早苗「プロデューサーと飲みに行くことにした」 (30)


P「あー……」カタカタ


P(今日も俺は仕事に追われていた)

P(片付けなければいけない仕事は山のように積まれていた)


P「日曜日だってのになあ……」


P(不定休の仕事だと言うのはよくわかっていた)

P(この仕事を続けてきて、もうどれくらいの時間が経っただろう)


P「……休憩しよう」ガタッ


P(俺は休憩場へと足を運ぶ)



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P「……ふぅ」ドサリ


P(ソファに仰向けに寝転がる)

P(天井を見上げるとチカチカと電燈が揺らいでいた)

P(……頭痛いな、腰もバカみたいに軋んでる)


P「あー……飯食わないと」


P(昨日は何を食べたっけ……)

P(確か、コンビニの弁当を買ってきて、一人で食べたんだっけ)


P(じゃあ、今日はカップ麺でも食べるか……)

P(でもコンビニまで行く時間もないな……)


P「……」


P(俺、なんでこんなに頑張ってるんだろう)


P「……」


P(飯も食えないくらい働いて、体にガタいわして――)

P(なんで、こんなに働いてたんだっけ)


P「……時間か」


P(時計を見ると、針は既に休憩時間の終わりを告げていた)

P(戻ったら書類を片付けて、電話の応対をして、それから……)


早苗「プロデューサー?」

P「……早苗さん?」


P(ふと呼ばれた方を振り返ると、早苗さんがそこに立ち尽くしていた)


早苗「どうかしたの? 顔色悪いけど」

P「いや、別にそんなことは……」


P(じっと俺のことを眺める早苗さんに思わずたじろいでしまう)


P「えっと、俺仕事あるんで、これで――」

早苗「……」

P「早苗さん?」

早苗「プロデューサー、今日の夜空いてる?」


P「へ?」



早苗「空いてるってことでいいね?」

P「あ、ちょっと早苗さん!?」

早苗「それじゃあ仕事終わったら連絡してね~」スタスタ

P「……行っちまったよ」


P(突然の誘いに戸惑いながらも俺の頭はやけにはっきりと動いていた)

P(なにか用事でもあるのか?)


P「あっ、やべ……。営業先から電話そろそろかかってくる」タッタッタ


P(結局訳も分からないまま、俺はいつも通り仕事へと戻った)

P(そうして今日と言う一日が過ぎようとしていた)


――――
――



P「つ、疲れた……」グッタリ


P(今日の仕事が終わり、俺は一人部屋の中でぐったりと突っ伏していた)

P(今日はハードすぎた……)


P「……帰って寝ないと」ガタッ


P(席から立ち上がって帰り支度を済ませていた時、ポケットのスマホが震える)


P「ん?」


P(ディスプレイには『片桐早苗』の文字が)


P(ええと――と、考えて俺はすぐに昼に話していたことを思い出す)


P「……はい、もしもし」

早苗「あ、プロデューサー? 仕事もう終わった?」

P「あー、えっと……一応」

早苗「連絡入れてって言ったはずだけど?」

P「……すいません、忘れてました」

早苗「ん、まあいいや。それじゃあ下で待ってるから早く来てね」プツッ

P「……切れた」


P(何が何だかわからないまま、俺はぼけっと立ち尽くしていた)


――――
――



早苗「もー、遅いぞ~」

P「あ、す、すいません……」


P(下へと降りると、確かに早苗さんが俺を待っていた)


P「今日は何か用事ですか?」

早苗「飲み会!」

P「へ?」

早苗「飲み会行くぞ~!」ガシッ

P「ちょっ、まっ、待って……!」


P(強引にも俺は早苗さんに腕を掴まれてズンズンと夜の街へ繰り出すことになった)

P(って言うか……の、飲み会?)

P(ちょっと急すぎませんかね……?)


――――
――



早苗「とりあえず生2つ!」

P「勝手に決めてるし……」


P(店に入るや否やさっそくお酒を頼む辺り、早苗さんらしいな)


P「で、今日は急に飲み会なんてどうかしたんですか?」

早苗「ん? なんで?」

P「え、だって脈絡もなしに二人で飲み会ってどうなんですか?」

早苗「……」

P「ちょ、なんで黙るんですか」

早苗「メニュー見てた」

P「自由だなこの人……」


ガヤガヤ


P(にしても、飲み会なんていつぶりだろう)

P(やけに騒がしいけど、みんなお酒を飲んで楽しそうだな)

P(たまにはこういうのも悪くないのかな)

P(早苗さんと来たのも――すごく久しぶりだな)


「生二つでーす!」


早苗「ありがと~。ん、じゃあとりあえずカンパーイ!」


P「……乾杯」



早苗「ぷは~! うっま~い!」ドン

P「アイドルがそんな感じでいいんですか?」

早苗「なに? 文句あるの?」

P「ガン飛ばすのやめてください」

早苗「あ、すいませ~ん! 枝豆ください!」

P「……」


「以上でよろしいでしょうか?」


早苗「プロデューサーは?」

P「……ついでに、タコワサもお願いします」

早苗「おっ、ノッて来たね」

P「乗せられただけですよ」

早苗「まあ、なんでもいいじゃん」

P「そんなもんですかね」

早苗「そっそ」


P(それから、お酒は進み――俺はグデングデンに酔っぱらっていた)


P「生追加で!」

早苗「ま、まだ飲むの?」

P「何言ってんですか? まだまだ飲みますよ!」

早苗「……じゃあ、あたしも追加で!」

P「今日は飲むぞー!」

早苗「おー!」


P(俺達は、二人でお酒を飲み続けた)


P(たくさん笑って、くだらないことを話して、そんなことをしたのはいつぶりだっただろう)



『君はね、もっと仕事に責任感を持つべきだよ。ぼさっとしすぎ』



P(わけも分からず、俺は隣いたおじさん達にも乾杯をしていた)



『あー、もう次から君の事務所とは契約とらないから』



P(そんな俺を見て、みんな笑顔でいてくれた)



『企画書どうなってんだ? 期限ギリギリに出すなって言っただろ?』



P(それがたまらなく嬉しくて)

P(そんなことで笑ってくれる早苗さんがいて)

P(そんな光景を俺は本当に幸せに思ったんだ)


早苗「すぅ……すぅ……」

P「……早苗さーん? あれ? 寝てます?」


P(気づくと、隣で寝息を立てる早苗さんの姿があった)


P「飲みすぎたか……」


P(ふと周りを見渡すと、俺達以外の人はもう帰り支度を済ませようとしていたみたいだった)


P「早苗さん、そろそろ帰らないと」ユサユサ

早苗「う、う~ん。も、もう一杯……」ムニャムニャ


P(夢の中でまで、早苗さんはお酒を飲んでいるみたいだ)

P(俺はそんな早苗さんを眺めて、ふうっと息をつく)


P(そう言えば、俺が早苗さんをプロデュースしたてだったころ)

P(今日みたいに、飲みに連れていかれたっけ)


早苗『君はね、肩ひじ張りすぎだよ! もっと力抜かないと!』

P『は、はあ』

早苗『いい? 社会に出たら楽しいことだけじゃないけどね』

早苗『こうやってお酒を飲んで誰かと話をして、それでパーッと騒ぐのも大切なのよ?』


P(早苗さんは、失敗ばっかりだった俺をたくさん励ましてくれたっけ)


P「……今日は久々に楽しかったな」


P(思い返せば、これまで楽しいことばかりじゃなかった)

P(楽しいことなんて、ほんの一握りだけで)

P(辛いことの方がたくさんあった)

P(でも、仕事なんてそんなもんで)

P(いつの間にか、俺は見失っていたのかもしれない)



早苗「……むにゃむにゃ」

P「……俺、仕事辞めよっかなって思ってたんです」

P「辛くなって、もう投げ出してやろうって」

P「でも、そういうの止めにしました」

P「……まだ、もう少し頑張ってみます」



P(……そう言ってから、途端にこっぱずかしくなった俺は会計を済ませると早苗さんを起こした)



早苗「うーん、頭痛いわね……」

P「大丈夫ですか? タクシー呼んでるんで、それで帰ってください」

早苗「ありがとう……」


P(タクシーに乗り込む前、早苗さんは頭痛に顔を歪めながら、俺を指さした)


早苗「……辞めたくなったら、まずはあたしに相談すること」

P「え?」

早苗「約束ね」


バタン ブロロロロロ


P「……やっぱり聞かれてたか」


P(敵わないなあ、と頭を掻くと俺は一人夜の街を闊歩した)

P(キラキラと光るネオン街は、どこか儚くて、それでいて綺麗だった)


P「よーし、明日も仕事頑張るぞ!」


P(街ゆく人に見られながら、俺は一人拳を握りしめた)






P『初めまして、えっと……片桐早苗さんですか?』

早苗『ええ、そうだけど。あなた……プロデューサー?』

P『はい、これから一緒に頑張っていきましょう』

早苗『……ええ。よろしくね』

P『目指せ、トップアイドル――ですね』



おわり

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