キョン「佐々木から余裕を奪ってみる」 (56)


キョン「……」

佐々木「どうしたんだいキョン。柄にもなく物憂げな顔をして」

キョン「柄にもなくは余計だ。俺にだって考え込むことぐらいあるさ」

佐々木「ほう、当然その考えごとの中に高校受験に対する焦りや不安も含まれているんだろうね」

キョン「残念ながら、そんなことまで考えるのは俺の小さな脳みそじゃキャパシティーオーバーだ」

佐々木「くつくつ、だとすれば。キョン、君は一体何について思案していたのかな?」

キョン「…………お前」

佐々木「……僕かい?」

キョン「佐々木よ、俺は考えたんだ」

佐々木「うん」

キョン「お前と日常的に会話をするようになって長いもんだ。よく、とまではいかないが、多少はお前のことを知れたはずだ」

佐々木「そうだね。ただ、君に見せている僕の一面が本当に僕の全てだという保証はどこにもないけどね」

キョン「それだよ」

佐々木「それ? それとは何を指す代名詞のことだい?」

キョン「佐々木、お前はいつも余裕を持っている」

佐々木「余裕?」

キョン「ああ。常に笑みを絶やさず、落ち着いて心にゆとりをもっているかのような態度だ」

佐々木「ああ、まぁ自分でも感情の起伏は穏やかなほうであると自覚しているよ」

佐々木「滅多なことでは怒ったり、大泣きしたり、落ち込んだりはしないだろうね」

佐々木「あ、笑いの沸点は低いだろうからよく大笑いはするけどね。くつくつ」

佐々木「しかし、それが余裕であるかは僕には判断がつかない」

キョン「安心しろ。間違いなくお前は余裕を持っているよ」

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佐々木「ともあれ、キョンは僕の余裕をかましている態度が癪に障ったわけだ」

キョン「断じて違う。何も悪感情を抱いたわけじゃない」

キョン「ただ、なんというか……その余裕を崩してみたくはなった」

佐々木「……へえ。そう思う動機は君のどういった感情に由来しているんだい? 非常に興味があるね」

キョン「別に。まあ強いて言うなら自分よか頭のいい奴が慌てふためく姿をたまにゃ拝んでみたいと思っただけさ」

佐々木「くつくつ。やはりいい性格をしているよ。君は」

佐々木「とはいっても、僕自身今のスタンスを崩すつもりはないよ」

佐々木「大げさなリアクションをしたり、あらゆる感情を表に出すなんてことは僕らしくないからね」

キョン「案ずるな。崩してくださいと言ってるわけじゃない。崩してみたいと言ったんだ、俺は」

佐々木「……つまり、『お前の貼り付けた笑顔の仮面を取るのは俺だ』と、そう言いたいわけかい?」

キョン「その通り。お前は何も意識することなく普段通りにしてくれればいい」

キョン「俺は隙のないお前の隙を見つけて何かしらのアクションを起こしていく」

佐々木「くつくつ。そんなことを言われて意識するなという方が難しいが……」

佐々木「まぁ、君の気の済むまでやるといい。自分で言うのもなんだけど、僕は手強いと思うよ」

キョン「知っているさ。その手強いお前だからこそ倒しがいがあるってもんだ」

佐々木「……ひょっとして、キョン。君はアレなのかもね」

キョン「アレ?」

佐々木「マルキ・ド・サド……所謂サディズムの持ち主なんじゃ……」

キョン「違う……はずだ」

佐々木「くつくつ。確証はないんだね」


キョン「……佐々木」

佐々木「うん? なんだいキョン」

キョン「猫だまし!」パァン!

佐々木「…………」

キョン「……」

佐々木「どうしたんだい。ハトが豆鉄砲にうたれたみたいな顔をして」

キョン「……お前にさせるつもりだったのさ」

佐々木「それは驚愕だ」

キョン「してるようには見えねえよ」








キョン「……佐々木」

佐々木「どうしたんだい、キョン」

キョン「なんか変な虫」ポイッ

佐々木「おっと」キャッチ

キョン「……」

佐々木「危ない危ない。落としてしまうところだった。うん? これは玩具だね」

キョン「虫とか平気なタイプ?」

佐々木「一寸の虫にも五分の魂。命ある万物の価値は平等さ」

キョン「……なんか、すまん」

佐々木「くつくつ……いいよ」









キョン「……佐々木」

佐々木「なにかな、キョン」

キョン「…………」ジッ

佐々木「…………?」

キョン「…………」ジィー

佐々木「…………キョン?」

キョン「…………ダメか」ハァ

佐々木「いまのは……?」

キョン「ガン飛ばし。ビビっちゃくれないかと……」

佐々木「あぁ……てっきり僕の顔にゴミがついていると思ってしまったよ」

キョン「自分の顔の迫力の無さを確認しとくべきだったぜ」


キョン「……」スタスタ

佐々木「でね。この世界五分前仮説の本質というのは―――」スタスタ

キョン「わっ!!!」

佐々木「……」

キョン「……」

佐々木「因果律自体を論理的必然から導くことはできないということにあるんだ」

キョン「……ノーリアクション?」

佐々木「そんな子供だましではね。それよりもちゃんと僕の話を聞いててくれたかい?」

キョン「聞いてたさ。しかしやはり古典的は方法では無理か……」

佐々木「……やれやれ」

佐々木「先は長そうだね。好きにすればいいとは言ったが、早く飽きてくれることを願わざるを得ないな」

キョン「ううむ。となれば……そうだ」

佐々木「何か名案でも閃いたかい? かの発明王トーマス・アルバ・エジソンは自身の閃きを―――」

キョン「佐々木、次の日曜日は空いてるか?」

佐々木「―――…………え?」


キョン「だから、次の日曜日は空いているかと聞いているんだ」

佐々木「……何故そんなことを聞くんだい? 君も知っての通り、日曜日は塾が……あ」

キョン「次の日曜日は塾はない。俺はその一日を利用しお前から余裕を奪う算段だ」

キョン「そして、このチャレンジは日曜日に終了する。成否は問わずな。これ以上は双方の勉学(主に佐々木)に影響が出るからな」

佐々木「……なるほど。実に合理的といえるね。なるほど……うん」

キョン「しかし、俺たち学生にとって日曜日は貴重な休日だ。ましてや塾のない日曜日なんてな」

キョン「もちろん無理にとは言わないし、お前が体と頭を休めるための日とするなら俺は―――」

佐々木「まったく、仕方がないね。僕の余裕が一日やそこらじゃ奪えないとは思うけど……」

佐々木「君にとってチャンスの機会が多い方がいいだろう。僕に固執しているよりも、早々に勉学の方に集中してもらいたいからね」

佐々木「よって、日曜日を君に捧げることも」

佐々木「…………やぶさかではないと言えるだろう」

キョン「よーし。じゃあ決まりだ、次の日曜日は駅前で待ち合わせるとしよう。追って時間も伝える」

佐々木「ああ、了解した」

キョン「んじゃあな。また明日ー」

佐々木「ああ……また明日」

佐々木「…………日曜日、か」


キョン「……佐々木」

佐々木「…………」ボー

キョン「見ろ。俺の指が……切断さ……佐々木」

佐々木「……ん? あぁ、すまない。少しボーっとしてしまっていたよ」

キョン「おいおい。もはや俺のすることなど眼中にないってか」

佐々木「そんなことはないよ。君が何をしてくれるのか常々期待しているよ」

キョン「そうか。まぁ次の日曜日は期待しておけよ。とびきりのリアクションを用意しておけ」

佐々木「あぁ……日曜日……」

キョン「ところでお前も何か考え事か?」

佐々木「いや……考え事というわけではないけど……キョン」

キョン「なんだ?」

佐々木「たとえ話……というよりは個人的な好き嫌いな話になるんだが……」

佐々木「化粧や衣装選びに時間をかける女性について君はどう思う? ああ個人的な意見だよ、君の」

キョン「どう思う、か……正直、どうもおもわん。好きも嫌いも、する人間の自由だろ」

佐々木「はりきり過ぎや時間の無駄だとは感じたりはしないかい?」

キョン「そりゃ限度はあるだろうが、まぁマナーとしての身だしなみってこともあるし」

キョン「一概に衣装や装飾品をバカにすることはないと思うぞ」

佐々木「……そうかい。へぇ」

佐々木「…………ふむ」


佐々木「キョン」

キョン「どうした佐々木」

佐々木「風の噂で君がポニーテールに異常な執着を示すと聞いたんだが……」

キョン「……国木田あたりか。あの野郎、変な脚色しやがって」

佐々木「事実ではないのかい?」

キョン「……いや、事実ではあるが『異常な』は余計だ。単にポニーテール萌、ゴホン!」

佐々木「ポニーテールも? も、ってなんだい?」

キョン「なんでもない。ただ髪型の一つとしてポニーテールが好きってだけだ」

佐々木「へぇ……」

佐々木「…………」サラッ

佐々木「……つかぬことを聞くけど」

キョン「うん? なんだ?」

佐々木「君の中でポニーテールに次ぐ、魅力的な髪型というのはあったりするのかい?」

キョン「そうだな……それは考えたことがなかった」

キョン「そもそも俺がポニーテールを好んでいるのは初恋だった人がポニーテールだったからなんて安直な理由だしな」

佐々木「キョンの初恋? くつくつ、それは非常に興味があるね」

キョン「ガキにありがちな大人びた人を好きになるあれだよ。俺の場合は従妹の姉ちゃんだっただけだ」

佐々木「人間は自分の顔に似た人間に好意を持ちやすいからね。妥当と言えば妥当さ」

キョン「そう考えると、従妹の姉ちゃんのポニーテールは確かに印象的だったが」

キョン「普段は特に何もしていなかったことを鑑みると、ギャップに感銘を受けただけだったのかもしれん」

キョン「だからまぁ、強いて言うなら普通だな。普通が一番」

佐々木「ふーん……普通、か。なるほど」


佐々木「キョン、聞いてもいいかな」

キョン「別に構わんが……随分と質問の多い日だな」

佐々木「僕からの問いが多いのは今日に始まったことではないだろう?」

キョン「あー……それも、そうか? まぁいいか。聞きたいことってのは?」

佐々木「あぁ、それなんだけど…………」

キョン「…………佐々木?」

佐々木「…………いや、やっぱり止しておこう。これは適切ではなかったみたいだ」

キョン「おいおい。気になるじゃねえか」

佐々木「すまない。しかし君にする質問ではないことに直前で気が付いたよ」

キョン「なんだそりゃ。逆に直前まで気づかないなんてお前らしくもない。まさか何かしらの要因で余裕が失われつつあるのか?」

佐々木「かもね。その場合要因はキョンではなくまた別のなにかになるのだけれど……それはそれでいいのかな?」

キョン「いいやダメだね。日曜日まではお前はその余裕綽々の態度を崩さないよう心がけてくれ」

佐々木「くつくつ。余裕を崩せといったり崩すなと言ったり……我儘だね」

キョン「俺はやると決めたらやる男なんでな」

佐々木「是非とも御母堂の前で受験に集中する旨を宣言してもらいたいね」

キョン「そんなことは口が裂けても舌を引っこ抜かれても言えん」

佐々木「くつくつ、舌を引っこ抜かれたらそもそも喋れなくなるじゃないか」

キョン「それぐらい、ありえないことってことさ」

佐々木「ありえないと言えば…………」

キョン「言えば?」

佐々木「……いや、これも適切ではないね」

キョン「……実はお前俺をからかってるだろ!」

佐々木「……くつくつ。かもね」


佐々木「お疲れさま」

キョン「お疲れ。今日も実に有意義な睡眠との格闘時間だった」

佐々木「くつくつ。塾での学習時間をそんな風に例えるのは君ぐらいだよ」

キョン「いーや、全国を探せば同志が少なくとも3人は見つかるね」

佐々木「その3人なら集まっても文殊の知恵は出なそうだ」

キョン「さて、そんなことより……俺の本番は明日だ」

佐々木「塾を『そんなこと』扱いするのはいただけない。君も知っての通り学生の本分は勉強だよ」

キョン「分かってるさ。しかし明日は暦という人の生み出した歴史が与えし休日だ」

キョン「その日ぐらい受験や勉強から解放された気分を味わってもいいだろう」

佐々木「……まぁ、そうなんだろうけど」

佐々木「君が行うのは僕から余裕を奪う行為だろう?」

キョン「もちろんだ。ここ数日考え込んだ渾身のネタを披露してやるぜ」

佐々木「くれぐれもハラスメントに引っかからない程度のものにしておくれよ」

キョン「…………明日までに再考しておこう」

佐々木「くつくつ。怖い怖い……何を考えていたのやら」

キョン「楽しみだろう?」

佐々木「……ああ、楽しみだ」ニコッ

佐々木「同時に、少し不安もあるけどね」

キョン「安心しろ。生命に関わることはしないからよ」

佐々木「当然だよ」

佐々木「……ああ、でもやっぱり楽しみだ」


キョン「よう」

佐々木「やあ」

キョン「待ち合わせの時間……覚えているか?」

佐々木「君こそ。今が何時だと思ってるんだい?」

キョン・佐々木「「集合時間の30分前」」

キョン「……」

佐々木「……くっくっ」

キョン「あっはっは! 二人してなんでこんな早く集合してるんだよ?」

佐々木「くつくつ。どうやら性分が似ているらしい。にしても30分前は早すぎないかい?」

キョン「お前が言えたことかよ」

佐々木「違いないね」

キョン「だがこれは幸運と捉えるべきだ。使える時間が30分伸びたわけだしな」

佐々木「やれやれ……イタズラに真剣になるのは男の子の性というわけかな?」

キョン「イタズラじゃなく、大真面目に真剣になってんだよ。とりあえず、喫茶店で今日の予定を話しておくか」

佐々木「まだ何も聞かされてないからね。どこへ行くのかぐらいは早く知っておきたかったけど」

キョン「ん、ああそうか。どこいくか分からないと服とか靴が決めづらいよな。悪かった」

佐々木「えっ?」

キョン「違うのか?」

佐々木「いや、そうだけど……よく気がついたね」

キョン「まあな。お前の今日の服、塾とかで見たことないやつだったからよ」

佐々木「……気づくんだね」

キョン「当たり前だって。さ、行こうぜ」

佐々木「……うん」


佐々木「遊園地…………と言ったのかい?」

キョン「ああ」

佐々木「…………他意はないのかな?」

キョン「他意? なんのことだ?」

佐々木「なんでもないなら、いいんだ。うん」

キョン「遊園地といやぁリアクションの宝庫。あらゆる刺激があるだろうからな」

佐々木「確かにね。少し安直な気もするけど」

キョン「問題はないか?」

佐々木「うん、ないよ。一刻も早く遊園地に行きたいぐらいさ。行くのは小学生以来かもしれないね」

キョン「俺も久々だな。純粋に楽しんじまうかもな」

佐々木「……それで構わないんだけどね」

キョン「ん? 何か言ったか?」

佐々木「……早く行こうって言ったのさ。今日という日は有限だ。また明日からは勉強漬けの日々に逆戻りだよ」

佐々木「ならば今日この日を有意義に使うべきだ。今となっては30分前に集合したことがものすごい僥倖に思えるよ」

キョン「お前の言う通りだ。んじゃさっさと行くとしよう」スッ

佐々木「キョン、支払いは―――」

キョン「あ、言い忘れてたが、今日は払いは全て俺が出す。もちろん遊園地代もな」

佐々木「キョン。それは受け入れられない。何よりも申し訳なさが先行して今日一日を楽しめなくなってしまう」

キョン「……時間は有限」

佐々木「?」

キョン「今日本来なら塾のないお前は家で後ゴロゴロするなり勉強するなり、自分の時間を使えただろう」

佐々木「その時間を君が買い取るというのかい? それは傲慢だよ」

キョン「そう思われても仕方がないと思う。けど、お前が俺の信じてくれるならこの言葉を信じてほしい」

キョン「今日俺に付き合ってくれた礼として受け取って欲しい。俺の純粋な気持ちさ」

佐々木「…………キョン、しかし」

キョン「さっ、時間は有限だ。とりあえず目的地に向かおうぜ」

佐々木「……ありがとう」


佐々木「……思えば」

キョン「ん?」

佐々木「君とこうしてバスに乗るというシチュエーションは、今までになかったね」

キョン「あぁ。お前がバスに乗らなくていいように俺がせっせと自転車を漕いでるんだからな」

佐々木「それに関しては頭が上がらないね。これからもよろしく頼みたいものだ」

キョン「お安い御用さ」

佐々木「それはどうも」ペコリ

キョン「……」

佐々木「……」

キョン「……」

佐々木「……」

キョン「……お、トンネル。トンネルと言えば昔息を止め―――」

佐々木「ああ、トンネル効果だね。確かにあれは興味深いものだ」

キョン「……なんだそりゃ、詳しく聞かせてくれよ」

佐々木「くつくつ。いいとも、量子力学的ミクロの世界の話なんだけどね―――」

キョン「ほう―――」


佐々木「―――というわけで……おっと、つい話し込んでしまったね」

キョン「いや、ちょうどいい小話だったぜ。遊園地につくまでにまた一つ賢くなれたぜ」

佐々木「キョン。知識と言うのは覚えることよりも忘れないことの方が大切なんだよ?」

キョン「気をつける。さて」

キョン「ついたな」

佐々木「ついたね」

キョン「懐かしい雰囲気だ。遊園地ってのはこんなモンだったか?」

佐々木「幼少の頃の記憶は時が経つにつれて信ぴょう性が失われていくからね」

佐々木「今、中学生の僕たちが感じる遊園地とは、感性の齟齬が発生しているかもしれないね」

キョン「子どもの心を忘れちまった憐れな中坊、か」

佐々木「くつくつ。傍から見れば僕たちだって十分子ど……」

佐々木「傍から見れば…………」

キョン「どうした? 佐々木?」

佐々木「……いや、なんでもない。さあ行こうかキョン。僕の余裕とやらを消失させてくれるのだろう?」

キョン「ああ覚悟はできたか佐々木。その柔和な笑みを取っ払ってやるよ」

佐々木「くつくつ。期待しておくよ」


キョン「うお……地方の遊園地と言えどさすがは日曜日。親子連れやらで賑わってやがる。生意気な」

佐々木「いいことじゃないか。寂れた遊園地があるよりかは遊園地としての役目を果たしている方がいいだろう」

キョン「セオリー通りに行くならばまずは空いているところから攻めるべきか……」

佐々木「うん? そのセオリーに則るのだとすると、随分と変動的な計画だね」

キョン「え……あぁ、いや。まぁ、そういうことだな」

佐々木「……?」

キョン「とりあえずだ。遊園地に来て立ちぼうけを食らったままなんて愚の骨頂だ」

キョン「来たからにはなにかしらアトラクションを楽しむべきだ」

佐々木「……キョン。やはり君の言ってることはどこか本来の趣旨と関係ないような―――!」

キョン「いいから、ついてこい」ギュ

佐々木「え……あ……っと、うん」

キョン「……」スタスタ

佐々木「……」スタスタ

キョン「まずは……っと」

佐々木「……キョン」

キョン「ん……なんだ?」

佐々木「これが君の作戦という訳かい? くつくつ、甘いね。この程度で動じる―――」

キョン「あん? なんのことだ?」

佐々木「……なんでもないよ」

きゅうけい。一回の投下で終わらしたかったのーにーぃ

きゅうけい終わり。3時から投下します


キョン「お、ここは空いてそうだな」

佐々木「ここは……」

キョン「お化け屋敷……入る前から子供だまし感溢れる作りが感じられるが……」

佐々木「ほう、一番手にお化け屋敷とは……てっきり僕は最終兵器に持ってくると思っていたよ」

キョン「こういうのは意表を突いた方が面白いだろ? 遊園地にきて真っ先に行くところがお化け屋敷とは誰も思うまい」

佐々木「オカルトマニアでもなければね。くつくつ」

キョン「さて……佐々木、怖けりゃ叫んだって構わないんだぜ? キャラに似合わないとかは気にせずによ」

佐々木「お言葉だがキョン。僕は心霊や魂と言った存在をまるで信じていない」

佐々木「代表を上げれば人魂なんてプラズマであると言われているし、幽霊なんて近い将来すべて科学的に否定される存在さ」

キョン「だが佐々木。ここはお化け屋敷だ。確かに本物の幽霊なんぞは出てこないかもしれん」

キョン「しかしその分手の込んだ仕掛けや、気合の入ったスタッフが俺たちを全力で驚かせに―――」フッ

キョン「うおっっ!!?!?」ビクッッ!

佐々木「くつくつ。どうやらそのようだね。今の君は手の込んでいないただのそよ風にすら過剰反応してしまうみたいだ」

佐々木「うん。確かに、僕と比べて今の君は余裕を持てているとは言い難いね」

キョン「ええい小癪な劇団員どもめ。佐々木、この際だから言う。俺は結構ビビりなんだよ」

佐々木「へえ、少し意外だね。君も僕と同じオカルト全否定の人間だと思ってたけど」

キョン「頭ではそう思ってるさ。しかしまぁ、どうやら俺の思考回路は体に間違った情報を伝達してるらしい」

キョン「お前にゃ伝わってるはずだぜ。限界ギリギリの俺の精神が手汗へと変わっちまってることがな」

佐々木「……うん。確かに」

キョン「だがなぁ佐々木。今ここで俺はお前の手を離しちまうと精神に異常をきたす恐れがあるやもしれん。だから―――」

佐々木「ああ、離したりはしないよ……なぜなら」

佐々木「ちょうど僕もこれがどちらの脈動かを確かめたかったところだしね」

キョン「うひゃぁあお!!」ビクッ!!

佐々木「……くつくつ」


キョン「……月並みのことしか言えんが、死ぬかと思った」ゲッソリ

佐々木「くつくつ。とても子供だましだとバカにしていた人の発言だとは思えないな。顔が憂鬱としているよ」

キョン「自分でも驚いてるよ。まさかここまでとはな……」

佐々木「どうする? 君もこの様子だし、少し休んでから移動しようか?」

キョン「悪い、そうしよう。何か飲み物でも買ってくる」

佐々木「何を言ってるんだい、むしろそれは僕がやるべき―――」

キョン「いいからいいから、座ってろ座ってろ」フラッ

佐々木「…………」ポスン

佐々木「…………手汗か」

佐々木「……どちらのモノか分かりはしないよ」クスッ

佐々木「にしても……多いことだね」

佐々木「家族連れに……カップ―――」ピトッ!

キョン「……」

佐々木「……」

キョン「……冷たくないか?」

佐々木「冷たいよ、いい気持ちだ」

キョン「反射反応の一つでも取ってくれりゃ手応えでもあるってのによ」

佐々木「お生憎様。君がわざわざフラフラの体で歩いて行った時点でここまでの展開はお見通しさ」

キョン「あー……ガキの浅知恵レベル、か」

佐々木「遊園地に来てよかったね。童心にかえったと言い訳ができるじゃないか」


キョン「高いところは苦手じゃない」ガタガタ

佐々木「気が合うね。僕も苦手じゃないよ」ギギギ

キョン「普段、人間力的に低空飛行をしている俺にとって見下ろすという感覚を強く感じれられるから、高いところは苦手じゃない」

佐々木「そんな考え方だったのかい?」

キョン「あとは純粋に高いところに対する恐怖心っつぅもんが特になかったからか」

佐々木「なるほど……つまりキョンは」

佐々木「このジェットコースターにおいて先ほどのお化け屋敷のような醜態を晒すことはないと言い切るわけだ」

キョン「醜態……まぁさっきのは確かに醜態か。それは置いておいてだ。俺の話は最後まで聞いてもらおう」

佐々木「続きがあるのかい?」

キョン「高いところは苦手じゃない。これは胸を張って言える事実だ」

キョン「でもな」

佐々木「うん」

キョン「俺は非常に酔いやすい」

佐々木「とんでもないミスマッチングだね。だがもう逃げられない―――」

キョン「あ、あ、あ……」

佐々木「ご愁傷さまキョン。願わくば……終着の際には凄惨な姿になりませんように」

キョン「ああぁああぁぁぁぁあああああああああぁあああああああぁああ!!!」グォーン!!

佐々木「~~~~っ! 楽しいね、キョン!」

キョン「ぁああぁぁああぁああああああああああああああああ!!!!!!」


キョン「ハァ……ハァ……ウッ」

佐々木「遊園地でこうも満身創痍は人はそうは見ない気がするね。エチケット袋は……」

キョン「……ジェットコースターなら……佐々木も苦手だろうと思って。大丈夫だ、必要ない」

佐々木「なるほど。自ら苦手なモノに突っ込んでいくスタイルか。いいね、悪くない」

キョン「どうだった?」

佐々木「とても楽しかったよ。先に言った通り高いところは好きだし、特に酔うこともしない」

佐々木「年甲斐もなく、いや年相応と言うべきか。声を上げて楽しんだよ」

キョン「…………一切聞こえなかった」

佐々木「あー……まぁ、仕方がないことだね」

キョン「しかしまぁ……楽しんでいるならいいか」

佐々木「うん? 本末転倒の間違いじゃないか? 僕に楽しまれてしまっては余裕を奪ったとは言い難い」

キョン「えっ? あ、ああ……そりゃ遊園地だし楽しむことも大事っていう意味だ。退屈するなんてもってのほかだからな」

佐々木「それは……一理あるね」

キョン「……フゥー」

佐々木「……」ゴソゴソ

キョン「……うわっ!?」ピトッ

佐々木「くつくつ。リアクションの見本市みたいな人間だね、君は。さっきは僕がこうなると思ってやったのかい」

キョン「……そうだよ。淡ーい期待を抱いてやった結果がお前のノーリアクションさ」ゴクッ

佐々木「それは申し訳ないことをしたね。ただまぁ、そう簡単に余裕が崩れても面白くないだろう?」

キョン「まぁな。ここは遊園地、飽きるほどにエンターテインメントが存在するさ」


佐々木「ゴーカートか。体験するのは初めてだよ」

キョン「俺は久しぶりだな。悪いが佐々木、これは競争だ。普段お前に勝てないぶんここで勝たせて―――」

佐々木「ではお先に失礼するよ。レディファーストだ」ブォン!

キョン「あっ! 汚い! 話の途中だろうが!」ブオッ!

佐々木「六曜では今日は先勝、何事も早い方がいいんだよ」

キョン「くそ……見かけによらず中々荒い運転をする暴走車両め……」

佐々木「運転にはその人の本性が出ると聞くが……ふむ。僕自身も知らない深層心理の現れかな、これは」

キョン「げえっ! まずい、コースアウトしちまった……すいませーん……」

佐々木「……君の人生は、多難を極めそうだね。くつくつ」








キョン「争い合うのはよくない。ここは協力すべきだと思うんだよ」キコキコ

佐々木「それでこのアヒルボートか。正式にはスワンボートといって遊園地では主に足漕ぎ式が取り扱われているようだ」キコキコ

キョン「目的もなく漕ぎ続ける様がまるで俺の人生を現しているようだぜ」

佐々木「受験という当面の目標ならあるじゃないか」

キョン「言うな言うな。見たくない現実から目を背くべく必死に足を動かしてんだからよ」

佐々木「そうなのかい? だったら現実を直視し、真面目に授業や塾の講義を受けている僕は一休みさせてもらおうかな」コロン

キョン「おい」

佐々木「まぁいいじゃないか。君にしては日課のようなものだろう?」

キョン「そりゃそうだが……こんな奇天烈な乗り物でも運転手は変わらず俺なわけか。溜息も漏れるぜ」ハァ

佐々木「くつくつ。乗客だって変わらないんだからいいじゃないか」

佐々木「君が行きたい方へ、僕を連れて行ってくれればいい」

キョン「どこまでいっても湖だっての!」









キョン「……」ゴウン

佐々木「……」ゴウン

キョン「……」

佐々木「……なるほど。これは今までで最も効果的な手段かもしれない。現に僕は今動揺を隠せないでいる」

キョン「とてもそうは見えんが。佐々木、俺もお前と同じ意見だ」

佐々木「中学3年生ともあろう者が……2人してメリーゴーランドなるものに興じるというのは……」

キョン「滑稽だな」

佐々木「自覚があるだけマシだよ。なければ君の頭の中を解剖したい衝動に駆られるところだった」

キョン「……ぶっちゃけ俺の方がはずかしめを受けている気がする」

佐々木「……くつくつ。確かに。君にかぼちゃの馬車は似合わないね」

キョン「いいんだよ。俺はシンデレラを守護する小人で」

佐々木「シンデレラに小人は登場しないよ」


キョン「ふぅー……」

佐々木「えい」ピトッ

キョン「どわっ!? って、またそれかよ」

佐々木「君も飽きないリアクションをしてくれるね」

キョン「ったく……結構楽しめるもんだな」

佐々木「ああ。まだ自分の精神が普通の中学生レベルであるようで安心したよ」

キョン「まだまだ、余裕たっぷりって感じだな」

佐々木「それは……」

佐々木「……いいや。ただ単に余裕よりかは楽しむ感情が先行しているだけだよ」

キョン「……そうか」

佐々木「そうさ」

キョン「……」

佐々木「……キョ―――」

キョン「さて、そろそろ夕暮れ時だな。次で最後ってところか」

佐々木「……まだ、乗りたいものでもあるのかい?」

キョン「遊園地に来たら乗らなきゃいけないものが、まだ残ってるだろ?」

佐々木「……そうだね。お互い、高いところは苦手じゃないみたいだし」

キョン「あれなら、揺れも少なそうだしな」

佐々木「じゃ行こうか……観覧車」

キョン「ああ」

佐々木「……細かいことを言うようだけど、観覧車は想像よりか揺れるよ」

キョン「よし。あっちのゴーカートでリベンジマッチと―――」

佐々木「行くよキョン。日が沈んでしまう前に乗ろう」


キョン「おぉ……」

佐々木「どうだい? 揺れの方は」

キョン「確かに……想像していたよりは揺れるが……問題ないレベルだ」

佐々木「よかった。この壮大な景色を拝めないなんてことになれば、それはとても惜しいことだからね」

キョン「あぁ、遠くの遠くまで見えるな。あっちが俺らの中学か?」

佐々木「そうだね。僕らの街の方へ日が沈んでいく…………」

佐々木「……綺麗だね」

キョン「……あぁ」

佐々木「…………ここで『夕日なんかより、お前の方が綺麗だぜ』ぐらい言えれば、僕から余裕を奪うことができるかもしれないよ?」

キョン「……はっ、バカ言え。例えお前であろうと大自然の雄大さには敵わねえよ」

佐々木「そうかい? それは残念だ」

キョン「……」

佐々木「……」

キョン「佐々―――」

佐々木「キョン」





















佐々木「今日はありがとう」

















キョン「…………やっぱ感づいてやがったか」

佐々木「当然さ。君の行動と発言との辻褄が合わなすぎるからね」

佐々木「途中からは完全に目的は形骸化していたように思えるよ」

キョン「初めから気づいていたのか?」

佐々木「うーん。まぁ、そうかな」

キョン「……敵いっこねぇな、お前には」

佐々木「……どうして」







佐々木「君は今日一日僕を楽しませてくれようとしてくれたんだい?」







佐々木「僕から余裕を奪うだなんて詭弁まで使って」

キョン「あー……詭弁じゃないぞ? 実際、お前が慌てふためく姿は一度は見てみたいモンだと思ったし」

キョン「誰かの陰謀論でもなけりゃお前とこうして普通に遊園地を楽しむ機会なんざないと思ってな」

佐々木「他ならぬ君の陰謀によって、僕は今日一日を非常に楽しく過ごせたという訳だ」

キョン「まぁ……理由なんて単純なもんだ。というか初めに伝えただろう?」

佐々木「初め……?」

キョン「礼として受け取って欲しいっつったろ。あん時は今日一日の礼としてって言ったけどよ」

キョン「まぁ、なんだ……こと勉強においてお前ほど世話になり、頼りにしてる存在なんていないからよ」

佐々木「…………」

キョン「捻くれ者の俺がお前にどう違和感なくこのシチュエーションを導き出せるか悩んだ結果が」

佐々木「僕から余裕を奪うという建前……か」

キョン「限りなく本音に近いけどな」

佐々木「……くつくつ。ああ、そういうことだったのか―――」


キョン「しかし、それも看破されサプライズとは言い難いものになっちまったけどよ」

佐々木「くつくつ。僕が気づかなければネタばらしなど行うつもりもなかったくせに」

キョン「当たり前だ。そんなこっぱずかしいことできるかよ」

佐々木「あぁ、君にしては随分頑張って計画した方だと思うよ」

キョン「まーた余裕かましてくれちゃってよ……」

佐々木「キョン、もう日が完全に沈んでしまうよ」

キョン「みたいだな……あぁ、んじゃそうだ。ラストチャンスだ、言っておくよ佐々木」

キョン「こっぱずかしいから、日が沈んだら忘れるなり、なかったことにするなりしてくれ」

佐々木「うん? 何を―――」














キョン「その服装も髪も、めちゃくちゃ似合ってるよ。佐々木」













佐々木「………………」

キョン「……」

佐々木「……キョン、済まないが、今君と目を合わせられそうにない僕の顔は、一体どうなってるのか教えてはくれないか?」

キョン「ああ……残念だが佐々木。俺も西日に目をやられたみたいで目が開かないんだ、悪いな」

佐々木「……」

キョン「……」

佐々木「……くつくつ。これは……最後の最後に『盗まれて』しまったかもしれないね」


キョン「ちと遅くなっちまったかもな」

佐々木「ああ。親に憤慨されなければいいんだけどね」

キョン「まっ、たまにゃいいだろう。こんな……休養日があってもよ。ふぁ……」

佐々木「お疲れのようだね、キョン」

キョン「あぁ……やっぱり苦手なことはするもんじゃねえな」

佐々木「よく遊園地をチョイスしたものだよ。お化けもコースターも怖いというのに」

キョン「そっちもだが……苦手なことっつうのは……いや、なんでもない」

佐々木「ん?」

キョン「なんでもない。悪いが佐々木少し眠る。どうせ終点まで乗ってるんだ……構わないだろ」

佐々木「ああ、ゆっくり休むといい。僕が起こしてあげるよ」

キョン「ああ、頼む……ぜ」

佐々木「……糸の切れた人形とはよく言ったものだね。まさに文字通りだ」

佐々木「(しかし、君がねぇ……くつくつ。確かに、似合わないね)」

佐々木「……今日はありがとう、キョン」

キョン「Zzz……」

佐々木「……ねぇキョン。わたしはね―――」
















佐々木「できるなら、ずっと君の親友でありたいと心から思うよ」

















キョン「……んにぁ」

佐々木「……お休み。愛すべき、唯一の僕の親友」


キョン「…………」

古泉「というエピソードを会誌作成の際の、恋愛小説に書けばよかったんじゃないですか?」

キョン「……こんなパラレルワールドを俺は知らん」

古泉「分裂したあなたがいるかもしれません。αでもβでもない、Ω世界線のあなたがね」

キョン「んなわけねえだろうよ、あいつも言ってたんだぜ」

キョン「恋愛感情なんて一種の精神病だ、なんっつってな」

お☆わ☆り

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