幸子「上空1万メートルからダイブすることになりました……」 (46)

【モバマスSS】です


――――上空1万メートル、輸送機内

幸子「あぁ……カワイイボクがどうしてこんなことに……」

ガチャガチャ

幸子P「文句を言っても始まらないぞ幸子! もうすぐ時間だからな、覚悟を決めろ! ほら、パラシュートもつけてやったんだから!」バシバシッ

幸子「そこまでしてくれるならプロデューサーさんも一緒に飛び降りてくださいよ!」

幸子P「いやだ、危ないだろ! 幸子なら大丈夫だろうが俺がやるのはまずいって分からないのか?」

幸子「ひ、ひどい……!」

あやめ「まぁまぁ幸子殿。頼りないかもしれませんが、わたくしも一緒に飛び降りますので怒らずに」

幸子「元はといえばあやめさんの発言のせいなんですから当然ですよ! ちゃんと着いてきてくださいよ!?」

あやめ「ええ、それはもちろん」

幸子「はぁ……本当にどうしてこんなことに……」

幸子(全力でやるとは言ったものの、1週間前に戻れたらその時のプロデューサーさんを全力で止めたいですよ、まったく――)



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※輿水幸子
http://i.imgur.com/cwbUm9m.jpg

※浜口あやめ
http://i.imgur.com/KPq1hy9.jpg


――――1週間前、事務所

ガチャ

幸子「おはようございます! 今日もカワイイボクが来ました……あれ?」

幸子P「……」ジーッ

TV『……ぐ……会見……』

幸子「もう、プロデューサーさん! カワイイボクが来たのにテレビに夢中なんてダメな人ですねぇ。ほら、こっちをむいてくださいよ」

幸子P「ああ、うん、幸子おはよう。今日もカワイイなー」

幸子「ぐぬぬ、棒読みですか……ま、まぁいいでしょう。それで、なにを見てるんですか?」

幸子P「すまんがちょっと静かにしててくれ。この記者会見は大事なんだ」

幸子「む……なんなんですか一体……もう!」プンスカ

ガチャ

あやめ「おはようございます! ……おや幸子殿、ご機嫌斜めのご様子で」


幸子「おはようございます。まったく、聞いてくださいよあやめさん。ボクのプロデューサーさんったらさっきからテレビに夢中で」

あやめ「テレビ? ああそういえばそろそろでしたかな」

幸子「なにがですか?」

あやめ「ほら、愛海殿ですよ。なんでもエベレストを無酸素で登頂したとかで、これからそのことに関する記者会見を行うそうです」

幸子「……最近姿を見ないと思ってましたが、そんなことをしていたんですか!?」

あやめ「ええ、あの山は普通に登るだけでも大変だというのに愛海殿もすごいですね」

幸子P「二人共ちょっと静かにしててくれ、会見が始まる」

あやめ「おっと、失礼しました」

幸子「むぅ……」

パシャパシャカチカチ

記者『――では改めて棟方愛海さん、無酸素でのエベレスト登頂を史上最年少で成功させた今のお気持ちを聞かせてください』

愛海『はい。まずはあたしを支えてくれた多くの人に、そして一緒に無酸素での登頂に付き合ってくれたプロデューサーに感謝します』

※棟方愛海
http://i.imgur.com/tWjBRVZ.jpg


パシャパシャカチカチ

愛海『今でも頂上から見た光景は夢みたいで、ふわふわした感じがしますね』

記者『こんな危険な挑戦をするきっかけはなんだったんですか?』

愛海『クリスマスにイヴさんにギュンビョルン山への登頂に招待されたのがきっかけですね。あれで色々と目覚めちゃいまして……』

記者『なるほど、しかしそれならば無酸素などという無謀とも思える条件はなくしてもよかったのでは?』

愛海『と、いいますと?』

TVリポーター『失礼ですが今回の件につきましては、危険な売名行為との声も少なくなく――』

愛海『……約束したんです』

パシャパシャカチカチ

記者『約束……? それは一体……』

愛海『はいそれは……エベレストを無酸素で登れたら、清良さんや真奈美さん達のでっかいお山を1週間、登り放題に出来るってことだぁ―!』バンッ

記者団『『『……は?』』』


愛海P『……やっぱりもたなかったか……』

パシャパシャカチカチ

記者『あ、あのすみません意味がよく』

愛海『分からない!? なら教えてあげる、あたしにとってお山に登るとは生きることそのもの! 呼吸と同じ! そしてでっかいお山が目の前に』ダンッ

愛海『なのに登れない! 悔しい! だったらどうする!? 交渉するんですよ交渉を!』ダンダンッ

愛海『厳しい条件をあたし自身に課すから、それを達成したらお山を揉ませてって! そしたら自然の登山ですごい記録だしたらって言われたの!』

TVリポーター『ま、まさかそれがエベレスト無酸素登頂……!』

愛海『そうです! すごい条件だとは思いましたけど! でもあたしはやり遂げた! だってすごい好きなものが一杯手に入るから!』

パシャパシャカチカチ

記者『ま、まさかあなたは女性のその……胸を触りたいがためだけに、これほどの記録を打ち立てたのいうのですか……!?』

愛海『あたしにとっては重要なことなのっ! あーもう、楽しみで仕方ないよぉだからねプロデューサー――モガモガ!?』ガシッ

愛海P『うん、もう喋るなややこしくなる……えー、すみません、ウチのアイドルはまだ帰国したばかりなので今日はこの辺りで……』スタッ


記者『そ、そんなもうちょっとお話をー!』

TVリポーター『今後の計画などがあればぜひっ!』

愛海P『後日改めて正式な発表をしますから今日はここで終了とさせてください……!』

愛海『ンーッ!(早苗さん達見てるー!? 逃げないでよねー! うひひひひっ!!)』モガモガ

愛海P『うお、こら愛海暴れるんじゃ――ええい!』ダダッ

TVリポーター『あちょっと……! あー、えと、ひとまずスタジオにお返ししまーす!』

ブツン

幸子「なんですかあれ」

あやめ「あはは……なんとも愛海殿らしいです」

幸子P「むうう……」

幸子「……どうしたんですかプロデューサーさん? 難しい顔をして」

幸子P「幸子、お前は今のを見てなにも思わなかったのか?」


幸子「え? うーん、愛海さんのお山登りへの情熱はすごいとは思いましたけど……」

幸子P「そうじゃないだろ! 他にも思うことがあるだろ!」ガシッ

幸子「えっえっ? そ、そんなことを言われてもボクにはなんのことだかさっぱり……!」

幸子P「分からないのか? 幸子お前はこれでまた、ただの世界一カワイイアイドルというインパクトのない存在に一歩近づいたんだぞ?」

あやめ(その単語だけでも十分衝撃的だと思いますが)

幸子「何を言っているんですかプロデューサーさん、ボクが世界一カワイイというのは不変の真理ですよ? それのなにが問題なんです?」

幸子P「大問題だろ! これまで体を張った過激な仕事をするアイドルといえば誰だった!? そう、幸子だろ!」

幸子「いやいやいや!? 待ってください、その称号はボクは不本意なんですよ!? ボクはカワイくて誰からも憧れに思われるようなそんな……」

幸子P「甘い! 甘いあまいあまーいっ!!」ダンッ

幸子「ヒッ……!?」

あやめ「ちょ、ちょっと幸子P殿落ち着いて……幸子殿が怯えています」

幸子P「ふーっ……フー……いいか、幸子。知っていると思うがこの厳しい芸能界を生き抜くためには、他人を霞ませる個性が重要だ」


幸子「だ、だからその個性に、ボクはカワイさという……」

幸子P「世界一カワイイだけでは足りないんだよ! そのために俺はこれまで幸子、お前にアイドルとは思えない激しい仕事もさせてきた!」

あやめ「スカイダイビングなどでしょうか?」

幸子P「そうだ、あれなんかは最高にいい仕事だった! そういえばあのアイディアをくれたのはあやめちゃんだったな、ありがとう」

あやめ「あ、いえいえそんな……」

幸子「ボクは死ぬかと思いましたよ!? あのサプライズ演出が成功してライブまで出来たのが今でも不思議なくらいです!」

幸子P「しかしそのおかげで幸子の名前は一気に売れ、他の子達は真似出来ない唯一無二の立ち位置を手に入れた……はずだった! だが最近はどうだ!」

幸子「どうって……」

幸子P「さっきの愛海ちゃんのように、気づけば幸子なんかよりもっとすごいことをしているアイドルが次々に現れている! このままでは……」

幸子「いいじゃないですか。これでボクには危ない仕事は回ってこなくなって、もっとカワイさをアピール出来るお仕事がしやすく」

幸子P「だからそれでは駄目だと言っているんだよ! カワイイだけの幸子ではもはや世間は満足しないはずなんだ!」ダンッ

幸子「……そ、そんな……」グスッ


あやめ「……あの、隣からで申し訳ありませんが、いくら担当プロデューサー殿であっても、今の発言は幸子殿に失礼なのでは?」

幸子P「なにを!? 俺にとって幸子とは全てだ! 幸子が有名にならないと俺が困るんだ、分かるか!?」

あやめ「ならば何をさせるおつもりで? まさか、愛海殿と同じように登山をさせるつもりですか? 素人にはあの登り方は危険ですよ」

幸子P「はっ、今更他人がやったことを真似をしてもなんの価値もない。あくまで幸子しか出来ないことをやってこそ、意味がある」

幸子「ボクにしか出来ないこと……やはりこのカワイさをもっとアピールするのがいいんじゃないですかプロデューサーさん?」

幸子P「だからそれだけでは足りないと言っているだろう分からない子だな……まてよ、アピール……幸子、そして……」チラッ

あやめ「……? あの、なにか」

幸子P「あやめちゃん一つ聞きたいんだが、普通の人間がスカイダイビング出来る限界高度がどれくらいか知っているか?」

あやめ「えっ? ええと……たしか祖父との修行の時にやった……じゃなくて聞いた限りでは1万メートル前後でしょうか」

幸子P「1万メートル」

あやめ「といっても普通の方には酸素マスクや防寒対策が必須になりますし、そもそもスポーツとして楽しめる高さではありませんが」

幸子P「それでも、やろうと思えば出来るんだな? 問題ないんだな!?」


あやめ「そ、それは、まぁ……」

幸子「ちょ、ちょっと待って下さいプロデューサーさん……まさか、冗談だと思いますけどやるなんて言いませんよね?」

幸子P「……いや、やろう幸子! いけるぞ! これなら幸子がカワイイだけのアイドルではないと再び宣伝することが出来る!」

幸子「なっ……!」

幸子P「そうだそうだ、なんでこんな簡単な企画思いつかなかったんだ。スカイダイビングが出来るアイドルなんてすごいアピールポイントだってのに」

あやめ「な、何を言っているのですか幸子P殿!? 上空1万メートルですよ!? そんなところからダイブしてなにかあれば無事ではすみませんよ!」

幸子P「おいおい不吉なことを言わんでくれ。今までのスカイダイビングは幸子は全部無事に成功させたんだ、落ちる距離が3倍程度増えた所で」

あやめ「パラシュートなしでは3千メートルからの落下でも生還出来たのは50人に満たないんですよ!? 本来空から落ちるというのはそれだけ危険で……」

幸子P「……なるほど、逆に言えばパラシュートなしでも絶対死ぬということではないんじゃないか、なら大丈夫だ、俺の幸子ならな!」ニヤッ

幸子「……っ、ボ、ボクは……」

あやめ「あなたという人は……!」

幸子P(それにいいことを聞いたな。パラシュートなしでも生存する可能性があるなら、幸子だったら……ちひろさんを説得出来れば……!)


ガチャ

ちひろ「失礼します……あら、どうしました? なんだか幸子ちゃん達の様子が妙ですけど……」

幸子P「おおちひろさんいいところに! 実は今とても良い企画を思いつきまして!」

ちひろ「はぁ……一応伺いましょう」

幸子P「その企画というのはですね……――」ゴニョゴニョ

幸子「……ボク、またスカイダイビングすることになるんでしょうか。しかもすごい危ない高さから……はぁ」

あやめ「申し訳ない幸子殿、わたくしが不用意な発言をしたばかりに……」

幸子「本当ですよ……まぁでも、それをボクにやらせようとするプロデューサーさんが一番問題だとは思いますけど」

あやめ「しかし企画の最終判断をするのはちひろ殿です。ならば今回のようにあまりに危険な企画内容を許可することなどないはず……」

ちひろ「――ふむ、内容は理解しました。そうですか、幸子ちゃんを」

幸子P「ああそうだ。すでにダイブの経験がある幸子なら問題ない! 頼む、出来れば早急にやらせてほしい! 1週間後くらいに!」

ちひろ「……愛海ちゃんへの対抗ですか?」

※千川ちひろ
http://i.imgur.com/TjheXoP.jpg


幸子P「そうです、衝撃的な話題をより大きな衝撃によって上書きする! そうすれば幸子の名前はもっと売れます!」

ちひろ「売れる……ですか」

幸子P「そうです! そうすれば幸子の仕事はさらに増えて、儲かります! 俺も、ちひろさんも、損がない!」

ちひろ「……なるほど、なるほど」チラッ

あやめ「……妙ですね、あの視線。まるで値踏みするような……」

幸子「なんでしょう、すごく嫌な予感が……」ダラダラ

ちひろ「……いいでしょう、どうやらこの企画は幸子ちゃんの今後のために色々と見極めるいい機会にもなりそうですし、わかりました、許可します」

あやめ「なっ……!?」

幸子「ハハハ……やっぱりぃー!!」ガーン

幸子P「いやーありがとうございます! これで幸子はもっと売れる! さぁ準備だぞ幸子ォ! 飛ぶのは1週間後だそれまでに――」

ちひろ「ああ、ただし一つ条件が」スッ

幸子P「……なんです?」


ちひろ「当日のダイビングには、あやめちゃんも一緒に飛んでもらいます」

幸子P「……は? な、何を言ってるんですか!? 幸子単独で飛ばなければ意味が……!」

ちひろ「もちろんそこは承知しています。ですので、あやめちゃんが飛ぶことは一般的には知らせず、秘密裏に一緒に飛んでもらいます」

幸子P「そ、それになんの意味が……そもそもあやめPの奴が納得するはずが」

ちひろ「あやめちゃんのプロデューサーさんには私から話を通しておきます。それに、この企画はあやめちゃんの言葉で思いついたんですよね?」

幸子P「そ、それはまぁそうですが……」

ちひろ「だったら前のスカイダイビングに関わらなかった分、今回は関わってもらいましょう。あやめちゃんもそれでいいですね?」

幸子「あ、あのちひろさん、ボクはともかくあやめさんはスカイダイビングの経験がないはずですよ……? 危ないのでは……」

幸子P「そ、そうだ幸子いいこと言った! ちひろさん、これはアイドルにさせるには危ない仕事ですから他の子には……」

ちひろ「……そういうことを言いますか……ですが大丈夫です、あやめちゃんは忍ドルですから。そうよねあやめちゃん?」ニコッ


あやめ「分かりました。わたくしの発言で幸子殿が危険な目にあうのです、ならば責任を取りませんと。幸子殿、一緒に飛びましょう!」

幸子「あやめさん……!」

幸子P「ぐぬぬぬ……これでは……!」

ちひろ「これでは……なんです?」

幸子P「あ、いえ、なんでも……あはは……しかし、なぜあやめちゃんを一緒に飛ばそうとするのですかちひろさん。この仕事は危険だというのに……」

ちひろ「そうですねぇ……あえて言うなら――」ジーッ

あやめ「では幸子殿。一緒に飛ぶからには1週間で出来るだけのことをしましょう! たとえパラシュートに不具合があっても無事に生還出来るように!」

幸子「最初から怖いこと言わないで下さいよ!? でもいいでしょう、こうなったらもう全力でやりますよ! ボクはカワイイですからね!」

ちひろ「保険、ですね」ニコッ


――――現在、上空1万メートル、輸送機内

あやめ「――……殿、幸子殿!」

幸子「……ハッ!? な、なんです!?」

あやめ「大丈夫ですか……? まさか酸素マスクの調子がおかしくて意識が朦朧とされて?」

幸子「ち、違いますよ! ただ、こうなった原因を思い出して無事に着地出来たら絶対プロデューサーさんに文句言ってやろうって考えてただけです!」

幸子P「おいこら、ひどいな」

あやめ「いいですね幸子殿。そうやって着地した後のことを考えるのが、難しいダイブを行う時の大事な成功の鍵の一つです」

幸子「フフーン、1週間の間にあやめさんや亜季さん達、色んな人から生き残るための技術や知識を学びましたからね! 今のボクは何も怖くないです!」

あやめ「えい」トスッ

幸子「うひゃあああ!? や、やめてくださいよあやめさんハッチが開いてなくてもほんとは怖いんですから!」ガクガク

あやめ「ふふっ、それは良かった。変に達観されてしまうと逆に危ないですからね、適度に緊張感を持って、必ず無事に地上に着きましょう!」

幸子「と、当然ですよ! 下にはカワイイボクを待ってくれている大勢のファンの皆さんがいるんですから!」

1万メートルって氷点下何°C?


幸子P「……そろそろ時間だ。輸送機のハッチを開くぞ!」ガコンッ

ヒュゴォオオオオオオオオオオオ!!

幸子「……さ、寒――わっ!?」グイッ

あやめ「装備の……最終チェック! ゴーグル!」

幸子「問題ないです!」

あやめ「マスクッ!」

幸子「機能してますッ!」

あやめ「パラシュートと発煙筒!」

幸子「ばっちりです! あやめさんは!?」

あやめ「わたくしも……問題なし!」

幸子「よ、よぉし……!」ヒョコ

ゴォオオオオオオオオオオオ!!

え、パラシュートなしでダイビングして生き残れる奴そんなに居るの…?
どういうこと!?


幸子(ヒイイイ! や、やっぱり今までで一番高い……こ、怖い……! でも……)

幸子P「――! ……けー!!」

ゴォオオオオオオオオオオオ!!

幸子(轟音で全然聞こえませんが、絶対プロデューサーさんを喜ばせるんです! ボクは、カワイイですから!)

幸子「そう、ボクは! カワイイ! だから、インザ……スカーイッ!!」バッ

あやめ(行った! ならばわたくしも……ニンッ!)バッ

ヒュウオオオオオオオオオ!!!

幸子「アアアーッ!!」ヒューン

幸子(輸送機がもうあんな遠くにーっ!! 当たり前ですけどー!? よ、よぉし、ここから……まずは!)

――それはなんですかあやめさん?

――これは発煙筒ですね

――発煙筒?

――幸子殿の位置がここだと知らせるための道具です。輸送機から出たら足につけたこれを最初に必ず使用してください

>>19
ええと、だいたいマイナス50℃前後くらいだったかと。ちなみに酸素マスクしてない場合この空間に突然放り込まれると低酸素症とかで気絶する可能性大

>>21
60年以上記録されてる数多くの飛行機事故の中で、特定高度以上からの生存者数がそれくらいです


幸子(……これを、こうして!)バシッ

幸子(……つ、ついたー! 煙が出たー! あやめさんは!?)キョロキョロ

ゴォオオオオオオオオオオオ!!

あやめ「!」グッ

幸子(サムズアップしてますね……というか、あやめさんは発煙筒を使ってませんが大丈夫なんでしょうか……)

ゴォオオオオオオオオオオオ!!

あやめ(とにかく最初の段階は通過ですね……これである程度までいけば地上からも幸子殿の姿は目で追いやすくなったはず)チラッ

幸子「……」クルクル

あやめ(しかし経験者だけあって幸子殿は落ち着いているように見えますね……というか、落ちるのを楽しんでいる動きにも見えます)

ゴォオオオオオオオオオオオ!!

幸子(しかし、一度落ちてみるとやっぱり不思議な感覚ですね……まるで天使になった気分です……)クルクル

幸子(まぁボクはカワイイので天使ということが事実ですから、やっぱりこういうお仕事もたまに――)

ビュオオオオ!!


あやめ(一瞬気流が乱れ……! 幸子殿!)

幸子「……! ……!」

あやめ(おお……崩れた体勢を自力で戻して……流石です!)グッ

ゴォオオオオオオオオオオオ!!

幸子(やややっぱり嘘ですもうこんなお仕事絶対しませんああ次なんでしたっけそ、そうだ高度計を、見る!)チラッ

【高度6000m】

幸子(よ、よしそろそろパラシュートを開くようにして……展開するのはこれで……良し!)バシッ

ゴォオオオオオオオオオオオ!!

幸子(あ、あれ? おかしいですね……もう一回!)バシッ

ゴォオオオオオオオオオオオ!!


幸子(……ひ、開かない! パラシュートが開かない!? なんでなんですかー!!)

あやめ(……幸子殿!? おかしい、予定ではすでにパラシュートを展開して落下速度を落とし始めるころのはず……! 確認しなければ!)ダンッ

幸子(あ、あやめさんが空中を泳いで……!? き、気のせいですよね? で、でもこれでなんとか!)グイッ

あやめ(とりあえずパラシュートが開いた時に幸子殿に干渉しない位置について……! 幸子殿のパラシュートを、開く!)バシッ

ゴォオオオオオオオオオオオ!!

あやめ(……まさか、開かない!?)

幸子「――!」パチパチ

あやめ(ああ、何度も試したのにダメだったのですね。ならば幸子殿をさらに身体に引き寄せて……! わたくしのパラシュートを)バシッ

ゴォオオオオオオオオオオオ!!

あやめ(……そんな、わたくしのパラシュートも展開出来ないなど!? 確かにこれは幸子P殿が用意して――まさか!?)クルッ


――――上空1万メートル、輸送機内

ガコンッ

幸子P「……はぁ、やっとハッチを閉めれた……しかし、予定じゃそろそろ幸子達はパラシュートを開く高度かな」チラッ

幸子P「しかしあやめちゃんが一緒に飛ぶってなった時はビビったが、まぁ考えようによっちゃあとの展開がさらに奇跡的になるな」ゴホンッ

幸子P『世界一カワイイアイドル輿水幸子、上空1万メートルからの奇跡の生還! 同僚アイドルも助ける天使ぶり!』

幸子P「てな具合に……いけるな! 細かい情報操作が面倒になりそうだが、まぁ後の利益を考えたらちひろさんも――」

ちひろ「文句を言わないと思いましたか?」

幸子P「!?」ガタガタンッ

ちひろ「おや、どうされました? そんな信じられない物を見るような顔をされて」

幸子P「ば、バカな!? ちひろさんどうやってここに! というかあんたマスクはつけなくていいのか!?」

ちひろ「そんな疑問にお答えする必要はありませんね。それより……なぜ二人のパラシュートを開かないようにしたのでしょう」ニコッ

幸子P「そりゃパラシュートなしで地上に落ちて無事に生還出来たら話題になるからだ!(さぁなんのことやら)」ニコッ

幸子P「……!? く、口が勝手に!?」

ちひろ「なるほど、話題作りに尽力されるのは結構ですが、それでアイドルのお二人を危険に晒すなどふざけていますねぇ」

幸子P「だ、だがこの企画はちひろさんも賛同したぞ! あんたがいるならたとえ何があっても無事に済むって計算してだな!」


ちひろ「最初から私をあてにするはもっとふざけていますね。それに私はあの二人に何もする気はありませんよ?」

幸子P「な、なにを言ってるんだ!? ちひろさんがなんとかしなきゃこのままじゃあの二人は!」

ちひろ「そもそもあやめちゃんをつけたのが保険という意味を理解してほしかったですね。幸子ちゃんは私の力なんか必要ないんですよ」スタスタ

幸子P「は……!? ど、どういうことだ……や、やめろ、近づくな!」ズリズリ

ちひろ「それを貴方が理解する必要はありませんよ元、幸子Pさん。貴方は幸子ちゃんには相応しくないようですし……」ニッコリ

幸子P「なにを、なんの話だ、やめ、やめろ、やめてくれぇええええええ!!」ジタバタッ

「お疲れ様でした」パチンッ

――ギャアアアアアアアア!!!

バシンッ

副操縦士「――……ああ寒、まったく、後ろでする声が気になるなるから見てこいってひどいですよ」

操縦士「やかましい。で、どうだった?」

副操縦士「どうもこうもありませんよ。後ろは誰も乗っていません。そもそも、さっきダイブした二人以外誰も乗せなかったじゃないですか」

操縦士「……そう、だったな。いやしかし、声がしたものだから」

副操縦士「しっかりしてくださいよ。自分はさっき幸子ちゃんとあやめちゃんから貰ったサインを家に飾るまで死ねないんですから」

操縦士「分かってるよ、まったく……しかし、あの二人はちゃんと無事に下に着いたのかね――」


――――上空4千メートル、空中

ゴォオオオオオオオオオオオ!!

あやめ(予備のパラシュートも、高度によって自動的に開く最後のパラシュートも、すべて開かなかった……!)

幸子(どどどうしようあああ落ちる落ちるー!!)

あやめ(このままでは幸子殿は……! しかしわたくしがここから離れれば、幸子殿はますますパニックになってしまう可能性も……!)

幸子(たたすけてー! だれかー! だれかぁああ!!)ジタバタ

あやめ(……いや、悩んでいる暇はない! 幸子殿には生き残る方法を教えています! それを信じて、今は!)バッ

幸子(……!? あやめさん、どうしてマスクを外してるんですか!?)

あやめ「――! ――!」

幸子(なにか言って……え、ええと……『ま・って・い・て・く・だ・さ・い』……な、なにを)

あやめ「……」ニコッ

ダンッ

幸子「え」


あやめ「……!」ヒュォオオオオ!

幸子(そ、そんな!? あ、あやめさん! どうして! どうしてそんな勢い良く落下を!? あやめさぁん!!)

ゴォオオオオオオオオオオオ!!

幸子(そ、そんな、見えなく……うそ、だ、あやめさん、どうして……なんで……)グスッ

――待っていて下さい

幸子(……そうだ、さっきの言葉! わざわざマスクを外してまで言ってくれたんです! だったら、ボクはそれを信じる!)ガシッ

幸子(とにかくまずは今できることをします! ええとこういう時にするポーズは……腕と脚を広げておなかを下! 頭を上にして……!)

ビュオオオン!

幸子「わぷ!」

幸子(空気の感じが変わりました……! これで少しはボクの思った通りに身体が動かせます!)ヒューン

幸子(とにかく諦めませんよ! ボクはカワイイですからねっ!)


――――地上、幸子着陸予定地点

観客A「なぁ、なんかおかしくねえか?」

観客B「なにがだよ?」

観客A「いや双眼鏡で幸子ちゃんの発煙筒探しててさぁ、さっきそれっぽいの見つけたんだけどよ」

観客B「お、まじか。見せろよ」ヒョイ

観客A「あ、てめ勝手に!」

観客B「おーあれか? ……なんか、速くね?」

観客A「やっぱそう思うだろ。予定じゃパラシュート開いてるころって聞いたがよ、それっぽいもんも見えねえし……」

観客B「事故ってたりして」

観客A「おいおいそれシャレになんねえ――」

ボゴオオオオオオンンッ!!

「きゃー!?」「な、なんだなにか落ちてきたぞ!?」「なになにすごい音したんだけど!」


観客B「なんだぁ?」

観客A「向こうでなんかあったみてーだぜ! 物が落ちてきたとか聞こえる!」

観客B「ほーどれどれこいつで見てやるか」クルッ

「……」ギッ

観客B「アイエッ!?」

観客A「おいどうした!?」

観客B「いや、なんか今すげえやばいもんが……」スッ

観客A「やばいもんってなんだ、UFOとかか!」

観客B「……あれ?」

観客A「おいおいどうした」

観客B「なんもねぇ……気のせいだったのか……?」


――――地上、機材置き場

あやめ(あぶなかった……視線があった人がいましたが、なんとか誤魔化せましたか……)ズキッ

あやめ(……ぐっ)

「な、なんだったの今の……」「おかしいな、たしかにさっきなにかが」「気のせいだったのかなぁ」

あやめ(一応受け身は出来ましたが、人が多すぎて十分に衝撃を逃しきれなかった……しかし、弱音を吐いている場合ではありません!)タタッ

あやめ(万が一の時のために用意されたクッションは……あった、これですね! よかった、いっぱいあります……!)ゴソゴソッ

あやめ「これを急いで幸子殿が落ちてきそうな場所に用意しないと……今こそ修行の成果を見せる時……! ニンッ!」ダンッ

ビュオッ!

「きゃあ!」「なんだ突風か!?」「わわわっ……」

観客A「お、おいあれ見ろ!」

観客B「今度はなんだ……よ……」

ズサササササッ

観客A「なんだありゃあ……」

観客B「……風に吹かれてクッションが……空を舞ってやがる……!」


――――上空千メートル、空中

ゴォオオオオオオオオオオオ!!

幸子(大分地面が近くなってきました……)バシッ

幸子(一応何度もパラシュートの動作を確認してみましたが、やっぱり開く様子はないですね……)

ゴォオオオオオオオオオオオ!!

幸子(こうなったら少しでも無事に着地出来そうな場所を探さないと……こういう場合は……)

――もしもパラシュートが開かないまま着地することになった場合、どうしたらいいんでしょう?

――そうですね。やるべきことは落ちている間に体勢を整えることと、少しでも安全に着地出来そうな場所を探すことでしょうか

――安全に着地出来そうな場所……ですがすごく高いところから落ちるのなら、どこに落ちても一緒な気もしますが……

――そうでもありませんよ。クッションになりそうなものがあれば、その人の落下中の状態によっては助かることもあります

――クッションになりそうなものですか

――ええ、例えば干し草の山、茂み、あとは意外な所で電線を上手く使うのも有効でしょうか


――映画などで見るような木の枝で衝撃を和らげていくのはどうですか?

――うーん、あれは昔試したことがありますが、身体に刺さるのであまりオススメはしませんよ

――試した?

――あっ……と、そ、祖父が申しておりました! で、ですがやはり一番いいのは……!

幸子(本当にそのままクッションが積み重なっている場所……でしたか。でもそんな場所がそうそううまくあるわけ……)チラッ

幸子(……あった、ありました! あの白い山のような物! あれはきっとクッションの山です!)パァア

幸子(もしかしてあれがあやめさんの『待っていて下さい』の意味なんでしょうか。だとしたらボクはなんて恵まれているんでしょう……!)

ゴォオオオオオオオオオオオ!!

幸子(あれ、でもあやめさんはどうやってこの状況から着地を……考えてもしかたないですが)クルクルッ

幸子(とにかくもう地面まで数秒! ボクが最後にやるべきことは頭を絶対に守る体勢になって、あのクッションの山に落ちる!)

ゴォオオオオオオオオオオオ!!

幸子(ボクのこのカワイらしい小さな身体は、空から落ちた時に生き残りやすい体型だと聞きました! つまり、生まれながらにボクはスゴイ!)ギュ

幸子(そうです! だからボクは必ず無事に着地出来る! 絶対! だって! ボクは――)


――――地上、幸子着陸予定地点、クッションの山

幸子「カワイイですからぁああーッ!!」

ボフウウウウウンン!!

「うわああああ!?」「今度こそなんか落ちてきたー!?」「い、今の幸子ちゃんじゃ……!」

観客A「うわぁあああ!! 幸子ちゃんがクッションの中に落ちたぁあああ!?」

観客B「……いや待て、良く見ろクッションの山を! なにかを跳ね返しそうだぞ!」

観客A「へ!?」

ポオオン!

幸子「うわあああ!!」

観客A「うわわあああ! 幸子ちゃんが跳ねたぁあ!?」

幸子「か、観客の皆さんどうも! マスク姿でもカワイイボクですみませ――うわあああこうなった後のこと考えてなかったー!?」

観客B「や、やばいぞ、このままじゃなにもない地面にぶつかっちまう!」


幸子「だ、誰かー! た、たたすけ――」

幸子P「ウオオオオオッ! 幸子ォオオオオオ!!」ダダダダッ

幸子「へっ!?」

ボスンッ クルクル ドサッ

観客A「おお……ナイスキャッチ……」パチパチ

幸子「……ぷはぁ……た、助かったぁ……良かったぁ……」グスッ

幸子P「いてて……ぶ、無事か、幸子?」

幸子「と、当然ですよぉ……! ぼ、ボクはカワイイですから……だから……から……うえええええ!!」ダキッ

幸子P「うぐえ……ああ、良かった、本当に……流石幸子だ……」

幸子「プロデューサーさん受け止めてくれてありがどうございまずぅ……! ひっく……あっだかい……生きでるぅ……!」グスッ

観客B「おお……おおお! みんなぁー! 幸子ちゃんは無事だぁー! 空から落ちてきて無事だぞー!!」

「「「「「ウオオオオオオオオオオッ!!!」」」」」


――――地上、機材置き場

あやめ「……幸子殿は無事に地上についたようですね……ふぅ」ドサッ

ちひろ「――ええ。あやめちゃんもお疲れ様でした」

あやめ「ちひろ殿……まぁこれも忍ドル修行の一つと思えばですね。それにしても、いたのなら手伝って下さってもよかったのに」

ちひろ「幸子ちゃんの新しいプロデューサーさんを適応させるのに少し時間がかかりまして。でも、私はあやめちゃんのことも信じていましたから」

あやめ「……そうですか。それで、ちひろ殿にはどの辺りまで想定していたんですか?」

ちひろ「と、いいますと?」

あやめ「このような危険な仕事をちひろ殿が許可したのには、それなりの理由があると考えまして。ぜひそれを聞きたいだけです」

ちひろ「そうですか……まぁ、想定というほどのことでもありませんよ」

あやめ「?」

ちひろ「幸子ちゃんはカワイイので、もし私やあやめちゃんがなにもしなかったとしても、なんとか着地していたでしょう。だから許可したまでです」

あやめ「……そうですか」

ちひろ「もちろんあやめちゃんが頑張ってくれたから、幸子ちゃんは無傷でしたよ。そうでなければ両足くらいは折れていたかもしれません」

あやめ「……カワイイって、すごいですね」

ちひろ「本当にそう思います、ふふっ」


――――地上、幸子着陸地点

幸子P「ほら幸子。そろそろファンの方も集まってきてるから、少し泣き止んでくれないか?」

幸子「……グスッ、分がりました……いつまでもカワイくない姿は見せられませんからね……!」

幸子P「幸子はどんな表情でもカワイイがな」

幸子「当然ですよ……! ……あれ、そういえばプロデューサーさん……?」

幸子P「どうした?」

幸子「……泣いてて分かりませんでしたが、ボクのプロデューサーさんってこんなにカッコ良かったでしょうか……?」ポーッ

幸子P「……やはり落下の衝撃が頭に……まずいな、今すぐ病院に!」

幸子「わーッ!? ま、まって下さい! せめて、せめて集まってくれている人たちに一言だけでも!」


幸子P「……一言だけだぞ。そしたら病院だ」

幸子「はい! ――コホン! みんなよく集まってくれました! どうでしたか! ボクのカワイイサプライズ演出は!」

「「「「「すごかったぞぉー!!」」」」」

幸子「そうでしょうそうでしょう! でも、申し訳ありませんが今日はこのままお別れとなってしまうみたいです……」

「「「「「そんなー!」」」」」

幸子「しかーし! 後日このことをまとめたボクの特番がテレビで流れますよ! みんな、ちゃーんと見てくださいね!」

「「「「「絶対に見るー!!」」」」」

幸子「みんな……カワイイボクのために今日はありがとーっ!!」ニコッ

――その後この出来事を取りまとめた特別番組がテレビで放送され、平均視聴率52%という驚異的な数字を叩きだし、
幸子の名前は一気に世界中に知れ渡るのであった。
 
〈終〉

ダイスDEシンデレラにアヤメ=サン追加ヤッター!→遊んでたらランダムのはずの仲間に毎回幸子が入ってくる
→アヤメ=サンと幸子、ダイスDEシンデレラのデザインはお空向き→つまりイン・ザ・スカイ!→つまりスカイダイビング!→これが書き上がる
読んでくださった方ありがとうございました

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