凛飛鳥蘭子「『昼夜侯爵と帳の姫』?」 (64)

(実質)初投稿です。

キャラ崩壊してる可能性もありますが、それでもよろしければ。

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某日・事務所

モバP(以下P)「・・・ハイ、ハイ・・・ではその通りにお願いします、ハイ!」

飛鳥「・・・・・・」

P「ハイ、それでは!」ピッ

P「ーーーっいよっし!」

飛鳥「随分と機嫌がいいようだね。電話の話し方からして仕事関係だとは思うけど、一応改めて聞いておこうか?」

P「ふふふ・・・聞きたいか?聞きたいか二宮飛鳥?そうか聞きたいか!ならば教えてやr」

飛鳥「茶番は十分だよ、プロデューサー。早く本題に入ってくれ」

P「あ、そうかい・・・」ションボリ

P「・・・っと!本題を忘れるところだった」

飛鳥(全く、感情の起伏が激しいヤツだ・・・)

P「なんと!飛鳥が主役どころの演劇の仕事が契約できたんだ!」

飛鳥「へぇ、演劇ね・・・演劇?今までなかったタイプの仕事じゃないか?随分と珍しいね」

P「仕事で知り合った方と居酒屋で少し盛り上がってな。その場で決定するのもちと憚られたから改めて今日電話で決定したというわけだ」

飛鳥「なるほどね・・・それにしても『主役どころ』、ね・・・なんだか含みのある言い方だけど、何かあるのかい?」

P「ん?深い意味はないぞ?ただ、主役は1人とは限らないってことさ」

飛鳥「なるほど、複数主人公の物語という訳か。それで、もう一人の主人公とやらは一体誰なんだい?」

P「それはだなーーー」

凛「おはようございます」ガチャ

P「おっと、タイミングが良かったな。凛、舞台の仕事で主役が決まったぞ」

凛「えっ?主役?舞台?」

飛鳥「プロデューサー、いきなり情報量で殴るのはよしたらどうだい?」

凛「あれ、これドッキリじゃないんだ。違うよね、プロデューサー?」

P「あぁ、違うぞ」(この前のドッキリ企画でやりすぎてしまったかな・・・後で何か奢っておこう)

P「・・・と、ここまで説明したけど、なんか質問あるか?」

凛「舞台が決定したのはいいけどさプロデューサー、台本はないの?」

P「その打ち合わせが一週間後にある。そのときに台本の受け渡しを行うそうだ」

飛鳥「劇のタイトルは既存のものなのかい?それとも新しく創作されたものなのかい?」

P「どうやらさっき電話してた相手がが脚本と監督を務める新作みたいだ。」

飛鳥「なるほどね・・・それでボクたちに白羽の矢がたったわけか」

凛「舞台劇か・・・ドラマの撮影とかは何回かしたことがあったけど、舞台の劇っていう形では初めてかな」

P「先方もそれは承知の上だ。舞台稽古で専門の指導者がつくし、なんならウチで契約してるトレーナーさんに依頼しても劇向けのレッスンは組んでもらえるだろう」

飛鳥「それと・・・台本はなくても、やる劇のタイトル位は決まってるんじゃないのかい?それが分からないままでは、イメージもしづらいと思うんだが」

P「あらら、それもまだ伝えてなかったか、ちと興奮しすぎたかな。今回二人に挑んでもらう舞台劇のタイトルはーーー」





P「『昼夜公爵と帳の姫』、だ」

「・・・そうして空は荒れ、山は燃え、世界は荒廃に追い詰められていった。

 そこへ二筋の光が差した。太陽のように暖かき光と、月のように美しき光。

 そこから2人現れた。彼らは自らを「昼の侯爵」、「夜の侯爵」と名乗った。

 彼らは強かった。荒れ狂う世界を瞬く間に治め、大地は癒え、空は青く澄みわたっていく。

 2人の侯爵は全ての生き物から感謝された。
 
 その後、彼らは一日を二つに分けた。

 昼の侯爵は人間の繁栄と発展を司り、太陽が昇る刻を昼と定め、

 夜の侯爵は獣たちの安寧と休息を司り、月が輝く刻を夜と定めた。

 そうして世界は巡り、永遠を約束された・・・」

「・・・さて、町で歌う詩の調子はこんなところかな。今回はちょっとおひねり多いと嬉しいんだけど」

「あんたそんなこと言ってると、また重要なトコで音外してヒンシュク買うわよ」

「大丈夫、今度はあんなヘマしないさ」

「ホントに?」

「本当さ」

「それならいいんだけど。ほら。夜になるわよ。早く小屋に入らないと、夜の獣たちに食われちまうよ」

「へいへいっと・・・おや?」

「なんだい、今度は・・・」

「見てみろよ、アレ。もしかしてあれって昼の侯爵様じゃねえかな?」

「確かに、お美しい・・・アンタの何倍も」

「オイオイ・・・昼と夜が入れ替わる帳の刻においでになるってことは、夜の侯爵様と入れ替わりかな」

「どちらでもいいわ。早くしないとアンタの分の干し肉まで食べちまうよ」

「分かったって!」

一週間後、多目的ホール

飛鳥・凛「お疲れさまでした!」


飛鳥「・・・ふぅ、ようやく会議が終わったか。これはなかなかボクとしては大きな仕事になりそうだな・・・」

凛「お疲れ様、飛鳥。なんだか嬉しそうだったね」

飛鳥「あぁ凛さん、お疲れ様です」

凛「フフ。凛、でいいよ」

飛鳥「・・・じゃあ、凛。ボクとしては舞台劇どころか物語を演じる、といった仕事からは縁遠いところにあるようでね。
   アイドルとしてペルソナを被ることは何度もあったし、ドラマという形で演じる仕事にも興味はあったんだが、
   まさかこんな形で実現するとはね。フフッ、フフフ・・・!」

凛(私も初めてドラマのお仕事もらったとき、嬉しかったな・・・ちょっと懐かしいな)

飛鳥「そういう凛は、この仕事を貰って嬉しくないのかい?」

凛「えっ、私?もちろん嬉しいよ。けど、ちょっとだけ気になることがあって」

飛鳥「気になること・・・あぁ、『アレ』のことか」

凛「うん、まさか私たちが・・・」

凛・飛鳥「「『君達には男装して侯爵役を務めてもらう』」」



飛鳥「だっけか。初めて監督さんから聞いたときは流石に驚いたな。」

凛「『昼夜公爵と帳の姫』・・・2人で主役級って聞いてたから、どっちかは侯爵役になるのかと思ったらこうなるとは思ってなかったな・・・」

飛鳥「ボクが演じるのが夜と動植物の安寧を守る『夜の侯爵』、凛が演じるのが昼と人間の繁栄を司る『昼の侯爵』・・・」

飛鳥「まぁ、いいんじゃないかな。どちらにせよボクたちは主役という大きな役割を担うことになった。それで十分さ」

凛「・・・なかなか割り切ったというか、いい顔してるね」

飛鳥「モデル関係の仕事であながち触れないことはないからね。この程度は訳はない」

凛「そっか。じゃあ、お互い頑張ろうね」

飛鳥「あぁ。これから数か月、よろしく頼むよ」


飛鳥「・・・あぁ、それと」

凛「どうかした?」



飛鳥「いろいろ連絡不足だったプロデューサーに、何かたかりに行かないかい?」

凛「・・・もう」

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「やぁ夜の侯爵。ご機嫌いかがかな?」

「あなたが変わらず居てくれたおかげで、私も嬉しいさ」

「君こそその口は変わらないな」

「あなたこそ。今日もヒトの子らの安寧は守られたようで何より。昼に私が干渉することはできないからね」

「そこは任せたまえ。私がいる限り、人の子は大いに栄えるさ」

「全く心強い。それでは、統治の番を変わろうか」

「あぁ、任せたぞ」

「任せてくれ。私がいる限り、獣たちの繁栄は約束しよう」

「それでは、また日が明けるころに」

「暫しの別れだね。ゆっくり眠るといい」



「さぁ夜の時間だ!牙を持つ獣よ!囁く妖精よ!静かに輝く星たちよ!君たちの時間だ!」

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某日・事務所

蘭子「煩わしい太陽ね!」

飛鳥「・・・・・・」

蘭子「・・・我が友飛鳥よ!」

飛鳥「・・・・・・」

蘭子「・・・飛鳥ちゃん?」

飛鳥「・・・・・・」

飛鳥「・・・・・・ふむ」ペラッ

蘭子「・・・・・・」ムスッ

蘭子「・・・!」

蘭子「飛鳥・・・」ボソッ

飛鳥「~~~ッ!!」ゾワッ

飛鳥「一体何を・・・!って蘭子か。どうしたんだい急に」

蘭子「ようやくお目覚めのようね。我が魔力にも感づけぬようでは、いずれ真の闇に落ちてしまうわ
   (やっと気づいた!何回声かけても気づかなかったから、ちょっと驚かせちゃった)」

飛鳥「すまない蘭子、ちょっとこれに集中しててね」

蘭子「これは・・・新たなる魔本か?我が僕から聞いているぞ、新たなる境地を見出さんとするようだな
   (これ、プロデューサー今度やるって言ってた舞台劇の台本かな?)]


飛鳥「あぁ、その主役に任されたんだ。だからこうして慣れない言葉の山を自分のモノにしようと試みてるのだが・・・やはり、難しいね」

蘭子「臆することはない。己が魂を地獄の業火にさらせば、浄化された魂の中に答えは見つかるわ
   (いつもの飛鳥ちゃんらしく練習してれば、大丈夫だと思うよ?)」

飛鳥「言ってくれるじゃないか蘭子・・・本番を楽しみにしてくれ、最高の舞台にして見せる」

蘭子「我が魔眼の領域外だろうとも、汝の成功を祈る
   (本番を観に行けるかは分からないけど、頑張ってね!)」

飛鳥「天使か・・・」

蘭子「ふえっ?」

飛鳥「い、いやなんでもない、何でもないんだ・・・」

蘭子「『昼夜公爵と帳の姫』・・・対となる世界を統べるものが、やがて互いを蝕み、戦火を上げる・・・」

飛鳥「少なくともグッドエンドではないね。ただ、全てが終わったわけではないという結末さ」

蘭子「・・・終に至らず邪法を開くとは、悪姫すら凍らすわ
   (まだ全部読み切ってないのに、飛鳥ちゃんひどい・・・)」

飛鳥「っと、すまない。てっきりもう台本を読み終えたのかと」

蘭子「如何にも。だが大翼抱きし我は恩赦を授けようぞ
   (そうだけど・・・別に大丈夫だよ)」

蘭子「しかし幸福に至らぬ結末か・・・悲壮の調べは棘の枷のよう・・・
   (それにしてもバッドエンドかぁ・・・悲しい物語はなんだか嫌だね)」

飛鳥「相変わらず蘭子は世界観の割に心が優しいな・・・」

蘭子「・・・その言の葉はいかにして紡がれん(どういう意味で言ったの?)」

飛鳥「あぁ、勘違いしないでくれ。これでも褒めたつもりなんだ。なんどか一緒に仕事したけど、それは隠しきれてないなって」

蘭子「そ、そのようなことは(そ、そんなこと・・・)」

飛鳥「あるさ。そうでもなければ、わざわざ事務所に手作りのお菓子を持ってきたり、タオルを貸したりはしないだろう?」

蘭子「飛鳥ちゃん・・・」

飛鳥「蘭子・・・」




凛「何やってんの」ペシッ

飛鳥「あいたっ」

蘭子「蒼き疾走者よ、闇に飲まれよ!(凛ちゃん、お疲れ様です!)」

凛「ん、おはよう蘭子。それで飛鳥は台本放って何やってるの?」

飛鳥「何って・・・台本を読んでいたのさ。今のボクにそれ以外何があるというのかい?」

凛「ふーん・・・まぁ、いいけど」

飛鳥「なんだか含みのある言い方だね・・・」

蘭子「双翼は飛び立ちてどこまでも・・・(2人とも、仲いいね!)」

凛「そうかな・・・」

飛鳥「これが仲がいいと呼べるのなら、いやはや人との繋がりというものは難しいね。基準が曖昧で、分からないな」

蘭子「・・・ふふ♪」



P「おはようございます!」

凛「プロデューサー、おはよう」

飛鳥「やぁ、お早う」

蘭子「闇に飲まれよ!」

P「おう、ありがと。と、劇組は二人ともか。今日から二人は劇向けの特別レッスンだ。麗さんの指導でビシバシしごいてやる、とのことだ」

飛鳥「一日目から手厳しいね・・・けど、そんなことも言ってられないね」

凛「そうだね。舞台でもいつものステージみたいに最高のパフォーマンスを見せないとだし。じゃあ、行こうか」

飛鳥「あぁ、共に往こうか」ガチャッ

蘭子「行ってらっしゃーい」

P「さてと、俺も仕事するかな・・・蘭子はレッスン午後からだったよな?早めに来たのか?」

蘭子「左様。近しき童どもが集まるこの龍脈は、我に力を与える
   (そうです。みんな事務所に集まるから、ここにいるとなんだか笑顔になっちゃって)」

P「天使かよ」

蘭子「ふえっ?」

P「いや、なんでもない。やることがないならゆっくりしててくれ。確かそこの棚に飛鳥が持ち込んだ雑誌があるはずだ」

蘭子「感謝するぞ我が僕よ。我が知識槽をいざ深めん
   (ありがとうございます!じゃあ雑誌でも読もうかな)」

P「確かファッション雑誌だったかな・・・よし始め・・・ん?」ノーフィアー!ノーペイン!

P「俺の電話か・・・ハイ、こちら・・・」

蘭子(それにしても飛鳥ちゃん、舞台劇かぁ・・・しかも主役!私も参加したかったなぁ・・・)

P「ハイ、渋谷と二宮は今日から特別レッスンで・・・どうかしました?」


蘭子(『あぁ世界よ、どうしてあなた達は争うことしかできないの?』)

P「・・・そうですか、わかりました・・・えっ?」


蘭子(『我らが帳の盟約に従い、この世界を今一度浄化します。これは悲しき宿業・・・』)

P「ハイ!それは是非とも!予定は・・・大丈夫です!」


蘭子(・・・こんなことやってても意味ないなぁ・・・雑誌読もう)

P「ハイ!それでお願いします!それでは!」ピッ

蘭子(パンキッシュなファッションかぁ・・・私に似合うかな?)

P「蘭子」

蘭子「へ?」





P「出番だ」

今回はここまで。一週間以内に頑張って投稿します。

書き溜め終わったので投下します。


レッスン場


青木麗(以下マストレ)「よし、いったん休憩だ!しっかり水分補給をしておけ」

凛「ありがとうございました!」

飛鳥「あ、ありがとうございました・・・」

マストレ「渋谷の方は流石、といったところだな。激しい動きの中でも安定して伸びのある発生ができている。
     二宮を見るのは初めてだが、なかなか悪くない。育て甲斐がありそうでいいぞ」

飛鳥(やっぱり凛の背中は遠い、か。分かっては居たつもりだが・・・)


飛鳥(・・・渋谷凛、高校一年生の15歳。ニュージェネレーションやトライアドプリムスといったユニット掛け持ちを
   しながらアイドル活動をして、そのどれもが人気を博している。ストイックで夢に向かって止まらないその姿勢が
   ウケたのか、今では『シンデレラガール』の一角・・・)

凛「お疲れ飛鳥。ドリンクあるけど、飛鳥も飲む?」

飛鳥「・・・敵わないな、キミには」

凛「どうかした?」

飛鳥「いや、ボクの分は既に買ってあるから大丈夫さ。ありがとう」

凛「そっか。ならいいけど」



凛「そういえば、飛鳥と一緒に仕事するのはこれが初めてだったよね?」

飛鳥「そうだね。凛とこうして肩を並べて喋ることすら、今までなかったかもしれない」

凛「そっか、事務所で顔合わせをしたときに挨拶したくらいだもんね」

飛鳥「ボクはあまり人付き合いというものが得意ではないらしくてね・・・せいぜい話してても蘭子くらいなものさ。嗤うかい?」

凛「私も最初はそうだったから、心配することはないよ」

凛(蘭子とすぐに打ち解けるっていう子もなかなかいなかったけどなぁ・・・)



飛鳥「きっとこの舞台の仕事は、ボクにとって・・・いや、ボクたちにとって掛け替えのないものになると思うんだ。
   凛もそう思わないか?」

凛「うん。今までにない、生の演技をそのまま客席に届けるって経験はこれから先どこかで役に立つと思う。
  やったことがないことをやるっていうのはちょっとだけ怖いけど、私は立ち止まらないよ」

飛鳥(・・・・・・)

飛鳥「ボクだって、ここで二の足を踏んでいる訳にはいかない。シンデレラガールの技術とやら、この数か月で盗んで見せるさ」

凛「じゃあ、そろそろ休憩も終わるみたいだし、行こっか」

飛鳥「あぁ」


飛鳥(憧れは理解から最も遠い、か・・・)



飛鳥「・・・ん?」

マストレ「どうした二宮」

飛鳥「いや、なんだか足音がこちらに近づいているような・・・」

凛「ホントだ、ドアの前で止まったね」

凛(というか、ドアがガラス張りだからシルエットで分かるんだけど・・・)


マストレ「・・・どうした神崎、入ってこい」

蘭子「ぴいっ!お、オジャマシマス・・・」

飛鳥「蘭子?どうしてここに・・・」

マストレ「先ほどプロデューサー殿から連絡があってな。どうやら劇のヒロイン役が負傷で出れなくなったらしい。
     その代役として先方が神崎を指名したそうだ」

蘭子「ハァーッハッハ!蒼き疾走者よ、翼求めし者よ!我が漆黒の魔力にて、新世界を深淵の色に染め上げん!
   (凛ちゃん、飛鳥ちゃん!私も頑張るね!)」

飛鳥「あぁ、こちらこそ頼むよ蘭子。元の姫役の人には申し訳ないが、よかったじゃないか」

蘭子「茨の揺り籠にて眠る天使をはやがて魔王の翼を見るだろう・・・だが我は玉座にて無垢なる白金を抱く
   (元の役者さんの所には後でお見舞いにいこうかな・・・けど役を貰ったからには、全力を尽くすよ!)」

マストレ「よし、三人集まったところで改めてレッスンを再開する!神崎は体を温め次第すぐに合流しろ!」

凛飛鳥蘭子「「「はい!」」」

「さぁ、今日もまた日は昇る。夜の刻は暫し眠りの時間だ」

「今日も夜の平穏を保つことができた・・・おや?そこにいるのは麗しき帳の姫ではないか」

「御機嫌よう夜の侯爵。あなたと会うことができて嬉しいですわ」

「私も会えて嬉しいさ。といっても、半日ぶりだけどね」

「ええ、古きより延々とこのやり取りはしていますが、飽きないものですね」

「ふふ、これも変わらぬ世界の存続とあなたの美しさのおかげさ」

「・・・その世界の存続ですが、少々危惧すべき点があるかもしれません」

「なんだって?昼の侯爵が支配している昼の刻に、そんなことが起ころうはずもありません。気にしすぎではないでしょうか」

「昼の世界の、正確には人間が、『電気』というものを発明しました。暗闇だろうと火よりも明るき光を灯し、人間の文化を更に発展させることでしょう」

「それはいいことです。何がいけないのですか?」

「恐らく『電気』は人間の文化を加速させ続けるでしょう。夜の領域だろうと侵入してしまうほどに」

「・・・なるほど。夜の領域に踏み入られては、夜の住人の拠り所がなくなってしまう」

「昼の侯爵は確かに信用できる方です。ですが、くれぐれも用心してください」

「きっと彼ならなんとかできるでしょう。私は直接は語り掛けられますぬが、啓示を風に乗せましょう」

「お願いします。いざとなれば、私は帳の者として裁きをくださねばなりません」

「・・・任せたぞ、昼の侯爵よ」


数週間後・事務所


飛鳥「流石にあの質量のトレーニングを毎日のようにこなしていれば、体にガタがくるというものか・・・」

飛鳥(今日は久々のオフか・・・プロデューサーもちひろさんも外出してるようだし、テレビでも見ようかな)ピッ

MC『じゃあ、二人は神谷で遊んでるんか!』

奈緒『言い方!』

加蓮『え?間違ってないでしょ?』

凛『奈緒は遊ばれてるときも可愛いからね』

奈緒『完全に扱いが犬じゃねーか!一応年上だぞ!』

加蓮『顔真っ赤にしてる奈緒可愛いよね?』

MC『間違いない』

奈緒『味方がいない!!』

MC『さて、三人はそろそろ曲の準備の方お願いします』

奈緒『この空気でぇ!?』

凛『ほら、いくよ奈緒』


飛鳥「これじゃどっちが年上か分からないな、ハハッ・・・」



MC『それでは歌っていただきましょう。Triad Primusで、Trancing Pulseです、どうぞ』

飛鳥(先ほどの空気なんて無かったかのように、三人の瞳はとても澄んだものだった)

飛鳥(流石に生の歌声と比べるのはいささか酷なものだが、それでも歌声は鮮やかな色を纏っていて)

飛鳥(カメラワークでアップになる度、その色の彩度が増していくかのような感覚に陥りさえする)

飛鳥(特に、センターの凛だ。もちろん奈緒さんと加蓮さんだって負けてはいない。
   だけど中心で放つ圧倒感は見るものを引き寄せるカリスマ性すら感じる)

飛鳥(ボクはこの人と・・・凛の隣に並び立つ資格があるのだろうか?)



未央「おっはようございまーす!あれ、プロデューサーもちひろさんもいない・・・」

飛鳥「あ、未央さん。おはようございます」

未央「あすあすおはよう!って、それはTPの歌番組ではないか!どれどれ・・・」

MC『Triad Primusで、Trancing Pulseでした。それでは次のコーナー!』

未央「ありゃ、丁度終わっちゃったか・・・」

飛鳥(賑やかな人だ・・・)


未央「それにしてもあすあす、1人の事務所で何をやっていたんだい?今日はレッスンだっけ?」

飛鳥「いや、今日はオフさ。寮でじっとしているのもなんだか落ち着かなくてね。未央さんこそ、今日は?」

未央「・・・しぶりんのことは呼び捨てにしてると聞いた!私のことは未央と呼びたまえ!さぁ!」

飛鳥「・・・じゃあ、未央。キミの今日の予定はどうなんだい?」

未央「今日はしまむーと合同レッスンだね。NG全員で集まるのも最近じゃデビュー当時ほどじゃないからなぁ・・・
   それがどうかした?」

飛鳥「少し、尋ねたいことがあってね」

未央「・・・もしかしてそれって、しぶりんのこと?」

飛鳥「驚いたな。エスパーアイドルのお株でも奪う気かい?」

未央「さっきテレビ見てるとき、なんだか真剣だったから。しぶりんと一緒に劇の仕事やってるって聞いて、もしかしたらって」

飛鳥「流石、みんなと友達になるアイドルは違うね」

未央「何それ!」

飛鳥「誰かが言ってた」



未央「それで、尋ねたいこととは一体なんなのだね?二宮君」

飛鳥「・・・凛は、大きいね」

未央「・・・うん」

飛鳥「初めて舞台という仕事を貰って、初めて共演するようになったから分かる。
   シンデレラガールっていう称号は決して飾りなんかじゃなくて、れっきとした栄誉への報酬だ。
   ボクだって、そのままでいいだなんて思うほど腐っているつもりはない。
   けど、歌声を聞く度、踊りを見る度、こう思ってしまうんだ・・・『ボクではこの人を追い越せない』って」

未央「・・・うん」

飛鳥「凛自身、まだデビューして何年も経ってるわけじゃない。同じ人間なら、必ず追いつける・・・
   そう心の中で思っていても、折れそうになってしまう・・・ボクは、弱いな」

未央「そんなこと、ないよ」

飛鳥「未央・・・?」

未央「しぶりんだって、デビューしたてのころはあんなに凄くはなかったよ。
   初めて一緒にボーカルレッスンしたとき、『いい声だなー』って思ったくらいで。
   あんまり他の人には話そうとしないけど、心が折れそうになったことだってあった。あのしぶりんがだよ?」

飛鳥「凛が・・・」



未央「あ、これ言わないでって言われてたっけ。内緒でね?
   それにホントストイックだからなぁー・・・レッスンでも集中力スゴいし、休みの日だってランニングを欠かさない。
   大雨の日に走りに行こうとしたときはしまむーと止めてたっけ・・・懐かしいな」

未央「それに、プロデューサーが言ってたんだ。『ここにいる皆は間違いなくダイヤの原石だ』って。
   正しく、優しく、ときに厳しく磨いてやれば、間違いなくトップアイドルを目指せるような子ばっかだって。
   結構プロデューサーもクサいこと言うよね」

飛鳥「彼らしいといえば、彼らしいかな・・・」

未央「その皆の中に、あすあすは含まれてる。だから、もうちょっと頼っていいんじゃないかな。
   プロデューサーを、みんなを」

飛鳥「頼る、か・・・」

未央「なんか説教クサくなっちゃったね?これじゃ未央ちゃんもプロデューサーやしぶりんのこと言えないなー」

飛鳥「フフ・・・」



飛鳥「じゃあ早速だけど」

未央「おっ、なんだね?未央ちゃんへのお願いは高くつきますぞ?」

飛鳥「未央は以前舞台演劇をやっていたと聞いてね。よかったら、参考にしたいんだけど・・・いいかな?」

未央「もうっ!そんなおどおど聞かなくても答えてあげるよ!あすあすはなかなか可愛げがありますな~」

飛鳥「・・・ありがとう」

未央「どういたしまして!じゃあ、台本はある?」

飛鳥「えと、ここの台詞なんだが・・・」

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「おお・・・これが風に聞く『ロボット』というものか!」

「ええ、まだ人間には劣りますが、簡単な仕事なら任せられますよ」

「ほう、それはなかなか興味深い・・・」

「お前さん達、それで何をし始めるというんだい?」

「おや、丘の吟遊詩人さん。これは簡単な運搬や掃除、危険な場所の探索なんかができますよ」

「俺が言いたいのはそういうことじゃない。夜の領域にでも踏み入るつもりかい?」

「好きだねえ昼夜公爵のお話。だけどそれはおとぎ話だろう?」

「そんなはずはない!遠い昔から言い伝えられてきた史実さ」


「それをどうやって証明する?どこかの誰かが面白おかしく作っただけかもしれないじゃないか」

「俺は見た!間違いなく、アレは昼の侯爵様だった!おとぎ話なんかじゃない!」

「きっとそれはどこかの浮浪者さ。おおよそ栄養失調で見間違えたんだろう。町の栄養のいい食べ物をいつも食べないからそうなるんだ」

「・・・もういい。俺は演奏にいく」

「お好きにどうぞ、私たちの発明を邪魔しないなら」





「さぁ英知を持った同胞人間よ!灯りのもとに不知の闇を照らし出せ!夜の闇ももう怖くない!」


「あぁ侯爵様と帳の姫様よ、昼と夜の境目は崩れようとしています。貴方は見ておられるのですか?」

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数日後・ライブハウス


凛「・・・」ソワソワ

卯月「もう凛ちゃん、そんなにそわそわしてたら気づかれちゃいますよ?」

凛「うづ・・・!名前出したらもっとまずいって」コソコソ

卯月「そ、そうですねすみません」コソコソ

卯月「それにしても、飛鳥ちゃんのライブにいくなんて。気にかけてるの?」

凛「・・・まだ、飛鳥のライブは一度も見たことがなかったからね。それに、ちょっと気になってたから」

卯月「何がですか?」

凛「変な意味じゃないよ。単純に飛鳥の曲は気にいってたからLIVEで聞きたいなって。
  ・・・まぁ、別の心配もなくはないんだけど」


卯月「別の心配?」

凛「うん。最近なんだかちょっと暗いなって。もしかしたら私が何かしちゃったかなって思って」

卯月「・・・優しいんですね」

凛「そんなこと・・・だから、もしこのLIVEでも引きずってたら、何か言わなきゃいけない気がするんだ」

卯月「私たちの初LIVEの後、ちょっと悔しそうでしたもんね」

凛「うん・・・あのときプロデューサーや卯月達が支えてくれなかったら、もしかしたら今の私はいなかったかもしれない。
  ちょっと高慢かもしれないけど、今度は誰かの支える存在になりたいんだ」

卯月「そういえば、電話で未央ちゃんが言ってました。飛鳥ちゃんが凛ちゃんのこと憧れてたって」

凛「未央が?」

卯月「ハイ。数日前に、事務所で話したって言ってました。なんだっけ?『いうなれば目標にしてファンにしてライバル』だって」

凛「そう、飛鳥が・・・」

卯月「そのときに仲良くなったって。なんだか飛鳥ちゃんも凛ちゃんも蒼くて似てるって未央ちゃんが」

凛(未央・・・)

卯月「それに、きっと飛鳥ちゃんは・・・あっ、始まるみたいですよ!」



凛(そのとき卯月が何て言おうとしたか、結局聞きそびれてしまった)

凛(ただLIVEが始まる前の自分は飛鳥に対しての心配が心を占めていたと思う)

凛(しかしそれはただの杞憂で、傲慢ですらあることを、私は思い知る)



飛鳥「やぁ、待っていたよ、この時を」

飛鳥「ボクはアスカ、二宮飛鳥だ。ボクのことを知らないヤツらも、是非覚えて貰いたい」

飛鳥「ここに集まったキミ達も、痛いヤツだろうがなんだろうと構わない」

飛鳥「ボクは、ボク達はこの声で、己の生きている証をセカイ中に刻み付ける」

飛鳥「それこそが自身の存在証明となり、誰かに誇れるものになるだろう」

飛鳥「語るのはここまでにしておこうか・・・まずは聞いて欲しい。一曲目だ」



飛鳥「共鳴世界の存在論(オントロジー)」



凛(会場が揺れ、爆音に包まれる。その中心で飛鳥は、完全に「アイドル」だった)

凛(『孤独を抱えて響いて引き合う』『ボクは此処にいる』・・・錆びついてうごけなくなった心が、共鳴していく歌詞)

凛(間違いなく、飛鳥はその共鳴の中心にいる。細い体から破裂しそうなほどの叫びを、自分の物にしてる)

凛(『目標で、ファンにして、ライバル』、だっけ)

凛「私もだよ、飛鳥」

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「人間だ!また人間にやられた!」

「こっちもだ!だれかこの子狼に手当をしてやってくれ!」

「向こうの森の妖精たちも人間たちに連れ去られてしまったってよ・・・おちおち寝てもいられねえ」

「どうして人間たちが夜の領域に・・・?」

「どうやら明るいぴかぴかしたものが作ってるみたいだ。それで住処を広げてるんだと」

「黙ってるだけじゃ一方的にねじ伏せられるだけだ!もう我慢できねえ!」

「戦争だ!」

「戦争だ!」

「戦争だ!」




「どうしたの我が子よ、戦争が怖いの」

「うん、とても怖い。どうして人間は夜に踏み入ってくるの?」

「それはね、人間が傲慢だからよ。昼の侯爵のおかげで繁栄できてるのに、それを自分の力だと思い込んでるのだわ」

「何で?侯爵様を信じてないの?」

「分からないわ。けど、人間たちが夜を踏み荒らすなら、私達はそれを守らなきゃいけない。それが夜に生きるものの指名なの」

「どうしておんなじ生き物なのに、無意味に戦わなきゃいけないんだろう?」

「さ、狼煙があがるわ。こちらに隠れなさい」



「夜を踏み荒らす人間たちに牙を!報いを!」

「我らが夜を守れ!夜の侯爵様の加護がある!恐れず進め!」

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本番二週間前・大ホール


凛「ハアッ!」

飛鳥「っと・・・やっ!」

凛「『どうした夜の侯爵よ!貴様の力は衰えたか!』」

飛鳥「『昼の侯爵、君の方こそ腕が落ちてると見えるが?』」

凛「『減らず口はいい!決着を着けるぞ!』」

飛鳥「『望むところだ・・・!』」

飛鳥「・・・と、こんなところかな。レプリカとはいえ、剣を振るうのはやはり力が要るね」

凛「振りなれてないとどうしても余計な吐息をヘッドマイクが拾っちゃうね。もう少し練習する?」

飛鳥「いや、もう二時間も殺陣を繰り返してるんだ。一旦休憩としないかい?」

凛「じゃあ、少しだけね。もう時間ないし、できる限り監督の理想に近づくようにしなきゃだから、あまり長くは時間取れないかな」

飛鳥「それでいい。・・・ふぅ」


凛「大丈夫飛鳥?少し顔色悪くない?」

飛鳥「大丈夫さ。こんなのあれに比べれば・・・」

凛「『あれ』・・・?」

飛鳥「気にしないでいい。それより凛、どうにもキミは剣、というより身のこなしに妙にキレがあるけど、何かスポーツでもやってたのかい?」

凛「・・・夢の中で、ちょっとね」

飛鳥「随分とメルヘンじゃないか・・・剣の振り方が上手くなるだなんて、血なまぐさいような夢だね」

凛「あまりよく覚えてないんだけど・・・」

飛鳥「とにかく、ボクはもう少し努力というものをしなければいけないみたいだね・・・」

凛「・・・飛鳥なら、できるよ」


飛鳥「妙な期待だね。一体ボクの何を信じてるというんだい?」

凛「それは、秘密かな」

飛鳥「まぁ、キミに期待されるというのは悪くない気分だ。なんとか足掻いて見せるさ」


飛鳥「あれは・・・蘭子だね」

凛「ホントだ。あのドレス、似合ってるね」

飛鳥「あぁ。蘭子が着る衣装は暗色のものが多いが、髪を下して明色のドレスで着飾るのも悪くないね」

凛「それに蘭子、すごい『世界観に入り込んでる』って伝わってくる。まるでそこに本当の帳の姫がいるみたいな」

飛鳥「きっとそこは蘭子の得意分野なんだろう。普段アイドルとしてあんなペルソナをまざまざと魅せつけ、
   その世界観にファンを引き入れてしまう。ファンタジーの世界を演じることにおいては、蘭子の右に出るものはいないだろうね」

凛「うん。帳の姫の悲しみが、ここまで離れていても伝わってくる。私も少し演技うまくなったと思ってたけど、まだまだ蘭子にはかなわないみたい」

飛鳥「けど、そこで腐ってしまうほど、ボクらは落ちぶれてない。そうだろう?」

凛「言うね、飛鳥?」

飛鳥「きっとここで諦めてしまえば楽なんだろう。だが期待されてそこから逃げ出してしまうほど、ボクは愚かじゃない」

凛「そうだね。私も負けてられないな」


蘭子「昼夜を演ぜじ者どもよ!闇に飲まれよ!
   (二人ともお疲れ様!)」トテテ

飛鳥(駆けてくる蘭子可愛い)

凛(まぁ、可愛いかな)

蘭子「我の儀式の下準備は完成に近い!祝祭の産声は彼方まで響くだろう
   (監督にいい演技だって褒められちゃった!本番でも上手くいくといいなっ)」

飛鳥「お疲れ。遠めに見ていても鬼気迫る・・・いや、言葉の端の感情まで伝わってきた。流石は蘭子だね」

蘭子「言うに及ばず!(ありがとう!)」

凛「それにしてもその台本、結構汚れてるね。かなり読みつぶしてる?」

蘭子「魔本は一読のみに完全なる理解を示さず。傀儡師の奸計により昇華せん
   (一度読んだだけじゃ、全部理解できないから。監督さんと沢山相談して、初めて上手くいく気がするんだ)」

飛鳥(蘭子ほどでも、か・・・)

蘭子「才が大器だとしても、注がねば意味があるまい。我が覇道は未だ道半ばよ
   (本当に才能があったとしても、やっぱり努力しなきゃ上手くなれないよ。私もまだまだだなぁ)」

飛鳥「・・・」



飛鳥(きっと蘭子は、本心からそう言っているだろう。卑下とかへりくだるとかそんなちっぽけなプライドじゃない。蘭子はきっと「次のステージ」を見据えている)

飛鳥(蘭子の演技が上手いのは間違えようもない事実だ。しかしそれはあくまで「アイドル」の中で突出してる、というだけの話だ)

飛鳥(偉そうなことをいうが、ボクはその足元にも及ばないだろう。けど蘭子は本業・・・俳優達を相手どろうとしている)

飛鳥(この差は、なんだんだ?同じ14歳で、一体、何が・・・)



蘭子「・・・飛鳥ちゃん?」

飛鳥「・・・すまない、考え事をしていたんだ。何か用でもあったかい?」


蘭子「飛鳥ちゃんが思いつめたような顔をしてたから、つい心配しちゃって・・・」

飛鳥「いや、大したことじゃないさ・・・」

蘭子「大したことじゃなくても、私は聞いておきたい、かな」

飛鳥「蘭子?」

蘭子「飛鳥ちゃん、この仕事のことプロデューサーさんに初めて聞いたとき、凄く嬉しそうな顔してた。
   けど今は、なんだか辛そうな顔をしてる。聞いちゃ、ダメだったかな?」

飛鳥「・・・ホントに優しいね、蘭子は」

蘭子「友達、だから」


飛鳥「ボクはね・・・キミ達のことがとても羨ましい。シンデレラガールになるということは、皆の知らないところで
   密かな、けれど血反吐を吐くようなレッスンを積んできたに違いない。
   凛は、いや、未央はそう言っていた。そして、皆を頼れば必ず成長できると。

   未知を、脅威を恐れていては越えることなどできないとは分かってる。
   けど、分からないんだ。ボクは何をすればキミ達を越えられるのか。
   歴史をなぞるだけでは二番煎じにしかならない。かといって、暗中模索を繰り返すだけではまとまりがつかない。

   教えてくれないか?蘭子は、どうしたらそんなに眩い輝きを手に入れられるんだ?」

蘭子「飛鳥ちゃん・・・」

飛鳥「この舞台はきっとボクにとってのターニングポイントになる。ボクは、本気だ」


蘭子「・・・プロデューサーにスカウトされてしばらくして、『お前がやりたいことはなんだ』って聞かれたんだ。
   初めは正直意味が分からなくて、『トップアイドルになること』って答えたんだけど、それはゴールでしかないって言われて。
   プロデューサーが言いたかったのは、『どうやって』トップアイドルになりたいかってことだったの。

   ちょっと恥ずかしかったけど、私のファンタジーな世界観を伝えたいってプロデューサーに伝えたら、全力で応援してくれた。
   スケッチブック見られたときは笑われちゃったけど・・・それでも、いろんな形で支えて貰ったなぁ・・・」

飛鳥「ボクと出会う前に、そんなことが・・・」

蘭子「たぶん、飛鳥ちゃんもそう聞かれることがあるかもしれない。飛鳥ちゃんの『やりたいこと』って、何?」


飛鳥「ボクの・・・やりたいこと・・・」

蘭子「それを胸において頑張れば何かが違ってくると思うんだけど・・・どうかな?」


飛鳥「ボクは・・・このセカイに傷跡を残したい。まだボクの知らないところに、寂しいヤツがたくさんいる。
   それはかつてのボクで、セカイに息苦しさを感じてる人間に、ボクは此処にいるんだと分かってほしい。
   チープかもしれないが、ボクたちは一人じゃない、ってとこだろうか・・・」

蘭子「・・・飛鳥ちゃんこそ、優しいね」

飛鳥「これは傲慢ともとれるさ。他人の痛みが分かる人間なんて、そういるもんじゃない。
   それでもボクは、過去のボクを、どこかにいる痛いヤツを救いたいなんて考えるんだ。嗤えるだろう?」

蘭子「笑わないよ。その理想は、凄いことだって私は思う。飛鳥ちゃんなら、できるよ」

飛鳥「やれやれ、二人ものシンデレラガールに期待をかけられるだなんて、危うく浮かれてしまいそうだな」

蘭子「えっ、ダメ・・・かな?」

飛鳥「そんなことはないさ。・・・ありがとう蘭子。なんだか翼が生えた気分だ」


凛「・・・話、終わった?」

飛鳥「・・・すまない、除け者にしてしまって・・・」

蘭子「ごめんなさい・・・あっそうだ!」ジーッゴソゴソ

飛鳥「うん・・・そのタッパーの中身はなんだい?」

蘭子「世紀末歌姫が授けし英知の実よ!汝の肉体はこれによって渇きを満たすだろう・・・」

凛(楓さんの梅干しか・・・)「私は、今はいいかな」

飛鳥「じゃあ、1つ」ヒョイッ パク

飛鳥「・・・」

飛鳥「~~~~~~っっ!!」

凛(やっぱり・・・)

蘭子「幕開けは近い!我ら一つとなりて覇道を示さん!」

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「始まって、しまいましたか・・・」

「申し訳ない、私には止めることができなかった・・・」

「いえ、定命の者に直接かかわることが出来ないのは私とて同じです。悔しいですが、こうなる結末だったのでしょう」

「・・・おい昼の侯爵」

「なんだね夜の侯爵」

「剣を抜け。ここで決闘を申し込む」


「なりません夜の侯爵よ。それは掟に反する行為です」

「貴様は!自分たちが育んできた生命が息絶えるのをみて何も思わないのか!」

「・・・君ならそういうと、私も思っていたよ」

「あなたまで!」

「共に戦ったことはあったが、敵として戦わなければいけないときがくるとはね・・・悲しいよ、こんなことになって」

「私とて悲しいさ。君に手をかける日なんて、来なければいいと思っていた」

「我が夜の住民の休息と安寧のため!」

「我が夜の住人の繁栄と発展のため!」


「「行くぞ!!」」


「あぁ、どうして世界は争いに繋がってしまうのでしょう」

「発展の対価?それとも力持つものへの恐怖?」

「いずれにせよ私は帳の法に基づき、裁きを下さねばならないようです」

「どうかだれか、新しき世界にて争いなき世界を・・・」

「・・・空よ、海よ、大地よ。哀れな者どもに、怒りの試練を」

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本番前・大ホール舞台袖



飛鳥「ついにこの時がきたか・・・」

凛「飛鳥、緊張してる?」

飛鳥「緊張してないといえば嘘になるね。けどこれは『いい緊張』というやつさ。心配いらない」

凛「この数か月でなんだか頼もしく見えてきたね」

飛鳥「ただ練習を積んできただけじゃないからね。この舞台を成功させて、ボクはまた一つステージを上げなければいけない」

凛「そっか。私も同じだよ」

蘭子「ふっふっふ・・・時は来たれり!闇に飲まれよ!」

飛鳥「お疲れ、蘭子。その方向から来たということは、観客席でも見てきたのかい?」

蘭子「いかにも!我らが舞台にふさわしき軍勢よ」


凛「あと10分で開演だね。二人とも、準備はいい?」

飛鳥「問題ない」

蘭子「右に同じく!」

凛「ここまで来たら、あとは全力を尽くすだけだね。あてにしてるよ、飛鳥」

飛鳥「フッ、任せておいてくれ」

蘭子「・・・」キラキラ

凛「・・・そ、蒼翼抱きし魔王よ、汝の魔力は十分か?」

蘭子「うむ!深淵に我らの楽園を作ろうぞ!」

飛鳥「やっぱり凛も『痛いヤツ』だね」

凛「そういうのいいでしょ!ホントに・・・」

飛鳥「ふふっ・・・そろそろ、時間だね」



凛 「じゃあ、行こうか」
飛鳥「さぁ、往こうか」
蘭子「いざ、往かん!」

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「・・・どうにか、大嵐は過ぎ去ったみたいだな・・・」

「海が荒れ、大地が避け、山が燃えたときにはもうこの世の終わりだと思ったが・・・なんとか助かったみたいだ」

「家の近くのほら穴に逃げ込んで数日待っていたが・・・少しでも逃げ遅れてれば命がなかったところだった・・・」

「妻であるあいつももういない・・・残ったのは、少しの食料と聴く奴がいない楽器だけ・・・」

「きっと、帳の姫が裁きをお下しになったんだ。急に昼と夜で戦争なんか始めなきゃこんなことには・・・」

「俺は、いったいどうすれば・・・ん、アレは、子狼・・・?なんだ、俺を食べに来たのか」


「もう未練なんてない。昼と夜もごちゃまぜさ。食べるんなら一思いに・・・うおっ!?」

「妙になつっこいな・・・人間に懐く狼だなんて、今まで見たこと・・・」

「・・・そうか、お前も一人なんだな。夜の獣たちも、この大荒れできっとやられて・・・」

「仕方ねぇ、ほら、最後の干し肉だ。味わって食えよ」

「・・・こいつが生きてるってことは、もしかしたら外で誰か生きてるかもしれないのか・・・?」

「・・・俺はまだ死にたくない。こんなところで、寂しく終わるだなんてまっぴらごめんだ」

「せっかく帳の姫の裁きを目の当たりにして生き残ったんだ!生き証人の吟遊詩人として、この詩を後世まで響かせよう!」

「そうと決まったらここにいつまでも居られない!・・・お前も来るか?・・・そうか、お前が新しい相棒だな」

「絶望の荒野が広がってようと、二人なら怖くはないさ。そうだろ?」



「さぁ今から歌い上げますは新しき神話!帳の姫の絶望でございます!」

「どうか恐れずに!絶望から希望は始まるのです!」

「どこかにいる聴衆よ!聞こえたならば伝えゆけ!目にしたならばいざ集え!」


「じゃあ、いこうぜ相棒」

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解散後・Pの車内


P「ようやく終わったんだな・・・改めてみんな、お疲れ様!」

凛「お疲れ様。プロデューサー、ありがとう」

P「どういたしまして。この仕事終えてさ、なんか感想あるか?」

蘭子「此度の宴は素晴らしきものと相成った。禁断の花園に新しき芽吹きをもたらしたわ
   (今回のお仕事、とても楽しかったです!また成長できた気がするなぁ)

飛鳥「同感だね。長い間集中して練習してきたおかげか、別の何かに生かせそうな気がするよ」

P「そりゃ良かった。特に飛鳥は、なんだか面構えが前よりキリッとして感じるな」

飛鳥「そうかい?まぁ、色々あったから、ね」

P「そうかい。じゃあ後で深く聞かせて貰うとしますかね」

飛鳥「あぁ、ボクもキミに聞いてもらいたいことが沢山ある。それこそ、山のようにね」

蘭子「飛鳥ちゃん・・・」


P「そうだ。俺からささやかなプレゼントとして打ち上げを企画してるんだが、どうだ?」

凛「もしかして、ファミレス?」

P「まぁ、時間帯と金銭面を考慮すればそうなるな。別の日でよかったらもっと豪華なのあげられるんだが」

飛鳥「生憎、ボクら三人とも疲れてるようなのでね。できれば後日、ということでいいかな」

凛「賛成だね。流石にちょっと疲れたかも・・・」

蘭子「傀儡士の用意したる贄にて我が中枢は満たされん・・・
  (監督さんの用意したお菓子でおなか一杯です・・・)

P「了解、こっちでスケジュール調整はしておく。楽しみにしててくれ」

飛鳥「その言葉、忘れないよ?」

P「望むところだ。びっくりさせてやる」

凛「何を張り合ってるの・・・」


蘭子「我らの帰還は如何様にして執り行われる?」

P「先に女子寮の飛鳥と蘭子を降ろして、次に凛の家だな。どこか寄りたいところあるか?」

凛「私は、特に」

飛鳥「ボクも」

蘭子「右に同じく」

P「よし、じゃあ出発するぞ!」


女子寮・飛鳥の部屋



飛鳥「・・・終わったんだな」

飛鳥(部屋の前で蘭子と別れ、1人で静かに過ごしてようやく実感が湧いてくる。充実感のような、喪失感のような)

飛鳥(今回の仕事、舞台で演じるということは思いのほか収穫が大きかった。技術だけでなく、自らの内側をさらけ出すことになるとはね)

飛鳥(きっと未来でボクの過去を語るとき、きっと今日、いやこの仕事のことは外すことができない重要なファクターなのだろう)

飛鳥「月が、綺麗だ・・・」

飛鳥(プロデューサーは『アイドルは星』だなんて言うけど、ボクはむしろ月ではないかと思う)

飛鳥(遠くなったり、近づいたり。満ち欠けに、日食。決してただ一つの見え方に留まらないそれを、ボクはアイドルと重ねてしまう)

飛鳥(もっとも、アイドルは月みたく1つではないのだけど)


飛鳥「この世をば、我が世ぞと思う望月の・・・だっけ」

飛鳥(アイドルの頂点・・・シンデレラガールが曇りない満月だとすれば、ボクはたどり着けるだろうか?答えは『分からない』)

飛鳥(高い壁にうちひしがれるかもしれないし、突然辞めなくてはいけなくなる日が来るかもしれない)

飛鳥(けどそれは恐れる理由にはならない。終焉を恐れていては、何も成し遂げることはできない)

飛鳥(凛や蘭子、未央に教えられたことを胸に、ボクは戦う。ボクが歩いてきた道程と、ボクの未来と)


飛鳥「・・・さて、ミッドナイトレディオショーを聴いてから寝るとしようか。今日の電波は、誰の声を拾ってくる?」

以上です。ありがとうございました。

精進します。

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