【モバマスSS】匠の技をお見せします!【藤原肇】 (11)

肇「ここは…どこなのでしょう?」

ある朝目を覚ますと、そこはファンタジーな世界でした。

昨日まで一緒にアイドルをしていたはずの仲間たちは剣や杖を手に取り、冒険へと出かけて行くようです。

肇「…ああ、夢ですね、きっと」

せっかくなので私も魔法が使えないでしょうか。

木の棒を手に取り蘭子ちゃんをイメージして呪文を唱えてみましたが、呪文はむなしくこだましました。

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では次は武器を試してみようとも思いましたが、剣や槍を買うには手持ちのお金では足りません。

とぼとぼと歩いていると、街の一角に見慣れた家が見えました。

中世ヨーロッパのような街並みの中に突如現れた純和風の家、それは私の実家でした。

肇「この取り留めのなさ…まさしく夢ですね」

門から覗き込んでみると、敷地の中には工房や窯もありました。

肇「…では、せっかくですから…」

ファンタジーな世界で最初にやるのが陶芸というのはどうかとも思いましたが、夢の中だからこそ好きな事をしてもいいですよね。

土を手に取った私は無心で器作りに励みました。

肇「やはり土と向き合うのはいいですね…心が洗われます」

我ながら良い出来と言える器を4つほど作り上げたところで、一人で窯の火入れをするのは難しいことに気付きました。

肇「うーん…そうだ、魔法で炎を出せる方を探してみましょう」

工房から出ようとしたその時、器たちが突然輝き始めました。

肇「えっ!?」

あまりの眩しさに思わず目を瞑りましたが、瞼の上からでも分かるほどの明るさです。

何が起こるのかと身を固くしてしまいましたが、爆発など起こることはなく光は数秒で収まったようでした。

肇「いったい何が…」

そろそろと目を開けると、そこには…

「ワーイ」「ハジメマシテー」「ヨロシュウナー」「シマッテイコー」

力作の器たちがゆるキャラのような姿に大変身していました。

喋れるようなので話を聞いてみましたが、この子たちもどうして自我が芽生えたのかは分からないそうです。

試しに別の器を作ってみましたが、動き出す気配はありませんでした。

「ソリャー」「エイヤー」「セヤー」「フルスイングー」

4人とも初めは私がろくろを回す姿を見ていたのですが、退屈だったのか自分たちで小さな槍や剣を作るとチャンバラごっこを始めました。

ちまちまと動く姿はとても愛らしいのですが、割れてしまったりしないか心配です。

「アッ」「デッドボール」

ああっ、湯呑の子が槍で突かれてしまいました!

肇「だ、大丈夫!?」

「ヘイキヤデー」「ナゲテモワレヌー」「ビゼンヤキー」

よかった、動くようになっても備前焼の頑丈さは健在なようです。

毎日のようにチャンバラごっこをしていたためか、4人のレベルはぐんぐん上がっていきました。

最初は剣も槍も振り回していただけでしたが、今では私の目では追い切れないほどの武器捌きです。

私は陶芸をしてばかりでしたから、きっとレベルは1のままなのでしょう。

「ネーハジメチャン」「オデカケシタイー」

肇「ふふっ、そうですね。たまには外に出ましょうか」

「ワーイ」「ハツトウバンー」

おばあちゃんの形見の着物に袖を通し、4人と一緒に出掛けます。

街の外では野生の獣や幸子ちゃんに襲われることもありましたが、予想以上に鍛え上げられた4人の敵ではありませんでした。

はこいりさちこ「ちょっと! ボクの扱いが酷過ぎるんじゃ…」

肇「匠の技をお見せします!」

「ソリャー」「ヨイショー」「ヤッタレー」「ホームラン」

【肇のこうげき! はこいりさちこに200のダメージ!】

幸子「さ、最後までしゃべらせないとは…ガクリ」

辺りを散策していると、ラスボスらしき雰囲気を醸し出す蘭子ちゃんと遭遇してしまいました。

蘭子「ククク、よくぞここまで参った勇者よ…かかってくるがいい!」

肇「先手必勝です!」

「ガッテン」「ショウチー」「イテマエー」「タイムリー」

【肇のこうげき! 魔王を讃えし深き漆黒のヴェール! 蘭子はダメージを無効化した!】

肇「そんな!?」

ここまで4人の先制攻撃で倒せなかった相手はいませんでしたが、蘭子ちゃんは一味違うようです。

【蘭子のこうげき! 肇に24のダメージ!】

肇「くっ…」

見た目より頑丈な着物のおかげで一度は耐えられましたが、二度目はないでしょう。

肇「つ、次で決めないと…お願い、みんな!」

【肇の攻撃! 蘭子に280のダメージ!】

蘭子「あいたっ!? じゃ、じゃなくて…ククク、我を倒すには少々足りなかったようね。これで終わりよっ!」

思わずぎゅっと目を閉じてしまいましたが、予想していた衝撃はやってきませんでした。

【蘭子のこうげき! 器たちが身を挺して肇をかばった! 肇に0のダメージ!】

私の代わりに蘭子ちゃんの攻撃を受けた4人はバラバラに砕けてしまいました。

肇「そ、そんな…」

思わず膝をついてしまった私に小さな声が聞こえてきました。

「アキラメナイデ」「ボクタチノサイゴノチカラ」「ハジメハンニタクシマスエ」「ピッチャーダイイッキュウ、フリカブッテ」

薄っすらと光る大きめの欠片を手に取ると、不思議と力が湧いてくるようです。

肇「え、えーい!」

【肇の特技発動! 蘭子に30の特技ダメージ!】

蘭子「ぐはっ! だ、だが我が覇道は潰えぬ…蘇るわ、何度でも…きっと…」

蘭子ちゃんが倒れると、私の視界も暗転しました。

【いっぱし勇者のトロフィーを獲得しました】

【もやし勇者のトロフィーを獲得しました】

【知る人ぞ知る勇者のトロフィーを獲得しました】

【ソリスト勇者のトロフィーを獲得しました】

【まっすぐ勇者のトロフィーを獲得しました】

目を覚ますと、そこは見慣れた寮の自室でした。

肇「…なんだか変な夢を見た気がする…」

布団の中で夢の内容を思い出そうとしていると、目覚まし時計が鳴り響きました。

いけない、もうこんな時間だ。日課のランニングにいかないと。

肇「…あれ、なんだろうこれ…誰かの忘れ物かな?」

目覚まし時計の横には6の目を出したサイコロが転がっていました。


                    おしまい

以上になります。読んで頂きありがとうございました。

祝☆肇さんダイスDEシンデレラ出演!

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