵里「ふぅ…」

智絵里(今日もレッスンきつかったなぁ…)

智絵里(……でも、もっときついことがこの後に…)

智絵里「うぅ…」

智絵里(……)

智絵里(…こんなことばっかり言ってられないよね)



智絵里「頑張るって、決めたんだもん」


ガチャッ


かな子「あっ智絵里ちゃん!レッスン上がりだよね?お疲れ様!!」

智絵里「あっ、かな子ちゃん…うん、ありがとうっ」

かな子「はいっ、お菓子どうぞ♪」スッ

智絵里「あ、ありがとう…」パクッ

智絵里(…美味しい)モグモグ



かな子「そういえば智絵里ちゃん!私これから、駅前にできた新しいパンケーキ屋さんに行こうと思ってるんだけど…一緒にどう?」

智絵里「あっ……ご、ごめんねかな子ちゃん。今日は、今からちょっと用事があって…」

智絵里(……)

かな子「そっかぁ…残念…」

智絵里「ごめんね…」

智絵里(かな子ちゃんは、いつも通りだなぁ…当たり前だけど…)

智絵里(でも…)



かな子「そしたら、また今度一緒に行こうね!!」

智絵里「…うんっ!!」



智絵里(その『いつも通り』に、私はすごく救われてる)


─ミラーワールド─


智絵里「……えいっ!!」ブンッ

デッドリマー「フククフクククフ…」サッ

智絵里「…!!す、素早い…」

デッドリマー「ククククククッ!!」シュッ


ドゴォッ‼︎


智絵里「きゃっ!?」ズサッ



智絵里「…ぅ……」

デッドリマー「フフククフフクフクク…」ジリッ…

智絵里「…っ!!」



智絵里(こ、怖い……)

デッドリマー「ククフフクフクク!!」ガバッ‼︎



智絵里「…でもっ!!」スッ‼︎



『アドベント』


エビルダイバー「ブォォォォオオオ!!」シュッ‼︎

デッドリマー「クケッ!?」ドカッ



智絵里「はぁ、はぁ……これでっ!!」スッ



『ファイナルベント』



エビルダイバー「ブォォォォオオオオオオ!!」

智絵里「はぁぁぁぁああああああ!!」

デッドリマー「ク、フ…」


ドゴォォォォォオオオオオ‼︎‼︎


智絵里「はぁ…はぁ……」

智絵里「……」

智絵里(……途中かなり危なかったけど…)

智絵里「なんとか……倒せた…」フゥ…



智絵里(こんな、ダメダメな私でも…)

智絵里(この調子なら…)



智絵里(頑張れる…!!)





コツ…コツ…コツ…コツ…




智絵里(えっ?足音…?)

智絵里(まさか…他にもモンスターが!?)クルッ



?「……」



智絵里(モンスターじゃ……ない…?)

?「……」

智絵里「…あ、あのっ!!」

?「……」

智絵里「あなたは…」

?「……」

智絵里「誰…ですか…?」

?「……うふふ」

智絵里「…!!」





まゆ「まゆ、ですよ。智絵里ちゃん」


智絵里「ま、まゆちゃん!?」

まゆ「うふっ、ビックリしましたか?」

智絵里「えっ、あ、はい……ま、まさかまゆちゃんも同じだったなんて…」

まゆ「まぁ、普通は驚きますよねぇ…」

智絵里「は、はい…」

まゆ「……」

智絵里「で、でも心強いですっ!今までずっと一人で戦ってきたから…まゆちゃんが仲間だって分かって……」

まゆ「……」

智絵里「……ま、まゆちゃん?」

まゆ「はい?」

智絵里「え、えっと……まゆちゃんも、モンスターを倒しに…?」


まゆ「うーん…少し違いますねぇ…」

智絵里「え…?違うんですか?」

まゆ「はい」

智絵里「じゃあ…一体何を……ッ!!」



まゆ「そうですねぇ……」



智絵里(まさか…そんな……)

智絵里(そんなわけ…ない……)



まゆ「私が倒しに来たのは……」



智絵里(だって、まゆちゃんは…私の……)





まゆ「智絵里ちゃん、あなたですよぉ」

エビルダイバー「かな子って子、いい肉付きして旨そうだな(かな子の下腹部を見つつ)」
デッドリマー「お前もそう思うか(捕食されつつ)」


智絵里「そんな……嘘、ですよね…?」

まゆ「…智絵里ちゃん…面白いことを言いますねぇ」スッ



『アドベント』



ベノスネーカー「シャァァァアアアアア!!」

まゆ「こんなタチの悪い嘘、つきませんよ」



智絵里「イヤ……」

ベノスネーカー「シャァァアアッ!」シュッ

智絵里「っ…!」サッ


シュゥゥゥゥゥウウウウウウウウ……


智絵里(地面が……溶けてる…)



まゆ「…うふふっ」



智絵里(まゆちゃん…本気で…)


智絵里「…どうしてですか?」ボソッ

まゆ「え?」

智絵里「どうして…こんなことを……」

まゆ「……」



智絵里「私たち、同じ事務所のアイドルで…一緒にユニットも組んでて…」

まゆ「……」

智絵里「そして何より、友達で…!!」



まゆ「……はぁ…」

智絵里「……っ」

まゆ「逆に聞きますけど…智絵里ちゃんは何のために戦っているんですか?」

智絵里「それは……モンスターに食べられないようになんとか生き残って…今まで通りにみんなでアイドルを──」

まゆ「私は…」





まゆ「最後の一人まで勝ち抜いて、プロデューサーさんと永遠に添い遂げるために戦ってます」


智絵里「……プロデューサーさんと…」

まゆ「この願いを叶えるためなら、私はどんなことだってします…」



まゆ「それが例え、友達を殺すことだとしても」スッ



『ソードベント』



智絵里「……そんな…」

まゆ「さぁ、智絵里ちゃんはどうしますか?」

まゆ「大人しく殺されるか…少しは抵抗してみるか……」スチャッ

智絵里「私…は……」

まゆ「まぁ…」



まゆ「迷う時間なんて与えませんけどねっ!!」タタタッ‼︎

智絵里「……あっ」


ガキィィィィン‼︎


智絵里「うっ…!!」ドタッ



まゆ「はぁぁぁああああっ!!」ブンッ‼︎

智絵里「…うぐっ!?」ドカッ‼︎


智絵里「う……くっ…」グググッ

智絵里(い、痛い……体に…力が入らない…)



まゆ「さっきのモンスターとの戦闘でのダメージも相まって、なかなかキツそうですねぇ」

智絵里(……あのタイミング…それを狙って…)

まゆ「うふふ…これじゃあまゆ、まるでヒーロー映画の悪役みたいですねぇ」

智絵里(……あれ?…なんだか、目の前がクラクラして…)



まゆ「でも…都合のいいところで正義の救世主が現れてくれるなんて、現実では起こりっこないんですよ」スッ





『ファイナルベント』





智絵里(……)


……私…気弱で、引っ込み思案で、人前に立つのが苦手で……自分に自信がありませんでした。

そんな私が、人のためにできることなんてないって……そう思ってました。

…でもプロデューサーさんと出会って…こんな私でも、誰かを笑顔にできるかもしれないって……勇気を貰いました。

同じアイドルのみんなと出会って…私自身も、とっても楽しい時間を過ごすことができて……幸せを貰いました。



今考えると私、貰ってばっかりだね。

いつか、お返ししなきゃ。



だけど──





智絵里(もう……ダメみたい…)





『智絵里も、大丈夫だったか?……そうか!偉いぞ!!』



智絵里(ごめんなさい、プロデューサーさん…)



『そしたら、また今度一緒に行こうね!!』



智絵里(ごめんなさい、かな子ちゃん…)





智絵里「私、まだ何も──」


─翌日・事務所─


ガチャ


卯月「おはようございま…あっ」



P「はい…申し訳ありません……はい、すぐに代わりのアイドルを…」

卯月(プロデューサーさん、電話中だ…静かにしないと…)



未央「あっ、しまむー。おはよっ」コショコショ

卯月「おはようございます……プロデューサーさん、朝から忙しそうですね…」

凛「うん…さっきから、一つ電話が終わったらまたすぐ他のところへ電話してて…」

卯月「そうなんですか…」

未央「うーん、何かあったのかなぁ?」




P「ふぅ…」ガチャン

未央「プロデューサー!朝からすごく忙しそうだね」

P「あぁ…」

凛「何かあったの?」

P「い、いや、特に何も…たまたま電話が続いただけだよ」

凛「ふーん…」ジーッ

P「うっ…」

未央「怪しいですなぁ~」

卯月「プロデューサーさん、ホントですか?」

P「……」



P「隠していても仕方ないか…いずれ分かることだしな…」

凛「やっぱり何か隠してたんだね」

未央「まったく、水臭いなぁ。なになに~?気になるよ~」

P「…楽しい話じゃないぞ。だからむやみに広めないでくれ」

未央「えっ…うん…」

凛「……」

卯月「そ、そんなに深刻な話なんですか…?」

P「……」





P「智絵里が、いなくなったんだ」


未央「…えっ?」

凛「…どういうこと?」



P「今日仕事の予定があった智絵里を現場まで送るために、寮まで迎えに行ったんだが…何故かどこにもいなかったんだ」

未央「…先に一人で行っちゃった、とか…」

P「もちろんそれも考えて、先方に連絡もしてみた。でも智絵里は到着してなかった」

凛「智絵里本人に連絡は……つかないから困ってるんだよね…」

P「あぁ。ケータイに何度もかけてみたが繋がらない」

P「そもそも、寮を利用してる他のアイドルに聞いてみたが、昨日の夜に智絵里を見たって子がいないんだ」

卯月「それって…」

P「智絵里は昨日、寮に帰ってないかもしれない…」


凛「…どうするの?」

P「…警察にはもう連絡した。このご時世だからな…すぐに動いてくれるみたいだ」

未央「……」

P「なぁに、心配するな!!…っと言ってやりたいところだが、無理な話だよな…」

凛「……」

P「…大丈夫だ!きっとホントは大したことなくて、俺らが勝手に焦ってるだけで…もう少ししたら、『ごめんなさいプロデューサーさん!四つ葉のクローバーを探してたらこんな時間にっ!!』なんて言いながら事務所に来るさ!!」

卯月「……」

P「だから、さ……お前たちは、今日もいつも通りに頑張れ!」

未央「うん…」


ガチャ


卯月「…!!」





ちひろ「プロデューサーさん、そろそろ会議のお時間ですよ?」


P「あっ、ホントだ…すっかり忘れてた…」

ちひろ「智絵里ちゃんの件、後は私に任せてください。しっかり対応しておきますから!」

P「すみませんちひろさん……それじゃ、行ってきますね」

ちひろ「いってらっしゃい!」

P「卯月、凛、未央!レッスンしっかりな!!」ガチャ


バタン‼︎


ちひろ「……」

卯月「……」

凛「……」

未央「……」


ちひろ「…何か言いたげですね」

卯月「え…と…」



凛「智絵里はどこ?」

ちひろ「…どこ、と言うと?」

凛「とぼけないでよ。智絵里も…私たちと同じだったんでしょ?」

未央「……」

ちひろ「えぇ、そうですよ」

凛「だったらどこに──」

ちひろ「それはあなたたちが一番分かっているはずですよ?」

凛「……っ」

ちひろ「まぁ、受け入れたくはないでしょうけど」

卯月「……」


そう…分かっていました。

最初にプロデューサーさんに話を聞いたときから。

でも、認めたくありませんでした。

認めなければ、少しは気が楽になる気がしたから。


ちひろ「現実を直視してください」



ちひろ「智絵里ちゃんは死にました。残りは11人です。」


卯月「そん…な……」


覚悟していたつもりでした。

自分たちがやっているのは本当に怖いことだって、理解しているつもりでした。

でも心の片隅に、どこか現状を楽観視している自分もいました。

『きっと大丈夫』『何も起こりやしない』って。

そしてそんな自分が今、ボロボロに打ちのめされるのを感じました。


ちひろ「みなさんも気をつけてくださいね。一人脱落すると、色々と気の持ちようも変わってしまうでしょうし」

凛「……どうして…?」

ちひろ「?」

凛「今までずっと一緒にいた…仲間が一人死んじゃったんだよ…?なのに……」

ちひろ「……」

凛「どうしてそんなに他人事のようにしていられるの!?」



ちひろ「分かっていませんねぇ」ガタッ

凛「……何を」

ちひろ「『仲間』」スタスタ

凛「……」

ちひろ「それ、考え直した方がいいです」ガチャッ



ちひろ「でないと、死にますよ」


バタン






卯月「……」


嘘だと思いたかった。

嘘ではないと分かっているのに。

脳が必死に目の前の現実を拒絶しようとしているのが分かりました。

目を逸らしたい。

認めたくない。

でもそう考えれば考えるほど、さっきの言葉が頭に浮かびました。

『現実を直視してください』


卯月「智絵里ちゃん…」


頰をスーッと、涙が流れるのを感じました。

それは凛ちゃんと未央ちゃんも同じでした。


未央「ちえりん…一人で戦ってたのかな…」

凛「かもしれないね…」

卯月「私たちは…運がよかったんですね……三人で協力できて…」

凛「うん…」

未央「…モンスターにやられちゃったのかな」

卯月「……」

凛「…それしかないでしょ」

未央「そうだけど……でももしかしたら──」


ガチャッ


未央「あっ…」





まゆ「おはようございます♪」


未央「ま、まゆちゃん…おはよ」

まゆ「おはようございます未央ちゃん。三人はこれからレッスンですか?」

卯月「は、はい…ちょっと時間は空いてますけど…」

まゆ「そうですか…」

卯月(まゆちゃんはまだ知らないのかな…智絵里ちゃんのこと…)

卯月(プロデューサーさんはむやみに広めるなって言ってましたし…言わない方がいいですよね…)



まゆ「うーん…」

凛「…まゆ、どうかした?」

まゆ「なんだか三人とも、とっても浮かない顔をしています…何かあったんですか?」

凛「…そう?別に何もないよ」

まゆ「ホントですか…?まゆに何か隠してませんか?」

未央「え、えぇ~?やだなぁ、隠し事なんてするわけ──」

まゆ「たとえば…」



まゆ「智絵里ちゃんがいなくなっちゃった…とか」

卯月「!!」


未央「あ、えぇと……プロデューサーに聞いたの…?」

まゆ「いいえ?」

未央「…じゃあちひろさんに?」

まゆ「違いますよぉ」

未央「え?そしたらどうして…」

凛「……」

まゆ「だって…」



まゆ「智絵里ちゃんを殺したのは、私ですから」



未央「…は?」


未央「何…言ってるの…?」

凛「……」

まゆ「何って言われても…」

卯月「嘘、ですよね?」

まゆ「うふふ、智絵里ちゃんと全く同じ反応をするんですねぇ」

凛「……っ!!」スタスタ

まゆ「まゆ、こんな嘘は──」


グイッ‼︎


まゆ「あら…」

凛「……!!」グググッ

卯月「り、凛ちゃん!!」

未央「しぶりんやめて!!」

凛「まゆ…アンタ、自分が何したか分かってんの!?」グググッ

まゆ「もちろん分かってますよぉ」

凛「だったらなんでこんなことっ!!」

まゆ「プロデューサーさんと結ばれるためです」


凛「はぁ!?」

まゆ「私は最後の一人まで勝ち残って、望みを叶えてもらうんです」

まゆ「貴方たちは違うんですか?」

凛「違う!私たちは──」

まゆ「生きるため、ですか?」

凛「…そうだよ。自分一人の願いを叶えるために仲間を傷付けるなんてこと、私たちは絶対にしない」

まゆ「…ふふっ」

凛「…何がおかしいの」

まゆ「智絵里ちゃんもそうでしたけど…凛ちゃんも分かっていませんね、この戦いの意味が」

凛「何を…」

まゆ「このカードデッキを手にしたときから、私たちはもう仲間なんかじゃないんです」

まゆ「敵同士、なんですよ」

凛「……」


まゆ「さて…本当なら今から相手をしてあげてもいいんですけど…」

卯月「……っ」

まゆ「まゆ、今からお仕事が入ってるんです。プロデューサーさんから任されたお仕事を、蔑ろにすることはできませんから…」

まゆ「また今度、ですね」




ガチャッ…バタン


凛「……」

未央「……」

卯月「……」


アイドル同士の戦い。

一番恐れていたけれど、起こるはずがないって思っていました。

だってうちの事務所のアイドルは、みんな仲良しで、みんないい人で…

まゆちゃんだって、本当はとっても優しい子で…

なのに…



卯月「…どうして…こんなことに……」

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