【ガルパン】エルヴィン「決闘を申し込む!!!」 (510)

エルヴィン「………はぁ」

「エルヴィンのヤツ、最近ずっとあの調子ぜよ」

「ああ、気がつくとアンニュイな顔でため息ばかりついているな」

エルヴィン「………」

くりくりくり……

「あっ横髪いじってるぜよ」

「そんなんしてるからあんなとんがっちゃうんだろうに……」


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エルヴィン「ううう……」

いじいじいじ……

「今度は突っ伏してるぜよ……最近机の天板の欠けが大きくなってると思ったら……」

「全く、プリント置いた時にガタガタするから困るんだよな。しかし見ちゃおれんなぁ……」

カエサル「あぁ、ありゃ、恋だな」

おりょう&左衛門佐「「うわぁ!!!」」

エルヴィン「うおっ!何だお前達、帰ってきてたなら言えよ!」

おりょう「ああ、ただいまぜよ」

左衛門佐「というか、私達はちゃんとただいまって言ったぞ。お前が気付いてなかっただけで」

エルヴィン「えぇ?あぁ、そうか、すまんな……」

カエサル「エルヴィン、恋はいいぞ」

左衛門佐「おまっ」

エルヴィン「はぁ?何だよ藪から棒に」

カエサル「好きな子がいるとな、それだけで毎日が煌めく。お前だってわかるだろう。何でもないようなことが幸せだと感じるんだ」

おりょう「ひなちゃんと電話した後に白米の一粒一粒に感謝してるやつは言うことが違うぜよ……」

エルヴィン「……分からんよ。というか別に恋愛とかではない」

カエサル「えぇっ?うっそだぁ、だってお前、完全に恋する男の子の顔だったぞ」

エルヴィン「るさいっ!気にしてるんだから言うな!」

カエサル「なんだよぉ~、言えよぉ~。絶対他のヤツには言わないからさぁ。何なら手伝うからさぁ」

つんつん

左衛門佐(うざっ)

おりょう(カエサル恋愛沙汰が絡むと途端にうざくなるぜよ……)

エルヴィン「……別に、好きってわけじゃないし」

カエサル「ん、ん、ん~??」

エルヴィン「……何でもない」

カエサル「あああ~すまんすまん!ついな!可愛くてな!」

おりょう「そうぜよ。カエサルのアホは気にせずどーんと言うぜよ」

左衛門佐「ああ、同じ屋根の下で暮らしている以上、くさくさした顔ばかりされてると敵わんしな」

エルヴィン「なんだよ、……お前達は結局楽しみたいだけだろう」

カエサル「否定はしない。だが、それだけでもないぞ。ほれ、おりょう、もんざ」

エルヴィン「ん?あっ」

おりょう「……まぁ、なんだ、最近元気なかったし、たまにはぜよ」

左衛門佐「しかし、考えることも一緒でなぁ。……もろに被ってしまった」

エルヴィン「ミセスドーナッツ……ソーセージドーナツも……」

カエサル「お前が辛気くさい顔してると調子狂うんだ、我々は。イラっとくるくらいのドヤ顔が、お前に一番合っている。ちなみに私からはこれだ」

おりょう&左衛門佐「「えぇ……」」

カエサル「備えあれば憂いなし。ローマ軍の強さは兵站に拠った。いざって時に、気合をこう、な」

左衛門佐「その目つきやめろ」

おりょう「完全に獣のそれぜよ」

エルヴィン「ったく……でも、まぁ、すまなかったな。そんな心配かけてるとは思わなかった」

カエサル「謝罪は良い。誰だ。はよ、はよ」

エルヴィン「……良いんだよ別に。勝ち目ないし」

左衛門佐&おりょう((おっ))

カエサル「ということは恋ということは認めるんだな!?」

エルヴィン「……まぁ」

プワオ~プワオ~!!

エルヴィン「わ゛っ!!」

カエサル「者ども出会え出会え!!」

おりょう「出陣ぜよ!エルヴィンの夜明けぜよ!!」

エルヴィン「お前ら騒ぐな!バカ!あと左衛門佐!テンション上がると法螺貝吹くのやめろ!」

左衛門佐「す、すまん。真田の血が戦を感じて……」

エルヴィン「戦じゃない!」

カエサル「バカ者、恋は戦争だぞ」

エルヴィン「あのなぁ……」

おりょう「ほらほら、バカ二人はほっといて。誰ぜよ?誰ぜよ?」

エルヴィン「お前も一緒になって騒いでただろう……」

おりょう「まあまあ。で?」

エルヴィン「全く……えー……あー…………。私はお前達のことを信頼して言うんだからな」

カエサル&おりょう&左衛門佐(((こくこくこく)))

エルヴィン「誰にも言うなよ、あといらん手伝いもしないでくれよ」

カエサル「我々はお前の悪いようにはしない。それは分かってるだろ?」

エルヴィン「……う……その……引くなよ……」

左衛門佐「当たり前だ!で、誰なんだ?」

エルヴィン「……うぅ………ぐ、グデーリアン」

ガタガタガタッ!!

おりょう「おほおおお……なるほど、なるほど……」

左衛門佐「ははあ、今思えば、お前、確かに一緒にいるとみょ~にカッコつけてたしなぁ」

カエサル「意外ではないな」

エルヴィン「ひ、引かないか?」

左衛門佐「何故?」

エルヴィン「だって、女の子同士だし……一緒に暮らしてるわけだし……」

おりょう「何を今更。というかこいつだって真性で、お前さんよりよっぽど危ないヤツぜよ。でもお前さんだって引かずに普通に暮らしているぜよ」

カエサル「ふふん」

左衛門佐「なんでドヤ顔なんだ……」

エルヴィン「お前達……」

カエサル「それで、どうして惚れたんだ、んん?」

エルヴィン「どうしてっていうかその……わ、私は自分ではノーマルだと思ってたんだぞ?」

カエサル「そんなことはどうでもいい。どこらへんが気に入ったんだ?」

エルヴィン「……優しいところと、明るいところと……かわいいところ」

左衛門佐「……お前、小学生男子か」

おりょう「まあ、得てしてそういうもんぜよ。……多分、プラウダ戦辺りで何かあったんだろうけど」

カエサル「ほうほう。で、その優しくて明るくてかわいいグデーリアンをどうしたい?ん?」

エルヴィン「あ、あの笑顔を守ってあげたい……!」

左衛門佐(悶えてる)

エルヴィン「帰ったらご飯とか作っててくれてて、料理してる後ろ姿にそっと抱きつきたい……!」

おりょう(妄想逞しいぜよ)

カエサル「このバリタチめ。……しかし、確かに厳しい戦いだな」

左衛門佐「………ああ」

エルヴィン「…………」

おりょう「ああ、グデーリアンは隊長のこと大好きっ子だから……」

エルヴィン「う……」

カエサル「こら、おりょう!」

おりょう「事実ぜよ。そこは避けては通らんぜよ」

左衛門佐「……まあ、それはその通りだが」

エルヴィン「……だから言っただろう。別にいいんだって」

カエサル「なんだ、戦わずして逃げるのか?」

エルヴィン「しかし、西住隊長にべたべたしてるときのあのグデーリアンの幸せそうな顔を見てるとなぁ……」

カエサル「お前は、隊長よりグデーリアンを幸せにしてやれる自信はないのか?」

エルヴィン「そ、それは……隊長は人間的にも確かに魅力的だし……」

カエサル「お前だって十分魅力的だ。一緒に暮らす我々が保証しよう」

エルヴィン「え」

おりょう「全く……たかちゃんは恥ずかしいやつぜよ」

左衛門佐「ま、否定はしない。面倒見いいし、家事も良くやってくれる。男前だしな」

エルヴィン「あ、あのな……。しかし、グデーリアンの好きな戦車においても、戦車道の腕前で水をあけられているし……」

カエサル「戦車道がなんだ。お前は彼女と共通の興味を持つ。西住隊長の戦車に抱く想いとお前のそれとでは、お前の方がよりグデーリアンに近い。つまり話が合う。逃げる理由にはならんぞ」

エルヴィン「う、うむぅ」

カエサル「それに、隊長の興味の大半はあの不気味なクマだ。正直グデーリアンと趣味は合わないだろう。その上好物は……マカロン。マカロンて!あんなの買ったことないわ!女子か!」

おりょう「おまっ」

左衛門佐「女子だろ。ていうかそれ絶対隊長の前で言うなよ。絶対だぞ」

カエサル「わ、私も言ってから怖くなってきた。聞かれてないよな……?」

エルヴィン「そりゃ大丈夫だと思うが。……しかしなぁ」

カエサル「……隊長は乙女たらしと呼ばれているよな?」

エルヴィン「……あぁ」

カエサル「想像してみろ。隊長の2号3号として扱われるグデーリアンを」

エルヴィン「!!!」

もんもんもん……

優花里「あっ西住殿、おかえりなさい!ご飯できてますよ!あっ、お風呂にします?そ、それとも……」

みほ「うーん、今日はエリカさんのとこで食べてきたからいいや。お風呂も入ってきちゃった」

優花里「そ、それって……」

みほ「だからデザートに優花里さんをもらおうかな?」

優花里「あ、あぁ、西住どの、うぅ、だめぇっ……」

みほ「あは、優花里さんはほんとに私のことが大好きだね!」

もんもんもん……

エルヴィン「くぅぅぅう!!」

おりょう「たまげた小芝居ぜよ……なんで黒森峰の副官が出てくるんぜよ?」

カエサル「私の見立てでは、あいつは隊長とただならん関係だぞ。今もかどうかは知らんが」

左衛門佐「カエサルレーダーはあてにならんからなぁ」

エルヴィン「いや!今思えばうちの隊長は聖グロの隊長ともサンダースの隊長ともプラウダの隊長とも、あまつさえ自分の姉だろう黒森峰の隊長ともただならん関係な気がする!」

おりょう「ただ仲がいいだけじゃ……」

エルヴィン「少なくとも聖グロの隊長は怪しい!あと澤のこともたぶらかしてる節がある!」

左衛門佐「先輩として面倒見てるだけでは?」

おりょう「普段から隊長に色々嫉妬していたに違いないぜよ。ちょっと冷静にさせるぜよ」

エルヴィン「ううう!許せん、許せんぞ西住みほ……!しかし、しかし、グデーリアンは隊長を……それなら私はどうすれば……!」

カエサル「待てカエサル。落ち着いて考えろ。……西住隊長がグデーリアンを幸せにできると思うか?」

エルヴィン「!?」

おりょう「はぁ?」

カエサル「隊長は戦車にこそ乗ればしっかりしているが、一度降りてしまえばぽわぽわぽやぽやの天然さん。しかも高校生にもなって趣味が幼児番組のキャラクターで、おまけにコンビニマニアで、マカロンだ。すなわち生活力は……」

エルヴィン「ゼロ……!」

左衛門佐「む、言われてみると……」

おりょう「箇条書きマジックぜよ。私達の隊長にはそれに負けないくらいいいところがたくさんあるぜよ!」

カエサル「無論私もそれは百も承知だ。私とて大洗の女、西住みほのことは大好きだし尊敬している。だがそれはそれこれはこれ。私は可能性の問題を言っているんだ。……なぁエルヴィン」

エルヴィン「な、なんだ」

カエサル「西住隊長の生活力のなさで、グデーリアンを守りながらこれから先生きて行けるか甚だ疑問だ。……となれば必ず、グデーリアンは誰かの手に落ちる!!」

エルヴィン「う!!」

左衛門佐「なんだ、急に」

おりょう「小芝居が始まったぜよ」

カエサル「それか隊長がグデーリアンのヒモになるか……どちらにしてもグデーリアンの幸せと言えるのかそれは!?」

エルヴィン「そ、それは、しかし私は……」

カエサル「エルヴィン!!」

ガシッ

エルヴィン「!!!」

カエサル「それでもいいのか!!お前ほどのイケメンが何を迷うことがある!!奪い取れ!!!今は歴女が微笑む時代なんだ!!!」

左衛門佐「な、なんて真摯な顔で……」

おりょう「ゲスい話を……」

エルヴィン「ふ、ふふふ……そうか、そうだ!!ふふふ……待っていろ、待っていろグデーリアン!!!」

今日はここまで。続きはまた夜に


カエサル「ふー」キラキラ

左衛門佐「なんでやりきった顔なんだこいつは……」

恋は戦争だってはっきり歴史が証明してんだね

>>18
カエサルがカエサルを呼んじゃってますよ

縮れ毛はどうなったんだ

>>1です
続きは例によって夜遅くの投稿になりそうです
レスもらえると嬉しいなあ、ありがとうございます

>>23
やってしまった……
カエサル→エルヴィンに脳内変換してもらえると嬉しいです

おりょう「お前が落ち着くぜよ……」

カエサル「う、うるさい!」

>>29
すみません、違う作者です。カバチーム好きとして私自信続き読みたいです

翌日、昼

エルヴィン(………)

カエサル『いいかエルヴィン、実る前の恋愛で大事なのは、とにもかくにも時間だ』

カエサル『無理押しはするな。だが、ここぞという時は必ず一緒にいろ』

カエサル『一緒にいる時間が増えると、自然ふたりの肩の力が抜けてくる。つまり、こいつといるとなんだか落ち着くなぁ、という状態になる』

カエサル『仕掛けるのはそこからだ!!』

カエサル『安心とドキドキの波状攻撃!ファランクスの如くじわじわと!そして決める時には戦車の如く豪胆に!その下地作りは念入りにだ』

カエサル『ま、とりあえず毎日飯を一緒に食うことからだな』

エルヴィン(……カエサル、ありがとう。お前のアドバイスにはいつも助けられる)

エルヴィン(でも、時折入るお前とひなちゃんであろうエピソード小芝居は、すまん、すごいキモかった……!)

エルヴィン(それから先走って最初から2人分の弁当を作ろうとした私を止めてくれたおりょうともんざにも頭が上がらんな……)

エルヴィン(『重すぎぜよ!』今なら私もそう思う……)

エルヴィン(そしてついにきた昼の時間……!C組前……!しかし……!)

カタカタカタカタ

エルヴィン(改めて意識すると、こんなにグデーリアンのことが好きだったのかと、自分でも引く)

エルヴィン(ぶっちゃけ緊張して午前中の授業全然覚えてない。そのくらい緊張している。正直戦車道の試合より緊張している)

エルヴィン(手をかけたドアに震えが移りそうだ。あ、いや、もう、いっ、いけっ、いきっ、いっ、)

カタカタカタカタ

エルヴィン(…………入れん!!!)

エルヴィン(ど、どうする?コートと帽子脱ぐか?いやいや、これは私の魂、アイデンティティ。それをしたら私ではない。いやしかし、私は元々日陰側の人間)

エルヴィン(『やぁやぁグデーリアン!!飯でもどうだ?』揚々と教室に入る。『えっ……誰?』『てかグデーリアンってなに?』『もしかしてあだ名?きも……』)

エルヴィン(一気に集まるなんだあの痛い子は、的な視線。でもグデーリアンはきっと『あ、エルヴィンどのー!!』とか言ってくれちゃう。そのあとうわって空気になるのを知った上で………)

エルヴィン「……耐えられん!!ここはひっそり、いやしかし」

ガラッ

優花里「あれ?エルヴィンどの?」

エルヴィン「うおっわっ!!」

優花里「うわああ!!!」

エルヴィン「あ、ああ、グデー……あ、いや、……秋山さん、はは、ははは、すまんな、脅かしてしまって」

優花里「え?い、いえいえ……どうしたんですか?エル………あの、松本、さん?」

エルヴィン(ぐっはっ!!!)

優花里「?、??……あの、教室のドアがガチャガチャしてて、みんなびっくりしてたんで、その……」

ジーーーッ……

エルヴィン「えええ??あ、そうか、あは、いや、皆さんすまんすまん、ははは……あ、グデ、その………」

優花里「え、エルヴィン……どの?」

エルヴィン「あ、あの……!い、いや、なん、でも……」

「あ、優花里さーん!」

エルヴィン「!!」

優花里「あ、西住どの!!お昼ですか?ちょっと待ってくださいね!エルヴィンどの、ちょっとすみません!」

たたた……ごそごそ

エルヴィン「………」

みほ「あれ?エルヴィンさん?どうしたんですか?」

エルヴィン「………いや、なんでもない………」

みほ「?………」

優花里「西住どの、お待たせしました!あ、エルヴィンどの……あれ?エルヴィン殿は?」

みほ「ん?ああ、どこか行っちゃったよ?」

優花里「そうですか……その、なんだかちょっとお悩みのようでしたし、ごはんご一緒にどうかなーなんて思ったんですが」

みほ「んー…………なんだかそっとしておいて欲しそうだったし、いいんじゃないかな?」

優花里「んー、でも、様子が……」

みほ「それより、みんな待ってるよ、戦車倉庫!そど子さん達にばれないように、ね?」

優花里「!はい!スニーキングですね!わくわくですぅ!」

みほ「うん!………………うん」

エルヴィン「しぬ」

カエサル「ど、どうしたエルヴィン、帰ってくるなり」

ごろん

おりょう「おいおいおい何があったぜよ。お前それ呼吸できんぜよ」

エルヴィン(………もご………)

カエサル「………………おまっ、ちょっとほんとにどうした!!」

がしっごろん!

エルヴィン(ひゅー………ひゅー………)

おりょう「おお、もう……」

カエサル「……なんだ、しくじったのか」

エルヴィン「……………」

おりょう「ええ、ただ飯に誘うだけぜよ?」

エルヴィン「うっ……!」

カエサル「バカ!おりょう!おまえ!意中の人を飯に誘うのがどれだけ大変か分かってるのか!!!」

おりょう「ん、んなこと言っても、前まで普通に話せてたぜよ」

カエサル「ん゛な゛!!!おまえな!!!意識するとそうなっちゃうんだよ!!!分かれよ!!!」

エルヴィン「う、うう、ううう………」ぽろぽろぽろ

おりょう「ええ!?あの、エル、その、すまん……」

カエサル「たく……、ほら、エルヴィン。きついだろうけど事の顛末。それで作戦会議だ」

エルヴィン「ううう、カエ゛サル゛ぅ………きつい゛」

カエサル「分かってる。だからきついうちに話せ。その悔しさを自分に刻み込むために」

エルヴィン「う゛、う゛ん゛」

おりょう(カエサル頼もしいぜよ)

タダイマー
ガララッダダダダダッ

左衛門佐「おいエルヴィン!どこまで行ったよえーびーしーでぃーいーえふじーー!!!」

ガラッ

左衛門佐「あれ?」

カエサル「おまえーっ!!おまえなぁぁぁー!!!エルヴィンをなーー!!!このタイミングでなぁぁあーー!!!!」

左衛門佐「えっ、へっ、なにっ、あ゛っ!あ゛だだどぁだだだだ!!!」

おりょう「それ以上いけない!!」

エルヴィン「」

おりょう「し、死んでる……」

カエサル「……で、おめおめ逃げてきたと」

エルヴィン「うん……」

おりょう(そりゃ、たしかにきついぜよ……)

左衛門佐(私達は似た者同士。その辛さは少しは分かるな……)

エルヴィン「私もうだめだ……学校いきたくない……C組の前を通りたくない……」

おりょう(横髪がへたりにへたってる……重傷ぜよ)

カエサル「何言ってんだ。C組のやつらなんか誰もお前のことなど気にしてない」

エルヴィン「グデーリアンのことを私は………うう、……ううう、ださすぎる……」

カエサル「ああ、ダサいな。それが今のお前の地力ってことだ」

左衛門佐「おい、カエサル」

カエサル「黙ってろ左衛門佐」

エルヴィン「……もうだめだ、これからグデーリアンにもなんだこいつみたいな眼で見られると思うと……」

カエサル「馬鹿者!お前の好きなグデーリアンはそんなことでお前を軽蔑するようなやつか!?」

おりょう「うおっ!」

左衛門佐「きゅ、急に立つなよ!」

エルヴィン「そ、それは……」

カエサル「いいかエルヴィン、主観的に見て、お前はクソダサだろう。……だが、落ち着いて客観的に考えろ」

エルヴィン「ええ……?」

カエサル「普段はしっかりしている奴が、何やら只ならぬ様子で、しかもどうやら自分に用事があったらしい」

エルヴィン「?」

カエサル「だが結局その用事は聞けず仕舞いで、塞ぎ込んだまま何処かに行ってしまった」

エルヴィン「……それがなんだよ」

カエサル「さて、ここで一つ考えろ。グデーリアンがお前でお前がグデーリアンの立場だったらどうだ?」

おりょう「ふむ」

左衛門佐「そりゃ、まあ………」

エルヴィン「…………………気になる」

カエサル「そこだ!まさに!!グデーリアンの頭の中に、『なんだか様子が変なエルヴィン』が刻み込まれた!!これは大きい!!大きいぞ!!お前の失態なぞこれに比べりゃ大したこたない!!!」

エルヴィン「そ、そんなの刻み込まれても……」

カエサル「まぁ待てこのナルシストめ。お前がグデーリアンを想う頻度とグデーリアンがお前を想う頻度、これは全く違う。ここがそもそもの問題点、いや、論外点だ」

エルヴィン「うっ……」

左衛門佐「妙な造語を……」

おりょう「ま、言わんとするとは伝わるぜよ」

カエサル「だがしかし、ここでいつもと違う変なエルヴィン像が記憶された。するとどうなる?」

エルヴィン「どうって、……ダサいなって」

カエサル「そう!心優しいグデーリアンはお前のことが、すごーーーく気になる!!!」

左衛門佐&おりょう「「!!!」」

エルヴィン「え!?そ、そうかな……」

カエサル「間違いない。仲間のためなら例え火の中敵の中なやつだ。普段は思い浮かべもしないお前の姿が、しかも様子のおかしいお前の姿が脳裏に浮かぶんだ。きっと午後の英語の授業あたりだろうな。『ABC……やっぱりなんか変だったであります……心配であります……あうあうう』ってなる」

エルヴィン「…………」

カエサル「そして、あいつ、気になったことはとことんやるタイプだ、つまり……」

ピンポーン

エルヴィン「えっ!」

あっあの、秋山です!突然すみません、お邪魔しても良いですかー?

エルヴィン「!!!!!」

カエサル「………こうなる」

左衛門佐「おいおい……」

おりょう「マジかぜよ……!」

カエサル「……さぁ、大チャンスだな、エルヴィンくん」

エルヴィン「ぐ、ぐで、ぐでぐでぐで………」カタカタカタカタ

カエサル「意中の人が、お前の城に来ちゃったぞ?」

エルヴィン(グデーリアン!!!!!)

あのー?

エルヴィン「あっ、はい!はいはいはいはいはい!!!!」

カエサル「待て」

ガシッ

エルヴィン「ぐえっ!な、何する!?」

カエサル「二の舞はするなよ。お前の主観的なダサさは決して忘れるな。腹をくくれ、砂漠の虎だろ?」

おりょう(むっ……)

左衛門佐(全く、臭い言い回しだ)

エルヴィン「おっ………おう!………グデーリアン!!!待たせた!!!今開ける!!!」

ダダダダダッ

ガチャッ

今日はここまでです
読んでくれてありがとうございます


カエサル「はいストーップ!!」

エルヴィン「は、放せカエサル!この先に!この先にグデーリアンが!!うおおグデーリアーーン!!!」

左衛門佐「続きは」

おりょう「また明日の夜ぜよ!」

ガチャッ

優花里「あっ、え、エルヴィン殿、いきなりすみません……」

エルヴィン「(かっ、かわわ!!ぐででで…………虎!!)よ!ようこそ、グデーリアン……さぁ、お上り」キリリッ

優花里「ど、どうも……」

カエサル(ばっかかっこつけろってことじゃないだろ!!)

左衛門佐(あああそっちの方がよっぽどおかしいぞ悪い意味で)

おりょう(はぁぁあ~怖い、怖いぜよぉぉ)

優花里「お、お邪魔します……」

エルヴィン「何を、邪魔なもんか!さ、客間に……」

優花里「はぁ……」

カエサル(目に見えて困惑しているぞ……)

おりょう(そりゃ、心配して見に来た奴がみょ~にかっこつけて出迎えてきたらそうなるぜよ……)

左衛門佐(お前のせいだぞバカ!カエサル!)

カエサル(なんでだよ!!)

左衛門佐(お前が砂漠の虎だろぉ、とかかっこつけて言うから伝染したんだろバカ!エルヴィンのかっこつけ癖知ってるだろバカ!この、バカエサル!!!)

カエサル(な、なな、なんだとぉ~~!?)

おりょう(おいバカ共!!黙るぜよ!!)

ガラッ

エルヴィン「あれっ?」

優花里「?皆さんいないみたいですよ?」

エルヴィン「そんなはずは……ああいや!そうか、そうだな。うん、みんなあのー、買い出しだ」

優花里「買い出し?」

エルヴィン「ああ、歴史書の買い出し。全く、歴史大好きだからしょうがないなぁ、全く」

優花里「でも、この艦の本屋のラインナップは寄港まで変わらないですよ?大体読み尽くしてしまってるんじゃ……」

エルヴィン「………裏本屋さ!」

優花里「裏本屋?」

エルヴィン「学園艦の地下迷宮には、謎のご老人の営む裏本屋があるんだ」

優花里「はえええ……」

エルヴィン「ああ、学園艦の奥深く。誰も足を踏み入れられないようなところだ。そこには一般には流通されていない歴史の真実を描いた書物や、激レアな研究書など、大変貴重な書物が置いてあるんだ。その店構えはまるで本の谷のごとく……壮観だぞ」

優花里「すっ、すごいです!もしかして、裏本屋さんには実際の戦車に関する機密書類とかがあったりするんですか!?じっ、実際に使われた作戦書類とか!ペーパープラン戦車の仕様書とか!!」

エルヴィン「えぇ!?ど、どうだろうな~、戦車はな~……」

優花里「そっ、そんな、お願いですエルヴィン殿!今度私も連れていってください!!」

がしっ

エルヴィン「!!!あっ、あっ、あっ、当たり前だ!!もちろんだ!!!」

優花里「や、やったぁ!約束ですよ!楽しみにしてますからね!!」

エルヴィン「おっ、おう!!や、うむ!!」

カエサル(ば、バっカもの~~!!くだらん嘘ほど信用を無くすものはないというのに!!)

おりょう(なんぜよ裏本屋って……聞いたこともないぜよ)

左衛門佐(………裏本屋ってエロ本屋のことだぞ、一般的には)

カエサル&おりょう「ぶふっ!」

優花里「??何か今変な音?が……」

エルヴィン「(バカバカ!忍べバカ!この下忍!!そんなんで火影になれるか!!)ああいや、……猫じゃないか?」

優花里「猫ですか?」

エルヴィン「ああ、近所の猫がな、………よくむせるんだ」

おりょう&カエサル&左衛門佐(((!!)))

エルヴィン「むせ猫ちゃんだ」

おりょう&カエサル&左衛門佐(((~~~!!!)))

優花里「う~ん、病気とかでしょうか、かわいそうです……」

エルヴィン「あっいや、病気とかではない、と思う。ただ、バカだから。バカだから食べすぎちゃうんだな、うん」

優花里「えぇ?食べすぎですか?ふふ、それはちょっと、五十鈴殿みたいでかわいいですね」

エルヴィン「あ、ああ、いや全くその通りだ、うん……」

おりょう(ふう~~……落ち着いたぜよ)

左衛門佐(なんなんだよ……なんなんだよむせ猫ちゃんって……)

カエサル(ふ!おい、やめろ!…………全く、意外と天然なとこあるからな、二人とも。……まぁ、怪我の功名か、いい具合に力抜けたなエルヴィン。さてここからか……)

優花里「……でも、良かったです」

エルヴィン「へ?」

優花里「昼のエルヴィン殿、なんだかちょっとその、変な感じでしたから」

エルヴィン「へ、変か、そうか、変か……」

優花里「ああいやあの!違うんです、エルヴィン殿、こう、いつもと違ったというか、元気が無かったから、心配だったというか……」

エルヴィン「……それはすまなかった。心配をかけたな」

優花里「あっいえ!私こそ勝手に心配して押しかけてしまって……あっ、アポとか!そうだ、無しで、また、あぁ、ご迷惑ですよね?すみません」

エルヴィン「なっ、迷惑なわけないだろ!グデーリアンが迷惑なわけない!それならその他の人間なんて……もう……なめくじさ!!」

優花里「へっ?……んふっ、エルヴィン殿、い、意味がわかりませんよ、あははは」

カエサル(おっ)

おりょう(空気がまたちょっとやわらいだぜよ)

エルヴィン「う、うむ……うむ。とにかく迷惑なんかじゃない。むしろ嬉しい。……時間の許す限り寛いでいってくれ」

優花里「ふふふ……じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」

左衛門佐(……う~む、笑うグデーリアン…………エルヴィンの気持ちも分からなくないな)

カエサル(横恋慕なんてするなよ)

左衛門佐(分かってるよ)

エルヴィン「あっ、そうだ、お茶!お菓子!すまんな気が回らず、今出すから」

カエサル(よし)

優花里「あっ、お気になさらず!」

エルヴィン「私が出したいんだ。バームクーヘン、好きだろ?」

優花里「えっ大好きです!なんで知ってるんですか!?」

エルヴィン「!そ、ん、私は……物知りだからな」

優花里「??ふふ、よくわからないですけど、ありがとうございます、頂きます」

エルヴィン「う、うんうん!遠慮なんてするな、たんと食べてくれ。ちょっと待っててな」

おりょう(……そういえばちょっと前、バームクーヘン買ってきてたぜよ)

カエサル(あいつが菓子を買ってくるなんて珍しいと思ってたが、なるほど、これを見越してならやるじゃないか)

左衛門佐(や、その時は寂しげに笑いながら『少しでも一体化したくてな』とか言ってたぞ)

おりょう(うわぁ………)

カエサル(気持ちは分かるぞ。……早いな。相変わらず手際はいい)

優花里「わはぁ、美味しそう。ありがとうございます」

エルヴィン「ああ、遠慮なくいってくれ。おかわりもある」

優花里「えへ、頂きます。……!」

エルヴィン「ど、どうかな?」

優花里「え、エルヴィン殿、おいひい!」

パシパシ

エルヴィン「うっ、うんうん!!おいしいおいしい!!」

優花里「もう、食べてないじゃないですか!」

エルヴィン「あ、ああ!いや、グデーリアンの顔から美味しさが伝わってきてな、ふふ、ふふふ」

優花里「?変なエルヴィンどの。でも、ありがとうございます!…………あっ、あの、そういえば気になっていることがあるんですけど」

エルヴィン「?なんだ?」

優花里「お昼のご用事、なんだったんですか?」

エルヴィン「あっ、ああ、あれは、その……」

優花里「?」

おりょう(あっ、あのエルヴィンの顔!)

左衛門佐(ヤバいぞ!くだらん見栄を張るときの顔だ!!)

カエサル(くっ!)

サラララッ!

エルヴィン「あれは、そう、ちょっと、C組に……」

カラララ……

掛け軸『下手な嘘はつくな』

エルヴィン「!……ああ、いや、あれはな……あれは……ええい!グデーリアン!」

ガシッ

優花里「へっ!?」

エルヴィン「私はお前とごはんが食べたかったんだ」

おりょう(いやいやいや、なんで肩掴むんぜよ!意味わからんぜよ!)

カエサル(いっ、いや、セーフだ。むしろグデーリアンみたいに鈍い初心には有効だ!力んだにしては暴投ではないぞ、エルヴィン!!)

優花里「そ、そうですか……」

エルヴィン「あ、ああ。どうしてもお前とごはんが食べたかったんだ」

優花里「はぁ…………」

左衛門佐(おっ、グデーリアンの顔がちょっと、あれ……赤くなってないか!?)

カエサル(おそらく二人とも混乱している。特にエルヴィン。だが、だからこそ言いたいことの本質が伝わってるんだろう。性急とはいえこうなったらもう、押すしかない!)

おりょう(しかしなぁ……)

優花里「だ、だったらそう言ってくれれば良かったのに……」

エルヴィン「す、すまん、あの時は混乱してしまって、その……」

カエサル(バカッ手ぬるい!)

優花里「で、でしたら今度から、エルヴィン殿も私たちと一緒に食べませんか?」

エルヴィン「えっ」

おりょう(くっ!やはりぜよ……!)

カエサル(当然だ。グデーリアンもかなり混乱している。自己評価が異様に低く、自分のことには途端に臆病なグデーリアンだ。無意識に取る選択は、自分が一番安定するもの……)

左衛門佐(となればエルヴィンの言葉の意味を、『流す』方向に持っていくのは必然か……!)

エルヴィン「え、や、……あんこうチームに私が入っても迷惑だろうし……」

カエサル(違う!そこじゃない!!!)

優花里「そんなことないです!きっと皆さん喜びます!あ、でも、カバさんチームの皆さんに嫉妬されちゃいますかね?なんて」

エルヴィン「そ、それは……う……」

カエサル(くっ!)

サラララッ

優花里「お、お嫌でしたか?」

エルヴィン「い、いや、それで……」

カエサル(間に合え!!!)

カラララッ

掛け軸『いいわけない!!押せ!!』

エルヴィン「!!!……それで…………いいわけない!!!」

優花里「えぇっ!?」

エルヴィン「グデーリアン!!!」

グイッ

優花里「ひゃっ!?」

エルヴィン「わ、私は、お前と、二人きりでごはんが食べたいんだ……!」

優花里「は、はひ……?」

エルヴィン「グデーリアン、私は、お前と、二人きりで、ごはんが食べたい」

優花里「そ、え、な、ん………」

エルヴィン「他のやつと一緒じゃだめだ、絶対だめなんだ」

優花里「……あ………」

エルヴィン「ぐ、グデーリアン、私、私は……!」

ピンポーン!

カエサル(え!?)

おりょう(だっ、誰ぜよ!こんな時に)

エルヴィン「……な、なんで」

ピンポーン!!ピンポーン!!

左衛門佐(くっ、しつこい!)

優花里「え、エルヴィン、どの……?」

エルヴィン「あぁ、あぁ、待て、待ってくれ、……ぐ」

あのっ、すみません!西住です!エルヴィンさん大丈夫ですかー?

エルヴィン「!?!?」

おりょう(なっ!)

優花里「にっ、西住どの!?」

カエサル(くそっ、よりによって……!)

左衛門佐(わ、私出てくる!)

おりょう(バカ!そしたら全てが台無しぜよ!!)

優花里「あ、あの、エルヴィン殿」

エルヴィン「(くっ!!)ちょ、ちょっと待っててくれ、グデーリアン、今出てくる」

優花里「あの、でも……」

エルヴィン「待っててくれ!!」

とりあえず今日はここまで
読んでくれてありがとうございます。嬉しいです

続きはまた明日の夜に


カエサル「まっててくれ!!」

エルヴィン「真似するな!!」

おりょう「なんでそんなにグデーリアンが好きなんぜよ?」

エルヴィン「う、うるさいな、色々あったんだ……」

左衛門佐「ふふふ、真っ赤だな、おい」

みほ「許さん死なす」

カバさんチーム((((えっ!?))))

ガチャ

エルヴィン「にっ、西住、さん」

みほ「あ、エルヴィンさん、ご、ごめんなさい!急に押しかけちゃって」

エルヴィン「いっ、いやいや……その、出来れば連絡が欲しかったとは思うが……どうしたんだ?」

みほ「うーん、ごめんなさい、あんまり気が回らなくて。あの、今日のお昼、C組の前に居たでしょ?」

エルヴィン「……ああ」

みほ「それで、具合悪そうだったし、ちょっと心配だったから、その、ご迷惑かなーとも思ったんだけど」

エルヴィン「あ、いや!あれはなんでもなかったんだ。そうか、そうか、要らない心配をかけてしまったな、すまん、西住さん」

みほ「う、ううん!えへへ、いいんです、元気そうで。杞憂ってやつですね?」

エルヴィン「あぁ、周の国のおばかさんが、天が落ちてこないかと、ってね」

みほ「ふふふ、ユーはショック!ですね!」

エルヴィン「ふふ、そうだな、そうだ。空が落ちてくるわけもなしだ」

ふふふ、ははははは

カエサル(良かった……なんだか和やかムードじゃないか)

おりょう(ああ、エルヴィンがどんなボロだすかと心配だったぜよ)

左衛門佐(ま、後は帰ってくれるのを待つのみか………)

みほ「でも良かったぁ。優花里さんもずっと心配してましたよ?会ったらちゃんと言っといてあげてくださいね?」

エルヴィン「あ、あぁ、そうするよ。明日ちゃんと言っておく……」

みほ「明日?」

カエサル&おりょう&左衛門佐(((!!!)))

エルヴィン「え」

みほ「なんでわざわざ明日言うんですか?」

エルヴィン「だっ、だって、そりゃ、明日学校で……」

みほ「今言えばいいじゃないですか。それ、靴、優花里さんの」

エルヴィン「ヒュッ……」

みほ「ヒュッ?ヒュッてなんですか?なんで変な嘘ついたんですか?エルヴィンさん?」

エルヴィン「そ、れは……」

みほ「優花里さーん!!いるー!?」

「あ!はっ、はい!います!」

エルヴィン「ぐ、グデーリアン……!」

みほ「変なエルヴィンさん。優花里さーん、かえろー!」

エルヴィン「なっ……!」

「えっ、あっ、でも、あの、西住どの!」

みほ「前みんなでアイス食べに行くって約束、おぼえてるー?今日行こー?」

「えっ、あの…………私……」

みほ「優花里さーん!私たちのこと、嫌いになっちゃったのー?」

優花里「そっ、そんなわけないじゃないですか!」

みほ「よかったぁ、じゃあ行こう?」

優花里「あの………ご、ごめんなさい。あの、西住どの、行きます!」

カエサル(ぐっ……!)

エルヴィン「ぐ、グデーリ……」

みほ「そうだ、エルヴィンさんも行きます?」

優花里「!」

エルヴィン「!!い、いや、私は………いい」

みほ「いい?一緒に来てくれるってことですか?」

エルヴィン「……行かない」

みほ「そうですか、残念です。さ、行こ、優花里さん」

優花里「え、エルヴィンどの、あの……」

エルヴィン「…………」

みほ「あっ、そうだ優花里さん、ちょっと、ちょっとだけ先行ってて」

優花里「えっ、あのっ」

みほ「お願い」

ぎゅっ

エルヴィン「!?」

優花里「えっ!?あ、あのっ、に、にしずっ!」

みほ「お願い」

優花里「……はっ……はい………」

エルヴィン「…………」

みほ「エルヴィンさん」

エルヴィン「なんだ」

みほ「私、隠れて悪さされるのがとーーっても嫌なんです。なんで優花里さんが来てることを私に黙ろうとしたんですか?なんで変な嘘ついたんですか?私が優花里さんととっても仲が良いの、知ってますよね?あなたは優花里さんのことをどう思ってるの?」

エルヴィン「……嘘をついたことは謝る。西住さんがグデーリアンと仲良しなのは良く知っている。私はグデーリアンともっと仲良くしたいと思っている」

みほ「そう、でも、優花里さんとエルヴィンさんはもう十分仲が良いよね?これ以上仲良くなるってどういう意味かな?友達として?」

エルヴィン「………」

みほ「それとも、違う意味で?」

エルヴィン「………そうだと言ったら?」

みほ「だめだよ。優花里さんは男の子が好きな普通の子だよ。諦めて」

エルヴィン「それをグデーリアンの口から直接聞いたら諦めるよ」

みほ「………はああぁ~~………普通に考えたらわかると思うんだけどなぁ。常識に照らし合わせて考えて欲しいなぁ」

エルヴィン「………何が言いたいんだ」

みほ「優花里さんを取る気なら、絶対許さないよ」

エルヴィン「……おかしいな。グデーリアンは男の子が好きなんだろう?それに、グデーリアンと西住さんはただの仲良しだろう?もっ、…もう付き合ってるのか?」

みほ「それは、まだだよ」

エルヴィン「ああ、知っている。ちゃんと調べたからな。……やけに素直じゃないか。だったら道義に悖ることはない。私は自分の好意を天に恥じらう必要はないわけだよな」

みほ「そんな嘘はつかない。エルヴィンさんと同じレベルになっちゃう。それに、私は退かないよ。誰かと違って」

エルヴィン「……らしくないな、西住さん」

みほ「らしい?私らしいってなに?気弱でびくびくする私?なんでもいいよいいよって言う私?やられるだけやられて泣き寝入りする私?」

エルヴィン「そ、それは……」

みほ「私は、私の大事なものは二度と奪わせない。私はもう逃げない。私は絶対奪わない。でも私から奪おうとする敵とは全力で戦う。そして勝つよ。エルヴィンさんは敵?」

エルヴィン「……なんだ、随分傲慢だな。もう恋人気取りか?」

みほ「あなたよりはそれに近いかな。質問に答えて」

エルヴィン「敵だな」

みほ「そっか、分かった。じゃあね」

ギ……バタン

エルヴィン「…………」

カエサル「お、おいエルヴィン……」

エルヴィン「なんだ、カエサル」

カエサル「いや、その……」

おりょう「す、すまん、こんなことになるとは思ってなかったぜよ」

エルヴィン「?何故謝るんだ?」

左衛門佐「だって、お前、あの西住さんが、あんな……」

エルヴィン「何を今更。カエサルが言ってたじゃないか」

カエサル「えっ」

エルヴィン「恋は戦争だって」

数日後、学校

おりょう「……周囲に敵影無しぜよ」

エルヴィン「了解。こちらカバチーム。周囲に敵影無し。指示を願う」

みほ『了解しました。カバさんチームはそのままA3地点で待機。A2、A4地点からの八九式の強襲を常に警戒しながら、D3地点を睨んでいて下さい。ウサギさんチームはヘッツァーの待ち伏せに気をつけながら、C4地点を突っ切ってD4地点に向かって下さい。敵フラッグ車はその辺りに潜んでいる筈です。炙り出して下さい』

エルヴィン「こちらカバチーム、了解。オーバー」

エルヴィン「…………」

左衛門佐「……あれから、西住さんからは特に何もして来ないな」

エルヴィン「……あぁ」

おりょう「強いて言うならお昼になったらグデーリアンがすぐにA組の所に向かっていることくらいぜよ」

左衛門佐「それと、戦車道の授業が終わった後、すぐにグデーリアンと一緒に帰っているな」

カエサル「あとそれから、我々からグデーリアンへの電話が通じなくなった」

おりょう&左衛門佐「「え゛っ」」

エルヴィン「………」

カエサル「……十分アクション起こされている気はするが……それはまぁ、こうなってしまった以上仕方ないだろうな」

エルヴィン「……何が仕方ないものか、グデーリアンを縛りつけて。とんだ束縛気質だ。まるで恋人気取り、いや、飼い主気取りだ」

カエサル「エルヴィン、そこまでだ。お前の目的はグデーリアンを手に入れることで、西住さんを嫌うことではない」

エルヴィン「待て、こちらカバチーム、D4地点での交戦を確認!左衛門佐、頼むぞ「おう!」ウサギチーム、こちらはいつでもいける。オーバー」

カエサル「…………」

エルヴィン「…………」

おりょう「あ、終わったみたいぜよ」

左衛門佐「澤のやつ、また腕を上げたな」

カエサル「……エルヴィン」

エルヴィン「こちらカバチーム。状況終了を確認。指示を願う」

みほ『ありがとうございます。みなさん、お疲れ様でした。動線の混乱が起こらないよう、練習前に決めた順序で戦車倉庫に帰投して下さい。遠くにいるカモさんチーム、アリクイさんチームは、この通信が終わり次第移動を開始して構いません。帰投後は簡単にデブリーフィングを行い、解散とします。それでは、全車帰投』

エルヴィン「カバチーム。全車帰投、了解。オーバー」

エルヴィン「………西住さんを嫌ってるわけじゃない。ただ、どうしても気にくわない」

左衛門佐「お、おい、その話もういいじゃないか」

カエサル「左衛門佐、黙っていろ」

おりょう「あのなエルヴィン、きっと西住さんにも積み重ねてきたものが……」

エルヴィン「だったら何だ!あいつに昔何かあったんだろうことは分かる。だがそれは今グデーリアンを自分勝手に振り回す免罪符にはならない。あいつはグデーリアンの人格を無視している!!私と西住、っさんに板挟みにされた時のグデーリアンの顔、見たか!!」

左衛門佐「当たるな、エルヴィン!それに、お前も板挟む片側ということは忘れてはいけないぞ」

エルヴィン「それは……!」

カエサル「……エルヴィン、どうする。今ならまだ関係は修復し得る。このままだと、毎日が非常に生きづらくなるぞ。西住さんのことだ、謝れば、文字通り最初から何もなかったかのように水に流してくれるだろう」

エルヴィン「…………」

カエサル「グデーリアンとの関係だって、今まで通りとはいかなくとも、少なくともお前を嫌うようなことはないはずさ。……少なくともな」

エルヴィン「……それは、楽だろうな」

おりょう「だったら……!」

エルヴィン「でも、嫌だ」

左衛門佐「なっ……」

カエサル「どうして」

エルヴィン「何故謝らなければならない。グデーリアンにアプローチをかけるのにただの友達の許可がいるのか?」

カエサル「そんなくだらんプライドは問題じゃない」

エルヴィン「………私は彼女の一番側に居たいんだ」

左衛門佐「……分からん!どうしてそこまで……!」

カエサル「まて、左衛門佐。……エルヴィン、それならば荊の道、いや、修羅の道になるぞ。椅子は一つだ、二人は座れん。どちらかは必ず地べたに這い蹲って眺めることになる。覚悟は出来ているのか」


エルヴィン「出来ている」

カエサル「西住さんを蹴落とすことになるかもしれないんだぞ」

エルヴィン「!!…………む……無論だ!!!」

カエサル「ふん、弱腰。甘いやつ。どうなっても知らんからな」

左衛門佐「待て、どういう……」

おりょう「あ、信号弾。私たちの番みたいぜよ」

エルヴィン「……行くぞ、全車前進」

おりょう「りょ、了解ぜよ」

カエサル「…………」

戦車倉庫前

みほ「……私からは以上です。あと、今回特に、ウサギさんチームの動きがとても良かったです。みなさんも、試合の時はもちろん、練習の時も、自分で考えて動きましょう。失敗を恐れないで。常に挑戦する心は忘れないで、楽しんで行きましょう」

梓「はっ、はいっ!!」

あや「梓の顔が~まっかっか~?」

優季「やったね~梓ちゃん。頑張った甲斐あったね~」

梓「う、うるさいな!あや!優季!バカ!」

みほ「あはは……それじゃ、会長、締めの挨拶をお願いします」

杏「ん!そいじゃーみんな、おつかれ~。気をつけて……」

エルヴィン「待った!!」

優花里「!!!」ビクッ

杏「は、はえ?」キョトン

みほ「………」

エルヴィン「…………」

桃「松本!会長が挨拶中だぞ!!急になんだ!!」

エルヴィン「すみません、会長。私事で申し訳ないのですが、この後、演習場を使わせて貰っても良いでしょうか」

杏「え?自主練?別にいいけど、レオポンさん達が困らないようにってことと、あと、怪我とかしないようにってこと守ってくれるなら……」

エルヴィン「違います、会長。私闘です」

杏「………シトー?」

エルヴィン「はい。私闘に使わせて頂きたい」

ざわ……

みほ「…………」

優花里「え……?」

杏「………シトー?って、ロシア語で『はぁ?』って意味らしいね。この前クラーラちゃんだっけ、教えて貰ったんだよね」

桃「松本、お前血迷ったか!聞かなかったことにしてやるから、さっさと……」

杏「かぁしま、ちょっと黙ってて。………ねぇ松本ちゃん。私、カバさんチームのみんなにはすごく感謝してるんだ」

エルヴィン「………」

杏「大洗一のポイントゲッター。III突の火力と常識外れの発想で、毎試合毎試合ほんとに助けられたよね。正直、あなた達がいなければ優勝は出来なかったと思う。ありがとね」

エルヴィン「ならば」

杏「でもダメ。私闘もいいことじゃないけど、その中身がもっとダメ。言っとくけど、私は理由の貴賎を言うわけじゃないよ?価値観なんて人それぞれだしね」

桃「か、会長……一体何を……?」

柚子「………」

エルヴィン「……知っているのですか?」

杏「うん、大体全部。あ、もちろん何かチクられたわけじゃないよ?独自の情報網ってやつ。……ふふふ、生徒会、怖いでしょ。………そいでね松本ちゃん。きみの場合、相手が問題だよ」

エルヴィン「………」

杏「他の人だったら、まぁ怪我さえしなけりゃ、変に縺れるよりいっかー、むしろ青春かーなんて思うけどね。……でも、それだけはダメだ。なんと言われようと、ここは譲れないなぁ」

杏「恩がね、ありすぎるんだよね」

エルヴィン「………」

桃「な、会長は、何を言ってるんだ……?」

柚子「桃ちゃん、ここは会長に任せて」

桂莉奈「何?なんなの?こわい……」

あゆみ「い、息がしづらい……」

紗希「………」

杏「わかったら悪いけど、ちゃっちゃと……」

「違いますよ、会長」

杏「へっ、………に、西住ちゃん?」

優花里「西住殿……?」

みほ「会長、松本さんは、秘密の特訓がしたいんです。前から相談されてた、タンカスロンの件。あの件に関わることなんですよ」

典子「なにっ、タンカスロン!」

妙子「キャプテン、ここ多分口挟んじゃだめっぽいです」

杏「えっ、やっ、でも……」

みほ「そうですよね?エルヴィンさん」

エルヴィン「あ………あぁ。その通りだ」

杏「な……」

みほ「全く、誤解を招くような言い方は気をつけて下さいね?エルヴィンさん。……そういうことなので、会長、私からも、使用許可を願います」

杏「…………いいの?」

みほ「良いも何も、ただの稽古ですよ?大丈夫、そんなに遅くまでかかりませんから」

エルヴィン「…………」

杏「………レオポンさんチーム」

ナカジマ「あー、私たちは別にいいよ。というかエルヴィンからもう協力はお願いされてたしね」

杏「シトー?」

エルヴィン「………」

ホシノ「事の詳細は知らんが、もしオッケーなら、最近入ってきた軽戦車、あれ弄らせてくれんでしょ?断る理由はないよね」

ツチヤ「なんか不穏でびっくりしてるけどねーあはは」

スズキ「お、おいツチヤ……」

みほ「ね、会長?」

杏「はぁ…………全く、参るなほんと。……怪我だけはしないでね?」

みほ「えぇ、私は大丈夫です」

エルヴィン「……無論だ。問題ない」

優花里「ちょっ……!」

沙織「ゆかりん、ストップ」

杏「そこは絶対厳守。……もう、責任者の存在忘れないでね。じゃ、かいさーん!!」

梓「ま、待って下さい!!話が全然……!!」

桃「澤、私もよく分からんが、会長が解散と言ったんだ。解散だ」

梓「そんな……!」

あや「お、おうぼうでしょ!?私達、知る権利が」

桃「くどい!!……こういう時、会長の決断は正しい。…………はずだ。とにかく、事情に関わりない者は、帰れ!!気をつけて帰れ!!!かいさーん!!!」

エルヴィン「……どういうつもりだ?」

みほ「別に、いつまでもこのままだとお互い窮屈だと思ったので。むしろ、私のセリフですよ、それ」

エルヴィン「何?」

みほ「何故戦車でケリを付けようとしてるんですか?私が歴史の知識でエルヴィンさんと戦うようなものでしょう?」

エルヴィン「………」

みほ「舐めてるんですか?」

エルヴィン「…………私達の絆は」

みほ「?」

エルヴィン「私達の絆は、戦車が結んでくれた。戦車がなければ、グデーリアンとも、みんなとも、………あなたとも会うことは無かった。だから、戦車でケリをつけたい」

みほ「ふーん。………………やっぱり舐めてますね。そういう勝手な感傷、嫌いです」

エルヴィン「何とでも言え」

パサッ

優花里「あ……!!」

みほ「………」

エルヴィン「私が勝ったら、今後グデーリアンにどんな関わり方をしようと口は挟むな」

みほ「………いいですよ。で、私が勝ったら?」

エルヴィン「……もう、グデーリアンには近づかない」

優花里「!!!」

みほ「それは優花里さんが悲しんじゃうから困ります。むしろ、普通に接して下さい、普通にね」

カエサル「………酷な」

エルヴィン「黙れ、カエサル。して、返答は?」

みほ「………」

ザリッ

みほ「受けて立ちます」

とりあえず今日はここまで
読んでくれてありがとうございます。とても嬉しいです

続きはまた、明日の夜に


麻子「………パサッて」

華「はい?」

麻子「………もしかしたら、パンツを投げた音かもしれないよな」

華「いえ、私達、ちゃんと手袋だと……」

麻子「……例えば、誰も見ていない森の中で、ひっそりと木が倒れたとして、その木は倒れたと言えるのか?」

華「は、はぁ?」

麻子「そういうことだ……寝る」

華「え、あの、冷泉さん?ああ、き、気になる……どういうことなの……」

二日前、夕方、戦車倉庫

カエサル「戦車で戦う!?」

エルヴィン「ああ」

カエサル「お前……バカか!西住隊長の腕前は私達、一番近くで見てきただろう!!」

エルヴィン「ああ」

カエサル「他の方法じゃだめなのか?例えば………その…………話し合い、とか」

エルヴィン「どこにその余地がある?」

カエサル「じゃあ、……………」

エルヴィン「無いだろう?無いんだ。私達には、戦車しかない。これだけが繋がりなんだ」

カエサル「………そもそも勝つ気がないなんてな。馬鹿馬鹿しい。グデーリアンにも失礼だ」

エルヴィン「私は勝つ気だ」

カエサル「…………なんだよ、あるのか、勝算」

エルヴィン「分からない」

エルヴィン「分からない」

カエサル「…………」

エルヴィン「だが、分からないということは、負けだけが見えているわけでもない」

カエサル「話してみろ」

エルヴィン「ああ。まず、我々の戦いは、戦車道ではない」

カエサル「?どういう意味だ?」

エルヴィン「最近、戦車道強豪校の間で密かに流行しつつある亜流の戦車道……タンカスロンというらしい」

カエサル「ああ、名前だけはちらと聞いたことがあるな。………まさかとは思うが」

エルヴィン「ああ、それで戦う」

カエサル「………目眩がしてきた」

エルヴィン「何故だ?」

カエサル「ただでさえ素人に毛が生えたくらいの我々が、ハイハイと信地旋回を同じく教えられてきたようなスパルタンを相手に戦車で戦うだけで無理筋だ。なのにその上聞きかじっただけの競技でなんて………」

エルヴィン「………タンカスロンのルールは、戦車道で使用を認められる戦車のうち、10トン以下の軽戦車を使うこと」

カエサル「他には?」

エルヴィン「それだけだ」

カエサル「は?」

エルヴィン「それだけだ」

ーーーーーーーーーー

カエサル「………どうやってこの形式で勝負に持ち込むかに頭を悩ませたが、杞憂だったな」

エルヴィン「ああ。どんな形であれ、吹っかけた勝負を受け流されるとは思わなかったが………まさか相手の方からタンカスロンを前提とした話がくるとはな」

カエサル「願ったり、か?……私達の動きが読まれていたと見るべきだろうな。しかし、これでもう逃げ場は無いぞ」

エルヴィン「元よりそのつもりさ」

カエサル「全く……声が震えてるんだよ」

エルヴィン「!」

カエサル「はぁ……おっかないな。」

エルヴィン「…………すまん、カエサル……!」

カエサル「ど、どうした?」

エルヴィン「お、お前まで、巻き込んで、しまって……!」

カエサル「……ばかめ、そもそも焚付けたのは私だろう?お前、ほんと甘いよな」

エルヴィン「しっ、しかし……!」

カエサル「私は今後どうなろうとお前の友達で、味方さ。お前が私に対してそうあってくれるように。そうだろ?」

エルヴィン「あ、ありがと……!」

カエサル「ふん、お礼は勝ってから頂戴するよ。……来なすったぞ」

ドルルルル……ドルン

カチャ

みほ「…………」

カエサル「………エルヴィン。帽子は目深に被っとけ」

エルヴィン「いや、相手の顔はまっすぐ見たい」

カエサル「ふん、やはり下手にかっこつけん方が、お前は男前だな」

エルヴィン「言ってろ。……出てくる」

カチャ

ザッ

エルヴィン「…………」

みほ「………泣くくらいなら、戦わなければいいのに………」

エルヴィン「ふん、夕方以降目元が腫れる体質なんだ」

みほ「また下らない嘘。嘘ばかり言って、優花里さんも弄んでるんじゃないですか?」

エルヴィン「西住さん」

みほ「なんですか?」

エルヴィン「私は負けてもあなたを恨まないよ」

みほ「当然でしょう。決闘とはそういうものです」

エルヴィン「……そして、もし私が勝ったら、あなたに何があったのか教えて欲しい。そんなに辛そうな顔のあなたは、正直言って、見ていられん」

みほ「…………ふざけているんですか?」

エルヴィン「本気だ」

みほ「……いいでしょう。わざわざ自動車部にカスタムしてもらう時間もくれるくらいなんですから、よほど自信があると見受けました。叩き潰します」

エルヴィン「!!………なるほど、なるほど、西住流、か」

みほ「ルールはタンカスロンに準じる。使用車輌は双方テトラーク軽戦車。カスタムもあり。試合開始はヒトキュウマルマル。演習場から出なければ、位置取りは自由。……それで良いんですよね?」

エルヴィン「ああ、間違いない」

みほ「……では、私達は行きます。エルヴィンさん、さよなら」

エルヴィン「……………」

ドルルルル……ガララララララ………

カエサル「……エルヴィン、私達も行こう。号令を」

エルヴィン「ああ。行こう、カエサル。………パンツァー、フォー!!!」

麻子「……始まったみたいだな」

華「あら?麻子さん、起きたんですか?」

麻子「ああ、夜からは私の活動時間だしな」

華「ふふふ。………しかし、まさかこんなことになるとは思いませんでしたね」

麻子「ああ、私達は西住さんと秋山さんとの日常ラブコメディを見てたはずなんだがな。どこで間違ったのか……は、明白か」

華「………カバさんチームにとっても同じだったのかもしれませんね」

麻子「かもしれない。物事には色々な側面がある。だが、我々は結局、一つの立場にしか立てないからな」

華「ええ。……みほさん、沙織さん、頑張って下さい」

麻子「西住さんの秋山さんにかけた全てが、無駄にならないといいな……」

ーーーーーーーー

エルヴィン「来たぞ!!カエサル!!7時の方向!!!」

カエサル「嘘だろっ……後方!?」

ドォン!!

エルヴィン「ぐっ……至近弾!!カエサル、前進するぞ!!」

カエサル「方向は!?」

エルヴィン「11時!!まずはアリス作戦から行く!!」

カエサル「了解した!揺れるぞ、掴まってろ!!!」

沙織「ごめん、みぽりん、外した!!」

みほ「沙織さん、大丈夫です。むしろとても惜しかったよ。もう数発同じ状況で撃てば、きっと当たります」

沙織「うん、……ぎぎぎ……だぁ!……もう!砲弾重すぎ!!……すごいね、ゆかりんは」

みほ「うん、優花里さんは、とてもすごいよ……」

沙織「……ごめんね、みぽりん」

みほ「何が?」

沙織「だって、みぽりん、……何でもない。ううん、私がせめて操縦手か砲手、まともにできたら良かったのにって思って」

みほ「いいよ。私は沙織さんと一緒に戦いたかったんだ。ずっと私を助けてくれた、沙織さんと」

沙織「私は後押ししただけ。ゆかりんに手を伸ばしたのは、みほだよ」

みほ「うん………」

沙織「勝とう、この戦い。恋愛っていう、終わらない戦争に勝つために」

みほ「うん……!!沙織さん、もう少し飛ばすから、気をつけてね!」

沙織「任せて!にわか仕込みの恋仇に、負けるわけにはいかないんだから……!!」

>>189
まぁ、確かにそうですけどカエサルは元々装填手だから攻撃回数はその分増えますね。
装填スピードでは沙織よりは上でしょう。

なお、テトラーク軽戦車の搭載砲は2ポンド砲だから砲弾重量は重くても1.219kgの模様。
普通の徹甲弾だと1.077kgと若干軽くなる。

>>190

それは軽いですね……!

流行の兆しを見せるタンカスロン用に開発された試作特殊弾で、戦車道よりも誤射などの危険が高い以上、重量がある分威力を低減した弾頭の他に、高度なセンサーや自動制動装置、自爆装置、そしてそれらをつけてなお通常弾頭と同程度の速度になるよう付けられた噴射機などが付属している分非常に重くなっている、という設定でお願いします

しずか「牙を削いで何が戦車か!バカと鋏は使いようぞ!!」

鈴「ううん、誤射しないのは、ありがたいかな?」

カエサル「追って来てるか?」

エルヴィン「ああ。……どうやら、相手の車輌には慣れてない者が乗っているらしい」

カエサル「何故?」

エルヴィン「さっき、撃ってから動き出すまでにラグがあった。おそらく、装填中にガタガタ動かないように配慮したんじゃないか?」

カエサル「ってことは……いや……まさか、武部さんか!?」

エルヴィン「……あり得るな」

カエサル「通信手としての武部さんは一流だが、この采配………向こうの方も大概舐めてるんじゃないか?」

エルヴィン「いや……その気持ち、分かるんだ」

カエサル「はぁ?」

エルヴィン「何でもない。……そろそろ会敵する。エンジン、極力落としてくれ」

カエサル「了解」

みほ「沙織さん、見える?」

沙織「ううん、音は、多分こっちじゃないかなって思うんだけど……うう、ごめんね、自分の耳で聞くと、こっちの音も混ざってよく分からないよぉ」

みほ「大丈夫、落ち着いて。周囲を注意深く観察して下さい。どんな些細な変化も、私に報告してね」

沙織「うん…………あれっ、えっ、嘘!」

みほ「どうしたの沙織さん!」

沙織「前方敵車輌発見!!!」

みほ「正面から……上等です。沙織さん。出ます!………今から左、右、左、左、に制動をかけ、2秒停止します。その間、とにかく相手の方向に砲塔を向けて!……今っ!!!」

沙織「……くっ!!!」

ドォン!!!

ガシャアン!!!!

みほ「!?」

沙織「て、敵車輌割れちゃっ……か、鏡!?!?」

みほ「まずいっ!」

ガロロッ!!

ドォン!!!

沙織「あぐっ!!!」

みほ「沙織さん、大丈夫!!?」

沙織「だ、だいじょぶ、ちょっと打っただけ……!くっ」

みほ「どっ……どこですか?頭ですか?」

沙織「う、ううん!!かっ、肩!!……は大したことない!!びっくりしただけ!!!」

みほ「なら、いいのですが……不調を感じたら」

沙織「いいから!!!絶対当たらないように、動いて!!!お願い!!!」

みほ「りょ、了解!急制動をかけて雑木林を抜けます。しっかり掴まってて下さい」

沙織「う、うん、お願い……!!」

ーーーーーーーー
エルヴィン「くそっ!左衛門佐のようには行かないな……!」

カエサル「エルヴィン!次弾急げ!!遅いぞ!!!」

エルヴィン「分かってる!……くそっ、カエサルお前、馬鹿力だな!!」

カエサル「以降の車内待遇改善を希望するぞ!!」

エルヴィン「考えとく……よっ!!くそっ、待て!!」

カエサル「落ち着け!……エルヴィン、今撃ってもまず当たらん。まだ策はある。弾もあるが、実際撃てるチャンスはそうない。機会を大事にしよう」

エルヴィン「く……了解。追うぞ、パンツァーフォー!!!」

ーーーーーーーー

左衛門佐「あ………!!!」

おりょう「ど、どうした!!どうしたぜよもんざ!!!」

左衛門佐「……外した」

おりょう「ど、どっちが!?」

左衛門佐「こっちだ」

おりょう「くぁ~~!!!何やってるぜよ!!せっかく私達が死ぬ程大変な思いして廃部室棟から引っ張り出して来たってのに~!!!」

左衛門佐「いや、実際策はハマってたんだが……いかんせん、歯がゆいな」

おりょう「ぜよ………。カエサルがあんなにセンスあるとは思わんかったが………」

左衛門佐「操車の地力で劣る以上、頼みの綱は奇策だが、それだって数には限りがある。短期決戦しかないぞ……!!」

ガロロロロロロッ!!

エルヴィン「くそっ、ルビコン作戦破棄!!!続いてパリは燃えているか作戦!!!」

カエサル「了解!!行けっ!!」

バオオッ!!!

沙織「ひっ!みぽりん、火が!火!!」

みほ「落ち着いて、沙織さん。このまま突っ切ります。頭は引っ込めてて。あと、3秒後に右。今っ!」

ギャリッ!!

沙織「くっ!」

パシュッ……ドォン!!

みほ「………」

エルヴィン「バカな!!超能力者か!?」

カエサル「センサーを関知する機関でも備わってるのか、西住流の人間には……!!!」

エルヴィン「くそっ、こうなったら、……カエサル。もくもく用意。B4地点を抜けると同時に散布開始だ」

カエサル「おっ、おい、それは……!!」

エルヴィン「カエサル、信頼してるよ。…………もくもく開始!!!」

すみません、今日はここまでとします

読んでくれてありがとうございます。ほんとに嬉しいです。そして、難しいですね

続きは、明日の夜に。
完結できたらいいなと思っています。

少し前、戦車倉庫


優花里「…………」

ドォ……ン ドォ……ン

杏「秋山ちゃん、どしたの?」

優花里「か、会長………」

ガォー……ン ドォ……ン

杏「……すごい音だね」

優花里「うっ……ぐっ………!」

杏「わわ、ごめん、そんなつもりじゃ……」

優花里「な、なんで私なんか………二人とも、おかしくなってるんです」

杏「うん……そうだね、おかしくなってる。これじゃ、まるで……」

優花里「……止めなきゃ」

杏「へっ?」

優花里「私、やっぱり止めてきます!!!」

杏「ちょっ小山!河嶋!!……えぇ!?ねっ猫田ちゃんお願い!!!…………うっそぉ」

「うぅ……よ、用心棒失格にゃ……」

杏「くそっ、なんでみんなして危ないことばっかりするのかなぁ!!?そど子ちゃん!!」

『ごめんなさい、会長!こっちじゃ、と、止められない!!』

杏「おっ、オッケー、なんとかするよん!……あああっ!!なんで!!もう!!私、なんのために……!!!……小山!!河嶋!!!行くよ!!!」


もくもくもくもく………

沙織「み、みぽりん、煙が……!」

みほ「うん、一旦停車します」

ガロロッ……ドルルルルン

沙織「……だ、大丈夫なの?」

みほ「大丈夫です。向こうからもこちらは見えません。見えない敵からの攻撃より、このまま進んで敵の策に嵌る方を警戒しましょう」

沙織「そうじゃなくて……」

みほ「どうしたんですか?」

沙織「…………敵…………敵か」

みほ「沙織さん?」

沙織「……ごめん、ごめんねみぽりん」

みほ「?」

沙織「だっ、だってみぽりん……な、泣いてる」

みほ「えっ……あれっ?な、なんで?」

沙織「み、みほ……」

みほ「まっ、待って沙織さん!私、平気!ほんとに平気だから。自分でもびっくりしちゃってる。エルヴィンさんにあれだけ言っときながら、恥ずかしいね。……なんでだろう。へんなの……」

沙織(あ、あんまりだよ、まほさんも、みぽりんのお母さんも、あんまりだよこんなの)

みほ「……沙織さん、煙が晴れます。何処に敵が潜んでいるか分かりません。急加速急制動に常に注意して下さい。戦車前進」

沙織「ぐ……りょ、了解……!」

ーーーーーーーーーー

エルヴィン「さぁ、」

カエサル「来い………!!」

エルヴィン&カエサル「「狼虎作戦!!!」」

ーーーーーーーーーー

みほ「……………」

沙織「……てっ、敵車輌、発見……!」

みほ「………舐めてる」

沙織「ど、どうするみぽりん、こっち側から打ち合う?」

みほ「それは敵の思うつぼです。敵はこちら側に何かを仕掛けている。だから吊り橋の先に陣取って威嚇しているんでしょう。……突っ切ります」

沙織「ちょっ、ちょっと?」

みほ「大丈夫。先の戦闘で何故か装填手と砲手をエルヴィンさんがやってることは分かっています。まず間に合いません。蹴散らしましょう。……後退は無い。行きます」

沙織「みっ……うわぁ!!」

ガロロロロロロッ!!

沙織「みほ……どうしたの!!!みほ!!!」

みほ「後退は無い。後退は無い。……沙織さん、気をつけて。流石に弾は当たります。揺れるよ。でも大丈夫です、打ち合いのための追加装甲。テトラークの弱い弾。遅い相手の砲撃ペース。まず抜ききれません。取り戻さなきゃ、あの日を、今こそ取り戻すんだ」

ガィィィン!!!

沙織「きゃああっ!!!」

みほ「敵の装填手は三流。次弾の装填には時間がある。一気に近づきます。仕留めて下さい」

沙織「そっ、そんなこと言ったってっ……!」

ガィィィィィン!!!

みほ「あれ?おかしいな、装填……それなら、早い足」

沙織「み、みほっ!ゆ、揺れっ、揺れっ、てる!!!」

みほ「早い足。だめだよ沙織さん。もう逃げ場はありません。戦いに負けたら全部奪われます。奪われるんだよ!!」

沙織「なっ、何を……あああ!!!」

ガキィィィィィィン!!!


みほ「居場所が奪われるんだよ!!友達が奪われるんだよ!!お姉ちゃんが奪われるんだよ!!!こっ、こいびっ、恋人っ、がっ、あれ?おかしいな?なんで?前、見にくい」

沙織「みほっ!アクセル!!!ハンドルそのまま踏み続けて!!!」

ガキィィィィィィィィィィン!!!

みほ「うん、うん。……ああっ!エリカさっ、違、違う、私、そんな、……あっ、あああっ!!雨!!!雨が降ってる!!!あああああっ!!!」

沙織「みほっ!!雨なんて降ってない!!!落ち着いて!!!」

ガキィッ!
ガヅン!!!

沙織「ぐっ!!!やば……!!!みほ、つ、吊り橋が……!」

みほ「あああ!!私!!!おかしかった!!!負けて良いはずない!!!負けていいはずない!!!負けたら全部奪われる!!!ああああああああ」

沙織「みほっ!!みほっ!!!くっ、………突っ切って!!!」

みほ「敵は全て叩き潰すんだあああああああ!!!!」

ガロロロロロロッ
ガコォオオォン!!!

カエサル「ぐっ!!!(何故抜けん!?神に愛されてるとでも言うのか!?)」

沙織「なんで!?反撃してこない!!」

みほ「今装填手はカエサルさんです。砲手もカエサルさんです。操縦手は誰もいません。このまま押し込んで終わりです。沙織さん、撃ってください」

沙織「エルヴィンさんはどこに!!?」

みほ「後ろでしょう」

沙織「えっ」

タタタタタタッ

エルヴィン「くそっ、カエサル!!!踏ん張れぇぇぇえ!!!」

沙織「生身……!?」

みほ「早く沙織さん。パンツァーファウスト持っています。シュルツェンもうないです」

沙織「くっ……!!」

みほ「早く」

沙織「うわあああああああ!!!」

ガキィ!
ドォン!!!

沙織「なっ……!!」

カエサル「今度こそちゃんばらでは負けられんよな……なぁ!!!」

みほ「あああああ……!!!」

エルヴィン「カエサル!!!………くっ」

シュパッ

エルヴィン「行けえええええ!!!」

みほ「嫌ああああああああ!!!」

ドォォォォォォン!!!

…………

エルヴィン「やっ、やったか!?」

………ドルルルン

エルヴィン「何っ!?」

ガロロッガキャキャキャキャキャ!!!

カエサル「嘘だろっ、おい!!!」

みほ「あれ?……なんで?」

沙織「り、履帯に吸い込まれた……?」

カエサル「ぐっ、しかし、これならまともに動けんはずだ……!!エルヴィン!!!早く乗り込め!!!」

みほ「……………」

バツツツッ

カエサル「なっ」

エルヴィン「じ、自分から履帯を外した……!?」

みほ「クリスティ式……テトラークに感謝ですね」

沙織「そ、そんな……」

みほ「……見事でした、エルヴィンさん、カエサルさん。正直……驚きました。沙織さん、落ち着いて装填して、砲撃してください。大丈夫、外しても押し込んで横転です。これで詰みです」

沙織「うっ、うん」

みほ「!させない」

ガキャキャッ
ガキッ
ドォン!

カエサル「くっ!これでは……」

エルヴィン「……くそっ……」

みほ「最後です。沙織さん」

沙織「………ごめん」

グッ……

『やっ、やめてください!!!』

エルヴィン&みほ「「!!!」」

沙織「ゆっ、ゆかりん!?」

ブロロロロロ……

優花里『やめてください!!!なんで二人とも、そんな……もう、バカーーーッ!!!』

みほ「ば」

エルヴィン「バカ……」

沙織「今ショック受けてる場合じゃないでしょ!!ゆかりん!!!だめっ、戻って!!!」

カエサル「くろがね……しめた!」

………ドルルルルル!!!ガキャキャキャキャキャ!!!

みほ「!!」

沙織「なっ……動いてる!!い、いつの間に!!」

エルヴィン「かっ、カエサル!!ナイス!!」

カエサル「エルヴィン!!!決めるぞ、乗り込め!!!」

エルヴィン「おう!!」

タタタタンッガチャッ
ドルルルルルン!!!

沙織「待って!!!今、吊り橋!!!危ないの!!!」

みほ「させない……!!沙織さん!!」

沙織「みほ!!!だめ!!!」

エルヴィン「終わりだ……!!」

優花里『やめッ……うわぁっ!!!』

バツン!ミチチチチ……

エルヴィン&みほ「「!!!」」

カエサル「つ、吊り橋が!?」

沙織「だから言ってたじゃん!!!もおおおおお戦闘中止!!!ゆかりん戻って!!!待って、だめ、動かないで!!!」

エルヴィン「カエサル!!」

みほ「沙織さん!!ワイヤーと固定ロープ用意!!!早く!!!」

優花里『きっ、来ちゃダメ!!!来ちゃダメです!!!危ないですから!!!』

みほ&エルヴィン「「戦車前進!!!」」

ギャギャギャッ!!

カエサル「エルヴィン!!」

沙織「みほっ、お願い!!!」

ガチャチャッ

みほ「くっ!!!」

エルヴィン「間に合えっ!!!」

ミチチチチ……ギシシッ

優花里『(も、もうダメ……!)戻って!!!』

ギシッ………!

エルヴィン「はーっ、はーっ……!!!」

みほ「エルヴィン!!!そっちの効き、甘い!!!もっとワイヤーと釣り縄絡ませて締め直して!!!」

エルヴィン「くそっ、了解だ西住!!!」

ギシッ!!!バツッ………

優花里『は、わ………!』

エルヴィン&みほ「「カエサル(沙織さん)!!!全力でバック!!!」」

カエサル「了解ぃ!!!」

沙織「ばっ、バックってこっちだよね!?いいんだよね!?」

ガロロロロロロッ

優花里『うわっ、わぁっ!!!』

カエサル「く、そ……重い、ぞ!!!」

沙織「ゆ、ゆかりん!!!はや、早くぅぅうう……!!」

エルヴィン「グデーリアン!!くろがね捨てろ!!!」

みほ「走ってきて!!早く!!!」

優花里『わっ、わかっ』

優花里「わかりました!!!」

カエサル「ぐぐ、ぐ……!」

沙織「どうしよう、みほ!!!引っ張られてる!!たわんできてる!!!」

エルヴィン「くっ!!」

みほ「………沙織さん、危なくなったら逃げて」

沙織「へっ?」

みほ「………」

タタタタタッ

エルヴィン「!?おい、西住!?くっ、」

沙織「みぽりん、待っ、速っ!!」

みほ(優花里さん、優花里さん、優花里さん……!)

ミチチチチ……

カエサル「……!?まずいぞ!こっちのワイヤーの方が持たん!!!」

沙織「みぽりん、早く!!!」

エルヴィン(これでは、間に合わん!間に合え……!!)

優花里「はぁっ、にっ、西住殿!!!はぁっ、なん、で!!!」

みほ「い、行こう優花里さん、もう少し、だよ!掴まってて!!」

タタタタタッ

優花里「う、わぁっ、すご、はやっ…!」

みほ「間に合え……!!」

ミチチチチ……!!!

カエサル「まずい!!切れるぞ!!!」

沙織「ダメ!!ダメダメダメ!!お願い神様!!!」

エルヴィン「間に合ええええええ!!!」

ダダダダダッ

カエサル「ばっ、エルヴィン!?」

沙織「腰にロープって……まっ、待って!!!危ない!!!」

ミチチチチ……

優花里「エルヴィンどの!!もう、もう……!!」

みほ「くっ、ダメ!!戻って!!!」

エルヴィン「ことわあああある!!!」

バツッ、バチッ!!!

カエサル「!!切れるぞ!!!」

沙織「そんなっやだっ……!!」

エルヴィン(とっ……跳べ!!!)

タンッ!!

優花里「ああっ……!!」

エルヴィン「西住いいいいいぃ!!!!」

みほ「!!!」

ガシッ!

優花里「おっ、落ちっ!」

みほ「掴まってて優花里!!!」

優花里「うわ、わ、わ……!!」

エルヴィン「しっかり守れよおおおお………岸壁くるぞッ!!!」

優花里「ヒッ……!!!」

ダンッ!!

エルヴィン「あぐっ!!!」

みほ「ぐぅっ……!!」

優花里「あ゛ぅっ、あ、れ……!うわあああ!!!」

みほ「ゆ、優花里さん、絶対放さないよ。安心して掴まってて。下、見ないでね」

優花里「は、はいいいいい」

エルヴィン「くそっ西住!!あ……後で代われ!!」

みほ「エルヴィンさん、アホですか!?……で、これからどうするんですか?」

エルヴィン「……西住、お前、登れるか」

みほ「………厳しい、です。ちょっと、打ち所、悪かったみたい」

優花里「そっ、そんな……!」

みほ「大丈夫だよ優花里さん、大丈夫……」

エルヴィン「なんだ、お前もか、……くそっ、これは………カエサル!!!武部さん!!!聞こえるか!!!」

「お、おう!!!」

「ロープ、引っ張るよ!!!絶対放さないでね!!!」

エルヴィン「頼む……!!!時間、あまりない!!!」

優花里「わ、私、足で少しでも手伝います!!」

みほ「ありがとう、優花里さん。でも、掴まってることを最優先に。無理はしないでね」

優花里「みほに言われたくありませんよ!!!」

みほ「えっ」

エルヴィン「そ、おま、そんな……」

優花里「エルヴィン!!ちゃんとしてください!!!」

エルヴィン「おっ、おっぉ、おう!!!カエサル!!もうちょっと持ちそう!!!でも急いでくれ!!!」

「んの、クソボケぇぇえ……こんな時に喜んでんじゃねぇぇえ……」

「くっ……も、もう、腕が
………そ、そうだ、戦車で引っ張る、!!」

みほ「そ、その手が……!」

エルヴィン「おお……武部さん、ナイスだ……!!」

優花里「こっちもうやばいです!!体力も発想力もやばいです!!」

ドルルルルル……バスッ、ガヅン

「ヤバっ……エンストした!!!」

みほ「さ、沙織さん、クラッチ下手すぎ……!!」

カエサル「た、武部さん!!!そもそも我々にはロープを戦車に引っ掛ける余力すら……!!!」

エルヴィン「……!!」

優花里「……みほ、エルヴィン」

みほ&エルヴィン「「!!!」」

優花里「ありがとうございます。私、今、不謹慎だけどすごく幸せなんです」

エルヴィン「グデーリアン……」

みほ「……優花里さん?」

優花里「どうなっても後悔はないです」

エルヴィン「い、急いでくれ!!グデーリアン、こんな時すら私たちに気を使ってる!!!自分から手を放しかねん!!!」

みほ「……優花里さん。あなたは私がここに居ていいことの証明なの。しっかり掴まっててね」

優花里「は……!はい……!」

エルヴィン「………急いでくれぇ」

カエサル「ううう、頼む、頼む……!!」

ブロロロロロ……

沙織「!!きっ、来た!!!」

『さ~んじょ~~!!!』

みほ&エルヴィン&優花里「「「!!!」」」

杏『武部ちゃん、連絡ありがとね!!!……この、大馬鹿達!!!後で本当、覚悟しといてね。……アリクイさんチーム、アヒルさんチーム!!!』

ももがー「合点!!!」

ぴよたん「大洗のケインコスギにお任せだっちゃ!!!」

ねこにゃー「お、汚名挽回のチャンス……!!!」

典子「根性で引っ張るぞー!!!」

あけび&忍&妙子「「「はい!!!」」」

そーれっ!そーれっ!!

優花里「き、きてくれた、帰ったんじゃ……?」

みほ「み、……みんな……沙織さん、いつの間に……」

沙織「みんなが崖際に叩きつけられた時!!!一斉送信でB3ってしか書かなかったから大丈夫か不安だったよ~~」

杏「結局みんな気になってぞろぞろ戻ってきてね。……秋山ちゃんが盗んだくろがねで走り出してくれやがっちゃったから手分けして探してたんだよねぇ」

優花里「あ、ありがとうございますぅぅ……」

エルヴィン「ふ、ふふ、ふふふ……」

みほ「………?」

エルヴィン「……勝手な感傷ではないってことだな」

みほ「!……エルヴィン、さん……その……」

エルヴィン「あぐっ!!う、ぐえっ、腰っ……!!あ、揚げ方優しめでお願いします……」

みほ「……ぜ、絶対放さないでくださいね。絶対放さないでくださいね」

エルヴィン「は、はは……情緒のかけらもない……」

とりあえず書溜めここまで

地の文、入れようかどうかすごく迷ったんですが、いや、ssなら喋り言葉だけでという謎の意地を張ってしまいました。地の文を書く自信が無かったのが正直一番の理由ですが……分かりにくくてすみません

完結したら、なんとか加筆修正して載せようエルヴィン「ふ、ふふ、ふふふ……」

みほ「………?」

エルヴィン「……勝手な感傷ではないってことだな」

みほ「!……エルヴィン、さん……その……」

エルヴィン「あぐっ!!う、ぐえっ、腰っ……!!あ、揚げ方優しめでお願いします……」

みほ「……ぜ、絶対放さないでくださいね。絶対放さないでくださいね」

エルヴィン「は、はは……情緒のかけらもない……」かなと思います

カエサル「ただでさえ分かりにくいのに、おまけに地の文も無しなんて……目眩がしてきた」

エルヴィン「わ、我々の戦いは小説ではない、ssだ」

あ!すみません、もしもしからなんで間違ってペーストしたまま打っちゃいました

申し訳ない、また書溜めます

す、すみません
どうしても長くなりすぎてまとまらなくて、また明日に続きそうです

読んでくれてありがとうございます

きっちりまとめてあげたい

あまりに続きがまとまらないので、先に地の文を加筆修正しました。

少しでも情景が見えてもらえたら嬉しいです。

みほ達のテトラークが注意深く、かつ軽快に進む。
煙は既に晴れていた。敵の姿は見当たらない。

みほ「……………」

心には波一つ立っていない。
少なくともみほはそう感じていた。
折れない。曲がらない。
戦車乗りはそうあるべしと教わり続け、そうありたくないと願い続けた姿そのものだった。
感情はいらない。
残すのは理性、そして感覚。立つかどうかから母の膝に抱えられ、乗せられ、乗り、鍛えて来た戦車乗りの感覚。

視覚、聴覚、嗅覚、どれでもないその感覚が、みほに警鐘を告げる。

沙織「……てっ、敵車輌、発見……!」

みほ「………舐めてる」

言葉とは裏腹に、みほは極めて冷静に見えた。
遥か前方、いつぞや始めての戦車講習で、奇しくもIII突とIV号が対決した吊り橋の先から、小さくテトラークが、対岸のもう1輌のテトラークを睨みつけていた。

沙織「ど、どうするみぽりん、こっち側から打ち合う?」

後ろから聞こえる不安気な沙織の声に、みほは一瞬思案する。
先だって奇策というにはあまりに無茶苦茶な策の数々を使い、とことん直接対決を避けてきた敵が、ここに来てついに肚を決めたというのか。
いや。

みほ「それは相手の思うつぼです。相手はこちら側に何かを仕掛けている。だから吊り橋の先に陣取って威嚇しているんでしょう。……突っ切ります」

沙織「ちょっ、ちょっと?」

みほ「大丈夫。先の戦闘で何故か装填手と砲手をエルヴィンさんがやってることは分かっています。まず間に合いません。蹴散らしましょう。……後退は無い。行きます」

言い終わるのと、迷いの欠片もない踏み込みは、全く同時だった。

沙織「みっ……うわぁ!!」

俄かにみほ達のテトラークが加速する。
さながら発車された弾丸の如く、まっすぐ吊り橋を目指す。

ガロロロロロロッ!!

履帯が、吊り橋に敷かれた金属板と絡んでけたたましい音を出す。
車体が上下しても、勢いは一切止まらない。

沙織「みほ……どうしたの!!!みほ!!!」

みほ、みほ。
沙織の声が遠い記憶の底の沼から、ぷつぷつと誰かのことを泡立たせる。
俄かに意識が混濁し出す。

みほ「後退は無い。後退は無い。……沙織さん、気をつけて。流石に弾は当たります。揺れるよ。でも大丈夫です、打ち合いのための追加装甲。テトラークの弱い弾。遅い相手の砲撃ペース。まず抜ききれません。取り戻さなきゃ、あの日を、今こそ取り戻すんだ」

対岸のテトラークが、煌めいた。

数瞬、着弾。

ガィィィン!!!

沙織「きゃああっ!!!」

車体は一瞬揺れるが、その勢いは止まらない。
金属と金属の激しい接触で、車内は甲高い音にしばらく満たされる。
いつになく動揺する沙織を、何処か遥か遠くの自分が心配していた。
それを塗り潰して、車長としての本能が自動操縦で命令を出す。

みほ「敵の装填手は三流。次弾の装填には時間がある。一気に近づきます。仕留めて下さい」

沙織「そっ、そんなこと言ったってっ……!」

なんだ、使えない。
しかし、みほの眉は欠片も動かない。

刹那、またテトラークが煌めく。
みほにとって本来ありえないはずの間隔で。

ガィィィィィン!!!

着弾。先ほどよりも明らかに車内の衝撃は大きかった。
しかし、この程度では装甲が抜けようもないことを、みほも沙織もわかっていた。
それよりも。

みほ「あれ?おかしいな、装填……それなら、早い足」

みほの操車方針の切り替えは、さながらオートマチックの変速機が、適した速度のギアに自動で変わるかのようだった。

しかし同時にそれは、不安定な吊り橋を渡るには明らかに不適切な踏み込みだった。

沙織「み、みほっ!ゆ、揺れっ、揺れっ、てる!!!」

うるさいなあ。命か。なんで今そんなこと気にしてるんだ。

みほ「早い足。だめだよ沙織さん。もう逃げ場はありません。戦いに負けたら全部奪われます。奪われるんだよ!!」

至極当然の真理だった。
実感があった。
あの人は、私の負けに奪われた。

沙織「なっ、何を……あああ!!!」

明滅。
着弾。

ガキィィィィィィン!!!

みほの指示で自動車部が付けた積層シュルツェンが弾ける。残り一枚。

明らかに光は大きくなり、弾着は早くなり、揺れと音は激しくなっていた。

みほの本能が警鐘を鳴らす。
まずい。
このペースでは、抜かれる。
負ける。
この戦いで、負けたら。
俄かに鋼が激しく熱を持ち、閉ざしていた記憶がハンマーに変わって滅茶苦茶にみほを打ちつけ出した。

みほ「居場所が奪われるんだよ!!友達が奪われるんだよ!!お姉ちゃんが奪われるんだよ!!!」

絶叫だった。
沙織の知るみほの口からは到底出ることのない声だった。
沙織が思わず目を見開く。
頭を金属で殴りつけられる痛みに、人間は耐えられない。

みほ「こっ、こいびっ、恋人っ、がっ、あれ?おかしいな?なんで?」

その痛みに先ほどの沼の泡立ちが一層おおきくなった。
冷たい沼から這い出てきたのは、奇しくも、その人の傍の暖かさだった。
みほの視界が急にぼやけた。
懐かしい二段ベッドの香りが思い出されて、鼻の奥がひとりでにツンとする。

みほ「前、見にくい」

沙織「みほっ!アクセル!!!ハンドルそのまま踏み続けて!!!」

今度は沙織の絶叫だった。

みほ「うん、うん。……ああっ!エリカさっ、違、違う、私、そんな、……あっ、あああっ!!」

明らかにコントロールを失いつつあったテトラークが、再び猛然と突進する。
自身に向けられた命令を聞いたみほの身体は、意識とは完全に切り離されてひとりでに動いていた。

ガキィィィィィィィィィィン!!!

もはや、光と音は同時だった。
もう一枚のシュルツェンも弾け飛ぶ。
その衝撃に、みほの頬から、捲られた腕に、スカートから剥き出しの足に、水滴が飛ぶ。

みほ「雨!!!雨が降ってる!!!あああああっ!!!」

沙織「みほっ!!雨なんて降ってない!!!落ち着いて!!!」

沙織の頬も濡れていた。

ガキィッ!

迫るみほ達のテトラークに驚異を感じたか、対岸のテトラークの砲撃はこれまでで一番早い、もはや神速ともいうべきものだった。
しかし、狙いは僅かにそれ、車体を掠めて後方に飛ぶ。

ガヅン!

遠く聞こえる不穏な音に沙織は眉を潜める。
驀進する車体が緩やかに傾いた。

沙織「ぐっ!!!やば……!!!みほ、つ、吊り橋が……!」

みほ「あああ!!私!!!おかしかった!!!負けて良いはずない!!!負けていいはずない!!!」

プラウダの時のことだろうか。
沙織は思った。同時に、いつも心優しく仲間達を諭すみほの狂態に胸が締め付けられる。

みほ「負けたら全部奪われる!!!ああああああああ」

しかし、この危機を超えるにはもはや、沙織は目の前の憐れな親友を焚きつける他なかった。

沙織「みほっ!!みほっ!!!くっ、………突っ切って!!!」

目一杯踏んでいるアクセルペダルに、更に床を蹴り抜かんばかりにみほが力を込める。
憎んでいるかのように。親の仇のように。

みほ「敵は全て叩き潰すんだあああああああ!!!!」

テトラークが吊り橋を抜けた。
もはや一つの弾頭だった。
その勢いのまま、目の前のもう1輌のテトラークに猛然と飛びかかる。

ガロロロロロロッ
ガコォオオォン!!!

さながら交通事故だった。
思い切り車体を滑らせる敵のテトラークに、みほ達のテトラークはなおも追突する。

カエサル「ぐっ!!!(何故抜けん!?神に愛されてるとでも言うのか!?)」

沙織「なんで!?反撃してこない!!」

みほ「今装填手はカエサルさんです。砲手もカエサルさんです。操縦手は誰もいません。このまま押し込んで終わりです。沙織さん、撃ってください」

先ほどから既に答えを出していたみほの脳は、ひとりでに口を使って答え合わせをした。

沙織「エルヴィンさんはどこに!!?」

どうでもいい。でも、どうでもよくない。

みほ「後ろでしょう」

沙織「えっ」

エルヴィンが少し角度のついた吊り橋を猛然と走り込んでいた。

速い。
息は弾み、白くなるほどに得物を握り込んでいる。

狼虎作戦。

前門の虎、後門の狼に準えた作戦は、一か八かの賭けであり、エルヴィン達にとって必殺の策であった。

テトラークを吊り橋の先に置き、みほ達が対岸からの打ち合いを取るなら近くの林に潜んでいるエルヴィンが、正面からつっきろうとしたら装填手と砲手を代わったカエサルが、それぞれ仕留める作戦だった。

みほは挑戦されれば退かないだろうこと、エルヴィン車の遅い装填速度の印象がついているだろうこと、みほの彼我戦力の計算力なら必ずどちらかに嵌るだろうことを全て策に織り込んでいた。

これが最大にして、最後の勝ち筋だった。

唯一恐ろしいのは、正面から、一切の足止めも出来ず、最高速で突っ切られるという事態ぐらい。

冗談じゃない。

みほ達が常識外れの勢いで吊り橋を渡り始めて数瞬、エルヴィンはすぐに走り始めていた。

タタタタタタッ

もはや自分が足を動かしているのか、足が自分を動かしているのか、エルヴィンには混ぜこぜになって分からなかった。

エルヴィンの視界の先で、みほ達のテトラークが、カエサルの乗るテトラークを押し付け続ける。

エルヴィン「くそっ、カエサル!!!踏ん張れぇぇぇえ!!!」

ハッチから半身を出した沙織が驚愕に身を乗り出す。

沙織「生身……!?」

みほ「早く沙織さん。パンツァーファウスト持っています。シュルツェンもうないです」

沙織「くっ……!!」

急ぎ戻った沙織がターレットを回す。
砲塔が、ゆっくりと、確実に敵のテトラークをゼロ距離で捉える。

これでいいの?ほんとに?

沙織は、逡巡した。

みほ「早く」

負け得る。
みほの焦りも限界だった。

聞いたことのない冷たい声に、沙織の糸が切れた。
みほの背後に見たことのない人物の存在を感じた。
おそらくは。

沙織「うわあああああああ!!!」

沙織が勢いに任せ、目をつぶりながら引き金を引く。
それと、ターレットがひとりでに動いたのは同時だった。

ガキィ!
ドォン!!!

沙織「なっ……!!」

カエサル「今度こそちゃんばらでは負けられんよな……なぁ!!!」

砲塔同士の競り合い。
いつか、アンツィオでIII突が繰り広げた死闘。
あの時の死線を経験したカエサルの勘は、今までになく冴えていた。

みほ「あああああ……!!!」

みほが頭を掻き毟る。
まずい。
使えない。
まずい。

エルヴィン「カエサル!!!………くっ」

その間もずっと走り続けたエルヴィンの足が、ついに吊り橋を超えて地面を踏みしめる。
有効射程。素人でも。
息を整える間もなく、狙いをつける。

シュパッ

エルヴィン「行けえええええ!!!」

白い煙を描いて、見慣れた戦車の砲弾と比べると、呆れるほど遅いパンツァーファウストの弾頭が、襲いかかる。

みほ「嫌ああああああああ!!!」

まるでスローモーションのように。

エルヴィンは目を閉じ、祈った。
頼む。
当たれ。

ドォォォォォォン!!!

…………

もうもうと黒い煙が上がる。
静寂だった。

エルヴィン「やっ、やったか!?」

エルヴィンの問いに答えを出すかのごとく、鉄の獣が首をもたげる。

………ドルルルン

怒りの唸り声だった。

エルヴィン「何っ!?」

ガロロッガキャキャキャキャキャ!!!

そのまま再び、目の前のもう一匹の鉄の獣に襲いかかる。
フラフラと不安定に左右に腰を振る姿は、得物に食いついた野犬のようだった。

カエサル「嘘だろっ、おい!!!」

操縦するみほ自身、何が起こったか分かっていなかった。
一瞬、また、今度こそ、全てが終わったはずだった。
苦手で、嫌で、身体に染み付いた動きだけが、寝返りのように操車する。

みほ「あれ?……なんで?」

沙織「り、履帯に吸い込まれた……?」

カエサル「ぐっ、しかし、これならまともに動けんはずだ……!!エルヴィン!!!早く乗り込め!!!」

カエサルがハッチを開けて、呆然とするエルヴィンに叫びつける。

エルヴィンは、ハッとした様子で駆け出した。

みほ「……………」

一度擬似的に死んで、みほの頭は冴えていた。
自動車部が頼んでもいないのに付けたスイッチに手を伸ばす。

バツツツッ

カエサル「なっ」

エルヴィン「じ、自分から履帯を外した……!?」

炸薬仕掛けのギミックは、恐ろしくスムーズに起動した。
そのまま転輪だけの姿で、鉄の獣は、今度は訓練された猟犬の如く、相手の獣の首に噛み付く。

みほ「クリスティ式……テトラークに感謝ですね」

沙織「そ、そんな……」

沙織「そ、そんな……」

猛然と動き始めた獣を前に近寄ることもできず、エルヴィンは立ちすくむ。

みほの脳裏に、力なく立つエルヴィンの姿が浮かぶ。

みほ「……見事でした、エルヴィンさん、カエサルさん。正直……驚きました」

本心だった。
遥か遠くから眺める、おそらく自分だったものが、感嘆し、感激し、賞賛していた。
そして、意味の無いことだった。

みほ「沙織さん、落ち着いて装填して、砲撃してください。大丈夫、外しても押し込んで横転です。これで詰みです」

沙織「うっ、うん」

刹那。先ほどまでただただ食らいつかれていた獣が、俄かに息を吹き返した。
砲塔がギシギシと軋みながら、みほ達のテトラークを向く。

みほ「!させない」

みほが操縦桿をクイと静かに動かした。

ガキャキャッ

ガキッ

あくまで冷静に、少しだけ弾く。

ドォン!

苦し紛れの一噛みは、首の動き一つでいなされた。
もはや牙の一本もない。

カエサル「くっ!これでは……」

エルヴィン「……くそっ……」

動きを封じられ、首元に食いつかれて、生き延びられる獣はいない。

希望はなかった。

みほ「最後です。沙織さん」

沙織「………ごめん」

とりあえずここまでです

おやすみなさい

グッ……

沙織が引き金に力をこめ、まさにケリをつけようとした時だった。

『やっ、やめてください!!』

エンジンと金属音が満たす空間に、遥か遠くから声が割入る。
決して大きくは聞こえないが、二人の耳には殊更に鮮明に聞こえた。

エルヴィン&みほ「「!!!」」

沙織「ゆっ、ゆかりん!?」

ブロロロロロロ………

吊り橋を大きく軋ませながら、そんなことお構いなしとばかりに風紀委員のくろがねが爆走している。
拡声器のスイッチを入れた時の、キン、という音と、泣きじゃくるように息を吸う音が聞こえた。

優花里『やめてください!!!なんで二人とも、そんな……もう、バカーーーッ!!!』

みほ「ば」

エルヴィン「バカ……」

今まで優花里からは聞いたこともない声色の悲痛さに、みほとエルヴィンは胸が張り裂けそうになる。
悲しませた。
それはそうだ。こんなの、優花里が、グデーリアンが、一番嫌がるようなことじゃないか。
もちろん二人とも頭では重々分かっていた。しかし理解していなかった。
いざ実際目の当たりにすると、しかもその原因が自分達となると、好きな人を悲しませるのは、目の前がチカチカするくらい恐ろしく、悲しく、不安になった。

沙織「今ショック受けてる場合じゃないでしょ!!ゆかりん!!!だめっ、戻って!!!」

沙織の声に、先ほどとは別の意味で頭が真っ白になっていたみほが、再び意識を取り戻しかける。

そう、だめだ、優花里さん。巻き込まれる。危ない。

遥か遠くで見ていたはずのみほが、食らいつくように戦車乗りとしてのみほにしがみつき、引きずり降ろそうとしていた。

カエサル「くろがね……」

カエサルの眼から今の状況は、全く別に映っていた。
あれほど的確に車体を押し付けてきたみほ達のテトラークは、今や動きは散漫で、申し訳程度にアクセルを踏んでいる状態だ。

まだ、負けていない。
友人を勝たせられるかもしれない。
なんでもあり、恨みっこなしだ。

彼女の眼にとりくろがねの乱入は、完全なる死地に差し込まれた一本の蜘蛛の糸に映った。

カエサル「しめた!」

後部座席から狭い車内を潜り、肩と言わず腰と言わずぶつけながら、操縦席に無理やり滑り込む。
マフラーが引っかかって少しばかり嫌な音を立てたのが気がかりだが、そうも言っていられない。
点火装置を思い切り捻り込む。

………ドルルルルル!!!

先ほどまで完全に沈黙していたもう一匹の獣が、これまで散々良いようにされた鬱憤を晴らすかの如く、獰猛な雄叫びをあげる。

みほと沙織が、ハッと顔を向ける。

ガキャキャキャキャキャ!!!

そのまま、履帯の踏ん張りで、今度はみほ達のテトラークを猛然と押し付け始めた。

みほ「!!」

沙織「なっ……動いてる!!い、いつの間に!!」

現状を認識した瞬間、戦車乗りとしてのみほが支配権を取り戻しかける。
しかし、意識の端になおしがみつく、心優しい少女としてのみほが、一瞬その判断を鈍らせる。

でも、優花里さんが。

今や形勢は逆転していた。

エルヴィン「かっ、カエサル!!ナイス!!」

先ほどまで完全に諦め、くろがねが見えてからはそちらに意識を持って行かれていたエルヴィンも、そのけたたましい音と数瞬前まではありえなかった二輌の姿にある野心が去来するのを感じた

勝てる。

優花里は何より心配だ。
なら、こちらに来る前にケリをつければいい。

エルヴィンの理性もまた、混乱していた。

カエサル「エルヴィン!!!決めるぞ、乗り込め!!!」

エルヴィン「おう!!」

身の危険とかは、目の前に突然勝利がぶらさがった時点で些事だった。
ほんの少しだけ勢いを落としたテトラークに、先ほどまで棒の様だったエルヴィンの足は軽やかに弾みをつけて飛び乗った。

タタタタンッ

ガチャッ

ハッチを開けて滑り込む。
鉄の獣が四肢と牙を完全に取り戻した。

ドルルルルルン!!!

装甲越しに感じる一層増した敵の獰猛な身震いは、みほと沙織の心胆を寒くした。

まずいまずいまずい。

文言は同じだが、二人の意味合いは全く違う。

沙織の全身から血の気が引いた。
一番状況が見えていて、ゆえに一番焦っていた。

くろがねは橋の中腹を越えた。
なおスピードは落とさない。
優花里だって気づいているだろう。
恐怖で声も出せなくなっていた。
もはや吊り橋の傾きは、欠陥住宅どころかピサの斜塔、いや、もはやこれは。
混乱する頭の一片が透き通る感覚を優花里は覚えた。

落ちる、かも。

エルヴィン「終わりだ……!!」

エルヴィン達のテトラークが、みほ達のテトラークに牙を突き立てようと、砲塔を差し向けた。

優花里『やめッ……うわぁっ!!!』

バツン!ミチチチチ……

ガクン、と優花里の身体がくろがねごと一瞬宙に浮いた。
吊り橋のワイヤーが、ついに一本、完全に切れたのだ。
沙織の瞳孔が恐怖のあまり収縮しきった。

エルヴィン&みほ「「!!!」」

カエサル「つ、吊り橋が!?」

今更気づく馬鹿共に心底怒りを感じ、焦り、沙織は絶叫した。
なんのために戦ってるんだ!!!

沙織「だから言ってたじゃん!!!もおおおおお戦闘中止!!!ゆかりん戻って!!!待って、だめ、動かないで!!!」

くろがねは橋の中腹からこちら側にだいぶ進んだところで急停止していた。
懸命な判断。普段なら戦車も頼もしく支えるこの橋は、いまやくろがねの小さなタイヤが踏み締めるだけで容易く千切れるであろう、笑えない絶命アトラクションと化していた。

優花里が危ない。

二人の意識が急激に冴える。
エルヴィンとみほが同時に叫ぶ。

エルヴィン「カエサル!!」

みほ「沙織さん!!ワイヤーと固定ロープ用意!!!早く!!!」

キン!
呼吸音。

優花里『きっ、来ちゃダメ!!!来ちゃダメです!!!危ないですから!!!』

優花里が震える声でなおも気丈に叫びつける。
此の期に及んでまで自身の身を優先しない優花里に、みほとエルヴィンは完全にキレていた。

絶対失うものか。

およそ気の合わない二人の意思が、出会って初めて合致した。

みほ&エルヴィン「「戦車前進!!!」」

ギャギャギャッ!!

二輌の獣が並走する。

カエサル「エルヴィン!!」

エルヴィンはおう、と鋭く応えると、手のひらのワイヤーロープを握りしめ、上部ハッチに手をかけた。

沙織「みほっ、お願い!!!」

沙織がワイヤーの束を投げつける。
こんな時まで絡まないように配慮するのはやはり沙織だった。
みほは無言でうなずくと、思いきりブレーキをかけながら、操縦側ハッチの爪をもぎ取るようにこじ開けた。

ガチャチャッ

戦車の勢いも止まりきらぬままに、二人の少女が砲弾の如く飛び出す。
着地し、そのまま風のように、吊り橋を目掛けて走り出す。

みほ「くっ!!!」

エルヴィン「間に合えっ!!!」

くろがね車中からでも見える二人の暴走に、もう残っていないとすら思われた優花里の血の気は、今度こそ完全に引いてしまった。

徐々に谷底に向かう吊り橋の、端。まだ無事な二本の縦ワイヤーの根本に、四苦八苦しながらワイヤーを絡ませている。

なるほど、あの位置なら物凄い力で無理やり引っ張れば確かに橋は吊れるだろう。

だが。

優花里の目がワイヤーを追い、その先を見つけて瞳が震えだす。
ワイヤーの先には……テトラーク!!軽戦車!!!
優花里はもはや気絶寸前だった。
何してるんだ。何してるんだ。
今吊り橋が落ちたら二人とも思いきり引きずられて真っ逆さまだ。
万が一結べたとして、テトラークの軽さで鉄板が敷き詰められた巨大な吊り橋を持たせられるのか?

私がみんなを殺してしまうのか?

心臓は内側から機関銃を撃ちまくられていた。
汗が吹き出る。
呼吸ができない。

ミチチチチ……ギシシッ

優花里の焦燥に呼応するかのように、ちぎれた方に近い吊り縄が次々役目を放棄し出す。
落ちるのはもはや、遠くはない時間の問題だった。

優花里『(も、もうダメ……!)戻って!!!』

優花里が掠れる声でがなった。
エルヴィンとみほは優花里を一瞥すると、視線を一瞬交差させ、力強く立ち上がり、同時にワイヤーを思いきりひきしぼった。

ギシッ………!

エルヴィン「はーっ、はーっ……!!!」

エルヴィンが肩で息をする。
足りない。
分かっているのに手が震える。
慣れない装填、パンツァーファウストを抱えたままの猛ダッシュ、そして今。
気迫に追いつく体力は、もはや残っていないかに思えた。

激しい声が耳を裂いた。

みほ「エルヴィン!!!そっちの効き、甘い!!!もっとワイヤーと釣り縄絡ませて締め直して!!!」

ハッとする。
隊長でも恋敵でもない、西住みほ自身の声。
その頼もしさに、何故だか涙が浮かびつつ、身体が最後の一しずくまで燃料を燃やそうとする。
頭を振って水を払う。

エルヴィン「くそっ、了解だ西住!!!」

今この瞬間は対等な仲間だった。
敬称はいらなかった。

ギシッ!!!バツッ………

ワイヤーの完全な固定とともに、切れてはいけない致命の部分が、ついに役目を投げ捨てる。

優花里『は、わ………!』

優花里の身体から、重力が徐々に無くなりかけた。

エルヴィン&みほ「「カエサル(沙織さん)!!!全力でバック!!!」」

カエサル「了解ぃ!!!」

沙織「ばっ、バックってこっちだよね!?いいんだよね!?」

コンマの差で間に合う。
吊り橋がギリギリで息を吹き返す。
二輌のテトラークが、ほとんど同時に猛然と引き戻り、自ら釣り縄の代わりとなっていた。

ガロロロロロロッ

テトラークの履帯が、転輪が、土を踏み締め後退し続ける。
無理やり橋を下から持ち上げるかの如く。
吊り橋とはもはやいえないが、ほんのひと時、支えるには十分だった。

優花里『うわっ、わぁっ!!!』

一度落ちかけた重力が反発してきて、橋ごと上に下になり、優花里は腹の底が冷えに冷える心持ちがした。

二輌のテトラークが後退し続ける。

カエサル「く、そ……重い、ぞ!!!」

沙織「ゆ、ゆかりん!!!はや、早くぅぅうう……!!」

カエサルも、沙織も、吊り橋の想像以上の重さに慄いた。
アクセルペダルはベタ踏みで、中身もメカキチ自動車部が弄くり回して凄まじい馬力を持つ改造テトラーク。
にもかかわらず、谷底までほんの少しずつ、着実に近づいている。
履帯のないみほ側のテトラークは、顕著だった。

エルヴィン「グデーリアン!!くろがね捨てろ!!!」

この上くろがねの踏ん張りには耐えられない。

みほ「走ってきて!!早く!!!」

優花里『わっ、わかっ』

優花里「わかりました!!!」

くろがねを乗り捨て、言うが早いか、優花里は走り出す。
揺れる感覚、傾く感覚に抜けそうな腰をなんとか持たせて、ひたすら走る。

カエサル「ぐぐ、ぐ……!」

沙織「どうしよう、みほ!!!引っ張られてる!!たわんできてる!!!」

エルヴィン「くっ!!」

まずい。
これでは、間に合わない。

とりあえずここまで

今日中に完結できないとまたド深夜になるので早く完結しないと、と思いつつ、多分、無理っぽいです。
すみません

読んでもらえたら嬉しいです。ありがとうございます

みほ「………沙織さん、危なくなったら逃げて」

みほが、沙織に向けて言葉を放つ。
音では聞こえないだろう。しかし、きっと分かってくれる。
実際、沙織は分かってしまった。
しかし、理解はできなかった。

沙織「……へっ?」

みほ「………」

みほが僅かにアーチし始めた吊り橋を、猛然と駆け下りだした。

タタタタタッ

僅かばかりでもとワイヤーを引っ張っていたエルヴィンが目を見開く。

エルヴィン「!?おい、西住!?くっ、」

沙織「みぽりん、待っ、速っ!!」

思わず沙織が身を乗り出すが、アクセルペダルを放すわけにはいかない。
もどかしさで気が触れそうになる。

みほ(優花里さん、優花里さん、優花里さん……!)

みほの意識は、驚くほどクリアだった。
足が空気に変わったのではないかというほど軽い。
戦車に乗っている時の機械になるような感覚とは違う。
怖れはなかった。焦りも、不思議となかった。
心臓は早鐘を打っているが、あくまで冷静だった。

ただ、西住みほ自身の意識には、必ず間に合う、間に合わせるという確信だけがあった。

ミチチチチ……

みほの確信とは裏腹に、現実は残酷な事実を音と手ごたえで二輌のテトラークの操縦手に伝える。

カエサル「……!?まずいぞ!こっちのワイヤーの方が持たん!!!」

沙織「みぽりん、早く!!!」

戦車の牽引にも使える特別強力なワイヤーとはいえ、流石にたった二本でほぼ落ちかけの吊り橋を支えるなどというのは、製作者の想定外であった。

エルヴィン(これでは、間に合わん!間に合え……!!)

エルヴィンは、焦って震える手で、何かの役に立つかもと、肩に掛けていた予備用のロープの結び目を解いた。

優花里「はぁっ、にっ、西住殿!!!はぁっ、なん、で!!!」

優花里が涙と汗でぐしゃぐしゃになりながら、みほが来てくれた安心感と、理性が告げる絶望感に崩れ折れかける。

みほは宙に投げ出されたその手を掴んだ。

途端、優花里の身体にみほの身体から熱と活力が、生きる意志が伝わってきた。
優花里がハッと顔を上げる。
みほの顔は、不安など微塵も感じていない。

私は強い。絶対に大丈夫という根拠のない自信。

昔のみほが持っていたもの。

一度は完全に奪われたもの。

そして、優花里が大洗で、もう一度みほに与えてくれたものだった。

みほ「い、行こう優花里さん、もう少し、だよ!掴まってて!!」

息も絶え絶えになりながら、みほの手は力強く優花里を引っ張る。
帰りは登りだ、パワーがいる。

タタタタタッ

にもかかわらず、まるで平地のごとくみほはすいすい走る。
牽引される優花里には、自分の体重が無くなったかのようにすら感じられた。

優花里「う、わぁっ、すご、はやっ…!」

すごいすごい、やっぱり西住殿は、すごい。

絶望的なのに、死の足音が近づいているのは分かるのに、優花里の胸ははしゃぎだす。
涙が自然に溢れてくる。
もし自分だけなら死んでもいいと思えるくらい、幸せだった。

みほ「間に合え……!!」

先を走るみほの言葉は、自分には向けられていない。
この腐れ吊り橋の野郎、切れたら絶対許さんぞという理不尽なまでの強い意思だ。

ミチチチチ……!!!

だが、その覚悟すら嘲笑うかの如く、ワイヤーは音を立てて細まり、繊維の一本一本が千切れだす。

カエサル「まずい!!切れるぞ!!!」

沙織「ダメ!!ダメダメダメ!!お願い神様!!!」

縺れるエルヴィンの腕が、ようやく任務を完遂した。
腰の結び目は万全、支柱への固定も万全。
次は、足と、心の番だ。
心の準備はとっくに出来ていた。

エルヴィン「間に合ええええええ!!!」

今度は猛然とエルヴィンが吊り橋を下り出す。

ダダダダダッ

カエサル「ばっ、エルヴィン!?」

カエサルの声は完全に裏返った、金切声だった。
半身は浮くが、やはりアクセルペダルだけは放せない。

沙織「腰にロープって……まっ、待って!!!危ない!!!」

ミチチチチ……

ワイヤーはもはや、限界だ。

優花里「エルヴィンどの!!もう、もう……!!」

エルヴィンまで。
私が殺してしまう。
優花里の心が再び絶望に塗り潰される。

みほ「くっ、ダメ!!戻って!!!」

みほも、さすがに分かってしまった。
あと少し、距離にして30メートルもない。
しかし、遠すぎる30メートル。

それを、エルヴィンが猛然と駆け下りる。

エルヴィン「ことわあああある!!!」

放った自分でも驚くほどの絶叫だった。

バツッ、バチッ!!!

カエサル「!!切れるぞ!!!」

沙織「そんなっやだっ……!!」

徐々に聞かなくなる踏ん張り、あと、ほんの、ほんの少し。

エルヴィン(とっ……跳べ!!!)

陸上は得意なエルヴィンの、一世一代の走り幅跳びだった。

タンッ!!

力強く、軽やかな、完璧な踏み切りだった。

優花里「ああっ……!!」

もはや、重力は失われていた。
今の優花里には、抱き締めてくれるみほの腕だけが頼りだった。
空中でエルヴィンが、スローモーションのように近づいてくる。

エルヴィン「西住いいいいいぃ!!!!」

みほ「!!!」

その呼び声に、みほの闘志が再び燃え上がる。
優花里を救えなかった無念と、エルヴィンとちゃんと話せなかった無念を抱えつつ、半ば納得すらしていた。
そんな一瞬前の自分を、教えられた戦車乗りの潔さなどという糞の役にも立たない矜持とともに、今度こそ宙に放り投げる。

片腕が、伸びる。

ガシッ!

優花里「おっ、落ちっ!」

みほ「掴まってて優花里!!!」

自由落下は、今度は横移動に変わっていた。

優花里「うわ、わ、わ……!!」

ターザンって、すごい。
だって、これ、すごい怖い。
優花里の思考には、やはりどこか抜けているところがあった。

エルヴィン「しっかり守れよおおおお………」

みほが優花里を抱きかかえ、半身になって庇う。
エルヴィンは背筋を思いきり使い、上体を思いきり起こし、更に優花里を庇うみほを庇う。

視界に白いコンクリ壁が迫る。

優花里「ヒッ……!!!」

エルヴィン「岸壁くるぞッ!!!」

ダンッ!!

エルヴィンとみほがそれぞれ、片足で衝撃を吸収しようとする。

エルヴィン「あぐっ!!!」

みほ「ぐぅっ……!!」

鈍い音が二重に響き、殺し切れない勢いが、二人の胴を強かに打ちつけた。

優花里「あ゛ぅっ、あ、れ……!うわあああ!!!」

一瞬の息の詰まる衝撃の後、居心地の悪い浮遊感。
高いところは割と得意な優花里とはいえ、さすがに目を開けてしまうと、どうしようもなかった。

みほ「ゆ、優花里さん、絶対放さないよ。安心して掴まってて。下、見ないでね」

優花里「は、はいいいいい」

優花里は必死にみほにしがみつく。
胴が激しく軋むが気にしない。
絶対放すもんか。強く抱き締め返す。

(おや?)

腕に伝わる筋肉質なのに柔らかい優花里の感触と、シャンプーと、汗と、柔軟剤の香りが鼻腔を擽る。

こんな時に、いや、こんな時だからだろうか、みほの頭は、今度は場違いな思考に支配された。

(生命の危機を感じると性欲が増すって、本当なんだなぁ)

みほの瞳に、闘志とは別のぬらつく炎が宿る。

エルヴィン「くそっ西住!!あ……後で代われ!!」

みほ「エルヴィンさん、アホですか!?」

割と人のことはいえない立場だった。

みほ「……で、これからどうするんですか?」

エルヴィンが、脂汗をかきながら声を絞りだす。

エルヴィン「……西住、お前、登れるか」

みほ「………厳しい、です。ちょっと、打ち所、悪かったみたい」

優花里「そっ、そんな……!」

優花里がしがみつくのを緩めようとし、みほは慌てて抱き締める。

みほ「大丈夫だよ優花里さん、大丈夫……」

エルヴィン「なんだ、お前もか、……くそっ、これは………カエサル!!!武部さん!!!聞こえるか!!!」

どうやら戦車から降りていたらしい二人は、上の方から小さく顔を覗かせている。

「お、おう!!!」

「ロープ、引っ張るよ!!!絶対放さないでね!!!」

エルヴィン「頼む……!!!時間、あまりない!!!」

エルヴィンとみほの腕は既にふるえていた。
恐怖もある。だが原因は、純然たる疲労だった。

優花里「わ、私、足で少しでも手伝います!!」

優花里がコンクリ壁を踏み締め、上に向けて踏ん張る。
幾分負担が軽減され、エルヴィンとみほは心底助かっていた。

みほ「ありがとう、優花里さん。でも、掴まってることを最優先に。無理はしないでね」

今になってもただただ自分を守ろうとするみほに、今度は優花里がブチ切れた。

優花里「みほに言われたくありませんよ!!!」

みほ「えっ」

無言で、みほよりも強く、みほの身体を抱き寄せる。
なんで無茶ばかりするんですか。
危ないことは私に言って下さい。
苦しいことはちゃんと分けて下さい。
私にだって背負わせて下さい。
あなたの隣にいたいから。
優花里の言わんとすることが、言葉にしなくとも、みほには不思議と理解できた。
胸が締め付けられた。
チームメイトで、いじらしい自慢の副官で、親友で、それで。
長い時間を共有していたものの、特権だった。

エルヴィン「そ、おま、そんな……」

優花里「エルヴィン!!ちゃんとしてください!!!」

優花里は片腕でみほを抱き締めたまま、もう片腕を開けてエルヴィンの方もグッと抱き寄せる。
エルヴィンには、グデーリアンが今、何を伝えたいのかはぼんやりとしかわからなかった。
ただ分かるのは、自分に全幅の信頼を寄せてくれていること。
自分には少なくともかなりの好意を抱いていること。
そして、それはおそらく、西住へのそれとはーーーー

エルヴィンが慌てて上を向いた。

エルヴィン「おっ、おっぉ、おう!!!カエサル!!もうちょっと持ちそう!!!でも急いでくれ!!!」

努めて笑顔で声を上げる。

「んの、クソボケぇぇえ……こんな時に喜んでんじゃねぇぇえ……」

「くっ……も、もう、腕が
………そ、そうだ、戦車で引っ張る、!!」

みほ「そ、その手が……!」

エルヴィン「おお……武部さん、ナイスだ……!!」

当たり前すぎる発想が、今は魔剣の如き冴えに感じる。
疲労は全員の脳にまで達していた。

優花里「こっちもうやばいです!!体力も発想力もやばいです!!」

ガチャ、とハッチの開閉音が小さく聞こえた。
頼む、頼む、頼む……!

ドルルルルル……バスッ、ガヅン

「ヤバっ……エンストした!!!」

やりやがったこいつ。

みほ「さ、沙織さん、クラッチ下手すぎ……!!」

なんであんなに神がかった通信伝達力と情報処理能力と人間力があるのに、クラッチを繋ぐ力加減程度を理解出来ないのか。
絶望と疲労のあまり苛々を通り越して、みほはここが空中でなければずっこけているといった具合だった。

カエサル「た、武部さん!!!そもそも我々にはロープを戦車に引っ掛ける余力すら……!!!」

震える腕でなお懸命に引っ張り上げようとしていたカエサルが悲鳴のように叫ぶ。
そう、分かっていた。
そもそも、先ほどから上下に揺さぶられる程度で、ロープは少しも巻かれなかった。

エルヴィン「……!!」

ここまでか。
三人の胸に同じ言葉が浮かぶ。

……………
いや、あるいは。二人なら。

優花里が一際強く二人を抱きしめた。

優花里「……みほ、エルヴィン」

みほ&エルヴィン「「!!!」」

優花里「ありがとうございます。私、今、不謹慎だけどすごく幸せなんです」

本心だった。
形としては、最悪だったけど。
大好きな人達が、自分のことを考えてくれているというだけで、優花里には、自分にはもったいなくて身が縮こまってしまうくらいの、最高の幸せを感じていた。
二人の顔が、滲んでいく。

エルヴィン「グデーリアン……」

みほ「……優花里さん?」

力がだんだん緩まっていく。

優花里「どうなっても後悔はないです」

みほとエルヴィンが目を見開く。
こんな時まで!ほんとにもう!!
今更二人も三人も変わらない、とは確かに言えない。
しかし、そもそも二人が今、死ぬような思いをしてまで生かしたいのが優花里なのだ。

その辺のことを、分かっていないのか。

エルヴィン「い、急いでくれ!!グデーリアン、こんな時すら私たちに気を使ってる!!!自分から手を放しかねん!!!」

みほとエルヴィンはたまらず、恐怖に震える優花里をなお抱き寄せた。

よほど生きづらい半生だったんだろう。

わかっていた。エルヴィンもみほも、優花里が分かっていることを分かっていた。
さすがにここまでされて分からないほど鈍くはない。
しかし優花里にとって、自分の命の価値はみほやエルヴィンのそれと比べると、毛ほどのものに思えるらしい。
別に自分がいなくなっても、二人なら一週間後ぐらいには元気な姿で駆け回ってくれるだろうと本気で思っている性質なのだ。
ふざけるな。バカも休み休み言え。
自己評価が異様に低すぎる。

みほ「……優花里さん。あなたは私がここに居ていいことの証明なの。しっかり掴まっててね」

みほが多少の怒りを込めて、一際力強く抱く。
あなたが私の居場所です。
もう腕の力は限界だったが、優花里の頭の悪い覚悟をぶちのめすには、十分だった。

優花里「は……!はい……!」

優花里の方からキュンキュンという幻聴が聞こえてくるようで、エルヴィンはさすがにもう、参ってしまいそうだった。

エルヴィン「………急いでくれぇ」

心が折れそうだ。

カエサル「ううう、頼む、頼む……!!」

祈るカエサルの背後から、光が差した。

カエサルと沙織は振り向き、顔を輝かせる。

ブロロロロロ……

沙織「!!きっ、来た!!!」

『さ~んじょ~~!!!』

スピーカーから聞こえてきたのは、いつも通りの間延びした声。
しかしいつもより、ずっと感情の色濃い声だった。

みほ&エルヴィン&優花里「「「!!!」」」

杏『武部ちゃん、連絡ありがとね!!!……この、大馬鹿達!!!後で本当、覚悟しといてね。……アリクイさんチーム、アヒルさんチーム!!!』

大馬鹿達!!!のあたりはもう、完全にハウっていた。
あまりの剣幕に、さすがのみほもエルヴィンも、ついでに優花里も別の意味で震えだす。

二機のくろがねから、次々と少女が飛び出す。

ももがー「合点!!!」

ぴよたん「大洗のケインコスギにお任せだっちゃ!!!」

ねこにゃー「お、汚名挽回のチャンス……!!!」

典子「根性で引っ張るぞー!!!」

あけび&忍&妙子「「「はい!!!」」」

そーれっ!そーれっ!!

号令に合わせて、ズイ、ズイとロープが上がっていく。
エルヴィンも、みほも、優花里も、信じられない、という気持ちが胸を占めていた。

優花里「き、きてくれた、帰ったんじゃ……?」

みほ「み、……みんな……沙織さん、いつの間に……」

みほが上を向いて呟くと、何が言いたいか察した沙織が目尻に涙を浮かべながらピースした。

沙織「みんなが崖際にターザンした時!!!一斉送信でB3ってしか書かなかったから大丈夫か不安だったよ~~」

その隣に杏が立つ。背中からライトが向けられ、顔が微妙に逆光で見辛いが、強張り、震えているのが見える。

杏「結局みんな気になってぞろぞろ戻ってきてね。……秋山ちゃんが盗んだくろがねで走り出してくれやがっちゃったから手分けして探してたんだよねぇ」

優花里「あ、ありがとうございますぅぅ……」

半分も上がりきったところで、エルヴィンがふいに、笑いを漏らした。

エルヴィン「ふ、ふふ、ふふふ……」

みほ「………?」

みほが覗き込むと、エルヴィンは不適で、快活な笑みを浮かべる。

エルヴィン「……勝手な感傷ではないってことだな」

みほ「!」

みほの中で。
うやむやだったこの戦いの勝敗は、決した。

みほ「……エルヴィン、さん……その……」

エルヴィン「あぐっ!!う、ぐえっ、腰っ……!!あ、揚げ方優しめでお願いします……」

みほ「……ぜ、絶対放さないでくださいね。絶対放さないでくださいね」

エルヴィン「は、はは……情緒のかけらもない……」

ーーーーーーーー

エルヴィン(……あのあと)

エルヴィン(引き上げられた私達を待ってたのは、会長のマジビンタからの叱責だった)

エルヴィン(どうやら、よほど心配してくれていたらしい。ビンタされた頬が、やけに熱かった)

エルヴィン(その後、次第に涙腺が緩んできた会長の、マジ土下座からの号泣謝罪。正直、こちらの方が余程効いた)

エルヴィン(続々と分かれていた仲間達が集まる中、あの、あの会長が。マウスが自分の戦車の上に乗っても毅然としていたらしい会長が、土下座しながらマジ泣きしていた)

エルヴィン(責任者である以上に、会長は我々のことを案じてくれていた。そもそもどうやっても私闘なんぞさせるつもりは無かったらしいが、西住に言われてどうにも出来なくなった、という旨を、気の毒なほどに自分の責任にしながら、そして責任を実際に感じながら謝ってくれていた)

エルヴィン(意外なことに河嶋さんは止めなかった。小山さんも。……色々、彼女の心中を知っているのだろう。普段から手段も言葉も選ばなさすぎるのはどうかとも思うが、あんなに取り乱した姿を見せられては、こちらもなんだか感極まってしまい)

エルヴィン(ついでに他のチームも泣き出して、西住共々みんなからバカみたいに叱られながら、案じられながら、そして私は、多分西住みほも、グデーリアンも、胸の痛みと、どうしようもなく温かいものを感じてボロボロ泣きながら、救急車で搬送された)

エルヴィン(なおこの間、私と西住はずっと四つん這いだった。骨折していた)

とりあえず今日はここまでです。
読んでくれてありがとうございます。
本編的には、ほんの少ししか進んでいませんが。

残りはエピローグになります。
もう少しだけ、お付き合い頂けると嬉しいです。

翌日 夕方 病院

みほ&エルヴィン「「………」」

沙織「ふふ、みぽりん、エルヴィンさん、まるでボコだね」

みほ「う、うん……実際なってみると、結構辛いね」

エルヴィン「うう、見舞いの品すら食うと響くのは辛いなぁ……こう、岸壁を足で蹴ってこう、いけるはずだったんだがなぁ」

カエサル「我々はそれぞれ軽い打撲と擦過傷くらいで済んだが、西住さんは左足と肋骨骨折。エルヴィンは右足と腰と肋骨骨折、それから二人とも打撲があちこち……しばらくは安静だな」

エルヴィン「はあああ~~……」

みほ「全く、みんなからこーってり絞られた上に、よりによってエルヴィンさんと一緒なんて……」

エルヴィン「何ぃぃ?こっちの台詞だ、このタコ、牟田口!ちゃっかりグデーリアンに抱きついてからに……」

みほ「……牟田口ぃ?だったらエルヴィンさんは黒島亀人だね。変てこな作戦ばーっかり」

エルヴィン「マニアックどころを……や、やるじゃないか」

みほ「ふふん」

沙織「……みぽりん、元気になって良かった」

麻子「どころか、ちょっと仲良しさんだな」

みほ&エルヴィン「「………」」

みほ&エルヴィン「「はぁ?」」

麻子「そういう西住さんがもう、珍しいってことだ。クスッ………なんの気兼ねもしてないからな」

華「えぇ、私達としては、少しばかり、エルヴィンさんに嫉妬してしまいますね」

エルヴィン「うええ、勘弁してくれ。なんで西住なんかと」

みほ「わ、私こそ願い下げです。なんでこんなカッコつけマンと仲良くならないといけないんですか。ほら、病室でまで帽子かぶってますよ?」

エルヴィン「これは私の魂だ!!」

みほ「ふん!」

沙織「みぽりん、楽しそう……」

カエサル「エルヴィンも元気で良かったよ」

エルヴィン&みほ「「うるさい(です)!!」」

ガララッ

おりょう「……お前らのがうるさいぜよ。ここ病院ぜよ」

左衛門佐「ほれ、次はグデーリアンのとこ行くぞ。検診終わったと」

みほ「………」

エルヴィン「………」

沙織「……はぁ、全く。ゆかりんはちょっと強めの打撲だから、念のため1日だけ入院したらすぐ退院できるって」

カエサル「仲良くケンカするんだな。さ、行こう。随分へこんでるんだろ?元気づけてやんないとな」

華「そうですね……では二人とも、ご機嫌よう」

沙織「みほ……また、ね」

ガララ

……………

エルヴィン「………」

みほ「………」

エルヴィン「………とりあえず」

みほ「?」

エルヴィン「……グデーリアンが大きな怪我してなかったのは、良かったよな」

みほ「………ですね」

エルヴィン「ああ」

みほ「……………」

エルヴィン「……………」

みほ「……………」

エルヴィン&みほ「「なぁ(あの)」」

エルヴィン&みほ「「………」」

みほ「……私から、いいですか?」

エルヴィン「……構わんよ」

みほ「あの、エルヴィンさん……ごめんなさい」

エルヴィン「えっ、……急だな」

みほ「あの後……昨日の夜、助けてもらってから、みんなに叱られてから、色々考えて」

エルヴィン「…………」

みほ「あの時。エルヴィンさんがしっかり抱えてくれて、結局この人敵にならないんだって。それに、私、……みんなから大事にされてるなって」

エルヴィン「……当たり前だろ」

みほ「……そう、なんですね。これは、どうなっても絶対見捨ててくれそうもないなんて思えて……。そういう人達が、一番怖いんですけどね」

エルヴィン「…………そうか」

みほ「………私、酷いこといっぱい言ってしまいました。酷いこといっぱいしました。嫌な子ですよね、すみません」

エルヴィン「何を!……西住はいい子すぎるからそう思うんだ」

みほ「へ……?」

エルヴィン「むしろ私は、今になって思うと、……あー、変だが、あの時、嬉しかった部分すらあるよ」

みほ「な、なんで」

エルヴィン「西住はいつも何かに気を使ってるみたいだったからな。誰かから見られ続けているような……それが私、ちょっと気がかり、いや、嫌だったんだ。ほんとは強いのにワザとか?みたいなさ」

みほ「そんな……!」

エルヴィン「もちろんそんなわけない。分かるよ今なら。……でも、私に対して感情剥き出しにしてくれたのは、なんというか……対等っていうか……近くなれた気がしたんだな。………お!見ろ!バナ~ナ」

みほ「………」

エルヴィン「誰だって怒るし、陰湿なところもある。当たり前だ。人間だから。……いっつ!……でも普段の西住は、そういうのが一切なかったから……なんだか一枚ベールを被ってるというか…………人間じゃないみたいに感じる時があったんだ」

みほ「……私、嘘がつきたいわけじゃないんです」

エルヴィン「知ってるよ。誰しも隠したい部分はあるし、私なんかももちろんそうだし……ま、あの戦いぶりは正直鬼気迫るものを感じたが……案外受け入れられるもんだよな。……んげ、こえ、あわくないぞ(甘くないぞ)」

みほ「……全く、そのバナナ、1日2日置いとく前提の青さでしょう?バカなんですか?」

エルヴィン「食う?」

みほ「いりません」

エルヴィン「待て待て、これ、この一本の皮の中身は、もしかしたら甘いかもしれない。剥いてみるまで、や、食べてみるまで分からないぞ。……な?」

みほ「……………ん……え゛、あ゛まくな゛い」

エルヴィン「ぶはははは!そうか、甘く無かったか!バカめ!あ!いつつ……!いった!!あ゛!!メロンはお前、ダメだろ!!持ってきてくれたキャプテンさんと、農家の方に謝れ!!」

みほ「ごめんなさい」

エルヴィン「……ふふ!やはり、西住、ずれてるところあるよな」

みほ「ふん!」

エルヴィン「くくく、ふふ………」

みほ「…………」

エルヴィン「…………」

……………

みほ「………夕陽、すごいですね」

エルヴィン「………そうだなぁ」

みほ「…………黒森峰」

エルヴィン「ん?」

みほ「……………黒森峰にいた頃は、勝つことだけが全てでした」

エルヴィン「?どうした?」

みほ「黙って聴いてて下さい。やっぱり今でも、抵抗感すごいんですから」

エルヴィン「はあ?意味が……いいけど」

みほ「はい。……………でも、それで、その、………負けて」

エルヴィン「…………」

みほ「………何もかもが、私の周りからなくなりました」

エルヴィン「………うん」

みほ「最初は、友達。全員が全員じゃないけど、やっぱり、勝つことが第一の黒森峰で、私のやったことは背信だって」

エルヴィン「そんな、あれは……!」

みほ「うん。やっぱり今でも、あれ、行かなかったら、あ、あかほ、赤星さん、達………。今では、間違ってなかったって確信してる」

エルヴィン「………そうだな」

みほ「でも、その時はそんなこと無くて。私自身言われた通りだなって思って。……ちゃんと言い返せなかった。それで、次は居場所。でも、当たり前だよね。友達が居なくなれば、居場所もなくなる」

エルヴィン「…………うん」

みほ「でもまだ平気だったんだ。私、自分の部屋に戻れば、エリ……逸見さんがいたから。彼女だけは……ほっといてくれた」

エルヴィン「うん?」

みほ「ううん、放置とかじゃないの。ちゃんと話を聞いてくれて、黙って私の頭を抱えててくれた。澄ました顔してるのに、心臓がばっくんばっくん言ってるのは、かわいかったなぁ」

エルヴィン「………ふふ、いいな」

みほ「うん。………でも、すぐにばれちゃった。私が戦車道の練習に行かずに部屋に籠ってるの。多分、逸見さんもお姉ちゃんも、圧力はかけてくれてたと思う。でも、私……嫌われてたんだなぁ」

エルヴィン「…………」

みほ「ある日突然、逸見さんと別の部屋にするってお姉ちゃんから言われて。私は絶対嫌だって言ったんだけど、逸見さんは黙って従って。自分が他の人に圧力かけてたみたいに、多分今度は、お……おか、お母、さん、から、……何か言われたんだと思う」

エルヴィン「……………!」

みほ「……え、エルヴィン、さん?」

エルヴィン「な、なんでもない、続けてくれ……!」

みほ「………うん。でも、後は知ってると思う。それで私はもう戦車道なんて大嫌い、くそくらえって思って、やめちゃった。……次の相部屋の相手、私を散々いじめてたやつだったんだ。そんなのって、あり?なんて……」

エルヴィン「………う、ん……」

みほ「………お姉ちゃんは、まほは何も言わなかった。多分、私がもう辛いだけって分かってたのが半分と、に、西住流を継ぐ立場として、私の行為を裁く側だったのが半分。あと、おかあ、さんが、怖かったのが全部」

エルヴィン「……………」

みほ「エリカさんはやめるのにすごく反対してくれたよ。………ふふふ、もう、ほんと、すごかった。でも、守る守られるどうこうじゃなくて、私が嫌になったから絶対やめるって理解したら、今度は、私に対して怒っちゃって。そのまま。………あの時は、多分、お互い混乱してしょうがなかったんだと思う」

エルヴィン「…………」

みほ「でも、私が許しても、エリカさんは……逸見さんは、もう二度と、自分のことを絶対許せない。私にとことん仕返しされて、それで死ぬまで。し、死ぬまで私の敵でなきゃいけないくらいに考えていると思う。バカだよねぇ」

エルヴィン「……そこまで……」

みほ「うん……ほんとは優しいのに見栄っ張りで、意地っ張りで、……それで、自分に厳しいから。誰かを傷つけておきながら、したいことする自分が、もう、許せないんだと思う」

エルヴィン「……………」

みほ「………エリカさん、私達の練習試合、いつもこっそり観に来てくれてるんだ。日程とか、割と無理やり合わせてると思う。……でも、絶対言わないで帰るんだよ。それで、絶対バレてないと思って。舐めてるよ。それで、わざわざ黒森峰じゃないお菓子屋さんで、ま、マカロン、買ってきて、それで、でも、味、あじが、ぜんぶ……!ば、バレて、ないと、思って、ほんと、ぬ、抜けてるとこ、あって、ば、バカ……!!」

…………コンコン

エルヴィン&みほ「「!!」」

エルヴィン「………すまん、誰か知らんが、今は……」

みほ「ううん!…………大丈夫。どうぞ入って下さい」

エルヴィン「………ああ、どうぞ」

カララッ

優花里「……失礼します」

すみません、今日はここまでと言いつつ、また上げてしまいました
今日は正真正銘ここまでです
読んでくれてありがとうございます。とても嬉しいです

続きを書いてたら存外長くなりそうだったので、途中まででも上げます


結末にはちゃんと向かっているので、もう少しお付き合い頂けると嬉しいです

エルヴィン「ぐ、グデーリアン……!」

みほ「優花里さん!身体はもう、大丈夫?動いていいの?」

優花里「!!……うっ、うう………」

エルヴィン&みほ「「!?」」

エルヴィン「おっ、おい、大丈夫なのか?」

みほ「優花里さんどうしたの!?け、怪我?痛むの?どこ?大丈夫。安心して?」

優花里「………うううええええええん」

エルヴィン「あっ、ああ、ぐ、グデーリア………うっ、うううう……」

みほ「ちょっ!?もう、お、おいでおいで、ね。ゆ、ゆっ、ゆか、ど、どうしたのぉぉ……?」

おろおろおろ………

ふええええ………

……………

エルヴィン「はああああ……」

みほ「あ゛ー……あはは、もう、三人してすごかったね」

エルヴィン「看護師さん、駆けつけてきたからな『どうかされま゛したか↑』って」

みほ「ふっふ!…いっつ!……う、うまいね」

優花里「す、すみませんでした……お、お二人がほんとに生きてるって思ったら、安心して」

エルヴィン「ふふふ、何をそんな、当たり前じゃないか」

みほ「いの一番にもらい泣きしてた人が何言ってるんですか。……あっ、あっ、優花里さん、危ない、ねぇ、皮むき機ないかな、ナースコールしていいかな」

優花里「だっ、だめです!看護師さんってすごい忙しいんですよ!?」

みほ「ご、ごめん……」

エルヴィン(ふっ)

優花里「それに、み、みほ、に、危ないとか、どうとか、言われたくないです……」

みほ「そっ!そっ、そう……そっかぁ……」

エルヴィン「」

ショリ、ショリ、ショリ、ショッ((ガタタン))、……ショリ、ショリ……


優花里「………はい、どうぞ」

みほ「ありが……う、腕も、怪我してるかも」

優花里「えっ!?だって、足と肋骨じゃ、えっ、だっ、大丈夫ですか?」

みほ「うっ……ご、ごめん優花里さん、嘘………ひゃっ、つべたい!」

優花里「むー……ほら、食べて下さい、全く……」

エルヴィン(つらい)

優花里「はい、エルヴィンも」

エルヴィン「えっ!?」

優花里「はい」

みほ「…………」

エルヴィン「や、でも……」ちらっ

みほ(コクコク)

エルヴィン「じゃ、じゃあ……」

パクッ

優花里「………」

しゃく、しゃく……

ごくん

エルヴィン「ふ、ふふ、ほろ苦い……」

優花里「…………」

みほ「…………」

エルヴィン「そ、そんな落ち込まないでくれ、私が落ち込めないだろ……」

優花里「………あ、あの」

エルヴィン「?」

優花里「え、エルヴィン、その……ありがとう、ございます」

エルヴィン「…………」

みほ「…………」

優花里「私、あの、ほんとに、ほんとに嬉しいです。え、エルヴィン、は、優しいし、かっこいいし、助けてくれて、あの、ありがとうございました。……でも、あの、私、あの……ご、」

エルヴィン「待ってくれ!!」

優花里(ビクッ)

みほ「………どうしたの、エルヴィンさん」

エルヴィン「………西住、あの勝負の勝敗は、結局つかなかったな」

みほ「……その、それは、戦車戦のこと?」

エルヴィン「ああ。結局、うやむやだったよな?」

みほ「ついたよ」

エルヴィン「そうだ、だから私と……えぇっ!?いっ、いつ!?」

みほ「………エルヴィン、無粋だよ」

エルヴィン「はっ?意味が「いいよ」……へ?」

みほ「………別に、ちょっとくらいなら抜けだしてもバレないでしょってこと」

エルヴィン「………どういう………」

みほ「優花里さん、その、上からの、足のそれ、外して上げて。あと、松葉杖もってきてあげて」

優花里「へっ?は、えっ?」

みほ「お願い」

優花里「?はぁ……いいんですか?」

みほ「大丈夫。お医者さんもちょっとなら良いって言ってたよ」

エルヴィン(えぇ……)

優花里「なら……」

いそいそ……

エルヴィン「つっ……に、西住、なんのつもりだ?」

みほ「……エルヴィン。私は、正直、どうするのがあなたという存在に一番誠実であるということなのか、分かりません」

エルヴィン「………?」

みほ「だから、私…………優花里に、任せます」

優花里「へ………」

エルヴィン「……は……そりゃ、酷、だろ、西住」

みほ「………なんとでも言って。でも、他に、思いつかない、ごめ、ごめん、エルヴィン」

エルヴィン「…………いや、いい。いいんだ。それなら一番、納得がある。……ありがとう西住。……グデーリアン、その、手、貸してくれるか」

優花里「は、はい……」

そっ

エルヴィン「!!……ふふ、あ、ありがと。……じゃあ、すまん西住。……少し、借りる」

みほ(………)

こくっ

エルヴィン「……へへへ、……グデーリアン、行こう」

優花里「えっ、はっ、あっ、……はい」

コツッ……コツッ……コツッ……カララッ


パタン

みほ「……………」

窓から、夕陽が見える。

「屋上に行こう」

私がそう言うと、グデーリアンは黙って頷いてくれた。
二人でゆっくりと、赤みがかった病院の廊下を、ゆっくりと歩く。
なるべく小さく。でも、不自然にならない程度に。
顔に赤が差し掛かり、ふと外を見ると、遠くに、縁がオレンジ色に輝く大洗女子学園が見えた。
薄く窓に反射するグデーリアンと、目が合う。
グデーリアンは優しく微笑み、松葉杖を持つ手とは逆の手を、そっと握り締めてくる。
恥ずかしいくらいに手汗だらけだったけど、私がそれを気にしているのが分かると、グデーリアンは優しく、でも、もう少しだけ強く、握り締めてくれた。

階段を上る。
慣れない松葉杖に四苦八苦していると、グデーリアンが松葉杖をそっと私から受け取り、小脇に抱えて、代わりに右肩を支えてくれた。
その優しい感触に、左手の手すりを、くいくいと握り込んでしまう。
一歩一歩、ゆっくり上がっていく。
一歩歩くごとに、ヒビの入った腰が痛むが、右側からの暖かさが、その度それを忘れさせてくれる。
大丈夫ですか。痛くないですか。
数歩ずつに声をかけてくれるグデーリアンの声色はどこまでも優しくて、それだけで歯を食いしばって、笑うはめになる。
ゆっくりと、ゆっくりと上がっていく。

着いた。当然、鍵は閉まっていた。

そりゃそうか、と笑ってしまう。
こんな時まで、もしかしたら、なんて考えてしまう私は、基本やはり、間抜けた甘たれなのだ。
こんなところまで連れてきてもらったというのに、やはり、くそダサが私の地力らしい。
謝ろうと右手を見ると、グデーリアンはドアノブを真剣に眺めていた
やがて何かを得心すると、腰のポーチ(グデーリアンポーチには、何でも入っている。警官に職質されたら、多分確実に負ける)を開き、何だか細くてクネクネした見たこともない道具を取り出し、鍵穴に差し込んだ。
私が呆気に取られているうち、グデーリアンは、ああでもないこうでもないと上に下に、見たこともない道具を動かす。
1分も経たないうち、鍵穴は、かちゃりと、驚くほど簡単に身を許した。
グデーリアン自身、びくりとすると(慣れてなかったのか)こちらを振り向き、眉をハの字にして、笑った。

ドアを、開ける。

瞬間、窓のなかった踊り場に、夕陽が満ちる。
爽やかな潮風が、消毒液の匂いを後ろに流し去っていく。
世界が生まれ変わるようだった。
気持ち良い。
右のグデーリアンを見ると、いつも垂れ気味の目を、まんまるにしていた。
私の視線に気づいたグデーリアンは、ふわとはにかむと、そっと松葉杖だけを踊り場に残して、少しだけ高くなっているドアの縁をまたぐ。
そして、私の身体を優しく支えて、リネン張りの床から、屋上のコンクリートに、引き寄せてくれた。
ドアを後ろ手に閉める。
なんとなく、この場所を、少しでも二人占めしたかった。

少し冷たくなり始めた風が、頬を撫ぜ、髪をほんの少し、軽く持ち上げていく。
学園艦の中でも比較的かなり高い建物の部類に入る、病院の、さらにその屋上からの眺めは、最高だった。
住宅地も、公園も、林も、人工池も、なんだかいつもよりずっと小さく見えた。
ここからだと大洗女子学園は逆光でよく見えなかったが、その奥の夕陽は、キラキラと力強く燃えていて、何でもないことなのに、毎日見ているものなのに、どうしようもなく美しく感じた。

「あそこの縁まで、行かないか」

はい。

グデーリアンは、そっと、私の身体の重さを引き受けてくれる。
腰の痛みなんか、もう感じなかった。
胸の痛みは、きっと、心臓の奥の奥からだった。

手すりに左半身をもたれる。
私が安定したことを確認すると、グデーリアンが私の右側からそっと抜けて、向き合うように右半身を手すりにもたれた。
首と半身だけを捻り、眼下の大洗女子学園艦を、そしてその先のずっと続く海を眺めている。
柔らかそうな髪を風がふわふわと撫でている。
キラキラ輝く目を薄めて、とても気持ちよさそうにしている。
そのグデーリアンの横顔が、悲しいほど美しくて、愛しくて、喉の奥が、胸の芯が、きゅっと締め付けられる。

「………その顔に、やられたんだよな」

え?

選抜戦のあと、大洗学園艦を見つけた時。
私はふと、西住みほの傍にいた、グデーリアンの横顔を見て、その美しさに引き寄せられた。
今と、同じ顔をしていた。
グデーリアンを、秋山優花里を、明確に意識したのは、そこだった。
グデーリアンは私の目をまっすぐ捉えて、きょとん、としていた。

「なぁ、グデーリアン。……綺麗だな」

グデーリアンが、嬉しそうにはにかむ。

はい。

ふふふ、にぶちんめ。
そっと、目を閉じる。
意識してから分かったことだが、どうやら私は彼女のことを、以前から、かなり気になっていたようだった。
戦車道の授業の後、一人でこっそり装填練習してる時の、グデーリアンの真剣さが。
二人で行った偵察の、驚くほどの行動力と、頼もしさと、心配りが。
戦車の話をしている時の、キラキラした目と、明るさが。
胸の鼓動を抑えようとするのは、もう諦めた。
ゆっくりと、目を開く。

視界に入るグデーリアンは、眉をハの字にくいと歪め、苦しそうに、悲しそうに、胸元を両手で握り締めていた。
全く、少しは期待させてくれ。
死ぬほど胸は締め付けられるのに、思わず口の端が笑う。

でも、そんな優しさが。

「グデーリアン、好きだ」

一粒、二粒。
グデーリアンの目から、ポロポロと涙が零れ出す。
分かっていた。
多分、最初から。
グデーリアンの瞳が、
唇が、震えている。
あぁ。

ごめんなさい。

声は、掠れていた。
目の前のグデーリアンが滲む。
あわてて思い切り上を向く。
分かっていても、到底諦めきれるものでもなかった。
腰の痛みが、じんじんと増す。
胸が、張り裂けそうに痛む。
いかん、いかん。
思いきり頭を左右に振る。水が、パッと散った。
こういう時こそ、かっこつけねばな。
努めて笑って、決めていた台詞を口に出す。
ならば私の親友として、傍にいてくれないか。
ならば私の、

「ならば私の、し、しんゆ、しんゆ、う、と、し、て……」

笑えない。笑えなかった。
涙が、止まらなかった。
やはり私は、くそダサい。
不意に、身体が優しく包まれた。

グデーリアンが、私を抱きしめてくれていた。

喉が限界まで絞られる。
腕が震えた。
胸の鼓動が溶け合うようだった。
必死で腕を後ろに寄せた。
私から、抱きしめ返すことは、出来なかった。
きっと、戻れなくなってしまうから。

読んでくださって本当にありがとうございました。
以上で本筋は終了です。
やはり西住さんは強かった……
感想くれた方、とても嬉しかったです。ありがとうございました。

といいつつ、まだちょっとだけ続きます
後日談です

それとは別に
愉快なエリカさん地獄変も書きたくなったので、
もし書けたら、読んでもらえると嬉しいです。

重ね重ねですが、ありがとうございました

三か月後

『こちらあんこう!カバさんチーム、送って』

「こちらカバ、そろそろか?」

『はい、そちらに3輌。IS-2が1、T38が2、向かいます』

「指示は?」

『仕留めてください。……だって!』

「ふん、カバチーム了解!オーバー」

「……来るんだな?」

「ああ。3輌だ。装填早めに頼むぞ」

「任しとけ」

「3輌か。三突も食いでがあって喜ぶってもんだなぁ」

「油断しちゃいかんぜよもんざ。……しかし、隊長の指示、どんどん適当になってるぜよ」

「ふふ、あいつ、意外とそういうとこあるからな。……そら、おいでなすった」

「ほぉ、随分慌てているな」

「そうらしい。大方化け魚にでも脅かされたんだろうが……戦場でパニックになるとどうなるか、ここは一つ、教育してやろうじゃないか」

「勝者!大洗女子学園!!」

ワッ!!

桂莉奈「あいあいあーい!!」

あや「せんぱぁい!すんごーいッ!!」

ももがー「勝ったぞなー!!」

ぴよたん「フゥオイェー!!」

ねこにゃー「出た!ぴよたん氏のカズダンス出た!カズダンス出たよぉ」

ガチャッ

カエサル「……破竹の勢いだな」

沙織「ま、当然だね!」

「「全隊集合!!!」」

みほ「みなさん、ご苦労様でした。新生プラウダ軍との練習試合……勝てましたね」

おおーっ!!

あゆみ「私達強くない!?」

優季「やばいかも~」

ツチヤ「サンダース二軍とマジノに続いてまたまた連勝~!!」ぶいぶい

ホシノ「へっへ、しかも今度は大金星だ。戦車道玄人さん共、もうマグレ優勝だなんて絶対言えないなぁ」

あけび「調子いいねぇ」

みほ「ですが、油断は禁物です。常に挑戦者の精神を忘れては行けません。そして、戦車道を楽しみましょう」

華「みほさん、戦車を降りても堂々としてますね」

麻子「あぁ。……横にいいお手本もいるしな」

みほ「では、副隊長」

「おう!」

コツ、コツッ

「みんな!!」

バサッ

エルヴィン「勝ったぞ!!!」

わああああーーーっ!!!!

カエサル「ふっふ、あいつのカッコつけも、使いようだな」

沙織「うんうん。みぽりんとは違う、引っ張れ引っ張れなリーダーだねぇ」

華「ええ、まるでヤグルマギク……どんな厳しい寒さにも耐え、春の光の中で咲く、激しく、繊細だけど、強い花です」

麻子「ちょっとアンツィオ入ってるけどな」

優花里「でも、かっこいいです」

みほ(むっ………)

エルヴィン「今日の試合、まこと痛快だったな……左衛門佐!!!」

左衛門佐「おう!!!」

エルヴィン「あいつらの生温い包囲を首根っこから食いちぎってやった時、どうだった?」

左衛門佐「ふふふ、まさに気分は真田信繁単騎駆け……敵の悲鳴が気持ち良い!!」

ハーッハハハハハハ!!
ハーッハッハッハ!!!

エルヴィン「だが!!隊長の言う通り、油断は禁物だ。おりょう」

おりょう「ぜよ」

エルヴィン「序盤の苦戦の原因は何だ?」

おりょう「一重に我らの練度不足。我々はまだ白虎隊……操車がまだまだ雑すぎぜよ」

エルヴィン「その通り!やはりまだまだ我々には練度が足りない。だから虚をつかれれば不必要に慌て、決められるチャンスを二度三度フイにしてしまう。そして結局脳みそは、まだまだ西住隊長頼りだ。それでいいのか!!!」

梓「良くなぁい!!」

エルヴィン「そうだ澤!!練習あるのみ!!!そして自主自立!!!再びこの手に優勝旗を取ろうじゃないか!!!」

典子「うおおーっ!!やるぞ!!特訓!!!」

妙子&あけび&忍「「「はい!!!」」」

あや「くぅ~~~燃えてきたぁ~~~!!!」

梓「むむむむむ……!」

華「エルヴィンさんに言われるとすんなり胸に落ちますね」

沙織「自分が一番努力してるの、みんな分かってるからね」

カエサル(西住さんに負けないようにってな)

エルヴィン「……うむ、隊長」

みほ「はい。カモさんチーム、アリクイさんチームは、後で副隊長の所へ。『操車があむぁい!二年以下は居残り練習だぁっ!』だそ「おいなんだ今のモノマネ!悪意ありすぎだろ!!」……だそうです!」

ねこにゃー「ひええ、鬼副隊長の熱血指導にゃ……」

ゴモヨ&パゾミ「「そど子ぉ……」」

そど子「しゃんとしなさい!私も付き合うから。カモチーム、了解です!」

みほ「うさぎさんチームは、私の所へ。とても良くなってるよ。でもまだまだムラがあります。一緒に序盤の動きを振り返りましょう」

梓「ぐっ、………はい………!」

沙織(あらら、こっちもこっちで一悶着ありそう………)

エルヴィン「……隊長、次の試合の話を」

みほ「……はい。みなさん、次の練習試合の日程が決まりました」

ナカジマ「聖グロでもチハタンでもどんとこーい!!」

典子「根っ性で勝ちます!!」

みほ「…………黒森峰です」

ざわっ

みほ「日は一週間後、新体制の一軍です」

ざわわわっ

スズキ「さっ、さすがに……」

ホシノ「一度倒した相手じゃん、行ける、行けるよ!」

あや「もうだめだよ桂莉奈ちゃあん……」

桂莉奈「こら、あや!!桃ちゃん先輩ごっこしない!! 」

そど子「全く、廃校がかかるわけでもないし、胸を借りるつもりで行けばいいじゃないの」

みほ「……みなさん、私情で申し訳ありませんが、私はこの戦い、絶対に勝ちたいんです」

みほ「もちろん、いつもそのつもりで戦っています。ですが、今回は……事情があります。私達が勝つことで、救える人がいるかもしれないんです。私はその人を、救けたい」

妙子「勝つとアフリカに募金が行くの?」

忍「妙子、空気読もうな」

優花里(…………)

みほ「お願いです、みなさん。私は、どうしても勝ちたい。勝って、私達が、強いってこと、揺るぎないってこと、もう大丈夫ってことを絶対に証明したい。……協力してもらえますか?」

エルヴィン「………お前たち!!やれるか!!!」

おおおおーーーッ!!!

みほ「みんな……ありがとう」

コツッコツッ

エルヴィン「当然だ。我々なら、勝てる。私達が敵車をぶちのめす。西住は、彼女の思い込みっていう呪いをぶちのめす。……やってやろうじゃないか」

みほ「……うん!」

エルヴィン「よし!号令だ。各員、円になって肩を組め!」

ザッ!!

優花里「あ……!」

みほ&エルヴィン「「………」」

みほ(優花里、あなたが傍にいてくれると、私は負ける気がしない)

エルヴィン(グデーリアン。西住を想う合間で良い。私のことも祈ってくれ。それだけで私は戦える。鉄の虎も、豹も、化け鼠だって食いちぎってやる)

優花里「は……はいっ!!」

みほ&エルヴィン((!!))

沙織「どしたのゆかりん?」

カエサル「ふふ、色々あるんだろうさ、色々な」

みほ「……勝とう、次の戦い」

エルヴィン「当然だ。西住、締めるぞ!」

みほ「はい!」

エルヴィン&みほ「「パンツァー!!!」」

「「「「「フォー!!!!!」」」」」

せーのでパンツァーフォー
信じた道
真っ直ぐ進んで行くことが
きっと乙女の嗜みです

以上です。
読んで頂いて本当にありがとうございました


良ければ過去作もよろしくお願いします

お下劣極まる話と、基本バカ進行安価スレです

世界観どころか毛色も全く違いますが、読んでもらえると嬉しいです

みほ「優花里さんにおちんちん生えてた」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1474775262/)

【ガルパン】【安価】杏「安価でみんなのお願いを叶えるよ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1475423688/)


明日html化依頼出してきます
ありがとうございました

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2018年07月26日 (木) 01:28:41   ID: HXCvU56C

感動した
すごい作品だ

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