国王「さあ勇者よ!いざ、旅立t「で、伝令!魔王が攻めてきました!!」 (357) 【現行スレ】



ザザァン…


魔王「…」

雷帝「魔王様…間もなく陸が見えて参ります」

魔王「そう…」

雷帝「海を越えれば、王国領港町。人間の王の座す王城まで、数える砦はひとつのみとなります」

炎獣「砦ったって、大したことないだろっ? 俺たち四天王と、魔王が居ればさぁ!」

雷帝「敵戦力の大部分はすでに壊滅したからな。そこまで心配はいらんと思うが」

氷姫「いよいよ…ってワケね」

炎獣「でも、それはそれで物足りないないよなー…これ以上の敵がいないなんてさ!」

氷姫「馬鹿言わないでよ。王国軍の本体を壊滅できるかどうかは、賭けだったんだから。あんなのはもうゴメンよ」

雷帝「ああ…。だがその甲斐あって、人類撃破の願望は目の前だ」



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炎獣「いよぉしっ! 木竜のジイさん、飛ばしてくれー!」

木竜「やっておるわい。騒がず静かに儂の背中に乗っておれ」

雷帝「翁…長時間の飛行になりますが、お身体は持ちますか」

木竜「ほほっ! これでも現役四天王じゃからのう。伊達に竜族をまとめとるわけではないぞい」

氷姫「無理すんじゃないわよ、じーさん」

木竜「無理もしようと言うものじゃ。儂らの悲願が…」

木竜「目の前に来ておるというのじゃからな」

氷姫「…そうね」

木竜「姫様。少しばかり揺れる旅じゃろうが、もう少し我慢して下され」


魔王「…」

魔王「無理をさせて、ごめんなさい。爺」

木竜「ほほっ。何のこれしき、じゃ」


ビュオオオオオ…


炎獣「おっ!」

炎獣「見えたぞ! 陸だっ!!」

雷帝「…さて、気を引き締めて参りましょう」

氷姫「そうね。人間が、まだどんな手を隠してるか分かったもんじゃないし」

木竜「そろそろ、前線崩壊の一報が人間の王の元へ届いていてもおかしくはないからのう」

炎獣「へへっ。強い奴がいるなら、ドンと来いだぜっ!」


魔王「――みんな」

魔王「ここまで、長い道のりだった」

魔王「けど、とうとう人間をここまで追い詰める事ができた」

魔王「あと少し…あと少しの間だけ」



魔王「私に、力を貸して…!」



王城 謁見の間


国王「なに…!? それは真かっ!?」

勇者「…!」

ザワザワ…

伝令「はっ!!」



「ま、魔王が…?」

「そんな馬鹿な…! 勇者が旅立ってこれからと言う時に!」

「なんということだ…っ」


国王「…状況を詳しく申せ」

伝令「はっ!本日未明、魔王軍との最前線基地へ、新たな敵軍が出現!」

伝令「我が国の軍は、新手の出現からわずか半時で全滅しました…!」

国王「な、なんだと…!?」


伝令「新手はどうやら、魔王と直属の精鋭兵のようです!」

勇者「魔王が、自ら…!」

伝令「魔王の部隊は、その後直近の拠点を蹂躙!南方大陸から海路に出ました!」

伝令「その猛進凄まじく…我が国の港町までおよそ数刻…!!」

国王「なにっ!」ガタッ

勇者「!!」


「う…嘘だ…港町まであと数刻だと」

「港町からは、もうこの王城まで砦ひとつ隔てるのみだぞ!?」

「お、王国軍は!? 王国軍はどうなって…」

「主戦力の半分以上は最前線に送られているはずだ…それが全滅…」

「で、ではもはや港町以降を守れる人類の戦力は…!!」

「そんな…そんな馬鹿な!!」


国王「………」


兵士「し、失礼致します!」

国王「…今度は何だ」

兵士「陛下、こちらの書状を…。港町の長から、火急の報せとのことです!」

国王「港町…長というと、武器商会の長か」

国王「よい。読み上げてみよ」

兵士「はっ」パサッ








港町


「おい、倉庫のモンは全部港へ回せ!」

「へい!」

「おい、こっち人手が足りねぇぞ!」

「てめェらで何とかしやがれ!!」


商人「…」

役員「社長。大方の配置は完了してやす」

商人「ああ、ご苦労」

商人「それでは、役員会議を始める」


商人「魔王はどうやらドラゴンに乗ってこちらまで移動している」

商人「あちらの攻撃手段がどういったものか、詳しいことは何も分かっていない。…王国軍の騎士連中はその解析を待たずして全滅してくれたからな」

商人「それだけの速攻と破壊力があるのは間違いない。奴らが港に近づく前に撃ち落とす」

「「「へい!!」」」

商人「大砲の配置はどうなっている?」

役員「倉庫のありったけを、沿岸に並べてありやす。砲弾の扱える連中は全員そこにつぎ込んで、魔王が来た瞬間に砲弾の雨を降らせられますぜ」

商人「上等だ。鉄砲も行き渡っているな?」

役員「へい。王国軍にも卸してない東方の特製品でさぁ。あれだけ数が揃えばちょ? っとしたハリケーンが起きまさぁ」

商人「よし。…魔導砲は?」

役員?「準備出来てやす」

商人「そうか」

商人「魔王のドラゴンの姿が確認出来しだい、大砲の波状攻撃を開始する。砲弾は出し惜しみするな」

商人「鉄砲の射程に浸入されたら、こっちは一斉射撃だ。魔導砲の攻撃範囲へ敵を誘導する」

商人「エリアに誘い込んだら…これを魔導砲で撃ち落とす」

商人「敵は確かに未知数の恐ろしい力を持っているが、幸い海の上、一匹のドラゴンの所へ集まっている」

役員「俺らにとっちゃ、格好の的ってわけですね?」

商人「そういうことさ。魔導砲の威力で、まとめて消し飛ばす」

商人「奴らに見せてやるのさ。人間様の、技術の結晶ってヤツをね」


商人「町の連中の様子はどうだ?」

役員「港町の男の大多数は、作戦に賛同して、士気も高いですぜ」

商人「…くく。元々が海の男や、職人業の連中さ。荒っぽいのは嫌いじゃあないんだろう」

役員「それも、姐さんの号令あればこそです」

商人「あたしにそこまでの人徳なんざありゃしないさ。汚い商売で散々人を利用してきたんだからね」

商人「あたしゃちょいと…お祭り騒ぎのための神輿を作っただけさ」

商人「″打倒魔王″という名の、分かりやすい神輿を、ね」

役員「…他の連中がどうだろうと、あっしらは社長…姐さんについて行きますよ」

商人「ったく…もの好きな奴らだ」

役員「姐さんほどじゃありやせん」


商人「そろそろ、魔王が現れる頃かもしれん。皆、配置に着いて各々指揮をとってくれ」

「「「へい」」」

商人「………アンタたち」

役員「へい、何でしょう」

商人「…」

商人「付き合わせて、すまないな」

役員「…とんでもございやせん」

役員「あっしらが、自分で選んだ事です」

商人「…ふっ。そうかい」


バタン…


役員「…」スゥッ

役員「てめぇら!! よく聞きやがれ!!」

役員「これァこの武器商会の意地をかけた大博打だっ!!」

役員「魔王のクソッタレが、王国軍どもを蹴散らしてこっちに来やがる!!」

役員「何てこたァねぇ、これはいつも通りにてめぇらの身をてめぇらで守るための戦争だ!!」

役員「俺たち武器商会の恐ろしさを、尾っぽの先まで魔族共に思い知らせてやれぇッ!!」

ウオオオオオオオオオオオッ





「親愛なる国王陛下」

「我々、武器商会が陛下にこうして書状をしたためるのは久しぶりだ」

「戦争と侵略を良しとする前王とは持ちつ持たれつの良好な関係を築けたが」

「戦争を嫌い平和を愛する陛下とは、どうやら反りが合わなかったようである」

「しかし漫然とした平和を享受し、牙を研ぐことを怠っていたのツケは今まさに人類を滅ぼさんとしている」

「我々、武器商会は立ち上がる。人の手にて魔王を迎え撃つ」

「港町は王国の騎士殿の力を借りずして、人類の意地を見せつけるだろう」

「陛下や教会のお伽噺がもし現実となり、女神の神託を受けた勇者とやらがそこにいるのならば」

「せいぜい、この間に魔王を打ち破る策を打ち出してみせよ」


「陛下は我々を、悪の分子として排除しようとされたが、我々は人の心の闇に巣食ってしぶとく生き延び続けた」

「あのイタチごっこは不毛なものであったようだ。現に我々は、我々の望むように生きて、望むように死んでいく」

「勝ち逃げを許されよ」





国王「…」

国王「…武器商会は」




国王「捨て身で魔王を止める気か」






【商人】




港町 居住区


遊び人「…」コソッ


「こっちは準備終わったぞォっ!」

「こっちもだ!」

「魔王のクソヤローが、来るなら来てみろってんだ!」

「返り討ちだぜ!!」

ワァァアア!!


遊び人「…」


「もしかしたら…これが最後かもしれねぇ。だがそれも悪くねぇ!」

「どうせウチに籠ってたって、ダメな時はダメだしな!」

「へっ! 死ぬにしても、華々しく死んでやるぜ! ドラゴンのどてっ腹に風穴空けてから逝ったらぁ!」

「天国の父ちゃん…見ててくれよ!」


遊び人「…」

遊び人「ったくよぉ、冗談じゃねぇぜ」

遊び人「オレはこの港町で、余生を楽しく過ごそうって思ってたのによぉ…」

遊び人「魔王が攻めてくるだぁ? はあ、ツキがねぇぜ…」

遊び人「馬鹿どものお祭り騒ぎに付き合うこたぁねえ。さっさとこんな所ずらかってやらぁ…」

遊び人「死んだら元も子もねぇんだ…!」ダッ


「もし、そこの方…」


遊び人「!?」

遊び人「な、なんだ…てめぇ」


男「魔王が攻めてくると聞いたのですが、本当でしょうか…」


遊び人「あ…?」

遊び人「けっ、知らねぇや。そうなんじゃねぇの。どいつもこいつもそれで決死の顔をしてやがるぜ」

遊び人「まぁオレには関係のないことだがな!」

男「…なるほど」

男「実は、魔王の撃退のための武器が配られていると耳にしたのですが、そこに行かれたりはしませんか?」

遊び人「はぁ?」

遊び人「…てめえ、なんだ? まさか武器商会の連中じゃあるめぇな?」

遊び人「ふざけんじゃねーぜ。テメェらの勝手な自爆に人様を巻き込むんじゃねぇや! 人手を探してるってんなら他を当たんな!! 」

男「…」ス…

遊び人「!? な、なんだ、やろうってのか…っ!」

男「この目を見てください」

遊び人「っ!? …テメェ」

男「――そう。私は盲ろう者なのです」

遊び人「…」

遊び人(帽子を目深に被ってやがったんで見えなかったが…目の回りにひでぇ跡がある)

遊び人(焼けただれたような、おぞましい傷痕)

男「これは、魔族に受けた傷です」

男「私の妹は…行商の道中魔族に襲われ、死にました。何とか生き延びた私もご覧の有り様」

遊び人「…」

男「もう私の目は欠片も光を映すことはありません。ですが、この瞼には、あの時最後に見た光景が焼き付いて離れません」

男「何度も何度も、あの日の事を反芻しながら今日まで生きてきました」

男「妹が…目の前で喰われてゆく所を…」

男「これは、チャンスなのです。私が、復讐を遂げることができる…恐らく、最後の」

遊び人「………」

男「私も、この戦いに参加させて欲しいのです。だから、お願いです。どうか」

男「どうか…私をその場まで導いて頂けないでしょうか」


――――――
――――
――

遊び人(…オレは何やってんだ?)

遊び人(馬鹿らしい。今時、こんな連中は世の中ゴマンといる)

遊び人(同情でもしたってのか。このオレが?)

遊び人(はっ。遊び人が情に流されてちゃオシマイだぜ)

遊び人「…こっちだ。モタモタすんな、しっかり着いてきやがれ」スタスタ

男「ありがとう、ございます」ヨタヨタ…

遊び人(目の見えないヤツが戦場に出て何をしようってんだ?)

遊び人(わざわざ死にに行くようなもんだ)

遊び人(…そもそもこんな人間に武器商会が獲物を持たせるかあやしい話だがな)

遊び人(奴らほとんどヤクザ紛いの組織だぜ。今回は随分派手に振る舞ってやがるが、元は債権回収のために切った張ったをするような連中なんだ)

遊び人(下手すりゃ味方を撃ちかねないようなコイツに、何かさせるとも思えねえ)

遊び人(…無駄だ。こんな事は、全て無駄。何の意味もない)

男「…はあ…はあ」ヨタヨタ…

遊び人(…)

遊び人(ちょっと移動しただけで息が上がってやがる。無様だぜ)

遊び人(………)


遊び人「…着いたぞ」

男「ほ、本当ですか!」ゼェハァ

三下「おう? なんだテメェらは。こんなトコで何してやがる?」

遊び人(うげっ。巻き添えはごめんだ)

遊び人「あァ、イヤね、旦那。今しがたこの野郎が戦列に加わりてぇってんで、仕方なくあっしが持ち場を離れて連れてきた次第でしてね」

三下「あぁん? なんだ、今さらか?」

遊び人「ええ。全くトロい野郎で――」

男「お願いします!!」バッ

遊び人「うおっ」

男「私も、どうか戦いに加えて下さい!!」

三下「てめぇ、その目は…!?」

男「はい…私の目は既に潰れて何も見えていないのです」

三下「なんだって?」

男「それでも、戦いに参加したいのですっ! どんな雑用でも構いません!!」

男「魔王に…復讐したいのです!!」

遊び人「…」

三下「駄目だ駄目だ!」

三下「目が見えん奴に何が出来るってんだ! 邪魔になるだけだ!」

男「そんな…! お願いです! どんな事でもしますから!」

三下「何を言ってやがる! おめぇみたいな奴に出来る事なんかねぇ!!」

遊び人(あーあ。やっぱりこうなったか)


商人「何の騒ぎだ」ザッ

三下「しゃ、社長っ!」

遊び人「!?」

遊び人(げぇっ! この女、あの悪名高き武器商会の女社長か!? とんでもねぇのと出くわしちまったっ!)

三下「お、御疲れ様です! この男が、手伝いをさせろと行ってきたんですが…」

商人「ん? お前…」グイッ

男「っ」

商人「盲人か」

男「…はい」

商人「………」

遊び人(い、今のうちに逃げるべし)ソローリ

商人「…お前、戦いに加わって何をするつもりだ?」

男「わ…分かりません。何が出来るのか」

男「で、でも、どんなことだってやります」

商人「どんなことでも、か?」

男「はい」

商人「――例え、その結果命を落とすことになっても?」

男「はい…!」

商人「ふむ」

遊び人(ひぇえ…! あの馬鹿、誰に啖呵切ってるか分かってんのか!? 本当に殺されちまうぞっ!)


商人「おい」

三下「へ、へい!」

商人「こいつに短剣を一本やれ」

三下「え…!?」

商人「急げ」

三下「へいっ…!」タッタッタッ

商人「そこのお前」

遊び人(ん…? 誰の事を言って…)

商人「お前だ。コソコソ隠れてるんじゃないよ」

遊び人「っ!?」

遊び人「あ、あっしですかい?」

商人「お前、うちのカジノに入り浸っていた遊び人だな?」

遊び人「うへっ!?」

遊び人(こ、この女、何でそんな事知ってっ!?)

商人「大事な顧客の顔は覚えるさ。これでも商人の端くれだからねぇ」

遊び人「こ、こりゃあ光栄な事で…」

商人「しかし、お前は客というだけでは留まらなかった人物でもある」

遊び人「!?」

商人「ウチで扱ってる″粉物″。ウチの若い衆から随分安く仕入れて横流ししていたみたいだな…?」

遊び人「ヒェッ…」


商人「おい」

三下「へ、へい!」

商人「こいつに短剣を一本やれ」

三下「え…!?」

商人「急げ」

三下「へいっ…!」タッタッタッ

商人「そこのお前」

遊び人(ん…? 誰の事を言って…)

商人「お前だ。コソコソ隠れてるんじゃないよ」

遊び人「っ!?」

遊び人「あ、あっしですかい?」

商人「お前、うちのカジノに入り浸っていた遊び人だな?」

遊び人「うへっ!?」

遊び人(こ、この女、何でそんな事知ってっ!?)

商人「大事な顧客の顔は覚えるさ。これでも商人の端くれだからねぇ」

遊び人「こ、こりゃあ光栄な事で…」

商人「しかし、お前は客というだけでは留まらなかった人物でもある」

遊び人「!?」

商人「ウチで扱ってる″粉物″。ウチの若い衆から随分安く仕入れて横流ししていたみたいだな…?」

遊び人「ヒェッ…」


遊び人(な…なななな何で、あのことが、バレて)

商人「知らないとでも思ったのかい? まあ、その小さな脳ミソじゃそこまで考えも回らんだろうなぁ」

商人「あたしも暇じゃなくってね。あんたみたいな小物は今まで見逃してやってたんだが、こうしてバッタリ会っちまったらしょうがないねぇ」

商人「貴様には″貸し″がある。本当なら、ここで指の一本でも貰って返して貰うところだが」

遊び人「ひ、ひぃいいっ!」

商人「こんな日には、そんな余興じゃシラケるだけだ。貴様には他の事で働いて貰おうか」

商人「この男を、ある場所の警備につける」ポン

男「…?」

商人「貴様はそこまでこの男を連れていけ」

遊び人「は、は、はいッ! 喜んでッ!!」

商人「場所は、商館街の高台にある円形の建物だ。この紙をそこにいる者に見せれば、話は通るだろう。私のサインがしてある」

遊び人「…!」

遊び人(し、しめた! この場から離れられればこっちのもんだぜっ! どうにかトンズラして…)

商人「逃げようなんて考えるんじゃないよ。うちの商会の連中は貴様の顔を覚えている」

遊び人「」

商人「貴様は今まで、我々の監視下で生かされていたに過ぎないのだ。そして、今日この日でさえそれは変わらない」

商人「その事を、よく肝に命じておけ」

遊び人「」


商人「…ふぅ」

商人「…」スタスタ

役員「ね、姐さん! こんな所においでだったんですかい! ここは危険ですぜ」

商人「構わんさ。必要な指示は全て与えた。私がどこに居ようと、戦争は始まる」

役員「そりゃ、そうですが。それでもいけやせんや」

商人「何?」

役員「姐さんには、魔王を倒した後のこの港町を、また切り盛りしていって貰わねぇといけやせんから。身体は大事になさって頂かねぇと」

商人「…ふっ」

商人「そうだな。少し、堤防の辺りを見たら、あたしは本社の…魔導砲の所へ戻っていよう」

役員「そうして下せえ。それじゃ、あっしはこれで!」

タッタッタッ

商人「…」


商人「…」スタスタ

商人「…」ピタッ

商人「何か用か? さっきからつけ回して」

商人「なあ、魔法使い」



魔法使い「あれ、バレていましたか」

商人「姿を見えなくする魔法か? それは」

商人「相変わらず悪趣味だな」

魔法使い「ひどいなぁ。僕は僕なりに気を使ったんですよ」

商人「何?」

魔法使い「黄昏の港町を眺めて歩いて、感傷に浸っている商人さんの邪魔にならないように…てね」

商人「ふん、何を寝ぼけてるんだい。まだ昼も回ってないだろう」

魔法使い「いえ、そういう意味ではなく。見納めじゃないですか。これが」

魔法使い「活気溢れる、港町の」

商人「…」


魔法使い「分かっているんでしょう。きっと、魔王は倒せないと」

魔法使い「港町は今日で滅びると」

商人「…」

魔法使い「貴女は、この町を事実上支配していましたから、愛着も沸くんでしょうねえ」

商人「ククク。そんなに上等な物じゃないさね」

商人「あたしのこれは、独占欲だ」

魔法使い「独占欲?」

商人「ああ。あたしは思うまま生きてきた。おかげで敵は多かったが、その全てをねじ伏せ、出し抜き…そうして欲しいものを手に入れてきた」

商人「結果、あたしの我が儘にこれだけの人間を利用してみせている。その満足感に浸っているんだよ」

魔法使い「貴女の我が儘…ですか」

商人「ああ」

商人「…あたしはね、我慢ならないのさ。知らない余所者が簡単にあたしの縄張りを土足で蹂み荒らしてみせるなんてことは」

商人「それが、魔王だろうと誰だろうと、ね」

商人「だから、喧嘩を売った相手がどれだけ恐ろしい者なのかっていうのを、分からせてやらなきゃならない」

商人「この港町の人間を全て巻き添えにしてでもね」


魔法使い「…せめて、一矢報いよう、と?」

商人「あのヘタレ国王には、もう期待しちゃいないのさ。勇者なんて、胡散臭いシロモノにも」

商人「あたしは、あたしのやりたいようにやるんだよ。最後の時まで 」

魔法使い「…ふふふ」

魔法使い「実に貴女らしいですね。面白い」

商人「地獄に落ちるならそれでもいいさ。女神なんてモノがこの世にいるんだとしたら、好きにするといい」

魔法使い「そうは言いますが、さっきは随分と優しかったじゃないですか?」

魔法使い「あの盲目の男…連れていったのは魔導砲のコアの警備でしょう」

商人「…」

魔法使い「あんな人間に短剣ひとつ持たせて、あそこへ警備につかせるなんて…あれは貴女なりの救済ではないんですか?」

魔法使い「魔導砲…この港町の切り札。もし、あれのコアまで攻め込まれるなんて事が起これば」

魔法使い「それ即ち、その時がこの町の滅びる時、ですからね。言うなれば、港町の一番最後の場所でしょう」

魔法使い「随分と豪華な特等席じゃありませんか」

商人「ちっ、あんたは本当に鬱陶しい男だね」

商人「そんな事ばかり言うためにわざわざ顔を出したのかい」


魔法使い「ふふ。いえ、何せ僕にとってもあの魔導砲は所縁の深い場所ですからね」

魔法使い「あの傑作は、僕と貴女の合作じゃありませんか。アレの晴れの舞台を、見ない手はないと思いまして」

商人「確かに、アレはあんたの魔法の知識が無ければ完成しなかった」

商人「よくよく首を突っ込んだもんだよ、あんたも。あんな危険な物を作るのに手を貸した日には、王国を丸ごと敵に回すようなものなのに」

魔法使い「ふふふ。貴女からの提案が、とても魅力的だったもので」

魔法使い「それに、面白そうな事には関わらなければ気が済まない性格なのですよ」

商人「…呆れた男だ」

魔法使い「まあ、そう言わないで下さい。それで、どうなんです?」

魔法使い「あれは、貴女の″優しさ″だったんですか?」

商人「…」

商人「ふん」





商人「只の、気まぐれだよ」

今夜はここまでです


ザザァ…

炎獣「港町が見えてきたぜー!」

魔王「あれが、港町…」

氷姫「随分デカいわね」

雷帝「今まで通ってきた町々もかなりの文明を感じていましたが…ここまでとは」

魔王「ええ」

魔王(…)

炎獣「…何か、考え事か? 魔王」

魔王「うん、少し」

炎獣「聞かせてくれよ」

魔王「…」

魔王「私たちはここまで、人類を倒すために必死にやってきた」

魔王「この作戦は、能力の特に高い私たち精鋭部隊による一点突破が肝なの」

氷姫「分かってるわよ。あたしたちで、勇者を倒す」

炎獣「勇者を倒しさえすれば、人間側に魔王を倒す手立てが消えて、降伏せざるを得ないってわけだよな!」

雷帝「勇者はまだ神託を得て間もない…。″勇者一行″という組織の結成や強化の前に此方から攻勢に出る、ということですよね」

魔王「そう。皆の言う通り。つまり、魔族軍の戦い方は、今、すべて私たちに委ねられてる」


魔王「今までの人間達の町々を見て、その文化水準の高さには驚かされ続けた…魔界は、まだまだ魔王城周辺ですらここまでの生活を実現出来ていない」

魔王「魔族は、人間の文化を吸収する必要があるわ」

炎獣「…??」

雷帝「そうですね、確かに。戦争に勝利した後、人間文化に根付く技術の数々を魔族の職人層が手に入れられれば…」

氷姫「魔界はますます繁栄するってわけ?」

魔王「うん。だから、皆にもそのつもりでいてほしいの」

炎獣「つまり…どういう事だってばよ?」

氷姫「アンタねぇ…」

炎獣「い、いや、俺も聞いてたけどよー! もうちょい俺にも分かるように説明してくれよ!」

雷帝「つまり…敵地だからと言って何でもかんでも火の海にするなと言うことだ」

炎獣「? なんで? 人間の陣地なんだろ?」

氷姫「ハア…いいからアンタは魔王の言う通りにしてなさい」

炎獣「? 分かったー!」

魔王「くす…」


炎獣「俺には難しい事は分からねーけどさ、でも、魔王!」

魔王「? なあに?」

炎獣「俺、きっとお前の理想の世界を実現してみせるからな!」

炎獣「その為に、一番に突っ込んで行くのは俺だっ! 絶対!」

炎獣「約束する!」

魔王「…ふふっ。ありがとう、炎獣」

雷帝「…」

氷姫「…」


木竜「ほっほっほっ。若いもんはええのう」

氷姫「…ふん、爺さんは暢気でいいわよね」

木竜「何を言うか。ワシャこれでも昔はモテモテでブイブイ言わせとったんじゃがのう」

氷姫「昔話は別の時にしてくんないかしら」

木竜「なーんじゃツレないのう…」

木竜「しかしな、氷姫。人生の先輩として一言言わせてもらうと」

木竜「ヤキモチを妬いておるよりは、とっとと素直になった方が楽じゃぞい」

氷姫「…」ピクッ

木竜「ほーっほっほっ!」


雷帝「全く、貴方たちは…少し緊張感が足りないのでは?」

木竜「おや? 素直になれないのがもう一人」

雷帝「なっ、何を!」

氷姫「ま、コイツの場合は分かりやすすぎるけどね」

雷帝「ななな、何の話をしているんだお前はっ!」

木竜「ほっほっほっ! 固いのう、雷帝」

炎獣「お前らなんの話してんの?」

氷姫「アンタには関係ないわよ、バーカ。チビ。脳筋」

炎獣「ええっ!? ひどくね!?」


魔王「…ん」

魔王「みんな!」

雷帝「むっ」

氷姫「あれは、船?」

炎獣「へへ、おいでなすったか」

雷帝「翁、準備は宜しいですか?」

木竜「無論じゃ。みな、少しばかり揺れるからのぉ」

木竜「振り落とされるでないぞい!」

ビュオオッ!

炎獣「ひゅうっ! 速いぜ速いぜー!」

氷姫「騒ぐんじゃないわよ、馬鹿。チビ。オタンコナス」

炎獣「ぇえっ!?」

魔王「雷帝、どう読む?」

雷帝「…はい。人間の船団は大砲を積んでいることが多く、その射程はもう間もなく…」

雷帝「港町を守るための先鋒として送り込まれた王国軍でしょうが、翁の飛行速度であれば、あれしきの船団の砲撃であれば優にかわしきれます」

魔王「うん、そうだね。私もそう思う」

雷帝「…」

氷姫「おい。顔が緩んでるわよ」

雷帝「なっ、なにを!?」


シーン…

木竜「なんじゃ、撃って来んぞ」

炎獣「えーっ? なんだよ、つまんねぇ」

木竜「ボサボサしてると、抜き去ってあっという間に港じゃぞ、人間!」

木竜「儂の翼を甘く見ぬことじゃ!」

氷姫「…どうなってんのよ」ジト

雷帝「お、おかしいな。それではこの船団は何のために」

魔王「…」

魔王(静かすぎる)

木竜「堤防が近づくぞ…!」

ビュオーンッ







商人「――てぇっ!!」


ズドドドドドォンッ!!



木竜「!?」

氷姫「港の方から、砲撃っ!?」

木竜「ちっ、猪口才な!」

ギュゥウンッ

炎獣「どわーっ!」

魔王「船は囮だったの!?」

雷帝(いや、しかしこの距離では船に砲弾が当たって…)

雷帝(――待てよ。まさか)

雷帝「いけません、翁っ!高度を上げて下さい!!」

木竜「なに…?!」

雷帝「急いでッ!」

木竜「く…!」ギュンッ


――ドガァァアアンッ!


魔王「!? 真下で、爆発!?」

氷姫「船団が、爆発してるんだわ!」

雷帝「最初から、これが狙いだったのです…! あの船団は無人で、火薬を積んでいたのです!」


ズドドドォッ

木竜「ちっ、物凄い数の砲撃じゃ!」ギュンッ

雷帝「我々の飛行経路を絞るための船団でしたか!」

氷姫「人間も随分大それた手に出たもんね!」

魔王「…それだけ、彼らには後がないということよ…!」

炎獣「うおおおっ!? あっちこっちで爆発してやがるぅ!」

木竜「しかし、これしきでやれる儂ではないぞ!」バサッ!

ギュウウウゥンッ

魔王「爺…!」

氷姫「やるじゃない、ジーさん!」

雷帝(…しかし何か引っかかる。この砲撃の仕方)

ズドドォ…

木竜「もう少しで堤防じゃ!」

炎獣「いけいけー!」

雷帝「…氷姫」

氷姫「なによ?」


雷帝「この距離なら、お前はテレポートで翁より先に堤防まで飛べるか」

氷姫「…イケるわよ、ここまで近づけばね。ジーさんは砲撃掻い潜りながらだし」

雷帝「では先に飛んでくれ。恐らく、あちらにまだ何か準備があるように感じる。それを、潰して欲しい」

氷姫「アンタ、それ本当でしょうね」

雷帝「ああ」

氷姫「…」

魔王「氷姫」

魔王「お願い。雷帝の読みを信じましょう。それに、氷姫の奇襲は人間にとっても頭にないはずよ」

氷姫「…ふう」

氷姫「ま、アンタに言われちゃしょうがないわね、魔王」

氷姫「――この氷の女王にお任せあれ!」

ビュッ


堤防


「ちぃ、ちっともドラゴンの奴に当たらねぇぞ!」

「それでも真っ直ぐこっちにゃ飛んでこれねぇみてぇだ!」

「近づいてくりゃ鉄砲で蜂の巣だぜっ!」

役員「しゃあ! 次だぁ!」

役員「鉄砲隊、用意っ!」

「「「おう!!」」」

役員「狙いをつけろ!! いいか、ドラゴンを港の西側に飛ばせれば、作戦は成功だ!!」

役員「よく引き付けろよ――…ん?」

フワッ

役員「なんだ、雪?」

「お、おお、俺、武者奮いがとまんねえぜ」

「お、俺もだ…」

「い…いやちょっと待て。こりゃ武者奮いっつーか…極端に冷え込んできたんじゃねぇか?」

「まさか…でも、なんだこりゃ。震えが止まらねぇぞ…」

役員「ど、どうしたってんだ、こりゃ」

役員「俺まで、震えてきやがった…」

役員「…………ん? ありゃ、誰だ?」

役員「あんなトコに女が立って――」





パキィンッ!




「ぎゃあああッ!」

「う、腕がああっ」

役員「!!」

役員(なんだ)

役員(なんなんだ、これは)

役員(一瞬で氷の塊がが至るところに…! 人間が丸ごと氷づけになっちまってやがる…!!)

氷姫「ハァーイ♪ 人間のみなさぁーん」

氷姫「ずいぶん危なそうなもの持ってるじゃなぁい? あたしにもよく――」

氷姫「見・せ・て?」

パキィンッ!

「ぐわぁああっ!!」

「ひ、ひぃいぃッ!」

役員(あ、あの女だ! あいつがこの氷を…!!)

役員(このままじゃあ鉄砲隊がやられる…!!)


「て、敵だ! 敵襲だぁああ!!」

「あっちを撃てぇえ!!」



役員「馬鹿野郎がぁぁッ!!」

役員「鉄砲隊は、ドラゴンを狙え!!じゃねえと魔王の思惑通りだぞっ!!」

「…そ、そんなこと言ったって」

「このままじゃ俺達…!!」

役員「もともと死なばもろともじゃなかったのかてめぇら!!」

役員「てめぇらが守りてえもんはなんだっ!! 前を向けっ!! てめぇらの仕事をしろォッ」

「「!!」」

「そ、そうだ…」

「くそ…くそぉ!! やってやるぞぉ!!」

「うわああああああああ!!」


氷姫「なーんか、うっさいのが居るわね」

氷姫「ちょっと黙ってくれる?」


パキィッ!

役員「うがっ――」ピシィッ…

役員(…ああ)

役員(やられたのか。これで俺は死ぬ)

役員(くそ…これで終わりか)

役員(これが死か)

役員(………だが)

役員(抜かったな。魔物のクソ女)

役員(口が完全に塞がってないぜ。最後に一声、張り上げられるじゃねぇかよ、これじゃあ)


役員「…」スゥ…


役員「白兵隊ッ!!」

役員「突撃ィッ!!」




氷姫「!?」

「合図だぞ!!」

「白兵、全軍あそこへ突撃だあ!!」

氷姫「…ちっ」



役員(ああ)

役員(これで後ろに控えさせてた白兵が来て、鉄砲隊の盾になって)

役員(そしたら、作戦が上手くいって、姉御が………)

役員(姉御が………またこの町を………)

役員(………どう…でもいい…か…)

役員(…ああ…最後にもう一度…)

役員(………娘の顔が………見た…かっ………)





役員「」








氷姫「こんなに雑兵がまだいたっての!?」

氷姫「ちっ、邪魔よぉ!」


バキィイイン!!

「ぐわャァアァアっ!!」



「怯むな、突っ込めぇ!!」

ウオオオオオオオオ!!


氷姫(キリがない…! こいつら命が惜しくないの!?)

氷姫(まずい。このままじゃ、あのヤバそうな武器を持ってる人間共に、ジーさんがやられる…!)

氷姫「………うざいのよ、弱い癖に」ォオオ…

氷姫「雑魚は、黙ってなさいよッ!!」



――キィィイイイイン!!



「うぎゃあああぁっ!!」

「グアァアアアァッ!」




氷姫「はあ、はあ」

氷姫「人間の三下共にこんなに力を使わされるとは、ね」

氷姫「でもこれで、あとは、あの連中を」




「残存の鉄砲隊、全員、てぇっ!!」


パパパパパパパンッ!!



氷姫「しまっ――!」





ドスドスドス!!

木竜「ぐおぉおおおおっ!」


雷帝「!?」

魔王「爺っ!!」

木竜「ぐはっ…おのれ、人間どもめぇっ!!」バサッ


炎獣「お、おい…! 爺さん平気かっ!?」

木竜「何のこれしき…ッ!」

雷帝「あちら側に鉄砲隊がいます!氷姫が倒し漏らした連中です!逆側から回り込みましょう、翁!」

雷帝「西側へ!」

木竜「ぐぅっ…やむを得んか…!」

魔王「…」ギュッ

魔王「もう少し…もう少しだけ、堪えて…爺…!」


氷姫「くっ、あんたらぁ!!」

氷姫「殺してやるっ!」ォオオ…

「や、やったぞ…」

「ドラゴンを…西に追いやった…!」

氷姫「!?」

氷姫「なん…ですって…?」

氷姫(この人間たちにとって、あたしは死の象徴…目の前にそれが迫っているというのに、この満ち足りた表情はなに?)

氷姫(こいつらは、只これだけを狙っていた…?)

氷姫(木竜を一定の場所におびきだす、只それだけを)

氷姫(一体、何を狙って………)

ビリ……ビリビリ…

氷姫「!?」

氷姫「なに…この波動…」


《――皆、聞こえる!?》

炎獣「氷姫!?」

魔王「…テレパシーだわ」

《今すぐそこを離れてっ!! 人間たちの狙いは、そこに皆を連れ出すことよ!!》

雷帝「!?」

魔王「なんですって…!」

雷帝「くっ…やってくれる!」

炎獣「おい、爺さん!! どこでもいい!! 離れねぇとやられちまうぞっ!」

木竜「ぐぅっ…今はこれが最高速じゃ!」

雷帝「どこから狙ってくるつもりだ!?」

《町の崖の上にある妙な円い建物よ! 物凄い波動を感じるわ!!》

魔王「――!」

バリバリバリ…バリバリバリバリ…!

雷帝「あれか!」

炎獣「もう間に合わねぇ!! 来るぞ!!」

木竜「ぬぅ…っ!!」

魔王「…みんな」




魔王「伏せていて」



カッ





ゴゴォォオン…!!





「魔導砲、敵に命中した模様ですっ!」

「や、やったぞッ!」

「作戦成功だぁ!!」


商人「………よし」

商人(さあ…魔王)

商人(どんな気分だい? 舐めくさっていた人間にやられた気分は)

商人(………恐らく、お前個人の命を奪うまではいかないだろう)

商人(しかし、そのドラゴンか…もしくはそこにいる精鋭連中の誰か)

商人(それともお前の片腕でも持っていっただろうかね)

商人(戦慄したか? 後悔したか? 今、お前はどんな顔をしている)

商人(このあたしの、恐ろしさを胸に刻んだか)

商人(武器商会の長、商人の、最期にして最大の一撃を…)


「魔王はどうなった!?」

「煙で姿が見えねぇが…いや、風で煙が晴れるぞっ!」


商人(あたしに、見せてくれ)

商人(お前が一体、この魔導砲でどんな姿になったのかを)

商人(今、どんな顔をしているのかを)

今夜はここまでです

レスいずれも有り難く読んでます

また来週の土曜に更新する予定です



魔王「…」

魔王「皆、無事?」

炎獣「あ、ああ…。助かった…のか?」

木竜「なんとか、のう」

雷帝「はい…魔王さまの、魔弓のおかげです」

魔王「――良かった」

雷帝「まさか…あんなに強烈なエネルギーが放たれるとは」

炎獣「魔王の、必殺技を使わされることになるなんてな…!」

炎獣「人間、やるじゃねーかっ!」

木竜「うむ…してやられたかと思ったわい」

雷帝「魔王様…お手を煩わせてすみません」

魔王「あんな膨大な魔力を打ち消すには、こうするしかなかったもの。魔弓の一撃で相殺出来て良かった」

魔王「それより、皆。まだ終わってないわ」

魔王「ここで立ち止まっている時間は、ない」

魔王「私たちは、全魔族の命運を背負っている」


魔王「負けるわけには、いかない」



商人「…!!」


「そ、そんな…無傷だと!?」

「あ、あの魔導砲を受けて、か!?」

「ウソだ…ありえない!!」


商人「…」ジ…



魔王「…」



商人(…)

商人(小娘、だと?)

商人(魔王の姿が、あんな年端も行かぬ…)

商人(それが、あたしの魔導砲を受けて…それでいて、あんな涼しい顔で、こちらを見据えている)

商人(その顔には、恐怖や混乱はない。ましてや、相手を打ち負かしたという勝利の嘲笑もない)

商人(あの目は…ひたすら真っ直ぐだ)

商人(ただただ、雑念なく、前を見ている)


商人(………まさか)

商人(奴は、この町のことなんかを、見ていないのか?)

商人(ここで潰えるつもりは毛頭なく)

商人(もっと大きなものを見ている、とでも言うのか?)

商人(この港町は、魔導砲は)

商人(このあたしは、その中の小さな要因に過ぎないと…)

商人(――このあたしを、通過点に過ぎないと)

商人(そう、言うのか!!)


「ど、どうするんだ…?」

「もう…駄目だ………」

「馬鹿、言うんじゃねぇ! もう一発だ! 魔導砲をもう一発お見舞いして…」

「無理だ…! 魔力の充填に時間がかかり過ぎる!」

「そ、それじゃあ、一体どうしたら」

商人「…クククク」

商人「アーハッハッハッ!!」

「「「!?」」」

「ね…姐さん?」





商人「終わりだよ」


「え…?」

商人「終わりだ。ここまでだ」

商人「もう打つ手はない。強いて言うとすれば」

商人「座して死を待つのみ、だ」

「…え」

「そ、そんな…」

商人「それが嫌だったら…とっととこの魔導砲から逃げ出すことだね」

商人「あいつらは、次は間違いなくここを潰しにくる」

商人「魔導砲と同じ火力の攻撃を持ってるくらいだし、もしかしたらそいつを直接ぶちこんでくるかもしれないね」

商人「何にせよ、未来はない。ここで野垂れ死にさ」


シーン…


商人「それが嫌なら、とっとと逃げ出すしか、ないんだよ」

「…」

「う、嘘だ…まだ、何か、打つ手が…」

商人「そんなものはない。下らない希望は捨てるんだね」

商人「たかが利用されてただけの人間が、この状況をどうにか出来ると思ってるのかい?」


「な…何…?」

商人「ククク…つくづく見上げた連中だよ」

商人「最初から、この戦に勝ち目なんて無かったんだ」

商人「精々足止めが良いところさ。そんな事も分からなかったのか?」

「…」

商人「他人におんぶに抱っこで信用なんざしてるから、そんな事になる。この武器商会にいながら、そんな事も学ばなかったのかい」

商人「お前たちは、あたしの手の上で踊らされていたに過ぎない」

商人「あたしの思惑通りに動かされ、それ以上のことは何もさせて貰えないままここまで来たのさ」

商人「そのあたしが駄目、といってるんだ。使われてきただけの人間が、一丁前に希望なんか語って見せるんじゃないよ」


ドカッ

商人「あは…」

バキッ

商人「アハハハハ!!」

ガシャーンッ

商人「何もかも、終わりなんだよ!!」

商人「無様に逃げ出せ!! 何の力もない雑魚どもが!!」

商人「あたしが全てを決めるんだよ!!」

商人「最初も、終わりも!!」

ドガシャーンッ!

「ひっ…」

「う、うわああ…狂ってる」

「も、もう駄目だ…」

「に、逃げろ!」

「でも、ど…何処へ?!」

「知るか! ここにいるよりマシだ!!」

「とにかく、何処かへ、逃げろ!!」


「くそ…! くそぉ!」

「こんな事が…!!」

「死んでいった奴らに会わせる顔がねぇっ!! 」

商人「だったら!」

商人「せいぜい死人に顔付き合わせないように、生き残るんだね!!」

商人「這ってでも生き残って見せるがいいさ…使われるだけの人間の、意地ってもんを、見せてごらんよ!!」

「ふ、ふざけんじゃねぇや!! てめぇのせいだ!!」

「この人でなし!!」

商人「………はっはっはっはっ!!」

商人「罵れ、吠えろ!! それで晴らせる程度のうさならば、そうするがいいさ!!」

商人「惨めに敗走しろっ!!」

商人「この、港町の最後は…」

商人「あたしだけのもんなんだよ!!」











商人「…」ツカツカツカツカ

商人「…」ツカツカツカ

商人「…」ツカツカ

商人「…」


商人「あんた、まだこんな所に居たのかい」

男「…ええ」

商人「とっとと失せな。ここに居たって何の意味もないよ」

男「…」

男「ここを、守るよう命じたのは、他ならぬ貴女ですよ」

商人「ああ。思いつきでね。だが、貴様には所詮何も出来まい」

商人「港町は既に敗北した。魔王に屈したのだ」

商人「お前は復讐を遂げられない。精々、無様に死ぬのがオチだよ」

男「………貴女は、優しい人ですね」

商人「――…何?」

男「噛みつくように、寄せつけぬように、自らを刃のようにして人を遠ざけて」

男「その実、一人でも多くの人間の命を救おうとしてるのですね」

商人「…」


商人「…ハッ」

商人「何を言うかと思えば馬鹿馬鹿しい
。あたしが人を救おうとしている? 何を勘違いしているんだ」

商人「この戦争は、そもそもあたしが始めた戦争だ。そうしなければ死なずに済んだはずの命が、既に幾つも散っていっている」

商人「今さら数人の生き死にを左右してどうしようってんだい。そんな無駄な勘定をするほど、あたしは暇じゃないんだよ」

男「…そうですか。では、そういうことに」

商人「ちっ。最後の最後でとんだ厄介モンを雇っちまったもんさね。あたしもヤキが回ったってとこか」

男「私がこういう男だということも、きっと貴女は見抜いていたはずです。天下の大商人である、貴女なら」

商人「目の見えない奴がよく言うよ」

男「視界がなくなったからこそ、見えてくるものもあるのですよ」

商人「そうかい。ぞっとしないね」

男「ふふ。…おや、冷えてきましたね」

商人「…部屋の中にまで霜が張ってやがる。これから地獄へ行こうってのにゃ、おあつらえむきの演出じゃないか」

男「…」

商人「…死が」

商人「近づいてきているんだ」


男「不安、ですか?」

商人「何?」

男「大丈夫」

男「大丈夫ですよ」

男「女神様は、全てを見ています」

男「貴女の悪行も。悪態の裏の、優しさも。…貴女の孤独も」

商人「………」



商人「あたしは、女神は嫌いなんだよ」

商人「最後まで…自分の道は自分で開く」

男「そうですか」

男「しかし、旅は道連れ。こうして運命のいたずらで時を同じくした者同士です」

男「私も、お供しましょう」

商人「…はん」

商人「分からない男だね」

商人「あたしは、運命って言葉も嫌いなんだよ」



パキパキパキパキ…


商人「………なんだい」

商人「あんたが、あたしの″死″か」

商人「…女神といい、魔王といい――」



商人「全く、女ってのは、キライだよ」




「それはそれは」

氷姫「ご愁傷さま、ね」
















キィィイイイイン…!!


炎獣「うお! なんだ!?」

雷帝「このまばゆい光…先程のエネルギー波を生み出していたコアに、氷姫が辿り着いたのでしょう」

木竜「ふう、やれやれじゃわい。これで、あのとんでもない攻撃は来ないというわけじゃな?」

雷帝「ええ…しかしあれは…」

魔王「…うん。恐らく、あのエネルギー波を産み出していたのは、何ら方法で大きな魔力を捻出する装置か何か」

魔王「それに、氷姫の魔力が共鳴しているんだわ。――港が…」

魔王「港が、凍りついてゆく………」



――――――
――――
――

魔法使い(…あっという間に、一面の銀世界)

魔法使い(魔導砲を中心として、港町に氷が張っている)

魔法使い(魔王方には、恐ろしく強力な氷魔法の使い手がいるようですね)

魔法使い(人びとの活気に溢れていた港町は消え去り…死の世界が突如全てを覆い尽くしてしまった。そんな様子ですね)

魔法使い(………商人さんはあの喧騒の港町と、命運を共にされましたか)

魔法使い(あの方は…最後まで港町の商人であり続けた、といったところでしょうか)

魔法使い(武器商会の長、王国で最も恐れられた女性。その、最期…)

魔法使い(…やれやれ、私としたことが。何を感傷的になっているのでしょうか)

魔法使い(そうさせるだけの人生が…あのひとにはあった、と?)

魔法使い(人の死というのは、こうも無駄に想いを馳せさせるものでしたかね)

魔法使い(下界との付き合いを遮断してしばらくになる私には、少し慣れないものがあるというのは、否めませんね)

魔法使い「…しかし。魔導砲を相殺するほどのエネルギー攻撃、ですか」

魔法使い「魔王の力…これほどまでとは」


「…おおう、寒いのォ! 何事じゃあ、これは?」

魔法使い「…ふう。やっとお目覚めですか?」

「お? なんじゃあ、魔法使いか。相変わらずひょろっちい身体つきだの!」

魔法使い「放っておいてください。それにしても、あれだけの戦闘の中で居眠りとは…貴方という人は一体どういう神経をしてるんです?」

魔法使い「…武闘家さん」

武闘家「ふあーあ。なんじゃい、戦闘? 喧嘩騒ぎでもあったんか?」

魔法使い「け、喧嘩騒ぎ…?」

武闘家「ぶぇっくしょん!! ウゥ…おかしいのお、ちょっとばかり昼寝のつもりが、季節が一巡してもうたのかの?」

魔法使い「…熊じゃないんですから」

武闘家「がっはっはっは! まあ、寝溜めはする方じゃがのぉ!」

魔法使い「呆れた人ですね…」



【武闘家】


今夜はここまで

また来週の土曜日更新…したいなあ




武闘家「なんじゃと!? 魔王が攻めてきた!?」

魔法使い「ええ。前線の王国軍はほぼ壊滅状態です」

魔法使い「王国最大の貿易圏をもつ武器商会が向かえ討とうと、最新鋭の武器と人類の叡知を結集した兵器を投入するも――」

魔法使い「敢えなく、敗北。指揮をとっていた武器商会の社長はつい先程、討ち取られました」

武闘家「…それで港町がこのザマというわけか?」

魔法使い「そういうことです」

武闘家「ふーむ、しかしこりゃまた派手にやられたもんじゃのぉ。温暖な港町が、北の果ての山岳地帯のような有り様じゃ」

武闘家「あっちこっち凍りついてしもうて…一体こりゃ何度まで下がったんじゃ? 水路が凍って、上を歩けるようになっとるじゃないか」

魔法使い「魔導砲のコアと共鳴したにせよ…これだけの範囲を凍てつかせるとは、恐ろしい力ですね」

武闘家「全くもってたまげたもんじゃ。くわばらくわばら」

魔法使い「私に言わせれば、この状況でそのような薄着で平然としてる貴方も、かなり驚異ですが」

武闘家「何を言うとる、これでも寒くてしゃーないんじゃ。お前こそ、ヒョロいくせによくもまあ平気な顔をしているではないか?」

魔法使い「ヒョロいヒョロい言わないで下さい! まったく。私は魔法で周囲の大気の温度を調節していますから」

武闘家「そりゃ便利じゃの! せいぜい一人だけぬくぬくとしておれ」スタスタ…

魔法使い「………どちらへ行かれるのです?」


武闘家「…知れたことよ。この状況でワシが向かいそうな所なぞひとつしか無いじゃろ」

魔法使い「まさかとは思いますが………魔王のところへお一人で行かれるつもりですか?」

武闘家「そうじゃが? 何かおかしいかの?」

魔法使い「…」ハア

魔法使い「物好きもいたものですね。死にに行くつもりですか?」

武闘家「死にに行く、か。悪くないのお」

魔法使い「何ですって?」

武闘家「ワシを死なせることができる程の者が、今までどれだけおったと思う」

武闘家「東の国の剣豪がそうだったか? 地下迷宮の伝説の魔物がそうだったか? それとも死火山の火竜がそうだったか?」

武闘家「どれも違う。奴らは、確かに噂に違わぬ強敵じゃったが――」

武闘家「ワシを倒すことなど到底出来はしなかった」

魔法使い「…貴方は、名だたる強者をしらみ潰しに討ち取っていった。今や貴方の名は、剣を手に取らぬ者たちにも知れ渡っている」

魔法使い「とは言え、魔王の一行は魔族最強の精鋭部隊です。いくら貴方と言えど…」

武闘家「魔族最強、か。なかなか魅力的な響きだのぉ」

魔法使い「…」ハア

武闘家「………ぬふ」

武闘家「ぬふふふふふふ」

武闘家「見ろ。全身が粟立っておる」

武闘家「正に死ぬかもしれんと、身体が感じておる」

武闘家「相対しておらずとも、直感が警告しておる。危険じゃと」

武闘家「港町を丸ごと凍らせてしまうような敵じゃ。ま、当然と言えば当然じゃが…しかし、今の今までワシにそこまでの感覚を抱かせた者はおらんかった」

武闘家「世界で最強と言われ始めた頃から…一度もな」


魔法使い「…世界最強の武闘家。それゆえの孤独、ですか?」

武闘家「ぬふっ、そんな小難しい話はしとらんよ。ワシは、ただ楽しみなのじゃ」

武闘家「ワシを殺せるほどの者と、やりあうことができる。その事実がな」

武闘家「その結果、今日が人生最期の日になるのであれぱ、それは人生最高の日」

武闘家「最強の敵…それすなわち、最愛の者じゃ」

魔法使い「………本当に、呆れた人ですね」

武闘家「何とでも言えい。ただのう、魔法使いよ。これだけは覚えておけ」

武闘家「――人生は、愉しまねば損じゃぞ」ニタァ






氷姫「…あたしのせいね」

魔王「…氷姫」

雷帝「全くだな。お前が敵の部隊を早々に殲滅できていれば、翁が撃たれることはなかった」

氷姫「っ…」

炎獣「お、おい雷帝。何もそんな言い方しなくたってよう」

氷姫「アンタは黙ってて」

炎獣「ぇえっ!?」

木竜「ほっほっほっ。その程度のこと、気にするでない。確かに少しばかり痛むがのう。儂を誰だと思っとるんじゃ?」

木竜「緑を治める者、竜属の長じゃぞ。まあ見ておれ…」

ヒュウウウウン…

雷帝「傷が…」

炎獣「うおーっ! 傷が塞がっちまった!」

魔王「相変わらず、爺の治癒能力はスゴいね」

木竜「ほっほっ! どんなもんじゃ!」

氷姫「ジイさん…」

炎獣「良かったな! なっ? 氷姫!」

氷姫「…う、うっさい! 馬鹿! チビ! アホンダラ!」

炎獣「なぜ!?」


魔王「治ったとは言え、無理は禁物よ。爺」

木竜「うぬ…立つ瀬がありませぬのう」

炎獣「そーだぜ? いつまでも若くねーんだからよー?」

木竜「何を言うか、子わっぱが!」

雷帝「前衛は、ひとまず私と炎獣にお任せ下さい。翁は後方支援を」

木竜「むう…まあいいじゃろう。」

木竜「じゃがまあ、お主ら二人に手傷を追わせられる者がこの先居るのかは、疑問じゃがのう」

炎獣「居てくれなきゃ張り合いがないぜ!」

魔王「…実際、人間側がこの先どんな手を打ってくるかは分からない」

魔王「ここは敵地の真っ只中よ。油断は出来ない」

炎獣「つってもさぁ、魔王…。この有り様で敵なんて居るのか?」

氷姫「………」

木竜「見渡す限り氷の世界、じゃからのう」

氷姫「………」

雷帝「全く、加減を知らんのか」

氷姫「…う、うっさい!」


木竜「これでは、人間側の文化を残して上手く吸収、というわけに行くのかのう」

炎獣「ああ、またその話か?」

雷帝「炎獣。覚えておけ。これが悪い例だ。本来は人間の町を保護しつつ、敵を倒すべきだった」

炎獣「ふーん。なるほどなー。そういうことかー」

氷姫「…」ショボン

炎獣「でもよー、氷なら後でいくらでも俺が溶かせるぜ?」

炎獣「これだけ広範囲だと、ちょっと時間はかかりそうだけどな。いやー、やっぱ氷姫の魔力ってスゲーよな!」

氷姫「え…」

炎獣「もしそれで町が元通りになれば…全然問題ないんじゃないか?」

氷姫(…)

木竜「ふむ。まあ今はそんな時間はないからのう。勇者を倒した後になるかもしれんが」

雷帝「それで全てが元通りになるわけではない。一度氷ってしまったものは、材質などによっては痛んだり変化をしたりということもある」

雷帝「とりわけ、あのエネルギー砲…あの技術を――」

魔王「雷帝」


雷帝「…魔王、様」

魔王「大丈夫よ。炎獣の言うことも一理ある」

雷帝「しかし…!」

魔王「ありがとう。雷帝の言うことはもっともよ。いつだって雷帝は知識と経験と観察力で、皆を…私を含めて、導いてくれてる」

雷帝「い、いえ! 魔王様を導くなどと、お、怖れ多い…」

魔王「本当のことだもん。いつも感謝してるわ。でも、″文化の吸収″はあくまで無事にこの戦いに勝った先の話」

魔王「まずは、打倒勇者を、達成しなくちゃならない。それも、皆が無事に、ね」

魔王「私は…戦いのあとも、皆に四天王を務めて魔族を率いて欲しいと思ってる」

魔王「まずは、一人も欠けることなくこの戦いに勝利したいの」

魔王「そのために、戦いの勝利を優先することを、責めることはできない、と私は思う」

魔王「おかげでこの町での驚異はかなり軽減されたし、ね」


魔王「だから、進みましょう。この戦い自体を、終わらせましょう」

魔王「それが、私たちの、何よりの願いのはずだから」

雷帝「…はい、魔王様」

木竜「これだけ休めば、ワシも問題ないわい」

炎獣「よっしゃー!出発進行!」

氷姫「…ありがと。魔王」

魔王「ふふ」

魔王「それ、ちゃんと炎獣にも言ってあげてね?」

氷姫「な、なんでよ…」

魔王「ふふふふ」


雷帝「…」スタスタ

魔王「…ねぇ、爺」ヒソヒソ

木竜「なんじゃ?」ヒソヒソ

魔王「やっぱり、雷帝気を悪くしたかな?」

魔王「雷帝は正しいことを言ったのに、それを否定するような事言っちゃって…」

木竜「…ほっほ。案外姫様も心配性だの」

魔王「イジワル言わないでよ」

木竜「これは失礼仕った。心配いりませんですじゃ。あやつは今気を悪くしたと言うよりは…」


雷帝「…」スタスタ

――「 いつだって雷帝は知識と経験と観察力で、皆を…私を含めて、導いてくれてる 」

――「 いつも感謝してるわ 」

雷帝(い、いかん。どうしても顔が緩んでしまう)ニヤニヤ


木竜「どちらかと言うと、有頂天じゃ」

魔王「え?」

木竜「ほっほっほっ。姫様もニブいのう!」


炎獣「たっおせーにっんげん♪ せーいぎのなーのもとーにー♪」

氷姫「…ね、ねぇ炎獣」

炎獣「んー? どーした氷姫」

氷姫「い、いや…あの」

氷姫「………あ」

氷姫「…あんた、寒くないわけ?」

炎獣「ん? ああ、寒いぜ! 俺ってば炎属性だからな!」

炎獣「と言っても、触ったら火傷するくらいいつでも身体は熱くしてるんだけどなー! それでもこれはちょっとキツイかなー!」

氷姫「…っ。な、何よ。悪かったわね、何でもかんでも氷付けにして」

炎獣「え? なんで謝んの?」

氷姫「え?」

炎獣「俺はさっき言ったように、こうなっちゃっても仕方ないと思ってたかんなー。っていうか、ほんとスゲーよ! 氷姫!」

炎獣「俺、どっちかっつーと力自慢だからさー、こんな魔力ねぇもん!」

氷姫「…」

炎獣「さっきは、雷帝にあんな見栄張っちゃったけどさ。ぶっちゃけ俺の魔力じゃ溶かすのスゲー時間かかる気がする!」タハハ

氷姫「…あ、そ」


氷姫(…ったくこの馬鹿は)

氷姫(こっちの調子、狂いっぱなしじゃない。ほんとにもう)

氷姫(………)

氷姫(で、でも、お礼は、言わなきゃ、よね)

氷姫(ちゃ、ちゃんと………)ドキドキ



「――氷姫っ! 危ないっ!!」


氷姫「えっ…?」




バキャアッ!



氷姫「え、炎獣?」

炎獣「無事か? 氷姫」ザッ!

氷姫「え、ええ。一体何が…」

炎獣「こいつが、いきなり飛んできたんだ」

氷姫「…何、このデカイの?」

雷帝「…馬車。人間が馬に牽かせて荷物や人を運ぶ道具です」

魔王「みんな、構えて」

魔王「敵よ」

氷姫「…!」

木竜「この氷の世界で、生きてる人間がおったんか?」

雷帝「しかし、何者だ。魔族ならともかく、人間が馬車を投げ飛ばしてくるなど…。そんな兵器はなかったはずだが」

炎獣「来るぞっ!」



ビュンッ! ビュンッ!


雷帝(ワイン樽に、滑車、小舟…! 一体こんな物どうやって投げ飛ばして!?)

炎獣「おらおらおらおら!!」

バキバキバキィッ!

木竜「全部叩き落とすとはのう…」

炎獣「へへーん、これが若さだぜ! …にしても」

炎獣「雪合戦にしちゃ、ずいふんと馬鹿デカイもん投げ飛ばしてくるじゃんかよ!?」

炎獣「どこのどいつだぁっ!? 姿を現せ!!」




「ぬふふふふふふ」




武闘家「面白い小僧じゃっ!!」バッ

炎獣「!?」

炎獣(どこに潜んでた…!?)

武闘家「ぬん!!」ビュンッ

炎獣「ちっ!!」ドシィッ

武闘家(受け止めおった!)

炎獣(すげぇ力だ…!!)


氷姫「炎獣っ…!」


炎獣「なんつーパンチだよ…! お前本当に人間か!?」ググ…

武闘家「ぬふふふふふ、流石は魔族」グググ…

炎獣「アレぶん投げてきたのもお前かよ…!?」

武闘家「まさか叩き落とされるとは思わなんだぞ…!」

炎獣「へーえ! こりゃ面白ぇ…!!」



雷帝「炎獣を動けなくさせる力は大したものだが」

雷帝「隙だらけだぞ、人間」

雷帝「″居合い抜き″」ビュッ


武闘家「ッ!!」バッ


炎獣(! 逃げられた!!)

雷帝(かわされた!?)


武闘家「ふう、危ないとこじゃった」スタッ

武闘家「一瞬遅けりゃ死んでたの。ぬふふ…」


氷姫「…な、何!? あいつ! 」

木竜「炎獣と組み合っていながら、雷帝の一撃を避けおった…」

魔王「…」

雷帝「人間が、私の剣を逃れただと…?」

すみません…寝落ちしました。
もう少しだけ。


武闘家(敵は、ドラゴンも入れれば5体)

武闘家(どいつもこいつもえげつない能力を持っとるのお)

武闘家(ワシの必殺の一撃を受け止めたあの小僧…。それからワシを殺ろうとしおったあの若造の剣はとんでもない疾さじゃ)

武闘家(後ろの女二人は…)


氷姫「ちっ! 人間が調子のんじゃないわよっ!」

氷姫「距離を取れば安心できるとでも!?」キュィイイ…!


武闘家「…!!」バッ

バリバリバリバリ!!


武闘家(立っておった所があっという間に氷の塊の中…!)

武闘家(あの女が氷の魔術師か…。となると隣で澄まして立っておるのが)

武闘家(あの小娘が、まさか魔王か?)


氷姫「死ね! 死ねっ!」

バキィンッ! ガキンッ!


武闘家「ぬうっ!」

武闘家(全く馬鹿げた火力じゃ!こりゃ一旦退くしかないの)バッ



氷姫「ちょこまかと…!!」

木竜「姿を消しおったか」

雷帝「人間にしては、やるようだな」

炎獣「…」

魔王「………炎獣?」

炎獣「なあ、雷帝」

雷帝「何だ?」

炎獣「魔王を、頼むぜ」

雷帝「? 何を――」

炎獣「」ゴゥッ!

氷姫「ちょっとあんた! 何処へ行くつもり!?」

炎獣「アイツは俺に任せとけ!」ダンッ!

雷帝「おいっ、勝手な行動は…!」

ヒュゥゥウウウ…

木竜「行ってしもうたの」

魔王「炎獣…」

雷帝「アイツ! 何を考えてるんだ!」

氷姫「…はーあ」

氷姫「ホント、脳筋」

ここまでです。


武闘家「フーッ…ここまで来ればひとまず安心かのお」

武闘家(それにしても…予想以上じゃ)

武闘家(最初の一撃、あれは渾身の一打じゃった。あれで一匹削る算段じゃったが…受けられるとはのお)

武闘家(あの化け物集団相手に一人で突っ込んでは流石に身が持たんぞい)

武闘家(一匹ずつ誘きだして撃破…が理想じゃがまあそう上手く行くか…)

カッ

武闘家(むっ、なんじゃ今の光は)





炎獣「」スゥー

炎獣「 ど こ に 隠 れ た あ あ あ ! ! 」

ゴオオオオオオオッ!!





「………」

武闘家「なんちゅー馬鹿デカイ声じゃ」スッ



炎獣「おっ!」

武闘家「普通の人間だったら鼓膜がヤられとったの。そこまで耳は遠くなっとらんぞい」

炎獣「素直に出てきてくれて嬉しいぜ! 町を壊すと怒られるからな!」

武闘家「それはこっちの台詞じゃ。わざわざ一人でのこのこ現れたのか?」

炎獣「おう! 俺は斬り込み隊長ってやつだからな!」

武闘家(好都合じゃな。一番破壊力のある者を倒せる)

武闘家「そりゃ災難じゃったのお…」ォォオ…

武闘家「――己の立場を呪うがよい」ゴゴゴゴ

炎獣「…まさか。呪うわけねーじゃん?」

炎獣「俺は嬉しくてしょーがねーぜ。お前みたいなのと、会えてよ」ゴゴゴゴ

武闘家「くふ…! なんじゃ、おぬし」

武闘家「同類かよ!!」バッ!


武闘家「オラオラオラオラ!!」ガガガガガッ!!

炎獣「――ッ」

炎獣(圧倒的な闘気。圧力。そしてそれを纏った拳の壁)

炎獣(コイツ、本物だ!!)

炎獣「りゃりゃりゃりゃあっ!!」ビュボボボボボッ!!

パパパァンッ

武闘家(掌低で叩き落とされた!?)

武闘家(ならばッ)グルン

炎獣(! やべえのが来る!!)バッ


武闘家「喝ーッ!!」ビュバッ!!

バリィインッ!!!


炎獣(回し蹴り! 風圧で建物がぶっ壊れたぞ!?)

武闘家(ちっ、跳び上がって避けたか!)

炎獣「負けてらんねえな!」

炎獣「うおおおお!! 炎パァアアアアンチィイイイ!!」カッ

ゴゴォオオンッ!!


武闘家「…とんでもないのお」

武闘家「石畳の道がまるっとえぐれおったぞ」

炎獣「当たんねーかあ。仕留めたと思ったんだけどな」

武闘家「ぬふ、当たってはおらんが、お前の纏った熱気のせいで、背中が爛れたぞい」

炎獣「あ、ワリィ! そりゃ俺の魔力のせいだな」

武闘家「…何?」

炎獣「ちー、本気出すとついつい魔力纏った攻撃になっちまうや! お前みたいのが相手なら、魔力は使わないでおこうと思ったんだけどな」

武闘家「…」

炎獣「肉弾戦に魔力はズッコイよな! 悪かった! 今のなし!」

炎獣「お詫びに、そうだな…一発殴らせてやんよ!」

武闘家「………」


炎獣「さあ来い! ほれ!」

武闘家「………この」

炎獣「?」


武闘家「うつけ者がああああっ!!」ガシャアアアアンッ!


炎獣「どわっ!?」

武闘家「――命のやり取りに、そのような無粋なものを持ち込むでない!!!」

武闘家「勝った方が生き、負けた方が死ぬ!!! その神聖な闘いにおいて!!!」

武闘家「加減をするとは何事かァッ!!!」

武闘家「勝負の在り方を、お前ほどの使い手が歪めてどうするのだ!!!」

武闘家「闘いを、汚すな!!!!」


炎獣「…っ!」ビリビリビリ


武闘家「…ふうー…」

武闘家「つい説教臭くなったの。歳はとりたくないもんじゃ」

炎獣「…」

武闘家「ん?」

炎獣「…」ムス

武闘家「なんじゃ、むくれておるのか?」

炎獣(…なんで怒られなきゃならねーんだよ。俺、せっかくフェアにやろうと思ったのによ)

武闘家「ふーむ。どうやら精神面にムラがあるようだの」

炎獣「う、うっせーぞ!」

武闘家「その隙を突かれたらどうするんじゃ。全くなっとらんな」

炎獣「なんで敵にそんな事言われなきゃいけねーんだ!?」

炎獣「つーか、お前だってその隙を突いてこないじゃねーかよ! それ、手加減じゃねーの!?」

武闘家「…うむん?」

武闘家「言われてみればそうじゃの」

炎獣「人を怒鳴りつけといてそれはないだろ!?」

武闘家「ぬふふ、まあそう言うな」

武闘家(はて、ワシはなぜ戦いの最中にこんな話を…)


炎獣「ちっ! 分かったよ…」

炎獣「じゃあ、全力で、行くからな。後悔すんじゃねーぞ、オッサン」

武闘家「それこそ、望むところ」

炎獣「どーなっても知らないぞぉ…」

炎獣「…」スゥー



炎獣「炎キーッ」バシュッ




武闘家「!!」

武闘家(なんだ!? 急に物凄い速さで距離が詰められ――)



炎獣「ク!!!」ドッ



ズドオオオオオッン!!!




ゴッ バキャッ ドガッ 

ドゴーン…

炎獣「…ふしゅーっ!」

炎獣「ありゃりゃ。オッサン何処まで吹っ飛んだ?」

氷姫「やり過ぎだっつーの、アンタも」ス…

炎獣「氷姫! なんだ、見てたのか?」

氷姫「まあ、ね。相手が一人じゃなかったらヤバいかな、と思って」

氷姫「アンタそういうこともちょっとは考えなさいよ。あれが二人も三人も居たらヤバかったでしょーが」

炎獣「あ、言われてみりゃそーだな」

氷姫「ったく、脳ミソまでチビなわけ?」

炎獣「うぐっ…ひどい」

炎獣「でも、ありがとな、氷姫」

氷姫「は?」

炎獣「え、俺の心配して来てくれたって事だろー?」

氷姫「なっ、ばっ、誰がアンタの心配なんて!!」

氷姫「調子乗んな! このチビ! クズ! カス!!」

炎獣「ええっ!?」




炎獣「ま、さ。あんな強ぇーのがそうポンポン居たら俺としちゃ嬉しいけど…そうそう会えやしないよ」

氷姫「…なんでアンタ、ちょっと寂しそうなのよ」

炎獣「え? え? そうか?」ワタワタ

氷姫「分かり易いのよ、アンタ」

炎獣「…なんだろな。あのオッサンだったら、分かりあえるかもって、ちょっと期待してた」

氷姫「分かりあえる?」

炎獣「…いや、ちょっと違うな。何て言うんだろ。もしかしたら、俺の全力も受け止めてくれたかも、てさ」

氷姫「…」ハア

氷姫(ったく、闘いの事しか頭にない奴はこれだから…)

氷姫「それだけ、あんたが強いってことでしょ。四天王で一番の武闘派なんだから、それだけ魔王もアンタのこと頼りに…」ズキ

氷姫「頼りに…してんのよ」ギュ

炎獣「そ、そーかな。そーか。じゃあ、良いんだよな、これで!」

氷姫「………うん、いいのよ。これで」


炎獣「へへ! なんか今までで一番強い人間が出てきたけど、俺の敵じゃなかったぜ!」

氷姫「あっそ」

炎獣「うん、言葉にしたら元気出てきた! ありがとな、氷姫!」

氷姫「うっさい! 死ね!」パキィイン

炎獣「うおあっ!? 何で!?」

氷姫「…ふん」


ズン…

炎獣「ん?」

氷姫「何よ?」

炎獣「今なんか音が…」

ズン… ズン…

氷姫「…確かに。これは、何の…」

炎獣「地鳴りみたいな…これ、巨人族の足音に似てないか?」

氷姫「馬鹿言わないでよ、こんなトコに巨人族がいるわけ――」

ズン… ズン… ズン…


氷姫「…っ、あれ、見て!」

炎獣「!? なんだ、ありゃ!!」

氷姫「家が…動いてる!?」

炎獣「ま、マジかよ…一体ありゃなんの…」

氷姫「あ、あれ! 家の下!! なんかいるっ!」

炎獣「!? まさか――」



武闘家「ぬぅうううう…!!」

ズシン! ズシン!


氷姫「何、あれ、どうなってんのよ…。あの人間、あのデカイ家引っこ抜いて担いでるってわけ!?」

炎獣「…は、はは。本当に人間か?」

炎獣「って、ヤバい!! 氷姫、下がれっ!」


武闘家「ぬおおおおおおおおお!!」ブオォンッ


氷姫「わっ、家投げてきた!」

炎獣「やっぱり!!」


炎獣「へ、ったく」

炎獣「何回全力出させりゃ成仏すんだよ!」

炎獣「うおおおおおッ!!」ボウッ

氷姫「ちょっと、どうするつもり!?」

炎獣「あの家、ぶち割るっ!!」

氷姫「はあ!?」


炎獣「炎ぉ」


炎獣「チョーップ!!!!!!」


ドガシャアアアッ!!



氷姫「ほ、ほんとにやった…」

炎獣「っしゃオラァ!! どんなもん――!?」

炎獣(いない! あのオッサン消えて…)

ガタ…

氷姫(っ! 真っ二つになった家の中に何かいる…!!)

氷姫「炎じゅ…」



武闘家「捉えたぞ…」ヒュッ



炎獣「馬鹿なっ…!!」

炎獣(投げ飛ばした家に追いついて、中に潜んだってのか!? 滅茶苦茶――)



武闘家「喰らえッ!!」ギュンッ

ドシュッ――!


炎獣「あがッ…!!」



氷姫「炎獣っ!!」

炎獣(腹を、貫かれたっ…! なんつー突きだっ!)

炎獣(けどっ…!!)ガシッ

武闘家「!?」

炎獣「この腕、貰うぜ…!」ゴォ


炎獣「発火ぁっ!!」ドシュゥウウッ


武闘家「ぬわあぁあっ!?」






武闘家「…ぜぇ…はぁ…」

武闘家(右腕を、失った…焼き切られたか)

炎獣「がふっ…ごほっ」

炎獣(へっ…腹に風穴開いちまったよ…)

氷姫「え、炎獣っ!! アンタ…!」タタッ

炎獣「――来るな」

氷姫「えっ?」

炎獣「来ちゃあダメだ、氷姫。手ぇ出さないでくれ」

氷姫「は!? そんな事言ってる場合じゃないでしょーが! そんな怪我負わされて…」

炎獣「へへっ、そうだよな。でも、だからこそなんだよ」

炎獣「今…瀬戸際なんだ。下手打てば死ぬかもしれない所にいる」

炎獣「今、俺は際の際に立たされてる。こんな強い奴…初めて会った」

炎獣「だからこそ、見えそうな景色がある気がする」

炎獣「こんな気持ちは、初めてなんだ。こんなに怖くて………こんなに楽しいなんて」

氷姫「っ!? 何を…」

武闘家「ぬふ」

武闘家「ぬふふふふふふ」


武闘家「ようやく理解したか、小僧。それこそが命のやり取り」

武闘家「死の深淵を覗き込み、尚且つ生を掴み取らんとすること…そのために己の全てを賭ける」

武闘家「ひとつの挙動に、ひとつの反応に、ひとつの瞬きにさえ――己の全存在を乗せる」

武闘家「それが、まことの、″闘い″じゃ」

炎獣「…へっ」

炎獣「しゃべってたって、わっかんねーよ」

武闘家「ぬふ。そうじゃな」

武闘家「これ以上の言葉は不粋か」

炎獣「だからさ――」

武闘家「応」



炎獣「行くぜッ!!」

武闘家「来いッ!!」



ドッ


本日はここまでです。

また来週の土曜日に…



ズドガガガガガガッ!!


氷姫「…っ!」

氷姫(何、これ………目で、追いきれない! それに)

氷姫(どんどん攻防が加速している――!)

氷姫(なんで…炎獣も相手の人間も、死ぬかもしれないような傷を負ってるのに、なんで…!!)

氷姫(動きが研ぎ澄まされて………まるで、舞いを踊ってるかのような)ゾワッ

氷姫「………綺、麗」



炎獣(身体が、勝手に動いていく。考えるまでもなく反射で)

炎獣(繰り出し、捌き、跳び、弾く)

炎獣(なんだろう。この感覚)

炎獣(今まさにこの時、殺し合いをしてるってのに)

炎獣(なんだか遠くの出来事のような、ぼんやりとした時の中にいる)

炎獣(目の前に敵の足が迫る。身体を捻ると、それが耳を少し掠めて通りすぎる)

炎獣(風圧で耳に痛みが走り、頬は死の予感で逆毛立つ。でもそれを感じた時には俺はもう攻撃を繰り出していて)

炎獣(ああ、意識が海の底に沈んでしまったような)

炎獣(なんだろう、これは)

炎獣(――静かだ)



武闘家(思考は必要ない)

武闘家(ただただ、どう動くかは身体が知っている)

武闘家(ふふ。ぬふふふふ)

武闘家(あはははははは)

武闘家(そう、身体を極限の状態で動かす喜びに、身を委ねるだけ)

武闘家(………ここまでの高みに辿り着いたのは初めてだ)

武闘家(ここには、こんな世界が広がっていたのか)

武闘家(足りないものは、何もない)

武闘家(生きていて良かった。もうこれ以上はない)

武闘家(ずっと…)

武闘家(ワシはこれが欲しかったんだ)



ドゴガガガガガガガガガッ!!!



炎獣「」ヒュ

武闘家「」…ヒュ



氷姫(!! 僅かに人間の反応が遅れた――)



ドガッ

武闘家「!!?」



ズドドドドドォンッ!!


氷姫「っ、直撃した!!」

氷姫(港の方まで、吹っ飛ばしたっ!)

炎獣「…ハッ…ハッ…」

炎獣「…ハッ…?」ポー

氷姫「やったわね!! 炎獣!!」

炎獣「…ハッ…やった…?」

炎獣「あれ、アイツは…?」

氷姫「何言ってんのよ、今アンタが殴り飛ばしたでしょうが!」

氷姫「町の家々をぶち抜きながら、海の方まで飛んでったわよ」

炎獣「そ…うか」

氷姫「ったく無茶して! そんな怪我しながら、信じられないわ! 早く木竜のジイさんの所に行くわよ!」

氷姫「何だったワケ、あの人間! 人間の動きしてなかったわよ! 気が気じゃなかったんだから…本当にもう!」

炎獣「………」


氷姫「な…何よ? もうちょっと喜びなさいよ」

氷姫「あ、何? 町壊したこと気にしてるワケ? 大丈夫よ。魔王もああ言ってたし」

氷姫「雷帝の頭でっかちがなんか言ってきたら、今度はあたしが言い返してやるから!」

氷姫「ほら、早く――」

炎獣「ふ、ふふっ」

氷姫「?」

炎獣「ねえ、氷姫。多分さ。多分だけど」

炎獣「あいつは、まだ生きてるよ」

氷姫「え…?」

炎獣「分かるんだ、あいつの事なら。あれぐらいで死ぬはずがない」

氷姫「な、何言ってんのよ、アンタ。だって、アンタの全力の一撃が、あいつの胴に直撃して…」

炎獣「俺は多分、世界中の誰よりもあいつの事を理解してる」

炎獣「あいつも…俺の事を分かってくれた」

氷姫「ちょっと…大丈夫、あんた!?」

炎獣「…こんな事、初めてだったんだ」

炎獣「俺を分かってくれた奴」


炎獣「ほら」ニヤァ

氷姫「は? 何処見て…空?」

氷姫「っ!? 何、あれ…っ」

氷姫「船が…――ガレオン船が、宙に浮いてる」

炎獣「まだ、闘えるんだ」

氷姫「も、もしかして、あいつっ! あそこに居るの!? 自分で投げ飛ばして、自分で乗ってここまで飛んでくるつもり…!?」

氷姫(炎獣の本気をまともに受けて…しかも片腕のはずよ…!?)

氷姫(あまりにも…馬鹿げてる…!!)

炎獣「こっちから行くさ」


炎獣「あの世界にもう一度」


氷姫「炎、獣…!?」

氷姫「ちょっと、待っ



炎獣「」ダンッ!!



ヒュオオオオ…!!

武闘家(さあ、もう一度)

武闘家(もう一度だけ、ワシをあの世界に連れて行ってくれ)

武闘家(…もはや、身体は長くもたぬ。声も出ないし、視界も半分とない。骨は砕け、内臓も潰れとる)

武闘家(これが最後。だがそれでいい)

武闘家(さあ…友よ)



炎獣「よぉ、オッサン」スタッ

炎獣「ほんと、馬鹿デカイもん投げ飛ばすの好きだよな、あんた」

武闘家「…」ニィ

炎獣「さあ、やろうぜ」ニヤァ


武闘家(この宙に投げ飛ばした大型船が、地上に墜落するまでの刹那)


武闘家(最後にここで、あの愛しい時間をもう一度)



雷帝「あれは…!?」

木竜「なんじゃあ!? 巨大船が、飛んできおった――」

魔王「…! 炎獣!?」

雷帝「えっ!?」

木竜「ぬっ! 飛んでいる船の上で闘っておるのか!?」

雷帝「何だと!? 馬鹿なっ!」

魔王「…っ」

魔王(炎、獣!! 駄目…!!)

魔王(その人間の目…危険すぎるっ!)




炎獣「」ビュッ

武闘家「」ボッ

炎獣「」ギュンッ

武闘家「」ヒュオ

炎獣(きた)

武闘家(きたきた)

炎獣(すべてが見えて、何も見てないような)

武闘家(すべてを動かし、何も動いていないような)

炎獣(ただ胸のうちにあるのは)

武闘家(喜びだけ)




氷姫「…炎獣のあんな顔」

氷姫「初めて見る、な」

氷姫「………でも」

氷姫(ごめん。あたしは、どうしても…アンタに死んで欲しくない)



パッ

武闘家(うぬん? なんじゃ。急に意識が、独立してしもたぞ)

武闘家(闘っておる。あれが、ワシ?)

武闘家(うむ、いいぞ! そうじゃ、そこ! ああ、違う違う!)

武闘家(…って。どうなっとるんじゃこの状況。闘っとるワシらを外から眺めとるぞ)

武闘家(そういえば…何処かで聞いたことがあるな。頭が急速に働き過ぎると、周囲を置き去りにして妙な世界が見えるんだとか)

武闘家(これが、そうなのか? それとも、もう半分くらい死んどって、魂が身体から抜け出しているのかもしれんの)

武闘家(あれだけボロボロじゃったら、まあそれも頷けるわい。我ながら、死に損ないじゃのお)

武闘家(自分を外から見るなど、なんだか変じゃな…)


武闘家「」ゴッ

炎獣「」グンッ

武闘家「」ブォ

炎獣「」バッ


武闘家(………)

武闘家(あんな、楽しそうに笑えるんじゃったか、ワシは)

武闘家(子供みたいじゃな)


武闘家(魔族の小僧も、まあ楽しそうだこと)

武闘家(殺し合いだぞ、分かっとるのか。ったく)

武闘家(じゃが、なんじゃ。あやつ…)

武闘家(…ああ、そうか)

武闘家(あやつは、ワシの若い頃にそっくりなんじゃな)

武闘家(だから叱り飛ばしてやりたくなったり、妙な愛着を持ってしまうんじゃな)

武闘家(生涯孤独じゃったワシが、な…可笑しな事じゃ)


武闘家(………ああ、船が墜落する)

武闘家(悲しいかな、終わりの時じゃ。気づいてしもうた)

武闘家(名も知らぬ魔族の小僧よ。おぬしが次に繰り出す攻撃を)

武闘家(ワシは若かりし頃…受けたことがあった)




武闘家(すまぬな。ワシの、勝ちじゃ)





炎獣(――!)

炎獣(あれっ、この技をそんな風に避けるのかっ!)

炎獣(すげぇすげぇ!! ほんとにすげぇ!!)


武闘家「」ギュッ…


炎獣(…あ)

炎獣(そっか。俺の負け、かよ)

炎獣(俺の次の一撃が届く前に、アンタの拳が俺の頭を砕く)

炎獣(チクショウ。悔しいなあ)

炎獣(あんたが居れば、俺もっと強くなれる気がするのに)

炎獣(おしまい、か)

炎獣(死ぬのか)

炎獣(――死…)











氷姫「はああああああああっ!!」


パキィイインッ!!!





武闘家「ッ!?」

炎獣「!!」




武闘家(あーあ)

武闘家(なーんじゃ。結局最後は別の魔族に邪魔されおった)

武闘家(胴体が氷付けにされて身動き取れなくなっとる)


武闘家(…かっかっかっか! そりゃそうか)

武闘家(元々、魔王の一行に挑んだ闘いじゃ。邪魔されても文句なぞ言えん)



炎獣「あッ…!」



武闘家(拳を止めようとせずとも良い、小僧よ。これも、闘いの形じゃ)

武闘家(結局、ワシは魔王の足元にすら届かなかった)

武闘家(小僧との、サシであれば勝てたやもしれぬが………)

武闘家(………ん。なんじゃ、ワシは)

武闘家(″勝ち負け″すら、どうでも良くなってしもーたのか)

武闘家(ははっ。最後の最後で、これかよ)



武闘家(魔王と人間の闘いとか)

武闘家(ワシの人生うんぬんとか)


武闘家(そんな事よりもただ)







武闘家「…楽しかったぞ」ニ…





炎獣「!!」

炎獣(駄目だ、攻撃が止まらな――)










グシャッ――




ズズゥ…ン!!


雷帝「船が墜落した…!」

木竜「炎獣は!?」

魔王「………爺、急いであそこへ連れて行って」

木竜「承知!」バサッ

ビュウンッ!
















炎獣「………」

ヒュォオオ…


バサッ バサッ

魔王「炎獣!」タタタ…

木竜「! おぬし、なんじゃその姿! よくそれで戦っておったな!?」

魔王「爺、治療を」

木竜「うむ」

雷帝「敵は!?」


氷姫「…あれよ」ス…

氷姫「もう………死んでるわ」


雷帝「!」

魔王「良かった…。倒したのね」

木竜「全く無茶をしおって!」ヒュィイイン

炎獣「………」

炎獣「俺が一人で倒したわけじゃないさ」

雷帝「何?」

炎獣「――なんで」


炎獣「なんで手出ししたッ!!」


氷姫「っ…」


雷帝「お前、何を言ってるんだ!? あんな危険な敵を、一人で倒す必要がないだろう!」

炎獣「…」ギリ…

氷姫「…」

氷姫「…ごめん」

雷帝「おい、氷姫! お前までどうしたんだ!?」

魔王「………炎獣」

魔王「自分が死んでしまっても構わなかった…なんて言うつもりでいる?」

炎獣「…」ギュッ

炎獣「邪魔、されるくらいなら…っ!」

氷姫「………」

雷帝「何だと…!? お前、自分が何を言っているか分かっているのか!?」

炎獣「…っ!」ダッ

木竜「これ、待たんか! まだ治療は終わっとらんちゅーに!」バサッ


魔王「炎獣…」

雷帝「…放っておきましょう。少し頭を冷やすべきです」

魔王「…」

雷帝「…。翁もついてます。心配はいりませんよ」

魔王「そう、ね。整理する時間もいるかもしれないわ」

雷帝「全く、理解し難い思考回路ですがね。勝てたのだから、その上何を望むというのやら」

魔王「…それにしても、炎獣を倒しかねない程の能力を持っているなんて。にわかには信じられない」

雷帝「はい。人間には今まで見られなかった戦闘能力を有していたようですが…しかし、これ程の者が何故、最前線に送られてこなかったのか」

雷帝「単独行動をしていた辺り、王国軍とは関係を持っていなかったのかもしれませんね」

魔王「王国に属していなくとも…この先、人間は、種としての存亡をかけて私達の前に立ちはだかるかもしれない」

魔王「色んな立場の者が…色んな形をとって」


氷姫「………」


――炎獣「何で手出ししたッ!!」


氷姫「…」ギュウ…

ポンッ

魔王「氷姫。行こう」

氷姫「え、ええ。そうね」

魔王「…炎獣を、助けてくれて」

魔王「ありがとう、氷姫」

氷姫「………」

氷姫「うん…」







今夜はここまで

来週、また投下…出来たらいいなあ…

炎獣「…」ボー

炎獣「…」ボー

炎獣「…」ヨダレダラー




木竜「…ふぅ。全く、ひどい呆けっぷりじゃな」

木竜「おい。炎獣、終わったぞ」

炎獣「…んあ?」

炎獣「…あー………ありがとよ、じいさん」

木竜「腹に穴が開いておった上に、あっちこっちボロボロだったんじゃ。全部が全部元通りというワケにはいかん。暫くは身体を慣らせ」

木竜「下手に今まで通りの動きをしようとした所で、肉体がついてこない…という事態になりかねん」

炎獣「…あー、うん」

木竜「………どんな奴じゃったんじゃ?」

炎獣「え…?」

木竜「この爺に、聞かせてみぃ」

炎獣「…」

炎獣「強かったよ。…闘いが、好きなんだなって」

炎獣「そればっかりしてた、その生涯をぶつけられているような」

炎獣「ひりひりするような…まるで闘気の塊のような…」

炎獣「…」

木竜「…そうか」


木竜「若いうちは…腕を試したくなるもんじゃ。少なくとも儂ら魔族にはそういう血が流れとる」

木竜「儂も若い頃は随分と無茶ばかりしたものじゃ」

炎獣「…じいさんが?」

木竜「うむ。竜族の血の気の多さは知っておろう」

炎獣「あー…」

木竜「力こそが全てじゃと。多くの敵をねじ伏せ、四天王の座についた時は、それを力の象徴のように感じたものじゃ」

木竜「…じゃが。下を纏める者というのは、力だけではだめなのじゃと、程なくして思い知る」

木竜「炎獣、お前は先代の火の四天王と代わって間もなかったな?」

炎獣「…そうだけど」

木竜「お前もそのうち、嫌と言うほど感じるようになるわい。ほっほっほっ」

炎獣「………」


炎獣「力を、強さを求めるのは…間違ってんのか」

木竜「一概に、そうも言いきれんがな。強さは四天王たる大前提じゃ。それがあるからこその今回の作戦でもあるしのう」

木竜「じゃが、そこだけに留まってはいかん。そこから得たものは…世を生かすために使わねばならん」

木竜「お前は、その立場にある」

炎獣「…世を生かす、ため? …なんだか、よくわからねーよ」

木竜「炎獣。お前にも素質はあると、儂は思うぞ。そのひたむきな真っ直ぐさは、お前の良いところじゃ」

木竜「そして、この世のために必要な大事なものを誰より持っているのが…姫様じゃ」

炎獣(魔王…)

木竜「儂は長いこと生きておるが、姫様には敵わんと思うとる」

木竜「勿論、それは単純な強さの話ではない。…あの方は、儂ら魔族の未来を背負っていけるだけのお方じゃ」

木竜「その姫様に、お前は四天王として力を必要とされているのじゃ。…それを、忘れてはいかんぞ」

炎獣「………ああ」

炎獣(…そう、だったな。俺は、魔王の…)





魔王「いよいよ、最後の砦…」

魔王(ここを越えれば、人間には私たちを迎え討つ術はない。懸念すべきものがあるとすれば)

魔王(――勇者)

魔王(勇者が打って出てくる可能性はないとは言い切れない。けど、人類にとって勇者は、いわば最後の希望)

魔王(あちらから来るならば、却って好都合だわ。先に勇者を倒しさえすれば)

魔王(………戦いは、終わる)

魔王「…」

魔王「終わらせてみせる…」


雷帝「魔王様」ザッ

魔王「…雷帝。ちょうど良かった。これからの事、相談しようと思ってたの」

雷帝「は。王国軍との戦いですね」

魔王「うん。本隊を倒したとは言え、あの砦にはまだかなりの王国軍がいるはずだから」

雷帝「ええ、決して楽観視できる数ではありません。それに、港町で少々足止めを食ったために時間を与えてしまったのも痛いところです」

雷帝「加えて、港町のエネルギー砲や、炎獣を追い詰めた者など、今だ人間側がどんな手を隠し持っているか定かではありません」

魔王「…」


魔王「雷帝…ありがとう」

雷帝「え?」

魔王「雷帝がいてくれるのが、とても心強いなぁ…て、ね。ごめん、話を遮って」

雷帝「い、いえっ…///」

雷帝(お、落ち着け。平常心、平常心…!)

魔王「…」

雷帝(魔王、様…)

雷帝「わ、私は…! 魔王様の為ならば、命も惜しくありませんっ!」

雷帝「魔王様は、この争いを終わらせることが出きるだけのお方だと信じています! ですから…」

雷帝「魔王様が、これ以上″力″を使い、生命を削るような事は…私がさせません」

魔王「雷帝…」

雷帝「港町では遅れをとり、魔王様は魔弓を使われました。あのような事にはならないよう、今回は確実にここを切り抜けます」

魔王「でも――」

雷帝「分かっています。他の四天王が犠牲になるような事にもさせません」

雷帝「お任せ下さい、魔王様」

魔王「………うん」

魔王「信じるわ。雷帝」




氷姫「………」






「魔王が来るぞ!!」

「全軍、展開!!」

「急げ!!」









少し離れた丘の上


狩人「…ふーん。王国軍は打って出るみたいだよ」

剣士「へっ、急に俺らんトコから軍を引いたと思ったらよォ…そういう事かい」

吸血鬼「王国軍の会話の内容は聞き取れますの? エルフ」

エルフ「うーん…まっ、要するに籠城しても無駄だから、死なばもろともで魔王を倒しにかかるみたいだねっ!」

斧使い「…」

ハーピィ「うぅ…また戦争かぁ、怖いよう」

騎士「恐怖に怯えていては剣先が鈍りますぞ」

魔女「そうは言うが、誰もおんしのように死に急いでないからな。…それより、どうするんじゃ、軍師?」

軍師「…ふむ」


軍師「…我々、辺境連合軍は、今まで王国軍から我らの大地を守るべく戦ってきました」

剣士「マジで、血ヘド吐く思いでな」

軍師「が、その王国軍が今、滅ぼさんとされています」

魔女「なんと情けないものよ」

軍師「新たな敵…魔王。これに対し、我らがどう行動を取るのか。これはこの辺境連合軍の意義を問うような問題です」

斧使い「…」

軍師「我らが盟主よ…決断の時が来たようです」







「………あー、んー…そうだな」

「まあ、アレだ。なんにせよ、俺らがやる事っていやぁ…」



盗賊「かっさらう事、だろ?」





【盗賊】




傭兵の町の兵団


剣士「――ってなわけで、魔王と戦うことになったぜェ」

「はぁ!? 魔王と!?」

「ざけんじゃねぇや、王国軍に肩貸すってか!?」

剣士「ま、そういう事になるのかもしれねェが…結果としてそれが、俺らの町を守ることに繋がるワケよォ。…何より」

剣士「こりゃ盗賊の決めたことだ」





エルフの兵団


「…盗賊様が」

エルフ「そう! あの人、頑固だからさー、こうって決めちゃったからにはしょうがないよね、皆っ!」

「…」

エルフ「…ね、ねー?」

「…盗賊様が決められたことなら」

「ええ。私たちはそれに従うのみです」

エルフ「およよ…?」

「我々エルフは、先の大戦で王国軍に敗れ、三等国民として虐げられてきました」

「それを、解放して下さったのは盗賊様です」

「盗賊様がいなければ、この命、無かったも同じ。私たちは盗賊様の決めたことならば異論ありません」

エルフ「…ふふ」

エルフ「そう、だね。そうだよね」

エルフ「私も皆と同じ気持ちだよっ」


騎士団


騎士「我らの国は、あわよくば王国に飲み込まれる所であった」

騎士「王国は卑劣な策で、騎士道の国たる我らを従えようとしていたである」

騎士「その時、辺境の隅で反乱を起こしたのが盗賊殿であった」

騎士「我らは、その勇気に励まされ、連合軍として共に剣を取ることに決めた」

騎士「…皆の者」

騎士「魔王との闘いは今までのそれよりも熾烈を極めるものになるやもしれぬ!」

騎士「しかしっ! 我らの闘いはひとつも変わらぬっ!」

騎士「故郷の家族を思えっ! 隣に立つ戦友を思えっ!!」

騎士「今こそ!! 練り上げた剣の腕を示すのだぁっ!!」

「「「ウオオオオオオオッ!」」」




魔女の兵団


魔女「あやつにしてみれば、今までと変わらぬ、盗みのひとつなのやも知れぬ」

魔女「王国軍に奪われた領土を盗み返す、と始めたこの戦乱も」

魔女「王国の魔導研究施設でオモチャにされていた妾達を救ってみせたのも」

魔女「…そして、今回は、王国軍から魔王討伐の手柄を、盗んでしまおうというわけよ」

魔女「全く、呆れた男よ。…しかし」

魔女「妾は、そんなあやつが嫌いではない」

魔女「――皆、力を貸してくれるな?」


「「「はい!」」」


盗賊「………」ソ…

盗賊(皆…)

盗賊「…すまねぇ」


軍師「何を、コソコソしてるんですか」ヌッ

盗賊「のわっ!? おまっ、どっから出てきた!?」

軍師「失礼な。ずっと盟主様の後ろに居ましたよ」

盗賊「こ、怖ぇよ。何なのお前。軍師より忍びの方が向いてんじゃないの?」

軍師「盗賊を名乗っていながら、気配も感じ取れないあなたの方が廃業するべきかと思いますが」

盗賊「うっせーわ!! マジうっせーわ!!」

軍師「ボキャ貧」

盗賊「むぐっ…!」

軍師「実際、総大将のあなたが後ろを取られてあっけなく死なれてしまっては、それでおしまいですからね」

軍師「もっとも、盗賊様のような風体の人物がこちらの将とは、魔王も思うまいとは思いますが」

盗賊「悪かったな、貧相な見た目でよ!」

軍師「あなたがそうだから、我々辺境連合には翼の団という名前があるにも関わらず、″賊の一団″なんて呼ばれるんですよ」

盗賊「じゃかーしい! 元々は、ただの盗賊団だったんだ。それがいつの間にか…」

盗賊「――こんな、デッカいお祭り騒ぎになっちまいやがってよ」



軍師「よくもまあ、これだけ多種多様な民族や町をまとめ上げたものですね。感心を通り越して呆れてきますよ」

盗賊「お、お前なあ。お前が、王国軍に勝つにはそれしかないって言ったんだろうが!」

軍師「そうは言いましたが、ここまでやるとは正直思いませんでした」

盗賊「しょーがねーだろーが…王国の陰で苦しんでた連中は沢山いたんだ」

盗賊「そいつらを拾ってたら、いつの間にかこんなことに…」

軍師「このお人好し」

盗賊「おい軍師さん、俺一応お前の上司なんだけど」

軍師「まあ、そんなあなただから、皆ここまでついてこれたのですよ」

盗賊「…ったく…ガラじゃねぇぜ」

軍師「………珍しく、弱気なんですね。いつもは他の皆には見せない顔」

盗賊「うっせ。つーか、二人でいる時ぐらいお前も敬語やめろよ」

軍師「もう、癖みたいなものですから」

盗賊「…あっそ」

>>177
ミス
2レスに分ける予定でした、投下し直します


盗賊「………」ソ…

盗賊(皆…)

盗賊「…すまねぇ」


軍師「何を、コソコソしてるんですか」ヌッ

盗賊「のわっ!? おまっ、どっから出てきた!?」

軍師「失礼な。ずっと盟主様の後ろに居ましたよ」

盗賊「こ、怖ぇよ。何なのお前。軍師より忍びの方が向いてんじゃないの?」

軍師「盗賊を名乗っていながら、気配も感じ取れないあなたの方が廃業するべきかと思いますが」

盗賊「うっせーわ!! マジうっせーわ!!」

軍師「ボキャ貧」

盗賊「むぐっ…!」

軍師「実際、総大将のあなたが後ろを取られてあっけなく死なれてしまっては、それでおしまいですからね」

軍師「もっとも、盗賊様のような風体の人物がこちらの将とは、魔王も思うまいとは思いますが」

盗賊「悪かったな、貧相な見た目でよ!」

軍師「あなたがそうだから、我々辺境連合には翼の団という名前があるにも関わらず、″賊の一団″なんて呼ばれるんですよ」

盗賊「じゃかーしい! 元々は、ただの盗賊団だったんだ。それがいつの間にか…」

盗賊「――こんな、デッカいお祭り騒ぎになっちまいやがってよ」


軍師「よくもまあ、これだけ多種多様な民族や町をまとめ上げたものですね。感心を通り越して呆れてきますよ」

盗賊「お、お前なあ。お前が、王国軍に勝つにはそれしかないって言ったんだろうが!」

軍師「そうは言いましたが、ここまでやるとは正直思いませんでした」

盗賊「しょーがねーだろーが…王国の陰で苦しんでた連中は沢山いたんだ」

盗賊「そいつらを拾ってたら、いつの間にかこんなことに…」

軍師「このお人好し」

盗賊「おい軍師さん、俺一応お前の上司なんだけど」

軍師「まあ、そんなあなただから、皆ここまでついてこれたのですよ」

盗賊「…ったく…ガラじゃねぇぜ」

軍師「………珍しく、弱気なんですね。いつもは他の皆には見せない顔」

盗賊「うっせ。つーか、二人でいる時ぐらいお前も敬語やめろよ」

軍師「もう、癖みたいなものですから」

盗賊「…あっそ」


軍師「何、むくれてるんですか?」

盗賊「…別に」

軍師「ふふ。喜ばしいことじゃないですか。翼の団の皆が、賛同してくれたんですから」

盗賊「…」

軍師「バラバラなひとつひとつの軍隊を、ひとつに纏めあげていたのは、″打倒王国″だった」

軍師「それを、急に″打倒魔王″に舵を切るなんて…正直誰もついてきてくれないかと思いましたよ」

盗賊「ぐ、軍師のお前がそれを言うか…」

軍師「蓋を開けてみれば、満場一致です。――…つまり、翼の団を纏めあげていたのは、貴方の力だったのですよ」

盗賊「………」

軍師「重い、ですか?」

盗賊「…今回ばかりは、どう転ぶか分からねぇ。何て言ったって、あの魔王だ」

盗賊「少なくとも、沢山の人間が死ぬだろうな」

軍師「――戦争とは、そういうものです。今までだってそうでした」

盗賊「…お前は、強いよ」

軍師「いえ、私はただ、色々な感覚が麻痺しているのです。そうでなくては、軍師として数々の判断を下すことは出来ませんでした」

軍師「本当に強いのは…あなたです」

盗賊「…ははっ」

盗賊「そう、信じたいね」

すみません、きょうはここまで


盗賊「…」

軍師(………悲しそうな、目。重いものを背負った背中)

軍師(この人に、ここまで背負わせて…私の選択は、本当にこれで良かったんだろうか)

軍師「………盗、賊」ス…

吸血鬼「あら、ここにいらっしゃいましたの? 盗賊様!」シュタ!

軍師「!」パッ

ハーピィ「あーん! もう、待ってくださいよう、吸血鬼さーん!」フラフラ

吸血鬼「ハーピィ、貴女の翼は飾りでして? そのような鈍足では、王国兵の弓に撃ち落とされてしまいますわよ?」

ハーピィ「そ、そんなぁ…」

盗賊「おう、賑やかじゃねーかよ。そっちはどうだ?」

吸血鬼「あんっ、盗賊様! 今日も素敵なお姿ですわ!」ダラー

盗賊「ねえちょっと、涎垂れてますけど。ねえそれどうして?」

ハーピィ「と、盗賊しゃまっ! わ、我々、異形の民は、元より盗賊しゃまの元を置いて居場所などなく…!」

吸血鬼「おうコラ餓鬼んちょ、てめー何わたくしの台詞とってるんですの?」ア?

ハーピィ「ひ、ひぃいい! だって話が逸れそうだったからぁ!」

吸血鬼「やかましいんじゃボケナスッ! このわたくしの一世一代の決め台詞をっ!!」ガバッ

ギャアアアッ タスケテー! ウルセェオラァ! ドガシャーン

軍師「…」

盗賊「あのー、もしもーし」

吸血鬼「うおら!」ブン!

ハーピィ「きゃっ」ヨケ

盗賊「へぶっ!?」バキッ


軍師「大丈夫ですか? 盟主様」

盗賊「…心配してるなら助け起こそうとかしないんですかね」

軍師「いえ、それはあなたの業として与えられしあなたが乗り越えるべき試練ですから」

盗賊「ぁあ? 何言ってんだお前…」

狩人「よーするに妬いてるんだよ」

盗賊「おわっ!? 狩人、お前いつから…!」

狩人「ん? 僕は、盗賊が皆の反応を覗き見しようとキャンプふらふらしてる時から見てたけど」

盗賊「うっ…」

狩人「予想外に上がっていく軍の士気、眺めながら遠い目してる所も見てたし」

盗賊「ヤ、ヤメロ…」

狩人「もっと言えば、それを離れた所から切なそうに見つめる軍師さんも見てたよ?」

軍師「なっ…!?」

狩人「軍師さん、可愛いとこあるよね」クスクス

軍師「…狩人」ゴゴゴゴ

盗賊「こいつが可愛い? お前ガキのくせにこういう女が好みなワケ?」

盗賊「やめとけやめとけ、コイツは。性格キツいし、味方すら罠にハメるし、飯はマズいし、胸はないし…」

軍師「」ピシッ

狩人「うわ、オワタ」



軍師「盟主様。ちょっとこちらへ」ガシ

盗賊「…んっ?」

軍師「久しぶりに私のテントで″お話″しましょうか」

盗賊「っ!? おい、ちょっ! ま、まさかアレか!? アレは勘弁してくれ!! おいっ!!」ズザザザ…

軍師「問答無用」

盗賊「ぎやあぉああァあ!! 誰かぁあぁあぁあ!!」


狩人「南無三…」

狩人「まったく。こんな調子でホントに大丈夫なのかね…って」

狩人「やあ。斧使いのオッサンじゃない」

斧使い「…」

狩人「そっち、どうだったのさ?」

斧使い「…」コク

狩人「…そっか。アンタんとこの集落が出てくれたら、心強いや。確か、全員が狂戦士の民族なんだったよね?」

斧使い「…」

狩人「よく、あの頭の固そうな長老達がOKしたね。あんたが説得を?」

斧使い「…」

狩人「っはは、そんなわけないか」

斧使い「…」


狩人「まあ…皆、分かってるよね」

狩人「王国が魔王にやられたら、次の標的は自分達だ、って」

斧使い「…」

狩人「ついこの間まで、翼の団は自分達のために戦ってたのにね………こんなにガラッと状況、変わっちゃうなんてなあ」

狩人「人間が、生き延びられるかどうか。そういう事なんだよね、もう」

斧使い「…」

狩人「王国の奴らに手を貸すなんて気に食わないけどなぁ。ま、軍師さんなら、戦いの後の事も考えて、上手いことやってくれるかな」

斧使い「…」

狩人「そしたらさ、僕ら盗賊に近い仲間だし、取り立てられて大出世しちゃったりしてね!?」

狩人「狩人将軍…なんて呼ばれたりして、さ! あ、アンタは軍に据え置きの師範とかかな、やっぱり」

斧使い「………」

斧使い「…」フルフル

狩人「――…うん。分かってるよ」

狩人「生きて帰れるか分からない戦いになるって事くらい」

狩人「だから、皆もあえて普段通り明るく振る舞ってるって事ぐらい」

狩人「僕だって、分かってる」


狩人「魔王…か。どんな奴なんだろうね?」

斧使い「…」

狩人「………怖い、な」

斧使い「…」ポン

狩人「…」

剣士「おやー? お坊ちゃんは怖くてぶるっちゃったのかなァ?」

狩人「っ! け、剣士」ゴシゴシ…

剣士「らしくねぇなァ。いっつも斥候やって敵軍のギリギリまで潜り込むような奴がよォ」

狩人「う、うるさい!」

剣士「ま、死にたくないなら今のうちに逃げ出した方が良いと思うけどなァ、俺は。的を外した矢が後ろから飛んできちゃたまんねェし」

狩人「なんだって…!?」

エルフ「ちょっと、キミって男は。もうちょっと上手い励まし方ってもんがあるだろ?」

剣士「あァ…? チッうっせーな反省してますwwwww」

エルフ「あのねぇ…」

魔女「それだけ余裕があるのだ、戦場ではいつもの倍働いて貰おうぞ」

剣士「うぜぇババア」

騎士「下手に動き回られては足手まといになりかねませんぞ」

剣士「あ? なんだテメェこの鉄人形が。テメェから刀の錆にしてやろーか?」

騎士「貴様ら傭兵ごときの剣では、我輩に片膝つかせることも出来ぬ」

剣士「ほおぅ…面白れェ」ピキピキ

騎士「やるのか?」


キィン! ジャキィ! ガッ!

エルフ「ちょ、ちょーっとぉ! こんな所で斬り合ってる場合じゃないでしょお!?」

魔女「放っておけ、エルフ。…のう、狩人」

狩人「魔女のばっちゃん…」

魔女「心配するな。翼の団は、今まで幾つもの戦場を切り抜けてきた」

魔女「王国軍の圧倒的な数の圧を跳ね返して、時に勇敢に、時に狡猾に、生き延びてきた」

魔女「月並みな言葉だがな…一緒なら大丈夫よ」

狩人「………うん」

魔女「あとな」



魔女「ばっちゃんじゃなく、オネーサンと言え」

狩人「あ、ハイ」

エルフ「い、いやオネーサンは無理があるんじゃ」

魔女「何か言ったか?」

エルフ「イエ、何モ」

斧使い「…」

斧使い「…」ニ…


剣士「い…今剣を引けば…特別に許してやらァ」ゼェハァ

騎士「…そっくり…そのまま…貴様に返そう…」ゼェハァ

剣士「ケッ…後悔してもしらねェぜ…!」

騎士「望む、ところ…!!」



ハーピィ「わぁあっ!? どいてどいてぇ!!」

「「!?」」


ドンガラガッシャーン!!


エルフ「うわ…痛そお」

狩人「何やってんの、あの人達」

魔女「全く、緊張感のない奴らだのう」


吸血鬼「盗賊様!? 盗賊様はどこ!?」シュタッ

狩人「盗賊なら、軍師さんと一緒に軍師さんのテントに行ったけど」

吸血鬼「な、なんですってー!? あのメガネ女狐! ちょっと目を離したスキに、私を差し置いて盗賊様と二人っきり…」

軍師「だれが狐ですかこのコウモリ女」

吸血鬼「どへぇー!? ちぃっ、私の背後を取るなんて中々腕を上げましたわねっ!」

軍師「食らえニンニク爆弾」ポイッ

吸血鬼「あぎゃぁあああッ!? やめろっつってんだろこの貧乳!!」

軍師「あ?」

エルフ「どーでもいいけどメガネ女狐って言いづらいね」


盗賊「おーおーメチャクチャだな、相変わらずウチの幹部はよ」

エルフ「あっ、盗賊!」

剣士「ゲホッ…ああん? なんだ盗賊。テメーのその格好はよ」

盗賊「…や、やっぱ似合わない?」

騎士「ゴホッ…いえ、大変凛々しいですぞ」

魔女「ほう、これは大したものじゃ。孫にも衣装じゃな」

盗賊「…馬鹿にしてねーか?」

ハーピィ「ゲホゲホ…そ、そんな事ないですっ! とても素敵ですっ!」

吸血鬼「はぁーん! 盗賊様…っ! なんて美しい戦衣装ですのーッ!!」

盗賊「そ、そうか…?」

斧使い「…」コク

狩人「確かに。なんだか引き締まって見えるね」


盗賊「なあ、皆」

盗賊「俺には、ちょっとばかり特別なチカラがある」

ハーピィ「?」

軍師「…」

盗賊「ある時、教会の連中の荷車を狙ったことがあって…その時、不思議な石像を見つけて」

盗賊「石像が急に輝き出したと思ったら…この身体に不思議なチカラが宿った」

盗賊「ま、ここにいる皆には今さら話すことでもないよな」

斧使い「…」コク

魔女「妾達を救い出したのもその力だったの」

騎士「我らの窮地に現れた時も…そうでしたな」

盗賊「奇跡の力だ、聖なるご加護だ…この力のことを有り難がる人間は沢山いた。まったく、俺には身の丈に合わない大それた力だよ」

盗賊「俺は…このチカラが好きじゃなかった。何だか面倒事ばっかり運んできやがってよ」

盗賊「辺境の片田舎でケチな盗賊団やってたはずの俺は、気づけば大勢の人々に担ぎ上げられてた。いつの間にか、その集団には″翼の団″なんて立派な名前がついてた」

盗賊「なんつーか…ヒジョーにらしくねぇんだけど」

盗賊「今は、この力に感謝したい気分なんだ。皆と繋ぎ合わせてくれた、この力に」

軍師「…」

盗賊「俺に宿ったこの″翼″の力。その力が本当に女神様の与えた聖なる力の賜物だってんなら」

盗賊「魔王だって、倒せるんだ…って、今はそう信じてる」


盗賊「この″翼″は、きっと、俺たちを勝利へ導いてくれる」

盗賊「だからよ…」



盗賊「………勝とうぜ、皆」




軍師(…盗賊)

ハーピィ「はいっ。盟主様っ!」

斧使い「…」コク

エルフ「頑張ろう、ねっ!」

魔女「当たり前じゃの。負ける気などハナから微塵もない」

剣士「ババァに同じく。………どわっ!? 何しやがる!?」

狩人「ちょっ、僕を巻き込まないでよ!?」

騎士「我らに勝利を!!」

吸血鬼「はぁんっ、盗賊様素敵すぎますわっ!! 地獄の果てまでお供致しますっ!!」






――――――
――――
――

軍師「全軍、出撃準備出来ています」

盗賊「おう。そーか」

軍師「…盟主様」

盗賊「ん?」

軍師「魔王側は、恐らくまだあ貴方の力の存在を知りません。その虚を突きます」

盗賊「…ん」

軍師「…また、その力に頼った作戦になってしまいます」

盗賊「構わねぇよ。…ま、つってもいつものは三回が限度なんだけどな」

軍師「…もし、それだけで魔王を追い詰められなかった時は…」

盗賊「…使うよ。奥の手をな」

盗賊「ははっ。まぁラスボスだしな。おあつらえ向きじゃねぇか」

軍師「…盗賊」

軍師「その翼の力は今までいつも貴方の味方だったわよね」

盗賊「ん?」

軍師「ねぇ…その真の力を解放したとき、貴方はどうなるの?」

軍師「生きて、帰ってきてくれる…?」

盗賊「…」


盗賊「大丈夫だよ」

盗賊「軍師が、そんな不安そうな顔すんな」ガシガシ

軍師「…」

盗賊「殺しても死なねぇような俺だぜ? いらねぇ心配すんな。それよりも」

盗賊「…作戦、頼りにしてんぜ。軍師どの」

軍師「――…はい」


盗賊「さぁて、んじゃまあ」





盗賊「ボチボチ行くか」








炎獣「腕が鳴るぜっ!」

木竜「くれぐれも、無理するんじゃないぞい」

炎獣「わぁかってるって! …あ」

氷姫「…っ」フイ

氷姫(やば…思わず、目そらしちゃった)

炎獣「…」

木竜「なんじゃ、何処を見とる?」

炎獣「えっ? い、いやぁ、あはは! 何でもねって!」

雷帝「魔王様。そろそろ」

魔王「ええ」







魔王「行きましょう」



王国軍陣地


兵士「前方に、魔王の一団発見! 間もなく、前衛の魔族3体と接触します!!」

将軍「よし、進めッ!!」

兵士「っ!? 四時の方向に、新たな…軍隊ですっ!」

将軍「な、何!?」

兵士「あれは…っ、辺境連合軍です!! 辺境連合軍が現れました!!」

将軍「なッ!?」

将軍「馬鹿な…奴らは東方にて暫く身動きが取れぬはず…!!」


「それ、軍師さんの流した嘘情報だよ?」

将軍「! 誰だ!」

王国兵「それが、辺境連合軍からの使者と名乗っている者でして…。そこで捕らえたのですが」

将軍「使者だと…?」

「捕らえた? 馬鹿言わないでよ。僕が君らみたいな鈍足に捕まるわけないでしょ」

「御使い果たしに、わざわざ来たってわけ。とっとと用件伝えて帰りたいんだけど、良いかなあ?」


狩人「…ね、将軍さん?」



将軍「何だと!?」

狩人「そーいう事だから、よろしくね!」

将軍「馬鹿を言うな! 戦いに味方するから辺境連合の国々の独立を認めろだと?!」

狩人「もともとこっちは独立国家ばっかだよ。そっちが攻めてこなきゃいいだけの話」

狩人「たかが期限つきの休戦が、そんなに難しいのかな?」

将軍「ぬっ…!」

狩人「このまま、王国が滅んでもいいわけぇ? ちょっとでも戦力が欲しいんじゃないのかなー?」

将軍「…!! 王国が滅べば、次は貴様らの番なのだぞ…!!」

狩人「知ってるよ、そんなこと。でも、″今″滅びそうなのは、そっちでしょ?」

将軍「ぐぅ…人類の危機に、貴様らは…!!」

狩人「ほーら、早くしないと手遅れになっちゃうかもよ?」

狩人「そもそも将軍には、魔王を絶対に倒す策があるのかな?」

将軍「………貴様らにはあるというのか」

狩人「僕らには、あのイカツい魔王のしもべを通り越して、魔王に直接攻撃する手立てがある」

狩人「正面からやるしかない王国軍とは、状況はかなり違うかも、ねぇ?」

将軍「くっ…」

将軍「………」

将軍「…くそっ!」


ザッ ザッ ザッ

炎獣「おー、いるいる! 人間の軍ってこんなに残ってたのかよ?」

雷帝「王国軍の半分以上は前線に送られてきていたはずだが…これが最後の足掻きだろう」

炎獣「まあそーなんだろーけど…なんかさー」

炎獣「…地味じゃね? 歩き、ってさ」

木竜「儂が乗せてひとっ飛び行きたいところじゃがのう…」

雷帝「魔王様の″魔神の傘″の加護を得て、確実にこの場をやり過ごすためだ、とさっきも説明しただろう」

炎獣「ああ…スゲーよな、この結界。お陰で、矢やらテッポウやら大砲やら、魔法まで弾いちまうんだからなー」

雷帝「範囲は限定されるがな。だが、だからこその徒歩だ。長期戦になるが、肉弾戦で人間の軍を蹴散らして行く」

炎獣「ま、俺はそっちのが好みだぜ!」

木竜「…代わりに、後方で詠唱をしている姫様には、指一本触れさせられんぞい」

氷姫「――問題ないわよ。あたしらより後ろには行かせないわ」

炎獣「お、おう! 魔王は俺らが守るっ!」

氷姫「…っ」

炎獣「な、氷姫!?」

氷姫「………」

炎獣「………あ、あれ…」

雷帝「…やれやれ」

木竜「集中せい、おぬしらは」


魔王「………」ゴォオオオオ



氷姫「…」チラ

氷姫(″魔王は″、か)

氷姫(…何を、当然のことを。あたしは一体、何を求めてるんだ)

氷姫(………)

氷姫(馬鹿らしい。あたしだってそれは一緒だ)

氷姫(もう、随分前に決めたこと)

氷姫(魔王を守るって)

氷姫(迷う必要は…)

氷姫(ないんだ)



氷姫「雷帝、爺さん」

雷帝「む」

木竜「なんじゃ?」

氷姫「………それから炎獣」

炎獣「お、おぅっ?」

氷姫「…守りきるわよ」



炎獣「…!」パア

炎獣「おう!!」



ウォオオオオオオオオオオオオ!!!

ドドドドドド…


氷姫「来たわね」

木竜「さあ、いよいよじゃ」

雷帝「お互いの攻撃に巻き込まれぬよう、距離を取るぞ」

炎獣「合点っ!」

雷帝「炎獣。この平原なら問題ない。――思いっきり暴れろ」

炎獣「! よっしゃああ! 任せとけ
!!」

木竜「ふむ、久しぶりにやるかの」

雷帝「氷姫」

氷姫「何よ」

雷帝「もしもの時は…」

氷姫「分かってるわよ。よく見ておくわ」

雷帝「頼む」

氷姫「あんたこそ」

雷帝「む?」

氷姫「…魔王に、ああまで言わせたんだから。やること、やんなさいよ」

雷帝「………無論だ」





炎獣「さあ――」

炎獣「踊ろうぜ、ニンゲンッ!!」

日曜まで跨いでしまいました。
ここまでです。


将軍「結界で遠距離からのダメージは与えられぬ!!」

将軍「騎兵隊、正面から斬り込めぇええ!!」

「うぉおおおおおおおお!!」


ドゴォンッ!!


「!?」

炎獣「ウオラァッ!!」


ドカァアンッ!!

「うわぁああぁっ!?」


将軍「何だ、あれは…」

将軍「大地が、えぐれて…人が木っ端のように宙を舞っている…」


炎獣「でりゃァアッ!!」


ズドォンッ


炎獣「なんだよっ!? こんなもんかニンゲン!!」


兵士「ち、近づけません!!」

将軍「ちっ…たった一匹で…鬼神か奴は!」

将軍(大気に立ち上っている陽炎…炎系魔族、炎の四天王か。代替わりがあったと聞いたが…)

将軍(魔族一の剛力の座は変わらず、か。あれに多勢で攻めいってもこちらに利は得られぬかもしれん)

将軍「左翼、右翼、展開!!」





木竜「グォオオオオオオォオオォオオオォオオッ!!」


兵士「う、右翼…ドラゴンのブレス攻撃が凄まじく…押し返されます…!」??



木竜「グォオオオオオオォオオォオオオォオオッ!!」

ゴォオオオオオオッ


将軍「化け物め…結界内部に銃兵が入り次第、一斉に撃ち込め!」

将軍「左翼は!?」

兵士「はっ、左翼は第七、第八騎兵が前進! 中央への援護に向かわせますか?」

将軍「構わん、そのまま直進! 結界を張っている人物を撃破せよ!!」



炎獣「ぁあっ!? すばしっこい奴らめ、いつの間にあそこまで…」

炎獣「つーか、雷帝の奴何やってんだよ!?」




第七騎兵長「よし、我々はこのまま直進、結界を解くぞ!!」ダッダッダッダッ

副長「相手は魔術師か!? 魔王か!?」

第七騎兵長「分からん! 魔王ならば、討ち取ったものは勇者を名乗れるな!」

副長「ならば俺が!!」

ヒュッ

副長「めp・#」

第七騎兵長「んっ? おいどうした…」

副長「」ドシャア

第七騎兵長「なっ!? う、馬ごと真っ二つ…だと!!」


第七騎兵長「なんだ、何処から!?」

騎兵「前方に敵影!!」



雷帝「気をつけろ、人間。そこはもう」ス…

雷帝「私の間合いだぞ」ヒュッ


スパパパパッ


「うわぁああぁッ!!」

「た、助けt°∵、」ブチュッ

第七騎兵長「な、なんだこれは…っ!」

第七騎兵長「あブ」ベシャ




兵士「だ、第七騎兵隊、全滅…」

将軍「…」


兵士「敵、じりじり前進しています!!」

将軍「………たった、三匹の魔族に」

将軍(前線の壊滅の報せを聞いた時には耳を疑ったものだが…悪夢のような連中だ)

将軍(しかし本当にそれで本隊が…いや、いずれにせよこのまま引くつもりもない)

将軍「中央、左翼は重装歩兵を前に出せ!!」

兵士「し、しかしあの破壊力の前では」

将軍「敵がいかに屈強でも、立ち止まるな!!」

将軍「決して歩みを止めるなッ!!」

将軍「我らの後ろに逃げ場などとうにないッ!!」

将軍「ここが、この王国軍が人類最後の砦だッ!!」

将軍「進めッ!!」

将軍「死して尚も前へッ!!」



「うぉおおおおおおおおおお!!!!」



炎獣「…へえ、やっぱ最後の最後っぺは流石に迫力あるぜぇ」

木竜「火事場の馬鹿力という奴か!」

雷帝「だが、気合い云々でどうにかなるほど…」

氷姫「――この四天王は甘くないわよ」






兵士「銃兵、結界内部に到達!!」

将軍「よし、中距離から撃ち込め!!」



「合図です!!」

銃騎兵長「第一、第二小隊、撃ち方用意!!」

ザッ!




氷姫「目障りよ。それ」パチン





パキパキパキ…

「うが、氷が…!!」

銃騎兵長「ちっ…!! 魔術師が!!」



氷姫「――沈め」



パキィィィィィイイン…!



兵士「銃騎兵、氷系魔法に飲まれました…!!」

将軍「くっ…」

将軍「………只でさえ、怪物共だというのに、こちらの攻撃範囲を限りなく限定してくる…!」

将軍「結局…我々は足止めにしかならなかったと…そう言うのか。そして貴様らなら…」

将軍「この状況をどうにか出来ると言うのか」

将軍「見せてみよ…翼の団」


雷帝「…む。新手か?」

雷帝「なんだ、あの一団は。随分と素早いな」

雷帝「そっちへ行くぞ!! 炎獣!!」

炎獣「おお? なんだなんだ…」

炎獣「…こ、こいつら」



ハーピィ「さあ、い、行くよ!!」

ハーピィ「人魔連合部隊っ!!」


ウォオオオオオオオオオオオオ!!


炎獣「お、おいおい、なんで魔族が…」

雷帝「炎獣!! ためらうな!! そいつらは敵だ!!」

炎獣「あ、ああ!」

炎獣「ち、邪魔するなら容赦しねぇぞ!!」ゴォオオオオ


ハーピィ(け、結界を越えた!)

ハーピィ「い、今!」

「はっ! 召喚! 沈黙の魔神!!」



炎獣「しょ、召喚術!?」




コォオオオオオ…


炎獣「魔力が…消された!?」

木竜「まさか、こんな術を…ハーピィの一族か。厄介な古の術を持っておるな!」

雷帝(まさか魔族が、王国軍に味方するなどと…しかしこの程度の奇策だけではこの戦況を変えられは、しない)

雷帝「魔力など使わずとも、貴様らごとき敵ではない」

雷帝「図に、乗るな」ビュッ!

「ぬぅうん!」ギィンッ

「はあぁっ!」バチッ

雷帝「むっ。…こいつら」

戦士長「敵ながら見事な太刀筋。我が一族の敵として不足はなし」ザッ

雷帝(…何だ、こいつら? 王国軍とは雰囲気が…)

雷帝(奴らは囮で、別動隊がこちらに向かっていたと言うのか)

雷帝「………少しは、出来るみたいだな」



木竜「魔力を消しても儂は止められぬぞ!!」ゴオッ

エルフ「大いなる守りよ!」キュィイイ…

木竜「!? 精霊魔法!」

エルフ「ひゃあ、デッカい竜だなあ!」

エルフ「皆っ、気合い入れてくよっ!」

「はっ!!」

木竜「…エルフ! 生き残りがおったのか!」


炎獣「おうおう、何だあいつら苦戦してんな」

炎獣「でも、俺のとこに来た奴は残念。魔力なんかオマケくらいしかねぇから、なっ!」バッ

ハーピィ「わっ、こっちに来――」

炎獣「でも邪魔だから、まずはてめぇらから潰すぜ!!」



剣士「おぅらッ!!」ビュンッ

炎獣「っ!」

炎獣「…ほお」スタ…

剣士「ちっ、掠めても傷ひとつ無しかい。…離れてな、ハーピィ一族」

ハーピィ「う、うん!」

剣士「さァて…てめェの相手は俺たちだぜ」チャキ…

炎獣「何? お前ら強いのか?」

剣士「常勝無敗の傭兵団様に、鉄人形集団までいるんでな」

剣士「ナメんじゃねーよ、魔族」

炎獣「………そりゃいいな」ニタァ


氷姫「…流れが、変わった」

氷姫「でも残念。そんな召喚術ごときで、この氷姫様の魔力は」

氷姫「抑えらんないわよっ!!」バリッ



ハーピィ「ひゃあっ! ひ、ひとり魔神の封印を解いたよっ!!」

魔女「氷の四天王じゃな。想定の範囲内じゃ」

魔女「…皆、迎え撃つぞ!」

「はいっ!」ザ…!



氷姫「ああ、そ。あたしの相手はあの魔導士軍団ってわけ」

氷姫「――上等じゃない」





盗賊「…始まったな」

軍師「ええ。ここまでは計算通りです」

盗賊「どうなんだ、実際の四天王は?」

軍師「はい…やはり個々の能力は異常に高く、まともにやり合えば翼の団と王国軍の残存兵が束になっても足止めが限界でしょう」

軍師「しかし、木竜、雷帝ら古株の四天王に関しては、多少の情報があります。我が軍の魔族からの貢献も大きい」

軍師「木竜には弱点があり、それこそがエルフの使う独自の魔法、精霊魔法です。過去自らの領地のエルフを滅ぼしたことがある程ですから」

盗賊「そんだけ煙たかったってか。まさか、人間側にエルフがいるなんて頭にゃねーだろーな」

軍師「ええ。王国軍の加勢もあります。ここは抑えられるでしょう」

軍師「それから雷帝。こちらは知略に長け、魔力で己の能力を高めて太刀を振るう猛将ですが」

軍師「魔力を抑えた上で、斧使いさんの狂戦士の一族の総攻撃にあえば…少なくとも前進は出来ないはずです」

斧使い「…」



軍師「…問題は、残りの二体」

騎士「残り…と言っても、炎の四天王の相手は、我らが騎士団と傭兵隊ですぞ。我が軍の主力たる彼らの練度たるや、王国軍など相手にならないほどで…」

吸血鬼「そうですわ。それに、人魔連合軍がいましてよ。率いてるのは百戦錬磨の剣士さんですし…」

軍師「ですが、単純な戦闘能力が高すぎます。時間稼ぎが限界です」

盗賊「そんなにやべぇのか」

軍師「ええ。むしろ、よく耐えています」

盗賊「なら、俺達もとっとと行かねえと…」

軍師「――いえ。ここで動くと危険です。一番警戒すべきもう一人の…氷の四天王」

吸血鬼「あの女、ですわね。わたくしの目にも分かりますわ。あの結界内の魔法の撃ち合い…僅かながら、魔女さんの隊が押されています」

盗賊「…信じられねーな。あいつらほぼチートだと思ってたのによ…」


軍師「…実は、王国軍本体全滅の報せを受けて、狩人に港町へ向かってもらっていました」

軍師「港町陥落の戦いを話に聞きましたが…状況から考えて、あの氷の四天王は」

軍師「空間移動魔法が使えます」

騎士「まさか…それは」

盗賊「そーゆーことかい」

軍師「ええ」

盗賊「ちぇ…そりゃ、こっちの専売特許だと思ってたのによ」

軍師(――…そう。こちらの切り札は盟主様の能力。″翼の力″)

軍師(自分を含めた数人であれば、魔法の翼で包み込み、任意の場所へ転移することができる)

軍師(どんな魔術師にも真似できないとされた奇跡の術…空間移動。日に幾度も使えないという制限はあるものの、その業は何度も翼の団に勝利をもたらしてきた)

軍師(これがある限り、圧倒的有利はこちらにあると思っていた…が。それと同等の魔法を使える者が、敵にいたすれば)

軍師(話は、簡単ではなくなる)

軍師「こちらが魔王への奇襲に成功したとしても…この状況では氷の四天王が魔王の元へ即座に転移してみせるでしょう」

吸血鬼「そうなれば、わたくしたち精鋭部隊は、魔王と四天王の二人を相手にしなければならない…というわけですの?」

斧使い「…」

軍師「魔女たちで抑えが効かぬ以上は…。今無闇に動いてもその危険は多いにあります」

盗賊「結果、魔王を倒し損ねれば、俺らの負けってか」

軍師「ええ…」


軍師(こちらの奇襲でチャンスが得られるのは一度きり)

軍師(考えろ、まだ何か策が………ん?)

吸血鬼「!? あれ、ご覧になって!」

盗賊「魔女達が…押し返してる!?」




氷姫「くっ!? 急になんなのよ!?」

氷姫「どこにこんな膨大な魔力…!!」

氷姫(一体なんだっての…!?)




魔女「…!」

魔女「この力…」

「お困りのようですねぇ、先生?」

魔女「貴様っ!?」

魔女「ど、どうして…」

「微力ながらお力添えに参りましたよ」


魔女「………魔法使い!!」

魔法使い「お会い出来て、嬉しい限りですよ…先生」


魔女「何故、貴様がこちら側にいる?」

魔法使い「嫌だなあ、僕も人間の端くれですから。人類の危機には黙っていれませんよ」

魔女「戯れ言を…!!」

魔法使い「随分な物言いですねぇ? 冷たいじゃないですか、せっかく教え子がこうして恩師の危機に現れたというのに」

魔女「教え子、だと? 貴様のような者が、そうであってたまるか!!」

魔女「妾達を欺き、陥れ、そしてあの技術をあろう事か――」



氷姫「はぁあああぁあぁあっ!!」

ギィイィィィィイイン!



魔女「うぬっ!」

魔法使い「ふふ…流石は四天王といった所ですか」

魔法使い「どうやら、久々の再開を喜んでいる時間はあまりないようですねぇ」

魔女「ちぃっ…!」

魔法使い「ともあれ、今は貴女方に加勢しているわけですから、ご安心を」

魔女「…何が、目的じゃ…っ!」

魔法使い「目的? そうですねぇ」



魔法使い「そろそろ人間側が一矢報いても良いんじゃないかなと、思ったまでですよ…」


ゴゴゴゴゴゴ!!

氷姫「なん、ていう魔力…っ!」

氷姫(…ああ、もう)

氷姫(守りきるって言ったのよ)

氷姫(こんなところで)

氷姫「つまづいて、らんないのよッ!!」ゴォオオオオアッ



炎獣「氷姫!?」

剣士「余所見たァ、良いご身分だ」

ビュッ ドスッ!

炎獣「うぐっ! …銛?」


剣士「片腕封じたぜ!! 一斉にかかるぞォっ!!」バッ

「うおおおおおおおおおおおああぁっ!!」

炎獣「…お前ら」

炎獣「 邪 魔  す ん な !!」




木竜(なんじゃ、この魔力…。何処かで感じたことが…)

エルフ「″大妖精の矢″!!」キュィイ!

木竜「! ええい、鬱陶しいのう!!」ゴッ

銃兵「てぇッ!!」

パパパンッ


木竜「ぬっ…!」

木竜「寄せ集めが…図に乗るでないぞ――」


雷帝「…まずいな。こちらにも余裕がなくなってきている」

雷帝(しかし…この敵の布陣。どうやら、先方にはこちらの事情に精通した策士がいるな)

雷帝(召喚術による魔力の封印、それを氷姫が解くことを想定した魔導兵、さらには翁にエルフをぶつけてくるとは)

雷帝(…まだ、何か策をうってくるか? だとしたらそれは何だ?)

雷帝(敵は、優秀な駒を持って我らの動きを止めてきている…が)

雷帝(我らの動きを止めるに過ぎない事も同時に理解している? 事実、氷姫が封印を解くことを読んでいた、つまりこちらにそれだけの能力があることは承知の上)

雷帝(我々を撃破する事は最初から狙っていない? …そうだとしたら)

雷帝「敵の狙いは………まさか!」






軍師「盟主様」

軍師「今をおいて機はありません」

軍師「――お願いします」


盗賊「…よーやく出番かよ」

盗賊「三人とも、準備はいいな」

吸血鬼「いつでも…!」

騎士「無論」

斧使い「…」コク


盗賊「――我が身に宿りし翼の力よ!」


カッ



雷帝「まずい!! 氷姫っ!!」

氷姫「!?」

雷帝「敵の狙いは魔王様だっ!!」

氷姫「なん、ですって!?」





魔王「………!」

魔王(何か、来る)

魔王(この気配は、聖なる………まさか勇者!)

フワ…

魔王「え?」

魔王(これは、羽根…?)




バサアッ!

盗賊「見ーっけ!」

騎士「魔王、覚悟!!」チャキ

吸血鬼「ひれ伏しなさいっ!!」ザッ

斧使い「…」ジャキ…


魔王「! 何者…!?」

今日はここまでです。


雷帝(なんだ、あれは!? 突然敵兵が魔王様の近くに現れた…!!)

雷帝(翼…? 転移魔法か!? 人間がそんな術をどうやって! …くそ!)

雷帝「氷姫っ!!」

氷姫「うっ、くっ!!」ゴゴゴゴゴ

雷帝(ちぃっ!! 氷姫がテレポートを使えない! 氷姫が魔法戦で押されているだと!?)

「ぬぅんっ!」ビュッ

雷帝(そして、眼前の兵士共は今までの人間とは比べ物ならんほど屈強だ…!)

雷帝(どうする――)

――「信じるわ。雷帝」

雷帝(………使うか、これを)チャキ

雷帝(すべては、我らの勝利のために)

――「………魔王を………」

――「………あの子を………」

雷帝(そう、だな。迷いなど、最初から不要なのだ)

雷帝「魔王様…お許しを」




雷帝「――雷鳴剣」



バリバリバリッ!!!



「がッ…!?」

「うぐッ…!」

戦士長「雷!? 敵の魔力は封じたはず…」


雷帝「ああ、魔力ではない…が、この力が何なのか、貴様らが知る必要もまたない」

雷帝「まさか、これを使わされるとはな。貴様らには敬意を払い…全力をくれてやる」




雷帝「…去ね」

バリィッ!!





盗賊「一斉に行くぞ!」

騎士「承知!」

吸血鬼「分かりましたわ!」

斧使い「…」

バッ


魔王(一瞬で私の背後に現れた。まるで翼に包まれるようにして、飛んできた?)

魔王(この波動、勇者のものかと思ったけれど、どうやら…勇者一行ではない、別の何者か)

魔王(おかしい。勇者以外の人間が、なぜ)

魔王(いずれにせよ、この力は、危険だ…!)


魔王「…」フッ


斧使い「!」

騎士(消えた!?)

吸血鬼(くっ、速い! 何処に――)

盗賊「後ろだ!!」


魔王(完全に排除しなければ)ザッ

魔王(…ごめんなさい、雷帝)



魔王「魔弓」スッ

ゴォォオオゥンッ!!





盗賊「翼の力よッ!!」


魔王「!?」

魔王「いない…何処に」

魔王(跡形もなく消し飛んだ…? いや、違う!)


バサッ!!


魔王(転移っ! 今度は私の回りを囲むように…!)

盗賊「次は逃がさねぇぜ!」ザッ

騎士「取り囲まれては先程の高速移動も上手くはいくまい!」ザッ

吸血鬼「観念なさい!」ザッ

斧使い「…」ザッ

魔王「! ここまで自在に転移魔法を、どうやって…うっ」グラ…

魔王(しまった、魔弓の反動で身体がすぐには動かな――)



盗賊「貰った!!」バッ





カッ







バリバリバリバリバリ――!!


盗賊「がッ!」

吸血鬼「ぁぐっ!」

斧使い「ッ!」

騎士「ぬあっ!」



魔王(!? …何が、起こって…)


「お怪我はありませんか」

雷帝「魔王様」


魔王「………雷、帝」



盗賊(…なんだ、一瞬にして閃光みたいなもんに吹っ飛ばされた…!)

斧使い「っ」ヨロ…

騎士「ぬぅ…!」ゼェハァ

吸血鬼(まずいですわ…)ハァ…ハァ…


魔王「雷帝…どうやって、ここまで?」

雷帝「…」

魔王「――…まさか、あの魔剣を…っ!」

雷帝「はい」

魔王「そんな! それを使ったら雷帝の身体が…」

雷帝「…この戦が終わるまでは持ちます」

魔王「でも!」

雷帝「魔王様」

雷帝「結界の張り直しをお願い致します。このままでは前衛が持ちません」

雷帝「賊の相手は、私がします」

魔王「…」

雷帝「どちらにせよ、一度この魔剣を抜けば、敵を排除する他ないのです。だから、もう、お体を削って戦われないで下さい」

魔王「雷帝…」

雷帝「勝手を、お許しください」

魔王「…雷帝。私は」

魔王「私は…誰一人、失いたくないよ」

雷帝「分かっています」

雷帝「そのための、私の剣ですから」

魔王「…」

魔王「結界の、詠唱に入ります」クル…

雷帝(そう、魔王様の願いの為の我が剣)

雷帝(迷いなど、存在しない)

雷帝(例え、この戦いの後に、魔剣の呪いでこの身が焼かれても)

雷帝(必ずや、勝利をもたらしてみせる)



雷帝「さあ。最初に死にたいのは誰だ?」ザ…


盗賊(最悪だぜ。四天王がここまで戻ってきやがった)

盗賊(力を二回も使って奇襲に失敗した…この時点で作戦はほぼ失敗…だ)

盗賊(このままじゃ、待ってるのは王国軍と心中しかねぇ…クソ!)

盗賊(どうする…!!)



雷帝「ん? …貴様は、あの豪腕の兵士どもと同じ部族の者か」

斧使い「…」ピク

雷帝「厄介な。まだ生き残りがいたとはな」

斧使い「…!?」

騎士「生き残りだと!? まさか…前線にいた狂戦士たちは…」

雷帝「まあいい。一族と同じ刃であの世に送ってやる」

雷帝「ありがたく思え」

斧使い「――っ!!」

盗賊「狂戦士達が、やられた!?」

吸血鬼「そんな…!」

斧使い「」ダンッ!


盗賊「! 待て、斧使い!」


雷帝「ほう、物凄い突進だな。一族で最も優れた使い手はお前だったか」

雷帝「記憶しておこう。だから…」

バリッ!

斧使い「ッ!?」

雷帝「さらばだ――」


騎士「させんっ!」ビュッ

雷帝「! こっちはナイトか」ガキン!

騎士(この速さで打ち込んで受けられるのか!)

雷帝「なかなか良い剣を使うな、魔剣がなければ良い勝負もできたかもしれん」

雷帝「が、やはりもの足りぬ」

ズバッ

騎士「うがッ…!!」


吸血鬼「でぇああぁあッ!!」ギュン!

雷帝「!」ガッ!

雷帝(こいつ…上位魔族か。なぜここに)

雷帝「ん? 貴様…」グググ

吸血鬼「あら、覚えていまして…!?」グググ

吸血鬼「忘れられてしまったのかと、傷つきましたわよ…!」

雷帝「…元部下の顔だからな。遠い昔の話だが。こんな所で何をしている?」

吸血鬼「見て分かりませんこと!? こちらにいらっしゃる盟主様のお供として、魔王の首を取りに来ましてよっ!」

盗賊「…」

雷帝「人間が貴様の主? 何の冗談だ」

吸血鬼「冗談などではありませんわっ!」

雷帝「…その人間が、お前を御していると言うのか?」

雷帝「かつて、取って代わって四天王になろうと私を殺そうとした、お前を」


吸血鬼「そんな昔の話、忘れましたわね…!!」

雷帝「都合のいい女だ」

吸血鬼「女というのは…上書き保存して生きているもの、ですのよ!!」ガッ

雷帝(ちっ、流石にやるな)

雷帝「だが、魔剣を抜いた私との実力差が分からぬ貴様ではあるまい?」

吸血鬼「…プライドの高い貴方が、そんなものにすがるなんて、どういう風の吹き回しですの!?」

雷帝「…守るべきものが、あるのだ!」

吸血鬼「ふふ…! それはこちらも同じでしてよ!!」




盗賊「………」

盗賊(まだだ。堪えろ)

盗賊(信じて待つんだ。吸血鬼たちなら、必ず魔族に隙を作るはず)

盗賊(最後の一回で、魔王に近づければそれでいい。そこで切り札をきる)

――「ねぇ…その真の力を解放したとき、貴方はどうなるの?」

盗賊(………悪いなぁ、軍師)

盗賊(ここで退けば、勝ちはねぇんだ)



バリッ!!

吸血鬼「がぁッ…!」ドサッ

雷帝「…ふん。分かりきっていた結果だ…!?」

吸血鬼「…ま、だ、終わっ、て、ません、わ…」

雷帝「…」

雷帝「ではとどめだ」

騎士「ぜぇあッ!!」ジャギッ

雷帝「む! 貴様」

吸血鬼「私、たちを…侮らないで、頂きたい、ですわ」

吸血鬼「あの頃、と、違って、わたくしは、一人では、ないのですわ…!」

雷帝「…死に損ないどもが」

騎士「それ、は、どう、だかな…」ゼェハァ

騎士「奥義…一の太刀!!」ヒュバッ!


雷帝(どこに、こんな力が…)

雷帝「そんなものでは私は捉えられんぞ!」ザッ

騎士「っ、二の太刀ッ!!」ギュン!

雷帝(読んできた、だと!?)

雷帝「だが、それでも遅い!!」

バリィッ!!

騎士「ぐおォッ!!」ドサ…

吸血鬼「せぇあっ!!」

雷帝「それで虚をついたつもりか!!」

ズバァンッ!!

吸血鬼「ぅがッ…!!」

雷帝「――終わりだ!」

吸血鬼「か…かり、ました、わね」ニヤ

雷帝「!?」

雷帝(なんだ、視界が暗く…)


斧使い「ぬぉおおおっ!!」

雷帝(上からっ!!)

雷帝「ちぃ!!」

バリバリバリ!!!

斧使い「ギッ…!!」

斧使い「ガァアァアァアァアッ!!!」

雷帝(馬鹿な!! 雷撃を受けながら!?)


ズドォンッ!!


雷帝「…私に一太刀、入れたのは誉めてやる」

斧使い「…」ドサ…

雷帝「だが、只それだけよ、貴様らは」




盗賊「――それだけ貰えりゃ十分だぜ」


雷帝「っ!? 何処にいる!?」


――バサッ


盗賊「最後の一回だ。そんでもって」

盗賊「魔王、借りてくぜ」

魔王「っ!?」

雷帝「魔王様ッ!!」

盗賊「翼の力よ――」



盗賊「その真の力を示せ」



ゴァッ――!!



雷帝「な、なんだ…――この力!! 魔王様ぁッ!」

雷帝(!? 近寄れないだとっ! 魔剣の力をもってしても!?)

雷帝(こ、この力は一体――)









魔王「………」

魔王「ここは…」

盗賊「さあ、俺も良くは分からねぇ」

盗賊「異次元か、あの世か、とにかくあんまり長居したくはねぇ場所だよな」

魔王「…真の力、と言ったわね。なるほど」

魔王「それがこの空間に転移すること…という事ね」

盗賊「…」

魔王「…あなたは、一体?」

魔王「ここまでの力を持っているなんて…あなたが勇者と言われれば、そう信じる他ないわ」

盗賊「俺が勇者? ハッ、よしてくれや。俺はどこにでもいるただのしがない盗賊だよ」

盗賊「…最期の最期で、あんたみたいな大物を盗んでみせたってワケだな」

魔王「…そう」

盗賊「ああ。ま、しかし我ながら大きく出たもんだとは思ってるぜ」

盗賊「魔王討伐、なんてよ」

魔王「あなたにそれが、出来ると?」

盗賊「しなきゃならねぇんだよ」

盗賊「これだけの犠牲を払ってここまで来たらな」


魔王「あなたの力は、その翼の力…自在に転移を繰り返す特殊な魔法。そうね?」

魔王「人間の世界で言うなら…奇跡の力、とでも言うのかな」

盗賊「そうだな。普通の人間じゃあまず、得ることが出来ない力らしい」

魔王「その力の集大成が、これ」

魔王「…異空間に自分と対象を移動させる術」

盗賊「そういうこった。流石察しがいいね」

魔王「この空間は、聖なる力に満ちている。あなたはその恩恵で、一体どれだけの力を得ているの?」

盗賊「………知りたいかい?」

盗賊「ほらよ」


ゴッ


魔王「!!」


魔王「………」

盗賊「お、避けたのか。やっぱりラスボスは、簡単にはいかねーってか」

魔王「あなた…今…」

魔王(………魔弓だ)

魔王(間違いない。彼は今、いとも簡単に魔弓を真似てみせた)

盗賊「何か、文句言いたそうな眼だねぇ?」

魔王「………あなたこそ、つらそうよ」

盗賊「…鋭いねえ、ホント。顔色を変えない演技に関しちゃ、自信があったんだけどな」

魔王「力の負荷に、肉体も精神も押し潰されそうなのね。力をもて余してる」

魔王「あなたには、与えられるべくして与えられた力ではないわ」

盗賊「ま、そうなんだろうな。俺の身の丈にゃ合わねーよ、どう考えてもな」

盗賊「いいトシこいて背中から翼なんざ生やしてよ。勘弁してくれってんだ、こいつをデザインした野郎はどんな趣味してんだろーな?」

魔王「思い当たらないわけではないわ」

魔王「………女神教会、ね?」

盗賊「…」


盗賊「確かに、この力は教会の荷から手に入れたもんだ。大層な護送してやがるから、どんなお宝かと思えば、光の力と来たもんだ」

盗賊「…ちょーっとばかり王国を困らせてやろうって手ぇ出したはずなのにさ、オカシイと思ったんだよなぁ」

魔王「やはり…」

魔王(女神教会。…確か、女神を唯一神とする人間の教団)

魔王(人のほとんどは宗教として女神を信じているから、膨大な権力を持っているはず)

盗賊「あの時の王国の慌てようは想像以上だったが…それ以上に反王国勢力から俺は戦乱の主役に担ぎあげられて」

盗賊「力を使えば…奇跡を起こす英雄として祭り上げられた」

魔王(…勇者に与えられるがごとき女神の力を使えば、確かに人にとって英雄となりうるだろう。でも…)

魔王「奇跡は、そう易々と起こしていいものじゃないわ」

盗賊「…へえ? 奇跡の塊みたいな力をもった魔族四天王の、ボスがそれを言うなんてねぇ?」

魔王「あなたの力は、存在自体に大きな矛盾を孕んでる」

魔王「この世に本来あるべきじゃない、捻れを…違和感を感じる。力の所有者であるあなたは、何も感じないの?」

盗賊「ああ、おかしいと思うね。奇跡の力だってんなら、使うたんびに俺の体を蝕まないでくれ、てさ」

盗賊「…何度も思ったよ」ツー

魔王(…血が)

盗賊「いい迷惑さ。起こしたくて起こしたわけじゃない奇跡も沢山ある。英雄だとか言って、多くの人間を戦乱に導いて、死なせてきた」

盗賊「力を封じて、役目も捨てて、何度戦いをほっぽり出しちまおうと思ったことか。…けどよ、今さら、そうもいかねぇんだ」

盗賊「こーんなダメな俺を…時には引っ張り回して、時にはケツを叩いて、側にいてくれたあいつらが居るからな」

盗賊「捻れた奇跡だって、起こさなきゃならねぇのさ」


魔王「あなたの歯車は、もう、止まらないのね」

盗賊「そゆこと。でもさ、俺は運命の為すがままに流されていたんじゃねーよ」

盗賊「俺は自由でありたかった。最初からな。そのために剣を取った」

盗賊「あんたと相対している今も、それはひとつも変わらないんだ」

魔王「………そう」

魔王(何かが起こっているんだ…何だろう、嫌な感じがする)

魔王(駄目だ。立ち止まって考える暇はないんだ。私は…)

魔王「私は、勇者を倒さなければならない。ここで倒されるわけにはいかないの」

盗賊「…そーかい」

盗賊(迷いのない眼だ。射抜くように、真っ直ぐな)

盗賊「こんな圧倒的に不利な状況で、そうきっぱり断言されちゃあたまんないぜ」

盗賊「肝っ玉の座ったねえちゃんだよ。魔王じゃなかったら、口説いてたかもなあ。あんた、魔族ってわりに美人だしな」

魔王「変わった人ね、あなた。でも、分かってるんでしょう?」

盗賊「ああ。…俺たちは殺し合わなきゃならない。名残惜しいけど、そろそろ始めるとすっか」

魔王「いつでも、どうぞ」

盗賊「言っとくけど俺マージで強いぜ、今」

魔王「…そう。楽しみね」



盗賊「女を泣かすのは趣味じゃねぇが」


――「ねぇ…その真の力を解放したとき、貴方はどうなるの?」

――「生きて、帰ってきてくれる…?」


盗賊「…俺が負けても、泣く女がいるんでね」


盗賊「恨むなよ」





魔王「………私が」


魔王「解放してあげるわ」



軍師「…」

狩人「…盗賊と魔王、光に包まれて消えた…」

狩人「使ったんだね…。あの力」

軍師「…そのようですね」

狩人「これで良かったの? 軍師さん」

軍師「………」

軍師「やめろと言っても、あの人はそうしたでしょう」

軍師「…それに、実際それに頼らざるを得ない状況に違いはありません。…私の能力の限界です」ギュ…

狩人「軍師さん…」

軍師「狩人。魔王が消えたことによる敵の動揺を誘います。ハーピィの術式の援護をしてください」

軍師「私たちに、出来ることをするのです」

狩人「そう、だね。分かった」

狩人「行ってくるよ」バッ

軍師「…」

軍師「どうか…生きて帰ってきて…」




雷帝「…」

雷帝(魔王様と、人間が光に包まれ消えた…)

雷帝(人間の自爆? いや、仮にそうだとしても、ここまで塵も残さず魔王様の肉体を消し去るのは不可能だ。あの人間が見せていた能力…転移魔法の一種、と考えるのが妥当だろうが)

雷帝(どこかに転移をして、魔王様を倒すつもりか? しかし、何処にも魔王様の気を感じられぬのは何故だ?)

雷帝(まるで、この世界から消え去ってしまったような…こんな事がありうるのか…!?)

雷帝(くそ…っ! どうなっている!)

吸血鬼「………ざまぁ…ありません、わね…」

雷帝「…まだ息があったか」

吸血鬼「…ふ、ふ…貴方の…そんな、狼狽たえた、 顔が見れる…なんて…長生きは、するものです、わ…」

雷帝「…」


雷帝「お前は、あの人間の能力を知っているのか」

吸血鬼「…知って、いたとして…教えると思い、まして…?」

雷帝「吐かせるまでだ」グイッ

吸血鬼「…やって、みな、さいな…」ニィ

雷帝「! 貴様…その瞳の色…」

雷帝(なんだ!? 瞳が青く光っている!?)

吸血鬼「ああ…これ、ですの?」

吸血鬼「魔力を、送ってるの、ですのよ…ハーピィ、に」

吸血鬼「私の、記憶を…」

雷帝「何…?」


雷帝「お前は、あの人間の能力を知っているのか」

吸血鬼「…知って、いたとして…教えると思い、まして…?」

雷帝「吐かせるまでだ」グイッ

吸血鬼「…やって、みな、さいな…」ニィ

雷帝「! 貴様…その瞳の色…」

雷帝(なんだ!? 瞳が青く光っている!?)

吸血鬼「ああ…これ、ですの?」

吸血鬼「魔力を、送ってるの、ですのよ…ハーピィ、に」

吸血鬼「私の、記憶を…」

雷帝「何…?」


ハーピィ「吸血鬼さんの魔力を拾えた!」

ハーピィ「き、記憶を拡散するよ! 召喚術用意っ!」

「了解!」

ハーピィ「! こ、これ…」

狩人「ハーピィ! 行けるなら、やって! こっち押さえるのも限界だっ!」


ハーピィ「よ、よし! 行くよ!」

「召喚!! 幻惑の海獣!!」




剣士「隊列を立て直せッ! 受けに回ったらやられるぞォ!!」

炎獣「いい加減うざったいぜ! オラァッ!!」

ドカァンッ!!

剣士「ちィ、バケモンが…ッ!」

炎獣「これで終わりだっ!」

炎獣「炎ぉ――」ゴゴゴゴ

フワッ

炎獣(!? な、なんだこれ!? 急に妙な景色が目の前に…!)


炎獣(敵の幻術か!?)

炎獣(あれは雷帝…それに、魔王?)




盗賊『魔王、借りてくぜ』

魔王『っ!?』

雷帝『魔王様ッ!!』

盗賊『我が身に宿る力よ――』

盗賊『その真の力を示せ』

ゴァッ――!!

雷帝『な、なんだ…――この力!! 魔王様ぁッ!』



炎獣「――!!」

炎獣「魔王が………消された?」


氷姫(またハーピィの召喚術ってわけ? …にしても、これ)

氷姫(只の幻術じゃ、ない! 誰かの記憶を幻として映し出しているんだわ。だとすれば、これは実際に起こった事…!?)

氷姫(まさか、本当に魔王が…!)



木竜(姫様が………! 馬鹿な…)

木竜(しかし、姫様の気が、感じ取れぬ! 本当に、消えたとでも言うのか…!?)

木竜「姫様………!!」バサッ


エルフ「て、敵が引き上げていく…」


魔女「乗り切った…か…!」

剣士「作戦は…成功ってかァ…?」

エルフ「精鋭部隊の突撃は、上手くいったってこと!?」

狩人「じゃあ、魔王を倒した…!?」

魔女「まだ、そこまで考えるのは早計じゃ」

ハーピィ「………」

剣士「…どうした、ハーピィ」

ハーピィ「きゅ、吸血鬼さんから受け取った記憶のなかに…倒れている騎士さんと斧使いさんがいたんだ」

エルフ「えっ!?」

ハーピィ「ま、魔王の他に、別の四天王の姿もあった…。と、盗賊様たちの突撃は、成功したのかもしれないけど」

ハーピィ「きゅ、吸血鬼さんたちは、もしかしたら…!」

剣士「んだとォ…? あんな、殺しても死なねぇような連中が…!!」

狩人「っ!」バッ

魔女「どこへ行くんじゃ、狩人!」

狩人「精鋭部隊、助けに行く…!」パカラッ


魔女「一人で行くつもりかっ!?」

狩人「まだ間に合うかもしれない!」

エルフ「私も行くよっ!」パカラッ

剣士「くっそッ、俺も…ぐっ!」

魔女「落ち着け! その傷ではお前が行ったところで足手まといじゃ」

剣士「くっそがッ…!」

ハーピィ「う…うぅ…」

狩人「皆は陣形を整えて軍師さんの指示、待っていて!!」

狩人(…そこには、四天王が全員揃ってるのかもしれない…)

狩人(怖い…怖くてどうしようもない…けど)

狩人(僕に出来ることがあるなら………!)

パカラッ パカラッ…


魔女「くっ…援護しようにも、妾たちの魔力も限界が来ておる…」

魔力(できることは、最早待つことだけか…しかし…)

魔女(魔法使いの奴め。いつの間にか姿を消しおった)

魔女(何を企んでおるのじゃ、お前は)



氷姫「雷帝っ!」スタッ

雷帝「氷姫…何故お前がここに」

氷姫「んな事どうだっていいのよ! どういうことよ!? 魔王は何処っ!?」

雷帝「落ち着け…!」

氷姫「落ち着けですって!? これが落ち着いていられるもんですかっ!」

氷姫「答えなさいよ!! 魔王は何処!?」

雷帝「…っ」

氷姫「何とか言えっ!」

雷帝「…私にも分からない」

氷姫「!」

氷姫「分からない、ですって!? あんた、それでも――」

炎獣「待てって、氷姫!」ザ…

木竜「こりゃ、どういうことじゃ…」バサッ

雷帝(炎獣、翁まで…)


炎獣「雷帝に噛みついたってどうにもなんないだろ! 一旦落ち着いて…」

氷姫「離しなさいよ!」バッ

炎獣「なっ…」

氷姫「あんたはなんとも思わないわけ!? あんなに言ってたじゃない! ″魔王を″守るって!!」

炎獣「…俺だって焦ってるさ…!」

氷姫「じゃあ、何でこの状況で平気でいられるのよっ!」

炎獣「平気じゃねえよ! 俺だってなあ…!」

木竜「よさんかッ!!」

氷姫「っ!」

炎獣「…!」

木竜「…こうしてこちらの混乱を招くこと事態が、敵の目的じゃ」

木竜「だからわざわざ、ああやって儂らに幻影を見せ、前線から退かせた…そうじゃろう、雷帝」

雷帝「翁…すみません」

雷帝「その通りです。これは敵の策の一種。…恐らく敵はこれを機に我々を包囲しにかかります」

氷姫「あ…」

炎獣「…くっ」

木竜「ふむ…かといって、姫様の身に何が起こっているか分からぬ以上、下手に身動きも取れぬ」

雷帝「…はい」


吸血鬼「く、ふふ。四天王、が、揃いも揃、って、不様、ですわ」

雷帝「こざかしいマネを…。どうやら、その浅知恵を働かせている者から排除する必要があるようだな」ギリ…

吸血鬼「そん、な事を、する前に、貴方たちの、負け、ですわ」

吸血鬼「魔王、は倒され、る」

雷帝「………」

雷帝「あの男の能力は…女神の力の片鱗だな?」

吸血鬼「!?」

雷帝「転移魔法の時に発生する白い翼…そして聖なる波動。光の勢力の使う術そのものだ」

炎獣「お、おい、どういうことだよ。女神の力…て、それ…」

炎獣「勇者に与えられる力のことだろ!?」

雷帝「そうだ」

氷姫「なんなのよ…。つまり、あいつが勇者だったってこと?」

雷帝「いや…少し違うな。それにしては聖なる波動が不十分だ」

雷帝「あの者はその断片の力を操っていたに過ぎない。最も、人間どもの目にはそんなものですら超常の力に写っただろうがな」


雷帝「ほんの一部とは言え、伝説と言われる女神の力だ。貴様ら魔族のはぐれ者や、外界を遮断し続けていたような特殊な民族ですら、その奇跡の前に夢を見たのだろう」

雷帝「そうして出来た特殊な集団は、王国軍とはまた質の異なる勢力を形成していた…それが、貴様らの軍、といったところか」

吸血鬼(…っ。この短時間で、そこまで見抜くなんて…)

雷帝「そして、その奇跡の力こそが、貴様らの奥の手だった。魔王様ですら、その力を以てすれば打倒できるはず…と」

吸血鬼「………」

雷帝「--…切り札にしては、何とも陳腐だな」

吸血鬼「なん、ですって…!?」

雷帝「女神の力の、断片程度で…魔王様を討てると思ったのか?」

雷帝「あのお方は、全ての魔族の頂点に立つお方」

雷帝「我々四天王を付き従えるだけの偉大なる力を持ったお方」


雷帝「――邪神の加護を一身に受けた、我らの救世主だ」




魔王「…」

魔王「ここまで、ね」

盗賊「がッ………ごッ………」

魔王「翼の力…か。勇者以外に聖なる力を使うものが現れるなんて思わなかった」

盗賊「うッ………ぎぃッ…!!」

魔王「でも…それでは、私は倒せない」

盗賊「…く………そ………ッ!!」

魔王「…さよなら」


盗賊「………お…れが…」

盗賊「…ま……ける………わけ…に………」

盗賊「いか………な…」



魔王「魔弓」









――「どうか…生きて帰ってきて…」


盗賊「………軍――」





ゴォッ――


炎獣「!! なんだ!?」

氷姫「眩しくて何も見えない…! でも…でもこれって…!」

木竜「姫様の、気じゃ!」

雷帝「………魔王様」




魔王「みんな」スタッ

魔王「心配かけて、ごめん」ニコ



炎獣「ま、魔王っ!」

氷姫「魔王!!」

木竜「姫様…良かった…!」

雷帝「魔王様…」




吸血鬼「そん…な」

吸血鬼「盗賊…様………」

あー!年内に投下終わらせられず…
ってゆーか年内に完結しないのかよ

クリスマスだろーが大晦日だろーが正月が来ようが土曜日はss
今後ともよろしくお願いします


氷姫「良かったっ…! 良かった無事で…!」

炎獣「魔王! 怪我、してないか? 」

魔王「ふふ、大丈…夫」ヨロ…

木竜「姫様!」バッ

雷帝「…!」

魔王「ごめん、なさい。少し立ち眩みがしただけよ」

魔王「聖なる波動にあてられ続けてたから…でも、もう平気」

炎獣「無理すんなよ!」

氷姫「そうよ…!」

雷帝「魔王様。手を見せてください」

魔王「っ、雷帝、平気だってば」

雷帝「魔王様」

魔王「…う、うん」ス…

木竜「! ひどい痕じゃ…」

氷姫「これ…!」

雷帝「魔王様…力を何度か使われたのですね」

魔王「…」


魔王「ほんの一部とは言え…女神の加護を受けた力と対峙するには、こうするしかなかったの…」

雷帝「…」

炎獣「…魔王、ごめんな」

炎獣「俺、守るって言ったのに…」

魔王「謝らないで。私は平気だから」

雷帝(………私には)

――「信じるわ。雷帝」

雷帝(私には、申し開きをする権利すらありはしない)

木竜「治療をしますぞ、姫様」

炎獣「か、肩貸すか? それとも椅子代わりになろうかっ?」

魔王「くすっ…大丈夫だってば、炎獣」

雷帝「…」

氷姫「…変に意地張ってると、本当に蚊帳の外になるわよ」

雷帝「………なんの話だ」

氷姫「…馬鹿」


炎獣「でもよ、まさか人間がこんな手を使ってくるなんて…」

木竜「女神の力の断片を手にした人間、か。もしそんな者が他にもいるとなると、今後の儂らの動き様も考えねばならんのう」

魔王「彼は、どういう経緯かは分からないけれど、力を持っていた…」

魔王「女神の力は、代々選ばれし人間が魔王を倒すために授けられてきたもの。すなわち、勇者にしか与えられない力のはず」

魔王「それを、勇者以外の人間が手にしていた…」

氷姫「なんでそんな事が…?」

雷帝「分からん。が、どうにもきな臭いな」

雷帝「何者かが、秩序を乱しているように感じる。…いや、もしくは」

雷帝「…」

炎獣「? なんだ?」

魔王「…」

雷帝「…いや。ともかく、魔王様をお守りしつつ、この戦いを乗りきらなければな」

木竜「そうじゃな。形勢は、それほどウマくないからのう」



エルフ「聖水の煌めき…っ!」


カッ!


氷姫「! 敵!?」

炎獣「ちっ! ここに攻めてきたのか!? なめやがって!」

木竜「しかしこれは…」

雷帝「単なる目眩まし、か? 」



エルフ「斧使いはオーケーだよっ!」パカラッ

狩人「こっちは騎士をつんだ! あとは…!」パカラッ

吸血鬼「…行きなさいな」

狩人「何言ってんの!? 吸血鬼も早く乗って!!」

吸血鬼「誰かが、敵の追跡を、防がねば」

エルフ「一人で、四天王全員相手にする気!?」

吸血鬼「誰かがやらなきゃ、振り切れませんわ」

吸血鬼「それに…」

吸血鬼「少しでも、あの人の側に居たいんですの…」

エルフ「!? それって…」

狩人「………まさか」



吸血鬼「盗賊様は、帰ってきませんわ」

エルフ「…っ!!」

狩人「…嘘、だよね…?」

吸血鬼「あのメガネ女狐に伝えてくださいな」

吸血鬼「きっと、仇を討て、と」

エルフ「盗賊、が…」

狩人「…嘘だ」

狩人「嘘だっ! 盗賊がっ! 死んだなんて!!」

吸血鬼「早く、お行きなさいな!!」

狩人「嘘だっ!!」

吸血鬼「エルフ!!」

エルフ「! くっ…!」ガシッ

狩人「離して、エルフ!! 盗賊がっ! 吸血鬼まで!!」

エルフ「行くんだ狩人…!」


「おい」

炎獣「奇襲にしちゃ、ずいぶん悠長だなあ!?」バッ


吸血鬼「盗賊様は、帰ってきませんわ」

エルフ「…っ!!」

狩人「…嘘、だよね…?」

吸血鬼「あのメガネ女狐に伝えてくださいな」

吸血鬼「きっと、仇を討て、と」

エルフ「盗賊、が…」

狩人「…嘘だ」

狩人「嘘だっ! 盗賊がっ! 死んだなんて!!」

吸血鬼「早く、お行きなさいな!!」

狩人「嘘だっ!!」

吸血鬼「エルフ!!」

エルフ「! くっ…!」ガシッ

狩人「離して、エルフ!! 盗賊がっ! 吸血鬼まで!!」

エルフ「行くんだ狩人…!」


「おい」

炎獣「奇襲にしちゃ、ずいぶん悠長だなあ!?」バッ


吸血鬼「貴方の相手は」ガシ…!

吸血鬼「わたくしですのよ」

炎獣「誰だ、お前」

炎獣「こっちは、気が立ってるんだよ」

吸血鬼「知ったことでは、ありませんわ…!」



狩人「離して、離してよエルフっ!!」

狩人「吸血鬼が、死んじゃうよ!!」

エルフ(…っ!!)ギュ…






炎獣「どけ」ゴッ

吸血鬼「あぐッ」グシャ


炎獣「逃がさないぞ、人間…!?」グイッ

吸血鬼「…」ニィ

炎獣「…お前」

雷帝「離れろ炎獣! 自爆する気だ!!」

炎獣「なっ…」

吸血鬼(…盗賊様………)

吸血鬼(地獄の果てまでお供します、なんて)

吸血鬼(…冗談で済めば良かったのですけど)

吸血鬼(今、お側へ…)


ドォ…ン!





狩人「吸血鬼ーッ!!」


王国軍・砦



軍師「…信用して頂けませんか」

将軍「ふん…。貴様ら賊の一団に、人類の命運を握らせるわけにはいかぬ」

軍師「面子の問題ですか? 王国正規軍の指揮を、辺境連合軍の指揮官に執らせる事が許せないと?」

軍師「人類の命運がかかっているのなら、尚更そのような事にこだわるべきではないと思いますが?」

将軍「…。確かにな」

軍師「ご理解頂けましたか。それでは今後の軍の指揮は、我々辺境連合軍が--」

将軍「だが、それだけではない。貴様らは信用するに値しない」

軍師「…将軍。意地を張るのも結構ですが…」

将軍「貴様らは確かに強い。魔王の手勢を相手取るだけの力と、策がある。しかし」

将軍「このような時ですら、貴様らは己達の利を考えている。…私の部下の最期を、みすみす貴様らの食い物にされるわけにはいかん」

軍師「…っ」

軍師「ですから、それは…!」




ハーピィ「--あぁ…!」ガタン


軍師「ハーピィ?」

ハーピィ「あ…あ…!」

魔女「どうしたんじゃ、ハーピィ!」

ハーピィ「吸血鬼さんが…吸血鬼さんが…!」

軍師「…!」

ハーピィ「吸血鬼さんが、死んじゃったよぅ…!!」

魔女「な…!」

軍師「…」ギリ…!

魔女「あやつが!? そのような事が本当に…!!」

魔女「………待て。それでは、精鋭部隊はどうなったのじゃ!?」

ハーピィ「…きゅ、吸血鬼さんの霊魂が………、え? なあに…? 僕に何か伝えようとしてるの?」

ハーピィ「分かんないよ…! 行かないでよっ、吸血鬼さん!!」

魔女「ハーピィ…何か見えておるのか?」

軍師(…)

ハーピィ「え…? と、うぞく、さま? 盗賊様が…」





ハーピィ「盗賊様が…死ん、だ?」









軍師「--…」







炎獣「…っぶねー…!」スタ

氷姫「炎獣、平気?」

炎獣「直撃したらヤバかったけど、な。平気だ」

木竜「逃がしたネズミを追うか?」

雷帝「…いえ」

雷帝「女神の力を使うものを排除した今、あのような雑兵が生き永らえた所で大した問題にはなりません」

雷帝「強いて驚異を排除するとしたら…敵の参謀です」

木竜「うむ。妙に敵がイヤらしい動きをしおるからのう」

炎獣「なんだかケンカがやりにくいのはそのせいか!」

氷姫「そいつを先に潰すにしても、こっちだってすぐには身動きを取れないでしょ。魔王の回復を待たないと」

雷帝「ああ」

魔王「ごめん、皆」

氷姫「謝らないでよ。元は、あたしたちが不甲斐なかったからなんだし」

氷姫(…そう、あたしが、人間なんかに遅れを取ったから)

氷姫(…)


氷姫「…究極氷魔法を使うわ」

炎獣「え?」

魔王「…!」

氷姫「そうすれば、敵の軍隊を一手に引き受けられる。その隙に…敵の砦を陥として」

雷帝「出来るのか? お前に」

氷姫「………やってやるわよ」

氷姫「あたしも…口先だけで、終わりたくないの」

雷帝「…そうか」

炎獣「おい、ちょっと待てよ。究極氷魔法って、氷姫お前、一度失敗して…」

氷姫「そうね。確かに、かつて一度負荷に耐えられずに暴走させた事がある」

木竜「あの時は、ひどい有り様じゃったのう。生きておったのが不思議なくらいじゃった」

氷姫「あの時のあたしじゃないわ」

氷姫「やり切ってみせる」

魔王「氷姫…」


氷姫「魔王…」

氷姫「信じて」

魔王「………」

魔王「ひとつだけ聞かせて?」

氷姫「何?」

魔王「究極氷魔法を使うのは、なんのため?」

氷姫「…」

氷姫(なんの、ため…? それは)

氷姫(人間に対する、怒り? いや、違う。不甲斐ない自分が許せないから…?)

氷姫(いや…それよりも)

――『なんで手出ししたっ!!』

――『ふふ…ふ。大丈…夫』ヨロ…

氷姫(私は…これ以上大事なものが傷つくのを見たくない)

氷姫(出来るかもしれないことをせずに、指をくわえて見てるなんて、そんなのは)

氷姫(もう、御免よ)

氷姫「――勝つため、よ。″皆で″ね」

氷姫「人間も必死だわ。そのためには、生半可な事じゃ駄目なの」

氷姫「魔王も。他の皆も。ここを乗りきるために」

氷姫「あたしも、自分に、勝ちたいの」

魔王「…」


魔王「そっか」

魔王「分かった。お願いします」

氷姫「…ええ!」

魔王「私も、爺に力を戻して貰ったら、手伝うから」

氷姫「そ? その頃には戦う相手はいなくなってると思うけど?」

木竜「やれやれ、負けん気の強い奴だのお」

炎獣「じゃあ、砦には俺が…!」

雷帝「いや、私が行く」

炎獣「!」

雷帝「私が、敵の本陣に攻め入り、この軍を指揮している人物…参謀を消す」

雷帝「今の私なら、それが確実に出来る」


炎獣「確実にって、どうしてそこまで…」

木竜「! 雷帝、おぬしまさか魔剣を抜いたのか」

雷帝「…ええ。魔剣の力があれば、氷姫のテレポートに似た瞬間移動すら可能です」

炎獣「…雷帝、おまえ」

氷姫「あんた、それって…」

雷帝「何も言うな」

雷帝「全てが終わったとき、魔剣との盟約により我が身は呪いに焼かれる」

魔王「…」

雷帝「その時は、翁。宜しくお願いします」

木竜「…まったく、どいつもこいつも。鷲の治癒能力に頼って無茶ばかりしよる!」

木竜「魔剣の呪いなんぞ、確実に解ける保証なぞありゃせんぞい!」

雷帝「信じていますよ」ニ…

木竜「………はあ」

木竜「好きにせい」


炎獣「…」

雷帝「炎獣。お前は魔王様の護衛を頼む。敵が、どんな手段をうってくるか分からん」

雷帝「お前が…」

雷帝(…)

雷帝「お前が守ってくれれば、安心だ」

炎獣「で、でもよ。俺…」

木竜「炎獣。おぬしは、おぬしの戦いをせい」

炎獣「え…?」

木竜「守るための戦いは、ただの殺し合いとは、わけが違う」

木竜「ただ相手を負かす、ということではない」

木竜「炎獣。お前の本能は、そういう事を求めておる。戦う相手は、そこになるかもしれぬ」

炎獣「自分の、本能と、戦う…」

木竜「………雷帝も、氷姫も。どうやら腹をくくったようじゃ」

木竜「おぬしも、自分と向き合うのじゃ」

木竜「本当の強さを、見せてみよ」

炎獣「…!」


雷帝「…行くぞ」

氷姫「ええ」

氷姫「………ねえ」

雷帝「なんだ?」

氷姫「重いわね」

氷姫「信じろ…って」

雷帝「…そうだな」

雷帝「だが、今はこうも思う」

氷姫「?」

雷帝「″信じる″というのは、悪くない気分だ」

氷姫「…そ、か」

雷帝「成功させろよ。究極氷魔法」

雷帝「信じてるぞ」

氷姫「…!」

氷姫「………そっちこそしくじるんじゃないわよ」

雷帝「ああ」

氷姫「信じて、やるんだから」

雷帝「…ふっ」






エルフ「…」

狩人「…」


剣士「おい…マジかよ」

剣士「マジで言ってんのかよ!?」

剣士「盗賊が死んだってよッ!!」

騎士「………」

騎士「ああ」

剣士「騎士ッ! てめェが…!」ガッ

騎士「…っ」

剣士「てめェがついてて、なんで…!!」

騎士「………」

騎士「すまない」

剣士「っクソがァ!」バキッ

騎士「ぐっ…」

エルフ「やめなよ!!」

魔女「………喚いたところで、盗賊は帰ってこんぞ」

剣士「…ちッ!!」

狩人「盗賊………吸血鬼…」

斧使い「………」


ハーピィ「ね、ねぇ」

ハーピィ「…でもさ、僕らなら…な、何とか出来るよね!」

魔女「…」

ハーピィ「盗賊様は、消えちゃったけど、し、死んじゃったって決まった訳じゃないし…!」

騎士「…」

ハーピィ「吸血鬼さんが…吸血鬼さんがさ。せ、せっかく命懸けで、助けてくれたんだから」

狩人「…」

ハーピィ「き、きっと…どうにか、出来るよね! 皆の力を合わせれば、さ!」

エルフ「…」

ハーピィ「か、仇、討たなきゃ、だよね! そう、でしょ…?」

斧使い「…」

ハーピィ「ね…ねえ。皆………」

剣士「…」


剣士「…盗賊の奴が生きてたとして、探しだしようがねェ」

剣士「そもそも、魔王はほぼ無傷で戻ってきたんじゃ…あのバカが生きてる可能性は低い」

ハーピィ「…っ!」

剣士「あいつの力を解放して勝てなかった魔王がいて………四天王は俺たちが全力でやって、一人として倒せねェ」

剣士「…翼の団も、王国軍も、疲弊してる。王国軍の連中なんざ、俺たちと連携する事を拒んで勝手に先走ってやがる」

剣士「俺たちも先の戦いで満身創痍だ」

剣士「吸血鬼は…死んじまった。認めたくはねぇが…あいつは俺たちの中で一番強かった」

ハーピィ「………」

剣士「状況は最悪だ。…そうだろうが」

剣士「何とか言ってみやがれ、軍師」


軍師「………」


剣士「そうなんだろうが…おい」

剣士「まだひっくり返せるってか…? 盗賊もいねェ、どいつもこいつもボロボロで」

剣士「生きているのでやっとだ! 絶望的じゃねェかよ…!!」

剣士「それとも次は、ケツまくって逃げ出す策か、ぁあ!?」

軍師「………」


軍師「盗賊なら」

軍師「盗賊ならこんな時、何て言ったのか…」

軍師「それを、考えていました」

剣士「…ッ! あいつは…!」

剣士「あいつはもう、居ねェッ!!」

軍師「居ますよ………此処に」

剣士「…何ィ?」

軍師「我々は…翼の団は…」

軍師「彼の志に共鳴して集まった者達です」

軍師「強者に虐げられた弱者に手を差し伸べ…自由を得るべく剣をとった人々です」

軍師「強大な王国の圧力の下で…空を飛ぶ鳥をただ羨んで、地面を這いつくばる事が当たり前だった私たちに」

軍師「空も飛べるのだと…彼はその障害を軽く飛び越えてみせました」


軍師「自由を得るための翼は、誰にでもあるのだ、と」

軍師「それを使わなくしている一番の敵は、王国ではなく、ただ落ちるのを怖がる自分なのだ、と」

軍師「さも、当たり前のように、彼はそれを言ってのけた」

軍師「…私たちが夢を見たのは、彼の身に宿る奇跡の力にだけでしょうか」

軍師「私たちは…いつの間にか、自分達まで空は飛べるのだと、当たり前のように口にしていたはずです」

軍師「彼の志は…もう」

軍師「みなの胸のうちに宿っているのではないのですか?」

剣士「………」

エルフ「――″絶望的な状況、か″」

エルフ「″まぁアレだ、やっぱヒーローの定番はピンチからの逆転勝利だろ?″」

剣士「!」

エルフ「…なんて。盗賊なら、そう言ったかもね?」


魔女「″もしダメでも、その時はせいぜい死ぬだけだ″」

魔女「などと、軽口を叩いてみせたかもしれんの」

エルフ「ああ、言いそう!」

狩人「″大丈夫だ、俺、持ってるから!″」

狩人「なんて、根拠のない強がり、言ったかもね」

騎士「…ああ。自身も不安でどうしようもなかったとしても」

騎士「盗賊殿なら、そう言った」

ハーピィ「…」

ハーピィ「″弔い合戦なら、派手にやんなきゃ″」

ハーピィ「″あの世の連中にも見えるように″」

剣士「…」ハァ

剣士「″つっても、俺たちがする事って言やァ″」

剣士「″ただ――″」


斧使い「″かっさらう事だけ、だ ″」




剣士「おっ…」

剣士「斧使い、テメェ普通に口きけたのかよ!?」

斧使い「…」

狩人「は、初めて聞いた! ね、オッサンもう一回! もう一回しゃべって!」

斧使い「…」フルフル

エルフ「あーっ、斧使い照れてる?」

斧使い「…」プイッ

騎士「お、斧使い殿からいつもの覇気がない…」

魔女「くくくっ、口を滑らせたのう、斧使い!」

剣士「かっかっかっ! なんだよ斧使いよォ、その顔はっ!」

ハーピィ「け、剣士さん、笑ったら可哀想…プッ、クスクス」

斧使い「…」ブン!

剣士「いてっ!? テッメェ斧使い、怪我人になんてマネしやがるっ!」

エルフ「もー、よしなよー!」


軍師(ああ)

軍師(やはり貴方がいなくては、ダメなのです)

軍師(何処かへ行ってしまっても…貴方の存在が、皆を救うのです)

軍師(だから、どうか)

軍師(どうか、見ていて下さい)



エルフ「軍師」

エルフ「…やろう。最後まで足掻こう」

騎士「これが最後になるならば…もはやそれで構いませぬ」

騎士「尚のこと、我輩たちらしくありたいと…そう思うのです」

魔女「勝ちを悠々取りに来る魔王に…手痛いしっぺ返しをくれてやろうではないか」

狩人「うん…もう、怖くないよ」

ハーピィ「わ、私は、ちょっと…恐いです、が………でも、頑張るですっ!」

剣士「…しゃーねェ。ここまで来たら腐れ縁だ」

剣士「付き合ってやんぜ」

斧使い「…」コク




軍師「………そうですね」

軍師「では、最後の策です」


今日はここまでです
長かった盗賊編、来週で終わります(多分)


氷姫「…」コォオオオ…


炎獣「究極氷魔法…。結局完成された技は見たことねぇ。どんな魔法なんだ?」

魔王「…冥界の死神を呼ぶの。呼び出された死神達は、術者が意図した範囲の生命を、刈り取り続ける」

魔王「死の行進、と言われる魔法よ」

炎獣「死の、行進…」

魔王(氷姫…)



氷姫(一度、失敗した術式、か)

氷姫(今度失敗したら、本当に、生きてられないかもね)

氷姫(あの時は、冥界に引っ張りこまれかけた)

氷姫(今思い出しても足が震えて…意識が飛びかける)

氷姫(でも)

氷姫(後ろを振り返ってる暇はもう、ない)

氷姫(あたしには力が必要なんだ)

氷姫(もう、仲間が傷つかない力が)


氷姫(だから…冥界の死神よ)

氷姫(力を、貸しなさい!)









氷姫「究極氷魔法!!」



将軍「いいかっ!! 魔王は疲弊し、敵はひと所に固まっている!!」

将軍「数々の犠牲の上に掴んだこの機を逃すな!!」

将軍「後ろを振り替えるな!!」

将軍「ただ我らのきりひらく、人類の未来だけを見よッ!!」

将軍「全軍、前進ッ!!」


ドドドドドドドドドドドドドド!!!


将軍(――止めてみせるぞ、魔王っ!!)

魔法兵「ぜ、前方に強力な魔力を感知っ!」

将軍「なにっ!?」

「おい、見ろ!!」

「なんだ、あれは!?」

将軍「っ!?」

将軍(雲が…暗雲が渦巻いて…世界が暗くなっていく…!)

将軍「敵の魔法か!?」

魔法兵「お、おそらく! しかし、このような魔法は聞いてことがありませんっ!」


ゴオオォォォ…

将軍「くっ、吹雪だと…! 氷の魔術師か!」

将軍「何が起こっている!?」


ドロドロドロドロドロドロ…


将軍(なん、だ!? この地鳴りは!)

「ぜ、前方…敵影多数…!!」

将軍「なんだとっ!?」

「吹雪の中に…きょ、巨大な影が幾つもみえます!」

将軍(どういう事だ…!? 軍勢を呼び寄せたとでも言うのか!?)

将軍(ここまで圧倒的な力を、こうも何度も…!!)

将軍「ちぃ…! だがもはや撃沈する他あるまい!!」

将軍「全軍、抜刀ッ!!」

ジャキィッ!!





キラッ キラキラッ

砲台長「…み、見えた! 抜刀したぞ!!」

砲台長「全砲台、撃ちまくれ!! 敵の結界は消えてるぞォ!!」


ドドーンッ! ズドーンッ!



将軍「よし、援護砲撃が敵に当たっている!!」

将軍「突撃ぃぃいっ!!」

「うおおおおおおおおぉっ!」


死神「…」シャキン…


将軍(巨大な、鎌…っ!?)


死神「…」ブゥン…

ズバァァアッ!!

「ぐわあああぁあっ!!」

「うわあぁあぁあっ!!」


将軍「ばかな…!!」

将軍(砲撃にもビクともしない耐久力に…巨大な鎌による破壊力…。今までの魔王軍との戦いでは一度も姿を現さなかった)

将軍(こんな化け物を…一瞬にして呼び寄せたとでも言うのか!?)

将軍(そんなことがあるわけがないっ!!)

将軍「くそっ、隊列を立て直せッ!!」




騎士「魔導士隊、てぇっ!!」

ズドドドドドドドドォンッ…!


将軍「翼の団…!」

騎士「我らを苦しめた天下の王国軍が情けない!! 貴君らはこの程度かっ!?」

将軍「今さら現れて何を言う!! 恐れをなして逃げ出したかと思ったぞ!!」

騎士「我らに恐れなどない!!」

騎士「いつ、なん時も、自由のために剣を取るのは我らだ!!」

騎士「今は人類の自由のためっ!! 今は共に剣を取ろうぞっ!!」

将軍「………人類の自由のために…だと?」

将軍「…くっ、ふふ! 都合のいい連中だ…!」

将軍「良かろう!!」

将軍「我らに遅れを取るなよ!!」

騎士「望むところッ!!」






狩人「…騎士が、翼の団全軍を率いて王国軍と合流したみたい」

剣士「あの鉄クズ、気合い入れすぎて傷口開いてやがるぜェ、絶体」

魔女「さあ、我らも進まねば」

斧使い「…」コク

エルフ「しばらくは、精霊魔法が効くはずだよ。皆の姿は敵に見えない」

剣士「つっても、あの怪物に効果あんのかよ?」

エルフ「分からないけれど…見るからに闇の住人の風体だ。精霊魔法の効き目があると、信じたいよ」

狩人「もし、こっちの動きを気取られたら…」

斧使い「…」


ドドドドドドドドドドドドドドドド…

ワァァァ… ズドーン… 

魔女「…色々な戦場を見てきたつもりじゃったが…」

魔女「空を覆う暗雲…絶え間なく吹き付ける豪雪…死の巨人…」

魔女「地獄のような、光景じゃな…」

エルフ「…うん、そうだね」

狩人「騎士…」

剣士「他人の心配してる場合かよ?」

狩人「…っ」

剣士「俺たちゃ、もっと恐ろしい連中と戦いに行くんだぜ…」

剣士「いや、戦いに行くってよりは」

エルフ「剣士」

剣士「…んだよ。そういうこったろうが」

剣士「運が良ければ、一人くらい生き残るかもしれねぇ………そういう戦いだろ、これァ」

剣士「まァ…生き残ることが果たして幸せかってェと…」

剣士「そりゃ、どうだか分からねェけどよ」



エルフ「そうだとしても…価値あることをしに行くんだと」

エルフ「ボクは、そう信じたいよ」

エルフ「君ほど…覚悟が出来てるわけじゃないから」

狩人「…」

斧使い「…」

魔女「後戻りはできぬ」

魔女「この行軍は、最後は魔王のところへ辿り着き」

魔女「あそこで戦う多くの兵士たちを囮に、魔王と戦う」

魔女「そこには四天王がいるかもしれぬ。それでも、刺し違えてでも」

魔女「妾たちはやらねばならん」


魔女「…すまぬな。自分のする事を…確認しておきたかった」

魔女「この歳でも………情けないがな」

狩人「…なんだ」

狩人「皆、迷ってるんだね」

狩人「迷いながら」

狩人「逃げ出したい心を必死に押さえて」

狩人「…歩いてるんだよね」

斧使い「…」

剣士「アンタは、そういうわけでも無さそうだなァ?」

斧使い「…」

剣士「…あのよ」


剣士「確かに俺ァいつだって戦場のド真ん中で、命を死の天秤にかけてきた」

剣士「…とは言えよ。死にたいわけじゃねェよ」

剣士「まだまだ、生きて成り上がってやりたかった」

剣士「もっと金を手に入れて、もっと名声を築いて、もっと女を抱いて…」

剣士「こんな所で死のうモンなら、未練なんざありすぎて化けて出かねねェ」

剣士「それが、こうして平気な顔で講釈垂れてるのにもワケがある」

エルフ「…ワケ?」

剣士「ああ。コツってもんがあるのさ」

剣士「冥土の土産に教えてやるぜ。それはな――」




「鉄砲隊、てぇっ!!」

パパパパパンッ


死神「…」

将軍「クソ…!! まるで効き目がない!」



騎士「引き摺り倒すぞっ!! 傭兵隊っ!!」

「おうらァっ!!」ドシュッ!

騎士「今だ! 騎士団、突撃ィッ!」

「うおおおおっ!!」


死神「…」ブゥン

ドシャアァアッ!

「ぎゃぁぁああぁッ!!」


騎士「くっ!! 駄目か…!!」


将軍「もう打つ手がないぞ…!」

騎士「ぬぅ…ッ、このままでは!!」


軍師『その魔法は究極氷魔法です』


将軍「!? な、なんだ!?」

騎士「軍師どのの声…!」


軍師『古い文献から見つけ出しました。その巨人を倒すのは不可能です』

軍師『魔法を詠唱をしている本人を倒す他ありません』


将軍「本人だと…一体どこに!?」


軍師『その吹雪きの吹き出し口。それが魔法の発される大元』

軍師『巨人の鎌を掻い潜り、魔法の詠唱者を倒してください』


騎士「…!」


騎士「よし…」

将軍「待て! もう、翼の団にも王国軍にも、残存の兵は残り少ないぞっ!!」

騎士「だから何だというのだ」

騎士「ならばその全軍で突撃するのみ」

将軍「っ!!」

騎士「迷う暇はない。死にたくないのならそこで待っていろ」

将軍「何…」



騎士「皆のものッ!! 聞こえた通りだッ!!」

騎士「人類の明日は吹雪きの吹く方にあるッ!!!」

騎士「逆風を進めッ!!!」

騎士「向かい風の奥の希望へッ!!!」

騎士「 我 に 続 け ぇ ッ!!!」


 ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド ド





軍師『王国兵、翼の団の皆さん』

軍師『辛く、恐ろしい戦いでしょう』

軍師『もう前に進みたくない』

軍師『止めてしまいたい』

軍師『死にたくない』

軍師『いや、いっそのこと殺してほしい』

軍師『――私には、救う事も助ける事も出来ません』

軍師『でも、どうか』

軍師『どうか、人類を救ってください』

軍師『もう、あなたたちにしか、出来ないのです』

軍師『傷つき、絶望と希望の狭間で苦しんだとしても』

軍師『それでもどうか』

軍師『どうか、人類を…』







ハーピィ「…も、もういいの? 軍師さん」

軍師「…、はい」

軍師「もう、私に紡げる言葉などありはしません」

軍師「ありがとうございました、ハーピィ」

ハーピィ「う、ううん。よ、良かった、よ…」

ハーピィ「で、出来る事が、す、少しでも、あって…」

軍師「…ハーピィ?」

ハーピィ「あ、あはは…ちょっと、一人で魔法を使うのは」

ハーピィ「つ、疲れちゃった、みたい…」

ハーピィ「急に、ね、眠気、が…」


軍師「ハーピィ…!」

ハーピィ「…ね、軍師、さん」

ハーピィ「か、仇を…」

ハーピィ「取れる、かな…?」

ハーピィ「きゅ、吸血、鬼、さんの…」

ハーピィ「か、仇…」

軍師「…ハーピィ」

軍師「約束します。必ず」

軍師「必ずや、魔王に一矢報います」

軍師「だから…」

ハーピィ「…」

軍師「…眠りましたか」

軍師(…進もう)

軍師(私に、出来ることを…)













雷帝「――あれが、敵の参謀か」


炎獣「…すげえ」

炎獣「氷姫のやつ…本当に成功させちまいやがった」

炎獣「こんな魔法、見た事ない」

炎獣「すげえな………」


――氷姫「あたしも、自分に、勝ちたいの」

――雷帝「何も言うな」


炎獣「氷姫………雷帝…」

炎獣「…」

炎獣(何だ…? 言葉が、出てこない)

炎獣(″大丈夫か? 無理すんなよ。頑張れよ″)

炎獣(…違う。そんなの、俺の言葉なんかじゃない)

炎獣(上っ面だけの…嘘っぱちだ)

炎獣(………何だよこれ。俺、一体どうしたいんだよ)

炎獣(あんな顔したあいつらに…何を言えってんだよ)


魔王「炎獣」

炎獣「…ん」

魔王「珍しい、ね。そんな顔」

炎獣「…」

魔王「…」

炎獣「なあ、魔王」

炎獣「何だかさ、変な気分なんだ」

炎獣「氷姫や雷帝のこと、応援したいし心配なんだけどさ」

炎獣「どうしたらいいか、分かんないんだよ」

魔王「そっか」

炎獣「変だよな。なんなんだろうな」

炎獣「どうしてこんな胸の内がざわつくんだろうな」

炎獣「何で俺…」

魔王「…」


魔王「″氷姫や雷帝を素直に応援出来ない自分が腹立たしい″」

炎獣「!」

炎獣「………そう、なのか。俺」

魔王「″何だか置いてきぼりにされたようで、寂しい″」

炎獣「………」

魔王「″二人が…、羨ましい″」

炎獣「…っ!」

炎獣(俺…!)

炎獣(俺は…、応援なんてハナっならしちゃいないんだ)

炎獣(あの時の二人の表情が頭から離れなくて…かける言葉も見つからなかった自分が、ひどくちっぽけに思えて)

炎獣(俺が戦う理由と、あいつらが戦う理由に、大きく差をつけられたような気分で)

炎獣(何か…なんだか………)

炎獣「…」

魔王「炎獣?」


炎獣「…おあーーーっ!!」

魔王「きゃ!?」

木竜「ぬお!!」ビクッ

炎獣「…はあ、はあ…」

木竜「な、なんじゃいきなり! 急に大声を出すな!」

魔王「…炎、獣?」ポカーン

炎獣「何でもねえ!」

木竜「何でもないなら静かにしとれ!」バシッ

炎獣「あだっ!」

木竜「姫様の治癒に集中しとるんじゃ、儂は!」

炎獣「ご、ごめん」

魔王「…大丈夫?」

炎獣「………なあ、魔王」

魔王「何?」

炎獣「俺は、どうしたらいいと思う?」

魔王「うーん…」

魔王「それは、多分ね。私が言うことじゃないんじゃないかな」

炎獣「でも、魔王は俺の気持ち分かるんだろ? 今言い当てたみたいに」

魔王「…全部分かるわけじゃないよ。私が言ったことが炎獣の全てだとも、私は思ってない」

魔王「炎獣自身がどうするかは、自分で探さなきゃ」


炎獣「ちぇっ…」

魔王「ふふ。…きっと氷姫も雷帝も、たくさん悩んだんじゃないかな?」

炎獣「俺、悩むの苦手だ」

魔王「そうだったね。じゃあ身体動かしてみる、とか?」

炎獣「お! それいいかもな!」

魔王「あ、でも。あまり遠くにいかないでね?」

魔王「雷帝にお願いされたでしょ?」

炎獣「…ああ、うん」


――雷帝「お前が守ってくれれば、安心だ」

――木竜「炎獣。おぬしは、おぬしの戦いをせい」


炎獣「…俺の戦いを…」

炎獣「しなくちゃ、だもんな」


炎獣「…」

魔王(炎獣…。この戦いで、初めての事が沢山あったんだ)

魔王(知らない気持ち、知らない思い。上手く消化する暇もなく、戦いは続く)

魔王(一番経験の浅い炎獣にとって、そういう不安定な中戦っていかなきゃいけない)

魔王(それはきっと、計り知れない不安だろう。…私が)

魔王(私が上手くフォローをしてあげないと)

炎獣「魔王もさ」

魔王「うん?」

炎獣「不安だよな、魔王も」

魔王「えっ?」

炎獣「先代様が死んで…即位した時、まだ魔王は小さかった」

炎獣「それでもそのまま俺たちの先頭に立って、ここまで引っ張ってくれたけどさ」

炎獣「もう少しで人間に勝てるってトコまでようやく来たけど…」

炎獣「人間の反抗は、生易しくなんかない」

魔王「…」

炎獣「魔王も不安なのにさ。俺たちを勇気づけてくれて」

炎獣「ありがとな」


魔王「っ…」

炎獣「あ、あはは、なんか照れんなぁ!」

炎獣「色々考えてたらさ、なんか言いたくなってさ!」

炎獣「俺は、魔王を支える、魔王の四天王だ!」

炎獣「必ず勝とうな!」ニッ

魔王「………うん」

魔王「そうだね。一緒に、勝とう!」

炎獣「ああ!」



木竜「…」

木竜(………そうじゃ、炎獣。そのお前の、真っ直ぐさが)

木竜(魔王様を…お前自身を、救うんじゃ)


魔王「!」ピクッ

炎獣「…魔王」

魔王「ええ。これは…」

炎獣「敵か。いつの間に、こんな近くまで…」

魔王(これも敵の能力?)





「よォ」

剣士「また会ったなァ? 化け物!!」




炎獣「魔王、下がってろ」

魔王「…うん。気をつけて」

炎獣「ああ」

炎獣「こんな所までのこのこ現れるなんてな! 倒されなきゃ気がすまないみたいだな!?」

剣士「かっかっかっ!」

剣士「どうやらそうらしいぜェ、俺って男はよォ!!」

剣士「………きっちり、倒してくれや!!」ザッ


砦内部


軍師「…」カツカツカツ…

守備兵「おい、貴様。何処へ行く」

軍師「…軍義の間へ。通して頂けますか?」

守備兵「軍義の間はこの砦の一番最奥にある部屋だ。まさか、あのような演説をしてみせておいて、一人のうのうと安全な場所に逃げ隠れようというのか?」

軍師「…まだ、信用して貰えませんか」

守備兵「貴様ら賊の一団を、我々が完全に信用したとでも思っているのか」

軍師「…」

軍師(この窮地にあっても、我々辺境連合軍と王国軍はこの有り様)

軍師「…人類が、敗北するわけですね」

守備兵「何? …貴様今なんと言った?」

軍師「魔王の圧倒的な戦力を前に、人間の希望は今消え失せようとしています」

軍師「その時ですら、国や、立場、我欲に縛られて…人間とはかくも見苦しいものだったのだな、と思ったのですよ」

守備兵「何だと!? 貴様…!」

ザクッ

守備兵「…!?」

軍師「だから、私の行いも許して下さい」

守備兵「貴…様…ッ! 一体………何
…を………」ズルズル…

軍師「こう見えて、汚い手段には慣れっこなんですよ。知ってましたか?」

守備兵「」ドサッ…

軍師「…遅いか、早いかの違いでしかありませんが、どうか安らかに」

軍師「急がなくては」カツカツ…


軍義の間


軍師「ここが、王国軍最後の関門。不落の城と言われた砦の最深部ですか」

軍師「ここにたどり着く時はもっと別の形なのだと…ずっと思っていたはず、なのですけれど」

軍師「…」

軍師「感傷に浸る時間もないようですね。もうそこに居るのでしょうか?」

軍師「雷帝さん」




雷帝「…」ス…


軍師「なるほど、それが魔界に伝わり伝説の魔剣の力」

軍師「雷光のごとき速さでの移動をも可能にする、というわけですね。こちらの奥の手と同等の力をそう容易く使われたとあっては、翼の団も形無しというものです」

軍師「砦には対魔族の結界がいくつか張られていたと思いますが、それも効果無しですか。いやはや、感服です」

軍師「初めから、こちらの用意した策などものともしないような能力を自負していらしてたんですか?」

軍師「それとも、少しくらいは貴方たちを追い詰めることが出来たんですかね?」

軍師「伺ってみたいものですよ。魔王四天王の一人、雷帝さん」


雷帝「………」


雷帝「勿体ぶるな。私が今、貴様の首を落としてしまわない理由はひとつだけだ」

雷帝「何が狙いだ?」

軍師「狙い、ですか。大方察しはついているかと思いますが」

軍師「私は単なる囮なんですよ。貴方なら、まず私を消そうとすると思いましてね」

軍師「ガラにもなく、目立つことをしてまでこうしてついてきてもらった次第です」

雷帝「…軍師が、自らを囮になるなど、下策中の下策だ」

軍師「返す言葉もありません。私はもう、策士などではありません」

軍師「ただ、復讐にかられた一人の醜い女です」

雷帝「…下らん」グッ

軍師「おっと、それで引き裂いておしまい、というのは少し味気ないでしょう」

雷帝「…」

軍師「ね? 貴方もそう思っているから、この刃を下ろさないのではないですか?」

雷帝(…なんだ? この女のこの雰囲気は。ハッタリにしては随分と…)

軍師「人間と魔族の双方の頭脳がこうして相対したのです。少しばかり問答をしてみるのも面白いとは思いませんか?」

雷帝「…」


雷帝「人間の頭脳? 貴様が?」

雷帝「笑わせるな。貴様が囮を演じていたとして、真打ちは誰が担っているというのだ?」

雷帝「外で、氷姫の究極氷魔法とやりあっている軍勢が、あの魔法を突破できるとでも言いたいのか」

軍師「彼らの突撃は、言わば人類の最後の突撃です。後のない者の死に際のひと噛みって、怖いものだと思いませんか?」

雷帝「馬鹿には出来ないだろうな。しかし残念だが、そんなものであの魔法を打ち倒せるほど現実は甘くない」

軍師「でしょうね」

雷帝「何?」

軍師「奇跡でも起これば…私もその可能性は棄てていないんですよ。そこに嘘はありません」

軍師「ですが、それに全てを懸ける気にもなれないのも、実際のところです」

雷帝「奴らも囮か?」

軍師「まあ、そういうことですね」

雷帝「下らんな。貴様の顔を見ていると虫酸が走る」

雷帝「大方、もうひとつの別動隊で奇襲をかける策でも打ったのだろう。エルフやハーピィの奇術があれば、或いは魔王様の元へ別動隊を送ることも可能になるかもしれん」

雷帝「それが何だと言うのだ? こちらの戦力をそこに割かないとでも思ったのか?」

雷帝「その別動隊とやらが、魔王様を撃破できると、本気で思っているのか?」

軍師「…」


軍師「私はね…好きなんですよ、彼らが」

軍師「そのわりには、これまで何度も彼らを危険な目に会わせて来たのですけどね。頭ばかり回るだけで、どうやら私という人間は大切なものが抜け落ちているみたいなんです」

軍師「そういう事はね、これまでにも何度かあって…ここに来る前は、″血の通わない女″とか、″魔族の生まれ変わり″とか色々言われてました」

軍師「それをあの人が…この場所に引っ張ってきて…この翼の団がかけがえのない場所になった」

雷帝「…なんの話だ」

軍師「ふふ。でも人は簡単には変わらないもので、今度は私、翼の団を守るために非情な手を幾つも打ち出しました」

軍師「命の危機に瀕しながら…それでも、彼らはそれを笑い飛ばしてみせたんです」

軍師「″全くいつもいつも殺す気か″って、平気な顔で、戻ってきたんです」

軍師「あの人が、居てくれたから、でしょうかね。全ては」

軍師「最後の最後まであの人に頼って、私は彼らを騙くらかして、死地に送りました」

雷帝「それで? 今度もそうして生きて帰って来るとでも言いたいのか?」

軍師「いえ」

軍師「彼らは死ぬでしょう」

雷帝(…こいつ)

軍師「…あの人は、もういないのですから。奇跡は、起こりません」



軍師「彼らですら、囮なのですよ」

軍師「雷帝さん」




剣士「おゥらッ!!」ビュッ

炎獣「!」

剣士「でりゃりゃりゃりゃァッ」ヒュバババ!

剣士「どうしたどうした、化け物よォ!! 俺様の神速の剣の前にゃぐぅの音も出ねェかァ!?」

炎獣(こいつの剣筋…どうも気になる。打ち返そうと思えばそれも出きる…けど)

炎獣(なんだ、嫌な気配がする)

剣士「ったくよォ…手抜きで相手されるたァなァ…」

剣士「傷つくだろォが!!」ゴッ

炎獣「…くっ!」

炎獣(コイツも並の戦士じゃあない。いなし続けるのも限度がある! …でも)

炎獣(守るんだ。俺は)

炎獣(まだ、堪えろ…!)

剣士(ちッ…誘いに乗ってこねェ!)


狩人「剣士…!」

狩人(あの四天王が剣士を狙って挙動を起こした瞬間、魔王を僕が狙撃する…!)

狩人(でも、それじゃあ剣士が…!!)

――「コツってもんがあるのさ」

狩人(…! そうだ)

狩人(僕は僕の仕事をしなくちゃ)



剣士「ちぇえありゃあぁあッ!!」ギュンッ!

炎獣(くっ、かわしきれない! 打ち返すしかない!)

炎獣「ふっ!!」ドシッ

剣士「かフッ…!?」

剣士(なんてェ破壊力だよ。ジャブで死ねるぜ、こりゃ)

剣士(…だが、掛かったな!)


狩人(今!)

――ズドンッ!

炎獣「!」


炎獣「――ッ」ヒュッ

炎獣「…危なかった」ポロ…

狩人(なっ!? あの体勢から反応をして…弾丸を掴んだっていうのか!?)

炎獣「見つけたぞ」ギロ

狩人(まずい…ッ!)

剣士「うらぁあぁッ!!」ドシッ!

炎獣(! 当て身!)

剣士「今しかねェッ! やれェ!!」


斧使い「っ!」バッ

エルフ「くっ!」バッ


炎獣「ち、あそこにもいたか!!」


斧使い「おおおおおおッ!」

エルフ「魔王ぉおっ!」

ダッダッダッダッ!


魔王「…来たわね」

木竜「姫様! いま力を使われてはまた…!」



炎獣「どけ」バキッ

剣士「うがッ!!」

狩人「っ! 剣士ぃ!!」


炎獣「…させるかよ」ドッ


狩人(な、なんて跳躍だ! 一瞬でエルフ達との距離を詰めて――)

魔女「狩人」

魔女「おぬしは魔王から照準を外すな」

狩人「!」

魔女「妾たちがもう一度チャンスを作る。だから」

魔女「誰が死んでも、決して視線をそらしてはならん」

狩人「…っ!!」


炎獣「魔王に、触らせるか!」

エルフ(ーっ! 追い付かれるっ!)

斧使い「先に行け」

エルフ「!? 斧使い――!」

斧使い「…」コク

エルフ「…くっ!」


エルフ「おおおおおおおおおおっ!!」


《…教えてよ。死ぬかもしれない戦いで、少しでも勇気を出す方法》

《あァ。それァな…》


《戦友を信じること、だ…》



斧使い「…」ザ…

炎獣「邪魔するなら遠慮しねえぜ」

炎獣「炎ぉ」

炎獣「パンチッ!」


ゴッ


《拍子抜けしたか? …でもなこれが案外、バカに出来ねェのよ》

《戦友ってのは、普通の縁とはちょっと違う、奇妙なモンで》

《食うメシも、眺める星も、死ぬ所だって共にするかもしれねェっていう、妙な共同体意識みてェなもんが芽生える》

《目にする最期の景色すら、隣のコイツと一緒なのかもしれねェ…って思うと》

《ああ、もし糞ったれた最期の瞬間を今日のこの日に迎えたとしても》

《俺はひとりじゃないんだって》

《それが例え見知らぬ誰かだったとしても。一緒に逝く奴がいるんだって…そう思える》


斧使い「」ボロッ…

剣士「…斧…使い…!」

狩人「…う」


狩人「うわああああああああああああああああああああああああっ!!」


炎獣「! 死んでも倒れねぇとか、お前ほんとに人間かよ」

斧使い「」

炎獣「邪魔だ」グシャ


《死ぬ瞬間がひとりじゃなくて良いってェだけの事が》

《案外、救いになるもんなんだぜ》




エルフ「食らえ…!」

魔王「!」ザ…

エルフ「大妖精の矢!!」

エルフ(あれっ…!? 景色が回って)

炎獣「捕まえた」

ボキボキボキッ!

エルフ「ヒュッ…」


剣士「エ…ルフっ!」


狩人(…見ちゃ、ダメだ)

狩人(見ちゃダメなんだ。照準をずらすな)

狩人(照準をずらすな照準をずらすな照準をずらすな照準をずらすな照準をずらすな照準をずらすな)



《…キミがそんな事を思ってたなんて、少し意外だったなあ》

《そうじゃな》

《っるせェ! だから、今まで誰にも教えずにいたんだろォが》

《でもよ。最後の最後くらい…》

《ひとりじゃねェんだって、この感覚を………伝えてみたくなったんだよ》


魔王「炎獣…!」

炎獣「悪い、魔王。ちょっとヒヤッとさせたか?」

炎獣「でも、気ぃ抜くなよ。まだ終わってねぇ」

魔女「その通りじゃな」

炎獣「!」

魔女「超強化雷魔法」

バリバリバリ…!

炎獣「っ…でけぇ雷でも落とすってか?」

魔女「ああ。妾を殺したところで、もう詠唱は止まらぬぞ」

炎獣「…てめぇも死ぬだろ」

魔女「承知の上じゃ」

炎獣「ちっ!!」

炎獣「爺さん! 全力で離れるぞ!! 魔王、捕まれ!!」バッ


魔女「せいぜい足掻け…」

剣士「…かふっ」

魔女「………すまぬな、剣士。巻き込む」

剣士「…あー、あ」

剣士「…せっかく、なら、絶世の、美女と、心中した、かった、ぜ…」

魔女「それなら、申し分なかろう」

剣士「…ババア、は、ごめん、だ」

魔女「まったく。最後まで口の減らぬ奴よ」

魔女「…だが」

斧使い「」

エルフ「」

魔女「お前の言った通り…」

剣士「………あァ」






《最期の瞬間に、きっと俺らは…》


《ひとりじゃ、ない》




カッ


ズゥン……





炎獣「はあっ、はあっ…」

炎獣「ギリッギリ、だったぜ」

魔王「炎獣、その腕…!!」

炎獣「あ、ああ。片腕雷に持ってかれちまった」

魔女「爺。私の治療はもう平気だから、炎獣を…!」

木竜「承知ですじゃ」

炎獣「待ってくれ。まだ、終わってねえ」

炎獣「もう一人いる。今の落雷で位置が掴めなくなった」

炎獣「魔王を狙ってる」

木竜「…どうやら気配の消し方が相当上手い奴のようじゃのう」

炎獣「ああ」

炎獣(何処だ。何処から狙ってくる…)









狩人「………皆の、仇」

狩人(食らえ!!)

パァンッ!


炎獣「!」ドシュッ

魔王「炎獣!」

炎獣「うぎッ…!」

炎獣(俺を狙ってきやがった!? くそ、只の弾丸じゃねぇな、こりゃ…肉体に食い込んでやがる)

炎獣(裏をかかれた、当たり所が良くねえ。…でも)

炎獣(俺の勝ちだ。守りきったぜ)

炎獣「返すぜ、この弾」ズボ…

炎獣「おらッ!」ボッ


ドスッ


狩人「あッ…」

狩人「」ドサ…





《…分かる気がする。魔女のばっちゃんが、言ってくれたよね》

《″一緒なら大丈夫″なんだって…》

《…そうじゃったな》

《俺たち翼の団は、ずっと一緒に死線を越えてきた》

《ああ、こりゃァ死ぬかもしれねェなって時、そういう奴らと肩を並べられてるってのは》

《俺に言わせりゃ、幸せな最期だぜ》


《だから、願わくば………》



ズゥ…ン!!

「ぐわァアアァッ!」


騎士「くっ…!!」

騎士(最早、この突撃についてきているのはたった…)

騎士(たったの十騎)

騎士「栄華を極めし王国の正規軍も…」

騎士「共に戦い続けた翼の団も………」

騎士(………もう、その影は見えない)

騎士「…っ」ギュウ

騎士「この戦いに、仮に勝てたとして、それの後人類は…」


死神「…」ブゥン

ドシャアッ!!

「ぎゃあぁああッ!」

「ぬぁあぁあっ!?」


騎士「…!!」

騎士(さらに半分、やられた…!)


騎士(――…意味など、ないのか)

騎士(受け入れてしまおうか)

騎士(敗北を。…絶望を)

騎士(もう………止めて、しまおうか)

――「だらしねェな! 鉄人形!」

騎士(!)

――「あれほど死に急いでおったお前が、音を上げるのかの?」

――「だから僕はアテにならないって言ったんだよねー、騎士道精神なんてさ」

騎士(何を…)

――「その鉄の着ぐるみは何の為に着けてんだ、あァ?」

――「もう、止めてあげなよ! 誰でも弱音を吐きたい時はあるでしょ?」

騎士(…)



死神「…」ブゥン


騎士「ッ!」

――ズバァアッ!


騎士「…はあ、はあ」

騎士「あ、危なかった…。しかし…」

騎士(しかし、まだ、生きている)

騎士(生きていて、良かった)

騎士(良かったと、まだ思える)

騎士「………さっきのは幻聴か」

騎士「…ふっ。だが」

騎士「思い出したぞ。我輩が誰なのかを」

騎士「――我輩は翼の団、死をも恐れぬ騎士団の長!!」


騎士「この前進は」


騎士「ただ自由を得るために!!!」



《願わくば、一人で立ち向かうアイツらも》

《隣で戦う俺たちを》


《感じてくれりゃ、いいな》




騎士「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」











死神「…」


ブゥン…










軍師「…」

雷帝「………何を言っている、貴様は」

雷帝「では、貴様の指示にしたがった人間はみな」

雷帝「犬死にだと、言いたいのか」

軍師「…」

軍師「あの人はね…もう居ないんです」

軍師「私は、″翼の団を勝利に導く常勝の軍師″から」

軍師「″魔族の生まれ変わりのような血の通わない女″に、逆戻りしてしまったんです」

軍師「だから、彼らをこうして殺して、平気でいるんですよ」

雷帝「………何だと」

軍師「でもね。ただ死んでいったんじゃ、それって復讐にならないでしょう?」

雷帝「これだけの囮を使った本命が、いるとでも言いたいのか」

軍師「さあ、誰だと思います?」

雷帝「………」

雷帝(騙されるな。圧倒されるな。全てはこの人間の妄言に過ぎない筈だ)

雷帝(単なる時間稼ぎ…だとして、時を得て利があるものなどこいつにはひとつもない)

雷帝(こいつは、もう、狂っているのだ)

軍師「あはははは。こうして、四天王を手玉に取っているのって、悪い気はしないですね」

雷帝「…」ス…

軍師「………さて、そろそろ貴方も痺れを切らして、私を殺してしまうかもしれません」

軍師「だからひとつだけ、種明かしをしましょうか。これを見て下さい」

ジャラ…


雷帝(…ネックレス? 何だ、この宝珠。この、波動は…)

雷帝「…ッ! 貴、様…!?」

軍師「凄いでしょう? 港町の武器商会っていう外道の集まりがあってですね、そこに流れていたものなんですけど」

軍師「こんな事もあろうかと、手に入れておいたんですよ」

雷帝「なぜ、そんな事が…ッ!!」

軍師「ね? 私も分かりません。でも、この世も末ってことですよ。汚らわしい私にはよく似合うでしょう?」

軍師「これ、一度首から下げたら、私が死ぬまで取れないんですよ。ちょっと不便なんですけど、それも今日までの我慢ですから」

軍師「それはそうと、貴方の魔剣を使った代償って、呪いの炎に焼かれるんでしたっけ?」

雷帝「!」

軍師「敵がいなくなると、その副作用も発動するんですよねぇ? その呪いと、コレの破壊力、同時に受けて――果たして無事でいられますかね?」

雷帝「くッ――」

軍師「そうそう、コレの起爆のスイッチは、私の″死″です」

雷帝「!」ピタッ

軍師「あはは、迂闊に殺せないですよね、これだと。そうだと思って…」

雷帝(こいつ、舌を――まずい、電撃で気絶させ――)


軍師「」ガリッ


雷帝「!!」


軍師(ねえ)

軍師(私も、貴方達と一緒の場所へ行けますか)

軍師(これだけの事をしておいて)

軍師(許されますか)

軍師(………盗賊………)

盗賊(もし出来るなら、貴方の元へ………)







     ズ   ッ




炎獣「!!」

木竜「な、なんじゃあ!?」

魔王「――この光」

魔王(何故、敵の砦から、この光が!!)

魔王(…待って)

魔王(あそこには、まだ雷帝が…っ!!)




魔王「雷帝っ!!」







今日はここまでです
盗賊編は終わり、次から新章です
もしかしたら再来週になるかもしれません

>>341 名前ミスってない?


>>354
ありがとうございます

>>346訂正
魔女「爺。私の治療はもう平気だから、炎獣を…!」

魔王「爺。私の治療はもう平気だから、炎獣を…!」

>>326ついでに訂正
木竜(魔王様を…お前自身を、救うんじゃ)

木竜(姫様を…お前自身を、救うんじゃ)

本編投下は来週(以降)になりそうです

安価ミス…
>>346の訂正ではなく、>>341の訂正でした

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