歌鈴「開運の恋みくじ」 (25)

明けましておめでとう、そして誕生日おめでとう

私がお祝いされるときは、いつもこの言葉です。友達にも、家族にだって。
新たな年の始まりという大きな節目、最初の挨拶ですからね。新年のお祝いが先なのは当然です。
実家も忙しくて、ゆっくりお祝いされた記憶もあまりありません。
小さい頃は寂しさもありましたけど、これは仕方ないことなんだって。いつの間にかそう思えるようになりました。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1483195767

【大晦日の事務所】


モバP(以下P)「……ふぅ」カタカタカタ

ちひろ「まだかかりますか?」

P「えぇ、年越しまでにはまとまりそうですが」

ちひろ「元日もお仕事ですから、無理しないでくださいね」

P「この業界に正月休みはない、もう慣れっこですよ」

ちひろ「特番やニューイヤーイベントも多いですからね」

P「忙しいのはいいことです。ちひろさんは終わりました?」

ちひろ「はい、私の分は。なにかお手伝いできることありますか?」

P「いいですよ。いまからでもゆっくり年越ししてください」

ちひろ「ありがとうございます。じゃあお言葉に甘えますね」

P「外まで送りますよ」

ちひろ「あら、優しいですね」

P「座りっぱなしで体動かしたいので」

ちひろ「つまり私はついでですか」

P「あーそういうわけでは……」

ちひろ「正直な所もプロデューサーさんらしいですよ」

P「精一杯エスコートさせていただきます」

ちひろ「お願いします。さ、行きましょうか」

P「あれ、レッスンルームに明かりが……予定ないですよね?」

ちひろ「はい。トレーナーの皆さんも、もうお休みですから」

P「じゃあ誰が?」ガチャ



茄子「5,6,7,8……はい止まってください」

歌鈴「はぁはぁ……や、やっぱり最後のステップで遅れちゃいますね」

P「茄子に歌鈴じゃないか」

茄子「Pさん、それにちひろさんも」

歌鈴「おつかれ様です!」

ちひろ「自主レッスンですか? 大晦日くらいお休みしてもいいんじゃ」

歌鈴「実家にいたころはお手伝いだったので、ゆっくりしてるのが落ち着かなくて」

茄子「年明けすぐにニューイヤーライブもありますし、せっかくですから私も歌鈴ちゃんと練習しようかなって」

P「自主レッスンは良い事だが、あまり遅くなり過ぎないようにな」

歌鈴「ふぇ……え、もうこんな時間!」

茄子「もう日も落ちてる時間ですね。気が付きませんでした」

P「その様子じゃ結構長い事やってたのか」

ちひろ「私はもう帰るところなので、よければ送っていきますよ?」

茄子「Pさんはまだお帰りにならないのですか?」

P「俺はもう少し仕事してから帰るよ」

歌鈴「そうですか……なら私も、もう少しだけ残りますっ」

P「む、そうか。茄子はどうする?」

茄子「やるなら2人の方がいいですから。歌鈴ちゃんがそう言うのでしたら私も頑張っちゃいます♪」

ちひろ「わかりました。3人ともほどほどで切り上げて下さいね」

P「俺も含まれてるんですか」

ちひろ「当然です。なんだかんだで年越しまで残りそうですから」

P「今夜くらいは流石にそこまでするつもりはありません」

ちひろ「言質とりましたよ。茄子ちゃんと歌鈴ちゃんが証人です」

歌鈴「わ、わかりましゅた! ……あうぅ」

茄子「はい、確かに聞きましたよ♪」

P「いつもと立場が逆だなぁ」

ちひろ「ふふっ、それじゃあお先に失礼します。みなさん、よいお年を」

3人「おつかれ様でした、よいお年を」


P「さて、帰る時には送ってくから終わったらデスクまで声掛けてくれ」

茄子「了解です。歌鈴ちゃん、通してもう一回やってみましょう」

歌鈴「あ、はい! よろしくお願いします!」

P「あまり根つめすぎないようになー」

………
……




P「うっし、こんなもんか」カタカタカタターン

P「何とか年内にケリつけられたなぁ、あぁ腹減った」

P「あいつら来なかったが……まだやってるのか?」

【レッスンスタジオ】


茄子「5,6,7,8……うん、バッチリですね!」

歌鈴「や、やりましたぁ!」

茄子「はい、お水どうぞ」

歌鈴「ありがとうございます。茄子さんに協力してもらえたおかげですっ」

茄子「頑張ったのは歌鈴ちゃんですよ。ところで、ひとついいですか?」

歌鈴「な、なんでしょうか? まだ悪いところありました……?」

茄子「いえ、そうではなく……歌鈴ちゃんは、どうしてこんなに頑張れるんですか?」

茄子「この時期は実家のお手伝いをしていたから。それは本当なんでしょうけど、なんだかそれ以上の気迫のようなものを感じました」

歌鈴「気迫なんて、そんな大層なものじゃないですよ……私は他のみなさんのような個性もないし、歌も踊りも上手くないし、おまけにドジでおっちょこちょいで……だから、人一倍頑張らなきゃって」

茄子「ふふっ」

歌鈴「うぅ、こんなんじゃ笑われちゃいますよね……」

茄子「いえ違うんです。歌鈴ちゃんは人の良いところを見つけるのが上手なのに、自分のことになると下手になっちゃうんだなって」

歌鈴「そんなことないですよ……」

茄子「うーん、こんなときPさんだったら『歌鈴は歌鈴なりでいいんだぞ!』なんて言うんでしょうね」

歌鈴「プ、プロデューサーさんを出すのはズルいですよぉ!」

茄子「歌鈴ちゃんはPさんのこと大好きですもんね?」

歌鈴「えぇ! と、突然なにを言って……あの、その……」

茄子「ふふ、歌鈴ちゃん可愛い♪」

茄子「明日は歌鈴ちゃんのお誕生日ですし、初詣に誘ってみてはいかがですか?」

歌鈴「お誕生日なのは同じじゃないですかぁ……茄子さんは自分の誕生日、どう思います?」

茄子「どう、とは?」

歌鈴「1月1日が誕生日だと、特別なお祝いって全然してもらえないですよね」

茄子「あぁ、そういうこと」

歌鈴「おまけに私は実家のことで、忙しくてそんな暇もなくて」

茄子「私は自分の誕生日、好きですよ。特別な日に特別が重なるようで、より幸せな気持ちになれます♪」

歌鈴「茄子さんは強いなぁ……」

茄子「無理にわかろうとしなくていいんです。歌鈴ちゃんはいい子ですから、誕生日くらい我が儘言ってもバチは当りませんよ?」

歌鈴「そうでしょうか……うーん……」

P「おーい、まだやってるのか」ガチャ

歌鈴「ひゃあ! プ、プププロデューサーしゃん!」

P「あぁ、すまん突然入って驚かせたか」

茄子「Pさんはお仕事終わりました?」

P「あぁ、こっちはどう?」

茄子「ひと段落してお喋りしてたところです」

P「じゃあそろそろ切り上げて。2人とも腹減ってる?」

歌鈴「あ、そういえば晩御飯食べてないですね」

茄子「なんだか意識したら余計に空いてきますー」

P「俺も空腹だから、一緒に年越しそばでも食べよう」

茄子「わぁ、いいですね♪」

歌鈴「すぐに着替えてきま――ってあわわ!」

P「慌てないでいいからなー」

………
……


P「買い置きのカップそばで悪いな」

歌鈴「いえ、全然気にしませんよ」

茄子「事務所なら落ち着いて食べられますし、私も構いません」

P「そう言ってもらえて助かる。そろそろいいかな……じゃあ、いただきます」

歌鈴・茄子「いただきます」

歌鈴「おだしが美味しいです~」

茄子「夜の事務所でインスタント食品を食べるなんて、なんだかいけないことしてるみたいですね」

P「本来は褒められたものじゃないが、今日くらいはいいだろう」

歌鈴「何だか合宿みたいで楽しいですっ」

P「非日常感あるよなぁ……大晦日自体、子供のころ夜更かしを許された特別な日だったのを思いだすよ」

茄子「特別な日ですか」

歌鈴「そうですねぇ」

P「あ、歌鈴にとっては年末年始は大忙しか」

歌鈴「はい、落ち着いておそば食べられるなんて夢にも思わなかったです」

P「年始もすぐに仕事だから、休めるときには休んでくれよ?」

歌鈴「わ、わかりま……」

茄子「ほら、歌鈴ちゃん頑張って♪」

歌鈴「茄子さん……は、はい!」

P「ん、どうした?」

茄子「ふふっ、何でもありませんよ」

P「そばを食べたら2人とも送っていくよ」

歌鈴「あの、プロデューサーさん!」

P「なんだ歌鈴?」

歌鈴「よ、よかったら、これから一緒に初詣に行きませんか?」

P「初詣?」

歌鈴「休めって言ってもらいましたけど、わ、私はプロデューサーさんと初詣に行けたらいいなって……どうでしょうか?」

P「歌鈴がそこまで言うなんて珍しいなぁ」

茄子「そうですよ、ですから行きましょう、Pさん?」

P「……ふむ、新年早々に祈願するのも悪くないか」

歌鈴「やったぁ! ありがとうございますっ!」

………
……


P「事務所閉めるぞー。歌鈴、忘れ物ないか?」

歌鈴「な、なんで私だけなんですかぁ!」

茄子「ぐるっと確認しましたが、大丈夫そうでした」

P「じゃあ行くとするか」

茄子「はい、行ってらっしゃい♪」

歌鈴「へ、茄子さん?」

P「茄子は来ないのか?」

茄子「行きたいところですが、自室の大掃除が終わってないんですよねー」

P「それくらいいいんじゃないか?」

茄子「今年の汚れ、今年のうちにですよ! あと歌鈴ちゃんにはこれをお願いします」

歌鈴「な、何でしょう? ……これはおみくじ、ですか?」

茄子「今年の年始に引いたものです。私の代わりに神社へ返納していただけますか?」

歌鈴「あ、はい。わかりました! 任せてください!」

茄子「私が1年間持ち歩いていた大吉です。頑張ってくださいね♪」ボソッ

歌鈴「え、ちょっ茄子さん!?」

P「夜遅いがひとりで大丈夫か?」

茄子「すぐにタクシー拾いますんで」

歌鈴「で、でもこの時期は利用する人多くて待つことになるんじゃ……」

茄子「大丈夫です。昔からタクシーに乗ろうと思ったら、すぐに空車が通りかかるので――あ、来ましたね」

P「凄いが妙に納得してしまう」


茄子「それでは、よいお年を」

P「あぁ、来年もよろしく」

歌鈴「茄子さん! あの、ありがとうございました!」

【神社境内】


P「ほぉ、結構にぎわってるなぁ」

歌鈴「そ、そうでしゅね!」

P「さっきから噛み噛みだな、おまけに顔も赤いぞ。まさか熱か?」

歌鈴「違います! 違わないけど違うんです!」

P「ならレッスン疲れ? 辛くなる前に早めに言ってくれな」

歌鈴「は、はい!」

ゴォォン…ゴォォン……


P「除夜の鐘が聞こえるな。もうすぐ新年だ」

歌鈴「プロデューサーさんにとって今年1年はどうでしたか?」

P「ん、そうだなぁ……ファンもメディアの露出も増えてきて、歌鈴の努力の成果が着実に出てきてる年だったな」

歌鈴「もう、それじゃあ私の1年じゃないですか」

P「プロデューサーの1年は、担当アイドルの1年だ。だからこれでいいんだよ」

歌鈴「私とプロデューサーさんが同じ、ですか……えへへ」

歌鈴「あ、周りの人がカウントし始めましたよ!」

P「一緒にカウントするか!」

歌鈴「はい! 4、3、2、1……」




歌鈴「プロデューサーさん、明けましておめで――」


P「誕生日おめでとう歌鈴、今年もよろしくな」



P「ここでプレゼントを渡せれば良かったんだが、こうなるとは思わなくて自宅に置きっぱなしでなぁ……かっこ悪いが次会う時に渡すから」

歌鈴「う、うぅ……ぐすっ」

P「え、歌鈴……そんなにショックだったか」

歌鈴「そうじゃないですっ……私が一番欲しかったもの、もうプロデューサーさんから頂きました!」

P「いや、俺はまだ何もあげちゃいないぞ?」

歌鈴「気にしないでください。さぁ、参拝しましょう!」

P「おう、人だかりだからゆっくり進もう。今のうちにお賽銭の準備しとけ」

歌鈴「はい。落とさないようにコートのポケットに入れておきます……あれ?」

ふと、ポケットに入れた指先に折りたたまれた紙が触れました。
その正体は、神様に負けないくらいにご利益がありそうな、そんなおみくじ。
お守り代わりに……ということでしょうか。だとしたら、効果覿面です。


明けましておめでとうよりも先に、誕生日おめでとう、と。

いつの間にか諦めていた、一番に欲しかった言葉を。一番に欲しい人から貰えましたから。

P「ん、どうかしたか?」

歌鈴「いえ、えっとその……手、つないでもいいですか?」

P「手を?」

歌鈴「人も多いですし、はぐれちゃうといけないので!」


P「ん、これでいいか?」


歌鈴「えへへ、ありがとうございます! プロデューサーさん、今年も歌鈴をよろしくお願いしますっ!」

歌鈴誕生日おめでとう!歌鈴にとって躍進する年と信じて。
ここまで読んでくださった方に、大吉のおみくじを。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom