八幡「俺の歩んだ道は間違っていたのだろうか」 (38)

高校を卒業し、大学も卒業し4年後、今の俺は人生の袋小路にいた。

新卒で入った大手の商社では、一時も心休まらない人間関係に疲れ果て、3年で辞めた。

退職後はバイト先を転々とするフリーターをしていたが、言い様のない虚無感に心を襲われ、

半年前からは商社時代の貯金を少しずつ切り崩して安アパートの6畳間で無職のまま生きている。

でもそろそろそんな生活も終わりにしよう。

比企谷八幡の人生は、今夜終わりを迎える。

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ロープは既に買ってある。場所も人気のなさそうな公園の大きな木を見つけた。踏み台は脚立でいいだろう。

決行は午前2時半。これが最後の酒になる。

どうしてこうなってしまったのだろう。なにが間違っていたのだろう。

高校時代には傷つくことに慣れていた自分が、今ではこうも脆いのか。

かつての仲間、雪ノ下や由比ヶ浜、親友の戸塚、あと材木座。

高校卒業とともに道を分かち、大学で年を重ねていくとともに交友は薄くなり、そして途絶えた。

小町も高校を卒業してからはほとんど会話をしていない。

本当の意味で、俺はぼっちになっていた。

結局のところ、俺のこの性格ではどのみちこうなっていたのかもしれない。

誰かさんのように本性を隠して付き合うことができたのならば、別の道もあっただろう。

いや、考えるだけ無駄か。20年以上こうしてきた生き方を、変えることはもうできない。

進んできた道の先にあったのが、行き止まりだった、ただそれだけのことだ。

さて、そろそろ逝こうか。酔いが完全に覚めてしまう前に。

脚立を広げ、ロープを結ぶ。失敗は許されない。

求める結果の一番は、そのまますぐに逝けること。万が一失敗しても五体満足で生還すること。

最悪なのは中途半端に脳が損傷し後遺症を負ってしまうこと。そんな状態で生きたいとは思っていない。

首にロープをくくる。後は脚立を倒すだけ。
だがその「だけ」が一番の問題だ。

捨てたはずの未来を望もうとあがく、己の中の生存本能が、最後の一線を超えさせない。

夜が明ける前にやらなければ人が来る。それでも足は震えを止めない。

どれだけの時が経ったのだろう。踏ん切りを未だにつけきれずにいる自分

酔いもすでに覚めてしまい、体勢を立て直そうと一度ロープを外そうとした時、

脚立は意図しないタイミングで倒れた。

一瞬で絞まる首。激痛が首から上を走る。しかしそれもつかの間、

俺の意識は強制的にシャットダウンされた。

不意に小町の悲しそうな顔が浮かぶ、こんな兄を許してくれ、お前はお前の幸せを掴んでくれ。

そう願っているうちに、小町はふっと消え、代わりに誰かの声が聞こえてきた。

徐々に覚醒していく意識。どうやらストレッチャーに乗せられているらしい。

あれ?ってことは生きているのか?と思うと同時に様々な情報が一気に脳内を侵食していく。

だが今の俺にその全てを処理しきれるほどの余裕はない。それでも確かめることは一つ。

まぶたは思いがうっすらとだけ開く。右手と左手はしっかりと反応している。足も感覚はある。

どうやら最悪の事態は免れたらしい。それでも生きている、ということを素直には喜べないが。

ストレッチャーからベッドに移されたあたりでようやく完全に意識ははっきりしだした。

体には数本の管が刺さり、点滴と心拍数を測るスコープが側にある。

「死にぞこなったか……」

一番最初に出た言葉は生きていることの喜びでもなく、死ななければならない焦りでもなく、現実に対しての戸惑いだった。

「目は覚めましたか」

看護師が尋ねてくる。

「ご家族の方が見えてますがお通ししても宜しいですか?」

正直顔を合わせ辛い面もあったがどのみち話す必要があるので了承する。

「お兄ちゃん!」

真っ先に飛び込んできたのは、高校卒業後遠くに行ったはずの小町だった。

「お前、仕事は」

「そんなの関係ないでしょ!なんでこんなことしたの!小町は…小町は…」

声にならない嗚咽をあげる小町。次いで入ってくる涙目の両親。

説教を覚悟したが状況が状況なので無事を安堵する言葉だけを貰った。

しばらくすると医者が入ってきた。明日には精神科医が軽い問診をするらしい。

その後は他愛のない話を少しして、家族は帰っていった。

翌日。今日も両親が見舞いに来る中、予定通り精神科医が問診にやってきた。

回答した結果、鬱を発症しているかもしれないとのことだった。

今のアパートを引き払い、高校時代まで住んでいた実家に戻ることを両親も勧めてきた。

どのみちこれから先なすすべもないので大人しく従うことにした。

数日後には退院できるとのことだが、近くの精神科医に紹介状を書くからそこへ行くように言われた。

これから先どうなるのだろう。漠然とした道の先を眺め、処方された睡眠薬で俺の意識はフェードアウトしていった。

短くなりましたがこれで終わります。

半分は自分が学生時代就活失敗して首吊った時の体験談を使って書きました。病院に来たのは小町ではなくハゲかけた父だけでしたが。

今は中小企業の正社員として元気に働いております

三途の川なんてなかった。それでは

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年12月06日 (日) 15:50:38   ID: rSW7Scwd

えっと…気持ち悪い奴だな

2 :  SS好きの774さん   2015年12月06日 (日) 19:18:27   ID: 5OHGhIRj

元気そうで良かったです(白目)

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