男「人を殺しちまった……」 警官「待てーっ!!!」 (20)


暗い夜道を歩く、バイト帰りの青年。

その目の前に、突如男が現れた。
しわくちゃの上着を着ており、普通でない、というのは明らかだ。


「待ってたぜ……」

「お前は……!」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1483869627


「てめえ、よくも俺の彼女を奪ってくれたな」

「何をいってるんだ。彼女はとっくに君とはもう別れる、と告げたじゃないか」

「うるせえ! おおかたてめえがあいつを脅したんだろ!
 俺と別れなきゃひどい目にあわしてやる、とかなんとかよ!」

「そんなことするもんか!」


口論が始まった。


「あいつは俺の女だ! すぐに別れろ!」

「断る! 彼女は君の暴力や自己中心さに耐えかね、僕を選んでくれたんだ。
 それを逆恨みするなんて、筋違いもいいところだ!」

「なんだとぉ!?」


青年は気弱そうな外見に反して、理不尽には容易には屈しない、という気骨を持っていた。

追い詰めるはずが、正論と気迫で逆に追い詰められ、男はナイフを取り出した。


ナイフの切っ先はブルブル震えている。


「さあ、別れろ!」

「そんなもの振りかざしても無駄だ。君こそ、いさぎよく彼女から手を引くことだ」


まるで相手にしない、という風に青年は踵を返した。


次の瞬間、青年の背中に刃が刺さっていた。
何度も何度も、刺しまくった。

やがて、暗がりでも分かるほどに血まみれになり、道路に倒れる青年を見て、男は我に返った。


「人を……殺しちまった……」


元々、男には刺すつもりはなかった。ナイフはあくまで脅しのために準備した道具だった。
「君の言うとおりにしよう」という言葉がもらえれば、それでよかった。

しかし、青年の毅然とした態度が、男を凶行に駆り立ててしまったのだ。


とんでもないことになった……と俺は思った。

どうしてこんなことになってしまったのか、俺には分からなかった。
本来なら、俺は逃げるべきではないのかもしれない。


しかし、周囲を見回すと、パトロール中の警官がこの一部始終を目撃していたことが分かった。

俺はすぐさまこの場から離れることを決意した。


俺は止めていた自転車に乗り、明かりもつけずに慌てて走り出した。

全身に鳥肌が立っていた。



すると、

「待てーっ!!!」

事件を目撃していた警官が、必死の形相でペダルをこぎ、俺を追いかけてきた。


俺は逃げながら、幾度となく後ろを振り返る。

警官は変わらぬ必死さで、俺を追い続ける。


俺には理解できなかった。

なぜあの警官は、こんなにも俺を追い回すのかを。


二台の自転車による追いかけっこはしばらく続いたが、
追跡は止みそうにないし、足が痛くなってきたので、ついに俺は自転車のブレーキをかけた。


警官は達成感をにじませた笑顔で俺に迫ってきた。

「よしよし、ようやく観念したか」


俺は当然の疑問を口にした。


「ちょっと待って下さい! 俺たちの目の前で殺人事件が起こったっていうのに、
 なんであんたは俺を追いかけてきたんですか?
 俺はあんたがいるから大丈夫だと思って、通報もせず、あそこから逃げたのに……」


この問いに対し警官はこう答えた。


「バカ野郎! 刃物持った殺人犯なんて危ない奴を追うより、
 自転車の無灯火運転を取り締まった方が、安全に手柄立てられるからに決まってんだろ!」





― 終 ―

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom