沙綾「好きです////」有咲「へっ!?//////」 (65)



昨日の蔵での練習は、いつもより大分長くなって、帰りが遅かった。

何度も何度も同じ曲を練習して、疲れなかったわけじゃないんだけど。

それでもなんか、楽しかった。


ふと気がついたら、夜の9時を回ってて。みんな、慌てて帰った。


有咲は大丈夫って言ってくれたけど、やっぱり悪かったな。

後でちゃんと謝ろう。

誰か、お母さんとかに怒られたりしていなければいいんだけど……。


その練習終わりの、今朝。やっぱりまだ、大分眠い。

こうして学校までの道のりを歩くだけでも、既に2回はあくびをしている。


みんなで練習していると、時間が過ぎるのを忘れてしまうから、

昨日の事も仕方ないと言えば仕方ないんだけど。


それで次の日の練習に支障が出たら、本末転倒だし……。

これからは、時間もある程度は気にしようかな。



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「おっはよー沙綾!」


「わっ! ……びっくりした、香澄かー」


突然声をかけてきたのは、ボーカル兼ギター担当の戸山香澄。

いつか、私をバンドに誘ってくれたのも彼女だった。


「ったく、沙綾を見た途端いきなり走っていきやがって……」


後ろからトテトテと追いついてきて、今もなおハアハアと肩を上下させている、

明るい色のツインテールの女の子。

彼女は、キーボード担当の市ヶ谷有咲。

見た目は清楚なお嬢様なのに、素直ではない所が玉に傷だ。


「おはよう、香澄、有咲。朝から二人とも元気だねー」


「私は全然元気じゃねえ」


 有咲が不満を口にしているが、香澄はそんなことお構いなしだ。


「んー! 今日も沙綾、いい匂い!」


「え? ――ちょ、香澄っ!?」


香澄が突然、私の腕に抱き着いてきた。


「……お前なあ、誰彼構わず抱き着くなっつーの」


有咲は呆れ気味にため息をつく。


「えっへへー、パンの匂いがするー」


ニコニコと小動物のように笑う香澄を見ていると、私は何も言えなくなってしまう。



「私ねー、沙綾が傍にいると、見えなくてもすぐわかっちゃうんだあ、すごいでしょー」


私の腰の辺りに手を回しながら、子犬のように鼻をクンクンとさせる香澄。


――それって……見えなくても分かってしまうくらい、私の匂いは特徴的ってこと?


「そ……そんなに匂いする……かな?」


聞くと、香澄は既に明るい表情を、更にパアッとキラキラさせて。


「するよー? 沙綾が通ったって、私すぐにわかるもんっ!」


「……そっか、そんなに……匂いするんだ」



「……パンの匂い……か」


教室に到着して、みんなとの会話を終えて席に着いた私は、それとなく自分の二の腕に鼻を近づけた。


正直、自分からどんな匂いがするかなんて、自分では全然分からない。


私の家は『山吹ベーカリー』という店名でパン屋を営んでいる。

私は、いつもお父さんの仕事を手伝っているから、パン屋の匂いが身体に染み込んでいても不思議ではない。

それにパンは大好きだし、身体から仕事場の匂いがすると言われれば、悪い気はしない。


……でも、私だって年頃の高校生だ。


身体から食べ物の匂いがするなんて……傍から見たら、どう映るんだろう。


言いようのない不安感が、胸の奥底にドッと溢れてくる。



2つの見慣れた影が、いつの間にか私の座る席の目の前まで近づいていたことに、

ボーっと考え事をしていた私は全く気が付かなかった。


「沙綾? どうしたの、元気ないね」


「沙綾ちゃん、何かあった?」


おたえとりみりんが、私の顔を覗き込んできた。

机に座って木面をじっと見つめていただけなのに、私は二人を心配させてしまったらしい。



「う……ううん、何でもないよ。

 そ、それよりも……今日の放課後も、蔵で練習するんだよね! また、みんなで頑張ろ!」


適当に言葉を取り繕い、いつもの私を演じることで、どうにか2人には隠すことができたけど。

胸に居座る黒い何かは、違和感として1日中残り続けた。



放課後、私はまっすぐ有咲の家の蔵に向かった。

最近はお母さんも、お父さんがいるから心配いらないと言ってくれていて。

それでも、ホントは心配で。普段は、家に寄ってから向かうんだけど。


――今日は、もう一つの理由があった。


もやもやしている今の気分を、ドラムを叩くことで忘れたかったんだ。


「おっ、早いじゃん」


階段を下りた先には、一足先にキーボードの練習をしていたらしい、ツインテールの女の子。


「有咲……他のみんなは?」


「さあ? まだ来てないんじゃねーの」


「そっか……」


荷物を置いて、ドラムの椅子に腰かける。


「随分と白けた顔してんなー。……朝の事、気にしてんのか?」


スティックを鞄から取り出すと、何だか優しい声が、私の耳に届いた。


「え……何だ、気づかれてたんだ」



顔を上げると、有咲はキーボードに目を向けたまま。


「……そりゃあ気づくって。別に気にすることじゃねえ。

 あいつ、絶対そんなに深く考えて発言してねーよ。

 考えたことをそのまま言ってるだけだから、こっちが考えるだけムダ」


「あー……まあ、それは分かってるんだけどね。

 ただ、そんなに私、匂いしてるのかな……って思っちゃって」


「私は全然わかんねー。香澄の嗅覚は犬並みだからな。

 初めて会った時、沙綾の家がパン屋だって気が付いたのは、香澄だけだったじゃん?」


言葉も、言い方も。全部が全部、私に気を遣ってくれている。

――本当に、優しいんだから。


「……フフッ。ありがとね、有咲」


「っ!! 別に、そんなんじゃねえっつーの! ったく沙綾はホント……ああもう暑い!

 ちょっと飲み物取ってくる!」


そう言うと、有咲は蔵を出て行ってしまった。

……可愛いな、有咲は。彼女と話していると、どういうわけか元気が湧いてくる。


彼女の言う通り、余り考え込んでも仕方がない。ドラムを叩いて、全部忘れよう。



――ふと足音が聞こえたような気がして。

顔を上げると、階段状に積み重なった棚の上に、香澄が立っていた。


「……聞いてたの?」


「……うん、何か、聞こえちゃった」


先程の会話を、全て香澄に聞かれてしまったのだろうか。

もしもそのせいで、香澄が今、少しでも負い目を感じているとしたら……。


「ごめんね香澄、全然そんなんじゃないから。私の思い違い。ドラム叩けばすぐに――」


次の瞬間、香澄の身体が私に密着した。

階段から下りてきた彼女が、突然私に抱き着いたのだ。


「かっ、香澄!?」


いきなりの出来事に、心臓の鼓動が高鳴っていく。

蔵の密室に2人きりで抱き合っているという状況を意識してしまったせいか、顔が熱くなってくる。


「えへへ……いい匂い」


耳元で囁かれ、彼女の甘ったるい声が私の脳を蕩けさせる。

今の私は、耳まで真っ赤になってしまっているに違いない。



背中に回された両手が解かれ、香澄の顔が鼻先まで近づく。


「……私ね、沙綾の匂いが好きなんだ。

パンの匂いに交じって、パンとは違う、沙綾の甘い匂いがするの。だから、近くにいるとすぐに分かっちゃう」


「へ……へえ、そう……なんだ」


どう返せばいいのか……分からない。


香澄は、私の事を変だと思っていないだろうか。

抱き着かれて顔が真っ赤になってしまった私を見て、引いていないだろうか。


香澄の顔が見れない。無意識に両手で顔を隠してしまう。


「その……香澄? 別にね、何でもないから、これ。放っておけばすぐ直るから」


不意に、両手に温かい感触を感じ……優しい手つきで、隠していた顔から離される。


目の前で、香澄が私の顔を凝視していた。



お願い……そんなに見ないで。

こんなに真っ赤になった顔、見られたくない……。


「……かす……み……?」


「私、さーやのこと大好き!!」


……え?

だい……すき?


「~~~~~~~~~~~!!」


顔から火が出るのではないかと思うほど、全身の温度が上昇していく。

ヤバい。胸のドキドキが止まらないっ……!!


分かってるんだ……香澄が、深く考えていないことくらい。

私だって、香澄をどう思っているのかと言われたら、友達で、同じバンドを組む仲間だと答えるしかない。


――でも、今この瞬間だけは……違った。



「……あんたら、何してんの?」


ふと見上げると、みんなの飲み物を御盆に載せて持ってきてくれたらしい有咲が、

階段から私達二人を見下ろしていた。


「あ……有咲、戻ったんだ」


その後ろから、りみりんとおたえが顔を見せる。


「ごめん、遅くなっちゃって~」


「オッチャンに夢中になってたら、こんな時間になった」


有咲の後ろに続く形で降りてきたりみりんは、何やら不思議そうな表情で、私の顔を凝視する。


「……なんか沙綾ちゃん、顔が赤いような……熱?」


「……? 風邪でも引いた?」


そんなりみりんを見て、おたえまでもが私を心配し始める。


「さ、さーて、練習始めるぞ」


話の流れを切ろうとしてくれたらしい有咲は、何だか頼もしく見えて。

……私は。


「……練習しようだなんて、珍しいね、有咲」


「なっ……いいんだよ! ……ほら、さっさと練習!」


私の言葉に怒ったのか、赤面する有咲。


結局、その日の私は動揺してて、上手く演奏できなくて。

あんまり、練習にならなかった。

沙綾視点はここまで。ありさあやを期待して来られた方、何だか申し訳ありません。
明日、有咲視点で書くつもりです。見かけ次第、覗いてくださると幸いです。

期待
だけどどこかで読んだかな?

>>13
その通りです、以前pixivで投稿したことがあります。同じ作者ですので安心なさってください。
現在そのアカウントは削除しており、その続編を書いていこうと考えております。



――昨日、蔵で見たあの光景は、一体何だったんだろう?


みんなの飲み物を持って蔵に戻ったら、沙綾が顔を赤らめていて。

彼女の目の前には、いつも通りにニコニコした香澄が立っていて。

何もなかったとは、とても誤魔化しきれない。そんな雰囲気だった。



「有咲? どーしたの、ボーっとして」


香澄が、あたしの顔を覗き込んで言う。


「は……はあっ!? ボーっとなんかしてねえ!」


「そう? 何かあったら言ってね!」


「なんもねえ!」


「有咲、考え事? 悩んでるなら、オッチャン見に来る?」


「行かねえから!」


今朝は、香澄だけでなく、おたえまで朝ご飯を食べに来て、にぎやかだった。

朝から勘弁してくれとは思ったけど、心底嫌だったわけではない。寧ろ……。



「そういえば香澄。昨日の練習、何かあった?」


「え? 昨日って?」


おたえが、香澄に尋ねた。

声音は、いつもと何ら変わりない。表情も、いつも通りにあっけらかんとしている。

ただ……雰囲気が少し変わったように思うのは、あたしの考え過ぎなのだろうか?


――いや、違う。

きっと、あたし自身が動揺してしまっているから、そう感じるんだ。

おたえの、その質問に。


「何かって何?」


本当に何一つ心当たりが内容で、香澄がキョトンと首を傾げる。


「何か……ただならぬ雰囲気って感じだった。沙綾も顔が赤かった」


「――ブッ」


思わず吹き出してしまった。

おたえは、何も考えていないようで、意外と鋭い。



「ただならぬ……雰囲気? んー……あ! そうだ!」


思い当たる節があったようで、香澄は右手の人差し指をピンと立てる。


「何か、沙綾の様子が変だった! ドラムの調子が、なんかおかしかった!」


「それだっ! わたしも、何だか沙綾が、心ここにあらずって感じに見えた!!」


香澄に同調するおたえを見て、あたしは何故か……ヤバい、と思って。


「そ……そそそーだ! 香澄! 今日の宿題何だっけ!?」


「宿題? んー……何だっけ?」


誤魔化すように投げかけたあたしの質問に、香澄は何ら不自然を感じることなく考え込む。



「宿題なら、今日は英語だけじゃない?」


「あっ! 忘れてた!」


おたえが言うと、香澄は慌ててスクールバッグからノートを取り出す。


「香澄……何してんの?」


「歩きながら宿題!」


「止めなってば! 学校着いてからでも間に合うっつーの!」


「歩きながら……いいね、今度わたしもやってみる!」


「そこっ! 関心すんな!!」


誤魔化せてんのか……これ。

何だか楽しそうに笑う二人を見ると、一応は誤魔化せているのかもしれない。

本当に、何考えてんのか分からない奴ら。



――それより、さっきから胸の中に溜まっている、この淀みは何?

分からない……この正体が何なのか。


昨日の練習前、蔵で変な雰囲気を醸し出していた香澄と沙綾を見てから、

ずっと溜まってるこの淀みが、胸の奥をギュッと締め付けてくる。


香澄とは、友達だ。

あの赤いギターを見せた時から、しつこくあたしに付きまとってきて。

いつの間にか、あたしは香澄と話すようになって。

だからきっと……友達なんだ。


なら、沙綾とはどうだろう。

彼女も同じだ。

昼食を一緒に食べるようになってから、沙綾とも普通に話せるようになっていた。

たまに、二人でショッピングに行ったりすることもあるけど……それは香澄もそう。


まあ、香澄の場合は大体振り回されてばっかで、

どっちかっていうと仕方なく付き合ってやってるって感じだけど。


とにかく、二人で出かけてても、そんなの女子高生ならよくある事で。

だから、友達。



なんだ……二人とも、ただの友達じゃん。

友達同士が仲良くしている所を、たまたま目撃しただけだ。

普通なら、何かを感じる所じゃない。寧ろ、喜ぶべき所だろ?

あたしとの関係よりも、二人の関係の方がずっと長くて、深いのは、元々知っていた事だし。

今更、あたしは何を動揺しているんだろう?


「……有咲? 具合悪い?」


「うわあ!? ちけえよっ!!」


びっくりした……いきなり、おたえの顔が鼻先まで来てたから。

ったく、おたえってば、もう少し自分の行動を省みたらどうなんだ。

こんなんじゃ、誰に勘違いされてもおかしくない。


今の、りみが見たらどう思うんだろう……苦労しそうだ、彼女も。



……苦労? 苦労ってなんだろう。


おたえとりみが、友達以上の関係だって事は分かってる。

だから、今の光景を見たりみは、嫉妬するに違いない。

あたしだって、多分そう。

好きになった相手が、他の人と仲良くしていたら、きっと……。


――なら、この淀みも嫉妬?


……まさか。あたしが誰かを好きになるなんて、そんなことあり得ない。


「あーりーさっ!」


「……ん? ――ちょっ!!」


考え事をしている間に、いつの間にか香澄が後ろにいて。

背中から思いっきり抱き着いてきた。

その勢いで軽く前のめりになったけど、どうにか踏ん張って倒れるのだけは我慢した。



「フフ……あーりさ!」


「バカッ! あっぶねえだろぉ!」


「だって、有咲が何だか落ち込んでるように見えたんだもん!」


「落ち込んで……?」


あたしが……落ち込んでいた?


一体、何に落ち込んでいたというのだろう。

そんなの……まるであたしが……


「あ! 沙綾!!」


その名前を聞いた途端、あたしの胸がドクンと跳ねた。

そんなことに香澄が気付くはずも無く、あたしの身体から離れ、

前方で振り返る女の子の下へと駆けていく。



ポニーテールを揺らしてこちらに顔を向ける彼女は、本当に華憐だ。

その桜色の艶やかな唇が、ゆっくりと開いて。

目元が柔らかく緩んで、温かな瞳を私達に向ける。


「あ、香澄ー! おはよう!」


「沙綾おはよう!!」


駆けたままの勢いで、香澄は沙綾の華奢な身体に抱き着いて。


「うわあ! ……もう、危ないよ香澄ー」


「今日もパンのいい匂い!」


「香澄……あんまり女の子にそういう事言っちゃダメなんだよ?」


「えっ、そうなの? じゃあ、次から気を付ける!」


「うん、ならよし!」


沙綾……案外普通だ。昨日のアレが、嘘のように。

ただ、香澄が沙綾に抱き着いているのを見ていると……また胸が苦しくなってくる。


一体、この気持ちの正体は何?



「……香澄」


「ん? どうしたの、有咲」


「前から言ってんだろ、誰彼構わず抱き着くなって」


「あ、そーだった!」


沙綾に抱き着いていた香澄は、スッと彼女から離れて。

それを見たあたしは……僅かに胸の淀みが晴れた気がした。


「私は別にいーけど? もう慣れちゃったし」


言いながら、沙綾が苦笑する。

何でもなさそうな彼女の表情を見ていると……無性にイライラしてきて。


「っ……あたしがよくねーんだよっ!!」


――はっ。


勢いに任せて、叫んでしまった。

顔をあげると……香澄も沙綾も、黙ってあたしの顔を見つめていて。


「……ごめん、あたし……先、行くから……」


その場から逃げ出すように、あたしは速足で教室へと向かった。



「はあ……やっちまった」


放課後、誰にも会わないように、走って帰宅したあたしは、気分を紛らすように盆栽を眺めていた。


「今日もタマガワは可愛いなー……それに比べて、あたしは……」


分かってる……この、黒い感情の正体は。

多分……嫉妬してるんだ、あたし。それも、沙綾に。


「はあ……情けねー」


自分の勝手な気持ちを沙綾に押し付けて。香澄にまでイライラをぶつけて。

最悪だ……あたし。


二人が来たら……ちゃんと謝ろう。

それで、あの事は……無かったことに……



「有咲」


不意に聞こえた声。


胸を、締め付けられるような……優しい声。


こんな所に、こんな時間に、彼女が一人で来るはずがない。

だってここは、蔵から離れてて。

彼女も、いつもは一度自分の家に寄ってから蔵に来るから、こんなに早く来るはずがなくて。


それでも……分かってても、期待している自分がいて。

彼女の声を、聴き間違えるはずがなくて。


「沙綾……どうして」


「どうしてって、まー……たまたま?」


「たまたまって、お前な……」


自分の唇に指先を当てて軽く首を傾げる仕草は、それだけで胸がギュッと締め付けられる。



香澄みたいに……自分に素直になれたらいいのに。

どうしても、そうなれない自分がいる。


拒絶されたらどうしようって。

拒絶はされないまでも、内心嫌だと思われたらどうしようって。

怯えてしまう、自分がいる。

いつまでたっても臆病な、情けない自分がいる。


「有咲は、こんな所で何してるの?」


「何って言われても、タマガワ……じゃなかった! 盆栽! 見てただけっ!」


盆栽に名前つけてるなんて知られたら……。

ただでさえ香澄とりみに知られて恥かいたってのに、沙綾にまで知られたくない……!


「タマガワ? ……ああ、その盆栽の名前か。可愛いじゃん」


「ちっ、ちが……」


「ん?」


「っ!! ……そう! 可愛いんだよタマガワ!」


もうヤケクソだ。こんなの、引かれるに違いない。終わった……



「フフッ……有咲ったら、可愛い」


「……へ?」


沙綾が口にした一言の意味を理解した途端、あたしはメーターが上がるように全身の体温が急激に上昇した。


「そんな……何も耳まで真っ赤にしなくても……」


今度は、沙綾までもが顔を赤くする。

その様子を見て……自分を抑えきれなくなって。


彼女の身体を、抱きしめていた。


「あっ……有咲!?」


「うるせー……ちょっと黙ってろ」


あたしの腕の中に収まっている沙綾の身体は柔らかくて、でも腰がすごい細くて、

今にも壊れてしまうのではないかと思うくらいに儚くて……愛しい。


――あたしは……沙綾が、好きなんだ。


さっきからずっと黙ったままの沙綾は、

グングンと体温が上昇しているみたいで、その温かさが服越しにも伝わってくる。


……どれくらい経ったんだろう。

多分、10秒ちょっとのその時間は、あたしには永遠にも感じられた。

でも、流石にずっとそのままってわけにはいかない。


そっと沙綾の身体から離れたあたしは、顔を見られないようにすぐに背中を向けた。


「……練習、行くから」


本当に、小さな声しか出なかったけれど。確かに伝わったみたいで。

彼女の苦笑が、返事として聞こえてきた。


たったそれだけのやり取りでも嬉しくなって、つい表情が緩んでしまう。

そんなみっともない顔を見られないように、速足で蔵へと向かった。



――その時。


「さっ……沙綾!?」


後ろから、ギュッと抱きしめられた。


その抱擁は、これ以上ないほどに温かく、優しい。

胸がクシャクシャに締め付けられる。切なさでいっぱいになる。


「有咲……ありがとう」


耳元で囁かれた沙綾の声は、チョコレートよりも甘ったるい。

それだけで脳が蕩けそうで、全身の奥底から溢れ出す何かに、ドクンと揺さぶられた。


「……この……ばかぁ……」


時間が止まったように感じた、その瞬間は。

あたしにとって……最高に幸せだった。


胸元に回された二本の細くしなやかな腕が、静かに解かれて。

隣に並んだ彼女の表情は……一輪の花が咲いたかのように、素敵だった。


「行こうか、有咲」


「……うん」


何も言ってないのに、お互いに手を差し出して、指を絡め合う。


まるで、この世界に二人だけしか存在していないかのような、そのひと時を。

わたしはきっと……いつまでも忘れない。

有咲sideはこれで終了。次回、たえsideか沙綾sideで迷ってる。

いいね
すきだよ
順番が違うだけでどっちサイドもやるんだよね?

>>33
沙綾sideの場合ありさあやの続編。
たえsideの場合たえさあや。時系列は同じ。
話の流れ的には沙綾sideからの方がいいかな。


「沙綾、今日も遅かったわね」


家に帰ると、お母さんが明るい表情で出迎えてくれた。


「あ、うん。今日も、練習長引いちゃって……ごめん」


「いいのよ。沙綾がやっと自分に優しくなれたみたいで、お母さん嬉しい」


「うん……ありがとう、お母さん」


「夜ご飯はどうする?」


「すぐ食べるよ。でも、一旦部屋で着替えてくるね」


「あー……ヤバいかも」


今日の練習の直前、私は有咲と色々あって。


「もー! なんであんな恥ずかしい事しちゃったかなー!」


思い出すだけで、体温がグングンと上昇してくる。


有咲に抱き締められ、私からも抱きしめて。

その時に感じた感情は、弟や妹が抱きついてきた時とは全然違うものだった。

触れた部分から温かさが伝わってきて、幸せが溢れてくるような。

そして、胸の奥底がギュッと締め付けられるような。

苦しいけれど、心地いい。そんな感覚だった。


「私……有咲のこと、好きなのかも」


あり得ない話ではない。

有咲と接する時の私は、自分でも分かってしまうくらい挙動不審だから。

香澄達と話している時と比べて、明らかに違う。

有咲の匂いを感じるだけで。

有咲の声を聴くだけで。

有咲の顔を見るだけで。

彼女の存在を感じるだけで……胸が高揚する。どうしようもなく。


ふと、さっきの出来事を思い出す。

いきなり、有咲が私の胸元に抱きついてきて。


『あっ……有咲!?』


『うるせー……ちょっと黙ってろ』


有咲の、温かい体温。背中に強く回された、細くて綺麗な腕。


私の方から抱きしめた時に感じた、彼女の身体の柔らかさ。

明るい色のツインテールから漂ってくる、柑橘系の甘い匂い。


絡めあった指先の感触。

控えめながらも、ギュッと求め合うように握った小さな手のひら。


「~~~~~~~~~~!!」


考えただけで、耳まで真っ赤になってしまう。

私はさっき……有咲と、そんな恥ずかしいことを……。



ベッドの上を、頭の悪い女の子みたいに、グルグルと左右に転がり回る。


ひとしきりはしゃいで、息が整ってきた私は、少しだけ冷静さを取り戻した。


「……いやいや、おかしいって」


とたんに、現実へと引き戻される。


だって……同じ女の子だよ?

ドキドキするなんて……絶対おかしい。


「……うん、勘違い勘違い。絶対そう」


でも……友達としてなら、いいよね?


どうしよう。とりあえず、映画にでも誘ってみようか?

ショッピングモールに2人で出かけることなんて、今までにもあったことだし。

別に、不自然ではないよね。


スマートフォンを操作して。

彼女のアイコンをタップする。


「日曜日、映画でも見に行かない?……っと」


……これ、普通だよね。

意味深なこと、言ったりとかしてないよね。


「……送信」


――送ってしまった。


「うぅー……落ち着かない」


いつ返信が帰ってくるだろう。

5分後? 10分後? それとも、1時間後?


今日は、返ってこなかったりして。

有り得る話だ。

有咲、グループチャットとかあまり返信しないから。


「沙綾ー、夕食の準備できてるよ」


「あ、うん! 今行く!」


お母さんを待たせるのも申し訳ないし……先にご飯食べちゃおう。


スマートフォンをベッドの上に置いたまま、私は急いでリビングに降りた。


「ふー……お腹いっぱい」


でも正直……何を食べたか記憶が怪しい。

有咲からの返信のことで、頭の中が埋め尽くされてたから。


部屋に入って、ほとんど無意識にスマホを手に取り、胸をドキドキさせながら電源を入れる。


画面に表示された、新着メッセージのアイコン。

有咲からだった。


「……やっば」


心臓がドクンと跳ねる。胸の奥が、クシャリと締め付けられる。


本文は……


『ごめん、日曜はむり』


「――ッ」


…………仕方ない……よね。

……うん、そんなこともあるよ。


親指を動かして、メッセージを入力。


『わかった!また誘うね!』


笑っている絵文字を文末に入れて、送信。


「……はあー」


スマートフォンをベッドに放り投げ、自分もその横に倒れ込んだ。


まるで、波が引いていくかのように。

頭の温度が、胸の温度が、急激に下がっていく。


高鳴っていたはずの心臓は、一瞬止まったような錯覚を覚えた後、

いつの間にか平常運転に戻っていた。


――どうして、こんなにも落ち込んでいるのだろう。

友達に、遊びの誘いを断られただけなのに。


たった……それだけなのに。


翌朝。登校の途中、香澄に出会った。


会う場所、会うタイミング。全ていつも通りのはずだった。

いつもと違ったのは……香澄の隣に、彼女がいないこと。


「香澄……有咲は?」


「有咲? あー……えっと」


香澄は、少しだけ肩を落として言った。


「何かね、今日は行かない日なんだって」


そんな……。香澄と登校するようになってから、

一度だって休んだことなんか無かったのに。


「……そっか」


――もしかして。

私のせい……なのかな?


「沙綾? どうかしたの?」


香澄が、大きな二つの瞳で私を見つめてくる。

まるで、何一つ汚れを知らないかのような、純粋な瞳だ。


「……ううん、何でもない!」


一瞬頭をよぎった香澄に相談するという選択肢を、無理やり打ち消した。

私の黒い感情を、香澄に打ち明けるのは申し訳ない。そう思ったから。


放課後になり、私は一度家に帰ることにした。

理由の一つは、店の様子を見るため。

でも、一番の理由は……有咲と極力二人きりにはなりたくなかったから。

メールの誘いを断られただけなのに、どういうわけか、今はちょっと気まずい。


「あら、沙綾。おかえり」


「ただいま、お母さん。お店どう?」


「大丈夫よ。お父さんもいるし、最近お母さん調子いいから」


笑顔は可愛らしいけど。いつ体調を崩したっておかしくないのだ。


「沙綾、今日も練習に行くんでしょ?」


「うん、もう少ししたらね」


するとお母さんは、表情を少しだけ緩めて、「フフッ」と微笑んだ。


「沙綾……最近、好きな人でもできた?」


「ふえっ!?」


突拍子もないことを言われ、胸がドクンと跳ねる。

やがて、その言葉の意味を理解した私は、何故か頭の中で有咲の顔が浮かんできて。

体温が、グーンと上昇するのがわかった。


「べべっ、別に、そんなんじゃないよ!」


「もう、わかりやすいんだから。顔真っ赤にしちゃって」


「これはっ……その……」


目線を左右にさ迷わせ、落ち着かない心を鎮めようとして、制服の裾をギュッと握り締めた。

そんな私を見たお母さんは、私の頭に優しく手を置いて撫で始める。

でも……優しくナデナデするだけで、何も言わない。


「……お母さん?」


顔はそのまま、上目でお母さんの表情を伺うけれど。

笑顔を浮かべるお母さんの真意は、私には掴めなかった。


「……じゃあ、いってらっしゃい」


ナデナデしていた手を下ろし、いつもの温かい口調でそう言った。


「うん……行ってきます、お母さん」


胸の中の黒い感情が、少しだけ晴れた気がした。


今だったら、有咲の前でも素直になれるかもしれない。

そう思ったけど、一度家に帰ってから蔵に来ると、大抵メンバーの殆どが既に練習を始めている。

だから今日は、有咲と二人きりにはならなかった。


中に入ると、有咲の姿がそこにあって。

どうやら学校は休んでも、練習は休みたくないらしい。


「あ、いらっしゃい沙綾!」


「ここ、お前ん家じゃねーから!」


階段を降りた途端、香澄と有咲の漫才が始まった。


「沙綾も来たし、みんなで通して練習する?」


「そうだね、おたえちゃん」


おたえとりみりんが頷き合った。

私はというと、さっきから有咲の視線ばかりが気になって……

なのに、彼女の顔を直視することすら出来ずにいた。

だからといって、私の都合で練習を止めるわけにはいかない。


「……うん、分かった! 通して練習ね!」


何曲も通して演奏し、休憩を挟んで。それを幾度となく繰り返す。

再び演奏を始めて、十数曲は通しただろうか。

みんな、大分息が上がってきた頃。


「疲れたー! ちょっと休憩!」


香澄が、ピックをテーブルに置いて傍のペットボトルを手に取った。


「わたしも。すごく疲れたよ」


「ふふっ、おたえちゃん、汗すごいね。良かったらこれ使う?」

りみりんが、制服で汗を拭おうとしたおたえを制すように、持っていたハンカチを差し出した。

「そうかな? りみりん、汗拭いてくれる?」

「ええっ! あの……その……」

「冗談」

「もっ、もう、おたえちゃんったらー!」

両手を伸ばしてハンカチを突き出すりみりんに、おたえは愛くるしいものを見るような視線を向ける。


「りみりん! 私の汗も拭いて!」


香澄が、りみりんに跳びかからん勢いで駆けていく。


「香澄ー、よしなって」


こういう時は、大抵真っ先に有咲がツッコミを入れるんだけど……

さっきからキーボードを見つめていて、動かない。

代わりに私が言ったけど。さっきから、有咲が気になって仕方がなかった。


一体、どうしたんだろう。

もしかして……私のせい?

それは流石に、自意識過剰かな。


「あっ! もうこんな時間!」


香澄の声に、みんなが反応して壁の時計を見ると、既に7時を回っていて。


「じゃあ、今日はここで終わろうか。前みたいに遅くなったらヤバいしさ」


「私、この前お母さんに心配されちゃった」


りみりんが、舌っ足らずな声で呟いた。

こんなか弱い女の子が夜遅くまで出歩いているだなんて、親の不安は計り知れない。


「そっかー。じゃあ、なおさら早く帰らないとね」


放っておくとほぼ確実に香澄が練習を始めるので、私が言い出さないと練習は終わらない。


「えー、もう? ……でも、仕方ないかー」


予想通り、不満そうに声を上げる香澄。


「仕方ないよ香澄。どうせ明日は休みだし、たっぷり練習できるじゃん!」


言うと、香澄はパアッと表情を輝かせる。


「そっか! なら安心!」


何に安心したのかよく分からないけど、ひとまず納得してくれたみたいだ。


有咲にさよならを言いながら蔵を後にして。

扉の前で不自然な笑顔を浮かべる彼女が、なんだか気になって仕方がなかったけど。

「また明日」と挨拶を交わし、今日の練習は終了となった。


――のだが。


「やばっ!スティック忘れた!」


あれが無いと、自主練できない……わけでもないけれど。

前に使っていたスティックが部屋にあるから、それを使えばいいだけだし、

明日もまた有咲ん家に行くから、大丈夫と言えば大丈夫なんだけど。


やっぱ……傍にないと、何となく落ち着かない。

なんだかんだ言って、相棒だからね。


走って蔵まで戻り、扉を開く。

地下へと繋がるハッチのすぐ傍まで近づいた時……微かに聞こえた、キーボードの音。


ハッチを開き、足を踏み入れると、キーボードの音はピタッと止んだ。


「沙綾……どうしたんだよ」


「アハハ……スティック忘れちゃってさ」


ドラムの周辺に視線をやると、棚の上に探し物が見つかった。


「……バカだな」


「私、変なとこドジなんだよねー。ま、あんま気にしてないけど」


「……ごめん」


それは、今にも消え入りそうな声だった。


「それって……昨日の、メールのこと?」


目の前で俯く女の子は、キーボードを見つめたまま答えない。


「……あれなら、全然気にしてないって! また誘うからさ! その時に――」


「あたしっ……最近、調子悪くて……」


「え……?」


調子が悪いって……何のこと?

もしかして、体調を崩したのだろうか。

今日学校を休んだのも、本当は仮病じゃなかったのかな?


「その……練習中、何度も同じとこで間違えたりとか。最近多いんだ、本当に……」


良かった。体調が悪いわけではなかったみたいだ。


「……もしかして。今日学校休んだのって、そのため?」


再び訪れた沈黙。

でも、彼女の浮かべる悲痛な表情が、私の問いかけを肯定していた。


「そんな……スランプなんて、誰にだって――」


「スランプじゃねえっ!」


その叫び声は、怒りの感情など欠片も込められていないように感じた。

ずっと俯いていた有咲は、この時初めて顔を上げ。

酷く紅潮していて……よく見ると、耳まで真っ赤になっていた。


「あ……あたし……沙綾の事、考えると……ダメなんだ」


「私のこと……って……まさか」


メーターが振りきれるかのように、全身の体温が上昇するのが分かった。


――もしかして、練習中に私の事考えて、集中できてなかったとか……そういう事?


ヤバい……嬉しい。

バンドメンバーの不調を嬉しく感じるとか、最低だと分かってるけど。

有咲が、私の事でこんなにも悩んでくれているってことが、私の胸の奥をギュッと締め付けた。


有咲の瞳に、私が映る。

その中の私は、きっとみっともなく顔を紅潮させているのだろう。

恥ずかしいけど……嬉しい。

こんな感情に、私は未だかつて出会った事がなかった。


有咲に出会う、その日まで。


「沙綾のこと……考えると……手元がくるうっつーか。

 昼間に散々練習したはずなのに、沙綾が来てから……結局ミスばっかで。あたし……」


胸元で、両手を忙しなく動かす有咲。

目元には涙が浮かんでいて……可愛いと思ってしまう。


「有咲」


耐え切れなくなって……気が付いた時には、私は彼女に向かって飛び出していた。


背中に腕を回し。強く……優しく抱き締める。

有咲の体温が、服越しにじんわりと感じられる。

細く、柔らかいその身体は、私の母性をくすぐったらしい。


「キャッ……さあっ……や……」


耳元で一瞬聞こえた、可愛らしい声。

声も、匂いも、感触も、温かさも。

有咲の全てが、愛おしい。


気が付くと、私の背中に有咲の腕が回っていた。

お互い、一方的に抱き締めるのは、一回ずつあったけど。

ちゃんと抱き締め合うのは、これが初めてだった。


「有咲……いいんだよ。いっぱい、私のこと考えて」


「沙綾の……こと?」


「私も、ずっと有咲のこと考えてる。朝登校するときも、

 授業受けてるときも、放課後練習してる時も……一日中、ずっと」


「……ホント?」


「ハハ……ごめん、流石にびっくりするよね」


背中に回された腕の力が、少しだけ強くなった。


「ううん……嫌じゃない」


「……だからね。有咲だって、私のこと考えていいんだよ?」


「そっか……うん、そーする」


それを最後に、暫く無言の状態が続いて。

それ以上の事はせず、ただ抱き締め合ったまま。


結局私は、9時を過ぎてから帰宅する事になってしまった。


「じゃあ、行ってきまーす」


ローファーをつっかけて、玄関の扉に手をかける。


「今日も、昨日と同じくらいの時間に帰ってくるの?」


お母さんは、穏やかな笑顔を浮かべてそう言った。


「いやー……流石に、今日は早く帰ってくるようにするよ」


昨晩は、いくら何でも遅すぎた。というか、最近そんな日が続きっぱなしだ。


「……お母さんは、別にいいけど?」


「アハハ……まあ、早く帰ってこれるようにするよ」


扉を押そうとした時、お母さんが「沙綾」と声をかけてきた。


「ん? どうしたの?」


「……良かったね、うまくいったみたいで」


瞬間、顔が耳まで真っ赤に染まっていくのが分かった。


「いっ……行ってきます!」


慌てて飛び出した私を、お母さんは苦笑しながら、「行ってらっしゃい」と送り出してくれた。


「よーし! じゃあ、早速練習始めよう!」


「香澄、気が早えよ」


香澄の突拍子の無い言動に、今日の有咲はツッコミ全開だ。


「わたしは準備できてるよ」


「私もー」


おたえとりみりんが、それぞれギターとベースを構えて言った。


「私も! 準備できてます!」


みんなに続いて、私もスティックを用意する。


――ふと、視線を感じて。

キーボードの方に、視線を向けた。


有咲と、目が合って。

彼女の目元が柔らかく緩む。


「あたしも。準備オッケー」


……良かった。いつもの調子、取り戻したんだね。


「私も準備オッケー! でも、始める前に……いつもの!」


「……いや、もうみんな楽器用意してっから無理だろ」


「え!? ……あ、そっか! まあいいや、そのままで!」


「このままやんのかよ!?」


香澄と有咲の、いつものコント。今日はなんだか、いつもよりキレがいい。


「まあまあ、有咲。いいじゃん、やろーよ」


「さ……沙綾が、そう言うなら……」


語尾を小さくしながら呟く有咲を見て、香澄が口を尖らせる。


「有咲ー! なんか、沙綾にだけ優しくない? 私と全然違うよ!」


「うっ、うるせー! やんだろ、いつもの!」


尚もブーブー文句を言う香澄も、渋々承知したらしい。

香澄が腕を前に伸ばしたのを合図に、みんなが中心に向かって手を伸ばす。


「いくよー! ポピパ!ピポパ!ポピパパ!ピポパー!」

沙綾sideはひとまず終了です。有咲×沙綾とは言いつつも、友情の域からはまだ出てないつもり。そのうち書くかも?
次回はたえ×沙綾を想定していますが、書き溜めは一切ないのでご容赦を。気長にお待ちくださると幸いです。

今更ですが、前作のリンクを貼っておきます。
沙綾「卒業?」香澄「そんなの私達にあるわけないじゃんwww」
http://elephant.2chblog.jp/archives/52197926.html

長く更新していないため、このスレはとりあえず完結として、html化依頼を出そうと思います。
次回作が書き上がったらまた新しく立てますので、その時はどうぞよろしくお願いします。

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