渋谷凛「マーキング」 (301)

※「アイドルマスター シンデレラガールズ」のSS

※キャラ崩壊あり、人によっては不快感を感じる描写もあるかも

※決して変態的なプレイをする話では無く、健全な純愛物を目指してます

※独自設定とかもあります、プロデューサーは複数人いる設定

以上の事が駄目な方はブラウザバック奨励




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1486239096

「あっ、凛ちゃん。ちょっといいかしら」


レッスン終わりの帰りがけ……事務所内の廊下を一人歩いていると、後ろから声を掛けられたので、私は後ろを振り返ってそれが誰なのかを確認する。


振り向いた先には黄緑色の事務服を着た、事務員の千川ちひろさんがそこに立っていた。


けど……何だか少し、慌ててる気がするけど……何かあったのかな?


「ちひろさん、どうかしたんですか?」


「Rさん……えっと、凛ちゃんのプロデューサーさんをどこかで見てない?」


プロデューサー? 事務所に来た時に会った後は、見てないな。


そういえば、レッスンが終わった後も、見かけなかったな……何やってるんだろう。


「……見てないけど、何かあったんですか?」


「実はね……先月分の領収書の提出がまだみたいで……今日が締め切りだから、早く出して貰いたくて、催促してたんだけど……それでも出してくれて無いのよね……」


ちひろさんは困った様にそう言った後、重々しくため息を吐く。


相当に困り果てているみたいで、それはちひろさんの様子からも感じ取れた。


「それでもう一度催促しようとしたらいつの間にか姿を消しててね……それで困ってるのよ」


「電話はしたんですか?」


プロデューサーの事だから、仕事柄、携帯は持ち歩いているはずだし……よっぽどの事が無い限り、連絡が付かないなんて事は無いはずだけど……。


「したにはしたけど……携帯を机の上に置いてどこかに行ったみたいだから……連絡が付かないのよね」


……あぁ、そうなんだ。本当に、もう……困ったプロデューサーだな。


私には常日頃、『大丈夫か?』とか気に掛けるくせに……自分の事は全然駄目なんだから。


いい大人なんだし……しっかりして貰わないと、困るな。


「それで、凛ちゃんに声を掛けたのよ。何か、知ってるかな……って、思って」


「そうだったんですか。でも、ごめんなさい。私も……レッスン前に会ったきりだから、居場所は分かりません」


「やっぱり、そうよね……はぁ……」


ちひろさんはそう言うと、もう一度ため息を吐いて、がっくりと肩を落とす。


こういうの見ると……私のせいじゃないけど、何だか申し訳無く感じるな。


正直、可哀想だと思う。プロデューサーのせいで、ここまで苦労させられて。


「ごめんね、凛ちゃん。時間取らせちゃって」


「いえ、大丈夫です。私の方こそ、役に立て無くて、ごめんなさい」


「そんな事無いわよ。でも、もしプロデューサーさんを見かけたら……私に連絡する様に伝えてくれるかしら?」


「あっ、はい。その時は、ちゃんと伝えておきますから」


「ありがとう、凛ちゃん。それじゃあ、よろしく頼むわね」


そしてちひろさんはそう言った後、私の下から離れていった。


ついに犬か

どう見ても狼にゃ!

この後もプロデューサーを探すのだろうけど……ちひろさんじゃあ、見つからないと思うな。


でも……私は何となく、予想はついている。多分、プロデューサーの事だから……あそこにいるだろうな。


私は事務所の出口へと向けていた足を、別方向に向け、そして歩き出す。


向かう先はこの事務所の最上階、屋上。この事務所の人でも、あまり寄り付こうとしない場所。


階段を一段、一段上っていき、それを何度も繰り返して屋上を目指し、そして最上階へと辿り着く。


階段を上りきった私は、屋上へと続く重々しい扉の取っ手を掴み、開く。


扉を開けると、外の冷たい風が真っ先に私を出迎える。そして目の前には殺風景な光景が広がっている。


周りにあるのは落下防止の柵と、室外機や給水タンクといった設備だけ。本当に何も無い様な世界。


そんな世界に、ポツンと一人、佇む人影があった。


柵の目の前に立ち、何か考えている様な、そうで無い様な感じで、ボーっと空を見上げてる男性。


この人こそ、私の担当プロデューサーの……R。ちひろさんが先程探していた人である。


私は近付く為に扉を閉めると、バタンッと大きな音が鳴る。


「ん?」


その音に気付いたのか、プロデューサーは視線を空から私の方にへと移してくる。


「あれ? 凛じゃないか。レッスンは終わったのか?」


呑気そうに言った後、プロデューサーは右手を上げて私を出迎える。


そしてその手には白くて細長い、筒状の嗜好品……煙草を握っている。


愛煙家であるプロデューサーは良くここで……一人で煙草を吸っている事が多い。


事務所内にも喫煙スペースはあるけど……プロデューサーは『何だか、合わない』って言って、使おうとはしない。


だからこそ、私はプロデューサーはここにいるだろうと、何となく目処が付いていたのだ。


「とっくに終わってるよ。というか、やっぱりここにいたんだ」


私はそう言って、プロデューサーの傍にへと寄っていく。


近付くと、煙草独特の匂いが私の鼻腔に届くけど、それを嗅いだ事で、悪い気にはならない。


「あぁ、ちょっと休憩がてらな」


プロデューサーはそう言うと、右手に持つ煙草を口に咥えようと近づける。


「おっと、悪い悪い」


けれども、煙草を咥える前にプロデューサーは手を止める。


そしてまだ紫煙を燻らす煙草を、胸ポケットから取り出した携帯灰皿に押し付けて、消火した。


きっと、私が来たから……遠慮して、そうしたんだろうな。プロデューサーは変な所で気を回す人だからさ。


「別に、そんな気を利かせなくていいよ、プロデューサー」


「でも、女の子の前で吸うのもな……俺は好きだから良いけど、凛に害が及ぶのはな……」


それでもプロデューサーはそう言って遠慮するばかり。もう……何で分からないかな。


私の事を心配してそう言ってくれているんだろうけど……それは大きなお世話。


だって……私、プロデューサーのその匂い……嫌いじゃないから。


ある意味黒幕がその真価を見せるのか
牙を向く狼(凛)と書くと遊戯王ZEXALのある曲が似合う

あ、そういうのいいんで

スゲーのが湧いてるな

前にプロデューサーから聞いた事があるけど……プロデューサーが吸っている煙草の銘柄はとても珍しく、この事務所では他に吸っている人が少ないみたい。


そもそも、この事務所では喫煙者の割合の方が少ないから、この煙草の匂いイコール、プロデューサーの匂いと、必然的にそうなる。


だからかな……この匂いを嗅いでいると、何だかプロデューサーが近くにいるんだって思えて、とても安心できる。


それをもっと感じていたい……もっと嗅いでいたいから……吸ってくれてていいのに。


でも、そう言った所でプロデューサーは聞いてくれないだろうし、ここは諦めるしかなさそう。


「それで……何か用でもあったのか?」


プロデューサーは取り出した携帯灰皿を、再び胸ポケットにしまいつつ、そう言った。


「ちひろさんがプロデューサーの事を探してたよ。だから、呼びに来たの」


「えっ、ちひろさんが? 何かあったっけなぁ……?」


プロデューサーは探していた理由に見当が付いていないのか、顎に手を当てて、深く考え出す。


この様子だと……もしかして、忘れてるのかな? それだから、こんな所で呑気に煙草なんて吸ってたんだ。


「ちひろさんが言うには、提出期限が今日までの領収書の事みたいだけど?」


「ん? あぁ、そうだ。そんな事言われてたな。いやぁ、すっかり忘れてた」


私に言われてようやく見当が付いたのか、そう言いながら、得心して手を打った。


「忘れてた、って……もう。しっかりしてよ、プロデューサー。いつもは私にあれこれ言うくせに、そんな事じゃ駄目だよ」


「そ、そう言われると、耳が痛いな。ははは……」


そう言って空笑いした後、プロデューサーは頭を掻く。


いつもはしっかりしているのに、変な所でうっかりしてしまうのが、この人の悪い癖なんだよね。


……まぁ、そういう所が、可愛くもあるんだけど。


「それで……ちひろさん、怒ってた?」


「怒ってる……って、感じじゃなかったよ。どっちかって言うと、呆れてる感じ」


「そ、そうか。なら、まだ良い方だな。でも、それなら一言、携帯に連絡くれればいいのにな」


「……それ、本気で言ってる? プロデューサーの携帯、机の上に置きっぱなしだって、ちひろさんが言ってたよ」


「えっ? マジで?」


プロデューサーは慌ててポケットの中を探し始めるが、そこから探し物は出てくる訳が無い。


持ってない事が分かると、プロデューサーは唖然とした表情を浮かべる。


「本当だ……持ってない」


「全く……気を付けてよね。緊急の電話が着てたら、どうするの」


「でもなぁ……ここに来る時に、煙草と一緒にポケットに入れたと思ったんだけどなぁ……」


無い事が分かったのに、それでも納得のいかない様子のプロデューサー。


多分、それって……煙草の箱をポケットに入れた時、一緒に入れたと勘違いしただけなんだと、私は思うな。


本当に、もう……うっかり者なんだから。


「まぁ、何にせよ……伝えてくれて、ありがとうな、凛」


「ううん、別にいいよ、これぐらい。お礼を言われる程じゃないよ」


「いや、そうでもないさ。わざわざここまで来てくれたんだし……」


プロデューサーはそう言うと、またもポケットの中を漁り出す。


「これ、あげるからさ。食べてくれ」


そして取り出した何かを、プロデューサーは私に向けて差し出した。


それが何なのかは分からないけど、私は手を伸ばし、手の平の上でそれを受け取る。


「チョコ、レート……?」


それは黒い包装紙に包まれた、四角い一口サイズのチョコレート。


コンビニとかでも良く目にする、定番の商品だった。


そして、プロデューサーが好んで良く食べている、お菓子でもある。


「凛は好きだったよな、チョコレート」


「う、うん……ありがとう」


「それじゃあ、俺は戻るけど……凛も遅くならない内に、帰るんだぞ」


プロデューサーはそう言うと、私の頭を軽く叩いた後、その横を通り抜けていく。


そして唯一の出口である扉を開き、屋上から去っていった。


一人残された私は、プロデューサーが出ていった扉をしばらくジッと眺めた後、私は視線を空にへと移す。


さっきまでプロデューサーが見ていた空……夕暮れ時ともあって、その色は茜色に染まっている。


この空を見ながら……プロデューサーは、何を考えていたんだろうな。


そんな事を考えながら、私はプロデューサーから貰ったチョコレートの包装を外して、自分の口の中にへと放り込む。


「……苦い」


そのチョコレートの味は、少し苦かった。


プロデューサーは、ビター系を好むから、当然とも言える。


でも、悪くは無いかな。プロデューサーから貰った物だと思うと、多少の苦さなんて、気にならなかった。


そしてチョコを食べ終えると、私も屋上から出ようと、一歩踏み出して歩き出す。


プロデューサーがいないのなら、もうここにいる必要なんて無い。


先程プロデューサーが開けた扉をまた開き、屋内へと戻る。


それから家に帰る為に、私は事務所の出口を目指して歩いていくのであった。


とりあえずここまで

皆さんの期待に沿えるかどうかは分かりませんが

今回も頑張って執筆していこうと思います

それではまた、続きを書き溜めたら投下していきます

おつ

おつ

相棒感あるクールなしぶりんは久しぶり


この話は智絵里の前か後かどちらなんだ
凛は援交だの色々とネタにされるけど本質はクールな相方タイプかもな

「ただいま」


私はそう言って、家の中にへと入っていく。


実家が営んでいる表の花屋はまだ営業中なので、裏口からの帰宅だった。


あれから事務所を出た後、私は寄り道する事無く、真っ直ぐここにへと帰ってきた。


というよりも、寄り道しようとも思わなかった。


今日はレッスンもあって、疲れたというのもあるし、それに……一人で遊ぶ気分でも無かったから。


「あら、凛。おかえりなさい」


家に上がる為に靴を脱いでいると、私の声が届いたのか、お母さんが台所から顔を覗かせ、そう言ってくる。


夕ご飯の支度をしている為か、お母さんはエプロン姿だった。


「ただいま、お母さん」


私もそう言って、台所にいるお母さんの下に近づいていく。


台所に近づくと、ほんのりと魚の焼ける香ばしい匂いが漂ってきた。


という事は、今日のおかずは焼き魚なんだろうな。


「もう少しでできるから、ちょっと待っててね」


「うん、分かった。それと、お店の方は大丈夫? お母さんがこっちにいるなら、手伝ってきた方がいいかな?」


「大丈夫よ。お客さんも少なくなってきたし、お父さん一人でも回るから。凛は先に着替えて、ご飯ができるまでゆっくりしてなさい」


「ありがとう。それじゃあ、そうするね」


お母さんにそう告げた後、台所の横を通り抜けて、二階の自分の部屋にへと向かっていく。


階段を上がって部屋の扉を開く。すると、開いたその先から家で飼ってる小型犬、ハナコが私の下にへと駆け寄ってきた。


「ただいま、ハナコ」


駆け寄ってきたハナコの頭を軽く撫でた後、私は部屋の中に入っていく。


持っていた通学用の鞄をベットの上に置き、着ていた制服から部屋着に着替える。


そして勉強机の前にある椅子に腰掛けて、私はようやく一息吐いた。


「今日も疲れたなぁ……」


私は天井を見上げながら、一言そう呟いた後、何となく今日あった事を思い返してみる。


午前中に行った学校では、特にこれといった事は起きなかった。


ただ普通に授業を受けて勉強して、ただ普通に友達と話していただけ。


それから午後になって……事務所に行って、トレーナーさんの指導の下、レッスンを受けたな。


私の他には卯月や未央もいて……久しぶりに、ニュージェネレーションの三人でのレッスン。


二人共、相変わらず……いや、未央は前に会った時と変わり無かったけど、卯月は何だか……様子がおかしかった。


何処と無く、表情に影が差していた様な感じがしたし、時折、独り言を呟いている事もあった。


心配になって、声を掛けようともしたけど……レッスンが終わると同時に、卯月は瞬く間に帰ってしまった為に、それは叶わなかった。


電話も掛けてみたけど、ずっと通話中で繋がらない。一応、メールは送っておいたけど、未だに返信は返ってきてはいない。


本当に……今日の卯月は、いつもの卯月らしく無かった。何か、あったのかな……?


今は連絡は取れないけど……今度会った時は、必ず声を掛けよう。


もし、悩みがあるなら……話す事で、力になれるかもしれないし……うん、そうしよう。


とりあえず眠気が限界なのでここまで

出勤までに続きが書ければ、朝にでも続きを投下します

それでは、お休みなさい

それで、レッスンが終わった後……ちひろさんに呼び止められて、プロデューサーがいないって聞いて……それから屋上へ呼びに行ったんだったな。


「本当に、プロデューサーはだらしがないんだから……」


もう少し、普段からきちんとして欲しいかな。いつもあんな感じだと、私だって困るしね。


いっその事……私がプロデューサーの秘書として、付いていた方がいいかもしれない。


アイドル兼秘書……まぁ、響きとしては、悪くは無いね。


「ん? ハナコ?」


そんな風に考えていると、私の足下にハナコが近寄り、鼻先を擦り付けてくる。


一人で考え事ばかりしてたから、構って欲しいのかな。


「ごめんね、ハナコ。構ってあげれなくて」


私はそう言って、足下にいるハナコを両手で優しく抱き上げた後、膝の上に乗せて、その頭をそっと撫でた。


撫でてあげたからか、ハナコは気持ち良さそうな表情を浮かべている。


そんな様子を見て、私も自然と笑みがこぼれてしまう。こんなふとした瞬間でも、幸せに感じられた。


「プロデューサーも、こんな気分なのかな……」


そう言いながら思い出すのは、屋上でプロデューサーが去り際に、私の頭をポンッと軽く叩いた感触。


大分前からだけど……私がハナコにするのと同じ様に、プロデューサーもよく私を撫でたりしてくる。


最初の頃は遠慮もせずに、あまりにも気軽に触れてきたから、怒った事もあった。


でも、最近の私はそうは思わなくなってきた。寧ろ、もっと触れて欲しいぐらいだった。


あの大きな手で、私の髪がくしゃくしゃになるぐらい、強く撫で回して欲しい……と、そんな感じに。


こんな風に思うなんて……やっぱり私、考え方が犬に近いのかな。


前に未央から『しぶりんは忠犬だね』だなんて揶揄われた事があったけど、本当にそうなのかもしれない。


「ハナコはどう思う? 私って……犬みたいなのかな?」


犬の事なら、犬に聞けば分かるかな……とばかりに、私はハナコにそう問い掛ける。


けれども、その意味をハナコが分かる訳が無く、私に向けて鼻で鳴いた後、怪訝そうに首を傾げるだけだった。


「……そうだよね。こんな事聞かれても、分からないよね」


私はそう言った後、ハナコをまた抱きかかえて、膝の上から床にへと下ろす。


そしてその後に、机の上に立て掛けてある写真立てに、私は目を向けた。


そこに飾られているのは、この部屋の中でも取り分け思い出深い一枚。


シンデレラガールになった時の私と、プロデューサーが写っている写真だった。


けど、そこに写っている私は引き攣った苦笑いを浮かべていて、それに対してプロデューサーは目を泣き腫らしていた。


「あの時は、色々と大変だったなぁ……」


私がシンデレラガールに選ばれた事で、感極まったプロデューサーがみんなの目の前で男泣きしてしまったのだ。


しかも、嬉しさのあまり、泣きながら私に抱きついてくる始末。


『離れて!』と言っても離れてくれなかったから、ちひろさんや他のプロデューサーの人達が数人がかりで引き剥がして、ようやく離れてくれたのであった。


だからこそ、この写真は記念すべき日の光景であるにも係わらず、こんな有様となってしまっている。


せっかくの晴れ舞台だというのに……プロデューサー一人のせいで、とにかく大変だった。


「私のプロデューサーなんだから……しっかりしてよね」


私はここにはいないプロデューサーに文句を言うと、写真に写っているその額に目掛けて、右手でデコピンを放った。


写真立ては衝撃を受けて、後ろに少しずれはするけど、けっして倒れはしない。


そんな様を見てると、写真立てがあの時のプロデューサーみたいに思えて、何だかおかしくなり、笑いが込み上がってくる。


ちょっとばかり抜けてて、少し頼りにならないプロデューサー……でも、感謝していない訳じゃない。


プロデューサーがいなかったら、今の私は無いはずだし、アイドルにだって、なっていなかったと思う。


シンデレラガールになれたのも、プロデューサーのお陰。プロデューサーが支えてくれたから、私は走り続ける事が出来た。


こんな事……恥ずかしくて、本人の前では言えないけど……いつかは、この気持ち……打ち明けられる日が来ると、いいな。


私の大好きな……プロデューサーに向けて、ね。


「りーん。そろそろ、ご飯ができるわよ」


そして下の階から、私を呼ぶお母さんの声が聞こえてくる。


「うん、分かった。今、行くね」


お母さんの呼び掛けに、私はそう答えると、席を立って部屋から出ようと扉の取っ手を掴む。


けど、直ぐには出て行かない。私は一度振り返ってハナコに視線を向けて、


「ちょっと行ってくるから、待っててね」


と、言ってから部屋を出て行く。


それからお母さんの待つ、一階にへと降りて行くのだった。


とりあえず、ここまで

それで申し訳無いですが、しばらくこちらの更新を止めたいと思います

理由は……例のイベントが近く、それに向けて一作書こうと思い立ったからです

あんまり時事物は書いた事がありませんが、仕事中にふと、天啓(妄想)が舞い降りてきたので、この度決意しました

なるべく早めに執筆を終えて戻ってきますので、どうかご了承下さい

それではまた、更新した時にでもよろしくお願いします

お久しぶりです

ようやく別作品の執筆を終えたので、再開したいと思います

ちなみに、こんなの書いてました

緒方智絵里「私の特別な、あの人だけの贈り物」

緒方智絵里「私の特別な、あの人だけの贈り物」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1487022862/)

後日。仕事も学校も無い、週末の休日。


今日は何も予定の入っていない私は、朝ご飯を食べた後、手伝いとしてお店の方に出ていた。


お店を手伝う時に使うエプロンを身に着けて、店頭に立つ事数時間。


休日という事でそれなりにはお客さんは来ていたけれど、大して忙しい……という感じでは無かった。


昼も過ぎた頃には、大分暇になってきて……私は入り口から見える外の光景を、椅子に座って頬杖をついて眺めながら、お客さんが来るのを待つだけになっていた。


「この調子だと……今日はずっと、こんな感じなんだろうな」


この後もまだ暇である様なら、お父さんに言って店番を代わって貰おうかな。


諦めてそんな事を考えていると、入り口の扉が開き、来店を知らせるベルが店内に鳴り響く。


私は立ち上がって姿勢を正すと、入ってきたお客さんに「いらっしゃいませ」と、言って待ち構える。


顔は良く見えないけど、入ってきたのは恐らく、二十代前後と思われる、黒髪ロングの若そうな女性。


こちらには顔を向けず、ジッと一心不乱に店頭に置いてある花を見つめてる。


……けど、何だろう。私はその人を、どこか見覚えがある様な気がしてならなかった。


そう思って観察して見ていると、不意にその女性はこちらに目を向けて、そして私とばっちりと目が合った。


そこでようやく、私はその女性が私の知り合いである、ある人物だという事に気付けた。


それを確かめる様に、私はポツリとこう語り掛けた。


「……文香?」


鷺沢文香。私と同じ事務所に所属する、アイドル仲間。


目元まで覆う長い前髪に、物静かな雰囲気を醸し出す女性。


その彼女が今、私の家に来て、そして花を見つめていたのであった。


「あっ……こんにちは、凛さん」


一拍置いて、文香は私にそう挨拶した後、こちらに歩いて近づいてくる。


近づいた事で分かった事だけれど、今日の文香は眼鏡を掛けていた。


事務所では掛けている所を見た事が無いので、恐らくは変装用の眼鏡なんだろうな。


「もしかして……今日は、お家の手伝い……ですか?」


「う、うん、そうだけど……文香は、どうして家に……?」


「えっと……見ての通り、お花を買いにきたんですけど……」


自分で聞いておいて何だけど、それを聞いて、私は『それもそうか』と、納得する。


花屋に来ておいて、他の物を買いにきたとかは無いのだから、当然だった。


「それで、その……何か、探し物?」


「……えっ?」


「さっきからそんな感じがしてたから……目当てのものとか、あったりする?」


「……そう、ですね。実は、探している花がありまして……」


少し考えた素振りをした後、文香は目を伏せ気味にそう言った。


それにしても……文香が探している花、か。一体、どんな花なんだろう。


「それって、何て花かな? 教えてくれれば、私が探してくるけど」


私がそう言うと、文香は顔を上げて、その表情を明るくさせた。


「本当、ですか……? それなら、お願いしても……いいですか?」


「うん、その為の店員だからね。それで、文香が探しているのは、どんな花なの?」


「えっと……――い、バラです」


「……ごめん、文香。もう一回、言って貰ってもいいかな?」


私は一言文香に謝った後、そう言って聞き返す。


ぼそぼそと文香が言った為か、名前の最初の部分が聞こえず、私はバラとしか聞き取れなかった。


けれども、断片的に聞き取れたその花の種類は、うちの店には置いていない種類の物だった。


「黒いバラを、探しているのですが……ありますか?」


黒いバラ。確か、トルコでしか咲かない、大変珍しい花。


天然物はそこでしか採れず、一応、代用品としてブラックバカラなんて物もあるけど、生憎、今のうちには置いては無かった。


文香には悪いけど、ここは諦めて貰うしかない。


「その……ごめんね、文香。黒いバラはちょっと……置いてないかな」


「……そう、ですか。残念です……」


それを聞いた文香はがっくりと、項垂れて落ち込んでしまった。


期待に応えてあげたかったけど、物が無い以上、私にはどうする事も出来なかった。


「あの、他に欲しい花って、無いかな? ある物なら、用意は出来るけど……」


「……それでは、パンジーかナズナは……ありませんか?」


「パンジーとナズナ……それなら、あるかな。ちょっと待っててね」


私は言われたその花を、取りに行こうと、動こうとする。


けど、大事な事を思い出して、私は足を止め、文香にこう聞いた。


「ちなみにだけど……これって、贈り物で良かったかな」


「あっ、はい。その通り、です……」


「……もしかして、その渡す相手って……文香のプロデューサーさん、とかかな?」


私がそう尋ねると、文香は俯いて黙ってしまった。


けれども、少しした後に控えめではあるが、ゆっくりと首肯した。


とりあえずここまで

今日中には中盤ぐらいまでは話を進めたいなぁ……

それでは今から出勤なので、続きはまた帰ってきてからで

黒い薔薇の花言葉って…察せるな

文香のプロデューサー……名前は確か、Sさんだったかな。


少し前にだけれど、私のプロデューサーが用事が入って迎えに来られなくなった時、代わりに私を家まで送ってくれた事があったっけ。


如何にも真面目で、誠実そうな感じの人で……雰囲気的にも、文香とお似合いの人と言ってもいいかも。


そういえば、その時に……白いバラを数本、買ってくれたんだったな。


そうすると……文香が今日、花を買いに来たのは……その時のバラを貰って、そのお返しなのかもしれない。


丁度、バレンタインも近づいているし……そう考えると、辻褄が合うかな。


「それじゃあ、贈り物に相応しい様に、見栄え良く……綺麗な物を見繕っておくね」


「は、はい……その、よろしくお願いします……」


「うん、任せて」


私は文香にそう言った後、その場から離れて、頼まれたパンジーとナズナを取りにいく。


そして文香が仕上がった商品を気に入って貰える様にと、細心の注意を払って花を選んでいくのであった。


………………


…………


……


「えっと……こんな感じで、大丈夫かな?」


私は纏め終わり、出来上がった花束を文香に差し出して、その出来を見て貰う。


文香は顔を近付けて、それをしばらく眺めた後、視線を私に移して、


「えぇ、大丈夫です……。ありがとうございました、凛さん」


軽く微笑みながら、私に向けてそう言った。


それを受けて私はホッと一息吐く。


もし、気に入って貰えなかったらどうしよう、と少し不安だったから、そう言って貰えて安心できた。


「……しかし、この花……」


けれども、文香はそう言うとまた花束の方にへと視線を移す。


そしてその表情は、どこか怪訝そうに見えた。


「……? どうかしたの? 何か、不備でもあったかな……?」


「い、いえ、そういう訳ではありません……。この花束の出来栄えは、私からは素晴らしいとしか、言い表せません。ですが、何ででしょう……この花を見ていると、何だか……心が奪われそうな、感じがして……とても、美しい……」


そう言う文香の瞳は、花束に目を奪われていた。


うっとりとした目でそれを見つめ、離さないといった感じだった。


「他の花も綺麗ですが……これはより一層、美しく見えます。何か……特別な花、なんでしょうか……?」


「特別って……そんな事は無いよ」


「いえ、そんなはずはありません……この花には何か、秘密があるはずです」


私が無いと言っても、それでも尚、文香は食い下がる。


その目は、どこか虚ろである。今の文香には、花束以外の事は見えていなかった。


「本当に、何も無いよ。他の花と変わらない、何の変哲も無い花だよ。……けど、強いて言うなら……」


「言うなら……?」


「この花……いつも買う業者から買った物じゃなくて、夕美から買い取ったものなんだ」


「夕美さん……ですか?」


相葉夕美。彼女も私や文香と同じで、事務所に所属するアイドルの一人。


ガーデニングが趣味で、フラワーアイドルとして知られている女の子。


花の事に詳しくて、私も良くその話題で、仲良くして貰っている。


「うん。最近、夕美が自分で育てた花を、うちに持ってくるの。それをお父さんが買い取っているんだけど……他の花と違う所と言えば、それぐらいだよ」


「なるほど……そういう事でしたか」


それを聞いた文香は、どこか納得のいった表情だった。


今の説明のどこで、納得する箇所があったのかは私には分からないけど、分かって貰えたのなら、良かったかな。


「すみません、変な事を聞いてしまって……」


「ううん、いいよ。それじゃあ、これで包装しておくから、もうちょっと待っててね」


「あっ、はい。お願い、します……」


そして花束を散ってしまわない様、そっと化粧箱に収めて、それを包装紙とリボンでラッピングする。


そうして包んだ後、渡井は文香にそれを手渡した。


「今日は、ありがとうございました……」


文香はそう言うと、深々と頭を下げた。


お礼を言ってくれるのはありがたいけど、文香が欲しかった物を用意出来なかったこちらとしては、申し訳無く感じるばかりだった。


「ごめんね。黒いバラ、用意できなくて……」


「いえ、気にしないで下さい。元より、無茶な注文でしたし……これはこれで良いものですし、私としては……上々な結果でした」


「……そう言って貰えると、私も助かるよ」


「それでは……また、事務所で……」


「うん。……文香のプロデューサー、喜んでくれると、いいね」


「……はい」


そうして会話を終えると、文香は店から去っていった。


私も店頭に出て、文香が見えなくなるまで見送った後、店の中に戻っていった。


「それにしても……黒いバラ、か……」


文香が黒いバラを知っているのも意外だったけど、何でそれを欲しがっているのかを、私はすっかり聞き忘れていた。


黒いバラの花言葉には『決して滅びる事のない愛』、『永遠の愛』なんてものがあるけど、それ以外には……


『恨み』、『憎しみ』、そして『貴方は飽く迄、私のもの』というのもある。


文香はどんな思いで、それを渡そうと思ったのだろう。


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というよりも、そんな花言葉を持つ花を渡そうとするという事は、文香とSさんはそういう関係なのかな……?


それに、その代わりの花がパンジーとナズナだったのが決定的に思われた。


その二つの花言葉は、パンジーには『私を思って』、ナズナには『あなたに私の全てを捧げます』となっている。


「花言葉で思いを届けるなんて……ロマンチックだな」


如何にも、文学的な文香らしい想いの伝え方だと思う。


けど、それをSさんは理解できるのかな……?


男の人って、そういうのに関しては疎いと思うし……大丈夫かな?


それと、もう一つ……私には気になっている事があった。


それを確かめるべく、私は先程見繕った内の一つ、パンジーが置いてある所まで足を運ぶ。


色とりどりに咲く花々。それを私は、文香がした様に、ジッと見つめる。


けれども、文香の様に目を奪われる事は無く、どれも綺麗ではあるが、特別な風に見える事は無かった。


「これ……文香の目には、どう映っていたんだろう……」


これを見た時の文香の目は、明らかに変だった。


その反応を思い出すと、本当に何か秘密でもあるんじゃないかって思えてしまう。


「今度、夕美に聞いてみようかな……」


育てた本人なら、何か知っているかもしれない。


けど、聞いても教えてくれるかは微妙な感じがする。


そもそも……花を持ってきた動機も、どこでそれを育てたのかも、夕美は『秘密だよ♪』と、言って教えてくれない。


となると、それを教えてくれるとは到底思えなかった。


「駄目元で聞いてみて……それでも駄目なら、諦めるかな、うん」


そう考えた所で、店内にまた、来店を知らせるベルが鳴り響いた。


「あっ、いらっしゃいませ」


私はそう言った後、気持ちを切り替えて、入ってきたお客さんに接していく。


それから客足がまた戻ってきたのか、私はその対応に追われていくのであった。


今日はここまで

まだ書き溜めた分は残ってますが、それは明日に投稿します

ちなみにこの辺りで今、3分の1ぐらいの進捗です

「ねぇ、凛はバレンタインのプレゼント……凛のプロデューサーさんに贈るの?」


文香が花を買いに来てから、数日後の放課後。


この日、私は同じユニット、トライアドプリムスの仲間で、友人でもある北条加蓮と、神谷奈緒と一緒に、遊びに出掛けていた。


ある程度遊んで回った所で、道端にあったファストフード店で休憩していると、唐突に加蓮がそんな話題を振ってきたのだった。


「それは一応、贈るつもりだけど……」


寧ろ、贈らないという選択肢はありえない。


日頃の感謝を伝える絶好の機会だというのに、それをしないなんて、考えられなかった。


「それって、本命? それとも義理なの?」


しかし、加蓮は更に踏み込んで、そう聞いてくる。


両手で頬杖をついて、ニマニマとしている様を見ていると、面白がって聞いているのが分かった。


「別に……加蓮には、関係無いでしょ」


だから、私はそう言ってぶっきら棒に返す。


正直に言った所で、おもちゃにされるのが目に見えているからだ。


「まぁ、自分のプロデューサーさんが大好きな凛の事だから、本命だろうけどね」


けれども、それは無駄な足掻きで終わるだけだった。


私の考えなんてお見通しみたいで、加蓮は手元にあるフライドポテトを摘まみながら、そう言うのであった。


「……そう言う加蓮は、どうなのさ」


言われてばかりではいられず、私はお返しとばかりに、そう言って加蓮に聞いた。


でも、加蓮は涼しい顔をしながら、摘んだポテトを食べ終えた後、こう言うのである。


「私? 私はね、どうしようかなぁーって、感じかな」


「……何、それ」


加蓮の曖昧な答えに、私は半目でじっとりと見つめながら、そう言った。


そんな答えではあまりにもあやふや過ぎて、その真意が伝わってこなかった。


そして、私の気持ちを汲んでくれたのか、加蓮はそれを説明しようと口を開く。


「だってさ。好きだから、感謝してるからって、渡すのも予定調和すぎて、つまらないと思ってさ。敢えて渡さないのも、いいかなって気がするんだけど……どうかな?」


悪戯っぽく微笑んで、同意を求める様にそう言う加蓮。


けれど、私は知っている。加蓮が自分のプロデューサーの為に、あれこれと用意している事を。


それを知られたくないから、私達にはこう言っているだけなのだと。


「好きにすれば良いと思うよ。どうするかなんて、加蓮の自由だし」


だから私はそう言って、淡々と加蓮に言い返した。


「凛ってば、冷たい~。……ねぇ、奈緒はどう思う?」


私の反応が面白くなかったからか、加蓮はそう言って、今度は奈緒に話を振る。


けど、奈緒はそれに応えない。いや、気付いていないという様子だった。


手に持つ携帯の画面をジッと見つめ、どこか上の空な感じがしていた。


「……なーおー。聞いてるの?」


それに見兼ねた加蓮は、奈緒にそう呼び掛けた後、頬を突いてこちらに意識を向けようとする。


「おわっ!? な、何するんだよ、加蓮! 驚くだろっ!」


「奈緒さぁ……今の話、聞いてた?」


「話? 今、何か話してたのか?」


キョトンとした感じで、奈緒は加蓮にそう聞き返す。


嘘を言っている訳でも無く、本当に何も耳に届いていない様であった。


「バレンタインが近いけど、奈緒はどうするの、って話。真横で話してるんだから、ちゃんと聞いててよね」


「ごめんごめん。ちょっと考え事してたら、聞き逃してたみたいだ。えっと、バレンタインだろ……」


奈緒はそう言うと、腕を組み、目を伏せて考え出す。


そして考えが纏まったのか、視線を私と加蓮に交互に向けた後、






「……あたしは、止めとくよ」


少し寂しそうに、奈緒はそう言うのだった。




「えっ、どうして?」


それを聞いた加蓮は、意外といった感じに奈緒に向けて尋ねる。


「そうだよ。そんなの、奈緒らしくない」


私も加蓮に同調して、奈緒にそう言った。


普段通りの奈緒なら顔を赤くさせて、真っ先に否定するけど……その後で何だかんだ言って、渡そうとするはず。


でも、目の前にいる奈緒からは、そんな感じは伝わってはこなかった。


「いや、だってさ……今は、その……そんな感じじゃ、無いんだ。あたしも、プロデューサーさんも……」


奈緒はそう告げると、再び目を伏せる。


その表情は影が差していて、どこか暗い印象が見受けられる。


「あたしのせいで困らせて……それで、プロデューサーさんも落ち込んでて……それなのに、プレゼントを渡しても、喜んでくれるのかな……って、思ってさ」


とりあえず出勤なので、ここまで

また続きを書き溜めたら投稿していきます

それでは、また帰ってきてからで

おつ

「そんな事無いよ、奈緒。きっと奈緒のプロデューサーさんも、喜んでくれるよ」


加蓮も私と同じ事を察したのか、そう言ってフォローを入れる。


しかし、それでも奈緒の表情は晴れたりはしない。暗いままである。


「そうだと……いいけどな。でも、怖いんだ。もし、拒絶されたら……あたし……」


そして遂には、奈緒の瞳の端から涙が零れ落ちて、泣き出してしまった。


肩を小さく震わせて、すすり泣く目の前の少女の姿は、正直、見ていられなかった。


「ちょ、ちょっと、奈緒……」


「あぁ、もう……しょうがないな。ほら、泣かないで。聞いた私が、悪かったからさ」


奈緒の横にいる加蓮は少し呆れた口調でそう言った後、ハンカチをポケットから取り出して、それで奈緒の涙を拭っていく。


「プロデューサーさん……ひっく……プロデューサーさん……ぐすっ……」


でも、奈緒の涙はとめどなく流れ続け、拭っても拭っても切りが無いという感じだった。


「……どうしようか、加蓮」


「……奈緒さ、今日はもう……帰ろっか」


そしてそんな様子に見兼ねた加蓮は、そう言って奈緒に提案を持ち掛けたのだった。


「……え?」


「奈緒のプロデューサーさんの所、行きたいんでしょ? さっきから携帯眺めてボーっとしてるのは、そういう事だよね」


「で、でも……二人がせっかく付き合ってくれてるのに、そんな事したら、悪いし……」


「奈緒。私は大丈夫だよ。だから、行きなよ」


私も加蓮の案に賛成だとばかりに、頷いてそう答えた。


「ほら、凛もこう言ってるし、ここはいいから、帰りなよ」


「……うん、そうする。二人共……ごめん」


奈緒はそう言って立ち上がると、自分のトレーを持ってそれを片付けた後、私と加蓮の下に一度戻ってきて、


「その……この埋め合わせは、また今度するからさ……本当に、ごめん」


と、私達にそう告げて、店から出て行くのであった。


短いけど出勤ですのでここまで

また帰ってきてから投下していきます

「ほら、見て。奈緒ったら、走っていっちゃった。よっぽど、プロデューサーさんに会いたかったのかな」


奈緒が去った後、加蓮は店内から外に見える奈緒を指差して、そう言った。


「それにしても、奈緒はまだ駄目みたいな感じね。そろそろ落ち着いたと思ったから、誘ってみたんだけどなぁ」


「うん、そうだね……」


私は先程の奈緒の様子を思い出しながら、相槌を打った。


今の奈緒を見れば分かるけど、従来の姿とは、明らかに違っている。


「奈緒……どうしたら、元に戻るのかな」


そんな事を言った所で、答えが返ってくる訳でも無い。


でも、私は問わずにはいられなかった。


「……さぁね」


けれども、救いを求める様な私の問い掛けに、加蓮は冷たくそう言い切ったのだった。


「奈緒のあれは精神的な所だし、難しいんじゃないの?」


「ちょっと、加蓮。そんな言い方しなくても……」


「だってさ、凛。あれは当事者同士の問題なんだから、私達がどうこうは出来ないと思うけど?」


「そ、それは……」


「私達が出来るのは、見守りつつ、支えてあげるだけ。それ以上踏み込むと、もっと奈緒を追い詰める事になるけど、凛はそれでいいの?」


いいのかと問われて、私は黙るしかなかった。今でさえかなり奈緒は追い込まれている。


それなのに、更に追い込んでしまえば、奈緒はきっと……壊れてしまうに違いない。


「……良くは、無い」


「でしょ。だから、奈緒の事を想うなら、そうしてあげないと」


加蓮はそう言うと、ドリンクに刺さるストローに口をつけて、喉を潤した。


その様子を窺いながら、私は考える。本当に、それで良いのかと。


加蓮の言う事は、多分、正しい。私が奈緒と奈緒のプロデューサーさんの間に入っても、何も出来はしないから。


けど、それだからって……何もしないなんて選択は、私は選びたくなかった。


そう思うと、自分の無力さに腹が立ってくる。


友達が苦しんでいるのに、それを助けてあげられないのは、正直、悔しかった。


「でもさぁ。最近のうちの事務所……何だか、変な雰囲気だよね」


「変な……雰囲気?」


「凛は感じない? 少しずつだけど、何か暗い感じになってきてて……それで、奈緒みたいになる娘が増えてきてるみたいだし」


そう言われて、私は思い出す。私の近くに、奈緒以外にもそんな娘がいる事を。


そういえば卯月も……そんな感じだったかもしれない。


卯月も表情に影が差していて、瞳は暗く、どこか変な感じがしていた。


「私が知っている限りじゃあ……智絵里とか、ありすちゃんも変わってる感じだったしね」


「智絵里とありすが……」


「本当、どうなってるのかな、うちの事務所」


「そ、そうだね……」


頬杖をついてそっぽを向きながらそう言う加蓮に、私は同意する様にそう言った。


だけど……何でみんな、こうまで変わってしまったんだろう。


奈緒は精神的なショックを受けて、あぁなってしまったけど……みんなもひょっとして、原因は同じなのかな……?


「……凛は、さ」


「えっ?」


私がそんなふうに考えていると、加蓮はそれを遮る様に話し掛けてきた。


「凛は……変わらない様、気を付けてね」


そして真剣味を帯びた声で、加蓮は私に向けてそう言ったのだった。


「それってどういう……」


「そのままの意味だよ。ただの忠告。凛も何か、危な気無いしね」


「わ、私は大丈夫だよ」


「そう? 私には、そうは見えないけど?」


呆れた様に加蓮は言うけど、そう言われても、私には分からない。


加蓮には、私がそんな風に見えているのだろうか……。


けど、せっかくの友人からの忠告なのだから、それを無碍にする訳にはいかない。


「……それなら、一応……気を付ける」


「そうしなさい。私も、凛まで変わられたら……ちょっと困るしね」


「加蓮……?」


「さてと、それじゃあ……私達もそろそろ、帰らない? 奈緒もいなくなったし、さ」


「う、うん、そうだね」


そして私達は商品の乗っていたトレーを片付けて、荷物を纏めると、店内から外にへと出て行った。


そこで加蓮とは別れて、私は家にへと帰っていくのであった。


加連にもフラグが時系列的智絵里(まゆ)、ありす、文香、凛で系列不明が藍子かな
暗いというかアイドルとPの関係が壊れていく…

加蓮と奈緒の二人と遊んだ日の翌日。


今日はレッスンが入っている私は学校が終わった後、家に帰らず、直接事務所を訪れていた。


そこから向かうのは、レッスンルーム……では無く、プロデューサーのいる事務室に入っていく。


「おはようございます」


「あっ、凛ちゃん。おはようございます」


私が事務室に入るなり、自分の席に座っていたちひろさんがそう言いながら、私に近づいてきた。


その表情はどこかにこやかで、困惑そうにしていた前とは違っている。


「この間は、凛ちゃんのプロデューサーさんの件、ありがとうね」


「いえ、そんな……」


「凛ちゃんが探してくれて、早めにプロデューサーさんが戻ってきてくれたから、何とかなったわ。本当にありがとう」


ちひろさんはそう言うと、私の手を取り、握ってきた。


感謝の気持ちからそうしているのだろうけど、私にはそれよりも、気に掛かる事があった。


「あ、あの……所で、プロデューサー……見てませんか? 席には見当たらないんですけど」


事務室の入り口からプロデューサーの席を眺めていたけど、そこにプロデューサーの姿は無かった。


室内を隈なく探してみても、プロデューサーは見当たらない。一体、どこにいるのだろう。


「さぁ……どこに行ったのやら。さっきまで居たんだけど……多分、トイレとかそんな所じゃないかしら」


「そう……ですか」


プロデューサーがいない事が分かって、少し落ち込んだ気分になる。


レッスン前に一度、会っておきたかったけど、不在ならばどうしようも無かった。


「そういえば……凛ちゃんは、これからレッスン?」


「はい、そうです」


「そう。なら、頑張ってね」


そしてちひろさんは私に向けて頑張れとばかりに手を振った後、自分の席に戻っていった。


「……さて、と」


ちひろさんが戻った後、私は携帯を取り出して時間を確かめる。


レッスンが始まるまで、まだ余裕はある。なら、やる事は一つだった。


「もう少し、待っていようかな」


ちひろさんのあの言い方だと、大きな用事で席を外している訳でも無さそうだから、きっと少しすれば、戻ってくるだろう。


それなら、レッスンに間に合うギリギリの時間まで、待つ事にしよう。


私はそう考えると、プロデューサーの席を目指して、歩いていく。


プロデューサーの席は、事務室の入り口からそう離れてはいないので、直ぐに辿り着いた。


そして辿り着いた先で、真っ先に目にした光景を前にして、私は顔を顰めた。


「……相変わらず、プロデューサーの机って汚いなぁ……」


そこに広がる光景のあまりの酷さに、私は思わず呟いてしまう。


机の上には資料や冊子が乱雑に積み重ねられていて、今にも崩れそうになっている。


しかも、使ったと思われるペンや電卓等、器具類が散乱していて、目も当てられなかった。


出会った頃から片付けが苦手なのは知ってるけど……こんな状態で、良く仕事ができると思うな。


「もう、仕方ないな……」


とりあえず、待っている間は何もする事無いし……少しは片付けてあげようかな。


書類とかはどれがどうとかは分からないけど、ペンとかの器具類の仕舞い場所は分かるから、私でも手伝える。


そうと決まれば……と、私は早速取り掛かろうと、手を伸ばす。


しかし、そうしようとした所で、ある物を目にして私はその手を止めた。


「あれ? これって……」


私の視線の先にある物。それはプロデューサーの携帯だった。


厚めで頑丈そうなデザインに、黒色のカラーリングのスマートフォン。


前に見た事があるから間違い無い。紛れも無く、プロデューサーの物である。


「もう……またこんな所に置きっぱなしにして……」


この前にそれで問題を起こしたばかりだというのに、学習能力が無いというか、抜けているというか……。


「ちひろさんにまた怒られても、知らないよ」


ここにはいないプロデューサーに文句を垂らしつつ、私は携帯から目を離し、止めていた手を再び動かす。


机上に転がっているペン類はペン立てに、電卓や修正テープといった物等は引き出しの中にへと仕舞っていく。


そうして片付けを進めていくと、不意にどこからか、携帯の振動音が聞こえてくる。


音の距離からして、発信源は私の近くからだった。


「私の携帯……じゃない」


制服のポケットに入っている自分の携帯に触れても、振動は起きてはいない。


「それじゃあ……」


そうなると、残る選択肢は一つである。


私は先程見たプロデューサーの携帯に目を向ける。


すると、やはりと言うべきか、プロデューサーの携帯はその身を震わせ、そしてディスプレイを発光させて、着信が入っている事を告げていた。


「全く……こういう事になるから、持ち歩いていないと駄目な、の……に……?」


どういう事か、その後に『しっかりしてよね』と、続けようとした私の口は、途中で止まってしまう。


続けて、思考に乱れが生じて、考えが覚束無くなり、何が起きているのかが分からなくなる。


その他にも心臓の鼓動が早くなったりする等、身体的にも、精神的にも異変が起きていた。


そうなってしまったのも、全ては、あるものを見てしまったからだった。


「何……で……?」


見たくは無かった。目を向けるべきでは無かった。


それでも、私はもう……見てしまった。


プロデューサーの携帯……いや、正確に言えば、そのディスプレイに映っている光景を。


私の目はそこに釘付けとなってしまって、離れようとしない。


あまりの信じ難い光景に、私は思わず頭を横に振ってしまう。








「この人……誰、なの……?」


知らない名前と、知らない女性の顔が映った画像……私はそれに対し、激しい衝撃を受けながら、声を震わせてそう言うのであった。





とりあえず、ここまで

ようやく話も中盤に突入です

ここから終盤に向けて、頑張っていきます

とり乙、盛り上がって来たぞー

乙、盛り上がってきました
浮気現場を見てショックを受ける嫁みたいなだな凛、ここから始まるのか

藍子もPの携帯かPCを見てショックを受けてからこそ、行動し始めたんだろうな

「そんな……何で……何で、なの……」


考えが纏まらず、乱れる思考の中……私は必死に頭を働かせる。


携帯に映るその女性……私の記憶の中では、見た事が無い人物だった。


この事務所の中でもそうだし、営業先やライブの時にも会った事の無い、完全に知らない人である。


もしかすると、私が知らないだけかも……という選択肢も考えたけど、多分、それは違う。


そもそも……携帯の着信画面に設定してあるという事は、それ程に親しい間柄だという事。


だとすれば、この人はプロデューサーの仕事関係の相手では無いのは明白だった。


そうなると、導き出される答えは一つ……


「プロデューサーの……彼女……?」


認めたくは無いが、そう考えるしかなかった。


それ以外に、私はこの人とプロデューサーの関係を思いつけなかった。


「……ははっ、ははは……嘘、だよね」


思わず出てしまった空笑いと共に、私はそう口にする。


出来る事なら、嘘であって欲しい。夢であるなら、早く覚めて欲しいと願った。


けど、そう願っても現実は変わらない。


問題の画像は私の意に反して、煌々とディスプレイの中で光り輝いている。


とすれば、もう認めるしかない。今、目の前で起きている事が、現実なのであるという事を。


「嫌……嫌だよ、こんな……私……」


「おっ、凛。おはようさん。こんな所で、何してるんだ?」


私がそうこうしている内に、プロデューサーが戻ってきてしまった。


その手には煙草の箱が握られていて、恐らくは先程まで、屋上でそれを吸っていたのだろう。


近付いてくるプロデューサーの体からは、良く嗅ぎ慣れた匂いがしてくる。


いつもなら私に安穏を齎すこの匂い。けど、今はそれ所では無かった。


「ん? もしかして、机の上を片付けてくれてたのか? それは悪かったな」


私の目の前に、プロデューサーは立っている。だけど、何を話していいか、分からない。


「俺はさ、いつも凛に『しっかりしろ』とか言ってるけど、これじゃあ示しが付かないな。ははは」


話したい事は色々とある。でも、それを口に出せない自分がいる。


「まぁ、その辺りは気を付けるとして、凛はこれからレッスンだったな。頑張ってくれよ」


とても単純な事なのに……プロデューサーに『さっき着信が入ってたけど、あの人、誰なの?』と問い掛けるだけなのに……。


「と言っても、凛なら大丈夫か。俺よりもしっかりしているし、大きなお世話だったかな」


それでも、私はそれを聞けなかった。その事を知るのが怖くて、聞けないでいるんだ。


だって、それを聞いてしまったら……プロデューサーとの関係が、壊れてしまう様に思えているから。


「それじゃあ、頼んだぞ。俺も応援してるからな」


「……うん、いってくる」


私はプロデューサーの顔を見ない様にしてそう言った後、その横を通り抜けていく。


そしてその場から逃げる様に、早足で立ち去っていった。


とりあえず、短いですがここまで

何とか今週末までに終わりまで持っていきたいなぁ……

それではまた、書き溜めたら投下していきます

あれからどれだけの時間が経っただろう……。


私は家にへと帰る気が起きず、事務所の屋上で一人、空を眺めつつ佇んでいた。


見上げている空にはちらほらと星が瞬き始めており、日も沈み掛けている。


「……はぁ」


そんな景色を見ながら、私はため息を一つ、吐き捨てた。


こうなった原因ともいえる、プロデューサーのあの着信画面を見た後の事を、私は良く覚えてはいない。


別れてからは予定通り、レッスンには参加したけど、どうにもこうにも身が入らず、といった感じだった。


その時に卯月や未央、トレーナーさんにも何か言われてたけど、それすらも耳に入らなかった。


「本当、何をやってるんだろう……私」


呆れた様に自分に向けてそう呟いた後、私はその場に体育座りで座り込んだ。


野晒しとなっている屋上の床の冷たさが、直に伝わってくるけど、今はそれすらも気にならなかった。


「卯月や未央に迷惑を掛けて……心配までさせて……」


せっかくの一緒のレッスンだったのに、足を引っ張ってしまった。


私の為に気を使ってくれたというのに、それも私は無碍にしてしまったのだ。


「私……どうしたら、いいんだろう……」


誰かに問う様にそう言ってみても、当然、返答は返ってこない。


その質問に一番答えて欲しい相手も、ここにはいない。


私の問い掛けはただただ宙に浮いて、霧散して消えるだけだった。


「何で……何で、あんな写真が、プロデューサーの携帯に……」


そう言いながら、私は抱えている両膝の中に顔を埋めた。


そしてそれから、昼間のあの画像の事を思い出す。


あそこに映っていたのは、恐らくは私よりも年上で、プロデューサーよりかは年下の若い女性。


長めの艶やかな黒髪に、大きくパッチリとした目が特徴的だった。


あれが、プロデューサーの彼女……そう思ってしまうと、胸が……心が張り裂けそうな程、痛んだ。


「やっぱり……それだけは、嫌だよ……認めたく、無いよ……」


目の端から、自然と涙が零れ落ちる。


それを私は服の袖で拭ったけど、涙は堰を切った様に溢れ出てくる。


止めようと思っても、それは止まらなかった。


「私だって……プロデューサーの事、好きだったのに……それなのに、何で……」


頼りになる様で、時に頼りにならない。どこか間の抜けているプロデューサー。


あの人の隣には、私がいるのが相応しいと思っていた。私とが似合っているものだと思っていた。


でも、そうじゃ無かった。それはただの、私の望みでしか無かったのだ。


悲しい事に、私が勝負に出る前に、もう勝敗は決していた。


プロデューサーの隣には、既にあの画像の女性がいて、私の出る幕はどこにも無い。


「こんな事なら……もっと早く、想いを伝えておけば良かったのかな……」


そう言った所で、最早もう、後の祭りでしか無いのである。


だからこそ、私は呪った。恥ずかしくて、素直になれなかった自分を、心より呪った。


それしか、今の私には出来る事は残されていなかった。


そうして私が途方に暮れていると、不意に後ろから屋上の扉が開く音が聞こえてくる。


「おっ、やっぱりここにいたのか、凛。探したんだぞ」


そして続けて聞こえてくるのは、良く聞き慣れた声。


後ろを振り返らなくても私には分かる。これは紛れも無く、プロデューサーの声だ。


「どうしたんだ? みんな心配してたぞ、凛の様子が変だって……」


心配そうにプロデューサーは私に向けて、そう言った。


こっちに歩いて来ているのか、その声は段々と近くなって聞こえる。


「凛の親御さんからも電話が着ててさ。娘から連絡が返ってこないって。凄く心配してたぞ」


そう言われて、私は自分が携帯を持っていない事に今、気が付いた。


レッスンが終わり、着替えてからそのままここに来たから、荷物は全部、更衣室に置いてきたのだった。


これじゃあ私も……人の事、言えないな。あの時のプロデューサーと、同じ事をしてるんだから。


「……隣、座らせて貰うぞ」


プロデューサーはそう言って、私の隣に胡坐を掻いて腰を下ろした。


それから胸ポケットから煙草を取り出し、途中で「おっと、いかんいかん……」と言って、その手を止めた。


「……いいよ、別に。吸っても、大丈夫だよ」


「いや、しかしだな……」


「いいから、吸ってよ。その方が、私も落ち着けるから……」


「……それなら、お言葉に甘えて」


プロデューサーは私から許可を得ると、箱から一本だけ煙草を取り出して、その先にライターで火を着けた。


煙草の先から紫煙が立ち上り、嗅ぎ慣れた匂いがこちらに漂ってくる。


それを嗅ぐだけでも、プロデューサーが近くにいるんだと実感でき、私は少し、落ち着く事が出来た。


「それで、何があったんだ? レッスン……上手くいかなかったって聞いたけど」


「別に、何も無いよ。ただ、調子が悪かっただけ……」


「調子が悪い、か。凛にも、そういう時があるんだな」


そう言うと、プロデューサーは吸った煙を大きく吐き出す。


吐き出した煙が宙にゆらゆらと揺れて消え去った後……


「何か、悩みでも……あるのか?」


プロデューサーは私の顔を見つめて、そう言ったのだった。


「悩み……」


「あるんだったら、何でも言ってくれ。力になれる事があれば、協力は惜しまないぞ」


プロデューサーは何でもないかの様にそう言うけど、その悩みを打ち明ける事が、今の私にとって問題だった。


それを聞いて最悪の答えが返ってきた時、私はどうすればいいのか……それが分からないから、踏ん切りがつかないでいるのだ。


「俺は凛の担当プロデューサーだからな。凛が困っているなら……助けてやるのが、務めだからな」


それでも、プロデューサーは私を受け入れようと、そう言ってくれている。


だけど、私は……


「ごめん……今は、言えない」


結局、決心がつかずに、私は悩みを打ち明けれなかった。


「……そうか」


プロデューサーはそう言いつつ、寂しそうな表情を浮かべると、再び煙草を口に付けて煙を吸い込んだ。


「……でも」


そんなプロデューサーに対して、私はもう一度、重たい口を開く。


今は話せない……けど、これだけは伝えておきたかった。


「ん?」


「もう少し……私が、もう少し気持ちの整理がついたら、聞いてくれる?」


首を傾げつつ、私はプロデューサーに問い掛けた。


プロデューサーは数秒程、何も語らず私の顔をジッと眺めた後、薄く微笑んでこう言ってくれた。


「……あぁ、分かった。その時が来たら、凛の力になるよ。……だけど―――」


プロデューサーが私の要求を呑んでくれた事に、私はホッと一息吐いた。


今はとにかく……時間が欲しかった。気持ちを整理するだけの時間が。


混乱している今の気持ちでは、何があっても、受け入れる事が難しいから。


落ち着くまでにどれだけの時間が掛かるかは私にも分からない。でも、いつかは……


「―――る感じになるけど、いいか……って、おーい、凛。聞いてるか?」


と、私があれこれと考えて呆けていると、プロデューサーがそう言って、呼び掛けてきた。


「えっ!? う、うん。大丈夫、だよ。ちゃんと聞いてるから」


私は咄嗟にそう言ってしまったけど、途切れ途切れにしか、聞けていなかった。


でも、大体の内容は把握出来たから、大丈夫だと思う。


確か……『少しの間だけど、凛には付いていられなくなる』だったかな。


多分、仕事の打ち合わせとか、そういったので忙しいからなんだろう。


私としても、しばらくは考える時間が欲しいから、それは好都合だった。


「それならいいけど……とにかく、頼むな」


「うん、任せて」


プロデューサーの期待に応える様に、私はそう言って首肯した。


そしてその後……私はプロデューサーと別れて、屋上から立ち去っていった。


それから、何度も連絡をしてくれていたお母さんに「心配掛けて、ごめんね」って電話を入れて、謝っておいた。


同様に、卯月や未央にも連絡して、今日のレッスンの事についても謝った。


……卯月だけは通話中で出てくれなかったから、留守電でだけど。


そういったやり取りをしながら、私は事務所を出て、家路についていったのだった。


とりあえず、ここまで

恐らく次回辺りで、山場を迎える感じになると思います

それではまた、書き溜めたら投下していきます

明後日。プロデューサーの携帯画面を見てしまってから二日が過ぎた。


私はこの日、学校は休みだったけど、ボイストレーニングのレッスンが入っていたので、昼前から事務所を訪れていた。


「おはようございます」


そう言って入っていったのは、プロデューサーのいる事務室。


一昨日に、しばらくは私につけれないとは言っていたけど、会うぐらいなら、問題は無いはず。


それに……まだ答えは出切れていないけど、顔ぐらいは一目見ておきたかった。


そう思って、私は予定の時間よりも早めに、ここにへと辿り着いていた。


所が……


「あれ……?」


事務室の入り口からプロデューサーの席を眺めるけど、そこには今日も、プロデューサーの姿は見当たらなかった。


「また、煙草かな? それとも……打ち合わせに行ってるのかな……」


そんな風に考えつつ、私はプロデューサーの席に向かって歩き、近づいていく。


しかし、近づけば近づく程、更に疑問は増すばかりだった。


「これって……」


私はプロデューサーの席の目の前に立ち、そこから机の上に目を向ける。


いつもは散らかし放題の、汚い机の上。使ったペンや器具が散乱しているのが、日常ともいうべき光景。


しかし、今日に限ってそこは綺麗に片付いていた。


机の上には何も置かれていない。ペンや器具も、書類すら置かれておらず、綺麗さっぱりと何も無かった。


そしていつも電源の入っているパソコンも、今日は電源が落ちた状態になっている。


「もしかして……」


私は一つ、予想を立ててから、それを確かめる為にプロデューサーの席の椅子に手を触れる。


すると、椅子からは温度を感じられず、冷たくなっていた。


これは即ち、今に至る数時間の間、ここに座った人物はいないという事を証明していた。


それから良く観察すると、机の周りにはプロデューサーの荷物は一つも置いてはいない。


「プロデューサー……今日は来てないんだ」


荷物が無い。いた形跡がまるで無い。そこから導き出されるのは、プロデューサーが休みだという結論。


今まで見たきたものから鑑みても、そうとしか考えられなかった。


「でも、一昨日会った時には、休みだなんて一言も……」


「渋谷さん。おはようございます」


私がそんな風に考えていると、横からそう声を掛けられたので、私は声のした方向に顔を向ける。


そこにいたのは、細身の体格で眼鏡を掛け、整った顔立ちをした真面目そうな若い男性。


一度、お世話になった事があるから、良く覚えている。文香の担当プロデューサーのSさんだった。


「あっ……おはようございます」


挨拶を掛けられて、私は会釈をする程度に頭を下げて、そう返した。


でも、どうしたんだろう。何か私に……用事でもあるのだろうか。


Sさんの席は少し離れた所だし、わざわざプロデューサーの席にいる私に挨拶をしにきたのなら、それぐらいしか思い当たらなかった。


……とりあえず、まずは用件を聞いてみよう。そうすれば、何か分かると思うしね。


「その……私に、何か用ですか?」


「いえ、用と言う程ではありませんが……今日から少しの間ですけど、Rに代わって担当させて頂く事になりましたので、そのご挨拶にと思いまして」


「プロデューサーに、代わって……?」


「えぇ、聞いてませんか?」


「はい……今、初めて聞きました」


私がそう言うと、Sさんは怪訝そうな表情を浮かべて、首を傾げた。


けど、代理の担当……? そんな話は、私は一言も聞いていない。


プロデューサーが言っていたのは、少しの間ついていられないというだけで、Sさんが言っている事は全くの初耳だった。


「おかしいですね……彼はちゃんと、伝えたと言っていたのですが……」


「あの……プロデューサーは今日は、休みなんですか……?」


「……それも、聞いていないのですか?」


私の発言を聞いて、Sさんはますますその表情を深める。


何だろう……何だか、嫌な予感がしてならなかった。


その不安や緊張からか、胸が早鐘を撞く様に高鳴り出す。


けど、だけれど、私には聞くという選択肢しか、残されてなかった。


何も知らないままでいるのは、嫌だったから……そんな思いから、私はSさんに問い掛ける。


「すみません……多分、私……その辺りをプロデューサーから、聞いていないみたいです。なので、その……教えて貰えませんか?」


「分かりました。彼は今日から数日間、休む事になってます。確か……」










「結婚式を挙げる為に、実家に帰られるそうですよ」







とりあえず、今日はここまで

また書き溜めたら投下していきます

おお、もう・・・・

乙!
既にゲームセットでしたか

乙、ここからマーキングするのか
文香入れ知恵と凛の覚悟があれば略奪婚と出きそう?牧場物語のあるシリーズで可能だったし

次回作は卯月or奈緒or加連かもな?フラグ立てるし

「結……婚……式……?」


その言葉を直ぐに受け止める事が出来ず、私は繰り返してそう呟く。


結婚式? 誰の結婚式なの? それは間違いなく、プロデューサーのだろう。


それじゃあ、相手は誰なの? そこで思い浮かぶのは、あの画像に映っていた女性。


あの二人が、結婚? おかしい、ありえない、何かの間違いだ。


私はそんなの、聞かされていない。プロデューサーも、そんな素振りは見せた事が無い。


それなのに、何で? しかも、こんな急に? 私には黙って?


分からない、分からない、私には分からない、何で、何で、何でなの、どうして、プロデューサー、どうして、どうして、嘘だよね、ドウしてどうしてドウシテどうしてどうしてドウシテドウシテどうしてどうしてどうしてドウシテどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどウシテドウシテドウシテどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしテドウシテドウシテドウシてどうしてどうしてどうしてどうして





どうして……?


……ふーん、そうか。そうなんだ。これはSさんの、私を揶揄う為の冗談なんだ。


だから、こんなふざけた、人を馬鹿にした様な事を口にしてるんだ。


ははっ、そうだ。そうだよ。そうに決まってる。そうじゃないと、おかしいよ。


だって、プロデューサーは言ってくれた。私の話を、聞いてくれるって。私の力になってくれるって言ったんだ。


プロデューサーが休みなのも、嘘なんだ。今頃どこか、隠れて私の事を見てるはず。


テレビとかで良くある、ドッキリとかそんな所なんだ。


それなら、私に黙っていたのも、頷ける。


仕掛け人が仕掛ける対象にネタ晴らしなんてしたら、駄目だもんね。


もう、仕方ないなぁ、プロデューサーは。


「渋谷さん? あの、大丈夫、ですか? 顔が真っ青になってますが……」


目の前に立つSさんが、何か言ってる。顔が真っ青? 今はそんなの、どうでもいい。


私が聞きたいのは、あんたの声じゃない。私が聞きたいのは、プロデューサーの声。


それ以外は、耳障り。ただの雑音。聞く価値も無い。


さぁ、行こう、渋谷凛。もうこれ以上、ここにいる必要なんて無い。


早く、プロデューサーを、探さなきゃ。待っててね。今から、見つけに行くよ。


「もし、体調が悪いのなら、医務室の方にでも……」


「ごめん、どいて」


私は端的にそう言うと、Sさんの横を通り抜けて、事務室の出口を目指して歩いていく。


「し、渋谷さん……!? そ、その……大丈夫、なんですか?」


しかし、そう言いながら、私の後ろをSさんが早足気味に追い掛けてくる。


今は構っている暇なんて無いのに、何で、追い掛けてくるかな。


「私の事は大丈夫。だから、構わないで」


「構わないで、と言われても、そういう訳には……」


私は急いでいるというのに、それでもSさんは話を続けようとする。


もう、いい。待ってられない。こんな話、聞いても無駄にしかならない。


そう思った私は、話途中のSさんを無視し、再び出口を目指していく。


「ま、待って下さい。どちらへ行かれるんですか……!?」


どこに行くか? そんなの、プロデューサーの所に、決まってるよ。


早く、行かないと、プロデューサーが、待ってるんだから。


「それに、その……渋谷さんはこれから、レッスンの予定では……?」


レッスンの予定……あぁ、そういえば、そんな予定だったな。


でも、今はどうでもいい。レッスンなんて、受けているだけの時間は、私には無い。


探さなきゃ……そう、早く、直ぐにでも、プロデューサーを、見つけないと。


「……今日は、休むから」


Sさんの顔を一瞥してから、私はそう言って傍から離れて、事務室から出て行った。


そしてプロデューサーのいる、居場所の見当をつけながら、私は事務所内を彷徨い出したのであった。


とりあえず、ここまで

そういえば、もう直ぐホワイトデーが近いですね

それまでには、終わらせたいな……

また書き溜めたら、投下していきます

乙、凛が病んでるになったか…そして迷わずに突っ走る
今の凛は目に光がないんだろうな

………


……





「……行ってしまいました」


凛が事務室から出て行ってしまった後、Sは事務室の出口を見つめながら、困った様にそう言った。


「渋谷さん、急にどうしたんでしょう。何だか、様子が変でしたが……」


右手を顎に当てて、何が原因だったかをSは考える。


と、そこに……


「あの……プロデューサーさん……」


そう声を掛けつつ、Sの背後に忍びよる影。


その正体は、Sの担当アイドルの文香であった。


両手で厚めの冊子を抱き抱えて、近づいてきたのだ。


「あっ、文香さん。お疲れ様です」


「はい……プロデューサーさんも、お疲れ様です……」


Sは振り返ると、軽く会釈をして、文香にそう言った。


文香もそれを受けて、同じく会釈してそう返した。


「えっと……今の、凛さん……ですよね? 大丈夫、でしょうか……?」


「さぁ……僕には、分かりません。本人は大丈夫だと言っていましたが、とてもそうには見えませんでした」


「その……一体、何があったんですか?」


「それも見当がつかないんです。彼女の担当プロデューサーが結婚式の為、休みだと伝えた所、様子がおかしくなってですね……」


「結婚式……ですか」


「はい。本当に、どうしたんでしょう……」


「……あぁ、なるほど。そういう事なんですね」


文香には凛の様子がおかしくなった理由に、思い当たるものがあった。


与えられたキーワードだけで、状況を察した文香はそう言って、薄く笑みを零す。


「文香さん……? 何か、分かるんですか?」


「いえ、そうでは無いですけど……とりあえず、凛さんの事は、気にしなくても大丈夫ですよ」


「気にしなくても……と、そういう訳には……」


「いいから、大丈夫です。そもそも……これはプロデューサーさんには、解決は出来ない問題ですから……下手に首を突っ込まない方が、身の為ですよ」


「……そういうものなのでしょうか」


「はい。ここは一歩と言わず、遠くから見守ってあげるのが、得策です」


「……分かりました。文香さんがそう言うのなら、そうする事にします」


「ふふっ、賢明な判断だと、思います……」


文香としても、Sが凛から距離を置いてくれた方が、都合が良かった。


それは……自分が恋慕する相手に、関係の無い女性が近づく事を、快く思わないからである。


短い期間とはいえども、凛を担当する事に反感を持っていた文香は、ここぞとばかりに現在の状況を利用して、そう言うのであった。


「そういえば、話は変わりますが……今週末の件については、大丈夫でしょうか……?」


「あっ、はい。その件につきましては、抜かりなく、大丈夫です」


「そうですか……それなら、一安心です……」


「しかし……文香さんの叔父さんが、僕に話があるだなんて……どういった用件なんでしょうか?」


「さぁ、私には何とも……ただ、叔父は最近……私のアイドル活動について、少し難色を示している所がありますので……もしかすると、そういった話なのかも、しれません……」


「そうですか。きっと、文香さんの叔父さんは……文香さんが心配なんでしょうね。だから、担当プロデューサーの僕に、話を聞きたいと……」


「はい。なので……プロデューサーさんの口から、叔父に説明してあげて下さい。『私達は良好な信頼関係を築いており、問題は無い』と、いう風に……」


「分かりました。文香さんの為にも、何とか叔父さんに信用して貰える様に、頑張ろうと思います」


「えぇ。叔父も、プロデューサーさんが来るのを心待ちしておりますから……よろしく、お願いしますね……ふふふっ」


………


……





以上、閑話休題でした

次回から本文に戻っていきます


文香も着々と事を運んでますね


文香も独占欲全開だな、藍子と文香どちらが独占欲強いのか
S君完全な手遅れなんじゃ…


外堀?ねえよそんなもん(埋立済)

どこ? どこにいるの、プロデューサー。


いるのなら、出てきてよ。担当アイドルの私が、探してるんだよ?


広い事務所の中を、私は早足気味に、駆け歩いていく。


事務室を出てから、あちこちを探してみたけど、プロデューサーの姿は見当たらない。


会議室、仮眠室、談話室、休憩室、医務室、トイレ……プロデューサーのいそうな場所は全て、当たってみた。


けれども、プロデューサーはどこにもいない。いた形跡すら、ありはしない。


探し回った事で選択肢が絞られ、残る場所は一箇所を残すのみとなっている。


私はそこに一抹の望みを掛けて、階段を駆け上がって目指していく。


そうして辿り着いたのは、プロデューサーが良く煙草を吸いに来る、屋上の扉の前。


ここにいなければ、プロデューサーはどこにもいない。


ここが……私にとっての、最後の希望だった。


固唾を呑んで覚悟を決めて、私は重い扉の取っ手を掴むとそれを捻り、扉を開けた。


開けた隙間から冷たい風が入り込み、それが自然と、私を包んでいく。


それを受けながら、私は屋上にへと足を踏み入れる。


そこに広がる光景は前に見た時と変わらない、殺風景な光景。


落下防止の柵と、室外機と給水タンク等の設備だけが置いてある、それ以外には何も無い世界。


それが、私がここに訪れる際に、見慣れているはずの光景……の、はずだった。


けれども……今日の様相は、いつもと違っている。


私の視界に広がる景色は、いつもと変わらない。


しかし、一点だけ……欠けている。


私にとって、無くてはならないものだけが、そこから抜けていた。


『おう、凛。おはようさん。今日はどうしたんだ?』


『何だ、凛。元気無さそうだな。何か、あったのか?』


『おっす、凛。今日もお前は、しっかりしてるな』


私を出迎えてくれるはずの、優しい声。


それが今日は、この開けた世界には響いてこない。


私に触れたり、撫でてくれるはずの、大きくて武骨な手。


それも今日は、どこにもありはしない。


そして……私を安心させてくれる、あの嗅ぎ慣れた匂い。


ここにはその残滓すら残っておらず、乾いた風の匂いがただただ虚しく、漂っているだけだった。


「……やっぱり、いないんだ。プロデューサー……」


そうポツリと呟いた後、私は柵にへと近づき、そこから空を見上げる。


プロデューサーはこの事務所にはいない、そんな事実……認めたくは無かったが、認めるしかなかった。


そもそも、あのSさんが嘘や冗談で、あんな事を言うはずが無い。


その事は、最初から十分に分かりきっていた事だった。


でも……私は信じたくは無かった。


プロデューサーが、私のプロデューサーが結婚するなんて、信じたく無かった。


だから、こうして……それに抗う様にプロデューサーの影を追い求めて、事務所を彷徨った。


けど、やっぱり……プロデューサーは、どこにもいない。


会いたいよ、プロデューサー……今、直ぐにでも。


そして、話がしたいよ……いっぱい聞きたい事、あるんだから。


「でも、無理だよね……」


そう願ってみても、私の望みは叶わない。


だって、プロデューサーはここにはいないんだから、当然だった。


今頃、どこにあるか分からない実家で、幸せを噛み締めてる……


「……そうだ」


そんな風に考えた所で、私はある事に気づく。


そして、私は何て無駄な事をしていたのだろうと、数十分前の自分を呪った。


会いたい、話したい……そんな理由で、プロデューサーの幻影を追い求めて事務所内を彷徨うなんて、全くの無意味。


初めからプロデューサーの居場所は、Sさんが教えてくれていた。だったら……








それに従って、私がプロデューサーの実家に行けば、全て解決する話じゃないか。





そうだ……そうだよ。何でこんな簡単な事に、私は気づかなかったんだ。


きっと、錯乱してたから……直ぐに思いつかなかったんだと思う。


でも、それに気づいた今は、もう違う。


気づいたのなら、後はそれを実行に移すまで。


そう考えた私は、目的を達成する為に必要な情報を探るべく、屋上を後にする。


向かう先は、数十分前に出て行った事務室。


そこでなら、何かしらの情報を得る事ができるだろう。


だから、もう少し……待っててね。


後もう少しで……私がプロデューサーを、迎えに行くからさ。


ふふふっ……。


sageたままになってるのに気づかないで投下してた……何でや。

とりあえず、今から出掛けるので、ここまで

また書き溜めたら、投下していきます

蒼い人の死によってマーキングするとかじゃなくて良かった...

不幸な結婚式としてPや参加者の記憶に強くマーキングされそう

「えっ……あの、凛……ちゃん? もう一度、言って貰ってもいいかしら……?」


「だから……プロデューサーの実家の住所を、教えてって言ったの、ちひろさん」


屋上から立ち去り、事務室にへと辿り着いた私は、ちひろさんの下を訪れていた。


ちひろさんなら、プロデューサーの実家の住所ぐらい、知ってはいるだろうと思っての行動だった。


「いや、その……まず聞きたいんだけど……何で、凛ちゃんはプロデューサーさんの実家の住所なんて、知りたいのかしら……?」


「別にいいでしょ、そんな事。何か、問題でも……あるの?」


「問題……というよりも、その必要性が、私には分からなくて……」


「分からなくて、いいよ。これはちひろさんには、関係の無い事だから。だから、早く……教えてよ」


私はそう言いつつ、ちひろさんの瞳をジッと見つめる。


すると、ちひろさんは少しだけ、怯えた様な反応をした。


その瞳にはまるで『信じられない』といった、驚愕の色が表れている。


「で、でも……実家の住所は、完全に個人情報だから……」


「それが、何? 個人情報とかそんなの、今はどうでもいいから」


「どうでもいい……って、えぇぇ……」


「ねぇ……さっさと、してくれない? 私……急いでるんだけど?」


「ひ、ひっ?!」


ぐだぐだと埒が明かない態度を見せられ、私はイライラのあまり、ちひろさんに詰め寄った。


そうした事で、ちひろさんは更に怯えた様子となり、助けを求める様に、辺りを見回した。


けど、助けなんて来ない。周りの人達は、私達が何を話しているだなんて、聞いてもいないんだから。


「ねぇ……まだかな、ちひろさん。これで手遅れになったら……ちひろさんのせいだよ……?」


「な、何でそうなるの……」


「当たり前じゃん。教えてくれないんだから、悪くて当然だよ」


「そ、そんな無茶苦茶な……」


「あの……何を、してるんですか?」


そうしてちひろさんを問い詰めていると、横からそう声を掛けられた。


ちひろさんは『助かった……』とばかりに、その表情を和らげるが、


「え゛っ……」


来訪者の顔を見た途端に、今度は表情を強張らせる。


一体、誰が来たのかと、私も声のした方向に、顔を向ける。


「……智絵里?」


「あっ、凛ちゃん……その、お疲れ様……です」


そこに立っていたのは、先日の加蓮との会話にも上がっていた人物、緒方智絵里だった。


私とちひろさんから少し離れた所で、両手を胸の前で組んで、こちらの様子を窺っている。


「それで……何か、あったんですか? 何だか……ちひろさんと揉めている様に見えたんですけど……」


「えっ、いや、あの……違うのよ、智絵里ちゃん。これは、その……」


ちひろさんは慌てた様にそう言って、必死に弁明しようとしている。


その表情は私と話していた時よりも怯えが増していて、青褪めた顔色をしている。


何だか良く分からないけど、畳み掛けるなら、今がチャンスかもしれない。


「聞いてよ、智絵里。ちひろさんが私にね……プロデューサーの居場所を教えてくれないの」


「ちょっと、凛ちゃん?!」


「……そう、なんですか……?」


「いやいや、ちょっと待って!」


私が智絵里にそう言うと、智絵里は無表情となり、瞬時に瞳にあった僅かな光が消え失せる。


それからちひろさんに近づき、その顔に自分の両手を添えると、グッと自分の顔を接近させた。


「ちひろさん……何で、そんな酷い事をするんですか……?」


「ま、まずは落ち着いて! 話を聞いて! 智絵里ちゃん!」


「これじゃ……凛ちゃんが、可哀想です……」


「あぁ、もう……駄目……全然、話を聞いてくれない……」


智絵里に問い詰められて、ちひろさんは涙目といった感じだった。


そして……


「……分かりました、分かりましたから。凛ちゃんには教えるから……ちゃんと話すから……」


観念したちひろさんは諦めた様に、そう言った。


「……分かってくれたんですね、ありがとうございます」


智絵里もそれを受けて、ちひろさんから両手を離し、それから少し距離を置いた。


「凛ちゃん、その……これで、大丈夫かな?」


「うん、助かったよ、智絵里。ありがとう」


首を傾げて問い掛ける智絵里に、私はそう言って感謝を伝えた。


もし、智絵里が現れなかったら……ちひろさんから住所を聞き出すのに、もう少し時間が掛かっていたかもしれない。


この間、加蓮は智絵里の事を変わってしまっただなんて言ってたけど、私を助けてくれた所を見ると、そうとは思えなかった。


「はぁ……何で、私がこんな目に……それよりも、凛ちゃんまであぁなるだなんて……」


ちひろさんが何か言ってるけど、どうでも良かった。


そんな事よりも、早く実家の住所を教えて欲しいというのが、現状として求める事である。


「じゃあ、ちひろさん。よろしくお願いしますね」


「……今から調べるから、ちょっと待っててね。はぁ……」


ちひろさんは重々しくため息を吐いた後、自分のパソコンから事務所のデータベースにアクセスし、プロデューサーの実家の住所を探っていく。


それから数分後。無事に発見する事ができたちひろさんはそれをメモに書き起こすと、


「はい。これが、そうよ」


と言って、メモを私に差し出した。


「うん。ありがとう、ちひろさん」


私はメモを受け取ると、直ぐ様そこに書かれている内容に、目を通す。


書かれていた住所は都内では無く、少し離れた県外のものだった。


だけど、今から事務所を出て、準備をして向かえば夜には着くぐらいの距離である。


それなら、私が取るべき行動は一つ……


「それじゃあ、私……帰ります。それと、後……しばらくは来ないと思いますから」


「えっ?! ちょ、ちょっとっ! そんな事言われても……」


ちひろさんの声を無視しつつ、私は事務室から飛び出して、それから事務所を出て行った。


そして駆け足で自宅に向けて、帰っていくのであった。


とりあえず、ここまで

今日の内にもう少し書き進めておきたい……

それじゃあまた、書き溜めたら投下します


加連も智絵里&まゆの影響をもろに受けそうな予感が
凛は一度決めると一気に突き進むな
ちひろは智絵里に逆らえないのは浅墓な行動が原因なんだよな…因果応報

今の流れなら藍子、文香よりは平穏だな(白目)

「ただいまっ!」


家にへと帰ると、私は自分の部屋にへと向けて駆け上がっていく。


店頭に行けば、母や父がいるだろうけど、今は会っている暇なんて無い。


それだけ時間が押しているのだった。


そして部屋の前まで辿り着くと、勢い良く扉を私は開いた。


中にいたハナコが驚いた面持ちで私を見るけど、構っていられない。


部屋に入った私は真っ先に、今着ていた服を脱ぎ捨てていく。


そして下着だけ身に着けた状態になった私は、クローゼットを開き、中から地味目のシャツとジーンズを選んで、それで身を包んでいく。


本当なら、着替えている時間すら、今の私には惜しかった。


今すぐにでも、必要な物だけを持って、プロデューサーに会いに行きたかった。


けど、素の私が出歩いて、それでファンの人なんかに見つかりでもしたら、それだけでも時間のロスになってしまう。


それいった事を考えると、変装するだけの手間は惜しんでなんかいられない。


そんな結論に至った私は、着実と迅速に、身支度を整えていく。


先程着た服の上に、茶色い厚手のコートを羽織り、前は開けずに閉めておく。


それから長い後ろ髪を纏めると、ベレー帽を取り出して、纏めた髪をその中に隠す様に被る。


最後に仕上げとして、変装用に買った蒼い眼鏡を掛けて、完成である。


「……よしっ。これで、いいかな」


部屋にある姿見で、自分の格好を見つめて、確認する。


厚手のコートを着る事で体格も隠れて、私だと分かる様な長い髪も、帽子の中に仕舞ってあるから、問題は無い。


これぐらいしておけば、一見してで、渋谷凛とは気づかれないはず。


「後は、荷物だけれど……」


とりあえず、財布と携帯は絶対に外せない、必需品である。


これらは持たないという選択肢は、無いに等しい。


それから……身分証も持っておかないと、万が一の事があるかもしれない。


忘れずに、持っておかないとね。


他には最低限の着替えをバッグに詰め込んで……それで準備は万全だった。


「それじゃあ、ハナコ。私……行ってくるから」


そう言ってから、私はハナコの頭を軽く撫でる。


そして名残惜しそうに見つめるハナコの視線を背中に受けながら、部屋から出て行った。


「ちょっと、凛。どうしたのよ。帰ってくるなり、騒々しい……」


階段を降りて一階に着くと、母が店の方から顔を覗かせて、私を出迎えた。


「というか、凛……その格好、どうしたのよ」


「ごめん、お母さん。今から出掛けてくるから」


「出掛ける……って、どこに?」


「ちょっと県外まで、ね。急なロケが入ったの。だから……今すぐにでも向かわないといけないの」


「あぁ、そうなの。凛も大変ねぇ」


母を誤魔化す様に私がそう言うと、母は納得して、頷きながらそう答えた。


ここで本当の目的を告げてしまったら、面倒な事になる。


だから、それらしい事を言って、母には納得して貰った。


「もしかしたら、帰れないかもしれないから……その時は、ハナコの事はよろしくね」


「分かったわ。凛も気をつけて、行ってらっしゃい」


「うん。それじゃあ、行ってきます」


そう言って私は母に見送られて、家を出て行った。


これで後は駅に向かって電車に乗り、プロデューサーの実家まで訪ねるのみ。


もう直ぐ……もう直ぐだよ、プロデューサー。


あはは……楽しみだよ、私。プロデューサーに会うのが、すっごく楽しみだよ。


後、もうちょっとの辛抱だから、逃げずに待っててね。


私は絶対、絶対、絶対に……あなたの下に、辿り着いてみせるからさ。


とりあえず、ここまで

もう少しで感動の再会が待ち受けてる感じですかな

それでは、また書き溜めたら投下します

………


……





「ありがとうございました」


私はそう言うと、運転手さんにお金を渡し、それからタクシーから降りる。


降りて車体から少し離れると、タクシーはウィンカーを出して、直ぐに走り去っていった。


それを少しだけ見送ると、私はそこから視線を外し、正面の建物にへと目を向ける。


少し年代を感じる様な、田舎らしい木造の古民家。


私の住む街の周辺では、あまり見掛けない様な趣のある家。


ここが私の旅の目的地である、プロデューサーの実家だった。


「やっと、着いた……」


私は感慨に浸る様にそう言った。


あれから家を出た後、駅で切符を買い、新幹線に乗って数時間。


そこから更に在来線に乗り換えて、揺られる事、数十分。


最後にタクシーに乗って、私はここまで辿り着いたのであった。


思えば、長い道のりだった。一人でこんな距離を旅するのは、初めての経験だったから、大変な事もあった。


けど……ようやく、ここまで来たのだ。これで、やっと……プロデューサーに会える。


思わず、心臓の鼓動が高鳴っていく。それ程にも、私は心待ちにしていたんだ。


「この扉の向こうに、プロデューサーが……」


逸る気持ちを抑えつつ、私は玄関に近づいていく。


ふと、玄関の扉の横に視線を向けてみると、そこには表札が掲げてあった。


それにはプロデューサーの苗字が書かれていて、ここは紛れも無く、プロデューサーの実家である事を、証明していた。


そして私は、玄関の前に立つ。すると、中から賑やかい声が僅かだけど、ここまで聞こえてきた。


きっと、中では盛り上がっているのだろう。


結婚式がいつ行われるかは聞いてないけど、その前祝か、終わった後の二次会でもしているのかもしれない。


でも、そんな事は私には関係無い。寧ろ、そんなものは鬱陶しいと感じるぐらいだ。


今から家の中に上がり込んで、それを滅茶苦茶にぶち壊してしまおうとも思ってるんだよ、私は。


だって、ね……プロデューサー。私は、怒ってるんだから。


プロデューサーは私に、大事な事を何も伝えてくれなかった。それが私は、許せない。


私はプロデューサーの事を信じてた。担当プロデューサーとして、一人の男性としても尊敬していた。


そして、誰にも負けないぐらい……あなたを愛していたというのに。


けど、それなのに……プロデューサーは一人で勝手に幸せになろうとして……私は置き去りにして……酷いよね、こんな事。


もし、プロデューサーがその件に関して、何も思ってないというのなら……その時こそ、暴れてやるんだから。


何もかも、壊してあげるんだ……結婚式も、あの女性も、そして、プロデューサーも……くくっ、はははっ……。


全て壊すんだ…TPでNZな凛の本気か

Pを寝取る渋谷凛 つまり寝取凛

がんば凛

全てを破壊し、(Pの)全てを(凛に)繋げ!

私は覚悟を決めると、玄関に備え付けてあるインターフォンを右の人差し指で押して、鳴らした。


ピンポーンと間の抜けた音が鳴り響き、中にいる人達に私という来客が来た事を知らせる。


賑やかだった中の喧騒が一瞬だけ治まると「はーい」という声と共に、廊下を歩く音が聞こえてきた。


ぎしぎしと音を立てて近づいてくる足音。それが誰のものかは分からない。


けど、それがプロデューサーでは無い事は明白だった。


何故なら、聞こえてきた声は、聞き慣れたプロデューサーのものでは無い。


少し甲高い、それも若い女性の声だったからだ。


だとすれば、今、近づいてきている人物は……


「今、開けますねー」


そう言って中にいる人物は鍵を開けると、徐に扉を開いた。


引き戸の奥から現れたのは、長めの艶やかな黒髪に、大きくパッチリとした目が特徴的な女性。


その女性を見た私は、あぁ、やっぱりか……と心の中でそう呟いた。


私の目の前に現れた女性は、見覚えのある人である。というよりも、忘れる訳が無い。


そう、あのプロデューサーの携帯に映っていた女性で間違いなかった。


私からプロデューサーを奪った憎たらしい女……それが今、目の前に立っているのだった。


「えーっと、どちら様……ですか?」


私が黙って佇んでいると、その様子を見兼ねてか、女性が声を掛けてくる。


そうだよね。分からないよね。だって、あなたは私に初めて会うんだから。


「あの……Rさんは今、いらっしゃいますか?」


「あっ、はい。いますけど……もしかして、Rの知り合いの方ですか?」


「えぇ、そうです」


私は笑顔を見せてそう言うけど、内心は腸が煮え返りそうだった。


プロデューサーの事を馴れ馴れしく名前で呼ぶこの女に、怒りが込み上げてくるのだ。


理性が働いていなければ、私はこの女に、飛び掛かっているだろう。


「それで、Rさんに用事があるんですけど……会わせて貰えませんか?」


「あっ、分かりました。それじゃあ、今から呼んでくるので、少し待ってて下さい」


そう言うと、女性は振り返ると、来た道を戻っていく。


それを見送りながら、私はニヤリと微笑んだ。私が思っていた以上に、事は上手く進んでいる。


本当なら、もっと怪しまれても不思議ではなかった。


知り合いだと言って唐突に現れ、それから会わせろなんて言えば、普通は不審に思うだろう。


でも、あの女性はそうとは思わず、すんなりと私をプロデューサーに会わせてくれるようだ。


防犯上、それはどうかと思うが、私にとっては都合が良い。


もし、不審に思われた時用にと、言い訳は幾つかは考えていたけど、それを使わなかった事を僥倖と思うべきか、それとも徒労だったと思うべきか。


まぁ、いいや。会わせてくれるんだったら、何だっていい。


さぁ、早く……早く来てよ、プロデューサー。


「俺に用事? それに、俺の知り合いって誰なんだ?」


「さぁ、分かんない。私は初めて見る相手だったし」


「お前の知らない様な俺の知り合いって、この辺にいたかなぁ……」


そうして待っていると、奥の方から女性がプロデューサーを伴ってこちらに向けて、歩いてくる。


あぁ、やっとだ……やっとだよ、プロデューサー。


ようやく私は……あなたに会えるんだ。


「えっと、すみません、お待たせしちゃって……って、あれ?」


そう言いながら私の顔を見たプロデューサーは、私に驚いた表情を見せた。


そうだよね。驚くよね。担当アイドルが実家に突然やってきたら、そうなるよね。


プロデューサーからすれば、思ってもみなかった事だから、当然だよね。


あっ、そうだ。そういえば、もう変装する必要も……無かったっけ。


そう思うと私は、変装の為に付けていた眼鏡と帽子を取り、素の私の状態でプロデューサーに相対する。


「プロデューサー……やっと、会えた」


「り、凛!? 何で凛がここに!? いや、それよりも、お前……どうやってここまで来たんだ!?」


私が変装を解いて素顔を晒すと、プロデューサーは戸惑いの色を濃くさせた。


この現状に理解が追いついていないのか、焦りの色も窺える。


「凛? えっと、もしかして……渋谷凛? 嘘っ!? 本物っ!?」


そしてプロデューサーの隣に立つ女性は私の正体を知った事で、驚いて声を上げた。


「えっ、何で!? 何で渋谷凛がここにいる訳!?」


「いや、それは俺が聞きたいんだけどな……」


捲し立てる様に女性はそう言い、プロデューサーは困り顔でそれを受け取る。


ねぇ、プロデューサー……何で、そんな表情をするの?


私がわざわざ会いに来てあげたんだから、もっと喜んでよ。


私は飛び上がりそうなぐらい嬉しいのに、何でプロデューサーの表情は、曇ってるの?


……もしかして、私が来たのって……迷惑だった?


「とりあえず、凛……まずは事情を――どわっ?!」


プロデューサーは何か言おうとしてたけど、その前に私はプロデューサーの胸元にへと飛び込んだ。


そっちがそういう態度を取るんだったら、いいよ。私だって……好きにさせて貰うんだから。


「プロデューサー……プロデューサー……」


私はそう言いつつ、プロデューサーの服の胸元辺りに顔を埋める様に擦り付ける。


「お、おい、凛! いきなりどうしたんだ、全く……」


私の唐突な行動にプロデューサーは困惑しつつも、私を突き離そうとはしなかった。


「えっ、何々!? どういう事なの、これ!?」


そして女性はというと、信じられないかの様に口元に両手を当て、黄色い声を張り上げながらそう言った。


「もしかして……二人って、付き合ってたりするの!?」


「べ、別にそんなじゃ……というか、凛。こいつに見られてるからさ、ほら……離れてくれないか?」


「絶対に、嫌。離れたくない」


「えぇぇ……」


私がそう言って否定すると、プロデューサーはどうしたものかと困惑の声を上げる。


「へぇ……知らなかった。まさか、ねぇ……」


「お、おい。本当に、何でもないぞ。俺と凛の関係は、うん」


女性に対してごまかす様にプロデューサーはそう言った。


けど、何だろう……何だか、変な違和感を感じる。


私の中で密かに膨れつつある疑問……それは、この女性が本当に、婚約者なのかというもの。


さっきから見ているけど、婚約者にしては、何だが接し方が少しおかしい気がする。


普通なら旦那になる相手が他の女に擦り寄られているならば、叱責の一つや二つ、飛ばしているだろう。


けど、この女性はそうでは無い。


私達の様子を窺いながら、ニマニマと笑い、現況を楽しんでいるのだ。


これは一体、どういう事なんだろう……。


「俺と凛の関係は、担当とそのアイドル。オーケー? ドゥーユーアンダースタン?」


「またまたー、そんな事言っちゃって。でも、信じられないなぁ……」








「お兄ちゃんと渋谷凛がそういう関係だなんてさ」





「お、兄……ちゃん……?」


えっ? 何なの? どういう事?


今、この女性は……何を、言ったんだ?


「だからさ、お前……違うって言ってるだろ」


「隠さなくていいんだよ、もう。あっ、そうだ。お母さんにも、言ってこようか?」


「やめてくれ……余計に話がややこしくなりそうだから」


面白そうと提案する女性に対し、プロデューサーはそう言って頭を抱える。


そんなプロデューサーに、私は服の袖を二度程引っ張り、呼び掛ける。


「ぷ、プロデューサー? その、ちょっと……いい?」


「ん? どうした? それよりも、いい加減離れてくれると助かるんだが……」


プロデューサーはそんな提案を投げ掛けてくるけど、それは無視する。


そして私は、核心に迫る質問をプロデューサーに問い掛ける。


「この人とプロデューサーの関係って、何なの……?」


「あぁ、こいつ? そういえば、凛は知らないよな。こいつ、俺の妹な」


「Rの妹でーす。よろしくね♪」


右手でピースサインを作ると、明るく元気にそう言って自己紹介をする女性改め、妹さん。


でも、そうなると……プロデューサーの婚約者は、誰なの?


「じゃ、じゃあ……婚約者! 婚約者は、どこにいるの!?」


「婚約者? あぁ、義弟くんか。今日はあっちの実家だったよな?」


「そうだね。さっき『こっちも盛り上がってるよー』って、メールあったよ」


「まぁ、そうだろうな。けど、何で凛がそれを聞くんだ?」


おとうと……? ちょっと待って。色々とあり過ぎて、理解が追い付かない。


私が婚約者だと思っていた女性は妹さんで、プロデューサーは婚約者の事を義弟だと言った。


そうなると、まさか、もしかして……


「あ、あの……プロデューサー? もう一つ、聞いてもいいかな……?」


「うん?」


「結婚式って……一体、誰の結婚式なの……?」


「えっ、それは……うちの妹とその彼のだけど、何で?」


「プロデューサーは……結婚、しないの?」


「いや、しないけど……何故にそれを聞くし……」


……やっぱり、そういう事なんだ。


つまりは全部……私の勘違いだったって事なんだ。


「俺も結婚したいけど、まず彼女もいないからなぁ……」


「何言ってるのさ。凛ちゃんがいるんでしょ?」


「だから、凛と俺は、そういうのじゃないんだって……」


プロデューサーには婚約者なんて、最初からいなかった。


それ所か、彼女すらいないという。


「というか、凛。そろそろ何でここに来たかを、説明して……って、え?」


「り、凛ちゃん……? どうしたの……?」


それならば、私がした事は全くの無駄足だったという事だ。


身勝手な行動を取り、人の迷惑を顧みずに暴走して……滑稽だとか、そんなレベルでは済まされない。


でも、だけど……


「良かった……良かったよぉ……グスッ」


プロデューサーが結婚しないという事が分かり、安堵したからか、涙が次々にと込み上げてくる。


人前でみっともないというのに、それでも涙は止まらなかった。


「り、凛!? 何で急に泣き出して……」


「あーあ。お兄ちゃんが、凛ちゃんを泣かせたー」


「何で!? 俺は何にもしてないけど!?」


「プロデューサー……ひっぐ……良かった……グスッ、本当に……」


「あぁ、もう。凛はお願いだから、泣き止んでくれ。頼むからさ、ほら!」


プロデューサーはそう言うと、ポケットからハンカチを取り出して、私の涙を拭ってくれた。


でも、私の涙腺は崩壊してしまったのか、涙は止まる事知らず、溢れ続ける。


それを何とか止めようと、プロデューサーは必死になって涙を拭っていく。


「それじゃあ私、みんなに言いふらしてくるね~」


そうしている内に、妹さんはそう言ってその場から立ち去っていってしまう。


その表情は笑みを浮かべていて、愉悦だと言わんばかりに、輝いていた。


「馬鹿! 火に油を注ごうとするんじゃない!」


プロデューサーは怒声を発して止めようとするけど、妹さんはさっさと奥の方にへと消えてしまう。


妹さんを追い掛けたい心境なのだろうけど、私がいるから、プロデューサーはそうする事が出来ないでいる。


「あぁ、もう……何、この状況……本当に、何なのさ……」


始末に負えない現状に嘆き、プロデューサーはそう言った。


けど、私はこの状況を悪いと思いながらも、


『もう少し、このままでいよう……』


と、プロデューサーには内緒で、ひっそりと考えるのであった。

とりあえず、出勤なのでここまで

ようやく終盤まで辿り着けた感じですかね

ここまでくればあと少しなので、頑張ろうと思います

それではまた、帰ってきたら投下します

Sが「Rが結婚式を挙げる」と言ったのは勘違いで「Rが結婚式に出席する」が正しいのか
ひっかかって悔しい

Rに彼女いないっていう情報だけじゃなく、このまま家族公認の仲になれるって思うと一石二鳥どころじゃないな
とりあえず乙

………


……





「くくくっ、あははははははっ!!」


「ちょ、ちょっと……笑い過ぎだよ、プロデューサー」


目の前で馬鹿笑いするプロデューサーに、私は抗議する様にそう言った。


「いや、だってな。くくくっ……傑作過ぎて、笑えて……」


「……これ以上笑ったら……私、怒るからね」


「あぁ、悪い悪い。ごめんな、凛」


私が不満だとばかりにそう言ってそっぽを向くと、プロデューサーは両手を合わせて謝罪した。


まぁ、実際は自分の自業自得ともいえるものだから、本当は何も言えないのだけど、ね。


あの玄関での騒動の後……「とりあえず、中に入ろうか」と言って、プロデューサーは家の中……それも、自分の部屋に招き入れてくれた。


そこで私は……ここまでの経緯を、プロデューサーに全てを打ち明けた。


私がどうしてここまで来たのかを、包み隠さず、ありのままに話した。


その結果が、先程の馬鹿笑いに繋がる訳という事だった。


「しかし、まぁ……俺が結婚するかもしれないと思って、ここまで来るなんてな。凄い行動力だと思うぞ、うん」


「で、でも、それは……プロデューサーが、悪いんだからね」


「えぇぇ……また俺のせいかよ」


「そうだよ。だって、プロデューサーがしっかりと伝えてくれてあれば、こんな事には……」


「けど、なぁ……それに関しては、俺はちゃんと伝えてあったぞ?」


まるで愚痴か言い訳をする様な、私の発言。


すると、私の言葉に反論する様に、プロデューサーは指で頬を掻きつつ、そう言った。


「嘘。私はSさんに言われて、初めて知ったんだから」


「待て待て。そんなはずは無いぞ。俺はこの間、直接この事を伝えてるって」


「この間って……いつ?」


「一昨日だよ。凛が屋上で落ち込んでた時にな」


そう言われて、私は一昨日の事を思い返す。


あの時言われてたのは、『しばらくは私につけれない』だった。


けど、その時の私は上の空で、考え事をしていて……正確には、話を聞けてなかった。


もしかすると、その時に……プロデューサーは告げていたのかもしれない。


『明後日に妹の結婚式に参加する為、帰郷する関係で休むから、しばらくは凛についてやれなくなる』


という、感じの事を。


今にして思えば、何で私はその時に、聞き直さなかったんだろう。


そうしておけば、こんな事は未然に防げたというのに……。


「まぁ、こうなったのも……Sくんの誤解を生む様な発言もそうだし、俺も多分、あの時にしっかりと説明できて無かったのかもな」


プロデューサーは後頭部を掻いて、私を擁護する感じにそう言った。


Sさんに関しては、あの発言はミスリードを誘うものでしか無かった。


はっきりと誰の結婚式だと伝えてくれれば良かったのに、それが抜けてたからこそ、大変な事になったのだ。


「あぁ、でも……Sくんには怒らないでやってくれ。悪気があってそう言った訳じゃないだろうからな」


「うん。それは……分かってる」


プロデューサーの言う通り、Sさんに悪気があった訳では無いのは明白である。ただ、言葉が足りなかっただけなのだ。


それに元はと言えば、私が話を聞かなかったというのが悪い。


だから、私はSさんを叱責する立場では無いのだ。


それなのに……散々無礼な振舞いばかりしてしまって……今度会った時にはちゃんと謝っておこうと、私は肝に銘じた。


「それにしても……まだ分からない事が一つだけ、あるんだよなぁ」


「分からない事……って、何?」


「何で凛がそうまでしてしまったのか、という事だな」


「……えっ?」


私に向けて率直に訪ねてくるプロデューサー。


冗談で言ってるのかと思ったけど、その表情から窺えるのは、本気で分かっていない様な感じだった。


「そもそも……俺が結婚したら、何かあるのか? 別に何も無いと思うんだがな……」


腕を組み、首を傾げながら唸りつつ、プロデューサーはそう言った。


「ね、ねぇ、プロデューサー……それ、本気で言ってる?」


「本気も何も、大マジだぞ。だって、俺が妻帯したとしても……凛が不安に思う要素は一つも……」


「……言わなきゃ、分からないんだ……はぁ」


プロデューサーの言葉を遮る様に、私は額に手を当てて、がっくりと肩を落としながらそう言った。


普通なら今までの説明で分かってくれるだろうに、何で分かってくれないのかな。


本当に、女心が分かってないんだから。朴念仁も、いいとこだよ。


……いいよ。そっちがその気なら、こっちにも考えがあるんだから。


「あのさ、プロデューサー。この間の屋上での話……覚えてる?」


「屋上って……あれか? 気持ちの整理がついたら、悩みを打ち明けるってやつ」


「うん、そうだよ。私ね……今回の件で、言う決心がついたんだ」


「おぉ、そうか。それは良かった。で、何なんだ? 凛の悩みってのは」


まるで、何でも受け止めてやるぞとばかりに、プロデューサーは胸を張って私の言葉を待つ。


だから、私は……その言葉に甘えて、私の想いを打ち明けさせて貰う事にする。


きっとプロデューサーは……こんな事を打ち明けられるとは思っていないだろう。


けど、言ったよね? プロデューサーは私が困ってるなら、助けてくれるって。


力になれる事があれば、協力は惜しまないって言ったよね?


だったら……私の期待に、しっかりと応えてくれるはず。


「あのね……実は、私――」








「プロデューサーの事……好き、だよ」





えんだああああああああああああ

私が想いをぶつけると、プロデューサーは目をパチクリとさせる。


そして無言になってその場で固まってしまった。


あの時に言いたかった事とは違った内容になってしまったけど、私が伝えたかった事には、変わりない。


これは私の……本心からの言葉。嘘偽りの無い、私の素直な気持ち。


これにプロデューサーは……どう、応えてくれるだろう。


私がジッと返答を待っていると、しばらくして、プロデューサーは口を開き……


「あぁ、俺も好きだぞ」


右手の親指を立てて、それをグッと前に突き出し、プロデューサーは迷い無くそう答えた。


そして照れとかが一切無い、ニカッとした笑顔を私に見せてくる。


うん、この反応は……間違いない。


多分……意味がちゃんと、伝わってない。


私はLoveという意味で好きだと言ったけど、プロデューサーはそれをLikeとして受け取ってしまっている。


そうで無ければ、もう少し照れや羞恥の籠った反応を見せるはずだ。


どれだけ鈍感なの……もう。


「いやぁ、担当アイドルにそう言って貰えるのは嬉しい事だな、うん。プロデューサー冥利に尽きるってもんだ」


そんな私を他所に、勘違いしている事に気づかないまま、プロデューサーはそう言った。


だけど、駄目だよ? そんなのは、私は認めない。


せっかく想いを告げたんだから……ちゃんと正確に、受け取ってくれないと。


プロデューサーが勘違いしているのだったら……私が、正してあげる。


「まぁ、何だ。今後とも良い関係を築ける様、これからもよろ――」


『よろしく』と言おうとしたプロデューサーだったけど、その言葉は最後までは発せられなかった。


そう、私が邪魔をしてやったからであった。


プロデューサーの言葉を遮って私は接近し、その唇に自分の唇を重ね合わせたのだ。


数秒に満たない程度の、唇に触れるだけのキス。


これが、私にとってのファーストキスだった。


プロデューサーが煙草を吸ってるからか、少しヤニ臭かったけど、それでも……悪くは無かった。


「え……えっ!? ちょ、は!? り、凛!?」


私が急にキスをしたせいで戸惑い、慌て出すプロデューサー。


その視線は私の顔と唇を交互に見つめていた。


「……もう一度言うから、良く聞いててよ、プロデューサー。私……プロデューサーの事が好き」


「そ、それはLike的なやつじゃなくて……?」


「違うよ。Loveの方。……愛してるんだから」


私がはっきりとそう告げると、プロデューサーは陸に上がった魚みたく、口をパクパクとさせている。


それを見てちょっと吹き出しそうになったけど、堪えて私は続けて言っていく。


「プロデューサーをここまで追いかけてきたのは、プロデューサーを誰かに取られるのが嫌だったから。この前に屋上で落ち込んでたのは、たまたまプロデューサーの携帯を見て、そこに映っていた妹さんを婚約者だと思ってショックを受けたから。私はずっと……プロデューサーの事が、好きだったの」


「お、おう……」


「ねぇ……プロデューサーは、どうなの?」


「お、俺……?」


「私の事……好き、かな?」


「ま、まぁ……嫌いじゃない、な。寧ろ、好きな部類だぞ」


「じゃ、じゃあさ……私と、付き合ってよ」


「それって、もちろん……Love的なのだよな……?」


プロデューサーからの問い掛けに、私は首肯して答える。


それ以外の意味なんて、ありはしないんだから。


「それは、その……そうだな……」


「……やっぱり、迷惑だったかな」


「いや、そんな事は無いぞ! うん! 凛みたいな可愛い女の子に、好きだと告白されるのはとても嬉しいく思う」


「ほ、本当……?」


「ただ、なぁ……ちょっと急過ぎるというか、その……な?」


まぁ、確かに……プロデューサーの言い分は、分からなくは無い。


私も例えば……クラスの男子から急にそんなことを言われれば、そんな反応にもなるだろう。


「だからさ……少し、考える時間をくれないか? 事が事だから、良く吟味して考えたいんだ」


そう言うプロデューサーの表情は真剣そのもの。


ただ面倒で問題を先送りにしたい訳では無く、本当にじっくりと考えてから結論を出したいのだろう。


私はプロデューサーにそう言われた後、口元に手を当てて、その事に関して検討する。


それが纏まると、私はにっこりと笑みを作り、プロデューサーに見せる。


プロデューサーはそれを見て、『分かってくれたのか』とばかりに安堵の表情を浮かべた。












「駄目だよ、そんなの」


「えぇぇぇぇぇ……」


そしてそれを打ち壊すかの如く、私はプロデューサーにそう宣言するのだった。


「プロデューサーの言い分は分かるよ? いきなり私が告白してきて、戸惑ってるのも分かってる。でも、ね……私はもう、待てないの。だからさ……今ここで、結論を出してよ」


「お、お前なぁ……簡単に言ってくれるけど、これってかなりの難題だと思うが……」


「そう? そんな難しい事でも無いよ。YesかNoかで答えるだけの簡単な二択。そしてYesと答えればもれなく……私がプロデューサーの彼女になるという、特典が与えられるんだよ」


「と、特典って……自分を景品みたいに……」


「さぁ、どうする? 早く答えてよ」


私は急かす様に催促して、プロデューサーを更に追い詰めていく。


それに対してプロデューサーは生汗を掻いて、腕を組んで必死に悩んでいる。


悩みに悩んで、ようやく結論が出たのか……プロデューサーは乱雑に髪を掻き毟った後、私の目を見つめてこう言った。


「……分かった。凛の熱意に負けた。……付き合おう、凛」


「……! ありがとう、プロデューサー!」


私はそう言うと、玄関前でそうした様に、プロデューサーの胸元にへと飛び込み、頭を胸板の上に乗せた。


「うわっ!? いきなり飛び掛ってくるんじゃない。危ないぞ、全く」


プロデューサーはそう言いつつも、私の事を優しく抱き止めてくれた。


私の体を受け止めてくれている、プロデューサーの両手。


それが私に、心地良い安心感を齎していた。


「あっ、ごめんなさい。でも、嬉しくて……つい」


「嬉しくて……な。俺が知っている凛は、こんな事はしてこないと思ってたんだがな」


「だって、仕方ないよ。今の私は……凄く弱い存在の女の子。これも全部、プロデューサーが悪いんだからね」


「……これも、俺のせいか」


私がそう言うとプロデューサーは私の背中に回していた右腕を離し、それを私の頭の上に乗せる。


そして頭を撫でながら怪訝そうに言うのだった。


「プロデューサーが私をここまで弱くさせたんだから、当然だよ。責任取ってよね」


「はいはい、了解しました。これからも凛の事を支えてやるから、心配するなって」


「ふふっ、約束だからね。ずっと、ずっと私の隣で……二人で一緒に、走っていこう?」


「あぁ、分かったよ。お姫様」


私の問い掛けに、プロデューサーは微笑んで返してくれた。


嬉しい……私の願いは今、果たされた。


そして……


「でも、これで……私達、家族公認の関係になるのかな」


「……は? どういう事?」


「だって、ほら……あそこ」


そう言って私はある方向に向けて指を差す。


そこは部屋の入り口である扉。それが少しだけ……人が中を覗ける程度に開いていた。


そしてその隙間から覗く、幾つかの視線。


先程会った妹さんを含む、プロデューサーの家族達がこちらを見ているのであった。


「えっ、はぁっ!? ちょ、い、いつから……」


「大分前からだよ。プロデューサーが馬鹿笑いしてた辺りだったかな」


「かなり前……って、おい。お前……気づいてたのか!?」


「良いチャンスだと思ったからね。利用させて貰ったよ」


私がそう言った後、部屋の外……廊下からドタドタとした物音が聞こえてくる。


きっと、気づかれたのが分かって逃げ出したのだろう。


「あぁ、もう。何て状況だよ、全く」


プロデューサーはさも面倒くさそうにそう言うと、私から離れて立ち上がった。


「ちょっと説明してくるから、凛はここで大人しく待っててくれよな」


「うん、行ってらっしゃい」


そう言うプロデューサーに、私は手を振ってそう答えた。


それからプロデューサーもドタドタを足音を立て、部屋から消えていった。


「……さて。せっかくのプロデューサーの部屋だから……ちょっと物色させて貰おうかな」


そして私は先程交わした約束なんて気にしないとばかりに、室内を漁り出す。


プロデューサーは怒るかもしれないけど……でも、いいよね。


だって、私は……プロデューサーの彼女なんだから。


彼氏の部屋ぐらい……好きにしても、罰は当たらないはず。


そうして私はプロデューサーが帰ってくるまで、好き放題に部屋の中を探っていくのであった。






終わり


ハッピーエンドだね! お疲れ様でした

とりあえず、今日はここまでです

明日までに一作品を纏めないといけないので、今からそちらを頑張ろうと思います

また書き溜めたら、投下していきます


そう言えば、そろそろホワイトデーの季節ですね
凛が幸せなオチに見える…藍子や文香が色々と容赦ないだけに

ちなみに書き方悪かったから補足ですけど、まだ終わりじゃないです

別の作品を書き上げたら戻ってくるので、もう少しお待ち下さい

一応、後日談的なものを考えてます

それから数日後。


私はプロデューサーの実家で会った翌日に、こっちに帰ってきたから、その日からプロデューサーとは会えていない。


けど、プロデューサーはちゃんと私の下に帰ってきてくれた。


何も変わらずに、いつも通りの調子で私に接してくれている。


だけど、ちょっとだけ……距離感だけが、前とは違っている。


彼氏彼女の関係になったからか、プロデューサーも少しは意識してくれる様になったのかもしれない。


例えば、私と目が合うと数秒後には、目を逸らしてしまう。


それも恥ずかしそうな感じで、顔を赤らめつつでだ。


ジッと見つめるのが、恥ずかしくなったのかな。


前は何も問題は無かったのだから、そこまで意識しなくてもいいのに。


でも、そんな所が可愛かったりするんだよね。


この前も事務所で会った時に、私が後ろから抱き着くと、もの凄く慌てた反応をしてみせた。


周りに誰もいないのに、『誰かに見られたらやばい』なんて、叫んでね。


私もそうならない様に、確認してからやってるんだから、心配のし過ぎだと思う。


だけど、せっかく付き合えたのに、見られたらアウトだなんてやり辛いなぁ。


私としては、もっと大っぴらに、堂々と触れ合ったりしてみたい。


けれども、私達は良くても、世間は許してくれないだろう。


ファンや関係者、色んな人から追及されて、きっと追い詰められてしまう。


なら、そうならない様にするには、どうすればいいか。


決まっている。人知れず、隠れてこっそりと付き合うしかない。


そして、その為の対抗策は既に考えてある。


ありきたりな案だけれども、私にはこれ以外、思いはつかなかった。


「という訳で、プロデューサー。家の鍵、渡してくれない?」


「……随分と、いきなりだな」


いつもの屋上にて私がそう問い掛けると、プロデューサーは顔を顰めてそう言った。


「だって、私はプロデューサーの彼女なんだよ? だから、合鍵を持ってても良いと思うの」


「いや、その段階はまだ早過ぎやしないか。まだ凛と付き合い始めてから、数日しか経ってないし……」


「日数なんて、関係ないよ。だから、早く出して」


「えぇぇぇ……」


そう言って更に表情を歪ませるプロデューサー。


さっきからの反応を見ていると、どうも乗り気にはなってくれないみたい。


私がプロデューサーの為に考えた案なのに、何で?


あぁ、もしかして……


「それとも……何? プロデューサーは私の事、嫌いになったの?」


「ちょ、ちょっと待て。何で、そうなるんだよ」


「私の事が好きなら、直ぐに理解してくれて、差し出すはずだよ」


「そういうもんじゃないだろ。こういったのはもっと、こう……な?」


「もっと、こう……って、何? 具体的に話してくれないと、分からないよ」


「いや、もう……はぁ……」


プロデューサーは疲れた様に、重々しくため息を吐く。


その後、手馴れた手付きで胸ポケットを漁り、そこからある物を取り出す。


それは愛用の嗜好品、煙草の入った箱である。


取り出したそれを、プロデューサーは叩いて箱から一本出し、口に咥え様として……


「ねぇ、ちょっと待って」


「って、あっ!?」


だけども、咥える前に私が煙草を箱ごと奪い、それを阻止する。


煙草を吸おうとしたのを阻止されたプロデューサーは、唖然とした表情で私を見ている。


「お、おい。何するんだよ、凛。早く返して……」


「駄目だよ、プロデューサー」


「え、えぇっ?」


「吸ったら、駄目。今日からプロデューサーには、禁煙して貰うから」


私はそう言った後、プロデューサーから奪い取った煙草の箱を力を籠めて、握り潰す。


グシャッと箱はひしゃげて潰れ、見るも無惨な姿となった。


「は、はぁっ!? そ、そんな勝手に、お前……」


「勝手? 違うよ。これはプロデューサーの為を思って、言ってるんだよ」


そう。これも全ては、プロデューサーの体の事を考えての事。


プロデューサーは好きなんだろうけど、煙草は害が多くて、決して良いものとは言えない。


私もこの……煙草の匂いは嫌いじゃない。


以前はこの匂いが、プロデューサーの匂いだと思っていたから。


この匂いがあると、プロデューサーが近くにいる様で、安心できた。


……でも、それはもう、必要はない。煙草が無くたって、隣にいてくれる。


それと……キス、した時にヤニ臭いのは、ちょっと嫌だからね。


「『百害あって一利無し』って言うでしょ。肺ガンとかになってからじゃ、遅いんだよ?」


「で、でもなぁ……今まで好んで吸ってたし、いきなり止めろって言われても……鍵にしたって、少し受け入れ難いし……」


「……ふーん。私がこんなに頼み込んでも、駄目なの?」


「……まぁ、な」


後頭部を掻きながら、プロデューサーは面倒そうにそう言った。


その顔からは、『もう、いい加減にしてくれ』といった感じの色が見られる。


待ってた

これ以上、何を言った所で、プロデューサーは聞き入れてはくれない。


最悪の場合は、嫌われてしまうだろう。それだけは、避けないといけない。


「……分かった。プロデューサーの気持ちは、良く分かったよ」


諦めた様に私がそう言うと、プロデューサーは安堵した表情をして見せた。


きっと、『分かってくれたか』なんて、安心して思っているに違いない。


けど、そうじゃないよ。もう終わりだと思ったら、大間違いだから。


「それなら、これ……プロデューサーにあげる」


私はそう言ってから、持ってきていた鞄の中からある物を取り出して、それをプロデューサーに渡す。


「……えっと、何これ?」


受け取ったプロデューサーは、私に向けて困り果てた様にそう言った。


その言葉には、私の真意が汲み取れない。どういった用途で使えばいいのかが、分からない。


または、『これをどうしろと?』といった感じに、色んな意味が含まれているだろう。


プロデューサーのその反応は、あながち間違いでは無い。


私も例えば……加蓮や奈緒辺りにこれを渡されれば、同じ様な反応を見せるはず。


そう。犬耳、首輪、リードなんて三点セットを渡されもすればね。


「見て分からないかな?」


「……すまんが、分からない。というか、分かり辛い」


「もう、仕方ないなぁ……」


私は「貸して」と言って、プロデューサーに渡した首輪を手に取る。


そして見本を見せる様に、私はプロデューサーの目の前で、首輪を自らの首にへとはめる。


はめた後、今度はリードを手に取って首輪に繋げ、その先をプロデューサーにへと渡す。


最後に、犬耳を頭頂部に付ければ、完成である。


「えっとね、こうするんだよ」


「え、えぇぇ……」


両手を前に少しだけ出し、犬である様に見せる為、私は似せたポーズを取る。


「こうなったからには……その、プロデューサーの好きにしてくれて、いいんだからね?」


そして少し上目遣いで見ながら、私はそう言った。


無償で私の意見が聞き入れないのなら、交換条件として、私がこの恰好でプロデューサーの望みを受け入れてあげる。


プロデューサーが望むのなら、頭を撫でてもいいし、腹を出して擦ってくれても構わない。


私は忠実な僕となって、言う事は何だって従うつもりである。


けれども、プロデューサーは浮かない表情で私を見ている。


まるで『お前は一体、何を言ってるんだ』とでも言いたそうな顔でだ。


「あ、あのな……凛」


「うん、何?」


「はっきり言っておくが、な。俺には、こんな趣味は無い」


そう言った後、プロデューサーは持っていたリードを手から離す。


支えの失ったリードは重力に従い、パサッと床にへと落ちた。


Pは猫派だったか…

Pを犬にするという悪魔の選択があるな

「……駄目、だった?」


「俺は別に、凛には特別な事は求めるつもりは無い。変な事はせずに、今まで通り、普通にしててくれればいいんだ」


「……そっか。プロデューサーはこういうの、好きだと思ったんだけどな」


「そんな素振りは一度も見せた事は無いんだが……」


そう言った後、プロデューサーはズボンのポケットに手を入れる。


「……ほら、これ」


漁って何かを掴んだかと思えば、掴んだそれを私に向けて投げてきた。


私は飛んできた物を両手でしっかりと受け取ると、それが何なのかを確認する。


「これって……」


プロデューサーが私に向けて投げてきた物、それは鍵だった。


一緒にキーホルダーやストラップとかが付いているのを見ると、常に携帯して使っている感じが見受けられる。


つまり、これは……


「それ、うちの鍵だからさ……失くさない様にな」


私の顔は見ずにそっぽを向き、仕方ないとばかりにプロデューサーはそう言った。


「い、いいの……?」


「いいの……って、凛から言い出した事だろ。鍵を渡してくれって」


「だって……話の流れからして、渡してくれなさそうだったし」


「……本当は、渡したくはなかったさ。でもな。渡さなかったとして、次に凛が何をやらか……するか分からないからな」


私としては次にどうするかは全然考えてはいなかったけど、プロデューサーはそう予測していた様だ。


心外だ、と私は思ったが、今までの行動を鑑みると、そう思われてもおかしくも無いのかもしれない。


「だから、今回は俺が折れる事にした。但し、要求を呑むのは一つまでだ。俺もなるべくは控える様にするが、煙草に関しては妥協してくれ」


そう言いながらプロデューサーは右手を差し出し、私が奪った煙草の箱を返せと催促する。


「……うん、分かったよ」


私としては返したくは無かったけど、色々と考えた結果、渋々と返す事にした。


プロデューサーも鍵を渡して誠意を見せてくれたし、『二兎を追う者は一兎をも得ず』という言葉もある。


何事も欲張り過ぎては身を滅ぼしかねないので、禁煙を強いる事に関しては諦めよう。


「しかし、返して貰ったはいいが……吸えそうなのは残ってるのか、これ」


「……えっと、ごめんなさい」


返した煙草の箱の中身を確認しながらそう言うプロデューサーに、私は頭を下げて謝った。


箱を握り潰した事で、中身にも多少なりとも、ダメージが入ってしまった様である。


プロデューサーが取り出した1本も、真ん中辺りが少し折れ曲がっている。


「まぁ、あまり責めるつもりは無いが……こういうのは、程々にしてくれよ」


そしてそう言った後、煙草を口に咥え、その先に火を着けた。


先から紫煙が立ち上り、ゆらゆらと宙に向かって浮かんでいく。


「もし、度が過ぎる様なら最悪、凛を躾けないといけなくなるかもな」


「え? 別にいいけど?」


ニヤリと笑いながら言うプロデューサーに私がそう返すと、表情を硬く強張らせる。


そして口を半開きにし、咥えていた煙草をポロリと落としてしまった。


床にへと落ちた煙草は少しばかりころころと転がった後、止まったその場所で黙々と尚、煙を立ち上らせている。


「……はぁ」


「……? どうかしたの?」


頭を抱えてため息を吐くプロデューサーに、私は首を傾げてそう聞いてみた。


ただ返答しただけなのに、何でため息なんて吐かれたんだろう。


「あのな、凛。まずお前は……『待て』を覚える様にな」


「『待て』……?」


呟く様に私はそう言った後、その言葉の真意を吟味してみる。


何だろう、『待て』って……どういう意味で言ってるのかな?


……あぁ、そうか。そういう事なんだ。


プロデューサーはきっと、事務所でするのはまずいから、後で見られない様にやろうって言ってるんだ。


だから、今は待てって事なんだね。そういう意味だったんだ。


「分かった。プロデューサーがそう言うのなら、私は待つよ」


「……そうか。分かってくれたなら、助かる」


私の言葉に、プロデューサーは安堵してか、表情を和らげる。


大丈夫だよ。今は我慢するから、安心してて。


でも、その代わり……後でたっぷりと、可愛がって……いや、躾けて貰うんだから。


それも、プロデューサーの好みになる様に、ね。


「それじゃあ、凛。頼んだからな?」


「うん、任せて。期待通りにしてみせるからさ」





終わり


以上、蛇足の様な何かでした

2ヶ月掛かってようやく完結しました

こんなに掛かったのも、バレンタインやホワイトデーとかに時間を割いてたせいですね

もっと計画性を持って、作業に当たるべきだとしみじみと実感しました

今回は少し、次回辺りのフラグを混ぜつつ、書いてみたのですが……

まぁ、そのせいで長々となった訳なんですがね……

建てたフラグはしっかりと回収するべく、何とか頑張ろうと思います

ちなみに、次回はまだ誰にするかは決めてませんけどね

おいおい、ここで終わりかよ!

ここまで付き合って下さった方々

こんな長過ぎる駄文にお付き合いさせてしまってすみませんでした

ただただ、凛を隷属させたいだけの人生だった……

それでは、ありがとうございました

今回は本当に平和だった件
乙、卯月編や奈緒編も気になるな

卯月も奈緒こじらせたりするとアレなタイプだろし
卯月もホラーと言うか愛が重い気がしてきた、Cuとは病んでるな気質だし

Abemaウテナ最終話で後に恥かしい告白とノリの良いOPで有名なキングゲイナーするけど
ウテナ宜しくPの意識を革命する奈緒とか良いかも?アニオタだし

なんだこいつ

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