Warspite~沈黙の足~ (3)

―――或る日、大本営第二小会議室

「━━して、今回海外から最前線に向けて引き入れる艦娘は決まったかね?」

回転椅子に深く腰掛ける上官らしき男。その男に対し、対面に立っていた若き司令官は、ゆっくりとファイルを鞄から取り出し、書類を提出する。

「……ふむ、なるほど。君らしい選択と言うか、苦労性と言うか。本当に彼女で良いのかね?杉浦君」

杉浦、と呼ばれた司令官は決して初対面で好印象を与えないであろう目付きに決意を込めて、「はい」と答えた。その迷いのない返答に上官は苦笑する。

「まあ、君が決める事だ。しかし……この引き入れ艦といい、君の鎮守府には何かと問題児が所属しているな。いや、皮肉を言っているわけじゃないんだ。君の存在は今の世界には不可欠と言っていい。本来解体されるべき問題を抱えた艦娘を最前線に送り出せるレベルまで上げるというのは中々出来ることじゃないさ」
「いえ、オレはオレに出来ることをしてるだけですから。引き入れる艦も、直ぐに一線級にします」
「頼もしいな。君の事は信用している、今回も期待してるぞ」
「恐縮です」

それで互いの要件が済んだのか、しばらく無言で視線を交わした後、杉浦は「失礼します」と告げ、部屋のドアを開け、出て行った。

「クイーンエリザベス級戦艦二番艦、ウォースパイトか。生まれつき足が悪く、艦娘として就役した後も歩行すら困難、か。唯一の救いはその類稀なる射撃の才能……日本なら解体されてもおかしくは無い。確かに、杉浦君以外に適任者は居ないなぁ……」

苦笑する上官の声だけが、部屋に響いた。


━━━数ヶ月後、西方海域合流ポイント

「Sorry,ユウバリ。ここまで迎えに来て頂いて……」
「んー?大丈夫よ。この辺りは随分と平和になったし、近くの基地には横須賀の第三艦隊が常駐してるしね」

横須賀の第三艦隊とは、榛名、霧島、陸奥、長門、蒼龍、龍驤からなる航空打撃艦隊である。インド洋における深海棲艦の反攻作戦に対抗する艦隊として、時折人員が交代しているものの、基本的に常駐している。

「敵地とは言え、ここら辺は安全よねぇ。そう言えば、ウォースパイトさん日本語上手ね?」
「I studied.But,Japaneseは難しいわね……」
「ううん、そんなことないわよ!敬語までバッチリだし!とりあえずあと2回補給ポイント挟んでから鎮守府へ向かうわね」
「OK.問題ないわ」

軽巡洋艦夕張を先頭に、ウォースパイトは鎮守府へ向かう。その艤装は椅子のようであり、水面を滑って進んでいた。その足は、沈黙している。



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━━━数日後、鎮守府近海【入江】

さて、件の杉浦提督の鎮守府は、三日月型に陸地が伸びるその中に在る。背後には緑に覆われた山がそびえ、陸からのアクセスは山の脇を通る道のみ。 防御的でありながら、陸からも孤立しているその鎮守府には、良く言えば個性的な、悪く言うなら問題児と言える艦娘が多く所属している。

「——そろそろ来る頃か」

杉浦が時計を確認して呟くと同時。執務机の端に置いた衛星電話が鳴る。深海凄艦との戦いが始まってからは、地上電波は傍受及び妨害の危険性が高いため、衛星通信が主流になっている。

「夕張か」
「はぁい提督。こっちは味方の制空圏内に入ったわ。もう鎮守府も見えてる」
「おう、お疲れさん。こっちの準備は出来てるぞ」
「……ところで、なんで私を合流部隊に入れたの?ほ、ほら、私って装備積んだら遅くなっちゃうし……」
「んー、荷物持ち?何か積載スロット多そうだし」
「ひっどーい。この件は間宮アイス一杯で片付くと思わないことですね」
「悪い悪い。今度奢ってやる。五月雨あたりでも誘っておけ」
「わぁい提督大好き」
「はいはい。じゃあ、油断はするなよ。潜水艦には注意しとけ」
「はーい」

軽口を交えつつ、会話も短めに電話を切る。これは敵に電波を特定されるのを防ぐ為だ。衛星電話を置き、再び書類に目を通す。内容は、鎮守府バリアフリー化の請求書である。今年も予算は火の車になりそうだ。

「はぁ、ゴーヤ達には悪いが、今年もオリョクル休みなしだな」
「わーブラック提督がここにいるぞぉー」

上を見ると、本日の秘書官が、逆さになっていた。鎮守府の夜戦忍者こと、軽巡洋艦川内である。

「なにやってんの」
「なにって、諜報活動兼、我らが提督の護衛だよー」
「護衛も諜報もいいから仕事してくれ」
「えー」

川内はくるりと身体を回転させ、床に着地する。そして、何を思ったのか、書類を覗き込んできた。

「興味あるか?」
「もっちろん。これから仲間になる艦娘が気にならない訳ないじゃん。……うーん、相変わらず変な子ばっかり受け入れるよね、此処」
「お前もその変な子の一員なんだがな」
「ひひっ。んじゃ、興味も満たしたことですし、夜戦演習まで私は寝るよ。夜になったら起こしてねぇ……」
「あ、おい!仕事……まあ、いいか」

杉浦は再び書類に目を戻す。どうせ川内では正午辺りに寝落ちコースだろう。むしろこの時間に寝ていなかったことが奇跡である。この数日後から潜水艦組のストライキが激化して彼が頭を抱える羽目になったのはまた別の話。

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