海未「・・・・・そうなんです」 (237)


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◇ 7月20日 14:00 晴れ 穂乃果部屋

いつものように集まっているいつもの三人。



穂乃果「・・・・暑い」グデー

海未「夏休み初日からだらしないですね」

ことり「穂乃果ちゃん、暑いからってずっと部屋にいると余計に暑さに弱くなっちゃうよ」

穂乃果「そうだねー・・・。せっかくの夏休みだし、確かにずっと家にいるのももったいないよねー・・・なにかしたいなあ」ウーン

ことり(あ、こういう悩み方をするときは・・・)

海未(いつも突拍子無いことを言うんですよね・・・。今度は私達、一体何に付き合わされるのでしょう・・・・)


穂乃果「うーむ・・・」

海未「・・・・」ドキドキ

ことり「・・・・」ワクワク



穂乃果「・・・そうだっ!!」クワッ

ことうみ「!」ビクッ



穂乃果「旅行に行こう!! 三人で!」



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ことり「どこへ?」

海未「いつからですか?」

穂乃果「早い方がいい! 明日ぐらいからかなあ。場所はどこか遠いところ!」

ことり「遠い所って、どこ? フランスとか?」

穂乃果「うっ・・・フランスはちょっと遠すぎるかなあ・・・」

ことり「じゃあ、北海道くらい?」

穂乃果「そこだっ!」ビシッ

ことり「や~ん♪ 当たっちゃった♪」

穂乃果「北海道! 冬はあんなに雪が降る地域だから、夏は結構涼しくて過ごしやすそう!」

海未「・・・・・北海道に明日向かうのですか?」

穂乃果「うんうん!」

海未「旅程は?」

穂乃果「りょてい?」

海未「明日、何時に何の飛行機に乗るんですか?」

穂乃果「あー・・・飛行機になっちゃうのかあ・・・えーっと・・・それは今から適当にネットで調べてー・・・・」

海未「本当に飛行機だけで行くのですか? 夜行バスや寝台特急の方が安上がりということはありませんか?」

穂乃果「えっと・・・」

海未「北海道のどこを観光するのですか? 宿泊先はどこですか? ちゃんと予約は取っていますか? 現地の天気は確認していますか? そもそも、何泊の旅行を考えていますか? その日数分の着替え等の持ち物は準備できていますか? それで全部で予算はいくら用意すればよいのですか?」

穂乃果「うっ」タジタジ

海未「穂乃果?」

穂乃果「・・・・・よし! 一週間後ぐらいに出発にしよう!」

ことり「は~い♪」

海未「はあ・・・先が思いやられます」

穂乃果「というわけで~」ヌフフ 

.......ニジリ ...ニジリ

海未「な、なんですか・・・?」

穂乃果「海未ちゃん! 旅程計画をお願いします!」ギュー

ことり「お願いします♪」ギュー

海未「んっ・・・はぁ。こんなことになるだろうなと思いましたよ・・・」

海未「あのですね・・・穂乃果・・・。あなたのその雑で大雑把でお気楽な性格が、今までどれだけの迷惑と混乱を引き起こしているか理解していますか?」

穂乃果「うっ・・・んんっ・・・。その・・・はい、ごもっともです・・・」シュン

海未「まあ、そんなところがあなたらしいというか・・・」ボソ

穂乃果「?」キョトン

海未「い、いえ何でもありません」


海未「まず最初に決めるべきは、北海道で何を見たいか、何をしたいかの明確な目標ですね。そこへの行き方や宿泊先等の細かいことは目標に合わせて色々調べて決めていきましょう」

海未「北海道といったら、最初に私が思いつくのは雄大な大自然です。それを思いっきり満喫できる何かがしたいですねっ! 登山とか!!」キラキラ

海未「いいですか二人とも! 歩きやすい服装にするんですよ! 暑いからと言ってスカートや半袖といった肌が出る服はもってのほかです!」

ことほの(う、海未ちゃんもうノリノリだ・・・!)




穂乃果「んー・・・・ あっ! 時計台見てみたい!」

ことり「時計・・・花時計! 花時計見たい! お花が背景になっていて、すっごい大きいやつ! 絶対かわいい!」

海未「ちょっと待ってください、今ノートに書いていきますから。時計台と花時計ですね」カキカキ

海未「とりあえず今みたいに思うがままに列挙して、後で場所を詳しく調べて、移動ルート決めていきましょうか」

ことり「うん。ありがとう海未ちゃん。あ、あと、旭山動物園行ってみたい」

穂乃果「あ! それ知ってる! えーっと・・・・・なんか色々やってる動物園!」

ことり「そうそう! いつもと違う視点で動物さんに近づきたい♪」

海未「いいですね、旭山動物園」カキカキ

穂乃果「ねえねえ、あれ何だっけ? 希望を抱けってやつ」

海未「もしかしてクラーク像のことですか? 希望ではなく、大志、ですね」

穂乃果「そう、それ!」

海未「クラーク像ですね。では書き加えます。・・・・・って穂乃果? なんだかさっきから行きたいところというより、ただ知っているだけの場所を挙げていませんか? 時計台やクラーク像に関する歴史を理解していますか?」

穂乃果「え、と、どうかなあ、あはは・・・」

海未「別に構いませんよ。現地に行けば資料が色々あるでしょうし、現物を見ながらそれで勉強するというのも観光の楽しみ方の一つですよ」

穂乃果「えへへ」

ことり「うーん・・・場所ばっかりじゃなくて、食べたい食べ物も挙げていかない?」

穂乃果「はい! はい! 札幌ラーメン食べたい!」

海未「はい、札幌ラーメンですね」カキカキ

海未「そういえば北海道といったらジンギスカンというのもよく聞きますね。これも書き加えましょう」カキカキ

ことり「あっ、それじゃあことりはねー・・・」



 ~~そんなこんなで準備を進めて~~






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◇ 7月25日 13:00 晴れ 穂むら前



穂乃果「海未ちゃんとことりちゃんまだかなー」ソワソワ

穂乃果「あ! おーい、うっみちゃーん! こっとりちゃーん! 早く早くー!」ブンブン

ことり「はーい♪」タッタッタ

海未「そんなに焦らなくても。まだ時間には余裕がありますから」


ことり「おまたせー穂乃果ちゃん♪」抱き付き

穂乃果「まったよーことりちゃん♪」抱き付き

海未「やれやれ・・・修学旅行の時と言い、こういう時の穂乃果は特に元気ですね」

穂乃果「それはそうだよ! 昨日の夜だって、明日の今頃はもう東京にいないんだなって思っただけで、ドキドキワクワクがすごかった!」




ほの父「」ガチャン

海未「今日はありがとうございます。車を出して頂いて」ペコ

穂乃果「荷物トランクに入れていーよ」

海未「あ、はい、それではお言葉に甘えて」

海未「よいしょっと」ズシン

 ほの父車「ぐぇ」

穂乃果「いやー・・・・それにしても海未ちゃん・・・。旅行の時は相変わらず本格的だねー・・・」

海未「そうですか? 大自然と向き合うのですから、これくらいの装備が普通だと思いますが。逆に穂乃果のバックは随分と軽そうですけど、一体何が入っているのですか?」

穂乃果「えっとねー。移動中に食べるお菓子たくさん! ことりちゃんと一緒に選んだんだよ、ねーっ」

ことり「ねー♪」

海未「全く・・・そんなもの・・・」


雪穂「え!? 聞いてないよ! お姉ちゃんばっかりずるい!」

穂乃果「げっ! 雪穂いたんだ・・・・」

海未「安心してください雪穂。私がしっかり管理して、余った物を持ち帰って差し上げますので」

雪穂「ホント?! やったー!」

穂乃果「えー!? そんなのってないよ! 海未ちゃんの鬼! 悪代官! 越後屋!」

海未「ほーのーかー・・・?」ピクピク

穂乃果「ひっ」

ことり「穂乃果ちゃん、海未ちゃん。車乗らないの~?」


穂乃果「あっ、うん! そういうことで、じゃーねー雪穂―! 写真とか一杯撮ってメールで送ってあげるからね~!」ブンブン

雪穂「はいはい。いってらっしゃい」フリフリ


ブロロォン....







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東京駅 八重洲口



http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira127062.jpg


キッ

穂乃果「ありがとーお父さん!」

ことうみ「「ありがとうございました!」」ペコリ

ほの父「」b

ブロロォン....



穂乃果「よし! 記念に一枚写真撮ろう!」

海未「記念って・・・こんな近所の駅の写真を撮って何の記念になるんですか・・・」

ことり「まあまあ♪」ギュ

海未「ひゃっ。も、もう仕方ありませんね」

穂乃果「もっと寄って」ギュー!

海未「ちょ、ちょっと苦しいですよ」

穂乃果「入った!」パシャ

穂乃果「よーし、この写真、雪穂に送ってあげよっと。『東京駅到着!』っと・・・」ポチポチ

海未「それ送ったら切符買いに行きますよ」



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高速バス切符売り場



海未「あの、札幌までのバスとフェリーを予約しているんですが」

店員「はい、少々お待ちください。今発行致します」

店員「これが切符になります。つづり式になっていますので、各交通機関を利用するときに下から一枚ずつ千切って使用してください」

海未「ありがとうございます」



穂乃果「大きい切符だね」

海未「今日から明日まで使いますから無くさないでくださいよ」

ことり「最初は東京駅→水戸駅の切符を切り離せばいいんだよね?」

海未「はい。乗り場はあそこです。あ、もうバスが停まっています。乗り込んでしまいましょう」



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東京→水戸駅行 高速バス車内



海未「座席指定とかは無いんでしょうね。どこに座りましょう」

穂乃果「結構混んでるねー・・・」キョロキョロ

海未「あ、後ろの方が空いてます。行きましょう」

穂乃果「窓側がいいなー」

海未「そうですか。ことりも窓側へどうぞ」

ことり「いいの? うん、ありがとう」


穂乃果「あ、ねえねえ、降りる所でもし私が寝ちゃってたら、ちゃんと起こしてね?」

海未「安心してください。私たちが降りる水戸駅が終点ですから。運転手に起こしてもらってください」

穂乃果「もー! 海未ちゃんが起こしてよっー! 運転手さんに起こしてもらうのって恥ずかしいじゃん・・・」

海未「冗談ですよ」

ことり「あはは」


海未「さ、座りましょう。よいしょっと」ズシン

ことり「海未ちゃん、その大きな荷物ずっと抱えて乗るんだよね。大丈夫・・・?」

海未「ええ、大丈夫です・・・とも言い切れませんが。まあ、2時間程なのでなんとかなります」

ことり「疲れたらことりの荷物と交換しよ」

海未「大丈夫ですよ。ことりの方こそ、このような狭くて混雑した車内に押し込んでしまって、なんだかすいません」

ことり「ううん。大丈夫だよ」


海未「・・・はあ、飛行機だったらもっと楽な移動になったと思いますが」

ことり「飛行機の料金はやっぱり高かった?」

海未「いえ、札幌までの一番早くて安い移動手段は多分飛行機です。新幹線やフェリーより安かったですね」

ことり「えっ? そうなの? 飛行機は高いってイメージがあったけど」

海未「もちろん飛行機は普通に乗ったら非常に高いです。ですが、数か月前から予約しておくと格安料金で乗れるみたいです。今回みたいに急に行くことを決めた場合、私が調べた限りではバスとフェリーが一番安かったですね」

ことり「へ~、そうなんだ」

海未「ただ、フェリーだと時間はかなりかかりますけどね。でも船上のゆったりした旅というのも情緒があって良いかと思って」

ことり「旅行は移動も楽しむべきだよね♪」



運転手「お待たせしました、水戸駅行高速バス発車致します。シートベルトの着用をお願い致します」



海未「えっと・・・シートベルトはどこに・・・」モソモソ... ← 巨大なザックを抱えて周りが見えない

ことり「海未ちゃん、これだよ」スッ

海未「あっ、すみません。ありがとうございます」



運転手「水戸駅には15時30分頃の到着を予定していますが、道路状況等によって到着予定時刻に変更が生じることがございますので、あらかじめご了承願います。なお、バス内は禁煙となっています」






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◇ 7月25日 13:40 晴れ



海未「首都高って周りの高層ビルジャングルの隙間を縫うようにあって、こうして改めて見ると、とても複雑怪奇な建造物ですねえ」



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ことり「そうだねー。こんな立体迷路みたいな所を迷わず走れるドライバーさんってすごいよねえ」


ゴソゴソ

ことり「海未ちゃん。ことりの手作りクッキーだよ。はい、あーん」

海未「ことりの手作り! 頂きますありがとうございます。あーん」パク, モグモグ

穂乃果「えっ?! ことりちゃんの手作り?! そんなのあったの?! 穂乃果も食べたい!」

ことり「どーぞ♪ はい、あ~ん」

穂乃果「ん~♪」パクッ サクサク

海未「もぐもぐ」



ことり「良い天気だねー」

海未「...ゴクン ええ、先日梅雨明けしましたからね」


ブロロロ


ことり「ビル群を抜けて視界が開けてきたよ」

海未「大きい川、隅田川ですね。あっ、ほら、向こうにスカイツリーが見えますよ」

ことり「ホントだ。あんなにたくさんのビルに囲まれているけど、すぐにスカイツリーだって分かるね」



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◇ 7月25日 15:30 晴れ 水戸駅 バスターミナル



運転手「はい、長らくのご乗車お疲れ様でしたー。まもなく、終着、水戸駅です」


ことり「ふあー、やっと着いた―。んーっ」ノビー

海未「ようやくですか・・・ちょっとお尻が痺れてきたところです・・・」

ことり「だ、大丈夫? 海未ちゃん」

海未「大丈夫です、鍛錬していますから」



運転手「お降りの際は落し物、お忘れ物が無いようお気を付けください。携帯電話、財布のお忘れ物が大変多くなっております。棚の上、座席ポケット、座席の下、足元周り、今一度ご確認願います」



海未「さあ、降りましょう。よいしょっと。忘れ物は無いですね?」

ことり「あ、あの・・・これ・・・」

これ↓
穂乃果「くかー、くかー・・・」zzz


海未「いいんです、放っておきなさい。運転手に起こされるところを動画で撮影して雪穂に送ってやりましょう」

ことり「ええー・・・」

海未「冗談です。起こしましょう」

ことり「うん。穂乃果ちゃーん。着いたよー」ユサユサ

穂乃果「ん・・・んあ?」パチ



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水戸駅前



穂乃果「ふあー! 良く寝たー! 天気もいいし気持ちーなー!」ノビー

穂乃果「早速写真撮ろうよ! ことりちゃん、海未ちゃんもこっち来て」

ことり「はーい♪」トコトコ

海未「ええ」

パシャ

穂乃果「ありがとー。よし、雪穂に送ろっと。『水戸駅着いたよー』っと」ポチポチ

海未「広くて綺麗ですね。水戸駅」


穂乃果「ねえねえ。次はどこに行くの?」

海未「次は路線バスに乗って大洗港に向かいます。といっても、次のバスまで結構時間があるんですよね。高速バスが遅れることを考慮して早めに出たのですが、予定通り着いてしまったので・・・。少し待たないと。すみません」

ことり「ううん、ゆっくりできて返っていいよ。バスが来るまでどこか喫茶店でも入る?」

海未「はい、いいですよ」

穂乃果「うーん・・・せっかくここまで来たんだから、ちょっと歩いてみない?」

海未「そうですね。水戸だって観光地ですし。歩きますか」


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穂乃果「あっ! 水戸黄門! 助さん、格さんも!」

海未「あれは水戸黄門の銅像ですね」

海未「隣に説明書きがありますね。ちょっと読んでみましょう」

穂乃果「なになに・・・・・・えっ? 水戸黄門って助さんと格さんと旅してないのっ?!」

海未「そうですね。実際は水戸黄門こと徳川光圀公が、学者である佐々木介三郎と安積覚兵衛(あさかかくべえ)らに史料収集のために全国へ旅をさせたことが、水戸黄門という物語の元になっているようです」

穂乃果「へー知らなかった。面白いなあ。これも写真撮って雪穂に教えてあげよーっと」

海未「メール送るの好きですね。今度は三人で写って撮らなくていいんですか?」

穂乃果「んー・・・。あっ! そうだことりちゃん」

ことり「なーに?」

穂乃果「ちょっと穂乃果のスマホ持って。写真撮って」スッ

ことり「うん? 分かった」

穂乃果「それから海未ちゃんは、穂乃果と一緒にあっち向いて。銅像の方ね」

海未「ええ・・・?」クル

穂乃果「そうそう、それで跪いて」

海未「・・・あっ、ああ。紋所を見せられている悪人の真似と言うことですか。嫌ですよ、何か悪い事をしたわけでもないのに跪くなんて」

穂乃果「ええー。でも、昔は偉い人が傍に来たら庶民はひれ伏さなきゃいけなかったんでしょ?」

海未「大名行列の事ですか? 確かに大名行列の近くをたまたま通りかかった町人はひれ伏す事もあったようですが、実際は大名側は町人に対してひれ伏す事をあまり積極的に求めていなかったらしいですよ。大名行列はその華美な様を見せるエンターテイメントの側面が強かったとか」

穂乃果「ふーん。海kiちゃん詳しいね!」

海未「どうも。ですが私はwikiではなくて海未です」


穂乃果「じゃあ、海未ちゃんが何か悪い事したって設定で! ひれ伏せて!」

海未「もうっ、しつこいですね・・・。まあ、いいですよ、やりましょう」ペタン

穂乃果「それじゃ、穂乃果も。ははーっ!」ペタン

ことり「穂むら屋の穂乃果衛門! おぬし、山吹色のほむまんを園田屋に食べさせて太らせようとしたであろお! その悪事! ゆるすまじっ!」

穂乃果「おぬしもわるよのー! ご慈悲をー!」

海未「なんですかそれは。私悪くないじゃないですか」

ことり「このスマホが目にはいらぬか~」カシャ

穂乃果「ははー」

ことり「うむ。おもてをあげーい。えへへー。二人ともばっちり撮れたよー♪」

穂乃果「ありがとー! 海未ちゃんもありがとう!」

海未「どういたしまして」パッパッ

穂乃果「この写真も雪穂に送るよ~。『スクープ! 海未ちゃんはやっぱり悪代官だった・・・!』・・・っと」ポチポチ

海未「ちょ、ちょっとそれはどういう意味ですか! そのメール送るの待ちなさい!」ガシッ

穂乃果「もう送っちゃった、てへ☆」ピロリン

海未「あなたという人はー・・・!」ワナワナ







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◇ 7月25日 16:30 晴れ 水戸駅 バスターミナル



海未「えっと」オロオロ

ことり「バス来ないね・・・」

海未「どうしてでしょう・・・? もう時間は過ぎているはずなのですが・・・・」

海未「乗り場が違ったのでしょうか・・・・? 何度か確認しましたが、ここのはずなんですけど・・・」

穂乃果「ちょっと遅れてるだけだってー。そんなに慌てないで待ってようよ」

海未「そうは言いますけど・・・もしフェリーに乗り遅れてしまったら後が無いんですよ・・・・やはり、ここじゃないのかも」

穂乃果「さっきから何回も確認してるじゃん。海未ちゃんは心配しすぎだって」



        ブロロォ... キィ >


ことり「あ! あのバスじゃない? フェリーターミナル経由って書いてあるよ」

海未「え? あっ、あれです。・・・・よかった。間違ってなかった」

穂乃果「ほらね。途中でたくさんお客さんを乗せてたから、ちょっと遅れてただけだって」

海未「そのようです。すみません取り乱して。よく知らない土地で予想外の事が起きてしまうと、どうしても不安になってしまって」

穂乃果「まあまあ。それも旅の楽しみのうちじゃない?」

ことり「穂乃果ちゃんは前向きだねー」

穂乃果「え? そう? えへへー」

海未「ただ単に能天気なだけという気もしますが」

穂乃果「もう、そんなに褒めないでよー。でへへ」

海未「い、いえ、あの・・・もういいですなんでも。あ、後ろドアが開きました。乗りましょう」

穂乃果「え? バスって後ろから乗るの?」

海未「このバスは乗る場所、降りる場所によって料金が違うので後ろ乗り後払いのようです。乗る時に整理券を受け取って降りるときにお金と一緒に料金機に入れるんです」

海未「ただ、今回は東京駅で買った切符がありますので、お金の代わりに、この切符と整理券を入れればいいはずです」

穂乃果「へー。都バスはどこで乗り降りしても料金は一緒なのに」

海未「バスは地域によって乗車や料金の支払いルールが結構違うものなんですよ」







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◇ 7月25日 16:50 晴れ 大洗町



穂乃果「なんだかだんだん下町っぽくなってきたね。見慣れた光景に感じる」

ことり「うん、穂乃果ちゃんちの周りに雰囲気が似てるかも」

穂乃果「それとさあ。さっきから気になってたけど、なんだかアニメの旗とかポスターがあちこちにあるね。古そうなお店屋さんの窓にも張られてる」

ことり「そうだね。なんだか下町の風景と不釣り合いな気がするけど」

穂乃果「アキバ程派手ではないけど、なんだろうあれ。海未ちゃん分かる?」

海未「え? そうですねえ。私も詳しくは分からないのですが、あれは『ガールズ&パンツァー』(ガールズ アンド パンツァー、GIRLS und PANZER[注釈 1])は、2012年10月から同年12月までと2013年3月に放送された[注釈 2]日本のテレビアニメ。全12話+総集編2話。略称は「ガルパン」と呼ばれるあれですね。ガルパンは、ここ大洗港が舞台となっているので、町おこしの一環でこのように町全体で大々的にガルパンを宣伝しているようです。ちなみに、あちらに見える大きな大洗港の灯台は、展望部がガルパン喫茶になっています。アニメに関連した様々な展示物や登場キャラクターにちなんだ飲食メニューを提供しているそうですよ。ちょっと前の大洗町や水戸ではロシア船を大洗港に入港させるなと主張する人々で騒然としていた時期もありましたが、今は静かで平和な町のようですね」

穂乃果「そうなんだー。教えてくれてありがとう海kiちゃん!」

海未「どういたしまして。ですが、私の名前はwikiではなく海未です」


ことり「あっ、港が見えてきたよ! 大きな船も!」

穂乃果「おおっ! あれに乗るのかな~?」






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大洗港 フェリーターミナル

受付で上船名簿を記入し、乗船券の発行を終え、待合室まで来た三人



穂乃果「ここからだとあの大きな船よく見えるね~。写真撮って雪穂に送ろうっと」カシャ

ことり「ねえねえ、乗る船ってあれなの?」

海未「えーっと・・・はい、船の名前からしてそうですね」

ことり「へー。どんな乗り心地かなぁ。楽しみ~」

穂乃果「あれに乗船するんだー。・・・・・おっ、んふふ」

海未「穂乃果? どうしたんですか」

穂乃果「いや~、ちょっと気になったんだけどさぁ~」

海未「はい? なにが?」


穂乃果「ああいう大きな船だと、希ちゃんが乗りたそうじゃない?」

海未「希? 何故希の名前が急に出てくるんですか? 希が船マニアだとかいう話は特に聞いたことありませんけど」

穂乃果「いや~ だからさ~」

海未「もうなんなんですか。さっきから思わせぶりな口調で。言いたいことがあるならはっきりと言ってください」

穂乃果「もしかしたらさ~。希ちゃんが いきなりさ、 とうじょうせん のかな~・・・って思っちゃってさあ! んっふふふふww」プクク

海未「・・・・」

ことり「・・・・・・ひっくち」

穂乃果「・・・あっ、あのね? 今のはね? 希ちゃんの東條と登場が乗船にかかった―――」 



アナウンス『大変長らくお待たせいたしました。只今より苫小牧行きフェリーへの乗船を開始いたします』



海未「さ、ことり、行きましょうか。穂乃果は “搭乗せん” そうですから」スタスタ

ことり「あ、あはは・・・」

穂乃果「うわ~ん! 待ってよー!」タタッ






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大洗港→苫小牧港行 フェリー船内



 < ピンポンパンポーン

アナウンス『本日はご上船頂きまして誠にありがとうございます。本船は大洗港発、苫小牧行きでございます。お車でご上船のお方にご案内申し上げます―――』



テクテク

海未「えーと。あっ、ここです。今日の私達の宿泊部屋です」

穂乃果「へー、広いねー」

海未「広いと言っても、他のお客さんとの相部屋ですよ」


ザワザワ

ガヤガヤ


ことり「本当だ、人がいっぱいいるね」

海未「えっと・・・随分小さい布団が所狭しと並べられていますけど、これ一つが人一人の布団なのでしょうか・・・?」

ことり「う、うーん・・・・」





アナウンス『―――変わりましてカジュアルルーム、エコノミールームご利用の方にご案内申し上げます。

お部屋は乗船券に書かれております、お部屋の番号、お席の番号をご確認の上、指定のお席をご利用くださいませ。

また、お手荷物を入れる収納棚は皆さま共用でございます。譲り合ってご利用ください。

なお、カジュアルルーム、エコノミールームは禁煙でございます。おタバコをお吸いになる方は所定の喫煙コーナーをご利用ください―――』



海未「あ、ありました。私達の場所はここの3つですね」

ことり「んっんー・・・。近くで見ると本当に細長い布団だねー・・・」

海未「細いなんてもんじゃないですよ・・・・。普通に寝ても肩がはみ出るんじゃないですか、これ?」

ことり「う、うん・・・隣の人と当たっちゃいそう・・・・」

海未「荷物を置く棚も人数分無くて、他の方との共用ですし・・・」

海未「なんか、すみません・・・・・。とくにかく安く行けるようにと思ってエコノミールームを予約しましたが・・・・ここまで遊びの無いエコノミーだったとは・・・」

ことり「あはは・・・・」


穂乃果「まあまあ、二人とも。そんなにがっかりしないでさ。悪いことばっかりじゃないよ、きっと」

海未「・・・悪くないことって何ですか?」

穂乃果「それは、例えばー」

ことり「例えば?」

穂乃果「んー・・・。あ、そうそう! 例えば、隣の知らない人と旅のお話をしたりとか!」クルッ


穂乃果「こんにちはー! どちらからいらしたんですかー?」

外国人「What?」

穂乃果「おわっ?! 外国人だ!」

海未「ことり・・・? じゃなかった、本当に外国の方ですよ!」

穂乃果「は、はろー・・・」

海未「ちょ、ちょっと穂乃果っ。いきなり話しかけたら失礼ですよ・・・」オロオロ

外国人「Hello! I came from Australia. Where are you from?」

穂乃果「えっと・・・?」

海未「穂乃果っ。どこから来たか聞いているんですよ」ボソボソ

穂乃果「ああ! よし!・・・あい、あむ、ふろむ、おとのき」

外国人「Otonoki?」

海未「音ノ木だけでは伝わりませんよ。東京と言わないと」ボソボソ

穂乃果「い、いえす! 音ノ木、いず、東京」

外国人「Oh! Tokyo. I will go to Tokyo after sightseeing in Shiretoko.」

穂乃果「へー?」 

海未「北海道を観光した後に東京に行くとおっしゃっているようですよ・・・多分」

穂乃果「えっ! そうなの? じゃあ、うちのお饅頭買ってほしい!」

海未「ちょ、ちょっと穂乃果・・・失礼ですってば・・・」オロオロ


外国人「?」

穂乃果「ぷりーず、かむ、穂むら」

外国人「Homura? What is Homura?」

穂乃果「ちょっと待ってね。今朝私が作ったお饅頭いくつか持ってきたんだ」ゴソゴソ

穂乃果「あった。はい、一つ召し上がれ」スッ

外国人「?」

穂乃果「これ食べてみて。えっと・・・ぷりーず、いーと」

外国人「Sweets?」

穂乃果「いえす! いえす! じす、いず、すいーつ!」

外国人「Thank you.....」 chomp chomp

外国人「Oh!」

穂乃果「へ?! な、なに?」

外国人「Very delicious! Is this a Homura?」

穂乃果「おー? デリシャスってことはおいしかったってこと?」

海未「え、ええ。気に入ったみたいですよ。でも、お饅頭が穂むらのことだと勘違いされているようです」

穂乃果「あー違う違う。じす、いず、お饅頭」

外国人「Omanju.」

穂乃果「いえす。お饅頭」

外国人「I wanna eat more Omanjus. And, I wish share some Omanjus with my family. Where can I get some Omanjus?」

穂乃果「んー?」

海未「・・・・?」オロオロ

外国人「Just moment.」 rustle rustle

穂乃果「おおっ? タブレット取り出して何か操作してる」

外国人「Hmm....Japan......OK, here.」flick scroll

穂乃果「これは・・・日本地図?」

外国人「Please show me the location of Omanju.」

穂乃果「ああ、お饅頭が欲しいからどこで買えるか知りたいのかな? ちょっと待ってね」シュッシュ

穂乃果「地名が全部英語だけど、形でわかるから大丈夫だね。えっと、ここが東京駅でー」

外国人「Yes. Tokyo Station. I know」

穂乃果「ここのちょっと上・・・・ここら辺」

外国人「Akihabara? I know that Akihabara is a greatest shopping street for electrical products in world. I'm going to buy a camera of Japanese make there. RICOH! CANON! NIKON! WHoo!! I want!」

穂乃果「アキバじゃないよー。近いけどね。ちょっと待ってね・・・・あった、ここらが音ノ木だよ」

外国人「Otonoki City?」

穂乃果「いえーす。それでー、穂むらはー・・・・」 シュッ シュッ

穂乃果「ここ! じす、いず、まいほーむ」

外国人「Oh, really? Your home is near Akihabara. Nice location.」

穂乃果「じす、いず、穂むら」

外国人「Homura?」

外国人「いえす。穂むら、いず、まいほーむ。お饅頭、しょっぷ」

外国人「Ahh, OK. I understood. The Homura is Omanju shop and your home. That located in Otonoki City, Tokyo.」

外国人「I will go to the Homura after buy a camera.Thank you very much. Arigato」つ


穂乃果「おー? 握手ってことかな?」

穂乃果「おーけー、サンキュー」ギュ

外国人「Have a nice trip!!」 shake shake

穂乃果「お、おー。パワフルな握手。これがわーるどわいど握手か・・・!」


穂乃果「えへへ、うちの宣伝しちゃった」

海未「も、もう、冷や冷やしましたよ・・・」

ことり「ホントだよ~・・・穂乃果ちゃん勇気あるねー」

穂乃果「そうかな? すごくいい人だったよ」

海未「確かに、今回はたまたまいい人のようでしたが・・・とにかく気を付けてくださいよ」

穂乃果「心配しすぎだよー」



アナウンス『―――続きまして、本船最上階のレストランよりご案内申し上げます。
お一人1900円、お子様1050円のバイキングでございます。お食事ご希望なさいますお客様はレストラン入口のチケット販売機にてお食事券をお買い求めの上―――』



穂乃果「レストランだって! 行こうよ!」

海未「そうですね、行ってみましょうか」






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展望レストラン



穂乃果「バイキングってことは食べ放題! いっぱい食べるよー」

海未「太りますよ」

穂乃果「わー。フルーツ! パイナップルにキウイ、サクランボ、そしてメロン! ・・・イチゴは・・・無い」シュン

穂乃果「杏仁豆腐もある! フルーツポンチ!」

穂乃果「全部食べたい・・・・!」

穂乃果「んっ? この中には何が入ってるんだろう・・・?」パカッ

穂乃果「こ・・これは!」

穂乃果「イチゴアイス!! これは絶対食べる!」ヒョイ

海未「穂乃果! そういうのは最後になさい! 溶けるでしょうが」

穂乃果「うぅ・・・ふぁ~い・・・」


海未「全く・・・・さて、私は何を食べましょう」

海未「ちらし寿司に蕎麦、どちらもおいしそうですね。あっ、筑前煮は食べたいですね」ヒョイ


ことり「アボガドとエビのサラダ♪ 豚しゃぶサラダ♪ ブイヤベースも食べよっと」ヒョイヒョイ

ことり「ふあああ♪ チョコケーキにチーズケーキ♪ デザートはこれで決まり!」




 ~食べ物を取って、海が見える窓側の席へ~



ことり「ほ、穂乃果ちゃん・・・。それ、全部食べるの?」

穂乃果「うん!」

海未「穂乃果・・・。たくさん食べたいのは分かりますが、せめて少しずつ取って、それを全部食べ終えてから、別の料理を取りに行くようにしてください」

穂乃果「はーい。ごめんなさい」

ことり「あはは。穂乃果ちゃんらしいね」

穂乃果「うん! それじゃあ、いただきまーす」

ことうみ「「いただきます」」



---------------



穂乃果「ふー。おいしかったあ!」

ことり「すごい穂乃果ちゃん。あんなにあったのに全部食べちゃった」

海未「まあ、気持ちは分かります。本当においしかったですから、いくらでも食べられそうです」

ことり「ふふ。それじゃあ、穂乃果ちゃん」

穂乃果「うん! ことりちゃん」

海未「? なんです?」

ことほの「「デザートだよ!」」

海未「ええっ? まだ食べるんですか? 穂乃果はさっきフルーツを食べていませんでしたか? あれがデザートではなかったのですか?」

穂乃果「あれは副菜だよ! ほぉら! 海未ちゃんも取りに行こう!」

海未「い、いえ・・・私はもう十分頂きましたので・・・」

穂乃果「えー。海未ちゃんもういいの?」

海未「は、はい」

ことり「そーぉ・・・? せっかくのバイキングなのに・・・。じゃあ、穂乃果ちゃんと二人で取りに行ってくるね・・・・」ウルッ

海未「っ・・・。な、なんて悲しそうな声で言うのですか・・・わ、分かりました、やはりわたしm―――」

穂乃果「ほらほらことりちゃん行くよ! イチゴアイス! イチゴアイス!」タタッ

ことり「スイーツ♪ スイーツ♪ せっかくのバイキングだから、いっぱい食べましょ~♪」タタッ

海未「あれ?」ポツーン



---------------



穂乃果「はー! 満腹! 幸せ~」

ことり「ケーキおいしかったあ」

海未「二人ともよくあれだけ食べられましたね。別腹ってやつですか」

穂乃果「まーそんなとこだねー」


穂乃果「ふー」チラッ

穂乃果「海、綺麗だねー」

ことり「うん♪ そうだねー♪」ニコニコ

海未「あ、あの・・・どうして私の方をじっと見ているんです?」



 < ピンポンパンポーン

アナウンス『本船船長よりご案内申し上げます。本船は定刻通りに大洗港を出港致しました。

また、明日の苫小牧港入港時の天候は晴れ、気温は27.2℃の予報です。全行程750㎞をスピード22ノット、時速約41㎞で航走します。

海上の風は南よりの風で5mから10m前後の風が吹きます。波浪は、本船後方の右後ろから約1m前後の波を受けながらの航海となり、比較的穏やかな航海ができるものと思われます。

航海全般を通じて大きな揺れは無いものと思われますが、波の船体の当たり具合によっては多少は揺れるところがありますので、身の回り品、足元、ドアの開閉、階段の上り下りには十分ご注意ください。

なお、本船に船医は乗船しておりません。あらかじめご了承ください。

約19時間の船旅でございますが、どなた様もごゆっくりお過ごしください。本日はご利用ありがとうございます』



穂乃果「へー。19時間もかかるんだ」

海未「ええ。のんびり気長に乗っていましょう」



アナウンス『変わりまして、展望浴場の案内申し上げます。ご利用の時間は22時、夜10時までご利用いただけます。浴室にはシャンプーとボディソープのご用意がございますが、タオルはお客様ご自身でご用意くださいませ。また、脱衣所内には100円硬貨返却式のコインロッカーがあります。どうぞご利用くださいませ』



穂乃果「お風呂かあ。ちょっと船の中を冒険して、それからお風呂入りに行こうよ」

海未「いいですね」

ことり「行こう、行こう」

穂乃果「それじゃ」

ことほのうみ「「「ごちそうさま」」」



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売店



穂乃果「色々置いてあるね~」

海未「見てくださいこれ。熊肉カレーですって」

ことり「クマさんって食べられるの?」

海未「ええ、そうみたいですね。・・・ちょっと気になったのですが、この肉はどうやって供給されているのでしょうか。牛や豚と違って家畜化されている訳じゃあるまいし」

穂乃果「きっと人が山に行ってサケと交換してもらうんだよ。

 クマ『サケありがとー。今日は脚のお肉ちょっとあげるくまー』ブチッ

ってな感じで!!」

海未「気持ち悪いですね、ヒトデじゃあるまいし」

ことり「ねえねえ、クマさんってどんな味がするのかな?」

海未「さあ。肉食獣の肉は臭みが強くておいしくないという話は聞いたことありますが、どうなんでしょうね」

ことり「これから行く北海道でクマさんやっつけたらそのお肉食べられるかなあ?」ジュルリ




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甲板



穂乃果「おお、すごい大海原! 写真撮って雪穂に送ってあげよ」カシャ

海未「甲板上は風が少し強いですけど、開放感があって気持ちがいいですね」


穂乃果「あれ、なんか白いのが写った。羽があるような・・・あっ?! これってスカイフィッシュじゃない?! スカイフィッシュだ!! 海未ちゃん大変!! ほら見て! ほらほら!! スカイフィッシュを撮影しちゃったよ!! 大発見だ!! 早く雪穂に送らなきゃ!!」ポチポチ

海未「それはブレて写ったカモメです」


ことり「うみちゃーん、もっぎゅー」ギュ

海未「これは海鳥です」


穂乃果「あれあれ?? メール送れないよ? なんで・・・あっ! 分かった! スカイフィッシュが電波を食べちゃったんだ!! スカイフィッシュ恐るべし・・・!!」

海未「それは太平洋上に携帯電話の中継器がないからです」



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展望ラウンジ



ことり「わ~。いい眺め」

海未「カウンターテーブルや、海が見えるガラス窓の前にはソファーが置いてありますね。外の甲板と違って、ここには風はないですし、寛ぐのに良い場所ですね」

穂乃果「そうだね~」キョロキョロ ウロウロ


穂乃果(あ、あそこにいる人、タブレットに何か打ち込んでる。お仕事かなあ? どんなやつだろう?)チラッ

 俺「 」果南「あれ? 善子どうしたの? こんな遅くまで」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssr/1477406911/)

穂乃果「!!?///」ビクッ

穂乃果(え・・・えっちなやつだった・・・!///)

穂乃果(こんなにたくさん人がいるところでなにやってんのっ?! こういうのって一人でこっそりやるもんじゃないのお?!! 信じらんない! サイテーっ! 死んじゃえばいいのに!)

海未「穂乃果、どうしました?」

穂乃果「!! う、ううん! なんでもないよ! こ、ここはもういいからお風呂行こうよ!」グイグイ

海未「あっ、ちょっと、穂乃果」

穂乃果(あんなの書いてるところ海未ちゃんが見たら、海未ちゃん暴れて他のお客さんにも迷惑かけちゃう・・・!)

ことり「おっ風呂♪ おっ風呂~♪ 自分のシャンプーとリンス持って行かなきゃ」






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展望浴場



穂乃果「わーすごい! ここもガラス張りになっていて海が見える! 露天風呂みたい!」ザバザバ

ことり「ずっと向こうに本州の街明かりがうっすらと見えるね。きれいだね~」

海未「穂乃果。あんまり窓ガラスの前に立つと、本州にいる人に裸を見られてしまいますよ」

穂乃果「ええっ!?」ザバッ

海未「そんな訳ないじゃないですか。物凄く距離がある上に、日だって落ちているのです。望遠鏡を使ったって見えはしないですよ」

穂乃果「ううっ。海未ちゃんの意地悪」

ことり「はぅぅ。気持ちー」チャプ




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入浴後 脱衣所



穂乃果「ふーさっぱりした」ゴシゴシ

穂乃果「おっ、あれは・・・」

穂乃果(体重計かな? 近くで見てみよう)

穂乃果(おお、これって体脂肪とか測れるやつじゃないかな)

穂乃果(・・・・ちょっと測ってみようかな?)

穂乃果(他の人には見られたくない・・・特に海未ちゃんには・・・)チラッ



海未「あら? ドライヤーが一個しかありませんね」

ことり「本当だ。不便だねー」

海未「ことり、座ってください。先に乾かしてあげます」

ことり「えー? 海未ちゃん先でいいよ」

海未「まあまあ、そう言わずに、ほら座って座って」

ことり「そお? じゃあお願い、海未ちゃん」

海未「はい」カチッ ブォー

ことり「んん~♪ 気持ちい♪」



穂乃果(ことりちゃんの長い髪を乾かしてる。よ、よし、今のうちに・・・)ノシッ ピピ

穂乃果(体重は・・・・ああ、液晶が曇ってよく数字が見えないなあ)ピピ

穂乃果(次は、BMI? なんか聞いたことあるけど、この数字だけじゃいいのか悪いのかよく分かんないや)ピピ

穂乃果(お、ついに体脂肪率が・・・)ピピ

穂乃果(・・・・! え、ウソ?!)



ことり「海未ちゃんありがとー。交代しよ」

海未「はい、お願いしますね」



穂乃果「海未ちゃん! 海未ちゃん!」

海未「な、なんですか、いきなり」

穂乃果「ねえ、こっちきて!」グイグイ

海未「わ、ちょ、ちょっと」


穂乃果「ほら! これ見て! これ!」

海未「これは・・・体重計ですか?」

穂乃果「そうだよ! 体脂肪率とか測れるやつ」

海未「はあ・・・そうですか。それで、穂乃果の体zy
穂乃果「この数字見てよ! これが穂乃果の体脂肪率だよ!」

海未「はい? えーっと・・・きゅ?! 9%・・・!?」

穂乃果「そーだよ! ふふん! どう? 穂乃果のことちょっとは見直した?」

海未「そ、そんな・・・・。プロのアスリート並みじゃないですか・・・! スケートの浅田真央選手が7%と聞いたことがありますが・・・」

穂乃果「えへへー。こっそりパン食べたり、ベッドの上で寝ながらお菓子食べててもこれだから、実は穂乃果は脂肪を溜めない体なんだよ! だから海未ちゃんの【ダイエット ギリギリまで 絞るプラン】なんてもうやらないからねーっ♪ ぬふふぅ♪」

海未「っく、ぐぬぬ」


ことり「あ、あのー・・・穂乃果ちゃん?」

穂乃果「ん? どうしたの? アスリート穂乃果が何でも答えちゃうよ!」

ことり「えっと、言いにくいんだけどね・・・・・。これと同じような体重計、家にもあるんだけど・・・・」

穂乃果「うんうん♪」

ことり「ことりがやっても、測る度に数字が全然違うことがあって・・・・」

穂乃果「ほうほう」

ことり「特にお風呂上りはすごく数字が低くて・・・・」

穂乃果「へえへ―――・・・へっ?」

ことり「それで、体重計の説明書見たら、正確な測定方法じゃないから、実際の体脂肪率とは大きな誤差が出るもの・・・なんだって」

穂乃果「・・・・・・」

海未「ほう・・・・ということは、この9%という数字もデタラメ、ということですね」

ことり「・・・う、うん」

海未「道理でおかしいと思いましたよ」

穂乃果「」ダラダラ

海未「なんでしたっけ? こっそりパンを? 食べている? ベッドの上で? お菓子を食べている?」

穂乃果「」ダラダラ

海未「そんな方の体脂肪率が、まさか9%なんて、ありえませんね」

穂乃果「」ダラダラ

海未「まあ、正確な体脂肪率が測定できないのは仕方ないとしても、体重は正確に測れるでしょう。ついでにBMIも」

穂乃果「!」

海未「それで? 体重はいくらだったのですか? BMIは?」

穂乃果「・・・・」メソラシ

海未「穂乃果?」

穂乃果「ヒュー、ヒュー~♪」メソラシ

ことり「多分ここのボタンを押したら結果が表示されると思うけど」

穂乃果「こ、ことりちゃん! なんで言っちゃうの!?」

ことり「ちゅん!」

海未「なるほど、それでは早速・・・」スッ....

穂乃果「ひー! それだけはダメー!」ガシッ

海未「離しなさい!」

穂乃果「乙女の体重は国家機密なのー!」ジタバタ

海未「そんな国家機密があってたまりますか!」ジタバタ

穂乃果「お願い! なんでもするから~」ジタバタ

海未「だったら、規則正しい生活習慣をですね・・・!」

穂乃果「うわーん!」


  ピッ ピッ
ことり「へ~・・・・。これが穂乃果ちゃんの・・・・ふふっ♪」メモメモ







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エコノミールーム
布団で寛いでいる三人



ことり「むむむむ・・・・」

海未「んんっ、んぬぅ・・・! ――あっ」

バラバラ~

ことり「ふぁあああ!」
海未「あ゙あ゙ぁぁぁ~・・・・」ガクッ

穂乃果「揺れる船の上でトランプタワーは無謀だよ~」

外国人「HAHAHAHA. Is that metaphor of the political revolution in USA?」



 < ピンポンパンポーン

アナウンス『22時でエコノミールームとカジュアルルームは夜間照明となるので、歩く際は十分に注意してください。明日は午前6時から大浴場が利用できます。午前7時からレストランが開始です。緊急の際はフロントの電話でお知らせください』



穂乃果「消灯? もうそんな時間か~。トランプやめて寝よっか」

穂乃果「そうだサリーちゃんを出さなきゃ」ゴソゴソ

ことり「あっ、いつも穂乃果ちゃんのベッドの上にいる子だ」

海未「確か雪穂からもらったうさぎのぬいぐるみでしたっけ」

穂乃果「うん。いつも一緒に寝てるの」

海未「私も枕カバーを付けないと」

穂乃果「海未ちゃん旅行の時いつもそれ持ってきてるよねー。家の匂いがすると安心するからだっけ?」

海未「ええ。ですからことりが枕を持っていく気持ち、よく分かります」

海未「さて、寝るのはいいのですが、相変わらず細い布団なので隣の方とぶつからないよう注意しないといけませんね」

穂乃果「大丈夫だよ! 三つの布団をぴっちりくっつけて、真ん中のことりちゃんを、ぎゅ! ってすればっ」ギュ

ことり「ぴっ///」

海未「なるほど。あっ、確かにちょっと布団が広くなった気がします」ギュ

ことり「えへへ、両手にお花///」

穂乃果「それじゃおやすみ~」
ことり「おやすみ」
海未「はい、おやすみなさい」







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◇ 7月26日 2:00 晴れ



穂乃果「くか~・・・」zzz

海未「・・・・・」


海未「・・・・」ムクリ

海未「・・・・はあ」

海未(・・・眠れません)

海未(幅の狭いベッド・・・。ことりにくっついて寝るのはいいのですが、それでも反対の隣の方との距離が近いですから、ぶつからないように気を張り詰めていないといけないし・・・)

海未(それに、常にユラユラと揺られていて体の感覚がおかしくなるような・・・。船だから揺れるのは当たり前なんですが・・・)


ゴォォォォォ

海未(船のエンジン音でしょうか。低くて重い音がずっと鳴り響いてもいますし)


  ガチャ、バタン...   ガチャ、バタン....

海未(トイレに行かれる方ですかね。エコノミールームの重たい鉄扉を開け閉めする音が気になって・・・。多人数が利用している部屋だから、何度も扉の開け閉めがあります・・・)


グォー! ガー!

海未(すごいいびきの人がいますね・・・。何かの病気なんじゃあ・・・?)


フエックション!...
ゴホッゴホッ...

海未(くしゃみや咳している人がいます)


エホッ!, ゴホッ! ウェ... ゴホゴホ!

海未(さっきから咳こんでいる方、大丈夫でしょうか。この船にお医者様は乗っていないとアナウンスでありましたが・・・)

海未(・・・この部屋はなんだか埃っぽいですね。喉に絡みつくような変な臭いが充満しているんですよ。・・・・咳き込んでしまうのも無理ないのかも)


ブッ! ブー....ブブ

海未(い、今のは、おならですか・・・? こんなに大勢の人がいる中で・・・なんとデリカシーの無い・・・)



海未(はあ・・・・とてもじゃありませんが、眠れませんよ、こんな環境では・・・)

海未(眠りを妨げられるのは許しがたいですが・・・まさか面識のない不特定多数の人に制裁を与えるわけにはいかないし・・・)


海未(穂乃果とことりはちゃんと眠れていますかね?)チラッ

穂乃果「くかー・・・かー・・・」zzz

海未(ことりに寄りかかって完全に寝てる・・・うらやましい)

....モゾッ

海未(おや? 穂乃果の隣に寝ている外国人の方が動きました)

外国人「zzz.....」kick

ゲシッ

穂乃果「ぐっ」

海未(あ・・・外国人の方が寝相で穂乃果に蹴りを・・・。さすがにあんなことをやられたら起きちゃいますよ)


穂乃果「むにゃ・・・すー・・・くかー・・・」

海未(・・・・何事も無かったかのように眠り続けてる・・・信じられません)

海未(ともかく、隣の人との距離がすごく近いですから寝相で蹴られるなんてことも普通にあるんですね・・・。ことりを真ん中にして正解でした)

海未(そういえば、そのことりは眠れているでしょうか)チラッ


ことり「・・・・」バッチリ

海未「・・・・」


海未「・・・起きていたんですね、ことり」ボソッ

ことり「・・・うん」ボソッ

海未「やはり眠れませんか?」

ことり「・・・うん」

海未「私もです。・・・はあ」


ことり「・・・・」

海未「・・・・」


海未「ことり。良かったら・・・」

ことり「うん?」

海未「少し、甲板に出てみますか?」

ことり「うん!」ニコ

海未(ふふ、暗がりでもよく分かるくらいに笑顔ですね。眠れなくて嫌な気分だったのがどうでもよくなってきました)


ことり「穂乃果ちゃんごめんね」ゴソゴソ

穂乃果「んにゃ・・・」

海未「大丈夫ですか? 手を貸しましょうか?」

ことり「ううん。大丈夫だよ。ありがとう。・・・・あ」

穂乃果「うぶっ」コテッ

穂乃果「・・・・すー、すー、んー」zzz

ことり「ああ・・・」

海未「ことりのまくら、取られちゃいましたね」

ことり「もー。ホノカチャーン」

海未「ふふ、さ、行きましょう」

海未「私が手を引きます。足元暗いので気を付けてください」スッ

ことり「うん。ありがとう」ギュ

...テクテク




海未(この部屋の出入り口の鉄扉。さっきからこの扉の開け閉めの音が気になって気になって・・・)

海未(ゆっくり動かせば音は鳴らないんじゃ・・・?)

海未(ゆっくりドアノブを回して・・・)スッ...
カチ.....

海未(ゆっくり扉を開けて・・・・)
キィ....

海未(開いた)

海未「さ、ことり。どうぞ」

ことり「うん」テクテク

海未(出たら、ゆっくり閉める・・・)
タン....

海未(やっぱり。このドア、ゆっくり開け閉めすればそんなに音は鳴らない。皆さんこれくらい静かにしてくれたらいいのに・・・・)

テクテク



 ~甲板出口の扉~



海未「んっ。この扉は結構重たいです」ググッ

ブワッ

海未「わっ?! 風圧で押されていたんですね。んっ、よいしょっと」ガチャ

海未「さ、ことり、出られますよ。足元の段差に気を付けてくださいね」

ことり「うん。ありがとう」


 ビュー

ことり「うー。風強いね」 髪抑え

海未「海上ですし、船もそれなりのスピードで動いていますからね。寒くはありませんか?」髪抑え

ことり「うん、大丈夫」

海未「とりあえず、階段を上って上の方に行ってみましょうか」

カン カン カン



 ザーー
 ボォー

海未(・・・私達が今乗っている大きなフェリーが波を切り裂きながら力強く海を走っています。それを確かに思わせる、大きくて重たいエンジン音が船上に響いて・・・聞こえる音はそれだけ。寂しく感じます)


ことり「甲板には・・・誰も居ないね。海は・・・。真っ暗・・・何も見えない」

海未「海上は本当に何も光源がないんですね。暗い闇が無限に広がっているようです。本州の街明かりも全く見えないということは、遠い沖合を航行中なんでしょうね」

ことり「そっかあ」


海未(強い風に揺らされる髪を抑えながら私とことり。波の音を聞き、闇夜の海を眺める)

海未(すこし寂しいと思ったここだけれど、ことりに傍にいて頂いて、ことりと言葉を少し交わして・・・そうしたら心穏やかな気分になって、居心地が良くなった気がします)



ことり「・・・・夜の海って、海未ちゃんみたい」

海未「えっ? 私ですか?」

ことり「うん。静かで、優しくて、落ち着いてて・・・。うふ、だいすき♪」

海未「そ、そうですか・・・///」

ことり「そうです♪」


     ピカッ

ことり「あ。あれは・・・?」

海未「んん? ずっと向こうで何か光っていますね」

ことり「星かな?」

海未「うーん・・・。あんな低い位置にあれだけ明るい星・・・。カノープス? ・・・それにしては金星より明るいような・・・」

ことり「海未ちゃん、星に詳しいの?」

海未「いえ、あまり。ただ、以前希に少し教えて頂いたので」

ことり「そうなんだ。星のことまで詳しいなんて、希ちゃんは不思議な人だよね」

海未「はい。希の知識というか、人間性は底が知れません。だからといって、それは不気味さを感じさせるものではなく、包み込んでくれるような優しさというか・・・」

ことり「うんうん。お母さんみたいな人だよね」

海未「お母さん・・・ですか・・・」

ことり「違う?」

海未「いえ・・・そのような気もしなくはないのですが。ただ、しょっちゅう凛と結託して私をからかってくる面もあるので・・・・」

ことり「クスクス。お茶目な一面もあって、面白いよね♪」

海未「ま、まあ、そうとも言えなくもないですね」

ことり「あはは。あっ・・・あれ? あの星、少し明滅してない・・・?」

海未「おや、そうですね。あっ、もしかして、あれって星じゃなくて船じゃないでしょか」

ことり「ああ、船かあ。イカ釣り漁船みたいな?」

海未「ええ、きっとそうです」


ことり「本当の星は見えるかな?」クル

ことり「わっ・・・」

海未「そういえばこんな海上では街明かりはありませんし、良く見えるはずですよ」クル

海未「あっ・・・・」

ことり「わあ・・・これって・・・」

海未「え、ええ・・・・・」

ことり「すごい・・・」

海未「本当に・・・。あっ、そうだ」キョロキョロ

ことり「海未ちゃん?」

海未「えーと、どこかに・・・・」キョロキョロ

海未「あ、あそこがいいです。ことり、ちょっとこっちへ」タッ

ことり「え? う、うん?」トコトコ



  ~船尾の機械室の裏側~



海未「きっとここの方がずっと良いです」

ことり「良いって?」

海未「さっきの所は蛍光灯がたくさん点いていましたからね。ですがここには光がありません。ここならもっとよく星が見えるはずです」

ことり「なるほど」

海未「ええ。それでは、見上げてみましょう」

ことり「うん」







  ゚*・:.。☆ キ ラ キ ラ ☆。.:・*゚


ことうみ「「わあ.....」」

ことり「きれい・・・・」

海未「ええ・・・天の川も見えます・・・。美しい・・・。都心では決して見られない光景です」

ことり「星の海だね」

海未「街明かりも無い、月も出てない。本当によく星が見えます」

ことり「私達の周りは真っ暗で、だけど空はあんなにキラキラ光ってる。なんだか・・・空を飛んでいるみたい・・・ふわふわして、不思議な気持ち」

海未「私も同じように感じていました。どこか浮遊感があって、あの星々に吸い込まれてしまいそうな・・・・」



海未「これだけの星を見ていると・・・思い出しますね。合宿の時を」

ことり「ユメノトビラの作詞をしたとき?」

海未「ええ。希と凛と、テントの中から顔を出して星空を眺めていました。そうしながら希に星について色々教えて頂きました。星の名前や星座、北極星の探し方も教わりましたよ」

ことり「へー。あっ、ねえねえ、おとめ座って見えるかな?」

海未「おとめ座ですか。ことりの星座ですね」

ことり「うんっ!」

海未「そうですねえ・・・・。おとめ座は青白い一等星のスピカが目立つので、比較的探しやすい星座です。しかし、春の星座ですし、この季節、この時間では見えてるいるかどうか・・・」キョロキョロ

海未「うーん・・・。等級の低い星までたくさん見えすぎて、返って星座を構成する星がどれかよく分かりませんね・・・」

ことり「そっかぁ・・・」


海未「すみません・・・。希か真姫がいれば、分かったとは思いますが・・・」

ことり「ううん。いいの」

海未「あっ。でも、別の星座ですけど一つ見つけましたよ」

ことり「ほんとっ?」

海未「はくちょう座です。文字通り、鳥の形をした星座です」

ことり「へえ! どれどれ?」

海未「まずは真上を見てください」

ことり「真上ね。うん」

海未「一際明るい星があるのが分かりますか? デネブという星なんですけど」

ことり「あ、うん。見えるよ。明るい星」

海未「デネブから天の川沿いに先を見てみてください。デネブを先端に四つの明るい星が直線状に連なっているのが見えますか?」

ことり「うんうん」

海未「その直線がはくちょう座の胴体です。そして直線の左右にも明るい星いくつか広がっていて、それがはくちょう座の羽です」

ことり「えーっと・・・・あっ。見えた! 分かったよ! すごい! 本当に鳥さんみたいな形の星座だね!」

海未「ええ。ほぼ左右対称の分かりやすい形で、そしてとても大きな星座なので見つけやすいんです」

ことり「あんなに翼を大きく広げて、かっこいいなあ」

海未「天の川の上を大きな翼を広げて飛ぶ姿・・・。とても美しいです」


海未「・・・・いずれはことりも、あのように美しく翼を広げ、世界を羽ばたくのでしょうね」

ことり「えっ?!///」ドキッ

海未「あっ/// す、すいません/// つい・・・。私は何と恥ずかしい事を・・・忘れてください・・・」

ことり「う、ううん/// う、嬉しいけど/// ことりがあのはくちょうさんのように、っていうのは・・・恐れ多いと言いましょうか///」

海未「そんなことはありません。ことりが美しいのは本当ですから」

ことり「んんっ・・・/////////」カァ

海未「ふふ」ニコ

ことり「ううぅ///」


海未「さあ、他の星座も探して見ましょうか」

ことり「う、うん///」


ビュオー

ことり「きゃ」髪抑え

海未「大丈夫ですか?」

ことり「うん、大丈夫」



海未(少し風が強くなってきました。ことりの髪を抑えるのを手伝ってあげましょう)スッ

ことり「んっ・・・」

海未(ことりは寒くは無いですかね。そうだ、このまま)ギュウ

ことり「ちゅん?!//」ドキン

海未「風が少し強くなってきましたので、私が抱き付いて風よけになろうかと思いまして。必要無かったですか?」

ことり「う、ううん/// このままで・・・お願いします///」ギュ

海未「はい、ではもう少し星を見ましょう」ギュ

ことり「う、うん///」ドキドキ

海未「綺麗ですねえ・・・」

ことり「うん/// キレイだね/// それに、いい匂い///」スンスン

海未「ええ。潮風もいいですね」

海未「さて、星座ですが、他に私が知っている星座と言ったらオリオン座くらいですが、あれは冬の星座ですし今は見えないでしょうねえ」

ことり「うん///」ポー

海未「あ、オリオン座と対になっている夏の星座のサソリ座だったら今見えるはずです」

ことり「うん///」ドキドキ

海未「しかし、サソリ座の形は私よく知りません・・・」

ことり「うん///」モジモジ


キランッ




http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira127068.jpg




ことり「あっ!!」

海未「ことり! 今のっ!?」

ことり「うん! 見えたよ!」

海未「はい! 流れ星! すごくハッキリ見えました」

ことり「キレイだったなあ。一瞬過ぎてお願い事言えなかったよお・・・」

海未「クスッ、そうでしたね。でも、見られただけで何かいい事ありそうですよね」

ことり「うん!」


海未(・・・そういえば希が、『南に向かう流れ星は物事が進む暗示』と言っていましたね。あの流れ星は・・・・・・フェリーと同じ進行方向だったから、北向きですね)

海未(・・・・・北向きの流れ星はどんな意味があるんでしょう)

海未(そもそも、流れ星は昔、凶兆と言われていたこともあったと聞きますが・・・)

海未「・・・・・・」

海未(いえ、考え過ぎですね。希が言ったことも作り話でしょうし)



ことり「・・・ん」

海未「ことり?」

ことり「ううん。なんでもないよ」

海未「・・・・ずっと見上げていたから少し首が痛くなってきましたね」

ことり「えっと・・・そう、だね」

海未「甲板は結構濡れているから、寝転がって見上げるわけにもいきませんし」

海未「それに、やはり風が強くて寒くなってきました」

海未「そろそろ、戻ってもいいですか?」

ことり「・・・・うん。・・・ありがとう、海未ちゃん」

海未「ふふ、いいんですよ」ニコ

ことり「////」ウツムキ

海未「行きましょう」


海未「とはいえ、あのエコノミールームに戻るのは少し勇気がいりますね・・・」

ことり「そうだね・・・」

海未「んー・・・・。ちょっと展望ラウンジに行ってみますか」




---------------
展望ラウンジ



ことり「誰もいないね」

海未「ええ。それなのにテレビが点けっぱなし」

ことり「写っているのはフェリーの現在位置なのかな?」

海未「そうみたいですね。今は三陸沖を航行中らしいですよ」

ことり「やっと半分、ってところかなあ」

海未「長い船旅です」


海未「さて、どこかに腰を掛けましょう。あっ、あの大きなソファーが良さそうです。海もよく見えますし。あそこに掛けましょう」

ことり「うん」


テクテク

ポフッ

ことり「えへへ」キュ

海未「どうしました?」

ことり「うん。あのね。昨日の夜寝るとき横になってから今までずっと、海未ちゃんがことりの手を握ってくれているよね。歩く時もずっとことりの手を引いてくれた」

海未「? 何かおかしかったですか?」

ことり「んーん」

海未「そうですか」

海未「それはそうと、あの・・・。ことり、なんだかすみません。とにかく安く行こうと思っていたのですが、エコノミールームがあそこまで酷いとは予想外でして・・・」

ことり「ううん」

海未「帰りはワンランクかツーランク上の部屋にしますね。それなら、一人一つのちゃんとしたベッドがあるはずですから」

ことり「うん・・・」

海未「それにしても、他の方はよくあんな場所で眠れますよね。特に穂乃果です」

ことり「う・・・ん・・・」

海未「隣で寝ていた外国人の方に蹴られてもいましたし。それでも眠り続ける。あの神経の図太さはうらやましいです」

ことり「ん・・・」コテン

海未「ことり?」

ことり「・・・・・すー」

海未「あら? 眠ってしまったのですか?」

ことり「すー、すー・・・」

海未「こんなところで寝ては風邪を引きますよ。ちゃんと布団に―――」

ことり「すー、すー」

海未(いえ、やめましょう。こんなに気持ちよさそうに眠っているのに起こせるはずがありません)

海未(ここは外と違って風もないし大丈夫でしょう。それと―――)

海未「失礼しますね」ギュ

ことり「すー、すー・・・えへへ」フニャ

海未(―――こうやって私が抱き寄せておけば、多少は温かいでしょう)


海未(あんな部屋じゃ眠れませんからね。今日の移動で疲れているでしょうし。朝まであまり時間はありませんが、ここで眠れるなら少しだけでも眠ってください)

海未「おやすみなさい」ボソッ





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◇ 7月26日 7:30 晴れ



アナウンス『おはようございます。7月26日の朝を迎えました。当船は予定通り、現在青森県八戸の沖を航海中です。ただいまより持ちましてレストランの営業を開始いたします。料金は―――』



ことり「ん・・・。むにゃ」パチッ

ことり「んんっ・・・。あれ? ここは?」

海未「おはようございます。ことり。ここはラウンジですよ」

ことり「あ、ことりそのまま寝ちゃったんだ・・・」

海未「ええ、それはもうぐっすりと」

ことり「ふぁ・・・。あっ、ということは、う、うみちゃん、ずっと傍にいてくれたの・・・?」

海未「はい」

ことり「あ、あ、う/// ご、ごめんなさいあ、ありがと・・・///」

海未「いいんですよ。さあ、穂乃果を起こして、朝食に行きましょうか」

ことり「うん!」






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展望レストラン



穂乃果「朝もバイキング! 食べ放題! なに食べようかな~」ウロウロ

穂乃果「あっ! パンケーキ! これしかない!」ヒョイ

ことり「食パン~、ウィンナーとサラダと~♪」ヒョイヒョイ


海未「私は何にしましょう」

海未「えーと・・・。ご飯、焼き鮭、金平ごぼう、冷奴等にしましょうかね」

穂乃果「ちょっとちょっとー。海未ちゃ~ん」

海未「はい?」

穂乃果「それ、いつも海未ちゃんちで出る朝ごはんと同じじゃん。せっかくだから何か別の物食べようよ」

海未「そ、そうですか・・・? どういうものがいいでしょうか?」

穂乃果「穂乃果が選んであげる! コーンフレークに牛乳掛けて、フルーツと、グリーンサラダに~」ヒョイヒョイ

穂乃果「はい! 召し上がれ!」

海未「えっと・・・。どうも・・・」


穂乃果「それじゃ座って。いただきます!」

ことうみ「「いただきます」」




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ことほのうみ「「「ごちそうさま」」」

ことり「朝ごはんもおいしかったね~」

海未「ええ。朝日に照らされ輝く海を眺めながらの船上の食事・・・。セレブになった気分です」

穂乃果「うんうん。好きな物一杯食べられて幸せ~」


穂乃果「到着まではまだまだ時間かかるんだよね。それまでなにしよっか?」

海未「そうですね。私は展望ラウンジで海でも眺めながらゆっくりしようかと思いますけど、穂乃果とことりで何かしたいことがあれば付き合いますよ」

穂乃果「そっかー。じゃあ穂乃果はー・・・・船に居るカワイ子ちゃんをナンパしよっかな! へーい! その彼女~。かわいいね~。今からオレとお茶しな~い?」ギュ

ことり「や~ん♪ するする~♪」ギュ

海未「それでは私は展望ラウンジに居ますので」スタスタスタ

穂乃果「あーん! うそうそー。海未ちゃんと一緒にいたいよー」タタッ

ことり「ことりもことりも~。待って~、置いてかないで~」パタパタ

穂乃果「あっ、そうだ。移動中くらい勉強しておきなさいって、にこちゃんからアイドル雑誌借りてるから、これ一緒に見よー」






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◇ 7月26日 13:45 晴れ 苫小牧港



アナウンス『下船の際は皆さまの下船確認のため、お手持ちの乗船券のうち、下船券と書かれています半券を切り離し、お近くの係員までお渡しくださいませ。
この度はご乗船くださいまして誠にありがとうございました。
どうぞこの先も良いご旅行をお続け下さいませ。またのご利用をお待ちしております』



穂乃果「やっと着いたー! 北海道! おっ、スマホの電波も繋がる。写真撮って雪穂に送ろっと」

ことり「うーん! 広々としてるねー」

海未「はい。それに、心なしか空気も澄んでいるような気がします」

穂乃果「なんかワクワクしてくるねー。この後札幌まで行くんだよね?」

海未「はい。高速バスで札幌まで行きます。今日の所は、このバスで最後の移動です」

穂乃果「長かったねー。でもあとちょっと。頑張ろうね!」

海未「はい」
ことり「うん♪」





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苫小牧港→札幌駅行 高速バス車内



ブロロロロロ


穂乃果「ほっかいどー。でっかいどー。広いねー」

海未「ええ。道路も広くて、広大な畑が広がっています。ビルも無く東京のような窮屈さが全く感じられませんね。空も広く見えます」

ことり「のびのびとしてていいねー」

穂乃果「本当に北海道まで来たんだなーって。初めて来た土地の光景をこうやって目の前でみてね、穂乃果ね、もうね、さっきからずっとワクワクしてるのっ!」

海未「クスッ、ええ、その気持ち分かりますよ。私もこの広大な土地を前にしていささか楽しさを覚えています」

ことり「バスもそんなに混んでなくて過ごしやすくてよかったよねー」

海未「荷物もトランクに預けられましたし、ゆったりと景色を眺められます」






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◇ 7月26日 15:50 晴れ 札幌駅 家電量販店下のバスターミナル



係員「トランクに荷物預けた方―! お忘れずにー!」

海未「あ、それ私のです」

係員「はい、今お取りますね。―――うっ、重っ!」

海未「大丈夫です、私が取りますので、よいしょっと」

係員「おお、すごい力ですね」

海未「そうですか? どうも」

係員「ご利用ありがとうございました!」

海未「はい、こちらこそありがとうございました」



穂乃果「ここ、薄暗くて狭くてなんか窮屈だねえ。ねえねえ! 早く外に出ようよ! 時計台見たい!」

海未「いえ、最初にホテルに行きましょう。時計台の近くのビジネスホテルを予約していますので、そこに荷物を置いてから移動しましょう」

穂乃果「分かった!」

穂乃果「だけど、外に出るにはどっちに行けば?」

海未「えーっと・・・そうですね・・・どっちでしょうか・・・」キョロキョロ

ことり「どこかに案内板ないかなあ」キョロキョロ

海未「うーん。方位磁石持ってますので、それに頼った方が早そうです」

海未「えーっと、札幌駅から見たら時計台は・・・・南のはず」

ことり「私ですが?」

海未「ち、違いますって、南の方角だから・・・あっちの上る方の階段ですね。行きましょう」

穂乃果「よし行こう!」タタッ




テクテク



穂乃果「あのガラス扉を開ければ外に出られそう!」タッタッタッ


 ...ギィ

パァ



穂乃果「おわー! ここが札幌駅! 大きい! 綺麗!」

海未「札幌・・・ですか。ついにここまで来たんですね。んー・・・・・・。思ったより都会ですねえ」

ことり「そうだね。それと日が傾きかけているけど結構暑い・・・。苫小牧は海の近くだったからまだ涼しかったけど・・・」

海未「ええ、あのビル街といい、気温といい、東京とあまり変わりませんね・・・・普通に汗が出てきます。・・・・誰でしたっけね、夏の北海道が涼しいなどと言っていたのは?」チラ


穂乃果「おわー! 凄い! 北海道!」ウロウロ


海未「・・・・・」

穂乃果「ねえねえ! 早速写真撮ろうよ!」

海未「・・・・・・・はあ。そうですね。せっかくここまで来たのですから愚痴ばっかり言っていてはもったいないですね」

穂乃果「はい、ぎゅー!」

ことり「ぎゅー♪」

穂乃果「うーん・・・あの上の方にある時計と札幌駅っていう文字入れたいんだけど・・・。海未ちゃんもっと頭寄せてっ」ギュ

海未「ふあっ・・・も、もう」ギュ

穂乃果「今だ!」パシャ

穂乃果「ありがとう。雪穂に送るからちょっと待ってて。『札幌駅着いたよー、暑い』・・・っと」ポチポチ


ことり「遠くに来たんだなっていう実感を今ちょっとずつ感じてきた。これからどんなものが見られるのか、すごいわくわくする♪」

海未「ああ、それはありますね。旅独特の高揚感といいましょうか」


穂乃果「ごめんごめん、待たせちゃって。それじゃ、れっつごー♪」

ことり「ごー♪」

海未「あっ! ちょっと待ってください。道に迷ったら大変です。今、ナビを起動しますから・・・」







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ビジネスホテル フロント



海未「あの、今日一泊で予約している園田ですが」

フロント「はい、お待ちしておりました。こちらにご芳名のご記入を願います」

海未「はい」カキカキ

フロント「こちらがお部屋の鍵になります」

海未「どうも」



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海未「ここですね。今日の部屋は」ガチャ

穂乃果「おー、綺麗な部屋だねー。高級ホテルみたい」

海未「あら? 三人部屋で予約したんですが、ベッドが二つですね」

穂乃果「一つはダブルベッドじゃない?」

海未「ああ、なるほど」

穂乃果「よーし、それじゃ、早速時計台行こう・・・・あー、いや・・・」

海未「どうしました?」

穂乃果「やっぱり先に札幌ラーメン食べに行かない? お昼ご飯ちゃんと食べてなかったからさ・・・」グー

海未「それもそうですね。先に食事にしますかね。ことりもいいですか?」

ことり「うん、いいよ。ことりもお腹減っちゃった」






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フロント



海未「あの、外に出るので鍵を」

フロント「はい、お預かりします。いってらっしゃいませ」


海未「ふう。体が軽くなりました。歩くのが楽です」

ことり「海未ちゃんずっと大きな荷物背負ってたもんね。お疲れ様です」

海未「ありがとうございます。さて、ナビで近くのラーメン屋さんを探しますね」

穂乃果「うーん。ナビ使うのもいいけどさ、ちょっと適当に歩いてみようよ」

海未「いいですけど、どうして?」

穂乃果「スマホのナビを見てばっかりいたら、初めてきた街をよく見る事ができないよ」

ことり「そうそう。見知らぬ街をのんびり歩くのも楽しーよ♪」

海未「なるほど。分かりました」




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札幌市内 外



海未「ビルばかりで東京のようだと、札幌に着いた時はそう思いました。ですがよく見ると色々違いがあって目新しく感じます」

海未「例えば、立体の高速道路は見当たりませんね。やはり土地が広いからわざわざ立体にする必要がないのでしょうか」

海未「それと、信号機が斜めになって薄いですね。雪が積もらない工夫でしょうか」

ことり「雪国ならではの信号機だね。交差点も名前が変わってるよね。北2西3とかで、固有名詞じゃないね」

海未「こういうその土地特有の何かを見つけるって楽しいですね。空気が違って感じられます」



穂乃果「あ! あそこにしよう! ラーメン屋さん! ああいう木造でいい感じの雰囲気出してるラーメン屋さんって絶対おいしいよ! 凛ちゃんが言ってた!」

海未「ほう。凛が言うなら間違いないですね。入りましょう」



ガラガラ

穂乃果「あ、あれれ? 扉を開けたらまた扉があった」

海未「二重扉ですよ。北海道の冬は極寒ですから、冷気が室内に入るのを防ぐためですね。さっきのホテルも二重扉でしたよ」

穂乃果「へー。そういえばそうだったかも。面白いなあ」


ガラガラ

店員「いっしゃいしゃっせー。何名様ですかー?」

穂乃果「三人です」

店員「奥のお席ドゾー」



穂乃果「んー・・・味噌ラーメンにしよっと」

ことり「塩にしようかな」

海未「では私は豚骨で」

穂乃果「あー。餃子もおいしそう。一皿だけ頼んで三人で食べない?」

ことり「うーん・・・ことりはいいかな・・・」

穂乃果「あ、そっか。ことりちゃん、にんにく苦手だったよね。だめだよーことりちゃん。好き嫌いしちゃあ」

ことり「えへへ・・・」

海未「そうですよ。好き嫌いはよくありません。今度ピーマンをふんだんに使った餃子を私が作りますから、みんなで食べましょう」

穂乃果「うっ! ね、ねえ! みんな決まったよね! 注文しよう! すいませーん!」

店員「アイ、オキアリッスカー」

穂乃果「この、味噌ラーメンと、塩ラーメンと、豚骨ラーメン。それから餃子を一皿お願いします」

店員「お好みありますかー?」

穂乃果「二人ともどうする?」

海未「私は普通でいいですよ」

ことり「えっと・・・にんにく抜きでお願いします」

穂乃果「わ、私はピーマン抜きで・・・」

店員「アイ! あざざーす!」クルッ




店員「ミ$%■+―ッ!!、~=☆鏋%&―ッ!♂*/3&%―ッ!ギいち!!!」

厨房「ハーイ!! ありがとうございます!!!」


海未「な、何を言ってるんですかね、あの店員さん・・・」

穂乃果「こういうラーメン屋さんがおいしんだよ!」ワクワク



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穂乃果「こ、これが札幌ラーメン! んー! 独特の風味の味噌味が最高!」チュルル

ことり「私は塩♪ ふー。んむんむ。うん! さっぱり、のどごし! スープも全部飲めちゃいそう♪ 野菜にもしっかり味がしみ込んでいておいしい! それにほんのり海鮮の風味もするよ」

海未「私は豚骨です。麺に光沢があって見た目が綺麗でいいですね。んむ・・・・それでいて、しっかりとした食感があります。そして、このスープの濃厚な油の匂い、そして色彩。目の前にしただけですごく食欲をそそります」

穂乃果「・・・・二人ともおいしそう」

海未「ん、ええ、とてもおいしいですよ」

ことり「ねえねえ。三人でどんぶり回してちょっとづつ食べてみない?」

穂乃果「おお! やろうやろう!」

海未「そうですね。私も少し他の味が気になっていました」



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穂乃果「はふー。おいしかった!」

ことり「ごちそうさま♪ 暑いからつけ麺にしようかと一瞬迷ったけど、ラーメンにしてよかった」

海未「ごちそうさま。東京で食べるラーメンとは風味が違って新鮮でしたね。凛にも食べさせたかったです」

ことり「帰りにラーメンをお土産に買ってあげようね」

海未「それはいい考えです。きっと凛が喜びます」


穂乃果「よし、それじゃあ、早速時計台に行こう!」

海未「はい。ここへ来るときに時計台の頭が見えたので、すぐ近くですよ」







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◇ 7月26日 17:00 晴れ 札幌市内 時計台前



 < コーン....コーン....


穂乃果「お? 何の音?」

海未「多分時計台の鐘が鳴る音ですよ。今はちょうど5時ですから、一時間毎に鳴るんですかね」

ことり「これが札幌の時計台。木造で真っ白で綺麗。・・・鐘の音もあって、なんだか結婚式場の教会みたい。す・て・き♪」ウットリ

穂乃果「結婚式場かあ・・・。コホン・・・・アー,アー・・・よしっ」キリッ

ことり「穂乃果ちゃん・・・?」キョトン


穂乃果「ことり」イケボ


ことり「んんっ!?」ドキッ

穂乃果「一生幸せにする。結婚してください」両手でギュ

ことり「フォニョケツュェンン!!?・・・・・・はい///」ギュ

穂乃果「ことりー!」ガバッ

ことり「穂乃果ちゃーん!」ガバッ


海未「はいはい。漫才やってないで、中を見学してみましょう」

海未「あ、5時で閉まっちゃうみたいです」

穂乃果「えーっ? 中入れないの?」

海未「はい。明日チェックアウトした後もう一度来てみますか?」

穂乃果「そっかー。分かったそうしよっか」

穂乃果「あ、高校生以下無料だって! 私達タダで入れるじゃん!」

海未「ええ。・・・っていつまで抱き合っているのですか? あなたたちは」

ことり「えへへ///」ギュー

穂乃果「あっ、そうだ! 海未ちゃん写真撮って! 時計台を背景にしてさ」

海未「ええ、いいですよ」

穂乃果「ことりちゃん、こうやって、腕回して」

ことり「こう?」

穂乃果「そうそう、穂乃果と腕組むような感じで。もっと寄って」ギュ

穂乃果「よしっ。海未ちゃん! いいよ、撮って!」

海未「はい」パシャ

穂乃果「ありがとー。雪穂に送るんだ。『私たち結婚しました☆』・・・っと」ポチポチ

ことり「えへへ/// けっこんしき♪ けっこんしき♪ ことりの結婚式~///」

海未「はあ・・・そうですか」

海未「・・・・・」

海未「・・・・・あの、穂乃果。その写真、後で私にも送ってくださいよ」ボソ

穂乃果「うん? いいけどなんで小声?」

海未「い、いいじゃないですか、別にっ」

海未(スマホの壁紙にしたい)






海未「さて、これからどうします? どこか他の場所に行きますか?」

穂乃果「んー・・・。ちょっと時計台の周り歩いてみない?」

海未「ええ、いいですよ」


テクテク


ことり「洋風な建物の時計台。石段の道と手入れされている花壇。すごくオシャレな場所だね~♪」

海未「ええ、大きな木があったり、花が咲いていたり。周りはビルばかりだけど、ここの空間だけはのどかでいいですねえ」

穂乃果「あ! みてみてこれ、草イチゴ!」

ことり「本当だ。懐かしいねー。小さい頃、近くの公園に生えていたのよく食べてたよね」

穂乃果「そうそう! 普通のイチゴはなかなか食べられなくってモヤモヤしている時に、公園でこの草イチゴを見つけた時は衝撃的だったよ! タダでたくさんイチゴが食べられるっ! って思って」

海未「そういえばそうでしたね。その時に私、穂乃果においしいからってその草イチゴを無理矢理食べさせられた記憶がありますね」

穂乃果「無理矢理だなんて人聞き悪いなー」

ことり「海未ちゃんいつもおいしそうに食べてたよね?」

海未「あ、あれは・・・・おいしいとかじゃなくって、穂乃果が私に何かをくれるのが嬉しくって・・・」ゴニョゴニョ

穂乃果「んー?」キョトン

海未「い、いえ! なんでもありません」プイッ

海未「あと、これは草イチゴではないみたいです。タグにはヒメヘビイチゴと書いてありますね」

穂乃果「へー・・・・」ジー

海未「・・・穂乃果。イチゴが好きなのは分かりますが、植えられている植物なんですから食べちゃだめですよ」

穂乃果「わ、分かってるよう・・・」ジュル

海未「もう、本当に分かっているんですか。高校生なんですからはしたない真似はしないでくださいよ」


ことり「ねえねえ。こっちのお花見て。かわいい。スズランかな?」

海未「いえ、タグがありませんが、多分それはアマドコロですね」

ことり「アマドコロっていうんだ。可愛い名前」

海未「ちなみに、このアマドコロは茎や根が食べられるんですよ。その名の通り甘いらしいです」

穂乃果「甘いの? へえ、食べてみたい・・・」


穂乃果「あ、こっちの花は穂乃果知ってる。百合でしょ?」

海未「ええ、球根はユリ根と呼ばれ、食べる事が出来ます。ジャガイモに近い味だとか」


海未「それと、その隣に生えている葉はオオバコですね」

穂乃果「オオバコ? 雑草じゃないの?」

海未「雑草と言えば雑草かもしれませんけど、野草と言って欲しいですね。このオオバコの新芽も食べることができますよ」

穂乃果「へー。ただの雑草に見えるけど、食べられるんだ」


穂乃果「って、海未ちゃん? さっきから食べられる植物のことばっかり話してるよ。食いしん坊だなあ」

海未「そ、そうでしたか・・・? 希に食べられる野草を色々教えていただいて、覚えていたものですから」

穂乃果「希ちゃんの影響かー」




---------------



穂乃果「これで時計台を一周回ったかな。楽しかったね!」

海未「綺麗に整えられている花壇で、タグも付けられていたので勉強になりました」

ことり「うん! 色んなお花が見られてよかった♪」

海未「明日ホテルをチェックアウトした後にもう一度来て今度は中を見ましょう」

穂乃果「そうだねー」


海未「次はどうします?」

穂乃果「どうしよっかあ。まだまだ色々見て周りたいなあ」

海未「近くの観光名所といったら、大通り公園の先に赤レンガ庁舎がありますね。他にも穂乃果が最初に言っていたクラーク像が札幌駅の反対側にありますが」

穂乃果「クラーク像かあ。よく聞くし見てみたいんだよねえ」

海未「ここからだと、ちょっと距離歩きますけど」


ことり「・・・・・」モジッ

海未(・・・・・ことり?)


穂乃果「どこ行こうかあ」

海未「・・・・穂乃果。やはり今日はもうホテルに戻りませんか?」

穂乃果「ええ?! まだ明るいよ? せっかく札幌まで来たんだからもっと見て周ろうよ」

海未「その気持ちよく分かります。しかし、すいません。実は私、昨日のフェリーでほとんど眠れなかったんです。それで今も結構疲れて眠いものでして」

穂乃果「あー、そうだったんだ。それじゃあ、しょうがないね。戻る?」

海未「ことりはどうです? ホテルに戻ってもよいですか?」

ことり「えっ? えっと・・・う、うん。戻っても いいよ 」

海未「そういうことで、ホテルに戻りましょう、穂乃果。明日はキャンプ場です。そこから草原や滝を見るためにまた結構歩きますので、今日は早く休みましょう」

穂乃果「そっかー。分かった。ホテルに戻ろう」


ことり「海未ちゃん・・・」

海未「さ、ことり、行きましょう」ニコ

ことり「あ、ありがとう・・・///」ボソ







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ビジネスホテル 宿泊部屋

コインランドリーで洗濯したり、お風呂に入った後、部屋に戻りくつろいでいる三人。



穂乃果「ねえ! テレビ見ようよ! 北海道のテレビ見たい」

ことり「んー・・・」ウツラウツラ

海未「私、もう寝たいのですが・・・ことりも眠そうですし」

穂乃果「ちょっとだけっ」ピ


テレビ『~~~♪ HTB』

穂乃果「あ! あの丸くて黄色のキャラクター知ってる。onちゃんっていうんだよ」

海未「ああ、onちゃんなら私も知ってますよ。ですが、私の知っているonちゃんは、男性が中に入って全身を使って必死に動かしている大きな着ぐるみという印象が強いんですけど」

穂乃果「うん、私もそのイメージが強い」

海未「こうして画面の端っこにいるイラストのonちゃんはそんなむさ苦しい印象は一切なく、小さくてまんまるでかわいいですね」


お天気お姉さん『それでは気になる明日のお天気です』

穂乃果「あ、天気予報だって。これは重要でしょ。これだけ見たら寝るからさ」

海未「さっき私、スマホで天気は確認したのですが・・・」

穂乃果「まあまあ、何か最新情報があるかも」


お天気お姉さん『今ご覧いただいている映像は、今日の日中の旭山動物園です』

穂乃果「お! 私達、明後日ここに行くんだよね」

海未「ええ、そうですよ」


お天気お姉さん『今日はとても良いお天気に恵まれ、多くの観光客でにぎわいました』


海未「ペンギンが写りました。かわいいです。・・・・寒い地方の生き物なのに、暑くないんでしょうか」

穂乃果「扇風機の風にあたって涼んでるよ。かわいいなあ。早く近くで見たい」

海未「ええ、近くで見たいですね。あっ、次はトラとライオンが写りましたよ。・・・ですけど」

穂乃果「ぐてーってしてるね」

海未「暑さに参っているんでしょう。猛獣としての迫力が微塵もありません・・・・」

穂乃果「長風呂してのぼせたうちのお父さんみたい」


お天気お姉さん『日差しが強く、日向に居る動物さん達はタジタジといった感じですね。ですがこの暑さでも元気に動き回る動物さんもいますよー』


穂乃果「次の動物は・・・犬? かな??」

海未「いえ、あの野性味あふれる毛並みと、鋭い目つき。オオカミですね。日本のオオカミは絶滅してしまっているので、外国のオオカミでしょう」

穂乃果「オオカミかあ。確かに凛々しくてかっこいいね。うちの犬とは大違いだ」


海未「おおっ! 今度はヒグマが写りましたよ! すごいですね!」

穂乃果「おっきい! トラと違って動き回っていて迫力ある!」



http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira127079.jpg




お天気お姉さん『見てください。アザラシさんも元気に水の中を泳いでいますよー』


穂乃果「あ! あの丸い水槽、何回もテレビで見た!」

海未「あの円柱の水槽の中をアザラシが泳ぐんですよね。本当にすばらしい工夫です」

穂乃果「うー! 早く行きたい!」


お天気お姉さん『それでは明日以降のお天気ですが―――』


穂乃果「そうそう、これが重要だよ」


お天気お姉さん『明日以降も今日と同じようなお天気が続く見込みです』

お天気お姉さん『北海道の広い範囲に渡って晴れ間が広がるでしょう』

お天気お姉さん『この天気は少なくとも一週間は持続し―――』


穂乃果「やった! ずっと晴れマークが並んでる。キャンプも動物園もじっくり楽しめそう!」

海未「さっき私がスマホで調べた通りです。北海道に梅雨はありませんし、台風が届くこともほとんどないと聞きますし、雨の心配はないでしょう」


お天気お姉さん『―――は絶好の行楽日和となりますが―――』


ことり「すー・・・すー・・・」

穂乃果「あら、ことりちゃん。寝ちゃってる」

海未「私達も寝ましょう。天気も分かりましたしテレビを消してください」

穂乃果「はーい」ピ


お天気お姉さん『―――地方の一部の山間部では、気圧の谷の影響で局所的n』ブチッ







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◇ 7月27日 7:00 快晴 札幌市内 ビジネスホテル宿泊部屋



穂乃果「くかー・・・」

ことり「すー・・・」

海未「・・・・ん」パチ

海未「んんー」ノビー

海未「朝・・・。今何時ですかね・・・」ゴシゴシ

 スマホ[7:00]

海未(7時ですか。こんな時間まで寝てしまうなんて、やはり疲れていたんですかね)

海未(でも、しっかりしたベッドだから、ぐっすり寝られて気分がいいです)

海未(当初は宿泊費を抑えるためにカプセルホテルも検討していましたが、ちゃんとしたホテルを抑えて正解でした。フェリーのエコノミールームでの疲労があんなに残ってしまうとは想定外でしたからね・・・)


海未「さて」

穂乃果「くー、くかー・・・」

ことり「すー、すー・・・」

海未(ふふ、ダブルベッドの上、二人とも額が当たりそうなくらいの距離で向かい合って寝ています。可愛いですねえ。やっぱりことほのなんですよねえ。私温まりますねえ)

海未(そういえば、穂乃果は事ある毎に写真を撮って雪穂にメールを送っていました。私もこの光景を送ってみましょうかね)


パシャ


海未(よく撮れました。ああ、それにしてもなんと可愛らしい二人なんでしょう/// ピュアピュアです。純情です。思わずスマホの壁紙にしちゃ・・・おっと、昨日の結婚写真とどっちを壁紙にしましょう)

海未(とりあえず、今の写真を雪穂にも送りましょう。えっと、文面は)

海未(昨日、二人は結婚していましたね。だったら・・・)

海未(『結婚初夜です』・・・っと)ポチポチ

海未「はっ!!////」

海未「何を考えているんですか私はっ/// 破廉恥なっ!」

海未「だいたい今は朝じゃないですか。初夜はおかしいでしょ・・・・って、そうじゃなく!」

ことり「んー・・・」モゾモゾ

海未「あ」

ことり「・・・・・・すー、すー」

海未(よかった。起こしてしまったかと思った。特にことりは疲れているはずです。もっと寝かせてあげないと)

海未(はあ・・・・一人漫才をしてしまうなんて恥ずかしい。絶対希と凛の影響です。次の練習の時はランニング10km追加です)







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◇ 7月27日 10:00 快晴 札幌市内 時計台前



海未「今度は開いてますよ。入りましょう」

穂乃果「高校生以下は無料だから、そのまま入ってんいいんだよね?」

海未「そのはずですが・・・」

受付「あ、ちょっとお客さん?」

海未「は、はい?」

海未(やっぱり入場料が必要なのでしょうか)


受付「見学されている間、荷物預かりましょうか?」

海未「え? いいんですか? ありがとうございます」

受付「はい。こちらへどうぞ。この棚に置いてください」

海未「あ、あの・・・・すいません。この荷物20kgくらいあるんです。棚、潰れないでしょうか・・・?」

受付「20kg?! すごいねえ、あなたみたいな若い娘さんが」

受付「大丈夫ですよ。置いちゃってください。見学している間だけでも休んでくださいな」

海未「ご親切にどうもありがとうございます。穂乃果、ことり。ここで荷物預かっていただけるそうですよ」

穂乃果「わあ ありがとうございまーす」

ことり「ありがとうございます」

受付「はい、ごゆっくり」


穂乃果「それじゃ中にはいろー」


  ※ 時計台内はグーグルストリートビューでも見られますよ




穂乃果「あっ! 見て見て! 正面に街の模型があるよ!」

海未「明治時代の時計台周辺を再現した模型ですね。当時の白黒写真もあります。今は周りはビルばっかりですが、昔はこんなにすっきりしていたんですね」

ことり「明治っていったら、開国が始まったばかりの時代だよね。その頃はまだ江戸時代の建物が多く残っていたと思うんだけど、この模型や写真を見ると、既に洋風な感じの建物が多いね」

海未「確かに。あまり日本らしさは感じられない街並みですね」



穂乃果「こっちのパネルは何だろう。なになに。・・・・クラークの写真? クラークさんってあのクラーク像の人? この時計台とクラークさんって関係あったんだ」

海未「クラークはアメリカのボストン出身の動植物の学者だったのですが、欧米の先進的な知識や技術を日本に伝えてもらうため当時の日本政府に雇われ、ここ北海道で学生達に教鞭を執られた方です。クラークはその中で、北海道と同じ寒冷地である地元ボストンに倣い、北海道開拓者としてまた有事の際に備えるための、学生を訓練する演武場が必要だと提唱しました。クラークが帰国した後になりましたが演武場は実際に建設され、その演武場はいつしか時計台と呼ばれるようになり、今に至る訳ですね」

穂乃果「へー。クラークさんってアメリカ人で先生だったんだ」







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時計台 2階



穂乃果「この機械はなーに?」

海未「時計装置と書いてありますね。んっ?! 1881年当時のままの機械だそうですよこれ」

ことり「すごいねえ。スマホなんかは数年で壊れちゃうのに、この機械は130年以上も動き続けているんだ」

海未「ええ。悠久の歴史を感じます」



テクテク



おじいさん「どーも、こんにちは」

海未「はい? あの・・・?」

おじいさん「私はここでガイドをやっています。何か分からない事などありましたらお答えしますよ」

海未「ああそうなんですか。あの、この時計装置は本当に130年以上前から同じの物なんですか?」

おじいさん「ええ、そうですよ。130kgの重りを毎日人が巻き上げて、それが落ちていくエネルギーで時計を動かしています。これは当時の明治時代と全く同じ機構なんです」

海未「すごい年月です。よく今まで無事に残っていられましたね」

おじいさん「取り壊されそうになった時もあるんですよ。例えば戦争の時。戦争が始まると鉄が不足してねえ。それで日本軍は各地から鐘やらなんやらを壊して鉄をかき集めたんですよ。それで、時計台にも目を付けた。でも、今もこうして残っている。当時の日本軍は時計台は壊せなかった。何故だと思います?」

海未「うーん・・・。やはり当時の人達にとって時間を知るために時計台が重要だったからですかね?」

おじいさん「いいや。当時の軍は勝つことが優先でそんなこと考えなかったと思いますよ。時計台を取り壊さなかった理由はね、ここに天皇陛下がご来訪されたことがあるからなんですよ」

海未「ああ、なるほど。明治時代から天皇陛下は現人神であり日本を統治するご存在でしたよね」

おじいさん「その通り! だから、日本軍は天皇陛下がご来訪したという事実に恐れ入って、時計台には手を出せなかった。そのおかげで、途中何度か改修はしたものの、今日までこの時計台の形を残すことができた訳ですな」

海未「そのような歴史があったのですね。あのっ、それと関連して少し気になったのですが―――」

おじいさん「はいはい、なんでしょう」


・・・・・・・・・・・・・


おじいさん「当時の日本は明治維新が行われた直後で、刀を取られて生き方を見失ってしまった侍が多かった。クラークはその人達にバイブルを見せたんです。バイブルって分かります?」

海未「聖書ですか?」

おじいさん「そうです! クラークはアメリカ人なので、キリスト教。キリスト教の教えを、生き方を見失ってしまった人に説いたわけですよ」

海未「しかし、日本と言ったら古来より八百万を信仰する神道ですよね? それを国教とした明治政府は、キリスト教を広められたら快く思わないのでは?」

おじいさん「その通り! 日本は神道。キリスト教なんか広められたら、政府は困る。しかし、北海道の開拓を進めるためにはクラークの力も必要。だから、多少のことは政府も黙認していたようですよ」


・・・・・・・・・・・・・


海未「クラークはアメリカ人ですし、日本語は当然話せませんでしたよね。それに当時の日本人は開国したばっかりで外国人に慣れていなかったと思うんですけど、生徒達はクラークとギスギスした関係にはならなかったのでしょうか?」

おじいさん「ええ確かにそれはありました。異邦人であるクラークは生徒からあまり信頼されていなかった。そこでクラークは生徒達からの信頼を得るために色々なことをしたんですよ」

海未「色々なこと?」

おじいさん「例えばこんなことがあった。クラークはお酒が大好きで、アメリカからおいしいウィスキーを持ってきていたんです。あなたにはまだ分からないかもしれないけど、お酒ってのは嫌いな人がいないほど、おいしい飲み物なんです。ですがそれを生徒達の目の前で割ったんです。そうしてアメリカに帰るまで禁酒を宣言したんです」

おじいさん「他にも木の上の方に生えているコケをサンプリング―――採取するのことなんですけど、大人が背伸びしても届かない高いとこにあるコケを目の前にして、クラークは生徒達にこう言ったのです」

おじいさん「『私の背中に乗ってあのコケを取りなさい』・・・と。それでクラークは木の前で前かがみになったんです。当時のクラークは50歳くらい。生徒はほとんどが年下なのにです」

おじいさん「そんな風にクラークは自身をサクリファイス―――犠牲にし、そんな決意にあふれたクラークを目の前にして、生徒達はどんどんクラークを信頼していくんですね」

海未「政府に雇われた外国人のクラークですが、そこまで日本人のために尽くしてくれたのですね。すごい方です」


・・・・・・・・・・・・・



海未「昔の北海道と言うとアイヌ民族が思い浮かぶのですが、クラークがアイヌの方と会ったことはないのでしょうか?」

おじいさん「うーん。クラークとアイヌとの接触はなかったと思いますよ。クラークは一年契約で北海道に来て途中の船もあったから、実際北海道にいたのは8か月くらいだから」

海未「8か月? 意外と短かったんですねえ」

おじいさん「でも・・・アイヌ、そうですねえ。クラークもそうですけど、アイヌと言えば我々現代人でもアイヌから学ぶべきことはたくさんあると思うんですよ」

海未「学ぶべきこと・・・? それは・・・?」

おじいさん「アイヌは本当に『自然との調和』に重きをおく人々だから」

海未「自然との調和・・・ですか」

おじいさん「しかしながら、彼らは文章を残すという習慣がほとんどない」

海未「全て口頭で歴史を伝えていたのですか?」

おじいさん「そう! だから我々がアイヌの知識を得ることは非常に難しい」

海未「ふむふむ」


おじいさん「っと、随分長く話し込んでしまいましたね」

海未「あっ、いえ。こちらこそたくさん質問してお時間を取らせてしまってすいません」

おじいさん「いやいや。随分熱心だったけど、何か歴史の研究でもしているの?」

海未「えっと、別にそういう訳でもないんですが。私は文学が好きで、その関連で歴史とか色々知りたくなってしまって」

おじいさん「ふーん。時間大丈夫ですか?」

海未「ええ、大丈夫です」


おじいさん「そうですか。おっと、あっちに外国人が来たからガイドしないと。それじゃ良い旅を」

海未「はい! ありがとうございました!」


 テクテク

  おじいさん「Hello. Do you need detail explanation?」




海未「・・・あっ、すいません、穂乃果、ことり。ずっと時間を使ってしまって」

ことり「ううん。すごく勉強になったよ。あのおじいさんすごかったね。色々な事を知ってて、英語までしゃべれて」

海未「ええ。あの御年でとても元気な方でしたね。素晴らしいお方に会えました。すごくいい勉強になりました。無料でこんなに勉強させて頂いて、恐縮です」


海未「あれ? そういえば穂乃果がいませんね?」キョロキョロ

ことり「穂乃果ちゃんはあっちの椅子で・・・」


穂乃果「くかー・・・」zzz

海未「ほーのーかぁ・・・!」ワナワナ

穂乃果「わぁ゙ぁ゙?! 体重増えた!」ガバッ

海未「あんなに貴重なお話をして頂いていましたのに何寝てるんですかっ!」

穂乃果「おわっ?! いぃぇえっ! 寝てないよぉ! お、おお面白かったもん! 後半すごい引き込まれたよね~・・・・」ビクビク

海未「んん~っ!!?!」ズイッ

穂乃果「ひっ・・・ご、ごめんなさい・・・」シュン

ことり「あはは・・・」



   < コーン、コーン



海未「おや、鐘の音ですね」

ことり「これって時間を知らせる鐘の音なんだよね。スマホどころか腕時計も無かった昔の人はこれで時間を知っていたんだね」

海未「100年前と同じ方法でこうして時間を知る。そう思うとなんだか感慨深いですねぇ」シミジミ






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北海道庁旧本庁舎内



穂乃果「遠くからでも目立つ赤レンガの大きな建物だね」

ことり「中は白い壁に赤いじゅうたん、階段の手すりは深い茶色の木でできたオシャレなデザイン。ここも洋風で素敵なお屋敷だねー」

海未「ええ。時計台から近いのでここまで来て入ってみましたが、ここはどんなところなんでしょうか」


おばさん「こんにちはー。ガイドしますので何かありましたらどうぞー」

海未「あっ、こんにちは、ありがとうございます。早速ですみませんが、ここは?」

おばさん「簡単に言えば昔使っていた北海道の役所ですよ」


ことり「洋風な趣が素敵ですね。でも、日本のお役所なのにどうして洋風なんですか?」

おばさん「それは日本が明治に入って北海道開拓が本格的に始まった時、欧米からたくさん学者さんを雇ってその建築技術を取り入れたためですね。時計台で有名なクラークさんも雇われたうちの一人ですよ」

ことり「そうなんですかー。だから北海道の昔の街並みは洋風な建物が多かったんですね」

おばさん「そうそう」


海未「クラークは植物学者ですよね。現代の北海道は農作が盛んですが、やはりそれは開拓時代にクラークによって伝えられた知識が元になっているのですか?」

おばさん「んー・・・。農作に関しては本州から来た人達の努力の成果が大きいですかねー。トウモロコシやじゃがいもはすぐに育つようになったのですが、日本人が大好きなお米は寒い土地でなかなか育たなかったんですよ。育ってもおいしい物ができなかった。それでも何度も何度も試行錯誤の品種改良をして味は良くなって、その結果、今や広大な土地を活かした大量収穫でコストを抑えた農法で、ここ北海道は日本一のお米生産量を誇っていますよ」

穂乃果「北海道と名の付く食べ物は大体おいしいよねー」

海未「ええ、それもこの寒いながら広大な大地を開拓してくれた先人達の努力の賜物というわけですね。感謝しないと」

おばさん「そうですねー。ただ、北海道は広大過ぎて移動が大変でねー」

海未「確かに、苫小牧からここに来るのにも結構時間がかかりましたし。それと私達これから明日にかけて旭川まで電車で行く予定なんですが、乗っている時間が結構長いですね」

おばさん「あー、ここから旭川までは100kmちょっとですけど、本州の都会から来た人は長く感じるかもですねー。道民だったら電車じゃなくて車で移動する人が多いんですよ。だから旭川まで新幹線を走らせようっていう計画が今ありますけど、そんな線路作ったって熊しか走んないから意味無いでしょ、って言う人も結構いたり」

海未「いえ、意味が無いと言うことは無いですよ。今日本はデフレなんですから、熊しか走らないなんて言わずに、公共事業として新幹線や道路や鉄道・駅はどんどん税金を投入して建設するべきじゃないでしょうか。そうやってインフラが整備されればあらゆる事業の生産性が向上しますし、今東京に一極集中している人口や企業も各地に分散しやすくなって、そうすれば災害時等における安全保障も強化されますしね。それに、道民は車を使う人がほとんどと言われましたが、私達みたいな学生や高齢者は車を運転できないですよね。ただでさえ今は少子高齢化なのですから、車を運転できない人達にも多種多様かつ積極的な生産及び経済活動をしてもらうべきであって、そのためにはやっぱり鉄道や新幹線があちこちに必要なはずですよ」

おばさん「お、おう・・・・」







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北海道庁旧本庁舎内 2階展示室



ことり「かわいい女の子の人形が飾ってあるよ」

海未「ええ、他にも珍しい柄の陶器の茶器や、漆塗りの器などが展示されていますね。ロシアからの寄贈品だそうです」

穂乃果「このお人形知ってる! マトリョーシカだよ。絵里ちゃんちの玄関に飾ってあった」


海未「ここは時計台より広くて色々な展示物がありますね。縄文土器、開拓に関する資料、旧日本軍が使用していた道具や遺品、徳川幕府とアイヌ民族の交易の記録、アイヌ民族が作った工芸品等々。北海道に関する物がたくさんありますね」


ことり「みてみて、この服、アイヌ民族の晴れ着だって。白と青を基調とした不思議な文様が印象的だね」

海未「アイヌ民族はこの服を着て、現在のアイドルのように歌って踊っていたのでしょうか」

ことり「着てみたーい」

海未「ふふっ、私も着てみたいです。・・・さて、すみませんが、時間が押しているのでそろそろ駅に向かいましょう」

穂乃果「そう? まだ見てないのいっぱいあるのに。時間ならしょうがない、行こうっか」


海未「札幌、来てよかったですね。時計台もこの旧庁舎にしても、無料なのにたくさんの展示物が見られて、それにガイドの方もとても親切でした。帰りも札幌に寄るのでその時にまた色々見て回りましょう」

穂乃果「うん! そうだね!」






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◇ 7月27日 13:10 晴れ 札幌駅地下街



海未「駅の改札口はどこでしょうか・・・。途中から改札口への案内版を見失ってしまいました・・・・」

穂乃果「迷っちゃったねえ・・・・」

ことり「迷子の迷子の小鳥さ~ん」

海未「あっ、あそこに周辺の地図がありますね。あれを見ましょう」

穂乃果「どれどれ」

ことり「あなたのおうちどこですか~―――おやっ?」




「・・・・うぅ」グスグス.... トボトボ....



ことり(女の子が泣きそうになりながら一人で歩いてる。本当の迷子かな?)

ことり(よーしっ)グッ

トコトコ


「・・・ねーさまぁ」グスグス

ことり「こーんにちはっ♪」

「?!」ビクッ

ことり「一人で歩いてるけど、おうちの人は?」

「あ、あなただれ・・・?」ビクビク

ことり「私は南ことり。東京から来たの」

「とうきょ・・・? わたしに何の用・・・?」ビクビク

ことり(ありゃりゃ、警戒されちゃってる)

ことり(それなら・・・♪)ゴソゴソ

ことり「クッキー食べる? 焼いてから二日経ってるから、今が一番おいしいよ」

「クッキー・・・? でも、知らない人から物もらっちゃいけないって―――」

ことり「ことりの手作りなの。おいしいよっ♪」ニコッ ← 小さい子向けことりスマイル & 脳トロボイス

「っ?!/////」キュン

ことり「どーぞ♪」

「・・・・・・」....サクサク

「・・・・!」パァ

ことり(笑顔になった♪ 歌も聴かせてあげたらもっと心開いてくれるかな?)

ことり「・・・・・やんやん♪ 遅れそぉっでーす♪ たいへんっ駅までだーっしゅ♪」

「・・・なにそれ。おかしいの」

ことり「おかしいって・・・あはは。これはね、スクールアイドルのお歌なの」

「すくーるあいどる?」



 タッタッタッ

 < りあーっ! りあーっ!



「あっ!! ねーさまっっ!!」タタタ

ことり「おやっ?」


「りあ! こんなところにいた」

「ねーさまぁ・・・」グスグス ...ギュ

「まったく・・・。だからあれほど手を離さないでと言ったのに」

「ごめんなさぁい・・・」グスグス




ことり「あなたはこの子のお姉さん?」

姉「えっ? あ、はい。そうですけど」

ことり「あなたは札幌に住んでいるの? 二人でお家に帰れる?」

姉「はあ。帰れますけど」

ことり「それならよかった♪ りあちゃんをお家まで送ってあげてね」

姉「え、ええ」

ことり「あっ、そうだ。ねえねえ、札幌駅の改札口ってどこか知ってる?」

姉「改札口ならそこの階段登ってすぐですが」

ことり「えっ?」クルッ

 案内板[改札口はあっち→]

ことり「あっ/// 本当だ/// こんな目の前にある案内板に気が付かなかったなんて・・・///」

ことり「ありがとねっ♪ それじゃ」タタッ


 < おーい! 海未ちゃん、穂乃果ちゃーん! 改札口はそっちじゃないよー



姉「なんだったんですかあの人は。・・・まあ、いいです。帰りましょう」

妹「はい。・・・・あの、ねーさま。すくーるあいどるって知ってる?」

姉「スクールアイドル?」

妹「かわいくて おかしくて おいしいの」

姉「おいしい? よく分からないけれど、帰ったら調べてみましょうか」

妹「はい!」






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◇ 7月27日 13:20 晴れ 札幌駅ホーム



海未「あっ、ありました! あの電車です」



  電車「ディーゼルだけど俺は電車」ブロロロロ



穂乃果「えー? あの電車? 2両編成の? なんかおもちゃみたい」

海未「え、ええ。そうですね。私達がよく見る東海道線は15両編成で全長300メートルくらいですから、それと比べるとなんとも小さい・・・」

穂乃果「ねえねえ、もう乗れるみたいだよ。入っちゃおうよ」

ことり「あそこの向かい合わせの4人座れる席に座ろ」



 ~電車内~



穂乃果「うっ・・・暑い・・・」

海未「クーラーないんですかね・・・この車両」

ことり「あっほら、でも見てよあれ。扇風機があるよ」

穂乃果「・・・扇風機? クーラーじゃなくて扇風機? 今どき?」

穂乃果「もうちょと涼しくならないかあ・・・。あっ! この電車の窓って開きそう! 多分、ここのツマミを掴んで上に上げれば・・・」ググッ

穂乃果「ほら! 開いた!」

海未「電車の窓が開くのってなんだか新鮮ですね。都心を走る電車の窓は開かないですし」

穂乃果「ねえ、開けたままでいい?」

海未「いいと思いますよ。暑いですし。でもあんまり大きく開けないでくださいよ。危ないですから」



 < ピュルルルル

運転手「ダァ閉マリマース」

海未「もう出発ですね。だけれども車内は空いていますね。2両編成の小さい電車ですから、もっと混雑するかもと思ったのですが」

穂乃果「ホントホント。座れてラッキーって思ったけど。そもそも立っている人が一人もいないなんて、日中の山手線じゃ考えられないよ」

ことり「始発駅だからかもね」


ことり「ねえ、海未ちゃん、ことりの隣にリュック置いちゃったら?」

海未「いえ、次以降の駅でたくさん人が乗るかもしれないので、このままで」

ことり「海未ちゃん、それずっと背負ってて大変だったでしょ? 混雑するまでの少しの間だけでもゆったりしたほうがいいと思うよ」

海未「それもそうですね。では、お言葉に甘えて。―――よいしょっと」ズシン

ことり「お疲れ様です♪」モミモミ

穂乃果「ホントすごいおおきなリュックだね。今日はキャンプ場に泊まって、その近くの自然を満喫するんだよね? 山頂アタック! はしないんだよね?」

海未「そうですね。3人分のテントや寝袋、キャンプに必要な最低限のものを入れたつもりですが、それでもこれだけの量になってしまいました。・・・・あっ、ことりっ・・・んふ、気持ち・・・いいです」

ことり「もみもみ♪」モミモミ

穂乃果「穂乃果が少し持つ?」

海未「大丈夫です。普段から鍛錬していますからこの程度の重さなんてことはありません。これも鍛錬の一貫です・・・・あっ、もっと奥(背中)の方まで・・・」

ことり「もみもみ、ぎゅー♪」モミモミ

穂乃果「・・・よーし! それじゃあお礼に穂乃果も海未ちゃんをマッサージしちゃうぞ!」ギュ!

海未「ふぁっ! ちょ、ちょっとどこ触ってるんですかっ//」



アナウンス『まもなく発車致します。この電車は終点の瞬間輪駅まで各駅に停まります』

アナウンス『次は僕君演。僕君演駅に停まります』



穂乃果「変わった名前の駅だね」

海未「北海道の地名は、アイヌ語に漢字を当てているそうですよ。例えば札幌は『乾いた大きな川』という意味だとか」

穂乃果「へー」







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ガタンガタン―――


ことり「電車のお客さん一時期ちょっと増えたけど、それからは降りる人の方が多いね。海未ちゃんのリュックずっと席に置いておけそうだよ」

海未「ええ、楽ができてよかったです」


穂乃果「くかー、くかー」zzz

ことり「んふっ、穂乃果ちゃん、海未ちゃんの肩に頭預けて寝てて可愛い♪ すっかり寝ちゃって、疲れてたのかな?」

海未「まあ、それもあるでしょうが、昼食後の穂乃果は大体いつもこうです。休日だろうが授業中だろうが・・・」

ことり「あはは、そうかも」

海未「ことりの方こそ疲れていませんか? 目的の駅に着くのは3時くらいですから、少し眠っていても大丈夫ですよ」

ことり「海未ちゃんこそ、こんなに大きな荷物背負っていたんだから疲れているでしょ?」

海未「大丈夫です。鍛錬していますから」

ことり「そーお? それじゃあ、ことり、もしかしたら寝ちゃうかも・・・・ふあー」ウツラウツラ

海未「ええ、そうしてください。着いたら起こしますから」

ことり「んー・・・ごめんねー・・・・」ウツラウツラ



―――ガタン、ゴトン、ガタン



アナウンス『次は抱愛接近。運賃、切符は整理券と一緒に運賃箱にお入れください。整理券の方は分かりやすいよう運転手にお見せ下さい』





----------------------------------------



ガタン、ゴトン、ガタン―――



穂乃果「くかー、くかー」zzz

ことり「すー、すー」zzz

海未(二人とも寝てしまいましたね)


海未(それに―――)キョロキョロ

海未(いつの間にか、私達以外の乗客がいなくなっています。みんな途中で降りてしまいました)


海未(・・・・・・静かですね。車窓でも楽しみましょう)チラッ


海未「・・・・・・・」ポー....






 ガタン、ゴトン、ガタン



海未(・・・コンクリート構造物がまばらになってきました。それに―――

  広がっていく田畑、

  遠くに見える山は木々で覆われていて、ともて鮮やかな緑色。

  その緑色の山々の間に、更に遠くに、大きな山が見えます。
  大きな山の高い標高に緑は無く、
  代わりに青白い山肌が見えます。

  大きな山の、更に上 空の中にあるのは
  ガラス越しに照り付ける真夏の太陽。

  太陽を包み込む美しい真っ青な空、
  広い空・・・
  ずっとその空を見ていると、
  まるで自分が空の中にいるような、空と一つとなっているような、不思議な感覚に陥ってしまいそう)




http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira127082.jpg



海未(本当にのどかで美しい車窓です。ずっと見ていても飽きません)

海未(特急電車に乗ればすぐに目的地に着きますが、やはり普通電車に乗ってよかった。こうしてゆっくりと車窓を楽しめますから)


―――ガタン、ゴトン、ガタン


海未(電車の規則的な金属音だけが響く、ひとけの無い静かな車内。心地良く、過ごしやすいですね)


穂乃果「くかー・・・くー・・・」
ことり「すー・・・すー・・・」


海未(ぐっすり眠っている穂乃果とことり。ふふ、とても気持ちよさそうに寝てます)



海未(目的地は・・・まだまだ遠い・・・・)


海未(・・・この空間は、とても良い安息感がありますね。気分が落ち着きます)



     フワッ.....  フワッ.....



海未(あら・・・? これは・・・・綿? タンポポでしょうか。穂乃果が開け放った窓から入ってきたようですね)

   フワッ.....  フワッ.....

    フワリ フワッフワッ...

     フワフワ

海未(うふふ。車内にたくさん・・・ふわふわ舞って・・・かわいいです)

海未(ああ・・・・外から入ってくる風も・・・・いい匂いで、温かくて気持ちがいい・・・。深呼吸をしましょう)



海未「すぅーっ・・・はぁーっ・・・・」



海未(肺に新鮮な空気が入ってきて、頭にもそれが駆け巡ります。都心の日常でたまった汚れを水で洗い流すかのような清涼感。穏やかな気持ちになります)

海未(この穏やかな気持ちに身をゆだね、心任せれば・・・いい詩が・・・・書けそう・・・です・・・)



―――ガタンガタン







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◇ 7月27日 14:30 晴れ



ガタンガタン―――


穂乃果「くかー、くかー」zzz

ことり「すー、すー」zzz

海未「・・・・・」



アナウンス『次は僕今中。運賃、切符は整理券と一緒に運賃箱にお入れください。整理券の方は分かりやすいよう運転手にお見せ下さい』



海未「はっ」

海未(い、いけません。しっかりしないと)

海未(三人とも寝てしまって、降りる駅を乗り過ごしたら大変ですからね)



ガタンガタン、タタン、タタン、キー.....
プシュー.....



アナウンス『僕今中。僕今中駅に到着です』



海未(今の時間は―――)

 スマホ[14:30]

海未(降りる駅は無印女駅です。到着まではまだ30分近く乗ってなければなりませんね)



 < ピュルルルル

ピンポーン、ピンポーン


アナウンス『次は青春聞駅です。運賃は、運賃表にてお確かめください。この列車は終点まで車内禁煙となっておりますのでおタバコはご遠慮ください』


ブロロロロォ...
タタン、タタン、ガタンゴトンガタン―――



穂乃果「くかー、くかー」zzz

ことり「すー、すー」zzz

海未「・・・・・」

海未「・・・」

海未「・・・」ウツラウツラ


海未「はっ」

海未「い、いけません」

海未「むー・・・・」←半目になりながらも必死に目を開けようとしている



―――ガタンガタン





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◇ 7月27日 15:00 薄曇り



ガタンガタン―――



穂乃果「くかー、くかー」zzz

ことり「すー、すー」zzz

海未「すー、すー」zzz



アナウンス『ご乗車ありがとうございます。次は無印女。運賃、切符は整理券と一緒に運賃箱にお入れください。整理券の方は分かりやすいよう運転手にお見せ下さい』


ガタンガタン、タタン、タタン、キー.....
プシュー.....


アナウンス『無印女。無印女駅に到着です』



穂乃果「・・・・むにゃむにゃ」zzz

ことり「・・・んにゅ」zzz

海未「・・・・すぅ」zzz



 < ピュルルルル

ピンポーン、ピンポーン


アナウンス『次は微熱神秘駅です。運賃は、運賃表にてお確かめください。この列車は終点まで車内禁煙となっておりますのでおタバコはご遠慮ください』



ブロロロロォ...
タタン、タタン、ガタンゴトンガタン―――







----------------------------------------
◇ 7月27日 15:30 曇り



ガタンガタン―――



穂乃果「むにゃむにゃ」zzz

ことり「ちゅーん、ちゅーん」zzz



アナウンス『次は輝羅感。運賃、切符は整理券と一緒に運賃箱にお入れください。整理券の方は分かりやすいよう運転手にお見せ下さい』



海未「すーすー・・・・ハッ! 野生の白い恋人?!」ガバッ

海未(あら。眠ってしまってしまいましたね)

海未「んー」

海未(でも、疲れが取れて、すごく頭がすっきりして、気分がいいですね)

海未(次の駅は輝羅感駅と言っていましたね。無印女駅まで後何駅ぐらいでしょうか)

海未(路線図は・・・あれ? 見当たらない。後ろの方にあるのでしょうか)グッ


穂乃果「んんっ・・・」zzz


海未(おっと。穂乃果が私の肩に頭を置いて寝ているんでした)

海未(気持ちよさそうに寝ていますし、私が動いて起こすのはよくないですね)

海未(そうだ、時間を確認しましょう)

 スマホ[15:30]

海未「・・・・」

海未「ふう」

海未(いけませんね。まだ疲れているのでしょうか。短針が変な場所にあるように見えました)

 スマホ「いやいや、デジタル表示だろ? 現実を見ろって。ほれ→[15:31]」

海未「ああ、そういえb」

 スマホ「分かってると思うけど、日本標準時とシンクロしてるからな」

海未「 」サー ←血の気が引いていく音


穂乃果「うみちゃん・・・ちゅー・・・・・」zzz

ことり「ことりの・・・まくら・・・どこ・・・・眠れないよお・・・・ふええ」zzz




ガタンガタン、タタン、タタン、キー.....
プシュー.....


アナウンス『輝羅感。輝羅感駅に到着です』



海未「乗り過ごした!!?」ガタッ

穂乃果「ふが?」パチッ

海未「ま、まさか・・・・そんなはずは。最後に時計を見たのは確か14時30分・・・・この私が1時間も居眠りを・・・・? ありえません! まさか、昨日食べたラーメンに睡眠薬が盛られていたのでは・・・?! い、いやっ、今はそれどころじゃ・・・・えーと、えーとどうすれば・・・・!」



 < ピュルルルル



海未「あれは出発の合図の笛・・・! っ! お、降りましょう! とりあえず降りましょう! 穂乃果! ことり!起きてください! 降りますよ!!」

穂乃果「あと5分・・・・」

ことり「ふええ?」ゴシゴシ

海未「お・き・な・さ・い!!」


ドタバタ


海未「あ、あれ・・・扉が閉まってる。もう降りられない・・・?」

運転手「あれ? お客さーん? ここで降りますー?」

海未「あ、はい! 降ります!」

運転手「前から降りてくださーい」

海未「ああ、バスみたいに前降りなんですね」テクテク

運転手「あ、ちょっと、ちょっと。お客さん。運賃」

海未「え? 駅の改札で払うんじゃ・・・?」

運転手「ここで払ってください」

海未「は、はい」 つ [Suica]

運転手「あ、すいません。この駅じゃそれ使えないんですよ」

海未「えっ?」

運転手「整理券持ってます?」

海未「せ、せいりけん・・・?」

運転手「お客さん、どこから乗りました?」

海未「札幌ですけど・・・」

運転手「ああ、だったら○○○○円です。現金でお願いします」

海未「あっ、はい・・・」ゴソゴソ

運転手「お釣りありますよ。今出しますんで」チャラチャラ

海未「どうも・・・」

運転手「そのカードは駅員がいる駅で降車処理してもらってくださいね」

海未「は、はい」

運転手「ご乗車ありがとうございました」

海未「あ、はい、ありがとうございます・・・。降ります」タッ



....ジャリ

海未「じゃり? 足元になんか・・・はれ? これは砂利・・・・? 駅のホーム舗装されていない・・・・?」



ブロロォ・・・・
タタン、タタン、ガタンゴトンガタン......



穂乃果「ふあー! よくねたー」ノビー

ことり「はー! 空気がきもちー!」ノビー

海未「電車は行ってしまいました。それより、思わず慌てて降りてしまいましたが、ここは一体・・・・?」



 < チュン、チュン、
 < ミーン、ミーン
 < ゲーコ、ゲーコ




http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira127087.jpg



海未「随分のどかな場所ですね・・・・」







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◇ 7月27日 15:40 曇り



海未「本当に・・・なんてことを・・・・私は・・・・申し訳ない・・・・」ガックシ

ことり「海未ちゃんは悪くないよー、よしよし」ナデナデ

穂乃果「ねえねえ! この駅、駅員さんいないよ! 無人駅ってやつ?」

海未「はぁ・・・駅員どころか・・・・―――」キョロキョロ



  駅舎「あー、塗装剥がれそう。何十年もほったらかしだもんなあ」

  道路「熊しか通らねえ・・・」

  カエル「よぉ、姉ちゃん元気だしなよ」ゲーコゲーコ



海未「―――何もないじゃないですか、ここは・・・」

穂乃果「何言ってるの! 何にもなくないよ! どこまでも果てしなく続くまっすぐな道路! 綺麗な空気! そして! 山も! 草原も! あるよー!」クルクル



ことり「ねえ海未ちゃん、とりあえず時刻表を見てみようよ」

海未「そうですね・・・・すいません取り乱して」

ことり「ううん。早く反対側から電車来るといいね」


 穂乃果「あっ! リス! リスだよ!! こっち見てる! かわいー! あー! 一杯花が咲いてる、キレイー!」ウロチョロ ウロチョロ ピョン ピョン 


ことり「あれれ?」

海未「どうしました?」

ことり「この線路、なんだか違和感があるなあと思ったら・・・」

海未「?」

ことり「反対側がないや」

海未「・・・・・単線・・・・ですか」

ことり「あはは・・・・すぐには電車こないかも・・・」

海未「嫌な予感しかしませんが、とりあえず時刻表を見てみましょう・・・」

  時刻表「うわっ、人だ。久しぶりに見られたぜ」

海未「うっ、な、なんですかこの、スッカスカの時刻表は。一瞬白紙かと思いましたよ・・・・」

海未「とにかく今日の電車は・・・」

ことり「んー・・・次の電車は明日の朝10時まで待たないと無いねえ・・・」

海未「そ、そんな、信じられません! 今はまだ4時前ですよ? 外はあんなに明るいのに、電車がもうない!? どうして・・・! この時刻表、何かの間違いじゃ?!」

  時刻表「うっせーな。ここは田舎だ。東京と一緒にすんな」

海未「はう・・・」ガックシ




 < おーい、うっみちゃーん! こっとりちゃーん!



海未「穂乃果ですか・・・。こんな状況だというのになんて能天気な声を出しているのですかっ・・・・」

ことり「行ってみよう」




テクテク


海未「どうしました?」

穂乃果「ねえねえ! みてみて! 川があるよ! 川! あの川すっごく綺麗なの! 透明だよ! さっき魚が泳いでたのも見えた!」

海未「穂乃果・・・・今の状況分かっていますか・・・?」

ことり「まあまあ、海未ちゃん。落ち込んでだってどうしようもないよ」

海未「しかしですね・・・現実的に考えてこれから一体どうしたらいいのか・・・・タクシーだって通るかどうか怪しいですし・・・今夜どうしましょう・・・・」オロオロ



ことり「ねえ海未ちゃん」

海未「はい・・・?」

ことり「ここは海未ちゃんが行きたがっていた北海道の雄大な自然とは違う?」

海未「えっ?」

ことり「大自然って意味じゃ、ここもキャンプ場も同じじゃないかなあ」

海未「・・・・なるほど、ことりの言う通りかもしれません。すいません、自分を見失っていました」

海未「そう考えると、キャンプ場まで戻ることにこだわる必要はありませんね」

ことり「うんうん♪」

海未「それに、キャンプをするつもりだったので幸いテントも寝袋も食糧もあります。夜はこの辺でテントを張って寝袋で眠れます。駅舎にはトイレもありますし」

ことり「わあ、楽しそう♪」

海未「そして明日の朝。10時の電車に乗って、旭川に行って旭山動物園に入って、そこを後にしたら予約している温泉宿でジンギスカンを食べて宿泊する・・・・・あれれ、思ったより旅程通りですね」

ことり「ふふ♪ 海未ちゃんの組んだ旅程は完璧だね♪」

海未「はは、そうだったみたいですね」


穂乃果「ねえ海未ちゃんことりちゃん! 川で遊ぼうよ!」グイッ

海未「はぁー。穂乃果を見ていたら悩んでいたのがバカバカしくなってきました」

ことり「いこいこー! 暑いから川遊びして涼みたいー!」グイッ

海未「あっちょっと、分かりましたらっ、そんなに引っ張らないでくさいーっ!」




---------------
川辺


海未「自然に囲まれた美しい清流ですね。コンクリートで囲まれた神田川や緑色で底の見えない隅田川とは対照的です」

穂乃果「透明ですっごい綺麗な水だよねー。飲めるかなあ?」

海未「うーん。飲めるとは思いますが、飲むなら一応沸かしてからの方がいいと思いますよ」

穂乃果「じゃあ顔だけ洗おう」バシャ

穂乃果「ひゃー!! 気持ちいい! 頭からかぶっちゃおう」バシャ―

ことり「穂乃果ちゃん、ビショビショになっちゃうよ?」

穂乃果「大丈夫だって、こんなに暑いんだからすぐに乾くよ」

ことり「そ、そうかなあ」ウズウズ

穂乃果「ことりちゃんもやろうよ!」

ことり「じゃ、じゃあちょっとだけ・・・」チャプ

穂乃果「それ!」バシャー

ことり「ひゃっ! つめたーい」

穂乃果「あはは!」

ことり「お返しちゅん!」パチャ

穂乃果「わっ、やったなー!」


 キャッキャ ウフフ


海未「ふー。水辺に来ただけで大分涼しいです。周りは雑木林ですし、照り返しもなく、自然が溢れるここは本当に過ごしやすい場所ですねぇ」シミジミ

穂乃果「海未ちゃーん!」バシャ

海未「きゃっ?! な、何をするんですかいきなり!」

穂乃果「ぼーっとしてる方が悪いんだよーん」

海未「やりましたねー・・・! はぁあ! 園田水龍拳!!」バッシャーン!

ことり「わあっ! すごい水しぶき」

穂乃果「うひゃー」ビッショビショ

海未「ふふん。私は鍛錬していますからね」

ことり「あっ! あそこっ、野生の白い恋人が!」

海未「えっ? どこですか?」キョロキョロ




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穂乃果「隙あり! それ!」バシャー!

海未「・・・・・ふ、二人掛りとは卑怯なり」ビショビショ

ことり「あはは、海未ちゃんびっしょびしょー」

穂乃果「あはは!」



穂乃果「あっ、見て! あそこに魚がいる!」

海未「もうその手には乗りませんよ。・・・んっ、あら、本当にいましたね。鮎でしょうか」

穂乃果「鮎!? 食べたい! おりゃ!」シュ バシャン

穂乃果「むっ?! おりゃ、おりゃ!」バシャ、バシャ

穂乃果「あーだめだー。遠くに行っちゃった」

ことり「あははっ、穂乃果ちゃんサケを追うクマさんみたいだったよ」

穂乃果「がおーっ! ほのくまだぞー」ガバッ

ことり「やーん♪ 食べられちゃうー♪」キャッ キャッ

海未「本当の熊じゃあるまいし。水中の魚をそう簡単に素手で捕まえられるわけがないでしょう」

穂乃果「あはは、そうだよねえ。なんとかして捕まえられないかな?」

海未「そうですねえ・・・・釣りか、罠を仕掛けるのが一般的だとは思いますが、道具も材料もありませんし・・・・・あっ、そういえば」

穂乃果「なになに?」

海未「川の岩に別の大きな岩をぶつけると、その衝撃で魚が気絶するというのを聞いたことがあります」

穂乃果「ホント?! それ上手くいけば大漁じゃない?! やってみよう!」

穂乃果「どこか手ごろな岩はー・・・・っと、あれにしよう」

穂乃果「よいしょっと・・・・二人とも離れてー」ググッ...

ことり「大丈夫穂乃果ちゃん?」

海未「気を付けてくださいよ」

穂乃果「へーき、へーき」

穂乃果「そおーれ!」ブンッ

 ガツンッ!

穂乃果「どうだっ! 魚は?」

海未「うーん、特に変化はありませんね」

穂乃果「ざんねんっ。晩御飯のおかずが一品増えるかと思ったのに」


ことり「あははっ、穂乃果ちゃん元気一杯だねー♪」

穂乃果「たくさん寝たからねーっ」




---------------



穂乃果「あっ、あれ何かな?」

海未「はい? んっ? 何って、雑木林の木々があるだけでは?」

穂乃果「ううん。あそこ、ほら、道じゃない?」

海未「道・・・? ああ、雑木林の奥の方に進んでいますね」



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ことり「獣道かな?」

穂乃果「入ってみようよ!」

海未「えっ」

穂乃果「あの先に何があるか気にならない?」

ことり「そうだね。なんだか秘密の通路みたいでワクワクするかも♪」

海未「そうですか? わかりました、少しだけ進んでみましょうか」

穂乃果「よーし、いっくよー!」タッ

ことり「いこー♪」タッ

海未「あ、ま、待って、おいていかないでくださいっ」タッ



---------------



 < ミーン、ミーン
 < ツクツクツクボーシ、ツクツクツクボーシ



ことり「あっ、分かれ道だよ。どっちに行く?」

穂乃果「うーん・・・・左!」

ことり「海未ちゃーん。こっちだよー」

海未「は、はい、今行きます」

海未(大きな木の根っこが所々で道を横切っていますね。足を取られないよう気を付けて進まないと)


穂乃果「なんだかテンション上がってくるねー」

ことり「うんうん。小さい頃に公園の植え込みの中を冒険したの思い出すね」

穂乃果「あーやったやった! こういう人があんまり入らなさそうな所に入るのって楽しいよね」

ことり「まだ見ぬ何かを追い求める感じ♪」

穂乃果「そうそう。それに、空気がおいしいしねっ。 すーっ、はーっ」

ことり「大自然の中だもん。すーっ、はーっ」

海未「やっと追いつきましたよ。・・・深呼吸ですか?」

ことり「うん、海未ちゃんもやろう」

海未「はい。すーっ、はーっ。・・・・・ええ、素晴らしいですね。体の奥底から浄化されるようです」

ことり「ふふ、ホントにね。あっ、そういえばさっきまで濡れてた服がもうほとんど乾いちゃった」

海未「ええ、この気温ですからね。その分また暑くなりそうです。すぐに汗をかいてしまいそうです。穂乃果のダイエットにはちょうどよさそうですね」

穂乃果「たはは、それはいいことだね・・・・・。よーし。それじゃあ、もうちょっと進んでみよう!」

ことり「おー♪」

海未「おー」


海未(確かに楽しいですね。人の手が入ってない大自然の中を歩くと言うのは。キャンプ場のような手入れされている所より、こっちの方が楽しいかもしれません)

海未(この先に何があるのか。早く知りたくて思わず小走りで雑木林の中を進んでしまいます。まるで冒険をしているみたいです)




---------------



 < ミーン、ミーン
 < ギィーーーー


ことり「あっ、また分かれ道だよ」

穂乃果「それじゃあ、今度は・・・右に行こう!」

ことり「うん」タラー

ことり「あはは、暑いね。汗かいてきちゃった」

穂乃果「水分補給ちゃんとしないとねー。ペットボトルのジュース飲もっと・・・ありゃ、もうあんまりないや」

海未「・・・・・はっ、ふぅ」

海未(んんっ? まだ少ししか歩いてないのに息切れ? この私が? 登山でもないのに・・・・・いえ、気のせいですね。電車の中で1時間も居眠りをしたのですから、疲れてなんかいません)タラー



 < ミーン、ミーンミンミンミー
 < ジーーーー
 < カナカナカナ・・・



穂乃果「セミの鳴き声がすごいねー」

海未「確かにそうですね。でも、自然の音ですし、私は嫌いじゃありませんよ」

穂乃果「うんうん。セミが一斉に鳴いていると大きな音だけど、不思議と耳障りじゃないよね」

ことり「でも、こういう所だと蚊もすごいよね。ちょっと周りに目を凝らすといっぱいいる」

海未「藪の中ですからね。もし虫よけスプレーをしていなかったと考えたら、恐ろしいですね」



---------------



 < チィーーーー
 < ジリジリジリジリジリジリジリジリ
 < ジーーーー



海未「はぁ、はっ・・・」

海未(おっと、気が付いたらまた少し穂乃果とことりに離されてしまいましたね。追いつかないと)タタッ

ことり「ひぃ、ふう、はあ、はあ・・・・きゃっ!?」

穂乃果「はあ、はあ、・・・ことりちゃん?」

ことり「ううん、なんでもないよ」

海未(ことり? 少しバランスを崩したみたいですね。それより私も早く追いつかないと)タッ

海未(わっ・・・・ああ、ここですね、さっきことりがバランスを崩した所は)

海未(ここだけ地面が急な傾斜になっています。ここに足を付いて運が悪かったら足首をひねってしまいそうですね)


海未「はあ、はあ、・・・・・・あっ」

海未(今まで歩くのに集中していたので気が付きませんでしたが、ここは結構な崖の上になっていますね。下が川で、こういう地形は渓谷というのでしょうか)

海未(知らず知らずのうちにかなりの距離を上っていたみたいです)




---------------



穂乃果「はあ、はあ・・・・かなり歩いてきたねー。疲れてきちゃった」

ことり「う、うん、ことりも疲れてきたかも・・・」

穂乃果「海未ちゃんはー?」クルッ

海未「えっ・・・いいえ、私は―――」

海未(・・・・鍛錬をしていますので疲れていません―――・・・・と答えようとしましたが・・・)

海未「はあ、はっ」

海未(息切れがする・・・脚も重たい・・・・。見栄を張っても仕方ありませんね・・・私は・・・・)

海未「―――そうですね・・・はあ、はあ、・・・・私も大分疲れていますね」

穂乃果「そっかー・・・」

ことり「ふー・・・。暑いし、一杯動いたからすっごい汗かいちゃった・・・」フキフキ



海未(・・・・・冷静になって考えてみれば、疲れるのは当然です。大きな木の根っこが所々で道を横切っていましたから、それを跨ぐために余計に足を上げる必要があって)

海未(私に至っては重い荷物も背負ってもいましたし。それに冒険をしているという感覚で気分が高揚して小走りになったりしたのもまずかったですね・・・・)

海未(『この道の先にあるものをちょっと覗くだけ』、『すぐに駅に戻る』という考えがどこか頭にあって、体力配分を完全に誤りました・・・・。最初から登山の心構えであればここまで疲れる事はなかったでしょうが・・・・・・・)



穂乃果「この先は・・・・」チラッ

穂乃果「・・・いつのまにか地面が見えないくらいに笹とか色んな草が生い茂ってる」

海未「・・・もはや道かどうかもよく分からないですね」

ことり「・・・しかもまだまだずっと上り坂が続きそうだね」




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穂乃果「はーっ・・・ふーっ・・・・」

ことり「はぁ、はぁ、ひぃ・・・・・・」

海未「はぁ、はぁ・・・・穂乃果・・・・・・」

穂乃果「うん?・・・・はあ、はあ、・・・」


海未「・・・・・・・・・戻りましょうか」

穂乃果「・・・・そうだね」



---------------



海未(回れ右をしたから、今度は私が先頭になりますね)

海未(すぐ横は崖。私たちの体重で土砂崩れなんてしませんよね・・・・?)

海未(道は所々に崖側に傾斜していて、また大きな木の根も這っています。何よりみんな疲れて脚が重たくなっている)

海未(・・・・・・木の根に足を取られたら大変です。慎重にならないといけません。これはもう難易度の高い下山です。気を引き締めて降りましょう)

海未(下り坂は重力に任せてついついスピードを上げてしまいますが、それは危険です。私が先頭ですので、ゆっくり歩くことを心がけます。それから―――)

海未「ここ、木の根があります! 気を付けてください!」

穂乃果「・・・はぁ、はぁ、あ! うん、分かった!」

ことり「はっ、はぁーい・・・ふぅはぁ」

海未(足場が悪いところは早め早めに後続に知らせて注意を促します)



---------------



海未(あたりが暗くなってきましたね・・・・。まだ日没まで時間はあるはずですが、木々の密度が高いので光が遮られているのでしょうか)


海未(あっ・・・分かれ道。確かここは来るときに右に曲がったはずですから、戻るときは左に曲がればいいですね)

穂乃果「あれっ? 海未ちゃん!」

海未「どうしました?」

穂乃果「分かれ道、そっちであってたっけ?」

海未「え? 違うのですか?」

穂乃果「えっ? 海未ちゃん道覚えてないの?」

海未「この分かれ道は2回目のものでしたよね。来るときは右に曲がったと記憶しているのですが・・・・」

穂乃果「分かれ道は全部で4回だったよね?」

海未「えっ?! 待ってくださいっ、曲がり道は全部で2回では?」

穂乃果「え? えーと・・・・こ、ことりちゃんは何回だったと思う?」

ことり「・・・確か4回だったと思うけど・・・?」

海未「そうなんですか? ・・・・・そういえば私、来るときはあなたたちの後を追いかけるのに集中していましたので、もしかしたら分かれ道を見落としていたかもしれません・・・」


穂乃果「あ、あー・・・・そうなんだ」

海未(それにしても、二人とも歯切れが悪かったですね。しかし周りは木と草だけ、目印になるようなものは何もないし、自信が無いのも仕方ありませんか・・・・。どうにかして正しい道を確認したいですね)

海未(あ、そういえば方位磁石を持っていました。・・・・いえ、方角が分かったところで、どの方向から来たか分からないので意味は無いですね・・・・・・)

海未「うーむ・・・・」

穂乃果「海未ちゃん・・・・?」

海未「あ、そうだ、足跡を確認してみましょう。念のためです」

ガサゴソ

ことり「うーん・・・・よく分からないね」

海未「はい・・・思ったより固い地面で足跡は付きにくいようですね。・・・・では、周りの草の折れ具合で来た道を確認できないでしょうか」

ガサゴソ

穂乃果「やっぱりよく分かんない・・・・」

海未「そうですね・・・」

海未(どうしましょう。みんな疲れているし、こんなところで立ち止らないで早く駅まで戻って休まないといけませんが・・・・・)

海未(ああもう、考え過ぎですね。少なくとも前を歩いていた穂乃果とことりは意見が一致しているので、二人を信じましょう)

海未「すみませんでした。やっぱり穂乃果とことりの言う通り、ここは右に曲がりましょう」

穂乃果「うん、分かった」

海未(また回れ右をしたから今度は穂乃果が先頭になりますね)

海未「穂乃果っ」

穂乃果「うん?」

海未「下り坂ですが、決してスピードを出さずに、ゆっくり歩いてくださいね、危ないですから。それと、足元によく注意してください。足場が悪いところがあったら、必ず声を出して知らせてください」

穂乃果「さっき海未ちゃんがやってたみたいに? 了解だよ!」ビシッ

海未「はい、お願いしますね」

海未(よく考えれば、こういう状況では登山に慣れている私が行列の一番後ろを歩くべきですよね。経験の浅い人に後ろを歩かせたら、もし何かトラブルがあった時に誰にも気が付かれないまま取り残される可能性がありますから)





ヒュー.....


海未「あ、風が吹いてきました」

ことり「んー、涼しー」ノビー

穂乃果「ずっと暑かったからこの風はありがたいねー」




---------------



海未(後どれくらいでこの山を抜けられますかね・・・・)

海未(行きは小走りや早歩きでした。今はゆっくり慎重に歩いていますので・・・・・・・抜けられるのは結構かかるかもしれませんね)



     ......ポツッ


海未「あら・・・?」

ことり「?」

海未「雨が降ってきたような」

穂乃果「うそ?!」


  ポツッ ポツッ


穂乃果「本当だ、雨降ってるっ!」

ことり「えー? お昼ぐらいはすごい晴れていたのに?」

海未「い、いえ、よく見てください。いつの間にか曇ってます」

ことり「あー・・・・」

穂乃果「わっー! 急げー!」

海未「あ! ダメですよ穂乃果! ゆっくり歩いてください!」



---------------



ビュオーーー
ポツポツポツ



穂乃果「はぁ・・・はぁ・・・んーっ」グシグシ

ことり「はぁ・・・ふぅ・・・・・ふぁ、ひっくちっ」

海未「はっ、はっ、はーっ、ふーっ・・・」

海未(雨脚が強くなってきましたね。さっき川遊びしたときは服が濡れても気温が高くてすぐ乾きましたが、雨では濡れたままになってしまいます)

海未(それに、さっきまでは気持ちいいと感じていた風も、濡れた体に当たると地味に体温を奪っていきますね・・・・)

海未(・・・・・とにかく、まずは駅まで安全に戻ることが最優先です)

海未(前向きに考えましょう。穂乃果は私の言う通りにゆっくり歩いていますし、日没もまだ先のはずです。大丈夫です。駅舎に入って、屋根の下でちゃんと濡れた体を拭きましょう)



海未「はぁっ、はぁっ・・・んっ、く」

海未(しかし・・・あれですね・・・ずっと山道を歩いていたから、さすがに疲れて脚の動きが鈍くなって―――)





穂乃果「はぁっ、はぁっ・・・あっ、ここ、地面が傾いてるから気を付けてねー。よっと」タンッ

ことり「はぁっ、はっ、はーい・・・・んっ」タンッ

     ....ズルッ

ことり「あっ・・・!」

 ガサガサーッ


海未「え・・・・?」


穂乃果「ん?」クルリ


穂乃果「あれ? 海未ちゃん、ことりちゃんは? どこ行ったの?」

海未「あ・・・・・あ・・・・・・」呆然

穂乃果「??? どうしたの? 斜め下の方ずっと見て」


穂乃果「んーっ・・? ・・・・んん?」じーっ

穂乃果「おわっ?! ひゃー・・・・。ここ崖だったんだ。背の高い草がたくさん生えてたから気が付かなかったよ。さっきのジャンプ失敗しなくてよかった。濡れた地面に足を滑らせてたら下に落ちてたかも」


海未「あ・・・・・あ・・・・ぅ・・・・」ガクガク


穂乃果「海未ちゃん?」キョトン

穂乃果「・・・・・・・・・・・・」

穂乃果「・・・えっ? ・・・・・えっ?! ちょっと待ってよ!」


穂乃果「え? ・・・・・ことりちゃんが? ・・・えっ? うそでしょ?」




ビュオーーーーー
ポツポツポツポツポツポツポツッ、ザーーーッ、ザッザッザッザッ (風に乗った勢いのある雨が木々にぶつかる)
























穂乃果「・・・・・・・っ!!!」



穂乃果「すぅぅぅぅううーーーっっ! んっ!」グググッ...



穂乃果「こっ! とっっぉお!!! りぃぃぃい!!!! ちゃぁぁぁあああん!!!!!!」


海未「ハッ!」

海未「・・・・・・ こッ・・・ト・・・っ」

海未(うぅ・・・声がうまく出ない・・・)


海未(ことり・・・ことり・・・。無事ですよね・・・? 崖の下は長い草に阻まれてよく見えない・・・)

海未(雲が厚くなってきて、日没前なのに辺りは暗くて・・・。雨風も強くなってきて、視界が悪い・・・)

海未(この崖、高い崖なのか低い崖なのかもよく分かりません・・・)

海未(も、もし・・・物凄い高い崖だとしたら・・・・)

海未「・・・・うっ! うぐっ」ゾクリ

海未「うぐぐっ」

海未(きゅ、急に気分が悪く・・・。口から何かが逆流しそう・・・)

海未「・・・こっ、ト、・・・うぅ」ジワッ

海未(声は出ないのに、な、涙は出て来た・・・。な、なんで、私は・・・こんなときに・・・情けない・・・)










穂乃果「ことりちゃーん!! へんじっ、してぇぇぇぇえええええ!!!!!!!!!!!!!」

海未「!!」

海未(穂乃果・・・・)

海未(穂乃果はこんなにも声を張り上げているのに・・・。わ、わたしもっ・・・!!)

海未「・・・・り。・・・・ト、り」

海未「・・・・!」...キッ

海未「・・・・ことりっ、ことりーっ!!!!」








     < .....チャー



穂乃果「こ! と! r んむぐっ?!」口塞がれ
海未「待ってください!」


穂乃果「むぐー?」

海未「静かに・・・」








     < ..... ホノカチャー


     < ..... ウミチャー



穂乃果「・・・! ほといはんのほえ!(ことりちゃんの声!)」

海未「そうです・・・・よっ、よかった・・・・・」ヘタッ...

海未(本当によかった・・・最悪の事態ではなくて・・・。あっ、あれ・・・? あうっ・・・腰が抜けて・・・)クタッ

穂乃果「ことりちゃーん!!! 今助けるからねー!!!」ダッ

海未「えっ・・・? あ・・・・ま・・・って」

海未(穂乃果が崖を降りようと・・・)

海未(さっきのことりの声は遠くから聞こえました。つまり、この崖はかなりの高さがあるというわけで・・・)

海未(濡れて滑りやすくなっているのに、そんなところを直接降りようとしたら・・・!)


海未「ま、・・・くぅ・・・」

海未(そんな・・・。腰が抜けて・・・声が・・・出ない)


穂乃果「よっ・・・!」スルッ


海未(あっ・・・穂乃果が片足を崖に踏み入れ―――)



~~~~~~~~~~~~~~~~

ズルッ

穂乃果「わっ!?」グラッ

穂乃果「うわーっっっ?!」

ガラガラッ・・・・ ドシャ

~~~~~~~~~~~~~~~~



海未「っ?!?!」ゾクゾクッ

海未「・・・っ!!!  まってっ・・・待てぇぇええ!!!」

穂乃果「へっ?!」ビックリ

海未「降りるなぁぁああ!!!!」

穂乃果「あっ、はい・・・」ノソノソ...


海未「・・・・はあ、・・・・はぁっ」

穂乃果「う、うみちゃん・・・? いつもの丁寧な言葉遣いが・・・」ビクビク

海未「はー、ふー・・・・はー、ふー・・・・」

海未「・・・この崖を降りるのは危険です。どこか傾斜が緩いところを探して、そこから降りてことりを助けに行きましょう」

穂乃果「はっ、はいっ! ・・・あっ、うん、そうだね!」

海未「とりあえず、崖沿いに歩きましょう」

穂乃果「よしっ! 今すぐ行こう! まっててねーことりちゃん!」タッ

海未「ゆっくり歩けぇええ!!」

穂乃果「ひぃぃ! ご、ごめんなさぃぃ・・・」ビクビク

海未「はぁっ、はぁっ・・・・・」




海未「・・・・・すぅぅぅぅううーっ」ググッ...


海未「ことりーっ!!! 今行きますからー!!!! そこを動かないでくださぁぁぁいーっっ!!!!」






     < .....ハーイ




海未「はぁ、ふぅー・・・・。よし、行きましょうか」

穂乃果「なんでことりちゃんだけには優しく言うのさ・・・」ボソッ

海未「あ?」

穂乃果「サ、イキマショ、イキマショ」






----------------------------------------



ビューーー
ザーッ ザザザ


海未(電車に乗っていた頃の晴天が嘘のように、風雨が強くなってきていますね。ことりが心配です、早く行かないと・・・)

海未(道なりに進むと、途中で崖から離れて行ってしまうので、道から外れてとにかく崖沿いに歩いていますが・・・)

海未(笹類の草が膝の上くらいまで隙間なく生い茂っていて、これが脚に絡みついてすごく歩きにくい・・・・)ガサガサ



穂乃果「ねえ、海未ちゃん! ここからなら降りられるかな?」

海未「えっ、あっ、そうですねぇ・・・・ふむ・・・・」

海未(穂乃果が見つけた緩い傾斜。それでもやっぱり崖みたいになっていて高さは2メートルくらいでしょうか。安全とは言い切れません・・・・)

海未(・・・・しかし、これ以上歩き回ってもここより良い場所があるとも限りませんし、なにより、とにかく早くことりの元へ行きたい)

海未「分かりました、ここから降りましょう」

穂乃果「よしきた。私から行くね」

海未「はい、気を付けてくださいよ」


穂乃果「よいしょっと・・・・」ザッ

穂乃果「ほいほい、お? お!」ザザ

穂乃果「よっと!」ピョン タッ




穂乃果「ふぅ・・・。大丈夫だよー! 楽勝! 楽勝!」

海未「分かりました。私も降ります。先に荷物を投げ下ろすので、少し離れててください」

穂乃果「分かった―。気を付けてねー」


海未「それっ」ポイッ

ドサッ


海未「それでは降ります。はっ!」タッ シュタ

穂乃果「お~! 鮮やか! よし早く行こう!」

海未「ええ!」



海未(穂乃果も私も、もうすっかりびしょ濡れになってしまいました)

海未(でも、今はそんなことに構っていられません!)タッ


 ジャッ ジャッ

穂乃果「ここら辺は草が無くて砂利だらけだから歩きやすいね!」

海未「ええ、おかげで速く進めます」


 ジャッ ジャッ



---------------



穂乃果「ことりちゃーん!!」

海未「ことりー!!」



 < ・・・・ホノカチャー



穂乃果「あ! ことりちゃんの声!」

海未「向こうです、早く行きましょう!」


 ジャッ ジャッ


穂乃果「あっ! いたよ! あそこの木に背を預けて座ってる!」

海未「ことり!」

穂乃果「ことりちゃん!」ガバッ ダキッ

ことり「・・・っ! あ、あははーよかったー。二人とも」

海未「ことり、ことり、ことりことり・・・!」

穂乃果「もう、ほのか・・・一瞬ダメかと思っちゃってて、うう、でも、よがっだぁ゙あ゙ ぐすっぐすっ」ギュゥウウ

ことり「・・・ぅっ! だ、大丈夫だからっ! 大丈夫! 私は大丈夫だから、心配 しないで? ねっ?」穂乃果の両手を握り

 ググッ...

穂乃果「ホントにだよね? 大丈夫だよね? ことりちゃーん・・・・うっ、ぐすぐす」

穂乃果「あっ・・・ことりちゃん、顔とか服とか泥だらけだよ。拭ってあげるね」フキフキ

ことり「んむゅ、うん、ありがと」


穂乃果「ねえ、ことりちゃん。ホントに大丈夫? ホントのホントに大丈夫だよね? 痛いところない?」フキフキ

海未「そうですよ! 本当に大丈夫ですか? あんなに高い崖から落ちたんですから、どこかケガは・・・?」

ことり「大丈夫だよ! 平気。なんともないよ」

穂乃果「うう~~~。よかったよ~。ことりちゃんが無事で~。あっ、足の方にも泥が―――」フキフk
ギュ グイッ
穂乃果「・・・? ことりちゃん?」

ことり「なんでもないのよなんでも? 大丈夫だから。うん」穂乃果の手を握りしめ

穂乃果「??」キョトン



ビュウーーー
ザザザー

海未「いけません。風雨がますます強くなってきました。日が落ちているし、山の中なので気温も低いです。このままでは風邪をひいてしまいます」

穂乃果「そうだね。早く戻らないと」

海未「とりあえず、歩きますか」クルッ

ことり「・・・・・ね、ねえーほにょかちゃ~ん」

穂乃果「ん?」

ことり「ことり~。ちょっと疲れちゃったみたいなの~。おんぶして~?」アマアマボイス

穂乃果「え? 私がことりちゃんをおんぶ? いやーあはは、それはちょっときついかもー? えへへ」

ことり「えー?、きついってどういうこと? 重いってこと?」

穂乃果「い、いやいや、決してそういうわけではなく・・・たはは」

ことり「そっかー。えへへ・・・・そうだよねー」


穂乃果「・・・・? ことりちゃん?」

海未「・・・・・・」


海未「ことり。あなた、まさか・・・」

穂乃果「・・・・・・」

ことり「ん? どうしたの? 早く戻ろうよ」



海未「どこですか・・・・」

ことり「え?」

海未「どこをケガしたのですかっ!?」

ことり「べ、別にことりは―――ひゃ!?」

海未「腕ですか!?」サワサワ

ことり「ちょ、ちょっと海未ちゃん」

海未「違う・・・体ですかっ?!」サワサワ

ことり「ぅ・・・や、や~ん♪ 海未ちゃんのえっち。そんなに触らないで♪」海未の手を握り

海未「ことり!」

ことり「え、えっへへ」アセアセ




穂乃果「・・・・・・・・足だ。・・・・さっき拭かせてくれなかった」

ことり「!」

海未「っ!」サワッ

海未(左足は違う・・・・。では右・・・)サワッ

ことり「や、やめて・・・・・・ぃっ・・・!」ズキッ

海未「あ・・・・すみません・・・」パッ

ことり「ううん、大丈夫だよ」ニコ

海未「・・・・・・」


海未(ことりは長ズボンを履いているので、直接見えた訳じゃありませんが・・・)

海未(今私の指に触れたあの感触・・・一生忘れられそうにありません・・・・)

海未(一瞬触っただけでしたが、すぐに分かりました。・・・・アキレス腱の横あたりに・・・・野球ボール・・・いえ、ソフトボールの半球ぐらいあったかもしれません。大きな腫れ・・・・)

海未(大丈夫なはずがありません。私が想像できない程の痛みがあるはずです・・・)

海未(この足では歩けない・・・・。これからどうすれば・・・・・・・)


海未「・・・・・・」項垂れ

穂乃果「・・・・・」



ビュゥゥウウウ
ザーッ ザーッ










ことり「もう! 二人ともしっかりしてよ!」

ほのうみ「?!」ビクッ

ことり「明日は10時の電車に乗って旭川動物園にいくんでしょ! こんなところで夜明かしするつもり?!」

穂乃果「・・・・・・」

海未「・・・・・・」

穂乃果「・・・・・・ふふ」

海未「・・・・・・ふふ、そうでしたね。行くのは旭川動物園ではなく旭山動物園ですが」

ことり「あっ、そっか・・・てへ♪」

穂乃果「ごめんね、ことりちゃん」

ことり「ううん。大丈夫だから」ニコ


海未(・・・元気なことりがいなくなってしまったら、きっと私と穂乃果は正気を保てません)

海未(それをことりはよく分かっている。だからこうして激痛に耐え、私と穂乃果を安心させようとしている。物凄い精神力です)

海未(こういういざという時、本当にいちばんの強い心の持ち主なんですよね。ことりは)

海未(ことりがここまでしてくれているんです。私も心を乱してはいけませんね・・・!)




海未「すーっ、はーっ・・・・・・」


海未「分かりました。とにかく冷静に、どうすれば戻れるか考えましょう」

ことり「二人とも携帯電話は使えない?」

穂乃果「そうだ電話があった! いやー気が動転して忘れてたよ・・・・。さっきことりちゃんが崖に落ちた時も電話使えばよかった」ゴソゴソ ポチッ

 スマホ[ ] ...シーン

穂乃果「あ、あれれ?? 電源が切れてる?」

海未「私のもそうですね。電源が入りません」

ことり「多分、雨に濡れて壊れちゃったんだよ・・・。私もさっき電話しようとしたんだけどだめで・・・。二人はどうかなって思ったんだけど」

海未「ポケットに入れていましたが、それでも雨に濡れすぎてしまいましたね。・・・ですが、仮に壊れていなくても圏外ですよ。こんな所に携帯電話の中継器なんてないでしょうし」


穂乃果「そっかあ・・・・」

ことり「・・・・・」



海未「・・・・・救急は呼べません。やはり、自力でなんとかするしかありません」

海未「穂乃果、すみませんがことりを背負って頂けますか? さっき降りてきた崖を上りましょう。私も後ろから押し上げていきますので」

穂乃果「分かった! 任せて!」

海未「―――あ、いえ・・・・待ってください」

穂乃果「どうしたの?」

海未「ふむ・・・・・。来た道を戻るのはかえって無謀かもしれません」

穂乃果「え?」

海未「さっきの崖ですが、他の場所と比べて比較的低かったものの、それでも2メートル近くありました。それを人一人抱えて上れるかどうか」

穂乃果「うっ・・・穂乃果がんばるよ!」

海未「それに、仮に上がれたとしても道が分かりません」

穂乃果「道って、あの獣道の事だよね。私、分かれ道でどっちを曲がったかちゃんと覚えてるよ・・・・多分」

海未「分かれ道は全部で4回あったのですよね? 私と穂乃果はここに来る途中で、その道を外れて歩いていました。仮に崖を上がれたとして、また道に戻って進んで、最初にあたった分かれ道が、来た時の何回目の分かれ道か判別できますか?」

穂乃果「うーん・・・」

海未「この季節です。草木の葉が生い茂って遠くまで見通せませんし、日も落ちて視界も悪いです。周囲がよく分からず足跡もこの雨で完全に消えているでしょうから、分かれ道を正確に判断するのは難しいでしょう」

海未「方位磁石は私が持っていますが、駅への方角は分かりません。せめて電車が走っていた方角だけでも分かれば、それ対して90度の方向に向かって、道を気にせず藪の中を歩き進めば確実に線路に当たるはずです・・・が、電車の中で寝過して慌てて降りたものですから方角なんて今まで全然気にしていなかったし、曇っていて太陽も出ていませんでしたし・・・だから線路のある方角は全く見当がつきません・・・」

海未「スマホが壊れてしまったのでGPSも使えませんし・・・・・・」


穂乃果「・・・・・」

ことり「・・・・・」


ことり「あ、そうだ」

ことり「あそこの川沿いにずっと歩いていくのはどうかな?」

海未「川?」

海未「あっ。あんなところに川があったんですね。全然気が付きませんでした」

穂乃果「穂乃果も全然気が付かなかったよ。必死になってことりちゃんを探してたから」

ことり「あの川って私達が駅の近くで遊んでた川じゃないかな?」

穂乃果「!! そうだよ! 川沿いに歩いて行けば絶対に駅に着けるじゃん!!」

海未「待ってください。あの川と私達が遊んでいた川が同じという確証はありません」

穂乃果「そうかなあ・・・・・。ああ、確かに、そう言われてみれば違う気がしてきた」

穂乃果「あの川、なんか汚いもん。茶色く濁ってる。流れも急だね。私達が遊んでいた川はもっとゆったりして、透明で綺麗だったしね」

海未「そうですか・・・・」




海未(・・・・ん?)

海未(・・・・茶色く濁った川)

海未(・・・・急な流れ)

海未(・・・・依然勢いが衰えない雨)

海未(ま、まさか・・・!)クルッ

ジャ

海未(足元は砂利だらけ・・・・! そんなっ?!)ゾクッ

海未(必死になってことりを探していたとはいえ、崖下は草が少なくて歩きやすいと思った時点で気が付くべきでした・・・!)



海未「穂乃果!!!」

穂乃果「へっ?! な、なに? どした?」

海未「は、早く!! 早くことりを背負ってください!! 急いでここを離れます!!!」

穂乃果「えっ? う、うん、分かった!」

穂乃果「えと、穂乃果のリュックは前に掛け直して・・・。それじゃ、ことりちゃん、穂乃果の背中に寄りかかって。持ち上げるよ」グイッ

ことり「うん。・・・うくっ!!」ズキン

海未「痛むかもしれませんが、すみません今は我慢してください、お願いします・・・!」

ことり「う、うん、大丈夫だよ」

穂乃果「よし! ことりちゃん背負ったよ。それで海未ちゃん。どこに向かうの? さっき降りた崖に戻るの? それとも川沿いに歩く?」

海未「えーと、えーと・・・!」アタフタ


穂乃果「海未ちゃん・・・?」

ことり「どうしたの・・・? いつもの冷静な海未ちゃんらしくないよ・・・?」

海未「今はとても危険な状態なんです!」

ことり「それは私達も分かっているつもりだけど・・・」

海未「いえ! 分かっていません! このままここにいたら・・・」


海未「私達は川に吞まれます・・・!」


穂乃果「川? 川ってあそこの川?」

海未「鉄砲水といって、川は雨が降ると信じられない早さで増水する場合があるんです!」

ことり「そうなの?」チラッ

ことり「えっ? あれれ? あの川ってこんなに近かったっけ? 私がここに落ちた時は数メートル以上は離れていたと思ったけど、もうほとんど目の前だ・・・!」

穂乃果「う、うそでしょ・・・・? だって、雨が降り始めてそんなに時間経ってないよ?」

海未「上流側ではずっと前から雨が降っていたんだと思います!」

海未「それに今立っているここは砂利ばかりでしょう。それは頻繁に増水した川に浸かっているということです!」

穂乃果「ええっ~!!? ど、ど、ど、ど、ど、どうしよう!! あんな急な流れの川なんて泳げないよ!!」

海未「そうです・・・・だからすぐに逃げないといけないのですが・・・。どこに逃げる・・・? さっき降りた崖を上るしか・・・いや、しかし・・・結構離れていますし、走って向かってもその間に鉄砲水に追いつかれるかも・・・ああもう、考えがまとまらない・・・!」アタフタ


ことり「あっ! あそこは?」

海未「あそこ? あっ、ああ。50メートルくらい先に、崖に沿って土が剥き出しの斜面がありますね。登れるでしょうか・・・」

海未「上の方に木の根が露出しているので、あれに掴まればなんとか上がれるかも。一見登れそうですが・・・いえ、考えている暇はありません! あの斜面を登るしかありません! 急ぎましょう!」タッ

穂乃果「よし! 走っていくよ、ことりちゃん!」タッ

ことり「うん・・・・!」




 ~斜面のふもと~



穂乃果「走っている勢いに任せて一気に登る! ・・・んっ?!」

穂乃果(うっ・・・思った以上にきついかも・・・!)


海未「穂乃果! 大丈夫ですか?! 登れそうですか?! 私が後ろから押しますよ!!」ググイ

穂乃果(正直言って大丈夫じゃないけど・・・そんなこと言ってられないよね・・・!)

穂乃果「大丈夫! 行くよ!!」ググ

 ...ザッ ...ザッ

海未(足が土にめり込む・・・。でもしっかり力を入れれば登れそうです・・・!)


穂乃果「はあっ、はあっ、はあっ」

穂乃果(き・・・きつすぎる・・・・。海未ちゃんが後ろから押し上げてくれてると思うけど・・・前を見る余裕すらない)

穂乃果(地面が近い・・・・。少しでも気を抜いたら倒れそう・・・・。倒れたら両手で支えないと・・・・あっ、だめだ、ことりちゃんの脚を持ち上げるのに両手を使ってるから・・・・)

穂乃果(・・・・・両手・・・・あ、そうだ・・・!)


穂乃果「ことりちゃん!」

ことり「はっはい?!」

穂乃果「私、今から両手を離すからしっかり掴まって!」

ことり「う、うん・・・・!」ギュウ

穂乃果「海未ちゃん! しっかりことりちゃんを支えてあげて!」

海未「は、はいっ!」

海未(今でも十分しっかり支えているつもりですが、足りないということでしょうか・・・? それなら・・・!)


海未「・・・・・・」

海未(目をつむり、心を落ち着かせ、集中・・・。丹田に気を溜め・・・)

海未「すーーー・・・・・・・・・・・ハッ!」

グググググッ

海未(これが私の全身全霊! 二人共々天高く放り投げるつもりで押し上げますよ!!)


穂乃果「うわっと?! うおーー! 海未ちゃん、すげー!! ありがとう!」

穂乃果(よし! これだけ強く押してくれたらことりちゃんの脚を離しても大丈夫そう。いける・・・! 両手を地面に付ければ4WD!!)

穂乃果「うおーー! ほのくまだぞー! がおっー!」ダダダッ

海未「ハァァァアア!!」グググッ

ダダダッ

穂乃果「よしっ! 木の根を掴んだ!」ガシッ

穂乃果「このまま一気に上がるよ!」

ことり「うん!」


グイッ グイッ







----------------------------------------



穂乃果「はあ・・・・はあ・・・・」テクテク

海未「はあ・・・くっ・・・」ヨロヨロ

海未(なんとか斜面を登り切りました。鉄砲水に怯える必要はもうありません・・・・)

海未(それからは、藪をかき分けながら緩やかな登りを歩いていますが・・・)

海未(いくらなんでも無理をしすぎました。体力と気力が・・・・・・)

海未「はぁっ・・・はぁっ・・・うくっ・・・」ガクッ


海未(体が・・・・動かない・・・)


海未「・・・・・・?」


海未(あれ? 今私は一体何をしているのでしょう?)

海未(なぜ雨に打たれて、風に晒され、重たい荷物に押しつぶされそうになって、こんなに疲れて必死になってまで、一体私は・・・私は何を目指して歩いているんでしたっけ・・・?)


穂乃果「はぁ、ふぅ・・・」テクテク


海未(ああ、そうだ、駅に向かわなければ。駅舎に入ればこの雨風から身を守れるでしょうし)

海未(それで、私達は一体何の確信があってこの方向に歩いているのでしょうか・・・・?)

海未(・・・・先に何があるのか分からず歩いてる。なんですかそれ。意味が無い。・・・・歩いているのが馬鹿馬鹿しくなってきました)


海未「・・・・・はぁ」ヘタッ




ビュオーーッ ゴォオオオ
ザ ザ ザ ザ ザ ザ ザ ザ ザ ザ




海未(雨が・・・風が・・・。遠慮なく私の髪を、体を、荷物を濡らしていきます)

海未(なんか・・・・どうでもよくなってきちゃいました・・・・。体力も気力も使いすぎて・・・どうしようもできない・・・・疲れた・・・)グッタリ






ことり「・・・あ、あれ? 穂乃果ちゃん待って! 海未ちゃんが来てないよ!」

穂乃果「はあ―――はあ―――えっ、うそ」


穂乃果「本当だいないっ。うみちゃーん?! どこー?! ああもう、暗くなっちゃってよく見えないよぉ・・・」キョロキョロ

穂乃果「あっ、いた。後ろの方でへたり込んじゃってる。大変、どうしたんだろう。傍に行かなきゃ」タッ タタ







穂乃果「海未ちゃんどうしたのっ? どこか痛いの?」

海未「―――――――」ブツブツ

穂乃果「えっ? なに? よく聞こえないよ」

海未(・・・・なんの目印も無く、がむしゃらにこんな所まで来てしまったら、もう二度と駅には戻れないでしょうね。人里もこの近くにあるとは思えません。それ以前に、疲れて手足が動かない・・・・これからどうなってしまんでしょう? こんな雨風を防げる何もないところで、一晩中過ごすことになるのでしょうか。いえ・・・一晩どころではなく、ずっとかも。そしたら、まさか・・・・死・・・?)ブルッ

海未(うっ・・・こ、怖い・・・こんなところで人生が終わるなんて。いやだいやだいやだ死にたくない怖い怖い怖い)ガクガク


穂乃果「はあ・・・はあ・・・海未ちゃん・・・?」


穂乃果「とりあえず少し休もっか。ことりちゃん、あの木の下で一旦降ろしていい?」

ことり「うん」

穂乃果「痛かったらごめんね。降ろすよ」グッ

ことり「っ・・・だ、大丈夫」

穂乃果「海未ちゃんも行こう。あの木の下ならちょっとは雨も凌げるかも」

海未「・・・・・」ガクガク

穂乃果「もうっ! ほら! 行くよ!」グイー

海未「うぅ・・・」ヨタヨタ

穂乃果「はい、ことりちゃんの隣に座って。はーっ・・・・一息つこう」



海未「―――――――」ブツブツ

穂乃果「あっ、そうだ。海未ちゃんさっきなんて言ってたの?」

海未「―――――――」ブツブツ

穂乃果「なになに?」ズイッ

海未「もう駄目です。死ぬんですわたしたちは。どうあがいても、どうにもなりません。バカバカしい。何の当てがあって今まで歩いていたんですか。これからどうするんですか。助けだって呼べないのに。どうしようもないのにあなたは怖くないのですか。死ぬんですよ。今休んで何か状況が変わるんですか。このまま疲弊して、風邪をひいて、力尽きていくだけじゃないですか」ブツブツ

穂乃果「ん? んー・・・・」

穂乃果「よく分かんないけど・・・・」

穂乃果「大丈夫だよ。だって海未ちゃんがいるんだもん」

海未「人の話を聞いていますか。私がどうしようもないと考えているんです。もう死ぬしかないんです。もうなにもかもがどうでもよくなってきました。それともあなたがどうにかしてくれるんですか。だったら早くなんとかしてください」ブツブツ

穂乃果「うっ・・・そ、そりゃあ、穂乃果はバカだからあんまり役に立たないかもしれないけど・・・」

穂乃果「でも、大丈夫だよ。海未ちゃん。ことりちゃんだっているんだよ。頭のいい二人がいればちゃんと帰れるよ」

海未「・・・・・・」


穂乃果「それで、帰ったらことりちゃんの作ったケーキとかクッキーとか一緒に食べようね。あ、ほむまんの方が海未ちゃんはいいのかな。穂乃果は嫌だけど・・・」

穂乃果「あ! そういえば海未ちゃんが食べると思って穂乃果がいくつか作って持ってきてたんだ。今食べる?」

穂乃果「えーっと、確かこの辺に入れてたと思うけど・・・」ゴソゴソ

穂乃果「あっ、あったけど・・・・すっごい濡れてる・・・。一応ビニールで包んであるけど、中までちょっと雨が入っちゃってるかも・・・そういえば日にちも結構経っているし・・・」

穂乃果「え、えへへ・・・・た、食べる・・・?」

海未「・・・・・」

穂乃果「穂乃果には分かるよ! 海未ちゃん食べたそう! はい、あーん」

穂乃果「あっと、その前に、髪をかき分けてあげるね。さっきからずっと長い髪が顔に張り付いてたよ。それじゃ前が見えないでしょ」サッ

海未「・・・・・」虚ろ目

穂乃果「・・・うん、いつもの美人な海未ちゃんだ。しかも雨に濡れてちょっと色っぽいかも・・・?」

海未「・・・・・・」

穂乃果「はい、あーん」

海未「・・・・・・」


海未「・・・」


海未「・・・」アム

海未「・・・」モグ

海未「・・・」



海未「・・・・・うっ」ジワッ

穂乃果「あ、あれ?! ごご、ごめん海未ちゃん! やっぱり雨が染みててまずかったかな?」








海未(なんで・・・なんで・・・こんなにも・・・)




海未(絶品なんでしょう・・・・)

海未「うっうっぐすっ」ポロポロ

穂乃果「あっ、えっと・・・」オロオロ

海未(この穂乃果の家のお饅頭・・・・・・・何年たっても、いつでも、どこでも、変わらない味・・・・・・・・)

海未(舌が・・・心が・・・満たされて、温かくなって、熱いくらいです)



穂乃果「ご、ごめんね! 変な物食べさせちゃって・・・。後は私が食べるから・・・」スッ...

海未「・・・・」ガシッ

穂乃果「へっ?」

海未「はむっ」ガツガツ

海未「んっ」ゴクン

穂乃果「全部食べっちゃった・・・・えーっと、お粗末様です」


海未(おいしい・・・。生まれて初めて食べたお饅頭。それから今日まで何度も頂きましたが、本当においしい・・・この先の10年後、100年後でも、ずっと食べ続けたい・・・・)ポロポロ

海未(そのためには・・・・やっぱり・・・死にたくない・・・生きたい・・・!!)ポロポロ

海未「・・・・うっうっ」ポロポロ

海未「・・・・うっ、ぐすっ・・・ほ、ほのかぁ」ポロポロ

穂乃果「なーに?」

海未「うぅ、ひぐ、こ、これからも・・・うぅ」ポロポロ

穂乃果「うん、分かったよ。海未ちゃんが食べたいならいくらでも作ってあげるよ」抱きしめ 背中ポンポン

海未「い・・・え、おじ・・・・さ・・・う、ひっぐ」ポロポロ

穂乃果「えっ? お父さんが作ったお饅頭の方がおいしいって? そ、そりゃあ、そうかもだけど・・・・」

海未「うっ、うぅ」ポロポロ

穂乃果「あーもう! うん分かってるよ! 絶対お父さんを超えて海未ちゃんの舌を唸らせてみせるから!!」ギュー!

海未「あっ・・・うっ、うっ・・・・・ふ、ふふ・・・はぃ」ポロポロ

穂乃果「ふふ・・・・だから、そうだね。今はこうやって三人で身を寄せ合って、雨が止むの待とうよ」ギュウ

ことり「んっ」コテン



海未(『あなたがなんとかしてください』なんて・・・・。こんなに素晴らしい親友に一瞬でも八つ当たりした自分が恥ずかしい)

海未(穂乃果に抱きしめられると、どうしてこう、元気が湧いてくるのでしょう。不思議ですね)

ことり「・・・・・・」ギュ...

海未(ことりはいつでも可愛らしくて、優しくて、愛おしくて、そんなことりに触れられると、ずっと傍にいて守りたいという気持ちになります。守る・・・そう思うと、力が湧いてきます)

海未(・・・私は・・・私は、この二人の親友を絶対に守る。だから・・・・こんな・・・こんな所で朽ち果てるわけにはいきません!)



海未「ぐすっ・・・ひっく・・・・・すー、はー」

海未(冷静に。冷静になってこの窮地を脱する方法を考えるんです。園田海未。あなたは今まで何を両親に教わってきたのですか。こんな時でも冷静に行動できなければ、園田の娘として恥ずかしいです!)

海未「すー、はー・・・・」

海未(・・・・よし!)



海未「穂乃果、ありがとうございました」

穂乃果「ん。もう大丈夫?」

海未「はい・・・!」

穂乃果「よかった」ニコ





海未「それでですが・・・。いくら三人身を寄せ合って体温を合わせても、こんな風雨に晒されっぱなしでは一晩も持ち堪えられるとは思えません」

穂乃果「そう・・・かぁ・・・。分かった。それじゃあ、やっぱり雨宿りできそうな所を探して頑張って歩く?」

海未「いえ。もう私たちは夕方からずっと歩きっぱなしです。疲れている体でことりを背負いながらこれ以上当てもなく動き回ったら、一時間もしないで力尽きるでしょう」

穂乃果「私、まだ頑張れるよ?」

海未「・・・・・穂乃果」

穂乃果「?」

海未「・・・・それとことりもです」

海未「よく聞いてください。そして約束してください。こういう状況です。お互い絶対に嘘を吐かないでください。辛いことは、辛いと思った時点ですぐに言ってください。そして、その辛いことはみんなで支え合いましょう」

穂乃果「・・・うん」
ことり「・・・はい」

海未「それでは穂乃果。もう一度聞きます」

海未「あなたは本当にまだことりを背負って歩けますか?」

穂乃果「んっ、そうだね・・・。もう少しくらいは歩けると思うけど・・・当てもなく歩き回るのはちょっと無理かなあ・・・・・」

海未「そのはずです。あなたよりずっと体が鍛えられている私が、今現在かなり辛いのですから」

海未「それと、ことり」

ことり「は、はい」

海未「ちゃんと教えてください。足のケガはどの程度ですか? それと他にケガはありませんか? あんな高い崖から転げ落ちたのですから」

ことり「うん。崖の途中は長い草が生えてたおかげで強い打ち身は足以外には無いと思う。足の方は・・・崖から結構勢いよく転がり落ちちゃって、一番下に落ちた時に大きな岩があって、そこに足をぶつけて・・・・。それからは足の方は物凄く痛いの・・・。膝から下は少しだけでも動かしたら痛いくらい・・・」

穂乃果「そうだよね・・・痛いよね。それなのに私、乱暴に運んでごめんね・・・・」

ことり「ううん、そんなことないよ。そもそも私がドジだk」海未「はいっ! 二人ともそこまでです!」

海未「謝り合うのは家に帰ってからにしましょう。とにかく、二人とも正直に今の辛いことを言ってくれて、ありがとうございます。これからも同じようにお願いしますね」

穂乃果「うん!」

ことり「はい!」

海未「ただ、辛いことばっかりグチグチ言うのもよくないです。こういう状況で一番大事なのは、絶望に囚われずに、《帰る!》と言う気持ちを常に強く持つことです。幸い、そういうのが得意そうな人がいますしね」チラ

穂乃果「あ! それ穂乃果できるよ! だって海未ちゃんとことりちゃんがいるんだもん! 大丈夫! 頑張る、まかせて!」

海未「ふふ、お願いしますね」

ことり「穂乃果ちゃん頼もしい♪」



海未「さて、改めて状況を確認できた所で・・・先ほど言った通り、私達はもう長い距離を歩けません。今日の所は駅まで戻るのは諦めましょう」

海未「ですから、差し当たりすべきはここでテントを張ることだと思います。テントに入れば雨風は防げるはずですし、寝袋もありますので体温も維持できます。テントの中で軽く食事をして、眠って、体力を回復させましょう」


海未「・・・・異論はありますか?」

穂乃果「ううん。無いよ」

海未「ことりはどうです?」

ことり「海未ちゃんを信じるよっ」

海未「はい、ありがとうございます」

海未「それでは、穂乃果。この風ですから一人ではとてもテントの設営はできません。疲れている所悪いのですが、手伝って頂けますか?」

穂乃果「うん! 穂乃果テント立てたことあるからやれるよ!」

ことり「私もやる!」

海未「ことり、気持ちは嬉しいのですがケガをしているのですからじっとしていてください」

ことり「・・・・うん」シュン

海未「ですが、すいません、ことり。辺りはもう結構暗くなってしまっているので、このライトで私たちの手元を照らしてくれますか」

ことり「っうん! 任せて!」




海未「それでは・・・」

ドサッ

海未(お気に入りの登山用のザックですが、すっかり泥だらけですね。この際どうでもいいですが)

海未(まずは、グランドシートを取り出して敷きます)ゴソゴソ

海未「穂乃果。今から―――」

ヒュー、ビュォオオオオ

穂乃果「えーっ?! なにーっ?!」

海未(っ、風が強いので少し離れたら声が届かないっ)

海未「今からこのシートを敷きますので!! 飛ばされないよう抑えててくださいっ!!」バサッ

穂乃果「分かったっ!」

バッ

穂乃果「・・・・うん、抑えたよ!」

ビュゥゥウウ
  ―――バサバサッ

穂乃果「あ、あらら・・・!」

穂乃果「ああ、もう! 上に乗っちゃえ」ガバッ

海未(よし・・・。大丈夫そうですね。私は手を離して)パッ

海未(次はインナーシートにポールを通して―――・・・いや、待ってください、以前希に教わりました。こういう状況の時は―――)



~~~~~~~~~~~~~~~~

希「雨が降ってるときは先にフライシートを広げた方ええんよ。そんで、その下でインナーシートを広げるの。そうせんと、テントの中が水びたしになっちゃうからね」

希「風が強い時は、何もよりも先に風上の方の二カ所をペグダウンしよな。そうすれば、とりあえずは飛ばされんから。それからポールを立ち上げて残りのペグを打つんよ」

~~~~~~~~~~~~~~~~



海未(・・・・ありがとうございます、希。まずはフライシートを広げて風上の二カ所をペグダウンですねっ!)ゴソゴソ バサッ

ガシン! ガシン!

海未(ペグダウンしました。これにグランドシートとフライシートを固定すれば飛ばされません。次は・・・)ゴソゴソ

海未「穂乃果! 次はこのインナーシートを間に入れて広げてください! そして飛ばされないよう中でしっかり紐を結んでください!」

穂乃果「おっけー!」バサッ キュ

海未「私は反対側を」バサッ キュ




穂乃果「できたっ! 海未ちゃん! こっちは固定したよ!」

海未「そのまま抑えててください! 次はポールを通して立ち上げます!」

スルスル~

海未(ここで弧を描くように押しこめばっ)ググイッ

バッ!

穂乃果「おおっ!! テントの形になった!」

海未(すかさず残りのペグを打ち込みます!)

ガシン! ガシン!  ガシン! ガシン!


海未「できました! 設営完了です!」

穂乃果「やったね!」

海未「穂乃果! とりあえず中に入ってください! ことりを連れてくるので、中から引きいれてください!」

穂乃果「分かった!」



---------------
テントの中に入った三人



ギュウギュウ

穂乃果「せ、狭いね・・・」

海未「す、すみません・・・。三人用のテントは結構大きくてザックに入らなさそうだったので・・・。実はこのテント、二人用なんです」

穂乃果「そうなんだ。まあ、つめれば何とか」

海未「実はそうもいかないんです。寝袋も、ほらこの通り二つしかなくて」

穂乃果「・・・・・・えっ、ちょ、ま、まって待って、ということは、誰かが一人外に・・・?」


海未「・・・・・」チラッ

ことり「・・・・・」チラッ


穂乃果「あ、あの」汗ダラダラ

ことり「・・・ほのかちゃん。ごめんね」ウルッ

穂乃果「まじ・・・?」

海未「ケガをしたことりを締め出す訳には行きません。それと、このテントは私の物ですし決定権は私にあります」

穂乃果「う、うぅ・・・」タジッ

海未「すみませんが、分かってください。穂乃果」肩ポンッ

穂乃果「うっ、うう。分かったよ・・・。朝になったら、穂乃果の事、ちゃんと暖めてね・・・」ノソノソ...



ガシッ

海未「待ってください。冗談です」

穂乃果「へっ? 冗談?」

ことり「ほのかちゃん、ごめんね♪」

穂乃果「???」

海未「そうですよ。ことりも悪乗りするんですから」

ことり「えへへ♪ だって海未ちゃんが穂乃果ちゃんを追い出すことなんて絶対しないって分かってるから、つい♪」

穂乃果「ほ、ホント? 外に出なくていいのっ?」

海未「ええ」

穂乃果「で、でも、寝袋二つしかないって」

海未「確かに二つしかありません。一つは普通の一人用の寝袋ですが、もう一つは横に大きく伸びるタイプで大柄の男性でも入れる寝袋です。これなら女性二人ぐらいなら入れるかと思って」

穂乃果「そっか、それで寝られるんだね。びっくりした~・・・」


海未「圧縮性・保温性・軽さに優れた羽毛の寝袋でしたら三つ持っていけましたが、羽毛は濡れると使いものにならなくなってしまうんですよね。化繊綿の寝袋にして正解でした」

海未「そんな訳でちょっと窮屈かもしれませんが、我慢してくださいね」

穂乃果「全然いいよ! くっついて寝た方があったかいよきっと!」

海未「ふふっ、そうですね」


海未「びしょ濡れですし。とりあえず服を脱いで体を拭きましょう」ヌギヌギ

穂乃果「うん。・・・・・ごめんね、海未ちゃん、テントの中泥だらけになっちゃって」ヌギヌギ

海未「気にしないでください。後でタオルで拭けばいいですから」ヌギヌギ

....フワッ

海未「あれ? なんかいい匂いがしません?」

穂乃果「そう? ことりちゃんの汗の匂いじゃないの?」ズイッ スンスン

ことり「っや/// ぁぁ////」

海未「それもあると思いますけど、笹餅を頂いている時のようないい香りが」スンスン

穂乃果「そうだ笹だよ。この山に入ってからずっと、笹がたくさん生い茂っている中を歩いてたからさ」

海未「なるほど。いい匂いでちょっといい気分になれますね」


ことり「・・・・・」モジモジ

海未「ことり、服脱ぐの手伝いますよ」

ことり「あっ、うん、お、お願い・・・します///」

海未「失礼しますね」ヌガセ

ことり「あっ・・・・」

 イチゴパンツ「イヤン」

穂乃果「ほー。いつもの」マジマジ

海未「ええ、いつものですね」マジマジ

ことり「っ~~~/////////」カァ



海未「・・・足の方・・・大分腫れ上がっていますね」

ことり「あ、う、うん・・・」

海未「骨までいってなければいいですが・・・。とりあえず応急処置をしましょう」

海未「穂乃果、にこからアイドル雑誌を借りていましたよね。それをください」

穂乃果「うん」ゴソゴソ

穂乃果「はい、これだけど。どうするの?」

海未「これを丸めて添え木代わりにします。ですが、ちょっと分厚いですね。半分くらいのページは引きちぎって」ビリビリーッ

穂乃果「ああっ・・にこちゃんに怒られちゃう・・・」

海未「足首が動かないよう、雑誌を当てて、タオルで縛りつけます。こうやって縛り付ける事によって腫れと内出血を防ぐ目的もあります」ギュ

ことり「んっ・・・」

海未「ことり、大丈夫ですか? 痛くありませんか?」

ことり「う、うん。こうやって動かさなければ、それほど痛くは無いかな」

海未「良かったです。とにかく動かさず安静にすることです。しばらくこれで過ごしてください」



---------------



ビュォォオオ バサバサバサーッ
ザザザザーッ バ バ バ バ バー



穂乃果「強い雨と風がテントにぶつかってすごい音が鳴ってる・・・ちょっと怖い・・・」

穂乃果「・・・昨日泊まったホテルで見た天気予報では晴れるって言ってたのに。なんでこんな大荒れの天気になっちゃったんだろ?」

海未「私もスマホで天気を調べていましたが、調べたのは札幌や旭川等、行く予定のある場所だけだったので。この地域は荒天の予報になっていたのかもしれませんね。なにより山の天気は変わりやすいともいいますし」

穂乃果「そっかー・・・。雨に打たれて、風に打たれて、駅への戻り方も分からない。こんな山の中で完全に迷子になっちゃって・・・」

穂乃果「ねえ、もしかして、これってさ・・・・。遭難してるってことになるのかなあ・・・?」

海未「・・・・あっ、ええ、っはい。・・・実は―――」








海未「・・・・・そうなんです」








穂乃果「・・・・・・」

海未「・・・・・・」

ことり「・・・・・・・ひっくち」

穂乃果「冷えて来たね、そろそろ寝袋に入ろうっか」

海未「そ、そうですっ。夏とはいえ山の気温は低いですからネっ」



海未「ことり。ことりは一人用の寝袋を使ってください。寝相で蹴られたら大変ですから」

ことり「うん」モソモソ

海未「それと、足の下に荷物を置きますね。足を心臓より高い位置まで上げることで血流を悪くし、内出血と腫れを防ぎます」


海未「穂乃果は私とこっちの寝袋に入りますよ」モソモソ

穂乃果「は~い」モソモソ


穂乃果「おっ、この下に敷いているエアマット、柔らかくていいねえ」モフッ

海未「ええ、これで地面の冷気を防げるうえに、地面の凹凸を無くして寝やすくなります。銀マットより携帯性に優れていて重宝するんですよ」




ゴォォオオオオ! バサバサバサーッ!!
ババババババーッッ!!



穂乃果「わっ、すっ、すごい風・・・。雨粒も大きくなってきたみたい。ね、ねえ、テント大丈夫・・・だよね?」

海未「心配ありません。長めの金属ペグを12本打ち込みました。さらに、人が三人と荷物もテントの中です。飛ばされるなど考えられません。それにこのテントは歴史ある日本メーカーの純正品です。信頼できる登山向けの耐風仕様ですので、この程度の風ならなんともありません」

穂乃果「そ、そっか・・・なら大丈夫だよね」

海未「はい。絶対に大丈夫です」

海未(・・・とは、不安にさせないために言うものの。自然の力とは時として人知を大きく超えます。かといって、ここまできたらもう後は祈る以外にできる事はありません)


海未「今日はもう寝て、今は体を休めることだけを考えましょう。ライト消しますよ」

カチッ

穂乃果「おわっ、思った以上に真っ暗だ。本当になんも見えなくなっちゃった」

海未「日が完全に落ちて、街灯も全くない山中ですからね」


海未「寝ますよ。おやすみなさい」

穂乃果「は~い。おやすみ」

ことり「おやすみ」




---------------------------


ビュオー! ガサガサガサ!
ババババ!



「・・・・・うっ」

「・・・・・くっ」


海未(・・・・・・・んん?)


「・・・・・ひっく」


海未(・・・せっかく寝つきはじめたというのに・・・誰ですか声を出しているのは)


「・・・・・うっぐ、く」


海未(穂乃果ですね。私の眠りを妨げるなど許せません。制裁を与えます)キッ

海未「穂乃果っ。いいかげ・・・ん、に・・・?」キョトン


穂乃果「ひっく、うっぐ、ごめ・・・・ごめん・・・なさい」


海未(な、泣いているのですか・・・? 暗くて顔は全く見えないですし、吹き荒れる風雨の音で声はよく聞き取れませんが・・・嗚咽をもらしているような・・・)

海未「ほ、ほのか? ど、どうしたのですか? どこか痛いのですか?」

穂乃果「わ、わたしのせいで・・・・ぐす、ぐす・・・・こんな、ことに・・・ひぐ・・・ごめ・・・」

海未(謝っている?)


穂乃果「ごめん・・・ごめ・・・ごめん、なさい・・・ごめんなさい・・・ううっ・・・」

海未(・・・・。自分を責めているのですか)

穂乃果「ごめん、なさい。ひ、うぅ・・・わたしが・・・山の中に入ろうだなんて言わなければ・・・・ごめ、ごめんなさい・・・」


海未「・・・・・・・」


海未(どうしてですかね――)


穂乃果「ひっく、うぅ、・・・ぐす」


海未(一番の親友がこんなに落ち込んでいるのに―――)


穂乃果「ごめん・・・なさい・・・私が北海道に行こうなんて言わなければ・・・ひっく、ぐす」


海未(私は今、とても気分がいい)


海未「ふふっ」


海未(こうやって一緒の布団に入って眠る時、電気を消した後にいつも、穂乃果は本音を私に漏らすんです)

海未(ライブが大成功した時、家族と喧嘩して家出した時、嬉しかったこと、悲しかったこと、気に入らないことがあって愚痴を聞いて欲しい時・・・・・眠ってしまうまでの間、布団の中で二人っきりでいつもたくさんの話をしました)

海未(物心ついた時からこの年になっても、全然変わらない穂乃果)


穂乃果「うみちゃ・・・ことりちゃ・・・ごめ、ん・・・ひっく」


海未(・・・・先程は、死の恐怖に怯えていた私を、穂乃果が励ましてくれました)

海未(帰ることに強い決意を見せて、私とことりをその持前の明るさで元気付けてくれました)

海未(貴女はいつも能天気で楽観的で呑気でお気楽で大雑把でいい加減な人に見えますが・・・その実は自分より友達の事を優先する犠牲心があり、それでいてとても繊細な心の持ち主・・・なんですよね。私は生まれる前から貴女とずっと一緒だから、よく知っています)

海未(繊細な心を持っているからこんなにも自責の念に囚われている)


穂乃果「私のせいで・・・私のせいで・・・!」


海未(そんな心の奥を・・・そんな弱さを・・・本音をいつも私に晒してくれて・・・・・私は本当に嬉しいです)




 ....スッ ペタッ



穂乃果「ぐすっ・・・―――あっ、ぅえっ? う、みちゃ・・・?」グスグス

海未(真っ暗闇のこの中では穂乃果の顔はよく見ませんが・・・手さぐりで穂乃果の頬に触れると、しっとりと濡れている)

海未(こんなに泣いて・・・)


海未「・・・・・穂乃果」

穂乃果「・・・んっ、みちゃ・・・。ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」グスグス


海未「・・・・聞いてもらえますか?」

穂乃果「うぅ、うっうっ・・・」グスグス


海未「・・・・・確かに今はとても辛い状況です。間違った行動をしたら死にます。こんな危険な状況になったのは穂乃果のせいです。ハッキリ言って物凄く迷惑しています」

穂乃果「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・・」

海未「でも、いいんです。それで」

穂乃果「・・・・え?」


海未「穂乃果に迷惑を掛けられるなど、今まで何百回とありました。今回もその内の一つです」

穂乃果「・・・・・・」


海未「もう、慣れっこなんです。穂乃果に迷惑を掛けられるのは。そして私は知っているのです―――」

穂乃果「・・・・・・?」

海未「迷惑を掛けられる度、他の誰もが辿りつけないような場所へと、私やことりを貴女が連れて行ってくれる。それはとても楽しく気持ちが良く、心の底から興奮するのです。私はそれがもうすっかり癖になっています」

海未「なんにも囚われないで、一番やりたいこと、一番面白そうなものにひるまずまっすぐに向かっていく。それは穂乃果にしかできないことです。それが貴女の良い所です。そのままの貴女でいいんです。これからも変わらずそんな穂乃果であってほしいと私は思います」




穂乃果「・・・・私はそんなすごい人じゃない。迷惑なんてかけたくない。私、このまま変わらなかったらいつか海未ちゃんとことりちゃんに取り返しのつかないキズをつけてしまいそう・・・」

穂乃果「そんなことになったら・・・私、もう海未ちゃんとことりちゃんに顔向けできない・・・ずっと一緒に居たいのに・・・そばにいられなくなっちゃう・・・・!」


海未「穂乃果・・・」クイッ

穂乃果「? うみちゃ―――んっ?! んむっ・・・」



    ....チュ



穂乃果「んっ・・・・。ぷは・・・はぁ、はぁ・・・」トローン

海未「んっ・・・。穂乃果」

穂乃果「うみちゃ・・・」ポヘー


海未「これは今の貴女への私の気持ちです。私にここまでさせておきながら今の自分を変えようだなんて言うのは許しません」

穂乃果「・・・・・」ポー


海未「・・・・苦しい時は私が支えます」

海未「それはもちろん、これからの道のりの中で、くじける日もあるでしょう。泣き出す日もあるでしょう。逃げ出したい日もあるでしょうし、待てない日もあるでしょう」

海未「そしてどこからか黒い雲が現れて一瞬、まぶしい夢をその目に見られなくなる日もあるでしょう。でも、その時は必ず。私が支えてみせます」

海未「青空が、金色の輝く太陽が、再びあなたの頭上に輝く日まで」


グイッ

海未「・・・・・」抱き寄せ

穂乃果「ふぁっ」ポフッ


海未「産まれる前からお腹の中にいるときからの幼馴染の私達。きっとこのまま大人になっても。おばさんになっても、おばあちゃんになっても、いつまでも。ずっとずっと私達は近くに、同じ場所にいるような気がします。いつまでも」

海未「だから私は穂乃果とずっと一生友達です。一生の友達だから、他の誰かが穂乃果を見捨てても、私が最後まで穂乃果のそばにいます」

海未「時には周囲をかき乱し迷惑をかける貴女の事を嫌う人もいるかもしれません。ですが何があろうと私は、何にでも物怖じしない強さがありながら、人の苦しみで自分を弱らせてしまう穂乃果の事が好きです」

海未「これからの長い人生で誰も貴女の味方になってくれない時があっても、私だけは、強そうで弱くて弱そうで強い、不思議な力を持っている貴女の、ずっと一生、味方になろうって―――」

海未「随分前に私は、そう決意しています」


穂乃果「ひっぐっ・・・うみちゃん・・・・」グスグス

海未「・・・・・」背中なでなで


穂乃果「うみちゃんに、してもらうばっかりで・・・ほのかは・・・うみちゃんに、なんにもしてあげられないのに・・・っ」

海未「そんなことはありません。・・・・私にも辛い時はあります。先程のように自分を見失ってしまうこともあります。ですが、そんな時はいつも穂乃果の強く前向きな眼差しに支えられました」

海未「そんな風に辛い時はお互いに支え合いたいです。そうすれば、貴女といつもまでも楽しく過ごせますから」


穂乃果「・・・・・・・ありがとう。・・・・ありがとうありがとう。うみちゃん・・・ありがとうっ・・・・・!」グスグス

海未「穂乃果・・・・・」ギュウ







----------------------------------------
◇ 7月28日 5:00 朝曇り



 < チチチチチ
 < チュンチュン
 < ピョー,ピョー



海未「ん・・・」パチッ

海未(明るい・・・。朝・・・ですか)

海未(静かですね・・・。遠くから鳥の鳴き声が聞こえる。雨と風の音はしない)

海未(なんとか、乗り切ったようでね・・・)

海未(ここは緩い傾斜になっているから、それで水が下へ流れてテントへの浸水も防げたようです)

海未「ふぅ・・・・とりあえず生き残れました・・・・・よかった・・・・」



海未「穂乃果、ことり」

穂乃果「くあー、くー・・・」

ことり「・・・・・・」

海未(二人ともまだ寝ていますね・・・・そのままにしておきましょう)

海未(とにかく無事でよかった)

海未(今何時でしょうか。おっと、スマホは壊れてるから時間は分かりませんね・・・)

海未(そういえば、ことりが腕時計をしていました。後で見せてもらいましょう)



海未「んっ、ふぁ~ー・・・・・・」

海未(特にすることがありませんね)ポケー



 テケテケ



海未(・・・・おやっ。テントのインナーシートの外側にアリとカエルと・・・よく分からない虫が歩いています)

海未「・・・・」ジーッ


 アリ「」テケテケ

海未「・・・・」ジーッ


 カエル「」ピョンピョン

海未「・・・・」ジーッ


 よく分からない虫「」カサカサ

海未「・・・・」ジーッ


 カエル「ビョ~ン」バク


海未「あっ」


 アr「ちょおま」食われ
 カエル「ウマウマ」モグモグ

 よく分からない虫「ヒョエー ニゲロー」カサカサ




海未「・・・・・・」

海未(・・・・・・ちょっと外に出てみますかね)


ゴソゴソ

海未(靴、全然乾いていませんが仕方ありませんね。そのまま履いちゃいましょう)

海未(さて、外に―――)パサッ


海未「うわっ、っと・・・結構寒い・・・」ブルッ 両腕抑え

海未(7月とは思えない寒さです。雨上がりというのもあるんでしょうけど、北海道の山の中ですからかね)

海未(・・・・寝袋とテントが無ければ死んでました)

海未「・・・・・っ」ゾーッ...

海未(あーもう! いけません心を乱しては。深呼吸して気持ちを落ち着けましょう)



海未「んー。すぅぅー・・・」

海未「はぁぁー・・・」


海未(辺りが霧に覆われています。雨上がりで、ツンと冷えた空気)

海未(山中独特のとても澄んでいる空気・・・・それが肺に入った瞬間に全身が清涼感で満たされるような気分です)

海未(一気に頭がすっきりしました)




http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira127126.jpg




 < チュン、チュン
 < チチチチチチチ

 ポツ ポツ



海未(鳥の鳴き声に、木の葉についた雨露が落ちる音・・・・。草木は朝露で濡れ、朝日を反射してキラキラと輝いていて美しい・・・)

海未(気持ちが良いです。もう一度深呼吸をしましょう)



海未「すーっ、はーっ・・・」

海未「ふー・・・」



海未(なんと静かで、穏やかで、清々しく、爽やかな朝なんでしょう。昨晩の大嵐が嘘のようです)


海未(・・・昨晩は本当に怖かったです。風で壊されそうなテントの中、穂乃果と一緒に同じ寝袋に入って身を寄せ合って―――)



~~~~~~~~~~~~~~~~

海未「穂乃果・・・」クイッ

穂乃果「? うみちゃ―――んっ?! んむっ・・・」

    ....チュ

~~~~~~~~~~~~~~~~



海未「んんっ!!?!////」バッ

海未「あっ・・・ああ!///」カァァ

海未「あ、あれは夢じゃない・・・? ですよねっ?! わ、わわ私は・・・な、ななな、なんてことをっ・・・!!!///」悶え

海未「いくら怖かったとはいえ・・・な、なんで私はあんなことを・・・は、破廉恥な///」

海未「私の馬鹿! 馬鹿!/// いきなり、き、ききき....ス/// するなんてどうかしてます!/// おかしいです! 昨日の私はおかしかったのです!」



海未「・・・・・・・」


海未「あ、あれ? 特に後悔を感じないのはどうしてでしょう・・・?」


海未「・・・・・・・」


海未「・・・・・やっぱり、穂乃果だから・・・ですかね・・・」

海未「・・・・・・///」

海未「塩味・・・でした///」

海未「はっ・・・! なんて自己中心的な考え・・・。私は最低です!」

海未「私は良くても、穂乃果が嫌がっていたら・・・」

海未「嫌がっていた・・・?」



~~~~~~~~~~~~~~~~

穂乃果「・・・・・・・ありがとう。・・・・ありがとうありがとう。うみちゃん・・・ありがとうっ・・・・・!」グスグス

~~~~~~~~~~~~~~~~



海未「・・・・」

海未「・・・・・ほのか///」ポッ




 パサッ

ことり「海未ちゃん」

海未「わあ!!??」バッ

ことり「きゃ」ビクッ

海未「あ、ああ・・・」バクバク

海未「こ、ことりですか・・・・はぁはぁ・・・おは、おはようございます」バクバク

ことり「う、うん。おはよう。どうかしたの?」

海未「ふぅー・・・・い、いえ、お気になさらず。それより足の具合はどうですか?」

ことり「うん、動かすと、やっぱりとても痛くて・・・」

海未「無理に動かさない方がいいです。安静にしてもう少し眠っていた方がいいですよ」

ことり「それは・・・そうなんだけどね・・・」 ...モジモジ ウツムキ

海未「?」

ことり「・・・う、海未ちゃんは、今何をしていたのっ?」

海未「へ!?/// わ、私ですかっ!?」

ことり「うんうん」

海未「えーっと、そ、そそそれはですねぇ・・・/// あっ! そうです! 深呼吸をしていました! 見てください、この爽やかな朝を! ここで深呼吸すると、とても気持ちがいいんですよ!」

ことり「う、うん! ちょっと寒いけど、気持ちがいいね!」

海未「そ、そうです! とてもいいですよね!」


ことり「・・・・・・」モジモジ

海未「・・・・・・」


海未「・・・・・?」

海未(どうしたんですかね、ことり。ちょっと様子がおかしいような。・・・いえ、私も人の事言えませんが・・・)


ことり「・・・・・・・・・あの、ね。海未ちゃん」

海未「? はい、なんでしょう?」

ことり「ちょっと、お願いごとがあって・・・」

海未「はい、なんでも言ってください」

ことり「えへへ」チラッ

海未(? なんでしょう。ことりは一瞬テントの方に目をやりましたが)

海未(あっ。もしかして穂乃果の方を見たのでしょうか。つまり、 “穂乃果に聞かれたくない” ということですかね)

海未(ことりは足をケガしているので、動けません。ですから小声で話せるように私から寄らないと)ススッ


海未「これで話せますか?」ボソッ

ことり「ありがと、海未ちゃん」ボソッ

海未「はい。なんでも言ってください」ボソッ




ことり「・・・・・・」

ことり「・・・・・・あのね」ボソッ

海未「はい」ボソッ


ことり「....ワタシ」ボソッ

海未「はい」ボソッ


ことり「.....オハナ...ツミニ イキタクテ...」ボソボソ

海未「お花?」

ことり「う、うん///」カァ

海未(なんでこんな時にお花を?)

海未(・・・・はて?)キョトン



海未「・・・・あっ」

ことり「////////」ウツムキ

海未「す、すすいませんっ。そ、そういう意味でしたかっ」

ことり「ぅん///」

海未「あ、えっと・・・そうですね・・・えーっと」アタフタ

海未(た、確かに・・・今のことりでは、一人ではできないですね。私がしっかりサポートしないと!)

海未「分かりました。任せてください。とりあえず、少し離れた所に行きましょうか」

ことり「う、うん。・・・・本当にごめんね、海未ちゃん」

海未「お安いご用ですよ。まずはテントから出ましょう。手を貸します」

ことり「うん、ちょっと待って、靴を―――」ゴソゴソ

海未「無理に靴は履かない方がいいですよ。ちょっと失礼しますね、ことり」グイッ

ことり「ひゃ」

海未「よっと」ヒョイ

ことり「はわわ/// お姫様抱っこ///」

海未「ふふ。さ、行きましょう」ニコ

ことり「は....ハイ//////」キュン








 ....ノソノソ パサッ

穂乃果「あれ~・・・海未ちゃん、ことりちゃんどこいくのー? ふぁ~・・・・」ネムネム

海未「わっ?! ほ、ほのっ・・・・か」

ことり「ほ、ほのかちゃ・・・えっと・・・それはぁ・・・」モニョモニョ

海未「べ、別に大したことではありません。ちょっとそこまで・・・」ゴニョゴニョ

穂乃果「??? 穂乃果も行く~・・・」

海未「い、いえっ! ホント、お気になさらず! 穂乃果はゆっくりしててくださいっ」

穂乃果「??? 分かったあ・・・・ふあー・・・」ネムネム

海未「ほっ・・・」


海未「そ、それじゃ・・・」ザッ

穂乃果「うみちゃ~ん・・・」

海未「今度は何ですか」

穂乃果「ほのか。おトイレ行きたい」

海未「なっ///」

ことり「!///」

穂乃果「どこぉ~?」

海未「なっ、うっ・・・」シドロモドロ

海未「・・・あ、あ、ありません!」キッパリ

穂乃果「ぇう~??」

海未「こんなところにおトイレなんてあるわけないでしょう! 我慢なさいっ!」

穂乃果「そんなあ・・・」

ことり「海未ちゃん・・・それはあんまりだよぉ・・・」

海未「うっ・・・」




---------------
テントからちょっと離れた所



ことり「うぅ・・・恥ずかしいぃぃ・・・」

穂乃果「何でっ? 恥ずかしくないよ! 私達よく三人で銭湯行くでしょ。お風呂もおトイレも一緒だって!!」

ことり「ふぇぇ」

海未「穂乃果・・・あなた自分が一体どれほどの失言をしているか理解していますか?」

穂乃果「大丈夫だって。本当に気にしないでよ! さ、ことりちゃん。安心して、サッっとしちゃお! ズボン降ろすね」ガシッ ズルッ...

ことり「まっ! 待って! 待って、お願い、穂乃果ちゃん!」

穂乃果「どうしたの? とりあえずズボン降ろすね? パンツも」ズルル

ことり「だ、だからぁ・・・えっと・・・拭くものが・・・」

穂乃果「ああ・・・ティッシュがないのか」

海未「そうですね。すいません気が付かなくて」

ことり「ことり、ポケットティッシュをカバンに入れてるから・・・」

穂乃果「分かった! 取ってくるよ」

海未「待ってください、穂乃果」

穂乃果「?」

海未「ティッシュもゴミです。山にゴミを捨てるなんてダメです」

穂乃果「ええ・・・。じゃあ、どうするの?」

海未「それは、もちろん。ほら、例えばあれとか」



あれ↓

 (葉っぱ) ヒラヒラ



ことり「えっ」

穂乃果「・・・・海未ちゃん・・・本気?」

海未「し、仕方ないじゃないですかっ。とにかくっ、私がことりを支えていますので取ってきてくださいよ」

穂乃果「うへぇ~・・・。分かったよお・・・・・・・」トボトボ

海未「あっ、なるべく大きいのを多めにですよ」

穂乃果「は~い・・・・」テクテク

ことり「うっ、うっ」シクシク




穂乃果「信じらんないよ海未ちゃん・・・」スタスタ


穂乃果「現代っ子の東京っ子の女の子にこんなことさせるなんて・・・・」ブチブチ


ブチブチ
 ブチブチ




---------------



穂乃果「はい、てんこ盛りに取って来たよ・・・」

海未「ありがとうございます。さ、ことり、今度こそ」

ことり「あ、あの・・・その・・・」

海未「本当に気にしませんから」

ことり「ちがくて・・・」

穂乃果「大丈夫だから! さっと、ちょろっと!」

ことり「ちょろっと、できないのお・・・・」

海未「・・・・?」
穂乃果「・・・・?」

ことり「だからぁ! おっきい方なの!! ふえーん・・・」シクシク

海未「 」

穂乃果「・・・えっと、その」

ことり「うっ、うっ」シクシク

穂乃果「あ、ああ! そうだよね! いいよ仕方ないよ! 昨日ラーメン一杯食べたもんね! きっとそれだよ!」

海未「そ、そうです! 私達も一緒に食べましたから、一緒にしましょう!」

穂乃果「えっ」

海未「あっ・・・」

ことり「しっく、ひっく・・・」グスグス


穂乃果「そ、そうだね! そうだよ! 海未ちゃんの言う通り! 赤信号みんなで渡れば怖くない! 外でのうんこみんなですれば恥ずかしくない!」

海未「え、ええ! さあ、私はもうズボンを降ろしましたよ!」ズルッ

穂乃果「穂乃果も!」ズルッ

ほのうみ「「ことり(ちゃん)も!」」ズルゥ

ことり「ふえ~ん・・・」シクシク

海未「さ、ことり。私と穂乃果でしっかり両側を支えていますから。三人で息を合わせてしましょう」

穂乃果「そうそう! いつも私達歌やダンスを合わせてるでしょ? それと同じようにうんこも合わせればいいんだ!!」

海未「そうです! いまこそ練習の成果を発揮しましょう!」

穂乃果「ファイトだよっ!」

海未「ファイトですっ!」

ことり「ぐすっ・・・」



海未「んっ」
ことり「ん....」
穂乃果「ふんっん!」



・・・・・・・・

・・・・・・・・

・・・・・・・・




---------------



ザッ ザッ

海未「こうして穴に埋めておけば山の肥料になります」

穂乃果「ことりちゃんの所からは綺麗な花が咲きそう」

ことり「うぅ・・・もうお嫁にいけない・・・」シクシク

穂乃果「何言ってるのお嫁なんかに行けるわけないじゃん。だってことりちゃんは穂乃果と一昨日結婚したんだよ。ことりちゃんは穂乃果のお嫁さん! 誰にも渡さない!」

ことり「んんっ//////」



海未「さ、ことり、あんまり足に負担を掛けてはいけません。テントに戻ってしばらく横になってください」

ことり「うん・・・穂乃果ちゃん、海未ちゃん。本当にごめんね。こんなことまでさせちゃって。ありがとう」

穂乃果「全然! またもよおしたらすぐに言ってね!」

ことり「ぅ・・・ぅん・・・///」




---------------
ことりはテントの中に、
海未と穂乃果は近くにあった倒木に腰を掛ける



クゥ~

穂乃果「あう・・・。お腹減った・・・」

海未「そうですね・・・。ですがこのような状況ですし、簡単に戻れない場合を想定して食料や水はなるべく温存しておくべきかと・・・」

穂乃果「そっか・・・。ねえ。これからどうする? 駅まで戻れるかなあ?」

海未「う~ん・・・。駅までは10kmも無い距離だとは思いますが、天然の迷路を進んで、更に暗い中ことりを助けるためにがむしゃらに動いてしまったから、駅までの方角が全く分からないんですよね・・・」

海未「かといって当てもなく下手に動いたら、余計に山奥に迷い込む可能性がありますし」

穂乃果「そうだよねぇ・・・・」


穂乃果「じゃあここでじっとしているのはどうかな? 遭難したら自力でなんとかするんじゃなくて、救助が来るのを待つのがいいって聞いたことがあるよ」

海未「救助が来ると思います?」

穂乃果「えっ?」

海未「確かに、その場の状況にもよりますが登山で遭難した対処として、無理に動かず、体力を温存し、救助を待つのも手です。しかし、それは入山する際に入山届けを提出していることが前提です」

海未「入山届けに記載した予定下山日になっても帰ってこない人がいたとしたら、救助隊は救助に向かいます。ですが、私達の今の状況はどうでしょう?」

穂乃果「・・・・」

海未「入山届けなんて提出していません。それにスマホは雨に濡れて壊れましたし、通信はできません」

海未「それでも何日かして私達がこの旅行から帰る予定日に家に帰らなければ、家族が警察に捜索願いを出すでしょう。そして捜索の手がかりとして家族は私達の行先を警察に伝えると思います。私達の行先とは札幌や旭川、昨日着くはずだったキャンプ場です」

海未「ですが私達はたまたま電車を乗り過ごしてしまい、予定に無い行先でしかも駅から離れたこんな山奥にいます。ここに私達がいるなど、誰が推理できるでしょうか?」

穂乃果「・・・・」

穂乃果「・・・・そっか」ジワッ


穂乃果「そうだよね・・・どうにもならないよね・・・・穂乃果のせいで・・・・」ウルウル

穂乃果「ごめんね。本当にごめんなさい・・・」グスグス

穂乃果「穂乃果があの獣道に入ろうってさえ言わなければ・・・こんなことには・・・」ポロポロ

海未「あっ! い、いえ、違うんです! 決して穂乃果のことを責めたつもりじゃ!」ガシッ

海未「昨日も言いましたが、私は――――・・・あっ、昨日は///」

穂乃果「きのう・・・? あっ///」

海未「えっと/// その・・・・昨日の夜///」

穂乃果「・・・・う、うん////」

海未「で、ですから、そういう訳で/// じ、自分を責めないでください」

穂乃果「は、はい・・・///」ウツムキ

海未「・・・・・・////」ウツムキ

穂乃果「////」



  テントの中 < んっふふ~♪



海未「・・・はっ! と、とにかくですよ!/// 他に手がないかを考えましょう!///」

穂乃果「そ、そうだね!/// ほのかも考える!///」


海未(ええい!/// 雑念よ消えなさい!/// 今はそれどころじゃないはずです!)

海未(落ち着きましょう! 落ち着いて・・・)

海未「すー、はーっ」

海未「・・・・ふぅ」




海未(どうにかして助かるには・・・)

海未「う~む・・・・」


海未(ことりと穂乃果はここに居てもらい、比較的登山に慣れている私が辺りを歩いて駅までの方向を探るか・・・)

海未(・・・いえ、単独行動は危険ですね。もし途中で私が転んだりしてケガをして身動きが取れなくなったらお終いです)


海未(近くに川があるので、こういうときは川に沿って下流に歩きたくなるものです。下るのは体力的に楽ですし川沿いに歩けばいずれ海に出て、海岸沿いに歩けば必ず人里に当たります)

海未(・・・しかし、日本の川は高確率で滝があります。滝とはつまり崖であり、十分な装備が無ければ崖は降りられません。だからといって後戻りなんてしたら体力・精神力を大きく失います)

海未(それに、川が海にたどり着く前に、川が地下水に入ったり、山奥の湖にたどり着いたりして川が無くなってしまうかもしれません)


海未(そういったことがあるので、登山で遭難した場合の鉄則は尾根を目指して登ることです。森林限界を超えた高い位置に居た方がヘリに見つけられやすいし、通信機の電波が繋がりやすくなるし、辺りの地形を確認しやすいし、登山道に出られる可能性があるからです)

海未(・・・しかし、ここは観光登山で上るような山ではないでしょう。私達が降りた駅は滅多に人が訪れない雰囲気でした。だから登山道があるとは思えません。それに、どれくらい登れば尾根に出られるかも分かりません。なにより、ことりを背負って山登りするのは無理です・・・)


海未「はぁ・・・」

海未(川に沿って歩くのは得策ではない、登ることもできない。ではどうすれば・・・)



海未(そうだっ。希だったらこんな時どうするでしょうか。何か言っていたような・・・―――)



~~~~~~~~~~~~~~~~

希「川に沿って下流に歩くのは確かに危険やね。寒いし、救助に見つけられにくいし、鉄砲水とか渓谷とか崖とかが怖いから。だから山で遭難したらひたすら登るべき・・・・とはよく言うけど、それもその時の状況によるんやないかなあ」

希「例えば地図やコンパスが無くて、現在地位や山の地形や標高が全く分からないとか、ケガをして歩くのが辛いとかだったら、登る方がむしろ危険やろ。途中で体力が尽きて何もできなくなったお終いやん」

希「逆に、人里が近いとか標高が低い場所にいるとか、そういうのが分かっているのなら川沿いに下って歩くのもありかも? 標高が低いなら滝に当たる確率も低いやろうしね」

~~~~~~~~~~~~~~~~



海未(―――・・・なるほど。ここは駅から10kmも離れていないでしょうし、森林限界も超えてないので標高もそれほど高くないはずです)

海未(・・・ありがとうございます。希)





海未「穂乃果。ことり。やはりここは歩きましょう。川まで戻って川沿いに下流に向かって歩くんです」

穂乃果「川沿いに? でもあの川が駅の近くを流れていた川と同じかどうか分からないよね?」

海未「ええ、そうです。ですが例え同じ川でなくとも、また、例え駅とは逆方向だとしても、ひたすら川沿いに歩けば途中で線路か道路か人里にぶつかる可能性があります」

穂乃果「ひたすら歩くって、どれくらい?」

海未「それは分かりません。1kmか、10kmか、50kmくらいか」

穂乃果「ご、ごじゅうって・・・そんなに歩けないよ・・・」

海未「ええ、そうでしょうね。しかも人を一人背負ってですから余計に長い距離は歩けません」

海未「だからといって、このままここで食糧が尽きるまでただ待っていたら助かる確率はゼロです」

海未「ですが食糧が尽きる前に川に沿って歩けば助かる可能性はわずかながら出てきます」

海未「待つだけ待って野垂れ死ぬくらいなら、わずかな可能性に賭けて、ここは歩くべきかと」


穂乃果「そう・・・・。分かった。大変かもだけど、歩くしかないのかな」

海未「ことりはどうですか? 私が背負って歩きますが、それでも何かと負担を掛けてしまうかもしれません」

ことり「ことりは大丈夫。海未ちゃんを信じるよっ」

海未「決まりです。歩きましょう」


海未「それでは、とにかく一番大事なのが水と食糧です。私達三人が今持っている水と食料の量を確認しましょう」

穂乃果「うん、ちょっと待ってね。こんなことになるならフェリーとかバスの中であんまりお菓子食べなければよかったなあ・・・」ゴソゴソ

穂乃果「ペットボトルのジュースもいくつか持ってたけど、昨日暑くてたくさん飲んじゃったからあんまり残ってないかも・・・」ゴソゴソ




---------------



海未「これで全部ですね」

穂乃果「意外とあったねー」

海未「ええ。食べ物はグミ、飴ちゃん、プリッツ、ポテトチップ、ことりの手作りクッキー、マカロン、ゼリー飲料、バランスパワー、角切り餅、乾燥ワカメ、即席味噌、金箔押しカードなど全33種類のカードのいずれか一枚が封入されている全国のコンビニ・スーパーのお菓子売り場でお手軽にお買い求めできるバニラクリーム味のラブライブ! サンシャイン!! ウェハース2 がありましたね」

穂乃果「飲み物はイチゴミルクと、オレンジジュースと、ペットボトルの水3本と、アクエリが1本。海未ちゃんはペットボトル4本も持ってたんだね。重かったでしょーに」

海未「ええ。整備されたキャンプ場に行く予定だったとはいえ、一応と思って非常食と水は持っていました」

海未「それより穂乃果が持っていてくれたお菓子の方があってよかったです。お菓子類は糖分とカロリーをたくさん摂取できるのでかなり重要です。遭難時にはこれのあるなしで生死を分かつこともあるくらいですから」

穂乃果「えへへ~。たくさん持ってきておいてよかった」

海未「・・・しかしこれだけあっても、三人で食べ続けたら一日持つかどうか。それまでに抜け出せる事を祈るしかありません」

穂乃果「そっか・・・大事に食べないとだね」

海未「とはいえ、歩き出す前に何か食べませんと低血糖で動けなくなります。糖分の多いお菓子は残しておいて、今はバランスパワーを一人一本食べましょうかね」パカッ

穂乃果「うん、いただきまーす」

海未「ことりも、はいどうぞ」

ことり「ありがとう。 ・・・・」

穂乃果「んぐんぐ。・・・・うへっ、口の中パサパサする・・・」

海未「水を飲むなら半口くらいでお願いしますよ」


ことり「・・・・・・あ、あの。海未ちゃん」

海未「はい?」

ことり「私、やっぱりいらない。穂乃果ちゃんと海未ちゃんで半分こして食べて」

穂乃果「えーっ? なんで? ちゃんと食べないと元気でないよ?」

ことり「平気だから。ちょっと食欲がないだけで」

海未「・・・・もしかして、気にしています?」

ことり「・・・・・・」

穂乃果「気にするって?」

海未「ことりは歩けませんからエネルギーの消費は少ないです。だからその分、歩く私達に多く食べさせるために」

ことり「・・・う、うん。私は、背負ってもらうしかできない・・・だから、大切な食べ物を減らしちゃいけないと思って」

穂乃果「ええっ? そんなこと気にしないで―――」

海未「いえ、ことりの言う通りですね」

穂乃果「ちょっと海未ちゃん!」

海未「これからどれくらい歩くか分かりません。・・・もしかしたらまた日を跨いでしまうかもしれません。それくらいの覚悟でいないと。だから食料は大変貴重です。食糧の消費を抑えるための手段として、ことりの食べる量を減らすのは正しいことです」

穂乃果「もうっ・・・・・」

海未「ですが、ことり。だからといって何も食べないのはダメです。人は動かなくてもエネルギーを消費するからその分は食べないと。今後の食事では、私と穂乃果より量は減らしますけどとりあえず今は食べてください」

ことり「・・・・うん、分かった。それじゃあ、食べるね? ごめんね、頂きます」モグモグ


海未「食事が終わりましたら、準備をしましょう」

穂乃果「準備て?」

海未「まずは歩きやすくするために極力荷物を減らします。生き抜くのに必要最低限の物だけを持っていき、それ以外はここに置いて行きます」

穂乃果「そっか・・・そうだよね・・・。分かった、いらないもの選ぶね」ゴソゴソ


穂乃果「トランプ、スマホの充電器。それとサリーちゃんもだよね・・・。ごめんねサリーちゃん・・・バイバイ・・・」

ことり「シャンプーとリンスと穂乃果ちゃんの成長記録と、ことりのまくらもかな・・・」シュン

海未「ことりはそれが無いと眠れないんでしたよね。ですが、申し訳ありませんが・・・・」

ことり「うん分かってる。ことりは眠れなくてもいいから・・・」


穂乃果「スマホも置いて行った方がいいよね。もう使えないし」

海未「スマホは・・・。いえ、一応持っていきましょう。完全に乾いたらもしかしたらまた使えるかもしれませんし」

海未「必要な物は全て私の登山用ザックに入れます。穂乃果とことりのバックは、申し訳ありませんが不要な物を入れてここに置いていきます」

穂乃果「分かった。もったいないけど、しょうがないよね」

海未「・・・結局山を汚すことになり心苦しいのですが・・・私達が生き抜くためですので許してもらいましょう」



海未「それから穂乃果には私のザックを背負ってもらうので、フィッティングをします。穂乃果、ちょっと今このザック背負ってもらえますか?」

穂乃果「フィッティング?」

海未「ザックを体に合わせるんです。そうすることで、重さを肩だけではなく背中全体に分散できますので」

穂乃果「へー」背負い


海未「まずはヒップベルトを骨盤の上に乗せるようにして固定します」カチン

穂乃果「うっ、ちょ、ちょっと、お腹きついかも~・・・?」

海未「やっぱり太ってましたね。・・・仕方ありませんね少し緩めます」スルッ


海未「次にザックと背中の間に隙間ができないように、フレームを曲げます」グイグイ

海未「最後に肩のハーネスを締め上げて終わりです」キュ


穂乃果「ほ~。なんか普通のリュックより色々複雑だね」

海未「ええ、登山用に特化した専用の物ですから」


海未「次に服装ですが長袖長ズボンを履きましょう。寒いと言うのもありますが、藪を歩く中で肌を出すとダニやヒルが怖いので」

穂乃果「うへぇ・・・。それは怖いなあ・・・。家出るときは暑いから長袖なんて嫌だなー、なんて思ってたけど、海未ちゃんの言う通り持ってきてて良かった」ハキハキ

海未「ズボンの裾は靴下に巻き込んで極力肌を出さないようにしてください。どうしても肌が出てしまう所は定期的にヒルが付いて無い事を目で見て確認します」

穂乃果「はーい」


海未「明るいうちにできるだけ多く移動できるよう、早めに歩き始めた方がいいです。そろそろテントを撤収しますね」







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◇ 7月28日 8:00 曇り



海未「長く歩くかもしれないので、ストレッチもしっかりやって・・・そろそろ行きましょうか」

穂乃果「はーい。それじゃ海未ちゃんのザック背負うね。テントとか寝袋とか全部詰めたからすっごい重そう・・・。よいしょ」グッ

穂乃果「おっ? んんっ? 重い、けど、結構いけるかも! 背中に吸い付いているみたいで歩きやすい! これいいねえ!」トコトコ

海未「それは良かったです。ですが、歩きやすいからと言って走ったり跳ねたり無茶な動きはしないでくださいよ。何か危険があってもザックの重さに体が振り回されて急に止まれなくなりますからね」

穂乃果「はーい」


海未「ことりは私の背中に」

ことり「うん、ごめんね」グッ


海未「はいっ。では行きましょう。まずは川まで戻ります。穂乃果が先を歩いてください。その方が一人取り残される心配が少ないので」

穂乃果「おっけー」テクテク



---------------



穂乃果「うわー・・・すっごい急斜面・・・。昨日はよくこんなところ登れたなあ」

海未「無我夢中でしたからね」

穂乃果「そ、それに・・・あの川」



   < ゴゴゴォォォオオーーーー



海未「ええ・・・。茶色く濁った水がうねりながら大きな水しぶきを上げていますね」


穂乃果「すごい濁流・・・。ことりちゃんがこの斜面を見つけてくれなかったら、私達今頃・・・」

海未「・・・・」

ことり「・・・・」

海未「・・・・今こうして無事でいるんです。あまり余計なことは考えないようにしましょう」

穂乃果「う、うん。そうだね」



海未(そういえば、なんでここだけが茶色い土が露出していて急斜面になっているのでしょう? 周りは崖なのに。なんか不自然です)

海未「・・・・。はっ。もしかして・・・」

穂乃果「海未ちゃん?」

海未「い、いけません。少し離れましょう」

穂乃果「どうしたの?」

海未「恐らく、この急斜面は崖崩れの跡です」

穂乃果「あっ、言われてみれば・・・」

海未「はい。昨日の激しい雨もありましたし、他の場所も崖崩れするかもしれません。なるべく離れましょう」

海未「崖から離れたら川が見えなくなりますが、音を頼りに付かず離れずの距離で川沿いに歩いていきましょう」






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 ザッ ザッ

穂乃果「はぁっ・・・はぁっ・・・」

海未「はぁ、はぁ・・・・」

海未(道が無い藪歩きというのはやはり辛いですね・・・)

海未(それならまだしも、地面が見えない程に草が生い茂っているから、倒木や木の根に気が付かず、足を取られて倒れそうになること何度か・・・)

海未(普通に歩くより速さは出ないし、かなり体力を持っていかれます・・・)



海未「はぁっ、はっ・・・ほっ・・・ほのかっ」

穂乃果「はっ・・・、な、なーに?」クルッ

海未「ちょっと、休みましょう・・・」

穂乃果「そうっ、だね。ふー・・・休もう・・・」クタッ


海未「水と、お菓子を、少し、頂き、ましょ・・・ふー」クタッ

穂乃果「うんっ・・・」

パクッ ゴクゴク



穂乃果「うへぇ。濡れた草の中を歩いてたから、もうズボンがビッチャビチョ。こういう所歩くんだったらレインコートじゃないとダメだねぇ・・・」

海未「ええ、そうですね・・・。晴れの予報だろうが山に入るなら雨具は必須ですが、ここまで山奥に入る予定は無かったから用意してなくて」

穂乃果「だねぇ・・・」



海未(まだ一時間も歩いていませんが、この先大丈夫でしょうか・・・。歩く速度にしろ、水や食料が無くなるペースもこのままだと、そんなに長距離は進めないでしょう。大分厳しいですねえ・・・)

海未(かといってこれ以上歩く効率を上げる事はできそうにありません・・・。この調子で進むほかないですね)


海未「これからもなるべく小まめに休んで堅実に進んでいきましょう」

穂乃果「うん」







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◇ 7月28日 11:00 曇り



海未「はぁっ・・・・」ザッ ザッ


海未(もう結構歩きましたが・・・)

海未(人や車や電車の音、人工物の気配が全く感じられない。運が良く線路の方角に向かって歩けていればもう線路に当たっているはずですが・・・)

海未(これだけ進んで辿りつけないと言うことは、どんどん山奥の方に進んでいる可能性が高いですね・・・)


海未(やはり川沿いに歩くのは判断ミス・・・? どうしましょう・・・今からでも逆方向に歩くべきか・・・)

海未(穂乃果とことりもこのままじゃ辛いでしょうし・・・・)


穂乃果「ふーっ、はーっ、はぁ、はぁ・・・」ザッ ザッ

ことり「・・・・・」アミアミ


海未(穂乃果は・・・・がんばって歩いていますね)

海未(ことりは・・・無言ですが・・・足に痛みを抱えたままですし楽ではないでしょう・・・)

海未(・・・・もしかしたら、私の判断ミスで延々と山奥を彷徨っている事を恨んでいるかも)

海未(・・・いえ、ことりは優しい女性です。人を恨むような事はしません。むしろ優し過ぎるからこそ、昨晩の穂乃果のように、背負われているだけの自分を心の中で責め立てているかも)


ことり「・・・・・」アミアミ


海未(・・・それはいけませんね。気晴らしに、何か明るい話題でも)

海未(ずっと黙っていても気分が落ち込むだけですし・・・何か話しませんと・・・)


ことり「・・・・・」アミアミ


海未「うーむ・・・」

海未(しかし、何を話せば・・・何か話題を・・・んんっ・・・。はぁ・・・疲れて頭が働きません・・・)





ことり「・・・でーきたっ♪」

海未「・・・んっ、はい?」

穂乃果「えー? なにがー?」クルッ

穂乃果「―――わあ! かわいい!」

海未「へ?」キョトン


ことり「えへへー」

穂乃果「その海未ちゃん久しぶりだなあ。スクフェス動物編2以来?」

ことり「そうそう、かわいいでしょー♪」

穂乃果「うんうん!」

海未「あ、あの、一体何の話を・・・?」

穂乃果「何って、その髪だよ」

海未「髪?」

ことり「やっぱり海未ちゃん気が付いてなかった」

海未「え?」

ことり「夢中になって歩き過ぎだよー。ほら、これ」ファサ

海未「こ、これは・・・・三つ編み?」

ことり「うんうん♪」

穂乃果「ザ・優等生! って感じ。メガネかけたら委員長になれるよ!」

海未「は、はあ・・・。さっきからずっと編んでいたんですか?」

ことり「うん♪」

海未「もうっ・・・・。私の髪で遊ばないでくださいよ」

ことり「えー・・・」

海未「うっ」

ことり「もっと色んな海未ちゃんがみたいのー。おねがぁい」耳元で脳トロボイス

海未「あふぇっ・・・・・・・わ、分かりました・・・ご自由に・・・」

ことり「わぁい♪ 次はどうしようかなあ♪」

穂乃果「にこちゃんの帽子みたいなやつやってみてよ!」

ことり「ああ! あのピンク色の変装用の帽子だよね。やってみる!」

海未「は、はぁ・・・・」


海未(でも・・・・・)

海未(ふふっ。なんだ、気分が落ち込んでいたのは私だけでしたね)

海未(ことりはこんなにも可愛らしい外見だから忘れがちですが、ことりはとても芯の強い女性です。ちょっとやそっとの事じゃ自分を見失ったりしないんです)

海未(私はそんなことりに、今まで何度も助けられました。こんな状況だからこそ、ことりに傍にいてもらうことがとても心強いです)







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◇ 7月28日 16:00 薄曇り



穂乃果「はぁ、ふぅ・・・・あっ、見て海未ちゃん。川が見えてきたよ」

海未「ああ、本当ですね。少し下り坂になった先に川が。崖が無い地形まで歩いてきたのですね」

穂乃果「綺麗な川だよ。朝見た時みたいに茶色く濁ってないや」

海未「ええ、そうですね。泥が流れきったか、あるいはいつの間にか別の川沿いに歩いていたのかも」

穂乃果「近くで見てみよっと」テクテク




                ザザーッ >




穂乃果「んっ? 何の音だろ。あっちの方からだ」テクテク


  ザザーッ


穂乃果「うわっ。わー・・・・」



海未「穂乃果―っ? どうしましたー?」

穂乃果「こっち滝になってるー!!」

海未「えっ?! 滝?!」テクテク


ザザーッ


海未「本当だ、滝ですね・・・・。先がよく見え無いですが、この音の大きさからして高さは10メートル近くはありそうです・・・」

穂乃果「滝の両側は崖になってるっぽいね・・・」

海未「ええ、これを降りるのは無理です・・・」

穂乃果「どうしよ・・・」


海未(やはり川沿いに歩くのは間違っていました・・・。もう何時間も歩いてこんなことになるなんて・・・)

海未(先には進めない。では引き返す・・・?)

海未(食糧は持つでしょうか・・・? ここまで来るのに食料は半分程食べてしまったんですよね・・・。大切に少しずつ食べなければと頭では分かっていても、食べないと頭がクラクラしてきて、脚も動かなくなってしまって・・・)

海未(仮に戻って今度は川の上流に向かって歩いたとしても、山を抜けられるとは限りませんし・・・)

海未(なにより、川の下流に向かって歩くなら下り坂ですが、それを戻ると言う事はここまで歩いてきた長い距離を今度は登るという訳で・・・・・)

海未(そんなの無理ですっ!)

海未(では、何とかしてこの崖を降りるしかない・・・・・?)


海未(・・・いえ、それ以前に、進むにしろ戻るにしろ―――)




海未「はぁっ・・・はぁっ・・・」ガクガク

穂乃果「はぁ・・・ふぅっ・・・・」フラフラ


海未(もう動けませんね・・・)

海未(ずっとことりを背負って道なき道を歩いていたから、膝がかなり辛い・・・。穂乃果も、藪の大きな草をかき分けながら先頭を進んでいたから相当疲れているように見えます・・・)



海未「はぁ、はぁ・・・穂乃果、ことり。今日はここで休みましょう」

穂乃果「はぁ、はぁ・・・・うん、そうだね・・・。まだ明るいけど、これ以上歩くのは厳しいかも・・・」

海未「私もです。川から少し離れた所まで行って、そこでテントを張りましょう」テクテク


クゥ~

ことり「あっ/// ご、ごめんなさい、なんもしてないことりが・・・」シュン

穂乃果「ううん、穂乃果もお腹減ってるよ。でも、今日はもう歩かないなら残ってるお菓子は食べない方がいいよね~・・・・」

海未「そうですね・・・」



海未「ことり、ここで一旦降ろしますね」

ことり「うん、ありがとう」

穂乃果「あっ、待って降ろさないで」

海未「はい?」

穂乃果「ちょっと待っててね~」トコトコ

ことうみ「?」キョトン


穂乃果「いっぱいあるなー。どれがいいかなー」キョロキョロ




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穂乃果「これが大きくていいかな」ブチッ

海未「それはフキの葉ですね」

ことり「丸くておっきい葉っぱだね。それどうするの?」

穂乃果「これを地面に敷いて」パサッ


穂乃果「コホンッ.... さあ、お召し物が汚れぬよう、ここにお掛け下さい、ことり姫」ペコッ

ことり「んんっ?!// ひ、ひめて・・・///」

海未「ああ、なるほど。ふふっ、ええそうですね、ご遠慮はなさらずにどうぞお掛け下さい、ことり姫」

ことり「っ~/// よ、よきにはからえ~//」ストン


海未「フキの葉をハンカチ代わりとは面白い発想ですね。・・・―――あっそうだ。フキですよ」

穂乃果「?」

海未「フキは茎の部分が食べられるんです」

穂乃果「えっ、ほんとっ?! あちこちにたっくさん生えてるけど、あれ全部食べられるんだ!」

海未「ええ。ですが、糖分とカロリーはほとんどないヘルシー食材なので、エネルギーにはならないですが」

穂乃果「ヘルシー! ダイエットにちょうどいいじゃん!! たくさん獲ってお腹一杯食べても太らない!」

海未「こういうときにダイエットというのもおかしいですが・・・まあ、いいです。でも、フキだけというのも寂しいので、どうせなら他にも食べられる野草が無いか探してみましょう。少しでも食糧を増やしたいですからね」

穂乃果「いいね! 探そう!」

海未「先にテントを立てます。ことりは中で横になって休んでください」

ことり「うん。私ばっかり楽してごめんね」

穂乃果「気にしないで! 一杯収穫してくるから楽しみにしてて!」

ことり「うんっ♪」



---------------
ほのうみ野草探し中



海未「ほら、早速見つけましたよ。オオバコです。摘んでいきましょう」



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穂乃果「ええっ・・・そんな雑草みたいなの食べるのぉ・・・?」

海未「そんな嫌そうな顔しないでください。雑草ではなく野草ですから」

穂乃果「ふ~ん。嫌そうなら野草で癒そう! な~んちゃって! ぷくくw」

海未「見てください。こっちにはノビルがあります。細長い茎が特徴で、根っこは地面の深い所まで伸びていて、その根の先には鱗茎(りんけい)という球根の様な物があり、それが食べられるんですよ」


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海未「石を使って掘り出しましょう。手伝ってください」ザクザク

穂乃果「う、うん分かった。ここ掘るワンワン」ザクザク



---------------



海未「やっと出てきました。一番底にあったこの白い部分が食べられます」

穂乃果「本当に深かったよ・・・大変だった~。・・・でもさ、ちょっと思ったんだけどさ。こんなちっこいのを食べて得られるエネルギーより、掘り返して消費するエネルギーの方が多くない?」

海未「さあ、他にも食べられる野草を探しましょう。自然の恵みを味わうのですっ」ウキウキ

穂乃果「ちょ、ちょっと~、うみちゃーん・・・? エネルギーを得るより、野草の味を楽しむのが目的になってな~い・・?」

海未「あははそんなことないですよー」テクテク

穂乃果「もうっ・・・。それにしてなー。野草って言われても穂乃果にはどれも同じような草にしか見えないよ~・・・・」キョロキョロ

穂乃果「・・・あっ」 ピタッ

穂乃果「ああっ! あの木! 海未ちゃん見て見て! なんかおいしそうな実がたくさん生ってるよ! 木イチゴかなっ?」



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海未「おやっ、これは嬉しいですね。ヤマグワですよ。イチゴではなくクワの仲間です。この果実は糖分があってハッキリと甘味を感じられておいしいはずです」

穂乃果「甘いの?! やったあ! ちょっと一個食べてみよ!! あーn」

海未「あっ! ダメです! 食べないでください!!」

穂乃果「へっ? なんで? おいしいんでしょこれ?」

海未「そうですが生で食べてはダメです。危険な寄生虫を持った野生動物やその動物の糞尿がこの実に触れている可能性があります。他にも蛾の幼虫もこういう実を食べますので、その際に幼虫の毒の毛が付着してしまっているかもしれません」

穂乃果「うそっ、怖っ・・・。小さい頃はしょっちゅうそこら辺の草イチゴ食べていた気がするけど、危なかったんだなあ・・・。じゃ、じゃあ、これも食べない方がいいの・・・?」

海未「いえ。水で洗い、飯盒を使って十分煮れば問題なく食べられますよ。貴重な糖分ですから、このヤマグワはできるだけたくさん獲って頂きましょう」

穂乃果「ホント!? やったやった! 収穫だー!!」ヒョイヒョイ

サワッ ツルッ ポトッ

穂乃果「おっと、触っただけで落ちちゃった。簡単に取れるようになってるんだな―――・・・・ああっ?! 海未ちゃん海未ちゃん!」

海未「今度はどうしました?」

穂乃果「地面見て! 地面! 草イチゴがたくさんある!」



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海未「ヘビイチゴですよ。時計台の花壇にも植えられていましたね」

穂乃果「イチゴ! これも一緒に獲って食べよう!」ヒョイヒョイ

海未「え、ええ、まあ、構いませんが。ヘビイチゴって毒ではないですけど、あんまり味しないですよ」

穂乃果「なんでもいい! イチゴなら!!」ヒョイヒョイ



---------------



穂乃果「おーい。こっとりちゃーん。たっだいまー」

ことり「ほのかちゃんっ、海未ちゃん。おかえりー。どうだったー?」

穂乃果「イチゴたくさん獲ってきたよ!」

ことり「イチゴっ! すごーい」

海未「野草もいくつか獲ってきましたよ。川の水で洗ってきますね」

穂乃果「川の水で洗うんだ。あの川は濁ってなくて綺麗だもんね。あっ、ということはあの川の水は飲める?」

海未「ええ、沸かせば飲めるでしょう。今までペットボトルの水を大事にちょっとずつ飲んでいましたが、その必要はもうありませんね」

穂乃果「おおっ! 喉乾いてたんだー。水もたくさん飲みたい!」



---------------



海未「洗ったヤマグワとヘビイチゴを飯盒に入れて、水も少し入れます。他の野草は明日の朝に食べるようにしますね」

海未「携帯コンロとガスボンベ(※)をセットして、飯盒を置いて、火を起こします」カチッ シュ ボッ

  ※ ガスボンベは危険物なのでフェリーや電車等の公共の乗り物には持ち込めない場合があります


穂乃果「キャンプっぽいねえ」

海未「これがあってよかったです。昨日の雨で濡れた薪や落ち葉で火を起こすのはまず無理でしょうから」



グツグツ

海未「これだけ加熱すれば大丈夫でしょう」パカッ

穂乃果「こ、これは・・・・!」

ことり「わあ! 甘くていい匂い!」

穂乃果「食べていいよね?!」ジュルリ

海未「ええ。熱くなっていますから気を付けてくださいね」

穂乃果「いただきまーす!」パクッ

穂乃果「あつっ、んっ、ふーっ、ふーっ、もぐっ。・・・んん! おいしい!」

ことり「ングング、うんっ! 見た目はブドウみたいって思ったけど、味はブドウやイチゴとはまた違うね。柿に近いかなあ? どこか懐かしい素朴な甘さ」

海未「ええ、これはおいしいです」モグモグ







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日が暮れて、テントの中へ



穂乃果「ヤマグワおいしかったねー。でも、まだ食べ足りないかなー」

穂乃果「いつも何気なくお腹いっぱいになるまでご飯やお菓子を食べていたけど、こういう状況になると、お腹いっぱい食べる事ってすごく恵まれていたんだなーって思うねぇ」シミジミ

海未「申し訳ありません・・・。私の判断ミスで更に山奥に迷い込んで、まさかまた本当にテントで夜明かしすることなってしまうとは・・・。本当なら今頃、旭川の温泉でリラックスしてジンギスカンを食べているはずでしたのに・・・」

穂乃果「あっ、ち、違うよっ! そんな意味で言ったんじゃないの。気にしないで」

海未「いえ、それだけじゃないです・・・。あんなに苦労してここまで歩いてきたのに、目の前は滝でこれ以上は進めない・・・。無駄足を踏ませ、食糧も少なくなって・・・本当にすみません・・・・・。私にもっとちゃんとしたサバイバルの知識があれば・・・」

穂乃果「海未ちゃん・・・・」

海未「・・・・・」シュン





ことり「私はここまで来たこと、無駄だとは思わないよ」


海未「ことり・・・?」

ことり「サバイバルの事はよく分からないけど、大事なのはそこじゃないんじゃないかな」

海未「・・・?」

ことり「私は今までずっと、海未ちゃんと穂乃果ちゃんの後に付いて生きてきた。それは楽しい事ばかりじゃなくて、時には道に迷ったり、つまずいたり、危険な事もあって辛い思いもしたけど、その全部を乗り越えてきた。乗り越える度に大切な経験になって、それを糧にして成長した今の私がいる」

ことり「ここまで成長してきた自分の過去を振り返っても、海未ちゃんと穂乃果ちゃんと一緒の経験で無駄で間違ったことなんて一つも無いよ」

ことり「だから、海未ちゃんが今思っている、無駄足だったとか、判断を間違ったとか、危険だって思っていることは、今までと同じようにこの三人なら絶対に乗り越えられし、そして乗り越えた時にきっと、未来を切り開くための大事な経験の一つになると思う。それってとても素晴らしい事じゃない?」

海未「ことり・・・」ジーン

ことり「ふふっ」ニコッ

穂乃果「そうだよ海未ちゃん! だからそんなに落ち込まないで! 穂乃果が もぎゅ! ってしてあげるから元気出して!」モギュ

海未「んっ/// はい、ありがとうございます」

穂乃果「それに今日たくさん歩いたのは本当に無駄じゃなかったよ。だって現に穂乃果、今日だけで5kgくらいは痩せたもん!」

海未「はぁ、そうですか。遭難したときに備えてかどうかは知りませんが、穂乃果は “ こ こ に ” 常日頃からコツコツとエネルギーを蓄えていましたものねっ。全く殊勝な心がけですっ」フニッフニッ

穂乃果「んひゃ?! ちょ、ちょっと!/// くすぐった・・・・ あひっ/// お腹触っちゃやーっ!」

海未「これはマッサージです。今日の疲れを明日に残さないために」フニフニュ

ことり「あははっ♪」







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◇ 7月29日 7:00 朝曇り



 < チチチチチ
 < チュン チュン


海未「・・・んっ」パチ

海未(・・・鳥の鳴き声。朝ですね)


穂乃果「くー・・・」zzz

ことり「すー・・・」zzz


海未「んーっ」ノビー

海未「・・・・・・・」


海未(ちょっと外を歩きますか)ムクッ

 ....ピシッ

海未「・・・くっ」クラッ

海未(・・・昨日は頻繁に休みを入れながらでしたが、それでも人一人背負って山を歩いたのはさすがにかなり体に負担をかけてしまったようですね)

海未(でもまだまだです。大切な人を守るために私は今まで鍛錬を積んできました。この程度なんともありません!)


海未(さて・・・戻るか進むか、判断しないと。もう一度滝の所をよく見て降りられるかどうか確認しましょう)テクテク




 ~滝の近く~




ザーッ

海未「・・・・・」ジーッ

海未「・・・・・ふむ」


 < うみちゃーんっ?


海未「・・・・んっ、穂乃果?」クルッ

穂乃果「海未ちゃん起きてたんだね。おはよ」

海未「おはようございます。体は大丈夫ですか?」

穂乃果「うーん・・・力使いすぎて今でも足がフラフラするかなー・・・。でもまだ頑張るしかないよね」



穂乃果「海未ちゃんは今何してたの?」

海未「はい。この滝の下に行けるかどうか思案していました」

穂乃果「そうなんだ。・・・うーん」チラッ

穂乃果「ここを降りるのは無理なんじゃないかなあ。だって崖のふもとが見えないから、多分ネズミ返しみたいな形の崖だよこれ・・・」

海未「ええ。ロッククライミングで使うような道具が無いと降りられないでしょうね。ですがあっちの方を見て下さい」

穂乃果「あっち? んー・・・? 大きな岩がいっぱいあるね」

海未「あの岩を足掛かりにすれば降りられそうです」

穂乃果「う、うーん・・・。でも、危なくない?」

海未「はい・・・。ですが、多少のリスクを負ってもここは進むべきかと。戻るのも一つの手ですが、残りの食糧や体力を考えたらそっちの方がリスクが高いと思いますので」

穂乃果「そっかあ・・・」

海未「とりあえず朝食にしましょう」

穂乃果「・・・! ごはん!」



---------------
テントの近く



穂乃果「何を食べるの? お菓子?」

海未「いえ。水が十分に得られるようになったので、角切りの乾燥餅を昨日獲って来た野草と一緒に味噌で煮込んで食べようと思います」

穂乃果「お餅!」

ことり「おもち!」


海未「まずはフキの下処理をします。ナイフで切って飯盒に入れて、熱湯で数分煮込んでアクを抜きます」

グツグツ


海未「煮込んだら取り出して、冷水に浸した後、皮を剥きます」ツツーッ

海未「飯盒の水を入れ替え、もう一度水を沸かし、下処理の終わったフキとオオバコとノビルの鱗茎と乾燥ワカメと角切りの乾燥餅と即席味噌を入れ、後はしばらく煮込んで完成です」



グツグツ

海未「こんなもんですかね。煮すぎると餅が溶けてなくなってしまうんですよ。蓋を開けます」パカッ

穂乃果「おおおっ! 良い匂い! これはおいしそー!」

海未「まずは私が味見を」ズズッ

海未「んっ、これはなかなか。さ、二人ともどうぞ。飯盒は熱くなっていますので気を付けて」

ことほの「「いただきまーす! ぱくっ」」モチャモチャ モグモグ

穂乃果「おいしー!」

ことり「うん! ノビルはニンニクみたいな形してるけど、ちょっと苦みがあるだけで匂いは強くないし、食感はシャキシャキしてて玉ねぎみたいでおいしい!」モグモグ

海未「フキもおいしいですよ。素朴な香りと自己主張しないさっぱりした味わいが、味噌に良く合っています」モグモグ

穂乃果「そしてなによりこの味噌と一緒に頂くお餅! 野草の香りがプラスされてホントにおいしいよーっ! これが北海道に来て一番のおいしいかも!」モグモグ







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食事後、テントを撤収し、再び滝の上へ



ザーッ


穂乃果「いよいよこの岩場を降りるんだね・・・」ゴクリ

海未「ええ、行きます。穂乃果、先程教えた通りゆっくり慎重に降りてくださいよ・・・!」 ...ジリッ

穂乃果「う、うん! 手と足、三本以上が常に岩に付いているようにして・・・!」 ...ジリッ

海未「手足を付ける場所は必ず事前に目視で確認すること! 傾きが少ない、落ち葉や苔がない、濡れていない部分を時間を掛けてでも正確に選んぶんです・・・!」 ...ジリッ

海未「ことりもしっかり掴まってください! 体が揺れるとバランスを崩しますから!」

ことり「うんっ・・・!」ギュウ


  ...ジリッ

   ...ジリッ




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ザーッ


穂乃果「はっ、ふーっ・・・。なんとか下の方まで降りたけど、ここは・・・」ポー

海未「ええ・・・・」ポー

ことり「わぁ・・・・」ポー




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海未「滝、池、渓谷。人が踏み入れる事の無い山奥、崖と森林に囲まれたその先の秘境・・・と言った所でしょうか。言葉にならない程の美しい・・・自然の造形です・・・」

穂乃果「すごく空気がいい。冷えてて柔らかくて、こうやって深呼吸すると・・・――― すーっ、はーっ ――― ふーっ・・・心と体が中からきもちー」

ことり「滝の音は迫力があって、だけどそれは耳に心地良くって・・・。それと滝の下はエメラルドグリーンの池。とっても綺麗・・・」

穂乃果「うん、本当に綺麗。それに結構深いね。ここで泳いだら気持ちがいいだろうなあ」

海未「ええ・・・三人共万全な体調でかつ十分な装備がある状態でここに来られなかったのが悔やまれます」

穂乃果「うん、でも見ているだけでも十分感動だよ。こんなに綺麗な場所、今までの人生で一番かも。本当にすごいや」

ことり「本当。見ているだけで不思議な気分になってくる」

海未「・・・ここにいることで、―――精神が研ぎ澄まされ心身が自然に溶け・・・自然と一体化していくような―――自分が崇高な存在に昇華していくような―――そんな気持ちにさせてくれます」


海未「偶然とはいえここに辿りつけたことは、何にも代えがたい貴重な経験になりそうです。思わず遭難していることを忘れてしまいそうです」

穂乃果「昨日一日重い荷物を背負って山を歩いて、体がフラフラになる程疲れて・・・だけど、それだけの苦労をした甲斐があったねぇ」

海未「ええ。あ、いえ、ここに来るのが目的ではないんですけど・・・」


海未「しかし、良い事ばかりではないようです」

穂乃果「どういうこと?」

海未「この先の川を見てください。ここから先は進めません・・・」

穂乃果「えっ、うわぁ、ホントだ・・・。川の両側が断崖絶壁・・・・」

海未「その通りです。はぁ・・・せっかく危険を冒してでもここまで降りてきたと言うのに・・・・。何故私の判断は、こう次々と裏目に出るのでしょう・・・」ガックリ

穂乃果「ま、まあまあっ。きっと他にも進む方法はあるよ。えーっと・・・」キョロキョロ

穂乃果「あっ、ほらっ。あっちはどうかな? 今度はあっちの岩を登って行けば崖の上に行けるんじゃないかな? 上まで行ければまた進めるよ! そうしよう! 少しここで休んでから行こっ、ねっ?」

海未「・・・はい、そうですね。すみません」







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崖の上



海未「はぁっ、んっ・・・・はぁ、はぁ」 ....ジリッ

穂乃果「海未ちゃん、あと一歩だよ。はいっ、穂乃果の手を取って」スッ

海未「はぁっ、は、はい、ありがとうござます」

グイッ

海未「はーっ・・・・。時間はかかりましたがなんとか登れました」

ことり「重かったよね・・・ごめんね、ことりを背負って崖登りなんてさせちゃって・・・」

海未「なんのこれしき、お父様の鍛錬に比べればなんともありません」

穂乃果「海未ちゃんの体力は底なしだねー・・・」

海未「少し休んで、それからまた進みましょう」

穂乃果「うん、休もう。ほら、ここから見える景色もすごいよ。あっちの方は木が開けてて遠くの方まで見えるの」





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ことり「すごーい。雲の上にいるみたい」

海未「おおっ、雲海ですね。これは素晴らしい眺めです。まるで山水画でも見ているかのような」

穂乃果「海未ちゃんが登山が好きな理由。少し分かった気がするよ」

海未「ふふっ、そうですか」


海未(確かに、苦労の末このような良い景色に巡り合えたのは嬉しいです。・・・しかし、あまり喜んでいられません)

海未(こうして見晴らしがいい所に出られて遠くを確認できたのはいいですが、その結果、この先にも人里の気配が無いということが分かりました)

海未(それに、思った以上に標高が高い。このまま進んだら今度こそどうやっても越えられない地形にあたってしまう可能性が高い・・・)

海未(んんっ・・・。やはり無理をしてでも川の上流へ戻るのが正解だった・・・? 今からでも戻って・・・いえっ、この岩場をことりを背負って再度降りて登るのは非常に危険です。今こうやって無事に崖の上に来られただけでもかなり運が良かったのに)

海未(・・・・もう戻ることができない所まで進んでしまいました。絶望に囚われず、この先に難所が無いよう祈りつつ、更に進むしかありませんね)






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◇ 7月29日 11:00 薄曇り



穂乃果「はぁ、はぁっ・・・なんか結構暑くなって来たね・・・さっきまではどっちかって言うと寒い方だったけど・・・」 ザッ ザッ

海未「はぁっ、え、ええ・・・ずっと歩いていますからね」ザッ ザッ

穂乃果「暑い・・・上着一枚脱ぐから少し待ってて」

海未「はい、いいですよ」

穂乃果「ふーっ」ヌギヌギ

ことり「海未ちゃんも汗すごい。拭いてあげるね」フキフキ

海未「はい、ありがとうございます」







         ....ガサガサ





穂乃果「・・・? なんか音がしたような」チラッ


   ガサッ


穂乃果「・・・あっ、ヘビだ」

 ヘビ「!」ビクッ

海未「え? どこです?」

穂乃果「ほら、あそこの木の根本」

海未「えーっと、どこですかね・・・?」ジーッ

 ヘビ「ヤベー ニゲヨ」ニョロニョロ ガサゴソ

海未「あ、いました。青緑色で目立たないから、動かなければ分からなかったです」

 ヘビ「マジカヨ ジット シトケバヨカッタ」ニョロニョロ

穂乃果「うわわぁ・・・怖い・・・こっち来ないでぇぇ~・・・」ヒヤヒヤ

 ヘビ「サイナラ」ニョロニョロ

海未「あ、逃げていきますね」

穂乃果「ほっ・・・よかった」

ことり「ばいばい、ヘビさん」


海未「ヘビ・・・か」

海未「・・・・っ!!」

穂乃果「海未ちゃん?」

海未「穂乃果! そのヘビを捕まえてください!」

 ヘビ「ッ?!」

穂乃果「ええええっ?! どうしてっ!!?」

海未「後で説明しますから、早く捕まえてください! 私はことりを背負って手が塞がっていますから!」

穂乃果「そんなこと言ったって、怖いよぉぉ・・・」

海未「早くっ! 穂乃果!」

穂乃果「う、ううぅ。分かったよお~・・・」タッ

 ヘビ「チョ コッチクンナ」

穂乃果「ひえ~・・・怖いぃぃ」ビクビク

海未「なにをもたついているんですか! 早く!」

穂乃果「だって~・・・。この子噛まない? 毒持ってない? どうやって捕まえるのぉー?」ビクビク

海未「そのヘビは多分アオダイショウです! 毒は持ってません! 噛むかもしれませんが、頭の辺りを上から押さえつけて掴んでください!」

穂乃果「ううぅ・・・・。えいっ」ガバッ

 ヘビ「グェ」

穂乃果「捕まえたよ~・・・・・うええ、ツルツルでプニプニして何か変な感触」

穂乃果「・・・・・・でも」ズイ

 ヘビ「ハナシテー」ジタバタ

穂乃果「・・・・近くで見ると、かわいい・・・かも?」

 ヘビ「ハナセッ コンニャロ 屁コイタル」プーッ


海未「やりましたね穂乃果!」

穂乃果「うん。この子どうするの? ちょっとかわいいけど」

海未「食べます」

穂乃果「・・・・へ?」

海未「食べます」

穂乃果「・・・・・」

ことり「・・・・・」

 ヘビ「ヒョエー」

海未「ビニール袋に入れて持っていきましょう。生かしておいたが方が鮮度が落ちませんので」ゴソゴソ

穂乃果「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや」

海未「? なにか?」

穂乃果「落ち着こう。一旦落ち着こう海未ちゃん。一体どこからヘビを食べようなんていう発想が出てくるの?」

海未「ヘビは食べられるんですよ。希が言ってました。小骨がちょっと多いけど鶏肉みたいでおいしいそうですよ」

穂乃果「希ちゃん、なんてことを・・・」

ことり「ヘビさんかわいそう・・・」

穂乃果「そうだよ! こんなにかわいい子を食べちゃうなんてできないよ!」

海未「何故です? 豚や牛もかわいいですが、私達はスーパーで売られている豚肉や牛肉を普通に食べますよね? それと何か違いますか?」

穂乃果「そ、それは、そうかもしれないけど・・・・」

海未「貴重なタンパク源なのです。私達が生き抜くための血となり肉となって頂くこのヘビに感謝の気持ちを持ちながら、おいしく頂きましょう」

穂乃果「うう。分かったけど・・・分かったけど、海未ちゃん」

海未「分かって頂けましたか」

穂乃果「でもね。この子は食べられないよ。だって」

海未「だって?」

穂乃果「牛や豚は確かに私達が普段頂く動物だよ。それがスーパーで売られている豚肉や牛肉になるまでには、ある過程を通過しているんだよ。私達にはその過程はできないでしょ?」

海未「確かに、私には経験がありませんね。でもなんとかなりますよ」

穂乃果「・・・・なんとかって?」

海未「ヘビの捌き方も希から教わっています。簡単な話、魚と同じようなもんですよ。皮を剥いで、内臓を取り出して、串に刺し、火であぶり―――」

ことり「わぉ」

穂乃果「待った! 待って! 海未ちゃん!」

海未「どうしました?」キョトン

穂乃果「分かったから! 百歩譲ってヘビの調理はできるとしよう!」

海未「ええ」

穂乃果「だけどね? あの・・・この子、本当に毒持ってないの?」

海未「毒があるマムシだったら、もっと茶色や赤色っぽい色だったり、横縞の模様があったりするはずです。でもこのヘビは全体的に青っぽくてぼんやりとした縦縞の模様じゃないですか。これはアオダイショウの特徴ですから、毒は無いですよ。多分」

穂乃果「た、多分? 多分ってなにさぁ・・・?」

海未「私もあまりヘビに詳しくないので確信はありません。まあ仮に毒を持っているヘビでも大丈夫ですよ。ほとんどのヘビは頭に毒があります。だから、首から上を切り落としてしまえば毒があろうがなかろうが関係ありません。あっ、ちなみに切り落とした頭は他の人が触らないよう地中に埋めないとダメなんですよ」

穂乃果「わいるどぉ・・・」

ことり「ヘビさん、いただきます」人

海未「ただ・・・それで思い出しましたが、毒蛇のマムシも北海道にいるはずなんですよね。もしかしたらこうして歩いていたらいずれ遭遇してしまうかもしれません」

穂乃果「毒蛇ホントにいるんだぁ・・・怖い・・・」ビクビク

海未「肌を出さないで歩いていれば大丈夫だとは思いますが・・・とにかく気を付けて歩きましょう」



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◇ 7月29日 13:00 薄曇り 



穂乃果「あっ! 海未ちゃん川が見えてきたよ!」

海未「川?」

穂乃果「ほらっあそこ。この坂の下の方」

海未「ああ、ありますね。やっと川を視認できる所まで来られました。・・・あれっ? 今まで見てきた川に比べたら随分と小さいような」

穂乃果「さっき渓谷で見た川とは違うのかな?」

海未「多分。それか途中で分かれて小さくなったか。いずれにせよ水の補給がしたいのであそこまで行きたいですね」

穂乃果「行こうよ。結構急な坂だけど、こうやって木から木へ飛び移るよう降りていけば」トンッ

海未「ちょ、ちょっと大丈夫ですか? 三点支持でゆっくり降りて行った方が」

穂乃果「大丈夫だっ―――うぐっ?!」ズンッ

ツルッ

穂乃果「うわっ?! うわぁあああ?!」

ズザザザザザザザザザザザザザァッ


海未「穂乃果!?」

ことり「穂乃果ちゃん!!!?」


穂乃果「うわっ、おわっ!?」ズザッ ゴロッ

穂乃果「んげっ」ドサッ


海未「穂乃果?! 大丈夫ですかーっ!?」


穂乃果「イテテ・・・・。う、うん。だいじょうぶー!」

海未「今そちらに行きますからーっ!」

海未「ことり、しっかり掴まっててください!」ザッ

ことり「うんっ!」ギュ





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海未「穂乃果!」

穂乃果「あはは、落ちちゃった」

海未「ケガは?!」

穂乃果「大丈夫。草の上を滑り台みたいに滑り落ちただけだから、どこも打ってないよ」

ことり「よかったぁ・・・」

穂乃果「でも滑り落ちているときに海未ちゃんのザックにいっぱい土が付いちゃった・・・」

海未「ザックなんてどうでもいいです。びっくりしますから気を付けてくださいよ本当に!」

穂乃果「う、うん・・・ごめんね。下の方の木に向かって移動しようとしたらザックが重たくてそれに体が持ってかれて・・・。それに脚に思った以上に力が入らなかったものだから・・・」

海未「だから重たい荷物を背負っている時は無理な動きをしないでと言ったのに・・・」

穂乃果「えへへ・・・」

海未「とにかく無事で良かったです。脚に力が入らなかったのは疲れているからでしょうし、少し休憩しましょう」

穂乃果「うん。なんだかんだでも川まで降りられたしね」

海未「ええ。・・・この川、近くで見ると本当に小さいですね。水深もほんの数cmしかありませんし」

穂乃果「でも流れている水はすごく綺麗だよ。透き通ってる。飲めるよね? 喉乾いてて」

海未「沸かせば大丈夫だと思います。コンロを用意しますね」ゴソゴソ

穂乃果「こんだけ自然に囲まれた中の綺麗な川の水。さぞやおいしい水なんだろうなー」ワクワク


ことり「自然の緑に囲まれた小さい川・・・。ちょっと落ち着いて辺りを見回してみると、ここはなんだか幻想的な雰囲気だね」

海未「確かに、鬱蒼と生い茂った草木の隙間から空の光が差し込んでいて美しいですね。妖精でも出てきそうです、ふふっ」

ことり「海未ちゃんロマンチック♪」





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穂乃果「ちょっと汗流そっと」パシャ

穂乃果「んーっ! 冷たくてきもちー!」

穂乃果「もう一回。・・・おっ?」

穂乃果「ねえねえ海未ちゃん! 川の中州にキノコが生えてるよ」

海未「あら、本当ですね。見た目白くて小さくて、可愛いキノコですね」



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穂乃果「食べられる?」

海未「とんでもないっ! キノコは絶対に食べてはいけません!」

穂乃果「そっかぁ。毒キノコかもしれないしね」

海未「その通り。専門知識があって安全なキノコだと確証があるのなら別です。ですが、素人判断でキノコを獲って食べるのは非常に危険です」

海未「毒キノコの中には腹痛、下痢、おう吐、けいれん、幻覚を引き起こす物もあります。この状況でそんな体調になったら・・・・」

穂乃果「キノコって怖い・・・。食べ物ももうあんまり残ってないから、生き残るためにちょっとでも食べ物を増やせたらなぁって思ったんだけど、ダメかぁ。キノコで生き残る事はできないね。 “キノコ” だけにねっ、ぷくくww」

ことり「ひっくち」

海未「すみません・・・私にちゃんとしたキノコの知識があれば、食糧を増やせたかもしれないのに」

穂乃果「あっ、えと、うん。しょうがないよ、私達普通の女子高生なんだから、キノコの専門知識なんて持ってなくて当然だようん」

海未「はい」


グツグツ

海未「水が沸きました。暑い中お湯を飲んだら更に暑くなりそうですが、我慢して飲みましょう」

穂乃果「いただきまーす。ふーっ、ふーっ、ゴクッ...んっ、おいしいっ」

ことり「ゴクッ...うん、売られているミネラルウォーターみたいな感じかなって予想してたけど、ちょっと違うね。舌触りがちょっとぬるってしてて、土の匂いも少しするけど、塩素とかの薬の臭みは全くないから、まさに自然にある水って感じ。飲みやすくていいね」

海未「ええ、これが本当の天然水です」




穂乃果「ねえねえ、ちょっと思ったんだけど。この川の中、歩けないかな?」

海未「川の中を歩く?」

穂乃果「うん。この川すごく浅いし、川底は砂利になってるから歩きやすそうじゃない? それに反して周りは背が高くて固い草ばっかりでしょ。さっきから歩きにくくて歩きにくくて・・・」

海未「なるほど。靴が水浸しになりそうですが、昨日から雨上がりの草むらを歩いていて既に濡れているから今更ですしね。分かりました、休憩が終わったら今度は川の中を歩いてみましょう」






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休憩後



ジャバ ジャバ

穂乃果「つめたー! 川の中歩くのって気持ちいねーっ!」ジャバジャバ

海未「はい。それに穂乃果が言った通り下は砂利になっているから歩きやすいですね。グイグイ進めます」ジャバジャバ

穂乃果「はーっ・・・でもちょっと疲れた・・・。少し休んでもいい?」

海未「えっ、さっき休んだばかりですよ」

穂乃果「ちょっとだけ」

海未「まあ、構いませんが」

穂乃果「ふーっ・・・」






          < ガサガサ



穂乃果「あれっ? なんだろう?」

海未「どうしました?」

穂乃果「向こうの草むらが動いたみたい。何かいるのかな?」

海未「またヘビでは?」


    ガサガサ


穂乃果「あっ、ほら、また動いた」

海未「ええ、確かに」

ことり「何かいるね」

海未「あの大きな草の揺れ方・・・。結構大きい何かがいますね。少なくともヘビではなさそうですが・・・」

穂乃果「もしかして・・・人?」

ことり「人?! 助かる?!」


海未「・・・・そうだったら嬉しいですが・・・・まさか」

ことり「声掛けてみる?」

海未「いえ、待ってください。とりあえず身を隠しましょう」

穂乃果「隠れるの? なんで?」

海未「説明は後で。あそこの幹の太い木の影に隠れて、静かにじっとしましょう」コソコソ



 ガサガサ

穂乃果「あっ、また動いた」

ことり「どうして隠れるの?」

海未「・・・・・私としたことが、すっかり忘れて今まで無警戒でした」

穂乃果「え? え? 何、なんなの? 何の話?」

海未「夏の北海道・・・その大自然・・・。あれは、これ以上にない危険な動物かも・・・」

ことり「危険な動物・・・? それは・・・?」ゴクッ

海未「それは・・・」


海未「熊です」


穂乃果「くま・・・」

ことり「くまぁ・・・・」


ガサガサッ


ことり「ぴぃ! ま、また揺れた・・・」

穂乃果「ど、ど、ど、ど、どどどどうしよう・・・!」ガタガタ

海未「おちおち落ち着いてくだしあ! 何もしないでじっとするんです!」アタフタ

穂乃果「何もしなかったらやられるだけだよ! こっちから先制攻撃だよ!」

海未「素手で熊に勝てるはずがないでしょう! ここは、ひとつ弓で・・・」

穂乃果「弓なんてどこにあるのっ?!」

ことり「漫才してないで静かにしてっ」

海未「あっ・・・す、すいません、取り乱してしまって・・・。静かにしてましょう。このままやり過ごせればそれが一番です」




ガサガサガサガサッ


穂乃果「うわうわ?! 寄ってきてる! こっち来てる! こっち来なくていいよ! こっち見てるって! こっち見てる! 大きい! 大きいって! 熊だよ熊! あんなデッカイ猫はいないって!」

ことり「静かにしてって。来てないけど、ちょっとよく見えない」

海未「火(※)とか焚いた方がいいかもしれませんっ万が一の時は火だ火ですよ! ちょっと燃やせるものを、薪とか、ちょっと沈着冷静に。私ちょっと万が一の場合に私バリケード作ります!」ガサガサ

 ※ ヒグマは火を怖がらないらしいです


穂乃果「冗談じゃ・・・冗談じゃないよぉ・・・ねえ、どっか行った?!」

ことり「どっか行ったかだけ見とかないと。本当にクマさんだった?」

穂乃果「熊だって!」

海未「熊ですよ! あの歩き方見ましたもん!」

ことり「いやでもね、なんか違うんじゃないかなあ?」

穂乃果「穂乃果見たもん! 熊だよ!」







ガサガサッ・・・・

   ピョン




ことほのうみ「「「あっ」」」










 キツネ「・・・・・?」







穂乃果「 キ ツ ネ で し た 」

海未「はぁー・・・なにってもー・・・。びっくりしましたよー・・・」ヘタッ

ことり「やーん♪ かわいー♪ こーんこーん」

穂乃果「ね。キツネだったね」



 キツネ「!」タタッ





穂乃果「あっ、行っちゃった」

ことり「またねー」

穂乃果「それで、海未ちゃん・・・。海未ちゃん、冷静沈着にバリケード作ったね」

海未「ええ」

穂乃果「これは、どうかなぁ・・・そのふにゃふにゃの葉っぱとか枝が熊に対して意味があるのかなぁ。それと燃やせるものとか何とか言ってたけどさぁ、これはなんだい?」

海未「いやっ、探したんですけどこれぐらいしかなかったんですよ。でも、いざとなったらこれで抑えるつもりでした」

穂乃果「そんなバナナ・・・」

ことり「キツネさんかわいかったねー。また会いたいなー」

海未「でも、気を付けてください。キツネも安全な動物とは言えませんから」

穂乃果「そうなの? 野生だとやっぱり凶暴で噛みついてきたりするのかな?」

海未「それだけならいいのですが・・・・。北海道のキツネの多くはエキノコックスという寄生虫を持っているので」

ことり「あ、なんか聞いたことがあるかも」

海未「はい、エキノコックスは人にも感染する、致死性のある危険な寄生虫です。キツネに噛まれたりすると、そこから感染します」

穂乃果「死ぬかもしれないの? お、恐ろしい・・・」

海未「他にも経口感染の可能性もあります。例えばキツネが齧った野草や果実、キツネが浸かった川の水を人が口にするとそれで感染することも」

穂乃果「えっ?! 穂乃果さっき、この川の水を浴びちゃったり飲んだりしたけど大丈夫だったかな・・・?」

海未「生水のまま飲みさえしなければ大丈夫です。さっきはちゃんと沸かしてから飲みましたよね。仮に生水のまま飲んでいたとしても川の水から人がエキノコックスに感染することは稀だとか」

穂乃果「よかった・・・」

海未「まあ、エキノコックス云々より、生水には他にも危険な寄生虫や菌がいっぱいいるかもしれませんから、生水は飲まないようにしましょう」

海未「とにかく、エキノコックスは怖いのでキツネを見かけたら可愛いからと言って不用意に近づかず、こちらから威嚇して追い払いましょうね。エサを与えるなどもってのほかですよ。感染したキツネが人に慣れてしまったら大変です」

ことり「えー・・・追い払っちゃうのー? でもしょうがないねー・・・」シュン



海未「キツネはそれでいいですが、それより今一番恐ろしくて危険なのは熊ですよ。こんな北海道の山奥、いつ熊が出てきてもおかしくありません」

穂乃果「確かに・・・。熊、怖いなぁ・・・」

海未「熊は意外と臆病なので、姿が見えないうちはこちらから大きな音を出していれば寄り付きません。笛とか鈴とか、何か大きな音が出せるものがあればいいのですが・・・」

ことり「ことりは持ってないよ」

穂乃果「穂乃果も・・・・」

海未「そうですよねぇ・・・。本来なら北海道の山に入る際は、熊鈴とかベアスプレーなどが必須なのですが、私としたことがすっかり失念していて・・・・。困りました・・・」

穂乃果「クマったねぇ・・・ぷくくww」

ことり「ひっくち」

海未「他に何か大きな音を出し続けられる物はないでしょうか・・・うーん・・・」

穂乃果「あっ、あの・・・えと、その・・・。あっ! あった、あるよ! 大きい音が出るの!」

海未「本当ですか? 何です?」

穂乃果「これだよ! これ!」チョイチョイ

海未「ん? 首?」

穂乃果「首じゃなくて喉!」

ことり「あっ、なるほど!」

海未「声というわけですか」

穂乃果「そう! 声! 歌いながら歩いたらよさそうじゃない?」

ことり「いいかも♪ 歌えば元気も出そう!」

穂乃果「この三人だったら、ファーストライブの時の」

ことり「START:DASH!! かな?」

海未「それもいいかもしれませんが、なるべく大きな音がいいので」

穂乃果「じゃあ、ライブで一番盛り上がる曲にしよう!」

ことり「ライブで一番盛り上がる曲といったら」

海未「あれしかありませんよね」

穂乃果「あ、やっぱり? 穂乃果もあの曲だと思うんだけど」

ことり「みんな同じ考えみたいだね」

穂乃果「いっせーのーせっ、で曲名を言おうっか」

海未「いいですよ」

ことり「賛成♪」

穂乃果「いくよっ!」

穂乃果「いっせーのっせっ!」






ことり「ノーブランドガールズ!」
穂乃果「No brand girls!!!」
海未「スノーハレーション!」



ことほの「・・・・・」

海未「・・・・」無表情






穂乃果「それじゃあ、いっせーのーせっ、で言おうっか?」

海未「い、いいですよ」汗タラタラ



穂乃果「No brand girls!!!」
ことり「ノーブランドガールズ!」
海未「No brand girls!」






穂乃果「イエーイ! そろったね!」ハイタッチ

ことり「素晴らしー♪」ハイタッチ

海未「ええ、それがμ’sです」ニコ



穂乃果「それじゃ早速、歩きながら歌おうっか♪ いくよっ...コホン   ジャ ジャンジャンジャン ジャージャー」テクテク

海未「オーイエー!」テクテク

穂乃果「ジャ ジャンジャンジャン ジャージャー」 テク テク

ことり「おーいえー!」

ことほのうみ「「「いっしんいっちょー!!!」」」

穂乃果「ほらっ、ハッ、まっ! けないよ・・・・ねっ!」  テク  テク

海未「悔しーなら ハッ ノーブラ・・・・ン」 ...テク ...テク

ことり「しられてーないよーのーぶらーん♪」

穂乃果「なーにもかーもこれー ハァハァ カラー... はひぃ・・・・」 .....テク .....テク

ことり「? どうしたの?」

海未「歌いながら・・・はぁはぁ・・・・歩くのが・・・・地味に、辛い・・・です」

穂乃果「・・・・うん」

ことり「ありゃりゃ」

穂乃果「サビの所だけ三人で順番で歌っていこ・・・」

海未「そうしましょう・・・・」



 ハイ

  ハイ

   ハイ







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◇ 7月29日 15:00 晴れ



穂乃果「はぁ、ひぃ・・・はー・・・ハックシュッ! あー、なんかくしゃみでた」

海未「寒いダジャレばっかり言っているからですよ。遭難中だと言うのに」

穂乃果「そうなのー?」

海未「そうなんです」

穂乃果「そっかー、そうなんだー・・・」


穂乃果「ね、ねー、海未ちゃん。今日はここらへんでテント張って休まない?」

海未「えっ、もうですか?」

穂乃果「うん・・・ダメ・・・かな?」

海未「う~ん・・・」

海未(なんでこんな早くに? 川の中なら歩きやすいし、日だってまだまだ高いのに)


穂乃果「はぁっ・・・はぁっ・・・」クラッ


海未(・・・・穂乃果、辛そうですね)

海未(食糧はもうほとんど残ってないですし、体力的にもそろそろ限界ですし・・・今日中に人里に出られないと正直言って危険なのですが・・・・)

海未(といっても、後どれくらい歩けばいいか検討も付かない状況ですし、無理をしない方が得策ですかね・・・)


海未「・・・・・・・分かりました。テントを張って今日は休みましょう」

穂乃果「うん、ごめんね、ありがとう・・・」







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テントの中
寝る前



海未「熊が近付いてくるといけないので、離れた所に食料を置いてきました」

海未「・・・・食糧といっても、バランスパワーが残り一箱だけなんですけどね」

穂乃果「そっか・・・もうそれだけしかないんだ・・・・」

穂乃果「フキはたくさん手に入るけど、味噌はもうないから水煮にしかできないんだよね。だけど水煮だとなんかすごく食べにくくて・・・・。2~3本口にしたあたりで急に喉がフキを受け付けなくなっちゃうの・・・」

海未「それもありますけど、やはり野草だけでは歩き続けるのに必要なエネルギーは得られないので、これからは歩きながらでも果実やヘビ、カエル、後は昆虫なども見つけ次第獲って食べるようにしましょう」

穂乃果「うぇ・・・。で、でも、何か食べないと動けないもんね・・・背に腹は代えられないや・・・」


海未「・・・それと、大事なことが一つ。穂乃果、ことり、よく聞いてください」

ことほの「?」

海未「運悪く熊と出くわしてしまった際の対処法ですが・・・」

穂乃果「う、うん」

海未「まずは、熊の接近に警戒する事です。熊はあの巨体ですし動く時は大きな音が出ます。それに獣の臭いも結構するとか。音と臭いに常に注意します」

海未「もし近くにいると分かったその時は、気が付かれずにやり過ごせるのが一番です。今日みたいに、木でもなんでもいいので何かに隠れましょう」

海未「次に、もし熊に気が付かれてこちらに向かってきたら、持ち物や服を脱ぎ捨ててそれに注意を引きつけて、なおかつ熊とこちらの間に木などの遮蔽物を挟みつつ、ゆっくりその場から離れます」

海未「それでも、熊がこちらに向かってきた場合ですが・・・」

穂乃果「・・・全力で逃げる?」

海未「それが一番やってはいけないことです。熊はあの巨体で時速50㎞近いスピードで走るとか」

穂乃果「50キロぉ!?」

海未「はい、本気で狙われたら100m走の世界チャンピオンでも逃げ切れないでしょう」

穂乃果「そっか・・・あっ! 熊に襲われそうになったら死んだふりがいいって、絵里ちゃんが言ってた!」

海未「それは誤った知識です。本当にロシアに住んでいたんですかね絵里は。死肉も熊にとっては重要なタンパク源ですから、熊の前で死んだふりなどしたら容赦なく襲われますよ」


穂乃果「Music S.T.A.R.T!!のドラマパートで言ってたことは間違いなんだ・・・。じゃ、じゃあ、熊が向かってきたらどうするの・・・?」

海未「・・・・私が戦います」

ことり「えっ?!」

穂乃果「はっ? な、なに言ってるの・・・?」

海未「北海道にいる熊はヒグマという種類で、大きいのは、体長3m、体重300kgにもなります。穂乃果はホテルのテレビで旭山動物園のヒグマを見たから分かりますよね。文字通り地上最強の肉食動物と言えます。普通に考えて人間が素手で勝てるはずがありません」

穂乃果「だったら、どうして海未ちゃんが戦うことになるの・・・?」

海未「先ほども言ったように、熊に狙われたら絶対に逃げ切れません。そして襲われたら絶対に勝てません」

穂乃果「・・・・・」

ことり「・・・・・」

海未「・・・・しかし、むざむざと無抵抗に殺されてしまうくらいだったら」

海未「・・・・悪あがきをしてみます。頭を腕で守って一気に熊の懐に入り、ナイフで熊の頭部に一太刀でも浴びせることができたのなら、わずかながら勝機が生まれます」

海未「・・・・仮にそれが上手くいかなかったら、私は熊に襲われるでしょう。その間に・・・穂乃果、あなたがことりを抱えて逃げてください」

穂乃果「・・・・・何言っているの・・・海未ちゃん・・・それ、おかしいよ」

海未「おかしくはありません。私は園田道場の娘として、日々武道の鍛錬を積んでいます。この三人の中で熊と戦って一番善戦できるのは私です」

穂乃果「海未ちゃんのバカ! そういうこと言ってるんじゃないよ!」

海未「バカ・・・? 私は至って冷静な考えを述べているつもりですが」

穂乃果「そうじゃないよ! ・・・・ばか。海未ちゃんの・・・・ばかあ!」

海未「・・・・・」

穂乃果「・・・・・ばか」グスッ

海未「・・・・・・・」

ことり「・・・・・・・」






ことり「クマさんやっつければお肉食べられるんだよね・・・」ジュルリ

穂乃果「お腹減ったね」クゥ...

海未「はい・・・」クゥ...






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◇ 7月30日 9:30 晴れ



穂乃果「くー・・・すー・・・」zzz

穂乃果「んっ・・・んぁ」パチッ


海未「やっと起きましたか」

ことり「おはよう、穂乃果ちゃん」

穂乃果「んっ、んー、おはよー・・・ふぁー」

海未「疲れが溜まっている所すみませんが、そろそろ出発したいので起き上がってください」

穂乃果「んっ、わかったー」ムクッ

...カクッ

穂乃果「はれっ」

海未「? どうしました?」

穂乃果「あっ、う、ううん。なんでもない」

海未「本当ですか? 何かおかしかったらすぐに言ってくださいよ」

穂乃果「大丈夫。ちょっとお腹減って力が出てないだけだと思う」

海未「空腹ですか・・・。分かりました、今日も歩きますのでバランスパワーを食べてください。これが最後の一箱、残り四本です。今は私と穂乃果で一本づつ頂き、残りの二本は本当にいざと言う時のために可能な限り最後まで取って置きましょう」

穂乃果「残り二本は取って置くんだね。でもそれだと、ことりちゃんは・・・」

海未「ええ・・・。ことり、すみませんが・・・・」

ことり「うん分かってる。ことりは食べなくても大丈夫だから」

穂乃果「ごめんねことりちゃん・・・。いただきます」パクッ モグモグ



海未(食糧がもうない・・・。本来ならもっと積極的に食べられる野草などを探しに歩き回りたいですが、そうするとことりを一人にしてしまいます。一人になると熊に襲われる可能性が高くなって危険・・・)

海未(ナイフを持っている私が常に穂乃果とことりの傍にいないといけない。・・・もどかしいですね)






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◇ 7月30日 11:00 晴天



 < ミーン、ミーンミンミンミー
 < ジーーーー
 < カナカナカナ・・・



穂乃果「うっ・・・ぐっ・・・」 ザッ ザッ

海未「はぁっ、はぁっ・・・」 ザッ ザッ

海未(今日は雲が無くて日差しが強い・・・。気温が高くてうだるような暑さ・・・。セミは元気ですが、私達には相当堪えます・・・)

海未(それと、歩きながらでも何か食べ物が見つかればとも思っていましたが、そう都合よく手に入る訳も無く・・・)

海未(空腹と疲労で・・・・・頭がクラクラしてきて・・・体の感覚がだんだん無くなってきました・・・)


海未「はぁっ、はぁっ・・・」 ザッ ザッ


海未(こうしてことりを背負って歩くのは今日で何日目でしたかね・・・・・)


海未「んっ・・・・かはっ、うぅう・・・はぁはぁっ・・・」 ザッ ザッ


海未(・・・・・やめましょう・・・思い出すことに無駄なエネルギーを使わない方がいいです)


海未(・・・・お腹減った。やはり残っているパワーバランス、今食べてしまいましょうか)

海未(・・・・食べたい・・・食べたい、食べたい食べたいタベタイタベタイタベタイ...)

海未「んっ・・・!」頭フルフル

海未(だ、ダメです・・・・。残しておかないと・・・)



穂乃果「はぁ、うぐっ・・・うっ・・・」クタッ....

海未「はぁっ・・・んっ? ほ、穂乃果・・・? どうしました?」

穂乃果「うっ・・・ううん。ちょっとお腹が減っているだけ」

海未「そ、そうですか・・・。・・・でも、すみません、残りの食糧はいざというときのために・・・」

穂乃果「うん、分かってる、取って置くんだったよね。我慢するから。さあ、行こう」グッ
 ....クラクラッ

穂乃果「はっ・・・? あ、あれ・・・?」ドシャ

穂乃果「立てなっ、んっ・・・んぐっ、ゴホッ! ゴホゴホッ! うっ・・・! ぉ゙ぇ゙、うぅ・・・」ヘタッ....

ことり「ほのかちゃん?!」

海未「どうしたんです?!」


穂乃果「うっ、んっ・・・・ご、ごめん・・・ちょっと、もう、無理かも・・・」グッタリ

海未「えっ? えっ?!」アセアセ

穂乃果「最初のうちはね・・・太陽が出てきて 暑い だけだ って 思って たんだけど・・・・はっ、ごほっ・・・」

穂乃果「頭の中がグチャグチャになって・・・力が入らなくて・・・荷物に体が潰されそうで・・・・」

海未「わっ、分かりました! とりあえずザックは降ろして横になってください!」

穂乃果「うん・・・」ペタン

穂乃果「んんっ・・・。これ・・・風邪かなあ・・・ごほっ・・・」

海未「穂乃果・・・」

海未(この症状は一体なんでしょう・・・? 本当にただの風邪・・・? 熱中症? ハンガーノック? 気が付かないうちに毒ヘビやヒルに噛まれて何らかの感染症が・・・? あるいは、野草や川の水を口にして寄生虫にあたった・・・?)

海未(医学の知識が無いので分かりません・・・。応急処置もどうすればいいか・・・・)

海未(見守る事しかできないのでしょうか・・・・)


海未「・・・・・ことり、一旦降ろします」

ことり「うん」

海未「うっ・・・すみません・・・私も汗だくて・・・。べとべとで気持ち悪かったですよね・・・」

ことり「ううん」


穂乃果「うっ、ゴホッ、ゲホッ・・・はぁっ・・・はぁはぁ・・・」

ことり「穂乃果ちゃん・・・」ナデナデ

穂乃果「んっ・・・」


海未「・・・・・・・・」

海未(どうしましょう・・・。ここでテントを張って穂乃果をちゃんと寝かせましょうか。でも、またこんな所で留まっても食糧は無いし・・・進まないともう後がありません)

海未(かといってこの状態の穂乃果に無理をさせる訳にはいきません・・・。穂乃果が回復するまでここにいないと・・・)

海未(・・・・そもそも、穂乃果はこのまま休んでいるだけで回復するでしょうか?)

海未(そんなの分からないですよ・・・。ならば、なんとかして病院に連れて行かないと・・・・。そのために適切な判断と行動が求められています)

海未(・・・・・しかし、今までの私の判断はつくづく裏目に出て・・・それで穂乃果とことりをここまで苦しめてしまった。これ以上の判断ミスは・・・さすがに命に係わる気がします・・・)

海未(なんとか・・・私がなんとかしないといけないのに・・・・・・)


海未「・・・・・・・」


海未「・・・・・・・・・はぁ」



海未(何を考えても、何をやっても上手くいく気がしません・・・)

海未(無力です・・・・・私はなんと無力なのでしょう・・・)

海未「・・・・・」項垂れ


ことり「・・・・・・」ナデナデ

穂乃果「んっ、んん・・・・すぅ」


海未「・・・・・・・・」




ことり「・・・・・海未ちゃん。何か思い詰めてない?」

海未「えっ・・・?」

ことり「難しい顔しているんだもん」

海未「・・・・・・。ええ、そうですね。このような状況まで陥ってしまった自分の無力さにつくづく情けなさを感じていました」

ことり「無力って?」

海未「・・・・? ・・・ずっと傍に居たことりなら分かるでしょう。こんな山の中を何日も歩き回って、疲れ果てて、食糧はなくこれ以上の野宿はできない。半端な知識で下手に私が指揮を執ってしまったがために、穂乃果の体調は崩れ、ことりにはケガした足に負担をかけっぱなしで・・・私のせいで二人をここまで苦しい状況に追い詰めてしまいました」

海未「どんどん状況を悪くすることしかできない自分が情けなくて仕方がないのです・・・。穂乃果、ことり、本当に申し訳ありません・・・・」

ことり「ううん。そんなことないよ」

海未「・・・何故?」


ことり「海未ちゃんの背中に乗せてもらってずっと思ってた」

ことり「ことりの足のケガは自分の不注意が原因。ケガさえしなければ海未ちゃんが苦労してことりを背負う必要も無かったのに、海未ちゃんはことりの事を邪魔な荷物みたいな目で見る事は一度も無かったよね。ことりの事を重いと一言も言わなかったよね。ずっとことりの事をことりとして認めていてくれたよね」

ことり「海未ちゃんは、息が上がって、苦しそうな表情になって、体も真っ赤にして、それでもことりを背負い続けてくれた」

ことり「海未ちゃんは一番大変なはずなのに、穂乃果ちゃんとことりのために、一杯考えて、一杯苦労して、一杯我慢して」

ことり「ことりは、たくさんたくさん海未ちゃんに想われながら背中に乗せてもらった。その背中は、すっごく心地よくて、落ち着けて、どこよりも安心できる場所だったよ。そんな海未ちゃんの一体どこが情けないっていうの?」

ことり「大好きな海未ちゃんの、世界で一番近い場所に居られて、ことりは嬉しくて幸せだったよ」


海未「・・・・・・・・」


ことり「・・・・・・・・」ナデナデ

穂乃果「すぅ・・・・すぅ・・・・・」


ことり「・・・・ここまで私達のために一生懸命になってくれる海未ちゃん。本当に強くて、凛々しくて、それでいてとっても優しくて友達想い。海未ちゃんはずっとそう。私が小さい頃、初めて海未ちゃんの事を好きになった日から、少しも変わってない」

ことり「今まで何度も穂乃果ちゃんや私が道を踏み外しそうになったことがあったけど、いつも海未ちゃんが傍に居てくれて、正してくれた。支えてくれた。守ってくれた。絶対に見放さないでいてくれた。海未ちゃんはこれからもきっとずっと同じだと思う」

ことり「そんな海未ちゃんだから、私は貴女の事が大好きで、私は貴女の全てを信じています。きっと穂乃果ちゃんも同じです。こんなにも想っている人がいるのだから、自分を責めないで」



海未「・・・・・・・」


ことり「・・・・・・・・」ナデナデ

穂乃果「すぅ・・・・すぅ・・・・・」






海未「・・・・・・・・・・・・・。ことり。穂乃果のことを見ていてください」スクッ

ことり「えっ? う、うみちゃん? どこに行くの?」

海未「食料がもうありません。食べられる野草や何かを探してきます」ザッ

ことり「う、うん。気を付けてね」




  ザッ  ザッ


海未(こんな危機的な状況です。生き残るためには常に気を張り詰めていないといけない。それなのに・・・・)

海未(ことりの心地良い声。ことりの心のこもった言葉。ことりの潤んだ優しい眼差し。それを受ける度、私は心が安心してしまう。気が緩んでしまう)

海未(ことりの傍に居ると、ことりに甘えてしまう)

海未(私は二人を守るため傍にいないといけない・・・・・・だけれど、あのままことりの傍にいたら、私は緊張の糸が切れて何もできなくなってしまいそう・・・) ...ウルッ

海未(だから・・・・少しだけ、少しの間だけですから、自分自身を立て直すために、距離を取らせてください・・・すみません・・・・・・) ....グシグシ




---------------



 < ミーンミンミンミー
 < チィーーーー
 < ジリジリジリジリジリジリジリジリ
 < ジーーーー



 ガサッ ガサッ

海未「はぁ・・・・」


海未(大事な食料探しなのに、全然集中できません・・・)

海未(ヒルが怖い・・・毒蛇が怖い・・・熊が怖い・・・)

海未(なにより体が疲れてしまって・・・)フラフラッ

海未(ことりを降ろした途端、急に体から力が抜けて、脚が物凄く痛くて重い・・・・)

海未(木々の隙間から入る強い日差しが刺さって全身が痛い・・・暑い・・・普通に歩くだけでも、もう辛い・・・・)

海未(こんな弱った姿、穂乃果とことりに見られるわけにはいきません・・・。心配を掛けたくない・・・)

海未(少しだけ・・・少しだけ、そこの木陰に腰を降ろして休みましょう・・・)

 フラフラ...

ストン


海未「はー・・・・」グッタリ

海未(本当に・・・・疲れた・・・・お腹が減った・・・・眠い・・・・) ...ウツラ

海未(んっ・・・寝たらいけません・・・すぐに二人の所に・・・戻らないと・・・・)

海未(その前に・・・食べ物を探さないと・・・でも、あんまり歩き回ったら、熊が怖い・・・) ....ウツラ

海未(・・・・熊がいるなんて・・・つくづく、北海道の山は恐ろしい・・・ですね・・・・・・・)

海未(空腹・・・熊・・・このままでは・・・死) ...ウツラ ....ウツラ

海未(いくらサバイバルの技術があっても・・・・こんな所では・・・・人は生きていけない、ですよ・・・・) ...ウツラ ....ウツラ

海未(生きて・・・いられない・・・・・・・・・・――――)




海未「はーっ・・・はーっ・・・」


海未「はーっ・・・はーっ・・・・・・・・」 ボーッ....







海未(・・・・・・・)


海未(・・・・・? 本当に?)


海未(・・・・・本当にここで人は生きられない・・・?)


海未(・・・・・最近・・・なにか・・・大事な事を聞いたような)

海未(・・・なんでしたっけ)

海未(・・・・・)ポー



~~~~~~~~~~~~~~~~

おじいさん「我々現代人でもアイヌから学ぶべきことはたくさんあると思うんですよ」

おじいさん「アイヌは本当に『自然との調和』に重きをおく人々だから」

おじいさん「しかしながら、彼らは文章を残すという習慣がほとんどない。だから我々がアイヌの知識を得ることは非常に難しい」

~~~~~~~~~~~~~~~~



海未(――――・・・・・・・・・・・アイヌ・・・? 『自然との調和』・・・?)

海未( ・・・・これは、時計台で会ったのおじいさんの言葉でしたね) ...ウツラ ....ウツラ

海未(アイヌ・・・・)

海未(サバイバルではなく・・・食糧のお菓子や・・・熊を退治する猟銃もなく、アイヌの人たちは昔から・・・普通にここで暮らしていた・・・?)


海未(本当に・・・? 一体どうやって・・・・・?)

海未(『自然との調和』とは、一体どういう意味・・・・?)


海未(・・・・・・・)


海未(・・・・考えても・・・仕方ないですね) ...ウツラ ....ウツラ



海未(・・・それを・・・知る・・・術は無いのですから・・・・)


海未「はぁっ・・・んんっ・・・・・・・」コテン



海未(ね む い・・・・・・・・・) ....zzz



海未「すー・・・・・」zzz














・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・






 < ミーンミンミンミー
 < ギィーーーー
 < シシシシシシシシ





海未「すー・・・すー・・・」zzz



 ガサッ


  ガサガサッ



「~~~~~~」



海未「んっ・・・? んんっ・・・すー・・・」zzz



...パシッ
  ペシッ



海未「んぇ・・・?」ポヤー...


「しさむ? しくぬおや?」


海未「ほのか・・・? ことり・・・・?」ポヤー...

海未「あっ・・・すみません・・・つい寝てしまっていました・・・」グシグシ

海未「んー・・・・・・・・・・んっ? あれっ? ことり立てるんですか?」



「・・・・?」



海未「あっ?! 違う、ことりじゃない・・・人っ?!!」ガバッ



「?!」ビクッ



海未「あっ! あのっ!! 私遭難してしまっていて!!! それとすぐ近くに病気の友人とケガをした友人が―――」



「さぽぉお!」 タタタタタタ




海未「あっ、あっ! 待って!! お願いします待ってくださ、んぐっ」カクッ

海未「はぁっ・・・はぁっ・・・・」ヘタッ

海未「体が言うことを聞かない・・・ぜぇ、はぁ・・・・」

   ....タタタ

海未「ああ・・・行ってしまいました・・・」


海未(思わず大声を上げてしまったから驚かせてしまったみたいですね・・・)

海未(せっかく助かるかと思ったのに、私としたことが・・・)

海未「はぁ・・・・」ガックリ



 ガサガサ



海未「んっ・・・?」


「・・・・・」ジーッ

「・・・・・」ジーッ


海未「あっ・・・。もう一人連れて戻ってきてくれました・・・。よかった・・・」

海未(小学生か中学生くらいの女の子が二人。顔が似ているので姉妹でしょうか)


姉「・・・・・」ジーッ

妹「・・・・・」ジーッ


海未「えと・・・」

海未(じっと見られています。警戒しているみたいですね。落ち着いてゆっくり話始めてみましょう)

海未「あの、先程は驚かせてすみませんでした。それで、私は今とても困っていて助けが必要なのです。話を聞いてもらえますか?」


姉「・・・・・?」キョトン

妹「・・・・・?」キョトン


海未「あのぉ・・・?」

海未(よく分からない反応をしていますね。まだ警戒しているのでしょうか。いくらこちらが危機的状況で必死とはいえ、いきなり一方的に助けを求めたら失礼でしたかね・・・)

海未(相手は子供ですし、打ち解けるためにも、まずは笑顔になって砕けた話から始めてみましょう)


海未「コホンッ....。えと、あなた方が着ている服。とても素敵ですね」ニコッ

海未「北海道庁旧本庁舎の展示物で見ました。アイヌ民族の晴れ着ですよねそれ」

海未「私の友達に、裁縫が得意で衣装を作るのが好きな人がいるのですが、その服を着たあなた方を見たらとても喜ぶと思います」



姉「・・・・・こり」

妹「・・・・・・・」


海未「あの・・・・」

海未(また微妙な反応ですね・・・。どうしましょう・・・)

海未「んー・・・」

海未「・・・・・・」

海未「・・・・・・・・」クゥ

海未「あっ/// す、すみません・・・。朝からほとんど何も食べていなくて・・・」


姉「えいぺるすいや?」


海未「は、はい・・・?」


姉「あんこるこたんおれんえとぅらわあるぱ」


海未「なんと? すみません、もう一度言って頂けますか?」


姉「とあに」テクテク

妹「・・・・」テクテク


海未「あっ、待ってくださっ―――」タッ ...カクッ

海未(うぅ・・・体が痛い・・・・)

海未(それでも歩かないと・・・歩かないと・・・! あの姉妹に付いて行って人里に出ないと・・・! これ以上この山に取り残されたらもう本当に死んでしまうっ!!)

海未「うぐっ・・・ぐぐっ・・・!」フラフラ


姉「・・・・・・」チラッ

妹「・・・・・・」チラッ


海未「んんっ! ・・・・んっ?」

海未(あれ? 待ってくれている?)

海未(待ってくれているなら、慌てなくても大丈夫ですかね・・・?)

海未(慌てないで・・・ゆっくりと・・・・。ゆっくりなら・・・歩けそう・・・)ヨロッ


海未「んぐぐ・・・」ヨロッ... ヨタヨタ


姉「・・・・・」テクテク チラッ

妹「・・・・・」テクテク チラッ


海未(やっぱり。私が付いてくるのを待ってくれている)

海未(よかったぁ・・・・。このままあの姉妹に頼れば助かりそうです)




海未「あの、ありがとうございます。もう本当に死ぬかと思っていたものですから。なんとお礼を言ったらいいのか」


姉「・・・・・」テクテク

妹「・・・・・」テクテク


海未「・・・・・・・」


海未(なんか上手く会話ができませんね・・・。さっきから彼女らが話している言葉、日本語のような、そうでないような・・・。意思疎通がちゃんとできないまま、この姉妹に付いて行って本当に大丈夫でしょうか・・・?)

海未(・・・・疑っても仕方ありませんね。私が他にできることはないのですから)



---------------



姉「・・・・・」テクテク

妹「・・・・・」テクテク


ガサガサッ  トンッ


海未「はぁはぁ・・・」ヨタヨタ

海未「あっ、これは道・・・?」

海未(人の手によって踏み固められたであろう地面。今までずっと藪の中を歩いていただけに、とても歩きやすく感じます)

海未(この道を行けば人里に出られるのでしょうか。一気に希望が湧いてきました)

海未(でもまだ気を緩めてはいけません。ちゃんとした救急を呼べるまで、しっかりこの姉妹に付いて行かないと・・・)ヨタヨタ


姉「・・・・・」テクテク

妹「・・・・・」テクテク

海未「ふぅ、はぁ・・・」ヨタヨタ



姉「・・・・・てれ」ピタッ

妹「・・・・・? ・・・・?!」ビクッ


海未「はぁ、んっ・・・ん? どうして止まるんです?」


姉「らっちやん」

妹「・・・・・・」フルフル


海未「・・・・・」

海未(これは・・・・。なんとなくですが、空気が張りつめているような気がします)

海未(お姉さんの方は真剣な表情になって、妹さんの方はお姉さんの背中に隠れて何かに怖がって怯えているような・・・)




      ...トッ トッ トッ トッ


海未(?! 道の向こうから何かが来る・・・?)

海未(この気配は・・・人じゃなさそうです・・・。人よりずっと強く、鋭く、気高い・・・そんな何かを感じます)


   トッ トッ トッ トッ


海未(く、来る・・・!)




トッ








オオカミ「グゥルルルルルルル」






姉「・・・・・・・」

妹「・・・・! ・・・っ!」フルフル ビクビク



海未「なっ・・・・・」

海未(犬・・・ではありません。お・・・オオカミ・・・? あの野性味あふれる毛並みと、鋭い目つき。そして一般によく見る飼い犬より一回りも二回りも大きい体格に巨大な牙・・・)

海未(そ、そんなのありえません! 日本のオオカミは絶滅したはずなのに・・・・)



オオカミ「グォゥゥウッ ウゥウゥゥゥ」



海未「ひっ・・・・」ビクビク

海未(ものすごい威圧感です・・・。ありえないことだろうがなんだろうが、今目の前にオオカミがいるのは事実です・・・)

海未(オオカミは群れで協力し、非常に高度な連携で獲物を狩ると聞きます。時にはあのヒグマさえも仕留める事があるとか・・・)

海未(熊より強いなんて、お、恐ろしい・・・。も、もしかしたら、既にこの周りにも多くのオオカミが待ち伏せている・・・?)

海未(そ、そんな・・・こ、こわい・・・あ、足がすくでん動けない・・・・)ガクガク

海未(で、でも何とかしないと・・・! ここは年上の私がこの姉妹の盾になってでも助けないと・・・!)グッ


姉「らっち」




海未「へっ・・・?」

海未「・・・?」

海未(よく分かりませんが、『動くな』 ということでしょうか・・・?)

海未(・・・・威圧感が剥き出しのオオカミが目の前にいるというのに、こちらのお姉さんは真剣な表情ながらとても落ち着いていて、冷静にしているように見えます)

海未(・・・もしかして何かができる? ・・・この眼差し、そして全身から感じられる気。私は長年武道の鍛錬を通じて色々な方と組手をしてきましたが、ここまで研ぎ澄まされた気を持つ人を目の当たりにするのは初めてです)

海未(・・・・ただ者じゃありません。その反面、私はもう体力がなく、気が乱れています。ここは私はじっとして何もせず、お姉さんに任せ方が良いかもしれません)




オオカミ「グォルルルルルルル・・・・・・・・・」




姉「いてっけうぇんけうとぅむころやん」

妹「・・・・・・」フルフル ビクビク


海未「・・・・・・」





姉「・・・・・・・・・」

オオカミ「グルルルー・・・・。グウッ、ウゥ・・・・」



姉「・・・・・・・・・」

オオカミ「・・・・・・・・」



姉「・・・・・・・・・」

オオカミ「・・・・・・・・」



姉「・・・・・・・・・」

オオカミ「・・・・・・・クゥン」クルッ

 トッ トッ トッ トッ トッ トッ......





姉「ふー・・・・」

妹「さぽぉ・・・・」グスグス ...ギュ


海未「助かった・・・・」

海未(オオカミの方もこちらを怖がっているようにも見えました)

海未(だからでしょうか。お互い何かしたわけでもなく、私達と会話するように面と向かっていただけ。それだけのことなのに、オオカミは引き返して行きました)

海未(・・・・いえ、言葉で説明できない、目には見えない・・・そんな何か特別な力のやりとりがあったような気もします)

海未(いずれにせよ、不思議な姉妹ですが私を守って頂いたのだし、信頼できる方々ですね)




---------------



テクテク

海未(だんだんと木々がまばらになってきた。向かっている先から人の声や物音が聞こえます)

海未(人里が近いのでしょう。助かりました・・・。この姉妹に見つけてもらって本当に良かった。感謝してもしきれません)

海未(しかし、お礼を言おうにも言葉が通じないんですよね。歩きながら何か話をしても、相変わらずこの姉妹の話す言葉はよく分かりません。方言でもなさそうですし・・・)

海未(ただ、この姉妹を見ていると言葉なんて些細な事だと思えます)


妹「りむせたねぽ! りむせたねぽ!」トコトコ

姉「おかけいぺ」テクテク


海未(人里が近付くにつれて妹さんも元気が出たようで、はしゃいでお姉さんにくっつきながら歩いています。二人とも仲が良いんですね。見ていて微笑ましいです)ニコニコ


テクテク


海未「・・・・あっ!」

海未(家屋が見えてきまs―――・・・・・・・えっ?)





http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira127228.jpg





海未「家・・・・?」

海未(舗装された道路や電柱など全く無く、茅葺の家々・・・)

海未(まるで時代劇の村に出てくるかのような場所です。現代的な物が何も見当たらない・・・)


海未「一体・・・ここはどこ・・・?」ポカーン

海未「ハッ、あの姉妹は?」キョロキョロ




姉「しさむ」


海未「あっ、そちらでしたか。今行きます」


テクテク





海未(一つの家の前まで歩いてきて、姉妹は二人とも中に入っていきました)

海未「こちらがあなた方のご自宅ですか?」


姉「えんてくさまけたもの」


海未「えっと・・・。お邪魔してもいいんですか?」


タタッ

妹「おっ」ギュ グイッ

海未「わっ、と」


海未(妹さんに手首を掴まれて中に入れられてしまいました)

海未「お邪魔しますね」


海未「・・・・・・」キョロキョロ

海未(臼やカゴ、囲炉裏や毛皮、不思議な文様の布等・・・。色々な物がありますが、電話はなさそうですね・・・)キョロキョロ

海未(どうしましょう・・・)

海未(とりあえず、私かなり疲れているのでここで少しだけ休ませてもらいましょう)


姉「ちぇぷちすうぇ」ゴソゴソ


海未「あっ、料理をされるんですね。魚料理ですか」




---------------



グツグツ


海未「魚や野草を煮込んだ料理ですね。すー・・・。んんー、良い匂い・・・・」

海未「物凄く空腹なので、この匂いだけでお腹が満たされていくような気がします」


海未(本当にいい匂い・・・)

海未(辺りは静かなのもあって・・・とても気分が落ち着いてきます・・・)


海未「・・・・・・」

海未「・・・・・・」 ...ウツラ

海未「ハッ。いけない、また眠くなって・・・」 ウツラ ウツラ


姉「えしんきちくほっけ」


海未「・・・・はい・・・ありがとうございます・・・・・」コテン

海未「んっ・・・・・」


海未「すぅ・・・・」zzz












・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・











 < ミーンミンミンミー
 < ギィーーーー
 < シシシシシシシシ



海未「・・・・・・ん」パチッ


海未「・・・・・・」


海未「・・・・・ふー」


海未「・・・・穂乃果とことりの元へ戻らないと」スクッ


 ....ザッ ザッ





---------------





ことり「・・・・・」ナデナデ

穂乃果「んー・・・・・」ムニャ



海未「穂乃果、ことり」


ことり「あっ、海未ちゃん。おかえり」

海未「穂乃果はどうですか?」

穂乃果「・・・・・んぁ、うみちゃん」

海未「穂乃果、歩けそうですか?」

穂乃果「えっ。んー・・・。うん、休んだから、少しは歩けると思うよ」

海未「そうですか。それでは行きましょう」

穂乃果「う、うん」

海未「ことりも。私の背中に乗ってください」

ことり「うん。ごめんね」ノシッ

海未「んぐっ」クラッ

ことり「あっ、ご、ごめん。大丈夫・・・? 海未ちゃんもうちょっと休んだ方が・・・」

海未「い、いえ・・・行かないと・・・大丈夫ですから・・・」フラフラ

ことり「そ、そう・・・?」

海未「私が前を行きます。穂乃果、付いてきてください」

穂乃果「いっ、ゴホッ・・・い、いいよ・・・」フラッ


ザッ ザッ



穂乃果「あれ? 海未ちゃん、そっちは川から離れて行っちゃうよ? 川沿いに歩くんじゃ?」

海未「こっちでいいんです。ちゃんと付いてきてください」

穂乃果「う、うん・・・・」


ザッ ザッ



---------------



ザッ ザッ

穂乃果「ぜぇはぁ・・・・木がまばらになってきたね。その分日差しが更にきつくなってきた・・・はぁ・・・ひぃ・・・」フラフラ

海未「はぁっ、うっ、ぐっ・・・・・・」フラフラ


穂乃果「はぁ、はぁ・・・・・」フラフラ

穂乃果「ね、ねえ、海未ちゃん? 本当にこの先でいいの? 何も当てが無く進んでいるような気がするんだけど・・・・」

海未「大丈夫です」

穂乃果「そっか・・・うん、分かった」


海未(大丈夫の根拠は? と、聞かれたら、多分私は答えられない)

海未(穂乃果も私も、体調は最悪で体力も既に限界を超えています。これ以上無理をしたら間違いなく力尽きます)

海未(しかし、最後の力を振り絞ってでもこの先に行かなければならない。・・・この先に行けば大丈夫だという絶対的な確信があるから)


海未「信じて私に付いてきてください」

穂乃果「ぜぇ・・・はぁ・・・うん、もちろん海未ちゃんは信じてる・・・」フラフラ


ザッ ザッ













                      ブロロォン.... >




海未「?!」

穂乃果「ね、ねえ! 今の聞こえた?」

ことり「うん! 車が走る音!!」

海未「行きましょう!」


ザッザッザッザッ


海未「はぁっ、うぐっ、ふっ、んんっ!」

穂乃果「ゴホッ、んっ、はぁっ、うぅ!」


海未(もう力は残ってないというのに、小走りなんかして・・・)フラフラ

海未(膝がちぎれそう・・・心臓が破裂しそう・・・汗の代わりに血が出てきそう・・・)フラフラ

海未(それでも・・・それでもぉ・・・!!) ...ググッ!



ザッザッザッザッ





 ~ パァ..。.+:* ☆


海未「うっ・・・森を抜けて・・・日差しが眩しい・・・・・で、でも!」

穂乃果「辺り一面大きな草原が広がっていて・・・! その先には―――」




ことほのうみ「「「 道路!!! 」」」




海未「はぁはぁ」...フラフラ

海未「・・・・・・・・ハァッ」グッ... ザッ

穂乃果「んんん!!」ググッ ザッ


海未(暑さと空腹と苦痛で・・・視界が歪んできた・・・周りに何があるか分からない・・・でも今は前の道路だけ見えればいい・・・!)

海未(前へ・・・前へ・・・! 前へぇえっ!!!)...ヨロヨロ タッタッ


穂乃果「あっ・・・あっ、あふっ」 ...ヨロッ ズルッ ドシャ

海未(・・・?! 穂乃果が転んで・・・!)



海未「ほ、ほの・・・ぅぐ・・・はぁっはぁっ」

海未(手を・・・貸さないと・・・でも・・・今膝を曲げたら・・・多分もう立てない・・・・・)



ことり「ほのかちゃーん!! 後少し!! がんばって!!」





穂乃果「んぁ・・・んんぐぅ!」ムク ...ヨタヨタ


海未「はぁっはぁっ・・・ほの・・・か・・・あとすこし・・・ですっ!」 フラフラ

穂乃果「はぁっはぁっ・・・うん・・・! もうちょっとぉー・・・!」 フラフラ


海未(後10メートル・・・・・) フラフラ


穂乃果「ゴホッ! んぐっ・・・はぁっ、ケホッ・・・」フラ


海未(5メートル・・・・3メートル・・・2・・・)タラー...

海未(うっ・・・。汗が目に入って目が見えない・・・。両手が塞がっているから汗を拭えない・・・)

海未(でも道路はもう目の前のはず・・・! このままぁ!!)グググッ



海未「はっ・・・はぁっ・・・・・・・・・・っ!!!」タンッ


穂乃果「つ・・・ついたぁっ・・・・・!!! あぅぅぅ・・もーだめぇ・・・・」 フラフラ... パタリ


海未「かはっ・・・」ガクッ

海未(やっと・・・・・・アスファルトに手を付けた・・・。日に照らされていて熱い・・・ヤケドしそう・・・・。滴る汗がすぐに乾いていく・・・)ポタポタ

海未(でも・・・何日かぶりに触れた人工物・・・。固いアスファルトに触れた手から・・・じわりじわりと、人の温もりと安心感が染みて来て・・・それが体中に巡り渡ってきて・・・・)

海未(全身からが力が抜ける・・・・・・・)クタッ....




ことり「う――ゃん! ほの―――ゃん!!」ユサユサ

ことり「待っ――! 今助―――ら!!  ・・・んぐんんっ!」 ....ズリッ ズリッ


海未「うっ・・・うう・・・」ポヤー....



海未(ことりが何かを言っていますが・・・)

海未(すいません・・・力を使い果たして・・・五感がマヒして・・・よく聞き取れません・・・)

海未(今はただ・・・この道路に触れていたい・・・)




海未「はぁ・・・はぁ・・・・」ポヤー...


海未(道路・・・・・。この道路、もしかしたらオオカミと出会った道ですかね・・・・)

海未(人を怖がっていたオオカミ・・・・・・。当然人もオオカミが怖い・・・・)

海未(昔の人とオオカミは・・・お互いを怖がっていた。・・・だからお互いの生活圏に干渉せずに共生できていたのでしょうか・・・)


海未(・・・・・・・・・)


海未(・・・“怖い” の一言では不十分な気がします)

海未(怖いというより、多分 “尊敬” かも。相手の強さや生き方をお互いが知っている)

海未(それを尊敬しあっている。だから言葉が無くとも争わずに共生できている)

海未(時計台のおじいさんが教えてくれた『自然との調和』とは、まさにこのことなのでしょうか)

海未(あの姉妹が現代文明から切り離された自然の中であっても、普通に暮らしていられるのは・・・『自然との調和』、それを真に理解しているから)

海未(それに反し私は現代文明から切り離されたことに慌て、サバイバルで自然と闘い生き抜くことで頭が一杯でしたが・・・それだけではダメなんです。それではこのように体を痛めつけてしまうだけ・・・・・)

海未(自然とは、闘うものではなく、尊敬し共生するもの・・・)

海未(それが『自然との調和』・・・。サバイバルなど意識すらしていないであろうあの姉妹程に『自然との調和』を、都会で生まれ育った私が理解することは難しいでしょうが・・・・・・それでも学ばなければなりません)

海未(人は自然無しに生きる事はできないし・・・また、自然の大きな力が時として人を襲うこともあるのだから・・・)



海未「はぁ・・・はぁ・・・・」 クラ クラッ....



海未(とにかく・・・生き延びられて・・・よかった・・・)

海未(『自然との調和』・・・その意味を知ることができて・・・よかった・・・・・・)

海未(ここにきて・・・・よかっ・・・・た・・・・・・・・)



海未「ありがとう・・・ござい・・・まし・・・た・・・・・・・・・・」 ....パタリ










                  ピーポー ピーポー  >
















----------------------------------------



海未「・・・・んん」

海未「ん」パチ

海未「・・・・?」

海未「・・・ここは?」

海未(私は一体・・・? 白いベッドに寝て、周りは・・・白いカーテンで覆われている)

海未(とりあえず起き上がりましょう)ムクッ

ズキッ!

海未「うくっ!?」ビキビキ

海未(な、なんですかこれは・・・・。全身がものすごく痛い・・・)

海未(体の関節という関節が悲鳴をあげている・・・・。腕や脚の筋肉も、普通の筋肉痛の100倍くらい痛い・・・)

海未(とにかく頑張って起き上がて・・・)

海未「イタタ・・・」ヨタヨタ

 ピンッ

海未(あらっ・・・? 腕に点滴が打たれています)

海未(外れないように気を付けて歩かないと)フラフラ


海未(カーテンを開けて・・・) 


シャー






ほの母「くかー、くー・・・」zzz

ほの父「」


海未「・・・・え?」

海未(穂乃果のご両親が丸椅子に腰を掛けておられる・・・・・?)



ほの父「」クイッ


海未「?」チラッ







穂乃果「あっ、海未ちゃん!」

海未「ほ、穂乃果っ!」


ほの母「わっ」パチッ


海未「うっ」ヨロッ...

ほの父「」ガタッ ガシッ

穂乃果「あっ、ちょ! うみちゃ! だ、大丈夫っ?!」アセアセ

海未「大丈夫です・・・す、すいません・・・」

穂乃果「もう、海未ちゃん無理しすぎ」

海未「あのっ、ことりはっ?」

穂乃果「大丈夫だよ。穂乃果の向かいのベッド。あのカーテンの向こうで眠ってるよ」

海未「無事なんですか?」

穂乃果「もちろん。ちゃんとお医者さんに診てもらったからね」

海未「良かった・・・。そして穂乃果はどうなんですか? 体調を崩していましたけど」

穂乃果「お医者さんは大丈夫だって言ってたよ。点滴打ってもらって眠ったら大分良くなった」

海未「そっか・・・そうですか・・・。私達・・・・助かったんですね・・・」

穂乃果「うんっ!」

海未「ううっ」ジワッ

穂乃果「海未ちゃん」手差し伸べ

海未「ほのかぁ・・・」フラフラッ.... ギュ

穂乃果「よしよし」手ニギ

海未「も、もうダメかと・・・ぐすっ」ポロポロ

穂乃果「大丈夫だよ。私達帰れるからね」ウルウル



ほの父「」

ほの母「うんうん」コクコク




---------------



海未「あの・・・・。私、道路に辿りついてからの記憶が無いのですが、あの後どうなったのですか?」

穂乃果「うん。穂乃果も気を失っちゃったんだけど、ことりちゃんがケガした足を引き摺って近くの民家まで歩いて救急車を呼んでくれたの」

海未「そんな無茶な事をしたんですかことりは・・・。私が気を失ったばかりに・・・」

穂乃果「うん・・・・。ことりちゃんにはもう足を向けて寝られないよ・・・。あっ、足を向けて寝てた」 ← (穂乃果の向かいのベッドがことり)



海未「それと、穂乃果のお父様とお母様は何故こちらに?」

穂乃果「あぅ・・・/// そ、それはね・・・・/// うぅ///」ウツムキ

海未「・・・??」キョトン



ほの母「それはねー」ゴソゴソ

ほの母「これのおかげかしら?」

海未「? それは、スマホ?」

ほの母「うん。私のね」スッスッ

ほの母「このメールを見て」

海未「メール? 拝見します」ジッ




==============================
Frm:雪穂
Sb:Fw:結婚初夜です。

[穂乃果とことりが向かい合って寝ている画像付き]
==============================




海未「そっ、それは?!/// 札幌のホテルで私が雪穂に送ったメール・・・」

ほの母「穂乃果ったら、家を出発してからひっきりなしに雪穂にメールを送っていたでしょ? だけど海未ちゃんのこのメールを最後に全くメールが来なくなったものだから、その日の夜に雪穂が心配し出してね。このメールを私とお父さんに見せて相談に来たの」

穂乃果「海未ちゃん雪穂になに送ってんのぉ・・・///」

海未「す、すみません・・・なんか寝起きのテンションでつい・・・」

穂乃果「そのメール、私達のお父さんとお母さんだけじゃなくて、捜索の手がかりってことで警察の人とかにも転送されたんだよぉ・・・もぉ、恥ずかしくて・・・///」

海未「け、警察・・・? あの、すみません、どういうことですか?」

ほの母「うん。詳しく話してあげる。このメールを貰った次の日の朝に、お父さんがあなた達が向かう予定だったキャンプ場の管理所に電話したんだけど、そしたら、『それらしい女子高生三人は来てない』って教えてもらってね」

ほの母「あなた達の携帯電話にも何度連絡しても繋がらないし、さすがに嫌な予感がしたから、海未ちゃんとことりちゃんのご両親とも相談して、すぐに警察署に行って捜索願を出しに行ったの」

ほの母「だけど、警察の人が『現時点では事件性があるとは言い切れないので、すぐには積極的な捜索はしない』なんて言うから、私達6人の親で必死に警察を説得してね。特にうちのお父さんなんかね、重い腰を上げない警察に怒鳴ったり掴みかかったりして逮捕されそうに―――えっ? なに、それは言わなくていいって? まあいいじゃない」

ほの母「それでなんとか警察も動き出してくれたんだけど、お父さんはそれでも心配だからって言って、少しでも手がかりを集めるために、あなた達が泊まったホテルや電車の鉄道会社に電話したり、現地の探偵に依頼を出したり。それでも居ても立っても居られないからって、今度はもう自分が北海道に行って直接三人を探しに行くって言って、急に店を閉めて飛行機に飛び乗って―――だからなによもう、本当のことだから言ってもいいじゃない」

ほの母「そしてお父さん北海道の空港に降り立ったはいいけど、この広い北海道のどこを探せばいいのか分からないって言って呆然としてたのよ。ホント後先考えないで馬鹿よねーこの人」

ほの母「でもね、その頃運良く情報が入ったの。あなた達が乗った電車の運転手が、慌てて電車を降りた女子高生らしき三人が居たって覚えていてくれたの。キャンプ場の最寄駅から大分先の駅だったけど、慌てて降りたという点から思うに、多分寝過ごしたんでしょ?」

ほの母「とにかくそれを聞いて、すぐにその駅周辺の地図を確認したわ。そしたら周りが山ばっかりだったから、お父さん、あの後先考えない穂乃果の事だから興味本位で山に入って遭難したんだって推理したの。自分も後先考えない人だからその推理は簡単だったわけね」

ほの母「それからすぐに民間の捜索隊に連絡して駅周辺の山に捜索依頼をしたの。それが終わったらレンタカーに乗ってあなた達が降りた駅に向かって走ったわ」

ほの母「その翌日に捜索隊の人達と一緒に山を探し始めて、そして穂乃果とことりちゃんのバックが見つかって、やっぱりこの山で遭難したんだって断定できた」

ほの母「ちなみにバックが置いてあったその山は人里が近い里山で、林業屋さんが枝打ちとか間伐っていう手入れをしている山だったのよ。だから近くの民家に話を聞きに行ったりもしたんだけど、あなた達が立ち寄った形跡は無かった。海未ちゃんの大きいザックだけは見つからなかったから、もしかしたら山を抜けるつもりで逆に山奥に入ってしまったのかも、って捜索隊の人達と相談して、捜索範囲を周辺の山も含めて広げたわ」

ほの母「そして、ことりちゃんが救急車を呼ぶまでずっとみんなで山の中を探し続けていた。・・・というのが、ここ数日の私達の動きかしらね」



海未「そうだったんですか・・・。最初に私達がテントを張って野宿したあの山は、手入れされている里山だった・・・・。確かに思い返せばあそこは背が高くて真っ直ぐな木しか生えていませんでした」

海未「それなのに私が川沿いに下流に向かって歩こうなんて言い出したものだから、人里からどんどん遠ざかって危険な目に遭って・・・・」

海未「せめてあの場で動かなけば捜索隊に見つけてもらえていたのに・・・・。私はなんと愚かな事を―――」

穂乃果「それは違うよ!!!」

海未「ほ、ほのか・・・?」

ほの母「こーら。病院では静かになさい」

穂乃果「あっ、ごめんなさい・・・」

穂乃果「とにかく海未ちゃんは間違ってないっ」ウルッ

海未「で、ですが・・・・・」

穂乃果「海未ちゃんは、うぅ、間違ってなんか・・・・ぐすっ・・・ないんだから・・・・・・」グスグス

海未「・・・・・・ありがとうございます」



海未「そしてなにより・・・。多くの方々にご迷惑を掛けてしまったようで・・・。北海道に来る飛行機代や、そして探偵や民間の捜索隊に依頼をされたと言うことは、相当な費用が掛かった筈ですよね・・・? もうなんとお詫び申し上げたらよいのか・・・」

ほの母「海未ちゃん・・・・」キッ

海未「・・・・・・」

海未(当然叱られますよね・・・。いえ、叱られるなんて子供の発想です。ちゃんと物や行動でお詫びをしないと・・・例えどんなに時間がかかっても)





ほの母「なーに言ってるのっ! どうせ穂乃果が、いける! いける! って言って海未ちゃんとことりちゃんを山の中に強引に引っ張って行ったんでしょ? 昔からずーっとそうなんだから」

穂乃果「あぅ・・・その通りです、はい」シュン

ほの母「そういえば小学生の頃だったかしら。アンタ、いつもの家出で海未ちゃんを巻き込んで神田明神で野宿しようとしたことあったわよねぇ。ほんっと、その頃から全然成長してないわねー」

穂乃果「たはは・・・面目ない・・・」

海未「あ、あのっ・・・! そういうことではなくてですね・・・! 穂むらはこの時期忙しいでしょうにわざわざここまで来て頂いて・・・それに、警察の方や捜索隊の方・・・色々な人に迷惑を掛けてっ・・・その・・・お詫びとか費用等をどうすれば―――」

ほの母「それはもういいの。私達の方で警察や捜索隊の人達には何度も御礼はしたし、費用の事も気にしなくていいわよ。ことりちゃんはケガしちゃったけど、三人共無事ならそれでもう十分。だからそんなに思い詰めないで。明日からまた普通に夏休みを過ごしなさい」

海未「で、ですがっ・・・」

ほの母「もうっ。海未ちゃんは聞き分けの良い子だと思っていたけど、違っかたのかなー? んー?」

海未「・・・は、はい、分かりました、ありがとうございます。・・・ありがとうございますっ!」ペコリ

ほの母「はい、よろしい」ニコッ

ほの父「」b




海未(・・・・穂乃果同様、そのご両親も昔から変わっていない。豪快で竹を割ったような性格で、私達が何か過ちを犯しても、それについて十分反省していたら、追及しない)

海未(このような素晴らしい方々に囲まれて、私はなんと幸せなんでしょう。いつか必ず恩返しがしたいです)




ほの母「ふふっ。それにしても、この写真の穂乃果とことりちゃん」

穂乃果「うぅ・・・///  うみちゃぁん・・・このメールはないよぉ・・・/// 結婚初夜てなにさぁ・・・///」

海未「す、すみません・・・」

ほの母「時計台でことりちゃんと結婚したんだっけ? このメール見た理事長、笑って喜んでいたわよ」

穂乃果「ちょ!? 雪穂そのメールも理事長にまで転送しちゃったの?!」

ほの母「お父さん。穂乃果はことりちゃんをお嫁さんにもらうんだって。これで跡継ぎも安心ねー」

ほの父「 」ウム


穂乃果「もぉー!///」

海未「ふふっ、早速双方のご両親の了解もあるのですね」ニコニコ







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◇ 8月3日 14:00 晴れ ことりのお部屋



ことり「今日は穂乃果ちゃんのお誕生日。みんなでお誕生日会をやるの。だけどことりは足をケガして動けないから―――」


 < コンコン


ことり「あ、はーい」

カチャ

穂乃果「こっとりちゃーん! きたよー」

海未「お邪魔します。ことり」

ことり「穂乃果ちゃん! お誕生日おめでとう! 穂乃果ちゃんのお誕生日なのにわざわざことりの部屋まで来てもらってごめんね」

穂乃果「ううーんっ! 全然!」

海未「足の具合はどうです?」

ことり「じっとしてれば痛くないし、大丈夫だよ」

海未「元気そうでよかったです。そういえば、山に置いてきたそのことりの枕。戻ってきたんですね」

ことり「うん! 穂乃果ちゃんのお母さんが持ってきてくれたの。おかげでぐっすり眠れているよ♪」モフッ

穂乃果「穂乃果もサリーちゃんが帰ってきてホッとしたよー」

海未「ふふっ、それは良かったです」


ことり「二人は体の方、大丈夫? ものすごく無理していたでしょ」

海未「私はなんともありませんよ。ことりは小鳥の羽の様に軽かったですからね」

ことり「そ、そんな・・・///」

穂乃果「穂乃果はまだちょっと体痛いなー。昨日はほとんど一日中寝て過ごしちゃった」

穂乃果「あ、そうそう。昨日ねー、うちにフェリーで会った外国人さんが来たよ」

ことり「お饅頭を気に入ってくれたあの外国人さん?」

穂乃果「うん。その時は雪穂がお店番しててさー。英語で話しかけられててオロオロしてたよ」

ことり「あはは。でもあの外国人さんは優しい人だったから大丈夫だったでしょ?」

穂乃果「うん! それはもちろん。雪穂ったらそんなことも知らないで、泣きそうな声でさ『お、お姉ちゃーん・・・・』って穂乃果に助けを呼んでた」

ことり「あのしっかり者の雪穂ちゃんが? かわいい♪」


海未「・・・・・」ソワソワ

穂乃果「海未ちゃんどうしたの?」


海未「あっ、いえ、あの・・・。他の皆さんはまだですかね? 私、すごく会いたい方がいるのですが・・・」

穂乃果「すごく会いたい人? 誰?」





カチャ


絵里「お邪魔します」

にこ「穂乃果―。お誕生日おめでとー」



穂乃果「ぅ絵里ちゃん! にこちゃん! ありがとー!」

ことり「いらっしゃい」

絵里「まきりんぱなも来たがってたわよ。でもあんまり大勢で押しかけてもことりに負担を掛けてしまいそうだしね」

ことり「ごめんね。部屋もあんまり広くないし・・・」



海未「・・・・あのっ」

絵里「どうしたの海未?」

海未「希は・・・・?」


希「んー? ウチがどうしたーん?」ヒョコ


海未「希!」タタッ ギュ

希「おっと。びっくりしたなー」

海未「のぞみっ、のぞみっ・・・!」

希「やーん。みんなが見てる前でダイタンやなあ海未ちゃん」

海未「貴女がいなかったら、今頃私達は・・・!」グスグス

希「もう、どうしたーん? しゃーないなあ、ほーら、よしよし」ナデナデ


にこえりことほの「・・・・・・・」シーン


絵里「・・・・・・ほ、ほら! みんな! 今日は穂乃果の誕生日よ! 盛り上がりましょう!」

にこ「そ、そうね! とりあえず乾杯ね! グラス持ちなさい」グイグイ


 カンパーイ!
  カチン




---------------



絵里「今は真姫の病院に通院しているんだったかしら」

ことり「うん! 足の治療で真姫ちゃんの病院にお世話になるのはこれで2回目だから通いやすいよ」

絵里「そう。真姫も絶対に跡は残させないって言っていたから安心ね」




穂乃果「あの・・・にこちゃん、これ借りてたアイドル雑誌なんだけど・・・」

にこ「ああ、それね。ちゃんとこれで勉強し―――んぬぁぁあっ?! すごいクシャクシャになってしかも破れてるぅぅ?!」

穂乃果「ご、ごめんなさい! 色々あって・・・」




希「そっかあ、そんなことがあったんやねえ」

海未「はい・・・」

海未「悪天候の中でのテントの張り方、食べられる野草の知識、危険な野生動物の対処法・・・そういったことを希に教わっていなければ・・・・私や穂乃果とことりは今ここにいなかったでしょう・・・」

海未「そう思うと、私・・・怖くて怖くて・・・うっ、ぐす」ポロポロ

希「そっか。怖かったんやね」

海未「はい・・・一時は本気で死ぬこと以外考えられなくなって・・・・生きることを諦めてました・・・自分を見失ってしまって・・・穂乃果とことりが死んでしまうところも想像して・・・・本当に、本当に怖かったんです・・・!」


希「・・・・・・・・・・」

海未「うっ・・・ぐすっ・・・」


希「・・・・・でもな、海未ちゃん」

海未「はっ、はい・・・・・?」


希「海未ちゃんは今ここにいる。ことりちゃんの部屋で、みんなと一緒に居る。それは間違いなく現実。辛い事を乗り切った証や。だから今は安心して、いっぱい楽しもう?」

海未「はい・・・はい・・・!」ポロポロ




穂乃果「・・・・」ムスッ

にこ「どうしたのよ穂乃果? あんたの誕生日なんだからもっと楽しみなさいよ」

穂乃果「海未ちゃんが・・・」

にこ「海未? 海未がどうしたのよ」クルッ




希「海未ちゃん」抱きしめ

海未「!」

希「がんばったね、海未ちゃん。よしよし してあげる」ポンポン ナデナデ

海未「っ! う、うああああっ」ポロポロ





穂乃果「!!」

にこ「本当にどうしたのかしらね、海未は。さっきからずっと希に泣きついちゃってさ」

穂乃果「何で穂乃果の胸で泣いてくれないの・・・・? 穂乃果と海未ちゃんは一緒に並んでうん○した仲なのに・・・・」

にこ「はっ!? はあ?!! あ、あんたたち・・・。仲良いとは思ってたけど、そんなことまで・・・。連れションってレベルじゃないわよ、それ。マジでやったの?」

穂乃果「マジでやったよ! 木の葉を集めて、それで拭いて、出した後は穴に埋めて」

にこ「うぇ・・・・・・」

絵里「あなたたち! 食事中に何を話しているの! いい加減になさい! チュウしちゃうわよ!!」



---------------



絵里「それじゃあ、そろそろ帰るわね」

にこ「あんたたちはまだ帰らないの?」

穂乃果「うん。もうちょっとだけいる」

海未「私達は家が近いですから」

にこ「そう」


絵里「ことり。大変かもしれないけど、ちゃんと通院してね。お大事に」

ことり「うん、ありがとう、絵里ちゃん」

希「海未ちゃん、穂乃果ちゃん、ことりちゃん。しばらくはゆっくり休みぃな」

海未「はい、ありがとうございます」

希「ほな~」


ガチャ....バタン







穂乃果「・・・・」

ことり「・・・・」

海未「・・・・」



穂乃果「・・・・も、もう。海未ちゃんずるいよ・・・うっく」ポロ

ことり「そうだよ・・・ことりだってみんながいる間だけでも泣くの我慢しようと思ってたのに・・・ひっく」ポロ

海未「す、すいません・・・・希の顔を見てお礼を言おうとしたら、抑えきれなくて・・・・」

穂乃果「ことりちゃん・・・・ごめんね・・・ぎゅっ、ってしていい?」ポロポロ

ことり「うん・・・大丈夫だよ・・・・海未ちゃんもきて・・・」グスグス

海未「はい、失礼しますね」ギシッ


穂乃果「うっ、うぅ。うわあああああっ。怖かったよおおお!」ポロポロ

ことり「ことりもぉ・・・! ケガしちゃって、ただのお荷物になっちゃって、ごめんなさいぃい! 本当にごめんなさいっ!!!」グスグス

海未「荷物だなんてことはありませんでしたよ。私は穂乃果とことりにとても支えられました。この三人だからこそ乗り切れたのです」

海未「穂乃果、ことり・・・本当にありがとうござました」




---------------



穂乃果「うっ・・・・ぐすぐす。ありがとう海未ちゃん」

穂乃果「あっ、そうそう、穂乃果お饅頭持ってきたよ。あの時約束したもんね」

海未「ああ、ありがとうございます穂乃果。今はこれをお腹いっぱい食べたいです」

ことり「ことりもクッキー焼こうとしたんだけど・・・・ごめんなさい。この足じゃキッチンに立てなくて・・・・・」

穂乃果「そんなこと気にしないでよー!」

海未「ええ、そうですよ。気にしないでください。代わりと言ってはなんですが、私もささやかながら食べ物を持ってきました」

穂乃果「え? なになに?」

海未「きっと、気に入って頂けると思います」スッ...

穂乃果「!!! こ、これは・・・・」

ことり「うみちゃん・・・もしかして、それは・・・」

海未「はい、最後の最後まで取って置いた最後のバランスパワーです。ずっとザックの中に入れていたからクシャクシャになってしまっていますが・・・」

穂乃果「食べて・・・・いいの?」ジュルル

海未「ええ。もう遭難は終わりました。確保しておく理由がありません」

穂乃果「分かった。袋、開ける・・・ね」

海未「あ、待ってください。多分中身は崩れているので、お皿の上で開けてください」

穂乃果「うん」ピリ

穂乃果「あら、粉々になって出て来た」パサパサ

穂乃果「それじゃ、このひとかけらを」ヒョイ

海未「私も頂きます」

ことり「ことりも」

パクッ

モグッ


海未「パサパサで、まるで薬みたいな味・・・ですが・・・」

ことり「なんでだろう、噛めば噛む程、涙が出てくる・・・」ウルウル

穂乃果「・・・・うう・・・疲れている上に気が狂いそうな程お腹が減っている時、この味をどれだけ想像したことか・・・」ウルウル

ことり「うん・・・うん・・・」ウルウル

穂乃果「ただの栄養機能食品って思ってたけど、こんなにおいしかったんだねー・・・」

海未「ええ。でもやっぱり、私の中での最高の食べ物は・・・」

穂乃果「ふふ、分かってるよ。はい、どうぞ」

海未「ありがとうございます! もぐもぐ・・・・ああ、やっぱり穂むらのお饅頭は絶品ですねえ!」モグモグ

穂乃果「遭難しているときに海未ちゃんがお饅頭を食べたがってた話をしたら、お父さん、やたらと気合い入れてそれ作ってたよ」

海未「ええ、モグ、そうなんですか、ハグ、お礼を言わないと」モグモグ

穂乃果「う、海未ちゃん、落ち着いて食べようよ・・・」

海未「モグモグ...ゴクン。 す、すいません。あまりにも感激してしまって・・・」

海未「それにしても楽しみです。数年後にはこれよりずっとおいしいお饅頭――いえ、お饅頭に限らず、様々な和菓子を穂乃果から頂けるんですよね、私」ニコニコ

穂乃果「うっ・・・。そ、そうだね、約束したからね。ま、任せてよっ」

ことり「あははっ。・・・でも、ホント、遭難中は食べるのが大変だったよねー」シミジミ

穂乃果「野草食べたり、ヘビ食べたり、虫も食べようとしたり・・・」

海未「ええ・・・虫。夏の山の藪歩きでしたから本当にたくさんいましたよね。ムカデみたいな虫とか、ゴキブリみたいな虫とか色々・・・」

穂乃果「いたいた。テントの中にも結構入ってきてた。でもさ、歩き疲れちゃってて、虫が傍に居る事に驚いたり追い払ったりする元気が無いから、そのまま放っておくしかないの」

ことり「うんうん。その内虫に慣れてきちゃったよね。だからね、ことり、ちょっと前まではゴキブリとか見かけたらすっごい怖かったけど、今なら冷静に退治できる自信があるよ」

穂乃果「頼もしいねー。実は穂乃果ね、将来結婚する人はね、虫を怖がらないで退治できるような頼もしい人がいいなーって思ってたの。やっぱりことりちゃんしかいない!」

ことり「えへへ・・・///」


海未「他にも鉄砲水や熊や毒蛇に怯えたり、怖い事もたくさんありましたけど、それだけじゃなかったですよね」

海未「私が今でも感動が胸に残っているのは、遭難二日目の朝です。二人は覚えていますか?」

ことり「もちろんはっきり覚えてるよ。滝と渓谷とエメラルドグリーンの池だよね。本当にあれは綺麗だったねえ・・・」シミジミ

穂乃果「岩場を登った先から見えた山と雲海もすごかったよねぇ・・・」シミジミ

海未「ええ、本当に。今でも目を瞑ればあの時の光景が鮮明に見える程に印象深かったです」

穂乃果「みんなスマホが壊れていたから、あの絶景を写真に残せなかったのが心残り」

海未「そうですねえ・・・。あっ、そうだ、スマホですよ。穂乃果」

穂乃果「えっ? あっ、そうか。ことりちゃんにこれ渡さないと」

ことり「なあに?」

穂乃果「新しいスマホだよ」

ことり「あ、持ってきてくれたんだ、ありがとう! ・・・・・それで、穂乃果ちゃん、このスマホは・・・」

穂乃果「もっちろん! 携帯電話の中継器が近くに無くても通信できる衛星通信機能付き! 10気圧防水! 落下耐衝撃2メートル! 耐熱・耐寒性能もバッチリ! ついでに広角2300万画素の高性能カメラも搭載!」

ことり「わあ、すごい♪」

穂乃果「穂乃果と海未ちゃんも同じモデルにしたよ!」

海未「予備バッテリーも揃えています。どんな過酷な環境に放り出されようが、これさえあれば死角無しです」

ことり「えへへ。今度同じようなことがあってもこのスマホだったら、撮りたい写真は絶対に撮れるね」

海未「ええ、撮れますね」




穂乃果「・・・・・・・・・」

海未「・・・・・・・・・」

ことり「・・・・・・・・・」




穂乃果「・・・・あの、さ」

海未「なんでしょうか?」

穂乃果「穂乃果ね、二人にお願いと言うか・・・すごく伝えたい事があるんだ。でも、これ言ったら怒られちゃうかもしれない―――あんなに怖くて危険な目に遭ったのに何を考えているんだ―――って・・・」

ことり「ことりも思っている事があるの・・・。ケガをしてお荷物にしかならなかったことりからはすごく言い難いことなんだけど・・・」

海未「奇遇ですね。私もずっと言いたかった事があります。・・・・本当に多くの人に迷惑を掛けて、こんなことを言うのは常識が無いとお叱りを受けてもしょうがないことなのですが・・・」



穂乃果「じゃ、じゃあさ、みんなでさ、いっせーのーせっで一緒に言おうよ!」

海未「そうですね。三人で同時に言い難い事を言うのです。何を言っても、恨みっこなしで」

ことり「うん、賛成♪」



穂乃果「じゃ、じゃあ、言うよ」

海未「ええ」

穂乃果「いっせーのーせっ ―――」
















ことほのうみ「「「 次はどこに行くっ? 」」」








おわり



Extra  本スレで使用した写真の撮影場所
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




>>5 東京駅八重洲口
東京都中央区八重洲
https://goo.gl/maps/vxiAt4M54pr

RICOH WG-5GPS
平成28年1月


----------------------------------------


>>8 首都高速道路
東京都中央区日本橋 ◇江戸橋南交差点付近
https://goo.gl/maps/es5BWf7GKFs

RICOH WG-5GPS
平成28年1月


----------------------------------------


>>8 東京スカイツリーと首都高と隅田川
東京都中央区東日本橋 ◇中央区立日本橋中学校近くの歩道橋の上
https://goo.gl/maps/X3HucFm9Ddy

RICOH WG-5GPS (Photoshop Elementsでパノラマ写真加工)
平成28年1月


----------------------------------------


>>31 流れ星
静岡県熱海市熱海滝地山 ◇滝知山園地駐車場
https://goo.gl/maps/3ALrR8b6q1B2

Nikon D80
平成26年5月 みずがめ座η流星群極大日


----------------------------------------


>>46 ヒグマ
北海道旭川市東旭川町倉沼 ◇旭山動物園
https://goo.gl/maps/nM1bmJ69BYH2

RICOH WG-5GPS
平成27年6月


----------------------------------------


>>59 畑とか山
JR北海道 旭川駅~上川駅間(石北本線)からの車窓
https://goo.gl/maps/qZb9TrcGnsC2

RICOH WG-5GPS
平成27年6月


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>>66 田舎の駅
北海道紋別郡遠軽町上白滝 ◇上白滝駅ホーム(※)
https://goo.gl/maps/GXA4WU9VrrA2

Sony SGP412
平成27年6月

  ※ 残念ながら平成28年3月に廃駅になってしまい、駅舎も解体されているそうです


----------------------------------------


>>71 川辺
神奈川県足柄下郡箱根町宮ノ下 ◇堂ヶ島遊歩道
https://goo.gl/maps/hgphrVxuBBv

RICOH WG-5GPS
平成209年1月


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>>74 獣道
群馬県前橋市富士見町赤城山 ◇赤城神社の近く
https://goo.gl/maps/yFdQ2u4MdUS2

Nikon D80
平成24年6月


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>>119 明け方の里山
静岡県駿東郡小山町竹之下 ◇誓いの丘の近く
https://goo.gl/maps/U7qYBFmAzCk

Nikon D80
平成23年6月


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>> フキの群生

北海道紋別郡遠軽町 ◇上白滝駅の近く
https://goo.gl/maps/regBRMy7VY82

Sony SGP412
平成27年6月


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>>155 ヤマグワ
東京都神津島村鴎穴 ◇ありま展望台の近く
https://goo.gl/maps/iXMH5QiFzv72

RICOH WG-5GPS
平成28年5月


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>>157 ヘビイチゴ
神奈川県横浜市港南区上大岡東 ◇久良岐公園
https://goo.gl/maps/KESrc2pMPiy

RICOH WG-5GPS
平成28年5月


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>>165 滝と池と渓谷
熊本県人吉市大野町 ◇大野渓谷
https://goo.gl/maps/2h2RYpsnDSy

東芝 W65T
平成27年11月


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>>168 山と雲海
群馬県前橋市富士見町赤城山 ◇竹久夢二登山展望の地
https://goo.gl/maps/f78hEcQRdaF2

Nikon D80
平成24年6月


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>>78 藪の中
>>174 小川
>>175 白いキノコ(多分キコガサタケ)

北海道紋別郡遠軽町 ◇上白滝駅の近く
https://goo.gl/maps/regBRMy7VY82

RICOH WG-5GPS
平成27年6月


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>>204 村

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Ainu_-_houses.jpg


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Extra2  北海道への取材費
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商船三井フェリー/『あさひかわ・ストーリー』(東京→旭川片道エコノミーチケット):11790円
札幌市内のビジネスホテル素泊まり一拍:7000円
JR北海道/旭川駅→上白滝駅:2430円
食費:5823円
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合計:27043円



Extra3  透過処理したあれ
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http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira127230.png







以上です。

ありがとうございました。

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