佐々木「実は今、僕はパンツを穿いていない」キョン「なんだって!?」 (33)

俺がまだ中坊だった頃。
同じクラスに佐々木という少女がいた。
彼女は女子生徒の前ではどこにでもいる女子中学生のように振る舞うが、男子生徒の前では一人称が『僕』に変わり、まるで男のように振る舞う、そんな一風変わった少女だった。

そして何の因果か、そんな佐々木と仲良くなった俺は、同じ塾だったこともあり、肩を並べて一緒に帰るような間柄となっていた。
特段何かがあって仲良くなったわけではないと記憶しているが、恐らく、ウマが合ったのだろう。佐々木は博識であり、俺は彼女の薀蓄を聞くのがわりと好きだった。

だから、その日もいつものように一緒に帰ろうと佐々木に声を掛けたのだが……

佐々木「キョン……君に大事な話があるんだ」

いつになく真剣な顔で、佐々木は俺の腕を引き、人気のないところへと連れ込んだ。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1494676939

キョン「それで、どうしたんだよ?こんなところに連れ込んで……」

されるがまま、塾の裏手にある空き地の倉庫の隣まで連れて来られた俺は、問いただす。
しかし、佐々木は何やらモジモジとして、なかなか用件を切り出さない。
当時の俺は(もちろん今もだが)、この状況下においても至って冷静であり、佐々木に対して過度な期待は抱いていなかった。
シチュエーションだけを見れば、女子に人目の届かぬところに連れ込まれるといった、大変心踊るような状況である。
しかし、この時の俺の脈拍は毎分70回程度で規則正しく刻まれており、すこぶる平常だ。

そのことからも分かる通り、俺は親友である佐々木を異性として意識していなかった。
それはもしかしたら、男子生徒の前で男のように振る舞う彼女がそう望んでいたからなのかも知れないが、平凡な俺ごときに佐々木の言動の真意など分かる筈もない。

そんな平凡な俺の平凡な日常は、意を決して紡がれた佐々木の一言によって一変した。

佐々木「実は今、僕はパンツを穿いていない」

くつくつ笑う?

キョン「なんだって!?」

この衝撃的なカミングアウトに、俺の脈拍は一気に毎分85回まで跳ね上がり、無意識に視線が佐々木の学校指定のスカートへと注がれる。
下心があったわけではない。条件反射と言ってもいい、健全な男子中学生の正常な反応だ。
しかし、佐々木はそんな健全な俺を咎めた。

佐々木「……見すぎだよ、キョン」

ジト目で口を尖らせる佐々木の剣幕に、やむなく俺はスカートから目を離し、尋ねる。

キョン「ど、どうして穿いてないんだ?」

あまりにストレートな問いかけ。
他に聞きようがなかったのかと思われるかも知れないが、他に聞きようがないのだから致し方ない。理由を尋ねる義務が、俺にはあった。
そして俺が状況の説明を求めるのを事前に分かっていたかのように、佐々木はスラスラと、その驚くべき経緯を語って聞かせた。

佐々木「塾が終わる間際のことだ。催した僕は急いでトイレに向かったんだが……残念ながらあと一歩、紙一重のところで間に合わなかった。そして、今に至るというわけさ」

>>3
笑いますよ
どうぞご期待下さい

キョン「……なるほどな。そう言うことか」

佐々木の説明を受け、脈拍は75回まで落ち込み、平常心を取り戻した俺は、彼女があえてぼかしたであろう言葉の裏側までも、正確に読み取った。つまり、佐々木は漏らしたのだ。
そのことを察した瞬間、また脈拍が80回まで上昇しかけたが、鋼の精神力で持ちこたえる。

焦るな。早合点は禁物だ。
第一に、未だ詳細は不明なのだ。
最も重要かつ、肝心な部分が謎に包まれている。
喜ぶのは時期尚早だろう。

俺は、その謎を解き明かすべく、口を開く。

キョン「大と小、どっちを漏らしたんだ?」

佐々木「キョン!?なんてことを聞くんだ!?君の着眼点はおかしい!おかしいよっ!!」

おっと。
どうやら今の質問は禁句だったようだ。
急いては事を仕損じると言うしな。
ここは焦らず、着実に謎に迫ることにしよう。

キョン「悪い悪い。まあ、そう怒るなって」

佐々木「君はもっと僕のことを慮るべきだ!僕が今、どんなに恥ずかしい思いをしているか、わかっているのかい!?」

キョン「わかるさ、わかるとも。ところで佐々木、汚したパンツはどうしたんだ?」

佐々木「ああ、それなら持ち帰るのは不可能だと判断してトイレに設置された汚物入れに……って!全然わかってないじゃないか!?」

くそっ。佐々木の奴、ガードが固いな。
だが、ここまで頑なになられると、否が応でも期待が高まる。なにせ佐々木は普段、冷静沈着であり、声を荒げることは滅多にない。
そんな彼女がこれほど怒気を露わにするのには、それ相応の理由があって然るべきだ。
だから俺は根気よく追求を続ける。
佐々木の滅多に見れない痴態をこの目に焼き付けるべく、こんな質問を投げかけてみた。

キョン「……ん?なんか臭わないか?」

佐々木「ッ!?」

何気なく零したその一言で、佐々木は一瞬にして茹でダコのように赤くなり、俺は会心の一撃が決まったことを悟った。効いてる効いてる。
それでは、このまま追い込むことにしよう。

キョン「ああ、どうやらこれは、うんこの臭いだな。間違いない。しかし、どうしてこんな人気のないところに人糞の香りが……」

佐々木「そ、そんな筈はない!僕はちゃんとお尻を拭いた!!だからそんな臭いなんて……」

キョン「そうか……やっぱり、大だったのか」

佐々木「!?」

ついに、確信を得た。チョロいもんだ。
佐々木はうんこを漏らしていたのだ。
それを知った瞬間、俺の口から、知れず、愉悦が漏れる。いや、溢れた。溢れ落ちた。

キョン「フハッ!」

口角がつり上がり、ドーパミンが放出される。
それはアドレナリンとなって脳内を駆け巡り、強烈な快感に支配された俺は哄笑した。

キョン「フハハハハハハハハッ!!!!」

高笑いをする俺を、佐々木は悔しそうに睨みながら呻き声と共に何やら文句をつけてきた。

佐々木「うぅ……酷いよ、キョン」

酷いと言われても、トランス状態の今の俺には何が酷いのかすら理解不能である。
とにかく、最高の気分だった。
なにせ佐々木がうんこを漏らしたのだ。
これ以上の幸福がこの世に存在するだろうか?
いや、そんなものは有りはしない。
それほどまでの極致に、俺は到達していた。

佐々木「キョン……お願いだから正気に戻ってくれ!君の助けが必要なんだよっ!!」

そんな完全に正気じゃない俺に、佐々木は呆れてしまうかと思われたが、彼女は諦めず、懸命に語りかけてきた。それはもう、必死に。
その目尻には薄っすらと涙が浮かんでいる。
夕陽を反射して、キラキラと輝く、澄み切った佐々木の涙を見て、俺は正気を取り戻した。

キョン「佐々木……?泣いて、いるのか?」

気がつくと、目の前にはしくしく泣いている佐々木が居た。一体、誰がこんな真似をした?
考えるまでもなく……俺だった。

キョン「す、すまない。ちょっと、どうかしていたみたいだ。あ、謝るから、許してくれ」

この時初めて、俺は女の涙の効能を実感した。
どれほど精神が昂ぶっていても、女が泣けば一気に冷める。恐ろしいまでの威力である。
先ほどの高翌揚感が地平線の彼方へとすっかり沈んでしまった俺は、狼狽しながら許しを乞う。
すると佐々木は、おもむろに手を伸ばし、俺の耳に触れると、思い切り引っ張ってきた。

キョン「痛い痛い痛い!悪かったって!!」

佐々木「本当に君って奴は、見下げ果てた男だよ!全く!信じられない!これに懲りたら、もっと僕に優しくしたまえ!!いいねっ!?」

キョン「わ、わかった!わかったって!!」

佐々木「ん。よろしい。このくらいで許してあげよう。それで、本題なんだけどね……」

耳が千切れる寸前でなんとか恩赦された俺は、くつくつと喉の奥を鳴らして笑う佐々木を見て、ようやく彼女の機嫌が直ったことに安堵しつつ、本題とやらに耳を傾けた。

そう。そうだった。
佐々木はこうして、慇懃無礼な物言いをして、格好良く笑う……そんな不思議な少女だった。

佐々木「帰り道、僕のことをガードしてくれ」

そのように切り出し、佐々木が下した俺への指令は、簡潔だった。帰り道の護衛である。
何から彼女の身を守るのかと聞いたら、あらゆるアクシデントから守るよう厳命された。

佐々木「なにせ今の僕はあまりに防御力が低いからね。突風や、転倒などによって致命的な事態が起こる可能性が非常に高い。そこで、君に僕のことを守って欲しいわけだよ」

キョン「了解した。お前にはさっきの借りがあるからな。大船に乗ったつもりで任せてくれ」

佐々木「さっきの一件で君の信頼は地に落ちているけどね。だけど、それでも君が僕にとって一番の親友であることには変わりない。だから、頼んだよ、キョン。君だけが頼りだ」

キョン「心配するな。全て上手くいくさ」

そうして全幅の信頼を委ねられた俺は意気揚々と帰路につく。すぐ傍にはノーパンの佐々木。
あとから考えてみれば、この時の俺は少々浮かれていた。浮かれるなと言う方が無理な話だ。

しかし、まさか、あんな事態になるとは……
夢にも思っていなかったのだった。

キョン「自転車は……置いていくか」

佐々木「すまないね、キョン」

キョン「気にするな。何かあった時に自転車を押した状態だと対処出来ないからな。お前の身の安全が最優先だ」

佐々木「なかなか……頼もしいじゃないか」

俺なりに考えた結果、自転車は塾に放置することにした。両手を空けておけば佐々木の身を襲うアクシデントに対処し易いと思ったからだ。
そんないつになく気が回る俺に、佐々木は上機嫌でくくっくと喉を鳴らし、褒めてくれた。
誰だって褒められると嬉しいものだ。
そして一度褒められると、もっと褒められたいと思わずにいられない。それが人間だ。
いや、犬だって、猫だってそうだろう。
だから俺は俄然やる気を出して、張り切った。

キョン「佐々木、もっと近くに来てくれ。手を伸ばせば届く距離じゃないと、守れない」

すっかり気分はボディガードの俺の言葉に、佐々木はまたもや機嫌良さげにくっくくと喉を鳴らし、すっと傍に寄った。実に従順である。

佐々木「このくらい近ければ平気かい?」

キョン「これならいつでも守れるな。だが、肘がぶつかって少々歩き辛いな……」

小首を傾げて斜め下から訪ねてくる佐々木の可愛らしさは、ボディガードとしての職務に夢中な中坊には通用せず、俺は接近したことによる弊害を気にしていた。実に真面目である。

佐々木「むむっ?……なら、これならどうだ!」

しかし、佐々木はそんな俺の態度が不満だったようでしばらくジト目をしたのち、俺の右腕に飛びついてきた。何をやってるんだこいつは?

キョン「佐々木、腕を離してくれ。任務に支障が出る。何かあってからじゃ遅いんだぞ?」

佐々木「あ、うん……ご、ごめん。君にリアクションを期待した僕が馬鹿だったよ……。それじゃあ、これだったらどうだい?」

にべもなく叱られた佐々木は、しょんぼり反省した後、おずおずと俺の腰に手を回してきた。
ふむ。これならこちらの両手も空くし、転倒防止にもなる。一石二鳥だ。異論は無かった。

佐々木「よし、それじゃあ行こうか!」

今度は怒られなかった佐々木は嬉しそうにくつくつ喉を鳴らし、俺の腰に抱きつくような格好で満足げに再び歩き始めたのだった。

キョン「佐々木、道路の側溝に注意しておけ」

佐々木「どうしてだい?」

キョン「転倒の危険もあるし、何より覗き魔が側溝に寝転がって居ないかが心配だ」

佐々木「そ、そんな覗き魔がいるのかい?」

キョン「世の中は広いんだ。気をつけてくれ」

佐々木「わ、わかった。忠告、痛み入るよ」

従順に歩を進める俺達だったが、改めて目を凝らすとこの世界は危険に満ち満ちていた。
特に側溝にはかなり神経を使う。
蓋の隙間から変態が佐々木のあられもないスカートの中のそのまた奥の秘境を覗き見ているのではないかと思うと気が気ではない。
では車道側を歩かせればいいかと言えば、そちらも危険でいっぱいだ。マナーにも反する。
紳士たる者、女性に車道側を歩かせるなど以ての外だ。車は歩行者にとって大変危険なのだ。
直接的な接触の危険性はもとより、間接的な走行によって生じる風も現状では命取りである。

何かいい方法はないか……
そこで、名案を思いついた。

キョン「佐々木、俺が側溝の中を這って進むから、お前はその上を歩いてくれ」

佐々木「それじゃあ君が覗き魔じゃないか。馬鹿なことを言ってないで、集中したまえ。そうだ、もし良ければ音楽でも聴くかい?特別に僕のお気に入りの洋楽集を聴かせてあげよう」

俺の妄言を適当にあしらった佐々木はいそいそと鞄から音楽プレーヤーを取り出し、ステレオイヤホンの片側を俺に付け、もう片方を自分に装着した。シャカシャカと音楽が鳴り始める。
どうやら佐々木は音楽を聴いた方が集中出来るらしい。個人的には道端の物音が聞き取れなくなるので困るのだが、また機嫌が悪くなられても面倒なので文句は言わないことにした。

それが功を奏したのか、佐々木は更に上機嫌となって音楽に合わせて鼻歌などを奏でていた。
そうしていると年相応の少女のように感じられ、急に密着している今の体勢が気恥ずかしくなった俺は、それを誤魔化すように佐々木の鞄を取り上げ、自分の鞄と一緒に肩に担いだ。

キョン「荷物がない方が身を守り易いだろ?」

その行動を気遣いと受け取ったらしい彼女は、より一層景気良く、鼻歌を奏でる。
それを聴いてると、こちらも楽しくなる。
佐々木が嗜む洋楽はもっと難解な物とばかり思っていたが、そのリンゴマークの音楽プレーヤーに詰まった膨大な楽曲から厳選されたプレイリストの中には、俺にも聞いたことのある古い洋楽がそれなりに含まれていた。

クインシー・ジョーンズの『愛のコリーダ』など、大昔のディスコを沸かせていたであろう名曲を聴きながら、気分上々な俺と佐々木は足取り軽く歩を進める。まさに、順風満帆だった。

しかし、嵐の前のなんとやら……

その時、突如、突風が吹き荒れた。

佐々木「きゃあっ!?」

キョン「大丈夫だ!後ろはしっかり押さえてる!お前は前だけ守ってればいい!!」

突然の出来事に、堪らずか細い声を上げる佐々木の悲鳴は、俺が今まで聞いたことのない高音の美声であり、必死にスカートを押さえるその姿はこれまで見た中で一番女らしかった。
しかし、そんな垂涎モノの佐々木の一面を目に焼き付ける暇など無く、俺は職務に専念する。

恐らく条件反射なのだろう。佐々木は靡くスカートの前面を押さえるので手いっぱいだ。
俺が咄嗟に後ろを押さえなければ丸見えだった。
まさに、間一髪。紙一重で俺は守り抜いた。
そして、風がやみ、平穏が戻ってきた。
シャカシャカとイヤホンからは音楽が流れ、陽気なテンポのスティーヴィー・ワンダーが俺達の労をねぎらう。世界に音が戻ってきた。

キョン「佐々木……大丈夫か?」

佐々木「ゆ、油断してたよ。やっぱり君に正直に話しておいて良かった。黙ってたら、僕は生きることを諦める羽目になるところだったよ」

内股でガクガクと慄きながら、佐々木は大袈裟なことを言って大きく肩で息をしていた。
その様に、思わず笑うと、キッと睨まれた。

やれやれ……女は本当に気難かしくて敵わん。

しばらくして、佐々木が落ち着いたのを見計らってから、俺は口を開いた。

キョン「また風が吹く前にさっさと行こうぜ」

佐々木「あ、ああ……僕もそうした方がいいと思うけど、その……あのっ!」

こんなところで突っ立っていても仕方がない。
また風が吹く前に危険地帯を抜けようと提案したのだが、佐々木は何故か動こうとしない。

キョン「どうした。また漏らしたのか?」

佐々木「そんなわけないだろう!?」

じゃあ何なんだ。
怪訝な視線を送ると、佐々木は何故か顔を真っ赤にして自分の尻を指し示した。

佐々木「手だよ!手!!君はいつまで僕のお尻を触っているつもりなんだ!?」

言われて気づく。
そう言えば俺の右手は佐々木の尻を鷲掴みにしたままだった。慌てて握力を緩める。
そしてもう一度確認の意味も込めて鷲掴む。

佐々木「ひぅっ!?」

キョン「よし、行くぞ」

またもや聞いたことのない佐々木の甘美な悲鳴に胸を高鳴らせつつ、俺はまるでマシュマロのような尻を掴みながら歩き始めた。
絶対に離すものかと言わんばかりに。

佐々木「キョン、いい加減にしたまえよ!」

その後、佐々木は俺の右手を尻から引き離そうと何度も試みたが、俺の手はまるで吸盤か磁石のように尻に吸い付き、決して離れなかった。
いや、離すべきではないと思ったのだ。

ここまでの経過から誤解している者も多いかも知れないが、それは断じて下心ではない。
当時の俺は(もちろん今もだが)、純粋無垢な純情青少年だったので劣情など抱く筈もなかった。
確かに佐々木の尻は極上の柔らかさであり、おまけにパンツを穿いていないこともあって、スカートの生地ごしにリアルな質感を与えてくれたが、中坊の俺にとってはただの尻だった。
その価値を理解するのはずっと後になってからであり、ガキにはまだまだ早い領域だ。
男子中学生なんてのはそんなものだろう?

だから俺が佐々木の尻から手を離さなかったのには、別の理由があった。
それも、この上なく真面目な理由である。

キョン「こうしていれば、また突風が吹いても慌てる必要はないだろう?」

そんな俺の正論に、佐々木はぐうの音も出ずに論破することを渋々諦めて、尻を掴まれながら大人しく歩き始めたのだった。

それからしばらく、お互い無言で歩いた。
イヤホンからはエリック・クラプトンのしっとりとした楽曲が流れている。
佐々木はもう怒っていないようだった。
そろそろ長い付き合いだ。そのくらいわかる。
それを裏付けるように、佐々木は不意に口を開き、そして唐突におかしなことを言い出した。

佐々木「なんだかおかしな気分だよ。僕は今、パンツを穿いてなくて、君は堂々とお尻を触っている。しかもそれが不思議と嫌じゃない」

くくっくと喉を鳴らして、佐々木は笑う。
蠱惑的な台詞も相まって、酷く扇情的だった。
彼女は前を見据えてこちらを見ようとしない。
俺の視線が横顔に注がれているのを認識しながら、こちらの反応を試し、愉しんでいた。

佐々木「さて、キョン。どうして僕が君にお尻を触られても嫌じゃないか……わかるかい?」

キョン「……さあな」

佐々木「やはり君は僕に似ているね。わかっている癖に、わかろうとしない」

そんないかにもわかったようなことを言う佐々木に腹が立って、なんとかギャフンと言わせてやろうと、そう思い、俺はおもむろに彼女のスカートの中に手を突っ込んだ。思いっきり。

佐々木「ふぁっ!?」

へっ。ざまあ見やがれ!

佐々木「キョン!?どうして君は空気が読めないんだ!!あっ!コラッ!やめっ!ひぅ!?」

佐々木の文句を聞き流し、生尻を揉みしだく。
スカートごしの感触からある程度の予想はしていたが、やはり生尻は格別だ。素晴らしい。
柔らかさはもとより、肌に吸い付く弾力と張りが想像以上だ。先ほど散々揶揄ってくれた仕返しと言わんばかりに緩急をつけて揉んでいると、前方からこちらに向かって歩いてくる人影が見えた。まずい。同じクラスの生徒である。

キョン「佐々木、隠れるぞ!」

佐々木「へっ?あ、ちょっと!むぐっ!?」

丁度いい所に自動販売機があったので、その影に隠れるべく、佐々木を奥に押し込んだ。
下手に騒がれて気づかれることを恐れた俺は、鼻を塞がないように注意しながら佐々木の口を手のひらで覆った。そして耳元で静かにしろと囁くと、彼女はコクコク頷き、黙った。
ほとんど抱きしめるような形で息を潜めていると、なんとも間の悪いことにその生徒は自動販売機で呑気にジュースをお買い上げ下さった。

そしてその場でプルトップを開けて飲み始めたのを見て、これは長期戦になると思った俺は、そこでつい、魔が差した。差して、しまった。
ふと視線を下げると、不安げな佐々木の姿が。

そんな弱々しい彼女に、

嗜虐心を掻き立てられた俺は……

この状況を最大限楽しむことを、決意した。

キョン「ごめんな、佐々木」

佐々木「ん?むぐっ!?」

あらかじめ言っておこう。
これから繰り広げられる惨事は、至って健全な物であり、年齢制限を設けるに値しない、言ってみればガキのお遊びみたいなもんだ。
だが、当時の俺にとっては(もちろん今もだが)、少しばかり躊躇いを覚えてしまうような、そんな遊びであり、だからこそ、最初に佐々木に謝っておいた。要するに、俺はチキンだった。

そんなチキンな俺が狙うのはもちろん、全年齢対象な尻の穴のみ。そこに、狙いを定めた。
法的に何ら問題のない穴だけを、攻める。

肩に担いでいた鞄は、既に地面に下ろした。
片方の手で佐々木の口を塞ぎながら、もう片方の手で尻を弄る。そして、見つけた。

佐々木「ッ!?」

辿り着いた尻穴に小指をそっと差し込む。
佐々木がびくりと身を震わせた。
だが、それ以上の抵抗は出来ない。
何せ同じクラスの生徒がすぐそこにいるのだ。
しかし、もっとつねってきたりするかと思っていたが、存外抵抗は少なく、最終的に佐々木はこちらの身体に腕を回してしがみついてきた。

これなら大丈夫かと、口を塞いでた手を離すと、佐々木は俺の胸元に顔を押し付けてくる。

佐々木「んっ……ふっ……ッ……はっ……!」

どうやら、嬌声を堪えているらしい。
そんな佐々木が堪らなく愛おしくなり、その柔らかな身体を包み込むように抱きしめながら、俺は尻穴を執拗に攻め続けた。

まさに、至福のひと時だった。

どれくらいそうしていただろう。
気がつくと同じクラスの生徒の姿がない。
そして視線を下げると、佐々木がその場にへたり込んでいた。またやっちまったらしい。

キョン「本当に申し訳ありませんでした!!」

潔く、深々と頭を下げる。それが最善手。
いかに健全な範疇の中での出来事とは言え、流石に張り手の1発でも飛んでくるかと思ったが、待てども待てどもビンタはおろか、怒声のひとつも聞こえて来やしない。明らかにおかしい。
そう思い、恐る恐る様子を伺うと……

佐々木「た、助けてくれ、キョン」

佐々木は何やら青い顔をして、お腹を抱えて蹲っていた。そこで俺は、ピンときた。
これは、便意の兆候であると。
先ほどの刺激により、佐々木の腹に潜んでいた眠れるうんこを呼び覚ましてしまったようだ。

キョン「どこかのコンビニまで持ちそうか?」

佐々木「いや、厳しいと思う。立ち上がったら十中八九、流れ出てくるだろう」

険しい顔で冷静に己の腹具合を診断した佐々木に嘆息して、俺は最終手段を取るべく、自分の鞄の中身を全て佐々木の鞄へと移した。

これで、簡易トイレの完成である。

キョン「今なら誰も見ていない。早くしろ」

空っぽにした鞄を佐々木の前に置いた俺は、せめてもの情けとして背を向け、周囲への警戒監視に入った。背後で生唾を飲む音が聞こえる。

佐々木「キョン……約束してくれ」

この状況で何を言ってるんだ?
人目を避けて裏通りを進んで来たとはいえ、先ほどのような偶発的な遭遇は多いにあり得る。
やるなら早くした方が身の為だと、そう言おうとしたら、先んじて佐々木が懇願してきた。

佐々木「このあと何を見て、そして聞いても、決して僕を嫌いにならないと約束してくれ!」

涙に濡れた、佐々木の声。
思わず振り返って、抱きしめたくなる衝動に駆られたが、ぐっと堪えて、振り向かずに声を張り上げた。答えなんざ、決まりきっている。

キョン「佐々木っ!うんこを我慢しているお前は最高に素敵だった!そして同じ台詞を脱糞した後にも必ず言ってやる!約束だっ!!」

俺の魂の宣誓に、息を飲む佐々木の気配。
その後、少しばかりの衣擦れの後、何かの拍子に操作を誤ったのか、それと敢えて大音量で自身の脱糞の音を誤魔化そうとしたのかは定かではないが、イヤホンからクラシックの名盤が流れてきた。この出だしを聞けば誰でもわかる。

それは、ベートーヴェンの交響曲第5番。

『運命』の扉が今、開かれた。

ベベベベェーンッ!!!!

その特徴的な出だしと共に佐々木は脱糞した。
まさに、出オチである。
しかしながら、その力強さ、キレの良さは、クラシックの造詣がさほど深くない俺の胸ですら震わせるだけの、何かがあった。
例えるならばそう、20世紀最高の指揮者と誉れ高いマエストロであるアルトゥーロ・トスカニーニが指揮を振るう第5番に匹敵するような……
そんな、佐々木の脱糞。

言うなれば彼女こそが……

佐々木こそが……

偉大な『ベートー便』そのものだった。

キョン「フハッ!!」

これが笑わずにいられようか!?
俺は震えていた!歓喜していた!
打ち奮え、昂ぶり、知れず涙が頬を伝う。

キョン「フハハハハハハハハハハッ!!!!」

トスカニーニへの、ベートーヴェンへの、そして佐々木への万感の思いを込め、股間に滾る指揮棒を一心不乱に振るう。脱糞万歳ッ!!
心拍数は毎分120回を超え、運命石の扉の先で俺は……『リビドー』とは何かを知った。

やがて、第1楽章が終わり、爽やかな第2楽章が始まるのと同時に俺も錯乱状態から回復して、現実世界へと戻ってきた。

キョン「……佐々木?」

佐々木「ぐすんっ……ぐすんっ……」

振り返ると、佐々木はまたしても泣いていた。
一応、鞄の中身を確認する。

……………なるほどな。

詳しい状態については差し控えさせて頂く。
それが佐々木の為であり、ベートーヴェンの為でもあった。偉人を侮辱するなど言語道断だ。
このことは、俺の胸だけに留めておこう。

確認作業を終えた俺は、しっかりと鞄の蓋を閉めて、改めて佐々木の様子を伺った。
すると彼女は何かを求めるように手を差し出した。恐らく、尻を拭く紙が欲しいのだろう。
だが、あいにく俺はティッシュを切らしてしまっていたので、ハンカチで代用した。

キョン「今、拭いてやるからな」

ふらつく佐々木を立たせて、自動販売機に手をつかせる。そして背後から尻を拭いた。
この時代の自動販売機にはまだあまり防犯カメラが設置されていなかったことが不幸中の幸いだった。それだけの痴態を俺達は晒していた。
尻を綺麗にしてやると、ようやく佐々木も人心地ついた様子で、ふらふらとこちらにしがみついて体重を預けてきた。
そろそろ、第2楽章も終わりを迎える。

佐々木「キョン……嫌わないで……キョン……お願いだよ……僕を嫌わないでくれ……」

そんな、不安定な佐々木の心中を表すかのように、おどろおどろしい第3楽章が始まった。

まるでうわ言のように嫌わないでと呟き、嗚咽を漏らす痛ましい佐々木をそっと抱きしめる。
彼女は震えていた。怯えているように思えた。
だから俺は黙って佐々木の背中を撫でてやる。
大丈夫だと、心配するなと、思いを込めて。

このような恐慌状態では、言葉など無意味だ。
不安定な佐々木を支えることに専念する。
中坊が拙い言葉をかけてやるよりも、その方がよっぽど安心させてやることが出来るだろう。
佐々木の震えが収まるまで、黙って待つ。

しばらくそうしていると、佐々木の荒い吐息が幾分か落ち着いてきた。そろそろ、頃合いか。
見計らって、慎重に言葉を選び、口を開く。

キョン「佐々木……お前は素敵だったよ」

佐々木「……ほ、本当かい?」

キョン「ああ。最高の脱糞だった。佐々木は本当に素敵だ。だから、何も心配するな」

佐々木「キョン……キョン!ああ、キョン!!」

優しくそう囁くと、佐々木は感極まった様子でまるで幼子のように泣きじゃくった。
そんな彼女の背を撫でながら、何度も、何度も、素敵だと囁く。お世辞ではなく、本心から。

そろそろ第3楽章も終わりが近い。

まるで、不安と絶望から解き放たれた佐々木の心に光が差すかのように、第4楽章が始まった。

佐々木「もう、大丈夫。取り乱してすまなかったね。キョン、君のおかげで助かったよ」

キョン「気にするな。俺とお前の仲だろう?」

佐々木「……言ってくれるじゃないか。やはり、持つべきものは友、だね」

そんな青臭いやり取りをした後、佐々木は俺の胸から顔を上げ、涙を拭い、晴れ晴れとした微笑を浮かべて、くつくつと喉を鳴らした。
それは第4楽章に相応しい、歓喜の笑みだった。
その美しい微笑みを見つめていると、第1楽章で歓喜してしまった自分が心底情けなくなった。

それが顔に出ていたようで、佐々木はそんな俺の様子に一瞬キョトンとした表情を浮かべて、その後くっくくと意地悪そうに喉を鳴らすと、目を細めて優しげな口調で諭した。

佐々木「君も、素敵だったよ、キョン」

どうしてそんな恥ずかしい台詞を平然と言えるのだろう。佐々木は本当にずるい奴だった。
あまりの気恥かしさに、思わず顔を背けると、佐々木は俺の顔を両手で挟み込み、こちらの額に自分の額をコツンとぶつけて、またくつくつと笑う。まるで逃さないと言わんばかりに。

キョン「……お前と親友になれて、光栄だよ」

佐々木「おや?……そうかい。僕も丁度、同じことを思っていたところだ。気が合うね?」

顔を真っ赤にして、そんな格好の良い台詞を格好良く笑いながら言ってのける佐々木。
同じく顔を真っ赤にした俺は、どうせ敵わないと思いつつも、必死に彼女の拘束から逃れ、地面に置いた鞄を肩に背負い直すと、気を取り直すように手を差し伸べた。

キョン「それじゃあ、帰るか」

佐々木「そうするとしようか。それでは、しっかりとエスコートしてくれたまえよ、キョン」

差し伸べた手を、大仰な手振りで掴んだ佐々木にやれやれと首を振り、再び帰路を歩む。
すっかり傾いた夕陽と、肩に背負いこんだ鞄に詰まった佐々木のうんこの重みが、とても印象に残っている。充実感が胸を満たしていた。


これはそんな初々しい中学時代の

青春の1ページの一幕であった。


【佐々木とキョンの糞害】


FIN

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom