【デレマス近代劇】渋谷凛「Cad Keener Moon 」 (50)

「クロスハート」後半読後がおすすめ。
 ところで日露戦争っていつごろだっけ?

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第2作 【モバマス時代劇】木村夏樹「美城剣法帖」_
第3作【モバマス時代劇】一ノ瀬志希「及川藩御家騒動」 
第4作【モバマス時代劇】桐生つかさ「杉のれん」
第5作【モバマス時代劇】ヘレン「エヴァーポップ ネヴァーダイ」
第6作【モバマス時代劇】向井拓海「美城忍法帖」
第7作【モバマス時代劇】依田芳乃「クロスハート」

読み切り 

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【デレマス近代劇】渋谷凛「Cad Keener Moon 」


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 大日本帝国は、露戦において戦術的な勝利をおさめた。

 しかし真に大衆が望んでいたのは、不敗の大和神話の幕開けではなく、

 困窮した生活を潤す賠償金であった。

 北方の島がいくらか手に入ったところで、なんだと言うのか。

 連日のデモ、打ち壊し、

 華族や富裕層を狙った強盗、焼き討ち、

 民衆の怒りはとどまるところを知らぬように見えた。

だが、彼らの心に、

「この国は変わらない。

自分達は搾取の構造から抜け出すことはできない」

という一種の諦観がなかったとは言い切れない。

いくらデモを行っても、状況は一向に改善しない。

憲兵達の目は、ぞっとするほど冷ややかだった。

 それでも一縷の希望にすがって、運動は継続された。

 いつかきっと、いつかきっと。

 その“いつか”は、誰にも分からなかった。

今年30になる海軍将校は、生娘のように恥じらった。
 
見合いの席だったのだが、婦女相手に相応しくない話をしてしまった。

「軍艦のお話、とても興味深かったです」

そう言って微笑むのは、神谷奈緒という少女。

燻んだような栗色の髪。くっきりとした眉。

夕暮れのように、静かな情熱を秘めた瞳。

一般的には、小生意気という印象を与える容貌。

だが、将校は彼女を一目で気に入った。

仕事上留守にすることが多く、なよっと儚い女では、

家を回していけないと思うからだ。

「いや、申し訳ない。

 女性のお方にはつまならい話を…」

その言葉を聞いて、奈緒の眉がぴくりと動いた。

「あたしを普通の女と一緒にしないで欲しい」

 先ほどと、口調ががらりと変わった。

“化けの皮が剥がれた”、将校はそんな印象を受けた。

生意気で、無礼な口の聞き方。 

しかしそれが彼にとっては、

かえって打ち解けているように感じられた。

「だから軍艦のお話、もっと聞かせて?」

夕暮れが、とろん、と揺らめいた。

将校は彼女に勧められるまま、話を続けた。

留置所の看守は眉をひそめた。

先日逮捕された女が、牢の中で騒いでいる。

「キャハ〜っ!
 
 加蓮ちゃん最ッ高!!」

長い髪をぶんぶん振り回して笑い転げている。

同じ牢の女がなにか面白い冗談を言ったらしい。

「大槻っ!

 静かにしろ!!」

 「あぅ…スイマセーン…」

 看守が怒鳴ると、彼女はしおらしくなった。

 その仕草に嗜虐心か、ある種の意外性が

 喚起されたのか、彼の胸は高鳴った。

 大槻唯。

 埼玉から東京のデモに合流し、商家の打ち壊しを行った。

 素性を調べると、女学校を中退して、

 ほぼ家出状態だという。

 彼女にとっては、日露戦争の実質的な敗北など

 どうでもよく、ただの気晴らしなのかもしれない。

 看守は唯を見つめながら、自身の太ももをさすった。

 ひゅうひゅうひゅうと、激しい風が、

 橘ありすの髪をさらった。

 彼女はいま、炭水車の上部にいた。

 なぜ自分がこんな場所にいるのか、

 自分でも分かりかねていた。

 数年前まで、自分は巴里にいて、

 学友達にからかわれながらも、

 そこそこ楽しく毎日を過ごしていたはず。

 それなのになぜ。


 考えても疑問は尽きない。

 結局速水奏という女がどうなったのかも分からないし、

 隣室の安部菜々が、政府直属のスパイだったことに対しても。

 京の老舗塩見屋に、娘などいなかったことも。

 世界は、ありすにとって分からないことだらけ。

 もしかすると、橘ありすの人生は、誰かしらの作為によって、

 生まれた時から操作されているのではないか。

 真実などどこにもなく、 

 自分は、自分が知らぬうちに喜劇の役者として、

 物語の中で生きているのでは。

 そんな真っ暗な不安が、頭のなかをぐるぐるした。

 しかしありすの身体は思考に関係なく動いた。

 炭水車の外壁に4、5箇所適当な穴を開ける。

 水がしゅるしゅると、風に流れて散っていった。

 日本人の若き外交官は赤面した。

 目の前の、露西亞語の通訳の女。

 新雪を思わせるような、爽やかな銀髪。

 とろりと滑めらかに白い肌。

 高すぎず、ちょうどいい形の鼻。

 そして星空のように、深みのある碧眼。

 名前はアナスタシア。

 半分露西亞の血が入っているらしいが、

 そんなことは頭から吹き飛んでしまうくらい、

 彼女は美しかった。

 内閣は外務に、露西亞との交渉を試みるよう指示している。

 あくまで、“試みる”ように。

 はじめから何かが引き出せるとは、誰も思っていない。

 ただ、努力はしたというポーズを

 国民に見せることが重要なのだ。

 若い外交官は、根室に新設された、

 対露専用の来賓館に派遣された。

 実質これは、左遷に近かった。

 成果を期待されない仕事に従事するのは、

 同じく期待されない人間のみ。

 彼は自身の身を嘆いていた。

 しかし、アナスタシアを見ていると、

 別にいいかという気がしてくる。

 公職という立場で、見目麗しい女性と

 忌憚ない言葉を交わせるなら、

 肌寒い境遇も少しは温められる。

 いやむしろ、なにもせずとも給料が払われるだけ、

 自分が随分な身分になったような気さえした。

「どうか、しましたか?」

 黙っている青年を見て、アナスタシアが首をかしげた

 その仕草が愛らしくて、彼は心中で、

 露西亞万歳を三唱した。

ある意味、幸福な男であった。

記者の渋谷凛は、目の前の女を吟味した。

流れるような蒼の短髪。

サングラスをかけていて、目線は分からない。

季節は冬だが、肌はすべすべとしている。

唇がやけに艶かしく、同性の凛でも妙な気持ちになる。

「さて、どんな話を聞きたいのかしら」

彼女は、情報屋を名乗った。本名は教えてくれない。

「そうだね…とりあえず、

 軍部について…」

内容ゆえ、声量は下げた。

料亭の個室とはいえ、安心はできない。

隣に聞かれるのも不都合で、

一見おすまし顔の女中なども、“口が滑りすぎる”。

「…ざっくりね」

女は苦笑した。


軍部は対露戦の勝利に酔い、

新たな戦争の準備を始めているという噂があった。

さらに国民には秘密にスパイの

養成機関を作ったという情報も凛は掴んでいた。


「…英吉利から最新の軍艦を買い付けるらしいわ。

 それも三隻」

凛は言葉を失った。

今の日本のどこから、そんな金が出てくるのか。

「…軍部は、国会に圧力をかけてる…」

軍事予算の拡大、つまるところ大増税。

公表されれば国民は激怒を通り越して、卒倒するやも。

「…証拠は?」

凛は尋ねた。口先の言葉だけで、記事は書くことはできない。

巷には根拠のない風説を垂れ流す新聞社があふれているが、

凛のプライドはそれを許さない。

異端ともいえる女の記者であったが、

彼女の職業精神はきわめて高潔である。

「証拠ね…ふふっ、少しは自分で努力をしたら?」

お前自身で探せ、というつもりらしい。

「その件は…まず保留で…

 次は…デモの動向について」

凛は尋ねた。

小規模ではあるが、

打ち壊し、焼き討ちは確実に増えている。

警官隊、憲兵との衝突もあり逮捕者、

および死傷者の数も増大している。

いまだ運動は決め手に欠けるところがあるが、

記者としては見過ごせない。

「…デモはもうすぐ終わるわ。

 貴女が調べる必要はまったくない。」

凛はむっと、声を漏らした。

お前がやる必要はない。彼女が一番嫌いな言葉である。

それと、凛の私感から言って、デモはまだ終わらない。

まだまだ、本番前の余興といってもよいくらいだ。

「…ずいぶんな決め付けだね…証拠は…自分で探せ?」

凛が尋ねると、情報屋はにっこりと笑った。

そして、それじゃあ、と

別れの投げキッスをして部屋から退出した。

不覚にも、凛の胸は高鳴った。

鷺沢文香は、数年前に欧州で出版された、

天文学の論文を読んでいた。

コーヒーが空になって、すでに数時間が経過しているが、

喫茶店の店主は咎めない。

文香は馴染みの客である。

「お腹すいた〜ん♪」

喫茶店のドアが、少々乱雑に開かれた。

入ってきた女は、空いているのに文香の横に

どっかりと腰をかけた。

「ん、何読んでんの?」

彼女は、文香の読んでいた本をばしりと取り上げ、

ぱらぱらめくった。

「つっまんない本」

そして、乱雑に文香の前に放った。

「そんな本ばっかり読んでるから、表情も暗いし、

 雰囲気も暗いんだよ。

 もう、ちょっと新しくて過激なことでも始めたら?」

 打ち壊しとか、そう言って、女はけらけら笑った。

 文香は眉をひそめた。

「…言葉を…つつしんで……ください…」

 喫茶店の店主が、おや、という顔をした。

 文香が怒るのは珍しい。

 まあ、あれだけ失礼な態度をとられれば、

 無理もないが…。

「“つつしみ”……?

 帰ったら辞書で調べとくよ!」

 そう言って、また女はけらけら笑った。

陸軍の大将は、執務室で傲岸な息を吐いた。

20年ほど前、海軍および政府と共同で、諜報機関を作った。

スパイなどという卑劣で陰湿な行為は、軍人としての矜持に

反していたが、女がやるということで溜飲を下げた。

その諜報機関が、巴里で目覚ましい成果を上げた。

欧州列強のアジア戦略に関する機密文書を、

そっくり写して持ち帰ったのだ。

大活躍といっていい。

そのおかげで、戦略的にも少なからぬ利を得た。

だが最近の諜報機関は、

どうも軍の意向から離れていっている。

政府と協同で、軍部の政治的な

台頭を抑えようとしているのではないか。

単なるやっかみなのかもしれないが、

機関の存在を知る者は、次第に懐疑的になりつつある。

たとえば、文書を国内でも暗号で

やりとりしている、という点が不審だった。

なぜ同郷の者に対してまで情報を隠そうとするのか。

自国にスパイが入り込んでいることを、

欠片も考慮できない人間達には、

それが重大な裏切りのように感じられる。

陸軍大将は部下に命じて、暗号の解析を命じた。

女性を蔑視している彼にとって、これ以上機関が

隠れて成果を上げるのは、許し難いことであった。

渋谷凛は、あてもなく町をさまよっていた。

デモ隊のビラは、そこかしこに溢れかえっている。

運動が鎮まるような気配はない。

文学を専攻していた大人しい学生なども、

『革命』と題した詩集を

自費で出版するなどしている。

これが民衆の間では流行っているらしい。

気取った羅甸語などの詩を、読

めもしないのに囃し立てている。

馬鹿馬鹿しい。

凛は詩集を手に取った。

ぱらぱらと適当にめくる。

するとほどなく、

アルファベットの文字列が見つかった。

凛は伊太利亜語に多少の覚えがあったので、

内容の咀嚼を試みた。

しかし、文章はまったく意味の通らないものだった。

読者どころか、書いている者も読めないのでは。

凛は苦笑した。

ナンセンスな文章を書き散らす

文豪気取りは山ほどいるが。

これもその類いか。

やはり馬鹿馬鹿しいと思いながらも、ページをめくる。

だが次第に、ページをめくる手がゆっくりになった。

詩集は流行している。

一般大衆の間で読まれている。

もちろん、デモに参加する人間も目にするだろう。

この一見不可解な文章は、もしかしたら…。

凛の、記者としての勘が疼いた。

看守は、大槻唯の叫びを聞いた。

同じ牢にいる北条加蓮が、

胸の痛みを訴え倒れたという。

駆けつけると、加蓮は蒼白して

ひゅう、ひゅうと、不規則な息を吐いていた。

「このままじゃ加蓮が死んじゃうよ!!」

医者を呼んでほしい、と唯はすがりついて

看守に懇願した。

ここで、彼の嗜虐心が疼いた。


「俺はその女が死のうと困らないな。

 どうせ外に出たら、またデモに参加して、

 世間様の迷惑になるんだ」

冷たい声で、そう言い放った。

唯は涙を浮かべてズボンを引っ張った。

彼女は荒い息を吐いて、服が乱れていた。

「助けて欲しいなら……どうする?」

下卑な顔をして、看守は尋ねた。

唯は、はっとした表情になった。

「分からない…」

「分かってるくせに」

看守は、唯のあごに手を添えた。

そしてもう片方の手では、ベルトを外した。

「やめて…」

唯が、ふるふると顔を横に振った。

そこで火がついた。

「いい加減にしろよクソ野郎」

 看守の身体は炎に包まれていた。

 北条加蓮が、石油ランプを彼にぶつけたのだった。


デモ参加者2名が留置所から脱走。

当直の看守1人が重度の火傷。

この知らせは醜聞として世間に流れた。

他に囚われていた人間が釈放された後、

外で看守の不埒な行為を証言したのだ。
 
警察と憲兵らは握りつぶそうとしたが、

ある出版者に切れ者の記者がいて、すっぱ抜かれてしまった。

 さらにその記者は、恐れを知らぬのか、
 
 白昼堂々と警察署を訪ねてきた。

 だが、署内の皆が彼女の言葉に耳を傾けた。

 近日中に、大規模なデモ活動が

 神戸で展開されるという。

 それは『革命』という詩集の中に

 暗号として記されていて、

 過去の号の解読と、デモの発生を照らし合わせれば

 確かな情報だった。

 これに応じて警官や憲兵だけでなく、

 陸軍からも大量の人間が

 次の活動地とされる神戸に配置された。

 対露戦の後も、東北に駐留していた兵士らもかき集められ、

 歴史上例を見ない大弾圧が始まろうとしていた。
 


 陸軍大将は机を叩いた。

 怒りではない。喜びゆえに。

 渋谷という記者が解読した暗号は、

 機関で用いられていたものと一致した。

 これまで不透明だった作戦の数々が、

 陸軍にとっても明らかとなった。

 さらに、機関はデモ運動を操作し、

 軍部を意図的に疲弊させようとしている、

 という事実も分かった。

 これから、目にもの見せてくれる。

 陸軍大将は鼻息を荒くした。

 彼は、渋谷凛が女性であることを知らなかった。

 最新式の軍艦は、まず大湊に入港する計画になっていた。

 都市部に近い横須賀などに置けば、国民が騒ぐ。

 既成事実として世論に受け入れさせるためには、

 周到な準備が必要なのだ。

 今はまだ、時期が悪い。

 軍艦を受け入れるにあたっての細かな

 日程の調整はすでに済んでいる。

 それが記された書類は、大湊から東京まで

 現在郵送中である。

「うーん、まずい…」

 貨物列車の機関士は低く唸った。

 出発する前にはなかったはずの穴が、

 炭水車に空いている。

 このままでは運行に支障が出る。

 軍事に関わる書類なども運んでいるから、

 迅速な対処が必要だ。

幸い、車両基地がすぐ近くにあった。

機関士は、同乗していた兵士に説明をして、

停車の許可を得た。

やれやれ、これで一件落着。

彼がそう思ったのもつかの間。

車両基地には、デモ隊がひしめき合っていた。

まさか、貨物を狙っているのか。

冷や汗を流した兵士の1人が、車外へ引きずり出された。

さらに、銃を構えようとした別の兵士は、首を斬り落とされた。

「フンフンフフーンフンフフー♪」

その女は、陽気な鼻歌まじりで死体に近づき、

流れ出る血を、傷口からちゅるちゅる吸った。

「うーん、不っ味い♪」

その様子を見た機関士は、意識を失った。

陸軍大将は机を叩いた。

今度は激怒と不安ゆえに。

神戸で起こった大規模デモの鎮圧には成功した。

だが、東北から東京に向かっていた貨物列車が襲われた。

それには、軍事機密の記された書類が荷物として積まれている。

かなり深刻な状況だ。

機密を守れないというレッテルを

貼られるのもまずいが、

なにより内容が明かされるのがまずい。

デモはさらに激化する。


国民を弾圧したという汚名は着慣れたが、

件の看守のせいで、“武力”そのものに対するイメージが

すこぶる悪くなっている。

そして今度は、くそったれ海軍の道連れで、陸軍までも。

政府は議員を少し入れ替えるだけで、

国民の信用を得られるのが恨めしい。

そうだ、機関のせいにしてしまえばいい。

もとはと言えば、奴らがはじめに企んだこと。

陸軍大将ははじめそう考えたが、実行には移せなかった。

自分たちは独断で機関の暗号を解読したのだ。

それを根拠に騒げば、どのみち陸軍の信用は失墜する。

どうすればいい…どうすれば…。

陸軍大将の胃は、ビーフシチューの

ようにとろけそうになった。
 

若い外交官は、極北の地での生活を満喫していた。

先週などは、近所の子どもたちと

かまくらを作ったり、雪合戦をしたりした。

アナスタシアも一緒だった。

仕事はないので、日誌にそのまま事実を書いた。

下手くそな絵も添えておいた。

また昨日は、アナスタシアと天体観測をした。

彼女は天文学に造詣が深く、無知な彼に対しても、

わかりやすく教えてくれた。

ずっとここにいたいなぁ。

彼はそう思いながら、日誌にアナスタシアの絵を描いた。

彼女のことは毎日描いていたので、

風景に比べて、グロテスクなほど際立っていた。



お絵かきが終わって、お昼寝タイムの男に、

アナスタシアはくすりと笑って、毛布をかけた。

そして、執務室の椅子に腰掛けて、本を読み始めた。

それは、『星の見る夢』と題されていた。

 陸軍大将の下に、塩見周子という女が現れた。

 彼女は紛失したはずの軍事機密書類を持っていた。

「ご機嫌いかが?」

 周子は尋ねた。

 まんまと出し抜かれ、生命線を握られている気分はどうだ。

 陸軍大将にはそう聞こえた。

「貴様…」

「ああちなみに、これコピーして

 露西亞に送付する手筈もついてるから。

 最高のカードになるしね。

 “政府にとっては”、だけど」
 
 彼の言葉を、周子がさえぎった。

 無礼で、生意気で、鼻持ちならない。

 女の分際で。

 陸軍大将にとっては、我慢の限界だった。

「お前達のやることなど、はじめから知っていたんだ!!」

 暗号は解読した、

 これからやろうとしている事も分かっている。

 彼はそう叫んだ。

 しかし周子はけらけら笑うだけだった。

「暗号を解読したって、相手に教えてどうすんの?

 まあ、もう手遅れなんだけど」

 彼女はある文章を口ずさんだ。

 その意味が、陸軍大将には全く分からなかった。

「それでは“つつしんで”、失礼致しま〜す♪」

 閉じたドアに、彼は階級章を投げつけた。

おしまい

フレちゃんが血を飲む理由、分かるかな……

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