拓海「Shit king's highway」 (12)

1.

ざけんじゃねぇ。
ゴールデンウィークってのはもっと過ごしやすいもんだと思っていたが、なんだってこんなにも暑ぃんだ。

いや、ちょっと前から様子はおかしかったんだ。暑くなって、んで、そっから少し寒くなって、また暑さがぶり返してきやがった。
日本の気候ってのは変わっちまったよ。

気候の変動が激しすぎて、身体がついていけねぇ。事務所の面子の何人かも、具合が悪そうにしていた。

これがオンダンカゲンショーってやつなのか。バイク乗りとしては耳の痛ぇ話。乗るけどな。

茹だるとまではいかねぇが、じんわりと汗が滲んできて、背中やらなんやら、特に首元に不快感を与えてきやがる。
髪が纏わりつく。腹が立つ。そろそろ梳いてやんねぇと。


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こんな日には、潮風が恋しくなる。
身体に重く圧し掛かる倦怠感を撫で落としてくれるような、潮風が。
ただ浴びるだけじゃあ、落としきれねぇ。ド真ん中に、海のド真ん中に浮かぶようにして……。

いいところがある。
そこは、ちょっと前までアタシ等のたまり場だったんだ。

大黒ふ頭。
久しぶりに、浮かんでくるのもアリかもしれねぇ――――。

2.

缶コーヒーはバイク乗りにとって、なくちゃあならねぇ物だ。

コンビニの駐車場で、こうして座席に肘を持たれながら缶コーヒーを飲むっていうのは、ある種の儀式であり、ある種の通過儀礼でもある。

昂らせてンだ、精神をな。キンキンに冷えていると尚良い。冷え切ったカフェインがアタシの血管に染み入り、全身を駆け抜ける。単車の振動と相成って、ハイになる。イージーライダーってヤツだ。

缶をゴミ箱に放って、単車に跨り、軽く吹かす。

腹に響く低音。アタシにもエンジンがかかる。

新宿インターチェンジは空いている。

ああ、なんだってこう空は澄み渡っているのに、あの薄汚ぇ雲はなんなんだ。

3.

ビキニに革ジャケを羽織って、単車を転がしたことがある。暑かったんだよ。
まあ、危ないから二度とやるなってプロデューサーに説教食らうハメになったんだけどな。

親父が飾っていたグラビアポスターに、ビキニに革ジャケを羽織ったマブいパツ金のものがあった。
もしかしたら、気づかないうちにそれの影響を受けていたのかもな。
確か、それはトイレにはっつけてあったんだ。

親父は曰く、グラビアポスターはトイレにはっつけるモンらしい。なんでだろうな。
プロデューサーも、アタシのポスターをトイレにはっつけてるのか?

よくわかんねぇ流儀だ。


――――高速を走ってると、どうしても飛ばし過ぎちまう。

仕方ない、これが性分だ。

だが、今日は少し飛ばし過ぎている。
熱くなりすぎてる。気温のせいか、久々に走っているせいか。

速い。感覚が冴え渡っているのが分かる。
缶コーヒー効果覿面。
雨が降りそうで、焦っているからかもしれねぇ。


いや……そうじゃねぇ。


漏れそうなんだ。


カフェインにはリニョーコーカってのがあるらしい。テレビで言ってた。
缶コーヒー効果覿面。

くそっ、なんだってこんな時に……。
パーキングエリアまではまだまだ距離がある。

……ああ、おまけに降り出してきやがった。最悪だ。ツイてねぇ。

エンジンの鼓動が、膀胱を一心不乱に揺さぶり続ける。

勢いを増した雨が、身体をこれでもかってぐらいに打ち付ける。

まるで濡れ鼠だ。

いや、まてよ。全身ズブ濡れなら……。
いや、まてよ。やっぱりそれはダメだと思うぜ。

いや、でも………。

いや、まて………。

いや、でも………。

いや、まて………。

雨脚が、いっそう強くなって――――。

4.

ハマの海上にぽっかりと浮かぶ島を結ぶのは、大黒大橋、鶴見つばさ橋、そして横浜ベイブリッジの三本の橋だ。

過ぎ去った雨の忘れものをばしゃりと踏みにじりながら駐車場に単車を駐め、公園を抜け、海沿いのベンチに腰掛けた。

ベンチに深く腰を預け、ぼんやりと波が揺れる様を見ていると、まるでぷかぷかと、気持ちの良いくらいにぷかぷかと浮いているように感じる。

ズブ濡れの身体に、雨上がりの潮風はちと堪えるってんで、公園を抜ける途中に買った温かい缶コーヒーを口に含んだ。


ベンチから眺めるさざ波は、昔に見た時と変わらず、ただのさざ波だった。

ぷかぷか。

ぷかぷか。

アイドルになって、いろいろと環境が目まぐるしくてってよ、まわりのもんまで、みんな変わっちまったのだとばっかり思っていたが、ここはいつまでも変わンねぇなぁ。

ベイブリッジだって、あの高いビルだって、このベンチの質感や、あそこの公園の木も、変わンねぇ。

……漏らしたっていう事実もな。



ズブ濡れの身体に潮風はやっぱり寒ぃ。
暑さを吹き飛ばしすぎちまったかな。

気がつけば、辺りはもう暗くなり始めていた。

冷めかけた缶コーヒーを摘んでくるくると振り回しながら、いつまで居ようかな、なんてことを考えていた。

あーあ、こんなダッセェ休日、誰にも話せねぇわな。


終劇

これにて終了ですー
おしょんしょーん

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