大富豪「貧乏人を集めてデスゲームをやらせることにした」 (25)


大富豪「退屈だ……」

大富豪「金を稼ぎまくり、あらゆる娯楽に手を出したが、ワシはその全てに飽きてしまった!」

大富豪「もはや、このワシを満足させられる娯楽は命しかない……」

大富豪「そうだ……デスゲームだ!」

大富豪「貧乏人を集めて、デスゲームをやらせるのだぁっ!」

秘書「はぁ……」


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大富豪「はぁ……ってなんだよ。あまり乗り気じゃないようだな」

大富豪「まさか貧乏人の命を弄ぶのは悪趣味、などというつもりか?」

大富豪「それとも怖気づいたのかね? ハッ、冷徹そうでいて、しょせんは女か!」

秘書「別にそんなことはありませんが」

大富豪「じゃあ、なにが気に入らないのだ!」

秘書「気に入らないというより、現実味がない、とでも申しましょうか……」

大富豪「現実味がない? どこがだ?」

大富豪「ワシほどの金持ちともなれば、デスゲームの一つや二つ、容易く主催できる!」

秘書「では申し上げます」


秘書「まず、貧乏人を集めるといいますが、どうやって集めるつもりですか?」

大富豪「そりゃもちろん、『デスゲームやるから貧乏人集まれ!』ってチラシを作って……」

秘書「そんなんで集まったら苦労しませんよ」

秘書「どこの世界に、デスゲームやるんだ行こう行こう、なんてバカがいるんですか」

大富豪「うぐ……」

秘書「仮に集まったところで、そんな大雑把な集め方じゃ全然貧乏じゃない人間も集まりますよ」

秘書「案外、デスゲームの意味も分からない世間知らずのボンボンも来るかもしれませんね」

大富豪「それはまずい!」

大富豪「貧乏人でなければ、賞金獲得のために必死にならないだろうし、意味がない!」


大富豪「じゃあ、こういうのはどうだ?」

大富豪「年収○万円以下の人間だけを集めるようにする、というのは」

秘書「それなら貧乏人だけを集めることができますね」

大富豪「だろう?」

秘書「では、うかがいましょう」

秘書「どうやって、年収を調べるのですか」

大富豪「え……」


大富豪「た、たとえばさ……国勢調査とかのデータにハッキングして……」

秘書「とかってなんですか。そもそも今の国勢調査に年収調べる項目なんてありませんしね」

秘書「あなたにハッキングするスキルがあるとも思えませんし」

大富豪「じゃあ、街頭でアンケートを……」

秘書「誰がやるんですか、それ」

大富豪「え……」

秘書「私は嫌ですよ」

大富豪「うう……」

秘書「それに、アンケートならいくらでも嘘を書けます」

秘書「貧乏人が見栄を張って、年収を高めに書くことは十分想定できますし」

秘書「税務署の回し者かなにかだと思って、年収を低く書く金持ちもいるかもしれませんね」

大富豪「うぐぐ……」


大富豪「だったらホームレスをターゲットにしたらどうだ?」

大富豪「奴らなら確実に貧乏じゃないか!」

秘書「ホームレスって、人や社会との関わりが煩わしくてなっている人間も多いので」

秘書「今さら大金を餌にしても、なびかないと思いますよ」

秘書「それにああいう生活をしてると警戒心も強くなるでしょうし、危険に対する嗅覚は敏感なはず」

秘書「ホームレスを集めてデスゲーム、というのはかなり難しいといっていいでしょう」

大富豪「そんなもんか……」


秘書「まあ、メンバーをどう集めるかは後回しにしましょう」

大富豪「おおっ、そうしよう! 後回し後回し!」

秘書「では続いての問題点です」

大富豪「え」

秘書「どういったデスゲームを予定されているのですか?」

大富豪「そりゃたとえば……銃や日本刀など武器を持たせて殺し合い、とか」

秘書「なるほど」

大富豪「なかなかの名案だろう!?」


秘書「では……その武器はどうやって調達するのですか?」

大富豪「そりゃもちろん……お店で買うとか」

秘書「ここは日本です。そう簡単に銃や日本刀なんか買えませんよ」

大富豪「うぐぐ……」

大富豪「じゃあナイフなら……そこらの店にもありそうだし……」

秘書「ナイフだって、あまり大量に購入したら、怪しまれるに決まってます」

大富豪「そりゃそうだわな……」


大富豪「じゃ、じゃあさ……裏社会の住民に売ってもらうってのはどうだ!?」

秘書「いい考えですね」

大富豪「よっしゃ!」

秘書「で、大富豪様。あなた……裏社会に誰か知り合いはいるんですか?」

大富豪「……いない」

秘書「ダメじゃないですか」

大富豪「ダメだったぁぁぁぁぁ!!!」


秘書「それともう一つ」

大富豪「まだあんの!?」

秘書「ルールはどうするんです?」

大富豪「ルール?」

秘書「ルールを決めないと、腕力が強かったり体格の大きい人の圧勝になりますよ」

秘書「それじゃ面白くないですよね?」

秘書「それにデスゲームには一風変わったルールがつきものです」

大富豪「あ、そっかぁ……」


大富豪「ならば、こういうルールはどうだ?」

大富豪「体の大きい奴には弱い武器を持たせ、小さい奴には強い武器を持たせるのだ!」

大富豪「これなら白熱したバトルが期待できるゾ!」

秘書「でも、体が小さくても強い人っていくらでもいますよ?」

大富豪「たしかに!」

大富豪「ワシも子供の頃は、自分よりチビな奴によく泣かされてたもん! ウドの大木って!」

秘書「それに、身長は低いけど体重重い人はどうするのかとか」

秘書「逆に背は高いけど痩せてる人はどうするのかとか、色々考えなければなりませんね」

大富豪「うわぁ、めんどくせぇ!」

大富豪「パスパスパァース!」


大富豪「じゃ、じゃあさ……武器での殺し合いはやめよう」

秘書「じゃあ、どうするんです?」

大富豪「たとえばさ、ジャンケンさせるとか、鉄骨を渡らせるとか……」

秘書「……」

大富豪「首吊りをかけてババ抜きさせたり、多数決の逆をやったり……」

秘書「……おい」

大富豪「はい?」

秘書「全部パクリじゃねえか! あんたにゃプライドはねえのか!!!」

大富豪「しゅ、しゅみましぇーん!」


秘書「それでは……ゲームのルールも置いときましょう」

大富豪「置いといてくれると助かるよ……」

秘書「次の問題です。デスゲームをやる場所はどうしましょう?」

大富豪「場所? そりゃもちろん無人島で……」

秘書「具体的にどこですか?」

大富豪「え……」

秘書「今の時代、完全な無人島なんてなかなかありませんよ」

秘書「あっても、そこまで行くのは簡単ではありません」

秘書「特に、デスゲーム参加者を運送するとなると、相当の手間がかかりますよ」

秘書「しかも、やることが殺し合いですからバレないようにとなると、さらに大変です」

大富豪「そりゃそうだなぁ」


秘書「というわけで、やる前に各省庁や警察などに根回しをきっちり行う必要がありますね」

秘書「もし万が一、デスゲームのことが表ざたになっても、大丈夫なようにね」

秘書「私もこんなことで逮捕されたくありませんし」

大富豪「うへぇ~」

大富豪「大変なんだなぁ、デスゲームを開催するって」

秘書「その通りです」

秘書「生半可な気持ちで開催しようなどと思ってはいけません」

秘書「参加者と同じぐらい、主催者も死ぬほどの苦しみを味わうゲーム……」

秘書「それがデスゲームなのです!」

大富豪「どっひぇーっ!」

大富豪「うまいこというね、君」

秘書「えへへ……」


秘書「そして、あなたがデスゲームを主催できない決定的な理由をお教えしましょう」

大富豪「まだあるんすか!?」

秘書「あるんす」

秘書「これは、とあるデスゲーム物の映画のDVDです」

秘書「こちらをご覧ください」

大富豪「? ……うむ」


『くたばりやがれーっ!』ザシュッ

『オレが生き残ってやるんだぁーっ!』ザクッ

『助けてくれぇぇぇ……』



大富豪「わーっ、無理無理無理!」

大富豪「血とか無理! ホント無理! 人が死ぬとことか見るの無理!」

大富豪「漫画でも結構キツイのに、実写なんか耐えられないよ!」

大富豪「知り合いの葬式とかも、絶対泣いちゃうもん! やっぱ人が死ぬってつらいよ!」

秘書「こんなザマで、どうしてデスゲームやろうなんて思い立ったんですか」

大富豪「……申し訳ありませんでした」

秘書「ていうか、こんなメンタルでよく大金持ちになれましたね」

大富豪「きっとマグレだと思います。ホント……すんませんでした」


大富豪「分かった……デスゲームは諦めよう!」

秘書「分かって下さいましたか」

大富豪「だが、ワシは完全に諦めたわけではない!」

秘書「え!?」

大富豪「こうなれば、他のゲームをやるまでだ!」

秘書(他のゲームとは一体……!?)


………………

…………

……


ザワザワ…… ガヤガヤ……

大富豪「フハハハハハ、貧乏人諸君、よくぞ集まってくれた!」

大富豪「このゲームは君たちが困ってる人や死にたがってる人を助ければ助けるほど」

大富豪「その成果に応じて、大金を獲得できるというゲームだぁ!」

大富豪「政府や各種ボランティア団体全面協力のもと、行われるこのゲームの名は――」

大富豪「名づけて、か弱き人々の命を救う『ライフゲーム』!!!」

大富豪「なお、不正や足の引っ張り合いは許さんからな! みんな仲良くプレイするように!」


ワァァァ……! ワァァァ……!

「おもしれえ!」 「大勢救ってみせる!」 「頑張るぞ!」


秘書「大富豪様……今のあなたはデスゲームを主催しようとしてた時よりも生き生きして見えますわ」





― 完 ―

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