「私、彼氏できたの」(19)

前に書いた作品(幼馴染「私、彼氏できたの」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.shitaraba.net/bbs/read_archive.cgi/internet/14562/1372587264/))
の書き直しです。一応、タイムトラベル物となっています。
書き直しということで内容は変更していく予定です。
なお、地の文(下手)や人物名を用いていきますので、ご容赦ください。

不定期更新となりますがよろしくお願いします。


子供の頃に誘拐されかけたことがある。

幼い俺は見知らぬ男に手を引かれ、どこかに連れて行かれることは不思議と恐怖だと感じなかった。

俺はその男にもしかしたら何か不思議な縁を感じていたのかもしれない。

男がこう言ったからだ。

「俺は、お前だ」

「未来の何もできなかった俺だ」

しばらく俺は男と会話をした。何の変哲もない内容だった。

しかし、男は突然立ち止まり、そして……泣き始めのだ。

その男の事をしばらく見つめていた。

男は酷く疲れているように感じられ、何もない虚空を見つめ続けている。



そして、俺の方を振り向き、静かに呟く。


「運命を受け入れるな……」

そう言い、男は俺にあるものを渡してきた。

それは見たこともない、黒い箱。

男の掌の上に黒い物体は存在していた。


それからの事は……よく覚えていない。

その男がどういう理由で俺を誘拐しようとしたのか。どうしてその男は未来の俺だと名乗ったのか。男が渡した黒い箱とは一体何なのか。


全てがわからないまま、俺のその時の記憶は途切れていた。


7歳の頃だった。10年も前の出来事でも、俺はそれを鮮明に覚えている。

その時の事が何を意味するのかはわからない。けれど、俺はその男の事を今も忘れられず、そして黒い箱を大切に持ち続けている。


確かその時は……ちょうど、あいつらがここに引っ越してくる一ヶ月前の出来事だ。


「ん……」


読書に集中していたらいつの間にか寝ていた。最近借りた本が案外面白くて夜通し読んでいたせいか、睡眠を疎かにしていた。
きっと、そのせいで読書中に寝てしまったのだと自分に言い聞かせておこう。

しかし、教室の周りの奴らは俺のことを起こそうとしない。……仕方のないことだが。

俺はクラスに居ても居なくても、どうでもいい存在。誰かに干渉することもなく、干渉されることもない。
いつのまにかそんな存在になってしまっていた。……どうしたもんかな。

外からは部活動をしている奴らの活気のある声が聞こえる。
きっと一人ひとりが今日も目標に向かってお互いを励まし合い、友情を深めながら時を過ごしていくのだろう。
 
……俺も、そういう生活を夢見てたんだけどなぁ。
帰宅部には関係ない事か。


校庭を眺める中で、見覚えのある顔を見つける。
健気によく動いては、部員達を励ましている。サッカー部のマネージャーである彼女のことはよく知っている。
あいつは昔から明るく振る舞って周りの人を笑顔にしていき、時にはよく気を配り色んな人を助けていた。
それは今でも変わらないのだろう。遠目から見てもそう思わせてくれる程、彼女はよく働いていた。
そんな彼女の事だ。最近では彼氏ができたとかどうとか言われている。……あくまで盗み聞きした話だが。

どっちにしろ関係無いか。昔、仲が良かったってだけで、気にかけるのは少し気味が悪いと思う。

サッカー部のマネージャーであるアカネは、俺の幼馴染だった人物。
今は……他人といってもいい状態だ。


……って、こんな事を考えてる場合じゃない。先週借りた本を返さないと。
ついつい面白いから、何度も読み返してしまったからな。感想を言うと、いつも無口のあいつも少しは喜んでくれるだろうか?
とりあえず図書室に向かうとするか。


―――――


「本、返しに来たぞ」

先週と同じ様に、彼女は図書室のカウンターにいた。

「……どうだった?」

長い前髪に隠された瞳がこっちを覗くようにして見ながら、彼女はそう聞いてきた。

「すげぇ面白かった。なんと言えば分からないけど、最後にいくに連れて伏線がどんどん回収されるのが気持ち良いみたいな感じで」

「思わず何度も読み返しちまった。お前のセンスはやっぱりすげぇよ。タイムトラベル系の話がこんな面白いとは思わなかった」

「そう思ってくれたなら嬉しい……」

心なしか彼女は照れている様に見えた。あくまで俺の主観ではある。あくまで。


「また良かったら違う本紹介してくれないか?」

「なら、これとかはどう?」

彼女が差し出してきたのは著者が海外のもので、少し小難しい印象を受ける本。
関係は無いが、あまり英語が得意ではないので海外の物には少し苦手意識を覚えてしまう。

「これって少し難しそうじゃないか?なんか海外で書かれたやつだし」

「……あなたってまだ英語が苦手なんだ」

「……」
昔の事をまだ覚えている彼女に少し恐怖を覚える。


「大丈夫。別に海外で書かれたからって変わることは何もない。内容は私が保証するから、読んでみて」

「……お前がそこまで言うなら」


「……はい。貸出期限は一週間……というのはもう分かってるよね」

「ああ。また一週間後に来る」

「……そう」

「それじゃあ、また今度な」

「……ま、まって」
彼女のその絞り出したようなその声におもわず振り向いてしまう。

「ご、ごめんなさい。……なにもない」

「あ、ああ……」


彼女が何を言い出そうとしたのかは分からない。滅多に聞くことのない、彼女のその必死な声は俺に様々な想像をさせる。
……考えた所で答えは出ないから意味は無いのだろう。それでも、考える事をやめることはできなかった。
昔は毎日会っていたのに、今では週に一度、この図書室で会うだけ。そんな関係になった現在でも彼女は大切な存在の一人だ。

彼女の名前はハルカ。
俺の幼馴染の一人であり……アカネの双子の妹だ。


―――――


「さぁて、読むか……」


学校から帰宅し、夕食、風呂を済ませ、残すは寝るだけとなった。
寝る前のこの時間は読書の時間だ。早速ハルカが勧めてくれた一冊を読むとしよう。

鞄の中にしまってある本を取り出そうと、ベットから起き上がったその時、不意にあるものが目に写った。

それは小さな頃に撮った一枚の写真、小さな頃の俺とアカネとハルカの三人で撮った写真。
懐かしさを覚えると共に、寂しさ、そして悲しさがこみ上げてきた。……仕方ない。成長すれば、人の縁が切れていくこともある。
別にそれは幼馴染の俺達にとっても関係が無いわけではない。色んな人と出会って、成長していくのが普通だ。
……そう思っていても、なぜか俺はその写真を見てこんなにも悲痛な感情を消すことができないのだろうか。

「……やめよう」

俺は写真立てに入ったその写真を見えないように裏返し、本を取りに行った。
奇妙な感情を抱きながらも、読書に集中しようとする。きっと本に集中していれば、その感情も消えるはずだから。


写真が飾ってあったその場所には、裏返しにされた写真立てと使い古されたスパイクだけが残っていた。

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