園田海未「私、園田海未は、高坂穂乃果と南ことりを愛しています」 (97)


――
―――

穂乃果「ことりちゃんのドレス、すっごい綺麗だよ!」

ことり「穂乃果ちゃんのも、すっごく可愛いよ!」

お揃いのドレスをまとった私の幼馴染達が手を握り合って互いを褒めあっている。

穂乃果「ことりちゃんにドレスのデザインしてもらって正解だったよ! 本当にありがとう」

ことり「ううん、いいの♪ 素敵な結婚式にしようね」

楽しそうに語り合う二人に割って入ることができず、私は傍観を続ける。

穂乃果「海未ちゃんも手伝ってくれてありがとうね!」

ことり「μ'sの全員が参加できるように、スケジュール調整してくれたんだよね」

突如二人に感謝の気持ちをぶつけられる。

――ああ、眩しいほどの笑顔。これまで毎日見続けて、私に安心を与えてくれたもの。





二人のその笑顔は――





穂乃果「結婚しても、気軽に遊びに来てね! あの人も喜ぶよ!」

ことり「旦那さんを海未ちゃんに取られないようにねえ」クスクス



永遠に私のものでは無くなった。



穂乃果「こーとーりちゃん?」キッ

ことり「あはは、ごめんごめん」

穂乃果「シャレにならないよ〜海未ちゃん大学生の頃から男の人にモテまくりなんだから」

ことり「大丈夫だよ。旦那さんは穂乃果ちゃんを裏切ったりなんてしないよ。穂乃果ちゃんが選んだ男の人だもん」

『男』――その言葉を聞いて、私の胸がズキリと痛む。当たり前だ。結婚は男と女がするもの。

海未(穂乃果が、ことりが、私の知らない男性と、結婚――)

海未「嫌…です…」

穂乃果「ん? 海未ちゃんなんか言った?」

海未「嫌なんです」ポロポロ

ことり「海未ちゃん? ……泣いてるの?」

海未「嫌なんです! 私は認めません!! 穂乃果とことりが結婚するなんて!!!」

穂乃果「う、海未ちゃん? 何を「だって! だって私は、貴女たちが――――

―――
――


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海未「はっ!」ガバッ

海未「……夢?」

見慣れた自分の部屋の中。海未は手で布団を強く握っていた。

海未「よ、良かった……」

一人呟いた後で疑問が湧いてくる。

海未(私は何に対して『良かった』と思ったのでしょう。夢の中では穂乃果とことりが結婚式場にいて)

海未(二人の結婚相手が私の知らない男性だと知って、胸がいっぱいになって)

海未(気がついたら泣きわめいて――)

海未「私は……二人を……ん?」

眼前に膨れ上がった何かが見える。布団をかぶっているから、それが何かがわからない。

海未(何か布団の中に挟んで寝てしまったのでしょうか…?)メクリ

海未「え」

布団をめくると、その盛り上がった突起が海未自身の股の間から出ていることが明らかになった。

海未「ま、まさか…」ズボンメクリ

そのまさかだった。
――海未の股間に、男性のそれが付着していた。

海未「い…」

海未「いやーーーーーーーっ!!!!!」



 ◆



医師「通常の男性と大きさの変わらない性器が、突然現れるとは……前代未聞です。世界中の生物学の研究者が飛びついてもおかしくない」

海未「!」

海未母「……先生。わざわざ貴女を私共の自宅にまでお呼びした理由、おわかりでしょうね」

医師「わかっていますよ。親戚の子を売ったりしません。秘密は厳守します」

海未「わ、私は…」ブルブル

海未母「海未さん、あなたは何も心配することはありません。私が、園田家が貴女を守ります」ナデナデ

涙を浮かべる私の頭を母が優しく撫でる。母はパニックになった海未をなだめた上で、信頼できる親戚の医師を手配した。病院に行くと看護師にも事情が伝わってしまうので、家に来てもらうことになった。

海未(何事にも動じない、しっかりとした母親をもって本当に良かった)

医師「軽く調べましたが、身体は健康だといえます。今度私の病院で精密検査をしましょう」

医師「私が直接担当します。カルテも残しません。私が院長なのでなんとでもなります。小さな病院ですが、できる限りのことを調べてみましょう」

海未母「感謝致します。突然になりますが本日はあいていますか?」

海未「しかしこれから学校が」

海未母「それどころではないでしょう。今日は休みなさい」

海未「はい…」シュン

医師「今日は定休日だったので、ちょうどいいですね。わかりました、今から言って調べましょう」

海未(私は学校を休んで精密検査を受けました)

海未(その結果、健康上の問題はないとのことでした。ひとまず安心です)

海未(予想以上にすぐに検査が終わってしまいました。家にいてもやることがないですね)

海未(母は用事で夜まで出かけてしまってますし…夜まで一人で時間を潰さなければなりません)

海未(体調が悪いわけでもないので、布団でずっと寝ているというのも変ですし)

海未(こんなとき穂乃果とことりがいれば、退屈しないのですが)

ピンポ-ン

「海未ちゃ〜〜ん!」

海未「…この声は」

ことり「お見舞いにきたよ♪」

海未「ことり。来てくれたのですね。あの、」

ことり「穂乃果ちゃんはいないよ? 今日は家の手伝いがあるって」

海未「え、なぜ穂乃果のことだと」

ことり「付き合い長いんだし、わかるよ」

ことり(…海未ちゃん、穂乃果ちゃん大好きだもんね)

海未「…そう、ですか」シュン

海未(三人で一緒に過ごしたかったのに)

ことり(ことりだってそう。μ'sを結成してから、穂乃果ちゃんのことばかり見てた。リーダーとしてみんなを引っ張っていく穂乃果ちゃんがまぶしかったから)

ことり「う〜みちゃんっ」ギュッ

海未「こ、ことり何を」

海未(三年生になってから、ことりの接触が多くなった気がします…穂乃果にはそれ以前もよく抱きついてましたが、私にもことあるごとに抱きつくようになってきて)

ことり(でも、もうμ'sは解散して、またいつもの日々が戻ってきた。だから、ことりたちも昔と同じように、三人みんなで仲良くしないとね♪)

ことり(というわけで、穂乃果ちゃんに注いでた友情と同じぐらいの大きな友情を、ことりは海未ちゃんに注ぎ続けてるのです!)

ことり「今日はことりが看病しちゃいます♪ 風邪だったんでしょ?」

海未「いえ、もう体調はすっかり良くなりましたし、うつすといけないので離れてください」

海未(母は風邪だと学校に連絡したんですね)

ことり「だ〜めっ! こういうのは油断したらまたぶり返すんだから」ギュッギュ-

海未「も、もう…まったくことりは…」ピクッ

海未「!」ムクムク

ことり「…あれ? 何か当たってる?」

海未(ど、どうして今大きく!?)

ことり「海未ちゃんのお腹あたりに何かついてる…?」

海未はことりの肩を掴んで強引に引き剥がす。

海未「こ、ことり! 私お腹が減ってしまいました。お菓子か何かをいただけますか? バッグに入っているんでしょう」

ことり「あ、うん。持ってきたよ?」

海未(話題をそらせました)

ことり「ことり特性マカロンです!」

ことり(本当は穂むらまんじゅう買っていこうと思ったけど、それだと海未ちゃん穂乃果ちゃんのこと考えちゃうもんね)

海未「ありがとうございます。ことりのお菓子はおいしいですからね」

ことり「えへへ、ありがとう。…ねえ海未ちゃん」

海未「なんですか?」

ことり「ことり、海未ちゃんと穂乃果ちゃんと同じ大学にいけて、とっても嬉しいよ! また三人一緒だね♪」

海未「な、何をいまさら」

海未はμ's時代の功績で、大学への推薦入学が認められた。ちょうど海未が一般受験しようと思っていた大学と同じだったので、海未は推薦を受けることにした。ことりもその大学を受けようと思っていたらしく、ことりもそこに行くことになった。なんでも以前留学しようとしていた学校との繋がりが深いらしい。大学生になったら留学も検討しているとのこと。

海未(穂乃果は…「私の成績で◯◯大学に行けるの!? 行く行く!」と即決していましたね。あれからです、穂乃果が勉強をいっそう怠るようになったのは…)ブツブツ

ことり「海未ちゃん?」ギュッ

海未「ん…あっ、何を//」

ことり「また穂乃果ちゃんのこと考えてたでしょー? ことりと一緒にいるのに、海未ちゃんは浮気者です!」

海未「う、浮気って// 私たちはそういう関係じゃないでしょう//」

ことり(照れてる海未ちゃん可愛い♪)

ことり「海未ちゃんは、ことりとそういう関係になるの、いや?」ウルウル

海未「う…」ムクッ

海未「い、いけませんことり!」

海未は再びことりを引き離す。

ことり「あはは、冗談だよ海未ちゃん〜」

海未「もう、ことりは冗談が過ぎるのです」

ことり「でも海未ちゃんが大切なのは本当だよ。海未ちゃんも、穂乃果ちゃんも、ことりの大切な友達。そんな友達と一緒に大学に通えるのが心から嬉しいの」

海未「それは私も同じですよ。二人と一緒なら、退屈しない大学生活になるでしょうし」

ことり「ことりたち、ずっと友達でいようね。社会人になっても、結婚しても、子どもができても」

海未「……」

ことり「海未ちゃん?」

海未「ええ。もちろんです」ニッコリ

ことり「ことりの愛情は意中の男性に捧げても、友情はずっと海未ちゃんと穂乃果ちゃんのものです♪」

海未「!」ズキッ

海未「…………ええ」

ことり「…海未ちゃん? また具合悪くなった?」ナデナデ

海未「そうみたいです。すいませんが、一眠りしたいので今日はこの辺にしておいてもらえますか?」

ことり「うんっ♪ マカロンは置いてくから、後でゆっくり食べてね」

海未「ありがとうございます。明日には学校に行けると思います」



海未(ことりが帰って、また静かになりました)

海未(それにしても…先ほど感じた胸の痛みはなんでしょうか。ことりが結婚の話題に触れたときだと思いますが)

海未(いえ…自分をごまかすのはやめましょう。あの夢を見ていたときから薄々気づいていましたが、私は穂乃果とことりを友人以上の存在として見ている)

海未(だから辛いのでしょう。ことりはずっと一緒だと言ってくれましたが、それは私の『一緒』とは意味が違う。いずれ二人とも結婚して私から離れていってしまう)

海未(それは…辛いですね)

海未(ネガティブになってもいけません。今はみんな女子高の学生。卒業するまではそういうことは起こらないでしょう。それならば今二人と共にいられる時間を大切にすべきです)

海未(あまり眠くはないですが、ことりに言ったとおり寝てしまいましょう)



 ◆



翌朝、登校前

海未の母が玄関前で、小声で海未に話しかける。

海未母「海未さん、前貼りは痛みませんか」

海未「はい。問題ありません」

余計な混乱を防ぐため、海未の身体の異常は学校関係者には隠し通そうということになった。海未の父もそれに同意した。

海未(お腹に暖かいものがぴったりとくっついた感覚はしばらく慣れそうにありません……)

海未母「体育の時間の際の着替えには、十分注意するのですよ」

海未「はい」

海未母「体調不良を起こしたら、どんな状況でもすぐに抜け出して私に連絡すること」

海未母「海未さんは一人で抱え込むところがありますが、今回ばかりは遠慮してはいけません」

海未「はい。…ありがとうございます、お母様」

海未母「当然のことですよ。大切な娘のことですから」ニッコリ

海未(お母様。本当にありがとうございます。貴女の娘でよかった)

海未「では行ってきます」

海未母「行ってらっしゃい」



海未(いつもの待ち合わせ場所につきました)

海未(穂乃果はやはりまだ来ていませんね)

ことり「海未ちゃ〜ん、おはようっ♪」ダキッ

海未「こ、ことり! いつも抱きつくのをやめてください!」

ことり「海未ちゃんと穂乃果ちゃんに抱きつかないと一日が始まらないよ〜」

海未「意味がわかりません!」ムクムク

海未(うっ)

海未「…とにかく、離れてください」グイッ

ことり(あ、あれ…? 今までは海未ちゃん、ここまで嫌がることなかったのに)

ことり(昨日は体調悪かったからわかるけど、元気そうな今日も…?)

海未(前貼りが剥がれてしまうところでした)

ことり「海未ちゃん、ご機嫌斜めなの?」シュン

海未「? そんなことありませんが」

ことり「じゃあなんで「おっはよ〜二人とも!」

海未「おはようございます。今日は早いですね、穂乃果」

穂乃果「えっへん!」ドヤァ

海未「集合時間は過ぎてますけどね。あくまで、普段より来るのが早いだけで、間に合ってはいませんよ?」

穂乃果「明日こそはちゃんと間に合うよ!」

海未「そのセリフを聞くのも、何度目でしょうか」ハァ

穂乃果「ことりちゃんもおはよう!」

ことり「あっ、おはよう」

穂乃果「じゃあ行こうか!」

海未「走ると危ないですよ」

ことり(聞きそびれちゃった…)





海未(学校生活は、一言で言うと地獄でした。生殺しとでも言うのでしょうか)

海未(同級生の何気ない行動に、あれが反応してしまう)

海未(特に着替えのときは、バレてしまうかもしれない危機感と相まって、前貼りが飛んで行きそうなぐらい大きくなってしまいました)

海未(体調不良と言って結局体育は見学し、保健室にこもることにしました)

海未(…考えたくなかったのですが、女性の肢体に興奮を覚えているのは間違いないみたいです。昨日のことりの件もそうなのでしょう…)

海未(女子高ですし、みんな無防備ですね。こんなに破廉恥を感じたのは、生まれてはじめてです…)

海未「こんな調子で卒業するまで、やっていけるのでしょうか」ハァ

ことり「海未ちゃん?」ガラッ

海未「こっ、ことり!? どうして」

ことり「ことりは保険委員だよ?」

海未「理由になってません! 体育の授業はどうしたんですか」

ことり「海未ちゃんが心配なので見学しちゃいました!」ビシッ

海未「…進学先が決まっているからといって、学業を怠るのは感心しませんね」

ことり「ことりにとっては海未ちゃんの方が大事だから。昨日から海未ちゃん調子悪いみたいだし」

海未「大丈夫ですよ。少し立ちくらみがしただけです」

ことり「…」

海未「ことり?」

ことり「ねえ海未ちゃん、ことりのこと好き?」

海未「なっ//」ムクッ

海未(ってなんでこんなことで反応してるんですか!! 収まれ収まれ収まれ!)

ことり「答えて」ズイッ

海未(…からかって言ってるわけではなさそうですね)

海未「好きですよ。穂乃果と同じで、いちばん大切な友達だと思っています」

海未(嘘を言うのは心苦しいですが…本当のことを言うわけにはいきません)

ことり「じゃあなんで最近ことりと距離とるの?」

海未「距離?」

ことり「うん。ことりが抱きつくとすごく嫌がるし」

海未「そんなこと…」

海未(あれが反応してしまうからなんて言えるわけないじゃないですか!!)

ことり「だからことり不安になっちゃって。ごめんね?」

海未「…すいません、実はまだ熱っぽくて。体育を休んだのもそれが理由です。だから風邪をことりにうつしたくなくて」

ことり「そうだったんだ。全然平気に見えたけど」

海未(さすが幼馴染、鋭いですね)

海未「ええ…ことり達に心配させまいとして平静を装ってました。それが逆にことりを心配させてしまったようです。本当にすみません」ペコリ

ことり「そ、そんな謝らないで! 勝手に勘違いしたことりが悪いんだし! 今度から辛い時はすぐに言ってね?」

海未「はい、そのときは甘えさせてもらいます。こんなに素敵な幼馴染がいて私は幸せものですね」ニッコリ

ことり「う、海未ちゃんったら//」

海未(なんとかごまかせたようです)

海未「私は大丈夫ですので、ことりは授業に戻ったらどうですか?」

ことり「今からだと中途半端になっちゃうから、ここにいるよ。海未ちゃんとお話したいし」

海未「そうですか、ではお付き合いください」



 ◆



園田家、夜

海未(なんとかしのげました。一日を過ごすのがここまで大変とは)

海未(ことりと保健室で話してる際も、何気ないことりの言動で反応しそうになってしまいました)

海未(ことりはもともとボディタッチが多いですし、女子高ということで危機感がないのでしょう)

海未(とくに私たちは親友なので、一日に何度もそういうことがあります)

海未(このままだと…考えたくはないですが、私の理性が耐えられなくなる)

海未(精神も男性に近づきつつあるのでしょうか。私はいったいどちらの性なのでしょう)

海未(悩んでも仕方ありません。これまで通りの生活を送るにはどうすべきかを考えなければ)

海未(今日が金曜で良かったです。土日でゆっくり対策を練ることにしましょう)

ロンリ-マイラ-ブロンリ-マイハ-ト

海未(ことりからメール?)

『海未ちゃん、日曜日あいてる? 穂乃果ちゃんが商店街の福引で映画のチケット当てたみたいで、ちょうどいいから三人でいこうって話になって』

海未(嬉しい誘いですが…この状況では無理ですね。断りをいれましょう)

『すみません、日曜日は家の用事があるので、穂乃果と二人で行ってください』

海未(来週あたりに埋め合わせできるといいですが)

ヤサシサニアコ-ガ-レ-ヤサシサニキズ-ツイテ-

海未(電話?)

ことり『海未ちゃん、夜遅くにごめんね』

海未「いいんですよ。日曜日、行けなくてすいません。土曜日なら良かったんですが」

ことり『ううん、お家の用事なら仕方ないよ。それより土曜日あいてるなら、ことりの家に来ない?』

ことり『穂乃果ちゃんは用事あるから来られないみたいだから、土曜日は海未ちゃんと二人っきりで過ごしたいなと思って』

海未(う…やってしまいました。土曜日なら良かったといった手前、断れません)

海未「…いいですよ。お昼を食べてからでいいですか」

ことり『うん、じゃあ2時はどう? 一緒にお菓子作りしようよ♪ それで二人でお茶会しよう』

海未「いいですね。少し多めに作って、日曜日に穂乃果にわけてあげたらどうですか」

ことり『そのつもりだよっ♪ 考える事は二人とも同じだね〜。あ、もちろん穂乃果ちゃんが太らないようにお砂糖は少なめにしておくよ?』

海未「先に言われてしまいましたね」クスッ

ことり『じゃあ明日、楽しみにしてるね』

海未「ええ、私も。おやすみなさい」

ことり『おやすみ〜』プツッ

海未(さて、どうしましょう)

海未(とりあえず接触は最低限にすべきですが…風邪を理由に使い続けるのは限界がありますね)

海未(なんとか大きくならないようにできないでしょうか)

保健体育で習った知識と、友人から聞いた知識を総動員して考える。

海未(確か男性のあれは…定期的に出すと落ち着くと)

海未(…出すためにはいじる必要が)

そうっと股間のあれに手をのばす。指が触れた瞬間、ビクンと大きく反応する。

海未「ふぁっ」

変な声が出たのに気が付き、思わず口を塞ぐ。

海未(なっ、なんですか今の声は! 破廉恥過ぎます!)

海未(駄目です…この方法は無しです)

海未(う…本当に眠くなってきました)ウトウト

海未(集まりは2時からですし、明日になってから考えることにしましょう…)



 ◆



ことり「海未ちゃんいらっしゃ〜い」ガチャ

海未(結局何も思い浮かびませんでした)ドヨ-ン

ことり「今日はいっぱいお話しようね♪」

海未「そうしましょう」

相談の結果、日持ちがするということで、無難にクッキーを作ることになった。ことりは慣れたもので、テキパキとこなしていく。海未はもっぱらことりの指示に従うばかりだった。作り終えたクッキーのうち、二人が食べるぶんをことりの部屋に運び、二人でお茶の準備をした。

海未「ことりはすごいですね。普通の料理もできるし、いいお嫁さんになると思います」

ことり「ありがとう。海未ちゃんだって綺麗だし、なんだってできちゃうし、素敵なお嫁さんになれるよ」

海未「そんなことありませんよ。ただ言われたことをやっているだけなので」

ことり「ねえ海未ちゃん、海未ちゃんは恋人がほしいとか思ったりしないの?」

海未「…そういうことは考えたことがありません。まだ早いかなと思ってます」

ことり「付き合ったことはないって言ってたけど、気になる人とかはいないの? 門下生の人とかに」

海未「そういう感情はありませんね」

ことり「へえ〜結構かっこいい人もいるのに。ひょっとして海未ちゃんは、女の子の方が好きなのかな?」チラッ

海未「な、何を言ってるのですか」ギクリ

ことり「や〜んことり襲われちゃう♡」クネクネ

海未「襲いません!」

ことり「ことりは海未ちゃんならいいよ…?」ウワメ

海未「かっ、からかうのはやめてください!」ムクッ

海未(ちょっと反応してしまいました)

ことり(うふふ、照れる海未ちゃんってやっぱりかわいいー♡)

ことり「ごめんごめん。でも海未ちゃんも毎回そんな反応してたら、本当にそっちの人だって間違えられちゃうよ?」

ことり「今だから言うけど、μ’sやってたときの海未ちゃんって、穂乃果ちゃんのこと恋愛的な意味で好きなんじゃないかな? って他のメンバーの間で噂になってたんだよ?」

ことり(穂乃果ちゃんもまんざらでもない感じだったしね)

海未「えっなんですかそれ。初耳です」

ことり「だってことある毎に穂乃果、穂乃果って言ってるんだもん。ことりも人のこと言えないけど」

海未「あれは…穂乃果にリーダーとしての自覚を持ってほしかったから…」

ことり「最初はそうだったが、次第にそれが愛してるがゆえであることに気が付き…」

海未「変なナレーション入れないでください! 私が穂乃果だけに特別な気持ちを抱いてるとか、そういうのはありません!」

ことり「そうだよね、穂乃果ちゃんだけじゃないよね。現に海未ちゃんはことりにも手を出そうとしてるもんね」

海未「なんでそうなるのですか!」

ことり「でもファンのみんなにはそう思われてたみたいだよ?」

ことり「ネットで探すと、私達三人が百合的に仲良くしてる絵がいっぱい見つかるよ」

海未「あれは妄想ですよ。現実に私が迫ってきたら引くでしょう」

海未「私とキ、キスしたりとか、それ以上のことをしたりとか、想像できますか?」

ことり「……あはは、ちょっとキツイね」ドンビキ

海未「ほらごらんなさい」ズキリ

海未(わかってたとはいえ、相当きついですね…言わなければよかったです)

ことり「でもキスぐらいならいいかなー。なんとなくだけど」

海未「え」

ことり「え?」

海未「な、なぜですか」

ことり「だから、なんとなくだよ?」

海未「……」

ことり「…したいの?」

海未(いけません。このままではバレてしまう…)

海未「ていっ」チョップ

ことり「いたっ」

海未「そんなわけないでしょう、まったく。悪ノリしすぎですよ?」

ことり「えへへ、ごめんね?」

海未(流れを変えることができました)

ことり「ねえ海未ちゃん、明日のお家の用事って何時から?」

海未「え、あ、2時からですが」

海未(適当な時間を言ってしまいました)

ことり「じゃあ朝は大丈夫ってことだね。突然だけど今日お泊りしない?」

ことり「日曜日は穂乃果ちゃんのところで泊まることになってるから、海未ちゃんともお泊りしたいなって」

海未「そんないきなり。ことりのお母様に悪いです」

ことり「今日は出張で家にいないから大丈夫だよ。洋服は貸すよ! ことりと海未ちゃん、体型ほとんど同じだし。胸以外」

海未「最後の余計ですよね?」

ことり「いっぱいお話しようね♪」

海未「その気になってるところすいませんが、私は今日は帰ります」

海未(万が一間違いがあってはいけませんからね)

ことり「海未ちゃん…」

海未(あ、これは)

ことり「おねがぁい♡」

海未「うっ…し、仕方ないですね」

海未(うう…ことりはずるいです)



 ◆





海未「駄目です!! 破廉恥です!!!」

ことり「え〜お風呂なんて何回も一緒に入ってるじゃん」

ことり(最近の海未ちゃん、恥ずかしがり屋さんすぎるよぉ)

海未「もうお互いそんな歳ではないでしょう」

ことり「一ヶ月前のお泊まり会で穂乃果ちゃんと海未ちゃんと一緒に入ったけど?」

海未「とっ、とにかく!! 駄目なものは駄目です」

ことり「ぶ〜」プク-

海未「膨れても駄目です」

ことり「わかったよ。じゃあことりが先に入るから、海未ちゃんはその後ね?」

海未「はい、ごゆっくり」



ことり「海未ちゃんあったか〜い♡」ギュゥゥ

海未「ってなんで一緒のベッドなんですか!」

ことり「お客さん用の布団破けちゃって、まだ買い直してないからって言ったよ?」

ことり(ほんとは海未ちゃんと一緒に寝たかったからだけど)

ことり(海未ちゃんはことりに何か隠してる。だからベッドの中で聞き出しちゃうのです)

海未(落ち着くのです私。グラハム数を数えて落ち着くのです…)ギンギン

ことり「でも海未ちゃん自身はカチコチだね」

海未「なっ!?」

ことり「さっきから同じ姿勢でずっと固まってる」

海未(ああ、姿勢のことですか)

ことり「…どうしたの、本当に? もう風邪は治ってるよね? やっぱり最近海未ちゃんおかしいよ?」

海未「……すいません。色々思うことがあって…」

ことり「ことりは心配だよ? ことりにできることがあったら、なんでもするから話してほしい」

海未(ことりは本当に優しいですね)

海未はことりの方を振り向き、手を握る。

海未「ありがとうございます。でもこれは私の問題ですから」ギュッ

ことり「海未ちゃん…」

海未「もう遅いですし、寝てしまいましょう」

海未(ことりの顔を見てると胸が高鳴ってきました。これ以上見ていられません)

海未「で、ではおやすみなさい」プイッ

ことり「あっ」

ことり(海未ちゃん…)

ことり(いままでなんでも話してきたのに。なんでも三人で協力して解決してきたのに)

ことり(留学のことだってそう。海未ちゃんが話を聞いてくれて、穂乃果ちゃんが引き止めてくれたからことりは残れた)

ことり(…本当は海未ちゃんにも止めてほしかったけど)

ことり(ことりは海未ちゃんに正直に打ち明けてよかったと思ってる。でも今の海未ちゃんはそうじゃない)

ことり(…大人になるってそういうことかもしれない。だんだん、それぞれの道に進むようになって、色んな人との時間が増えてきて、話せないことも増えていくのかも)

ことり(海未ちゃんも大学関係で何かあったのかもしれない。それとも、お家のことかも…明日用事があるって言ってたのは、それなのかな)

ことり(…でも海未ちゃん、今はまだ三人とも高校生なんだよ…? せめて今だけは、なんでも打ち明けられる仲良しさんじゃいられないの…?)

ことり「海未ちゃん…」ギュッ

海未「ひぅっ!?」ムクムク

海未(ことりが後ろから抱きついてきた!? 思わず変な声が出てしまいました)

海未(ああ、やわらかいですことり…いけません、こんな)

ことり「ことり、さびしいよ」ギュウ

海未「ど、どうしたのですか」ギンギン

ことり「海未ちゃん…今はことりは海未ちゃんのものだよ?」

ことり(そう。ことりはいつだって、海未ちゃんの特別な友達だよ)

海未「!?」ギンギンギン

海未(い、いけません、ことりの甘い声で頭がぼうっとして来ました)

ことり「ことりの気持ち…わかるよね?」

ことり(だから、なんでも話して。隠し事しないで。ことりの世界一大切な友達さん)

海未は理解していた。今ここで振り向いたら、もう理性では止めることができなくなる。
――しかし、ゆっくりとことりの方を振りかえる自身の動きを理解しながら、海未の脳はそれに反抗する命令を出せなかった。

ことり「えへへ、やっとこっち向いてくれた」

海未(ことり。ことりことりことりことりことりことりことりことりことりことり)

海未はことりの肩に手をかける。

ことり「海未ちゃん」

そして、

ことり「おねがい。海未ちゃんの悩み、聞かせて?」

海未「ことりっ!」

勢いを付けて起き上がり、ことりに馬乗りになる。

ことり「う、海未ちゃん? 顔がこわ――んむっ!?」

ことりの唇を塞ぐ。ことりの言葉はもう海未の耳には届いていない。

ことり「う、海未ちゃん…? どうして」

海未「ことりも私と同じ気持ちだったんですね。…思えば、お泊りに誘った時点でそういうことですよね。鈍感ですみません」

ことり「海未ちゃん? 変なこと言ってるよ…? ことりたち、女の子同士で、友達同士だよ?」

ことり(海未ちゃん、ことりの両腕すごく強い力で握ってて、身動きがとれない…)

海未「ああそれは大丈夫ですよ。最近いい物を手に入れたんです。これで一つになりましょう」ボロン

大きくなりっぱなしだった海未のそれの力に耐えられず、前貼りが剥がれ落ちる。パジャマのズボンからはみ出るほど、それは肥大していた。

ことり「え、なに、海未ちゃん、それ」

海未「私達を一つにしてくれるものですよ」

ことり「い、いやっ! 海未ちゃ―――」

もう一度ことりの唇を塞ぐ。そのままことりにのしかかり、股間のそれを服の上からことりの秘部にこすりつける。

ことり「う、うみひゃ…や、やめてっ! ことり、そんなつもりじゃなかったの!」

海未「ことり。可愛いですよ。愛してます」スリスリ

ことり「やめて、やめて、やめてやめてやめてぇっ!!」ボロボロ

海未(ああ…気持ちいい。最高です。脳みそがとろけそうです。ことりが何か言っていますね…きっと喜びのことばでしょう。よろこびのあまり泣いているのでしょう)

海未(せっかくこころがむすばれたのだから、からだもせいいっぱいよくしてあげないといけませんね)

海未「下着、脱がせますね」グイッ

ことり「そ、それだけは!!」

海未「脚をそんなにバタバタさせるとうまく脱がせられません。じっとしててください」

ことり「いやだぁ、やめてぇ!! 怖いよぉ!」

海未「ふう、ようやく脱げました」

ことり「海未ちゃん、離して…」ボロボロ

海未「もうだいぶ濡れてますね。たぶん挿れても大丈夫でしょう」ピトッ

ことり「……う、海未ちゃん? おねがい、やめて?」

海未「ことり…」ピタッ

海未(あ…また頭がぼうっと…)

ことり「今ならまだ戻れるから。今日はもう寝て、明日からことりたち、また同じように親友だから。こんなことしなくても、海未ちゃんは私の最高の友達だよ?」

海未(ことりがなにか言っている…よく聞こえない…)

ことり「そんなものが生えて辛かったんだね。簡単に言えるわけないよね」

ことり「でもことりは海未ちゃんのつらい気持ち、わかろうと努力するよ。なんとかする方法も一緒に考える」

ことり「だから、普段の優しくて、かっこいい海未ちゃんに戻って」

海未「…………」

ことり「…わかってくれたんだね。じゃあ、それしまお? えっちはできないけど、ぎゅっとしてあげるのはできるから。ほら」

海未(ああ…ことりが腕を広げて、私を迎え入れようとしている…応えないと…)

海未「ことり」

海未「愛してますよ」ズブッ

ことり「えっ……いやああああああああ!!! 痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!!」

海未「ああ…最高の気分です。最初は少し痛いと思いますが、すぐによくしますので我慢して下さいね」ズルッズルッ

ことり「抜いて抜いて抜いて抜いてぇーーーーっ!!!」

ことりは力いっぱい叫び声をあげる――海未にとっては、それは喜びの音にしか聞こえない。海未はことりを握りしめる力をますます強くする。

ことり「海未ちゃん、どうして!? なんで?!! 信じてたのに、友達だと思ってたのに!!!」

海未「ことり、ことり。ことり…っ!」

焦点が外れた海未の瞳を見て、ことりは恐怖を募らせる。目の前にいる幼馴染が、何か得体のしれぬ凶暴な者に豹変し、自身を喰らい尽くそうと恣に暴力を自分に奮っている。

ことり「こんなの…嘘だよ。夢だよ…海未ちゃんが、海未ちゃんがこんなことするわけ…ひぎいっ!?」ボロボロ

現実逃避をしようとしていたことりを、海未が自身を更に深く突き入れて無理やり引き戻す。

海未「ことり、これから毎日愛し合いましょうね」ズッズッ

ことり「い……あ……」

ことり「いやあああああああ!!! あああ、あああ…ああああああ!!!!!!」



 ◆



海未(……ん。ここは)

海未は周囲の様子をきょろきょろとうかがい、記憶を辿る。

海未(ああそうでした。ことりの家にお泊りしていたのでした)

海未(ことりと一緒のベッドにいて、いくつかお話をして…いつの間にか寝てしまっていたようですね)

海未(まだ暗いですね…今何時でしょうか)

ヒグ…ヒック

海未(…泣き声?)

海未がかすかな泣き声をする方に顔を向けると、毛布に顔をうずめたことりの頭があった。

海未「……ことり?」

ことり「!」ビクッ

海未(怯えている…?)

ここ数日、のぼせてぼうっとすることが多かった海未の頭だが、今は非常にすっきりしていた。

海未「ことり」

だから、目の前にいる大切な親友に対して、慰める為に抱きしめるというのは極めて自然な行動だった。

海未(おおかた、怖い夢でも見たのでしょう)

海未「私はここにいますよ。大丈夫ですよ」ギュッ

ことり「ひっ! やめて!! もう酷いことしないで!!!」

それは海未自身に対する抵抗だった。しかし海未はそれを理解せず、安心させるためにますます力強くことりを抱きしめる。

海未「大丈夫です。大丈夫ですよ」

ことりは海未を引き剥がそうと、必死で海未の肩をつかむ。ことりの爪が海未の肩に食い込む。

海未「っ!」ビクッ

海未は痛みを殺して、変わらずことりを抱きしめ続ける。

海未「ことり。ことりは一人じゃありません。ここに私がいます」

ことり「…!」

そして。

海未「ずっと一緒ですよ。世界一大切な友達ですから」ニコッ

ことり(あ…)

『大切な友達』。ことりが、聞きたくてやまなかったこと。凛とした声で、優しく抱きしめながらことりにささやく。

ことり「……海未ちゃん。落ち着いたから、離して。痛いよ」

海未「あ、ああすいません」バッ

ことりを離した際に、海未はあることに気がつく。

海未(ことり…裸……? なぜ)

ことり「ねえ海未ちゃん、海未ちゃんはことりのことが大切?」

海未は自身の記憶の中に、黒い影を見つけた。

海未「ことり…? もちろんですよ」

その影はじわじわと広がり、海未の記憶を覆い尽くしていく。

ことり「なら、教えて?」

海未「あ…」

影が記憶を覆い尽くした瞬間、それは鮮明な像となって再現される。





ことり「どうしてことりをレイプしたの?」





海未「あ、あ…そんな。ことり、違うんです」

ことり「ことり、やめてっていったよ? そんなつもりじゃないっていったよ?」

海未「それ、は」

『聞こえなかったのです』といえるはずもなく、海未は次の言葉に窮する。

ことり「すごく痛かった。怖かった。でも海未ちゃんは、ことりを離してくれなかったよね」

海未「こ、と、り」

ことり「何度も言ったのに。何度も何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も」

こことり「……………結局、三時間もことりの上で腰を降ってたよね」

ことり「ことり、時計を見ることぐらいしかできなかったから、はっきり覚えてるよ?」

ことり「私達がベッドに入ったのが十時ぐらい、海未ちゃんが疲れて寝ちゃったのが一時五分」

ことり「それから今までことりはずっと泣いてたよ。……泣いてたんだよ」

ことり「ことりが何が一番悲しかったか、海未ちゃんわかる?」

海未「それは…私が…」

ことり「ことりはね。海未ちゃんが海未ちゃんじゃなくなっちゃったことが悲しかった」

ことり「私の気持ちも聞かないで、自分がしたいままに乱暴して、海未ちゃんがそう変わっちゃって、今までの関係じゃいられなくなっちゃったことが、一番悲しかった」

ことり「でもそれならそれで良かったの」

ことり「海未ちゃんが自分勝手にことりの大切なものを奪うような最低の人間だってわかったから、海未ちゃんのことを嫌いになって、心から憎んでやろうって思って」

ことり「だからさっき泣いてたのは、悔し涙だよ」

ことり「こんな最低の人間に、ことりの大事なはじめてを全部奪われたことへの悔し涙」

ことり「起きたらきっと海未ちゃんは、またしたいようにことりをもてあそぶ」

ことり「そうされればされるほど、ことりの中の海未ちゃんへの憎しみは大きくなって、海未ちゃんをどんどん嫌いになれる」

ことり「今まで一緒に過ごしてきて積み重なった、高い高い海未ちゃんへの大好きがどんどん崩れて、最後には海未ちゃんのことを大嫌いになって、海未ちゃんから離れられる」

ことり「そしたら海未ちゃんにレイプされたことを、みんなに言いふらすの」

ことり「海未ちゃんは周りの人みんなに軽蔑されて、一人ぼっちになる」

ことり「ことりは海未ちゃんに復讐できる」

海未「ことり、私は」

ことり「なのにっ!!」

ことり「……どうして、そんなに、やさしくするの?」ポロポロ

ことり「どうして、いつもの、優しい声で、素敵な笑顔で、私を慰めようとするの?」

ことり「ことりを滅茶苦茶にしたのは海未ちゃんなんだよ?」

海未「ことり」

ことり「ことり、もう自分自身がわからない」

ことり「海未ちゃんを殺してやりたいぐらい憎んでて、でも同時に海未ちゃんが大好きで、もっと大切にされたくて」

ことり「わからない。わからないよ! わからないよぉおおおお!!! あああああああああ!!!!」

ことりはパニックになり、近くにあるものを片っ端から投げ始める。投げつけられた携帯電話が窓ガラスに直撃し、ガラスの破片が降り注ぐ。

海未「ことりっ!」

海未はとっさにことりに覆いかぶさる。破片がいくつか、海未の背中に刺さる。

海未「うぐっ」

肩に刺さった破片から血がしたたり落ち、ことりの頬に落ちる。

ことり「う、海未ちゃん…ガラスが」

海未「私は平気です。ことりに刺さってはいませんか」

ことり「わ、私は大丈夫」

平静に戻ったことりが海未の身体を見渡すと、ガラスが刺さったのは一箇所や二箇所ではなかった。

ことり「う、海未ちゃん、いっぱい刺さって」

海未「大したことはありません。……ことりはもっと痛かった」

海未(私は、許されないことをしました。あろうことか一番大切な人に)

ことり「!」

海未「……言い訳はしません。許してもらえるとも思ってません。ただ、一生かけて償います。償わせてください」

海未(私がうろたえていてはいけない。ことりのために、やれることをやらなければ)

ガラスが刺さった傷口から、次々に血がしたたり落ちる。

ことり「海未ちゃん、わかった、わかったから! 手当させて!」



傷は肩と背中に集中していた。幸い深く刺さっている箇所はなく、家にある治療用具で応急処置は事足りそうだった。海未が座ってことりに背中を向け、ことりが傷口を綿棒で消毒している。

ことり「後でちゃんと病院に行ってね? 万が一ガラスの破片が身体に入ってたらいけないから」ピトピト

海未「はい、お気遣いありがとうございます。…ことり」

ことり「なに?」

海未「私をどうしたいですか?」

ことり「…」

ことりは手に持った綿棒をぎゅう、と握りしめる。

海未「どんな内容でも従います」

ことり「死んでって言ったら死ぬ?」

海未「はい。可能な限り苦痛が大きい方法で自殺します」

ことり「……」

海未「大丈夫です。ことりとは関係ないように見せますので」

ことり「海未ちゃん。さっき一生かけて償うって言ったよね?」

海未「はい」

ことり「一生ってことは、すごく長い時間ってことだよ?」

ことり「死んでそれをすぐに終わらせようとするなんて、ずるいんじゃない?」

海未「それは…」

ことり「死ななくていいから、ことりのお願い聞いてくれる?」

海未「はい。どのようなものでも」

ことり「……」

ことりはうつむいて考える。

ことり(……海未ちゃんにされたことは、きっとずっと許せない。それに、許したとしても、もう昔の関係には戻れない。…それなら)

海未「ことり? どこか痛むのですか…?」クルリ

心配した海未がことりの方を振り向く。

ことり「ねえ海未ちゃん」

海未「こと――んっ」

名前を呼びかけた海未の唇を、ことりが塞ぐ。

海未「ことり…」

ことり「ことりの恋人になって?」

海未「私には…その資格が」

ことり「あははっ、やっぱり海未ちゃんってそっちの人だったんだね」

海未「!」

ことり「ずっと私のこと、そういう目で見てたんだよね? すごく気持ちわるいなあ」

海未「…はい、私は気持ち悪くて、最低の人間です。そんな私がことりと付き合う資格なんてありません」

ことり「駄目だよ。ことりは海未ちゃんを逃してあげない」ストン

ことりは海未に抱きつき、そのまま床に押し倒す。

ことり「海未ちゃんは、女の子を好きになっちゃう変態さん」

ことり「ううん、女の子ですらない。だって女の子にはあんなもの生えてないから」

ことり「人間ですらないよ。人間には理性があるから、嫌だって言ってる人を無理やり乱暴したりしない」

ことり「海未ちゃんは人間以下の獣さんだよ」スッ

ことりは海未の頬を撫でる。

ことり「こんなにきれいな顔をしてて、勉強も運動もできて、優しくてみんなに好かれる海未ちゃん」

ことり「そんな海未ちゃんが実は醜い獣さんだなんて、ことりしか知らない」

ことり「……そして、その獣さんに、ことりもたっぷり汚されちゃいました」

ことり「良かったね、海未ちゃん。私達、二人だけの特別な関係だよ?」

ことり「ことりはちっとも海未ちゃんのことぜんぜん愛してないけど」

ことり「お互い心も身体も汚れきっていて、とっても醜くて、それを私達しか知らないんだから」

ことり「だから、海未ちゃんはことりから離れちゃ駄目なの。ことりに一番近い場所にいて、ことりにキスして、ことりを抱いて」

ことり「ことりが海未ちゃんへの憎しみと、海未ちゃんを大好きな気持ちのはざまでぐちゃぐちゃにこわれていくのを見て」

ことり「海未ちゃんは四六時中ことりのことを考えて、苦しみ続けないといけないの」

海未「……ことり」

海未(ああ、私は)

ことり「それがことりの復讐なの♡」

海未「…ことりがそれを望むなら」

海未(もう、戻れないところまで来てしまった――)



 ◆



ガラスを割ったことの謝罪をことりの母親に済ませ、病院に行ったあとに海未は家に帰った。もちろん本当の事情を話したわけではなく、『寝ぼけて物を投げて割ってしまった』という理由にしておいた。海未はことりについていようと思ったが、ことりは穂乃果との約束があるからと言って、その日は別れることになった。ことりは体の疲れもあって、穂乃果と会いはしたが、早めに切り上げ結局映画には行かなかった。

翌日、月曜日。アイドル研究部、放課後

凛「海未ちゃんとことりちゃんが!?」

花陽「付き合うことになっちゃったのぉ!?」

ことり「そうなんですっ! ラブラブのアツアツなんです♡」ギュッ

ことりは海未と腕を組む。

海未「…」

穂乃果「いや〜穂乃果も朝いきなり熱いキスを交わす二人を見てびっくりしたね! 今までそんな素振り全くなかったのに」

真姫「…あの、ことり?」

ことり「なぁに?」

真姫「あんまりこういうの、おおっぴらに言わないほうがいいわよ? 私はそういうのに偏見ないけど、そうじゃない人もいるし」

ことり「愛があれば大丈夫だよ♪ それに、もうお母さんにも話したし、クラスメイトにも話しちゃった」

真姫「えっ」

海未「真姫、お気遣いありがとうございます。ですが私たちは大丈夫です。ことりの好きにやらせてください。何があっても、私がことりを守りますから」

ことり「や〜ん海未ちゃん、愛が深い♡」ギュッ

凛「茶番にゃ」

花陽「り、凛ちゃん」

穂乃果「海未ちゃん今日調子悪いの?」

海未「? そんなことありませんが」

ことり「海未ちゃんはことりパワーで今日も絶好調だよ♪」

穂乃果「今日の海未ちゃん、なんか淡々としてるし。今だってことりちゃんが抱きついてるのに、照れもしないから、なんか違うなって。大丈夫?」サスサス

海未「なっ// いきなり頭を撫でないでください!」

凛「浮気?」

花陽「凛ちゃん!」

ことり「……」

真姫「ことりに告白したきっかけが、ガラスの破片からことりを守ったことなのよね? その時の怪我がまだ痛むとか?」

海未「……はい。実はまだ鈍い痛みがあって。激しい動きは避けてるんです」

真姫「痛みが続くようだったら、また病院行くのよ? 昨日の検査ではたまたま見つからなかっただけで、異常があるのかもしれないし」

海未「わかりました」

凛「ことりちゃん、今日は練習日じゃなかったけど、集まったのって付き合うのを報告したかったから?」

ことり「うん、そうだよ。大事なことだからすぐに伝えておきたくて」

穂乃果「じゃあ用事も終わったことだし、今日はもう帰ろうか」

花陽「うん、明日は練習日だから、みんな頑張ろうね」

μ’sは解散したが、残ったメンバーに雪穂と亜里沙を足した八人はアイドル活動を続けていた。しかし活動はそこまで頻繁でなく、ライブやイベントを八人揃ってやることも少なかった。ラブライブにはもう出場しないと最初に皆で決めた後に、自然とそういう形になった。今は週に2回集まって練習し、小さなイベントをメンバーそれぞれが自分のペースでこなしている。

穂乃果「じゃあ海未ちゃん、ことりちゃん、帰ろ」

ことり「ごめんね穂乃果ちゃん。今日はこの後海未ちゃんと二人っきりで過ごす予定だから」

穂乃果「あ、そうなんだ」

ことり「明日からは一緒に帰れるから! 今日だけお願い」

穂乃果「うん、わかったよ! 楽しんできてね」

ことり「海未ちゃんいこっ♡」ギュッ

ことりが海未と腕を組む。

海未「はい、行きましょう。みなさんそれでは」

凛「ばいばーい」

花陽「また明日!」

穂乃果「じゃあねー!」

真姫「…さよなら」

パタン

穂乃果「いや〜今日はもう二人とも甘々だったね!」

凛「ことりちゃんちょっとキャラ崩壊してたね」

花陽「幸せそうでなによりだね」

真姫「…そうかしら」

穂乃果「真姫ちゃん?」

真姫「私には、海未が無理して付き合ってるように見えたけど」

花陽「ええ?」

凛「うーん。確かにちょっと海未ちゃん元気なかったけど、怪我のせいじゃないの?」

真姫「なんとなくよ。ことりがはしゃいでたってのもあるけど、いつもより喋る量が少なかったし…恋人が出来たにしては冷静すぎるというか。穂乃果はどう思う?」

穂乃果「うーん…海未ちゃんはことりちゃんを守ろうとしてたんじゃないかな。弓道のときがそうなんだけど、海未ちゃんって、集中してるときはほとんど喋らなくなるから。ことりちゃんが暴走気味だったから、落ち着いて見守ってたのかなって。ほら、真姫ちゃんが言ったみたいに、女の子同士ってのが駄目な子もいるし」

真姫「なるほどね」

穂乃果「…穂乃果には、ことりちゃんのほうが無理してるように見えたなあ」

花陽「ことりちゃんが?」

凛「どうして? すっごくはしゃいでて、とてもそんな風には見えなかったよ」

穂乃果「んー。なんとなくなんだけどね。ことりちゃん、無理して楽しそうにしてる感じがして」

凛「いやいや海未ちゃんに付き合ってるってこと?」

真姫「…どう考えてもそうは見えなかったけどね。第一、ことりがそういうことする理由がないわよ。海未が強制するなんて、もっとありえないし」

穂乃果「そうなんだよねー。まっ、だからこの話はここでおしまい! 変な詮索はやめて、二人をみんなで素直に応援しようよ!」

凛(もともといい出したのは穂乃果ちゃんにゃ)

花陽「そうだね、女の子同士ってこともあるし、障害も多いだろうから、私達が支えてあげないと」

真姫「…ええ。そうね」

真姫(海未は穂乃果が好きだと思ってたけど…違ったみたいね)



南家、ことりの部屋

部屋に入るやいなや、ことりは海未をベッドに押し倒す。

海未「こ、ことり。着替えないと制服がシワになって――んむっ」

ことりは海未の言葉をキスで制する。

ことり「海未ちゃん、今日穂乃果ちゃんになびいてたよね」

海未「そ、そんなこと」

ことり「おかしいよね。海未ちゃんはことりの恋人なのに。まだ付き合って一日しか経ってないのに、浮気するつもりなの?」

海未「そんなことありません!」

ことり「…ねえ海未ちゃん、えっちしよ?」

海未「なっ、そんな」

再びことりが海未の唇を塞ぐ。強引に海未の口の中に舌を這わせ、口の中で互いの舌を絡ませ合う。

海未「ん、ふっ、い、いけませんことり」

ことり「何がいけないの? 海未ちゃんのここはとっても元気だよ?」スッ

海未「ひぐっ」

海未の股間のそれをことりが握りしめる。

ことり「これを穂乃果ちゃんに入れたかったの? ことりに無理矢理したみたいに」

海未「こ、とり、離してくだ」

ことり「穂乃果ちゃんの名前を聞いたらまた大きくなった」

ことり「やっぱり穂乃果ちゃんが好きなんだね。ことりよりも」

海未「ちが、いま」

ことり「浮気さんなこれは握りつぶしちゃおうか? すごく痛いだろうけど海未ちゃんが悪いんだもんね」ギュウウウウウ

海未「い゛っ!? あ、が、うぐあっ!!」

ことり「どうしたの? 抵抗してみなよ。海未ちゃん私より力強いでしょ?」

ことり「大きくなってるんだし、押し倒してそのまま私の事犯せばいいじゃん。この前みたいに」

海未「そんな、こと、し、ません」

ことり「あっそ。じゃあ握りつぶしちゃうね」グググググ

海未「あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」

ことり「このままだと潰れちゃうよ? いいの?」

海未「う、ぐ、ぎぃっ…」

海未「は、はい。ことりが望む、なら」ニッコリ

ことり「…」ギリッ

ことりは手を離し、海未の腹の上に脚を開いて乗る。

海未「ことり…?」

ことり「ことり、海未ちゃんのそういうところ大っ嫌い」

ことり「ことりの言われるがままにしておけば、ことりが海未ちゃんのこと許すと思った?」

海未「そんな…私はあうっ!?」ズブッ

ことり「あはは…入っちゃった。騎乗位だっけ? これ」ユサユサ

海未「い、いけません、ことり、抜かないと」

ことり「全然痛くないよ? この前あれだけされたんだから、すんなり入ったよ」ズッズッ

海未「う…あ…」

海未(気持ちいい、です…)

ことり「ねえ海未ちゃん、下から突いて?」

ことり「ことりの恋人として、ことりのこと気持ちよくして?」

海未「わ、私は」

ことり「海未ちゃん、おねがぁい♡」

海未「ことりぃっ!」ズイッ

ことり「あっ♡ 来たあっ♡」

海未「ことりっ! ことりぃっ…!」ズッズッズッ

ことり(海未ちゃんが必死にことりの下で腰振ってるよぉ♡)

ことり「はぁっ♡ はぁっ♡」

――ぽたり、と海未の頬に透明な液体が落ちる。

海未「ことり! 愛してます! ずっと大切にします!」ズッズッズッ

ことりはその液体が、自分の顔から落ちていることがわかった。

海未「ことり! ことり! ことり!」ズリュウ

ことり(……ああ、海未ちゃんは私をこんなに愛してて。こんなに想ってて。だけど私は。私は――)

それが涙であることをことりは知り。

ことり「ことりは海未ちゃんのこと、なんとも思ってないよ」ボソリ

海未に聞こえぬよう、そう小さくつぶやいた。





夜、園田家

海未(家に帰ると、玄関で母に自室に来るように言われました)

海未母「…今日はお父様は出張でいらっしゃいませんから、お父様には私から後で伝えておきます。何を聞かれるか、わかっていますね」

海未「はい」

海未母「南理事長から今日電話で聞きました。ことりさんとお付き合いすることになったそうですね」

海未「はい。以前からお慕いしていて、先日想いを伝えました」

海未母「貴女は園田家の跡継ぎです。いずれ婿を取らなければならない。その立場は、理解していますね」

海未「…はい」

海未(お母様、申し訳ありません。それでも私はことりを)

海未母「……ことりさんのこと、本当に愛していますか」

海未「えっ?」

海未母「愛しているのかと聞いているのです」

海未「そ、それはもちろん。世界で一番愛しています」

海未母「女性同士の恋愛は、社会的に厳しいものです」

海未母「結婚もできず、差別する人もいる」

海未母「貴女はそれでもことりさんを愛し続けることができるのですか?」

海未「はい。できます」

海未(悩むまでもありません。何があろうと、誰が邪魔をしようと、私は一生ことりを守ると決めたのだから)

海未は凛とした顔で、真っ直ぐに母を見つめる。

海未母(この子は…私と同じ…)

海未母「わかりました。お好きになさい」

海未「…あの、お母様。私が言うのもおかしいと思うのですが、園田家の跡継ぎはどうされるのですか」

海未母「お父様にはうまくいっておきます。今は貴女も高校生ですし、若気の至りと思ってくれるでしょう。後のことは時間をかけて考えていきましょう」

海未(筋が通ったことしか認めないお母様が、こんなその場しのぎの判断をするなんて)

海未「……大変ありがたいのですが、それだとお母様が…」

海未(男子を産まなかったことを、一時期非難されたと以前聞きました)

海未(このうえ娘が婿を取らないとなると、母の園田家での立場は完全に無くなってしまう)

海未母「私のことはいいのです。それより、自分のことを考えなさい」

海未母「貴女の身体の特徴も、いずれことりさんの知るところになるでしょうから」

海未(…もう知ってて、一線を超えてしまったとは、とても言えませんね)

海未母「今日は遅いですし、もう寝なさい。明日の朝から稽古を再開しますので、そのつもりで」

海未「…はい、おやすみなさい」

海未母(この子には自分の気持ちに正直に生きてほしい。私と同じ運命を辿らせてはいけない…)



 ◆



一週間後。高坂家、穂乃果の部屋

穂乃果「それで、話って何? 絵里ちゃん、希ちゃん、にこちゃん」

絵里「海未とことりのことよ」

穂乃果「ああ、もう聞いたんだ。アツアツだよねー」

希「聞いたも何も、わざわざ三人で呼び出されて、見せつけられたよ」

にこ「『大事な話があるから三人で来て!』って言われたから何事かと思ってたから、拍子抜けしちゃったわ。にこの貴重な時間を返してよ」

穂乃果「わ、私に言われても…」

絵里「それでね、ちょっと変だなと思って。穂乃果に確認しにきたの」

穂乃果「変? 怪我のことかな? なんか転んだとかで、顔と首に痣ができてたよね」

にこ「そういえば怪我してたわね。階段から落ちたとか言ってたけど。でも、今日の話はそれじゃないわ。絵里、始めて」

絵里「……私ね、海未の想い人は穂乃果だと思ってたの」

穂乃果「えっ?」

穂乃果(海未ちゃんが穂乃果を…? でも海未ちゃんはことりちゃんと)

絵里「私、海未が告白されてるところを、偶然見かけたことがあるの」参考:http://www.nicovideo.jp/watch/sm23893163

希「海未ちゃんはモテモテやからな」

絵里「そのとき海未をちょっとからかって、『私は高坂穂乃果を愛してるから、貴女とは付き合えません』ってはっきり断ったらどう? って言ったことがあってね。そしたら海未、本気で照れてて」

穂乃果「海未ちゃんは照れ屋さんだから。ことりちゃんとか、別の人を例にあげても照れてたと思う」

にこ「……鈍いわね、あんた。海未がずっと穂乃果を目で追ってたなんて、あんたと凛以外ほとんどのメンバーが気づいてたわよ?」

穂乃果「それは、穂乃果が変なことしてないか監視するためで…」

希「穂乃果ちゃん、海未ちゃんが穂乃果ちゃん好きだとそんなに都合悪いの?」

穂乃果「悪いよ! だって海未ちゃんはことりちゃんと」

絵里「そうよね、悪いわね。だからこそ、今ほうっておくと、後々大変なことになりそうな気がしたの」

にこ「同性愛の三角関係が原因でこじれるアイドルグループなんて、前代未聞だわ…」

希「もうμ’sは解散しとるけどね」

穂乃果「考えすぎだよぉ」

絵里「…じゃあ、質問を変えるわね。穂乃果は海未のことどう思ってるの?」

穂乃果「私?」

絵里「ええ」

穂乃果(海未ちゃんは…生まれる前から私と一緒の、いちばん大切な親友)

穂乃果(ことりちゃんと付き合うことになっても、それは変わらない)

穂乃果(…あーでも、最近ずっと一緒に帰ってないんだよね)

穂乃果(朝は一緒だけど、放課後はいつもことりちゃんと用事があるって言って帰っちゃうし)

穂乃果(だいたいことりちゃんずるいよ! 一日だけって言ったのにあの後も何かと理由をつけて毎日海未ちゃんを取っちゃうし――)

にこ「早く答えなさいよ」ズイッ

穂乃果「うわっ、にこちゃん近い!!」

にこ「近づくまで気が付かないあんたが悪いのよ」

希「おおかた、ことりちゃんに海未ちゃんを取られて悔しい! とか考えてたんやろ」

穂乃果「えっ希ちゃんってエスパー!?」

絵里「…穂乃果。貴女、海未のことは好き?」

穂乃果「好きだよ?」

絵里「それは友達としての好き?」

穂乃果「そうだよ」

穂乃果(…ん?)

心の中に感じるかすかな違和感。

絵里「…そう。なら問題ないわね。二人のこと、友人として支えてあげなさい」

にこ「特にことりは、浮かれてるのか危なっかしかったわ。暴走しないように、何かあったら止めてあげるのよ」

希「ウチたちは応援してるよ。何かあったら、いつでも相談してね」

穂乃果「ありがとう、みんな!」



日曜日、南家

ことり(海未ちゃんは今日定期検診だって言ってた。あれが生えてきてから、信頼できるお医者さんに週一回見てもらうことになったらしい)

ことり(付き合いはじめてからずっと一緒にいたから、逆に海未ちゃんがいないことに違和感を感じるようになってきたなあ。今日は何しよう)

ことり(…そういえば、先週穂乃果ちゃんと映画にいけなかったんだった)

ことり(穂乃果ちゃん、今日暇かなあ)

ことり(メールで聞いてみようっと)ポチポチ



映画館前

ことり(穂乃果ちゃんも暇だったみたいで、すぐにOKの返事が来て、映画館前で待ち合わせることになったよ)

穂乃果「ことりちゃーん、おまたせー!」

ことり「やっほー穂乃果ちゃん♪」

穂乃果「えへへ、なんだかこうして二人で会うの久しぶりだね」

ことり「今日はことりも穂乃果ちゃんに浮気しちゃいます♪」

穂乃果「あーいけないんだー、海未ちゃんに言ってやろー」

ことり「浮気はことりの甲斐性です!」

穂乃果「なにそれ、あはは」



映画を見終わった後、二人はことりの家でお菓子を食べながら駄弁ることにした。ことりの母は出かけており、家には誰もいなかった。

穂乃果「映画楽しかったー! まさかいまどき爆発オチだなんて思いもしなかったよ!」

ことり「ことりは恋愛映画が爆発オチなのにびっくりです…」

穂乃果「ことりちゃん座って!」ザブトンスッ

ことり「ありがとう♪」

ことり「私のクッションだけど」

穂乃果「粗茶ですが」ユノミスッ

ことり「わーい♪」

ことり「私が淹れたお茶だけど」

穂乃果「粗まんじゅうですが」ホムマンススッ

ことり「ふふ、粗まんじゅうってなに」

穂乃果「粗末なまんじゅうの略だよ!」ドヤァ

ことり「それはわかってるよぉ」アハハ

ことり(ああ…穂乃果ちゃんと話してると本当に落ち着くなあ)

ことり「ことり、穂乃果ちゃんが友達で、本当に嬉しいよ」

穂乃果「何いきなりー照れるな// 穂乃果もことりちゃんと海未ちゃんが友達で嬉しいよ!」

ことり「海未ちゃん…?」

穂乃果「あ、海未ちゃんはことりちゃんにとっては恋人だったね!」ヒュ-ヒュ-

ことり「あ、うん…」シュン

ことり(海未ちゃんのこと考えはじめると心も頭もいっぱいになっちゃうから、できれば今は思い出したくなかったな)

穂乃果「どうしたの? 海未ちゃんと喧嘩でもした?」

ことり「そうじゃないの」

穂乃果「海未ちゃんは怒ると怖いからねえ。穂乃果も全力ビンタ食らったことあるし。結構海未ちゃんって乱暴だよね」

ことり「!」ビクッ

乱暴、という単語を聞いて、ことりの肩が震える。穂乃果はそれに気が付かず話を進める。ことりの部屋。――海未に陵辱された場所。

穂乃果「ことりちゃん可愛いし、海未ちゃんはムッツリなところあるし、ひょっとして海未ちゃんに押し倒されちゃったりした? なーんてね「いやあああっ!!!」

ことりの頭に、あの夜の記憶がフラッシュバックする。

穂乃果「こ、ことりちゃん?」

(『これで一つになりましょう』)

愛をつぶやく言葉が、呪いのようにことりの頭に突き刺さる。

(『愛してますよ』)

ことり「やめて、酷いことしないで!!」

(『これから毎日愛し合いましょうね』)

ことり「海未ちゃん、やめて、痛い痛い痛い痛い、痛いよぉおおーーー!! なんで、どうして信じてたのに、う、あああいやああああ!!!!!!」

穂乃果「ことりちゃん!!」ギュッ

暴れだしたことりを穂乃果が抱きしめる。それでもなおことりは収まらず、穂乃果の腕の中で激しく抵抗を続ける。

穂乃果(ぐ…すごい力…! でも今離したらっ…!)ギュウウ

穂乃果はにこの言っていたことを思い出す。

(にこ「…特にことりは、浮かれてるのか最近危なっかしいわ。暴走しないように、何かあったら止めてあげるのよ」)

穂乃果(にこちゃんの言うとおりだったよ。ことりちゃんは苦しんでたんだ)

穂乃果(苦しんで苦しんで、それでも誰にも迷惑をかけたくなくて、自分の中に溜め込んでたんだ)

ことり「う…ううっ…」

暴れ疲れたのか、ことりの力が弱まっていく。

ことり「ほの…か、ちゃん?」

すっかり脱力し、うつろな目でことりは穂乃果を見上げる。

穂乃果「ごめんね」グスッ

ことり「?」

穂乃果「気がついてあげられなくて、ごめんねぇーーっ!」ビエ-ン

穂乃果はことりを抱きしめたまま、大声で泣き出す。

ことり「ほっ穂乃果ちゃん!? 泣かないで!」オロオロ

穂乃果「ぐすっ、だって、ことりちゃん、が」

ことり「ことりは平気だから。ねっ?」

穂乃果「全然平気じゃないよぉおぉ! 海未ぢゃんどなにがあったのぉおおお!」

ことり「!」

穂乃果「私達、友達でしょ…? 話して…?」

友達。ことりが一番大切にしていたもの。

ことり「……穂乃果ちゃん。ことり、海未ちゃんと穂乃果ちゃん、大切な友達だと思ってたの」

穂乃果「穂乃果も同じ気持ちだよ」

ことり「二人とも大切だったの。上とか下とかないの」

ことり「海未ちゃんと穂乃果ちゃん、二人とも同じように大好きだった」

ことり「だから、穂乃果ちゃんを大切にするのと同じぐらい、海未ちゃんを大切にしようとした。そしたら、そしたら」グスッ

穂乃果「ことりちゃん」ギュッ

ことり「……ことり、海未ちゃんにレイプされたの」

穂乃果「……海未ちゃんが……?」

『信じられない』『本当なの』と言いたい気持ちに駆られたが、穂乃果にはそれができない。これほどまで憔悴している親友を疑う言葉など、発することができようか。

ことり「海未ちゃんのお股に、男の人のあれがあって」

ことり「お泊りで一緒に寝てたときに、上に乗っかられて、ことりは動けなくて、海未ちゃんのが、そのまま、そのまま、ううう、あああいや、いや、いや」

穂乃果「ことりちゃんっ!」ギュッ

穂乃果(…普通に考えたらあり得ない話だけど、ことりちゃんがこんな状況で嘘をつくとは思えない)

穂乃果(それに…いまのことりちゃんをこれ以上問い詰めることなんてできない)

穂乃果「もうわかったよ…もういいよ。辛かったね。怖かったね」ナデナデ

ことり「穂乃果ちゃあああああん!」

穂乃果「ことりちゃん、ことりちゃん!」

二人は抱き合ったまま、大声で泣き続けた。



ことり「ありがとう、穂乃果ちゃん。胸の中でもやもやしてたものが、ちょっとだけすっきりしたよ」

穂乃果「うん。今度から辛いことがあったらすぐ話してね。穂乃果はいつでもことりちゃんの味方だよ」

ことり「…うん」

穂乃果「海未ちゃんとは…どうしたいの」

ことり「……わからない。わからないよ」グスッ

穂乃果「ことりちゃん…」

ことり「海未ちゃんのことは、昔から大好きだった」

ことり「でもそれは友達としての大好きで、海未ちゃんとキスしたり、身体を重ねたりとかは想像もしてなかった」

ことり「…でも、いまは…自分が海未ちゃんをどう思ってて、どういう関係でいたいかわからないの」

穂乃果「平日の放課後、海未ちゃんと二人っきりで出かけてたけど、そのときは何してたの?」

ことり「……二人でお家デートしてた。海未ちゃんはそのままことりの家にお泊りだよ」

穂乃果「…ことりちゃんの部屋で?」

穂乃果(そんなのおかしい。だって、この場所は海未ちゃんがことりちゃんを)

ことり「何度もえっちなことしたよ」

穂乃果「…!」

ことり「毎日毎日、部屋に入ると同時に、ことりが海未ちゃんを押し倒してね」

ことり「ことりは海未ちゃんが大好きで、恋人同士で、だからこれは当然なんだって自分に言い聞かせながら、何度もしたよ」

ことり「でもね、何度してもね、痛くて怖かった思い出が消えてくれないの」

ことり「優しかった海未ちゃんが豹変してことりを襲う夢を、何度も見たよ」

ことり「そのたびに夜中に目が冷めて。隣に寝てる海未ちゃんが憎くて、何度も殴ったよ」

ことり「お前のせいだ、死んじゃえ、死んじゃえって。ひどいことをいっぱい言った。首を締めたこともあるよ」

穂乃果(海未ちゃんの顔や首にあった痣は、そのときの…)

ことり「でも、海未ちゃんは何も言わなくて」

ことり「ことりがどんなことをしても、じっとまっすぐことりのことを見てくれて」

ことり「ことりが暴れるのに疲れちゃったら、ことりをぎゅっとしてくれて、頭をなでてくれるんだよ」

ことり「そしたらことりは落ち着いて眠れるの」

穂乃果「……」

ことり「海未ちゃんは優しいね。穂乃果ちゃんもそう思うでしょ?」

穂乃果「ことりちゃんだからだよ。海未ちゃんは確かに優しいけど、ことりちゃんにしているようなことは、他の人にはしない思う」

ことり「…そんなことないよ。海未ちゃんがもっと大切にしてる人、ことりは知ってるよ」

穂乃果「…? そんな人いるはずが」

ことりはぴしっと指を穂乃果に向け、穂乃果の言葉を遮る。

ことり「穂乃果ちゃんだよ」

ことり「海未ちゃんがことりを助けるのは、かわいそうだからだよ」

ことり「それも愛の形かもしれないけど、ことりが元気になったら、きっと少しずつ海未ちゃんは離れていってしまう」

ことり「永遠とは程遠い、儚い愛の形」

穂乃果「穂乃果は海未ちゃんに怒られてばっかりだよ。そんな穂乃果を海未ちゃんが好きだなんて」

ことり「大切だから怒るんだよ?」

ことり「穂乃果ちゃんより勉強ができない子だっているし、穂乃果ちゃんより太ってる子もいるし、穂乃果ちゃんよりだらしない子もいる」

ことり「それでも海未ちゃんは、穂乃果ちゃんだからなんとかしてあげたいと思ったんだよ」

穂乃果「それは、μ'sのために」

ことり「そうだね、μ'sのため。穂乃果ちゃんが作って、何よりも大切にしていたμ'sのため」

ことり「学校では弓道部に生徒会、お家では跡継ぎのためのお稽古。しかも成績は常に上位を保持。μ'sで一番忙しいメンバーだと思うよ?」

ことり「そこまで忙しいスケジュールを、文句一つ言わずに、穂乃果ちゃんと同じ夢を見るためにこなしていたんだよ、海未ちゃんは」

穂乃果「…海未ちゃんはとっても優秀だから、それぐらい楽勝なんだよ」

ことり「……もういいよ。それより、穂乃果ちゃんの気持ちはどうなの?」

穂乃果「穂乃果の?」

ことり「海未ちゃんのこと好き? 友達としてじゃないよ」

穂乃果「それは……」

ことり「きちんと考えて、答えを出してね。今までは考えなくてよかったかもしれないけど、もうそうじゃない」

ことり「海未ちゃんは女の子に恋しちゃう子で、男の人と同じように女の子を愛せちゃうから」

ことり「いままで『友達だから』で済んでたことが、これからは取り返しのつかないことになるかもしれない」

ことり「そうなる前に、穂乃果ちゃんなりの答えを出して、それを海未ちゃんに伝えてあげて」

ことり「穂乃果ちゃんには、ことりみたいにはなってほしくないから……」ギュッ

ことりが穂乃果の袖を握りしめる。

穂乃果「ことりちゃん…わかったよ。明日、海未ちゃんと会って話す」

ことり「放課後にゆっくり話すといいよ。ことり、海未ちゃんとはしばらく距離置くね。……なんだか疲れちゃったし」

穂乃果「……ねえことりちゃん、もし穂乃果が海未ちゃんのことを恋愛的な意味で好きだったら、ことりちゃんはどうするの?」

ことり「…わからない…でも、すっごく怖くなると思う。海未ちゃんと穂乃果ちゃんが一緒になって、ことりは一人ぼっちになっちゃうんじゃないかって」

穂乃果「…わかるよ。穂乃果も二人が付き合いだしたって聞いたとき、海未ちゃんとことりちゃんに置いてかれた気がしてたもん。寂しかった」

ことり「穂乃果ちゃんもなの?」

穂乃果「うん。だから約束するよ。どんな結果になっても、ことりちゃんを絶対に一人にしないって。また三人で笑い合えるようにするって」

ことり「……ありがとう」

ことり(でも、もうそれは無理だよ。もう私たちは昔のようには戻れない)

ことり(また三人で一緒にいられるようになっても、きっとそれは昔とは違う形)



 ◆



朝、登校の待ち合わせ場所近く

海未(穂乃果から『明日登校前に話したいことがあるから、十分早めに待ち合わせ場所に来て』というメールがありました)

海未(私はいつも十分前行動なので普段通りにいけば問題ありませんが…あのお寝坊さんの穂乃果が時間の十分前に来られるとは思えません)

海未(まあ、どうせ遅れるでしょうし、用件も大した内容ではないでしょう)

海未(後で改めて時間を設けて聞くとしましょう)

海未(それにしても、今日はことりが私の家まで迎えに来てませんでしたね)

海未(お付き合いするようになってから、毎日欠かさず来ていたのに)

海未(体調でも崩したのでしょうか。心配です)

「うーみちゃーん!!」

聞き慣れた声が、慣れない時間帯に聞こえる。

海未「…穂乃果。貴女がまさか遅刻せずに来るとは」

穂乃果「おはよう! 今日は穂乃果が一番乗りだね!」

海未「そうみたいですね。それで、話したいこととは?」

穂乃果「ことりちゃん来ちゃうといけないから、すぐに済ませるね」テクテク

海未「穂乃果…? そんなに近づかなくても」

バシ---ンッ

海未「へ…?」

頬に感じる鈍い痛みで、自分が平手打ちをされたことにようやく海未は気がつく。

穂乃果「全部聞いたよ。ことりちゃんから」

先程まで明るかった穂乃果の声が嘘であるかのような低い声で、穂乃果は海未に語りかける。

海未「……そうですか」

穂乃果「海未ちゃん。今日の夜、穂乃果の家に泊まりに来て。今日はお父さんとお母さんは温泉旅行に行ってて、雪穂は亜里沙ちゃんの家にお泊りでいないから」

穂乃果「二人で色々と話そう」

海未「駄目です。放課後はことりと過ごします」

穂乃果「ことりちゃんにまた乱暴するの?」

海未「…っ、ふざけないでください! そんなこと、死んでもやりません」

海未はその言葉が自身の本当の気持ちであると同時に、虚偽の事実であることも知っていた。最初にことりに乱暴したのは紛れもなく海未自身であることを、海未はいたく認識していた。

穂乃果「ふぅん。でもどちらにせよ駄目だよ。別に約束してるわけじゃないんでしょう? 誘われても今日は断って」

海未「それはことりが決めることです。ことりに誘われたら私はことりの元に行きます」

穂乃果「……海未ちゃん、ことりちゃんがどれだけ不安定かわかってる?」

穂乃果「昨日も海未ちゃんの話題が出ただけで暴れそうになって、なだめるの大変だったんだよ」

穂乃果「このまま毎日二人っきりで会い続けてると、きっとことりちゃんはおかしくなる」

海未「…」

穂乃果「…ねえ、穂乃果は海未ちゃんが憎いわけじゃないの」

穂乃果「傷ついたことりちゃんが心配で、なんとかしてあげたいの」

穂乃果「そのためには海未ちゃんと一度話をする必要があるって思ったの」

穂乃果「……それに、海未ちゃんも見えないだけできっと傷ついてるだろうから」

海未(穂乃果はこんな私のことも心配してくれるのですね)

海未「わかりました。ことりが強く求めない限り、今日はことりの家に行くのはなしにします」

海未(先週一週間、平日は全てことりの家にお泊りでしたからね。流石にこれ以上行くと変に思われます。ことりのために日を空けるべきでしょう)

穂乃果「うん。それともう一つ」

海未「なんでしょう」

穂乃果「今後絶対、ことりちゃんを傷つけるようなことはしないで」

穂乃果「…でないと穂乃果、海未ちゃんと友達でいられなくなる」

海未(穂乃果…)

穂乃果は厳しい声でそう言い放ったが、海未はそこに穂乃果の大きな優しさを感じ取っていた。

海未(貴女はこんな私を、まだ友達だと思ってくれている。ことりだけでなく、私のことも考えてくれている)

海未(ことりのことだけで手一杯だった私とは大違いです)

穂乃果「海未ちゃん、答えて」

海未「誓います。命に代えても」

ウミチャ-ンホノカチャ-ン

二人が振り向くと、遠くでことりが手を振りながら走ってくるのが見えた。

穂乃果「よしっ!」パシン

穂乃果が自分の両頬を叩く。

海未「穂乃果?」

穂乃果「堅苦しい話は終わり! いつもの私たちに戻ろっ!」

穂乃果はことりのもとに駆けていく。

穂乃果「ことりちゃーんおはよーっ!」

海未「……穂乃果、走ると危ないですよ」クスリ

海未(私の罪は消えない。……でも、今だけは、この三人で)



 ◆



海未の予想は外れ、ことりは今日一日海未に触れてこなかった。普通に会話をし、生徒会の仕事もいつも通りにやっているのだが、先週あった過剰なまでのスキンシップが見事に全て無くなっていた。

海未(穂乃果と昨日話したことが何かしら影響しているのでしょうか)

海未(なんにせよ、私はことりのそばにいて、ことりを守ります)

ことり「海未ちゃん、今日なんだけど、お母さんと一緒に夕食食べに行くから、お家デートは無しでいい?」

海未「はい、楽しんできてください」ニコッ

海未(ちょうどよかったです)

ことり「うん♪ 海未ちゃんもお稽古頑張ってね」クルリ

そう言うと、ことりは振り向いて海未のもとを去っていった。

海未(…先週であれば、手を握るなりキスをするなりしていたのに。少しさびしいですね…)

穂乃果「下校も一緒にしないだなんて、珍しいね」ヒョッコリ

海未「穂乃果!? いつからそこに」

穂乃果「ちょうど今だよ」

海未「まったく、驚かせないでください。じゃあ行きますよ」ギュウ

穂乃果「う、海未ちゃん? なんで穂乃果の手を握るの?//」

海未「何を言ってるんですか、いつもこうして――」サッ

海未は素早く手を離す。

海未「す、すいません。いつもことりと手を繋いで帰っているので、くせで」

穂乃果「も、もう、海未ちゃんったらおっちょこちょいなんだから//」

海未(週末からずっとことりに触れてないせいか、人肌恋しくてついやってしまいました)

穂乃果「じゃあ海未ちゃんの家にお泊り道具取りに行こうか」

海未「そうしましょう」



ことり(いけない、生徒会室に忘れ物しちゃった!)

ことり(あれ、海未ちゃんと穂乃果ちゃん? まだ帰ってなかったんだ)

ことり(今日は二人で一緒に帰るのかな)

ことり(えっ…海未ちゃんが、穂乃果ちゃんと手を繋いでる…?)

ことり(そっか…二人はやっぱり…)



海未(…何か視線を感じますね)クルリ

ことり「!」サッ

穂乃果「海未ちゃんどうしたの?」

海未「いえ、あちらの方から視線を感じたのですが、勘違いだったようです。行きましょう」



高坂家

穂乃果「海未ちゃんの炒飯おいしかったー!」

海未「穂乃果も少しは料理を覚えてください」

穂乃果「洗い物頑張ったもん!」

海未「それぐらい誰でもできます!」

穂乃果「あ〜お腹いっぱいになったらなんだか眠くなってきた…」ウトウト

海未「……穂乃果。もうその辺でいいですよ」

穂乃果はゆっくりと起き上がる。先程までとはうって変わって、真剣な面持ちをしている。

穂乃果「もう少し、こんな風にいつもの感じでいたかったんだけどな」

海未「すみません…全て私のせいです」

穂乃果「海未ちゃん、あのさ。お股に男の人のあれがあるって、本当?」

海未「はい、本当です」

穂乃果「そっか…」

海未「誰にも言わないでほしいです。私のためではなく、ことりのために」

穂乃果「言わないよ。…それで、ことりちゃんは」

海未「私が強姦しました」

海未は正座したまま、穂乃果の方をまっすぐ見つめてそう答えた。比喩やぼかしを使わず、直接的な表現を使うところに、海未が自分のしたことに向き合おうとしている様が感じられた。

穂乃果「…どうして」

海未「一緒に布団の中で寝ているときに、ことりが私に抱き寄って、優しい言葉を投げかけてくれました」

海未「あとになってわかったのですが、私の様子がここ最近おかしかったので心配してくれていたそうです」

海未「私はそれがわからず、自分に体を許してくれていると都合のいい解釈をして、欲望の任せるままにそのまま押し倒しました」

穂乃果「…」

海未「私は最低のクズです。生きている価値がないと思ったので、死のうとも考えました」

穂乃果「そんな、駄目!」ガタッ

海未「……ですが、それでは解決にならないと思い、一生ことりの側で、傷ついたことりを支えることを決意しました」

穂乃果「海未ちゃんは…ことりちゃんのこと、愛してるの?」

海未(これを誰かに聞かれるのは二回目ですね)

海未「はい。世界一愛してます」

穂乃果「…」モヤモヤ

穂乃果「それは、こういうことがあったから?」

海未「ずっと前からです。気がついたのは最近ですが」

穂乃果「そっか…」

海未「穂乃果」スッ

海未は正座をしたまま、穂乃果の方を向き直す。

穂乃果「海未ちゃん?」

海未「私の愚かな行為のせいで、穂乃果にまで迷惑をかけてしまい、本当に申し訳ありません」

そのまま海未は深々と穂乃果に頭を下げる。

穂乃果「……海未ちゃん、頭をあげて」

海未「どうか、私とともにことりを支えてください。私だけでは力不足なのです」

穂乃果「うん、任せて。これまで穂乃果がたくさん海未ちゃんに迷惑かけてきたんだし。今度は穂乃果が海未ちゃんを助けるよ」

海未「穂乃果…ありがとうございます。貴女のような友達を持ててよかった」

『友達』。その言葉が、穂乃果の心に嫌なものを落とす。

穂乃果(海未ちゃんは…私のこと…)

(ことり「穂乃果ちゃんなりの答えを出して、それを海未ちゃんに伝えてあげて」)

穂乃果「…ねえ、海未ちゃん?」

海未「はい?」

穂乃果「土曜日に絵里ちゃんに聞いたんだけど…海未ちゃんって、穂乃果のことも好きだったりする?」

海未「なっ」

海未(こんなときになんてことを! 恨みますよ、絵里)

海未「…絵里も冗談が好きですね」

穂乃果「穂乃果には冗談に聞こえなかったなあ」

海未「でしたら絵里の勘違いですね。私はことり一筋です」

穂乃果「そっかあ。穂乃果は結構悪くないなと思ったよ?」ズイッ

海未「!」

穂乃果は海未との距離を近づけ、じっと海未を見つめる。海未は目をそらしていたが、そのうち耐えかねて穂乃果の方を向く。

海未(穂乃果の真っ直ぐな瞳…吸い込まれそうです)

海未「…いけません、穂乃果。冗談はやめてください」

穂乃果「穂乃果もね、最近までわからなかったの」ズイッ

穂乃果は更に海未のもとに近づく。

海未「穂乃果」

穂乃果「実を言うと今でもよくわからないんだ。海未ちゃんをほしいと思ってるのか、二人がくっついて置いてかれちゃったみたいで焦ってるのか」

穂乃果の顔が海未に近づく。海未は身体を反らして穂乃果から離れようとする。

穂乃果「でも、一つだけわかったことがあるの」ストン

これ以上身体が反らせなくなり、海未はその場に仰向けに倒れてしまう。穂乃果は倒れた海未の両脇に手をついて、海未を逃げられなくする。

海未「…いけません、穂乃果」

穂乃果「海未ちゃんは穂乃果のこと、たまらないほど好きだってこと。……だって、穂乃果に見つめられただけで、身動きできなくなっちゃうぐらいだから」

そのまま顔を落とし、二人の唇が触れる。



下半身だけ裸になった二人。穂乃果は自分のものをいじりながら、海未のものを舌でなぶる。

穂乃果「うみひゃんの、おっひいへ」チュプチュプ

海未「ほ、ほの、かっ、いけません、やめて、くださっ」

海未は穂乃果の舌の動きに呼応して、腰を淫靡にくねらせる。

穂乃果(ねえ海未ちゃん、穂乃果ね、海未ちゃんのことが昔から大好きだよ)

穂乃果「…そろそろいいかな」チュポン

穂乃果は舐めるのをやめ、体勢を変え、脚を広げて海未のお腹の上に乗る。

海未「だめです、ほのか」

穂乃果(でもね、それがどういう『好き』なのかが、絵里ちゃんの話を聞いてからわからなくなった)

穂乃果(…ううん、ずっと昔からわからなかったけど、先送りにし続けてきただけ)

穂乃果「ちゃんと女の子の方もついてるんだね」クチュクチュ

海未「うあっ、ひぃっ」

穂乃果(それが、海未ちゃんにこれが生えたのがきっかけで、海未ちゃんがことりちゃんを愛してるのに気がついて)

穂乃果(穂乃果も自分の気持ちに答えを出さないといけなくなった)

穂乃果(なにが答えかわからないけど、これだけははっきりわかる。二人と一緒にいたい、また三人で並んで話をしたいって)

穂乃果「海未ちゃん、ごめんね? でもこれは罰だから」

海未「ほにょか…? あぎいぃっ!!!」ブチイッ

穂乃果の指が一気に三本、海未の女性の部分を深々と貫く。海未の全身を電流が走った感覚が襲い、つぅ、と股の間から血がしたたり落ちる。

穂乃果「ことりちゃんもこれぐらい痛かったんだよ? わかった?

海未(ほのか、の、指が、わたしのに。しあわせです…)

海未「ほにょかぁ…♡」トローン

穂乃果「我慢できたね。いい子いい子」ナデナデ

穂乃果はゆっくりと海未の秘部から指を抜く。

海未「あうっ♡」チュポン

穂乃果「……じゃあ、次は穂乃果の番だね」

穂乃果は自分のものを、いきりたった海未のそれにあてがう。

海未「あっ、ほのか、だめです、それだけはーー」

穂乃果(だから、大好きな海未ちゃん、)

穂乃果「私のはじめて、もらってください」ツプッ

穂乃果は勢い良く海未の上に腰をおろした。

プチイッ

穂乃果「〜〜〜〜〜〜っ!!!!」ビリビリッ

穂乃果「いっ…たあ…っ!」ジワッ

海未(ああ、穂乃果まで…私が…)

穂乃果「う、海未ちゃん。穂乃果、腰が抜けちゃったみたいで動けないから、海未ちゃん動いて?」

海未「なっ…そんなことっ」

穂乃果「海未ちゃんの好きに動いていいから。大好きな海未ちゃんにされるなら、穂乃果幸せだよ?」

海未「ほの…か」

穂乃果「海未ちゃん…して?」ウルッ

海未「穂乃果ぁ!」ガバッ

穂乃果「わっ」

海未が起き上がるとあれが抜けてしまったが、かまくことなく穂乃果を下にしてまた入れ直す。

海未「穂乃果、穂乃果」ズブッ

穂乃果「うみ、ひゃんの、おっきいよぉ…んっ」

海未は貪りつくように穂乃果の唇を食み、舌で口の中まで犯す。

海未「穂乃果、ああ穂乃果。愛してます」ズッズッズッ

穂乃果「ほのかも、ほのかも大好きだよ。もっといっぱい、海未ちゃんの、大好きを、ちょうだいっ♡」

海未「う、あ、あああっ!」

誰もいない家に、二人の嬌声が響き渡る。
夜が更けていく。



 ◆



海未「私は…最低です」ドヨ-ン

穂乃果「ま、まあ…今回は穂乃果も同意してたんだしさ」アハハ

海未「ことりと付き合っていながら穂乃果に手を出してしまった…いやそもそも二人を好きという時点で不順です…破廉恥です…」ブツブツ

穂乃果「ほ、穂乃果はとっても気持ちよかったよ!」

海未「そういう問題ではありませんっ!!」クワッ

穂乃果「海未ちゃん落ち着いて!」

海未「だいたい穂乃果は破廉恥すぎるんです! 純血をあんな風に簡単に散らして! 私のだって指でや、破きましたし!!」

穂乃果「むー海未ちゃんがそれ言う!? 確かに最初やったのは穂乃果だけど、それ以降はずっと海未ちゃんが穂乃果の上で腰降ってたじゃん!!」

海未「そ、それは」

穂乃果「穂乃果がもうダメって言っても、『ほにょかあ、ほにょかあ』とかマヌケな声出しておサルさんみたいに腰をヘコヘコ振り続けてたのはどこの誰さ!!」

穂乃果「おかげで脚が引きつって痛いよ! 絶対明日、筋肉痛とお股の痛みでがに股になってるよ!!」

海未「わ、わかりました。私が悪かったです、穂乃果」

穂乃果「わかればよろしーい。…でもさ」ストン

穂乃果は海未の肩に自分の頭をのせる。

穂乃果「しちゃったね、穂乃果たち」ニコッ

海未「…はい// …あの、」

穂乃果「なに?」

海未「穂乃果が私のことをどういう意味で好きか、わかりましたか?」

海未(こうなってしまったからには、はっきりと答えが知りたいです)

穂乃果「うーん。どっちでもいいかなあ」

海未「あんなに気にしてたのに?」

穂乃果「うん。というより、どっちにもなる! って言ったほうが正しいかな」

穂乃果「穂乃果は海未ちゃんが穂乃果のことをいっぱい愛してくれてたときには、穂乃果も海未ちゃんのことがすっごく愛しくなったし、普段穂乃果と勉強とか部活とか生徒会とかやってるときは、頼れるパートナーな親友だって思うし」

海未「穂乃果…」

穂乃果「私の海未ちゃんへの『好き』は、恋にも愛にも友情にもなる、ハイブリットな『好き』だってことが判明したよ!」ギュウー

穂乃果に抱きつかれ、海未も抱きしめ返す。

海未「穂乃果はすごいですね。私はそんなに器用にできてませんから、一種類の『好き』しか扱うことができません」ギュッギュー

穂乃果「海未ちゃんのそういうまっすぐなところ、穂乃果好きだよ」

海未「穂乃果//」

穂乃果「…ことりちゃんも、海未ちゃんのそういうところが好きなんだと思う」

海未「……ことり」

穂乃果「ことりちゃんに、なんて言おうか?」

海未「とても思い浮かびません…一生守ると言っておきながら、一週間で他の女性に手を出したなんて、どう言いつくろってもことりにショックを与えてしまいます」

穂乃果「穂乃果だって、昨日ことりちゃんに『穂乃果はいつでもことりちゃんの味方だよ』って言ったばっかりだよぉ」

海未「さっそく裏切ってますね」

穂乃果「裏切ってないもん! ちょっと味見しただけだもん」プンスコ

海未「スナック感覚で私をなぶらないでください…」

穂乃果「なぶってたのはほとんど海未ちゃんだよ? スナックどころかガッツリ食べ放題な感じで」

海未「……猛省しております」

穂乃果「冗談はいいとしてさ、きちんと話せばことりちゃん怒らないと思うよ?」

海未「そんなわけ…」

穂乃果「あるよ。この際だから言うけど、海未ちゃんとこうしようと思ったのは、ことりちゃんのアドバイスのおかげなんだよ」

海未「えっ」

穂乃果「海未ちゃんへの気持ちをちゃんと伝えてほしいって」

海未「そんな…」

穂乃果「ちなみに別の日ににこちゃんに会ったんだけど、μ'sのメンバーはみんな海未ちゃんが穂乃果のこと好きだって気づいてたよ」

海未「えっえっ」

穂乃果「気づいてなかったのは穂乃果と海未ちゃん、それに凛ちゃんだけ」

海未「なにそれ聞いてない」

穂乃果「ほんとだよねー。教えてくれれば良かったのに」

海未「そんなっ破廉恥です//」

穂乃果(あれだけえっちしといていまさらなにをいうか)

穂乃果「それでね、穂乃果、ことりちゃんに言ったよ。どんな結果になっても、また三人で笑い合えるようにするって。それで今日海未ちゃんに来てもらったの」

海未「そうだったのですか…」

穂乃果「だから、今度一緒にことりちゃんに話そうよ。また三人で仲良くできる方法を」

海未「…そんなもの、あるとは思えませんが」

穂乃果「ある!」

海未「どうしてそう思うのですか?」

穂乃果「穂乃果と海未ちゃんとことりちゃんが三人で頑張って見つけられないものなんてないもん!」

穂乃果「ほら、三人寄ればもんじゅが廃炉って言うし!」

海未「文殊の知恵です。廃炉にしてどうするのですか」クスッ

海未(もうどうしようもないところまで来てしまったというのに…穂乃果がいれば、なんとかなってしまいそうです)

海未(まるで魔法みたい。本当に貴女は不思議な人です)

海未「そうですね、また三人で一緒に」

ピンポ-ン

穂乃果「ん? もう十時なのに、こんな時間に誰だろう」

海未「…!!」ゾクッ

海未の背中に大きな悪寒が走る。

海未(なぜでしょう。とても嫌な予感がします)

ピンポ-ン

穂乃果「はーい、今行きますよー」

穂乃果は服を着ながら玄関に向かう。

海未(来るはずのない誰かが来てしまったような)

ピンポピンポピンポ-ン

海未「…! 穂乃果、待って――」

ガラッ

穂乃果「あっことりちゃん! ちょうどよかった――ってえっ?」



穂乃果が玄関を開けるや否や、ことりは靴のまま素早く穂乃果の部屋まであがりこんできた。中には半裸の海未。ことりは「ああ、やっぱりか」とでも言わんばかりに冷たい視線を海未に向ける。

ことり「お母さんに無理言って夕飯を早めに切り上げてきて正解だったなあ…」

穂乃果「あ、あのねことりちゃん? 穂乃果もやっぱり海未ちゃんのことが好きだったんだってわかって、そのまま流れでこうなっちゃって…」

ことり「わかってるよ、穂乃果ちゃん」ニッコリ

海未「ことり、私の話を「海未ちゃんは黙ってて」

ことりが海未をにらみつける。

海未「ことり、話を「黙れっていってるの!!」」

海未「うっ…」

ことりは胸に手を当てながらすぅ、と大きく息を吸い自らをなだめる。

ことり「ことりね、わかってたんだ。海未ちゃんと穂乃果ちゃんが、お互いのこと大好きだって」

ことり「ことりの入り込むすきまなんてないんだって」

穂乃果「穂乃果はことりちゃんのことだってすごく大事だよ! 海未ちゃんへの気持ちがどうであろうと、それは変わらない!」

ことり「穂乃果ちゃんはことりを大切にしてくれるんだね」ニコッ

ことり「どこぞのレイプ魔とは大違いだよ」キッ

海未「…」

ことり「もとはと言えば海未ちゃんが悪いんだよ? ことりの心も体も汚し尽くしたのは海未ちゃんだもんね」

ことり「でもね、ことりは穂乃果ちゃんのことが大好きなの」

ことり「だから、海未ちゃんは大嫌いだけど、穂乃果ちゃんが海未ちゃんのことを好きだって気づいた以上、ことりはもう海未ちゃんに何もできないの」

ことり「海未ちゃんを憎んでも、愛しても、穂乃果ちゃんを傷つけちゃうから」

ことり「でもことりは海未ちゃんを許せない」

ことり「このまま海未ちゃんがことりを捨てて、海未ちゃんだけ幸せになるなんて絶対に許せない」

ことり「だからね?」シャキン

海未「こ、ことり、何を」

ことりはポケットから衣装作り用の大きな布切バサミを取り出し。

ことり「ことりが死ぬことにしたの」スッ

それを首元に近づける。

穂乃果「ことりちゃんっ!!」

ことり「動くと首に突き刺すよ!!」

ことりは自分の首にハサミの先端を少しだけ食い込ませる。じわり、と首筋から小さく出血する。

穂乃果「っ! 動かないよ! 動かないから、やめて!!」

ことりに向かって駆け出そうとしていた穂乃果は、大きく後ずさって近づく意思がないことを示す。

海未(どうしたら…どうしたら!!)

ことり「ことり、わかってたよ? ことりが二人と並んで歩けるはずないって」

ことり「穂乃果ちゃんみたいにみんなを引っ張っていくこともできないし、海未ちゃんみたいにしっかりもしてない」

ことり「ことりはいつも、二人の影に隠れちゃってたんだよ?」

穂乃果「そんことないって、前言ったじゃない! ことりちゃんには歌もダンスも上手だし!」

海未「衣装だってあんなに素敵なものを作ってくれたじゃないですか!」

ことり「…っ! そんなの誰だってできるよ!」

海未「そんなっ…!」

海未(…何を言っても…今のことりには…)

ことり「アイドルとして歌って踊って、衣装も作って、みんなで輝いて…これ以上ない日々だった」

ことり「ラブライブを通じてたくさん成長できたって感じてる」

ことり「…でも、でもね、二人はもっと輝いてて、眩しくて。どんなにことりが努力しても、二人に追いつくことなんてできなかった」

ことり「ことりにはついていくことだけしかできなかった。おいていかれないことだけで精一杯だった」

ことり「そんなことりを、海未ちゃんが愛してくれた。二人には追いつけなかったけど、海未ちゃんが振り返ってことりに手を差し伸べてくれた」

ことり「どんなにいびつで、汚れてて、醜い愛でも、ことりはそれにすがるしかなかったの」

ことり「…だから、お願いだから邪魔しないで穂乃果ちゃん。ことりはこうでもしないと、海未ちゃんの心の中に残れないから」

ことり「ことりが海未ちゃんの目の前で[ピーーー]ば、優しい海未ちゃんは一生ことりに対する罪悪感で苦しんでくれる」

ことり「そうすればね、海未ちゃんを苦しめ続けたいっていうことりの憎しみと、海未ちゃんに想われ続けたいっていうことりの愛情が、どっちも満たせるの」

ことり「穂乃果ちゃんの幸せを邪魔せずに、ことりは幸せになれるんだよ♡」

穂乃果「ことりちゃんが死んで穂乃果が幸せだなんてないよ!! おねがい、穂乃果の為に生きて!」

海未(今のことりに理屈は通じない。『私の目の前で死ぬ』という結論ありきで、その為に全ての話を作っているのだから)

ことり「穂乃果ちゃんなら大丈夫だよ。穂乃果ちゃんは強い子だから、ことりのことも時間が経てば忘れられる」

ことり「ことりを忘れた後は、海未ちゃんと幸せな日々を過ごしてね♡」ニッコリ

穂乃果「違う違う違う違う!! ことりちゃん、穂乃果の言うことを聞いて!!」

海未(全ては私の愚行から始まったこと…だから私にはことりをなんとしてでも救う義務が…)

ことり「お葬式のときには、穂乃果ちゃんが一番ことりに似合うμ’sのライブ衣装を選んで着せてね」スゥ

ことりはいったん首につけたハサミを離す。まるでその後勢いをつけて突き刺そうとしているかのように。

穂乃果「やめて、やめてえっ!!」

海未(…いや、違う! 私はことりを愛しているから! 私がことりに生きていてほしいと思うから! …だからっ!)

海未「ことりっ!!!」

ことり「!」

ことりは海未の方を見る。その手にはシャープペンシルが握られている。

海未「穂乃果は私たちがまた三人で笑い合えるようにすると言いました。私も同じ気持ちです」

ことり「いまさらなに? そんなの無理に決まってるじゃん」

海未「いいえ、できます。死後の世界なら」

穂乃果「死後…?」

海未「もし貴女がここで[ピーーー]ば、私は穂乃果を殺し、その後自殺します。そうすれば向こうでまた三人一緒です」

海未(あり得ない行動をしようとしている人間への対処法は、それ以上にあり得ないことを自分がやること! うまくいくかどうか…賭けます!)

穂乃果「海未、ちゃん…? なにを」

ことり「ふふっ。何かと思ったら。そんなこと言えば、ことりがひるむとでも思った?」

海未「…信じていないようですね」

ことり「時間稼ぎだってわかるよ。でも、そんなことさせない」スゥ…

ことりが首元に手に持ったハサミの狙いを定めて――

穂乃果「ことりちゃんっ!!!」

海未(いけない!)

海未「ハアッ!」ドスッ

ことり「え…」

穂乃果「海未…ちゃん…?」

海未は、テーブルの上に手のひらを置き、シャープペンシルで勢い良く突き刺した。

海未「ぐっ…」ズボッ

シャープペンシルを引き抜くと、どぷりと手のひらに開いた穴から血が吹き出す。

穂乃果「海未ちゃんっっ!!!」ガバッ

穂乃果は海未に駆け寄り、乱暴にテーブルの上のティッシュ箱からティッシュを取り出し、海未の手のひらの傷口を押さえつけ止血を試みる。

海未「来ましたね、穂乃果」ガバッ

海未は素早く穂乃果の後ろに回り込み、穂乃果を羽交い締めにして、首元にシャープペンシルを突きつける。

穂乃果「海未ちゃん、血が! 血が! 早く止めないと、離して!!!」

穂乃果は自分の危険には意も介さず、しきりに海未を心配する言葉を投げかける。

海未「ことり、私は本気です。貴女が自分の首を刺せば、私は貴女の大好きな穂乃果を同じように殺します」

ことり「っ…! 卑怯者っ!!」

海未「なんとでも言いなさい。貴女が死ぬのなら、私が生きている意味もないのです」

海未「生きている意味がないのなら、なんだってできます」

ことり「どうしてこんなことするの!?」

海未「貴女を世界一愛しているからです。私の元にずっと置いておきたいからです」

ことり「嘘…」

海未「本当です」

ことり「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だっ!!!!」

ことり「だって、だって海未ちゃんは、穂乃果ちゃんのことが」ポロポロ

海未「二人とも愛してるんです!! どちらが上も下もありません!」

ことり(あ…)

(ことり「二人とも大切だったの。上とか下とかないの」)

海未「ずっと昔から、二人とも同じようにお慕いして来ました」

(ことり「海未ちゃんと穂乃果ちゃん、二人とも同じように大好きだった」)

ことり(海未ちゃん、そうなんだね。『好き』の意味が違うだけで、海未ちゃんもことりと同じだったんだね)

海未「私はずっとその気持ちをごまかし続け、その結果こうなってしまいました」

海未「私から何もしなくても、穂乃果やことりは私を友達として好きでいてくれる」

海未「私のあるべき方向を二人で示してくれる。私はそれに甘え、流されていたのです」

海未「思えば私はいつもそうでした」

海未「親に、教師に、友人に、穂乃果にことりに流され、流された場所でしっかりした様を見せて、真面目だ、頑張り屋だ、優秀だと言われて満足する」

海未「自分では何も決めず、他人の決めたレールをただ走っているにすぎないというのに」

海未「……学校の勉強はそれでよかったのでしょう。スクールアイドルの活動も、穂乃果に引っ張ってもらえばよかった」

海未「生徒会だって、絵里達から引き継いだ通りにやればよかった」

海未「これは私の性のようなものです。しきたりや決まりごとが多い私の家の環境を考えると、それに順応したといえます」

海未「それに苦痛を感じたことはありませんし、これからも変わらないだろうなと思います」

海未「……でも私は、私が愛する人とどうなるかぐらいは、自分で決めたいのです」

海未「たとえそれがわがままでも、身勝手でも、普通ではないとしても」

海未「これは私の意地です。決められた運命への、周りから見ればささやかで、でも私から見れば大きな反抗です」

海未「だから、私は決めました。ことり」

ことり「…海未ちゃん」

海未「愛しています」スッ

海未はシャープペンシルをテーブルに置き、穂乃果を解放する。傷は存外浅く、海未の手の平の出血は既にわずかなものとなっていた。

ことり「海未、ちゃん」カラン

ことりの手の平から力が抜け、ハサミが床に落ちる。

海未「私と共に、生きてください」

ことり「海未ちゃんっ!!」ガバッ

ことりは海未に飛びつく。

ことり「海未ちゃん、海未ちゃん海未ちゃん海未ちゃん!!」ギュウウ

海未「もう二度と離しません」ギュッ

ことり「こんな、私で、いいの? 海未ちゃんのことを愛してるかどうか、まだわからないんだよ?」ポロポロ

海未「関係ありません。私がこれから惚れさせるので」ナデナデ

ことり「一生愛せないかもしれないよ?」グスッ

海未「私が一生かけて愛すので問題ありません」ニコッ

ことり「ふふっ…なにそれ…何の解決にもなってないよ…」

穂乃果「てやーーーっ!!」ガバッ

海未「ほ、穂乃果! 急に抱きつかないでください!」

穂乃果「知るかーーっ! 穂乃果を放置して二人で盛り上がってずるいよ! 海未ちゃんの浮気もんっ!」

海未はことりから片腕を離し、穂乃果をその腕で抱き寄せる。

海未「二人とも愛しているので気は浮ついてません。したがって浮気ではありません」ギュウ

穂乃果「屁理屈だーっ!」

海未「真実であり、ゆえに正論です」ギュウ

穂乃果「むむむ…」

海未「何がむむむですか」

ことり「海未ちゃん、止血するね?」

海未が振り向くと、ことりが救急箱からガーゼと包帯を取り出しているところだった。

穂乃果「あっ忘れてた。救急箱の場所よく覚えてたね」

ことり「昔はよく怪我した二人をここで手当してたから」

海未「主に穂乃果の無茶に巻き込まれたせいですけどね」

穂乃果「あはは、なんのことデショ-」メソラシ

海未「まったく穂乃果は…」

ことり「はい、手当て終わりっ! しばらく重いものは持たないでね」

海未「ありがとうございます。…それでは改めて」コホン

海未「穂乃果、ことり」

穂乃果ことり「はい」

海未「――二人とも愛してます。幸せにします」ギュウ

ことり「海未ちゃん!」チュッ

ことりが素早く海未の唇を奪う。

ことり「ことり特製バードキスだよ♪」

穂乃果「ことりちゃんずるーい! 穂乃果だって、ん、むっ」チュウウウ

海未「ちょ、ほの、長っ」

ことり「フレンチキスは反則だよ!!」

海未「ぷはっ、二人とも落ち着いて」

穂乃果「ねえことりちゃん?」ボソボソ

ことり「…うん、いいよ、穂乃果ちゃんとなら」

海未「なんですか、隠し事は無しですよ…って、なんで私を二人で見るんですか」

潤んだ四つの瞳が海未に向けられる。

穂乃果「ねえ海未ちゃん」

ことり「三人で――しよ?」

海未「なっ、そんな破廉恥な!」

穂乃果「ねぇ海未ちゃん…」クネクネ

ことり「んみちゃああん♡」クネクネ

海未(あ、これは)

穂乃果ことり「おねがぁい♡」キュルン

海未「はっ、はいっ…」トロ-ン

海未(二人ともずるいです…)



ことり「うみひゃんの、いひゅもより、おっひい」チュパチュパ

穂乃果「海未ちゃんの顔、トロトロになってて可愛いよ…♡」チュッチュ

海未「んっ、くうっ」ビクッビクッ

海未(…なんですかこれは。ことりが私のものを舐めながら、穂乃果が私の顔中にキスをしてる。最高すぎます。私は今日死にます。破廉恥死です)

ことり「んっ」チュポン

ことりはほおばるのをやめ、手でこする方に切り替える。

ことり「気持ちいい、海未ちゃん?」シュッシュッ

海未「は、い、さいこう、ですっ。三人で、えっち、きもひいい、でひゅ」ビクッ

ことり「三人だからだよ♡」

穂乃果「穂乃果の言ったとおり、また三人一緒になれたね♡」

海未(ああ…そうですね…)

快楽で朦朧とした海未の頭の中には、かつて三人が並んで歩いていた光景が浮かんでいた。

海未(穂乃果、ことり。また、三人一緒に笑いあって――)



 ◆



朝、園田家、海未の母の部屋

海未母「海未さん、説明していただけますか」

いつもと変わらない調子で、海未の母は海未に問いかける。

海未母「貴女は昨日、ことりさんの家に泊まりに行くと私に連絡していました」

海未は疑念を抱かれないよう、穂乃果ではなくことりの家に泊まりに行くと母に伝えていた。しかし、ことりの帰りが遅く、更にことりに連絡が付かないのを心配したことりの母は、海未の母に電話していた。それがきっかけで、海未が実際は穂乃果の家に泊まりに行っていたことが海未の母親たちの知るところになった。

海未(結局その日はそのまま三人で穂乃果の家に泊まることになり、今日の朝こうしてお母様の部屋に呼び出されました)

海未母「…穂乃果ちゃん、それにことりさんと何があったのですか」

海未「私は、ことりと同じように、穂乃果も愛しています」

海未母「答えになっていません。私は何をしたのかを聞いています」

海未「……穂乃果と、ことりと結ばれました」

海未母「結ばれたとはどういうことですか」

海未「…お母様、それは」

海未母「言いなさい」

海未「…………契りを交わしました。男女のする、それを」

海未母「……そう、なのですね」

海未(流石に母も私に愛想をつかせたでしょうか…仕方のないことですが)

海未「申し訳ありません。園田家を継ぐものとして、分別があるように振る舞おうと勉めましたが、所詮私はただの子供でした」

海未の母ははぁ、と大きなため息をつく。

海未母「…海未さん。大人はただの大きな子供です。分別があるように見せかけているに過ぎません」

海未「お母様…?」

海未母「してしまったことは仕方がありません。それで、海未さんはどうしたいのですか」

海未「……」

海未母「海未さん?」

海未「あ、ああ、申し訳ありません、呆けておりました」

海未(普段あれほど厳しいお母様が、なぜこれほど寛大に私の気持ちを酌んでくれるのでしょうか)

海未(…しかしなんであれ、チャンスです。園田家の力があれば、穂乃果とことりを守れる。駄目元でいけるところまでいってみましょう)

海未「二人を平等に愛したいと思っています。将来的には二人を娶ろうかと」

(「二人とも、愛していますよ」)

海未母(…)

海未母「二人はそれで納得しているのですか」

海未「はい。二人とも三人一緒がいいと言ってくれました」

(「ずっと三人一緒だよ」)

海未母(…)

海未の母はもう一度はぁ、と大きなため息をつく。

海未母「無茶苦茶ですね貴女という人は」

海未「…私もそう思います」

海未母(血は争えない、とはこのことでしょうか)

海未母「状況は理解しました。好きになさい。表立って支援することはできませんが、止めはしません」

海未母「ただし、二人を傷つけることだけは許しません」

海未「えっ」

海未母「なんですかその反応は。貴女にとって願ってもないことでしょう」

海未「い、いや、まさか容認していただけるとは思ってなくて」

海未母「容認されないと思っていたのにやったのですか?」

海未「そんなことは」

海未母「…今回のことは、私と、穂乃果ちゃんのお母様、ことりさんのお母様しか知りません」

海未母「言ってしまうと私達で口裏を合わせました」

海未母「貴女が大学を卒業するまでは、他の大人たちには知られることのないようにします」

海未母「大学を卒業すれば、貴女も一人の社会人。自分で周りの大人たちを説得してみせなさい」

海未「お、お母様…」

海未(大学を卒業するまで隠し通していたとなると、お母様はそのことを皆に責められる)

海未(それでもお母様は、私をかばってくれた。私に準備する時間を与えるために)

海未「……私は件のことでお母様が医師を手配してくれたときから、思っていたことがあります」

海未「今、それを言わせていただきます」

海未「ありがとうございます。貴女の娘で良かった」

海未母「……海未さん」

海未の母は立ち上がり、海未のもとに近づく。

(『もし子どもに将来愛する人ができたら、それがどんな愛の形であろうと、全力で応援する』)

海未母「私は母親として当然のことをしたまでです」

海未母「娘が大切でない母親がいるでしょうか。娘の幸福を願わない母親がいるでしょうか」ギュッ

海未「お母様…お母様っ!」ギュウ

海未母(神や仏がいるというのなら、どうかこの子には幸せな愛の形を与えてください…)



 ◆



朝、待ち合わせ場所

穂乃果「海未ちゃん、ことりちゃんおっはよー!」

ことり「おはよう穂乃果ちゃん」

海未「もう、また遅刻ですよ、穂乃果」

海未(私たちにいつもの生活が戻ってきました)

海未(ことりは『やっぱり海未ちゃんとは友達がいい』とクラスメイトやμ'sのメンバーに伝え、今まで通りの関係に戻ることを周りに表明しました)

海未(周りも私と付き合っている頃のことりの言動を不自然と思っていたらしく、すんなりとと受け入れてくれました)

海未(女性しかいない空間でまれに起こる、一時の気の迷い…そう思ってもらえたようです)

ことり「うーみちゃんっ♡」ギュッ

穂乃果「あ、穂乃果もっ!」ギュッ

二人はそれぞれ海未の左腕、右腕と自分の腕を組ませる。

海未「二人とも、いきなり飛びかかるのはやめてください。びっくりするではないですか」

海未(もともととても仲が良かった私たちです。こうして三人で睦まじくしていても、周囲は特に疑問に思いません)

海未(実際は、かなり爛れた関係なわけですが…)

ヒデコ「ねえ穂乃果、来月文化祭に合わせてやるミニライブだけど、曲はできてる?」

穂乃果「うん、できてるよ! 後でデータ送るね!」

穂乃果達はμ’sファンの強い希望により、文化祭でライブを開くことになっていた。ただし『μ’sは解散したので、別のグループとしてなら』という条件付きで。その結果、一年生組(亜里沙と雪穂)と二年生組(真姫と凛と花陽)と三年生組(穂乃果と海未とことり)、三組のグループを作って順番にライブをやることになった。

フミコ「おっけー! セッティングは任せといて!」

ミカ「あの頃を思い出すなあ。腕が鳴るよ!」

穂乃果「ファイトだよっ!」

海未(アイドル活動に弓道部、生徒会と学校の授業。忙しいですが一年前ほどではありませんし、とても充実した毎日です)





放課後、ことりの家

海未「か、噛んじゃ、いけまへんっ!」ビクン

穂乃果「海未ちゃんおっぱいちょっと大きくなったね」チュパチュパ

ことり「いじるたびに感度もあがって面白いね♡」コリッ

海未「か、かんじゃらめええっ!」ビクン

海未(放課後になると、予定がない日はいつもことりの家に直行し、二人は私の身体をもてあそぶ)

海未(ことりの両親は仕事で夜遅くまで返ってこないので、ことりの部屋はちょうどいい場所でした)

海未(ネット通販で割り勘で買った避妊具が、ことりの部屋に常備されています)

海未(定期的に身体を重ね合うことは、私たちの生活の一部になりました)

海未(こんな破廉恥なこと、いけないと何度も思ったのですが…)

海未(二人の潤んだ目を、艶めかしい肢体を見ていると、逆らえずに行為に及んでしまいます)

海未(そうやってすればするほど、快楽が大きくなって、私たちは快楽に溺れていく)

海未(それでもけじめはつけていました)

海未(ことりの家以外では決してそういうことはしなかったので、学業や部活動には影響がでませんでした)

海未(ことりの心もあれからだいぶ安定し、不安になることはあってもいきなり暴れだしたりはしなくなりました)

海未(三人一緒だと安心するそうです。穂乃果のおかげですね)

海未(今のところ、全てが順調。だから、今はこれでもいいかなと思っていました)

海未(しかし、現実はそれを許してくれませんでした――)



ある日の放課後、ことりの家

海未(ああ…今日も二人に絞り尽くされてしまうのですね)

ことり「…」

穂乃果「ことりちゃん、どうしたの? 今日なんか朝から元気ないね」

ことり「ううん、大丈夫」クラッ

海未「ことりっ!」

突然気を失って倒れたことりを、海未がとっさに支える。

ことり「…ん?」

海未「ことり! 聞こえますか!」

ことり「…うん、聞こえるよ」

穂乃果「ことりちゃん、一瞬気を失ってたんだよ!?」

ことり「…そう、なんだ」スッ

ことりは海未の胸から離れ、クッションの上に座る。

海未「大丈夫ですか?」

ことり「うん、もう平気。ちょっとクラッとしただけだから」

穂乃果「…ことりちゃん、この三人の間で隠し事は無しだよ」

ことり「穂乃果ちゃん?」

穂乃果「ここ最近、ボーッとしてることが多いし、体育も全部見学してるし。何か病気でもしてるんじゃないの?」

ことり「…」

海未「私も気になります。教えてください」

ことり「本当になんでも…」

海未はことりの手のひらを両手で握る。

海未「私は貴女を一生支えると決めました。だから、遠慮せずに話してください」

海未「たとえそれがどんな内容でも、私は貴女の味方です」ギュッ

ことり「……」

海未「ことり」

ことり「…………生理が、来ないの」

海未「…………」

海未は表情を変えずに、落ち着いた口調で話を続ける。

海未「いつからですか」

ことり「先月、最初に海未ちゃんとえっちした日から、ずっと」

海未「…」

海未「体調不良はいつから続いてますか」

ことり「三日前から…」

海未「そうですか。よく話してくれました」ギュッ

海未「私がなんとかします。安心してください」

ことり「うん…」

穂乃果「…海未ちゃん?」

海未「どうしました、穂乃果」

穂乃果「…あのね、今ことりちゃんに言われて気づいたんだけど」

穂乃果「穂乃果も、最初に海未ちゃんとした日から、来てない」

海未「…」

海未(あの日から一ヶ月半…遅れているだけの可能性もあります…いやしかし、二人同時にというのは…)

海未「避妊具を使い始めたのは、三人で付き合うことになった日より後ですね」

穂乃果「うん。だから、もし穂乃果が妊娠してるとしたら、最初のえっちのときだと思う」

『妊娠』という単語を聞いて、ことりがびくりと肩を震わせる。

海未「大丈夫、大丈夫ですから…」ナデナデ

穂乃果「穂乃果はたった一回で…運がいいのやら悪いのやら、はは」

海未「まだ決まったわけではありませんよ。調べなければ」

ことり「…そう思ってね、通販で検査薬買っておいたの」

海未「…ことり。一人で悩ませてすみません」

ことり「言わなかったのはことりだから、海未ちゃんは悪くないよ」

穂乃果「悩んでても仕方ないから、いま調べようよ。どうやって使うの?」

ことり「説明するね。ことりと穂乃果ちゃんの分、予備も含めて四つ買ったから、二回できるよ」

ことりは穂乃果に妊娠検査薬の使い方を説明して、それぞれ二回検査を行った。



二人が部屋に戻ってくる。

海未「…どうでしたか」

穂乃果ことり「…」

海未「穂乃果、ことり」

穂乃果「陽性だった…」

ことり「ことりも…」

海未「そう…ですか」

ことり「…二人とも二回やって、二回とも陽性。検査結果は99.9%正しいみたいだから、間違いないと思うよ」

海未「わかりました。…二人はどうしたいですか」

ことり「ことりは…」

穂乃果「穂乃果は産むよ。海未ちゃんとの赤ちゃんだもの」

穂乃果は迷う様子もなく即答する。

海未「…穂乃果、私は貴女の意見を尊重しますが、もう少しきちんと考えても」

穂乃果「考える必要なんてないよ。産まないってことは、堕ろすってことでしょ?」

穂乃果「海未ちゃんとの赤ちゃんを[ピーーー]なんて、穂乃果、死んでも嫌」

海未「穂乃果…」

ことり「ことりだって嫌だよ。海未ちゃんとの赤ちゃん産みたいよ。でも、ことり怖い…」

穂乃果「ことりちゃん」ギュッ

ことり「穂乃果ちゃん…?」

穂乃果「大丈夫だよ、私たち三人ならきっとなんとかなる!」

穂乃果「だからさ、産みたいって思うなら、産む! って決めて、それからどうするか考えよう!」

ことり「穂乃果ちゃああん」ポロポロ

海未(…出番を取られてしまいましたね)

海未「わかりました。二人とも産むということですね」

ことり「海未ちゃんはそれでいいの…?」

海未「きっと二人に似て、元気で可愛らしい子でしょうね。とても楽しみです」ニッコリ

ことり「海未ちゃあぁぁん」

穂乃果(海未ちゃんは最近イケメンすぎて、たまに完全に男の人になったんじゃないかと思うよ…)

穂乃果「これからどうしようか?」

海未「…母に話してみます」

ことり「…!」ビクッ

海未「穂乃果ももうすぐつわりが始まるでしょうし、しばらくすれば二人ともお腹が大きくなってごまかせなくなります」

海未「その前に信頼できる大人に相談し、理解と助けを求めるべきです」

海未「私にとって、母は世界で一番信頼できる大人です。私が信頼する母を、二人も信頼してもらえないでしょうか」

穂乃果「海未ちゃんのお母さんなら穂乃果も大丈夫」

ことり「…」

海未「…ことり。私の母からことりのお母様にも連絡が行くと思いますが、それは」

ことり「ことりはお母さんに知られることが怖いんじゃないの」

穂乃果「それならなんで?」

ことり「ことりのお母さんは理事長なんだよ? 理事長の娘が妊娠してたってわかったら、お母さんは周りからどう思われる?」

穂乃果「それは…」

ことり「教育者としてふさわしくないと思われる。お母さんは理事長を辞めなきゃいけなくなる」

ことり「それどころか、学校の評判が下がって、廃校問題がぶり返すかもしれない」

ことり「ことりのせいで、みんなに迷惑がかかる」

ことり「ことりはそれが怖いの」ポロポロ

海未はことりのもとに寄り、ことりを抱き寄せる。

海未「それは違います。もともと私がことりを手篭めにしたのが原因。全ての責任は私にあります」ギュッ

ことり「海未ちゃん、もうそれは」

海未「いいえ。私は自分のしたことから目をそむけてはいけない」

海未「今はそれとは関係なく貴女を愛していますが、これはけじめです」

ことり(海未ちゃんは強いね…)

海未「……いままでの性行為が全て私の強要だったことにすれば、私が退学になるだけで済むかもしれません」

穂乃果「! そんなの、絶対ダメ!! 穂乃果が認めないよ!」

ことり「ことりだって嫌だよ! 私たちはずっと三人一緒だって言ったじゃない!」

ことり「そんなことしちゃったら、もう一緒にいられなくなっちゃうよ」ポロポロ

海未「…すみません。軽率でした」

沈黙。ことりのすすり泣く声。穂乃果がその沈黙を破る。

穂乃果「…六人で話そうよ」

海未「六人?」

穂乃果「穂乃果、海未ちゃん、ことりちゃんと、みんなのお母さん。お母さんたちは私たちが付き合ってることを知ってるわけだし」

海未(…悪くないかもしれません。どのみちお母様から二人の母親にも話は伝わる)

海未(それなら直接言ってしまったほうが)

海未「ことりはどうですか?」

ことり「海未ちゃんと、穂乃果ちゃんがそれでいいって言うのなら…」

海未「わかりました。ではまず、私から母に話してみます。二人はまだ伏せておいてください」

穂乃果ことり「うん」



日曜日、早朝。園田家、海未の母の部屋

海未母「…貴女がここまで手のかかる娘だとは、十七年接してきた私でも存じませんでした」ハァ

海未「厄介事ばかり起こして、申し訳ありません」

海未は正座をしたまま、深々と頭を下げる。

海未母「まずは頭をあげなさい。そのままだと話ができないでしょう」

海未母「それで、今度はなんですか。孕ませでもしたのですか」

海未「!」

海未母「…海未さん。まさか」

海未「…そのまさかです」

海未(今度ばかりは、流石にお母様も幻滅されるでしょう)

海未(しかし、穂乃果とことりのこともある。そしてお母様は穂乃果とも穂乃果のお母様とも仲がいい)

海未(私がどうなるかはわかりませんが、穂乃果にとって悪いことはお母様はしないし、できないでしょう)

海未(そして穂乃果が守られるなら、ことりも守られる。穂乃果がそれを望むでしょうから)

海未(…お母様、ずるい娘ですみません)

海未母「…確かめたのですか」

海未「市販の妊娠検査薬を買って試しました。それぞれ二回試してもらい、二回とも陽性でした」

海未母「お待ちなさい。いま『それぞれ』と言いましたが」

海未「はい。二人とも妊娠しています」

海未母「……」

海未(家を追い出されても文句はいえませんね。その場合は子どものためにすぐに仕事を見つけなければ…)

海未母「おおかた、勘当された後のことでも考えてるのではないですか、海未さん」

海未(鋭い)

海未「…お母様、お願いします。私は家を出て行くので、二人の子を園田家においてあげてください。養育費は私が毎月送金します」

海未母「お黙りなさい。社会にも出たことがない小娘が戯言を」

海未「私にはそれをやり遂げる意思があります」

海未母「海未さん。私は勘当なぞ一切考えていません。言ったでしょう、私は貴女が大切だと」

海未「はい、今まで育てていただき感謝しています」

海未母「…今まで、この件に関して私は貴女を叱る資格がなかった」スッ

海未の母は立ち上がり、しずしずと海未に近づく。

海未母「人は、自分が犯したものと同じ過ちについて、他人を責める資格を有していません」

海未の母は中腰になり、正座している海未の両頬に手のひらを添える。

海未母「…しかし、貴女は私以上のことをしました。二人を孕ませるという」

そして、大きく右手を振りかぶって。

海未母「そこだけは私は叱る資格がある」

バシ---ンッ

思い切り海未の頬に向かって振り下ろした。

海未「うぐっ」ゴンッ

叩かれた衝撃で海未は後ろにのけぞり、近くの柱に勢い良く背中をぶつける。

海未母「身ごもることがどれほど相手の女性の心と体に負担をかけると思っているのですか!」

海未母「私は貴女に、二人を傷つけることだけはするなと言ったはずです!」

海未の口内に鉄の味が広がる。叩かれた衝撃で口の中を切ったのだと理解した。

海未「返す言葉がありません。私が愚かでした」

海未は大勢を立て直し、正座になり再度深々と頭を下げる。

海未母「謝るのも償うのも私にではありません」

海未母「穂乃果ちゃんとことりさん、それに彼女たちのお母様方もここに呼びます」

海未母「そこで彼女たちに謝罪して、どう償うかを述べなさい」

海未(…これは僥倖。意図せず望んだ形にもっていくことができました)

海未母「貴女のことです。どうせ同じことを考えていたのでしょう」

海未(本当に、鋭い…)

海未母「それでも構いません」

海未母「私もーーいえ、私たちも、貴女と穂乃果ちゃん、ことりさんに伝えることがありますから。その場でお話します」

海未「お母様が私たちに…?」

海未母「今から連絡を取ります。海未さんは部屋に待機してなさい」

海未「はい」

海未(お母様が、私たちに? このタイミングで? 一体何を…)




同日、昼。園田家客間

海未(お母様が電話で事情を話すとすぐに皆は来てくれました)

海未母「高坂さん、南さん、ご足労感謝いたします」

穂乃果母「はは、何度聞いてもその高坂さんってのは慣れないなあ」

ことり母「私は慣れたけどね。一定期間やってたから癖がついちゃった」

穂乃果母「そういうものかなあ。園田さんはたまに『きぃちゃん』って言ってるけど」

海未母「…今はそういう話はいいでしょう」

穂乃果母「わ、わかってるよぉ」

海未母「どうぞお座りください」

テーブルのそれぞれの場所に座布団が二枚ずつ、それぞれの家族ごとに分けて座れるよう配置されていた。

ことり「…あの…お母さん…」モジモジ

ことり母「ことり? どうしたの」

ことり「…えっと…」チラッ

ことりは海未の方に視線をやる。

海未(…ことり?)

穂乃果「…」スッ

先に座っていた穂乃果が突然立ち上がり座布団を持って立ち上がる。海未の家によく来る穂乃果には、専用の橙色の座布団が用意してあり、穂乃果はいつもそれに座っていた。穂乃果はそれを持ってことりのもとに歩み寄る。

ことり「えっ、穂乃果ちゃ」ギュッ

そのままことりの手を引き、さらにことりの分の座布団も手に取る。ことり専用の座布団は白。『ことりちゃんの分だけないなんてかわいそうだよ!』との理由で、穂乃果が持ってきたものだ。

穂乃果母「穂乃果、何を」

ポン、ポン、と海未のすぐ側に二枚の座布団を置く。更に海未がいつも使っている青い座布団を取り、真ん中に配置する。

穂乃果「穂乃果は、ここ!」ストン

そうして穂乃果は橙色の座布団の上に座る。

海未(穂乃果。貴女は)

穂乃果「海未ちゃん、ことりちゃん、早く座りなよ」

海未「え、ええ」ストン

ことり「う、うん」ストン

海未が真ん中に座り、ことりが左端に座る。二人が座ると、穂乃果はことりの手を取って、海未の左手を握らせる。そして残った海未の右腕を穂乃果が握る。

ことり(穂乃果ちゃん)

海未(穂乃果…)

海未は両側の二人の手をぎゅっ、と強く握る。穂乃果とことりがそれに応えるように、海未の手を握り返す。

穂乃果「さっ、いつでも始めて大丈夫ですよ。私たちは準備できました!」

そうやって、向かい側に座る海未の母に、強い意志のこもった視線を送った。

海未母(…さすが穂乃果ちゃんですね。これ以上ないほど『私たちは何があっても、絶対に離れない』という意思が伝わりました)

海未の母は、穂乃果の母にちらりと目をやる。

海未母(貴女の強い心は、血と共に娘に受け継がれたようですね)

海未母「そうですね」ストン

穂乃果母「しかしまあ、なんというか…」ストン

ことり母「色々と思い出してしまいそうね」ストン

三人がテーブルの反対側に並び合って座る。

海未「お母様、早速ですが私から事情を説明させていただけますか」

海未母「お待ちなさい」スッ

急く海未を、母は手のひらを目の前に出して制する。

海未母「その前に私たちから、貴女たちに伝えておかなければいけないことがあります」

穂乃果「海未ちゃんのお母さんが…?」

ことり「私たちに…?」

海未母「私と、穂乃果ちゃんのお母様と、ことりさんのお母様に関する話です」

海未「お母様たちのことは、今は関係ない気がするのですが」

穂乃果母「それが大アリなのよ。海未ちゃん」

ことり母「私からもお願いするわ。まずはこちらの話を聞いてちょうだい」

海未「…お願いだなんて。私はそんな立場ではありません」

海未母「…では」コホン

海未母「…」

海未「…」ゴクリ

穂乃果「…」ゴクリ

ことり「…」ゴクリ

穂乃果母「…」

ことり母「…」

海未母「…」

ことり母「…あの、まだかしら園田さん」

海未母「待って下さい。心の準備というものがですね」カアッ

海未「お母様、気分が悪いのですか? 顔が赤いようですが」

穂乃果母(親子だなあ)

穂乃果母「言いづらいみたいだから、私から言うね? あのね、私たち「お待ちなさいっ!!」

海未母「私が、私が言います。言わせてください」

海未の母が顔を真赤に染め、息を切らして穂乃果の母に懇願する。

穂乃果母「わ、わかったよぉ。わかったから、早くして?」

海未母「…はい」

海未母「海未さん、穂乃果ちゃん、ことりさん」コホン

海未穂乃果ことり「はい」

スーッと海未の母は息を吸って、ハーッと大きく吐く。その後に静かに口を開く。

海未母「私と、高坂さんと、南さんは、昔、貴女たちと同じような関係でした」

海未「え…?」

海未母「……に、肉体関係も、ありました」

ことり「お母さんが…海未ちゃんのお母さんと…?」

穂乃果「アルパカも月までブッ飛ぶこの衝撃…」アワワ

海未(あ…)

(海未母「人は、自分が犯したものと同じ過ちについて、他人を責める資格を有していません」)

海未(このことだったのですね…)

海未母「…」カアァァ

海未の母は少女のように顔を羞恥の色に染めている。それを察して、ことりの母が話しを続ける。

ことり母「…最初は私と園田さんだった」

ことり母「私たちが音ノ木の学生だったときに、私が暴漢に襲われそうになって」

ことり母「当時はまだこの辺もそれほど発展してなくて、治安が悪かったから、そういうのがまだ残ってたのね」

ことり母「それをたまたま部活動の帰りだった園田さんが助けてくれたの」

ことり母「私たち三人も貴女たちと同じ幼馴染だったのは知ってるわね?」

ことり「うん」コクリ

ことり母「幼馴染で、大切な親友が私のことを守ってくれた。私はそう思ってたの」

ことり母「怖くて泣いてしまっていた私を、園田さんは家まで送ってくれたわ」

ことり母「そのとき家には誰もいなかった」

ことり母「自分の部屋で二人っきりになったら、なんだか安心しちゃって、園田さんに抱きついたの」

ことり母「そしたら、園田さんがいきなり私を押し倒してきた」

ことり(…)チラッ

ことりが海未の方を見ると、海未はうつむいたままブルブルと震えている。

ことり(…)チラッ

次に海未の母の方を見ると、海未の母もまったく同じ調子でブルブルと震えている。

ことり「…ぷぷ」

妙に同期が取れていたので、ことりは思わず小さく吹き出す。

ことり母「今でもはっきり思い出せるわ。私は思わず『どうしたの…?』ってそこで尋ねた」

穂乃果「…ぷっ」

穂乃果(『どうしたの…?』の部分だけ少女チックな演技するのは穂乃果の腹筋が耐えられないからやめて)

ことり母「そしたら園田さんが『もう我慢できません! いずれ知らぬ男に取られてしまうのなら、今ここで私が「「申し訳ありませんでしたーーーっ!!!」」

ことり母「そ、園田さん? もう済んだことじゃない」オロオロ

ことり「どうして海未ちゃんも一緒に謝るのかな…?」オロオロ

穂乃果母(園田さんと南さんの挙動が完全に娘とシンクロしてるよ!)クスリ

穂乃果(海未ちゃんとことりちゃんの挙動が完全に親とシンクロしてるよ!)クスリ

海未母「み、南さん、ずるいですよ? そこまで克明に話す必要なんて、ないではないではないですか!!」

穂乃果母「『ないでは』が一回多いよ! 落ち着いて!」

ことり母「いやあなんだか興が乗っちゃって」フフフ

ことり(お母さん海未ちゃんのお母さんの前ではこういうキャラなんだ…)

ことり母「…まあそういうわけでね? 私はそういうの興味なかったんだけど、園田さんに身も心も汚されちゃって」

ことり母「堕ちる? っていうのかな、最近の言葉では」チラッチラッ

海未母「うう…」ブルブル

ことり(他人事とは思えないよ…)

ことり母「…真面目な話、しばらくは自分の気持ちがわからなくて辛かった」

ことり母「園田さんのことは、ずっと昔から大切な友人と思ってたから余計にね」

ことり「お母さん…」

ことり母「でもね、園田さんは、その後もずっと私の側にいてくれた」

ことり母「私が無理矢理されて怖かった、って言ったら何度も謝ってくれたし、どんなことをしても償いますって言ってくれた」

ことり母「私が不安になったときは、いつでも優しく抱きしめてくれた」

ことり母「だから、この人と付き合ってもいいかなと思った」

ことり母「自分がこの人を愛してるかどうかはわからないけど、少なくともこの人は自分のことをずっと愛してくれるって信じられたから」

穂乃果「さすが海未ちゃんのお母さんだね! 完全に海未ちゃんのお母さんに堕とされちゃってるじゃん! 略して完堕ちだね!」

ことり「穂乃果ちゃん、それ以上いけない」

穂乃果母「と、ここで終わればハッピーエンドだったんだけどね」ハハ

海未「えっ」

海未(まさか)

穂乃果「あーわかった! お母さんも海未ちゃんのお母さん好きだったんでしょー!」

穂乃果母「あったりー」チラッチラッ

海未母「」ダラダラ

穂乃果「だって穂乃果もことりちゃんの後に海未ちゃんのこと大好きだって気づいたし! お母さんもきっとそうかなって!」

ことり(いや、それは私も思ったけど、それ実際に言っちゃう?)

海未(天然とは恐ろしいですね)

穂乃果母「二人が付き合い始めてね、私はなんだか二人に置いて行かれた気がしてね」

穂乃果母「私と園田さんはお互いの家によくお泊りしてたから、南さんが忙しい日を狙って、強引にお泊りに誘ったの」

穂乃果母「今思うと、焦りでタガが外れちゃってたのかも」

穂乃果母「ちょうどその日は他の家族がいなかったから、自分が園田さんのことどう思ってるか確かめたくて、私の部屋で園田さんに強引にキスしちゃってね」

穂乃果母「私としてはそれ以上するつもりはなかったんだけど、園田さんに逆に押し倒されて、『きぃちゃんが悪いんですよ…私をこんなにいやらしく誘って』って言われて「大変反省しておりますっ!!!!!」

ことり(今回は海未ちゃんは謝らないんだ)

穂乃果(穂乃果たちの場合、先にしはじめたのは穂乃果だしね)

海未「お母様は昔はずいぶんと節操がなかったのですね」フンス

ことり(いや、ドヤ顔してるけど、海未ちゃんの方が相当だから)

穂乃果(幼馴染二人同時に孕ませるほうがよっぽどだから)

海未(…なんだかどこかからツッコミを入れられたような気がします)

穂乃果母「でも私も一矢報いたよ。園田さんの純血もそのとき奪ってあげたから!」エッヘン

そう言って穂乃果の母は人差し指、中指と薬指の三本をくねらせる。

穂乃果「えっ」

海未「えっ//」

海未母「だから、なんで貴女たちはいらぬことまで話すのですか! 破廉恥です! 貴女たちは最低です!」カアァ

海未の母は両手で顔を押さえて隠してしまう。

ことり母(かわいい)

穂乃果母(かわいい)

ことり(かわいい)

穂乃果(かわいい)

海未(お母様…)

海未「あの、お母様。気持ちは痛いほどわかるのですが、私たちは重大なことを話し合う為に集まったはずです」コホン

海未母「…そうですね」キリッ

ことり(切り替え早いところも海未ちゃんに似てるなあ)

穂乃果(あんなの見せられた後だときりっとした顔もかわいく見えるね)

海未母「…その後、高坂さんと情事を重ねていたのが、南さんの知るところになって」

穂乃果母「あれは大変だったねえ」

ことり母「あのときは本気で園田さんとの心中を考えてたわ」

ことり「お母さんが…?」

ことり母「ことりを産んでからはだいぶ落ち着いたから、わからないと思うけど。愛はそこまで人を狂わせるものなのよ?」

ことり(うう…ものすごくよくわかるよぉ。私とお母さん、嫌っていうほど似てる)

海未母「その後、私が二人を説得して……今の海未さんと同じ関係に至りました」

穂乃果「二人とも愛してるってやつだね! 穂乃果とことりちゃんも海未ちゃんに言われたよ」

海未「ほ、穂乃果」カァァ

ことり「…でも、お母さんたちは他の人と結婚してるよね?」

ことり母「…ええ」

ことり「そんなに愛し合ってたのなら、なんで」

海未(…私にはわかります)

海未母「ことりさん。私たちの愛は確かでした。しかし、周囲の環境と、時代がそれを許さなかったのです」

穂乃果「そんな…」

海未母「今でもこの国では同性愛は異端とされています。私たちの頃は尚更でした」

海未母「ましてや、私は戦前から存在する名の通った家の一人娘。…同性愛どころか、自由に恋をすることさえ許されていませんでした」

海未母「私は物心ついたころから、すでに許嫁がいましたから」

海未(…お父様ですね)

海未母「音ノ木に入れられたのは、地元の伝統ある高等学校であったというのもありますが、女子高だったことも大きいのだと思います」

海未母「恋愛にうつつを抜かして家名を辱めることが起こり得ないですから」

穂乃果母(実際は女の子同士の恋愛、結構あったけどね。エスってやつだね)

海未母「私が園田の家に、一人娘として生まれた以上、私の運命はすでに決められていた」

海未(…)

海未の母の言葉が、海未自身が以前発した言葉と重なる。

(海未「親に、教師に、友人に、穂乃果にことりに流され、流された場所でしっかりした様を見せて、真面目だ、頑張り屋だ、優秀だと言われて満足する」)

海未母「辛くはありませんでした。自分で決めなくていいというのは、それはそれで楽でしたから」

海未母「私はずっとこうだろうな、そう思っていました」

(海未「それに苦痛を感じたことはありませんし、これからも変わらないだろうなと思います」)

海未母「…しかし、高坂さんと南さんと共に歳を重ね、恋心が育っていくにつれ、私はこう思うようになりました」

海未母「この気持ちだけは、誰かが用意したものではないし、これからもそうはさせない」

海未母「他の全てが他人に決められたものであっても、ただ一つこの愛だけは私のものだと」

(海未「……でも私は、私が愛する人とどうなるかぐらいは、自分で決めたいのです。たとえそれがわがままでも、身勝手でも、普通ではないとしても」)

海未母「だから、私たちの関係が周知のもととなり、周囲に咎められた際に、私は人生で最初の――おそらく最後の――反抗をしました」

(海未「これは私の意地です。決められた運命への、周りから見ればささやかで、でも私から見れば大きな反抗です」)

海未母「私は二人と駆け落ちをしました」




かつてのとき、静岡県沼津市内浦

園田(私たちは、夏休みまで表面上は大人たちに従うふりをしました)

園田(そうやって警戒を解いた上で、夏休みが始まるとすぐに貯金を全額おろし、最低限の荷物と共に遠方まで逃げました)

園田「ここまで来れば、もう追ってこられないでしょう」

南「でもどうするの? こんなところに知り合いはいないし、いたとしても頼れないし…」

園田「手持ちはまだあります。私が出しますので、今日は宿を取りましょう。きぃちゃ…高坂さんもそれでいいですね」

高坂「きぃちゃんでいいよ。いつも通り」

園田「駄目です。あくまで私たちは、旅行中の女子大学生として振る舞わねばなりません」

園田「幼さを出してはいけないし、仲が良すぎると勘ぐられてもいけない」

園田「その為にお互いに名字で呼び合い、自分を呼ぶときも『私』とする。そう決めたでしょう」

南「一緒にいられなくなっちゃうのは嫌だから、ね? 高坂さんも」

高坂「うー、わかったよ園田さん、南さん。慣れないけど」

園田「二人とも疲れたでしょう。少し早いですが、宿への手続きを先に済ませましょう」

園田「…あ、ちょうどあそこに宿が見えますね。あれにしましょう」



『十千万』



高海「いらっしゃいませ! 三名様ですか?」

園田「はい、二泊ほど泊まりたいのですが」

高海「台帳にお名前をどうぞ!」

園田「はい」カキカキ

高海「園田さんですね」

高坂「この子、すごくちっちゃいね」ヒソヒソ

南「小学生かな? こんなに小さくからお手伝いしてて偉い」ヒソヒソ

高海「私は高校生ですけど」ズイッ

南「えっ、あっ、聞こえて」

高坂「ごっ、ごめんなさい! まさか私たちと同じとは」

高海「同じ? でも台帳には二十歳って」

園田「私たちには私たちと背丈が変わらないきょうだいがいまして。それで驚いたのですよ」

南(園田さんナイス!)

高海「そうなんですか! きょうだいっていいですよね」

高海「私が将来結婚したら、子どもを産んで三人きょうだいにしようと思ってて!」

高海「できれば娘がいいかな〜一緒に宿を切り盛りするの楽しそうだし!」

園田「きっと娘さんも高海さんと同じで綺麗な声をしているのでしょうね」

園田「ここの宿名のように、千の歌で人を笑顔にさせる、輝かしい女性に育つと思います」ニッコリ

高海「そ、そんなあ// 私の子どもなんて、きっと普通の子ですよ! そ、それより、どうして私の名前を?」

園田「表に表札がありましたから」

高海「そ、そうでしたね! なんだか名前で呼ばれると緊張しちゃいます//」

園田(ふぅ…なんとかごまかせました)

高坂「そ〜の〜だ〜さーん?」ツネリ

園田「痛っ! なんですか高坂さん、いきなり人の手をつまんだりして」

南「私も」ツネリ

園田「痛っ! 南さんまで」

高坂「おほほ、それにしてもこの宿はいいところですねえ、南さん。夜が楽しみですね」

南「ふふふ、そうですね高坂さん」

園田「ふ、二人とも?」

園田(友人同士のふりをするように言ってはいましたが、なんだか演技がおかしいですよ!?)

南「園田さんはここの良さがまだわかってないようですから、今日の夜じっくり教えて差し上げましょう」

高坂「そうですわね、南さん。じぃっくりと教えてあげましょう」

園田「」ゾクッ

園田(なんでしょうか、悪寒がします)

高海「…あ、あの。お部屋に案内してもよろしいでしょうか…」オズオズ

園田「は、はい。お願いします」

高海(園田さんって結構詩人だなあ。千の歌、かあ。なんだか気に入っちゃった♪)



夕方、海辺

ザ-ン
ザザ--ン

赤い夕日に静かなそよ風、潮の匂いがあたり一面を覆う。

園田「海はいいですね…」

高坂「園田さん本当に海好きだよね」

南「あっ、小さいかもめがいる。かわいいな〜」

園田「南さんはかもめが好きなんですね」

南「うーん、それはなんか一世代早いような」

園田「?」

南「こっちの話だよ」

南「かもめ自身というよりは、小動物全般が好きなの。特に鳥類かな」

高坂「じゃあ南さんの子どもの名前は『ことり』ちゃんだ!」

園田「どうしていきなり子どもの話になるのですか」

高坂「私のお母さんは、お母さんの好きなものから私の名前つけたって言ってたよ? 園田さんの子どもは『うみ』ちゃんだね!」

南「あはは。それなら、高坂さんはどうなるの?」

高坂「私かあ…私が好きなもの」

高坂の鼻にすぅ、とかすかな潮の香りが通りかかる。

高坂「私はこういうほのかに漂う潮の香りとか好きだなあ」

南「じゃあ『しお』?」

高坂「なんだか響きが悪いね」

南「それなら『かおり』は?」

高坂「うーん、それだとありふれた感じだよね」

園田「『ほのか』」

南「え?」

園田「『ほのか』はどうですか。…いま思いついただけですが。気に入らないなら忘れてください」

高坂は園田のもとに駆け寄って、園田の手を握る。

高坂「それだよっ!」ギュッ

園田「きぃ…高坂さん、何をいきなり」

高坂「それいい! 決まり! 私の子どもの名前は、『ほのか』! 『高坂ほのか』だよっ!」

高坂「それで、『園田うみ』ちゃんと、『南ことり』ちゃんと、私たちみたいに一緒の高校に通わせるの! それって、すっごく素敵じゃない!?」

南「高坂さん、それは…」

南の困惑した表情を見て、高坂は気づく。

高坂「あっ…そう、だよね…」シュン

南「…ねえ園田さん、高坂さん」

園田「はい?」

高坂「なに?」

南「ずっと三人一緒だよ」

高坂「うんっ!」

園田「もちろんです。…二人とも、愛していますよ」

園田「高坂さん、南さん。私のわがままに付き合わせてこんなところまで連れてきてしまい、申し訳ありません」

園田は深々と頭を下げる。

南「園田さんのわがままじゃないよ。私たちがついていきたいと思ったから、ついてきたの」

高坂「そうそう、お金は園田さん全部出してくれてるし! 私の気持ち的には、夫の財産で豪遊する貴婦人な感じだよ!」

園田「なんですかそれは。まったく、高坂さんはこんなところに来ても変わりませんね」クスッ

南「でも、大丈夫なの? ここに来るまででだいぶ使っちゃったよね?」

園田「小さいときからお小遣いやお年玉を全て貯金に回してたので」

園田(特に欲しいものもなかったのでこれまで何も考えずに貯めてきましたが、こんなところで役に立つとは)

南「大事に貯めてきたお金なのに」

園田「それより大事な二人の為に使ったんです」

南「//」キュン

高坂(こういうのをスケコマシって言うんだよね)

園田「…暗くなってきましたね。宿に戻りましょうか」



十千万、三人部屋

高坂「宿の中探検しようよ!」

南「うん、いこっ♪」

園田「私は明日以降の計画を立ててますので、二人で行ってきてください」

高坂「えーそんなの後でいいじゃん!」ブ-

園田「駄目です」

高坂「園田さんと一緒がいいの!」

園田「でしたらここで私と一緒に計画を立てるのを手伝って下さい」

高坂「南さんと行ってまいります」ビシッ

園田「よろしい。後で私の考えた案を見せますので、いつものように二人の意見をください」

南「うん。じゃあ高坂さん、行こっ」

高坂「行くぞーっ!」ドタドタ

園田「高坂さん、走ってはいけません! …もう、落ち着きがないですね。女子大生という設定をすっかり忘れてます」

園田(…さて。勢いで来てしまいましたが、明日以降どうするかを考えなければ)

園田(残金から計算したところ、あと二ヶ月で手持ち資金は尽きる。それまでに家と職を見つける必要がある)

園田(何の経験もない若い女を雇ってくれるところなんて、普通に考えたらどこにもないでしょう)

園田(……あるとしたら、遊郭ぐらい)

園田(私は二人のためなら見ず知らずの男に抱かれる覚悟もある。でもそれは二人が納得しないでしょう)

園田(最悪、二人も一緒にそこで働くと言い出すかも。それだけは絶対に避けなければ)

園田(二人の体が汚れるなど、私の命に代えてもあってはならない)

園田(まっとうな仕事をなんとか探すしかありませんね…)

園田「前途多難です」ハァ

「なんだかよくわからないけど、大変そうですね」

園田「うわっ!」

園田は慌てて広げた計画表を隠す。

渡辺「そんなに驚かなくても」

園田「なんですか貴女は、勝手に部屋に入ってきて!」

渡辺「お食事の用意ができたので、呼びに来たのですよ」

渡辺「扉の前で呼んでも反応が無かったので、入らせていただきました。よっぽど集中されてたんですね」

園田「そ、そうですか…」ドキドキ

渡辺「…すいません、私まだあまり接客に慣れてなくて。失礼や非常識がありましたら謝ります」

園田「新人の方なのですか?」

園田(そういえば、かなり若いですね。私とさして歳は変わらないでしょう)

渡辺「アルバイトです。私、高海さんの幼馴染で、それで雇ってもらってて。お小遣いの足しにしようと思いまして」

園田「そうなんですか」

園田(…高校生の身分で、そんなに金銭が必要なのでしょうか。私にはよくわからない感覚ですね)

園田「あの、興味本位でお伺いしますが、貯めたお金は何に使うのですか?」

渡辺「私、被服学に興味があって、自分で服を作ったりしてるんです。布って結構高くて、自分のお小遣いだけじゃ足りなくて」

園田「なるほど」

園田(道具一式を家の資金で用意してもらえた私は、恵まれていたのですね)

園田(私の場合、そうしたいと望んだわけではありませんが)

渡辺「お連れの方は二人とも既に食堂にいますんで、準備ができ次第すぐ来てください」

園田「はい、わかりました」



食後、三人部屋

園田(食事の後、私は二人に事実を話しました。この三人の間では隠し事をしない、と以前約束したから)

園田「…というわけで、このままのペースだと、資金はおよそ二ヶ月で底を尽きます」

園田「それまでに収入源を見つける必要があります」

南「お仕事…ってことだよね」

高坂「私達が節約すればもうちょっと長くもたないかなあ?」

園田「食費を削ることになりますが」

高坂「探そう、仕事。すぐにでも」キリッ

園田「…あてはあるのですか?」

高坂「ないよ?」

南「だよね…」

ウ-ンウ-ン

園田(あっ)

(渡辺「アルバイトです。私、高海さんの幼馴染で、それで雇ってもらって。お小遣いの足しにしようと思いまして」)

園田「アルバイトということなら…なんとかなるのかもしれません」

南「そっか。アルバイトなら、経歴とか身元とかそこまで深く調べられないし」

高坂「住所や年齢聞かれても、嘘言っちゃえばいいんもんね!」

園田「…褒められたことではないですが、そういうことです」

南「三人で働けば、だいぶ稼げるんじゃないかな」

園田「そうですね。頑張れば三人が生活するぶんぐらいはなんとか賄えるでしょう」

園田「その間により安定した職を探せばいいのです」

高坂「それじゃあ、早速明日から探してみよう! …と、それはそれとして」

園田「ん?」

南「そ〜の〜だ〜さんっ♪」トサッ

園田「み、南さん? どうして私を押し倒すのですか?」

南「押し倒して何をやるかは、園田さんがよく知ってるよね?」

高坂「浮気性な園田さんには、私達の『良さ』をじっくり教えてあげないとね♡」

園田「なっ、何を言ってるのですか! そんなことしたら外に声が聞こえてしまっ」

高坂は園田が喋り終える前に唇を塞ぐ。

南「ばれないように、声を抑えてね、園田さん♡」

園田「ん…や…」

園田(二人とも…破廉恥です…)



園田(…とまあ、初日は色々ありました)

園田(次の日、私たちは方々を訪ね歩き、なんとかアルバイトの口を見つけました)

園田(ちょうど夏休みの時期だったので、変に勘ぐられることもありませんでした)

園田(高坂さんは昼はダイビングショップの手伝いをしています)



松浦「おーい高坂、このタンク運んどいてくれ」

高坂「はーい、って重っ!」ズシィ

松浦「当たり前だ、そこの台車使え」

高坂「了解です!」ビシッ

高坂は松浦と二人でボンベを台車に載せ、台車を押して運ぶ。

高坂「…そういえば、私以外にアルバイトの人っていないんですか?」ガラガラ

松浦「見ての通り重労働でな。他のところにとられちまうのさ。アルバイトとして来てくれたのは高坂がはじめてだよ」

高坂「へー、いっぱい汗かけて、海にも潜れて楽しいのに」

松浦「…女子大生にしては変わった考えだな。もっと楽して稼いで、遊びに使いたい年頃だろう」

高坂「んー、私はそういうのいいかなって。大切な友達と一緒にいられればそれでいいから!」

高坂(本当は友達以上の関係だけど)

松浦「そうかそうか、感心したぞ。それなら目一杯こきつかってやるからな」

高坂「うっ、ほどほどでお願いします」



園田(夕方は私たちが泊まっていた宿の手伝いをしています)

高海「高坂さんが来てくれてすっごく助かってるよ。渡辺さんだけじゃ人手が足りなかったから」

高坂「空いてる部屋をただで貸してもらってるんだから、それぐらい当然だよ!」

高坂「今年は夏休みの間、ここでお金稼ぎながら観光も楽しむって決めて来たから、助かったよ」

高坂(私たちは、社会見学と観光の為に夏休みを使って内浦を訪ねた女子大生っていう設定)

高坂(園田さんがばっちり説明してくれたおかげで、高海さんの親も信用してくれた)

高坂(…私が説明してたら、しどろもどろで多分バレてただろうな。園田さんってやっぱりすごい!)

高海「あはは、でもアルバイト先も決めずに来るなんて行き当たりばったりだね」

高海「園田さんも結構抜けてるところあるんだね?」

高坂「そ、それは…あっ、高海さん、お客さんだよ!!」

高海高坂「「いらっしゃいませ!」」

桜内「あらあら、可愛らしい受付さんが二人も」

高坂「えへへ、ありがとうございます」

桜内「内浦は初めてなんだけど、とっても素敵なところね。住んでしまいたいぐらい」

高海「ありがとうございます! いつでも歓迎しますよ。なんならお隣の土地が空いてるんで、お隣に住んでもらっても!」

桜内「うふふ。私は無理だから、私の子におすすめしておくわ」

桜内「まだ学生だから、十年以上は待ってもらうことになりそうだけど」

高海「はい、そのときは私の子どもと一緒に歓迎しますね」ニッコリ



園田(南さんはデパートの服飾店で働いてます)

南「頭のお団子、可愛らしいですね♪」

津島「そ、そう? 思い切って今日はじめて試してみたんだけど」テレテレ

南「お客様には、ちょっとダークな感じの服が似合うと思いますよ♪」

津島「ダークかあ…悪くないかも」



園田(私は寺で、炊事や洗濯の仕事をしています)

園田「国木田さん、倉の整理終わりました」

国木田「仕事が早いな。園田はいい嫁になるだろう」

園田「ありがとうございます」

国木田「ウチに嫁がんか?」

園田「い、いえ、それはご遠慮いたします」

国木田「気が変わったらいつでも来ていいぞ」



園田(私たち三人は、アルバイトとはいえ仕事を見つけることが出来ました)

園田(そうして、朝から夕方まで働き、夜に十千万に帰ってくる。そんな生活が続きました)

園田(三人一緒に過ごせるのは夜の数時間だけでしたが、私たちはそれでも幸せでした)

園田(十千万が出してくれる夕飯を食べるときが、言ってみれば私たちの一家団欒でした)

園田(夕飯を食べ、身体を清めた後は…三人で愛し合いました)

園田(情事が一通り終わると、私は右側に高坂さんを抱き、左側に南さんを抱き、三人で川の字になって寝ました)

園田(働き詰めで、贅沢とは程遠い生活でしたが、内浦の豊かな自然と大きな海、何より二人と気兼ねなく一緒にいられる時間が、私たちの心を満たしてくれました)

園田(こんな日々が、一生続いてほしい――心の底からそう願いました)



ある日の夕方。国木田寺院

国木田「今日もよくやってくれた。夕飯も食べていかんか?」

園田「いえ、せっかくですが。これから次のアルバイト先のホテルに行きますので」

園田(将来の為に、もっと稼いでおかなければなりませんからね)

国木田「ずいぶん頑張るな。ホテルっていうと、小原のところか」

園田「ご存知なのですか?」

国木田「そりゃあ、あれだけでっかいホテルを立ててればな。なんでも世界中に支社があるらしく、小原家はたいそうな金持ちらしい」

園田(羨ましい限りですね)

国木田「まああそこならここより金払いもいいだろう。頑張って稼いで来いよ」

園田「ありがとうございます。ではまた今度」タッタッタッ

国木田(慌ただしい娘だ。あの歳でそこまで必死に働く必要もないだろうに)

国木田「ん?」

「国木田さんですね」

国木田「そうだが」

「突然のご訪問失礼致します。私、黒澤家の使いのものですが」

国木田「ああ、黒澤さんね。今日はどうしたんです」

「昨日、私どもと古くから縁がある家から連絡がありまして。そこの一人娘が失踪したらしいのです」

国木田「それは大事だな」

「どこに行ったか皆目検討もつかないらしく、黒澤家のような縁がある場所に片っ端から尋ねてまわってるようで」

国木田「恥を厭わぬ探し方だな。ずいぶん大切にされてると見える」

「そのようですね。それで、まず見つからないとは思いますが、筋を通すためにある程度は調べた上で報告しようと言う話になりまして」

国木田「それはご苦労。それで、その家はなんていう名なんです」

「ああ、申し上げてませんでしたね。園田と言います」

国木田「なに…?」

「何か心当たりが?」

国木田「……いや、ない」

「まあ、そうですよね。お手数おかけしました。一応、その娘の氏名などの情報を渡しておきますので、何かわかったことがありましたらご連絡ください」

使いの者は国木田にメモを手渡す。

国木田「ああ、きっと連絡しますよ」

「では」

国木田(園田、お前は…)



ホテルオハラ

園田「204号室の清掃終わりました」

「園田は仕事が早いな。覚えもいいし」

園田「ありがとうございます」

「次の仕事なんだが、食事を三番のスイートルームに届けてくれないか」

園田「三番? 確か三番は今、小原オーナーが泊まってるのでは。単なるアルバイトが行っていいものでしょうか」

「オーナー直々のご指名でな。容姿端麗で仕事ができるアルバイトが入った、って言ったら来させるように指示された」

「変わり者なんだ、あの人は」

園田「そういうことなら」

「悪い人ではないから、あまり気負わなくて大丈夫だぞ」

園田「はい、では行ってまいります」カラカラ



園田「お食事をお持ちしました」コンコン

「開いてるよ。Come in」

園田「失礼します」ガチャ

小原「Wow! 聞いてたのよりずっとElegantだな」

園田「あ、ありがとうございます」

園田(私と同い年ぐらいの男性ですね。オーナーの息子さんでしょうか? 顔立ちと髪の色から見るに、外国の方のようです。小原という姓は外国語の当て字なのでしょうか)

小原「食事はTableの上に適当に置いといてくれ」

園田「あの、食事はオーナーの一人分と聞いていたのですが」

小原「それであってるよ。Ownerは私だから」

園田「えっ」

小原「ふふっ。確かに私は園田と同じStudentだが、だからと言ってOwnerをやってはいけないということもないだろう?」

園田「は、はあ」

園田(オーナーがこんなに若いとは思いもしませんでした)

園田(それにしても変な喋り方ですね…日本語をまだ完全に覚えてないのでしょうか?)

園田(まあ、英語で喋られても困りますが)

「昨日、私どもと古くから縁がある家から連絡がありまして。そこの一人娘が失踪したらしいのです」

国木田「それは大事だな」

「どこに行ったか皆目検討もつかないらしく、黒澤家のような縁がある場所に片っ端から尋ねてまわってるようで」

国木田「恥を厭わぬ探し方だな。ずいぶん大切にされてると見える」

「そのようですね。それで、まず見つからないとは思いますが、筋を通すためにある程度は調べた上で報告しようと言う話になりまして」

国木田「それはご苦労。それで、その家はなんていう名なんです」

「ああ、申し上げてませんでしたね。園田と言います」

国木田「なに…?」

「何か心当たりが?」

国木田「……いや、ない」

「まあ、そうですよね。お手数おかけしました。一応、その娘の氏名などの情報を渡しておきますので、何かわかったことがありましたらご連絡ください」

使いの者は国木田にメモを手渡す。

国木田「ああ、きっと連絡しますよ」

「では」

国木田(園田、お前は…)



ホテルオハラ

園田「204号室の清掃終わりました」

「園田は仕事が早いな。覚えもいいし」

園田「ありがとうございます」

「次の仕事なんだが、食事を三番のスイートルームに届けてくれないか」

園田「三番? 確か三番は今、小原オーナーが泊まってるのでは。単なるアルバイトが行っていいものでしょうか」

「オーナー直々のご指名でな。容姿端麗で仕事ができるアルバイトが入った、って言ったら来させるように指示された」

「変わり者なんだ、あの人は」

園田「そういうことなら」

「悪い人ではないから、あまり気負わなくて大丈夫だぞ」

園田「はい、では行ってまいります」カラカラ



園田「お食事をお持ちしました」コンコン

「開いてるよ。Come in」

園田「失礼します」ガチャ

小原「Wow! 聞いてたのよりずっとElegantだな」

園田「あ、ありがとうございます」

園田(私と同い年ぐらいの男性ですね。オーナーの息子さんでしょうか? 顔立ちと髪の色から見るに、外国の方のようです。小原という姓は外国語の当て字なのでしょうか)

小原「食事はTableの上に適当に置いといてくれ」

園田「あの、食事はオーナーの一人分と聞いていたのですが」

小原「それであってるよ。Ownerは私だから」

園田「えっ」

小原「ふふっ。確かに私は園田と同じStudentだが、だからと言ってOwnerをやってはいけないということもないだろう?」

園田「は、はあ」

園田(オーナーがこんなに若いとは思いもしませんでした)

園田(それにしても変な喋り方ですね…日本語をまだ完全に覚えてないのでしょうか?)

園田(まあ、英語で喋られても困りますが)

園田「ではお食事を失礼します」

園田はテーブルの上に運んできた食事を配膳する。

小原「園田はよいEducationを受けてるね」

園田「! ……勿体無いお言葉です」

小原「失礼だけど、CCTVの映像から園田の立ち振舞いをObserveさせてもらったよ」

小原「HotelのManagementに小さい頃から関わって来た身だからわかるが、あの立ち振舞いはIn a dayでは身につかない」

小原「Statusのある家でEducationを受けてるね」

園田(まずい…!)

園田「買いかぶりです。私は単なる女学生に過ぎません」

小原「Teenagerとは言え、私は経営者だ。人を見る目はそれなりにある」

小原「園田が単なるSummer Vacation中のStudentではないことはわかる」

小原「細かい経緯はわからないが、『逃げてきた』ってところかな」

園田(この男、そこまで気づいて…! 難破な雰囲気だったから、油断していた…!)

小原は両腕を大げさに開いて、園田をなだめるようにジェスチャーをする。

小原「No offense! 何も園田を追い詰めそうとしてるわけじゃないよ」

小原「園田のPastは問わないし、今言ったことを他人に話すつもりもない」

小原「むしろ園田にはずっとここにStayしてほしいからね」

園田「…」

園田「それはなぜでしょうか?」

小原「Beautiful Girlを歓迎しないReasonがある?」

園田「では失礼します」スタスタ

小原「ああ、Jokeだよ! Just Kidding!」

園田「…では本当のところは?」

小原「園田にここにあるHigh SchoolのTeacherになって欲しいんだ。浦の星女学院というSchoolなんだが」

園田「私は教員免許を持っていません」

園田(安定した職は魅力的ではありますが)

小原「まずはClerical Workerとして働いてもらえばいい。単純事務にはLicenseは不要だからね」

園田「…免許は学校に通わなければ取れないのでは」

小原「通信教育でも免許は取れる。学費は私がSupportするよ」

園田(いくらなんでも気前が良すぎます。何か別の意図がありそうですね)

園田「ありがたい申し出ですが、見ず知らずの貴方にそこまでしていただくわけにはいきません」

小原「じゃあLoanということにしよう。Teacherになってから分割で返してもらえばいい」

園田「…あの、なぜ私にそこまで」

小原「…子どもをそこに通わせたいのさ」

園田「もうお子さんがいらっしゃるのですか!?」

小原「いや、流石にそれはまだ。Futureの話だ」

小原「私はVery Youngなころから、成功した経営者の息子として育てられたから、Schoolでも特別扱いで、対等な立場のFriendもできなかった」

小原「だから、私に将来SonかDaughterができたら、その子には普通のSchool Lifeを送ってほしいと思ってね。この近くにあるPrivate Schoolをいくつかテコ入れしてるんだ」

小原「浦の星女学院はその一つさ。Girlが産まれたときにはそこに通わせる」

小原「まあ、私のChildなら、こんな親心を知らずに好き勝手にやりそうだけどね」haha

園田「普通の学生生活を送らせたいのであれば、小原家の影響下にない土地の学校に入れるだけでいいでしょう」

小原「No! それは二つの理由で駄目。一つは私のFianceeのBirthplaceであるここの学校に通わせたいということ」

園田(婚約者はいるのですね)

小原「もう一つは私のChildを教えるTeacherは、私が選びたいということ」

園田「それで、私に白羽の矢が立ったと」

小原「園田のような大和撫子は、まさに適任さ」

小原「今から行動をStartすれば、私のChildが高校生になる頃には、きっといいTeacherになってるよ」

園田(…この小原という男、単純に私のことを気に入っているだけなのでしょうか)

園田(冷静に考えたら、世界の様々な場所に影響力のある者が、名家とは言え一地方でしか影響力のない園田家に肩入れするのも変な話ですね)

園田「……小原オーナー」

小原「小原でOKだよ」

園田「小原さん。ずいぶんと私を買ってくれてるようですが、私が途中で内浦を去ってしまったらどうするのですか。貴方の投資は無駄になります」

小原の表情が朗らかなものから、真剣なそれに変わる。

小原「園田は帰らないさ」

園田「…私と今はじめて会ったばかりなのに、なぜそう言い切れるのですか」

小原「私がそう感じたからだよ。人を見る目はそれなりにあると言っただろう?」

園田「根拠が薄弱ですね。私の過去を調べたのですか?」

小原「女の過去を調べるなんて、自信のない男がやることさ。私は『目』で人を見る」

園田「…私の目はそこまで信用に値するものでしたか」

小原「ああ。何としてでもやりとげてみせるという、強い『目』をしていた。美しかったよ」

小原「ここで守りたい大切なものが、園田にはある。確信したよ」

小原「だから、それ以上の理由は私にはいらないんだ」

園田「…」

園田(先輩が言っていた通り、この方は浮世離れしているが悪人ではない。高坂さんと南さんを養うために、当面の間世話になったほうが良さそうです)

園田「わかりました。私でよろしければ、謹んでお受け致します」

小原の表情が先程までの朗らかな様子に戻る。

小原「Good! じゃあ来週のMondayに、浦の星女学院の職員室を訪ねてくれ。そこでContactと、今後の説明がある。理事長にも職員には話は通しておく。MapはFront Deskで受け取ってくれ」

園田「ありがとうございます。あの、ちなみに給金はいかほどで」

小原「ああ、Salaryの話がまだだったね」

小原は近くにあったメモ翌用紙とペンを手にとる。

小原「とりあえずこれぐらいでどうだい」カキカキ

園田(!!! こんなに!? 今の給金の五倍もあるではないですか!)

小原「福利厚生として、School近くのApartmentも無料で提供するよ」

園田(住む場所まで提供してもらえるとは。これで当面の生活の心配は無くなります)

小原「少なかったかな?」

園田「い、いえ! 十分です。あの、一つお伺いしたいのですが、そのアパートは三人で住めますか…?」



夜遅く、十千万への帰り道

園田(なんたる僥倖。職と住処が、同時に決まってしまいました)

園田(高坂さんと南さんに報告するのが楽しみです)

園田(二人とも喜んでくれるでしょう)

園田(金銭的な余裕もできるので、二人には好きなことをやらせてあげたいですね)

園田(何にせよ、これからの生活が楽しみです)

園田は十千万の入り口の扉を開く。

園田「高海さん、ただいま戻りました」ガラッ

園田「…ん?」

園田(おかしいですね。受付に誰もいません)

…オイ ゲンカンカラオトガシタゾ
カエッテキタノカ

高坂「園田さんっ!!! 逃げてっ!!!!!」

園田「なっ!?」

ドタン、と大きな音がして、奥の部屋の扉が開く。飛び出してきた男の脚を、高坂が両腕で必死に掴みかかり、行かせまいとしている。

高坂「こいつら、園田さんを東京に連れ戻しに来た!! だから、早くっ!!」

園田「くっ!」

園田は高坂の言うことを無視して、高坂の方に向かう。

高坂「何してるの、こっちに来ないで! 逃げて!!」

園田「貴女を置いて逃げられるわけないでしょう!!」

直後、園田の背後でガラガラと玄関の扉が閉まる音がする。

南「園田さん…」

園田「!」クルッ

玄関から南の声が聞こえたので、園田が振り向くと。

南「ごめんなさい…」

羽交い締めにされて捕まっている南の姿が園田の目に移った。

園田「…っ! どうして! どうして私達をそっとしておいてくれないのですか!」

園田はものすごい剣幕で目の前の者を怒鳴りつける。

園田「人を愛し、愛した人と一緒にいたいと思うことが、そんなにいけないことなのですか!!」

園田「私は…園田家の道具じゃないっ!!!!!」



 ◆



海未母「それが内浦で過ごした最後の日でした」

海未母「連れ戻された後、学校でのクラスは三人共バラバラにされ、教員たちが示し合わせたせいでまともに会話もできなくなりました」

海未母「朝も放課後も常に園田家の者が私の側についていたし、休日も自由な外出は許されませんでした」

海未母「私は園田家という檻の中に閉じ込められたのです」

穂乃果「そんな…ひどすぎる」

海未母「私は自分の運命を呪い、苦悶しました」

海未母「それでもなお、いつかまた三人一緒になれる日が来ると信じて、希望を捨てずに生きていました」

海未母「しかし、それは高校在学中には叶わず…高校を卒業してしまうと、私達の接点は完全になくなり、二人を遠目で見ることもかなわなくなりました」

海未母「一ヶ月もしないうちに、私は精神的に耐えられなくなりました」

海未母「二人が男性と結婚してしまう夢を見て、気が狂いそうになったこともあります」

海未(…)

海未母「私が憔悴しきったを見越したのか、園田家側は一つの提案を出してきました」

ことり「それは、どんな…?」

海未母「『許嫁と結婚し、子をなしたら、今後は自由に二人に会ってもよい』」

海未「…!」ギリッ

海未母「私には、他の選択肢はありませんでした」

海未母「その頃には、ただ再び会いたい気持ちだけが私の心の全てを占めていたから」

海未母「…海未さん、園田家の名誉の為に言っておきますが、彼らは決して私を苦しめようとしたのではありません」

海未母「先程も言ったとおり、当時は同性愛に対する風当たりは今よりずっと強かった」

海未母「あのまま東京で関係を続けていたら、奇異の目に晒され続けていたでしょう」

海未母「彼らは家を守りつつ、私のことも守ってくれたのです」

海未母「現に今は、誰も当時のことを言う人はいません。人の噂も七十五日というのは本当ですね」

海未母「…当時の私はそれがわからなかったので、ただ彼らを恨むばかりでしたが」

海未「感情的に納得し難いですが…お母様の仰られることはわかります」

海未母「許嫁…つまり、貴女の父上も、とても誠実で、素敵な男性でした」

海未母「今もそう思っています。全てはめぐり合わせが悪かったのです」

穂乃果母「私達も、園田さんの家ほどじゃないんだけど、男性と付き合うようにしきりに勧められてね」

ことり母「何度お見合いの話があっても断ってたんだけど、園田さんが結婚してしまって、ああもう終わったんだ、って思って」

海未母「…貴女たちを産んだ後、ついに自由に会えるようになった私達三人は、それぞれの想いを語り合いました」

ことり母「そうしたら、三人とも同じ気持ちを持っているとわかったの」

穂乃果母「『もし子どもに将来愛する人ができたら、それがどんな愛の形であろうと、全力で応援する』」

海未母「…示し合わせたわけでもないのに、三人とも同じだった」

穂乃果母「それを知ってね、私たちは大丈夫なんだ。それぞれ違う人と結婚しても、気持ちはずっと繋がったままなんだって信じられた」

海未(そうなんですね。私の望んだことは)

(海未「……でも私は、私が愛する人とどうなるかぐらいは、自分で決めたいのです」)

海未(お母様たちの望みでもあったのですね…)

穂乃果「…ねえ、お母さん。お母さんは、海未ちゃんのお母さんが、今『愛してる、一緒についてきてほしい』って言ったら、どうするの?」

穂乃果母「穂乃果? 私はもう家族がいるのよ? それに結構いい歳だし」

穂乃果「いいから、正直に答えて」

穂乃果母「……」

穂乃果「お母さん」

穂乃果母「ごめんなさいね、穂乃果。たぶん、いえ間違いなく園田さんについていくと思う。全てを捨ててね。園田さんを、今でも愛してるから」

穂乃果「わかるよ。私だって海未ちゃんに言われたら、そうするもん」

ことり「お母さんは…?」

ことり母「私は高坂さんほど情熱的にはなれないわよ…でも、園田さんが最初のときみたいに、私の意思を無視して強引に私を連れ去ってくれないかなあ、とは思ったりするわね」

ことり「…お母さんって、少女漫画の主人公みたい」

ことり母「子どもでしょ、私達って。幻滅した?」クスクス

海未の頭に、母に言われた言葉が浮かぶ。

(海未母「…海未さん。大人はただの大きな子供です。分別があるように見せかけているに過ぎません」)

海未「いえ、とても素敵だと思います」

海未母「私たち三人の時間は、内浦で過ごしたあの時からずっと止まったままです」

海未母「互いに恋い焦がれ、三人で静かに暮らせるその日を待ち続ける、未熟な少女のままなのです」

海未母「貴女たちは、どうか時計の針を止めないでください。それだけが私たちの願いです」

穂乃果「私、目標が出来たよ」

穂乃果母「どんな目標?」

穂乃果は自分のお腹を撫でる。

穂乃果「海未ちゃんと、ことりちゃんと、穂乃果たちの子どもで、世界一幸せな家族を築いて見せる」

穂乃果「そして、同性愛とか、家の跡継ぎとか、そんなもの好きだって気持ちの前には関係ないんだって世の中に示してみせる」

穂乃果「それでね…お父さんたちのこともあるし、簡単じゃないと思うけど…お母さんたちがまた三人で一緒に笑いあって過ごせる方法も、いつか見つけてみせる!!」フンス

あまりに唐突で無茶な内容の宣言に、三人の母親はぽかんとあっけにとられる。

穂乃果母「…ふふっ。私たちがおばあちゃんになる前だと助かるわ」

ことり母「ほんとにね」

海未母「ふふっ。穂乃果ちゃんなら、本当にできてしまいそうで怖いですね」

海未母(貴女が穂乃果ちゃんに惹かれた理由、よくわかりましたよ)

ことり「お母さん、海未ちゃんのお母さん、私も赤ちゃん産みたいです」

ことり「海未ちゃんと穂乃果ちゃんと一緒に育てていきたいです」

ことりの目からは、もう迷いは消えていた。

ことり母「ええ。そうしなさい」

海未母「不出来な娘を愛してくれて、ありがとうございます」

海未「ありがとうございます!」

自分を産んでくれたこと、自分をかばってくれたこと、愛を支えてくれること、自分を大切にしてくれたこと――それら全てのことが混ざり合い、海未は大きく頭を下げて母に感謝した。



いつ、どのタイミングでそれぞれの家族に今回の件を伝えるかは、母親たちだけで話し合うことにし、後でそれを子どもたちに伝えることにした。穂乃果、海未、ことりを先に帰し、母親三人がその場に残った。

穂乃果母「…これで、良かったんだよね」

海未母「あの子達なら、私たちができなかったことをやってくれるでしょう。私たちは影で支えるのみです」

ことり母「私たちができなかったこと、か…」

ザ-ン
ザザ--ン

波の音が聞こえる。

広く大きな海。

浜辺に佇む小さな鳥。

ほのかに漂う潮の香り。

三人で過ごした、青春の日々。

園田(…ああ、できることなら)

園田(内浦で三人、ずっと一緒に暮らしたかったなあ…)



 ◆


月曜日、放課後、アイドル研究部前

海未(あの後お母様から聞いたところ、それぞれの家庭で次の日曜日に家族会議をすることになりました)

海未(穂乃果とことりは、産婦人科に行くために今日はお休みです)

海未(今週が正念場ですね)

海未がアイドル研究部の扉を開くと、そこには見慣れた、しかし異常な光景があった。

海未「…にこ。貴女は卒業したはずでは」

そこには私服の矢澤にこが、パソコンの前の椅子に座っていた。

にこ「…海未か。穂乃果とことりは?」

海未「二人は体調不良でお休みです。二人に会いに来たのですか?」

にこ「ええ、大学をサボってすっ飛んできたわ。入校許可の手続きって意外とめんどくさいのね」クルクル

にこは首にかけた入校許可証の紐を指でくるくる回す。

海未(…まさか)

海未「心配していただけるのはありがたいですが、そこまでしなくても」

にこ「後輩が産婦人科に入るところをパパラッチされてたら、そりゃあ会いにも来るわよ」

にこが椅子を引いてパソコンの前から離れると、画面にはニュースブログ記事の見出しが大きくこう映っていた。

『伝説のスクールアイドル高坂穂乃果・南ことり、まさかの妊娠か』

見出しの下には、私服の穂乃果とことりがそれぞれの母親と共に産婦人科に入る写真が大きく表示されている。

海未「…くっ!」

海未(自宅からそれなりに離れた産婦人科に行ったはずなのに! 解散したとはいえ、μ'sの知名度を過小評価していました)

にこ「そこまで驚かないのね。知ってたのね、海未は」

海未「…もうごまかすのは無理みたいですね」

にこ「誰の子なの?」

海未「…それは」

海未(にことは言えこれ以上外部に情報を漏らすわけには…!)

にこ「…絶対に言えないって顔してるわね」

海未「…はい。申し訳ありません。いつか必ずお話しますので」

にこ「それで納得すると思う?」

海未「納得しようがしまいが、話す訳にはいきません。にこだけでなく、他のμ'sメンバーに聞かれても、答えは同じです」

にこ「……」ハァ

にこは大きくため息を付くと同時に、緊張していた表情が普段のそれに戻る。

にこ「ねえ海未。私が片親なのは知ってるわよね?」

海未「…? はい。お母様だけですね」

にこ「パ…お父さんがいなくなったとき、にこはもう自分で自分のことはできる年齢だったけど、他の子たちはそうじゃなかった」

にこ「もちろんにこもお手伝いしたけど、最初はほとんどマ…お母さんが三人の面倒を見てた」

にこ「にこが一通り家事を覚えた頃には、お母さんも安定した仕事を見つけることができて、だいぶ生活も楽になったけど…それまでお母さんは、すごく辛かったと思う」

にこ「毎日遅くまで働いて、その後家で一日分の家事をして。次の日には綺麗な顔にクマをつけてまた仕事に出かけていくの」

にこ「その時期にお母さんの笑顔を見ることは、ほとんどなかったわ」

にこの声が次第に震えた調子になる。

にこ「にこはその時誓ったの。アイドルになってTVに出て、ママを笑顔にして、お金もたくさん稼いで、ママを楽にしてあげるって」ウルッ

にこ「ママはね、とっても優くて素敵なママだったから、にこたちは乗り切れたけど」グスッ

にこ「世の中にはそうじゃない家族だってあるのよ」

にこ「親が片方いないと、それで差別されたり、距離をおかれることだってある。心も辛いのよ」

海未「にこ…」

にこ「私はね、ただ穂乃果とことりが心配なの。大切な後輩、ううん、μ'sの仲間を、にこのママみたいな辛い気持ちにさせたくないの」グスッ

にこ「でも今は、産まれてくる子にちゃんとしたパパがいるかもわからない」

にこ「それが不安で堪らないの」

にこ「だからお願い、にこに話して? 二人にできることをしてあげたいの」

にこ「にこはみんなを笑顔にするアイドルだから」ニッコリ

目を赤く晴らしながら、にこは笑う。

海未「……」

海未「私の…子です」

にこ「……いまそんな冗談聞きたくないわ。海未でも本気でキレるわよ…」

海未「本当なんです」

にこ「海未…あんた…!」ギリッ

海未「自分をここまでさらけ出してくれた貴女に嘘がつけますか! 本当なんです!!」

にこ「う、海未…?」

海未「…私には、男性の生殖器がついています」

にこ「そんな…アニメじゃないんだし」

海未「本当のことです」スタスタ

海未はにこの近くに寄る。

海未「恥ずかしいので直接は見せられませんが…」

海未はスカートの上からにこに股に手を当てさせる。むに、と柔らかいものがにこの手のひらに触れる。

にこ「…嘘でしょ?」

にこ(何か股に挟んでる? いや、海未がこんなシモのいたずらをするはずがない。こんな状況だからなおさら)

海未「半陰陽というものです。俗に言うふたなりですね」

海未「医師の診断書が家にあるので、帰ったらメールで画像を送ります」

にこ(…嘘じゃなさそうね)

にこ「…もういいわよ。信じたから」

にこ「それで、二人はどうするつもりなの」

海未「私も当事者なので、三人ですね」

海未「二人とも産むつもりです。産まれた子は園田家に迎え入れたいと思っています」

海未「私たちの母親は賛成してくれているので、次の日曜日に父や他の親族を説得する予定でした」

にこ「その前にすっぱ抜かれたってわけね…最悪の展開ね」

海未「はい。もうそれぞれの家には伝わってると考えて間違いないでしょう」

にこ(予想通り、私だけでなんとかできる状況じゃないわね)

にこ「海未。私を信じてくれたように、他のμ'sのメンバーも信じてくれる?」

海未(こうなってはもう隠すより、皆の協力を仰いだ方がいいですね)

海未「…はい」

海未(μ'sのみんな、ご迷惑おかけします。私たちに力を貸してください)



にこが他のメンバーに連絡を取ると、彼らはすぐにアイドル研究部に集まってきた。絵里と希はすでに入校許可を得て、図書館で待機していた。

海未(聞いたところ、にこがまず一人で私に話をすると皆に伝え、連絡があり次第すぐに皆も集まるとあらかじめ決めていたそうです)

凛「絵里ちゃんと希ちゃん、すっごく目立ってたにゃ。やっぱり学外で集まったほうが良かったんじゃ?」

絵里「この状況だと、どこで話しても同じよ。それに外だと、他人に話を盗み聞きされる可能性がある」

希「周りの人達がウチたちの意思を酌んでくれる学校の方が都合がいいんよ」

希「エリチが後輩に頼んで、このあたりの人払いをしてもらってるし」

花陽「穂乃果ちゃんとことりちゃんの話をしてるのは、みんなもう知ってるだろうしね…」

真姫「医学的にあり得ないわ、こんなの…海未の身体はどうみても女性そのものなのに、男性の生殖器が機能してるだなんて。海未、月のものは来てるの?」

海未「…はい、毎月」

真姫「子宮と精巣が同時に機能してるだなんて!」

凛「ま、真姫ちゃん声が大きいよ」

希「学術的な興味はわかるけどな、今は別に考えることがあるやろ、真姫ちゃん?」

真姫「…そうね。ちょっと興奮しすぎたわ。ごめんなさい」

絵里「じゃあ海未、始めて」

海未「はい」



海未(私はこれまでの経緯を全て話しました)

絵里「…ハラショー」

希「ちょっとスピリチュアルすぎるね」

花陽「私たちの知らない間に、いろいろあったんですね…」

にこ「…こじれにこじれた末にこうなった、って感じね」

海未「様々な人に迷惑をかけてしまいましたが…後悔はしていません」

海未「あなた方も、巻き込んで本当に申し訳ありません。ですが、私に力を貸していただけないでしょうか」

凛「凛たちにできることならなんでもするよ! μ'sの仲間だもん!」

真姫「まずは今後の対策を考えないとね…」

絵里「…さっきグループチャットに来てたけど、穂乃果達は自宅に待機してるみたいね」

絵里は携帯の画面を見る。μ’sのグループチャットの最新投稿に『みんな、心配かけてごめんなさい。私とことりちゃんは、今親に言われて自宅に待機しています。危ないことはしていないので安心してください 穂乃果&ことり』と書かれている。

海未「二人とも一緒に話したいです。グループ通話をしましょう」

絵里「そうね」ポチッ

穂乃果とことりはすぐに通話に参加した。

穂乃果ことり『もしもし』

海未「穂乃果、ことり。いまμ'sの皆とアイドル研究部にいます。にこ、絵里、希も来ています」

穂乃果『にこちゃん絵里ちゃん希ちゃん、久しぶりだねっ!』

希「最近会ったやん」クスクス

穂乃果『あ、そうだった』ハハ

にこ「…なんかあんた、思ったより元気ね」

穂乃果『穂乃果は海未ちゃんを愛してるから、何があってもへこたれないんだよ!』

海未「ほ、穂乃果//」

凛「バカップルにゃ」

花陽「り、凛ちゃん」

にこ「ことりは大丈夫なの?」

ことり『うん、平気だよ。ことりだって穂乃果ちゃんに負けないぐらい海未ちゃんを愛してるからね』

海未「ことりまで、何を//」

真姫(ことりも随分言うようになったわね。色々吹っ切れたのかしら)

絵里「二人とも元気そうで何よりよ。海未から事情はあらかた聞いたわ。今そっちはどういう状況なの?」

穂乃果『穂乃果のところは大丈夫! ちょっと揉めたけど、海未ちゃんとならいいって家族みんなに認めてもらえたよ』

ことり『ことりのところもそうだよ。お母さんがお父さんたちをことりと一緒に説得してくれたの』

ことり『お母さんは理事長を辞めるつもりらしいけど…』

花陽「ことりちゃん…」

ことり『でもね、お母さんにね、「ここまで私がやるんだから、中途半端で投げ出すなんて許さないわよ」って言われたの』

ことり『だから、ことり絶対へこたれないよ』

海未(ことりも本当に強くなりましたね…)

穂乃果『ごめんね海未ちゃん。元はと言えば私が写真撮られちゃったから…』

海未「産婦人科の場所や行く時間は、六人で決めたでしょう。貴女だけの責任ではありません」

希「いつかのときみたいに、自分ひとりのせいだと思い込んだらあかんよ?」

海未「そしたらビンタしますからね」

穂乃果『ひっ』

海未「冗談です」フフッ

穂乃果『冗談に聞こえないよ!』

絵里「穂乃果とことりがOKなら、後は海未の家次第ね」

凛「ラスボスだね」

花陽「それはちょっと違うような」

海未「……実のところ、私の家はそんなに問題ではないと思っています」

真姫「結構古い家なんでしょう? こんなことになって、世間様に顔向けができない、とか言わないのかしら」

海未「だからこそです。世間の目がある手前、園田家は誠意ある対応をしなければならない」

海未「今回園田家は被害を受けたのではなく、むしろ与えた方です」

海未「穂乃果とことり、それにその子どもたちに対してぞんざいな扱いはできないでしょう」

海未(私が被害を与えた張本人ですけどね)

にこ(園田家って言ってるけど、やったのは海未じゃない)

絵里(誰も突っ込まないけど、これ原因作ったの海未よね?)

希(海未ちゃんが全部悪いやん)

真姫(だいたい海未のせいね)

凛(ちょっと開き直りすぎじゃないかにゃー?)

花陽(り、凛ちゃんそんな言い方駄目だよ)

凛(こいつ直接脳内に…!)

海未「ですから、園田家は私とお母様で丸め込んで見せます」キリッ

海未(お母様がいれば百人力です)

穂乃果『わかった、まかせるよ』

ことり『海未ちゃんかっこいい♡』

海未「…//」

穂乃果(照れてるんだね)

ことり(電話越しでもわかるよ)

海未「…むしろ問題は、世間への対応です」

海未「μ'sが解散して、それなりの月日が経ちます」

海未「しかし、今回の件で、未だに世間の耳目を集めていることがわかりました」

海未「何らかの釈明をしなくては、噂に尾ひれがついて広まる可能性があります」

にこ「記者会見、ってわけね」

海未「問題は、いつどこでやるかですが…」

花陽「スクールアイドルの記者会見だなんて、前代未聞だしね…」

穂乃果『ミニライブのときでいいんじゃない?』

海未「穂乃果。こんな状況でライブなどできるはずが」

真姫「…いや、案外悪くないかもよ」

海未「真姫まで乗らないでくださいよ」

希「ウチもそう思うよ。ライブなら自然と人が集まるし」

凛「凛知ってるよ。旬が過ぎたアイドルは、普通の女の子に戻る記者会見をライブの後にするんだよね」

にこ「それは引退宣言よ!」

絵里「私は反対よ。穂乃果とことりのお腹の中には子どもがいるのよ? 激しいダンスなんてさせられないわ」

穂乃果『穂乃果たちは歌うだけにして、海未ちゃんが踊ればいいんだよ!』

海未「穂乃果、いい加減にしてください。ライブはこうなった以上辞退すべきです」

ことり『……海未ちゃん、ことりもライブ出たいな』

海未「ことりまで…」

ことり『ライブまであと五日だし、そのときにはまだあんまりお腹も大きくなってない』

ことり『でもこのライブが終わって時間が経つにつれ、ことりたちのお腹はどんどん大きくなっていくし、もう高校にいるうちはライブができないと思うんだ』

ことり『ことりは海未ちゃんと穂乃果ちゃんと、卒業する前にもう一度ライブがしたいの』

海未「ことり…」

穂乃果『始まりが三人だったから、終わりも三人で歌おうよ』

海未「全く、仕方ないですね…」

真姫「海未って、穂乃果とことりにほんとに甘いわよね。ちょろいって言うのかしら」

にこ「真姫ちゃんほどじゃないけどね」

真姫「なによ」

希「はいはい、いちゃつくのは後にしてな」

にこ真姫「いちゃついてないわよ!」

凛「もうこの流れは飽きたにゃ。百合茶番にゃ」

花陽「り、凛ちゃん」

絵里「ライブが開かれるまではどうするの? 今日は私が止めてるからいいけど、明日三人が出席したら質問攻めに会うわよ」

海未「休みます。土日も含まれているので、そんなに欠席日数も増えませんし」

花陽「家でじっくり何を話すか考えるといいよ」

海未「そうすることにします」

海未は壁にかかっている時計を見る。

海未「すいません、そろそろ家に呼び出されていた時間に間に合わなくなるので、御暇させてください」

にこ「待って海未。それに穂乃果、ことり。最後に元部長から言っておくことがあるわ」

海未「なんですか?」

にこ「子どものこととかで困ったら、私に聞きなさいよ。おしめかえたりとか、泣き止ませたりとか、私得意だから」

にこ「その他にも困ったことがあったら、適宜他のメンバーを頼ること。絶対に遠慮したり、三人で抱え込んだりしないこと。元部長命令よ」

海未「…にこ。ありがとうございます」ギュウ

にこ「ちょ、ちょっと! 離しなさいよ!」

海未はにこに抱きつく。

凛「また海未ちゃん浮気してる」

希「これはウチも擁護できへんなあ」

ことり『…』

穂乃果『こ、ことりちゃん? 電話越しに黒いオーラを漂わせるのはやめて?』

絵里(ことりも苦労しそうね)



海未(その後、私は家に帰り、すでに来ていた親族に話をしました)

海未(叱られはしましたが皆随分と寛大な態度で私に接してくれました)

海未(私の意見などまともに聞いてくれるはずがなく、お母様にまた頼ることになるとも思いましたが、結局それは杞憂で、ほとんど私が全てに関して話すことができました)

海未(後になってお母様に話を聞いたところ『また駆け落ちされても困るのでしょう』と冗談めかして言われ、なるほどなと思いました)

海未(お母様がすでに高坂家、南家にも根回しをしてくれていたようで、生まれる子どもを園田家が引き取ることは内定していたそうです)

海未(やっぱりお母様にはかないませんね。一生頭が上がりません)

海未(穂乃果とことりは、大学を卒業した後に園田家に迎え入れることになりました)

海未(法的には結婚できませんが、私の妻として扱ってくれるようです)

海未(妻が二人いることに関しては、側室を持っていたご先祖さまもいるので問題ないだろうとのこと)

海未(子どもが現に作れているから同性愛であることも問わないそうです。…私が言うのもなんですが、かなり無茶な理屈です)

海未(そして、私は正式に園田家次期当主として指名されました)

海未(女性の当主自体は過去にもいたので、そこは問題ありませんでした)

海未(今回のことがあるので、当主の地位にふさわしくないとみなされると思っていましたが、彼らの考えは逆でした)

海未(当主の地位を与えて、自らが落としてしまった名誉を挽回させる任を負わせるとのことです)

海未(もちろん打算もあるでしょう。自画自賛にはなりますが、私は弓道や舞踊などの技量も高く、成績も優秀です)

海未(偶然得たものですが、伝統ある音ノ木坂の理事長との繋がりがあり、大病院を経営する西木野家とのコネクションも持っていて、さらにμ's時代の活躍で世間からもある程度は知られている)

海未(今回起こしたことを差し引いても、長期的には私が当主であるメリットの方が大きいと判断されたのでしょう)

海未(なんにせよ、私は成し遂げました。愛を勝ち取ったのです)

海未(これから先も多くの困難が待ち受けているでしょう)

海未(しかし私は、持ちうるもの全てを使って二人と生まれてくる子達を守ってみせます)

海未(さしあたっていま乗り越えなければならないことは――)



文化祭当日、朝、通学路

穂乃果「あ、ヒデコたち、おっはよー!」

ヒデコ「穂乃果! 来てくれたんだ」

穂乃果「今日はちゃんと来るって連絡してたじゃん!」

フミコ「そうだけど、こんな状況だし」

ミカ「大丈夫なの? その、体調は」

穂乃果「あーそれはね「穂乃果?」ガシッ

海未が穂乃果の腕をつかんで、学校の中に連れて行く。

穂乃果「い、いたいよ海未ちゃん引っ張らないで! あ、また後でねー! ライブの準備頼んだよー!」フリフリ

穂乃果は海未に引きづられながら三人に手を振る。

ヒデコ「…なんか、元気そうね」

フミコ「でも心なしかお腹が膨らんでたような」

ミカ「…」チラッ

ミカはことりの方を見る。

ことり「え、あ、私ももう行くね? 今日はよろしく。穂乃果ちゃーん、海未ちゃーん、待ってー!」

ことりはその場を逃げるように立ち去った。三人は周囲に聞こえない程度の声量で会話を始める。

ヒデコ「やっぱり…噂は本当なのかな」

フミコ「穂乃果ちゃんとことりちゃんだけダンスしないって連絡が来てたし…本当だと思う」

ミカ「私たちは自分ができることをするだけだよ。あの三人なら、きっと大丈夫だと思うから」



教室内

海未(先程までとは言いませんが教室でもやはり皆に見られてますね)

海未(直接聞かれることはありませんが、それが逆にもどかしいですね。言ってしまえればどれだけ楽か)

穂乃果「…ねえ、みんな」ガタッ

穂乃果が視線に耐えられなくなり、席から立ち上がる。

海未「穂乃果」ガタッ

ことり「穂乃果ちゃん!」ガタッ

海未とことりが穂乃果の目の前に回り込み、穂乃果を制する。

穂乃果「…海未ちゃん、やっぱり穂乃果辛いよ。穂乃果たちがちゃんと言わないから、皆も落ち着かないんだと思うし」

海未(…やはり穂乃果にこのまま我慢させるのは難しそうですね)

海未「ことり」

海未はことりに目をやる。

ことり「うん、いいよ海未ちゃん」

穂乃果「…? ってちょっと!」

フミコ「えっなにっ!?」

フミコ(なんで二人ともキスしてるの!?)

海未は穂乃果の目の前でことりと口づけを交わす。

穂乃果「海未ちゃん、ここ教室んむっ!」

ことりと口づけを終えると、すかさず今度は穂乃果の唇を奪う。あまりに突然のことに、あたりがざわめき出す。

穂乃果「ん…ふっ」ギュッ

穂乃果は海未を引き離そうとして洋服をつかんだが、次第につかむ力を緩めて、ついには海未の背中に腕を回して海未を受け入れた。

フミコ(あ、あわわ…)

海未(…落ち着いたようですね)

海未は穂乃果から唇を離し、そっと穂乃果を引き離す。そしてクラスメートたちの方に向き直す。

海未「私たちの関係、わかっていただけましたか?」ニッコリ

ヒデコ「えぇ…」

ミカ(やりすぎだよぉ)

海未が真剣な表情に戻る。

海未「皆さんが知りたいことは、今日のライブの際に全てお話します。ですから、それまではいつも通り私たちに接してください。この通りです」

海未は深々と頭を下げる。

ヒデコ「う、海未ちゃんもうみんなわかったと思うから、頭をあげて?」

フミコ「私たちも変に意識しちゃって悪かったから」

ミカ「みんな、海未ちゃんがここまで言ってるんだから、ライブまで待とうよ、ね?」

クラスメートたちが首を大きく振って頷く。

海未「ありがとうございます。では、クラスの出し物の最終確認をはじめましょうか」

ことり「ことりたちはこの教室でメイドカフェだったよね」

海未「穂乃果も手伝ってください。…穂乃果?」

穂乃果「海未ちゃん…♡」トロ-ン

海未「穂乃果…? んむっ」

穂乃果が突然海未に抱きつきキスをする。

穂乃果「海未ちゃん、もっとして?」

海未「ほっ穂乃果、やめなさい、ここは教室ですよ!? みんなが見てます!」

ヒデコ(見てなかったらいいんだ)

フミコ(家ではそれ以上のことをしてるんだ)

ミカ(これが不順同性交遊か…)ゴクリ

海未「ことりも穂乃果を止めてください!」

ことり「穂乃果ちゃんっ、めっ!」プンプン

ことり「するときは三人一緒でしょ?」ギュッ

ことりも海未に抱きつく。

海未「あっ、いけませんことり!」

ヒデコ(三人でしてるんだ)

フミコ(海未ちゃんが受けなんだ)

ミカ(これがヘタレハーレムか)

海未「いけません、二人とも! いけません!」

凛「茶番にゃ」ヒョッコリ

花陽「り、凛ちゃん駄目だよ」オズオズ

ヒデコ「ここ三年の教室だよ!? なんで凛ちゃんと花陽ちゃんが」

真姫「そうよ、イミワカンナイ」クルクル

フミコ「あんたもだよ!」

真姫「ライブの打ち合わせで来たんですよ。三人は私たちの後だから」

凛「凛たちが迎えに来たら、三人が教室にある机の前で盛り合ってたというわけ」

海未「私は盛っていません!」キッ

凛「凛知ってるよ。海未ちゃんがキリッとした後は即落ち展開だって」

真姫「いつまでもふざけてないで、早く講堂に行くわよ。最終調整したいし」

真姫「亜里沙と雪穂も待ってるんだから」

海未「すいません、こちらを手伝ってから行くので、先に行って待っていてもらえますか」

フミコ「こっちは私たちでやっておくからいいよ」

ヒデコ「私たちも準備終えたらいくから、先に行っといて」

海未「す、すいません。ほら、行きますよ穂乃果、ことり」

穂乃果「ええ〜?」ムスッ

海未「…後でたくさんしてあげますから」ボソリ

穂乃果「//」

ヒデコ(海未ちゃんがいつの間にかパワーアップしてる)

ミカ(あれやられたら大抵の女子はイチコロだろうな)



講堂、緞帳裏

真姫「じゃあ、私たちの曲の後に一回幕引きして、すぐに穂乃果たちが入れ替わる感じで」

ことり「幕が下がってからもう一度上がり始めるまでに何秒ぐらい?」

真姫「十秒あれば、入れ替わるのには十分だと思うわ」

穂乃果「それぐらいだね」

雪穂「私達と二年生組も同じような間隔で入れ替わればいい?」

穂乃果「それでいいよね、真姫ちゃん?」

真姫「そうね。雪穂と亜里沙は幕開け前から待機しておいて、終わったら幕が降りるから同じように十秒で私達と入れ替わってちょうだい」

亜里沙「ライブ、とっても楽しみです! お客さんたくさん来るといいな♪」

凛「凛たちと雪穂ちゃんたちと穂乃果ちゃんたち、誰がお客さんを一番喜ばせられるか競争にゃ!」

海未「ふふ、負けませんよ」

花陽「…あの、海未ちゃん。ライブ後にその…発表するんだよね?」

海未「はい、内容も決まってます」

花陽「えっと、あの…頑張ってね」

海未「ありがとうございます」ニッコリ

花陽「//」

凛「かよちんは渡さないよ!」ギュッ

花陽「り、凛ちゃん! そういうのじゃないから!」

海未「…なんの話でしょう?」

ことり「ふふ…海未ちゃんは、本当に海未ちゃんだね…」ボソッ

穂乃果「ことりちゃん、やんやんは無しだよ」アワアワ

ヒデコとフミコ、ミカが講堂に入ってくる。

ヒデコ「お待たせー」

フミコ「結構時間かかっちゃった」

ミカ「お弁当持ってきたよ!」

穂乃果「おーありがとう! お腹へっちゃってさあ」

海未「まだお昼の時間ではありませんよ。三人と打ち合わせが先です」

穂乃果「えーっ! やだーっ!」

ことり「ことりもちょっとお腹すいたし、先に食べちゃおうよ」

海未「まったく、ことりは穂乃果に甘くて…」ハッ

海未(妊娠中は普段より多くの栄養が必要でしたね)

海未「…まあ、せっかくなので早めにいただきましょうか」

穂乃果「わーい♪」



二時間後、舞台裏

海未(真姫たちの曲が、そろそろ終わりますね)

穂乃果「もうすぐだね」

ことり「これが学校生活最後のライブになるんだね」

海未「…穂乃果、ことり」ギュッ

海未は二人の手を握る。

海未「私たちの番が始まる前に、言わせてください」

海未「穂乃果。私をスクールアイドルに誘ってくれてありがとうございます」

海未「引っ込み思案な私をこれまで引っ張ってくれてありがとうございます」

海未「これからは、私とことりと共に、三人で新しい世界に飛び込んで行きましょう」

穂乃果「うん!」

海未「ことり、私のことをいつも裏で支え続けてきてくれてありがとうございます」

海未「辛いこともたくさんありましたが、貴女がいたから私は乗り越えられた」

海未「これからは、私と穂乃果も貴女を支えます。三人で並んで歩いていきましょう」

ことり「うんっ♪」

真姫たちが歌を歌い終わる。曲が閉じていく。

海未「――行きましょうか。私たちの番です」



幕がゆっくりと開いていく。

穂乃果(最初は、この向こうには誰もいなかった)

ことり(それでも、諦めずに歌い続けてきた)

海未(そして、今は―――)



満員の観客。湧き上がる歓声。

海未(私たちの青春は、今ここにある)




――
―――


今この瞬間を、永遠に。


―――
――




穂乃果「みんなーっ! ありがとう!」

わあっと大きな声援で観客が答える。

ことり「今日、この場を借りて発表したいことがあります!」

声援が徐々に消えていく。

海未(やはり皆、例の件は知っているようですね)

海未(知っていて、私たちを迎え入れてくれた。応援してくれた)

静寂が訪れる。観客たちは固唾を呑んで、真ん中に立った海未を見つめる。

海未「…皆さん、今日は私たちの歌を楽しんでいただき、ありがとうございます」

海未「今日はいつもより固い話になりますが、どうか少しだけお時間をいただけると幸いです」

海未「まずは、私個人のことについての話から始めさせてください」

海未「私は、自分が皆さんにどう思われているかが気になって、インターネットで自分の評判を検索してみたことがあります」

海未「『実直』『努力家』『才色兼備』『大和撫子』『礼儀正しい』など、皆さんに高く評価して頂いてることがわかりました。嬉しい限りです」

海未「…しかし、実際の私はそれほど素晴らしい人間ではありません」

海未「学業も、弓道部も、皆が期待してくれたからそれに答えただけ」

海未「アイドルも、生徒会も、頼まれたことを引き受けただけ」

海未「やりたいことをやっていたわけでも、自ら道を切り開いたわけでもありません」

海未「自分はただ言われたことをこなす機械のような存在ではないかと、虚しさを感じることもありました」

絵里(貴女はそう言うけど、それがどんなに凄いことかわかっていない)

絵里(同じ鍛錬を、同じように毎日続ける。海未だからこそできることよ)

絵里(皆で決めた目標に対して、計画を立てて実行してくれる貴女がいなければ、μ’sの練習は成り立たなかった)

絵里(…だから、私は貴女を副会長に推したのよ。貴女なら穂乃果を完璧に支えてくれるってわかってたから)

絵里(私のことを、希の次に理解してくれたのも貴女だったわね)

絵里(希と、貴女がいなかったら…私は一人で全てを抱え込んだまま、駄目になっていたかもしれない)

絵里(海未、貴女は自分が思う以上に、様々な人に影響を与えているのよ)

海未「そんな私にとっては、服飾という夢を追えることりや、自ら新しい世界に切り込んでいく穂乃果たちが、とても羨ましく、まぶしく見えました」

海未「…その憧れが、二人と一緒に過ごした時間を重ねるうちに、私の中で特別な気持ちに変化していきました」

海未「私は、それを隠し続けようと努めました。『普通ではない』『二人に迷惑だ』などと理由を付けて」

海未「実際のところ、私は逃げていただけでした。自分で何かを決めるのが怖かったのです」

真姫(…私も自分で何かを決めるのが怖かった)

真姫(だから、パパの言うとおりに医者になるための勉強を続けてきた)

真姫(それが楽だったから。余計なことを考える必要がなかったから)

真姫(だから、成績が落ちてμ’sを辞めさせられそうになったときも、ああパパが言うんなら仕方ないんだな、って心のどこかでそう思ってた)

真姫(でも海未、貴女は私のためにパパを一緒に説得してくれた)

真姫(やりたいことをやってもいいんだって、私に教えてくれた)

真姫(本当に、本当に感謝してる。ありがとう、海未)

海未「…私が優柔不断なせいで、私が何より大切にしていた二人を、逆に傷つけてしまいました」

海未「私はその時誓いました。二人とどうなるかだけは、私自身が決めると」

海未「私は二人に気持ちを打ち明けました」

海未「その結果、二人とも私を受け入れてくれました」

海未「……皆さん。私は、穂乃果とことりを愛しています」

海未「二人を永遠に愛することを、今この場で誓います」

花陽(…海未ちゃん、ちゃんと言えたね。おめでとう)

花陽(花陽はね、海未ちゃんが穂乃果ちゃんとことりちゃんを大好きだってことわかってたよ)

花陽(でも海未ちゃんは、花陽と同じで恥ずかしがり屋だから、言えなかったんだよね)

花陽(それが、こんなに多くの人前で、言うことができたんだ。海未ちゃんは凄いね)

花陽(花陽は三人のこと、ずっと応援してるよ)

海未「…ご存知の通り、μ’sは私と穂乃果、ことりの三人から始まりました」

海未「これは運命だったのではないかと思っています」

海未「…この三人でスクールアイドルを初められて本当に良かった」

海未「お客さんが誰も来なかった最初のライブの後、諦めなくて本当に良かった」

希(海未ちゃん達が頑張ってくれたから、九人の女神が揃うことができた)

希(様々な運命が絡み合って、奇跡が生まれた)

希(μ’sのおかげで苦しんでたエリチも救うことができた)

希(九人皆で作った曲でライブもできた)

希(ずっと一人ぼっちだったウチに、仲間とのかけがえのない思い出ができた)

希(ウチだってμ’sに、海未ちゃん達に救われた一人なんよ…)

海未「……ここからは、通常では考えにくい話となります」

海未「しかしこれは、嘘偽りのない事実です。どうか落ち着いて、最後まで聞いてください」

海未「私は、女性と男性の両方の特徴を持った身体をしています」

海未「半陰陽。俗に言うふたなりという存在なのです」

海未「…皆さんがご想像される通りです。穂乃果とことりのお腹の子どもは私の子です」

これまで三人を気遣って静寂を維持していた観客も、流石に驚きを隠せない。どよめきが講堂全体に伝搬する。

海未(…まずい)

凛「みんな! まだ海未ちゃんの話は終わってないよ!」

講堂の入口側から凛が大声で聴衆を制する。凛の方に多数の視線が向けられる。

凛「海未ちゃんを信じて、最後まで聞いてあげて!」

凛「お願い…お願いします!」ペコリ

凛(海未ちゃん、凛にできるのはこれくらいだけど…頑張って!)

そう言って凛は勢い良く深々と頭を下げる。

辺りが徐々に静かになっていく。

海未(凛、ありがとうございます)

海未「私は…軽率な行動で世間を騒がせてしまいました」

海未「その点は本当に申し訳ありませんでした」ペコリ

海未「しかし…過程が間違ってたとは言え、その結果生まれた生命はかけがえのないものに変わりありません」

海未「私は、愛する人との子を、ともに育んで行くつもりです」

にこ(…そうよ。あんたはそれでいい)

にこ(生まれてくる子どもたちを、全力で愛しなさい)

にこ(例え辛いことがあっても、穂乃果とことりと子どもたちがいれば、絶対乗り越えられる。にこたちがそうだったように)

にこ(疲れたときは宇宙No.1アイドルの矢澤にこが笑顔にしてあげるからね)ニッコリ

海未「医師の言うところによると、私のような完全な半陰陽は史上初だそうです」

海未「私はしかるべき研究機関で定期的に検査を受け、医学の発展に寄与していこうと考えています」

海未「微力ながら、自分ができる範囲で社会貢献をしていこうと思っています」

海未「人を幸せにしていこうと思っています」

穂乃果(私たちは、生まれる前から一緒で、生まれたときからずっと同じ道を歩いてきた)

穂乃果(海未ちゃんはずっと穂乃果の側に立って、穂乃果を支えてくれた)

穂乃果(スクールアイドルを始めてからも、練習のスケジュールを立てたり、穂乃果や花陽ちゃんの体調管理をしたり、穂乃果が気が付かない細かいところを見ていてくれた)

穂乃果(…穂乃果が間違ったことをしたときには、叩いてまでして叱ってくれた)

穂乃果(穂乃果はね。海未ちゃんが支えてくれたから、最後までやり遂げられたんだよ)

穂乃果(二回目のラブライブに参加しないって穂乃果が言ったとき、海未ちゃんは穂乃果がなんでそう言ったのかをわかってくれた)

穂乃果(その上で、穂乃果はそんなこと気にしなくていい、もっと自由にやりたいことをやって、皆を引っ張って言ってほしいって言ってくれた)

穂乃果(海未ちゃんがいたから、支えてくれたから、挑戦ができた。新しい世界に飛び込んでいけた)

穂乃果(大好きだよ、海未ちゃん。いつまでも一緒だよ)

ことり(海未ちゃんは、いつも私の一番近くにいて支えてくれたね)

ことり(留学のときも、皆に、穂乃果ちゃんに言い出せない私の様子に気づいて、最初に話を聞いてくれた)

ことり(…でも、あのとき海未ちゃんはことりを引き止めてくれなかった。海未ちゃんはいつも、ことりの意思を尊重してくれるから)

ことり(ことりはさみしかった。穂乃果ちゃんと同じように、海未ちゃんにもわがままを言ってほしかった)

ことり(私とずっと一緒にいたいって、強引にでも引き止めてほしかった)

ことり(…だから、海未ちゃんから『私と共に、生きてください』って言われたとき、ことりはとても嬉しかった)

ことり(海未ちゃんがはじめて、ことりに対してわがままを言ってくれたって思えた)

ことり(ことりを求めてくれたって思えた)

ことり(やっと、穂乃果ちゃんと同じ、海未ちゃんにとって特別な存在になれたって思えた)

ことり(海未ちゃん、ことりはどこまでも海未ちゃんと一緒だよ)

海未「…ですから、みなさん」

穂乃果とことりが前に出て海未と並ぶ。

穂乃果ことり海未「私たちを、受け入れてください。愛する人と、ずっと一緒にいさせてください」





静寂はしばらくの間続いた。






そして。



亜里沙(海未さん、おめでとう…)パチ

雪穂(馬鹿な姉だけど、幸せにしてあげてね)パチパチ

穂乃果母(頑張ったね、三人とも)パチパチパチ

ことり母(私たちができなかったことを)パチパチパチパチ

海未母(貴女はやり遂げました)パチパチパチパチパチ

パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ
オレハミトメルゾ-ッ
ガンバッテ-
ヤッパリコトホノウミナンダヨチュンナア
キマシタワ-ッ
シアワセニナッテネ-

講堂中に広がる拍手。覆い尽くさんばかりの喝采。

海未母「あれ…?」

海未の姿が、海未の母がかつて学生だった頃の姿と重なる。

穂乃果とことりの姿が、海未の母が愛した者たちのかつての姿と重なる。

かつての内浦。三人で過ごした日々。三人には訪れなかったはずの、成就した愛がそこにあった。

園田「あ…」

園田「そうか。そうなんですね」

園田「二十年以上かかってしまいましたね」

園田「…でも」

園田「私たち、ようやく結ばれたんですね」

カチリ。

時計の針が動き出す――

園田「高坂さん、南さん」

海未「穂乃果、ことり」

「「愛しています」」

二人の姿が重なる。



園田海未「私、園田海未は、高坂穂乃果と南ことりを愛しています」



穂乃果「海未ちゃん、海未ちゃんっ!」ギュッ

ことり「海未ちゃあぁん」ギュッ

穂乃果「大好きだよ…愛してるよ!」ポロポロ

ことり「ことりだって好き! 愛してる!」ポロポロ

海未は二人を抱き寄せる。辺りにはまだ拍手と歓声が響き渡っている。

海未は講堂の入口付近を見る。

海未の母が、自分たちと同じように穂乃果の母とことりの母と抱き合っている。

海未「お母様…」

海未「やり遂げました、最後まで」



 ◆



海未(それから私は、週に一度大学病院で検査を受けることになりました)

海未(研究への協力の対価として、少なくない報酬が毎月大学から支払われています)

海未(固辞したのですが、『強制的な人体実験ではない』と国民に印象づける為に必要だそうです)

海未(最近は、人権だなんだとうるさいですからね)

海未(…それにだいぶ助けられているので、文句は言えませんが)

海未(私たちの権利擁護の為に、いくつかの団体が署名活動をはじめました)

海未(私たちや、私たちと類似の立場にある人々を差別せず、他の人々と同様に扱うことを求める内容でした)

海未(署名はかなりの数が集まったそうです。署名は嘆願書とともに国会に提出されました)

海未(『女性の権利』『同性愛者の権利』『インターセクシャルの権利』等の問題が複雑に相絡まっていたので、興味を惹きやすかったのでしょう)

海未(μ’s時代の活動で、多くの人に愛されていたというのもあります)

海未(『μ’sの動画、全部見ました。解散前に知りたかったです』などのファンレターも受け取りました。今になってもファンは増え続けているようです)

海未(そうこうしているうちに、今回の件がマスコミに大々的に取り上げられ、さらに国会でも話題になりました)

海未(男性と女性しか結婚できない現制度は、それ以外の人々が他人を愛する権利を侵害しているという議論も起こりました)

海未(国民は私たちに非常に同情的でした)

海未(それを気にしてか、学校は私たちの処分を見送りました)

海未(理事長のはからいで、穂乃果とことりの出席日数が足りるように、彼女たち専用の授業スケジュールも作ってもらえました)

海未(そうそう。理事長もことりの母と言う当事者に近い立ち位置であったので、辞めずに済みました)

海未(逆に辞任しないように国から頼まれたそうです)

海未(来年の入学志望者も、逆に増えたようです。廃校問題がぶり返すこともないでしょう)

海未(退学も覚悟していたのですが…ここまでうまく事が運ぶと、逆に怖いぐらいです)

海未(それにしても、私にあれが生えたことがきっかけで、随分と大事になってしまいました)

海未(そう考えると感慨深いですね…)ジ-ッ

海未(最近はなんだか愛らしくも見えてきましたし)

海未(慣れればなんとでもなるものですね。これで穂乃果とことりも愛せますしね)

海未(同性愛…と言っていいか私の場合はわかりませんが、二人を娶ることもできそうですし)

海未(諸外国と同様、日本に同性婚が認められる日も遠くないのかもしれません)

海未(私の身体の研究が進めば、同性同士で容易に子どもが作れるような未来も遠からずやってくるのかも)

海未(そうやって今より多くの人々が幸せになれるといいですね)




――
―――

穂乃果「ことりちゃんのドレス、すっごい綺麗だよ!」

ことり「穂乃果ちゃんのも、すっごく可愛いよ!」

お揃いのドレスをまとった私の幼馴染達が手を握り合って互いを褒めあっている。

穂乃果「ことりちゃんにドレスのデザインしてもらって正解だったよ! 本当にありがとう」

ことり「ううん、いいの♪ 素敵な結婚式にしようね」

楽しそうに語り合う二人に割って入ることができず、私は傍観を続ける。

穂乃果「海未ちゃんも手伝ってくれてありがとうね!」

ことり「μ'sの全員が参加できるように、スケジュール調整してくれたんだよね」

突如二人に感謝の気持ちをぶつけられる。

――ああ、眩しいほどの笑顔。これまで毎日見続けて、私に安心を与えてくれたもの。





二人のその笑顔は――





穂乃果「新婚旅行終わったら、真姫ちゃんの別荘でμ’sの皆でお泊まり会やろうよ!」

穂乃果「合宿のときみたいに、また皆でわいわいやってさ」

ことり「海未ちゃんを他のメンバーに取られないようにねえ」クスクス



これからも、毎日私を照らしてくれることでしょう。



穂乃果「こーとーりちゃん?」キッ

ことり「あはは、ごめんごめん」

穂乃果「シャレにならないよ〜海未ちゃん大学生の頃から男女問わずモテまくりなんだから」

穂乃果「海未ちゃんには穂乃果たちがいるって皆の前で発表したのに!」

ことり「大丈夫だよ。海未ちゃんは穂乃果ちゃんを裏切ったりなんてしないよ。私たちが愛した人だもん」

海未「…し…ます…」

穂乃果「ん? 海未ちゃんなんか言った?」



海未「愛してます」ポロポロ

ことり「うん」

海未「二人とも、愛してます」

穂乃果「知ってるよ」

海未「私を愛してくれてありがとう。私の愛を受け取ってくれてありがとう」

海未「ずっと、ずっと三人一緒です」

園田海未「私、園田海未は、高坂穂乃果と南ことりを愛しています」



End







 ◆



Epilogue

いつかの未来、内浦

「おばーちゃんたち、早くー!」
「うみ、すごくきれいだよー!」

小さな子どもたちが、砂浜を駆けていく。

園田「こら、走ると危ないですよ、二人とも」

高坂「二人とも元気ねえ」

南「ことりの子の方は、もっと大人しくなるかなと思ってたんだけど」

高坂「氏より育ちってやつだね」

園田「意味が違いますよ…ん?」

園田は二人の子の走る方向に、女学生の集団を見つける。

園田(このあたりの学校の生徒でしょうか。九人いますね)



「「「Aqours! サンシャイン!!」」」



南「Aqours…?」

高坂「何かの掛け声みたいね。部活動かな」

「わーっ!」
「きゃあーっ!」

子どもたち二人が、掛け声に触発され興奮を声に表しつつ九人のもとに駆けていく。

千歌「あっ、かわいい〜♡」

「お姉ちゃんたち、ここでなにしてるの?」
「あくあってなに?」

ダイヤはしゃがんで二人と目線を合わせる。

ダイヤ「お姉ちゃんたちはね、アイドルなんですわ」

「あいどる? むかしのお母さんたちと一緒だ!」
「すくーるあいどる、って言うんでしょ?」

ダイヤはクスクスと笑う。

ダイヤ「あなたたちのお母さんもスクールアイドルだったのね?」

ダイヤ「二人のお母さんなら、きっととても可愛らしいアイドルだったんでしょうね」

梨子「おお、さすが姉属性…」

「うん! お母さんは、世界一かわいいもん!」
「美人のお母さんもいるよ!」
「元気なお母さんだって!」

ダイヤ(…ん?)

鞠莉「二人ともとってもAdorableね。将来きっと美人になるわ」

鞠莉「大きくなったらうちのグループで働いてもらおうかしら」

果南「どうしてそうなるんだよ」

鞠莉「Beautiful Girlsを歓迎しないReasonがある?」

果南「お嬢ちゃん達、こういう怪しい金髪の言うこと聞いちゃ駄目だからね?」

「わかったよ、つよそうなお姉ちゃん!」

果南「なっ」

鞠莉「実際Muscularだしね」

果南「そこまでゴツくないよ!」

「お姉ちゃんはどんなお仕事してるの?」

果南「お仕事? まだ私は学生なんだけど…まあ、家のダイビングショップの手伝いはしてるよ」

果南「ダイビング、わかる? 水の中深くに潜るの」

「なんだかすごい!」

果南「ええ、とっても凄いわよー。もし大きくなったら、私の家で働いてもいいのよ。お手伝いさんは常に募集中だし」

鞠莉「果南だってRecruitしてるじゃない!」

果南「私のところは鞠莉と違って切実なの! もう二十年ぐらい親族だけで運営してるんだから」

果南「昔は大学生のアルバイトがいたらしいんだけど…」

「ねえねえお姉ちゃんたち」
「お姉ちゃんたちのりーだーはだれなの? すくーるあいどるぐるーぷには、りーだーがいるってお母さん言ってた!」

曜「リーダーはね、こっちにいる千歌ちゃんだよ!」

梨子「千歌ちゃんが皆を集めたんだよ」

千歌「えへへ、改めて紹介されると照れるなあ」

「ちか?」

千歌「うんっ! 私、高海千歌! 千の歌って書いて、チカだよ!」

「千のおうた? すごい!」

千歌「ありがとう! お母さんが、千の歌で人を笑顔にさせる、輝かしい女の子に育ってほしいって意味で付けてくれたんだ!」

梨子「輝かしいのは本当ね。私もその光に引き寄せられた一人だから」

梨子「まぶしすぎてたまにこちらが目をあけていられなくなっちゃうけどね」クスクス

梨子(お母さんが内浦に引っ越すの楽しみにしてた理由、来てみてわかったよ)

曜「ほんとそうだよね。千歌ちゃんがグループを作ってくれたお陰で、私が大好きな衣装作りもたくさんできるようになったし」

曜「最近はお母さんにも服を見てもらってるの。お母さんも昔やってたみたいだから」

善子「ん? 向こうから誰か来てるわよ?」

園田たちが早足で千歌たちに近づいてくる。

園田「申し訳ありません、私たちの孫が迷惑をおかけして」

ルビィ(この人達おばあちゃんなの!? そうは見えないよぉ…すっごくお肌がツヤツヤで綺麗だし)

善子「いえいえ、迷惑だなんて。とてもかわいらしくて、いい子たちですよ」ニッコリ

花丸(マル知ってるずら。善子ちゃんは最近、外面を繕うことを覚えたって)

南「…?」ジ-ッ

南が善子の頭のお団子を見つめる。

善子「あ、あの、何か私の頭についてるでしょうか」

南「ん、ああ、ついてるって言えばそうだけど…可愛いお団子だなあ、と思いまして」

善子「あ、ありがとうございます。お母さんに教えてもらって。シニヨンって言うんです」

南「貴女の雰囲気だと、ちょっと黒っぽい、ダークな服装とか似合いそうね」

善子「!」

善子は駆け寄って南の手を握る。

善子「わかりますか!? そうですよね!!」

梨子「よっちゃん、必死すぎよ…」

花丸「ちょっと寒いんじゃないかずら?」

南(よっぽど気に入ってるのかしら)

南「え、ええそうだと思うわ。とても素敵に見えるかと」

ダイヤ(…それにしてもこの方、どこかで見たような…)ジ-ッ

高坂「他の皆だって可愛いよ! スクールアイドルなんでしょ?」

高坂は皆を順番に見る。ルビィと目が合う。

ルビィ「ピギィっ!」

ルビィは花丸の後ろに隠れてしまう。

花丸「ごめんなさい、ルビィちゃんは人見知りで」

園田「あらあら。せっかく可愛らしいお顔をしているのだから、もっと自分に自身を持ってもいいのですよ」ニッコリ

ルビィ「うゅ…はい…//」カアッ

ルビィ(こんな美人さんに褒められちゃったよぉ)

ルビィは花丸の袖を強く握って赤面してうつむく。

高坂「…久々のギルティだよ、南さん」ボソボソ

南「しかもこんな小さい子に。今夜はおしおきだね」ボソボソ

園田「」ゾクッ

園田(なんでしょうか、悪寒がします。前にも同じことがあったような…)

園田「…あなたは物怖じしないのですね。見たところ、そちらのルビィさんと同級生なのに」

花丸「マルは家がお寺で、檀家さんたちがよく来るから慣れてるんです」

善子(貴重なずら無しずら丸ね。いや、ずらがないからただの丸かしら)

園田「…寺? 失礼ですが、お名前を教えていただけますか?」

花丸「国木田花丸です」

園田(やはり)

園田「…国木田さん。私は昔、国木田さんのお寺でアルバイトをしていたことがあるんですよ」

花丸「えっ。…あ。そういえばお爺ちゃんが、昔すごく仕事のできる美人さんがいたってたまに話してくれます。ひょっとして」

園田「過大評価ですね。私はそんな」

花丸「嫁入りさせたかったけど断られた、あれは惜しかった、ってそのたびに言ってました」

園田「ふふ…国木田さんは変わりませんね」

花丸「良かったらまたマルの寺に遊びに来てほしいずら! …あっ、すいません。遊びに来てほしいです。お爺ちゃんも喜びます」

善子(やっぱりずら丸はずら丸ね)プクク

園田「ええ、ぜひ。今日宿に着いたら、一度電話いたしますね」

千歌「今回は内浦には旅行で来てるんですか?」

園田「そうです。思い出の地を訪れようと思いまして」

千歌「そうなんですね! また来てくださって嬉しいです」

千歌「宿がお決まりでないのなら、ぜひ私の家に来てください!」

園田「あら、貴女の家は旅館なのですね」

千歌「はい、十千万といいます! 十に千に万で、とちまんです!」

高坂「あーっ! ひょっとして貴女、高海さんの娘!?」

千歌「そうですけど、なんで知ってるんですか…?」

南「私たちが昔泊まっていた宿、その十千万なのよ。貴女のお母さんが受付してたわ」

千歌「そんなすごい! なんだか、えっと…おかえりなさい!」ペコリ

梨子「ぷっ、何よそれ」

曜「確かに帰ってきたとも言えるけどさあ」クスクス

園田「…はい、ただいま」

園田「ただいま帰りました」

園田は深々と頭を下げる。それは千歌に対してでもあり、十千万に対してでもあり、国木田に対してでもあり。内浦全てに対しての「ただいま」であった。

曜「あ、あの…?」

園田「…でも、私たちの心は、既にここにはないのです。止まっていた時計の針は、私の子どもたちが動かしてくれたから」

園田「もう心配はいりません。私たちは、私たちの時間を東京で共に過ごしていきます」

梨子「どうしたのですか…?」

園田「……ごめんなさい、こんなよくわからないことをいきなり。でも、ここで言っておかなければならないと思ったから…」

南「…」

高坂「…」

「「おばーちゃーんっ!!」」

叫び声のする方を見ると、二人の子が遠く離れた場所を走っている。

「こっちに、大きな鳥さんがいるよーっ!」
「きれいなかいがらも見つけたよ!」

高坂「あらあら、元気ねえ」

南「放っておくとまた迷子になるわよ。そろそろ宿に連れていきましょう」

千歌「あ、じゃあ私が案内を!」

園田「結構ですよ、道は覚えていますし。それよりお友達との時間を大切にしてあげてください」

千歌「わかりました、じゃあ宿で待ってます! お母さんのこととか、たくさんお話できると嬉しいです!」

園田「喜んで。私も、千歌さんが知ってる内浦のこと、たくさん教えて下さいね」ニッコリ

千歌「はいっ!」

高坂「スクールアイドル、頑張ってね! ファイトだよっ!」

高坂(娘直伝の決め台詞、決まった!)

ダイヤ「え…」

ダイヤ(この人…まさか…いえ、私の思いすごしですわ)

南「ラブライブでいい結果を出せるよう願ってるわ」

園田「それでは、さようなら。千歌さんはまた後で」



園田は去っていく九人を見つめる。

園田(…内浦の時間が止まっていたのは、私たちの中だけだったようですね)

園田(ここでも新しい者たちが、新しい道を切り開いている)

園田(その物達が紡ぎ出した物語が、次の者に受け継がれていく)

園田(そうやって、物語は広がっていく――)

園田の頭に、今までの思い出が流れていく。

二人との出会い。

二人と結ばれたとき。

二人との逃避行。

逃避行の終わり。

結婚、出産。

そして子どもたちが大きくなり、彼女たちが愛し合い、結ばれて――

「「おばーちゃん!」」

園田がふと後ろを振り向くと、二人の孫がすぐ近くにいた。園田は二人を抱きしめる。

園田(そして今、この子達がここにいる)

高坂「園田さんっ!」

南「私もっ!」

二人が子どもたちを囲むように園田に抱きつく。

――

「お母様、ここにおられたのですね」

「内浦っていいところだね! 食べ物もおいしいし!」

「すっごく癒やされちゃいました♡」

園田(…)

園田(これからは、貴女たちの番。その次は、貴女の子どもたちの番)

園田(私は母として、貴女を見守り続けます)



海未母「海未さん、穂乃果ちゃん、ことりさん。今着いたのですね」

園田海未、高坂穂乃果、南ことりが立っていた。

三人は内浦の夕日に照らされている。

海未母(…そう。貴女たちは三人で一つ。)



――貴女たちはひとつの光。







生えてる海未ちゃんの扱いがあんまりだったので「最高の海未ちゃんふたなりSSを書いてやる」という思いで書きました。
SSは初なので、色々勝手がわからず苦労しました。。駄文乱文申し訳ありません。
読んでいただきありがとうございました。

やっぱりこと→うみ←ほのなんだよちゅんなあ…(・8・)


最高の海未ちゃんだったと素直に評価したいけど少し前からSS速報ではエロや残酷描写つき作品は専用板が作られたからそっちでやる決まり事になってる
内容は最高だったよ。


良かった

次からはエロ含んでたら専用板だね。

ほのことうみはいいぞ

感想ありがとうございました。
>>84 すいません次から深夜でやります。

最近は 2ch で短めのSS書いてるので、もし見かけたらぜひ呼んでみてください。
トリップは同じです。

王道をひた走る良いSSだった

なんか穂乃果とカップリングになるまでが雑だな
穂乃果がいきなり海未にレイプとか雑だろ


これラ板で建てたら酷いことになってただろうな…

したらば?

乙んこ
これでますますレズノ木坂に……

>>49
ここのほの最高にかわいい

────いい

test

てすてす

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