マトリックスのような世界 (29)

曇天の空、人気が一切ない道路の真ん中で
身体を黒いコートで包んだ男を黒服で同じ顔をしたサングラスの男らが囲んでいる。

黒のコートの男はサングラスの男らに
視線を静かに向け、サングラスをつける。

「…嬉しいねえ。
お前らの計算上、 俺はお前ら6人分か。」


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ブンッブンッ!

コートの男は弧の軌道を描きながら裏拳を
黒服に当てていく。

黒服はそれを喰らいながらも拳と蹴りを
コートの男に仕掛ける。

しかし、コートの男はまるでその攻撃を、
その攻撃の一手先を読んだかのように
全て1つのモーションで躱す。

コートの男は黒服の攻撃を完璧に避けると
左足を曲げ、地面と水平に蹴りを出す。

1人の黒服はそれを横に回転しながら避ける。

メキッ!

否、コートの男は蹴りを出すと同時に右手を
ハンマーのようにして避けた黒服の顔面に
クリーンヒットさせていた。

繰り出した右手の軌道をそのまま回転させ、
真後ろの黒服にもヒットさせようとする。

ブンッ!

黒服は後ろに反り、
衛星のように飛ぶ拳を避ける。

黒服はコートの肩を両手で掴み、
青筋を立て、轟音と共にサイコキネシスで
コートの男を吹き飛ばす。


ガンッ!

「ッカハッ!ハァハァ。」

コートの男は街灯に押し付けられ、
ズトンと地面に落ちる。

「…残念だったな。
貴様を[ピーーー]ための6人じゃあない。」

「貴様らレジスタンスを殲滅するための
6人だ!」

コートの男の両腕を倒れたはずの黒服2人が
ゾンビのように立ち上がり掴む。

黒服に拘束されたコートは打つ手が無い。

ドスッ!ドスッ!

黒服の突きが容赦無く
コートの男に突き刺さる。

バシュッ!

一瞬、閃光が空を走る。

「…狙撃ッ!」

コートの男は横を見ると自分の腕を
拘束していた黒服の頭が溶けている。

コートの男はこの好機を見逃さず左手を
拘束している黒服投げとばす。


バシュッ!

投げ飛ばされた黒服の頭も溶かされている。

援軍のスナイパーは
相当な腕の持ち主のようだ。

バシュッ!バシュッ!

次々と黒服をレーザーが溶かしていく。

「…メーデー!メーデー!
こちらNo.3、”世界”を襲撃ッ
しかし、遠距離狙撃にあっているッ」

黒服は耳元を押さえて閃光を
くぐり抜けていく。

逃げる黒服をコートの男は
壁に向かって三角飛びで
黒服の前に立ちはだかる。

「…そうは問屋が卸さないってな。」

ヒュンヒュン!ヒュンヒュン!

コートは足でリズムをとりながら、
黒服のジャブを左右に交わしていく。

やがて、黒服の呼吸のリズムは崩れ始め
繰り出す攻撃に隙が見え始める。

バシッ!バシッ!

コートは左右に躱しながら、
黒服のジャブを躱すだけじゃなく弾いていく。


ズドン!

鈍くて重い音が周囲にこだまする。

黒服の鳩尾にコートの男の拳が
深く突き刺さる。

ダラリと黒服は体を崩れ落とし、
その体は二度と起き上がらなかった。


時を遡ること2年。

白いデスクがやたらと目立つオフィスに
少し肥えた中年が椅子に座ったまま
部下の話を聞いている。

「システムにバグ?」

見た目は35程だろうか、
中年に報告する男は胸のカードから
係長だということがうかがえる。

「ええ、キッドがさっき見つけたって。」

「どこ?」

係長がモニターに指をさす。


「ここ、らしいんですけど。」

すると係長はキーボードを叩いてシステムを
テスト起動させる。

「……ちょっと待った。」

「ここの”橋”がやられてるって
言いたいのか?」

モニターは本来のシステム通りに
動いていなかった。

軽く係長は頷くと中年に提案する。

「キッド、読んできましょうか?」

「ああ、頼む。」

これまた20ほどの男が現れた。
キッドというその青年は身の丈185はあった。

「どうも、バース課長。」

バースの合図でキッドは椅子に腰をかける。

「キッド、お前最終学歴は?」

バースはコーヒーを口に含んで
キッドに質問した。

「高校、ですけど。」

「サイバーテクニックはどこで学んだ?」

「独学です。
大学に行けなかったもんだから、
本屋で専門書手にとって。
無職のままはまずかったんで。」

少し笑みを浮かべてキッドは
バツが悪そうに頭に手をやる。


「よくここまでのレベルにあげたな。」

バースの物言いは心の底からのものだった。
普通だったらこんなバグわかりっこない。
純粋にバースはキッドの頭の構造を
羨ましく思った。

「元々数学は得意だったんで。」

「得意というとどれくらいだ?」

「数学だけならMIT入れるぐらい、
ですかね。」

目を点にして背筋を正す。

「……どうして入らなかった。」

「他の学問に興味が、
なかったんです。」

「そうか。」

「で、要件は?」

「こいつぁ俺がミスったものじゃない。
言い訳じゃなくてな。
お前も気づいてるんじゃないか。」

「やっぱり……」

一瞬キッドの顔が青ざめる。

「察しの通り、外部からの攻撃だ。」

「こいつはタチが悪いものだろう。」

「徐々に侵食してシステムを喰らうタイプ、
ですよね。」

悟ったように静かな口調でこたえた。

「現状、こいつに立ち向かう術はないんだ。」

両手を宙に放り投げた。
それは切るカードはもうないことを意味した。


「?そんなことないですよ?」

きょとんとした顔でキッドは応える。

「というと?」

椅子をくるりと回転させ、
バースは身を乗り出す。

「まぁこれはあくまでこのシステムに入った
”菌”を燃やすものですが。」

キッドが胸からUSBを取り出す。

「このシステムの侵食は止められます。」

「驚いたな。自作か?」

USBを手に取り、じっと見つめる。

「はい、もちろん。」

「課長、今日はおごってもらえますか?」

「of course.」





イギリスでいうパブのような店で
2人は夕食をすませることにした。

「フィッシュアンドチップスと
ステーキバーガー、2つで。
あとビールも2つ。」

綺麗な黒髪の女性にメニューを伝えると
話を切り出した。

「本当に良かったんですか?
ご馳走になっちゃって。」

「馬鹿野郎、
うちの月収いくらだと思ってんだ。」

「へへっ、すいません。」

悪びた様子を取るも心の底では
なんとも思っていないようだ。
社交辞令である。

「奢るついでにお前のことを教えてくれよ。」

「と言いますと?」

「これまでのことだよ。
趣味とかあんだろ、そうゆうの。」

「あー、
数学が得意だったって言いましたよね。
あとMITにも行けなかったこと。」

キッドの目は宙をぶらつく。

「ああ。」

「実は僕、発達障がいなんですよ。」

「アスペルガーってやつか?」

「まぁそうです。」

「そんな素振りは感じられなかったけどな。」

「うまくこれと付き合っていくのに
時間がかかりました。
好きなこと以外集中できない、
逆に好きなことには熱中しすぎてしまう。
厄介なもんです。」

テーブルの木目を目で追っていきながら話す。


「お前の得意なことってなんだよ。」

「学生の頃はひたすら数学とクルマ、
それに格闘ゲームばっかりやってました。」

「上手いのか?
格ゲー。」

「一応、腕に自信はあります。」

「うちの息子がな、好きなんだよ格ゲー。」

「今度会わせてやりてえな。」

そういうと、バースは喉にビールを
流しこんだ。

「そいつはいいっすね。」


バースのジョッキが空になった頃、
突然神妙な面持ちになって辺りを警戒しながら
話を切り出した。

「少し、話を変えるぞ。」

「さっき言ったあのシステム妨害、
お前はどう考える。」

バースの真剣な眼差しに
キッドの目も鋭くなる。

「普通に考えたら、無差別攻撃か、
それとも他社からの妨害?ですかね。」

「普通はそう考える。
だがな、
今回ばかりはそうじゃないらしい。」


話の流れが変わってくる。
ただことではない様子が感じ取られた。

「同業他社だけじゃない、
あらゆる業界のシステムが同一のものに
やられ始めてる。」

「ッ⁉︎」

表に出てきてないだけ恐ろしい。
未知なる脅威が襲ってきていることに気づいていないのだ。

「それってサイバーテロじゃないですか⁉︎」

「ああそうだ。
それも生半可なもんじゃない。
お前があれを[ピーーー]まで
誰も対処できなかったんだ。」

「事態は収束に向かっていると
思っていいですか?」

キッドは若干の希望を持ちながら
バースを伺う。

しかし、バースは悔しそうに力がこもりながら
首を左右に振る。

「あの時、あのUSBは俺の端末で扱った。」

「ええ。」

「あの後すぐに俺の端末に
メールが届いたんだ。」

「誰からですか⁉︎」

思わずキッドは身を乗り出した。


「わからない。
差出人は”外側の人間”だとさ。」

「何かの暗示、でしょうか?
内容は?」

「ざっくり言うとだな。
このウイルスを破壊した者は君が最初だ。
”予言”によると君は、メシアなる存在だ。
だそうだ。」

「……敵か味方かわからない。」

「おまけにこう続いた。
あれを解いたからには君を
監視する者が現れる。
奴等には捕まるな。
捕まった時が最期、
我々人類は敗北を迎える。」


「で、怪しげな人物は?」

「今のところはいない。
あえてこの店にしたのは
広く見渡せるからな。
見つかったとしても逃げやすい。」

「成る程。」

「なんにしてもここは平気そうっすね。」

「ああ。」



店を出て、
2人は不安を紛らわせようとしていた。

「キッド、お前この後どうする。」

「風でも行きます?」

「水と風、うーんやっぱなしだ。」

「ちぇっ、そりゃないっすよ。」

「まぁそう悪く思うな。
あ、あとキッド念の為お前の端末に
データを送っておいた。 」

「巻き込む形になってしまって
本当にすまないと思ってる。
だがな、お前の力が必要なんだ。」

「何すか、急に。
やめてくださいよそういうの。」

「深くは考えるな、じゃまた明日。」

2人はお互いに手を振ってその日は別れた。

しかし、バースとの会話はこれが最期。

翌日、バースは出社せず、
遺体が3日後湖の底から発見された。

こんな感じで進めていく。
6月の10までには終わるはず

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