モバP「第二の無人島事件」 (69)


これはモバマスssです
キャラ崩壊、気分を害する展開があるかもしれません
あれ…?となった方は、心に留めて頂けるとありがたいです


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ざざーん、ざざーん


心地良い波の音が遠くから聞こえる。
目の前に広がっているのは、綺麗な砂浜と透明な海。
太陽は少し雲に隠れ、遊ぶには絶好のシチュエーションだ。


…もう少し、一部の人が落ち着いていれば。


「わぁお、きれーなオアシスだねー!」


「オアシスって砂に囲まれてるんじゃなかった?」


「じゃー世界レベルで見れば海は全部オアシスだねー」


「せやな…あーん日焼け止め忘れたーん。誰か貸してー」


「全く、世話の焼ける子達ね…はい、失くしちゃダメよ」


隣ではフリーダム三人の年上とは思えない間の抜けた会話。
そしてさらに少し離れたパラソルの下では…


「文香さん、早く泳ぎに…その本の山は?」


「ありすちゃん…私の分まで、海を満喫して来て下さい…」


「折角の海なんですから…プロデューサーからも何か言って下さい」


「よくそんなに本抱えて来れたな」


「まったくです、だから電子書籍にしましょうとあれ程…ではなくて!」


何故か大量の本の山に囲まれたこの場の最年長アイドルと最年少アイドルが騒ぎ。
プロデューサーは既に疲れたのか割と投げやりになっている。
…プロデューサー、結構筋肉あるね。
鍛えてるのかな。


お前たちの守るために、と前に言っていたのを思い出す。
ちきんとジムに通っていた様だ。
なんだかんだ少し嬉しい。


そして更に離れた場所では。
トライアドプリムスのメンバー、神谷奈緒が…


「おぉ、ここがフルボッコちゃん6話水着回の…この光景アニメで観たぞ!」


よく分からない事ではしゃいでいた。
アニメの話だから周りに聴かれたくなくて離れたのだろうけれど、声が大きくて聞こえてきている。
ここへ来る時に目をキラキラさせていた奈緒を見ていた全員は、もう大体察しているけれど。






綺麗な海と砂浜、私達以外誰もいない島。
何故こんな場所にいるかと言えば、夏最後の撮影を兼ねた旅行だから。


事務所の専務お気に入りのユニット、プロジェクトクローネに届けられた書類。
それは、普段から輝かしい活躍をする私達に対する慰安旅行の誘いだった。
流石にただの旅行では専務としても面子的にアレらしく、表面上は撮影となっているけれど。


残念な事に加蓮と唯は別の仕事が入ってしまって不在。
何かの一周年イベントらしい。
まぁつい先日その二人は海で撮影があったらしく、渋々納得してくれた。
アーニャもラブライカでの収録や撮影だ。


そんなこんなで、プロデューサーを引率者に私含め系7人のアイドルは夏のバカンスを満喫。
…したいから、もう少し周りも落ち着いてくれないかな。
来る時から成り立ってない会話やアニメの話を聞かされ続けて私も若干疲れている。
最年少のありすちゃ…橘さんが唯一の心の支えとなっていた。


ちなみに一応男一人でこう…大丈夫なの?とちひろさんに尋ねたところ、信頼してますからと帰ってきた。
専務も、彼なら女性に手を出す事は無いだろうと安心しているらしい。
プロデューサーが誰かと付き合っていると言う話は知らない。
何故だ、公認のホモなのか。
だとしたら私の…げふんげふん。


まぁ事務所でも謎の立ち位置にいるちひろさんから釘を刺されていたし、プロデューサーが変な気を起こす事は無い筈。
信頼していると言っていた割には、この島へ来るまではちょいちょいプロデューサーの元へちひろさんからお小言が来ていたらしいが。
ちなみに私は、プロデューサーなら絶対大丈夫だと確信している。
誰からのアプローチにもすげなく流すし。


さて、そろそろ私もトリップしてる奈緒でも誘って泳ごうかな。
折角こんなに綺麗な海なんだし、勿体無い。








「疲れた…」


我ながら恥ずかしい位はしゃいでしまった。
泳いだ後はかなり身体が重い。
棒になった足を引きずりながら宿泊先へと向かう。


私は奈緒と。
文香はありすちゃんと奏と。
プロデューサーは一人。
残り二人のフリーダムで一つ。
系4つのコテージに、それぞれ一旦別れた。


鍵を使って開ければ、正面には広大な海が広がる綺麗な部屋。
ジャグジーやアロマディフューザーも完備。
それだけで、再びテンションが上がる。


「おおお…ここはあのフルボッコちゃんが…」


隣で感銘を受けている奈緒をしばらく自由にし、パパッとシャワーを浴びる。
据え置きのアメニティもとても高そう。
メーカーは…S.I?聞いた事が無い。
兎も角さっぱりし着替えると、奈緒はベッドにダイブしていた。


「ふかふかだ…っ?!もう上がったのか?!」


「はいはいお姉さんを自称するならもう少し落ち着こう?シャワー浴びたら?」


顔を赤くした奈緒がシャワーを浴びている間、私はのんびりと夕焼けを眺める。
水平線へと沈んでゆく太陽。
卯月や未央にも見せてあげたかったな。


上がった奈緒と紅茶を淹れて一息吐き、ダラダラと過ごす。
あぁ…最近、忙しかったな…
電波も無いし、完全に俗世から切り離されている。
何も考えずにゆっくり出来る事が、こんなに幸せだとは。


しばらくして、コンコンとドアがノックされる。
鍵は掛けてないよーと返すと、プロデューサーが大きなクーラーボックスを担いでいた。


「おーい、起きてるかー?そろそろ夕飯作るぞ」


「寝てないよ、奈緒じゃないんだから」


「お、おまっ!あたしをなんだと思ってるんだ!」


何となくカーテンを閉めてからコテージを出ようとする。
ふと見れば、空はさっきよりも雲で包まれていた。








少し離れたキャンプ場的な場所へ着くと、既に奏とありすちゃんが野菜を切っていた。
具材的にカレーかな?
定番中の定番だし、奈緒が喜びそうだね。


「あれ?他の3人は?」


「文香さんは…ひと段落したら、と…」


成る程、これではどっちが年上か分からないね。
トライアドプリムスもそうだけど。


「フレデリカと周子はまだ呼んでないわ。ちゃんとした夕飯が食べたいもの」


「…うん、大体分かった」


「八つ橋カレーやカフェオレ風カレーなんて単語、初めて聞いたわ…」


「…想像以上だったよ」


兎も角、四人いれば充分だ。
米は少し離れた所でプロデューサーが炊いている。
飯盒なんてお目に掛かったのは小学生以来だ。


奈緒に玉ねぎを担当して貰い、私は火を起こして鍋を沸かす。
8人分ともなると結構な量で沸騰するまでまだかかりそうだ。
その間にフライパンで軽く玉ねぎを炒め…あ、順番間違えた。
…まぁ、いいよね。
少なくとも八つ橋カレーが完成するよりは。


全員手際が良く、あっという間に待つだけになる。
プロデューサーは少し離れたところで何やら思案中。
なんだろう、夜忍び込むコテージを選別してるのかな。


さて、あとは待つだけになった事だし残りの3人を呼ばないと。
ありすちゃんと奏を派遣し、再び奈緒と二人でのんびり火を眺める。
ふふっ、加蓮が悔しがりそう。


待っている間に全員分の飲み物を用意しないと。
こういう場所でお酒とか飲めたら楽しいんだろうな。
なんて考えながら麦茶を開けた。






「あれー、フレちゃん折角カップケーキ持って来たのにー」


「それは食後のデザートでいいじゃない」


何が残念なのか分からない会話をしながらぞろぞろと全員集まった。
…カップケーキって、カレーの具に合わないよね?
なんだか少しずつ私の中の常識が壊れてきている気がする。
私までフレデリ化しない様に気を付けないと。


鍋の蓋をとれば、ザ・カレーといった匂い。
そうそう、やっぱりコレだよね。
服にシミを作らない様にだけ注意して食器にご飯とカレーをよそう。


「「いただきます」」


うん、悪くないかな。
普通のカレーでも、こういう場所で食べると尚更美味しいよね。
夕飯で涼しいし、風も心地よい。
あぁ…夏を満喫してるなあ。


と、そこへ何やら神妙な顔をしたプロデューサーが現れた。
手に持った書類を見ながら、うんうん唸っている。
…あ、プロデューサーの分よそってなかった。


「あー…ごっほん」


「本でしたら…後で、私の部屋へ来て頂ければ」


「違うと思いますよ?あと、ほんと何冊持って来たんですか?」


「おぉ、ありすちゃん面白いねー。本だけにほんとだってさー」


「違います!あと橘です!」


「…橘ちゃん、だいたい30冊くらい…」


「ありすでいいです」


「…続けていいか?」





プロデューサー曰く、もしかしたら明日の昼から大雨が降るかもしれないらしい。
だから今夜のうちにボートを使って本島にいるスタッフ達と軽く打ち合わせをしておきたいとか。
確かにこの島に来るには船が必須だし、雨が降ったら船が出せない。
日程の延期等、プロデューサーとしての仕事をしなければならないそうだ。


幸い、この島から本島までは数キロも無い。
視界が晴れていれば視認できるくらいには。
とはいえ泳いで行ける距離ではなく、今のうちにボートで渡っておきたい、と。
まとめると、こんな感じだ。
若干3名のせいでなかなか会話が進まなかったけれど。


まぁ、別に暫くの間私達はオフだから延長しても問題ない。
食材や飲料水は大量にあるし、困るのは未読本が尽きた場合の文香くらいだろう。
そんな感じだから、と言ってプロデューサーもスプーンを動かした。


「お菓子足りるかなー?」


「しゅーこちゃんの鞄の半分は和菓子だからだいじょーぶだよ」


「わぁお、歩く和菓子屋さんだー」


そんなこんなで食後ものんびりと過ごす。
プロデューサーは既に自分のコテージへ戻り準備をしている。
奈緒は延長した場合に備えてアニメの録画予約をして来なかった事を後悔していた。





幸せな時間。
だから、だろう。


あんな事になるだなんて、想像すら出来なかった。










「おい凛!起きろ!!」


「…あと5分」


朝、まだラジオ体操をする様な早朝。
私は奈緒に叩き起こされた。
…まだ眠い。
取り敢えず、お約束の返事をしてみた。


「…起きろよ…!プロデューサーが!」


その単語を聞いた瞬間、私は飛び起きた。
見れば、奈緒の目は真っ赤になっている。


まさか、まさか!まさか!


急いで顔を洗うことすらせずにコテージを飛び出す。
海辺の方には、既にありすちゃん以外の4人が集まっていた。
そしてその全員が、本島の方を見ている。


「ねぇ、何があったの?!」


そう叫ぶも、誰からも反応は無い。
けれど。
返事が帰ってくるよりも前に、私は見た。


海から突き出た岩場。
その上に打ち上げられた、壊れたボート。
そして…


半身ほど水中に沈んでいる、プロデューサーの身体






続きはー?

>半身ほど水中に沈んでいる、プロデューサーの身体
伝説の一発芸、スケキヨか…

つづく






「うそ…」


ポツリ、と呟く。
けれど誰からも反応は無い。
全員が完全に固まっていた。


「…まだ、助かるかもしれない!行かないと!!」


「やめろ凛!風が強いせいで波が高い!今泳いだら凛まで流されるぞ!」


そんな事は分かっている。
けれど、じゃあ何もせずに居るだけなの?
このままプロデューサーが、波に攫われそうになっているのを見ている事しか出来ないの?


「…ボートは?もう一隻ないの?!」


「プロデューサーは…あれ一台しか無いって…」


奈緒の指先には、岩に乗り上げたボート。
つまり、私達があの岩場に向かう手段は無い。
既に少し雨が降り始めていた。


「あ…」


口を開いたのは誰だったか。
見れば、左半身も少しずつ海に沈み始めていた。
けれど、誰も動かない。
動いても、何も出来ないのだから。


「待って!」


叫んで近付こうとした。
けれど現実は非情で。


少し高い波が、左半身も飲み込んでいった







「…この事は…ありすちゃんには…」


「…そうね、今不用意に不安にさせる必要は無いわ」


「雨がやめばスタッフも来れるだろうしね、その時に説明して対応は任せよっか」


非現実的な事が起きたからだろう。
皆んな、若干思考が鈍っていた。
何故だかテキパキと、事が決まっていく。


けれど、空気は非常に重い。
そんな雰囲気が強くて、何も言い出せず。
ありすちゃんにはまだ伝えないと言う事で話はまとまる。
そしてそれぞれ、一旦コテージに戻る事になった。


奏と文香はしばらく海辺に留まるらしい。
雨が強くなったら戻ると言っていた。
私も本当はその場にいたかったけれど。
辛そうな表情の奈緒を見て、手を引っ張ってコテージへ連れ戻す。


「…夢じゃ、無いよね」


「…そうだな…夢だったら良かったよな…」


虚ろな表情で返す奈緒。
まるで心にポッカリと穴が開いてしまった様だ。
ふらふらと視線を天井へ向け、ベットへ倒れ込む。


「…プロデューサー…!」


少しずつ、涙声になってきている。
無理に止める必要も無い。
私は、優しく奈緒を抱き締めた。







「…皆さん、大丈夫ですか?」


あっという間に、陽は落ちた。
せっかくのバカンスなのに、何かをする気も起きない。
ずーっとコテージで何をする訳でも無くぼーっとしていたら、気付けば夕飯の時間になっていた。


けれど、食欲なんて沸く筈もなく。
何となくでもお腹に入れられる様に、奏はスープとサラダを作ってくれて。
特に何も考えず、私と奈緒は只管にただ箸を口元へ運んでいた。


「だいたいだいじょーぶ!だって八つ橋だよー」


「意味が分かりません。文香さんも、なかなか本を放さず…いつも通りでした」


雨は未だ止まない。
寧ろ昼間よりも強くなっている。
しばらくは、スタッフもこの島へは来れ無さそうだ。


窓の外では、高い波。
昨日はあんなに綺麗だったのに、今では恐怖の渦を巻いている様に見える。
あの中に、プロデューサーは…
ポツリと呟いた奈緒の言葉は、ありすちゃんには届かずに済んだ様だ。


「そうね…今日は特に遊べなかったし、フレちゃんと周子のコテージの方でトランプでもしましょうか」


「私はパスかな、一応宿題持ってきてるしやっておかないと」


「おいおい、もう学校始まってるだろ…」


「提出日まではセーフだよ。それに、奈緒に手伝ってもらうつもりだったから」


少しずつ、食卓が明るくなってきた。
元より宿題に集中出来るなんて思っていなかったけれど、奈緒に手伝ってもらうというのは妙案だ。
微積や複素は任せるとしよう。




「じゃ、お菓子広げて待ってるから」


「心臓止めて、待ってるねー」


何時もの雰囲気で、フリダーム二人は自分達のコテージへと戻って行った。


「洗い物は私達がやっておくから、奏達も行ったら?」


「そう?ならお言葉に甘えさせてもらうわ」


フレデリカと周子に囲まれるのが嫌なのか若干嫌そうな表情をしているありすちゃんの手を引き、奏も一旦出て行った。
残された私と奈緒で、淡々と食器を洗う。
文香の分は、ラップを掛けて冷蔵庫へ。
コーンスープは温かくても冷たくても美味しい。
きっとそのために、奏はコーンスープにしたのだろう。


「なんだかなぁ…皆んな、無理してる感じがする」


「それはそうだよ…だって…」


それ以上の言葉は飲み込む。
きっと言っても、良い事は無いから。


元気が無いのは当たり前の事。
それでもありすちゃんを不安にはさせまいと気を遣えるだけ充分だろう。
まだ12歳の子に、大切な人の死は重すぎる。
事務所に戻ってからなら、ちひろさんが上手く対応してくれるだろう。


そんな会話を奈緒としながら、テキパキと洗い終えた食器を並べる。
拭くのは明日でいいだろう。
ガスと電気を消し、自分達のコテージへと戻った。








「…はい、奈緒の分」


「待て、その宿題は凛の分だからな?」


「先輩でしょ、このくらいぱぱっと終わらせないと恥ずかしいよ」


「えー…ってか、案外覚えて無いもんだぞ数学の公式なんて」


「なら運動方程式でもいいよ」


この際だ。
一気に押し付けておこう。


カリカリと、シャーペンの音だけが部屋を埋める。
こうしてみると、案外集中出来るものだ。
寧ろ現実から目を逸らしたいからかもしれないけれど。


二時間もすれば、問題集の半分以上は埋まっていた。
この分なら最初の授業の日には間に合いそう。
よかった、これでニュージェネ間での面子は保たれる。


こんこんこん


と、丁度一息ついてコーヒーにしようと思っていたタイミングでドアがノックされた。
鍵は掛けてないよーと返すと、傘を片手にありすちゃんが辛そうな表情で立っている。
何か、あったのだろうか。
嫌な予感がした。


「あの…もしよろしければ、一緒にトランプでも…」


成る程、あの空間が辛かったようだ。
少しでも緩和為るために私達を呼びに来た、と。
きっと弄られっぱなしだったのだろう。
かわいそうに、矛先を奈緒に代えてあげよう。


「じゃ、丁度ひと段落したし私達も混ざろうかな」


「6人入れば大富豪も楽しいしな。少しお菓子持ってくか」





おそらくフルボッコちゃんの食玩が付いていたであろうチョコの箱を数個かかえ、周子達のコテージへ向かう。
扉を開ける前から、楽しそうな声が聞こえてきた。
というか、五月蝿い。
正直回れ右したくなる。


「わぁお、ありすちゃんが3人にふえたよー」


「まさか…伊賀の者なのか?!」


アホな会話をスルーし、テーブルを囲む。
既に奏が飲み物を用意してくれていた。
このコテージにいた3人の内で最年少な筈なのに一番大人だ。


「橘です!あと忍者は他の方のアイデンティティを取ってしまうので」


子供なありすちゃんはスルー出来なかったようだ。
ふっ…そのくらい聞き流せないと蒼は名告れないよ。


「階段は無し、ベーシックなルールでいいわよね?」


「ローカルルール多いしな…クラス替えの後のレギュレーション整備も醍醐味だけど」


そんなこんなで手元にトランプが配られる。
そう言えば、シンデレラプロジェクトの方でも夜通し醍醐味をやった事があるらしい。
その時の事を聞くと、杏ときらりは顔を顰めるけれど。
一体何があったのだろう?


「いぇーい、八切革命おわりーん」


「じゃーフレちゃんもあっがりー」


「よく3と4だけ残してましたね…革命されなければ上がれないじゃないですか。此処はもっと最善手を…」


結果、ありすちゃんは大貧民になった。
わいわいがやがや。
笑顔が飛び交う。


なんやかんや、楽しめてるな。
現実逃避かもしれないけど。
え、私?平民だったよ。
奈緒が貧民だった。






楽しい時間。
だけれど、私達は一つ忘れていた。


この場には、文香が居ないと言うことを。


ありすちゃんは本を読んでいると言っていたけれど。
本当に彼女は、いつも通り本の世界に入り込めていたのだろうか。


その時は、そこまで思考が回らず。
暫く馬鹿騒ぎした後に、お開きとなった。










こんこんこん!こんこんこん!


大きなノック音で叩き起こされた。
カーテンから覗ける外は、まだ太陽も出ていない。
誰だろう…こんな朝早くに。


「鍵は掛けてないよ…」


眠い目を擦りながら、私は呟く。
当然声が小さ過ぎて扉の外までは届かなかっただろう。
けれど、そんなの御構い無しと言ったように勢いよく扉が開かれた。


「すみませんっ!此処に文香さんは居ませんか?!」


傘も差さず、ありすちゃんは肩で息をしていた。
それだけで只事では無いと分かる。


「どーしたんだー…こんな朝早くに…」


奈緒はまだ寝惚けている。


「文香?来てないけど…」


ありすちゃんの顔が青ざめる。


「居ないんです!私達のコテージにも!」


「っ?!詳しく話して!」


飛び起きた奈緒と、事情を尋ねる。
一旦ありすちゃんを部屋に入れ、タオルを渡す。
少しずつ落ち着いてきたのか、息が整ってきた。


「昨日の夜コテージに戻った時、まだ本を読んでました。けれど…真夜中に、傘を二本も持って外へ行ってしまって…」


…まさかっ!


「奏は起きてる?!」


「はい、フレデリカさん達の方に…けれど、文香さんがあっちにいる可能性は…」


それはそうだろう。
文香があのコテージへ行く理由は無い。
そもそも、何かそっちへ用事があったとして。


傘を二本も持って行く理由が無い。


「入れ違いになると困るから、ありすちゃんは自分のコテージに居て。私と奈緒で探してみる」


けれど、何となくだけれど。
文香の居場所には心当たりがあった。
きっと、もしかしたら。
彼女は…









小走りに傘を抱えて、私達は海辺へと向かう。
途中で周子と奏と合流した。
やはり、辿り着く結論は同じ様だ。


「…嫌な予感はしていたわ…でも、まさかね…」


「杞憂で済めばいいけど…奏達のコテージに戻ったら、本でも読んでるかもよ」


軽い冗談を飛ばすも、誰も全く笑わない。
当たり前だ、こんな状況なのだから。
重い足を無理やり前へと進める。
少しずつ、海辺へ近付いてきた。


…やっぱり。


「お、おい!あれ!」


奈緒が指を差すよりも早く、周子と奏は走り出していた。
砂浜の、ギリギリまだ波が届かない位置に。


傘を片手に、胸をもう一本の傘で貫かれて倒れている文香がいた。





これはドッキリのパターンじゃない…




「嘘だろ…」


隣では奈緒が呆然としている。
私の足も、止まってしまった。


衝撃的過ぎた。
ほんの十数メートル先には、昨日まで一緒に活動していたユニットメンバーが無残な姿で倒れているのだから。
あまりにも、非現実的過ぎる。


「…貴女達は、あまり近付かない方がいいわ」


「取り敢えず、被せる布だけ持ってきて貰っていい?」


気を遣ってくれた奏と周子に従い、私達は一旦コテージへと戻る。
その間、当然ながら無言。
言葉も何も出てこなかった。


クローゼットを開け、シーツを数枚取る。
思考がまだ追いつき切っていないからだろう。
文香に起きた事自体よりも、ありすちゃんにどう説明すればいいかを。
ずっと考えていた。


こんこんこん


扉が数回ノックされる。
けれど返事をする前に、扉は開かれた。


「あの…居ても立っても居られなくなってしまって…え?」


…最悪のタイミングだ。
よりにもよってシーツを運び出そうとしているところで、ありすちゃんに見つかってしまうなんて。
思わず舌打ちしそうになる。


「っ!何があったんですか!」


「えっと…あの…だな」


奈緒が言葉に詰まる。
当たり前だ、説明なんて出来るはずが無い。
私達ですら現実を正しく把握できていないのだから。


…もう、隠してられないね。


「…ついて来て。話さなきゃいけない事があるんだ」





「嘘…ですよね」


「…ありすちゃん、あまり近付かない方がいいわ」


バツが悪そうに、奏は注意する。
未だ私と奈緒も少し離れた所からしか直視出来ない。
もっとも、それを直視と呼んでいいのか甚だ疑問ではるけれど。


既に到着していたフレデリカと周子が、ゆっくりと文香にシーツを掛けて運んでいた。
傘は既に抜き取ってある。
それから滴る赤い液体が、物語の悲惨さを物語っていた。


「プロデューサーのコテージに連れてくね」


「分かったわ。それじゃ私達は、一旦解散しましょうか」


「どうして…」


そんな淡々と進む光景を見て。
我慢出来ずに私の傘から飛び出し、ありすちゃんは叫んだ。


「どうして!みなさんはそんなに冷静でいられるんですかっ!!」


誰も、答えられない。
多分現実について行けてないからだとは思うけれど。
そんな返事を、今のありすちゃんに出来るはずが無いのだ。
あれだけ文香を慕っていたのだから。


暫く続く沈黙。
最初に破ったのは、奏だった。


「そうね…それも説明しないといけないわね。その為にも、一旦コテージへ戻りましょう。凛と奈緒も来てくれると嬉しいわ」



傘が刺さるって傘はそんなに頑丈なのか?

another…

アバンストラッシュごっこしてて足を滑らせたな…






「…そんな…プロデューサーまで…」


昨日起きた出来事を説明するのに、大分時間を要した。
ありすちゃんに出来る限りショックを受けさせない様に言葉を選びながら。
自分達の気持ちの整理がついていないのに。
それでも、きちんと説明した。


もうこうなってしまっては、隠す事に意味など無いのだから。
むしろ、きちんと全員で考えなければならないのだ。
そうすべき事が、出来てしまったのだから。


「問題は…そうね。果たして、本当に文香の件が自殺かって事よ」


「…そうだよな…幾ら何でも…」


傘で自分を突き刺すなんて無理がある。
そう続けようとした奈緒が、途中で言い難くなって言葉を止めた。


一人で傘を二本持ち、真夜中に海辺へと向かう。
それだけなら、プロデューサーを想っての行動と認識は出来る。
けれども、そのまま自殺してしまう様な人だっただろうか。


「事故でああなるとは思えないわ。自殺の可能性も無くは無い。けれど…」


一息ついて、奏は続けた。


「他殺、と言う可能性が大きい気がするわ」


「だよな…この島に、あたし達以外の奴がいないとも限らないし…」


むしろ、そうとしか思えない。
幾ら何でも自分に傘を突き立てるだなんて無理がある。
誰かにやられたとしか…


そして、そうなってくると。
懸念すべき事がまた出てくる。


「まだそうとは断定出来ないけれど、気を付けなくてはいけないわ。みんな、厳重に注意してスタッフを待ちましょう」







「だよねー…そんな気はしてけどさ…」


周子達のコテージで一度話を纏める。
文香を近くで見ていただけあって、その考えに直ぐ至った様だ。


「もしかしたら強風に煽られただけかもしれないけれど、気を付けておくに越したことは無いわ」


「私達も、きちんと鍵を掛けないとね。幾ら何でも不用心過ぎたかも」


不安を紛らわすべく、少し戯けてみる。
当然そんな事で緩和されるはずもないが。


コテージを出る時は出来る限り二人以上で。
雨と風も強いし海辺には近付かない。
必ず鍵を掛ける、等。
注意すべき事を出し合って、話をまとめていく。


けれど恐らく、誰も言わないけれど。
心の何処かで一つ。
とある考えが浮かんでいた筈だ。


「さて…そんな気は起きないでしょうけれど、朝食にしましょうか」


「そーだね、何も食べずに体調壊すわけにもいかんし」


キッチンとテーブルのあるコテージへと移動する。
傘が一本足りない為、ありすちゃんは奏と共同で一本だ。
とは言え風が強いせいで、ズボンや靴は濡れてしまっているけれど。





鍵を開け、電気を付ける。
テーブルの上には食器が重ねられていた。
そう言えば、翌朝やろうと思ってだんだ…
完全に忘れてしまってた。


「トーストとサラダでいいわよね?」


「フレちゃんはコーヒーを御所望するよー」


「わ、私は紅茶で…」


先日事務所のカフェでブラックコーヒーを飛鳥と飲んでいるのを見かけたが、どうやらありすちゃんは無理をしていた様だ。
私は…ミルクティーにしようかな。
そう思って冷蔵庫を開けるも、中は空っぽだった。


「何も無い…牛乳はないの?」


「こういう場所にワザワザ持ってくる奴はいないんじゃないか?」


奈緒にバカにされた。
悔しいからインスタントコーヒーの粉を通常の二倍近くで淹れてあげる。
苦いけど噴き出さないくらいの絶妙な量だ。
未央から教えられて活かす機会なんて無いと思っていたけれど、人生何があるか分からない。


皆食欲はあまり無いけれど、それでもお腹は空いているようだ。
ゆっくりとだけれどトーストを齧る。
会話も少しずつ増えていた。






「じゃ、今回はあたし達が洗っておくよ」


周子とフレデリカが洗い物を請け負ってくれた。
お言葉に甘え、私と奈緒はコテージへと戻る。
雨は全く衰えていない。
途中強風が吹いたせいで、ズボンがかなり濡れてしまった。


鍵を開けて、エアコンで除湿をつける。
部屋もかなりムシムシしてきていた。


「軽くシャワーでも浴びようかな。奈緒は?」


「あたしはいいよ、髪乾かすの面倒だし」


面倒て…確かに奈緒の長さと量だとかなり大変そうだけど。
ぱぱっと身体を洗い、部屋着に着替える。
ドライヤーで髪を乾かしている間、色々と考えていた。


これから、どうすればいいか。


「奈緒ー」


「…んー…」


…寝ていた。
体力的にも精神的にも疲れてしまったんだろう。
部屋着に着替えるだけの元気すら残っていなかったみたいだ。


まったく…


ベッドの真ん中まで運んであげる。
ついでに横に添い寝して、背中をポンポンと叩いてあげるオプションサービス付きだ。


「…歳上とは思えないなぁ…」


本人に聞かれたら怒られそうな事をポツリと呟く。
割と普段から言っているけど。


ざあざあと、雨の音だけが響くコテージ。
少しずつ私の意識も薄れていった。









ザーッ!と、雨の音であたしは目を覚ます。


気付けば、眠っちゃってた様だ。
色々とあったせいで良い感じに疲れが溜まってたんだろう。
同じコテージの凛にみっともない姿を見られちゃったかもしれない。
はぁ…バカにされるネタを自ら提供しちゃうなんて…


「…奈、緒……な………お…………」


ふと隣を見れば、同じベッドで凛が寝ていた。
もしかしたら、あたしを安心させる為に横に居てくれたのかもしれない。
はぁ…一応歳上だってのにな。
なかなかお姉さんっぽい所を見せてやれてない。


凛も寝てるし、起こしちゃ悪いな。
そう思って、そこで違和感を感じた。


なんで、窓が開いてるんだ?
なんで、凛はあんなに苦しそうにあたしの名前を繰り返してたんだ?
なんで…白かったシーツは、こんなに赤くなってるんだ?


「…うそ…だよな?」


返事は無い。
少しずつ、現実を理解し始めた時。


あたしは奏達のコテージを目指して、走り出していた。



怖っ……






「奈緒はありすちゃんを連れて周子の方に向かって頂戴。私はフレデリカと凛の方に向かうわ」


奏とありすのコテージに到着すると、本を抱えたフレデリカも居た。
焦りながらも端的に状況を説明。
あたしを落ち着かせながらも話を纏めて指示を飛ばしてくれた奏に感謝し、ありすと共に周子のコテージへと向かう。


「…凛…大丈夫だといいんだけどな……」


「だ、大丈夫ですよ。きっと体調を崩してしまっただけです」


年下のありすに慰められながら、強い雨の中を歩いた。
もし、あたしがしっかりと起きていたら。
もしかしたら、助けられたかもしれないのに。


こんこん、と扉をノックする。


「あたしとありすだ、開けてくれないか?」


「はいはーい」


鍵が開く。
扉の先には、タオルを頭にかけた周子がお煎餅を咥えていた。


「どしたのーん?何かあった?」


のんびりと、お茶を出してくれる。
けれども今は落ち着いている場合ではないのだ。
だって…


「凛が…やられた…」


「…は?」







「…手遅れ、だったわ…」


「…そうか…」


残りの全員を集め、奏はそう報告した。


なんだかもう、何かを叫ぶ気力すら残っていない。
あたしはただ項垂れていた。
周子が気を利かせて背中をさすってくれている。
きっと普段だったら、その役割は凛のモノだったろうに…


すぐ横に、凛はいたのに。
あたしは何も出来なかった。
無力感が心を埋める。


「貴女が気にする事では無いわ…と言っても気休めにすらならないでしょうけど」


凛の身体は、プロデューサーのコテージへ運んだらしい。
奏は直ぐこのコテージへと来たからフレデリカ一人で運んだのだろう。
見かけに寄らず案外力がある様だ。


「窓は開いていたけれど、破られた形跡は無いわ。つまり、内側から開けたという事ね」


「凛はちゃんと扉の鍵は閉めてた筈だ。だとすると…」


言葉を続けるのが怖い。
恐らく誰もが思い浮かべているであろう事。
けれど、それを口にする訳には…


「…私から言わせて貰うわね」


はぁ…と、一息ついて奏は続けた。


「恐らく、凛は自ら窓を開けた。つまり…彼女の知っている人が…」


全てを行った。
そう言葉にしたとき、コテージは一気に鎮まった。


体感温度がぐっと下がる。
そんな気はしていた、けれど。
言葉にされると、余計にショックが大きかった。


「…貴女達を疑いたい訳じゃないけれど…そうとしか思えないのよ」


「あ、あたしじゃないぞ!あたしが凛を…そんな事!」


「分かってるわ。犯行は誰にでも可能だもの」


違う、そうじゃない!
そういう事を言いたいんじゃなくて…


空気がピリピリとしてきた。
つい昨日まで仲良く会話していた人が、途端に怖くなってくる。
誰もが、口を閉じたまま。
雨と時計の音だけが、コテージに反響していた。








結局その後、私は自分のコテージへと戻った。
ありすちゃんを不安にさせる訳にはいかないわ、と。
奏もたま、一人でコテージへと戻って行った。
フレデリカ、周子と三人でなら不安も紛れるだろう。


特にこの場合、一人よりも二人の方が怖いのだから。


はぁ………


大きく溜息を吐き、鍵を閉める。
窓から吹き込んだ雨で濡れている床もそのままに、私は再びベッドへと倒れこむ。
シーツは、奏かフレデリカが取り替えてくれた様だ。


…さっきまで、隣には凛が…


「嫌だなぁ…こんな空気」


誰かが誰かを疑っている。
そんな風になる日が来るだなんて、みじんも想像できなかった。
ほんの数日前まで笑いあって、励ましあって。
共に進んできた仲間だったのに。


何となく、部屋に居たくなくなって。
あたしは一度外の空気を吸おうとコテージから外に出た。
相変わらず雨と風が強い。
何時になったら、収まるんだろう。


「…あれ?」


遠くに、誰かの人影が見えた。
目を凝らせば、フレデリカの様だ。
その両腕には何かが積み上げられている。
何かを運んでいる最中みたいだ。


クーラーボックスか?


そんな事を考えている内に、姿は見えなくなった。
くそっ、雨のせいで視界が悪い。
まぁ後で聞けばいいか。


そう結論付け、あたしは再びコテージへと戻った。


少しでも落ち着く為にコーヒーを淹れる。
テーブルに乗った凛の宿題からは出来るだけめを逸らして。
ゆっくりと、一息つく。


…疲れてるなぁ…


再び襲ってきた睡魔に、コーヒーは大して仕事をしてくれなかった。
仕方がない、逆らわずに寝ておこう。
きちんと扉と窓に鍵が掛けられている事をチェックし、あたしは意識を放り投げた。


ミス
36の一行目、私→あたし





こんこん、こんこん


ノックの音で目を覚ます。


「鍵は掛けてな…あ」


いい掛けて、途中で思い出した。
現状、そして鍵を掛けていたと言う事を。


のそのそと歩いて鍵を開けると、傘をさした奏が立っていた。


「そろそろ夕飯にしない?そんな気分じゃないなもしれないけど、倒れても大変よ」


「…そうだな、一応何か口に入れておくか」


「フレちゃんと周子が作ってくれてるわ」


傘を取り、雨の中奏と歩く。
それにしても…同い年の筈なのに奏はよくこんなに落ち着いていられるな。
その冷静さは素直に羨ましい。


「…なんだか、色々あり過ぎて頭が追いつかないよ。奏はよくそんなに落ち着いてられるな」


「私だって参ってるわよ…でも、他の子達を不安にさせる訳にはいかないもの」


頼りになるなぁ。
あたしも、そんな風に振る舞えたら良かったんだけど。


少し歩くと、向こうからありすと周子が歩いて来るのが見えた。
どうやら彼方のコテージには周子が呼びに行ったらしい。
少し二人の間に距離がある様に見えるけれど、それも仕方のない事だろう。


「夕飯はこのしゅーこちゃんが腕をふるってあげたからねー、味の保証はしないけど」


ようやく会話が出来た、と。
笑いながら言葉を掛けてくる。
少し離れた所からは、ありすが無表情で此方を見ていた。


「黒糖饅頭スープって言葉がさっき聞こえたけど、大丈夫なのよね?」


「流石に今はそんな事しないかな」


普段だったらするのだろうか?


他愛の無い会話を交わしながら、キッチンのあるコテージへと到着。
ありがたい事に、雨で服がびちゃびちゃになる事は無かった。


「あれ?ドア開けっ放しやん。奏最後開けっ放しで出てきたん?」


「バカにしないで、そんな事しないわよ」





一瞬にして空気が固まる。
幾ら何でもフレデリカがこんな状況で扉を開けっ放しにするとは思えない。


だとしたら…


…まさかっ!


あたしが走るよりも先に、周子はコテージへと駆け込んだ。
少し遅れて奏とあたしも追い掛ける。


「フレデリカ!大丈夫?!」


「…3人とも…あんま、近付かん方がいいかもよ」


周子がそう忠告してくる。
ありすをコテージの外で待たせ、あたしと奏は近付いた。


何かが倒れているのが見える。


それは、人の形をしていて。
床は赤いペンキをブチまけた様に染まっている。


「…うそ、だろ?」


両腕で身体を抱き締める様にして。
口に大量のフォーク・ナイフ・スプーンが突き刺さったフレデリカが倒れていた。



こわいわ





もう言葉も涙も、何も出てこなかった。
心が麻痺してしまったのかもしれない。
目の間で起きている現象を、認識したくないからかもしれない。


フレデリカの身体は、周子が背負ってプロデューサーのコテージへと運んでいった。
その間あたし達は、椅子に座ってただぼーっとしている。
誰も口を開かない。
あまりにもショッキング過ぎて言葉が出てこないのだ。


テーブルの上には美味しそうなスープが五つ。
けれどうち一つは、決して手をつけられる事は無い。


「…早く、晴れると良いわね」


そんなありふれた世間話に対しても、返事は無い。
ありすはずっとテーブルを見つめていた。


「…ただいまー」


「ごめんなさいね、辛い事をお願いしちゃって」


コテージに戻った周子も、椅子についてまた黙ってしまう。
雨音はまだ、強いままだ。


「食欲なんて無いでしょうけれど、一応食べておきましょうか」


そう言って奏は、ゆっくりとスプーンを動かした。
ありすは、何かを警戒している様で食事に口をつけない。
当然あたしも、食事なんてなかった。


けれど、食べなければ。
せっかくフレデリカと周子が用意してくれたのだから。
そうは思っても、なかなか腕は動かない。


「いよし、あたしも食べよーかなー」


周子も、一息ついて腕を動かし始めた。


フレデリカの件について、なんとなく考えている事はある。
高確率で、可能性的には。


周子か奏が、犯人と言う事だろう。


ありすはコテージにいたらしいし、あたしが犯人でない事はあたしが一番分かっている。
となると、二人しか犯行可能な人物はいないのだ。
けれどそんな事、口に出したく無い。
これ以上嫌な雰囲気の中、晴れるまで待つなんて嫌だから。


「おいしいね、このスープ」


「ふふっ、貴方達が作ったのでしょう?」


「味見なんてしてないよ。大体目分量だったし」


既に二人は、何時もの雰囲気に戻っている。
怪しいと言えば何方も怪しい。


「にしても、何時になったらこの雨は止むのかしら」





「あ、それなら…」


ふと、周子が腕を止めた。


「さっき西の方の空を見たんだけどさ、雲が少しずつ薄くなってたよ。だから…」


お!もしかして!


「もう直ぐ……?っ!?」


…え?


バタン、と。
言葉の途中で、周子がいきなり倒れた。


「…周子?……周子!!」


「ちょっと、こんな時に悪ふざけなんてよして頂戴…周子?」


隣に座っていた奏が周子の元へ駆けつける。


「…大丈夫…ですか?」


「…ありすちゃん、その食事に口をつけないでね」


冷静に、奏がありすへと注意を飛ばす。
少しずつ足元に、何かが広がってか。


あぁ、さっきも同じモノを見たな。


随分と、あたしは冷静だった。
床が血で染まっているだなんて、本来ならトラウマものなのに。
既に心は疲れ切っていた。

バトロワの灯台思い出すな






「…一旦、自分のコテージに戻るわ。貴女達も、鍵を掛けて気を付けて」


食器もそのままに、奏はそそくさと出て行ってしまった。
流石に堪えたのだろうか、と。
そう、昨日までのあたしならそう判断していただろう。


けれど。


「…奏さん、ですよね。この件の犯人は……」


ありすの一言で、あたしは改めて認識した。
二択から周子が外れた今、もう奏しかありえないのだ。
それ以外の人がこのキッチンのあるコテージには居なかったのだから。


「…もう直ぐ、晴れるって。周子はそう言おうとしてたよな」


「はい…だとしたら……」


スタッフは、もう直ぐこの島に来る。
それは奏も分かっている事。


ならば。


それよりも前に、何か行動を起こしてくる筈だ。
ありすの方へ行くかあたしの方へ来るかは分からない。
けれど、確実に。
何かしらのアクションがある筈だ。


「奏さんも、自分が疑われていると気付いてる筈です」


「だから自分のコテージに戻って準備を整えてる。そう考えるのが自然だな…」




結局周子が何故倒れたのかはっきりとはしていない。
けれど恐らく、毒的なモノだろう。
そして食事に毒を盛るチャンスがあったのは、奏しかいないのだ。


「…きちんと、作戦を立てましょう。これを奈緒さんに渡しておきます」


「これは…コテージの鍵じゃないか!」


「ここへ来る時、閉めずに出てきました。ですから私は鍵が無くても入れます」


でももしあたしが犯人だった場合、ありすに逃げ道はなくなる。
それをあたしに渡すと言う事は…


「信頼してはいます。けれども奈緒さんが私を信頼してくれているかは分かりません。ですから、その証として…」


「安心しろ、あたしは絶対に違うから」


「…一旦それぞれのコテージへ戻りましょう。一時間後に、私のコテージに来て下さい」






怖い、でも続ききになる






「…はぁー…」


一人でコテージへと戻り、大きく息を吐く。
緊張で胃が痛い。
色々な考えが頭を埋める。


なんで、こんな事をしたんだろう。
動機もなしにこんな事をするとは思えない。
何かしらの理由があるはずだ。
けれど、いくら考えても分かるはずがなかった。


取り敢えず、これからどう動くかだけ考えないと…


こんこん、こんこん。


立ち上がった時、扉がノックされた。
一瞬にしてあたしは身構える。
ありすは一時間後に自分のコテージに来てと言っていた。


つまり。
今ノックしているのは、高確率で奏だ。


「…奈緒…開けて」


怖くなって、居留守を使おうか迷う。
今開けてバッサリなんてまったくごめんだ。
よし、寝ている事にしよう。
それなら一番難なく流せる。


「……奈緒……」


ふと、何やら奏の声がおかしい事に気付いた。
何時もより覇気が無いと言うか、元気が無いと言うか。
そう、まるで。


今にも息絶えそうな、必死な声…


「どうした!奏?!」


いてもたっても居られず、あたしは扉を勢いよく開けた。
これでやられたらそれはその時だ。
それでも、やっぱり。
あたしは仲間を見捨てるなんて出来ない。


扉の先には、やはり奏が居た。
その手には大きな斧が握られている。
真っ赤に染まった、腕や足くらいなら両断出来そうな斧。
頭をやられたら、一瞬であの世へご招待されるだろう。


けれど、あたしがそれを恐れる事は無かった。
何故なら…


奏は既に、赤に染まって地に伏していたから。




かなり駆け足気味ですが、本日中に完結させます。
暇な方は宜しければこちらも

文香「夢から覚めぬ夢」
文香「夢から覚めぬ夢」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1471962278/)

フレデリカ「いつかの休日に」
フレデリカ「いつかの休日に」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1472525901/)

あとスリーエフとか書いてます




「…は?」


思わず、間の抜けた声を出してしまう。
奏がやられた?何故だ?
そんな筈はない。
だって、おかしいじゃないか。


奏が犯人じゃないとしたら、一体誰が…


「奈…緒……これ…を、見て………」


息も絶え絶えに、奏はあたしに何かを渡そうとした。
何とかして両手を伸ばす奏から、あたしは何かを受け取る。
それは、さっきから存在感を主張している大きな斧。


そして一冊の本だった。


「おい!奏!!何があったんだ!」


返事は無い。
それ以降、奏の口が開く事はなかった。


「おいおい嘘だろ!だとしたら誰が!」


そこであたしは、一つの考えに辿り着いた。
序盤にその考えは放棄してしまっていたけれど。


この島には、まだ誰かが潜んでいるという事に。


よくよく考えれば、そうとしか思えなかった。
現時点で動けるのはあたしのありす。
そしてその両者に、犯行は不可能だ。
ならば、他にも誰ががいるに決まっている。


凛の件も顔見知りしか成しえないと思っていたけれど。
犯人が凛を脅し、あたしを助ける為に自分一人が犠牲になったと考えれば…
凛が冷蔵庫を開けた時中は空っぽと言っていたけれど、あたし達は前日文香のスープを冷やしておいたのだ。
誰かが勝手に飲んでしまったのだとしたら…


まずいっ!ありすが!


「…え?奈緒さん………え……?




「よかった、ありす…………?」


心配になったのか、ありすはあたしのコテージの近くまで来ていた。
けれど様子がおかしい。
まったく此方へ近付く気配が無い。
なぜだ?


ありすの表情は恐怖にそまっていた。
一体、なんでだ…?


と、そこであたしは思い出した。


あたしは今、奏から受け取った大きな斧を持っているという事を。
そして足元には赤く染まった奏の身体。
客観的に見てどう判断されるかだなんて、考えるまでも無い。


「ち、ちがっ!」


「いやぁぁあ!!いやぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」


走って自分のコテージへと戻って行くありすを、あたしは全速力で追いかけた。







雨は、既に上がっている。
あと少しすればスタッフが来る筈なんだ。
それまで、ほんとにあと少しでいい。
なんとかしてありすを守らないと。


見失ってしまったありすを探し、あたしは島を駆け回った。
コテージの鍵はあたしが持っているから、コテージに逃げ込んだとは考えづらい。
キッチンの鍵もあたしが持っている。
プロデューサーのコテージと奏のコテージの鍵は奏が持っていた筈だ。
一体何処に…


何処かに潜んでいるかもしれない犯人の事すら忘れ、あたしは一人で走り回った。
なんとかしてありすが襲われる前に見つけて誤解を解かないと。
皆んなでお互いを信頼して協力していれば避けられた事件なんだ。
絶対に見つけてみせる。


また再び、ポツポツと雨が降り始めた。
けれど空に雲は少ない。
この程度なら船を出すのに問題は無い筈。


「ふふっ…まったく、文香さんは…」




見れば、崖に向かってありすが歩いていた。


「おーい!ありす!!」


けれど何やら様子がおかしい。
まるで見えない誰かと手を繋いで歩いているように、不自然に片手が伸ばされていた。
そして、見えない誰かと会話をしている。


「あ、見て下さい!空に虹が架かってますよ!」


「おい!ありす!」


大きな声で名前を呼んでも、反応は無い。
そのまま、見えない誰かと共に歩き続けていた。


まずい!このままじゃ崖から!!


「とまれ!ありす!!」


「もっと、近付いてみましょうか。まるで空に橋が架かったみたいですね」


あたしの声は虚しく空へと消える。


歩き続けたありすは、そのまま崖から踏み出し。
あたしの視界から姿を消した。










「…ははっ…あたし一人になっちまったな……」


なんだかもう、悲しむ気力も無い。
兎に角疲れた。
いっそこのまま、雨に打たれて眠ってしまおうか。


どうして…こんなことに、なったんだ…


今更あたし一人が事務所へと戻れたところで…
もう、一緒に活動していた仲間はいないんだ。
せっかく、頑張ってきたのに。


ふと思い出したのは、あたしのデビュー曲。
あたしの為に必死に走り回ってプロデューサーが用意してくれた、あたしだけの歌。
もう、歌う機会も無いんだろうな…


なんとなく、口ずさんでみる。


雨の中、虹のかかった空を背景に。
ちくしょく、現状にぴったりじゃないか。


…あれ?


口ずさんでいて、何かがひっかかった。
止まっていた時が動き出した様に、一瞬にして思考が冴える。




最初に、プロデューサーが。
左半身が雨に打たれ、凛が近付こうとしたら波に攫われた。


二番目に、文香が。
一本傘を手に持ち、二本目の傘で貫かれ。


三番目、凛が。
あたしのすぐ隣で、あたしの名前を呼んで途絶えた。


四番目、フレデリカが。
自分を抱きしめる様にして。
口にスプーン・フォーク・ナイフ、つまり箸以外を刺されていた。


次に、周子が。
もう直ぐ晴れる、と。
言えずに倒れ。


その次に、奏が。
あたしの知らない本と斧を渡し、見せて。


最後に、ありすが。
雨の中手を繋ぐ様に、虹の橋へと向かって行った。


…なんだ、そういう事だったのか。
最初から犯人の狙いはあたし一人だった様だ。
その為に、他のみんなは…


だとしたら、そろそろあたしも狙われる頃だ。


けれど、最後まで思い通りになんてさせない。
最後に失敗させてやる。
それが、あたしに出来る唯一の事だ。




ちょ…本と斧わたし…












「…ようやく、気付いたみたいだよ」


木々に隠れている私はそう報告した。
背後では、わいわいがやがやと皆が騒いでいる。


…隠れてるんだから、もう少し静かにしてくれないかな。


「…奈緒さんには、申し訳ない事をしてしまいましたね」


「でもありすちゃんノリノリだったよねー」


「それは…どんな演技でも、全力で挑まないといけませんから。あと橘です」


「電子書籍…素晴らしいですね。雨の中でも、外で読めるなんて…」


「はっくしゅん!…あー、寒い」


「プロデューサーだいじょぶ?ずっと海に浸かってて風邪ひいたん?」


「間抜けよね、一時間も半身海に浸して待機してたんだから」


…まぁ、見ての通り。
全員何事も無く普通に生きている。
プロデューサーは風邪ひいてるみたいだけど。






ネタバラシしてしまえば、ドッキリだった。
一人ずつ減っていくクローズドサークルもの。
無人島にコテージと言うこれ以上ないシチュエーション。


けれど普通に減っていくだけではつまらない。
そうだ、折角だし奈緒の持ち歌になぞらえて消えよう。
そう提案したアホなプロデューサーによって、それぞれ割と無理のある死に方をしていった。


プロデューサー、文香、私まではまだいい。
問題はそのあとからだ。


口に箸以外、つまり口に箸無いとか。
本と斧渡し見せる、とか。
幾ら何でも無理がある気がする。
ジト目を向けたところ、だって思いつかなかったんだからと逆ギレされたけれど。


奏もフレデリカも大笑いしていた。
そのくらいアホな死に方の方が面白いとか。
面白い死に方って何なんだろう。


そんなこんなでクライマックス。
そろそろ本人にネタバラシしないと。
そう思い、奈緒の方を見た。


…あれ?居ない。


「ねぇ、プロデューサー!奈緒が居ない!」


「は?凛が見張ってたのにか?」


「皆んなが五月蝿くて突っ込みに忙しかったんだよ!早く探さないと!」






まずい!まずい、まずい!!


アレだけ思い詰めた表示をしていた奈緒だ。
何か変な気を起こしてしまう可能性がある。
急いで見つけてネタバラシしないと!


全員で島中を走り回る。
コテージには居ない、砂浜にも居ない。


「こっちには居なかった!そっちは?」


「…キッチンにも…いませんでした…」


このタイミングでキッチンにいる筈が無いよ。
随分と余裕そうだね。
そう突っ込む事すらせず、私は走った。


何と無く、一つ心当たりはある。
けれどそれは最悪の結末だ。
急いで島中の崖を探す。
はやく、早く!!


そしてついに、私は奈緒を見つけた。


「みんな!早く来て!」


急いで全員を呼ぶ。
続々と集まっている間、奈緒は。
少しずつ、崖の先端へと近付いて行った。






「奈緒!止まって!!」


「奈緒!止まれ!!」


声は届いている筈なのに。
奈緒の足は止まらない。


「ははっ…凛の声が聞こえるや……うん、あたしも直ぐ逝くから」


「ちがっ!」


涙を流し、それでも笑いながら。


奈緒は、その身を海へと投げ出した














「奈緒……なおぉおおおお!!!」


プロデューサーが全速力で崖へと駆け寄る。
私達は、足が動かなかった。


うそ…そんな……


ショック過ぎて、意識が飛びそう。
まさか、そんな…
私達の悪ふざけで、奈緒が…


「…奈緒……嘘だよね………」


「…凛さん、落ち着いて下さい……」


私まで後を追うと思ったのか、文香が私の身体を抑える。
フレデリカと周子も、呆然としていた。
ありすちゃんは座り込んでしまっている。


「嘘…そんな…私達のせいで……」


今にも泣き出しそうなありすちゃん。
プロデューサーは崖から下を覗き込み、未だに奈緒の名前を叫んでいる。


…どうして?


「どうして…?どうして文香はそんなに落ち着いていられるの?!私達のせいで、奈緒は!」


「凛、文香を責めても仕方ないわ…悪いのは、私達全員なのだから…」


奏に諌められ、けれど私は落ち着いていられなかった。
私の大切な友達が、私達のせいで…


こんな事になるだなんて、想像も出来なかった。






「奈緒………奈緒!!ねぇ!」


私は叫ぶ。
現実を受け入れたくないから。


いやだ!こんな結末なんて!
奈緒を失うなんて。
絶対に認めない!


「ごめん!奈緒!!謝るから!!お願いだからっ!!」


ひたすらに、叫ぶ。


「嘘って言ってよ!ねぇ!奈緒!!!」












「あぁ、嘘だぞ」


「……………は?え??」


つい、と崖の方へ視線を上げれば。
プロデューサーに引き上げられた奈緒が、笑って立っていた。















「……ふーん………」


「あははっ、ごめんって」


笑いながら、プロデューサーと奈緒が近付いてきた。
頭では分かってはいる。
けれど、色々と追いついていなかった。


「…つまり、騙していたと思ったら騙されていたと言う事ね」


「逆ドッキリってやつかー、フレちゃんだいたい騙されちゃったよー」


…恥ずかしい。
ちょっと色々叫び好きだ。


「ドッキリ仕掛けてたんだからあたしの事責め辛いだろ、ふふーん」


「はははっ、みんな見事に騙されてたな。普段俺と奈緒を弄ってる仕返しさ」


プロデューサーを睨む。
ついでに奈緒も。


はぁ…確かに、騙そうとしていた手前強くは怒れない。
上手いやり方だね。
でもならこの感情をどこへぶつけようか。


「あっはははははははは」


「加蓮に面白い話を聞かせれやれるな!」


…よし。
取り敢えず、この二人にぶつけよう。


すーっと大きく息を吸い込み。


「ーーーーーこんのっ!!」


馬鹿!という言葉が。
島中に、反響した。







「はっくしょんっ!!」


「プロデューサー、はしたないよ」


「あー…完全に風邪ひいてるなこれ…」


結局、全て茶番だったという事だ。
まんまとはめられてしまった訳だけど。
あー…悔しい。
と言うか、恥ずかしい。


「あら、凛。謝るんじゃなかったの?」


「…奏、さっき涙目になったせいでメイク崩れてるよ」


ちょっとした仕返し。
しばらくは、このネタで弄られそうだ。
…はぁ…


既に空は、完全に晴れている。
水温は少々低いけど、問題無いとフレデリカと周子は泳ぎに行った。
相変わらず文香はパラソルの下、ありすちゃんに引っ付かれていて。


私の正面には、正座しているプロデューサーと奈緒が居た。


「…凛さん、そろそろ足が痺れて…」


「何か言った?」


「何でも無いです」


文香は、途中で気付いていたらしい。
一番最初に退場してプロデューサーの部屋で本を読んでいる最中に、奈緒とプロデューサーとの手紙でのやり取りを目にしたとか。
だからあれ程落ち着いていたのだ。


「はぁ………」


ため息が止まらない。
まだまだ怒り足りない。


けれど、奈緒が無事でよかった。
そんな考えのせいで、妙に本気で怒る気にはなれず。
流完全燃焼の怒りを少しずつ消費すべく、二人を正座させ続けた。




…そろそろ、許してあげようかな。
とは言えそう伝えてあげるのも恥ずかしい。
まるで私が子供みたいではないか。


…しょうがないな


「…そろそろ、折角だし泳いでこようかな」


わざとらし過ぎたかな。
もう怒ってない、とは口にしない。
けれど多分気付いているだろう。


「…凛」


「何、奈緒」


「謝ってくれないのか?」


「っ!!」


私が海を満喫するのは、もう少し後になりそうだった。









おわり
長々とお付き合いくださり有難うございました
元ネタはとあるドラマCDから
このスレを開いた方なら100%知っている筈のアニメ・ゲームのドラマCDです


アケマス時代のドラマCDとかクソ懐かしいわ

メイドカフェ編もあるのかな?なんてな



持ち歌元ネタあたりで気付いたわw
次は妄想の翼を広げる編かな?

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