「僕たちは二人でひとつ」「そして一人でふたつ」(31)

男「僕たちは二人でひとつ」

女「そして一人でふたつ」

男「僕は不完全な人間だ」

女「私だって、不完全だわ」

男「君がいないと生きていくことができないな」

女「あなたがいないなら、私は死んでいるのと同じこと」

男「僕には右手がないし」

女「私には両足がないわ」

男「君に助けてもらわないと、どうしようもない」

女「私はあなたが連れて行ってくれないと、どこにだって行けない」

男「僕たちは二人でひとつだね」

女「ええ、そして一人でふたつ、よ」

男「お腹が空いたな」

女「そう?」

男「今日はラーメンが食べたい気分だ」

女「あら、お好きにどうぞ」

女「どうせ私には、選択できないのだし」

男「そう言うなよ」

―――
――――
―――――

女「ここは陰気臭くて、好きじゃないわ」

男「でも味は抜群だよ」

女「あらそう、それはよかったわね」

女「私としては、早くここを出たいのだけれど」

男「静かにしていてくれよ」

男「店の人が変な目で見ているじゃないか」

女「あら、そんなの、ずっとそうじゃない」

女「私たちを『ふつう』に扱ってくれた人が、いたかしら?」

男「……それはそうだけど」

―――
――――
―――――

男「店の人やお客の目線が痛かったなあ」

女「今度から違うところに行く方がいいわね」

男「君のせいで、どんどん行ける店が減っていく気がするよ」

女「あら、私にだけ責任を押し付けるのはおかしいわ」

女「私たちは離れられない共同体、でしょう?」

男「……」

女「否定するの?」

男「しないさ」

女「だったら、私たちのことを普通に扱ってくれる店員のいるところを探すことね」

男「でも客が」

女「客なんて関係ないじゃないの」

男「そうかなあ」

女「そうよ」

女「……あなたはちょっと私の意見に頼りすぎるところがあるわね」

女「ちょっとは私に頼らずに考えなさいな」

男「……うん」

男「まあ、僕たちのことを興味持って見てくれる人たちがいるから、今日の飯にありつけるわけだけれど」

女「……そうね」

女「それは否定しないわ」

男「今日もステージがあるよ」

女「普段通り、お話をしていたらいいのよね」

男「ああそうさ、それでお客は満足なんだ」

女「このあたりの人は、わりとステージが好きよね」

男「ああ、見世物が好きだとみえる」

男「何度も僕たちのことを見に来る客もいるくらいだからね」

男「男と女の組み合わせっていうのが、珍しいみたいだね」

女「そうなの?」

男「男と男っていう組み合わせは、よくあるみたいだけれど」

男「僕たちは珍しい見世物の中でも、珍しい部類に入る、ということさ」

女「ふうん」

男「皮肉なことにね」

女「お金を稼ぐには、それが有利に働くかしらね」

男「おそらくね」

―――
――――
―――――

女「ここの控室は相変わらず窮屈ね」

男「まあ、一人用だからね」

女「私たちのことを、『二人』だとは数えてくれないのね」

男「……」

男「いつものことじゃないか」

女「ふん」

男「機嫌を直せよ」

女「あら、機嫌なんて悪くしていないわよ」

男「もう少しこの町で過ごしたら、北の方に行こうと思うんだ」

女「どうして?」

男「この町で何度もステージに立つうち、僕たちのことは珍しくなくなってきただろう?」

女「そうかしら」

男「だから、まだ僕たちのことを知らない町へ行こうかと思って」

女「反対しないわ」

男「海の見える町がいいな」

女「それは賛成ね、そういうの、好きよ」

男「列車に乗ってね」

女「列車、乗ったことないわ、私」

男「岬の小さな家を借りて、さ」

女「素敵ね」

男「ときどき町でステージに立って、見世物になって、つつましく暮らそう」

女「結婚は?」

男「ん?」

女「結婚はしたくないの?」

男「別に、君がいればそれでいいさ」

女「意地を張っていない?」

男「張ってないね」

女「私、できるだけおとなしくしてるわよ?」

女「私がくっついてるのが平気だって女性が、きっとどこかにいるわ」

男「……いないよ」

女「そんなこと」

男「そんなこと、あるさ」

男「僕はもう、結婚なんて、とうに諦めてる」

女「……」

男「もちろん君のせいなんかじゃない、僕が決めたこと」

女「……そう」

コンコン

スタッフ「すみませーん」

女「誰か来たわね」

男「はい、空いてますよ」

ガチャリ

スタッフ「失礼します、出番まで30分となりましたのでお知らせを……」

女「あら、そんな時間?」

スタッフ「あ……」ビクッ

男「あと何分したらステージ袖に待機したらいいかな?」

女「あなた新しい人ね? 私たちのステージ、楽しんで頂戴ね」

スタッフ「あ、えっと、その」オロオロ

スタッフ「10分前には、その、ステージ袖に、えっと」オロオロ

男「わかった、あと20分だね」

女「うふふ、結局のところ、ステージに出るの、私好きなんだわ」

男「そうかい?」

女「ええ、なんだかワクワクしてきたわ」

女「この劇場、何度か出ているのにね」

スタッフ「あ、その、よ、よろしくお願いします……」

パタン

バタバタ……

女「なんだか緊張していたようね」

男「僕たちのこと、変な目で見る子だったね」

女「ああ、あんな反応されると、いやだわ」

男「新人みたいだし、仕方がないさ」

女「ふん、だ」

男「あと20分か、衣装のチェックをしておこうか」

女「ええ、そうね」

男「ん……ネクタイ曲がってないかな」キュキュ

女「ええ、格好いいわ」

女「私はどう?」

男「ああ、いつも通りきれいだよ」

女「嬉しいけれど、それはお世辞かしら?」

男「お世辞じゃないさ」

男「でもちょっと、あごの動きが悪いような気がするね」

女「そうかしら」

男「このステージが終わったら、油を差してあげよう」

女「ありがとう、お願いするわね」

男「さ、今日も頑張ろう」

女「ええ、お互いに、ね」


★おしまい★

スレタイをこれに決めた時はシャム双生児のお話を考えましたが
結局こんな感じになりました
女の台詞がちょっと大変でした


    ∧__∧
    ( ・ω・)   ありがとうございました
    ハ∨/^ヽ   またどこかで
   ノ::[三ノ :.、   http://hamham278.blog76.fc2.com/

   i)、_;|*く;  ノ
     |!: ::.".T~
     ハ、___|
"""~""""""~"""~"""~"


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