モバP「実は最近、女の子に付きまとわれているんですよ」 (90)

アイドルにしてくれるまで勝手についてきちゃう子のお話です

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ちひろ「……は?」

P「えっと、女の子に付きまとわれていまして、はい」

ちひろ「……」

P「……」

ちひろ「……そうですね、最近、暑いですからねー」

P「いやいやいやいや! 本当ですってば!」

ちひろ「えぇ……」

ちひろ「えっと、で、どういうことなんですか?」

P「やっと聞く気になってくれましたか……」

P「先日のことなんですけど――」

――先日、某所

P「ふぅ、みくの撮影は無事終わったな。着替えてる間に飲み物でも――」

P(控え室の前でうろうろしている子がいる……)

P「君、こんなところでどうし――」

??「しーっ! 静かにして! 中に聞こえちゃうから……」

P「ん、どういう――」

『――サヤとかいうやつ、自分のこと可愛いと思ってるのがバレバレ。出しゃばるなって感じ』

『カメラマンも騙されちゃって、ウチらのこと、全然撮ってくれないし、ありえなくない?』

早耶「……」

P(あぁ、そういうことか……)

P「行こう」

早耶「え、あ、はい……」

P「はい、缶の紅茶だけど大丈夫かな?」

早耶「あ、ありがとうございますぅ」

P「これ飲んでひと息つく頃には、顔を合わせなくても済むんじゃないかな」

早耶「はい……」

P「…………」

早耶「…………」

早耶「あ、あの、何があったか聞かないんですかぁ? そのぉ、一方的に巻き込んじゃって……」

P「あー、気にならないわけじゃないけど、むやみやたらに聞くのも悪いかなって」

P「細かいことは分からないけど、何があったかくらいなら"あれ"だけで分かったしね」

早耶「そう、ですよねぇ……」

P「……それとも、聞いてほしいってことなら、少し話してくれる?」

早耶「! あ、あのっ、早耶は……!」

早耶「早耶は、自分を可愛く見せたいだけなんですぅ……。だから、頑張ってるのに……!」

P「!」

早耶「それなのにぃ~……」

P「…………」

早耶「…………」

P「……頑張ってる。君は可愛いよ」

早耶「え……」

P「おっと、アイドルを待たせているんだ。ここでお別れだ。えっと……頑張ってね」

早耶「あ、ありがとうございますぅ! さ、さようなら……」

早耶「……早耶が、可愛い?」

P「――ということがありまして」

ちひろ「え、あれですか? 一度はやってみたいカッコいいことをやってやりましたよ自慢ですか?」

P「違いますよ! 数日後、その子がうちの事務所近くで待っていたんですよ」

ちひろ「え」

P「それで、『プロデュースお願いねぇ♪断っても勝手について行くんだからね!(裏声)』と……」

ちひろ「うわぁ……」

P「驚きますよね! 困りま――」

ちひろ「プロデューサーさんの声真似、気持ち悪いですね」

P「ふぇぇ……」

ちひろ「コホン……可愛い子だったんですよね? それならアイドルにしてあげればいいじゃないですか? 願ったりかなったりでは?」

P「まぁ、そうなんですが……」

ちひろ「歯切れが悪いですね。まさか、その場しのぎのお世辞だったんですか?」

P「それは違います! その、あなたのことが頭から離れないの、って言われたんですよ」

ちひろ「……は?」

P「まぁ、そういう反応されるのは分かってますよ」

P「……どういうつもりの言葉か真意が見えないとはいえ、それを聞いて二つ返事でアイドルにするのは、ちょっと」

ちひろ「その子にはそう伝えたんですか?」

P「やんわりとは。簡単なことじゃないし、よく考えなさい、って」

ちひろ「……で?」

P「なら、勝手について行きますぅ! って、その日から付きまとわれていますね……」

ちひろ「えっと、どこかに相談した方がいいですか?」

P「い、いえ! 事務所の近くでちょっと会う程度ですし、少し喋ったら帰っていくので。いい子なんですよ」

ちひろ「あ、はい」

P「この間は帰りに一緒に食事もしたんですよ! これその時の写真なんですけど、可愛いでしょう?」

ちひろ「あ、はい」

ちひろ(ん? ん~? まさか、自慢をされているのでは???)

ちひろ「……うちのアイドルに迷惑がかかる、とかは?」

P「それもないと思います。あ、みくと幸子のこと話したらすっかりファンになってくれたみたいで――」

ちひろ「そ・れ・で!」

P「は、はい?」

ちひろ「相談ではないんですか? あの、困っているからどうした方がいいか聞きたい、とかではないんですか?」

P「あ、あー……」

ちひろ「……」

P「……話したらスッキリしました☆」

ちひろ「女子か!!!」

ちひろ「はぁ……。実害もないようですし、それならそれでいいですよ」

P「で、ですよね」

ちひろ「ただ、アイドルにする気がないなら、そうだとちゃんと伝えてあげないとかわいそうですよ?」

P「そうですね。今度ちゃんと話して――」

ガチャ

みく「おはようございまーす!」

P「お、おはよう、み――ん?」

早耶「おはようございますぅ♪」

P「」

ちひろ「そ、その子は?」

みく「Pチャンに用時があるらしいから連れてきたのにゃ。それにみくのファンだって♪」

早耶「うふっ♪ 来ちゃいましたっ☆」

みく「松原早耶ちゃんって言うんだよ! いかにも女の子、って感じで可愛いにゃ」

早耶「そうですかぁ? うふっ、嬉しいですぅ♪」

みく「むむむ、これは強力なライバルになるかも」

P「」

ちひろ「おいめっちゃ実害でてるぞおい」

早耶「Pさぁん? Pさぁん? 早耶、無視されると悲しいですぅ……」

P「……はっ! いやいやいや、なんでここに?」

みく「え? 候補生として来たって……」

ちひろ「そんな話はないですよ」

みく「にゃっ!? え、じゃあ早耶チャンはな、何者?」

早耶「早耶は怪しくないですぅ!」

みく「えぇ、そうは言われても、それじゃあなんで嘘なんか――」

P「あー、大丈夫、心配しなくていいよ」

みく「――え?」

P「松原さん、さすがに嘘ついてまで来られるのはちょっとなぁ」

早耶「ごめんなさい……。で、でも、これくらい熱意を見せれば、アイドルにしてくれるかもって思ったんですぅ! 早耶は本気ですぅ!」

ちひろ「ほら、はっきり言わないからですよ(小声)」

P「あ、あははは」

ちひろ「で、どうするんですか?」

P「うーん……」

早耶「だめ、ですかぁ……?」

みく「……Pチャン!」

P「ん、なんだ、みく?」

みく「早耶チャン、悪い人じゃないんだよね? っていうか、Pチャンの知り合い?」

P「まぁ、そうなるのかな?」

みく「なら、本当に候補生として迎えるのはだめかな?」

早耶「!」

P「……どうして?」

みく「その、みくも気持ちは分かるっていうか、なんていうか……」

みく「そ、そう! 早耶チャン、嘘ついてたけど、アイドルやりたいって言葉は本当だと思うし!」

みく「Pチャン、うちの部署はまだアイドルが少ないって言ってたでしょ? 早耶チャンは可愛いし、いいと思うにゃ!」

P「可愛いだけじゃ上手くいかない、っていうのはみくもよく分かってるよな?」

みく「うん。だから、候補生。それで早耶チャンが本当にやっていけるか判断する、っていうのじゃだめ?」

ちひろ「まぁ、確かに悪くない案ですね。どうしますか、プロデューサーさん?」

早耶「……」

P「……よし。松原さん、候補生という形だけどいいかな?」

早耶「! は、はい! 早耶、頑張りますぅ!」

P「2週間ほどレッスンを受けてもらって、それで判断するよ。試す形になっちゃうのは申し訳ないけど」

早耶「いえ、十分ですぅ!」

みく「よ、よかったぁ」

早耶「みくちゃん、ありがとぉ!」

みく「ふふ、どういたしまして」

早耶「あ、でも、これからはみく先輩?」

みく「! せ、先輩……。いい響きにゃ~」

早耶「みく先輩♪」

みく「ふっふっふ。このみく先輩が――」

ちひろ「……よかったんですか、プロデューサーさん?」

P「ええ。元をたどればはっきり言えなかった俺のせいですから」

P「それに、みくの言う通り言葉から力を感じたので」

P「多分、はっきり拒絶できなかったのも、惹かれるものがあったからだと思うんです。試す形になってしまいますけど、俺自身にもいい機会かな、と」

ちひろ「……そうですか。なら、私は早耶ちゃんがきっちり輝けるようサポートをしますね♪」

P「ええ、お願いします。キラキラ輝く原石、かもしれませんからね」

ガチャ

幸子「フフーン! カワイイボクの登場ですよ! みなさん、首を長くして待っていましたよね! ええ、そうでしょう! そうで――」

早耶「あ、輿水幸子ちゃん! 初めまして、松原早耶ですぅ!」

幸子「あ、え、はぁ、よろしくお願いします?」

早耶「わぁ、本当にカワイイですぅ♪」

幸子「そ、そうです、ボクはカワ――」

早耶「実際に見るともっとカワイイですぅ!」

幸子「あ、はぁ、え? んん?」

P(幸子が説明してほしそうにこちらを見つめている……)

P「……よし、上手くやっていけそうだな!」

幸子「ちょっと! Pさん? Pさーん!」

――翌日

ガチャ

早耶「おはようございますぅ」

P「お、おはよう。早いね、松原さん。今日は――」

早耶「あ、あのっ!」

P「ん、なに?」

早耶「早耶も、その、名前で呼んでほしいですぅ。ダメですかぁ?」

P「ああ、そうか。候補生とはいえ、今はうちのアイドルだもんな。じゃあ、早耶。今日の予定の確認な」

早耶「うふふっ♪ はい!」

P「といっても、昨日の帰りに伝えた通り、みくと幸子のレッスンを見学してもらうくらいかな」

早耶「分かりましたぁ」

早耶「あの、動ける服も持ってきましたけど、早耶も参加するんですかぁ?」

P「あー、トレーナーさん次第かな。やっぱり参加してみたい?」

早耶「えっと、いきなりだし不安、かも? でも……うふふっ♪」

P「ん? 楽しみだったり?」

早耶「んー、分からないですぅ。でも、ドキドキしてますぅ!」

P「……うん、そうか。じゃ、参加できるよう、少し話しておくよ」

早耶「はい!」

ガチャ

みく「おはようございまーす!」

幸子「おはようございます、カワイイボクがやってきましたよ!」

P「2人ともおはよう。全員揃ったし、レッスン場まで移動しようか」

――レッスン場

ベテトレ「みんな、おはよう」

3人「おはようございます!」

ベテトレ「まずは2人1組でストレッチだ。あー、前川は松原と組め」

幸子「ちょっ! ボクがベテトレさんとですか!?」

ベテトレ「なんだ輿水、私と組むのが不満か?」

幸子「ひぃ、そ、そそそんなことはないですよ! むしろボクと組めることを感謝してほしいくらいですね、フフーン」

ベテトレ「ほう?……前川、松原に色々教えてやれ」

みく「はい!」

早耶「みくちゃん、よろしくですぅ」

みく「こちらこそ! みくが押してあげるから痛かったら言ってね」

早耶「はぁい♪」

みく「んーしょ、んー……早耶ちゃんは運動得意なの?」

早耶「ふぅ……んー、早耶はあまり運動したことないですねぇ」

みく「じゃあ、今日は結構大変かも。……はい、交代だよ。みくが押したようにやってみて」

早耶「はぁい。じゃ、いきますよぉ」

みく「よろしくにゃ。ふぅ~……」

早耶「わ、わ! みくちゃんすっごく身体柔らかい!」

みく「にゃふふ、みくの身体はねこチャンのようにしなやかなのにゃ」

ベテトレ「輿水、まだ身体が硬いなぁ? 帰ってからちゃんと柔軟してるのか?」

幸子「し、してますよ! あ゛あ゛!」

ベテトレ「よし、十分身体もほぐれただろう。まずは基礎の確認だ。松原は動きを見ながらついてこい」

早耶「は、はい!」

ベテトレ「前川、輿水、カッコ悪いところを見せるなよ」

みく「も、もちろんにゃ!」

幸子「フフーン! ボクはいつだってカワイイですからね、その心配はいりませんよ!」

ベテトレ「ほう。じゃあ、始めるぞ!」

P「……」

――数十分後

ベテトレ「前川! 動きが硬いぞ、指先まで意識を集中させろ!」

みく「はっ、はい!」

ベテトレ「輿水、少し遅れてきたぞ! もう限界か?」

幸子「ま、まだいけます、よっ!」

早耶「はぁ、はぁ……っ、はぁ、はぁ……」

P「早耶、スポーツドリンクだ。飲めるか?」

早耶「はぁ、っ、は、はい……」

P(早耶は基礎レッスンの中盤で脱落して休憩中だ)

早耶「はぁ、はぁ、っふぅ、はぁ。Pさん、はぁ、少し落ち着きましたぁ。ありがとうございますぅ……」

P「ああ、よかった。やっぱりきつかったか?」

早耶「はい、早耶、全然ついて、はぁ、いけなくて、はぁ、はぁ、残念ですぅ……」

P(確かに、体力はあまりないみたいだ)

P「運動経験もあまりないんだろ? 初レッスンだし仕方ないさ。ベテトレさんのメニューはきついしね」

早耶「そう、ですかぁ? でも……」

P「ん?」

早耶「みくちゃんも、幸子ちゃんも、早耶より小さいのにあれだけ踊れて凄いなぁって……」

P「……」

P「濃いキャラが目立つけど、あの2人は相当努力してるからな。初レッスンの早耶よりもうんと踊れて当たり前さ」

早耶「うふっ、そうですよねぇ。……でも、悔しいですぅ」

P「! ……そうか」

早耶「早耶も、もっと踊れるようになって、Pさんに素敵な早耶を見てほしいなぁ?」

P「そ、そうか……」

P(その後、早耶は幸子とみくがレッスンする姿を見続けた)

ベテトレ「――よしっ、今日はここまで。クールダウンをして今日はおしまいだ」

幸子「ぜぇ、ぜぇ、っ、ぜぇ、はぁ……」

みく「はぁ、はぁ、っ、ふぅ、ふぅ……」

幸子・みく「ありがとうございましたぁ……」

P「ベテトレさん、お疲れさまでした」

ベテトレ「ああ、プロデューサー、お疲れさま」

P「急きょ、松原も見てもらってありがとうございました。ベテトレさんの目にはどう映りました?」

ベテトレ「いや、それくらい構わないさ。前川と輿水も後輩の前とあっていつも以上に気合が入っていたしな」

ベテトレ「松原か……。運動の経験があまりない、と言うだけのことはあるな。体力は並かそれ以下、運動神経もあまりいい方ではないだろう」

P「そうですか……」

ベテトレ「ダンスをものにするには時間がかかるだろう。ただ……」

P「ただ?」

ベテトレ「脱落するときに悔しがっていただろう? そういう子はきっと伸びる。まあ、キミ次第であり、私たち次第でもあるがな」

P「なるほど。ありがとうございます」

ベテトレ「……試すのはいいが、あまり待たせてやるなよ」

P「ええ」

早耶「みくちゃん、幸子ちゃん、お疲れさまでしたぁ。はい、飲み物とタオルですぅ♪」

みく「あ、ありがとう、早耶チャン……」

幸子「……っふぅ、生き返りますね」

早耶「2人ともすっごく素敵でしたぁ! 早耶は全然ついていけなくて残念ですぅ」

みく「ベテトレさんのレッスンだし、仕方ないにゃ」

幸子「早耶さんはまだ初回ですしね! まぁ、ボクはカワイイから最初から余裕でしたけど!」

みく「Pチャンに聞いたけど、確か初回は疲れすぎておぶってもら――」

幸子「ちょ! そ、そんなのPさんのでまかせですよ!」

早耶「ふ、2人ともまだまだ元気ですねぇ……」

早耶「早耶も、早耶ももっと……」

みく「ん? 早耶チャン何か言った?」

早耶「うふっ、なんでもないですぅ」

P「……ふむ」

――事務所

ガチャ

みく「たっだいまー!」

幸子「カワイイボクが戻ってきましたよ!」

早耶「ただいまですぅ」

ちひろ「あら、みんな戻ってきたんですね」

P「はい、ここで宿題をやってから帰るそうです。あとで3人とも送っていきます」

早耶「ふ、ふわぁ……」

P「早耶は……だいぶお疲れみたいだな」

早耶「! 早耶のあくび、見ましたぁ?」

P「ああ、その、すまん。眠いようなら仮眠室使ってもいいぞ」

早耶「えっと……じゃあ、少し横になりますぅ」

早耶「あ! Pさん、早耶の寝顔見たらだめですよっ」

P「見ないって! はいはい、疲れてるんだろ。早く横になりな」

早耶「はぁい♪」

ちひろ「……早耶ちゃんの初レッスン、どうでした?」

P「ダンスに関しては時間がかかりそうですね。運動が得意というわけではないようですし、体力もそこまでないみたいですから」

P「ダンスの最中もこちらをチラチラ気にしていましたし、ちょっと気にかかる部分もあります」

P「ただ、上手くいかなくて悔しそうにしていたので、伸びそうだなぁ、とも。それから――」

ちひろ「ふふふ」

P「な、なんですか?」

ちひろ「いいえ、なんでもありません♪」

ちひろ(「候補」というわりにはだいぶ入れ込んでますねぇ)

ちひろ「これからまた賑やかになりそうだなーと」

P「は、はぁ?」

――数時間後

ガチャ

早耶「あ、あのぉ……」

P「ん? ああ、早耶、起きたのか」

早耶「すいません。みくちゃんと幸子ちゃん、帰っちゃいましたかぁ?」

P「だいぶ前に送っていったよ。みくが声かけたけど、ぐっすり寝てたみたいだから起こさなかったんだ。少し遅いけど、時間大丈夫?」

早耶「大丈夫ですぅ」

P「そうそう、起こしにいったみくが寝顔を撮ったみたいで写真が――」

早耶「えぇ! け、消してぇ!」

P「あ、あはは、俺は見てないよ。俺だけには見せてくれなくってさー」

P「ん゛んっ」

P「Pチャンはデリカシーってやつが足りないにゃ(裏声)」←両手で耳のポーズ

P「そうですよ! ほんと、Pさんはダメダメですねぇ(裏声)」ドヤァ

P「プロデューサーさん、遊んでないで早く2人を送ってあげてくださいね(裏声)」←両手を顔の横に

P「って言われたよ……」

早耶「……はい、撮れましたぁ♪ アーンド、送信っ☆」

P「ん?」

早耶「みくちゃん達がぁ、Pさんが咳払いした後はカメラを向けておくといいって言ってたんですぅ」

早耶「うふっ、面白いものが撮れちゃったぁ。早耶のブログに載せようかなぁ?」

P「ふぇぇ……」

早耶「うふふっ、冗談ですぅ。これで早耶の寝顔を見ようとしたことは許してあげますぅ!」

P「あ、はい」

P(さっきからスマホの振動がうるさいけど無視しておこう……)

P「……で、疲れはある程度とれたかな?」

早耶「はい。あ、あの、遅くまで待たせてごめんなさい……」

P「ああ、大丈夫だよ。普段からこれくらいだから。それより、家に帰ってからもきっちりケアしておかないと、明日以降辛いぞ~」

早耶「わかりましたぁ」

P「明日以降も色々なレッスンを受けてもらうつもりだから、体調にだけはくれぐれも気を付けてね」

早耶「はい!」

P「よーし、じゃあ送っていくよ」

早耶「……あ! Pさん、夕食はまだですよねぇ?」

P「あー、そうだね」

早耶「じゃあ、一緒に食べましょう! ダメですかぁ?」

P「いや、大丈夫だよ。今日は慣れないところを頑張ってくれたし、俺のおごりだ」

早耶「え、いいんですかぁ? それじゃあ、この間行ったお店がいいですぅ!」

P「よし、そうしようか。じゃ、事務所閉めるから、先に車で待っててくれ」

早耶「はぁい♪ うふっ、Pさんとお食事楽しみぃ♪」

P「あはは……」

P(それから、一週間ほど早耶がレッスンする様子を見学した)

トレ「松原さん、もっとお腹から声出して」

早耶「は、はいっ!」


トレ「うーん、キリッとした顔は苦手かな?」

早耶「早耶は可愛いのがいいですぅ……」


ベテトレ「松原! 疲れてきても笑顔を絶やすな!」

早耶「はぁ、は、はい! うぅ、も、もうダメぇ……」


ベテトレ「松原、あと少しだ。頑張って走り切れ」

早耶「はぁ、はぁ、っ、は、はぁ、はぁ」

ベテトレ「プロデューサー、運動不足か! 遅れてるぞ!」

P「ぜぇ、はあ、っ、ぜぇ、ぜぇ……」

P(あ、あれぇ?)

――事務所

P「よしっ! 今日はこれでおしまい、っと。早耶、送ってくぞー」

早耶「はぁい。今日はどこでご飯食べますかぁ?」

P「そ、そうだなぁ」

ちひろ「今日もですか、プロデューサーさん」

P「あ、あはは。ちひろさんもどうですか?」

ちひろ「まだ少し仕事が残っているので。それに馬に蹴られる趣味はないですしー?」

P「そんなんじゃないですってば!」

早耶「うふふ」

P(初日以来、俺が帰るまで待っている早耶を送りがてら、毎日のように一緒に食事している……)

P「あ、そうだ。その前に聞きたいことがあるんだ」

早耶「なんですかぁ?」

P「一週間ほどで一通りレッスンを受けてもらったけど、どうだった?」

早耶「えっと、すごく大変でしたぁ。早耶、運動は苦手だし、体力も余りないですからぁ」

早耶「幸子ちゃん、みくちゃんのレッスンも見たけどぉ、早耶と比べると凄くて、まだまだだなーってしょんぼり……」

早耶「あ、でも、Pさんがいーっぱい早耶を見てくれたのは嬉しかったですぅ♪」

早耶「もっともっと素敵な早耶になりたいなぁ。だから、もっともっと頑張りたいですぅ!」

早耶「残り数日で、絶対Pさんにスカウトしたいって思わせますよっ☆」

P「……そうか。変な言い方だけど、楽しみにしてるよ」

早耶「はい♪」

グゥー

P「ん? 誰のお腹の――」

ちひろ「ちひろチョップ!」

P「いでっ!」

ちひろ「お話も終わったことですし、早耶ちゃんはPさんの車に向かってはどうですか? あまり遅くなるのは感心しませんよ」

早耶「は、はい! ちひろさん、ありがとうございますぅ(小声) お疲れさまでしたぁ☆」

ちひろ「うふふ♪ 早耶ちゃん、お疲れさま」

P「いててて、早耶、荷物まとめたらすぐ行くからー!」

ちひろ「もう! プロデューサーさんはデリカシーが足りませんよ?」

P「す、すいません……」

ちひろ「……」

P「さて、俺も帰りま――」

ちひろ「あ、あの! 早耶ちゃん、どうするんですか?」

P「……」

ちひろ「……」

P「まだ、少し迷ってます」

ちひろ「そう、ですか」

P「あー、その。明日のライブにみくと幸子が出るでしょう。それを一緒に見に行って、それ次第って意味なので、保留の方が近いです」

ちひろ「保留?」

P「正直、レッスンに向かう姿勢や特にビジュアル面では惹かれるものがあるんです」

P「ただ、レッスンの先ですね。どこに向けて、いや、誰に向けて頑張るかという部分が少し引っかかってまして」

ちひろ「あー……」

P「2人のステージを見たとき、早耶がどういう反応をするか。それ次第です」

P「……おっと、早耶を待たせていますし、そろそろ帰りますね。この話は当然秘密ですよ」

ちひろ「ええ。お疲れ様でした」

P「お疲れさまでした」

――翌日

P「よし、3人とも出発するぞー。ちひろさん、では行ってきますね」

ちひろ「はい。みくちゃん、幸子ちゃん、頑張ってくださいね」

幸子「フフーン! ボクのカワイさを存分に見せてきますよ」

みく「みくも頑張るにゃ!」

早耶「早耶も2人のステージ、凄く楽しみですぅ♪」

みく「早耶チャンはPチャンと一緒に見学だっけ?」

早耶「そうですよぉ」

幸子「早耶さんにアイドルのステージがどういうものか見せてあげます! といってもボクのステージはカワイすぎて参考になら――」

P「お喋りは移動しながらなー、ほれ行くぞー」

――車内

P「幸子、みく。体調は万全か?」

みく「みくは問題ないよー。昨日もしっかり寝たにゃ」

幸子「当然、ボクも問題ありません」

P「よし。今日はうちのプロダクション主催の定例ライブだし、リラックスして頑張ってくれよ」

幸子「まぁ、ボクはいつだって自然体ですけどね。それよりPさん、しっかり見ていてくださいよ」

P「もちろん」

みく「最近はあまりみく達のレッスン見に来てなかったでしょ? 成長した姿にきっとPチャンもびっくりするにゃ!」

P「トレーナーさん達からもいい報告がきてたし、楽しみだなぁ」

P「俺だけじゃなくて、当然ファンや早耶にもいいとこ見せてくれよ」

みく「もっちろん! 早耶チャンもしっかり見ててね」

早耶「はい! 早耶も2人のファンとして楽しみですぅ」

幸子「早耶さん、そんなことじゃダメですよ!」

早耶「え?」

幸子「早耶さんだって候補生とはいえアイドルなんですから、ライバルだと思って見ててください」

幸子「もちろん、ボクのカワイさはライバルをもファンにしてしまいますからね、見惚れることは許可しま――」

早耶「わぁ、幸子ちゃんかっこいいっ!」

幸子「え、ええ? ……まあ、ボクですからね!」

みく「……幸子チャンって、たまにドキッとするほどいいこと言うよね」

P「本当にな。サラッと言うからな、ああいうこと。幸子は凄いよ」

みく「よーし、会場中をみくの大ファンにしちゃうくらい頑張るにゃ! みくも幸子ちゃんには負けてられないし!」

早耶「あれ? 幸子ちゃん顔が紅いですよぉ?」

幸子「あ、いえ、なんでもないです」

P「真正面から褒められると弱いんだよ、幸子」

みく・早耶「カワイイ!」

幸子「フ、フフーン!」

みく・早耶「カワイイ! カワイイ!」

幸子「ふ、ふふ、ふしゅぅ…」

――会場

ワーワーキャーキャー

P「だいぶ出番が近づいてきたな。緊張してるか?」

みく「してないといえば嘘になるけど……ワクワクの方が大きいにゃ!」

幸子「ボクは緊張なんてしてませんよ!」

みく「んー? 幸子ちゃんの足、少し震えてない? それ、つんつん」

幸子「わひゃあ! ちょ、ちょっといきなりなにするんですか!」

P「まあ、これで緊張もほぐれたかな?」

幸子「だからボクは緊張してませんって!」

P「2人がステージに立つ姿は客席から早耶と見てるからな」

早耶「2人のステージ、楽しみにしてますよぉ♪」

P「ライバルにいいとこ見せないとなー?」

幸子「なんなんですか、もう! 打って変わってプレッシャーかけるのやめてくれませんかね?」

P「ははは。まぁ、2人なら大丈夫だって信じてるから。何かあったらステージまで駆け上がって代わりに俺が歌って踊るさ」

みく「うぇぇ、絶対失敗できないにゃ」

幸子「俄然集中力とやる気がみなぎってきましたね」

P「え、ひどくない?」

P・幸子・みく「……っぷ、ふふふ」

P「……よし。じゃあ行ってこい!」

幸子・みく「はい!」

次はいよいよみくちゃんの出番。
前の曲が終わると同時に、ふっとあたりが暗くなる。
さっきまでの盛り上がりが嘘のように、一瞬しんと静まった。

「どんでん返し 私のターン みんなのハート 独り占めニャン♪」

パッと光の中に表れたみくちゃん。ワッとあがる歓声。

「すごい……」

ピンクの光がみくちゃんに合わせて波のようにうねる。

みくちゃんがキラキラ輝いて、お客さんがキラキラ輝かせて。
そして、会場全体がまばゆいほどに輝いていた。

ふと隣を見ると、Pさんが食い入るようにステージを見つめている。
いっぱいのキラキラを受けて、Pさんの目もキラキラしていた。

早耶がまだ見たことのない、Pさんの顔、眼差し。

視線の先では、みくちゃんがはちきれんばかりの笑顔を振りまいている。
あれだけ激しく動いて、絶対大変なのに――

「楽しそう……」

みくちゃんが猫のようにステージを飛び回り、お客さんが声援を浴びせる。
歌詞に合わせて前のめりになりながら歌い終わったところで、地響きのような歓声が上がった。

再び暗転。そしてイントロが流れ始めると、既に観客席から歓声が上がる。

「目の前のあなたはいつでもキラキラして~♪」

幸子ちゃんはユニットでの出演。
他の子もカワイイけど、幸子ちゃんも全然負けてない。

ピンク色の海に、幸子ちゃんのカワイイドヤ顔が浮かぶ。
スクリーンを通さなくても、幸子ちゃんの動き、表情が伝わってくる。

ユニットの中にいても堂々としていて、「幸子ちゃん」だって分かる。
小さいのに、なんであんなに大きく見えるんだろう?

じっと幸子ちゃんを見つめていると、一瞬目が逢った気がした。
ううん、絶対に目が逢った。

でも、きっと早耶だけじゃない。
隣でにっと笑ったPさんも、あそこで膝から崩れたお客さんも、ひときわ大きくサイリウムを降り始めたあの人も、呆けた顔で止まったしまったあの人も――

曲が終わって、満足げに笑顔を見せた幸子ちゃん。
うふふっ、会場のみんながきっと

「大、大、大ファンになっちゃいますぅ♪」

ステージ、みくちゃんと幸子ちゃん、2人を見つめるPさん、お客さん。
会場のあらゆるものがキラキラしていた。

早耶の胸の中で、何かが輝き始めた気がした

――終演後

コンコン

『どうぞー』

ガチャ

P「2人とも、お疲れさま。期待以上だったよ」

みく「みくもやりきったにゃ!」

幸子「ボクにかかればこの通りですよ」

P「出番の前には少し緊張してたくせに。でも、それを感じさせない堂々としたステージだったよ」

幸子「フフーン♪」

みく「ちょっとPチャン、みくも頑張ったんだからちゃんとほめてほしいにゃ!」

早耶「……」

P「まあまあ、帰りの道中でよかったところはゆっくり話すから」

みく「うんうん!」

P「……改善点もな」

みく「うぇぇ。……なんてね。次に向けてまた頑張るもん!」

幸子「まぁ、ボクは完璧でしたけどね!」

P「ファンに意識を配るあまり、周りと少しずれていた子がいたなー」

幸子「ぐぬぬ」

P「……早耶? 扉の前でどうした?」

早耶「い、いえ、なんでもないですぅ」

早耶「みくちゃん、幸子ちゃん、2人ともすっごくキラキラしてましたぁ!」

みく「早耶チャンにもそう言ってもらえると嬉しいにゃ。ライブはどうだった?」

早耶「観客……いえ、ファンのみんなも巻き込んで盛り上がって、会場全体がとってもキラキラで、早耶、ドキドキしちゃいましたっ!」

早耶「あ、幸子ちゃん、みんなと目を合わせてましたよねぇ? 早耶もバッチリ目が逢った気がして、嬉しかったですぅ♪」

幸子「フフーン、その通りです。カワイイボクからとっておきのサービスですよ!」

早耶「2人とも、ステージの上ではいつも以上に可愛くって素敵でしたぁ。うふふっ、早耶ももっと可愛くならないと♪」

みく「うんうん、ファンのためにもね」

早耶「ファンのために?」

みく「そうにゃ。ファンのみんなに楽しんでもらうために、もっと可愛いねこチャンになるんだよ!」

幸子「ボクは今でも十二分にカワイイですけどね。もっともっとボクのカワイさを伝えてあげますよ!」

早耶「ファンのために……。うふふっ、やっぱり2人は素敵ですぅ♪」

P「さて、俺と早耶は外で待ってるから慌てずに帰り支度しておいで」

幸子・みく「はーい」

――翌日

ガチャ

P「おはようございます」

ちひろ「ふふふ、おはようございます♪」

P「……どうしたんですか、嬉しいことでもありました?」

ちひろ「そうなんですよ。あ、当ててみます?」

P「うーん、昨日のライブが成功したから、とか?」

ちひろ「それも嬉しいですけど、違います」

P「ライブの打ち上げ会場がちょっといいところに決まった?」

ちひろ「ぶっぶー、違います。あ、打ち上げはいつものところです」

P「あ、はい。で、正解はなんですか?」



ちひろ「うちの部署に仲間が増えそうだからです♪」


P(現在、ちひろさんに半ば追い出される形で、レッスンルームへと足を運んでいる)

P(なんでも、レッスンルームに行くといいことがあるとか)


ちひろ『昨日の今日で、早朝からレッスンルームを使いたいって子がいたんですよ』

ちひろ『随分熱心ですよね。そんな子、プロデューサーさんが見つけたら思わずスカウトしちゃうんじゃないかな、と思いまして』


P(レッスンルームに近づくにつれて、中から歌声が漏れ聞こえてくる)

エブリデイドンナトキモキュートハートモッテタイー♪

P「……レッスンルームに行くといいこと、ね」

P「そろそろ答えが出そうだな」

ガチャ

早耶「おーねがい、シン……え、えぇ! Pさん、なんでいるんですかぁ?!」

P「早耶、動きが止まってるぞ。まだ曲の途中なんだから」

早耶「え、は、はい!」

早耶「まだまだー小さーいけーどぉ♪」

P(ダンスはまだまだぎこちないし、それにつられて音程も時折外れている)

P(でも、鏡に映る早耶の顔はどこまでも楽しそうだ)

P(鏡越しに目が逢った時、早耶はにっこりと笑った)

早耶「――でも可愛くー、すっすーもぉ♪」

早耶「っ、はぁ、はぁ。すぅ~、はぁ~」

P「はい、タオルとスポーツドリンク」

早耶「ありがとうございますぅ。あのぉ、Pさんなんで早耶がここにいるって分かったんですかぁ?」

P「いや、普通にちひろさんから聞いたけど」

早耶「えぇ! 秘密の特訓だからPさんにはナイショって約束したのにぃ」

P「あ、いや、レッスンルームに行くといいことがあるって言われただけだから、ギリギリセーフ、かも?」

早耶「それでもバレちゃいますぅ!」

P「あははは……」

P「で、なんで早朝から特訓してたんだ?」

早耶「……昨日のライブを観て、早耶すっごくドキドキしましたっ。なかなか寝られなくて、でも、早くに目が覚めて、それでもまだドキドキしていて……」

早耶「早耶、どうしてもアイドルになりたいって思ったんですぅ! みくちゃん、幸子ちゃんみたいにあのステージに立ちたいって」

早耶「だから、あと数日だけど頑張って、絶対アイドルにしてもらおうと思って……」

P「でも、なんで秘密にしたの?」

早耶「あの、泥臭く努力している早耶、きっと可愛くないから。Pさんには、一番可愛い早耶を見てほしいんですぅ」

早耶「早耶、まだダンスは上手くできないし、体力もなくて、他もまだまだですぅ。でも、絶対、Pさんが目を逸らせないくらい可愛くなりますぅ!」

早耶「だから、えっと、残り数日よろ――」

P「あー、ストップストップ」

早耶「え?」

P「ゆっくり座って話そう。俺も話したいことがあるからさ」

P「早耶、疲れてるだろ。今の話だとあまり寝てないみたいだし。ちひろさんから聞いた話だと、もうだいぶ練習してたんじゃないか?」

早耶「いや、そんっ……!」フラッ

P「っとと。このままベンチまで運ぶぞ」

早耶「あ、あ、あの、早耶汗かいてて」

P「とか言っている間に到着っと」

早耶「もぉ、Pさぁん! うぅ、可愛くない早耶ばっかり見られてますぅ……」

P「……いや、凄く可愛いよ」

早耶「……え?」

P「泥臭く努力している早耶もすごく魅力的だよ」

早耶「そう、ですかぁ?」

P「最初に会ったときも、それらしいことは言っただろ?」

早耶「あー、うふふっ、そうでした♪」

P「じゃ、俺からもお話、というか実は聞きたいことがあったんだ。昨日のライブを見て、早耶はどう感じた?」

早耶「すごくキラキラしていてぇ、その、羨ましかったですぅ」

早耶「みくちゃんも幸子ちゃんも、普段とぜんぜん違ったんですよぉ? ステージの上でいっぱいのファンに応援されて、すごく楽しそうで、それに、とっても可愛かったんですぅ!」

早耶「アイドルってすごく眩しくて、可愛くて、そして楽しいんだろうなって、今まで以上に感じましたぁ♪」

早耶「幸子ちゃんがライバルのつもりで、って言ってたけど、早耶はまだ全然ですぅ。でも、ステージに立ちたいなって、あそこでキラキラしたいって早耶も思いましたぁ」

P「……早耶は可愛くなりたい、って最初に会った時から言ってたもんな」

早耶「はい♪」

早耶「……でも、可愛く振る舞えば振る舞うほど、カワイコぶってるって思われて嫌われちゃうこともある、って思うんですぅ」

早耶「早耶、それがすっごく怖いでんすぅ。でも可愛くなりたい……」

P「早耶……」

早耶「うふっ、でも幸子ちゃんとみくちゃんが、ファンのために可愛くなるんだ、って言ってて、早耶気づいちゃったんですぅ!」

早耶「早耶が可愛くなろうって頑張るほど、早耶のことを嫌いって言う人もいるかもしれない。けど、それだけじゃなくて、そんな早耶を見て喜んでくれる人もいるかもしれないって」

P「……早耶は、強いな」

早耶「強いっていうのは早耶的には可愛くないですぅ!」

早耶「……それに、早耶はまだまだ強くはないですよぉ?」

早耶「早耶は、早耶のことを好きって言ってくれる人のために可愛くなりますぅ!」

早耶「どんなに嫌いって言われても、早耶のことを認めてくれる人たちを幸せにできるアイドルになりたいですぅ!」

早耶「だから……」

早耶「早耶のことを可愛いって言ってくれたPさんを、最初のファンにしちゃいますぅ☆」

P「……ははは、そうきたか」

早耶「ステージの2人をみつめるPさんを見て、早耶、2人に嫉妬したんですよぉ?」

早耶「それからぁ、楽屋で2人と喜びを分かち合う2人を見て、羨ましいなぁって」

早耶「でも、いつかはPさんだけじゃなくって、たくさんの人を早耶の可愛さで幸せにしたいですぅ!」

早耶「うふふっ、早耶から目を逸らせないくらい可愛くなっちゃうんだから♪」

チョ、チョ、オサナイデクダサイ!!

デモ、キコエヅライニャ!

「ってうわっとととへぶっ!」

P・早耶「?!」

幸子「あいててて……ちょっとみくさん! だから押さないでって言ったじゃないですか!」

みく「ご、ごめん。でもなかなか聞こえ――」

P「幸子、みく、なにしてんだ」

みく「あ、あははは……」

早耶「え、え、2人ともどこから聞いていたんですかぁ?」

幸子「え、ええと、昨日のライブの感想を話しだしたあたりから、ですかね?」

早耶「うぅ、ほとんど聞かれてますぅ……」

みく「まあまあ、早耶チャン。早耶チャンの決意表明、とってもカッコよかったにゃ」

早耶「でも、恥ずかしいものは恥ずかしいんですぅ!」

みく「それはごめんにゃ……」

みく「で、Pチャン。早耶チャンにここまで言わせたんだけど、どうするの?」

幸子「本当ですよ! ここまできたらビシッと決めたらどうです?」

P「盗み聞きしてたくせに偉そうだにゃあ……」

幸子「う゛っ。それは悪かったと思ってますよ」

みく「同じく……って、猫語使うのやめーにゃ!」

幸子「……もう答えは出たんでしょう?」

早耶「えっ?!」

P「……いや、何も言ってないだろう?」

みく「Pチャンの顔見ればそれくらいわかるにゃ。ほら、ビシッと!」

P「……ふぅ。2人ともありがとな」

P「松原早耶さん」

早耶「は、はい!」



P「俺のもとでアイドルになってください。絶対に、とびきり可愛いアイドルにするって約束します」


早耶「……や、やったぁ」ヘナヘナ

P「うわっと、危ない危ない」

早耶「早耶、Pさんのもとでアイドルできるんですね?」

P「ああ。待たせることになってすまなかった」

早耶「よ、よかったぁ♪」ギュー

P「ちょ!」

みく・幸子「?!?!」

幸子「ちょっと、なにやってるんですか!」

みく「Pチャンも呆けてないで早く離すにゃ! 早耶チャンもはーなーれーてー!」

早耶「うふふっ、はぁい♪」

幸子「ふぅ、まったく!」

幸子「でも、これで早耶さんはこれから仲間でありライバルですよ! まあ、ボクのカワイさには勝てませんけどね」

早耶「早耶も負けませんよぉ!」

みく「もちろん、みくも負けないにゃ!」

早耶「うふふっ」

P「いい仲間が増えたなぁ。ちひろさんの言う通り賑やかになりそうだ」

早耶「……あっ! そういえばぁ、さっきの言葉、プロポーズみたいでしたねぇ♪ 早耶、ドキドキしましたぁ♪」

P・みく・幸子「?!?!?!」

みく「ちょ、な、何言ってるにゃ!」

幸子「そ、そうですよ! ただのスカウトじゃないですか!」

早耶「……ライバル?」

みく「ちーがーうーにゃー!!」

幸子「そうですよ! それにボクらはアイドルですよ! だから――」

P「に、にぎやかになりそうだなー」

P「……あ、早耶。正式にアイドルになったし、2人きりでご飯行く頻度はだいぶ減らすからな」

早耶「えぇ、そんなぁ!」

みく・幸子「ん?」

幸子「ちょっとなんですか、それ? 聞いてないですよ、Pさん」

P「き、聞かれてないし?」

みく「もー! いいからみく達も連れてくにゃ!」

早耶「うふふっ、やっぱりライバル?」

みく・幸子「ちがーう!」

P(この後むちゃくちゃ食事した)

――数か月後

早耶「Pさぁん、早耶の手、ぎゅってしてください」

P「……これでいいか」

早耶「はい♪」

P「初ステージ、出番直前だけどやっぱり緊張してる?」

早耶「んー、そこまでは緊張していないですぅ」

P「お、そうなのか。幸子なんか生まれたての小鹿みたいにプルプルしてたぞ」

P(幸子に付き合わされるまま、幸子ちゃんカワイイ、と言い続けているうちにいつも通りになったけど)

早耶「うふふ。早耶のことを好きでいてくれる人が1人でもいれば、早耶は大丈夫ですぅ!」

早耶「その人のために、一番可愛い早耶を見せますぅ☆」

P「……大丈夫。早耶なら、1人と言わず、この会場中を魅了できるよ」

P「体力もついてきたし、苦手だったダンスもだいぶ上達した。可愛く見せるのはもっと上手くなったんだ」

P「自信もっていっておいで」

早耶「Pさんがそう言ってくれるならぁ、早耶は大丈夫ですよぉ♪」

P「……よし、そろそろ俺は観客席に向かうよ」

早耶「はい!」

早耶「……ね~ぇ、Pさん」



早耶「ステージでキラキラ輝く早耶から、目を逸らさないでくださいねっ☆」


終わりです。

「早耶、最初はアイドルとか大事じゃなくて。でもPさんが好きなモノ、早耶も好きになっちゃったぁ」

第5回総選挙で早耶ちゃんが言っていたセリフです。そんな早耶ちゃんがアイドルに夢中になった瞬間、あるいは、夢中になっていく過程が気になりますよね、というお話でした。
可愛くあろうと頑張る早耶ちゃんをよろしくお願いします


ちなみに、こんなものも以前書いています

松原早耶「みくちゃんは、不安になったりしませんかぁ?」

前川みく「野良猫のお兄さん」

前川みく「あなたの好きなところ」

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