佳奈多「体操服が盗まれたの!」理樹「そそそそうなんだ……」 (55)

理樹(時は流れようやくお家のゴタゴタも片付いた。二木さん達を付け狙う人達はようやく収まるべき所へ収まり、僕らは再び学校へ帰ってこれたのだ)

あーちゃん先輩「ねえねえ!それで3人生活ってぶっちゃけどうだったの!?おばさんにも聴かせてくれないかしら!」

理樹「だから語るような事じゃないですよ。慣れたら家族みたいなものですから…」

あーちゃん先輩「えっ!まさか!かなちゃんともうそんな関係に……!いやいやいや、それとも三枝さんと!?」

理樹「そんなんじゃないですって!」

理樹(そして放課後、僕は相変わらずほぼ毎日この部屋に来ている。とっくに縁が切れても良いはずなのに未だに仕事を手伝っているのは、もはや習慣みたいなものだからかもしれない。もしくはこれから来るもう1人の……)

コンコン

あーちゃん先輩「あっ、噂をすれば……」

ガチャ

佳奈多「………あら、今日はあーちゃん先輩もいたんですね。手伝ってくれるんですか?」

理樹(……もう1人の仕事仲間がいるからだろうか)

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あーちゃん先輩「ううん、今日はお茶飲みに来ただけかな。だって仕事する義務ないし!」

佳奈多「元気よく言い切らないでください…まったく」

理樹(そう。寮長は既に寮長ではなくなった。代わりにその称号を受け取ったのは二木さんその人だったのだ)

あーちゃん先輩「というかジャージのままだけどもしかして着替えるの忘れてた?」

理樹(二木さんは体操服のままだった。流石に忘れてた訳ではないだろうけど少し気になる)

佳奈多「今日は体育が最後の時間だったんです。でも最後の片付けにはかなり手間取ってしまって、結局HRが始まる頃まで着替える時間が出来なかったから…」

あーちゃん先輩「放課後に各々で着替えなさいって事ね」

佳奈多「時間配分をもっと考えておけばこんな事にはならないんです。まったく、ここが全寮制で着替えの場所に困らないからと言って!」

あーちゃん先輩「そーねー困るわねー」

佳奈多「ふん!」

理樹(今日の二木さんは機嫌が悪いな……早めに切り上げた方が良さそうだ)

あーちゃん先輩「ズズズ………ぷはー……」

カリカリカリ…………

佳奈多「………………」

理樹「………………」

理樹(作業中に二木さんをチラリと観察してみた)

理樹(今はまだ冷えてるから良いものの暑い日もジャージでいなきゃいけないってのは苦労するんだろうな。例の傷も本人が言うには少しずつ引いていっているらしいけど来年の夏にはどうだろうか。……こう思うのもお節介かな)

理樹(それにしても………)

佳奈多「はぁ…………」

理樹(ジャージでも身体のラインって結構出るものなんだな。今は本人がいないからなんとも言えないけどなんとなく葉留佳さんの方が………って何を考えてるんだ僕は!)

佳奈多「…………む」

理樹「あっ……!」

佳奈多「………………あーちゃん先輩。やっぱり着替えます」

あーちゃん先輩「えっ、ここで?」

佳奈多「ジロジロと人の集中を欠く視線を送ってくる輩がいますので」

理樹「ジ、ジロジロとは見てないよ!」

佳奈多「嘘よ!やらしい目でこっちを見てた癖に!ほんとあなたはどうしようもない変態だわ。……変態!」

理樹「わ、分かったよ!外に出ればいいんでしょ!出れば!」

…………………………………………



……………………




パタン…

佳奈多「はぁ…やっと終わった……」

理樹「そうだねえ」

佳奈多「あら、分かってるのかしら?あなたの為に余計なタイムロスが生まれたから遅くなったのよ?」

理樹「そうですね…」

理樹(なんか毎回僕って二木さんの地雷をわざわざ踏み抜いてる気がする……)

あーちゃん先輩「そんじゃ私も帰ろうかなーっと」

佳奈多「あーちゃん先輩も良い加減、内定の一つくらい取ってきて下さい!このままここでのんびりお茶を啜っていればどこぞの遊び人さんと同じですよ」

理樹(遊び人……この学校だと1人しか思いつかない)

あーちゃん先輩「いやはや手厳しいな~!もし職にありつけなかったら理樹君に養ってもらおうかなーっと」

理樹「ええーっ!?」

佳奈多「あーちゃん先輩!!」

あーちゃん先輩「にゅふふ~分かってるって!それじゃ帰りましょっか」

佳奈多「いったい何を分かってるんだか……」

チュンチュン

理樹「んん………ふああぁ…」

理樹(今日は久々に真人の筋トレ声で起きなかった気がする。外で走ってるのかな?)

真人「んがが………」

理樹「って真人も寝てたのか……早起きしたな」

理樹(時計を見てみる。まだ8時だ。これなら全然……)

理樹「………えっ?」

理樹「ああーーーーっ!!」

真人「なんだよ…うるせえな……」

理樹「真人!起きて真人!遅刻しちゃうよ!もう8時だよ!」

真人「はぁ……?」

真人「………………」

真人「なにぃーーーーっ!?」

理樹(急いで支度した。もはや朝食を詰め込む時間もない。支度に15分、教室まで15分!)

ダダダダッ

真人「やべえ寝過ごした!理樹、だっこしてやるから乗れ!」

理樹「それして注目の的になるくらいなら遅刻した方がマシだよ!」










キーンコーンカーンコーン

ガラッ

理樹「はぁ…はぁ…!」

真人「ふぅー…どうやらまだ先生は来てないっぽいな!あせって損したぜ」

ザワザワ…

理樹(確かに先生がいたならもう少し静かだろう。それにしても………)

「~~らしいわよ……」

「マジか……」

ザワザワ…

理樹(この空気…何かおかしいぞ)

謙吾「よう。遅かったな2人とも」

理樹「おはよう謙吾」

真人「おう!」

謙吾「それにしてまあんまりにも来ないんでもしかしたらお前らが?と一瞬疑ったぞ…」

理樹「えっ、なにが?」

謙吾「このクラスの雰囲気。いつもと何かおかしいと思わないか?」

真人「そう言われてみればなんかみんなそわそわしてるな。席替えか?」

謙吾「実はな…二木の体操服が盗まれたんだ」

理樹・真人「「な……なんだってーー!!」」

謙吾「シッ!声が大きい…!」

真人「うっ…」

理樹「ど、どうしてそんなことがっ」

謙吾「俺も詳しい情報は分からんが噂で回ってきたんだ。どうやら二木はカバンの中に入れていたが開くといつの間にか消えていたらしい…」

真人「持ち歩いてた…ってことは女子寮で盗んだってことか?」

謙吾「ああ。あの女子寮を侵入して抜け出せるなんてなかなか出来ることじゃない」

理樹(体操服…つい昨日見たばかりだけどまさか盗まれるなんて……)

真人「そんで奴は?」

謙吾「もちろんすぐに行動を起こした。流石はもと風紀委員長だ。あの頃のコネを利用してまずは2年生の荷物チェックを行っている。ほら、出口の二つの扉にHR前だというのに見慣れない男女がいるだろ?」

風紀委員1「…………………」

風紀委員2「…………………」

謙吾「あれは教室で不審な動きをした者がいないか監視するための人間だ。そうして見張っている間もこうして二木が直々にAから順にどんどん荷物をしらみ潰しにしているらしい」

真人「ほぇ~二木のやつ本気なんだな……」

謙吾「単にショックなんじゃなく元風紀委員長としてよメンツがかかっているんだろう。普段の奴のことを考えれば分からんでもない」

理樹(その後、謙吾も下手に動いて怪しまれたくはないので自分の席に戻った)

理樹「やれやれ、よりにもよってあの二木さんの体操服を盗むなんてとんだ自殺行為だね」

真人「違いねえ」

理樹(僕はカバンを取り出した。怪しいものはないけど今日は教科書の用意が出来ていなかったからいくらか足りてないかもしれない)

ガパッ

理樹「………ん?」

理樹(何かカバンに割と大きめの白い袋が入っている。入れた覚えはない)

真人「どうした?」

理樹「いや、なんでも」

理樹(触った感じは布のような物で、中に入っているのもそれだろう。危険物じゃないと分かれば少し興味が湧いた)

理樹(風紀委員からすればこれも怪しい動きになりそうなのでコソコソとそれを取り出してみた。なんの変哲もない巾着だ)

真人「おっ、ズルいぜ理樹!握り飯なんか隠し持ってやがったのかよっ」

理樹「なんでそうなるのさっ」

理樹(横の茶々を流して袋の中身を確認した)

理樹「………なんだこれ。ジャージ?」

真人「なんだよ体操服かよ…」

理樹(青紫のジャージと黒のスパッツが綺麗に折りたたまれていた)

理樹「でもこれ僕のじゃないんだよ。スパッツってことは多分女子のだ」

真人「なんで理樹が持ってるんだ?」

理樹「分からないな。僕も昨日からカバンを開けた覚えはないし」

真人「不思議なこともあったもんだな。誰のだ?」

理樹「えーっとね…」

理樹(ジャージの名前欄を見てみる)

理樹「二……木…?二木さんって言う人のだね」

真人「ああ、はいはい。二木のか………えっ?」

理樹(…………………)

理樹・真人「「ええぇぇえええええええっ!!」」

風紀委員A「コラ!そこ何をしている!?」

理樹「やばっ…」

理樹(風紀委員が僕らの方に詰め寄ろうとする。おしまいだ!そう思った矢先に謙吾が風紀委員と僕らの間に颯爽と現れた)

理樹「謙吾…!」

風紀委員A「どいてくれ宮沢さん!」

謙吾「そっとしておいてやってくれ。今は理樹の情緒が不安定なんだ!原因は、昨日夢に真人が出てきて……」

真人『今日の俺と明日の俺と同じ俺だと思うな……気を付けな☆』

謙吾「……と忠告してきたことによる。そして今、その忠告が事実であることを理樹が証明してしまったんだ」

風紀委員A「……つ、つまり真人は二人いるのか?」

謙吾「ああ、そういうことになる」

風紀委員B「三人以上いるかもしれない……?」

謙吾「え、ああ、ありえる……」

風紀委員B「お気の毒に……」

理樹(哀れみのこもった目で見つめたあと、2人は元の位置に戻った)

真人「誰が2人いるんだよっ」

謙吾「衝いて出た言葉だ。深い意味はない」

真人「自然に出てる方がダメじゃねーか!」

理樹「とにかくありがとう謙吾。助かったよ」

謙吾「10年の付き合いだ。それより何に驚いたんだ?わざわざ目をつけられるようなことをして…」

理樹「じ、実は……」

理樹(黙って謙吾に例の物をカバンの中から見せた)

謙吾「…………マジか」

理樹「マジです……」

謙吾「一応聞いておくが理樹が犯人なのか?」

理樹「そんな訳ないでしょっ!」

謙吾「それを聞いて安心した…しかしどうしてこんなことに」

理樹「そ、それが分からないんだ。気付いたらカバンに入ってて…」

バンッ!

理樹(その時、豪快な音を立てて扉が開いた。その場にいた全員が一斉にそちらを向き、慌てて目を逸らした)

佳奈多「…………………」

理樹(それは般若だった。震え立つが如きオーラを放ち、確かな足取りで教壇の前に立った。よく見たら扉の前で先生が縮こまっていた)

佳奈多「持ち物検査を行います」

理樹(一言放つたびに空気が痺れる。これが17歳が出せるオーラなのか!?)

続きは後ほど(∵)

ザワザワ……

佳奈多「チェックする前に一つ言っておくわ。この事件はこの学校に関わる全ての人間へ売られた喧嘩よ。他にもターゲットはいるにも関わらず敢えて私の私物を盗んだのがその証拠。この挑発行為を行った犯人が誰なのかはまだ分からないわ。だけど、もし、ここに該当する人物がいるならはっきりと言っておく」

佳奈多「たとえトイレで縮こまっていたとしても息の根を止めてみせるわ」

理樹(おかしいな。部屋がモスクワ寒くなってきたぞ)

真人「理樹…この際正直に言っちまえよっ」

理樹「いや、それはダメだよ。多分今の二木さんじゃ信じてくれないし」

理樹(それに体操服に関しては前科(?)がある…)

佳奈多「…………よし、次」

小毬「か、かなちゃんが怖いぃぃ~っ」

鈴「大丈夫だ小毬ちゃん。いざという時はあたしが守ってやる」

西園「今の彼女は天災か何かでしょうか?」

来ヶ谷「ほとんどの人間は笑えないだろうな」

クド「佳奈多さん……元に戻ってくれるのでしょうか」

理樹(少々冷静さに欠けているとはいえ流石は元風紀委員。ため息が出るほど素早く、堅実な手際で一人一人の検査を済ませている)

理樹(僕の番が来るのはあっという間だった)

佳奈多「次は……貴方ね」

理樹「え……あ、うん…」

佳奈多「聞いての通り体操服が盗まれたの」

理樹「そそそそうなんだ……」

佳奈多「どうせだし貴方も手伝いなさい。2人でやったほうがより効率的だわ。次のクラスの方をあなたに検査してもらっていいかしら」

理樹「!」

理樹(ああ、神様!願っても無いチャンスが生まれた。日頃の行いが良かったからだろうか?二木さんは僕の事をあろうことか普段の流れで味方側に引き込んでくれた。このまま首尾よく脱出出来ればあとは簡単だ。この体操服をわざと誰かに見つかるようなところにでも置いておけばこの厄介ごとからおさらばすることが出来……)

佳奈多「そうだ。貴方の持ち物も検査しなきゃね」

理樹「……………………」

理樹(後ちょっとだった。あと半歩進んでドアに手をかければ魔の手から逃れられたというのに。残念ながら蜘蛛の糸はここで千切れてしまった)

佳奈多「どうしたの?早く出しなさい」

理樹「あ……く……っ」

理樹(二木さんは僕が犯人だとすると少しは勘弁してくれるだろうか?だって寮長の仕事も手伝ったし3人で暮らした時も料理はほとんど僕がこなしてたし)

佳奈多「早く」

理樹(ダメっぽいな)

真人「2のD井ノ原真人!歌いますッッ!!」

全員「「!?」」

謙吾「ヨォッ!!」

真人「一人が~辛いか~ら2つの手を繋いだ~!」

謙吾「ハイ!ハイ!」

真人「二人じゃ寂しいか~らっ輪~になって手を繋いだぁ~!」

謙吾「ヨイショッ!」

真人「きっとぉ~!!それが幾千のぉ~~!!」

佳奈多「うるさい!!」

真人「アッ、スイマセン…」

謙吾「悪かった…」

佳奈多「急に歌い出して何がしたいの!?とうとう頭まで……ハッ!」




ダダダダッ

理樹「ありがとう真人!謙吾!生き延びたらきっとカツ丼奢るよ!」




佳奈多「チッ!まさか本当に直枝だったなんて!」

風紀委員A「追いますか!?」

佳奈多「当たり前でしょうっ!さっさとしなさい!全風紀委員に通達、至急直枝理樹を確保しなさい。彼が犯人よ!」

「「ハァッ!」」

謙吾「無事に逃げ切ってくれるといいが…」

真人「そうだな……」




ダダダダッ

理樹「ハァ…ハァ…!」

理樹(即逮捕じゃないだけマシだけどこのままじゃ破滅は時間の問題だ…何とかしなければ!)

風紀委員D「いたぞー!あそこだ!」

理樹「くそう!」






ガシャンッ

理樹(体育館の横の倉庫に駆け込んだ。しかし隠れるにしては遅過ぎた。ここへ来る前にこちらへ逃げるところを風紀委員の一人に見られてしまっているからだ)

理樹(もはや見つかるのは時間の問題。僕はここで終わってしまうのか……色々あったが変態の烙印を押し付けられてこのまま……)

ドサッ

理樹「……………」

理樹(その時、まるで己の存在を主張するかの様に横に置いていた僕のカバンが傾いて、中の物をはみ出させた)

『直枝はどこにいるー!?』

理樹(そこにはこれまで追いかけ回されてしまっていた原因がこちらを向いていた)

『この辺りに隠れたのは分かっているんだ!もっとよく探せ!男だ、ターゲットは男だー!』

理樹(その袋はこの危機的状況において僕を嘲笑うように………)

理樹「……………!」

理樹(いや、たった今、むしろ僕の味方になってくれるかもしれないことに気付いた。しかしそれはあまりにも危険な賭け…!まさに悪魔との取引!……しかし他に方法は……)

体操服『_____________力が欲しいか?』

ガララララ…………

風紀委員G「あとはここだけだ…」

「………………」

風紀委員G「ムッ!そこにいるのは生徒か?直枝理樹なら大人しくしろ!いいか?お前には黙秘権があり、供述は、法廷で不利な証拠として用いられる事がある。そして弁護人の立会いを求めることも出来るが今のお前に味方する人間などおるまい!さあ、壁に手をつき大人し……ろ?」

女子生徒「………………」

風紀委員G「おっと失礼、女だったか…その格好を見るに体育の用意の途中だな。ところでここに背の低い、ちょうどあんたくらいの男を見なかったか?」

女子生徒「……………フルフル」

風紀委員G「わかった。時間を取らせたな。ちょうど近辺で怪しい男が隠れているからくれぐれも気を付けてくれ。それでは」

タッタッタッ………

女子生徒(理樹)「せ、背はそこまで低い訳じゃない!」

理樹(やれやれ。賭けには成功したけど大事な物を随分となくした気がする。まさか自分から女の子の服を着るなんて……しかも他人の服だし)

理樹「……………」

理樹(それにしてもこの服、当たり前だけど全身から二木さんの香りがしてなんだか……)

「なんだかいけないことをしてるみたい……かな?」

理樹「~~~!?」

次回多分ラスト

理樹(人に見つかり心も読まれるダブルショック!こんな事を平然とやってのける人物といえば…)

来ヶ谷「調子はどうかな?」

理樹「もうやだこの人」

来ヶ谷「はっはっはっ!そう気を落とすな。その場しのぎの案にしてはなかなか良い場所だ。ここなら君がその格好をしていても薄暗くて気付きにくいし違和感もない」

理樹「いや、もう終わりだよ…やっぱり自首してくる」

来ヶ谷「どうして?」

理樹「だっていくらこの1日を乗り切ったとしても犯人が僕だと疑われてるなら今捕まっても一緒だよ。あとはこの学校を出て旅をしながら生きていくらいしかないじゃないか」

来ヶ谷「なるほどなるほど。だが、それくらいの困難なら私に良い考えがあるぞ」

理樹「えっ?」

来ヶ谷「こうすれば佳奈多君に許されるどころか大半の生徒の支持を得られるだろう」

理樹(そんなアンビリーバボーな解決策が本当にあるのか!?いや、来ヶ谷さんならきっと考えられるに違いない!)

理樹「おっ、教えてください!」

来ヶ谷「よし。ではこうしろ。今すぐ、佳奈多君のいるところに行ってそこに立て。そこにまずひざまずいて、理樹君が汚した大地にキスして謝罪しろ」

理樹「真面目に聞いて損したよ!」

理樹(今更そんなことをして許される訳がない)

来ヶ谷「ふふふ…いや、冗談だよ。本当はこうだ…ごにょごにょ」

理樹「二人しかいないんだから耳打ちしなくても……」

来ヶ谷「~~~~」

理樹「えっ」

来ヶ谷「~~~~」

理樹「はぇ?」

来ヶ谷「~~~~」

理樹「えええぇーーーっ!!」

「直枝のやつまだ見つかってないらしいぜ」

「早く捕まってよね…このままじゃ一時間目が終わっちゃうわ」

西園「やはりうちのリーダーはそう簡単には捕まりませんね」

クド「佳奈多さんとリキが争うところなんて見たくないです…」

ズサッ

恭介「よっと。話は聞いたぜ!」

真人「いい加減ロープで入ってくるのやめろよな…そのうちマジで落っこちちまうぜ」

恭介「だが今はそんなことを言っている場合じゃないだろ?タイミングを逃しちまったが理樹のやつがピンチだ!」

謙吾「しかし今回ばかりは何も出来ないだろう。相手は風紀委員、分が悪すぎる…」

恭介「へっ!分が悪い賭けは嫌いじゃ…」

『全校生徒に通達します。今すぐグラウンドへ集合してください。直枝理樹が待機しています。繰り返します……』

「「!」」

鈴「くるがやの声だ」

謙吾「……行くか?」

恭介「もちろんだとも!」

グラウンド

ザワザワ……

佳奈多「人を集めてどういう事?いったいあいつは何がしたいのかしら!」

あーちゃん「ねえかなちゃん~いい加減冷静になりな?きっと直枝君も訳があって逃げ出しただけだって」

佳奈多「人が逃げ出すのは殺人鬼が追いかけてくるか後ろめたい事があった時だけです!」

あーちゃん「ダメだこりゃ」


『全校生徒の皆さん。屋上に注目してください』


「…………………」

生徒「あっ!屋上に誰かいるぞ!」

恭介「あれは……女の子か?」

謙吾「ああ。女だな」

真人「理樹じゃね?」

鈴「女の服着た理樹だ」

キィン…

女装理樹「……………注目してください!」

西園「スピーカーまでセットして…準備万端ですね」

ガヤガヤ…

「な、なんで直枝が女の格好を!?」

「い、いや!よく見ろ。あれはジャージだ!きっと二木の奴を着ているんだろう」

佳奈多「どっ、どこまでもバカにしなきゃ気が済まないの!?」

あーちゃん「はいはい、ストップストップ!」



理樹「おはよう、おはよう。皆さん静粛に。ええと…僕はここに、敢えて、姿を現しました。風紀委員から上手く避けている最中に敢えてここへ立ちました。それは何故か?それは僕が二木さんの体操服を盗んだのが今から行う演説のための手段に過ぎないからなのです」


ザワザワ

「どういう事だ?」

「さあ……」


理樹「しかし、二木さんの言っていた風紀委員への挑発行為とは少し違います。何故なら二木さんの体操服がより魅力的であったため…あくまで僕の私利私慾のままに盗んだ所存であります!」

理樹「きっとみなさんは僕の行動に怒りを覚えることでしょう。しかし!今から語る真実を伝えればその考えもきっと変わるはずです!」

理樹「僕が二木さんの元で働いていたことを知っている方はいたでしょうか?そう、私はある意味二木さんの部下でもあった時期がありました。私はそのとき二木さんになにを思ったのか?」

理樹「私は二木さんから指示された仕事に文句を言うことはありませんでした。言われたことはテキパキとこなし、時には茶の用意もしていました。だがそんな誠意を持った努力に対し二木さんはなんと言ったか?『遅い!もっと早く出来ないのか!』」


ザワザワ…….

「なんだって……」

「そりゃひでえ事をするもんだ…」

佳奈多「………っ!」


理樹「彼女には僕も以前より迷惑をかけており、印象が悪い方だということは自覚しています。しかし、労働には相応の報酬が与えられるのが世の常だというのは当然皆さんご存知のはず。では、二木さんが私にどんな報酬を与えたか?」

理樹「……それもまた罵倒でした…!」


「そんな事が許されるはずがない!」

「そうだそうだ!」


理樹「静粛に!このような事は一度や二度ではありません。いや、僕だけではないはず!というのもここの女性は我々男に対して待遇が酷すぎる!女子寮に侵入しようとして現在も消えない古傷を負った男子生徒を知っていますか?男子寮に女子が来たところで特にこれといったペナルティはないのに!これは男性専用車両がないのに通じる理不尽さだと思われます」

理樹「我々男性は女性に対し社会的立ち位置が平等でなくなることを恐れ、それらを我慢してまいりました。ですが今やこの惨状はなんだ!男尊女卑ならぬ女尊男卑となっているではないか!」

理樹「我々は立ち上がらなければならない!これ以上『男の子なんだからいいでしょ』的な法外欲求を通してはならない!その考えの根源となったのが二木さんである!」

理樹「二木さんはこの学校において今、一番権力のある人間と言っても良いだろう。だが、その権利を何に行使してきたのか?これらの人々は罪なくして苦しんでいる。人々よ失望してはならない!恐怖はやがて消え去り、独裁者は死に絶える。大衆は再び権力を取り戻し自由は決して失われぬ!男性諸君、犠牲になるな
独裁者の奴隷になるな!彼女等は諸君を欺き、犠牲を強いて家畜の様に追い回している!」

ザワザワ…

「確かに風紀委員はやり過ぎているところがあったな…」

「そういえば俺の友達の友達も女子寮に入って2日は元に戻ってこなかったとか…」

理樹「今回の二木さんの行為がその象徴だ!彼女は先生をも退け、HRの時間を潰し、自分の怒りを鎮めるため、犯人を血眼で探していた!こんな権力の私的行使は断じてあってはならない!」

理樹「彼等は人間ではない!心も頭も機械に等しい!諸君は機械ではない!人間だ!心に愛を抱いてる!
独裁を排し自由の為に戦え!」

ザワザワ……

「お、俺…いつの間にかこのままの生活に慣れちまっていた。満足してた……でもそれは違うっていうのか?」

「ああ、おかしいとも。そもそも一生徒が並の先生より権力を持っている事自体なんかおかしかったんだ!」

理樹「今回の事件は僕一人が風紀委員に追いかけ回されているだけ。諸君らはこの事件を対岸の火と見過ごしているのではないのか?しかし、それは重大な過ちである。風紀委員、ならびに二木さんはこれを機に歯向かうものはどんどん晒し首にしていくだろう」

理樹「僕は、諸君らの甘い考えを目覚めさせるために、危険を冒した!戦いはこれからである!」


葉留佳「うわぁ…なんか凄いことになっておりますなァ」

真人「り、理樹が理樹じゃねえ…!」


理樹「女生徒の力はますます増強しつつある。今は女子寮に止まっているがこのままではあるまい。だが、諸君の先輩も、そのまた先輩も、ただ、女の花園が少しばかり見たいと思ったばっかりに無思慮な抵抗の前に死んでいったのだ。この悲しみも怒りも忘れてはならない!それを僕は犠牲を以って諸君に示したのだ!我々は今、この怒りを結集し、女生徒に初めて意義を唱えることによって真の勝利を得ることが出来る。この勝利こそ、代々卒業して行った戦死者全てへの最大の慰めとなる」

理樹「生徒よ立て!悲しみを怒りに変えて、立てよ男子諸君!」


「「うぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」

佳奈多「な、なんなのこの男子達は!?アホじゃないの!?」


理樹「男のほんの僅かなプライドを護るために我々は起つ!!これはこの学校において歴史的な一大事件になるだろう!このことをきっかけに女子と男子は戦争状態になってしまうかもしれないからだ!しかし思い出してくれ。なぜこの学校へ来たか!?これは反乱ではないっ!任務の遂行だっ!!そうだろう?みんな!?わかっているな!?これは訓練じゃないっ!お遊びでもない!捕まったら女子寮で拷問が待っている!いや、捕まるんだ!我々のうち何人かが確実に!!それでもいいんだな!」


「「「直枝!!直枝!!直枝!!直枝!!」」」

「直枝が俺たちの新たなリーダーとなるんだ…!」

「ああ!この腐れきった社会を彼が断ち切ってくれる!彼は新たなる希望だっ!!」

理樹(ここまで来て来ヶ谷さんの案に乗るべきじゃなかったと後悔した。まさかこうまで反響を及ぼすとは……)



数十分前

理樹『全生徒の前で演説!?』

来ヶ谷『そうだ』

理樹『出来る訳がない!そんなの誰も聞いちゃくれないよっ』

来ヶ谷『それはどうかな?君の真に迫った声ならきっと誰もが耳を傾けてくれるはずだ』

理樹『いやいやいやいや!無理無理、絶対無理!』

来ヶ谷『ええい黙れうるさいこのファッキンモヤシ小僧が!』

理樹『えぇ……』

来ヶ谷『どのみち生き残る道はこれしかない。ほら、台本を渡しておくから今うちに屋上へ向かっておけ。後で私が民を誘導する』

理樹『わ、分かったよ。やるしかないんでしょ……』



現在

理樹「最初はただ二木さんに認めてもらいたかっただけだった。ムシャクシャしたから二木さんのスパッツの匂いを嗅ぎたかっただけだった。しかしもはやこれは戦争だ!男の尊厳を懸けた戦争だ!!女性代表として二木さん!あなたの言葉を聞こう!」

佳奈多「言わせておけば………」

来ヶ谷「マイクだ」

佳奈多「ひゃっ!?く、来ヶ谷さんっ!脅かさないでください!」

来ヶ谷「いや、驚くのはまだ早いぞ。何故なら君は事件の真相に気付いていないからな」

佳奈多「…………?」

来ヶ谷「理樹君は本当に盗んでいない。というか、誰も君の体操服を盗んでいなかった」

佳奈多「…………はあ?」

来ヶ谷「理樹君の話を聞いて犯人を考えてみたんだがどうもそんな結論になってしまったんだ」

佳奈多「馬鹿な…それじゃどうやって私の体操服がカバンから出て行ったんです?まさかカバンが一人歩きしたとでも?」

来ヶ谷「まず人が君のカバンから物を盗む…それも厳重な女子寮へ進入して。それは流石に無理があるな」

佳奈多「ええ。でも直枝だというならその疑問はすぐに解決します。きっと寮長室の時にでも盗んだんでしょう」

来ヶ谷「君は着替えてカバンに入れたものをその帰りに盗まれる程馬鹿じゃないはずだ。それこそ理樹君には絶対に出来ないよ」

佳奈多「……だったらどうやって?」

来ヶ谷「まだ分からないか?君は体操服を入れるカバンを間違えたんだよ」

佳奈多「……………………」

佳奈多「!!!」

来ヶ谷「少年は気付いたらカバンに入っていたと言った。どうだ。辻褄が合うだろう」

佳奈多「あ……あ……」

来ヶ谷「さて。それではマイクで堂々と彼にブチ切れてくれ。発言の内容は君に任せる」

佳奈多「……………………」


理樹『さあ二木さん!答えてよ!』

キィン……

「ど、どうなっちまうんだ…?」

「おっ、俺!今のうちに耳塞いでおくよ…」


佳奈多「あ……えっと……ゴホン……」


ザワザワ……

佳奈多「た、確かに普段直枝に言いすぎたかもしれないわ。そこは…ごめんなさい」


「「!?」」


佳奈多「そうね…確かに私は風紀委員だからと言ってやり過ぎていた。今回の直枝の行いも決死の思いなのならばそれを汲み取らない程、心が冷たいわけではないわ。酌量の余地は充分あると思う」


「おいおい、あの二木佳奈多が寛大だぞ!?」

「明日は雪降っちゃうんじゃない?」


佳奈多「私達、女子寮に住む生徒は男が汚らわしいものだと信じ、それらを純粋無垢な生徒に及ばせまいと躍起になっていたけど今こそこうした相互理解への対話が必要となっていくのではないかしら」

佳奈多「今回の直枝さんの演説を聴いて感動いたしました。今こそ我々全校生徒は互いに手を取り合うべきなのです。今、暗い雲が消え去り太陽が輝いて、明るい光がさし始めたわ。新しい世界が開けてきた。貧欲と憎悪と暴力を克服しようじゃありませんか!」


「なんだ、二木って良い奴じゃん!」

「ああ。俺たちはお互いをよく知らないまま対立しようとしていたのかもしれないな…」


佳奈多「人間の魂は翼を与えられて、やっと飛び始めました!虹の中に飛び始めた。希望に輝く未来に向かって!輝かしい未来が君にも私にもやって来る。我々すべてに!今こそ生徒は心を一つに!」


「ワァーーーーッ!!!!」

「「直枝、二木、万歳ーー!!」」

理樹・佳奈多((な、なんとか誤魔化せた……))

後日

寮長室

理樹「ご、ごめん二木さん!!勝手に着ちゃった!でもちゃんと洗ったよっ」

理樹(二木さんは一足早く自分の部屋で作業を始めていた)

佳奈多「当たり前でしょう?まったく……」

理樹「あ、あれ?あんまり怒ってないの?」

理樹(てっきりこってり絞られるのかと思った。二木さんって後からジワジワ指摘してくるタイプなのに…)

佳奈多「そのことに関してはもう忘れるわ。怒れる気分になれないから」

理樹「あ、そう……」

佳奈多「…………なに、手伝ってくれないの?」

理樹「あっ、そ、そうだね………」

理樹(慌ててペンと消しゴムを取り出す。せっかくの幸運を別の怒りで帳消しにしたくはない)

理樹「……………」

佳奈多「…………そうだ。お礼、何がいいの?」

理樹「へっ?」

佳奈多「だからこの仕事の報酬よ。あなたあの時、罵倒しかくれなかったーとか言ってたじゃない。欲しいんでしょ?私が叶えられる範囲なら考えてあげてもいいわ」

理樹(そういえばそんな事も書いてたな)

理樹「な、なんでもいいの?」

佳奈多「エッチなのはダメ」

理樹「考えてないよ!」

佳奈多「どーだか。現に私の服を断りもなく着てたじゃない」

理樹(それは何も言い返せない)

理樹「そうだな……」

理樹「じゃあさ、ずっと言えなかったこと、言ってもいいかな?」

佳奈多「えっ?」

理樹「恥ずかしいし断られたらどうしようかってずっと悩んでたんだけど報酬にしてくれるなら…あっ、でも必ず断ったらダメって訳じゃないからっ!」

佳奈多「い、いいから言ってみなさい。検討してあげるから…」

理樹「ぼ、僕…二木さんに……」

佳奈多「う、うん……」

理樹「二木さんに一緒に服を買いに行ってほしいんだ!」

佳奈多「えっ」

理樹「ほ、ほら!実はこの間の女装のお陰で影からずっと変な目線を向けられてるような気がして怖いんだ!現に西園さんが言うにはそういう変な人達が集まってファンクラブを作ろうとしてるとか!」

理樹「だから男らしい服とかアクセサリーを買ってそういうのを払拭したいんだけど真人達に頼むと嫌な予感しかしないから…」

佳奈多「なるほど、そういうことか……あせって損した……」

理樹「えっ?今なにか言った?」

佳奈多「なんでもないわ。それより買い物だっけ?それくらいならついて行ってもいいわよ。私だってそこまで詳しくないけど」

理樹「や、やった!」

佳奈多「その代わり私もついでに何か買うと思うけどいい?」

理樹「もちろんだよ!そうと決まればなんかその日が待ちどうしくなってきた!いつ行こっか!?」

佳奈多「ふふっ、そんながっつかなくても私は逃げないわよ」

あーちゃん「あらあら、二人とも随分仲が良くなったようで安心したわ~。これで我が学校もまだまだ安泰ね」

佳奈多「あ、あーちゃん先輩いつからそこに!?」

あーちゃん「さあね~?」









終わり(∵)

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