幼馴染「ボクだって女の子らしい格好したら可愛いんだからな」 (1000)



幼馴染「ボクだって女の子らしい格好したら可愛いんだからな!!」

男「へぇ。それは初耳だなぁ」ペラッ

幼馴染「ほんとなんだよ?」

男「へぇー。いま漫画読んでるから話しかけないで」

幼馴染「なんだよー。そんな雑誌のグラドルよりずっとずっと」

男「そうですかぁ」ペラッ

幼馴染「あーーー馬鹿にしてるなー!」

男「だってお前が女の格好してるとこなんて見たこと無いし、想像もできない」ペラッ

幼馴染「今もおしゃれな可愛い格好してるよ?」

男「年頃の女が男の部屋にジャージで上がり込むなんて信じられない」ペラッ ペラッ

幼馴染「えへへ、このジャージね、しま○らで2980円だったんだ。結構かわいいでしょ?」

幼馴染「動きやすいし、よく風を通して涼しいし、サイコーだよ」

男「はぁ…」

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幼馴染「こっち見てよ。ほらほら~」

男「…」チラッ

俺「…ふぁぁ」ペラッ

幼馴染「どう? ど?」

男「ジャージ、だな。普通の」

幼馴染「はぁ~ボクは気に入ってるのになー、女の子らしいオレンジ色のラインの入った奴にしたのに」

男「女の子らしいって何だよ。人の布団の上であぐらかく女がいるかよ」

幼馴染「はぁ~~、そんなのキミの価値観でしょー」ゴロン

男「人の布団の上に勝手に寝転ぶ女がいるかよ!」

幼馴染「だってキミがずっと雑誌読んでると暇なんだもーん」ゴロゴロ

男「あぁもう! 降りろ降りろ! それと俺の熊を抱くな!!」

幼馴染「抱きまクマだよ。抱くためにあるんだよ?」


幼馴染「クマゴローは優しいね…ボクのこと可愛いって言ってくれる」ギュッ

幼馴染『ナツキちゃんはかわいいクマ。ジャージも似合ってるクマー』

幼馴染「わークマゴロー! うれしー」スリスリ

男「臭いをつけるな!!」

幼馴染「昔ボクがあげたんだからボクのものでもあるでしょ。ねー?」ギュー

幼馴染『そうだクマー』

幼馴染「ん…なんかキミの臭いする」

男「…ッ! 返せ! だいたいそのクマーって語尾は不自然だろ」バッ

幼馴染「……熊の鳴き声なんてしらないし」

男「暇ならクラスの女子とでも約束して遊んでたらいいだろ」

幼馴染「……」

男「なんで休日なのに朝っぱらからいちいち俺の家に来るんだよ」

幼馴染「だって昔からの習慣だし…?」

男「……」

幼馴染「暇なんだもん?」

男「聞くな。お前はいまだに一緒に遊ぶクラスメートもいないのか…クラス替えしてもう3ヶ月以上たつんだぞ。夏だぞ!」

幼馴染「ねぇ久しぶりにキャッチボールしよ♥」ムクリ

男(話逸らしたな)




  ・   ・   ・ 



【庭】


男「結局することになるのか。この炎天下で元気だな……あちー」

幼馴染「ふふん」クルクル

男「よし、まっすぐ投げ込んでこい」パンパン

幼馴染「いっくよー!」


このキャップの似合う少女の名前はナツキという。
俺の幼馴染で、我が家の斜向かいに住んでいて、昔からよく一緒に遊んでいる。

ナツキは引き締まった表情で俺のキャッチャーミットを見据え、
腿が体につくくらい足を高くあげ上半身をひねり、力強く腕を振りぬいた。
しなやかで綺麗なスリークォーターのフォームから射出されたボールは空を滑り、ばちんと破裂したような音を鳴らしてミットに吸い込まれる。


男「ナイスボー」

幼馴染「ふふん」

男「久しぶりでもしっかり腕ふれてんな」

幼馴染「元エースをなめないでよ」

男「コントロールやばいけど」

幼馴染「それは…しかたないよ!」


俺とこいつは小学生時代、地元のリトルリーグでバッテリーを組んでいた。
群を抜いて運動神経の良いこいつがいつでも4番バッターでエース。
で、俺はこいつ専属のキャッチャーだった。

小学生のうちは女子のほうが発育が早いので、こいつの球は男子相手に十分通じたが、
中学ともなるとそうも簡単には行かず、負けん気が強いナツキは男子に追いつこうと無理をして肩を痛めた。
やがて受験勉強にも追われ、俺達はそのまま退団した。

幼馴染「キミはさー学校の野球部入ると思ったのになー」

もう一球。
ビリビリとした心地よいしびれがミットから手のひらに伝わる。

男「ナイスボー。まぁその話はもういいだろ」

辞めると決めたときたくさんの軋轢があった。
しかし、それももう過去の話。
はっきり言うと俺は大した捕手でもなかったので、こいつの球以外をちゃんと取れる気がしなかったし、取る気もなかった。
当時そう伝えてもナツキにはイマイチ納得はしてもらえなかったが、俺にとっては本当にそれだけの理由だった。

男(きっとこいつの球が好きだったんだろうなぁ)

だから俺たちはチームを辞めても、たまのキャッチボールという形で、
2人のバッテリー関係をひっそりと続けていた。(といっても俺が一方的にうけるだけだが)


 


男「けどさ、やっぱ球速が年々落ちてるなぁ。肩痛くないか」

幼馴染「大丈夫! 落ちてるよね、やっぱりウェイトトレーニングしないとだめかなぁ」

男「せんでいい」

幼馴染「むふ、ボクがムキムキのマッチョになったらどうする?」

男「どうもしないけど少し距離を置く。100mくらい」

幼馴染「えーそれじゃ届かないよー」

腕がしなりボールが投げ込まれる。

バチン!

幼馴染「おお、いまのいい! どう?」

男「良かった。次カーブ」

幼馴染「オッケー!」

幼いころからスポーツに親しんだせいか、ナツキは非常に元気に男っぽく育った。
運動神経はもちろん、言葉遣いや見た目もだ。

髪の毛は煩わしくない程度のミドルで、顔や手足の肌はこんがり小麦色に焼けていて活発なイメージが強く、
顔だちもすっきりしていて性格も明るいので、昔から先輩後輩問わず女子相手にすごくモテていた。

バレンタインなんて俺の10倍はもらっていた記憶がある。
学芸会では王子役に抜擢されたりもしていた。


そのせいかこいつは女の子として、女の子同士の付き合い方に戸惑っているようだ。
ここ最近の態度を見るに、新しいクラスでもやや浮いている…かもしれない。


幼馴染「やっぱりさ、女子は細いほうがキミは好きなの?」

男「デブやマッチョよりは」

幼馴染「そっかそっか!」

男「でもお前は太いよな」

幼馴染「え゙!? そ、そうかな…? 太い…かな」

男「腰回りとかふとももが多少。スポーツ体型だな」

幼馴染「なぁんだ。そっちか」

幼馴染「そうなんだよねー。これでも辞めてからマシになったんだけどね」

幼馴染「スキニーだって履けるよ」フフン

男「あっそ。じゃあそれで来いよ、なんでジャージで外歩くんだ…」

幼馴染「あついもん」

男「だいぶ日が照ってきたな。そうだな、暑いから部屋戻ろうぜ」

幼馴染「アイスアイス♥」

男「無いです。こないだお前が全部くったろ」

幼馴染「え~、じゃあ買いに行こ!」

男「おう」

 


【スーパーマーケット】



幼馴染「ボクこのしろくまのアイスバーにしよっかな」

幼馴染「これおいしいよね」

男「おう。そうしろ」

幼馴染「はいっ」スッ

男「なんで俺に渡すんだ」

幼馴染「財布もってきてない…」

男「…あとで返せよ」

幼馴染「わーい。ありがと」

男「ついでに昼飯の材料も買うかー。お前何食うんだ」

幼馴染「なんでもいいー」

男「なんでもいいって……あらやだお母さんそういうの一番困るのよねぇ、どうしましょ」

男「じゃあ楽だしそうめ――」

幼馴染「やだ! そうめん飽きたよ」

幼馴染「ボクハンバーグがいいなー」

男「…あん? 昼から俺にハンバーグこねろってか」

幼馴染「晩!」

男「晩も食っていく気なのか!?」


幼馴染「いいじゃんどうせキミ暇じゃん」

男「お前が暇なんだろー」

幼馴染「あっ考えました。お昼は冷蔵庫のありあわせでー、晩はハンバーグね」

男「お前は俺の家のなんなんだ…」

幼馴染「次女的な? 今日おねえちゃん帰ってくる?」

男「来ない」

男「…まぁ、なんだっていいけど、かわりに家の雑巾掛けと庭の草むしり手伝え」

幼馴染「オッケーオッケー任せてよ」

ナツキは笑顔でふりむいて、指で輪っかをつくった。
俺の家は古い上に無駄にひろい。部屋の数も多く、客人を数人とめても空きが出る。

そして長期休みにもなると両親は家を離れるため、姉と2人きりで放任され、
掃除は行き届かず長い廊下はホコリだらけ、先ほどキャッチボールをした広い庭は青々とした雑草がのびっぱなしという有り様だ。
だからこうしてナツキには昔から交換条件として家事の一部を手伝ってもらっていた。

 
男(にしてもいつまで餌に釣られるんだろう。もう子供じゃないんだぞ)

男(だいたいお前は家に帰ったら飯あるだろ!!)

幼馴染「ハンバーグ楽しみだなぁ~~」

幼馴染「ちっちゃいのいっぱいじゃなくて、おっきいのどーんと焼いて欲しい。お店みたいな」

男「なら鉄板で焼くかー…」

幼馴染「ブロッコリーも添えて~、ソースは2種類くらいほしいなー」

男「はいはい」

男(ニコニコ嬉しそうにして。こういうのアホ面っていうんだな…)

幼馴染「いっつもありがとう!」

男「……。あーじゃあアイスの分も出しといてやるからちゃんと手伝えよ」

幼馴染「ほんと!?大好き!」

男「80円ごときできしょくわるいな。卵とってきて特売のやつ」

幼馴染「OK。なんでも手伝う!」テケテケ


男「俺もナツキも昔からやってること全然かわんねーよな」

ため息がでるくらいにナツキは変わらない。
成長期で背はスラリと高くなったが、内面はどうも歳不相応に幼く感じる。

男(学校だともうすこし落ち着いてるんだけどなぁ)

 
幼馴染「とってきた! 10個入り98円! お一人様1パック限定だから2人だと2パック買えるよ!?どうする!?」

男「おう。知ってるから。2つともカゴ入れといて。昼は卵使うか」

幼馴染「……」スッ

男「その菓子は何だ」

幼馴染「えっ…えへへ。これはあとで別でお金払うから……買って!」

男「ガキか」

男「しかたないな…一つだけだぞ」

幼馴染「やった」

男(しかしこのゆるさがナツキの魅力なのかもしれない)

男(魅力…? いやいや…)ブンブン

幼馴染「どしたの?」

幼馴染「全部買ったし帰ろっか!」




  ・   ・   ・


その帰り道、イヤな奴に遭遇した。


友「おー! なんだぁこんな暑い日もベッタリかよぉ。買い出しの帰りか?」

男「あー…まぁな」

幼馴染「ハロー」

 



こいつは昔から何度か俺と同じクラスになり、知らないうちに仲の良くなった"イヤな奴"だ。
気さくで話しやすいが口も軽いから、出会うタイミングによってはすごくめんどくさい。
ナツキと連れ歩いてるときはなおさら…。


友「ヒューヒュー、今度俺にも晩飯つくってー」

男「つくってやろうか」

友「お前のは確かにうまいけど男の手料理はノーサンキュー!」

男「作ってって言われた気がしたんだが」

友「男で料理が出来るのは立派な一芸だよなぁ」

幼馴染「ふふん。でしょ。ボクは何もつくれない能なしだよ!」

男「そんな恥ずかしいことを誇らしげに言うな」

友「にしても休みの日まで仲いいな。いつも2人でナニやってるんだ」

幼馴染「さっきまでキャッチボールしてたんだぁ」

友「…へぇ。まさにピッチャーとキャッチャーの夫婦関係ってやつね」

男「うるせぇ」

幼馴染「そうなんですよー奥さん、これからこの人の実家の草むしり手伝わされるんですの」

友「あらまぁ、女性に肉体仕事なんてやぁねぇ」

男「きしょくわるいな何なんだよ。ついでに言っておくけどキャッチャーが女房役だぞ」


 


友「ま、頑張れや。俺はこれからバイトだからまたな!」

男「テスト明けで即バイトか。忙しくしてるんだな」

幼馴染「ほんとほんと、だれかさんとは違って偉いね」

男「自虐か?」

友「そりゃ夏だぜ、なにかと金は入り用だからな! 夏休みもいろんな短期バイトでスケジュールみっちりだぜ」グッ

男「よし今度おごってくれ。あっ、バイトがんばれよ応援してるぞ。お前はやれば出来るイイ男だ!」

友「本音が先にポロリしてるぞ」

幼馴染「夏休みかー。シーワールドいってみたいなー。オルカが可愛いんだぁー」

幼馴染「パンダみたいに目のとこだけ白くってさー」

友「……。おいっ」グイッ

男「なんだよ」

友「お前の旦那さんはずいぶんとのほほんとしてるが大丈夫か?」

男「大丈夫かって何が。あいつの頭がピーカンなのはいつものことだろ」

友「夏だぞ夏! 何かイベントないのか!? 女の子としてひとつふたつ階段をかけあがる時期でしょーが!」

男「あいつ女の子か? どの辺が」

幼馴染「ふたりで内緒話~? ボクも混ぜてよぉー」

友「……」

友「どこか連れてってあげなさいよ!」ボソボソ

男「なんでだよ俺が知るかよ。あと旦那でも妻でもない。ただの幼馴染だ!」


友「ハァ…ただの幼馴染ね…そうね、それが一番難しい所ね」

男「…あ?」

幼馴染「ねーどうしたの。ボクにも聞かせてよ」

友「あぁそれがなこいつときたらナツキちゃんがいるってのに」

男「なぁお前忙しいんじゃねぇのかよ!! バイトの時間は大丈夫か」

友「おっと…まずいな…立ち話してる場合じゃなかった」

友「んじゃ行くわ。じゃあな、夏休み明けたらまた遊ぼうぜ!」

男「おう」

友「どこにも行く気がねぇ不精野郎なら、俺を置いて勝手に大人の階段のぼるなよ! ずっと部屋でグダグダしてるんだな」

男「おう任せろ」

友「まぁ俺も?バイト先の色っぽい先輩とあれやこれや一夏のアバンチュールがあるかもしれんけどな!?ハハハ」

友「短期バイトの一期一会の関係なんて燃えあがるぜ?」

男「はよいけ」シッシッ

幼馴染「ばいばい」




  ・    ・    ・




幼馴染「ねぇアバンチュールってなに?」

男「揉め事をおこしてクビになるってことだ」

幼馴染「悪そうだもんね。髪の毛染めちゃだめなのに」

男「ああ見えて意外と仕事や授業は真面目なやつだ。寝てばっかのお前よりな」ツン

幼馴染「へー」

男(…ひと夏の思い出なぁ)

男(つってもなぁ。なんでナツキと…)ジトー

男(そういうのは彼氏彼女の間柄でやるもんじゃないのか)

幼馴染「アイス開けよっと」ガサガサ

男「こらぁ、袋ひっぱんな」

幼馴染「とけちゃうよ~」

男「ドライアイスもらってるから」

幼馴染「そっか。じゃあ帰ったら縁側でだらだらしながら食べよう。そのあとお昼ご飯ね」

男「先に草むしりやってもらうからな」

幼馴染「えーー? ケチ!!」

男「先に飯食ったらお前寝るじゃん」

幼馴染「なんで分かるの!?」

男「いつもそうだろ……」


もうじき夏休みが始まる。



第一話<幼馴染>おわり



  

更新終わり 次回は来週中
全7話予定
※R-18



第ニ話<扇風機>



幼馴染「わぁーんやだぁいっぱいでたー!!」

男「……」

幼馴染「こんなの無理ぃ」ヘナッ

男「今年は早めに終わらせろよな」

女子A「ナツキちゃんまたね」

幼馴染「ばいばい。またねー」

女子B「遊びすぎて宿題わすれちゃダメだよ?」

幼馴染「うぅん…がんばる」

友「くぅ、こんなに宿題があっちゃバイトもままならねぇ」

幼馴染「ほんとだよー」

男「お前は何もしないだろ…」

幼馴染「えー? プールいったり、甲子園みたり、忙しいもん」

友「っと、ちゃんと夏休みのプランは立てたか」ボソボソ

男「え? 課題は最初の週にあらかた終わらせるつもりだけど…」

友「馬鹿野郎。ナツキちゃんをどっかつれだしてやるイベントだよイベント」

男「はぁ……なんで?」


友「なんでって…」

友「だってお前が1番親しい仲だろ。他に誰がいるっていうんだ」

男「親しい…って言われてもな。関係あるか…?」チラ

幼馴染「? また内緒話してる…」

友「関係大ありだ! ったくいつか後悔してもしらねーぞ」

男「しないって。例年通り過ごすさ」

友「……」

幼馴染「帰ろうよー」

男「そうだな。よしユウジこの後カラオケ行こう」

友「行かん。悪いが俺は夕方からシフトだ」

男「あ、そ。じゃあまた連絡するわ」

友「おう」

幼馴染「!! じゃボクと2人カラオケ!?」

友「それがいいな。行ってらっしゃい」

男「やだね。寄り道はしないことにした」

幼馴染「なんでさっ! 行こうよ行こうよ~」ユサユサ

友「行けよ行けよ~~」ユサユサ

男「っていわれてもこいつ……――」



【カラオケ店-個室】


幼馴染「~~♪゙ ~♪゙ るーらら~♪♪゙」

男(――死ぬほど音痴じゃねぇか…)

男(ユウジの奴ッ、これを延々と聞かされる俺の身にもなれよ!)

幼馴染「きーーいーーてーーるーー??」キーン

男「だーやめろ!」

幼馴染「~~♪゙」

男(本人楽しそうだからいいけど…もうちょっとどうにかならねーのかな)

幼馴染「あ゙ー楽しかった」

男「お前の場合歌うっていうより、でかい声だしてるだけだよな」

幼馴染「聞き惚れたでしょ」

男「……音程付きの採点機能にしていいか」

幼馴染「それはダメ! だってここの採点機能壊れてるし!」アセアセ

男(壊れてるのはお前のほうだぞ)



男「あのさ、ちゃんと腹式呼吸できてるっぽいのになんでそんなに音程とれないんだよ」

幼馴染「ふく式? あ、お腹ね」ペロン

男「ッ! そんなものしまえ!」ベシン

幼馴染「いひゃう! 痛いよぉ」

男「びっくりした…なんなんだ」

幼馴染「びっくりしたのはボクのほうだよ。だってお腹って言ったから」

男「腹を出せなんて言ってない!」

男(全身焦げてる癖に腹はあんなに生白いんだな…当然か…学校でしかまだプール入ってないもんな)

男(って、見てない見てない。あれはただのナツキの腹…ナツキの腹…)ブンブン

幼馴染「次キミの番! そんなに言うなら手本見せてよ」

男「よぉし。聞いてろ」

幼馴染「わー」パチパチ


ナツキは一言で言うとアバウトな奴だ。
音程からボールのコントロールまで、そして当然それは私生活にも至る。


 

 


  ・   ・   ・




幼馴染「ただいまー」ガラガラ

男「お邪魔しますだろ。俺んちだぞ」

幼馴染「喉乾いたなー。昨日買ったコーラまだあるっけ」

男「あるから、さきに手洗ってうがいな」

幼馴染「わかってるよ。お母さんみたいなこと言わないでよ」

幼馴染「あーあっついー」

男「今日はキャッチボールしないからな」

幼馴染「ボクだってこんな暑い中やりたくないし…夕方涼しくなってからにしよ」

男「だからそれまで宿題だな。今週中に終わらせようぜ」

幼馴染「……」ヘナッ

男「3時間もカラオケで遊んだんだからいいだろ?」

幼馴染「そんな生き方たのしい?」

男「俺がお前に聞きたいね」

 

 

【リビング】

pi pi…

男「ん?」

幼馴染「どしたの。クーラー早く」

男「押してるんだけど」

pi pi…

男「音はなるのに…開かない…」

幼馴染「え~~なにやってんの」

男「俺のせいかよ」

我が家は家の柱一本から家具に至るまでとにかくなんでも古い。
家のあちこちに昭和の遺物が伺える。

親は近年家に滞在することがめっきり少なくなったので、最新の家具や家電とは無縁だ。
たまに帰宅しては、俺や姉の最新家電の熱心なプレゼンに耳を傾けることはなく、
『動けばいいでしょ』等とぬかし買い換える気配を微塵も見せない。

男(動かねーじゃねぇか!)

そしてこのエアコンも俺が生まれる前から我が家で働き続けた功労者らしく、
そろそろガタがきて引退してもおかしくない頃合いとなってしまったようだ。


男「ダメだ壊れたつかない。ポンコツめ」pi pi

幼馴染「南無~」

男「戦力外通告だな」

幼馴染「そんな~。せめて引退試合してあげてよぉ」

幼馴染「じゃなくて! ほんとに壊れちゃったの!? ボク暑いんだけど!」

男「修理するにしても、買い換えるにしても金がかかる…どうすっかな」

幼馴染「買い替え希望します! 今度はズゴゴゴってうるさくない奴で!」

男「しばらくは扇風機だすから我慢しろ」

幼馴染「……」

男「なんだその顔は、嫌なら帰れ。お前の家のエアコンは正常なんだからいいだろ」

幼馴染「ボク畳の部屋じゃないと落ち着かない身体になっちゃった」

男「あいてる部屋の一枚くらいなら持って帰っていいぞ」

幼馴染「ゔうう」

男「とりあえず扇風機とってくる」

 


  ・   ・   ・



男「うわーなんでよりによって、丁寧に分解してしまってあるんだよ」

男「組み立てるのめんどくせぇなぁ」カチャカチャ

幼馴染「お姉ちゃんかな?」

男「いや犯人俺だと思う」

幼馴染「え!」

男「埃かぶるの嫌だなとおもって…ほら羽を掃除してしまってあるから綺麗だろ? へへ、さすがだな俺。清々しい気分で使えそうだ」

幼馴染「わかったから早く組み立ててよ」

男「うるさいな。お前暑いから寄ってくるなよ」

幼馴染「早く♥ 早く♥」

男「よし。スイッチ」

幼馴染「オン!」カチ

男「おお」

幼馴染「わーい!」ドンッ

男「あ、コラ」

幼馴染「あぁ~~~♥」

幼馴染「あ゙ぁ~~~~♥」

男「どけっ」

幼馴染「あ゙ぁあぁあぁあぁ~~~~~♥」

男「……それしたくなるのはわかるけど」


幼馴染「すずし~~~っ!」

男「わかったからせめて首振りにしろ。どけ!」ガシッ

幼馴染「やだぁ。客人を先にもてなせぇ」

男「お前は帰っていくらでも涼めるだろ! っていうかお前んち行っていい?」

幼馴染「鍵もってない。ママ今日遅い」

男「だとおもった…ハァ」

というのも、ナツキは中学の頃に自宅の鍵を紛失した前科があり、盗難被害を心配した親は扉の鍵を新しく付け替えたそうだ。
それ以降ナツキはいい年して鍵をもたせてもらうのに許可がいる。
あまりに情けない話だが、こいつを見ているとおばさんの気持ちも少しわかってしまう。

男(かといって俺んちに居座るの前提になっているのはどうなんだ?)


その後、涼をとるためふたりで扇風機の前にならんで買い置きのアイスを食べた。


男(せめてもう一台買わなければ…)

幼馴染「はむっ♪ 夏の贅沢!」

幼馴染「クーラーでキンキンの部屋じゃ味気ないよね!」

男「はいはいよかったね」


食べながらふとユウジの言葉を思い出した。
あいつはどうも夏休みはイベントがあって当たり前だと思っているようだ。
しかしナツキは普段から何をやっていても日々を満喫しているようにみえる。

男(わざわざこいつのためになにかしてやる必要があるのか? そもそもなんで俺が…)


男(なんの義理もないよな。むしろ俺がなにかしてほしい。普段迷惑かけられてんだから)ジトー

幼馴染「…? おいしかった!」

男「全部食ったか。いい加減にはじめるぞ」

幼馴染「…はー。もう1本――……はい、わかってるよぉ。怖い顔しないでよ」

男「余裕をもって早めに終わらせとけばあとが楽だろ。後半たっぷり遊べる」

幼馴染「なにして遊ぶの?」

男「なにしてって…知るかよ! 知るか!」

幼馴染「ボクと遊ぶためじゃないの?」

男「んなわけねーだろ。お前は…その、クラスの友達とでも」

幼馴染「……む、休みに遊ぶほど仲いい子いない。知ってるくせにひどいなぁ」

男「と、とにかく俺は夏休み終盤にお前に手伝わされるのが嫌なんだよ!」

幼馴染「なんだかんだ言って毎年手伝ってくれるんだよね♪」

男「うっさい! 今日は数学からな」

幼馴染「え~~。この暑さの中で数学!? はぁ~」

男「俺の写すなよ?」サッ

幼馴染「わかってるよ!! キミの答え信用したらとんでもない目にあうんだから!」

男「やったことあんだなこいつ!」グリグリ

幼馴染「あだだだっ、やめっ、あぁぁぁ! いだいっ」

男「向かい側に座れ」

幼馴染「でも扇風機が~」

男「お前のほう向けてていいから」

幼馴染「やった!」




   ・   ・   ・




幼馴染「……zzz」スピー

男「結局これだよ」

男「おい。ナツキ」

男「顔に畳の型つくぞ」

幼馴染「……ん、ぐぅ…zzz」

男「おーい。って全然進んでねぇし…6問しか解いてねぇ」

幼馴染「んゆ…zzz」ゴロン

男「!」

普段ナツキがスカートでうちに居座ることはあまりない。
こいつは制服姿があまり好きじゃないらしく、おばさんが家にいる日はいつも帰宅してジャージ姿やスポーティな服装に着替えてやって来るからだ。
普段着でスカートやワンピースの類はおそらくもっていない。見たことがない。
そんなナツキの少しめずらしいスカートが扇風機の微風に煽られて、はためいていた。

揺れる布の中からは小麦色の健康的な足がすらりと伸びている。
寝返りでブラウスも多少乱れてめくれ、真っ白なまぶしいお腹も見えた。

男「……」

男「ナツ…キ」

幼馴染「…zzz」


子供のように幼くて安らかな寝顔と不釣り合いなほどに、ナツキの体はいつの間にか大人になった。
無防備に露出した柔らかそうな太ももやお腹、ブラウスのささやかな膨らみ、少し汗ばんだ首筋に思わず心臓の鼓動が速くなる。


男「起きろよ…宿題…」

幼馴染「…zzz」

男「…よだれ垂れてるぞ」

幼馴染「…zzz」ゴロン


普段なら足で尻を蹴ったり、頭をこづいたりと雑な扱いで起こすことが出来ただろう。
だけど今日の俺は少しおかしい。
ユウジに再三ああ言われてから、なぜだかずっとナツキのことを考えている。

数学の宿題も実は他人のことを言えるほどすすんでいなかった。
この夏はどこにいってなにをしようか、そんなことばかりが頭のなかをめぐっていた。


男「ごろごろしてるとそのうちパンツみえるぞ」

幼馴染「…zzz」

男「恥ずかしくないのか?」


ナツキのパンツなんてどうでもいい。裸ですら興味はなかった。
もしかしたら姉のや母のと同じく、そんなもの見てしまったという嫌悪感のほうが強いかもしれない。

男(って、ずっと思っていたのに…)

どうやら違うらしい。
いまのナツキは女の子にしか見えない。


幼馴染「…zzz」

スカートをめくって中を見てみたい。
そんな男子なら当たり前の衝動に突き動かされたが、不思議とナツキの側に近寄ることができなかった。

ナツキに直接触れてイケナイ行為を働くことがはばかられた。
なので俺は恐る恐る扇風機の風を1段階強くした。

固いひねりをカチリと回す。
扇風機は命令通り、先ほどよりも強い風をナツキの下腹部に向かって送る。

男「やべっ」

ついやってしまったと後悔した。
しかしそれとは裏腹にナツキのスカートと脚から目をそらすことができない。


男(あれ…?)


結果は期待はずれだった。
布のはためく様を数十秒観察してみたものの、スカートが完全にめくれあがることはなかった。
クラスの他の女子のようにミニスカにしているわけでもないナツキの長めのスカートは、見事鉄壁の守備を見せた。

男(なんかほっとしたような、悔しいような…)

そして俺が罪悪感と敗北感に包まれるなか、何もしらないナツキは寝心地悪そうな怪訝な顔で再び寝返りをうつのだった。


男「それにしても起きねーな。おい」

男「ケツ蹴るぞ」

幼馴染「…うぅ…ん…zzz」

幼馴染「えへへ……zzz」ゴロン

男「お前って無防備だな。もしここにいるのが俺じゃなかったら…」

男「俺じゃなかったら……?」

何を言おうとしたのだろうか。
俺じゃなかったら襲われている?
一体どこのだれがナツキのような男女を襲うというんだ。趣味が悪すぎる。


男(こんな…可愛くないやつ…)

男(可愛くない…よな…?)

幼馴染「…zzz」スゥスゥ

男(昔から…他の女子や後輩にはかっこいいとかって言われてるし…)

男(だからこいつには女としての魅力はないんだ…)

なのに俺の手は自然とナツキの脚に伸びていった。
心臓の鼓動が早い。妙なスリルと高揚を感じる。
そして指先が布切れの端に触れようとした瞬間。

 カラン

男「!」

グラスの中の大きな氷の山が崩れ、甲高くて小気味の良い音を立てた。
理性がぐいっと引っ張り戻されて、俺は頭を振って、ナツキの肩を勢い良く揺すった。


男「おい起きろ! 晩飯の時間だぞ」

幼馴染「ふぁ…ぁぁ…なに? あれ…もう夜?」

幼馴染「お腹へったかも…ふぁぁぁ」

幼馴染「あれ、扇風機つよくした?」

男「あ、あぁ! お前暑そうだったから…」

幼馴染「ちょっとだけ涼しくなってきたね。あ、キャッチボール!」

男「暗くなってきたからしない。ノート片付けてそろそろ帰れ」

幼馴染「晩ご飯の時間って言ったのに…」

男「家で食えって意味だ」

幼馴染「ここボクの家! みたいなもんでしょ!」ゴロン

男「こらっ、ナツキぃ! ったく…じゃあ電話してくる。おばさん帰ってるんだよな?」

幼馴染「たぶんね~」

男「あと寝転ぶなら来客用の布団敷け!」

幼馴染「はぁい」

幼馴染「じゃあ晩ご飯できたらおこして~」

男「また寝るのか…俺がお前を起こすのにどれだけ苦労したと思ってんだ…」

幼馴染「え?」

俺「なんでもない!!」


ナツキと過ごす暑い夏ははじまったばかりだ。




第ニ話<扇風機>おわり


  

更新おわり 予定より遅れちゃってスマソ
次回は正月休みの間にします
よいお年を

 

第三話<プール>



幼馴染「暑いよぉ~~~!!」バタッ

男「うるせーな…扇風機向けてるだろ」

幼馴染「アイス」

男「無い」

幼馴染「……うー」

今日も酷暑だ。
朝からひっきりなしに蝉が大合唱をつづけ、カンカン照りで庭の土が茹だったように熱気を上げる。
氷をたっぷりいれた麦茶はとっくにぬるく薄くなり、ナツキはぐったりと畳の上に倒れこんだ。
到底我が家のオンボロ扇風機一台で乗りきれる暑さではなかった。


男「だからキャッチボールなんてしなきゃ良かったんだ。馬鹿じゃねぇのかお前馬鹿だろ」

幼馴染「…ゔー。キミ暑くないの?」

男「暑いけど。しかたないだろエアコン壊れてんだから」

男「文句いってないで宿題しろ」

幼馴染「ちぇ~、こんな暑くっちゃまったく集中できないよ」

男「縁側は結構風入ってくるからマシだろ」

幼馴染「んー。なんか足りない気がしない?」

男「なんかって?」


幼馴染「ねぇ去年はここに風鈴つけてなかった?」

男「あー風鈴か。言われてみれば。どこしまったかな」

縁側と来れば風鈴が夏の風物詩だ。
あとはスイカでもあればいいのだがあいにく買い置きはない。

幼馴染「出して出して!」



   ・   ・   ・



 チリン♪

幼馴染「これこれ♪ いい音ーもっと風よ吹けー」

男「満足したなら机にもどれ」

幼馴染「さてと! ちょっとすずしくなったし一眠り…」

男「ナツキ」ジトー

あまりにだらしない姿だった。
とても年頃の女の子だとは思えない。
汗ばんだシャツと短パン姿で畳の上をいつまでもゴロゴロとするナツキに俺は頭を抱えた。
夏休みがはじまって数日。宿題しかやることがないくせに、一行に進んでいない。

 


幼馴染「……ボクがなにしようと勝手じゃんか~…」

男「……ハァ」パタン

幼馴染「おぉお! 遊ぶ!? ゲームする?」

男「…」ガシッ

幼馴染「んぅ? 何? いだだひっぱらないで」

男「さよなら」

ポイッ

幼馴染「ひっ!」

男「帰れ」

ガラガラ ピシャン

幼馴染「!? あ゙ーー暑いよぉ! 入れてよぉ!!」バンバン

男「そのまま帰るか庭で反省してろ。ひとんちで毎日ぐうたらしやがって…休憩所じゃねぇぞ」

幼馴染「せめて帽子を…日射病になっちゃうよぉ!」

男「……ッ」

ガラガラ

男「そりゃそうだよな。悪かった」

幼馴染「あづーー…ばかぁ、せっかく汗ひいてきてたのにぃ」


気温は37度を回っていた。
昔はこんな暑い中でも白球と熱心に戯れたわけだが、いまとなっては考えられない。
ナツキと10分キャッチボールをしただけで耐えられなくなってしまった。

 


幼馴染「ねぇ暑いよぉ…ボクの脳みそとろけちゃうよぉ」

男「お前はとっくにとろけてるだろ」

幼馴染「あ! そうだ! いいこと考えた」

男「なに…」

幼馴染「プール行こ!? そこの」

男「第二プールか…………やだね」

幼馴染「なんでぇ! すぐそこじゃん」

男「一人で行けよ」

幼馴染「やだよつまんないじゃん! ねぇなんでプール行かないのおかしいよ」

男「…おかしくねぇし。だって、め、めんどくさいし…どうせ混んでるし」

家から7~8分ほど歩いた場所に市営の小さなプールがある。
たった100円で入れるので暑い日は近所の子供でごった返し、まともに泳ぐことはできない。
最後にナツキ行ったのはずっと前だ。


幼馴染「別に泳がなくっていいからさぁ。入るだけでも…」

男「なおさら一人で行けよ」


幼馴染「……」

幼馴染「……」ジー

ナツキは大粒の汗をこめかみから垂れ流しながらふくれっつらで俺を見た。
正直に言うと俺だって暑いし、プールや海に浸かって涼みたい。
しかしナツキと2人で行くということに若干どころかかなりの抵抗があった。

男(いい年した男と女でプールなんて、アレだろ)

幼馴染「…なんか言ってよ」

幼馴染「プールいくよね? ボク家から水着取ってくるけど」

男「……」

男(近所の子供と会ってめんどくさいことになりそうだし)


俺とナツキは地元のリトルリーグで多少活躍していたこともあり、近所では顔が広い方だ。
小さい頃は「あらあら2人は仲良しねぇ」で済んでも、いまとなっては他人の目にどう映るだろうか。
自分達の間柄は所詮ただの幼馴染同士なのだが、世間の人にはやはりそういう目で見られてしまうだろう。

男(大・迷・惑だ)

幼馴染「ねー?」



男「一人で行けって」

幼馴染「そんなの恥ずかしいじゃん!」

男「なっ、なんで?」

男(どう考えても一緒に行くほうが恥ずかしいだろ…)

幼馴染「だってボク学校の水着しかもってないもん」

男「はあ、それが?」

幼馴染「ひとりでスク水着て市民プールなんてかっこ悪いじゃん」

幼馴染「でもキミも一緒なら、多分平気かなって。男子のも結構ださいし、ぷぷ」

男「俺海パン持ってるし」

幼馴染「えっ! それはダメ! 着用禁止! あ、全裸でって意味じゃないよ!」

男「お前さ、水着もってないの? 持ってなかったっけ…」

幼馴染「うん! 去年のサイズきつくて入んなくなっちゃった!」

男「……」

男「ちょっとでかくなったもんな」

幼馴染「えへへー。背3cmくらい伸びてねー」

男「あ、あぁそっちな!」

幼馴染「?」

それにしても、ナツキの思考回路がわからない。
俺と一緒にあちこち出歩くことをどうとも思わないのだろうか。

いまだユウジの言葉が棘のように俺の心に引っかかっていた。
俺がナツキをどこか連れて行く義務はないし、お門違いもいいところだ。


幼馴染「で、どうする!? 行っちゃう!?」

男「行かない」

幼馴染「……はぁ~~」

ナツキは目の前で露骨に肩を落として、わざとらしく大きなため息をついた。
刺さった棘がずきりと痛み、小さな罪悪感が芽生える。

男「ぐ……」

幼馴染「そうだよね…絶対混んでるし、あそこのプール狭いもんね…」

男「そんなに行きたいのか…」

幼馴染「だってあ゙ついよ゙~~~クーラーほしーーはやく修理~~」

男「だだこねるなよ。あ……そういえば」

男「ちょっと待ってろ」

幼馴染「うーーー? もういいよ…ボクはここでカラカラに干からびて死にます…」グデン


プールと聞いてふと幼い頃の記憶が蘇った。
近所のプールは意外と水深があり、幼児や小学校低学年のうちは確か入れなかったはずだ。
そんなとき俺たちはどうしてたか。

男「たしか水泳関連はこの部屋に」

俺は物置と化した埃っぽい部屋にやってきた。
すっかり立て付けの悪くなった押入れの戸を開き、中をひっかきまわして目的のものを探す。

男「あった!」

手にとったのは直径1m足らずの幼児用のビニールプールだった。


早速足踏みポンプをつないで膨らましはじめる。

男「ぐ…結構でかいよなこれ…」

浮き輪に比べるとだいぶ大きいので意外と重労働だ。
だんだんと汗が滴り落ちてくる。
風の入らないこの部屋は予想以上に熱気がこもって暑かった。


男「向こうでやるか? いやいや…」

ちゃんと膨らました状態でナツキに見せてびっくりさせようと思った。
なぜだかあいつの喜ぶ顔がみたい。落胆させてしまった責任もある。

男「ほんとにこんなんで喜ぶかどうかはわからないけどな…」

シュコシュコ シュコシュコ

男「出来た」

ふくらましたビニールプールの底にはかわいらしいシャチの絵がプリントしてあった。
ナツキがやけにオルカが好きなのはこれが原因なのかもしれないとその時になって気付いた。


男「ナツキ! お前にいいもん持ってきたぞ」

幼馴染「……」

すっかりふてくされたナツキは、またしても際どい格好で寝転がっていた。
シャツがめくれてへその上までみえてしまっている。

男「おい見ろ! お前のためにもってきたんだぞ」

幼馴染「んぅ…?」


幼馴染「なぁに…」

男「お前のお気に入り。いい加減起きろ」

軽く尻をけとばす。
ナツキは不機嫌丸出しで身体を起こした。

幼馴染「…?」

幼馴染「わっ! それなつかしー♥」

男「だろ?」

幼馴染「……ってそんなちっちゃいのもう入れるわけないじゃん。ボクたち何歳だと思ってるの」

男「いやいやこれはだな」

男「…とりあえずさきに水張るか」


縁側の沓脱ぎ石の上にプールを置き、庭の水道から引っ張ってきたホースで水を注いだ。


幼馴染「おーーそうするんだ」

男「足だけでもひやせば涼しくなるかとおもってな」

幼馴染「さっそく入っていい?」

男「もうちょい水溜まってから」

幼馴染「じゃあ麦茶おかわりいれてこよーっと!」

男「あとなんか食いもん探してきて」

幼馴染「うん!」



  ・   ・   ・



幼馴染「あひ~~、冷たいっ」

男「どう」

幼馴染「いい感じ! きもち~~」

男「良かったな」

幼馴染「このオルカプールほんと久しぶりだねぇ…捨ててなかったんだぁ」

男「親が物捨てるの下手なんだよ。ウチ広くて置き場所いくらでもあるからな」

幼馴染「なんかイヤミっぽいね」

男「うるせぇ。とっておいたことに感謝しろ」

幼馴染「えへへ、ありがと!」ニカッ

男「…お、おう」

幼馴染「そういえば、昔はパラソル立てて日除けにしてなかった?」

男「よく覚えてるな。パラソルは…どこにあるかわからねぇや悪い」

幼馴染「いいよ。ん~~麦茶おいし♥」

男「ひとんちでえらく贅沢してるなお前」

幼馴染「…ねぇねぇ」チョイチョイ

男「何」

幼馴染「キミは入らないの? きもちいいよ」


男「は?」

聞き間違えかとおもったが、ナツキは隣に座って入れと言ったようだ。
隣といってもビニールプールの幅はとても狭いので、2人が足をつけようと思ったらかなり密着して座らなければならない。

幼馴染「おいでよー」チャプチャプ

幼馴染「きもちいいよー」

ナツキが足をばたつかせるたびにプールの水面が跳ね、濡れた足がやけに艶めかしく映った。

男「おいでよってお前…」

幼馴染「? 来ないの? なんで?」

男(むしろ変に意識してるのは俺の方か?)

男「…じゃあ、ちょっとだけ」

俺はなぜだか遠慮がちにナツキの隣に腰掛け、恐る恐る足をプールにつけた。
透き通ったひんやりとした水が体温をさげていく。

男「おおー。おおおお!」

幼馴染「くふふ。ね? ビニールプールって意外とつかえるね」

幼馴染「これ捨てちゃだめだよ。ボク毎日つかうから」

男「水道代が馬鹿にならないから却下」

幼馴染「あ、そっか…」

男「まぁ…2、3日に一度くらいならいいけど」

幼馴染「だよね! うんうんこれはいいものだよ」

 


  ・   ・   ・ 


 チリン♪


幼馴染「あー夏だねぇ。あーー暑いのに涼し♪」

男(簡単な奴。これで機嫌治ったかな…)

幼馴染「~♪ ~~♪」

ナツキは上機嫌にど下手な鼻歌を歌いながら、足を小さくばたつかせていた。
時々足先が水中で触れる。
その度に俺の心臓はやけにうるさく高鳴った。

男(なんだろうな…別にいかがわしいことしてるわけじゃないのに…)

男(ナツキの足…ナツキのくせにめちゃくちゃ綺麗だからかな…)

気がつけば視線がナツキの小麦色の足に釘付けになっている。
ふとももはどう見てもスポーツ体型でむっちりしてるのに、足全体を眺めると細くスラっとして見えるなんとも不思議なバランスだ。
筋肉質なはずがとても柔らかそうでもある。
整った綺麗な爪がきらきらと水中で光って、神秘的にさえ見えた。

男(…なんかずるいな。女体ってみんなこうなのか?)

そんな足をぼんやりと見つめていると、涼しいはずなのにじわじわと体温があがっていく。
ナツキとわずかに触れている腕や肩にも熱を帯びていった。

男「…ッ」

幼馴染「どーしたのーー?」

男「いっ、いやなんでも…」



幼馴染「あーオルカの絵見てたんでしょ。かわいいよね。実物がみたいなぁ」

男「体揺するな。あ、あたってるんだよさっきからちょこちょこ」

幼馴染「あっ、ごめんごめん」

幼馴染「そうだキュウリたべる? 台所で塩もみしてきふぁ」ポリポリ

男「それ晩飯のそうめんにつかうつもりだったんだけど」

幼馴染「んぅ。つかっちゃだめな奴は先に言ってよ!」

男「じゃあ一本くれ」

幼馴染「はい! 召し上がれ!」ニカッ


男(いつもとかわらないのに調子がおかしい)

男(ナツキの笑顔を見てると浮ついた変な気分になる)

男(俺もしかして……いやいやそんな馬鹿な)

心の底からありえもしない感情が湧き出そうになって、俺は必死に頭をふって否定した。
ナツキは幼馴染だ。そういう目でみる対象ではない。
目の前の女体に、つい雄の本能がくすぐられているだけだと思い込むことにした。

その後は視線をどこへやっていいかわからず、ぼーっとキュウリをかじりながら庭の陽炎を眺めていた。



幼馴染「ねぇ、海行きたい。オルカも見たい」

男「浜辺にいるか」

幼馴染「イルカじゃなくてオルカだよオルカ。この足元の子」

男「……。オルカ見たけりゃシーワールドかな。近場の海にいたらこえーよ。遊泳禁止だろ」

幼馴染「そうそうシーワールドだよ! 観に行きたいよね」

男「俺は海で遊ぶほうがいい。クラスの暇してる連中誘ってさ」

幼馴染「それもいいね。だから両方!」

男「他になにかやりたいことあるか…予定は早い内にたてとかないとな」

幼馴染「んーっと…花火大会とか?」

男「あー。毎年お盆前くらいにあったな確か」

幼馴染「行きたいー。行こ行こ!」

男「確かここからでもちょびっとだけ見えるぞ。あっちの方角」

幼馴染「えー、近くで見たいよ。お祭りで屋台もやってるんだしさー」

男「じゃあお前ひとりで―――…はいはい、気が向いたらな」

幼馴染「えへへ」

男「これだから友達いないやつは…」

幼馴染「い、いるよ! そこまで仲良くないだけで…」

男「じゃあ彼氏でもつくって一緒に行け」

幼馴染「え、カレシ?」

男「……お、おう」


男(ナツキに彼氏か……)

なにげなく飛び出てしまった自分の言葉に、ずきりと心臓に違和感を覚えた。
まるでユウジの刺していった棘が太くなったかのような痛みだ。

幼馴染「で、できるかな…? カレシかぁ…ボクに彼氏…??」

ナツキはすこし照れたような困惑した顔で俺を見つめて、さっと視線を逸らした。
こいつのこんな表情を見るのははじめてだった。

反応からしてどうやら色恋沙汰に完全無関心というわけではなさそうだ。
ナツキですら歳相応に異性のことを考えたりもするのだろうか。
しかし男と腕を組んだり抱き合ったりしているイメージはどうしても思い浮かべることができなかった。


男「……。一生無理だろお前みたいなおとこおんな」

幼馴染「な゙っ! ぼ、ボクだって」

男「前に聞いたって。女の子らしい格好したら可愛いんだろ、自称」

幼馴染「そうだよ!」ムスッ

男「見たことねぇけどなぁ…」

幼馴染「だ、だって…いまは持ってないもん。こないだ買ったジャージはアッキー的にはだめだったんでしょ?」

男「ぁ、アッキー言うな…。っていうかあれどうみてもそこらのおばちゃんのセンスだったろ」

幼馴染「う……うう、くそぅ」


幼馴染「じゃあさ…今度水着買いに行こ」

男「えっ」

幼馴染「海いくなら要るでしょ。さすがに学校の水着じゃ、近所のプールまでしか行けないよ」

幼馴染「ボクのチョイスがださいっていうなら、アッキーのセンス見せてよ」

男「そ…うだな。買いにいくか」

幼馴染「うん! えへへ、絶対ボクよりセンスないよ」 


そしてこの夏ナツキとたくさん出かける約束をした。
買物、海、シーワールド、野球観戦、お祭り。他にもいくつか。

いつも何もせずに気づけば終わっている夏にくらべて、今年は随分とイベント尽くしだ。
自分はさきほどまで出かけることに全く乗り気じゃなかったはずなのに。

男(違う。こいつが危なっかしくて放っておけないだけだ)

男(ちゃんと見張ってないと…なにしでかすかわからないから…)

男(勝手にどっかいったりするし…)

俺は自分の中でそう結論づける。胸の痛みはいまは治まっていた。

ぬるくなりはじめた水がバタ足とともにぱしゃぱしゃと跳ねる。
人の苦労をしってかしらずか、ナツキはこの夏の予定を復唱して無邪気に喜んでいた。

男(ナツキとかぁ)


今年は少しは楽しくなるのだろうか。
何が起きるか想像がつかず、少し不安だ。
浅すぎるプールの底をのぞくと、真っ黒なオルカの絵がゆらゆらと泳いで笑っているように見えた。

男(でも、こうなったのもお前のおかげかもな)

男(がんばろ…まずは宿題片付けることからだけどな…)


幼馴染「ねぇアッキー。晩ごはんなに」

男「あのさ、その呼び名復活しないでいいから。むず痒いんだよ」

幼馴染「このプール入ってたら思い出したんだよ。昔はずっとそう呼んでたなぁって」

幼馴染「ね! いいよね!」ニコッ

男「……。まぁ…いいけど、人前では絶対呼ぶなよな」

幼馴染「で、晩ごはんなに?」

男「お前にキュウリ食われたから考え中…そうめんの具にするつもりだったんだけど」

幼馴染「ボクねぎだけでもそうめん食べるよ~~!」

野球をはじめてから数年、俺たちの距離はずっと16mだった。それが少年野球のマウンドからホームへの距離。
幼馴染であり、投手と捕手。所詮その程度の関係でしかない。
こうして2人で一緒に懐かしいプールに足をつけていれば、幼かった頃の距離感を少し取り戻せる気がした。



第三話<プール>おわり

更新終わり
次回来週

あと あけましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします

 

第四話<お泊り>




幼馴染「アッキー~?」

男「なんだよ」

近頃ナツキは俺のことをアッキーと呼ぶようになった。
それは俺たちがまだ幼い子供だった頃の懐かしい呼び名だ。
もうナツキくらいしか覚えていないだろう。


幼馴染「ねー、あった?」

男「んー…いま探してるだろ」

幼馴染「氷準備できてるよ~~」

男「わかってる…去年どこにしまったかな」

扇風機にひきつづき、ナツキに出せ出せとせがまれたのはかき氷機。
確かペンギンのような生き物の頭に取っ手のついた形をしていたはずだ。


男「あれぇ、ないんだよ何故か」

幼馴染「なんで?」

男「いつもならこの辺りの棚にしまってるんだけど」

幼馴染「まだかなまだかな。シロップ何味にする?」

男「実はそれ、色は違っても味は全部同じらしいぞ」

幼馴染「え~~? これどうみてもメロンじゃん。メロンって書いてあるし」ペロ

男「まじまじ。ほんとに見た目の思い込みで味がかわるらしい。人間の脳みそって適当だよな」

幼馴染「ふ~ん?」

ナツキの声はどうにも訝しげだ。
振り返るとスプーンに2種類のシロップを交互に垂らして怪訝な表情で味を比べていた。
俺もTVでやっていた実験の受け売りでしかないので、いま家にあるシロップ達が本当のそうなのかどうかは正直わからない。


幼馴染「それよりかき氷探してよ!」

男「あぁそうだった」

去年の記憶を辿ってみる。
たしか去年もナツキが使うからと物置から出して、何度かかき氷をつくって、最後は……。

男「あーー、お前がぶっ壊したんじゃねぇか!」

幼馴染「え゙……え~? そうだっけ…」

男「お前ぇぇ! 勢い良くやりすぎてペンギンの頭のぐるぐるバー壊したろ」

幼馴染「……そうだったかもしれない…」

幼馴染「あれ、でもアッキー簡単に直せるって言って…」

男「……」

その時のナツキがあまりにしょげた顔で謝るものだから、
そんなものすぐ直せる、俺に任せろ、と安請け合いして慰めたことも思い出した。

結局そのシーズンはもうつかわないからと修理を先延ばしにして今年の夏を迎えている。


男「悪い…壊れたままだ」

幼馴染「…ボクもごめん」

男「よ、よしじゃあもう出かけるか。かき氷器は新しいの買おうぜ」

幼馴染「そうだね。ボク縁側の戸閉めてくる!」


今日は昼から一緒に出かける約束をしていた。
出かけるといってもいつものように近所のスーパーやコンビニをぶらつくわけではない。
電車に乗って2駅のショッピングモールだ。

遡ること数日前。

  幼馴染「じゃあさ…今度水着買いに行こ」
  男「えっ」
  幼馴染「海いくなら要るでしょ。さすがに学校の水着じゃ、近所のプールまでしか行けないよ」
  幼馴染「ボクのチョイスがださいっていうなら、アッキーのセンス見せてよ」
  男「そ…うだな。買いにいくか」
  幼馴染「うん! えへへ、絶対ボクよりセンスないよ」 

といった具合に、俺は暇で暇でしかたないナツキとあちこち出かける約束をしてしまった。
同性の仲の良い友達もおらずに暇をもてあましているナツキに同情している側面もある。


幼馴染「あ、これデートだ!?」

男「断じて違う」

幼馴染「うんうん! ささー行こー行こー」

もちろん男女で連れ添うからといってもなんでもかんでもデートではない。
仮にデートだったとしたら、ナツキの女らしさのかけらもない服装に俺はドタキャンしているところだ。

男「……」

カジュアルなボーイッシュスタイルのせいで後ろ姿ならその辺の元気な少年とかわらないし、
日射病対策に帽子をかぶるのはいいが、いつまでたってもそれが謎の英文字のキャップなのもいただけない。
足元を飾るサンダル履きなんて明らかにメンズ製品だ。


男「…お前さ」

幼馴染「…なに?」

特になにも気にしていないきょとんとした表情。
つい飛び出そうになったナイフのような鋭い言葉をぐっと飲み込む。


男「……そうだよな。だから買い物にいくんだよな」

幼馴染「……いくよ? なぁに? あんまりさ、人のこと品定めするみたいにジロジロ見るのやめようよ」

男「あ、悪い…そういうつもりじゃ」

幼馴染「今日ボクどっか変なとこあるかな? あっ、帽子のツバってU字にしたほうがかっこいいと思う?」

幼馴染「ボクの好きな投手がさ~いつもマウンドに立つ前に―――――」

男「……玄関に姿見でも置くか」


この夏、このどうしようもなくズボラで自覚のない幼馴染を改造しようと心に決めた。



  ・  ・  ・



【ショッピングモール】



幼馴染「アッキー何か欲しいものある?」

男「いや。別に」

幼馴染「じゃあずっとボクの買い物つきあってくれるの?」

男「ほうっておくとひどいことになりそうだから」

幼馴染「…む」


男「水着だけじゃなくて服も買っておこうぜ」

幼馴染「それボクの普段着がダメってこと?」

男「そうは言ってねぇけど…」

男「いつ見ても似たようなのばっかり着てるだろ。それも数年前からずっとセンスが一緒」

幼馴染「だって楽だし。動きやすいし」

男「今日はその楽だという考えを捨てて選ぼうな」

幼馴染「う~ん…気にいればね」

男「お前は何も成長していないのか?」

幼馴染「え~、してるよ?」

ナツキは不意に俺の真正面に回りこんで立ち、手の平を自らの頭の上においた。
そして勢い良く水平に手刀を繰り出して二人の背を比べる。

男「…」

幼馴染「あれ?」

ナツキの小指が何度もこつこつと鼻っ柱にあたってうっとうしい。

男「なにやってんだよ。やめろ、痛いって。何回やっても俺のほうがでかいに決まってるだろ」

幼馴染「う~~、結構背のびたとおもったのになぁ。背伸びしてない?」

男「してないし、お前は俺には勝てないの。てか、近いんだよっ、離れろ!」

両手でナツキの肩を押し返す一瞬、ふわりとゆるんだシャツの胸元から白い膨らみが垣間見えた。
確かに全く成長していないわけではなさそうだ。
身体つきを見て誰がどう見ても女の子と呼べる程度にはナツキは成長している。
しかしせっかくの女性らしさを打ち消すこのファッションと性格はどうしたものか。


幼馴染「ごめんごめん」

幼馴染「帰ったらアッキーの家の柱で身長測ってみる」

幼馴染「まだあの柱あるよね?」

男「大黒柱を取り替える家はないとおもう…」

頭のほうは成長しているのか非常に怪しい。
暑さで脳みそがとろけているだけなら良いが、こいつの場合季節を問わずこんな具合だ。


幼馴染「じゃ、気を取り直して行こっか」

男「俺がこんなことしなくてもお前に女友達がいれば色々選んでもらえたのにな」

幼馴染「それは禁句!」

それからしばらくナツキの買い物につきあった。
ナツキはそれなりにアクティブに店に入っては、値札を見て逃げ出す。の繰り返しだった。

当然アルバイトもしておらず小遣い制で生きる学生身分なので今日の軍資金は乏しく、
買うことが唯一決まっている水着代を差し引くと、セレクトショップでじっくり物を選べる状況ではなかった。

結局、普段どこででも目にするような安めのカジュアルブランドに足が吸い寄せられていく。


幼馴染「このシャツ涼しそうじゃない? ど?」

幼馴染「こっちのハーパンとか、ど?」

男「……そういうのたくさん持ってるだろ」

幼馴染「じゃあアッキーはどれがいいと思う? 選んでくれるんだよね?」

男「そうだな…」

レディースコーナーの少し奥まった場所に俺はずけずけと入っていって、一着の水色デニムスカートを手にとった。

男「スカートでも試着してみようぜ」

幼馴染「えっ、やだ。似合わないもん」

男「似合うって。じゃあこっちのワンピースは?」

幼馴染「似合わないもん」

男「…ならこっち?」

幼馴染「それもボクに似合わないもん」

の一点張りだ。
あまりその気がない物を無理やり着させても仕方ない。
とくれば是が非でも着させたいのが心情。
電車に乗ってまでここまで来た以上手ぶらでは帰れない。


男「お前なぁ。あれもいやこれも嫌で俺にどうやって選べっていうんだ」

幼馴染「…むぅ」

男「それに、女の子らしい格好したらどうこうって言ったのお前だろ」

幼馴染「い、言ったけどさぁ…いまはそんなつもりないっていうか」

幼馴染「…ボク、ひらひらしたの苦手だもん」

男「こいつは……。はぁ、いいから着ろ!」

幼馴染「やだっ」

強攻策、失敗。


男「…試着したらあとでシロクマアイス」

幼馴染「いらないー。そんなの自分で買うし」

男「うぐ……いつもならほいほい言うこと聞くくせに…」

男「2本、いや3本」

幼馴染「…かわんないよ」

物で釣る作戦も失敗。
となればもう頼んで見るしかない。
このままなにもチャレンジせず、いつも通りの夏を過ごすのはもうごめんだ。
ナツキと買い物に行くと決めて以降、俺の決心は固かった。


男「ナツキ。俺は結構可愛いと思うぞ…これ…」

先ほど手にした水色のデニムスカートを広げて、ナツキの腰にあてがう。
なんとなく、ナツキに似合う気がした。

幼馴染「…むー…変だよ絶対。ボクのイメージと違う」

男「履いてみよう。食わず嫌いはよくないだろ」

幼馴染「そうだけど…」

男「似合ってたら俺が買ってやる」

その言葉にナツキはずいぶん驚いた顔をしていた。
俺も驚いた。なぜそんなことを言ってしまったのか自分でもわからない。
ただ無性にナツキのスカート姿がみたくて、俺の選んだ服を着て欲しくて、衝動的なものだった。


幼馴染「ボク、キミがこういうの薦めるとおもわなかったな…」

男「本気で嫌なら別に着なくていい…」

幼馴染「ううん…着てみるよ」

幼馴染「ぃ、一応聞くけど、からかってないよね? ドッキリでした!みたいなの無しだよ?」

男「からかってない。あとこれも」

マネキンがスカートと合わせて着ていたブラウスも渡す。
渋々受け取ったナツキは口元を尖らせて、重たそうな足取りで試着室へと向かう。

それから長い時間が経った気がした。
試着室からなかなか出てこない。
ずっとレディースコーナーにつっ立っているため、周りの女性客の視線がやや痛くなってきた。

店員「あの、大丈夫ですか? ご一緒の方、お体の具合でも」

男「いえ、大丈夫だと思います…着替えるの手間取ってるみたいで」

店員「何かありましたらお呼びください」

男「はい」

幼馴染「……」

男「ナツキー。もう履いてるだろ? あんまりそこ占領してんなよ」

幼馴染「…わかってるケド……」モニョモニョ

弱々しい声がかすかに聞こえる。
他にも何か言ってるようだが聞き取れない。


男「カーテン開けていいか?」

幼馴染「だ、ダメぇっ!」

カーテンがわずかばかり開かれて、ひょこっとナツキが顔だけをのぞかせる。
唇をぎゅっと真一文字に結び、こちらを睨みつける。実に不満気な表情だ。
しかしナツキがこんがり日焼けしててもわかるくらい、頬が赤く染まっていた。

男「あ、わかった。お前見せるの恥ずかしいんだろ」

幼馴染「~~~っ! そうっ、だけどっ!」

男「なぁみせるくらいいいじゃん。スカートなら学校の制服でも履いてるだろ」

幼馴染「あれは…下にスパッツ履いてるし…」

男「なぁ頼むって、10秒でいいから見せろよ。もう俺ずっとここにいてまわりの視線がいてーよ」

幼馴染「…う、うーん…」

ナツキは視線を泳がせて考えこむ。

幼馴染「アッキー…笑ったらあとでぶん殴るから」

男「笑わないって」

幼馴染「ほんと?」

男「んー。はやくしろよ」

そしてようやくカーテンが開かれる。

幼馴染「……10秒だけだよ」


試着室から現れた鮮やかなブルーのスカートを履いた少女。
どことなく緊張した面持ちでうつむいて視線を泳がせていた。
内股気味の立ち方も妙にぎこちなく、全く様になっていない。マネキンのほうがまだ自然だ。
いつものナツキらしい無駄に明るい笑顔も、いまはシュンとしおらしく姿を潜めている。

男(こいつもこんな顔するんだな)

ナツキのそんな姿をじっと眺めていると、妙に心臓の鼓動が速くなる。
俺の知ってるナツキがナツキでないようだ。
スカートとブラウスを変えただけでここまで雰囲気がかわるものなのだろうか。

スカートの丈から伸びる健康的な太ももがいつも以上に眩しい。

幼馴染「…7、8、9…おしまい」

男「しっかり数えてんのかよ!」

ナツキはべーっと憎たらしく舌をつきだし、さっとカーテンを閉める。
次は数分もしないうちに再びカーテンが開かれて、元のボーイッシュスタイルに戻ったナツキが手で顔を仰ぎながら出てきた。

男「中暑かった?」

幼馴染「うーーまぁね…」

男「服は」

幼馴染「はい。両方元の場所もどしといてー。ボクにはやっぱり似合わなかったよ。えへへ」

男「…そんなことないって」

幼馴染「いいっていいって。欲しいものあったらしばらく見てていいよ。外の椅子すわってジュースでも飲んでるね」

男「…あぁ。わかった」

ナツキは逃げるように外へと去っていった。




  ・  ・  ・



幼馴染「…あれ、結局なんか買ったんだ。いいのあったー?」

男「ん。自分で持て」

幼馴染「な、なんでボク荷物持ちっ! 試着で待たせたのやっぱり怒ってる?」

男「お前のだから。これ…」

幼馴染「え」

ナツキは品無くがさがさと袋をあさり、中身の青い生地をみて目を丸くして素っ頓狂な声をあげた。

幼馴染「なっ、なんで買ったの!? ボクべつに…っ」

男「似合ってたら買ってやるって言っただろ…セットでもそんな高くねーし…一応、約束だし」

正直言って試着を頼むときに軽はずみな約束をしたのを少しだけ後悔していた。
金銭的な問題じゃない。
他人にまともにプレゼントするなんて初めてなので、どういうテンションで渡せば良いのかよくわからなかったからだ。
ナツキが試着室の中でいつまでも着替えを躊躇していたように、俺もレジへ持っていくかどうか悩んで長い時間店内をぐるぐると右往左往してしまった。

男(これじゃまるで彼女へのプレゼントだ…絶対そう思われた)


男(…でも本当に似合っていたんだから仕方ない)

少なくとも俺は一目見てそう感じた。
いつもは暑苦しい幼馴染でしかないナツキ。
異性という感覚でなく、まるで男同士でつるんでいるかのような一緒にいて心地の良いナツキ。
気の置けない親友という奴だ。

しかしあの瞬間の彼女は涼やかで可憐で、まるで別世界の女の子に見えた。
俺がどんなに恥ずかしくても、そんなナツキの姿に嘘だけはつけなかった。


幼馴染「…ぁ、アッキー…」

男「別に無理して着なくてもいいって。お前がスカート好きじゃないことは知ってるから」

幼馴染「…うん」

男「あとな、俺がお前のスカート姿を見たがってるとかそんなんじゃねぇから勘違いするなよ」

幼馴染「うん。ありがと!」

男「おう。即リサイクルショップに売るのはやめてくれな」

幼馴染「そんなことしないってば…」


幼馴染「でもさ、こういうのは彼女にすることじゃないの?」

ナツキのくせに痛いところをつく。

男「…」

幼馴染「ねぇ?」

手荷物紙袋をわざとらしくみせつけて、イタズラな表情で白い歯を見せる。
こいつにからかわれるのは結構屈辱的だが、不思議と嫌な気分はしない。

男「うっせー!! ぉ、俺も一瞬そうおもってな、レジ前でやめようかとおもったんだよ!」

男「プレゼントですか? ラッピングしますかなんて言われてな、丁重に断ったんだよ!」

幼馴染「あはは。わかってるよー」ツンツン

男「……」

幼馴染「わっ、顔赤っ」

男「なぁ、やっぱり返却するか! 全部なかったことにッ。いらないなら返せ!」

幼馴染「やーだよ。もうもらったもん。くふふふ」

ナツキは紙袋を抱きかかえて次の店へ向かって通路をパタパタと走っていく。

男「お、おいっ」

幼馴染「ちゃんと履くってば。ボクの気が向いたらね!」

振り返った笑顔は酷暑の太陽にも負けないくらい俺を身体の芯からあつくさせた。

ナツキとの長い一日は続く。



第四話<お泊り>つづく

更新終わり
次回第四話<お泊り>2 明日予定

長らく音信不通にしてすみませんでした
身辺の都合でしばらく帰省していました
いまは元の生活に戻ったので続きがんばります

第四話<お泊り>つづき



【レディース水着売り場】


男「ほら、決めたなら早く試してこいよ」

幼馴染「うーー…」

男「着てみないとわからないだろ」

幼馴染「そうだけどさ…やっぱりビキニは…挑戦的すぎるんじゃないかなぁ」

男「何言ってんだよ。お前何歳だよ」

幼馴染「普通だとおもう?」

男「さっき店員さんもそう言ってたじゃん」

幼馴染「……」

水着選びは服以上に難航した。
はじめナツキはセパレートを嫌がり、キャミソールのような形をした比較的露出の少ない物を選ぼうとしていた。
普段俺の家ではみっともない無防備な姿でゴロゴロしているくせに、人前で肌を晒すのは抵抗があるらしい。
しかし現在手にもつビキニのデザインはそこそこ気に入ったようで、どうしようかと迷いながら店内をウロウロしている。

幼馴染「ビキニ着たらお腹だけ真っ白で変じゃん…カッコ悪いじゃん!」

男「じゃああらかじめ焼いていけば。腹だして縁側で寝てたらすぐだろ、アハハ」

幼馴染「でも、いま真っ白じゃん」

男「気にすんなよ試着くらい。誰も見てないだろ」

 
幼馴染「…へんてこでも笑わないでね」

男「え?」

男(あぁ試着して見せてくれるつもりなのか。律儀なやつだなー)

男(自分でサイズ確認するだけでいいのに)

男(見せてくれるなら見るけどな…)

幼馴染「着てくる」

男「スカートん時みたいに待たせるなよ? あの店よりよっぽど居心地悪いんだからな」

幼馴染「わかってるよ」

なにぶん色とりどりのレディース水着に囲まれている上に客はすべて女。
俺にとっては下着屋とほとんどかわらない針のむしろだ。
なるべく余計なことを考えないように、ナツキの入っていった試着室の扉を凝視し続けた。

そして数分後。

カラフルなボーダーラインの入ったビキニを着たナツキがのそのそと扉の向こうから現れた。

幼馴染「……」


ナツキはスカートを履いた時以上に顔を赤くして黙りこくったまま、俺の言葉が返ってくるのを待っていた。

男「おい、何照れてんだ」

幼馴染「ゔぅ…照れてないし。で、どうかな…」

男「サイズは」

幼馴染「たぶんぴったり。フィットしてると思う」

男「上も下も? お前上半身にくらべ下半身がちょっと太いけど」

幼馴染「うるさいなぁ! ぴったりなの!」

幼馴染「でぇ、どうなのさ!」

ナツキは怒気を含んだ視線で俺を睨みつける。
そこでようやく意図を察した。

男「どうって…あぁ」

感想がほしいらしい。
尋ねられてまじまじとナツキの全身の観察をはじめた。

昔にくらべるとずいぶんと女の子としての成長を遂げた体。
上半身はやや痩躯だが、胸元は膨らみがはっきり分かる程度には盛り上がっている。

腹筋は軽く浮いていても見たものに硬そうな印象を与えない綺麗なすべすべのお腹。

すこし太めだが決して贅肉ではないぷりんとしたうまそうな太もも。
健康的に焼けたすらりと長い足。

足首はキュッとしまっていてモデルのようなかっこよさすらある。
ショートな髪型もあいまって全体のバランスがとても整ったスポーティな体だ。
しかし顔はまだあどけなさが残り、大人の女とは到底言いがたい。

男(俺そんなとこばっかり見てるな。水着みなきゃいけないのに)


男「ナツキ。あっちむいて」

幼馴染「…ん」

俺の手をひねる動きにあわせてナツキがくるりと半回転する。
つんと上向いたやや大きめのお尻がビキニに包まれて窮屈そうだ。
ビキニ紐しかない背中と肩甲骨から肩にかけてのラインが同じ人間とは思えないくらい、ぞっとするほど美しかった。


男「いいんじゃないか」

幼馴染「ほんと!?」

男「いますぐビーチバレーの選手になれそうだ。目指してみないか」

幼馴染「むぐ…そうじゃなくて」

男「わかってるって。すごく似合ってるから心配すんなよ」

幼馴染「うん。じゃあボクこれにしよっかな…えへへ」

男「お前にしてはまともなの選んだな」

男「俺はてっきりあっちのスイカみたいな色のを選ぶとおもった」

幼馴染「ボクも最初あれいいなーっておもったけど、アッキー絶対変な顔するの予想できるから…」

男「流石だな」

幼馴染「アッキーこそ、ボクの好きそうなのよくわかったね」

男「長い付き合いだからな親友」

こつんと拳をあわせた後、ナツキは水着を脱ぐために再び試着室の扉を閉めた。
中からごそごそと衣擦れの音が聞こえる。



男(いまちょうど裸か? いや、さすがに下着の上から試着するよな…)

男(あれ…でも下着なんて水着の下につけてなかったような…)


一度考えだすと止まらないのは俺の悪い癖だ。
キャッチャーをしていた頃、配球のことばかり考えて打席でよく上の空になって失敗した。
対してナツキはなにごとも頭を一度すっからかんにリセットして臨めるので、なんにでも結果がついてきやすく飲み込みも早い。
そういえば、今日はどこでなにをしててもナツキの事を考えているような気がする。

男(俺もいい加減何か趣味らしい趣味もったほうがいいなこれ…)



幼馴染「おまたせー」

男「なぁ、もしかして全裸になって直接試着したのか?」

幼馴染「……え゙? な、なに!? 下に着てたよ、何言ってるの常識でしょ」

男「まじ? あれ着てたのか」

幼馴染「じゃんっ、これをつけてたんだよ」

そう言って手渡してきたのはベージュ色をしたサポーターのようなババ臭い薄い下着だった。
ほのかにあたたかみを感じる。

男「あぁ…いわゆるアンダーショーツってやつね…持ってきてたんだな」

幼馴染「お母さんに水着選びにいくって言ったらもっていけって。よかったー」

男「…ってこんなもん俺に渡すな!」

幼馴染「えへへっ、とりあえず荷物全部もっててー♪ これお金はらってこよーっと」

ナツキの天然には時々頭を悩まされる。
俺はぬくもりの残ったショーツを握りしめた後、周りの視線を気にしながら
いそいそと紙袋にしまい、ナツキが会計の列に加わるのを見送った。



【フードコート】


幼馴染「…」モグモグ

男「これで欲しいものは揃ったよな」

幼馴染「んぐっ、あとペンギン!」

男「ペンギン?」

幼馴染「ペ!ン!ギ!ン!!」

ナツキはフォークをもったまま腕を皿の上でぐるぐる回す。

男「ああ…かき氷器か」

幼馴染「いま本気で忘れてた?」

男「…ここで買わなくてもいいだろ。いまの時期ならわりとどこでも買えるし」

幼馴染「ボク帰ったらかき氷食べるって決めてるのに」

男「えー…このあとほんとにうち来るのかよ」

幼馴染「なんのためにシロップ買ってきたとおもってるの」

男「そこの売店でコーンアイスでも買って満足してくれよ」

男「クレープ、パフェ、チョコバナナ、なんでもあるぞ」

幼馴染「……」チラ

幼馴染「だめっ、今日はもう使えるお金ないもんっ」モグモグ

幼馴染「あれ食べたら電車賃たりなくて帰れなくなっちゃうよ」

男「そんなにギリギリか。しゃーねぇ」

幼馴染「買ってくれるの!? さすが~~~」

男「散財する前に帰ろうぜ」

幼馴染「…………」


【帰り道】


男「そんな恨めしそうな目で見るなよ」

幼馴染「…ずっとデザートのお店見ないように我慢してたのに」ジトー

幼馴染「ボクだってアッキーと同じのたべたかったのに、違う安いので我慢したのに」

男「かき氷たらふく食っていいから。腹壊すまでくっていいから。もう隣でブツブツ言うのやめてくれ」

幼馴染「…」

男「帰ったらキャッチボールするか」

幼馴染「するする! じゃあ早く帰ろ!」

男(簡単な奴…)

幼馴染「ボク一旦荷物置きに家戻るね!」

男「おう」


そして家の近所で解散して各々帰路につき、気がつけば夕刻。

帰宅した俺はいの一番に部屋の窓と縁側の戸をあけてムッとした部屋の空気を換気する。
エアコンがこわれているためこうして少しでも涼しくしておかなければまたナツキが文句を垂れる。
今日は午後から少し曇って比較的すごしやすい気温になってありがたかった。

男「思ったより金つかっちゃったなぁ。夏休みはまだこの先やりたいことあるのに」


吹き込む風に揺れる風鈴の音を聞きながらゆっくり麦茶でも飲もうかと思った矢先、
勢い良く玄関を開ける音がしてナツキが早々にやってきた。

男「はやすぎだろ」

きしむ渡り廊下をドタバタとかけぬけて、あっという間に俺のくつろぐ縁側まで滑り込んでくる。

男「いまこけたのごまかしたよな」

幼馴染「そんなことよりっ、時間は有限だから。ほら、暗くなる前に! ボールとグラブもってきて!」

男「ちょっと休ませて…一服したい」

幼馴染「そんなお年寄りみたいなこと言わないでよ~!」

男「あれ…お前荷物置きに行ったんじゃねぇの。結局持ってきたのかよ」

幼馴染「それがさー」

幼馴染「お母さん達夕方から急に出かけることになったんだって。さっきメール入ってるの気がついた」

男「へぇ、それで」

幼馴染「家あいてなかったー」テヘー

男「あ、そう…夜には帰ってくるんだよな」

幼馴染「ううん。今日は帰らないってさ。よくはしらないけど仕事のトラブルみたい。会社にとまるかもって」

男「そうか…じゃあお前どうすんの。例によって鍵もってないんだろ」

幼馴染「泊めてー♪」

男「えーー。急に言われてもなぁー?」


特に嫌なわけではないのだが、こうも毎度あっさりと承諾していては、
いずれほんとに居付かれてしまう気がした。

男「どーしよっかなー。俺やりたいことあるしなー」

幼馴染「いいじゃんいいじゃん。お母さんも泊めてもらえって、ほら」

得意気に携帯を開いて画面を見せつけてくる。

男「夕日反射しててなんも読めん」

幼馴染「あ、ごめんごめん」

ナツキはそっと俺の隣に腰掛け、画面を見せてくれた。
確かにそこには泊めてもらうようお願いしなさいと書いてあった。
おばさんが後でこちらに電話をくれる手はずにもなっているようだ。

男「おばさんにメール送るからそれ貸してくれ」

幼馴染「う、うん」

男「…」

幼馴染「なんて送るの?」

ナツキから隠すように背をむけてメールの文面を考える。
肩越しに覗き込もうとしてくる邪魔な頭をアイアンクローで抑えて、
俺はおばさん宛に返信した。

男(ナツキは俺が責任をもって預かりますので、心配しないでください…っと)

男(おばさんに送るにしては堅いか? まぁいいか)

幼馴染「いいもーんどうせあとでみるからーー! ボクの携帯だし」

男「送信履歴消しとこ」

幼馴染「あほーーーあほーーー」ジタバタ

幼馴染「あっ、アッキーよりって最後に書いた?」

男「…忘れてた。まぁわかるだろ」


幼馴染「で、結局とめてくれるんだよね?」

男「しかたないだろ。蹴りだしてもお前宿泊費なんてもってないし」

幼馴染「やったー。お泊りは久々だね」

男「…だな。寝るの姉ちゃんの部屋でいいか?」

幼馴染「えーそれはさすがに悪いよ」

幼馴染「ボクはその辺で雑魚寝でいいよー」

男「そうはいかないだろ…一応女なのに」

幼馴染「一応ね!」

男「確か来客用のというか、ほぼお前専用となった布団があったはずだけど…」

果たしてこの無駄に広い家のどこにしまってあるのか。
ナツキが泊まっていた頃はすべて俺の母親が準備をしていたので完全に俺の管轄外だ。
この時間から家中の捜索を考えると、もはやキャッチボールどころではなくなってしまった。

男「悪いナツキ、ちょっと探すから遊ぶのはあとで」

幼馴染「うん! いいよ」

幼馴染「ねっ、ねっ、泊めてくれるんだからボクなんでも手伝う!」

幼馴染「なんかやることない!?」


男「そうだな…じゃあ風呂でも洗っておいてくれるか」

男「風呂場にスポンジと洗剤スプレーあるから」

男「浴槽だけじゃなくて蓋もな。できれば洗い場の床も」

幼馴染「結構がっつり頼むね」

男「浴槽だけでもいいけど」

幼馴染「いいよ。ボクにお任せあれ」

男「探すのにそれくらい時間かかりそうなんだよ。悪いな」

幼馴染「いってらっしゃーい」



【風呂場】

ゴシゴシ

幼馴染「広い家って大変だなぁ」

幼馴染「んしょ…んしょ…。ふぅー…アッキーは毎日これやってるのかぁ」

幼馴染「ちっちゃいころから思ってたけどお風呂ふるすぎーひろすぎー」

ゴシゴシ


幼馴染(アッキーの家でシャワー借りるくらいはあったけど、泊まってお風呂入るのはひさしぶりだなぁ…)

幼馴染(昔よく一緒に入ったなぁ…)

幼馴染(たしかボクがバタ足の練習はじめて、お姉ちゃんに怒られたんだっけ)

幼馴染(なつかしいなー)

幼馴染(もう何年一緒に入ってないんだろう)

幼馴染(子供だったら3人入っても余裕の広さだなー)

幼馴染(大人になったボクたちならどうなんだろう…さすがに無理かな?)

幼馴染(…って、入るわけないじゃんっ!)ブンブン

ゴシゴシ

幼馴染「…ここにボクが浸かって、こっちにアッキーで…」

幼馴染「あぁぁあぁッ、入らないってば。もういい大人なんだから恥ずかしいよ」ブンブン

幼馴染「…ぅ」

幼馴染(今日のアッキー…なんだかいつもより優しかったな)

幼馴染(ううん、ここ最近ずっと優しい…気がする。なんでだろ)

幼馴染「えへへへへ」

ゴシゴシ♪

 


   ・   ・   ・

 
ゴシゴシ

幼馴染「あ゙ーー暑っ」

幼馴染「ここ蒸し蒸ししすぎ…窓開けても風入ってこないじゃん!」

幼馴染「うー、目に汗が……痛っ、いたた」

幼馴染(…まだ時間大丈夫だよね。結構かかるとか言ってたし)

幼馴染「…」スルリ

幼馴染(さっぱりしたいし、浴槽洗うついでにシャワー借りちゃお)

幼馴染(服は…まぁこの辺に置いといたら濡れないかな)

キュッ
シャアアアア……

幼馴染「あーーきもちーー♥」

幼馴染「やーーサイコー♥」

幼馴染「汗をかいたあとの冷たいシャワー…幸せ~♥」

幼馴染「あがったらかき氷たべよーーっと♪」


シャァァァァ―――

 
その頃、俺は使っていない物置部屋の押入れの奥深くに封印されたナツキ布団セットをようやく見つけ出した。
特にほこりもかぶっておらず、おかしな臭いもしない。
シーツを付け替えれば今日からでも使えそうだ。

男「問題があるとすれば…」

どう見てもジュニアサイズなことだ。


男(そうか。もう使わないからこんなとこにしまっていたのか…)

男(小さい…よな…うん)

男(まぁちょっとくらいはみ出てもいいか。夏だし…どうせナツキだし…)

最悪腹さえ隠して寝れば風邪ひくことはないだろう。
足りない部分にはタオルかクッションでも敷いておけばいい。

男「よし、報告報告」

半日歩いて疲れていたわりにはやけに足取りが軽かった。
布団をみつけた達成感に満たされている。

それに加えて、もしかしたら俺は内心、ナツキが泊まることを楽しみにしているのかもしれない。
なんていったって久しぶりのことだ。
夏休みなので当然明日も休みで夜通したくさん遊べる。


男(今晩なにすっかなー。そうだ、去年ユウジと買ったあのゲームやらせたらあいつ絶対おもしろいことになるな)

男(晩飯は冷蔵庫にあるものでつくるなら生姜焼き? 冷しゃぶでもいいな、キュウリあったっけ)

男(どのみち2人分なら買い物いかなきゃな)


ちいさくて軽い布団セットを抱えたまま浴室へ向かう。
おもいっきり広げてナツキに見せてやろう。

男「あいつの反応予想」

男「あーーそれなつかしーー。よくのこしてたねー」

男「だな。間違いない」

きっと笑顔で喜ぶだろうと期待を込める。
そして浴室の扉を開いた。


ガラガラッ
シャァァッァァ――


男「おいナツキ! あったぞ見つかった……ぞ」

男「あ゙……」

幼馴染「……ふぇ?」

視界に映ったのは風呂掃除に励むナツキの姿ではなかった。
そこにいたのは一糸まとわぬ姿で立ちつくし、シャワーを浴びる少女。
濡れた肌が水を弾き、なまめかしく光を反射している。

こちらに気づいたナツキは目を丸くして固まってしまっていた。


男「うわっ!」

男(やっちまった! な、なんでシャワー浴びてんだよっ!)

幼馴染「うぎゃああああっ! ばかエッチ!!」

男「ナツキっ、やめ―――――」

そして扉をしめるよりも早く、シャワーによる激しい水流の攻撃が飛んできた。

男「うあっ」

幼馴染「うああああああっ!!」

結果、布団はぐっしょり。俺はげっそり。
ナツキは怒りながら半泣きといった誰も喜ばない悲劇を生んでしまった。

 

 
【居間】



男(俺が悪かったのか?)

男(いや…まさか中で服を脱いでるなんておもわないだろ…)

男(普通シャワー浴びるなら外に服をだして……くそっ、もう何を考えても後の祭りか!)

幼馴染「…」シャクシャク

男「ナツキ、うまい?」

幼馴染「…」シャクシャク

男「練乳もつくってみたから…ほしかったら好きなだけかけろよな。あっ、晩飯お前の好きなもんつくってやるぞ」

男「それ食ったらキャッチボールするか? まだ日が落ちるまで少しはできるぞ?」

幼馴染「…」シャクシャク

男「そうだ布団濡れちゃったから今晩どうしようか」

男「いまからじゃ乾かないよな……やっぱり姉ちゃんの部屋借りるか」

幼馴染「…」シャクシャク

男「なぁ悪かったって…見てないからほんと、湯気とか腕でかくれてたし」

幼馴染「…」シャクシャク

男「ごめん。口きいてくれ」

幼馴染「…ふーんだ。アッキーのエッチ。ボクが暑くなってシャワー浴びたくなるの計算してたんでしょ」

男「するかっ!」


俺は脳裏に焼き付いたナツキのヌードをふりはらいながら、メロン味のかき氷をちびちびと口に運ぶ。
時々ナツキの様子をうかがうと、普段の呆けた様子からは考えられない剣幕で睨みつけられた。
その後しばらく彼女の機嫌が治ることはなかった。

 


   ・    ・    ・



幼馴染(なんだろ…たべてもたべても体の芯が熱いな…)

幼馴染(風邪ひいちゃったのかな?)

幼馴染(はぁ…今日だけでスカートも水着も裸も見られちゃった…)

幼馴染(なんとも思ってない…んだよね…?)

幼馴染(アッキーにとってボクは兄弟みたいなもんだもんね…)

男「にしてもお前さ、その…」

幼馴染「!」

男「上半身のわりにずいぶん脚ふとくなったよな。脚というかケツ周り?」

男「なんていうかすごく安産がっ―――」

幼馴染「きーーっ!」ボカッ

男「いだだだっ」

男(褒めようとおもったのに)

幼馴染(…アッキーのバカバカバカ)シャクシャクシャクシャク


ナツキとの長い一日は続く。


第四話<お泊り>つづく

  

更新終わり
次回第四話<お泊り>③ 半分できてるので明日か明後日予定

第四話<お泊り>つづき




幼馴染「ごちそうさま~♪」


日が暮れるまで軽くキャッチボールをした後、わざわざ買い出しに行って夕食で好物を振る舞うと、
ナツキはすっかりごきげんに戻って笑顔を見せてくれた。
機嫌が直ってよかったと思いつつも、俺は精神的にも肉体的にも疲労困憊だ。


幼馴染「はーおいしかった」

幼馴染「また作ってね」

男「んー。食器洗ってくれるか」

幼馴染「オッケー」

下手くそな鼻歌を歌いながら台所で食器を洗うナツキを尻目に、俺はある準備を始める。

男「今日は夜更かしできるからな」

居間のテレビの前にゲーム機をつなぎ、起動してソフトを挿入する。
昨年の夏にユウジと金を出し合って買った人気のホラーゲームだ。
俺たちは買ったその日に徹夜でクリアしてしまったが、ナツキの前でプレイしたことは一度もない。


洗い物を終えたナツキを手招きして、自分の隣に敷いた座布団に座らせる。

幼馴染「ん? 何かするの?」

男「おう。じゃ電気消すぞ」

幼馴染「え…?」

部屋を暗くし、コントローラーのボタンを押すと、おどろおどろしいBGMとともにハイクオリティな3D技術で作られた真夜中の廃村が映しだされた。

幼馴染「い゙っ!? こ、これ…ホラービデオ?」

男「ゲームだって。ほら」

幼馴染「ゲーム!?」

スティック型のコントローラーを手渡す。
プレイヤーはこのコントローラーを懐中電灯に見立て、主人公視点で薄暗い廃村をさまよう体感型ホラーゲームだ。

ゲームシステムはリアルな不気味さでプレイヤーの心の底の恐怖心を煽る作りになっている。
よくありがちな化物がびゅんびゅん飛び出してきて撃退していくような、ホラーと称したアクションゲームではない。

プレイヤーはほとんど無抵抗なまま幽霊から逃げまわり、時には謎をときながら物語の真実へと迫っていく。


幼馴染「やっ、やだよこんなの!」


幼馴染「ぜっっっったい怖いじゃん!」

男「怖かったぞ」

幼馴染「ずるい!アッキープレイ済みなの!?」

男「一年前に一回やっただけだからあんまり内容は覚えてない」

男「ほら。コントローラーの先っちょにセンサーついてるから、画面に向けて」

男「ゲームスタートの所にカーソル合わせてAボタン」

幼馴染「…!」フルフル

男「なぁにぃー? お前びびってんのー? ナツキちゃんびびってんのーー?」

幼馴染「いやっ…そういうわけじゃないケド」

テレビの灯りに映しだされたナツキの顔はあきらかにひきつっていて、誰がどうみてもビビっていた。
さきまであぐらをかいてどっしりと座っていたのに、なぜかいまは座り直してぴっちり膝を閉じてあひる座りしているのも滑稽だ。

男「とりあえずやってみようぜ。おもしろさは保証するからさ」

幼馴染「う、うん…」


男「カーソルぷるぷるしてるぞ」

幼馴染「うるさいなぁ」

男「スタート」

オープニング映像とともにゲームがはじまった。
プレイヤーは廃村に迷い込んだ主人公になって、薄暗い林の中を懐中電灯一本を頼りに進んでいく。

幼馴染「あぁぁぁ…歩く音がリアルすぎるよぅ」

枯れ葉を踏みしめる音や、木々のざわめき、音響に定評がある。
数歩歩くたびにゲーム内で左右をキョロキョロと見渡して、恐る恐る前に進む。

幼馴染「怖いよ…ほんとにボクが歩いてるみたい…」

幼馴染「ひゃっ、いまなんかいなかった?」

男「鳥」

幼馴染「……この声なに…」

男「カエル」

幼馴染「…お化け、いるの…? どこ…」

このように細かい演出で没入感を増すようにリアルにつくられているのがホラーゲームファンにウケている。
真っ暗な部屋で遊ぶのが醍醐味だ。


幼馴染「ここまっすぐ…?」

男「…」

幼馴染「違うの? まっすぐでいいの…? わかんない」

男「…」

幼馴染「えーなんで何も言ってくれないの…」

幼馴染「ここまっすぐで合ってる? いきなり死んだりしない?」

男「なぁ探索ゲームなのに答えおしえちゃっていいのか? あちこちさまよって探すのもゲームの楽しみの一つだぞ?」

幼馴染「いいよぉ…だってボクゲームあんま得意じゃないもん」

男「見ろよ背景よく出来てるだろ? 蜘蛛の巣すげぇリアル」

男「懐中電灯で照らしていろいろ観察するのが楽しいんだよ」

幼馴染「そういうのいいってばぁ…」

男「じゃあその民家入って」

幼馴染「えーー。やだよ…」

男「そこ進まないと次行けない」

幼馴染「うーー…あーやだ、開けたくない。ほんとやだ。許して~~~」


もうすぐ霊との初遭遇になる。
最初の霊は好戦的ではなく、こっちの目の前を横切り、あとはただジーっと恨めしそうに見つめているだけだ。
プレイヤーはその男性の霊の側まで自ら歩み寄り、彼のつぶやく言葉を聞き取らなければならない。
それをヒントに屋根裏部屋への階段を見つけ出し、隠された手記を探しだす。

だがその手記を手に入れると…。


ナツキが意を決して民家の戸をあける。
なぜか片手を顔の前にもってきて、片目を隠すようにテレビと距離をとっている。


カチャ…キィ…


幼馴染「…うわぁ…ボロボロ…」

幼馴染「外より暗い…」

幼馴染「こんにちは…おじゃまします…」

幼馴染「誰もいませんか…入っていいですか…」

俺はつい吹き出しそうになった。
どこまでこいつは感情移入しているのか、何度か挨拶して返事がないことを確かめるとようやく室内の探索をはじめた。

男(あくまでゲームだぞナツキ! がんばれ)


幼馴染「ええっと…」

幼馴染「なんも調べられそうなとこない…」

ナツキは恐る恐る1階の部屋を調べていく。
1階の一番奥の部屋を調べ終えるとフラグが立ち、居間に幽霊が現れるのだが、
ナツキはゲームに疎いので、どういう行動を取ればゲームが進展するのかあまり検討がついていないようだ。

かれこれ3度も同じタンスを開いてやっぱりないなぁなどと言ってトンチンカンな行動をとり続けている。
あげくの果てにはなにもないと言い切り、家から出ていこうとする。



男(鈍いやつのプレイみてるとイライラしてくるな…)

男(まだ調べてない部屋あるだろ!)

幼馴染「何もなかったよぉ…ちがうんじゃないの…」

男「ナツキ、民家の中全部見て回ったか」

幼馴染「えーー? たぶん」

男「一応風呂やトイレもあるんだぞあの家、あと奥に寝室」

幼馴染「あー。そっか…見逃してた。でもまた入るの嫌だなぁ…」

男「ちなみに俺とユウジはここまで十分もかからなかった。お前はもう三十分以上経つぞ」

幼馴染「むぐ…」

幼馴染「しかたないなぁ…ていうか幽霊でないじゃん」

幼馴染「ほんとに怖いのかなぁ?」

幼馴染「気味がわるいだけで、怖いという感じではないんだけど……」

男(最初めちゃくちゃびびってたくせに)

だんだんナツキは余裕をぶっこきはじめる。
これが罠だ。
プレイヤーがだんだん操作に慣れてきて、なんだこのゲーム実は怖くないんじゃないかと高をくくるタイミングで恐怖が訪れる。


幼馴染「ここトイレだよね。うわ古っ、和式じゃん」

幼馴染「…アッキーの家のトイレっぽいね」

男「うるせえこんな汚くねぇよ」

幼馴染「お風呂は…っと、うーんなんもない…」

男「じゃあ後一部屋だな。って教えちゃってるじゃん」

幼馴染「いいじゃんいいじゃん。協力してプレイしよ」

男「俺クリア済みです…」


それから奥の部屋になにもないことを確認する。

幼馴染「あれぇなーんもないよ…? ほんとにここ最初に来る場所であってたの?」

男「そうだなー。じゃあ戻るかー」

男(よし、振り返れ)

幼馴染「うん、そうし―――ふぎゃああっ!」

振り返ると視界を一瞬青白い影が横切った。
その影はふらふらと室内を漂い、最終的に入り口近くに立ち尽くす。

男(わかってたのにちょっとビビった)

幼馴染「あ…あ…アレ……いま…青い影が…ぁぁ、ぁ…」

幼馴染「アッキーも見えてる…? いまね、一瞬青い影が…ボクの前に…」

幼馴染「見た? ボク霊感つよいから…」

男(これはゲームだぞナツキ!)


幼馴染「ゆ、幽霊…かな? こっち見てる…」

幼馴染「え~~、なにあの人…こっち見てるって…」

幼馴染「…帰れっていってるのかな? 勝手に入ったからかな…もうやだぁ…」

男「わかったわかったから操作しろ」

幼馴染「ちょ…そこにずっといたら…ボク帰れないんだけど…」

男「帰らせないために塞いでるんじゃないのか」

幼馴染「早くどっかいってくれないかなぁ…」

男「……」

ナツキは霊と一定の距離を保ったままうろうろする。
時々青い姿が視界に入ってしまい、キャッと小さく悲鳴をあげる。

もちろんその行動では何もフラグは発生せずゲームは進展しない。
近づかなければならないのだ。
実に察しが悪い。


男(だめだこいつ向いてないわ…)

ナツキのおもしろい反応でも見ようかとはじめたことだが、1時間足らず見ているだけの俺のイライラはピークを迎えそうだ。
しかし幽霊に会釈したり恐る恐る声をかけたりするナツキのバカな姿はすこしだけ可愛く思えた。

幼馴染「キミどうして死んじゃったの?」

幼馴染「なんかやなことあったのかなぁ……」

男(だからゲームだってば)

男「ちゃんと相手の話を聞くならもっと近づいたほうがいいんじゃないか」

幼馴染「う、うん…」


幽霊に近づくと、コントローラーについたスピーカー部から霊がしゃべる声が流れる仕組みになっている。

幼馴染「ひゃあっ!」

案の定ナツキが飛び上がるように驚き、固まってしまった。

幼馴染「……あ、あ…」

男「大丈夫。そういうゲームってだけだから」

男「コントローラーに耳あてて聞いてみ」


幼馴染「……。あ…風呂の天井っていってる!」

幼馴染「…ねぇ聞いた? お風呂の天井になにかありそう!」

男「ようやく進展したか」

幼馴染「お風呂こっちだよね…」

幼馴染「ええと…あーここの天井の蓋開きそう」

男「いいぞ」

幼馴染「部屋があるよ。なんで? こんな蓋一枚じゃこの部屋湿気るよ」

男(それは知らん)

幼馴染「んと…暗いなぁ…」

幼馴染「日記帳みたいなの置いてある」

幼馴染「これかな!」

ナツキはゲーム攻略の鍵となる手記をようやく見つけた。
しかしそれと同時に屋根裏部屋の奥から、髪の長い女がゆっくりと浮かび上がる、

幼馴染「え…」


そしてその女は恐ろしい形相でプレイヤーめがけて這うように迫ってきた。

幼馴染「あああーーっ!!!!」

幼馴染「いや~~~っ!!!」ガバッ

男「おわっ」


ナツキはゲーム内で逃走することを忘れて、コントローラーを放り投げて俺の胸元に抱きついてきた。
むにゅりとしたやわらかい感触。
突然目の前にナツキの頭が現れたこの状況に俺は一瞬混乱した。

男「なっ、ナツキ…!」

幼馴染「ああああっ~~っ! あああっーー!」

顔をうずめたままテレビ画面を指さしてナツキは泣き叫ぶ。

男「おいうるさいって…てか逃げなきゃやられるぞ」

幼馴染「あ゙ーーもう無理ぃーー!!」

男「まだ一章だぞっ、おいナツキっ」

結局逃げることもなくプレイヤーは霊に追いつかれてGAMEOVER。
タイトル画面に強制的に戻されたゲームを俺はそっと消す。
心臓がばくばくとうるさい。


幼馴染「……ゔっ、う…」

男「電気つけるから、ちょっと離れてくれるか」

幼馴染「うっ…うう…」

男「悪かったって。こんなにビビると思わなかったんだよ」

幼馴染「…ぐす」


男「お前ならケラケラ笑いながら遊ぶかとおもったのに…」

予想を遥かに超えてナツキは怖がっていた。
長年一緒に過ごしてきたが、ここまで怖がりだとは思わなかった。
いまだすすり泣く声が聞こえ、ぎゅうっと背中にまわされた腕の力が弱まることはない。
ナツキの体温が伝わって、体がのぼせたように熱くなってくる。

男「ごめん」

幼馴染「…うう…うう…」

男「まじごめん」

幼馴染「ボクもごめん」

男「なんでお前があやまるんだよ」

幼馴染「ぐす…鼻水ついちゃった。だから…顔あげたくない…」

男「……そのまま俺のシャツで拭いていいから。どうせ洗濯するし…」

男「とりあえず立っていいか。いつまでも暗い部屋にいないで電気つけようぜ」

目の前の黒髪を2,3回撫でた。
頭はやや汗ばんでいて、撫でるとふんわりとナツキの匂いがした。

幼馴染「ゔん……ずぴっ」


部屋が明るさを取り戻す。
ナツキはティッシュで鼻と目元をぬぐいながらバツの悪そうな顔をしていた。

幼馴染「びっくりした」

男「俺もびっくりした…ゲームよりびっくりした…」

幼馴染「ごめんね急にだきついちゃって」


幼馴染「……」

ナツキは座り込んだまま何も話さない。
これまでナツキと会話がなくなっても気まずいと思ったことはあまりなかったのだが、いまは妙に空気が重い。

男「…お互い変な汗かいちゃっただろな」

幼馴染「…うん」

ナツキが抱きついてきた時の匂いが蘇る。
確かにあのとき、すごく女の子の甘酸っぱい匂いがした。
ナツキの汗の匂いは俺は昔から結構好きかもしれない。


男「風呂沸いてるから先に入ってこいよ」

幼馴染「……やだ」

男「俺が先でいいのか?」

幼馴染「だめ」

ナツキは立ち上がろうとした俺のジャージをぎゅっと掴んで制止した。

男「なんだよ…」

幼馴染「アッキーの家のお風呂……ボク怖くてひとりで入れない…」

男「………へ?」

幼馴染「だ、だって! あんな怖い思いしたあとに、ここのおんぼろのお風呂だよ!?」

幼馴染「絶対お化けでるじゃん!」

男「出ないって…ゲームと現実ごちゃまぜにするなよ」


幼馴染「やだボクお風呂入らないっ」

男「あっそ。じゃあ俺入ってくるから」

幼馴染「…」ガシ

男「なん…なんだよ…」

幼馴染「こんな広い家にひとりにしないでよぉ……」

男(こいつは……)

なんとも情けない。
それとも俺が慣れてしまっているだけで、我が家はそんなに薄気味悪くて怖いのだろうか。
確かにいわれてみれば、使っていない部屋や納屋の寂れ具合はあのゲームに登場してもおかしくない。


男「じゃあどうしろっていうんだよ。夏場に風呂入らないなんて俺絶対嫌だからな」

男「お前もだぞ。汗だくなままでうちの布団で寝るなよな」

幼馴染「……ぃ、いっしょに…」

幼馴染「一緒に入って…ボクと…」

男「…」

耳を疑った。
ナツキはかすれそうなほど小さな声をふりしぼって一緒に入ってと言った。
幼馴染とはいえ年頃の男女が一緒に風呂なんて発想は普通は無い。
しかしナツキはそうしなければならない程、俺にすがりつくしかない程に精神的に追いつめられているようだ。

そうしてしまった原因はもちろん俺だ。
俺としては悪ふざけのつもりは一切なく、純粋にゲームを遊びたかっただけだが、ナツキの怖がり方があまりに誤算だった。


男「あのなぁ…俺とお前何歳だよ…ありえないだろ」

幼馴染「うん…だよね…」

男「却下」

幼馴染「…」シュン

男「ていうか恥ずかしくないのかよ」

幼馴染「恥ずかしいけど…、どうせ夕方にアッキーに見られちゃったもん」

男「ゔ…」

唐突にグサリと胸に杭が打ち込まれる。
数時間前のことなので、まだしっかりと覚えていたようだ。

幼馴染「い、いやだよね…ボクとお風呂なんていまさら」

幼馴染「最後に一緒に入ったの…ちっちゃい頃だもんね…」

男「いやじゃねーけど…」

幼馴染「ほんと…?」

男「あっ…」

つい本音が漏れてしまった。
恥ずかしいことを除けば、ナツキと風呂に入るのはそこまで嫌じゃない。
しかしそれ以上に後ろめたさがあった。


男(幼馴染の成長した裸を見ちゃっていいのか?)

男(俺たちは裸のお付き合いをするような関係なのか!?)

幼馴染「ボク、今日買った水着きる…それで入る」

幼馴染「だから一緒に入ってほしいなぁ…ダメ?」

男「あ…それならいいか」


よくない気もするがナツキとの長い一日は続く。


第四話<お泊り>つづく

 

更新終わり
次回第四話<お泊り>④(終) 半分できてるので明日か明後日予定

第四話<お泊り>つづき




  ・  ・  ・




男「じゃ俺先入るから、お前も水着に着替えたら入ってこいよ」

幼馴染「うん」

シャワーでさっと身体を流し、湯船に浸かって待つ。

浴室ドアに映るナツキのぼやけたシルエット。
いままさに服を脱いで水着へと着替えている様子が影となってはっきりとわかる。

男(我慢できっかなー…)

心配なのは自分の下半身だった。
本当は海パンを部屋までとりにいきたかったが、怖がるナツキを一人にすることが躊躇われたので、結局諦めていまはタオル一枚巻いているだけだ。
隆起してしまったらごまかしようもない。
まさかナツキ相手に反応はしないだろうとおもっていたが、さきほど抱き付かれた時は理性を保つのがぎりぎりだった。

そして悶々とした気持ちで待っているとようやく二つ折りのドアがカタカタと開かれる。


幼馴染「あ…もうつかってるー」

男「俺は水着きてないからな」

幼馴染「えへへ、大丈夫見ないから。だからボクのこともジロジロみないでね」

男「入浴剤いれたからみえねーよ」


幼馴染「……」キョロキョロ

男「なにも出ないって。ゲームだろゲーム」

幼馴染「でも、水場には霊が集まるってよく言うし…」

男「お前そんなオカルト信じてるのかよ」

幼馴染「アッキーの家古いから、いっぱい住み着いていそう…」

男「…失礼な。早くシャワー浴びたら」

幼馴染「…う、うん…」

水着姿のナツキが椅子に腰掛けて蛇口をひねる。
うちのシャワーの水栓はレバー1つでお手軽にお湯を出せる混合水栓タイプではない。
古い銭湯にありがちな、水と熱湯の栓を2つ同時にひねって自分で温度を調節する昔ながらの物だ。
ちょうどいい温度にするにはすこしだけコツがいる。


幼馴染「んー…」

男「お前シャワー浴びるときやってんじゃないのか」

幼馴染「いつも水だよ」

男「そういえばあの時冷たかったな」

幼馴染「~~~っ! お、おもいだしちゃだめ! また水かけちゃうよ」

男「あ、あぁ悪い……」

幼馴染「ねー、これどうやっても熱くなりすぎるんだけど…昔は出来たのになぁ…」キュッ キュッ


苦戦してようやくナツキはぬるま湯を浴びて身体を流すことに成功した。
そしていよいよ湯船の縁へと脚をかける。
水に濡れたむき出しのむっちりしたふとももがいやらしい。


幼馴染「いいの?」

男「おう…入れよ」

ナツキが湯船にゆっくり入ってきた。
2人分の体積でお湯が大量にあふれて排水口へと流れていく。

幼馴染「わはー…! もったいなー」

男「……」

幼馴染「みてー…すっごいあふれる」

男(水着だから大丈夫水着だから大丈夫水着だから―――)

幼馴染「…?」

目の前にいる女はただの幼馴染だと自分に言い聞かせて、俺はそっぽを向いた。
夕方にみた衝撃的な姿がどうしても脳裏に蘇ってしまう。

幼馴染「なーんか狭いね」

男「…当たり前だろ。ガキじゃねぇんだから」

幼馴染「足のばせない」

男「文句言うなよ」


幼馴染「…えへへ。懐かしくてなんか嬉しくなっちゃった」

男「あ、そう」

幼馴染「……むぅ。えい」パシャッ

男「…っ。なにすんだよ」

幼馴染「なんでそんなにふてくされてるの」

幼馴染「ボクやっぱり迷惑だった? そんなに一緒に入るの嫌?」

男「ち、ちが……わかんねぇかなぁお前…」

幼馴染「…?」

男「照れくさいからに決まってるだろ!」

手の平で濁り湯を掬い、ナツキの顔面にお返しする。

幼馴染「わぷっ…やったなぁ」

男「お前が先にしかけてきたんだろ」

幼馴染「…せっかく久しぶりなんだし、勝負する?」

男「溺れさせてやる」

幼いころ一緒に風呂に入った時によくやっていたどちらかがギブアップするまで続くお湯のぶっかけあい。
騒ぐたびに、母さんが飛んできて「お湯がなくなるでしょ!」とよく雷が落ちたものだ。

成長して大きくなった手で繰り広げられる戦いは以前とは比べ物にならない程激しかった。。

 



男「げほっ、げほ…鼻入った。タンマ」

幼馴染「はいタンマしたからボクの勝ちー!」

男「手加減…してやったんだよ!」

本音を語ると、ナツキが水を飛ばすたびに水面で跳ねる胸元や、つるつるで綺麗なわきに目を奪われていた。
そんなに暴れたらポロリしてしまうのではないかと気が気でなかった。

男(いくらうちが広い湯船でも、これをするには流石にもう狭いな…今後はやめておこう)

またナツキと入る機会があるかは不明だ。おそらくないだろう。

幼馴染「ふー、そろそろ体あらってシャンプーしよ」

幼馴染「負け犬さんお先にどうぞ」

男「…いやお前が先でいいぞ」

幼馴染「なんでー」

男「客だから。なにごとの優先させるのがうちのしきたり」

幼馴染「へー。はじめて聞いた」

男(お前のせいで上がれないんだよ!)

濁り湯の入浴剤がなければ一発で気づかれるほど、俺の本能は荒ぶっていた。
ナツキ相手にどうしてという困惑と、敗北感が渦巻いている。

考えてみれば、いくらナツキが色気のない性格であっても、体つきは立派な女子校生だ。
お互いほとんど裸のような格好で、肌のふれあいそうな距離にいたらこうもなってしまうのは自然なことだった。 


洗い場でナツキが石鹸をスポンジネットでくるんで泡立てている。
みるみるうちにふわふわの泡だらけになり、それを身体にまとってゆっくりと手足をこすり始めた。

幼馴染「~♪゙ ~♪゙」

男(へったくそな鼻歌。つうか体から洗うのかよ。普通頭だろ)

幼馴染「~♪゙  あ……!」

男「何だよ。べ、別に見てないからな」

幼馴染「違うよ~、ここハンドタオルないの?」

男「は?」

幼馴染「ボク背中、タオルないと洗えない」

男「あ、あーー…手で洗えば?」

幼馴染「うーん…肩痛めてから後ろうまく届かなくなっちゃって…」

男「…そうか。すまんタオルは水カビ臭くなるから風呂場には置いてない…」

男「お前の分も持って入ったらよかったな」

幼馴染「ならしかたないかー」

ナツキはリトルリーグ時代ピッチャーとして活躍しすぎて、肩を壊した。
それがきっかけで大好きな野球を続けることが出来なくなった。
最近は少ない球数限定で普通にキャッチボールをしているから、とくに大きな心配はしていなかったのだが、
怪我はおもわぬ形で後遺症となっていたようだ。


男(ナツキをとめてやれなかったのは俺の責任だ……)

幼馴染「背中ながしてー」

男「えぇ…」

男(とんでもないことをあっけらかんといいやがって)


幼馴染「だめ?」

男「…」

ナツキは一生懸命背中に手をのばしながらわずかに顔をしかめる。
肩関節の可動域がせまくなって、無理に伸ばすと痛みが走るのかもしれない。

男「む、無理すんな!」

勢いよく湯船から上がった俺は、ナツキの背後に膝を立てて座る。
背中越しにスポンジネットをうけとって、すくった泡をゆっくりと綺麗な背中にふわりと乗せた。
大きな泡の塊が重力に従って、ずりずりと背中のラインを滑り落ちていく。
やがてビキニパンツとお尻の隙間にすぅっと溶けるように入り込んでいった。


幼馴染「うひっ。変なとこはさわらないでね?」

男「泡のっけただけだろ。お前こそ変な声はだすなよ!!!」

幼馴染「ご、ごめ…。えへへ」


試着室で見た背中にすらドキッとしたのに、それがいま濡れたことにより艶めかしさを遥かに増して目の前にある。
ナツキは異性に対しての警戒心を持っていないのだろうか。
俺が欲望のままに腕をのばせば、背中だけでなく胸や脚、ナツキの大事な部分にだって触れることができる。


幼馴染「…アッキー? どうしたのー」

ナツキが早く早くと体を揺らし、それに伴って目の前でぷらぷらとビキニ紐の結び目が左右に振れる。
この結び目を説いてしまえば、ナツキは簡単にむき出しになってしまう。


男(俺男なんだからな…お前無防備すぎるぞ)

相手に信頼されているという心地よさとは裏腹に、全く男扱いされていないのではという不安がよぎった。

男「ほんとに洗うからな。後悔すんなよ」

幼馴染「いいよーはやくして」

 
いよいよ手のひらでナツキの素肌に触れる。
腕をつかんだり肩をタップしたり尻を蹴ったりというボディタッチはたまにあるが、
こうして手のひらでじっくりと触れる機会などない。

男(別にやましいことなんてない…身体あらうだけなんだから)

しかし俺は男で、目の前の幼馴染は女。
それも一般的にみて可愛い部類……だと思う。

男(昔から人気あるもんな。うん…)

肌はこんなにつやつやですべすべで、水を弾く張りがある。
こんな危険なものを直接触っていてはあっというまに理性が限界を迎えそうだ。

細い背中を撫でるように全体に泡を行き届かせる。

幼馴染「んひっ」

男「変な声ださないって約束したよな?」

幼馴染「うひっ、あはは、なんか…っ、思ったよりくすぐったいから……ねー」

男「こっちみるな!」

振り返ろうとしたナツキの後頭部をつかんで強引に前を向かせる。
俺のいまの姿を見られるわけにはいかない。

俺は深呼吸を繰り返しながら、無心でナツキの背中を洗い続けた。


幼馴染「ん…ん…?」

幼馴染「あのさアッキー、背中の紐邪魔なら外していいよ…?」

男「え」

幼馴染「さっきから何回かひっかかってるでしょ」

男「いや…そんなことないけど」

幼馴染「ボク前おさえてるから大丈夫!」



男「…」

思わず生唾を飲み込んだ。

男(なにをしていいって?)

男(これか? これをほどいていいのか?)

それは魅力的な提案だった。

幼馴染「………と、とらないならいいけど」

男「わかった。とる」

一生に一度あるかないかの機会だ。
俺はためらいなく目の前に垂れ下がる結び目に指をかけて、ひっぱった。
するするりと紐が解かれて、左右にわかれる。

幼馴染「はうっ」

はらりと紐が垂れ下がると同時に、ナツキは胸をかばいながら少し前かがみに背中を丸める。
丸まった背中からわずかに背骨が浮き出ている。
ナツキのしぐさも相まって先よりもずっといやらしく見えた。


男「ほんとにほどいてよかったのか」

幼馴染「い、いいから…ボクがイイって言ってんだからいいの!」

男「あ、そう」

ペタッ

幼馴染「あぁぅ…んぅ…」

スリスリ…

男「つーかもうだいたい洗えてるんだけどな」

男「こんないつまでも背中洗う意味あんのかよ」

幼馴染「だっていつもはボク、タオルでゴシゴシするから、泡だけじゃすっきりしないんだもん」

男「じゃあもうちょい強めに? あんまりこするのは肌によくないんだけどな」

ごしごし

幼馴染「…っ、あぁ…うぅん…くすぐったい」

ナツキの肌はすべすべでもちもちだった。
このままずっと触っていたいと思った。
背中だけでなく、もっといろんな場所に触ってみたい。
ナツキがどんな反応をするのか、いちいち確認したい。

叶わない欲望を押しとどめて俺は洗い続ける。

 


 

  ・    ・    ・



幼馴染「ありがとー。すっきりした」

男(よく耐えた。俺偉い…)

幼馴染「じゃあ交代!?」

男「え…」

幼馴染「ボクも背中ながしたーい」

男「…まじ?」

幼馴染「? 洗ってもらったお返しにね♪ 一緒にお風呂の醍醐味じゃん」

男「…」

幼馴染「ていうか最初からアッキーがそのタオル貸してくれたらこんなことしなかったんだけど」

男「これはいま俺にとって水着代わりだからだめです」

幼馴染「…ねー反対むいてよ。はーやーくー」

男「…おう」

男(もうどうにでもなれ)


ナツキのテンションに流されるがままに俺はくるりと背を向ける。
目の前の鏡には股間でタオルをふくらませる自身の情けない姿が映った。

一方でナツキの姿は俺の体に隠れてしまってほとんどみることができない。

幼馴染「ちょっとそのまま待っててね。すぐだから」

男「?」

幼馴染「んしょ」

鏡に映る俺の身体の背後から、焦げた腕が真横に伸びる。
手になにか持っている。布だ。
ナツキはカラフルな布を浴槽のふちにひらりと掛けた。

男(お、おいおい…)

くもりかけた鏡でもはっきりと分かる。
それは間違いなく、さきほど俺が紐を解いてやった水着だった。

 


男(脱いでしまったのか!? バカなのか!?)

余談だがナツキはテストで80点以上をとったことがない。


幼馴染「そのままねー。振り向かないでね」

おそらくいまナツキは水着で覆われていた部位、胸と股間を洗っているのだろう。

男(そりゃ洗ってないもんな。洗うよな…)

幼馴染「はいオッケー。じゃあ背中洗うよー」

そして唐突にナツキの泡だらけの手がべしゃりと背に押し当てられ、上下に動き始めた。
こいつは間違いなくいましがた胸を洗った流れで俺の背中を洗っている。
鏡の隅を確認すると、水着はいまだにそこに掛けられたままだった。

男(ぜ、全裸……?)

男(こいつ…恥ずかしくないのか?)

ナツキの無防備さに軽くめまいがする。

男(夕方はあんなに怒っていたのに。いまはお互い裸だからセーフ?)

男(わからねぇ…こいつがわからない)


幼馴染「アッキー背中ひろいねー」

男「いや…な、ナツキ…あの、お前いま」

幼馴染「…んぅ? なに?」

幼馴染「あ、絶対振り返っちゃダメだよ! えへへ。ごしごし」

男「わかってるっ」

おそらくナツキは水着を脱いだことが俺に気づかれていないと思っている。
だらりとかけられた水着が鏡にばっちり映り込んでいることなど露知らずなのだろう。



幼馴染「ごしごし」

幼馴染「強さこんなもん?」

男「あぁ…適当でいいんだぞ。物足りなかった自分で洗うし」

幼馴染「わざわざ一緒に入ってもらったお礼だからー。これくらいかなー」

ナツキの手の平が思った以上にやわらかい。
何度も血豆をつぶしているはずなのに、俺とのこの差はなんなのだろうか。


男「そんなお礼いらないんだけどな」

俺の中では悶々とした気持ちが激しさを増していた。
いま真後ろでナツキは一糸まとわぬ素っ裸で俺の背中を洗っている。
だが肝心のその姿は鏡に映ることはなく、俺の自身の体によって遮られてしまっているのがもどかしい。

振り返るなり、体をずらすなりすれば、簡単に見ることはできる。
しかしナツキは俺に全幅の信頼を寄せるからこそ、いつも無防備で無邪気でいられる。

一過性の欲求でそんなナツキを裏切ることはできない。


男(だけどこんなの生殺しだろ…)

男(お前は悪魔なのか?)

幼馴染「ごしごし。かゆいところはー…ってそれは頭あらうときかーー」

幼馴染「あったら言ってねー」

必死に目をつぶってもナツキの妙に優しい手つきの感触が襲ってくる。
明るくて楽しそうな声が洗い場に響く。
脳裏に一瞬焼き付いた夕方の光景がフラッシュバックする。

男(なんでお前は追い詰める…。なんか悪いことしたか)


からかわれてるだけならいくらかマシだ。
ナツキの場合はそうではないのだろう。
天然なのか底なしのアホなのか。あるいはその両方か。
ナツキは頼んでもないのに脇腹や脇の下をさすったり、尻の上の方まで手を滑らせて俺の体を洗い続けた。

男「……」

幼馴染「~♪゙ ~♪゙」

これってカップルでやることなんじゃないのか等と疑問に思いながら、
小さな手で身体をなでられるくすぐったさと気持ちよさに俺はしばらく酔いしれた。


幼馴染「はいおしまい♪」ペチン

男「…ッ」

男「どーも。すっきりしたよ」

幼馴染「あ、まだ振り向かないでね。ボクがいいっていうまで! 絶対にね!」


無闇に指摘して、ナツキを恥ずかしがらせる必要はない。
俺はあたかも気づいてない振りをして、ナツキが水着を再び着用するのを座して待つのみだ。

男「わかってるから。早く頭洗ってあがろうぜ」

幼馴染「うん!」

だがナツキの天然っぷりは俺の予測を遥かにうわまわっていた。

幼馴染「じゃあついでに頭も洗ってあげるね。くふふ」

男「え、いや…頭ってのは俺のことじゃなくて…」

男「あっ、ばかっ、立つな!」

おそかった。
ナツキはシャンプーボトルを手に、立ち上がってしまった。

鏡に映る俺の頭上に突如現れたナツキの上半身。
日焼けしていない張りのある白い胸。
流れかけの泡をわずかにまとってテラテラと艶めかしく光っている。
もちろんなにも隠すものはないので、胸の先端にある血色の良いピンク色の突起までばっちり映ってしまった。



男「おそかったか…」

幼馴染「……? あ…」

そしてナツキはここでようやく鏡の存在に気づいたようだ。

幼馴染「あれ……?」

鏡ごしに裸の少女と目があう。
まんまるな目をパチクリとさせて、口がぽかんと開かれている。
状況を理解して、あどけない顔があっというまに羞恥に染まっていく。


幼馴染「あ…あ……」

男(やばい…叫ばないで…)

俺は諦念しつつも、見てないですと精一杯首を振る。

幼馴染「~~~~っ!!?」

その後、言葉にならない叫び声とともにシャンプーボトルが頭上から勢いよく俺の頭めがけて振り下ろされた。



  ・    ・    ・



男「俺が悪いのか?」

幼馴染「むーーーっ」ブクブクブク

男「すいません……」

幼馴染「む~~~~っ!!」ブクブクブク

男(今日はなんて日だ…)

幼馴染(また見られちゃった…ボクもうお嫁にいけないじゃん…)




第四話<お泊り>つづく

  

更新終わり
次回第四話<お泊り>⑤(終)
明日か明後日予定

明日になりますスマソ

第四話<お泊り>つづき



風呂あがり、ナツキは頭をタオルでわしゃわしゃと拭きながらバラエティ番組を見ていた。
何か飲むかと呼びかけても反応はなく、ずっと画面に向かったまま黙りこくっている。

男(いくらなんでもあれはショックだったか)

ナツキのあられもない姿を見てしまった。
いつもの際どい姿ではなく、何も隠すもののない丸出しのヌードだ。
思い出そうとすると殴られた後頭部が痛む。


男(胸綺麗だったなー…)

男(って…俺最悪だな…)

男「おーいナツキ…長風呂したんだから水分とれよ」

男「聞いてんのかー」

幼馴染「……むぅ」

男「俺が悪かったから。そんなに怒るなよ」

幼馴染「……むー」

男「一緒に入った時点でああなる可能性はあっただろ…」

男「お前もそれをわかった上で、俺を誘ったんじゃないのか」

幼馴染「つーん」

男「つーんじゃなくて…」


幼馴染「元はといえばアッキーがあんな怖いゲームさせるからだもん」

男「ぐ…」

俺に非があったのは間違いない。
真っ暗な部屋で、仮にも女の子にやらせるゲームではなかった。
ナツキのメンタルが思ったより軟弱だったのも誤算だった。

男(マウンドでは強気なくせに…)

男(意外とギャップのあるやつなんだな)


長年幼馴染をしていても、いつもすることが同じではお互いの本当の内面は見えてこない。
今日は普段やらないようなことにたくさん挑戦した。
だから、ナツキのいろんな一面を見た気がする。

男(…のはいいんだけど、機嫌が戻らないのは厄介だな)

後ろ姿はあからさまに不機嫌なオーラを放っている。
急に泊まることになったナツキは替えの服を持っておらず、風呂あがりは俺が貸したぶかぶかのシャツを羽織っている。
姉の寝間着を借りてもよかったが、勝手に部屋に侵入してタンスをひっかきまわす勇気はなかった。

男(こうしてみてるとノーパンみたいでちょっとエロいな)

男(あー違うっ、俺がこんな目でナツキをみてるからきっとあいつは怒ってんだ)

男(いつも通りをこころがければいいんだ)


男「ナツキー…ゲームしようぜ」

幼馴染「……やだ」

男「怖いやつじゃないから…」

幼馴染「やだ」

ナツキはこちらに振り返ろうともせず、テレビのザッピングを始める。


男(こうなったら切り札だ)

男「あー、そういえば冷凍庫に1つだけアレがあったなぁ」

幼馴染「…!」ピク

男(この反応…おそらく知ってるなこいつ)

男「あれぇ、なかったっけなぁ。もう食っちゃったんだっけなぁ」

幼馴染「…」ソワソワ

俺のわざとらしい独り言にナツキは露骨に反応して、こちらの様子をチラチラと伺いはじめた。

男(わかりやすいやつ)

そう、いま我が家の冷蔵庫には一つだけ、買い置きしていた高級カップアイスがある。
俺と姉の好物で、ナツキも大好きな抹茶味だ。
いつもナツキの食べているシロクマバーなんて目じゃないくらい高い。

ナツキはここ数日散々うちの冷蔵庫を荒らしまわったのだから、必ず見つけているはず。
見つけてもほしいほしいと言い出さなかったのは、これが俺にとって大切なデザートだとわかっていたからだろう。

 

 
男「おーあったあった。まだ食ってなかったかー」

ナツキの様子伺う。。
一瞬目が合うと、慌ててテレビのほうに向き直した。


男(そりゃほしいよなー)

男「お前の麦茶ここにおいてるからな!」

幼馴染「……ぅ~~」

男「あぁかき氷したかったらしてもいいぞ。氷つくってあるから」

幼馴染「…う~~」

男「さて、風呂あがりのお楽しみといったらこれだよな~♪」

幼馴染「うううう!」

カップアイスのいかにも高級そうなプラスチックの蓋をあけて、さらにその下でしっかりと封をしてあるビニール製の蓋を剥がす。
裏側にはアイスが薄く付着していた。

男(あいつだったら全部舐めそうだな)


男「カチカチだなぁ。もうちょっと溶けるまでまつかなー。うまそー」

本当にうまそうだ。一度に2個食べても飽きないうまさだ。
当初の予定ではナツキを釣りだす餌にするはずが、すこしだけ勿体無く思えてくる。


幼馴染「あっ、あっ…」

男「何」

幼馴染「ボクの……ぶんは…」

男「え、これ一個だけど? お前が泊まりにくるなんてしらねーし」

幼馴染「…夕方買い物いったのに」

男「これ買ったの結構前でな。さっきたまたま残ってるの思い出したんだよ」


幼馴染「…」

男「何。ほしいの」

幼馴染「…」コク

男「夕方あんなにかき氷くったのにまだ甘いもん食うの」

幼馴染「…」コク

男「じゃあ機嫌なおしてくれるか?」

幼馴染「うんうん! もう忘れた!」

男「ならしかたないなー。ほら」


ナツキの側に寄ってカップアイスとスプーンを手渡す。
ナツキはご褒美をもらう子供のような晴れやかな笑顔でうけとった。


幼馴染「おー、カチカチ」ツンツン

幼馴染「全部くれるの?」

男「いいよ。俺はまた今度買うから」

幼馴染「ありがと~♥」

これ一つで機嫌が元通りになるなら安いものだと思うが、この程度で懐柔されるうら若き乙女の存在に少し不安になった。

男(仮にもお前、裸みられて怒ってたんだぞ…)

男(知らない人にお菓子もらってもついていくなよ?)



何事も物で解決しようとするのはよくないことはわかっている。
きっと口の回る男なら言葉だけで女を上機嫌にできるのだろう。
口下手な俺にはそれが出来ない。

男(まぁいっか…)


幼馴染として、ナツキが笑顔でさえいてくれたらそれ以外はどうでもよかった。
俺がぶっきらぼうでガサツな事なんてナツキはとっくにわかっているだろうし、
いまさら女性を相手にするような気取った態度を取る必要もないのだろう。

いままでもこれからも俺たちの付き合い方がかわることはない。
ナツキと一緒にいると出費はかさむし、時には気疲れすることもある。
だけどそれ以上に楽しい。
だから楽しみにしていた抹茶アイスが食べられなくなっても、俺は今満足している。


男(それにしても甘やかしすぎかなぁ)

幼馴染「~♪ もうちょっとかなー」

ナツキはカップを手のひらでこねくり回しながら食べごろまで溶けるのを待っている。
頭を乾かしている途中であることなどすっかり忘れてしまったようだ。

 


男(どうせ甘やかすならもうこの際だ)

俺はナツキの背後にあぐらをかいて座り、首にかけてあるタオルをひったくった。

幼馴染「?」

男「頭拭いてやるから、食ってていいぞ」

幼馴染「え? ほんと? サービスいいね」

男「ゲストサービスだ」

幼馴染「くふふ。王様みたい」

男「いいから前向いてろ」

幼馴染「はぁい。よろしくー」

ナツキは俺の胸元に背をあずけるようにもたれかかってくる。
目の前の丸い頭からシャンプーの匂いが漂って鼻孔をくすぐる。
またも思いがけないナツキの行動に俺の心臓はついつい高鳴ってしまう。

男「おい…」

男「まっすぐ座ってろよ…」

幼馴染「…ん? だってこのほうが楽だもん。アッキーも拭きやすいでしょ」

ナツキは足を伸ばしてすっかりだらけきっている。

男「こら……しかたないな」

幼馴染「はむ……んー、冷たくて甘くておいしい」

男(これじゃ子供か妹を相手にしているようなもんだな)

余談だがナツキは夏うまれで俺は同年秋うまれ。
納得いかないがナツキのほうがわずかにお姉さんだ。


 




わしゃわしゃ

男「髪の毛ちょっと伸びてきたんじゃないか」

幼馴染「うーんそうだねー。暑いしもうそろそろ切ろっかなー」

幼馴染「あーでもまだダメ」

男「なんで。いつももっとさっぱりしてるだろ」

幼馴染「いいの。いまはボクこの長さが気に入ってるもん」

幼馴染「スポーツやってるわけでもないし、ちょっとくらいおしゃれしたっていいじゃん」

男「そうだけど」

幼馴染「短いほうが好き?」

男「好きっていうか……乾くのおもったより遅くてめんどくさくなってきた…」

わしゃわしゃ

幼馴染「あはは。最後までちゃんと拭いてね~、はむっ」

男「贅沢しやがって…」

アイスも髪の毛の件も俺自らすすんでやっておきながら、だんだんと恨めしい気持ちが沸いてくる。
他人の頭を拭くのは意外と重労働で、じんわりと全身に汗をかいてきた。
ナツキがもたれかかっているのも地味に暑い。


王様気分のナツキの手元のアイスを覗きこめば気づけばもう半分以上を平らげていた。
それとは別に、ぶかぶかでゆるい胸元から覗く二つの白い膨らみが目にとまった。
あきらかになにも付けていない。

男(なんでブラしてないんだ?)

男(あ……、洗濯機に入れてたっけ)

男(さすがに姉ちゃんから借りるわけにはいかないしなぁ…サイズ違うだろうし…)

男(あ゙ーー見てない見てない!)



俺は意識を必死に目の前の頭頂部に向ける。
それでも年頃のオスとしてのスケベ心はおさえきれず、視線はチラチラとナツキの胸元へと向かってしまう。

自然と風呂場での出来事が脳内をかけめぐる。
あのときのナツキの恥ずかしそうな顔は年に何度も見られるものじゃない。
うちにたくさんあるアルバムをどれだけめくっても、写真には残っていないだろう。
幼馴染の俺にとってもかなりのレア顔というやつだ。


幼馴染「手とまってるよー?」

男「あ、あぁ…ちょっとテレビ見てたんだよ!」

幼馴染「家来のくせにさぼるでない」

男「お前…してもらってる立場で文句いうな! このっ」

わしゃわしゃわしゃ!

幼馴染「えへへ。そんなにするのやーめーてーよー」

胸元を隠す様子はない。
ナツキはあまりにも無警戒無防備すぎて、わざとやっているんじゃないかと勘ぐってしまうほどだった。


男「よし、もうこんなもんでいいだろ」

ナツキの髪の毛を何度か手でさわって撫でる。
湿り気はあまり感じない。

幼馴染「おわった?」

男「んー、まぁいいんじゃないか」

男(こんな時間かかるならドライヤー使えばよかった…)


幼馴染「はい。おつかれさま」

幼馴染「そなたに褒美をとらせよう」

そういってナツキはスプーンをこちらに向かって突き出す。
先には溶け始めたアイスがたっぷりと乗っかっている。


 

 

男「え…なに、くれるの」

幼馴染「うん!」

男「……」

幼馴染「褒美じゃぞ~」

男(いやぁこれ…アレだよな)

ナツキはぐいぐいとスプーンを俺の口元へと持ってくる。
幼い頃から回し飲みや間接キスの類なんて二人の間で当たり前のようにしてきた。
意識なんてしてないはずなのに今日は妙に気恥ずかしい。

ナツキのぷるんとした唇につい視線が向かってしまう。

幼馴染「…?」

この唇でくわえて、やわらかそうな舌で何度も舐めたあとのスプーンを口に運ぶことがためらわれる。
おまけにこれは俗にいう『あーんしてあげる』という行為だ。
普通はカップル同士か、相当気を許した相手にしかできない。

男(お前さ、ほんとに俺のことどう思ってるんだ)

幼馴染「ほらほら~。はやくしないとボクが最後まで全部たべちゃうよ~。んあー」

男「わ、わかったよ」

意を決してスプーンにかぶりつく。
冷たくてとろける食感。
強烈な甘さの中にあるわずかな抹茶の渋み。


男「甘……」

幼馴染「でしょ? ごちそうさま~♪」

幼馴染「お母さん安いのばっかり買うからこれ滅多に食べられないんだよねー」

幼馴染「またボクが来る時に買っておいてね!」

男「……あぁ。って毎日来てんだろ!」

ナツキの本当の心のうちはわからない。
だけど俺達の間柄は決して悪くなく、むしろ良好だと思う。
何度喧嘩したって、不機嫌になったって時間が解決してくれて、またこうしてじゃれあうことができる。

冷たいアイスが喉を通って胃にすべりおちても、体温はちっとも下がらずにむしろ上昇していった。

男(暑い…エアコン買わなきゃな…)



   ・    ・    ・



幼馴染「ふあーー」

男「そろそろ寝る準備するか」

幼馴染「ボクどこで寝るのー。まだ別に眠くないけど…」

男「んーっと」

幼馴染「ボクの布団かわかないねー…どうしよ」

男「なら…俺の布団?」

幼馴染「わー大胆!」

男「一緒なわけねぇだろ! 貸してやるって言ってんの!」


幼馴染「えっへへ。じゃあアッキーはどこで寝るの?」

男「俺は親父の部屋で」

ガシ

男「…」

幼馴染「ここに居てクダサイ」

男「…怖いのか」

幼馴染「…!」コクコク

男「じゃあ俺は座布団敷いて寝るよ。夏場でよかった」

幼馴染「ごめんね。今日だけ布団借りるね」

男「あぁ。その代わりおねしょとかすんなよ」

幼馴染「す、するわけないじゃん! 何歳だとおもってんの」

男「とりあえず準備する…」



  ・   ・    ・



シャコシャコシャコシャコ

寝る前、ナツキは歯を磨いていた。

男「なんだその歯ブラシはどうした」

幼馴染「? ぼふの」

男「あ?」

幼馴染「洗面所の棚から新品の見つけたから開けました」シャコシャコシャコシャコ

男「当たり前のように生活に侵食してくるお前が怖いっ!!」

幼馴染「そう? ボクのほうが怖いよ(?)」


ナツキには昔から遠慮という感覚があまりない。
冷蔵庫は勝手に開けるし、何か備品を使うにしても断りを入れることもない。
もちろんそれを咎める人間はうちには誰一人いないし、俺自身もさほど気にしない。
うちにとってほとんど家族の一員ような存在だ。


幼馴染「使った後どうすればいい?」

男「そうか、じゃあこの空いてるコップにでも立てかけとけな」

幼馴染「うん、ほうする」シャコシャコシャコ


昔は泊まりの時はナツキは必ずおばさんにお泊りセットなるポーチを持たされていたことを思い出す。
旅行用のコップ付きの歯ブラシやタオル、ミニサイズのボディーソープなど必要最低限のものが詰まってる。
今日は突然の決定だったのでもちろん持って来ていない。


幼馴染「歯磨き出きてよかったー」シャコシャコ

幼馴染「今日甘いものいっぱいたべたからさー」シャコシャコ

男(……いやおかしいぞ? 俺は一度ガツンと言うべきなのか?)

あまりに慣れすぎて感覚が麻痺している。
一般的な友人関係なら、おそらく怒るのが正しい…と思う。
なにせ人の家の新品の歯ブラシを勝手に開封して自分専用にしているのだ。
ユウジがうちで同じことをしたら多分怒る。


幼馴染「くちゅくちゅくちゅ…ぷぇ」


男「……」

幼馴染「あのさぁ。ボクの歯磨きなんて見て楽しい?」

男「…あっ、俺そんな見てたか」

幼馴染「心配しなくてもちゃんと綺麗に磨いてるよ」イー

幼馴染「ね?」

男(そんな心配はしてない)

男「歯綺麗だな」

幼馴染「歯医者さんにも言われたー」

ナツキはめちゃくちゃ歯並びがいい。
おまけにつやつやで白い。甘いモノが好きなくせに虫歯の経験はない。
昔はかみ合わせが少し悪かったそうだが、小学生の頃に1年ほどかけて矯正してからしっかり踏ん張れるようになって球の威力がぐっとあがった。


幼馴染「ねぇところでさ、そこにある歯ブラシのような歯ブラシじゃないような、先っぽが平べったい歯ブラシは何?」

男「?」

またわけのわからないこと…を思った矢先、ナツキは洗面台に立てかけられたある物にむかって指をさす。

男「あぁそれは俺がこないだネットで評判見て買った舌ブラシだ」

幼馴染「した? ベロ?」

男「ベロ。変な形だけど、これがうまく舌の形にフィットして、舌苔を取るんだぜ」


普通の歯ブラシで舌をこするのは、刺激がつよすぎて舌の細胞が死んでまうそうだ。
なので舌にやさしいが効果絶大の舌ブラシが近年話題となり、俺と姉は評判にのせられて購入してみた。


男「これが結構気分爽快で、例えば牛乳とか飲んだあとでも舌がきれいなピンク色に~」

幼馴染「なんだ使い方あってた」

男「……」

男「は? お前何言って……おいナツキお前まさかッ」

幼馴染「………はぅっ!? う、うそだよ!? つかってないよ?!?」

男「こら。こっち見ろ」

幼馴染「……ぅ」

男「俺今日つかってないのになんでブラシの部分湿ってんだ」ピトッ

幼馴染「ああああっ、ちっ、違うの! どんなもんかなーって気になって…」

幼馴染「濡らしてみただけだから!」

男「使ったんだな…」

幼馴染「……」コク

なかなか嘘はつけないタイプだ。
勝手に使うにしてもこうして時々度が過ぎたことをする。

男(普通使うか? 曲がりなりにも口につっこむ物だぞ)

本当に脳みそがアイスのように溶け出しているのではと心配でたまらない。
年頃の女の子として、異性の私物を使う抵抗はなかったのだろうか。
それ以上に未知への興味が勝ってしまったのだろうか。


男(はぁ…高いもんでもないし買い替えるか…)

男(このまま使ったら俺が変態だよな…)

幼馴染「怒ってる…?」

男「興味本位で人の物に手を出さないこと」

幼馴染「ごめん……使う前と後にちゃんと洗ったから…」

幼馴染「アッキーの物っぽかったし、いいかなって思っちゃったんだよ…」

男「…はぁ。使ってしまったものは仕方ない」

幼馴染「でもボクのベロ綺麗になったでしょ! んえーっ」

男「…ッ見せなくていいから! つーかそんなしっかり磨いてんじゃねぇよ」

幼馴染「れろれろ♪」

男「バカにしてんのか! そうなんだな!?」

ナツキは健康的なピンクの舌をつきだして見せつけてきた。
歯をみがいて口をゆすぐだけでは不可能なほどに綺麗になっている。
抹茶アイスを食べたあとだとは到底思えない。

幼馴染「気に入ったからおんなじの買おっと♪ あー口の中スッキリ」

男「お前が来るたびに謎の出費にさいなまれている気がする」

幼馴染「弁償しようか…? ごめんねボクのささやかな貯金からで良ければ」

男「いらねーよ…」





   ・   ・    ・




男「電気消すぞ」

幼馴染「あ、待って…豆球にして」

男「……おやすみ」

幼馴染「ねーアッキー…」

男「……寝るから」

幼馴染「何か話しようよ」

幼馴染「泊まるの久しぶりじゃん。夜更かしできるじゃん」

男「…俺今日疲れた」


体力的にも精神的にも過酷な一日だった。
今日だけでどれだけナツキに振り回された事か。
頭の中で今日起きた出来事が巡る。

ナツキがスカートを履いて、
ナツキが水着になって、
ナツキが裸でシャワーあびていて、
ナツキと風呂に入って、
ナツキの全裸を見ちゃって、
ナツキがもたれかかってきて……。

男(あぁ…なんでだ。エロいことしか浮かんでこない…寝よ寝よ)

幼馴染「しりとり、しよ。アッキーから」

男「しない」

幼馴染「い……イップス!」

男「しないから…寝てくれ」

幼馴染「むーーつまんな……ねーもう寝た? ねーー…」

幼馴染「……ゔっ」ブルッ


ナツキのボソボと呼びかける声を聞きながら意識が薄らいでいく。
庭から聞こえる虫の大合唱もだんだんと遠のいて聞こえなくなった。
まぶたが重い。


男(おやすみ…)

ようやく寝付ける。

幼馴染「ねぇ…ねぇってば…アッキー…」ユサユサ

男(と思ったらこいつは…!)

幼馴染「ねぇってば…ちょっとだけ起きて…困ったことがおきて」

男「遊ばないって言ってんだろ」

思わずナツキの脳天に手刀を振り下ろしてしまった。

幼馴染「ぎゃっ、痛いっ! 出ちゃう」

男「なんだよ…早く寝ろよ…まだ何かあるのかよ」

幼馴染「あ、あのね…」

薄暗がりで表情はよく見えなかったが、ナツキは内ももをこすり合わせるように揺すってもじもじしていた。
その動きだけでなんとなく要件の見当がつく。

しかし俺は眠気のピークで不機嫌極まりなく、薄いタオルケットを頭まで被ってそっぽを向いた。
何を言おうとしてるのかわかるだけに付き合うのがめんどうだ。

幼馴染「あーん、だめ寝ないでっ」


ナツキは諦めずにしつこく俺の体を揺さぶってくる。


男「……何。安眠妨害だぞ。うちでは死罪と決まっている」

幼馴染「おしっこ」

男「…んなもん一人でいけよ何歳だよ…」

幼馴染「こ、こわい…漏れそう」

男「……」

男(本当にホラーゲームなんてするんじゃなかったな)

男「ったく…せめて寝る前に行っとけよ…」ムクリ

俺は眠い体を半分起こして、ナツキに手を差し出して立たせてもらう。

幼馴染「電気つけないの?」

男「まぶしいし、虫…」

縁側の長い渡り廊下を歩く。
古い板張りの廊下は2人分の足音でギシギシと軋んだ音を立てた。

真っ暗で視界が悪い。
暑さ対策に庭側の戸をすべて開け放っているので、この時間に灯りをつけると虫がわんさか家の中に入ってしまう。

男(こんなときに古くて広い家はめんどいな)

ナツキの歩みはすこぶる鈍く、つい置いていきそうになる。

男「早く来い。お前が我慢してるんだろ」

幼馴染「だってぇ…」


わずか数10mの距離だが、ナツキは俺のシャツの裾を掴んで、背中に寄り添うように歩いていた。

男「ついたぞ」

幼馴染「あっ、あっ」

ナツキは急に駆け足になって慌ててトイレに駆け込む。
おそらく間に合ったようだ。
最悪漏らしそうになったら庭にでも蹴りだしてやろうかと思っていた。


男「…戻っていいか。帰りはお一人で」

幼馴染「だ、だめっ、すぐだから」

扉の前で眠たい目をこすって待っていると、中から勢いの良い水音が聞こえた。

男「…」

幼馴染「…! あっ、ああ」

幼馴染「あ、あのね! ボク家ではちゃんと夜中一人でトイレいけるし、全然怖くなんてないんだけど」

幼馴染「この家古いし絶対お化け住んでるし、それにあんなゲームしたあとだしこのトイレ超広いし電気つけても暗いし―――だからねっ」

ナツキはトイレの中から焦ったような早口でまくし立てる。


男(わかるよ。お前の気持ちはわかるけど…)

男「ナツキちゃんさぁ、そういう時は普通トイレ流しながらするよね」

幼馴染「あっ! あーあーあーっ、聞かないで…あっちいって」

男「いいのか戻って」

幼馴染「あ゙ーーーだめそこにいて。あっ、でも聞くのはだめっ」 

男(アホだ…)


男「よ。結構我慢してたんだな」

幼馴染「……」

男「2リットルくらい出た?」

幼馴染「うるさいなぁ…っ!」

女にかける言葉ではなかったかもしれないが、どうせナツキ相手だし、寝付こうとしていた所を無理やり叩き起こされた恨みもある。
早足で居間へ戻ろうとしたら、ナツキは再びぴったりと張り付いてきた。


男「そんなに怖いか?」

幼馴染「こんな時間までいるの久しぶりだもん…」

男「なにも出ないって。幽霊なんて本当にいるわけないだろ…あんなのゲームゲーム」

幼馴染「雰囲気が怖いの!」

幼馴染「こんな家によく住めるね」

男「ならこんな家によく泊まろうと思ったな」

ナツキがぎゅっと手をつかんでくる。
トイレで手を洗ったあとちゃんと拭いていないのか微妙に濡れていた。




男「じゃあ俺寝るから。もう起こすなよ」

幼馴染「……」

男「何。次は大きいほう行きたくなったとか言うなよ」

幼馴染「…あ、あのね…」

ナツキが小声であのねという時は大抵言いづらいことを言い出す時だ。
俺は次は何が飛び出すのかと身構える。


男「なに。もう付き合わないぞ」

幼馴染「天井になんかいる…気がする」

男「……たぶん虫だろ。蛾でも入ったのが飛んでるんじゃないか」

幼馴染「変な音する」

男「冷蔵庫だって。古いから…いつも深夜帯に唸るんだよ」

幼馴染「ううう…」

男「いいかげん離せよ」

手を振りほどこうとしてもナツキは頑なに離そうとしなかった。
ついには俺の手をひきよせて、胸元でぎゅっと抱きしめる。

幼馴染「一緒に寝て…ボクが寝るまででいいからさぁ…」

男「…え゙」

幼馴染「……」

暗がりでよくは見えなかったが、ナツキはきっと不安げな顔をしていたのだろう。
握りしめてくる小さな手から少しだけ震えが伝わった。


男「わかったよ…もう俺も眠いから、寝かせてくれるならなんでもいいや…」

幼馴染「!」

そしてやむなく折れた俺はナツキと背中合わせに同じ布団に寝転がって、一枚のタオルケットを一緒に被った。

男(俺ってなんなんだろうなぁ)

男(普通異性相手にこんな事頼まないよな…)


今日一日を思い返す。

男(やっぱナツキの中ではただの兄弟って感じなんだろうな)

男(なら俺にとってナツキは…?)


俺にとってナツキはなんなのだろう。
夏休み前にユウジに言われた事がもやもやと渦巻く。
今日一日この言いようもない焦燥感に苛まれていた。

家族のような存在と言わればそうかもしれない。
しかしナツキと姉は明らかに違う。
実の姉の裸を見てもなんとも思わないし、見たくないものを見てしまったような嫌悪感すらあった。

だけどナツキの裸は違った。
あの時とても綺麗だと思えて、できることならずっと眺めていたかった。
シミ一つ無い背中に触れた時はドキドキしたし、胸の先端がちらりと見えた程度でいままでにないくらい興奮した。


男(やっぱ…好きなのかな)

背中ごしにナツキの体温が伝わってくる。
すでに吐息を立てていて、怖がっていたわりには案外あっさりと眠ってしまったようだ。
俺は慎重に寝返りをうって、ナツキの後ろ姿をじっと眺める。

綺麗なうなじに汗がうかんでいた。

男(暑いのか)

あせもにならないようにタオルで首筋をぬぐってから、枕元に投げ捨ててあったうちわを拾ってゆっくりと風を送る。
ナツキは微風に少しくすぐったそうに身を丸めた。
こちらの気苦労など知りもしない幸せそうな顔で眠っている。

男(怖い夢見なけりゃいいな)

男(おやすみナツキ)

 


翌朝。

強烈な痛みと蝉の大合唱とともに俺は目覚める。
まぶたをひらくとナツキのかかとが喉元につきささっていた。

男「……げほ、お゙い」

幼馴染「zzz」

ナツキはそんなこと知る由もなく爆睡している。
寝ている間に天地がひっくりかえったのかと思うくらいに布団も枕もめちゃくちゃで、
俺は布団の外に蹴りだされてむき出しの畳の上に倒れこんでいた。


男(これだよ…だから嫌だったんだ…)

幼馴染「zzz」

男「お前とはもう絶対に一緒に寝ない…」

そう胸に誓って俺はナツキの尻を蹴飛ばした。

幼馴染「ふぎゃっ!?」

男「起きろバカ」

幼馴染「あ…ふぁ…朝…? ん~~~っ!」

幼馴染「そうだ、昨日泊まったんだった!」

男「…最初に言うことはそれか? なんか他にあるだろ」ジンジン…

幼馴染「えへ、おはよー♪」

男「…おはよ」


今日もナツキとの暑い一日が始まる。



第四話<お泊り>おわり


 

更新終わり
次回第五話①
明後日金曜日予定


 

第五話<助っ人>




幼馴染「あー宿題終わる気しない~~」ヘナッ

男「……」カリカリ

幼馴染「ねーもうキャッチボールしよーー。アイスたべていいー?」

男「…お前がそのページ解きおわるまでどっちもダメだからな」

幼馴染「じゃ適当に答え書いちゃお」

男「そしたら飯抜き」

幼馴染「も~~~、いじわる!」

幼馴染「ボクの頭じゃこの大問は解けないよ……」

男「…はぁ」

幼馴染「解き方教えて?」

男「お前そんなんで夏休み明けのテストどうすんだ」

幼馴染「…うう。勉強したくない……頭いたい頭とける」

男「ちょっと最近なまけすぎなんじゃないか」

男「毎日ダラダラだらだら……お前ここ来てもアイス食いながら甲子園みてるだけじゃねぇか」

幼馴染「お母さんじゃないんだからお説教やめてよぉ…一応体は動かしてるもん」

男「俺はお前の将来が不安…」

幼馴染「ボクはその時はその時でなんとかなると思ってるよ!」

男「なんだそれ。甘やかしてくれる優しい人にでも拾われるつもりか?」



幼馴染「将来かぁ…なんになるんだろ」

男「いまはやりたいことないのか?」

幼馴染「うーん…」


ナツキが背筋をのばしてぐるりと肩を回す。
ナツキにだってもちろん夢や憧れはあった。
だけどそれはもう叶わない。
ピッチャーとして一番大切な場所を故障してしまった。


幼馴染「アッキーは?」

男「俺は進学してから考えるかな…まぁ普通の就職でいいよ」

幼馴染「…む」

男「なんだよ。いいだろ、別に父さんみたいな仕事したいわけじゃない」

男「こんなにずっと家を空ける仕事、将来子供が出来た時可哀想だろ」

幼馴染「寂しいんだねぇアッキー。よしよし」

頭にむかって伸びてくるナツキの邪魔な手を払いのけて、俺は再び問題集に向かう。
自分の将来。
まだ少し遠い未来のような気がして、具体的なビジョンが浮かばないでいた。


男「お前このままの成績じゃろくなとこ行けないぞ」

幼馴染「うーん…」

幼馴染「キャッチボールしよ♪ ほら、ちょっとだけ曇ってるうちに!」

男(ごまかしたな…)

 

   ・     ・     ・



バチっとミットが乾いた音を立てる。
いまのナツキはもう全力でたくさん投げることができない。
その日の調子をみてすぐに打ち切ることもある。
それでもナツキは飽きずに毎日俺に向かって投げ続けている。


男「お前毎日なげるのな」

幼馴染「うん! だってこれが習慣だから!」

好きなことが自由に出来なくなるのはやっぱり辛い事だろう。
ナツキは玉の汗を額から流しながら、一球一球丁寧に投げ込む。
俺はそれをがっちりと受け止めて、一言二言感想を添えてナツキへと返球する。

幼馴染「えへへ。いまのいい感じのとこ行った」


幼馴染「あと5球いい?」

男「いいよ。無理すんなよ!」

幼馴染「うん! ふぅ……」

幼馴染「…ッ!」ビュンッ


バチン!
ナツキの球筋は綺麗だ。
女の子の球とは思えないくらい重力に抗いながらまっすぐ飛んで、力強くミットにおさまる。

野球を辞めてもこれほどの球質を維持し続けているのは、ひとえにナツキの努力の成果だ。
時々シャドーピッチングをしている姿も見かける。
もしかしたら、ナツキは割りきったようでまだ夢と決別できていないのかもしれない。


男「はいおわりー。おつかれ」

幼馴染「あっつーーい。シャワー!」

男「行ってらっしゃい」

幼馴染「……ノゾカナイデネ」

男「…なっ! の、覗くか! あほっ」

幼馴染「やーだー思い出してるーーー」

男「お前が言うからだろ…」

どうやら先日の一件はいまだに尾を引いているらしい。
といってもナツキが俺を恨んでいるわけではなく、単にからかっているだけだ。
ナツキはぺろりと舌をだして風呂場へと一目散に走っていった。





    ・    ・    ・




幼馴染「ふーーいい水だった」

男「携帯何回か鳴ってたぞ」

幼馴染「ほんと? 出てよ」

男「出るわけねぇだろなんで俺が…」

幼馴染「あはは、アッキー以外でボクに電話してくるなんて誰だろ」

男「知ってる番号ならかけなおしてやれば」

幼馴染「ん、見てみる」

幼馴染「あー着信履歴のこの子、去年クラス一緒だった子だ」

男「ふーん…? 仲いいの?」

幼馴染「まぁまぁ。話合うし」

男「お前と話が合うなんてどんなやつだ」

幼馴染「シー…! あ、もしもし。うん、さっき電話くれたー?」


なんとなく気になってナツキの電話口に耳を傾ける。

男(相手は男か…? 女か…?)

まさかとは思いながらも盗み聞きがやめられない。


幼馴染「うん…うん。へーーそっか」

男(全然聞き取れん…相手の声低いな…)

幼馴染「わかった! 行く行く! ホントにボクでいいの!?」

幼馴染「わー楽しみになってきたなぁ」

幼馴染「だったら当日晴れるといいねぇ。久しぶりですっごい楽しみ」

男(何…? 久しぶり? 何の話だっ)

あらぬ想像が何パターンも頭の中をめぐった。
どこに? なにをしに? 相手は誰?

男(まさかデート…? 嘘だろ…)

ナツキに男がいるとは思えない。
だけどこのはしゃぎっぷりはよくテレビドラマで目にするような、
恋人と大事な約束事にしか思えなかった。

ナツキはその後もハイテンションで相槌を打ちながら電話相手と談笑している。


幼馴染「じゃあねー。またねー」

男「なんだったんだ!」

電話を置いた途端ナツキに詰め寄ってしまう。
ナツキは一瞬驚いた顔をみせるが、すぐに目を細めてほくそ笑んだ。


幼馴染「え? くふふ…知りたい?」

男「お、おう…」

そして俺の目の前で立ち上がり、バットをもったふりをしたポーズをとってブンブンと素振りをはじめた。

幼馴染「助っ人外国人!」

男「…は? 助っ人? 野球すんの? いやお前外国人じゃねぇし」


幼馴染「やっほぅ! ひっさしぶりだなぁああ、あはははは」

男「な、ナツキ。ちゃんと説明して。俺聞いてたわけじゃないからよくわからない」

保護者でもないのになぜだか俺はナツキを追求してしまう。
事情が事情だけに放ってもおけない。
それとは別に、ナツキが自分以外と簡単に約束したことがショックで、仄かに嫉妬心が芽生えていた。


幼馴染「あのね、来週グラウンドで練習試合するんだって!」

男「それで?」

幼馴染「ボクもいくんだって! やったー!」

男「……お前関係ないじゃん」

まったく要領を得ないナツキの語り口にイライラしながらも、話をなんとか聞き出そうと試みる。


幼馴染「いま電話してた子、うちの学校の女子野球部の子なんだけどね」

幼馴染「大会負けちゃって3年生が引退しちゃったでしょ? だから人数足りなくなっちゃったんだって」

幼馴染「それで練習試合できないから、野球がわかる人さがしてみたい」

男「…で去年クラス一緒だったお前に白羽の矢が立ったのか」

幼馴染「うん! 野球の話ちょこちょこしてたからね」

男「でもお前まともにプレーできるのか? もうだいぶブランクあるだろ」

幼馴染「ルールしってるだけでもいいんだってさ」

男「あぁ、戦力ではなくてただの頭数ってことね…」

幼馴染「そうそう♪」


男「そっか。じゃあピッチャーやるわけじゃないんだな」

幼馴染「うん」

それを聞いて一安心した。
もしナツキが無理をして怪我でもしてしまったらとおもうと気が気でない。
それと、電話の相手が異性じゃなくて本当によかったとおもってしまった。

男(なんで俺がこんなに冷や冷やしてんだ)

幼馴染「打って走って守るだけ!」

男「無茶しないならいいか。いいぞ」

幼馴染「なんでアッキーが決めるの。ボクが行くって返事したんだから何言われても行くよ?」

男「う…そうだけど…」

幼馴染「大丈夫だよ。守備はレフトに立ってるだけでいいんだってさ」

幼馴染「…だめ?」

男「いいよ。とりあえず熱中症に気をつけて楽しんでこいよ」

幼馴染「ってことで、バット出して」

男「え」

幼馴染「持ってるでしょ?」

男「あるけど……もしかして守備練? え、俺つきあわされんの? このクソ暑い中で?」

幼馴染「公園いこ♥」

男「……お前いまシャワー浴びたとこだろ」


そして自転車を漕いでまんまと公園まで連れてこられる。
そこそこの広さの園内には全面土のグラウンドもあり、土日休みにもなるとキャッチボールをする親子やサッカーをする少年たちであふれかえる。
今日は夏休み平日なので、人気はまばらだった。


男「ぶつかる心配もないしここでやるか」

幼馴染「ノッカー! ばっちこい!」

男「とりあえず軽くフライあげるから取れよー」

男(といっても俺もバット振るのはひさしぶりなんだよなぁ…)

カキンッ

幼馴染「あっ、へたくそ!」

男「悪い…」

案の定、わけのわからない方向へふらふらとボールは飛んで行く。
高さも距離も方向もめちゃくちゃだ。

幼馴染「もー…ボール拾いにいくのボクなんだからさぁ…」

男「勘とりもどさないとな…」


それからしばらくノックを行い、ナツキは犬のようにボールをあちこち追いかけ続けた。


幼馴染「あーもうバテバテ…ボクフライキャッチの練習したかっただけなのに、左右に振り回し過ぎだよ」

男「すいませんねへたくそで!」

俺達はグラウンドを出て、公園内の木陰のベンチに座って缶ジュースを開ける。
ナツキはあっという間にぐいぐいと飲み干してしまった。

幼馴染「ぷはーー。なんかちょっとだけ勘がもどってきたかも」

男「この後もすんの?」

幼馴染「うん! やるやる!」



立ち上がって移動しようとすると、俺達の前に一台の宅配バイクが止まった。


男「ん?」

友「よぉ。なにしてんだこんなとこで」

幼馴染「あ、ユウジ君だ。びっくりしたー。誰かとおもったよ」

友「ありゃ、ナツキちゃんもいたのか」

友「……ははぁ、デートにもいろんな形があるんだな」

男「なにがデートだ。どーーみても、俺がこいつに付き合わされてるだけだろ。見ろこの汗」

幼馴染「えへへ、デートじゃないよ。ちょっとフライ捕る練習してただけ。見てこの土」

友「…さいですか。なんでまた急に? お前ら万年帰宅部じゃん」

幼馴染「今度ねーうちの女子野球部が練習試合するから、ボク助っ人で呼ばれたんだ」

友「なるほど。うちはどの部も人数やべぇからな」

男「お前は?」

友「見ての通り、バイトで宅配の途中」

男「途中!? はやくいけ」シッシ

友「おう。じゃあまたな。あ、そうだ! …あ、いまもってねぇや今度渡すわ」

男「?」

幼馴染「アッキー、練習続きしよ」

友「うんうん、俺の言ったとおり青春してるな!」



幼馴染「ユウジ君いつの間にバイクの免許とったんだろうね」

男「原付きだからすぐ取れる」

幼馴染「乗ったらすずしそー」

男「あいついつも忙しそうだな…そんな金稼ぎばっかりしてどうすんだ」

幼馴染「ボクも今日から忙しいよ! トレーニングだ!」

男「そんなに本気で臨むものか? たかが練習試合の数合わせだぞ」

幼馴染「ボクはなんにでも全力投球なの!」

幼馴染「それに久しぶりの試合なんだもん! やー気合入っちゃうなぁー」

幼馴染「ねぇねぇこれおわったらバッセンね! バッセン!」

男「ええ…疲れるだろ」

幼馴染「むーー」

男「…はいはい。もうどこまで付き合うって」

幼馴染「うん、アッキーはユウジ君と違って暇だもんね♪」

男「……」イラッ


それから俺は練習試合の日までナツキのトレーニングに付き合い続けることとなった。



第五話<助っ人>つづく

 

更新終わり
次回第五話<助っ人>② 日曜日予定

第五話<助っ人>つづき



練習試合当日の朝。
俺はひどい金縛りにあっていた。
体がずっしりと重い。何かが真上から俺を拘束しているような感じがする。
寝苦しくても寝返りをうつことができない。


男「暑い……たす…けて…」

男「暑いぃ…やめろぉ…」

幼馴染「おーい…おきろー」ツンツン

男「うう…」

幼馴染「アッキー? 朝だよ。おーーい」

男「う……ん?」

俺に呼びかける声は、金縛りの元凶である霊の類だろうか。
おそるおそる目を開くとドアップで見慣れた顔があった。


男「うわあぁっ!」

幼馴染「うぎゃっ! びっくりした」

男「俺のほうがビビった! お、お前…なんなんだよ…!?」

幼馴染「おはよー!」ニコッ

男「…なんで乗っかってんだよ」

妙な寝苦しさの原因はどうやらナツキだったようだ。
俺の腹にまたがって、呑気に腕を伸ばしたり首をまわしたりとストレッチをしていた。

 


幼馴染「だってなかなか起きないし」

男「……暑いから早く降りろ」

男「お前も暑いだろ…尻に汗疹できてもしらねーぞ」

幼馴染「はいはーい!」

ナツキがでかい尻を退ける。
スパッツにつつまれたみずみずしいふとももが朝っぱらから目に毒だ。
座られていた場所はお互いの汗でわずかに湿っていた。

幼馴染「ねぇもう八時だよ? 寝すぎじゃない?」

男「八時…? いやまだ八時かよ! 夏休みだぞふざけんなよ」

幼馴染「遅いよ! メールしても返ってこないからこうして起こしにきたんじゃん!」

男「あれ…練習試合何時からだっけ」

幼馴染「昼の一時からだよ、顔あわせでお昼前には集まるんだってさ」

男「ふーん…ってそれならなんでこんな時間に起こすんだよ」

男「だいたいお前どっから入ってきた」

幼馴染「まぁいいじゃんいいじゃん。ねー練習つきあってよー」

男「えー…今日も?」

幼馴染「試合までは付き合ってくれるって言ったじゃん!」

男「う…言ったけど昨日までのつもりだった…」

眠たい目をこすって庭をうかがうと、この夏すっかり見慣れた光景となった日射光線がギラギラと降り注ぎ、蝉達が騒音を撒き散らしている。
今日も雲ひとつない快晴だった。


男「…一段と暑そう」

幼馴染「晴れてよかったねーー!」

幼馴染「ボク今日5時に目がさめてさー! もうご飯食べるの二回目だよ」

男「あっそ」

朝一のナツキの笑顔は太陽よりもピカッと照りつけて眩しい。
元気なのは結構だけど朝から付き合いきれるテンションではない。

幼馴染「ねーキャッチボール! バッセンいこ! ねー」

ナツキはまだ半分眠っている俺の体をゆさゆさと容赦なく揺する。
助っ人参加が決まってからのこの数日間、散々練習に付き合わされて、俺の鈍った体は疲労の色を隠せなくなってきていた。


男「…眠い」

幼馴染「じゃあいいもん。壁当てしてくるから。ふーんだ」

男「わかったわかった。起きるからさ」

幼馴染「…♥」

男「にしてもひどい暑さだな。日射病には気をつけろよ」

幼馴染「アッキーもね」

男「俺は大丈夫だよ…家ん中にいるし」

幼馴染「え、観戦来てくれないの?」

男「は?」


幼馴染「は?って……はぁ?って……なにさー?」

ナツキはきょとんとした顔で俺を見つめる。

男「……へ?」

男「俺、試合観に行くのか?」

幼馴染「違うの? え?」

どうやらナツキの中では俺が今日観戦にくるという手はずになっていたそうだ。
しかし顔も名前も知らないメンバー同士の試合なんて観戦に行ってもあまり楽しめない。
ましてや学校のグラウンドで行われる女子野球部の平凡な練習試合だ。

しかもこの地面も湯だつような炎天下。
間違いなく溶ける。

男「…遠慮しておく」

幼馴染「なんで~~。来てよ~」

男「…俺はリトルの父兄か」

幼馴染「……む」

男「いかねーよ。あ、俺甲子園みるから」

テレビをつけるともう今日の第一試合目が始まっていた。

幼馴染「ううううっ! 裏切り者ぉ!」

男「お前は仲間と楽しんでこいって。俺がいっても何もできることねーし、暑いだけじゃん」

幼馴染「ちぇっ。久々のボクの大活躍を見れないなんてかわいそ」



それからしばらくナツキのトレーニングにつきあって、一緒に少し早い昼をとった。


男「そろそろ時間じゃないか」

幼馴染「うん。そうだね。うーー楽しみっ」

男「好きなだけ暴れてこい。数年ブランクがあってもきっと体がしっかり覚えてるさ」

幼馴染「うん!」

幼馴染「約束通り1本ヒット打ったらシロクマバーで、2本うったら高級カップアイスね!」

男「…そんなのしたっけ?」

幼馴染「したしたした! したよ!」

男(記憶にない…)

幼馴染「地獄の特訓つきあったんだから、それくらいご褒美!」

男(地獄? 付き合った? お前が勝手にやっただけだろ…)

幼馴染「ね♥ がんばるから」

男「わかったわかった。はよ行って来い。集合遅れるぞ」

幼馴染「それじゃあ行ってくるよ」

幼馴染「じゃあねー」

そしてナツキは白い歯を見せて玄関から出て行った。



男「…たまには静かに過ごすか」



 
    ・    ・    ・



 



蝉の声とテレビの中継の音だけになった居間。
ナツキがいないと無性に広く感じた。


男「うわーワンサイドゲームかよ…容赦ねー」

テレビの中で繰り広げられる白球の激闘は、前年の優勝校が初進出の地方高校を叩き潰すという凄惨な試合だった。
あまりに退屈で見ていられない展開に思わずテレビを消して寝転がる。


男「…」

男「…」

男「……やっぱ暇だな!」ムクリ

男「…そろそろあいつの試合はじまるころかな…」

男(初めて会う人も多いだろうに、あいつ仲良くやれてんのかなぁ…)


ナツキは天真爛漫で脳天気に見えるがあれで案外人見知りするタイプだ。
どうにも年をとるに連れて周りのテンションとの差を本人は感じてしまうらしい。
いまもクラスの女子の間ではやや浮いた存在となっている。

中学高校とナツキが女同士でべったりと親しげにしている姿はあまり見かけたことがなかった。
俺にはそれが少し気がかりに思える。

男(今日は野球するだけだから、何か起きるってわけでもなさそうだけど…)

男「…よし」

冷凍庫から凍らした麦茶のペットボトルを取り出して、タオルでくるんでかばんの中に詰めた。

男(別に暇になったから行くだけだし…)

 


学校めざして自転車を漕ぐこと数分。
信号待ちの路上でばったりと嫌な奴に遭遇した。


友「よぉアキ。なに急いでんだ」

男「おう、ちょっと用事な」

友「あれ? 今日って確か例の助っ人試合だったよな。ナツキちゃんは?」

男「もう行ったよ。ていうか俺がいつもナツキと一緒だと思うなよ」

友「はぁ? お前はなにやってんだ見に行ってねぇのかよ」

男「行くんだよいまから、わざわざ! このクソ暑い中で! 見ろこの熱中症対策一式」

友「ハハハ、なんだ行くのか。そりゃ行くよなーお前のことだもんな」

男「ユウジ暇? 暇っぽそうだな」

友「んー、バイトまでは時間あるからいまから中古ゲーム屋行く途中だった」

男「よし、なら一緒に来い!」グイッ

友「え、なんだよ。俺もかよ」

男「お前でも観戦がてらの暇つぶしくらいにはなる」

友「はぁ? ちょっ、強引ねあなた」



【学校】


友「おー、やってるやってる」

男「この辺りで見ようぜ」

グラウンド一面が見渡せる校庭前の階段に並んで腰を下ろす。
もうすこし近くで観戦することもできるが、あまり距離が近いと女子目当てだと誤解されて不審がられる可能性もある。


友「オッケー」

友「いやぁしかし女子の試合を観に来るなんていいのかほんとに。他に誰も観戦客なんていねぇぞ」

男「いいんじゃないの。うちの学校だし…」

試合はまだはじまったばかりで1回の裏だった。
ついナツキの姿を探してしまう。


男「ナツキ……あ、いた」

友「どれ? みんなユニフォーム一緒だとわかんねぇな」

男「あのレフトで突っ立ってる奴」

友「あー、いま守備か。おーい!」

ユウジは立ち上がってなぜか俺に向かって指をさしながら声を張り上げて叫んだ。
気づいた生徒のプレーが一瞬止まり、視線が一斉に俺達に向かって注がれる。


男「恥ずかしいからやめろよッ。迷惑行為は禁止な」

友「はははっ悪い、ばっちり見つかっちまったな」

男「…」

再びナツキに視線を戻すと、ナツキは遠くから呆れるくらいに元気よく手を振っていた。

男(集中しなさい)



それからはおとなしく座って、ユウジにプレーを解説しながら時間を潰した。
お互いヒットすらろくに出ず、照りつける暑さで気だるそうな雰囲気がグラウンドやベンチから漂っている。


友「お、次ナツキちゃんの番じゃねぇ?」

男「だな」

友「なぁ、せっかくだしもっと近くで応援しようぜ」

男「え……お、おいユウジ。まずいって…女子部だぞ…」

友「中学上がりたてのピュアボーイじゃあるまいし、今更そんなこと気にすんなよ」

友「彼氏が近くで応援するってなりゃナツキちゃんもやる気全開だろ」

男「そういうのじゃねぇし…そんなことしなくてもあいつはやる気爆発してるって」

男「俺がこの数日どれだけ付き合わされたか…今も腰が痛いんだよ」

友「いいからいこうぜ。俺はお前と違って豆粒みててもおもしろくねぇんだよ」


ネクストバッターズサークルの中でナツキはぶんぶんとバットを振り回し、気合十分といった面持ちでその時を待っていた。
そしていよいよ、初打席を迎える。
いつになく真剣な眼差しに、ふと懐かしい気持ちになった。

男(いまでもあんな顔できるんだな)

それは俺がよく知っているかっこいいナツキの一面。
好戦的でギラギラとした競技に生きる者の顔だ。


友「かっとばせー!」

男(がんばれナツキ)


1球目。

幼馴染「……ッ!」

空振り。まったくタイミングがあっていない。


2球目。

幼馴染「……あッ!!?」

ボール球を空振り。釣られてしまった。


3球目。

幼馴染「……うぐっ!」

低めのストレートをファウル。少しはタイミングがあってきたが惜しくもバットはボールの上っ面を叩いた。


4球目。

幼馴染「うげっ」

どまんなかのゆるい変化球をとんでもない空振り。簡単にひねられてこれで三振。


友「だめだったな…」

男「あちゃー…やっぱこんなもんか」


男「ドンマイ」

俺の声はどうやら届いてはいないようだ。
ナツキは気付かずにすこし俯いたまま仲間の待つベンチへと引き下がっていった。



幼馴染「あーだめだ…こんなはずじゃ…」ブツブツ

部員A「どんまいどんまい。ファウルした球おしかったよ」

部員A「打てなくてもしかたないよ。相手は県大会まで進んでるエースだもん」

幼馴染「うー…」

部員A「わかるわかる。彼氏の前で良いカッコしたいもんね」

幼馴染「か、彼氏!? なんで」

部員A「ほら後ろのほう」

幼馴染「……? わっ、アッキーいつのまにあんな場所で観てたんだろ…」

部員A「どっち? 少しチャラいほう? 真面目そうな方?」

幼馴染「えっと…、右の…腕くんでて超怒ってそうなほう…」

部員A「日差しが眩しいだけじゃない?」

幼馴染「えーーあれ絶対怒ってるよ。なんで打てないんだこのバカ野郎!って心の声が聞こえてくるよぅ…」

部員A「いいなぁー、彼氏が観に来てくれるなんて。あたしのなんて大会ですら一度も観に来てくれたこと無いよ」

幼馴染「だから彼氏じゃなくてただの幼馴染!!」

幼馴染「最近ちょっと練習につきあってもらってたから…」

幼馴染「来ないって言ったくせに、こっそり成果を確認しに来たんだよ…」


部員A「幼馴染ねぇ…わざわざ来るかなぁ。優しいね」

部員B「いいなー彼氏。てか結構イケてるかもー。3年の先輩?」

部員C「なにさっきからいるあの二人組、誰かの知り合い?」

部員A「右のほうがナツキちゃんの彼氏なんだってー」

ざわざわ

幼馴染「ほ、ほんとにそんなんじゃないってばぁー!」



友「おおう、さっきからなにやら女子の視線が熱いぜ」

友「おい! 夏真っ盛りだけど俺達にも春の到来ってやつかもしれないですぜ」ゴスゴス

男「……」

男「あの相手ピッチャーの女子…」ゴクリ

友「あぁん? お前ナツキちゃんというものがありながらそれはダメだって」

男「俺、ナツキの打席からずっと観察していたが…なかなか良い投手だな!」

友「あ?」

男「下半身がどしっとしててなおかつ上半身はとてもしなやかだ」

男「見ろよ。びゅんと腕がしなってリリースポイントのわかりづらそうな良い球を投げてる」

男「女子にしては結構球速も出てるんじゃないか?」

男「コントロールはアバウトだけど、ナツキの時の決め球といま投げた変化球のキレは良かった」

男「しかも変化球の腕の振りがほぼストレートと一緒なんだ!」

男「そりゃ、あいつもバットが出るはずだ。一巡目見た感じうちの部の打線じゃどうにもならないな…」

友「……」


男「…あれリードしたら楽しいだろうな…」ゴクリ

男「まぁ…本気だしたナツキのほうがレベルとしては上だろうけど…」

友「あ、わかったお前バカだろ」

男「…?」



第五話<助っ人>つづく


 

更新終わり
次回第五話<助っ人>③ 明日22時

終電になっちゃったのでまた明日(今日)スマソ

第五話<助っ人>



カキンッ

幼馴染「あっ…」


ナツキはニ打席目も凡退した。
ナツキどころか他のチームメイトもまともに打てていない。
やはり見立て通りこの試合での攻略はむずかしそうだ。


友「おいアキ、おもったよりつまんねぇよ」

男「抑えられているからな。あとは暑さであの先発の子がバテるかどうかだな…」

友「いやそうじゃなくってよ。こう、なんていうか、観てて全然男心をくすぐらないというか」

男「くすぐるだろ! 確かに男子に比べて競技レベルは多少落ちるかもしれないけど、いままでも目を見張るプレーは――」

友「そうじゃなくってよぉ!」

友「バレーにしたってテニスにしたって、見てて眼福な一面はあるだろうが!」

男「がんぷく?」

友「同世代の若い女の子がみずみずしいお肌をさらして、ぽよんとしたエロい体ではつらつとプレーする姿は俺達男子を魅了するだろ!」

男「あ、あぁそういうことか…」

友「…あーあ。いいよなお前はナツキちゃんで見慣れてるもんな」

男「見慣れて……ない」

友「今の微妙な間で危うくぶん殴りそうになったぜ」


男「ナツキは関係ないだろ」

友「最近どうよ。うまくいってんの」

男「なんだよいきなり。うまくもなにも……」

思い返してみると、この夏休みに入ってからはいつも以上にナツキと親しくした気がする。
あれれもない姿まで蘇って、一瞬よろけそうになった。


友「シーワールド行った?」

男「いや…まだ。ていうかお前よく覚えてたな」

友「なにやってんだよ! 連れて行ってあげなさいよ!」

男「う…考えてはいるけど」

友「考えるだけかよ!」

男「…そういえばこないだ水着買いに行ったんだ」

友「おお!? 一緒にか!?」

男「あ、あぁ…プールか海にでも行こうと思ったんだけど、あいつ着れるのスク水しか持ってなくて」

男「だからしかたなく、電車でショッピングモールまで」

友「しかたなくねぇ…まぁいいか。へへ」

ユウジは何が嬉しいのやら歯を見せて俺の背中を何度か大きく叩いた。

男「いたいっ、痛い…汗かくから止めろ」

友「プールか…プール。うん、定番だな! いいぞいいぞ。他には?」

男「他…? いや、特には…シーワールドは遠いし」

友「まだ夏休みはたっぷりあるだろ」



男「お前…俺とナツキになに変な期待してるんだよ」

男「幼馴染だってば」

幼馴染で親友だ。
それ以上でもそれ以下でもない。

だけどあいつが異性であることはとっくにわかっている。
俺の中で、言葉にしがたいもやもやとした気持ちが募っていく。


友「はいはい、それ耳にタコができるくらい聞いたぜ」

友「お前さぁ、このままずっとナツキちゃんと幼馴染でいいわけ?」

男「……」

友「そりゃ長年一緒だと兄弟みたいな感覚が抜けないのかもしれないけどよ」

友「このままなーんもせずにほうっておくと、突然現れた誰かにひょいっと取られちゃうかもよー?」

男「な゙っ、お、お前」

友「いやいや。俺はいまバイト先のイケてるお姉さんに超夢中だから。そんな怖い顔すんな」

友「ふへへ、今日もこのあとシフト重なるんだぜ。ま、そうなるようにわざと入ったんだけどな」

友「なんの香水つけてんのかしらねぇけどいい匂いでさぁ…あれがオトナの色香か…」

男「…つ、付き合ってんのか」

友「いや全然? 攻略中ってとこ」

友「彼氏いないっぽいから来週の夏祭り誘いたかったんだけどよー、俺今年は地元の青年団の当番で会場スタッフやらなきゃだめなんだわ」



男「そうか、もうすぐ祭りか…」

友「おぉ、思い出した。いいもんやるよ」

ユウジは尻ポケットから長財布を取り出して散らかったレシート入れをがさがさと漁り始めた。

友「あっれぇ、お前にやろうと思ってここに入れたんだけど」

男「ナツキの財布よりひどいな…」

友「あったあった♪ ほら」

手渡してきたのは6枚綴りになった黄色い割引券。
50円引きと書かれている。
いかにもお手製を印刷しただけのような、見た目はぱっとしない簡素な作りだった。
小さくたこ焼きと花火のイラストが添えられていた。

友「町内会でもらったんだよ。夏祭りの出店で使えるぞ」

男「もらってもいいのか?」

友「誘う口実にはちょうどいいだろ。なんてな。ニ人で行ってこいよ」

男「二人……ナツキのこと言ってる?」

友「あとで姉ちゃんと行ったなんてぬかしやがったら絞め上げるぞ」

男「ナツキとお祭りか…」

ユウジに無理やり握らされた券を見つめながら考えてみる。
きっとナツキはいろんな出店を満喫したがるだろう。

腕にはヨーヨーや金魚の入った袋をぶらさげて、頭にはヒーロー物の仮面。
手に持ったわたあめにかぶりついて顔をべたべたにして、笑顔で人混みを走りまわっている。
そんな光景を昔見たことがある。


男(いまなら、浴衣きたりするのかな…)

男(あいつ…浴衣なんて似合うかな…走りづらいとか文句いいそう)

勝手な想像をめぐらして、ふっと苦笑する。

カキン!

男「!」

友「お、すげーあがった!」

グラウンドから響いた小気味良い音で我に返って、空を仰ぐと、白球が左翼に向かってまっすぐに打ち上がっていた。。

レフトを守るナツキは全力で走ってボールの落下点に入りグラブを掲げる。
気づけばいつのまにか試合は動いていたようで、相手チームの3塁ランナーはホームへのタッチアップに備えていた。

友「あーこれでようやく点入るか」

男(ナツキ…お前の肩なら刺せる)


幼馴染「帰らせる…もんかぁっ!」

ボールを捕ったナツキは素早い動きでホームへと鋭い返球をした。
投じられた球は男子顔負けの球速でぐんぐんと伸び、あっという間にキャッチャーミットに突き刺さった。
当然スタートを切っていた三塁ランナーは滑り込んでも間に合わずにタッチアウトでチェンジ。

誰も予想だにしない助っ人の見せた強肩っぷりに相手チームがどよめく。
ナツキはハイタッチで仲間に迎えられていた。



友「はーーすげぇな」

男「だろ。肩壊す前ならもっとすごかったかも」

男「あいつ、あんなに嬉しそうな顔しちゃってまぁ…」

ナツキはすごい奴だ。
いつもバイタリティにあふれていて、見ているだけでワクワクする。
ああして生き生きとした本当の姿を見せれば、誰しもを簡単に魅了してしまう。


友「人気あるわけだわ」

男「え?」

友「ナツキちゃんだよ。結構クラスの男子でナツキちゃんの事好きって奴多いと思うぜ」

男「冗談だろ」

友「バカ言え。ナツキちゃんの魅力をリストアップしてみろ、ほらほら」

男「……元気。明るい…運動神経抜群…意外と優しい?」

友「おまけに健康的な美人だ。まぁ美人って呼ぶにはちょっと幼げだけど、それもある意味プラスだろ」

男「う…」

友「そう思わねぇか?」

男「わかんねーけど…まぁ…知ってる奴の中では…」

友「だろ? ってことで、俺の見立てではクラスでは1,2を争う人気だと思うぜ」


男「そっか…」

男「……」

ナツキが他の男にそんな風に見られていると思うと、心がざわめいた。
心臓を締め付けられるような痛みがおさまらなくて、ユウジの言葉を素直に飲み込むことが出来ない。
呼吸も荒くなって、うだるような暑さとのダブルパンチでまたも一瞬足元がよろける。


友「アキ? 日陰移ろうぜ」

男(ナツキが美人……モテる…そうなのか…)

考えたことなかった。
というよりも長年気づかないようにしていただけかもしれない。
ナツキの存在があまりに近すぎて、逆に見えなくなっていた。

目の前のグラウンドではナツキ達の攻撃が始まっている。
先ほどのビッグプレーの興奮冷めやまぬナツキは、意気揚々と打席に向かい、またしてもカーブに手を出して凡打で終わった。

がっくりとうなだれた横顔が目に焼き付いて離れない。


男(俺はどうしたい? ナツキとどうなりたい)

男(もしナツキが他の男に告白されて…つきあったら…)

男(ナツキが、俺の知らない誰かと楽しそうに…)

そんな仮定を想像するのですら、いまの俺には苦しかった。


友「大丈夫か? 水のんだほうがいいんじゃね」

男「い、いや…大丈夫」

友「悪いな。ちょっと煽って発破かけるだけのつもりだったんだけど」

友「予想以上にショックだったようで……」

友「でも、ナツキちゃんがひっそり人気あるってのは確かだから、お前も幼馴染ってポジションにいつまでも甘んじてぼやぼやしてられねぇぞ」

男「なぁユウジ…正直に答えてくれ。俺とナツキは…釣り合ってる…のかな?」

友「…釣り合うだぁ?」

男「俺あいつほど運動神経抜群じゃないし、かといって自慢できるくらい頭いいわけでもない」

男「人付き合い良いほうでもないし、モテたためしもない。バレンタインなんて女のナツキの方がたくさんもらってるくらいだ」

男「なんだか自分で言ってて情けなくなってきた」

友「アキ君よぉ」

ユウジは隠すこともなくため息をついた。
そして俺の肩を軽く叩いてから、ナツキの方を指差した。
俺はベンチに座って仲間と話をしているナツキをぼんやりと見つめながら次の言葉を待つ。


友「恋愛って、釣り合ってるとか対等の能力だとか、そんなんじゃねぇだろ」

友「お前がナツキちゃんの一番の理解者で、お前がナツキちゃんを一番笑顔にできる自信があれば」

友「それでいいんじゃねぇのか」

男「…」

友「少なくとも、数年近くから見てて、お前らがお似合いじゃないなんて思ったこともないぜ」

友「ほら」

こちらの視線に気づいたナツキが手を振りながら駆け寄ってきていた。



幼馴染「大丈夫?」

男「え?」

幼馴染「さっき立ちくらみしてなかった? 日射病気をつけろって言ったのアッキーじゃん」

幼馴染「木陰座ってたほうがいいよ……あ、それともベンチくる?」

男「いや…大丈夫。それよりお前、もうカーブ捨てろ」

男「絶対に最初のカウントはストレートで取ってくるから、早めに振っていった方がいい」

男「タイミングはそろそろ掴んできただろ?」

幼馴染「…! うん! 絶対ヒット打ってアイス買ってもらうんだ!」

男「よし」

幼馴染「行ってくるね! 暑いから気をつけて!」 


友「…さてと、俺はそろそろバイトの時間だな」

友「ナツキちゃんのかっこいいとこは見られなかったが、かわりにいいもんは見れた」

友「じゃあなアキ。臆病になんなよ」

友「ナツキちゃんは三振怖がらずにあんだけガンガンスイングしてんだ」

友「お前だって、バット振ってみなきゃ何が起きるかわかんねぇだろ」

男「あぁ、サンキュ。お前誘ってみてよかったよ」

友「おえーきもちわるっ。じゃ俺にも今度アイスおごってねー」




ユウジは荷物を肩にさげ、帰っていった。
試合はすすみ、終盤へと差し掛かる。

スコアは0対2
お互いのピッチャーが酷暑に負けずに粘投して、ヒットや四球は出つつも結局ろくに点が入らず終いだ。
このまま順当にアウトを積み重ねていくと、ナツキの打席は9回表に巡ってくる。


球審「ボールフォア!」

部員A「やった! ランナー出たっ! ナツキちゃんあとよろしく!」

幼馴染「…うん!」

さすがの鉄腕女子(勝手に命名)も9回のマウンドはかなりハードなのか、終盤は球威が落ち、コントロールも乱れ始めた。
1アウトとった次の打者にストレートのフォアボールを与えてしまう。

これでランナー1塁。
2点差だがナツキも打てばまだ勝てる可能性はある。

男(練習試合で同点延長は無しだとするとラストチャンスか…)

男(がんばれ…ゲッツーはダメだぞ)

ナツキは大きく深呼吸して打席に入る。
真剣なまなざしでじっと投手を睨みつけ、好球必打の気構えでバットを揺らしてタイミングを計っていた。

ピッチャーはランナーを気にしながら、小さいモーションで1球目を投じた。


幼馴染「…ッ!」

男(危ねっ)

1球目はナツキが胸をそらして回避するような体に近いボール球。
当たればデッドボールで出塁できるが、ナツキの研ぎ澄まされた反射神経は自然と直撃を回避した。


2球目。

幼馴染「うっ」

男(よく我慢した)

いままでの打席でナツキがぶんぶん振っていた外側のストレート。
今度はちゃんとバットを出すのを我慢して、ボール2。
ナツキは再び呼吸を整える。


そして3球目。


男(甘い!)

予想通り、ストライクカウントを取りに来たどまんなかの甘いストレート。
ナツキの動体視力と反射神経で見逃すわけがない。
体が綺麗に回転し、どんぴしゃのタイミングでバットに乗せてふり抜いた。

幼馴染「…ッ!」

鋭い金属音と共にひっぱった打球はぐんぐんとレフトに向かって伸びる。

男(まずい、レフト正面か!? いや…)

幼馴染「あぁっ」

男「ナツキゆるめるな走れ!!」

思わず熱の入った大声が出ていた。

レフトの捕れる範囲かと思った打球は、グラブの先をかすめ、守備をくぐりぬけてポーンポーンとフェンスまで転がっていく。
強烈なライナーに目測を誤ったようだ。



幼馴染「はっ、はっ」

快足を飛ばして2塁を蹴る。
先に出ていたランナーはホームへ生還。1点追加。
レフトはフェンス際まで転がっていった打球の処理にもたついている。プレーを見る限りナツキほど肩もつよくない。
ナツキは全力で走り続けてついに3塁も蹴った。ようやくレフトがバックホーム。もう間に合わない。

そしてナツキは大粒の汗をたくさん吹きながら、晴れやかな笑顔でホームベースを駆け抜けた。


幼馴染「~~~っ! やったー♥」

部員A「ナツキちゃんすごい! ランニングホームラン!」

部員B「足速っ!」

またもハイタッチでチームメイトに迎えられるナツキ。
ナツキの1打でゲームは2対2の同点に追いついた。


男「ナツキーーー! ナイスラン!」

俺もおもわず声援を送る。

幼馴染「えへへっ、みてた~~~?♥」

汗だくのナツキは腕が千切れそうなほど嬉しそうに手を振り返してくれた。
玉の汗が跳ねる。
ナツキは俺が手を振り返すまでずっとそうしていた。

心の中でもやもやと立ち込めていた暗雲なんてあっという間に吹き飛んでしまうほどの、青空のように澄み切った美しい笑顔だった。


男(ナツキ。やっぱり俺…お前のこと、大好きだよ)

男(お前といるといつもこんなに楽しくて、うれしいんだ)

男(だから俺は)

ユウジにもらった券の入った財布をぐっと握りしめる。
俺の心はもう決まった。





   ・    ・    ・



結局ゲームはあのまま引き分けで幕を閉じ、俺達は自転車をおして雑談しながら帰路へつく。
あの話を切り出さないとと思いつつも、会話の流れは自然と今日の試合のことばかりになってしまう。
タイミングがつかめない。


幼馴染「あー楽しかったなぁ。やっぱ試合だよねー」

幼馴染「アッキーも女の子だったら一緒に出来たのに」

男「…」

幼馴染「最後気持ちよかったなぁ。あんなに本気で走ったのひさしぶり。帰ったらマッサージしなきゃ」

男「あれはうまく取られてたらレフトライナーだな。飛んだ方向がよかった」

幼馴染「んもう! 素直に褒めてよ」

男「…すごかったよ。めちゃくちゃかっこよかった」

幼馴染「えへへ…ほんと?」

幼馴染「なーんか助っ人のボクがこんなに活躍しちゃって申し訳ないって感じ」

男「お前、部活勧誘されたろ」

幼馴染「うん。新学期からでもいいから入ってって言われたー」

男「どうするんだ?」

幼馴染「とりあえず保留したよ。野球できるのは楽しいけどさ」

幼馴染「この肩じゃあんまり無理できないしねー」



男「バッターならいけるいける。お前センスあるよ。あのチームなら即クリンナップだ」

幼馴染「そ、そうかな…まぁもともとボクはリトルの4番だもんね」

幼馴染「でもねぇ…ボクが部活入っちゃうと」

男「なにか問題あるのか」

幼馴染「アッキー暇になっちゃわない?」

男「…!」

ナツキは歩みを止めてじっと俺を見つめる。
先までの笑顔全開とはうってかわって、どこか寂しそうな表情に見えた。

男「どうして?」

幼馴染「ううん、なんとなく、そう思ったの」

よくみたらナツキのほっぺたになぜか薄く土がついていた。

男「ちょっとそのまま」

幼馴染「? え?」

俺は自転車のスタンドをおろして、土を払ってやろうとそっと頬に向かって手をのばす。
ナツキは一瞬ピクリと身をすくめたが、すぐに俺の意図を察したのか顔を差し出した。

男「とれた。いつのまに土ついたんだ。お前スライディングしたっけ?」


幼馴染「…ありがと。びっくりした」

男「あぁ悪いな急に触って」

幼馴染「…チューされるかとおもった」


男「え…」

夕暮れに染まったナツキのはにかんだ顔と、思いもよらないセリフにドキリと心臓が跳ねた。




幼馴染「…うそうそ! なんで赤くなってるの」

男「いやぁ…夕日だろ?」

幼馴染「くふふ、わかってるよ。ボクも機嫌がよければ冗談くらい言うってば!」

幼馴染「ねー帰りにアイス買って~」

幼馴染「あ、ホームランだから極上のやつね。ランニングだけど! ヒット2本よりも価値あるでしょ?」

男「……」

幼馴染「聞いてる? 約束をやぶる人にはチョーップ」ビシビシ

男「な、ナツキ…」

幼馴染「んえ?」

男「今度さ…夏祭、り…いかない?」

男「ユウジに割引券もらって、300円分…だけど…」

男「もし暇なら…お、俺でよければ一緒に。どうかな」

柄にもなく真面目な態度で誘ってみた。
何回も心の中で反復練習したはずなのに、いざとなるとうまく声が出なかった。
ちゃんといまので伝わっただろうか。ナツキの反応を見るのが怖い。


幼馴染「……行く」

幼馴染「絶対行く」

数秒経ってからナツキは俺と同じくか細い声で返事した。
聞き取りづらかったが、決して聞き間違えではなく、確かに行くと言ってくれた。


男「まじか…じゃあ……約束…ってことで…」

幼馴染「…うん」

男「……楽しもうな」

幼馴染「…うん。ねぇアッキーそれってさ。こんどこそ…デート…なのかな?」

男「……」

男「……たぶん」

幼馴染「…そっかぁ。デートかー…」


俺達はそのまま言葉もかわさず、顔を見合わせることもなく並んで自転車をおしつづけた。
血が沸騰したみたいに恥ずかしさが急激にこみ上げてきて、いま自分でもわかるくらい俺の顔は赤いのだろう。

男(夕暮れ時でよかった…こんなの見られたら絶対からかわれる)

ナツキはどうだろう。表情を伺うことはできない。
俺からこんな誘いをうけて迷惑? 驚き?
拒絶されなかったから悪くは思われていないと信じたい。





男(デート…か…)

男(デート! うわぁ…どうしよ!)

男(ユウジ、俺誘っちゃった! ナツキを!)

口元がにやけるのをこらえきれほど、嬉しさがこみあげてくる。
人生ではじめてのデートの約束を、いま隣を歩く幼馴染のナツキとした。

きっかけを与えてくれたのは親友であるユウジだ。
最初は俺とナツキの関係性に無闇に踏み込んできてかき回す迷惑な奴だと思っていた。
俺の心に太い棘を突き刺して苦しめたこともある。

だけどいま思えばすべて俺を心配して焼いてくれたおせっかいだ。
おかげで俺は自分の気持ちに気づいて、ようやく一歩前進することが出来た。

男(助っ人サンキューな)

男「…なぁ、帰りウチよってく?」

幼馴染「ボクシャワー浴びたいから…」

男「あ、そっか。じゃあ今日は解散して」

幼馴染「だから寄ってく…借りるね。家開いてなかったらやだし」

男「そ、そうか……わかった」

幼馴染「今日は暑かったねー…」

男「そうだな。まだこの時間でも暑い」

幼馴染「うん。帰って一緒にアイス食べよ」

男「…おう」



第五話<助っ人>おわり



  

更新終わり
次回第六話① 木曜日予定

6話更新明日スマソ

嫁「どうしてボクと結婚しようとおもったの…?」
単発放出

乙乙
読んだことあったわ
>>1はボクっ娘以外かかないの?




第六話<夏祭り>



幼馴染「よかったぁ。今日は一日晴れそうだね」

男「そうだな。夕立こなければいいけどな」

幼馴染「うん…せっかくのお祭り……デ、デートだもんね」

男「……ぉ、おう」


ナツキを誘って数日経った。
あれから日を追うに連れて緊張の度合いが高まっていく。
そしてついに迎えた当日。

ナツキはいつも通り朝っぱらからうちに顔を出したが、
アイスをたかることもなく、勝手にかき氷をつくりだすこともなく、
ちゃぶ台の前に座っていたっておとなしくテレビを見ていた。

幼馴染「あ、そうだ」

特にやることのないナツキはおもむろに財布を机の上にひっくり返して、手持ちの小銭を数えはじめる。

幼馴染「いくらもってたかなぁ」

男「おいおいここで数えるのかよ」



幼馴染「ぎゃっ、873円しかない!」

男「ユウジからもらった300円分の券もあるぞ」

幼馴染「それでも少ないよ…あーいろいろ食べまくる計画が…」

男「それ全財産? お前また無駄遣いしたな」

幼馴染「無駄じゃないもん……」

男「あーあアイス我慢しないから。せっかくのお祭りなのに金欠はやぁねー」

幼馴染「うう…」

ナツキは食欲旺盛なのであまり食に関して我慢することはない。
特にアイスバーやキャンディ等、口唇的な欲求の満たされる食べ物が好きだ。
放っておけば食べ終わった後の棒をずっと噛んだり舐めたりしている。
昔から自身の欲求に対してストレートな奴だ。


男「食べてばっかりなのによく太らないな」

幼馴染「その分いっぱい運動してますから、てへへ」

男「今日もやる?」

幼馴染「うん!」

そう言って炎天下の庭に出て日課となったキャッチボールをはじめる。
今日も肩の調子は良さそうだった。

 

 


   ・     ・     ・



幼馴染「あっつい! 退散退散!」

男「あー今日はやばい…座ってるだけで汗だく」

幼馴染「シャワー借りるっ」

男「俺もいますぐ浴びたい…お前自分ちで入ってこいよ…」

幼馴染「こっちくるまでにまた外で汗かいちゃうじゃん!」

男「知るかよ! あ、こらっ…待―――」

ナツキは早い者勝ち上等とばかりに、替えのシャツとバスタオルの詰まったかばんを拾い上げて風呂場に向かって走っていく。
いつもこの調子で俺は熱気がむんむんとした室内に取り残される。

運動後で体の芯から熱されたような暑さは、扇風機や風鈴で紛らわすこともできない。
汗ばんだシャツが肌にはりついて気持ち悪い。


男「はぁ…あれでも一応女だししかたないか…」

男「エアコン業者まだかよ…」

先日父親を電話で説得してようやく我が家にも新型のエアコンが取り付けられることになった。
がしかし、この時期業者はかなり込み合うようで、肝心の取り付け作業にくるのはまだしばらく先のようだ。

ひさびさに帰宅して顔を見せた姉はあまりの暑さに不満たらたらで、
「よくこんな家で過ごせるね」などと吐き捨てて、友人の下宿先へと逃げていった。




  ・   ・   ・




俺がシャワーからあがって居間に戻ると、ナツキは俺の布団の上で寝転がっていた。

男「おーい?」

男「お客さーん、なに勝手に寝てんだ」

幼馴染「…スゥ」

男「あ……まじで寝てんのか」


扇風機の微風でナツキの生乾きの前髪がゆれる。
暑さにまいったように四肢をのばしてぐったりとしていて、動物園のシロクマみたいだ。

寝返りをうつとふとましいお尻がぐるんとこちらを向く。
ショートパンツからあふれた張りのある太ももが眩しい。

幼馴染「んぅ……ぁ…」

男「……」

男「日射病ってことはないだろうけど…」

男(デート当日だってのにこの緊張感のなさ……)

ナツキはあまり今日のことは気にしていないのだろうか。
ここ最近お互いの間でややギクシャクした雰囲気はあったが、俺がそうだっただけかもしれない。
ナツキのあまりに代わり映えのない姿に一瞬不安を覚える。

男(本当に今日デートなんだよな?)



幼馴染「…ふぁ…」

男「眠いのか?」

幼馴染「んー……」


どうやら半分起きているようだ。
ナツキはうにゃうにゃと唸りながらゴロゴロ寝返りで布団を行ったり来たり。


男(俺の布団なんだけどな…)

布団カバーを毎日まめに洗濯しているわけではない。
夏場ということもあって多少俺の匂いが染み付いていると思うのだが、あまり気にしていないらしい。

こうも抵抗なく異性の布団に寝転がることが普通できるだろうか。
ナツキが考えなしと言えばそれまでだが、
こうした態度を見る限り、俺に対して異性という意識をもっているのかどうかがはっきりしない。

好きだからデートを受けてくれたというよりは、俺の頼みだから聞いてくれただけ、だと邪推してしまう。

男(お前ほんとは俺のことどう思ってんだ?)

男(もし今日のデートがダメだったら…俺達の関係はどうなるんだ)

ただの親友で幼馴染のままでいるのか。
それとも気まずくなって顔を合わさなくなるのか。
後者は考えづらいが、可能性として有り得ないことではなかった。

 

男(逆にデートが楽しくて関係が今以上に進んだら?)

ナツキと手をつなぐ。
ナツキと腕を組む。
ナツキとキス。
ナツキと……。

男「……」

目の前で寝転がる柔らかそうな体をみていると、あらぬ想像が溢れ出しそうで必死に頭を振った。
うちわで顔を何度も扇いで熱を冷ます。

シミュレーションするにはまだまだ早い。
俺はナツキに面と向かって好きだとも告げていない。
せめてそういうことを考えるのはお互いの気持ちを確認しあってからにしようと心がけた。


男「じゃあ昼飯つくっとくから。いい加減に起きてこいよ」

幼馴染「ふぁぅ……」

聞いてるのか聞いてないのかはっきりしないあくびのような返事をしてナツキは眠り続ける。
ついには布団の外で鎮座していたクマゴロー(ナツキ命名)を抱き寄せて、枕かわりにして本格的に眠りはじめた。


男「……」

デート前にこんなぐうたらした態度をみせられては、せっかくここ最近で高揚した気持ちも冷めてしまいそうだ。
異性だと思うにはあまりに可愛くない態度にため息が出る。


男(どうせ祭りに行ってもいつもの調子と変わらないんだろうな)

男(ま、それでもいいけどさ…)

俺はナツキに女子らしさを求めるのを半ば諦め、なるべく考えないようにして炊事に励んだ。

 


   ・    ・     ・




男「できたぞ」

昼のメニューは夏野菜と鶏肉のグリルに付け合せでインスタントのかぼちゃの冷製スープ。
毎日遊びに来るナツキのために、飽きないように栄養が偏らないように考えて用意している。
いまよりずっと雑に扱っていた頃はそうめんの5連投もよくあることだった。


男「おーいおきろ」

幼馴染「うぅん、ゆ…」

スプーンでだらしなく緩んだ頬をぺちぺち叩いても、むずがるだけで起きる気配がない。

男「ご飯できてるぞー」

幼馴染「ん……んー?」

男「…んーじゃなくて、昼ご飯」

男「……しかたない」

揺すっても叩いても起きないナツキにムッときて、俺は下卑た笑いを浮かべ冷蔵庫から氷をひとつとりだす。
そしてナツキのシャツの背中側の襟のつまんで広げて、中にひょいと滑りこませた。


幼馴染「んひゃあ! つめたっ」

男「おきろよ」

幼馴染「なっ、なぁっ、なにが!?」

幼馴染「あ~~~ひどい!冷たい冷たいっ!」

男「おはよう」

幼馴染「こいつかー…はむ…」ボリボリ

幼馴染「……」ボリボリ

男「食うなよ。昼飯できてるぞ」

幼馴染「…んっぐ。あ、ほんと? わーい」



幼馴染「いただきまーす」

幼馴染「わー鳥肉だ…。なにこれ焼いたの?」

男「味付けしてオーブンでグリル。野菜も全部食えよ」

幼馴染「うん! この味好きだから全部食べれる。なーんか最近豪華だよね」

男「そう?」

幼馴染「だってさ、お前なんかこれでも食っとけー!って鍋とそうめん渡されたりしたことあるよ」

男「…」

幼馴染「くふふ、アッキーの心境の変化ってやつだね。ボクをもてなす気になったんだ」

男「いや、おばさんからお前の食費もらっただけだから」

幼馴染「え゙っ!? そうなの!?」

男「うん。お前が泊まった日の翌日くらいな。すこし多めにくれたから、それ充てただけ」

幼馴染「なーんだ。じゃあ遠慮なく食べれるじゃん」

男「お前いままで生きてきて遠慮したことねーだろ!」

幼馴染「ってことはぁ、そのお金でアイス買ってくれる?」

男「もうないです」

幼馴染「ちぇー。デザートもないの?」

男「どうせ夜に甘いもん食うだろ」

幼馴染「そっかぁ…わたあめとか…ラムネとか、チョコバナナとかねー♪」


幼馴染「あ、でもボクお金が……なんてことだ」

男「小遣いもらえないのか?」

幼馴染「毎月はじめにちゃんともらってるもん…」

男「祭りの時くらいっておねだりしても無理?」

幼馴染「無理だよぉ…最近さぁいろいろ必要なもの買ってもらったもん」

男「じゃあ、えっと手持ちの800円?そこそこでやりくりするしかないな」

幼馴染「うん……あーいろいろ食べたかったのに」

幼馴染「金魚すくいもしたいし射的もしたいし…お化け屋敷もお金とるし…」

男「時には我慢も必要だぞ」

幼馴染「デートなのに……」

ポツリと漏らすナツキの言葉に心臓が跳ね上がり、スプーンを落としそうになった。
たしかにデートだ。それもお互いにとって人生初の。
しかし、だからといって無い物ねだりするのはよくない。



 
男「あくまで花火大会が目的だし、腹いっぱい食べなくてもいいだろ」

男「それにお金が無いなら無いなりに、どれにしようか迷うのも楽しいと思うぞ」

幼馴染「…そっか!」

幼馴染「アッキーと一緒ならきっと楽しいよね」

悩みが吹っ飛んで無邪気に笑いかけてくるナツキ。
そんなこと言われては気恥ずかしくてはっきりと目を見ることができない。

男「お、おう……あのさ、スープ口元ついてるぞ」

幼馴染「…?」

ナツキは舌をぺろりとだしてそれを舐めとった。

ここ最近そんな何気ない仕草ひとつひとつにドキドキしてしまう。

男(うわぁ俺って……)

なんだかんだ言いつつもナツキのことが好きすぎると自覚していた。



昼食後はテレビで甲子園をみたり、二人で宿題をしながら過ごした。
そしてようやく涼しくなり始めた夕刻。

男「もうちょいしたら祭りいくか…」

幼馴染「じゃあボク1回家帰るね」

男「なんで」

幼馴染「んー、荷物置きに行く。あと、もしかしたらお母さんお小遣いくれるかもしれないし!」

男「そうか…じゃあまた」

幼馴染「うん!」

ナツキは荷物をかかえて慌ただしく帰っていった。

男(てっきりこのまま行くかと思ったのにな)

男「さてと……俺も用意するかな」



   ・   ・   ・



男「……来ねーな」

それから20分ほど待ってもナツキは戻ってこなかった。
家は目と鼻の先なのでいつもなら5分もかからずに戻ってくるが、今日に限って遅い。

男「何してんだ…」

メールを送っても返ってこない。
小遣いをもらうのに必死でおばさんの説得を続けているのだろうか。
あるいはトイレにこもっているか、もう一度シャワーでも浴びているのか。
事故の線はない。外で大きな物音がすればすぐわかる距離だ。

男「おせぇ…」

俺は居ても立ってもいられなくなり、ナツキの家を訪ねることにした。

 


ナツキの家のチャイムを4回連続で鳴らす。
昔から登校時の日課になっているので特に抵抗はない。
ナツキの家族にとってこれは俺が来たという合図にもなっている。

「はぁい」

ナツキの母親はいつも上機嫌な少し高い声で返事する。


男「おばさん、ナツキいる?」

「アキくん? ごめんねー、ちょっと待ってね。ほらナツキ」

男「おいナツキーいるのか」

「ナツキ。アキくん待ってるよ」

幼馴染「うー…」

男「…?」

ナツキはどうやら家にいるようだが、何故出てこないのだろう。
うーうーと唸り声が聞こえるだけで、なにがあったのか検討がつかずもやもやする。

男「どうかした? 腹痛くなった?」

「それがねぇ。くすくす、恥ずかしいんだってさ」

おばさんが笑いをこらえたような調子でそう告げると、
玄関の戸が少しだけ開いて、ナツキがひょっこりと頭だけを外に出した。

男「お前遅い。何してんだよ」

幼馴染「……」


男「祭り行くんだろ?」

幼馴染「…行く、けど」

男「どうしたんだよ? なんかあった?」

幼馴染「ううん…そうじゃないんだけど…」

あれだけ楽しみにしていたはずなのに、こうして怖気づいたように出てこないのは何故だろう。
押し入って引っ張りだそうとした矢先、ナツキは首を振ってもにょもにょと呟いた。

幼馴染「アッキー笑わないでね」

そして扉が大きく開かれて、ナツキがようやく姿を現した。
それと同時に鮮やかなオレンジ色が視界に飛び込んできた。

男「ナツ…キ…それ…」

幼馴染「……えへへ」

見たこともない美しい姿だった。
ナツキは橙色の浴衣を身にまとい、水色の涼しげな帯を巻き、足元はいつものランニングシューズではなくしっかりと下駄を履いている。
頭には可愛らしいかんざしまで付けていた。


男「お前…」

男(浴衣…着てたから遅かったのか)

男(ナツキの…‥浴衣……)

俺はナツキの新鮮な格好に、言葉を失って玄関前に立ち尽くす。
ナツキもうつむいたまま動きだす気配がない。

そんな俺達を見かねたのか、おばさんがナツキの背後に立ってトンと肩を押し、いってらっしゃいと手を振った。


横に並んで祭り会場までの道のりを歩き出す。
15~20分も歩けばついてしまう近場だ。
しかしナツキの足元は歩き慣れない下駄履きで、いつもと同じペースで歩くことは出来なかった。

男「……」

幼馴染「……」

無言が続き、ナツキは少しうつむき加減に時々こちらを探るような視線を投げかけてくる。

男(やべっ、こういう時なんか言わなきゃな。ええと、ええっと)

祭りに行くことを決めたあの日からたくさん脳内でシミュレーションしたのに、これは俺にとって不測の事態だった。
まさか、まさかナツキが浴衣を着てくるとは思わなかった。
ムードもへったくれも無いいつも通りのカジュアルなボーイッシュ風で行くものだと思い込んでいた。
それだけに、この眩しいほど綺麗な姿を見てパッとうまい言葉が出てこない。

男(褒める…褒める…ええっと)

男「……。に、似合ってる。浴衣。色も綺麗で」

幼馴染「…うん」

結局そんなありきたりなことを小さな声でしか言えない自分にうんざりした。

男「お前オレンジとかおいしそうな色好きだもんな」

幼馴染「ううん、アッキーが好きかなって思ってこの色にした…」

男「え……あぁ、そうなんだ…」

男(俺のために?)

男「買ったのか、それ…全部」

幼馴染「うん……」

幼馴染「この前アッキーとお祭り行くって言ったら…買ってくれた…えへへ」

男「……よ、よかったな」



あのナツキが俺のために浴衣を着て来てくれた。
こんなにうれしいサプライズがあるとは思わなかった。

それだけに俺はひどく動揺してしまい、恥ずかしくて顔を上げることすら出来ない。
体温がじりじりと上がっていくのは夏の暑さのせいではない。
ナツキは俺のそんな雰囲気を察してか、くすくすと上機嫌に笑った。


幼馴染「どう? びっくりした?」

男「…うん。びっくりした。誰かとおもった」

幼馴染「…ね? 言ったでしょ」

男「え?」

幼馴染「ボクだって女の子らしい格好したら可愛いんだからな」

はにかんだような笑顔で俺を見上げる。

男「……そうだな…可愛い、と思う」

男「可愛いよ…ナツキ」

間違いなくそれは俺の本心だった。
歩いたまま、ナツキの目の前に左手の平を差し出す。
ナツキはその上に自身の右手の平をそっと重ねて、何度かすりあわせたあと、おそるおそる指を絡めてきた。
俺もきゅっと握り返して、ナツキの手の暖かさを感じ取る。


幼馴染「アッキーの手、おっきいね」

男「お前のはちっちゃいのによくあんな球投げられるな」

幼馴染「…えへへ」

幼馴染「お祭り…楽しみだね」

男「…あぁ」

お互いのすこし汗ばんだ手のひらをぴったりとくっつけて、俺達は夕暮れの河川敷をゆっくり歩き続けた。



第六話<夏祭り>つづく


 





更新終わり
次回日曜日

>>350
あんまり書かないです

第六話<夏祭り>つづき



幼馴染「ついたついた」

男「おー結構人来てるな」

幼馴染「…ボクお腹空いてきちゃった」

男「何か食うか…あ」

祭り会場の入り口では、はっぴを着て鉢巻を締めた若い男が会場のパンフレットを配っていた。
どうにも見覚えのある横顔にギクリとする。
そして彼は俺達を見つけるや否や、笑顔で駆け寄ってきた。

友「よぉアキ!ナツキちゃん」

幼馴染「あれーユウジ君何してるの」

友「何って、俺今年は当番なんだよ。あーめんどくせぇったらありゃしねぇよ」

男「楽しそうにナンパしてたように見えたけど」

友「なーそれよりアキ」

ユウジは馴れ馴れしく肩を組んできていたずらっぽく笑う。

友「やるじゃん…もちろんお前から誘ったんだよな?」

男「…!」

そこでようやくナツキと手をつないでいたことを思い出して、
カァっと瞬時に体が熱くなり、ふりほどいてしまった。
ナツキもそそくさと離れてあたふたしている。


男「こ、これはな」

幼馴染「…そ、そう、ちょっとはぐれそうになったから」

友「あれあれぇ、まだこの辺りはごった返してるわけじゃないのになぁ」

幼馴染「うう…」

男「からかうなって」

友「冗談。にしても、ナツキちゃんも浴衣を着れば変わるもんだなぁ。へーあのナツキちゃんがねぇ…」

幼馴染「えっへへ、そお? 買ったんだよ」

男「馬子にも衣装ってやつだろ?」

友「その言い方はないんじゃないか? こんな奴が独り占めなんて世の中間違ってる」

客「すいません、パンフレットくださーい」

友「あいよ! ……ま、ふたりとも俺の分まで楽しんでこいよ、で・え・と♥」

幼馴染「ち、ちがっ……ちがわないけど! で、デートっていうか、い、いやぁこれはねっ」

男「なに取り乱してるんだ。こっちまで恥ずかしくなるだろ」

友「あははは今年の夏は例年以上にアチーなぁ」

男「お前やっぱり冷やかしたかっただけだろ!」

友「はいはいもう行った行った! 俺は仕事があるんでね」

幼馴染「そだ、ユウジくん割引券ありがとねー」

友「おう!」

そして俺達はユウジに手を振って別れ、混雑した屋台通りへと入っていった。

 

幼馴染「ねぇねぇ…」

男「ん?」

幼馴染「もう一回手握って欲しいな」

今度はナツキが遠慮がちに手を差し出してくる。
今日は慣れない下駄履きに、他人との接触に気を使う新品の浴衣姿。
こちらが思っている以上に人混みは歩きづらいのかもしれない。

はぐれても面倒だと思って再び手をつなぐ。
ナツキの手はさっきよりも更に汗ばんでいた。


幼馴染「デートだもんね」

男「うん…デートな」

幼馴染「ユウジくんに…見られちゃったね…」

男「あいつの思う壺だったわけだ」

男(感謝はしてるけど)

ナツキは受け取ったパンフレットをうちわ代わりに必死に顔の熱を冷ましていた。
パンフレットには花火大会開始の時刻と場所の詳細、祭りの屋台の簡単な地図が記載されていた。

男「えっと、お前なにから食べたい?」

幼馴染「まずはたこ焼き!」

男「たこ焼きね。じゃあこっちか」



こうしてナツキの手を引いて祭りを回るなんて夢にも思わなかった。
いつもなら人混みをかきわけてでもあちこち突っ走っていくナツキが、俺の隣をゆっくりと歩いているのが新鮮だ。

最初に見つけたたこ焼き屋で1パック8個入りを買ってナツキに手渡す。


幼馴染「わー。おいしそ。あつあつだね」

男「歩きながら食べるなよ?」

男「もしぶつかって落としたら、せっかくのが汚れちゃうだろ」

まわりを見渡すと来場客はみんな立ち食いや歩き食い、または植え込みの石に腰掛けたりと思い思いの場所で食べている。

幼馴染「どうするー?」

男「ベンチは流石に空いてないしなぁ…」

幼馴染「ボク立ったままでもいいよ」

男「じゃあそうするか」

通りの邪魔にならないようすこし外れた場所に立って、ナツキと向い合ってたこ焼きをつつきはじめた。


幼馴染「はふっ、あちゅ…」

男「がっつくから…冷まして食えよ」

幼馴染「うう…あひゅ、あふい」

男「麦茶ならあるけど」

幼馴染「ちょうらっ……んぐ、んぐ」

幼馴染「はーー、口のなか火傷しそうになった」


幼馴染「なかトロットロであつすぎるから食べる時気をつけてね」

男「…爪楊枝一本しか入ってないんだけど」

幼馴染「あ、ほんと? くふふ」

男「なんだよ……しかたない、もう一本もらってくるか」

幼馴染「待って。はい、あーーん」

男「しないしないしないっ。見られるから」

幼馴染「みんなやってるし、ボクたちのことなんて誰も気にしないよ~」

男「…」

幼馴染「アイスの時は食べてくれたのに。今日はデートって言ったのに…」

男「…わかった。いただきます」

表情の曇るナツキをみて観念して大口をあける。

男(こういうこと積極的にするやつじゃないとおもうんだけどなぁ…)

しかしこみ上げてくる恥ずかしさ以上の嬉しさは抑えられない。

幼馴染「あ、このままじゃ熱いよね…ふー、ふー…ふー」

ナツキは吐息で一生懸命たこ焼きを冷ましてくれる。
ナツキのことを意識しはじめてからというもの、仕草や行動のひとつひとつが可愛く思えて仕方がない。


幼馴染「おいしい? 中あつあつトロットロでしょ?」

男「うまい。たこちょっと小さいけど」

幼馴染「おいしいね。もう一個どうぞ。あーーーん」

男「ナツキさ…お前恥ずかしくないのか」

幼馴染「ん…恥ずかしい…ヨ。でもこれが定番だって書いてあったから」

男「え?」

幼馴染「え、あっ…うーんなんでもない!」

男「あつっ、あつっ冷まして、あひぃ」

幼馴染「ああ~ごめんねっ! お茶っお茶飲んで」


その後数分かけてゆっくりたこ焼きを楽しんだ。


幼馴染「たこ焼きおいしかったねぇ…次何たべよっかなー」

男「ナツキナツキ。口元にソースついてる」

幼馴染「ん? れろ…」

男「まだついてる」

とりだしたティッシュでナツキの口元を拭う。
するとソースだけでなく、薄桃色の何か別のキラキラした物がわずかに付着していた。

男「あれ? お前口紅してた?」

幼馴染「あ…う、うん…口紅じゃなくてリップだけど」

幼馴染「浴衣着せてもらう時に、お母さんがちょっとだけつけて行きなさいって…塗られた」

男「そっか…」


ナツキの唇をじっと見つめる。
ぷるんと張りのある形の良い唇は、確かにいつもと比べて少しつややかさを増しているように見える。
といっても普段あまり注視する部位ではないので、何をどれくらい塗ってあるのか男の俺には検討もつかなかった。


男「ナツキも化粧するんだな。すっぴんしか見たことないな」

幼馴染「お化粧ってほどじゃないけど…ていうか自分でしたわけじゃないってば…」

男「……」

幼馴染「アッキー…なに?」

ナツキがキョトンとした表情でこちらを見つめ、首をかしげた。
思わぬ感慨深さについジーっと観察しすぎたようだ。


男「い、いや…次行こうぜ」

幼馴染「うん」

本音では触ってみたいと思った。
どんな感触なのだろうか自分の物とはやはり違うのだろう。
いろんな想像が頭のなかを巡る。

男(もし…キスしたら…どんな感じなんだろう。柔らかいのかな…)

男(ナツキはしたことなんてないよな…?)

俺の知る限りでは、ナツキは異性との交際を経験したことがない。
俺もそうだ。
いつも二人で一緒にいたため、他の誰かが深く入り込む余地なんてなかった。

だから実はお前たちは付き合っているんじゃないか、いつ籍を入れるんだなどと散々周りにからかわれ続けた。
それでもからかわれる鬱陶しさよりも、俺達はお互いに親友で居続けることの楽しさを選んだ。

ナツキは心の底から親友だと誇ることができる。
むしろ幼馴染や親友等と言葉で形容するよりも、ナツキは俺にとって『ナツキ』というひとつの存在でしかない。


男「俺焼きそばでも食べようかな。お前はあと何だっけ」

幼馴染「ゲソ焼きでしょ。チョコバナナでしょ。あとラムネとー…リンゴ飴も欲しいなぁ」

男「そんなにか……あったらな」

幼馴染「あとねー、ヨーヨー釣りと射的! これはやらなきゃ!? でしょ?」

男「金ないくせに。結局おばさんにもらえたのか?」

幼馴染「ちょっとだけねー♪ かわりに家の手伝いするって約束したんだ」

男「そっか、それなら良かったな」


屋台の連なりを一軒一軒注視しながらゆっくりと歩いていく。
規模の大きい花火大会なので、屋台の数は短時間では見て回れないほどたくさんある。
その中からナツキはめぼしいものを探しては、強く手をひっぱって連れて行こうとする。


男「おいおい、下駄で走ろうとするなよ」

幼馴染「アッキー! これっ、これっ!!」

やや興奮気味のナツキが何を見つけたかとおもえば、指差す先にあったのは的当て屋だった。
しかしそれはコルク銃を使って景品を撃ち倒す射的ではない。

かなり広くて奥行きのあるテントの最奥には丸いボードが立っていた。距離は目算で15mくらいだろうか。
そしてパイプ椅子に腰掛けた店員の側のカゴには、使い古した野球の球がたくさんつまっている。


男「げ……ピッチングゲーム…」

幼馴染「これやろうよ~~♥」

的当て屋「的当てやっていくかい? 1回300円だよ」

幼馴染「アッキーこれこれ」

・3球共どまんなかに当てた方には1等最新の携帯ゲーム機プレゼント!

と書かれていた。


幼馴染「ほしいなぁ~~、とっていい?」

的当て屋「お嬢ちゃん自信あるのかい? まだ今日は取れた人いないよ」

幼馴染「うん! やるやる」

男「やめとけって、お前浴衣だぞ」

幼馴染「あー…うん…」

なんだか納得してないふてくされた表情。

的当て屋「そうだねぇ。女の子にはちょっと遠い距離だよね」

的当て屋「じゃ、連れのお兄さん、彼女にイイトコ見せていくかい」

初老近くに見える髭面の店員はにこやかな笑顔で俺に軟式ボールを渡してくる。

男「彼女って…」

幼馴染「取ろうよ。絶対とれる!」

男「わかったわかった。じゃあ300円…」

的当て屋「どうぞ。3球ね」


男「自信あってもこういうのって案外あたんねぇんだよなぁ…」

幼馴染「実際のマウンドからホームよりも近いよ。行けるって!! よゆーよゆー」

傍観するだけのナツキが隣でぎゃーぎゃー騒ぐのを聞き流して、俺は呼吸を整えて1球目を軽くなげた。


ひゅっ

男「あれっ」

カツンッ

幼馴染「う~ん……なにそのへなちょこボール」

丸いボードになんとかあたりはしたが、ど真ん中から程遠い端っこだ。
店員を伺うと首を振って惜しい残念と言われた。
残り2球。


男「よっ……あ、あれ」

次は暴投。的にすらあたらず手前でワンバンしてしまった。

男(やば…力みすぎた…なにやってんだ)

やはり人相手にキャッチボールで投げる時とは感覚が違う。
自分のコントロールはこんなにアバウトだったのかと知って落胆してしまう。

幼馴染「どこ投げてんだよー。へったくそー。やめちまえー。ぶーぶー」

男「野次ってんじゃねぇ」



これではナツキにいいとこ見せるどころか、笑われてしまう。
的の後ろに備えられたネットにはたくさんのボールが転がっていた。
きっと女の手前ムキになった男たちがたくさんリトライしたのだろうとなんとなく予想がつく。

男(なんであたんねぇんだ…)

ラスト一球。

男(頼む…!)

神にも祈る気持ちで投げたボールは良いノビでビュンとまっすぐに的へと向かっていく。
そして、的のどまんなかの赤いマークからやや右上をうまく射止めて跳ね返った。

男「あたったか!?」

幼馴染「やたっ!」

的当て屋「残念少しはずれていたね」

幼馴染「えーー。ギリギリあたったように見えた」

男「あれあたってないの?」

的当て屋「あたっていればボールに赤い塗料がつくんだ」

店員は転がっているボールを確認しに行く。
しかしやはりだめだったようだ。

的当て屋「的にはあたったからこれ4等のおもちゃね」

男「…」

手渡されたのは名称不明の振れば紙がしゅるしゅると伸びるおもちゃだった。

男(いらねぇ…)

頭を上げながらナツキに差し出すとむっとした顔でうけとり、何度か頭をばしばしと伸ばした紙で叩かれた。

男「すまん」


幼馴染「もーー、そんなへたっぴで恥ずかしくないの」

男「結構難しいんだからな!」

ウォーミングアップで肩をつくった状態でもなく、いきなり軟式球をぽいぽい投げて全部どまんなか必中となれば、
やはりそれは難しいことだと思った。
店員の男はそれをわかってやっているため、効率よく見栄っ張りの男たちから金を回収しているようだ。

男(くそ…)

的当て屋「もう一回チャレンジするかい?」

幼馴染「やる」

男「お、おい…もう次いこうぜ。俺3球も真ん中当たる気しない」

幼馴染「ボクがやるの! おじさんお金っ」

的当て屋「えぇ!? お嬢ちゃんが?」

男「できるわけないだろスパイクもないのに…おいおい」

ナツキは金を払うやいなや、下駄を脱ぎ捨て裸足で敷かれた土の上に立った。


幼馴染「見ててよね」

ナツキは浴衣のまま綺麗なワインドアップを見せる。
さすがに足はいつもみたいに高くあげることはできなかったが、綺麗なフォームだ。
鮮やかな浴衣を身にまとい裸足で振りかぶる少女、非現実的な光景に見えた。

そして放たれた1球目。

幼馴染「あれっ」

人のことを笑えないようなとんでもない暴投でボールは的の上を過ぎ去っていく。

的当て屋「す、すごいボールなげるね…君女の子だよね?」


幼馴染「くそぅっ、もう!」

2球目。
先よりもまともなボールだったが、それでも的の端っこをかすめただけで後ろのネットに収まってしまった。

幼馴染「えぇ~~!? おっかしいなぁ」

男「言っただろ。踏ん張れないって」

幼馴染「ゆ、浴衣のせいだ! きぃー」

男「わーまてまて、早まるな。お前中に着てんのか! 着ててもだめっ!」

とっさに帯に手をかけて浴衣を脱ぎそうになったナツキを全力で制止してなだめる。
どうやら頭に血がのぼっているようだ。


男「落ち着け。だから今日は出来ないって言ったろ」

幼馴染「むぅ…」

男「お前なんであんなすっぽぬけた」

幼馴染「うう…なんかアッキーが構えてないとコントロールつけにくかった…」

男「…もう振りかぶらずに手投げでいいからゆっくり投げろよ」

幼馴染「ううー…」

また納得してない表情。
こいつは昔からマウンド上でピンチになるとよくこんな顔をしていた。
しかし結局最後は俺の言うことを聞く。めちゃくちゃに打たれても試合が終わったあとはいつも爽やかな笑顔を見せてくれた。


男「いいか、俺が的の後ろに座ってるとおもって、赤い印は俺のミットだ」

男「どまんなかのまっすぐ。それがこの打席のお前の勝負球。投げられるか?」

本当はそんな球を試合のなかで指示することはない。
それはバッターにとって絶好球であって、ピッチャーは本能的に恐れを抱いて避けてしまうコースだ。
基本は外角。ナツキが1球目に当てたコースは、ピッチャーにとって決して悪くはなかった。
だから野球を模したこの的当ては、俺以上にナツキのほうが難しく感じるのではないかと思っていた。


幼馴染「…」

ナツキは俺の指示を黙って聞いて、小さく頷く。
いつもの真剣な表情が戻ってきた。
しかしキャップをかぶっているわけでもないのになぜかかぶり直す動作をしようとして空振っていた。

幼馴染「見ててね。ボクのいま投げられる最高のボール」

最後の一球。
ふりかぶって、前に強く足を踏み出して体が前傾し、浴衣がめくれる。
風切音とともに腕がしなり、土を蹴りだす。

ナツキはとても浴衣女子が投げるとは思えないような勢いの良いボールを投げた。
ボールは重力に抗ってまっすぐ飛び、赤い印と白塗りのちょうど境目辺りに叩きつけられて、勢い良く跳ね返った。


男「ど、どっちだ…あたったか?」

的当て屋「……!」

幼馴染「…」

ナツキは跳ね返って戻ってきたボールを裸足のまま拾いに行く。
そして。

幼馴染「……にひっ、あったりー♪」

満面の笑みで拾い上げたボールをつきだして、わずかに付着した赤い塗料を見せた。



的当て屋「いやぁすごいもの見せてもらったよ」

的当て屋「女の子の挑戦者は届く事すらなかなかむずかしいんだけどねぇ」

確かに肩の弱い人が無理やり的まで届かせようと思うと、普通はかなり山なりのボールになるだろう。
しかしそれだと狭いテントの天井に引っかかってしまう。
おそらく直球で射抜いた女なんてナツキが初めてだろう。
俺は少しだけ誇らしく思えた。

的当て屋「はいこれ景品ね。また来年も来てね」

3球中1球を赤い印に当てたので、結果は3等。
ナツキはお菓子の詰め合わせを屋台の店員から受け取っていた。

幼馴染「あー楽しかった」

男「これでしばらくお前の菓子をかわなくてすみそう。1000円分くらいあるんじゃないかそれ」

幼馴染「えー、これボクが自分の家で食べるもーん」

男「なにっ。俺の分の元も取れたと思ったのに」

幼馴染「…えへへ。ちゃんと見てたよね?」

男「え……うん…お前、すごいな。カッコ良かった」

ナツキはすごい子だと常々思う。
浴衣や裸足というハンディを抱えながら、俺には出来ないことをやってのけた。
悔しいけど、ナツキのほうがカッコイイ。昔からこいつが女の子にモテるのも納得だ。

男「おじさんもあんなの投げる娘みたことないってびっくりしてたぞ」

幼馴染「いやぁそれほどでも…わざわざ浴衣で挑戦する子がいないだけだよ」

男「それはそうだな……足の裏も土だらけだし…ほんと何やってんだか」


幼馴染「あーあ、ここまでしたんだから1等ほしかったなー。でもせめて当てることが出来てよかった♥」

幼馴染「これでボクとアッキーのメンツは守られました…えへへ」

男「さすがだな。伊達に何年もやってない」

幼馴染「アッキーのおかげだよ♥」

男「え? いや俺なんて…なんもしてないし、逆にカッコ悪いとこ見せちゃったな」

幼馴染「そんなことないよ」

男「でも…ほんとは俺が景品取ってやりたかったのに」

幼馴染「ううん、いいんだ」

幼馴染「だってね。いつもね…いつもボクはアッキーに勇気をもらってるんだ」

ナツキはそう言ってそっと身を寄せて腕にからみついてきた。

男「お、おい…」

幼馴染「…だからありがとね」

幼馴染「ボクが笑ってる時も、怒ってる時も、困ってる時も、泣いちゃってる時も」

幼馴染「ずっと…一緒にいてくれてありがとう♥」

男「ナツ…キ…?」

幼馴染「楽しいね…ボクこんなにお祭り楽しいのはじめて」

幼馴染「くふふ♥」

男「俺もだよ。次は何しようか」


ナツキに抱きつかれたまま再び屋台通りを歩き始める。
もう周りの視線なんて全く気にしていなかった。

ナツキとこうして過ごせることが俺も楽しいし、嬉しい。
ナツキは俺のことをどう思っているのだろう。
答えが出る時は近い気がした。

日は暮れてすっかり辺りは暗くなり始めた。
もうすぐ待ちに待った花火大会が始まる。



第六話<夏祭り>つづく





更新終わり
次回火曜日か水曜日あたりに

第六話<夏祭り>つづき



しばらく屋台を物色してナツキと祭りを楽しんでいると、スピーカーから放送が流れて、まもなく河川敷で花火大会がはじまることが告げられた。
ごった返していた来場客が一斉に移動を始める。


男「会場あっちだぞ」

幼馴染「う、うん」

男「どうした、早く行かないとよく見える場所取れないぞ」

幼馴染「そう…なんだけど」

前を行く人々に付いて進む途中、ナツキの足取りはずいぶんと重たそうに見えた。
俺の腕にひっつきながらずりずりと下駄をひきずるように歩き、時々立ち止まってはじっとうつむく。

男「ナツキ?」

男「どうした? 腕組んで歩きづらいなら普通に歩けば…」

そこまで言ってようやく気づいた。

男「お前…足痛い?」

幼馴染「…」

ナツキは何も言わないし、表情を変えることもなかった。
しかし態度からして下駄の花緒で靴擦れをおこしているのは明らかだった。

男「痛いんだな…。なんで言わないんだよ」

幼馴染「ゆっくりなら歩けるかなって思ったんだけど…」

男「それでくっついてたのか」

男「とりあえず…ここじゃ邪魔だからそっちまで行けるか」


俺達は通りに沿って設置してあるベンチにひとまず腰掛けた。
たくさんの客が楽しそうに目の前を過ぎ去っていく。


幼馴染「ごめん…」

男「いや…俺の方こそごめん。」

男「下駄なの忘れてた。歩きづらいよな」

幼馴染「えへへ…やっぱり、慣れないことはするもんじゃないね」

ナツキの足元に屈んで、下駄を脱がせて足先を手に取る。
やはり鼻緒に触れていた箇所が痛々しい擦り傷になっていた。

男「痛そうだな……我慢してたのか? するなよ…」

幼馴染「だって…せっかくデートだもん」

男「……ちょっと待ってろ。絆創膏もらってくる」

俺はひとまずナツキをベンチに残して、向かってくる人混みをかき分けて祭り会場のスタッフテントまで走った。
何かあった時のためにと絆創膏なら一枚だけ財布に入れていたが、両足で合計6箇所も擦れてしまっているので今回は数が足りない。
あれだけ痛々しく腫れているなら、消毒もしくは水で洗うくらいしてあげたかった。

閑散としはじめた会場内でゴミ拾いをしているハッピ姿を見つける。

男「ユウジ」

友「おー? どうした、花火いかないのか。はじまるぞー」

友「え、まさかナツキちゃんとはぐれちゃったり? ばっかやろー」

男「違う、あいつ花緒で靴ずれしちゃって。テントに絆創膏とかないかな」

友「…わかった。もらってくる」


友「これ持ってけ」

ユウジはポーチサイズの救急セットを差し出した。
表には町内会⑦と書かれたバッジが貼られていた。
どうやら使いきりの消毒液やガーゼなど救急一式が入っていて、たくさん貸し出しているようだ。


男「ありがとう。これあとで返しに…」

友「いいから早く戻ってやれよ」

男「おう」

ベンチへ駆け戻るとナツキはぽけーっと空を眺めていた。
まだ花火の打ち上げは始まっていないが、ここからでは木々や建物に邪魔されてあまり見えないだろう。

男「待たせたな」

幼馴染「早かったね。おかえり」

男「とりあえず消毒するぞ」

幼馴染「ん…ありがと」

ぷらぷらと投げ出されたナツキの足を再び手に取り、冷水で洗う。

幼馴染「んひゅ…冷た~い。あはは。なんで水キンキンなの」

男「途中の屋台でミネラルウォーターあったから買ったんだよ」

男「おぉい、足動かすなぁ」

幼馴染「ごめんごめん」


男「お前の足の裏…なーんか土だらけだな…汚ぇ…」

幼馴染「だって裸足で投げたもん」

男「雑菌が入ったらどうするんだよ」

幼馴染「その時はまだ怪我してなかったもーん」

足の裏まで綺麗に流して洗ってから、薬を噴きかけたガーゼで患部を消毒。
最後に絆創膏を6枚とも丁寧に靴ずれの上に貼った。


男「はいおわり」

ナツキの焼けた小麦色のふくらはぎをぺちぺちと叩いて起き上がる。

幼馴染「…ありがと」

男「でも…結局歩けないよな。どうすっかなー」

幼馴染「そうだねぇ…あー花火見れなくてごめんね…」

男「いいって。ここからでも空が明るくなる事くらいはわかるだろうしさ。でも音だけじゃちょっと寂しいか?」

幼馴染「ボクはそんなことないよ」

男「ん?」

幼馴染「アッキーが一緒だから、ボクは寂しいなんて思わないよ。えへへ」

男「ナツキ…」


周囲にはもう誰も見当たらなかった。
俺はナツキの隣に深く腰掛ける。


 


幼馴染「……」

男「……‥…」

しばらく沈黙が続いた。
ふたり並んでぼーっと空を眺める。
そこに気まずさは欠片もない。



俺達は昔から言葉なんてなくてもわかりあえる間柄だ。
うちに来てもたいした会話すらなく、ひたすら練習だけして解散した事もある。

だけど、だからこそ俺は今日はっきりと伝えたい。
ナツキに俺の秘めた想いを知ってもらいたいと思っていた。
幼馴染や親友腐れ縁といった関係を打破したかった。


ペットボトルの底に余った水を一口飲んで深呼吸。

男「……ふー」

それでもやはり緊張はほぐれない。

少しだけ胃がずきずきして、脈拍が速まっているのが自分でもわかる。
さきほど全力で走って火照った体の熱も、いまの一口で引いていく気配はなかった。


男(言える…かな)

告白どころか、恋愛すら俺にとって初めての事。
少しずつ顔を覗かせる不安な心。

ちゃんと声が出るだろうか。
いつもみたいに恥ずかしさを誤魔化すために茶化してしまわないだろうか。
もし断られたら、もしナツキが俺のことなんて――――


男(あぁ俺って…)

思わずぐっと天を仰ぐ。

幼馴染「……」


俺の昔からの悪い癖だ。
リトル時代、監督は俺のネガティブな考え方を良い捕手の条件だとほめてくれた。
しかし今は違う。必要ないことだ。

なのに長年の生き方には抗えず、次第によくない考えが脳内を支配していく。

その時、ふんわりと俺の手の甲になにか温かい物がかぶさってきた。

男(ナツキ…?)

それはナツキの手だった。
まるでエールを送るように、ゆっくりと手の甲をさすってくる。
思わぬことに驚いて隣を振り向くと、ナツキはとても穏やかな顔で俺を見つめて微笑んでいた。


男(そっか……)

きっと、想いは一緒だ。


 


 
俺は手を裏返しナツキと指をからめ、揺れる瞳をじっと見つめ返した。
そして、固く閉じられていた唇をはがすようにゆっくりと開く。

男「俺、ナ――――」


幼馴染「!!」

しかしタイミング悪く始まってしまった打ち上げ花火の大きな音にかき消される。
東の空が次々と打ち上げられる花火の閃光で、夜明けのように明るく輝いている。

男「……っ」

男(なんで…いませっかく言えたのに。こんな時に)

空の明るさとはうってかわって、俺の心は仄暗くなっていく。
ナツキは再びぎゅっと手を握ってきた。

幼馴染「なーにー!? いまなんか言おうとした?」

男(このやろー…)

いたずらっぽく笑うナツキの顔をみて俺はヤケを起こしたような大きな声をあげた。
今度は花火の音に負けないくらいに。

男「好きだよナツキ! 大好きだ!」

幼馴染「ボクも。大好きだよ♥」


そして瞬く夜空の下、どちらからともなく顔を近づけて、唇が重なった。

 


幼馴染「ん……んぅ、んー♥」

ずっとくっつけていたいほどとても柔らかな感触。
ナツキの想いが伝わってくる。

言えた。
そしてナツキは、俺のことを大好きだと言ってくれた。


男(ナツキの…唇…)

数十秒ほどの長い時間がたって、ようやく顔を離して目を開ける。
てっきりしおらしい照れた表情をしているのかと思いきや、ナツキはいつもとあまりかわらないにこやかな笑顔だった。

男「…」

幼馴染「……しちゃった♥」

男「…だな。ナツキのファーストキスもーらい」

幼馴染「え? はじめてじゃないけど? 何言ってるの…」

男「……は? え? 嘘…誰」

幼馴染「えー忘れちゃった? 5歳くらいの時にふたりで家の押入れの中でチュってしたよ」

男「え、俺?」

幼馴染「うん」

幼馴染「だから久しぶりだねー。ほんとに忘れてた?」

男「……びびらせんな。はぁ~~」

男「なんだよすっげぇ昔のことかよ。ノーカウントだろそんなの!」

幼馴染「あはは。そだね」

幼馴染「じゃあ、今のが…ボクのはじめてのチューだよ♥」


幼馴染「ね、どんな味した?」

男「えっと…お前最後に何食った」

幼馴染「リンゴ飴!」

幼馴染「最後に食べたのたこ焼きじゃなくてよかったねぇ…あーよかったー」

男「確かにキスしてソースついたら台無しだな…」

幼馴染「じゃあ今ならいっぱいしても大丈夫ってことだね」

男「え゙…」

今度はナツキから。
俺の肩を強くつかんで、体を少しだけ倒して襲いかかるように唇を求めてきた。

男「んぐ…!?」

幼馴染「ん…んぅー…」

幼馴染「んぷ…えへへ、2回目ー」

男「なっ、ナツキ……大胆すぎ。びっくりした」

幼馴染「味しないね」

男「ただのキスで味がしてたまるか」

幼馴染「最後に食べるものに気をつけましょうってのはなんだったんだろー。騙されたー?」

男「はぁ?」

幼馴染「ボクもはぁ?って言いたいよ」

男「知るか。何の話だよ」


男「…いつも通りすぎて逆に調子が狂うな」

幼馴染「えへへ。それがボクたちのいいとこじゃん」

男「お前さ…もっと、こう、何かあるだろ!」

幼馴染「? ? ?」

男「照れるとかっ、恥ずかしがるとか……きゃーん!とか」

幼馴染「きゃーん? …え…ボク、全然かわいくない…かな?」

男「可愛いよっ、可愛い可愛い! もーめちゃくちゃ可愛いから黙ってろぉ」

幼馴染「えへ……えへへ、アッキーも結構いつも通りじゃん」

男「くそぅ…」

ナツキはどこまでもマイペースだ。
そんなナツキだから、俺は可愛く思えて大好きなんだろう。


幼馴染「もう一回可愛いって言って」

男「か、可愛い」

幼馴染「んぅ…ちゅ♥」

男(ナツ…キ…こいつ)

キスは思ったよりナツキにとって軽いものだったのかもしれない。
しかし想いを確認し合えたのは純粋に嬉しかった。
ナツキが俺のことを好きでいてくれたことだけで心が満たされて、幸せだった。

それから抱き合って何度もキスを繰り返し、気づけば夜空に静寂と暗闇が戻ってきていた。

 


幼馴染「花火おわっちゃったー」

男「また来年一緒に来よう。な?」

幼馴染「うん! 今度は靴ずれしないように運動靴で来る」

男「いやいや…そこは浴衣との相性考えて…」

男「靴ずれは予め対策したら大丈夫だからな?」

幼馴染「そう? でも的当てもリベンジしたいし、動きやすい服装の方が…」

男「ナツキぃ~~……」

幼馴染「わかったよぉ。これが好きなんだよね♪」ヒラヒラッ

男「せっかく買ってもらったんだから着ないとさぁ」

幼馴染「うん♪」

男「…ふ。それじゃ、人が戻ってくる前に帰るか」

幼馴染「どうやって? 家に電話したら車で迎えに来てくれるかも!」

男「今日は交通規制だからこの辺り車通れないぞ」

幼馴染「あそっかー…絆創膏したし歩けるかなー」

男「ん」

ベンチから降りた俺は、下駄の花緒をベルトに通して落ちないように固定し、
ナツキの目の前に屈んで背を向けた。

幼馴染「えーーうそ、結構遠いよ」

男「大丈夫だって。足腰のトレーニングになる」

幼馴染「そう? じゃあ乗っちゃおうかな…」


 


ナツキが俺の両肩に手をついて、背にのしかかる。
張りのある太ももをがっちりつかんで俺は立ち上がった。

男「よっ、おっ」

幼馴染「わー。すごい。重たくない?」

男「もうちょっとべたーっとくっついてくれるほうが重さ感じないかも」

男「接地面増やす感じで」

幼馴染「うんっ! えへへ。こう? ぎゅーーっ」

男「それ痛いし。胸あたってます」

幼馴染「くふ」

男「よし帰ろう」

幼馴染「ありがと。途中で倒れないでね?」

男「か、彼女連れて帰るくらいできるって」

幼馴染「えへへ…かっこつけちゃってー、このこのー」

男「顔触るなって…お前ふざけてないでちゃんと乗ってろよ」

幼馴染「オッケー。ゴーゴー」

ナツキの体の柔らかさを背中に感じながら一歩一歩歩いて行く。
途中で立ち寄ったスタッフテントにユウジの姿は見当たらなかったので、机の上に借りた救急ポーチを返しておいた。



  ・   ・   ・



  

 

幼馴染「ねぇアッキー」

ナツキが少し低いトーンでつぶやく。

男「何。お前全然重くないから気にしなくていいぞ」

幼馴染「ううん」

幼馴染「あのね…今日、来てよかったね…」

男「そうだな。楽しかった」

幼馴染「ボクも超楽しかったし、嬉しかったな」

男「……そっか。良かった」

幼馴染「いつからボクのこと好きだった。最近?」

男「……」

幼馴染「いつ?」

男「…っ」

幼馴染「ねぇ教えて。ボクも教えてあげるから」

男「昔から。かな…」

幼馴染「だからそれっていつ」

男「…捨ててくぞ」

幼馴染「耳赤いよ。ぐにー」

男「うるせー。ちょっと坂道で息あがってきたんだよ」

 


男「お前のも教えろよ。俺にだけ言わせるのずるいぞ」

幼馴染「えへへ…いいよー」


ナツキはなまめかしい手つきで俺の首筋や鎖骨を撫でながら、耳元で吐息をふきかけるようにつぶやく。

幼馴染「ずっと…ずぅっと大好きだったよ♥」

幼馴染「初めてチューするより前からずっと…♥」

男「……っ」

男「…お前それ天然でやってんの?」

幼馴染「……? くふふ、ねー帰りにコンビニ寄ってアイス買ってー。両想い記念アイス」

男「ダメ。なんでこの状況で寄り道するんだよ」

男「連れて帰るからな」

幼馴染「ちぇーー」


 
   ・   ・   ・



亀のような歩みでナツキの家の前まで連れて帰って呼び鈴を3度押す。
しかし何も返ってこない。
家の中の灯りも消えていた。



男「あれ、おばさんたちいないの? 車あるみたいだけど」

幼馴染「あっ、花火いってるのかな? どこか寄り道デートしてるかも」

男「しかたない。じゃあうちで時間潰すか」

幼馴染「そうだね。おじゃましよっかな。彼氏のお家♪」

男「……」


あっという間にウチへ。

幼馴染「なんかここ最近ずっと入り浸ってるからこっちが我が家って感じがするね」

幼馴染「もうおろしていいよ」

男「…」

幼馴染「アッキー?」

俺はナツキの太ももを持ち上げたまま、居間へと連れて行く。

幼馴染「ボクもう歩けるよ?」

男「うん」


幼馴染「…? どうしたの」

幼馴染「なぁに? まだくっついてたいの? ぎゅ~~」

幼馴染「あ、ごめんまたおっぱいあたっちゃった」

男「ナツキ。あんまりそういうのはね、俺はおすすめしないぞ」

幼馴染「?」

男「お前が悪いんだからな」


俺はナツキを浴衣のまま仰向けに布団の上に転がした。
そして体をまたいで膝を立てて座り、逃げられないように枕元に手をついて覆いかぶさった。

幼馴染「え…あ、え…? 何…」

男「ナツキ。お前があんなことするから我慢するの無理っ」

幼馴染「……ふぇ?」


まんまるなナツキの瞳に真剣な表情をした俺が映っていた。
そのままじっと心の内を探りあうように見つめあっていると、ナツキは首を小さく縦に振る。

そしてそれを皮切りに、今度は俺のほうからナツキの艶やかな唇を奪った。

幼馴染「ん……んぅ……」

幼馴染「…うん。いいよ♥」



第六話<夏祭り>つづく

 

更新おわり
次回金曜日あたり

更新明日

第六話<夏祭り>つづき




男「ほんとにいいんだな」

幼馴染「ぼ、ボク…はじめてだから優しくね」

男「わかってる。俺もだから、ゆっくりゆっくりな」

幼馴染「うん…」

男「浴衣汚しちゃダメだから脱がしていい? えっと、帯簡単に解けるのかこれ」

幼馴染「…寝転んだままじゃ脱げないよ。ボクがする」

男「わかった」

一度体を起こし、ナツキはいそいそと帯を解き始める。
じっと見ていると怒られたので、俺は縁側の戸を開いて涼しい風を室内に取り込んだ。
気づかれないように深呼吸してこれからの出来事に備える。

男(そういえば、コンドームなんて持ってないな…俺段取り悪…)

幼馴染「うーん、うーんと…」

男「暗い? 電気つけようか」

幼馴染「だ、だめ…つけなくていいよ。つけるなら豆球にして…」


月明かりしかない薄暗がりの中で衣擦れの音がして、ナツキは帯を解いていく。


幼馴染「ね…解いたよ…」

男「おう…って脱いでない」

幼馴染「だ、だって…うう」

ナツキは帯だけ外して、浴衣を羽織ったままペタンと布団に座り込んでいた。
眉がハの字に垂れ下がった困り顔でこちらを見つめる。

男「下着つけてるんじゃなかったのか」

幼馴染「上はつけてない…」

男「そ、そうなのか」

つまりこの着物を取り去ればパンツ一枚ということだ。
浴衣をぎゅっと握りしめて必死に体を隠すナツキの見たこともない色香におもわず生唾を飲み込む。

男「シワになっちゃうから。ほら脱いで」

幼馴染「…うん、そうだけど」

そっとナツキの肩に手を置き、浴衣の襟にゆびをかけてするすると滑るように下ろしていく。

幼馴染「あっ…」

最初にのぞいたのはスクール水着の日焼けあとの残る鎖骨と肩。
そしてさらにずり下ろすと、二の腕とともに、まっしろな肌をした胸がふるんとこぼれた。

男「お」

幼馴染「や…見ちゃダメ」



ナツキは反射のような素早さでさっと手を袖からひきぬいて、両胸をしっかり覆い隠す。


男「うわっ、隠すなよ。見たい…」

幼馴染「だめだよぉ…ボクだけなんて…」

男「じゃあ俺も脱ぐから」

俺は汗ばんだシャツを目の前で脱ぎ捨てた。

幼馴染「…」

男「なにじっくりみてんだよスケベ」

幼馴染「え、や…見てないよ!」

男「ほら、脱いだからナツキも見せて」

幼馴染「…ぅ。フェアじゃないよ…」

ナツキはかたくなに手をどけようとしない。隠し続けたままいやいやと首を振る。

男「なんで? 恥ずかしい?」

幼馴染「…うん…だってボクのおっぱい…人に堂々とみせられるようなものじゃないもん」

幼馴染「かたち変だし…おっきくないし…乳首だって…変かも」

男「そんなことないって」

まっすぐ目を見つめて、そっと手首をつかむと、
ナツキは観念したように口元を尖らせたままおずおずと手を退けた。

 


やや控えめのふくらみが顔を覗かせる。
張りがあって、つんと上向いていて愛らしい形をしている。
ぷっくりとした乳輪の上にちょこんと乗っかった乳首も可愛かった。

いまは暗くてわからないが、以前風呂場で一瞬見た限りでは色だってとても綺麗だったはずだ。

ナツキの胸をこんな至近距離でまじまじと見たことはなかったため思わず凝視してしまう。

幼馴染「や…あ…だめ」

再び覆い隠そうとする手を俺は強く捕まえる。

幼馴染「だめだよぉ」

男「なにがダメなんだよ。心配しなくても綺麗だよ…ナツキのおっぱい」

幼馴染「う…ボク…おっぱいには自信なくて」

男「こんなにかわいいのに」

幼馴染「だってせっかく今日は女の子っぽい格好したのに、これ見たらまた男っぽく思われるんじゃないかとおもって」

男「そんなことない。ナツキは可愛い女の子だよ。胸だってほら」

幼馴染「う…」

俺は掴んでいた手首を離して、ナツキの胸をすくいあげた。
汗ばんだ白い素肌が手の平に吸い付き、すこし力を加えると柔らかさと弾力を感じた。

幼馴染「あっ…なにして…」

男「触っちゃった」


幼馴染「あう…アッキーにおっぱい…触られちゃった…」

男「ちゃんと揉めるくらいの大きさはあるじゃん」

男「ほら、寄せれば谷間だってできる」

幼馴染「やぁ…だめっ、ボクのおっぱいで遊ばないで」

男「ここもこんなにかわいい」

乳頭に指先でちょんとふれる。
それだけでナツキはひきつった顔でぴくっと背筋を伸ばした。
先端はすでに主張しはじめているのか、かすかに固くなっている気がした。

男「ナツキ興奮してる?」

幼馴染「し、してないよ…」

幼馴染「ボク…そこ敏感だから…さわるとそうなっちゃうの」

男「へぇ。自分で触ったりするんだ」

幼馴染「っ!? ち、ちが…お風呂で洗ったりするときだよ!」

男「そっかー」

ナツキの嘘はわかりやすい。
すぐに取り乱して大きな声をだしたり、あからさまに不自然な態度をとるからだ。
顔にもかなり出やすい。

男(ナツキもオナニーするのか…そりゃするよな)

ナツキだって年頃の女の子だ。
普段のボケっとした様子からすると、性欲なんて物とは縁が無さそうに感じるが、思春期はしっかりと訪れているようだ。
その事実を知って興奮するというよりも、感慨深く思えてしまうのは長年のよしみだろうか。


ナツキのオナニーのやり方に思いを巡らしながら、固くなり始めた乳首を指でこねる。

幼馴染「うぎゅ…あっ、あっ、あっ」

男「なに? 乳首擦るの好き? いつもどんな風にしてるんだ」

幼馴染「ちがうびっくりしただけ! ていうかしてないよボクっ」

男「こんなに硬くしちゃってさ。エロい声まだだしてそれはないだろ」

幼馴染「うう…なんでいじわるするの」

男「ナツキが好きだから」

幼馴染「! うう…」

ナツキは暗がりでもわかるくらい顔を赤くしてうつむいた。

おとなしく胸をさしだして俺に良い様にされるがままになっている。
普段見たこともないような幼馴染のいじらしい姿をみていると、俺の欲望はさらに駆り立てられてナツキの弱みを攻め立てた。
すでにズボンははちきれそうになっていた。

幼馴染「あっ、あ…ん…あんまり、きゅうってしちゃだめ」

男「きゅうってしてほしいんだな」

元気に勃起した乳首をつまんだり、ひっぱったり、指でこすったり、いろいろ試しながらナツキの快感を引き出していく。

幼馴染「あ…あ…くぅぅ…んんぅ」


幼馴染「乳首とれちゃうよぉ…」

男「取れない取れない」

ひっぱりあげると胸の柔肉がついてきてふるんと揺れる。

幼馴染「あぁぁ…やぁぁ…それしないで」

男「可愛いなぁお前…乳首弱点だったのかよ」

 すりすり すりすり

しつこいほどこすりあげるとナツキの声がだんだんと甘くなってきた。
息遣いも荒く、余裕がなさ気に見える。


幼馴染「あぁ、ああっアッキーだめっ♥」

男「ほらほらナツキ。気持ちいいなら気持ちいいって言えよ」

そして調子にのってしばらく続けていると。


幼馴染「~~っ!♥ ああっ、ひうっ」

まぬけな甲高い声とともに、ナツキの体がピクンとはねる。
どうやら胸だけで達したようだ。

幼馴染「あ…ぁあ…♥」

男「イッた…?」

幼馴染「はぁ…はあ……アッキーのばかぁ」

ナツキは恨めしい声を漏らしながらどこかうつろな目で俺を見つめる。
口元がだらしなく開いて油断だらけだったので、俺は断りもなく吸い付いた。

幼馴染「んんぅ!? んぅ~~~っ」

幼馴染「んっ、んぅ」

男「はぁ…ナツキっ」



俺もいよいよ理性の糸が切れてしまいそうだ。
ナツキのこんな可愛い声といやらしい表情をみていていつまでも我慢が続くはずもなかった。

幼馴染「アッキ…んぅ、んぅ…! ちゅ…はぁ…はあ」

幼馴染「ボク…もう」

男「わかってる」

何度も唇を貪ったあと、肩を押してゆっくりと布団の上にひっくり倒す。
大きめの枕にナツキの後頭部がぼふんと埋もれるように収まった。
ナツキはこの先どうなるか十分わかっているだろう。
半脱ぎの浴衣を抜き取って、広げたまま側に置いて、いよいよ下着一枚となったナツキと対面する。

幼馴染「……やっぱりこの格好はずかしい」

壮観な光景だった。
大好きな女の子が半裸で俺を誘うように待っている。

いつもだらしなく勝手に寝転がっているあのナツキとは明らかに違ってみえた。
素肌のどこに触れても、暖かくてぺったりと手に吸い付く。
なのに撫でてみるとすべすべで、自分の物とはまるで違う神秘的な手触りだった。

この子を俺の好きにできる。
嬉しくて嬉しくて飛び上がってしまいそうだ。


男「いいんだよな?」

幼馴染「……」

ナツキは吐息を漏らして小さく頷く。

男「怖くない?」

幼馴染「怖くないよ…アッキーと一緒ならいつも怖くない…えへへ」


男「すこしだけ足開いてくれるか」

幼馴染「…うん」

ナツキはか細い声とともに足を開いた。
当然勝負下着なんてわけでもなく、至って地味なショーツだけどそれがいかにもナツキらしい。
いつもは短パンやジャージで阻まれて見ることが叶わなかったナツキの下着。
女の子としてのおしゃれに無頓着だからすこし子供っぽいが、そこがまたそそられる。


幼馴染「あんまりみないで…」

男「暗くてよく見えてない」

幼馴染「…アッキー脱がないの」

男「ごめん脱ぐ」

俺もナツキに合わせて下着姿になった。
もうごまかしようもなく股間部は膨らんでいて、その時が来るのをいまかいまかと待ち望んでいる。

幼馴染「…なんか、すごいね…そんな風になっちゃうんだ」

男「あぁ…しかたないだろ。ナツキが好きなんだから」

男「好きな子こんなにエロい格好にして、勃たないわけないだろ…」

幼馴染「えへへ…エロいんだボク…良かった」

男「エロいよ。お前の体ほんとにエロいと思う」

幼馴染「いつもそんな目で見てたの? エッチ」

男「……」

俺は神妙に深く頷いて、ナツキのショーツに指を近づける。
そして人差し指をショーツ越しの割れ目に這わせた。
すでに上からでもわかるくらいにじっとりと湿っていて、分泌された汁が指の腹に付着する。


幼馴染「んっ、んぅ…」

男「濡れてるな」

幼馴染「…うん。だって乳首さわったもん」

男「イッたもんな」

幼馴染「…それにチューしたし。いっぱい好きって言ってくれたし」

幼馴染「ボク…エッチな気分になっちゃうよ…」

男「いいんだよ。ここもっと触っていいか?」

幼馴染「いいよ…アッキーの好きにして…もうなんでも好きなことしていいから」

幼馴染「ボクのこと、大事にしてね♥」

男「ナツキ…」

割れ目の上で指を往復させるたびに、じゅくじゅくととろみのある粘液が下着を濡らしていく。
かなり染みだしてきていて、指を離すとつぅーと糸を引いた。

幼馴染「あっ、あっ…んあっ。そこ…」

男「きもちいい?」

幼馴染「うんっ、いつもよりきもちよくなっちゃう、アッキーの指がこすれて…」

男「やっぱりいつもしてるんじゃん」

幼馴染「あ…ち、ちが…わないけど……うう…」


男「何を想ってひとりでしてるんだ?」

幼馴染「……アッキーに…エッチされる想像で…♥」

男「うわお前…まじかよ」

幼馴染「えへへ…だってそうしたら気持ちよかったんだもん…」

男「……脱がせる。そんなこと言われたら俺もう我慢できない」

幼馴染「…いい、よ」

肌に張り付いたショーツのゴムに手をかける。
ゴムがすこし緩んでいたことから長年大事に履き続けている物であろうことがわかった。
ナツキにとってはある意味勝負下着と言えるのかもしれない。

腰をすこしだけ持ち上げてもらう。
そしてショーツを大きめのお尻から引き抜く。
むっちりとした太ももを通って、更にすらりとした足首を通過して、最後は一気に抜き取った。
これでナツキの身を覆うものは何もなくなった。

俺も下着を脱いでナツキと同じように一糸まとわぬ姿となる。




幼馴染「暗くて、あんまりよくみえないけど…アッキーのすごい反り返ってるね…」

男「俺もよくみえない。ナツキのここどうなってるかすげぇ見たいのに」

足を開いたナツキの恥裂が目の前にある。
しかし窓や庭から差し込む光だけでは室内は薄暗く、観察することは出来なった。
ふわっとした恥毛が綺麗に整っていることはわかった。

男(意外だな…ズボラにしてるかとおもった)

幼馴染「あんまり見ようとしないで…」

ナツキは手で隠してしまう。

男(じっくりみるのは今度でいいか)

男(あ、そうだ。避妊)

ここにきてようやくその必要性を思い出した。
親や姉の寝室を漁れば出てくるかもしれないが、いまからバタバタしたくないし見つかる保証もない。

男(ダッシュでコンビニ? うーん)

どちらにしてもここまで高まった熱が冷めそうだ。

男(買っとけばよかった…俺のバカ)

男(ナツキがもってるわけないよな…やばい)

男(いや…待てよ…)

ふとあることを思い出した。
昨年、クラスの男子の間ではくだらない願掛けが流行っていた。
コンドームをお守り代わりに財布にいれておけば彼女ができるという、全国どこにでもありそうなくだらないお遊びだ。

もちろん最初は馬鹿げたことだと無視を決め込んでいたが、ついにはユウジ経由で半強制的に参加させられて、
必要でもないものを財布のポケットに入れられてしまった。

俺は傍で転がるズボンから長財布を取り出し、中身を漁る。
思った通りまだ捨てていなかったようで、しっかりと封のされた銀色の正方形の包みが奥から出てきた。

男(……これのおかげとは思いたくないけど…)

幼馴染「どうしたの…」

男「あの…ナツキ」

幼馴染「…?」

男「アレつけるからちょっと待って…」

幼馴染「アレって?」

男「…ゴム」

幼馴染「ゴムって???」

男「避妊具! …つ、つけないとダメだろ。保健で習うから知ってるだろ」

幼馴染「あっ! もってたんだ」

男「無しはまずいし。えっと…どっちが表なんだっけな…」

幼馴染「ま、待って!」

男「どうした? 大丈夫これ新品だから」


幼馴染「ううんそうじゃなくて。ソレつけなきゃいけないのはわかってるよ…でもね…」

幼馴染「…ボクはじめてだから…」

幼馴染「最初はアッキーがいいな…」

男「え? どういうこと」

幼馴染「だからね…初めてはなにも付いてないアッキーのままがいいなぁ……なんて思ったり」

男「ナツキ…?」

どうやらゴム無しでしたいということらしい。
俺も内心では薄々そう思っていた。

やっぱりナツキを直接感じたいし、ナツキの大切な初めてを俺の物でしっかりと奪いたい。
まさかそれをナツキ側から提案してくるとは思わなかった。


幼馴染「だめ…?」

男「…お前もそういう事考えるんだな」

幼馴染「だって…やっと、やっとボクたちの距離が…なくなったんだもん」

幼馴染「来て…♥」


ゴムを置いてナツキと向かい合い、いまにも破裂しそうな程大きくなったペニスを濡れた秘所に手探りであてがう。

幼馴染「ん……アッキーのあたってる……アツアツだね」



男(ここであってるのか?)

膣穴を探ってぐにぐにと押し付けても依然中に入っていく気がしない。
どれくらい力を入れたらいいかもわからない。

男(予習たりねーよ……)

幼馴染「あ、ちが…もうちょっとだけ下…」

男「ごめん…はじめてで」

男(やっぱり電気つけなきゃ無理か…)

焦る気持ちを落ち着けるために途一度立ち上がろうとした時、ナツキがふんわりと手をのばしてきた。
ナツキのしなやかな指が俺のたぎった竿に触れて誘導する。

幼馴染「ここらへん…」

男「あ…ここか」

幼馴染「えへへ…おちんちんさわっちゃった…こんなに熱くて堅いんだね」

幼馴染「これがいまからボクの中に…」

男「入るかな。自分でいじったことある?」

幼馴染「ないよ…ここはちょっと怖くて」

男「大丈夫かな…とりあえずいれるぞ」

幼馴染「…うん♥」

ナツキの太ましいふとももを掴んで、腰を前に進める。
くにゅりと膣口を開いて中に潜り込んだ亀頭が、温かさと柔らかさに包まれた。


幼馴染「うっ…うぐ、あっ」

男「ごめん。痛い?」

ナツキの膣内は俺の想像以上に狭かった。
ナツキだからなのか、女はみんなこうなのかは俺にはわからない。
入り口はきゅうっと締まっていて、異物の侵入を阻害するかのように押し返してくる。
まさにこじ開けるという表現が正しい。

ナツキは顔をしかめて耐えていた。

 


幼馴染「そのまま…あっ、あ」

幼馴染「い゙っ、あっ」

男「ナツキ……痛ければやめたほうが…」

幼馴染「んっ、んっ、いいから…そのまま」

男「リラックスして」

幼馴染「う、うん…すーはー…すーはー…」

どうやら俺と同じくかなり緊張しているようだ。
ナツキの体に気を使いながらぎちぎちと狭い膣道を開いていく。
ペニスが少しづつ前に進んで、ナツキの膣内に飲み込まれていく。
その度にナツキの表情が崩れて悲痛な声があがった。

幼馴染「い゙っ!? あ゙っ」

だんだんとその姿が可哀想になってきて、やはりまだ早かったのではと後悔の念が生まれる。

幼馴染「うぐ、ぁぁあ゙、い、痛…」

男(ごめん…)

しかし痛みを感じるナツキとは裏腹に、俺は快感に満たされていた。
明らかにナツキの中は狭くてきついのに不思議とやわらかさを感じる。

このまま一気に突き入れたらどれだけ気持ちいいだろうか。
むしろ一気に終わらせたほうが良いのではとすら思う。

はじめての経験に理性は綻んでいて、いますぐナツキの膣で竿全体を擦り上げたい気持ちに傾いていた。
ナツキへの愛情だけがかろうじて雄の欲望を食いとどめていた。


男「ナツキ…痛い? 我慢できないなら無理しなくていいんだぞ」

欲望を押し殺し、顔をよせて出来る限り優しくナツキの頬や頭を撫でる。
ナツキは歯を食いしばって浅く息づいている。
目尻には涙の粒が浮かんでいた。

幼馴染「こんなのへっちゃらだよ…」

幼馴染「だって、アッキーがしてくれてるんだもん」

幼馴染「ボク…うれしくて…だから…」

幼馴染「最後までエッチしたいよ…もっときて。強く…していいから」

ナツキは俺の背に腕を回し体を抱き寄せてきた。
ナツキの健気な姿に若干申し訳ない気持ちになる。
それ以上にナツキのことが愛おしかった。
俺達は再び抱き合って深いくちづけを交わした。

そして――

幼馴染「…っ、あっ」

ナツキの膣内の一番狭まったひだをぷつんと貫いて、膣の奥までペニスを深々と突き挿した。

幼馴染「うぎっ、あ゙ああっ―――んんぅ、んむ」

痛がって身悶えするナツキをあやすように何度もくちづける。
背中をぎゅっと抱きしめられ、何度も爪を立ててひっかかれた。
きっとナツキはこれよりずっと痛い思いをしているのだろう。



男(ナツキごめんごめん…痛いよな。がんばれ)

幼馴染「あぁぁ、あ゙っ、アッキーごめん…なさ…」

男「気にしなくていいって。俺はこんなの全然痛くないから」


ややあってお互い落ち着いてからナツキの顔をみる。
ナツキはがんばって笑顔をつくって笑いかけてくれた。


幼馴染「はぁ…はぁ…あ」

男「奥まで入ったよ…おめでとうって言うべきなのか?」

幼馴染「…うん♥ アッキーの…入ってるのわかる。かたくてあつくて…びくびくしてる」

幼馴染「ボクたち…大人になっちゃったね♥」

男「そうだな。しばらくこのままにしておこうか」

幼馴染「うん…♥」



幼馴染「優しくしてくれてありがと。ごめんね、引っ掻いてごめんね」

男「もういいってば。あんなに必死にぎゅってされて嬉しかった」

幼馴染「大好き♥ …ちゅ」

男「まだ終わってないぞ。俺としてはこれからがいいとこなんだからな」

幼馴染「そっか…これで終わりじゃないんだ!」

幼馴染「ボクのなかで…いっぱいおちんちんゴシゴシするんだよね…♥」

幼馴染「中で精子だしたら赤ちゃんできちゃう…」

男「ナツキのはじめてはちゃんともらったし、その時はゴムつけるから」

男「だからいまはこのまましばらくナツキの中を感じてたい」

幼馴染「エッチ…♥ じゃあボクも、アッキーのことぎゅううううって感じてるね♥」


ナツキとの結合部からは破瓜の証がたくさん滴り落ちて、真っ白な布団を赤く染めていった。
きっと想像も及ばないほどの、文字通り体が裂けるほどの痛みだっただろう。
それでもナツキは俺も拒むことなく受け入れてくれた。

今日この場所でようやく、俺とナツキはひとつになれた。



第六話<夏祭り>つづく

 

 

更新おわり
次回月曜日

第六話<夏祭り>つづき



幼馴染「そろそろ…」

男「動いていい?」

幼馴染「うん…アッキーいつまでもそのままじゃくるしいでしょ」

男「一度抜いてゴムつけるからな」

幼馴染「抜く前に…もう1回チューして」

男「ん」

幼馴染「ん…♥ …いっ…あ」

ナツキの表情をうかがいながら慎重に膣内から肉棒を引き抜く。
いまのだけでも痛かったのだろうか。一瞬表情を歪めたような気がした。

付着した鮮血が痛々しく思える。
しかしナツキを手に入れたという達成感に心が満たされた。


男(俺があのナツキを大人にしたんだな…)

男(あと俺もようやく大人になれた…)

男(ナツキに捧げられてよかった)

感慨深く思いながら慣れない手つきでコンドームを装着。
隙間なくぴったり収まる。
ほんの僅かに締めつけ感はあったが、あまりつけていることを感じさせない薄さだった。


幼馴染「つけた?」

男「つけたよ」

幼馴染「来て…ボクの中で気持よく―――んんぅ♥」

ナツキの言葉を最後まで待たずに、再び俺はペニスをナツキの穴へと挿入した。
きつきつに締まった膣穴を押し広げながら、奥へと進んでいく。

どろどろの粘液で満たされたナツキの中は先よりもスムーズに俺を迎え入れた。
無数の柔らかいひだが陰茎を撫でつけて、一度の挿入だけで達してしまいそうになった。


幼馴染「んぁぁっ、あっ」

男「ごめっ、痛い?」

幼馴染「ん……い、痛くない。ピリピリするだけ」

男「まだ痛いよな…よしよし」

幼馴染「大丈夫だから…動いて。ボクのなかで…アッキー」

男「…うん」

汗ばんだ頭をゆっくり撫でながら、恐る恐る腰を前後に動かしはじめる。


 じゅっぷ じゅっぷ 

結合部から淫らな水の音が少しだけ漏れ、俺の興奮は高まっていく。
汗っかきのナツキはこっちも濡れやすい体質なのだろうか、たくさんの保護液が穴の奥から溢れ出て俺のペニスに絡みついた。


幼馴染「んぅ、んぅっ」

男(やばっ…ナツキとHしてる。ナツキとッ)

男「ナツキっ。俺ッ俺…」

生まれてはじめて感じる蕩けるような刺激にうわずった声がでてしまった。
恥ずかしいけど、ナツキの中は本当に隠しようもなく気持ちが良かった。

こんな可愛い女の子と愛し合って、柔らかい襞にペニス全体を包まれて、理性が壊れないほうがおかしい。

男「はっ、はぁっ…」

幼馴染「ん…えへへ…アッキーがきもちよくなれるとうれしい」

幼馴染「んっ、あっ…」

幼馴染「痛く…ないからね…そのままっ、ボクで」

痛いくせに強がっている幼馴染を前に、腰の動きはとまらなかった。
きゅうきゅうと締まった狭い膣内で生まれる官能が俺をどこまでも誘う。

男(俺いま情けない顔してるんだろうなぁ)

幼馴染「♥」


男「うっ、あぁ、ナツキぃ」

幼馴染「んっ、んっ…んっ♥」

 じゅっぷ じゅっぷ

いやらしい水音は絶え間なく繰り返される。

心と体が自然とナツキを求める。
強引に唇をうばったり、胸を触ったり、ナツキの名前を何度も呼んだ気がする。

すでに自分が何をしているかはっきりとわからないくらい頭の中はぐちゃぐちゃになっていて、
無我夢中にナツキと体を重ねた。

幼馴染「んんぅ、あぁぁ♥ アッキぃアッキぃ…」

ナツキの甘えた声が脳髄まで染みてくる。
気持ちいい。

もうナツキのことしか考えられない。

そしてやがて興奮はピークに達し、至福の快楽が俺を襲った。


男「あっ…ナツ…キ――」

男「あぁっ!」

幼馴染「んんぅっ」


思い切りナツキの奥を突く。
視界が明滅して脳がしびれて、快楽が一気に溢れ出る。
体がビクンと跳ねて、同時にたくさんの精を吐き出した。


男(ナツキの中で……あぁ)

ややあって、呼吸を落ち着ける。


男「はぁ…ハァ」

幼馴染「きもちよくなれた…? エッチな声出てたよ」

男「こんな風に声でるの…はじめて。すごかった…」

幼馴染「そっか。そんなに気持ちよかったんだ」

幼馴染「なんか泣きそうな顔で、びくびくーってしてた♥」

男「……ぅ」

幼馴染「アッキーかわいかったよ」

男「う、うるさいな……というかごめん。俺だけ気持ちよくなっちゃって」

幼馴染「ううん。ボクも気持ちよかった。優しくしてくれて幸せな気分だったよ」

男「そっか…良かった」

幼馴染「ボクたち…えっちしちゃったね♥」

男「…おう」

なんだか無性に恥ずかしさがこみあげてきてまともに顔をみることができなかった。
ナツキはおそらく今ので達してはいない。だけどいつまでもニコニコと嬉しそうにしていた。


幼馴染「ねー出したの見てみたいな」

男「はい」

外したコンドームの口を縛ってナツキに渡す。
真っ白で濃厚な精液が液溜めを膨らませてたっぷりと詰まっていた。


男(すげぇ量…動物かよ俺…)

男(ナツキとしたからかな…)

それは自分でも初めてみる量だった。

男(こんだけ出しても破れないんだな…)

幼馴染「うわー…これ?」

ナツキは使用後のゴムを手の平に置いてぷにぷにとつつく。

幼馴染「くふふ。なにこれほんとに白いんだ。おもしろ」

男「……見たことないのか」

幼馴染「ないよ。だって初めてだもん」

男「いや……AVとか」

幼馴染「?」

男「なんでもない」

幼馴染「こんなのがボクの中で出るんだね…アッキーのあそこから出てきたんだね…♥」

男「もう捨てろってぇ」


幼馴染「宝物にする!」

男「だーめ。何言ってんだバカか」

幼馴染「だってはじめての記念だもん! やだやだ捨てたくない」

男「あのなぁ…」

幼馴染「やだ」

男「腐るからそれ」

幼馴染「そ、そうなの…」

男「それにさ」

幼馴染「?」

男「その……これから先…いっぱいすればいいだろ。俺達、恋人同士なんだから…な」

男「ほしけりゃいくらでも出すよ。何回でも。ナツキのために」

幼馴染「…そっか♥」

幼馴染「そうだよね…くふふ…ボクたち…えへへ」

幼馴染「恋人同士で、毎日エッチできるんだよね!」

男「ま、毎日かはわからねーけど…まぁ…気が向いたら」

幼馴染「毎日だよね?♥」


男「毎日…かもね。お前がうち来るなら」

幼馴染「やったぁ。来る来る!」

ナツキは唐突に抱きついてきて、俺の唇を奪った。
汗でべたつく体でぎゅーっと力強く抱き合って、お互いの背中をさする。


男(こんなに可愛いナツキとこれから毎日…)

夏休みはまだ半分近く残っている。
これからのことを想像しただけで幸せだ。

ナツキの柔らかい部位が体にぺったりとくっついて、またしても俺の欲望は膨れ上がっていった。


男「あ…」

幼馴染「…? んふふふ、またエッチしたくなっちゃった?」

男「いや、今日はもうしない」

男「お前だって初めて終わったばっかりなんだから、あんまりすると痛いだろ」

幼馴染「…へっちゃらなのに」

男「ていうかこれ一つしかゴムないし…」

幼馴染「じゃあさ…明日一緒に買いに行こ? ね?」

男「な、ナツキ…その誘い方はやばいって…下品だぞ」

幼馴染「だってぇ」



幼馴染「好きな人とエッチしたいっておもうのは普通だもん」

幼馴染「ようやく…叶ったから。ボク舞い上がっちゃってるんだ」

幼馴染「ボク…メロメロかも♥」

男(やばいやばいやばい)

男「この体勢…我慢できなくなるから一旦離れようぜ」

男「これはやばいって…ナツキ…服着よう。貸してやるから」

男「シャワー浴びよう? 暑いだろ」

幼馴染「やーだ」

男「やだじゃねぇよぉ」

ナツキはますます腕のちからを強め、胸や太ももを押し付けるように抱きついてくる。

幼馴染「くふふ。明日から楽しみだね」

幼馴染「いっぱいしようね。ずっと一緒に楽しい夏休みをすごそうね♥」

幼馴染「ちゅ…♥ ん…」

男「んぐ…っ」

幼馴染「んぅー……。えへへ」

幼馴染「何回しても良いね、ボクかなりチューすきかも。アッキーは?」

男「……すきじゃないわけないだろ」

幼馴染「ちゃんと言って?」

男「ナツキが好き…です」

幼馴染「わーんボクも大好き~~♥ ちゅーー♥」

男(あーダメだ。ナツキに溶かされる)




  ・   ・   ・



男「ほら、いい加減シャワー行って来い。暑いんだよ」

幼馴染「やーだー…もっとべたべたしてたいよぉ」

男「俺汗かいてるし…」

幼馴染「うん…ボク汗の匂い好き。アッキーのお布団みたいな匂いする」

男(こいつはまったく…)

男(俺に犯されたいのか。危ない奴)

男「そういえば花火買ってあるんだけど、庭でしないか?」

幼馴染「えっ、花火?」

幼馴染「するっ! するするするッ♥」

男「はい行ってらっしゃい。入る前に水分とっとけよ」

幼馴染「……一緒にお風呂は?」

男「我慢できなくなるからダメ。俺の理性をなめんな。意外と脆いぞ」

幼馴染「ボク怖いなぁー。この家お風呂こわいなー」

男「つべこべ言わず行って来い~~! 怒るぞこの野郎」グニグニ

幼馴染「いひゃっ、わかっ、わかっひゃからぁ…怒らないれ」

 

その後ずっとナツキとじゃれあいながら恋人同士の初めての夜は更けていった。

幼馴染という長い年月を経て俺達はようやく一つに繋がった。
周りの人達からみたらやはり予定調和だったのかもしれない。
だけど俺達当事者たちからしたら、まるで一夜にして世界がひっくり返ったかのような出来事だ。


幼馴染「また来年もお祭り行こうね」

男「おう。……おんぶしないからな」

幼馴染「やっぱり疲れた?」

男「ちょっと腰痛い…かも」

幼馴染「エッチのせいじゃないの?」

男「ちげーよ!」

幼馴染「どうかな~。アッキーあんなに必死に…ぷくくく」

男「明日キャッチボールなし!」

幼馴染「あ゙ーーそんなぁ。揉んであげる! 全力でマッサージするからぁ!」


何も後悔や不安はない。
この先もずっと毎日楽しく過ごせる自信がある。
どんな些細なことでも笑い合って過ごしていける。
世界で唯一、心を許しあったナツキとなら。



第六話<夏祭り>おわり


本編終わり
当初全七話予定が六話で締まりました
次回以降はアペンド(R-18メイン)です
明日か明後日予定

更新明日スマソ
前作のように何枚か絵用意します

前作
少女勇者「エッチな事をしないとレベルがあがらない呪い…?」
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前々作
幼馴染(♂)「くす、僕が女の子なら君に1回くらいヤラせてあげたのにな…ww」

前々作はVIPの過去ログになっているので注意されたし

 


第七話<旅行>



姉「あー…暇」

姉「…アキ。お姉ちゃんと遊ぼう」

男「やだね」

男(なんで急に帰ってきてんだよ)


朝起きると居間に姉の姿があった。
姉は3つ年上の大学生で、普段は学校近辺に下宿しているためあまり家で顔を会わせることはない。
今回は盆休みに先駆けて帰宅したようで、うだうだ言いながら久しぶりの実家を満喫している。


姉「それにしてもあっつーい。なんなのこの家」

姉「さっき廊下で虫干からびてたよ。暑いー。死ぬー」

男「…暑い暑い言われるとますます暑くなるんだよ」

姉「しかもあんたはあんたで暑そうなもんみてるし。好きねぇ…」

男「今日の試合展開は熱いんだよ!」

姉「ふーん…? あたし野球って未だにルールよくわかんないわ」

姉「ナッちゃんならわかってくれるのにねー」

男「そりゃそうだろ…一緒にやってたんだから」

姉「で、ナッちゃんは? いないの?」

男「さぁな。別に約束なんてしてないし。いつもいるわけじゃねーから…」

姉「あらなにその態度。なんかあった?」

男「姉ちゃん」

姉「んー?」



男(いいか…隠しててもどうせバレる)

男「…いまさら言うのもなんだけどさ、俺この夏からナツキと付き合ってる」

姉「…ふーん」

男「なんだよ。いまいち反応うすいな…」

姉「うーん、だってねぇ。ようやくかぁ…って感じだもん♪」

男「あっそ…じゃあ言わなきゃ良かった」

姉「やることやった? ねぇねぇ。一人前の男になったかい?」

男「……」

男(うざ……30秒前に戻りたい)

姉「おい。答えろよぅ」

男(無視無視)

姉「や・り・ま・し・た・か?」

男「うるせーなー…どうでもいいだろ。あっちいけよ」

姉「あ、したんだぁ♥ もしかしてこの部屋で? あんたのこの布団?」

男「うーーああーーもうっ! いきなり下世話な話してくんなよ鬱陶しいな!」



幼馴染「やほー。遊びにきたよー」

男「あーお前もややこしいタイミングで来てんじゃねぇっ」

幼馴染「へ?」

姉「ナッちゃんおひさ」

幼馴染「あーお姉ちゃんいた。おじゃましまーす」

姉「あたし昼過ぎから地元の友達と出かけるけど、冷蔵庫のシューアイスおやつに食べていいからね」

幼馴染「ありがとー」

姉「さてと」

男「…」

姉「あどうぞどうぞあたしにはお構い無くイチャついて?」

男「ふっ、ふざけんな部屋いけよ!」

姉「あははは。何赤くなってんのー。あたしがいないうちはずっとべたべたしてるんでしょ?」

男「くそっ、ナツキもなんか言ってくれよ、ほんとさっきから――」

幼馴染「どーん!」

ナツキは笑顔で背中に抱きついてくる。
薄手のタンクトップ越しに胸をぎゅうっと押し当てて、腕をまわして俺の体をきつく抱きしめた。


男(こいつ最悪…姉ちゃんの前でだけはしてほしくなかったのに)

幼馴染「えへへあはは、うひゃははは」

男「ふざっ、こら…! 何してんだ」


男「……」

幼馴染「アッキ~暑いよぉ~。汗かいちゃってるねぇ」

男「……ぐ、離せ」

幼馴染「やーだ。お姉ちゃんの許可を取って」

男「…ってことなんだけど」

姉「話かけないで。あたしドラマ見てるから」

男「おい」

幼馴染「あつーい」

男「わかってるならやめろよ。首に汗疹できんだろ」

男(来て早々だけど魔法の言葉を使うしか無いな)

男「ナツキ。こんなことよりキャッチボールしようぜ」

幼馴染「するするする♥」ムクリ

男(ちょろいなぁ…)

これは一日に何度もつかえる手ではないが、めんどくさいことになったナツキを制するには最も効果的だ。
そしてさっそく炎天下の庭に出て軽く投げ合って肩を作る。




幼馴染「いくよー」

男「おう。来い」

姉「あんたたち好きだねぇ~…そんな暑苦しいこと庭でしないでよ」

姉「…元気ねぇ…」

姉「まぁ、仲良くいられたのはそれのおかげってのもあるのかなー」

幼馴染「スゥ………ふっ!」

ナツキが腕を振って勢い良く球をなげこむ。
今日も朝から絶好調だ。


幼馴染「はー楽しかった」

姉「あれ? もう終わり?」

男「ほら、あんまりな…」

姉「あーそっか。ナッちゃんシャワー浴びておいで」

幼馴染「うん!」

男「俺はやっぱりあとなのかよ…」

姉「えっ、一緒に入ってるの? やーん、思ったよりラブいね。まだ夜には早いぞ♥」

男「入ってません! 一度たりとも!」


姉「あはは、そんじゃ待ってる間に昼ご飯準備しよっかねぇ」

男「俺姉ちゃん帰ってくるとおもわなかったから食材買ってない」

姉「あたし昨日の夜に食材買ったから。冷蔵庫いれてる」

嫌な予感とともに冷蔵庫をあける。

男「うわ…」

今朝は気付かなかったがチルド室にはたっぷりとミンチ肉のパックが入っていた。
それに加えてバーガー用の大きなバンズ。
ご丁寧に野菜まで買ってある。

男「つくれと? こねろと?」

姉「えへっ。庭で炭火焼きハンバーガーしたら楽しいかなーって」

男「はぁっ、庭で!?」

姉「うん♪ 炭もBBQセットもうちにあるの知ってるし」

男「…嫌だね。お断りだ」

姉「えー。ノリ悪っ」

男「とりあえず肉は期限近いしハンバーグだけ焼くか…」





  ・   ・   ・



幼馴染「あがったよー」

男「お、じゃあ姉ちゃん続きたのむ。それこねといて」

姉「ねーナッちゃん♥」

幼馴染「なに?」

姉「外でハンバーガーBBQやりたくない?」

幼馴染「うそ! やりたい!! ハンバーガーなの!? わーー」

男(あーあーあーもう)

姉「アキが炭火で焼いてくれるんだって♥」

幼馴染「うわーうわー♥ お腹空いてたんだぁ楽しみー」

男「…外では焼かないぞ」

幼馴染「え…」

男「普通にハンバーグにして、いつも通り大根おろしで食って」

幼馴染「うえぇ…」

男「ゔっ」

いまのいままで笑顔で飛び跳ねていたナツキは途端に表情を曇らせる。
罪悪感は残るが俺に非はない。
突然のことで乗り気になれないものはしかたない。

男(こんな炎天下に庭でBBQなんて罰ゲームかよ)

幼馴染「うう…BBQ」

男「そんな顔すんなよ。ハンバーガーになら出来るぞ?」

幼馴染「違うもん…」

 


男「じゃあ俺…シャワー浴びてくるから…」

幼馴染「うん…したくないなら仕方ないよね…」

幼馴染「ご飯つくるのいつもアッキーの係だもんね…」

幼馴染「ボクのわがままでいつも用意するの大変だよね…考えてなかったよごめん」

男「……」

姉「あーあ。せっかくパンも買ったのに。ナッちゃん炭火のやり方しってる?」

幼馴染「ううん。知らない」

姉「とりあえず二人でやってみる?」

幼馴染「え…でも」

男「……はぁ。わかったわかった!」

男「ハンバーガー、しような!」

幼馴染「わっ!」

姉「フッ」

男「俺どうせまた汗かくからシャワーは飯のあとにする!」

幼馴染「ほんと!?」

姉「ナイス! 愛してる!」

幼馴染「ボクも!」

男「はいはい」



それからタネを捏ね終えて、庭にBBQコンロを設置する。
早速炭に火をつけ網を温めるとナツキがうきうきしながら傍によってきた。


幼馴染「火つけるの早いねー」

姉「手際いいじゃん」

男「毎年やってんだろー。姉ちゃんテーブル開いて食材台所から持ってきて」

姉「ほいよ」

幼馴染「ボクも手伝うー」

男「お前はプールに水いれておけば」

幼馴染「え? オルカ出す?」

男「そう。ここで立ったまま食べる気なのか?」

幼馴染「そっか!」

そしてナツキはこの夏すでに何度かお世話になった幼児用のビニールプールにホースで水を入れ始めた。
こんな暑さの中でやるのだから熱中症だけは十分気をつけないといけない。
プールに足をつければ縁側は十分涼しく、ハンバーガーを食べるには絶好のスポットだ。

 




姉「あれーそれ懐かしいね」

幼馴染「でしょ! アッキーがこの前出してくれたんだ」

姉「ほほぅ。うひゃーつめたー。ほれー」

幼馴染「きゃーん。濡れちゃうよぉー仕返しだー」

姉「うわっとと、やったなー」

男「遊んでないで食材!」

姉「へい」

ようやく材料がそろって焼き始める。
あくまでハンバーガーがメインなので海鮮や野菜は少ない。

でっぷりとした大きいひき肉の塊を3つ網に乗せるとじゅわっと油の弾けるような良い音がした。
網の隅でバンズと玉ねぎも一緒に焼いた。
ハンバーグの香ばしい匂いにナツキは待ちきれないようで、何度もコンロの周りを歩きまわる。

男「お前は餌待ちの犬か」

幼馴染「くふふふ。まだかなー」

姉「はやくぅー」

男「…お嬢様方は焼きあがるまでどうぞ縁側で涼んでいてください」

幼馴染「いいの?」

男「うろうろされると邪魔」

姉「ほら、アキがそういってるんだからこっちで涼も」

幼馴染「うん!」


姉「ねぇナッちゃん。アキと楽しくやってる?」

幼馴染「うん。やってるよ」

チャプチャプ

幼馴染「買い物いったしーお祭りいったしー、野球見に行ったしー」

幼馴染「ボクの練習に毎日付き合ってくれるんだ」

姉「そっかぁ、めんどくさがりのあいつがねー」

幼馴染「毎日たのしいよ、えへへへ」

姉「ナッちゃん愛されてるね」

幼馴染「えへへへ、お姉ちゃんのおかげですー」

姉「…それで、あっちのほうはどうかね。ん?」

幼馴染「ん? あっちって?」

姉「だからぁ、アキと『仲良し』…どれくらいしてるの。てかもうすました?」

幼馴染「えー? ボクたち仲いいよ?」

姉「……」

姉「まぁ、いっか。居間のゴミ箱あさったらわかりそうだし」

幼馴染「???」


男「姉ちゃんナツキ、焼けたぞ」

姉「おーー」

幼馴染「きたきたー♥」


幼馴染「いただきま~す」

幼馴染「はむ…おいし~~~。パンさくさくだし、お肉ジュワーって」

幼馴染「んぅ~~最高!! 三ツ星!」

男「それは褒めすぎ」

姉「おいしーなにこれ。あんたハンバーガー屋ひらいたら?」

男「ほんとにうまいな! 暑いけどがんばっただけあった」

幼馴染「お疲れ様、ありがと!」

姉「いやぁナっちゃんのいてくれたおかげだね」

幼馴染「なんで? お姉ちゃんがお肉買ってきたんでしょ」

姉「だって、あたしのお願いは全然聞いてくれないんだもんこいつ」

男「……まぁね。姉ちゃんだし」

姉「でも流石にだ~い好きなナッちゃんのこととなると、ふふふふ」

男「ぐっ、違…だってこいつすぐ残念そうな顔するし」

姉「ほんとにそれだけか~」

幼馴染「やだなぁお姉ちゃん…べつにアッキーはそういうのじゃなくて」

幼馴染「とっても優しいからだとおもうよ……。ね?」

男「…そういうこと言うなよ」

幼馴染「えへへ」

姉「や~ん、なに見つめ合ってんのー」

男「どうみても睨んでるんだろ」

男「言っとくけどこれ以上ナツキを利用して俺を言うこと聞かせようと思っても無駄だぞ」



姉「悪いとはおもってるよー。でも何事もギブアンドテイクだし」

男「姉ちゃん俺になにをくれたっけ」

姉「あんたじゃなくてナッちゃんのほうにね」

男「あぁ…アドバイスがどうとか?」

男「それって結局なんだったの」

幼馴染「あのね、お姉ちゃんにデートの仕方とか、イマドキ女子の心得をいろいろ聞いたんだー」

男「へ?」

幼馴染「男の子がどうしたら喜ぶかわからなかったからさ」

男「…なんだそれ」

男「あっ、じゃあ、祭りのとき妙にベタベタしてきたのはそれだったのか」

幼馴染「勇気だしてやってみてよかったよー」

姉「ほー楽しかったんだねぇ」

男「う…お前…」

姉「でもよかったじゃん晴れて付き合うことになってさー」

姉「あたしすっごい嬉しいんだけど」

幼馴染「ボクもうれしー」




姉「家にいないでもっとデートしなよー。せっかくの夏休みなんだからさー」

姉「遠出してシーワールド行ってきたら? あそこすっごい改装したでしょ」

姉「プールあるよプール」

男「え…うーん混んでそうだし」

幼馴染「オルカ見たい。はいボクオルカみたいです! 絵じゃなくてね本物を!」

男「オルカか…」

姉「あんただってデートしたいくせに~。付き合いたてなんだから我慢しなくていいって」

男「な、なにを」

姉「机の上にパンフレット広がってたよ」

幼馴染「そうなの?」

姉「めぼしいとこに赤ペンで丸してあってね、ナツキが喜びそうってちょこっと書いてあったり」

男「ッ!!? プライベートの侵害だろ!」

姉「居間に置いておきながら何をいうかね」


幼馴染「アッキーも行きたいの!? 行こ行こ。これ食べたら行こ」

男「今日はいかないって…! それに遠いし、向こういっぱい遊ぶとこあるから日帰りはもったいない」

幼馴染「じゃあ……」

男「まぁ…泊まりでなら…十分遊べそうかなって」

幼馴染「♥」

姉「あら~、あらあらあら」

男「べ、別にっ、やましい意味じゃないから!」

幼馴染「やましいって?」

姉「家だとお姉ちゃんが邪魔だからふたりっきりの場所でナッちゃんと『仲良し』したいんだって~」

男「ななっ、なんのことだよ!」

男「もーお前それ食ってはやく遊びにいけよー!」

姉「はいはい。お邪魔ですねもんねー♪はむっ」



第七話<旅行>つづく


 

更新終わり
次回日曜日あたり

第七話<旅行>つづき




数日後。


姉「そんじゃ行ってらっしゃい」

男「おう。姉ちゃん金立て替えてくれてありがと」

姉「いいってー。気にせず楽しんで来なさい」

幼馴染「ありがとねー」

姉「ナッちゃんそのスカート買ったの?」

幼馴染「う、うん…一緒に買いに行ったんだ…えへへ」

姉「もしかしてあんたが選んだ?」

男「おう…」

姉「ふぅーん…こういうのが好きなのー」

男「うるさいな…」

男「デートくらい可愛い格好してもらって何がわるいんだよ!」

姉「悪いなんていってないよー」

幼馴染「か、かわいいって…アッキー恥ずかしいこと言わないで」

幼馴染「これ着て出かけるのは初めてだからボクちょっと緊張…」

男「お前は堂々と着ろよ」

姉「心配しなくても似合ってる似合ってる。可愛いねナッちゃん」

姉「喧嘩しないように仲良くかえってらっしゃいねー」

男「保護者か! 子供扱いするなよ」


男「じゃ行くか」

幼馴染「うん! 楽しみだね」


夏休みを利用した一泊二日の小旅行。
ナツキが以前から行きたがっていた南国と海をモチーフにしたテーマパークだ。
大好きなオルカのショーを生で見ることができる。

二人分の荷物を小さなキャリーケースに詰めて、俺達は電車をいくつか乗り継いで目的地へと向かう。
その途中の電車内、ゆったりとしたシートに俺達は向い合って座っていた。


幼馴染「やーなんかこれってすっごくデートって感じするねぇ」

男「そうだな」

幼馴染「こんな格好で外で歩くなんて…ドキドキしちゃう」

男「女装趣味に目覚めたみたいな言い方すんなよ…」

男「お前学校で制服のスカート履いてるだろ」

幼馴染「だってだって、下にスパッツも履いてたらわりと平気だもん」

男「スパッツならいいってのか? まさか今日も…」

幼馴染「は、履いてないよ…この下は下着だもん」

幼馴染「だからすーすーしてさ…変な感じ」


男「知ってるナツキ? スパッツってれっきとしたパンツの一種なんだぞ」

幼馴染「えー?」

男「男からしたら、スパッツ履いてりゃスカートの中見られてもいいでしょみたいな考え…浅はかだぜ」

幼馴染「よくわかんない」

男「スパッツでガードした気になってるんだろうけど、普通にパンツが見えるのと大差ねーってこと」

幼馴染「そうかな? 全然違うよ?」

男「あ、これ男心をわかってないな」

男「ナツキ。スパッツ履くのはいいけどな、だからといって安心して暴れまわって中身を見せつけるのはダメだぞ」

男「スパッツはエロいんだからな」

他の客「…うぉっほん」


男「……。わかった?」ヒソヒソ

幼馴染「う、うん…? わかった…」

男「他の奴らに気軽に見せたりするなよ? そこらで跳びはねるのもなし」

幼馴染「そんなことしないもん……」

幼馴染「ボク彼女だよ? なんだか信用ないなぁ…」

男「お前は頭がゆるゆるでいつも危なかっしい」


幼馴染「ボクだって言いたいことあるよ!」

男「何…お前から苦情くるようなこと俺したっけ?」

幼馴染「あんまり…他の女の子に優しくしないでね。なんちゃって…」

男「…何言ってんだ?」

幼馴染「だ、だってさ…この前の練習で……むぅーー」

男「…え?」

男「あー、あれか」

今回の旅行の数日前、ナツキが以前助っ人参加した女子野球部から2人して練習に誘われた。

その時俺は女子部員達に指導をしたりノッカーを担当して、ささやかな謝礼(洋菓子缶とジュース)を受け取った。
あくまで頼まれたから指導しただけなのだが、ナツキはそれが気に入らないらしく根に持っているようだ。


男「お前…ついて来てもイイって言ったろ」

幼馴染「ダメとは言えないじゃんかぁ……アッキーだって呼ばれてたんだし」

男「なら何が問題なんだよ」

幼馴染「ぶー、あんなに熱心にさ…手取り足取り」

男「今更思い出して怒るなよ…コーチ料もらってるし手抜き出来ねぇよ…」

幼馴染「でもスイング教えながらデレデレしてたし」

男「してません。暑くて死にそうだっただけだ」

幼馴染「それに時々しかボクの練習見てくれなかったし」ブツブツ

男「お前は助っ人だし、もう完成してるから俺から教えることなんてありません」


最近わかったことだが、ナツキはずいぶんとヤキモチ焼きだ。


  


幼馴染「じゃあボクが男子野球部に行って男子たちに手取り足取り教えてたらどうおもうの」

男「それはだめだ。NG」

幼馴染「でしょ!? でしょ!?」

男「うん」

男(まずそんなことは起きないと思うけど……)

幼馴染「たまにはボクの立場になって考えてみてよ」

男「はい…今後気をつけます」

幼馴染「ボクは四六時中アッキーのこと考えてるんだから、そっちだってボクのこと考えて!」

男「無茶言うなって…」

男(俺は俺なりに考えてるつもりなんだけどまだ足りないのかよ…)

男「謝罪や埋め合わせってわけじゃないけど、こうしてデートしてるんだからそうプリプリすんなって」

幼馴染「でもさ……やっぱり悔しいもん」

幼馴染「ボクだけのバッテリーのアッキーが他の人に取られるのは悔しいんだよ」

男「…すみません。もうナツキ以外の球受けないから許して」

幼馴染「だから、家帰ったらいっぱいしようね♪ 今日と明日できない分もね」

男「おぅ」

幼馴染「朝昼晩って一日3回しようね! 起きて1回、お昼食べたあとに1回、最後の1回は夕方くらいかなぁ」

幼馴染「時間あけたら大丈夫だよね?」

男「俺の腰ぶっこわれるわ…あとお前の体にもよくない」

幼馴染「そんなことないよ。だって超イイ汗かいて気持ちいいんだもん」

他の客「……」ヒソヒソ

乗務員「…ごほん」


男「……! あ、あーキャッチボールな! キャッチボール!!毎日しような!!」

幼馴染「うん! 早くボール投げたいなぁ♥」

乗務員「……」

乗務員「車内販売をいたしております。お弁当やお飲み物はいかがですか」

幼馴染「じゃあボクこの牛肉の弁当ください」

男「俺はこっちもらいます」

乗務員「ありがとうございます」


男「…ふーびっくりした…お前のせいで絶対あっちの話だと思われた…」

幼馴染「おいしいね。んぐんぐ」

男「あけるの早すぎ…せめて12時くらいまで我慢しろよ」

幼馴染「えっへへ、しゃべってるだけでお腹空いちゃった」

幼馴染「あ、そうそう。さっきの話だけど、ほんとに帰ったらい~っぱいしてくれるよね?」

幼馴染「ボクとアッキーにとって言葉のいらない愛の確認作業だもんね♥」

他の客「…」ヒソヒソ

他の客「嫌だわぁ…こんなところで…」

男「おバカナツキっ、頼むからキャッチボールってちゃんと言ってくれぇ!!!」

幼馴染「…?」モグモグ

 

【シーワールド】


幼馴染「わーいついた」

幼馴染「みてー人いっぱい」

男「やっぱこの時期混むなぁ…」

幼馴染「パンフレットは?」

男「あるよ。どこから行きたい」

男「飯はもう食ったからいいよな。暑いからプール入る?」

男「それともいきなりシャチ見る? 水族館もあるってさ」

幼馴染「へー園内水着で歩けるんだってー」

男「いろんなアトラクションで濡れるみたいだからな。水着のほうがいいよな」

幼馴染「じゃあ着替えどうする?」

幼馴染「更衣室あるのかなー」

男「なら先にホテルに荷物預けるかな。チェックインもう出来るみたいだし」

男「そんでついでに水着着替えてテーマパーク回ろう」

幼馴染「うん!」

幼馴染「ホテルってアレ? 高いねー」

男「そう。パークと繋がってるから水着で行き来できるってさ」



ホテルに移動してチェックインを済ませて、今日宿泊する部屋へと荷物を置きに行った。
開放的な明るい洋室は窓側がオーシャンビューとなっていて、興奮したナツキはベランダに出て真っ青な海を眺めたまま動かない。


幼馴染「こんな部屋に泊まれるなんて…お姉ちゃんありがと♥」

男「おーいナツキ…ナツキさん。着替えだしてるぞ」

幼馴染「見て…沖の方に船…オルカもいるかな」

男「野生のシャチは近海にはいないんじゃないか…いたらやばいぞ」

幼馴染「ビーチもあるよ…後で時間あったら行きたいなぁ」

男「そっち行くとしたら明日な。今日はパーク内まわるだけで時間いっぱい使うだろう」

幼馴染「もうボクわくわくドキドキしてどうしたらいいか」

幼馴染「はぁぁぁ~♥」

男「はぁぁじゃなくてまずは着替えましょう。時間がなくなるぞ」

幼馴染「うんっそうだね!」

幼馴染「あ…着替え見ないでね、えへへ…」

男「…俺バスルームで着替えてくるわ」

幼馴染「わーんノリ悪い」

男「見て欲しいのか? スケベ」

幼馴染「ち、ちがうよぉ! 絶対見せませーん!」


 


  ・   ・   ・




幼馴染「じゃーん」

幼馴染「へっへーん、もうださださスクール水着じゃないよ」

幼馴染「どうだっ! ふふん、可愛い?」

男「んー」

幼馴染「んーじゃなくて、そこは立ち上がってぱちぱちぱちでしょ?」

男「んー」

口から飛びでた反応は薄かったが、内心ではナツキの水着姿に見とれていた。
一緒に買いに行ったセパレートの可愛らしいビキニを身につけ、はみ出した小麦色の手足が眩しい。
上も下もラインがぎゅっと柔らかな肌に食い込んでいて、ナツキのプロポーションの良さが強調されている。


男「…にしてもお腹白いな」

幼馴染「へ? わわっ、そんなとこ見ないでよ。水着みて水着!」

男「お前も元は白いんだよな…いつも黒焦げだから……」

幼馴染「うう…これ恥ずかしいから早く焼きたい」

ナツキはさっとお腹を覆い隠すように体を曲げる。
艶めかしい体を見ていると、これから遊ぶことよりも、つい夜の過ごし方に考えが先走ってしまう。

男(夜…またナツキとするのかな)

男(だよな…せっかく泊まるんだしな…)

男(ナツキだってきっと期待してくれている…よな?)

幼馴染「行こ♪」

男「おう」

悶々としたまま水着の上にシャツを羽織って、二人仲良く手を繋いでホテルを後にした。



第七話<旅行>つづく


 
 

更新遅れスマソ
次回明日22時くらい

更新また遅れるスマソ
今年度ちょっと忙しいかも…気長に待ってください
いろいろ公開できる物準備中です

第七話<旅行>つづき



幼馴染「あっそぶぞー!」

男「待て、ビーサンで走るな」

幼馴染「はやくはやく! プール入ろ!」

男「わかってるから。子供か」

幼馴染「そういえばさ、タオルとか持ってこなくて良かったの?」

男「利用者はそこら中で好きなだけ借りられるって」

幼馴染「お金は? 途中でジュース買ったりしない?」

男「ここ」

首から紐でぶら下げた長方形の防水ケースには小銭と携帯電話が入っている。
万が一ロックし忘れて浸水しても携帯は防水仕様なので大丈夫だ。
部屋の鍵はフロントにあずけているため、これで手ぶらでプールを満喫できる。

男「とりあえず3000円くらいあればいいよな…」

幼馴染「あーそれかー」

男「手荷物の心配せずに遊べるぞ」

幼馴染「うん! ナイス!」


幼馴染「とりあえずー、まずはどこにしよっか!」

ウォーターパーク内は部屋から見渡した限りとても広かった。
子供用のプールと水深のある大人用プールはどちらも広大な面積で、
あたりには大小様々なウォータースライダーが立ち並んでいる。

中央エリアにはたくさんの南国風飲食店とビーチチェアやスパが集まる憩いのスペース、
そしてそれらをぐるっと取り囲むように流れるプールがある。
海側にはオルカのショーを見られるスタジアムや水族館も存在するほどに巨大なパークだ。

男(一日で遊びつくすには全然時間が足りないな)

ナツキは目を輝かせて案内板を見つめていた。

幼馴染「流れるプールながっ! 隣町のやつの3倍くらいあるよ!」

男「リゾート地だからな」

幼馴染「1周20分だって。これ行こうよ」

男「オッケー」


早速二人で流れるプールへ。
パーク自体はそれなりに混んではいたが、定期的に行われるオルカショーが人気を分散させてくれるため、
どこのエリアも人でごった返しとはなっていなかった。
俺達はぴったり前後にくっつきながら、水の流れに身を任せた。


幼馴染「冷たくてきもちいー」

男「ナツキくっつきすぎ」

幼馴染「えっへへ、おりゃー。逃さないぞー」

ナツキははしゃぎすぎて周りが全く見えていないのか、それとも気にしていないのか、
遠慮もなく抱きついてくる。
柔らかい肌がむにゅりと密着して、こんな場所にもかかわらず理性が揺らぐ。


男「ぅ、おい」

幼馴染「このままおんぶでしばらく進も? ぎゅーー」

男「いいけど…バカップルみたいじゃん」

幼馴染「カップルじゃん」

男「カップルだけど…」

幼馴染「まわりもこんなもんだって! 気にしちゃだめだめ」



確かに周りのカップルはどこも似たようなものだった。
浮き輪に二人で入ってみたり、水のかけあいをしながら追いかけっこをしたり、
恋人同士のサマーバケーションを全力で楽しんでいるようにみえた。
国外からの旅行客もたくさんいた。


男(これは恥ずかしがってる場合じゃないのかもな…)

男「よしナツキ途中で交代な」

幼馴染「うん! 水の中なら重くないよね」

背中ではしゃぐナツキを抱えたままのんびりと流れていく。
今日もこんがり焼けそうな日差しが燦々と照りつける。

南国をモチーフとしたパーク内には日本語はほとんど見受けられず、
電柱の一本すら存在しない。まるで異国を訪れたかのようだ。


男(こんなところに好きな子と来れるなんてな)

男(ナツキ今日も元気だなー。かわいい)

幼馴染「おぅい」パシャパシャ

男「げほっ、なにすんだよ」

幼馴染「なんかボーッとしてるのかなって思って」

男「してないって。周りの景色みてたの」

幼馴染「さっきね、ホットドッグ屋の前通ったよ。ボクあとでたべたいなぁ」

男「どこ? もう少し遊んでからでいいか?」

幼馴染「あっちの方……あ、前滝」

男「え? わぷ……げほっ」


流れるプールはただ単に水が流れているだけではなく、洞窟を通ったり、
流れ落ちる小さな滝をくぐったり、突然流れが早くなったり等、
何周しても飽きずに楽しめるような構造になっていた。


幼馴染「あはは、アッキー顔直撃してた」

男「この野郎……いってー鼻に入った…」

幼馴染「くふふ、あはは、だっさー。あーんいまので頭濡れちゃった」フルフル

男(…仕返ししてやる)

俺はナツキの脚をしっかりつかんだまま、息を深く吸い、脚を畳んでその場に潜った。

幼馴染「んぶぅ!?」

突然のことに驚いたナツキは水中でボカボカと頭を殴ってくる。

男「ふぅ…」

幼馴染「げほっ、げほっ…ひどい゙……」

男「お前俺の背中で調子のったらお仕置きな」

幼馴染「交代交代!! ボクが背負う!」

男「やだね」

幼馴染「もーー!」バシャバシャ

男「やめっ、顔はやめろって。また潜るぞ」

幼馴染「やーめーてーよー」


それからしばらくベタベタしながら流れるプールで遊んだ。
ナツキがあまりに飛んだりはねたりするせいで、監視員に軽くホイッスルを鳴らされてしまった。


幼馴染「次ウォータースライダー!」

男「えー」

幼馴染「えーじゃない! あれね」ピッ

ナツキが指差したのは園内で一番高い建造物。
デンジャラススライダーと名付けられた恐怖の滑り台だ。
身長制限まである。

男(デンジャラスなら廃止しろ)

男「いや…あれはちょっと…なんだあの長さ。滑り降りるまでに何分かかるんだよ」

男「もうちょっと小さいのにしないか…あっちのとか」

幼馴染「びびってるの?」

男「びびってないし。ちょっと人並んでるからどうかなーって」

幼馴染「あ、びびってるんだぁ♪」

幼馴染「くふふ、アッキー昔からジェットコースターとか苦手だもんね~?」

男「わかったよ並べばいいんだろ!! なめんな!」

男「ホラーゲームでぴーぴー泣くようなお前と一緒にすんなよ」

幼馴染「ボクこういうのは怖くないもーん」

男「くそ…絶対叫ばないからな」



   ・   ・   ・


 


係員「それでは、前の方の腰を後ろからぎゅっと掴んでくださいね」

幼馴染「…? 2人一緒に滑るんですか?」

係員「カップルでしたよね? 違いましたか?」

男「あ、はい…そうですけど」

男「じゃあナツキが前」

幼馴染「え、ボクが?」

男「当たり前だろ。お前のほうが小さいんだから」

係員「いいですか? ぎゅっとですよ途中で離さないでくださいね」

ペタンと座るナツキの背後に座って、細い腰に腕をまわす。
ナツキはその腕をぎゅっとつかんだ。

係員「それではいってらっしゃいませ~」

男「わっ…」

幼馴染「あはっ」

ぽんと背中を押されて、勢い良く滑り出す。
あっという間に最高速度に達し、スライダーの独特な浮遊感が襲ってくる。
体が発する危険のサインに抗えず、俺はナツキの耳元でみっともない声をあげた。

幼馴染「うあああぁぁぁ~~~!!♪」

男「あ゙ああああああああああああっ!」

幼馴染「ひやぁぁあああ!!♪」

男「止めてえええぇええええ嫌なのおおおおお!!」


幼馴染「楽しかったぁ♥」

男「最悪…」

幼馴染「え、もしかしてもらしちゃった?」

男「漏らさねーよ…あーもう…」

幼馴染「すっごい声出てたね。嫌にゃあああって言ってたよ。にゃああって」

男「言ってねぇし。お前も大概だろ」

幼馴染「そうかな? ねーもう1回♥」

男「 い き ま せ ん 」

幼馴染「ヘタレ。お漏らし」

男(ほんとに漏らしてないから)

男「…ちょっと休憩しよう。オルカショーの時間も考えなきゃいけないだろ」

幼馴染「そっかぁオルカオルカ♪ オルカは大事だよね」

男「ナツキはホットドッグ食べたいんだっけ」

幼馴染「あと冷たいものもほしいなー」

男「んっと、いまから買ってスタジアム向かえば3時からの公演ちょうどいいな」

幼馴染「ほんと? じゃあ行こ行こ♪」ギュ

男「お、おう…」

男(なんだ。ナツキとでも案外普通のカップルできるんだな…)


【スタジアム】


幼馴染「ここ! 席空いてる!」

男「はいはい」

幼馴染「よっと……おお~~っ!? よく見えそう」

幼馴染「あれ…オルカいなくない? どこ?」

男「ショーが始まったら、あそこの水中トンネルからこっち入ってくるんだろうな」

幼馴染「あー! なるほど! 早く来い」

男「ん、フローズンとホットドッグ。始まるまでに食べちゃおうぜ」

幼馴染「うん!」

幼馴染「あーんしてあげよっか~? んあ~」

男「いや…周りに家族連れいっぱいいるからやめて」

幼馴染「あ……えへへ。ごめんごめん」


それから5分ほどしてオルカショーが始まった。
さすが海のギャングを称するだけはある、巨体がジャンプするだけで水しぶきが客席まで飛び散り、
その雄大な姿と大迫力にスタジアムの観客は釘付けだ。


幼馴染「すご……アッキーの家で飼いたい」

男(どこで飼うんだ?)


ナツキはぽっかりと口をあけたまま片時も目を離さずにオルカの姿を追っていた。
食べかけのフローズンは溶けてただの飲み物になってしまっていた。




幼馴染「すごいねぇ…すごいねぇアッキー。あれがオルカ…」

男「かっこいいな…」

幼馴染「かわいい~~!」

男「は?」

幼馴染「え? かわいいでしょ。あの模様とか、ぬるぬるしてそうなお肌とか」

男「むしろ恐ろしい…ああ見えてめちゃくちゃ賢くて、集団でえげつない狩りするんだぞ…」

男「ペンギンやアザラシ食うんだぞ……冥界よりの魔物の異名は伊達じゃねぇ」

幼馴染「賢いよねぇ…なんであんな芸が出来るんだろう」

男「絶対ナツキより頭いいよなあ」

幼馴染「は…? そうかもしれないけどね…」

男「うそうそ真に受けるなって」

幼馴染「一度でいいから海で一緒に泳ぎたいなぁ♥」

幼馴染「せめてさわりたい~~ぎゅって抱きついて、ほっぺたすりすりしてみたい」

男「肉食だから…見た目に騙されてぱっくり食われるよお前」


しばらくの間オルカの巧みな芸は続き、小休憩を挟んでショーは最後の演目へと移った。


係員「いまからオルカくんのボール拾いを行います」

係員「どなたかショーにご協力くださいお客様はいらっしゃいませんかー」

係員「見えるように元気よく手をあげてくださいねー」

男(げっ、やな予感)

幼馴染「はいはい!!!」ガバッ

幼馴染「はいはいはいはいはい!!!オルカ~~!!」

男(あーあーもうめだちまくり…)




係員「あはは。はい!じゃあそこのとーっても元気な女の子」

幼馴染「やった! アッキーボク! ボクだよね!?」

男「さっさといってらっしゃい」

幼馴染「わーーー」

ナツキは観客の視線を独り占めにし、軽快な足取りでステージへと向かう。

係員「こんにちはー」

幼馴染「こ、こんにちは!」

係員「お名前は?」

幼馴染「ナツキ…です」

さすがに大観衆の前だと気づいて緊張したのか、マイクに乗った声はわずかに上ずっていた。

係員「今日はご家族でお越しですか?」

幼馴染「あ…い、いえ…えっと。好きな人と…デートで、えへへ…」

係員「なるほどー! 彼氏さーん、スタンドから応援してあげてくださいねー!」

ナツキがこっちにむかって控えめに手を振る。
俺は苦笑いで手を振り返す。
それと同時にテンションのあがった客達から冷やかしのような口笛がまばらにヒューヒューと聞こえてきた。

男(お前より俺のほうが恥ずかしい)




係員「それではステージへどうぞ」

係員「いまからこの3つのボールをプールに向かって投げてそれをオルカくんに拾ってきてもらいます」

幼馴染「わー! ボール!」

係員「それでは好きな場所へ順番に投げてみてください」

幼馴染「はーい」


ナツキは振りかぶってボールを力いっぱい投げた。
ボールは大きなプールの中央を越えてさらに向こう側まで届き、水中へととぷんと沈む。
観客たちは遠目では一見華奢に見える女の子の見せた予想外の遠投に、みな度肝を抜かれていた。


係員「こんなに遠くまで投げた子は初めてですねー」

係員「それでは拾ってきてもらいましょう!」

オルカ「きゅいっ」

オルカは体の大きさを感じさせないほど機敏な動きで飛び出して潜水し、
滑るように水中を泳いであっというまにボールを口先で器用に拾い集める。

男(こんなんに襲われたひとたまりもないな……)

そしてステージへと戻ってお姉さんの足元に綺麗に並べた。
スタジアムは大喝采につつまれる。

幼馴染「ふぉおおおお!!!」



幼馴染「えらい! この子は天才だよ」

係員「頑張ったご褒美にバケツから魚を一匹あげてくれませんか?」

幼馴染「はい! えいっ」

幼馴染「わ~~ボクの魚食べてる…♥ おいしい?」

オルカ「きゅいっ」

幼馴染「なんて可愛いんだ…ウチにくる?」

オルカ「きゅいっ」

幼馴染「来るって~~~っ!!?」

男(勝手に恥ずかしいことしてるんじゃねぇ!)

係員「あ、ありがとうございました! 協力してくれたナツキちゃんにもう一度盛大な拍手をお願いします」



   ・   ・   ・



幼馴染「ただいま」

男「おかえり。オルカ近くだと怖くなかったか?」

幼馴染「ううん。すっごくかわいかったぁ」

幼馴染「近くだとね、きゅうきゅうって可愛い声がよく聞こえたよ」

男「そうか。よかったなナツキ」

幼馴染「うん♪ まさか餌まであげられるとは思わなかったよ」

幼馴染「最高の思い出だよ」

男「それじゃプールでまた遊ぶか」

幼馴染「うん!」

男(ナツキが楽しそうで来たかいがあったな)


その後もプールリゾートを満喫し、夕刻には俺達はくたくたになってホテルへと帰還した。




【部屋】



幼馴染「はぁ~~疲れた」

男「お前の体力舐めてた…あと水泳ってやっぱ全身運動だな…」

男「使ってない部分の筋肉が…」カクカク

幼馴染「みて、窓から夕日見えるよ」

男「おー、サンセットってやつだな」

幼馴染「青空と青い海も綺麗だったけど、こっちもとってもステキだね…」

男「夜は沖で花火を打ち上げるらしいぞ」

幼馴染「贅沢すぎない? ずいぶん奮発しちゃったね」

男「せっかくの泊まりのデートだもんな。それにナツキずっとオルカ見たがってたし…見れてよかったな」

幼馴染「アッキー……」

男「さてシャワー浴びて、ディナーバイキングに備えるか。腹減ったー」

幼馴染「間食したのにお腹ぺこぺこだねー」

男「先に入って来い。俺ロビーでジュースでも買ってくるわ」

幼馴染「……」ぎゅっ

男「?」

幼馴染「えへへ…」

男「ナツキまさか」

幼馴染「…♪」コク

幼馴染「一緒に入ろ♥ いいでしょ?」

男「まじかよ。今日は甘えてくるのな」

幼馴染「だってぇ……くふふふ、好きなんだもん」





第七話<旅行>つづく

更新終わり
次回明日

第七話<旅行>つづき



ナツキに促されてバスルームへ。


幼馴染「ありゃ…トイレもついてるや」

男「そりゃホテルだからな」

幼馴染「ふーん…なんか変なの。分けてほしいよね」

男「湯船にお湯張るか? しばらく時間かかりそうだけど」

幼馴染「ううん。いまシャワーだけでいいよ」

幼馴染「ご飯のあと、1階の温泉行こ」

男「そうだな」

男「じゃ、じゃあ…脱ぐ…ぞ」

幼馴染「うん……ぇへへ」

こうして明るい場所で2人して裸になって肌を見せ合うことはあまりない。
初体験の時は薄暗がりで、はっきりと細部まで見ることは出来なかった。

気恥ずかしさに目線を逸らそうとしても洗面台の大きな鏡にナツキの姿が映り込んでしまっている。

ナツキはまず羽織っていたシャツを脱ぎ捨て、そして先にビキニの下に手をかけた。

男「あれ、そっちから脱ぐのか?」

幼馴染「え? う、うん…なにか問題ある?」

男「いや…いいんだけど…」

幼馴染「おっぱい見たかった? エッチ」

男「ちがいます」





薄っすらと生えた黒い恥毛。
湿ってぺったりと肌に張り付いている。
腰には食い込んだビキニの跡がシワとなってはっきりと残っている。

男「お腹もずいぶん焼けたな。一日ぶらぶら歩きまわってたらそうなるか」

幼馴染「み、見てないでアッキーも脱いでよ…ボクだけなんて恥ずかしいじゃん」

男「悪い…」

一度ナツキから目をそらして海水パンツを下ろす。
ひっかかりながら飛び出した物はすでにふっくらと固くなっていた。

男「……やばい」


幼馴染「あ、なんか上とるの恥ずかしい…かも」

男「俺先に浴びてるから、お前脱いだらこいよ」

幼馴染「うん…」

空のバスタブに入り、カーテンを引いてシャワーの蛇口をひねる。

男「うわっ、チ!」

幼馴染「どうしたの?」

男「なんでもない……あっちー…びっくりした」


しばらく手にシャワーをあてて温度を調整しているとナツキがもじもじしながら中に入ってきた。
2人で狭いバスタブの中にしばらく立ち尽くす。
しかし俺はなぜかナツキの裸を直視するのはイケナイことのような気がして、ナツキに背を向けていた。

幼馴染「入っちゃったね…すっぽんぽんで」

男「…」

幼馴染「なんで後ろ向いてるのー。こっち向いていいんだよ?」

男「…いや、でも」

幼馴染「おしりー! このー」

むにゅっ

男「さ、触るなって…」

幼馴染「お尻固い…むにゅー!」

男「やめなさい」

幼馴染「えへへ、やっとこっち見た」

男「うわっ、ごめ…」

幼馴染「なんで謝るの……別にボク見られてもいいよ…」

幼馴染「あのときのボクたちとは違うんだから…」

そういってナツキは俺の腕にしがみつく。
確かに俺達は恋人同士になった、気まずい思いをして一緒に風呂に入った頃とは違う。

男「とりあえずシャワーな…」


俺はナツキの頭にぬるいシャワーを浴びせた。
ナツキは心地よさに目を細めて、腕や肩をさすって汚れを落とす。
すっかり日焼けした肌が、水で反射した光でテラテラとしていて艶めかしかった。

幼馴染「~♪ ~♪♪゙」

男「その鼻歌やめろ…」

幼馴染「なんでさー。今日ずっとパークの中で流れてて覚えちゃった♪」

男「そんなんじゃなかったろ」

幼馴染「じゃあお手本」

男「えっと…~~♪ ~♪♪」

男「って感じ」

幼馴染「おー、うま!」

男「それよりナツキ…ちょっと離れろよ…お前近すぎ。もう一歩下がって」

幼馴染「なんで…あっ」

そこでようやく俺のあそこが臨戦態勢になっていることに気づいたようだ。
ナツキは頬に両手をあてておおげさにワオと驚いた。

幼馴染「あらら、いーけないんだ。一緒にシャワー浴びてるだけなのに♪」

男「こんな状況で勃たせるなって言うのは酷だぞ」


幼馴染「……」

ナツキは興味津津といった具合に、しげしげと見つめている。


幼馴染「……もうちょっと近くで見ていい?」

良いと返事したわけでもないのにナツキはその場にかがんで、俺のペニスに顔を近づけた。

男「あっ、だめだぞ」

幼馴染「アッキーボクのおっぱい見たじゃん。おあいこおあいこ」

男「どこがおあいこだよっ」

顔を動かして角度をかえ、さまざまな方向から観察してくる。
竿だけならともかく、その下の睾丸まで見られるのは少しどころの恥ずかしさじゃなかった。

幼馴染「ふーん…こんな風になってるんだ」

幼馴染「へーえ。なんかひくひくしてておもしろ」

男(なんでだろうなー…もうセックスはしたのになー)

男(そういえば俺ナツキのアソコ…ちゃんと見てないな…)

幼馴染「これタマタマ?」

男「…っ! おしまい! あんまり見るな」

幼馴染「やーだもん。好きな人の大事なとこだから見たいもん。おかしい?」

男「う…この…」

愛らしくそんなことを言われてはますます理性崩壊に歯止めがきかなくなってしまう。
股間はさらに大きく膨張する。




幼馴染「うあ……血管浮いてる…これってさ、痛くないの?」

男「痛くないよ」

幼馴染「ほんと? えい」

またも許可をとらずナツキは勝手に俺の竿を握った。
しなやかな指がまとわりついて、その刺激だけで頭が変になりそうだった。


男「あっ、またお前は」

幼馴染「固い…でもなんかむにゅむにゅしてる…弾力っていうのかな」

幼馴染「軟式のボールみたいな、感じ?」

男「そんな例えいらない」

幼馴染「これが…ボクのあそこの中に…ふへへ」

男「……っ。言わなくていいことばっかり言うなよ」

幼馴染「おっきすぎだよ♥ ほんとに入ったなんて信じられない」

幼馴染「だってボクのあそこの穴ってちっちゃいんだよ?」

幼馴染「そりゃ痛いはずだよね…怪我したかとおもったもん」

男「って自分で見たことあるんだ?」

幼馴染「え、あー…うん…あの翌日まだ血出てるのかな…お家で確認を…」

幼馴染「男の人は自分で大きさわかるからいいね!」

男「銭湯とか行けば簡単に人と比べられるからそうでもない」

幼馴染「アッキーおっきいほう?」

男「さぁな!!!」



ナツキはいまだにむにむにと触りつづけている。
性感を得るための動きではないのがなんとももどかしい。
皮をつまんだり、さきっちょを指の腹でそっと撫でたり、あまりに不規則で刺激が乏しい。

男「あのさナツキ…」

幼馴染「?」

男「その…それじゃ俺全然気持よくなれないからさ……だから」

幼馴染「あっ、そっか。ごめんね」

幼馴染「ごしごししなきゃだめなんだっけ?」

幼馴染「それとも……ぼ、ボクとエッチしたいの?」

男「……とりあえず、手で」

幼馴染「わかった」

幼馴染「あれ…でもうまくゴシゴシできない」

男「滑りがたりないからな…ローションなんて都合よくないからなぁ…」

一瞬ナツキのよだれで…なんてよからぬ考えがよぎったが、変態だと思われたくない。
とりあえず無添加っぽい石鹸が備えてあったので、泡立てて塗るように伝えた。



幼馴染「わはっ、にゅるにゅるだ」

幼馴染「ぬーるぬーる」

男「う…」

幼馴染「立ちっぱなし辛くない? そこに座れば?」

俺はバスタブの縁に腰掛ける。
足の間にナツキが座り込んでペニスと真剣に向き合う形となった。


男「ナツキに手コキしてもらえるとは…」

幼馴染「手コキっていうの? ボクこれ結構たのしいから好き」

幼馴染「アッキーのおちんちん、おもしろいと思うよ」

幼馴染「きもちよくなってね♪」

 ちゅくっ ちゅくっ ちゅくっ

ナツキの細い指が何度も竿を往復する。
ピッチャーをやっているだけあって、女の子としては握力が強いナツキの手はかなりの刺激をもたらした。

男(これ…自分でするのの比じゃない)

男(ナツキの手ヤバ過ぎる…)

自分の意思とは無関係に与えられる性感は耐え難いほどの心地だった。
もっと楽しみたいのに無慈悲な終わりが近づいてくるのがわかる。
ナツキはまたも下手くそな鼻歌を歌いながら、うっとりとした表情で俺のペニスを夢中でしごき続けた。



幼馴染「あ…ここキモチいい?」

幼馴染「ん…かわいー声でてるよ?」

幼馴染「おちんちん…生き物みたいだね。ちょっと怖いけど、さわるとびくびくってなるのは可愛いな」

幼馴染「すっかり泡泡だね。よく見えないからちょっと流すね」

幼馴染「しゃばー…くふふ、おちんちんぴかぴかだ」

幼馴染「続きしまーす」

幼馴染「んしょ…んしょ…♪」

幼馴染「どーぉ? すりすりされると気持ちいい?」

幼馴染「ここの裏側のつながってるとこほんと不思議な形してるよね」

幼馴染「さきっちょもきのこみたいだね。保健の授業でみた絵とちょっと違うや」

幼馴染「アッキー返事してよぉ…ねぇ」

幼馴染「嬉しいなぁ…ボクの手でこんなにエッチな声だしてくれるなんて」

幼馴染「ほんとに嬉しい…なんかボクもうずうずってしてきた」

幼馴染「ねぇ…アッキー…あとでだけどさ…」

幼馴染「…? んー?」

 ぴゅるるっぴゅくっ

幼馴染「うわっ」


男「く…ッ」

耐え切れずに無念の暴発1回目。
ここ数日我慢した分が一気に出た。
ナツキの甘えるような声と表情と、腕の隙間からちらちら覗くおっぱいとのすべてが俺の脳を刺激した。
頭に電流が走ったような心地だ。

白濁色の濃厚な粘液は宙を漂った後、ナツキの顔や体にべたべたと着地する。


幼馴染「えっ、えっ!?」

幼馴染「わわっ、ええっ!? うわーごめん!」

何を謝っているのかわからないが、ナツキの驚いた顔がとてもかわいい。

幼馴染「すんすん…うわぁーすごいにおい…」

幼馴染「アッキーのエッチなお汁…ボクにいっぱい…♥」

男「ごめん。そろそろ出るって言おうとしたんだけど、間に合わなかった」

幼馴染「むー…最初からかける気だったでしょ」

男「こんな体勢だとかかるに決まってるだろ…」

幼馴染「まぁお風呂だからいいけどね。あひゃーねばねば…すんすん」

幼馴染「へんなにおーい」

男「こら、人のアレで遊ぶな。あとへんなにおいとか言うなよ…」

幼馴染「でもボクの好きな匂いかも…アッキーの精子…アッキーの…」

幼馴染「なめてみよっかなー」

男「だめだめ! 食っていいもんじゃないぞ。シャワーするからな」

幼馴染「はーい♥」



精液でべたべたのナツキに再び頭からシャワーを浴びせる。
顔から流れた精液が胸やお腹を伝って、足元へと落ちていく。

男(逆に全身汚しちゃったみたいでエロいな…)


幼馴染「ねーねー」

男「なに」

幼馴染「自分だけきもちよくなってずるい」

男「ずるいって言われても…元はといえばお前が勝手に触り始めたんだし」

幼馴染「だからボクのも触って…」

男「…う、うん。ナツキがいいなら触るけど」

幼馴染「じゃあボク立つからアッキーが指でして」

立ち上がりかけたナツキの腕をつかんで制止し、今自分が腰かけている場所をとんとんと指差す。

男「交代♪」

幼馴染「え……次はボクが見せるの?」

男「おあいこだろ?」

幼馴染「おっぱい見た。いまも見てる」

男「お前の胸と俺のチンコじゃ釣り合わないね」

幼馴染「……エッチ」

男「男はエッチなんだよ。それに、好きな子の大事な所みたいって思うのはあたりまえだろ? お前も言ったじゃん」

幼馴染「うう…ずるいよぉ」



少しだけむくれたナツキをバスタブの縁に座らせて、大きく股を開かせる。

幼馴染「……っ。恥ずかしいよ」

男「俺も恥ずかしかった」

幼馴染「はぁ…やらなきゃよかったかも」

脚を大きく開くと、ぴったり閉じられていた秘裂が自然と隙間をつくって、中身のピンク色の粘膜がわずかに見えた。


男「広げてみてもいい?」

幼馴染「だめぇ…」

男「じゃあ自分で広げて」

幼馴染「……むぅ、あんまりじろじろみないでね?」

ナツキはおずおずと両手の人差し指を恥部に這わせて深呼吸の後、左右にはっきりと広げた。
陰唇とそれに守られた小さな膣穴がひくひくと呼吸するようにうごめいている。

幼馴染「あっ…あ……」

ナツキの顔が瞬時に羞恥に染まる。
口元をきゅっと噛みしめて、目は右往左往して定まらない。
濡れた髪の毛からはみ出た耳まで赤くなっていた。



幼馴染「ううぅ…あぅぅ…もうだめっ」

男「隠すの禁止」

幼馴染「いじわるっ! 死にそうなくらい恥ずかしいよ…」

男「オレモハズカシカッタ」

幼馴染「うわ~~んいじわる~」

本気でやりたくなければ抵抗すればいいのに、素直に俺の言うことに従っておまんこをさらけ出すナツキ。
馬鹿なのか健気なのかわからないその姿を見て俺は興奮し、自然とペニスが勢いを取り戻す。
ナツキもそれをはっきりと認識していま以上に頬を赤く染めた。

男(うわーなんつーエロい光景…写真とりたい)

ふと悪戯心が芽生えて、俺はカーテンを開いて洗面台に置いたコインケースに手を伸ばした。
そこから携帯電話を取り出して開く。

幼馴染「えっ、えっ」

男「一枚だけっ! な?」

男「お願い。一生のお願い」

幼馴染「な、何言ってるの…写真とるってこと?」

男「うん」

幼馴染「え゙……」



男「ナツキの可愛い写真いっぱいとりたい。データいっぱいになるまでナツキの写真とりたいんだよ」

幼馴染「もう今日いっぱい撮ったでしょ……水着とか…」

男「裸撮ったことない」

幼馴染「こ、こんなの恥ずかしすぎてだめだよ!」

といいつつも指は依然としてしっかりと陰唇の左右に添えられたままだ。
あまり抵抗しないナツキに向かってカメラの目玉を向ける。
さすがにピースしてくれと要望を出すのは変態すぎるだろうか。
ナツキは恥ずかしさのあまりかいつまでたっても目線をくれない。

男(いいか。撮っちゃえ)

全身が入るようにすこしさがってフォーカスを合わせる。
とても古い携帯なのであまり画質はよくないが、俺はこの行為自体にものすごく興奮した。
ナツキは恥ずかしそうに目を伏せて、ひくひく震える。

そして指がシャッターボタンに触れ、

ピロリーン♪

幼馴染「~~~っ!!」

幼馴染「と、とった…?」

男「あーあ。ナツキの超やばい写真撮っちゃった」

男「うわー…エロ。変態だお前」

幼馴染「うぐう…誰かに見せちゃダメだよ?」

男「見せるかっての。一生俺だけの宝物にする」

幼馴染「それもやだなぁ…」

男「じゃあそろそろ触るからな」


いよいよナツキの恥部に向かって手を伸ばす。
かがんで顔を近づけるとより鮮明に粘膜が見えた。

幼馴染「はぁ、はぁ…っ」

幼馴染「あぁぁ…もうだめえ。これ以上ボクのここ見ちゃやだあ」

男「自分でおまんこ開いておきながら何言ってんだ」

幼馴染「おまんこって言うのもだめぇ!」

幼馴染「それに…アッキーが…アッキーがお願いするんだもん」

膣穴からこぼれた愛液がまた一滴ツゥーっと垂れて水と混ざる。
いやいや言いながらもナツキはかなり興奮しているようだ。

男「もう中ぐちゅぐちゅ?」

幼馴染「しらないもん!」

しらを切っても無駄だ。どうあがいてもこの距離では隠すことはできない。
包皮に守られた小さなクリトリスが充血してピンと立ち上がっている。

俺はそれに指先とツンと当てる。

幼馴染「ひゅぐっ」

男「うわっ、エロい声」

幼馴染「ちがっ…ひゃうんっ、そこ…は…」

男「ナツキのクリかわいいな」

幼馴染「……」フルフル

男「自分で触ったりする?」

幼馴染「さわらないもん」


男「オナニーするって言ってたじゃん」

幼馴染「…っ」フルフル

男「じゃあ俺が触るから」

ナツキのお尻に向かって伝う愛液をすくって指になじませて、クリトリスを指で挟んだ。
小さくこすって刺激を与える。

幼馴染「ふぁっあああっあ、あんっ」

幼馴染「クリだめ! ボクっ、あ、うんっ、すぐ…イッちゃうから」

男「そうなんだ? 乳首も弱いしクリも弱いしお前弱点だらけだな」

からかいながらどんどん責め立てる。
ぱくぱくと誘うように呼吸する穴にも指を1本ねじこんで、ナツキのやわらかさを堪能した。

幼馴染「あああっ、そっちもだめっ」

男「うわ…きっつ」

男「これよく入ったな…指ちぎられそう。でもヌルヌルだな」

挿れた指でナツキの内側の天井をこすって、ひだひだを指の腹で数える。
ナツキは脚を閉じたそうにわなわな震わせるが、俺の体を間に割り込ませているので逃げることはできない。

 ぬち ぬち ぬち

幼馴染「んんっ♥ んっ、うっ♥」
  
わざと往復させずに、指をまわしたり細かく震えさせたりして、ゆるめの刺激を与える。
ナツキが快感に負けておねだりしたら、しっかりと気持ちよくしてあげようと思っている。

それにしてもいやらしいポーズだ。
あのナツキが明るい照明の下でこんなにもおまんこを丸出しにして、真っ赤に充血させている。

 
 ぬち ぬち ぬち…
 
甘くこすり続けるとナツキの声はどんどん甲高くなっていく。
愛液はとめどなく溢れてきて、指がべたべたになってますます滑りが良くなる。


幼馴染「あっあっあうっ、そこ、もっとされちゃうと」

男「……もっとなに」

幼馴染「クリ、クリもっとさわって…あうっ、あっ」

幼馴染「あそこのほうも…指、指ほしい。もっとぉ♥」

男(弱い…)

ナツキのあまりのあっけない陥落につい拍子抜けしてしまった。
クリトリスはぴんぴんに立って、ずいぶんとこすりやすい固さになった。
膣穴はぎゅうっと俺の指をくわえ込んではっきりとおねだりしている。

早くこの穴に自身を挿れたいと思ったが、風呂場にはゴムを持ち込んでいないので躊躇われる。
それにまだこの後ベッドで夜の本番が控えている。

男(楽しみだなナツキ)

指をストロークさせて、愛しい彼女の膣内をごしごしとこすり続けた。
ぴっぴと飛沫が跳ねるほどにナツキはぐっしょり濡れている。
 

 ちゅくちゅくちゅく ちゅくちゅくちゅく
   ちゅくちゅくちゅく ちゅくちゅくちゅく


幼馴染「あっ♥ あっ♥ ああっ♥」

男「イキそう?」

幼馴染「れちゃうっ、やめっ、あああっ♥」

男「なに? もう限界?」

幼馴染「れちゃうっ♥♥」



幼馴染「あっ♥ ふぁぁぁ~~~~っ♥♥」

びくんとナツキの腰が弾んで、ぺちんとお尻から湯船の縁に再び着地する。
膣はぎゅうっと閉じられて痙攣していた。

ナツキの弛緩しきった表情は恍惚としている。


幼馴染「あぁあ……」

男「ん?」

 ぴょろろろろ…

気づけば俺はなにかを浴びせられていた。
黄金色の液体は、指で犯した穴のわずか上から勢い良く溢れだし、弧を描いて俺に降り注ぐ。
におう…。

幼馴染「ごめ…なひゃ♥」

 ぴょろろろろ……

幼馴染「あぁぁ…とまらなっ、とまらないよぉ…♥」

幼馴染「アッキーのばかぁ♥ ボク…出るっていったのにぃ…」

男「風呂だから許す……」

男「でも悪いことだからお仕置きしなきゃな」

 ちゅくっ

幼馴染「んぅ! ん♥」

幼馴染「ふへぇ……ボクどうなるのぉ…♥」





第七話<旅行>つづく



 

更新おわり
次回明日

帰りおくれちゃったスマソ
また明日にでも

第七話<旅行>つづき




幼馴染「も、もしかしてアッキー…挿れる気?」

男「…」

ナツキは不安げな表情で俺を覗き込む。

幼馴染「避妊具…つけなきゃ」

男「わかってるけど…」

きちんとゴムをつけなくてはいけないことはわかっている。
しかし幼馴染のこんな痴態を見てもはや欲望の治まりはつきそうにない。

ナツキにかけられたツンとした匂いのおしっこをシャワーで洗い流し、
細い肩を掴んでナツキを無理やり立たせた。

幼馴染「え…本気?」

男「したい。2度目だから、すぐには出ないと思うし、コントロールできる」

男「やばくなったら抜くから」

幼馴染「……ほんとかなぁ。信じるけど」

男「ナツキはしたくない?」

幼馴染「…したい♥」


幼馴染「もう…挿れて…ほし、くて」

幼馴染「ボク…うずうずしてるよ」

頭を引き寄せて吐息のまじる距離でしばらく見つめ合い、深く唇を重ねた。
ナツキの唇はとても柔らかく温かい。
決して性欲だけで動いているわけでないと、出来る限り優しくナツキに愛情を伝えたい。


幼馴染「んっ、む…」

幼馴染「ん…ふ、ん…♥」

幼馴染「ふはあ…ハァ、はぁ。ほしいよぉアッキぃ…」

ナツキはとろんとした発情しきった顔で俺を求め、体に触れてきた。

男「わかった。後ろ向いて壁に手ついて」

幼馴染「え……うん。えっと…」

幼馴染「こう?」

男「そのままお尻こっち」

幼馴染「うぅ~……恥ずかしい。お尻見えちゃう」

男「もう恥ずかしいとこ全部見たから」

ナツキは照れながらも素直にお尻をつきだした。
丸くて安産型のお尻の焼け残ったビキニ跡がてらてらと白く光って眩しい。
未使用の桃色のおしりの穴まで丸見えだった。



男「かわいいな」

幼馴染「えっ、う…えへへ」

男「おしりの穴。なんかひくひくしてる」

幼馴染「ひゃっ、だ、だめだよ……そっか見えてるよね!? ぎゃー」

男「気にするな。綺麗だよ」

幼馴染「見ちゃいやぁ…」

男「もう挿れるぞ」

そして有無をいわさず、後ろからナツキの膣口にむかって熱く滾った肉棒をゆっくり突き刺した。

幼馴染「んぅっ♥ うあああ」

男「うぁ…ナツキ…きつ」

柔らかい肉襞がじゅぶじゅぶとペニスを迎え入れて先端から飲み込んでいく。


幼馴染「ああぁ…はぁ…っ、ああ」

男「痛い?」

幼馴染「ううん…全然っ」

どうやら痛みはないようで安心した。
こんなあどけない天真爛漫な少女が実は経験済みだなんて、世間の人が知ったらどう思うだろうか。
ナツキのバージンを自分が奪ったことを思い出してさらに興奮は加速する。
ペニスは硬さと太さを増しながら、ナツキの内側をこじあけてずんずん突き進む。


幼馴染「ふぁっ、あっ、あっ♥」

男「入っ…たぞ」

幼馴染「~~っ♥ なんか…イキ…そ」



男「興奮しすぎなんだよ」

幼馴染「だってぇ」

男「動くからな。ちゃんと自分の体支えとけよ」

ナツキのくびれた腰をしっかりつかんでピストン運動を開始した。

男「うお……からみ、ついて…」

幼馴染「あっ♥ ああっ」

男「ナツキどんな感じ」

幼馴染「うっ、ひぅっ…アッキーの熱いのが…ボクの中っ、で……ふぁうっ♥」

幼馴染「ごしごしっ♥ されてっ、ふぁぁぁ♥」


穴を一突きする度にナツキの体が悦んで跳ねた。
こうして体をぶつけているのに、おしりがいいクッションになって痛みはない。
内側の怪我も治っているようで、俺は遠慮なく揺れるお尻を突きつづけた。

 ぱちゅっぱちゅっぱちゅっ♥
  ぱちゅっぱちゅっぱちゅっ♥

幼馴染「あっ♥ あっ♥ んんぅっ、あああっ♥」

淫らな水音とナツキの情けない蕩けた声がバスルームに響いた。





 ぱちゅっぱちゅっぱちゅっ♥
  ぱちゅっぱちゅっぱちゅっ♥


次第に律動は更に間隔が短くなって、ナツキの息遣いもそれに伴い荒くなる。
突く度に背筋がピクンと跳ねて、がたがたと小刻みに肩や腕が震えている。
膣穴はきゅうきゅうと喜びながら柔らかい襞で俺を撫でつける。


男「ナツキ、ちゃんと立ってないと危ないからな」

幼馴染「あっ、あっ、あ゙っ♥ わかって…るぅ」

幼馴染「てかげんっ、してよぉ♥ あぁあ!」

男「ごめん。無理」

男「きもちよすぎて止まらない…」

幼馴染「ふぁあんっ♥ あんっ、あ゙っ♥ あ゙っ♥」


視界の中でナツキが喘ぐ。
いちいち愛らしい反応を示すことが嬉しかった。

それに見れば見るほど健康的で美しい後ろ姿だ。
ナツキはしっかり背筋と腹筋を鍛えているので、スラリとのびた綺麗な背筋をしている。
体のバランスもよく背骨にも歪みがない。
小麦色に焼けた肌もみずみずしくて、水着の日焼けあとがワンポイントとなってぐっとくる。

残念ながら胸は控えめなため、背中側からぶるぶる揺れる様子は確認出来なかった。

男(あとでベッドで思う存分触らせてもらおう…)



幼馴染「だしちゃ…だめだからねっ。んぁう♥」

男「はっ、は…ッ」

幼馴染「アッき…だめだよ…? 絶対だめだよっ」

男「わかってる…出そうになったら抜くから」

自分は二度三度と立て続けにできないタイプだ。
ユウジは一日の自慰記録を更新したとかなんとか、クラスの男子に自慢気に話していたが、俺にはそんなことしようなんて考えもつかない。

あまり性欲が強くない方なののかもしれない。

男(そう自分では思っていたのだけどな…)

ナツキの裸を前に興奮はおさまることはなかった。
一度手でしてもらって出した直後だというのに、こんなに元気なのはありえない事だった。
自身を理性に依って律することができず、俺は夢中でナツキの柔肉に腰を叩きつける。
 
 ぱちゅっぱちゅっぱちゅっ♥
  ぱちゅっぱちゅっぱちゅっ♥


幼馴染「あああっ、あああっ♥」

幼馴染「おちんち…おちんちきもちいいっ♥」

幼馴染「こんなに…きもちいなんてっ♥」

男「俺もだ。本気で腰振ったらこんなにやばいんだな」


ナツキはある意味初めてとも言える膣内での性感に夢中になっていた。
前回は痛みでどうしようもなく、その翌日も試したみたが裂傷の痛みが引いてなくて結局行為を先送りした。
しかし今日という日を迎えて準備は万全に整ったようだ。


幼馴染「うっ♥ ううっ♥ やぁ…そこ」

幼馴染「ボク…好き、そこ好き、ごりごり♥」

男「俺もナツキの中好きだよ。ずっと挿れていたら…溶けそう」


膣内から分泌液がはしたなく溢れてぐちゅぐちゅとまとわりつく。
その淫らな音がするたびにお互いの興奮は高まって、さらに気持ちよくなっていった。

幼馴染「顔…みたいよぉ、アッキーの顔みたいのに」

幼馴染「おちんちんしかわかんないっ、腰もっとぎゅってつかんでっ」

幼馴染「顔みたいよぉ…っ」

幼馴染「やぁん♥ あんっ、これじゃっ、ボク動物だよぉ♥」

幼馴染「後ろから…ずんずんされてっ、ボクっ♥ 感じちゃうなんて♥」

男「イケよ。我慢しなくていいぞ」

男「俺も…もうっ! ナツキ!」

幼馴染「イッて、イってアッキーあぁでも中だめっ♥」


 ぱちゅっぱちゅっぱちゅっ♥
  ぱちゅっぱちゅっぱちゅっ♥


幼馴染「イクっ、あっ、きもちい♥ あイクっあっ♥あっ♥」

幼馴染「あ、ぁぁ~~~~~ッ♥♥」


ひときわ大きなナツキの嬌声とともに、おまんこがぎゅんぎゅんと締まって痙攣する。

無数のひだひだがこれでもかというくらいに肉棒をひっかいて俺の射精を促した。




男「うっ、くっ、あ」

耐え難い快感が訪れ、精液が尿道を勢いよくかけのぼって一気に噴出した。
と同時に俺は焦ってペニスをナツキの中から抜く。
そして宙に激しく撒き散らしてナツキのおしりをべたべたに汚した。

幼馴染「ふぁぁ♥ ごりゅってぇ…きたぁ♥」

幼馴染「なんか最後ごりゅってされたぁ」

幼馴染「アッキー…? はぁ、はあ♥ ボク…ちょーきもちよくなっちゃったよぉ…」

幼馴染「アッキーもでちゃったんだね…えへへ、おしりにいっぱいかけたでしょ♥」

幼馴染「んぁ…ちからはいんないよ。ハァ、はぁ~」

男「…」

男(若干間に合わなかった予感)

最奥部で出すことはなんとか免れたが、膣内に白濁液は半分ちかく置き去りになってしまった。
ぽっかりと空いた淫口から真っ白な液体がとろりと滴る。

男(エロい……壮観だ)

幼馴染「…あ…なんかうまくたてなさそー…」

ナツキはずるりとよろけて倒れそうになった。
それを抱きとめて俺は開口一番。

男「ごめんなさい」

幼馴染「ふぇ……なにが??」

幼馴染「え゙っ!!」



幼馴染「も、もしかして…」

幼馴染「わーー精子ボクのおまんこについてるじゃん!!」

幼馴染「外で出すって言ったのに!」

男「ギリギリ外で出した!」

幼馴染「うっそだあ! こ、こ、これどうしたらいいの!」

男「だっ、だ、大丈夫! 奥で出したわけじゃないし、かきだそういますぐ!」

男「かきだしたら…多分、大丈夫! 奥に届いてないから……」

幼馴染「ほんと!? そういうものなの?」

男「さ、さぁ……ユウジに押し付けられたゲームとか本の知識…」

幼馴染「んもーー!! なにそれ! バカ!」

男「ほらナツキ、ここ座って! 足ひらけ!」

幼馴染「やぁんもう恥ずかしいよぉ!!」

男「はやくしろー!!」

その後ナツキのなかを指でひっかくように慎重に精子を取り除いて洗い流した。



  ・   ・   ・


 


幼馴染「ハズカシ。超ハズカシ体験しちゃった……」

男「もうゴム無しでしようなんて言わないから許して…性欲に負けたことすごく反省してる」

男(でもお前がエロすぎるのが半分悪い)

幼馴染「別に怒ってないよ? だってボクも挿れてほしかったし」

男「そうか…」

幼馴染「それに! もしこれで赤ちゃん出来ちゃってても…!」

男「!!」ギク

幼馴染「ボクたち遅いか早いかの違いでしかないもんね♪」

男「……。ナツキちゃんそれは早過ぎると思います」

幼馴染「かな? えっへへ」

ナツキは笑いながらすりすりとお腹をさする。

男「つか…やっぱ、そうなるよな…」

幼馴染「そうって?」

男「いずれほんとに子作りするんだよなって……というかまずは結婚…だけどな」

意識していても、いざ口に出すと恥ずかしかった。

男(ナツキとの結婚生活なんてどうなることやら)

男(あんまりいつもとかわらなかったりして…)


幼馴染「くふふ…いまさらボク以外好きになれるの~~?」

男「ならない」

幼馴染「じゃあボクしかいないよね♪ ボクもいないよ~~」

ぎゅむっ

男「あーもういちいち抱きついてくるなこのくっつき虫」

幼馴染「体動かしたらお腹空いちゃったね。そろそろご飯の時間かな?」

男「そうだな。着替えてレストラン行くか」

幼馴染「うん!」

男(にしても事の成り行きで2回も出しちゃうなんてなー…ベッドでがんばれるかなー)

男(いろいろプラン考えて来てるのに、なんでいつも思った通りにならないんだ)

男(まぁナツキだから仕方ないかぁ…)


幼馴染「エッチってあんなにきもちいいんだね。しらなかった」

男「……なんでその話蒸しかえすんだよ」

幼馴染「だってー。なんかボクハマっちゃいそー♥」

男「ひっ! ……はよ頭乾かせ」

幼馴染「くふふふふ。ひぎゃっ、やめふぇ…ひっぱらないれ」

男(こいつ全身もち肌…)グニーン




【ホテルレストラン】



夕飯はホテルの大型ホールレストランでの盛大なビュッフェ形式だった。
中央のテーブルにたくさんの料理が並んでいる。

男「おお!!」

幼馴染「いっぱいある! これって食べ放題?」

男「もちろん!」

幼馴染「やた~~っ! ボク全種類たべよっと」

男「無理無理」

とてもじゃないが一日宿泊するだけでは味わいつくせいない品目数だ。
これでも今日は洋食和食中華にしぼってあるだけで、曜日ごとにメニューは入れ替わるらしい。

幼馴染「まずはなにがあるか見て回ろっかなー」

といいつつもナツキは目についた美味しそうな料理をお盆に載せて取っていく。

男「お前いきなりそんなに取る馬鹿がいるかよ」

幼馴染「大丈夫大丈夫! わーデザートもあるんだぁ」

男「ちょっと待て! それは最後だろ」

男「あといくらなんでも野菜とらなさすぎだぞ」

男「ちょっとお盆貸せ!」

幼馴染「やだ!」

男「貸せ!」

幼馴染「いやぁぁだああ、今日はボクが好きなものだけ食べるもん。ビュッフェだもん!」

男「まぁいいか…太ってもしーらね」

幼馴染「あとでまた運動するもーん♥」

男「……」




  ・   ・   ・



幼馴染「はむ…んむ、んむ…おいし~このステーキ肉! 取った?」

男「取ってない。一切れくれよ」

幼馴染「はいあ~ん……しないんだねオッケーオッケー」

幼馴染「さすがにボクも状況をわかるようになったよ」

男「お、ほんとにやわらくてうまいな。俺あとで取ってこよ。どこで見つけた?」

幼馴染「和食のお肉のとこで、目の前でシェフの人が焼いてくれたよ」

幼馴染「だからあのテーブル見張っとかないと」

男「目ざといやつだな…俺気づかなかったぞ」

幼馴染「アッキーこんな風に焼ける?」

男「スーパーの肉じゃ無理だなぁ…」

幼馴染「やっぱ高いお肉かな? よぉしこれ食べまくって元とるぞー!」

男「いるよなぁこういうやつ……女なんだからせめてもっと上品にしろよー」

幼馴染「ふぁぐ、はぐ…関係ないよっ」

幼馴染「食欲は、我慢できないもん! 女とか関係ないしっ!」



男「お前の場合は我慢しないの食欲だけじゃないだろ」

男「どこでもすぐ寝るし…えっと」

男(あともう一つなんだっけ)

男(3大欲求って……あ、性欲だ…)ジトー

幼馴染「???」むぐむぐ

幼馴染「はぐっ、はむ…うまっ! はぁ~~生きててよかった♪」

男(当たり前だけどナツキに性欲があるってのが驚きだな……)

男(あんなにエロい声だして…エロい汁だして淫れるなんて……やばいまた勃ってきた)


幼馴染「いっぱい食べてこの後のために体力つけようね♪」

男「お、おう……?」

男(うわーー相手するの大変そう)

幼馴染「アッキーなんのことかわかってないでしょ」

男「わかってるっての! こ、こんなとこでする話か!!」

幼馴染「え?」

男「え?」

幼馴染「あのね!さっきホテルの中ぶらぶらしたとき、遊戯室に卓球台あったんだよ!」

幼馴染「キャッチボールできないかわりに勝負だ! ボク球技なら負けないよ!」

男「あ、そっちね…」

幼馴染「……なんだと思ったの??」

男(……なんかむかつく)




第七話<旅行>つづく



 

更新終わり
次回金曜日22時頃予定

帰宅遅れスマソ
また明日~

第七話<旅行>つづき




【遊戯室】


男「くあっ…ま、待った待った」

幼馴染「えー? わーいこれでボクの2ゲーム先取!」

男「くっそ…腹が重くてうごけねぇんだよ」

幼馴染「こちとら条件は一緒だよ」

男「そういえばお前のほうが食べたような…」

幼馴染「だからこうして運動してるんじゃん」

男「くそ…ピンポンでまでお前に負けてたまるか」

幼馴染「ふふん。無理無理♪」

ナツキはラケットでピンポン球をリフティングをしながら得意気に鼻を鳴らす。

俺達はディナーを終えて遊戯室へと遊びに来ていた。
ちょうど食事や入浴の時間とかぶっているため、広い室内に人影は疎らだ。
ビリヤード台やダーツ、カラオケルームまであったが、ナツキが選んだのはよりにもよって一番動きの激しい卓球だった。

男「お前とやると…お気楽ピンポンじゃなくなるから嫌なんだよっ」パカッ

幼馴染「やっ!」パカンッ



本人が言うとおり、俺が球技でナツキに勝てた例がない。
いまでこそ純粋な筋力は男性である俺のほうが上だが、高い技術が求められるスポーツとなれば話は別だ。


男「お前…ッ! 温泉の卓球でスピンかけるやつがいるかよっ」カコン

幼馴染「やっ!」パカンッ

普通温泉でのピンポンといえば、ルールも曖昧なカップルが仲睦まじくキャッキャとつっつきあいをするものだ。
しかしナツキとそんな微笑ましいプレーができるわけがない。
俺の幼馴染は食後とは思えない軽快な動きで左右にステップし、
スリッパ履きのくせに力強く踏み込んで強烈なスマッシュを容赦なくコーナーに叩き込んでくる。


幼馴染「ふふ」

男「拾えねぇんだよ!! バカ!」

幼馴染「よわすぎー」

男「くそ…」

男「そういえばお前さ……中学の体育で卓球の大会しただろ? あん時確か女子1位だったよな」

幼馴染「うん。それが? アッキー何位だった?」

男「ぐ……部活のやつらには勝てなかった」

幼馴染「じゃあボクが鍛えてあげる♪」パカンッ

男「もう許してくれ!」



20分ほど粘り強く続けたが、結局ナツキから1ゲームも奪うことはできなかった。
いつのまにか付いていたギャラリーからナツキに向かって賛辞と拍手が贈られる。


幼馴染「やーどうもどうも」

幼馴染「うへへへ、まいったなぁ」

男「そろそろ行くぞ……」

幼馴染「楽しかった♪」

男「ちょっとそっちのソファで休憩…」

幼馴染「情けないなぁ。運動不足なんじゃないの」

男「はぁ…はぁ…汗だくだ…今日はプールも入ったしつかれたんだよ」

幼馴染「いい汗かいたのお風呂の前でよかったね♪」

男「よかったねじゃねぇよ。他の客にめちゃくちゃ見られてたぞ恥ずかしい」

幼馴染「うん。いいじゃん。拍手してくれたし」

男(俺はボコボコにされてへこんでるんだけど!?)


男「にしてもお前スポーツうますぎ…どうなってんだ」

男「反射神経がイイのか? 動体視力か…?」

幼馴染「?」

男(案外いまからでも何かやらせたらプロ間に合うんじゃないか…)

幼馴染「さーお風呂いこー! お・ふ・ろ♪」

男(世の中そんな甘くもないか…)

男(こいつ将来何になるんだろうな……進路決めてるのかな)

幼馴染「アッキー?」

男「お、おう……?」

幼馴染「なに? あ、もしかして…変な事考えてたでしょ」

男「え…何が」

幼馴染「エッチ…。部屋のシャワーじゃなくて、1階の大温泉のことだからね!」

男「はぁ!? 誰もそんなこと考えてないから!」

幼馴染「どうだろねー?」



  ・   ・   ・


  




幼馴染「ついたついた。さぁ入ろう」

男「コラッ! お前あっちだろ」グイッ

幼馴染「わっ…そ、そうだった。危ない危ない!」

男「間違えるバカがあるかよ」

幼馴染「だって昔は…一緒に男湯入ったりしてたもん」

男「10年近く前だろ…アホ。いま何歳だよ」

幼馴染「なんかアッキーといると時間の感覚狂っちゃうなー」

男「俺のせいかよ」

幼馴染「じゃ30~45分くらいであがるから! 先に部屋帰っちゃだめだよ!」

幼馴染「先にあがったらのんびり待っててね!」

男「おう、ゆっくりしてこい。帰らねーから心配するな」

幼馴染「またあとでねー♥」フリフリ

男「おう」

幼馴染「…」

幼馴染「えへへ、またあとでねー♥」フリフリ

男「…。はいはい、いってらっしゃい。またあとでなー」フリフリ

幼馴染「いってきまーす」

男(めんどくせぇやつ。甘えすぎだ)

男(…嬉しくないわけじゃないけど)



  ・  ・  ・




男「…ふぅ」

男(にしてもナツキのやつ最近スキンシップ過剰なような…)

男(幼馴染からようやく恋人になったし、最初のうちは仕方ないのかな)

男(それだけ俺のこと…好きってことなんだよな……でもなぁ)

男「ふーー…なーんか、嬉しい以上に気疲れするんだよなぁ」

男(ナツキなんだけどどこかナツキじゃないみたいな)

男(もしかしてあいつ無理して演じてるんじゃないか…)

男(そんなことできるやつでもないか…)ブクブク


少年「あ! さっき卓球でけちょんけちょんにされてたお兄ちゃんだ」

男「……えっと?」

男(あぁ、さっき周りに何人かいたな…)

少年「オレ試合見てたよ!」

男(試合ってほどじゃないけど)

少年「あれ? もう一人の強くてカッコいいお兄ちゃんは?」

男「え? いや…あいつ女だけど…」

少年「うっそだー」



男「うそだーっていわれても本当に女だし…」

少年「じゃあおっぱいあるの? おっぱい!」

男「あるってば」

少年「きょうだい?」

男「……か、カップル。てかなんで言わなきゃいけないんだよ」

少年「すげー! カップルでホテル来てるんだ! 大人だ!」

男(なんだこのませた子供…無視するか)ブクブク

少年「でもあんまりしんじられないなぁ…」

少年「絶対男だって。あんなカッコいいもん」

男「…ッ! どう見てもあいつ女だろ!?」

少年「そう? お兄ちゃんよりかっこよかったよ。オレのお姉ちゃんもキャーキャー言ってたし」

男「ゔ……やっぱそう見える」

男(ナツキのほうがカッコいい……か。何度言われてもショックだ……)

少年「女の人ってことはいまごろ女湯のほうにいるのか! よーし会ってこよ!」

男「ぐっ、待て」ガシ

少年「なんだよ! オレまだ女湯入れる年なんだぞ」

男「いかせてたまるか…お兄さんと男同士のお話しようぜ」

少年「いてーよなにすんだよ! はなせよ」

男(まずい…俺はガキ相手になに嫉妬してんだ)


少年「ったくさー。おとなげねぇなぁ」

男「それより…あいつはやっぱり男っぽく見えるのか」

少年「うん! すげー卓球うまくてかっこよかったし」

男(それは同意)

少年「顔もすっげーイケメンだし」

男「イケメン? そうか? かなり間の抜けた顔…いや」

男(確かにスポーツに全力だしてるときのあいつはかっこ良く見えても仕方ないか)

男(昔からそうやって女子を落としてきた天然物のジゴロだからなあいつ…)


ナツキは昔からとにかく女子にモテた。
小学生の頃は運動なら何をしてもクラスで一番。

スポーツのできる子はもれなくモテる時期だ。
しかも見た目はボーイッシュで顔がすっきり整っていて、誰にでも笑顔で優しい。

その絶世の美少年っぷりに、陰では『王子様』なんて呼ばれたりしていた。
初恋をナツキに捧げた子は多かっただろう。

ナツキ宛の手紙を幼馴染に俺に渡すよう押し付けるやつもいた。
しかし本人ときたら見当もついていない様子で、どれだけアプローチを受けても首を傾げるだけだった。


男(ここ少しは最近女っぽくなったと思ったのになぁ…)

男(やっぱ他人の目からみたらまだまだ男っぽいのかなぁ)

男(あいつの場合見た目ってより、仕草とか雰囲気が問題かなぁ…)

 


ナツキを女らしくする。
俺のこの夏の一番の目標だ。
それに向かっていままで邁進してきた自負はある。
結果、恋人同士になれた。

男(まだ全然足りてないのか…)

男(いや…でもスカートは履くし、ビキニ着るようになったし…)

男(あのナツキからしたら十分な進歩なんじゃないのか?)

少年「お兄ちゃん? おーい……のぼせるよ」

男「……」ブツブツ

男「ナツキが…足りない…まだ足りないのか…?」ブツブツ

男「俺はあいつをどうしたいんだ…」ブツブツ

少年「なんか、ごめんなさい…きいちゃいけないことだったみたい」



  ・   ・   ・



【部屋】


幼馴染「お風呂きもちよかったねー」

男「そうだなー」

幼馴染「自販機に牛乳うってたらよかたのにー」

幼馴染「部屋帰ったらお水飲もーっと♪」

男「そうだなー」

幼馴染「……」


幼馴染「どうしたのー? なんかボーッとしてるよ。湯あたりしちゃった?」

男「いや…」ジロジロ

幼馴染「…?」


ホテルの浴衣姿のナツキは確かに風呂場で出会った少年の言うとおり、なんとも性別不明な出で立ちだ。
女にしてはそこそこ上背があるし、大人の女性らしい全体丸っこい体つきではない。
ブカブカの浴衣姿ではなおのことわかりづらい。
せいぜい見分けられるとしたら、かすかな胸の膨らみだろうか。
風呂あがりだというのに女特有の艶かしさや色香も見えない。

だけど俺は確かにこの子が女だということを知っている。
ナツキの女体を隅から隅まで知っている。


幼馴染「…ボクのどこみてるの」

男「…ベツニ」

幼馴染「…? あーあ、ヤラシーんだ」

男「ちがっ」

幼馴染「もーー、男の子ってそういうことしか考えてないんだ?」

男「違うって! 邪推するなよ」

幼馴染「じゃすいってなに? たまにわからない言葉つかうのやめてよ」

男「あとで自分で調べろ……おっともうすぐ花火はじまるな」

幼馴染「むーー。また誤魔化した」



【部屋】


幼馴染「花火まだかなー。せっかくだから部屋の電気消しておくね」

男「おう」

幼馴染「わーまっくらなっちゃった! カーテンあけて!」

男「おう」

幼馴染「やっぱり湯あたりしちゃったんじゃない?」

男「してないよ」

幼馴染「……なんか心配」

幼馴染「アッキー、おいで」

男「なんだよ」

幼馴染「来ないならボクのほうから行っちゃお」

ナツキはぴょんと飛び跳ねて俺のベッドにやってきた。
勢いでボヨンと膝から弾んでそのまま俺の背中にのしかかる。


男「いだっ」

幼馴染「ありゃっ、ごめんごめん」

男「…おとなしくしてろって。うるさくしたら怒られるぞ」

幼馴染「アッキーこそなんか怒ってる? あ、ボクに卓球負けたのまだ拗ねてるんだ」

男「……」



ぺたっ。

幼馴染「んー…熱はなさそうだね」

男「…湯あたりじゃないって本当に。むしろお前の体がほかほかで熱い」

幼馴染「あ! そうだ! くふふふ、ちょっと待ってね」

ナツキは良からぬことを思いついたのかパタパタと洗面台に向かう。
そして備え付けのアメニティを手にニヤけづらで戻ってきた。
再びにベッドに飛び乗り、正座して膝を叩く。

男「な、なんだよ」

幼馴染「おいで。耳掃除してあげよう」

男「え゙っ…お前が!?」

幼馴染「うん! 任せなって!」

サイドテーブルのスタンドライトをつけて室内が黄色で染まる。
俺は内心の不安感を拭えないままに、ナツキの柔らかいふとももに生乾きの頭を乗せた。


幼馴染「うひゃっ」

男「そんな声だすなよ」

幼馴染「わー…これは、なんかカップルっぽいね?」

男「……」

幼馴染「テンションあがる?」

男「あがらない。お前の耳かきなんてスライダー以上の恐怖しかない」

幼馴染「信用なさすぎ……耳かきじゃなくて綿棒だから痛くないよ」

男「じゃあ頼んだ…」



幼馴染「くーるくーる」

幼馴染「痛くない?」

綿棒がゴソゴソと耳のなかを暴れる。
浅いところをくすぐられているだけなので痛みはなかった。しかし特別上手というわけでもなかった。

きっと俺のことを気遣ってしてくれたんだろう。
ナツキの柔らかいふとももと、すこし甘えたような優しい声色にもやもやしていた心が落ち着いてくる。

いくら外見や振る舞いが男っぽいナツキにもこんな風に人知れず母性がある。

幼馴染「耳かわいいね。綺麗にしようね」

男「……」

幼馴染「照れてんだ?」

男「ちがいますー」

幼馴染「んもー素直じゃないんだから」ペシッ

幼馴染「それでさ、何悩んでるの? ボクのことでしょ?」

男「…よくわかるな」

幼馴染「それくらいわかるよ。何年の付き合いだと思うの」

幼馴染「アッキーがボクのことじーってみて、目をそらすときはだいたいそうなんだよ」

男「あれだけでわかったのか」

幼馴染「ボクだって、キミのことよく観察してるんだからね」

男「…」

幼馴染「言いなさい。くーるくーる」

幼馴染「今日はお疲れだねー…一日でいろんなことしたもんねー…くーるくーる」

幼馴染「綿棒とりかえるね…くーるくーる」


男「あのなナツキ」

幼馴染「うん」

男「俺は…お前にいままで無理させてたのかなって…思って」

幼馴染「……ん?」

男「女らしくしろとか、かわいいらしい見た目とかにこだわってさ」

男「スカート履かせてみたり、ビキニ買わせたり…」

男「そんなの全部俺が勝手に押し付けてるだけじゃん」

男「って思えてさ…」

男「いままでお前の気持ちとか全然考えずに、俺のわがままを通してきたから、後悔してるんだ」

男「今だってこんな風に優しくしてくれてるけど、それほんとにナツキなのかなって不安なんだ」

男「俺の押し付けた願望にお前を無理に従わせてるだけなんじゃないか…?」

幼馴染「アッキー…」

男「卓球してるナツキを見てたらすごくいきいきしててさ。このナツキが俺のせいで少しづつ変わっていって」

男「ただの普通の女の子になっちゃうのかなって」

男「それを思うと怖くなったんだ。俺…お前に変わってほしくない」

幼馴染「……え」

男「スカートなんて履かなくってもいい。俺が間違ってた。お前が好きなようにしたらいいんだ」

男「だってお前は…女の子らしく振る舞わなくても、俺の中では世界一可愛いナツキだから」

幼馴染「……」


黙って聞いていたナツキは手をとめてゆっくり綿棒をひきぬいた。
ほぅっとため息が聞こえて、少しの間の沈黙。

ナツキの表情は想像に難くない。
今は横を向いているので目を合わさなくていいのが救いだった。


幼馴染「…」

男「ナツ――――」

幼馴染「ふぅーーーっ」

男「うわっ、なんだ!」

幼馴染「ふーーーっ♪ ふ~~~っ♥」

男「や、やめろっ、くすぐったい」

いきなり生暖かい吐息を耳の穴に向かって浴びせてきた。
頭の上ではくすくすと笑い声が漏れている。


男「な、ナツキ…?」


幼馴染「変わらないよ。ボクはボクだもん」

幼馴染「それにね。いまこうしてるのだって普通だよ」

幼馴染「スカートだって、ビキニだって全然大変じゃないよ。ちょっとは恥ずかしいケドサ」

幼馴染「でも…大好きな人のためにがんばっちゃうのはあたりまえだもん」

幼馴染「アッキーだってそうじゃん」

男「俺が…?」

幼馴染「ボクのほうこそ、無理させちゃってごめんね」

男「え…? なんで、俺なんて何も」

幼馴染「ボクが女の子だからって、がんばってエスコートしようとしたり、雰囲気づくりがんばったりとか…」

幼馴染「こんな大人っぽい場所につれてきてくれたりさ」

幼馴染「あんまりキミらしくないなって思ったんだ」

幼馴染「最近はほら、ボクがごろ寝しててもあんまりお尻蹴っ飛ばしたりしないしさ」

幼馴染「甘いっていうか、優しすぎるかなって思ってたんだ…そんな優しさにボク甘え過ぎちゃったかな」

男(ナツキ…)

ナツキは優しく髪の毛をなでてくれた。
こんなこと、母親にしかされたことがない。


幼馴染「キミはいつもぶっきらぼうで厳しいけど、でもちゃんとボクのこと気にかけてくれて、時々優しい」

幼馴染「それだけで十分なんだ」




男「俺無理してたのか…?」

自分がそんなことになっていたなんて気づきもしなかった。
ナツキが少しでも喜べばと思い行動していただけだ。

幼馴染「ボクのためにいろんな事をしてくれるのが、すごく特別に感じられて嬉しかったよ」

幼馴染「ボクね、今も昔もキミと一緒にいられてすごく幸せなんだ」

幼馴染「ずっと変わらないよ……歳をとって見た目や好きなものはちょっとずつかわっていっても」

幼馴染「ボクたちはきっと変わらないよ」

幼馴染「そうでしょ? 2人はいままで家族同然で親友で幼馴染で…バッテリーで」

幼馴染「いまさら恋人っていうのが1つ増えてもかわらないよ」

幼馴染「だから心配しないで」

ナツキはそっと俺の頬に触れる。
そしてゆっくりとキスを1つ落としてきた。


幼馴染「ちゅ。こんな風に出来ちゃうのも、キミだけだから♥」

男「そっか…よかった」

男(こいつも考えていることは俺と同じだったんだ…)

男(そうだ。ナツキはどうあってもナツキだ)

男(いつまでも俺の大好きなナツキなんだ)

男(元気なナツキも、かっこいいナツキも、だらしないナツキも…ちょっとエッチなナツキも…俺は全部好きだ)

幼馴染「反対側も掃除しよっか。くるってして」

男「その前にナツキ」

幼馴染「ん? んぅ~!?!」

 

体を起こしてナツキの唇を塞いだ。
突然のことに彼女は驚いて恥ずかしそうに手足をバタつかせる。それでも俺は離さなかった。
そしてようやく観念したのか、俺の背に手を回してぎゅっと抱きしめた。

男(間違っていた。ナツキはこんなにも優しい女の子だ)

男(女の子らしい格好しなくても、ナツキは可愛い)

男(周りになんて思われようと、俺だけがそのことを知っていれば、それでいいんだ)



幼馴染「ぷはっ、はっ、はぁ…」

幼馴染「び、びっくりした。急にチューするんだもん」

男「お前が先にしたじゃん」

幼馴染「あれは…なぐさめっていうか。よしよしの延長?」

男「じゃもう一回ここによしよしして」

幼馴染「むぅ……ちゅ」

ナツキの顔が迫り、再び重なる。
今度は俺は少しだけ舌を突き出して、ナツキの唇をなぞった。

幼馴染「んっ、んぅ…んひゅっ!?」

幼馴染「なっ! なんでペロってしたの!」

男「ナツキのくちびる美味しいかなって思って」

幼馴染「…っ!」フルフル



幼馴染「そ、そんなの変だよ」

男「しらないのか? 大人のキスしてみたいんだけど」

幼馴染「え…」

男「洋画とかでよくしてるやつ。わかる? ディープキス」

幼馴染「んっと……し、してみたい…」

幼馴染「…ん、ちゅ…んっ、ちゅむ」

幼馴染「んんぅ♥ ちゅ、ちゅる、じゅる…れろ」

幼馴染「はっぷ、んぷ…ちゅ、ん、ちゅぅ♥」

幼馴染「うぇぉ、れろ…はぁむ、ちゅ♥ ちゅるるっ♥」

男(ナツキ…おいしい)

幼馴染「んぅ♥ んぅ♥ ちゅ、ちゅ」

ナツキの舌が何度も俺を求めて絡みついてきて、お互いの唾液と匂いがまじり合う。
お互いの想いをわかちあった上でのキスはありえないほどの興奮だった。

俺達は夢中で何分もキスを続けた。
気づけば窓の外からは炸裂音が鳴り響き、夜空で光の花が明滅していた。

 


幼馴染「ぷは……はぁ、ハァ…」

幼馴染「こんなのエッチだよ…♥」

幼馴染「長くしすぎだよ…花火はじまっちゃったじゃんかぁ」

男「今度はちゃんと見れそうだな」

幼馴染「…うん! 耳掃除のつづきはあとでね!」

男「いいよーもう乾いちゃってるし」

幼馴染「やだ。ボクがしたいの! くふふふ。アッキーの横顔好きなんだもん」


その後二人でベッドに並んで腰掛けて、あの日見られなかった花火を思う存分満喫した。
合間に何度も濃厚なキスを繰り返した。

盛大な打ち上げが終わり、周囲が静寂を取り戻した頃には、
俺はナツキの浴衣を自然とはだけさせて、上から覆いかぶさって肌を重ねていた。


幼馴染「…元気だね♥」

男「ナツキが可愛いから我慢できない。おかしいか?」

幼馴染「ボクも…ずっとくっついてたいな。我慢したくない」

男「ナツキってやっぱりスケベだな」

幼馴染「だってぇ♥ 好きな人一緒にいられて、なんでもできるのにしないなんて、そんなの嘘っぱちだよ?」

男「かもな」

幼馴染「いいよ……きて♥」

幼馴染「ボクのこと…好きにできるのは、キミだけだから♥」




第七話<旅行>つづく



 

更新終わり
次回月曜日
七話はあと1回でおわります長くなってスマソ

ながらく留守にしてスマソ
いろいろあって更新停滞してしまいました

ひさびさに来たらこの板R-18が禁止になっててびっくりで、
ここでは書けないようなので一旦引き籠もります→http://ookuraokura.wix.com/bokukko-kingdom
勇者SSなど過去の制作物ちょこっとだけ置いてます

スレッドムーバーってこういう仕様だったの
スレが他の人に見えているのかよくわからない…

そうですかありがとう
金曜目標に書き溜めます
次回 第七話<旅行>つづき 金曜日

第七話<旅行>つづき



幼馴染「ん…ふっ、あ♥」

幼馴染「うあぁっ、んぅ…」

ナツキの細い手首を掴んでベッドに押し倒した俺は、彼女の首筋や胸元を舌でくすぐっていた。
ナツキは生暖かい吐息を漏らしながら敏感な反応を見せる。

特に乳首は感度がよくて大好きなようだ。
つんと舌先を当てるだけで、背筋が跳ねる。


幼馴染「舐めちゃ……やっ」

幼馴染「ぉ、おいしくないでしょっ」

男「おいしい」

幼馴染「うそだよ…ボク…」

男「挿れて欲しいのか?」

幼馴染「……ぅ」

まくらにすっぽり後頭部を埋めたナツキは、はにかんだ表情で小さく首を縦にふった。

男「やらしいやつ」

幼馴染「あっ、アッキーのせいだもん。じらすのやだよ」

男「じゃあ…そろそろ」

幼馴染「あっ! まってまって…あれ、アレつけなきゃ」



アレと言われても思い浮かべるのはもちろん、俺とナツキを隔てる憎たらしいゴムの膜。
つけたくはないけどつけないといけない。

それがナツキとの約束であり、男としての義務だ。

俺は逡巡した後、未練がましくナツキを抱きしめる手を解いて身を起こした。


男「そうだな。ちょっと待ってな」

幼馴染「待つよ」

男「えっと…たしかここに」

夜の室内にはベッドサイドのデスクランプしか灯っていない。
薄暗い中で手探りでカバンの中からコンドームを探す。

待っててと言ったのにナツキはぴょこんと飛び起きて、ベッドの上に正座して俺の手元を興味深そうに見つめていた。

幼馴染「ちゃんとしなきゃだめだからね」

男「わかってるって…信用ないなぁ…」

幼馴染「あった? 持ってきてるんでしょ?」

男「あるよ」

もし俺の凡ミスでカバンに入ってなければこのまま無しで出来たのだろうか。
チラっと振り返るとナツキの目つきは疑り深さを増していた。

幼馴染「……」



男(避妊は大事だよなー)


よくやく探しあてた箱から1包を取り出して、振り向きざまにナツキの手にぺとりと置く。

幼馴染「?」

男「つけて」

幼馴染「えっ、ボクが?」

男「今日はナツキにつけてほしいな」

幼馴染「ぃ、いいよ!! ボクがつける!」


ナツキは意気揚々とコンドームの小袋の端っこを歯で噛んで、ぴりりと破った。
こいつは昔からのそういった噛み癖がいまだ抜けないでいる。
口唇欲求の強さも人並み以上だ。

男「手で開けろ!」

幼馴染「はぁい」


幼馴染「わっ、こんな風になってるんだ」

幼馴染「…なんか薄くてよわっちそうだね。すぐ破けそう…」

男「丈夫だぞそれ。現代の技術はすごいんだからな」

男「付けられるか? ナツキにはむずかしいかなー」

幼馴染「わっ、わかるもん! 中学の保健で一応みんなと習ったんだよ!」

男「へぇ。じゃあやってみ」

幼馴染「あれ…でもボク寝てたような…あれぇ思い出せないや。ボクさー体育の授業だとおもって準備万全だったのにその日保健だったりしたらすごくテンションさがって」

男「うるさい、脱線しなくていいから」

幼馴染「う、うん…」

ナツキはゴムの外周部をおそるおそる両手でつまんで俺のペニスに向かい合った。
目の前にそそりたつ肉棒をどうおもったのか、一瞬だけ顔がひきつっていた。

幼馴染「なんかさー……怖いくらいおっきい…よね」

男「はやく」

幼馴染「わかってるよぉ! えっと、これを…えっと、上に乗っけて?」

男「それ裏」

幼馴染「えっ、裏!? こっち? おや? わかんなくなっちゃった」

男「さーどっちだろうなぁ」

幼馴染「もーいじわるしないでよぉ」


男「ぷくって膨らんでるほうが上になるように」

幼馴染「あーこれね。ぷにぷにのね」

男「爪ひっかけたりするなよ? それが破れたら意味ないんだからな」

幼馴染「うんうん。知ってるよぉ前見たんだから」

幼馴染「ここの膨らみに出した精子溜まるってことでしょ?」

ふいにナツキの口から出た"精子"という言葉に反射的にペニスがぴくんと跳ねた。
ナツキと顔を見合わせる。
ナツキは不思議そうなまんまるな目をしていたが、すぐさまイタズラっぽい笑みに変わった。

幼馴染「くふふ。男の子って素直だよね」

幼馴染「つけるから動かしちゃだめだよ?」

男「よろしくお願いします……」





幼馴染「んしょ」

ナツキは慣れない手つきでコンドームをペニスに沿っておろしていく。
これからまたセックスをするのだという期待感が膨らんでいく。
もちろん血がさらに集まる。

幼馴染「……アッキー。妨害しないで」

男「生理現象は許せよ」

幼馴染「おっきくしすぎたら破れちゃうよ」

男「ゴムはそんな粗悪品じゃないから」

幼馴染「よし! できた!? ど?」

幼馴染「あはは! 透けてるよ。おおー。なんかおもしろい見た目になっちゃった」

幼馴染「苦しそうだけど痛くないの?」

男「ピッタリ。あとちゃんと根本まで」

幼馴染「おっけー。くるくるー…くふふふ、なんでぴくぴくしてるのー?」

男(お前の息あたってるんだよ…)


幼馴染「はぁい、つけましたー」

男「サンキュ」

幼馴染「そ、それじゃあ…? えっと…そろそろ…」

男「お、おう…。ナツキ、仰向けな…」

幼馴染「ぅ、うん…」

ナツキはシーツをだきしめたまま、なかなか寝転がろうとしない。
どこか動きがギクシャクしている。

男「どうした」

幼馴染「あ…えっと…」

幼馴染「な、なんかはずかしー♥」

幼馴染「あはは…」

男「悪い…ムード悪くしちゃったな。サッと付ければよかった」

幼馴染「うぅ…ごめん。ボクが手間取ったせい…かも」

男「そうじゃない」

先程までの情熱的なくちづけを交わしていたムードはすっかり姿をくらませて、
ナツキはいつものナツキに戻りかけていた。
もし俺が経験豊かなら、きっと流れるように行為に及んでいたのだろう。




男「ナツキ、ちょっとだけ抱きしめていい?」

幼馴染「うん。ボクも抱っこしてほしー♥」

男「おいで」

ナツキは思った以上に全力で抱きついてきた。
もちもちとした肌がぺったりと張り付く。
控えめな胸はつぶれて形を変えて、彼女の心臓の鼓動がダイレクトに伝わってくる。


幼馴染「ボク…こうするの好き」

幼馴染「アッキーどきどきしてるね。とくとくとくって…」

幼馴染「ボクも一緒かな…?」

男「あぁ…ナツキすごく心臓早い」

幼馴染「うん…♥ だって裸んぼでぎゅってされちゃってるもん。いまからエッチするんだよ?」

幼馴染「あそこ…固いね。あたってるよ」

ナツキは優しい声でぼそぼそと囁く。
吐息がからむような距離でお互いみつめあっていると、いよいよ理性がはじけ飛びそうだった。


幼馴染「入れよっか…なかに入れてほしいな」

幼馴染「したいよね…♥」

男「うん」

最後に唇をどちらからともなく重ねて、俺はナツキの細い肩を押した。
手応え無くぱたりと背中からたおれて、髪の毛がゆれて、ちいさな胸がふるんと跳ねた。

幼馴染「んっ♥」



幼馴染「電気…消さないの?」

男「ランプ届かない。いいだろ…? もうナツキ以外さわりたくない」

幼馴染「うん…。顔…見ながらしたいもんね」

男「だな。ナツキのエロい顔がみたい」

幼馴染「…えへへ、見られちゃうなぁ」

幼馴染「はむ…ちゅっ、ちゅる…♥」

再び深くて甘い口づけ。
この先の俺達に言葉のキャッチボールはいらない。
体を委ねてくれたナツキの脚を遠慮なく開いて、すっかり濡れた恥部を露出させる。

俺は本能のままに、自らをそこにあてがってゆっくりと腰を押し進めた。
ぷちゅっと粘っこい水気が弾ける音がして、ナツキの膣はペニスを飲み込んでいく。




幼馴染「あっ、はぁっ♥ うぅぁぁ♥」

幼馴染「きた…ボクのナカ…ッ」

まだきつい抵抗感のあるナツキのぐちゅぐちゅのひだを、強くこじあけながら最奥部まで到達する。

幼馴染「ふぁぁっ♥ あっ、はぁっ♥」

男(とろけそうだ…)

ナツキの中すごく狭くてきついのに不思議と柔らかい。
そしてなにより暖かくて気持ちがいい。


あのナツキを犯しているという背徳感と征服感。
考えられないような、熱を帯びたとろけきった表情。
ときどき漏れる甘くて色っぽい嬌声。
日頃の天真爛漫な彼女とのギャップがさらに俺を興奮させた。

幼馴染「やっ♥ あっ♥」

幼馴染「んぅ…っ、ふ、あ♥」

ナツキを味わうために腰は自然とうごきはじめ、俺達の長い一夜がようやくスタートした。



第七話<旅行>つづく

更新終わり
本当に久しぶりで申し訳ない…まだ続きます
次回明後日夜

書き溜めおわらなかったのでまた明日…
馴染のほうは予定ないです色々スマソ

第七話<旅行>つづき





 ぱちゅっぱちゅっぱちゅっ♥
  ぱちゅっぱちゅっぱちゅっ♥


幼馴染「ん…あっ…わぁ♥」

幼馴染「んんっ、んんぅ♥」

幼馴染「なんれっ、そこばっかり♥」

幼馴染「ボク…そこっ、あああっ♥」


もうかれこれ10分くらい経っただろうか。
腰を突き入れる動きとともにベッドのスプリングが軋み、ナツキの甘い声が漏れる。


男「ナツキここ好きか?」

幼馴染「すきっ♥ アッキーのおちんちっ…ああっ、ふぁぁあ」


俺達はお互いの性感を確かめ合いながらセックスに耽っている。
ナツキは俺をしっかり膣奥まで迎え入れるために目一杯はしたなく股をひろげて誘ってくる。
俺もナツキの足をしっかりとつかまえて、お望み通りナカの奥までとどくように激しく突いた。




そんなことを繰り返すうちに、すっかりナツキは発情しきって、
出し入れがくりかえされる膣口からは、やや白っぽい粘液がでろでろに溢れて俺のペニスにまとわりつく。


もっと近くで声を聞こうと顔をちかづけると、ふいに頭をだきしめられて、唇にちゅうちゅうと吸い付いてきて、容赦なく舌まで割り込ませてくる。
ナツキのぷにぷにしたベロが俺の口内で暴れる。


幼馴染「んむっ、んっ、ちゅ…ちゅるっ、ちゅむ、ちゅぷ♥」

幼馴染「んんぅ♥ えへへ…あっ、あっ♥ はぁっ」

男「チューとここ突かれるの、どっちが好き?」

 ぱちゅっぱちゅっぱちゅっ♥
  ぱちゅっぱちゅっぱちゅっ♥


幼馴染「ふうああっ、どっちもすきっ♥」

幼馴染「どっちもいいのっ、だからりょうほう、両方…んんむぅ♥」

幼馴染「ちゅるぅ、ぢゅるっ、るるっ…んむ♥」


好きな子が自分との行為でこんなに淫れてこんなに甘えてくれる。
この上ない至福の時間だった。

この時間がなるべく長くつづくように、俺は自分をコントロールしながら可愛い彼女を味わった。




男(それにしても…)

幼馴染「んんっ、んんっ♥ ああんっ、あっ♥」

男(なんでこんなに可愛い声だせるんだ)


セックスを通して俺はどんどんナツキにのめり込んでいく。
体の気持ちよさだけではない。
普段は見ることのできないナツキの一面が垣間見れることが楽しくてしかたなかった。

紅潮したほっぺた、へにゃっと垂れ下がった眉と目元。
興奮と快感に喜びを隠せないでいる少し口角のあがった唇、そこから漏れる甲高い喘ぎ声。

男(もっと聞きたい)

男(もっとナツキがほしい…)


 ぱちゅっぱちゅっぱちゅっ♥
  ぱちゅっぱちゅっぱちゅっ♥

幼馴染「やぁああ♥ あんっ、あ゙っ、あ゙っ♥」 

男(ナツキ…ッ!)




理性ではセックスを長く楽しみたいはずなのに、欲求に従って自然と腰の動きが速くなってくる。
ナツキのせいで俺は獣になってしまう。

こんなにナツキが好きなのに、女体を貪る肉欲が脳と体を支配しつつあるのが悔しい。

そんな俺の男としての苦悩など知る由もない彼女は、情けなくよだれをたらして与えられる官能に浸っていた。


幼馴染「あ゙~~♥ あっ、あっ♥」

幼馴染「あああう、あんっ♥ あぎゅっ、うあ゙っあっ♥」

男(なんだよその顔…エロすぎるだろ)

男「……ぷ」

幼馴染「ああっ、ああう! きゃんっ、そこぉ♥」


俺はナツキの顔が好きだ。
昔は動物のような愛嬌しか感じていなかったけど、いまは女の子としての色っぽさを感じている。

よくよく見ればとても整っていて、驚くほどきめ細かい綺麗な肌をしている。
美白して髪の毛をのばせばきっとTVタレントやアイドルにでもなれるだろう。

だけど俺はいまのありのままの健康的なナツキが好きだ。
ずっとナツキはナツキのままでいて欲しいと思っている。どこにも行ってほしくない。








今度はこちらから呼吸を奪って、唾液をからませながら、ぐりぐりと腰をおしつけた。
性器と性器がぐちゅぐちゅにまざりあい、2人の体がとけあって一つになるような感覚。
ナツキも感じ取ってくれているだろうか。

幼馴染「んんっ!?♥ んうっ♥」

幼馴染「んぐーーっ、んっ、ちゅる…、れろ♥ ぷえ…」

息苦しさと快感でめちゃくちゃになったナツキはついに目元に涙を浮かべ始めた。
俺はそのしょっぱい水も全部舐めとった。

男「ナツキ…ナツキ」

幼馴染「アッキぃ…♥ うん……♥」

そして手をにぎりあってラストスパートに向けて加速する。


 ぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅ♥
  ぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅ♥


幼馴染「ああああああっ♥」

幼馴染「あああっ、ああああっ♥ あおっ、お゙っ♥」

ナツキの柔らかい膣ひだをガリガリとこすって、膣奥を容赦なく突く。
顔にかかるナツキの吐息が熱い。
甘い声が脳を犯してくる。
ぎゅんぎゅんと締まる膣内があまりに気持ち良すぎて、そこで俺の理性は消失した。




幼馴染「い゙っ♥ あ゙っ、ああっ♥」

幼馴染「ああっ、あっき、あああっ♥」

男「ナツキっ…」

 ぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅ♥
  ぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅ♥

幼馴染「いぐっ、いぐ! ああっ、そこっ♥ してぇ、してっ♥」

幼馴染「イグっ、イっちゃああっ、ああっああっ♥」

幼馴染「だめ…っ! あ゙あっ」

男「ナツキ…俺も」

 ぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅ♥
  ぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅ♥

幼馴染「♥」コクコク




幼馴染「ひゃ…あっ、きちゃう…あああっ♥」

 ぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅ♥
  ぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅ♥

幼馴染「好…ひっ♥」

幼馴染「うううっ!?」

 ずちゅん♥

幼馴染「ぁぁぁ~~~~~~~~~っ!?!♥♥♥」



ぎゅんぎゅんとナツキの中が激しく痙攣して俺を絞りとった。
射精しながらも極上の快楽をもとめて腰の動きがとまらず、さらにナツキを責め立てて、
やがてナツキのろれつがまわらなくなるまで犯した。






幼馴染「ハァー♥ はぁーはっ♥」

幼馴染「はぁ…はぁーハっ♥」

幼馴染「はぁ…はぁ~、はっ♥ ボク……ひっく、ん…」

幼馴染「ああっ、あ゙っ…♥ まだ…びくびくとまんにゃ…あっ、まっへ」

幼馴染「ボク…すごいの…イッちゃったよ…」

幼馴染「あし、がくがくして…はっ、ハァッ♥ はっハッ、はぁ♥」

幼馴染「こしもひゅんひゅんしたのとまらなくて…♥」


男「気持ちよかった?」

幼馴染「…♥」コクン

幼馴染「頭へんになって死んだかとおもった…イってるのにアッキーやめてくれないし…」

男「おおげさだろ。抜いていい?」

幼馴染「あひゅっ、だめっ」

幼馴染「ボク…まだもうちょっとこうしてたいの」

男「そっか」


幼馴染「えへへへへ…アッキーもびゅーってしたのかな」

男「よかったよナツキの中。今日三回目?なのにめちゃくちゃ出た、気がする」

幼馴染「そっかぁ♥ やぁん抜いちゃだめー」

男「そう……ナツキ、俺ちょっと疲れた…」

幼馴染「えー…。もー」

幼馴染「体力考えずにあんなに激しくするから♥」

男「ごめん…寝ていい…もう今日は…いろいろありすぎて…」

幼馴染「しかたないね…お疲れ様。ちゅ」

男「ほんとはもっともっとしてあげたかったんだけど…」

幼馴染「いいんだよ」

男「眠気が………――」

幼馴染「おやすみアッキー…また、しようね」ナデナデ

幼馴染「アッキーのこと大好きだから…ボクはいつでも、いいよ♥」

幼馴染「あっでもお姉ちゃんが家にいるときはダメだよ? くふふ…ふたりっきりのときにね♪」

幼馴染「…ってまじで寝てるじゃん! くふふ…」

幼馴染「なかに入れたまま寝ちゃうなんて。んぐ…重い、重いよぉ。せめて横向きになってよぉ…」

幼馴染「…♥」ギュ



  ・   ・    ・






翌朝。
めざめたら裸でナツキが隣で安らかに吐息をたてていた…らどれだけ良かっただろう。
悲しくも俺がめざめたのはベッドと壁の隙間だった。

男(……?)

天井が遠い。やけに背中と腰が痛い。
頬がひんやりとした壁紙に押し潰されるように張り付いている。

男「くそ……こいつとベッドインなんて二度とごめんだ」

なんとか手足をばたつかせて狭い隙間から自力で這い出すと、
俺を蹴り飛ばしたであろう犯人は一糸まとわぬ姿で爆睡していた。


男「……」

男(天使だ……。とでも思うと思ったか!)

男「おーい」ツンツン

幼馴染「すー…すー…zzz」

男「おっぱいみえてんぞ。乳首」

幼馴染「……zzz」

男「おきないと揉むぞ…」

幼馴染「……ぐみっ…zzz」

男(グミ?)

男「くっそー…自分だけきっちり枕で寝やがって…寝相がわるいならお前が勝手に落っこちろよ」


男「ていうか…いま何時だろ」

男「げっ…9時!? うわっ、朝食バイキング!」

男「ナツキ、おい!」

幼馴染「んー…」

男「おきろって! お前何時間寝てる気だよ」

幼馴染「ふぁぅ……」

幼馴染「ふぁーー……朝ぁ…? んーーー」

男「起きたか」

幼馴染「うむーーぅ。わっ…あっ! わああああ!!」

男「うるせっ! なんだよ」

幼馴染「は、裸じゃん! ぎゃあああああ」ベシベシベシベシ

男「あっ、当たり前だろ…昨日…その、したんだから」

幼馴染「まぁ!」

男「まぁっじゃねぇよ! はやく着替えろ。飯行くぞ。おわっちゃうよ」

幼馴染「はぁい…。なんですっぽんぽんで寝たんだろ」



男「はい服と下着」

幼馴染「……どうも!」

幼馴染「……えへへ。思い出せばめちゃくちゃ激しかったねぇ♥」

男「…っ。思い出さなくていいぞ」

男(たぶんお前は寝てるときのほうが激しかったんじゃないか?)

じんじんと痛む後頭部をさするとうっすらとコブができていた。

男(蹴落とされて起きない俺も相当だな…どんだけ疲れてたんだ…)

そういえば、つけたままのコンドームはどうなったのだろう。
しっかりと処理をせずに寝落ちしてしまったことがいまになって悔やまれる。


男(どこいった……まさか中で外れて……)キョロキョロ

幼馴染「…?」

幼馴染「どしたの」

男「い、いや…なんでもない…」キョロキョロ

幼馴染「ん? あっ、もしかしてアレ探してる?」

男「アレ探してます」

男「ごめん…あの後どうなった。俺すぐ寝ちゃったから…」



幼馴染「コンドームならゴミ箱捨てておいたよ」

男「まじ?」

慌てて確認するとたしかに見覚えのあるものがゴミ箱の底に収まっていた。

男「ナツキちゃん。直はやめよう。せめてティッシュにくるむとか。清掃の人すっげぇ嫌だろ」

幼馴染「あそっか」

男「あれ…よくみりゃ中身が詰まってない…」

男「ナツキ…俺の出したはずの白いのは…?」

幼馴染「…くふふ。さぁねー」

男「さぁねじゃねぇよ!」ガシッ

幼馴染「うぎゅぅっ」

男「おいまじでどうなったんだよ! 言えよ!言え!」ユサユサ

幼馴染「ううううう!?」カックンカックン

男「ぉ、お前の体に関わることなんだぞっ!」

幼馴染「ぇ…えっとねぇ…あのね…」

男(なんだこの言いづらそって雰囲気…まさか…まさかあのまま外れちゃって…!?)

幼馴染「こ・こ・だ・よ♪」ポンポン


ナツキは舌をペロリとだして笑顔で自身のお腹を叩いた。
一瞬でサーっと血の気が引いていく。
『避妊失敗』の四文字が頭のなかでぐるぐると渦を巻いて俺を責め立てた。


 


男「あぁぁぁやっちゃったぁあぁあぁぁ」

幼馴染「…?」

男「あっぁぁあぁ!! 俺としたことがああ」

男「ナツキやばい日じゃないよな!? なぁ!?」

幼馴染「やばい? エッチやばすぎたよねぇ♥ 思い出したら超はずかしっ…」

男「あぁぁぁぁああ!!!」

幼馴染「アッキーも恥ずかしいんだね。わかるよぉ。恥ずかしい事おもいだすと、あぁぁあってなるよね」

男「あぁぁぁああ!!! 中でぇぇ…中で…」

幼馴染「お腹ぺこぺこだなー。ご飯いこっか」

男「あぁぁっぁあナツキごめんほんとごめん俺すぐ働いてでも責任とるからぁ」

幼馴染「なんの?」

男「神さま…」

幼馴染(それにしても、変な味だったなー…精子って)

幼馴染(アレがボクの中に出たら赤ちゃんできちゃうのかぁ…不思議)




  ・   ・   ・


  


朝食を終え、慌ただしくチェックアウトの時間となった。
フロントで精算していると、ホテルのスタッフから一枚の封筒を手渡された。

係員「昨日のオルカショーのお写真ができていますのでサービスでございます」

係員「お客様でお間違えございませんか?」

男「あっ。これ」

幼馴染「わーっ。ボクだ」

中からは一枚の大判の写真が出てきた。
オルカショーに協力したお礼と記念にもらえるらしい。
それはナツキが笑顔でオルカと戯れるベストショットだった。

男「いいんですか?ありがとうございました」

幼馴染「ありがとうございましたー! わー、いい写真。オルカやっぱ可愛いね」

係員「またのご利用を心よりお待ちしております」


 





幼馴染「写真! ボクに頂戴!」ぴょんっ

男「俺がもらったんだ」

幼馴染「えーボクとオルカの写真じゃん?」

男「だから俺がもらっとくの」

幼馴染「うー…? まぁそういうことならいっか」

幼馴染「でもボクも見れる場所に飾っておいてね」

男「おう。居間に写真立てでもおくか」

幼馴染「じゃあさじゃあさ、ふたり一緒に写ってる写真もほしいな」

男「帰りにパークの前で記念写真とろう」

幼馴染「あとおみやげも買わなきゃね!」

男「わかったわかった」

幼馴染「あとね、あとね!」

男「まだあるのかよ」

幼馴染「ちょっとおみやげ屋来て!」

男「おいひっぱるな」




【土産屋】



幼馴染「これ買う!」

男「でかっ……!」

幼馴染「これオルカの抱きまくら!」

男「見りゃわかるけど…配送料高いしやめといたほうが…」

幼馴染「ボクが背負って帰るから! 買うね」

男「お前が買うならいいけどね…あっそう背負うのね」

男「じゃあナツキそれ抱いて寝るんだ?」

幼馴染「うん♪」

男(シャチに食われる恐ろしい夢見そうだな……)

幼馴染「家でひとりで寝るときは、この子をアッキーのかわりにね♪」

男「!!」ドキ

男「……あれ」

男(いやお前俺抱いて寝てねーじゃんそもそも……)

男(このコブの礼はさせてもらうからな)




店員「ありがとうございました」

幼馴染「ひゃあ背中暑い! この子冷たくないねー」

男「もこもこだからな…。じゃあ必要なもん買ったしそろそろ帰るかー」

幼馴染「海! 海見て帰る!」

男「そうだったな」


そして手をつないでラブラブとナツキと浜辺を歩いた。
白砂の敷き詰められた海岸線にはゴミひとつ落ちていない。
白と青のコントラストが陽光に照らしだされてキラキラ幻想的だった。


男「昨日の花火綺麗だったな」

幼馴染「あんまりおぼえてない…」

男「え…」

幼馴染「だって、チューばっかりしてたもん♥」

男「…」

周りにすこしだけ人目はあったが俺達は歩みを止めて向かい合う。

幼馴染「えへへ…」

ナツキのはにかんだ顔が降り注ぐ太陽よりまぶしく思えるのは、足元の白砂で光が反射しているからだろうか。
そのままゆっくり抱き寄せて、深い口付けをして思い出を更に一つ増やすことにした。


幼馴染「ん……♥ ちう」


幼馴染「…見られてたかも」

男「いいじゃん。どうせここに来るのはこんなのばっかりだよ」

幼馴染「そうだね…また来られるようにずっと恋人同士でいようね」

男「おう…約束するよ」

幼馴染「きゅうきゅう。きゅうきゅう」

男「なにそれ」

幼馴染「背中のオルカの声」

男「なんて言ったんだ」

幼馴染「…暑い……海入りたい」ダラー

男「お前のことじゃねぇか! ……じゃあちょっとだけ。膝までな」

幼馴染「わーーい! いっくぞー」グイッ

男「あっ俺はいい! 靴だから! 靴ぬれるからやめろ~!」




第七話<旅行>おわり



 

更新終わり
次回第八話 明日か明後日

 


第八話<ヤキモチ>


幼馴染「今日も暑いねー!」

男「あぁ」

幼馴染「やー暑い暑い! 夏休みももうすぐおわりだってのにさぁ」

男「……今年は9月も暑いそうだぞ」

幼馴染「はやく過ごしやすい季節にならないかなぁ。あつー」

男(暑いならくっついてこなけりゃいいのに)


幼馴染「ねー午後まで退屈~」

男「午後からは何かあるのか?」

幼馴染「うん! また練習試合で助っ人するんだぁボク!」

男「あ、そうなの。じゃあちょうどいいやその間買い物行っとこ」

幼馴染「え~~?」

男「え~~って?」


幼馴染「見に来てくれないの?」

男(うわっ、めんどくせぇ…)

前回応援に行った時は干物になるかと思うほどのカンカン照りだった。
今日も雲ひとつない晴天だ。
それにたかが練習試合をじっと一人で見守るのは時間を持て余す。


幼馴染「カ ノ ジョ だよボク? 応援きてくれないの?」

男「応援しなくてもお前どうせ大活躍するじゃん」

幼馴染「ひどいよぉ…ボクは毎日アッキーにパワーをもらってるのに。ずごごご」

男「何これ…俺のパワー吸ってんの?」

幼馴染「イエス」

男「暑いからもう離れろよ」

幼馴染「やだぁ」スリスリ

男(最近べたべたしすぎだよなぁ)


ナツキは暇があれば俺にべったりくっついてくる。
いまも抱きつかれた背筋からじっとりと汗が湧きだしてくるのがわかるほど暑い。

決して嫌なわけではないし、むしろ甘えてもらうのは嬉しい。
しかしあまり節操がなくなると、出先でもついやってしまうのではないかと危惧していた。
とくに新学期からが不安だ。


幼馴染「~♪゙ ~♪♪゙ ふふんふん♪」

男「耳元で歌うのまじでやめてくれない?」

幼馴染「カラオケいくー? 混んでるかなー」


幼馴染「どこ行っても人でいっぱいでやんなっちゃうよね」

男「だなー」

幼馴染「あっ、そうだ♥」

幼馴染「お姉ちゃんいないし…せっかくふたりっきりだしこのまま…えへへへ」

男「…」コツン

幼馴染「った!?」

男「朝っぱらからサカるなこの変態」

幼馴染「ち、ちがうもん! キャッチボールしようよって言おうとしたんだもん。変態!」

男(嘘つけ。おもいっきり胸押し当てやがって…)

幼馴染「お姉ちゃんがいるとバシバシうるさいとか、暑苦しいとかいうんだもん」

男「じゃあするか」

幼馴染「う、うん…!」


そして短いキャッチボールの後、汗だくになった俺達はシャワーを浴びることにしたのだが…。

男(結局こうなるんだよなぁ)

幼馴染「んっ♥ んぅ♥」



 ぱちゅっぱちゅっぱちゅっ
  ぱちゅっぱちゅっぱちゅっ


幼馴染「んあぁ♥ だめっ、あっ、うしろからっ、やぁ♥」

案の定ナツキとまぐわっていた。
プールデート以降、お互いの距離はさらに縮まって、もはや四六時中くっついていると言っても過言ではない。

体を動かすことが好きなナツキがセックスにハマってしまうのはしかたないことだった。
俺も目の前にこんなエロい体があって我慢なんてできない。
ここまで計算した上で俺にキャッチボールを申し込んできたとしたら、ナツキは大した魔性の女である。


幼馴染「うぁぁんアッキぃ♥ もっとはやくしよ♥」

男「もうナツキの好きなとこおぼえちゃった」

男「この辺だろ?」グリグリ

幼馴染「んんぅ!!♥ そこっ♥ そこそこ」

幼馴染「ボク、あっ♥ イ、イキっあっ♥」

幼馴染「あああああっ♥」


そんな調子で一日に何度か気の向くままに体を重ねながら、夏休みの残りを過ごし、
宿題も終わりきらないままいよいよ終盤に差し掛かっていた。



幼馴染「はー。スッキリ」

男「気持ちよかったな」

幼馴染「うんうん。やっぱりキャッチボールのあとは冷たいシャワーだよね」

男「えっ、そっち!?」

幼馴染「お腹すいた♪」

男「はいはい。スタミナつく物にしておくか」

幼馴染「ん? もーー♥ いまシたとこなのに」

男「お前の試合のためだぞ」

幼馴染「えっ、そっち!?」

男「お前…作らないぞ」

幼馴染「…あははっ、わかってるよぉ」

幼馴染「それで、来てくれるんだよね!」

男「いく…と思う。でも途中で買い物で抜けるからな」

幼馴染「いいよいいよ♪」


察するに、ナツキはひとりで助っ人としてよその部に参加するのが気恥ずかしいようだ。
不安なのかもしれない。
普段誰に対してでも明るく接するこいつだが、あまり意気投合した深い仲の友人はいなかった気がする。


男「お前さ…」

幼馴染「?」

男「いや…なんでもない。今日頑張れよ」

幼馴染「うん! 3本ヒット打つ!」

男(いまさら友達つくれよとは言いづらいな…俺だってそんなに多くないし…)

ふたりで過ごしてきた弊害か、俺達は俺達の世界に閉じこもりがちだ。

男(このまま助っ人活動を続ければナツキにも友達がたくさんできるかもしれないな)

男(遊ぶ機会減るかな?)

男(まぁいっか。新学期からはべたべたしてられないし)

男(こんな様子をみられたらユウジやクラスメートのおもちゃにされそうだ…)



【学校・グラウンド】


部員A「おねがいっ!」

男「え、俺? また?」

部員A「ごめんね。またなの。練習試合だから監督もコーチもこられなくってさ」

部員A「だから試合前の練習手伝って! 人手が足りないの」

男「……」

幼馴染「よかったじゃん。暇じゃなくて」ポン

男「俺男子生徒なんだけど」

部員A「いいよいいよ。だってナツキちゃんのカレシでしょ? だったら安心じゃん」

男「…といわれても」

男(安心なのか?)

男(でも着替えとか持ってきてねぇんだよなぁ…汗かいたら嫌だなぁ)

部員B「ねぇねぇコーチして」

部員C「あたしも! ちょっとフォームみてほしいなぁ」

男「え…」

男(暇よりマシか…)

男「いいよ」

炎天下の中、なぜか私服で女子部の練習に付き合う俺。
ノックを打ったり、スイングを指導したり、キャッチングをしたりとあきらかにコキを使われている。
ナツキが勝手に快諾してしまったのだろうか。


部員A「アッキーくんほんとにキャッチャー上手だね。全然そらさないんだ」

男「まぁ…そこそこやってたから」

男(男子やナツキの球にくらべると遅いし…)

部員A「なんか安心してなげられるなー」

部員A「ねぇアッキーくんうちでマネージャーやらない? 壁キャッチャーも募集中だよ」

部員A「家事とか得意なんでしょ!? マネージャーほしいなぁ~」

男「やらない。ていうかその呼び方」

部員A「あ。ごめんね。ナツキちゃんがずっとそう呼んでるから」

部員A「馴れ馴れしかったね。ごめんごめん」

男「ナツキと仲いいの?」

部員A「いろいろきいてるよー。ご飯つくってくれるとか」

部員A「ラブラブなんだ? いいなー」

男「え……あんにゃろ」


ふとナツキが気になって姿をさがす。
ナツキはグラウンドの邪魔にならない隅っこで黙々と柔軟をこなしていた。


男「おーい」

幼馴染「あぁアッキー。もういいの?」

男「おう。くたくただ。これで無給はやってらんねぇよ…」

男「あとでなんかおごってくれ」

幼馴染「……うん。いーけど」

男「はやく試合はじまらねーかな…」

部員B「あぁ、いたいた。ねぇねぇ手あいてたら柔軟つきあってください」

部員B「おねがいしまーす」グイグイ

男「えっ、ちょ…」

幼馴染「……いってらっしゃーい。ボクはばっちりだからわざわざ付き合ってくれなくてもいいよー」

男「棘のある言い方すんな」

幼馴染「べっつにぃ…」

男(なんなんだよ。自分が連れてきたくせに)

男(相手してくれないからってふてくされてんのか?)


それにしても女の子の体のなんと柔らかいことか。
ナツキも背中をうしろから押すとぐにゃんと前屈するが、それに負けないくらい部員はどの子も体が柔らかかった。


男「いちにー、さんしー」

部員B「ごーろく、しちはち」

男「しっかり息吐きながら」

部員B「はーい」

部員D「ねーほんとにマネージャーやる気ないですか? 入ってくれたら大助かりなんですけど」

部員A「だよねー♪」

男「俺男子だってば…」

部員D「いいじゃないですか。女子が男子部のマネージャーすることなんてよくあるんですから」

男「うーん……」チラッ


幼馴染「…!」

幼馴染「……」プクー

男(うわぁフグみたいになってる…)


その日の試合でナツキにいつものキレはなく、
4打席凡退の上に守備でもやらかし、散々の結果となった。



第八話<ヤキモチ>つづく


 

更新終わり
次回明日か明後日

第八話<ヤキモチ>つづき


-夕方
【帰り道】

男「今日はその…惜しかったな」

幼馴染「……」

男「2打席目なんていい当たりだったしヒットでもおかしくなかった」

幼馴染「……アウトだもん」

男「そうむくれるなよ…誰でも打てない日くらいあるって」

男「その程度でふてくされるなんてお前らしくないぞ」

幼馴染「ボク、試合の結果でむくれてるんじゃないから」

男「じゃあ…やっぱり…試合前の事?」

幼馴染「わかってるならさ…あんな風にデレデレしないで欲しかったな…」

男「してないって…。ただ練習付き合ってただけだろ」

幼馴染「…体触ってた」

男「柔軟体操だから」

幼馴染「…」プクー

男「悪かったって」ツンツン

幼馴染「…」プシュッ

幼馴染「…むー。気安くさわらないでよ」

男「ナツキ…」


どうやら相当お冠なようだ。
まさかこんなに嫉妬深いやつだとは思いもよらなかった。
何かあっても試合が終わるころにはいつも通り笑顔でさっぱり忘れてると思っていた。

しかしナツキは試合中もあきらかに上の空でそわそわしていて、時々俺に向かって訝しげな視線を飛ばしてきた。


幼馴染「ベンチでスコアラーまでしなくたっていいじゃん」

幼馴染「アッキーはただの付き添いの観客なんだから」

男「人手不足だってお願いされたんだからしかたないだろ」

幼馴染「もー! おひとよし!」

男「じゃあもう二度と観に行かなくていいよな」

幼馴染「そ、それは……。だめ」

男「ナツキ」ポンポン

ナツキの帽子をぬがせて、汗ばんだ頭をくしゃりと撫でる。
ナツキはすこしだけ目を細めて、嬉しそうに微笑んだ。



男「買い物いこう。晩飯なに食いたい」

幼馴染「アッキーのならなんでもいい」

男「そっか。じゃあ…ナツキの好きなハンバーグにしようかな」

幼馴染「やたっ! 和風おろしポン酢!」

男「はいはい」

幼馴染「あっ、あとアイスも買って!」

幼馴染「あ…でも今日は打ってないからご褒美なしかな…」

男「いいよ。アイスバー1本だけな」

幼馴染「わぁーい」ギュ

男「……汗くさっ!」

幼馴染「うぐっ、そういうこと言うな!」バシバシ

幼馴染「すんすん…。うー、ほんとに汗くさ……」



【帰宅後-キッチン】



幼馴染「もうぜったいデレデレしないでね?」

幼馴染「柔軟につきあうのも無しだよ?」

幼馴染「そういうのは同性同士でやればいいんだから」

幼馴染「あと試合もベンチまでこなくていいからね? なにいわれてもだよ?」

幼馴染「女子部は女子部でやるんだから! ね!」

幼馴染「ね? 聞いてる?」

男「うるさい邪魔。手伝わないなら向こうでテレビでも見てろって」

幼馴染「むーーー。だったら手伝う!」

男「お前に手伝えることはない」

幼馴染「ぎゃうっ、じゃあ言うな!」



ナツキは帰宅後すぐさまシャワーを浴びて、それ以降はずっと俺にべったりつきまとっていた。

そして俺にとって聖域であるキッチンにまで踏み込んで耳元で何かとぎゃーぎゃーと騒いでいる。

幼馴染「手伝えることないの?」

幼馴染「ハンバーグこねよっか?」

男「 じゃ ま 」

幼馴染「はぁっ…なんだか冷たいよ…」

幼馴染「真剣お料理モードだね…」

幼馴染「今度は料理にアッキーとられちゃった。くすん」

男(文句いうなら食わさねーぞ…)

幼馴染「いいもーん。ボクは居間でゴロゴロしてよーっと!」

幼馴染「出来たら呼んでねー」

男「おう。というか時間見計らってお前が食卓来い」


それから30分後。


男「よし、完成だ」

男「我ながら今日もいい出来。あいつ喜ぶぞ」

男(なんで来ないんだろ)

男(テレビにでも夢中になってんのか?)


一通り夕飯を揃えた俺はナツキを呼びに和室の居間に向かった。

男「ナツキー?」

廊下から声をかけてもナツキの返事はない。
テレビの音でかき消されてしまったのだろうか。

次はふすまをわずかに開いて呼びかける。

男「おーい、ナツ―――」

そこで声が喉から出てこなくなった。
ナツキは部屋の中にちゃんといた。
俺の布団の上にうつ伏せになって足を開いて寝転がっていた。

ショーツしか履いていないぷりんとお尻がこちらに向かって突き出されている。
なんとも、人に見られたら恥ずかしくてだらしない格好だ。

男(寝てるのか?)

幼馴染「ん……ん…」

しばらく伺ってみるとどうにも様子がおかしいことに気づいた。
お尻が小刻みに上下している。
テレビとまじって聞き取りづらいが、ナツキの声もかすかに聞こえる。



男「ナツキ…?」

幼馴染「んっ、んっんっ♥」

幼馴染「あっ、あっ、あっ♥」
 

 すりすり すりすり

男(こ、これは……)

幼馴染「はぁ、はぁぅ、んっ♥」


ナツキは自分の下に敷いたおおきな熊の抱きまくらにむかって、一心不乱に股間を押しつけていた。
熱中しすぎて背後のふすまが開かれていることすら気づいていないようだ。


幼馴染「んゆっ、やぁっ♥ んぅ、んぅー♥」

男(やばっ、見ちゃった…)

男(なっ、なんでこんなところでオナニーしてんだよ!)

ナツキは夢中で腰を振りつづける。
熊の足の部分がちょうどよい硬さなのか、股の間に挟んでこすりつけては何度も熱い吐息をもらしていた。

セックスしている時のような、ナツキの甘ったるい声が聞こえてくる。
グレー色のショーツの股間には、はっきりと目に見えるほどにシミができていた。。

男(うわ…エロ…。じゃなくてっ)

男(見なかったことにしよう…よし、いま来た風を装ってもう一度…)


そう思いたっても、めったに見られないレアな光景への好奇心が止まらない。
俺は声をかけなおすどころか、息を殺してかがみ込み、瞬きもせずナツキの痴態を覗き続けていた。


幼馴染「はぁっ、はぁっ♥」

幼馴染「んゆぅ…あんっ、あっ♥」

男(クソー…顔が見えない。エロい顔してるんだろうな)

幼馴染「んんぅ~~♥」ピクッ ピクッ

男(あ、アレイッてるな…間違いない)

男(ナツキもオナニーするんだな…そりゃするよなオナニーくらい)

幼馴染「はぁ……はぁー…」

男(よし終わったよな? そろそろ突入するか…ってまだやるのかよ)

幼馴染「んっんっんっんっ」

男(そうか。男とは違うんだな)

ナツキはついにはショーツのなかに手をつっこんで、直接指で恥部をいじりはじめた。

膣内に溜まった愛液をかきまわすひちゅひちゅとしたイヤラシイ音がさらに増える。


幼馴染「んー♥ んぅー♥」

男(ナツキ…そんな風にするのか)

俺は夕飯のことなどすっかり忘れて、目の前に繰り広げられる光景に夢中になっていた。
自然と手が腰へ伸び、ギンギンにいきりたった自身を慰めはじめる。


男「はぁ……はぁ」

男(ナツキ…きもちいいのか?)

男(いつもオナニーしてるのか?)

幼馴染「あー♥ あ゙ー♥」

男(何を想像してるんだろ。俺のことかな?)

男(ホテルのこととか思い出してるのか? それとも)

ふたりとも右手の動きが加速する。
まさか食前にこんなことになるとは思いもよらなかった。


幼馴染「あ゙~~~♥」

男(いきそう…ナツキッ)

幼馴染「くまっ、ゴロー♥ あっ、くまごろっ♥」

幼馴染「イク…イっちゃッ♥」

男「は?」

幼馴染「クマゴロ~~♥ んぐっ、んぎゅっ、あ゙~~~♥」ピクッ

男「……」

シャッ

男「ナツキ」

幼馴染「はぁ…はぁ…はぅ?」

幼馴染「うひっ、う、うわぁああ!! な、あ、なんれっ!?!」



幼馴染「えっ、嘘…ボク!? 見てた!?」

男「いまお前、クマゴローって言ってたよな」

幼馴染「え……」

男「なぁ」

幼馴染「…うん♥ クマゴローでオナしてた…よ。見られちゃった…あはは…」

男「気持ちよかったのか」

幼馴染「う、うん…この子の足…綿だけじゃなくて芯があって…ちょっと固いから」

幼馴染「すりつけてみたら…おもったより良くって…♥」

男「…」

幼馴染「な、なに!? 怖いよ…ちょ…ご飯だよね!? ごめんごめん」

幼馴染「いま行くから…」

幼馴染「アッキー怒ってる?」

幼馴染「ごめんねクマゴロー勝手に変なことにつかっちゃって…明日の朝ボク洗濯するからっ」

男「そうじゃなくてなナツキ」

幼馴染「ひっ、なになに」

俺は怯えてあとずさりするナツキにずんずんと歩み寄った。
そして豊満な太ももをつかまえて一気に股を左右に開いた。

幼馴染「ふぎゃあ! な、なにっ!?」


男「こんなに濡らして」

幼馴染「やぁ見ないでっ!」

男「クマゴローがそんなに良かったか」

幼馴染「えっ、え!?」

男「俺じゃなくて…クマゴローでオナってたのか」

男「いやあれはもはやオナニーではなくて浮気セックスだな」

幼馴染「ち、ちがっ! そんなんじゃないもん!」

幼馴染「ちゃんとボク…アッキーの」

男「クマゴロークマゴローって言ってたぞ。なにがちがうんだ?」

幼馴染「やっ、それは…」

男「言い訳無用」

男「悪い浮気彼女にはきついお灸をすえてやらないとな」

ナツキのおしりからショーツをするっと奪い取る。
ナツキは恥ずかしがって抵抗したが、無理やり足をおさえつけて組み伏せる。

現れた恥裂は、白く泡だった本気汁でテラテラとなまめかしく光っていた。
物欲しそうにヒクつく膣口からも、とろりと垂れた。

それがまるでクマゴローに中出しされたかのように見えてしまい、更に俺の中の黒い炎が燃え上がる。



男「くっ…」

幼馴染「アッキー…? するの…? ご飯…」

男「入れるからな」

幼馴染「え…ちょっ、早! あああぁあ♥」

挿入とともにナツキの嬌声があがる。
待ち望んでいたかのように膣はペニスをずるずる飲み込んで、やわらかいひだでぎゅうぎゅうに締め付けた。

俺も途中だったため、一気に我慢していた快感が押し寄せる。


男「くあっ…お前…やばすぎ」

幼馴染「ゴムっ、ゴム!」

男「クマとは生でしてたのに!」

幼馴染「してないもーーん!」

男「わかってる中では出さないから」


 ぱちゅっ ぱちゅっ
   ぱちゅっ  ぱちゅっ

幼馴染「んひゅっ♥ ああっ♥ だめぇいまボクイッたばっかりなのに♥」

男「ごめんなさいするまで犯し続けてやる」

幼馴染「んひゃあっ♥ ボク悪いことしてないっしてないっ♥」

幼馴染「アッキーどうしちゃったの」

幼馴染「あんっ、はぁ、あっ♥ もしかひへっ、あっ♥」

幼馴染「ヤキモチッ、やいちゃったの? えへへっ、んっ、んぅ♥」


男「熊と浮気してごめんなさいは?」

 ぱちゅっ ぱちゅっ ぱんっ

 ずっちゅずっちゅずっちゅ♥


幼馴染「してないってばぁ~~~♥♥」

男「でもクマゴローとエッチできもちよくなったんだろ?」

腰を叩きつけるたびにナツキは激しく体を揺すって反応を示した。
はじめたばかりなのに、いつもに比べてかなり感じているように思える。


幼馴染「ばかぁ~~!」

幼馴染「もー、とにかく謝ればいいんでしょ! ごめんなさい! ご飯っ♥」

男「だめ。ここまでして途中でやめるわけ無いだろ?」

男「お前だってほら、こんなに…よがって」

幼馴染「やぁあん♥ エッチぃ!」


男「エッチはどっちだ」

 ぱちゅっ♥ ぱちゅっ♥


幼馴染「んぅっ♥ ぼくっ、ボクですっ♥」

幼馴染「ふぁぁん許してよぉ。いぐっ、イッちゃうっ」

男「だいたい飯呼びにきたのにお前がオナってるからわるいんだぞ!」

幼馴染「だってぇクマゴロー抱っこしてたら…あんっ、アッキーの匂いがいっぱい染み付いてて」

幼馴染「それで嗅いでたら無性に…オナしたくなっちゃって……♥」

幼馴染「してたら時間わかんなくなっちゃってたんだもん♥」

男「…このエロ女っ、お望みどおり一日相手してやる!」

幼馴染「ひぃ~ん」


 ぱちゅっぱちゅっ♥



  ・   ・   ・


幼馴染「よかったねぇ…♥」

幼馴染「もうさー、すっごい満足したよ…えへへへへへ」

男「…疲れた…」


その夜はふたりともかなり燃え上がった。
夕飯を途中ではさんで計4回戦までしてしまった。
クマゴローを脇目に腰を振っていると、すこしだけナツキのあの時のふてくされた気持ちが分かった気がした。

ナツキのアレで汚れたこいつは洗濯してからしばらく物置部屋にしまうことにした。
抱きまくらがなくなると俺は寝入りが悪くなるが、かわりに抱いて寝る相手がいれば大丈夫だろう。



幼馴染「…で、なんでボクの手足しばるの?」

男「…俺ホテルの一件をわすれてないから」

幼馴染「は? ひ? ふ?」

男(こうしておけばさすがに大丈夫だろう…)

幼馴染「ねーなんで縛るのー!! やっぱり抱きまくらにされるのやだー!!」ジタバタ



第八話<ヤキモチ>おわり

 

更新終わり
次回9話 日曜日くらいに予定
7話で終わるとか最初に言ってたの忘れてました

http://i.imgur.com/2QKS2rY.jpg
http://i.imgur.com/ovYR0Ok.jpg

SSちょっとかけてないので
>>757あたりで入れる予定で間に合わなくてお蔵入りしてた挿絵で今日のところはスマソ
http://i.imgur.com/rOkB8ER.jpg

>>817はダンデライオン? 転載っぽいのでできれば消しておいてください

↑↑一応R-18絵なので注意



第九話<ボクの花嫁修業>



夏休みもあっというまに残り数日。
今日もボクは幼馴染で恋人の彼の家に遊びに来ていた。


幼馴染「おはよ! 来たよ!」

幼馴染「お泊りセットとメールでいわれたアレもってきたよ」

とりあえずピンポンを3連打するのがお互いの家に来た合図。
でもアッキーはあまり出てくれないから勝手に玄関を開けて入っちゃうのがボクたちの日常。


幼馴染「返事くらいしてよー」

中に入るとアッキーはやる気なさそうに布団に転がっていた。

幼馴染「あれ…めずらしい。ゴロゴロしてるんだね今日は」

男「おーう…やっときたか」

幼馴染「時間通りだよ?」

幼馴染「どしたの。おきたばっかり」

男「んーー。まだ眠い」

幼馴染「夜更かししてたんだ?」

男「…それもあるし、ちょっと眠りが浅くてさ」

男「で、あれもってきた?」

幼馴染「うん!」



肩からさげたスポーツバッグのチャックをひらくと、
丸まったオルカの抱きまくらがぴょこんとはじけるように飛び出した。

この前のプールに行った時に買った子だ。
ボクのすごくお気に入りで、毎晩抱っこして寝ている。


幼馴染「あー、しっぽひっかかって出てこない」グイグイ

男「おまえ…そんな誘拐みたいな入れ方やめろよ」

男「これくらいの距離普通にもってこいよ」

幼馴染「だって…こんなおっきいオルカぬいぐるみ持ってるとこご近所さんに見られたらはずかしいよ」

男「買ったときは背負って帰ってきたくせに」

男「とりあえず、貸して」

幼馴染「ほい」


幼馴染「きゅうきゅう~。可愛いでしょ」

幼馴染「正面の顔もっとかわいいよ? ほら」

男「へんな顔」

幼馴染「そう? 白い模様が目みたいで可愛いよ」

幼馴染「きゅうきゅう~。だっこしてーって」

男「ん」

ぬいぐるみを差し出すとアッキーは遠慮なく抱きしめて、またゴロンと布団に寝転がってしまった。


幼馴染「ねーなんでしゃっちー持ってこさせたの」

男「なにその名前」

幼馴染「オルカだからシャチだよ?」

幼馴染「シャチ吉と迷ったんだけどアッキーみたいな響きだからしゃっちーにしたよ」

男「あっそ…ふぁ」



幼馴染「ねぇクマゴローは? いつも抱いて寝てるでしょ?」

男「浮気犯のあいつは独房の中だ」

幼馴染「まだ続いてたんだ……」

幼馴染「あーわかった。それで寝不足なっちゃったんでしょ」

男「……これ、いいな…」ギュウ

幼馴染「でしょ? お腹の白い部分はひんやり素材なんだよ」

男「それもあるし…なんていうか…形が…腕にフィットして……あと…いいにおいする…し」

男「たまんねぇ…zzz」

幼馴染「!」

幼馴染「ちょっ、ちょっとなんで寝るの」

幼馴染「ボク遊びにきてるんだけどっ。ボクッ、ボクは!?」

男「zzz」

幼馴染「……むー」

アッキーはなにかもにゃもにゃつぶやきながら、ぬいぐるみを抱きしめて顔をうずめながら眠ってしまった。


幼馴染「なんなのさー」

幼馴染「キャッチボールできないじゃん」



男「zzz」

幼馴染「疲れてるのかな…夏休みいろいろあったもんね」

幼馴染「…くふ」

いつもはボクがゴロゴロ眠る立場だからあんまり彼の寝顔を見ることはない。
やすらかに眠る子供っぽい寝顔がすこしかわいくて懐かしいような気がした。


幼馴染「寒くならないように扇風機首振りにしようね」ピッ

幼馴染「んーあと、タオルも掛けよ。暑いかな?」

幼馴染「これでよし」

幼馴染「んー暇だぞ。なにしよっかな」

ボク達幼馴染同士は遊ぶといっても、これといった内容がない。
キャッチボールは定番として、それ以外は適当に一緒にすごしているだけ。

とっくに漫画はよみつくしたし、ゲームもやりつくした。
平日の朝は見たいTV番組なんてないし、アッキーが寝ていることにはどうにもボクは時間をもてあます。


男「zzz」

幼馴染「…」

かといって、このかわいい寝顔を崩すこともボクにはできない。

幼馴染「以前のボクならのしかかって無理やり起こしてたんだろうなぁ…」

幼馴染「…恋人同士になってから甘くなっちゃたかな」

幼馴染(ボクの彼氏…ボクに彼氏…)

幼馴染「…♥」チュ



幼馴染「よーし、今日は家事でもしよっと」

幼馴染「夏休みいろいろお世話になったし、恩返しだ」

幼馴染「くふふ、起きたら家中ピカピカでびっくりしちゃうぞ」

幼馴染「…あ」

幼馴染「この家の掃除機どこだっけ……」

幼馴染「それに寝てるのに掃除機は迷惑だよね…」

幼馴染「やめやめ! 掃除は今日するには向いてない」

幼馴染「じゃあほかにできることは…」キョロキョロ

幼馴染「んー。庭の草のびてるなぁ。草むしりしないとなぁ…」

 ミーン ミーン ミンミンミン ミンミンミン
  ジリジリ…

幼馴染「暑そう……溶けるよ」

幼馴染「さすがに一人であの量は……うん、やめよう」

幼馴染「熱中症気をつけろって口酸っぱく言われてるからね!」


幼馴染「じゃあボクにできることなんて何もないじゃん」ゴロン

幼馴染「ふぁう……眠くなってきた」

幼馴染「しゃっちー? …そこボクの居場所だよ」

幼馴染「なんでキミがぎゅってされてるの。魚のくせに」

幼馴染「あれ?魚だっけ? あれ? まぁいいや…忘れちゃった…」

男「…zzz」

幼馴染「はぁ…ボクって抱っこされる以外役に立たないのかなぁ」

幼馴染「夏休みの間でなにか変わろうって決意したのに…ポンコツのままだぁ」

幼馴染「あ゙ーアッキーとボクのスキルが入れ替わったらいいのに」ゴロゴロ

幼馴染「男のくせに料理も掃除もなんでもできるって、うーゔー…ずるいずるいっ、主婦じゃないんだから」ゴロゴロ

幼馴染「なんでそんなに上手に…――」

幼馴染「……そっか」

幼馴染「ボクのためにいつもいろいろしてくれるから、なんだよね」ムクリ

幼馴染「ボクもキミのためにがんばるよ…!」グッ


それからボクは午前中庭の雑草をむしって、縁側を雑巾がけした。
汗だくになったからお風呂に入るついでに浴槽の掃除もした。


幼馴染「まだねてるしー」

幼馴染「どれだけ夜更かししてたんだろう。もうすぐ新学期なのにさ」

幼馴染「あーお腹すいたなー。アッキーお昼ー」

男「zzz」

幼馴染「ん~~~」

幼馴染「……どうしよ。冷蔵庫になにかつくれそうなのあるかなー」ガパッ


『消費期限近いからお昼はこれを使って。具材は任せる』


幼馴染「ん?」

幼馴染「わっ冷やし中華! これならボクでもできそ♪」

幼馴染「なんだー。最初からボクにやらせる気じゃんかぁ」

幼馴染「なになに。ふんふん、茹でたあと氷水でしめるだけじゃん」

幼馴染「具はなににしよっかなー」

幼馴染「なんかあるかなー」




結局パッケージの写真通りに、トマトと細く切ったきゅうりとハムと錦糸玉子をのせることにした。


幼馴染「できた~♪」

幼馴染「おいしそ…ボクは料理の天才だったのか…」

幼馴染「ご飯できたよー」

幼馴染「って呼んでも起きないか」

幼馴染「…起こしてきてあげよう。ボクも普段よばれたらすぐ飛んでいくようにしなきゃなぁ…」




幼馴染「おっきろー♪」

男「zzz」

幼馴染「おきてー♪ ご飯ご飯!」

幼馴染「冷やし中華つくったよー♪ 力作だよー」

男「ぐぅ…zzz」

幼馴染「ぐうじゃないでしょ。まったく、せっかくこのボクがつくったってのに」



幼馴染「………。むふ」

幼馴染「あなたー。おきなさーい」ヒソヒソ

幼馴染「くふふっ、あなたー朝だよー♥ 朝ですよー?」ヒソヒソ

幼馴染「くふふっははははっ! はやく起きなってー」

男「んぐ…zzz」

幼馴染「これでもおきないかー。ん…?」

幼馴染「なんか……ふくらんでるね。ソコ」

幼馴染「失礼しまーす」


起きないようにこっそりとジャージを脱がせると、
なかから飛び出てきたモノはふっくらと膨らんでいた。


幼馴染「うわっ♥」

幼馴染「デカい…」

幼馴染「なんかやらしー夢みてるのかな?」

幼馴染「えいっ」ギュ

握り締めるとあつくてドクンドクンと脈打ってるのがわかる。
もうすでにエッチするときくらいの固さになっていた。



幼馴染「すんすん……ん」

幼馴染「ふぁ…このにおい…♥」

おちんちんに鼻を近づけると大好きな彼の濃いにおいがした。

ボクはまるで引き寄せられるように唇でアツアツのソレに触れて、
さきっちょをパクリとくわえ込んだ。


男「ん……」

幼馴染「はぐはぐ」

幼馴染「んむ…えお」

幼馴染「ちゅむ…んぅ、はふ、れろ♥」

男「う…ん゙…zzz」

幼馴染「寝苦しいの?」

幼馴染「すっきりしたら起きるかもしれないね♪ はむっ」



第九話<ボクの花嫁修業>つづく



 

更新終わり
次回明日か明後日

第九話<ボクの花嫁修業>つづき



幼馴染「んー、んぷ、ちゅぴ♥」

男「ぅ…zzz」

幼馴染「はむぷ、んれぉ…」

幼馴染「起きないなぁ?」

幼馴染「はむっ、んんぅ…♥」

幼馴染「舐められるのって気持ちいいのかな? 手でするのとどっちが好き?」

 すりすり

幼馴染「ぷふ、なんかおもったよりピンク色でえっちだね」

幼馴染「こんなの舐めちゃいたくなるに決まってるじゃん」

幼馴染「るるるっ、れろ…れろ」

男「ぅ…ぅ…zzz」

幼馴染「んもう、うーうー言ってないで起きなよぉ」

幼馴染「しゃせーしちゃってもしらないよぉ。はむっ♥」



眠るアッキーのおちんちんはボクの口のなかですっかり大きくなっていた。
とっても熱くって、舐めるとびくんびくんって脈打って可愛い。

おちんちんの段差になってるところが特に好きみたいで、
ボクがベロでごしごし洗うようになめるとアッキーは寝息を乱していた。


幼馴染「くふふ、ここいいんだね」

幼馴染「んーちゅ、れろ、れろ♥」

幼馴染「いっつもここで、ボクのナカごりごりってするもんね。綺麗にしておこうね」

幼馴染「はむっ♥」

幼馴染「ずずっ、ちゅるる……んぅ?」

幼馴染「ぷは、んえ…。なんか、さきっちょからねばっこいの出てきた…」

幼馴染「トロっとしてるね。射精? ちがう?」

男「…zzz」

幼馴染「…はー寝顔かわい♥」

幼馴染「キミがボクの前でこんなに無防備にしてるのって、嬉しいな」

幼馴染「おちんちんもっときもちよくなろうね」

幼馴染「はむ、んんぅ♥」


それからボクは夢中でアッキーにご奉仕をつづけた。

すごくベロとアゴがつかれたけど、たまにはこうやって一方的にしてあげるのもすごくいいかも。

舐めているうちにだんだんとボクも頭がぼーっと興奮してきちゃって、むずむずするアソコを触りたくなったりしたんだけど、
それは今は我慢することにした。


幼馴染(だって今日お泊りだし。夜にはいっぱいするもんね?)

幼馴染「んむ、ちゅるっ…れろ」

幼馴染「れろ、れろっ、じゅるる」

いっぱい唾液をからめながら何度も何度も口の中を往復させる。
さきっちょからとろとろもたくさん出てきて、そのたびにボクは舌でなめとった。

幼馴染(アッキーの匂い…いっぱい嗅いじゃう♥)

幼馴染(射精まだかな?)

幼馴染(きもちいい? ボクにベロベロされてきもちい?)

幼馴染(きもちいいよね。こんなに硬くてぴくぴくしてるもんね)

幼馴染(おちんちん、射精したいよね♥)

幼馴染(出して。可愛い顔で眠りながらだしてっ)

男「う……zzz」


男「ゔぅっ」

アッキーのすこし低い唸るような声とともに、おちんちんがひときわ大きく跳ねた。
そしてボクの口に濃厚な味の精液がどくどくといっぱい溢れだした。
ツンとした匂いが鼻をつきぬける。

幼馴染「んぷっ♥ んんぅ!?」

幼馴染(出たっ♥)

幼馴染(ぎゃー苦っ。でも…アッキーのお汁♥)

ボクは舌でおちんちんをなめとりながら、すこしづつネバネバの精液を飲み込んでいった。
のどごしはイガイガしてて喉を通すのはすごく苦労した。

幼馴染「んっ…ん」

幼馴染「ん゙ぐ…ひぅ」

幼馴染「は…はぁ、んふふ。飲めた」

幼馴染「アッキーいっぱい出しちゃったねぇ。ボクのお口のなか良かった?」

男「ゔー…zzz」

幼馴染「……なんでまだ寝てるの。おちんちんって鈍いの?」

幼馴染「はぁ…うがいしてこよっと」

それから服を元通り着させて、なにごともなかったかのようにボクは彼氏を揺すって起こすことにした。


幼馴染「お昼ご飯だよー」

男「ん……」

幼馴染「冷やし中華だよー。お腹すいたでしょー?」

男「んー…んむ、ふぁ…あ」

幼馴染「あ、起きた♥」

男「つ…あっつ…。何度」

幼馴染「さぁ? 扇風機寝る前に首振りしたからかも?」

男「昼?」

幼馴染「ごはーん♪」

男「暑いせいか、なんか頭ボーっとする…」

幼馴染「熱中症じゃないよね?」ぴたっ

男「大丈夫…昼食おうぜ」

幼馴染「うん! ボクの力作だから!」

男「そう言われると逆に不安だなぁ」

幼馴染「ここで食べる? 1皿だけだからもってきてあげるよ」

男「悪いな。お盆、棚の下の段に入ってるから使えよ」

幼馴染「うん」



幼馴染「いただきまーす」

男「いただきます」

幼馴染「ちゅるるっ。おいしー♪」

男「これナツキがつくったんだよな?」

幼馴染「そだよ。彩りきれーでしょ!」

男「ん…おいしいな。でも微妙にぬるいような…ちゃんと冷水でしめた?」

幼馴染「むー冷やしたもん。アッキー起きないからだよ」

男「そっか。悪いなずっと寝てて。手伝えばよかったな」

幼馴染「いいよー。疲れてたんでしょ」

男「そうなんだよなぁ。いまもすっげぇ悪夢みてさ」

幼馴染「ちゅるるっ?」

男「聞きたい?」

幼馴染「べつにー。ちゅるる…」

男「聞けよ!」

幼馴染「食べなよー」

男「俺夢の中でナツキと浜辺にいたんだよ。ちょうどこの前デートでいった海みたいなとこ」

幼馴染「あそこ白い砂浜が綺麗だったねー」

男「人工浜だけどな。んで、お前と遊んでたら、砂の中に埋められてさ」

幼馴染「ボク結構そんなことするよ」

男「しかもさ、飯中にいうことじゃないかもしれないけど、何故か下半身丸出しで!」

幼馴染「…」


男「ナツキどこいった!?って探そうとおもっても、首まわないし、身動きひとつとれねーの」

男「でもなぜか海の沖合のほうはばっちり見えてさ」

幼馴染「ちゅるる…」

男「そしたら」

幼馴染「うん。ちゅるるっ」

男「遠くから黒い背びれがゆらゆらと近づいてくるんだよ」

幼馴染「あ、サメだ!」

男「そう。うわっ、サメだ! だれか助けて! って叫んでも周りには誰もいない」

男「俺はお前に埋められててもう為す術もない」

幼馴染「ごめん…」

男「それでザバッと飛沫ともに浜に上がってきたのはなんとサメじゃなくて巨大なシャチなんだよ」

幼馴染「いいなぁ。ボクもオルカの夢みたいなあ」

男「でもな、オルカショーで見たような温厚なオルカじゃなくて、すごく凶暴っていうか…」

男「こういかにも獲物を狙ってますって感じのぎらぎらした野生の目つきでさ」

男「そいつは無抵抗な俺にのしかかって、下半身をいきなりバリバリ食い始めたんだ」

幼馴染「お腹すいてたんだね」


男「でも夢の中だからか食われてるのに痛みはそんなになくて、どちらかというと気持ちよかった」

男「痛みが強すぎるとショック死しないように快楽物質が出るっていうじゃん? あれかもしれない」

幼馴染「ふーん?」

男「オルカってあんな見た目でもやっぱ海のギャングなんだな」

男「…ちゅるるっ」

幼馴染「!? え、それだけ? 結局アッキーはオルカに食べられて死んだの?」

男「死んだんじゃねーの? 下半身なくなってたし」

幼馴染「ひどい…」

男「あのぬいぐるみだめだな。あんなの抱いて寝るから悪夢みるんだ」

男「抱き心地はいいけど、やっぱりお前に返す」

幼馴染「返すもなにもあげてないよ。ボク持って帰るから」

男「そうしてくれ」

幼馴染「ご飯たべたあと何する?」

男「うーん。夏休み終わる前に家のなかと庭の掃除でもしとこうかなって思ってんだけど」

男「そうするとまたお前暇になるよなぁ」

幼馴染「はいはいっ! 草むしりならボクしておきました!」

男「え?」

幼馴染「くふふ」


男「さ、サンキュー…なんだお前、今日は別人か?」

男「ナツキ…か?」

幼馴染「まだ寝ぼけてるの? ボクにきまってるじゃん」

幼馴染「いやーボクもね、日頃の感謝のきもちを伝えようとおもってね」

幼馴染「とくにここの庭にはお世話になってるしね」

幼馴染「まぁこれも花嫁修業のいっかんっていうか。ボクの今後のためだから気にしなくていいよ」

男「は? 言ってる意味はよくわかんねーけど、ありがとな」

男「じゃあ…時間空くしキャッチボールするか」

幼馴染「するする♪ ちゅるるるっ、ずるる」

男「お、おいっ。食べてすぐはしないぞ」

男「そんな急ぐなって」

幼馴染「今日はもうできないとおもってたからラッキー♪」

 



  ・  ・  ・




幼馴染「あっづい゙っ」

男「…」

幼馴染「シャワーっ、シャワ~!」

男「いつも汗だくになってから後悔してないか?」

幼馴染「楽しかったら満足してるもん! でも暑いのはしかたないの!」

男「あんな全力で投げるから」

幼馴染「うぇーボクシャワー今日2回めだよ~」

男「そうか午前中に草むしりしてくれたんだったな…」

幼馴染「はぁー、夏って女の子にはたいへんだよ。どうしても汗臭くなっちゃうもんね」

男「……」

幼馴染「なにその何か言いたげな目」

男「いや…。ナツキ、ぃ、一緒に浴びないか」

幼馴染「えっ?」



幼馴染「シャワー?」

男「うん…その、何度もシャワー浴びさせるのも悪いしな」

男「この後、ちょっとナツキとしたいなって思ってんだけど、そしたらまたいっぱい汗かくだろ」

男「だから、風呂場でついでに…だめ?」

幼馴染「…ん、んー…。いいよ♪」

幼馴染(さ、誘われちゃった♥)

幼馴染「したかったんだ?」

男「いま姉ちゃんいないしな。ナツキは? その、嫌なら無理には言わないけど」

幼馴染「ボクもおちんちん舐めてるときからずっとしたかったよ」

男「は?」

幼馴染「ん? あ……いまのなし」

男「なんて?」ギュム

幼馴染「いひゃ…いい、な、なんれもないれふ」

男「……やっぱりな。なんか変だと思ったら、お前のしわざだったのか」グニグニ

幼馴染「なにふぉ、しへないひょお」

男「取り調べだ。服を脱いでさっさと中に入れ」

幼馴染「ごめんって~!」

幼馴染「わぁ~ん、いじわるされるー♥」



第九話<ボクの花嫁修業>つづく


 

更新おわり
次回未定ですが近いうち
また冒険もの書きたくなってきた。。

ユッカて最後まで行ったっけ?

ようやく時間とれたので更新明日22時
次作はユッカの世界観ひきついでます(ユッカたちは出ません
ボクっ娘です(7月開始予定

>>882
完結したけどアフターの小話を書くのを忘れてて落ちました

第九話<ボクの花嫁修業>つづき




 ぱちゅっ ぱちゅっ♥
  ぱちゅっ ぱちゅっ♥


幼馴染「あっ、あっ、ううぅっ♥」

粘っこい水の跳ねる音が広いお風呂場の中で響く。

後ろから固くなったおちんちんをズンと突き入れられるたびに、ボクの体は敏感にビクンと弾んだ。
お風呂でのエッチはいつもこうだ。

ボクは震える足腰で必死におしりをつきだして、手すりにしがみついて、されるがまま。


 ぱちゅっ ぱちゅっ♥


幼馴染「んひゅっ、あはっ♥」

幼馴染「あっあっ、う…」

男「声我慢しなくていいのに」

幼馴染「だ、だってぇ…すっごく響いて恥ずかしいんだもん。んっ♥」

男「確かに。でも俺はそれが楽しい」

男「声聞かせて」

幼馴染「あっ、あっ♥ やだぁ、外まで聞こえちゃうよ」

男「っていっても庭だから誰にも聞こえないぞ」


ご飯前にこっそり射精させてあげたのにアッキーのおちんちんはとっても元気だ。

固くてすごく反り返ってて、ボクの中をごりごりって何度も往復してかき回す。

おしりを手のひらでぎゅって力強く掴まれて、時々グニグニ揉んだりされる。


幼馴染(おしり好きなのかな…?)

幼馴染(ボクは後ろから…すごい、好き♥)

幼馴染「ああっ♥ ああっうあああっ♥ そ…こっ」


もちろん顔を見合わせてお布団でエッチするのも好きだけど、こうして後ろから突かれてまるで動物みたいなエッチをしてると、
なんだか支配されてるみたいで、ボクが彼の物なんだって実感がお腹の奥底でわいてきて、すごくぞくぞくしちゃう。


男「ナツキの中きつい。結構強めに押し込まないと、押し返される」

幼馴染「んんぅっ♥」

幼馴染「がんばって♥ はやくつづき」

男「お前興奮しすぎ…なんか白くなるくらいどろっどろだし…」

幼馴染「うう…それ言わないでよ」

幼馴染「アッキーはさっき出したけど、ボクはまだうずうずしたままだもん」


男「はぁ~」

男「ほんとお前どうしてこんなエロくなっちゃったのか…」

幼馴染「ボクにエッチなこと教えたアッキーのせいだもん。白々しーよ」

男「そりゃ悪うございました」

 ぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅ♥
  ぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅ♥


幼馴染「んひゅう♥ ああっ、あああ、あっあっんっ」

幼馴染「それっ♥ もっと♥」

男「これくらいっ! か!?」

 ぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅ♥

幼馴染「~~っ♥ そうっ、ああっ、ふぁぁ♥」

激しくされるともう気持ちよさで頭がいっぱいで、ボクはなにもわからなくなってずっとおねだりを続けていた。
押しこむ動きにあわせるようにおしりを振ると、気持ちよさは更に増えるのもいつのまにか覚えた。

だんだんと背後のアッキーの呼吸もあらくなってきて、かすかにうめき声も漏れている。
ボクの名前を呼びながら、おちんちんが気持ちよくなるようにボクのおまんこにむかって必死に腰を打ち付けている。
そんな彼の表情を想像しながら、ボクは迫り来る絶頂にそなえた。

幼馴染(かわいいアッキーすきっ、もっと!)


男「ナツキっ」

幼馴染「いいよっ♥ イこ、イこ♥」

幼馴染「あーボクだめっ、イク、イク、ああっだめ♥」

幼馴染「ひっぐ♥」

幼馴染「あぁぁああ~~~~~っ♥♥」


ボクの中でおちんちんが大きく跳ねるのとほとんど同時に、ボクも絶頂した。
甲高くてなさけない声が出た。
体中が快感で震えて、頭の中もふわふわとまっしろで、手や足に力が入らない。
滑り落ちそうになったボクの体をアッキーは支えてくれた。


幼馴染「うぅ…はぅ。ありがと……」

幼馴染「ハァ…♥ はぁ…♥」

幼馴染「あ~…イッちゃった。すごかった」

男「大丈夫か? 結構最後激しくしちゃったかも」

男「ふらついてるけど熱中症とかなってない?」

幼馴染「大丈夫だいじょぶ~…ボクの体は丈夫だから…」



幼馴染「わぁー汗だく…髪の毛べたべた」

男「ふー…」

男「ナツキ、これで懲りたか。もう俺が寝てる間にいたずらすんなよ」

幼馴染「…へ? あーーいまのお仕置きのつもりだった?」

男「……う、うん。まさか効いてないのか…」

幼馴染「こんなお仕置きしてくれるならボク再犯しちゃうかも…」

男「こいつ…」

幼馴染「アレ見せて!」

男「…ん」

ボクがおねだりしてアッキーが渋々手渡したきたのは未だ口を縛っていないコンドーム。
これがボクのエッチのあとの楽しみのひとつ。

たっぷり詰まった精子の塊をつつくのがおもしろい。

幼馴染「晩ごはんとろろかけご飯しよっかなー。長芋あったよね?」

男「え……お前とんでもない連想するのな…。俺の気持ちにもなれよな」


幼馴染「結構でたねぇ…♥」

幼馴染「えへへへ…こんなに」

男「まぁ…時間かけたから」

男「ていうか捨てるからはやく返せ。俺の遺伝子で遊ぶな」

幼馴染「2回目なのにこーんなに出しちゃうなんてさ。ボク自信ついちゃうな~♪」

男「くそ…」

幼馴染「きもちよかった? ん~~?」

男「あぁもううっとうしいなぁー、いちいち顔ちかづけてくんな」

幼馴染「くふふ、なんでさー、取り調べだー!なんて言ってそっちがノリノリだったじゃん」

男「……。汗流してあがるぞ」

幼馴染「ぎゃっ」

きっと照れ隠し。
ボクはいきなり冷たいシャワーを頭から浴びせられた。
その後2人で仲良く体を洗いあって、ボクたちはようやくお風呂場から出た。



   ・    ・    ・



幼馴染「お風呂いつも楽しいね♪ いい汗かいた後はシャワー最高」

男「お前と風呂入るとどっと疲れる…。いや、なにをしても疲れるの間違いか…」

幼馴染「そんなボクは突かれるほう。なんちゃっ…痛゙っ!」

男「お前なんか最近お下品だぞ!」ギュウウ

幼馴染「いひゃいひょぉ」

男「もう夜まで禁止な」グニニ

幼馴染「……」コク

幼馴染(夜までなんだ!)

男「変なこと言ったら晩飯抜きだからな」

幼馴染「……!」コクコク

幼馴染(追い出すわけじゃないんだ♥)

男「よし。晩飯支度するからおとなしくしとけよな」

幼馴染「晩ごはんもボクがつくるよー」

男「なんで? いつもは当然のごとく俺に作らせてるのに」

幼馴染「今日はボク花嫁修業してるから」


幼馴染「全部ボクにやらせて♪」

男「…確か昼間も言ってたな…ええと、それいま必要か?」

男「今日は庭の草むしりもしてくれたし、いくらなんでも働きすぎなんじゃ…」

幼馴染「だってこのままじゃボクなにもできないポンコツじゃん」

男「まぁ否定はしないけど…」

幼馴染「夏休みいろいろしてくれたお礼に少しでもアッキーの役に立ちたいんだ」

幼馴染「いまさらでごめんね…もう夏休みも終わりがちかいから…ボク焦っちゃってるかな」

幼馴染「だから一気に経験値稼ぎだよ!」

男「わかった、お前がダメダメなのは俺が日頃甘やかしたツケなんだよな」

男「よし、今日はナツキに任せた」

男「俺はゲームでもしてるから出来たら呼んでくれ」

幼馴染「オッケー♪ くふふ~なにつくろ~~」

男「不安だな…」

幼馴染「ぎゃっ、思ってても口に出さないでよ! ボクだって不安だよ!」



【1時間後-キッチン】



幼馴染「召し上がれー♪」

男「不安的中」

幼馴染「いやー簡単につくれてよかった!」

幼馴染「今夜のレシピはとろろかけごはんで~す。いただきまーす」

男「確かにとろろはうまいけどさ……」

幼馴染「ん? 手抜きって?」モグモグ

男「いや、なんでもねぇよ…。いただきます…」モグモグ

幼馴染「んー、長芋擦ってるときから思ってたんだけど……やっぱこれってアレに似」

男「その先言ったら俺は女相手でも手をあげるぞ」

幼馴染「じょ、冗談だよぉ…あはは」

幼馴染(うん、やっぱりあっちは食べ物じゃないや。とろろはおいしー♪)つるるっ

男「ん。足りねぇ。米まだある?」

幼馴染「あ、おかわりする? おいしかった?」

男「あぁ」

幼馴染「はぁーい丼貸して。ボクが大盛りよそってくるねー。とろろもまだたくさん擦ってあるから」

幼馴染「くふふ、なんかこうしてるとお嫁さんっぽいね♥」

男「晩飯とろろだけの妻はいらねぇ…」

幼馴染「……がんばって海苔も刻んだのに…」シクシク




第九話<ボクの花嫁修業>つづく


更新終わり
次回書き溜め分あるので明日

第九話<ボクの花嫁修業>つづき




【夜】


幼馴染「宿題終わった~~! いえ~~」バタッ

男「おつかれー。今日中に間に合ったな」

幼馴染「よかったぁ…これで残り数日心置きなく遊べるぅ…」

男「ホントは俺の計画ではもっと早いうちに全部終わるはずだったんだぞ」

男「お前があれこれ理由つけてちょくちょくサボるから…」

幼馴染「誘惑がわるいんです~~」

男「この家なんもねぇよ」

幼馴染「アッキーがボクを誘惑するからわるいんです~~」

男「ナツキ、お前疲れてんな…もう歯磨いて寝ろ」

幼馴染「ふぁぁ…今日は働き過ぎたよ、主婦って大変だなぁ」

幼馴染「これからは分担しようね~……ふぁぁ」

男「……なんかすげームカつく」




男「はい、立って。洗面台へゴー」

幼馴染「歯みがいて♪ 歯ブラシとってきて♪」

男「…イ・ヤ!」

幼馴染「ちぇっ、彼女が甘えてあげてるのにさー。もう耳かきとかしてあげないもんっ」

男「『磨いてあげよっか』ならともかく、『磨いて』は無いだろ……」

幼馴染「磨いてほしいの?」

男「ほ、ほしくねーよ!」

幼馴染「照れ屋なんだから…」



  ・  ・  ・



幼馴染「それじゃお先にお休み~。ボクもう限界」

幼馴染「一緒に寝たかったけど、まだ時間早いし起きてるよね?」

男「おう。俺ちょっとやることあるから」

幼馴染「ざんねん。シャッチーと寝よっと」

幼馴染「今日はキミはモテモテだね」ぎゅ

男「おやすみ…」

幼馴染「うん」





【深夜】



幼馴染「ん……ぐ」


ボクは寝苦しさで目を覚ました。
気づけば布団から大きくはみ出していて、むき出しの畳の上を転がっていた。


幼馴染「あれ…何時だろ」

枕元においてある目覚まし時計は暗くて針が読めない。

幼馴染「アッキーいない…まだそんなに経ってないのかな」

幼馴染「う…トイレ」

宿題をしながらオレンジジュースをいっぱい飲んだせいで、おしっこが近くなっていた。
ボクはよろよろと起き上がって、辺りを見渡す。


幼馴染「やだなぁ…なんでいないの…」




真っ暗な古い家は、相変わらずひとりでさまようには不気味だ。

普段見慣れていても夜になればボクからすればまるでホラーゲームの舞台だ。

風通しをよくするために縁側の戸をたくさん開けているので、部屋の明かりをつけたら虫がいっぱい入ってくるから怒られる。

庭からは虫の音がチリチリと聞こえて、涼しい夜風がボクの汗ばんだ髪をなでた。


幼馴染「いくしか無いかー…」

ぐにっ

幼馴染「ぎゃっなんか踏んだ!」

幼馴染「あーシャッチーこんなとこにいたんだ。抱きまくらのくせになんで毎晩逃げるの」

幼馴染「一緒にいこっか。よしよし、怖くないよ」ぎゅ


一歩あるくごとにギシリときしむ縁側の長い廊下を進む。
今日は月明かりが差し込んでいて、明るさはいつもよりマシだった。


幼馴染「今頃お風呂入ってるのかなぁ…」

幼馴染「もしかして…トイレで鉢合わせたりして?」

ガチャ

幼馴染「…いない」

幼馴染「うう~ん…」

アッキーがどこに行ったのか、考えながらおしっこを済ませて、待たせておいたオルカを拾い上げる。

幼馴染「どこいったんだろうねぇ?」



ボクは彼をさがすため居間へは戻らず、廊下を反対側へ歩き出した。
こっちには2階へ続く階段がある。
2階にはアッキーの家族がそれぞれ個室を持っている。


幼馴染「あっ、やっぱり」

彼の部屋の前立つと、戸の隙間から明かりが漏れているのがわかった。
そーっと扉を開いて中の様子を伺う。

幼馴染(なにやってるんだろ)

ノートパソコンに向かっている後ろ姿をみつけた。



幼馴染(動画でもみてるのかな?)

幼馴染(いやちがうなぁ…なんかあんまり画面うごいてない気がする…)

幼馴染(じゃあゲームかな? パソコンでやるゲームなんて持ってたんだ…)

幼馴染(ずるい! 夜更かししてるから今日の昼間ずっと寝てたんだ!)

ボクはドアノブに手をかけ、一気に扉を開いて中に踏み入った。


幼馴染「なーにやってるの♪」

男「!! なっ…ナツ…」

アッキーは椅子ごとひっくりかえりそうになるくらい驚いた様子で振り返って、目をパチクリさせてボクの顔をみた。
そして、まるで画面隠すようにノートパソコンをパタンと勢い良く閉めた。

幼馴染「…なんで隠したの」

男「いや…。見た?」

幼馴染「あーうん…。よく見えなかった」

男「こ、これはな…ユウジに借りたっていうか、押し付けられて…」

幼馴染「ゲーム?」

男「お、おう…夏のゲームだから夏休み中にやっとけって…言われてて」

幼馴染「うん。じゃあボクもやりたい! ずるいよ! ゲームボクも好き♪」

男「いやーこれは…うーん…」


幼馴染「どういうゲームなの! 見せて見せて!」

男「ええと、強いて言うなら感動する…ゲーム、かな? 俺まだエンディングまで進めてないけど…」

幼馴染「わぁ、ボクそういうのも好き!」

幼馴染「やらせて!」

男「……」

アッキーは気まずそうに目をそらす。

なぜ深夜にボクに内緒でこそこそとゲームをやっているのだろう。
手をノートパソコンの上に重ねて、がっちりガードしていた。
ここまであからさまな態度となれば、いくら鈍いボクでも流石に気づく。


幼馴染「なんで…?」

幼馴染「……」

男「な、ナツキ…」

幼馴染「……それ、エッチなやつでしょ」

男「!」

幼馴染「さっき、後ろから覗いたとき、ボクちょっとだけ見えちゃったもん」

男「うわぁ」

幼馴染「は、裸の…だったよね…」

男「バレたか」

幼馴染「やっぱり! なんでエッチなゲームしてるの!」

男「うるせー! エロ要素はあくまでおまけなんだよ! じゃあお前も最初からやってみろ!」ガパッ

男「ほら! ここに主人公の名前入力しろ!」

幼馴染「ちょっと眠いけどやってやるー!」



 カチ カチ カチ カチ
   カチ カチ カチ カチ……



【朝方】



幼馴染「……」

カチ カチ カチ カチ

幼馴染「ぐすっ…」

幼馴染「うぇーん…なんで死んじゃうのぉ…」

ヒロイン『ごめんなさい。でもいつかまた輪廻の果てで私とあなたの魂は再会できるから…』

幼馴染「ふたりで一緒に生きるってやくぞぐじだじゃぁん…ボクは君がいないこれからなんてかんがえられないよぉ」

カチ カチ

ヒロイン『だから泣かないでナツキ。私はあなたに最後は笑って見送ってほしいの』

幼馴染「やだよー…ボクのお嫁さんになるっていっだじゃん」

幼馴染「いっぱいエッチしたじゃん…元気な赤ちゃん産んでくれるっていったじゃん…うぅぅ…ぐすっ」

幼馴染「ボクまだキミの手料理たべたいよ…まだまだいっぱいしたいことあるよぉ」 カチカチ

ヒロイン『さようならナツキ…いつまでもこの夏を…私との思い出を忘れないでね…』

幼馴染「あ゙ぁぁぁぁ~~~やだやだやだ!! 死なないで!」


ヒロイン『―――』

幼馴染「いやぁぁ返してぇ、ボクのお嫁さん返事して! 死なないでー!! いやーーー!!」

男「…zzz」


 





 

  ・   ・   ・





【居間】


男「で、今日はお前めちゃくちゃゴロゴロしてんのな。家事は?」

幼馴染「んー」

男「昨日ていうか今朝だけど、最後までプレイしたみたいだな」

幼馴染「んーまぁねー」

男「どうだった、俺途中で寝ちゃって…」

幼馴染「まぁー、おもしろかったよー」

男「あ、ネタバレは禁止な」

幼馴染「んー」

男「……でよ。掃除機かけるから転がってると邪魔なんだけど…シャチもどけてくれないか」

男「おーい。吸い込むぞ。ナツキ!」



 


幼馴染「アッキーボクさ、思ったんだけど」

幼馴染「こうして生きてるだけでいいんじゃないかな」

男「は? て、哲学か!?」

男「いきなり何を悟ったんだよ…」

幼馴染「家事とかさ、そんなのできなくって役に立たなくても」

幼馴染「ボクがここに生きてるだけでキミも幸せなんだよね! ふふっ♪」ゴロゴロ

男「……は?」

幼馴染「アイス取ってきて♪ お嫁さんのことは大事にしようね♪」

男「はぁ? 意味わかんねぇこと言ってないでさっさと起きろこのケツデカ女」ズゴゴゴ

幼馴染(あぁ幸せ♥)

 


第九話<ボクの花嫁修業>おわり

 

更新おわり
次回第十話 月曜に



第十話<依存症>



姉「あのさ~アキ、昼からウチ使っていい?」

男「え?ウチ?」

姉「ってあんたに聞くのも変だけど、サークルの友達がくるのよ」

男「あー、一緒に合宿行ってた?」

姉「そうそう。ちょっとを打ち合わせをね~」

男「ファミレスとかじゃだめなのかよ…」

姉「10人くらいとなると、ウチくらいしか場所がなくってさ」

幼馴染「広いもんね」

男「無駄にな…。ていうかお客さん呼ぶには…あんまり片付いてないんだけど」

姉「あー居間は使わないから。お座敷のほう使うから」

男「そっか」

姉「にしても、いつ帰ってきてもこの部屋散らかってるね」

男「こいつな。私物持ち込みすぎなんだよ」

幼馴染「ごめんなさい」


姉「ってことで、はい」

男「なんだよこの金」

姉「今日は2人で外で遊んでらっしゃい。お昼代も込み」

男「子供かよ。姉ちゃんから小遣いなんてもらえねぇよ…」

姉「いいからいいから。せっかく遊びに来てるナッちゃんにも追い出すみたいな真似して悪いしさ」

幼馴染「ボクのことは気にしなくていいのに」

男「そうそう。こいつは毎日いるからいいの。客ですらない。居候だよ」

幼馴染「もうしわけないなぁ、あはは」

姉「毎日かぁ。ほほ~それでカレンダーがあんなことになってるんだ」

男「カレンダー? なんのこと」

姉「「ほら、廊下にかけてあるやつ」

男「あぁ俺あれあんま見てないから……法事か何かの時の貰いもんだっけ」


姉ちゃんが俺を見下ろしながらいたずらな表情で笑う。
ナツキはラムネ瓶を口先にくっつけたまま、きょとんとしていたが、やがて意味を理解したのかケタケタと笑い始めた。

男(ってことはナツキがなんかしたのか)ジロ


 


重たい腰を上げて廊下まで歩く。
不穏なことを言われては確認せずにはいられない。
後ろからはナツキが調子外れの口笛を吹きながらトテトテとついてきていた。

男「いたずらしたのか?」

幼馴染「ふふん」

男「……なんだ?」

なんの絵も入っていない簡素なカレンダーは落書きだらけだった。
色とりどりのハートマークが日付のメモ欄にたくさん書き込まれている。

先週の土曜日は3つ、日曜日は4つ、一昨日は2つに昨日は3つ。
といった具合に不規則だった。


男「お前なんだよこの落書き」

幼馴染「……さぁねー。くふふ。なんでしょー」

男「暗号か?」

幼馴染「あててみてー」

男「ったく。ひとんちの物にまた勝手に…」

じっと目を凝らして読み解こうとしても、ハート記号の数に何か法則性が見つかるわけではなかった。
一枚めくって9月を見てももちろん何も書いていない白紙だ。


男「うーん…」

男(まさかナツキが謎解きを仕掛けてくるなんてな)

男(キャッチボールした回数? いやそれなら一日1~2個のはずだ)

男(ナツキがメモをするほどということは忘れてはいけない事……)

男(宿題をすすめたページ数か? いや違うな。もう終わったから昨日はしてない)

男(ハートの色は関係あるんだろうか)

男「……」

幼馴染「わかんない? ねぇわかんない?」

男「だ、だまってろ。いま考えてるんだよ…」

男(俺って頭かたいのかな…もっと単純な事実かもしれないな…)



しっかりとした正解のあるゲームの謎解きは好きでも、
ナツキからの出題となるときちんとした法則があるのかすら不安になる。


男(最初にハートが書き込まれたのは8月上旬か…)

男(なんだ? この日…あっ、地区の夏祭りだ。この日はひとつか…)

男(えぇっと…)

その日からの変化といえば、俺とナツキが恋人同士になったということ。


男(これはシーワールドのホテルに行った日か…めちゃくちゃいっぱい書いてるな)

男(ていうかなんでハートなんだ? マークに意味はあるのか?)

男(ハート……)

男(例えば楽しかった度合いとか…? ゲームなら好感度とかそういう類だよな)


幼馴染「わかった? ねぇわかる?」

男「…考えさせろ」

廊下にはエアコンの冷気は届かず、立ったままじっとしているのが辛くなるほど蒸し暑かった。
こめかみを伝う汗をぬぐう。


男(どうでもいいか。どうせくだらない……)

自力で解くのを諦めてヒントでももらおうかとナツキに視線を向けると、
ナツキは勝ち誇った顔をして白い歯をチラリと見せた。

男(くっ…ムカつく!)

男(絶対解いてやる)

男(…仮に楽しかった度合いだとすると昨日3つもあるのはおかしいんだよな)

男(昨日は一日どこに行ったわけでもなく普通にダラダラすごしただけだしな。至って平凡な日だ)

男(振り返ってみよう。昨日は…ナツキがいつもどおり早朝からやって来て)

男(適当にゴロゴロして、キャッチボールして、縁側で汗だくのままHして)

男(夕方に風呂でHして、ナツキが帰る前にもう一度居間でHして…ん?)

男(考えてみれば俺たち夏休みの後半ってほとんど……)

男「!!」

男(…ひーふーみー…! ま、まさか…このハートの数…!)

男(付き合い始めた日から始まってるし…これって…)

幼馴染「わかった?」


男「わかったかも……。だから1発殴っていいか」

幼馴染「ぎゃっ、なんでそうなるの!?」

男「まさかそんなこと毎日毎日書き込んでるとは思わねーだろ!」

幼馴染「そんなことって?」

男「言わせる気か! お前の好きなアレだろ!」

男「見ろこのハートの数! なんだよ、発情期かよ!」

幼馴染「やだなぁ何を他人事みたいに言ってるの」

幼馴染「これはボクたちが愛を深めた回数だよ? わははは」

男「恥ずかしげもなくそんなこと言うなよ」

幼馴染「ていうかアッキーほんとに気づくの遅かったね。ぷぷぷ」

幼馴染「結構真面目に考えてたでしょ」

男「うぜー…暗号ですらねぇよ」

男(当たってたのか。どうりでゴムの減りが早いと感じるはずだ)


もう一度じっとカレンダーをみつめていると、深いため息が自然とこぼれた。


男(こんなに……あぁほんとなにやってんだ俺)

幼馴染「今月も今日合わせてあと2日だね」

幼馴染「ハートマーク予約していい? ちなみに3段に分けてるのは朝昼晩の時間帯でした~」キュッ キュッ

男「バカ」スコン



姉「へぇずいぶん仲いいんだ♪ お姉ちゃんほっこりしちゃうな」

男「なっ、来んなよいちいち」

姉「ええとハートの合計は、10、20…わぉ」

男「わー消せ消せ消せ! お前らの記憶ごと抹消しろ!」

姉「照れない照れない。こんなかわいいナッちゃんが薄着で四六時中側にいて、ムラムラしないほうがおかしいって」

男「おっさんみたいなこと言うなよ!」

男「だいたいひとんちのカレンダーに書き込むあんぽんたんの肩持つな」

幼馴染「あんぽんたんだって」

姉「大事な彼女にいうことかねぇ」

男「ナツキも! 回数なんてどうでもいいだろ…書き留めるなよ恥ずかしい」

幼馴染「よくないもん」

姉「そうよアキ。女の子は意外と気にするんだよ?」

姉「これならぱっと見て自分がどれくらい愛されてきたかひと目でわかるでしょ」

男「……」

男(一日平均2回はしてるのか俺たち……)

幼馴染「今週は先週より2個多いね!」

男「うるせーバカナツキ!!!」

幼馴染「いっぱい溜まったら景品あげるよ!」

男「スタンプカードか!」



景品とやらは少し気になったが、もう8月も終わるので少し早いが一枚めくって9月に切り替えた。


男「お前書き込み禁止な。これ来月からは正しく予定表としてつかうから」

幼馴染「えー…まだ8月終わってないよ。なんでめくるの」

男「客来るって言ってるだろ。こんなもん姉ちゃんの友達にみられてみろ…」

幼馴染「たしかにちょっと恥ずかしいねっ…」

男「他にうちで変なことしてねーだろうな…」

幼馴染「う、うん…シテナイヨ」

男「ほんとに?」

幼馴染「ほんとだよ! お姉ちゃんアッキーが疑う~」ギュ

姉「悪い弟だこと」

男「くそ…」

姉「あ、そろそろ来る頃かも」

男「やべっ、行くぞナツキ」

幼馴染「なんでー? お姉ちゃんの友達に挨拶とかしなくていいの?」

姉「あたしの友達苦手なんだってさ。玩具にされるから」

男「弟ってのは姉と姉の友人達の前では人権がねぇの」

幼馴染「あー逃げるってことね」

姉「アキは美人のお姉さん達に囲まれても全然うれしそうにしないからねぇ」



姉「あ、そうだアキ。ちょいまち」ペラ

男「金ならさっきもらったけど?」

姉「1000円うわのせしてあげるから、避妊具ちゃんと買いなさいね? お姉ちゃん心配」ヒソヒソ

男「~~っ! 使ってるって!」

幼馴染「なになに~? なんの1000円?」

姉「あたしはまだ伯母さんにはなりたくないよってこと」

幼馴染「おばさん? お姉ちゃんまだ若いしボクにとってずっと憧れのお姉ちゃんだよ」

男「こんなやつが憧れなのか…」

姉「はぁ? 調子のってるとまた玩具にするよ」

男「……」

幼馴染「あぁっ、いまはもうボクの彼氏だからとらないで」



  ・   ・   ・



男「あーわかってたけど外あっつ…」

幼馴染「そだね。どこいく?」

男「いきなり追い出されても行くアテねぇな」


炎天下をぶらぶらと歩いていると見慣れたナツキの家の前を通りかかった。



男「鍵は」

幼馴染「ない」

男「お前の部屋で涼むのも無理か…」

男「おばさんたち最近会ってないけど忙しいか? ずっと家いないな」

幼馴染「んー、月末は結構ね。夜はちゃんと帰ってきてるよ」

男「けどお前最近家帰って寝ること少ないし、外泊ばっかりして不良娘なんじゃねぇの……」

幼馴染「アキくんの家におじゃましてるから安心ね、みたいなこと言ってたよ」

男「ナツキ代もらってる俺がいうのもなんだが、うちは託児所扱いなんだな…」

男「開いてないならしかたない…彷徨うか」

男「このくそ暑いなかを…2人でたった3000円でなにをしろってんだ…」ブツブツ

幼馴染「デートだよね?」

男「…流れ的にはそうなるな」

幼馴染「やった! デートだ!」

男「お前はいつでもどこでも楽しそうでいいね」

幼馴染「どこいく!? バッセン!?」

男「なんで最初にでてくるのがバッティングセンターなんだよ…」

幼馴染「今日キャッチボールしてないから、体がうずいちゃって…でも走ると暑いしなぁ」

男「体動かすのは暑いからパス。とりあえず電車で隣町のモールにでも行くか」

幼馴染「あーそれいいね♪」キュ

男「手は向こう着いてからにしてくれるか…この辺知り合いだらけだし」

幼馴染「くふふ、いつになったらベタベタ許してくれるの? まだハート足りない? んー?」

男「人前ではしません」

幼馴染「ケチっ♥」




第十話<依存症>つづく


  

更新おわり
次回明後日くらい

第十話<依存症>つづき



【電車内】



男「やっぱり8月最後の土曜はどこも混んでるな…」

幼馴染「だねー。みんな暇なんだ」

幼馴染「あーあ。もうすぐ新学期かぁ」

幼馴染「ボクもうすこし夏休みほしかったなぁ」

ナツキと他愛もない話をしながら電車で揺られてショッピングモールへ。
暑いから冷房車がいいと言ったので、すこし混み合っている車両を選んで俺たちはつり革に掴まっていた。


幼馴染「ここ風あたって涼しー♪」

男「おう」

幼馴染「もうちょっとこっち。アッキーこっち」

男「うん、わかったから…」

ぐいぐいと引っ張られて距離を詰める。
冷房から吹き出る冷たい風が二人の汗ばんだ前髪を揺らした。

幼馴染「…どうしたの?」

目線をやや下げると、ノースリーブシャツを着たナツキの脇が大胆にも顕になっているのに気がついた。
毛の一本も見当たらないつるつるな脇はやや幼くみえる。
日焼けした首筋や鎖骨には汗の玉が浮き上がっていて、強風に煽られてつぅーっと肌を伝って垂れていった。

男(見慣れてるはずなのに…なんかエロいな)

ふいに周りからの視線を感じた。


男「お前こっちの低いつり革持てよ」

幼馴染「うん? うん」

ナツキの肌をむやみに人目に晒したくなかった俺は、立ち位置を入れかえて天井に近いつり革を無理やり奪った。
その行動で脇を隠せという意図が伝わったのかどうかはわからない。

ちょっとした嫉妬だった。
被害妄想と言ってもいい。
ナツキの無防備な姿をあまり他人に見られたくなくて、明け透けに振る舞ってくれるのは俺の前だけでいいと思った。
こいつにはそういった自覚をそろそろもってもらいたくて、目の前の綺麗な脇にむかってじっと不機嫌な視線を送る。

ナツキはすこし頭をひねったあと、合点がいったのか何度か小さく頷いた。
ようやく腕をおろして、今度は俺の服の裾をつかんだ。


幼馴染「あー。ごめんね。ありがと」

男「いや…俺が気にしすぎ」

男「なんでお前ノースリーブで来た」

幼馴染「今日はアッキーの家にしかいないつもりだったから」

ナツキは少し照れながらぼそぼそと、耳打ちしてくる。

幼馴染「ほら、ボクって汗っかきでしょ」ヒソヒソ

幼馴染「普通のシャツ着るとさぁ…なんか気になっちゃって…」ヒソヒソ

男「そう?」

幼馴染「におい…いつも気にならない?」ヒソヒソ

男「いや、別に…かすかに汗の匂いはするけど」

幼馴染「うわっ。ねぇ制汗剤とか使ったほうがいいかな?」ヒソヒソ

男「うーん。体育でグラウンドの後はどうしてんの」

幼馴染「去年までは友達に借りたりしてた」

幼馴染「というか、女なんだから気にしろって無理やりブシューってかけられてた!」

男「ナツキはあんまり変な匂いしないよ」

男(嗅ぎ慣れすぎただけかもしれないけど…)

幼馴染「でもなぁー」

男「あと汗がでるのも毎日運動してるから新陳代謝がいいだけだろ」

幼馴染「運動ね…毎日してるね♪」

男「だから気にすんな」

幼馴染「うん」

男「でも俺のシャツで手汗拭くのはやめろよ」

幼馴染「あはは。バレてた」




【ショッピングモール】


幼馴染「うーーん。やっとついたー」

男「ってほどの距離でもないだろ…チャリで来れるし」

幼馴染「ひといっぱいだと疲れちゃう」

男「こりゃ店をぶらぶらするだけでも大変だな」


駅から徒歩でアクセスし易い大型ショッピングモールはすでに人でごった返していた。
これから昼にかけてさらに大挙してやってくるだろう。
俺はナツキの手をひいて、人波を縫って進む。


幼馴染「おや?」

男「手つなぐって約束したろ」

幼馴染「デレた?」

男「は? デレてねぇよ……そんな言葉しってるのか」

幼馴染「前にゲームしたとき覚えたよ」

男「あーあれね。新学期になったらユウジに返さなきゃな」

幼馴染「それでね、ボク彼女とずっとデート中に手つないでたんだ」

幼馴染「こんな風に♪」

ナツキはうれしそうに俺の手を強く握りしめる。
暑さに汗ばんだ手のひら同士が糊を塗ったみたいにべったりとくっつく。

幼馴染「くふふ。はぐれないようにね」



男「どこから攻めたい」

幼馴染「んー…アッキー欲しい物ある?」

男「あんま金ない…姉ちゃんからもらったのは、多分昼飯代で消えるし」

男(あとゴム代……まじでそろそろ追加買っとかないと)

男「お前見たいのないの? 服とか…靴とか、雑貨とか」

幼馴染「そうだなぁ。スポーツ用品店いきたいなー」

男「なんでまた」

幼馴染「新しいグラブ! 部活用で! ボクピッチャー用しか持ってないからね」

男「あぁ外野用か。ひゅー自腹切るのか」

幼馴染「うーん、今日はみるだけにしておいて今度お母さんにおねだりするよ」

男「お前小遣いほとんどアイスに消えてるもんな」

幼馴染「暑いから仕方ないよ。早くお店の中入ろっ」


なんでもそろう大きなスポーツ店に入って、ナツキと新しいグローブの選定。
ナツキは子供のように目を輝かして、よりどりみどり、付け心地を試していた。

 



幼馴染「新品の皮の匂い~。すんすん。ボクこれすき」

幼馴染「こっちもいいなぁ…色はカーキ色がいいかなぁ」

幼馴染「どれがいいと思う?」

男「これ」

幼馴染「なにこれ? ぎゃっ高ッ! ってこれ女子プロ選手のつかってるモデルじゃん!」

幼馴染「そんなのいくらなんでも使わないよ」

男「お客さん、良い道具を使うと上達も早くなりますよー」

幼馴染「そうなの?」

男「ほらほら、一度つけてみたらどうです。最高級品ですよ」

幼馴染「…!」ゴクリ

幼馴染「えへへ…ボクにはもったいないけど一度くらい…」

幼馴染「わぁ、これがプロモデル…使い込んだわけでもないのにしっくりくる」

男「でしょう? お客さんの好きなプロ選手も愛用してますよ」

幼馴染「すごいなぁ…ボクもいつかこんな良いグローブで野球したいなぁ…」

男「いつかなんておっしゃらずに、プロを目指すなら早い内が良いですよ」

幼馴染「うーんそうかなぁ、えへへ……って買わないからね!」

幼馴染「はーー。悪ふざけはやめてよ」

男「お前のせられやすいから気をつけろよ?」

幼馴染「うん。だから守ってね♥」

 
そのあと色んなスポーツコーナーを回ってじゃれあいながら店内を一周した。
ナツキは特売中の制汗剤を一本だけ買った。


幼馴染「おまたせー。レジ並んでた! 次いこ次!」

男「ちょっと待って、電話きた」

幼馴染「お姉ちゃん?」

男「いやユウジからだ。もしもし、俺だけど」

ナツキは口をへの字に曲げ、神妙な顔つきで電話口に耳を近づけ、堂々と盗み聞きをはじめた。
頭を押しのけてもしつこく顔をよせてくるので諦めた。

友『アキ? お前今日暇?』

男「あぁ暇だよ」

幼馴染「ヒマじゃないじゃん!」

友『ナツキちゃんいんの? いま家?』

幼馴染「違うよ! 暇じゃないよ! ばいばいユウジくんまた新学期にね!!」

男「おいっ」

男「いま隣町のモール。ナツキと来てるけど、用事なら明日じゃだめか?」

幼馴染「そうだよ。だからボクたち忙しいんだ」


幼馴染「あーさてはユウジくん、夏休みおわるからアッキーの宿題写しに来たかったんだ?」

男「去年までのお前じゃあるまいし」

友『……俺に喋らせろよ』

男「悪い。で、何」

友『モールにいるなら調度良かった。そこの1階にカフェテリアあんだけどよ、行ったことある?』

男「知らない」

友『ならちょっと下見してきてくんねぇか?』

男「下見? 俺が?」

幼馴染「下見?」

友『2人で。今から。昼飯まだだろ?』

幼馴染「まだだよ。お腹すいてきたなー」

男「なんでだよ。俺たちカフェとかそういう店はあんまり…」

友『……』

電話の向こう側でユウジがなにか言いよどんでいる気配を直感的に感じ取った。
この先はきっと男同士の話だ。
相変わらず聞き耳をたてて口を挟んでくるうるさいやつをようやく払いのけて、俺は一旦背を向けて小声で電話を再開する。

男「で、下見って? お前今度行くのか」

友『そ、そのなんつーか。俺も今度お試しデートすることになっちゃって。バイト先の子と』

男「そうか」

友『つめてぇ反応だな』


友『それで相手の子がスイーツ好きみたいだから、店内でケーキ食えるおしゃれな店さがしててな』

友『たまたまパンフレットめくってたらその店見つけたからよ』

友『でも男子の俺が一人で行くのってアレじゃん?』

男「アレの意味がわからないけど、事情は察した」

友『マジ!? 頼んでいいか』

男「俺とナツキがおしゃれな店いくとおもうか?」

友『…だな。悪い…無理なら別に』

男「だからたまにはいいかもしれない」

友『良いのか!?』

男「俺もナツキとカフェ入る大義名分が出来たからちょうどいいよ」

友『なんだよ大義名分って。カップルなんだから気兼ねなく入れよ』

男「あいつおしゃれなとこ行くとガチガチになるから。嫌がるんだよ」

男「どのメニュー頼めばいいんだ?」

友『あぁそれはお前のセンスに任せるわ。とりあえずうまそうなやつ!』

友『頼む!』

男「いいよ。ゲーム借りたし、この夏はいろいろ世話になったから」

友『おう。お前なら二つ返事で引き受けると思ったぜ』




  ・   ・   ・


【5分後】



幼馴染「ヤダ。ボクココ入んない」

男「そろそろ腹減ったろ。ほら、昼になるともっと混んでくるぞ」

幼馴染「ヤダ。ボクフードコートでラーメンとチャーハンでいいもん」

男「バカ言え。いいから並ぶぞ」

幼馴染「なんでなんでっ、ボクこういう雰囲気のお店は苦手なんだ」

男「ほかならぬユウジの頼みだ。いままでいろいろ取り計らってくれたんだから、聞いてやってもいいだろ」

幼馴染「うう…」


ナツキが怖気づくのも無理はない。
俺でもすこし敷居が高いとおもってしまうほど、おしゃれでレトロな雰囲気の店だった。
しかもイタリアン。
当然並んでいる客も大人なカップルが多く、俺たちよりは比較的年齢が高い。


幼馴染「本気なの? ユウジくんここって?」

男「あぁ。あいつ年上のお姉さん好きだから。デートの下見だってさ」

幼馴染「そっかぁ…」

男「あれ、言っちゃってよかったのかな。まぁいっか…」

店員「お並びのお客様。お先にメニューをご覧になってお待ち下さい」

幼馴染「はっ、はひ」

店員「2名様でのご来店ですか?」

幼馴染「…っ!」コクコクッ

男(わかりやすくテンパってるなぁ)

幼馴染「アッキー…メニュー英語で書いてあってよめない…」

男「上に小さくフリガナふってあるだろ。ていうか英語じゃねーし」

幼馴染「カタカナでも意味がわかんないの!」


幼馴染「お金…足りるよね? セット高いよ?」

男「いまランチだからまだ安い方だし、レストランよりは高くないよ。姉ちゃんにもらった金で足りそうだ」

幼馴染「よかった…お金足りないとお皿洗いだもんね」

幼馴染「…」キョロキョロ

幼馴染「ボク達浮いてない? ボクこんな格好だよ!? やばいよ」ヒソヒソ

男「いちいち気にすんなよー」ポンポン

男(うわ、背中汗かいてる…)

ひとまずこめかみから垂れそうになっていた汗の玉をハンカチでぬぐってやった。

男(暑いからしかたない)


幼馴染「こんなことならおしゃれしてきたらよかった…」

男「じゃあこれからは何があるかわからないから、ウチくるときもおしゃれしてこいな」

幼馴染「それはめんどくさいから無理」

幼馴染「外行きの洋服だとキャッチボールできないし」

店員「お待たせしました。お席へご案内いたします」

幼馴染「…はい!」カチコチ

男(ナツキにとって初体験だな)

男(思えば俺たちってほんとこういう場所に縁がなかったんだな…)

男(せっかくだしなにごとも経験だぞナツキ!)


店員「ご注文お決まりですか?」

幼馴染「あぅ、えっと…ぼ、ぼ、ボスカ…イ…オーラ? ぼ…ボスカイ…ええっと…」ボソボソ

幼馴染「こ、このキノコの写真のスパゲッティのセットください!!」

男「ボスカイオーラとペスカトーレのセットお願いします。紅茶は食後でお願いします」

店員「かしこまりました」

幼馴染(むかつく!!!)ゲシッ ゲシッ

男(ばかっ、蹴るな)



  ・     ・     ・



幼馴染「キノコのおいし~~♥」チュルル

幼馴染「あ、巻いて食べないとね!」

幼馴染「アッキーこれ家でつくって~♪ ボス、ボスなんとか…木こり風パスタ!」

男「わかったから、お嬢さん静かに食べよう」


幼馴染「そっちもひとくちもーらい。はむっ、んーこっちもおいしいね。なんだっけ?」

男「ペスカトーレ」

幼馴染「あぁペスカトーレね。あのペスカトーレね。魚が入ってるってことでしょ」チラチラ

男「メニューのカンニングすんな」

幼馴染「…ねぇこっちもいる? キノコおいしいよ」クルクル

幼馴染「はい、あ~~♥ たべろ~~。あーん」

男「…店員さん来てるぞ」

幼馴染「!! はむ…」

幼馴染(早く言ってよ!)ゲシッゲシッ

男「だからなんで蹴るんだよ!」


そのあとナツキと慣れないランチメニューに舌鼓を打った。
あまり大声で談笑できる雰囲気ではなかったが、とても満足のいくゆったりとした時間を過ごせた。
ナツキも店と料理にすごく満足していたようで、ユウジによい方向ができそうだ。


第十話<依存症>つづく


 

更新終わり 滞りがちでスマソ
次回明日

第十話<依存症>つづき



幼馴染「おいしかったね~」

男「紅茶とケーキよかったな」

幼馴染「食後に熱い紅茶なんてセレブだよセレブ!」

男「お前は和室で氷たっぷりの麦茶飲んでるほうが似合ってるな」

幼馴染「日本人はみんなそうだよ~。ていうかユウジくんにはここ早いんじゃない?」

男「さぁな。どんな人と来るんだろうな」

男「報告の電話…いやメールしておくか」

幼馴染「ミッション達成だね」

男「あぁ。けど金使っちゃったなぁ」

幼馴染「アイスは?」

男「ケーキ食ったろ。電車賃くらいしか残ってないから無駄遣いしません」

男「食いたければ自分で買えよ」

幼馴染「ボクも貯金するって決めたんだ! あのグラブほしい!」

男「そっか偉いぞ。がんばれ」ポン

男(さすがに月々のお小遣いじゃ無理だろうな…)

男「このあとどうする。見て回る?」

幼馴染「ここ人いっぱいだから芝生の公園行こ」



ナツキの言う公園とは、モールに併設された自然公園だ。
広い芝生に遊歩道が伸びていて、レジャーシートを広げてピクニックを楽しむ家族連れや、
フリスビーやバドミントンに興じる人たちの姿が多く見られた。

昼過ぎから空には薄い雲がかかって太陽の光をさえぎり、暑すぎることもない外で過ごしやすい快適な気候だった。


幼馴染「わっ、こっちも結構混んでた!」

男「そうか、俺たち手持ち無沙汰だな」

幼馴染「せめてボールとグラブがあればキャッチボールできるのにね」

男「そこで何か買うか?」

園内の売店にはゴムボールやフリスビー、テニス球などいろいろ遊べるものが取り揃えてあった。
ナツキのアイス欲をなだめつつ、昔なつかしい玩具を物色する。


幼馴染「これこれ。飛行機とばししよ」

男「ああ、いいな」

ナツキが手にとったのは100円程度のグライダーだった。
ゴムをひっかけて飛ばす紙製の飛行機だ。
先端がプラスチックの重しになっているタイプや、小さなプロペラのついたタイプ等が存在する。

幼馴染「昔よく遊んだよね」

男「そうだな。ひさびさに飛ばそうぜ」


幼馴染「どっちが先までとばせるか勝負ね」

男「おう」

幼馴染「負けたほうが罰ゲームだから!」

男「何させる気だかしらねーけど俺お前にはこれで負けたことないぞ」

幼馴染「どうかなー?」


ナツキは自信満々といった不敵な笑みを浮かべる。


男「…。い、一応先に罰ゲームの内容きいておいていいか」

幼馴染「負けたほう今日一日しもべね。なんでも言うこと聞くこと!」

男「しもべって…」

男(俺いつもしもべみたいなもんだろ)

幼馴染「じゃアッキーからどうぞ」

男「おう…その前にちょっと調整させろ」

俺はグライダーの翼をすこしいじって傾斜をつける。
揚力が増せばうまく風にのって飛距離がのびるはずだ。

男(頼むぞ…しもべなんて何させられるかわかったもんじゃない)


幼馴染「いいの? 失敗すると変なふうに飛んじゃうよ? ふふふふ…」

男「わかってる…」

男「テスト飛行は?」

幼馴染「なしなし! 一発勝負!」

男「わかった」

前方に人影がないことを確認して、俺はグライダーをかまえた。
輪ゴムを切り込みに引っ掛けて強くひっぱる。
ちょうど視界に入る売店の旗のゆらめきで、風量と風向きを把握できた。


男(もう少し追い風がいいな)

男(風の強さもあとすこし…)

男(勝ったらナツキがしもべ…俺に勝負をいどんだことを後悔させてやる)

男(エロい格好でもさせてやろうか)

幼馴染「おおう、真剣。がんばれ」

俺が内心で邪なことを考えているとは知りもしないナツキは、隣に立ってエールをおくってくる。

男(あとすこし…よし、あとすこし…風よ吹け!)

幼馴染「あれ……へっ、へぅ…」ムズムズ

男(もうすぐ、よし…行ける――――)

幼馴染「へくちっ!」

男「あ゙っ?」ピッ



男「しまった!」

幼馴染「あ~~」

真横から来た予期せぬ妨害に驚いて、離すタイミングを誤ってしまった。
さらに手元まで狂って射出する角度も良くない。

案の定あがりすぎたグライダーは強風に煽られ、空中でぐるんぐるんと2回転した。
そのまま飛距離はのびずに、前方10メートルほどでポトンと力なく頭から墜落した。


幼馴染「あーあ」

男「お前いまのずるいだろ!? 邪魔すんなよ」

幼馴染「なにが?」

男「くしゃみしたろ。寒いか? 汗乾いたか?」

幼馴染「ううん。鼻がむずむずしただけ」

男「……」

幼馴染「アッキーの記録あそこね♪ ぷっ、ひっくり返ってるよ」

男「うるせぇ…誰のせいだ」

幼馴染「よーし! 次ボクだよボク、ふふん」

男「俺としてはやり直しを要求する」

幼馴染「人生は一度きりだよ。事故には気をつけようね」

男「くそっ、むかつく」


幼馴染「いくよー」

男「で、お前はなんか調整した?」

幼馴染「うん。くふっ。じゃーーん」

男「お、お前その形状は…!!!」ゾク

幼馴染「発射ー」ピンッ

ナツキの手放したグライダーははっきり言ってもはや飛行機と呼べる代物ではなかった。
切り込みに差し込むようにとりつけられている翼は丁寧にもがれ、胴体と尾翼しか残っていない。
そして俺のプロペラ機とは違い、先端部分にはプラスチックの重しのみがとりつけてある。

これはもはやゴムで矢をとばしているにすぎない。
飛行機ではなくミサイルだ。こいつもそれをわかっていて発射と叫んだに違いない。

ナツキのグライダーは当然風の影響などほとんど関係なく、びゅんとまっすぐに勢い良く飛んでいった。
そして数秒で地面に突き刺さる。


幼馴染「結構飛んだなぁ。ボクの勝ち」

男「……。ナッちゃんさぁ」

幼馴染「?」

男「はぁ…お前がそんなずるい事するとは思わなかった。失望だぜ」

幼馴染「ずるくないよ。キミが昔やってたことでしょ」

幼馴染「あれでボク何回も泣かされたから」

男「ぐ…。何年越しの意趣返しだ」



幼馴染「しもべする? 敗者はしもべって約束だよね?」

男「しねぇよ……全然納得いかねぇし」

男「大人になった俺はフェア精神で臨んだのに…なんでお前は退行した」

幼馴染「たいこう??」

幼馴染「言ってることよくわかんないなぁ」

男「さては相当恨んでたな…」

幼馴染「そんなことないよ♪ 懐かしくなって思い出したから一度やってみたかっただけ!」

幼馴染「じゃあ泣きのもう一戦しよっか♪」

幼馴染「ボク次はちゃんと羽根挿しなおすからね」

男「そうしてくれ」

幼馴染「次も買ったらアイスおごってもらおーっと」


その後4回試合もやり直したが、正攻法でもなぜかナツキに一度も勝てなかった。
俺の飛行機はしつこく何度も風に煽られて記録がのびずにいた。


男「くそ…選んだ機体が悪かったか」

幼馴染「プロペラなんかにするから。見た目かっこいいだけじゃん」

男「あと天に見放された」

男「なんでお前のときだけ都合よく追い風吹くんだよ」

幼馴染「日頃の行いの差かなぁ?」

男「どの口が―――いや」

男(これが純粋に飛行機を楽しんだナツキと、エロい事考えてた俺の差か…。神様って見てるんだな)

男「にしても5連敗はありえない…!」

幼馴染「すご♥ ボクスポーツ以外でこんなに勝っちゃうのひさしぶり」

男「うぐ。こんなはずじゃ…」

幼馴染「あー優越感♥」ゾクゾク

幼馴染「じゃ、そろそろ帰ろっか。ね、しもべ?」

男「…」

男(見てろよ…次はひいひい言わせてやるからな!)

幼馴染「しもべには早速駅までおんぶでもしてもらおうかな?」ギュ

男「重い重い! いきなりしがみつくな! バカップルだと思われるだろ!」



第十話<依存症>つづく

 

更新おわり
次回明日か明後日くらい

第十話<依存症>つづき



【帰り道】


男「いまメール来たんだけど、姉ちゃんたち夜は家でお好み焼きパーティなんだってさ」

幼馴染「えーいいなーボクも参加ー」

男「酒飲むだろうからなあ…お前絡まれるぞ」

幼馴染「うーんそれはちょっといやかな…お酒くさいの嫌いだし」

男「それにいつも俺たちで家占領してるから、たまにはあけてやらないとな」

男(あと酔っぱらいの介護や片付けさせられそうで御免こうむる…)

幼馴染「じゃあ晩ごはんどうする?」

男「…外で食う金…ないな」

幼馴染「ちょっと待って、お母さんの携帯に電話してみる。ボクの家おいでよ」

男「ナツキの家か…たまにはいいかもな」



  ・   ・    ・


幼馴染「いいってさ!」

幼馴染「お母さん7時くらいに帰ってくるから、ぶらぶらして帰ろ」

男「サンキュ」


夜になって久しぶりにナツキの家にあがった。
帰宅したばかりのおばさんが出迎えてくれた。

ナツキをそのまま大人にしたような雰囲気の明るい人だ。
そのせいかあまりOLのキッチリしたスーツは似合っていない。
最近は仕事が忙しいのか会える頻度はめっきり少なくなって、以前に比べてすこし痩せたように見えた。



幼馴染母「アキくんいらっしゃい」

男「おじゃまします」

幼馴染母「ナツキがいつもお世話になってます」

男「いえ…」

幼馴染「お世話になってまーす」

幼馴染母「待ってね。すぐご飯するね」

幼馴染「ボク手伝うー?」

男「俺たち手伝いましょうか」

幼馴染母「大丈夫。じゃあお風呂だけ洗ってて?」

幼馴染「うん! アッキーはボクの部屋で待ってて」

男「おうわかった」


男「うわぁ相変わらず散らかってんなぁ。よくこの有様で人をまねこうと思ったな…」

ナツキは昔から整理整頓が出来ない。
ベッドシーツはぐちゃぐちゃ、服は出しっぱなし、お菓子の包みは机の上に広がったまま。
雑誌も読みかけのページが開きっぱなしで放置されていた。
そのたびに片付けてきたのは俺た。


男「あーあ。いつ来てもこうなんだよなぁ」

汚部屋と呼ぶほどではないが、これが思春期の女の子の部屋とは到底思いたくない。
こんな空間でゆったりくつろぐのは難しい。
深いため息をついて、まずは床に散らかしてあるシャツを拾い上げることからはじめた。


男「……汗かいた脱ぎ捨てたシャツじゃないだろうな」

男「すん…大丈夫か」

どうやら洗濯済みのようだ。いつものナツキの汗っぽい匂いとはちがって、柔軟剤のフローラルな香りがする。

男「ちゃんと畳んでタンスにしまえよな…」

男「げっ、下着まで!? なにやってんだよあいつ」

幼馴染「アッキーこそなにやってるの!?」

男「うわっ、お前……早いな、びっくりした」

幼馴染「うちのお風呂そんなにおっきくないからねー。さーっと洗うだけなら1分もかかんないよ」



幼馴染「あーそれボクのシャツ。なにしてんのさ」

男「床に放ってあったから片付けようとおもったんだよ」

幼馴染「匂いかいでたでしょ。くんくんって」

男「せ、洗濯済みかどうか確認してたんだよ」

幼馴染「さすがに汚いのは落ちてないって。失礼しちゃうなぁ」

男「悪かったな。にしてもよくこんな散らかせるな…」

幼馴染「い、いいじゃん…お母さんみたいなこと言わないでよぉ」

幼馴染「最近ずっとそっちの家にいたから、なかなかお片付けするタイミングがなかったんだよ」

男「出したらしまう。いつも言ってるよな?」

幼馴染「うい…」

男「あと朝おきたら布団シーツくらいは伸ばせよ…」

男「あーもう、シャチまでひっくり返っててかわいそうに」

幼馴染「…」

男「晩飯まで片付けするぞ」

幼馴染「しもべのくせに小言ばっかり」プクー

男「じゃあしもべの俺がお前のこの下着とか勝手に全部片付けるからな」ピラッ

幼馴染「うあぁう、わかったってばあ」

幼馴染「片付ければいーんでしょ!」


渋々動きだしたナツキと軽く部屋の掃除をしてから、ダイニングに向かった。
おばさんは明らかに気合を入れた手料理を振る舞ってくれた。


幼馴染母「アキくんがウチ来るって言うから、帰りにちょっとお買い物してきちゃった♪」

幼馴染「おいしー。アッキー毎日来ていいよ」

男「なんでだ」

幼馴染母「ごめんねぇ、いつもナツキにご飯つくってもらっちゃって、大変でしょ?」

男「どの道自分の分をつくるからついでなんだけどね、それにおばさんから十分結構食費もらってるし…」

幼馴染「一体いくら!? それっておやつ代も込みなの?」

幼馴染「ボクあんまりおやつ出してもらってない気がするけど!」

幼馴染母「内緒♪」

男「毎日アイスかかき氷食ってるじゃん…」



幼馴染「あ、お父さん! おかえりー!」

談笑しつつ食卓を囲んでいると、おじさんもタイミングよく帰ってきた。
ナツキは席を立って、ぱたぱたと小走りでカバンとスーツを預かりに向かう。

幼馴染父「おっ、アキくんだ。久しぶりにみたなぁ。いらっしゃい」

男「お久しぶりです。おじゃましてます。お先にすいません」

幼馴染父「いいよ。よし、一緒に食べよう」

ナツキの一家とは家族ぐるみの付き合いが俺たちの生まれる前から続いているので、俺にとってこの2人は親も同然だ。
ほとんど気兼ねなくなんでも話す事ができる。
時々敬語すら忘れてしまう。
むしろ畏まった口調のほうが不自然に思える。


幼馴染父「そういえば、アキくんナツキと付き合ってるんだっけ。そんな話を母さんに聞いたような」

男「!」

幼馴染「!」

幼馴染母「あーそうそう、それ聞きたかった~」

男「え…あ…えっと」

幼馴染「そ、それはー…いま話すこと?」

幼馴染母「お母さんナツキが急に浴衣ほしいって言って、お祭り一緒に行ったまでは知ってるんだけど」

幼馴染母「そのあとどうなったのかな~?って気になってたんだけど」

幼馴染母「聞いてもこの子教えてくれないしっ。アキくん教えてくれる?」

男「ナツキ言ってないの?」

幼馴染「うう、うん…なんか言うタイミングわかんなくて。ちゃんとは言ってない…かも」


幼馴染父「ってことは話は本当か?」

男「ああ…はい、まぁ…」

男「この夏からナツキと付き合ってます。内緒にしててすみません」

幼馴染「付き合ってます…ごめんなさい」

幼馴染父「なにを謝るんだ、よかったじゃないか」

幼馴染母「そうだね。最近ずっとアキ君の話ばっかりするからそうじゃないかなと思ってたけど」

男「そうなの?」

幼馴染「うう…」

幼馴染母「それにナツキ全然帰ってこないし♥」

幼馴染「やぁもう、やめやめ! ごちそうさま!」

幼馴染母「お母さんたちはお付き合いするのは大賛成だからね? がんばれっ」

幼馴染「部屋いくよっ!」ガシッ

男「いで。自分で立つから。ごちそうさまでした」


幼馴染母「アキ君今日泊まっていくんでしょ?」

男「え? あー、そうなのかな…」

幼馴染「泊まるよ」

幼馴染父「泊りか!」

幼馴染母「だったらお風呂沸いてるから、ふたりとも先に入っちゃいなさいね」

男「どうも」

幼馴染母「あっ、一緒にはまだ早いからダメだよ? ばらばらにね?」

幼馴染「う、うん…そうだね」

幼馴染父「はは、昔はよく一緒にまとめて入れてたもんだがな、さすがにこの年になると恥ずかしいよな」

男(もうすでに付き合ってから何度か一緒に入ってる…とは言えないなぁ)

男(俺たちのことどこまでの関係だと思ってるんだろ…)

幼馴染父「そうだアキくん。久しぶりに僕と一緒に入るか!?」

男「いや…先にいただきます」

幼馴染父「そ、そうか…じゃあナツキは!? 5~6年ぶりくらいに」

幼馴染「やーーだ。行こアッキー」

幼馴染父「…」

幼馴染父「昔のアルバムでも眺めるか…」



【部屋】


男「ふぅ…」

幼馴染「ごめんね。空気よめないお母さん達で」

男「なんかふつーに受け入れられてちょっとびっくりした」

男「特におじさん。普通年頃の娘に彼氏できたって言うと、すこしは動揺したり不機嫌になったりしそうなもんだけどな」

幼馴染「そうかな? うちのお父さんとアッキーのお父さんって親友でしょ?」

幼馴染「ボク達が生まれた頃からくっつけようとしてたらしいよ」

男「…その話マジだったのか」

幼馴染「お姉ちゃんから聞いたからマジです!」

男「一気にうさんくさくなったな」

幼馴染「ってことはぁ、ボクたち運命の相手なんだね♪」ギュ

男「お、おう…? お前体あつい! くっつくならエアコンつけてくれ」

幼馴染「おっけー」ピ

男「でもよ考えたんだけど、本当にはなからくっつけようと目論んでたなら」

男「俺たちを家族や兄弟同然に育てたのは失敗だったんじゃないか」

幼馴染「どうして?」

男「だってさ、そのせいで俺……」

幼馴染「…?」

男(お前への想いになかなか気づけなかった。なんて言ったらまたからかわれるかな)

幼馴染「なぁに?」

男「なんでもねーよ」


幼馴染「その顔…エッチなこと考えてる?」

男「考えてない」

幼馴染「今夜する? ボクの部屋でしちゃう?」

男「しない。おばさんたちいるんだから」

幼馴染「やっぱりお風呂一緒に―――」

男「いいから入って来い!」

幼馴染「もうっ、照れなくってもいいのに。彼氏として堂々とうちに来たんだから」ツンツン

男「やっぱお前からかってるだろ」

男「よく一日中べたべたしようと思えるな」

幼馴染「くふふ。それくらい好きってことだよ?」

幼馴染「お風呂いってくるね。部屋の中漁ったらヤダよ?」

男「しないって。じゃあ俺その間に家に着替えとってくる」

幼馴染「なーんだ、いやいや言いつつ泊まる気まんまんだね? ツンデレってやつだね?」

幼馴染「あ、ちがうちがう。むっつりスケベってやつかな?」

男「うるせー! で、泊めてくれないのか?」

幼馴染「もちろんいいよ♥」

幼馴染「じゃあ今日はしゃっちーはお役御免だね」ナデナデ

男「一緒には寝ないぞ…」

幼馴染「ちぇっ、つれないなぁ」

幼馴染「でもボクはお客さんをもてなす主義だから。覚悟しておいてね!」



第十話<依存症>つづく

 

更新終わり
次回週明け
このスレじゃたぶん収まらないので次スレ立てます…

幼馴染「ボクだって女の子らしい格好したら可愛いんだからな」続
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