【ミリマス】プレゼントはうどんで (37)

アイドルマスターミリオンライブのSSです。
P視点、地の文が多いSSとなっております。

上記御了承の方は、是非。

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「おはよう」
「おはようございます」
 劇場の控室に行くと、沢山のモノに埋もれた最上静香がいた。
「挨拶も早々に悪いが、今日は私と一緒に営業へ出てもらう」
 静香は一瞬はっとした表情になって、すぐにいつものすました顔に戻った。
「いえ、一昨日から聞いてましたから。すぐに準備しますね」
 静香は机の上にあるモノを見つめた。熊のぬいぐるみ、柑橘系のアロマの入った瓶、文庫本、水玉模様の可愛らしい袋に入ったクッキー、『SHIZUKA MOGAMI』と青色の文字が入ったサイリウム、エトセトラ、エトセトラ。
「事務室へ持って行くといい。控室に置きっぱなしだと、なんだか放置したみたいで気が引けるだろ」
「すみません。そうさせてもらいます」

 白い四ドア車の助手席に座る静香を横目で見る。
先ほどの可愛らしい袋に入ったクッキーを大事そうに口に運んでいる。
赤信号になったのを見計らって口を開こうとするが、すぐにまた青になってしまう。
タイミングというものに恵まれていない。
 その代わりにラジオへ手を伸ばす。

『おはようございます! 九月十四日の朝、パーソナリティの天海春香です! 十四日! もう九月も半ばですね。それでもまだちょっと暑くて……あっ、でもコンビニのおでんを見ると秋だなーって思います。それでは、ラジオナムコモーニング、スタートです!』

「コンビニのおでんを見て秋。もっと夕日がきれいとか、羊雲が見えるとか。まぁ春香らしいといえばらしいな」
「そうですね」
「それにしても不思議じゃないか? 今朝直接クッキーをくれた相手が、こうしてなんともなしにつけた電波の先にいて、その声を聞きながら食べてるなんてさ」
「どうしてこれが春香さんからだって知ってるんですか?」
「当たり。まぁ、個性ってどこにでも出るもんだ」

「なんだ。予想ですか」
「予想というか、そういう感じがした」
「同じようなものじゃないですか。それに、私だって、その春香さんと同じ事務所に所属するアイドルなんです。不思議がってちゃダメなんですよ」
「それもそうだな」
 信号で止まる。信号多き都市の移動は案外退屈でもない。むしろ有益である。
ひらけた海岸沿いを、アクセルを踏み込んで走らせるのも楽しいものだが、
こうしてノロノロ、青で動いては、赤で止まりを繰り返し、
外を歩く人間を見たり、どことなく聞こえてくる喧噪や音楽に耳を傾けてみたり、
ラジオの声を聞いたり、助手席や後ろに座る人間と話したり。
そういう忘れがちで貴重な、落ち着いた時間が強制的に作られる。
信号は、強制を以て忙しさから解放してくれる。
 後ろの車が、じりじりともどかしそうに、距離を詰めてきた。

「他にも当ててやろうか」
「個性が出てるって言われれば、確かに出てますね。だから簡単すぎると思います」
「本は百合子、アロマは可憐、サイリウムは亜利沙に違いない」
「……じゃあ熊のぬいぐるみは?」
「最大の謎だな。が、今日は第六感が冴えてる」
「へぇ。じゃあもし外れたら美味しいうどん屋さんに連れて行ってくださいね」
「……ほう。悪いが当てるぞ」
「どうぞ」
「未来だろ」

 私は、静香の一瞬引いた目元を見て、当たったと確信した。
静香は大きく表情には出さないものの、こういう微妙な変化はしっかり起こす。
心の中で勝利を噛み締めながら、ちらりと前を見ると、信号が変わっていた。
私は向き直ってゆっくりアクセルを踏む。

「……残念、はずれです」
「なに?」



 最上静香は、たまに嘘を吐く。


 今日の営業は、広告代理業をする某企業の本社にてアポを取ってある。
この冬発売予定のスポーツドリンクの広告に静香を使えないかと思ったのだ。
「本日はよろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
「お待ちしていました。どうぞ、お掛けください」
「失礼します」
 眼鏡をかけた真面目そうな担当者である。机に資料を広げ始めた。
「今回の商品はですね。温めるスポーツドリンクなんですよ」
「温める?」
 静香は怪訝そうな声を発した。私もまた、ふむとうなる。
スポーツドリンクとしか聞いていなかったので、『温める』とは全然思いもよらなかった。
「そう、その反応を期待してました!」
 真面目そうな彼は、突然意気揚々と語りだした。

「これはですね、『乾く冬こそホットスポーツドリンク』というキャッチでして。まぁ、スポーツドリンクとは言っていますが、正確に言えば、スポーツをするときに飲むというのではないんです」
 それじゃあスポーツという表記はいらないんじゃ、と思ったが、
まぁホットスポーツドリンクなんて意外も意外、目に留まる。
流石は広告業。皮肉っているわけではない。
「冬は喉が渇かない。けれど空気は乾燥していますから、間違いなく、体から水分は失われているんです。それに、体が冷えて風邪やインフルエンザの危険も高まります」
「なるほど。そこでこの商品ですか」
「そうなんですよ!」
 遂に身を乗り出してきた。私はニコニコと愛想よく努められているが、
静香の方は、微笑んではいるものの、なんだか圧倒されてしまってぎこちない。

「普通のスポーツドリンクとは違って程よく希釈してあるので、糖分や塩分も控えめで、常飲してもとりすぎることもありません。そして熱が出たときにも有効です」
「ほぉ、いいですね。なぁ静香」
「はい! とってもいいと思います! 最近は健康志向の商品も増えてますし」
「でしょう! 他にもですねぇ……。あぁ、それで、ですね。広告の方なんですが」
「はい」
 ようやく仕事の話か。商品の知識を入れることも大事だが、
彼の熱意に本来の目的が掻き消されてしまいそうで危うかった。

「弊社としては、このまま彼女を広告に立てても良いと考えているのですが……いかがですか」
「それはありがたいお話です。でも、私どもだけがここに来たというわけではありませんよね」
「えぇ。実は昨日既に二つ。でもなんというか、こう……なんですかね、変な話、私の中の神様が目の前の方々にせよとささやいておりまして……。いかがです?」
 彼は心に神様を飼っているのか。そういう感覚、私は第六感と呼ぶ。
 静香の方を見た。静香もまた私を見ていた。どうやら、意見は一致しているようだ。
「もちろんです! 最上静香をよろしくお願いします!」
「よろしくお願いします!」
「えぇ、えぇ! こちらこそよろしくお願いします!」



「なんか思ってたのと違ったな」
「そうですね」
「スポーツドリンクだって聞いたから、実はテニスをやってる静香にちょうど良いかなと思って選んだんだけどな。なんか悪い」
「どうして謝るんですか? 確かにちょっと違いましたけど、仕事は仕事です。しっかり取れたんですから、あとは全力で取り組むだけです」
「そう……だな。これで良い」
「……流しちゃいましたけど、『実は』テニスをやってるって」
「あぁ。もちろん私も、劇場のみんなも、そして劇場に来てくれるファンもよく知ってることではある。でも、まだ静香のことを知らない人たちには、知られてないことじゃないか? 特技とか、好きなもの。そういう個性をアピールすることは、知名度を上げるうえで重要だろ。だからこの際、スポーツドリンクに関連付けて、『アイドル最上静香はテニスができます!』ってことをアピールしたかったんだがなぁ」
「……よく、考えてくれてるんですね」
「見直したか? もっと褒めてくれても構わないぞ」
「もう……! その発言で台無しです! 褒める気も失せました」
「それは残念だ。褒められそびれた」

 車のデジタル時計を見ると昼少し前だった。
こんなにスムーズに終わる営業というのも珍しいというか、あっけないというか。
いつもならお願いしますと頭頂部を見せることばかりだというのに。
 ウインカーを出してハンドルを切る。高速道路の入り口へ。
 信号に強制されない、ただひたすらに無機質な景色が高速で流れ、続く、せわしなくて、長くて、つまらない道。
「あれ? 劇場に帰らないんですか?」
「あぁ」
「また寄り道ですか? その癖よくないですよ」

「付き合ってくれないのか」
「別に。どうせすぐには高速を降りれないでしょうし、仕方ないから付き合いますけど。……ってなに笑ってるんですか!」
「いや別に。ただちょっと」
「何ですか? 言いたいことがあるならハッキリ言ってください!」
「あー車の運転に集中するから駄目だ」
「はぁ……」

 しかし高速道路にだって、都市のドライブにはない良さがある。
その良さは無機質な退屈故に発生するのだ。
そしてその受容は起きている者だけの特権である。

 クーラーを消して少し窓を開ける。
秋らしい、とは言えない少し生ぬるい残暑の風が入ってくる。
ラジオで春香が言っていたように、確かにコンビニは秋一色だが、
気候はまだまだ秋ではない。
このぬるい感じは、眠るには心地いだろう。嘘つきの静香は静かに眠っている。


 正解だろうが不正解だろうが、そのつもりだった。
静香、あれは徒労の嘘だぞ。
 熊のぬいぐるみは間違いなく未来からのプレゼントだ。
それで正解。私の六感は見事に的中させたのだ。
裏付けをしてくれたのは、誰でもない、嘘をついた静香自身である。

 高速を降りる。目的地は下道をしばらく走ったところにある、はずだ。
なにせ初めて来る。だがナビを使うほど複雑ではない。
ただ一本道が続くばかり。稲の刈り取られた匂いがほんのり香る。
時刻は昼過ぎ。少し遅くなったが、まぁ良いだろう。
 その舗装された一本道から外れて、ガタガタの道をゆっくり走らせ、
せいぜい三台しか止められないであろう小さな駐車場に、車を止めて、
静香のほうを見る。まだ眠っている。
私は大きく伸びをして、手遊びをして起きるのを待つことにした。



 両方の小指をくねくねさせて遊び始めるとすぐに、静香は起きた。
「……ん、寝ちゃってました」
「おはよう」
「おはようございます」
「挨拶も早々に悪いが、今日の昼は少し遅い」
「お昼? ここどこですか? 随分と田舎ですけど」
「ここなら行ったことないだろうと思ってな。降りるぞ」
「え、はい!」
 土に埋め込まれた石畳を踏んで歩く。
ホニャララ鳥のさえずり三ループ分くらい歩けば、見えてきた。

 周囲の大木によってドーム状になったこの空間では、空が全然見えない。
大木にくっついた無数の葉を透過して、木漏れ日が射しているのだ。
それらは散らばって、地面に大小さまざまのモザイクを浮かび上がらせている。
 ぽつりとある、暗い色合いをした木造二階建ての建物には、
至る所に蔓が伸びて、屋根の一部は、自然のドームから突き出してしまっている。
「すごい……!」
「だな。さぁお昼だ。好きなものを、たーんと食え」
「ところで何屋さんなんですか」
「うどんだ。うどん屋。こんな自然の中にあってうどん専門だぞ。ユニークすぎないか」

 そう言うと静香はあからさまに目を見開いた。そういうわかりやすい表情が見たかった



 いらっしゃい、と案外若い男が出てきた。てっきりおばあさんか、
はたまたおじいさんが出てくるものかと思っていた。
「いま、イメージと違うって思いました? こんな若い男がって」
「……少し。すみません」
「いえいえ、構いませんよ。実は最近二代目に。常連の人には、爺さんは元気かって言われて、新しいお客さんには、若いわって、よく言われます。ご注文は?」
 若い店主は壁に掛けられた木札のメニューを仰いだ。
「じゃあ、森のうどんで。静香はどうする?」
「あ、じゃあ私も同じものでお願いします」

「わかりました! ……ところで、兄妹でご旅行ですか? ……いや、いとこ同士かな?」
「きょ、兄妹でもいとこでもありません! えと、私たちはその……」
「ちなみに、恋人同士でもありません」
「こ、恋人って……!」
「兄妹ではなし、いとこ同士でもなし。そしてカップルでもなし。なるほど、面白いですね。それじゃ、すぐにご用意しますんで」

 若い店主は、悪びれた様子もなく去っていった。
 出された水を一杯。冷たい。しかし森のうどんとは、直球だな。
「森のうどん、どんなだろうな」
 返事はない。少し間が空いてから、静香は口を開いた。


「……あの、プロデューサー」
「なんだ」
「その、どうして私をここに?」
「そんなの決まってるだろ」
「お腹が減ったから?」
「……今日はなんだかポンコツだな」
「じゃあ、熊のぬいぐるみが誰からのプレゼントか当てるクイズで外れたから……? もしはずれだったらうどん屋さんに連れて行くっていう約束を守って……?」
「違う違う。ほんとにわからないのか? それに、それは外してない。大正解だったろ。あれは未来からのプレゼントで間違いない」
「まぁ、正解でしたけど……って、何言ってるんだろ私……ばらしたらダメじゃない……」

 静香は、自分の嘘を、自分で告白して、頬を赤らめた。
 わざわざそんな嘘をつかなくても、うどん屋くらいいくらでも連れて行ってやるのに、
なんて言ってもう少し弄ってやりたいところだったが、さすがに意地悪が過ぎる。

「誕生日プレゼント」
「え?」
「……誕生日プレゼント」
「……プレゼント、ですか?」
「ま、まぁ、そもそも物じゃ無いし、プレゼントではないし、そもそも? 私がうどんを出すわけじゃないし……。ありゃ、これってなんだ。……い、いや! これは誰が何と言おうとプレゼントだ!」

「ふふっ、わかってますよ。これはプレゼント。大切な、贈り物じゃないプレゼント」
「お待ちー! 森のうどんね」
「ありがとうございます。うまそうだ」
 茸に山菜、薄めの出汁。素材の味がよく出ていそうだ。
「わぁ……これは美味しいですよ。絶対!」
「それじゃ、ごゆっくり」
「はい、いただきます」
「いただきます!」

 うどんを啜る。あまり噛む必要のない麺類なのに、
あぁ食べている、という感じがする。
コシと言われて、その感じがピンとくる者は、案外少ないように思う。
私はピンとこない人間のはず。
しかし、このうどんには明らかに『コシ』なるものが存在する。
ただ単純に硬いわけでもない。舌や唇に乗せればしっかりした力強さを感じ、
歯を入れればぷつりと切れる。不思議な感じ。
 出汁を飲む。やはり素材の味。とても優しい。山菜だろう。鼻から空気を抜いたときに、鼻の奥で感じる味。
「うまいな」

 返事はない。そうか、うどんを食す際に話すことは厳禁だった。



「毎度。また来てね」
「はい、また必ず」
「美味しかったです」
「……ところで、もう一回チャレンジしていいですか? ……あー、やっぱり失礼でしたよね……?」
「まぁ、世間的には失礼でしょうね。でも、別に私は気にしないですし、聞いてみたい気もする。なぁ静香?」
「えっ、……そうですね、聞いてみたいです。ちょっとだけ」
「やった! ……ん、……オホン、失礼。あなたたちはですね……」
 若い店主はチクチクと生えた髭を左手でさすりながら、場を溜めた。
これはきっと彼の悪い癖だ。失礼だと自覚していながら、やって来た客のあれこれを、
左手でジョリジョリしながら推測する。そういう悪癖に違いない。
場が徐々に煮詰まってきた。

彼は「親子ですね!」と言った。

「はは」
「ふふっ」
「えっ、違うか……」
「違いますよ。残念、はずれです」
「じゃあ一体……」
「ところで、ホットスポーツドリンクってご存知ですか?」
「ホット、何ですって?」
「ホットスポーツドリンク。冬頃になったら某メーカーから発売される気がします。情報をお見逃しなく。それじゃ、また来ます」
「はぁ、ありがとうございました」




「親子だってさ」
「あり得ませんね」
「あぁ、あり得ない」
「それはそうとして、プロデューサー! 発表前のホットスポーツドリンクの情報を外に漏らすなんて、ちょっと意識に欠けてるんじゃないですか?」
「そう思ってわざわざ『気がする』って言ったんだ」
「もう。そんなの、ただの言い訳です」
「そんなことを言うなら、静香。あそこでどうして、アイドルですって言わなかったんだ?」

「え? ……まぁ。そうですね……。自信がなかったんです。アイドルですって言って、知らないなって顔をされることが、ちょっと怖くて」
「ん、自信がついて回るのはこれからだ。あの店主がホットスポーツドリンクの広告を見る頃には、もっと有名になっていればいい。『あぁ! これはあのときの! こんなに有名なアイドルだったなんて!』ってな。だから今はそれで良い」

「……あの、手伝ってくれますか? 私ひとりじゃまだ……」
「当たり前だ」
「ありがとうございます! 私頑張りますから!」
 車は高速を走る。無機質な風景がいつまでも続くのだ。傾き始めた光が、徐々に空を茜色に染めていく。あぁ、秋だなと思う。
「あっ、ところで」
「何ですか?」
「コンビニでおでんを買おうじゃないか。うどん一杯じゃもの足りん」
「はぁ」


〈了〉

以上になります。ここまでありがとうございました。
誕生日おめでとう。


酉の文字列を忘れてしまい、酉は違いますが過去作です。こちらも宜しければ。

【ミリマス】ある休日 【ミリマス】ある休日 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1501596347/)

グッド

おめでとうございました、乙です

>>2
最上静香(14) Vo/Fa
http://i.imgur.com/9bmfY7U.jpg
http://i.imgur.com/GGx03LU.jpg

乙うどん!

ぬいぐるみは志保かと思ったが静香に渡すタイプじゃなかったわ

おつおつ

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