男「春から大学に通うはずがどうしてこうなったのか」 (9)

秋辺りに、なろうで投稿しようと思ってるファンタジーのプロローグが長くなり過ぎるのでここに投稿します。チラ裏暇潰しです。

▼注意点
学園モノ成分薄めのただのファンタジーです。
地の駄文があります。
胸糞展開があるかもしれません。
プロットだけなので文に起こすのに時間が掛かります。超亀です。
以上オッケーという方はお読み下さい。

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プロローグA

「貴方に、貴方の命は必要ないでしょう?」


 半袖で外を彷徨くにはまだ些か寒く、コートを着ると少し汗ばむような微妙な季節。

 それが、僕が春に対して抱いている心象だ。

 よく、会話に詰まった自己紹介の場で聞かれる質問で、好きな季節を訪ねられる事がある。

 大体が春、夏、秋、冬の四択だろう。僕の記憶上ただ一人だけ、霜降と答えた奴が居るが、その話は今は置いておこう。

 僕はそういうとき、大体春と答えるようにしている。

 なに、話と矛盾しているって? いやいや、僕は別に春が嫌いとは言っていない。どちらかというと、僕の中で季節に優劣は無い。

 夏は虫が沸くし汗ばんで不快だ。秋は大体のテレビ番組が食べ物特集ばかりで詰まらなくなるし、冬は至極単純に寒い。

 逆に良いところも色々あるんだが、僕が春と答えるのには理由がある。

 会話をそれ以上広げ難いのだ。


 春と言えば桜、それに付属してお花見が挙がり、環境の一変や過ごしやすい季節という印象が主なところだろう。

 パッとすると会話が広がる余地もありそうだが、一体桜や花見なんかでどれだけ会話が広がるだろうか。

 私も桜好きなんだ~。や、春物コーデが一番可愛いよね~的な返しが相手方の精々であり、僕はそれに対して「そうなんですか」と応える以外無い。

 何故春が好きかと聞かれたら、過ごしやすいからとでも答えておけば自然に会話は終わっていく。

 これだけ聞けば僕が人間嫌いかコミュニケーション障害、またはひねくれものと誤解を受けそうだが、無理に会話をするのが嫌いなだけで、コミュニケーション自体は割りと好きな方と自負している。

「そ、そうだ! 好きな季節は?! 好きな食べ物は?! えっと……っと……あ、猫と犬どっちが好きかな!?」

 人は焦った時ほど、頭の回転が早くなって、頭の回転が早くなっているのに、口から出てくるのは常套句ばかりだ。

「興味、無い。死体と話す趣味も、無い。」

 機械的。感情の起伏が無い。目が死んでいる。

 僕が彼女に抱いた心象はそれだけだ。故に、会話が成り立たないというのも理解出来たが、何とかして時間を引き延ばそうと躍起になる。

「ま、まぁ落ち着いて! まずは自己紹介でもしよう!! だ、だから!」

 側頭部で二本に束ねられた赤い髪。低い背丈。ワインのような深く暗い赤目。

 美女かどうかと問われたら美少女と即答するような初対面の少女は、僕の額からそれを離さない。

「まずはその銃を下ろしてくれ!」

 必死の説得だ。命乞いだ。死にたくない。

 どこの学校か分からない深緑色のブレザーを羽織る少女の手には拳銃が握られている。誰か何故こんな状況なのか説明してくれ。

「貴方の命は、貴方に必要ないでしょう?」

 そう言って、少女は安全装置を引いた。駄目だ、僕は死ぬ。それだけは分かる。

 冗談じゃない。本気だ。見たこと無いけど本能的に分かる。こいつはこれまでに何人も殺しているんだろう。事務的で、冷静で、冷酷だ。







「僕は春が好きで! 納豆卵かけご飯が好きで……ええあっと……!! 犬も猫も両方好きだ!!」

 口に出した瞬間、あぁ駄目だ、と後悔した。

「そう。さようなら」

 当たり前だ。

「だ、誰か……誰か助けてくれえええ!」

 パニックになりながらも、指一本すら立ち向かえない自分にほとほと愛想が尽きそうだ。

 震えて何も動けなくて、誰が居るかも知らないどこかも分からない倉庫の中で叫んで、異様にゆっくりとトリガーを絞っていく指を凝視することしか出来ない。

 人は死ぬ時、走馬灯が脳に流れると聞くが、そんなことは僕に無いようだ。

 ただひたすらに、爆発しそうな心臓の音だけが聞こえて、口が乾いて、目から汗だか涙か分からないものが大量に流れていく。

 死を覚悟した。受け入れたくはないが、もう諦めた。

 そんなときだった。

「卵かけご飯のトッピングは納豆に限るよな!」

 倉庫のスライド扉が勢いよく弾け飛んで、これから長い長い時の中を共にする相棒に出会ったのは。

 薄暗かった室内に目映い光が射し込み、金髪のポニーテールが輝いて見えて、片手に箸を持って丼の中をネチャネチャと掻き回す彼女に出会った。

 今思い出しても、あまり格好いいシーンではなかった。

第一章

「全て信じろとは言わんさ。だけど、せめて」


 食堂。

 深緑色の学生服姿の人達がそれぞれに好きなモノを食べて、好きな相手と話して、好きな様に過ごしている。

 一般的な学校の食堂とは違い、広さはテニスコート数十個分はあるんじゃないか、と思う。正直広すぎて正確には分からない。

 規格外な広さに合わせて大小様々な机や椅子が大量に備え付けられているが、そのほとんどが埋まっている。なるほど、確かにこんなに人が居るなら仕方ないよな。

「ほら食え食え、暫くはアタシの奢りって事にしてやるよ」

 底抜けの明るい声と共に、盆が二つ。小さな机に粗雑に置かれる。

「あ……その、ありがとう」

「良いってことよう! トッピングは納豆だ、好きなんだろ?」

 「大好きだ」と応えて、僕と彼女は盆に乗った丼をかき混ぜ始める。卵と納豆が、米と絡んで食欲を大いにそそる音をたてる。

「ええっと、その、金髪……さん」

「金髪で良いって言っただろ、名無し君」

 僕の命を文字通り救ってくれた納豆少女は箸先を僕に向けて咎めるように言った。

 金髪にポニーテール、口調そのままの快活で目鼻立ちの整った顔付き、僕と同い年。詰まりは一八歳とのこと。
 
「……慣れないもんだな」

「何が?」

「この、プレイヤー名ってやつ」

 「あぁね」と口にし、かき混ぜ終えた納豆卵かけご飯を口に掻き込む金髪。金髪に倣うように、僕も自分の分を掻き込んだ。美味い。とても美味い。安価且つ手間の少なさでこれに勝る料理は無いんじゃないかと思う。

 金髪はさっきのと合わせて二杯目になるはずだが、そんなこと感じさせない食べっぷりだ。

「さっきも言ったが、この世界では全員名前が無いんだよ」

 金髪がコップに注がれた水を口に含み、一呼吸。

「私達はもう、とっくに死んでるんだからな」


 そう、信じられない話だけど、どうやら僕は……いや、ここに居る人間全員が既に死人らしい。

 聞いた瞬間は取り乱した。そらそうだ、僕自身が死んだ事を思い出せないのだから。死んだと聞かされて「はい、そうですか、なるほど」と聞き分けるほど利口ではない。

 でも、さっき金髪が助けてくれなければ僕は多分拳銃で頭を撃ち抜かれていたことだろう。

 高校生が銃を持っていること。寝ていて気付いたらあの用具倉庫に居た事。そして、あの赤い少女の言葉。

『死体と話す趣味も、無い』

 取り乱しながらも状況を整理していくと、少なくともここは僕が知っている地元では無い事が分かる。

 そして無償で僕を助けてくれた金髪が、そんな突拍子も無い嘘を吐くとは思えない事。

 だから僕は、仮にではあるが、今の僕が既に死体であるということを飲み込んでいる。

「名前っていうのは生前のモンだ。死体が名乗るのはこの世界で禁じられてるのさ」

「その、さ。一回聞いたけどあんまり理解出来てなくて……この世界って、一体何なんだ?」

「あぁ、まぁ一回聞いて全て理解出来る訳ないよな。いいよ、もう一回説明してやる。質問は都度しろ。」

 納豆卵かけご飯、略してNTKGの残りを一気に平らげた金髪は、性格に反して至極丁寧に、ゆっくりと説明してくれた。

「天国や地獄ってあるだろ? あれがここだ。ここは死者の集う世界なのさ。んで、殺しあってる」

「……天国や地獄にしては随分その、生活感というかリアルというか、何か印象と違うんだけど」

「んー、まぁ天国地獄ってモンは生きてる人間様が勝手に考えた作り物だからな。的を射てたのは死後の世界があるって点だけってこった」
「まぁ最初から一気に詰め込む必要も無ぇし、後で詳しく天使達に説明してもらえるだろうから詳しいことは省く。これから取るべき行動と覚えとくべき事だけを教える」

「天使ってあの天使?」

「あとだ、あと」
「とりあえずそうだな、これから取るべき行動だけどな。まずはプレイヤー名の決定と能力の選定だな。これをしねぇと、一時間も経たねぇうちに……分かるだろ?」

 脳裏に倉庫での出来事がフラッシュバックした。金髪は茶化すようにニヤけながら言ってるが、僕的には冗談になってない。全力で頷いた。

「プレイヤー名は生前の名前に関係なけりゃ何でもオッケーだ。大抵の奴は自分の外見や、好きなモンを名乗ってる。あたしみたいに金髪って感じの奴もいりゃ、ギターが好きだからギターって着けてた奴もいる」
「あ、いや。ギターの場合は『居た』が正しいか。因みに既に誰かが名乗ってる、名乗ってたのと同じ名前には出来ないぜ」
「因みに、お前を襲った奴は赤髪って奴だ」

「赤髪……」

「基本的に、単純な名前であるほどもう余ってないぜ」

 なるほど。確かに僕も、何も知らなければとりあえず黒髪やら学生って付けようとするかもな。

 そこで純粋な疑問が生まれる。

「あれ。と言うことはもしかして……」

「気付いたか? そうだ。絶対覚えておくこと、それは単純な名前ほど長いことこの世界で生き延びてる。単純な名前の奴は強いってこった」

 飽くまで他人事の様に言う金髪。

 生き延びてる、って事は逆を返すと……いや、これはまぁ……置いておこう。今言った所で後回しにされるだけだろう。

 話を聞きながら進めていた箸が、丼の底をつつく。いつの間にか食べ終わっていた様だ。

「んじゃま、善は急げって事で行くか。お前の名前を付けに」

 立ち上がって「んー!」っと伸びをする金髪。よくよく見るとまぁまぁの発育具合なのが分かる。

 せめてもと、金髪の盆も近くの食器返却口に返して、先に出口へ向かっていく金髪を追い掛ける。


 この時、僕は気付かなかった。

 食堂は誰も破る事のない休戦地帯だと教えられていた。

 だから僕は油断していたのだろうか。

 いやきっと、まだ金髪の決定に流されるだけで、この世界の本質を見抜けていなかったのだ。

 僕は死んで、死にかけても尚、そこまで酷い環境じゃない。何だか現実味がない。と逃げていたのだ。だから気付かなかった。

 食堂に入った時、食堂を出る時、全員の視線がこちらとは合わないように向いていたということを。

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