【ミリマス】スモーク・オン・ザ・シアター (20)

 「Blue Symphonyはヤク中の歌だってー。知ってました?」

 翼の発言はいつでもぶっとんでいる。
 昼間のファミレスでする話題じゃない。

 「なにそれ、誰が言ってたん?」

 恵美が翼に問い質す。

 「プロデューサーさん」
 「何いってんのあの人」

 琴葉が苦笑する。
 志保は眠たそうに欠伸をこらえている。
 未来は言葉の意味がわかっていなかった。

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 「あるところに女がいました。女はどうしようもないメンヘラで、なにかに依存せずにはいられませんでした」
 「それで?」

 静香が興味深そうにしている。
 未来は恵美にもたれ掛かって眠り始めた。

 「そいつがあるプッシャーに出会います。初めてのヤク、初めてのトリップ。女の生活は一変しました」
 「“あなたから貰った全部を可能性にしよう”」

 恵美が口ずさむ。
 琴葉が追いかける。

 「“高く高く 祈る鼓動 羽ばたいて!わたし達の歌”」

 翼は語る。

 「女にとって天にも上がる様に幸せな毎日。頭も冴えて、眠らなくても良くなる」

 「“クリアな心で 共鳴しあう世界”」

 志保が混ざる。
 琴葉と恵美は顔を見合わせて笑った。

 「「「“どこまでも続く 五線譜の軌跡”」」」

 最後は3人で。千早が聞いたら混ざれないことにさぞ悔しがっただろう。

 「そいで翼。今のは最高に楽しかったけど。本題はいつ入るわけ?」
 「あー」

 翼が頬をかく。実はと言うと、彼女自身も迷っていた。
 代わりに発言したのは事情を知っている静香だ。

 「すみません。まだ野々原さんが来ていなくて。あの人がいないと始められないんです」
 「なるほど。静香ちゃんも大変ね」

 バタフライナイフをペン回しの要領でクルクルさせながら、琴葉が呟く。

 瞬間。
 銃声と共に、闖入者が現れた。

 「Don't move! Hand Up!」
 「全員大人しくしろ! じゃないとこの子の命はないよ!」

 歩とのり子。このへんでは有名なゴロツキだ。
 他にも名は知らないが明らかにお天道様の前を歩けないような顔つきの輩がうじゃうじゃ湧いている。
 
 瑞希の酒場「レイズ・ザ・フラッグ」ならともかく、ここは普通のファミリーレストラン。
 よっぽどケツに火がついたか。それとも状態のいいヤクを吸いすぎたか。
 アウトローにはアウトローの流儀がある。
 カタギの店を狙った時点でそれは三下だ。

 何よりも今。
 この店には、『彼女達』がいる。
 かのプロデューサーが育て上げた稀代の『アイドル』。

 「うわ。最悪」
 「何が」

 恵美が尋ねる。志保が面倒くさそうに翼の方を向く。

 「あいつらの人質になってるの。あれが、可奈ちゃん」
 「「「「えーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!???????」」」」

 「Shut Up!!」

 彼女達の声に歩が「黙れ!!」と叫ぶ。
 その刹那。

 「黙るのはあなたの方でしょ」

 一閃。
 琴葉の手から離れたバタフライナイフが、歩の喉元を貫いていた。

 こういう時に素早いのが恵美だ。
 恵美がホルスターに手を伸ばしたのと、のり子の額に穴が空いたのは、全く同時だった。
 神速の早打ち、ここにあり。

 「ちょうどいいよ。額でタバコ吸うコツ教えてあげる……ってもう死んでたね。ごめんごめん」

 恵美の軽口に激情したゴロツキ達が一斉に銃を向ける。次に動いたのは彼女達だった。

 「ねえ未来。フランスのマクドナルドでチーズバーガーってなんていうか知ってる?」
 「知らない。なんていうの? ティージュベーゲーとか?」
 「それっぽく言ってるだけでしょ。正解はね。“チーズ・ロワイヤル”よ」
 「“チーズ・ロワイヤル”?」

 言葉と同時。未来はソファーを跳躍。
 壁を蹴って天井へ駆け上り。
 落下の勢いに任せて抜刀し、そのままゴロツキを脳天から真っ二つに切り裂いた。

 「曽我の助六が遊びにきましたよ。髭の意休はどちらにおいでで?」

 龍と見紛う閃く刃。
 春日未来、免許皆伝。
 飛天の剣に曇りは無し。

 「未来1人じゃ荷が重いわね」

 カーディガンを脱ぎ捨てた志保が、ゴロツキの中に飛び込んだ。

 その姿、その佇まい。両手に持ったワルサー。
 彼らには志保の姿が、赤いドレスを纏った死神に見えたことだろう。

 乱射乱射乱射。
 四方から取り囲みんでいるにも関わらず、志保にも未来にも一切当たらない。

 「なんだ!? どうなってやがんだ!?」

 男が驚くのも無理はない。
 未来が銃弾を見てから避けているのに対して、志保は銃弾の方が志保を避けていた。

 志保に弾は当たらず、志保の弾は当たらない。
 美しき死神の円舞曲(ワルツ)は、彼らを休息に導くだろう。

 「悪魔、悪魔共め……」

 今にも息絶えんとする男が言葉を漏らす。
 そして、それを聞き逃す彼女達ではない。

 「どうする? 翼。私達悪魔ですって」
 「えー本当にー? わたし傷ついちゃったなー」
 「あらあら。それなら」
 「うんそうだね」

 机下の大型ケースを足で蹴りあげる。
 そこから現れたものを2丁掴んで片方は翼へ。

 「「さあ、天使を呼んであげましょう!」」

 BAR(ブロウニングオートマチックライフル)。
 またの名をM1918。
 2丁の分隊支援火器が、この地を等しく戦場に変える。

 泣き叫べ劣等。今宵、ここに神はいない。

 「もしもしエレナ。あとどれくらい? あと120秒!? わかんないよそんなの日本語で言って日本語で……2分後にいつもの席ね! オッケーわかった!」

 電話を切り、窓に向けSAAを乱射。
 逃走経路を作り出し、仲間達に合図をだす。

 「撤収撤収! みんな帰るよ!」
 「ほらほら早く! 急いで急いで!」

 恵美と琴葉の扇動で皆が窓辺に集まる。
 そこを逃す男達ではなかった。
 詰め寄られ一触即発。
 形勢逆転とも言える状況だ。

 「わかった、わかったよ。アタシが残るから。アタシも溜まっててさー。さっきからムラムラして仕方なかったんだよね。早くアンタ達の×××アタシの×××にぶち込んでよ」

 囁くような甘い声色に男達は唾を飲む。
 艶かしい視線を男達に送りながら、セーターの裾に手をかけ腹までめくり上げ……

 その中から転がってきた無数のM67グレネードを、男達に投げつけた。

 爆風の衝撃に乗って華麗な宙返りを決める恵美。
 通常ならそこで地面に激突してトマトになるのがオチだが彼女は違う。

 「メグミー! お待たせー!」

 恵美が飛びだしたファミレスの窓、その真下に大型トラックに乗ったエレナが待機していた。

 「恵美さーん、お疲れ様でしたー!」
 「おー、未来〜。お疲れ〜」

 静香と志保が苦笑する。
 翼は呑気に笑っていた。

 「お疲れさま恵美……これで疲れが取れるかはわからないけれど。いいものを見せてあげる」
 「いいもの? それってさ。灼熱少女より熱い?」
 「もちろん」

 掌のコントローラーのボタンをワンプッシュ。
 瞬間。先程までいたファミリーレストランの方角から、爆音が轟いた。

 「……ヒュー、流石琴葉」

 「そういえば」

 ふと気づいたように静香が手を上げる。

 「どした?」

 恵美が問う。

 「あの、野々原さんは?」
 「………………あ」


 彼女達は『アイドル』
 鉄風雷火を舞台とする、戦場に舞う百万の星。

終わりです
好きなものを好きなだけ詰め込みました
イメージの元になった曲があるので紹介させてください

Dick Dale - Miserlou
https://m.youtube.com/watch?v=JjaUdqAu1vs

Tomayasu Hotei - Battle Without Honor or Humanity
https://m.youtube.com/watch?v=Jd1Jg_L6MNY

MELL - Red Fraction
https://m.youtube.com/watch?v=IOmNWL5nzE4

R.O.D -OVA- Theme
https://m.youtube.com/watch?v=FiyU3EJmhxI

Coyote Ragtime Show - Baroque Batlle
https://m.youtube.com/watch?v=_Eilfm6TThI

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