美波「霧の中で、あまりにもひどい結末を」【ミスト】 (41)






窓を修理するって言って出掛けたんです






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某ガルパンssに影響を受けました。

改変注意です。


始まりは、第一期シンデレラプロジェクトが終了して、2、3か月ほど経った頃のこと。


私が346プロダクションの女子寮に泊まっていた時でした

その日のお仕事を終えた時間は雨がひどくて、交通機関が働くか不安だったから

だからアーニャちゃんの提案に甘えて、部屋に泊まらせてもらっていたんです


談話室でお話をしていた時、停電が起こりました

非常電源が作動して一時的に部屋は明るさを取り戻したものの

窓を見るとあんまりにひどい嵐でしたから、もう早く寝ようって言って個室に入りました


不安がっているアーニャちゃんと、それから蘭子ちゃん。

じゃあ寝ましょうか、って言ったときに隣の部屋から覗き込んできて

一緒に寝てもいいですか、って泣きそうな声で言うものだから

ちょっと狭くなったけど、3人が詰めてすっかり暖かくなったベッドの中で眠ることにしたんです


そして怖がっていたアーニャちゃんと蘭子ちゃんがすっかり、すやすやと心地よさそうな寝息を立てて

もう起きている必要はないかな、そろそろ私も眠りに落ちましょうかって思って

ニュースでは晴れると言ってたけど、明日の天気はどうなるかな…なんて考えながらまどろんでいた私の耳に



遠く離れた下の方から、ガラスの割れるような音が小さく響きました。


その次の日……私達3人はオフの日。

嵐は止んで、薄くもやがかかっていたものの天気はちゃんと晴れてくれました。

朝目が覚めると、下の方でがやがやと大勢の人たちが話しているのを聞きました。

基本的に高い声で、聞きなれたものもあったから、それはきっと女子寮にお泊りしているアイドルの皆でしょう。

最低限髪や服を整えて降りてみると、やっぱりアイドルの皆が、女子寮の入り口を取り囲んでいるようでした。


美波「うわ……!」

アーニャ「クルータ……!」

蘭子「…すご!」


女子寮の玄関はガラス製の扉を使っていました。

昨晩聞いたガラスの破裂音は、きっとこれだったのでしょう。


嵐にさらわれた庭の木が衝突して、扉が粉々になっていたのです。


取り囲む女子寮のアイドルの子達は、興奮して早口にまくし立てたり、スマートフォンで写真を撮ったり。

珍しいことだったから、こんなに騒がしくなるのも当然ですよね。

でも、怪我人がいないみたいで本当に良かった……


ただ、騒がしいのはガラスだけが原因じゃなかったようです。


見知った子達の中に、特に良く見知った子がいるのを見つけました。


美波「みくちゃん」

みく「! 美波チャン、あーにゃん、蘭子チャン! 美波チャンは寮にお泊りしてたんだね!」

アーニャ「ドーブラエ ウートラ、みく」

蘭子「あっ、おは……煩わしい太陽ね!」

美波「昨日はアインフェリアのお仕事だったんだけどね。ひどい天気だったから、家に帰らずに寮に止めてもらってたの」


ガラス扉について話す子達の中で、みくちゃんはスマートフォンを気にしているようでした。


みく「聞いて美波チャン! みくのケータイ、全っ然つながんないの! 完全に圏外にゃ!」

美波「えっ?」

みく「ここにいる子達にも聞いてみたんだけどね。ケータイ会社も関係なく全員圏外だって……」

みく「美波チャンたちのは電波入ってる?」


そういえば、朝起きてから携帯を触ってなかったな。

改めて画面を開いてみると、確かに電波のマークが消えていました。

アーニャちゃんと蘭子ちゃんも同じ。


全員、圏外です。


みく「これじゃあ今日のお仕事が出来るか分かんないにゃ」

みく「かと言ってお出かけする訳にも行かないだろうし。こんなに良いお天気なのにー!」


「その通りだな。いま女子寮に滞在している者は連絡が来るまで待機してくれ」

「現在、嵐の影響かこの地区で大規模な停電が起こっているらしい。仕事の決行・中止は担当の者が確認作業を行っているところだ」


みく「にゃ?」


みくちゃんの後を追って聞こえたのは、それまで聞こえていたものより低い女性の声。

声の方に目を向けると、高級なレディースのスーツと厚めのお化粧が目に飛び込んできました。


美波「…美城常務!」

美城専務「『専務』だ」


背後、つまり女子寮の中から現れたのは美城専務でした。

…あれ? どうして女子寮に?


専務「通信網が壊滅していた。よって今346プロダクションの社員がアイドル達の安否を、足で直接確認している」

専務「私は女子寮の視察を担当した。大部分のアイドルがここに宿泊している上……塩見もいるからな」

専務「確認はすでに取った。行方不明者および怪我人は無しだ」


美波「……よく分かりました」


…秋の一軒から仕事現場の視察をよく行ってる、とは聞いてたけれど……

この人は本当にフットワークが軽くなったなあ……


専務「しかし、ここでも木でガラスが割れたか。こんなところで本社と女子寮のセキュリティに共通の穴が見つかるとはな」

美波「! 本社でも同じことが起こったんですか!?」

専務「ああ、同じように入口に木が衝突して粉々だ。自慢のセキュリティのつもりだったが、まさか木に破られるとは……盲点だった」


専務「これから本社に情報を報告して、業者に女子寮の修理も注文してくる」

専務「今なら担当の者も戻っているだろうし、それが終われば仕事の『あるなし』をこちらに報告するために戻ってこよう」

専務「それまで待機してくれたまえ。……車を頼む」

「はい」


専務に支持を出されてエンジンを噴かした車は、また見覚えがあるものでした。

その運転手さんの声も。


美波「プロデューサーさん!」

蘭子「なぬっ!? 我が友か!?」

みく「え、Pチャン!? めっちゃ久しぶり!」

アーニャ「プロデューサー!」

「!」


武内P「新田さん、神崎さん。それにアナスタシアさんに前川さんも」

P「お久しぶりです。報告は聞いていましたが、皆さんがご無事で本当によかった……」


美波「どうしてプロデューサーさんのお車に?」

P「それが……」


プロデューサーさんが目を向けると同時に、専務は目をこちらから逸らしました。

心なしか、少し不機嫌そうです。


専務「……私の車も木で潰された。こんなことまで一々君たちに報告する必要も義務も無い筈だ」


……ご愁傷さまです。


P「専務からお話を伺っていると思いますが、通信網が非常に不安定なため皆さんには寮での待機をお願いします」

アーニャ「……そう、ですか……」

P「? どうかしましたか、アナスタシアさん」


……そうなんです。

待機命令の理由は十分に理解できるんですけど、ちょっと困っちゃうんです。


美波「プロデューサーさん。……実は今日、女子寮のみんなで誕生日祝いをする予定だったんです」

美波「そのために…どっちにしろ今日はオフの私たちが、パーティーの買い出しに行こうと思ったんですけど……」


季節の変わり目で雨が強くなるこの時期ですが、今日は女子寮住まいのアイドルに誕生日の子がいるんです。

自分に自信がない子だけど、蘭子ちゃんや李衣菜ちゃんがお世話になってて、とても友達思いの子だから

だから、そのお礼も兼ねて精一杯のお祝いをしてあげようと思っていたんです。

思っていたのに……


P「……事情は分かりました。しかし、連絡が取れない状況で外出は」

みく「天気はすっかり晴れてるのに。それでもダメ?」

アーニャ「プロデューサー。お願いです、ちゃんとお祝いしたいです」

蘭子「堕天の詩は欠けてはならぬ……すぐに帰って来るから……!」

P「……」


プロデューサーさんは考えこんでいます。

……残念だけど、プロデューサーさんの言うことは最もだし

それに、まだお仕事があるプロデューサーさんを困らせる訳にもいかないですよね。


美波「あんまりプロデューサーさんを困らせちゃダメだよ。私も残念だけど、また後日にお祝いしよ?」

P「……いえ」


P「本社までの寄り道になってしまいますが、皆さんがそれで良ければ私がマーケットまで送迎します」

P「規模の小さいマーケットになりますが……買うものが特殊なものでなければ、品揃えは十分かと」


蘭子「我が友!!」


美波「! いいんですか? ご迷惑じゃ……」

P「問題はありません。本社までの道から大きく離れない位置にありますし……」

P「何より皆さんの笑顔が大事ですから」


……こんな緊急事態にまで『笑顔』だなんて。

担当こそ外れてしまっても、私達のプロデューサーさんは全然変わってないんだって思っちゃいました。


本当にありがとうございます、プロデューサーさん。


P「あとは、専務さえ良ければ新田さんたちを同行させて欲しいのですが……」

専務「君の車に、もとは君のシンデレラだ。君がそう判断するなら異論はない」

専務「しかし誕生日祝いか……誰だ? 橘、宮本、アナスタシア、渋谷……クローネに今月誕生日のアイドルはいないな」

P「彼女です。ほら……」


プロデューサーさんが『その子』の名前を言うと、専務は納得してくれたようです。

それと、専務はクローネの子だけは全員分の誕生日を把握してるということが分かりました。


専務「そうか、彼女か。……そう言えば彼女も企画に誘ったことがあったな」


専務はどこか遠くを見つめて、深く息を吐き出しました。


専務「……私は徒歩かタクシーで向かおう。君たちは先に買い物を済ませてくれ」


美波「えっ? どうしてですか?」

専務「…彼女たちには、強引で無理解な態度を取った」

専務「仲間のための買い物だろう。プライベートにおいて私が異物であることくらい理解している」


最初は何を言っているのか分からなかったけど、少し考えて、専務の言っていることを理解しました。


シンデレラの舞踏会が終わった後、こんなお話をプロデューサーさんから聞いていました。

プロデューサーさんと専務の考えは平行線で交わらない。でも、だからこそ私たちが輝けるんだって結論を出したと。


そう言って和解した2人だけど……専務は気にしているんですね。


たぶん……「自分は少なくとも一部のアイドルに嫌われるようなことをした」と思っているのかな。

専務の言葉は、そう言っているように聞こえたんです。


美波「そんなこと……!」


「せんむ」


でも、私が反論しようとする前に専務の手を取った子がいました。


専務「なんだ、アナスタシア」

アーニャ「アーニャは、せんむにもお祝いしてほしいです!」

専務「!」


アーニャ「アーニャ、せんむを仲間外れにしたくないです。イブツ……仲間はずれじゃないです。アーニャや、ありす、凛……みんなのために頑張ってること、仲良くしようとしてること、知ってます!」

アーニャ「一緒にお買い物しましょう。いっしょにパーティーしましょう! アーニャ、せんむともいっしょにお祝いしたいです!」


どこまでも素直に、どこまでも真っすぐに。

アーニャちゃんは専務の顔をじっと見つめていました。


専務「……分かった。そこまで言うのなら同乗させていただこう。だが、あまり買い物に時間はかけないことだ」


そこまで言うと、専務はふいと顔を逸らしました。

まるで照れ隠しみたいに。


アーニャ「……! スパシーバ、せんむ!」


対してアーニャちゃんは、もうにっこにこの笑顔。

白い子犬みたいに専務の顔を追って、その周りをぐるぐると回っています。


みく「……なーんか、未央チャン事件直後のPチャンみたいにゃ。ぷぷっ」


みくちゃんがからかうと、プロデューサーさんは同じように顔を逸らします。


前に誰かが言っていたような気がするけど……

専務とプロデューサーって、似た者同士なのかもしれませんね。


蘭子ちゃんも、


蘭子「我がロンドに綴りの間違いはなし!」


専務と一緒のお買い物に賛成してくれて。

車はマーケット、346プロダクション本社、窓ガラス修理の会社の順に向かい、寮に帰ることになりました。


変装をして、寮のみんなから買い物リストを受け取って。

プロデューサーさんの車には、運転席にプロデューサーさん。助手席に専務。

広めの後部座席には、さっきも話した通りオフが確定している私、アーニャちゃん、蘭子ちゃんが乗ることになりました。

今日お仕事の予定があったみくちゃんは、寮でお留守番です。


専務「寮の扉のことは、本社の様子から予測はしていた。だから来るときに優秀なガードマンを数人雇って連れてきている。一時的な処置だが、少なくとも対人セキュリティは十分に賄える筈だ」


との事で、女子寮の門は屈強な警備員さんが守ってくれています。

確かにこの体格なら、泥棒や覗き魔などはただじゃ済まないでしょうね……


車に乗り込む直前、街の遠くの方に白いもやがかかっているのが見えました。

アーニャちゃんに急かされたのと、見た目がただの霧だったこともあって、その時は大して気にしませんでしたが。


そして、手を振ってくれるみくちゃんに皆で手を振り返して。


美波「それじゃあ行ってくるね」

アーニャ「たくさん、買ってきます!」

蘭子「皆で祝祭を奏でようぞ!!」

みく「待ってるにゃー」

P「すぐに戻ってきます」









そう言って出掛けたんです。





――――――――――――――――――――


行きの車の中で専務は、初めのうちは黙って私たちのおしゃべりを聞いていました。

でも、気が付いたらクローネのお話ばかりしていました。


専務「―――この間は最悪だった。仕事終わりに宮本が突然『向こうの部屋に何かいる!』などと言い出してな」

専務「橘が怯えるものだから全員で『それ』を見に行った。何か黒いものを発見して、不用意に宮本が近付いたんだ」

専務「そして奴は投げた。あろうことか私達の方に『それ』を掴んで、叫びながら投げた。橘と神谷だけが大声で悲鳴を上げたな」

専務「……ただの蛇のおもちゃだった。我々は宮本の余興に付き合わされたと言う訳だ。まったく下らん真似を……」


アーニャ「でも、本当に蛇そっくりでした。カナデとカレンは笑っていましたね!」

専務「あの手の悪戯は何がいいのか理解に苦しむ……」


蘭子「…むう」

美波「よしよし…」


アーニャちゃんを取られたように感じたみたいで、むくれる蘭子ちゃんを撫でながら、2人の様子を見守ります。


専務「宮本と言えばだ。この間宮本と塩見と鷺沢が私に隠れてこっそり自動車免許を取得していた」

専務「仕事の隙を見つけて教習所に通う予定を立てていたようだが、急な仕事が入った時どうするつもりだったと言うのだ……」

アーニャ「でも、フレデリカ、言ってました」

アーニャ「『ミッシーはたまに忙しそうだから、免許取れる子だけでも免許取っといたら楽できるよね』って言ってましたね?」

専務「……そうか」


また顔を逸らしました。


美波「……ふふっ」


その様子がちょっとおかしくて、つい吹き出してしまって。


専務「何を笑っている新田! 鷺沢から聞いているんだぞ、君もこっそり参加して免許を取っているんだろう!?」

美波「えっ」


P「……新田さん。アイドルの方が車を運転するのは…」

P「万が一事故が起こった時、ファンからのイメージに大きく影響を与えてしまいますのでなるべく控えてください……例外こそありますが……」



美波「……はい。すみませんでした……」


そんな他愛ないお話をしてる間に、車はマーケットに到着しました。


P「私は隣の薬局にも用事があるので、まずはそちらで買い物をしてきます。専務、もしもの時のために合鍵を持っていて下さい」

専務「分かった」

蘭子「行ってらっしゃーい」


そう言ってプロデューサーさんと別れ、私達4人はマーケットへ。


停電がきっかけとなった買いだめのためか、マーケットはすごく混んでいました。


専務「…仕方ない。メモを貸せ、商品は私がカゴに入れよう。君たちは列に並ぶといい」


もう。また一人で行動しようとする。


美波「アーニャちゃんも一緒に連れて行ってあげてください。私と蘭子ちゃんで列に並びますから」

蘭子「堕天の道をたどるのは我一人!」

美波「! 蘭子ちゃん一人に任せていいの?」

蘭子「うむ! ……その代わり、甘美なる黄金の雫を!」

美波「プリンかな? ありがとう蘭子ちゃん。ちゃんと買ってくるね」

蘭子「わーい」


専務「……君も強情だな。分かった、無駄に時間を割きたくないので従おう。アナスタシアは先に商品を選んでおいてくれ。私はカートを探してくる」

アーニャ「ダー!」


ご機嫌そうに駆けていくアーニャちゃんを見送ると、専務はカートを押して付いていきます。

でも、ふと私の方を振り返りました。


専務「君も彼も、なかなかにお節介だ。だが心配はいらない」

美波「?」


専務「コミュニケーションくらいは取っている。私の集めたアイドルの前では、だがな」


そこで専務は、アーニャちゃんの方を向いて一息。


専務「……誇るといい。アナスタシアも渋谷凛も、立派なシンデレラだ。彼女たちのおかげで、クローネも私も磨かれていく」

専務「君たちの方針のもとで、そう育ったのだろう?」


一方的に話し込んで去っていった専務だったけど、何を言いたかったのかは分かりました。


ふと、奏ちゃんに言った「これからチームになっていくんだよ」ってセリフを思い出したんです。


……ああ


去年は色々あったけれど。


ちゃんとチームになってきてるんだね。






何かがおかしいことに気が付いたのは、その後のことでした。





とりあえず自分の分の品物を手に入れて、列に並んでくれた蘭子ちゃんと合流して。

そこでたまたま出会った友達と、お話をしていた時です。


美波「お待たせ蘭子ちゃん。並んでくれてありがと」

蘭子「造作もなきことよ。…して、金色の雫は……」

美波「ふふっ、ちゃんと買ってきたよ」

蘭子「わーい」


「良かったですね、蘭子ちゃん」


美波「! あれ、文香ちゃん?」


文香「こんにちは…美波さん」



――――――――――――――――――――



美波「―――そっか、アインフェリアの皆でお買い物してたんだ」

文香「はい。…美波さんが寮に向かった後……私達は、藍子ちゃんの家に泊まらせてもらいました」

文香「あまりバラバラに動くと、危ないと判断したんです……」

文香「そして今朝、電話が通じないことに気が付き……家で待つことも考えたのですが……」

文香「……最終的に、天気がいい内に食べ物を買っておくことにしました」


美波「徒歩でここまで来たの?」

文香「いいえ……車で様子を見に来てくれた方がいたので、その人に運転を頼みました……いま、美波さんの後ろに来た方です」

美波「?」


振り向くと、短い栗色の髪を揺らして微笑む、綺麗な女性がいました。

本当はちゃんとした知り合いで、変装のせいで分からないだけかもしれないけど……

どこかで見たことがあるような……


「こんにちは美波ちゃん、蘭子ちゃん。ちゃんと倒れないように休憩を取っていますか?」


美波「……あっ。清良さん?」


清良「正解です♪」


美波「私達だけかと思ってたんですけど、みんな結構お買い物に来てたんですね」

清良「そうですね。さっき巴ちゃんも、強そうなお兄さんと一緒にお買い物をしているのを見ましたよ」

文香「強そうな男性……親戚の方でしょうか」

美波「あ、あはは……」


嫌な予感がしたので、このお話はこれでおしまい。


美波「そ、そう言えば! 私達、今夜お誕生日パーティーの買い出しに来たんです。女子寮で行うつもりなんですけど、良かったら皆も来てくれませんか?」

清良「あら! いいですね、私も精一杯お手伝いしますよ?」


文香「藍子ちゃんも、お祝いしたがっていました……。外から戻ってきたら、皆に聞いてみましょう」

美波「あれ? 皆もマーケットにいると思ってたんだけど」

文香「いえ……ありすちゃんと夕美ちゃんは、ここでお買い物をしています。藍子ちゃんは、公衆電話が繋がらないか、確認してもらっていて……」

文香「もう少ししたら、戻ってくると思うのですが……」


蘭子「外……? み、見えない……」


蘭子ちゃんは、混んだ列から外を見ようと精一杯首を伸ばします。





その時でした。


けたたましい警笛の音と共に、消防車が前を通り過ぎたのです。


蘭子「えっ? な、な、な、何!?」

文香「消防車……どこかで火事が起きたのでしょうか」

清良「……大変なことになるかも知れませんね」

美波「……急いだほうがいいかも……ッ!!?」


それから時間の経たないうちに、今度は町中のスピーカーから。

さっきとは比べ物にならないほど大きく響く、不安を煽るサイレンの音。


専務「……何だ?」

夕美「サイレン……?」

巴「……何か、嫌な予感がするのう」

ありす「……藍子さんはっ!?」


マーケットの皆が外を見てざわめく中で、今来ているアイドルたちの声も聞こえました。

……そうだ。藍子ちゃんは?


脳裏をよぎった、今この場にいない大切な仲間。

藍子ちゃんの姿を目を凝らして探すと、なんとか見つけることが出来ました。


ただ、こちらに駆けてくる女の子が藍子ちゃんだったのか。少しだけ判断に迷ったのです。

変装のせいではありません。



藍子ちゃんは、息が切れそうなのを無理やり抑えて必死に走っていました。


そして……その顔は、恐怖で固まっていたんです。


倒れこむようにしてマーケットに飛び込んだ藍子ちゃん。

息を整える暇もなく顔を上げると、あらんばかりの大声で叫んだのです。


藍子「霧のっ……」


……霧?


藍子「霧の中に何かいる! 人がっ……人が攫われたんですっ!」

藍子「扉を閉めてください! 早くッ!!」


いつもの彼女からは想像できないほどに目を見開き怯える様は、ここにいた皆を言いようのない不安に落とし込みました。

……いえ。不安の理由は、それだけではありませんでした。


窓の外から、白い「なにか」が迫ってくるのが見えたんです。



それは霧でした。



建物を覆いつくすほど高く、高く舞い上がった、包むもの全てを覆い隠すほどに濃く広がった霧。


それが、まるで全てを飲み込む津波のようにマーケットへと迫っていたのです。


藍子「早く……ごほっ……早く閉めて……!」

「あ、ああ……!!」


過呼吸を無理やり抑え込んで絞り出したような声に急かされて、傍にいた男性が扉を閉めようとします。

「おい待て! 閉じ込められてたまるか、車の中にいれば安全だろ!?」


藍子「だ、駄目……!!」


しかし、別の男性はマーケットを飛び出しました。

その男性が自分の車に到達したとき、霧は彼の間近まで迫っていて。

そして、乗り込もうとした直前に、霧が彼を包み込み……






「あっ……あっあっあっ」

「―――あああああああああああああアアアアアアアっっっ!!!」





太い断末魔と共に、霧がマーケットを覆いつくし……何も見えなくなりました。


しばらくの沈黙。

怯える蘭子ちゃんを抱き寄せて、窓の外をじっと見つめました。


化学工場の爆発だ、嵐の後の自然現象だ。


段々、さまざまな憶測が飛び交う中で、

どうしてか、厚着……周りを拒絶するかのような厚着をした女性の呟いた一言だけが、耳に残りました。



「これは、死よ」



だと。



それは多分、大きな揺れのせいだからだと思います。

この一言の直後にマーケットを襲った、大きな地震のせいだからだと。


「ミナミ!」

美波「ッ……アーニャちゃん! 蘭子ちゃん!」

身体は、声のする方へ。

飛びかかり、大切な子をもう1人抱えて。

何も考える暇もないまま、私は2人を精一杯守ろうと覆いかぶさっていました。


揺れは十数秒ほど続き、棚の商品が音を立てて零れ落ちました。

あちこちから悲鳴が上がるたびに、2人を抱きしめる手に力が入りました。


そして揺れが収まり、窓の外に目を向けると―――――











芳乃「災いは去ったのでしてー」










すっかり霧の晴れた空を背景に、そこには依田芳乃ちゃんが立っていました。

見たこともない怪物の死骸の山に立って、眩い後光を放っていました。


6月6日。

私達は無事、女子寮に帰って……輝子ちゃんの誕生日をお祝いしました。


窓はちゃんと直りました。


~Happy End~







無理。





某ガルパンssに触発されてモバマスでやろうと思い
久しぶりに地の文頑張ろうと思って半日使って書いたけどオープニングで力尽きました。

あと公開したらサイコパス扱いされそうなプロット(特に蘭子と夕美の扱い)を組んでて我に返りました。
ノリノリでバッドエンドの作品を考えてるときって我に返ると途端に「俺何やってんだろ……」って感じで辛くなりますよね。

時間取らせてごめんね。せめて供養させてください。


余談ですが、宗教ババアは映画の役をそのまま使ってます。多分よしのんの信者になったんじゃないですかね。


おまけでよしのんが救ってくれなかったらどうなってたか、立ててたプロットのスクショだけでも置いて終わりにします。
大体映画の内容通りだけどアイドルの死についてわりかし嬉々として書いてるので、そう言うのがダメな人は飛ばしてください。

http://imgur.com/a/6Lbuq

ここまで読んでいただきありがとうございましたm(__)m

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