義姉「泊めてください、義姉さん」 (86)

姉「っかぁ~週末に飲むビールうっめー」グビグビ

姉「今週一杯ごくろうさん~わーたーしー」

姉「ビバ、完全週休二日制~」グビグビグビ


姉「…………」

テレビ「」ワハハハハッ

姉「…………」

テレビ「」ソレハナイ、ソレハナイデ

姉「……はは、」


姉「実家帰りたい……」

スレタイミス


義妹「泊めてください、義姉さん」

姉「金曜の夜に花の二十代が、一人で惣菜をつついて晩酌て……」

姉「もっとさぁ、こう……あるだろ、イケメンの先輩に飲みに誘われたりさ……」

姉「ビール苦いよ……こんなの美味しくないよ……」

姉「実家帰って、パパの料理が食べたいよぉ」


姉「…………」

姉「独り暮らし始めてから、独り言増えたなぁ……」

ピンポーン

姉「……? チャイム? 新聞ならとってあるわよー」

ピンポーン

姉「はいはい、出ます! 出ますからぁ~」


姉「はい、どちらさま」ガチャ

義妹「あっ!」

姉「あれ? 義妹ちゃん?」

義妹「あの……」


義妹「泊めてください、義姉さん」

姉「はい?」

姉「とりあえず、ここじゃなんだから家に入って」

義妹「はい」





姉「で、どうゆうこと?」

義妹「その……あの……」オドオド

姉「その荷物、随分と大きいようだけれど、着替えが入ってるの?」

義妹「は、はい……」

義妹「あのですね、義姉さん――」

姉「はい……?」

義妹「家出……したんです……」

姉「は?」

姉「何でまたそんなこと……」

義妹「……義父さんが……」

姉「――! パパが何かしたの!?」

義妹「義父さんが、母といちゃつくんです」

姉「は?」

義妹「人目をはばからず、いちゃいちゃいちゃいちゃ……」

義妹「私、一応受験生なんですよ! それなのに、夜とか……そのぉ……変な音聞こえてくるしぃ……」

姉「あらら、――家出するって、ちゃんと言ってきた?」

義妹「ええ、母さん達がいちゃつくの押さえてくれないんなら、義姉さんの所行ってやるって――」

姉「で、本当に来たのね」

義妹「はい……」

姉「まあ、私は構わないわよ……ところで、いつまでいる予定?」

義妹「出来れば、受験が終わるまで」

姉「ん。――そうだ、晩御飯は食べた?」

義妹「はい……マッキュで済ませました」

姉「――」スンスン

義妹「……な、なんですか?!」

姉「――照り焼きの匂い……良いもん食べたねえ」

義妹「~~///!! 良いじゃないですか、べつに!」

義妹「そういう義姉さんはお酒臭いです! 一人で寂しく晩酌ですか?!」

姉「……いいじゃない、別に……ええ、一人でお洒落なバーにいく勇気がなくて、かといって、飲みに誘う相手もいなくっても……」

義妹「ね……義姉さん?」

姉「なんだ、友達がいるやつが偉いんか? 卒業式にずっと友達でいようねって約束した子と、それ以来連絡取ってないのはどういうことなの?」

姉「所詮、そんな薄っぺらな人間関係しか築けない人なんですよ、私は」

姉「ははっ……」ジッ

義妹「義姉さん……そんなこっちを見られても……」

姉「飲むわよ」

義妹「いや……私、未成年……」

姉「関係ない関係ない……なんなら、オレンジジュースでいいから――いいから、私に付き合え、な?」

義妹「は、はいぃ……」

―――
――


窓の外「」チュンチュン

姉「……うぅ……もう朝?」

姉「飲みすぎたぁ……気持ち悪ぅ……」

姉「いいや、どうせ休みだし……もうちょっと……」

義妹「あっ、義姉さん起きました?」

姉「ん? 義妹ちゃん? ……ああ、そっか……」

姉「ごめんだけど……朝御飯は適当に……」

姉「あれ?」スンスン

姉「この匂いは……」

義妹「味噌汁です。もうすぐで朝御飯が出来ますので、顔洗ってきてください」

義妹「それとこれ」ホイ

姉「……ん、……ああ、気が利くね……二日酔いに効く薬なんて」グビッ

姉「……家にあったっけ、これ」

義妹「コンビニに行って買ってきました。あと……いくつか食材も」

姉「ああ、そう。いくらした? 払うわ」

義妹「いいんです。これから、お世話になるんですから」

姉「そうは言ってもねぇ……生活費なら、パパに請求する予定だし。お金には余裕がある……はずだから」

義妹「あっ、取り敢えず顔洗ってきてください。私も朝食の準備しちゃいますから」

姉「ん……そうする」ファアー

姉「――! 美味しい、これ!」パァ

義妹「そうですか? 良かったです」

義妹「あの……今日はどうする予定ですか?」

姉「家でごろごろするつもりだけど……」

義妹「そうですか。――あのっ、近所に図書館ってありますか?」

姉「図書館……? そっか、勉強に集中したくてこっちに来たんだもんね」

姉「でも、図書館かぁ……近くには無いなぁ」

義妹「そうですか……」

姉「あ、でも、あそこなら……」

義妹「どこか、あてが――」

姉「ええ、開店時間になったら行ってみましょうか」

姉「でも今は……」ズズッ

姉「あぁ……味噌汁久しぶりに飲んだ。美味しい~」

義妹「……ずずっ」ニコリ

姉「ごちそうさま」

義妹「おそまつさまです」

姉「うーん、気分悪いのも大分良くなったー。――じゃあ、皿は私が洗っちゃうわね」

義妹「私がしますよ?」

姉「いいからいいから――受験生は単語帳とでもにらめっこしてな」

義妹「すみません、では、お言葉に甘えて」パラリ

姉(真面目だなぁ)

姉「あっ、義妹ちゃん……荷物ってその大きなカバンだけなの?」カチャカチャ

義妹「はい、服は基本的に制服だけで事足りますし、あとは、必要なものといったら学参位でしたから」

姉「そうなんだー。……聞くけど、制服以外の服って何着持ってきたの」シャ

義妹「上下セットで五着ですね。うち三着はパジャマと体操服です」

姉「休日に友達と遊びにいったりする時、どうなのそれ。そんな少ないんじゃ、お洒落な着まわしとか出来ないでしょ」キュッキュッ

義妹「……やりましたね、義姉さん。将来――二年後ですか――週末、一緒にお洒落なバーにいく人が出来ましたよ」

姉「……血は繋がってなくても、姉妹なのね」カチャン

義妹「……ですね」ボッチ

姉「はは……」ボッチ

姉「鍵オッケー、スマホも持った……多分忘れ物なし! じゃあ、行きましょうか」

義妹「はい――あの……」

姉「ん? 何?」

義妹「これから行くところって、お金がかからないのですか?」

姉「場合によっちゃかかるわね――大丈夫よ、朝御飯とか薬とかの事もあるし、私が奢ったげる!」

義妹「……ソファーの上、見てみてください」

姉「ソファーの上? 何が……あっ」

姉「奢るって言ったのに、財布忘れてちゃ、ダメよね……」

義妹「もう……義姉さんったら」ヤレヤレ

義妹「義姉さんって、お風呂短いですよね?」テクテク

姉「まあ、体綺麗にするだけだし……酒の臭いが落ちればそれで……」テクテク

義妹「失礼ですけど、やっぱり、週末自宅で一人酒してる人って、他人――」

姉「はっはー、義妹さんや、それ以上は言うなよ? 他人の目を気にしない頭おかしい人とか、他人とまともに関わりがない寂しい人とか、そもそも、お酒の臭いがしても指摘してくれる親しい友人がいないとか……」シュン

義妹「そこまでは思っていないですし、自分で言っておいてへこまないでください……」

姉「だってぇ……」

義妹「……少なくとも、これからは私がいますよ」

姉「義妹ぉ……」ウルウル

姉「逆に義妹ちゃんは、お風呂長いよね」テクテク

義妹「はい……やっぱり、最低限のマナーは守りたいですし、それに……」テクテク

姉「それに?」

義妹「私は周りの方に比べて、体が大きいですから、それだけ時間がかかるんです」

姉「ああ、170近いんだっけ? いいなあ、私もそれぐらい欲しかった……」

義妹「背が高いと、結構苦労しますよ……低い天井のヘリなんか、すぐ頭ぶつけてしまいますし」

姉「うーん、モデルさんみたいでいいと思うんだけどなぁ……それに――」チラッ

義妹「?」チョモランマ

姉「――」スッ

姉「……」ナイアガラフォール

姉「羨ましいなぁ」ボツリ

義妹「なんの話ですか?」

姉「乙女の至宝の話……」

義妹「至宝……?」

義妹「……あ――っ!!?」カァア

義妹「お、大きくてもいいことないです! むしろ、私としては小さいほうが羨ましい……」アタフタ

姉「またまたー、男子の視線釘付けでしょー」

義妹「それが嫌なんですよ! あと、肩凝るし、洗うのも疲れますし!」

姉「これが持つ者の余裕か……」

義妹「違います!」

姉「ははっ……真面目な話、胸の大きさは遺伝だからなぁ……私は望み薄だなぁ」

   マ マ
姉「義母を見る限り、義妹ちゃんがチョモランマになるのも納得だわぁ」

義妹「もっ……もう、止めてくださいっ?!!」カアァ

姉「さて、ついた」

義妹「えっ? ここですか?」

姉「そっ」

義妹「でも、これって――」

姉「ふふ……じゃあ、私先に行くね」ガサッ

義妹「ちょっと義姉さん!?」

義妹「行っちゃった……。茂みの奥に……」

義妹「もうっ!」ガサッ

義妹(そこは、言うなれば、新緑の茂る自然のトンネルでした)

義妹(天井ではつたや枝が絡み合い、そこから木漏れ日がろうろうと漏れだし……)

義妹(けれども、やはり薄暗いそこは、まるで異世界に来たかのような非現実さで)

義妹(そんな幻想的な風景の向こうに、義姉さんの背があるのを認めると、不思議に思うのと同時に、安心感を覚えました)


義妹(この先には何があるのだろう?)

義妹(めったにない場景に、気分を高揚とさせた頃……)

義妹(姉が自然のトンネルを抜けました)

義妹(私は義姉さんの背が見えなくなったことに、少なからず不安を感じ、足早に後を追いました)

義妹(出口が近づくと共に、太陽の真白い光が――)


義妹「――わぁ!」

義妹(トンネルの向こうには、花畑に囲まれたレンガ造りの家が――)

義妹(まるで、お話の中のようなその光景に、私は一瞬にして魅されてしまいました)

姉「凄いでしょ」

義妹「はい……」

姉「私も、ここを初めて見つけたときは、驚いて声もでなかったわ」

義妹「あの、ここって……?」

姉「喫茶店よ。さっ、中に入りましょう」

ドア「」カランコロン

女主人「いらっしゃいませ」

女主人「っと、やっぱり、あなたでしたか。いつもの席、空いてますよ」

姉「ごめんね、今日は連れがいるから、テーブル席で」

女主人「連れ、ですか?」

女主人「ああ、そちら背の高い方ですね」

女主人「では、お冷やをお持ちしますので、お好きな席にどうぞ」

姉「どうもね……義妹ちゃん、あそこに座りましょう」

義妹「はい……」

女主人「妹さんなんですか?」コトン

姉「義理のだけどね……ねぇ、ここで勉強しても大丈夫?」

女主人「ええ、いいですよ。どうせ、人なんてあまり来ないですし」

義妹「えっ、お客さん来ないんですか!?」

女主人「閑古鳥が絶叫するくらいには……――入り口が見つけづらいですからねぇ~」

義妹「……なんで、そんな客寄せ商売には向かないことを……?」

女主人「趣味ですよ、私の。トトロロみたいな世界に憧れてるんですよ」

女主人「喫茶店自体、趣味でやってることですから」

女主人「よく言うじゃないですか、楽しんだ者勝ちって。だから、趣味と掛け合わせて、楽しんでいるんです、私は」

義妹「そうなんですか――良いですね、そういうの」

女主人「ありがとうございます」

女主人「それに、この店を見つけられる方は、面白い人ばかりですから」

女主人「そういった方とお話しするのも、楽しいんですよ」

義妹「へえ……」チラッ

姉「な、なによ……?!」

義妹「義姉さんの面白いところ、私も好きですよ」

姉「はっ……はは……」

義妹「」カリカリカリ

姉「」スマホ、スイスイ

義妹「」カリカリカリ

姉「」パフェ、パクパク

義妹「……ん?」

姉「どうしたの?」

義妹「すみません、ここがちょっと……」

姉「ああ……そこはね……」カキカキ

姉「こうやるの」

義妹「ああ、なるほど……ありがとうございます、義姉さん」

姉「いえいえ――あっ、女主人さん、コーヒーのおかわりお願い」

女主人「はい、わかりました……ちょっとお待ちくださいね」

女主人「随分と、仲がいいんですね」コポコポ

姉「そう? 普通じゃない?」

女主人「いえ、私には姉妹とか、兄弟がいたことがないから、普通が分からないけどね」

女主人「ほら、思春期って、身内にキツくあたっちゃうじゃないですか。でも、お客様達って、友達みたいな距離感だなと思って」

姉「そう? ……でも、確かにそうかもね」

義妹「……友達、ですか……」

姉「いや?」

義妹「いえ、うれしい限りですよ……」

姉「なんか、ひっかかる言い方ね……」

女主人「まあまあ、いいじゃないの――えっと……妹さんの方も、息抜きに何か食べる?」

義妹「いえ、私は……」

姉「ここのパフェは美味しいわよ――ほら」ヒョイ

義妹「これって……」

姉「一口味見してみ、ほらほら~」

義妹「……」

義妹「じゃ、じゃあ一口――」パク

姉「どう?」

義妹「お……美味しいです……」

姉「でしょ! 女主人さん、パフェ一つ」

女主人「はい、承りました。――甘いものは、脳の働きを良くしてくれますよ」

義妹「はい……すみません、義姉さん、昼もお世話になったのに」

姉「いいわよ、パフェの一つくらい――これでも私、社会人だから」ドヤァ

義妹「ご馳走になります」

――数時間後

義妹「そろそろ、終わりにしましょうか」

姉「そうね、日も暮れてきてるし」

女主人「あら、晩御飯も食べてかないの?」

姉「晩御飯はいいかなって」

女主人「ほぼ一日店に居座っててのに、売り上げに貢献してくれないの?」

姉「うっ……」

女主人「ふふ、冗談よ。言ったでしょ、趣味でやってることだから、収益は関係ないの。そりゃ、黒字になったほうが嬉しいけれど」

義妹「……ひょっとして、女主人さんって――」

女主人「おっと、他人にお金を持ってるかなんて、聞いちゃダメよ、妹さん」

義妹「す……すみません」

女主人「いえいえ――忘れ物はない? じゃあ、お会計ね」

女主人「またのご来店を~」

義妹「はい」

姉「近いうちにね」

ドア「」カランコロン、バタン

義妹「静かで、良いところでした」

姉「ほんと、人もまともに来なくて、BGMも邪魔にならない感じで、集中して作業したいときには、ぴったりの場所よね」

義妹「人が来ないのは、お店としてどうかと思いますが、都合のいい場所でしたね」

姉「明日も来る?」

義妹「いえ……明日は学校があるので」

姉「日曜日よ、明日は」

義妹「受験生向けに、講座を開いてるんですよ」

姉「ああ……私の時も有ったわ、それ」

義妹「そうですか――義姉さん、財布に余裕は有りますか?」

姉「ザギンでシースーするほど余裕は無いけどね、晩御飯を買うくらいなら」

義妹「それです!」

――スーパー

義妹「さすがに独り暮らしであの冷蔵庫の中身は無いですよ」

姉「……一人だと、わざわざ作ってまでご飯を食べようと思わなくってね……」

義妹「気持ちは分かりますが……」

姉「でも、これからは義妹ちゃんもいるし、ある程度は力をいれるわよ」

義妹「そうしてください。惣菜だけだと、バランス偏りますし」

姉「へーい、きをつけまーす」

義妹「ふう、とりあえず明後日くらいまではもちますかね」

姉「そうね……けど、これは買いすぎじゃない?」

義妹「ちゃんと調味料を揃えとかないからですよ。あと、しっかり賞味期限チェックしておいてください」

義妹「今朝、味噌汁を作ろうと思ったら、消費期限三ヶ月前の味噌が出てきた私の気持ちを考えてください」

姉「うへ、マジで? 三ヶ月前って……」

義妹「まあ、義姉さんの女子力……というより、生活力が低いのは知っていましたが」

姉「……正直な感想教えて。私の部屋に初めて入った時、どう思った……?」

義妹「この際ですから、オブラートはポイして言いますが、――汚部屋だとは……」

姉「やっぱり……」ガックリ

義妹「服は脱いだら脱ぎっぱなしのまま放置して、ごみ袋こそ有りませんでしたが、丸まったティッシュを床に放置しっぱなしなのはどうかと……」

姉「ああ……うん」

義妹「自分で聞いておいて、へこまないでくださいよ」

姉「違うの、なんでも親がやってくれた扶養時代に戻りたいなって……」

義妹「馬鹿言わないでください。嫌な逃避の仕方しないでください」

義妹「それに、義姉さんが実家にいたら二人っきりになれないじゃないですか」

姉「ん? 今なんて――」

義妹「――! ――っ~~~~!!!?」カアア

義妹「なんでもないです! 深く考えないでください!」

義妹「先行きますからね!」トタトタ

姉「ちょ、ちょっと……」

姉「あんまり急いだら危ないわよ。もう……」

――


義妹(夕日の緋さにノスタルジーを思いました)

義妹(隣を歩く義姉さん。彼女との背の差)

義妹(見上げると、初めて会った日よりも大人になった彼女の顔が有りました)

義妹(右隣を歩く彼女。私の憧れ)

義妹(初めて会ったあの日から。私は、この人に近づけているのか)

義妹(この人と一緒に歩いて、恥じない自分になれたのか)

義妹(それは――)

姉「――危ない」ギュッ

義妹「え?」

義妹(突然、義姉さんに肩を抱きすくめられました)

義妹(義姉さんに密着――鼻腔をくすぐる彼女の匂い、酔ってしまいそうな温かさ、女性らしい体つき)

義妹(私は――)

義妹「」ギュッ

義妹(義姉さんに抱きつき返した)

義妹(彼女を――義姉を、感じる)

義妹(自転車が、私のさっきいたところを通過する。そんなことはどうでもいい)

姉「もう! 歩道なんだから、もっとスピード落として欲しいわよね」

義妹(義姉の胸に押し付けた耳に、彼女の鼓動を聞く)

義妹(ナイアガラの滝だなんて卑下する胸に、けれども確かに女性らしい膨らみを感じた)

姉「どうしたの? 顔が赤いわよ」

義妹(……義姉さん)

義妹「……気のせいですよ。夕日のせいです、きっと……」

義妹(夕日の緋さのせいにして、ノスタルジーを圧し殺しました)

義妹(けれど、自分でも顔が赤くなっているのは、ごまかしようがないくらい理解していました)

義妹(……そのとき、義姉さんが車道側を歩いているのを、今更ながら認知し、今日一日そうだったことを思いだし、より一層顔が熱くなりました)

ミス>>35
義妹(見上げると、初めて会った日よりも大人になった彼女の顔が有りました)

義妹(横目で彼女の顔を覗き込むと、初めて会った日よりも大人になった彼女の顔が有りました)

――


義妹(夕日の緋さにノスタルジーを思いました)

義妹(隣を歩く義姉さん。彼女との距離)

義妹(横目で彼女の顔を覗き込むと、初めて会った日よりも大人になった彼女の顔がありました)

義妹(右隣を歩く彼女。上げ底のせいでいつもより背の高い、けれど、私の肩口までしか背のない憧れの人)

義妹(初めて会ったあの日から。私は、この人に近づけているのか)

義妹(この人と一緒にいて、恥じない自分になれたのか)

義妹(それは――)

姉「――危ない」ギュッ

義妹「え?」

義妹(突然、義姉さんに肩を抱きすくめられました)

義妹(義姉さんに密着――鼻腔をくすぐる彼女の匂い、酔ってしまいそうな温かさ、女性らしい体つき)

義妹(私は――)

義妹「」ギュッ

義妹(義姉さんに抱きつき返した)

義妹(彼女を――義姉さんを、感じる)

義妹(自転車が私がさっきまでいたところを通過する。そんなことはどうでもいい)

姉「もう! 歩道なんだから、もっとスピードを落として欲しいわよね」

義妹(義姉さんの胸に押し付けた耳から彼女の鼓動を聞く)

義妹(ナイアガラの滝だなんて卑下されている胸に、けれども確かに女性らしい膨らみを感じた)

姉「どうしたの? 顔が赤いわよ」

義妹(不自然に背を曲げ抱きついたことを不信に思ったのだろう。もしかしたら、体調が優れないとも思われたのかもしれない)

義妹「……気のせいですよ。顔が赤いのは夕日のせいです、きっと……」

義妹(言い終わり、直ぐに体を離す。彼女の残滓が、まるで私と糸を引くように名残惜しまれた)

義妹(ごまかしにもならない戯れ言。それでも義姉さんは深く言及せずに、ただ、そうと言うだけでした)

義妹(私の顔が赤いのは、義姉さん、あなたが――)

義妹(そのとき、義姉さんが車道側を歩いているのを今更ながら認知し、ついで今日一日そうだったことを思いだし、より一層顔が熱くなりました)

姉「ただいま~」

義妹「ただいま?」

姉「うん! おかえり……ほら、私にも」

義妹「……おかえりなさい」オズオズ

姉「ただいま」

姉「さて、手洗いうがいして。風邪になるわ……って言われなくてもか」

義妹「はい、体調不良には気をつけていますよ」

姉「真面目ね。そこが義妹ちゃんの良いところだわ」

義妹「見習ってくれてもいいんですよ? なんなら爪の垢舐めます?」

姉「ふふ、遠慮しておくわ。……ほら先に手洗ってきて。冷蔵庫には私が入れておくから」

義妹「いえ、食材は私が入れますので、義姉さんが先に洗ってきてください」

姉「そう? なんだか全部任せてしまっているようで悪いわ」

義妹「私の方が年下なのですから、姉を立てるのは当たり前です」

姉「ごめんね」

義妹「いえいえ」ガサゴソ

義妹「じゃあ晩御飯作っちゃいますね」

姉「晩御飯は私は作るわ」

義妹「は?」

姉「私が晩御飯を作るって言ったの」

義妹「失礼ですけど自分が何を言っているか分かっています?」

姉「本当に失礼ね……。いくら女子力が低いって言っても独り暮らししてたのよ、料理くらいできるわ」

姉「それに言ったでしょ、義妹ちゃんがいるんだからある程度力を入れるって」

義妹「そうですか……そうですよね。……じゃあ唐揚げにしようとおもって材料は買いましたから、よろしくお願いします」

姉「はいはい。受験生はゆっくり計算式でも解いてなさい」

義妹「ゆっくり解いてたら共通一次では間に合いませんよ」

姉「それもそうね。いろんな計算式解いて、本番で手早く解けるようにしときなさい」

義妹「はい」

姉「ふぅ……いいお湯だったー」

義妹「あがりましたか。じゃあ、私入りますね」

姉「どうぞー、暖かくていいわよ、温泉のもと入れたし」

義妹「それは楽しみです……あっ、お皿は洗っておきましたから」

姉「ありがと~ごゆっくり~」

義妹「はい」トテトテ

姉「……ふうっと、さて――」ピポパポピ

姉「でるかな……?」トゥルルルル

父「とっ……とと、もしもし?」

姉「あっ、パパ!」

父「はい、最近給料がアップしてニッコニコのパパですよ」

姉「そうなんだ……。……あのさ、義妹のことなん――」

父「そうなんだよ、そうなんですよ。せっかくお給料アップしたのに、今の家にはハニーちゃんしかいないしさ。もっと大勢で美味しいもん食べたいべ」

姉「いや……」

父「前さ、義妹ちゃんに服買ってあげようとしたら『めったに家から出ないのでいいです。制服さえあれば……必要になったら、義姉さんが置いていったやつきます』って断られてさぁ……。お前の服着るって言っても、大した数もないし、ダサいし……義妹ちゃんのお洒落に無頓着なとこ、ほんとお前に似てるよな」

姉「あの……」

父「だからさ、ハニーに流行のブランドもの買ってあげたわけ。そしたらもうかわいくってかわいくって、可愛らしいったらありゃしない! そんなんでさ、毎晩ハニーの着せ替えを楽しむのがパパの楽しみなわけよ。パパとママの夜のお遊戯会なわけよ」

姉「はぁ……つまり――?」

父「つまり、ハニーと致す雰囲気作った所で、我が娘から電話がかかってきた」

姉「はぁ?! ――――はあっ!?!」

父「今、ハニーに膝枕してもらいながら電話してまーす。やわやわのすべすべでーす」

姉「しっ……信じらんない! そんなこと娘に言う?!」

父「信じらんないのはこっちだべ。まさかこんなラブコメみたいなタイミングで電話かかってくるとか誰が思うよ」

姉「だったら電話出なければよかったでしょ!」

父「電話に出んわってか」

姉「やかましいっ!」

父「今そっちに義妹ちゃんいってんだから、なんかあったかもとか思うだろ」

姉「……その義妹のことよ……電話したのは……」

父「およ、ほんとに何かあったん?」

姉「いや、義妹がこっちに来た本当の理由は何か聞こうと思ったんだけど……」

父「本当の理由? なにそれ?」
              マ マ
姉「義妹ちゃんにね『パパと義母がいちゃついて勉強に集中出来ない』って言われて泊めてたんだけどね……」

父「おいおい、そんな馬鹿な理由なわけないだろ。きっと、ストーカーに家バレしたとか、そんなんが――」

姉「いいえ、そんな馬鹿な理由よ、絶対っ!!」

姉「それにパパの言った理由なら、家にいるパパ達が危ないじゃない」ハァ-

父「ははっ……そうだな」

父「…………義妹ちゃんさ、寂しそうだったんだ」

姉「はい?」

父「お前が家出ていってさ、小さいころからついて回った背中がいきなりなくなったんだ、悲しいし、寂しいさ……」

姉「……そうね…………」

父「覚えてるか? 初めてあった日のこと」

姉「ん、覚えてる。義妹はまだ小学生入る前で――何も無いところで転んで泣くくらい抜けてる子で」

父「そうそう、で、そんな義妹ちゃんに自分の力で立つように言ってさ、んで、何とか立ちあがった義妹ちゃんについてた汚れを払ってあげて『頑張ったね、偉い』っていって頭撫でてあげてさ」

姉「今考えると手を貸してあげればよかったのにね」

父「でも、あれでよかったよ。義妹ちゃんもお前になついたし」

姉「そうね……」

父「――――ん? はいはい分かったよ…………姉、お母さんと代わるな」

義母「姉元気してる?」
      マ マ 
姉「ええ、義母も?」

義母「父さんのお話の通りよ」

姉「は……ははっ」

義母「あの子わね、あまり自分を表に出すような子じゃないから……正直なに考えてるか分からない時もあるし……けど、そんなあの子があなたと離れ離れになってとても寂しそうにしていたの……あのね、お金をし送るから、良かったら受験が終わっても義妹と暮らしてもらえない?」

姉「はい、いいですよ」

義母「即決ね……」

姉「そりゃあ、好きですし」

義母「――! ……ありがとうね」

義母「きっと、私たちがいちゃついてたからなんて、体のいい後付けね。お姉ちゃんに会いたいから家を出たんだわ。だってこんなにも二人には愛があ――ひゃ、ちょっと父さん、今電話中なんですからそんな、っぁ……」

姉「まちがえなくいちゃついてるせいですよ! 少なくともトリガーにはなってます!」ハァ

姉「切りますからね! 風邪引かないでくださいよ!」

義母「ちょっとまっ――」ブツッ、ツーツー

姉「はあぁ」

姉(ため息と共に受話器を置いた)

姉(そうすると、私はベッドに腰掛けそのまま横になった)

姉「言っちゃった……」

姉(ぼそりと、誰にも聞こえないように呟いた後悔の言葉)

姉「いや、今部屋には一人しかいないんだけどね」

姉(……独り言が本当に増えた)

姉(今までのは、寂しさをまぎらわせるため、そういう独り言だったのに……)

姉「好きだって……」

姉(言ってしまった)

姉(小さい時から私の後ろを可愛らしくついて回った彼女)

姉(真面目で、ボッチで、背が高くて、――私のかわいい義理の妹)

姉「私のマンションに一緒に住むことになって驚いたけど、嬉しい、とっても」パタパタ

姉「また義妹と一緒に――」

姉(義妹は私の気持ちを知らない)

姉(知られてしまったらどうなるんだろう?)

姉(拒絶されるのかな、それとも――)

姉「受け入れて……」

姉(もしもの幸せを想像して、どうしようもなくせつなくなり、誤魔化すように枕をぎゅうっと抱いた)

姉「義妹……」

姉「義妹……」スゥ

姉(知らず、手が導かれるように下へと――)

姉「んっ……」

姉(想うのは愛しい彼女のこと。私にとっての一番であり、その繋がりは本当の姉妹にも負けないと自負している)

姉(それほど強く、彼女のことを想う、想っている)

姉「……っ、義妹ぃ……」クチュ

姉(彼女とのことを想っただけで、私の乙女な部分は熱をもち潤う)

姉(熱くてどうにかなってしまいそうなのを、必死に、けれども音をたてないようかき回して鎮める)

姉(だけど、そんな抵抗に意味はなく、頭はすぐさま義妹によって埋め尽くされる)

姉(私のことを好きだと言ってくれる彼女。彼女は私の乙女な部分に手をあてがって――)

姉「ぁあっ――義妹、義妹ぎまいぃぁ……――っんん!」ビクッ

姉(そのまま彼女は潜り込ませるようにズボンの中に手を入れて直接――)

姉「だめよ義妹っ! そこ汚いから!」

義妹『何がダメなんですか? こんなに濡らして……ずっと私にしてほしかったんでしょ?』

姉「それは……」

義妹『ほら、血の繋がってない義理の妹にこうされたかったんでしょ! ほらほら――』グチョグチュ

姉「うぅ、っく……はぁあん」ピクピク

義妹『あはぁっ! 気持ち良さそうにしてますね。義理の妹の手でいぢめられて、よがってるんだ義姉さんは!』クチュクチュ

姉「義妹の手……?」

義妹『そうですよ、私の手です。私の手で気持ちよくなってるんですよ……』

姉「っ……義妹、義妹ぃ――」

義妹『あはぁ腰まで振っちゃって……イキそうなんですか? いいですよ、私に義姉さんのとぉっても可愛らしいイキ顔見せてください』クチュチュグチュ

義妹『ほらほらぁ、帰りに私に抱きつかれてドキドキしたんでしょ? 不自然に背中曲げてきて胸に顔を埋められた時、発情しちゃったんでしょ……このまま胸を舐められるんじゃないかって……』

姉「そんな変態なこと……」

義妹『じゃあ私が胸を弄くっても義姉さんは何ともないんですね』クイッ

姉「――ひっ、ん! っああぁああぁぁあああっっッ……」ビクンビクン

義妹『イッちゃったじゃないですか、変態さん』

姉「義妹ぃ……」

姉「はぁ……はぁ……」

姉(呼吸を整え、ティッシュで汚れた手を拭う)

姉(深呼吸に上下する胸。霧消した熱)

姉「義妹……」

姉(今、彼女はシャワーを浴びているのだろう、ざざっと折戸に水のかかる音がする)

姉「義妹……」

姉(何度めとも知れない呟き)

姉(実際に彼女がそこにいるのに、私は……)

姉「……っ…………」

姉(声を上げずに泣いた。きっと長い長い彼女への恋が実ることはない)

姉「ねぇ」

義妹「どうかしました?」

姉「どうかしましたって……おかしいと思わない?」

義妹「……狭いです」

姉「そりゃね――」

姉「おんなじ布団で寝たらそうなるわ!」


義妹「しょうがないじゃないですか、まさか来客用の布団がないとは思わなかったんですから」

姉「だからって……だいたい、あなたは昨日何処で寝たのよ」

義妹「昨日はどっかの飲んべえに付き合ってたら寝落ちしましたよ。床の上で雑魚寝です。夜中……というか、明け方未明に目が覚めたので、部屋のすみに適当に丸まってた布団を敷いて、義姉さんをそこに寝かせたあと、朝御飯を作ったんですよ」

姉「それはごめんなさい……じゃなくて、だったら私はソファで寝るわよ」

義妹「……私と一緒の布団で寝るの嫌ですか?」

姉「嫌って訳じゃなくて……」

義妹「だったら良いじゃないですか……ほら、狭さならこうやって抱きつけば、多少余裕が出来てなんとかなりますよ」

姉「うえ――ぃ!!! 義妹――!!?」
 (いろいろ当たって……)


義妹「義姉さん……あったかい……」

姉「いや、あったかいじゃなくて……」

義妹「覚えてます? 小さい頃もこうやって――」

姉「…………義妹?」

義妹「嬉しいんです、ほんとうに……うれしいんです……」ウトウト

姉「……ありがとうね」ナデ

義妹「ぁ、あたま、なでられるの、きもちぃ――」スゥ

義妹「くぅ――くぅ――」

姉「寝ちゃった……」ナデナデ

姉「かわいい寝顔……私、我慢出来るかな……」

姉(間違いなく義妹は私のことを好きでいてくれてる)

姉(でも、その好きは私のと、きっと違う)

姉(私たちは姉妹で、女の子同士。許されないし、周りの理解も得られない。そもそも義妹は私のことをそんな目では見ていないだろう)


姉「くぁ――、んふぅ、私も寝よう」ウトウト

姉(それでも、好意にはかわりないし、こんなにも近くに居てくれる)

姉(この関係が崩れたらなんて考えるのも怖かった)

姉「おやすみ、義妹」ナデナデ

姉(手を伸ばせば触れられる距離に義妹が――)

姉(それで十分――そう自分に言い聞かせて、眠りに落ちた)

義妹「義姉さん……」

義妹(呼び掛けるも、瞳を閉じ安らかに寝息をたてる彼女は、当然ながら返事をしなかった)

義妹「寝ちゃいましたか」

義妹(起こさぬように小声で呟く)

義妹(私の横で心底安心しきったような寝顔をしている彼女)

義妹(先程は彼女にとても大胆なことをした)

義妹(今思えば少し恥ずかしい)

義妹「義姉さん……」

義妹(不意に、手が彼女の頭へと伸びた)

義妹(そのまま思わず頭を撫でてしまう)

義妹(ずぼらな彼女らしい、枝毛が手のひらに突っかかる)

義妹「駄目ですよ義姉さん……女の子なんですから身だしなみには気を付けないと」

義妹(これじゃあ、まるで――)

義妹(そこまで思い至って、私は本当にそうならいいのにと思った)

義妹(思ってしまった)

義妹(私たちは姉妹とはいっても義理。血は繋がっていない)

義妹(法律のことはよくわからないが、例え兄妹でも血が繋がってなければ結婚できるだろう)

義妹「馬鹿なこと……」

義妹(明日、学校帰りにリンスを買ってこよう。髪の毛を補修するやつ。そうしたら枝毛も減るだろう)

義妹(考えついた馬鹿なことを消し去るように買い物の予定を立て、瞳を閉じ眠りについた)



義妹(――義姉さんが男の人だったら良かったのに)

姉「ん~おはよう、義妹」

義妹「ぉはよぅ……ごじゃぃます……」ウトウト

姉「ね、眠そうね……私より早く寝たのに……」

義妹「は……はは……」ウツラウツラ
義妹(言えない、寝顔が見たかったから寝たふりしてたなんて……しかも、そのあと結局モヤモヤして寝れなくて日付変わっても起きてたなんて)

義妹「ね……義姉さんは、快眠だったようですね」

姉「そ、そうねぇ……疲れてたからねぇ……」
姉(言えない、義妹ちゃんをおかずにしてしたおかげで、程よく疲れて快眠だったなんて、絶対に)
姉(いや、まさか義妹があんな近くにいてぐっすり寝れるとは思わなかったけど……好きな子と一緒に寝てそれってどうなの、私?!)

姉「はは……」

義妹「ははは……」


義妹「……とりあえずご飯の支度しましょうか……?」

姉「……そうね。でも、先に顔を洗おうかしら」

義妹「ですね……」






義妹「じゃあ行ってきますね」

姉「うん行ってらっしゃい。車には気を付けるのよ」

義妹「分かってます」クツ、トントン

義妹「駅が近くて良いですね……と、あ!」

義妹「義姉さん、合鍵とかありませんか?」

姉「あれ? ああ、そういえば渡してなかったわね」

義妹「はい、昨日食材を買いにコンビニまで行ったときは机の上に置いてあったものを持っていきましたから」

姉「はいはい、たしかここら辺に……っととあったあった、はいこれ」ヒョイ

義妹「わっとと……投げないでくださいよ」

姉「ごめんごめん……ささいってらっしゃいませお嬢様」

義妹「……はぁ、いってきますね」

姉「車には気を付けるんだぞ~」

義妹「さっきも言ってましたよ、それ……気をつけていってきます」ガチャ

ドア「」ガチャリ

姉「さて、私はどうしようかね」

姉「ここは一つ二度寝……する気にもなれないな」

義妹『せっかくですから掃除をして、帰ってきた私を驚かせたら良いんじゃないですか?』

姉「……それが良いかもね、ズボラって言われるのもいい加減キツいし」

義妹『そうですよ、仕事も出来てプライベートもキチンとしてる人、きっと惚れちゃいますよ私』

姉「そう? だったら頑張っちゃおうかな~、私」

姉「よし、掃除する!」

――数時間後

姉「ふぅこんなものかしらね」

部屋「」ピッカピカ

姉「掃除ってやりはじめたら楽しくなるわよね」

姉「あとは洗濯機回して――」グゥ

姉「お腹空いたわね……」

姉「先にお昼にしましょうか、昨日セールやってて思ったより多く買えたのよね……半ドンだろうから義妹もそろそろ帰ってくる頃だと思うし」

姉「あれ、それとも学校で自習していくのかしら? でも、弁当の類いは持っていってないはずだし……まあ、多目に作って残ったら夜に出せば良いか」

ピンポーン

姉「……? 宅急便かな?」

姉「はい、どちら様ですか?」

?「あ、姉ちゃん?」

姉「そうですけど、どちら様でしょうか?」

?「――っ。……私です」

姉友「――姉友です」

姉「えっ!? 姉友ちゃん!? どうしたのいきなり」

姉「とりあえずドア開けるね」インターフォン、ガチャ

姉友「あっ、ひさしぶり姉ちゃん」

姉「ほんとに久しぶりね。入って入って」

姉友「うん」

姉友「おじゃまします」ガチャリ

姉友「ごめんね突然」

姉「いいよいいよ。それにしても懐かしいね、最後に会ったの高校の卒業式かぁ」

姉友「うん、懐かしいよ本当に。姉ちゃんは私の頭じゃ入れないような大学に入っちゃうし、要領がよくないから大学のレポートとかテストとかで頭回らなくなるし、それに加えてバイトもあって、なかなか連絡取れなかったし……」

姉「そうだったんだ……」

姉友「あ、それにしても綺麗な部屋だね。流石、姉ちゃんは完璧だ」

姉「そんな大袈裟だよ。それに今日はたまたまだし」

姉友「ふーん。でも良かったよ、姉ちゃんに同棲してる彼氏が居なくて」

姉「何それ嫌み~? どうせ、出会いのない寂しい人ですよ。でも――」

姉友「いいえ、嫌みなんかじゃありませんよ。ただ、うれしいんです」

姉「え?」

姉友「姉ちゃん――姉が私との約束を守っていてくれたことが」

姉「はい? ……約束?」

姉友「はい。ずっと友達でいようって約束」

姉「……なんでそれが私に彼氏がいないことと繋がるのか、ちょっとよく分かんないなぁ……」

姉友「だって、彼氏出来たらその人のことが優先になって、友達と一緒にいる時間がへりますし、万が一結婚なんてしようもんなら旦那さん、家庭が第一になって余計に私と一緒にはいられませんし、夫婦になったんなら夜の営みは絶対にしますよね。で、旦那さんが計画性のない人なら子供が出来るわけです。仮に貯蓄の事とかしっかりと考えている人でも、数年経ったら子供を授かるわけですよ。そしたら駄目だ。もう一緒に遊ぶ時間はない。今時共働きじゃないとやってけないのに、家事は女のする仕事だって全部任せる旦那さんだったらボロボロの雑巾みたいに酷使されて、そんな中で子供の世話をするもんだから精神が参ってしまう。そうなったら、精神科メンタルヘルスな病院に通うメンヘラおばさんの出来上がり。なんでこうなったんだろう。自分が思い描いていた結婚生活とは違う。なんで……。そんな自問が姉の中でぐるぐると回り続けるんです。そして、はたと気づくわけですね。ああ、旦那と子供がいるからこんなことになったんだって。そこまで行ったら話は早い。家族皆が寝静まった真夜中。まずは赤ん坊です。泣かれないようにきゅっと素早く首を締めます。はい、これで赤ん坊が死にました。次は旦那さんです。今度は混ぜたらいけない洗剤同士を寝ている旦那さんの顔面にぶっかけます。それだけじゃ弱いのでカビ用の洗剤を口や鼻に向けて溢します。はいこれでめでたく姉を縛っていた全てのものが無くなりました。でも、駄目です。姉は人を殺しました。すぐに刑務所に入れられてしまいます。それを知った私は急いで、それこそ仕事をほっぽりだして姉に面会するんです。そこには旦那に酷使され会社に奉仕し育児に身を粉にしたせいでやつれてしまった姉の姿が……。そして私に言うわけです。あの時、彼氏への愛情じゃなくて貴方との友情をとっていればこんなことにはならなかったのかなって」

姉友「それがいやだったから、彼氏が居なくてよかったっていったんです」

姉「話が飛躍しすぎよ!」

姉友「そうですか」

姉「そうよ。だいたい確かにそういう人が出来たら友達のことは疎かになるかもしれないけど」

姉友「ほら、やっぱり――」

姉「でも、友達じゃなくなるなんてことないでしょ」

姉友「そう……ですか?」

姉「そうよ」

姉「数少ない私の友達よ。片手で数えるほどしかいないんですもの、適当になんてできないわ」

姉「――会いに来てくれて嬉しわ」

姉友「……やっぱりいいな、姉ちゃんは」

姉「え?」

姉友「そういう所が好きで、そういう所にずっと憧れてた」

姉「て、照れるなぁ、そんなこと言われると」

姉友「ほんと、彼氏がいなくて良かった……」ボソッ

姉「? 何か言った?」

姉友「うん、あのね……落ち着いてきいて欲しいの」




姉友「好きです、姉ちゃん。私と同棲しながらお付き合いして欲しいの」

姉「はい?」

姉「ちょっと待ってね……どういう意味?」

姉友「そのまんまの意味だよ」

姉友「私に悲観的な所があってそれに振り回されてるのは知ってるよね。というかさっきのがそうだったんだけど」

姉「うん……」

姉友「私ね、ずっとこんなんだから、親しい友達も出来なくて、ずっと苦しくて……でも高校に上がって姉ちゃんと出会えてこんな私でも普通に接してくれて嬉しかったの」

姉友「こんな私でも付き合ってくれる人がいるんだって」

姉友「姉ちゃんも友達いないって知って親近感が湧いて、そこからだんだんあなたに惹かれていって、でも卒業して別々の大学いっちゃって、しかも思うように時間が取れなくて……」

姉友「ここ数年、年賀状だけだったよ、姉とやり取り出来たのは」

姉友「でもね、やっとね、安定した収入も手にはいって、貯金もささやかだけど出来た」

姉友「これで姉ちゃんのことを迎えにいける。そう思って私は今日ここに来たの」

姉友「もう一度言います。私は本気です。私と付き合って下さい」


姉「――――」

――――。


店員「お買い上げありがとうございました。またのご来店をお待ちしてます」

義妹「どうも」ウィーン


義妹「ふぅ」

義妹(リンスは買った。これで今日の用事は終了。……さて、お昼ご飯どうしよ?)

義妹(義姉さん勝手に何か作って食べましたかね?)

義妹(案外、二度寝してたりして……)


義妹「ふぁ~」

義妹「……寝たいのは私ですね」

義妹「ん――?」


子供1「わぁお姉ちゃん待って~」

子供2「もう早く来てよ! 置いてくよ!」

子供1「えーちょっとくらい待ってくれてもいいじゃんかぁ」


義妹(微笑ましい)

義妹(姉妹だろうか? 背の小さい方が必死にお姉ちゃんの後を追っている)

義妹(追い付いた背の低い少女は、これで一緒、というとお姉ちゃんの手を掴んでニコニコと笑い、そのままお姉ちゃんと共に去っていった)


義妹(そんな姿に私は自身の幼少期を懐古した。――正確に言えば、義姉さんと初めてあった日の事を思い出した)

義妹(私は昔、自分でいうのもなんだが、抜けていた。ドジをよく踏む子、そういえばもっと分かりやすいだろうか)

義妹(その日――義姉さんと初めてあった日もそうだった)

義妹(義姉さんの前で転けたのだ。それはもう盛大に)

義妹(私は泣いた。痛いやら恥ずかしいやらの感情に堪えきれなかったせいで)

義妹(そんな私を見て、義姉さんは手を貸そうとはせず、ただ――)

義妹(――頑張って、自分で立てるよね?)

義妹(そう言って私を鼓舞した)

義妹(そのとき見た義姉さんの顔はとても真摯で、)

義妹(私はいつの間にか泣き止み、ぐっと力を入れて立ち上がった)

義妹(そうした私を義姉さんは偉いといって頭を撫で褒めてくれた)

義妹(嬉しかった。この人に誉められたことが)

義妹(嬉しかった。ちゃんと私の事を見てくれる人だと知って)

義妹(嬉しかった。私の事を思って安易に手をださない、でも見守ってくれる人が姉になると知って)


義妹(私が義姉さんに惹かれていったのは必然だった)

義妹「ただいま帰りました」ガチャ

姉「あ、うんお帰り」

義妹「……部屋が綺麗ですね。……ひょっとして掃除しました?」

姉「し、失礼な言い方ね。そんな私が掃除するのがおかしいなんて言い方」

義妹「ふふっ、そうですね。――」

義妹「――頑張ったね、偉い」ナデナデ

姉「――!!? ちょ、ちょっと義妹ぃ!?」カァア

義妹「むっ。そんな驚かなくてもいいじゃないですか」

義妹「覚えてないかも知れないですけど、昔、義姉さんが私にやったことですからね」

姉「……覚えてるわよ。転んだ義妹が立ち上がった時に言ったセリフ」

義妹「――――」キョトン

義妹「……覚えてたんですか……――あれ?」

義妹「飲みかけのコップが二つ……誰かお客さん来たんですか?」

姉「……ええ、昔の友人が訪ねてきたわ」

義妹「えっ! 義姉さん友達いたんですか?!」

姉「失礼な! まあ、その子しか友達居なかったけど……」

義妹「……地雷には突っ込みたくないのでこの話題は切り上げますよ」

義妹「お昼どうします? 簡単なものならさくっと作っちゃいますが……」

姉「ねえ……お昼は外で食べない?」

義妹「? 義姉さんがそっちの方が良いと言うんならそうしますが……」

姉「じゃあそうしましょう。昨日の喫茶店ね」

義妹「あ、じゃあ勉強もしていきたいです」

姉「ん、分かった」

――喫茶店

カランコロン

女主人「いらっしゃいませ~……って貴方たちですか。そんなにここ気に入ってくれました?」

姉「まあね、静かだし」

義妹「勉強にも集中出来ますし」

女主人「穴場のデートスポットになれるだけのポテンシャルを秘めてるもの、ここは」ドヤァ

姉「肝心のカップルはこないけどね」

女主人「だからポテンシャルを秘めてるだけだよ……」

義妹(悲しい……)

――――。


義妹「ふう……ご馳走さまでした」パチン

姉「女主人~、コーヒーのおかわりお願い」

女主人「はーい、ただいま」

義妹「じゃあ私はお手洗いに」カタン

女主人「姉さん、何かあったんですか?」


姉「――? 何よ、突然」


女主人「いえ……ご飯食べてるとき、いつもと違っているように感じましたから」

女主人「やけに妹さんのことちらちらとみてましたよね」


姉「……そうかしら? たまたまじゃない?」


女主人「……ふふっ、これでも二年近い付き合いなんですよ、私たち」

女主人「分かるんだよなぁ……一度も見たことない反応……」

女主人「まるで恋する乙女のような……ねえ?」


姉「……流石……って言うべきなのかしら」


女主人「閑古鳥の店でも接客業には変わりませんから、人を見る目は養われるんですよ」

女主人「……で、なにがあったんですか?」


姉「ずいずいくるわね……」


女主人「言いたくない事なんですか?」


姉「……告白されたの」


女主人「……妹さんにですか?」


姉「いいえ、友達によ」


女主人「良かったじゃないですか、かっこいい人なんですか?」


姉「かっこいいもなにも、女性よ……告白してきたの」


女主人「女性……ですか……」

女主人「で、姉さんはなんて答えたんですか?」


姉「それは……」


――――――
――――
――。

姉友『もう一度言います。私は本気です。私と付き合ってください』


姉『――――』

姉『ごめんなさい』ペコリ


姉友『……私が、女だからですか……それとも、気持ち悪いからですか』フラッ


姉『……気持ち悪いとかは全然ないわ。高校の時一緒にいたんだもの、分かってる』

姉『それに女だからって理由でもない』


姉友『だったら――!』


姉『好きな人がいるの』


姉友『――! ずるい……男の人に敵うわけ……』


姉『女だから。そういう理由じゃないって言ったでしょ』

姉『女の子よ、私が好きな人は――妹なの』


姉友『妹? 姉妹で、そんなの――』


姉『血は繋がってないわ。義理ね。だからって姉妹なのには代わりはないけど』

姉『それでも好きだから』


姉友『……付き合ってるんですか?』


姉『いいえ。どころか、私が好きなのも知らないわ』


姉友『……』

姉友『私は……』


姉『うん』


姉友『ずっと好きだったんです』


姉『うん』


姉友『好きだったんです』

姉友『好きで……』ウッ


姉『姉友ちゃん……』ギュ


姉友『姉ちゃん……姉ちゃん……』ヒック

姉友『……だめだなぁ。やっぱり感情が制御できない』


姉友『……っ、……ひっ』ボロボロ


姉『……』ナデナデ

姉友『……ありがと……落ち着いた』


姉『そう……』


姉友『……その、妹さんに告白しないの?』


姉『……できたらいいのだけどね』


姉友『あの……私はしたほうが良いと思う』


姉『……そうよね』

姉『姉友ちゃんは凄いなぁ……私にはそんな勇気』


姉友『あるよ。姉ちゃんには』

姉友『……今日はもう帰るね』


姉『姉友……』


姉友『もしフラれても、私がいるから』


姉友『卒業式の約束は本当なんでしょ』


姉『……ありがと、姉友ちゃん』


姉友『うん、ありがとう姉ちゃん』

姉友『また来るよ』

――
――――
――――――。


姉「ってことがあったの」


女主人「ふーん」


姉「ふーんって、貴方が聞いたんじゃない……」


女主人「いえ、ということは妹ちゃんに告白するってことですよね」

女主人「でも、……」


姉「……迷ってるわ」


女主人「やっぱり」

女主人「それじゃ、あんまりにも姉友さんが浮かばれないんじゃないですかね」


姉「そうはいっても……」


女主人「もしフラれて、気まずくなっても妹ちゃんは実家に帰るだけです」

女主人「そうなったら姉友さんとくっつけばいい」


姉「そういうことはしたくないわ。代わりに付き合うなんて」


女主人「……迷ってるということは、蓋然的に告白する気はあるってことよね」


姉「まあ、するかしないかって話だし……」


義妹「……あれ? 何の話をしているんですか?」


姉「……なんでもないわ。ただの世間話よ」


女主人「そうだね、世間話世間話」


義妹「そうですか……?」


女主人「さて、私は食器でも洗いましょうか」


姉「……」

義妹「……」カリカリ

義妹「……」ウトウト

義妹「……」カリカリ

義妹「……」ウトウト

義妹「……くぁあ」ウトウト


姉「眠いのなら少し寝たら? 眠気と戦いながら勉強しても意味ないわよ」


義妹「ですかね。……そう、ですね。少し寝ます」


姉「うん」


義妹「……」スゥ

義妹「くぅ……くぅ……」


女主人「寝るの速いですね。……あ、これかけてあげてください」


姉「ありがと」フアサァ

義妹「……ねぇさん」クウクウ


女主人「寝言で呼ばれるなんて、随分と信頼されてますね」


姉「そうね」


女主人「その信頼が崩れてしまうのが怖い、と」


姉「そうね……」


女主人「きっと――」

女主人「きっと、妹ちゃんは拒否しませんよ」


姉「うん……」


姉「…………」

姉(彼女の寝顔を見る)


姉(穏やかな寝息をたてている彼女)


姉(手を伸ばしたら触れられる距離に、彼女が……)


姉(私は……彼女が手で触れられる範囲から消えていしまうのが怖い)


姉(だからといって、触れる勇気は私には――)


姉友『あるよ。姉ちゃんには』


姉「姉友……」


姉(何故あの子はそんなことが言えたのだろう?)


姉(私は――)

――夕暮れ


姉「そろそろ切り上げましょうか」


義妹「はい、そうですね。いい時間ですし」


姉「じゃあ勘定して」ヒラッ


女主人「毎度どうも~こちらお釣りです」


姉「はいどうも」


義妹「じゃあでましょうか」


女主人「またのご来店を~」カランコロン

姉(喫茶店を出ると夕焼けが外装と自然の緑を染めていた)

姉(先に外に出た義妹を追うため小走り――)


姉「あっ……」


姉(――したのはいいが、何かに足を取られてしまった)


姉(短い感嘆と共に、地面へとつんのめる)


義妹「義姉さん!?」


姉(義妹の声と衝撃はほぼ同時にきた)


姉(――私はこけた)


姉「イタタ――」


義妹「大丈夫ですか?」


姉「うん、だいじょう、ぶ――」


義妹「そうですか……はい、立てますか?」スッ


姉「義妹……」

姉(手を、伸ばされた)


姉(私があの時しなかったこと……)


姉「伸ばせばよかった……」ボソッ


義妹「どうかしましたか?」


姉「私もあの時手を伸ばせば良かったなって……」


義妹「……いいえ、あの時の義姉さんは間違ってはいませんよ」

義妹「あの時、自分の力で立てて、褒めてくれて……信頼できるって思ったんです」


姉「……信頼?」


義妹「はい、信頼です」

義妹「適当に助けるんじゃなく、見捨てるんじゃなく、」

義妹「自分の力で出来るまで見守る。他人だった私に親身になってくれた」


義妹「そんな貴方に私は心惹かれたんです」


姉「え?」


義妹「……な、なんでも無いです」


姉(ああ……きっと――)

姉(姉友……私にあるのは勇気じゃないよ)

姉(ただ弱い子をほっとけないだけだ)

姉(私自身が弱いから――)

姉「弱いわね、私……」


義妹「どうしたんですか、突然?」


姉(義妹は意味不明なことを言った私をくすりと笑い、)


義妹「弱いんだったら、私が支えますよ」


姉「――――」


姉(胸の奥からえも言われぬ感情が溢れ、湧いた)


姉(感情の奔流にどうしようもなくなり、ついには、溢れ出るのを抑えることができなくなり――)


姉「好きよ、義妹」グイッ


義妹「え? ――えっ!?」グラッ


姉(芝生のひかれた地面へと引き込んだ)


姉(そして、放さないとばかりに、強く、強く、抱きしめたのだ)

――――

義妹(その人は温かく、柔らかで、それでいて年上なのに私よりも背が低い)


義妹(私の憧れ、私の義姉、私の――)


義妹「義姉さん……?」


義妹(ぎゅうっと力強く抱き締められ、顔を見ることが出来ない)


義妹(でも、確かに聞いた、この両の耳で)


義妹(――好きだって)


義妹「義姉さん……」


義妹(もう一度、口の中で名前を転ばす)


義妹(転ばして、飲み込んだ)


義妹(そして、同じだけの力でぎゅっと抱いたのだ)



義妹(好きだ、義姉さんの言ったその言葉の内の真意はなんだろう?)

義妹(妹として好きなのか。――いや、そうなのだろう)


義妹(胸に耳をあて鼓動を聞けば、釣り鐘のように速く脈打っている)


義妹(それならば、私の返事は――)


義妹「ありがとう、義姉さん」


姉「義妹――!」


義妹「けど、まだ答えられません」

義妹(義姉さんの顔が一瞬にして曇るのを見た。きっと最悪なことを想像して勘違いしたのだろう)


姉「……へんなこといってごめ――」

義妹「受験が終わったら返事をします」


姉「え?」


義妹「だってそうでしょ。私は受験勉強のために義姉さんの家に泊まるんです」

義妹「だのに、恋人が四六時中一緒にいたら集中出来ない。きっと勉強じゃなくて違うことをしてしまいます」


義妹「だから、受験が終わるまで――」


義妹「泊めてください、義姉さん」


義妹「そして、終わったら私と同棲しましょう」


姉「――――」

姉「――――――。」


義妹(感極まって泣きそうな声の義姉さんの返事を聞き、私は――)

――――――。
――――――。
――――――。

義妹「……ここまで来といて何ですけど、受かってなかったらどうしよう……」


姉「大丈夫よ、あんなに勉強したじゃない、自信もって」


義妹「ううっ……義姉さんが代わりに見てきてくださいよ、番号あるかどうか」


姉「はいはい、馬鹿言ってないで、さっさと見に行く。私はここで待ってるから」


義妹「……はーい」トボトボ


姉「……もっと、自信を持てばいいのに……」


姉「…………」

姉「あっ……」

姉「ふふっ」ニコ


義妹「義姉さん……義姉さん義姉さん!」トタトタトタ


姉「ええ、その反応は……?」


義妹「はい! 受かってました!」


姉「そう! 良かったわ! ほんとすっごく!」


義妹「えへへ……」

義妹「……」

義妹「義姉さん……」チョイチョイ


姉「ん? なに? ――ん!」チュ


義妹「…………んっ、……これがあの時の告白の返事です」ニコリ


姉「……ということは?」


義妹「はい――」




義妹「一緒に暮らしましょう、義姉さん」


義妹「これからさき、ずっと一緒です」


姉「ええ――ええ!」

義妹(憧れた人と結ばれて、その人は私の隣に)


姉(私の全てを受け入れてくれる人と、深く……深く……)


義妹(彼女と離れないと……)

姉(彼女を離さないと……)


義妹(私たちは仲を象徴するように手を繋ぎあい、家へ帰る)

姉(この手、彼女と、繋がりは、一生切れやしない)

本編、終わり。

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