白石「あ、あきら様……?」あきら「……白石」 (119)


―――――
注意
アニメ版『らき☆すた』準拠です
白石みのると小神あきらのメタ設定を取り除いたり補足してたりしています
アニメ自体メタの境界線が曖昧だったので、そこに甘えさせてもらってます
原作の小神あきら要素はあまり頭に入れておりません、あしからず
―――――


 ――――
 ――

 ―夜 渋谷駅南口―

 ガヤガヤ―

白石「はぁー……いつになってもこの人混みは慣れないなあ……すっごい人の数だ」

白石「……」

白石「っていけね、五分前には着いておかないとな」

 タタタッ―


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1501924533


 ――――

「よーすお疲れ~白石~」

白石「あっ、甲斐田さん。わざわざご足労いただいてしまって……」

甲斐田「ったく……おめえが車でも飛ばしてくりゃあラクなんだけどよ、
    そんな甲斐性はねえしな~」

白石「す、すんません……」

甲斐田「冗談だよ肩落とすなって!」バンバンッ

白石「もーいつも冗談キツいんだから……それで、お話って仕事のことっすか?」

甲斐田「まあ込み入った話はな、ほれ。店入って話すとしようぜ」

白石「はいっ、今日はよろしくお願いしまっす」


 ――――

 ―とある大衆酒場―

 ワイワイガヤガヤ―

甲斐田「まあとりあえず」スッ

白石「はい」スッ

 カチンッ…

甲斐田「……ぷはぁっ、沁みるな~」

白石「ふぃー……最近暑いっすからね~」

 カチッ カチッ… シュボッ

甲斐田「そうさな~……ふぅ……お前の季節がやってきたっつうことだ」

白石「恐縮っす。あ、灰皿」スッ

甲斐田「おう。いや~、ナウ手な野郎を探しちゃいるんだけどよ。
    どうもボンクラばっかでな~」

甲斐田「役者ばっか増やしても意味がねえっつんだ」

白石「売れなかった自分が言うのもなんですが……
   ますます生き残るのが難しくなった気はしますね……」


甲斐田「男もそうだが、特に女タレントの方はひでえ。
    あれじゃあ伸びるもんも伸びねえわな」

 グビッ グビッ グビッ…

甲斐田「……でよ、来月頭にデカいイベントがあるのは知ってるな。
    そこでMC頼むわ」

白石「……いつもながら色んな意味で話が唐突っすねー」

甲斐田「気にすんな。……――ぷはぁ、どうせお前は基本的に暇だからよ」

白石「あ、あはは……嬉しいような、悲しいような……」

甲斐田「とは言っても小さいイベントもこなしてるんだろ?
    ちゃんとそれなりに食えて、寝られて、遊べてんならそれでいいんだよ」

白石「そうっすね。いつもそう思ってます」

甲斐田「俺ァそういうお前が気に入ってんだ。
    白石が白石でいる限り、仕事はなくさせねえよ」

白石「……ホント、頭が上がらないっす」

甲斐田「ジャーマネには後で正式にオファー送るからよ、まあ頼むわ」

白石「はい、今回も勉強させていただきますっ」

甲斐田「勉強ね~、おめえは昔から変わらねえな」

 ワイワイガヤガヤ

甲斐田「……おい白石よ。勉強っつうことでさ、
    この後良いところに連れてってやるよ」

白石「へっ?」


 ――――

 ―とある繁華街―

白石「こ、ここって……」

甲斐田「何だかんだでこういう遊びは教えてなかっただろ?」スタスタ

『キャバクラ-nenige-』

白石「……」

甲斐田「……おい、どうした来いって」

白石「い、いやいやいや! イキナリっすか甲斐田さん!?」

甲斐田「たまにはいいじゃねえかよ」

白石「たまにも何も、だから僕はこういう場所は一度も――」

甲斐田「まあまあこれも勉強だって、ほれ来いったら来い!」

白石「あ、ち、ちょっと~!」


 ――――

 ―キャバクラnenige―

ママ「あーら久々じゃない甲斐田さ~ん」

甲斐田「おうママ、また綺麗になったな~。
    ウチの嫁さんに爪の垢煎じて飲ませてやってくれや」

ママ「うれしいこと言っちゃってぇ……とりあえずいつものでいいわね?」

甲斐田「ああ、よろしく~」ドカッ

白石「……」ポカーン

甲斐田「……おい、なに固まってんだよ」

白石「いや、こういうところは初めてで……」

甲斐田「どっしり構えてりゃあいいんだよ。ほれ」

白石「は、はい」スッ…


 ――――

甲斐田「みやびちゃん、遠慮しねえで。ほら飲みな」

みやび「どうも~」

あんず「あっ、ずるーいあんずにもっ☆」

甲斐田「んなムキになんなくたっていいじゃねえかよ。
    それでな、番組のプロデューサーが――」

 ワイワイガヤガヤ

白石「はぁ……そうっすね、アニメのイベントとか」

きらら「きららアニメ好きだよ~、ツーピースとか!」

白石「ああ、ツーピースね……あんまりコアなのは知らない感じで……」

きらら「え? コアラ???」

白石「……えっと」

 …………。

きらら「うーん……アニメなら詳しい子いるからちょっと待っててね~」タタッ―

白石「あ、いやお気遣いなくー……って、行っちゃった」


白石(……と言うよりは、逃げられたのか)

白石(ちょっと堅すぎか? ……ダメだダメだこんなんじゃ、
   アウェーの空気に打ち勝ってこそのパーソナリティだろ、白石みのる)

「お呼ばれしましたー、ひろみでーす☆」

白石(それこそ、十年前のあのラジオの時のように――)

白石「あっ、どうもひろみちゃんこんにちは~~~~ぁぁぁあああっ!?」ガタタッ

ひろみ「……………………」

白石「……………………」

ひろみ「……………………」

白石「……………………」

ひろみ「……………………」フイッ

白石「…………何やってるんすか、あきら様」

ひろみ(?)「…………ひろみっすけど」

白石「いやもう口調が素になってるし」



 十余年の時が、その一瞬、巻き戻った気がした。




 ――――

原作
らき☆すた
らっきー☆ちゃんねる

第一話『燻り』

 ――――

らきすた10周年記念、2話で多分終わる

 ――――
 ――

 ―とあるバー―

 …カランッ

あきら「んで、何でこんなことになってるわけ」

白石「んなこと俺に言われても……」

 ――

「何、アンタ達知り合いなの? 偶然ね~」

「勉強はまた今度でいいや。白石ほれ、
 これでどっか店入って喋んな。釣りはいいからよ」

「ひろみちゃん、その子のアフター宜しくね~」

 ――

あきら「ママも……あのおっさんも変な気ぃ遣うなっての」

白石「……」

あきら「……てか、よくあたしに気付いたな」

白石「……いや、見た目はかなり変わったけど…………何でだろうな」

あきら「相変わらずアドリブ利かないやつ……」

白石「…………」

あきら「…………」

白石「…………」カラン―

あきら「……白石さ」

白石「…………」

あきら「まだ、あたしのこと……怒ってる?」

白石「……いや、別にもうそんなことはないよ」チビッ…

あきら「……そっか」

白石「ただ、もう芸歴とかそういうことは考えない。面倒くさい」

白石「このままの喋り方でいいだろ?」


あきら「まあ、そもそも年上だしな白石は」カラン…

白石「本来は敬語使うのはそっちなんだぞ?」

あきら「あーはいはい分かってます分かってますー」ゴクゴク

白石「……」

あきら「……ふはぁ」

白石「……いつから、この仕事してるんだ?」

あきら「……それ、あんたに関係ある?」

白石「別に、差し支えなければ」

あきら「……」

あきら「……アイドルの旬なんて、すぐに過ぎるもんよ」

あきら「鳴かず飛ばずでも、いくら売れてても。旬が過ぎればすべてがおしまい」

あきら「一応コネとかで細々とやってたけど、もうそれも二年前」

あきら「アイドル小神あきらは、もう死んだの」

白石「……」


あきら「まああれだけ表裏ないキャラしてたし、
    掴めるチャンスも棒に振ってたりはしてたんだろうけどさ」

あきら「まーあたし顔も声もぜーんぶいいし?
    キャバは稼ぎもいいからって色んなとこ回って。
    で、今の仕事やってるって感じよ」

白石「……なるほどな」

あきら「……白石は、仕事まだあるらしいじゃん」

白石「まぁ……いつものラジオと、イベントの司会とかで
   ちょこちょこ呼ばれてるだけだけど」

あきら「はぁ~、男はいいわねー。業界でそこそこ需要はあるし」

あきら「まあ、女だからこそ出来る仕事もあんだけどさ。こういうね」

あきら「でも、どこも年食って要らなくなったらポイよ?
    芸能界は軌道に乗んなきゃ特にね。
    そう思うとさ……なーんで女に生まれてきたんだろって感じるわけ」

白石「……」

あきら「やってらんないわ~マジで。年取りたくねぇー。
それとあたし以外の可愛い女みんな死ねばいいのに」

白石「……」

白石(どっちのアフターだよこれ)


 ――――

あきら「んじゃ、あたしまだ仕事あっから」

白石「ああ、それじゃあ」スッ…

 スタスタ…

あきら「…………」

あきら「……白石さっ」

白石「……」ピタッ

あきら「……まあ、その……頑張んなよ、あたしの分もさ」

白石「……言われなくたって、やってやりますよ」スタスタ

あきら「…………」


 ――――

 ガタンゴトンッ…

白石「……」

 がんばんなよ……あたしの分もさ

白石「……」

 テレレンッ

白石「ん……甲斐田さんか」スッ

――――――――――
甲斐田いさお(仕事用)
おう根性なし、ひろみちゃんの連絡先聞いておいたからな
kogami_musicstar@lostbank.ne.jp
――――――――――

白石「…………」

 スッ…スッスッ…ススッ…

――――――――――
白石みのる
一応登録しておきます、わざわざすんません
――――――――――

白石「……はぁ」

白石(なんか、妙なことになったなぁ……)


 ――――

 ―白石宅―

 テーテーテレレレレーテレレッテー! オハラッキー!

白石「……」

白石「……もう、十年経ったのか」

 ドーモーシライシミノルデースッ

白石「はは、硬いな。まだ駆け出しだったもんなぁ」

白石「あーあー怒られてる怒られてる」

 イイ? アイドルッテノハ…

白石「……素人の俺にアイドル論唱えてどうすんだっての」

 アイドル小神あきらは、もう死んだの

白石「……」


白石「……」スクッ

白石「……も~どうしちゃったんすかあきら様~!
   いつもの通りお願いしますよ~!」

 ドンッ

白石「っ……!?」ビクッ

 シーーーーーン…

白石「……」チラッ

白石(もう日ぃ跨いでたか……何やってんだよ俺は)

白石「……寝るか」


 ――――
 ――

 ―とある放送局―

「白石さーん、今日はラジオ二本立てですので宜しくでーす」

白石「了解。高屋ちゃん、甲斐田さんから連絡って」

高屋「来てますよー、毎度すごいですねー。あの大イベントを任されるんですから」

白石「鷲崎さん、吉田さんには負けてらんないからなぁ」

高屋「あははは! はいっ。じゃあ今日も頑張っていきましょー」


 ――――

 ~♪

白石「今日もアニメイベント情報をいち早くお届け!
始まりました『みのるのアニイベ探訪』、今日はフツオタのコーナーから」

白石「今週もたくさんのお便りありがとうございまーす!
みのるん、ふんどし締めて頑張っちゃうぞ!」

 シーーーン…

白石「今週はいきなりこんな感じか~……はい、それでは一枚目……
ラジオネーム『三十路岬』さんからのお便りです」

白石(……ん?)


 白石さんこんにちWAWAWA

白石「こんにちWAWAWA~」

 いつも白石さんのラジオ、楽しんで聴かせてもらっています
 白石さんの出世作『らっきー☆ちゃんねる』からファンやってます!
 10年以上前からの古参です!

白石「は、ははは……嬉しい反面、大変お恥ずかしい限りっす」

 そんな私ですが、白石とは別に――

白石「っておい! 古参だからっていきなり呼び捨てはないだろ!?」

 ワハハハハッ―

白石「ご、ごほんっ……失礼しました、さてさて」

 ――小神あきら様が今何をしているのかが気になってしまいます

白石(……なんかナウなお便りだ)


 今、あの人は何をしておられるんでしょうか
 白石さんは連絡などはとっているのでしょうか

白石「――なるほど。いやー、放送作家さんよくこのお便り通しましたね……」

 ハハハハッ―

白石「まあ、もう十年ですからね。もう時効でしょ」

白石「彼女とは絶縁関係にあったんですが、
   まあ僕の方は全然もう気にしてはいないっす。いやホント」

白石「あの野ろゲフンゲフン……あきら様は今は引退なさってしまって、
   どこで何をしているのかは分からないっすねー」

白石「このラジオを聴いてるわけがないんで、伝わらないと思いますが。
まあいつか、いざこざは忘れて二人でゆっくりと飲んでみたいですね」

白石(まあ、もう成り行きで一度は飲んでるんだけど……ん?)

カンペ『オチつけろ!』

白石(ええー……)

白石「……まあ、今度もしケンカした時は、
   遠慮なくフルボッコにしちゃいますけどね!」

白石「『三十路岬』さん、ありがとうございましたー。さて次のお便りは――」


 ――――

高屋「お疲れ様でーす」

白石「いやー今日は初っ端からドッと疲れたよ……」

高屋「『らっきー☆ちゃんねる』時代からなんてすごいですねー。
   私なんてまだ小学生でしたから」

白石「ディレクター、このお便りなんなんすかも~」スッ

ディレクター「だってよ、あの人毎週毎週メールしてくるもんだからさ。
       一度読まれれば満足するかなーって思ったんだよ」

白石「そいつは、熱烈っすね……」ペラッ

――――
24歳 東京都在住 女性

メールアドレス
kogami_musicstar@zmail.com
――――

白石「…………」


白石「…………」

白石(……んん!?)

高屋「白石さーん? お送りしますよー」

白石「あ、ああ」

白石(い、いや……まさかな~)

 ――――

 ブゥゥゥウン―…

高屋「今日は改めて、白石さんの芸歴に驚いちゃいましたよー」

白石「なんだかんだでやってけてるからなぁ、皆さんには感謝しないと」

高屋「私なんてまだまだひよっ子だなって思わされましたー……」


白石「いや、高屋ちゃんはしっかり頑張ってるよ。これからもよろしく」

高屋「はいっ! 頑張ります……!」

白石「……でさ、ちょっと気になることがあるん、だけ、ど……?」

 ブルルルウゥゥウン――!

白石「ち、ちょっと高屋ちゃん?」

高屋「よーっし、なんだかやる気がみなぎってきました……!!」

白石「高屋ちゃんっ?」

高屋「高屋かな、白石さんのためならジャンジャンお仕事とってきますから――!!」

 ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウン――!!

白石「うげぇーーーッ!! 高屋ちゃん! うん! 分かったから!
   とりあえず法定速度は守ってぇぇぇぇえ――!!」

 ブゥゥゥゥゥウウン――……


 ――――

 ―白石宅―

白石「はぁ……やっと落ち着ける……」

白石「高屋ちゃん、あれさえなければいい子なんだけど……」

白石「……俺、女難の相でもあんのかなぁ」

白石(……結局、メールアドレスのこと聞けなかったな。
   あれは偶然なんだろうか)

 テレレンッ

白石「ん……」

白石「……んん?」

――――
小神あきら
飲み行こうよ、渋谷のんべえ横丁の桜蘭坂ってとこ。8時ね。
来なかったら殺す。
――――

白石「…………」

白石「手相、今度見てもらうか……」


 ――――
 ――

 ―渋谷 のんべえ横丁―

 ワイワイガヤガヤ

白石「相変わらず活気づいてるなー……」

白石「えーっと、ここらの筈だけど……あ、あったあった」

 『大衆酒場 桜蘭坂』

白石「もう来てるのかな――って」

 ミソジィィイイィミサアァァァアキイィィィィーーー♪

白石「……もう始めちゃってるよ」


 ガララ―

店主「いらっしゃい、カウンターでいいかい?」

白石「あ、えっと」

 パチパチパチッ―

サラリーマン「よっ! いいねー姉ちゃん! いいコブシしてるぞー!」

あきら「どうもどうもー……ふぃー、ひっさびさだわ演歌うたうのなんて」

あきら「ん? ……来たか白石」

店主「なんだい、あきらちゃんの連れかい? ならこっち座んな」

白石「どうも」

 スッ…


店主「とりあえず生でいいかい」

白石「ええ、お願いします」

白石「……」

あきら「……」

白石「で、今日はどうしたんだ?」

白石「深夜のラジオがなかったから、まあよかったけど。 
   今度はもっと前から言ってくれれば――」

あきら「……ボッコ」

白石「え?」

あきら「お前を、フルボッコするために呼んだんだよ――!」

白石「どぇええええええええっ!? ――ぎぎぃ!?」ガシッ

あきら「ちょ~っと文面で下手に出たからって、
    調子乗ってんじゃねえぞごらぁあ……!!」ギリギリギリギリ……!

白石「いだだだだっ! や、やっぱりあのメールお前からだったのかよ――!?」


店主「あんまり店ん中で暴れんでくれよあきらちゃん。ほい、生おまち」

あきら「あきらを舐めた天罰じゃあああああっ……!!」グリグリグリグリ……!

白石「違う違う、あれはオチをつけろって言われただけですからぁぁあ……!」

白石「頭が、頭が割れるぅぅ……!!」

あきら「…………」パッ

白石「ギギギ……か、勘弁してくれよ……」

あきら「……んぐ、んぐ、んぐ」グイッ

白石「って、それは俺の生……」

あきら「んぐ……?」ギロッ

白石「いや、なんでもないっす」

あきら「っぷはぁーーー……!」

あきら「おっちゃん、あたしの分ももう一杯!」

店主「あいよ」


 ――――

白石「ったく、自作自演かよ……」

あきら「うっさいなー、別にいいでしょうが」

白石「何通も送られてたから名前覚えられてたぞ。
   俺たち二人の話はちょっとしたタブーになってんのに」

あきら「当事者がこうして酒交わしてるんだから、それでオッケーでしょ」

 ゴクッ ゴクッ ゴクッ ゴクッ…

白石「……まあ、そうか」

あきら「っふはぁ~……」

白石「……前飲んだ時も思ったけど、イメージ通りの飲みっぷりだな」

あきら「あーん? それはあたしを馬鹿にしてるわけ?」

白石「いちいち絡むなよ……」

あきら「はいはい」


 ゴクッ ゴクッ ゴクッ…

白石「……というか、なんであんなお便り送ってきたんだよ」

あきら「……べっつにー、特に意味はないけど」

あきら「まあ、強いて言うなら…………荒らし?」

白石「もう一生小神のお便りは読まないからな」

あきら「言われなくたって送らねえよもう……」

あきら「……小神?」

白石「あ? いいだろ、小神で」

白石「それとも何か、また『あきら様』って呼んでほしいとか?」

あきら「それこそ願い下げだっつの」プイッ

白石「あっそ」


白石「……」

白石「……じゃあ、ひろみちゃ――あがぁぁぁ……!!」ズビシ

あきら「源氏名はやめろ」

白石「め、目は危ないだろうが……!」

あきら「けっ」

白石(相変わらず可愛げのない奴め……)

 ――――

 ガララ―

店主「また来なよ、白石くん」

白石「はい、それじゃご馳走様でした」

あきら「おっちゃん、また来るね~」


 ――──

 ワイワイガヤガヤ

あきら「白石~、肩~」フラフラ

白石「飲みすぎだよお前……」

あきら「黙って肩貸せばい~いんだよ……」

白石「はぁー……、……ほら」

あきら「あ……?」

白石「フラフラ歩いて迷惑掛けるよりはマシだっての」

あきら「……、そっか……」

白石(やけに素直なのが怖い……)

白石「……、……っしょと」


 ――――

あきら「軽くない?」

白石「……何だよその質問」

あきら「いや~、あきらの体重はりんご五個分だから~」

白石「言ってろ言ってろ」

あきら「うみゅー……白石のくせに生意気ぃ~……」

白石「……」

白石「小神さ、お前……」

あきら「ん~……?」

白石「……」

白石「……けっこう、胸あるな」

 …………。

あきら「……死ぬか?」

白石「いや冗談っす、
   全然ないっすないっすううぅぅぅぅ――……!?」ギュウウゥゥゥ……!

あきら「けっこうあるわボケェェェ……!」


白石「待って……! この話やっぱなし、今度は真面目な話だから……!」

あきら「ちっ……何だよ」パッ

白石「っ……お前さ……」

白石「……まだ、芸能界に未練があるんじゃないのか?」

あきら「…………」

白石「自作自演のメールだって、接客業やってるのだって、何もかも」

白石「……今のお前見てると、そう思っちまう」

あきら「……白石が同情かよ」

白石「……」

あきら「あたしも落ちぶれたもんだな~……」


白石「……俺が来る前に、歌ってたじゃねえか。気持ちよさそうに」

あきら「……」

白石「歌えばいいんだよ。アイドル、やってたんなら」

 …………。

あきら「……簡単に言うな」

白石「……」

あきら「甘いんだよ、白石は……」

白石「……」


 ――――

 ―駅前―

白石「ここまででいいのか?」

あきら「うん……頭は回ってるつもり……」

白石「……そうか、じゃあな」

あきら「…………白石ぃ」

白石「ん、何だよ」

あきら「……」ハァ…

あきら「お前さ、気持ち良くなるためにやってんだったら……もう止めろ」

白石「…………は……?」


その意味を、俺はとっさに理解できなかった。


あきら「ブッ殺したくなっちゃうからさぁ……」ニコッ

白石「っ…………じゃあな」スッ


 心を刺す何かに気付けないまま、逃げるように。俺は足早に、その場を去った。



 ――――

 ガタンゴトン―

白石「……」


 気持ち良くなるためにやってんだったら――

 ブッ殺したくなる――


白石「…………わけわかんねえよ」

 ――――

 ガタンゴトン―

あきら「……」

あきら「はぁぁぁぁーーーー……」

 …………。

あきら「…………バカだな、あたし」


 ――――
 ――

 ―芸能事務所 とある会議室―

高屋「イベント担当の方、もう少ししたら来られるそうですー……白石さん?」

白石「……」ボーーー…

高屋「白石さーん、どうしたんですかさっきから」

白石「えっ? いや、別に何でもないよ、ホントに」

高屋「じーーーーーーー……」

白石「…………」

高屋「じーーーーーーー……」

白石「……」ハァ…


白石「あの、変なこと聞いちゃうんだけどさ」

白石「……高屋ちゃん、人をブッ殺したくなった時とかある?」

高屋「…………」

白石「…………」

高屋「……白石さん。入院か入獄、どちらか選んでください」

白石「え゛っ……いや、俺のことじゃないから心配しないでいいよ」

高屋「なーんだ……もうっ、ビックリしましたよーもー」

白石「ご、ごめんなさい」

高屋「んー……まあ、腹が立った時のことですよねー」

高屋「やっぱり、大きな事務所に仕事取られちゃった時とかでしょうか?
   しょうがないとは、まだ割り切れないですー」

白石「うーん……他に、何かある?」

高屋「あとは……私が女だからってだけで値踏みされることとかですかねー」

白石「値踏み?」


高屋「はい。仕事先でどこか変に優しくされたり、
   なんだかんだで期待されていなかったりすると、
   あぁ……私が経験もない上に、女だからこういう扱いなのかなー……とか」

高屋「舐めんじゃねーぞ、って感じですー。……勝手過ぎますかね?」

白石「いや……強いんだな高屋ちゃんは」

高屋「えへへー……なんかすみません、変な話しちゃって」

白石「……大丈夫、高屋ちゃんのこと見てる人は確実にいるよ。俺はもちろん、
   甲斐田さんだって君の行動力は買ってるんだぞ?」

高屋「ありがたいです。だからこそ、折れずにやっていけてますっ」ニコッ

高屋「……でもこれは、社会に立つ女の宿命なのかなって。そう時々思いますねー」

白石「なるほどなぁ……」

白石(宿命、か……)


 ――――

 ピピピピピピピ――

あきら「……っ」カチ…

あきら「…………もう三時か……ん?」

 メール受信:一件 白石

あきら「…………めんどくさ」

あきら「…………」スッ

――――
白石
昨日ぶり(⌒-⌒)
――――

あきら「……何だこの顔文字のチョイス」イラッ

――――
変な別れ方してから、俺ずっとモヤモヤしちゃってさ
個人的に何が悪かったのかをずっと考えてたんだ
――――

あきら「ふーん……って彼氏かコイツ」


――――
ごめん、変に気ぃ遣ってた
久々に会ったからって舞い上がってたんだと思う
10年も経ってるのに、何もその間のこと知らないくせに、
出過ぎた真似をしちまった
――――

あきら「……」

――――
ただ、これだけは言える

俺はお前を甘えさせたいんじゃない
燻ってるお前を、どんな形であれ立ち上がらせたいんだ
ちゃんとここに宣言しておく

自分でも現状がいいものだなんて、思ってないんだろ?
――――

あきら「……勝手に決めんな」

――――
これも押し付けかもしれないけど……でも俺は、
かもしれないだけで終わらせたくないんだ
ちゃんと、二人でゆっくり話したい

返信待ってる
――――


あきら「……」

あきら「…………」スッ ススッ…

――――
あきら
うざ、お前はあたしにとっての何なんだよ
――――

あきら「ちっ……」ポイッ

あきら「……ガキくさ、なに熱くなってんだろ」

 ピロピロピロリンッ

あきら「って返信はや……っしょと」

あきら「んだよもー……」

――――
白石
俺は、小神あきらのアシスタントだ
――――

あきら「――っ」

あきら「…………」

あきら「……うざ、うざ」ススッ スッ


 ――――

白石「って、ちょっとくさすぎたか……?」

白石「しかも返信早すぎだし……もうちょい待てばよかった……」

白石「……」ソワソワ

 テレレンッ

白石「っ! ……あっちも早いな」

――――
小神あきら
くっっっっっっさ

今日は仕事だから無理だけど
近いうちにまた飲み行くぞ
――――

白石「……」

白石「…………っしゃ」

高屋「『っしゃ』って、なんですー?」

白石「どぅわぁっ――!? い、いつの間に後ろに!?」


高屋「なーんか全然白石さん話してくれませんし、
   ずーーっと携帯見てますし暇なんですー」ブッスー

白石「ご、ごめん……もう終わる」ススッ スッ

高屋「……彼女さんですかー?」

白石「違いますー、そんなんじゃありませんー」

高屋「……」イラッ

高屋「……その受け答え方、女性ですねー?」ニコー

白石「……なかなか鋭いっすね高屋ちゃん」


 ――――

ママ「お疲れ様」

あきら「はいー、今日もひろみ頑張りました~……」

ママ「……ふーん」

あきら「な、なんです……人の顔ジロジロ見て……」

ママ「いや~、なんか今日は機嫌いいなーって思ってね」

あきら「え゛っ、そ、そうですか……?」

ママ「あたしがどんだけ長くこの仕事ついてんと思ってんのよ」

ママ「なんか良いことあったんでしょ~?」


 俺は小神あきらの――


あきら「…………いや、ないない、ないですって」

ママ「はいはい。今日はもう帰っていいわよ、糸目の彼によろしくね~」スタスタ

あきら「お疲れ様、です」ポツーン

あきら「……」

あきら「…………ママ違いますって~~!」タタタッ



第一話『燻り』 / おわり

次回に続く――★



https://m.youtube.com/watch?v=HpTz4Y18_Xg




とりあえずここまで
らき☆すた見返そ

再開しますー

 ――――
 ――

 ―芸能事務所―

白石「おはようございまー……って、甲斐田さん!?」

甲斐田「よ~白石」プカー

白石「お、お疲れ様っす! どうしたんすか、こんなとこで」

甲斐田「おめえが出るイベの打ち合わせに来たんだよ。
    会議室に案内されたんだけどよ、あそこは静かすぎっからな」

白石「もしかして、俺待ちでしたか……?」

甲斐田「それもあるが、お前の事務所全面禁煙になっちまったからよ」

白石「ああ、なるほど……」

 ――――

甲斐田「――てな感じで、よろしく頼むわ」

高屋「はい、資料は確かに。今年もよろしくお願いしますー」

白石「お願いします」

甲斐田「おう。お嬢ちゃんも随分と仕事が板に付いてきたな」

高屋「ふぇ? そ、そうでしょうか……えへへー」

甲斐田「これからも白石のジャーマネ、しっかりと頼むな」

白石「甲斐田さん……」

高屋「はいっ、任せてください!」

甲斐田「よし、仕事の話は終いだ……白石、今日の夜は仕事か?」

甲斐田「暇だったらちょっと付き合えや」スクッ

白石「はいっ……あ、えーっと……」

甲斐田「……何か用事か?」

白石「すんません、先約があって……いや、別に大した用ではないんで、
   日ぃずらせるか聞いてみま――」

甲斐田「女か?」

白石「……えっ」

高屋「女です」

白石「え゛っ」

甲斐田「ひろみちゃんか」

高屋「ひろみちゃんって言うんですか」

白石「ちょ、いやいやいやいや――」

甲斐田「なら話は別だ。飲みはまた今度でいいからよ、
    詳しく話聞かせろよな」ガチャッ

白石「あ、ちょっと甲斐田さんっ!」

甲斐田「じゃあまた」バタンッ

白石「……面白がってるな、あの人」

白石(俺、顔に出てんのかな……)

高屋「白石さん」

白石「……なによ」

高屋「私にもちゃーんと聞かせて下さいねー」ニコー

白石「……意外とこういう話に興味あるのね、チミも」


 ――――

 ―大衆酒場 桜蘭坂―

 ワイワイガヤガヤ

あきら「で?」

白石「……」

 …………。

白石「……開口一番がそれかよ」

あきら「っぷはぁ……で、白石はどうしたいわけ」

白石「……それはこっちのセリフな気がするんだけど」

あきら「あたしは今の生活にそこそこ満足してて?
    昔みたいな若さっつう武器も持ってなくて?
    こっからどう巻き返そうってのよ」

白石「……」

白石「……思い切ってキャラを変えていくー、とか?」

あきら「はぁぁぁぁぁぁぁーーー……」

白石(長いため息だなぁ……)

あきら「……あんた、それマジで言ってんの」

白石「わ、悪いかよ……」

あきら「そんなの既にやったに決まってんじゃん。んで結果がこれなわけ、分かる?」

白石「……」

あきら「なーんか勘違いしてるみたいだけどさ、
    あたしは別に業界に戻れなくたっていいのよ」

あきら「この酒場とかさ、キャバでたまに歌えればそれでいいの」

あきら「ただ場所を弁えたってだけ」

白石「……弁えるような性格じゃないだろ、お前は」

あきら「わかったような口きくな。焚きつけて、そっからあんたはどうすんのよ」

あきら「言うだけ言って、あとは放っておくなんていつものパターンなわけよ。
    そんなん昔から一緒、大人はレールを敷いてくれるだけで
    走り方は教えてくれないっしょ?」クドクド

あきら「だから、別にあんたを信用したわけじゃない。
    メールだけならいくらでも偉そうなこと言えんの。
    そんくらいじゃ、あたしは変わんねっつの」クドクド

 ゴクッ ゴクッ ゴクッ…

白石「……」ピクピクッ

白石(うん、今現在メール送ったことを全力で後悔してるところだよ)

あきら「ふはぁ……生おかわり」

店主「あいよ」

白石(あれこれぐちゃぐちゃと偉そう御託並べやがって……)

白石「……」ハァ…

白石(……だったら)

白石「……なぁ、小神」

あきら「あん?」

白石(――全力で、後悔し切っちまおうじゃねえか)

白石「仕事持ってきたら、受けてくれるか?」

あきら「……えっ」

白石「今の俺なら多少顔が利くからな。マネージャーもちゃんと用意する」

あきら「え、いや、えっと――」

白石「まさか断るなんてこたぁしないよな?
   あれだけウダウダ環境のせいにしておいてよ」ニコー

白石「チャンスは本来掴みに行くもんだ、答えは自分で探して初めて血肉になる。
   その過程をぶっ飛ばしてやろうって言ってんだぜ、
   すでにそれなりの経験はしてるだろうからな」

あきら「……で、でもさ」

白石「あるぇぇぇぇええ? 怖気づいてやれないなんてオチですかぁぁぁぁ?」

店主「はい、生おまち……」トン… スタコラ

あきら「…………んだと白石ゴラァァァァ!?」ドンッ

白石「……何だよ、図星か?」

白石(こ、こえええええええええええええええーーーーっっっ!!!)

 ゴクッ ゴクッ ゴクッ ゴクッ――

あきら「――ぶはぁぁあ! やってやろうじゃんかよ!!
    小神あきら芸能界復帰じゃボケェーッ!!」

あきら「おっちゃん! カラオケ! 『三十路岬』!!」



 その日の小神の歌声は、正に芸能界を震撼させんとする、
 地獄の底からの雄叫びのように思えて。

 ……いや、マジで何でこんなことになったんだろうって
 僕も後悔しております、はい。

不定期ですんません、あげます



 ――――

原作
らき☆すた
らっきー☆ちゃんねる

第二話『衝動』

 ――――




 ――――
 ――

 ―次の日 車内―

高屋「それで、売り言葉に買い言葉で約束取り付けちゃったってわけですかー」

白石「まあ、売ったのは俺なんだけどね……」

高屋「うーん……私は別にいいんですけど、
   新米マネージャーの一存でどうにかなるものでもないですし」

白石「デスヨネー……」

白石「芸能事務所を通さないとデビューは不可能だからな……はぁぁぁぁー……」

高屋「……それにしても、まさかお相手があの小神あきらさんだなんて」ニヤニヤ

白石「ただの腐れ縁だよ。この前に偶然会ってさ」

高屋「へー、へぇー」ニヤニヤ


白石「……あんまり年上をからかうんじゃありません」

高屋「白石さんを語るには切っては切れぬ因縁のお相手……
   私も昔の映像でしか見たことありませんが、
   そんな方といまだに交友されているとはー……」

白石「昔の映像って……過去の偉人じゃないんだから……」

高屋「まあ、白石さんのマネージャーとして会ってみたい
   という気持ちもありますしー……
   よし、白石さん! ここは直談判と行きましょう!」

白石「直談判? ……誰に?」

高屋「社長にですっ」


 ――――

 ―事務所 エレベーター内―

 ウィィーーーィイン―…

白石「……」ハァ…

 ――

「しゃ、社長に!?」

「するのはー、白石さんですけど」

「えっ」

「当たり前じゃないですかー。そもそも白石さんが持ってきた話ですし、
 社長と白石さんって仲いいんですよね?」

「いや、高屋ちゃんは何か誤解している」

「まあまあ、何とかなりますって。というか他に方法がおありでー?」

「……」

 ――

白石(あの子、ホントいい性格してるよな……)

 チーン…

白石「……あっ」

「……白石さん、何かご用でしょうか」


白石「ちょうどよかった。後藤さん、山田社長って今お時間取れますかね?」

後藤「これから三軒隣の定食屋で昼食の予定ですが。ご一緒しますか?」

白石「はい、よろしくお願いします」

後藤「分かりました、社長にお伝えしてきま――」

 ガチャッ

山田「おーう後藤ちゃん、お昼行こう。お腹ペコペコだよ」

山田「……って、白石くん。どうしたのこんなとこまで来て」

後藤「ちょうどよかったです。社長、
   白石さんからお時間いただけないかとのご要望がありまして」

白石「昼食、お供させて下さいっす」

山田「別にいいけど……ギャラの相談には乗らないよ?」

 ――――

 ―定食屋―

山田「いやー、ここの鯖の味噌煮が絶品でさ~……あ、奢んないよ?
   今はどこも厳しいからねぇ」

白石「……」

白石(いまだに掴めないんだよなぁ、この人)

山田「僕もまだ一応現役なんだけどね、
   高いギャラ払ってくれるならどんな仕事もするのに……」

後藤「社長、あまり身勝手な発言はしないように。箔が落ちます」

山田「怖いなぁ後藤ちゃんは……」

山田「あ、おかみさん。味噌煮定食、三つね」

おかみ「はいよ、いつもありがとね」

後藤「また勝手に頼んで……」

山田「だって美味しいんだもん、味噌煮」

後藤「はぁ……白石さんもサバの味噌煮定食で良かったですか」

白石「は、はい」

山田「……それで、白石くんは僕に何の用?」

白石「え、あ、はいっ。社長に直接お願いするのも、道理がなってないんですが……」

白石「社長に、紹介したい女性がいるんです」

山田「おお、結婚かい」

白石「えっ」

後藤「おめでとうございます、式はいつ頃をご予定でしょうか」

山田「スピーチなら任せてくれたまえよー、
   往年の山田節を披露してあげよう……あ、ギャラは貰うからね?」

白石「うわ~それは是非とも聞いてみたい……ってそうじゃなくて!」

白石「ウチで一人、デビューさせて欲しい子がいるんです」


山田「なんだ、やっと白石くんも腰を据えて仕事をする気になったかと思ったのに……」

山田「……というか、ウチがいま人とってないのは、知ってるよね?」

白石「承知の上です。面接だけでも、受けさせてもらえないでしょうか」

山田「…………うーん」

白石「……」ゴクッ

 …………。

後藤「……社長、ご提案が――」

おかみ「はい、おまちどう。味噌煮定食3つね」カタッ

山田「おっ、きたきた。……あ、後藤ちゃん、話はあとで聞くから。
   今はありがたく味噌煮をいただこうじゃないか」

白石・後藤「…………」


 ――――

山田「はぁー、美味しかった。おかみさん、おあいそで」

おかみ「はいはい」

 …………

 ……

 …

 プゥーーーーーーー…

 トウフー トウフー シノザキヤノートウフー

山田「おっ、いいねぇ。最近は見なくなったね~豆腐屋さん」

白石「確かに見ないっすねー」

山田「古き良き絵だね……」

白石「そうですね……」

 …………。

後藤「……あの、白石さんまで社長と和まないで下さい」

白石「えっ? ……あ」

山田「ごめんごめん……それで後藤ちゃん、提案ってなんだい?」

後藤「はい、研修生制度の導入です」

山田・白石「研修生制度?」


後藤「プロの前段階と言えばいいでしょうか。
   ウチと懇意にしていただいている養成学校がある以上、
   それを利用しない手はありません」

後藤「ウチの事務所は中堅からベテランが多い分、
   小さな仕事を引き受けにくいというデメリットがあります」

山田「ふむ、確かに」

後藤「研修生制度でそこを補填することによって、
   活動範囲を広げることが出来るのではと考えています」

後藤「そもそも、いきなりプロへ上がらせるのは今のご時世に合いません。
   社長の考えは古すぎます」

山田「そんなはっきり言わなくてもいいのに……」

後藤「研修生という肩書きの元で小さな仕事をこなし、
   プロの仕事を間近で見られるような環境をウチでも作るべきです」

後藤「つきましては、養成学校から希望者を募ると共に、
   白石さん紹介の女性にもお声を掛ける……というのはいかがでしょう」

白石「おおっ、後藤さんグッドアイディ~ア!」

後藤「ただし、オーディション形式になると思いますが」

白石「おお……まあ、そうですよね……」

後藤「……いかがでしょうか、社長」

山田「ふ~む……なるほどねぇ……」

白石・後藤「…………」

山田「……よし、分かった! やってみようじゃないか!」

白石「っ……!」


山田「甲斐田くんから色々言われてたからねぇ……
   『ウチは仕事が振りづらい』だの何だのって。
   これを機に、色んな仕事を取っていこうじゃない」

後藤「では、企画書と資料は明日中に纏めておきます」

山田「白石くん、そういうことだ。君の彼女には今のとおり伝えておいてくれるかな?」

白石「はいっ! ありがとうございます――
   って彼女じゃないです全然そんなんじゃないです」


 ――――

山田「ふぅ……久々の勝負だね、僕はあまり好きじゃないけれど」

後藤「時が移ろえば変化を強いられる……
   逆に今までやってこれていたのが不思議なくらいです」

山田「嫌だねぇ……年を取ると保守的になってしまって」

山田「……だからこそ、あの子のような行動力は魅力的に思えてしまう」

後藤「…………」

後藤「社長だけではないですよ、そう思っているのは」

山田「…………」

山田「……ところで」

後藤「何でしょう」

山田「白石くんのあの反応、後藤ちゃんどう思う?」

後藤「クロですね」

山田「あ、やっぱり?」

後藤「はい、どう見てもクロです」

山田「これは、オーディションが楽しみになってきたね」


 ――――

高屋「どうでした?」

白石「ん、何とかなりそうだよ」

高屋「おおっ、さすが白石さんですー」

白石「多分、後々高屋ちゃんも忙しくなると思うけど」

高屋「えっ?」

白石(なんか、想像以上に大事になってしまった)


 ――――

 ―あきら宅―

 ピロピロピロリンッ

あきら「……」

―─――
白石
うちの事務所で研修生制度を取り入れることになった、
そのオーディションに特別参加していいって

詳しい日時はまた連絡する(^o^)
――――

あきら「……」

あきら(……マジでチャンス持ってきやがった、しかも堅実に)

あきら「……あたしが、再デビュー」

あきら「……」ボフッ

あきら「~~~~~~~っ!!(どうしよ~~~~~!!)」バタバタ


 ――――
 ――

 ―とある居酒屋―

 ワイワイガヤガヤ

甲斐田「よう白石、おめえが発端でなかなかデカいことするらしいじゃねえか」

白石「えっ、いや別に……具体的な意見を出したのは後藤さんすから」

甲斐田「ああ、あのクールちゃんね……」チビッ

白石「そう言えば甲斐田さん、後藤さん苦手って話してましたね」

甲斐田「まあな……」

 …………。

甲斐田「それでよ、ひろみちゃん……いや、小神あきらのことだけどよ」


白石「げっ、どこからその情報を……」

甲斐田「おめえのジャーマネから」

白石「……」

甲斐田「昔からの知り合いってのは知ってたが、まさかそれがあの女とはな」

白石「……? なんか、やけにあたりが強いっすね」

甲斐田「……」

甲斐田「……白石」

甲斐田「小神あきらは、諦めとけ」

白石「えっ」

 ――カランッ


 ――――

 ワイワイガヤガヤ

白石「……どういう、ことっすか」

甲斐田「……」

白石「いや、ちゃんと説明してもらわないと。いくら甲斐田さんからでも、
   いきなりそんなこと言われたって……」

甲斐田「おめえが昔に、それこそ俺と出会うより前に
    あいつとつるんでたことは知ってる」

甲斐田「……情が移るだろうけどな、互いに身を滅ぼす羽目になるぞ」

白石「――っ、違いますっ。俺は……」

甲斐田「……あれはな、もうアイドルにはなれねえと俺は思う」

甲斐田「白石、この前におめえに言ったよな。
    『白石が白石でいる限りは、仕事はなくさせねえ』って」

白石「……」

甲斐田「……あの女は、『小神あきらでない道』を一度選んじまったんだよ」


 ――――

 ガタンゴトン―

白石「……」

 ――

「一度自分に嘘を吐くとな、なかなか元には戻れねえ」

「まあ、この話はまた追々な。……忠告を無視してあいつを庇うなら、
 覚悟しておけよ。先に言っておくが、かなりしんどいぞ」

 ――

白石(甲斐田さんの言うことは多少無茶はあっても、
   間違ってるなんてことはなかった)

白石(……あいつ、何をやったってんだ)

白石「……」

 テレレンッ

――
高屋かな
オーディションの日時が決まりました!
ちょうど一週間後の◯月□日の13時に、
ウチの事務所の二階でやるそうです!

あきら様にそうお伝え下さいー( ´▽`)
――

白石「……」

 ────
 ――

 …………
 ……
 …

 もう一度、もう一度チャンスを下さい!
 次はちゃんとやりきってみせます!

 いやぁ、僕も期待してたよ? だけどねえ……

 放っておけ

 ディレクター……

 老婆心ながらに忠告しておくがな、お嬢ちゃん。
 おめえさん、キャラが死んじまってるよ



 それじゃあ――ただの人形だ



 …
 ……
 ………

あきら「──っ!」バッ

あきら「…………」

あきら「夢見わっるー……」ガリガリ


 …………。

あきら「……どうすれば良かったんだよ」

 ピロピロピロリンッ

あきら「……」スッ

──
白石
話がしたい
──

あきら「……」スッ ススッ

――
あきら
うん、あたしも飲みたい気分
――

あきら「……」

あきら「……はぁ、あたしらしくない」


 ――――

 ―その日の夜 桜蘭坂―

白石「――とのことだ。決まった後に聞くのもアレだが、その日空いてるか?」

あきら「うん……」

白石「……あんまり乗り気じゃなさそうだな」

あきら「別に……昼間にちょっと嫌なこと思い出しちゃっただけ」

 ゴクッ ゴクッ ゴクッ…

白石「……」


 小神あきらは、諦めとけ


白石「……あのさ、小神――」

あきら「――ぶはぁ! ほら、あんたまでしおらしくならないでよ。今日は飲むぞ~!」

白石「……」

あきら「ほらっ、ジョッキ持てって」

白石「……そうだな、とりあえず飲むか」


 結局。俺はその日、最後まで話を切り出せなかった。


 ――――

 ―とある駅前―

白石「じゃあ、メールに送ったとおりだから。来週は頼むな」

あきら「任せとけって、絶対受かってやるからさ!」フリフリ

白石「……」


 杞憂に思えてきたから――と言ったら、語弊がある。

 すべてを忘れたかったから。
 考えたく、なかったから。


白石「……小神っ」

あきら「あん? なんだよー」


 だから俺は――


白石「……大丈夫だ、うん、大丈夫だから」

あきら「お……おうっ、分かってるって」

 なんの根拠もない励ましを、無責任に投げかけることしか出来なかった。



 そして、オーディション当日――



 ――――
 ――

 ―とある放送局―

白石「……」ソワソワ

高屋「白石さーん、仕事に集中してくださーい」

白石「あ、ああ……」

高屋「うふふ、そんなに気になりますかー?」

白石「いや……まあ、大丈夫だろ。あいつなら」

高屋「信頼してますねー。それじゃあ、白石さんはお仕事の方を頑張りましょうねー」

白石「はいはい……」

白石「……」チラッ

白石(ラジオが終わる頃には、オーディション始まってるな)

白石(……頑張れよ)


 ――――

 ガチャッ

白石「お疲れ様でしたっ」

ディレクター「おう、お疲れー。来週は二本撮りだから頼むわ」

白石「はいっ」

白石「……さて、今日は大人しく事務所に帰るかな――」ソソクサ

高屋「白石さんっ!」

白石「っ!? ど、どうしたのいきなり大声出して……」

高屋「小神さんが、まだ会場にいらしてないらしいです」

白石「……えっ」


 ――――

 タッタッタッタッタッ――

白石「はっ、はっ、はっ、はっ――!」

 ――

「オーディション開始の三十分前には集合だったんですが、
 小神さんだけまだ来てないみたいです……」

「もしかして、日時を間違えたとか……――あ、白石さんっ!」

 ――

白石「ちくしょう、あのバカっ……!」

 prrrrr… prrrrr…

白石「っ……」

白石「……ダメかっ」


 ――

「一時間だけ待ってください! 必ず連れて行きます!」

『そうは言われましても……』

『良いんじゃないかな』

『社長……』

『僕、ドラマチックな展開が好きだからさ。
 ただ、間に合わなかった時はしょうがないじゃ終わらないよ?』

『これは白石くんの信用にも繋がるんだから。そこは承知しておいてね』

「っ……ありがとうございます!」

 ――

白石「っ……はぁ、はぁ……!」

白石「とは言っても、あいつが行くところなんて分からない……!」

 任せとけって、絶対受かってやるからさ!

白石「……どの口が言ってんだよ、あいつは――!」


 ――――

 プゥーーーーーーーーーー……

 トウフー トウフー シノザキヤノトウフー

 キィ…… キィ……

あきら「……はぁぁぁぁ」

あきら(なにやってんだよあたしは~~~~~!)

あきら(ちゃんと行こうとしたのに! なんでこんなとこでショボくれてんだよ!)

あきら「……あ~~~~~~」ガリガリガリガリ

あきら「はぁ……」

あきら(…………バカだな、あたしって)

あきら「……」

あきら「……」チラ…

あきら(もう、オーディション始まってる……)

あきら「……こりゃ、もう顔合わせらんないなぁ」


 prrrrr… prrrrr…

あきら「っ……!」

 着信:白石

あきら「……」

 ピッ

白石『……――おい!! 今どこにいるんだっ!!』

あきら「っ……声でけえっつうの」

白石『何してんだよ!? せっかくのチャンスなのに!』

あきら「……もういいんだよ。あたしには、やっぱり無理だって」


 ――――

白石「お前、何言って……、っ!」

 タッ―

あきら『結局さ、あたしに業界は向いてないの』

 タッタッタッタッタッ――

白石「まだやってもいないのに何言ってんだよ……
   迎えに行くから、オーディション出ようぜ」

あきら『一回やめた人間が再復帰なんて出来るわけない』

白石「何人もいるじゃねえか、そんな人間」

あきら『毒舌アイドルなんて売れない』

白石「ア、アウトローだけど……それでもいいだろ、面白いって」

あきら『二十代半ばなんてもうおばさん』

白石「全国の三十路に謝れ」

あきら『……もう、あんたに迷惑かかってるし、今さら顔なんて出せないってば!』


 ――互いに身を滅ぼす羽目になるぞ


白石「っ……だったら、尚更だよ! こんなところで足踏みしてんなよ!」


白石「まだ間に合うんだよ、チャンスは手を伸ばせば掴める距離にあるんだよ!」

あきら『……ねえんだよ』

あきら『もう……手を伸ばす力もねえんだよ』

 ――――

あきら「二年前に……小神あきらは死んだ」

あきら「抜け殻のあたしに、そんな力……ねえんだよ……!」

白石『小神……』

あきら「だから、もう……――」

白石『だからって、諦めんのかよ』

あきら「っ……」


白石『そんな、往生際のいいような女じゃねえだろ』

あきら「……」

白石『今のお前が無理だって思ってても……俺は、諦めさせないぞ』

白石『無理じゃねえんだよ。たかが二十数年生きただけの人間が、
   自分で引いたラインで物事決めつけんな』

白石『確かに、怖いよ。俺だって数年間やってきたけど、
   今でも先のことなんて見えねえ』

白石『お前もそうなんだろうよ……だったら俺が、前を照らしてやる。
   精一杯、照らすからさ』

白石『もう一回だけ、上を目指してみようぜ』

あきら「っ……、……」

あきら「…………何でさ、そんなあたしにこだわるんだよ」

白石「前にも言っただろ――……』



白石「……――俺は小神の、アシスタントだからだ」ザッ



あきら「っ――!」


 ――――

 ―事務所近くの公園―

あきら「……あんた、なんで」

白石「ここら辺の雰囲気、いいだろ。古き良き日本らしさが残っててさ」

あきら「っ! ……」

 トウフー トウフー シノザキヤノトウフー

白石「小神、オーディションに出よう。まだ間に合うから」

あきら「……」フルフル

白石「っ、なんで……」

あきら「白石……芸能界ってさ、自分がいなくなってくように感じてこない?」

白石「……」


あきら「人気がなくなっていくから、段々と人が見てくれなくなるから……
    そう思うのは、まあ当たり前なんだけどさ」

あきら「違う、そうじゃないんだよ」

あきら「人気がなくなっていくと、なにが悪いのか、
    なにが原因なのかすら分からなくなってくるんだ。
    それで……人気をとるために、自分自身を偽っていって……」

あきら「本当の意味で、自分が消えていく……死んでくんだよ」

あきら「それが……あたしは、イヤ……もうイヤなの……!」

白石「小神……」


 …………。

あきら「あたしは人形じゃない、小神あきらっていう一人の人間なんだ。
    芸能界にはもういないけど、確かにここにいる……だから――!」

あきら「あんただけでも、いいから……」



あきら「お願いだから……あたしを、見てよ……!」



白石「……」

あきら「……っ、じゃないとあたし、もう……」

白石「……小神。俺がなんで今までやってこれたか、分かるか」

白石「お前が、いたからだよ」

あきら「ふぇ……?」


 ――――

白石「俺にとって初めての仕事が、『らっきー☆ちゃんねる』だった」

白石「まだ右も左も分からなかった俺は、
   ヘタを打たないように必死に取り繕ろうしかなくてさ。
   心の底から、お前が羨ましかった」

あきら「っ……」

白石「飾らない小神あきらに、実はずっと憧れてたんだ。
   まあ、結局あんなかたちで終わっちまったけどさ……」

白石「だから、こうやって涙ながらに袖まで掴まれたら……
   昔のお前とのギャップが凄すぎて、色んな感情が湧き上がってきて……」

白石「正直、マジで抱き締めてあげたい」

あきら「…………キモいぞ、白石……」

白石「……」


白石「……うん、分かってる……それでいいんだよ」

白石「その反応こそが、小神あきらだと思う。お前なんだと思う。
   俺は、そんなお前が好きだ」

あきら「…………」

 …………。

あきら「…………は、はぁっ?///」

白石「昔みたいなお前を、見せてくれよ」

白石「もしやり切る勇気がないなら、俺が後押ししてやる。
   辛くなったら、酒にでもなんでも付き合ってやる。
   それでも無理そうなら、ずっと近くにいてやる」

白石「だからさ……――行きましょうよ、あきら様」スッ


 ――――

 ─事務所内 オーディション会場─

後藤「……そろそろ一時間です」

山田「ふむ……白石くんから連絡は?」

高屋「き、来ていません」

高屋(白石さん、私は絶対来るって信じてますから……)

 ガチャッ――

白石「す、すみませんっ。遅く――」

あきら「遅くなって、本当にすみませんでした――!」バッ

白石「っ! ……小神」

白石「……社長、遅れてしまってすみません。小神あきらのオーディション、
   今からやって頂いてもよろしいでしょうか」

後藤「白石さん。それよりも連絡を待っていたんですよ、私達は」

白石「い、急いで来たので……すみません」

山田「まあまあ後藤ちゃん、こうやってちゃんと連れてきたことだし……
   よし、分かった。すぐにでもオーディションをやろうじゃないか」


 ────

 ─事務所 ロビー─

 シーーーーーン…

白石「……」

白石(ギリギリ、本当にギリギリセーフってやつだな……)

白石「…………あせったぁぁ……」

高屋「白石さ~~~ん!」ピョーン

白石「うおぉっ!? た、高屋ちゃん……」

高屋「私、本当にどうなるかって……白石さんがクビになったら……
   どう゛じよ゛う゛っでぇーー……!」ボロボロ

白石「……ごめん、心配させて」

高屋「もう、こんなこと絶対に許しませんから……!
   マネージャー命令ですー……!うわーーーん……!!」

白石「わ、分かったから……もう大丈夫だから、ねっ?」

白石(高屋ちゃんのおかげで、ヤキモキしてる余裕もなくなったな……)

白石(……今度こそ、頑張れよ)


 ────

あきら「~♪」

あきら「~~……、ありがとうございました」

後藤「……」

山田「ふむ……一つ訊きたいんだけど、
   小神ちゃんは何を想って歌ったんだい?」

あきら「何を……ですか?」

山田「うん。声撮りには、何かしら気持ちがのっているもんだ」

山田「君の歌からは、何かただならぬ想いが伝わってきたよ」

あきら「…………それは──」


 ────

 ガチャッ

山田「いやぁ、終わった終わった」

あきら「……」

白石「小神っ! ……どうだった?」

あきら「……まあ、うん」

白石「だ、ダメだったのか……?」

あきら「うるさい、もう帰るから」スタスタ

白石「えっ……って、おいっ」

あきら「本日は、本当にありがとうございました」ペコ

山田「はい、お疲れ様」

 ガチャッ …バタン

白石(あの反応……やっぱり…………)

後藤「送っていかないんですか」ズイッ

白石「ッ!? いきなり横に立たないで下さい……」

山田「送らないと、男なら」ヒョイ

高屋「はやぐいっでくだざい」ズビ…

白石「……」


 ────

あきら「……」

「おーい! 待てってばー!」

 タッタッタッタッタッ─

あきら「っ! ……ついてくんなって」

白石「いや、どうしたんだよいきなり……」

あきら「……」

あきら「……から」

白石「えっ?」

あきら「また連絡するから──!!」タタッ

白石「えっ!? お、おい──! ……って、行っちまった」

 …………。

白石「……ま、マジでやばかったのか?」


 ────

 タタタタタッ─

あきら「はっ……はっ……!」

 タタッ… タッ…

あきら「…………はぁ」

あきら「……」

 ──

「小神ちゃんは何を想って歌ったんだい?」

「それは……──感謝です」

「ほう……感謝ね」

「はい。こうして、遅刻してきたにも関わらず
 オーディションのチャンスを頂けている今に」

「今まで鳴かず飛ばずでも、私を支えてくれていたファンのみんなに」

「…………私の傍にいてくれている、あの人に向けての」



 「これ以上ない、感謝を込めて歌いました」ニコッ




「……うん、いい答えだね」

 ──

あきら「……」

 …………。

あきら「……~~~~っ///」



 ────
 ──



 それから、二週間後。
 小神あきらは新人タレントとして、俺のラジオに登場することになり。

 ネットでは『らっきー☆ちゃんねるのコンビ再び?』とそこそこ騒がれ、
 そのおかげなのか、ちょこちょこと彼女に仕事が舞い込んできた。



『うまくやれてるらしいじゃねえか』

「はい、何とか仕事は来ているみたいっす」

『……俺は、お前を見くびってたのかもしれねえな。
 あの女のこと、しっかり守ってやるんだぞ』

「……はいっ」



 そして何故か、俺にも仕事がちょくちょく来るようになって。
 その連鎖は、事務所全体に伝わっていき──ちょっと、みんなの給料が増えた。

 社長は移転するとか言っていたけど、それはまだまだ先の話のようだ。



「いやぁ……ホント、うちがこんなに活気付くとはねぇ」

「ひとえに、白石さんのおかげですか」

「もちろん後藤ちゃんにも感謝しているよ~」

「ありがとうございます」

「…………ところで、あの二人最近はどうなの」

「その話ですが、高屋の掴んだ情報では──……」




 話は少し戻って、小神の話。

 勢いに乗った彼女はそれはもうたくさんのオーディションに参加して、
 もちろんそれなりに落ちている。

 ただ、決して諦めたりしない…………いや、嘘を吐いた。
 いつも、酒の場では弱音しか吐かない。
 文句は毎度タラタラだ。

 ただ――遅咲きではあるけど、まだまだ大きな壁はあるけど。

 でもきっと、大丈夫だ。




「…………」



 何故なら――



「…………」

「…………おい」



 何故……なら…………



「なんか……すっげぇ恥ずかしいこと言ったんだな、俺……」

「今さらかよ、ばーか」



 第二話『衝動』 / おわり



https://www.youtube.com/watch?v=hIMj4XLP1e0



十年も経ったんだなぁと感慨に浸りつつここで完結です
二人のその先はどうなるのか、そんなことを妄想しつつまた書きたくなったら書くということで乙!

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