【ミリマス】まつり「夢の中で過ごす最高の一日」 (48)

「プロデューサーさん起きてほしいのです」

昨日も書類仕事が溜まってて遅くまで起きていたんだ。

この感覚だとまだ寝てても大丈夫なはず。幸い目覚ましもまだなっていないようだし。

「プロデューサーさん,起きて……ね?」

発せられた声に並々ならぬ雰囲気を感じた俺は重たいまぶたを開ける。

目をあけるとまつりが俺をのぞきこんでいて,その近さに思わずドキッとしてしまった。

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徳川まつり。

俺が担当しているアイドルである。

ふわふわしているようで,実は底が見えない一面もあるお姫さまアイドルだ。

P「えっと,おはようまつり。いろいろ聞きたいことがあるんだが,とりあえずここはどこだ?」

まつり「まつりも今起きたところなのです。気付いたらここにいて……」

P「ふむ」

辺り一面を見渡してみる。

どこからみてもここは野外だ。

知らない土地で目覚めるほど昨日は泥酔していたかと思い,記憶を順々に引きずり出してみるものの昨日は酒は飲んでないし,そもそも自宅のベッドで寝たはずだ。

そしてまず目につくのは目の前にそびえたつ大きなお屋敷

屋敷といっても西洋風なものではない。

日本家屋らしい平屋建てが視界の限り永遠と続いている。

そしてただっ広い土地。足元は土であり舗装はされていない。

ここはお屋敷の庭かとなんとなく思った。また,どこからか水音が聞こえてくるので池があることには違いない。

日本家屋,造形についてはよくわからないが,なんとなく風流とかを狙った感じがしないのは俺好みだといえた。

それだけに向こうに植えてある赤い花が不自然に目立つが……

自分なりに状況を分析していると,人(ここの住人だろうか?)が近づいてきた。

「貴様らこんなところで何をしておる」

P「えっと,私765プロのプロデューサーをやっております。Pと申します」

「765?プロデューサー?初めてきく言葉だが……」

その人物は首をかしげる。

自分らの知名度もそんなものか……と一瞬落ち込んだが,よく見ると彼も変わった格好をしている。
(ちなみに俺はいつものスーツであり,まつりもまたいつもの私服である)

P「えっと,変わった格好してますよね……。黒くて長い鳥帽子にしゃもじ?持っててしかも着物って,貴族のコスプレか何かでしょうか」

「由緒正しき恰好をバカにするでない!そもそもお主らは何者なのだ,姫の屋敷の庭に無断で入りおって……ってそこにいらっしゃるのは姫……!」

まつりが俺の背中からひょっこり顔を出す。

まつり「ほ?」

「いやいや,姫は部屋でお休みになっているはずである。……ということはお主らは偽物か!」

どう返答すればよいか困惑しているとまつりが思いがけないことを言い始めた

まつり「実はまつりは姫の姉妹なのです!そしてこちらのものは家来の者です。姫を驚かせようとこっそり会いに来たのです」

「ほう……ご兄弟ですか……言われてみれば,姿かたちがよく似ておる。失礼しました。では姫の元へご案内いたしましょう」

P(おい,まつり良いのか)

まつり(よく見て,プロデューサーさん。彼,腰に刀をつけているのです。ここは話を合わせて様子をみるのです)

石造りの三和土で靴を脱ぎ,彼に先導されて板張りの長い廊下を歩いていく。

やがて彼がある障子の扉の前で止まると,目で合図をしてきた。

さしずめこの部屋に姫さまとやらがいるのだろう。

この部屋にくるまで逃げ出せる機会をうかがっていたが,屋敷には彼と同じような恰好をした人が何人もいてどうしてもその機会を得ることができなかった。

そもそも靴を脱いだ状況で知らない土地を走りまわるわけにもいかないだろうし。

俺は結局扉を開けた

P「失礼しまーす」

ガッと後ろから肩を掴まれる。

「無礼者!姫の部屋に入るときには『はいほー!』と元気に挨拶するに決まっておろう」

えぇ……やだなぁ……

まつり「はいほー!」

まつりはノリノリだ。くそう……もうやけだ

P「はいほー!」

「よし,それでいい」



「姫さま,庭に姫さまのご兄弟と名乗る者がいらっしゃったのですが,心当たりはございますか?」

「ほ?姫に兄弟ですか……?」

姫さまの姿は直接確認はできない。白いカーテン越しに会話をしているからだ。

さて姫はどうでるのだろうか……

「姫の兄弟を名乗るほど,姿はよく似ているのです?」

「はい,おっしゃるとおりで」

「……よいでしょう。その兄弟と会うのです。ただ家族水入らずでお話したいのであなたには下がっていただきたいのです」

「はい,仰せのままに」

そういうと彼は下がっていった。

部屋には姫とまつりと俺で3人だけになった

「では,こちらにくるのです」

俺たちはカーテンをくぐった。

P「ほっ!?」

思わず目を見張った。

姫の姿はまつりと瓜二つだったからだ。

思わずまつりと姫を何度も見比べてしまう。

多分,同じ格好をさせて,さて彼女はどっちでしょう? なんて聞かれると即答するのは無理だと思う。

恰好といえば姫は姫らしく十二単をきている。

上から桜,緋,蘇芳,橘、菜の花,瑠璃,桔梗、藤,その他もろもろで色はどちらかというと派手だが,どこか落ち着いていて……とにかく似合っていると思った。

手には扇,頭にはちょっとした冠が乗っていて,これもまたかわいらしい。

思わず美しい……と声をもらしてしまった。

まつり姫「姫はまつりといいます。気軽にまつり姫って呼んでもらって大丈夫なのです」

まつり「自己紹介はいいとして……まつりたちに話を合わせてもらったのは何か意図があるのです…ね?」

まつりちょっと機嫌悪い?

まつり姫「ほ? よくわかったのですね,実は姫にそっくりなあなたに折り入って頼みがあるのです。それは……」

このパターン漫画やアニメで見たことあるぞ……

まつり姫「1日だけ姫と入れ替わってほしいのです!」



俺とまつりは姫の願いを受け入れることにした。

というより「お断りになった場合はどうなるか分かります……ね?」なんて半ば脅されたといっても差支えはない。

まつりと姫は衣装を交換することになったので一旦部屋からでる。

少しして彼女たちの声に呼ばれたので部屋に入ると,二人が衣装を入れ替え終わっていた。

うーむ。パッ見ただけではどっちがどっちだか分からない。

P「まつり」

まつり「どうしたのです?」

P「綺麗だ。よく似合ってる」

まつり「ほ?姫に十二単が似合うのは当然なのですよ」

なんて言ったが,心なしかウキウキしてるまつりを見てどうしても笑みが抑えられない。

まつり姫「では姫はお忍びで出かけてくるのです。着替えている間に分かったのですが,姫とまつりちゃんは見た目だけでなく,中身もそっくりなのです。ですからまつりちゃんらしく1日を過ごしてくれればバレっこないのです」

まつり「はいなのです」

俺がいない時間に仲良くなったのか。なんかほほえましい。

まつり姫「この後,屋敷の皆が集まる朝礼があるのでバッチリお願いするのです。では,いってくるのです」



「「「「はいほー!!!」」」」

屋敷の男たちがはいほー!なんて言いながら,部屋に入ってくる。

なんというか……圧巻だ。

「姫!今日の仕事はなんでしょうか!」

まつり「今日はみんなで一緒に遊ぶです!わんだほー!なパーティにするのですよ」

「姫と一緒にお遊戯を?……やったー!」

P(いいのか?まつり,この人らと過ごす時間も増えればバレるリスクも高まるが)

まつり(たしかにそうなのです……が,一番恐れるべきなのはまつり姫がどこかで目撃されることなのです。入れ替わりがバレてしまったら,身の安全は保障されないのです。ここは彼らを目の届く範囲にしばっておく方が賢明なのです)

P(なるほどな)

「ところで姫さま,姫さまの隣にいらっしゃるお方は?」

まつり「姫の一番の家来なのです!」

一番の家来って……喜んでいいのか?

「お前……光栄に思えよ」

余計なお世話だ。



「では姫!まずは歌合せをやりましょう」

まつり「OKです。かかってこい,なのです」

P(まつり,歌合せってのはなんだ?)

まつり(短歌を即興でつくって,どの歌が優れているか競う合うバトルのようなものなのです)

P(ほう……まつりは歌の知識はあるのか?)

まつり(おまかせあれ,なのです)

順々に屋敷の人たちが歌を詠んでいく,よく分からないが皆5,7,5に収まってるし多分うまいのだろう。

「さて,最後は姫の歌ですぞ」

周囲がちょっとした緊張感に包まれるなか,まつりが小さく息を吸う音が聞こえた。

そして……

まつり「うたた寝に恋しき人を見てしより 夢ちょうものは頼みそめてき」

辺りが一瞬静まる。

ひょっとしてまつりは失敗したのかという疑問が浮かんだ直後,拍手喝采が起こった。

「ブラボー!ブラボー!」

「姫さま自身のことを詠った歌なのでしょうか?一途で切ない歌に思わず涙がこぼれてしまいます」

大好評だった。

P(まつり今の歌は?)

まつり(まつりが個人的に気に入ってる歌を拝借したのです。小野小町さんの歌で,うたた寝をしている間に好きな人に逢う夢を見て以来,夢に頼ってしまうようになった……という意味になるのです)

小野小町の名前は聞いたことがある。小野小町の夢か……夢といえば……まぁいいか。



「姫!お次は蹴鞠ですぞ」

まつり「姫の得意種目なのです!」

「ほっほっほ,ほれ姫いきますぞ!」

まつり「ほっほっ,次いくのです!」

P「おっとと!」

蹴鞠っていうのはもっと優雅な遊びかと思ったが案外ハードなものだ。

蹴鞠のルールはさっきまでよく分からなったけど,掴めてきた。

要はあれだ。バレーボールのパス回しをリフティングでやっていく感じ。

暗黙のルールとして,どんなに良いパスでも落とした場合,パスした側の渡し方が悪いとされるみたいなので……

P「いくぞまつりっ!ってやべっ」

まつりが俊敏に動く

まつり「ナイスキャッチ,なのです」

まつりがどんな悪いパスでも受け取ってくれるのはありがたい。

ちなみにまつりは今も十二単を着ている。



「姫,そろそろ最後になりますが何かしたいことはございます?」

まつり「そうですね……最後は姫の歌をプレゼントするのです,わんだほー!なライブにするですよ」

ということで最後はまつりのライブをすることになった。

機材がないので,アカペラになったがそれも逆によかったと思う。

みんなで楽しくコールする曲では楽しく歌って

バラードではしんみりとかつ真剣に姫の曲をきいた。

やっぱりまつりはお姫さまであって,その上でアイドルなんだよなって当たり前のことをふと思った。

「姫!すばらしかったですぞ」

まつり「ありがとうございました,なのです」

「今日はすばらしい1日になったなぁ」

まつり「姫もみんなに感謝の気持ちを込めて,歌ったのですよ」

まつり「……さて姫は今日は1日遊んでお目々がとろろんなのです。部屋で1人でゆっくりしたいので,だから……」

「はい!今日は姫の部屋に近づいたりしません」

まつり「よろしい,なのです」

そういって家来たちを部屋の近づけないことを約束させた。姫が帰ってくることときに見られないためだろう。なんというか……誘導がうまい。



部屋に戻ってしばらくすると,まつり姫が帰ってきた。

全く物音立てずにさっと入ってきたときは少し驚いた。

まつり姫「ただいま,です」

P「おお,おかえりなさい」

まつり姫はなんとなく憂いた表情だった。

まつりも姫の様子をうかがっているようだ。

まつり「目標達成!という感じではないのです?」

まつり姫「いえいえ,皆さんのおかげでわんだほー!な1日になったのです……今日はありがとうございました」

姫が深々とお辞儀をする。

戸惑い顔で顔を見合わせる俺たち

まつり姫「今日はお互い疲れたのでご飯を食べたあと各自の部屋で寝ましょう。とびきりなディナーを用意するですよ」



夕ご飯を食べたあと,俺たちは別々の部屋に移動させられた。

姫の使っていない部屋らしい。

……っと満腹と疲れもあってか,ものすごい眠気を感じた。

今日はこのまま床に就こうか



ハッ気付くといつかのまにか布団の上だった。

しばらく眠っていたらしい。

目が覚めると現実に戻っていました,なんてことはなく,案内された屋敷の部屋だった。

時計がないから時間は分からないが,辺りは真っ暗。

そろそろなんとかしないとな。

……ダメだ。寝起きだから頭がボーッとする。

夜風に当たって眠気を覚まそう。

なんとなく導かれるようにして吹き抜けの長い渡り廊下を歩いていく。

しばらく歩くと視線の先に見慣れた人物がいた。

まつりだ。

P「こんなところで何してるんだ,まつり」

「プロデューサーさんこそ……ふふっさて,まつりはどちらのまつりでしょう」

彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべて質問してくる

P「俺と一緒にアイドル活動を頑張ってきた方のまつり」

まつり「さすがはまつりのプロデューサーさんなのです!即答なのですね」

P「んー,見た目はまるっきり同じだけど一緒にいてなんというか……安心感がある」

まつり「ふふっありがとう」

……なら俺からも意趣返しだ。

P「俺たちをこの世界に連れてきたのは……まつりだろ?」

まつり「……ほ?」

夜風が彼女の髪を揺らした。

P「まつりは本当のお姫さまになりたかった。だけど現実には姫になることができず,この世界を作ったんだ。この世界はまつりにとって都合がよすぎる」

まつり「本気で言ってるの……?」

まつりが真剣の目で俺をみつめてくる。

月光にうすく照らされたきめ細かい肌,かわいいと美しいが混在した彼女を見つめているとまつりがまるでかぐや姫のようにみえてくる。

ただこのときばかりは罪悪感でまつりから目をそらした。

まつり「安心したのです。姫をカマにかけるなんて100年早い,なのですよ」

P「やっぱりまつりにはかなわないなぁ」

そもそも現実世界でもまつりはお姫さまだったしな。



俺とまつりの間に沈黙が訪れる。

少しするとまつりがふとつぶやいた。

まつり「きれいなお庭……今日は満月なのですね,そしてたまに聞こえるししおどしの音……あそこに咲いてるのは芍薬かな」

P「そうだな」

まつりの声にこたえながらも,俺は別のことを考えていた。

どうしたら元の世界に帰れるのか。

まつりが犯人ではないってことはキーパーソンはまつり姫……。

まつり姫の正体って何なんだ。

ここは多分,過去の世界。

ただまつり姫なんて人物は知らないし,聞いたこともない。

俺の知識なんてたかが知れているが,歴史なんて案外後世に正しく伝わってないのでは?

1192作ろうは学生時代に習ったが実は違うなんて話も聞いたことがある。

例えば本当はまつり姫の話だったが,後世には違った名前で伝わったり……だとか,そもそも伝説自体が別の人物の話に統合されて伝わった可能性もある。

落ち着いて考えろ……

まつりがこの世界に来た理由は姫にそっくりだったから。

じゃあ俺がこの世界に来た理由もあるはずだ。

歌とか詠みあったり,蹴鞠を楽しむ時代の姫って誰を想像する?

『うたた寝に恋しき人を見てしより 夢ちょうものは頼みそめてき』

『小野小町さんの歌なのです』

『それだけに向こうに植えてある赤い花が不自然に目立つ』

『では姫はお忍びで出かけてくるのです』

『あそこに咲いてるのは芍薬かな』

もしかして……

導いた事実に思わず鳥肌がたつ。

まつり「どうしたのです?プロデューサーさん」

P「なあ,しゃくやく……芍薬ってのはあの花で間違いないよな?」

まつり「ほ?多分……そうなのです」

さすがまつりだ。

そういえば花言葉なんてしゃれた物もよく知ってるもんな。

俺は廊下から飛び出し,芍薬の元に向かう。土の感じが新しい,ビンゴか!

だが下手したら時間がないかもしれない。

俺の様子に驚いたのか,まつりもあとを着いてきてくれた。

まつり「どうしたのです,急に外に走り出して」

時間がないので説明は端的に。まつりなら分かってくれるはず!

P「百夜通い伝説だ!」

まつり「……それは小野小町さんの話なのでは?」

P「長い歴史によって小野小町の伝説へと取って代わった可能性がある!その話は今回の事態とあまりにも似すぎている」

まつり「じゃあ……」

P「ああ!芍薬の数をかぞえてくれ!」

百夜通い伝説とは小野小町が告白してきた男に対して百夜通ってくれたら気持ちに応えましょうと約束した話である。

その男は来るたび芍薬を持ってきて,小野小町はそれを植え続けたという。

99本までは埋まったが,百夜目は彼は現れなかった。

原因は病死だとは聞いたが,そもそもこの伝説にはいくつかバリエーションがあるため,死因はどうであったかは分からない。

ただ小野小町はそのことを一生悔やみ続けたという結末はどれも同じである。

P「まつり!そっちから数えて何本だった?」

まつり「49本です!」

P「俺が数えたのは50本……合わせて99本!まつり姫の元へ行ってくる!」

あわてて姫の部屋へ向かう。

障子の扉から光が漏れ出していた。

やはりまだ起きてないといけない理由があったんだな。

P「失礼します!」

まつり姫「ほ?こんな時間になんでしょう」

P「単刀直入に申します。姫は俺たちが入れ替わってる間,想い人のところに行っていたのでしょう」

まつり姫「何のことです?」

P「とぼけていたって仕方ありません。あなたは昨日彼が来なかったことを不審に思って彼の家に行っていたのです」

まつり姫「……」

P「証拠は芍薬です!彼が持ってきたのを植えてたのでしょう。しかもこの時間まで起きているっていうことはまだ彼を待ち続けているということに違いない」

まつり姫「どこまで知ってるの?」

P「彼を100回通わせようとするところまで……でしょうか」

まつり姫「全部知っていたのですね」

P「今日,彼とはお話できましたか?」

まつり姫「いえ,ずっと床に伏していて……声を掛けることができず」

P「今すぐに彼の元へ向かってください。彼は病気で亡くなってしまうのです」

まつり姫「……!」

P「信じてください。もう1日だけ力になります。屋敷のことは俺たちに任せて行ってやってください」



こうしてまつりとまつり姫はもう1日入れ替わることになった。

今日の朝礼ではまつりはいつも通りの仕事に就いてとの指示を出した。

姫は想い人の家にいるだろうから,見つかる可能性は低いだろう。

ただ昨晩いろいろなことがあったからまつりも姫らしく過ごす自信もなかったかもしれない。

まつりには公務の書類が渡されたがどこかボーッとしていてうわの空である。

まぁまつりは特にその書類を終わらせる必要もないのだが。

P「どうした,まつり」

まつり「えーと……まつり姫は好きな人の家に行ってるのですよね」

P「ああ」

まつり「そして彼は近いうちに亡くなってしまう……のですね」

P「伝説の通りなら……」

まつり「まつり姫は最後に彼とお話できるのでしょうか……もっと早く気付いていたら」

P「まつりは昨日,精一杯まつり姫を演じてくれただろ……それにもっと早く気付いていてもどうもできないさ。俺たちは昨日屋敷から抜け出せなかったし,そもそも彼の家がどこにあるかも分からないしさ」

まつり「ホントはまつり姫が好きな人のところに行ったのは検討がついてたのです……」

P「さすがだな,まつり……ただ俺たちはベターなことはできたとは思う」

まつり「……」

P「まつり姫が屋敷に帰らず,ずっと彼の家にいれば異変に気付けたかもしれないが,姫もこの屋敷を1日以上放っておくことができなかったのだろう。あとは彼のプライドの尊重ってやつ?」

まつり「……」

P「99日も屋敷に通ってくれていたんだ。最後の日も家に迎えに来てもらうのではなく,この屋敷に自力で来て達成したかったんじゃないか,お互いにさ」

P「家来にでも様子を見に行かせればよいなんてのも考えたが見に行かせたことで彼が気になっていることがバレてしまうしな。不器用なところもあったんだろ」

P「俺たちがもっと早くこの世界に来ていれば……とも考えたが,例えば30日目とかにきても姫は彼にそこまで思い入れは持たないだろうしさ」

まつり「まつり姫が今日,彼とお話できることをお祈りすることぐらいしかできない……のですね」

P「そういうこった」

俺たちはまつり姫が帰ってくるのを待ち続けた。

まつり姫が満足のいく1日を過ごしていることを祈りながら。

日がとっくに落ちて辺りが真っ暗になったころ,まつり姫は帰ってきた。

うつむいているため顔は確認できないし,無言のままだ。

それでも労うことぐらいはしてもよいだろう。

P「おつかれさま,まつり姫」

彼女が顔をあげた。

まつり姫「プロデューサーさん,まつりちゃん……本当にありがとう。おかげでわたしは最高の一日を過ごすことができました」

涙を1筋流しながらも彼女は笑顔で応えてくれた。

姫にふさわしい,とても印象深い笑顔だった。

視界が暗転するーー。

気付いたときには自室のベッドの上だった。

帰って来られたのか……?

そうだ,まつりは?

すぐにまつりの携帯に連絡する。

ワンコールで出てくれた。

まつり「おはようございます……プロデューサーさん」

P「おお……まつり。おはよう」

ほっと一息つく。

P「さっきまでみてた夢……の内容覚えているか?」

まつり「……覚えているよ」

P「よかった……。会って直接話したいから早めに事務所に来てもらってもいいか?」

まつり「はい,なのです」

まつりに会うまで考えを整理してみる。

例の伝説について調べなおしてみるか……

事務所

まつり「おはよう……プロデューサーさん」

P「おはよう」

さっきまで会っていたはずなのにどこか感慨深くて,会えるのがうれしい。

P「ここに来るまで,あの夢のことずっと考えてたんだ。多分,俺たちを連れてきたのは彼を亡くして後悔し続けた未来のまつり姫なんだろう……。ただ気になるのは,あの時間帯がまき戻されたものなのか……それかまつり姫が一時の夢だったのか……んっ」

まつりの人差し指によって俺の唇は軽く押さえられ,台詞は中断された。

まつり「大丈夫なのです。まつり姫はまつりにそっくりな姫だったのですよ。ハッピーなエンドを迎えたのに違いない,なのですよ」

P「だといいが……さっき電話したあと伝説について調べてみたんだ」

まつり「これまた野暮なことを……で,どうだったのです?」

P「伝説についてほとんどの記録がなくなっていた……通勤途中に音無さんにたまたま会ったから聞いてみても知らなかった」

まつり「……」

まつり「それこそハッピーなエンドを迎えた証拠なのです」

P「?」

まつり「バッドバッドな悲し~エンドはそれこそ星の数だけ考えられるのです。でもハッピーエンドは……案外数パターンしかない,ありふれたものだったりするのです。お話として残らなかったということは……幸せだったからこそ歴史に埋もれてしまったのです」

P「まつり……」

まつり「まつり姫は最後に最高の一日だった,と言ってくれましたのです。……プロデューサーさん,お疲れさま。とってもカッコよかったよ」

まつりに姫の影が重なった気がした。

こうして俺たちの冒険は幕を閉じたのだった。

おわり

ありがとうございました。
似たような題材の
エミリー スチュアート「恋ぞつもりて 淵となりぬる」もよろしく

またね!

まつりいろいろ凄いな
乙です

>>2
徳川まつり(19)Vi/Pr
http://i.imgur.com/5RgLSD0.jpg
http://i.imgur.com/Nkc7hR6.jpg

今回もすっごく面白かったです! またお願いします!

乙乙
十二単を着て俊敏に動くまつりやべえ

おつなの!

乙はいほー!

詩歌テーマのこのシリーズ面白いなぁ
学が無い状態で読んでもこんなに面白いから凄い

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