女騎士「くっ、水素水…!」(31)

女騎士「いりませんかー」

オーク「おっ、今話題の水素水か」

女騎士「おうオーク。今日の私は水素水を売る女だぞ」

オーク「ほう」

女騎士「紙コップ一杯で580円だ」

オーク「ちぃと高いな」

女騎士「なんてったって水素水だからな」

オーク「まぁ話のネタに飲んでみるか。一杯おくれ」

チャリーン

女騎士「まいどあり。では準備をしようか」

スッ

オーク「うん?その缶は…」

女騎士「水素ガスだ。まずはこれを私が吸う」

カポッ
プシュー

女騎士「スゥーーー」

プシュッ

女騎士「よし、腹一杯に水素を溜めた」

オーク「ほうほう」

女騎士「紙コップを私の股の下にセットする」

オーク「うん…?」

女騎士「で、だ」

ニヤリ

女騎士「どうすると思う?」

オーク「ど、どうするっておめぇ…まさか…」

ガクガク ブルブル

オーク「その紙コップめがけて、にょ、尿を…」

女騎士「ンフフフフ…それでは芸があるまいよ」

フッ クシャッ

オーク「あっ、紙コップを…踏んづけた…?」

女騎士「さぁお遊びはここまでだ」

オーク「で、ではいったい…どうやって水素水を…作るっていうんだ、えぇ!?」

女騎士「そう声を荒げるな、なぁにじき分かる」

ピョンピョン ブラブラ

オーク「な、何だ急に…体操なんか始めて」

女騎士「全身に水素を行き渡らせているのさ、これがな」

オイッチニ サンシ

女騎士「血液、体液、皮膚に頭髪、細胞の一つ一つを…水素で…満たせ、満たせ、満たせ…満たす、満たす、満たす」

女騎士「私は水素、私は水素、私は水素…故に…水素は私、水素は私、水素は私」

女騎士「…」

カッ

女騎士「サモ=ハン!」

シュゥゥゥ

オーク「女騎士の動きが、止まった…?」

女騎士「…」

オーク「お、おい…どうしたんだ…」

女騎士「…」

ジワリ

オーク「…?」

女騎士「…」

ジワリ

オーク「あ、汗…?」

女騎士「そうだ…私は今、尋常でない量の汗をかいている…その汗は、つまりだ」

オーク「つまり?」

女騎士「水素を…含んでいる…!」

オーク「!!!」

その時オークに電流走る!

なるほど、その手があったか

難解な知恵の輪が解けたような

霧がスゥーッと晴れる感覚。

オークは感動のあまり失禁していた。

その時、不思議な事が起こった。

女騎士の肌という肌から溢れ出る水素を含んだ汗と
オークの新鮮な黄金水が
無造作に混ざり合い
まだこの世界で解き明かされていない化学反応式のもと
未知の物質となりて

―――爆ぜた―――

オーク「に、尿と汗が…!?」

女騎士「これは闇の渦…ダークマター…いや、違う、これは!」

ギュギュギュギュ

くぉぉぉぉぉん!

オーク「ぐぅっ、何だこの耳をつんざく音は!」

女騎士「まるで悲鳴…死霊の金切り声だ!」

オーク「だが俺は…知っている…知っているぞ!この感覚を!この先に!因果律の彼方に!幾度となく目指した、その先を!」

女騎士「お、オーク…?いったいお前は何を…」

オーク「これが何回目…何億回目の俺なのか分からないが…俺はずっとこの先にある『なにか』の為に…繰り返し…繰り返し繰り返し繰り返し!汗と尿を!俺が!お前の!世界は!その運命も!因果律を書き換えた世界が!わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

――チョロッ――――

オーク「さぁ、追加の黄金水だ!さらに因果律を!書き換えろ!混沌で満たせ!世界を!そしてその先に!」

ジョバババババババババババ

女騎士「うわぁぁぁぁぁ!これでは汗が追いつかない!尿が飽和する!世界が酸性になってしま…」

ジョバババババババババババ

女騎士「うわぁぁぁぁぁ!」

ゴポォ

女騎士「ブクブクブク…」

そして女騎士の意識は
アンモニア臭の奥底へと沈んでいった…

――――――――――

――――――――――

『ここは』

『ひろいな』

『それに、まっしろだ』

『だれかいるかい?』

『いないのかい?』

『ぼく、だけかい?』

『なんだか』

『さみしいな』

『きっと、こんなせかいを』

『だれより のぞんだのは』

『ぼくなのに』

『なのに』

『ここは』

『ひろくて』

『まっしろで』

『なぁんにも、ないや』

ドサッ

『あれ?』

『だれか、きたの?』

『きみはだれ?』

『ふしぎなすがたをしているね』

『それに、あせびっしょりだ』

『え?』

『ぼくがだれかって?』

『そうだね』

『しいていうなら』

『む』

『かな』

『ぼくはね、やっとなれたんだ』

『む、に』

『ずっと』

『ひとりになりたかった』
『みんなきえてほしかった』
『やさしいてがにがてだった』
『あわれみのめがきらいだった』
『しんぱいするこえがいやだった』
『はだがふれたら はきけがした』

『むれるやつらがにくかった』
『たのしそうなかおがうらめしかった』
『あたたかさからにげだしたかった』

『なんどふりはらってもさしのべられる そのてが』
『いくどもぼくをくるしめた』

『だから』

『ひとりになりたかった』

『そして』

『むに なりたかった』

『…』

『ひぐっ…えぐっ…』

『やっぱり』

『ひとりは かなしいよ』

『あんなにものぞんだのに』

『なのに』

『なのに!』

『なの、に』

『またきみは そのてを』

『こんなぼくに そのてを』

『さしのべるの?』

―――ピシッ―――

当たり前だ!
なんてったって、私だぞ?
差し伸べるさ、何度でも!

―――ピシッ、ピシピシ――――

そんな風にいじけたお前を!
その泣きはらした横っ面を!
容赦なくひっぱたいてやる!

―――ピシピシピシッ!―――

―――パキン!―――

だから―――

目を、覚ませ!

女騎士「オぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉクぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

女騎士「歯ぁ食いしばれぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

バチィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!

オーク「い」

オーク「っっっっっっっっっっ」

オーク「てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

ゴロゴロゴロ
バタリ

オーク「ぐぅっ…」

女騎士「目ぇ覚ましたかバカヤロウコノヤロウ」

オーク「…」

女騎士「顔を上げろ、前を向け」

チョロ…

女騎士「そして、できたてホヤホヤの水素水を、飲め」

ジョバババババババババババ

オーク「ひゃっほう!できたてとれたて!」

ゴクゴクゴク

オーク「うーん、全身に水素が行き渡っている気分になる!」

女騎士「そう!水素水は体に溜まった活性酸素と結びつき、なんか健康になるっぽい!」

オーク「うさんくさいけど、なんかすげぇ!」

女騎士「そうだ、だからどんどん飲め!私が作る水素水は無限なのだから!」

ジョバババババババババババ

オーク「よぅし、ならばいくか!」

女騎士「応!」

オーク「咆!」



みんなも水素水が飲みたいなら
女騎士に会いに行こうぜ!

【完】

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