今井加奈「普通の一日」 (13)

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今井加奈ちゃんの日常は、こんな感じではないか、というのを書いてみました。

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 今井加奈の朝は早い。
 今日のように、アイドルのお仕事の日は特にである。

 もちろん、朝出かける前に髪をシャンプーして乾かしてツインテールに結ってリボンを結んで、という女の子ならではの準備に時間を取られることもある。
 しかし、それ以上に彼女の性格や性質によるものが大きい。

 まずは、忘れ物をしないため。
 なるべく早く現場に着くため。
 さらに、時間に余裕を持って行動するため。

 基本的に真面目で、ちょっと不器用で気の小さいところのある加奈は、なんとかして忘れ物や現場への遅刻は避けたいと思っている。
 さらに、彼女は不測の事態に弱い。
 忘れ物をしたり、遅刻しそうになって慌てたりすると、頭の中が真っ白になるタイプな上に、臨機応変な対処が苦手なので、その後にも影響する。
 しかし、なぜかつい忘れ物をしたり、慌てたりしてしまうへなちょこさも、また加奈なのである。
 その対策が早起き。そしてメモなのだ。
 また、通常の時間の余裕に加え、メモをとったり読み返したりする時間も、さらに必要になってくる。

 なので今井加奈の朝は早い。かなり早い。
 それでも加奈にとっては、楽しいアイドルのお仕事のためなら、全く苦にはならなかった。
 加奈は今日も、早朝から明るく元気だ。

 加奈は、お仕事に出かける準備をする。
 今日はショッピングセンターのイベントでのステージだ。トークとミニライブ。
 衣装はスタッフの人が現場まで持って行ってくれる。
 昨日合わせたピンク色の衣装に、可愛く似合いそうな私物のリボンやカチューシャ、シュシュを選ぶ。今日はシュシュは手首に付けようと思う。
 ふと、そこで今日一緒になる矢口美羽の、加奈の衣装と色違いのオレンジ色の衣装のことを思い出す。
 ちょうどさっき選んだシュシュの、オレンジの色違いがあった。
 これで美羽とお揃いにできる。

 メモを見て、今日の現場までの行き方を確認する。
 昨日検索して調べたものだ。

 加奈は、電車の乗り換えが苦手だ。
 普通に乗り換えるなら、それは別に大丈夫。
 しかし、東京の地下鉄ともなると話は別である。
 まずは駅の構造が、加奈に意地悪をする。まったくもってどこがどうなっているのやら見当もつかない、レベルの高い乗り換え駅が多すぎる。違う階段を上ってしまうと、そこは見たこともない世界。目的とする路線への乗り換えにしても、そこの階段からは行けないというオチも何度も味わった。
 これがさらに、同じ会社の地下鉄に乗り換えるのにもかかわらず、一度改札を通って出なければいけなかったりすると、さらにダンジョンクリアの難易度は高くなる。
 なので今回、多少遠回りで時間がかかっても、乗り換えがなるべく少ないルートで行こう、と調べて、その経路をしっかりメモってある。
 おっと、そう言えば、この乗り換えが苦手なのも、加奈が早起きする理由の一つだろう。

「行ってきまーす!」

 家族に元気にあいさつして家を出る。

 加奈は電車に乗って現場の最寄り駅に向かう。
 実は昨日、プロデューサーに車で迎えに行こうかと言われていた。加奈はそれを、大胆にも断ったのである。
 加奈なりに理由はある。さすがに電車の乗り換えも、そろそろ克服しないといけないと思っていた。
 地道に前向きで諦めないのは、彼女の良いところだ。メモをとるのも、なんとか「ついうっかり」を克服したいという気持ちの現れでもある。

 電車のひとつ目の乗り換えは、よく使う駅なので何事もなく終わった。
 次の乗り換えは、行ったことのない駅。しかも地下鉄同士。
 まだ時間はかなり余裕がある。加奈は無意味に気合いを入れて、電車から降りた。

 電車を降りると、ホームの端に改札口があった。
 加奈は足を止める。
 乗り換えなのに、改札を出てしまって大丈夫なのか?
 案内板を探し、見てみると、改札の方向に「◯◯線乗換」との矢印が表示されている。
 これは、改札を出て乗り換えるということだろう。うん、間違いない。

 自動改札にきっぷを通す。
 改札のゲートが開く。
 通ろうとするが、きっぷが出てこない。
 あれ?と慌てて戻ろうとすると

 ピンポーン!

 大きな音をたてて改札が閉まった。
 ビクッ!と加奈は音に大げさに反応した。
 ・・・戻れない。

 加奈は改札の外から、窓口の駅員さんに聞いてみた。
「あのぉ、乗り換えようとしたんですけど、きっぷが出てこなかったんですけど。」
「あ、乗り換えの方は、こちらのオレンジの改札を使っていただくときっぷが出てくるんですが、それ以外から一度出ちゃうと、きっぷは回収されちゃうんですよね・・・」

 そう言えば、以前も同じミスをした覚えがある。
 今日も乗り換え駅は攻略できなかった。
 メモ帳を取り出し、「地下鉄の乗り換えはオレンジ色の改札を使う」と書いた。

 ちょっとがっかりしながら、乗り換えの矢印の方向の階段を上る。
 表に出た。
 え?
 乗り換えなのに、駅の外に出ちゃった?

 振り返って見ても、階段は一つしかない。
 ええっと・・・

 こんな時は、人に聞いてみるしかない。
 加奈は先ほどの改札まで戻って、駅員さんに聞いてみる。

 聞くと、どうやら、一度表に出てからの乗り換えが正しいらしい。
 表に出たら、右に歩いて大きな通りの信号を渡った先に、別に地下鉄の入り口があって、そこが目指す路線の改札につながっているということだ。
 メモメモ。

 こうして、再度きっぷを買い直すという最小限の損失だけで、加奈は目的の駅に着いた。
 改札を出たところで、道順を記したメモを見直す。
 ××通り沿いの出口を出て、西に行く。

 ・・・西って、どっちだろう?
 メモをする時は、実際にどの出口に出るかわからなかったので、左右の表現はあえて避けて、こういう書き方をした。いや、プロデューサーがこう書いておくようにと教えてくれた。

 西に向かってさえ行けば、道順も全部メモってある。
 駅構内に出口付近の地図があった。
 1番の出口を出ると、西は右側になる・・・多分。
 加奈は西と信じる方へ歩きだした。

 歩き始めておよそ20分。
 加奈もさすがに焦り始めていた。
 駅から徒歩5分のはずの現場に、まだ着かない。
 仕方ないので、一度引き返して駅まで戻ろうと思った。
 ところが、来た道を引き返したはずなのに、そこには駅がなかったのだ。
 しかも、どうやら周囲は工場や物流倉庫の多い場所で、休日の今日はほとんど人通りもなく、道を聞くこともできなかった。
 今井加奈は、方向音痴だった。

 集合時刻まで、あと30分。
 というところで、プロデューサーからメールが来た。
 プロデューサーは車でもう近くまで来ていて、加奈はもう現場に着いてるか?という内容だった。
 窮状を知らせる。
 すぐに電話があった。

 電話での指示通り、スマホの地図アプリを起動して、現在地を示す表示をさせて、写メする。
 それを見たプロデューサーは頭を抱えた。
 駅から違う出口に出て逆方向に行く可能性までは想定していたが、大通り沿いに行くように念を押したはずなのに、どこをどう通ったか、全然見当違いの、しかし確かに大通り沿いが加奈の現在地だった。
 とは言え、車なら10分もかからずに到着できる距離だ。

 心細そうな顔をしていた加奈は、無事にプロデューサーに回収され、笑顔になった。
 そしてプロデューサーは、加奈が今朝家を出た時刻と、ここに至るまでの苦難の話を聞いて、再び内心で頭を抱えたのである。
 現場に到着したのは、集合時刻の10分前だった。
「おはようございます!」
 元気よくあいさつ。
 今井加奈は、くじけない。

 美羽との楽しいお仕事は、あっと言う間に終わった。
 午前午後の2回のミニステージは好評だった。
 特に午後のトークパート、美羽が絶妙なほどに微妙なタイミングで繰り出した、渾身の一発ネタが、完全に加奈のしゃべりだしとかぶってしまい、自分がしゃべろうとしたので聞こえなかった加奈が「ごめんね。もう一度言ってくれる?」と、砂つぶほどの悪意の欠片もない強烈な無茶振りをして、その後の美羽の当然のようにもう一度ネタを繰り返す態度と、見事なダダすべりへの一連の流れで会場を大いに沸かせた。

 ステージの後、加奈と美羽の二人で、ステージ上からチラッと見えていた2階のファンシーグッズの店に行ってみた。一応プロデューサー達の護衛付きである。
 「これかわいいー!」と二人できゃっきゃ言いながら店内を見ていたところ、学生らしき男性達に声をかけられた。
「あの・・・先ほどステージに出てた人ですよね?良かったら、サインもらえますか?」「あ、そうです!サインですか・・・?」
 二人はプロデューサーの方を見る。
 プロデューサーは笑ってOKのサインを出した。
 二人で喜んでサインに応じる。

「わたしたちの名前、覚えてくれてますか?」
 サインする前に聞いてみる。
「えっと、みうちゃんと、かなちゃんさん!」

「そうです!矢口美羽です!」
「今井加奈です!」
「ふたりあわせて・・・!」
「え?美羽ちゃんごめん!どれ?」
「えー!?どれ、って、二人だったら『かなみう』しかないでしょう?」
「そうだけど、美羽ちゃんなら『トーキングフラワー3分の2!!』とか言わないかな、って思って。」
「あ、それいい!今度使おう!加奈ちゃんさん、メモして、メモ。」
「わたしがメモするの?」
「わたしメモ持ってないから、お願いします!」
「ちょっと待ってね・・・」

「二人とも、サインは?」
 プロデューサーが見かねて声をかけた。
「あ、そうだ!ごめんなさい!」

 あはははは!

 待っていたはずの人達も、思わず笑い声をあげた。
「面白いですね!二人とも普段からこうなんですか?」
 質問の相手はプロデューサーだ。
「そうですね。明るくて楽しい子達です。良かったらこれからも応援してください。」

「「よろしくお願いします!」」

 最後の声は二人の息もピッタリだった。

 今井加奈の夜は早い。
 朝が早いのだから当然だ。
 今日のように、アイドルのお仕事があって早起きして、お仕事で疲れた日は特にである。

 ベッドに入って、メモを読み返す加奈だったが、すでに意識は半分遠のいていた。
 携帯が小さく震えて、美羽からのメール着信を知らせるのも、すでに気づかない。

 今日も楽しかったなあ・・・

 その思いを胸に、加奈は眠りに落ちる。
 こうして、波乱万丈で面白くて楽しい、アイドル今井加奈の普通の一日が終わる。


/Fin.

以上です。

って、長い行の途中の改行をすっかり忘れてそのまま投稿しちゃいました。
見づらくてすみません。

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