【デレマス】松尾千鶴「第6回 fragrightのケミカルカオスキュートラジオ」 (37)


一ノ瀬志希が始めたラジオ番組を軸にアイドル達の日常を描いたお話です。

連載作品となっていますが、今回からでも楽しんでいただけると思います。

前作はこちら。

【デレマス】松尾千鶴「第5回 fragrightのケミカルカオスキュートラジオ」
【デレマス】松尾千鶴「第5回 fragrightのケミカルカオスキュートラジオ」 - SSまとめ速報
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星輝子「第1回 フレ志希のケミカルカオスキュートラジオ??」
星輝子「第1回 フレ志希のケミカルカオスキュートラジオ??」 - SSまとめ速報
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――レッスンルーム――

松尾千鶴「おーねがいー、シンデレラ―♪」

千鶴「夢はゆーめでおわれーないー♪」

トレーナー「はい、ストーップ! 表情が硬いな……。松尾、楽しいことでも考えてみろ」

千鶴「なに……なんですか? その無茶振り……」

トレ「レッスンの一環だと思って、な。物は試しだ」

千鶴「楽しかったこと……楽しい……うーん……あ、昨日書いた『読込中』の出来映えは良かったわね」

トレ「楽しいことそれか……じゃ、次はちょっと笑ってみろ」

千鶴「笑うってこう……ですか?(ニッ)」

トレ「……すまん、私が悪かった……」

千鶴「なんで引きつった顔で謝るんですか……」


――事務所――

佐久間まゆ「まゆは今日も貴方を待ちます……。あら、クッションが昨日より三センチ右側に寄っています。座っている姿勢のせいかしら。左側に肘をついて姿勢を崩すのは、何かに悩んでいる証拠……。最近プロデューサーが受け持っているのは杏ちゃんときらりちゃんのライブイベントとfragrightのラジオ……。さて、原因としては……、どちらも甲乙付けがたいですねぇ。後で輝子ちゃんに聞いてみましょう……」

千鶴「(ガチャ)おはようございます……。あれ、誰も居ない……」

千鶴「はぁ……ボーカルレッスンが特に酷い……。ダンスレッスンや演技のレッスンはなんとかなってるけど

千鶴「笑って歌が上手く歌えるなら、いくらでも笑うわよっ……!

千鶴「……いけない。冷静になりなさい、わたし。円周率を数えるのよ……3.14159265358979323846264338327950288419716993937510

千鶴「ふぅ……少し、落ち着いた。あ、あのラジオのポスター。そういえば、あの時の宮本さんは良い笑顔してた。気取らず、取り繕って無くて、自然で、小さな子供みたいに無邪気な笑顔……。あんな風に笑えたら、上手く歌も歌えるのかな……」

まゆ「大きな独り言……。 あなたが、松尾千鶴さん?」

千鶴「ひゃっ! ひゃい! すみません! 誰も居なかったはずなのに……」

まゆ「うふ。プロデューサーさんの机の下に居たんですよぉ」

千鶴「机の下? 机の下に入るの? ……地震? ……ハッ! すみません……つい癖で……」

まゆ「良いですよ。よく言われますので……。まゆは、気にしませんから」

千鶴「はい、すみません」

まゆ「もう、せっかく『大きな独り言で愚痴を言っていた』ことを、『気にしない』って言ってるんですから、もっと、喜べば良いんですよぉ」

千鶴「……!! は……恥ずかしい……」

まゆ「机の下に居る理由は、ひ・み・つです。いつか、まゆにあなたの考えを聞かせてくださいね(ガチャ)」

千鶴「机の下に居る理由…………避難訓練?」


――とある喫茶店――

宮本フレデリカ「諸君、ココに集まってもらったのは他でもなーい。うえきちゃんの新エピソードについて話し合いたい!」

星輝子「おぉ続編……エピソード1……だな」

一ノ瀬志希「今風だと、ローグワンかもよ~?」

フレ「うえきちゃんサーガ~ローグワン~、悪くなくなくないね!」

輝子「要するに……良いのか?」

志希「確か、うえきちゃんが誕生して話終わってるよね。うえきちゃん増殖しちゃう? うえきちゃんパンデミック!」

フレ「増え~るうえきちゃんと人類との全面戦争だね!」

輝子「小梅ちゃんと観た……ホラー映画みたい……。ところでうえきちゃん、なんで増えるんだ?」

志希「①生物としての生存本能がうえきちゃんに新たな能力を与えた。②精霊の王様がいたずらした。③新たな王様の介入によって新たな能力がうえきちゃんに与えられた。さぁ、ど~れだ?」

フレ「①は自然な流れ~。②はちょっと強引かな? 前回お前らに罰を与える~って言ってうえきちゃんになっちゃったからね~。③は一番強引だけど、それを裏付けられるストーリーラインが出来れば上手く話が広げられるかも!」

輝子「新たな王様……精霊は霊の総称……精霊の他に何か霊っているのかな? 妖精?」

フレ「フフーン♪ この時を待っていたのだ……」

輝子「フレちゃん、何か秘策……あるのか……?」

フレ「鷺沢文香先生! ご教授願いまーす!」

鷺沢文香「私は本を読みに来ただけなのですが……」


フレ「まぁまぁ、フミカちゃん~。堅いこと言わずに~」

文香「はぁ……そうですね。精霊と一言に言っても多く種類が在りますが、植木から連想すると①山の精霊である山霊(さんれい)②樹木に宿るという木霊(こだま)辺りが妥当でしょうか」

フレ「山の精霊……ピピピ、ピピピ、ピピピ! 降りてきた! これはアカデミー脚本賞待ったなしだよー!」

輝子「ドキドキ……」

志希「わくわく……」

フレ「山霊の王、山霊王は人間たちに恨みを持っていた。なぜ人間たちは山を削り行楽地・ゴルフ場へと変えていくのかと。

フレ「悩んでいる間にも愛しい仲間たちである森林は伐採され続けていく。時の流れは無情。刻一刻と悪化し続ける状況に業を煮やした山霊王は精霊王へ直談判する。

フレ「なぜ人へ復讐しないのかと。精霊王は答えない。何も。そして決定的なことが起きてしまう。山霊王の親友であった杉の木が伐採されてしまったのだ。

フレ「樹齢五百年を超えるその杉の木は高速道路建設の邪魔になってしまい伐採された。山霊王は怒り狂った。そして人間への恨みを持った木霊を集め、人を襲う山霊『悪山霊』を作り出す。その数は万を超えた。

フレ「悪山霊の軍団は暗躍する。休日にハイキングを楽しむ家族を山の気候を狂わせ苦しめたり、方位磁針を狂わせ道を間違えさせた。

フレ「苦しむ人間たちの姿を見て山霊王は心が安らぐと同時に疑念を抱く。悪山霊がやっていることは人間たちが自分たちにやっていることと同じでは無いかと。

フレ「しかし疑念は復讐の炎に焼かれて消えた。決意のために山霊王は仮面を被る。悪と一文字書かれた仮面。そして名乗る。我こそは山の復讐者『悪山王』であると。

フレ「狂い続ける山霊王を止めるべく精霊王はうえきちゃんに告げる。『動けるようにしてやる。話せるようにしてやる。その代わり、山霊王を救ってほしい』うえきちゃんの答えは…………」

輝子「……答えは?」

フレ「えへへー、ちょっとうえきちゃんの性格を何も考えていなくてー」

志希「えー、もう What an ass! でいいじゃん!」

輝子「うえきちゃん、グローバル……」

フレ「どんな意味?」

志希『なんて愚か者なんだ!』

輝子「うえきちゃんは……乗り気じゃないのか」

文香「しゃべれない設定はどちらへ?」

フレ「そこは……こう……精神的なテレパシーで! ……でもでも~、毎回違う言語で話すキャラクターも斬新だよね!」

文香「却下です」

志希・フレ『えー』


文香「キャラクターにおいて、言動とは一番大切なものです。個性は言動に表れます」

志希「緋○剣心が語尾に『ござる』って付けるみたいな?」

文香「そうですね」

フレ「幸○創真が『お粗末!』って言うみたいな?」

文香「決め台詞ですね」

輝子「碇シ○ジが『逃げちゃダメだ』って言うみたいな?」

文香「シーンと相重なって印象的な台詞ですね」

文香「……ところでフレデリカさん」

フレ「な~に~?」

文香「一次創作会議をするために皆さん集まったんですか?」


フレ「あ! そうだった! うえきちゃんの続きを頭の片隅で考えてたら、つい話してた!」

志希「わかるわかる~。やるよねー」

フレ「ついつい、やっちゃうよねー」

志希「では次はあたしが。……こほん。今回諸君に集まってもらったのは他でもない。ラジオの深刻な問題について会議したい」

フレ「し……しんこくな……」

輝子「も……問題……」

志希「ラジオで化学! 実験! したい!」

文香「駄目です」

フレ「はやっ! 即却下だー!」

志希「人との会話……そして変化は化学反応……そんなchemical reactionも良いけど、やっぱり、実験のドキドキ感が大切だよねー!」

輝子「おぉ……、意に介さず」

文香「企画するなら最低限安全で無いと」

志希「安全……? safety? 気にしなーい!」

文香「気にしましょう」

志希「何が起こるか分からないっていうランダム性が人間の興味を引くと思うんだ。ね? 文香ちゃんもそう思わない?」

文香「例えばギャンブル中毒の原因にも、そういった要因はありますね」

志希「人間の欲望、逃れられない生物としての性、高度に発達した頭脳は好奇心に逆らえず人を狂気へと駆り立て、世にも恐ろしい実験を……あっ」

文香「じーっ」

志希「実験、ダメ?」

文香「ダメです」


志希「ちぇー、文香ちゃんのケチー」

フレ「まぁまぁシキちゃん、そういうときもあるよー」

志希「じゃあ、違う機会にプレゼンしてみよーっと」

文香「話し合いたかったことはコレなんですか?」

輝子「文香ちゃん、ちがう……。次はわたしから。こほ……ごほっ! ごほんげほん……。演技のつもりがつい咽せてしまった……」

フレ「いつもの調子でやってみればいいじゃーん」

輝子「そ……そうか。じゃ、じゃあ……ヒャッハァァアアアア! 今回戦友たちに集まってもらったのは他でもない……! 我が3rdソロ曲の会議をするためだぁぁあああ!!……あ、ちがった」

フレ「いいよいいよー! そのままやっちゃ……」

文香「じーっ」

フレ「はいっ……そーりーっ。フレちゃんそーりーっ」

輝子「えーっと、ケミカルカオスキュートラジオのゲストに応募する人が居ない件について……話し合いたいと思います」


志希「あんなワックワクしちゃうポスター書いたのにねー」

フレ「牧歌的でコミカルなポスターなのにねー」

文香「前衛的でラディカルなポスターでしたよ?」

輝子「あ、でも、ポスター見てる子が居た」

フレ「えっ! 誰々~?」

輝子「同い年の松尾千鶴ちゃん」

フレ「ポスターにイカした題字を書いてくれたんだよ!」

志希「絵だけでも良いけど、達筆な題字でクオリティアップしてるよねー」

文香「絵とのアンバランスがラディカルを増長させている気がします……」

フレ「作品から受け取る印象は人それぞれだよね!」

輝子「ある人には大絶賛……別の人には大不評……よくある話」

志希「研究でも観測者のバイアスは加味しないと、正確な結果は得られない。この場合の結果は……」

輝子「ポスターを貼りだして一週間……未だにゲスト応募者ゼロ人……」

文香「大……不評……の方でしょうか……」

志希・フレ・輝子『ガーン』


フレ「犬も歩けば棒に当たる、フレちゃんも踊れば転ぶことくらいあるよー!」

文香「それは大丈夫……なのでしょうか?」

志希「百回失敗しても百一回目に成功すれば、オールオッケー」

輝子「そう……だな……。一回失敗したくらいで諦めちゃダメだ……」

文香「そうですね。……では改めて」

フレ「改めて二枚目のポスターを書こう!」

志希・輝子『おー!!』

文香「あなたたちの辞書に『反省』の二文字は無いんですか」

志希「あたしの辞書には『半生』しかなーい!」

文香「……はぁ……マスター、マカロンください」

フレ「あ! フミカちゃんずるーい! あたしも-! シキちゃんとショーコちゃんも食べるでしょ-?」

志希「あたしも欲しいー! ねぇねぇ? タバスコ味とかないの?」

文香「マスターに言えば何でも作ってくれますよ」

志希・フレ『ほんとに-!』

輝子「……あ、わたしそろそろレッスンだ。ちょっと行ってくる」

志希・フレ『いってら~』(カランコロン)

志希「うーん、次は何がモチーフだと良いかな。分子式とか構造式? わかりやすく原子記号にしようかなー」

フレ「あ! 閃いた! マカロンをモチーフにしたマカロンマン! お腹空いた~って言ったら、頭のマカロンをもぎ取って『コレでもお食べ』って言うんだよ!」

志希「なにそれ! すっごくクレイジー! それにしよっか!」

文香「あなたたちは本当に懲りませんね……」

志希・フレ『何のこと?』


――レッスンルーム――

輝子「(ガチャ)おはよう……ございます」

まゆ「あら、輝子ちゃん。おはようございます」

輝子「まゆさんおはよう。ポスター見てた子は……居た?」

まゆ「今日も千鶴さんが見ていましたよ。どうやら上手く歌えないことを悩んでいる様子でした」

輝子「そっか……上手く歌えないコト……か……」

まゆ「そういえば、上手に笑えない、とも言っていましたね」

輝子「わらう? 上手く笑う……難しいこと、考えてる……ね……」

まゆ「そうですね……輝子ちゃんはお仕事で笑顔の写真を撮るとき、どんなこと考えるんですか?」

輝子「そう……だね……。キノコを思い浮かべると、自然と……ふひひ……にやにやしてくる……な……」

まゆ「そういうことを、千鶴さんにも伝えてあげると良いですよ」

輝子「!! ……そうか、ありがとう。まゆさん」


まゆ「上手な歌い方は……輝子ちゃんならたくさんアドバイスできそうですね」

輝子「わ……わたしは、そんなに上手じゃ……ない」

まゆ「またまた、ご謙遜を」

輝子「ステージだと、気持ちが入りすぎて上手く歌えない……こともある。そういう時、テクニックで飾ってない芯が……出てくる。そんな時でも最高のパフォーマンスをするためには、基礎が大事」

まゆ「輝子ちゃんは、音楽にも一途なんですね」

輝子「キノコに一途だから、他はそこまででも……ない」

まゆ「あら、照れちゃって」

輝子「……まゆさん、意地悪……」

まゆ「うふ。ごめんなさい、輝子ちゃんがかわいいので、つい。ではトレーナーさんが来ましたし、地道に基礎レッスンしましょう」

輝子「うん。千本の茸も一本から」

まゆ「まゆ、初めて聞きました。そのことわざ」

輝子「わたしも、初めて聞いた……ふひひ」


――とある喫茶店――

志希「やーっぱり化学式だよー! 水のH2OとエタノールのC2H5OHを全面に押し出してさー」

フレ「でもでも~、やーっぱりマスコットキャラクターの存在感が大切だと思うんだよー」

文香「もう……化学式をモチーフにしたキャラクターでも作れば良いじゃないですか」

志希・フレ『そ・れ・だー!』

文香「……はぁ……」

喫茶「嬢ちゃん、コーヒーお代わりいるかい?」

文香「いえ、そろそろ私もレッスンですので」

フレ「あ! シキちゃんもレッスンじゃなかった?」

志希「ん? そうだった? そうだった!」

フレ「お願いー! シキちゃん引っ張っていって! あたしは撮影のお仕事あるんだ~」

志希「えー! シキチャンレッスンヤスム。タイチョーフリョー」

フレ「元気にキママカロン三個も食べたでしょー! タバスコ注入ーってマカロンにたくさん入れちゃってー」

志希「デ~リシャ~ス~。も~食べられな~い」

フレ「……あ、そういえばシキちゃんの今から行くレッスンルーム、年末でワックスかけ直したって聞いたから、ピッカピカでワックスの良い香りがするんじゃないかな~?」

志希「(ガバッ)ほんと!? 行く行く~! マスターごちそうさま! グッバーイ!(カランコロン)」

文香「……さすがフレデリカさん。私の助力は必要なさそうですね」

フレ「フミカちゃん甘い! 今日のカボチャ味のキママカロンみたいにあま~い! シキちゃんを侮ってはいけないよっ……!! 絶対猫に着いていって失踪しちゃうから、連れて行ってね!」

文香「まさかそんな……」

志希「――あ、にゃんこだー!」

フレ「ほらー!」

文香「重ねてさすがフレデリカさん……。マスターごちそうさまでした。では急用ができてしまいましたので(カランコロン……パタパタ)……志希さーん!」

フレ「よし! じゃ、お仕事行ってきまーす! マスター、メルシー! また来るよ!(カランコロン)」


――休憩室――

トレ「よし、今日は真面目にやってるな。一ノ瀬」

志希「志希ちゃんはいっつも真面目でーす」

トレ「まったくこいつは……。まぁいい。休憩だ」

志希「はーい。ケミカルドリンク買ってこよー(バタバタ……バタン)」

千鶴「はぁ……ひとつ上手くいかないとなぜか連鎖的に他も悪くなっていくものね……。ダンスレッスンまで躓き始めてる……」

志希「ドクター志希ちゃんのセレクトはもちろんドクターペッパー。コインを入れて~、ピッ!(ガコン)自動販売機は良い文明~」

千鶴「気持ちを入れ替えないと……3.1415926535897932384626433832795028841971699393751058209749445」

志希「わっ! レッスンの休憩に来たらすっごい子が居る!」

千鶴「923078164……? わたし?」

志希「松尾千鶴ちゃんだー! さんきゅー! ハロー」

千鶴「は…はろー、い……一ノ瀬さん。さんきゅーって、なんのこと……ですか?」

志希「ポスターだよー! ラジオのタイトル書いてくれたんでしょ? ありがとー!」

千鶴「いえ……どういたしまして」

志希「ところで、円周率唱えてどうしたの? ギネス挑戦?」

千鶴「六万桁なんて無理ですよ」


千鶴「レッスンが上手くいかなくて……」

志希「何で落ちこんでるの?」

千鶴「えっ? だから、レッスンが……」

志希「出来ないことを出来るようにするのがレッスンでしょ? 出来なくて当たり前じゃん」

千鶴「(ハッ)…………」

志希「だから、落ち込まなくて良いんじゃない? 胸張ってレッツ・レッスン!」

千鶴「……そう……なんですね」

志希「そうそう。だからー、少し練習したら出来ちゃう志希ちゃんはレッスンいらないんじゃ――」

トレ「一ノ瀬! 休憩終わりだ! レッスンの続きやるぞ!(ガッ)」

志希「えー!(ズルズル)千鶴ちゃん、シーユー。レッスン・ファイト!」

千鶴「……はい。 ありがとうございました(ペコリ)

千鶴「そんな風に考えても良いのね……。胸張ってレッツ・レッスン!」


――事務所――

千鶴「はぁ……、胸を張っても劇的に上手くはならないわね……」

フレ「(バーン)おっはようごっざいまーっす!」

千鶴「お……おはようございます」

フレ「あー! チヅルちゃんだー! メルシー! 元気ー?」

千鶴「げ……元気です……」

フレ「ほんと-?」

千鶴「ほ……本当です」

フレ「ほんとのほんと-?」

千鶴「ほ……本当……です」

フレ「ふぁいなるあんさー?」

千鶴「ふぁ……ファイナルアンサー」

フレ「うーん……むむむ……うーむ…………残念!」

千鶴「一択なのに!?」

フレ「だってチヅルちゃん、そんな顔じゃフレちゃんは騙せないぞ~」

千鶴「あ……」


千鶴「その……ボーカルレッスンが上手くいかなくて、笑顔がダメだって言われて、笑顔が上手く出来なくて、ボーカルレッスンが上手くいかないんです……あれ?」

フレ「ふむふむ……要するに……笑顔が世界を救うんだね!」

千鶴「そうじゃない気がしますが……わたしの世界は救ってくれるかもしれません。……宮本さんは、なんで自然に笑えるんですか?」

フレ「自然に……笑ってるかな~? 笑ってるか~」

千鶴「それです! そんな笑顔が出来ないんですよっ」

フレ「えいっ(ビスッ)」

千鶴「あうっ」

フレ「みょいんみょいんみょいん」

千鶴「あの……宮本さん。わたしの眉間に人差し指を突き立てて、何をしてるんですか……?」

フレ「柔軟剤注入中~」

千鶴「えぇっ! わたしふわふわになっちゃうんですか!?」

フレ「フフーン♪ 少しは眉間のシワも解けたかな~?」

千鶴「み……眉間……」

フレ「かた~く考えずに、ゆる~く楽しめば、いいんだよ~」

千鶴「…………(ポカーン)」


フレ「注入完了~~! ゆるゆるパワーがキミの眉間に、溜まってきただろう~!」

千鶴「……宮本さん……」

フレ「あ~、『宮本さん』禁止! あたしはフレデリカ、もしくはフレちゃん、またはアンドレ!」

千鶴「ア……アンドレ??」

フレ「そう、アンドレ! かっこいいでしょ~!」

千鶴「もう、なんなんですかそれ(フフッ)」

フレ「それだよー! 良い笑顔! そんな風に笑えば良いんだよ~!」

千鶴「それだと言われても……、顔が上手く動きません……」

フレ「考えるんじゃない……感じるんだ!」

千鶴「宮本さん、それ言いたいだけでしょう?」

フレ「も~、宮本さん禁止令!」


――fragright 某アプリグループトーク――

志希「レッスン終わった-!」

フレ「フレちゃんも、お仕事終わったよ-!」

輝子「わたしもレッスン終わった」

志希「そういえば、千鶴ちゃん会ったよ-!」

フレ「あたしも会った-!」

志希「レッスンファイトって話したー」

輝子「レッスンファイト? 格闘練習?」

フレ「フレちゃんは柔軟剤注入してきたよ!」

輝子「柔軟剤? 洗濯?」

フレ「ショーコちゃん! 寮で見かけたら声かけてあげてね!」

輝子「うん。わかった」


――女子寮・談話室――

輝子「お? あそこに居るのは……」

千鶴「ゆるゆる……柔軟剤……眉間……ゆるーく……」

輝子「やぁ、松尾千鶴ちゃん」

千鶴「あ、星輝子さん。おつかれさまです」

輝子「ふひひ……おつかれ……。今日は志希ちゃんとフレちゃんに会った……のか?」

千鶴「はい。二人とも親身に悩みを聞いてくれて」

輝子「それで……レッスンファイトと柔軟剤……」

千鶴「二人に聞いたんですか?」

輝子「うん。ライ○でね。詳しい内容は聞いてないけど」

千鶴「一ノ瀬さんにはレッスンが上手く出来ず落ち込んでいたときに励まされて、宮本さんには上手く笑うアドバイスをしてもらって。でも、ちょっとまだ分からないんですけどね」

輝子「わたしが聞いたのは、楽しかったことを思い浮かべてみれば良いみたいだよ(ドヤァ)」

千鶴「それは始めにトレーナーさんに言われたんですけど、上手く出来なくて……」

輝子「がーん……ば、万策尽きた……」

千鶴「策一つ目ですけど!?」


輝子「ま……待って、今考える……。うーん、柔軟剤? 仕上がりふわふわ? ダメだ……わたしはいつもどうやって歌って……」

千鶴「宮本さんは……かたく考えずにゆるく楽しめばって。あとは、考えるな感じるんだって――」

輝子「ヒャッハァァアアアア! そぉぉおおれぇぇえええだぁぁああ!」

千鶴「!!(ビクッ)」

輝子「あ……驚かせて……すまん……。でも、わかった……考えなくて良いんだ」

千鶴「えっ。考えなくちゃ上手く出来ません」

輝子「フレちゃんが話してたことが……答えだったんだ。歌うこと・笑うことを上手くやろうと考えず、ただ楽しめば良いんだ」

千鶴「楽しめば良いんですか?」

輝子「今まで『良い笑顔』って言われたこと……ある?」

千鶴「はい。今日宮本さんと話してたときと中学校の文化祭」

輝子「その時、上手く笑おうだとか……思ってた?」

千鶴「いえ、宮本さんと話してて楽しかったり、一心に一字書作を書いてて自然に……ハッ、そういうことなの?」

輝子「そういうことだと、思うよ」


千鶴「そっか、わたし難しく考えすぎていたんですね」

輝子「もっと肩の力を抜いて、楽しめば……いいかもね」

千鶴「ふふっ……ヒャッハーって感じにですか?」

輝子「ふひひ……いいよ。すごく良いと思う」

千鶴「……ごめんなさい、ちょっと調子に乗っちゃいました。星さん」

輝子「輝子で良いよ、それに敬語も……いらない。同い年……だよね」

千鶴「はい……じゃなくて、うん、分かったわ。……ありがとう、輝子ちゃん」

輝子「どういたしまして、千鶴ちゃん。」

千鶴「あ、そういえば佐久間まゆさんって知ってる?」

輝子「うん、よく知ってる。まゆさんが、どうかした?」

千鶴「机の下に居る理由はなーんだ? ってクイズを出されたんだけど、分からなくて。輝子ちゃん分かる?」

輝子「わたしもよく居るけど、まゆさんとは違う理由かな……」

千鶴「机の下って人気なのね。輝子ちゃんの理由は?」

輝子「好きな場所……だから。わたしの親友たちの……ね」


――とある喫茶店(翌日)――

千鶴「輝子ちゃんが言ってた喫茶店はここね。うぅ……初めて入るお店は緊張する……。(カランコロン)こ……こんにちは」

喫茶店の店長「いらっしゃい。ひとりかい? お好きな席どうぞ」

文香「あら……昨日フレデリカさんたちが話していた千鶴さんですね」

千鶴「はい。鷺沢さん」

文香「文香で良いですよ」

千鶴「それじゃ、文香さんで」

文香「はい。ところで千鶴さん、よろしかったら席ご一緒しませんか? そろそろフレデリカさんたちのラジオも始まることですし……」

千鶴「はい、喜んで。昨日輝子ちゃんから、この喫茶店の事を聞いたんです」

文香「そうでしたか。千鶴さんは何飲みます? この喫茶店、コーヒーだけなので甘いのか苦いのしか選べませんが」

千鶴「じゃあ、甘いのでお願いします」

喫茶「あいよ」

文香「そろそろラジオ始まりますよ」


~~ON AIR~~

フレ「ねぇねぇシキちゃん」

志希「なーにー? フレちゃん」

フレ「シキちゃんってレコーディングのときに上手くできないよ~って苦労したことある?」

志希「無いよ!」

輝子「無いんだ……すごい」

フレ「あれ~? つぼみは?」

志希「過去は~、振り返らない~!」

フレ「えー! フレちゃん渾身の前振り話題が-!」

志希「冗談でーす。つぼみで、すごーく苦労しちゃった」

フレ「シキちゃんの苦労話聞きたいな~」

志希「じゃあリクエストにお応えして、少しだけ」


志希「つぼみはゆったりしたテンポの曲だから、一言一言の比重が重ーいの。テンポの速い曲なら勢いで歌い切れちゃうけど、一音ごとに音程・長さ・感情の込め方・crescendoだとか音楽表現も絡み合って難しかった~」

輝子「全体の音程も低め……だったからね」

志希「そうそう~。長い音! いかにぶれずに力強く響かせるか……。この時ばっかりは、日々のレッスンが重要かなって考えちゃった~」

フレ「今は?」

志希「出来るからだいじょーぶ!」

フレ「慢心ダメだよ~! そんな難しい曲が上手く表現できないとき、シキちゃんどうしたの?」

志希「できないなら、今からできるようになれば良いんだって開き直って歌う! 上手くできないからって、足を止めちゃダメなんだ、進まなきゃって」

輝子「うん。希望を抱いて、少しづつでも歩く」

志希「ザッツライト~。つぼみ自体がそんな内容の曲だったから、苦労したことも曲の理解につながって、そう想ったら感情が曲にシンクロして……なんかいつの間にか上手く歌えてた! さっすが志希ちゃんジーニアス~」

フレ「そっかそっか~。シキちゃんありがとね!」


フレ「じゃあ、タイトルコール行っちゃおう~! シキちゃんお願いします!」

志希「は~い。それじゃ~、ある時はシュールなロジカル!」

フレ「またある時はキュートにコミカル!」

輝子「そして、またあるときはメタルなソウルをお届け……ふひひ」

志希「今日の化学実験はどんなカオスを生み出すのか~!?」

志希・フレ・輝子『fragrightのケミカルカオスキュートラジオ! はっじまるよ~!』

志希・フレ・輝子『はい、拍手~! パチパチパチ~!』


志希「改めまして、みんな~らびゅ~。ケミカル担当の一ノ瀬志希でーす」

フレ「みんな~らびゅ~! 改めちゃうよ! キュート担当の、宮本フレデリカでっす!」

輝子「やぁ……戦友たち。メタル担当……星輝子です」

フレ「今回はサクサク回しちゃうよ! 早速一つ目のコーナーいこー!」

輝子「おぉ……フレちゃんがやる気だ……!」

フレ「フフーン♪ 今日のあたしはひと味違うよ! 『カオスレター』のコーナー! このコーナーではリスナーのみんなから届いた、小さな悩みから壮大かつ遠大な悩みにまで答えるコーナーです」

志希「はい、フレちゃん。一通目のお便りだよー」

フレ「シキちゃん、ありがとー! じゃあ読むねー」


フレ「カオスネーム『偏西風』さんからです。メルシー! 『fragrightの皆さん、ごきげんよう』ごきげんよう」

志希・輝子『ごきげんようー!・ご……ごきげんよう』

フレ「『宮本フレデリカさんに聞きたいことがあります』おぉっ、なんだいなんだい? 『フレデリカさんはお仕事をする上で、予定していた事と違ったりすることってありますか? そういうとき私はついカッとなってしまうのです』あー、それはダメだよ~。いっつもスマイルスマイル~。『計画通りに現実がまわらなくてもイライラしない方法を教えてください』だって!」

志希「じゃあ、名指しされたフレちゃんお答えをどうぞ~!」

フレ「イライラしない方法は、ありません! 残念!」

輝子「おぉ、ばっさりだ」

フレ「場面に遭遇して発生する感情って、どうしようも無いと思うんだー。大切なのは、その感情をどう昇華することにあると思うよ」

志希「昇華……sublimation?」

フレ「たぶんそう! 方法は人それぞれだけど、他人に迷惑をかける方法はダメだよー。フレちゃんのオススメはね~、スケッチブッグに絵を描くの!」

輝子「絵を書くことが……昇華になるのか?」

フレ「イライラしてる最中は冷静じゃないから、上手く感情をコントロールできないよね。だから文字や絵にして、自分が何にどう怒りを感じているのかを明確にするの」

志希「思い返したら、意外と大したことじゃなかったってあるのかな? あたし、あんまり怒ったりしないからー」

輝子「わたしのヒャッハーは、怒り……もある。いろんな感情を燃料にして爆発するのがヒャッハーだから……ね」

フレ「お仕事全部が思い通り上手くいけば良いけど、そんな風に世界は回らないから、上手く世界と付き合いましょうってことで!」


志希「じゃあ、二枚目はあたしが。カオスネーム『果て無き旅路の最中』さんからです。サンキュー! 『fragrightの皆さんごきげんよう』ごきげんよう~」

フレ・輝子『ごきげんよう~・ご……ごきげんよう』

志希「『毎回楽しく聴いています。前回のカオスレターで、朝起きるのが辛いというお便りに対して、好きな曲をモーニングコールに掛けるのが良いとありました。しかし、一般的に“朝起きるという苦痛を伴う行為”の引き金となる曲を嫌いになりやすい、ということがあるそうです。こういった意見に対して皆さんのお考えをお聴かせください』だって! ふむふむ、一理ある。フレちゃんは目覚ましなーにー?」

フレ「あたしは、き・ま・ぐ・れ☆cafe an lait! 嫌いになってないよ?」

志希「志希ちゃんは目覚まし使いませーん」

輝子「わたしは、小梅ちゃんのBloody Festa。大好き……全部好き」

志希「三人の意見を総合した結論は……『周りがなんと言おうとパーソナルスペースの話なら自分自身の感性を大切に』って感じかなー」

フレ「『信じるべきもの、それは自分自身』だね!」

輝子「世界を自分の感性のまま表現できる人は少ない……そんなひとのための曲ってあった気がする」

志希「今回のカオスミュージックコーナーはそれかな?」

輝子「ふひ……お楽しみに」

フレ「楽しみだから、カオスレターのコーナーはここまで! お便り送ってくれたみんなーメルシー!」


志希「二つ目のコーナーは、輝子ちゃんにお願いしよー」

フレ「ショーコちゃん、お願いします!」

輝子「町では電飾溢れ、どこもかしこもジングルジングル。カップルたちが町にあふれて、なが~いマフラーを二人まとめて首に掛けてジングルジングル。そんなに寒いなら……マフラーが要らないくらい熱い曲を掛けてやるぜぇぇええええええ!! ヒャッハァァアアアアア!! 我が名は鋼鉄の伝道師! 星輝子だぁああああああああああ!! カオス! ミュージックゥウウウウ!! コォォオオナァァアアアアアア!!」

志希・フレ『ジングルジングル-!』

輝子「早速……紹介する。カオスネーム『銭湯夕食カツ丼』さんからです。ありがとう。銭湯でカツ丼食べたのかな……?

輝子「メッセージあるので読む。『今回リクエストするのはUnluckyMorpheusのLa Voix Du Sangです。雑多な説明不要。聴いてかっこよさに痺れる名曲です』分かる。けど、ラジオなので、ちょっとだけ……お話しする。ではミュージックスタート」


~~視聴開始~~

志希・フレ『なにこれ、かっこいい!!』

輝子「歌い出しからかっこいい……よね」

志希「この曲ヴァイオリンも入ってる……?」

輝子「うん。ピアノもちらほら。聴き所たくさんで耳が幸せな曲だ。

志希「いつだったか紹介してたボーカルの人だ~。ハイトーンがキレイ」

フレ「金物の音がたくさん聞こえるドラム~」

輝子「いろんなバンドの曲を聴いてると、このドラムの存在感がいかに個性的か分かる。とても、良い」

志希「ギターもずーっと休み無く弾いてるんじゃない? っていうくらい音がたくさん~」

フレ「いろいろ言ってみたけど、やっぱりメロディーがかっこいい~!」

~~視聴終了~~


輝子「これぞメロディックスピードメタル! っていう曲。どのパートも完成度高くて甲乙付けがたいけど、強いて選ぶなら二番サビ歌詞後のギターソロ入るまでのドラムがドラムソロ? っていうくらいの音数密度。ここまで詰め込んでるのは稀少なので注目して聴いて欲しい」

志希「メロディがキャッチーなのに、演奏が極太で、ストリングスも入ってるから荘厳にもなっていて、一言で言えば~」

志希・フレ・輝子『かっこいい!!』

輝子「このVampirっていうミニアルバムは、リーダーでギターの紫煉さんいわく『難しい方向でやりすぎた』と言ってるだけあって、素人耳で聴いてもどう演奏したらこんな音が出るんだろうって言う曲ばかり。ダークな雰囲気のゆるいコンセプトアルバムなので、気になれば聴いてみるんだ!」

志希「輝子ちゃん、満足した?」

輝子「うん。満足。カオスミュージックコーナーでした」


志希「エンディングの時間になっちゃった~」

フレ「ケミカルカオスキュートラジオは不定期放送だよ~。気が向いたときに放送しちゃいまーす」

輝子「お便りは随時募集中です。コーナーは二つ。カオスレターのコーナーとカオスミュージックコーナー」

志希「んー、今ふと思ったんだけど、コーナーが二つだけって少なくない?」

フレ「尺は足りちゃうくらいしゃべっちゃうけど、もう少し多いと幅が出てくるかな?」

輝子「志希ちゃんなにかやりたいコーナーある……のか?」

志希「やっぱり実験! 検証! 爆発! ってやりたいよねー」

フレ「爆発しちゃったらラジオ放送できないよ~」

志希「爆発するのかな? しないのかな? もしかして上手くいっちゃった? みたいな、ドキドキ感が良いのにー!」


フレ「続きのラジオあるのかな? ないのかな? まだかな、まだかなー? ……なんてね」

輝子「ラジオの存続自体がドキドキだった……!」

フレ「続くかどうかは聴いてくれてる君次第! 来年も変わらぬ声援よろしくお願いいたしまーす! あ、あとラジオのゲストも募集中だよー」

志希「今回の実験はここまで。お相手は一ノ瀬トリスメギストス志希と~」

フレ「宮本アンドレ・ザ・フレデリカと!」

輝子「星・ザ・ビヨンド・輝子でした」

志希・フレ・輝子『ば~いば~い』

~~OFF AIR~~


――とある喫茶店――

文香「ふふ……毎回、好き勝手やっていますね。あの三人組は」

千鶴「あんな激しい曲聴いたことなかったですけど……なんか、目から鱗です。わたしが知らない世界ってまだまだたくさんあるんだなぁって」

文香「千鶴さんは好奇心旺盛ですね。良いことだと思いますよ」

千鶴「いえそんな褒められるほどでは……文香さんは、ラジオのゲストに出たりしないんですか?」

文香「フレデリカさんとはライバルですからね」

千鶴「ら……ライバル……? なにか競い合ってるんですか?」

文香「そうです。例えるなら……ショートケーキの苺を取り合う仲と言いますか……」

千鶴「譲り合ったり……できないものなんですか?」

文香「残念ながら……ショートケーキの苺はかけがえ無いからこそ輝いてるんです」


文香「千鶴さんこそ、興味があるなら踏み込んでみるのも良いと思いますよ」

千鶴「……わ……わたし、ずっとラジオのコト気になっていたんですけど、ボーカルレッスンが上手くできなくて自信無くしてて……

千鶴「さっきのラジオで一ノ瀬さんがつぼみのレコーディングでつまづいたときのコトを話していて……

千鶴「足を止めちゃいけないって、前に進むんだって言う話をしていて……

千鶴「わたし、今まで『冷静に』だとか言い訳して書道や円周率の暗記に逃げていたことに、気づいたんです」

文香「いいじゃないですか」

千鶴「え? 逃げていたのに?」

文香「時に逃げることも大切です。そして今、逃げていたことに気づけたのですから、良いんですよ」

千鶴「気づいて。そして……」

文香「そうです。大切なのは気づいてからどうするか……。

文香「貴方の目の前に新たな道への扉ができました。千鶴さん、開けますか? 開けませんか?」

千鶴「わたしは――」

(第7回へ続く)


【引用作品紹介】

・CD『Vampir』UnluckyMorpheus

【補足】

お待たせして申し訳ありません。

最期まで読んでくださり、ありがとうございました。

次回構想もありますので、気長にお待ちください。良いお年を。

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