?「ムッ? 何だ、此処は!?」 (140)





【地の文有の二次創作ssです。さて、何の二次創作でしょう? 正解は後ほど】






SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1458832450


燦々と太陽が眩しく輝く青空の下、閑散とした商店街の一角に、その髭面の男は立っていた。

見回す周囲の商店の入り口は皆一様に降りたシャッターで固く閉ざされ、髭面の男の足元には一般的なサイズのスポーツバックが唯一つ、ポツンと置かれている。

?「此処は一体何処だ? 俺は何故、このような場所にいる!?」

周囲には全く人の気配は無く、アスファルトに反射した陽光の熱気により、視界の先はゆらゆらと陽炎めいて揺れている。

?「ぬおっ!?」

と、突如、ゴゥ……と轟音が鳴り響き、近くの電線に止まっていた鳥たちが騒々しく鳴きながら一斉に、群を成して空へと羽ばたき飛び去った。

その轟音に僅かに遅れてやって来た衝撃波が店頭のシャッターや電線を激しく揺らし、近くの車道の信号の灯りがチカチカと、不明瞭に点滅する。


?「なっ、何だ? 何が起こった!?」

困惑する髭男の耳に続けて、空を切り裂くプロペラ音とズシン…ズシン…と何かを踏み締めるような、大きな音が鳴り響いた。

泡を食って音源の方向へと向けた髭男の視線の先で、数機のVTOL式戦闘用ヘリが山間から飛び出し、その背後からのっぺりとした仮面をつけた人型の巨大な生物が姿を現す。

?「なっ!? あれは……!!」

見覚えのあるその姿に髭男が意識を奪われた次の瞬間、VTOL式戦闘用ヘリが一斉に巨大生物へとミサイルを放った。

?「ぐぉ……!? 熱っ……!!」

巨大生物に着弾したミサイルの爆風の余波に吹き飛ばされ、熱く焼けたアスファルトの路上を転げる髭男の視界の先でVTOLが1機、巨大生物の右手の甲から突き出した光のパイルに貫かれ、鉄屑となって髭男へと降り注ぐ。


?「が……っ!?」

頭上から降り注ぐ戦闘ヘリの残骸と、ミサイル着弾の余波で砕けたコンクリートの塊にグシャ……っと見事に押し潰され、髭男は苦悶の声を上げた。

全身血塗れになり、立つことすらままならない身体で必死に鉄屑とコンクリートの山から這い出しながら、髭男は自分が置かれた状況に困惑する。

?(馬……鹿な…………!?)

もはや声すらも出せずただ驚愕し、朦朧と視界が霞む髭男の頭上僅か目と鼻の先で、何十発ものミサイルが巨大生物へと着弾し、周囲をさらに爆風で吹き飛ばした。

粉塵入り混じる熱風に煽られ、満身創痍の髭男はさらに数十メートルほど陽光に照らされて焼けたアスファルトの路上を転げ回り、ジュゥ……と嫌な音を立ててその皮膚や肉、流れ出した血液や体液諸々が焼けて、錆びた鉄のような臭いがその周辺に立ち籠める。


?(これは……夢か!?)

だとしたら、酷い悪夢だ……。そう現実逃避する髭男の視線の先に続け様に突如、自分に向かって爆走してくる1台の、青色のスポーツクーペ・アルピーヌ・ルノー・A310の車体が映りこんだ。

そのルノーはスピードを全く落とすことなく髭男へと向かって行き……、やがてキキィーーーーッ!!!! と激しいブレーキ音を立ててアスファルトの路上にタイヤの跡を刻みながら、後輪に髭男を巻きこんで勢いほぼそのままに急停止をする。

?「○×△×○□×△×○×△×○□×△×!!!!」

アスファルトの路上以上に熱く灼けたゴムのタイヤに全身を轢き裂かれて、その髭男【六文儀ゲンドウ】は声にならない悲鳴を上げながら、その意識を完全に落とした。


>>1はい、もうバレバレですが、【新世紀エヴァンゲリオン(新劇場版ヱヴァンゲリヲンは含まない)】の二次創作ssです。

一応、【愚か者達の贖罪の宴】というタイトル名があります。

作風のコンセプトは、キャラの立場を入れ替えて本当の外道共(ゼーレやゲンドウに洗脳されたとか関係無く、完全に自分の意思で人類補完計画に携わっていた畜生共とか)を贖罪ついでに甚振って遊ぼう。というものです。

尚、本作の設定は実は、昔自分がEVA作品を投稿していたサイトが自然消滅してしまったためにお蔵入りとなってしまった別作品の設定を一部流用しています。

そのためキャラ設定やカップリングが多少特殊な点もあったりしますが、その点はご容赦いただきますようよろしくお願いいたします。

あっ! ちなみに更新頻度は多分、遅めです。


>>1ゴメン「贖罪」じゃなくて「断罪」だった。

いきなり間違えた……OTL

サイト投稿勢のお人か……
あのエヴァ二次小説の乱世は、クソの中に埋もれた宝を探すような状態だったからなぁ
まあ期待はしてる。完結頑張れ


?「まぁ~ったく、なぁ~んでこのわたしが、こんなことしなくちゃいけないのよ!?」

スラリと指の先まで細長く伸びたしなやか手でルノーの運転席のドアを開け放ち、腰元まで伸びた陽光に透けて金色の煌めく癖の無い髪を風に靡かせて、ひとりの見目麗しい女性がしゃなりと優雅にアスファルトの路上へと足を降ろした。

周囲を吹き荒ぶ爆風や爆音には全く関心を向けず、やや色素の薄いシアンの瞳で悠然と周りを見回すその女性の身体を護るように、時折八角形の紅い光の楯が疎らに明滅を繰り返している。


?「さてと……、“あれ”はいったい、どこにいったのかしら?」

一通り見渡す周囲に目的の“モノ”が見つけることが出来ず、彼女は徐にその瞳を閉じ、視覚以外の五感を未だ鳴り止まない爆風・爆音以外の僅かな物音・気配へと集中させた。

そのまま暫く瞑目の後、彼女はゆっくりと双眸を開き、しゃなりしゃなりと優雅な仕種で自分の運転して来たルノーの後ろ側へと歩を進め、その後輪の方へと視線を落とす。


?「ああ、あった、あった」

ルノーの後輪に全身の半分以上を下敷きにされ、ビクンッ!ビクンッ!と痙攣する“それ”を発見し、彼女はルノーのトランクの奥から薄汚れた大きめの頭陀袋を引き出して、薄いビニールの手術用手袋をその両手にはめた。

その一部が引き千切れるのもお構い無しに“それ”を後輪の下から引き摺り出し、“それ”の千切れた部分も回収して纏めて頭陀袋の中に詰めこんだ後に入れ口を固くきつく締めて、彼女はその頭陀袋をドスンッ!と無造作に後部座席に放り入れる。

?「よしっ! 回収完了!!」

一仕事終了と軽く息を吐き、彼女は血や油や泥で汚れた手袋を外して路上に無造作に放り捨て、軽やかに身を翻しながら颯爽と運転席へと乗りこむと、もう其処には用は無いと言わんばかりにルノーを急加速で発進させた。

>>10
書きこみ有難うございます。

本作のテーマのひとつはグロ&ギャグなので、コメディタッチで自身も楽しみつつ、完結を目指します。

尚、一応抑え目にするつもりではありますが、結構グロ描写がきつくなるかもしれませんので、その際はご容赦願います。


?「なぁシンジ、本当に、奴等を放っておいて良いのか?」

眼下に臨む見苦しい光景、前方の巨大なスクリーンに映し出された巨大な生物と、それに成す術も無く一方的に殲滅される戦力にただ怒号を上げるだけの無能な男達の姿をあからさまに侮蔑して、青年は傍らの男【碇シンジ】に問い掛けた。

自身は戦場には赴かず、ある程度安全が保障された場所から見ているだけのくせに顔全体を口にして、眼前の男達はただ身勝手に、意味の無いことを只管喚き散らしている。


シンジ「ここでは【碇総司令】だよ、【鈴原副司令】」

そんな眼下の騒ぎなど事ともせず、その青年【碇シンジ】は傍らの青年【鈴原トウジ】に軽く肩を竦めて見せた。

そうしている間にも事態は二転、三転し、前方の巨大スクリーンに映し出された映像内では突如して、戦闘ヘリや戦車隊等が巨大生物の周囲から撤退をし始める。


シンジ「おやおや、どうやら漸く、N2地雷を使用する時間になったみたいだ」

トウジ「本当に、良いのか? 街がひとつ、消し飛ぶぞ?」

シンジ「一般市民の避難はもう済んでいる。あとはわざわざ、構いだてする必要は無いさ」

そうだろ? どこか訝しげな表情で眉を顰めるトウジに顔を向け、シンジはクスッと軽く、唇の端に笑みを浮かべた。

トウジ「因果応報、自業自得……か」

何処か楽しげに嗤うシンジの姿に僅かばかり天を仰ぎ、トウジのほうもやれやれと、両肩を軽く竦めて嘆息する……。


?「うっ……、此処は、何処だ…………?」

四方を鉄壁で囲まれた広い空間、薄暗い明かりに照らされた冷たい床の上で、その男は目を覚ました。

周囲にはキンッ!と冷たい空気が立ち籠り、不気味なくらいに深い静寂が、辺りの場の一面を昏く包みこんでいる。


?「う……っ?」

?「む……っ?」

と、突如、朦朧とする男の視界の中に、幾つかの蠢く姿が映りこんだ。

?「お前達、どうして!?」

薄暗がりに慣れてきた視界の先に見知った男達の顔を確認し、最初に目を覚ました男が驚愕の声を上げる。


?『う……っ! ぐぐ…………っ!?』

よくよく周囲を見渡してみれば、床の上に倒れこんでいたのは男達3人だけではなかった。

両手だけでは数えきれないほどの人数、しかしその何れも見知った顔触れが、薄暗い明かりに包まれたその空間で次々に目を覚ましていく……。


?「何ーーぃ……っ!?」

と、突如、男達の集団の一画から、悲痛な驚嘆の悲鳴が響いた。

?「っ……!?」

?「馬……鹿な…………っ!?」

反射的に悲鳴の発信源の方へと視線を移し、男達はその先に書かれた文字を見て其処がどこであるか皆一様に把握をし、同時に皆一様に驚愕の声を上げる。


それは其処が、とあるひとつのシェルターであることを示していた。

但し、そこにいる男達全員にとっては、ただのシェルターというわけでは無い!

何故なら…………


?『…………っ!?』

其処が“間接的であれ直接的にであれ、その男達の手によって焼失した筈のシェルター”であることに男達が気がついた次の瞬間、白く眩しい光が周囲を包み込んだ。

続け様に、凄まじい威力の爆風と衝撃波が逃げ場の無い密室に充満し、そのシェルターの中を縦横無尽に荒れ狂う。


?「が……っ!?」

?「ひぃ……っ!?」

?「た、助け……っ!?」

阿鼻叫喚の地獄絵図さながらの光景の中、嘗て戦自やUNの将校であった男達や隊員であった男達は皆、あるものは四方の壁面に、またあるものは床や天井に叩きつけられ、全身を焼く爆風に腕や脚を吹き飛ばされながら、苦悶の中で例外無く絶命した。


はい、そういうわけでまずは、本編第1話目でN2地雷を使用した&使用させた愚か者達に、その罪を償わさせました。

本編のその後、この馬鹿達がどのように処罰されたのかは明確になっていませんが、大勢の民間人ごと街をひとつ吹っ飛ばしたんだから、同じ条件で地獄を味わせるぐらいはしないと無駄に殺された民間人が浮かばれないですよね?

さて次は、どいつを虐めようかなぁ~……

投稿終わったあとにわざわざ自分で解説しちゃうのはちょっと・・・

>>26
いや、流石に今回は自分の趣味全開で虐殺描写したんで解説入れないとまずいと思ったんですけど、余計でした?

次回の投下からは、気をつけますわ。


第2新東京市から、第3新東京市のジオフロントへと至る山沿いの車道

?「もしも~し! ヒカリ? 聞こえてる~~?」

?「ピー…… アスカ? ガー…… どうしたの、何かあった?」

?「あ~、や~っと繋がった。さっきから何回も掛けてたのに繋がらなかったのよ? 何かあった? は、こっちのセリフよ~!!」

ルノーを自動運転に切り替え、右手で【NERV技術部長:鈴原(旧姓:洞木)ヒカリ】へと繋がったスマホをその整った右耳に当てながら、【NERV作戦部長:惣流アスカ】は軽い嘆息を洩らした。

彼女の背後ではビクンッ! ビクンッ! と、ひとつの大きな頭陀袋が絶え間無く痙攣している。


ヒカリ「貴女、気がつかなかったの? ついさっきその付近でN2地雷が爆発して、暫く電波障害が発生していたのよ?」

アスカ「周囲にATフィールドを展開した状態でそっちに向かって爆走している最中なもんで、んなもん全然気がつかなかったわよ」

ヒカリ「……急いでくれるのは有難いんだけど、途中で人身事故を起こしたりしないでよ?」

アスカ「こんなところ、とぼとぼ歩いている奴なんていないわよ」

ヒカリ「そんなの、分からないわよ? 危険は何時、何処に潜んでいるとも限らないんだから」

アスカ「はいはい、分かったわよ。十二分に、周囲には注意を払うって」

心配性だが、どこか的の外れた親友の言葉に、彼女は生返事をしながら思わず僅かに苦笑を洩らした。

リクライニングシートを軽く後ろに倒し、全身を後ろに反らして軽く伸びをした状態で彼女は軽く左手を上下に振る。


ヒカリ「まったく、返事だけは良いんだから…… それで、態々連絡を入れてくるなんて、何か問題でもあったの?」

アスカ「あぁ、そうそう。例の“モノ”は無事回収したんだけどさ~、頭陀袋に詰めて運ばなきゃいけない状態なんで、カートレインの降り口の方に2、3人ほど男手を回しといてくれない? あっ、あと直通のカートレインの準備も、よろしく!」

ヒカリ「あぁ、そういうことね。分かったわ。ムサシ君とケイタ君を連れて、わたしも降り口の方で待っているわ」

アスカ「ダンケ! じゃ~ヒカリ、あとでね!!」

上機嫌でスマホの通話終了ボタンを押し、彼女はそのままそのスマホをぽんっと助手席へと放り投げた。




1台の青いルノーは1人と1つの“モノ”を乗せたまま、一路ジオフロントへと向かっていく…………







日本国際連合直属非公開組織特務機関NERV、その一室……




シンジ「そろそろだね……」

トウジ「あぁ、もうそんな時間か……」

NERV司令【碇シンジ】がパチンッ! と右手の指を鳴らすと同時に、部屋から一切の明かりと人影が消え、周囲が静寂に包まれた。

時を同じくして、ジオフロントに向かっている巨大生物【第3使徒】の周囲から戦車や戦闘機、自走砲台等が幻の如く薄れ消え、その周囲が閑散とした静寂の帳に包まれる。


トウジ「……もう、いいのか?」

既に後ろへと振り返る様子も無く、“本当の”司令所へと歩を進め始めたシンジの後姿に、トウジは怪訝の色を濃く宿す視線を向けた。

シンジ「此処から先は戦略自衛隊とUNからNERVに戦場の指揮権が移るだけだから、もう世界の記憶の再演に何の意味も無いしね」

トウジ「……そうか…………」

自身に向けられる怪訝な視線等意にも留めず、もうそれ以上は興味は無い! と淡々と言い切るシンジの後ろ姿に軽く肩を竦め、やや遅れてトウジも歩を進め始める。


トウジ「過去の自身の過ちに、自分自身が裁かれる。自業自得……か」




その呟きに答えを返す者は、誰もいない…………







ジオフロントNERV本部直通カートレイン降り口




アスカ「あ~ヒカリ~! 出迎えてくれて、有難う!!」

ヒカリ「ちょっ、アスカ!? 苦しいし、恥ずかしいじゃない!!」

ルノーの運転席から降車し、姿を確認するやまっしぐらに自分に抱きついて来たアスカに、ヒカリは思わず目を白黒させた。

抱き合う美女2人の様子を彼女達から一歩程後ろに退がったところからまともに目にしてしまった青年2人が、思わず顔を赤らめてさっと回れ右をする。


アスカ「あ~ゴメン! ゴメン! 結構久しぶりだったから、つい……」

ヒカリ「つい…… じゃないわよ、まったく…… それで? 例の“モノ”は?」

アスカ「あ~、そこよ」

口では謝罪の言葉を言いながらも、まったく悪びれる様子も無い彼女に苦笑を噛み殺しながらのその問いに、アスカは一度ヒカリから離れ、左手の親指をくいっとルノーの後部座席へと向けた。

ヒカリ「そこ? ……これ、生きてるの?」

アスカ「取り敢えず動いてるし、シンジも「どれだけぞんざいに扱ってもどうせ死なないから一向に構わない」って言ってたから、大丈夫なんじゃない?」

ヒカリ「そう……」

指差す方向を覗き込み、未だビクンッ! ビクンッ! と不定期な痙攣を繰り返す頭陀袋を目にして思わず掛けた問いにアスカに軽く返され、ヒカリは首を傾げつつも何となく納得する。




あのシンジがそう言ったというのだから、確実に本当に大丈夫なのだろう……と。




ヒカリ「ストラスバーグ二尉、浅利二尉、この頭陀袋を運び出して、中身をケージに準備してあるE01のエントリー・プラグに放り込んでおいてくれないかしら? 多少、手荒に扱っても構わないから」

ムサシ&ケイタ『は、はいっ! かしこまりました、鈴原博士!!』

と、唐突にヒカリに声を掛けられ、まだ赤みの残る顔を彼女達から隠すように逸らしつつカートレイン上のルノー後部座席のドアを開き、ムサシとケイタと呼ばれた2人の青年は慌てて中の頭陀袋を引き摺り出した。

その際、慌てるあまりガンッ! ゴンッ! と頭陀袋がルノーの車体やカートレイン上にかなりの勢いでぶつけられ、その度に袋の中からがっ!? ごっ!? とかいうくぐもった音が聞こえるが、その場の誰も気にしない。

アスカ「……一応、中身が生きてることは確認が出来たわね」

ヒカリ「……ええ、そうみたいね」

泡食った様子で駆け足で運んでいるためか何回も落としているらしく、2人の足音が完全に聞こえなくなるまでにガンッ! ゴンッ! という音とともに、がっ!? ごっ!? というくぐもった音が何度も彼女達のもとまで響いてくる。


ヒカリ「じゃ~わたしたちも、発令所へ向かいましょうか?」

アスカ「E01のケージでは無くて、いいのよね?」

ヒカリ「パイロットじゃない貴女が行って、どうするのよ?」

ムサシとケイタの足音が完全に聞こえなくなったのを確認し、アスカとヒカリも軽口の会話を交わしながらジオフロントの通路内を発令所に向かって歩き出す…………


>>1 一旦、区切ります





第3東京市のジオフロント内、特務機関NERVセントラルドクマ第二層「司令・発令室」へ直通のエレベーター内




アスカ「それで? ヒカリが迎えに来てくれたってことは、E01の準備はもう済んでいるわけ?」

ヒカリ「ええ、レイさんの方も準備万端の状態だし、あとはパイロットを乗せて、“貴女”がトレス・サージとE01のシステムをリンクさせればいつでも発進可能よ」

アスカ「乗せる? 「放りこむ」じゃないの?」

ヒカリ「まぁ、そうとも言うわね」

絶えず第一種戦闘配置を告げる館内放送に取り立て慌てる様子も無く、緊張感の欠片も感じられない問い掛けに、淡々とした機械的な答えが返された。

ヒカリ「ところで、ムサシ君とケイタ君にケージまで運んで貰っているさっきの“アレ”、いったいどんな状態だったの? 袋詰めにされてたから、中身は見えなかったけど?」

アスカ「いや、それがわたしが発見した時には下敷きになって、血塗れの状態で気絶しててさ~……」

スマホ越しであったとはいえつい先程、人身事故を杞憂していた相手に「実は自分が車の下敷きにしました」と言うわけにもいかず、アスカはもごもごと曖昧に言葉を濁す。


アスカ「引き摺り出すときに腕と脚が1本ずつもげたけど、それも回収して纏めて袋の中に詰めておいたから……」

ヒカリ「っ!? 何でそれを、真っ先に言わないの!?」

アスカ「えっ!?」

……今頃は、再結合をしている真っ最中なんじゃない? そう言葉尻が終わるのを待たずして、ぎょっとした様相で突如、ヒカリは両手でアスカの両腕を強く掴んだ。

ヒカリ「ミーミル! いますぐ発令室に、通信を繋げなさい!!」

アスカ「ど、どうしたのよ、いきなり!? っていうか、わたしを「ミーミル」って呼ぶなって……」

ヒカリ「そんなことはいいから! はやく!!」

アスカ「わっ、分かったわよ……」

必死の様子で急かすヒカリに気圧されて、アスカは上着のポケットからスマホを取り出すと「トレス・サージ」システムを媒介して発令所へと回線を繋げ、そのままそのスマホをヒカリの手に渡す。


ヒカリ「ナツミちゃん! 聞こえる?」

第一種戦闘配置態勢で慌ただしく、大勢の人員が各々の作業を推し進めるNERV本部内の全域に突如、切羽詰まった状態のような女声が響き渡った。

ナツミ「お義姉さん!?」

その声に名指しされ、同組織副司令の実妹にして技術開発部技術局一課所属【鈴原ナツミ】二尉は思わず作業を行う手を止め、ぐるりと周囲を軽く見渡す。

ヒカリ「わたしの声が聞こえていたら、E01を映しているモニターのバーチャル・モニターへの切り替えをお願い!! あとストラスバーグ二尉と浅利二尉! その中身を放りこむ際はマニピュレーターを使用のうえ、必ずバーチャル・ゴーグルを装着するように!!」

自分達の名字も階級付で名指しされ、セントラルドグマ第三層のケージへと移動途中のムサシとケイタは思わず顔を見合わせ、手に持った頭陀袋を床に落とした。

ゴンッ! と鈍い音ともに、ぐぇ……っ!? と蛙が潰されたような音が、落ちた頭陀袋の中から発生する。


アスカ「いったい、何だって言うのよ!?」

一息にNERV本部内全域に繋げた通信回線で一方的に指令を出し、スマホを自分に返すヒカリの姿に柳眉を顰めて、アスカは訳が分からないと大袈裟な仕種で首を傾げた。

ヒカリ「気がついていないの? 貴女はNERVの所員全員に、大きなトラウマを与えるかもしれないところだったのよ?」

本当に意味が分かっていない様子のアスカに諭すように、ヒカリは優しく言葉を返す。

アスカ「トラウマって、そんな、大袈裟なことを……」

ヒカリ「貴女自身が実際に戦場を経験しているから、感覚が麻痺しているのね?」

アスカ「だから、何を……」

ヒカリ「肉眼であれモニター越しであれ、半ば千切れかけた“仮にも人型の生物”の腕や脚の映像なんか目にしたら、人間の精神に悪影響が無いわけが無いでしょう?」


アスカ「あっ……」

そこまで言われて漸く、アスカも事の重大さに気がついて思わず左手を口許に当てた。

ヒカリ「ましてやムサシ君とケイタ君に至っては、手袋越しでも“そんなもの”の触感を体感でもしようものなら、下手したら発狂もしかねないわよ?」

実戦の経験者であり、それ故にそういったことに対する価値観の基準がそもそも違う彼女に追い打ちをかけるのも可哀想か? という考えがちらりと脳裏を横切るが、今後の為にも敢えて心を鬼にして、彼女は親友へと言葉を続ける。

ヒカリ「誰も彼もが貴女と同じように、心が強いわけでは無いの。相手のことも考えて、行動するようにしなくちゃ……」

アスカ「……わかったわよ…………」

辛辣ながらも自身を思い遣ってくれている親友の言葉に、不貞腐れたような態度を取りつつも、アスカは肯定の意を返した。

意地っ張りでも基本的には聡明な彼女なら、これでもう大丈夫だろう。そういう判断を下し、ヒカリもそれ以上の追撃の手は止めることにする。





それからは暫く、どちらからも相手に喋り掛けず、されど決してその間に重たい険悪な雰囲気を漂わせない状態の2人を乗せて、一台のエレベーターはただ静かにセントラルドグマを降りていく…………




>>1 ここで区切ります。

トウジの妹の名前は、>>8で新劇場版を含まないと書いたこととcv.が役職的に同じことから、【ナツミ】を今後も起用いたします。

【ミーミル】、【トレス・サージ・システム】につきましては、今後のストーリーの中で徐々に明らかにしていく予定。

SS速報VIPスレッドだと、ストーリーを小分けにしてちまちま投下できるから、ある意味楽だわ~





第3東京市のジオフロント内、特務機関NERVセントラルドクマ第三層「Eシリーズ格納ゲージ」内




ムサシ&ケイタ『せー……のっ!!』

先程の本部内全域放送によるヒカリの指示通りに顔にバーチャル・ゴーグルをつけ、2人の青年はマニピュレーターを操作して固く結ばれた頭陀袋の口を鋭利なナイフで斬り裂いて、掛け声と同時にその袋の中身をエントリー・プラグに放りこんだ。

袋の口を斬り裂いた際に勢いがあまり、袋の中身のものも一緒に斬り裂いて盛大な血飛沫がマニピュレーターに噴き掛かるが、バーチャル・ゴーグル越しの視界にはマネキンから普通の水が出ているようにしか映らないため、青年達は何も気にしない。

ゲンドウ「がっ……!? ひゅっ…………」

縦置きに設置されたエントリー・プラグ内を垂直に、頭から真っ逆様に墜落し、六文儀ゲンドウはゴキンッ! という嫌な音を立てて首の骨を折り、血混じりの泡を口から噴き出した。

その凶悪な髭面の眼は完全に白目を剥いており、気絶状態のためだらんと弛緩したその右腕と右脚はまだ完全に結合が完了しておらず、神経と骨と肉と靭帯と間接が半ば剥き出しの状態になっている。


ムサシ「よしっ! 取り敢えず、一仕事完了だな!!」

ケイタ「うん、そうだね! それじゃあ僕達も、発令所に急いで戻ろう!!」

そんな肉眼で直視すればトラウマ確実の惨状もバーチャル・ゴーグル越しの視界にはマネキンが逆様になっているようにしか映らず、2人の青年達は額に浮かんだ汗を軽く拭うと、そのままケージを後にした。

エントリー・プラグの底にはゲンドウから噴き出した血が大きな血溜まりを作っていくが、バーチャル越しには水溜まりにしか見えないため、青年達も発令所のモニターでそれを確認している作業スタッフも、誰ひとりとしてそれを気にも留めない。


シンジ「目標は現在、どうなっています?」

アスカ「E01機のパイロットの設置、完了してる?」

ストラスバーグ二尉と浅利二尉がケージを後にするのとほぼ時を同じくして、喧騒に包まれるセントラルドグマの発令所内に青年と女性の声が響き渡った。

程無くして司令所に入って来た碇司令と鈴原副司令と碇司令によく似た面影の女の子、および発令所に入って来た惣流作戦部長と鈴原技術部長へと発令所内の全職員が身体を向き直り、背筋を伸ばした直立の姿勢で右手を挙げて敬礼する。

トウジ「目標は?」

ナツミ「目標は現在、このジオフロントに向かって真っ直ぐに進行中、E01機のパイロットは先程エントリー・プラグへの搭乗を確認いたしました! お兄ちゃん……じゃなくて、副司令!!」

シンジ「……ってことらしいよ? お兄ちゃん?」

アスカ「貴女、この状況で「お兄ちゃん」は無いでしょう、「お兄ちゃん」は……」

上方にある司令所からの再度の問い掛けに敬語で対応しつつ、実兄の呼び方をつい間違えてしまったナツミの言葉に、誰よりも先に司令と作戦部長が反応を示した。

ヒカリ「(馬鹿っ……!!)」

次の瞬間、それまで緊迫していた空気に弱冠の緩みが入り、どこからかクスクスと忍び笑いのような音まで混じり始めた発令所内の状態に、技術部長はそのナツミにのみ聞こえる程度の小声で思わず彼女を叱咤する。


アスカ「……ストラスバーグ二尉と、浅利二尉の2人は?」

ナツミ「ふっ……2人とも現在こちらに向かって移動中、間も無く到着されるものと思われ……」

ムサシ「ストラスバーグ二尉、入ります!」

ケイタ「同じく浅利二尉、入ります!」

アスカ「……そう」

義姉に軽く叱咤され、身を縮めながら答える鈴原二尉の言葉と、それを遮り発令所に入って来た2人の青年の言葉を受け、アスカはさっと身を翻すと発令所内の自らの所定の位置についた。

宙空を流れるようにしなやかに彼女の右手がその視線の高さまで掲げられた次の瞬間、それまで何も無かったその右掌の先の空間に小さく青白い光を放つ長方形の薄い画面が現出し、彼女の金色の髪とシアンの瞳がノイズ混じりの光を湛え、一層明るい煌きを放ち始める。

アスカ「<AURORA SAGE-MIMIR ACCESS, SAGE-ORACLE SAGE-HAL LINKS,TRES-SAGE-SYSTEM STARTING!!>」

機械的な音に変わったアスカの声が淡々と感情無く命令を出した次の瞬間、技術部所定位置のモニター上に ORACLE-OK, HAL-OK という文字が浮かび上がり、続けて MIMR, ORACLE, HAL の文字が正三角の形を成し、その上に TRES-SAGE と書かれた画面へと切り替わった。


ヒカリ「トレス・サージ・システム、コードネームE01【エヴァンゲリオン初号機】システム、リンクスタート!」

ナツミ「は、はいっ!!」

いつの間にか自分の所定の位置についていたヒカリからの発令に、汚名返上とばかりにナツミが一番に反応を返した。

と、その声にアスカのその神秘的な姿に思わず目を奪われていた他の技術部員達も次々に、いま自分達が為すべきことを思い出して各々が作業の再開をし始め、そのどさくさに紛れてムサシとケイタの2人も自分の所定の位置へと移動する。

ヒカリ「E01プラグ、エヴァンゲリオン初号機にエントリー! LCL注水開始!!」

その声とほぼ同時に、発令所前方に設置された巨大なバーチャル・モニター内ではエントリー・プラグがエヴァンゲリオン初号機の脊髄へとインサートされ、続けてモニター画面がバーチャル映像の状態のまま、LCLで満たされていくエントリー・プラグ内へと切り替わった。




そのモニター内に映された映像の中で、逆様になってひしゃげた状態のマネキンが、本来であれば足元にあたる位置から迫り上がってきた透明な水の中に徐々に沈みこまれていく……




ゲンドウ「ぐぶっ!? がばっ!? ごぼぼっ……!?」

エントリー・プラグ内がLCLで完全に満たされて間も無く、全身に纏わりつく冷たい感触と全身が浮遊しているような違和感を感じ、六文儀ゲンドウは漸くぼんやりと意識を覚醒させた。

暫くの間はぼーっと朦朧とし続けていたが、突如襲ってきた首間接、右腕間接、右脚間接の激痛に意識を無理矢理引き戻され、やがて自分が狭い密室で水責め状態になっていることに気づき慌ててジタバタともがき始める。

シンジ「慌てるな! それはLCLだ、分かるだろう? それで肺を満たせば、酸素はLCLが自動的に取りこむ!!」

ゲンドウ(なっ!? この声は!?)

と、突如、自分の記憶のものよりも弱冠大人っぽさを増した聞き覚えのある声が、ゲンドウの耳に聞こえてきた。

ゲンドウ「おまっ……、がぼっ!? ごぼぼ……っ!!」

LCLに浸かっている全身が使っている状態なのに声が聞こえてきた方向に声を返そうとし、ゲンドウは大量のLCLを飲みこんでまた無様にじたばたと溺れてもがき苦しむ。

一回首の骨を折ったことで自らが吐き出した血の味と、肺を満たすLCLの血の味がゲンドウの味覚を容赦無く刺激し、抑え難い程の嘔吐感が強くゲンドウを苛ませる。


ナツミ「エヴァンゲリオン初号機とサード・パイロットのフィードバック率100%、いつでも発進可能です!」

発令所内に響き渡ったその声を聞き、ゲンドウは漸く、自身がエヴァンゲリオン初号機のエントリー・プラグの中に“浮かんでいる”ことに気がついた。

そのエントリー・プラグ内をざっと見回してみるが、体を固定するために使用出来そうなものは悪意を持って意図的に何も用意されていないため当然見つからず、ゲンドウはただぷかぷかとエントリー・プラグ内を浮かび続けることしか出来ない。

ゲンドウ「何のつもりだ!!」

仕方無くエントリー・プラグ内をぷかぷかと間抜けに漂いながら、LCLで肺を満たし言葉を喋れる状態になったゲンドウは、目の前のモニターに映し出された青年に、あらん限りの声量で怒号を飛ばした。

シンジ「何のつもりとは、何のことだ?」

ゲンドウ「実の父親の俺に向かって、その口調と態度は何だ! 一刻も早く、俺をここから出せ!!」

シンジ「はぁ!? それは何の世迷い言だ? お前などが、わたしの父親であるわけが無いだろうが!!」

その一連のやりとりに、現在のモニターに映っている姿はマネキンだが、一応参考資料として六文儀ゲンドウの顔を認識していたNERVの全職員の心の声が、『まったくだ!!』と一致する。


ゲンドウ「世迷い言を言っているのは、お前の方ではないか! お前は俺と妻の碇ユイの間に生まれた、俺達の子どもだろうが!!」

シンジ「……と勝手な妄想を言っているが、ユイ、君の意見はどうだい?」

ユイ「……わたしはこんな凶悪な人相の髭面になんて、体を許したくは無いわ。もし無理矢理迫ってきたら、襲われる前に自分で舌を噛み切って死んだ方がまだマシよ」

シンジ「だ、そうだぞ? そもそもうちの娘のユイが、お前のような凶悪面の外道と結婚しようと考えるわけも無いだろうが! 馬鹿も休み休み言え!!」

ゲンドウ「なっ…………!?」

傍らに立つ実の娘、ファーストチルドレン【碇ユイ】を庇う様に自分の後ろに退げてゲンドウの視線から隠し、シンジは呆れた声を出しながらゲンドウに対する侮蔑の感情をまったく隠そうともせず露骨に顕にした。

自分の言うことを絶対に聞く存在だと妄信していたシンジに完全に見下され、自分に無償の愛を注いでくれる存在だと妄信していた妻の姿をした少女に完全に拒絶されて、怒りの感情よりも先に現状の把握を精神が拒絶し、ゲンドウは完全に放心した状態になる。


シンジ「妄言はもう、そのくらいでいいな? 惣流作戦部長!!」

アスカ「了解! コードネームE01、エヴァンゲリオン初号機、発進!!」

その号令とともに、リニアレーンに乗せられたEVA初号機がリニアレーンにより、物凄い速度でジオフロントの第三層から地上へと打ち上げられた。

ゲンドウ「がっ!? ぐっ!? ごっ!? げっ!? ぎっ!?」

まったく固定されていない状態でプラグ内に浮かんでいるだけの状態なので当然、ゲンドウはエントリー・プラグ内部の至る所に何度も高速で叩きつけられ、その度に苦悶の声を洩らし続ける。




尚、発令所内のモニターにはプラグ内の至る所にぶつかるマネキンの姿とともにゲンドウの苦悶の声も流れるが、全職員が顔写真を手渡される際に、碇司令直々にその腐れ外道な思考回路についてもひと通り伝えられていたため、そいつに同情するものは誰もいない。




(ああ…… 此処だ…………)

進行を再開してから暫くの間、老人の進行を妨げるものは無かった。

やがて鉄とコンクリートのビル群が立ち並び、地も一面が分厚い鉄板で覆われた場所へと辿り着き、老人は確信する。

此の下の何処かに、自分をいまもなお呼び続け、此処まで導いて来た“何”かがいる。

(……何だ?)

後はただ、この下を掘り進むだけ…… そう判断し、のっぺりとした仮面のような2つの貌を下に向けた瞬間、老人の足元がぐらぐらと揺れ動いた。

続けて地の底から低いモーター音を伴い、全身を強固な装甲で覆われた1体の巨人が老人の前に姿を現す。


(……っ!?)

額の中心に一本の角が生えた鬼の様な顔のその巨人を見た瞬間、老人は考えるよりも先にその巨人へと掴み掛った。

糸の切れた操り人形の様に前のめりの態勢で地面に倒れ行く巨人の顔に伸ばした左手で鋭く掌底を当て、右手で巨人の左腕を掴み、巨人の頭と左腕を全力でそれぞれ逆方向へと引き伸ばす。

目の前の巨人がいったい何だったか、老人は思い出せなかった。

だが、これだけはわかる。

目の前にいる“これ”は、自分の敵だ。

滅ぼさなければ、自分の方が滅ぼされる。


ゲンドウ「……ぎ……、がぁ…………っ!?」

何ひとつとして支えの無いEVA初号機のエントリー・プラグの中、ぷかぷかとLCLの中を漂っていた六文儀は、これ以上無い最悪な状況で目を覚ました。

ゲンドウ「ぬぉっ!? ぅぎぎ…………!!??」」

目を開けた瞬間、直近で視界に入った第3使徒の顔に六文儀は思わず仰け反り、続いて頸と左腕を襲う激しい激痛に意味を成さない呻き声を洩らす。




ゴキッ!! グシャッ!! ブチブチブチブチブチ…………




ゲンドウ「ぐがぁぁぁ!?!?」

使徒により初号機の頸椎が折られ、左腕が握り潰されて引き千切られた瞬間、エントリー・プラグの中で六文儀自身のまだ完全に回復しておらずぐらぐらになっていた頸椎が再び折れ、左腕がひしゃげて千切れ飛んだ。

神経が剥き出しの状態でプラグの中に漂う己の左腕に気を向ける猶予も無く、続け様に使徒の左手に持ち上げられた初号機の顔の左目に、使徒のその掌から出し入れされる薄紫色に光るパイルにより何度も衝撃が加えられ、その度に同じ痛みが六文儀の右側頭葉を何度も襲う。



やがて…………



ゲンドウ「ぐっ……ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」

使徒の放つ光のパイルが初号機の右目を貫き、そのまま初号機を手近にある兵装ビルの一棟へと叩きつけた。

初号機のエントリー・プラグの中で六文儀の右側頭葉にも穴が開き、右頭蓋骨の後ろからその右目が飛び出して、プラグの中を漂い出す。

六文儀は人間が想像し得る痛みを遙かに絶する痛みに耐え兼ね、糞尿まで垂れ漏らしながら再び、エントリー・プラグの中で気絶する…………


(勝った……のか?)

左掌から伸ばした光のパイルに左頭部を貫かれた状態のまま壊れた兵装ビルの中に埋もれて動かなくなった初号機へと視線を向け、老人は外観からは何処にあるとも判別の出来ない小首を傾げ、気を僅かに緩めかけた。

視線の先にいる初号機は何処を見ても満身創痍の状態で、一見したところ最早、這って動くことすらもままならない様に見える。

だが、老人の中で何かが、完全に安心するのはまだ早いと警鐘を鳴らしていた。




いや、寧ろ本番は…………




(っ!?)

理由が定かにならない嫌な予感に突き動かされ、老人が僅かに緩んだ緊張の糸を張り直そうとした次の瞬間、初号機の頭部に刺さったままの光のパイルが初号機の右手によって勢い良く手繰り寄せられた。

慌てて態勢を立て直し、老人は手繰り寄せられる勢いそのままにカウンターでの反撃を試みる。



……が、僅かに遅い。



初号機の右脚が2つの仮面の様な貌のほぼ中央に見事に突き刺さり、老人は青色の体液を周囲に撒き散らしながら後方にある兵装ビル群まで蹴り飛ばされた。

壊れた兵装ビルの瓦礫に埋もれて老人が動かなくなった隙を見逃さず、初号機は近くに落ちていた自身の左腕を右手で拾い上げ、再結合させながら一足飛びに仰向けに倒れた状態の老人へと襲い掛かる。


(く……来るなーーーっ!!)

襲い来る鬼神の如きその姿に怖れを抱き、苦し紛れに貌から光条を放ちながら老人が強烈な拒絶の意思を示した瞬間、老人と初号機の間を隔てる八角形のオレンジ色に煌めく障壁が出現した。

宙を舞い来る初号機の行く手をその障壁【ATフィールド】が阻み、続け様に老人の貌から放たれた光条が初号機に炸裂する。

爆炎と煙に全身が包まれて見えなくなった初号機の方へと視線を向けつつ、老人はATフィールドにより一瞬でも、初号機が宙空で静止すると確信していた。

そして、その瞬間こそ、自分が反撃に転じることが出来る最大の好機であるとも。

だが…………




グチャリッ!!




(なっ!? 馬……鹿な…………!?)

老人の予想を遙かに裏切り、ATフィールドが一瞬の抵抗も無くまるで紙の様に容易く破られ、続けて現れた初号機の両膝蹴りが老人の身体の中央にある紅い光球に深々と突き刺さった。

地球の重力任せに膝蹴りの状態のまま初号機は老人を地面へと深く縫い付け、続けて膝蹴りを喰らわせた光球の周囲に突き出した肋骨の様な部分を8本、右手と復元した左手の指で力任せに圧し折り取る。

圧し折り取った老人の肋骨(?)をメリケンサックの様に両手の各五指の間に挟み、初号機は膝蹴りで僅かに罅の入った老人の光球に狙いを定めると、他の部位には目もくれずその光球だけを両拳で只管殴り始める。


(や……止めろーーーっ!!)

初号機に殴られ、その光球【核】に徐々に罅が刻まれていく度に、老人の意識が、精神が、魂が深く昏い闇の底へと徐々に引き擦りこまれ始めた。

自分の魂に直接触れるその底の見えない冷たさに、老人は本能的にその闇の恐ろしさに気付いてしまった。

その闇に完全に呑みこまれてしまえば、老人の魂は輪廻転生の輪からも外れ、無に還って完全消滅してしまう…………

(止めろっ! いまならまだ、この不敬を許してやる! この無礼を勘弁もしてやろう!! だから……)




ガッキーーーンッ!!!!




満身創痍の状態、死の淵に置かれても尚、上から目線の鼻持ちならない高圧的な思考を自分を殴り続ける初号機へと向けていた老人の【核】が、初号機の両拳による渾身の一撃で激しい音を立てて砕け散った。




(い……嫌だぁーーーーー!!!!)




声にならない絶叫と同時に老人の魂が昏い無の底に引き摺りこまれ、冷たい闇に押し潰されて完全に消滅する――――


――――と、初号機がその老人【第3使徒】の【核】を完全に砕き切った瞬間、残されたその肉体を中心に巨大な十字型の爆発が巻き起こった。

その爆風の直撃を受け、空高く舞い上げられた初号機が背中から兵装ビルの一棟に墜落し、その背骨を圧し折って活動を停止する。



そのエントリー・プラグの中で六文儀の背骨も同様に折れ、痛みにより一瞬覚醒し、激痛に耐え兼ねてまた気絶したのだが、それはどうでもいいことである。



こうして、愚か者達の再演する最初の使徒戦の幕が下ろされた。



その闘いの場に、純粋な勝者と呼べる者はいない――――



>>1 やーーーっと、此処まで書き上げられました。

次の更新からは暫く、本作の設定を回収するために本編とは関連の薄いストーリーを続ける予定です。

さーて、次の更新は何時になるんだろう?


次回もサービスな

>>75
書きこみ有難うございます。

正直、ひとりでも読んでくださっている人がいることが分かると、励みになって嬉しいです。

次レスより、少しだけ投下します。

前回の最後で書いた通り、ここから暫くはちょっとした設定回収のストーリーが続く予定です。


幾重にも深く降り積もった雪と、分厚い氷に地表の一面を覆われた凍てつく大地の世界。

年間を通して気温が氷点下より高くなることは少なく、太陽が時期によっては全く射さず、また時期によっては全く沈まない大陸の地表から遥か地下深い場所。

白く、白く、何処迄も白い『光』の、或いは『闇』の拡がる巨大な球形の星の中心に、【彼】は何をするでも無く、ただ其処に存在していた。

其処は耳に痛いぐらいの無音の静寂に包まれ、半分眠り半分覚醒した状態の【彼】以外に、生命の気配はひとつも無い。


「此れが、裏死海文書に記されていた【白き月】か?」

「本当に、このようなものが存在していようとは……」

「裏死海文書に記されている事が真実であるのならば、此の中に【彼の者】が?」

(……何…だろう?)

自分が生まれてから、或いは自分がこの惑星の此の場所に着床してからどれ程の時が流れた頃だろう?

悠久の時の流れのほんの一時の中を微睡、揺蕩うていた【彼】の領域の中に、明確に別々の意思を持つ数個の生命が侵入して来た。

ざわざわとざわめいているその生命達に興味を惹かれ、【彼】はその意識のみを遥か遠くへと飛ばし、宇宙の始まりから現在に至る迄の全ての叡智の結晶である『神の板』と自分の意識をリンクさせる。


(【私】からでは無く、【彼女】から生まれし者達…… 【リリン】というのか…………)

単一個体で完成された形では無く、群体として遺伝子を、知識を、文明を次世代へと繋ぎ、発展していくことで常に進化する道を選んだ者達。

自分と【彼女】のように【陽の個体】と【陰の個体】に分かれ、ひとつの【陰陽】が番いとなって新たな子(個)を成していく者達。

そんな【リリン】達に対し、【彼】は純粋に「おもしろい」と思った。

未知の領域の知識を常に探求し、解明していくことで文明を発展させて来た習性の成せる業なのだろう。

【彼】自身とも云える【白き月】の中に無断で踏み入り、やがて【彼】自身を見つけ出して【彼】を研究し始めた【リリン】達を寛容に受け入れて、【彼】は暫しの時間その挙動のひとつひとつを悉に鑑賞し続けてみることにする。


(ほぅ……)

短い時間の間にも、入れ替わり立ち替わり自分の元へと足を運ぶ【リリン】達。

その中のひとつの番いの【陰の個体】の一個、【リリン】の言葉で言う女性のひとりの存在が、【彼】の興味を強く惹いた。

その女性は群体である【リリン】の中に於いて明らかに、特殊と言える存在だった。

その卓越した頭脳もさることながら、遺伝子レベルで他の【リリン】とは一線を画す、絶対的な優性種だ。

おそらく、番いとなっている【陽の個体】との間に新たな子(個)を成せる可能性は、数千那由多分の1もあれば良い方だろう。


暫しの間その女性のみに焦点を絞って観測を続けているうちに、【彼】は彼女自身が、自分が遺伝子的に他の【リリン】と比較して絶対的優性種であることを全く自覚していないことに気がついた。

それに加えて残酷な事に、そんな彼女には「母親になりたい」という強い願望があるということにも。

だが、彼女の番いである【陽の個体】の遺伝子はあまりにも劣性で、彼女の優性遺伝子に負けてしまい、自然に着床する確率はあまりにも絶望的に低い。




それならば。




そこで一旦思考を止め、【彼】は生まれてからその時まで長年連れ添った旧い身体を別れを告げ、魂だけの存在となってその絶対優性遺伝子を有する【リリン】の女性の胎内へと入りこんだ。

その女性の胎内で【彼】は母体の完全複製になってしまわないように遺伝子に手を加えながら、自分の魂を入れるための【リリン】の【陽の個体】を容作っていく。

そのまま自然に子(個)を成して母親になるという願望が叶わないというのであれば、その母体を自分が【リリン】として生まれ直す為に使用して、彼女にその母親となってもらっても構わないだろう。

ああ、そうだ、どうせ【リリン】として生きるのだから、長くても100年程度の【リリン】としての生を終えるまで、自身の記憶も厳重に封印して自身が【何】であるかということを思い出さないようにもしてしまおうか。

【リリン】としては長く、【彼】としては短い生を終え、【彼】が【彼】に戻った何時の日にか、ああ、そういうこともあったなと思い出して懐かしめるように。

ある程度、原型を容作った【リリン】の胎児に【彼】の魂が定着して行くに連れ、【彼】の記憶が次第に薄れ、やがて何の知識も無い真っ新な状態へとなっていく。





【碇ユイ】、それが【彼】が母体に選んだ絶対的優性遺伝子を持つ【リリン】の女性の名前であった。




>>1 取り敢えず、ここで区切ります。


>>1 本当に刻み刻みですけど、ほんの少しだけ投下します。

本日の投下分からが、本作品のオリジナル設定全開といった感じです。


(……どうなって…いるというの?)

地球という惑星の北半分、東欧より遥か東に位置する小さな島国の、地表より遥か地中の深い場所。

黒く、黒く、何処迄も果てし無く黒一色が拡がる【星】の中心で、【彼女】は悠久の時の流れを揺蕩うていた微睡からゆるりと覚醒した。

遥か昔に袂を分かち、この惑星の遥か遠くへと降り立ったはずの【彼】

その【彼】の魂の波動を、手を伸ばせばすぐ届くかと思われるぐらいの近い位置に感じ取り、【彼女】の中で驚きや喜びの感情が抑え切れないほどに錯綜する。

その魂の波動は細く、か弱く、あまりにも儚い。

だが、それは自分が間違いようも無い、紛いも無い【彼】そのものだ。


いったい何が起こったというのか? 【彼女】はほんの一時前の【彼】の行動のように、その意識のみを遥か遠くへと飛ばし、宇宙の始まりから現在に至る迄の全ての叡智の結晶である『神の板』と自分の意識を繋いで【彼】の選択した行動の一端を垣間見る。

(ほんの一時【リリン】として生きてみることを選択した【彼】が、まさか【私】の眠るこの地で一個の【リリン】として産まれて来るというの……)

何という偶然、何という奇縁だろう。

【彼】自身がこの地に【私】が眠っていることを承知の上で、この地で生まれた【リリン】を母体に選んだわけでは無いようだ。

いや寧ろ、【彼】の母体となり得る特殊な【リリン】が、偶々この地で生まれた【陰の個体】だったという運びというのが正確な表現であるらしい。

自分と【彼】の間にある因縁めいた複雑な繋がりを思いも掛けない形で再確認するに至り、【彼女】は本当に長い間離れ離れになり、一部の【リリン】の間では自分が捨てたと間違った伝承で語られている最愛の【彼】へと想いを馳せる。


(……さて、それでは【私】はどうしたものかしら?)

『神の板』で読み取った叡智の中に、【リリン】の組織のひとつが『裏死海文書』なる万象の記録書(アカシック・レコード)の劣悪複製品を有し、直に此処【黒き月】に辿り着くであろうことが記録されていた。

【白き月】は既に発見され、そのうえで【彼】は【リリン】として生きてみる道を選択してみたようだ。




それならば、【私】も…………




そこまで考えると徐に、【彼女】は意識を地表へと向け、自身が眠るこの島国の中に自らの母体となり得る【陰の個体】、可能であれば既にひとつの番いとなっている【リリン】が居ないか探してみた。

ほんの数刻の後、御誂え向きと謂わんばかりに【彼】が母体に選んだ【リリン】同様に自身では自覚をしていない絶対優性遺伝子を所有する【陰の個体】を見つけ出し、【彼女】はその胎内を使用して自分も【リリン】となることを決意する。


程無く、【白き月】を発見した者達はこの【黒き月】へと辿り着き、やがて【私】自身を発見して研究をし始めるのだろう。

だが、その【リリン】の研究にいちいち【私】が付き合わなければいけない筋合いは何処にも無い。

その探求心を満たすために、研究したいのであれば幾らでも研究すれば良い。




この【私】という魂の抜けた、中身の無い抜け殻を…………




母体として選んだ【リリン】の胎内で母体の完全複製になってしまわないように遺伝子へと手を加え、自らの魂の受け皿となる【陰の個体】を容作りながら、【彼女】は考える。


ああ、そうだ、どうせなら【彼】が選んだのと同様に、【私】も【リリン】としての生を終えるまで、自身の記憶も厳重に封印して自身が【何】であるかということを思い出さないようにしてしまおう。

そのうえで、双方に自覚が無いままに、【リリン】となった【私】と【彼】が再び巡り会えたとしたならば、それ以上に運命的なことは他に無い。

(そういえば、【私】の母親となるこの【リリン】の名は、なんと言っただろう?)

ある程度、原型を容作った【リリン】の胎児に【彼女】の魂が定着して行き、次第に薄れて真っ新な状態へとなっていく意識の端で【彼女】は考え、そして更なる偶然の一致に驚いた。

いや、ここまで来ると最早「偶然」では無く、「必然」であったのだろうか?





【彼女】が母体に選んだ【リリン】の【陰の個体】は、その名を【霧島“ユイ”】といった。




>>1 取り敢えず、ここまで。

霧島ユイの名は、【彼女】の両親の名前を調べてみた結果公式のものが無いようなので、必然の一致(?)感を強調するためにつけました。

もし「公式でこういう名前があるぞ」というものがありましたら、この作品の設定ではこうなのだということで、ご容赦をお願いいたします。


「……目覚めの感じはどうかな?【アダム】より最後に生まれ、【アダム】の魂を有する者よ」

外見は4~5歳程度の【彼】という少年の意識が始まったとき、その少年の前には老いて尚、身の丈に合わぬ野心をその裡に滾らせる男体の【リリン】が5人いた。

「……君達は、何者だい? 此処はいったい、どういった場所なのかな?」

「き……貴様っ! 議長や我等に対して、何という口の利き方を……」

「……よい。この者には、それだけの権利がある」

当然の如く問い掛けたその少年の言葉に激怒した老人のひとりを、顔にバイザーを着用した明らかに他の4人より威厳に満ちた老人が諌める。


「我等は人類補完委員会、我が名はキール・ローレンツ。そして此処は我等の人類補完計画の要となる場所、名を【SEELE(ゼーレ)】という」

「【SEELE】……ドイツとかいう国の言葉で、「魂」という意味だったかな?」

「そう、群体であるが故に不完全である我等【リリン】が完全なるものへと昇華するとき、正にその「魂」となる場所だ……」

少年の問いに、キール・ローレンツが答える。


「……それで? 僕は何故、こんなところにいるのかな?」

「汝が身は、我等が【アダム】より作り出せし器……」

「汝が魂は、【アダム】そのものたる魂……」

「そして汝は、ここで生まれしもの」

「汝は裏死海文書に記されし、自由意志を司る最後の使者【タブリス】」

少年の更なる問い掛けに、キール以外の老人達が代わる代わる答えた。

キール「理解していただけたかな?【アダム】の魂を持つ者よ……」

(いや、「違う」…………)

議長と呼ばれたキール・ローレンツの言葉の一部を、少年は声には出さず心の中で否定する。


自分はの魂は、【アダム】そのものでは無い。

それは嘗て【アダム】が捨てた身体に僅かに残った、【アダム】の魂のほんの小さな小さな欠片。

本質が【陽(光)】である【アダム】の魂の、ほんの僅かな【陰(闇)】の残滓。





だが…………




キール「どうかしたかな?【タブリス】、いや【アダム】よ……」

どうやら目の前の老人達は自分を【アダム】そのものであると確信し、【アダム】である自分に価値を見出しているようだ。

それに、どうやらこの肉の器は不安定で、定期的に調整をしなければ維持し続けることは出来ないらしい。





それならば…………




「それで、その人類補完委員会とかいう貴方達は、僕にいったい何を求めるというんだい?」

自身にとって都合の良いその勘違いを、態々指摘する必要も無いだろう。

この者達が自分に何かを求めるというのなら、等価交換でその代償は払って貰う権利はある。

彼等の願いを聞き入れる代わりに、自分は自身の維持のために、せいぜい彼等を利用させてもらうこととしよう。

そう割り切って、少年は5人の老人達にぎこちなく、アルカイックな笑みを向ける。


「差し当たって、求めることというほどのことも無い……」

「NERVの六文儀…… いや、いまは碇と名乗っているのであったな。奴に収集を任せたEVAシリーズのデータと、使徒である汝のデータを比較する作業程度か……」

「いや、この者は我等【リリン】とほぼ同じ容姿をしているのだ。いっそのこと、この者とEVAシリーズをシンクロさせたデータというのも、後々何かの役に立つかもしれん……」

「そうなると、戸籍が必要となるな。まさか【アダム】や【タブリス】の名で、実験に参加させるわけにもいかんだろう……」

(……そうなると僕自身、自分が「本当の【アダム】では無い」という記憶を封じてしまった方が良さそうだ…………)

目の前でいろいろと好き勝手に意見を交わすその老人達の言葉を吟味して、少年はそう判断した。

キール「この者の戸籍は、既に用意して整えてある……」

キール・ローレンツがそういうと同時に、少年と老人達の間の空間に、正にその少年のためだけに誂えた内容の戸籍の資料が現れた。

そんな事態を余所に、少年は自らが司るその「自由意思」で、目の前の老人達に発覚しては都合が悪い自身の知識に意図的に強固な封印を施す。


キール「この内容の戸籍で、汝には異存は無いかな?」

「……いいや、僕の方に異存は無いよ」

キール「……では、本日よりこれが汝の名だ。よいな?」

「……全ては【リリン】の、人類補完委員会の求めのままに」

そう言うと少年は、目の前の老人達に恭しい所作で一礼をする。





キール・ローレンツが用意したその戸籍には、【渚カヲル】と記されていた。




(……【私】は、誰?)

LCLが満たされた容器の中で、少女が少女に問い掛けた。

(……【私】は【私】)

少女が少女に答えを返す。


(……では【私】とは【何】?)

少女が更に少女へと問い掛けた。

(……【私】は、【綾波レイ】)

少女が更に少女へと答えを返す。


(……【綾波レイ】、それは無から生まれた【私】を最初に見出した、ひとりの【リリン】がつけた名前)

(……では、【綾波レイ】とは【何】?)

(……【碇ユイ】という名の【リリン】と、【黒き月(リリス)】より生まれしもの)

少女が問い掛け、それに少女が答えを返す。


(……それでは、【綾波レイ】は【碇ユイ】?)

(……いいえ、【綾波レイ】は【碇ユイ】の遺伝子構造を模しただけ)

(……【綾波レイ】を構成する細胞組織は【リリス】のもの、【綾波レイ】は【碇ユイ】では無い)

少女の問い掛けを、少女が否定する。


(……では、【綾波レイ】は【リリス】?)

(……いいえ、厳密にはそれも違う)

(……【綾波レイ】は【リリス】の【陰】)

(……本質が【陰(闇)】である【リリス】の魂が捨てた身体に残されていた、その魂のほんの僅かな【陽(光)】の残滓)

少女の問い掛けに、少女が正確な答えを返す。


(……【私】は【綾波レイ】、そして【不完全なリリス】)

(……でも、私にこの名をつけたあの男体の【リリン】は、【リリス】の化身として【綾波レイ】に価値を見出している)

(……それでは、私が【不完全なリリス】であるのだと知れば、あの男は私を捨て去るのだろうか?)

少女は考える。

どうせ「無」の中から生まれた、本来なら生まれるはずの無かった命だ。

自分を生み出した「無」の中に還ることは、少女にとっては何も怖いことでは無い。

どうやら【碇ユイ】の遺伝子構造を模し、【リリス】の細胞で構築したこの身体は不安定で、意図的に調整を施さなければ直ぐにでも、LCLへと還ってしまうようだ。

自分が「無」に還るのは、その気になれば今直ぐにでも出来る。




しかし…………




(……何故かしら? まだそれは、早い気がする…………)

或いはそれは、少女の魂を構成するほんの僅かな【リリス】の因子の影響でもあったのだろうか?

【綾波レイ】は自分が「無」へと還るのは、まだ時期尚早であると感じた。

それが自分にとってどういう存在であったのか、正確なことはもう忘れてしまった【誰か】

その【誰か】と、何時か自分は此処で相見える予感がする。


「調子はどうだ? レイ」

何時の間に、入って来たのであろうか? 少女に【綾波レイ】の名をつけた【リリン】の男が、全裸の少女が入っていたLCLの容器の前に立っていた。

「……問題ありません」

一糸纏わぬ姿をその男に見られていることに対して何も感じず、少女は淡々と機械的に言葉を返す。


目の前の男は少女が【リリス】であることに意義を見出しているだけであり、少女の容姿に亡き妻【碇ユイ】の面影を重ねているだけだ。

【綾波レイ】という一個の少女そのものに対しては、その自我を全く尊重する気配は無い。

いや寧ろ、【綾波レイ】に自我などというものは必要は無く、少女は自分の計画を完遂するためだけの言い成り人形として存在していれば良いとすら思っているようだ。

ならば【私】も、せいぜいこの男【碇ゲンドウ】を利用させてもらうとしよう。




自分の中にある【リリス】の因子が待つ【誰か】と、此の地で邂逅する時が来るその日まで…………




少女は自らの意思で自らの自我を押し殺し、生きて来たるべき時を迎えるために、その男【碇ゲンドウ】の望みのままに、暫しの間その言い成り人形を演じる道を選択した。




その少女と、彼女の待ち人たる【誰か】である少年【碇シンジ】との邂逅は、これより更に10年近くの年月の経過を要することとなる。




こうして【彼】である【白き月『アダム』】と、【彼女】である【黒き月『リリス』】の魂は【陽(光)】と【陰(闇)】へと分かれ、【リリン】の身体的構造を有する2人の少年と2人の少女へと転生を果たした。




それから10年ほどの年月が流れ、物語は動き出す…………




>>1 ここで一旦区切ります。

……が、設定回収ストーリーはまだまだ続きます。


>>1 誰も見ている人がいなさそうですけど、書き上がったところまで投下します。


《site:霧島マナ》


「よっ、遅かったじゃないか……」


それがその男【加持リョウジ】の最期の言葉となった。

一発の銃弾が彼の眉間に撃ちこまれ、ドサッと乾いた音を立てて、その体が床の上に倒れこむ。


マナ(さて…… どうしたものかしら?)


その一部始終を目撃し、いままさに加持リョウジの魂がその肉体を離れる直前に立ち会うこととなった少女、【霧島マナ】は右手を頬に当てて軽く首を傾げた。

その存在は魂だけの霊的なものであり、撃たれた加持リョウジの眼にも、彼を撃った者の眼にも映ってはいない。


戦略自衛隊が少年・少女兵を徴兵していた事実を隠滅するために、陸上軽巡洋艦「トライデント」の1体をN2爆雷で破壊処分した際、彼女は彼【ムサシ・リー・ストラスバーグ】に脱出ポットへと乗せられた。

だが、そのポットが射出された際の衝撃に、既に内臓が駄目になっていた彼女の身体は耐え切ることが出来無かった。

錐揉み回転しながら近くの海へと投げ出された脱出ポットの中で、【リリン】の霧島マナはその生涯の幕を閉じた。


マナ(あのときはまだ自覚していなかったとはいえ、ムサシには悪いことしちゃったなぁ……)


1人乗り用の脱出ポットに自分を乗せたために、ムサシがトライデント共々N2爆雷で焼き払われることになってしまった。

自分であれば、そのときのリリンの身体がN2爆雷で焼き払われたとしても、どうということも無かったのに。

リリンとしての身体が焼き尽くされても、自分は闇を総べる黒き月の女王【リリス】として覚醒するだけのことでしか無かったのだから。

いまさら後悔しても遅い過去へと思いを馳せ、マナは小さく苦笑を洩らす。


既にリリンとしての命は尽きていたから、港で脱出ポットが回収された時点で既に、マナはリリンとしての自分の身体はもう必要無いと思った。




寧ろ、リリスである自分の魂にとっては、足枷にしか過ぎない……と。





だからこそ、いま目の前で死に逝こうとしている男の手引きで彼【碇シンジ】と再会し、何時かの再会を約束して別れた後すぐに、彼女は何の躊躇も無く自らの意思で自身のリリンとしての身体をLCLへと還した。

精神(魂)だけの存在となり、いまだ覚醒しない碇シンジに関わるリリン達を動向を、使徒にもリリンにも属さない中立の立場で傍観する者となるために。

故に、マナがこの場に鉢合わせたのは、或る意味偶然であって、或る意味必然でもあった。

それは全容からすればほんの些細なこととはいえ、【彼】を取り巻く運命の中の一幕であるということには違い無いことであったから。


凶弾に倒れた加持の遺体を、数名の黒服の男達が黒塗りの車のトランクへと詰めこみはじめた。

彼の遺体はそのまま処理場へと運ばれ、遺棄されたその場所で人知れず土へと還ることになる。

それが彼自身が自分で選んだ道、自分で選んだ人生の末路であるとしても、このまま知人の誰にも死の真実を知られること無く、行方不明扱いとして処理されるのであろう。

そんな彼の肉体から離れて行く魂を、マナは両手で包みこみ、そのまま手の中に掬い上げた。


その真意はどうであれ、この人が嘗て自分とシンジに協力してくれたことは事実だ。

ここでそのことぐらいの恩は、返しておいてもいいのかもしれない。


幸い未だ不完全な彼女の力でも、リリン1人分の魂程度であれば、この世界に留め続けることぐらいは出来そうだ。

そのように考えたマナの手の中で、彼女のリリスとしての力に包まれた加持リョウジの魂が結晶化し、オレンジ色の光を放つ小さなひとつの宝珠となる。


マナ(あとはどのタイミングで、この人を彼女に渡すべきかしら……?)


魂をこの世界に定着させたとはいえ、彼は既に死んだ人間であり、その恋人の彼女【葛城ミサト】はいまを生きている人間である。

下手にタイミングを間違えればそれは、葛城ミサトの心を永遠に、死んでしまった恋人に縛り付ける鎖になってしまうかもしれない。


マナ(最良のタイミングは、彼女が死んでしまう直前……ってところかしら?)


霊的な存在となり戦略自衛隊の、国連軍の、NERVの、そしてSEELEの動向までも傍観して来たマナには確信があった。

最後の使徒が殲滅された後、NERVはSEELEの命を受けた戦略自衛隊と国連軍に制圧され、葛城ミサトを含めNERVの職員はおそらく皆殺しにされるのだろう……と。


だが、それが分かっていてもマナにはそれを阻止するつもりも、その事実をNERVの関係者に伝えるつもりも無い。




何故なら、彼女(リリス)はすべてのリリンの母。




その本質は所業の善も悪も関係無く、すべてリリンに対して平等で中立なるものだから…………





《site : 渚カヲル》


カヲル(僕は何故、こんなことをしたのだろう……?)


エレベーターの扉に寄り掛かった状態の葛城ミサトの遺体と、自分の手の中で結晶化させた彼女の魂の宝珠へと視線を向け、魂だけの霊的な存在となっていた渚カヲルは自分が行った所業に対して軽く首を傾げた。

彼の周囲はNERV自身と戦略自衛隊が流しこんだ硬化ベークライトによって固められ、彼が張り巡らせた結界の僅かな空間だけがぽっかりと、小さく虚ろに空いている。


カヲル(もう間も無く、おそらくサード・インパクトが始まる…… それならば、この彼女の魂も、溶け合うリリン達の中へと還した方が良いのかな?)


此処NERVのジオフロントの外で、自身の素体を使用したダミー・プラグにより9体の量産型EVAが活動を始めたことを、カヲルは感じ取っていた。

以前カヲルが使役した弐号機とセカンド・チルドレンによっていまのところ善戦をしているようではあるが、彼女達はS2機関を内蔵し、ロンギヌス・コピーを所有した9体の量産型EVAに勝つことは適わないだろう。

NERVの司令の目論む形かSEELEの人類補完委員会の目論む形、そのどちらになるかはわからないが、リリンの手によるサード・インパクトは間違いなく直に発動する。


彼等は本当に、気がついていないのだろうか?

その先に待ち受ける未来は、種としての滅亡でしか無いという事実に。




或いは…………





カヲル(気がついていても、既に後戻りの出来ない状況なのか……)


NERVの司令の方はよくわからないが、SEELEの老人達の方は結構、強引な無理押しを行っていたようであった。

最早計画を頓挫するには、手遅れだったのかもしれない。


果たしてそれは本当に、リリンどころか地球上の全ての命を巻きこんでまで行うだけの価値のあることなのか?

純粋なリリンでは無いカヲルにはいまひとつ、適正に判断することは出来ない…………


マナ「こんなところに、先客がいるとは思わなかったわ……」


カヲル(っ!?)


思考の海に沈んでいたカヲルの耳朶を突如、第3者の少女の声が静かに打った。

硬化ベークライトに周囲を固められ、第3者の介入する余地は無い筈のその場に響いた声のした方へと顔を向け、カヲルは思わず目を見張る。


何時から其処に居たのだろうか?

自分と同じように手の中にひとつの宝珠を持つ少女が、鼻先が触れ合う程ぎりぎりの処からカヲルに対して微笑みを向けていた。

その少女には、普通の人間の目には映らない筈の霊体であるカヲルの姿が、はっきりと見えている?


マナ「あら? 貴方“も”アダムなのね……」

カヲル「……綾波レイ…じゃないよね? 君“も”リリスなのかい?」

マナ「正確には、私“も”では無くて私“が”よ。リリンとしての名前は霧島マナ。マナって呼んでくれればいいわ。貴方は?」

カヲル「……渚…カヲル。カヲルって呼んでくれればいいよ」

マナ「そう……」


ひらりと軽やかに踵を返し、マナは心持ち身体ひとつ分程度、カヲルから身を離す。


カヲル「……君はいったい、何をしに此処に来たんだい?」

マナ「……最初はこの人の魂を、恋人であるその人の魂のもとに連れて来てあげるだけのつもりだったんだけどね…………」


手の中にある宝珠をカヲルに見せながら、マナはいまは少し気が変わったと答えて、徐に視線を天井へと向けた。

釣られるようにカヲルも視線を天井に、いや天井を更に越えた先、ジオフロントの外側へと向ける。


マナ「はじまったわね……」

カヲル「そうみたいだね……」


ジオフロントの外で、大きな力が解放されたことを2人は感じ取った。

続いて自分達の……アダムとリリスの肉体がひとつに融合したことにも。


カヲル「……これから君は、いったいどうするつもりなんだい?」

マナ「……おそらく、貴方がしようとしていることと同じよ」


そうでしょ? とコケティッシュに小首を傾げ、マナ斜め下から上目遣いでカヲルの顔を覗きこんできた。

そうだね。と軽く笑みを返し、カヲルはその右手を彼女へと伸ばす。


差し出された右手にマナが右手をそっと添えると2人の身体は浮き上がり、天井も硬化ベークライトもすり抜けてジオフロントの外まで上昇した。

やがて天空に磔となったEVA初号機と9体のEVA量産機、そしてそれらを内包する様に覆う巨大な白い綾波レイの姿をしたアダムを内包するリリスの姿を視認すると、2人は寄り添った状態で何の躊躇いも無く、そのリリスの中へと入りこむ。





それは闇の王と闇の女王が互いに互いの手を取り合い、不完全な自分達の力を完全に取り戻すそのために、リリン達の発動させた不完全なサード・インパクトへとその魂を介入させたことを意味していた。





>>1 とりあえず、ここまで。

あと5人(?)ほど視点を変えて、設定回収ストーリーが続く予定です。

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