【ディケイド】門矢士「宇宙が来る」【デレマス】 (196)

※注意

・仮面ライダーディケイドとデレマス(アニメ)のクロスSSです。ディケイド寄り
・地の文有り
・他ライダーとのクロス要素もあり

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【ディケイド】門矢士「風が見守るあの街で」【デレマス】 - SSまとめ速報
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※今回は滅茶苦茶長い上に、途中でかなりメタなセリフが出てきます。予めご了承ください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1460202584


第12話 Let's・Go・ahead・girls!



アスタリスクの結成から数日後の、レッスンスタジオ。

今その中で、シンデレラプロジェクトのユニットごとによる、新曲のダンスレッスンが行われていた。

新曲。それはプロジェクト揃っての初の大舞台となるサマーフェスで披露される、予定だ。

かな子「お、お疲れさまです、士さん…」

智絵里「はぁっ、はぁっ、はぁっ…。お、お疲れ、様です…」

ベンチに腰掛け、汗を拭きながら荒れた息を整えるかな子と智絵里。
キャンディアイランドの3人は、運動の激しい新曲のダンスに疲労困憊となっていた。

智絵里「ど、どうでしたか、私たち…?」

士「評価を出すのは、全体で合わせてからだな」

かな子「は、はい」

かな子と智絵里の表情が、少し和らいだ。
士はどことなく表情の晴れない2人を気遣ってそう言ったのではなく、それが当然だと思っているからそう言ったに過ぎないのだが。

休憩に入ったキャンディアイランドに変わって、今は蘭子が1人でレッスンを行っていた。


「「「合宿!?」」」

P「はい」

8月に入り、シンデレラプロジェクトのメンバーは皆が夏休みに突入していた。

遂に全員がユニットデビューを果たし、皆で揃って臨む、フェスの舞台。それを控えて、プロデューサーと士は合宿を計画していた。

莉嘉「ねぇねぇPくん士くん、合宿で何するの!?カブトムシ捕ったりとか!?」

士「それじゃサマーキャンプだろ。分かってると思うが、フェスに向けての全体練習を合宿中に行う」

P「それぞれのユニットのパフォーマンスの向上や、全体曲の練習などを計画しています」

346プロを離れて、とにかくフェスに向けてレッスンに打ち込む時間を作る。

プロデューサーは、プロジェクトの全体的なレベルアップを目指すのが今回の合宿の趣旨だ、と告げた。

凛「全体的なレベルアップって、みんなで同じ曲が出来るようになるとか、そういうこと?」

P「はい」

士「ま、とりあえずは全体曲だな」

セットリストの案をパラパラとめくりながら、士がつぶやく。

所属アイドルたちの代表曲が記載されたセットリスト案の中で、シンデレラプロジェクトの全体曲には、未定を示す括弧が付いていた。


合宿当日、メンバーたちは朝早くからプロジェクトルームに集まっていた。

ただ1人を除いて。

卯月「あれ?士さんは…」

未央「むっ、つかさん寝坊でもしたのかなー?」

そう、門矢士である。もう1人のプロデューサーであるはずの彼は、姿を見せていない。

それに関してはプロデューサーが答えた。

P「門矢さんは業務の都合上、今日ここから一緒に行くことは出来ません。終了し次第、合流します」

かな子「ってことは…」

きらり「後から来るってことぉ?」

P「はい。いつものように、『アシはあるから』と」

李衣菜「あのバイクかぁ…。バイクって、なんかロックでカッコいいよね」

みく「はいはい、分かったにゃ分かったにゃ」

ぞんざいに扱われた李衣菜が、みくに食って掛かる。朝っぱらから喧嘩を起こす2人を横目に、プロデューサーはポケットの中で震える携帯を取り出した。

P「…はい、…はい、…はい。ありがとうございます、では」

通話を終えたプロデューサーは、咳払いして皆の視線を集める。

P「荷物の積み込みが終わったそうです。行きましょう」


シンデレラプロジェクトが合宿所に向けて出発してから幾らか経って、出社した士は1人でプロジェクトルームにいた。

必要な業務自体はもう終えている。だが、まだ合宿所へ向かわずに、ここにいるのには理由があった。

士「………………」

ソファに深く腰掛け、士はライダーカードを取り出した。

6枚のうち2枚、『仮面ライダーW』と『仮面ライダードライブ』の力は既に手に入れた。

その証拠に、残る4枚と違いその2枚には鮮やかな色が付いている。

士「これが、世界を崩壊から守るための鍵…か。異物の俺よりは、よっぽどまともか?」

誰もいないプロジェクトルームに、士の声が反響する。

来た当初はこのカードたち同様、鮮やかさを欠いていたこの部屋も、気が付けば少女たちの手によって彩が増え、大事な居場所になっていた。

居場所、即ち彼女たちにとっての“世界”がここだ。
そんな彼女たちが大切にして自分たちで作り上げた世界に今、世界の破壊者たる士は土足で上がり込んでいる。

士「…まったく、守らせるだけならどうしてここに関わらせたんだ」

士「……ぶっ壊すだけなら、こんなに考える必要もないんだがな」


世界の中心で、“守護者である異物”は、己の在り方を探していた。


P「お疲れさまです」

士「悪い、遅れた」

士が合流したのは16時をだいぶ過ぎた頃だった。

P「…何かあったのでしょうか」

プロデューサーは「まさか」という表情をしている。

怪人の出現、士がそれと戦ってからやってきた可能性を、既に考慮している。表情を見ただけで、それが分かった。
それは、本来の物語であれば、決して考えることも無いものだ。

士「……いや、違う」

これまでの事件に、士以外で全て関わっているのは、このプロデューサーだけだ。

みくと李衣菜、現アスタリスクのイベントの際、彼は戦いに対して慣れを見せ始めていた。

戦いに対して、慣れ始めた者がいる。
それはつまりこの世界もまた、他の仮面ライダーの世界のように、戦いが当たり前になりつつあるということだ。

士「…異常に、慣れるな」

P「え?」

士「…何でもない。俺がこっちにいる間、“何かあった時”の対応を仲間に頼んでてな。それで遅れた」

P「…そう、ですか。分かりました」


きらり「あっ、士ちゃん!お仕事おっつおっつ、だよぉ☆」

士「ああ」

合宿所に上がった士を、ちょうど通りがかったきらりが出迎えた。

士「レッスンはどうした?」

P「予定の時刻は過ぎましたので、今日の分は終了しました。今は、自主練習を望む方がレッスンを続けています」

きらり「今は、みくちゃんと李衣菜ちゃんの2人が使ってゆ」

士「そうか」

ユニットデビューが最後だった2人だ。周りに追い付こうと必死なのだろう。

プロデューサーの案内で通された部屋に荷物を置いて、士は練習場に顔を出した。

みく「あっ、士チャン。お疲れさまにゃあ」

李衣菜「お疲れさまです」

士の姿を見掛け、2人が歩み寄ってくる。

士「よう猫ロック。今日は何回解散した?」

李衣菜「アスタリスクです!」
みく「アスタリスクにゃ!」

アーニャ「…アー、ツカサ。お疲れさまです」

2人の声を聞きつけて、アーニャもやって来た。

士「アナスタシアか。今日はユニットごとのレッスンがメインだったようだが、何か変わったことはあったか?」

アーニャ「Нет、ありませんでした。みんな、一生懸命практика…練習、しましたから」

P「皆さん、熱心に取り組まれていました」

士「双葉もか?」

P「……逃げられないと、理解していたようなので」

プロデューサーは、首の後ろを押さえる。恐らく、逃げられないことを理解し、上手く手を抜きながらやっていたということだろう。

士「そうか。邪魔したな」

アスタリスクの2人は自主練の真っただ中。時間の浪費を避けるため、士は話を打ち切った。2人は練習場に戻っていく。


士「ああ、お前に連絡がある。食堂はどこだ?」

P「あちらです」

士「あと、アナスタシア。新田を見かけたら、10分後に食堂に来るよう言っておけ」

アーニャ「分かりました。ミナミに、伝えておきますね」

プロデューサーに案内され食堂に足を踏み入れた士は、適当なテーブルを選んで席につき、対面にプロデューサーが座った。

士「プロジェクトのTシャツが人数分揃ったって連絡が来た。明後日の午前中に本社に発送されるらしい」

P「本社の方ですか。予定より、少し早かったですね」

士「ああ。生憎、俺は4輪免許を持ってない。向こうへ受け取りに戻るのは可能か?」

P「はい、可能です。そうなると明日にはここを離れ、明後日に品物を受領して、こちらへ戻って来ることになりそうですね」

士「頼まれてくれるか」

P「はい。その間こちらのことは、門矢さんにお任せすることになりますが、大丈夫でしょうか」

士「管理は、な。そうじゃない方は、さっきアナスタシアに新田を呼ばせたのがソレだ」

P「…皆さんのまとめ役を、新田さんに任せる、ということでしょうか?」

士「そうだ。よく考えろ、俺がまとめ役ってガラか?」

P「いいえ」

即答だった。

士「だろ?」

士は、自分の性格が他人をまとめるのに向いていないのを自覚している。

プロデューサーも、士は他人をまとめるのを嫌がるだろうと思っていた。


P「…ちょうどいい機会かも、しれませんね」

士「何のだ?」

P「今のシンデレラプロジェクトは、ユニットメンバー間では結束出来ていると言えます」

P「しかし、まだプロジェクトそのものが1つであるとは言えないとも、思っています」

士「なるほど、だいたいわかった。プロジェクト全体の結束をさせようってことか」

P「はい。そのために、全体曲の練習が適していると思うのですが…。門矢さんは、どう思いますか?」

士「いいんじゃないか、それで」

プロデューサーがそう判断するのなら、それでいい。部外者である自分が、あまり重要な決定に関わるべきではない。
そういう思いから、士は決定をプロデューサーに委ねた。

P「…では、新田さんにはそう伝えましょう」


美波「あの、士さん、プロデューサーさん」

士「ああ、来たか、新田」

指定通り10分後に、美波が現れた。

美波「アーニャちゃんから聞きました、お話があるって。あの…」

士「とりあえず座れ」

士は立って席を空け、プロデューサーの対面の席に美波をつかせると、自身は別のテーブルの椅子に腰かけた。

プロデューサーは、先ほど士と相談した内容を、美波に伝えていく。全体曲の練習、そして皆のまとめ役を頼めないか、と。

美波「…………」

P「…どうでしょうか」

美波「いえっ、まとめ役をするのは良いんですけど…」

士「どうかしたか」

美波「全体曲のことが気になって…」

美波「フェスまでそんなに時間もないですし、今からだと大変じゃないかって…」

士「…まぁ、そうだろうな」

このシンデレラプロジェクトを、6ユニットの所属する場というだけでなく、
“シンデレラプロジェクト”という1つのユニットとして14人を結束させ、昇華させようとしている。

プロデューサーが考えているのはそういうことだ。難しいが、やり遂げられればより一層の飛躍を期待できる。

P「…私は、この合宿と全体曲の練習が、皆さんが1つになる最高の機会だと思っています」

美波「それは、分かります。私も、みんなで団結出来れば、きっと今よりもっと凄いことが出来るって、そう思っています」

士「だが、問題は『それをどうやって成し遂げるか』…か?」

美波「はい。全体曲に取り掛かること自体、不安な子もいると思います」

美波「そういう状態で全体曲に臨んでも、みんなの心が1つにならないと、団結って言えないと思うんです」

士「…………」

P「……その通りだと、思います。……ですが」

一度切って、言うべき言葉を選んでから、プロデューサーは再び口を開いた。

P「…ただ参加するだけでなく、もう一歩、新しい階段を登ってみませんか」

P「皆さんと、一緒に」

美波「……!」

P「私も、その姿を見てみたいと、思っています」

士「………………」

美波「…士さんは、どう思いますか?」

士「お前らが1つになった姿、か。…まぁ、多少は興味がある」


翌日の午後、プロデューサーは全員を集めて連絡を行った。

P「フェスに向けての合宿ですが、着実に成果が出ています」

P「残り期間もこの調子で頑張ってほしいのですが、私は別件で、明日の夕方まで合宿所を離れます」

「「「え……?」」」

P「その間の皆さんのまとめ役を、新田さんにお願いすることになりました」

名前の挙がった美波は、立ち上がってプロデューサーの隣に並ぶ。

P「皆さん、私がいない間は、新田さんの指示に従ってください」

莉嘉「あれ?じゃあ士くんは何するの?」

士「それは後で話す。その前に新田、まとめ役として最初の仕事を頼んだ」

美波「はい。今度のフェスでは、ユニットごとの曲だけでなく、私たち全員で新曲を歌います」

きらり「この前に、ダンスのレッスンした曲だよねぇ?」

莉嘉「でも、曲だけだったよね?ってことは…」

みりあ「歌詞が出来たの!?」

美波「うん。昨日連絡があったみたい。合宿が終わってから、届くそうよ」

未央「おお…!みんなで歌うのって楽しそう♪」

美波「今日から、ユニット練習は午前まで。午後からは、皆で新曲を練習します」

P「フェスまでに新曲をマスターするのは大変だと思いますが、頑張ってください」

未央「任せて!バッチリ決めて見せるから!」

P「…頼もしい言葉です。そして、そのための役割を、門矢さんにお願いしました」

凛「そのための役割…って?」

士「…全体曲のトレーナーだ」

卯月「士さんが、トレーナーさんですか…」

みく「うっ…、めっちゃ厳しそうにゃ…」

各々の頭に浮かぶのは、これまでの戦いで士が見せてきた高い身体能力。
確かにトレーナーにはうってつけだろうが、性格面が適しているのかは疑問が残る。

士「…厳しくなるかどうかは、お前たち次第ってとこだな」

P「では新田さん、後はお任せします。門矢さん、ご指導の方、よろしくお願いします」

美波「はい。ではこれから、全体曲の練習を始めます!」


まずは数回、全体で踊ることだけをやらせる。指摘はそれから。

士はそう言い、言葉通り最初の数回は全体の合わせに費やさせてから、指摘を始めた。

士「…分かってはいたが、バラついてるな、お前たち」

みりあ「何回やっても、振付全然合わないね」

莉嘉「みんな頑張ってよー」

士「他人事みたいだがな、赤城、城ヶ崎。まずお前らがソレだぞ。周りと比べて振付がいくらか走ってる」

みりあ「走ってるって…速いってこと?」

士「ああ。で、反対に島村、緒方、三村。お前らは遅い」

「「「うっ……」」」

莉嘉「えーっ?この曲のテンポなら、アタシもっと速く踊れるのにー」

きらり「莉嘉ちゃん、この曲はみーんなで踊る曲だからぁ、莉嘉ちゃんだけが速く踊れてもダメなんだよぉ?」

莉嘉「むーっ…」

士「後神崎、お前も走ってる。この中じゃ一番合ってない」

蘭子「う……」

士「最初から完璧にこなせとは言わないが、もう少し周りを見て、速い奴は抑える、遅い奴はついて行く、くらいはしろ」

士「振付のどうこうを判断するより、まずは合わせることから始めるべきか…」

智絵里「あ、あのっ。ごめんなさい、ついて行けなくて…」

未央「じゃあさ、合うまでやろうよ!さぁ、もっかいもっかい!」

未央が全体を促し、もう一度練習しようとしたところで、士はそれを制した。

士「…1時間は経った。とりあえず15分休憩、そうしたら再開だ」


練習を中断した士は、練習場を出て民宿の玄関へと向かった。

士「………………」

その後ろ姿を見かけ、美波が後を追う。

靴を履いて外へ出ようとする士の背中に、美波は呼びかけた。

美波「…あの、士さん。少し、お話が―――」

士「新田」

美波「っは、はい」

美波の言葉を途中で遮り、士は続けた。

士「…少し、外へ出てくる。俺が15分経って戻らなくても、練習は再開させろ」

美波「あのっ、それって」

士「買い物に行って来るだけだ。…頼んだぜ、“まとめ役”」

美波「……っ」

態度も、口調も、いつもの士と何ら変わりない。

しかし、ほんのわずかに見えた横顔からは、険しさが覗いた。

海岸へ続く階段を下りながら、士はディケイドライバーを握りしめる。

レッスンの途中、どこか近くて遠くから、ずっと自分に向けられていた殺気と憎悪。
嫌われているかもしれないが、少なくとも少女たちのものではない。

士「そうか、あれからそろそろ2ヵ月か」

その2つの感情は、士の全身に絡みつかれるような気色の悪さを与え続けていた。

士「いい加減、お前との関係も断ち切りたいところだな」

砂浜に足をつけた士は、下腹部にディケイドライバーを装着した。

その目の前に出現する、オーロラ。その向こうに蠢く影。


士「変身!」


『FINAL KAMEN RIDE DECADE!』


変身の余波で、オーロラが砕け散る。



士「腹は決まったか?―――蛇野郎」



「それはこちらの台詞だ。覚悟はいいですか?」



士「そのまま返すぜ。いい加減、駆除してやるよ」



無数の星屑、ダスタードを従え。



「今度こそ、貴様を殺す……ディケイドォ!!」



オヒュカス・ゾディアーツが、再びこの世界に現れた。


士「フッ!ハァッ!」

士がライドブッカーを振るう度に、ダスタードたちは文字通り星屑になって散っていく。
しかし、オヒュカスの背後のオーロラからは、ダスタードが続々と現れ出てきた。

士「雑魚をいくら揃えたところで、俺には勝てないぜ」

『ATTACK RIDE SLASH!』

士「ダァッ!」

分身した刃が、まとめてダスタードを斬り裂く。先ほどまでと、何も変わっていない。しかし、オヒュカスはどこか得意そうだった。

オヒュカス「貴様に敗北してからの2ヵ月、私はひたすらお前を殺すことだけを考え続けた」

オヒュカス「確実で、惨めで、無残な最期を遂げさせることだけをッ!!」

士「暇なヤツだな。ま、あんだけやってやればしばらくは動けないから、そうもなるか」

士「で?そのための作戦がこれか?流石に冗談だろ?」

2人が言葉を交わす間にも、ダスタードはオーロラの向こうから絶えることなくやって来る。

これで消耗を狙っているのかもしれないが、士はこれが何時間続こうが負ける気はしなかった。無論、オヒュカスにも。


オヒュカス「フフフ…、ハハハハハ!死ねぇ!!」

手にした杖の先端から、紫色の光弾が発射されるも、

士「フンッ」

士はそれを難なく斬り裂いた。

オヒュカス「ああそうだ、貴様は強い。確かに強い。だがなぁディケイドォ!!」

士「あん?」

オヒュカス「それでも私は貴様を殺す!絶対になぁ!!」

士「…気でも狂ったか?」

オヒュカス「フフフフフ、ハハハハハハハハハハハ!!アーッハッハッハッハ!!」

士「…………」

ライドブッカーを握る手に力を込め、ダスタードたちを屠り続ける士。

オヒュカス「行けッ、我が尖兵たちよ!!」

オヒュカスがそう叫ぶと、彼の背後のオーロラからは、異なる特徴のダスタードが現れた。

オヒュカス自身の歪み、あるいは毒々しさを表したかのような“紫色”のダスタードたちが、士に迫る。

士「!」

速い。ハウンドほどではないが、雑魚にしては間違いなくトップレベルのスピード。

それらが、一斉に士に跳びかかった。


士「多少は違うタネを仕込んできたか…っ!」

跳びかかって来る紫色のダスタードたちは、士が攻撃を仕掛けるより早くから、身体が崩れ始めていた。

士「毒でも仕込んだか」

オヒュカス「その通り、私の毒を注いだダスタードは、圧倒的な能力を発揮する」

オヒュカス「その代償として、毒が体を蝕み、最後にはどうあれ消滅するが…」

オヒュカス「まあ、これに命は無い。精々ディケイド、貴様を消耗させる役割さえ果たせればいい」

士「だったらっ、覚えておけ。どれだけ強化されようが…!雑魚は雑魚だっ」

しかし士は、それでも大して苦戦する様子を見せずに斬り伏せた。

オヒュカス「おのれぇ……!」

業を煮やしたオヒュカスは、さらにオーロラを広げた。倍ほどのダスタードが、絶えることなく現れ出てくる。

士「2ヵ月もあれば、ここまで増えるもんか…」

オヒュカス「そうとも。さぁ、そろそろ私も手を下そう」

士「ッ!」

言うが早いか、オヒュカスは頭部の蛇を一つにより合わせて大蛇にすると、士を目掛けてそれを伸ばした。ダスタードすらも撥ね飛ばし、大蛇が迫る。

士「チッ…!」

ライドブッカーで牙を防ぐも、以前よりも大蛇の力は強くなっていた。
砂浜という踏ん張りを利かせにくい地形も相まって、士はじりじりと押され始める。

士「…どうやら、お前にも色々あったみたいだな」

オヒュカス「さぁ喰らえッ、我が僕よ!!」

士「くっ!」

大蛇の力は、ついに士を上回った。腕が弾かれ、毒蛇の牙の前にがら空きの身体を晒してしまう。



オヒュカス「これで終わりだァ!!」


歓喜の色を溢れさせるオヒュカスの声が轟き、大蛇が大きく口を開けた。




「待ちやがれこのヤローーッ!!」



オヒュカス「!?」

士「…ハッ!!」

突然の大声に、一瞬意識が逸れたオヒュカス。その瞬間を逃さず、士は大蛇の頭を弾き飛ばした。


オヒュカス「貴様は……」


士「…ああ?何だその格好は」


士とオヒュカスの視線の先にいたのは、一人の男。


社会人らしいスーツ姿ではある。しかし、その髪型が酷くミスマッチだ。



昭和の不良をイメージさせるリーゼントが、強烈な存在感を放っていた。



「テメェ!俺の生徒たちにスイッチを渡そうとしてやがったな!ぜってぇ許さねえぞ!!」


オヒュカス「チッ、貴様は……!!」



「新・天ノ川学園高校1年A組担任で、宇宙仮面ライダー部顧問!」






「如月弦太朗!!“元”『仮面ライダーフォーゼ』だ!!」






「仮面ライダー、フォーゼ…」



弦太朗「うおおおおりゃっ!」

弦太朗は近くにいたダスタードをぶっ飛ばすと、オヒュカスに向かって駆け出した。

オヒュカス「チッ、邪魔が入ったか…!」

舌打ちをすると、オヒュカスは杖の先端を迫り来る弦太朗に向ける。

オヒュカス「ハァッ!」

弦太朗「うおっ!?おおおっ、どうなってんだこれ!?」

放たれた念動力に捕らわれ空中に浮かんだ弦太朗は、士の方へ放り投げられた。

弦太朗「うおわああああーーーっ!?」

士「クソッ!」

咄嗟に跳び、弦太朗を空中でキャッチした士は、着地と同時にダスタードを蹴り飛ばす。そして、弦太朗のことも雑に手放した。

弦太朗「いって!」

士「おいお前、仮面ライダーフォーゼって言ったな。早く変身しろ」

しかし、砂浜に倒れ込む弦太朗は、朗らかに笑ってこう返した。


弦太朗「わりぃ!ドライバーは持ってねえ!だから“元”仮面ライダーフォーゼ!」


士「…笑ってる場合かぁっ!!」

怒りを込めて、ライドブッカーを振るう。近くにいたダスタードが一体消滅した。

士「くそっ」

苛ついたまま、士はケータッチを取り外し、ブレイドの紋章をタッチした。

『BLADE!KAMEN RIDE KING!』

士の隣に、金色の甲冑を身に纏ったブレイド・キングフォームが出現する。

弦太朗「うぉぉっ、すっげえ金ピカだ…」

オヒュカス「むっ!?」

『FINAL ATTACK RIDE B・B・B・BLADE!』

士「いい加減、ここで終わらせる…っ!」

スペードの10、J、Q、K、A。ポーカーにおいて最高の役を成立させる5枚のカードが、士とブレイドの前に並んだ。

士「ハァッ!!」

ライドブッカーとキングラウザーから放たれたエネルギーの刃は、それぞれのカードを通過してオヒュカスに迫る。

オヒュカス「チッ、ディケイドォ……ッ!!」

士「!」

オヒュカスの右目が、一瞬紫色に光り輝いたのを、士は見逃さなかった。

エネルギー刃が大爆発を起こし、その余波でダスタードがまとめて消滅する。


士「…チッ、逃げるのだけは上手い奴だ」


しかし、またしてもオヒュカスの断末魔は聞こえてこなかった。

変身を解除した士は、自分の足元にいる男を見下ろす。

弦太朗「お前すっげえな!仮面ライダーを呼び出せんのか!?」


そして、腕時計を確認する。


士「…25分。時間をかけすぎたな」


弦太朗「あっ、あ?どういうことだ?」

頭の上にハテナマークを浮かべた男、如月弦太朗。

士「…とりあえず立て。行くぞ」

弦太朗「えちょっ、おい。行くってどこにだよ!」

彼に背を向けると、合宿所に戻るために歩き始めた。


卯月「あっ、士さん!お帰りなさ……あれ?」

蘭子「仮面の戦士よ、汝の後ろにいる者は……?」

士「……説明は後でする。お前たちは、練習を続けろ」

「「「は、はい……?」」」


食堂に入った士は、昨日と同じ席について、弦太朗を対面につかせた。

士「改めて聞く。お前、名前は」

弦太朗「如月弦太朗!天校の生徒・教師全員とダチになる男だ!」

士「後ろの方は聞いてない。で、お前は仮面ライダーだったのか」

弦太朗「おう!『仮面ライダーフォーゼ』っつってな、仲間と一緒に学園の平和を守るために戦ってたんだ!」

士「何から?」

弦太朗「ゾディアーツってんだけどよ、あっほら、さっきお前が戦ってたみたいなヤツ!」

士「…そうか、ゾディアーツは元々、お前の世界の敵か」

弦太朗「あっ?俺の…世界?なんだそりゃ」

弦太朗の問いを無視し、士はズボンのポケットからライダーカードを取り出した。
ブランクの4枚のうち1枚に、ドライブの時同様、ぼやけた頭部アップと『KAMEN RIDER FOURZE』の文字が浮かび上がる。

士「…別の世界で、姿だけは見たな」

『スーパーヒーロー大戦の世界』、『アマダムの世界』、『仮面ライダー大戦の世界』の3つで、この姿を見かけている。

だがこの男、如月弦太朗との接触で、カードに変化があったということは。

士「お前が本物で間違いないな」

弦太朗「何のことだかわかんねえけど、俺は間違いなく元・仮面ライダーフォーゼだぜ」

弦太朗は、二度胸を叩いて、士を指さした。

士「お前、仮面ライダーだったんだろ。何故ベルトを持ってない?」

弦太朗「あー、それにはちょっとした事情が有ってだな…」

そう前置きして、弦太朗はドライバーを自ら捨てるまでの経緯を、士に語り出した。


青春の日々を、ゾディアーツから自らの学園、生徒、そして何よりダチを守るために戦い、駆け抜けた弦太朗。

弦太朗が教師になって受け持ったクラスには、超能力を持った生徒“風田三郎”がいた。
彼はその力の使い方に悩み、自分の心に殻を作り閉じこもってしまう孤独な少年だった。

彼の心を開かせるため、そして今の学園の平和を今の生徒に託すため、弦太朗はドライバーを自ら溶鉱炉に投げ入れ、捨ててしまった。

士「…生徒のために、ベルトを捨てた…か」

弦太朗「おう。後悔はしてねえ!それに、俺のダチが言ってたんだけどよ」

士「何だ?」

弦太朗「フォーゼドライバーは俺のダチだってな!だから、何かあればきっと戻って来て俺に力を貸してくれるはずだ!」

士「ベルトが、ダチ…?流石に理解できない」

弦太朗「頭で考えんじゃねぇ、心で感じるんだ!」

士「……ハッ」

とりあえず、その話はそこで打ち切った。これ以上続けると、意味が分からなくてどうにかなりそう、という判断からだ。

士「ベルトの方は分かった。次に、お前はなんでヤツを追って来た」

弦太朗「おう、そうだそうだ。それについてはな…」


今の学園の平和は、先の話で出た少年、風田三郎とその仲間の超能力者たちによる“少年同盟”と、
弦太朗が顧問を務める“宇宙仮面ライダー部”が守っていた。

そんな学園で、5年前に数を減らしたはずのゾディアーツ事件が度々起こるようになっていた。
ドライバーを持たない弦太朗に代わり、ゾディアーツ化した生徒との戦いは三郎が担当し、同時にスイッチをもたらす者についての調査が行われていた。

そしてついに発見したソイツに、三郎は果敢に挑んで行った。
しかし、力及ばずに逃げられそうになったところを、弦太朗が追って来た。ということらしい。


士「…あの蛇野郎…」

弦太朗「そういやお前、何か知り合いみたいな感じだったけどよ、どうかしたのか?」

士「以前に戦ったことがある。その時こっちからも、1人ゾディアーツにさせられかけた」

弦太朗「何!?別の世界でも、んなことしてやがったのかあの野郎!許せねえ!!」

士「だが、今のお前には力が無い。対抗する手段は無いぞ」

弦太朗「いーや。ドライバーが無くても、俺にはダチが残してくれた心強い…ん?」

士「どうした?」

全身をまさぐり、足元を何度も見、手を幾度も開いては閉じる弦太朗。

そして、彼は叫んだ。

弦太朗「やっべえ!海岸に忘れ物したーーーっ!」

士「…そんなにでかい声を出すな、うるさい」

弦太朗「わりぃ、取りに行ってくる!」

士「…好きにしろ」

士の返事を途中までしか聞かずに、弦太朗はあっという間に合宿所から出て行った。


そして、1分と少しで戻って来た。

弦太朗「わりぃ!コイツだ!」

そう言って弦太朗がテーブルに置いたのは、大きなアタッシェケースのようなもの。

それを開けると、中には様々なモノが入っていた。

士「これは?」

弦太朗「アストロスイッチカバン・バージョン2だ!」

その中から、弦太朗がいくつかを取り出した。

弦太朗「こいつらはフードロイドって言ってな。俺のダチが作った、俺たちの仲間だ」

カバンの中からスイッチを取り出して、テーブル上の一つにセットする。

ハンバーガーのような形のそれが、一瞬でロボットに変形した。

士「ほぉ…、ディスクアニマルに似てる」

弦太朗「今の俺には、こいつらがあるからな!心配はねえ!」

フードロイドを頼もしそうに見つめる弦太朗だが、士の方はこれで戦えるのか、と不信感を募らせていた。

弦太朗「俺の方はもうだいたい喋ったな。よし、次はお前の番だ!お前、名前は?」

士「あ?…ああ、そういえば言ってなかったな」

士「門矢士。この世界の守護者、兼346プロ・シンデレラプロジェクトのプロデューサーだ。覚えなくていい」

ワイシャツの胸ポケットから名刺を出し、弦太朗に向かって軽く投げる。

弦太朗「士か。よし覚えたぜ、これからよろしくな、士!」

名刺をキャッチした弦太朗は、さわやかな笑みを浮かべながら、右の手を差し出した。

士「……はあ?」

弦太朗「どうした?士、お前、仮面ライダーなんだろ?」

士「ああ」

弦太朗「なら俺のダチだ。ん!」

そう言って、弦太朗は右手をずいっと伸ばしてきた。

士「…意味がわからない」

弦太朗「俺は如月弦太朗!全ての仮面ライダーとダチになる男だ!もちろんお前ともな!ホラ、手ぇ出せよ!」

士「…断る」

士は、その手を弾いた。

弦太朗「なっ!何しやがる!?」

士「馴れ馴れしいヤツだな。お前みたいなタイプは嫌いだ」

弦太朗「…そうかよ、ならますますお前とダチにならねえとな!」

士「はあ?今の流れで、なんでそうなる」

弦太朗「気に入らねえ奴ほどダチになる!それが俺のやり方だ」

弦太朗「士!お前とも、ぜってえダチになってみせるぜ!」

士「…勝手にしろ」

吐き捨て、士は席を立って練習場に向けて歩き出す。弦太朗も席を立って、士の後に付いて歩き始めた。

士「…お前、何でついてくる?」

弦太朗「よく考えたらよ、俺帰れねえ!」

弦太朗「だから帰れるようになるまでの間は、お前とダチになるために、お前の行動を見てようと思ってな!」

士「面倒くさいヤツだ…」

バラバラのプロジェクトメンバー。オヒュカスの再来。そして、後ろの厄介な男。

様々な問題を抱えて、額を押さえながら、士は練習場に向かった。

(勝手についてきた)弦太朗を伴って。


弦太朗「俺は如月弦太朗!あー…、違う世界の人間ともダチになる男だ!よろしくな!」

胸を二度叩いて、少女たちを指さす弦太朗。その手を弾き、士が口を開く。

士「帰る方法も考えずに、この世界にやって来たバカな男だ。こいつのことは気にするな」

弦太朗「んだとこの野郎!?」

士に食って掛かる弦太朗だったが、士はそれをあっさり躱した。

士「新田、俺が離れてる間は何をしてた?」

美波「…あっ、はい。さっき士さんに言われた通り、みんなで合わせようとしてみたんですけど…」

士「そのために、何をした?」

美波「…ええっと」

未央「みんなで振付がピッタリになるまでって、何回も踊ってみたよ」

士「で、結果は?」

「「「………………」」」

士「そうか、だいたいわかった」


ただ一つのことに没頭させて意識の統一を図るのも、それはそれでありだろう。

だが、出来るかどうか不安な者たちが、それを忘れるほど没入できるかと言えば、そうでもない。

むしろ踊る内に、出来るかどうかの不安感が増し、それによりミスが出て、さらに不安感が増し…という負のスパイラルに陥ることすらあるだろう。

実際に、そんな表情をしたものはチラホラいた。


士「それで新田、これからどうする?やるなら俺も見る。やらないならやらないでいい」

美波「えっと……」

皆の方を振り返る美波。どうするべきか決めかねているのが、すぐに分かる顔だった。

未央「みなみん!まだ行けるって。もっとやれば、自然と合うって!」

杏「えー……、杏、もう疲れた……」

かな子「あの、私も少し休みがほしいな…って」

莉嘉「えー?休まずにどんどんやらなきゃダメじゃない?」

きらり「莉嘉ちゃん、きらりは、お休みするのも大事だと思うよぉ?」

まだ衝突には至らない。しかし、ついて行ける者とついて行けない者の間の溝は、少しずつ広がり始めていた。


意見を出さない者たちは、皆困惑していた。誰もが判断をしかねる中で、1人が手を挙げた。


弦太朗「ちょっと聞かせてくれ。リーダーは、お前でいいのか?」

美波「え…、は、はい」

弦太朗「分かった。少し話を聞きたいんだ、時間くれるか?」

美波「えっと、みんな、いい?」

「「「…………」」」

弦太朗「そっか、あんがとな。んじゃあ、ちょっと」

美波「あ、じゃあみんなは、休憩にしてください」

弦太朗が美波を外へ連れ出す。今度は士が、弦太朗の後を追うことになった。

美波「あの…、何をお話しすれば…?」

弦太朗「お前たち、えーっと、シンデレラプロジェクトだったか?それが出来てどんくらいになる?」

美波「4か月…くらいでしょうか」

弦太朗「4か月か。その間に、みんなで一緒に、何か1つの目標に取り組んだことは?」

美波「いえ…。これが、初めてです」

弦太朗「そうか…、うーん…」

士「…部外者の口出しは、あまり感心しないぜ」

弦太朗「そうかもしんねえけどよ、俺は教師だ。若者の成長の手助けをすんのが、教師ってもんだろ?」

士「さあ?生憎、学校に行ってた記憶が無くてな」

弦太朗「…とにかく、俺は俺なりに何か力貸すぜ。お前、名前は?」

美波「えっ?あっ、私は新田美波です」

弦太朗「おう、美波か。よろしくな!」

美波「は、はい。よろしくお願いします…」

士「急にどうした?」

弦太朗「挨拶は心の通行許可証だ。ちゃんとしねぇと、相手のことなんて分かりゃしねぇ」

美波「通行、許可証…?」

弦太朗「ああ。1つになりてぇなら、まずはみんながどう思ってるかを知ることから、だぜ」

美波「みんなが、どう思ってるか……」

その言葉に、美波はハッとした表情になった。

弦太朗「おう。わりぃな美波、士。部外者が余計なこと言ってよ」

士「…いや」


美波「みんな、今日の練習はここまでにしましょう」

練習場に戻った美波は、皆にそう告げた。

未央「ちょっとみなみん!フェスまで時間も無いのに、まだ振付合ってないんだよ?もっと練習しなきゃ!」

莉嘉「そうだよ、出来るようになるまでいっぱい練習しなきゃダメじゃん!」

未央と莉嘉から不満の声が上がる。しかし、

美波「…まだ初日だから、あんまり根を詰めるのも良くないわ。続きはまた明日」

まだ少し不安が残る表情ではあったが、美波はちゃんと自分の決定を伝えた。

未央「えー、でもさ、みなみん……」

それでもまだ不満げな未央のことは、士が制した。

士「…今、お前たちのまとめ役は新田だ。その決定には従うべきじゃないのか」

美波「うん、ごめんね未央ちゃん。でもお願い、聞いてもらえないかしら」

未央「ん……分かった」

不承不承と言った感じで、未央も頷いた。


弦太朗「どう思う?」

士「は?」

弦太朗「あの子たちのことだ」

再び食堂にやって来た士と弦太朗。弦太朗は開口一番、そう聞いてきた。

士「…要点が見えない。何について、どう聞きたいのか、はっきりと言え」

弦太朗「おっと、わりぃわりぃ。あの子たち、団結できると思うか?」

士「…無理じゃない。だが、今のままじゃ時間がかかりすぎるな」

レッスン初日から完璧を求めるべきでないのは、士も理解している。
だが現実的な問題として、フェスまでの時間は限られているのだ。
団結することは大切だが、それに時間をかけすぎて、中身がおろそかになるようなことがあってもいけない。

弦太朗「だろうな。見た感じ、上手く踊れる子と、そうじゃない子の心が離れ始めてる」

士「だが、今のまま続けても状況の改善は望めない。…面倒くさいな」

プロデューサーならば、ここから何とか働きかけて、皆が団結できるようにするのだろう。
あるいは、美波にそれとなく助言を与えるのかもしれない。

だが、同じく戦いに身を置く仮面ライダー同士ならともかく、
意志もバラバラな14人の少女たちの気持ちを揃えることは、士には“面倒なこと”の域を出なかった。


しかしその言葉は、弦太朗にとっては聞き捨てならないものだったらしい。

弦太朗「…面倒って何だよ、お前」

士「あ?」

弦太朗「お前、あの子たちのプロデューサーなんだろ?」

弦太朗「そのお前が、『面倒だから』ってだけであの子たちとちゃんと向き合いもしねえで、あの子たちが1つになれるとか、本当に思ってんのか!?」

士「……あいつらの団結は、あいつらの問題だ。俺は関係ないだろ」

弦太朗「いいや関係ある、大アリだ!お前だって、プロジェクトの1人だろうが!」

士「…チッ、分かったようなこと言いやがって。帰る方法も考えずに突っ込んできたバカのクセに」

弦太朗「んだとぉ!?」

弦太朗が士の胸倉を掴む。士は弦太朗を冷めた目で睨みつけた。

士「暑苦しくて鬱陶しいヤツだな。やっぱりお前みたいなタイプは嫌いだ」

弦太朗「そういう態度、親友の昔を思い出すぜ。お前とはダチになんねえと気が収まんねえ」

一触即発の状態で、冷めた拒絶の態度をとる士と、怒りの炎を燃やす弦太朗。

2人が放つ剣呑な雰囲気に支配された食堂に、突如物音がした。

士・弦太朗「!」

同時にそちらを見る2人。その視線の先にいたのは。


蘭子「あ、あの……、その……」


雰囲気に怯え、完全に委縮し切った、神崎蘭子だった。


蘭子「か、仮面の戦士……」

士「…あ?」

蘭子「ひ……っ」

弦太朗「おい士。俺はともかく、その子にまでそんな接し方はねえだろ」

士「…フンッ」

蘭子「…………っ」

蛇に睨まれた蛙…どころか、龍と虎の間に置かれたウサギのような状態の蘭子。

士は、蘭子にも弦太朗にも視線を合わせずに、明後日の方向を向いていた。

弦太朗「…しゃーねえ、士があんなんだから、俺が代わりに話聞くぜ。その前に、お前の名前は?」

蘭子「あ…、わ、我が名は、神崎蘭子…」

弦太朗「蘭子か。よろしくな、蘭子!で、士に何の用だ?」

蘭子「そ、その……」

士の姿を窺う。圧迫感はだいぶ薄れていたが、それでも視線は明後日の方を向いたまま、こちらを見ようとはしていなかった。


弦太朗「どうした?」

蘭子「あ、あの、えっと……。わ、我らが先導者が、汝の姿を探し求めていた…ぞ」

弦太朗「おう、士。『美波がお前のこと探してた』ってよ」

士「…そうか。新田は今どこだ」

蘭子「れ、練習場……」

士は何も言わずに立ち上がり、食堂から出て行く。その後ろ姿を見つめ、蘭子は膝の上で拳を握った。

蘭子「…………」

弦太朗「…なぁ蘭子。お前と士、何かあったのか?」

蘭子「え……?」

弦太朗「いや、あいつ何かお前の事避けてるって言うか、んな感じがすんだ。お前さえ良けりゃ話、聞かせてくれねぇか?」

蘭子の瞳を、まっすぐに見つめてくる弦太朗。
少しも混じりけの無い、快晴の空のように済んだ瞳が、蘭子の赤い瞳を見つめていた。

蘭子「……わ、我は、このような言の葉を用いる故、〈瞳〉を持たぬ者がその真意を見透かすことは、深淵をのぞき込むと同じ……」

蘭子「仮面の戦士…、彼の者はこの言の葉を嫌い、遠ざかろうとする…」

蘭子「わ、我が……、我が言の葉が……。否、我が魂の門が、硬く閉じているが故に…」

弦太朗「…そうか、恥ずかしがりで言いたいことが上手く言えなくて、そんな言葉づかいなんだな」

弦太朗「で、士にはその言葉づかいのせいで、避けられてるってわけだ」

蘭子「う、うむ…。汝は、〈瞳〉の持ち主なのだな…」

弦太朗「言葉なんかどうってことねえ。大事なのは“ここ”だ」

笑って、弦太朗は自分の胸を叩いた。

蘭子「そ、その、〈瞳〉を持つ者……。ぷ、プロデューサーには、普通に話せるんです…」

弦太朗「おお」

蘭子「だけど、その…。士さんには、どうやって近付いたらいいか、分からなくて…」

弦太朗「……そうか。確かに、あいつ気難しいもんな」

蘭子「でも、悪い人じゃない、と思うんです…。私たちの事、何度も守ってくれたから…」

士が今この場にいれば、「守ったのはお前達じゃなく、世界の方だ」とか言っただろう。

確かに、士の役割からすれば、それが正しいのだ。少女たちが守られているのは、
そこが“物語の中心部”というもっとも狙われやすい部分だからに過ぎない。

それでも、たとえついでだったとしても、蘭子たちにとっては、士が自分たちを守ってくれたことに変わりはない。

弦太朗「あいつも何か、ハラにでっけえモン抱えてそうだからな。いっちょ聞いてみるか」


弦太朗「おっ、いたいた。なぁ士」

士「なんだ」

海岸へ続く階段の途中に、腰を下ろしていた士。その背中に、弦太朗が声を掛けた。

弦太朗「俺は、どうしてもお前の事が気に入らねえ。だからダチになる」

士「…またそれか。それを言いに来ただけなら、さっさと消えろ」

弦太朗「いいや、そうじゃねえ。ダチになる相手の本気を、俺は見ておきてえんだ」

士「はぁ?」

弦太朗「士、俺はお前に卓球勝負を挑む!」

意味不明な内容に、思わず振り返る士。一段上に、卓球用のラケットを2つ持った弦太朗が立っていた。

士「卓球?何で卓球なんだ」

弦太朗「いや、俺もお前も仮面ライダーだろ?だから最初は“これ”で分かり合おうかとも思った」

そう言った弦太朗は、右の拳を前に突き出す。

士「…はっ、夕暮れの海岸で殴り合い、最後は一緒に夕日を見て友情を確認…とか思ってたな」

弦太朗「なっ、何っ!?何で分かった!?」

士「そんな時代遅れの不良みたいな髪型してるヤツの考えることなんざ、すぐに分かる。バカなヤツだ」

弦太朗「…ああ、最初はそう思ってた。だけどよ、ダメだと思ったんだ」

弦太朗「あの子たちの前で、んなことは出来ねえ!」

士「それで思いついたのが卓球…。お前、本当バカだな」

弦太朗「好きに言え。それで、お前はやんのか、やらねえのか?」

士「…フンッ」

立ち上がった士は、弦太朗の手からラケットを1つ、ひったくった。

士「言っておくが、お前が俺に勝つことはあり得ない。捻り潰してやる」

弦太朗「いいや、勝つのは俺だ。全力でかかってきやがれ!」

士「本気を見たい、か。ハッ、精々引き出せるように頑張れよ」


凛「…何?何か始まるの?」

卯月「あっ、凛ちゃん。これから、士さんと弦太朗さんが卓球対決するみたいですよ」

凛「へぇ……」

卓球台を間に置いて、にらみ合う士と弦太朗。弦太朗の気迫が、ピリピリと肌を刺激する。

士「11点先に取った方が勝ち。それでいいな」

弦太朗「ああ。卓球だからって手は抜かねえ、本気で行くぜ士!」

士がトイカメラを床に置き、球を上げる。仮面ライダー2人の卓球対決が、幕を上げた。


激闘は1時間にも及んだ。
結果だけ言えば、勝負はドロー。決着がつくより先に、夕食の時間になってしまった。

弦太朗「はぁっ、はぁっ、はぁっ…。ほ、本当にやるな、お前…!」

士「チッ…!たかが卓球で、ここまで俺を追い詰めるとはなぁ…!」

汗で髪は崩れ、ワイシャツは張り付き、顔中汗まみれの2人。それがとにかく、戦いの過酷さを物語っていた。卓球だが。

みく「す、すごい戦いだったにゃ…」

李衣菜「何て言うか、人間の限界行ってた気がする…」

卓球台に手をついて、荒い息を繰り返す弦太朗と士。

美波「あの、弦太朗さん。これ…」

弦太朗には美波がタオルを渡し、

蘭子「か、仮面の戦士よ…」

士には蘭子がタオルを渡した。

顔を押さえ、汗を拭きながら弦太朗が言う。

弦太朗「俺、風呂行ってくる!汗流さねえと気持ちわりぃしな!」

士「ああ?お前は乱入者なんだ、風呂は俺が先だろ」

莉嘉「…2人で一緒に入ればいいんじゃないの?」

莉嘉の言葉を聞き、弦太朗は手を打った。

弦太朗「よし!行くぞ士!男同士、裸の付き合いだ!」

士「おいちょっ、おまこのっ、離せっ!」

士の手首を強く握ると、弦太朗は士を無理やり伴って浴場へ消えて行った。

唖然とするプロジェクトメンバー。嵐が過ぎ去ったかのように静かになった卓球台周辺で、美波が指示をした。

美波「…冷めちゃうから、みんなご飯にしましょ?」


「はぁー、さっぱりしたぜ!」

「おい、勝負はまだついてない。夕食を食べたら決着をつけるぞ」

「おっ、何だかんだお前も乗り気になって来たな!」

「お前を叩き潰さなきゃ、気が済まないんでなぁ…!」

外から、士と弦太朗の会話が聞こえてくる。その声は徐々に近付いてきて、やがて食堂の戸が開いた。

「おおっ、お好み焼きか!旨そうだな!」

李衣菜「えっと…、どなたでしょうか…?」

「おいおい、俺だよ俺。如月弦太朗!」

みく「えっ!?」

きらり「髪型が違うと、まるで別人さんみたいだにぃ…」

風呂上がりで浴衣に着替えた弦太朗は、現れた時とは違い、今は髪をまっすぐ下ろしていた。

みりあ「えーっ!弦太朗さんなの!?」

莉嘉「あの髪型より、今の方がカッコいいよ!」

弦太朗「な、何っ!?リーゼントは男の勲章、アレが俺のスタイルなんだ!変えるわけにはいかねぇ!」

士「お前のヘアスタイルのこだわりはどうでもいい。まずは飯を食うぞ」

弦太朗「おう!本気で戦うと腹が減るからな!」

2人は一緒に食卓につくと、揃ってお好み焼きを食べ始めた。

猛烈な勢いでお好み焼きが減っていく。流石に成人男性2人の食いっぷりは、未成年の少女たちとはレベルが違った。

士「お前、俺に敵わなくても、あそこまでやるとはな。頭空っぽでも、仮面ライダーってのは本物らしい」

弦太朗「お前こそすげえな!俺も色んな人に会ってきたけどよ、お前の動きはもうホント、なんつーか別次元だったぜ!」

士「ハッ、お前らと俺じゃ、生きる世界が違うんだよ」

弦太朗「だからこそ、負けらんねえ。次はお前の本気、見せてもらうぜ!」

士「やってみろ。できるもんならな!」

お好み焼きをほおばりながら、言葉を交わす2人。

言葉にこそ棘は有るが、士の表情と雰囲気に拒絶感は無い。

弦太朗も、士に対してムキになりすぎてはいなかった。

未央「…なんか2人とも、仲良くなってない?」

士「…なってない」

弦太朗「おっ、そう見えるか!?」

未央の言葉を否定する士と、喜ぶ弦太朗。上機嫌な笑顔のまま、弦太朗は再び右手を士に差し出した。

弦太朗「ん!」

士「……そうか」

ついに折れたのか、士も右手を伸ばす。

そして、士の手が、弦太朗と繋がれ―――

士「もらうぜ」

なかった。

その右手には箸が握られており、弦太朗の右手を躱してお好み焼きを掴んだのだ。
士の皿には、もうお好み焼きはない。そして、弦太朗の皿に残っているのは、それが最後の1枚だった。

弦太朗「あっ、てんめっ!俺の分だぞ!」

士「甘かったな」

弦太朗「…のやろッ!」

既に半分が消えた、弦太朗の皿から奪われたお好み焼き。それを、弦太朗は素早い動きで奪還した。

士「何……!?」

弦太朗「返してもらったぜ!」

そのまま最後のお好み焼きの半分は士、もう半分は弦太朗の胃袋に消えた。


弦太朗「…ごっつぁん!」

士「はあ…。さて…弦太朗」

弦太朗「おう!食後の腹ごなしと行くかぁ!」

夕食を食べ終わった2人は、片付けもそこそこに食堂から出て行った。

2人のやり取りの一部始終を見ていた、14人の少女たち。その中で、莉嘉がつぶやいた。

莉嘉「…やっぱりあの2人、仲良くなってない?」

美波「雰囲気も良くなってたみたい」

アーニャ「ツカサとゲンタロー、楽しそう、でしたね」

2人の大人は、今は眼中に相手の事しか無いようだった。きっと今頃、あの激しい戦いが再開しようとしているのだろう。

杏「…なんか意外。士って、ああいう負けず嫌いなとこあったんだ」

李衣菜「っていうか私たち、士さんのこと、殆ど知らなくない?」

みく「…言われてみれば、そうかもしれないにゃ」

門矢士は自分たちのプロデューサーの1人で、口が悪くて、態度が大きくて、
万能で、この世界の人間じゃなくて、仮面ライダーで、この世界の守護者。

しかし、彼について特徴的なのはその辺りに絞られ、彼自身の人となりなどを知っている者は、1人としていなかった。

未央「…あとつかさん、意外とアツいところもあるんだよ」

凛「そうなの?」

未央「うん。前、助けられたときなんか、そうだった」

美波「知ってるようで、全然知らない……」

堅物で強面のプロデューサーと対称的に、士は見た目が良くて性格はフランクで、近寄ることだけなら容易い。
だから、精神的な距離感は近いように感じられる。

しかしある程度の距離までは近付かせても、それから先は上手く煙に巻くように、士は自分自身のことを誰にも掴ませはしなかった。

知り合いと友人の中間のような、いてもいなくても大して変わらない、そんな微妙な距離感を、士はこれまで誰にも気取られることなく保ち続けていた。

それはつまり、士が少女たちとの接触を避けているということ。

卯月「どうしてなんでしょうか…?」


弦太朗「お前、何であの子たちのことを避けようとすんだ?」

士「ああ?」

弦太朗「とぼけたって無駄だぜ。真剣勝負中に、嘘を通せる人間はいねえ!」

士「…なるほど、最初からそれが目的か?」

球と共に、言葉を交わし合う士と弦太朗。士は、弦太朗が自分の本音を引き出そうとして勝負を仕掛けてきたことに、ようやく気が付いた。

しかし、それでも士は煙に巻こうとする。

士「…さぁな、どう思う?」

弦太朗「スマァーッシュ!」

士「っ!」

そんな士の心を示すかのような力の無い球を、弦太朗はまっすぐ叩き返した。

弦太朗「言ったろ、真剣勝負中に嘘は通せねえってな」

弦太朗「士、負けたくないなら全力で俺にぶつかって来い!んで、お前の思ってる事全部、吐き出してみろ!」

士「…いいだろう。だがまずは、お前を倒すことを一番にさせてもらうぜ」

弦太朗「っ!」

士の高速サーブを、弦太朗は返すことが出来なかった。

弦太朗「…そうこなくっちゃな。お前の本気、こっちも本気で迎え撃つぜ!」

士「迎え撃つ?ハッ、そんな余裕があると思うな!」


弦太朗「はぁー!今日2回目だけどよ、思いっきり汗かいた後の風呂は最高だな!」

士「あぁくそ…、上手く乗せられた…」

再度の激闘を終え、またしても士と弦太朗は入浴していた。

弦太朗「いやー、お前ホントにつええな!あんなに出来るとは思わなかったぜ」

士「……うるせぇ」

2度目の勝負は激しい攻防の末、士の勝利で終わった。
なのだが、今笑顔なのは弦太朗、渋面をしているのは士、と言う真逆の状態となっていた。

弦太朗「…お前さ、何か思ってることがあんなら言ってみろよ。ここには、俺とお前しかいねえんだ」

士「………………はぁ」

笑顔のままそう言う弦太朗の態度に、ついに士が根負けした。


士「……この世界はな」

弦太朗「おう」

士「…この世界は、仮面ライダーのいる世界じゃない。戦いの無い世界のはずだった」

士「だが、別の世界から『悪』がやって来て滅び行くところだった。だから、それと戦うために俺がこの世界に呼ばれた。守護者としてな」

士「……弦太朗。お前はお前の…『仮面ライダーフォーゼの世界』と、その“物語”からこの世界へやって来た。間違いないな?」

弦太朗「お、おお、おう…」

士「なら、お前の世界には『仮面ライダー』『仮面ライダーと敵対する者』『ライダーと敵との戦い』の3つがあるはずだ」

士「それぞれ『フォーゼ』『ゾディアーツ』『お前とゾディアーツの戦い』って具合にな」

弦太朗「……おう?そんなの当たり前じゃねえか、それがどうかしたのか?」

士「この世界には、そのどれもが存在しなかった。だが、まず別世界からの侵略者…ショッカーが来たことで『敵』の条件を満たした」

士「そしてそれに対抗するために俺がやって来た。『仮面ライダー』の条件を満たした」

士「そして最後に、俺はこの世界を守るために戦っている。『戦い』の条件も満たした」

士「こうして、『仮面ライダーがいない世界』に、『仮面ライダーのいる世界』の最低限の条件が全部揃った。さて、ここでお前に質問だが……」


果たして、今この世界は『仮面ライダーの世界じゃない』と言えるだろうか?


弦太朗「…………いや、言い切れねえ」

士「ああ、そうだ。この世界は、徐々に『仮面ライダーのいる世界』と同じになりつつある」

士「この世界の在り方そのものが、歪み始めている」

弦太朗「世界の、在り方……」

士「加えて言うが、仮面ライダーのいる世界におけるすべての戦いは“物語”の中に位置づけられる。
要は『戦いは世界の一部に組み込まれている』ということだ」

士「戦いがあって物語が動く、と言い換えてもいい。だが、この世界では違う。物語の中に戦いは一切ない」

士「つまり、この世界と物語においては戦いそのものが蛇足だ。戦いを取り除いてもこの世界は回っていく。要らない書き足しに過ぎない」

士「だが、蛇足は蛇足のクセに影響力がありすぎる。物語のその後を書き換えかねないほどに」

弦太朗「……わりぃ、ついてけねえ。もっと分かり易くしてくれねえか?」

士「……チッ、お前それでも教師か?」

ため息を吐き、士はここまでの話をざっとまとめた。

士「今この世界には『仮面ライダー』の俺がいて、『敵』と『戦ってる』。だが、それは本来ならこの世界、その物語には無い蛇足だ」

士「だがその蛇足が、この世界の行く末に影響を及ぼしかねない。そんなところだ」

弦太朗「おう、よーく分かった。んで?」

士「…俺はその蛇足の一部だ。それに、この世界に長く居過ぎている」

士「今までの俺の戦いは、それぞれの世界が紡いでいく物語の一瞬に現れるだけだった。いてもいなくても、大して変わらなかった存在としてな」

士「だからこそ、世界の行く末…物語の結末を、俺一人が変えることも無かった」

士「だがこの世界は違う。俺がいなければ、確実に物語の結末が捻じ曲がる。だが俺の存在だけでも、この世界は歪んでいく」


「物語の結末を変えないために、俺はここにいる。だが俺がいることでそもそも世界が歪んでいく。どっちにしろ、この世界は変わらずにはいられない」


守ることと、戦うこと。


それが、士の抱えるジレンマ。


破壊させないために戦う。だが、戦うことで世界の在り方が歪む。


どうあってもこの世界が変わるというなら、それは世界を守っていると言えるのか。


士「…結局、俺は破壊者だ。どうやっても、破壊することしか出来はしない」

弦太朗「……なあ、一つ聞かせてくれ」

士「何だ」

弦太朗「それでどうして、お前はあの子たちを避けるんだ?」

士「…さっきも言ったが、俺は蛇足の一部…要は異物だ。それも影響力のある、な」

士「そんな俺が、この世界の物語の中心と関わっている。だが俺はその物語の中に、本来なら居場所が無い存在だ」

士「それを、世界の方が無理やりねじ込んで、今の俺の役割がある。あいつらのプロデューサーって言う、表向きの役割がな」

士「本当の物語は、俺を必要としていない。登場人物として、あの14人と、1人の男、それを取り巻く周囲。それがあれば成立する」

士「そんな中にねじ込まれた異物は、何をするべきか…。分かるだろ」

弦太朗「あー……、ちょちょ、ちょっと待ってくれ。今度は整理するからよ」

腕組みして、うんうんと唸り始めた弦太朗。

3分経っても、まだ答えは出ない。
5分経っても、まだ答えは出ない。
10分経って、やっと答えを出した。

弦太朗「影響を与えないようにする…ってことか?」

士「長い。…まあ、そういうことだ」


士「歪んだ世界の中で、俺が下手に関わると、一体どこで結末が書き換わるか分からない」

士「世界の歪みは、最終的に『敵』も『俺』も『戦い』も、この世界からいなくなれば解消されるが、それだけは修正がきかない」

士「なら最初から、登場人物に影響を与えなければいい。いてもいなくても大して変わらない距離を保ち、物語に大っぴらに関わらない」

士「本来の通り、『俺がいない』物語を進めさせる。戦いが起きればそれを止めて、後は元通りの物語を進めさせればいい」


戦いと無縁の世界に呼ばれて戦う士は、守護者などと言っても結局は“戦い”という異常を持ち込む異物でしかない。

守護者として呼ぶにしたって、わざわざ物語の中心と接触させる必要は無かったはずだ。

今のところは何とか大きく書き換わってはいないはずだが、それがいつまで続くかは分からない。

少女たちが夢を見る物語に、突如として殺伐とした戦いが書き込まれる。

決して交わることのない違和感が、物語を完全に侵食し切る前に断つ。

しかし、そのための守護者すらも、違和感を生み出しかねない存在であるならば。


果たして、士はこの世界でどう在るべきなのか。


どうやって、このささやかな世界を守ればいいのか。


そのために出した答えが、“重要部分への干渉を避ける”ことだった。


士「俺はこの世界でプロデューサーという役割を持ってはいるが、それに意味は無い。いや、意味があってはいけない」

士「異物が物語を書き換えるわけにはいかないからな。だから俺は、あいつらに関わりすぎない。踏み込みすぎない。そう決めた」

弦太朗「……そういうことだったのか」

士「話は終わった。俺は上がるぞ」

弦太朗「あっおい!ちょっと待てお前!」

話を切り上げ、士は風呂から上がる。それを追って、弦太朗も慌てて風呂を上がった。


弦太朗を置いて一足先に浴場から出た士は、外に出て星空を見上げていた。


六つの仮面ライダーの世界と、この世界。
それらは、この夜空に輝く星と同じ、それぞれの歴史を持っている。
それらを旅して回ることこそ、物語を持たないディケイドの物語。
それは、士が戦いの末に見出した答え。今でもそうだと信じて疑わず、彼自身の信念となっている“旅の意味”だ。


士「それにしても、まったく長く居過ぎる。次に旅に出るのはいつになるのか」

敵の全体像は、いまだにはっきりと見えてこない。
それさえ分かれば、敵の何もかもを破壊し尽くして、さっさとこの世界から出て行ける。
そうすれば、士は旅人に戻れる。物語にほんの一瞬いただけの、通りすがりの存在。

しかし今の士は、一瞬どころではないほど長く、物語に関わり得る位置にいる。それでは通りすがりの旅人である意味がない。
唯一、戦うことにだけは意味がある。『この世界を守る』という意味が。
だが、それ以外。ここへやって来たことも、プロデューサーという立場にいることも。

士「……俺がここにいることに、意味が無い」


「んなこたねえぜ、士」


士「…しつけえな」

後ろからかけられた声。振り向けば、両手にコーヒー牛乳を持った弦太朗がいた。

弦太朗「意味がねえことなんて、世界には一つもねえ。みんな何か、意味がある」

左手に持ったコーヒー牛乳を差し出す弦太朗。士はそれを受け取った。

士「…言ったな。なら、俺がここにいることも、あいつらのプロデューサーであることにも意味があると、お前は言うのか」

弦太朗「ああ。全部は分からねえから、具体的にこうってのは言えねえけどな。それでも俺は信じてるぜ。この世界に意味のないものは一つもねえ」

弦太朗「とりあえずよ、あの子たちとちゃんと向き合うところから始めたらどうだ?」

士「……お前、記憶力も悪いのか?関わりすぎない、って言ったはずだが」

苛立ちと一緒に、コーヒー牛乳を飲む。甘ったるいはずのコーヒー牛乳も、味をさっぱり感じることが出来なかった。

弦太朗「お前、あー、物語を変えないようにする、だったか?そう言ってたよな」

士「ああ」

弦太朗「でもよぉ、それっておかしくねえか。だって、この地球にはすげーたくさんの人がいて、その人みんなに物語…ってか、人生があるんだぜ」

弦太朗「それぞれの人生とかが色んなとこで交わったりして、人生は変わってくんだ。そういうモンじゃねえのか?」

士「……交わることで、人生が、変わる……」


『俺たちはこれからも旅を続ける。世界の壁を超え、仲間をつくる。その旅はやがて、未来を変える』


弦太朗の言葉で思い出したのは、そんな言葉。

他の誰でもない、士自身の言葉だった。

士「……はぁ」

弦太朗「ん、どうかしたのか?」

士「…フフッ、フフフフフ。ハハハハハ」

可笑しかった。可笑しくて仕方がなかった。だから笑った。

士「…いや、そうだったな。様々な交わりが有って、未来は変わるもんだ」

自分で言ったことを失念し、在り方の異なる世界に戸惑い、士は自分を見失っていた。
例え一つの世界に長く留まったとしても、“前進を続ける思い”そのものが、士の旅人としての本分だったはずだ。

『諦めずに前に進めば、必ず可能性はある。そして、それこそが進化へ導く光だ』

まったく、笑えて仕方がない。そう言っておいて、自分自身は前に進むことを止めていたのだから。

士「…そうだ。俺は旅をし、仲間を作り、世界を繋ぎ、未来を変える。そのために、俺は世界と向き合うと、そう決めたはずだった」

カメラのファインダーを通してではなく、自分の目で、その心で。


士「……弦太朗」

弦太朗「おう」

士「礼は言っておく。足を止めている内に、どうやら気持ちまで止まっちまってた」

弦太朗「へっ、なんだか良く分かんねえけど、力になれたんなら良かったぜ」

隣に立った弦太朗が、肩に手を置く。士も、手を払いのけはしなかった。

士「はぁ…、甘い」

弦太朗「人生、苦いこともある。甘いものは心の平均台だ!」

士「意味が分からねえ。教師ならもう少し上手く伝えろ、バカ」

もう一度空を見上げて、残ったコーヒー牛乳を、一気に飲み干す。夜空では、先ほどと変わらずに星が輝いていた。


士「…とりあえず、あいつらに向き合ってみるとするか。『プロデューサー』として」

弦太朗「いいんじゃねえか。そうやってみりゃ、プロデューサーになった意味も分かるかも知れねえ」

士「自分が何をするべきか…な」

そのために、今士がしなければならないことは。

弦太朗「今は、あの子たちが一つになれるように見守ってやるのが、一番じゃねえか」

士「…その通りかもしれないが、俺より先に言うな」

だが、士は自分でまとめ役を蹴っている以上、しゃしゃり出てはいけない。そもそもこんな言葉遣いの人間が、まとめ役など出来るわけもない。

士「なら、新田のサポートか。…サポート。俺が、他人のサポート、か」

弦太朗「でっけえことをするためには、支えてくれる奴も必要だぜ。俺のダチが、俺の戦いをサポートしてくれたみてえに」

弦太朗「どんだけ強くても、一人じゃ戦い続けらんねえ。お前も、俺もな。だから士、お前が美波を支えてやれ」

士「分かった分かった。…とりあえず、細かいことは明日考える。今日はもう、考えるのはやめだ」


それぞれの場所で、それぞれが思い思いに今日の感想を口にしている。
話の中心は、今日やってみて全然合わなかった全体曲の事。
それに対して決意を固める者、不安を抱く者、否定的な者。やはり、気持ちが揃っているとは言えない状況だった。

士は外に残り、弦太朗が民宿の中に戻っていく。弦太朗は、その中に蘭子の姿を探して歩き回る。
そして、またしても食堂で、その姿を見かけた。

弦太朗「どうした蘭子、一人で」

蘭子が顔を上げる。言葉は無いが、その表情には不安の色が濃く滲んでいた。弦太朗は、彼女の前の席に座り、まっすぐその目を見つめる。

蘭子「あ…、弦太朗さん…。えっと、その……」

弦太朗「何か心配なら、話してくれよ。いくらでも付き合うぜ」

蘭子「あの、えっと……。いいんですか…?」

不安げに視線をさまよわせる蘭子。

弦太朗「おう。どんと来い」

弦太朗は、微笑んだまま蘭子の次の言葉を待ち続けた。

蘭子「…私、今日の全体曲で、全然みんなに合わせられませんでした」

蘭子「その理由は、なんとなく分かってるんです」

蘭子「私、ソロユニットでデビューしたから、他のみんなと違って誰かと合わせたことがなくて…」

蘭子「だから、どうやって人に合わせればいいのか、よく分からないんです…」

弦太朗「うーん、そうか……」

蘭子の話を聞いた弦太朗は、腕組みしてうんうんと唸り始めた。

弦太朗「…とりあえず、難しく考えすぎじゃねえか?人に合わせられないって言うけど、みんなバラバラなんだろ?」

弦太朗「まず、全員の気持ちを一つにする方が先じゃねえかと思うんだけどよ。気持ちが一つになってりゃ、自然と呼吸は揃ってくモンだ」

蘭子「みんなと、気持ちを一つに……。どうすれば、いいんでしょうか…?」

弦太朗「それは……」

蘭子「そ、それは……!?」

弦太朗「……分かんねえ!」

さわやかな笑みを浮かべて、弦太朗はそう言った。


様々なことがあった一日が、終わりを告げる。

翌日の午後。昨日と変わらず全体曲の練習が行われるも、未だに全員の気持ちは揃わず、振付はバラバラのままだった。

終わりの見えない中で、ただひたすらに通しで踊り続ける。それは徒に体力を消耗させ、気持ちが乗り切っていないメンバーの精神的な疲弊を招いていた。

杏「あー…。電池切れたー…」

卯月「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」

何人かは体力的に限界を迎え、床にへたり込んでしまう。彼女たちは、ただついて行くことにのみ必死になっていた。
そうして、合わせるという意識も希薄になり、続行すること自体が意味を失くし始めていた。

未央「しまむー、へばってる場合じゃないよ?」

だが、『まだ行ける、もっとやればできるようになる』と思う者が、それを分かっていながら、尚も続行を選ぶ。

未央「みんなも立って!もう一回頭から行こうよ!」

李衣菜「…でもさぁ、これって難しくない?」

みく「みんなバラバラで、全然合ってなかった…」

蘭子「……っ!」

未央「っだから、もっと練習しなきゃ!フェスに間に合わないよ!?」

杏「…このままやっても、エネルギーの無駄使いな気がする…」

未央「そんな、こと…」

気持ちを一つにするはずの練習が、逆に不和を招くという、本末転倒の状況。
しかし、状況を打破するにはどうすればいいのか、誰も考え付かない。

士「………………」

何とかするべきか、と士が口を開こうとした時だった。

美波「待って。少し休憩にしましょ?」


弦太朗「…今のまんまは、良くねえな」

士「じゃあどうする。何か案は有るか?」

弦太朗「お前はどうなんだ、士」

士「…考えてるとこだ」

弦太朗「俺もだぜ。何とかして、気持ちを揃える事さえ出来りゃいいんだけどなぁ」

どうすればいいのか、外で相談し合う士と弦太朗。

「あの、士さん、弦太朗さん。ちょっと」

その2人に、横から声がかかった。

士「どうした、新田」

美波「やりたいことがあるので、協力してほしいんです。お願いしてもいいですか?」

弦太朗「おう!任せろ!」

士「で、何をするつもりだ?」

美波「はい、昨日のお2人の様子から思いついたんですけど…」


美波「はい。休憩終わります。今日は予定を変更して、全体練習のスペシャルプログラムを行います!」

準備を終えて練習場に戻った美波は、開口一番そう言った。

李衣菜「スペシャルプログラム…?」

美波「みんな、外に出てちょうだい」

外用の運動靴に履き替えた少女たちに渡されたのは、エナドリの缶。

弦太朗「ゲェーーーッフ!」

士「汚えな!もっと静かにやれ!」

それを一気飲みし、中身を空にした弦太朗の盛大なゲップが、少女たちの後方で響き渡った。

みく「弦太朗チャンに飲んでもらったのかにゃ…」

凛「それで、これは…、リレー?」

美波「そう、ユニット対抗で競走するの。バトンはこれね」

弦太朗「中身が入ってたらいけね…ゲフッ」

士「四本も一気飲みするからだ、このバカ」

先ほど美波に頼まれたのは、このスペシャルプログラムの進行の手伝い。
リレーのバトン代わりに使うエナドリの缶を空にするため、弦太朗はそれを全て一人で飲んだ。士がいたにもかかわらず。

未央「ちょ…、ちょっと待ってよ!今はそんなことしてる場合じゃないじゃん!もっと全体曲の練習しないと…」

そんな士と弦太朗のことはさておき、今は未央が、美波の提案に異を唱えているところだ。
未央の心境からすれば当然の言葉だが、美波ははっきりとした態度でそれを切る。

美波「今日は私がまとめ役だから、私の指示に従ってちょうだい。プロデューサーさんも、昨日そう言ってたでしょ?」

未央「う……」

それきり、未央は黙り込んだ。続いて、凛が美波に問いを投げる。

凛「ねえ美波、これって必要なことなの?」

それにもまた、美波ははっきりと答えた。

美波「やればわかるわ」

美波の突然の提案に戸惑う少女たちは、互いに顔を見合わせていた。そんな中で、美波はアスタリスクの2人を呼んだ。

美波「みくちゃん、李衣菜ちゃん。この競技は3人1組だから、2人には進行をお願いするね」

「「し、進行?」」

美波「この前のイベント、2人のMCが最高だったって聞いたから、ピッタリだと思って!」

李衣菜「えっ」

みく「あの時は無我夢中で…」

美波「期待してるから、バッチリ盛り上げてね!蘭子ちゃんは、私たちとね」

蘭子「え?」

戸惑う蘭子に対して、近くにいたアーニャは優しく微笑みかけた。

アーニャ「一緒に、頑張りましょう♪」

蘭子「え…ええ」

美波「さぁ、それじゃあみんな。ユニットごとに分かれて、走る順番を決めてちょうだい」


弦太朗「みんな戸惑ってんな。美波、これやる理由を伝えねえのか」

士「これの狙いからして、言ったら意味がないからな。あくまで、あいつら自身が気付く必要がある」

士と弦太朗は、協力を求められたときに話を聞いていたし、もとより説明が無くても大方の狙いは読めていた。

士「次は飴食い競争だったか。先に用意するぞ」

弦太朗「おっしゃ」

仮面ライダーという強大な力の持ち主である2人も、今はただのアシスタントだった。


李衣菜「位置について!」

みく「よ~~い!」

李衣菜「ロックンロール!」
みく「にゃーー!」

統一感のない合図とともに、リレーが始まった。
各チームの第1走者はアーニャ、卯月、かな子、みりあの4人。

各々の全力疾走で、合宿所の向こうに消えた4人は、

みく「お~~っと、第1走者が帰って来たにゃ!」

アーニャ・みりあ・卯月・かな子の順で戻って来た。そのままバトンが第2走者、蘭子、未央、きらり、智絵里に渡る。

『このスペシャルプログラムに、何の意味があるのか?』と顔に書かれたままの未央。

しかし気持ちはともかく、未央は生まれ持っての身体能力で、高いパフォーマンスを見せる。

弦太朗「おっ、未央が蘭子を抜きそうじゃねえか!行け未央!蘭子、負けんな!」

ぐんぐんと追い上げた未央は、合宿所の向こうから出てくるころには蘭子に並び、ついにはラストのカーブで抜いてトップに躍り出た。

凛「やればわかる、って…」

未央「しぶりんっ!」

凛「っ……!」

しかし未央がトップで渡したバトンを、彼女と同じことが顔に書かれたままの凛は、集中不足から落としてしまった。

みく「何と凛選手、ここでバトンを落とした!」

素早く屈んで、バトンを拾い上げる凛。しかしそのわずかな間に、バトンパスを成功させていた美波が、凛を抜いた。

士「真剣勝負中に、集中を欠いたか」

結局そのまま抜き返すことは出来ずに、美波が一着、凛が二着でゴールした。


李衣菜「お次は飴食い競走!」

各チームからの出場者は未央、美波、莉嘉、かな子。

士「三村の圧勝か…?」

みく「位置について~…よーい!」

李衣菜「ロックンロール!」
みく「ロックンロー!」

ちょっと一致した2人の合図と共に、4人が一斉に駆け出した。
最初にトレイいっぱいの粉に顔をつけたのは、やはり脚の速い未央。続いて美波、莉嘉の順に、粉に顔をつけた。
そして、最後であり士の予想で名が挙がったかな子だったが、彼女はまず顔のつけ方からして、他の3人とは異なっていた。

士「ぐっ……!何だあれは……!」

息を大きく吸うと、顔をつける直前に思い切り吐き出して、粉を大量に吹き飛ばす。
そして、粉に顔をつけるとほぼ同時に、飴玉を見つけて顔を上げた。

卯月「かな子ちゃん、もう見つけたんですか!」

杏「流石はお菓子の申し子!」

智絵里「あっ、でも…!」

飴玉を見つけてゴールするまでがこの競技。かな子から少し遅れて飴を発見した未央が、全力疾走でかな子を追い抜き今度こそ一着を勝ち取った。

未央「よーし一着!」

続いてかな子、莉嘉とゴールし、今度は先ほどとは対象的に、美波が最後のゴールとなった。

未央「ふふん…」

してやったり、という笑みを美波に向ける未央。しかし、そんな未央の笑顔を見て、美波は嬉しそうに笑っていた。

士「本田は上手く乗せられてきたな」

美波をライバル視して、彼女に勝つために全力を出す。そのために、未央は疑問も忘れて、プログラムに取り組んでいた。

弦太朗「いーや違うな。ありゃ気持ちに余裕が出来てきた証拠だ」

同時に、これまで見れなかった、他人の表情を見る余裕が出来ている。

弦太朗「プログラム、上手く行ってるじゃねえか」

バラバラだった14人の少女たちは、目の前のプログラム、もとい遊びに徐々に集中し始め、気持ちが一つに揃い始めていた。


李衣菜「お次は3人4脚!」

みく「3人の息が合っているかが勝負の鍵!ユニットの結束力が試されるにゃ!」

みく「それじゃあ、よ~~い!」

「「ロックンロール!」」

ようやく揃った2人の合図とともに、皆が一斉に動き出した。
先頭に出たのは、やはりと言うべきか、ニュージェネレーションズの3人だった。
次に、身長差はアンバランスでありながら、メンバーバランスはいい凸レーション。
そして、キャンディアイランドが続く。

みく「一方最後尾は…」

急ごしらえの、ラブライカに蘭子を加えた3人組。

士「当然と言えば当然だな」

急ごしらえ、且つ他人と息を合わせることに慣れていない蘭子がいる、という時点で圧倒的に不利なのは最初から分かっていた。
他の3ユニットとの間は、どんどんと開いていく。
蘭子たち3人がようやく練習所の角を曲がったところで、もうニュージェネレーションズはゴール目前にいた。

「「「1,2!1,2!1,2!」」」

そのまま、最後まで失速することなくゴール。
続いて、凸レーションもキャンディアイランドも、遅れはあるが特に問題もなくゴールした。

李衣菜「さて、残るは…!」

皆の視線の先にいるのは、必死にゴールを目指して進む、美波・アーニャ・蘭子の3人。
しかしゴールを目の前にして、蘭子が転んでしまった。
焦る蘭子は、何とか立ち上がろうとするが、足を繋がれた状態ではそれもままならない。
しかし、足を繋がれたままの2人は、蘭子のことを励まし続けた。

美波「落ち着いて、蘭子ちゃん。ゆっくり立ち上がりましょう?」

アーニャ「ランコ、大丈夫。一緒に、頑張りましょう」

蘭子「っう、うん」

転んでしまったが、今の蘭子は一人ではない。共にゴールを目指して走り、支えてくれる、美波とアーニャという仲間がいる。
それを理解した瞬間、蘭子の中で、何かがすっと、どこかに落ちた。

それと同時に、みんなの応援が聞こえてきた。


「「「頑張れー!」」」

李衣菜「諦めないのがロックだよ!」

弦太朗「うおおーーっ!!頑張れ蘭子ーーっ!!」


蘭子「…2人とも、一緒に、お願いします!」

美波「ええ!アーニャちゃんも、いい?」

アーニャ「Да!せーの、で行きましょう」

「「「せーの!」」」

その一言で。一緒にいる2人を少し頼る、ただそれだけで。
立ち上がれないと、一人で悪戦苦闘したのが嘘みたいに、すっと立ち上がることが出来た。
美波とアーニャが、蘭子を見つめ、蘭子が頷き返す。3人は、みんなの待つゴールへ向けて、再び走り出した。

「「「1・2、1・2、1・2……」」」

ぎこちない進みも少しずつ、一歩ごとに呼吸が合い始め、スピードが上がっていく。

「「「1,2!1,2!1,2!」」」

呼吸を合わせて、足並みを揃えて、気持ちを一つに。
ゴールインした3人を迎え入れる少女たちの気持ちは、今確かに、一つになっていた。


士「目的は果たしたな」

弦太朗「おう。あの子たちみんな、自分たちだけで団結できたみてえだ」


美波が提案したスペシャルプログラムの目的は、全員の気持ちを一つにすること。

気持ちを一つにする。言葉で言うのは簡単だが、それが少女たちにはどうしても出来なかった。

そんな、少女たちにとって“困難なこと”を、同じく“困難なこと”であるダンスの振付合わせを通して、行おうとしていた。

それでは上手く行くはずもない。やり方が間違っていた。

そこで美波が出したのが、誰でも出来るような“簡単なこと”である遊びやゲーム、競争を通じて、気持ちを一つにするという案だった。

そこで一度、どのような形であれ、気持ちを合わせることが出来たのなら、少なくとも団結することは不可能ではない。


弦太朗「俺があれこれ口出しする必要も無かったなぁ」

士「自分たちで気付いて、自分たちで出来たんなら、それが一番だろ」

弦太朗「ああ」

ユニットの枠を超え、自然とお互いに微笑みを交わす少女たち。今まであやふやだった繋がりが、やっと一つに結びつこうとしていた。

弦太朗「同じ体験をして、心から通じ合ったあいつらは、今こそ本当の仲間になれるはずだ」

士「“友情”とか“絆”ってやつか?」

弦太朗「おう!お前も分かって来たじゃねえか!」

士「そんなことくらい、俺は知ってる。ずっと前からな」

ただ、足を止めている間に、心まで止めてしまったせいで、忘れていただけだ。


練習場入口の石段に腰かけ、ラムネを飲む士と弦太朗。彼らの目の前では、水鉄砲を持った少女たちが右往左往していた。

未央「隙ありっ!」

智絵里「きゃっ!」

かな子「わっ!冷たいよ未央ちゃん!」

立ち止まって辺りを見回していた、智絵里とかな子の無防備な背中に、そっと忍び寄った未央が水を命中させた。

未央「ふっふーん。戦場で隙を見せてはいけないのだよ、ちえりん、みむっち!」

士「…そっくり返してやろう」

士は、かな子が落とした水鉄砲を拾い上げると、真正面から未央を撃った。

未央「うわっ!?ちょっ、つかさん急に何!?」

咄嗟の事だったが、未央は反射的にそれを回避した。

士「撃っていいのは、撃たれる覚悟のある奴だけだぜ、本田」

引き金部分に人差し指をひっかけ、くるくると回転させる士。
グリップを握り、噴射口をぴったりと未央に合わせるその姿は、戦士のそれだった。

未央「…ていうか、つかさんが入っちゃダメじゃん!勝てなくない!?」

士「ちょっとした余興だ。かかって来いよ」

未央「むっ、そんなこと言われたら、未央ちゃんも本気出しちゃうよ~!」

未央も水鉄砲を構え、士に相対する。西部劇の決闘のような緊張感が漂っていく中で、ついにトリガーが引かれた。

弦太朗「うおりゃあっ!」

士「ハンッ!」

不意打ち気味に後ろから放たれた水を、士は難なく回避した。

士「お前も来るか、弦太朗」

弦太朗「おう!今度は勝たせてもらうぜ!水鉄砲、サンキューな智絵里!」

智絵里「は、はい!未央ちゃん、弦太朗さん、頑張ってくださーい!」

士に噴射口を合わせたまま、弦太朗は未央の隣へと移動する。

未央「よし、ゲンちゃん!一緒に私たちの世界の破壊者を倒そう!」

弦太朗「っしゃ!覚悟しろ士ぁ!」

士「…ハンッ!いいだろう、かかって来い!全てを破壊してやる…!」


凛「あれ、何…?」

美波「えっ?」

凛の視線の先にあったもの。

それは水鉄砲を手に、士を追い回す未央・みく・李衣菜、そして弦太朗の4人の姿。


弦太朗「オラっ、待て士ぁ!」

士「ハッ、お前は狙いが甘いんだよ!」

未央「むっ、隙あり!」

士「そう来るのは読めてたぜ、本田!」

李衣菜「ロックに行くぜー!」

みく「ネコチャンパワーを喰らうにゃ!」

士「お前らはどっちかに揃えろ!」


凛「何て言うか…、士さん、さすがだね…」

4vs1という数的不利でありながら、士は持ち前の身体能力で水を避け続けていた。

未央「ねえ、まだ残ってるみんなー!つかさんを倒すのに、力を貸してほしいんだー!」

未央の声が、合宿所の全域に響き渡る。勿論、それは凛と美波にも聞こえていた。

美波「フフッ、面白そう!私、ちょっと行ってくるわね!」

そう言って、美波は駆け出して行ってしまった。

凛「ちょっと美波!…もう!」

凛も、美波の後を追って士たちの元へと走っていく。


士「…フッ、結局最後はこうなる定めか……っ!」

士は1人、笑っていた。
その周囲を取り囲む、8人の少女と1人の男。
未央、みく、李衣菜、美波、凛、蘭子、きらり、杏、そして弦太朗。
全員が一斉に、士に水鉄砲を向けた。

未央「この世界を、お前に破壊なんてさせないぞー!」

きらり「そうだにぃ!この世界は、ぜーったいに守って見せるにぃ!」

弦太朗「そうだ、お前はここでぶっ倒してやる!」

蘭子「我らが裁きを受け、虚無へと還るがいいわ、破壊者よ!」

士「フンッ、やってみろ。やれるもんならな……!」

ノリにノリまくっている未央・蘭子・きらり・弦太朗の4人と、それに付き合って悪役を引き受ける士は、誰もが今の状況を楽しんでいた。

杏「…士、キャラまでおかしくなってない?」

凛「みたいだね…」

彼女たちの知る門矢士は、こんな風に他人の流れにノッて、自らアクションを起こしてくるような人ではなかった。

みく「士チャンも、何か変わったってことなのかにゃ」

李衣菜「だといいね。よーっし、行きますよー!」

李衣菜の一発を開戦の合図に、水鉄砲大戦が始まった。


士「フッ」

みく「にゃっ!?」


士「そこっ」

李衣菜「うわっ、やられた!」


士「ハッ」

きらり「にょわっ!?」


士「これでっ」

杏「わーやられたー」


弦太朗「あっという間に4人をやったか…。流石に侮れねえぜ…」

士「…どうした?そんなもんか?」

再び水鉄砲をくるくると回転させる士から、余裕の表情は全く消えていない。

4人を失ったことで、攻撃の手は一旦止まっていた。

蘭子「くぅぅ…!斃れし我が同胞たちよ、汝らの思いは我らが受け継ぐ。必ずや、彼の者を打ち倒さん…っ!」

凛「って言っても、このままじゃ当てられそうにないよ…」

美波「みんなでバラバラに撃っても、避けられるだけね」

未央「なら、私たち5人の力を合わせるしかないよ!そうでしょ、ゲンちゃん!」

弦太朗「おう!一つになってかかりゃあ、士にだって絶対に勝てる!」

士「お前らがか?ハッ、笑わせてくれる…!」

いよいよ悪役ぶりに拍車がかかって来た士。
というか、ライダーを倒して回っていた昔とほぼ同じ演技をしているため、今の士は本当に破壊者だったころに近くなっていた。

みりあ「みんなー!頑張ってー!」

莉嘉「士くんだけど、やっつけちゃえー!」

アーニャ「юстиции…正義は、必ず勝ちます!」

李衣菜「ロックに行けば絶対勝てるよー!」

加わらなかった者と脱落者の応援が、5人に向かって飛ぶ。
水鉄砲合戦というより、もうヒーローショーになりつつあったが、一部を除いてそんなことには気が付いていなかった。

士「………………」

静かに、水鉄砲を構え直す士。

弦太朗「来るか…!」

残った5人も、士に向けて水鉄砲を構えた。

士「覚悟はいいか?」

悪役ではあるが、士に負けてやる気は微塵も無かった。このまま5人を倒し勝つことしか、頭には無い。

弦太朗「っしゃあ!俺たちの絆の力、見せてやるぜ!」

そう言い、弦太朗が駆け出す。

ついに、決戦の火ぶたが切って落とされた。




「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――」




士「―――――――」


ただし、それは遊びではなく、怪物たちとの決戦の、だったが。



彼らの目の前に、オーロラが出現した。


「「下がれっ!!」」

2人の反応は素早い。しかし、敵の方がもう少しだけ早かった。

蘭子「きゃっ…!」

士「神崎っ」

弦太朗「蘭子ぉーっ!!」

突如出現したオーロラからは、大量のダスタードが出てきた。そして、その一瞬の混乱に乗じて、蘭子が拘束されてしまったのだ。

「ハッハッハ。1人は手に入ったか」

そしてその向こうから、いい加減聞き飽きた声が聞こえてくる。

士「蛇野郎…っ!」

オーロラの向こうから、またしてもオヒュカス・ゾディアーツが姿を現した。


弦太朗「テメェッ!!蘭子を放しやがれっ!!」

近くにいたダスタードを叩き伏せ、弦太朗が吼える。蘭子以外の全員を逃がした士と弦太朗は今、生身でダスタードの大群を相手していた。

オヒュカス「フフフ。この少女を解放しろというなら、条件がある!」

蘭子「う…っ!」

オヒュカスの声が響き渡ると同時に、ダスタードは一斉に動きを止め、士と弦太朗の前から退いた。

士と弦太朗、2人の仮面ライダーは互いに肩を並べて、戦闘態勢を取る。

士「チッ…。いいところだったのに、水差しやがって」

オヒュカス「フハハハハ!世界の破壊者などと恐れられる貴様が、このような小娘共との戯れに興じていた姿は、実に滑稽だった!」

弦太朗「んなこたぁどうでもいい!早く蘭子を放しやがれ!」

蘭子「うっ…。か、仮面の戦士たち…」

ダスタードに捕らわれ怯える蘭子を見て、オヒュカスは笑った。

オヒュカス「ハッハッハ!小娘が欲しいか?ならば、ディケイドォ!!」

士「ああん?」

オヒュカス「貴様のベルト、武器、ツール。その全てを捨て、こちらに寄越せ!」

弦太朗「何っ!?」

オヒュカス「さもなくば、この小娘を殺す。さあ、私を討ち小娘を見殺しにするか、小娘のために自らの力を捨てるか…」

オヒュカス「選べ!ディケイドォ!」

蘭子を優先して、変身できなければオヒュカスは倒せない。

しかし士が変身すれば、オヒュカスは確実に蘭子を殺す。

以前プロデューサーを人質に、未央を脅迫した時の態度からも、それは明らかだ。

士「……弦太朗」

弦太朗「何だよ士!?」

士「お前は中に戻ってろ」

弦太朗「なっ…、そんなこと出来るわけ」

士「ベルトもないお前は、今アイツに脅威として認識されてない。ここにいる価値がない」

弦太朗「…だからって、お前と蘭子を残して後ろにいるわけにはいかねえだろ!変身できねえけど、俺だって仮面ライダーだ!!」

士「分かってる。だがな弦太朗、お前には中で“やること”があるはずだ」

弦太朗「俺が中で、やること…?」

士「……忘れるな、思い出せ。お前には仲間がいるんだろ?」

士「今は神崎を取り戻すために力がいる。俺が手放す分は、お前に任せるからな」

士の示唆的な言葉を咀嚼し、飲み込んで、弦太朗は頷いた。

弦太朗「…分かった。士、死ぬんじゃねえぞ。絶対だからな」

士「ハッ、もう一回死んでる身だ。それに、いい加減アイツを終わらせないと気が済まない」

士の肩を叩いて、弦太朗が民宿へと走って行った。


残されたのは、士と蘭子の2人。そしてオヒュカスと無数のダスタード。

オヒュカス「何を言っていたかはどうでもいいが…、決断はしましたか?」

士「ああ。俺の決定はな…」

蘭子「……っ!」

蘭子は、強く目を瞑る。その先の事は、見たくなかった。


士「……ほらよ」


オヒュカス「ほう…!」



士は、取り出したディケイドライバー、ライドブッカー、そしてケータッチの3つを、まとめて放り投げた。


士「これでいいか。さっさと神崎を解放しろ」

それぞれのツールはダスタードがキャッチし、オヒュカスの元へと持って行った。

蘭子「……え……?」

士の言葉に、恐る恐る目を開けた蘭子。その限りでまだ彼女は生きていて、士は自分の力を手放していた。

オヒュカス「…ックックック……!ハハハハハハハ!」

士「…ああ?うるせえな、何笑ってやがる」

オヒュカス「まさか貴様が、小娘の命を優先するとはなぁ!?世界の破壊者とやらも、随分甘くなったものだ!ハハハハハ!」

蘭子「か、仮面の戦士よ、なぜ……」

気だるげに手を払いながら、士は答えた。

士「…神崎。俺はハッキリ言って、お前の事を理解できないし、したくないと思ってた。面倒だからな」

蘭子「…………」

士「だがな、どっかのバカのお陰で、俺はこの世界で生きる決心が出来た。プロデューサーとしてな」

士「……今の俺は、“多分”お前たちのプロデューサーだ。そんなわけで、神崎。とりあえずお前を助けてやる」

蘭子「か、仮面の戦士……」

士「…で、蛇野郎。物は出した。早く神崎を返せ」

そう言って、両手をひらひらと振る士。
だがオヒュカスは、一向に蘭子を解放する様子を見せない。それどころか、士を紫色のダスタードの群れが取り囲んだ。

士「…次は何だ。サンドバッグか?」

オヒュカス「ハハハ。今まで散々蹴散らしてきた雑魚共に嬲られ、屈辱に塗れるお前の顔が見たくてなぁ……ッ!」

士「………………」

オヒュカスの念動力が、士の身体を拘束した。動けない士を、ダスタードたちが寄って集って次々と殴りつける。

蘭子「……っ」

目を閉じても、耳には士が殴られる生々しい音が飛び込んでくる。
音だけでも精一杯なのに、その姿を直視することなど、蘭子に出来るはずもなかった。

オヒュカス「ハハハハハ。小娘、あの男が今ああなっているのはお前のためだ。良かったなぁ、誰かの命で長らえることが出来て」

蘭子「うぅ……っ!」

オヒュカス「フフハハハハ!ハハハハハハハハハハハ!」

オヒュカスの哄笑が、殴打の音と共に響き渡る。

それでも蘭子には、どうすることも出来なかった。

オヒュカス「ハハハァ…。さて、どんな顔になったか…、見せてもらおうかぁ?」

地面を杖で叩くと、ダスタードたちが一斉に士の元を離れた。

オヒュカス「ハッハッハ……、ううん?」

士「……ハッ」

オヒュカスの目に映る士は、笑っていた。唇の端から血が滲み、青あざがいくら出来ていても、いつものように不敵な笑みで、オヒュカスを笑い飛ばす。

士「雑魚はどれだけやっても雑魚だな。お前も、もう少しまともなこと考えたらどうだ?」

オヒュカス「貴様……ッ」

士「痛みで俺をどうにか出来ると思ったか?なら甘いな。俺をどうにかしたいなら、ナツミカンでも連れて来い」

目は揺らがずにオヒュカスを睨みつけ、声は少しも震えることなくオヒュカスを打つ。
変身も出来ない、武器もない、身体も動かせない。
だが士は今、『門矢士』という存在の全てで以って、オヒュカスと対等に対峙していた。

オヒュカス「……ッ!?」

士「…どうした?もう終わりか?ならさっさと神崎を返せ」

オヒュカスも身じろぐほどの圧倒的な存在感を駆使し、士は場の空気を支配していた。

士「俺は“世界の破壊者”だ。伊達や酔狂で名乗ってるわけじゃないんだぜ」

オヒュカス「く……っ」

“ある力”を得て強化されたはずのオヒュカスでさえも、指一本動かすことも出来ない。
対等な時など一瞬で、有利であるはずのオヒュカスが下、無力なはずの士が上、という逆転現象が発生していた。



士「…お前は、何にしても破壊してやる。だがその前に、神崎を解放しろ」


士「そうすればまだ、多少はマシな最期を迎えられるかもしれないぜ?」

オヒュカス「お、おのれぇぇ……ッ!!」

その言葉が、オヒュカスに怒りの火を点けた。念動力をさらに強め、士を渾身の力で締め上げる。

オヒュカス「命令するのは私だッ!!貴様ではないッ!!」

だが、士の表情に変化はない。

士「ハッ、虚勢を張ってるな。そんなに俺が怖いか?」

オヒュカス「矮小な人間如きが…!!星の力を得て進化した私に、よくも歯向かうッ!!」

士「またそれか。お前の進化論はもう聞き飽きた」

オヒュカス「貴様、どこまでもコケにしてくれる……ッ!!その顔、絶望と恐怖に歪ませてくれるわァ!!」

士「フン、やってみろ」

動けない士を、再びダスタードが取り囲む。

包囲が完成すると同時に、士が放っていた猛烈な存在感が、突然薄らいだ。

オヒュカス「行けぇッ!!」

怒号を合図に、ダスタードたちが一斉に刀を振り上げる。それでもまだ、士は不敵な笑みを浮かべたままだった。


「うぅおおおおおりゃあああーーーっ!!」

オヒュカス「何ッ!?」

弦太朗「ハッ!!おりゃっ、おおらあぁっ!!」

オヒュカス、そして末端のダスタードに至るまでが、士に意識の全てを向けていた。
その存在感を無視することなど、出来はしなかったのだ。だから、士以外の誰も、弦太朗の存在に気付かなかった。

弦太朗が、ダスタードを蹴散らしていく。

オヒュカス「貴様ッ、最初からこれが狙いで…!!」

士「『喋りが過ぎる』って言ったのはお前だったよな。お前も、いつまで話に付き合う気だったんだか、マヌケ」

嘲笑して、士はオヒュカスを一瞬だけ睨みつけた。

オヒュカス「――――――」

士が放った強烈な殺気に中てられ、オヒュカスは士の身体を拘束していた念動力を、無意識に解除してしまった。

士「フッ」

身体が自由になった瞬間を逃さずに、士はアクションを起こす。右手を胸元のポケットに突っ込む。取り出したのは、彼の名刺。

士「ハッ!」

それを、3つのツールを持つダスタード、そしてオヒュカスに投げつけた。

ライダーカードを投げて鋼鉄の鎖も切った士が、似たような形の名刺を投げればそれは立派な武器となる。
名刺は狙い通りダスタードたちの手にヒットし、ツールをその手から離させることに成功した。

オヒュカス「このッ!!」

オヒュカスに投げた名刺は、彼の目の前で光によって消滅する。しかし、それが士の狙い。ほんの一瞬だけ注意を逸らさせて、

弦太朗「頼むぜみんな!」

オヒュカス「なッ、このッ、小賢しいマネを……ッ!!」

小さなフードロイドたちが張り付き、オヒュカスをかく乱する。
こうしてオヒュカスの注意はフードロイドに向き、士たちに意識を集中することが出来なくなった。

士「来いっ」

士の指示に従って、彼の背後に出現したオーロラから、下に停めてあったマシンディケイダーが独りでに走って現れる。
士はそれに飛び乗り、ダスタードを蹴散らしながら、オヒュカスへと突進した。

オヒュカス「なッ」

士「はあああッ!!」

高速のマシンディケイダーが、オヒュカスに迫る。

そして、まったく勢いを殺すことなく、士はオヒュカスを撥ね飛ばした。


オヒュカス「ごあッ―――」


士「進ノ介がいたらまずかったな」

マシンから降りて、駆け寄って来たダスタードを軽く蹴散らす。
周囲の安全がある程度確認できたところで、士は蘭子の名を呼んだ。

士「…神崎」

蘭子「ひうっ!」

士「そのリアクションが出来るなら十分だ。戻るぞ」

蘭子「う…、うぅ…」

恐る恐る、目を開ける。

彼女の目の前には、ボロボロの顔で、でもいつも通りの士の姿があった。

蘭子「あ、あの、わ、私のせいで…」

士「話はっ!…後で聞く。今はとりあえず乗れ」

会話の途中で、士は襲い掛かって来たダスタードを蹴飛ばした。士の態度は余裕そのものだが、生憎それほど状況に余裕はない。
士はドライバーなどを拾い上げてメットを被り、マシンに跨る。蘭子も、士が渡したメットを被って、彼の後ろに乗った。

士「行くぞ」

蘭子「う、うむっ」


美波「蘭子ちゃん大丈夫!?」

蘭子「は、はい」

未央「らんらんが無事でよかった…!」

解放された蘭子に駆け寄り、彼女を抱きしめる少女たち。

心配してくれて、涙を流してくれる仲間がいる。蘭子はもう、一人ではなかった。

アーニャ「ツカサ、大丈夫ですか…?」

士「ああ。弦太朗を待たせてる、もう行くぞ」

未央「つかさん。あんな奴、いつもみたいにやっつけちゃって!」

士「分かってる」

士がここでこうしている間も、弦太朗は一人奮闘している。

オヒュカスとの決着をつけるため、そして弦太朗を助けるために、再び戦場に赴こうとした士のことを、蘭子が呼び止めた。

蘭子「士さんっ、待ってくださいっ」

士「…何だ?」

蘭子「あのっ、こ、これ…」

そう言って蘭子が差し出してきたのは、黒いハンカチ。

蘭子「血が出てるから、これで拭いて、下さい…!」

士「………………」


それを受け取らずに行こうとした士は、ふと逡巡した。


目の前にいる蘭子は、自分に歩み寄るためにハンカチを渡してきた。


それを受け取らないのは、今までと同じではないか。


避けていた時と、何も変わらないのではないか、と。



士「…後で、洗って返す」



蘭子「…はい!士さん、頑張ってください!」


オヒュカス「おのれディケイド…ッ!!何度私の顔に泥を塗ると言うのか…ッ!!」

弦太朗「ぐわっ!」

苛立つオヒュカスは、衝撃波でダスタードごと弦太朗をふっ飛ばした。

弦太朗「つええな…。だけどっ、諦める気はねーぞ!!」

オヒュカス「貴様は邪魔だ!!ディケイドォ…、ディケイドォッ!!」

怒声が、空気を震わせる。




士「やれやれ、俺もすっかり人気者になっちまったもんだぜ」



だが、その怒りの全てを向けられてなお、門矢士はいつも通りでそこにいた。


顔をハンカチで拭い、それをポケットにしまう。悠々と歩いてきた士は、地面に倒れたままの弦太朗に歩み寄っていった。

士「よく一人でやってくれた。礼は言っておくぜ」

弦太朗「たとえお前が認めなくても、俺とお前はダチだからなっ。ダチが困ってる時は、必ず助け合う!」

士「それが“友情”か」

弦太朗「ああ!俺の信じる友情だ!」

屈託なく笑う弦太朗に、士は身をかがめて手を差し伸べた。

弦太朗「士、お前…」

士「良いから立て。まずはそれからだ」

弦太朗「……おう!」

その手を取って、弦太朗が立ち上がる。

士と弦太朗。2人の仮面ライダーが並び立った。



「おのれぇぇぇぇぇッ……!!」

「矮小な人間どもめ……!!何故偉大なる星の力の前に抗う!?何も成し得ぬそんな小さな力で、一体何ができるというのだ!!」

「貴様ら人間には、何も出来はしない!!進化したものだけが、全てを成し得る絶対の力を持つのだ!!」

「進化しない愚かな者たちよッ!!その矮小な存在が得られなかった、進化の光を目に焼き付けて消え行くがいいッ!!!」





「確かに、人間の力は小せえ!1人っきりじゃな!」

「でもな、それが集まって心から繋がった時には、思いっきり燃え上がる!!」

「その光は、星にも!銀河にも!!宇宙にだって負けやしねえ!!!」

「それが友情だ!!仲間との絆だ!!心の繋がりが生み出す、最強の力だ!!!」


士「…まったく、俺の台詞取りやがって、この野郎」

弦太朗「ってことは…、俺たち同じこと思ってたってことか!」

士「フッ、どうやらそうらしい」

弦太朗「ならもう、俺とお前はダチだ!士!」


弦太朗が伸ばした右の手を、


士「ダチ…か。ま、悪くない」


士も右の手を伸ばして、握りしめる。



2人は、握手して、3度互いの拳を打ち合わせる“友情のシルシ”を交わした。


士「…来たか」

ポケットに手を突っ込み、中からライダーカードを引っ張り出す。

その手の中で、カードに鮮やかな色が付いた。

弦太朗「フォーゼの…力か?」

士「そうだ。弦太朗、こいつはお前に渡しておく」

弦太朗の手にフォーゼのカードを握らせた士は、また不敵に笑った。

弦太朗「な、なんだよ。何か起こんのか?」

士「ああ。『ダチが困ってる時は、必ず助け合う』だったな」



「その通りだぜ。お前のダチが、お前を助けてくれるだろう」



士の言葉の直後。

オヒュカス「ッ!?」

弦太朗「うおっ!?」

弦太朗の目の前にオーロラが出現し、一気に弦太朗を通過した。

弦太朗「まさか…!」

スーツの内側に手を突っ込んだ弦太朗の手に、よく知ったものが触れる。

青春時代を共に駆け抜けた、“これ”もまたダチの一つ。



フォーゼドライバーが、その手に握られていた。


オヒュカス「バカなッ、フォーゼドライバーは失われたはず…ッ!?」

士「カードには、俺が変身する以外に、世界を超えた現象を起こす力がある」

士「どこかの世界から現存するドライバーを呼び寄せたか、あるいはここに新しい物を出現させたか…」

士「まあ、そんなことはどうでもいい。お前のダチが来たぞ、弦太朗」

弦太朗「おう……、おうっ!!」

弦太朗は、再会の喜びを分かち合うかのように、ドライバーを数回撫でる。

弦太朗「また一緒に戦ってくれ!」

そう言って、弦太朗は下腹部にドライバーを当てがった。銀色のベルトが伸長し、ドライバーが装着される。

士「役者は揃ったな」

士も追ってディケイドライバーを装着した。



士が、ライドブッカーから引き出したディケイドのライダーカードを、オヒュカスに見せつけるように構える。


弦太朗は、4つの赤いスイッチを右から順にオンにし、ドライバーの右部分にあるレバーを勢いよく掴んだ。


『THREE! TWO! ONE!』



「 「 変身っ! 」 」



『KAMEN RIDE DECADE!』


ドライバーから出現した7枚のライドプレートが、頭部に突き刺さる。


頭上に出現したゲートからコズミックエナジーが降り注ぎ、オレンジの複眼が光を放った。




「うおおっ!久しぶりだぜこの感じ……!」





「宇宙っ、キターーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」




士「うるせえな、何だ急に!」



弦太朗「…っしゃあ!仮面ライダー…フォーゼ!」



弦太朗「ディケイドと一緒に、まとめてタイマン張らせてもらうぜ!!」


士「どう見てもタイマンじゃねえだろ」

弦太朗「いーんだよ!『行くぜ!』ってことだ!」

弦太朗が右の拳を突き出し、オヒュカスに宣戦布告した。士も、手を払ってからライダーカードを取り出す。

士「夏らしく、カブトムシで行くとするか」

『KAMEN RIDE BLADE!』

ブレイラウザーの刀身を撫で上げる士と、髪をセットするように撫でる弦太朗。

オヒュカス「貴様ら……、まとめて消し去ってくれるわァァァッ!!」

オーロラから出現する大量のダスタードたちを前にして、士と弦太朗は互いの拳を打ち合わせた。

士「行くぞ」

弦太朗「おうっ!!」


「「はあああああああーーーっ!!」」


『ATTACK RIDE SLASH!』

士「フッ!」

スペードの2、リザードの力によって切れ味を増したブレイラウザー。士はそれを振るって、次々とダスタードを斬り伏せていく。


『Hopping ON!』

弦太朗の左脚に、ホッピングモジュールが出現した。
そのバネを駆使して高く跳躍すると、ダスタードを次々と踏みつけていく。

弦太朗「ぃよっ!」

『Gyro ON! Water ON!』

続けて、ホッピングで高く跳んだ弦太朗の左腕にプロペラが、左脚に蛇口付きのタンクが出現。
ホバリングしながら上空から水を高圧で噴射して、ダスタードを纏めていく。

『Hammer ON!』

左腕のプロペラが消え、代わりにハンマーが出現した。

弦太朗「うおおおおおりゃああああーーーっ!!」

弦太朗は、落下の勢いも乗せて思いっきり地面を叩く。
発生した衝撃波が、一塊のダスタードたちを吹き飛ばし、星屑へと変えた。


オヒュカス「喰らえッ!」

オヒュカスの頭部から伸びた毒蛇たちが、一斉に士へと迫る。
大きく開いた口からは、強力な毒を持つ、真っ白な牙が露わになっていた。

『ATTACK RIDE METAL!』

士「ハッ」

しかし、トリロバイトの力を発動した士の身体は、鋼のように硬質化して、毒蛇の牙をまったく寄せ付けない。

士「ハァッ!」

弾かれた蛇の頭が、ブレイラウザーの刃で斬り裂かれる。しかし以前と違い、毒蛇の頭は切れた先からものの数秒で再生した。

士「チッ…」

オヒュカス「今の私に、その程度の攻撃は無意味と知れ!」


『Elek ON!』

弦太朗はエレキスイッチを装填し、エレキステイツへとステイツチェンジした。
そんな弦太朗を、紫色のダスタードが取り囲み、一斉に刀を振り下ろす。

弦太朗「おっと!」

『Shield ON!』

それをビリーザロッドと左腕のシールドで防ぐと、

『Smoke ON! Stealth ON!』

煙幕を発生させて視界を奪い、さらにダメ押しとばかりに光学迷彩で素早く姿を消した。
弦太朗は、ダスタードやオヒュカスと交戦中の士の背後に接近し、声を掛ける。

弦太朗「思いっきり電撃を放つ!巻き込まれたくなきゃジャンプしろ!」

士「電撃か。なら丁度良い」

『ATTACK RIDE THUNDER!』

弦太朗「おっ、じゃあ一緒に行くか!」

『Elek! LIMIT BREAK!』

弦太朗「ライダーっ、100億ボルトバぁぁーーストっ!!」

地面に突き立てたブレイラウザーとビリーザロッドから、強烈な電撃が放たれる。
電撃は一気に地面を奔り、多くのダスタードを瞬時に消滅させた。

オヒュカス「グッ、小賢しい…!」

それでもまだ、オヒュカスが生み出したダスタードは、続々とオーロラの向こうからやって来ようとしている。

士「ここじゃ狭いな。下に落とすぞ」

弦太朗「よっしゃ!」

『ATTACK RIDE BEAT!』

『Rocket ON!』

弦太朗「ライダー、ロケットパァーンチッ!」

士「ハァァッ!」

オヒュカス「うあぁッ!」

2人の強烈なパンチを喰らい、オヒュカスは下の海岸へとふっ飛ばされた。

後を追って跳び、2人も海岸に降り立つ。

弦太朗「おっし。これで思いっきり戦えるぜ」

士「さて、まだやるか?」

オヒュカス「貴様らを殺すまでなぁッ!」

その怒りに呼応し、頭部で蠢く毒蛇たちが、口から紫色の光弾を発射した。

弦太朗「うおぉぉぉっ!?」

士「チッ!」

弦太朗はシールドで何とか直撃弾を防御し、士はブレイラウザーで光弾を切り裂く。

弦太朗「くぅっ…!」

しかし、光弾は無尽蔵かと思われるほど大量に発射され、絶え間なく2人を襲う。押され始め、徐々に動きが間に合わなくなっていく2人。

士「畜生、うぜえな!」

オヒュカス「喰らえぇぇッ!!」

その隙を逃さず、特大の光弾が2人目掛けて放たれた。

「「ぐあああああーーーっ!!」」

弦太朗「ああああああ………」

士「弦太朗っ!」

士を守るため、シールドを構えて咄嗟に前に出た弦太朗は、海の方へとふっ飛ばされ水柱を上げて姿を消した。

オヒュカス「貴様も後を追わせてやろうッ」

士「チッ……!」

立ち上がった士の目の前で、オヒュカスは再びオーロラを、ダスタードを呼び出す。

オヒュカス「行けッ!」

士「雑魚は何体来ようが、変わらねえがなぁ!」

次々と湧いてくるダスタードを、昨日と同じ海岸でひたすらに屠り続ける士。
そんな士を狙って、オヒュカスの頭部から毒蛇が伸びる。毒蛇は、器用にダスタードの間を縫って迫っていた。

士「なるほどっ、多少は策を持ってきたようだな!」

オヒュカス「フンッ、その態度がいつまで保てるか、見せてもらおうかッ!?」

ダスタード、その間を縫って迫る毒蛇。士は弦太朗抜きで、その対処を迫られる。

それでもまだ余裕の態度を崩さなかった士だが、オヒュカスは更なる一手を繰り出した。

オヒュカス「さぁ、お前ひとりでいつまで耐えられるかなァ!!」

自らの頭上に巨大な紫色のエネルギー球を生み出し、そこから無数の光弾を放つ。
そして、ただ放たれて終わりではない。
光弾はオヒュカスの念動力で操られ、予測不能な軌道で襲い掛かり、避けられてもなお士を追い続ける。

士「こんなところで、とっておきを出すことになるとはな!」

一撃でも喰らえばあとは死まで一直線の緊張感の中、士は状況の打開を1枚のカードの力に賭けた。

『ATTACK RIDE TIME!』

鐘の音が鳴ると共に、士以外の世界の全てが停止した。

スペードの10、タイムスカラベ。能力は、数秒間の時間停止。

士「ハァァァッ!」

止まった世界の中で、ダスタードを、毒蛇を、光弾を斬り裂きながら、士がオヒュカスへと駆けていく。

士「これを俺に使わせたのは、お前が初めてだぜ。ハッ!」

『ATTACK RIDE KICK!』

士「だァァーーッ!!」

時は過ぎ去り、再び世界が動き出した。

オヒュカス「な―――」

突然目の前に出現した士の姿に驚愕し、反応の遅れたオヒュカスに、ローカストキックが突き刺さる。

士「くっ、浅いか」

オヒュカスはふっ飛ばされこそしたが、上手く体勢を整えて着地した。

オヒュカス「貴様、何をしたッ」

士「出来ることを、な」

オヒュカス「ふざけるなァッ!」

オヒュカスが杖の先端を士に向けた瞬間、海から何かが飛び出した。

オヒュカス「何だ!?」

士「遅ぇんだよ!」

弦太朗「わりいな!思ったより遠くまで飛ばされちまってよ!」

海中から飛び出してきたのは、ふっ飛ばされた弦太朗。左脚にはスクリューモジュールが装備されていた。

弦太朗「その分、思いっきり行くぜ!!」

『Fire ON! Launcher ON! Gatling ON!』
 
弦太朗は空中でファイヤーステイツへチェンジし、同時にランチャー・ガトリングの火器モジュールも、両脚に出現する。

オヒュカス「生きていたのかッ!?」

弦太朗「勝手に殺すんじゃねえ!んなことより喰らいやがれ!」

『Fire! Launcher! Gatling! LIMIT BREAK!』

弦太朗「ライダー爆熱シュート、一斉掃射ぁぁぁーーーっ!!」

火炎放射、ミサイル、ガトリングの一斉掃射によって、ダスタードが瞬時に消滅する。

オヒュカス「おのれぇッ」

威力は凄まじく、さすがのオヒュカスもバリアを張って防御を行った。


『ATTACK RIDE TACKLE!』
『ATTACK RIDE METAL!』
『ATTACK RIDE MACH!』

連続で3枚のカードを挿入した士。その身体が、再び鋼の如き硬さを得る。

士「ついて来い、弦太朗!」

弦太朗「よっしゃあ!」

『Winch ON! Board ON! Chainsaw ON!』

腕にフックが引っ掛かかるのと同時、姿勢を低くした士はダスタードの群れに向かって猛然と駆け出した。
超高速で駆ける、鋼鉄の肉体。その勢いを止めることは誰にも出来ず、進行ルート上のダスタードがいとも容易く撥ね飛ばされていく。
その後ろで牽引されている弦太朗は、左脚のボードで地面を滑走しながら、右脚を大きく振り回して周辺のダスタードを屠り続けた。

弦太朗「もういっちょぉ!」

『Chain Array ON!』

チェーンソーに続き、今度は鎖鉄球が右腕に出現する。
先ほど同様、思いっきり腕を振り回して、ダスタードを一斉に粉砕した。

弦太朗はウィンチをオフにし、十分な加速のついたボードで、高く跳躍する。

弦太朗「おおりゃあああ!割って、挿す!」

『N!』
『S!』
『『Magnet ON!』』

空中でマグネットステイツにチェンジした弦太朗は、両脚のスイッチを新たにセットし直した。

『Beat ON! Aero ON!』

オヒュカス「ぐッ…!?この音は……ッ!」

スピーカーから放たれた特殊音波に惑わされた敵を、エアロモジュールが外気を勢いよく吸引することで、一まとめにしていく。

『ATTACK RIDE MAGNET!』

士もまた強力な磁力を発生させ、敵を引き寄せると同時に、空中の弦太朗の姿勢を支える。

『Magnet! LIMIT BREAK!』

弦太朗「ライダー超電磁ボンバーっ!!」

NSマグネットキャノンから放たれた電磁エネルギー弾が炸裂し、最後のダスタードが消滅した。

オヒュカス「バカなッ、あれだけの数を用意したというのに…ッ!!」

士「言っただろ、雑魚はどれだけやっても雑魚だってな」

弦太朗「いょっと。そうじゃねえだろ、士。それがお前の、1人の力の限界だ!」

士と弦太朗に、用意した軍勢の全てを撃破され、オヒュカスは力なく俯いた。

オヒュカス「くッ―――」


その姿は、諦めたようにも見える。しかし、その様子は、予想されるものとは違っていた。

士「ああ……?」

弦太朗「笑ってやがんのか…?」

オヒュカスの肩は、震えていた。


オヒュカス「クックックックック……。アーッハッハッハッハッハッハッハ!!」


士「…ヤツの“本当の力”だ。来るぞ!」

弦太朗「ああ、わかってらぁ!」



「やはり、私が信じるべきは私のみ!この絶対にして究極の星の力があれば、私1人で全ては事足りる……ッ!!」


「遊びは終わりだ!これで、貴様らを消滅させる…!!我が“最輝星”の力は、絶対にして絶大だ!!」



「超・新・星……ッ!!」


紫の光に包まれ、オヒュカスの姿が変貌する。

巨大な蛇の腹から、同じく腹から尾にかけての部分が四本、脚のように生える。

それを下半身とし、巨大化した上半身には、星空か、あるいはその心の色を表したかのような、漆黒のローブを纏う。


士「超新星…、ノヴァとやらか。なるほど、これが力の正体だったわけだ」

オヒュカス「これこそが私の進化の究極系、この姿こそ星の力そのものだッ!!」

オヒュカスの頭上に、再び光球が生み出される。それだけは先ほどと同じだったが、光球の大きさはまさしく桁が違っていた。

オヒュカス「ハーーーーッ!!」

「「ぐああっ!!」」

直撃こそしなかったものの、余波だけで2人は大きく吹き飛ばされ、海岸を転がる。

士「チッ…、逃がしたツケがこう来るか…!」

ダメージを受けてディケイドに戻った士は、ケータッチを取り出した。

オヒュカス「フハハハハ!自らとこの世界を呪いながら、死んで行けェッ!!」

オヒュカスを迎撃するべく立ち上がった2人の耳に、知った声が飛び込んできた。

「ふっ、2人とも、頑張ってくださーい!」

「頑張れー!士くーん!弦太朗くーん!!」

「ツカサ!ゲンタロー!Удачи…頑張って、ください!」

士「あいつら……」

弦太朗「来たのか……!」

石段から、14人の少女たちが応援を飛ばしていた。

弦太朗「サンキューなみんな!みんなの応援がありゃあ100人力だぜ!!」

少女たちに大きく手を振る弦太朗を見て、オヒュカスは嘲笑した。

オヒュカス「フンッ。自ら身を守る力も持たない弱者が、お前たちを利用して身を守ろうとしているだけだろうッ!」

大蛇が鋭い牙を剥き、士と弦太朗に襲い掛かる。

『FINAL KAMEN RIDE DECADE!』

『ATTACK RIDE BARRIER!』

コンプリートフォームへ強化変身した士が、ディケイドの紋章を模したバリアを発生させて、それを止めた。
しかし、単純な力でもオヒュカスが勝っているのか、バリアには徐々にヒビが入り始める。

弦太朗「士!?」

士「さっきは俺が助けられたからな…。借りは返すぜ…!」

オヒュカス「バカバカしいッ、無駄なあがきを!!」

大蛇の力は更に強くなり、ついにはバリアを突き破った。鋭牙の前に、士がその身をさらす。


弦太朗「逃げろ、士―――」


士「くが……っ!!が、うっ……!!」


士の肩に猛毒を持つ牙が突き立ち、その装甲を破って肉体にまで到達した。


オヒュカス「ハーッハッハッハッハッハッハ!!そのまま毒に悶えて死ねェッ、ディケイドォォォ!!」


弦太朗「士ぁーーーっ!!」


「士さん!!」


オヒュカス「フハハハハハハハハハ!!ハッハッハッハッハッハッハッハ……ああ?」

オヒュカスは、異変に気付く。

抜けない。士の身体から、牙が抜けないのだ。


士「っぐ…!!」

牙の突き立った士は、それを自分の手でつかみ、渾身の力で押さえ込んでいた。

士「今だ……、あいつらに見せてやれ、弦太朗っ。お前の…、絆ってやつを…っ!」

弦太朗「…おうっ!!みんな、これを見てくれ!!」

弦太朗が取り出し、少女たちに見せたのは、ロイヤルブルーの大きなスイッチ。

弦太朗「こいつにはすっげえパワーがあるんだ。でもな、これを使うには、俺と俺のダチの絆が必要になる!」

「だけど!たとえ今、ダチと違う世界にいたとしても!俺は絶対に変身できる!!」

「本当に繋がってる絆は、みんなと離れてても途切れねえし、すっげえ力を俺にくれる!!」

「みんなが一つになった時のすっげえ力ってのを、今から見せてやるぜ!!」



「みんなの絆で、宇宙を掴むっ!!」


『Cosmic ON!』


40全てのスイッチが色とりどりの光になって、虹のネックレスのように弦太朗を取り囲む。


その全てを取り込み、弦太朗はフォーゼの究極形態、コズミックステイツへとチェンジした。


弦太朗「待ってろ士、今助ける!」

胸部のパネルをタッチしてスイッチを取り出すと、それをバリズンソード・スラッシュモードに装填しオンにする。

『Claw ON!』

弦太朗「うぉおおりゃああっ!!」

バリズンソードから出現した3本の鉤爪上のエネルギー刃が、大蛇の頭を斬り裂いた。

オヒュカス「ぐぅおおぁッ!?このコズミックエナジーは…ッ!!」

弦太朗「なでしこ!力、借りるぜ!」

クロースイッチを抜き、今度は大型のロケットスイッチを装填する。

『Rocket ON!』

ロケット噴射するバリズンソード・ブーストモードを構え、弦太朗はオヒュカスに単身で突撃した。

弦太朗「どおおーーりゃああああああっ!!」

オヒュカス「がっ、クソぉッ!!」

巨大化の弊害で、攻撃が届きにくくなった下半身へ潜り込んで、バリズンソードを突き立てる。
猛烈な推進力には抗えず、オヒュカスは洋上に運ばれ、海へと叩き落とされた。


未央「つかさん、身体大丈夫!?」

智絵里「し、しっかりしてください…!」

弦太朗「士!無茶しやがってお前!」

士「……っぐ……!!」

変身が強制解除した士に駆け寄る、弦太朗と少女たち。
士は強烈な毒に身体を蝕まれているはずなのに、地面に膝をつく程度でそれに耐えていた。

弦太朗「今治す!」

『Medical ON! Radar ON!』

メディカルにレーダーの効果を付与。レーダーによって士の体内スキャンと毒の分析を行い、それを無効化する薬が生成される。

弦太朗「チクッとするぜ」

注射器を用いて薬を士の体内に入れると、士の身体から瞬く間に毒が消滅した。おまけに、傷も治っている。

士「ハァ……、もう少し早くやれよ」

弦太朗「ヘッ、そんだけ余裕がありゃあ大丈夫だな!」

弦太朗の手を取って、士が立ち上がる。並んだ2人の視線の先で、オヒュカスが海から飛び出して来ていた。

士「ここはお前に任せていいか」

弦太朗「おうっ!ちょっとくらい休んでもいいんだぜ!」

凛「士さん、大丈夫なの?」

士「俺の事はいい。いったん下がるぞ」

迫り来るオヒュカスを弦太朗に任せて、士は少女たちを石段の元まで退き返させる。

士「これから先はより危険になる。上に戻ってもいいが、ここに残るならこの場を絶対に離れるな」

みりあ「私、残るよ!最後まで、士さんと弦太朗さんのこと、応援するから!」

きらり「きらりも残ゆ!」

かな子「わっ、私も…!」

誰もが口々に、残ることを告げていく。あるいは最初から、皆そのつもりだったのか。

杏「…杏も残るよ」

最後に杏がそう言い、14人の少女は1人として戻らずに、ここで戦いを見届けることを選んだ。

士「そうか。もう一度言うが、上に戻ること以外で、ここを絶対に離れるな」

「「「はい!」」」

一つになった少女たちの返事を受け、士は踵を返して歩き出す。

『FINAL KAMEN RIDE DECADE!』

少女たちに、自らのあるべき姿を見せるように、士は再び変身を遂げた。


弦太朗「ハッ!おーりゃっ!もらったぜ!」

上手く取り付くことに成功した弦太朗は、先ほど士に注射したのと同じ薬を、オヒュカスにも投与した。

オヒュカス「クッ、我が毒を無効にしようというのかッ!だが無駄、完全に消し去ることは―――」


『ATTACK RIDE BLAST!』


言葉は続かない。オヒュカスの頭部には、士が放った光弾が命中していた。

弦太朗「おう、もういいのか士?」

士「ああ。ヤツを倒すのが先だろ」

弦太朗「だな!」

オヒュカス「ぬぅおおおッ!!」

弦太朗「うぉっ!?」

オヒュカスが放った強力な衝撃波によって、士と弦太朗は揃って吹き飛ばされた。
そして倒れた2人を狙って、無数の光弾が迫っていた。

『Hand ON! Pen ON!』

ハンドにペンの能力を付与。マニピュレータの先端にペンが握られ、空中に達筆な字を書いていく。
『青春銀河』という四字熟語が書き終わり、文字が実体化すると同時に、銀河のようなオーラが発生して光弾を防いだ。

弦太朗「青春銀河アターック!」

弦太朗はさらにその文字を蹴飛ばし、オヒュカスにぶつけた。オヒュカスが怯んだ隙に、弦太朗はまた違うスイッチをセットする。

『Giant Foot ON! Net ON!』

ジャイアントフットにネットの効果を付与。巨大な電磁ネットが、上空からオヒュカスを捕縛した。

オヒュカス「何ッ!?身動きが…ッ!」

それを逃さず、弦太朗は背面のスラスターを使った大ジャンプで、オヒュカスの身体に飛び乗った。

『Wheel ON! Spike ON!』

その上で、ホイールにスパイクの効果を付与。ホイールのタイヤに棘が付き、走るだけでオヒュカスの身体に棘が次々と刺さっていく。

士「フッ!」

巨体をよじるオヒュカスの様子を見て、士も思い切り跳び上がり、オヒュカスの目前に迫る。

『ATTACK RIDE SLASH!』

オヒュカス「おのれッ!!」

士「でゃああぁっ!!」

大上段から振り下ろされたライドブッカーは、防御しようと咄嗟に構えた杖ごと真っ二つに斬り裂いた。

士「弦太朗っ!」

士が脇に避けて、入れ替わりに弦太朗がオヒュカスに迫る。

『Stamper ON!』

弦太朗「ライダーっ、スタンパーキーック!!」

ホイールのスピードを乗せた強烈な跳び蹴りが決まり、オヒュカスの上半身に、巨大な仮面ライダー部のマークが捺された。

オヒュカス「くッ、何を―――」

弦太朗「ドカン、だ!」

弦太朗の言葉を合図にしたかのようなタイミングで、マークが爆発。

士と弦太朗が、その爆風を利用して高く跳び上がると、

『Drill ON!』

弦太朗「ライダードリルキーック!!」

士「ハァァーーーッ!!」

2人のキックが、オヒュカスに突き刺さった。

オヒュカス「ぐぉあああ……ッ、あぁぁああぁぁッ!!」

2人のライダーのキックに加え連続で攻撃を受け続け、ダメージが蓄積していたオヒュカスは、ついに耐え切れずに巨大化を解除した。

揃って地面に着地した2人。弦太朗はバリズンソードを構え、トドメの準備に入った。

弦太朗「ここで倒すと、この辺丸ごとふっ飛ばしちまう」

ドライバーからコズミックスイッチを外し、バリズンソードにセットしようとした、その時。

オヒュカス「させる……かッ……!!」

オヒュカスの頭部から伸びた毒蛇が、バリズンソードに絡みついた。

オヒュカス「分解してやるッ」

毒蛇に巻き付かれたバリズンソードは、先端からその形を失い、あっという間に消滅した。

弦太朗「わぁーっ!?アレが無きゃ宇宙でトドメさせねえ!」

オヒュカス「ククククク。どうした仮面ライダー、私を倒すんじゃなかったのかァ!?」

吼えるオヒュカスは、先ほどまでのダメージなど微塵も感じさせないほどの苛烈な攻撃を繰り出してきた。

士「あの武器のコズミックエナジーを吸収したか…!」

ふっ飛ばされた2人は、それぞれ通常形態とベースステイツに戻ってしまう。

弦太朗「何かいいのはねえのか、士!」

答えるまでもない。士はライドブッカーからカードを1枚、引き出した。

士「俺とお前の力だ。それでヤツにトドメを刺す」

弦太朗「うっしゃ!俺とお前の絆ってわけだな!どんと来やがれ!!」

士「フッ。ちょっとくすぐったいぞ!」

『FINAL FORM RIDE FO・FO・FO・FOURZE!』

弦太朗の背中に触れると、その身体を覆うようにオレンジ色のパーツが出現した。
その全身がオレンジ色の円筒に包まれると、その後部にロケットの噴射口が出現する。

最後にその巨大なロケットが士の右腕に装着され、弦太朗は『フォーゼロケット』への変身を遂げた。


士「行くぞ!」

右腕を前に突き出し、ロケットの噴射でオヒュカスに突撃を仕掛ける。

オヒュカス「今更そんなもので……ッ!!」

光弾や毒蛇が次々と襲い掛かるが、士はそれを躱し確実にオヒュカスへと迫っていた。

士「うあぁっ!!」

オヒュカス「ぐッ!小賢しい…!!」

士の突撃を、オヒュカスはバリアを張って防いだ。しかし、士の勢いは弱まるどころかもっと強くなっていく。

オヒュカス「バカなッ!!人間如きの脆弱な力が、私の力をも超えるというのかッ!!?」

士「確かに!人間1人の力は弱い。だから互いに信じあって、力を合わせる!」

オヒュカス「私はッ、私はッ!何者にも勝る、進化した存在なのだッ!!すべての力はッ、私1人だけの力なのだッ!!」

士「1人のお前の力が、俺たちに敵うはずがない!それが“俺たち”と“お前”の決定的な差だ!」

バリアを割って、ロケットがオヒュカスの身体を捉えた。士はそのまま洋上へと移動し、そこから更に上昇していく。

士「お前は確かに、力や身体は進化したかもしれない。人間を超えた存在になったかもな」

オヒュカス「そうだッ、私は進化をッ!!」

士「だが、お前はそれを扱うのに一番重要な部分が進化しなかった。分かるか?」

オヒュカス「何をォォッ……!!」

士「心だ。繋がりを否定し、人間を見下したお前の心は、最後にお前の進化を妨げた」

オヒュカス「黙れ…ッ」

士「見かけが変わって、力が強くなったところで、お前の心が進化しなければ、真の進化なんてものは無い」

オヒュカス「黙れッ、黙れぇぇぇぇぇぇッ!!」

士「お前は、お前の心は!ただの怪物だっ!!」

宇宙空間にまで飛び出した士は、オヒュカスを思い切り殴り飛ばした。



『FINAL ATTACK RIDE FO・FO・FO・FOURZE!』



左脚にマゼンタのオーラを纏い、ロケットの猛烈な推進力を得た士のキックが、オヒュカスに叩き込まれた。

オヒュカス「ごァァ……ッ!!」

士「はぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!」

マゼンタのオーラが、ドリルのように回転してオヒュカスを抉る。


「おのれ…!!おのれディケイドォォ……ッ!!」


「貴様は一体ッ、何なんだァァァァァァァッ!!!!」



「通りすがりの…いや、違うな」




「今は“この世界の仮面ライダー”だ、覚えておけ!」




士の身体が、オヒュカスの身体を貫いた。


背後でオヒュカスが大爆発を起こす中、士の右腕からロケットが分離し、元のフォーゼへと戻った。

弦太朗「ヘッ、やったな士!」

士「ああ」

弦太朗が右手を伸ばす。

しかし、士がそれを掴むことは無かった。

士「―――――」

弦太朗「士ぁぁーっ!!」

士の身体は重力に引っ張られ、地球への落下を開始した。


いくら仮面ライダーの装甲と言えど、この勢いのまま地表に激突すればただでは済まない。

世界の破壊者ではあるが、一応は士も人間だ。普通に死ぬこともあり得るだろう。

徐々に大きくなってくる地表の風景。あと何秒で激突するのだろうか。


そうぼんやりと考えていた士の耳に、知った声が飛び込んでくる。


「士ぁーーーっ!!掴まれえーーーっ!!」


士「…うるせえ奴だな、まったく」


弦太朗が伸ばしたマジックハンドのアームを掴み、士は仮面の下で笑った。





弦太朗「…ぃしょっと。士、大丈夫か!」

士「ああ」

パラシュートで勢いを軽減し、2人は無事に地球へ、元の海岸へと降り立った。


弦太朗「おっ、大縄跳びか。よし任せろ、俺と士が縄回しをやってやる!」

士「おい、勝手に決めるな」

弦太朗「いいじゃねえか、どうせやるんだからよ!ほらそっち持て!」

ため息は吐いたが、士は素直に大縄の端を握った。

14人は、大縄を跳ぶべく一列に並んでいた。その真ん中の辺りから美波の声がする。

美波「士さん、弦太朗さん、ありがとうございます」

士「で、何回を目標にする?」

みく「まずは30回にゃ!」

弦太朗「っしゃ行くぜー!」



「「「せーのっ!」」」


士「フンっ」

「「「いーち!にーい!さーん!しーい!ごーお!」」」

軽快に回っていた縄は、そこで引っかかってしまった。

智絵里「ご、ごめんなさいっ。失敗しちゃって…」

申し訳なさそうに謝る智絵里。それを励ましたのは未央だった。

未央「どんまいちえりん!」

智絵里「で、でもっ、私が失敗しちゃって…」

未央「大丈夫!焦らないでいこっ♪」

弦太朗「おーう!焦ると固くなっちまうからな、楽しく行こうぜ!」

蘭子「みんなで心をひとつにすれば…!」

素直な気持ちが、自然と出てきた。それに驚き、皆が蘭子の方を振り返る。

士「…神崎の言う通りだ」

未央「おお~う?つかさんから意外な言葉が出ましたなぁ」

士「心を一つにしろ。今のお前たちなら出来るはずだ」

これには一同が驚いた。彼女たちの知る門矢士は、こういう時に突っ込んだ意見を言わない人のはずだからだ。

士「…何だ」

アーニャ「フフッ。ツカサも、変わろうとしてますね?」

士「何だっていいだろ。ほら、ぼさっとしてないでもう一回だ」

未央「よーし、トライアゲイン♪」

かな子「智絵里ちゃん、一緒に頑張ろう!」

智絵里「…うん!」

落ち着いてもう一回。自然と全員の意識がまとまっていく。

未央「じゃあ掛け声よろしく、みなみん!」

美波「え、私?」

士「他に誰がいる、まとめ役」

他の皆も頷く。それで、彼女の決意は固まったようだった。

美波「…ええ!みんな、『せーの』で行くわよ!」

弦太朗「よーっし、どんと来い!」

士と弦太朗が縄を握り、少女たちが腰を落とす。準備は整った。

美波「せーのっ!」

1、2、3、4、5、6、7、8、9、そして10。それを超えて、少女たちは、共に跳び続けた。


P「ただいま戻りました、門矢さん。あの、そちらの方は」

弦太朗「俺は如月弦太朗!別世界の人間ともダチになる男だ!よろしくな!」

P「は、はぁ…」

弦太朗の右手を躊躇いがちに握り返し、友情のシルシを交わす。

戻ってきたプロデューサーが、一番にやったことがそれだった。

士「目的の物は?」

P「受領して、持ってきました。明日、皆さんに配ろうと思っています。ところで門矢さん、皆さんはどうなりましたか」

言葉は足りないが、まっすぐな問いだった。だから士も、まっすぐに今の状況を伝え返す。

士「今のアイツらなら出来るはずだ。見に行くか」

P「はい」

士自身も、伝えた言葉は少ない。それでもプロデューサーは、状況をしっかりと理解した。

弦太朗「なあ士、プロデューサーさん。俺もあいつらのダンス、見ていいか?」

士「ああ。見たいなら好きにしろ。お前は?」

P「私はここにいなかった者ですので、門矢さんの判断に従います」

士「だとよ。行くぞ」

2人を伴って、士は練習場へ向かう。その途中で、プロデューサーは士に聞いた。

P「あの、門矢さん。…また戦われたのですか」

士「ああ。そこのバカと一緒に、あの時の蛇野郎とな」

弦太朗「安心しな、俺たちがきっちり倒しといたぜ」

それを聞いて、プロデューサーは安堵の息を吐く。
士だけでなく、プロデューサーにとってもオヒュカスは因縁のある相手だけに、これでやっと溜飲が下がった。

3人は練習場に着いたが、中の少女たちは互いの振付を確認し合っている最中で、彼らがやって来ている事にも気付いていない。
彼女たちの意識を集めるため、士は手を叩く。突然の音に顔を上げた少女たちは、プロデューサーの姿を見ると自然と笑顔になった。

きらり「Pちゃん!お仕事おっつおっつ、だにぃ☆」

蘭子「我が友よ!闇に飲まれよ!」

莉嘉「お帰り、Pくんっ!」

駆け寄って来ようとする数人を手で制し、プロデューサーは口を開く。

P「皆さん、全体曲の方はどうなりましたか」

すると全員が顔を見合わせ、代表して美波が答えた。

美波「今から、みんなで合わせます。プロデューサーさん、士さん、弦太朗さん。私たちを見ていてください!」

P「はい」

士「ああ」

弦太朗「おう!」

もう一度、顔を見合わせる少女たち。不安はもうどこにもなかった。

代わりに、そこには仲間への信頼と笑顔があった。


音楽が終わる。

弦太朗「……おお……。おおお~~~っ!!すごい、すごいぜお前たち!カンッペキじゃねえか!」

余韻をぶち壊すように、拍手しながら大声でそう言う弦太朗。

そして、しきりに拍手する弦太朗と対照的に、プロデューサーと士は無言で頷いた。

「「「………やったーー!」」」

誰からともなく微笑み、喜びを分かち合う少女たち。それは認められたことの喜びよりも、自分たちが一つになれたことの喜びから来ていた。

士「…まったく、その程度を揃えるのに時間がかかりすぎだ。揃いはしたが、細部はまだまだだぜ」

P「門矢さん……」

珍しく、プロデューサーが苦笑する。わざと捻くれた言い方をし、素直に少女たちを称賛しない同僚のことが、少し面白かった。

士「何笑ってんだ」

P「…いえ、何も。皆さん、全体曲はこのまま行うということでよろしいでしょうか」

「「「はい!」」」

P「分かりました。では一つ、提案があります」

それは、フェスに向けてまとめ役となるプロジェクトのリーダーを決めようというもの。
提案を聞いた少女たちの視線は、自然と1人に集まった。

美波「…えっ、私?」

未央「みなみんリーダー!」

弦太朗「美波、お前なら出来るぜ!」

士「お前は黙ってろ」

P「新田さん。…お願いできますか」

美波「……はい!」


その夜。花火に興じる少女たちを少し離れたところから眺める士の隣で、星空を見上げて弦太朗がつぶやいた。

弦太朗「なあ士。俺、そろそろ帰った方が良いと思うんだけどよ、どうすりゃいい?」

士「カードを返せ」

弦太朗「おう」

士に言われ、弦太朗は戦う前に渡されてからそのままのライダーカードを返した。それと同時に、フォーゼドライバーも消えていく。
弦太朗は少し寂しそうな、しかしそれ以上に共に戦えたことへの感謝を湛えた表情になり、消えていくフォーゼドライバーを見送った。

士「弦太朗」

弦太朗「心配ねえ!何たって、ここが繋がってるからな!」

笑って、二度胸を叩く。彼の笑顔には、一点の曇りもなかった。

弦太朗「でな、士」

士「『俺とお前もそうだ』、…だろ?」

弦太朗「…おう!」

士も、自然と笑う。2人の心は、間違いなく通じ合っていた。

士「帰る前に、挨拶くらいはしていけ」

弦太朗「ハナッからそのつもりだぜ」

そう言い、弦太朗は少女たちの元へと歩いて行った。


未央「ゲンちゃん、帰るんだね」

弦太朗「ああ。1日だけだけどよ、みんなといれて楽しかったぜ」

美波「弦太朗さん、色々と力を貸してくださって、本当にありがとうございました」

弦太朗「気にすんなって。俺は教師だからな!若者の成長を手助けしただけだ」

美波「…いえ、本当に助けていただいたんです。私、やっていけるか不安で」

俯いた美波は、躊躇いがちに口を開く。

美波「…私、元々自分がアイドルになるなんて、考えたことも無かったんです。本当に想定外で、私にとっては一つの“冒険”でした」

美波「みんなと出会って、そうしたらユニットデビューが最初に決まって。…嬉しかったけど、不安だったんです」

弦太朗「新しいスタートに立って、先が見えないのが怖かったのか?」

美波「…はい。何もかも未知のことばっかりで、どうすればいいか、わからなくなって」

そこで美波は、何かを思い出すように自分の掌を眺めた。

美波「でも、不安は半分こ出来たから…。一緒に不安を乗り越えて見えた景色は、とってもドキドキできるものでした」

美波「だから、冒険して、一歩踏み出してみて良かったって、思えたんです」

美波「次のライブも、きっとまた新しい景色が見えるチャンスなんだろうな、って」

美波「まとめ役だからじゃなくて、今度はみんなと一緒に何が見えるのか、私自身が確かめてみたいんです」

弦太朗「…未知の世界への冒険、か…。その気持ち、ちょっと分かるぜ」

美波「え?」

弦太朗「俺もダチになりたい奴が出来た時に、そんな気持ちになる。たまに、色んな不安とか迷いとかが生まれることもある」

弦太朗「だけど、そういうのも乗り越えてダチになれた時、色んなモンが俺の心に入って来るんだ。こう、ぶわーっ!てな」

弦太朗「それがお前の言う“新しい景色”ってやつなのかもしれないな」

美波「弦太朗さん……」

新しい世界に踏み出していくこと。誰かの心に踏み込んで行くこと。
そこで見える景色。そうして感じられる思い。
それらは共に、人が次に進むための力をくれる。

弦太朗「…おし!これから一緒に未来を目指すお前たちに、俺の親友の親父さんの言葉を贈る!」

それはかつて、弦太朗が最後の宇宙の力を得た時に、賢吾から教えられた言葉。
偉大な先人の言葉として、弦太朗がやってきたことの象徴として、弦太朗が死ぬまで忘れることは無いだろう言葉だ。




『宇宙を掴む若者たちへ。宇宙は一人では挑めない。互いを信じ合い、手を繋げ。最後に不可能を超えるのは、人間同志の絆だ』


弦太朗「お前たちも、この先色んな事を経験するだろう。当然、限界っていう壁にぶつかることもあると思う」

弦太朗「そんな時には、仲間を信じて手を繋げ。手を繋いで、心を、絆を繋ぐんだ」

弦太朗「繋がった絆は、たとえ一人になったとしても、前に進む力をくれる。その力がありゃ、限界なんて自分の手でぶっ壊せるんだ」

弦太朗「新しい景色を目指して、みんなで進め、乙女!」

縁側に腰かけていた美波は、すっと立ち上がってお辞儀した。

美波「お会いできてよかったです、弦太朗さん」

弦太朗「また会おうぜ、みんな」

弦太朗はぐるりと皆の顔を見回して、蘭子に真っ正面から向き合った。

弦太朗「蘭子。もうお前は一人じゃねえ、みんながいるぜ」

蘭子「はい!我が同胞と共に……ううん、みんなと一緒に、頑張りますっ!」

弦太朗「よし!俺もお前のダチだ、蘭子!」

伸ばした右手を、蘭子も躊躇うことなく握りしめ、互いの拳を打ち合わせた。


士「じゃあな、弦太朗」

弦太朗「お前も仲間だ。あの子たちにちゃんと向き合え」

士「分かってる。この世界に来た意味、あいつらといる意味は、自分で見出す」

士は手にしたフォーゼのライダーカードに意識を集中する。するとすぐ目の前にオーロラが出現した。
弦太朗は髪を撫で上げて、いつものように爽やかに笑い、すっと右拳を突き出した。


弦太朗「またな!」


士「ああ、またな」


士と弦太朗の拳がぶつかり合う。


そして、弦太朗はオーロラの向こうに消えて行った。



士「…さて」


彼を呼ぶ声がする。士はカメラのシャッターを外し、少女たちの輪の中へ向かって、一歩を踏み出した。


今回はここでおしまいです。

サブタイトルの訳は「乙・女・前・進」。フォーゼのサブタイトルに則ってつけました。
アニメの12話で挿入歌だった「ススメ☆オトメ」から取っています。英語も4単語にしたりで結構気に入っているサブタイです。

ちなみにフォーゼが使用する40個のスイッチはフードロイドの物も含めて今回全て使用。
併せてブレイドのラウズカードも全部使いました。マグネットの使い所があって良かったと思うばかりです。


途中で士がメタ気味にした話は、要約すると「世界観がおかしくなる」ということです。

最初はこんなこと考えて書いてた訳じゃないのですが、色々ご指摘をいただく内に
「長い間一つの世界にいて、そこで怪人と戦い続けてたら、それもう仮面ライダーの世界じゃね?」
という発想が生まれました。それを文章化したものが士の一連のセリフです。

その問題は「俺がいなくなる」、話が終わることでしか解決しません。
この歪みを長々と抱えたまま、当シリーズは続いて行きます。

人を選び、人によってはかなり嫌われる内容ではありますが、気に入ってくれている方々には今後もお付き合いいただけたら幸いです。

また機会があったらよろしくお願いします。

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