女「私と一緒にいたら不幸になるよ」 (272)

一ヵ月前

先生「転校生の女さんだ。みんな仲良くな」

  
女「大阪から来ました。よろしくお願いします」ペコ

ザワザワ
ガヤガヤ

男「(かわいいなこの子。ていうか早く課題終わらせないと)」カキカキ

女友「(すごい肌白いな)」

友「ん?大阪?」

男「(あ、芯折れた)」

先生「席は女友の隣だ。あの席に座ってくれ」

女友「こっちこっち」

女「……はい」

  
現在

男「帰ろうか」

女「うん」

女友「どっか寄ってく?」

男「そうだな。女さんどこか行きたい?」

女「男君が決めてよ」

男「じゃあマクドで」

女友「えー昨日も行ったじゃん」

男「好きだから」

女「私もそこがいい」

女友「女は男君の味方か…!」

女友「しゃーない。行こう」

  
マクド

男「以上で」

店員「こちらでお召し上がりですか?」

男「はい」

店員「かしこまりました。こちらの番号札を持って席でお待ちください」





女友「いつも思うけどよく食べるね」

男「育ちざかりだから」

女友「ふーん。ひょろいのにね」

男「それはたしかに」

  
店員「お待たせいたしました」

男「ありがとうございます」

女友「どもです」

女「……」チュー

男「…ん?」

男「あれ、一つ頼んだの来てないような」

女「…………」

女友「レシート確認しなよ」

男「……頼んでるな。ちょっと言ってくる」スタスタ

女友「あいよ」

女「(……偶然だよね)」

  
翌日 学校

男「……はぁ」

女友「聞いてほしそうだから聞いてあげようか?」

男「行きにチャリがパンクしたんだよ」

女「……」

女友「あらら。残念」

男「昨日の帰りはベル取られてたし…」

男「取って意味なんてあるんだか」

女友「てか昨日って注文忘れられてたよね?」

男「そういやそうだな」

女友「最近ついてないんだね」

女「……」

  
ロッテリア

男「トイレ行ってくる」

女友「あいよ」




女「…どうしよう女友ちゃん」

女友「ん?」

女「男君が不幸になっちゃう」

女友「急にどうしたのよ。不幸になるって」

女「私の責任かもしれない!」

女友「ふふ。なにそれ。特殊能力でも持ってるの?」

女「そうなの!」

女友「……電波さんですか」

女「うぅ」

  
男「……!」スタスタ

男「女さん泣いてんの?」

女友「ちょっと聞いてあげて」



5分後

男「俺が不幸になるかもしれないと」

女「…………わかんない」

女友「うーん」

女友「自分の近くの人が不幸になるってただの考えすぎじゃないの?」

女友「マーフィーの法則みたいな」

男「思い込みってことか」

男「昔からって言ってたけどそれはいつ頃から?」

女「……10歳くらいでは自覚してた」

  
女友「私は大丈夫なの?男君のことしか言ってなかったけど」

女「ずっと男の人だけだったから。今までも同性ではそんなことなかったの」

男「それでも思い込みだと思うけど…」

女友「転校初日から男君は図々しくも私たちと一緒にいてたよね」

男「女さんがかわいかったからしょうがない」

女友「その間に男君は感じたことあった?」

男「うーん。思い出せないだけかもしれんが別に不幸なことなんて…」

女「(……言ったらきっと引かれちゃう)」

女「…………」

女友「(歯切れ悪いな。言いにくいことなのか…)」

女「ちょっと明日まで考えたい…」



自室

友「(一人はさみしいな…)」

  
翌日 放課後

女「モス行く。二人も来て」

女友「うん」

男「おう」



モス

女友「今日は積極的だね」

女「いろいろ考えて説明したくなったの」

男「そっか。ありがとう」

女「……」

女友「男君昨日どうだった?」

男「特に何ともなかったよ。覚えてる限りでは」

女「…………」

  
女友「今まではどんなことあったの?」

女「小学校の時は席が近い子が虫歯になった」

女友「ふふ」

女「笑いごとじゃないの!」

男「他は?」

女「中学校の時は仲良かった子がプールで溺れた」

男「……うーん」

女「他にもいろいろあったの」

女友「まぁ大量にないと自覚症状ないだろうし…」

女「階段からこけて捻挫したり」

女「自転車盗まれたり」

女「たまごっちなくしたり…」

  
女「私の近くの人が不幸になって怖くて…」

女友「…そっか。茶化してごめんね」

女「ううん。おかしく思われても平気」

女友「……」

男「家族は?」

女「お母さん以外いないの。一人っ子だし」

女「お父さんは私が生まれる前に事故で死んじゃったから」

男「……そうか」

女「気にしなくていよ。私も写真でしか見たことないし」

女「それに形見も持ってるし」

女友「そうなんだ」

女「センス疑うくらい変テコなアクセサリだけどね」

……


  
女友「女の近くにいた人ってのは物理的な話?」

女「……それもある。でも多分違うと思う」

男「もしかして女さんのことが好きな人か」

女「…………」

女友「告白されたことはあるの?」

女「……ある」

男「その人はどうなったの?」

女「告白の最中に倒れて入院した。一週間だけ」

男「……」

女友「それって好きな人と関係あるの?小学校の時はただ席が近い人だったんでしょ?」

男「小学校の時は席が近い人と出席番号が近い人と話しかけてくれた女子全員好きになるんだよ」

女友「そうなんだ。単純」

男「男は全員そうなんだよ」

  
女「長い期間で見たらより強くなってきてる気がするの」

女友「被害の度合いが?」

女「うん」

男「……」

女「中学校の時に告白した人も途中で倒れて入院したの」

男「告白怖いな。倒れてばっかり」

女友「(モテそうだし何度も告白されるのも分かるな。うらやましい)」

女「あ、あのね」

男「?」

女「違うならそう言ってほしいんだけど……」

女友「(……まさか)」

女「お、男君って私のこと好き…?」

男「!」

  
女友「なんてこと聞いてんのよ」

女「ご、ごめん」

男「そりゃ女さんのことは好きだけど…」

女「男君ほんとに?」ウルウル

男「!」

男「でも正直まだよくわかんないかな」

女友「かわいいとはずっと言ってたけどね」

女「……」

男「女さんのことが好きな人は不幸な目に遭って、それが徐々に強くなってるってことは」

男「好きな度合いで危なさが変わるとか…?」

女「…………どうかな」

女友「じゃあ小学校の時はみんな本気じゃなかったってこと?」

男「本気じゃないってことはないけど、他の人もすぐ好きになったりするじゃんあの頃は」

女友「男側になったことないからわかんない」

  
男「たしかにそうだな」

女友「これって本人に聞く以外に確かめようがないのか」

女「……うん。だから恥ずかしくて言おうか迷って」

女友「(私を好きになる人は不幸になっていくなんて言い出しにくいか……)」

女友「(だから今までの経験で分かってたけど昨日は言えなかったと)」

女友「(普通に考えれば自信過剰に思われるだろうし)」

女友「相手に自分のこと好きかどうか直接聞くって勇気いるのにね。えらいえらい」

女「……ありがとう」

男「これもし本当だったら俺すごい恥ずかしいな」

男「どんどん不幸になっていったら好きってことバレるし…」

女友「そうね」

女「二人っきりで聞くのはどうしても怖くて……ごめんなさい」

女友「それはさすがに怖いな」

  
男「女さんは悪くないって!」

女「…ありがとう」

男「それに好きな度合いと不幸なのが比例するってのも俺の勝手な推測だし」

女友「そだね。男君が不幸になっても優しく見守ってあげるよ。ふふ」

女「(…………その推測の通りだよ)」


トテトテ

幼女「……」トポトポ

男「!?」

男「冷たっ!!」

幼女「えへへ」トポトポ

幼女母「な、なにしてるの!」

幼女「くつにお水かけてあげてるの」ニコッ

男「……ははは」

幼女「わらってくれた」

  
3分後

幼女母「すみませんすみません」

男「もういいですよ。そんなに濡れてもないんで」

幼女「おにいちゃんごめんなさい」ペコ

男「謝れるなんてえらいな」

幼女母「あ、あの…クリーニング代は…」

男「いいですよ。雨ならもっと濡れます」

幼女母「ありがとうございます」ペコ




女友「……」ジー

男「……なに見てんだ」

女友「いやぁ女のこと好きなんだね」ニヤニヤ

  
女「……」

女「(昔はなんとなくドキドキしてたような気がする)」

女「(誰かが不幸になるのを見てると、あぁこの人私のこと好きなのかなって)」

女「(最初は良かった。男君が言ってたみたいに心変わりが早い小学生は不幸の度合いも小さい)」

女「(小学校で見た一番の不幸は告白時に起きた一週間の入院)」

女「(もちろん命に別状はなかった。中学校では……)」

女「(2年生の春くらいだっけ。告白されたのは。その時に倒れて一ヵ月以上病院にいたのかな)」

女「(ドキドキなんかできなくなった。それからはずっとおとなしくしてた)」

女「(その一ヵ月の入院があった後、3回転校したけどどこでも最初から目立たないようにしてた)」

女「(そのせいか周りで不幸になる人はいなかった)」

女「(その最後の告白から約3年……)」

女「(自分で治ってるとでも思ってたのかな。ただ好きになってくれる人がいなかったんだ)」

女「(……浮かれてた。これからどうしよう)」

  
女友「……」ニヤニヤ

男「ニヤつくのもうやめて」

女友「だって面白くて」

男「……とにかく恥ずかしくてしょうがない」

女「もう…」

女「一緒に遊ぶのやめる?」

女友「……やっぱ女的にはそんなに深刻?」

女「……うん」

女「どれだけ自信過剰って思われてもいいよ。でも怪我とかしてほしくないから」

男「俺は遊びたい」

男「それにまだ半信半疑だから」

女「……」

男「別に一日一回くらい靴に水かかっても平気だし」

女「そうかもしれないけど…」

  
女友「じゃあ私が女のこと好きにならないように誘惑してあげよっか?」

男「……」

男「……」

女友「なぜノーリアクション」

男「まぁまぁ落ち着いて」

女「ふふ」



自宅

男「(俺は女さんのこと好きなのかな…)」

男「(直接好きかなんて聞かれたらイヤでも意識してしまう)」

男「…………」



自室

友「飯食おう」

  
4日後 放課後

男「行こう」

女「ほんとにいいの?」

男「もちろん。諦めるほど危ない目に遭ったわけじゃないし」

女友「危なくなったら女がとんでもない方法で嫌われればいいんだから」

男「ひどすぎる」

女「(ほんとにその時が来たらどうしよう……)」



サブウェイ

男「うまい」モグモグ

女「うん」モグモグ

女友「……」モグモグ

女友「最近はどうなの?いい感じに不幸なわけ?」

  
男「ひどい聞き方だ」

女「教えて男君」

男「いやそれがさ、特に何にもないんだよ」

男「心配させないように嘘ついてるとかじゃなくて…」

女友「そうなんだ。今までもこんな傾向はあったの?」

女「どうかな…」

女「仲良い子でもほんとに友達として接してるだけの子はこんな感じだったと思う」

女友「なるほど。友達としての好きならセーフなわけだ」

男「良かった。みんなで遊べるならそれが一番いい」

女「……うんっ!」ニコッ

男「!」

男「(女さんかわいい…)」

  
自宅

男「やばい。今日の笑顔でかなり惹かれてしまったような気がする」



翌日 放課後

男「今日はどうしよう」

女友「バーガーキング」

男「いいね」

友「あー食べたくなってきた」

女「……女友ちゃんはスタイルよくていいね」

女友「そんなことないってー」

女「だってガッツリ食べるとこも遠慮なく行くし。それでそのスタイルすごいよ」

女「私なんて…」

女友「女も別にスタイル悪くなんか…」ジー

女友「(いや、違う!これは貧乳ディスられてるだけだ!!)」

  
バーガーキング

女「多分だけど、友達としての好きが上回ってるなら不幸な目には遭わないよ」モグモグ

男「なるほど。そっちの気持ちが勝ってればいいわけか」モグモグ

女友「(そこまで分かってるってことはいろんな人に好かれてたんだろうな)」モグモグ

女友「てかさ女は男君のこと何にも思ってないの?」

女「そ、それはどういう…」

女友「そのままの意味」

女「……私も友達として好きなのかな」

女「今は不幸なのを見るのが怖くてあんまり考えられない」

男「なんてことを聞くんだ。俺がいる前で」

女友「いやー女の気持ちも関係するのかなって思ってさ」

女「……うーん。好きになったことないからわかんないな」

  
女友「そうなんだ。席が近いだけで好きになってた男君とは大違いだね」

男「あれは男子全般の意見だから」

女友「まぁまぁ落ち着いて」

女「ふふ」



自宅

男「(少し前より不幸なのが少なくなってるのは、女さんの話聞いてビビってるんだろうか)」

男「(どこまで惚れたら入院するくらいになるんだろう。ちょっと怖い…)」



自室

友「(あの事聞きたいし男にメールしようか)」カチカチ

友「(……いや、後にしよう)」

  
2週間後 放課後

男「明日から夏休みか」

女「うん。楽しみ」

女友「受験のためってことで課題なくなんないかな」

男「来年ならあり得るかもな」

女「今日はどうする?」

男「……どうしようか」



ファーストキッチン

男「……」モグモグ

女「おいひい」モグモグ

女友「こぼしてるよ」

女「ほんとだ。拭かないと」フキフキ

  
女友「夏休みはどうすんの?」

男「何にも予定はない」

男「部活やってないとこういう時少しさみしいな」

女「そうだね。私もさみしい」



夏休み一週間目 自宅

男「……最後に会ってから5日か」

男「会わないと余計に思い出してやばいな」

男「……」カチカチ

男「…………ん?」カカカ

男「け、携帯こわれた…!」

  
夏休み二週間目 自宅

男「携帯は治った。はやく女さんに会いたい。会えないってなると余計にそう思う気がする」

男「気晴らしにゲームだ」

男「スパデラだな」

カチッ

男「………」

男「圧巻の0%」

男「ドラクエ3は…」

カチッ

男「……そりゃそうか」

男「ポケモン金…」

カチッ

男「………」

男「さいしょから はじめる」

  
男「いや、諦めきれん」

男「FF4だ…」

カチッ

男「………」

男「ドラクエ6」

カチッ

男「………」

男「スーパーマリオワールド…」

カチッ

男「………」

男「今までのは消えやすいゲームだしな。エアライドでもやるか」

カチッ

男「………」

男「せ、青春のクリアチェッカーが……」

  
夏休み三週間目 自宅

男「最近肉体的な怪我はしてない気がするな。せいぜい3日前の交通事故くらい」

男「今日は何しよう」

男「外出ると怖いし、家の中でボt」

カサカサッ

男「!」

男「……こういうのもあるのか」

カサカサッ

男「前から思ってたけど俺に対する不幸が多くて良かった。周りを巻き込むのは良くないし」

カサッ

男「Gも俺がいる時に出てくるし、ゲームも俺しかしないし」

カサッ

男「…………家族いないから当たり前か」

  
カサカサッ

男「ずっと思ってたけど俺の不注意とか管理ミスとか掃除不足とか」

カサカサッ

男「女さんのせいじゃないよなきっと」

カサカサッ

男「人のせいにする方がおかしい。俺が気を付けてればいいだけの話だ」

カサカサッ

男「不幸が増えてるって思うのもその話を聞いて意識するようになったからかもしれないし」

カササササササッ

男「ひっ」

  
夏休み四週間目 自宅

男「会いたい。もう好きだ。友達とかの好きは超えた」

男「夏休み終わったら告白しよう」

男「もうどんな不幸でも乗り越える覚悟はできた!」

男「課題も終わったし後は夏休みを満喫するのみ」

男「録画してたテレビ見るか」

カチッ

男「……」

男「消えてるな」

男「データ系はほんとにすぐやられるな」

男「ウォークマンは…」カチッ

男「………」

男「一週間前にはあったはずだけどな」

  


男「(外は暑いな……自販機で飲み物買おう)」チャリン

男「…………」カチ

男「…………」カチカチカチカチ

男「(………出てこねぇ)」

男「(まぁいいや。DVD借りに行こう)」



30分後 自宅

男「あれ…」

男「シリーズの1巻だけもらい忘れてる」

男「……行こう。俺が見落としたのがわるいんだ」

男「…………」

男「…………」

男「…………サドルがない」

  
1時間後 自宅

男「よし。これでばっちり。あとはクーラー入れて……」ピッ

男「……ん?」ピッ

男「……」

男「エアコン壊れてる…」

ピンポーン

男「誰だろ」

「宗教に興味ありませんか?」

男「いえ、間に合ってます」

「見たところ学生のようですが日本が今大変なことになってるのは知っていますか?」

男「…………」

「私たちの目指す理想国家の一員になりませんか?」

男「…………大丈夫です。早く帰ってください」

  
10分後

ドタドタ

男「ドア閉めるとき指はさんだし痛い…」

男「早くDVD見よう」

ドタドタ

男「さっきから上の階で暴れてんのかうるさいな…」

男「イヤホンするか」

男「………」

ドタドタ

男「断線してる…」



5時間後

男「全く面白くなかったな」

男「これは完全に俺のミスだ」

  
夏休み最終週 自宅

男「決めた。会って一言目に告白しよう」

男「相当な覚悟がないとダメだろうけど」

男「とりあえずバイト始めるか」

男「生命保険だけじゃいつか被害額に追いつかれるかもしれん。自分のお金が欲しい」

男「まずは電話だな」

男「アルバイト情報誌で良さそうなのはチェック済み」

男「……」ピリリリ

「はい」

男「情報誌見てお電話させていただきました。採用担当の方おられますか?」

「あーすいません。先日定員まで決まってしまいまして」

男「そうでしたか。ありがとうございます」ガチャ

男「……次だ」

  
2時間後

男「20件中18件すでに決まってるとかおかしい」

男「これ2日前に発行されたはずなのに」

男「残り2件はつながらないし…」



3日後 学校

女「男君来てないね」

女友「だね」

女「事故にでも遭ったのかな…」

女友「違うでしょたぶん」

女「そうだといいけど…」

  
翌日 学校

男「おはよ」

女「!」

女友「あ、きた」

女「昨日は何かあったの?」

男「……」

女「隠さないで教えてほしい…」

男「家に空き巣入ったんだよ」

女友「ま、まじで?」

女「……ごめんなさいごめんなさい」

男「女さんって空き巣の手引きしてるの?」

女「そ、そんなことしてないよ!」

男「じゃあ関係ないって。ただの不運」

女友「……」

  
放課後

男「まだ警察にも行かないといけないから今日すぐ帰るよ」

友「……」パリパリ

女「う、うん」

女友「次は私たちがなんでもおごってあげるよ」

男「ありがとう」

男「(まぁ時計と鏡が残ってくれてたし……)」





女「……」

女友「泣いてんの?」

女「泣きそうなだけ」

女友「詳しく教えてはくれなかったけど大丈夫だよ」

女友「強盗じゃなくて良かったと思わないと」

  
夜 自宅

男「あ、そういや告白できなかった」

男「……」

男「……」

男「明日にしよう」



翌日 放課後

男「女友さんちょっと席外してて。二人になりたい」

女友「振られたら今日は寿司おごってあげるよ」

男「……ありがとう」

  
男「女さん」

女「……」

男「俺と付き合ってください。お願いします」

女「……」

女「男君はどうだったかわからないけど」

女「夏休みの間ずっと会いたかった。自分で好きか聞いたのに私が意識しちゃったのかな」

女「……」

女「男君好きです」

男「!」

女「でも付き合えません」

男「!!」

女「私の事嫌いになってから告白してください」ペコ

男「無理です」

  
女「私も無理だよ。付き合いたい。おとといも来なくてずっとさみしかった」

女「昨日もずっと心配してた」

男「俺は大丈夫だから」

女「……」ギュッ

女「……もし本当に危なくなったときは私の言うこと聞いてくれる?」

男「わかった」

女「絶対だよ?」

男「もちろん」

女「……」

女「ありがとう。だいすき」

男「……」キョロキョロ

女「どうしたの?」

男「もしかしたら危険が迫ってるかもしれないから」キョロキョロ

  
二日後 自宅

男「全然平気だな」

男「特に今まで通りくらいの頻度でしか不幸も起きないし」

男「……」クラッ

男「……?」

男「微妙にくらくらするのはうれしいからだな。うん」

カサッ

男「!」

男「またかよ!」

男「あれから掃除は欠かさずやってるのに!」

  
二日後 ウェンディーズ

女友「久しぶりのお出かけだね」

女「うん。二人では久しぶり」

女友「良かったの?男君と遊ばなくて」

女「昨日遊んだよ。それに来週も遊ぶから」

女友「なるほどねー」

女友「何したの?詳しく教えてよ」

女「……内緒」

女友「チッ」

女「女友ちゃんこわい」

女友「冗談だよ。その特殊能力のこと良かったらもっと教えてくれない?」

女「うん」

女「昔にあったことだと……」

  
10年前

紳士「何か困ってるのかい?」

幼女「……まいごになっちゃった」グスッ

紳士「それは大変だ。お母さんと一緒に来たの?」

幼女「……うん」

幼女「どうしようどうしよう」ポロポロ

幼女「うええええんおかあさああああん!!」

紳士「私がいるから安心してくれたまえ」

幼女「うぅ…ほんとに?」グスッ

紳士「もちろん」

幼女「たすけてくれるの?」

紳士「私は紳士だからね」

幼女「ありがとっ」ギュッ

紳士「……うっ」

  
10分後

母「幼女ちゃん!」

幼女「おかあさん!」

母「ありがとうございます」

紳士「いえいえ。紳士として当然のことをしたまでですよ」

母「あの……」

母「紳士さんの服はなんでそんなに汚れてるんですか?」

紳士「ここに来るまでに少し不幸なことがいくつかありまして。ですがこれくらい平気です」

母「…………そうですか」

幼女「ちょっとお耳かして」

紳士「ん?」

幼女「ありがと。お兄さんだいすき」

紳士「……うっ」

  
女「他には…」


7年前

少女「なんで私だけ補習なんですか?」カキカキ

先生「しょうがないだろ。もう決まったことなんだから」

少女「成績いいのに…」カキカキ

先生「(ひひ。カメラはすでに仕掛けてある)」

先生「(あとはエロ同人みたいに…)」

少女「さっきからニヤニヤしてキモいよ先生」カキカキ

先生「……うっ」

  
女「その後先生クビになったみたい」

女友「(先生の方は自業自得だと思うけど)」

女友「壮絶だね」

女「やっぱりそうかな」



一週間後 デート当日

男「お待たせ」

女「男君びちゃびちゃ」

男「ここに来るまでにホースの水かかってさ」

女「どこかで着替える?」

男「そうしようかな」

女「じゃあ家行かせてほしい」

女「気になってたの」

男「…………」

  
自宅

男「……俺着替えてくる」

女「うん」

男「ちょっと待ってて」



女「(これが男君の部屋か…)」

女「……」ドキドキ

女「……」スーハー

女「……」

女「…これって何て言うんだっけ」

男「ボトルシップだよ」

女「!」ビクッ

女「そ、そうなんだ」

  
女「……なんとなくだけど」

女「家の中の物少なくない?」

男「…………」

男「ここに一人で住んでるんだ」

女「!」

女「両親は…」

男「事故で亡くなった」

男「一時期親戚の家にいてたけど居づらくて高校入ってからは一人暮らし」

女「……ごめんなさい」

男「いいよいいよ」

女「……」

男「こんな生活だったからさ、平気なんだって」

男「だから女さんはその変な体質みたいなの気にしないでいいよ」

女「……ありがとう」グスッ

  
男「んで、暇で暇でしょうがなくてそんなボトルシップまで作るようになってたんだ」

女「そっか。綺麗だね」

男「ありがとう。人に見せる機会もなくてさ」

女「……」

男「……この話ここまで!」

男「デート行こうか!」

女「うんっ!」ギュッ

男「(かわいい。倒れそう)」クラッ

  
レストラン

女「おいひい」モグモグ

男「うむ」モグモグ


映画館

女「……」キラキラ

男「……」ポロポロ

女「(……まさか泣いてるのかな)」


ショッピングモール

女「これかわいい!」

男「似合いそう。着けてみる?」

女「うん!」

男「……」フムフム

女「どう?」

  
男「いい感じ!」

女「ふふ。褒められた!」

男「買ってあげる。せっかく良いの見つけたんだし」

女「いいの?」

男「もちろん」

女「ありがとう!」ニコッ




男「ちょっとトイレ行ってくる」

女「わかった。ここの店で待ってるね」

男「おーけー」



トイレ

男「(おかしい。何も起きない……)」

男「(このまま過ぎてくれればいいんだけど)」

  
男「お待たせ。次はどこ行く?」

女「うーん。上の階って靴屋さんもあったよね?」

男「うん」

女「じゃあそこ行きたい」



靴屋

男「(……高いな)」

男「(前から欲しいのは2万超えてる)」

女「このヒールかわいい」ジー

女「男君ってヒール履いてる子好き?」

男「うーん。どうだろ」

男「高すぎるのはちょっと苦手かな」

女「そっか。これは?」

男「あぁ、これくらいならすごいかわいいと思う」

  
女「そっか!」

男「やっぱり高く見せたいの?」

女「女友ちゃんみたいに背高くないからちょっとでも大きくなりたくて」

男「……」ナデナデ

女「?」

男「伸ばさなくても十分かわいい」

女「……ありがとう」



エレベーター前

女「そろそろ暗くなってきたね」

男「もう8時か」

女「お腹空いちゃった」

男「じゃあご飯食べに行こうか」

女「うん」

  
女「でもこのエレベーターすごい混んでるね」

男「じゃあ階段使う?」

女「うん。その方がはやく降りられそう」

男「……」クラッ

女「ん?」

男「女さんがかわいいからくらくらするんだよ」

女「!」ポカポカ

男「いたた」



階段

女「ご飯何にしよーかなー」スタスタ

男「……」スタ

女「男君?」スタスタ

フラッ グキッ

  
男「うぁっ!!」

女「だ、大丈夫!?」

男「いたた…」ズキ

女「どこ打ったの!?」

男「…右手突いて」ズキ

男「ひ、肘が…!」

女「どうしようどうしよう」

男「うぅ…」

男「痛いけど別に平気…」

女「ごめんなさい」ギュッ

男「ど、どこにご飯たべにいこうか」

女「行けないよ!一緒に病院行く!」ギュッ

男「……ありがとう」

  
病院

医者「骨折していますね。ギプスを巻いてもらわないといけません」

医者「勝手に取る人もいるので一応言っておきますが」

医者「右腕を使うスポーツ等は完治するまで厳禁です」

男「……はい」



待合室

女「!」

男「ギプス!」ニコッ

女「なんで笑ってるの」グスッ

男「ちょっとかっこいい」

女「……うぅ」

男「骨折だけどすぐ治るって」

女「……」ギュッ

  
自宅

男「いたた」

男「一ヵ月くらいでギプス取れるのかな…」

男「一人暮らしでこれはかなり不便だな」

男「しかも右手が使えないと…」

男「……」

男「……できないし」

男「はぁ」

  
一週間後 自宅

ピンポーン

男「あーい」

ガチャ

女「やっほ」

男「あ、ほんとに来てくれたんだ」

女「うん。前に約束したからね」

女「いっぱい手伝ってあげる」

男「ありがとう!」

女「でも男君の家片付いてるね。掃除とかちゃんとしてるんだ」

男「少し前に大変なことになってからはきっちり掃除するようにしてるんだ」

女「そっか。じゃあ何してほしい?」

  
男「もしよかったら料理作ってくれないかな」

男「材料はそろってあるはず。ご飯も冷蔵庫に残ってる」

女「いいよ。頑張ってつくる!」

男「楽しみだ」



1時間後

女「で、できた?」

男「なぜ疑問形」

女「うーん。いろいろ失敗しちゃったかなー」

女「ごめんなさい」

男「急に頼んだ俺がわるいんだって」

男「とりあえず食べよっか」

女「うん」

男「いただきます」

  
女「はい、あーん」

男「い、いいの?」

女「左手じゃ食べにくいでしょ?」

男「うん。ありがとう」モグモグ

女「……どう?」

男「おいしい!好きな味付けだ」モグモグ

女「やった!」

男「うんうん」モグモグ

女「えへへ」

………

……



女「ごちそうさま」

男「ごちそうさま」

  
男「女さんありがとう。おいしかった!」

女「ふふ。褒めてくれた」

女「お腹いっぱいだ。見てこのお腹」

男「………」プニプニ

女「んっ」

男「……」サワサワ

女「ちょっと手つきやらしいよ」

男「左手だからぎこちなくなるんだ」

女「もーほんとにー?」

  
六日後 自宅

男「……」カチカチ

男「……」カチカチ

男「(最近不幸がなかったように思えたのは……)」カチカチ

男「(……骨折は不幸か)」

男「(まぁ骨折もあの立ちくらみのせいだろうし)」

男「……」カチカチ

男「(……やっぱりこれに当てはまる気がする)」

男「…………」

男「よし。来週だけでもいっぱい遊ぼう」

男「あと女さんにメールしとかないとな」

  
自宅

女「お母さん」

母「どうしたの?」

女「ずっと話せないことあったんだけど」

母「?」

母「悩みでもあるの?」

女「……うん」

女「私ね、呪われてるの」

母「……」

女「いきなり変なこと言ってごめん」

母「……ゆっくりでいいから話してみなさい」

女「わかった」

  
30分後

女「……ちゃんと伝わったかな」

女「下手でごめんね」

母「辛かったわね」

女「……私の思い込みかもしれなくて言えなかった」

女「今でも思い込みであってほしいけど」

母「…………」

母「パパが亡くなったのはあなたが生まれる前って教えたでしょ」

女「?」

女「う、うん」

母「あれ事故って教えたけど違うの」

女「……」

母「私のせいなの。あなたが呪いって言ってるそれは遺伝よ」

女「!」

  
女「こ、これって遺伝なの…?」

母「そうよ。私も子供の頃気づいたけど誰にも言えなかった」

母「自覚したのはいつ頃?」

女「10歳くらいかな…」

母「私もその辺の時期だったかしら。15歳の頃に怖くなって母親に聞いたわ」

女「もしかして…」

母「おばあちゃんもそうだったのよ」

女「そんな……」

母「本当よ。少なくとも私の5代前からあるみたい」

女「そうだったんだ…」

母「証拠なんてないからどうか分からないけどね」

女「私が話したらこれを言ってくれるつもりだったの?」

母「そうね。私もそうやって教えられてきたから」

  
女「お母さんは今でも治ってないの?」

母「えぇ。治ってないわ」

母「……何度も引っ越ししてるのは理由があるの」

女「ん?」

母「パート先で何度もプロポーズされるのよ」

女「ま、まじですか」

女「(あんまり聞きたくなかったような…)」

女「(美人だし30前半だからありうるか…)」

母「パパみたいにもう亡くなってほしくないから人付き合いは避けてるんだけど」

母「あまりにもボロボロになって見てられなくなったら引っ越すようにしてるのよ」

女「……」

母「小学校も中学校も高校も途中で転校させてごめんね」

女「いいよ。全部で4回だっけ?」

女「大阪とか楽しかったし」

  
母「ありがとう…」

女「いいっていいって」

母「今は好いてくれてる子がいるの?」

女「うん。付き合ってるよ」

母「初耳ね」

女「恥ずかしくてさ」

母「その子は今大丈夫なの?」

女「……骨折させちゃった」

母「そう」

女「お母さんの時もあった?」

母「骨折くらいならよくしてたわね」

女「これで序の口なんだね」

母「でもそれより痛そうな怪我はなかったわ」

女「そっか…」

  
母「かっこいいの?写真とか見せて」

女「あったかなー……」カチカチ

女「あ、これこれ。男君って言うんだけど…」

母「ふーん。パパには届かないわね」

女「!」ムカッ

女「男君の方がかっこいいよ!」

母「……」

女「ん?」

母「ふふ」

女「(……言わせたな)」

  
母「辛いかもしれないけど乗り越えていくしかないわ」

女「うん…」

母「私は最愛の人を亡くしたけど」

母「どうにかコントールして幸せになるのよ」

女「うん」

母「イヤかもしれないけど嫌われる技術も必要になるから頑張って」

女「……わかった!」

母「先週も先々週も日曜日にいなかったのは彼氏と遊んでたの?」

女「まーね」

女「先週は家にも行ったよ!」

母「じゃあ明日も行くの?」

女「それが明日は一人でいるってメール来てさ」

  
翌日 自宅

男「……いつも掃除してないとこするか」テキパキ

男「いろいろ整理したいし」テキパキ

………

……



男「目に見えるところはかなりきれいだったけど」

男「ほこりすごいな……」ケホッ

男「ていうかギプス取りたい」

男「邪魔すぎる」

  
2時間後

男「よし。かなり片付いたな」

男「次のゴミの日に合わせて全部捨ててやる」

男「……」

男「……」

男「……ふー」

男「今でも思うけど大事な物は2つとも無事で良かった」

男「これ以外はボトルシップでもなんとかなるしな」

男「よし。冷蔵庫のものも使い切るか…」

………

……



男「うん。全部ぶち込み鍋は旨いな」モグ

男「相変わらず左手だと食べにくいけど」モグ

  
自室

友「(メールか電話か……)」カチリ

友「電話するか」ピリリリ

ガチャ

男「もしもし」

友「あー俺だけど電話いま大丈夫?」

男「いけるよ。どした?」

友「前にした旅行の話覚えてる?」

男「うん。覚えてる」

友「どこ行きたい?まだそんなに案出てないんだけど」

男「それって一ヵ月くらい先だっけ?」

友「そうだな。4週後の土日だ」

男「(……4週間後か)」

  
男「悪いんだけど俺抜きで話進めてくれないか?」

友「ん?行けなくなったのか?」

男「もちろん行きたいんだけど……」

友「なんだ言いにくいことか」

男「まぁそうだな」

友「じゃあしょうがねーな」

男「すまん」

友「いいよ。最近忙しそうだし」

男「そういってくれると助かる」

友「じゃあ来週俺の家来いよ」

男「来週か…」

友「そんなに予定詰まってんのか」

男「……まぁ予定というかなんというか」

友「まぁいいや。来られたらでいいからさ」

  
翌日 放課後

男「遊びに行こう!」

女友「どうしたギプス少年」

男「もう2週間だってのに。はやく慣れてくれ」

女友「どこ行きたいの?」

男「片手でできる遊びができる場所!」

女「微妙に難しいね」

女友「うーん」

男「まぁ遊べなくてもいいんだ」

男「いつもみたいに買い食いしよう!」

女友「気合入ってるねー」

女「うん」

  
フレッシュネスバーガー

男「うまい」モグ

女「うん」チュー

女友「……」モグモグ

女友「最近は注文ミスもなくなったんじゃない?」

男「……たしかに」

女「…………」

男「女さん好きだよ」

女「うん!」

女友「まじで私必要なのか?」

男「もちろん」

男「一緒に遊びたいんだって」

女「……」チュー

  
翌日 放課後

男「さて今日は…」

女友「もうストック切れるかもよ?」

女「たしかに」

友「……」モグモグ

男「大丈夫。電車で行こう」

女「電車?」

男「……」クラッ

女友「?」

女友「男君?」

男「……」

男「ん?あぁ電車で行ける範囲にはあるから」

  
改札前

女「けっこう遠かったね」

女友「ほんとだよ」

男「まぁまぁ」ポロッ

女「あ、切符落としたよ」

男「ん。ほんとだ」

男「……」スカッ

男「あ、あれっ……」スカッ

女友「男君の不幸も小さくなったねー」

女友「てか左手ってそんなに使いづらいのー?」

女友「はい。ポケット入れといてあげるよ」

女「……」ジー

女友「何?嫉妬?」ナデナデ

女「ううん。違う……」ジー

  
男「ごめん。飲み物買うから待ってて」

女友「はいはい。改札出て待ってるよ」

男「…うん」



自販機前

男「(手に力が入らん)」

男「(もうそんなに危ないのか……)」

男「(せめてあと数日は……)」



女「あ、来た来た」

男「ごめん遅くなって」

女友「んじゃ行こう」

男「(数分で収まってよかった…)」

  
ベッカーズ

男「うまい」モグモグ

女「初めてきた」モグモグ

女友「私も」モグモグ

………

……



女友「ちょっとトイレ行ってくる」

男「あいよ」

女「……」

男「どしたの?」

女「男君大丈夫?」

男「……何が?」

  
女「わかんないけどいつもと違う気がして…」

男「そうか?」

女「何か隠してない?」

女「骨折以外に最近不幸あった?」

男「……あるよ」

男「テトリスでなかなか棒来なかったり」

男「のらネコにひっかかれたり」

女「……うん」

男「女さんのこと大好きだよ。もしかして体質治ってきたんじゃない?」

女「その心配じゃないの…」

女「わかんないけど隠されてる気がして…」

男「……」

男「……」

  
男「……」ギュッ

女「!」

男「平気だから」

男「土日は家に来てほしい。それまでは遊ぼう」

女「……」グスッ

女「わかった」

女友「……」

女友「……」

女友「伝票残して帰ってやろうか」

女「!」ビクッ

男「びっくりした…」

女友「びっくりしたのは私」

男「すみません」

  
翌日 放課後

男「さーて今日は」

女「うんうん」

女友「これ以上太ったら私大変なのにー」

女「……」ジー

女友「はいはい行きます」

女友「行きたいです。そりゃ楽しいから」

女「ふふ」

  
サンテオレ

男「……」モグモグ

女「……」モグモグ

女友「独特だね」モグモグ

男「たしかに」

女「でもおっきくておいしい」

女友「(最近ずっと体重計乗ってないなー)」

女友「(だって毎日こんなとこ行ってるし)」

女友「(怖いっての…)」

  
男「(ん?なんでこの店掛け時計二つもあるんだ…)」

男「……」ゴシゴシ

男「?」

男「(ボケてるだけか…)」

男「(もっとパソコンで確認しとくんだった…)」

女「どしたの?」

男「……」モグモグ

女友「ちょいちょい男君」

男「……」モグモグ

女「男君!」

男「……?」

男「ごめん。呼んだ?」

女友「寝不足?」

男「……そうなのかな」

  
夜 自宅

男「……」カチカチ

男「……」カチカチ

男「もしかしていろいろ聞き取れてなかったのか…?」カチカチ

男「気づかないのはつらいな」カチカチ

男「あとは……」

男「!」

男「…物が二つに見える」

男「……」

男「もうこれでほぼ確定か…」

男「他にはろれつが回らない、手足が麻痺…」

男「この辺はまだ大丈夫か…」

男「これ以上一緒にいたらさすがにバレるか」

男「いや、もう気づかれてるかもしれないな…」

  
翌日 放課後

女「……」

女友「メールは来てないの?」

女「うん」

女友「明日も行くって言ってたのに…」

女「どうしよう」

女友「電話は?」

女「かけてみたけど出ない…」

女友「……」ナデナデ

女友「こんな可愛い子悲しませやがって」

女友「次会ったらしばいてやろう」ナデナデ

女「…うん」

  
翌日 放課後

女「……」

女友「……今日も休んだね」

女「……うん」

友「(泣きそうな顔もかわいいな)」

女「今から家行く」

女友「……わかった」

女友「言いたいこと全部言ってやらないとね」ナデナデ

女「ありがと」

友「(俺もナデナデしたい)」

  
自宅

ピンポーン

男「……」ガチャ

男「……女さんか」

女「……」グスッ

男「とりあえず入って」

女「うん」



自宅

男「お茶入れる?」

女「ううん。ありがと」

女「風邪でも引いたの?」

男「……」

男「うん。ちょっと体調悪くてさ…」

  
女「ほんとにそれだけ?」

男「多分そうだと思う」

男「家に体温計ないけど身体ふらついてたし…」

女「そうなんだ。買ってこようか?」

男「いや、かなりマシになったから平気」

男「一日中寝てたからさ。だからメールもできなくて」

女「そうだったんだ…」

男「ごめん女さん」

女「ううん。今大丈夫ならいいよ。会えてよかった」

………

……


  
男「今日はどうする?」

女「泊まる。離れたくない」

男「そうか」

男「じゃあまたご飯作ってほしいな」

女「わかった」

男「やった!」

女「おいしいの作るからね!」

男「ありがとう」




男「……」クラッ

男「……ふー」

男「(うまく誤魔化せたかな…)」

男「(正直そんなに隠してられないだろうけど…)」

  
1時間後

女「できた!」

男「……すご」

女「良い感じでしょ?」

男「うまそうだ」

女「うんうん」

男「いただきます!」

女「いただきます!」

女「はい、あーん」

男「……」モグモグ

女「どう?」

男「おいしい!」

女「やたー!」

  
男「(元気になってくれたみたいで良かった…)」

女「はい次、あーん」

男「……」モグモグ

男「おいしい!女さんも一緒に食べよ」

女「うん!」モグモグ

女「ふふ。良い感じ」

男「かわいい」

女「!」

男「女さんかわいい。やばい」

女「えへ」ニコッ

男「どきどきする」

女「はい、あーん」

男「…」モグ

  
………

……



女「ごちそうさま」

男「ごちそうさま、おいしかったよ」

女「じゃあ撫でてもいいよ!」

男「……」

女「……」

男「……」

女「……」

男「……」

女「もういい!」

男「……」ナデナデ

女「よろしい」

  
女「料理してるときも思ったけど前よりさらに物減ってない?」

男「うん。かなり減らした」

女「そうなんだ。すごいすっきりしてるから」

男「片手で片づけは意外に難しかった」

女「言ってくれたら手伝いに言ったのに」

男「まぁ徐々にやってたからそんなに重労働じゃなかったし」

女「そっか………あのまとめて置いてる手鏡と腕時計は男君の?」

女「腕時計とかいつもしてたっけ?」

男「あれは親の形見」

男「父親の時計と母親の手鏡だな」

女「……そうなんだ。大事にしてるんだね」

男「正直顔もよく覚えてないから形見としてというか一応置いてるって感覚だけど」

男「あれだけは空き巣に取られなくて良かったと思ってる」

女「ごめんなさい」

  
男「次謝ったら追い出すから」

女「な、なんで…」

男「関係ないんだって女さんは」

女「だって現に不幸になってるし…」

男「二人きりで手料理食べて不幸なわけない」

女「……」

男「悲そうな顔やめてって」

女「うぅ」

男「ほら無理矢理笑って口角上げて」

女「ひ、ひっはらないでー」

男「自分で笑える?」

女「わっわらえまふ」

男「よし」

女「にっこり!」

  
女「にっこり!」

男「自分で言わなくてもいいんだよ?」

女「にっこり!」

男「ばかにしてるな」

女「ひ、ひてましぇん」

男「これ面白いな」

女「うーー」

男「愉快愉快」

女「……」カプ

男「いたっ!」

女「反撃だよ」

男「左手まで使えなくする気か」

女「もしそうなっても全部お世話してあげる」

男「それは助かる」

  
男「じゃあ寝ようか」

女「ていうかお布団余分にあるの?」

男「あるよ」

女「……」

女「……あぁそう」

男「今からないってことにしようか?」

女「もう遅いよ。ふん」

男「怒ってる怒ってる」

女「……」ムカッ

男「冗談です。一緒に寝てください」

女「やった!」

男「ただし寝相が悪い時は追い出すから」

女「……私ひとりで寝る」

男「自信ないんだな」

  
夜中

女「(……絶対におかしい)」スタスタ

女「……」

女「(……何を隠してるんだろう)」スタスタ

女「……」


女「……」カチカチ

女「……」カチカチ

女「……」カチカチ

女「!!!」

女「……」

女「……」グスッ

女「……」

女「……」ゴシゴシ

女「(……明日からどうしよう)」

  
翌日

男「……」

男「よく寝た…」

女「おはよ男君」

男「起きてたのか…」

女「うん。ご飯作ってる」

男「まじで?すごいうれしい」

女「もう少しかかるけど」

男「そうなんだ」

女「別に寝ててもいいよ」

男「いやもう起きとくよ」

女「あっそ」

男「(び、微妙に冷たい…?)」

  
男「女さん夜中になんかしてた?」

女「……何もしてない」

男「そっか」

男「ちょっと物音とかしてたような気がしたから…」

女「さぁ、夢なんじゃないの?」

男「そうかな…」

男「いつも一人だったからそのせいかも」

女「……」

  
10分後

男「いただき」

女「……」

男「……」モグモグ

男「!」

女「トーストだと左手でも食べられるよね?」

男「う、うん。ちょっとさみしいけど食べられる」

女「いちいち食べさせるの面倒だったからね」

女「それと乗っけてるジャムは私の特製だから」

男「……」モグ

男「(なんだこれ…)」

男「(びっくりするくらいまずい…)」

  
女「どう?」

女「おいしい?」

男「(どう答えるべきなのか…)」

女「聞いてる?」

男「あぁおいしいよ。好きな味だ」

女「ほんと?」

女「味付けとかってなかなか変えられないものらしいから男君と相性ばっちりみたいでよかった!」

男「そうなんだ」

男「俺も相性良くてよかった」モグモグ

男「……」

女「…………」

女「嘘ついてるよね」

男「!」

男「な、何の話?」

  
女「わざとらしいな…」

男「……」

女「私がまずいもの出したらちゃんと言ってくれるかどうか試してたの」

男「そ、そうだったんだ…」

女「はっきり言ってくれる人が良かったのになぁ」

女「これじゃ前付き合ってた彼氏の方がよっぽどいい男じゃん…」

男「……」

女「はぁ……期待しすぎてたのかな」

男「前に付き合ってた人いたんだ。初めて知った…」

女「初めてとか思っちゃってたの?」

男「……」

女「告白されたりした時は入院とかされちゃったけど」

女「告白せずにそういう関係になることだってあるでしょ?」

男「まぁ……うん」

  
女「誰かと連絡取り直してみようかなー」

女「まぁ今メールしてくれてる子もいるし」

男「……」

女「何黙ってんの?」

男「ごめん」

女「はぁ…」

男「……」

男「俺お風呂入ってくる」

女「せっかく私が話してるのに逃げるのね」

男「……急になんなんだ」

女「……」

男「風呂入ってくるからそんなに気に食わないなら帰ってくれてもいいよ」

女「……」

男「ごめん言い過ぎた。とりあえず風呂行ってくる」

  
風呂

男「……」

男「ほんとに急にどうしたんだ」

男「あれが生理とかいうやつの影響なのか…」

男「……」

………

……



女「……」

女「今のうちに家帰ろう」

  
男「ふー」

男「……」

男「女さん帰ったか」

男「さすがに言い過ぎたな」

男「どうやって謝ろう…」

男「!」

男「メモ書き残してる…」

男「……一旦家に帰るのか」

男「また戻ってくるのか…?」

男「……」

男「!」

男「左手が痺れてる」

男「……」

男「もうやばいな…」

  
1時間後

ガチャ

女「……」

男「あ、女さんおかえり」

男「さっきはごめん」

女「……」

女「……うん」

男「(……この匂いもしかして)」

女「……」

男「?」

女「お茶入れて」

男「う、うん」

  
男「はいお茶」

女「……」ゴクゴク

男「……」ジー

女「何見てんの?」

男「え、あ、ごめん」

女「お茶飲んでるだけじゃない」

男「……うん」

女「はぁ…」

男「……」

男「ど、どこか出かける?」

女「どこも行きたくない」

女「今の男君と行ってもつまんなそうだし」

男「……」

女「ほんとに情けないな。何か言い返せばいいのに…」

  
女「……はぁ」

女「ねぇ」

男「ん?」

女「火持ってない?」

男「え」

男「ラ、ライターとか?」

女「そ」

女「あるの?ないの?」

男「うちにはないかな…」

女「あっそ」

女「じゃあコンロ借りるから」スタスタ

男「う、うん…」

  
カチッ

女「……」

女「……ふー」

女「男くーん!」




男「な、なに?」スタスタ

男「!!!」

女「灰皿もないの?」スパー

男「な、なんでタバコなんか…!」

男「未成年だし体に良くないって!」

女「外国じゃこのくらいから吸えるでしょ」スパー

男「でも…」

女「男君は保護者でもなんでもないでしょ?」

  
男「……」

女「とりあえず灰皿もないのね。じゃあ外行くから」スタスタ

ガチャ バタン

男「(さっきのはやっぱりタバコの匂いだったんだ…!)」

………

……





女「……」

女「……」

女「……」

  
ガチャ

女「ふー」

男「はいお茶」

女「……」

女「コーヒー」

男「あ、ごめん」

男「入れなおしてくる」スタスタ



台所

男「……うぅ」

男「(ダメだ…)」

男「(また手が痺れて…)」

男「……」

男「……」

  
5分後

男「ごめん遅くなって」

男「はい、コーヒー」

女「遅すぎ」

女「もうお茶飲んだからいらない」

男「……そっか」

女「……さっき言ったメールしてくれてる人の事だけどさ」

女「その元彼がより戻したいって言ってくれてるの」

男「……」

女「喧嘩別れだったから未練も少しあったし」

女「ずっとメールしてたんだけど相手がどうにも本気らしくてさ」

男「そうなんだ」

女「……なにその返事」

  
女「もっとアピールとかないわけ?」

女「男君の大好きな私が離れていくかもしれないんだよ?」

女「わかってるの?」

男「……」

女「もっと情けなく引き留めようとしなよ」クスクス

男「……」

女「土下座でもしてくれたら考えてもいいんだけどねー」

男「……」

女「これでも反応しないの…?」

女「ほんとに何考えてんだか」

男「……」

女「こんな気持ち悪いもん作ってるからそんなうじうじした性格なるんじゃないの?」

女「男君のために私が壊してあげようか?」

男「!」

  
男「ま、まって!」

女「いきなり声荒げちゃって……これそんなに大事なの?」クスクス

男「何ヵ月もかかってるし……」

男「それに女さんもボトルシップ綺麗って言ってくれたじゃん!」

女「私はお世辞も使えないような女じゃないの」

男「………お世辞でも嬉しかったよありがとう」

女「!」

男「まぁそれはいいとして壊すのは……………?」

男「(パソコンが開けっ放しになってる…)」

女「言いかけたんなら最後まで言いなよ」

男「(女さんが来る前に使ったときはいつも通り閉めてたはず…)」

女「何無視してんのよ」

男「(もしかして……)」

  
男「(履歴とか見られたのか……)」

男「(やっぱり夜中に物音してたのは……)」

男「……」

女「……なに?」

女「言いたいことあればはっきり言えば?」

男「ごめん。気づかなくて。彼氏失格だ」

女「意味わかんない」

女「これ、どうなってもいいの?」

男「……」

女「しゃべれなくなったわけ?」

男「いいよ落としても」

男「きっと割れるけどそれでもいい」

女「……」

  
男「それで気が済むならいいよ」

女「ほんとに割るよ?」

女「脅しじゃなくて」

男「……どうぞ」

女「!」

女「……」ギュッ

男「さすがに握るだけじゃ壊れないよ」

女「うっさいうっさい!!」

男「……」

女「こわさないと…」

男「俺が代わりに壊そうか?」

女「……」

女「……」

女「……」

  
女「……うぅ」グスッ

女「で、できないよ……」

女「男君が一生懸命作って大事にしてた物なんかこわせるわけない…!」

女「……おかしいよ!」

女「なんで!」

女「なんでそんな優しいの!?」

女「元彼の話もしたし!」

女「タバコも吸ったし!」

女「男君の事こき使ったし!」

女「イヤなこといっぱいしたのになんで!」

女「私の事嫌いになってよ!!」

女「お願い…お願いします…」

女「なんでもするから……」

女「……その病気治してよ」グスッ

  
男「やっぱり見てたのか」

男「…………」

男「一過性脳……なんとか」

男「だと思うって感じだけど」

男「ほっといたら脳梗塞になるやつ」

女「私のせいだ……」グスッ

女「今からでも嫌いになってよ…!」

男「もう遅いと思う」

男「このTIAってのが出てるうちだと水を大量に摂取したりし続ければ予防とかも可能なんだけど」

男「今気づいたよ。女さんにあんな風にされても好きだったから」

男「もう嫌うのは無理。ごめん」

女「……」ポロポロ

  
女「ねぇお願い!」

女「きらいになってください!」

男「……」

女「そ、そうだ!」

女「付き合う時に、本当に危なくなったら言う事聞くって言ってくれたじゃない!」ポロポロ

女「私の事好きだったら言う事聞いてよ!」

女「うぅ…」グスッ

男「ごめん…」

女「はなれたくないよ…!」

男「(形見は狙わずにボトルシップを壊そうとしてた時点で気づかないといけなかったかな…)」

男「(形見は女さんも持ってるし手を出したくなかったのか。元からその発想がなかったのか…)」

男「(ていうかこんな姿見せられたら一気に進行しそうだな…………)」

男「(まぁいいか。楽しかったし)」

  
男「……」

男「(旅行も行きたかったな)」

男「(ドライブもしてみたかった)」

男「(もっと女さんと一緒にいたかった…)」

男「(こんな弱気じゃダメか…)」

男「…………」

男「(女さんすごい泣いてる…)」

男「(感動とかで泣かせたかったな…)」

男「(サプライズとかも…)」

男「…………」

男「(どれも今更だな)」

………

……


  
2時間後

男「木ようも金曜も学校いけなくてごめん」

男「さい後まで遊びたかったんだけど」

男「気づかれそうで……」

男「パソコン見られて気づかれるとは思わなかったな」

女「どうしようこれから…」ポロポロ

男「女さん泣かないで」

男「……もう十分遊んだからたおれるまで一緒にいたい」

男「全ぜん不幸じゃなあった」

男「……よくを言えば二人でお風呂入りたかったうらい」

女「入る…ずっと入る!」

男「ずっとだとふやけうよ」

女「……うぅ」グスッ

男「べつに今すぐ死ぬわけじゃあいから」

  
男「(とは言ったものの無理そうだな)」

男「(さっきからTIAの症状は治まらないし……)」

男「(……限界か)」

男「ちょっとここで待っててうれる?」

女「ど、どこ行くの!?」

女「私も行く!」

男「おふろだって。心ぱいしないえ。すぐもどうから」



お風呂

男「……いたた」

男「……」ゴシゴシ

男「めがいえなくなっえいた…」

男「…いたた」

男「(しゃべれなくなるというかうまく発音ができないのか…)」

  
男「おあたせ」

女「ギ、ギプスどうしたの?」

男「あずした」

女「外したの?」

男「うん。あずした」

男「(くそ…)」

男「(筆談にしようか…)」

男「(いやどうせ無理だ。上手く動かせもしない…)」

女「なんで外したの?」

女「も、もう大丈夫なの?」

男「もうだいよーう」

男「(……じゃないけど)」

男「ちょっとこっちいてうれ…」

女「うん…」グスッ

  
男「いままえごめん」

男「おっといっしょにいたあった」

女「私も…」

女「男君死なないで…」

男「……」ギュッ

女「……」ギュッ

男「(……麻痺で右手しか動かせない。ギプス外してよかった)」

男「(でも一回ぐらい両手で抱きしめたかったな)」

男「あいがと」ギュッ

女「ううん」ギュッ

女「……私救急車呼ぶ!」

男「おういいって」

男「さいごあ……おんあさんといたい」

女「……」グスッ

  
男「……」

男「(死ぬほど女さんのこと好きになれて幸せだ…)」

男「(それをもう上手く伝えられないのは残念だけど…)」

男「……」

男「……」

男「(……女さんの顔がよく見えないのが悲しい)」

男「……」

………

……


  
男「……」ギュッ

女「?」グスッ

男「……き」

女「私も好き。大好き」ギュッ

男「こえで……」

男「……」

………

……


  
男「………え…………う」

女「うん。ありがとう」

男「……い………あった」

女「私もだよ」

男「……………………」

女「……わかるよ。男君」

女「ちゃんと聞こえてる」グスッ

男「……………」

女「すぐ私も行くから」

男「…………………」

女「最後まで……最後まで優しいなぁ男君は」ポロポロ

男「………」

女「わかった。いっぱい長生きしてから男君に会いに行く」

男「……………」

  
女「ん?」

男「………………」

女「さみしいかなぁ…」

女「私もボトルシップ作るよ」

女「ちゃんと褒めてね」グスッ

男「…………」

女「お世辞はダメだよ」

男「……………」

女「ふふ。ありがとう」ポロポロ

男「………」

女「そういえばだけどね彼氏なんかいたことないよ」

男「………………」

女「?」

女「わかってたの?」

  
男「…………」

女「ふふ。でもちょっとくらい焦ってたでしょ」

男「………」

女「うーん。あんまり納得いかないけど…」

男「……………」

女「冗談だよ。これからも男君一筋だから」

男「…………………………」

女「……うん」ポロポロ

女「男君だいすき」

男「………………」

女「そろそろ?」

男「………」

女「うん。おやすみ」グスッ

男「……」

  
  
  
  
  
  
                                            糸冬
                                       ---------------

                                        制作・著作 NHK

  
一週間後 自室

友「んー」

友「男来ねーな」

友「せっかく色々言いたかったのに…」

友「……まぁ忙しいみたいだし」

友「しょうがないか」

ピンポーン

友「ん?」

友「もしかして……」

友「はーい」

友「今出まーす」

  
男「よ」

友「ん。やっと来たか」

友「上がってけよ」

男「あいよ」





友「とりあえずこれ返す。2週間くらい借りてたよな。助かった」

男「さんきゅ。見てくれただけでうれしいよ」

友「楽しかった。でも制服姿には笑いそうになった」

男「……やっぱそうだったか」

友「途中泣きそうになったよ。焦った」

男「そう言ってくれるとこれからも頑張れる」

友「今は忙しいのか?」

男「そうだな。また新しいのも撮ってる最中だ」

  
友「すまんな。強引に呼んで」

男「俺も会いたかったしちょうどよかった」



友「思ったんだけど食べるシーン多くないか?」

友「一緒になってお菓子めっちゃ食った気がする」

男「そうか?俺らは振りだからな」

友「なるほど」

友「それとさ、何で役名が本名のままだったんだ?」

男「なんでだろうな。特に聞かされなくてさ」

友「そうか。じゃあ女さんも本名が女ってことか?」

男「そうだな」

友「ふーん。ちょっと引っかかっててだけなんだけど」

  
友「んで旅行は厳しい感じ…?」

男「3週間後の土日だったよな…」

友「あぁ」

男「……やっぱ厳しい」

男「予定詰あるんだすまん」

友「忙しいのは知ってるし気にすんなよ。また行こう」

男「ありがとう」

友「それに仕事断ってまで行くようなもんでもないし」

男「……」

男「それが仕事じゃなくて……」

友「?」

  
3週間後

男「お待たせ」

女「遅いよもう」

男「全然タクシー捕まらなくてさ…」

女「しょうがないなー」

男「ごめんって」ナデナデ

女「許す!」

男「ありがと。じゃあ行こうか」

女「うん!」



レストラン

男「でもほんとに嬉しいよ。女さんと付き合えて」

女「そう?」

女「私も嬉しいよ男君」

  
男「何度もメールした甲斐があった」

女「ふふ。そうかもね」

女「でも男君は女友ちゃんとかがタイプかと思ってたよ」

男「話しやすいのは確かに女友さんだったかな」

女「そんなに私怖かった?」

男「そういう意味じゃないけど…」



女「付き合うまでは一ヵ月くらいメールし合ってたっけ?」

男「うん。それくらいしてたはず」

女「あの脚本みたいに長い間ずっと会えなかったから」

女「デートしても良いって思えたのかもね」

男「そっか。感謝しないと」

……


  
1時間後

男「あと俺の友達から指摘されてさ」

女「ん?」

男「あのドラマってなんで全員本名がそのまま役名で使われてたんだ?って」

男「その理由とか知ってる?」

女「…………」

女「…………」

女「ふふ。何でだろうね」

男「不思議だよな」

男「……終わったことだからいいんだけど」

  
女「(……表向きは普通の学園ドラマ扱いだけど)」

女「(あの脚本って実は私の家系のドキュメンタリーなんだよね)」

女「(つまり……あの呪いは実在する)」

女「(厳密なドキュメンタリーの定義からは逸れるけど事実なのは間違いない……)」

女「(たしかいろんな人の話を組み合わせてたはず。全くのデタラメは使われてないし)」

女「(男君の最期の場面はお母さんの初恋の人を基にしてたのかな)」

  
女「(本名を使ったのは…)」

女「(演出家はきっとその方が楽しいと思ったんだ)」

女「(あの人には全部教えてたはずだし)」

女「…………」

女「…………」

女「…………」

女「(どうやったら幸せになれるのかな)」

女「(……極端に言えば好かれれば死んじゃうし、長生きされてると愛されてないってことだし)」

女「(加減が難しいところね)」

女「(お父さんは私が5歳の時に死んだから)」

女「(それよりは長生きしてほしいかな)」

女「(でもそれは愛情で負けてるみたいでちょっとイヤかも……)」

  
女「(私もドラマみたいに打ち明けてみようかな……)」

女「(怖くなって逃げられるかも)」

女「(どっちにしろ男君びっくりするだろうな)」

男「……」ジー

女「?」

男「さっきから黙って考え事?」

女「……そんなとこかな」

男「すごい険しい顔してたよ」

女「そう?」

男「笑ってよ」

  
男「ほらほら」

女「ひ、ひっはらないでー」

男「いい感じ」

男「自分で笑える?」

女「わっわらえまふ」

男「やっぱり面白い」

女「ふん!」

男「じゃあそろそろ出ようか」

女「……はーい」

男「素直でかわいい」

女「あとでいっぱい引っ張ってあげるから!」

男「それは怖いな」

  
女「んじゃ先レジ行ってるよー」

男「はいはい」

女「私より出る用意遅いなんてダメダメだねー…」スタスタ

男「はいはいすみません」

男「(……財布どこにしまったかな)」ガサゴソ

女「男君…」スタスタ

男「…ん?何か言ったー?遠くて聞こえないんだけど…」ガサゴソ

女「私と一緒にいたら不幸になるよ」

男「……ん?聞こえないって!今行くからちょっと待って!」

男「(あ、財布あった)」

男「(はやく追いかけないと怒られる……)」

男「……」クラッ

男「……?」


終わり

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