悪人「命だけは助けてくれぇっ!」ヒーロー「……」(24)

悪人「ひ、ひいいっ! ま、待ってくれぇ……命だけはっ!」

悪人「命だけは助けてくれぇっ!」

ヒーロー「……」

悪人「ほ、ほら、このとおりだ! ――なっ、頼むよ!」ペコペコ

悪人「なんなら、あんたの靴の裏だってなめるぜ! だ、だからぁぁっ!」

ヒーロー「……いいだろう」

ヒーロー「ただし、二度と悪さをするな」

ヒーロー「もし今度お前が悪さしてるのを見かけたら、次は容赦しない」

ヒーロー「いいな?」

悪人「へ、へへへ……ありがとうございやす! ありがとうございやすぅぅぅ!」

ヒーロー「……」クルッ



悪人「……」ニヤッ

ヒーロー(この手の悪党の行動パターンは嫌というほど熟知している……)

ヒーロー(どうせ背を向けた私に、卑劣にも攻撃を仕掛けてくるんだろう?)

ヒーロー(さぁ、来るがいい。その時がお前の最期だ!)

悪人「助かったぁぁ……」ホッ



ヒーロー(――来ない?)

ヒーロー(何故だ!? いったいなにをしている悪党!)

ヒーロー(お前が飛びかかってきた次の瞬間、私のパンチはお前を粉砕するだろう!)

ヒーロー(なのに何故飛びかかってこない!?)

女「トドメを刺さないなんて優しいわね」

仲間「奴はしょせん口だけの小悪党だし、トドメを刺す価値もなかったってことか?」

ヒーロー(いや……違う! そうじゃないんだ!)

ヒーロー(私が今までに出会った命乞いする悪党は、私が許してやったとたん)

ヒーロー(全員不意打ちを仕掛けてくるタイプだった)

ヒーロー(なのになぜ、今回のあいつは仕掛けてこないんだっ!?)

ヒーロー(そうか……分かったぞ!)

ヒーロー(きっとこの場では不意打ちせず、後で奇襲を仕掛けてくるに決まってるんだ!)

ヒーロー(その方が奇襲の成功率は上がるだろうしな……)

ヒーロー(なかなか考えるじゃないか……悪党! 悪党らしい賢くゲスな考えだ!)

ヒーロー(となれば、これからは一瞬たりとも油断できん!)

怪人「てりゃあっ!」バキッ

ヒーロー「ぐっ……!」

怪人「へっ、この程度かよ、ヒーロー!」

ヒーロー(さぁ来い! 奇襲をかけてこい! 今がチャンスだぞ! ほれ!)キョロキョロ



仲間「最近のあいつ、どこか集中力が欠けてないか?」

女「うん……どうしたのかしら?」

ヒーロー(あれから一ヶ月ぐらい経ったが、あの悪党はまだ仕掛けてこない!)

ヒーロー(私の強さに恐れをなし、奇襲を諦めたか?)

ヒーロー(いや……そんなはずがない! そんなわけないんだ!)

ヒーロー(たっぷりと準備期間を設けて……きっととんでもない攻撃を……!)

ヒーロー(いっそ、こちらから奴に対して攻撃するか?)

ヒーロー(ダメだ! 許してやった手前、こちらから仕掛けることはできない!)

ヒーロー(ええい、早く仕掛けてこいよ! グズグズしやがって!)

TV『半年前、ヒーローに敗れ改心した悪人さんが、ボランティア活動……』

TV『福祉事業にも意欲的に取り組む姿勢……』



ヒーロー(なんだと!?)

ヒーロー(バカな! あいつが改心するはずがない! 100%ありえない!)

ヒーロー(こうやって人の支持を集めて、壮大な復讐をたくらんでるに決まってる!)

ヒーロー(もうこいつがどんな攻撃をしてくるのか……想像すらできねえ!)

仲間「ヒーロー! どうしたんだ!?」ドンドン

女「ドアを開けてよ! 家にひきこもっちゃってどうしたの!?」



ヒーロー「うっ、うるさい!」

ヒーロー「帰れ、帰れぇ! もう誰もこの家にはいれねえぞ!」

ヒーロー「怖い、怖いよぉ……酒だ……酒だぁっ!」グビグビグビ…

ヒーロー「ひいいいいっ! いくら飲んでも恐怖心が消えねえよおおお!」ガシャーンバリーン

悪人「たああっ!」ドカッ

テロリスト「ぐぎゃあっ!」ドサッ



キャーキャー… ワーワー… ステキー!



悪人「ふうっ……」

悪人(ヒーローさんにやられてからというもの、私は自分を見つめ直し――)

悪人(善行と修行を積み重ね、ヒーローさんの真似ごともできるようになった)

悪人(しかし、私と入れ替わるように、ヒーローさんは活動をやめてしまった)

悪人(彼はどうしてしまったんだろうか……?)

ヒーロー「見いつけた……」ニタァ…

悪人「!」

ヒーロー「へ、へへへ……もうひきこもるのは……やめだぁっ……!」

ナンダアレ! キャーキャー… ニゲロー…

悪人「……!?」

悪人(この人は……姿形こそ変わりきっているが……ヒーローさん!?)

ヒーロー「こっちから……てめえを、ぶちのめしてやるぅぅぅぅぅ!」タタタッ

悪人「だっ!」バキッ

ヒーロー「ぶげぇぇっ!?」ドサッ

悪人「ヒーローさん!? あなた、なにやってるんですか!?」

ヒーロー「いでぇ……いでぇよぉ……」ゲフッ

悪人(酒臭い……! 顔は真っ赤で、足もともフラフラだし……)

悪人(この人にいったいなにがあったっていうんだ!?)

ヒーロー「ま、まいった……許してくれえ……」

ヒーロー「頼む……このとおりだぁ……」ペコペコ

悪人「わ、分かりました。話は見えませんが、許しましょう。とりあえず手当てを――」

ヒーロー「……なんちゃってなぁ!」グオッ

悪人「!」

ドゴォッ!



ヒーロー「ひ、ひゃひゃひゃ! あーたった! あーたった!」キャッキャッ

悪人「ぐっ……!」ガクッ

ヒーロー「ひゃ~ひゃっひゃ! あひゃひゃっ! ……ひゃっひゃっ」キャッキャッ

ヒーロー「ひゃっ……ひゃっ……」

ヒーロー「……おい」

ヒーロー「今の一撃程度……てめえならよけれたはずだぞぉ!?」

ヒーロー「なぜよけなかったぁぁぁぁぁ!? バカにしてんのかぁぁぁん!?」

悪人「なぜって……さっき私はあなたを許したんですよ?」

悪人「たとえ攻撃してきても、なにかの間違いだと思うのが……当然じゃないですか」

ヒーロー「……!」

ヒーロー(そうだ……そうだった……)

ヒーロー(俺も初めはこうだった……。敵の命乞いに見事にだまされた……)

ヒーロー(なのにいつしか……許しを乞う敵を、ウソと決めつけるようになり……)

ヒーロー(それどころか……トドメを刺すこと前提で許すようになっていった……)

ヒーロー(もはやそれって許してるっていわないだろ……)

ヒーロー(そしてこうして、疑心暗鬼になり……ハハ……とんだヒーローじゃないか……)

ヒーロー「……なぁ」

ヒーロー「私も……やり直せるかな……? お前みたいに……」

悪人「ええ、やり直せますよ! 私でさえやり直せたんですから!」

ヒーロー「ありがとう……!」

悪人(何がなんだかさっぱりだが、相当辛いことがあったんだろうな……)



………………

…………

……

悪人「ヒーローさん、お願いします!」

ヒーロー「とりゃあ!」ドカッ

妖怪「ぐえええっ! ゆ、許してくれぇぇぇ!」

ヒーロー「いいだろう! 立ち去れ! 許す時はきっちり許す!」ビシッ

妖怪「へっ、バカな人間めぇぇ!」グワッ

悪人「だけど、倒す時はきっちり倒す!」バキィッ

妖怪「ぎぃやぁぁぁぁぁ……」

ヒーロー「大切なのは、メリハリということだな!」

悪人「はい、そういうことです!」





                                   ― 完 ―

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