北条加蓮「……」高森藍子「……加蓮ちゃんと、桜の日の夜に」 (40)

……。

…………。

(ん……)ゴシゴシ

(……まだ、……身体が重いな……)

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――加蓮の部屋――

(何時……?)

(……夜なのかな。暗いし……。でも、ちょっとだけ、橙色……)

(豆電球……? つけてたっけ? 切って、なかったっけ……?)

(……真っ暗にしたくて……なにも、考えたくなかったから、ぜんぶ、切ったハズなのに――)

「……!」

(?)

(誰かいる? ……お母さん?)

北条加蓮「ん……」オキアガル


高森藍子「…………」


加蓮「え? 藍子……?」

藍子「……横になってて下さい、加蓮ちゃん。まだ、しんどそうだから……」

――まえがき――

レンアイカフェテラスシリーズ第46話です。加蓮の部屋よりお送りします。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけると、さらに楽しんでいただける……筈です。

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・北条加蓮「カフェに1人で来た日の話」
・高森藍子「カフェで加蓮ちゃんを待つお話」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「ちょっと疲れた日のカフェで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「春風のカフェテラスで」

加蓮「藍子……?」

藍子「……大丈夫ですか? ……なんて聞いちゃったら、加蓮ちゃん、怒りそうですよね。気を遣うな、なんて」

藍子「あっ、ごめんなさい。いきなり色々とお話しちゃったら、加蓮ちゃん、疲れちゃいますよね」

藍子「そのまま……そう、ゆっくり、横になっていてください。大丈夫ですから……」

加蓮「……ん……」ヨコニナル

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……そうだ。お水――」

加蓮「ううん、いい」

藍子「でも、」

加蓮「いらない……」

藍子「……分かりました」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……花の匂いがする」

藍子「え?」

加蓮「ほんの少しだけ……。花の匂いがする。藍子からじゃなくて、すごく、微かにだけど……ゲホッ」

藍子「! 加蓮ちゃ――」

加蓮「ふふっ、大げさだよ……ちょっぴり、咳をしただけなのにさ」

藍子「でも、加蓮ちゃんこんなに苦しそうで顔も真っ赤で!」

加蓮「豆電球しかついてないのによく……ゲホッ、分かるね」

加蓮「そんなに私の顔ばっかり見て、面白い? あはっ、やっぱり藍子って変な子だ」

加蓮「いつだったかなー……。変じゃない、って、ムキになって言ってたよね。こう、ほっぺたをぷくーってして」プクー

加蓮「あれ、面白かったなぁ。どーでもいいことなのに、藍子がムキになってるのが、すっごく面白かった」

加蓮「もっと、ムキになるべき場所とか、他にいっぱいあるのに。モバP(以下「P」)さんから、からかわれた時とか……」

藍子「…………加蓮ちゃん……」

加蓮「……」

加蓮「……お花見、行ったんだね。ちゃんと」

藍子「っ……」

加蓮「ほんの少しだけ、心配したんだ……。約束を千切って押しかけてきたりしないか、なんて……」

藍子「……、……そんなの、加蓮ちゃんは望んでいませんよね」

加蓮「知ってるんだ」

藍子「知ってますよ……」

加蓮「……」

藍子「……」

藍子「……どうして――」

藍子「……」

加蓮「ん?」

藍子「…………、……ごめんなさい」

加蓮「何で謝るの?」

藍子「加蓮ちゃん、あんなに楽しみにしてたのに……私、加蓮ちゃんを、放ったらかしにしてしまって、私だけ……」

藍子「カフェで、色々な計画をお話したのに……」

藍子「未央ちゃん達と勝負することとか、ムービーを撮って、後で編集――」

加蓮「やめて!!」

藍子「っ……」

加蓮「……ごめん。…………でもやめて」

加蓮「なかったの。そんなことなんて、最初からなかったの」

加蓮「最初からなかった。花見の約束なんて何もしてない」

加蓮「楽しみにしてたことなんてない。予定なんてなかっケホッ……なかったの。スケジュール帳には何も書いてないし何もワクワクなんてしてない。何もないの。なかったの!!」

藍子「そんな……」

加蓮「……ゲホッ。……無いことの話なんて、やめてよ。痛くなるだけなんだから」

藍子「…………」

加蓮「あ。……ごめん。違……ケホッ……そういうつもりじゃなくて、その……」

加蓮「……トイレ行ってくる」

藍子「あ、」

加蓮「手伝わなくて大丈夫。1人で行けるから」

加蓮「……1人で行かせて」

藍子「……はい」

加蓮「よいしょ、っと……」ヨロッ

藍子「…………」

加蓮「あはは……。思ったより、体力……持ってかれてるなぁ。無理、しすぎちゃったのかな、最近……」ヨロヨロ

<バタン

藍子「……」

藍子「…………」

藍子(――私と加蓮ちゃんは、あのカフェで色々な言葉を重ねてきました)

藍子(楽しいことも辛いことも、言葉にできるって思っています)

藍子(例え傷ついてしまっても、それで終わることはない。傷は浅い方がいいに決まっているけれど、切り傷を避けて大切な物を失うよりは、ずっといいってこと、私も……きっと加蓮ちゃんも、知っています)

藍子(……なのに)

藍子(……言葉が、何も出てこない)

藍子(抱きしめてあげたいのに今の加蓮ちゃんには触れない)

藍子(触ったら何かが崩れてしまいそうで手を伸ばすこともできない)

藍子(それなら残っているのは言葉だけなのに。なのに……)

藍子(……ふと、壁にかかったカレンダーが目に入りました)

藍子(今日の日付が、……ペンで、ぐしゃぐしゃに塗りつぶされていて、紙の端に、強く握りしめた跡がありました)

藍子(……)

藍子(……足音が、近づいてきまず)

藍子(着替えたばかりの服で目元を拭うのが、今の私にはせいいっぱいでした)


<バタン

加蓮「…………」

藍子「……」

藍子「……お帰りなさい、加蓮ちゃん」ニコッ

加蓮「……うん」ヨロヨロ

藍子「……」

加蓮「……」(ベッドに横になる)

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「加蓮ちゃん……」

加蓮「……ん……」

藍子「カレンダー……」

藍子「……」

藍子「……私、おでこに乗せるタオルを濡らしてきます」

加蓮「だからそーいうの、」

藍子「濡らしてきます」

加蓮「……ん。分かった」

<バタン

加蓮「ケホッ……ぅー、あたまいたい……」

加蓮(トイレに行くついでに顔を洗ってきた。目が覚めて、状況は把握できた)

加蓮(頭がめちゃくちゃに痛くて身体がギシギシ軋む。咳は、むしろ出した方が楽になれる。そんなに熱は出てないから、寝てれば治るタイプ)

加蓮(まあ、状況分析はそれとして。……つまり、「また」なのだ)

加蓮(……例えば、外部から持ちかけられてきた――)

加蓮「ゲホゲホッ!」

加蓮(オファーとかが、10%くらいの確率で、一方的になかったことになるのと同じように)

加蓮(確率的に「起こり得る」と知っていたことが起きた。それだけのことだ)

加蓮(だから……もう1度寝れば、文字通り「無かったこと」になるに、)

加蓮「ケホッ……。いたた……」

加蓮(違いない。手足の擦り傷が、そのうち治るのと同じように……何度も受けた傷は、放っておいても修復される)

加蓮(たった、それだけのこと)

加蓮(「なかった」と、言えること)

加蓮(……なのにこんなにも、)

加蓮「ゲホゴホッ!」

加蓮(気持ち悪いのは、身体のせいだけじゃない)

加蓮(目を瞑ってもう1度意識を落としてしまえば終わる話を、終わらせてはならない、と思うのは)

加蓮(……でも今は、ちょっと……私も、色々ぐしゃぐしゃなんだよね……)

加蓮(今は、何もしたくないな……)


<バタン

藍子「……」

加蓮「……濡れてるよ。袖のところ」

藍子「……」

加蓮「手も、冷たそう。どんだけ水を流したのよ」

藍子「……真っ暗なのに。よく見えますね」

加蓮「豆電球がついてるし。あと……ほら。暗いところにずっといたら、目が慣れるでしょ」

藍子「そうかもしれません。私、さっき階下に行った時びっくりしちゃいました。すごくまぶしくて」

加蓮「ね。よくあるよね、そーいうの」

藍子「階段で、少しだけよろけてしまって」

加蓮「そーいう時に限って、お母さんが見てたりして」

藍子「加蓮ちゃんのお母さんが、……」

加蓮「……何か余計なこと言ってた?」

藍子「…………」

加蓮「……藍子?」

藍子「……これ、タオル。どうぞ」

加蓮「ん。ありがと。……冷たっ」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……熱は」

加蓮「38度6分」

藍子「え」

加蓮「それか7分」

藍子「……分かるんですか?」

加蓮「慣れてるもん」

藍子「…………」

加蓮「何度も何度も起きたことだからね」

藍子「…………」

加蓮「体温計いらずの生活。ふふっ、便利でしょ?」

藍子「…………」

加蓮「そもそも、体温計なんて必要ないくらいがいいんだろうけど……」

藍子「…………」

加蓮「…………」

藍子「…………」

加蓮「…………」

藍子「……お薬。これ、加蓮ちゃんのお母さんからです」

加蓮「ん……」オキアガル

藍子「あ、そのままで……。ほら、口を開けてください」

加蓮「パス。それ失敗したら39度ルート入るから」

藍子「でも、」

加蓮「よいしょ、っと。……いたっ……。ほら、薬、貸して……」

藍子「……はい」

加蓮「ん」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……ごめん。封、破いて」

藍子「……はい」ビリッ

加蓮「さんきゅ……」ゴクゴク

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……ごめんね」

藍子「え?」

加蓮「約束、破っちゃって」

藍子「……!」

加蓮「約束なんてないって、私さっき言ったけど……なかったことにすればいいだけかもしれないけど、そんなの私の勝手な話だもん。藍子には関係ないよね」

藍子「関係無いなんてそんな……!」

加蓮「ううん。ちゃんと言わなきゃ。……よいしょ、っと」オキアガル

加蓮「約束、破ってごめん。一緒に行けなくてごめん」バッ

藍子「……」

藍子「……先に横になってください。加蓮ちゃんのお話……ちゃんと、聞きますから」

加蓮「甘えるね」ゴロン

加蓮「ふうっ……。それと、心配させてごめんね。大丈夫……じゃないけど……こういうこと、よくあるから」

加蓮「ふふっ、ちょっと横になってるだけで治るんだよ? ホントホント」

加蓮「藍子だって風邪を引いたりしてもすぐ治るでしょ? ……あはっ。パッションアイドルは風邪なんて引かないか」

藍子「…………」

加蓮「……薬を飲んで、病院行って……いや、病院はやめとこう。せめて行くなら元気な時に行かないと」

加蓮「こんな姿、見せたくないもん。夢は……夢のまま、守ってあげなきゃ」

藍子「……も、もうっ。元気な時に病院に行って、しんどい時に病院に行かないなんて……へ、変ですよっ」

加蓮「やっぱり? あはは、私も変だ。藍子と同じで、変だ」

藍子「絶対加蓮ちゃんの方が変ですってば~」

加蓮「そうかなー? ……ケホッゴホッ!」

藍子「っ……大丈夫ですか?」サスサス

加蓮「へーきへーき。こら、そんなにじっと見ても何も出てこないよ……ってか顔近いし……」

藍子「……」

加蓮「病院は……うん。行かなくても、薬を飲んで寝れば治るんだしさ」

加蓮「だから、……そんなに泣きそうな顔しないの」

加蓮「心配して気を遣ってくれるのは、……その、素直に嬉しいけど、嫌だし、しんどいから」

藍子「……しんどい、ですか……?」

加蓮「うん。しんどい。だって気遣われたらすぐ治さないといけないって焦っちゃうから」

加蓮「そんな顔させたくないな、って思ったら、ざわざわしちゃうもんね」

加蓮「それに」

藍子「……それに?」

加蓮「すごく、嫌なことを思うから」

藍子「…………」

加蓮「……そんな顔なんて、させたくない」

加蓮「目を背けたくなって、でも、背けたらますます自分が嫌になっちゃうよ」

加蓮「そしたら……出会わなければよかった、って。考えちゃうから」

藍子「…………やめてください、そんな考え方……!」

加蓮「あははっ。じゃーさ、藍子もその顔はやめてよ」

藍子「それは――」

加蓮「ね? 難しいでしょ?」

加蓮「身体の弱い人がしんどそうにしてたら、普通の人が風邪を引いた時より心配になる。そんなの当たり前のこと」

加蓮「同じだよ。私にも、私なりの当たり前って物があるんだから」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……なら、せめて……謝るのは、やめてください」

加蓮「ん……」

藍子「ちゃんと言わなきゃ、って、さっき加蓮ちゃんは言いましたよね。……加蓮ちゃんは、はっきり言いました。ごめんなさい、って」

藍子「私は、…………分かりました、って、受け止めた……つもりですから」

藍子「だからもう、謝らないでください。謝ったら、もっとしんどくなってしまいます」

藍子「しんどくなってしまうのが加蓮ちゃんの当たり前なら、少しでも、傷をふさいでください」

藍子「加蓮ちゃんは、いつも通りのこと、よくあること、って言っちゃうかもしれませんけれど」

藍子「それこそ、」

藍子「……それこそ……」

加蓮「うん。続けて?」

藍子「…………」

藍子「……それこそ加蓮ちゃんの勝手なことです。私にとっては、当たり前でも何でもないんですから!」

加蓮「……うん」

藍子「…………っ」ボロボロ

加蓮「泣いてるし」

藍子「泣いてばぜんっ」

加蓮「泣いてる藍子の顔、しっかり見えるんだけど?」

藍子「加蓮ちゃんだって、さっきっ、トイレに行ったから、目がまだ暗い部屋に慣れてないんでずっ」

加蓮「はいはい」

藍子「ぐすっ……」

加蓮「…………」

藍子「…………」

加蓮「……38度3分」

藍子「え?」

加蓮「それくらいだと思う。たぶん」

藍子「……」

加蓮「藍子は知ってると思うけど、私、嘘をつくのは大嫌いだし気を遣うのも結構嫌いだからね?」

藍子「……加蓮ちゃんが言うなら、嘘じゃないんでしょうね」

加蓮「そう? それそのものが嘘かもしれないんだよ? 相変わらず騙されやすいんじゃないのー? ……ケホッ」

藍子「……」

加蓮「なーんてっ……」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……」

加蓮「あーあ。花見、行きたかったなぁ……」

藍子「…………へ?」

加蓮「ん?」

藍子「だってさっき加蓮ちゃん、そんなのなかった、って」

加蓮「あーうん。いつもはね、こういうこと……こういうことって割とよくあるから、その度に「なかったこと」って思うようにしてるの」

加蓮「あれがやりたかった、これがやりたかった、って、いちいち言ってたらキリがないだろうし。諦めることだって大切でしょ?」

加蓮「でもさ――いたた……」(頭をおさえる)

藍子「! 加蓮ちゃんっ」

加蓮「たはは。私、かっこわるー」

加蓮「ほら、できないことをせがんでも周りの人は困るだけじゃん。お母さんもお父さんも。どうしようもないことを言われてもさ、困っちゃうだけでしょ?」

藍子「……でも――」

加蓮「でも?」

藍子「……なんでもないです」

加蓮「そう……」

加蓮「前に見たことあるんだよね。2人が泣いてたとこ」

加蓮「何もしてやれないんだ、って。すごく悔しそうで、悲しそうだったんだ」

加蓮「あれはちょっと……見たくなくてさ。どうすればいいかなーって思った時、あぁそっか、やりたかったことなんて無かったって思うようにすればいいや、って気付いて……気付いたっていうか見つけたっていうか」

藍子「……」

加蓮「でも……。んー……ほら、私の趣味って"藍子を困らせること"だからっ」

加蓮「今はいいかなー、なんて。……ダメ?」

藍子「……」

藍子「っ……」

藍子「……もうっ! そんな趣味、プロフィールに書いちゃダメですからね!」

加蓮「! ふふっ、どうしよっかなー? 今度インタビューで「オフの日は何をしてるの?」って聞かれたら、藍子を困らせてますって答えちゃおっかな?」

藍子「ダメですってば~。きっと、記者さんも困っちゃいますよ?」

加蓮「ないない。むしろ根掘り葉掘り聞いてくるに決まってる。そして面白おかしく記事になるんだ」

藍子「それ、私にまで被害が来ちゃうじゃないですかっ」

加蓮「逆に藍子にとってはいいことにならない? あれは加蓮ちゃんに困らされていることでウワサの藍子ちゃん! 優しくしてあげよう! ってならない?」

藍子「周りのスタッフさん、みんな優しいですから。加蓮ちゃんっぽく言うなら、余計な気遣いです!」

加蓮「そっか。ふふっ」

藍子「そうですよ、も~!」

加蓮「そっかそっかー。…………」

藍子「あははっ。加蓮ちゃんは、やっぱり加蓮ちゃんなんですから。…………」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……今日は……ケホッ、もう寝るね。薬も飲んだし、起きてるとお母さんがうるさそうだし」

藍子「……、……そうですね。それが、いいと思います」

加蓮「藍子は帰りなよ。感染っちゃうよ」

藍子「加蓮ちゃんが何を言っても絶対に嫌です」

加蓮「インタビューで変なことを答えるよー?」

藍子「どうぞ言ってください。帰りませんから」

加蓮「……そか」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……おやすみ。……また、明日」

藍子「おやすみなさい。……また、明日。加蓮ちゃんが……少しでも、元気になっていますように……」

……。

…………。

加蓮(――藍子は何かを隠している)

加蓮(隠しているというより、我慢している。何かを抑え込んでいる)

加蓮(……傷ついても構わない関係。傷ついてでも一緒にいたいと思う相手)

加蓮(でもそれは、私がいつもの私である時のこと)

加蓮(ごめんね、藍子。私、自分が思っていたより傷ついていたみたい。だから、今は寝させてほしいな)

加蓮(その話は、――)

加蓮(……その、話は…………)

藍子(いつも通りの冗談を言っている間、時々、意地悪な笑みが崩れそうになっていました)

藍子(しんどくなるのが当たり前のこと……って、言っていたけれど、それは違う)

藍子(嘘ではないと思います。加蓮ちゃん、嘘をつくのもつかれるのも大嫌いですから)

藍子(加蓮ちゃんが、自分のことに気付いていないだけ。それか、気付いているけれど、気付いていないフリをしているだけ)

藍子(このまま放っておいたら、気持ちに蓋をしてしまう)

藍子(……毒の棘は、飲み込んでもなくならない。広がった傷は、目を逸らしても塞がったりしない)

藍子(このままではいけない)

藍子(分かっているのに)

――またいつか聞かせてね、の一言が、口から出ない

――傷ついて傷つけてでも手を伸ばせばよかった。……もっと、もうちょっとだけ



おしまい。
読んでいただき、ありがとうございました。

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