道明寺歌鈴「貴方の瞳に映る、線香花火」 (20)

道明寺歌鈴ちゃんのSSです。

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弾けるような朱色と溶けるような橙色の小さな火の珠がぱちぱちと音を立てては闇に消えていきます。貴方の目に映るのは瞬いては消える儚い閃光。少し生暖かい、夏の始まりを告げるかのような微風が手に持った線香花火を揺らしてその煌めきが地面へと。

終わっちゃいましたね、と貴方に告げたら。また今度、夏の終わりにでもこうして二人で。そんなことを言ったのは私と貴方のどっちでしたか。

部屋に戻ろうと差し出された手を取って立ち上がると、いきなり吹いた強風に思わずよろめいてしまい、目の前に貴方の顔が。ドキドキと胸を高鳴らせながら、ありがとうございますと微笑むと、照れたような顔に。


この頬が熱い理由はきっと───



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ふぁ、と小さな欠伸を一つ。いけない、と軽く頬を叩いて眠気覚まし。レッスンとお仕事の合間のちょっとした時間。ぽかぽかと柔らかな陽射しを浴びながら休憩していたらいつの間にか眠気が。

「お疲れですか?」

そんな私を見かねてか、話しかけてくれたのは藍子ちゃんです。少しだけ、とお返事してから彼女を見るとなにかを抱えています。

「あの、それは?」

「ちょっと時期が早いけど線香花火を貰ったんです。せっかくだし未央ちゃんたちやプロデューサーさんと一緒にしようかなって」

なるほどと頷いてから、そういえば最後に線香花火をしたのはいつだったかな、と考えます。夏祭りなどで打ち上がる大きな花火は毎年見ている気がしますが線香花火というのはかなりやっていないように思います。



「良ければ歌鈴ちゃんもいりますか? 私たちだけじゃこんなにいりませんし……」

「わあ、いいんですか?」

「ええ、もちろん。やっぱり歌鈴ちゃんのプロデューサーさんと一緒にするんですか?」

抱えていた紙袋から別の紙袋へと線香花火を移し替えながら尋ねてくる藍子ちゃんに、はいとお返事をします。プロデューサーさんと一緒に……想像してみましたがどうにも上手く想像できませんでした。何故でしょう。



これくらいでいいですか? と首を捻りながら渡された紙袋の中を見ると予想よりもたくさん入っていました。流石にこんなにはと思いましたが、藍子ちゃんを見ると苦笑いを浮かべながら彼女の紙袋を見せられます。そちらを見ると私のよりももっとあって。思わず藍子ちゃんの顔を見てしまいます。

「あはは、お仕事で花火職人さんのところに行ったらそこの職人さんが私たちのファンみたいでたくさんくれたけどこんなには……ね?」

あぁ、と納得です。確かに藍子ちゃん、未央さん、茜さんのポジティブパッションは私たちの所属する事務所でも大人気のユニットです。それでもこんなにくれるというのはやっぱり藍子ちゃんの人柄でしょうか。それを裏付けるかどうかは分かりませんが貰った線香花火の紙縒りは明るい緑色のものが多いです。



なにはともあれ、お裾分けしてくれた藍子ちゃんにお礼を言うと、藍子ちゃんは他の人にもお裾分けしてくると言い何処かへ行きました。

いってらっしゃいと見送って彼女から貰った線香花火を一本摘み見ます。長さおそらく10センチくらい。一端がまるで尾ひれみたいに広がっていて、その反対側は滑らかな流線形に膨らんでいて、花開くのを今か今かと心待ちにしている虞美人草のようです。

そんなことを考えているとプロデューサーさんがやってきました。インタビュアーの方が到着したとのことです。分かりましたとお返事をし、立ち上がります。立てていた紙袋が倒れ、線香花火が顔を覗かせました。覗いたそれがくるりと転がり落ちて、ぽとりと地面へと。拾いあげて軽く回すとまるで風車みたいで、くすりと笑ってしまいました。



──────


お疲れ様です、と声をかけて事務所を出ます。プロデューサーさんと一緒に帰ろうかと思いましたがなにやら残っているお仕事があるとのことで先に帰ります。夕飯までには帰るからということですし、そこまで多いわけではなさそうです。無理はしないでくださいね、とだけ釘を刺してから帰途に着きます。



夕方ともいえず夜とも言えない微妙な時間。

太陽もお月様も姿を見せているこの時間はちょっとだけ寂しい気持ちにもなりますが嫌いではありません。ノスタルジックな空を見上げてゆっくりと歩みを進めます。ふんふんと小さく鼻唄を奏でながら一歩一歩前へと。

昼間は蒸し暑かったけれど、今は少し和らいでいて、吹き抜ける風がスカートをひらひらと揺らします。たん、たんっとゆっくりと歩きながらリズムを奏でていたら足元の草に気付かなくて転けてしまいました。打ったお尻を擦りながら上を見上げると、いつの間にか一番星が輝いていました。



──────


ベランダに二人並んで座ります。ちょっと早い、二人だけの夏祭り。仕舞っていた浴衣を引っ張り出してお祭り気分で寄り添って。

場所はいつもと変わらないお家のベランダだけれど少し服装が違うだけでいつもと全然違って。まだ蒸し暑いけれど、不快感はそこまでありません。因みに浴衣に着替えて、プロデューサーさんの目の前でクルクルと回って見せたら褒めてくれたのでそれも理由でしょう。



と、プロデューサーさんから線香花火を渡されます。

「まずは歌鈴からだろ?」

「ありがとうございますっ」

尾ひれのような端を摘み、そっと火薬の蕾を火に近付けます。微風で揺らぐ火に蕾が踊ります。手のひらで風避けとし、じっと待って幾秒か、蕾は花を咲かせました。か細い一筋の煙があがり、音を立てて花弁を広げていきます。溶けていくような橙の火の珠からパチパチと垂れる朱い火の粉が花弁を彩っています。心地よい弾ける音は花弁の大きくなるにつれて段々と弱まっていき、ぽとりと地面へと落ちました。



「落ちちゃいましたね」

「ああ、だけどまだまだあるからな。よし、今度は俺が」

プロデューサーさんが線香花火の先に火を灯しました。私の時と同じように瞬く花火。決して代わり映えはしないけれど、何故か目が離せません。




シンプルで、だけどとっても情熱的で。昔はといえば余り線香花火の良さというのは分からなかったけど、今こうして楽しめているのは私が大きくなったからなのか。それとも、大好きな貴方と一緒だからなのか。ねえ、どっちだと思いますか。なんて聞いてみるととぼけたように歌鈴が成長したからだよ、なーんて言って。

くすくすと笑いながら顔が真っ赤ですよと指摘したら動揺して線香花火を揺らして火の珠を落としてしまいました。

もう、プロデューサーさんったらと軽く脇腹を突っつくと少し怒ったような、けれどどこか楽しそうにプロデューサーさんにわしゃわしゃと頭を撫でられます。きゃー襲われちゃいます、なんてじゃれあって。

近所迷惑になりそうなくらい二人で楽しんでたらせっかく入ったお風呂が無駄になるくらい汗をかいてしまいました。仕方ないからもう一回お風呂に入ろう、ということで残った線香花火はまた後でやることにして、一旦お風呂へと。



──────


ふう、と息を吐き出します。私はジュースを、プロデューサーさんはお酒を飲んで喉を潤します。さっきと同じようにベランダに座って夜空を見上げます。

綺麗なお月様ですね、と呟きながらそっと凭れかかります。プロデューサーさんの温もりと香りを感じながら二人でただじっとなにもせず。



どれくらいそうしていたでしょうか。分からないけれど、どちらからともなく再び線香花火に火を灯しました。咲いては散る儚い火花を二人、ただ眺めて。

いつの間にやら、あんなにたくさんあった線香花火も残り一本となっていました。惜しむようにゆっくり、ゆっくりと火を灯して。



二人で持った一本の線香花火は、弾けるような朱色と溶けるような橙色の小さな火の珠を灯してぱちぱちと音を立てては闇に消えていきます。

プロデューサーさんの顔をちらりと見ると貴方の目に映るのは瞬いては消える儚い閃光。少し生暖かい、夏の始まりを告げるかのような微風が線香花火を揺らしてその煌めきを地面へと誘いました。終わっちゃいましたね、と少し惜しみつつ貴方に告げると。また今度、夏の終わりにでもこうして二人で。そんなことを言ったのは私と貴方のどっちでしたか。

部屋に戻ろうと差し出された手を取って立ち上がると、いきなり吹いた強風に思わずよろめいてしまい、目の前に貴方の顔が。ドキドキと胸を高鳴らせながら、ありがとうございますと微笑むと、照れたような顔に。

この頬が熱い理由はきっと───



──────


重く、大きな音が身体を芯から揺らします。夜空に咲く大きな花火。隣で見るのは浴衣を着た貴方。あの日とは違って小さな線香花火ではなく大きな大きな花火。自分はここにいるぞと主張するかのようなその音と派手な大輪。

夜闇をお昼のごとく照らすその眩しさに目を細めてプロデューサーさんの顔を盗み見ると、目と目が合いました。

二人とも花火じゃなくて相手を見ていて揃って笑ってしまいます。プロデューサーさんが口を開いて何かを言うも打ち上げ音に邪魔されてなにも聞こえません。

だけど言いたいことは伝わって、きっと私と思ってることを言ったのだと分かりました。何も言わずにこくんと頷くとプロデューサーさんも小さく微笑んで。人混みに流されないように、手を繋いで二人でその場を立ち去ります。



「プロデューサーさん」

「んー?」

「ああいう打ち上げ花火もいいですけど、やっぱり私は……」

「ああ、そうだな……」

「忘れてないですよね?」

「もちろん」

「ふふっ、やったっ」



握った手をぎゅっと握り直します。気温は高くて嫌だけれど、伝わる体温はとっても気持ちよくて。

貴方と共にいる時間は線香花火のように消えたりしないようにと、花火に混じった一条の流星に願いました。

以上です。
読んでくださりありがとうございました。

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