ダイヤ「心にも あらでうき世に 水面夢」 (471)



ザザーン…
ザザーン…


ーーさても静かなる宵の更け。


風はとうに眠りにつき、こだますはただ遠くでさざ波が寝返りをうつのみ。


我が現前に広がりたるは、うたかたの如くおのづを主張しては消ゆる数多の星々。


さては更けるに連れ、我が心をわづらはしく惑はす煌々たる月。


いとをかし。


されど、げにうるわしき面影とは裏腹に、我が心は荒波にもまれ嘆しきうつつに涙するのみ。


かくして水面に浮かびたる我が身はいづれ、『あの妖』の生贄とならむ。


すべも無くただ死を待つのみ…



さても静かなる宵の更け…



※前作のリンク貼っときます
お時間ありましたら是非こちらもご覧ください

ダイヤ「狐の嫁入り」
ダイヤ「狐の嫁入り」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1484553298/)


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1487739464



ーー黒澤家 元旦



花丸「……」ドキドキ


ダイヤ「……」ゴクリ




曜「わが袖は~~~」




花丸 ダイヤ「「はいっ!!!」」



パシーン!!



ダイヤ 曜「あ」



花丸「ずらぁ…泣」ヒリヒリ



ダイヤ「も、申し訳ありませんわ花丸さん…」


曜「えっと…ダイヤさんが花丸ちゃんの手…じゃなかった。花丸ちゃんの陣の札を取ったことで、ダイヤさんの陣の最後の一枚を花丸ちゃんの陣へ送り札に!」



曜「よってこの対局、ダイヤさんの勝ち!!」


ダイヤ「やりましたわ!!」グッ


花丸「完敗ずら…」ガクッ…


ルビィ「お、お姉ちゃんすごい…花丸ちゃん、中学の時の百人一首競技かるた大会三連覇だったのに…」


果南「はえー…流石だねダイヤ」


鞠莉「ダイヤ!!曜がまだ詠んでる途中でしょう!?人の話は最後まで聞いてから取らないとダメよ!!」


ダイヤ「そんな悠長にしてたら負けてしまいますわ!これは速さを競うんですのよ!?」


梨子「花丸ちゃん大丈夫?目にも留まらぬ速さでひっぱたかれてたけど…」


花丸「おかげで目が覚めたずら」チラッ



千歌 善子「くかー…」スヤスヤ


ダイヤ「なっ…!?」



ダイヤ「千歌さん!善子さん!私の栄えある大勝利を見逃すなんてどういうことですの!?ほら!起きなさい!!」ユサユサ


千歌「うーん…眠いよぉ…」ゴシゴシ


善子「しょうがないでしょ?初日の出見る為に五時に起きたんだから…」ノソノソ


花丸「マルは三時半起きずら」


千歌 善子「えぇぇ!?」


花丸「朝からじいちゃんにお寺の挨拶回りに付き合わされてもうくったくただよ…」


千歌「凄い…」


善子「悪魔…悪魔だったのね…日ノ本に新たな光が差し込む前の宵闇に動き出し魂を刈り取ろうとしていたんだわ!」


ルビィ「み、みんな凄い…ルビィすぐに寝ちゃったから…」


梨子(私はオールなんだけどな)


曜(年明けの興奮冷めやまぬうちに朝を迎えたなんて言えない…)


果南(ここは花丸ちゃんの威厳を保つ為に黙っておこう)


鞠莉(早起きはサーモンのお得ってやつね…三人ともアグレシッブ!!)


鞠莉(あれ?)



花丸「まあ、おかげでお菓子とかお餅とかたくさんもらったけどね」ドッサリ


曜「うわ…難しそうな本とかお経まで…」


梨子「これ木魚だよね?なんで全部風呂敷に詰めようとするの?」ポクポク


果南「あははは…」


ダイヤ「この小倉百人一首かるたも花丸さんの提供ですわ」


ダイヤ「これは年始の学校行事の競技かるた大会でAqours全員が勝ち進む為の特訓ですわ!気を抜かないでビシバシ行きますわよ!」ビシッ


千歌「えー複雑で分かんないよー…」


善子「くっ…ズラ丸の粗品にかるたさえ無ければダイヤさんが思い出すことなく楽しい誕生日会が続いていたのに…」


花丸「まあまあ、マル達も分かりやすく説明してあげるから」


梨子「カードゲームだと思って…ね?」


千歌 善子「はーい…」シブシブ



ダイヤ「…コホン。まずこの小倉百人一首を用いて行う競技かるたですが、単に百枚を全部並べて読まれた札を早く取る…という遊びではありませんの」


千歌「そうなの!?」


ダイヤ「百枚中五十枚は使わないのでシャッフルした後適当に置いときますわ」ポイポイ


善子「ふーん、五十枚でゲームをするのね」


ダイヤ「残った五十枚を、更に半分の二十五枚に分けて自分と相手の陣に引いてから始めるんですの」カチャカチャ


果南「真ん中より千歌側が千歌ゾーン、善子側が善子ゾーンね。最初はそれぞれに二十五枚ね。この二十五枚のことを自分の《持ち札》って言うよ」


ダイヤ「まずは互いに礼!」


千歌 善子「よろしくお願いします」ペコリ


ダイヤ「そうしましたら読み手の私が、序歌と呼ばれる試合開始の和歌を詠みますわ」


花丸「まあ、よくスポーツの開会式で歌う君が代みたいなお約束だと思えばいいずら」



花丸「…去年まで違う和歌だったんだけど何故か今年…つまり今日から新しい和歌に変わるんだよね。公式さんも新年早々忙しいずら」



ダイヤ「コホン…」





ダイヤ
「~世も泣かせ 紅の京の 夜桜や
水面知るらむ 三津のおもひで~」



ダイヤ「試合開始ですわ。次から私が《上の句(かみのく)》…つまり五七五にあたる札を詠みますから、それに該当する《下の句(しものく)》…七七にあたる札を相手より速く取ってください。ちなみに、さっき抜いた五十枚の中からも詠みますから当然、お手つきもありますわよ」


曜「まあ、大体50%の確率でここに置いてない空札(からふだ)が詠まれるね」


ダイヤ
「~田子の浦に うち出でてみれば 白妙の…」


善子「!!」


善子「これ知ってる!はい!!」パチーン!


千歌「ああ!!!」


ダイヤ「お見事ですわ」


果南「取った札はゲームから除外ね」


ルビィ「えっと…今善子ちゃんは千歌ちゃんゾーンから札を取ったから、善子ちゃんゾーンの好きな札を一枚千歌ちゃんゾーンに送ってね。これを送り札って言うよ」


善子「こう?」ススッ


ダイヤ「ええ。そうすると

持ち札

善子 24
千歌 25

になりますわ。
ちなみに自分のゾーンの札を取った時は送り札はありませんの。こうして先に自分のゾーンの持ち札が0になった方の勝ちですわ」


ダイヤ「どうです?分かりましたか?」


善子 千歌「うーん…」


梨子「要はお互いの陣地に呪いの悪魔がそれぞれ二十五体いるから自分の悪魔を狩ったり、相手の悪魔を狩ったフリして自分の悪魔を敵陣に転生する禁断の必殺技《オクリフダ》を発動するの。そうした神々の大戦を行い、先に呪縛から解放されし地に幸福と安寧が訪れ栄光の勝利を手にするってことね」


善子 千歌「おおおおおお!!!!」ピコーン



ダイヤ「!?」



千歌「すっごく面白いよ競技かるた!!」


善子「よーく分かったわ!よし、堕天王の玉座を目指すわよ!!」


ダイヤ「ま、まあ関心を持ってくれたのならそれで良いのですが…」


曜(梨子ちゃん手懐け方分かってるなー)


果南「あはは…」


鞠莉「ふむふむ…勉強になります…」メモメモ


花丸「かなり古いやつだから大切に扱うずら」


梨子「でも珍しいね。縁や裏側が緑色や紺色じゃなくて真っ黒のかるたなんて…」


果南「普通は畳のボーダーラインみたいな色してるよね」


曜「畳のボーダーラインって…」


善子「そう…その本性は漆黒に澱んだーー」



ダイヤ「さてと、私はそろそろ行きますわ」スッ


ルビィ「あ、待っててね上着取ってきてあげる」タッタッタッ


善子「…って!聞きなさいよ!!」


花丸「ずら?」


果南「あれ?ダイヤどこかに行くの?」


鞠莉「ショッピング?」


ダイヤ「京都ですわ」


曜「ふーん」


曜「え?」



七人「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」



善子「どっ…どど…どういうこと!?」


曜「あの京都に!?」


千歌「まさか、こっそりスクールアイドルのコンテストに応募して一人で出るんじゃ…」


花丸「もしかして舞妓さんになりに…」


ダイヤ「ち、違いますわよ!内裏歌合(だいりうたあわせ)に呼ばれているんですの」


千歌「へ?」


梨子「だいり…?」


善子「うたあわせ?」


ダイヤ「京都で毎年正月の時期に四日程、全国の名家が集い和歌を詠み合ったりお食事をするお付き合いがあるんですの。遠い家系ではありますが一応血の繋がった親戚の集いですわ。私も本日をもって十八歳になりましたので今年からそちらへ参加させていただくことになったんですのよ」


曜「こ、これが上層階級…」


花丸「貴族の嗜み…」


ダイヤ「ちなみにここですわ!」ガイドブックバサッ!


曜 千歌「おおおおおおおおおお!!!」


曜「凄い…」


千歌「十千万の三倍くらい大きい…」


ダイヤ「ふふん。この《時雨亭》は平安時代から存在する大先輩ですのよ?歴史は十倍ですわ!!!」フンス


千歌「十倍!?!?」


ダイヤ「そして…」ペラッ


ダイヤ「この庭園にある大きな池に映る月は幻想的で国宝級の美しさ…内浦から眺める月の百倍ですわ!!!!!!!!」ドドン



千歌「ひゃ…百倍!?!?!?」ガーン



果南「もう、大袈裟だよダイヤ!」


梨子「そうですよ!内浦からの月も素敵ですよ?」


ダイヤ「かつて屋敷に住まう者は、夜が更けると簾を上げて倚子に腰掛け、その煌々たる月…そして水面に映るもう一つの月を眺め和歌を詠んでいたそうですの…ああ、なんと羨ましい…」ホレボレ


曜「正直ちょっと羨ましいなぁ。私もそんな絶景なら見てみたいかも」


善子「宵闇の支配者ルナよ…汝が選ぶはこの堕天使ヨハネの支配地、魔都内浦では無かったというのか…」


花丸「善子ちゃんの頭にはいつも真っ暗なお月様がくっついてるずら」


善子「これはおだんご!!シニヨンって言うの!!!」


鞠莉「お月見だんごデース!!」


善子「ちがーう!!!」



ルビィ「はい、お姉ちゃん。上着と荷物だよ」スッ


ダイヤ「ありがとうございますわルビィ。黒澤家の名の下に、恥をかくことの無いよう努めて参りますわ」


千歌「なんかかっこいい…時代劇みたい…」


善子「じゃあ駅まで送っていった方が…」



プップー…


「ダイヤ様、車の手配を致しました」



ダイヤ「恐れ入ります。すぐ行きますわ」


千歌 曜 善子「セレブだ!!!」


果南「頑張ってねダイヤ」


ダイヤ「ええ」


ダイヤ「あ、そうですわ」ニヤッ



ダイヤ「みなさんに宿題を出しますわ!」ビシッ



八人「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


ダイヤ「私が内浦に帰ってくるまでに、各々に和歌を一首、作っていただきますの」


善子「百人一首と和歌作り…あ、頭が…」フラッ


千歌「む、無理だよダイヤさん!」


果南「ド素人の私達に出来るわけ…」


ダイヤ「これも!年始の学校行事の競技かるた大会でAqours全員が勝ち進む為の特訓ですわ!」ビシッ


ダイヤ「それにどうです?和の心を学ぶことで私達Aqoursの目指す大和撫子日ノ本アイドルとしての道が拓かれますのよ?」


曜「いや、目指してないですし」


梨子(完全にその気になっちゃってるなぁ)


鞠莉「英語で作ってもーー」


ダイヤ「却下」ビシッ


花丸「何かテーマはあるの?」


ダイヤ「そうですね。テーマは《月》でどうでしょう?月を見て感じたことを五七五七七にして各々の感性のままに表現してください」


梨子「まさかダイヤさん…」


ダイヤ「そうですわ!皆さんの詠う内浦の月vs私の詠う国宝級の月で勝負するんですの!!!」


梨子(やっぱり)



果南「もうダイヤったら…」


ダイヤ「それでは私はこれで…」スッ


ルビィ「あっ…」



ギュッ!


ルビィ「!!」


ダイヤ「しばらくお姉ちゃんはいないから寂しいかもしれないけど、大丈夫。皆さんがいますわ。帰ってくるまで我慢できますわね?」


ルビィ「うゆ…いってらっしゃい…」ギュッ



ブゥゥゥゥゥゥン…


ルビィ「……」


果南「行っちゃったね」


ルビィ「うん…」


果南「大丈夫だよルビィ。ダイヤなら」ポン


ルビィ「果南さん…」


ルビィ「うん、そうだよね…!」



千歌「よーし!遊ぼう!!」


梨子「千歌ちゃん!?」



善子「そうよ!まだまだ冬休みは残ってるんだしなんとかなるわ!正月くらいぱーっと遊びましょ!」


梨子「もう…ダイヤさんがいなくなった途端に…」


曜「賛成!ねえねえ、釣竿持ってきたんだけど鯛でも釣りに行かない!?」


鞠莉「イエス!おめで『たい』ってやつね!」


曜「ヨーソロー!鞠莉さん分かってるねぇ!」


花丸「あ、その前に…小倉百人一首のこと話してたら小倉まんじゅうが食べたくなっちゃたずら」


千歌「二人ともダジャレ!!!」


梨子「ふふっ…まあ、そうね。休憩してから行こうか」


曜「はーい」


ルビィ「あ、お母さんがもう少しでお雑煮できるって」


千歌「おおおお!!!」


善子「もうお腹ぺこぺこよ」


果南「じゃあいただいてからにしよっか」


曜「いえーい!」ドタドタ


千歌「お~もち♪お~もち♪」バタバタ



花丸「さて…かるたを片付けて…」



花丸「ずら?」


花丸(これ…さっきダイヤさんが最後に取った札だ)スッ


花丸(何だろうこの赤いシミ…最初は無かったのに…)


果南「花丸ー!先に食べてるよー!」


花丸「あ!うん!!」タッタッタッタッ



…………
……


曜「ふーっ…いいお湯だった」ホカホカ


花丸「ルビィちゃんちのお風呂、すっごく広いからつい長風呂になっちゃうずら」ドサッ


善子「……zzz」


ルビィ「善子ちゃん寝ちゃった…」


鞠莉「日本のお風呂!最高だったわ!!」バサッ


鞠莉「…でも、壁に富士山が描いてあるってわけじゃないのね」フキフキ


梨子「それは銭湯ですね」ホカホカ


鞠莉「それにもっと狭くてバスタブをかけたデスマッチが起きるかと思ったわ」


梨子「それは戦闘ですね」ホカホカ


鞠莉「つまり一番最初に入った人の勝ちってこと!!」


梨子「それは先頭ですね」ホカホカ


千歌「う~疲れた眠い~…」



果南「のぼせてパンツ置き忘れる誰かさんもいるみたいだね」ヒラヒラ


千歌「ああああああああああ!!!!」


果南「ほ~らこっちだよ♪」ヒラヒラ



カエシテー!
ドタバタ!


梨子「あーあ…新年早々始まったよ」


曜「ふふっ。いいんじゃない?こうやってずっと変わらず仲良くできたら」


ルビィ「いつも通り!って感じだね」


鞠莉「ダイヤにもいて欲しかったのに…残念ね」ゴロン


ルビィ「うん…」


花丸「誕生日だし尚更ずら。でも、ダイヤさんやルビィちゃん…それに、この家にとってもすっごく大事なことだし…しょうがないずら」


果南「うん。また帰ってきたらいつでも会えるんだし」


千歌「とうっ!」バッ


果南「あ!!」


千歌「明日からは頑張って百人一首覚えるよ!ダイヤさんが戻ってきた時『ぎゃふんですわ!』って言わせてみせる!」グッ


曜「ほんとに~?」


梨子「さっき、明日《堕天使型凧揚げ》をするだのどうのって善子ちゃんと話してたよね?」チラッ


善子「……」ピクッ


花丸「……」ジーッ


花丸「つーんつん」プニプニ


善子「きゃははははは!!やめなさいよズラ丸!!」ジタバタ


善子「あ」ピタッ


鞠莉「ジャパニーズ狸寝入り。いけない子ね」


ルビィ「あちゃー」


梨子「善子ちゃん?千歌ちゃん?」ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



千歌 善子「ひいっ」


果南「明日は家で大人しくして…練習ね?」


千歌 善子「はい…」ガクッ


曜「じゃあ今日は寝るか。今夜は全国で曇りみたいだし月が出ることはないと思うから」


梨子「あれ?」


曜「どうしたの梨子ちゃん?」



梨子「だ、ダイヤさんが帰ってくるまで静岡県はずっと曇りだけど…」ポチポチ


曜「え」



七人「ええええええええ!!!!!」


善子「何よそれ!月の和歌なんて作りようがないじゃない!!」


花丸「鬼ずらぁ…」


千歌「酷い!出来ない宿題を押し付けるなんて!!」


ルビィ「お、お姉ちゃん…」


鞠莉「月に代わってお仕置きされるわ…」


千歌「全員で怒られるのかな…」


曜「全員で怒るべきだよね」


梨子「100倍だか国宝級だか知らないけどこっちは土俵にすら立てないわね…」


果南「ま、まあまあ。ダイヤもおっちょこちょいだから多分本当に知らなかったんだと思うよ?帰って来たら事情を説明すれば分かってもらえるって!」



曜「そ、そうだよね…」


千歌「よし!宿題が無くなった!」


善子「ばんざーい!!」


梨子「無くなってはないでしょ?」ニコッ


千歌 善子「はい…」ガクッ


曜「じゃ、じゃあ今度こそ寝よう」


梨子「そうだね」モゾッ



ルビィ「…zzz」


梨子「早」



曜「電気消しまーす」


千歌「みかん電球で」


曜「オレンジ電球ね」パチッ


鞠莉「ノー。ブラックじゃないとダメなの」


曜「コーヒーみたいな言い方だね」パチッ


千歌「怖い寝れない初夢見れない」


曜「はいはい」パチッ


鞠莉「ノンシュガープリーズ」


曜「シュガーって言っちゃったし」パチッ


千歌「イエスみかんプリーズ」


曜「千歌ちゃん普段コーヒー飲まないでしょ」パチッ


鞠莉「理事長命令よ」


曜「うわ権力濫用」パチッ


千歌「曜ちゃん大好き」


曜「おやすみなさい」パチッ


鞠莉「オーゥ!!シット!!!!!」ガバッ



梨子「もう…さっきから目がチカチカする…」モゾモゾ


善子「……」モゾッ


梨子「!!」


善子「えへへ……」ギュッ


梨子「何善子ちゃん」


善子「…zzz」


梨子「……」


梨子「果南さーん」


善子「くっ……」ゴロゴロ


梨子「よろしい」



果南「……zzz」


善子「……zzz」


鞠莉「……zzz」


曜「……zzz」


梨子「……zzz」


千歌「……zzz」


花丸「やっと眠れる…」



花丸「……zzz」



ゴーン…ゴーン…ゴーン…ゴーン…
ゴーン…ゴーン…ゴーン…



ザザーン…
ザザーン…


ーーずら?


ここはどこだろう?


海の上?


…ってことは夢だよね?


…こんな夜中に海に仰向けで浮かんでるなんてあり得ないもんね


寝相が悪すぎて海まで転がって来ちゃったなんてことも無いだろうし…



!!!!!!



ずらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!


お月様がすっごく綺麗ずら!!


こんなに大きなお月様写真でしか見たことないよ!!


なんだかおまんじゅうみたいでお腹空いてきちゃった…


それに満点の星空…金平糖みたいずら!今までにこんなにいっぱい、くっきり見えたことあったっけ?


そうだ!せっかくだしこの絶景で和歌を作るずら!!これならダイヤさんもビックリの傑作ができるよ!


…コホン。



~お月様 お空に浮かぶ おまんじゅう
ちとせ経るかな 新月の宵~



ダイヤさんごめんなさい


センスが無さ過ぎたずら…


これで許してくれるかな?


…そうだよ。いくら中学の百人一首大会で一番になったところで即興で和歌作れる程この世界はあまく無いずら


いや、言葉にできない美しさを言葉にしようなんてのがそもそもの間違いだよ!


五感で感じたものは五感の記憶に閉じ込めておく…それが一番美しいずら


…それにしても、こうやって周りに何も遮るものがない広ーい水面に浮かんで空を眺めると…素敵な素敵な世界に出会えるんだね…
趣深いずら


…実際にこんなことしたら太平洋の真ん中まで流されちゃうけどね。これは夢だけの、夢だからこそ味わえる景色…


やけに水の感覚が生々しい気もするけど



…はっ!!


も、もしかしてマル…おねしょしちゃったずら…!?


ど、どうしよう…確かルビィちゃんのお家に泊まってたのに…お布団汚しちゃったのかな…


花も恥じらう女子高生にもなってそんなこと…ましてやマルはスクールアイドルの身!!


…これはマズいずら!
早く起きて証拠隠滅しないとーー



ーーーー
ーー


花丸「ずらっ!」ガバッ!


ゴーン…ゴーン…
ゴーン…ゴーン…


花丸「……」


花丸「……」ゴソゴソ


花丸「……」


花丸「ほっ…」



果南「うーん、花丸早いね…」ゴシゴシ


花丸「か、果南さん!?」


果南「…ダイヤの家の柱時計って12時だけじゃなくて6時にも鳴るんだね…頭ガンガンだよ」ノソノソ


果南「…ていうか、どうしたの?自分のパンツあさったりして」


花丸「な、なんでもないよ…」


果南「ふーん…」


果南「…あれ?私の携帯知らない?」


花丸「ずら?マルのも無い…」


果南「はあ…きっと寝相悪くて誰かが蹴っ飛ばしたんでしょ。まあいいや後で探そ」


果南「ねえ、みんなまだ寝てるし朝のお散歩行かない?もう完全に目が覚めちゃったからさ」


花丸「うん!マルも二度寝はできない体質ずら」スッ


花丸「みんな、いってきまーす。どうかマル達を探さないでね…」コソコソ


果南「駆け落ちと勘違いしてない?」コソコソ



ガラガラガラ…



果南 花丸「!!!!!!!!!!!!」



ザザーン…


花丸「なっ…」


果南「なにこれ…」


花丸「霧…」


果南「周りがほとんど見えないよ…」


花丸「内浦でこんなに霧が出たこと今まで無かったよね…」


果南「待って、そもそもここ…内浦なの?」


花丸「ん…?」


花丸「!!!」


果南「他の家が全くない…」


花丸「ルビィちゃんのお家だけぽっつり…」


ザッザッ…



花丸「ずらっ!?」ビクッ



花丸「砂…!?」ザッザッ


果南「足元…いや、周りが全部砂だよ…この家、砂浜の上にあるんだ…」ザッザッ


花丸「…ほんとだ」ザッザッ


花丸「あ!あそこ!」


果南「あんな岩壁見たことない…」


花丸「…って、あれ?ルビィちゃんちの裏側ってこんなにたくさん木が生えていたっけ?」


果南「確かに山にはなってるけど…生えてる植物も全然違う。それに、今は真冬だよ?こんなに生い茂ってるわけがないし…」


果南「そもそも寒くない」


花丸 果南「ここは…どこ?」




うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!


果南 花丸「!?!?」


果南「ルビィの声だ!!」ダッ


花丸「ルビィちゃん!!」ダッ



ルビィ「うぅ…ぐずっ……」ボロボロ


花丸「ルビィちゃん!」


果南「どうしたの!?」


善子「うーん…朝から騒々しいわねぇ…」モゾモゾ


鞠莉「今日もサーモンのお得デスか?」ノソノソ


曜「ルビィちゃん?大丈夫?」バッ


千歌「むにゃむにゃ…」


曜「千歌ちゃん起きて」ユサユサ


梨子「…」


曜「梨子ちゃんも」ユサユサ


ルビィ「うぅ…ええっ…ぐずっ……」ボロボロ


果南「ルビィ…ダイヤがいなくて寂しいの?」


ルビィ「うぅ…」ブンブンブン


花丸「違う…って」


千歌「どうしたの?」


ルビィ「怖い……」グズッ


花丸「え?」


千歌「怖い…何かあったの!?」


鞠莉「誰かイタズラしたんじゃないの?」チラッ


善子「な…なんでこっち見るのよ!?」


果南「きっと怖い夢でも見たんだね…」ナデナデ


ルビィ「夢……」


果南「でも、もう大丈夫だから」


花丸「あ…みんな聞いて。なんだか外の様子がーー」




曜「梨子ちゃん!!!!!!!!!!」



六人「!?!?!?」


千歌「どうしたの曜ちゃん!?」


曜「梨子ちゃんが…梨子ちゃんが全然起きない…」


曜「それに…息をしてない……」


果南「何それ…どういうこと!」


善子「冗談…よね?」


曜「だって…本当に…」


鞠莉「もう!いつまでおねんねしてるの?早く起きーー」スッ



鞠莉「!?!?」


花丸「鞠莉さん…」


鞠莉「……」



鞠莉「冷たい……」



善子「そんな…」


鞠莉「梨子……」


千歌「嘘でしょ…」


千歌「嘘だよね…梨子ちゃん?」


梨子「…」


千歌「嘘だって言ってよ!!!ねえ!!!!!!梨子ぢゃん!!!!」ボロボロ


梨子「…」


曜「くっ…」ポロッ


果南「そんな…なんで…」


鞠莉「梨子…」


ルビィ「ぐずっ…ヒック…うぇぇ……」ボロボロ


千歌「梨子ぢゃん!!!!!!」


千歌「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!」


善子「なんでぇ…」ポタポタ



善子「うっ…」タッタッタッタッ



……


善子「おぇぇぇぇぇぇぇ…」ボタタ


善子「ゲホッゲホッ…」


善子「なんで…なんで梨子さんが…」ジワッ


善子「!!!!」


善子「霧…」


善子「それに何よここ…」



善子「どこなのよ…何がどうなってるのよ!!」



【桜内梨子 死亡】



…………
……



千歌「……」グズッ


花丸「千歌さん…」


千歌「うっ…うう…」ギュッ


花丸「……」チラッ


ルビィ「……」ガクガク


曜「……」ボーッ


花丸「曜さん…ルビィちゃん…」




果南「花丸」コソッ


花丸「…ずら?」


果南「ちょっといい?」



ザザーン…


果南「……」ピチョン


果南「……」


善子「どう?」


果南「冷たいっちゃ冷たい。でも真冬の海とは言い難いね」


鞠莉「泳いで行ったら陸に着くかしら?」


果南「向こうが霧で見えないし危ないよ…それに、ここがどこなのかも分からない…ひょっとしたら凄く危険な生き物がいるかも…」


花丸「……」


果南「花丸はこれ、夢だと思う?」


花丸「思いたいけど…思えないずら」


善子「そうよね…夢にしては意識がはっきりし過ぎ、それにこんなに会話が上手く成り立つのも変…」


鞠莉「でもありえないわこんなの…」


果南「そう思いたいけどね…」


善子「……」


花丸「もし集団で悪夢を見ているならどうにかして目を覚ます方法を探さないと…」



鞠莉「そうね…」


善子「……」


善子「なんで梨子さんが…」


果南「分からない…」


果南「でもみんなで悲しんでたら何も始まらない…少しでも現状を理解して前に進まなきゃ」グッ


花丸「うん…」


果南「とりあえず島を一周してみよう」


鞠莉「私はあっちの森の方に行ってみるわ」


花丸「一人で大丈夫?」


鞠莉「ふふっ。大丈夫よ。日本に来る前はパパとよく森に入ってハンターしてたから!」


善子「私はごめん。梨子さんの側にいてあげたいの…」


果南「うん、分かった。でも一応外傷とか無いか確認してもらっていい?」


善子「分かったわ…」


花丸「じゃあマルは…」


果南「私と砂浜周辺の探索ね」


花丸「うん!」


果南「鞠莉、霧で視界が悪いから気を付けてね」


鞠莉「お互い様。海に落っこっちゃわないでよ?」




………
……



ザザーン…


花丸「はぁ…」ザッザッ


果南「周りは岩壁に囲まれてる…か。ここの砂浜から他の場所には鞠莉の行った森の方からでしかアクセスできないみたいだね」ザッザッ


花丸「この島に悪夢の謎があるのかな…」



鞠莉「どうもそれは違うみたい」スッ


果南 花丸「!!」


果南「鞠莉!」


鞠莉「クレイジーなのあの森。入ってどう進んでもここの砂浜に戻って来ちゃうの。アニマル一匹いなかったし気になる物も無かったわ。竹ばっかり!」


花丸「服にいっぱい付いてるそれは…」


鞠莉「くっつき虫よくっつき虫!森中に生えてて…足も切り傷だらけになるしホント嫌になっちゃう!」バッサバッサ


花丸「あ、あとで手当てするずら…」


果南「…これで、島は探索できないってことが分かったね」


鞠莉「ダメだったの?」


花丸「砂浜も両側が岩壁に覆われてて…」


鞠莉「そう…」


果南「とりあえず戻ろうか」



…………
……



善子「……」


花丸「ただいま」スッ


善子「ズラ丸…!」


鞠莉「どう?」


善子「傷とか汚れとか…全く無かったわよ。綺麗な梨子さんのままだった…」


果南「そっか…」


花丸「お疲れ様善子ちゃん…」


善子「……」


果南「じゃあ分かったのはこれくらいかな……」カキカキ


ーーーーーーーーーーーーーーーーー
・全員が起きたらここにいた
・梨子は起きたら死んでいて、原因は不明
・家の中の物はそのままだが、携帯電話だけが無い。電気水道ガスも通ってない
・他に人もいないし家も無い
・その島の浜辺にこの家だけがワープ(?)している
・ここは内浦じゃない
・淡島でも無い。それよりも小さめの島(岩壁が多め)
・裏手の森は入っても戻ってきてしまう
・周辺や空は濃霧で先が全く見通せない。昼も夜も分からない。他の島も探せない
ーーーーーーーーーーーーーーーーー



善子「じゃあこの家は森と岩壁と海に四方を囲まれた砂浜の上にあるってこと?」


鞠莉「四面楚歌ってやつ?」


果南「探索は無理そうだね」



千歌「無駄だよそんなメモ」


四人「!!」


千歌「だってさ。おかしいじゃんどう見ても。私たちがこんなとこにいるわけないし…梨子ちゃんだって死んじゃうわけがない」


千歌「これは夢だよ。初夢とかでみんな一緒の夢を見ているんだよ」


ルビィ「……」


曜「……」ボーッ


花丸「確かに。普通に考えたらおかしいよねこんなの…」


鞠莉「ナイトメアなら早く覚めてほしい。私もそう思う」


花丸(あれ?そういえばマル、さっき海に浮かんでお月様と星を眺めた夢を見たような…)


千歌「また眠れば目が覚める。梨子ちゃんも元に戻る。だから悲しいのは一日だけ」


果南「だと良いけど…」



千歌「にしてもさ?」チラッ


果南「!!」



千歌「夢とは言え梨子ちゃんが死んじゃったってのによく呑気にブラブラできるよね?」


花丸「なっ…」


千歌「普通は大切な人が死んじゃったら悲しいでしょ。なのに果南ちゃんも花丸ちゃんも鞠莉さんもすぐに島の様子がー霧がー…って外に出てっちゃった」


果南「それは…」


鞠莉「ノー千歌っち。確かに梨子がああなったのは悲しいわ。すっごく。…でも、みんなで泣いててもどうしようもないでしょ?こんな夢、早く覚める方法がないかって果南もマルも…それに善子もなんとかしようって頑張ってたのよ」


千歌「ふーん…じゃあ本当にAqoursの誰かが殺されても側にいてあげないで犯人がー…とか証拠がー…とか言って周りをウロウロするんだね」


花丸「むちゃくちゃだよ…」


果南「それに…何殺されたって…」




千歌「誰かが殺したんでしょ!梨子ちゃんを!私の知ってるみんなはこんな薄情じゃないもん!!夢だからって好き勝手してさ!!」



果南「千歌!あんた言って良いことと悪いことがーー」バッ


善子「もうやめて!!!しょうがないでしょ言い争っても!大人しく覚めるのを待とうよ…夢だとしてもこんなAqours見たくない!」


千歌「……」


果南「…そうだね。夢のヘタレ千歌なんかとかかわりたくないし」スッ


千歌「……」ピクッ


花丸「果南さん…」


善子「やめて…これ以上は」


千歌「うん。私も殺人犯とかかわりたくないし。話さないで穏便に目が覚めるのを待とうかな」ゴロン


果南「……」


善子「もう…いや……」ポロッ


花丸「ま、マルお茶入れてくるずら!」タッタッタッタッタッ



鞠莉「……」



ジョボボボボボボ…


花丸「……」コトッ


花丸「はぁ…」



鞠莉「マル」ヌッ


花丸「ずらっ!?」ビクッ


鞠莉「ふふっ驚かせてごめんなさいね」


花丸「も、もう少し待つずら。今お茶を持ってーー」


鞠莉「気にしないで」


花丸「!!」


鞠莉「千歌っちも果南もああやってぶつかっちゃってるけど…心の底では思ってることは同じ。梨子のために悲しむか。梨子のために何かをするか。そこんところがちょっと食い違っちゃっただけ」


花丸「うん…分かってるよ…」


鞠莉「ふふっ。夢でもみんな優しいってこと!まあ、起きたらみーんな忘れてるわよ!」ポンポン


花丸「だといいずら…」


鞠莉「じゃ、戻ってるね♪」スッ


花丸「あの…」


鞠莉「?」


花丸「ありがとう…ずら」


鞠莉「ふふっ♪」



花丸「……」


花丸「みんな朝から何も食べてないし…お菓子も持って行ってあげよう」ゴソゴソ


花丸「夢でもお腹くらい空くずら」グゥゥ…



ドサドサバラバラ…


花丸「ずら!?」


花丸「百人一首かるたここに置いといたの忘れてた…死角になってて気付かーー」



花丸「!!!!!!!!」


花丸「この札…」スッ


花丸「昨日片付けた時と同じ…赤いシミが…」


花丸「しかも昨日より大きくなってる…」



花丸「なんで……」



ーーーー
ーー


コチッ…コチッ…コチッ…



千歌「……zzz」


果南「……zzz」


曜「……zzz」


善子「……zzz」


鞠莉「……zzz」


ルビィ「……zzz」


花丸(みんなもう寝たのかな?)


花丸(なんか…バタバタしたまま一日が終わっちゃったな…)


花丸(明日になったら元に戻ってる…よね?)



花丸「……zzz」



ゴーンゴーンゴーン…
ゴーンゴーンゴーン…



ザザーン…
ザザーン…


ーーん?


えっと……


ああ、夢か…


…そうだった。あの後ずっとピリピリしてて…結局何もしないうちに気疲れして寝ちゃったんだった。


なんか変だね。夢の中で眠ってまた夢を見てるなんて…



!!!!!!!!!!!!


うわっ…!


月…それに星が綺麗…!


さっきみたいに霧で昼も夜も分かんないところとは違う…


淡島からもこんなにくっきり見えないよね。すごいクリア…空気が透き通ってるんだろうね…


そもそもこうやって海に仰向けで浮かんで眺めたことなんてないんだけどさ


えっと…あれがはくちょう座?いや、あれがオリオン座かな…


あはは…星が多すぎて分かんないや…



…そういえば、氷点下40℃だか50℃の凄く寒い地域だと星のささやきが聞こえるとかってテレビで見たな


ふふっ。その音の正体って、吐いた息が瞬時に凍った時パキパキって小さく鳴る現象なんだけど…なんだかロマンチックだね


でも、こんなにたくさんの星が一斉にお喋りしたら月も静めるの大変そう…



…さて、ダイヤに言われてた和歌…今なら作れそうだし、考えてみようかな



…コホン



~満ちたれど 満ちてはならぬ 散りぬれば
かたは十六夜 ただいたづらに~



…これでいいかな?もっと星要素入れたかったけど月じゃないとダイヤに怒られちゃうからね


それに…夢とはいえかなりショックだったしこれでいい…


……


…結局あの後、千歌に謝れなかったな


小さい時から喧嘩は何回もしてきたけどさ
そりゃあ人殺し!なんて言われたら流石の私も許せないよ…


…でも、まあいいかな


これは夢なんだし!


起きたら千歌の頭小突いてやろっと♪
私の夢のことなんて知らない千歌はどんな反応するかな?きっとワケ分からなくて怒っちゃうかもね


そしたら謝ってあげる。おあいこってこと!



ザザーン…
ザザーン…



ーーーー
ーー


ゴーンゴーンゴーン…
ゴーンゴーンゴーン…





ルビィ「うっ…ぐずっ……」ボロボロ


曜「ルビィちゃん…」


善子「くっ…」


花丸「……」ギュッ


千歌「なんで…なんでぇ……」ボロボロ




果南「鞠莉!!!!!返事してよ!!!!!鞠莉!!!!!!!!」


鞠莉「…」



果南「なんで…なんで目が覚めないの…夢じゃなかったの…」ボロボロ


千歌「うぅ…」ボロボロ


鞠莉「…」



果南「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!」ボロボロ



【小原鞠莉 死亡】



ーー元旦夜


華やかな京の都。

歴史的建造物、四季折々…そして、人の心の諸行無常と共に約千二百年を歩み、各地にその情緒を閉じ込めた悠久の歴史を誇る趣深い町…

正月ということも相まって、より一層静寂と情趣に磨きのかかっていますこと。

今回私がお世話になる場所は、町の中心から少し外れた小倉山の麓の山荘、《時雨亭(しぐれてい)》ですの。


それにしても…



ダイヤ「ぎゃふんですわ」ドドン


ダイヤ「まさかこんなに大きいなんて思いませんでしたわ。まさに千歌さんの老舗旅館をそのまま三つ程繋ぎ合わせたかのような…」


ダイヤ「流石ですわね。京都…」


ダイヤ「これからお世話になる身…失礼のないようにしないと…」



「あけましておめでとうございます。ようこそお越しくださいました」スッ


ダイヤ「あけましておめでとうございますわ。静岡県沼津市内浦から、この度十八を迎え母の代わりに歌合に出席させていただくこととなりました。黒澤家長女、ダイヤと申します。本日からお世話になりますわ」ペコリ


「よろしくお願い致します。例年は1日に催す行事は無いのですが…本日はこの後、21:30より広間にて会合があります」


ダイヤ(早速ですわ…)


「そちらを曲がりましたところにお着替えの用意がございますので、召された後お集まりください」


ダイヤ「承知しました」


「あ、それから。当山荘では玄関口にて携帯電話をお預かりすることとなっております。これも今年の例外なのですが…どうかご了承ください」


ダイヤ「は、はあ…」



ギシギシギシ…


ダイヤ「迷子になってしまいそうな程広いお屋敷…」


ダイヤ「中の造りもそのほとんどが当時のまま…客用に寝殿造りを模した多少の改築は行われてはいますが…」


ダイヤ「不思議ですわね。先程まで車に乗り整備された県道や賑わう街中を走っていたのに…気が付いたら現代から約千年もの時を越え、平安の世界に迷い込んでしまったようですわ」



ダイヤ「……」


ダイヤ「…携帯電話を預かるとは一体どういうことですの?しかも今年の特例…電波が何かに悪影響を及ぼすのでしょうか?それともこのような伝統と格式あるお屋敷にそぐわぬ現代的な物の使用を禁止するよう取り決めたのでしょうか?」



ダイヤ「!!!」



コチッ…コチッ…コチッ…


ダイヤ「行き止まり…」


ダイヤ「早速迷いましたわ…」ガクッ



コチッ…コチッ…コチッ…


ダイヤ「……」


ダイヤ「…それにしても大きくて立派な柱時計ですわね。私の家にあるものと同じタイプのものでしょうか?」


ダイヤ「鐘の音がかなり大きくて相当やかましいと思うのですが…流行っているんですの?」


ダイヤ「…いえ、少し違いますわ。このように台座に四つの窪みはありません。それに決定的なのは鐘の部分…私の家の柱時計にはこのような綺麗な石は嵌め込まれていませんもの」


ダイヤ「恐らく百倍…いえ、それ以上値段に差があるのでは…」ワナワナ


ダイヤ「時計に限らずドレスやチョコレートなんかも、付属の宝石等のせいで値段が桁を超越したりしますから…本来の目的とは関係ない部分で儲けようという算段なんですわ。全く小汚くてよ?」ブツブツ


ダイヤ「しかし如何なる理由でこんな廊下の隅に…」



ーー広間


ザワザワ…


ダイヤ「なんとか間に合いましたわ」ドタバタ


ダイヤ「……」


ダイヤ(全国の名だたる名家の方々が一箇所に…物凄い緊張感ですわ)


ダイヤ(果たして私に母の代わりなど務まるのでしょうか…)


ダイヤ(ん?)



「……」ギシギシ



ダイヤ(あの方が幹事でしょうか?まだ全員いらしてないのに始めるつもりですわ)


ダイヤ(…それにしても、白い狐のお面なんてしてどういうおつもりですの?如何なる理由で素顔を隠されるのでしょうか?あの容姿からしておそらく若い女性だとは思いますが…)



白狐「……」スッ


白狐「まだいらしてない方々も何名かおりますがそれは他の者に伝えさせます。特例として催される会合であるが故うまく伝達が行き渡りませんでした。しかし我々も少々急ぎの用事でして…集まられた方々だけで開始したいと思います」



ダイヤ(外部に漏れる可能性を気宇したのでしょうか…?)


ダイヤ(母はこんなこと言っていませんでしたわ。一体何の話なのでしょう…)


白狐「コホン。挨拶と自己紹介は省略させていただきます。例年まで幹事を務められていた方が体調不良のため、急遽私が代理を務めさせていただくことになりました」



「まあお気の毒に…」ヒソヒソ


「あのお方、もう九十過ぎてますし…」ヒソヒソ



ダイヤ(……)


ダイヤ(怪しい…)


ダイヤ(ただこの声どこかで…)



「……」スッ


白狐「そしてこちら、私の補佐です。…同じく自己紹介は省かせていただきます」


ダイヤ(今度は黒い狐のお面…)


黒狐「……」ペコリ


白狐「さて、今からお話することは他言無用…電子機器はお預かりしましたが決して録音録画…メモなどしないようご了承ください」


ダイヤ「……」ゴクリ


黒狐「……」




白狐「…八人の神隠し。百年ごとに我々の家系を襲う災厄についてです」



ダイヤ(神隠し!?)


ザワザワ…


黒狐「静粛に!」


白狐「…コホン。知っての通り私達はそれぞれ全国各地に名家として住を成し、名を馳せていますが、元を辿れば一つの家系。その先代達は元旦の夜に忽然と姿を消し5日の昼に、消息を絶たれたはずの部屋にてその亡骸を並べておられる…といった不可解な事件が起きているのです」


白狐「死因は不明。ただ分かっているのは、その忌まわしき災厄が百年ごとに起きていること…そして」


白狐「今年、2015年がその神隠しの起こる年であること。つまり元旦である今宵、また八人の行方不明者…そして4日後に犠牲者が出ます」


ダイヤ(なっ…!?)ゾクッ


白狐「この『八人の神隠し』が何百年前から続いているのかは分かりません。最も古い記述は1315年のもので、それ以前のものは書物が傷んで解読不能でした。無論、より以前にこの神隠しが起きていた可能性も視野に入れていますが…」


白狐「…そして、我々が調査を行なっていく過程で何点か判明したことがあります」


白狐「まず、一時的に行方を眩ましていた八名が揃って遺体として発見されたと同時に、もう一名の首が無くなった遺体…つまり九人目の死者が出るということ」


ダイヤ(九人…と聞くと何か不吉な予感がしますわね)


白狐「そして…その九人目の死体には決まって同じ箇所にこのような紋章が刻まれているのです」ヒラッ


ダイヤ(何でしょう…円卓の中に複雑な文字と…更に小さな八つの円。その円の中に赤い文字が刻まれていますわ)


白狐「そして…」


白狐「黒」


黒狐「……」スッ


ダイヤ「?」



白狐「これは過去にこの内裏歌合を行った際の名簿です。この地に招かれるは決まって四十五家…となっているのですが…」ペラペラ


白狐「何故か『八人の神隠し』の起きる年だけ四十六家…謎の家系が紛れ込んでいるんですよ…」チラッ


ダイヤ「!!」


ダイヤ(なっ…何故こっちを見るんですの!?)


白狐「無論、十八を迎えたことで初めてここへ赴いた方々もおられるでしょう。それが家系数の変動に影響を与えるわけではありません」


白狐「…奇妙なのは何故かその四十六家目を割り出すことができないのです。名簿を一つ一つ確かめてもおかしな家系は無いのに、全体を見ると四十六の名前がある。これは誰に調べさせても同じです。そして、その死体が見つかると同時にその家系が名簿から消え四十五になる。しかし、それでもその紛れた謎の家系がどこだったのかを割り出すことができない。その事実は過去の資料から判明しました。ここにある、過去の神隠しのあった年の名簿も既に四十六家目が消えていたため」


白狐「以上から、その謎の四十六家目が事件の犯人…及び九人目の死者と断定しました。その家系の者は何らかの理由で百年ごとに『八人の神隠し』を起こさなければならない。八人を殺害し体に紋章を刻んだ後、四日後に隠していた死体を晒したと同時に役目を終えた自らも自害…」



ダイヤ(成る程…読めてきましたわ。要はこの内裏歌合に出席されている家系のいずれかにその犯人がいるということですのね?)


ダイヤ(今年が特例…とは、それを割り出すために内裏歌合という建前で犯人探しを行お うということだったんですわ)


ダイヤ(余りにもファンタジー色の強い内容ですが、あながち荒唐無稽というわけでも無さそうですわね。どの道面倒ごとに巻き込まれたってことに変わりは無いのですが…)


ダイヤ(…しかし、何故その九人目の死体の人物の家系が神隠しの主犯だと割り出せないのでしょうか?)


ダイヤ(首が無く、当時は現代と違いDNA鑑定が無かった故、人物が特定できなかったのでしょうか?)



ダイヤ(いえ、そもそも同じ歌合の出席者がその人物を見ているはずですわ…それに後から点呼をすればすぐにいないのが誰だか分かると思いますが…)



白狐「この行動に何の意味があるのか分かりません。しかし、それを突き止めるのも今回の内裏歌合…」


白狐「はっきり申し上げます。これから四日間、あなた方は私たちに監禁されていただきます」


ダイヤ(やはり…)


ザワザワ…


黒狐「静粛に!」


白狐「先程申しましたように、四十六家目を突き止めることができれば長年続いたこの悪夢の連鎖は止まります。今しばらく我々にご協力ください」ペコリ


「そんな急に言われてもなぁ…」


「ウチらも芸事が控えとるさかい、辛気臭い推理ショーには付き合ってられへんわ」


「大体そのお面はどういうおつもりですの?あんた方の方がよっぽど怪しくてよ?」


ザワザワ…


白狐「……」


黒狐「……」




ダイヤ「あの!!」



全員「!!」


ダイヤ「私、本日十八を迎え母に代わり静岡県内浦よりこの内裏歌合に参加させていただくことになりました。黒澤ダイヤと申しますわ」


「黒澤家の娘はんやて」ヒソヒソ


「大きゅうなられたなぁ」ヒソヒソ


ダイヤ「……」


ダイヤ「お言葉ですが…そちらのお面の主催者代理の方の話を聞くに、私もにわかに信じがたいと思いました」


ダイヤ「しかし、このような場で嘘をつかれるとは到底思えません」


ダイヤ「それに、自分の大切な家族を死の危険から守っていただけるなんて…良い話だと思いますわ」


ダイヤ「納得できない点も多くあると思いますが…ここは従った方が己のため、家族のためだと思いますの」


「……」


「……」


白狐「……」


黒狐「……」


ダイヤ「……」ゴクリ




「確かに一理あるわなぁ…」



ダイヤ「!!!」


「まあ…黒澤の娘はんがそう言うなら仕方ないわ…」


「でも、とっととその犯人捕まえてな?本来の和歌の披露会楽しみにしとったんやから…」


白狐「ご理解とご協力ありがとうございます」ペコリ


黒狐「……」ペコリ


ダイヤ(ほっ…)


白狐「各部屋の前に二名ずつ見張りを設けます。無論、何か不審な動きがない限り襖を開ける等プライベートを阻害するような行為は致しません。何としてでも犯人を捕まえてみせます。よろしくお願いします。会合は以上です」


黒狐「……」スッ



ダイヤ(…でもこのお面の方々を完全に信じているわけではありませんわ)


ダイヤ(十分に警戒しましょう)



ーーーー
ーー


ダイヤ「ふぅ…いいお湯でしたわ」ホカホカ


ダイヤ「……」


ダイヤ「御簾(みす)に御帳台(みちょうだい)に屏風(びょうぶ)に…正に貴族の寝殿を模したような部屋ですわ。落ち着きませんわね。本当に平安時代にタイムスリップでもしたかのようですわ…」


ダイヤ「そして、窓辺には簾(すだれ)と腰掛けるための倚子(いし)が…」


ダイヤ「……」ゴクリ


ダイヤ「ふふっ。さあ…ついに待望の水面月とご対面ですわ!」スッ


ダイヤ「いにしえに刻まれし数多の物語…それを今日まで欠かす事なく閉じ込めてきた庭園の池のソレ…」


ダイヤ「さあそのご尊顔…」



ダイヤ「拝してもよろしてくてよ!!」バサッ!


ダイヤ「!!!」



ダイヤ「く…曇り……」ガクッ


ダイヤ「そ、そうでしたわ…確かに今夜は全国各地で曇りだという予報…黒澤ダイヤ、不覚……また明日以降ですわね」ガクッ



ギシギシギシ


ダイヤ「!!!」


ダイヤ(例の見張りが来ましたわ)


ダイヤ(四日間拘束するとは言っていましたが、明日にでもその犯人が見つかればいい事…今夜を乗り切ればあとは今まで通りの歌合になるでしょう)


ダイヤ(その分明日、どこかの家系の八人が不幸に見舞われるのでしょうか…)


ダイヤ(色々気にはなりますが…)



?「黒澤ダイヤさん」


ダイヤ「!!」



ダイヤ(この声は…白い狐のお面の…)


ダイヤ「は、はい!」


白狐「襖越しですみません。あなたの見張りは私達ですので」


黒狐「……」


ダイヤ(よりによってこの二人…)


白狐「先程は勇気ある発言で助けていただきありがとうございました」


ダイヤ「いえ、とんでもありませんわ。あなた方が嘘をついているように思えなかったんですの。色々不審な点はありますが…」


黒狐「……」


白狐「それは承知の上です。全てはこの悪夢を食い止め我が家系にこれ以上の犠牲者を出さないためです。多少強引で納得できない点もあると思いますが…」


白狐「……」


ダイヤ「分かっていますわ。それ以上のことは言えないのでしょう?」


白狐「……」


ダイヤ「……」


ダイヤ「わ、私はもう寝ますわ!」ガバッ!


白狐「かしこまりました。私達のことはどうかお気になさらないで…」


ダイヤ「む、むしろ頼もしいですわ。よろしくお願いします…」


ダイヤ(はあ…本当に大丈夫なのでしょうか…)


ダイヤ(何も起きなければいいのですが)



ーーーー
ーー


ダイヤ「ぐっ…ううっ……苦じい……」ググッ


……


?「……月…空………宵」


……


……



ダイヤ「………」


ダイヤ「ん……」チラッ


ダイヤ「5時……まだ真っ暗ですわ」モゾモゾ


ダイヤ「酷くうなされた気がしましたが…あれは夢だったのでしょうか」


ダイヤ「それに、あの後の…」



「……だ……った…」


「黒………消……」



ダイヤ「?」


ダイヤ「廊下が騒がしいですわね。まだこんなに早いのに」


ダイヤ「何かあったのでしょうか?」スッ



「間違いないのですか?」



「ええ。黒澤家に泊まっていた、娘ルビィを含む八人の消息が不明です」



ダイヤ「!?!?!?!?!?」



ダイヤ(ル…ルル…ルビィ達が…行方不明…!?)


「部屋の痕跡からして、八人の神隠しで間違いありません。それと、携帯電話だけが部屋に残されていたそうです」


「内輪に留めているだろうな?」


「無論。黒澤家当主様もその事は固く存じあげております。もっとも、現在はこちらの者に身柄を確保させましたが」


「しかし何故?黒澤ルビィはともかく他の七名は血縁関係にない。異例ということか?」


「分かりません…もしくは家族と言って差し支えのない程身近な存在だったのではないでしょうか?その七人も」


「…と言うと?」


「消えたのはAqoursという名でスクールアイドルの活動をしている方々だそうで」


「成る程、今年はその仲間を皆殺しにするというのか…残酷だ」


ダイヤ(一体どういうことですの…)


ダイヤ(それに、まさか疑われているのは…)



「彼女はずっと部屋にいました。にも関わらず犯行に移ることが出来たということは…やはり人間ではない妖の類なのでしょう。過去の事件も…」


「しかしこの禍々しい悪夢の連鎖も今日で終わり。捕らえて焼き払ってしまいましょう」


ダイヤ(ひっ…)


ギシギシ…


ダイヤ(来る…)


ダイヤ(こうなったら…)


スススススッ…


白狐「黒澤ダイーー」


ダンッ!


白狐「!!」


黒澤ダイヤ「くっ…!」タッタッタッタッタ


白狐「聞かれていましたか」



白狐「黒澤ダイヤ…いや、長年我ら一族を苦しめた妖が逃走しました。直ちに奴を追ってください。絶対に逃さないでください!」



バッ…バッ…バッ…



黒澤ダイヤ「くっ…」ダッダッダッダッ


ダイヤ「何が…何がどうなっているんですの」ダッダッダッダッ


ダイヤ「私が…犯人……」ダッダッダッダッ


ダイヤ「それにルビィ…皆さん…」ダッダッダッダッ


ダイヤ「どうして!!!」ダッダッダッダッ



ダイヤ「!!!」


ダイヤ「行き止まり…」



「曲がったぞ!」


「追い詰めろ!!」



ダイヤ「そんな…」ガクッ




?「こっちです」グイッ



ダイヤ「!?!?」


ピシャッ!


ダイヤ「あなたは…」


?「押入れへ!早く!」


ダイヤ「は、はい!」ササッ


ピシャッ…


ダイヤ「……」ドキドキ


「消えたぞ!」


「近くにいるはずだ。絶対に見つけ出せ」


ダイヤ「……」ゴクリ



ススッ…


白狐「おはようございます。朝から騒々しくして申し訳ありません」



?「おはようございます。どうかされたのですか?」


白狐「こちらに黒澤家の方が参りませんでしたか?」


?「黒澤家?いえ、見ていませんが…」


白狐「そうですか…」


?「あの、まさか神隠しの犯人って…」


白狐「詳しいことは後程の会合で。また何か分かりましたらご報告の方お願い致します」


?「承知しました。我が家系に根付く邪念、必ず断ち切りましょう」


白狐「ええ。では、失礼致しました」ススッ


ピシャッ…


ダイヤ「……」


?「もう出てきても大丈夫ですよ」


ダイヤ「…ありがとうございますわ」ススッ


?「まさかこんな形でお会いすることになるとは…」


ダイヤ「ええ…」




ダイヤ「お久しぶりですわ。Saint Snowの鹿角聖良さん」


聖良「ふふっ」



ーーーー
ーー


コチッコチッコチッ…


千歌「今から質問するからそれだって思う方に手を上げてね」


果南「……」


曜「……」


善子「……」


花丸「……」


ルビィ「……」



千歌「梨子ちゃんと鞠莉さんを殺したのはこの中にいると思う人」バッ


五人「!!!!」


曜「ちょっと千歌ちゃん!!!」


果南「まだそんなこと…」


善子「何よその質問!!殺されたこと前提でしかも…しかもこの中に犯人がーー」


千歌「私は!!!!!」バッ



千歌「花丸ちゃんが犯人だって思うよ」



花丸「!!!!!」


ルビィ「な、何言ってるの…千歌ちゃん…」


果南「千歌」


千歌「梨子ちゃんも、鞠莉さんも…傷とかが全然無かった。ってことはさ、毒か何かで死んだんだよ。ならそこのお菓子だったり昨日のお茶だったりに仕組まれてたんだよ。それが出来るのは花丸ちゃんしかいないよね」


花丸「うぅっ…そんな……マルはそんなこと」ポロッ


ルビィ「花丸ちゃん…」ギュッ


善子「あ、あなた自分が何言ってるか分かってるの!?」


曜「千歌ちゃん。謝って」


千歌「ねえ花丸ちゃん?ここはどこなの?何で殺したの?何の恨みがあったの?Aqoursはどうなっちゃうの?それ全部吐いてから二人みたいにーー」


花丸「違う!!!マルは本当に!!!!」



バッ!


五人「!!!!!!!」


曜「か……」



果南「……」グググッ



千歌「果南…ちゃん?」



果南「……」ググッ


千歌「あはは…何してるの…?」



果南「今から私は千歌を本気で殴る」ググッ


千歌「!!!」


曜「ダメ!!」


果南「それで目が覚めたらみんなに謝って。目が覚めないんなら…いいよ。こうやって暴力を振るう私が殺人犯ってことで。そうしたら私が死ぬ。消える。霧の向こうの…どこに繋がってるか分からない向こうへ泳いでく。でも、花丸や…他のみんなをそんな風に言うのはやめて」ボロボロ


曜「果南ちゃん…」


善子「バカよ!バカ!!いい加減にして!!」


ルビィ「うっ…うう…」ボロボロ


千歌「果南ちゃん…」



果南「千歌!!!!!!」ブンッ!



ガッ!!


五人「!!!!!!」



果南「なっ…」



花丸「いたた…」ヨロッ



善子「ズ…ズラ丸……」


ルビィ「花丸ちゃん…どうして…」ボロボロ


曜「血が…口のとこ切れてる…」


花丸「…ううん。大丈夫ずら」ゴシゴシ


果南「は…花丸……私…」


千歌「どうして…」


花丸「鞠莉さんがね、言ってたずら」


ーー
ーーーー



鞠莉『千歌っちも果南もああやってぶつかっちゃってるけど…心の底では思ってることは同じ。梨子のために悲しむか。梨子のために何かをするか。そこんところがちょっと食い違っちゃっただけ』



ーーーー
ーー



千歌 果南「!!!!」


花丸「…だからぶつかるのはしょうがないと思う。でもね、それは例え道が違っても同じものを見ているからこそ起きてしまうことずら。それすら違っちゃったらそれはぶつかってるんじゃない。二人は敵同士」




花丸「ただの殺し合いずら」



果南 千歌「……」


花丸「一つになろう。鞠莉さん…それに梨子さんだって、最後まで信じてたんだから…」


千歌「……」


千歌「ごめん…ちょっと頭冷やしてくる…」フラッ



ルビィ「あっ…」


善子「今はそっとしときましょ…」


ルビィ「うん…」


果南「みんな…ごめん」


善子「謝んないでよ。みんな辛いのは一緒なんだから」


曜「そうだよ。千歌ちゃんが戻ってきてさ、落ち着いたらゆっくり考えよう」


果南「うん…」


ルビィ「花丸ちゃん…ちょっと待っててね。傷の手当てするから」スッ


果南「あ、それなら私が」


花丸「ううん。大丈夫だよ」


果南「そういうわけにはいかないよ…せめて手当てくらいさせて」スッ


花丸「…分かったずら」



ルビィ「……」


善子「……」


花丸「……」



曜「なんか…ごめん」


善子「だから謝らなくても…」


曜「ううん。本当はこういう時、私たち上級生が一年生の三人を守ってあげなきゃなのに…逆に宥めてもらってさ。情けないなって」


善子「はぁ…何言ってるのよ」


曜「え?」


善子「高々一年二年の年の差でしょ?こんな状況なんだし…建前の上下関係なんて亀裂が悪化するだけよ。ここではそういうの無し。コミニタスってやつよ」


曜「善子ちゃん…」


善子「ヨハネよ」


ルビィ「そ、そうだよ!梨子さんも鞠莉さんも…それにお姉ちゃんもいなくて…そりゃルビィ達も辛いけど、曜さんや千歌さん…果南さんはもっと辛いと思う…だから無理しないで」


曜「ルビィちゃん…」


花丸「ただでさえおかしい事だらけだから…逆に、ふとした事で元の世界に戻れるかもしれないずら。それに、梨子さんや鞠莉さんだって生き返るかもしれない…大丈夫。信じていれば…」グゥゥゥ…



花丸「!!」



曜「花丸ちゃん?」


花丸「な、なんだかお腹空いたずら…こっちに来てからちゃんとしたもの食べてなかったし…」


善子「はぁ…もう。ズラ丸ったら」


ルビィ「は、花丸ちゃん…」


花丸「えへへ…」


曜(ふふっ…そうだよね。こういう不安で辛い時こそ笑顔でいなきゃ…)


花丸「まだ小倉まんじゅうが残ってたからそれでも食べようかな」ゴソゴソ


善子「またそれ?よく飽きないわね」


ルビィ「花丸ちゃんと言ったら小倉まんじゅう、小倉まんじゅうと言ったら花丸ちゃんだよ!」


花丸「な、何それずら!?」


曜(そのためには…やっぱ仲間って大切なんだね)



ルビィ「あ、そういえば…」


三人「?」


ルビィ「この『小倉』…ってあんこのことだよね?なんで『小倉』って言うんだろう…お姉ちゃんが行った場所も小倉山って言うんだけど…何か関係あるのかな?」


花丸「そうだよ!むかーしむかし、空海様が中国でいただいてきた小豆を今の京都の小倉山周辺で育てたからそう言う名前がついたとか、昔小倉山にたくさん住んでた鹿さんの斑点模様が小豆みたいだったからそれが由来になったとか…説は色々あるけど小倉山が小倉あんの元になったのは間違いないずら」


善子「へぇ…知らなかったわ。やば珈琲でよく小倉トースト食べてるけどそんなこと全然気にしなかったわ」


ルビィ「意外だね。善子ちゃんがそんな和風なもの食べるなんて」


善子「な、何よ!悪い!?」


花丸「もっとベリーやクリームでギトギトのデザート食べてそうだから」


曜「ギトギトって…」


曜「じ、じゃあ『小倉百人一首』も小倉山発祥ってことなのかな?」


花丸「あ、それはーー」



果南「おまたせ花丸。血止まった?」ゴトッ



花丸「あ…ありがとう…」


花丸「ん?」


花丸「小倉百人一首…血…」



花丸「!!!!!」


果南「?」


花丸「ちょっと待っててずら!」タッタッタッタッ


果南「あ…」


善子「ちょっとズラ丸!」


曜「どうしたんだろう…」


果南「何かに気付いたみたいだけど…」


ルビィ「…そういえば果南さん、なんで救急箱の場所分かったの?」


果南「ふふっ。昨日ね、鞠莉が森に入った時に木の枝で足とか切っちゃったみたいで…その時にーー」


果南「……」


ルビィ「?」


果南「森…」


善子「へ?」


曜「森がどうかしたの?」


果南「まさか…あの森に入るとその日の夜に死んじゃうんじゃ…」



三人「!!!」


果南「そうだ…昨日、私と花丸が砂浜の探索で鞠莉が…鞠莉だけが森に入ったんだ…だから…」


曜「…ってことは、梨子ちゃんも森に入ったってこと?」


善子「それはないわよ」


果南「え?」


善子「だって、あの森ってくっつき虫がたくさん生えてるんでしょ?もしあそこに入っていったのなら鞠莉さんみたいに服にたくさん付くはずだわ…でも、梨子さんの服にはそれが無かった…」


善子「それにその日の夜私、眠る直前に梨子さんの布団に入ってちょっかい出したの。その後怒られてシブシブ抜けたんだけど…朝起きて梨子さんを見たら私が抜けた時の布団の跡がそのままだったから…」


曜「え?それっておかしくない?そんな跡、少し寝返り打っただけですぐ消えちゃうよ」


果南「寝返りを全く打たないってのも変…だよね?」


ルビィ「えっと…つまり……」



花丸「梨子さんはみんなが寝てからすぐに亡くなった…」


四人「!!」


ルビィ「花丸ちゃん!」


善子「どこ行ってたのよ」


花丸「これ見て…」


曜「!!!」



ジワッ…


ルビィ「ひっ!?」


果南「何この赤いシミ…」


善子「ち…血なの?」


花丸「分からない…ダイヤさんと百人一首をして片付けてた時に気付いたずら。最初は豆粒みたいに小さかったんだけど、昨日見た時に少し大きくなってて今見たら…」


善子「100円玉くらいはあるわよ…」


ルビィ「な、並べたらすぐに分かっちゃうね…」


曜「何か意味があるのかな…?」


果南「他の札には無かったの?」


花丸「多分…」


果南「何か一連の出来事に関係してるのかな…」




善子 曜「「あ…」」



三人「?」


善子「ごめん。先に言って」


曜「ううん。善子ちゃん先良いよ」


善子「そう…」


善子「いや、全然関係ないんだけどさ?ふと思いついて」


花丸「どうしたの?」


善子「鞠莉さん達、部屋を移さない?ここより奥の部屋の方が湿気も少ないし…その、腐りにくいっていうか…」


曜「ああ…」


ルビィ「善子ちゃん…」


果南「そうだね。移そう。ありがとう善子」


善子「ううん。別に…」


曜「じゃあ運ぼうか。まず鞠莉さんから…布団の四隅を持って」


果南「鞠莉…ちょっと動くけど我慢してね…」ギュッ


鞠莉「…」



花丸「……」ギュッ


善子「……」ギュッ


ルビィ「お、重い…」プルプル


曜「平気?ルビーー」


ルビィ「ピギィ!!!」ドサッ!


花丸「わっ!?」グラッ


善子「ちょっとルビィ大丈夫?」


ルビィ「うん…」


果南「曜、代わってあげて」


ルビィ「ごめんなさい…」


曜「いいよいいよ。力仕事は任せて」


曜「…と、とりあえず鞠莉さんを布団に戻そう」


善子「そうね。足の方お願いするわ」


曜「うん」


曜 善子「せーの」


曜「よいしょっと…」ギュッ



曜「!?!?!?!?」



果南「どうしたの!?」


善子「何!?」


曜「……」


花丸「曜…さん?」


曜「固い…」


ルビィ「え?」


善子「そ、そりゃあ…死んでるんだからそうよ…」


曜「今、何時?」


果南「何時って…」チラッ


果南「7時半前だけど…」


善子「それがどう関係あるのよ?」


曜「死後硬直…」


花丸「へ?」


曜「昔おじいちゃんが亡くなってさ、親戚と遺体を動かした時すごく冷たくて重くて…そのことをお坊さんに聞いたんだけど、死後硬直って顎の方から始まって上から下に進んでって全身の筋肉に至るのに12時間以上はかかるんだよ…って」



曜「でも今鞠莉さんの足は鉛のように重くて…とても7時間とかの硬直じゃないっていうか…」


善子「何言ってるのよ。硬直がどうとか…素人の私達にそんなこと分かるわけないでしょ?昨日私が梨子さんの死体を調べた時も全身ガチガチだったわ。それとも、あの時計が間違ってるとでも言いたいの?」


曜「別にそういうわけじゃ…」


曜「でも…」


果南「まあ確かに変わった柱時計だなって思ったよ?毎時間…とか、12時だけ…とかじゃなくて12時と6時に鐘が鳴るなんてーー」


ルビィ「え?」


果南「ん?どうしたの?」




ルビィ「あの時計、6時に鐘が鳴るなんてありえないよ…鳴るのは12時だけだよ」



四人「!?!?!?」


曜「どういうこと!?」


果南「だって…私、初日だって6時の鐘の音で目が覚めて…」


花丸「うん!それで外に出ようってなったし…」


善子「それに今日も!さっき6時に鳴ってたじゃない!!」ダッ


ルビィ「そんなはずないよ!ルビィが生まれてからずっと、あの時計は一度も6時に鳴ったことない…それはお姉ちゃんも同じだと思う!」


果南「どうなってるのあの柱時計…やっぱ壊れてるんじゃ…」スッ


コチッ…コチッ…コチッ…


果南「……」



曜「どう…?」


ルビィ「ちゃんと…動いてるよね?」


果南「……」


花丸「果南さん?」


果南「みんな」


四人「!!」


善子「何か分かったの!?」



果南「ちょっと聞きたいんだけどさ…」



果南「こっちに来てから、この時計の針が12時から6時までの間の時間を指しているのを見たことある人…いる?」



ルビィ「……」


花丸「……」


曜「……」


善子「嘘でしょ…」


果南「ちなみに私も無い」


果南「昨日、朝起きて梨子が死んでるのを見た時も鐘が鳴った6時過ぎ、その後私達は外で調査したりでバタバタしてて…寝るまで全く時計を見なかった…」


善子「そうね…」


曜「私は塞ぎ込んで部屋にいたけど…時間なんて全く気にしてなかった…」


ルビィ「ルビィも…」


果南「じゃあ曜、ルビィ。私達が外にいる時時計は鳴った?」


曜 ルビィ「!!!!」



曜「鳴ってなかった…」


善子 花丸「!!」


ルビィ「うん…」



果南「もし時計が12時を指した時と6時を指した時に鳴るのなら…6時、12時、18時、0時…って、一日で計四回鳴るはず。なのに私達が確認できているのは二回…ううん、起床する時の一回だけ」


善子「何がどうなってるのよ…」


果南「…鐘の音や針の指す時間に認識できるものとできないものがあるのは何故か。鞠莉の死体の死後硬直があんなに進んでるのは何故か。それは死ぬ時間との関係、梨子が森に入ってないってことの証明にも繋がるかも」


ルビィ「時計に何かあるの!?」


果南「…見てこの時計の秒針」


コチッ…コチッ…コチッ…


曜「古いけど精密に作られてるね」


善子「あれ?この鐘のくぼみは?」


ルビィ「それは元々あったと思うけど…」


花丸「じーっ…」


善子「やっぱちゃんと動いてるような……動いてないような……」


ルビィ「でもあれ?なんかちょっと遅いような…」



四人「!!!!!!」


善子「あ…あれ!?」


果南「そう。一秒で半分…0.5秒ぶんしか進んでない」



果南「つまりこの柱時計は、秒針が一周するのに二分。長針が一周するのに二時間。短針が一周するのに二十四時間…普通より倍の時間がかかる…ってこと」


善子「やっぱり壊れてるじゃない!」


果南「ううん。壊れてないよ」


曜「…どういうこと?」


果南「この時計のシステムを頭に入れて説明を聞いてね。順を追って説明するから」


果南「まず昨日、私達が目が覚めたのは鐘の鳴った朝の6時過ぎ…でもこの掛け時計は本来十二時間ごとにしか鳴らない。」


果南「つまり、私達が目覚めた本当の時間は昼の12時。正午ってこと」


善子「そうか!実際に十二時間経ってるから鐘は鳴った!でも本来時計が示すはずの半分だけしか針が進まないから針は6時を指してたってことね!」


曜「そんなに長く寝てたなんて…」


果南「で、その後私達が探索に行って戻って寝るまでの間…善子が言ったように時計は本来動くはずの半分だけしか動かない。だから例えば五時間六時間経っても時計は6時から二時間半、三時間ぶんしか進まないから針は8時半とか9時しか示さない」


果南「で、色々あったけど時計が0時を指す前にみんなは寝た。だから0時の鐘も聞けなくて、私達が認識した鐘は起床時…つまり昼の12時の一回だけだったんだよ。そしてさっき、昨日と同じくその昼の12時(時計で言う6時)に起きたら鞠莉が死んでた」


果南「さっき曜がこの死後硬直の進行具合は七時間半程度じゃないって言ったのもその通りで…実際は倍の十五時間経ってるから」


果南「つまり今現在の時刻…時計は7時半を指してるけど本当は15時ってこと」



曜「……」


果南「鞠莉も…恐らく梨子も0時の鐘と同時に死んだんだよ。それなら梨子も森に入れない…つまり森に入ることが死に繋がるわけじゃない」


ルビィ「そんな…」


善子「じゃあどうして二人は…」


果南「それは分からない…」


果南「…それから、みんなおかしいなって思ってることが他にもあると思うけど…」


花丸「なんでマル達は十二時間しか起きていられないのか…ずら」


果南「そう。時計の指す6時から12時までの十二時間は起きているのに、12時から6時までの十二時間は眠ってしまう」


果南「考えたく無いけど…それこそがここでのルールなんじゃないかな?」


四人「!?」


果南「半日眠って誰かが死んで、半日起きてまた半日眠って誰かが死んで…それを繰り返して最後は皆死ぬ…」


ルビィ「ま、まだ終わらないってこと…?また誰か死ぬの…?」


果南「分からない…あくまで憶測だから…」


花丸「もう嫌だよ…」ギュッ


果南「……」



善子「ねえ、やっぱり時計が壊れてないって理由にはなってないんじゃない?」



果南「そうだったね。ごめん。本来の半分だけしか進まないからややこしくなってるだけだね…異世界に来て狂っちゃったのかな…頭も時計も」


花丸「どの道AMの時間は眠っちゃっててPMの時間しか起きてられないってことずら」


善子「半分しか進まないなら、逆に今の時間を求めたければ時計の指してる時間に×2すればいいんじゃない?6時なら12時、7時半なら15時、9時なら18時、11時15分なら22時半って」


ルビィ「時計の数字が 1~12じゃなくて0から2個飛ばし…
(眠)0.2.4.6.8.10.12
(起)12.14.16.18.20.22.0
になったって考えれば覚えやすいかもね」


善子「あ…そうだ」


曜「ん?」


善子「さっき途中で言いかけたこと何?私が遮っちゃった…」


曜「ああ…ほら、百人一首の赤いシミの話だったじゃん?それでさ、上の句の札の方にもシミがあるんじゃないかなって…」


花丸「あ、そっちは見てなかったずら」


花丸「えっと…」ゴソゴソ



花丸「!!!!!!!!!」



善子「どうしたのズラ丸そんな驚ーー」



善子「!!!!!」



ルビィ「こ、これ…シミの札の上の句だよね…」


曜「嘘…私が読んだ時はこんなの書いてなかった…」


果南「この文字…真っ赤。血で書いてあるの…?」



【四人の王に陽は昇らずただ月が浮かぶのみ】



曜「どういうこと?」


ルビィ「四人の王様って何だろう…」


果南「陽は昇らず…ってことは朝は来ない…つまり死ぬのは四人ってこと?」


善子「まだあと二人…誰かが死ぬっていうの?」


曜「まさか……」


花丸「月が浮かぶのみ…」



花丸「そういえばマル、昨日すごく素敵な夢を見たずら」


善子「こんな時に何よ…」


花丸「夜、広~い海に浮かんでお空いっぱいのお星様とお月様を眺めてたずら。あまりにも綺麗だったからダイヤさんに言われてた和歌を作っちゃったんだよ。えーと確か…」




果南「その夢、私も見た」



花丸「え?」


果南「私が見たのは今日なんだけどね?大きい満月と、内浦でも見れないような空一面の星空を海に浮かんで眺めてたの。ダイヤが言う時雨亭の国宝級の月ってのにも負けてないような。あまりにも綺麗で…でもちょっと寂しくてその時一句詠んでみたり…」


曜「珍しいね。一日遅れで同じ夢を見るなんて…」


曜「あ、私は水の中で泳いだ夢を見たよ。青くて透き通った海中に陽の光が差しててさ。それで海の底に綺麗な石が落ちてたの。それを拾おうとしてそこまで潜って手に取る直前に目が覚めちゃったんだよね」


果南「それ、私が昨日見た夢だ」


曜「え?」


果南「私は拾おうとはしなかったけど、他は全部一緒…」


曜「じゃあ果南ちゃんと一日遅れで同じ夢を見た…ってこと?」


果南「あまりにも偶然過ぎない?」


善子「何よそれ。私も、水に浮かんでる夢だったわ。でも、散々だったわよ。夜の水面に豪雨が降り注いで…雷でも落ちて天に召されるんじゃ無いかと思ってヒヤヒヤしたわ」ガクガク


善子「あ、昨日の夢は雨こそ降らなかったけど新月で真っ暗な水面に浮かんでたわ。何より水が冷たくて死ぬかと思ったわよ!なんで私ばっかり悪夢を…」




花丸「それ!マルが今日見た夢ずら!!」


善子「え!?」



花丸「昨日の夢の景色が素敵過ぎて今日はすっごく酷く感じたずら。空は微妙だし水は冷たいし…」


曜「これは偶然では無さそうだね」


果南「うん。みんなが同じような夢…いや、一日違いで全く同じ夢を見てる人もいる。これは…」


ルビィ「……」


曜「…そう言えばルビィちゃん。昨日の朝、泣いてたけどさ」


曜「もしかして、夢と関係ある?」


ルビィ「……」ビクッ


善子「そうなのルビィ!?」


ルビィ「うん……」


花丸「ルビィちゃん…」


曜「話してくれるかな?」


ルビィ「……」


果南「大丈夫だよ。自分のペースで」


ルビィ「……」




ルビィ「血の海だった…」



善子「血の海!?」


曜「どういうこと!?」


ルビィ「ルビィ…水の中にいたんだけど突然上から絵の具でも落としたように周りの水が真っ赤というかドス黒い赤に染まって…それが怖くて怖くて…」


花丸「そうだったんだ…だから…」


ルビィ「うん…」


果南「それを見たって人、他にいる?」


曜「……」


花丸「……」


善子「……」


果南「そう…じゃあ今日は?」


ルビィ「今日は血じゃなかったけど…生暖かい水の中は酷く濁ってて分かりにくかった…」


果南「それを見たのは…」




千歌「私」



五人「!!!!」


曜「千歌ちゃん!!」


千歌「ごめんね。もう大丈夫だから…」


果南「そう…」


花丸「……」


善子「で、ルビィが見た夢…見たの?」


千歌「うん。昨日ね…なんだかよく分からなかったけどルビィちゃんの見た夢で間違い無いと思う。生暖かくて濁った分かりにくい水の中を泳いでた」


花丸「今日は?」


千歌「今日は何もない冷たーい水の中を彷徨ってただけだよ」


曜「それ私!今日見た!!」


ルビィ「また被ったね…」



果南「……」


花丸「果南さん?」



果南「今、みんなが口にした夢は何種類?」



曜「えっと…

・綺麗な月明かりと星空の水面
・水底に何かある青く透き通った美しい水中
・雨に晒される水面
・新月の冷たい水面
・赤くドス黒い血のような水中
・生暖かくて濁った水中
・真っ暗で冷たい水中

…の七種類だよね?」


果南「この中で例えば曜が一日目夜に見た夢は千歌が二日目夜に見てて、曜が二日目夜に見た夢は私が一日目夜に見たりしてる」


果南「つまり、この夢は順番になってるんじゃないかな?」


千歌「順番…」


果南「そうすればルビィの血の夢を他の誰も見てないのにも納得がいく。あれが最初の夢だったから。で、今日見たのは二番目の濁った水の夢なんだよね?」


ルビィ「うん…」



千歌「つまり私は二番目の生暖かくて濁った水の夢から始まったんだね。で、今日見たのは三番目の何もない冷たい水中の夢」


曜「私はその三番目の冷たい水中の夢から始まって、今日見たのは四番目の綺麗な水中の夢。水底に石を見つけた」


果南「私はその四番目の綺麗な水中の夢から始まって、今日見たのは五番目の綺麗な月と星空の水面の夢」


花丸「マルはその五番目の月と星空の水面の夢から始まったずら。今日見たのは六番目の冷たい水面の夢」


果南「つまり…

一…血染めの水中…【ルビィ】
二…生暖かくて濁った水中【千歌】
三…真っ暗で冷たい水中【曜】
四…水底に何かある美しい水中【果南】
五…綺麗な月明かりと星空の水面【花丸】
六…新月の冷たい水面【善子】
七…雨に晒される水面

…で始まって一日経つごとに下に一つずつずれた夢を見ていくことになるね」


果南「そして七番目の雨に晒される水面の夢…これを他に見た人はいない。いるとしたら…」



果南「死んだ梨子か鞠莉だけ」


千歌「!!!」


果南「つまり、この夢は死の順番を表しているんだよ。恐らく梨子は初日に八番目…つまり死の夢を見てしまった。そして、その日鞠莉は七番目だった。だから一日経って鞠莉は八番目の夢を見ることになっちゃってそれで…」



曜「待って…ということは…」


果南「うん…多分今夜死ぬのは七番目の夢を見ちゃった…」


千歌「……」


曜「……」


花丸「……」


ルビィ「……」



善子「いや…」



果南「善子の番かも…」


善子「い…いや……いやよ…」ポロッ




善子「いやああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!



ーーーー
ーー



ダイヤ「まさか聖良さんもこちらにいらしていたとは…」


聖良「ええ。母に変わり名家、鹿角家の長女として今年から歌合へ参加させていただくことになったんです。昨晩は雪の影響で遅れてしまい夜の会合には間に合いませんでしたが…」


ダイヤ「成る程それで…」


ダイヤ「……」


ダイヤ「という事は…」


聖良「私たちは親戚…ということですね。遠い遠い…」


ダイヤ「ええ…」


聖良「さて、事情を説明してもらえますか?」


聖良「こういう時は遠い親戚より近くの他人というやつですよ。お力になれるよう努めますから。ふふっ、まあ私の場合どちらにも該当するんですけどね」


ダイヤ「他人だなんてとんでもありませんわ。今こうして頼れるのは、スクールアイドルとして親睦の深まった聖良さん、あなたしかいないんですの」


聖良「恐縮です」


ダイヤ「『八人の神隠し』についての説明は受けられましたか?」



聖良「ええ。到着してここに案内されるなり私の部屋の前に明らかに怪しい人物が二人も佇んでいるものですから訝しいなと問い詰めてみたんです。そうしたら白と黒の狐のお面の方が慌てて走って来て説明してくださりました」


ダイヤ「そ、それなら話が早いですわ」


ダイヤ「今朝起きたら部屋の外でこの家の方々が話されてるのを耳にしまして…どうやら例の神隠しの被害にあったのがルビィ達だと…」


聖良「達…と言う事はつまり、Aqoursの他の七人もということですか?」


ダイヤ「はい。昨日、皆さんは私の誕生日会を開いてくださるということで全員が家に集まったのですわ。まあ途中から百人一首大会になってましたけど…」


ダイヤ「私はこの内裏歌合のため途中で抜けてきましたが皆さんはそのまま泊まったんですの。恐らくそのまま神隠しの餌食に…」


聖良「なんと…」



聖良「ん?」


ダイヤ「どうされました?」


聖良「ダイヤさん、少し上を向いていただいてもよろしいですか?」


ダイヤ「こう…ですか?」グイッ


聖良「!!!!」


ダイヤ「聖良…さん?」


聖良「…鏡です」スッ


ダイヤ「……」バッ



ダイヤ「!?!?!?!?!?」



ダイヤ「こ、これは…何ですの!?」


聖良「マジック等では無さそうですね。肌に刻み込まれています…」


聖良「円卓の中に複雑な文字と更に小さな円が八つ…内一つは中に赤い奇妙な文字が刻まれています…」


聖良「間違いありません。説明に聞いた九人目の死体に刻まれている紋章です」


ダイヤ「そんな…」


ダイヤ「昨日は無かったのに…何故…」


聖良「ダイヤさんが神隠しに関係しているのは…どうやら間違いないようですね」


ダイヤ「……」


ダイヤ「やはり私が皆さんを…」


聖良「……」


ダイヤ「正直、こうなってしまった以上私が疑われるのも無理は無いと思っていますの。ただ、本当に分からないんです…何故ルビィ達がこんな目に遭ってしまったのかも…」


ダイヤ「過去の神隠しに則ればこのままでは5日の昼には皆死んでしまう…それに、おそらく九人目の死者となるのは私でしょう…」


ダイヤ「いえ…もし私が生まれつきそのような妖の力を持ち関係ない皆さんを巻き込んでしまったのなら…私は死んで償うべき。この世に生きている意味などありませんわ…」


ダイヤ「で、でも本当に私は故意に皆さんを殺めようとしたのではーー」



ギュッ


ダイヤ「!!!」



聖良「落ち着いてください。大切な皆さんがいなくなって取り乱す気持ちも分かります。ですが残されたあなたがそれでは前に進めません」


聖良「私も、あなたが関係しているとは思っていますが…神隠しの犯人だなんて微塵も疑っていません。どうか気を確かに。私がダイヤさんを匿いますから」


ダイヤ「申し訳ございません…私…」ポロポロ



聖良「あなたはあの狐の言葉を鵜呑みにし過ぎです」


ダイヤ「え…?」


聖良「白狐の話を聞いておかしいと思う点、何かありませんでしたか?」


ダイヤ「おかしな点…た、確かにいくつもありましたけど…」


聖良「白狐の言うことを真に受けてはいけません。彼女…いえ、今回の内裏歌合は怪しい点が多過ぎる…」


ダイヤ「……」


聖良「まず、九人目の死体の件ですが…その死体は首の無くなった状態で見つかるのですよね?」


ダイヤ「え、ええ…」



聖良「ですがダイヤさん。あなたの紋章は首にある」


ダイヤ「!!」



ダイヤ「そ、そうですわ…確か白狐はこの紋章は過去の死体全てに決まって同じ場所に刻まれていると言っていましたわ」


聖良「ええ。だとしたら無くなった首に刻まれている紋章など見つけようがないのです。それに、自害も不可能。自らの首を切り落としてそれを誰にも見つからない場所に隠すなんて…どうしてできましょうか?」


ダイヤ「あの方は嘘をついた?」


聖良「そうなりますね…」


聖良「それに、そもそも何故あの方々は顔を隠す必要があるのでしょうか…?」


ダイヤ「そ、そうですわよね。私達の家系の者ならわざわざ顔を隠す必要などありませんわ。あの二人以外この屋敷の他の方は誰も狐のお面をしていませんでしたから…」


聖良「身バレするのを恐れている…ということでしょうか?」


ダイヤ「確かこちらのお屋敷の幹事様が体調を崩されたことであの二人がその代役を買って出たそうですが…」


聖良「ん?あの二人は四十五の名家に含まれているわけではなく、こちらのお屋敷に住まわれているのですよね?」


ダイヤ「恐らくですが…昨日も『我々の家系』と言っていましたし、でなければあのように仕切ることなど不可能でしょう」


聖良「一応名簿を見て確認を…」


ダイヤ 聖良「!!!」


ダイヤ「名簿…そうですわ。確か四十六の名前が記されていると…」


聖良「その紛れた家系に気付くことができれば恐らくーー」



ドサドサドサドサ…



ダイヤ 聖良「!!!」


ダイヤ「な、何でしょうか…やけに廊下が騒がしいですが…」


聖良「すみません。そろそろ朝の会合の時間です」


ダイヤ「ああ、そうですか…」


聖良「内容は想像が付きます。間違いなくダイヤさんの事でしょう」


ダイヤ「……」


聖良「安心してください。こちらもあの狐…いえ、こちらの家の者達が何を隠しているか…少しずつ調査してみます。何か参考になりそうなものがあったらここへ持ってきますので…ダイヤさんは見つからないよう押入れに隠れていてください」


ダイヤ「分かりました…」


聖良「では…」スッ


ダイヤ「あの…!」


聖良「?」


ダイヤ「よろしくお願いしますわ」


聖良「ふふっ。任せてください」



ーーーー
ーー


シーン…


ダイヤ「……」


ダイヤ「……」


ダイヤ「…あれからどのくらい時間が経ったのでしょうか?6時間…いえ、30分も経っていないかもしれませんわ」


ダイヤ「暗闇だと時間の感覚というのは分からなくなるものですわね」


ダイヤ「…恐らく皆さんもこうした暗闇の中で身を寄せ合い迫り来る命の終わりに怯えているのではないでしょうか…」


ダイヤ「現在は2日の…昼前くらいでしょうか?タイムリミットはあと3日…あまりにも短すぎる。それまでに皆さんを助けなければ…」


ダイヤ「……」


ダイヤ「首の無くなった九人目の死体…それからその死体であろう四十六家目を認識できないということ…」


ダイヤ「どうも引っかかりますわね」



ジュッ…



ダイヤ「!?!?!?」



ダイヤ「あぐっ!?」ドサッ


ダイヤ「首が…首が熱い…!?」ググッ


ダイヤ「ぐっ……」ググッ



聖良「ダイヤさん。遅くなって申し訳ありません。ただいま戻りーー」ススッ


聖良「!!」


ダイヤ「はぁ…はぁ…ぐっ…」


聖良「ダイヤさん…!?」


ダイヤ「ううっ……」


聖良「大丈夫ですか!?」バッ


ダイヤ「だ…大丈夫です……」ハア…ハア…


聖良「ちょっと失礼します」スッ


聖良「!!!!」


ダイヤ「せ…聖良さん?」


聖良「紋章が変化しています」


ダイヤ「!!!」


聖良「ここ、先程は八つある円のうち一つだけに文字が刻まれていました。しかし今は一つ増えています…」


ダイヤ「文字が二つ…」


聖良「何を意味しているのでしょうか…」


ダイヤ「!!」


ダイヤ「聖良さん、今は何時ですか?」



聖良「え?えっと…12時02分ですが…」


ダイヤ「実は昨晩…眠りについてすぐ、恐らく0時頃にも同じような苦しみに襲われたんですの…」


聖良「!!!」


聖良「と言うことはその時にその紋章と一つ目の文字が刻まれたということですね…」


ダイヤ「はい…」


聖良「つまりその紋章は12時間ごとに文字が増えていくことになりますよね?」


ダイヤ「え、ええ。確かに…午前0時、そして先程の12時ちょうどの痛み…」


聖良「そうすると全ての円に文字が刻まれるのは


2日夜…一文字目
2日昼…二文字目…
ーーー現在ーーー
3日夜…三文字目
3日昼…四文字目
4日夜…五文字目
4日昼…六文字目
5日夜…七文字目
5日昼…八文字目


…行方不明の八人ともう一人の死体が見つかる日時です」


ダイヤ「まさか…」


聖良「恐らく12時間ごとにどこかでAqoursの誰かが一人死んでいる…その度に紋章が更新され、5日の昼、全ての円に文字が刻まれると同時に向こうにいる皆さん、そしてダイヤさんも…」


聖良「全員が亡くなったと同時に異世界にいた皆さんが死体となってこちら側に戻ってくる。それがこの《八人の神隠し》…そしてその後の死体の状況の真理なのでしょう」


ダイヤ「では…既に二人が死んでいるということでしょうか…」プルプル



聖良「…逆に言えば六人は生きています。急げば犠牲は少なーー」



ダイヤ「ダメですわ!!!!!!」バンッ!



聖良「!!」


ダイヤ「ダメなんです…」


聖良「ダイヤ…さん?」


ダイヤ「Aqoursは九人ですの…九人でAqoursですの…誰か一人でも欠けてしまったらもう…」


聖良「……」


ダイヤ「くっ…」ポロッ


聖良「…ダイヤさん。申し訳ありません。失言でした。ただ、まだ時間はあります。異世界の彼女達を救う事ができれば既に死んだ方も生き返るかもしれない」


ダイヤ「聖良さん…」


聖良「もちろん確証はありません…限りなく低いかもしれない。ただ、諦めてしまったら僅かにあったかもしれない可能性は0になります。恐らく向こうでも残された皆さんは必死に抗っているはず。だからダイヤさんも…」


聖良「見せてください。0を1にする力。あなた達Aqoursの力を」


ダイヤ「……」


ダイヤ「…分かりましたわ。時間がありません。なんとしてでも皆さんを救い出しましょう」


聖良「ええ!」


ダイヤ「聖良さん。先程の会合の様子を聞かせてください」


聖良「…はい。やはり内容はダイヤさんのことでした。黒澤家が長年私達を苦しめた呪いの家系だと。そのダイヤさんは逃げ回っていて今もこの屋敷の中にいるだろうから十分警戒をしてくれとのことでした」


聖良「その後、一応一人一人細かな取り調べを行うということで時間がかかり昼になってしまいました。勿論私は黙っていましたし、他の方も無実だと分かったのですが…」


聖良「私たちはダイヤさんが見つかるまで外出を禁止…この屋敷に閉じ込められたままです」


ダイヤ「……」



聖良「この屋敷にいるすべての人間に伝わってしまった以上、もう部屋の外を出歩くことはできないと思います。皆がダイヤさんを血眼になって探していますから…」


ダイヤ「そうですか…」


聖良「それから…ダイヤさんの親御さんの身柄を拘束しているようで…三日後、九人の死体が見つかると同時に処刑するそうです」


ダイヤ「なっ…!?」


聖良「こうなってしまった以上、三日後のタイムリミットを迎えるまでに身の潔白を証明しなければいけません」


ダイヤ「くっ…分かっていますわ…」


聖良「そして、例の名簿についてです。取り調べの時、あの白狐に見せて欲しいと頼んだのですが…」


聖良「頑なに断られました」


ダイヤ「なっ…何故ですの!?」


聖良「他にも何人か聞いてきた人はいたそうですが…これは参加者の個人情報が載っているからと拒むばかりで…」


ダイヤ「怪しいですわ…やはり何か隠しているに違いありません…」


聖良「見せてもらえないなら奪うのみです。私はこの後、午後の歌合が控えていますのでそちらに参加して更なる情報を集め…隙あらば…」



ダイヤ「大丈夫…ですか?」


聖良「任せてください。もし私が捕まるようなことがあってもダイヤさんのことは決して漏らしませんから」


ダイヤ「聖良さん…」


ダイヤ「本当に何とお礼を申したら良いのか…無力な自分が腹立たしくて仕方ありません」


聖良「無力だなんてとんでもありません。協力して真実を暴きましょう。困った時はお互い様ですよ」


聖良「それでは、引き続き押入れに隠れていてください」スッ


ピシャ…


ダイヤ「……」


ダイヤ「私も私にできることを…」




「…出て行きましたね」


「ああ。調べるとしようか」



ダイヤ「!?!?」



ダイヤ「この声は…白狐と黒狐…」


ダイヤ「マズい…早く押入れに」ササッ


ピシャ…


ダイヤ「……」ドキドキ


ススッ…


白狐「誰もいませんね」


黒狐「鹿角聖良。取り調べでも少々疑り深く頭のキレる人間だと感じた。黒澤ダイヤを匿っているとは思えないが…既に我らの意図に気付き尻尾を掴まれているかもしれない」


ダイヤ(警戒されていますわ…)


ダイヤ(黒狐…無口だとは思っていましたが常に参加者を監視していたのですわ…)


白狐「一応この部屋も探ってみましょう」



白狐「例えばそこの押入れとか」


ダイヤ「!?!?!?!?」


黒狐「御意」


ダイヤ(くっ…!)


黒狐「開けるぞ」


白狐「はい」


ダイヤ(そんな…)


ダイヤ(ここまでだなんて…)




聖良「残念ながらここにお揚げさんは置いてありませんよ。怪しい狐さん方」



白狐 黒狐「!!!!」


ダイヤ(聖良さん!?)


聖良「ふふっ。昨日のプライバシー云々の約束が早速破られてしまいましたね」


白狐「……」


聖良「どういうおつもりですか?」


白狐「もうすぐ午後の歌合が始まりますのでお呼びにーー」


聖良「部屋の外で隠れて見ていましたよね?私が広間に向かうのを。苦しいですよ」


白狐「……」


聖良「…やはりあなた方はどうも信頼できない。いえ、私たち参加者を信頼させようとする気がない。疑雲猜霧のこの状況で呑気に歌合だなんて何を考えているのやら。ふふっ…さぞかし楽しい和歌の読み合いになるんでしょうねぇ…」


聖良「隠していること洗いざらい皆さーー」


黒狐「鹿角聖良」ヌッ


聖良「!!」


黒狐「これ以上の深追いはよせ。身のためだ。今は黒澤ダイヤを見つけることさえ叶えばそれでいい」ズズッ


聖良(こいつ…)ゴクリ



白狐「そういうわけですので…歌合に遅れないようよろしくお願いします。それでは」スッ


黒狐「……」スッ


聖良「……」


ダイヤ「……」


聖良「ふう…」ドサッ


ダイヤ「だ、大丈夫ですか聖良さん?」ススッ


聖良「…ええ。釘を刺しておきましたから、もうここに来ることはないと思いますよ。恐らく…」


ダイヤ「ありがとうございますわ」


ダイヤ「ただ、これではっきりしましたわね」


聖良「ええ。彼女たちは間違いなく何かを隠している。そしてそれが漏れるのを酷く恐れている」


聖良「ふふっ…腕がなりますね」


ダイヤ「くれぐれも気をつけてください。聖良さんのこと、物凄く警戒していましたから」


ダイヤ「特にあの黒狐…」


聖良「分かっています…」



ドクン…


~満ちたれど 満ちてはならぬ 散りぬれば
かたは十六夜 ただいたづらに~



ダイヤ「!?!?!?!?!?」



ダイヤ「だ、誰ですの!?」バッ


シーン…


ダイヤ「……」


ダイヤ「今の声は…」


聖良「だ…ダイヤさん?」


ダイヤ「今、和歌が聞こえませんでしたか?」


聖良「いえ、何も…」


ダイヤ「いや…声というより頭の中に直接文字が流れてきたかのようですわ」


ダイヤ「どうして…それにこの和歌は一体…」


ダイヤ「確か夜眠っている時にもーー」


聖良「だ、大丈夫ですか?」


ダイヤ「ええ…」


ダイヤ「……」



コチッ…コチッ…コチッ…


花丸「23時50分…あと20分…」


曜「実際にはもう少し前に眠りに入っちゃうよね…」


善子「やだ…私死にたくない死にたくない…」ボロボロ


果南「落ち着いて善子。作戦通りいくよ」


ルビィ「そ、そうだよ!起きてさえいれば夢も見ない…だから死ぬこともないよ!」


千歌「……」


果南「こうして立って肩を組んでいれば大丈夫。私たちは一つだから…ね?善子」


善子「ヨハネよ…グズッ…」ボロボロ


曜「それが言える余裕があれば大丈夫だよ」ギュッ


果南「……」ギュッ


花丸「……」ギュッ


ルビィ「……」ギュッ


千歌「……」ギュッ


善子「……」ギュッ









ダイヤ「……」スヤスヤ


聖良「ダイヤさん」スッ


ダイヤ「……」スヤスヤ


聖良「ダイヤさん!」


ダイヤ「はっ!?」バッ



ゴチン!!


ダイヤ「ぴぎゃっ!?」


聖良「だ、大丈夫ですか…?」


ダイヤ「あたたたた…ど、どうってことありませんわ!」


ダイヤ「…すみません。どうやら眠ってしまったようですわ…」ノソノソ


聖良「いえ、構いませんよ…」


聖良「こちら、お召し上がりください。夕食の残り物のお餅ですが…朝から何も口にされてないでしょう?」コトッ


ダイヤ「…ありがとうございます」


ダイヤ「ただ…今は喉を通りそうにありませんの。申し訳ありません」


聖良「ああ、そうですね。すみません。紋章が全て刻まれる前に喉に餅を詰まらせて死ぬなんてたまったものではありませんね」


ダイヤ「……」


聖良「すみません。冗談で言ったのですが…」


ダイヤ「いえ、こちらこそ…ご厚意を無駄にしてしまって申し訳ありません」


ダイヤ(私は何をやっていたのでしょうか…何かしなければいけないのに…結局押入れの中で無駄な一日を過ごしただけでしたわ…)


ダイヤ(こうしている間にも皆さんは…)



聖良「ダイヤさん?」


ダイヤ「!!」



聖良「大丈夫ですか?」


ダイヤ「え、ええ…」


ダイヤ「歌合はどうでしたか?」


聖良「残念ながら…狐が目を光らせていたため名簿を奪うどころか自由に動くこともままなりませんでした」


ダイヤ「そうでしたか…」


聖良「しかし書庫で神隠しの参考になりそうな書物をいくつか借りてきました」ドサドサ…


ダイヤ「こんなにたくさん…」


聖良「同じジャンルばかり借りると怪しまれると思ったのでほとんどがダミーです。実際はその三分の一もありません…」


聖良「今は押入れに隠しておきましょう」ゴソゴソ


聖良「あと、一緒に懐中電灯もくすねてきたので…目に悪いとは思いますが、どうか中でお調べください」スッ


ダイヤ「何故そこまで…」



聖良「前に言ったじゃないですか」


ダイヤ「?」



聖良「私と理亞はA-RISEに憧れてスクールアイドルを始めようと思った。あなた達はμ'sに憧れてスクールアイドルを目指した…」


聖良「決勝でアキバドームに立ち、頂点からその景色を見る。感じる。どちらかがそれが叶うまで、私達はライバルである必要がある。こんなところでくたばってもらっちゃ困りますよ」


ダイヤ「聖良さん…」


聖良「ライバルとは共に戦うだけでなく共に戦う仲なんです」


ダイヤ「……」


聖良「ふふっ、分かりにくかったですか?」


ダイヤ「…いえ、よく分かりましたわ」


ダイヤ「私も…いえ、私達もSaint Snowのお二人と頂点を目指したい…」


聖良「その行く手を阻もうとする障壁は協力して打ち破って行きましょう」


ダイヤ「ええ…」



聖良「…もうすぐ0時になります」


ダイヤ「……」


聖良「例の法則に則れば、もうすぐ紋章に新たな文字が刻まれます…」


聖良「つまり、三人目の死者が…」


ダイヤ「……」


ダイヤ「皆さん…」


コチッ…コチッ…



善子「私ね…Aqoursに入って本当によかったって思ってる」


曜「!!」


ルビィ「善子ちゃん!」


善子「言わせて!」


ルビィ「!!」


善子「言わせて…今だからこそ言っておきたいの」


ルビィ「でも…」


果南「ルビィ」


ルビィ「うん…」




善子「…私ね、昔はずっと、自分はいつか天使になるんだ。みんなとは違う特別な存在なんだって信じて疑わなかったの。頭に輪っかが浮かんで羽が生えて空を飛んで…みんなが憧れる存在になるんだ!って…」



善子「でもね?小学生になって色んなことが少しずつ分かっていくうちに気付いちゃったの。この世に天使は存在しない…空想の産物なんだって。理想に裏切られて目にすることになった現実は…と言うと残酷で、普通だった…とっても。でも、クラスのちょっとした人気者がチヤホヤされていたり、私と同い年の子がアイドルになってテレビに出ていたりすると…ああ、これだったんだ。これが私のなりたかった特別ってやつ。天使の姿なんだって思った」


善子「そう思うと余計胸が苦しかった。天使は実在した。したからこそ、それになれない自分が腹立たしくて仕方なかった。だから私は堕ちたの。願っていた特別にはなれない。ただ普通ではいたくない。そうした葛藤が生み出した答えは両者でもない第三の存在…堕天使。その特別とは対極を成しながらも表裏一体の存在。堕天使…神が私の美しさに嫉妬して人間界に落としたなんてのは嘘。本当は私が天使に嫉妬して勝手にやさぐれただけなの。分かってる」


花丸「善子ちゃん…」


善子「私は自分が特別視され脚光を浴びてるっていう錯覚に酔うのが日常になって堕天使がやめられなくなった」


善子「…でも嫌いじゃなかったの。どんなに道は逸れても、なんとか普通じゃない自分を見つけるため邁進しようとするその意思だけは守りたかった。それをやめてしまったら津島善子は津島善子じゃなくなっちゃう。いつしか私が私でいられるために堕天使は不可欠な存在になっていたの」


善子「ただ…やっぱりそこに落ち着けなかった。なぜなら周りの目があったから。特別でも脚光を浴びるとはまた違う、逆の意味の視線を感じてて…そういった存在で中学を終えてしまった。だからその人達のいない遠くのここ、浦の星女学院を逃げるように選んだの」


善子「選択を迫られたわ。堕天使を続けて私なりの特別であろうとするか、普通に戻るべきか…前者を選んだ私は、結局初っ端から中学と同じ失敗を繰り返して…やっぱ堕天使はもうダメ。このままじゃいつまで経っても誰とも上手くやれない。だから卒業しようって決めた」




善子「そこで私を捨てようとしていた私を救ってくれたのがみんな…Aqoursという存在だったの」



千歌「!!」


善子「周りに自分がどう思われるか…ううん、周りに自分をどう思わせるか。自分の好きを受け入れて一番輝いた姿を見てもらう。そこはかつて私の憧れた天界…天使達の姿。葛藤して宙に浮いたままだった堕天使の私がスッと身体に舞い戻ってきた」


善子「Aqoursの白い翼。そして私自身の黒い翼。私が飛び立つためにはどちらも欠けてはならないの!だからこれからも、ありのままの私でみんなと笑って泣いて歌って踊って過ごしていきたい!」


善子「ズラ丸」


花丸「ずら!」ギュッ


善子「ルビィ」


ルビィ「うん…」ボロボロ


善子「ふふっ」ギュッ


善子「果南さん」


果南「うん!」ギュッ


善子「曜さん」


曜「ヨーソロー!」ギュッ


善子「梨子さん…鞠莉さん…」


梨子「…」


鞠莉「…」


善子「千歌さん」


千歌「うん」ギュッ



善子「これ…預かってて」スッ


千歌「黒い羽…」


善子「ええ。明日の朝、私が目覚めた時に返してくれればいいから。それまで…」スッ


千歌「目覚めたって…私達は寝なーー」


善子「お願い」



千歌「!!!!」


善子「託されて…」


千歌「……」


千歌「…分かった。約束だよ?」ギュッ


善子「契約に背くことは許されないわ。絶対よ」


千歌「うん…!」



善子「…みんな、今まで本当にありがとう!」


善子「そして、こんな私だけどこれからもよろしくね!」ニコッ












ゴーンゴーンゴーン…
ゴーンゴーン…



コチッ…コチッ…コチッ…


ダイヤ「……」


聖良「……」



ゴーン…ゴーン…ゴーン…ゴーン…



聖良「時間です」


ダイヤ「ええ…」



ザザーン…
ザザーン…



……大きな満月と綺麗な星空


……


間違いないや。例の夢だ。順番通り…


本当だね。花丸ちゃんと果南ちゃんが言ってたように凄く素敵な景色だよ


いつもなら月に向かってヨーソロー!なんて言って…千歌ちゃんや梨子ちゃんと追っかけようとしてたかもね…


それくらいに美しい…


ずっとこのまま時が止まってしまえばいいのに…


でも星が瞬くのも、波が立つのも、風が吹くのも…みんな時間が刻まれている証拠なんだよね…


後戻り…できないんだね…


……


嘘だ…


嘘だよこんなの…


なんで?なんで眠っちゃったの?


みんなで起きてようって決めたのに、肩組んで誓ったのに…


善子ちゃんと…また九人で飛び立とうねって誓ったのに…


…善子ちゃんは分かってたのかな…最後、私が起きた時に羽を返してなんて言ってたけど…


死ぬって分かってて…それなのにあんなに笑顔で…


酷い…残酷過ぎるよ…



あそこに大きく丸く光ってるのは…希望の光じゃなかったの?


……



スゥッ…



ジュッ…


ダイヤ「熱っ…!?」


聖良「!!」


聖良「また紋章が変化しています…」


ダイヤ「はぁ…はぁ…三人目の犠牲者ですか……」ググッ


聖良「恐らく…」


ダイヤ「みなさん…」


ダイヤ「くっ…」ダンッ!


聖良「あと五人…」


ダイヤ「二日半ですか…」


聖良「はい…」


ダイヤ「そんな…」



ドクン…


~あくがれて 翔ける先には 朧月
さるはゆかしき 及ばぬ羽かな~



ダイヤ「!!!!」


ダイヤ「やはり和歌が聞こえましたわ!」


聖良「本当ですか!?」


ダイヤ「ええ。はっきりと」


聖良「私には全く…」


ダイヤ「この和歌は決まって紋章の更新の後に聞こえてくるんですの」


聖良「直後ですか?」


ダイヤ「いえ…今はそうでしたが昼はもう少し遅かったですし、初日は痛みにうなされてから二時間くらいはあったと思います…」


聖良「そうですか…」


聖良「和歌…紋章と関係があるのは間違いないと思いますが…」


ダイヤ「……」



ザザーン…
ザザーン…


…なんて詠っても、月は答えてくれないんだよね…


…じゃあこの怒りと悲しみの矛先はどこに向けたらいいの?


私達の幸せを奪ったのは誰?何?
自分の無力さ?それが悪い?
自分を矛で抉ればいい?


それでいい?それで気が済む?
でも傷付くよ?痛いよ?


だったら私ーー



ドクン…


~心にも あらで浮世に 水面夢
うつよ乱れど 心でいづこ~



!?!?!?


何…今のは?


頭の中に流れ込んできた…


果南ちゃんも花丸ちゃんもこんなこと言ってなかった…


何……


!!!


まさか…善子ちゃん!!!!


そ、そうだ…
私だけが寝ちゃったんだ


だからみんな起きてる…
違いない…


はは…助かったんだ…
これ以上みんなが死ななくて済むんだ…


早く起きて謝らないと…!



……


……



ゴーンゴーンゴーン…
ゴーンゴーンゴーン…



曜「そんな……」ガクッ



果南「ごめん……」グッ


花丸「……」ギュッ


ルビィ「うぅっ…ぐずっ……」ボロボロ


千歌「善子ちゃん」


善子「…」


千歌「善子ちゃん。朝だよ起きて」


善子「…」


千歌「羽返さないとさ。契約は絶対なんでしょ?」


善子「…」


千歌「ねえ、約束したでしょ?一緒に凧揚げしようって。梨子ちゃんの目盗んで学校まで走ってさ」


果南「千歌」


善子「…」


千歌「…そっか。善子ちゃん、根は真面目さんだからちゃんとダイヤさんに言われた事守るんだね。偉いなぁ…そうだよね。面倒だけど和歌と百人一首のお勉強しなきゃだよね」


果南「ねえ千歌」


善子「…」


千歌「ほら、でもお正月だからって遅くまで寝てると太っちゃうよ善子ちゃん。早くやることやって一緒にーー」


果南「千歌!!!!!!」



千歌「約束したじゃん!!!!!」



果南「!!!」


千歌「自分であろうと、自分のために、自分だけのものを求めて、ずっと自分と闘ってきた善子ちゃんと!!!これからもずっとずっと一緒に頑張ろうって!!!Aqoursで頑張ろうって!!!」ボロボロ


果南「……」


千歌「ねえ翼はどうしちゃったの!?飛ぶんじゃなかったの!!?自分の大好きをみんなに見てもらうんじゃなかったの!!?!?善子ちゃん!!!!!!!!!」ボロボロ


果南「千歌…」ギュッ


千歌「ううっ…ぐずっ……」ボロボロ


果南「善子の顔…見て」


果南「笑ってる」


千歌「!!」


果南「それからお腹の上の手…」パサッ


果南「見て」


千歌「あ……ああ…」ボロボロ



果南「九になってる。ほら、善子ったらこんなに親指を強く曲げて…」


果南「善子はね…善子は、最後に見せたかったんだよ。私たちに…」



果南「自分の大好きを!!!」ポロポロ


千歌「ああ……」ボロボロ


果南「だから責めないで…分かってあげて…」ギュッ


ルビィ「うええっ…ぐずっ…ヒック…」ボロボロ


花丸「善子ちゃん…ううっ…」ポタポタ


曜「くっ……」ポタポタ



千歌「うわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……



【津島善子 死亡】


ーー残り5人



ーー3日未明


ダイヤ「……」


聖良「…zzz」スヤスヤ


ダイヤ「……」


ダイヤ「もう眠ってしまいましたか…」


ダイヤ「狐に警戒されながらもなんとか手掛かりを掴もうと必死に動いてくださっていたのですから…無理もありませんわ」


ダイヤ「……」


ダイヤ「私が内浦を離れてから一日半…その僅かな間に皆さんが消え、私がその謎の神隠しとやらの犯人として追われ、既にメンバーの三人も死んでしまっていることが分かりましたわ」


ダイヤ「これは本当に現実なのでしょうか…今まで決して平坦な道で無くとも、千歌さんを筆頭に九人肩を寄せ合い同じ方向を見つめて共に歩んできましたわ」


ダイヤ「しかしこれは余りにも突然で残酷過ぎる…」


ダイヤ「こんなわけのわからない呪いのせいで大切なAqoursが散り散りになって消えてしまうなんて…」ギュッ


ダイヤ「皆さんはもっと辛いはず。死の恐怖、仲間を失う悲しみ…その悲痛な叫びこそがこの紋章の痛みなのでしょう…」


ダイヤ「これで皆さんと痛みを分かち合えるのなら…」



ダイヤ「ん…?」スッ


ダイヤ「窓から刺すあの光は…」ノソノソ


スススッ…
ガラガラガラ……



ダイヤ「!!!!!!!」



ヒュォォォォォォ…


ダイヤ「まあなんと…」


ダイヤ「昨夜は曇っていたのでその姿を捉える事叶いませんでしたが…」



ダイヤ「これが時雨亭の水面月…」


ダイヤ「庭園の大きな池に反射していて…まるで空と地の月の双子。なんて幻想的で風光明媚な様でしょう…」


ダイヤ「国宝級の絶景…それはただ単に美しいからでは無いのですわね。その姿ありのままに、正直に光輝く空の月…それに対して揺れる水面に浮かぶ月はまるで心を透かしたように切なく、悲しみを物語っているかのよう…」


ダイヤ「美しい月を見て綺麗だと思う心…同時にそれを己に照らし合わせて悲しいと思う心…その対比は多くの人のもの。それは歴史が重なるごとに深みを増し…約千年もの時を経てここに鎮座するその面影はずっと変わらなくて…でも変わっていて…」


ダイヤ「ふふっ。できれば皆さんと眺めたかった…いくら美しい月でも一人寂しく眺めたところで虚しいだけですわ…」


ダイヤ「……」チラッ


聖良「……zzz」


ダイヤ「聖良さんはああ言ってくださいましたが…やはり私は無力ですわ。大切な仲間のピンチを分かっていながらも何も出来ない…ただ死を待つのみ…」スヤスヤ


ダイヤ「できれば皆さんを助けたい…しかし、もしそれが叶わぬと言うのなら皆さんと共に死を迎えるのも本望ですわ」




ダイヤ「この想い…届いて…」



ヒュォォォォ…

ザザーン…



ダイヤ「……」スッ



ダイヤ
「~心にも あらで浮世に 水面夢
うつよ乱れど 心で何処~」



ダイヤ「ほっ…」


ダイヤ「本来なら皆さんも、内浦からこの月を眺めて頭を捻らせながら和歌を詠んでいたのでしょうね…」


ダイヤ「……」


ダイヤ「月の和歌…」



ダイヤ「!!!!!!!!」


ダイヤ「まさか流れてくるあの和歌は!!」



ギシギシギシ…


ダイヤ「!!」



ダイヤ「誰か来ますわ!!」


ガラガラガラ…ピシャッ


ダイヤ「早く押入れに隠れないと」ササッ


ススッ…ピシャッ


ダイヤ「……」


ダイヤ(聖良さんがくすねて来た懐中電灯を…)


ダイヤ「……」パチッ


ダイヤ(眩しっ……)


ダイヤ「……」ドキドキ



白狐「本当に良いのですか?」


黒狐「構わない。入るぞ」



ダイヤ(また来ましたわね白黒狐…)


黒狐「昼に大量の書物を借りて行った。ダミーを持ち運ぶのはさぞ重たかろうに…」


黒狐「奴は何かに気付いている…もしくは何かを隠している。我々の目をごまかすため無作為に選んだ風に見せかけたつもりだろうが…」


ダイヤ(バレている…)


ダイヤ「!!!」


ーー
ーーーー



白狐『一応この部屋も探ってみましょう』


白狐『例えばそこの押入れとか』



ーーーー
ーー



ダイヤ(マズいですわ…ここも探される…)


ダイヤ(入って来る前に窓から逃げーー)スッ



ゴチン!


ダイヤ「ぴぎゃっ!?」



白黒狐「!?」


黒狐「音がしたぞ」


白狐「ええ。入りましょう」


ダイヤ(しまった…また同じ過ちを…)



ガコッ



ダイヤ(ん?)スッ


ダイヤ「!!!!!」


ダイヤ(天井裏の板が!!)


ダイヤ(さっきは下の段に隠れていたため気付きませんでしたが…)


ダイヤ(書物を下の段に隠したことでスペース上、咄嗟に上の段に逃げ込んだのが功を成しましたわ!)


ダイヤ(恩に着ますわ聖良さん…!)グイッ



白黒狐「……」ススッ


ダイヤ(部屋に入ってきましたわ…!)グイグイ


ダイヤ(急がないと…)グイグイ



聖良「……」スヤスヤ


白狐「寝ていますね」


黒狐「書物が無い。押入れだ」


白狐「了解です」



ダイヤ(くっ…もう少し!)グイッ


ダイヤ(よし!)


ガコッ…



黒狐「……」スススススッ



シーン……



黒狐「……」



ダイヤ(か…間一髪でしたわ…)ドキドキ


白狐「見てください。下の段に積んでありますよ」


黒狐「そうか…」



黒狐「ん?」


白狐「どうしました?」


黒狐「この餅はなんだ?」


ダイヤ(!!!!!!!!)


白狐「これは…昨晩の夕食に出されたものですよね?」


黒狐「何故こんなところに…」




ダイヤ(しまった……)



黒狐「ここに誰かを匿っていて飯を与えるために置いた」


白狐「でも、ここに人の入るスペースはありません」


黒狐「元々は下に隠れていたんだろう。だが同時に運ばれてきた書物を下に隠したことで上に移動せざるを得なくなった」


白狐「……」


黒狐「しかし上にもいないということは…」


白狐「天井裏…ということですか?」


黒狐「まあな。そもそも立ち入ることができるのか分からないが板を触ればすぐ分かる」


ダイヤ(なんなんですのあの黒狐…!!)ドキドキ


黒狐「窓は閉まっているのに簾は上がったまま…我々の足音を聞いてとっさに隠れたのだろうな」


黒狐「さて…」ググッ


ダイヤ(くっ…)



聖良「ううん…」モゾモゾ



白黒狐「!!!」


ダイヤ(!?!?)


聖良「……」スヤスヤ


黒狐「……」


白狐「…お言葉ですが、確固たる証拠もないのに少々突き詰め過ぎでは?」


黒狐「そうだな…」


白狐「私達も調査に戻りましょう。今は亡き幹事様が残してくれた暗号をなんとしても解き明かすのです」


黒狐「ああ」


ススッ…


ギシギシ…



ダイヤ「……」


ダイヤ「ほっ…」


ダイヤ「聖良さん…本当に感謝しても感謝しきれませんわ」


ダイヤ「……」


ダイヤ「幹事が亡くなった…どういうことですの?体調不良が原因であの方々に代わった
のではないのですか?」


ダイヤ「それに暗号って…」


ダイヤ「……」



ダイヤ「この天井裏を伝って狐を追いかけてみましょう」


ダイヤ「何か分かるかもしれませんわ」パチッ



ザザーン…
ザザーン…



果南「……」ザッザッ


果南「!!」


曜「……」ヒュッ…


チャポン…


曜「……」


果南「曜、何してるの?」


曜「あ、果南ちゃん」


曜「みんな、ろくに食べてないしさ…何か釣って元気を出してもらおうと思って…」


曜「もちろんこんなところで何か釣れるなんて思ってないけど…私にはこのくらいしかできないし…」


果南「そっか…」


曜「……」



果南「竿、もう一本ある?」


曜「え?」



…………
……



チャポン…


果南「……」


曜「……」


果南「寝る前にどんなことしてても、どんなに頑張って起きようとしても眠らされて…朝起きたらちゃんと布団の中なんだね」


曜「この夢には逆らえないってことだね…」


果南「…どうだった?」


曜「やっぱり、果南ちゃん達が見た綺麗な星空と月だったよ…」


曜「ダイヤさんに言われてた月の和歌、思わず作りたくなっちゃうくらい…悲しいくらいに綺麗な…」


果南「そっか…私もやっぱり順番通り六番目の夢。新月の冷たい水面に浮かんでた夢だった」



曜「…和歌に出てくる月って、悲しいものが多いよね。待つ人が来なかったり、恋叶わぬ想い人に訴えたり、今を嘆いて昔の自分を懐かしんだり…」


果南「今と違って、人と簡単に連絡が取れるわけでもないし、身分の差でどうしても近づくことのできない男女もいた。そういうところの融通が利かない世の中だったからさ…夜孤独に苛まれる時に、心に反して綺麗に輝く月っていうのはその対比を表現するのににうってつけだったんじゃないかな?」


曜「……」


果南「でも、あなたと同じ月を眺めているって表現とかも多いけど…結構素敵だと思うな」


果南「それは遠く離れていたり、生きている時代が違ったり、はたまた違う次元を生きていたとしても…人間の諸行無常を尻目にずっと変わらぬまま同じ空に浮かんでいる月っていうのは、唯一心を繋げることのできる希望の光なんだよ…きっと」


曜「そっか…悲しみの中にもそういった希望が垣間見えるから和歌を聞いた時趣を感じられるのかな」


果南「だから『おもむき』って言うのかもね。思わず顔を向けたくなっちゃうような心惹かれる何かがあるから…」


曜「それか走って取りに行きたくなっちゃう程心惹かれるから『趣』って漢字になったのかも」


果南「ふふっ…そうかもね」


曜「……」



曜「今頃ダイヤさん、どうしてるかな?」



果南「……」


曜「私達がいなくなったって知って凄く困ってるんじゃないかな?それか忘れちゃってるのかもしれない…私達のこと…」


果南「ううん。そんなことないよ」


果南「もしかしたら、ダイヤに届いているかもしれないよ?私達のピンチ」


曜「え?」


果南「ダイヤも寂しがりだから…遠く離れた私達と繋がっていたくて和歌を作れだなんて言ってきたんだよ…きっと」


果南「月っていうのはそういうものだからさ」


曜「うん…」



曜「!!!!」


果南「曜?」



曜「返ってきた」


果南「え?」


曜「今日私はその五番目の夢を見たんだけど…月を見て和歌を詠んだ後に返ってきたの!」


曜「別の和歌が!!」


果南「どういうこと!?」


曜「果南ちゃん時は無かったんだよね?」


果南「う、うん。確か花丸も…」


曜「もしかして…」



果南「とにかくみんなのところへ行こう!」



コチッ…コチッ…コチッ…


花丸「梨子さんが死んで、鞠莉さんが死んで…今日、善子ちゃんも死んじゃった」


花丸「今日、水面で豪雨に晒される七番目の夢を見た…」


花丸「順番だと…」



花丸「今夜死ぬのはマルずら」


花丸「ただ、もしあの暗号

【四人の王に陽は昇らずただ月が浮かぶのみ】

の四人の王が死者のことなら、最後の犠牲者はマルのことずら」


花丸「死ぬのなんて…怖くない。人はいい行いをして命尽きれば必ず報われるずら」


花丸「だから今のマルにできることを精一杯やって、残りの四人に託そう!」



花丸「とりあえず、あらためてこの世界のことをまとめるずら」カキカキ



ーーーーーーーーーーーーー

・1月2日の朝(正確には正午)、目が覚めると霧に包まれた探索不能のこの島の砂浜にルビィちゃんの家と、ダイヤさんを除く八人のAqoursがワープしていた。

・霧で昼と夜の区別がつかないが、時間は元々の世界と同じ二十四時間。ただしAMにあたる十二時間は強制的に眠ってしまい、PMにあたる十二時間しか起きていられない。唯一この家にあった柱時計はこっちに来てから何故か二十四時間で十二時間ぶん…つまり一日で一周ぶんしか動かない。

・毎晩誰か一人が死ぬ。その法則は夢によって決まっていて、梨子さん、鞠莉さん、善子ちゃん…そしてマルの順番。

ーーーーーーーーーーーーー


花丸「それから…その夢がこの順番」カキカキ


ーーーーーーーーーーーーー

一…血染めの水中…
二…生暖かくて濁った水中
三…真っ暗で冷たい水中
四…水底に何かある美しい水中
五…綺麗な月明かりと星空の水面
六…新月の冷たい水面
七…雨に晒される水面
八…死

ーーーーーーーーーーーーー



花丸「そして、他に気になるのは…」スッ


ジワッ…


花丸「日に日に赤いシミが大きくなるこの下の句の札…」スッ


花丸「四人の王の暗号も、この上の句の札の裏に書かれている…」


花丸「つまり、この百人一首の和歌に何か謎が隠されているに違いないずら」



~わが袖は 潮干に見えぬ 沖の石の
人こそ知らね 乾く間もなし~



花丸「この小倉百人一首の和歌の一つは二条院讃岐(にじょういんさぬき)っていう女の人が詠んだものずら」


花丸「自分の袖は引き潮の時でさえも、深い海に沈んだ石のように誰にも知られることなくずっと濡れたまま…」


花丸「つまりこれは、叶わぬ恋で一人流した涙を袖で拭い続けている様を、乾くことのない沖の石に例えているずら」


花丸「この歌がきっかけで『沖の石の讃岐』だなんて呼ばれるようになったけど…」



花丸「本当にそうなのかな?」



花丸「マル達と同じ状況に当てはめてみれば、誰も見つけられない…捜索の行き届かない異世界で水の中にいたり、水面に浮かんだりでずっとビショビショって意味と、そういう死のカウントダウンとも言うべき夢を見せられて涙する…って意味にも取れるけど…」


花丸「じゃあ沖の石って……」


花丸「!!!!」


ーー
ーーーー



曜『あ、私は水の中で泳いだ夢を見たよ。青くて透き通った海中に陽の光が差しててさ。それで海の底に綺麗な石が落ちてたの。それを拾おうとしてそこまで潜って手に取る直前に目が覚めちゃったんだよね』


果南『それ、私が昨日見た夢だ』


曜『え?』


果南『私は拾おうとはしなかったけど、他は全部一緒…』



ーーーー
ーー


花丸「そうずら!四番目の夢は綺麗な海の中を泳ぐ夢で…その底には石が落ちてる!」


花丸「だとしたら…今日その夢を見たのは…」ダッ



ーー時雨亭 天井裏


シーン…


ダイヤ「……」ノソノソ


ダイヤ(まさか天井裏がこんな迷路のようになっているなんて…)ノソノソ


ダイヤ(それに全く手入れされていません故、埃が多い…咳き込んだら気付かれて一発アウトですわね)ノソノソ


ダイヤ(所々木も腐っていますし慎重に進まないと…)ノソノソ


「……」


「……」


ダイヤ(一体どこまで歩くんですの?)ノソノソ


「どうも……」


「ご苦労……」


ダイヤ(また…)ノソノソ


ダイヤ(さっきから定期的に誰かと話していますわ…)ノソノソ


ダイヤ(こんな遅いというのにそんなに出歩く方が多いのでしょうか?)ノソノソ


「……」


「……」


ダイヤ(……)ノソノソ



「和歌が……で……」


「………もう一つ…どこか…」



ダイヤ(和歌?もう一つ?)ノソノソ


ダイヤ(上手く聞き取れませんわ)ノソノソ


ダイヤ(……)ノソノソ



ダイヤ「!!!!!!!」


ダイヤ(行き止まり…)


ダイヤ(おかしい…何故この先だけ出っ張って…)



パサパサッ…


ダイヤ「ん?」



ダイヤ(この紙……)パッ


ダイヤ(随分汚れて見にくいですが…)



ダイヤ(これは柱時計の図)


ダイヤ(昔とは時間の数え方が違いますが…)パラパラ


ダイヤ(成る程、数字の部分は昔の様式ですが、柱時計の形自体は当時からずっと同じなのですね…)パラパラ


ダイヤ(しかし、この形どこかで…)



ダイヤ(…そしてこの文は…)パサッ


ーーーーーーーーーーーーー

文暦二年 七月二日
権中納言定家

……柱時計…………………
…………送りて………も…
……………二台目目………
…通ひの意思………………
………………………で………
…………見つくることかな
はず……………………………

時雨亭 依 伊豆国君沢郡……寺

ーーーーーーーーーーーーーー



ダイヤ(ほとんど解読ができませんが…読み解ける部分を一つずつ整理して行きましょう)


ダイヤ(まず文暦二年…)


ダイヤ(つまり1235年…七月ということは百人一首が制作された直後ですわ)


ダイヤ(確かに…この《時雨亭》は1235年に藤原定家氏が百人一首を定めた邸宅として代々その子孫により保護され続け今日に至るわけですが…)


ダイヤ(柱時計の制作にも関わっていたんですの?)


ダイヤ(これは歴史的大発見なのでは…)


ダイヤ(……)


ダイヤ(で、本文はその時計が二台あるということを言っていると思うのですが…)



ダイヤ(!!!!!!!!)



ダイヤ(思い出しましたわ!!この時計の形はこのお屋敷の一階…廊下の隅にあったあれで間違いありませんわ!!!)


ダイヤ(そして送り先であろうこの伊豆国君沢郡【いずのくにきみさわぐん】とは…)


ダイヤ(当時の内浦のこと!!)


ダイヤ(寺の名前までは分かりませんが…間違いありません)


ダイヤ(この『通ひの意思』とはなんでしょうか?)


ダイヤ(二台目の時計…内浦…見つけることができなかった…)


ダイヤ(……)




ダイヤ(もしかしてこの二台目の時計とは私の家にある柱時計のことを言っているのではないでしょうか?)



ダイヤ(廊下の物と形が同じでしたし…当時それを伊豆のとある寺へ送り…今日までに先代がお寺から譲って頂き、数字の部分だけ現代のものに替えられていたのだとすれば…)


ダイヤ(それに、見つけることができなかったとは…現在私の家にあるあの柱時計が不完全なままということ…こちらの柱時計にあって私の家の柱時計に無いもの…)



ダイヤ(嵌め込まれた石…!!!!)


ダイヤ(石…意思……)


ダイヤ(漢字を間違えたんですの?)


ダイヤ(それでは通ひ…とは?)



パチッパチッ…


ダイヤ(!!!)



ダイヤ(懐中電灯が切れそうですわ…戻りましょう…)ノソノソ



ダイヤ(……)ノソノソ


ダイヤ(そう言えば競技かるたの序歌の変更依頼が出たのもこのお屋敷からでしたわよね?)


~世も泣かせ 紅の京の 夜桜や
水面知るらむ 三津のおもひで~


ダイヤ(この和歌にも内浦を示している《三津》という文字が入っていましたわ)


ダイヤ(……)


ダイヤ(何故藤原定家氏はこの時雨亭で小倉百人一首を選定した直後に柱時計を二台制作し、片方を内浦へ送ったのか?)


ダイヤ(何故今年、この時雨亭から小倉百人一首競技かるたの序歌の変更依頼が出ていたのか?)


ダイヤ(何故その序歌には三津の文字があったのか)


ダイヤ(何故その変更依頼を出したであろうこの屋敷の幹事が亡くなったのか)


ダイヤ(その代わりの白黒狐は何者なのか)


ダイヤ(彼女達は何を隠しているのか?)



ダイヤ(時雨亭と内浦…そして神隠しとの因果関係とは?)








千歌「ルビィちゃん、そっちもう少し左」


ルビィ「う、うん…」ズズッ


千歌「善子ちゃん。ありがとう…梨子ちゃんと鞠莉さんと待っててね。必ず助けるから」


善子「…」


ルビィ「……」


千歌「私、バカだった」


ルビィ「!!」


千歌「みんなが必死になってるのに、私はAqoursの誰かが殺したとか言ってみんなを傷つけて…本当はリーダーの私が一番しっかりしなきゃいけなかったのに…」


ルビィ「千歌ちゃん…」


千歌「今夜、花丸ちゃんが死んじゃう」


千歌「花丸ちゃんが犯人だって言っちゃったこと、早く謝らないと…」



花丸「千歌さん!!!」ドタバタ



ルビィ「!!」


千歌「は、花丸ちゃん!?」


ルビィ「どうしたのそんなに急いで?」


花丸「千歌さん!今日、四番目の夢を見たずら?」


千歌「…うん。青く透き通った海の中を泳いでたよ。泳いでた…っていうか、善子ちゃんのために起きていられなかったことが悔しくて悔しくて…ただ浮かびながら泣いてただけだけどね…」


ルビィ「ちなみにルビィも…真っ暗で冷たい水中を泳いでたよ」


花丸「そうずらか…やっぱ順番通り…」


花丸「千歌さん。水の底に石はあった?」


千歌「石…?」


千歌「あ!あった!!」


花丸「取った?」


千歌「ううん。取ってない…」


花丸「そうずらか…」


花丸「まあいいや!二人ともとにかく来て!」ダッ


千歌「え、ちょっと?」


ルビィ「花丸ちゃん!?」



果南「おーい!!」ドタバタ


曜「みんな!」ドタバタ


花丸「ずら!?」


千歌「果南ちゃん!曜ちゃん!」


ルビィ「み、みんなどうしたの?」



ーーーー
ーー


曜「成る程…」


果南「沖の石が四番目の水面夢に出てくるあの光る石のこと…か」


花丸「この二条院讃岐(※以下サヌキ)って人の和歌がもしこの夢のことを言っているんだとしたら間違いないずら」


ルビィ「また赤いシミが大きくなってる…」


千歌「関係してるのは間違いないかもしれないね」


曜「でも、そうなるとこの異世界の呪いってのは…平安時代ぐらいから存在してた呪いってことになるよ?」


果南「このサヌキって人も私達と同じ呪いにかかったってこと?その和歌がこうして小倉百人一首として残ってるってことは、なんとか助かったってことかな?」


ルビィ「助かったのならなんでわざわざ和歌にして残したんだろう…」


花丸「小倉百人一首…」


花丸「そうずら!!」



曜「花丸ちゃん?」


ルビィ「どうしたの?」


花丸「ルビィちゃん、昨日マルに小倉百人一首の『小倉』の由来を聞いてきたよね?」


ルビィ「あ、うん…結局それって…」


花丸「小倉あんと同じ、小倉山の小倉ずら」


花丸「昔、小倉山の山荘の襖に用いる色紙に百の和歌を選ぶことになって、その時に藤原定家が決めた百歌が小倉百人一首の成り立ちずら」


果南「え!?その小倉山の山荘って…」


花丸「ダイヤさんが内裏歌合で訪れている《時雨亭》ずら」


曜「そんな偶然…」


果南「そういえば去年、その時雨亭から全日本かるた協会に依頼があったんだよね?」



花丸「あ、うん。今年から序歌を替えてくれって…」


千歌「序歌って、ダイヤさんが最初に詠んでた歌?」


ルビィ「うん、そうだよ。元々はちゃんと定められていなくて1954年に、日本は花が咲き誇るように盛んな文化国家になってほしいって思いを込めて


~難波津に 咲くやこの花 冬籠り
今を春辺と 咲くやこの花~


…って歌にしましょうってことで全国統一になったんだけど、何故か今年から


~世も泣かせ 紅の京の 夜桜や
水面知るらむ 三津のおもひで~


になったんだよ。お父さんの知り合いに協会の人がいて…どうやら替えてくれって頼んできた山荘の人はかなり焦っていたみたい…」


果南「なんでそんな急に新しい和歌を…」


果南「ん?この三津って…」




曜「和歌…」


曜「あ!そうだ!花丸ちゃん!!」


花丸「ずら?」



~心にも あらで浮世に 水面夢
うつよ乱れど 心でいづこ~


花丸「これは…」


曜「今日私は五番目の夢を見た。そうして、あの綺麗な月を見て和歌を詠ったよ。それでしばらくしたらこの和歌が頭の中に流れて来たの」


花丸「マルの時には何も返って来なかったずら」


果南「私も」



ルビィ「返歌…」


曜「え?」


千歌「へんか?」


ルビィ「昔、和歌は誰か大切な人に向けて詠むとその人がまた和歌で返すっていう習慣があったんだよ」


ルビィ「今も内裏歌合では一つの和歌に如何に趣のある和歌で返せるかを競うってやり方もあるみたい」


曜「つまりこの和歌は、私の詠んだ和歌を聞いてそれに対して返答しているってこと?」


果南「どういう意味だろう…全然分からない…」



花丸「さっき曜さんが詠んだって言った和歌

~あくがれて 翔ける先には 朧月
さるはゆかしき 及ばぬ羽かな~

の返答としてはちょっと合わないって思うずら」



果南「花丸…返って来た和歌が訳せるの!?」



花丸「恐らくだけど…

~心にも あらで浮世に 水面夢
うつよ乱れど 心でいづこ~

【早く死んでしまいたい…そんな辛い今を生きている時目にしたのは、水面に反射した現実であって現実ではないもう一つの月夜。その水面は風で波打ち乱れているけれど、その様は私の心のようであり、どこだか分からないけれど行きたいと願うもう一つの世界でもあるのです】」


四人「!!!!!」


花丸「更にこの和歌には掛詞(かけことば)が散りばめられてるよ」



花丸「まず水面夢(みなもゆめ)の《水面》は《皆も夢》…つまり上の句を

【早く死んでしまいたい…そんな辛い今を生きることになった所以…それは皆が現実では無いどこかへ行ってしまったからだ】

とも訳せるずら」



花丸「それから詠み人は《うつよ》を【波が打ち寄している】って表したと思うんだけど、それより《現世(うつよ)》、《鬱夜》の方が意味合いが強いかもしれないずら」



花丸「つまり、《うつよ乱れど》は

【こちらの世界では今、起こったことに混乱しているけれど】
【一人悲しく虚しい夜に泣き喚いているけれど…】

という意味にもなるずら」



果南「三重掛詞…」


千歌「一つの和歌にここまで意味をこめられるなんて…」


曜「やっぱりこの和歌は…」




花丸「ダイヤさんの和歌で間違いないと思う」



ルビィ「お姉ちゃんが…!」


花丸「つまりこっちの世界の五番目の夢を見た人とダイヤさんは、何かしらの理由で月を通じて和歌の掛け合いでコンタクトを取ることができるずら」


果南「月…」


曜「じゃあ現実世界では私達がいなくなったことで騒ぎになってて、ダイヤさんが物凄く悲しんでいる…ってことだよね」


ルビィ「そうなの?お姉ちゃん…」


千歌「ダイヤさん…」


花丸「…ちょうどいいずら。とりあえずマル達の夢のことは《水面夢(みなもゆめ)》って呼ぶことにしよう」


果南「うん、そうしよう」



果南(すごいな花丸…和歌だけでダイヤの想いをちゃんと理解できてる)



花丸「それから他にも分かることがあるよ」


花丸「さっきこの和歌は曜さんが水面夢で詠んだ和歌の返答としては脈絡性が無いって言ったずら」


曜「うん。こうやって意味を聞くと尚更ね」


花丸「ダイヤさんは、曜さんの和歌を曜さんが詠ったものだって気付いていないずら」


曜「!!!」


花丸「だからこの和歌は曜さんに対して返答したわけじゃないと思う」


ルビィ「じゃあお姉ちゃんはたまたま月を見てあの和歌を詠ったってこと?」


花丸「そうずら」


千歌「花丸ちゃんや果南ちゃんの和歌もダイヤさんに届いてるのかな?」


花丸「それもなんとも言えないよ。こっちで詠った和歌がダイヤさんに一方的に届くのか、ダイヤさんサイドも月を見ていないとダメなのかは分からない…」


ルビィ「ねえ花丸ちゃん」


花丸「ずら?どうしたのルビィちゃん?」



ルビィ「今、こっちでは二日経って三日目に突入してるけど…お姉ちゃん達も同じだとしたら向こうは1月4日のお昼ってことになるよ?お姉ちゃんは2日の朝にルビィ達が行方不明って聞かされてもうとっくに内浦に帰って来てるはずだよね?」


花丸「うん、恐らくね」


ルビィ「でも内浦は本来お姉ちゃんが帰ってくる5日まで曇りだよ?」


花丸「!!!!」


曜「そっか!だから月を見ることなんてできない!私に歌を返すなんてできない!!」


千歌「どういうことだろう…」





花丸「……」グゥゥゥゥゥ


曜「え?」


花丸「///」


ルビィ「花丸ちゃんお腹が」グゥゥゥゥゥゥゥゥ


ルビィ「」



千歌「お腹空いたね…」グゥゥゥゥゥゥゥゥ


果南「こっちに来てからほとんど食べてないからね…」グゥゥゥ…


曜「ごめん…さっきも釣りしてたんだけどボウズだったからさ…」グゥゥゥゥ


ルビィ「何か食べ物あったかな…」スッ


果南「一旦休憩だね…」ドサッ


曜「ふう」ドサッ


コチッ…コチッ…コチッ…


曜(時計は8時を指してる…えーっと、時計の6時が午後12時って意味だから…今は1月4日の16時ってことかな?)


曜(ああそうか…時計が指してる時間に×2すればいいんだった)


曜(そもそもなんで半分しか動かないの?午後の十二時間しか起きていられないとは言え一日が二十四時間あるってことに変わりはないんだから普通の時計みたいに動いてくれればいいのに…ややこしいったらありゃしないよ)


曜(針は壊れてるのに鐘だけしっかりしてるのも変だし…)


千歌「曜ちゃ~ん」


曜「うーん…」



千歌「曜ちゃん!」



曜「わっ!?」ビクッ


果南「どうしたの時計見てボーッとして?」


曜「いや、不思議だなーってね?」


花丸「不思議?」


曜「この時計、二十四時間で半分の十二時間ぶんしか進まないでしょ?だから私達は、針は二時間で一時間分進むって認識にあらためた」


曜「で、私達が起きていられるのは午後12時~午前0時前…この時計が指す数字の6~12の十二時間ぶん。ここまではいいよね?」


果南「そうだね。ちょっとややこしいけど…」


曜「だから実際に十二時間経ったとしても、針は六時間ぶんしか動かないでしょ?」


曜「…にもかかわらず、この時計の鐘はその針を尻目にきっかり十二時間ごとに鳴る。おかしくない?」



花丸「うん。昨日ルビィちゃんも言ってたけど中のカラクリ上、針が12時と0時の時にしか鳴らないはずなのに6時を指した時も鳴る…ってのはおかしいずら」


果南「まるで鐘が意思を持っているようだね…半分しか動かない針に騙されずに正確に十二時間を計れるように…」


千歌「今こっちの世界に来てから二日と十六時間…だから六十四時間経ったことになってるけど、時計の針自体は半分の三十二時間ぶんしか動いてないんだよね?」


花丸「ずら。だから実際に時計が動いたのは三十二時間イコール一日と八時間ぶんだけだね」



ルビィ「ごめんね。お餅が少し残ってるだけだった…」スッ


果南「ありがとうルビィ」


千歌「いただきます!」


花丸「さあ曜さんも…」


曜「……」


花丸「曜さん?」


曜「ねえ…」


花丸「ずら?」


曜「この鐘のところの窪み…」


ルビィ「あ、それは元々…」




曜「違う!私が夢で取ろうとした…沖の石と形が全く一緒なんだよ!!!」



四人「!?!?!?」


千歌「曜ちゃんほんと!?」


曜「近くで見たから間違いないよ…」


果南「嘘…あの沖の石はこの柱時計に嵌め込むことができるってこと…?」


ルビィ「じ、じゃあ…サヌキって人とこの柱時計に何か関係があるっていうことだよね?」


果南「……」ガチャガチャ


曜「どう?」


果南「木が物凄く古いな…」



果南「!!!!!!」



千歌「どうしたの!?」


果南「この時計の右側…見て」


千歌「あ!!!」


【文暦二……七月……
時…亭……伊豆…君沢………寺】


花丸「これは…」


果南「文字が掠れてるけど…元々この時計は文暦二年…1235年、京都の時雨亭から伊豆国君沢郡…つまり今の内浦のどこかのお寺に送られたものだったんだよ」


花丸「1235年…って、百人一首が藤原定家によって選定された年と同じずら…」


ルビィ「全然気付かなかった…ルビィが生まれた時からあったのに…」


果南「この時計、数字の部分だけ取り外せるようになってる。この時計はサヌキの生きていた約八百年前に時雨亭で作られた。そして内浦のどこかのお寺に送られ、歴史の中で時間の数え方が変わる度に数字の部分だけ取り替えられて大切にされてきた時計…そしてルビィちゃんが生まれる前に先代の方が頂いてきたってことだよ」


曜「つまりこの柱時計には水面夢の呪いの謎を解く鍵が隠されているんだ。サヌキはその鍵である沖の石をこの四番目の水面夢の水の底に沈めたんだ…それを歌ったのがあの百人一首のサヌキの和歌ってことだね」


千歌「そもそもなんでサヌキさんの時計がルビィちゃんの家…内浦に送られたんだろう?」


果南「そこだよね…何か歴史的な関係があるのかな?」


ルビィ「分かんない…お姉ちゃんなら知ってるかな?」




花丸「そのダイヤさんだけど…もしかしたら何か手掛かりを掴んでいるかもしれないずら」



四人「え!?」


果南「どういうこと!?」


花丸「まずこの時計だけど…こっちに来てからなんで針と鐘がバラバラな動きをしてしまうのか…」


花丸「それは針と鐘がそれぞれ独立しているからだと思う」


花丸「鐘に沖の石の窪みがあるってことは、今この鐘は異世界標準…こっちの十二時間ごとに鐘が鳴るように自動的に合わさってるずら。サヌキの石に反応しているんだよ」


果南「異世界標準って…」


花丸「そう。でも針の部分はさっき千歌さんが言ったように三十二時間…つまり一日と八時間ぶんしか動いていない」


花丸「それは現実世界側の時間を表しているんだよ」



花丸「つまり現実世界とこっちの世界では時間の流れが違うずら」



果南「なっ…!?」


花丸「秒針が0.5秒ずつしか進まないのは針が現実世界側の時間に合わせようとしていたからだよ」


ルビィ「じゃあ今、お姉ちゃんの世界はまだ1月3日の朝8時ってこと!?」


花丸「そうなるずら」


花丸「これでダイヤさんが曜さんに和歌を返したであろう時間は1月3日の未明ってことになるよ」


曜「でも内浦は曇り…」


花丸「うん。だから、ダイヤさんはまだ京都の時雨亭にいることになるずら。そこで水面に映ってる例の国宝級の月を見てあの和歌を詠ったんだよ」


花丸「その時雨亭は小倉百人一首が定められた場所でもあり、時計の記載を見るにその直後にサヌキの時計を送ってきた場所でもあるずら」


花丸「そして今年、その小倉百人一首は序歌が変わったずら。その歌の中には…」



~世も泣かせ 紅の京の 夜桜や
水面知るらむ 三津のおもひで~



四人「三津!!!!」


果南「やっぱり…」



花丸「まとめて仮説を立てるとこうずら」



花丸「時雨亭の人は昔、サヌキ達に起きたこの神隠しのことを知っていて代々その調査に当たっていた。そして去年の終わりくらいにその調査に進展があった。それはこの和歌を発見したこと。でもそんな中今度はマル達が神隠しに遭ってしまった。時雨亭の人はこの和歌の三津という文字…それからマル達との関係を知って当然、今年初めて内裏歌合に訪れたダイヤさんを疑うはず」


花丸「そのダイヤさんは既に囚われているか、屋敷を上手く逃げ回ってマル達を助けようと動いているか…」


花丸「どの道ダイヤさんは3日未明の時点で時雨亭にいるよ。あの和歌はダイヤさんが国宝級って言ってた庭園の水面に映った月を見て、時雨亭が混乱の渦に巻かれていること、マル達がいなくなって悲しんでいることを詠ったもの。そして、もう一つの世界…っていうのを強調しているから多分マル達が異世界のような場所にいるってことも掴んで既に知っている。つまりさっきの疑問は後者の可能性が高いずら」


花丸「…そしてこの柱時計は横の記述を見るに1235年7月…藤原定家が小倉百人一首を制定した直後、同じ時雨亭で制作されたもの。サヌキの沖の石のカラクリの事も考えると、この時計を作ったのも神隠しのことを知っていた定家。なんで窪みだけで石自体が水の底にあったのか…そして何故こんな回りくどいことをしたのかは分からないけど二つ、言えることがあるずら」



花丸「…まず、マル達の見ている水面夢はサヌキの生きていた約八百年前の平安末期~鎌倉初期の時代である可能性が高いこと」


花丸「そして、神隠しを元に選定されたであろう小倉百人一首にはまだ隠された謎がある…っていうことずら」



……


……


ダイヤ「はっ…!?」ビクッ


ダイヤ「……」


ダイヤ「……」ススッ


シーン…


ダイヤ「昼前…」


ダイヤ「聖良さんはもういないですわね」ノソノソ


ダイヤ「ん?」


ダイヤ「手紙…」パサッ


ーーーーーーーー
拝啓 ダイヤさん

どうか白黒狐に見つかる前に貴方がこれを読んでいることを願っています。
…と言っても、今日は一日中歌合があり私が常に白黒狐と顔を合わせているという不快な状況なので大丈夫だとは思いますが…

さて、どうやら今日の歌合は広間から出られないようです。参加者、屋敷の人間全て広間に集められるようで…手洗等の出入りは屋敷の者の監視がつくそうです。何を考えているのかあの変態狐は…

…逆に言えばダイヤさん。貴方が部屋を抜け出すチャンスでもあります。なんとか見つからないよう奴らの部屋を探し出し、例の名簿に辿り着いてみてください。
ついでに正体まで暴けたら御の字です!
いい収穫、部屋でお待ちしておりますよ♪

P.S.正午に流れてくるであろう和歌、しっかり記憶しておいてくださいね!


敬具 鹿角 聖良

ーーーーーーーー


ダイヤ「……」


ダイヤ「もうしばらくで答えが出ますわ」



コチッ…コチッ…コチッ…


果南「……」


曜「……」


ルビィ「ううっ…ぐずっ…」ボロボロ


花丸「四番目の水面夢を見て沖の石を取るチャンスは今夜が最後…ルビィちゃん。頼んだずら」モゾッ


ルビィ「うん……絶対に…絶対に取るよ」ボロボロ


花丸「ありがとうルビィちゃん」ニコッ


千歌「……」グッ


花丸「千歌さんはさっき決めた和歌を五番目の水面夢で月を見ながら詠んでね?ダイヤさんに伝えなきゃいけない大切なことだから。向こうは1月3日の昼だからダイヤさんは月を見れない。つまり千歌さんに歌は返ってこないと思うけど、次、ルビィちゃんが五番目の夢を見る時はダイヤさんも夜。その時必ずダイヤさんは月を見て歌を返してくれるから…」ギュッ


千歌「うん……」



花丸「それじゃあ…もう大丈夫ずら」



千歌「花丸ちゃん…」ポロポロ


花丸「……」


花丸「千歌さん」ゴソゴソ


花丸「はい」スッ


千歌「これは……」ポロポロ


花丸「本の栞ずら。マルがずっと使ってきたやつ。もうボロボロだけど、千歌さんにあげるずら」


千歌「なんで…なんでそんな大切なもの私なんなに…」ボロボロ


花丸「……」スッ




花丸「…むかしむかしあるところに、小さくて地味で目立たない女の子がいました」


千歌「!!」



花丸「いつも隅っこで一人ぼっちの女の子は、やがて旅に出ました」


花丸「こんなはずじゃない。一体自分の世界はどこにあるんだろう。それはあてもない自分探しの旅…」


花丸「すると、とある部屋に行き着きました」


花丸「…恐る恐る入って見るとびっくり!そこはあっちもこっちも…360°が物語で埋め尽くされている夢のような部屋でした!驚く女の子に部屋は言います。

『この中からお前の望む世界を探して見せなさい。そして答えが見つかったのならこれを挟みなさい。その世界へお前を誘ってやろう』

そうして女の子にきれいな栞を渡しました」


花丸「女の子は嬉しくて嬉しくて色んな世界を旅しました。素敵なドレスに身を包んだお姫様になれる世界、ごちそうがいっぱい食べられる世界、宇宙を旅する大スケールの世界…そこは夢のような空間でつい時間を忘れて世界を旅してしまいました」


花丸「でも、女の子が栞を挟もうとすると決まって部屋は語りかけます。

『本当にその世界でいいのかい?』

女の子もちょっと悩んだ後、決まって首を横に振って言います」



花丸『ここは私の世界じゃない』



花丸「女の子は旅を続けます。一人の素敵な伴侶と出会い幸せな人生を添い遂げる世界、最愛の人を亡くし涙に包まれる悲しい世界、波乱万丈を生き最後は処刑されてしまう何ともいたたまれない世界…」


花丸「女の子は部屋に語りかけます。

『ここはこうだったらいいのにな。私だったらこうしてたよ』

でも部屋は決まって…

『本当にその世界でいいのかい?』

ちょっとふてくされた女の子。だけどやっぱり首を横に振ってこう言います」




花丸『ここも私の世界じゃない』



花丸「女の子は栞片手に旅を続けます。でも、ある日気付いてしまったのです」


花丸「たくさんの世界が溢れていると思っていたこの部屋。でもここに私の世界はあるの?どの世界にも先客がいる。主人公という名の先客が。それは例えハッピーエンドでも、そうじゃなくても…私の世界じゃないんです」


花丸「すると、女の子は初めてその部屋に自分以外の人間がいることに気付きました。赤い髪の可愛い女の子。今まで色んな世界に夢中だった女の子は気付かなかったのです」


ルビィ「!!!!!」


花丸「その赤髪の女の子もまた、その部屋の世界に虜になったのだと思いました。悪いと思いながらも嬉しそうに見ているその世界がどんなものなのか気になって気になって…ついには覗きこんでしまいました」


花丸「…でも、その世界には何も書かれていなかったのです!一面真っ白な世界…女の子は驚いて聞いてみます」


花丸『本当にこの世界でいいの?』


花丸「その赤髪の女の子は振り向くと笑顔でこう言いました」



花丸『うん!よかったら一緒に旅をしない?』



花丸「部屋は何も言いません」


花丸「二人で旅を始めた新たな世界。そこは進めど進めど真っ白です。でも、今までと違って妙にリアル。嬉しさや悲しさ…言葉で表せないような気持ちが胸を揺さぶります。そんな味わったこともない感覚に思わず栞を挟んだりもしてしまいました。でも、部屋は何も言ってきません」


花丸「それを知った女の子は毎日栞を挟むようになりました。その思い出を染み込ませるかのように…」


花丸「女の子は、いつしか赤髪の女の子との旅が大好きになってしまいました。優しくて思いやりがあって……旅のどこかでその胸の奥に眠っている輝きを解き放ってあげたい。そう思うようになりました」


花丸「そしてその日が、この旅の…この物語の終わりなんだと思っていました」


花丸「…ある日、私達の前に三つの光が現れました。小さいけれど、まるでお星様のようにキラキラと輝こうとする眩しい光でした」


曜 千歌「!!!!」


花丸「なんと、その光は赤髪の女の子の胸の扉を開いてあげたのです!すると、赤髪の女の子も光になりました。それはそれは眩しい光に…予てからの願いが叶った。その喜びでいっぱいでした。でも、それもここでおしまい。ここの世界はハッピーエンド。女の子はいつものように本を閉じようとしました」


花丸「あれ?閉じられない。なんでだろう?

『おーいお部屋さん!やっぱり栞は使わない!ここも私の世界じゃないんだよ!早く出しておくれ!』

…それでも部屋は答えてくれません」



花丸「…気が付くと目の前に四つの光がありました。それはまるで女の子を待っているかのような…」


花丸「はっ!!!」


花丸「女の子は気付きます。なんと、自分の胸の中に輝きが宿っているではありませんか!それは赤い髪の女の子と全く同じもの。今にでも溢れんばかりの輝き。四つの光は手を差し伸べてくれました。そして女の子は…」




花丸「…マルは光になりました」



花丸「そこで初めて気付いたずら。後ろを振り返ると真っ白だったはずのページは二色で描かれた素敵な世界に染まっていたことに。目の前に裏表紙は無く、まだまだページが続いていることに…」


花丸「持っていた栞がその未来に疼いていることに」


花丸「五つの光はやがて六つ、七つ、八つ…と増えていった。ページが捲られるたびにその世界は彩りを増して…そして、九色になった時には今まで見たどんな世界よりも素晴らしかった。そして、そこは間違いなくマルの世界だった」


果南「……」ギュッ


花丸「そして今、一つ…また一つって光が消えていく。そしてついにマルも、この本の裏表紙が見えてしまったずら」



ルビィ「うええっ…ぐずっ…ヒック……」ボロボロ



花丸「ようやく部屋はマルの心に語りかけてきた。

『本当にその世界でいいのかい?』

…ううん。マルは首を横に振ってこう言ったずら」




花丸『本当にこの世界がいい』



千歌「ううっ……」ボロボロ


花丸「でも、まだ終わらせたくない。ここはマルだけの世界じゃないから。たくさんのページに挟んできたこの栞は…未来ある光の先駆者に託したい。またいつか、マルがお話に戻って来れる日が来るのなら…」


千歌「ごめんね花丸ちゃん…私、花丸ちゃんのこと犯人だなんて…すっごく酷いこと言った…リーダーなのに…花丸ちゃんがそうやって思ってくれていたのに私…私……」ボロボロ


花丸「ううん。気にしてないよ。あの時は千歌さんなりの暗中模索だったんだよね?」


千歌「どうして…あんなに傷つけたのに……あんなに……」ボロボロ


花丸「ありがとう…」ニコッ


千歌「なんで…」ボロボロ


花丸「…千歌さん、もう時間が無いずら。どうかページが途切れ無いように…マルのことを忘れないように…この栞を大切に持っていてほしいずら」


千歌「!!」



千歌「忘れるわけない!!!!ずっとずっと!!!!花丸ちゃんの想いは私の心の中にあるから!!!!!!!」ボロボロ



花丸「ふふっ…」


花丸「曜さん」


曜「……」ピクッ


花丸「マルを導いてくれてありがとう。マルの苦手なランニングやダンスも、曜さんがいてくれたから楽しめたし上達できたんだよ」


曜「花丸ちゃん…」ポロポロ


花丸「千歌さん達を支えてあげて。未来に向かってヨーソロー!…ずら」ニコッ


曜「うん分かった…ヨーソロー!」ポロポロ


花丸「果南さん…」


果南「……」ピクッ


果南「なぁに花丸?」ニコッ


花丸「これからは四人で辛いと思うけど…優しくて、温かくて…聡明なみんなのお姉さん、果南さんがみんなを先導していってね?」


果南「!!!!」


果南「…分かった。任せて」ギュッ


花丸「ありがとう…」ニコッ


果南「こちらこそ…」ジワッ


ルビィ「うええっ…ぐずっ…ヒック……」ボロボロ


花丸「ルビィちゃん」


ルビィ「ううっ…花丸ちゃん…ぐずっ…」ボロボロ


花丸「マルを素敵な世界に導いてくれてありがとう。マルの心を開いてくれてありがとう。今日まで一緒に旅をしてくれてありがとう。今まで読んだどんな一冊よりも素敵な素敵な物語だった。大好きなルビィちゃんと出逢えて本当に良かった」



花丸「ありがとう……ルビィちゃん」ポロッ



ルビィ「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!」ギュッ!


千歌「うぅっ…うえっ…ひぐっ…」ボロボロ


曜「花丸ちゃん……ありがとう」ボロボロ


果南「花丸…楽しかったよ…」ボロボロ



花丸「ありがとう。さようなら…」


……


……




どこかで聞いたことがある。


あなたが生まれた時、あなたは泣いて周りが笑った。だからあなたが死ぬ時、あなたは笑って周りが泣く…そんな人生を送りなさい…って。



…よかった。マルは最期まで幸せでした。




めでたしめでたし…



ゴーンゴーン…
ゴーンゴーン…



ザザーン…
ザザーン…


……


ああ…


綺麗な月…綺麗な星…


本当はみんなで見たかった景色。


私と善子ちゃんが頭捻らせて和歌を考えて、みんなが一生懸命教えてくれて…そんな時花丸ちゃんのお腹が鳴って…みんなが笑って…


本当にみんなで見たかった景色。


……


五番目の水面夢か…


そっか…ダメだったんだね…



今頃苦しんでるのかな?


やっぱり死にたくない…


死にたくないよ…って


花丸ちゃんは最後まで、自分にできることを精一杯やってくれた。


和歌を訳して、時計や時間のことを解明して、難しい歴史の知識も使ってダイヤさんのこともある程度把握してくれた…


そして私に栞を託してくれた
ううん…それだけじゃない。今までも花丸ちゃんは数え切れない程色んなことをしてくれたよ。


花丸ちゃんは大切な大切なAqoursのメンバーで、一人の主人公。


…でもまだ終わってない。私にはあの和歌をダイヤさんに届ける役目がある。


お願いダイヤさん…


花丸ちゃんの…私の…みんなのこと…




ちゃんと届いてね…



……スゥッ



ジュッ…


ダイヤ「くっ……」



ダイヤ「また誰かが…」



ダイヤ「でももう少しで……」



ドクン…


~水面すく 蜘蛛手惑ひし をりもえたり
時雨は知らに 去ぬ期の調べ~



ダイヤ「……」



ダイヤ「……」



ダイヤ「そういうことでしたのね」



ダイヤ「……」



ダイヤ「聖良さん」




ダイヤ「やはり私はもうここには戻ってこれないと思いますわ」スッ



ザザーン…
ザザーン…


…と。


…花丸ちゃん。やり遂げたよ。


…私はね、花丸ちゃん…それに梨子ちゃん、鞠莉さん、善子ちゃんがいないまま…Aqoursが欠けたまま描かれていっちゃうページなんて、正直破り捨てたいって思ってた。


…でもね、裏表紙が見えない限りページは続く。終わらない。逆に言えば、…終わらないんだったらまだ物語は変えることができる。


また九色で彩った世界にしてみせるからね…


いつかこの月や星のように、輝いてみんなを照らせる存在になろうね…


待ってて…みんな。



ポコポコ…


!?!?!?!?


こ、この泡は…?


下からだよね?


何だろう…



ゴーンゴーン…
ゴーンゴーン…


曜「はっ!!」ガバッ


果南「おはよう…曜」


千歌「…zzz」


ルビィ「…zzz」


曜「花丸ちゃん!?」ダッ


花丸「…」


曜「花丸…ちゃん……」


果南「……」


果南「…布団動かそう。善子たちの所に」


曜「うん…」



ルビィ「うゆ…」


果南 曜「!!!」


果南「そうだ…!沖の石!!」


曜「取れたのかな…そもそも夢にあるものをこっちの世界に…」



曜「!!!!!」


ルビィ「……zzz」ギュッ


果南「これ…ルビィが握ってる石…」


曜「うん……」


曜「間違いない…沖の石だよ」


果南「こんなに泣き腫らして…よく頑張ったねルビィ」ギュッ



ルビィ「ふふっ…花丸ちゃん……」スヤスヤ



【国木田花丸 死亡】

ーー残り4人



ザザーン…
ザザーン…


曜 果南「……」ヒュッ


チャポン…


曜「……」


曜「ルビィちゃん大丈夫かな…」


果南「花丸と一番付き合いが長くて、固い絆で結ばれてたのはルビィだから…ショックは大きいと思うし無理ないよ。もちろん私達もそうだけどさ…」


果南「今は千歌が側にいてあげてるから…落ち着くまでは…ね?」


曜「分かった…」


果南「……」



ザザーン…

果南「水面夢は?」


曜「間違いなく進んでるよ…今日は冷たい水面に浮かんでて…空は新月だった。六番目の夢」


果南「そっか…」


果南「…四人の王の暗号のことだけどさ?」


曜「うん」


果南「もしあれがさ、四人が死ぬってことだとしたらそれは昨日、四人目である花丸で終わって…私達は朝、現実世界に戻ってるんじゃないかって…あんま良い言い方じゃないけど、少し期待してた」


曜「それは私も…」


果南「でも私達はここにいる。夢も更新された…ってことはやっぱり暗号の意味は他にあって…」


曜「まだ死の連鎖は続くってことだね」



果南「そして今夜は私の番」


曜「……」


果南「でも、よかったとも思ってる」


果南「もし現実に戻っちゃったらもう本当にみんなを救えないと思う。中途半端なまま戻るくらいなら僅かな可能性にかけてでも、みんなのためにこの呪いに抗いたい。せっかく花丸が考えたあの和歌も無駄になっちゃうからさ…」


曜「…そうだよね。ダイヤさんはダイヤさんで必死に駆け回ってくれてる。そこで私達が戻っちゃったら合わせる顔が無い」


果南「戦おう。最後まで」


曜「うん!」


果南「よ~し、今日こそは大漁目指すぞ~!!」


曜「ふふっ…」


果南「なんちゃって♪」



チャポン!!



曜 果南「!!!!!!!」


曜「かかった!!!」グイグイ


果南「魚がいる…私達以外にも生き物が!?」



曜「あっ!!」



シーン…



曜「逃げられた…」


果南「……」


果南「ここはどこなんだろう」


果南「花丸の考察なら沖の石の落ちていた水面夢はサヌキの生きていた平安末期から鎌倉初期だけど…」



果南「じゃあこの濃霧に囲まれた島は?」



コチッ…コチッ…コチッ…


ジワッ…


千歌「…また大きくなってる。サヌキの和歌の赤いシミ…」


千歌「やっぱり百人一首には何か隠されてるんだよね…?」


千歌「よーし…」ガサゴソ



千歌
「~あ、あまのはら…ふりかけみれば…」ガサゴソ


千歌「ふりかけ?ふりさけ?」モヤモヤ


千歌「……」


千歌「はぁ…」ドサッ


千歌「こんなことなら百人一首…ちゃんと勉強しておけばよかったな…古典はいつも赤点ギリギリだったし…」


千歌「この百首の中から…そもそも隠されてるのが何についての手がかりなのかも分からないのに本当に見つけられるのかな?」


千歌「…ううん。ダメだよね諦めちゃ。命ある限り、精一杯運命に立ち向かわないと…」





ルビィ「千歌ちゃん」


千歌「!!」


千歌「ルビィちゃん!!!」


ルビィ「もう平気だから…。果南さん達を呼ぼう」



コチッ…コチッ…コチッ…


ルビィ「……」


千歌「……」


曜「……」


果南「まずルビィ。沖の石を取ってきてくれてありがとう。花丸も喜んでるよ…」


ルビィ「うん…」


果南「とりあえず、状況と謎をまとめてみよう」カキカキ


果南「まずは時系列。
左がダイヤのいる現実世界、
真ん中が私たちのいる異世界、
そして右が死者…」


ーーーーーーーーーーーーーー

2日0時 0日目夜 1人目 梨子
ーーー異世界へーーーーーー
2日12時 1日目夜 2人目 鞠莉
3日0時 2日目夜 3人目 善子
3日12時 3日目夜 4人目 花丸
ーーーー現在ーーーーーーー
4日0時 4日目夜 5人目 (果南)
4日12時 5日目夜 6人目 (曜)
5日0時 6日目夜 7人目 (千歌)
5日12時 7日目夜 8人目 (ルビィ)

ーーーーーーーーーーーーーー



果南「あと一応水面夢のおさらいもしとこっか」カキカキ


ーーーーーーーーーーーーー
※異世界標準4日目現在

一…血染めの水中
二…生暖かくて濁った水中
三…真っ暗で冷たい水中
四…水底に沖の石がある明るい水中【ルビィ】
五…綺麗な月明かりと星空の水面(和歌の掛け合いでダイヤとコンタクト可)【千歌】
六…新月の冷たい水面【曜】
七…雨に晒される水面【果南】
八…???(死ぬ)【花丸】

ーーーーーーーーーーーーー


果南「そして、調べなければいけないのは…」カキカキ


ーーーーーーーーーーーーーー
・時計と沖の石のカラクリ
・サヌキと内浦の関係
・序歌&百人一首に隠された謎
・サヌキの上の句の裏に書かれた暗号の
【四人の王に陽は昇らずただ月が浮かぶのみ】について
・この場所のこと
・水面夢のこと
ーーーーーーーーーーーーーー



果南「…もちろん、調べるのに限界があるものもいくつかある。逆に一つ分かればドミノ式に全てが繋がるのかもしれないけど…」


果南「…あとはダイヤが和歌を送ってくれると信じよう」


曜「そうだね。あと四日…起きていられるのは半日だから合計四十八時間、全力で頑張ろう」


果南「それじゃあ、早速この石を嵌めてーー」



千歌「待って!!!」


曜 果南「!!!」


曜「千歌ちゃん?」


ルビィ「……」


果南「ルビィも…どうしたの?」


千歌「先に話さなきゃいけいけないことがある」


曜「話さなきゃいけないこと?」


千歌「今日見た水面夢なんだけど…」




千歌「私、夢の中でルビィちゃんと会ったの」


曜 果南「!?!?!?!?!?」


ルビィ「私も千歌ちゃんと…」


果南「どういうこと!?」



ザザーン…
ザザーン…


ポコポコ…


千歌『!?!?!?!?』


千歌『こ、この泡は…?』


千歌『下からだよね?』


千歌『何だろう…』


千歌『とにかく潜ってみよう!』ザパッ



ブクブク…


千歌(眩し…)


千歌『!!!!!』


千歌(青く透き通った水…陽の光が射してて…)ポコポコ


千歌(間違いない!昨日私が見た四番目の水面夢だ!!)ポコポコ


千歌(でもなんで水中と水面でこんなに時間帯が違うんだろう?)




スイスイスイ…


千歌(!!!)


千歌(潜れる…潜れるよ…!)ポコポコ


千歌(もしかしたら底には…!!)ポコポコ



ブクブク…


ルビィ(くっ…)ポコポコ…


ルビィ(もう少し…もう少し…)ポコポコ


ルビィ(もう少しで底まで…沖の石に手が届く…)ポコポコ…


ルビィ(なのに…)ポコポコ…


ルビィ(ダメだ目が覚めちゃう…)ボコボコ…



パシッ!


ルビィ(!!!!!!!!!!!)



千歌(やっぱり…やっぱりいた!)ボコボコ


ルビィ(千歌ちゃん!?!?)ボコボコ


千歌(ルビィちゃんなら大丈夫!)グッ


ルビィ(千歌ちゃん…)ボコボコ


千歌(花丸ちゃんが信じてくれた!私達は前に進もう!!)ボコボコ


ルビィ(うん!!!)ボコボコ


ルビィ(…よし)ボコボコ



スイスイスイ…



ルビィ(お願い!!届いて!!!!)ボコボコ



ルビィ(届いて!!!!!!!!)グッ




パシィッ!


……


……



……


ルビィ「それで目が覚めたら沖の石が手の中にあって…」


果南「つまり…」


果南「水面夢は水面と水中で繋がっている」


曜「二人が同じことを言うならその可能性が高いね」


千歌「でも、水中には太陽の光が射してたのに水面は夜空だった…」


曜「昼と夜…どうして…」



果南「暗号!!!!!!!!」


三人「あ!!!」


【四人の王に陽は昇らずただ月が浮かぶのみ】



果南「水面夢…さっきのメモをもう一回見てよう」パサッ


ーーーーーーーーーーーーー

一…血染めの水中
二…生暖かくて濁った水中
三…真っ暗で冷たい水中
四…水底に沖の石がある明るい水中【ルビィ】
五…綺麗な月明かりと星空の水面(和歌の掛け合いでダイヤとコンタクト可)【千歌】
六…新月の冷たい水面【曜】
七…雨に晒される水面【果南】
八…???(死ぬ)【花丸】

ーーーーーーーーーーーーー


果南「この夢、一から四は水中の夢で五から七は水面の夢なんだよ」


曜「ほんとだ!!」


果南「暗号の【四人の王】は五から八番目の夢を見ている人。みんな夜の水面に浮かんでいるから【陽は昇らず】なんだよ」


果南「つまり八…すなわち死の夢も夜の水面の可能性が高い」


ルビィ「でも、七の夢って豪雨なんだよね?」


果南「え?うん。今日見たけど…確かに凄い豪雨だった…昨日までとは違う荒々しい夢で…」


ルビィ「だったら【月が浮かぶ】って表現に合わないと思うんだけど…」



果南「!!」


曜「あっ、確かに…雲で月が隠れちゃうよね?」


ルビィ「それに六の夢も新月だから…」


果南「そっか…」


ルビィ「別の何かなのかな…」


果南「……」



千歌「果南ちゃん」


果南「!!」


千歌「焦らないで…できることから一つずつやろう?」


果南「……」


果南「うん…そうだね」


果南「ありがとう」ニコッ


千歌「まずは沖の石を嵌め込んでみよう」


曜「そうだね。どうなるか分からないけど…」



ルビィ「千歌ちゃん。お願い」スッ


千歌「分かった!」パシッ



コチッ…コチッ…コチッ…



千歌「うーんと…」カチャカチャ


パカッ!


千歌「開いた!!」



曜「……」ドキドキ


ルビィ「……」ソワソワ


果南「……」ゴクリ



千歌「嵌めるよ?」


ルビィ「うん…」


果南「お願い…」


曜「いいよ…」


千歌「……」コクッ




千歌「せーの!!」



カチリッ!



ギシギシギシ…


ギギィィィィィィィ…



……



白狐「ふう…」ドサッ


黒狐「…すまない。終始目を光らせてはいたが奇怪な行動を取る者を見つけるに至らなかった…」


白狐「あなたが謝ることではありません。過去に習えば人為的に見付け出す事はほぼ不可能ですから…無理もありません」


黒狐「しかし…」


白狐「彼女を捕らえることさえ叶えば…」





?「私ならここにいますわ」



白黒狐「!?!?!?!?!?!?!?」クルッ



白狐「黒澤ダイヤ!!!!」


ダイヤ「どうされましたの?垂涎の的が自ら足を運んで来たというのに…少々喜びが足りなくてよ?」


白狐「いつの間に部屋に…」


黒狐「ほう…どうしてこの場所が分かった?」


ダイヤ「昨晩、聖良さんの部屋を後にしたあなた達を天井裏から追ったんですの。そうしましたら途中で行き止まりになっており追跡不能となっていたので怪しいと思い昼に調べてみたら…」


ダイヤ「まさかあの柱時計の裏側に隠し部屋があるなんて思いもしませんでしたわ」


白狐「それでこの部屋で私達が戻ってくるのを待ち伏せしていたということですか」


黒狐「やはり鹿角聖良だったのだな。貴様を匿っていたのは。ふん…今日の歌合で見張りが手薄になるのも伝えられていたわけか」




ダイヤ「見張り」



黒狐「?」


ダイヤ「昨晩天井裏からあなた達を追った時、あなた達は幾度も誰かと会話している様子でしたわ」


ダイヤ「あれは初日から各部屋の前にそれぞれ配置されている二人の見張りの方でしょう」


ダイヤ「聖良さんには…恐らくあなた達二人が新たな見張りとして付いていたんですわね」


白狐「ええそうです。あなたがいなくなりましたからね」




ダイヤ「おかしくありませんか?」


白狐「?」



ダイヤ「2日の朝、ルビィたちが姿を消したことであなた達は私が九人目の死者…つまり八人の神隠しの犯人だと決めつけ追っていました」


ダイヤ「…にもかかわらず夜、参加者の部屋の前に見張りを設けるのを止めなかった。更に歌合の参加者を外出禁止にし、今日の歌合でも何やら部屋に閉じ込めて観察をしていたそうですわね?」


黒狐「……」


ダイヤ「…白狐さん。あなたは1日の夜の会合で八人の神隠しについてこう語っていましたわ」


ーー
ーーーー



白狐『まず、一時的に行方を眩ましていた八名が揃って遺体として発見されたと同時に、もう一名の首が無くなった遺体…つまり九人目の死者が出るということ』


白狐『そして…その死体には決まって同じ箇所にこのような紋章が刻まれているのです』



ーーーー
ーー




ダイヤ「その紋章とは円卓の中に複雑な文字と…更に小さな八つの円。その円の中に赤い文字が刻まれているものですわよね?」


白狐「ええ」




ダイヤ「例えばこんな感じの?」スッ


白黒狐「!!!!!!!」



白狐「その紋章は!!!!」


ダイヤ「あなたの言う九人目の死体に刻まれていた紋章ですわ」


ダイヤ「でも、おかしいですわよね?」


ダイヤ「私の紋章は首にありますわ。だとすると過去の九人目の犠牲者も皆同じ首に紋章が刻まれていたはずですが…首の無い死体からどうやってその紋章を見つけることができましょう?」


白狐「……」


ダイヤ「更にあなたはこうも言っていましたわ」


ーー
ーーーー



白狐『…奇妙なのは何故かその四十六家目を割り出すことができないのです。名簿を一つ一つ確かめてもおかしな家系は無いのに、全体を見ると四十六の名前がある。これは誰に調べさせても同じです。そして、その死体が見つかると同時にその家系が名簿から消え四十五になる。しかし、それでもその紛れた謎の家系がどこだったのかを割り出すことができない。百年前…そしてそれ以前の記述にもこう記されております』


白狐『以上から、その謎の四十六家目が事件の犯人…及び九人目の死者と断定しました。その家系の者は何らかの理由で百年ごとに『八人の神隠し』を起こさなければならない。八人を殺害し体に紋章を刻んだ後、四日後に隠していた死体を晒したと同時に役目を終えた自らも自害…』



ーーーー
ーー



ダイヤ「神隠しの起きた年に名簿に四十六家の家系が記されており、死体発見後に四十五に戻る。それを何故か見つけられない…過去の名簿はともかく、今年の名簿はあなた達が肌身離さず持ち歩いているので調べようがありませんが…これについては取り敢えず信じましょう」


黒狐「……」


ダイヤ「問題は四十六家目の犯人=九人目の死体であり、自害したという考察ですわ」


ダイヤ「先程申しましたように、死体には首が無い。自害した後に首をどこかに運ぶなんて不可能」


ダイヤ「そして四十六家目が犯人だとして、そうして死体が残ってしまっているのならすぐに身元…家系も割れてしまいますわ」


ダイヤ「なのに今日までそれが分かっていない…ということは、死体は犯人では無い…」


白狐「……」




ダイヤ「私の仮説はこうですわ」



ダイヤ「まず、過去に九人目の死者となった人物に決まって首が無いのは、当時密かに神隠しの調査を行なっていたあなた達の先代が研究のために死体の紋章を首ごと切り落としていたから。これが死体に首が無いのに紋章についての記録が存在し、あなた達が知っている理由」


ダイヤ「…そして時は流れあなた達の代。神隠しが迫っていた去年の末、この時雨亭で調査に進展があった。それは現在新たな序歌として定められているあの和歌を発見したこと」


ダイヤ「それを見つけたのは体調不良という体で歌合を欠席している、既に亡くなられたここの幹事様」



白黒狐「……」



ダイヤ「幹事様も九十を過ぎたご老体。亡くなられたのは老衰が原因で、本当に偶然時期が重なってしまったんですわ」


ダイヤ「しかし亡くなられたことは伏せなければならなかった。それは神隠しの犯人に怪しまれ、あなた達が密かに調査をしていたことを探られるのを防ぐため。幹事様はこの小倉百人一首が制定された時雨亭で新たな和歌を発見され、それが百人一首…そして神隠しと何らかの関係があることを突き止めていた。それを思わず日本かるた協会に提出したのでしょう。ただでさえ怪しいのにその幹事様が亡くなられたと知ったら犯人は何かしらの因果関係を疑うに間違いありませんわ。この時雨亭で間違いなく自分に近づくための進展があったのだと。今回の歌合でひっそり犯人探しをするつもりだったあなた達は犯人を刺激しない必要があったのですわ」


ダイヤ「…しかしこの屋敷から大きな動きがあった以上何も話さないのも不自然。だからあなた達は体調不良の幹事様代理と名乗った上、参加者の前でわざとバカを装う必要がありましたの。序歌のことには触れず、既にある情報を小出ししてそれをデタラメな推理にすることで犯人の警戒を解くために…」


ダイヤ「2日の朝にはどこかの家系の八人が消えますから、その時点で紋章が刻まれているであろう者を犯人として捕らえ見せしめるフリをするつもりでいたのでしょう。そうして真の犯人の油断を誘い正体を影で探る算段なのでしょう。これなら未だに参加者を拘束する理由とも説明がつきますわ」


ダイヤ「その神隠しの被害者となったのは私と…それからルビィと、何故か血縁のない皆さんの七人…」



ダイヤ「百年ごとに四十六家目として歌合に紛れこんだ妖の類であろうその犯人は、自身の存在を恰も家系の者だと惑わせるような何かしらの力を持っているのですわ。この家の者が騙されて名簿にその名を記したのも、それを見つけることができないのも奴の力…そして今年、ルビィ達を標的に選び今も参加者に紛れのうのうと過ごしている…」


ダイヤ「もうここまで話せば分かると思いますが、あなた達は端から私を疑ってなどいなかった。捕らえた後は他の参加者にバレない…恐らくこの部屋で保護し、紋章を頼りに調査にあたるつもりだったんですわ。私も、最初から素直に捕まっていればよかったのでしょうかね…」


白黒狐「……」


ダイヤ「ですが、やはりその狐のお面のせいでどうしても信頼に至りませんわ!何故正体を隠すんですの!?あなた達は何者なんですの!?」バッ


黒狐「……」


白狐「…ここまで知られていたのなら仕方ありませんね」


ダイヤ「……」ゴクリ


黒狐「…ああ。その明目張胆な行動と鋭い論理展開には舌を巻かざるを得ない」



白狐「しかし…」スチャ


黒狐「驚いた…」スチャ



ダイヤ「!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」










海未「まさか次の被害者がスクールアイドルに勤しんでいる方々だとは…しかも私達μ'sと同じ九人…」


英玲奈「μ'sは伝説のスクールアイドル様だからな。もっとリスペクトされていることを自覚するんだな」



海未「伝説だなんて…お言葉ですがそもそも私達の始まりも穂乃果がA-RISEの皆さんを…」


ダイヤ「そ…そんな……み、みみ…μ'sの園田海未さん……そ、それにA-RISEの統堂英玲奈さん……」ガクガク


ダイヤ「そのお二方が……私の…私の遠い親戚!?!?!?!??」



海未「初めまして、Aqoursの黒澤ダイヤさん。あなた達のこと、深く存じ上げております」


英玲奈「驚くのも分かるが今は我々に協力して欲しい。あなたの力が必要だ」



ダイヤ「まず、先程までの無礼で非常識な態度と言葉遣い…訂正すると共に謝罪致しますわ。誠に申し訳ありませんでした」ゴツン!


海未「か、顔を上げてください!そんな土下座だなんて困ります…ダイヤさんは何も悪くありません!」


ダイヤ「ですが…」


英玲奈「我々も不審に思わせてしまったこと、悪く思っている。そこはおあいこだ」


英玲奈「今は時間が無い。早速本題に入ろう」


ダイヤ「…はい。承知しましたわ」


海未「まず、私達が把握しているのはおおよそダイヤさんが話してくださったことで間違いありません」


ダイヤ「は…はい……」


英玲奈「ただ一つ勘違いしているな。我々はこの屋敷と血縁はない」


ダイヤ「なっ!?」


海未「だからダイヤさんとも親戚ではありません」


英玲奈「残念だったか?期待させてしまったのなら申し訳ない」


ダイヤ「い、いえ…」ガクッ



海未「私の家は世間で日舞(日本舞踊)園田流の家元として名を馳せていますが、実は武術も含め元々は平安時代に幹事様のご先祖様が創案し広められたものなのです。そしてそれに肖った私の祖先が唯一、今日まで伝承してきたのです」


ダイヤ「そうでしたのね…園田家についてはよく存じていたつもりでしたが…それは初耳ですわ」


海未「故に、血縁に無いとは言え幹事様の家系からは代々多大なご支援をいただいており、数え切れない程の恩がありました。今日も道場の建設や催しの開催費、備品まで頂いておりました」


海未「更に私が音ノ木坂に通いスクールアイドルμ'sとして活動していると知ると、その宣伝や会場の設営等にも多大な寄付をしてくださっていました。それは私が卒業してもなお、スクールアイドル運営と提携して様々な支援を継続してくださっていたのです」


海未「今日、日本にスクールアイドル文化が定着したのも幹事様の支援による土台があってのことなのです」


ダイヤ「そこまで深い関係が…」


海未「音ノ木坂を卒業した後は園田道場の跡取りとして古武術、及び日舞の継承に携わっていましたが、去年幹事様が亡くなられたという一報を小耳に挟み、こちらへ駆けつけました。その道中でA-RISEの英玲奈さんと鉢合わせたのです」


英玲奈「私は大きなライブが終わり事務所から休暇を戴いていた。ツバサにもあんじゅにも内緒でのんびり京都旅行…ということで一人電車に揺られていたのだが、そこで出会った園田海未から一連の経緯を聞いた。私の家系と時雨亭には彼女のような関係は無いが、今日もA-RISEがプロとして何不自由無く活動できているその根底には、UTXだけで無く幹事様の多大な御支援があったのだと知ってな。線香の一つでもあげるのが礼儀だろうと立ち寄ることに決めたのだ」


海未「そうしてこの時雨亭を訪れたわけですが…」


英玲奈「何やら様子がおかしかった」



海未「幹事様の死は時雨亭の者とごく一部の関係者を除いて内密にされていたのです。私達は屋敷の一人を捕まえ問いただし、例の神隠しのことを知ることになりました」


海未「百年ごとに幹事様の家系を襲う八人の神隠し。決まってそれは1月2日午前0時~1月5日の正午に起きます」


英玲奈「この内裏歌合はその神隠しの時期に合わせて催されるようになった。今では毎年の恒例行事となっており、世には百人一首発祥の地故の伝統と格式ある歌合…と称されているがな」


海未「一連の事情の説明を受け、最初はにわかに信じがたいと思いましたが……」


英玲奈「ああ…」


ダイヤ「??」


英玲奈「去年、この屋敷から例の和歌が見つかった。それは間違いない」


英玲奈「だが、それはどこから見つかったと思う?」


ダイヤ「いえ…さっぱり」




英玲奈「あの柱時計の中だ」


ダイヤ「!?!?!?」



コチッ…コチッ…コチッ…


千歌「せーの!!!」


カチリッ!


パカッ


四人「!!!!」


パサッ…



千歌「板が開いたよ!!」


曜「何か紙が落ちてきたけど…」


果南「これは…」パサッ



~比ぶれど うちつけなりや 巴ぐさ
気なつかし夜は いろはのごとく~



ルビィ「和歌…?」



ガタガタガタガタガタ…



四人「!?!?!?!?」



曜「な、なに…!?」


千歌「わかんない…!」


ルビィ「中で何か動いてるよ…!」


果南「カラクリだ…中のカラクリが動いてる!」


曜「カラクリって…」



ズズズズズズ…



四人「!!!!!!」


果南「台座の表面に長方形の窪みが…」


ルビィ「一、二、三……全部で四つだ」


千歌「右上…右下…左上…左下…全部真ん中を向いてるね」


曜「また何かを嵌め込むみたいだけど…」



海未「去年、幹事様が亡くなられる直前です。幹事様は庭園を散歩されていたのですが池の真ん中に光る石を見つけられました。その石の形にはどこか見覚えがあり、それがあの柱時計の鐘にあった窪みだと気付かれました」


英玲奈「恐る恐る石を嵌め込んでみると板が開きあの和歌が出てきた。更に幹事様は裏にこの部屋、《夜半の間(よわのま)》へと通じる道を見つけられた」


ダイヤ「この夜半の間はずっと柱時計に隠されていたというのですか!?」


英玲奈「ああ。幹事様が見つけられるに至るまで約八百年間眠りについていたわけだ」


海未「屋敷の者が調べると朽ちかけた当時の書物がいくつも出てきたのですが、この夜半の間はかつて例の藤原定家が百人一首を選定した部屋ということが分かったそうです」


英玲奈「私達は幹事様の無念を晴らすべく、その恩返しという形で今回の内裏歌合で行われる神隠しの調査に加わることとなった」


海未「…ですがあくまで私達はこの屋敷とは血縁の無い部外者。今回の内裏歌合の『参加者』として名簿に名を刻む必要がありました。私達が神隠しの主犯でないのだというケジメの意味も込めて」


ダイヤ「……」


英玲奈「これが名簿だ」パサッ



ダイヤ「成る程…今年の名簿は例年の四十五家に加え謎の四十六家…更に海未さんと英玲奈さんの名の計四十八家が記されているため参加者に公開することができなかったのですわね」


英玲奈「…ああ。我々は世間にそこそこ名を轟かせてしまっているからな。仮面もそう。怪しまれることは覚悟の上だった。しかしそれでも付ける必要があった。素顔だと一目で部外者だと判別され、犯人ないし参加者まで混乱させてしまう」


ダイヤ「そういうことだったのですか…」


海未「そしてこちらが、幹事様がこの夜半の間で見つけられた暗号です」パサッ


【四人の王に日は昇らずただ月が浮かぶのみ】


ダイヤ「これは一体…」


英玲奈「…まだ解読には至っていない。これが何を示しているのか皆目見当もつかない状況で手を焼いているところだ」


ダイヤ「そうですか…」


海未「暗号…柱時計…そしてその鐘に嵌めることのできる石…これが神隠しに関係しているのは間違いありません」


ダイヤ「!!!!」



ダイヤ「柱時計のことで…私も天井裏でこのような資料を見つけましたわ!」パサッ



海未 英玲奈「!?!?!?」


ーーーーーーーーーーーーー

文暦二年 七月二日
権中納言定家

……柱時計…………………
…………送りて………も…
……………二台目目………
…通ひの意思………………
………………………で………
………見つくることかな…
はず……………………………

時雨亭 依 伊豆国君沢郡……寺

ーーーーーーーーーーーーーー


パサッ


英玲奈「なんということだ…天井裏にこんな貴重な資料が…」


海未「定家氏は二台の時計を製作していたのですね…それはこの時雨亭と伊豆国君沢郡…つまりダイヤさんの住む内浦のどこかのお寺ということですか!?」


ダイヤ「その時計は今、私の家に置いてあるんですの」


英玲奈「なっ!?」


海未「それは誠ですか!?!?!?」


ダイヤ「ええ。間違いありませんわ…」


英玲奈「2日の朝、この家の者が黒澤家を調査したがこの時計のことについては何も報告が無かった。気付かないはずがない。去年のこともあるが故、同じ形の時計を見たら腰を抜かすはず」


海未「つまり…」


ダイヤ「その時計はルビィ達と共に消えたということですわ」



英玲奈「恐らくその柱時計にも全く同じ仕掛けがあるはずだ。とある石を嵌め込むことでもう一つ、つがいになる和歌…終歌(ついか)が見つかる!」


ダイヤ「終歌!?」


海未「この夜半の間で見つかった資料には、定家氏が小倉百人一首に、始まりの歌である序歌と終わりの歌である終歌を定めたという記述がありました」


英玲奈「今世に出回っている百人一首に終歌は無い。確かに、ここに来る前からおかしいと思ってはいたのだ。何故始まりの歌だけがあって終わりの歌がないのか」


海未「序歌は競技かるたの開始合図であり、一首目のリズムを取るための前置きでもあります。ですが確かに終歌が存在しなかったのは奇妙ですね」


ダイヤ「定家氏は最初から二つの歌を定めていたんですわね。長年見つからず違う序歌だけが使われていましたが今年、定家氏が庭園の池にずっと隠してあった石を見つけたことで彼の定めた本物の序歌の方が見つかったと…」


ダイヤ「しかし私の家の柱時計に石はありませんでしたわ。ここにも『見つくることかなわず』とありますから恐らく未完成のまま送ることになってしまったのではないでしょうか?」


英玲奈「カラクリは出来ているクセにそれを解く肝心の石が見つからなかったとは妙だな。どうやって製作したのだ?」


海未「なんとかしてその時計のことを神隠しに遭っている皆さんに聞き出せればいいのですが…」



ダイヤ「それについてですが…できるかもしれませんわ」



ルビィ「四つの窪み…なんだろう…」


果南「分からない…」


曜「まずはこの和歌から解いていこう」


千歌「うん。分かることから一つずつ!」


~比ぶれど うちつけなりや 巴ぐさ
気なつかし夜は いろはのごとく~


曜「これは…」


千歌「ど、どういう意味?」


果南「この巴草(ともえぐさ)ってのもあんまり聞かないよね」


ルビィ「本来は巴草(ともえそう)って読むと思うけど…」


ルビィ「あ、前に花丸ちゃんが言ってたよ!この花は一日だけしか花びらが開かない恥ずかしがり屋さんなんだって」



果南「一日花って種類の花か…成る程ね。だったら…

~比ぶれど うちつけなりや 巴ぐさ
気なつかし夜は いろはのごとく~

【こうして仲睦まじくできた時間も、一日でその花弁を閉じてしまう巴草の如くあっという間でしたね。どこか懐かしい夜は生まれてすぐの赤ん坊だった頃のようでした】

…って意味だと思う」



曜「そっか。いろはにほへとの《いろは》は最初って意味だから流れでそう訳すのが自然だね」


ルビィ「短かったけど、なんだな懐かしくて幸せな時間を過ごせたってことかな?」


千歌「でも、じゃあこの和歌は誰か大切な人との別れを表してるんじゃない?」


果南「仕掛けからしてこれはサヌキの和歌で間違いないと思う。百人一首の沖の石の歌も含めて神隠し中に二首も詠んでたんだね…」


曜「サヌキの別れの歌…」


曜「これはもしかして辞世の句(死ぬ前に遺言として詠む歌)なんじゃないかな?」


果南「あり得るね。自分が神隠しで死ぬ直前に歌ったんだよきっと…」


ルビィ「でも、一日だけ誰か凄く親密な人と話せたってことは…」


千歌「五番目の夢…」


曜「そしてその五番目の夢は月を見て和歌を詠むことでで現実と繋がる。つまりサヌキさんも、私達でいうダイヤさん的なポジションの人がいたんだよ!」


果南「この和歌を隠してあった時計は時雨亭から内浦へ送られてきたもの。つまりこう考えるのはどうかな?」



果南「この柱時計と同じものがもう一つ時雨亭にある。それにも同じようなカラクリがあって、その柱時計にはこっちとは逆に、内浦で生まれたサヌキの大切な人の和歌が隠されているんだよ。水面夢で二人が掛け合ったもう一つの和歌が…」


果南「時系列に沿ってまとめると…
サヌキは神隠しにあった。そして、自分が死ぬことを知っていたサヌキは五番目の水面夢で大切な人と和歌の掛け合いをして、その時この辞世の句を送った。そして現実世界にいるサヌキの大切な人は、掛け合った二つの和歌を時雨亭に残した。
後に百人一首を定めるためその時雨亭を訪れた定家がその和歌を見つけ、弔いの柱時計を作って和歌をその中に隠し片方を京都の時雨亭、そしてもう片方を内浦のどこかの寺に置いたってことか」


千歌「待って!確か新しく序歌になったやつ!!」


~世も泣かせ 紅の京の 夜桜や
水面知るらむ 三津のおもひで~


果南「訳すと

【多くの人、最愛の人がこの京の都で血に染まった悲しみに涙するが如く散りゆく夜桜よ。
あなたが浮かんでいる水面には私が幼き頃に過ごした三津の様子が映し出されている(水面は全てお見通しなの)でしょうね】

になるね」


ルビィ「悲しい歌だね…」



千歌「昨日花丸ちゃんが言ってたこの三津…!」


曜「その思い出って…!!」


果南「間違いない。この序歌は内浦で生まれた誰かが歌ったものだよ。サヌキの大切な誰かが…」


果南「つまり時雨亭にある柱時計の沖の石にあたり、カラクリを解くことができる石…サヌキの大切な人の残したもう一つの石が去年時雨亭から見つかったんだよ!それで柱時計に嵌め込んだことでサヌキの大切な人の和歌が出てきた!急遽序歌がこれに変わったってことは日本のどこかで眠っているはずの、つがいになるこの歌を探しているってことを知らせたかったんだよ!!」


曜「そういうことだったんだ…」


千歌「でもこの和歌を見つける鍵は水面夢の水底…そりゃ見つかりっこないよ…」


ルビィ「じゃあお姉ちゃんもこの和歌を探してる可能性が高いよね?」



曜「だとしたらそれを伝えるチャンスは次が最後。ルビィちゃんの五番目の水面夢にかかってるね」



……


英玲奈「できるかもしれないって…」


海未「どういうことですか!?」


ダイヤ「私の首の紋章には十二時間ごとに字が刻まれていきますの。全部で八つ…これは皆さんが十二時間ごとに一人ずつ死んでいて今現在、既に四人が死んでいるということになりますわ…」


英玲奈「この紋章にそんな意味が…」


海未「成る程…九人の死体が発見されるのはちょうど八つ目の字が刻まれるであろう5日の正午。内裏歌合がこの日時で終わるのはそういう意味だったのですね」


英玲奈「つまりまだ生きている人間が四人いるわけか…」


英玲奈「…で、そのどこにいるのかも分からない四人とどうコンタクトを取るんだ?」


ダイヤ「この紋章が刻まれた後、私の頭の中に和歌が流れてくるんですの」


海未「和歌?」



ダイヤ「現在までに流れてきたのは四首」


~お月様 お空に浮かぶ おまんじゅう
ちとせ経るかな 新月の宵~


~満ちたれど 満ちてはならぬ 散りぬれば
かたは十六夜 ただいたづらに~


~あくがれて 翔ける先には 朧月
さるはゆかしき 及ばぬ羽かな~


~水面すく 蜘蛛手惑ひし をりもえたり
時雨は知らに 去ぬ期の調べ~



ダイヤ「これらは全てAqoursの皆さんが詠んでいるに間違いありませんわ」


海未「どうしてですか?」


ダイヤ「これらの和歌は全て…いえ、四首目は少し特殊ですので置いておいて、少なくとも最初の三首は月がテーマになっていますの」


英玲奈「何故月がテーマだとAqoursのメンバーが詠んだ和歌になるんだ?」



ダイヤ「1日は皆さんが私の誕生日会を開いてくださるということで私の家に集まっていたんですの。その時皆さんに、私が内裏歌合から帰ってくるまでに月をテーマにした和歌を一首ずつ作っておくようにとお願いしたんですの。学校の百人一首大会を勝ち進む為、和歌に触れる機会を設けようという試みですわ」


英玲奈「成る程」


ダイヤ「そしてもう一つ…」



ダイヤ「十二時間ごとに月の和歌が流れてくる…ということは向こうとこちらの世界では時間の流れが違うのではないかと思いました」


ダイヤ「こちらの十二時間はあちらの二十四時間。神隠しは2日の午前0時に始まり。最初の死者が出てから三日半…つまり5日の正午で終わりますわ。ならばあちらでは倍の七日間。そうすれば当然夜を迎え、月を見る回数はこちらの世界の倍になりますわ。

左からこの世界の時間、異世界の時間、死者として…


2日0時 0日目夜 1人目
ーーーーーーーーーーー
2日12時 1日目夜 2人目
3日0時 2日目夜 3人目
3日12時 3日目夜 4人目
ーーーー現在ーーーーー
4日0時 4日目夜 5人目
4日12時 5日目夜 6人目
5日0時 6日目夜 7人目
5日12時 7日目夜 8人目+私=9人


八人の神隠しのタイムリミットとも一致しますわ」



英玲奈「時系列についてはよく分かった。では流れてくる和歌は、その時に死ぬ者の辞世の句ということか?」


ダイヤ「それは違うと思いますわ」


英玲奈「何故?」


ダイヤ「和歌が聞こえるのは紋章が刻まれた後。死んだ後に和歌を詠むことなどできません。つまり和歌を詠んだ人物はその日に死んでいないことが裏付けられますの」


英玲奈「成る程な」


ダイヤ「順番に見ていきましょう」


~お月様 お空に浮かぶ おまんじゅう
ちとせ経るかな 新月の宵~


ダイヤ「このユニークな和歌は間違いなく花丸さんが詠んだものですわ」


ダイヤ「……」



海未「どうされました?」


ダイヤ「この和歌は、2日の0時に花丸さん以外の誰かが死んだ後に詠まれた和歌…」



ダイヤ「つまり、花丸さんはまだ一人目の死者が出たことに気付いていませんわ!」



海未「確かに!もし死者諸々を知っていたらこんなほのぼのとした和歌になりませんね!」


ダイヤ「はっ…!」



ダイヤ「確か1日の夜から2日の朝にかけては曇っていました。だから月を見ることなどできませんわ…」


ダイヤ「それにこの和歌はおまんじゅう…つまり満月のことを言っていますわ。たとえ曇っていなかったとしても1日の夜に見えたのは満月にはまだ遠い上弦の月…満月の和歌を詠むには違和感がありますわ」


英玲奈「満月の夢…」


ダイヤ「!!!」


英玲奈「神隠しに遭っている者はその日に死ぬ者以外の誰かしらが毎晩眠っている時に満月の夢を見ている…」


ダイヤ「…そう考えるのが妥当ですわね。その月を見て詠った和歌が何故か私に届いているのですわ」


海未「月とはそういうものです。生きる時代や世界が違う人間と繋がるための架け橋として昔から和歌や古事記でそう語られてきましたから」



ダイヤ「皆さん…」



ダイヤ「…コホン。話を戻しましょう。花丸さんの和歌ですが…」



~お月様 お空に浮かぶ おまんじゅう
ちとせ経るかな 新月の宵~

【もし、空に浮かんでいるあの満月が全てまんじゅうでできているとしたら、全部食べ終えて新月にしてしまうまで千年はかかるだろうなぁ…】



ダイヤ「…という意味だと思いますわ」


英玲奈「……」


英玲奈「まあ、まだ異世界云々を把握する前だからな…自分の正直な感性が全面に表れている良い歌だと思うぞ」


海未「英玲奈さん…」



ダイヤ「つ、次に昨日の昼に流れて来た二つ目の和歌ですわ」



~満ちたれど 満ちてはならぬ 散りぬれば
かたは十六夜 ただいたづらに~

【満ちてはいるけれど満ちてはいけない。花が散ってしまったのならそれは不完全な十六夜の月、ただ虚しく浮かんでいるだけだ】



ダイヤ「訳すとこのような意味になりますわ」


海未「つまりどういう意味ですか?」


ダイヤ「『散る』という表現は和歌で桜の花びらが舞う様子を表すのによく使われますわ」


ダイヤ「『桜が散った』は『梨子さんが死んだ』『不完全な十六夜』とは…『Aqoursが八人になって十六の目で眺める世界』という意味ですわ」


英玲奈「成る程…十五夜の月から少し欠けた十六夜の月と、十六の目…つまりAqours全員が揃わなくなってしまった…欠けてしまったということを掛けているのか」



ダイヤ「そして三つ目の和歌…」



~あくがれて 翔ける先には 朧月
さるはゆかしき 及ばぬ羽かな~

【思い焦がれて、何が待っているのか分からない朧月のような微かな光に希望を持ってその翼を羽ばたかせたというのに…なのに月よ。あなたが見たかったのはそんな健気な姿ではなく、願い叶わず地に落ちていく哀れな姿だったというのか】



ダイヤ「これも誰が詠んだかは分かりません」


ダイヤ「羽という表現から見るに、これは善子さんの死を意味していますわ…もしかするとこの頃から次に誰が死ぬのか分かっていたのもしれません。善子さんは最後に自分の本音を打ち明け…Aqoursと共に空へ羽ばたきたいと強く願ったのでしょう。最後の最後まで…」


英玲奈「悲しい歌だな…」


海未「逃れられない大切な人との別れ…それを受け入れなければならないなんて…きっと皆さんの痛みは計り知れないものでしょう…」


ダイヤ「……」



英玲奈「では特殊と言っていた四つ目の和歌とは?」



ダイヤ「…ええ。実は先程の三番目の和歌が流れてきた後…つまり昨晩の深夜に私、このお屋敷の庭園にある大きな池に映る月を眺めてこう読みましたの」


~心にも あらで浮世に 水面夢
うつよ乱れど 心でいづこ~


海未「成る程…水面に映った世界をAqoursの皆さんが囚われている異世界に例え、悲しみのあまりそこに行ってしまいたいという意味ですね」


ダイヤ「…大体おっしゃる通りですわ」


ダイヤ「そして、今日の昼に流れてきた四つ目の和歌ですが…」


~水面すく 蜘蛛手惑ひし をりもえたり
時雨は知らに 去ぬ期の調べ~


【水面を透かして見てみると、そこにはあなたが私達のために四方八方を駆け巡っている時が映りそれを知ることができました。時雨のように溢れ出る涙はそんなことを知るはずもなく水面を激しく打ちつけ、残された時間が去っていく悲しい戦慄を刻んでいます】



海未「返歌…」


ダイヤ「そうですわ。先程の私の歌に対して答えるような歌になっていますの」



ダイヤ「しかしこの和歌に込められた意味は一つや二つじゃありませんわ」


ダイヤ「《水面すく》 は《皆も過ぐ》…つまり【皆さんも死んでしまう】ということ。つまり、上に当てはめれば【あなたが私達が死んでしまうことを阻止するため推理に奮闘している状況を把握していますよ】ということ」


ダイヤ「そして、四方八方という意味を持つ《蜘蛛手》、混乱している、迷っているという意味を持つ《惑ひし》」


海未「ここにも何か隠されているのですか?」


ダイヤ「ええ。《惑ひ》の《ひ》は《い》と読むのを考慮にいれると…」


ダイヤ「《蜘蛛手惑いし》は《雲出窓倚子》になります」


英玲奈「なんだなんだ…?随分詰め込んでいるみたいだが…」



ダイヤ「確かにこの漢字を見ただけでは意味が分かりにくいと思いますが、これは私と皆さんの関係だからこそ意味を持ちますの」


ダイヤ「まず…倚子(いし)は平安の貴族の使っていた椅子のことですの。この時雨亭の部屋にも置いてありますわ」


英玲奈「ああ。確かに全部屋の窓辺の簾の前に置いてあるな」


ダイヤ「《水面透く 雲出窓倚子 をりもえたり》は、

【私達の内浦では雲が出て月が見えないので当然水面を透かしてもそれを見ることができない。どうせ貴方はそれを知っていながら時雨亭のさぞ豪華な椅子に腰掛け、窓からさぞ綺麗な国宝級と謳われる水面に浮かぶ月を眺めているのでしょうね。そんなことだろうと思いました】

という皮肉が込められているんですわ。ふふっ…本当に知らなかったんですわ…」


ダイヤ「しかし私が内浦の天気を把握していなかったのに無理な課題を出したことを怒られた…と言うよりも、その会話をした私達にしか知り得ない情報を込めること自体に意味があったのだと思いますわ。この和歌が皆さんから私への送り歌であるという証拠になりますから…」


ーー
ーーーー

果南『もう、大袈裟だよダイヤ!』


梨子『そうですよ!内浦からの月も素敵ですよ?』


ダイヤ『かつて屋敷に住まう者は、夜が更けると簾を上げて倚子に腰掛け、その煌々たる月…そして水面に映るもう一つの月を眺め和歌を詠んでいたそうですの…ああ、なんと羨ましい…』ホレボレ


曜『正直ちょっと羨ましいなぁ。私もそんな絶景なら見てみたいかも』


ーーーー
ーー



海未「すごい…」


ダイヤ「更に上の句の最後、《し をりもえたり》は《栞燃えたり》。つまり本に対して造詣の深い花丸さんが死んでしまったことを表していますわ」


英玲奈「上の句だけでここまで…」


ダイヤ「しかしここまでの和歌を作れるのは花丸さんくらい…花丸さんが考え、それを誰かが代弁したのですわ」


英玲奈「練りに練ったのだろうな。即興だとまんじゅうの歌になるのだから…」


海未「Aqoursの残された皆さんはダイヤさんの状況をある程度把握しています。つまり、私達と同じように神隠しについて推理ができる比較的安全な環境に置かれていますね」


英玲奈「少なくとも地獄の業火に身を焼かれていると言ったことはないようだな。安心した」


ダイヤ「あちらでは午前0時を迎えると強制的に眠らされ死ぬ者、そして月の夢を見る者がいる。それ以外の時間は普通に起きて推理に励んでいるのですわ」


ダイヤ「…そして私が月を眺めて詠ったあの和歌は皆さんのいる異世界へ届いた。皆さんはそれが私の和歌だと気付き、花丸さんはその返歌に出来るだけ情報を詰め込もうと最後まで奮闘したんですわ」


ダイヤ「問題はこの下の句にどんな意味が込められているかですが…」



英玲奈「上の句にあれだけ詰め込んだんだ。下の句にも何かあるはず…」



~時雨は知らに 去ぬ期の調べ~



海未「この《時雨》とは、涙という意味の他にここ、時雨亭を表しているのではないでしょうか?」


英玲奈「成る程な。つまり下の句はここに関することだな」


ダイヤ「時雨亭のことを何か知り得たんでの?」


英玲奈「…ところで、この《去ぬ》の読みは(いぬ)、(さぬ)どちらだ?」


ダイヤ「古典文法上なら(いぬ)ですが…(さぬ)と読ませて何かを掛けている可能性もありますわね」




海未「讃岐の調べ」



ダイヤ 英玲奈「!!!!」


海未「百人一首には二条院讃岐という方の歌があります。《サヌキの調べ》は二条院讃岐さんの和歌のことではないでしょうか?」


英玲奈「…だとしたら残った《は知らに》は《柱に》!!!」


ダイヤ「柱が例の柱時計だとしたら…」


~時雨柱にサヌキの調べ~



三人「時雨亭の柱時計にサヌキの和歌!!!!」


海未「確かダイヤさんの家にはここ、時雨亭で作られた柱時計があるんですよね!?」


ダイヤ「はい!!」


英玲奈「!!!!!」


英玲奈「百人一首の讃岐の和歌!!」


~わが袖は 潮干に見えぬ 沖の石の
人こそ知らね 乾く間もなし~


海未「この沖の石というのはまさか!?」


ダイヤ「鐘に嵌めるための石!!」


英玲奈「もう一つの石が…二条院讃岐の沖の石…」


海未「何故サヌキさんの歌に…」


海未「まさか彼女も過去に神隠しに!?」


英玲奈「間違いない。サヌキは異世界に囚われている時、この神隠しの手掛かりである石を残したんだ。Aqoursはそれを見つけたんだろう。そして柱時計はAqoursの八人と共に異世界へ消えた…」


英玲奈「…だとしたら」



ダイヤ「ええ。皆さんは時計に石を嵌め込み終歌を手に入れたんですわ。午前0時、次に私の頭に流れてくる和歌は皆さんの見つけた終歌で間違いありませんわ」



コチッコチッコチッ……


果南「昨日千歌がダイヤの和歌に返歌したけど、もしそれがちゃんと届いているならダイヤはまたそれに対して和歌を返してくるはず」


千歌「ダイヤさんは何を伝えてくるんだろう…」


曜「順番だとこっちが先に和歌を送らなきゃいけないよね?」


果南「ああそうか。曜の時もそうだったからね」


ルビィ「……」


果南「どうしたのルビィ?」


曜「ルビィちゃん?」


千歌「…悲しいんだよ」


曜「え?」


千歌「…次にルビィちゃんが送らなきゃいけないのはダイヤさんが欲しがってるもう一つの和歌。でも、多分次がダイヤさんと繋がる最後のチャンス…」



千歌「伝えたいこと…いっぱいあるんでしょ?」


ルビィ「うん…」ポロポロ



果南「そっか…」


曜「……」


曜「だったらさ、この和歌に隠された暗号を見つけてその答えとルビィちゃんの気持ちを掛詞にできないかな?」


千歌「そうだね。やってみよう!」


ルビィ「うん…ありがとう……」ポロポロ



果南「ちょっとトイレ行ってくるね」スッ


曜「あ、うん!」



~世も泣かせ 紅の京の 夜桜や
水面知るらむ 三津のおもひで~


~比ぶれど うちつけなりや 巴ぐさ
気なつかし夜は いろはのごとく~




千歌「ごめん…私古典全然わかんない…」


曜「私も学校で習ってるだけの素人だし…ましてやここから何かを見つけようなんて…結構難易度高いかもね」


ルビィ「あ…ねえ……」ゴシゴシ


千歌「どうしたの?」


ルビィ「…この下の和歌はサヌキさんが詠ったんだよね?」


曜「そうだよ」



ルビィ「じゃあ上は誰なんだろう?」



千歌「サヌキさんの大切な人…だよね?」


ルビィ「しかも内浦出身なんでしょ?」


千歌「内浦出身で有名な偉人…」


千歌「うう…歴史も苦手だ…」


千歌「あ!そういえば花丸ちゃん、元旦の朝早くからお寺の挨拶回りに行って色々もらってきてたけど…その中に本もいっぱいあったから何か分かるかも…」


ルビィ「確かあの時計も元々はどこかのお寺に送られたんだよね?それがどこなのか分かるかもね!」


千歌「…曜ちゃん、本をーー」


曜「……」


千歌「曜ちゃん?」


曜「あれ…」


千歌「え?」


曜「あれ…見て…」


ルビィ「??」


千歌「あれ…って時計でしょ?」クルッ



コチッコチッコチッ…



千歌「え」



11時56分



千歌「嘘…」


ルビィ「あと八分…」


曜「いつの間にこんな時間に…考察に夢中で全然気にしてなかった…」



千歌「!!!!!!」


千歌「果南ちゃん!!!!!」


曜「このタイミングでいなくなるなんておかしい!!きっと分かってたんだ…」


ルビィ「なんで……なんで黙って消えちゃうの…」


千歌「早く…早く探さないと……」



ザバザバザバ…



千歌「!!!!!!!!」


千歌「水の音!海の方だ!!」ダッ


曜「千歌ちゃん!!」ダッ


ルビィ「待って!!」ダッ



ザザーン…


ザザーン…



果南「……」ザバザバ



千歌「果南ちゃん!!!!!!!」


果南「来ないで!」


千歌「!!!!」


千歌「どこに行くの……なんで黙って行っちゃうの…?」



果南「…おととい、私は千歌を殴りかかったよね」


千歌「!!!」



曜「はぁ…はぁ…待って!果南ちゃん!」


ルビィ「はぁ…はぁ…果南さん!!」



果南「……」


果南「自分でも恥ずかしいくらい感情のコントロールができなくて…」


千歌「違う!!!あれは私がみんなを人殺しなんて言ったから!!!!!!!!」



果南「でも千歌は最初からそんなこと思ってなかったよね」


千歌「……!」



果南「梨子が死んで…鞠莉が死んで…私も千歌も精神的にかなり参ってた。どこだか分からないこの場所で何が起きているのかも分からない。でも、鞠莉が言ってたように見ている場所、進もうとしている場所は同じだった…それはみんなを助けるってこと」


果南「…やっぱ一番年上の私がみんなを支えなきゃいけなかったんだよ。みんながAqoursのお姉さんって呼んでくれてるように、その期待に応えるべきだったのに…あの時の私はその姿から一番遠かった。なのに私は取り乱してみんなを混乱させてそして…」


果南「花丸を傷付けた」


千歌「違う……」ポロポロ


曜「果南ちゃんが救急箱取りに行ってる時、善子ちゃん…言ってたよ。年とか関係ない。みんな一緒だって…」


果南「…聞こえてたよ。でもその善子はさ、死ぬ直前に自分の胸の内を語ってくれた。自分とは何か…自分のあるべき姿とは何か…それを輝かせることができるのがAqoursという存在だ…って。その本音を全て聞いた時全くその通りだと思ったよ。やっぱり自分にしか無い、自分にしか持てない役割…こうやって命ある限りそれを生かしてみんなを助けたいって…そう思った」


果南「…なら私には何があるか。ううん、なんにもない。みんなより年上ってだけ。だったらその分、今度こそみんなを引っ張って行かなきゃいけないと思った」



果南「…でも、それは私なんかよりよっぽど頭のキレる花丸の役割だったんだよ。神隠しの謎を解いてみんなを助けたい。引っ張りたいって気持ちは誰よりもあったのに…それを行動で示せない私に存在意義なんてあるのかなって」


果南「だけど昨日…花丸はそんな私に言ってくれたの」



ーー
ーーーー


花丸『これからは四人で辛いと思うけど…優しくて、温かくて…聡明なみんなのお姉さん、果南さんがみんなを先導していってね?』


ーーーー
ーー


果南「こんなに頼りなくてダメな私を…殴った私を…それでもお姉さんだって言ってくれたの。信じられなかった…」



ルビィ「そうだよ!!!果南ちゃんもすっごく頭が良くて!!!時系列のことも水面夢のこともサヌキの和歌のことも!!!果南ちゃんが引っ張ってくれたおかげでここまで謎が解けたんだよ!!!!」


曜「うん!果南ちゃんがいてくれたからこんな不安な場所でも安心していられた!!」


ーー
ーーーー


果南『よーし、今日こそは大漁目指すぞ~!!』


曜『ふふっ…』


果南『なんちゃって♪』


ーーーー
ーー


曜「凄く頼りになって心強かった!!!」


ーー
ーーーー


果南『間違いない。この序歌は内浦で生まれた誰かが歌ったものだよ。サヌキの大切な誰かが…』


果南「つまり時雨亭にある柱時計の沖の石にあたり、カラクリを解くことができる石…サヌキの大切な人の残したもう一つの石が去年時雨亭から見つかったんだよ!それで柱時計に嵌め込んだことでサヌキの大切な人の和歌が出てきた!急遽序歌がこれに変わったってことは日本のどこかで眠っているはずの、つがいになるこの歌を探しているってことを知らせたかったんだよ!!」


曜『そういうことだったんだ…』


ーーーー
ーー


果南「ルビィ…曜…」


ルビィ「だから行かないで…」


曜「果南ちゃん…」


果南「……」


果南「…そっか。そう思ってくれてたなら嬉しい」



果南「…でもいいの。行かせて」ザブザブ…



曜「どうして!!!!」


果南「それでも自分が許せない!!!」


曜「!!!」


果南「…私はやっぱみんなのところにはいられない!私が生きているうちに、託された想いに応えるべきだった!成し遂げるべきだった!!それが叶わず情けなく事切れてみんなの隣に並べられるなんて絶対嫌だ!!!」


曜「そんな……」


ルビィ「ううっ……」ポロポロ


果南「…それに善子や花丸みたいに美しく死ぬにはスカスカな人生だったから。梨子だって鞠莉だって…死ぬって分かってたら色んなこと話してくれたと思うけど…私はいい。何も言うことはないから」


果南「だからこうして、大好きだった海で一人ーー」



千歌「やああああああああああああ!!!」バチャバチャ



ドガッ!!!!



曜 ルビィ「!?!?」



果南「きゃっ!?」バシャーン!



千歌「……」


果南「千歌…何すーー」



千歌「ふざけないで!!!!!」バシャッ


果南「!!!!!」


千歌「美しく死ぬって何?死ぬのは悲しいことなんだよ!!芸術じゃないんだよ!!!涙を飲んで死を受け入れた善子ちゃん花丸ちゃん…それに何も伝えることができなかった梨子ちゃんや鞠莉さんにも!そんなこと言うなんて失礼だよ!!!!!」


果南「……」


果南「ごめん…」


曜「千歌ちゃん…」


千歌「それになんで…なんでそんなに自分の在り方に囚われるの?なんでそんなに無理するの?」


果南「だから私の役割はみんなのーー」


千歌「そういうことじゃない!!!」



果南「え…」


千歌「…果南ちゃんは一人じゃないじゃん!!曜ちゃんだってルビィちゃんだって…私だっている。果南ちゃんはAqoursの果南ちゃんなんだよ!!」


千歌「私はリーダーなのに、バカで古典も赤点ギリギリで頼りなくて…だからこっちに来てからも全然引っ張っていけてない。それどころか取り乱してつい人殺しなんて言っちゃった…」


千歌「でも誰もそのことで私を責めなかった。その後も普通に接してくれた。本当ならリーダー失格だよね?なのに善子ちゃんは自分の分身である黒い羽を託してくれた。花丸ちゃんはずっと使ってた大切な栞を託してくれた。それで私気付いた」


千歌「ずっと繋がってた…ううん。これからもそう。ずっとずっと繋がってるんだよ。京都にいても…異世界にいても…例え死んじゃってもどこにいても。Aqoursはずーっと繋がってて一つなんだよ」


千歌「自分で言うのもなんだけどさ、リーダーだから全部やんなきゃとかリーダーだから全責任負わなきゃとかじゃなかったんだよね。みんなと一つならお互い足りない部分を補強し合っていけばいい。私は足りない部分だらけでたくさん助けてもらったけど、みんなに信じてもらえる存在でいることができた」


果南「千歌…」



千歌「果南ちゃん。果南ちゃんは確かに優しくて温かくて頭もいい。まるでお姉ちゃんみたい。ずっと昔から一緒だからさ、そんな果南ちゃんのことはよーく知ってる」


千歌「…でも、本当は繊細で傷付きやすくて、みんなの為についつい一人で抱え込んじゃう。そんな果南ちゃんのこともよーく知ってる」


果南「……」


千歌「…果南ちゃんが頼りにされてるのは確かだよ。でもさ、それを果南ちゃん自身がプレッシャーに感じる必要も、自分を出そう自分を出そうって一人焦る必要も無いんだよ」


曜「果南ちゃん…」


ルビィ「うぅ……」ボロボロ


千歌「最後まで…ううん。ずっと一緒にいて…どこにも行かないで…果南ちゃん…私たちが頑張るから……」


果南「……」




果南「覚えてる?あの日のこと」



ーー幼少期


ザザーン…


果南『怖くないって千歌!ここで飛び込むのやめたら後悔するよ!』プカプカ


千歌『うう……』ブルブル


果南『絶対できるから!』


千歌『ううぅ……』ブルブル


果南『さあ!!』


千歌『うん…』


千歌『……』グッ



千歌『たぁぁっ!!!』バッ



バシャーン!!!



果南『わっ!?』ザバァッ


ブクブク…


果南『ち、千歌!?大丈夫!?』



ザバァッ!!


果南『!?』


千歌『ばあっ!!』ギュッ


果南『千歌!!!』


千歌『飛べたよ!私、飛べたよ果南ちゃん!!!』スリスリ


果南『もう!驚かさないでよ!』


果南『でも…ふふっ。よく頑張ったね♪』



千歌『うん!!!』



ーーーー
ーー



千歌「うん。本当はすっごくすっごく怖かったんだけどね…」


果南「……」


果南「…ルビィは私がダイヤと遊ぶために家におじゃました時、いつも柱の影からこっそり見てたよね。ダイヤがこっちに来て一緒に遊びましょうって言っても恥ずかしがって隠れちゃってた」


ルビィ「えへへ…うん…」


果南「…曜は市営プールの帰りによく千歌と淡島に寄ってくれたよね」


果南「ふふっ。覚えてる?私がさ、魚がいないプールで泳いでもつまんないって言った時、曜ったらすっごく怒ってさ。一ヶ月後に勝負だ!って言って練習凄い増やしてたんだけど…結局私に勝てなくてわんわん泣いて…」


曜「…ふふっ。覚えてるよ。あれは海にばっか潜ってた果南ちゃんにプールの良さを知ってほしくてムキになって…」


果南「…三人とも、小さい時からずっと知ってた。外へ出る時ダイヤにトコトコ付いて来て次第に一緒に遊ぶようになったルビィ。ダイバーショップにいると『果南ちゃーん!』って嬉しそうに走ってくる千歌と曜。それは桜が咲き誇っても、蝉がやかましくても、夏服から冬服になっても、水溜りに氷が張っても、また春を迎えて桜が咲いても…季節が巡り巡っても変わらない光景をずっとずっと見てきた」


果南「それはAqoursになってからもそう。でもそれはいつしか当たり前の風景で永遠に続くものだと思っていた。ここに来るまでは…」



果南「…驚いたよ。みんなは私が思っている以上に強かった。強くなっていた。どんなに辛くても悲しくても…霧で前が見えなくても必死に答えに辿りつこうと?いていた」


果南「そこで気付いた。恥ずかしがりだったルビィは今やスクールアイドルになってみんなの前で歌って踊ってる。負けず嫌いの曜は今や私なんかよりうんと速く泳げる。臆病だった千歌は私と違って物怖じせず五人を東京の大舞台へ導きライブをやってのけた」


果南「あの当たり前の風景の中でもみんなは確実に成長してたんだね。嬉しかった。嬉しかったけど…ちょっぴり寂しかった。妹みたいに可愛いかったみんなが遠くへ行っちゃって私だけが取り残されたみたいで…」


三人「……」


果南「私は今までの景色だけじゃなくてみんなが変わっちゃったって認めたくなくて…なんとかみんなのお姉ちゃん松浦果南でいたくて…それで……」ポロポロ




千歌「……」ギュッ


果南「!!」



千歌「果南ちゃんはずっとずっと見守ってくれてたんだね…ほら。やっぱりお姉ちゃんだ…美渡姉や志満姉にも劣らない三人目の…」ボロボロ


果南「千歌…」ポロポロ


ルビィ「お姉ちゃんがいなくてすっごく寂しくて心細かったけど…果南さんがいたからルビィは折れちゃわなかった…優しく包んでくれる果南さんの温もりのおかげで安心できた。すっごく嬉しかったんだよ?」


果南「ルビィ…」ボロボロ


曜「私が成長できたのは果南ちゃんを目指してたから!ずっとずっと、果南ちゃんみたいなかっこよくて水も滴るいい女に向かってヨーソローしてたであります!」ビシッ


果南「曜…」ボロボロ


曜「……」


果南「おいで」ニコッ


曜「うん…」ポロポロ


ルビィ「……」


果南「ルビィも」


ルビィ「!!!」


ルビィ「うん…」ポロポロ



ザブザブ…



果南「……」ギュッ


千歌「……」ギュッ


曜「……」ギュッ


ルビィ「……」ギュッ


果南「最後に一つ、みんなにお願いがあります…」


曜「えへへ…何さ?かしこまっちゃって…」


千歌「らしくないよ果南ちゃん?」


ルビィ「なんでも言って」



果南「みんなに甘えたい…」



曜「……」


千歌「……」


ルビィ「……」


果南「え?みんなどうして黙…」



曜「ぷはははははは!!」


千歌「あはははははは!!」


ルビィ「ふふふっ…」


果南「ちょっと!?なんで笑うの!?」


曜「あはは。ごめんごめん。普段は聞かないからさそんなセリフ」


果南「い、いいでしょ!?だって…」


果南「だって……」ボロボロ


千歌「うん……」


ルビィ「ううっ……」ボロボロ


曜「いいよ……」ボロボロ



果南「一つだよ…ずっとずっと…」ボロボロ


曜「分かってるよ…果南お姉ちゃん…」ボロボロ


ルビィ「ありがとう…果南お姉ちゃん…」ボロボロ


千歌「これからもずっとずっと見守っててね…」


千歌「約束だよ。果南お姉ちゃん…」ボロボロ


果南「うぅ……」ボロボロ




果南「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん……


……


……




こうして目を閉じると、波の音や千歌達の声が胸に響く…


懐かしいなこの感覚…


内浦での毎日が走馬灯のように頭を駆け巡る…


…情けないこんな私を慕ってくれてありがとう


最後まで私は…ちゃんとみんなのお姉ちゃんだったんだね


ううん。私たちは一つだから。これからもみんなの中で見守っているよ



ずっとずっと…




ゴーンゴーンゴーン…



……


……



ダイヤ「どういうことですの!!」バンッ!


英玲奈「曇り…こんな時に限って…」


海未「これでは向こうから和歌が送られて来てもこちらから返すことはできません…」


ダイヤ「くっ…」



英玲奈「…いや、まだだ!」


海未 ダイヤ「!!!」


海未「何か方法があるのですか!?」


英玲奈「ああ」


ダイヤ「一体どうすればいいんですの!?」


英玲奈「こう考えるのはどうだろう?先程言ったサヌキが異世界で神隠しにあっていたのなら、彼女の残した終歌とは対極の序歌の読み手は黒澤ダイヤ、過去に貴方と同じ紋章を刻まれし九人目の可能性が高い」


ダイヤ「!!」



海未「二人はダイヤさん達と同じく和歌のやり取りをしていました!その誰かとサヌキさんの和歌の掛け合いが今の序歌と終歌です!」


英玲奈「この部屋の入り口の時計に嵌め込まれている石。この後0時のタイミングでそれに触れれば何か起きるかもしれない」


英玲奈「可能性は保証できないが…貴方と同じ立場の人間が残した石だからな」


ダイヤ「やってみますわ。もうそれしかありませんもの!!」ダッ


英玲奈「頼んだぞ…」


海未「どうかご無事で…」



ダイヤ「お願いです…」タッタッタッタッ



コチッコチッコチッ…



ダイヤ「どうか!!!」タッタッタッタッ



コチッコチッコチッ…





ダイヤ「届いて!!!!!」





バッ!!!




ゴーンゴーン…
ゴーンゴーン…



ザザーン…
ザザーン…



…ん?


ここは…


海の上?


どうやら水面に浮かんでいますわね…


…これは夢ですの?


先程、柱時計の石に触れたところまでは覚えていますが…


いつもと違う…


紋章は既に刻まれたのでしょうか?


でも和歌は聞こえてきませんわ…



!!!!!!!


まあ…


なんと綺麗な月と星空でしょう…


時雨亭より拝することのできる静かで上品でどこか物憂げな月とは違い、煌びやかで猛々しい立派な月ですわ


周囲の星々も…どれが一等星でどの星座なのか分からぬ程煌めいていて…滅多にお目にかかれませんわね。こんな絶景…


…そして、月明かりで微かではありますが…少し遠くに島が見えますわ


…ただ淡島とは違う。少し小さくて岩壁のそびえる島ですわ


…ここはどこなんですの?


一体どうなっているんですの?





!!!!!!


もしかしてこの月は…



ザザーン…
ザザーン…



ずっと水の中にいたルビィ…


やっと水面に上がって来れた…


やっと見ることができた…


これがみんなの見ていた世界…



月が綺麗…


星も綺麗…


すっごく…


…でもなんでそんなに煌めいてるの?


嬉しいの?悲しいの?怒ってるの?


あなたはみんなに思いを託されてきたんだよ?


誰かが死んで、自分もまた死に近づいて…その悲しみや苦しみを歌にして…


…ちゃんと聞いてた?味わった?だからそんなに眩しいの?だからそんなに激しいの?


…そう。辛かったね。でも、もう一晩だけ我慢してね?ルビィで最後だから。ちゃんと聞いててね?壊れてしまわないで…



…怖い夢を見て泣いた


梨子さんが死んだって知ってまた泣いた


朝起きたら鞠莉さんが死んでいて泣いた


元の世界に戻れてなくて泣いた


善子ちゃんの言葉に泣いた


やっぱり戻れてなくて泣いた


花丸ちゃんの言葉に泣いた
多分人生で一番…


でも翌朝は泣かなかった


そして果南さんの言葉に泣いた


星の数ほど流した涙は、この海のように大量の涙は、月のように激しく高ぶって流した涙は…


枯れなかった


だってずっと大切だから…


ずっと繋がっているから


その繋がりをルビィは守りたいから…


お月様…


もしあなたが繋がりの守護者なのなら…



…どうか、ルビィのお願いを聞いてください



…もしかしてここは、皆さんが囚われている異世界の月の夢!?


そしてこの月こそが…皆さんがはち切れそうな想いを和歌に乗せ託した月だったのですわ


…だとしたら今宵、今こうして私と同じ月を眺めている誰かがいるはずですわ!


梨子さん…善子さん…花丸さん…不明な一名と今宵の死者を除くと、残りはあと三人…



!!!!!!!!



…仮にルビィが死んでしまっているのなら、今までの和歌にそれを仄めかす掛詞があったはず。妹故皆さんは真っ先にそれを伝えようと考えるはずですわ…


そしてルビィが和歌を詠んだのなら…私へのメッセージがあったはず…


いずれもまだ無いということは…


ルビィは死んでおらずまだ月の夢も見ていない


ならば……


…夜半の月よ


…もしあなたに心があるのなら



……


お月様…お願いです


……



ルビィに一目…



……



お姉ちゃんに…



……



「「会わせて……!!!」」




ゴツン…



「「ぴぎゃっ!?」」


「いたたた…なんですの?」


「うゆ…頭に何かぶつかった……」クラクラ



「もう…なんですの!?」ザバァッ!



「お月様のバチが当たったんだ…」



「ご、ごめんなさーー」ザバァッ!




ザザーン…



ダイヤ「あ………ああ………」



ルビィ「おねえ……ちゃん……?」



ダイヤ「ルビィ……」



ルビィ「おねえちゃん…」



ダイヤ「ルビィ!!!!!!」ザバァッ!



ルビィ「お姉ちゃん!!!!!!」ザバァッ!



ギュッ



ダイヤ「ルビィ……」ボロボロ


ルビィ「お姉ちゃん…うっ…ううっ…」ボロボロ


ルビィ「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!お姉ちゃん!!!お姉ちゃん!!!!!」ボロボロ


ダイヤ「ごめんなさい…辛かったわね…苦しかったわね…」ボロボロ


ルビィ「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!怖かったよぉぉ死にたくなかったよお姉ちゃああん!!!!!!」ボロボロ


ダイヤ「本当にごめんなさい…まさかこんなことに……」ボロボロ


ダイヤ「でもずっと…ずっとずっと、ルビィのことを忘れはしませんでしたわ…」ボロボロ


ルビィ「うぅ……ルビィだって…ぐずっ…ルビィだって!!!!ずっとずっとお姉ちゃんのこと考えてた!!!!!」ボロボロ


ダイヤ「繋がっていた…」ボロボロ


ルビィ「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!」ボロボロ




今はずっとこうしていましょう……



月の許す限り……



ザザーン…

ザザーン…



ルビィ「ぐすっ…」ギュッ


ダイヤ「…ルビィ。こちらの状況を詳しく説明して」


ルビィ「うん…」


……


……



ダイヤ「そう…鞠莉さんまで……」


ルビィ「うん…その水面夢の順番だと今夜死んじゃうのは果南さん…多分もう……」


ダイヤ「水面夢…これが…」


ルビィ「あとはルビィと…千歌ちゃんと曜さん…」


ルビィ「なんでこんなことになったのか。どうしたらいいのか。それをずっと解明しようと頭を悩ませて…なんとか答えに近付こうとしてたけど…そんな中次々みんなが死んじゃって…」


ダイヤ「…それであの和歌を」


ルビィ「うん…」


ルビィ「やっぱりお姉ちゃんに届いてたんだね…」


ダイヤ「…ええ。こちらもずっと、ルビィ達を助けるため悪戦苦闘していました…」


ダイヤ「でも大丈夫。こうして繋がることができたのですから…今は思いのままに語れますわ」


ルビィ「うん…!」


ダイヤ「……」



ダイヤ「八人の神隠し」


ルビィ「!!!」


ダイヤ「…歌合で聞かされましたの。百年ごと下二桁が十五の年、私たちの家系に降り注ぐ災厄。それは内裏歌合に紛れ込んだ妖の四十六家目の存在により引き起こされる…」


ルビィ「その妖のせいでみんな……」


ダイヤ「その神隠しは二日未明から五日の正午に起こり、それが過ぎるといなくなった八人ともう一人…九人目の死者が見つかる」グイッ


ルビィ「その模様は!!!」


ダイヤ「紋章ですわ。決まって九人目の死者の首に刻まれている…今、どうなっていますの?」


ルビィ「えっと…複雑でよく分かんないけど、丸の中に赤い文字が刻まれているのが五つある」


ダイヤ「やはり果南さんは…」


ルビィ「どういうこと?」


ダイヤ「これはこちらで誰かが死ぬ度に文字が増えていきます。あと三人…それが全て刻まれた時に私も死にます」


ルビィ「そんな!!!」


ダイヤ「こちらではその水面夢の順に一人ずつ死んでいくということですわね……そしてこれが五番目の夢。私と繋がる最後のチャンスということだったわけですか…」


ルビィ「……」



ダイヤ「ですが大丈夫。必ず助かりますわ。こちらが予想していた通りに、そちらでも推理が進んでいたようなので…もう少しです」


ルビィ「その四十六家目は見つかりそうなの?」


ダイヤ「今歌合の参加者は皆私が犯人で逃げ回っていると思っていますの。正確にはそう思い込ませて真犯人を探るという算段で海未さんや英玲奈さんと奮闘しているところですわ」


ルビィ「うみさんと…えれなさんって…」


ルビィ「!!!!」


ルビィ「み、μ'sの園田海未さんとA-RISEの統堂英玲奈さん!?お姉ちゃん会ったの!?」


ダイヤ「ワケあって二人も神隠しの謎に迫っているんですの。だから大丈夫。必ず助け出してみせますわ」


ルビィ「う、うん!分かった!」


ルビィ「全部…全部解決したらサイン貰わないと…」


ダイヤ「ええ」ニコッ


ダイヤ「……」



ダイヤ「それからサヌキの和歌のことですが…」



ルビィ「うん…うちにある柱時計から見つかったよ」


ダイヤ「やはり…」


ルビィ「この水面夢の中で、サヌキの沖の石を見つけたの。それを鐘に嵌め込むと和歌の書いてある紙が出てきて、台座の部分の表面に四つの窪みが浮かんできたの」


ダイヤ「四つの窪み…時計の台座は最初から窪んでいるのではなかったのですわね…」


ダイヤ「その石はどこにあったのですか?」


ルビィ「それは…」ザパッ


ブクブク…


ダイヤ「ルビィ!?」ザパッ


ブクブク…



ダイヤ「!!!!」


ダイヤ(明るい…まるで陽が射しているようですわ…空は夜なのに何故!?)


ダイヤ「ぷはぁっ!!」ザパッ!


ダイヤ「……」


ダイヤ「やはり夜…」プルプル


ダイヤ「ん?」


ダイヤ「この水……」



ルビィ「ぷはぁっ!!」ザパッ!


ダイヤ「!!」



ルビィ「この水の底に落ちてたんだよ」


ルビィ「そしてこれは昨日…ルビィが見た四番目の水面夢…」


ダイヤ「夢は繋がっているということですか!?」


ルビィ「はっきりと分からないけど…」


ダイヤ「そうですか…」


ダイヤ「…しかし見つかってよかったですわ」


ダイヤ「その石の柱時計は昔、時雨亭より送られたものだという記述が見つかりました」


ルビィ「うん!横に書いてあった!!1235年に送られたって!!」


ダイヤ「間違いありませんわね」


ルビィ「…やっぱり時雨亭にもう一つあるの?」


ダイヤ「ええ。お屋敷の廊下の隅に、家のものと全く同じものが置いておりましたわ」


ダイヤ「鐘の石と窪みの有無の差はありましたが…」


ルビィ「その時雨亭の石って…」



ダイヤ「ええ。去年、時雨亭の幹事様がお屋敷の庭園にある例の池の底から見つけられたものですわ。それを嵌め込むとその時計からあの序歌が出てきたんですの」


ダイヤ「そしてその裏には…定家が百人一首を定めたとされる『夜半の間』という名の部屋が見つかりましたわ」


ダイヤ「そこには序歌…そしてもう一つ、終歌の存在が書き記された書が見つかったそうです」


ルビィ「終歌…じゃあそれがあの歌…」


ダイヤ「ルビィ…終歌を教えてください」


ルビィ「分かった」



~比ぶれど うちつけなりや 巴ぐさ
気なつかし夜は いろはのごとく~



ダイヤ「……」


ルビィ「これなんだけど…」


ダイヤ「これが……」


ルビィ「何か分かる?」


ダイヤ「いえ…」


ダイヤ「ただ、序歌との関係を踏まえて考えれば何か分かるはず」


ルビィ「二つの歌は掛け合いになってる…恐らく凄く親密な二人のやり取り…」


ダイヤ「二人は今の私とルビィのような状況なのでしょう」



ルビィ「え?」


ダイヤ「サヌキは五番目の水面夢を見た。もう一人はこうして私のようにその夢に入ることができた。そして二人は出会えた…しかしそれが、二人が出会える最後の機会だと気付いてしまった…」


ルビィ「……」


ダイヤ「だから和歌を残した。それは辞世の句であり…この神隠しを解き明かす鍵でもある。その時にサヌキは石を水底に沈めたんですわ」


ルビィ「そっか…五の夢の水面から石を落とせば四の夢の水底に辿り着くから…」


ルビィ「じゃあルビィがお姉ちゃんと会えるのも…」


ダイヤ「いえ、それは違いますわ」


ルビィ「!!!」


ダイヤ「こちらに和歌の作者についての記述はありませんでしたが、終歌はサヌキのものだと分かりました。あとは序歌の作者について分かれば…神隠しの謎が見えてくるはずですわ」


ダイヤ「二人は自らの死に刻んだのです。未来に生きる私達へメッセージを…災厄を断ち切るための鍵を…」



ダイヤ「だから例えこの夢が覚め再び離れ離れになっても…謎を解き明かして……」フワッ


ダイヤ「!!!」


ルビィ「お姉ちゃん!!!!!!」



ダイヤ「もうそろそろ時間ですわね…」キラキラキラ


ルビィ「そんな…まだ話したいこと……」


ダイヤ「大丈夫ですわ。私達はずっと繋がっています」キラキラキラ



ダイヤ「例えどこにいても……何百年と離れていても……」キラキラキラ


ルビィ「お姉ちゃーー」



ルビィ「!!!!!!」


ダイヤ「?」キラキラキラ


ダイヤ「ルビィ?」キラキラキラ



ルビィ「なんであの島が…」


ダイヤ「あの島がどうしたのですか!?」キラキラキラ


ルビィ「あそこ…!さっき言ったルビィ達が囚わーー」



……


……



…イ……ん…


…丈…か……



ダイヤ「うう…」パチッ


海未「ダイヤさん!!」


英玲奈「目が覚めたか!?」


ダイヤ「海未さん…英玲奈さん…」


英玲奈「あの後駆け寄ってみれば時計の前で倒れていたからな…再び夜半の間の中へ運んだのだ」


海未「大丈夫ですか?」


ダイヤ「はっ!!!」


ダイヤ「ルビィ!!ルビィは!?」


英玲奈「ずっとその名を呼んでうなされていたな…」


海未「夢の中で会ったのですか!?ルビィさんに…」


ダイヤ「夢…」


ダイヤ「そうでした…ルビィは…」ガクッ


英玲奈「……」



海未「お話ください。何があったのか」


ダイヤ「ええ…」ポロポロ



ーー
ーーーー



曜『ほわたたっ!?』


ステーン!!


『大丈夫!?』


曜『あだだだだ…』


『曜ちゃんの着ぐるみ、裾が長すぎるのかもね』


『先生に直してもらう?』



曜『だ、大丈夫だよ!もう時間も無いしさ、とにかく数こなそう!』



千歌『そ、そうだよ!伝統芸能なんだから絶対に成功させよう!』プルプル


『鎧凄く重そうだけど…』


千歌『平気平気!このくらい!』ヨロヨロ


ツルッ


千歌『うぎゃっ!?』


曜『えっ』



ドンガラガッシャーン!!!


ーーーー
ーー



曜「…はっ!?」ビクッ



ザザーン…
ザザーン…



曜「……」


曜「…ああ、釣りしながらウトウトしてたんだ…」


曜「…ルビィちゃんは布団に潜っちゃっててまだ和歌のこと聞けないし…千歌ちゃんは果南ちゃんの側にいたいって言うから…」


曜「……」


曜「寂しいな」


曜「昨日までは隣に果南ちゃんがいて元気付けてくれてたからさ…」


曜「……」


曜「ダメダメ!しんみりしちゃ!」


曜「…元気出るように昨日逃した魚を釣って二人に食べさせてあげないと」


曜「それが…」



曜「それが今夜死ぬ私にできる、精一杯だから…」



曜「…って、あれ?」


曜「浮きが沈んでる…」


バシャバシャ!


曜「!!!!!!」


曜「うおおおおおお!!!!」グイッ



ザバァッ!!!


ピチピチッ!!


曜「やった!釣れた!!」



ペチーン!!



曜「ごはっ…!?」ドサッ



曜「いたたたたた…思いっきし顔引っ叩かれちゃった…」スリスリ


曜「うわ…ほっぺたちょっと切れてるよ…後でバンソコウ貼っとこ…」


曜「……」


ピチピチッ…


曜「この子もここに迷い込んじゃったのかな?かわいそうに…こんな霧の海ーー」



曜「!!!!」


曜「あれ!?!?」


曜「こ、この魚……」



「曜さん!!!!」


曜「!!!」


曜「ルビィちゃん!」



ルビィ「大切なお話があります」



【松浦果南 死亡】

ーー残り3人



英玲奈「成る程…」


海未「神隠しにあった皆さんのいた世界…そこは霧に包まれたどこかの島だったのですね」


ダイヤ「どうやら私の家もその島にあるそうで…そこで皆さんは生活していたそうです」


英玲奈「つまりこちらの世界から消えたのは八人と柱時計、家は両方に存在していることになるのか…」


ダイヤ「そこで毎晩…各自が水面夢という夢を見ていたそうなんです」


ーーーーーーーーーーーーー

一…血に染まった水中
二…生暖かくて濁った水中
三…真っ暗で冷たい水中
四…水底に沖の石がある美しい水中
五…綺麗な月明かりと星空の水面
六…新月の冷たい水面
七…雨に晒される水面
八…死の夢

ーーーーーーーーーーーーー



海未「成る程…順番に夢を見ていくことでいずれ八番目の夢を見て死に至るということですか…」


英玲奈「黒澤ルビィはこの四の夢の水底に沖の石が落ちていてそれを拾った…それを時計に嵌めることで暗号を解いたということだな?」


ダイヤ「おっしゃる通りですわ。そして五の夢の月を眺めて和歌を詠むことで、紋章の刻まれている私と繋がることができんですの」


英玲奈「やはり満月の夢の仮説は間違っていなかったか…」


海未「その水面夢は、サヌキが沖の石を沈めた約八百年前の世界ということですね」


ダイヤ「更にその四の夢と五の夢は水中と水面の関係…つまり繋がっていたんですの」


英玲奈「どういうことだ?」


ダイヤ「五の夢は夜です。しかし、ひとたび水中に潜ると何故か上から陽の光が射していて…昼のような世界になるんですの。その光景はまさしく四の夢で…しかし再び水中から顔を出すと夜の空が広がっていましたわ」


海未「夢が繋がっている…?」


英玲奈「もう一つ分からないのだが…八人が起きている時に囚われていた島は霧で周辺を見渡せない。だからどこなのか分からないのも無理はない。では水面夢の海域はどこなのか?話によれば水面夢で霧は出ていないらしいな。夢の中で周辺を見渡すことは叶わなかったのか?特徴的な島や目印があればある程度場所が特定できるはずだ」


ダイヤ「……」


英玲奈「どうした?」



ダイヤ「それについてですが…」



曜「えっ……」バンソコウペタッ


千歌「ダ…ダイヤさんに会った…?」ガクッ…


千歌「それにμ'sの園田海未さんやA-RISEの統堂英玲奈さんって……」



ルビィ「うん…ルビィも驚いたよ」


曜「それに…八人の神隠しって…」


ルビィ「信じられないと思うけど…お姉ちゃんが全部説明してくれた…ルビィ達はその呪いにかかったんだって…」


千歌「許せない…その四十六家目のせいでみんなが死んじゃった……」


曜「それに…このままじゃダイヤさん達も危ないんじゃ…」


ルビィ「今、お屋敷の人はみんなダイヤさんが犯人で逃げ回ってるって思ってるみたい。今下手に露骨な犯人探しをすると本物の四十六家目に怪しまれるって…」


曜「全部分かるまでは歩み寄れないってことか…」


ルビィ「そしてやっぱり、この和歌にその秘密が隠されているって…」


千歌「……」


千歌「向こうでもずっと頑張ってくれてたんだね」



曜「…うん。ちゃんと繋がっていたんだよ」


千歌「私たちも頑張らないと…!」


曜 ルビィ「うん!!」




三人
「「「それでちょっと気になることが」」」




三人「「「あ」」」


三人「……」


曜「じゃあ私から」スッ


ルビィ「ルビィが…」スッ


千歌「えっ…じゃあ私が」


曜 ルビィ「「どうぞどうぞ」」スッ


千歌「えええええええ!?!?」


曜「ぷはははははは!」


ルビィ「あははははは!」


千歌「もう!二人とも!!」


千歌「ふふっ…」



スススッ…


梨子「…」


鞠莉「…」


善子「…」


花丸「…」


果南「…」


曜「みんな…安らかに眠ってるね…」


ルビィ「うん…すごく綺麗なまま…」


曜「綺麗……」


曜「……」


ルビィ「どうしたの?」


曜「あ、ううんなんでもない」


曜「それで千歌ちゃん、気になることって?」


千歌「梨子ちゃんと果南ちゃんの体をよく見て」


曜「梨子ちゃんと…」スッ


曜「果南ちゃん…?」スッ


ルビィ「あっ!!」



曜「何!?」


ルビィ「おんなじだ…」


曜「え?」


ルビィ「死体の状態…」


曜「!!!!」


千歌「そう…死後硬直とかよく分からないけど、これだけ日が経つと一番最初に死んだ梨子ちゃんと半日くらい前に死んだ果南ちゃんにはどうしても差が出てくるはずだよね?その…腐ったりとか」


千歌「なのに梨子ちゃんの体は全く腐ってない…硬いままなんだよ」


曜「硬いまま!?」


曜「死後硬直っていうのは…しばらくすると解けてまた柔らかくなるはずだよ!筋繊維が機能を失うから…」


ルビィ「解けてない…ってことは」


千歌「死体の時間が止まってる」



千歌「…私が思ったのはつまり、もしこの呪いを打ち破ればみんなも生き返るかもしれないってこと!!」


曜「そ、そうか!一時的な仮死状態ってことだよね!!」


ルビィ「希望が見えてきたね!!」


千歌「うん!!!」


千歌「はい次ルビィちゃん!」


ルビィ「ぴぎっ!?」


曜「多分…夢の中で起きたことだよね?」


ルビィ「うん…それなんだけどね?」


ルビィ「お姉ちゃんが空へ消えてく時、ふと周りを見渡したんだけど…そこにあったの」



ルビィ「この島が…」


曜 千歌「!!!!!!」



千歌「本当!?」


ルビィ「間違いない…あの岩壁や裏手の森…遠くからだったけどこの島だよ!」


曜「見渡すっていう発想は無かった…私の時はずっと月と星を眺めてたし…六の夢は新月で真っ暗、七の夢は豪雨で目が開けていられないから…」


千歌「うん…私もすぐ潜っちゃったし…」


千歌「でもつまり…」スッ



ルビィ「水面夢はあの霧の向こう…夜はみんなこの島の周辺の海に浮かんでいることになる」


千歌「起きている時も眠っている時も…いる場所は同じだったんだね」


曜「海…」


ルビィ「?」


千歌「曜ちゃん?」




曜「その考えがミスリードだったんだよ」



英玲奈「それは本当か!?」


ダイヤ「はい。夢が途切れる瞬間、ルビィはそのようなことを言っていました」


海未「起きている時に過ごしていた島…逆に眠っている時はその島を水面から眺めていたということですか?」


ダイヤ「はい。間違いありませんわ」


英玲奈「成る程…島から周辺の海域は霧で見渡せないが眠っている間はそれが晴れる。そして水面夢はその海域にいるんだ」


ダイヤ「海…」


英玲奈「どうした?」


海未「海未は私ですが…」




ダイヤ「そもそもあそこは海なのでしょうか?」



千歌「どういうこと!?」


曜「これ!」バチャ!


ルビィ「バケツ?」


千歌「うわ!魚だ!!」


曜「これ、さっき釣れたんだけど…」


ルビィ「なんていうお魚さん?」


曜「その前に、この水ちょっと舐めてみて」


千歌「う、うん…」チョビッ


千歌「……」ペロッ


千歌「!!!!!」



ルビィ「しょっぱくない…」


曜「この魚はフナ。淡水魚だよ」


千歌「ここは海じゃない…」


曜「しかも…」グイッ


曜「ほら、口の奥…エラの所に鰓耙(さいは)っていう濾過器官があるの分かる?このトゲトゲみたいなの」


ルビィ「うわ…すごい数…」


曜「そう。普通のフナよりうんと多い。それに見た目もちょっと違う」



曜「私も海の魚以外はあんまり詳しくないんだけど…これは固有種の可能性が高い」



ダイヤ「私、その四番目の夢と繋がっているという事を確かめるために水に潜ったんですが、その時に口に入った水…全くしょっぱくなかったんですの」


海未「淡水!!」


英玲奈「どこかの湖だということか…」


ダイヤ「はい」


ダイヤ「分かったのはこのくらいですが…」


海未「いえ、十分な情報だと思いますよ」


英玲奈「ああ。場所が特定できれば何か分かるかもしれない」


海未「あとは終歌ですが…」


ダイヤ「それならルビィから聞いてきましたわ」


英玲奈「ならばその解読にあたろう。序歌と合わせてな」



~世も泣かせ 紅の京の 夜桜や
水面知るらむ 三津のおもひで~


~比ぶれど うちつけなりや 巴ぐさ
気なつかし夜は いろはのごとく~



英玲奈「これが終歌…」


海未「僅かですが親密な方と最後の時を過ごせた喜びが伺えますね」


ダイヤ「この《いろは》という部分、まるで生まれたばかりの赤子の時を思い出す…ということでしょうか?」


海未「成る程。そのような捉え方もありますね」


ダイヤ「と言いますと…?」


海未「…いえ、《いろは》とは古典文法上だと実の母という意味を持っているんです。ですから、

【あなたはまるで幼き頃自分を寝かしつけてくれた本当のお母様のようです】

という意味になるんじゃないかと思いまして」


英玲奈「成る程な。つまり序歌の歌い主はサヌキの腹違いの母親という線が濃厚か」


ダイヤ「……」


海未「……」


英玲奈「……」


ダイヤ「まさか…」


海未「その母親って…」


英玲奈「ああ…内浦出身というのも当てはまるな…」



コチッコチッコチッ…


曜「うーん…」ペラペラ


千歌「そっちありそう?」ペラペラ


ルビィ「ダメ…海のお魚さんしか載ってないよ…」ペラペラ


千歌「確かお正月にタイを釣るためのエサを使ったんだよね?それと同じものを食べるフナなんじゃない?」


曜「使った餌は『オキアミ』っていうちっちゃいエビだけど…フナって基本雑食だからなぁ…まあ、そもそも八百年前のフナの食習慣が今と同じってことは無いと思うけど…」


ルビィ「そ、そうだよね…平安時代の人がお昼にコーラやハンバーガー食べてたら変だもんね」


曜「極端だけどそういうこと」ゴロン


千歌「ふわあ…困ったなあ…」ゴロン


ルビィ「…あ、花丸ちゃんがお寺で貰ってきた本でも読もっかな」


曜「ああそっか…こっちからサヌキの親密な人を探さなきゃだっけ」


千歌「こんな難しい本達の中に手がかりが…」バサバサ


千歌「ん?このチラシは…」パラッ



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【第50回 伊豆長岡温泉 鵺ばらい祭
2015年 1月25日 13:30 湯らっくす公園 】

・地元中学生による伝統芸能「鵺踊り」
・弓道家による弓のデモンストレーション
・福を呼ぶ豆まき
・芸者衆による踊り
・出店もございます!

※駐車場には限りがありますので、公共交通機関のご利用をお願いします。

※昼の部と夜の部がありますが、深夜にお子様を連れる場合は目を離さないよう注意してください。

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千歌「うわ!懐かしい!!」


曜「どうしたの?千歌ちゃん?」


千歌「見て!鵺ばらい祭り!中学の時に出たよね!!」


曜「!!!!」


千歌「どうしたの?」


曜「ううん、さっき私もこの時のこと思い出しててさ」


曜「へえそっか…今年ももうすぐそんな時期だもんね」


ルビィ「ぬえばらいまつり?」



千歌「私達の通ってた中学では、毎年この鵺ばらい祭で「鵺踊り」っていう踊りを披露するんだけどその時の練習がまあ大変で大変で…」


曜「私は鵺の着ぐるみの裾が長すぎて転びまくってたし…」


千歌「私は武士の鎧が重過ぎて動けなかったし…」


ルビィ「あははは…」


千歌「ところで鵺ってなんだったんだろう」


曜 ルビィ「「知らないでやってたの!?」」


千歌「う、うん…昔話の劇なのかなーとは思ってたけど…」


曜「千歌ちゃん…」


ルビィ「鵺ってあの平家物語に出てくる妖怪だよね?」


曜「うん。どんなお話かはうろ覚えだけど…」


千歌「聞きたい聞きたい!!」


曜「うん!ルビィちゃんの読み聞かせ!」


ルビィ「えへへ…分かったよ!」



…むかーしむかし、それは平安時代のこと。

当時14歳だった近衛天皇(このえてんのう)は夜な夜な悪夢にうなされていました。

全国から名のあるお坊さんが駆けつけお経を唱えたり秘薬を与えたりしましたが一向に良くなりません

それは決まって丑三つ時。御所(ごしょ)の上空を黒雲が覆った時「ヒョー!ヒョー!」という鳴き声と共に起こります。

その正体は妖怪の鵺(ぬえ)でした。

頭は猿、体は虎、尻尾は蛇の妖怪です。

近衛天皇の父であり、当時幼い彼の代わりに院政を行っていた鳥羽上皇(とばじょうこう)はそれを見かね、勇敢な弓の達人に討伐
の勅令を出しました。



千歌「ストップ!」



ルビィ「ぴぎっ!?」


曜「どうしたの千歌ちゃん?」


千歌「じょうこう…って何?天皇とどう違うの?」


曜「上皇っていうのは太上天皇(だじょうてんのう)の略称で、自分の天皇の位を譲位…つまり後継者に譲った、元天皇の呼び方だよ」


ルビィ「お弁当で例えるとね」


曜「お弁当!?」


ルビィ「ソースが天皇っていう位で、それを入れた小さいボトルがその人間で、カツがその息子ね」


ルビィ「その天皇の位をジョバーって息子にかけるとソースカツ、つまり息子に皇位を継承したことになるよ。逆に天皇の地位を失って空っぽの人間になったのが上皇だよ」


曜「うん、すっごく酷い例えだね。そんなに悪くないよ。立派だよ。上皇」


千歌「なるほどぉ…」フムフム


曜「納得するんだ」



で、その勅令を受けた人物が源頼政(みなもとのよりまさ)です。

頼政は部下の猪早太(いのはやた)を連れ夜の天皇の眠る清涼殿へと駆出しました。



千歌「ちょっと待って!」


ルビィ「ぴぎっ!?」


曜「今度はどうしたの?」


千歌「さっき、その近衛天皇…って人がいたのは《御所》って言ったのに何で今度は《清涼殿》なの?ワープしてるの?」


曜「ううん、どっちも同じだよ。敷地全体を《京都御所》って言って、その中の建物の一つが《清涼殿》、天皇のプライベート空間!」


ルビィ「《京都御所》がお弁当箱で、《清涼殿》が卵焼きみたいなものだよ」


曜「だから何でお弁当にこだわるの?」


千歌「なるほどぉ…」フムフム


曜「やっぱ納得するんだ」



えっと…で、午前2時頃、話に聞いていた通り清涼殿の上に暗雲が立ちこめます。

頼政はその雲の中に動く影を見つけました。この日の為に用意した武器は、代々源家に伝わる伝説の弓《雷上動(らいしょうどう)》

そこから放たれた渾身の一撃は瞬く間に鵺を捉えました。

庭園に落ちてきた鵺に、早太は《骨食(ほねぐい)》と呼ばれる短刀でとどめを刺しました。

そして、鵺の死体は近くの淀川に流されました。

これにより近衛天皇は悪夢から解放され鳥羽上皇も大喜び。

頼政はずっと意中にあった鳥羽上皇に仕えていた女性を賜ろうとお願いしました。

無論上皇は承諾し、二人はめでたく結ばれましたとさ。



めでたしめでたし。



ルビィ「ふう…」


曜「お疲れ様ルビィちゃん」パチパチパチ


千歌「そんなかっこいい物語があったんだねぇ…」


曜「本当に知らなかったんだね…」


千歌「…ってことは私があの時やったのは頼政の役だったんだ」


曜「そうだよ!で、私が鵺!」


千歌「ふーん…」



千歌「で」


曜 ルビィ「で?」


千歌「それと内浦にどういう関係があるの?その鵺退治のお話って舞台は京都なんでしょ?」


曜「…ん?ああ、実はその時に頼政と結婚した女性が菖蒲御前って言って内浦出身の人なんだよ」


ルビィ「うん!それに肖ってーー」


千歌「……」


曜「……」


ルビィ「……」




三人「ああああああああ!!!!!!」



ーー菖蒲御前(あやめごぜん)


ダイヤ「何故気が付かなかったのでしょう…」


海未「菖蒲御前(※以下アヤメ)…源頼政の側室(妻)、そしてサヌキとは腹違いの母にあたります」


ダイヤ「内浦では毎年7月の頭に《伊豆長岡温泉・源氏あやめ祭り》という催しを行いますの」


英玲奈「その催しは私も知っている」


英玲奈「まあ諸説あるが…鵺退治をきっかけに京都にて源頼政と結ばれたアヤメ。しかし1180年、宇治平等院で平氏の軍の前に散った頼政は、死ぬ直前に最愛のアヤメを都から逃していた。アヤメは平氏の追っ手から逃げ回り、遂には生まれ故郷の伊豆長岡へと戻ってきた。そして現在の《西琳寺(さいりんじ)》にて草庵を結んで頼政の菩提を弔った。その後出家し、西浦…浦の星女学院の南西部にある、現在の《禅長寺(ぜんちょうじ)》にて余生を過ごした」


英玲奈「そんなアヤメと頼政の冥福を祈るのがその《伊豆長岡温泉・源氏あやめ祭り》だろう?」


ダイヤ「そうですわ。全国津々浦々にアヤメを祀る祠がありますが…この内浦が本物だと思いますの」


海未「家系図…そして序歌の《三津のおもひで》も考慮するに間違いありません」


海未「しかし、そのアヤメは八人の神隠しの九人目の死者にあたるはずです。辞世の句となった序歌を残されたのもこの屋敷時雨亭。そうなると逃げ回った末故郷の内浦で事切れた…という説に矛盾します。逃げ回る前…1180年かその次の年には時雨亭で呪いにより殺されているはずです」


ダイヤ「…確か、八人の神隠しの記述の最も古いものは1315年ですわよね?」


海未「ええ…」



ダイヤ「アヤメの亡くなった年は…1215年とされていますの」



英玲奈「なっ!?」


海未「ではアヤメは特例…九人目の死者として紋章を刻まれたにもかかわらず生き残った…ということですか!?」


ダイヤ「もしくはアヤメが1215年まで生きながらえてしまった故に…神隠しはその年から百年ごとに起きるようになったのかもしれませんわ」


英玲奈「どういうことだ?」


ダイヤ「アヤメは何かしらの理由で本来死ぬはずの紋章の呪いで死ななかった。そして歴史にあるように1215年に内浦の禅長寺で…恐らく老衰か何かで呪いとは関係なく普通に死を迎えた。一時的に機能を失っていた紋章は対象の死により再びその瞬間、百年ごと発動するようひっそり動き出していたんですわ」


海未「それで今現在の神隠しと同じ記述があったのが1315年からだったのですか。本当はその前…アヤメの世代からあったもの。しかし百年ごとの呪いとして動き出しのがたまたまアヤメの寿命と重なった下二桁十五の1215年…つまり神隠し自体はもっと前…アヤメは89歳でこの世を去っていますから、1215-89=1126年。1126年以降に最初の神隠しが起きたのでしょう」


英玲奈「時系列でまとめると

・1126…アヤメ生誕
・1xxx…神隠し発起&呪い付与(不発)
・1215…アヤメ死去&呪い発動(百年毎)
・1315…神隠し(記述最古)
・1415…神隠し
・1515…神隠し
~~~~~~~~~~~~
・2015…神隠し(Aqours)


…ということだな。やはりこの1xxxは頼政が死に、逃亡を開始した1180年…もしくは81年が濃厚だ。その時時雨亭を訪れていたのだろう」


ダイヤ「成る程…」


海未「ではどうして死ななかったのでしょう?」


英玲奈「そこだが…」


英玲奈「憶測が過ぎてもアレだ。そろそろ暗号の解読に移ろう。何か分かるかもしれない」



~世も泣かせ 紅の京の 夜桜や
水面知るらむ 三津のおもひで~


~比ぶれど うちつけなりや 巴ぐさ
気なつかし夜は いろはのごとく~



海未「特に怪しい点は見つかりませんが…」


英玲奈「まさか何も隠されていなくて本当に死を嘆いただけの和歌ではあるまいな?」


ダイヤ「お言葉ですがそれは無いと思いますわ」


英玲奈「どうしてだ?」


ダイヤ「サヌキの和歌の《巴ぐさ》。何故平仮名なのでしょう?《巴草》と記せばいいのに…しかも本来《巴ぐさ》では無く《巴そう》と読むはずですわ」


海未「草を平仮名にする必要があったのではないでしょうか?そして《巴そう》では意味が分かりにくいため《巴ぐさ》にしたのだと思います」


英玲奈「成る程な。そう考えると《三津のおもひで》の《おもひで》《気なつかし夜》の《なつかし》も、《いろはのごとく》の《ごとく》も平仮名だな…」



ダイヤ「これは漢字の部分を変換して組み合わせるのではありませんか!?!?だから暗号に関係ない部分はわざと平仮名にしたんですわ!!」



海未「世も泣かせは《夜も鳴かせ》。紅は《こう》とも読みますから《口》、京は《兄》、夜は《四》、桜は《おう》とも読みますから《王》!!!」


~夜鳴 口兄 四王~


英玲奈「夜鳴は鵺(ぬえ)のことじゃないか…?伝説でも夜中にヒョーヒョーと不気味に鳴く妖怪として名高い」


英玲奈「それに、アヤメは平家物語の鵺退治がきっかけで源頼政と結ばれている」


ダイヤ「鵺の呪い…」


海未「それに四王…!!」


【四人の王に陽は昇らずただ月が浮かぶのみ】


ダイヤ「あの暗号ですわ…!!」


海未「四人の王は変換して《王王王王》ではありませんか!?」


英玲奈「待て!!アヤメの序歌のそれは全て上の句の漢字!!それにサヌキの終歌の上の句の漢字、《比ぶれど》《巴ぐさ》を組み合わせると!!!!」


鵺、呪
王王王王+比巴=琵琶




三人「琵琶湖!!!!!」



海未「あの水面夢の場所ではありませんか!?海と見紛う程広くて淡水の!!」


英玲奈「四つの王…この琵琶という漢字の王は水面に浮かんでいる四人、水面夢の五~八番目のことを表していたのだ」


英玲奈「つまり…この神隠しは鵺による呪いでその場所は琵琶湖にある島…」


ダイヤ「琵琶湖にある島となると限られますわ!岩壁のそびえる淡島より小さいあの島は…」


ダイヤ「おそらく《多景島》ですわ!!!」


海未「平家物語に出てくる鵺ばらいの話にはまだ続きが…」


英玲奈「ああ…あの話はあくまで逸話だと思っていたが…」


ダイヤ「更にアヤメの序歌の下の句の《水面知る》はやはり掛詞…《知》は《ち》とも読みますから《皆も散るらむ》…つまり皆さんが死んでしまうでしょうということを表しているんですわ」


海未「残った漢字はアヤメの序歌の下の句の《三津のおもひで》サヌキの終歌の下の句の《気なつかし夜》から【三・津・気・夜】ですが…」


英玲奈「これはそのまま読めるな」


英玲奈「【見・つ・け・よ】と」


ダイヤ「気付いて欲しかったんですわ…自分たちの無念…その幸せを断ち切った鵺という存在に…」



海未「詳しく時系列を分析していきましょう」



コチッコチッコチッ…


曜「まさかサヌキの大切な人って…!!」


ルビィ「間違いないよ!サヌキさんは頼政の娘!!腹違いだけどアヤメさんはお母さんにあたる!!」


千歌「じゃあ…あの序歌と終歌は一応親子であるアヤメさんとサヌキさんのやり取り…ってこと!?」


曜「そういうことだったんだ…」


ルビィ「あ!!」


千歌「どうしたの!?」


ルビィ「花丸ちゃんがお寺の挨拶周りで訪れた所…見て」


曜「この《禅長寺》って浦の星女学院の南西の山奥にあるお寺だよね?」


千歌「あんな遠くまで…」


ルビィ「ここ、アヤメさんが平氏の追っ手から逃れてきて最終的に余生を過ごした場所なんだけど…」



ルビィ「定家がサヌキさんの終歌を込めた柱時計を送ったっていうのはここのお寺じゃないかな?」


曜 千歌「あ!!!」



曜「そうか…そこにあった柱時計が過去にルビィちゃんの家に…」


千歌「でも、アヤメさんって京都…ダイヤさんのいる時雨亭で九人目の死者になったんじゃないの?そもそも逃げ帰ってこれないんじゃ…」


ルビィ「死ななかった…その呪いに打ち勝てる加護があった…」


曜「それこそ夫の頼政なんじゃない?」


千歌「…と言うことは、頼政が勝てるもの……」




三人「鵺!!!!!!!!」


ルビィ「この呪いは鵺によるものだったんだよ!!歴史だと平氏に追われてあちこち逃げたってあったけど恐らく…」


千歌「本当に逃げていたのは平氏からじゃなくて鵺からだった…」


ルビィ「鵺…」


曜「あの鵺ばらい祭の鵺が…」


千歌「神隠しの正体…」



千歌「!!!!!!」


千歌「ルビィちゃん、さっきの鵺退治のお話で鵺の死体が流されたのはどこって言ったっけ!?」


ルビィ「淀川だけど…」


千歌「中学の修学旅行で京都に行った時にバスガイドさんが言ってた…!!」


千歌「淀川は唯一、ある大きな湖から流れ出る河川ですって…」



千歌「それって琵琶湖のことだよ!!!」


曜「そうか!さっき釣ったフナは琵琶湖の固有種、ゲンゴロウブナだったんだ!!今はあちこちに生息してるけど八百年前は人為放流なんてされてなかった!!」


千歌「ここは琵琶湖に浮かんでいる島…当時にこれだけ竹が多い島ってことは…うーんと確か…」


千歌「多景島!!琵琶湖の多景島っていう島に間違いないよ!!」


ルビィ「この島とその周辺をテリトリーにして神隠しを…」



曜「平家物語の鵺退治…鵺は死んでいなかったんだ。ずっとずっと淀川を川上に昇って辿り着いた琵琶湖に住み着いていたんだ…それで自分を撃った頼政を恨んで神隠しをしたんだよ。その対象は頼政の娘、確かその頃二条天皇に仕えていたサヌキを含んだ八人…そして九人目には頼政の大切な側室アヤメを選んだんだ。その場所がここ多景島と島周辺の水域…つまり水面夢の場所。水面夢は毎晩一人ずつ殺していくための儀式…」


ルビィ「サヌキさんは私達でいうルビィの位置にいたんだと思う。神隠しの最後の一人。それで五番目の水面夢でアヤメさんと最後に会って歌を交わしたんだよ…結局その後サヌキさんは死んじゃった。でもアヤメさんは鵺を倒した頼政の妻。その加護のおかげで死ななくて済んで、お姉ちゃんのいる時雨亭にそのことを知らせる和歌を残して故郷の内浦まで逃げて来た…後に定家がそれを見つけて弔いのために二つの柱時計に二つの和歌を込めてそれぞれに置いた…ってことかな?」


千歌「それでおんなじ神隠しが百年ごとにその親戚に起きてるんだよね?なんでだろう?」


曜「百年ごと…っていうのがその呪いのルールならそれは突き詰めても見えてこないけど、親戚…って言うのは引っかかるね。私や千歌ちゃん…他のみんなもそのアヤメやサヌキ…つまりダイヤさんやルビィちゃんと親戚じゃ無いし…」


千歌「なんで私達が…」


ルビィ「……」


千歌「あ!ち、違うよルビィちゃん!別に責めてるわけじゃなくて…」



ルビィ「花丸ちゃんの粗品…」


千歌 曜「え?」



……


ジワァ…


千歌「…ほとんど真っ赤だよ」


曜「誰かが死ぬ度に広がってくんだね…」


曜「血の涙みたいに…」


ルビィ「この百人一首は花丸ちゃんが元旦にお寺周りで貰ってきたものだけど…」


ルビィ「そのお寺って禅長寺のことじゃないかな?」


曜「花丸ちゃんも言ってたけどこのかるたの紙すっごく古いね…」


ルビィ「つまり約八百年前、定家が禅長寺に時計と同時に送ったのがこの小倉百人一首かるただったんだよ」


ルビィ「サヌキさんの終歌の入った柱時計と、二人を繋ぐ百人一首かるたには、長年の月日の中でそこで亡くなったアヤメさんの想いが染み付いてて…後に柱時計がルビィの家に来た。そして今年の元旦にかるたを花丸ちゃんが貰ってきた」


曜「揃っちゃったんだね…」


ルビィ「お姉ちゃんの言ってた四十六家目の犯人も誤算だったのかな?本当は血縁のある人を神隠しに選ぶつもりだったのに偶然私たちが…」


千歌「でも…花丸ちゃんは悪くない」


千歌「それにアヤメさんも」


千歌「アヤメさんは…自分をずっと守ってくれた頼政さんも、水面夢で和歌を詠み合った腹違いだけど本当の娘みたいなサヌキさんも、暗号を解いていつか自分達の無念を晴らしてくれるだろう未来の誰かのことも…」



千歌「信じてた」


千歌「だから助けてあげたい。八百年も待たせちゃったけどその想いに私が…私達が答えてあげたい」


曜「そうだよね!」


ルビィ「うん!」



ーーーーーーーーーーーーーーー

・1104 源頼政 生誕
・1126 アヤメ 生誕
・1153 鵺退治&頼政とアヤメ 結婚
・1162 藤原定家 生誕
・1180 頼政 死去(享年77歳)
・1215 アヤメ 死去(享年89歳)
・1235 定家 百人一首制定&柱時計制作
・1241 定家 死亡(享年79歳)

ーーーーーーーーーーーーーーー


海未「ふう…年表にするとこうなります」カキカキ


ダイヤ「ありがとうございますわ」


英玲奈「まあ、これで大方まとまったな」


英玲奈「…まずここ。1235年。元々定家が時計を送った寺は西浦の禅長寺で間違いない。これはいいな?」


ダイヤ「はい。アヤメが亡くなった禅長寺に弔としてサヌキの言葉を込めた柱時計を送ったんですわ。それが今現在私の家にあるんですの」


英玲奈「そして、さっきも確認したが神隠しの起きた年、及び一般的に知られている歴史と違い本当にサヌキが亡くなった年だが…」


海未「それは頼政の亡くなった年と同じ1180年、もしくはその次の81年辺りが最も有力だと思います。もし頼政が生きているのならその腕で鵺からアヤメ達を守れたはずですから。それに頼政は平氏に襲われ亡くなる直前、アヤメに京の都から逃げるよう言っています」


海未「そしてアヤメは一時的にこの時雨亭にてその身を潜めていたのでしょう。その時に奴が来たのです」


ダイヤ「鵺…ですわ」


海未「そして八人の神隠しが始まったのです」



英玲奈「一人紋章の死のカウントダウンを待ち恐怖に震えるアヤメだったが水面夢にて腹違いの娘サヌキと出逢うことができた。そこで和歌のやり取りで鵺を示す暗号を作った。残された日でそのことを時雨亭に記し、遂には自分も紋章の呪いで死んでしまう…そのつもりだった」


海未「しかし死にませんでした。その原因は恐らく…」


英玲奈「……」


ダイヤ「……」


海未「……」



三人「「「通ひの意思(石)」」」


ーーーーーーーーーーーーー

文暦二年 七月二日
権中納言定家

……柱時計…………………
…………送りて………も…
……………二台目目………
…《通ひの意思》…………
………………………で………
………見つくることかな…
はず……………………………

時雨亭 依 伊豆国君沢郡……寺

ーーーーーーーーーーーー



ダイヤ「それはずっと頼政とアヤメの二人がお揃いで持っていた強い愛の証。別れ際に頼政は例え二人が離れ離れでもずっと繋がっている。だからこれを持っていなさいと…そうしてアヤメに《いし》を託したのですわ」


英玲奈「そして元々アヤメの持っていた《いし》は水面夢でサヌキの手へと渡った。和歌の返しで自分のことを本当の母親のようだと詠ってくれた彼女に自分の《いし》を託したのだ。囚われのサヌキはその大切な大切な《いし》が鵺に見つからないよう水底に沈めた。それが《沖の石》」


英玲奈「世間で《沖の石の讃岐》だなんて謳われているが…本当に幸せだろうな。サヌキは…」


海未「ええ…その頼政の《いし》が紋章の呪いからアヤメを守りました。そうしてアヤメは命を取り止めたわけですが、自分は平氏からも追われている身。これを持って逃げて捕まり殺されでもしたら頼政に合わせる顔がありません。そう踏んで、庭園の池に投げ入れ隠したのです。命からがら生まれ故郷内浦に逃げた彼女は1215年、西浦の禅長寺で果てたのです」



ダイヤ「時は流れて二十年後の1235年。小倉百人一首選定のためにたまたま時雨亭を訪れていた藤原定家はアヤメの残した文を発見したんですの。恐らくそこに記されていたのは

・鵺と神隠しのこと
・アヤメの所在(禅長寺)
・二人の和歌とそれに込められた暗号
・アヤメの石の在り処(庭園の池)
・サヌキの石の在り処(水面夢)
・無念を晴らして欲しいという願い

頼政は二人の弔としてアヤメの歌を込めた柱時計を時雨亭に置き、逆にサヌキの歌を込めた柱時計をアヤメの果てた禅長寺に送ったのですわ。私が天井裏で見つけたこの時の記録に《見つくることかなはず》と記してあったのはサヌキの石のこと。当然見つかるはずがありませんわ。それが沈んでいるのは琵琶湖の底ですもの。ただ、《いし》は二人のお揃い。だから池の底にあったアヤメの《いし》を使って二つの時計の鐘に同じ形の窪みを作ることができたんですの。その《いし》は定家がまた池に沈めて隠し、去年幹事様が見つけられるまで深い眠りについていたのですわ」


ダイヤ「《通ひの意思》とは、【運命によりどんな別れを告げようと、どんなに離れていても心が繋がっている証である同じ形の石】のことを言っていたんですわ」



海未「では無念を晴らすために定家がしたことは何でしょう?ふふっ。もうあれしかありませんね」


英玲奈「ああ。そのアヤメの歌を序歌とし
サヌキの歌を終歌とした。それに挟まれている、始まりと終わりを繋ぐ百の和歌」


ダイヤ「小倉百人一首。頼政は神隠しの呪いを打ち破るための方法を見つけこの百の和歌に隠したのですわ!」



海未「歴史は紐解けました!」


英玲奈「さあ残るは百人一首に隠された謎…そして」



英玲奈「四十六家目の正体だ」


ダイヤ「ええ…」


海未「まだこの屋敷に歌合の参加者として紛れ込んでいます」


英玲奈「奴には聞かなければならないことが山程ある。神隠しはどうやって行ったのか。あちらの世界でどうやって人を殺めるのか。どうして百年ごとの歌合に顔を見せるのか。血縁に無いAqoursが巻き込まれたのは何故なのか。お前は鵺なのか。それとも鵺と何かしらの関係を持つ者なのか。目的は何なのか…」


英玲奈「この後、午後からは今回の内裏歌合の目玉である競技かるた大会を行う。それで上手くいくかは分からんが、奴の正体を暴くための算段がある」


ダイヤ「本当ですか!?」


海未「ええ。私達はそれを取り仕切るため一旦広間へ向かいますが…」スチャ…


白狐「解読の方、お願いできますか?」


ダイヤ「はい…どうかお任せください」


英玲奈「急いでは欲しいが焦らなくていい。心を鎮め集中して解読に励んでくれ」スチャ…



黒狐「間も無く紋章は残り二つになるが…」


ダイヤ「……」


ダイヤ「曜さん…」



コチッコチッコチッ…



鵺 呪 王王王王+比巴=琵琶
皆も散る 見つけよ



千歌「や、やった…」


ルビィ「すごい…解けた……」


曜「千歌ちゃん絶好調だったね…!」


千歌「あんまり文法とか関係なかったからさ。結構楽しかったよ解くの…!」


ルビィ「…やっぱり鵺の呪いだったんだね」


千歌「ずっと叫んでたんだね…助けてって…」


千歌「…なんか分かる。やっぱり運命だったのかも。この神隠しに立ち向かうのは」


ルビィ「うん」


曜「そうだね」


千歌「希望は捨てないよ。最後まで!」


ルビィ「頑張るびぃ!」


曜「ヨーソロー!」



曜「…で、あのさ?いくつか気になってることがあるんだけど…」



千歌「?」


ルビィ「どうしたの?」


曜「水面夢ってさ?八人共同じ、この島の周りにいて繋がってるんだよね?」


ルビィ「うん。さっき分かったけどみんな寝ている時は水面夢を見ていて、ここ琵琶湖の多景島の周りの水中や水面にいるんだよ」


千歌「一応夢だからずっと水の中にいても死んじゃわないんだよね。水の冷たさとかはリアルだし何故か沖の石もこっちに持ってこれたのは謎なんだけどさ…」


曜「昨日沖の石を取った時、千歌ちゃんとルビィちゃんは出会った。つまり四番目の夢と五番目の夢は水上と水面下の関係。これもいいよね?」


ルビィ「う、うん。びっくりしたよ千歌ちゃんがいた時は…」


曜「でも周りには誰もいなかったんだよね?」


千歌「うーん…誰もいなかったよ。水面夢で会ったっていうのが昨日の私達だけだよね?」


曜「やっぱり……」


千歌「曜ちゃん?」


曜「もう一回水面夢を確認してみて」



ーーーーーーーーーーーーー

一…血染めの水中
二…生暖かくて濁った水中
三…真っ暗で冷たい水中
四…水底に沖の石がある美しい水中
五…綺麗な月明かりと星空の水面
六…新月の冷たい水面
七…雨に晒される水面
八…死の夢

ーーーーーーーーーーーーー


ルビィ「曜さん、何が分かったの?」



曜「この夢は四と五だけじゃない。他の夢も水面と水中でセットになっているんじゃないかな?」


千歌 ルビィ「!?!?!?」


曜「例えば《三・真っ暗で冷たい水中》と《六・新月の冷たい水面》。これは一致していると思わない?」


曜「それに、《二・生暖かくて濁った水中》と《七・雨に晒される水面》。これがセットなんだよ。上では雨が降っていたから水中が濁ってた」


曜「そして《一・血染めの水中》と《八・死の夢》。もちろん八の夢を見たって人はここにいるはずがないからどんな夢か分からないけど…夢の構造上、一の夢はそこからスタートしたルビィちゃんただ一人が見ることができた」


ルビィ「……」


曜「そしてこれが繋がっているのなら…ルビィちゃんが水中で見た真っ赤なアレは、水面で起こっていた死の夢の様子だったんだよ」




曜「梨子ちゃんが鵺に食べられた時に流した大量の血」



千歌「!!!」


ルビィ「ひっ…」


千歌「で、でも!梨子ちゃん…ううん。みんなの死体に傷は無いよ!」


ルビィ「そ、それに…水上と水面下が繋がっているなら四の夢と五の夢が昼と夜なのも説明がつかないよ…」


曜「ルビィちゃんが教えてくれたダイヤさんの紋章…それからその後に和歌が流れてたことを考慮すると、その日八の夢を見る人は鐘の音と同時に死んで、死体の状態で水面夢に入ると思う。つまり鵺は死体を食らっていることになると思うんだけど…」


曜「…ただなんで死体に傷がないのか。じゃあルビィちゃんの見た赤い液体はなんなのか……」


曜「……」チラッ



梨子「…」


鞠莉「…」


善子「…」


花丸「…」


果南「…」



曜「まさかね…」



千歌「曜ちゃん?」


曜「あ!う、うん…ごめん。やっぱ分かんないや…」


ルビィ「そっか…」


曜「それで水面下と水上の関係だけど、
それこそが【四人の王に陽は昇らずただ月が浮かぶのみ】であって
百人一首に隠された暗号であり、この神隠しを打ち破る鍵になるんじゃないかな?」


千歌「どういうこと?」


曜「……」


千歌「曜ちゃん?」



曜「ごめん。もうすぐお別れの時間だよ…」



千歌「!!!!!」


ルビィ「……」


コチッコチッコチッ…


曜「ごめんね…もう一息だったのに力及ばず…」


千歌「曜ちゃん…そんなことーー」


曜「千歌ちゃん!」


千歌「!!」


曜「それにルビィちゃん」


ルビィ「うん…」


曜「私ね、今日ずっと考えてた」


曜「眠っちゃう前に二人に何話そうかなーって」


曜「それでね…決めた」


千歌「……」


曜「……」



曜「いい!」


千歌 ルビィ「え?」


曜「いつも通り、楽しくお喋りして笑って…そうやって過ごしたい。だから砂浜に行こう!」


千歌「曜ちゃん…」


千歌「ふふっ…」


千歌「うん!!」


ルビィ「賛成!!」


曜「よーし、最後の定期船発進であります!ヨーソロー!!」ドタバタ


千歌 ルビィ「「ヨーソロー!!」」ドタバタ



ザザーン…
ザザーン…


曜「ほら、湖へお帰り」


ルビィ「フナさんバイバイ」


バシャッ…


曜「……」


曜「やっぱ海はいいなー」ゴロン


千歌「ふふっ、5秒前に自分で湖って言ったじゃん」ゴロン


曜「そうだっけ?忘れちゃった!」


ルビィ「でも間違えちゃうよね…多景島は砂浜も波もあるし…」


千歌「確かテレビかなんかで見た時は岩だらけでゴツゴツしてたから…この砂浜も八百年後には消えちゃってるよ…」


ルビィ「そっか…しょうがないね」



曜「湖だって波は起きるものだよ。例えば水を入れたコップの表面にふーって息を吹きかけると表面が揺れるでしょ?」


ルビィ「うん、熱いお茶とかお姉ちゃんにフーフーしてもらってる時とかもそうなるよ!」


千歌「してもらってるんだ」


曜「この湖も一つのコップだとして、そこに大きい人が息をかけたらどうなる?」


ルビィ「ぴぎっ!?それはもう大洪水だよ…」


曜「大洪水では無いけど…要は、湖の上にも風が吹いてるからさ、肌で感じる風はそうでもないけど、湖全体の水面…ましてや琵琶湖サイズの面積だとそれだけ凄い力がかかってるから海みたいな波が立つんだよ」


千歌「はえー流石だね曜ちゃん」


曜「体感天気予報も雲の流れとか波のうねりとか風向きとか…そのほとんどは風から分かるんだよ!」


曜「ふむふむ…西南西、16時の方向より冷たく湿った空気を感知!大雨が接近しているであります!!」ビシッ


ルビィ 千歌「おおお!!!」



曜「こんな感じ!」


ルビィ「す、凄い…!これが船乗りの娘の力!」


千歌「前も梨子ちゃんと三人でお出かけした時雲一つない晴天だったのに曜ちゃんだけ傘持って来ててさ。二人でからかってたらすぐに土砂降りになってビチョビチョに濡れちゃって…ぶー。曜ちゃんたら教えてくれればよかったのにー!」プクーッ


曜「あはははっ!ごめんごめん!!でもあれは二人に私とお揃いの傘買わせる作戦だったからさ!」ニシシッ


千歌「ええええ!!じゃああれは曜ちゃんに誘導されて…」


曜「まいどありーっ!!」ビシッ


千歌「勘弁してよ~!美渡ねえにすっごく怒られたんだから~!!」


ルビィ「なんて策士…」


曜「あはははっ!」


千歌「…まあでも、おんなじの揃えられて嬉しかったよ」ニコッ


曜「ふふっ私もっ!」ニコッ


千歌「それに梨子ちゃんだって…」


曜「……」


千歌「あれ?曜ちゃん?」


曜「う、うん!そうだね!!」


千歌「曜ちゃん…」


曜「……」


ルビィ「……」



曜「私ね」


千歌「うん」


曜「普段言えないこと、伝えたいこと…抱えきれない程いっぱいあって…それはこういう時こそ言うべきだと思ってる。みんなもそうだった」


千歌「うん」


曜「でも言わないよ」


千歌「うん」


曜「それは全てが終わってから。またみんなで元の生活に戻ることができてから。それは朝のバスだったり、休み時間だったり、練習の休憩中だったり、松月で駄弁ってる時だったり、浜辺だったり…何気ない瞬間にさり気なく伝えたい」


千歌「うん」


曜「それは二人を信じてるって証だから。だから許してね」


千歌「うん」


ルビィ「任せて…曜さん」


曜「だから泣かないよ」


千歌「私も」


ルビィ「ルビィも…それは昨日でおしまい」



曜「ふふっ…千歌ちゃん!」


千歌「なぁに曜ちゃん?」


曜「いや、いいや。聞くまでもないかな」


千歌「えええええ!!?言ってよ!!!眠れなくなるでしょ!!!!」


曜「あはははっ!!それに越したことはないんだけどね!」


曜「…千歌ちゃん」


千歌「…なぁに曜ちゃん?」



曜「やめる?」


千歌「ううん。やめない」


ルビィ「ふふっ」


曜「ありがとう。絶対だよ?」


千歌 ルビィ「うん!」


曜「……」


曜「それじゃあ最後に、二人にお願いがあるんだけど…いいかな?」



千歌「もちろん!なーんでも言って!!」


ルビィ「ルビィ達にできることなら!!」


千歌「いや、できなくてもやる!!」


曜「……」


曜「そう…じゃあ、しっかり聞いててね」


千歌 ルビィ「「うん!!!!」」


曜「……」




曜「………で」ボソッ




千歌「え…」



ルビィ「なんで…」




曜「時間だよ…ごめんね……」



ルビィ「曜さん!!!!!」



千歌「曜ちゃんどうして!!!!!」




曜「さようなら。千歌ちゃん、ルビィちゃん……」ポロッ



ゴーンゴーン…



ザァァァァァァァァァァァァァ…


バッシャァァァァァァァァン…
ザバァァァァァァァァァン…



ぷはぁっ!!ゲホッ、げほっ…!


…七番目の夢。起きている時の白い霧とは正反対にドス黒い雲が立ち込めて視界を奪って…


そこから大粒の雨が降り注いで顔や腕…そして水面を激しく打ち付けてる


空が涙を流しているのか…湖が泣き叫んでいるのか…なんだか善子ちゃんが言いそうだね


とても浮いてなんかいられないから立ち泳ぎしないとだけど…波がうねってて呼吸すらまともにできない…苦しい……


気休めだけど体が沈まないよう足をばたつかせて、片方の腕で水を掻いて、息を吸うタイミングで水が口に入ってこないようにもう片方の腕で口を押さえながら…


寂しくて怖い、いつ終わるかも分からない…認識できる人生最後の夢の終わりを待つ…


ルビィちゃんは今頃真っ暗な新月の夜なのかな?あっちも怖い。何もない…何も見えない静かな水の上…背中には冷たい感覚があるのだけが分かる…不安だよね……


怖くて震えてないかな?大丈夫かな?明日のこの夢…耐えられるかな?



…ふふっ、ここまで来ても自分のことじゃなくてルビィちゃんのこと心配してるなんて…


みんなもそうだったのかな。辛くても苦しくても残ってる皆や死んじゃった皆のことを思いながら雨に打たれて波に揉まれて…


それでも最後の一日まで全力で生きて全部話してくれて…私達に託してくれた


だからーー



!!!!!!!!!!



バッシャァァァァァァァァン…
ザバァァァァァァァァァン…



今……


つ、月が出たよね?


黒い雲の間から…


一瞬だけど…パッと……


まんまるの満月が…


激しい雨や荒れ狂う波はそのままに…


雷みたいに明るく光った…


湖や遠くの島がはっきり分かるくらい…


みんなはこんなこと言ってなかった…


私を覗き込むように…


なんでだろう…


どうしよう…こんなことならちゃんと和歌を作っておけばよかった…


ダイヤさんに鵺のことを伝えたかった…


いや、ダイヤさんならもうとっくに見つけてるよね?


あの月は…それ自体がそういうサインだったのかも…


希望の光…



その希望が照らして一瞬だけ視界に入った多景島…


あそこが砂浜を囲んでいる岩壁だから…


ここは西南西かな…


そんなところにいるんだね…


あれ?


あの時曜ちゃん…


ーー
ーーーー


曜『ふむふむ…西南西、16時の方向より冷たく湿った空気を感知!大雨が接近しているであります!!』ビシッ


ーーーー
ーー


…って言ってたけど


あれは本当にここで雨が降っているのを…つまり七番目の水面夢がここ、多景島より西南西の水面だって当ててたんだ


でも、なんであんな言い方したんだろう?


8時の方向って言えばいいのにわざわざ16時の方向って…


ここ異世界標準ならそうだけどさ…


船乗りさんもそんな言い方しないよね?


でも、時間と方角ってよくできてるよね…


昔の人はそれを使っーー



……


まさか……




バッシャァァァァァァァァン…
ザバァァァァァァァァァン…



ジュッ……


ダイヤ「……」


ダイヤ「もう痛みにも慣れてしまいましたわ」


ダイヤ「曜さん…必ず助けますわ」


ダイヤ「千歌さん…ルビィ…」


ダイヤ「……」


ダイヤ「……」


ダイヤ「そ、そうでしたわ。もう待っていても和歌は流れて来ないのですわね…」


ダイヤ「今私が向き合わなければいけないのは…」シャカシャカ



バサバサ…


ダイヤ「この百の和歌ですわ」


ダイヤ「海未さんはこのかるたも夜半の間で見つかったと仰っていましたわ。きっと定家はこのかるたにーー」


ダイヤ「ん…?」


ダイヤ「このかるた…あの時計の台座の窪みにぴったりハマりそうですが…」



白狐「お疲れ様です」スチャ


ダイヤ「海未さん!」


海未「ふう…」


ダイヤ「広間の方は大丈夫ですか?」



海未「ええ。時期に英玲奈さんも戻って参ります。作戦の方もばっちりですよ」



ーー広間


ザワザワ…


黒狐『静粛に』


白狐『皆さん、遅ればせながらおはようございます。さっそく、今回の内裏歌合の主要行事…競技かるた大会を行いたいと思いますが…』


『ちょっと狐のお二人はん。その前にハッキリさせとくことあるんでおまへん?』


『ええ。先日の会合で仰っていた例の神隠しとやらの犯人、黒澤家の娘はまだ見つかっていないのですか?』


『黒澤家の娘だと判明したにも関わらず、毎晩毎晩人の部屋の前に誰か居られると思うと気遣わしくて眠れないのであります。どうかご説明を』


『このまま我々の信頼を欠くような案件が続発するようなら来年以降、この内裏歌合の主催自体が脅かされる。まずは信頼の証としてそのお面を外していただきたい所存だ』


ザワザワ…



黒狐『静粛に!その件は私が説明する!』ズイッ!



『『『!!!!!』』』


白狐『黒、お願い致します』


黒狐『御意』


『『『………』』』


黒狐『…コホン。最後まで静かに聞いて欲しい』


黒狐『昨日昼過ぎ、我々は黒澤ダイヤを捕らえた。皆が広間に集い歌合を行っている最中、警備が薄くなったこの時雨亭から脱け出そうとしているところを屋敷の者が捕らえたのだ』


黒狐『奴は今一族と共に別の場所で拘束しており今宵、我々が黒澤家を全員処刑する。悪夢の源を根絶やしにするのだ』


黒狐『奴は口を割らないが、恐らく黒澤の家系には下二桁十五の年にその代となった人物が何かしら呪術的な方法で八人を監禁して殺害する習慣があったと踏んでいる。今屋敷の者が引き続き尋問を続けている。御一同はもう安心してくれて構わない』


黒狐『…そして、彼女が歌合に潜り込んでいた四十六家目であると判明したにも関わらず御一同への警戒を解かなかった理由。これは単にまだ奴が屋敷内を逃げ回っており、誰かがそれを匿っている可能性を気宇しての判断だ。ご了承願いたい』


黒狐『そして、昨晩の時点では既に彼女を拘束していたが、それを御一同に伝えることが出来なかったのはこちらの不手際だ。色々立て込んでいたのもそうだが、何百年と続いた悪夢が今我々の代で絶える喜びに浸っていたが故、そこまで頭が回らなかったのもまた事実。それに関しては申し訳なかった』ペコリ


白狐『……』ペコリ



『へ、へぇそうなんや…えらい苦労されとったんやなぁ』


『成る程。我々を不安にさせないよう秘密裏に調査なさってくださっとったのに、逆に我々はそれを不審に感じてしてしまっていた。互いの思惑に行き違いがあったのでありますね』


『末代までの安寧が守られるのも時雨亭の方々の永きに渡る奮闘のお陰…ということですか』


『…ならそれこそ、そのお面は外してもいいのでは?』


黒狐『それはできない』


『どうして…』



黒狐『これは余興だからだ』



『『『余興???』』』


黒狐『御一同はこの内裏歌合に参加されてからずっと疑問に思っていたはず。例年の幹事様に代わって突如現れた代理を名乗る謎の二人。狐のお面を被った絵に描いたような怪しい人物の正体は果たして誰なのか?』


黒狐『この競技かるた大会の優勝者には特別にその正体を明かしてやろう』


『『『おおおおおお!!!』



黒狐『四十五名を各部屋に二名ずつ振り分け対戦を行ってもらう。組合せとシードはくじ引き。読手は屋敷の者に任せる。対戦に勝った者は読手に報告して隣の部屋の勝者と対戦
。それを繰り返して勝ち残った者は、23時より、私達と最終決戦に挑んでもらう。それまでに広間へ来て欲しい…この』スッ



黒狐『紅の狐の面を被ってな』



『『『!!!!!!』』』


黒狐『広間の前に掛けておく。敗れた者は22:30以降、決して部屋を出ないこと』


黒澤『白』



白狐『…ここまでご説明ありがとうございます』


白狐『そして更に優勝者には…』スッ


白狐『こちらの石を差し上げます。如何なる物か存じ上げておりますでしょうか?』


『なんやろ?随分うつやかな石やけぇ…』


白狐『これは最近、この屋敷の庭園の池から見つかった石です』


白狐『調べるとどうやら…菖蒲御前という人物の持ち物だということが分かりました』


『あやめごぜん?』


『どなたでしょう?』


白狐『彼女はどうやら平安末期から鎌倉初期に生きていた人物らしいのですが、何故ここの屋敷から見つかったかは判然としません』


白狐『しかし、約八百年間この国宝と謳われる月の光を浴びてきた悠久の歴史が染み込んだ美しい石…価値は保証できます』


『『『おおおおおおお!!!』』』



黒狐『それでは只今を持って競技かるた大会を開始する。組合せのくじは……』



?『……』



ダイヤ「成る程…かつて九人目として紋章の呪いをかけたアヤメが持っていたとされる石、神隠しの年に現れた謎の二人組の正体…四十六家目が喉から手の出る程欲しがる代物ですわ!!」


海未「四十六家目は妖の類、必ず何かしらの力を使って競技かるたを勝ち上がって来ます」


ダイヤ「つまり、広間に現れた紅狐がその四十六家目…ということですわね」


海未「ええ。それまでに奴に抗う方法、及び神隠しを解く方法を見つけ出さなければいけません」


ダイヤ「タイムリミットは今日の23:00…」




海未「…それで、解読の方の進行具合は如何程ですか?」


ダイヤ「いえ…今まで慣れ親しんで来た和歌であるが故、その内容に疑問を抱く事さえままならず、皆目見当も付かない状況ですが…」


海未「そうですか…」


ダイヤ「一つ気になることがありますの」


海未「??」


ダイヤ「ルビィと会った時、あの子は石を嵌めこんだ瞬間に起こった事としてサヌキの和歌の発見…そして」


ダイヤ「時計の四つの窪みの出現について話していましたの」


海未「!!!!!!!」



ダイヤ「その時計の窪みなのですが…」スッ


ダイヤ「この百人一首かるたをぴったり嵌め込むことができますわ」


海未「あの窪み…元々あったものだとばかり思い込んでいましたが…」


海未「つまり百の和歌から、ある適切な四首を選んで嵌め込むことでまた何かが起こるということですか!?」


ダイヤ「いえ」


海未「?」


ダイヤ「あちらの柱時計とこちらの柱時計は二つで一つ。つまり八首です。合計八首の和歌を必要としてますの」


海未「八首…」


ダイヤ「ただ適切な和歌というのが一体どれなのかは皆目見当も付かない状況でして…」


海未「そうですか…」


ダイヤ「お力に添えず申し訳ございません…」


海未「いいえ、謝らないでください。ダイヤさん。あなた本当に強いと思います。遠く離れた場所で恐怖に震える仲間のため、一人見知らぬ地で奮闘されてきたのですから…」


ダイヤ「一人だなんてとんでもありませんわ…私一人ではとても抗えなかったでしょう。本当に感謝していますわ」


海未「ふふっ…」



海未「…ダイヤさんはどの歌がお好きですか?」



ダイヤ「え?」



海未「私はこの七十七番目の歌です」


~瀬をはやみ 岩にせかるる滝川の
われても末に 逢はむとぞ思ふ~



ダイヤ「この歌は…」



海未「ええ。これは崇徳院の詠んだ歌で

【川の流れが速く、岩にせき止められた急流が幾つに割れてしまおうと、それがいずれ一つになるように、私達もいつか逢いたいと思います】

という意味が込められています」




海未「私達μ'sは音ノ木坂を卒業した後、それぞれ別の道を歩みました」



海未「穂乃果は穂むらで働いているため頻繁に顔を合わせますが…ことりはデザイナーの勉強のためフランスへ留学、絵里は亜里沙とロシアへ帰国しスクールアイドルを主としたダンス教室の開講、花陽は稲の品種改良のため研究室に籠る日々、凛は駅近のラーメン屋に弟子入りしたそうで…かなりしごかれているみたいです」


海未「真姫は医大へ入るため二浪するも叶わず、お父様の知り合いの医薬品の研究機関に勤めることになったのですが、浪人時代の知識が功を成し今まで不治とされていた病の治療方法を発見し今、若きエリートとして注目されているそうです。希は一般企業で事務の仕事をしていますが、夜は街で占いの館を開いていると……にこはアイドルオーディションに何十通もエントリーしてやっと事務所に所属。近々新曲を出すそうでμ's時代からのファンも注目しています」


海未「皆、それぞれの道を選んで進みましたが、今はその道なき道につまずき、悩み、苦労する日々を送っていると思います。しかしどんな人生を歩もうとも、やがてその九人がまた揃う日が来れば…それはかつてスクールアイドルとして活動していたμ'sとして一つになります」


海未「この歌はそんな私達のことを示しているようでならないのです」


ダイヤ「皆さん…それぞれ素敵な人生を歩まれておられるのですわね…」



ダイヤ「私達Aqoursは一度、音ノ木坂学院を訪れました。その時出会った生徒の方は、μ'sはここに何も残さずに卒業されたとおっしゃっていましたがそれも…」


海未「ええ」


海未「立つ鳥跡を濁さず。心はずっと繋がっていますから…」


ダイヤ「本当に素敵な方々です。μ'sに出逢えて…そしてファンになれたことを心から幸せだと思いますわ」



ダイヤ「…私も、ずっと憧れていたんですの。μ'sという伝説に」


ダイヤ「一年生の頃、果南さんと鞠莉さんと組んだスクールアイドルAqoursは…想いの行違いにより実質失敗に終わり…一度はバラバラになってしまったんですの」


海未「今の九人Aqoursの前にも一度…」


ダイヤ「はい。しかし二年の時を経てそのわだかまりは解けました。最初千歌さんと曜さんがスクールアイドルをやりたいと申請しに来た時は豆鉄砲食らいましたが、それが梨子さん…ルビィ…花丸さん…善子さんと繋がっていくうちにかつての日々が思い起こされ…自分でもよく分からない感情が押し寄せてきましたの」


ダイヤ「それは憧れだとか…嫉妬だとか…心配だとか…一言で表せるものではなくて…」


海未「……」


ダイヤ「この渦巻いた感情の原因…それは互いの本音に霧がかかっていたこと。それを全て打ち解け霧が晴れた瞬間…目の前にはかつて夢見るも航海には至らなかった大海原が広がっていましたの」


ダイヤ「今度は三人では無く九人…肩を組んで足並み揃えて光り輝く海へとオールを漕ぎ出さんとしていました」



ダイヤ「そんな最中でした…この神隠しに襲われたのは」



海未「本当に残酷です…」


ダイヤ「皆さんがどこにいるかも分からない。どんな状況なのかも分からない。ただ死…という現実を突きつけられどうしたらいいのか分かりませんでした」


ダイヤ「様々な険しい道のりと葛藤の果てに結ばれたAqoursという存在は切っても切り離せない存在…もし皆さんが死んでしまうのなら自分も皆さんと運命を共にする。一度はそう決めました」


ダイヤ「しかしルビィ達は諦めていなかったのです。限られた手段…和歌で私にメッセージを送っていましたの。そして…遂には会うことができた。諦めかけていた…もう二度と会えないのではないかと思っていたルビィに。そして気付きました。皆さんが必死に前を向いているのに私がこんなところで諦めてしまってはいけません。再び九人が集えるその日まで…」



ダイヤ「長くなりましたが、これが私の好きな歌です。五十番目、藤原義孝の…」


~君がため 惜しからざりし 命さへ
長くもがなと おもひけるかな~


【あなたのためには例え捨ててしまっても惜しくは無いと思っていたこの命、しかしあなたと会ってしまった今、いつまでも生きていたいと思っています】



ダイヤ「海未さん」


海未「はい」


ダイヤ「私達Aqoursが生まれた根源にはμ'sの存在があり、今もそれを追い続けていますわ」


ダイヤ「必ず九人揃って再びステージに立ち、感謝の意を示してみせます!」


海未「ふふっ…私も、ダイヤさんのように強くたくましい若葉に出会えて本当に嬉しく思います。これからのAqoursの皆さんのご活躍、ずっと期待しております!」



海未「隠された暗号を解きましょう…想いを一つにして!」


ダイヤ「はい!!」



コチッコチッコチッ…



曜「…」



千歌「……」


ルビィ「曜さん…」


ルビィ「みんなの部屋に移して…」スッ



千歌「ダメ!!!!!!!!」


ルビィ「!!!!」


千歌「最後に曜ちゃんがお願いしてくれた…だから守らないと…」


ルビィ「う、うん…」


ルビィ「そう…だよね…」


千歌「曜ちゃん……」



千歌「なんであんなこと…」



【渡辺曜 死亡】

ーー残り2人



……


ルビィ「昔の時間の表し方?」


千歌「うん。昨日ルビィちゃんが鵺のお話してくれた時、『丑三つ時』って言ってたでしょ?あれって時間を表す言葉なんだよね?」


ルビィ「う、うん…」


千歌「詳しく教えて」


ルビィ「分かった…ちょびっと難しいかもしれないけど…説明がんばるびぃ!」


ルビィ「昔の人は時間を十二支、子(ね)丑(うし) 寅(とら) 卯(う) 辰(たつ) 巳(み) 午(うま) 未(ひつじ) 申(さる) 酉(とり) 戌(いぬ) 亥(い)で表していたんだよ」


ルビィ「それでその十二の干支はそれぞれ二時間ぶんの時間帯を言っててね?例えばルビィの話した『丑』は午前1時~午前3時の二時間ぶん」


ルビィ「更にその二時間を三十分ごと四つに分けてたんだよ。午前1時~1時30分が『丑一つ時』、1時30分~2時が『丑二つ時』、2時~2時30分が『丑三つ時』、2時30~3時までを『丑四つ時』って言うの」


千歌「じゃあ鵺のお話に出てきた時間は2時~2時30分のことを言うんだね」


ルビィ「この時間は一番お化けが出やすいなんて言われ方もするんだけどね…」


ルビィ「こういう時間の表し方を《十二時辰(じゅうにじしん)》って言うんだけど…」


千歌「これって方角も表せるの?」


ルビィ「う、うん!」


ルビィ「確か花丸ちゃんの本の中に…」ガサゴソ


ルビィ「あった!!」



ルビィ「表にするとこんな感じかな?分かりにくかったらごめんね…」


ーーーーーーーーーーーーーーーー

子(ね)《23~1時》~北~【11月】
牛(うし)《1~3》~北北東~【12月】
寅(とら)《3~5》~東北東~【1月】
卯(う)《5~7》~東~【2月】
辰(たつ)《7~9》~東南東~【3月】
巳(み)《9~11》~南南東~【4月】
午(うま)《11~13》~南~【5月】
未(ひつじ)《13~15》~南南西~【6月】
申(さる)《15~17》~西南西~【7月】
酉(とり)《17~19》~西~【8月】
戌(いぬ)《19~21》~西北西~【9月】
亥(い)《21~23》~北北西~【10月】

ーーーーーーーーーーーーーーーー


千歌「おお……」


ルビィ「ちなみによく聞く《黄昏(たそがれ)》って言葉は元々戌の刻の事を言ってて、季節差はあるけど日没前~日没後の約二時間、空が赤い時間のことを指してたみたい」


ルビィ「あとはお姉ちゃんが言ってた夜半の間の《夜半(よわ)》って言葉も23時~1時を…ってあれ?」


千歌「……」


ルビィ「千歌ちゃん?」



千歌「昨日曜ちゃんがさ、浜辺で西南西16時の方向に大雨が降っているって言ってたじゃん?」


千歌「私多分、七番目の水面夢でそこにいた」


ルビィ「え!?」


千歌「それでこの十二時辰を見ると…
●申(さる)《15~17》~西南西~【7月】
16時の方向…西南西…
それが当てはまるんだよ」


ルビィ「それじゃあ…」


千歌「うん。他の水面夢も…そしてそれが全部、四の夢と五の夢みたいに水面と水中で繋がっているんだったら…」


千歌「他にも三箇所、水面夢の地点があるはず!」



ルビィ「だったらやっぱりこうなるけど…」


ーーーーーーーーーーーーー

一…血染めの水中
二…生暖かくて濁った水中
三…真っ暗で冷たい水中
四…水底に沖の石がある美しい水中
五…綺麗な月明かりと星空の水面
六…新月の冷たい水面
七…雨に晒される水面
八…死の夢


~左:水中 真ん中:水面 右:方角~

一・八・?
二・七・西南西
三・六・?
四・五・?

ーーーーーーーーーーーーー



ルビィ「で、でも…四と五の水面夢が昼と夜で別だったし…」


千歌「思ったんだけどさ、この水面夢って方角以外の十二時辰も全て反映されているんじゃないかな?」


ルビィ「え?」


千歌「私ね。今日豪雨に晒された時感じたの。確かに水は荒れ狂って容赦無く襲い掛かってきてすっごく怖かった。でも…」


千歌「温かかった」


千歌「この水面夢はさ、その七の夢や二の夢みたいに水が温かかったり、三の夢や六の夢みたいに冷たかったりもする。そして四と五で明るかったり暗かったりもする」


千歌「これって季節や時間帯も反映されてるってことだよ」



ルビィ「あ!!!!」


千歌「そしてこれが鵺の方角なのなら…」


ルビィ「頭が《申(さる)》、体が《寅(とら)》、尻尾が《巳(へび)》…」


千歌「全部干支だよ。私がいた七の水面夢は申の方角。繋がっている二の水面夢もそう。水が温かかったのは7月だから。
●申(さる)《15~17》~西南西~【7月】」


ルビィ「じゃあ三と六の水面夢は冷たい…冬ってことは
●寅(とら)《3~5》~東北東~【1月】」


千歌「そして、四と五の水面夢は残った
●巳(み)《9~11》~南南東~【4月】
この流れだと一、八の夢は…


ーーーーーーーーーーーーーーーー

子(ね)《23~1時》~北~【11月】
牛(うし)《1~3》~北北東~【12月】
●寅(とら)《3~5》~東北東~【1月】
卯(う)《5~7》~東~【2月】
辰(たつ)《7~9》~東南東~【3月】
●巳(み)《9~11》~南南東~【4月】
午(うま)《11~13》~南~【5月】
未(ひつじ)《13~15》~南南西~【6月】
●申(さる)《15~17》~西南西~【7月】
酉(とり)《17~19》~西~【8月】
戌(いぬ)《19~21》~西北西~【9月】
★亥(い)《21~23》~北北西~【10月】

一、八…亥 ★
二、七…申
三、六…寅
四、五…巳

ーーーーーーーーーーーーーーーー


千歌「亥…ってことになるよ」



ルビィ「でも…やっぱり四と五の水面夢で昼と夜が違うのが分からない…」


千歌「逆にさ、五~七の水面夢は全部夜だよね?夜の豪雨、新月の夜、ダイヤさんと繋がった綺麗な月と星が浮かぶ夜空。恐らく八の水面夢も夜」


千歌「それこそがあの暗号

【四人の王に陽は昇らず、ただ月が浮かぶのみ】

なんじゃないかな?」


ルビィ「あ!!!!!」


ルビィ「四人の王は果南さんが言ってたように水面に浮かんでる五~八の夢の人…『琵琶湖』って漢字も上に四つ王がある。これは水面に浮かんでいる四人を表していて…その四人は時間が夜に固定されるんだ!!!」


千歌「うん。でも今日ルビィちゃんの見た六の夢は冷たいし私の見た七の夢は温かい。
つまり一日の『時間帯』は夜に固定されるけど、『季節』は十二時辰通りに変化するんだよ。これが
【四人の王に『陽』は昇らずただ『月』が浮かぶのみ】の意味」


ルビィ「水面はdayは固定。monthは変動するってことだね」



千歌「だから四の夢と五の夢で昼と夜が別々になるって不思議なことが起きたんだよ。
本当なら
●巳(み)《9~11》~南南東~【4月】
だから朝からお昼前のはず。実際四の夢の水中はそう。水中に陽の光が射してて沖の石を発見できた。でも、五の夢は水面。時間帯が無視されて夜になるんだよ」


ルビィ「三の夢と六の夢がどっちも真っ暗で冷たいのは
●寅(とら)《3~5》~東北東~【1月】
六の夢は夜に固定されるからともかく、時間の反映される三の夢も朝の3時~5時だから真っ暗だったんだ!」


千歌「そして、二の夢と七の夢」


ーー
ーーーー


果南『そう…じゃあ今日は?』


ルビィ『今日は血じゃなかったけど…生暖かい水の中は酷く濁ってて分かりにくかった…』





善子『で、ルビィが見た夢…見たの?』


千歌『うん…昨日ね。なんだかよく分からなかったけど、ルビィちゃんの見た夢で間違い無いと思う。生暖かくて濁って分かりにくい水の中を泳いでた』


ーーーー
ーー


千歌「二の水面夢は私とルビィちゃんしか見てない。水の中は生暖かくて濁ってる」


千歌「生暖かいのは7月だから。濁っているのはその二の夢の真上にあたる七の夢で雨が降っていたから」


●申(さる)《15~17》~西南西~【7月】


千歌「だから濁って分かりにくくてお昼だって上手く認識できなかったんだよ」



ルビィ「それじゃあルビィの見た一の夢は…」


★亥(い)《21~23》~北北西~【10月】


千歌「赤くてドス黒い血みたいな液体はまだよく分からない…でも、水中の時間帯も夜。真っ暗なはずなのにルビィちゃんはその液体の色を認識できた…ってことは、その真上の八の夢は…」


ルビィ「五の夢の月にも負けない程綺麗で明るい月が海を照らしている…」


千歌「そうだと思う」


千歌「季節も時間もバラバラのこの水面夢…その十二時辰に当てはまる八つの時を示すのが…」


ルビィ「小倉百人一首の和歌!」


千歌「水面夢に適した和歌がこの中にあるんだ。それを探さないと…」


ルビィ「ねえ千歌ちゃん!この百人一首かるたの形!柱時計の台座の窪みにぴったりじゃない!?」


千歌「!!!!」


千歌「見つけるべき和歌は四首…窪みも四つ…間違いないよ!何かが起こるんだ!!」


千歌「この四つの窪みは水面夢の方角!その中心がこの島なんだよ!!」


ルビィ「お姉ちゃんのところにも窪みがあるはず!全部で八首だよ!」


ルビィ「でも何が起こるんだろう…」


千歌「……」


ルビィ「千歌ちゃん…?」



千歌「今日だ」



ルビィ「え?」


千歌「多分私が死んだらルビィちゃんはもう助からない」


ルビィ「えっ!?」


千歌「曜ちゃんが最期に言ったあの言葉…」


ーー
ーーーー


曜『そう…じゃあ、しっかり聞いててね』


千歌 ルビィ『うん!!!!』


曜『……』











曜『私達の死体には二度と触らないで』


ーーーー
ーー



ルビィ「!!!!!!」


ルビィ「まさか…」


千歌「まだ分からない…」


ルビィ「……」


千歌「でも、多分その可能性が高い。だから準備しよう」




千歌「今夜の最終決戦に向けて」


ルビィ「……」


ルビィ「うん、分かった」



ーー時雨亭 廊下


?「……」ギシギシ


?「……」


?「……」スチャ



紅狐「……」



ススススススッ……



紅狐「……」


白狐「おめでとうございます。あなたが見事、2015年時雨亭主催内裏歌合の目玉、競技かるた大会を勝ち抜き栄えある勝利を手にされたのですね」


白狐「どうぞ部屋の中へ。並べてある札の前にお座りください」


紅狐「……」スッスッスッ


紅狐「……」スッ…


黒狐「ここからは余興だ。肩の力を抜いてくれ」


白狐「本来なら私達が対局するべきなのですが…」



ススススススッ…



紅狐「!!!!!!!!!!」





ダイヤ「その役は私が買って出ますわ」


紅狐「……」



白狐「騙すような真似をして申し訳ございません」


黒狐「だが…分かっているよな?」



ダイヤ「この対局は悠久の歴史が紡いだ人々の想いの集大成…絶対に負けるわけにはいきませんわ!」



紅狐「……」



コチッコチッコチッ…



千歌「……」


ルビィ「夜半…時計が23時30分を指したら向こうの世界の23時だよ。そこから時計が0:00を指すまでに決着を…」


千歌「……」


ルビィ「千歌ちゃん」


千歌「…え!?…あ、うん!」


ルビィ「大丈夫?やっぱり私が…」


千歌「ううん。私にやらせて。ダイヤさんと約束したから。次会うまでに百人一首できるようにするって…」


ルビィ「千歌ちゃん…」


千歌「だからルビィちゃん。読み手…お願いね」


ルビィ「う、うん!分かった!」



千歌「……」




コチッコチッコチッ…



ーー
ーーーー


……


海未『そういうことだったんですね…』


ダイヤ『そんな秘密がこの百人一首に…』


英玲奈『ああ…謎は解けた』


英玲奈『23:00…これは予選が長引くことを考慮し思い付きで口にした時間だったが…』


海未『直感が冴えていましたね。むしろこの時間にこそ私達の戦いは始まるのですから』


ダイヤ『夜半の間…定家が名付け隠した部屋。ちゃんとその名にも意味があったんですのね』


英玲奈『夜半は23:00~1時を指すが、恐らく向こうで高海千歌が死ぬ0:00までには決着を付けねばならない。向こうの二人もそれは分かっているはず。何故なら…」


海未『和歌の読み手がいなくなってしまうから…ですね』


英玲奈『ああ。そして向こうとは時差がある。こちらの世界とあちらの世界…その歩みを揃えて競技かるたを同時進行する』


ダイヤ『大丈夫です。私達は繋がっていますわ』


英玲奈『しかし、手順を踏んだ末に何が起きるのは全く分からない』


海未『はい…それに、相手も人間ではありません。まず奴から全てを聞き出せるかすら怪しいですが…最悪何もできずに奴にたちまち殺されて終わりでしょう』


ダイヤ『一かバチか…ですか』


海未『ここまで来たら信じるしかありません』


英玲奈『ああ。大丈夫だ。必ず成功する。我々は一つだ!』


ダイヤ『海未さん…英玲奈さん…』


ダイヤ『はい!!』



英玲奈『さあ、時計を広間へ運ぶぞ』


ーーーー
ーー



コチッコチッコチッ…


白狐「……」


黒狐「……」



ダイヤ(大丈夫ですわ…落ち着いて…)ドキドキ


紅狐「……」



白狐「まだ対局の23時まで少し時間があります。何か言いたいことはありますか?」


黒狐「…と言っても、こちらとしては洗いざらい話してもらいたいのだが…」



紅狐「……」



黒狐「……」


黒狐「そうだな。仮面を外す約束だった」スチャ


白狐「……」スチャ



紅狐「……」



英玲奈「これが私達の正体だ」


海未「思うところはあると思います。しかし、これであなーー」





紅狐「裏切られたのか」



三人「!!!!!!!!!!!」



紅狐「鵺様の生贄という分際で醜い愚行に走り、その血を引く我を欺くとは…やはりどの時代も変わらぬのだな。薄汚れた魂胆を胸に宿し、粗末に塗りたくったペルソナで見苦しく取り繕おうとするその情け無い様は…」


紅狐「…なあ?生きとし生きる人間共よ」



海未「……」ゾクッ


英玲奈「こいつ……」


ダイヤ(ぬ、鵺の血を引いている!?)


紅狐「そろそろあちらでも我の分身が目を覚ます頃か…まだ不完全ではあるが致し方無い」


海未「あなたは一体何者ですか!!!」


英玲奈「その面を外せ!!!」



紅狐「最初に泣き付いてきた時はいささか心が揺れ、ならば我の策に利用してやろうと意企していたが…」


ダイヤ(……)ゴクリ


紅狐「期待外れ?失望?どの道我らが一族の糧となるには相応しく無い憐れな存在だったというのだな…」スチャ



ダイヤ「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」










聖良「なあ黒澤ダイヤよ?貴様にはほとほと愛想が尽きた」



コチッコチッコチッ…



千歌「……」


ルビィ「……」



梨子「…」


鞠莉「…」


善子「…」


花丸「…」


果南「…」


曜「…」


千歌「みんな綺麗だよ…あんなに辛かったのに…生きたいって願っていたのに…必死で抗って…でも最後は受け入れて…」


千歌「そんな辛いことがあったとは思えない程…綺麗で静かに横たわってる…」




千歌「でもおかしいよね?」



千歌「初日、鞠莉さんは裏の森に入って切り傷だらけになって帰って来たはずなのに死体には傷一つ無い。綺麗」


千歌「二日目、花丸ちゃんは果南ちゃんから私を庇って殴られて口元を切っていたはずなのに死体には傷一つ無い。綺麗」


千歌「昨日、曜ちゃんは釣り上げたゲンゴロウブナにほっぺたをはたかれて切り傷を作ってバンソコウを貼っていたはずなのに…」



千歌「死体には傷一つ無い。バンソコウも無い。すっっごく綺麗」


梨子「…」


鞠莉「…」


善子「…」


花丸「…」


果南「…」


曜「…」


千歌「水面夢には四つの地点があるんだよ。一つは鵺の尻尾、一つは鵺の体、一つは鵺の頭…そしてもう一つは…」


千歌「鵺のお皿」



千歌「つまり八番目の水面夢で起きていたことは…その日浮かんでいた死体を食べること。ルビィちゃんが水面下で見た赤くてドス黒いあの液体は…やっぱり梨子ちゃんの血だったんだね」


千歌「私が七の夢の途中で見た月…あれは月なんかじゃ無かった。曜ちゃんを食べ終えて本来の頭の部分に戻って来た…」


千歌「鵺の目玉だったんだ」


千歌「ここには毎日毎日全く傷一つ無い死体が増えていく。それは鵺の食い散らかしじゃない。でも元々付いていた傷も無い。死体はどれも死後硬直がストップしてるなんて言ったけどさ…そもそもどの死体も私達が目覚めた時から全く状態が変わってないんだよ」




千歌「あなた達は誰?」




曜「…」ピクッ




ルビィ「!?!?」



千歌「曜ちゃんは薄々気付いてたんだね…だからあんな事言ったんだ…」


千歌「中学の時の鵺ばらい祭…あの時とおんなじ役になっちゃうなんてね…」



千歌「私が頼政で…」




梨子「…」ピクピク


鞠莉「…」ピクピク


善子「…」ピクピク


花丸「…」ピクピク


果南「…」ピクピク


曜「…」ピクピク



ルビィ「あ…ああ……」ガクガク



千歌「みんなが鵺」



梨#p/@鞠$子「ゴボボボボボボ…」ベチョ


k>°#善花j@l「グゴゴゴゴゴゴ…」ベチョ


果p#●〆:曜※「ギギギギギギギ…」ベチョ



ルビィ「み…みんなの死体がくっついて……」ガクガク


千歌「……」ゴクリ



#p/●@$:k>°@
「ギョゴゴキバキゴキゴゴキバキバキバキ…」



千歌「来るよ」


ルビィ「うぅ…」ビクビク



スッ…



千歌 ルビィ「!?!?!?」



聖良『ふゥ"…まさカ"不完全なマ"ま呼びダザレ"るとは…』



千歌「聖良さん…まさかあなたが…」


ルビィ「……」ギュッ



聖良『……』ゴキッゴキッ



聖良『お久しぶりです千歌さん。そして…』



聖良『お悔やみ申し上げます』ニヤッ



聖良「……」ゴキッゴキッ


英玲奈「北海道の鹿角家…そうかお前たち家系が四十六家目だったのか」


海未「確かに気付いてしまえばこっちのものです…当時の北海道…蝦夷地はまだ完全に朝廷の支配下にありませんでした…ましてやその地に幹事様の家系の者が住んでおられるはずがありません!」



ダイヤ「どうして……」


聖良「ふう…成る程。μ'sの園田海未さん、A-RISEの統堂英玲奈さん。名簿にはあなた方の名前が刻まれていたのですね。故に公開することが出来なかった…」


聖良「あなたがそれさえ見つけて持って来てくれれば粗方の合点がいきましたし、本当の推理状況を把握してこの屋敷の者を殺めていたのですが…」


聖良「残念です」



ダイヤ「それはこちらの台詞ですわ。ずっと信じていましたのに…今日まで同じスクールアイドルとして高みに登ろうと、それを妨げる障壁を打ち破ろうと共に誓ったあなたが…」


聖良「そこまで信頼されていたのですか。照れますね」


ダイヤ「ふざけないでください!!!!!」


聖良「ふざけてませんよ」


聖良「あなた達のようにバカ正直で希望を真っ直ぐ見つめている人間がそれに裏切られ、絶望へと叩き落とされる様…」



聖良「大好物なんです。鵺様も我々も…」ペロッ


ダイヤ「くっ……」ゾクッ



英玲奈「コイツ……」プルプル


海未「英玲奈さん…抑えてください…」


聖良「……」



聖良「…分かりました。どうせあなた達の命も今宵で散ります。せっかくなので冥土の土産に全てお話しましょう」



聖良「…1153年。当時源頼政は平家物語に語り継がれる鵺退治にあるよう、私達の祖先である鵺様を倒し淀川へと流しました」


聖良「しかし鵺様は滅びてなどおらず、そのまま上流へ上流へと昇られ、着いた場所は現在の滋賀県の琵琶湖。そこの多景島に辿り着かれました。ですが傷は深く、それを癒すため深い眠りにつかれていました」


聖良「中々癒えなかった傷ですが1180年。それは急激に治癒しました。そう、頼政は鵺様に封印術を掛けていた。彼が死んだことで鵺様の封印は解かれて傷も癒えた」


聖良「鵺様の怒りは収まらず、頼政の大切な人物を末代まで呪うことを誓われました。そして、手始めに襲ったのが彼の側室であるアヤメ。彼女は平氏から逃れるためたまたまこの時雨亭に潜んでいましたから。そして彼女に掛けた呪いというものが…」



英玲奈「八人の神隠し」



聖良「御名答。更に鵺様は頼政と血の繋がりが強い人物八人を当時御所に仕えていた中から選び、自らの傷を癒すために滞在されていた多景島、その砂浜に連れ去りました。そして毎晩、一人ずつ水面で食い殺していく…」


海未「それが水面夢…」


ダイヤ「その中にサヌキも…」


聖良「そちらでは七日ですが時雨亭のアヤメにとっては三日半…半日ごとに犠牲者が出る度に首の紋章が刻まれ続け、痛みと孤独と恐怖に震えていたでしょう」


聖良「そして八人目が死ぬ時、同時に紋章が全て刻まれアヤメも死ぬはずでした。しかしどういうわけか死ななかった」


聖良「アヤメは平氏の追っ手もあり直ぐ様時雨亭を後にしてしまいました。鵺様もアヤメにかけた呪いが発動せず、直接殺めようとされたが彼女を見つけるには至りませんでした。本来頼政の死んだ1180年から百年ごとにその家系を襲い続ける神隠しとして掛けた呪い…しかしその紋章が役目を終えない限り永遠にその百年後は来ない…」


聖良「…と思われていた矢先、1215年の1月2日。鵺様はその紋章が不自然に発動した事を察知されました。それが表すのは菖蒲御前がどこかで死んだということ。それにより呪いは1215年から百年ごとに発動するようになったのです」


英玲奈「……」


聖良「この百年…いえ、鵺様の住まれるあちらの世界では倍の二百年。それは鵺様が眠りにつかれる時間。その間、次の神隠しの標的を鵺様のいる異世界に送り込む役目。そしてアヤメの果てた地を探し、彼女が残したであろう鵺様の存在を示す何かを掴み抹消する役目を託され生み出されたのが…」




ダイヤ「あなた達鹿角家」



聖良「そうです。先祖様は当時あまり管轄の行き届いていない蝦夷にて住を成し、密かにそれを探っていましたが…」


聖良「1236年1月2日より、この時雨亭にて全国の名家を揃えた内裏歌合の催しを行うことを知りました。それは翌年も翌々年も…毎年のように行う恒例行事と化しました」


聖良「その時雨亭はかつてアヤメが神隠しの間過ごしていた邸宅。日にちもアヤメの死と同じ。偶然とは考えにくい。ひょっとしたら内裏歌合はその前の1235年、時雨亭でアヤメの残した鵺様の手掛かりを発見したことがきっかけで催されるようになったのではないか?」


聖良「そう踏んだ先祖様は当時時雨亭を訪れていた藤原定家を怪しみ、捕らえようと計画していましたが束の間の1241年…彼は亡くなってしまい、真相は闇に葬られてしまいました…」


聖良「しかし内裏歌合の様子は至って普通で、ただ単に定家が小倉百人一首を定めたことで翌年の正月より催されるようになっただけ…そう考えました」


聖良「さて…しかしここに集まる名家は皆アヤメと血縁のある者。次の1315年の歌合から密かに紛れ込み、その中から鵺様の生贄を決めれば何かと都合が良い。そうすれば屋敷の者は1180年に御所で起きた神隠しを想起し調査に動き出すはず。そこからアヤメの情報を引き出せれば御の字だろうと踏んだのです」



聖良「しかし1315年までの調査でアヤメの果てた地の伝説が残り、その寺や石塔、墳墓までもがある地は全国津々浦々だと判明。どれが本物なのかは見当も付きません。当時情報網も発達していませんでしたから。故にそれを発見する度にその近辺に住まう血縁の者を神隠しの標的にすれば、それがアヤメの果てた本当の地なのか否かまで判明すると踏んだ先祖様」


聖良「最初にアヤメの情報が見つかったのは現在の東広島の福成寺。よって1315年の歌合ではその近辺に住まう家系の八名を神隠しし、参加者に紋章を刻みました。当然屋敷は騒ぎになりますがアヤメの事は見えてこない…ハズレです」


ダイヤ「ハズレ…人の命をなんだと…」


聖良「百年後の1415年。次の代がアヤメの情報を見つけたのは現在の新潟にある金仙寺。裏には『菖蒲塚』だなんて名の付いた古墳もありますから間違いないと思い、歌合にて新潟の家系を神隠ししました。更にその年から砂浜に家を複製し、八人をそこに置きました。時雨亭を訪れている九人目にあたる人物の家です。アヤメの家系であるが故、もしかしたら八人がその家から彼女に関する情報を探し出すと踏んだのですが…やはり何も見えてこない…」


ダイヤ「私の家が異世界にも存在するのはそういうことでしたのね…」


聖良「そうしてアヤメが果てた本当の地について全く見えて来ないまま百年…また百年と月日が流れて行きました」


聖良「しかし、ある年に新たな動きがありました。それは当時私の曽祖母が神隠しを行った1915年から二十年後…1935年」


ダイヤ「!!!!!!!」



ダイヤ「伊豆長岡温泉源氏あやめ祭り!!」



聖良「そうです。現在の静岡県伊豆の国市で毎年夏に行われている催し…これがかつて頼政とアヤメに関係しているのは明白。直ぐにその地へ焦点を絞り調査していくとアヤメが頼政の菩提を弔った西琳寺、そして余生を過ごした西浦の禅長寺の存在が浮き彫りになりました。その二つの寺院から鵺様に関する決定的な証拠を掴むことはできませんでしたが、アヤメの果てた地で間違いないでしょう」


ダイヤ(つまり禅長寺に鹿角家の調査が入る前に間一髪で私の家に柱時計が移されていたのですね…仮にそれを鹿角家が見たとして気付いたかどうかはともかく、見つからないに越したことはありませんわ…)



聖良「ご丁寧に1965年からは鵺ばらい祭まで開催してくださって…それが確信を強める要因になりました。当然次の2015年の神隠しの標的はそのすぐ近くに住を成すアヤメと血縁にある家系、黒澤家に決まりました。それを執り行うのが1996年、鹿角家に生まれ落ちた私の役割…」


聖良「そして…」



聖良「出会ってしまったんですよ…素敵な素敵な九人に…」ニヤッ



ダイヤ「どうして…どうして関係のない皆さんを…」


聖良「対象の決定権は私にありますから。本来なら歌合を訪れるであろうあなたを九人目として、残り八人も黒澤家から選ぶつもりでした」


聖良「…私は以前から黒澤ダイヤについて調べていました。すると2012年の夏、東京で行われたスクールアイドルの大会にあなたの所属するAqoursという名の三人組のグループが出場していたことが判明しました」


聖良「…それを知った私はあなたに接近するため理亜と共にスクールアイドル、Saint Snowを結成しその機会を伺っていました。そして去年、あなたが出場した同じ東京の大会で会えることを信じていました」


聖良「…しかし去年の夏、神田明神を訪れたそのAqoursのメンバーにあなたの姿は無かった…」


聖良「最初はもう引退してその後輩に身を譲ったのだと思いました。しかし実際はそんな単純なことではなかったんですね。複雑な糸が絡んで…或いは解けて…その後あなた達の言う奇跡のように想いが繋がった結果生まれたのが現在のAqours…」


聖良「だからUTXへその九人を呼び出したのです。それは皆希望に満ち溢れていた。嬉しかったですよ…あなたが命よりも大切なものを提げていたのですから。それに……」


ダイヤ「……」



聖良「ふふふっ…奪いがいがあるなぁって思って…」




……


……


千歌「…そういうことだったんですね」


聖良『はい』


千歌「神隠しにあったのは…ルビィちゃんの家に時計とかるたが揃ったからじゃないんだね…」


聖良「私がこの目で選びましたから。あなた方を」


ルビィ「Saint Snowが…そんな……」


千歌「ひょっとしたらみんなは助からないんじゃないかって思ったりもした…でも、やっぱりみんなを救える。辛くて苦しくて…折れちゃいそうな今を乗り越えたらまたいつもの生活が待っている…」


千歌「そう信じてたのに…」


聖良『今までもそうでした。その年の神隠しを実行し終えた者は最終的にこの地の鵺様に報告も兼ねてその生贄となる運命。しかし、あちらの世界から本人が消えてしまえば鹿角家は代々行方不明云々と、また別の神隠しとして騒ぎになってしまいますから。それに私も鵺様の血縁にはありますが異世界を自由に行き来出来る程の力はありません。故に鵺様の力を借りながら少しずつ自身の分身となる器を送り、とある形に留めておく必要がありました。代理…ではありませんがそれを鵺様の生贄に捧ぐのです。こちらで生き残る者に怪しまれず最も都合のいい形。それは…』


千歌「みんなの死体」


聖良『悲し過ぎますね。朝起きて涙を捧げていた死体が皆さんでは無くそれに化けた私の分身の一部だったなんて…』


ルビィ「酷い……」ポロポロ


聖良『本当はもう一日…千歌さん。あなたの死体ができた後に私は完全な形でこちらに現れ、最後の一人…つまりルビィさんと共に鵺様の生贄となるはずでした。しかし現実の世界ではもう決着を付けなければいけない状況。故に不完全なままこうして現れたのです』


聖良『故に私はあなた達が今日まで何を調べ、何を知り、何を企んで来たのか皆目検討も付かない所存です』


聖良『しかし目の前にあるのは並べられた競技かるた…これはどういう意味ですか?』



千歌「そのままです」


聖良『?』



ダイヤ「全部…全部神隠しのためだったんですのね…」フルフル


聖良「ええそうです。いい品定めになりました。グループにはあなたの妹…つまりアヤメと血縁のある黒澤ルビィという人物がいましたから。血縁にある彼女を一人異世界に放り込んでおけば後の七人くらい違ってもいいだろうと…」


聖良「まあ、それよりもあなたのその顔を見たかったんですよ。大切な人が見知らぬ地で見知らぬ力により死んでいく…絶望の淵に立たされ、唯一知り合いである私に縋り付いてくるその情けない顔がーー」




ダイヤ「こんのっ!!!!!」ブンッ



パシッ!!



ダイヤ「!!!!!」


海未「ダメです。言わせておけばいいのです」


聖良「ふふっ…」


ダイヤ「くっ…」ポロポロ



英玲奈「鹿角聖良」


聖良「はい?」



英玲奈「我々A-RISEやμ'sは今日のスクールアイドル文化の第一人者だと自負している。…スクールアイドルとはな?今までごく普通の…なんの変哲も無い人生を送ってきた人物が集い、限られた時間の中でメンバーと…そして自分自身と向き合い精進していくために設けられた掛け替えのない宝なのだ。そしてそれはそう上手くいくものでは無い。どこかで歯車が欠けたり…立ち止まったり…打ちのめされたり…バラバラになりかけたり…」


英玲奈「しかしな?そんな辛いことを尻目にアイドルがステージで笑顔を振り撒くのは何故か分かるか?それを乗り越えた時の奇跡のような喜びを皆に分け与えたいからだ」


英玲奈「それを正に体現しているのがAqoursだ。こうして死に直面してもそれに負けじと限られた手段で戦ってきた誇り高き戦士達だ。彼女達こそ我々の思う最もスクールアイドルらしいスクールアイドル。そちらの事情は知らないが…」



英玲奈「貴様等にその領分を汚す権利など無い!!!」



ダイヤ「英玲奈さん…」ポロポロ


聖良「おや…残念です。私達一応もA-RISEを見ながらアイドルとして育ったのですから…」


英玲奈「不名誉だな。そんな名乗る資格もないアイドル擬きの手本となっていたとは…」


聖良「……」



千歌「私と競技かるたで対局してください。あなたが勝ったら望み通り。いつもの神隠しと同じ…いえ、もう誰もあなた達の邪魔はしなくなります」


千歌「そして私が勝ったら…今日をもって神隠しはおしまい。鹿角家も滅びます」


聖良『……』


聖良『ふふっ…面白いです』


聖良『あなた達は真実に辿り着いた。そして、この競技かるたにも意味がある…』


聖良『ならそれに勝ってアヤメ達が残し、紡いできた厄介な証拠を消し去るのみです!』


千歌「……」


聖良『さっきからやけに冷静ですね』


千歌「本当はすっごく怒ってますよ。すっごく悲しいですよ。背負ったものは大きくて重くて…今にも涙になって零れ落ちてきそうです。思いっきり怒鳴りたい。思いっきり泣きたい。それでも足りない。私の感情では表しきれない程の気持ちです」


千歌「でもそれを全部ぶつけるのはこの小倉百人一首競技かるた!!!!」


聖良「ほう…」


聖良「面白いです…」



千歌「絶対に負けない!!!!!!」



海未「ダイヤさん。まもなく23時…夜半を迎えます」


ダイヤ「!!!」


海未「八百年間の歴史に紡がれた無念の想い、そしてそれ以上に固く繋がったあなた達の絆…この競技かるたで見せてください」



海未「あなた達は最高です」ニコッ


ダイヤ「海未さん…」ボロボロ



ダイヤ「……」ゴシゴシ



ダイヤ「聖良さん」


聖良「ええ」


ダイヤ「《ライバルとは共に戦うだけでなく共に戦う仲》…あなたの言葉です。よく覚えてますわ」


聖良「ええ。それはどうも」


ダイヤ「あの時とは逆の意味になってしまいましたわね」


聖良「そもそもライバルと見なしてくださるのですか?」


ダイヤ「ええ。私はこの最後の戦い…鵺の血を継ぐ者ではなく、Saint Snowの鹿角聖良と対局しますわ」


聖良「ほう」


ダイヤ「Aqoursの…スクールアイドルの底力、思い知らせてやりますわ!!」


聖良「…まあいいでしょう。言うまでもなくあなた方はアヤメについて何かを突き止めた。その石も…それが嵌め込まれている柱時計も…そしてこの対局にも、鵺様の神隠しに対抗する何かしらの算段があるのは明白…」


聖良「…しかし勝てばいい」



ダイヤ「……」スッ


聖良「……」スッ





千歌「……」スッ


聖良『……」スッ



ルビィ(お姉ちゃん…千歌ちゃん…みんな…)


ルビィ「よし!」グッ





英玲奈「……」コクッ


海未「……」スッ




海未 ルビィ

「「~世も泣かせ 紅の京の 夜桜や
水面散るらむ 三津の思ひで~」」




【23:00 対局開始】

持ち札
ダイヤ25 聖良25

持ち札
千歌25 聖良25



コチッコチッコチッ…


英玲奈(本来競技かるたは持ち札…つまり自陣に敷いてある札を0にすれば勝ち)


英玲奈(しかし…)



海未
「~あしひきの…」



パァン!!!



三人「!!!」


英玲奈「なっ…」


聖良「ダイヤさんの目の前にありましたよ。油断しないでください?」スッ


ダイヤ「くっ……」


海未(速い…やはり妖の力ですか)


聖良「送り札です」スッ


持ち札

ダイヤ:25
聖良:24



ルビィ
「~ちはやぶる…」


パッァァァン!


ルビィ「ぴぎっ!?」


千歌「くっ……」


聖良『構えが素人ですよ』


持ち札

千歌:25
聖良:24



海未
「~人はいさ…


パッ


ダイヤ「あっ…」


パァン!!!


聖良「こっちですよ」スッ


英玲奈(今黒澤ダイヤは他の札に触れたが、それは今詠まれた句と同じ陣にあった別の札。ルール上お手つきにはならない)


英玲奈(しかし全く違う札に手を伸ばしていた…それも奴の妖の力か?)


英玲奈(いや…)


ダイヤ「……」ドキドキ


英玲奈(そうではないか…)


聖良「もっとリラックスしてくださいよ。このままじゃ楽しめませんから」


ダイヤ「……」


英玲奈(肩の力など抜けないだろうな。どんな大会やステージをも凌ぐプレッシャーは相当なものだろう)


持ち札

聖良:23
ダイヤ:25



ーー第七首目


ルビィ
「~奥山に 紅葉踏み分け 鳴く鹿の
声聞くときぞ 秋は悲しき~」



聖良『空札ですか…』


千歌「……」


聖良『もうここまで七首詠まれていますが…空札三回、詠まれた四枚の札も全て私が取りました』


聖良『負けますよ。このままだと』ニヤッ


千歌「……」



持ち札

聖良:21
千歌:25



ーー第八首目


ダイヤ「……」


聖良「……」


英玲奈(もう七首読み終え差は四枚…)


聖良「ふふっ」


ダイヤ「……」



英玲奈(だが…)



海未
「~きりぎりす…」



パチィィィィィィィン



聖良「!?!?!?」



ダイヤ 「まずは一枚」シュッ!



英玲奈「……」パシィッ!


ーーーーーーーーーーーーーーー

《九十一 後京極摂政前太政大臣 》

~きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに
衣かたしき ひとりかも寝む~

●亥(い)《21~23》~北北西~【神無月】

水面夢 其ノ一
【血染めの水面下】

旧暦十月・宵の歌に一致

ーーーーーーーーーーーーーーー


英玲奈「北北西…左上だ」カチャ

《第一封印解除》



ドクン…



聖良「『ぐっ……』」パラパラ



五人「!?!?!?!?」


英玲奈「か…顔が…」



ルビィ「崩れた……」


聖良「気にしない…で…ください……」


聖良『続けて和歌を……』



千歌「ダイヤさん…やってくれたんだね」


千歌「次は私の番だ」



持ち札

聖良 21
ダイヤ 24



ーー第十二首目


コチッコチッコチッ…


ルビィ「~住の江の…



パチィィィィィィィィン!!!



千歌「……」


聖良『また知らない札でしたか?』


千歌「……」


聖良『ふふっ…』



ルビィ
「~むらさ…」


パッァァァァァァァァァァン!!!!



聖良『なっ…!?』


千歌「《む》で始まる和歌はこれしかありません」スッ


ーーーーーーーーーーーーーーー

《八十七 寂蓮法師 》

~村雨の 露もまだ干ぬ まきの葉に
霧立ち上る 秋の夕暮~

●申(さる)《15~17》~西南西~【文月】

水面夢其ノ弐
【生暖かき濁りの水面下】

旧暦七月・降雨の影響・夕暮の歌に一致

ーーーーーーーーーーーーーーー


ルビィ「西南西…左下の窪み!」カチリ

《第二封印解除》


聖良『何故また時計に…』


ドクン…



聖良「『ぐあっ…!?』」パラパラパラ…



千歌「また…」


ダイヤ(千歌さん…ルビィ…やはりそちらでも動いているのですわね)


ダイヤ「どんどん行きますわよ」



聖良「『何故だ…』」



持ち札

聖良20:千歌24



ーー第二十首目


海未
「~花の色は うつりにけりな いたづらに
わが身世にふる ながめせしまに~」


聖良「ちっ…また空札ですか」


ダイヤ「今のは小野小町の歌…色褪せた桜を、衰えた自分の容姿に当てはめていますが…」


ダイヤ「先程までの余裕とアイドルとしてのご自慢の美貌…剥がれ落ちていますわよ」


聖良「くっ…」



海未
「~かささぎの…」



パァァァァァァァン!!



聖良「!!!」



ダイヤ「よそ見厳禁ですわ」シュッ!


英玲奈「……」パシィッ!



聖良「……」



ーーーーーーーーーーーーーーー

《六 中納言定持》

~かささぎの 渡せる橋に おく霜の
白きを見れば 夜ぞ更けにける~

●寅(とら)《3~5》~東北東~【睦月】

水面夢其ノ三
【漆黒と低温の水面下】

旧暦一月・未明の歌に一致

ーーーーーーーーーーーーーーー


英玲奈(そう。こちらのアヤメの時計に一、三、五、七の和歌。あちらのサヌキの時計に二、四、六、八の和歌の札を順番に嵌めていくのだ!)


英玲奈(三つ目の札。東北東だから右上の窪み!!これで台座の和歌は二つ…!)カチリ

《第三封印解除》



ドクン…



聖良「『ぐああああああっ!!!』」バラバラボロボロボロ


ルビィ「ひぃぃっ!!」


千歌(次は私…)



聖良『はははっ…そう"か…そ"ういう"こト"か…』ゴキッ


聖良『端から勝ツ気なド"更々無かっダのダナ?』


聖良『ソノ時計に嵌め込ム"和歌ダゲを手ニ"入レレば…』


千歌(バレた…)


ルビィ「……」ゴクリ


ルビィ
「~吹くか…」



ズバァァァァァァァン!!!



千歌 ルビィ「!?!?」



聖良『ア"ハハハハ"ハハ"ハハ』グシャ


ルビィ(は…速い……それに…取った和歌を潰した…)


千歌(あの力…手がぶつかったら終わりかもしれない…)


聖良『面白い"!いいタ"ロ"ウ"!!全テ"ノ札ヲ掻っ攫ッ"テ"やル"!!!


聖良『さア"…次ノ和歌ダァァ"ァ"ァ"ァ!!』




千歌(でも…)



ルビィ「……」スゥッ



千歌(それでも…)



聖良『来イ"ッ"!!!!!』ズォッ



ルビィ
「~春過…」



パァァァァァァァァァァァァァン!!!


聖良『!?!?!?!?』




千歌「勝たなきゃいけないんだよ」スッ



ーーーーーーーーーーーーーーー

《ニ 持統天皇》

~春すぎて 夏来にけらし 白妙の 
衣ほすてふ 天の香具山~

●巳(み)《9~11》~南南東~【卯月】

水面夢其ノ四
【陽光の照す優美なる水面下】

旧暦四月・亭午前の歌に一致

ーーーーーーーーーーーーーーー


ルビィ「南南東は右下!えいっ!」カチリ

《第四封印解除》



ズズズズズズズズズ…


ガタガタガタガタ


海未 英玲奈 ダイヤ
「!?!?!?!?!?」


英玲奈「なんだ!?周りの空間が歪んで…」


海未「それに柱時計が揺れています!!」



聖良「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」ブンブン



海未「まさか…千歌さん達が!!」


ダイヤ「はい!恐らく四首目の和歌を取りサヌキの時計に嵌め込んだのだと思います!」


ダイヤ「しかしこれは…」



ズズズズズズズズ…



ゴゴゴゴゴゴゴゴ…


ガタガタガタガタ…


千歌「何!?」


ルビィ「わ、分かんない!!和歌を嵌め込んだら…!!」



聖良『グォ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"!!』



ルビィ「時計が…家が揺れて…」



ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン……





聖良「ぐぁぁぁぁぁぁ」ドサッ



ダイヤ「きゃっ!?」ドサッ


海未「くっ…」ドサッ


英玲奈「ここはっ!?」ドサッ



千歌 ルビィ「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



千歌「ダイヤさん!!!!!!!!」


ルビィ「お姉ちゃん!!!!!!!!!」


ダイヤ「ルビィ!!!千歌さん!!!!!!」



ギュッ…



ダイヤ「繋がっていましたよ…」


千歌「うん…ずっと…」


ダイヤ「信じていましたよ…」


千歌「うん…ずっと…」


千歌「だからこうして今があるんだね…」


ダイヤ「ええ」


千歌「向こうで…一人で…私達の…Aqoursのために頑張ってくれて…」


ダイヤ「突然こんなわけの分からない場所に幽閉され…皆さんが次々いなくなって…恐怖と哀しみに苛まれながらも戦い続けてくださって…」



千歌 ダイヤ「「ありがとう…」」



ルビィ「うぅ……」ポロポロ


ダイヤ「ルビィ…」


ルビィ「ルビィ…泣かないって…ぐずっ…もう泣かないって…そう決めたのに……」ボロボロ


ダイヤ「あなたは本当によく頑張りました…強かった…自慢の妹です…」


ルビィ「うん…ううっ…えぐっ……」ボロボロ


千歌「ふふっ…」ギュッ



海未「ここが異世界…神隠しの大元、鵺の住む世界…ですか」


海未「柱時計が導いたんですね」


ルビィ「!!!!!」


ルビィ「μ'sの海未さん…それに…」


英玲奈「離れ離れだったアヤメとサヌキ…その時計が今ここに揃った!!」


千歌「A-RISEの英玲奈さん!」


英玲奈「お取り込み中済まないが、まだ戦いは終わっていない」


ルビィ「は、はい!」


英玲奈「ふふっ…話は後だ。全て終わればサインでも握手でもなんでもねだってくれ」



聖良「………」シュゥゥゥゥゥゥ


聖良『グゴゴゴゴゴゴゴ』ゴキゴキ



英玲奈「鹿角聖良が二人…」


ダイヤ「こちらの世界にいた者は分身でしょう。しかし、もう鹿角聖良の面影はありません」


ダイヤ「崩れかけた顔から覗く悪意に満ちた眼光、人体の限界を超え今にもはち切れんばかりの筋肉、自ら意思を持つかのように自由に動き回る尻尾…」


ダイヤ「あれは間違いなく鵺の子ですわ」



鵺ノ子『グォォォォォォ!!!!!』ダッ



ルビィ「時計を狙ってる!!!」


英玲奈「しまった!!!!」



ドゴォッ!!!!



鵺ノ子『グォォォッ!!』ズザザザザザ



千歌「あ!!」



海未「……」スッ


海未「それはさせません」



千歌 ルビィ ダイヤ
「「「海未さん!!!」」」



海未「園田流武術…それはかつて幹事様のご先祖様から授けられ今日までその歴史が紡いだ賜物」


海未「表に出なさい。あなたの相手は私です」ダッ


鵺ノ子『オ"モシ"ロ"イ!!食イ"殺シ"テヤ"ル!!!!!』ダッ



英玲奈「おい!!!!」


海未「こちらはお任せください。皆さんは本体と決着をつけてください!お願いします!!」タッタッタッタッタッタ…



聖良「成る程…」パラパラ


ルビィ「か、顔が…」


聖良「安心してください。鵺様の神聖なる地にて暴れ回るなど無礼千万…あなた達が欲しがっている和歌の札、正々堂々勝ち取って全員鵺様の生贄に捧げますので」



聖良「二人まとめてかかってきなさい」


千歌 ダイヤ「……」ゴクリ


英玲奈「今更何が正々堂々か分からんが…そっちの方が都合がいい」


ダイヤ「ええ。必ずこの悪夢に終止符を打ち…」


千歌「元の生活を取り戻す!!!」


英玲奈「……」チラッ


英玲奈(現実世界からかるたまでは持って来れなかったか…だがどちらも形は同じ。こちらのかるたでもアヤメの時計の台座に嵌まるだろう。代用は効くはず…)


英玲奈「今からの対局はこちらの世界で進行していたかるたを使う。対局は先程の途中から。読み手は私ーー」



ルビィ「ルビィがやる!!!!!!」



英玲奈「!!!」


ルビィ「ルビィに…ルビィにやらせてください…お願いします!!!」バッ


英玲奈「……」


英玲奈「ふふっ…分かった。頼んだぞ」ポンッ


ルビィ「はい!!!」


千歌「任せたよルビィちゃん!!」


ダイヤ「お願いしますわ!ルビィ!!」


英玲奈「取った札は私に渡せ。時計に嵌め込む」


千歌「お願いします!!!」



コチッコチッコチッ…
コチッコチッコチッ…



聖良「……」


英玲奈「……」


ルビィ「……」


千歌(ダイヤさん達と一緒に移動して来たアヤメさんの時計。こっちの異世界標準になってる)


千歌(ふふっ…嬉しいのかな?揃う事ができたのが…)


千歌(……)


千歌(あと約三十分…それまでに決着を付けないと…)



ダイヤ「……」ゴクリ


千歌(ダイヤさんがいる)


ルビィ「……」ドキドキ


千歌(ルビィちゃんがいる)


海未「はぁっ!!!」ドゴッ


千歌(海未さんがいる)


英玲奈「……」


千歌(英玲奈さんがいる)


千歌(サヌキさんもいる)


千歌(アヤメさんもいる)


千歌(頼政さんもいる)


千歌(定家さんもいる)



千歌(Aqoursのみんなだってここにいるんだ)


千歌(過去と現在を繋いだ今…)



千歌(次に繋ぐのは未来への切符であるこの栞…裏表紙はまだ見たくない…だから…!!)



千歌(その想いよ一つになれ!永遠に!!)



ルビィ「すぅぅ…」


ルビィ「はぁぁ…」



ルビィ「よし!」


ルビィ「先程の競技かるたを続行致します。第二十三首目より…」


ルビィ「始め!!!」



持ち札

聖良:19
千歌&ダイヤ:23



ーー第二十三首目


ルビィ
「~百敷や…


パァァァァァァァン!!!



千歌 ダイヤ「!!!」



聖良「ふふっ…」スッ


ダイヤ(やはり速いですわね)


持ち札

聖良:18
千歌&ダイヤ:23



ーー第二十四首目


ルビィ
「~今来むと 言ひしばかりに 長月の
有明の月を 待ち出でつるかな~」



シーン…



ダイヤ「空札…」


千歌「……」


聖良「……」



持ち札

聖良:18
千歌&ダイヤ:23



ーー第二十五首目


ルビィ「すぅっ…」



ルビィ
「~ほ…



千歌「はぁぁぁぁっ!!」パチィィィィィィィィン!



聖良「!!!!!」



ダイヤ「ナイスですわ千歌さん!」


千歌「《ほ》で始まる句は…」


千歌「これしか無いよ!」シュバッ



英玲奈「……」パシッ


ーーーーーーーーーーーーーーー

《八十一 後徳大寺左大臣》

~ほととぎす 鳴きつる方を 眺むれば
ただ有明の 月ぞ残れる~

●巳(み)《9~11》~南南東~【卯月】

水面夢其ノ五
【煌々たる望月と満天の星空の水面】

旧暦四月・初夏・月の和歌に一致

ーーーーーーーーーーーーーーー


英玲奈
(【四人の王に陽は昇らずただ月が浮かぶのみ】)


英玲奈(これは五~八番目の水面夢に対応する和歌に全て月が含まれていることも表している)


英玲奈「どうだ!」カチリッ!



シーン…


英玲奈「なっ!?」



千歌「英玲奈さん!?」


ダイヤ「どうされました!?」


聖良「おや?何か不都合でもありましたか?」


英玲奈「……」


英玲奈「いや…何でも無い…」



聖良「ふふっ…そうですか。なら続けましょう」


英玲奈(何故だ…何故何も起きない…)


英玲奈(この和歌で合っているはずなのに…)


英玲奈(このかるたでは代用が効かないのか?いやそんなはずは…)



持ち札

聖良:18
千歌&ダイヤ:22



ーー第二十五首目


ルビィ「すぅっ…」


千歌「……」ピクッ


聖良「……」ニヤッ


ルビィ
「~朝ぼらけ…


千歌「目のまーー」スッ


聖良「遅い!!」バッ




パチィィィィィィィン!!!!




千歌「あ……」


聖良「残念」スッ



ルビィ
「~朝ぼらけ ありあけのつきと…」


聖良「!?!?!?」


ダイヤ「……」ヒョイ


ダイヤ「ありましたよ。あなたの目の前に」クスッ


聖良「何故……」


ダイヤ「百人一首の中に《朝ぼらけ》で始まる歌は二首ありますの。千歌さん。ナイスフェイントです」


千歌「うん!」


聖良「小賢しい真似を…」


ルビィ「聖良さんは取札のない相手陣の別の札を触ったのでお手つきになります。更に二人は相手陣にある正しい札を取ったので…合計二枚の送り札をお願いします」


ダイヤ「ええ」スススッ


聖良「チッ…」


千歌「あと二枚だよ!!」


持ち札

聖良:19
千歌&ダイヤ:20



ダイヤ「英玲奈さん!!」シュバッ


英玲奈「ああ」パシッ


ーーーーーーーーーーーーーーー

《三十一 坂上是則》

~朝ぼらけ ありあけのつきと みるまでに
吉野の里に ふれる白雪~

●寅(とら)《3~5》~東北東~【睦月】

水面夢其ノ六
【漆黒と冷水に苛まれし新月の水面】

旧暦一月・月の和歌に一致

ーーーーーーーーーーーーーーー


英玲奈(六番目…今度はサヌキの時計の右上に!)カチリッ


シーン…


英玲奈「何故……」


ダイヤ「?」


千歌「英玲奈…さん?」




英玲奈「……」


英玲奈「何も起きないんだ…」



三人「!?!?!?!?」


英玲奈「こっちに来てからの水面の二首…それを嵌めても全く何も起きない…」


ダイヤ「そんな…」


英玲奈「アヤメの時計はともかくサヌキの時計まで反応しないなんてあり得ない…」



聖良「なぁる程…読めてきましたよ」


四人「!!!!」


聖良「アヤメは夢で会ったんですね。現在百人一首にある沖の石の和歌を詠った腹違いの娘にあたるサヌキと。そこでどうにかして鵺様を記す暗号を作りあの時雨亭に隠した。それを見つけた定家が暗号を隠した二つの柱時計を作り時雨亭と…そしてアヤメが亡くなった本当の地、西浦の禅長寺に送ったんでしょう」


聖良「その柱時計があなたの家に移されたのです」黒澤ダイヤさん」



聖良「禅長寺に鹿角家の調査が入る前に」


ダイヤ「……」ゴクリ



聖良「やはり去年時雨亭から新たな序歌が提出されたのは偶然では無かったのですね。それで時雨亭にあったアヤメの石がサヌキの沖の石とやらと繋がっていたと?」


聖良「ふう…先代ももう少し頭が回っていればワリと簡単にアヤメの尻尾を掴めたかもしれないのに…」


聖良「まあいいです。しかしその柱時計がなんだと言うのですか?こちらの世界とあちらの世界を結んだ時は驚きましたが…所詮それだけの事だったんですよ。むしろ好都合でしたね」


聖良「真実を知る皆さんだけが誰にも見つからないここに来て…更に鵺様の生贄まで増えたんですから」ニヤッ


英玲奈「……」


千歌「英玲奈さん…」


ルビィ「うぅ……」



英玲奈(黒澤ルビィ)サッサッ


ルビィ(ぴぎっ!?)ビクッ


英玲奈(もしかしたらこの札には謎が隠されているかもしれん。それを解くまで空札や別の札で時間を稼いでくれ)サッサッサササッ!


ルビィ(わ、分かりました!)コクコクッ



聖良「さて…続けましょうか」スッ


聖良「持ち札0を目指す…何の変哲もない競技かるたをね?」クスッ


ダイヤ「ええ…」スッ


千歌「そうですね…」スッ



持ち札

聖良:19
千歌&ダイヤ:20



ザバァァァァァァァン…
ザバァァァァァァァン…


鵺ノ子『グォォ"ォ"ォ"ォォ"!!!』ダッ


ブンッ!!


海未「……」サッ


海未「せいっ!!」ドゴッ!


鵺ノ子『ゴボァ"ァ"ァァ"ァ"』ボタタ


海未「重心が不安定。呼吸も乱れていますし腕に自分が振り回されています。いくら強靭な筋肉でも使いこなせなければただの肉の塊です」


鵺ノ子『貴様ァァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!」


海未「大人しく散りなさい!」


海未(……)


海未(波が激しい…)


海未(それに空気も不穏です…)


海未(何か良からぬことが…)



鵺ノ子『グォォ"ォ"ォ"ォォ"!!!』ダッ


海未「!!!」


海未「はぁああああ!!!」ダッ



ーー第三十首目


ルビィ
「~浅茅生の 小野の篠原 しのぶれど
あまりてなどか 人の恋しき~」


聖良「また空札…これで四連続…」


ダイヤ「……」


千歌「……」


千歌(空札はここに並んでない札で全部で五十枚…)


千歌(今が三十首目だから、つまり空札は十九枚詠まれたことになるね)


千歌(これで適度に時間稼ぎをして残りの二首を確実に取らないとだけど…)チラッ


コチッコチッコチッ…


千歌(時間もあんまりない…)



パァァァァァァン!!!


千歌「!!!!」


聖良「ぼーっとしないでください」スッ


ダイヤ「千歌さん。大丈夫ですか?」


千歌「う、うん…!大丈夫!!」


聖良「では…送り札です」ススッ


千歌「!!!!」


ダイヤ「この札は…」


聖良「どういうわけか真っ赤っかですね。これがサヌキの和歌なのは偶然なのか…」


聖良「それとも?」ニヤッ



持ち札

聖良:18
千歌&ダイヤ:20




……


英玲奈(落ち着け。落ち着いて考えるんだ)


英玲奈(五番目と六番目の和歌はこれで間違いないはず…)


~ほととぎす 鳴きつる方を 眺むれば
ただ有明の 月ぞ残れる~

~朝ぼらけ 有明の月と みるまでに
吉野の里に ふれる白雪~


英玲奈(月の和歌という解釈が間違っているのか?)


英玲奈(特殊な和歌で普通に嵌め込んだだけではーー)


英玲奈(月……特殊な和歌……)


英玲奈(!!!!!!)



英玲奈(そうか!有明の月!!!!!)



英玲奈(ありあけ…夜明けに空に浮かんでいる月のこと…)


英玲奈(月というのは満月の日を境に段々出るのが遅くなる。欠けて下弦の月になった状態だと朝になっても消えないのだ)


英玲奈(成る程…確かに、本来月は夜の帳を照らすもの。それが夜明けに出ているというのなら《特殊な月》という解釈になるだろうな)


英玲奈(つまりこの二つの有明の月の札は特殊な嵌め方をしなければいけない)


英玲奈(まずはこちら…)


~ほととぎす 鳴きつる方を 眺むれば
ただ有明の 月ぞ残れる~


英玲奈(この札は五番目の札で

●巳(み)《9~11》~南南東~【4月】

…だからアヤメの時計の右下に嵌めるものだな)


英玲奈(この《ほととぎすの鳴きつる方)に答えがあるのだとしたら…)


英玲奈(何かの音……)



ーー第三十二首目


ダイヤ「もう残りの二首だけに手を出すのはやめましょう。分かる札はどんどん取って構いませんわ」


千歌「分かったよ…!」


ルビィ
「~陸奥の…


ダイヤ「よし!」バッ


パァァァァァァァン!!!


ダイヤ「なっ…」


聖良「残念」スッ


千歌「今ダイヤさんが札を払ったように見えたのに…」


聖良「ふふっ…歌合の名簿を弄れる私ですから。このくらい造作もありません」


千歌「そんな…」


ダイヤ「その名簿の中身に辿り着けなかったくせに少々口が達者でよ?」


聖良「なんですって?」


ダイヤ「本当は先代の誰かがその名簿に百年ごと、鹿角家が怪しまれないように錯覚させるまやかしをかけたのでしょう。あなたは何もしていないませんわ。鵺の血縁とは言え所詮その端くれ。今宵、あなたが末代となるんですわ!」


千歌「ちょ、ちょっとダイヤさん!そんなに挑発したら…」


聖良「言ってくれますね。ええ、分かりました。その端くれに完膚なきまでに叩きのめされ鵺様の糧となる絶望…」



聖良「その身で味わいなさい」ズォッ!


千歌「うっ……」ビリビリ


ダイヤ「……」ビリビリ


ルビィ「うゆ……」ビリビリ


持ち札

聖良:17
千歌&ダイヤ:20



ーー第三十三首目


ルビィ
「~め…」


パァァァァァァァァァァン!!!!


ルビィ「ぴぎっ!?」


千歌「速い…!!」


聖良「千歌さ~ん。《め》で始まる歌はこの紫式部の和歌しかありませんよ?」クスッ


千歌「……」


聖良「自陣の札を取ったので送り札はありませんね」


ダイヤ「本当にそんな力が…」


聖良「当たり前です。言ったじゃないですか。じゃなければ神隠しや紋章の対象をどうやって定めるのです?」


ダイヤ「くっ…」


持ち札

聖良:16
千歌&ダイヤ:20



……


英玲奈(この《ほととぎすの鳴きつる方)に答えがあるのだとしたら…)


英玲奈(何かの音……)



コチッコチッコチッ…


英玲奈(!!!!!!!!)



英玲奈(そうか…秒針の刻む音!)


英玲奈(ほととぎすの鳴きつる方とは秒針の示す方向を表していたのか…!)


英玲奈(この札はアヤメの時計の右下…つまり南南東の方向に嵌める札…)


英玲奈(時計の数字で言う南南東は……)



英玲奈(『5』!!!)



英玲奈(黒澤ルビィ!!!)ギロッ


ルビィ(ぴぎっ!?)ビクッ



ーー第三十四首目


聖良「ふふっ…」


ダイヤ「……」


千歌「……」


ルビィ「すうっ…」



コチッコチッコチッ…


英玲奈(秒針が5の数字を指すタイミング!)


英玲奈(今だ!!!!!!!!)カチリッ!

《第五封印解除》



ドクン…


聖良「『ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』」


ルビィ
「~夏の夜は…


ダイヤ「はいっ!!」バッ



パァァァァァァァン!!!



千歌「やった!」


ダイヤ「お願いします!」バッ


英玲奈「ああ!」ガシッ



ーーーーーーーーーーーーーーー

《三十六 清原深養父》

~夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを
雲のいづこに 月宿るらむ~

●申(さる)《15~17》~西南西~【文月】

水面夢其ノ七
【豪雨と荒波の洗礼の水面】

文月・雲・月を探す(見失う)和歌に一致

ーーーーーーーーーーーーーーー


千歌(鵺が食事で頭の部分からいなくなる時のことを、月(眼)が雲から消えたってところに掛けてるんだ)


英玲奈(これで二人が取るべき和歌は残り一首となった)


英玲奈(順番通りなら…この七番目の和歌を嵌め込む前に六番目の和歌について推理しなければな)



持ち札

聖良:16
千歌&ダイヤ:19



ザバァァァァァァァァァァン


ドクン…


鵺ノ子「グォ"ォ"ォ"…」


海未「どうしました?もう終わりですか?」



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…



海未「!?!?!?!?」


海未「なんですかこの揺れは!?」


鵺ノ子「鵺様ダァァ"ァァ"ァァ!!鵺
様カ"降臨サレ"ルゾォォ"ォォ!!!」


海未「なっ!?」


海未「どうして鵺がここに!?」



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…


千歌「な…何!?」


ルビィ「家が揺れてる!」


ダイヤ「地震ですわ!」


聖良「ははははっ…鵺様……自ら赴いてくださるとは…今回の生贄が相当極上だということですね!!あはははははははははははははははははははははっ!!!」


英玲奈「狂ってやがる…」


聖良「…」スッ


英玲奈「!!」


聖良「さっさと終わらせましょうか」


ダイヤ「そ、そのつもりですわ」


千歌「うん…こっちが狙ってるのはあと一首…!!」


聖良「ふふっ…」



英玲奈「……」


英玲奈(この有明の月の和歌…)


~朝ぼらけ 有明の月と みるまでに
吉野の里に ふれる白雪~


英玲奈(これは六番目の和歌…

●寅(とら)《3~5》~東北東~【1月】

つまりサヌキの時計の右上に嵌める札だ)


英玲奈(厳密にはこの和歌は月の和歌ではない。吉野の里に積もっている雪に朝陽が当たり、その様子がまるで有明の月ように光り輝いている様を詠ったのだ)


英玲奈(五番目の札の要点がほととぎすの鳴き声…今回注目すべきは…)


英玲奈(下の句の《吉野の里に ふれる白雪》の部分…)


英玲奈(先程は音に関するトリックだったが、この札はそうではない)


英玲奈(吉野の里とは今の奈良県の吉野山とその一帯のことを言う。平安当時は桜よりもそこに積もった雪景色の方が美しいとまで言われていた程…その堂々たる静寂の中にある趣が詠われているのだ)


英玲奈(しかし…だからなんだと言うのだ?それとこの札の嵌め方になんの関係が…)



ーー第三十五首


グラグラグラ…



ルビィ「……」ゴクリ



ルビィ
「~これやこの…


千歌「はいっ!!!」


パシィィィィィィィィィン!!!



千歌「よし…」


千歌「あれ!?」


聖良「ふふっ…ここですよ」スッ


千歌「また!どこが正々堂々だよ!!」


聖良「ふふっ…怒らないでください。これだって私自身の能力なんですから。持てる力を使って何が悪いんです?」


聖良「むしろ、あなた達の言う暗号とやらの和歌が全て…空札に含まれずここに並んでいること自体が…」


聖良「卑怯ですよ?」フフッ


千歌「うるさい!」



ダイヤ「千歌さん」


千歌「!!!」



ダイヤ「落ち着いてください。対局で心を乱してはいけませんわ」


千歌「ダイヤさん…」


ダイヤ「家を出る前…私はあなたと善子さんに言いましたわよね?百人一首を覚えなさいと…」


千歌「……」


ダイヤ「しかしあなたは今のように…この短期間で私より早く取れるまでに成長していますわ」


千歌「命がけだから…初心者って理由付けて負けるわけにはいかないよ」


ダイヤ「ふふっ…そうですわね」



千歌「でも、戻ったら…」


ダイヤ「?」


千歌「戻ったら百人一首…しっかり教えてね。私と…」



千歌「善子ちゃんに」


ダイヤ「千歌さん…」


ダイヤ「ええ」ニコッ


千歌「……」



聖良「そんな悠長にしていていいのですか?」



千歌 ダイヤ「!!!」


コチッコチッコチッ……


聖良「23時57分…つまりあと六分ですよ」


聖良「そして…」




ヒョオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ……




英玲奈「なっ……」ビリビリ


ダイヤ「この鳴き声…」ビリビリ


千歌「鵺だ!!!」ビリビリ


ルビィ「ひぃぃっ!!!」ビリビリ



海未「皆さん!!」バッ


千歌「海未さん!!!」


英玲奈「奴はどうした!?」



海未「あそこです!!!」



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…



英玲奈「おいおいなんだこの黒雲は…」


ルビィ「いつの間にこの島の上に…」


ダイヤ「平家物語の記述と同じ…鵺と共に現れる暗雲ですわ!」


千歌「もう待ちきれなくて直接襲いに来たんだよ…」


海未「恐らくあの暗雲の中に鵺が…」





鵺ノ子『鵺様ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!!』
バッ




ダイヤ「あんな高いところに…」


ルビィ「ま、まさかあの雲を目指してるんじゃ…」



ズボボボボボボボボボボッ!!!



五人「!?!?!?!?」


英玲奈「雲に吸われたぞ!!」



ヒュン……



バチャバチャビチャドボボボバタタ…



ルビィ「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」


英玲奈「なっ!?」


千歌「血…血だ……」


海未「食らったんです…分身を…」



聖良「そうです」


五人「!!!!」


聖良「やはり不完全な我が分身は少々コントロールが効きませんでしたね」


聖良「しかし、次はあなた達の番ですよ」バラバラバラ…


ダイヤ「顔が…」


聖良「こうなってしまった以上、もう私も人間界では生活できません。しかし鵺様の糧となれるのなら本望…」


千歌「続きをやるよ!!」


聖良「無駄です。0時…鵺様が襲ってくるまであと数分。それまでに対局は終わりません。それに、あなた達の求めている和歌だって私がこの力で取りーー」


千歌「やってみなきゃ分かんないよ!!!」



ダイヤ「そうですわ!!私達は最後まで戦います!!!」


ルビィ「そ、そうだよ!ルビィだって!!」


聖良「はあ。仕方がありませんねぇ…その命、最後の一滴まで届かぬ希望に捧げていなさい」


聖良「さぞ旨味のある絶望と化しますから。鵺様もお喜びでしょう」


英玲奈「上等だ」


海未「ええ。そのつもりです」



ヒョォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ…



ルビィ(大丈夫…)グッ


ルビィ「対局を再開します!!」



持ち札

聖良:15
千歌&ダイヤ:19



ーー第三十六首目


コチッコチッコチッ…


ルビィ
「~玉の緒よ…



パチィィィィィィィィィィィン!!!



聖良「ふふふ…」スッ


千歌「くっ…」ダンッ!


千歌「ここまで来たら絶対取らなきゃなのに…」


ダイヤ「奴の力がある限り対局の流れは崩せませんわ…」


海未「一体どうしたら…」



英玲奈「園田海未」ヒソッ


海未「!!!」


英玲奈「恐らくだが、時計に全ての和歌を嵌め込んだ時何が起きるか判明した」ヒソッ


海未「誠ですか…!?」ボソッ


英玲奈「それはな?」



英玲奈「……」ボソッ



海未「!?!?!?」


英玲奈「…だから準備を頼む。私が必ず六番目の和歌の暗号を解く」


海未「……」



海未「承知しました」スッ



ーー第三十七首目


ルビィ
「~恨みわび ほさぬ袖だに あるものを
恋にくちなむ 名こそ惜しけれ~」



聖良「空札…」


ダイヤ「……」


千歌「……」




英玲奈(奴の隙を作るには先程と同じく正しい方法で札を嵌め込めば良い。奴が怯んだその瞬間、黒澤ルビィに八番目の和歌を詠んでもらうのだ。そうすれば六、七、八の和歌の札を一度に嵌め込むことができる)


英玲奈(しかしその正しい方法と言うのが分からない…)


~朝ぼらけ 有明の月と みるまでに
吉野の里に ふれる白雪~


英玲奈(里……白雪……これは一体……)



パァァァァァァァン!!!


英玲奈「!!!」



スルスルスルスル…コツン



英玲奈「……」


聖良「あはははははは!!すみません。飛んで行ってしまいましたね」


千歌「英玲奈さん…!」


ダイヤ「大丈夫ですか!?」


英玲奈「構わない」スッ


英玲奈(ん?)


聖良「ふふっ」スッ


聖良「すみません。さあ、時間まで最高に楽しみましょう♪」




英玲奈(この札…)スッ



英玲奈(裏側と縁が真っ黒になっているのか。珍しい)


英玲奈(かるたとは本来、字の書いてある生地を緑や紺色の和紙で包み込むように作るのだが…その製法は江戸時代から始まったものだ)


英玲奈(平安時代当時、そのような技術は無かった。これは単に厚紙に字を書き縁と裏を黒く染色しただけだな)


英玲奈(……)


ーー
ーーーー


鵺ノ子『鵺様ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!!!!』
バッ



ダイヤ『あんな高いところに…』


ルビィ『ま、まさかあの雲を目指してるんじゃ…』



ズボボボボボボボボボボッ!!!



五人『!?!?!?!?』


英玲奈『吸われたぞ!!』



ヒュン……



バチャバチャビチャドボボボバタタ…


ーーーー
ーー


英玲奈(血が地面を染めた…)



英玲奈(白雪が里を染める…)



英玲奈(白雪が里に積もる)



英玲奈(里の地面に雪の結晶が積もる…)





英玲奈(!!!!!!!!!!)



ヒョォォォォォォォォォォォォォォォ!!!



ガタガタガタガタ…



聖良「あと一分!あはははは!!鵺様がこちらに向かっています!!!」ビリビリ…


千歌「そんな…」ビリビリ…


ダイヤ「くっ…時間がありませんわ…!」ビリビリ…


ルビィ「ぴぎぃぃ!!」ビリビリ…






英玲奈「黒澤ルビィ!!!詠めぇぇ!!!!!」


ルビィ「!!!!」



ルビィ「分かりました!!!」



聖良「無駄です!!!どう足掻こうと私には勝てない!!!!」



千歌「そんなことない!!!!」


ダイヤ「この一手で必ず勝ちますわ!!!」



ルビィ「すぅっ……」




英玲奈「はぁぁぁぁぁぁっ!!!」


カチリ!


《第六封印解除》


ドクン…



聖良「あがっ……」ピクッ



英玲奈「雪の結晶が里の地に積もる…」


英玲奈
「それは 里→黒 という事だ。裏の黒い面を表にして嵌め込む…これが答え!!」




ルビィ
「~秋風に…


千歌「やぁぁぁぁぁぁぁ!!!」バッ


ダイヤ「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」バッ



聖良「負ケ"ル"カ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ!!!」



英玲奈「なっ!?」



バチィィィィィィィィィン!!!!!



ダイヤ「ぐっ…」ピシッ


ダイヤ「!!!!」




千歌「ぐぬぬぬぬ…」ギリギリギリ



聖良「離セ"ェ"ェ"ェ"ェ"ェ"ェ"!!!」ズォォォォォォ!


千歌「くっ……」ギリギリギリ


ダイヤ「千歌さん!!!」



ヒョォォォォォォォォォォォォォォォ!!!



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…



英玲奈「降りて来たぞ!!」


ルビィ「千歌ちゃん!!!」



聖良「ヒャハハハハ"ハハハハハハハ"ハハハハハハハ"ハ"ハハハ"ハ!!!」ズォォォォォォ!




千歌「おまえなんかに…」



聖良「!!!!!」ズォォォォォォ!



千歌「おまえなんかに…」ズォォォォォォ!



聖良「なっ!?」ズォォォォォォ!




千歌「私達の未来を奪われてたまるものかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」ゴォォォォォォォォォォォォ!!!!



ズバァァァァァァァァァァァァン!!!



聖良「かはっ…」ビュン



ダイヤ「英玲奈さん!」シュバッ


英玲奈「任せろ!!!!」



ヒョォォォォォォォォォォォォォォォ!!!



バリバリバリバリバリバリ…
ギシギシギシギシ…
ズズズズズズズズズズズズズズズ…



ルビィ「も、もうそこまで来てるよ!森を食べながらこっちに向かってる!!!」



英玲奈「はぁぁぁぁぁ!!!」カチリッカチリッ


ーーーーーーーーーーーーーーー

《七十九 左京大夫顕輔》

~秋風に たなびく雲の 絶え間より
もれ出づる月の 影のさやけさ ~

●亥(い)《21~23》~北北西~【神無月】

水面夢其ノ八
【鵺の供物】

旧暦十月・暗雲より覗く鵺の目玉に一致

ーーーーーーーーーーーーーーー

《第七封印解除》《第八封印解除》


《全封印解除》



ガタガタガタガタガタガタガタガタ…
ガタガタガタガタガタガタガタガタ…



ダイヤ「サヌキとアヤメの二つの時計が共鳴してますわ…」



バラバラバラバラバラバラバラバラ…
バラバラバラバラバラバラバラバラ…



三人「!!!!!!!」


千歌「こ、壊れちゃった!!!」


ルビィ「待って!!でもこれは!!!」




ダイヤ「《雷上動》!!!それにこっちは《骨食》!!!!



ダイヤ「そういうことでしたのね!!定家がこの柱時計に隠していたのは、かつて頼政と猪早太が鵺退治に使った弓矢と刀!!!!」



英玲奈「…」パシッ!



英玲奈「頼んだぞ園田海未!!!!!!」ビュン!!



海未「お任せください!!!」パシッ!



聖良「サ"セ"ル"カ"ァァ"ァ"ァァァァァァ!!!!」ダダダダッ



千歌 ルビィ「!?!?」


ダイヤ「くっ…最後まで邪魔を!!」




英玲奈「……」サッ


ダイヤ「英玲奈さん!!」



聖良「グォォォ"ォォォォ"ォォ"ォ"ォォ"ォォ!!!!!!!!!」ダダダダッ



英玲奈「破邪を纏いて悪を断つ…骨食よ」シャキッ



英玲奈「骨の髄までしゃぶり尽くせ」ヒュッ



ズバッ!!!!



聖良「カ"ッ……」ボタタッ



英玲奈「悪く思うな」スチャ



ドサッ…



ヒョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!



ズガガガガガガガガガガガガガ…
バキバキバキバキバキバキバキバキ…




海未「食らいなさい!!!!!」



三人「いっけぇぇぇぇぇ!!!!!!」




海未「ラブアローシュートォォォォォォォォォ!!!!!!!」ズバァァァァァァ!!



ズガァァァァァァァァァァァァァン!!!



ヒョォオォォォォォ"ォォオ"ォォォ"ォォォォ"ォォォォォ"ォォォォ"ォ"ォォォ"!!!!!!!



英玲奈「命中した!!!!!」



ヒョォォォオォォオオオォォ………
ズズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン………



ダイヤ「やった…倒しましたわ!!」



ビュォッ!!


バキバキバキバキバキバキ!!



五人「!!!!!!!」


海未「くっ…!?」


英玲奈「浜辺へ逃げろ!!奴が落ちた衝撃で家が崩れる!!!」ダッ


千歌「はい!!!」ダッダッダッ…


ダイヤ「分かりましたわ!!!!」ダッダッダッ…



ルビィ「はぁ…はぁ…」ダッダッダッ



ルビィ「あっ…!」ツルッ



ドサッ!



四人「!!!!」



ダイヤ「ルビィ!!!」ダッ



千歌「ダイヤさん!ルビィちゃん!!」


海未「いけません!!」グイッ


英玲奈「死ぬぞ!!!」グイッ


千歌「でも…!!!!!」



ガラガラガラガラガラガラ…
バキバキバキバキバキバキ…



英玲奈「急げ!!!!!!!」ダッ


海未「来てください!!!!!」グイッ


千歌「嫌だ!!!嫌!!!!」




ルビィ「うゆ……」ズズッ


ダイヤ「大丈夫ですかルビィ」




ルビィ「あっ…」


ダイヤ「えっ?」クルッ





千歌「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」




ガラガラガラガラガラガラガラガラ…
ズズゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン…



ザザーン…
ザザーン…


海未「あ…ああ…」ガクッ


英玲奈「くっ……」ドサッ



千歌「……」ザッザッザッ


千歌「……」ピタッ



ガラガラガラガラ……
パラパラパラ……



千歌「ダイヤさん…ルビィちゃん…」ガクッ


千歌「うっ……うぅ……」ポタポタ



英玲奈「すまない…もっと早く謎が解けていれば…」


海未「英玲奈さんは悪くありません…いえ、誰も……」



千歌「そんな……なんで………」ボロボロ


海未「……」


英玲奈「……」



ポクポクポクポク…



英玲奈「ん?」



海未「英玲奈さーー」


英玲奈「しっ何か聞こえる」


千歌「え…?」



ポクポクポクポク…



海未「これは…木魚の音ですか?」


千歌「!!!!!!!」



ーー
ーーーー


花丸『まあ、おかげでお菓子とかお餅とかたくさんもらったけどね』ドッサリ


曜『うわ…難しそうな本とかお経まで…』


梨子『これ木魚だよね?なんで全部風呂敷に詰めようとするの?』ポクポク


果南『あははは…』


ーーーー
ーー


千歌「花丸ちゃん…花丸ちゃんがお寺から貰ってきたやつだ!!!」


海未「音の出どころを探しましょう!!!二人が助けを求めているんです!!!」ダッ


千歌「ダイヤさん!!!ルビィちゃん!!!」ガラガラ


英玲奈「木魚は響く。だがかなり音が小さい。深いところに埋まっている可能性が高いから慎重に探せ!闇雲に?き分けると一気に崩れて潰されるぞ!!」ダッ



千歌「……」スッ



ポクポクポクポク…



千歌「あっちだ!!」ガラガラ


海未「気をつけて下さい!!」ガラガラ



英玲奈「ん?」



英玲奈「これは…」スッ


海未「どうされました?」


英玲奈「サヌキの札だ」


海未「!!!」


英玲奈「さっまで真っ赤だったのに…少しずつ元に戻っている」




千歌「ここです!!!」


英玲奈 海未「!!!!」



ポクポクポクポク…



海未「真下です!!」


千歌「ダイヤさん!!ルビィちゃん!!!」



ポクポクポクポク…



千歌「声が返ってこない…どうしよう……」


海未「……」


英玲奈「体力の消耗を抑えているのかもしれない。崩さないように上の瓦礫から慎重にどかすぞ」


千歌「はい!!」



海未「待ってください」



千歌 英玲奈「!!!!」


千歌「なんでですか!!!」


英玲奈「あまり長時間圧迫されていると危険だ!慎重に…だが迅速に救助をーー」



海未「おかしくありませんか?」


英玲奈「何?」


海未「体力の消耗を抑えるなら木魚を叩くよりも叫んだ方がよっぽど楽です」


海未「それに、木魚を叩ける程隙間があるなら瓦礫に圧迫されているのも考えにくいです」


海未「わざわざ木魚を叩いて知らせているのは…声を聞かれて自身の正体がバレてしまうのを防ぐためでは無いですか?」


千歌「そんな…」


英玲奈「じゃああの音は…」



?「全ク"…勘ノ"イイ奴タ"…」


三人「!!!!!」



海未「離れてください!!!!」



ガラガラガラガラ…
ドゴッ!!!



海未「かはっ…」ビュン…


千歌「海未さん!!!」



聖良「鵺様ノ"…鵺様ノ"生贄ニ"…」ボタタ…



英玲奈「死に損ないめ…」


英玲奈「鵺は死んだ!!見ろ!!あの森で朽ちている!!!!」


聖良「!?!?」クルッ



ヒュォォォォ…
パラパラパラ……



聖良「ヌ"…鵺様……」ボタタタタ


英玲奈「もう終わったんだ。お前達鹿角家の役目も終わりだ!共に朽ち果ーー」


ドガッ!



英玲奈「かはっ…」ビュン



ドゴッ!!


英玲奈「……」ズズッ





聖良「嘘タ"…鵺様ハ…我ラ"ハ永久ニ"不滅…」


聖良「!!!」



千歌「……」


聖良「貴様モ"鵺様ノ"ーー」




パチィィン!!



聖良「……」


千歌「返して」グッ


聖良「貴様ーー」



パチィィィィィン!!!!



聖良「!!!!!!」


千歌「みんなを……」グッ


千歌「みんなを返して!!!!!!!!!!!!!!!!!」ブンッ!



聖良「黙レ"ェ"ェ"ェ"ェ"ェ"ェ"ェェ"!!!!!」ズォッ!




ザシュッ!!!!!



千歌「……」ボロボロ



千歌「え……?」ボロボロ



聖良「カ"……ク"カ"カ"………」ドボボボボ…



ズブブ…



千歌「骨食……」



千歌「!!!!!!!!!」






ダイヤ「何をしているんですの?」ゴゴゴゴゴゴゴゴ…



千歌「ダイヤさん!!!!!!」


ダイヤ「一体どれだけ仲間を傷付ければ気が済むのやら…」グッ



ダイヤ「この腐れ外道がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」ズブブブッ!!



聖良「カ"ア"ア"@ア"ア/&#"ア"d〆?ア"!!!!」ドボボボボボ…



「離れてください!!!」



千歌 ダイヤ「!!!!」バッ



ヒュォォォォッ…


ドスッ!!!



聖良「カ"…」ピクッ




海未「はぁっ……はぁっ……」スッ



千歌「海未さん!!!」




タッタッタッタッタッタッ


ルビィ「……」バッ


千歌「ルビィちゃん!!!」


ルビィ「こ…これで終わりです…全ての悪夢を終える歌…」


聖良「ヤ"……メ"ロ"…………」



ルビィ「……」スゥッ


聖良「ヤ"メ"ロ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ'!!!!!!!!!!!」



……

梨子『これ木魚だよね?なんで全部風呂敷に詰めようとするの?』ポクポク

……


ルビィ
「比ぶれど…」


……

鞠莉『ダイヤ!!曜がまだ詠んでる途中でしょう!?人の話は最後まで聞いてから取らないとダメよ!!』

……


ルビィ
「うちつけなりや…」


……

善子『…みんな、今まで本当にありがとう!』


善子『そして、こんな私だけどこれからもよろしくね!』ニコッ

……


ルビィ
「巴ぐさ…」


……

花丸『マルを素敵な世界に導いてくれてありがとう。マルの心を開いてくれてありがとう。今日まで一緒に旅をしてくれてありがとう。今まで読んだどんな一冊よりも素敵な素敵な物語だった。大好きなルビィちゃんと出逢えて本当に良かった』


花丸『ありがとう……ルビィちゃん』ポロッ

……


ルビィ
「気なつかし夜は…」


……

果南『一つだよ…ずっとずっと…』ボロボロ

……


ルビィ「……」ポロッ


……

曜『私達の死体には二度と触らないで』

……



ルビィ
「いろはの…ごとく……」ポロポロ



聖良「!!!!!!!」パラパラ…



聖良「我ガ身ガ…滅ビテ行ク…」パラパラ…


スッ…


聖良「鵺様…先代様…そして理亜……ごめんなさい……鹿角家は……もう終わりです……」パラパラパラ…



聖良「本当に…ごめんなさい……」ポロッ



スゥゥゥゥッ…



千歌「終わった……」


ルビィ「ほっ……」ドサッ


ダイヤ「あっけない最後でしたわね…」ドサッ



海未「大丈夫ですか!?」バッ


ルビィ「海未さん!」


ダイヤ「ええ…なんとか。私達のいた場所は奇跡的に空洞となり潰されずに済みましたの」


英玲奈「よかった…皆無事だったんだな…」
ヨロヨロ


海未「英玲奈さん!!!御無事でしたか!?」バッ!


英玲奈「ああすまない…骨の二、三本がやられているのは間違いないが…辛うじて助かったようだ…」



英玲奈「ん?」


ダイヤ「?」


英玲奈「首の紋章が消えているぞ!!」


ダイヤ「!!」


海未「ええ、本当です!!何も残っていません!!!」


ダイヤ「やった…やりましたわ…」


ダイヤ「これで鵺の呪いは終わりましたわ!!」


海未「ええ…長い…本当に長い戦いでした」


ダイヤ「これでAqoursの皆さんも戻ってーー」




千歌「来ないよ」



三人「!!!!」


ルビィ「……」


ダイヤ「な…何を言っているのですの千歌さん?」


千歌「みんな水面夢であの鵺に食べられちゃった…梨子ちゃんも鞠莉さんも善子ちゃんも花丸ちゃんも果南ちゃんも曜ちゃんも…」


海未「そんな…」


英玲奈「…薄々そんな気はしていたが」



ルビィ「……」ギュッ


ダイヤ「あ…ああ……」ガクッ


ダイヤ「では一体…私はどうすれば…」ボロボロ


ダイヤ「何の為に頑張って来たと言うのですか…」ボロボロ


ダイヤ「約束を忘れたんですの…?向こうに戻ったら千歌さんと…それから善子さんに百人一首を教えると…」ボロボロ


千歌「……」


ダイヤ「み…みなさんに出した和歌の宿題は…わ、私が悪かったですわ。提出は晴れてからでも構いませんから…ですから……」ボロボロ


ルビィ「……」ギュッ


ダイヤ「ずっと繋がっていると…一つだと…そう信じ続けて…希望が垣間見えて…必死に必死に戦った結果がこれですの?」ボロボロ


ダイヤ「…こんなの」ボロボロ



ダイヤ「こんなの綺麗事ですわ!!!会えないのならもう繋がりもクソもありませんわよ!!!!!!!!!!!!」ダンッ!



海未「……」


英玲奈「残酷過ぎる……」


千歌「ごめん…ダイヤさん……」


ダイヤ「うぅっ…うう……」ボロボロ



ルビィ「お姉ちゃん…」スッ


コロコロコロ…


ルビィ「あ…」


英玲奈「これは…」スッ


千歌「柱時計の石…」スッ


ルビィ「さっき…壊れた時計の中から見つかって…」


英玲奈「そうか…」


千歌「……」ギュッ



ブゥゥゥゥゥゥゥゥン…



五人「!!!!」



海未「石が反応しています!!!」



ズォォォォォォォォォ…!!



ダイヤ「なっ……!?」ズズッ


海未「空間が裂けた!?」ズズッ


英玲奈「どうやら現実世界への扉だ…」ズズッ



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…



ルビィ「じ…地震!?」ヨロッ


海未「マズいです…鵺がいなくなったことでこの世界が崩壊しているんです!早く戻らないと二度と帰れなくなります!!!」ズズッ


ダイヤ「そんな……」ズズッ





千歌「私は残る」



四人「!?!?!?!?」


海未「な、何を言っているんですか千歌さん!?」ズズッ


千歌「私はここに残って…みんなを助けます」


ルビィ「ち、千歌ちゃん!!」ズズッ


英玲奈「バカ言うな!!この世界は崩壊している!!そんな所にしたらどうなるか分からないんだぞ!!!早くこっちに来い!!!」ズズズズッ


ダイヤ「嫌…嫌です千歌さん…あなたまで行ってしまわないで…!だったら私も残ります!!」ズズズズッ


ルビィ「嫌お姉ちゃん!!だったら私も!!!!」ズズズズッ




千歌「ダメ!!!!!」


ダイヤ ルビィ「!!!!!」



千歌「ダイヤさんが来ちゃったらルビィちゃんはどうするの?そのルビィちゃんも来ちゃったらAqoursはどうするの?」


ダイヤ「でも!!!!!」ズズズズッ


千歌「これ」ヒュォッ


ダイヤ「……!」パシッ


ダイヤ「これは…」ズズズズッ


千歌「栞だよ。花丸ちゃんが託してくれた…Aqoursを紡ぐ大切な大切な栞」


ルビィ「どうして……」ボロボロ


千歌「私はね。この世界の成り行きに全てを賭けてみる。もしかしたらみんなを救えるかもしれない。またAqours九人が揃えるかもしれない…」


千歌「だから待ってて…それまでそれを預かってて…」


ダイヤ「そんな…」ボロボロ



英玲奈「……」


英玲奈「…分かった。信じよう」



ダイヤ ルビィ「!!!!!」


英玲奈「高海千歌がいなければ決して揃うことは無かったAqours…例えそれがバラバラになっても、再び一つにできる力があるのは彼女だけだ」ズズズズッ


ルビィ「英玲奈さん…」ボロボロ


海未「そうですね…」ズズズズッ


ダイヤ「海未さん…」ボロボロ


海未「奇跡によって生まれたAqoursなんです。そして、こうして奇跡を紡いで鵺の悪夢を終わらせました。例えそれが時を越えようと世界を越えようと…また奇跡で元に戻ります」ズズズズッ


海未「いつかμ'sが集まれるその日のように…」



ルビィ「うぅ…うう…ぐずっ…」ボロボロ


ダイヤ「くっ……」ボロボロ



千歌「ダイヤさん…ルビィちゃん…今日まで本当にありがとう。二人のおかげですっごく楽しかったよ。いつになるか分からないけど、絶対にみんなと一緒に戻ってくる。だから泣かないで…」



千歌「ほんの…ほんのちょっとの……」ポロッ


千歌「お別れだから…」ボロボロ



ダイヤ「くっ……」ボロボロ


ダイヤ「待っています…ずっとずっと!!どんな時も絶対に忘れません!!!」ボロボロ


ダイヤ「このアヤメとサヌキの《通ひのいし》…二人が繋がったように私達もまた出会えます!!!!」ボロボロ


千歌「絶対に無くさない!ずっとずっと持ってる!!!」ボロボロ



ルビィ「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!」ブワッ



海未「頼みましたよ千歌さん…」ポロッ



英玲奈「達者でな…」



英玲奈「くっ……」ポロッ



ブゥゥゥゥゥゥゥゥン…



千歌「じゃあね……」ニコッ




フッ……



ダイヤ「!!!!!」




千歌さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!



……


……


……


あれ?


真っ暗だ…


えっと…


私どうなっちゃったんだろう?


死んじゃったのかな?


そんなはずないよね?


ちゃんと私だって分かるもん


えっと…私の名前は高海千歌!


浦の星女学院の二年生で


家は十千万っていう旅館なんだよ!


お姉ちゃんには志満ねえと美渡ねえ…


それからしいたけっていうおっきい犬を飼ってる!


学校ではAqoursっていうスクールアイドルのリーダーをやってるんだ!!


えっとメンバーは…



大人しくてピアノが上手くて変な本が好きで…怒るとすっごく怖いけど大切な梨子ちゃん!


ものすっごくお金持ちで理事長権限連発して私もいっつも振り回されちゃうんだけど、本当はみーんなのこと全部分かってて見守ってて元気をくれる大切な鞠莉さん!


自分のことを堕天使だと思ってる…ちょっと変わってて…不思議で…でもそれが大好き!!羽を広げて飛び立つことを恐れないチャレンジャー、大切な善子ちゃん!


色んなこといっぱい知ってて、頭の中が図書館みたい!かけがえのない光の物語の大賢者のような主人公、大切な花丸ちゃん!


海みたいに大らかで、波みたいに優しくて、泡みたいに繊細で…ずっとずっと私たちを包み込んでくれるお姉ちゃん、大切な果南ちゃん!


嵐にあっても座礁しても…霧の海域に迷い込んでも…ずっとずっと一緒に水平線に向かって直進してきた永遠の大親友!大切な曜ちゃん!


ちょびっと泣き虫だけど、いくつもいくつも辛いことを乗り越えて…強くてたくましくて勇気のある女の子!私を信じて全てを託してくれた大切なルビィちゃん!


何でもできて完璧…かと思ったらちょいちょい抜けてて…でも、本当に大事なことや譲れないことは命に代えてでも貫き通そうとして…ずっと私達を信じて戦ってくれてた。諦めないで戦ってくれてた…全てを託してくれた大切な大切な大切なダイヤさん!


なーんだ。ちゃんと覚えてるじゃん!



じゃあ大丈夫!


どこにいても


どんな時でも



同じ空見上げていれば…



繋がっているから…




ーーいつか必ず



ーー三週間後


『…昨年末、新たに小倉百人一首の序歌を選定したとされる時雨亭の……』


ポチッ


『…亡くなったことが公表され、日本かるた協会は、序歌を元の《なにわづの歌》に戻すことを決め、今年をもって時雨亭での内裏歌合を中止…』


ポチッ


『今月5日未明、琵琶湖の多景島にて堕天使の形をした凧を揚げ助けを求めていた高校生四人を保護した件を受け、滋賀県警は…』


プツッ…



ダイヤ「……」



…私達はあの後多景島で救助され、事の経緯を話しましたが誰も信じてはくれませんでしたわ。


海未さんは行方不明がμ'sの皆さんに知れ渡り、とても不本意な形で九人が揃われたそうですの。でも、その旨を連絡してくださった際は凄く幸せそうでしたわ。


英玲奈さんは事務所から一時的に謹慎処分を言い渡されたそうですが、幸いにもライブを終えた後でしたので活動に大きな影響は無かったそうです。むしろ未だにツバサさんやあんじゅさんがからかってくる方が辛いと仰っていましたわ。


家ではルビィが突然消えた事でパニックになっていたらしく、パトカーで二人揃って帰宅した際はかつてないくらいこっぴどく叱られてしまいましたわ。


そして、Aqoursの皆さんのことを聞くと…皆口を揃えてこう言うんですの…





そんな人知らないって。


あれから三週間


未だに千歌さん達は帰ってきません。



ルビィ「お姉ちゃん!!」


ダイヤ「!!!」


ルビィ「そろそろ行こっ!」



『ただいまをもちまして、第50回、伊豆長岡温泉 鵺ばらい祭り 夜の部を終了致します。おかえりの際はお足元に…』



ダイヤ「さあ、行きましょうルビィ」スッ


ルビィ「うん!」パタパタ



テクテクテク…



ルビィ「すごかったね鵺踊り!」


ダイヤ「ええ。中学生とは思えない程キレがありましたわ」


ルビィ「それにあんな重そうな鎧着てよく動き回れるよね」


ダイヤ「あれはニセモノではないんですの?」


ルビィ「でも千歌ちゃん、昔頼政役やった時重たくて全然動けなかったって」


ダイヤ「ふふっ…そうですか」


ルビィ「……」


ダイヤ「……」



ダイヤ「月が綺麗ですわ。海岸に寄って行きましょう」



ザザーン…


ダイヤ「……」


ルビィ「……」


ダイヤ「鹿角家…あれからどんなに調べても一切の情報が出てきませんでしたわ。恐らく、完全に消えてしまったのでしょう」


ダイヤ「Saint Snowも…」


ルビィ「うん…」


ダイヤ「それに…私達はスクールアイドルですら無い…もう皆さんがいた痕跡が跡形も無くーー」



ルビィ「ルビィ達がいる!!」


ダイヤ「!!!」


ルビィ「それに、海未さんや英玲奈さんも…」


ダイヤ「ルビィ…」


ルビィ「《通ひのいし》だって片方ずつ持ってる。それに栞だって……」



ポンッ


ルビィ「!!!」


ダイヤ「ありがとうルビィ」ナデナデ


ルビィ「うん…」


ダイヤ「皆さんが戻ってくるまでの刹那…栞は挟んで閉じておきましょう」


ルビィ「…うん。いつか千歌ちゃんが戻ってくれば全部全部…元通りになるから……」


ダイヤ「ええ。そうですわね…」


ダイヤ「きっと…今もどこかであの夜半の月を眺めているのでしょうね…」


ルビィ「絶対そうだよ…絶対に…」



ダイヤ「次に眺める時は…」



ダイヤ「是非九人で……」




ダイヤ「……」スゥッ



ザザーン…
ザザーン…


ーーさても静かなる宵の更け。


風はとうに眠りにつき、こだますはただ遠くでさざ波が寝返りをうつのみ。


我が現前に広がりたるは、うたかたの如くおのづを主張しては消ゆる数多の星々。


さては更けるに連れ、我が心をわづらはしく惑はす煌々たる月。


いとをかし。



千歌「……zzz」プカプカ


………



…汝は誰そ?



!?!?!?!?


その手にとらへし石は…


今しがた母アヤメから給い、湖の深きところに沈めたるもの…


何ぞ汝がーー



ドクン……



~皆人は 何ぞ定むるや 憂し時が
兎輪の契りに 流るると知らで~


【人は何故虚しく悲しいだけの時間という概念を定め、別れや離れを憂うのか。兎輪(永遠)(月)の約束を交わし、ずっとその変わらぬ輝きを眺めて想い続けているのなら、これもまた変わらず打ち寄せる波の前では意味を成さず流れてしまうものだということも知らないで】



!?!?!?


今の歌は……



千歌「むにゃむにゃ……」プカプカ



…………



汝、うつせみにあらずか。


此の鵺の巣窟に迷ひぬるとはいと哀れなり…


汝にもまた、想い想はるる人がいるらむ。


今しがた終の別れを告げた、石を賜うびける母、アヤメのやうな…


そして今の歌も…



千歌「……ん……みんな……」プカプカ



……


何処に生きとし生ける詠み人よ。


汝に歌を返そう。


その契りが確かなら


何時か必ず巡り逢わん。



我が名はサヌキ。



此の乙女にかはって歌を詠む者。



行く先を照らす乙女にかはって…



……




~しののめに 移りにければ うら然り
しるべは高み 誓ひ永遠にあれ~



【昔から変わらぬその眺めに想いを委ねているのも悪く無いが、東の空が明るくなってきたのなら心も同じ。新たな光に向かってその高みを目指し歩き出しなさい。ずっと信じ合っている『彼女』がそう望んでいるのだから…】





ーー字余り。


最後まで読んでくださってありがとうございました!



追記:1

このssはμ'sが卒業してAqoursの代の時系列ですが、何故か2015年となっています。この理由はストーリーの関係上、菖蒲御前という人物が実際に亡くなった1215年から800年後という設定にする必要があったためです。
混乱された方も多いと思います。申し訳ありません。



追記:2

SSに出てきた「鵺ばらい祭」及び「源氏あやめ祭」は、実際に催されている行事です。前者は1月末、後者は7月の頭に開催されているので是非足を運んでみてください!

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