【俺ガイル】やはり阿良々木暦のボランティア活動はまちがっている【化物語】 (272)

 これは、

     『物語シリーズ』

         ×

『やはり俺の青春ラブコメは間違っている』

のクロス小説です。


舞台は俺ガイル寄りで、期間的には俺ガイルは夏休み前。
物語シリーズは、皆、怪異から脱出したパラレルワールドとお考えください。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1389171827

 『ボランティア活動についてのレポート』

2-F 比企谷 八幡

 ボランティアとは偽善であり自己正当化である。
そもそも人間は、自らにとって利益が無いものは行わない。
逆説的に、ボランティアにも。無償と喚きつつ、何かの利益があるはずである。

 その解は簡潔だ。体裁である。
良い人。素晴らしい人。出来た人間。そういう世間体を利益として獲得できるのだ。
アーティストがチャリティーライブをやれば、そのアーティストの評価が上がり。
結果、ライブ一回分より大きな報酬になる。CD売上とか。

 しかしながら、それが悪いとは言わない。
やらない善よりやる偽善という言葉がある。結果的に助けられる人間が生まれるのだからWINWINである。
世間体を気にする方々は、もっと率先してボランティアに従事すべきだ。

 そこで言いたい。これはWINWINでのみ成立しなくてはならない。
すなわち、どちらかがルーザーではいけない。
この場合のルーザーとは、世間体や体裁という報酬が利益にならない人間だ。
すなわち、俺みたいなぼっち、いや1人を好む者にとって周りの評価は必要ではない。
赤ん坊に外車を渡すようなものだ。不必要なのだ。
よって、俺がボランティアを学校行事とか言う強制力で行わせるのは間違っている。
それは既に強制労働だ。ストライキも辞さない。全ての時間が残業対象だ。

 そもそも、俺みたいな人間一人が誰かを助けるなんておこがましい。
むしろ俺が助かりたい。この青春とか言うドラマティックな諸悪達から。
更に言えば、俺が助けられるほどの人間なら、自分の力で勝手に助かってるハズだ。

 以上から総合的に考えて。

 ボランティアなんていう偽善事業は、有志を募って行うべきだ。
俺は参加したくともその資格がありません。なので今回は欠席しました。

序章
『とにかく、羽川翼はブレない』
00

平塚「チッ……はぁ……」

 舌打ちとため息のハイブリッドを繰り出す、目の前の生徒指導の教師、平塚静は俺を先ほどから睨みつけてくる。
俺が提出した、レポートと俺を交互に睨みつけてくる。いや、マジ怖い。やめて。

平塚「私は、先日のボランティアの課外活動に欠席した比企谷にレポートを頼んだのだが?」

比企谷「はぁ……」

平塚「課したものはなんだったかな?」

比企谷「ボランティアについてのレポートです……」

平塚「そうだな?じゃあ何故最終的に欠席の言い訳になっているんだ?」

 その指でトントンするのやめませんか?圧迫面接です。誘導尋問です。
そのリズミカルな音が、衝撃のファーストブリットへのカウントダウンにしか聞こえない。
しかもそれキャンセルボタンなさそうですよね?本当に痛いから勘弁してほしいんですけど……。

比企谷「いえ、その。ボランティアについて自分なりの考えを述べる上で、結果自分の正しさも一緒に証明したんです。ホラ、一粒で二度おいしいってヤツです」

平塚「そうか、なら2度も楽しめたお礼をしなくちゃいけないな……。すまない。私は一粒で一度しかうまみを与えられないのでな」

比企谷「ちょっとタイムタイム!そのうまみって一部の人間がご褒美と崇めるタイプのうまみでしょ!?ノー!ストップ暴力!」

 懇願むなしく、俺の願いは棄却された。おい、朝ごはん。戻ってくるな、喉までただいまをしてくるな。お帰りじゃなくてお帰り下さいお願いします……。

比企谷「ぐへ……」

そうやってすぐ拳で解決しようとするから貰い手が居ないんじゃないんですか?
と、言えばラストブリットが来るのはわかっているので心の奥底に投げ捨てた。

平塚「まあ、セカンドブリットは保留にしておこう。でだ。結局君は何も変わっていないんだな」

比企谷「ふぅ……。前にも言ったように変わる事は本人の意思です。俺のモットーは初志貫徹!」

平塚「あ?」

比企谷「いや、すみみゃへん」

 アンタ、本当に先生ですか?どこにヤンキーみたいに生徒に向かって睨みきかせる教師が居るんですか?咄嗟に謝っちまったよ。寧ろ下半身が緩くなりそうなほどだ。

平塚「そもそも、君に半永久的に課している奉仕部での活動こそ。そのボランティアだと思うのだが?」

比企谷「いえ、それは先生が無理やりさせているからであって。辞めていいと言ってくれれば今からでも辞めます」

平塚「まあ、それなら本格的に君は3年じゃあ卒業できないな」

比企谷「でしょう?それが奉仕部においてのメリットですよ。その利益が無いと俺はボランティアとかしない。そもそも、今回休んだのも不可抗力であり故意ではないので……」

平塚「……」

比企谷「レポート書きなおします」

 無理。正当な意見でさえも言える雰囲気じゃないっす。
警察の取り調べとかも、こうやって無罪の人々が自白させられてしまうのか……。


平塚「よろしい。はぁ、それにしても君の目は4月から寸分違わず腐ったままだな」

 ほっとけ。

「失礼します。平塚先生はいらっしゃいますか?」

 不意に、職員室の入り口から、透き通る声がした。
例えるならば、メガネを掛けてテレビの中に入るスパッツガールとか。
我儘で自己陶酔なゴールデンな時間を生きるお嬢様とか。
オッドアイで世話上手な麻雀部部長。
みたいな声。

 そして俺と今対面している平塚先生の名前が呼ばれたので、俺はその声の方へと向いた。
まあ、その声の主を見た所で、この学校の生徒という時点で見覚えはあるはずないけど。

 案の定女子だった。リボンから察するに3年生。
見た目から察するに良い人。多分委員長。

 三つ編みが両端から伸びていてメガネをかけていて。まさしく真面目です!と主張せんばかりの見た目だった。いや、失言だった。その胸部は真面目ではない。

平塚「ん?ああ、羽川か」

 平塚先生はどうやら知り合いらしく、手でその委員長さんを職員室に招き入れた。
まあそもそも知り合いだから委員長さんは平塚先生を名指ししたんだよな。

いや、待て待て。
俺今勝手に委員長って名付けたけど、これ委員長じゃなかったら悪口じゃね?

羽川「あ、先日のレポートを提出に来ました」

平塚「すまないな、委員長だからと雑務を任せてしまって」

 あ、今正解発表来たよ!パンパカパーン!比企谷選手大正解です!
やはり、俺のぼっち特有識別眼に狂いはなかったようだな。
ってか、先生一度でいいから俺が雑務している時もそういう台詞くださいよ。
いつもいつも「おう」しか言ってくれないじゃないですか。俺委員長でもないのに。
何?亭主関白なんですか?身近にいるとそれが当たり前になっちゃうんですか?
離婚沙汰よ!そういうのが破局の原因になるのよ!もう信じらんない!八幡ぷぅ!

比企谷「いや、でもそもそも破局以前か……」

平塚「ん?何か言ったか比企谷?」

 ヤベッ!声出ちゃった!家で独り言話す癖でつい音声をオンにしちゃってたよ。
あぶねーあぶねー。あれだよ、PCとかでイヤホン抜けて女性の不埒な声が部屋中大合唱とかそんな感じの不可抗力ですよ。って誰に言い訳してんだよ。

平塚「あ、申し訳ありません。面談中でしたか?」

 俺を視認して改めて委員長さんは畏まった。
なにその言葉づかい。社会人ですか?

平塚「ん?あぁ、そんな感じだ。まあそんな大した話はしていないから。安心したまえ。
 羽川が聞いてマズい話などではないよ」

 すると、委員長と俺は目があった。いや、正直に言うと、胸部を見ようとした時に委員長さんがこっちを向いた。
ヤバい。何あのおっぱい。ダイソンなの?目線の吸引力半端じゃないんだけど。

羽川「あ、初めまして。私。3年の羽川翼です」

 いきなりの自己紹介に俺は目を見開いてのけ反る。いや、別にそんな礼儀正しくされても、俺なんてもう2度と会わないレベルの底辺カーストですよ?何この人。素直にスゲェ。

比企谷「あ、ウス……2年の……比企谷八幡……ッス」

羽川「比企谷くん?ああ、奉仕部の比企谷くんですか?じゃあ、ひょっとして部活のお話でした?」

比企谷「え?あ……ウス」

 何で知ってんの?怖い、怖いよ。俺の事が実は好きだったパターン…。
は、数学でゼロとみなせる確率なのであり得ないとしても。ユキペディアよりペディってるって。
ペディりすぎてヤバい。もはや、googleのホームにアクセスしただけで『もしかして?○○』って言われてるレベルで怖い。
…………いや、まぁ。そもそもペディってるなんて造語ないけども。

平塚「羽川……君は本当に何でも知っているんだな」

羽川「いえいえ。そんなことありませんよ」

平塚「まあ、一言で言って、問題児のような子だよ、比企谷は」

比企谷「誰が問題児ですか誰が。多感な時期の子供に滅多なこと言うと不登校になりますよ?俺」

平塚「自分で言える奴は不登校にはならんよ。……あ、そうだ」

 平塚先生が手を叩いて、何かを思いついた素振りをする。
絶対楽しい事じゃないのは予想できる。だからこそ俺は無言で聞かない。
こういうときは敢えて空気を読まずにスルーするのが良いに決まっている。
アレだ、友達の「あー…もう最悪」と一緒。どうしたの?って聞いたら愚痴のオンパレード。
ってか俺に友達いねーけど……。

羽川「どうされました?平塚先生?」

 はぁ……。この委員長さんはどうやら空気を読んでしまったようだ。そのパンドラの箱を開けると被害が来るの俺なんだけどな……。

平塚「羽川、君は今週末の課外活動にボランティア活動を選択していたよな?」

羽川「え?ああ、はい。山のゴミ拾いですよね?」

平塚「ああ、そうだ」

 オチ、読めるんだけど。いや。えー……それは嫌だ。断固拒否。

平塚「比企谷?」

比企谷「………嫌です」

平塚「まだ何も言ってないのだがな?」

比企谷「どうせアレでしょ?そのボランティア活動に俺も参加しろって言うんでしょ?
    3年生の人たちの中に1人行けと?いやーペナルティにしても重すぎる刑罰ですよそれ。
もう少し情状酌量の余地という物もあっていいんじゃないでしょうか?」

 もう殴られてもいい。ただこの状況で最悪なのはこの議題が否決される事だ。
だからこそ俺は拒絶する。必死に否定する。
だってそもそもボランティア活動を欠席したのも。小町が熱出しちゃったからなんですよ?
お涙頂戴の美談ですよ?
だから俺は悪くない。故に理不尽だろうが勘違いだろうが。
殴られても俺は、このボランティアには行かない!

平塚「情状酌量の余地……ねぇ?」

 平塚先生が口をとがらせて、人差し指を唇にあてる。
その考える仕草。ちょっと可愛い……。でも年齢的にアウトです。残念……。

羽川「私は構わないよ?比企谷くん。基本的に班行動で、私たちだけ3人班だから」

委員長さんが笑顔を向ける。
いや、その聖母みたいな包容力にも俺は騙されない。ここで更に!

比企谷「いやー。そういうじゃないですか?でもですね?
例えば、それ現地集合ですか?」

羽川「え?ううん。学校に集合してから出発だよ?」

比企谷「ホラ、そもそもまずそこですよ。そこで俺が1人学校の3年集合の最中に行けば。「あれ?誰?」「2年?」「間違えてる?」「え?何でいるの?」
と……。陰口、誹謗中傷、嘲笑いの集中豪雨ですよ」

羽川「いや、そんな事……」

比企谷「ないかもしれませんが、あるかもしれない。そもそも、俺の精神がすり減ります」

羽川「うーん…。
あ!じゃあ、私と一緒に居ればいいよ。私と話せばいいじゃない?
会話に気を取られてそんな被害妄想はできなくなるでしょ?」

比企谷「……まあ、じゃあ次に。移動方法はどうですか?」

羽川「え?バスだよ?」

比企谷「でしょう?あれって、ボッチを否定した乗りものなんですよ。
    ホラ、座席。2人一組じゃん。だから俺が参加する事で、誰か一人がハズレくじを引くことになりますよ?
つまりは俺、ハズレ担当」

羽川「じゃあ、私と乗ろうよ。3人班だから、阿良々木君と戦場ヶ原さんが乗って。
私と比企谷くん。ホラ、これで君はハズレじゃなくなる」

比企谷「……まぁ、そうッスね」

羽川「それとも。嫌かな。私とじゃあ……。おせっかい……かな?」

比企谷「え?あ、いや……その」

羽川「もしかして、ハズレ担当は君にとって私だったりする?」

比企谷「あ、その、違くて…えと……」

 え?なにこの委員長さん。
俺の捻くれた意見さえも笑顔で背負込んじゃうんだけど。
聖母かビッチですか?もしくはその両方。いや、聖母でビッチって何だよ。
聖母ビッチ……。略して聖母ッチ。聖☆ボッチ。
……。俺じゃん。



平塚「比企谷……。君がそこまで言うなら。私からも譲歩しよう」

比企谷「え?」

平塚「比企谷……。君に奉仕部に依頼することを許そうじゃないか」

比企谷「え?ちょっと。違いますって……ですから」

平塚「君は情状酌量の余地をくれと私に言ったのだろう?
 ならば、逆にいえば。譲歩さえすれば行くと言った事に等しいのではないのかな?」



 暴力の強制力と、優しさの強制力。
どこぞのバトル漫画の解説役っぽく言うなら、「このペアなら、神をも倒せる」と言わんばかり。
でも、俺は神どころか紙耐久なんですよ。
とにもかくにも、もう未来は決まっちゃってる。選択肢も希望も。俺の未来には存在しない。



ー序章・完ー

>>1です。

 書き溜めはしていないので、2日に1回更新くらいのペースになると思います。
とりあえず。1話は今日中にはあげます。

俺ガイルSide 第一話
『しかしながら 雪ノ下雪乃は了承する』

「意味が分からないのだけれど」

 奉仕部。平塚先生と、脅威の驚異の胸囲の委員長との板挟み攻撃を喰らった俺は、放課後、足早にそこへ行く。
……あの二人に板挟みされる。その言葉の響きはそう悪い物じゃないなと、ちょっと口角が緩んだ。

雪ノ下「意味が分からないと言っているの」

 いつにもなく冷淡に喋るなコイツ。なんだ?飼い犬にでも手を噛まれたのか?
いや、雪ノ下の場合犬というより猫…かな?

雪ノ下「聞いてるのかしら?貴方の発言に対しての返答だったのだけれど……。
 ちなみに、その顔は凄く不快だから今すぐ辞めないのであれば警察を呼ぶわ」

比企谷「え?変な顔してた?」

雪ノ下「いえ、真顔」

比企谷「真顔が不快ってか?ったく……。まぁ、その。なんだ?
    そういう事を言われてさ。平塚先生に」

 部室には雪ノ下雪乃がいつものように椅子に座って読書に励んでいた。
そこに俺がいつものように来て、昼の事を話した。

比企谷「だからよ、奉仕部の依頼として。お願いしてんだよ。
    俺が3年生の中1人でボランティア活動に参加させられるから。
お前と由比ヶ浜に手伝ってくれと」

雪ノ下「その言葉の意味は分かっているわ。
それに対しての納得と言う意味で求めているのだけれど。
    それは結局、あなた個人の責任でしょう?自業自得。
その尻拭いを何故しなくてはならないのかしら?」

比企谷「奉仕部なんて元々そんなもんだろ?誰かの面倒くさい事を助けるんじゃねーのかよ」

雪ノ下「勘違いしているようね。奉仕部は決してそのような事をしない。
魚を取ってあげるのではなくて、その取り方を教えるのよ?」

比企谷「ああ、確かにそうだったな。
    じゃあ、その魚の取り方を教えられる依頼者が、体が動かせない状態だったらどうすんだ?」

雪ノ下「それは……。目的が食事というのであれば。
魚以外の食物で、依頼者が可能な方法で採取できる物を教えてあげればいいじゃない」

比企谷「アントワネットかよお前。
じゃあ、その例になぞって、俺はその動けない依頼者だ。
    どうするんですか?」

雪ノ下「自分で自分を無能だと言っているのだけれど、それは理解できているの?」

比企谷「当たり前だ。そう言ってんだから。
    俺にはコミュ力とか言われるパラメーターはいくらレベルが上がっても上がんないんだ」

雪ノ下「そうね、貴方にコミュニケーションを求める方が間違いね」

比企谷「おい、「力」をつけろ。会話ができない人みたいじゃねーか、俺」

雪ノ下「あら?会話ができているとでも思っていたの?」

比企谷「じゃあコレは会話じゃなければ何なんだよ」

雪ノ下「教育」

比企谷「授業料なんて払う気ないっすよ?」

雪ノ下「はぁ……。まぁ、この会話に生産性が無い事も分かり切っている事なのだけれど。
    で?それは、いつなのかしら?」

 え?いまこの方は「いつ」と聞きました?それって日時を示す、when的な意味のいつですか?
何?意外とやる気だったりしてくれんの?ツンデレゆきのん最高っすわ……。

比企谷「え?今週末。正確には土曜日の8時半に校庭集合」

雪ノ下「ふぅん。そう。いってらっしゃい」

比企谷「え?いやいや、え?
なし崩し的に「あーもうしょうがないわねー」っていう。
    そういう展開じゃねーんですか?」

雪ノ下「比企谷くん。世の中はそんなに甘くないわよ?」

比企谷「世の中じゃなくて、お前が甘くねーんだよ。世界とお前を一緒に語るな。
    糖分とれ糖分。MAXコーヒーとかお勧め」

雪ノ下「あら?味覚的な甘さの議論をしているつもりはなかったのだけれど。
    やはりコミュニケーションを取るのは難しいようね」

比企谷「あーわかりましたわかりました。もういいです。
    1人3年生の荒波にもまれてきますよ」

雪ノ下「ええ、ちょっとはマシになるんじゃないのかしら」

比企谷「チッ……」

 食えねえヤツって言葉があるけど。雪ノ下はそもそもそれ以上だ。
喰いたくないヤツ。いや、性的な意味では断じてない。
最初から期待はしていなかった。他の誰かの頼みならいざしらず。俺の頼みを二つ返事で了承するわけがない。

 むしろ笑顔で崖に突き落とし、更なる笑みで高みから手を振ってくるに違いない。
本当に友達じゃなくてよかった……。
むしろ、こいつと友達になれる奴の気がしれねぇよ。そいつはあれだな。
とびっきりのバカか、聖母くらいだ。

ガラガラ
「やっはろー!」

比企谷「前者が来た」

由比ヶ浜結衣。俺と雪ノ下と同じ部活の人間だ。
雪ノ下の一方的……、いや。既に相思相愛か?まぁ、友達だ。

由比ヶ浜「え?何ヒッキー。ゼンシャ…?」


雪ノ下「おはよう。由比ヶ浜さん」

由比ヶ浜「うん!ゆきのん、やっはろー!」

 由比ヶ浜はいつものように、いつもの場所へ座る。
俺と雪ノ下が、机の端と端に座るその中間。

由比ヶ浜「でさーヒッキー。ゼンシャって何?」

比企谷「あ?いや……なんでもねーよ」

由比ヶ浜「むー。変な意味だったらぶっとばすかんねー?」

 年頃の女の子がぶっとばすとか言うな。
もしも小町がそんな言葉づかいし始めたらお兄ちゃん泣くよ?
ん?待てよ?

比企谷「あ、そうだ由比ヶ浜」

 コイツに頼めば……。
由比ヶ浜に頼めば、ボランティア活動に一緒に来てくれるんじゃねえのか?
俺からが無理でも、由比ヶ浜からなら成功率は飛躍的にあがる。

 まるで孔明さながらの機転!

由比ヶ浜「ん?どしたのー?」

比企谷「今週末。ボランティア活動に行かなきゃいけないんだが…。その、一緒にいかねーか?」

由比ヶ浜「ふぇ?……それって?え?え?」

 え?なんでそんなキョドんの?やめてよ。俺変な事言ったか?

雪ノ下「落ち着いて由比ヶ浜さん。デートの誘いじゃなくて拷問の同伴のお願いよ?」

由比ヶ浜「え?」

比企谷「えっとな……」

 雪ノ下にさっき言ったのと同じように、俺は由比ヶ浜にも昼の事柄を説明した。

由比ヶ浜「……なーんだ。でもそれヒッキーの自業自得じゃん?
     それにあたしたちが付いていく意味はなくない?」

比企谷「まあ…そうなんだがな」

 雪ノ下に正論を言われるのはいつもの事だが、事、由比ヶ浜に関して正論を言われると若干傷つくことが判明。
もういっそアレだ。当日に体調不良を訴えよう。そうすれば万事解決。
そうすればボランティア活動に参加できなかった罰の。
ボランティア活動に参加できなかった罰として。
今度はちゃんとしたレポートを書こう。うん。

 平塚先生からの暴力は甘んじよう。
この二人を説得できない俺のトークスキルを恨もう……。

由比ヶ浜「まあ、でも……いいよ?」

比企谷「え?」

 逆転サヨナラ満塁ホームラン?まさかの?
顎が鋭くなりそうな感じに、俺の心はざわついた。

由比ヶ浜「ヒッキーには、色々助けてもらったし。なんか、そういう恩返しじゃないけど。
     ヒッキーが困ってるんなら。力になってあげたいなーって……えへへ」

 ………なにコイツ。
え?俺今ゲームしてたっけ?ときめいちゃうメモリアっちゃうゲームしてたっけ?
ラブをプラスしてたっけ?なんで目の前でイベント進んだの?

 勘違いするじゃねーかよ。やめろよ由比ヶ浜。そのビッチスキル発動すんな。

比企谷「いいの?」

由比ヶ浜「うん……。だって、あたしが居れば、その。ちょっとは……安心…でしょ?」

比企谷「お……おぅ……さんきゅ……」

 目を見れない。何これ。ただ学校の課題を手伝ってもらうってだけなのに。
すっげー恥ずかしい…。

雪ノ下「はぁ……良かったじゃない比企谷君。これで1人じゃなくなったわね」

由比ヶ浜「うん!これで3人!」

雪ノ下「え?その人数の内訳は聞きたくないのだけれど」

由比ヶ浜「ゆきのんも行くでしょー?」


 これだよコレ。由比ヶ浜の速攻トラップ効果!リア充オーラ!
「おーい置いてくぞ?」「バーカ。俺たちもう友達だろ?」みたいなヤツ。
由比ヶ浜のこういう攻撃には、流石の雪ノ下様といえども太刀打ちできまい。


雪ノ下「残念だけど、私は由比ヶ浜さんのようにこの男に恩を返す必要が無いの。
    だから奉仕部としては今回否決されたこの男の願いをかなえる義理はないの」

由比ヶ浜「願いとか恩とか……。むー!いいじゃん!3人で行こうよ!」

雪ノ下「……何故?そこまで食い下がる意味を知りたいのだけれど」

由比ヶ浜「だって……ヒッキーと二人っきりだと……その……。
     デートみたいで……」

 デートってお前。3年生のボランティア活動だろうがよ。
そんな風に見えねぇよ。まぁ、由比ヶ浜にしてみれば。
俺と二人でいるってのが噂になると困る種なんだろうな…。自他共にそれは認めている。

雪ノ下が、由比ヶ浜の方をちらりと見て、1つだけため息をついて本を閉じた。

雪ノ下「今回だけよ?」

由比ヶ浜「さっすがゆきのん!」


 何はともあれ雪ノ下はついてきてくれる。
いや、これが必要だ。

 奉仕部の3人が全員参加することが重要なのだ。

 これで傍から見れば『部活動』だ。
俺が1人で行くのとは雲泥の差。

 元々、1人で行くのとさして変わるわけがない。
向こうで会話する相手を欲するんなら、戸塚を誘う他ないから。
でも、周りの目。そこをどうにかするにはこれしかない。

 部活動を知らなくとも、女子2人がボランティア活動に参加したがっていて。
仕方なく俺が付き添うと言った形に見られればそれで良し。

 完全なカモフラージュ。これで乗り切れる。

 後は同じ班の委員長さんと他2名と適当な言挨拶を交わしてゴミ拾って帰ればいいだけ。


 完璧。この計画に抜かりはない!


俺ガイルSide 第一話
ー完ー

物語Side 第貳話
『こよみボランティア その壹』
01

「意味が分からないのだけれど」


 彼女はそう言った。簡潔に冷徹に明瞭に正確に言い放つ。
いっそ突き放すという表現もハマるほどの言葉で、言い放つ。
戦場ヶ原ひたぎ。彼女は私、羽川翼の相談にたった一言言い放つ。


羽川「うーん。簡単に言い換えて、更に良いように意訳すると。
   私たちの班だけ3人班だから、他の6人班と合わせる形で後輩が班に加わるってことかな?」


 それはお昼の事である。
比企谷八幡という人間と、たまたま出会った私は、流れで週末のボランティア活動を共にする。
それの了承。というか、既に事後報告を今。戦場ヶ原さんに伝えている最中なのである。


戦場ヶ原「いえ、確かにボランティア活動への参加の指揮は羽川さん。貴方に任せたのだけれど。
     これは意外ね。まさか私も、面識のない人間と、ましてや回生が違う人と班を組むなんて思わなかったもの。
     私のような人間が、あなたは、初対面の人間と楽しく清く正しく共に歩めると思うのかしら?」


羽川「大丈夫じゃないかな。その子たち…。まぁ、正確にはまだその全員と決まったわけじゃないけど。
   同じ班になる3人は、『奉仕部』っていうそもそもボランティア活動みたいな部活動をしている人たちだし。」


戦場ヶ原「奉仕部?聞いた事のない部活動ね。淫靡な響きさえするわ」


羽川「淫靡って。今日日女子高生が、むしろ若い人が使っていい言葉じゃない気もするけど。
   まぁ、あんまり知られてない部活動であるのは確か。ホラ、あの平塚先生の部活」


戦場ヶ原「平塚?ああ、あの白衣を常に来ている戦闘民族?
     勝手な想像で運動部の顧問だと思っていたわ」


羽川「あの人結構アグレッシブな所あるからね……。
   でも、戦闘民族は酷いと思いよ?あの人も女性だし」


戦場ヶ原「あら、私も女性なのだけれど」


羽川「私がいつ戦場ヶ原さんに性別的に酷い事を言ったのかな?」


戦場ヶ原「淫靡の下り」


羽川「ああ、そこで傷ついちゃうんだ…。戦場ヶ原さん意外と繊細なんだね」


戦場ヶ原「そう、友人から。私の数少ない友人から罵倒されて私はもう立ち直れないわ。
     あー。残念だわー。こりゃボランティア活動も行けそうにねぇぜぇー」


羽川「棒読みで説得力のかけらも感じられないし……。
   何かに理由つけてるけど。とどのつまり戦場ヶ原さんは3人で行きたかったの?」


戦場ヶ原「あら、何を当たり前のことを言っているのかしら。
     3人で行って。羽川さんと仲良くゴミを拾う様を、阿良々木君に見せつけたかったのに」

羽川「うわぁ。なんていうか、私が言うべきじゃないんだろうけど。
   普通こういう場合は、大抵。逆じゃないかな?
阿良々木君と戦場ヶ原さんが仲良くするのを恋敵の私に見せつけるんじゃないのかな?」


戦場ヶ原「それならそもそも同じ班に誘わないわよ」


羽川「正論を突然言われると返す言葉がありません……」


戦場ヶ原「で?残念ながら。誠に遺憾ではありながらも。その子たちは同じ班になっちゃうのかしら?」


羽川「うーん。戦場ヶ原さんがそこまで拒絶するのなら。私は明日にでも断るんだけど。
   私、その比企谷君って子と約束しちゃったんだよね。一緒に行くって。
   約束は破れないから、それなら私はあの子たちの班に入ることになっちゃうね」

戦場ヶ原「いやいや羽川さん?それはもしかするともしかしてなのだけれど。
     私が阿良々木君と二人っきりのツーマンセルって事?」

羽川「そうだね」


 不意にそう言うと、これもまた不意に。彼女は眼を見開いて、見て分かるくらいにたじろいだ。



戦場ヶ原「いやよ。絶対に嫌。それだけは絶対に嫌。勘弁してくださいすみませんでした」


羽川「実の彼氏と二人っきりになれるシチュエーションに対する返答じゃないよね。
   でも。じゃあ、戦場ヶ原さんの選択肢は1つだけになったんだけど?」

戦場ヶ原「ええ、付いていきます。付いていかせてくださいお願いします」

 一瞬だった。彼女が手のひらを返したのは瞬く間だった。
懇願ともとれるそれは本当に、理解が追いつく隙も見せず一瞬。

阿良々木「話は終わったのか?」


 三日月形のクッションに横たわっていた阿良々木君が口を挟んだ。
ここでようやく思い出す。別に忘れていたわけではなかったんだけれども。
ただ彼が部屋の隅に居るように。彼の存在が私の脳の隅っこに押しやられていただけ。


戦場ヶ原「あら、いたの?阿良々木君」

阿良々木「ここは僕の部屋だ!いて当然だろ!」


 そう、ここは阿良々木君の部屋だった。
私が、週末のボランティ活動について話があるって戦場ヶ原さんに伝えたら。

「あら、それなら今から阿良々木君の家でデートするから。そこで話して貰えるかしら?」

 と、誘われたのだった。

 02

阿良々木「で。改めて質問するが。話は終わったのか?」

羽川「うん。戦場ヶ原さんに向けた報告は終わったよ。次は阿良々木君の番だけど」

阿良々木「いや、僕に対する報告は大丈夫だ。僕は二つ返事で了承するよ」

羽川「そう。それなら安心だ。でも、阿良々木君に伝えるのはもう一つ、違う事なの」

阿良々木「うん?ボランティ活動で、下級生が付いて来ることに対する了承じゃないのか?」

羽川「ううん。そこじゃないの。ねぇ、阿良々木君?」


 私は1つ息を吸い込んだ。大きく吸い込んだ。
今から息を吐きだすには、私のいつも通りの呼吸じゃあ足りなかったから。
でも、これは聞いておきたかった。いや、正しくは。確認したかった。


羽川「阿良々木君は、困った人が。
その困った人が男の子でも。
本人が助けを求めてなくても。
阿良々木君と似たような人間でも。

その子が困っているのであれば。


助ける?」


 私が息を吸い込んで吐き出した言葉に対して。
阿良々木君は益々いつもどおりに喋る。


阿良々木「助けるだろうな。多分、いや。絶対」


 やっぱり。絶対的で独裁的で独創的な正義感をもった正義漢。
それが、阿良々木暦なのだ。


羽川「そう。それを聞いて安心した」


 私も同じく。さっきとは対照的に。
いつもどおりに喋りかけた。

 03

「お兄ちゃん?ねぇ起きてる?お兄ちゃん?お兄ちゃんだよね?そこにいるのは?ねぇ、お兄ちゃん?」


阿良々木「そんな何度も兄の名を呼ばずとも最初の一度目で聞こえている。
     起きているよ。月火ちゃん」


月火「そう。それなら良かった。いや、起きているなら尚更遅いよ?お兄ちゃん。
   羽川さんともう一人、お友達が迎えに来ているよ?」


 我が妹。小さいほうの妹は、僕の彼女を、もう一人の友達と言った。

阿良々木「そうか、待ち合わせの時間には多少早い気もするが。
     羽川の事だ。10分前行動を基本にした10分前行動なのだろうな。
     いや、寧ろ僕が寝坊するという可能性を考慮した上での20分前行動かな?」

月火「その考察をする暇があったら。友達を待たせてしまっている兄に対して。
   申し訳なく思って部屋まで全力疾走で迎えに来た妹の心情を汲んで欲しいよ?」


阿良々木「全力疾走の割に息が上がってないぞ」


月火「こんな距離で息が上がるのはお兄ちゃんくらいだよ」


阿良々木「そうか。で?2人は今どこに居るんだ?」


月火「お邪魔しちゃうと親御さんに気を遣わせるって言って。外で待ってる」


阿良々木「そうか。すぐに行くと伝えてくれ」


月火「なんで私が伝えなくちゃいけないのかな?私はお兄ちゃんの妹ではあるけれど。
   お兄ちゃんの伝言係じゃない!
   人を電報みたいに使うなぁあ!」

 いつにもなくピーキーだった。

阿良々木「わかった!行く!今すぐ行く!」


 今日は週末。
ボランティ活動の当日。

 そして、これから起こる事の前哨戦というかオードブルのような。前菜に位置づけられる。
これから起こる事と全く関係のない妹とのなんでもない会話。


 それから。いや、これから。

身近で現実的な、怪異なぞ出る幕もないくらいの平凡な物語。
しかしながら、やはり間違ってしまっている物語が……。
幕を開く。







 物語Side 第貳話
『こよみボランティア その壹』

―完― 

 次の話から、俺ガイルと物語シリーズが絡んでいくつもりです。
拙いながらも各作品の書き方を模倣しているんだけれど。次からどうしようか模索中。

 ではでは。

俺ガイルSide 第3話
『何故か八九寺真宵はグイグイくる』


 面倒くさい。
結局それは、当日の朝になっても変わらない俺の感情である。

比企谷「ふぁ~……」


小町「あ、お兄ちゃん。おはよー。なんでお休みなのに早起きなの?
   今日、なんかアニメしてたっけ?」


比企谷「俺は別にアニオタじゃねーよ。今日はボランティア活動があるんだよ」


小町「ボランティアぁ?何…?お兄ちゃん遂に変な宗教に入信しちゃったの!?」


比企谷「なんでだよ。まず宗教を考えちゃう妹に俺は残念さを通り越して心配になるよ。
    ってか前に言ったじゃんよ。聞いてなかったのか?」


 小町が偏差値の低そうな雑誌を読んでいる傍ら、俺はコーヒーに練乳を入れて一気に飲み干す。
うん。甘くてうまい。糖分を取るにはやっぱりこの、自家製MAXコーヒーだ。
朝のやる気が一気に満ち溢れる。

 俺の目も、死んだ魚の目から死にかけ程度には回復する勢い。


小町「まーたそんなにコーヒー甘くして……。糖尿病になっちゃうよー?」


比企谷「馬鹿。俺にとっての最高の回復剤だ。
    FFで言うならフェニックスの尾。DQで言うなら世界樹の葉。テイルズで言うならライフボトルなんだよ」


小町「お兄ちゃんって死者だったんだ」


比企谷「おう、そうだぞ。だからこそ俺は死に物狂いに頑張るなんて無理。
    何故ならもう死んでいるのだから」


小町「それだと生き返ってないじゃん。んもー。お兄ちゃん朝から下向き過ぎだよ?
   そんな事だと小町は心配だよ。
   もうちょっと上を向いて生きてくれると小町は凄くうれしいんだけど?
   あ、今の小町的にポイント高い!」

 そんなどうでもいい雑談を小町とずっとしていたところだが。
今日はそうもいかない。
先週末と同じように、空気を読んで小町が体調を崩す事もない。

 ならば俺も腹をくくるしかない。というよりも現状は先週よりしんどい。
先週ならただのぼっち課外活動だが、今回はそのハードルが軒並み上がっている。
3年生と共に行動しなくてはならない。

 なんでこうなったんだ?酷いよ神様。神様なんて信じないが、もしもいるのなら。嫌いだ。
いてほしくない。むしろ、だからこそ神様なんか信じてやるもんか!


小町「でもさーお兄ちゃん。今回は小町もちょーっと罪悪感あるかなーって」


比企谷「あ?なんで?」


小町「だって、小町のせいでお兄ちゃん。今日ボランティア活動行くんでしょ?
    小町が熱を出さなかったらって思うと……」


比企谷「馬鹿野郎。お前のせいじゃねーよ。

     むしろ誇らしい。更なる苦行を背負っても、俺は妹を助けられたんだからな?
     お前のために何かしてやれるなら俺は世界を敵に回してもいい!
     お?今の八幡的にポイント高いよな?な?」


小町「いや、今のはシスコンって言うより厨二ポイント高すぎでどん引き……。

    まあそう言ってくれるなら嬉しいかな。じゃあちゃっちゃと行ってらっしゃい!
    帰ってきたらおいしい料理で出迎えてあげるからさ!」


比企谷「おう、期待してるぜ。
     んじゃまあ。いってくら」


小町「はいはーい」


 家を出た。
朝日がまぶしい。足は今にも180度踵を返してもいいと言っている。
頭の中の天使と悪魔も口をそろえて帰って寝ようと誘ってくる。

 はぁ。


 ため息しか出てこないので。俺は一歩前に出る。


 通学は基本自転車。
でも、今日は。
いや、いつも別に足取りが軽いわけでもないが。今日は尚更、足が重い。
だから俺は、自転車を押しながら徒歩で学校へ向かう。

 時間ぎりぎりに行って、注目を浴びるのは嫌だったから。早めのタイムスケジュールを組んでいる。
しれっと集合場所であるグラウンドの端。
いるかいないか分かんないくらいの所に身を潜める。
そして、由比ヶ浜と雪ノ下が来たら、これまたしれッとその中に交っていれば万事大丈夫。
オーケー。抜かりはない……。

 だったんだが……。
集合時間がギリギリになってしまうかもしれない事件が起きる。


 幼女。なんだか知らんけど、後ろから幼女が突進してきた。
意味が分かんない。俺も分かんない。

 小学生か、多分それくらいの幼い女の子が、後ろから猛ダッシュで突進してきた。
壺でも買わされるんじゃないかと。もしくは新種の当たり屋かとヒヤヒヤする。

 なんで?なんで今日はこんなについていないの?

 通学は基本自転車。
でも、今日は。
いや、いつも別に足取りが軽いわけでもないが。今日は尚更、足が重い。
だから俺は、自転車を押しながら徒歩で学校へ向かう。

 時間ぎりぎりに行って、注目を浴びるのは嫌だったから。早めのタイムスケジュールを組んでいる。
しれっと集合場所であるグラウンドの端。
いるかいないか分かんないくらいの所に身を潜める。
そして、由比ヶ浜と雪ノ下が来たら、これまたしれッとその中に交っていれば万事大丈夫。
オーケー。抜かりはない……。

 だったんだが……。
集合時間がギリギリになってしまうかもしれない事件が起きる。


 幼女。なんだか知らんけど、後ろから幼女が突進してきた。
意味が分かんない。俺も分かんない。

 小学生か、多分それくらいの幼い女の子が、後ろから猛ダッシュで突進してきた。
壺でも買わされるんじゃないかと。もしくは新種の当たり屋かとヒヤヒヤする。

 なんで?なんで今日はこんなについていないの?

ごめんなさい。
>>41
>>42
重複してしまいました…。

「阿良々木さーーーん!」


比企谷「うぐぉ!」


 突進してきた幼女は、意味の分からない奇声を発していた。
既に事件だ。


「あれ?」

比企谷「だ…誰?」


 振りむいた先にはやはり幼女。
しかし、今ぶつかって来たのに俺の方を向いて首をかしげている。

 いやいや、かしげたいのは俺の方だっての。
勝手に首を傾けんな。傾けんなって。
そんな傾げても、世界はおろか、物語だって傾かねーよ。かぶかねーよ?

何この子。メンタル強いな本当に。ただの人違いでも俺だと顔から火が出るくらいに。
言うなればそれから1週間ブルーになっちゃうくらいの大ダメージなのに。

 なんでそんなノーダメージなの?相手が俺だから?



「ごめんなさい。人違いでした。知り合いによく似ていたもので」


比企谷「は…はぁ。そりゃどうも。気を付けてくださいね」


 人違いで突進されたらたまらねーよ。
俺が俺じゃなければ怒られてたよ?俺だから良かったものを……。
まあいいや。考えるのはやめよう。
思考停止じゃなくて思考放棄。帰って小町にする土産話ができたと思う事にしよう。
この子との関わりはそれで終了。このまま会話を続けると事案が発生しそうだ。
「小学生に突進される男の事案が発生」
洒落になんないよ……。


「でも、あれー?私が見えるんですよね?」

比企谷「は?え?」


 冷や汗が流れた。
何この子。中二病なの?もしくはそういう人なの?
元々人と話す事を得意としない俺が、小さな子供。ましてやそういう人と話すスキルはもってない。


「ああ、すみません。私、八九寺真宵です。はじめまして」


比企谷「え?あ、どうも。比企谷です……」


 不意に自己紹介しちゃった。どんな流れですか?コレ。
曲がり角でパンを咥えてぶつかっても自己紹介の流れではない気がするんだけど?

八九寺「えっと。比企谷さんは、今なにをしてらっしゃるんですか?」


比企谷「いやいや。いやいやちょっと待てよ」


 思わず声に出しちゃった。
いや、いくら俺でも。スルーされ続ける人生を歩んだ俺でさえもスルー出来ない。

 どういうことだ?メンタルが強いとか、なんかそういう感じじゃない。
もしかして俺今、スタンド攻撃を受けている?
グイグイ来すぎだろ。何が浜結衣だよお前。
千葉村で会った小学生たちもこんなんじゃなかったぞ?小学生だよね?え?

 これ幻覚?俺、友達いなさ過ぎてこんな少女の幻覚見ちゃってるの?
やべぇ、ボランティア活動行ってる場合じゃねえよ。病院行かなくちゃ。




八九寺「ハッ!すみません。初対面なのにずうずうしい質問でした。
    知り合いにあまりにも良く似ているもので。ナイリンの人間のように話してしまいました」


比企谷「いや、ナイリンって……。それって多分。「うちわ」って読むんですよ?」


八九寺「うちわ?いえいえ、別に暑くはありません」


比企谷「まあ真夏というにはまだ早いっすからね」




 おっと。
普通に会話してしまった。

 え?いやいや勘違いしないでもらいたい。
俺だって話しかけられれば普通に会話ごときできるんですよ?
たじろいだりなんかしない。それは勘違いしないでもらいたい所である。と、自分に喋る。

 それにしても、こうも話しかけられると。
俺だって興味が無いわけじゃない。さっきから言われる「俺に似ている人」が気になる。
どうせ時間はあるんだ。ちょっとこの意味の分からない少女と雑談を試みることにする。

比企谷「その似ている人って、そんなに俺に似ているんですか?」


八九寺「ええ、制服も同じですし、髪型もソックリです。雰囲気までもが」



 なにそれクローンかよ。ドッペルゲンガー?
絶対その人と会わないようにしないと、死んじゃうよ俺。
もしくはソレ、隣の世界の俺だよ。いともたやすく行われるえげつない行為だよ。
それでも出会ったらくっついて死んじゃうよ?



比企谷「それで名前まで比企谷だったらそれ色々と不味いですね」


八九寺「いえ、名前は違います。その人は阿良々木という人です」


比企谷「阿良々木?聞いた事あるな」


八九寺「え?あの最低最悪の畜生を知っているのですか?」


比企谷「いや、おいおい。俺に似てるって言って置いて、いきなりなんですか?その形容の仕方は」


八九寺「失礼。いえいえしかしながら。彼は最低の人間なのは間違いありません。
    私に出会い頭のセクハラはおろか性的虐待を幾度となく繰り返すロリコンです」

比企谷「おいおい。それ警察行った方がいいんじゃないんですか?」


八九寺「いえ、私もまんざらではありません」


比企谷「……へぇ」




 あ、駄目だわコレ。
やっぱり話しかけちゃいけない子供だったわ。
俺の頭の整理は追いつかない。いや、処理速度の問題じゃなく、拡張子が既に非対応レベル。
キャパオーバーでもなく処理落ちでもなく、単純に種類が違う。

 端的に。この子はイっちゃってる。

八九寺「あわわ!また私とした事がツッコミを前提に話を続けてしまいました……」


比企谷「いや、まあ俺これから学校へ行くんで。では」


八九寺「学校?今日は土曜日のはずですが?受験勉強ですか?
    いや、でも受験勉強って女性の家で2人っきりでやるものでは?」



 どこのリア充だよ。
そんなんじゃ勉強なんて身にはいらねーよ。下心しか学べねーよ。
なんでこの子の価値観はそんなリア充基準なの?

 ってか付いて来るし……。うわぁ。




八九寺「所で、比企ガイアさん」


比企谷「え?ガイア?俺は女神じゃないっすよ?そもそも男だし。
    なんで突然あからさまに噛むんですか?寧ろ噛んだの?それ……」


八九寺「ああ、失礼。噛みました」


比企谷「いや、そんな謝られても」


八九寺「え?」

比企谷「え?」




八九寺「ああ、すみません。何度も言うように、貴方によく似た人と似たような会話をするので。
    ちょっとその会話をしてみたくなったのですが……。やはりうまくは行きませんね」


比企谷「そりゃ、俺はそのアラギさんではなく、比企谷ですから」


八九寺「その人は阿良々木です。ラが足りません。
    っていうか!それ私の持ちネタです!パクらないでください!」


比企谷「いや、パクルも何も。そんな気ないですし。怒られても困るっつーか」


八九寺「でも、意外とそのパターンもありですね。
    先ほどから阿良々木さんを引き合いに出してはいますが、比企谷さんも結構面白い方ですね」


 気に入られてしまった……。この変な子に。もうヤダ。

比企谷「そりゃどうも。でも、俺としてはそろそろ自転車に乗りたいんですが」


八九寺「後ろに乗れというお誘いですか?大胆ですね」


比企谷「なんでそんなポジティブなんだよ。さよなら先生、また明日っ!の時間だって言ってんの」


八九寺「私は小学生です!幼稚園児の別れの挨拶を引用しないでください」


比企谷「今ので分かるのかよ。察しが良すぎる以前に敏感過ぎて怖い」


八九寺「所で。幼稚園生の次に小学生って……。幼い。小さい。と続きますが。
    その流れで行くと。幼い、小さい、中くらい、で。何故高校生なのでしょうか。
    本来小さいのであれば、中の次は大きいの大学生でしょう?」


比企谷「いきなり何?まあ確かにそうだな。小中大なら流れはいいけど。
    高校生って確かにどこから来たのか分かんないな」


八九寺「でしょう?低学生がいるわけでもないのに」


比企谷「響きだけだと携帯の基本料金みたいだな。定額制……」


八九寺「でも、そうして考えると、高校生だけ、○学生ではなく○校生なのも不思議です」


比企谷「そりゃあれだろ。高学生なら、携帯の基本料金が高いみたいだしな」


八九寺「確かに。でもそうしてみると、小学生って色々お得な響きになりますね」


比企谷「お得を良い事に手を出したら痛い目を見ちゃうけどな……」


八九寺「私はお得な女ですね?」


比企谷「そうなると高校生って損だな。
    まあ、青春を演じなければならないって言う周りからの圧力の中。
    勉強もスポーツも両立させて毎日社会人よろしく朝から出かけなくちゃいけないのは。
    確かに損な人間だな。高校生って」


八九寺「卑屈ですねー……比企谷さん」


比企谷「まあな。こんな高校生になるなよ?八九寺さん。
    いや、寧ろ高校生自体ならないほうが幸せかもな。欺瞞と偽りで塗り固められた。
    まるで台本を読むような事が高校生の幸せなんだからな。
    10個の磁石をカチャカチャして算数して楽しんだり。
    お道具箱のせいで教科書が片方しか入らない悩みを抱えられるのも今のうちだ」

八九寺「何故そんなに小学生に詳しいんですか?訴えますよ?」


比企谷「訴えるって流行語みたいに皆軽々しく口にするけど。
    告訴の方法とか知ってんですか?」

八九寺「告訴?」


比企谷「訴えると行っても費用もかかるし、受付の後に受理と2段構えだし。
    さらには何の犯罪かも被害者側が準備しないといけない。
    日本は意外と被害者に厳しい国なんだぜ?
    俺みたいなボッチは黙って隅っこで泣けって言われるのがオチだ」


八九寺「何故あなたはそこまで卑屈なのですか?」


比企谷「良く似た知り合いさんに聞いてみなよ。
    雰囲気も同じなら俺と同じ言葉を言うだろうよ」


八九寺「前言撤回します。阿良々木さんはここまで卑屈ではありませんでした。
    貴方、嫌な人ですね」


 ほっとけ。

八九寺「あ、ではそろそろ私は行きます」


比企谷「あ?ああ、まあ一応。その似た人によろしくな」


八九寺「ええ。あと、最後に1ついいですか?
    ただの変な子供の独り言だと思っていただいてかまわないのですが」


比企谷「なんですか?」


八九寺「私に会ったってことは。多分良い事ではありませんので。
    その、迷っては駄目ですよ?色々とおありでしょうが、頑張ってくださいね?」


比企谷「はぁ……」



 去っていった。
いや、本当に理解が出来なかった。気付いたら色々話しちゃっていた。
本当に気の迷い。話しかけられたから話し返しただけ。ただそれだけ。

 なんだっけ。八九寺…?聞いたこともない名字だったな。
あの無意味に大きなリュックサックも。意味が分からない。どこかへ行く途中だったのか?

 まるで人生の迷子みたいな子供だった。
と、詩人のように言ってみる。やべぇ、中二病っぽくてなんか恥ずかしくなる。



 ……よし。
気を取り直して学校へ行こう。
早く出たのが幸いして、今から自転車に乗って行けば。目標の時間にはつきそうだ。

 行こう。……ットその前に、自販機でMAXコーヒーを買って行こう。
朝から疲れた。



俺ガイルSide 第3話
第3話 ―完―

物語Side 第肆話
『こよみボランティア その貳』

01

阿良々木「初めまして。阿良々木だ」

 それだけ言った。
まるで何かの漫画の表紙絵のように、3人と3人が向かい合う凄く近寄りがたい雰囲気の構図。
僕らは今そんな風に立っていた。

 羽川が言っていたように。今日のボランティア活動で、僕たちの班は2年生と同じ班を組む。
基本は6人で一班の行動だったので、仕方がないと言えば仕方がない事なのだが。
その2年生もどうやらワケありで。先週の2年生の活動に不参加だった人が。
つまりは特別枠という事で僕たちと共に行動するのだという。

 つまり、面識はない。
羽川が、僕の目の前に立つ男子生徒、比企谷八幡と会った事がある程度で。
他の由比ヶ浜結衣。雪ノ下雪乃。この二人とは羽川ですら面識が無かった。

 だからこその自己紹介。
その自己紹介で、僕は簡潔に。別に趣味や特技を紹介するわけでもなく。名前だけを伝えた。



由比ヶ浜「羽川先輩って…。羽川先輩ですか?成績とか凄くいいんですよね?」


羽川「あら、そんなに有名なのかな?まぁ、成績は一応上位にはいるんだけど。
   そんなの自慢できる特技でもなんでもないよ」


由比ヶ浜「えー!?十分凄い事ですよ!
     私なんかいつも赤点スレスレで……」


比企谷「由比ヶ浜。お前と同じ頭の人間なんか早々いないから安心しろ」


由比ヶ浜「え?なにそれヒッキー……それ褒めてる?」


比企谷「この言葉を皮肉だって即座に理解できないんなら。お前は幸せだな」


羽川「比企谷くん?女性にそういう言い方はないと思うよ?」


比企谷「え?ああ、すいません……」


 おいおい羽川。あんまり言ってやるな。
その比企谷君とか言う男子生徒は多分それが基本スタイルだ。
斜に構えるのがかっこいいとか思ってしまう年頃なんだろう。うん。分かるぞ。
僕みたいな人間はそんなことはないが、大抵の男子生徒はそういう風にふるまってしまう物だ。
僕みたいな人間はそんなことはないが。

羽川「あ、バスが来たみたいだね。じゃあ、バスに乗ろうか。
   えっと、戦場ヶ原さんと阿良々木くん。由比ヶ浜さんと雪ノ下さん。
   そして私と比企谷君でいいんだっけ?」


雪ノ下「すみませんが羽川先輩。
    この人間の隣に座ってしまうと、感染してしまうのでお勧めはできません」


比企谷「何に感染するんだよ何に。
    隣の座席で感染しちまうんなら、今既にお前は感染してるだろうが」


雪ノ下「セクハラとして訴えるわよ?いやらしい」


比企谷「お前が言い始めたんだろうが!」


羽川「こらこら、喧嘩は駄目だよ?2人とも。
   私は比企谷君の隣でも大丈夫だよ?」

比企谷「え?……あ、ありがとうございます」



 羽川にとってはいつもの事。僕にとってもその光景はいつものことだった。
規則正しく、折り目正しい羽川委員長は。誰にだって優しく、誰にだって公平だ。
だからこそ、特別、好意があるわけでもなく。別段、敵意があるわけでもないのだ。
大抵、普通。そういう一般的という枠組みにある行動を、まるで教科書のように行動できる。
それが羽川翼という人間なのだ。

 しかしながら、それにより勘違いを生む。
この場合、本来なら比企谷という男子生徒が生み出すべき勘違いのはずなのだが。
しかしどうやら、彼ではなく、別の彼女がそれを生み出してしまったらしい。



由比ヶ浜「え?あ、いやいや!あたし!羽川先輩と座りたいです!
     前からお話ししてみたかったんです……なんて」



 初対面の先輩が、ただでさえこの彼女。由比ヶ浜の知らない場所で羽川と比企谷に面識がある。
更に羽川の先ほどの台詞を普通に感じ取ってしまうのであれば。
好意があるように見えてしまうのは仕方がない事である。

 つまりは、羽川の行動を、由比ヶ浜は比企谷に向けられた好意だと勘違いしている。

 友達が知らない女の人に知らない所で好かれているという事柄がそんなに嫌だろうか。
友人というのは、特に女子というのは。そうも独占欲が強いのか?



雪ノ下「私は嫌よ?この男と隣に座るだなんて」



 そして彼女もまた。その言葉が100パーセントの真意でないのは見て取れる。
いや、全てが真意でないにしても、彼女。雪ノ下の場合は、もしかすると5割は超えるくらい。
それが真意なのかもしれない。

いや、しかしながらこれは。穏やかではない空気だ。
僕はてっきり。いや、普通の思考なのだけれど。
2年生の3人組は仲の良いグループだと思っていたのだが。どうやら違うらしい。
いじめ……にしては楽しそうに話しているように見えるが。
それでも、仲は悪そうだ。
正確にいえば、仲違いをしているようだ。



 そしてその渦中であり一番の被害者は多分比企谷という男子生徒。
羽川が共に座るという提案を、由比ヶ浜が拒絶し、雪ノ下も否定するのならば。

 僕か戦場ヶ原が座るしかない。

阿良々木「なあ戦場ヶ原」


戦場ヶ原「何かしら?阿良々木くん」


阿良々木「お前、雪ノ下って子の隣でも良いか?」


戦場ヶ原「まあ、話の流れからそうしないと駄目みたいね。
     構わないわ。でも、会話が盛り上がる事には期待しないで」


阿良々木「ああ、ごめん。戦場ヶ原」


戦場ヶ原「いいのよ、謝らないで。貴方と隣にならなくて感謝するくらいよ。感染するから」


阿良々木「感染なんてするか!聞いたばかりの台詞で罵倒のレパートリーを増やすな!」



 と、まあ。結論はついた。
入口に近い、入ってから右側。
後ろから。
僕と比企谷。
由比ヶ浜と羽川。
雪ノ下と戦場ヶ原。

 そんな不思議な座り方でバスに乗ることになった。

02

 バスが出て15分……。
僕は一言も話さずに通路を眺めていた。
本来なら、僕は。先輩として、人生の先駆者として。横にいる後輩に話しかけるべきなのだが。
彼こと比企谷八幡という男子は。それをそうする前から否定している。
否定、いや……。拒絶という方が正しいのかもしれない。

 体の半分を窓に向けて、じっと流れる景色を見つめている。


 話しかけるな。と、体全体からそう発しているようだった。


 でも、いやしかし。僕も手持無沙汰なのだ。
これからあと1時間程はこのバスに乗っていなくてはならないし。
携帯ゲームや小説といった暇つぶしの類は持ってきていない。


阿良々木「なぁ、比企谷……だっけ?ちょっと話しでもしないか?」


 普通のお誘い。彼も絶対に暇なはずだ。
先輩の僕がそう提案すれば。別に断る理由もないだろうと考えた。


比企谷「あ、いえ。お構いなく。大丈夫っすよ。気を遣わなくても。
    1人で時間を過ごすのには慣れているんで」


 あっさりと却下されてしまった。
こちらに体を向けることなく、目線だけこちらに向けて。


阿良々木「ううん。でも、今日は同じ班としての行動だ。
     多少なりともお互いの事を知るべきじゃあないのか?」


比企谷「そうですか?いやいや、ゴミを拾って昼食を食べるだけじゃあないですか?
    そのどちらも1人でやる物じゃないっすか。
    それなら互いを知らなくとも業務はこなせます」



 あっさりと。食事を『1人でやるもの』と言った……。
何の迷いもなく。定理のように。真理のように。

いや、僕だってこんな事は得意ではない。つい先日まで友人と呼べるものすらいなかった。
だからこそ。いや、しかしながら。今目の前に居る後輩くらいに会話できないでどうする?

 僕は自分から友達をつくらなかったわけであって。友達が作れないわけではない。
前の席の羽川は、流石というべきか。笑い声が聞こえてくる。



阿良々木「いやいや、業務というけども。これは学校行事だ。
     仕事よりもアットホームにあるべきじゃあないか?」


比企谷「アットホーム?俺、家に友達とか呼んだことないので、それこそアットホームだとしたら俺は1人で大丈夫っす」


 地雷を踏んだらしい。
どんな言葉を投げかけても、雑談にならない。
もしかすると。雑談とは僕が思っている以上に難しいものなのかもしれない。

阿良々木「何故そこまで話したがらないんだ?もしかすると……」


比企谷「?」



 その可能性がある。僕だってかつてはそうだったように。
彼もまた。そうなのかもしれない。



阿良々木「友達をつくると、人間強度が下がると思っているのか?」


比企谷「え?」


 どうやら違うようだ。
いや、その僕に対する明らかに奇人変人を見つめる目線が。
実は暴かれてしまった困惑という場合もある。
しかし、たいていこの場合は。前者の場合が限りなく100パーセントだろうが……。


比企谷「いえ。別に友達を作りたくないとかそんなんじゃねーんすよ」




 初めて向こうから話しかけてくれた。
なんだろう。この高揚感と安堵感は……。




阿良々木「じゃあどうなんだ?僕は理由も状況も理解できないまま、お前に否定され続けると。心が折れるぞ」


比企谷「……例えば、今ここで楽しくおしゃべりするとするじゃないですか」


阿良々木「ああ」


比企谷「そして来週以降の学校で。先輩はまあ、誰かに今日の思い出を語るじゃないですか?」


阿良々木「ああ、そうかもな」


比企谷「人のうわさは光よりも早く。俺が学校外で仲良く話しているという事が伝わる」


阿良々木「……」


 僕の中に先ほどまで存在した高揚感は、みるみるそのボルテージを下げて。
下手をすれば最初以下へと到達した。


比企谷「そしてそれは俺のクラスにも伝わり。
   『ヒキタニくんって実はあんな趣味あんだってー!』
   『ヒキタニくんの笑顔って気持ち悪いらしいよ―』
    とか、そういう噂になって俺への精神ダメージ……」

阿良々木「いやいや、待ってくれ!僕はそんなうわさを流すつもりはないぞ!」


比企谷「先輩がなくとも他の人がそう話すかもしれない。
    そもそも先輩が本当に良い人なのか不明ですし。
    ホラ、よく言われているでしょう?人をすぐ信用するのはよくないって」


阿良々木「かといって、まず底辺から評価するのもどうかと思うぞ?」

比企谷「まだあるんすよ。仮にそれがなかったとしても。
    ここで仲良くなったら学校で会ったときに気軽に挨拶するでしょ?」


阿良々木「まあ、ここで仲良くなれたらな。学校ですれ違ったらおはようくらいは言うだろうな」


比企谷「その時にも、先輩がもしその時誰かと一緒に居たら。『アレ誰?』と聞かれます。
    もしそれが先輩ではなく、雪ノ下や由比ヶ浜なら、部活の友達。と紹介し。
    俺のクラスメイトなら、同じクラスと紹介するでしょうね。
    でも、先輩の場合、この前のボランティア活動の時に……。と説明が要ります。
    そして結果。『なんで3年のボランティアに2年が?』等と話が膨らみ結果的に…」


阿良々木「もういい。やめてくれ……。失礼を承知で言うが、何故そんなにも卑屈なんだ?」


比企谷「その質問はアレですよ。赤ん坊に何故言葉をしゃべらないのか聞くのと一緒ですよ?」


阿良々木「当たり前だとか、当然だとか、そういう類だって言いたいのか?」


比企谷「いえいえ。赤ん坊に言っても理解はできないでしょう?」


阿良々木「愚問と言うことか!?
     そんなにもお前の人生は波乱万丈なのか?」


比企谷「いえ?俺の今までの人生をまとめた伝記を書いた所で。
    プレパラート並みっすよ」


阿良々木「薄っ!10ページもあるのか?それともなんだ?A1サイズの紙なのか!?」


比企谷「いえ、ラノベサイズで更に厚紙です」


阿良々木「1ページで容量オーバーじゃないか……」


比企谷「更に文字のフォントも太字」


阿良々木「出版社に問い合わせろ!」


比企谷「とうの昔に潰れました」


阿良々木「だろうな!」

 ため息が出そうだ。
こんなにも卑屈で否定的で屈折的で被虐的な人間はそうはいないのじゃないだろうか。
しかしながら、事実今の会話が成立したように。別に話すことそのものが嫌いではないらしい。

 多分。きっと。彼は平穏な今の学生生活を最大とみなし。
そこからマイナスに働く可能性を全て根絶やしにしている。
そこにプラスの可能性が含まれていてもだ。運否天賦で変動する今後に身を置くのを拒んでいるのだ。

 だからこそ。他人と仲良くなるというプラスを虐げるのだろう。



阿良々木「じゃあ約束しよう。今日の事は誰にも言わない。今後あってもお前が話しかけない限り挨拶もしない。
     鬼に誓って約束しよう。それなら雑談に付き合ってくれるか?」


比企谷「神じゃなく?トップカーストの流行語には疎いんで、ちょっと謎ですよ?それ」


阿良々木「僕は寧ろトップカーストという言葉が謎なんだがな」






 とまあ、こういう具合に会話は成立した。
比企谷も、そこまで言われたら。というべきか。そう言ってくれるなら。というべきか。
まあ、どちらにせよ僕と会話をすることを了承してくれた。

実際。話してみれば、いや、話したからこそなのだが。
彼は悪い人間ではない。
困った人間を心配する気持ちや、綺麗なものに感動できる心は持っているのだろう。
ただそれを表に出さないだけで。

 僕は予想だが、彼からそういう印象を受けるのだった。

 数十分が過ぎた。



比企谷「……で、頭文字を取って、ggrksって言うんすよ」


阿良々木「ああ、そういう事か。ふむふむ。お前は色んな事を知っているんだな。
     そんなにネットというものに浸ってないからなあ、僕は」


比企谷「ネットはいいですよ。超便利。休憩時間とかの必需品」


阿良々木「いや、うん。みなまで言うまい」


比企谷「言う必要が無いというより、言ってもしょうがないと思いますよ。俺には」


阿良々木「……所で比企谷。僕たちって高校生だよな?」


比企谷「いきなり何を?まあ、そっすね」


阿良々木「考えてみると、不思議なものだよな。僕たち。
     高校生になる前は、中学生。小学生だったじゃないか。
     そしてこの後、大学生になる。
     何故、今だけ僕たちは○学生ではなく○校生なのだろう」


比企谷「そりゃあれでしょう……。高学生ならなんか携帯の基本料金が高いみたいっ……。
    ん?」


阿良々木「どうした?」

比企谷「いや、その。……先輩の名字って阿良々木っすよね?」


阿良々木「ああ、そうだ。阿良々木暦だ。下の名前は言ってなかったか?」


比企谷「いや。その。なんていうか……。
俺、今違う意味で先輩の事信用できなくなりました」


阿良々木「それは何故だ?僕の名前って画数が不吉なのか?」


比企谷「占いとかじゃなく。簡単に言うと、法律的な意味で」


阿良々木「僕は法に触れるレベルの名前なのか!?」


比企谷「名前じゃなく。行動が……婦女暴行とか?」



阿良々木「何をいきなり言いだすんだ!?
     確かに僕は戦場ヶ原とそういう事がしたいし。
     羽川をそういう目線で見たことも認めよう。
     でも、それは男子なら誰でもそういう感情になるだろう?」


比企谷「まあ、羽川先輩の乳トンの万乳引力の法則は認めますが……」


阿良々木「それに妹の胸を足で踏みつけた事もあるが。
     それは法に触れる事じゃあないぞ!」



比企谷「なにやってんすか……。さっき妹と仲良くないとか言ったのは嘘かよ。
    いやいや、そういう事じゃなくて。あの、八九寺って小学生知ってます?」

阿良々木「八九寺?ツインテールの大きなリュックを背負った?」


比企谷「ええ、その八九寺っす。
    今日たまたまその子に会って、俺。どうやら先輩と見間違えられたらしく。
    たまたまそういう話を聞きました。
    セクハラ行為をされていますって……」


阿良々木「会った?八九寺に?本当にか?」


比企谷「これが嘘だったら。俺は一流の詐欺師ですね」


阿良々木「いや、まああったことに関しての疑問は今置いておこう。
     しかしだな。僕は八九寺にそんな事はしない。寧ろ彼女の貞操を僕は守っているんだ。
     ホラ、八九寺は可愛いだろ?だから僕はもしそんな極悪非道な人間がいたら許せない」


比企谷「まあ、あの子もちょっと意味の分からない子供だったんで、話半分ですけどね」


阿良々木「分かってくれればそれで嬉しい」



比企谷「先輩の言い訳も話半分ですけど」


阿良々木「それならイーブンで相殺されるな」



比企谷「ぷよぷよかよ」


阿良々木「どっちかといえばテトリスだな」



比企谷「違いがわかんねーっすよ」


阿良々木「単純だ。お前は色眼鏡を使わないだろ?」


比企谷「成程……ってテトリスにも色付いてるじゃん」

 03


 その後僕と比企谷は、なんてことはない雑談を続けただけなので。
多少時を戻して、語り部を戦場ヶ原辺りにでも渡すとしよう。

 04

 初対面の人間と話すのが苦手になってしまったのはいつ以来だろう。
少なくとも中学生の頃の私はそうではなかった。
まあ、いつから、という時間的な問いに対してみれば、その答えはすぐに出る。
蟹に会ってしまってから。

 まあ、それでも中学生のころから変わらず。
横で読書をする後輩に話しかける言葉もなければ、話しかけようとも思いはしなかった。



由比ヶ浜「ゆきのんもポッキー食べる?」



 後ろの座席から。後輩が後輩へポッキーを差し出す。
まるで遠足みたいな雰囲気だった。



雪ノ下「遠足じゃあないんだからお菓子を持ってくるのはタブーだと思うのだけれど。
    これも学業の一環なのだから。校則違反にならないとしてもモラルを持つべきよ?」



 言葉が被った。
いえ、といっても私は発言していないのだし。そんな校則の事など話すつもりもなかった。



由比ヶ浜「もらる?マナーじゃなくて?」


羽川「モラルは道徳や倫理って意味だよ?ちなみにマナーは礼儀作法とかだね。
   まあ、この場合雪ノ下さんがいうモラルは、常識とかそういう意味合いが強いかな」



 あらあらこれは羽川さん。なんとも分かりやすい解説をどうもありがとう。
私も若干不安があったのだけれど、それをも解消する流石の解説力ね。
本当に、羽川さんって何でも知っているのね。



羽川「まあ、特にルールの上でお菓子類の持参は禁止されてはいないからね。
   でも、まあ今から奉仕活動へ行くのに遠足気分は確かに頂けないね……。
   ごめんなさい雪ノ下さん。私も一本貰っちゃったから同罪です」


雪ノ下「あ、いえ……。別に説教をしたつもりも、羽川先輩を咎めようとは思っていなかったのですけれど」


羽川「じゃあ、一本どうぞ?」


由比ヶ浜「うん!どうぞ!ゆきのん」


雪ノ下「え、ええ。じゃあ一本貰うわ」



 流石羽川さん。後輩。というか他人に対する。
更に言えば、どんなタイプの人間にも対する接し方を知っているのかしら。
この雪ノ下さんという人間は感情表現が苦手そうね。
私と違って。

私は違う。感情表現が苦手なんじゃなく。敢えて感情を表に出さないだけ。

 嫌だわ。なんだか阿良々木君と似たような事を言った気がする。
気のせいね。いや、気の迷いかしら?

由比ヶ浜「戦場ヶ原先輩も一本入りますか?」



 不意に話を振られた。
こんな時、どういう顔していいか分からない……。
笑えばいいと思う……事はないわね。



戦場ヶ原「それは私に言っているのかしら?」


由比ヶ浜「ふぇ?え、はい。嫌いですか?ポッキー……」


戦場ヶ原「いえ。ポッキーは好きよ。でも、出来ればチョコを無くして代わりにミルクを混ぜてあった方が好きね」


由比ヶ浜「それじゃあポッキーじゃなくてプリッツのローストになっちゃいますよ?」


戦場ヶ原「あら、これは失礼。棒の方を太くしてチョコを傘のように変えた方が良かったかしら」


由比ヶ浜「え?えっと……」


羽川「きのこの山?」


由比ヶ浜「それだ!」


戦場ヶ原「正解」




羽川「いや戦場ヶ原さん?別にお菓子の名前当てクイズはしていないよ?
   後輩の言葉に返事くらいはしないと駄目だと思うよ?」



 いやいやバサ姉。いいじゃない別に。
当人の由比ヶ浜さんだって楽しそうじゃない。まあでも。そうね。はい。
大人げなかったです。ちょっと突然話しかけられたので言葉に困ってこんな事言ってしまいました。


戦場ヶ原「朝ごはんをたくさん食べて来たから今は遠慮しておくわ。ありがとう由比ヶ浜さん」


羽川「よろしい」



 また羽川さんに一本取られてしまったと。敗北感に苛まれて前に向き直る。

 ふと、雪ノ下雪乃。彼女が先ほどから開いている本が気になった。
私のよく知る本のタイトル、『ドグラ・マグラ』という文字が見えた。


 いえ、特に話しかける気はなかったのだけれど。誰にでもあると思うの。こういう感情。
同志というべきか、方向性が同じ人間とは話がしたい。
特に、この手の趣味は年々人口が減る一方で。見つける事すら難しいのかもしれないのだけれど。

戦場ヶ原「好きなの?夢野久作」


雪ノ下「え?いえ、特にこの作家が好きだというわけでなく。日本探偵三大小説と歌われているので気になって……」


 多少なりとも安心したのは否めない。
もしかすると会話そのものを無視されそうな、それほどまでに周りに否定的な雰囲気を醸し出していたからだ。
しかしながら思ったよりの長文が帰って来たという事は。この子も話をしない気はないのだと感じた。


戦場ヶ原「三大小説ではなく、三大奇書ね。とても奇妙で異様で怪奇的で懐疑的な小説。
     読破すれば精神が病むとまで言われる物よね」


雪ノ下「よくご存じですね。
    特に私は後半の部分。『読破すれば』のくだりが気になって読んでいます。
    質問から察するに、戦場ヶ原先輩は夢野久作がお好きなのですか?」


戦場ヶ原「ええ。まあ私も、だからといって彼の作品だけ読むわけでもなく。
     広く教養は積んでいるつもりなのだけれど」


雪ノ下「ええ、でも最近は多くはないですよね。本当の意味で読書が趣味の人」


戦場ヶ原「そうなのよ。後ろの羽川さんだって読んでいるのだけれど。
     趣味というわけではないし……。
     『その後ろの阿良々木という人は程度の低い物しか読まないし』」


阿良々木「聞こえているぞ戦場ヶ原……。僕を勝手にそんなキャラ付けするな!」


戦場ヶ原「事実ほど否定したがるものよね。
     というか、ガールズトークの邪魔をしないでくれる?
     聞き耳を立てるなんて趣味は最悪よ?」


阿良々木「明らかに僕の名前からの台詞は後ろを向いて喋ったじゃないか!」

 閑話休題。話を戻しましょう。


雪ノ下「まあ、でも。この作品は確かにそう批評される程度はありますね。
    ちょっと気分が悪くなってきます」


戦場ヶ原「乗り物酔いの可能性もあるから一概にはそうとは言えないわね。
     でも、私も3回しか読めなかったわ」


雪ノ下「3回も……。お好きなんですね。夢野久作」


戦場ヶ原「いえ、一度読むと分かるのだけれど。その作品、意味が分からないのよ。
     ジャンルは探偵小説なのだけれど、実際的に私たちが物語の真相を探偵するような感覚になるのよ」


雪ノ下「その言葉を聞いて益々楽しみになりました。
    今度お勧めの作品があれば教えていただきたいですね」


戦場ヶ原「奇書を進められたいって。結構奇特なのね」


雪ノ下「夢野久作のお勧めを聞いたはずなのですけれど」


戦場ヶ原「ああ、そっちね。それは是非とも聞いてちょうだい。
     その前に、その作品を読んで感想を議論したいものだわ」

羽川「え?戦場ヶ原さん。私との議論は不満だったのかな?」



戦場ヶ原「あら。いえいえ羽川さん。確かに貴方とも議論できたことは嬉しかったのだけれど。
     羽川さんの解釈って、参考書のような、なんていうか。辞書のような感じだったのよ。
     もう少し、いや、少しでも主観が入った解釈も聞きたいかなと思っただけよ」


羽川「なんだかひどい言われようをしている気がするのは気のせいかな」


 気のせいよ。


由比ヶ浜「それ面白いの?私も読んでみようかな」


羽川「辞めた方が良いよ」
戦場ヶ原「辞めた方がいいわね」
雪ノ下「辞めた方がいいわよ」


由比ヶ浜「声をそろえて言われた!なんか酷い!」



 思った以上にバス移動の間が短く思えた。
夢野久作の話の後も、髪のトリートメントの話だとか。勉強の話だとか。
意外と盛り上がってしまった。

 盛り上がった。といっても、私も雪ノ下さんも淡々と会話していただけなのだけれど。
内容的にはガールズトークだったかしらね。うふ。

 05

 というわけでこの話数も終わり。
最後は再び僕が、阿良々木暦が語る事にしよう。


 そうしてこうして、バスは目的に到着。
事故もなく渋滞もなく時間通りだった。

 降りてからは今日のメインイベント。ゴミ拾いだ。
ゴミ拾いは僕ではなく、比企谷の語りで話をさせてもらうとしよう。

 ずっと僕の感情が分かってしまうというのもなんだか恥ずかしい気もするし。
そもそもコラボSSで僕ばかりが出ずっぱりだと、彼らと対等とは言えなくなるから。


 というわけで。一旦僕は休ませてもらう。
第6話で、また会おう。


比企谷「ブツブツ言ってると、怖いですよ?」


阿良々木「え?ああすまない。八九寺Pの陰謀だ」


比企谷「どんな遠隔操作ですか。ってかPって何?モバマス?」









物語Side 第肆話
『こよみボランティア その貳』 ―完―

 最近忙しくて全然あげられてないです…すいません。

 週末には…と思っていたので今日くらい目指してあげます。

書いたので、推敲して。今日の夜にはあげられそうです。
お待たせして申し訳ない。

俺ガイルSide 第5話
『突然、戦場ヶ原ひたぎは言い訳を始める』


 意外と仲良くなれるんじゃないのか。と、俺は勘違いをしてしまいそうなほどに。
阿良々木先輩と意外と話が合う。

でもそれは阿良々木先輩本人が言うとおり。ただの暇つぶし。

 これに調子に乗って、気安く話しかけると酷い目を見るのは火を見るより明らか。
寧ろ火の方がマシなレベル。だって、火はいつか消えるけど、心の傷は消えねーもん。
というわけで、一度バスの下りは俺の中で消去。デリート。よし、完了。


由比ヶ浜「さて、じゃあ拾うぞーゴミを!」


 のっけから、由比ヶ浜は何かよく分からないものに燃えている。
何何?やめようぜそういうの。なんでゴミ拾いに必死なの?パーティじゃねーんだからよ。

 俺たちは教師からゴミ袋と火鉢を数本渡された。
ゴミは燃えるゴミとビン、カン、ペットボトル。その他に分けて分別しろと言われた。
結局最後は灰になるんだから関係ねーのに……。


比企谷「じゃあ由比ヶ浜。お前はゴミを拾う係な。雪ノ下がゴミを持つ係」


由比ヶ浜「ヒッキーは?」


比企谷「ゴミを見つける係」


由比ヶ浜「それ、なんもしてないじゃん……」


雪ノ下「いえ、適切な判断かもしれないわね。適材適所。
    自分と同じものを見つけるのは得意だものね」


比企谷「そうそう。俺はゴミだからその役目には適任なんだ」


由比ヶ浜「否定しないんだ!?ソレほどまでに嫌ってこと!?」


 あぁそうだよ。それ程嫌なんだよ。
ゴミを拾うときに前屈しなくちゃいけないしな。結構、地味に疲れが来るんだぜ?あれ。
逆に、それなら。男が率先してやれというかもしれないが、それは男の見栄だ。
無い袖は振れない。つまり、無い見栄は張れないのだ。カッコキリッ。

雪ノ下「冗談は置いといて、これも依頼なのだから。始めましょう。
    もう既に他の先輩方は始めているわ」


比企谷「おう、そーですね」


 そういうなら。いや、この場合そういうからなんだろうな。
雪ノ下は俺の頼みではなく、依頼という名目で今日動いてくれている。
その自分の意思にウソはつけない。そういうわけで俺の言う事をこうも素直に聞き入れてくれるんだろうな。

なんだよ、それなら俺は今度から雪ノ下に平塚先生経由に依頼しまくろうかな。
部活動を静かに過ごしたい。俺の心の傷をいやしたい。戸塚と仲良くしたい……。
最後のは雪ノ下に頼んでどうにかなるんだろうか、どうにかなるんなら明日しよう。

……寧ろ今日だな。


羽川「あれ?比企谷君達は由比ヶ浜さんが拾うんだ」


雪ノ下「そちらは?」


阿良々木「見れば分かるだろう?僕が見つけて、拾って、持つ係だ」


雪ノ下「あら、男らしいのですね。あちらの男にも見習ってほしいものですが」


比企谷「無い物ねだりはよくないってお母さん言ってたぞ?」


雪ノ下「そうね、存在もないのに考えちゃあ可哀想よね」


比企谷「存在すら認めてもらってねえのかよ、俺。
ってか真横に居るのにあちらって言うな。こちらが正しいだろうが?」


雪ノ下「ごめんなさい。淀んでいるせいで距離感の把握がうまくできないのよ」


比企谷「空間操作系の能力者かなんかかよ俺。しかもその能力すぐやられそうだぞ」


阿良々木「仲間には絶対なれないキャラだな」


比企谷「多分、ポニーテールのジャッジメントにやられちゃいそうですね」


阿良々木「それはツインテールじゃないのか?」


そうだっけ?いや、どっちでもいいけど。


戦場ヶ原「寧ろポニーテールはジーンズを引き千切ってる人の事よね」


阿良々木「他にもいるぞ?」


戦場ヶ原「3巻までしか読んでないのよ」


阿良々木「よくそれで話に乗ろうと思えたな!」


戦場ヶ原「新約の方よ?」


阿良々木「ごめん。僕は無印を全巻読んでるだけだ……」


 俺なんてそのスピンオフしか読んでねーよ。
由比ヶ浜と雪ノ下の2人だったら俺しか持ってないサブカル知識なのに。
この先輩方はどうやらその俺以上の知識があるらしい。今日は自慢げに話すのやめとこう。
火傷どころか複雑骨折しちまいそうだ。

羽川「私たちは今日。同じ班だから、一緒に行動しましょうか」


 断る理由もない。俺たちは先輩たちの後ろについていく形で歩くことになった。
そのおかげで俺たちのゴミ袋は空っぽのまま。阿良々木先輩が全部拾う。
マジですげぇ、火鉢使い(ヒバッチャー)の方ですか?
なんでそんな遠くの空き缶まで見つけられんの?マサイ族?視力4.0なの?


羽川「この辺ってウォーキングコースにもなってるんだよね」


 羽川先輩が不意に話を振る。


戦場ヶ原「ええ、中学の頃はよく走らされたものだわ。
     ウォーキングコースなのにランニングするのはおかしいとも思うのだけれど」


由比ヶ浜「でも確かに……。ウォーキングコースとランニングコースって明確な違いってあるんですかね?」


戦場ヶ原「本当。そのとおりよね?勝手に移動方法を限定されても困るわよ。
     歩くも走るも勝手じゃない?
     何だか、こういうコースって、自由を奪って決めつけて命令されているように感じるのだけれど」


雪ノ下「でしたら、自由性を重んじてウォーキングorランニングコースとするべきですね」


羽川「長い長い……。ならムーブコース……ならどうかな。
移動するって意味で、どちらのニーズにも答えられるんじゃないかな?」


戦場ヶ原「でも、それだと今度は動きたくない人に失礼よね。
     ここに来たからには動けと、命令しているようよね」


由比ヶ浜「そもそも動きたくない人はここに来ないんじゃ……」


 由比ヶ浜。残念ながらそのツッコミは間違っている。
何故なら俺がここに居るという時点で絶大な反例だからだ。

 俺専用にバックコースが欲しい。引き返す人のための、後ろ向きなコース。
呪われそうな勢いだな……。

羽川「でもね?戦場ヶ原さん。もしもだよ?もしも看板に。
   『進んでも戻ってもかまいません。ここからどう動くかは自由です』
   なんて立てかけられていても、多分。困ると思うよ?ね?」


戦場ヶ原「いやいや羽川さん。そんな事思わないわよ。
     オツだな。と。間違いなくそう思うわよ。ええ、そうに決まってる」


羽川「どう足掻いても自分の意見は曲げない気なんだ……」


戦場ヶ原「そうよ?意思は曲げないの。
例えるなら、環境依存文字のようにね」



 ……はい?
いや、俺は今話の輪に入っていないから突っ込めないが、俺が先輩と友達なら確実にチョップだ。
馬場さんもびっくりのスーパーチョップで突っ込みたい。

 そのドヤ顔と首をかしげ過ぎなポーズを含めて。
原作ではないんですってね。あの首かしげ……。何言ってんだ俺。



由比ヶ浜「イゾンモジィ?環境に悪そうな名前ですね」


雪ノ下「由比ヶ浜さん……?もしかしてと思うのだけれど。依存の言葉の響きだけで判断してないかしら。
    環境依存文字とは……いえ、説明は不要だから割愛するけれど」


羽川「そもそも、そんなに首を曲げる程うまいことは言えてないし!」



 それにしても……。
なんだコイツら。友達なの?バスの中で精神と時の部屋にでも入ったのか?
何時間も一緒に居たわけじゃないのに、この砕けっぷりはいかに。
いや、流石リア充パワーとも言うべきなのか?それとも女子の常識ってこんなもんなの?

『昨日の友達は今日の嫌いな子。昨日の嫌いな子も今日は友達』

 俺、男で良かったわ…。

『昨日の友達はずっと友達。昨日嫌いになったやつは校舎裏……』


 うーん。男も男で嫌だなー……。

阿良々木「それにしても、ゴミが多いな。何故ポイ捨てなんて事をするんだろうか」

 そりゃ人間なんて自分のテリトリー以外見向きしないからっすよ。
自分に関係なければ地震だろうが台風だろうが話題のネタ程度のもんだ。正に対岸の火事。
だからこそ二度と来ないようなこんな山にゴミを捨てても何とも思わない。
何故なら自分に関係が無いから。
無関係とは名ばかりのただの取捨選択。都合が悪ければ関係を断つ。
だからそもそも俺は関係を持つのが嫌いなんだよ。

 って、この思考がそもそも関係ないな。


阿良々木「僕は一応、比企谷。お前に聞いたつもりなんだが?」


比企谷「え?俺?」


阿良々木「お前以外付いてきてないじゃないか」


 本当だった。
後ろを振り向けば4人が足を止めて談笑してやがる。

 話の流れからどうせ、「歩くも止まるも自由なら、ちょっと休憩」とでも言うんだろうか。


 だから。阿良々木先輩がゴミ拾いを頑張っているのを俺が1人付いてきていた。
この状況で話しかけられて、無意識に自分自身を対象から外す俺のスキルが怖い。


比企谷「戦場ヶ原先輩も羽川先輩も、阿良々木先輩を手伝わないんすね」


阿良々木「戦場ヶ原には、ホッチキスより重いものが持てないと断られ。
     羽川には、こういうのは男の子はが率先してやって欲しいな。と諭されたんだよ」


比企谷「いやいや、ホッチキスって結構重たいじゃねーすか」


阿良々木「最近のは軽いのも多いぞ?筆箱とかに入るサイズのも主流だし」


比企谷「いや、そんな俺、筆記用具に精通してないんで……」


阿良々木「こういう話しだと、戦場ヶ原が嬉々として話しに入ってくるんだけど」


比企谷「筆記用具の話に嬉々とされても困りますけどね」


阿良々木「ああ、寧ろ危機を感じるな」


比企谷「いや、別に危機は感じないすけど」


阿良々木「お前、口の中にホッチキスとカッターを入れられた事あるか?」


  何それ。中世レベルの拷問じゃね?


阿良々木「他には、顔を固定されて。シャーペンを眼球の前に置かれて。
     そのまま親指で芯をカチカチカチカチカチ……」


比企谷「感じる感じる!スゲー感じるんでやめてくださいよ……。
    中世レベルってか、中世も裸足で逃げ出すレベルじゃんそれ……。
    戦場ヶ原先輩って何者だよ」


阿良々木「そういうヤツだよ、戦場ヶ原は」


 元々知らなかったけど、寧ろ知りたくない人に昇格だよ。寧ろ降格?
綺麗だなとか思ったけど、今やその綺麗さも相まって怖さ倍増。
実は雪ノ下より怖いんじゃないのか?

 何よりも、それよりも俺は思う。
阿良々木先輩とまたもや親しく話してしまったと。
このままだと俺は阿良々木先輩を友達だと勘違いしてしまいそうだ。


 火を見るよりも明らかなのに、俺は飛んで火に入る夏の虫状態。
いや、別に居心地がいいとかじゃないんだけど。
なんか、この人と喋ると当たり障りのない無意味な雑談なのに花が咲いてしまう。

 火鉢使い(ヒバッチャー)であり、同時に花咲か兄さんでもあるというのか。
と、俺は無意味な思考をよぎらせつつ、阿良々木先輩と、男2人の寂しい会話を続けた。


 アンタも苦労しているんですね。リア充なんて皆、下半身の事だけかと思っていましたよ。
ちゃんと上半身も見ているんですね。羽川先輩のとか。


……。
…………。



そしてゴミ拾いは順調に進み、お昼時…。
ここにはトイレが無いからどこで食事をしようかな……。
いや、そもそも俺は便所飯じゃなかった。
最近のリア充はトイレにさえ集合するから、俺は裏庭飯なんでした。

 裏庭に居れば昼練中の戸塚のセクシーショットも拝めるしな……。


 やべ、口角緩んだ……。

 で、今に至るわけだが……。

 ………。で?


 で?で?で?で?で?
どうしてこうなったんだろうか、何故こうなってしまったんだろうか。
現状を噛み砕いて咀嚼して呑み込んでMAXコーヒーを一気飲みして説明しよう。

 俺は戦場ヶ原先輩とベンチで2人っきりだ。
2人っきりだぞ。真横に居る。座ってる。俺も先輩も。
何この状況。
俺の脳内はずっとドゥンッ!ってXPのエラー音が絶えず響いている。



 この状況を整理するために……。回想して思い出してみよう。




………
……………

由比ヶ浜「お弁当を先生の所に取りに行かなくちゃいけないんだ!じゃあ私とってくる!」


阿良々木「1人じゃあ6人分は重いだろうから、僕も付いて行くよ」


羽川「飲み物もあるみたいだから、私も付いて行こうか?」


由比ヶ浜「じゃあゆきのんも!」


……………
………




 この回想も、もう何度も繰り返している。
何度聞いても由比ヶ浜の最後の一言に理解が出来ない。

 何故雪ノ下まで連れていった?


 俺は流れに乗れず戦場ヶ原先輩と2人っきり。
雪ノ下でもいれば、今この状況はガールズトークをする女子2人とぼっちが1人。
それならまだ良かった。
俺は携帯でパズドラでもすればいいから。


 でもこの状況だと俺が黙ると戦場ヶ原先輩を無視していると思われかねない。
そうしたら俺はホッチキスで拷問されちゃうんだろうか。


 怖い。怖いよ助けて小町。お兄ちゃん、今生命の危機だよ。
お前のご飯は、食べられないかもしれない……。無念だ……。

戦場ヶ原「違うのよ。皆に先に言われてしまったから言うタイミングがつかめなかったのよ?」



 突然、先輩は口を開いた。
俺は先輩の方を見ていなかったから表情とか見てないけど。その時改めてみた表情は。
どうみても言い訳のために先生に対して言葉を選んだ学生の顔だった。


 もしかして、この状況になったことに対して釈明しているのだろうか。
『別にアンタと2人っきりになりたかったワケじゃ(以下略』とでも言うのか?
リアルツンデレを見ると、実は萌えとか関係なく苛立ちを覚えるものだ。
現実ってそういうもんだ。

 でも、戦場ヶ原先輩からツンデレされたら俺の鼻の下は垂直落下するだろうな。
まあ、この場合のコレをツンデレだと思えるほど、俺は感受性が豊かじゃないけど。



戦場ヶ原「阿良々木君も、羽川さんも、こういう時率先して出来る人だから。私と違って」


比企谷「大丈夫っすよ?」


戦場ヶ原「え?」


 多分。そういう事なんだと思うから、俺は。優しい善良な後輩である俺は弁解してあげる。


比企谷「別に戦場ヶ原先輩がコミュニケーション能力ないとか思ってませんから。
    後輩である僕たちもそういう目で見ようとは思ってませんよ」


 優しい。俺、超優しい。


戦場ヶ原「何を言っているのかしら。ごめんなさい。ちょっと意味が分からないのだけれど」


比企谷「え?」


戦場ヶ原「いえ、この雰囲気的に。
     私という可憐な乙女が後輩と無理やり二人っきりにしているようにも思えるから。
     アナタに勘違いされると面倒だと思っただけよ」



 えー……。この人マジかよ。


比企谷「自分で自分の事を可憐な乙女と形容する人に可憐な人はいないと思います」


 色々言いたい事はあったが、とりあえずこう言っておこう。


戦場ヶ原「そうかしら?じゃあ誰が言うのよ。私が言わなければ言われないじゃない。
     他人が私の事を見て可憐だと思うとでも言いたいの?」


比企谷「自覚があってそれでも尚そういうのであれば、世間ではそれを痛い子といいます」


戦場ヶ原「視認するだけでダメージを与えられるのかしら?」


比企谷「精神ダメージ……HPじゃなくてMP攻撃っすけどね」


戦場ヶ原「いえ、冗談は置いといて」


 冗談かよ。このお姉さん真顔で冗談言うのやめろ。
真性かと思っちまったじゃねーか……。

 戦場ヶ原「遅くないかしら。皆……」


 そんなに時間経ってんのか?
俺が回想を少なくとも5回はしていたからか?


 戦場ヶ原「もう15分にもなるのに。
      だからなのだけれど。
あまり言いたくはないし、私の思い違いだといいのだけれど」


 瞬間的に言葉を濁した。語尾が聞き取りづらい。
何故か。その言い方に悪寒を感じた。
嫌な予感。とは、コレの事だろうか。


 戦場ヶ原「確か4人共、左の道からお弁当を取りに行ったわよね?」


 比企谷「え?ええ、あの道……」


 絶句した。



比企谷「が……無い……」


 無くなっていた。綺麗に。
マジで初めからなかったように。


 道が無い。
俺と戦場ヶ原先輩を囲んで、道が消えている。


 ここは何処だ?



 俺たちは今、どこで何をしているんだ?


戦場ヶ原「やっぱり。惹かれやすいのかしら……私」


 引かれる言動はしてきましたけど?
って、マジで今はそれどころじゃない……。



 おいおい、ファンタジーな世界観とかあわねぇって。
俺、もしかして作品違う?これってほのぼのひねくれ系日常小説じゃないのかよ。

 メタ発言しちゃうくらい、俺の精神は動揺していた。




 俺、今日。もしかしなくても厄日?



俺ガイルSide 第5話
第5話 ―完―


ただ、火鉢じゃなくて火箸じゃない?

>>115

完全に俺の勘違いだ。すみません。
ずっとひらがな表記すら「ひばち」と思ってた…。
以後気をつけます。

今日明日中に6話あげます。

2日に一回とか言ってたのにすいません。

いやいや気にせずマイペースで書いてください。
完結まで数か月の作品もたくさんあるし
気長に待ちますよ。

おー楽しみだ。気にせず自分のペースで書いてください

>>121 >>122

ありがとうございます。
でも、いつもSS書く時2日に一回更新って言ってて守れずにいるから……。
申し訳なくなります。

今からあげます。

物語Side 第陸話
『はちまんスパイダーその壹』

01

「孤独蜘蛛。子供の毒蜘蛛……縮まって子毒蜘蛛というのが由来らしいんじゃが」


 忍野忍という、僕の影に潜む吸血鬼のなれの果て。
彼女が僕に説明する。
忍野メメという、怪異の専門家を名乗る男から教わった知識……。
いや、正確には一方的に覚えさせられた知識を。披露する。


忍「内容はこうじゃ。
その昔、親のいない。小さな小さな子供の毒蜘蛛がおってじゃの?
そいつは他の虫達から忌み嫌われとったらしい。
  『近づくな、毒が移る』と。それ故。身寄りのないその毒蜘蛛は、一匹彷徨い続けた。
森の中を。孤独に。
  
そこで1人の人間と出会ったんじゃ。その男もまた孤独じゃった。
  1人と一匹は意思を交わし、共に過ごすのに。そう時間はいらんかった。
  しかし逆に、そう時間は与えられんかった。
  
そう、所詮は毒蜘蛛。毒を持つ蜘蛛なのじゃ。
しばらくして男は結局、毒蜘蛛の毒にやられて死んでしまったんじゃよ。
  毒蜘蛛は結局、孤独になる」


阿良々木「報われない話だな」


忍「報われんのう。
  結局、その話のオチは、孤独なものは孤独に生きるしかない。
  人生というのは変えられんという話らしいしの。
  その話からできた『怪異』が、人に取り付き孤独にさせる。
簡潔にいえば関係を物理的に分断させる『孤独蜘蛛』という事じゃな」


 忍はそう話してくれた。
いや、そもそもこの話の前。
何故忍が、この話をするに至ったかの経緯を、僕は話す必要がある。

 この話をしているということはつまり。今僕は1人だ。いや、正確には忍と二人というのが正しいのだけれど。
とにかく、羽川とも戦場ヶ原とも、後輩3人とも一緒に居ない。

 逸れたわけではない。弁当を運んだ先に戦場ヶ原と比企谷がいなかったのだ。
戦場ヶ原の携帯も比企谷の携帯もつながらなかった。

 ちょっと探してくる。と、僕は嘘をついて今こうして忍に聞いている。
なにか怪異の仕業じゃないのかと。

 そういう経緯だ。突然、突発的に忍が、某テキサスのアメリカ代表超人のように解説を始めたわけではない。
そうして僕は忍から。そういった形で話を聞いたのだった。

忍「まあでも、お前様の問いには完全に返答出来てはおらんのじゃがのう。
   ワシはそもそも怪異の気配を感じておらんし。いや、じゃからこそ孤独蜘蛛。
   気配すらせんし、存在すらも他人に認知されん孤独蜘蛛という怪異をこう喋ったのじゃが」


阿良々木「いや、それで十分だよ忍。その線で概ね間違いはない。
     じゃあ、戦場ヶ原と比企谷はその孤独蜘蛛のせいで今、山を彷徨っているのか?」


忍「孤独蜘蛛という怪異が関わっておるなら、間違いはないのう」


阿良々木「食ってくれるか?忍」


忍「そりゃ儂じゃっての?目の前に怪異がおれば食えるぞ?怪異なんじゃから。
   でも、孤独蜘蛛はそもそも存在を孤独にさせる怪異じゃ。会う事そのものが難しい」


阿良々木「対処法とか、討伐方法とか、そういう手段はないのか?」


忍「アロハ小僧も言っとったし、今から言うつもりじゃ。じゃが、どうかのう……」


阿良々木「煮え切らない言い方だな。言ってくれよ、忍」


忍「怪異に取り付かれたものが、言うなれば孤独蜘蛛が自分から会う。
それしか方法はない。
  つまり、あの根暗小僧が他人を頼って儂らに会おうと思うしかないという事じゃ」


 根暗小僧…。つまりは比企谷の事だろう。
そもそも、忍は既に比企谷と会ったときから起きていた。
僕が比企谷に向けた恐る恐るのコミュニケーションの動揺まで、全てばれているということだ。
いや、まあでも。この場合それはさして重要なことではないのだが。


阿良々木「起こして悪かったな。ありがとう、忍」



忍「それはよいが、お前様よ。
  例によって。例のごとく。例のように。お前様に問うてみるんじゃが?
  助ける気か?あの根暗小僧を」



 何を聞くかと思えば。忍はそう聞いてきた。
僕は反射のように、特に意識する時間もなく。当たり前のことを言い返す。



阿良々木「勿論だ」



 僕はそう言って忍を影に戻した。
ここからの行動は僕がしなくてはならない。忍に頼るのはこれ以降最後の締めくくりだけ。
別に決心するわけでなく、最初から予定に組み込まれていたかのように僕は足を動かす。
そして、何食わぬ顔で、いや、本当に何も食べていなのだが。
僕は羽川たちと改めて合流する。

02

 現状は何も変わらず、行方不明になった戦場ヶ原と比企谷を探すだけだ。


由比ヶ浜「もしかして、これって遭難とかそういうのなのかな……」



雪ノ下「はあ……。比企谷クンだけなら別に無視しておいてもよかったのだけれど。
    彼は1人でいなくなる事さえもできないのね」


羽川「まあまあ。もしかしたらお手洗いに行ってるだけって可能性もまだ消えたわけじゃないし」


 その羽川の言う可能性を言うなら、それはあるべきだ。
僕たちがここに戻ってくるまでの時間は、大体5分。トイレに行っている可能性も十分にある。
寧ろ。そう言うべきだ、そう思うべきだ。


でも、それでも尚、僕たちが。怪異を知らない由比ヶ浜達でさえ。
その可能性を排除するのも尤もではあった。


 その5分の後、僕たちは更に10分。その場で待機していたからだ。
更に言うならば、僕達の携帯は電波が届くのに、2人、行方不明の比企谷と戦場ヶ原の電話がつながらないという事実。


 それにより、由比ヶ浜達はそうなんを懸念する。
更に羽川と僕は、怪異を疑い、僕はそれを怪異だと思っている。


 まず僕がすべきことは、僕以外の3人。特に由比ヶ浜と雪ノ下の安全を、まず確保することだ。
戦場ヶ原は結果的に巻き込まれてしまっている可能性が高い。だから、これ以上。
怪異によって被害が拡大するのを防ぐべきである。


阿良々木「とりあえず、最悪の場合だとして。僕がもう一度ウォーキングコースを。
     今日、僕たちが掃除をして歩いたルートを探してみる。
     だから3人は、ここに戻って来た時のために待機していてくれ」


 僕の中での。最善の方法を、提案した。


由比ヶ浜「え?でも、1人で行って先輩まで行方不明とかになったらマズくないですか?」


雪ノ下「それは確かに、由比ヶ浜さんの言う通りだと思います。
    比企谷君1人ならまだしも、戦場ヶ原さんと2人で居たにもかかわらず。
    この状況に陥ってしまっているので、最低でも2人で行動した方が……」



由比ヶ浜「そうそう!ミイラがミイラ取りになっちゃうと駄目ですし」




 雪ノ下と羽川が、由比ヶ浜を流し眼で見た。
何か、彼女がおかしなことを言っているのだろうか?

いや、確かにもっともだ。
僕が1人で行動、いやまあ忍もいるが。客観的には1人。
雪ノ下と由比ヶ浜、最悪羽川も、この提案の穴を。
結果的に僕の自己犠牲である事を納得しかねているのだった。

 じゃあツーマンセルでの行動を選択すべきである。
だけれども、この場合。僕は羽川を選べない。
本来は、僕と羽川が行動するのが一番であるはずなのは確かなのだが……。
しかしそれは、選択肢から消さなくてはいけない。


 何故なら、怪異を知る僕と羽川が共に行動するという事。
それはつまり、結果的には怪異を知らない2人をここに残してしまうという事になる。
そうなると、もしも孤独蜘蛛に合えば、対処する時間も、隙も余裕もないままに被害を受ける。
多少なりとも、怪異に対して知識のある羽川が、由比ヶ浜と雪ノ下。
その二人を見守るべきなのだ。


 しかしながら、それでは納得してくれないだろう。
ならば。それならと、ここで怪異の説明を始めるとしても。
2人は僕を奇異な目で見るだけだろうし、何より時間が無い。


 だから僕は、ここで由比ヶ浜と雪ノ下。そのどちらかと行動を共にする必要がある。
僕はその選択肢を選ばざるを得なかった。


 別に、好みがどうとかそういう話ではない。
ただ単純に、羽川と2人にさせて仲良く話せそうなのは。という他人ありきの選択。
僕がそういう人格を好んでいるとか、趣味趣向で選んだわけではない。
別に誰かに似ているからとか、そういうのじゃない。






 僕は、雪ノ下を選んだ。

03

 僕と雪ノ下は再び午前中に通ったコースを見回る。


阿良々木「いないな……どこにも」


雪ノ下「ええ、困りましたね。
    やはり先生方に伝えるべきでしょうか」


 彼女は、雪ノ下は僕の後ろで、そう問いかける。
しかし、だがそれでも僕は、その最善であろう選択肢はまだ選びたくはない。
それはとどのつまり最終手段であると、僕は自分の中で言い聞かせている。


 まあそれは、怪異が絡んでいるという事もあるが、概ね比企谷のためである。
比企谷は、多分それを望まない。それを、最善の選択肢、先生を頼るという事を……。
つまりは大事にするという解決案を、比企谷は望まない。


阿良々木「比企谷は……」


雪ノ下「比企谷君がどうかされましたか?」


 言わなくてもよいのかもしれないし、寧ろ言わない方がいいのかもしれない。
でも、僕は押しつけてしまう。
僕の考えを、僕の思いを。後輩の、雪ノ下に。


阿良々木「アイツは多分それを望まない。
     ホラ、今日バスでアイツと話したんだよ。そういうのを好まないだろ?」


雪ノ下「いえ、まあ、確かに彼は卑屈で目立つ事を拒みますが。
    この場合そんな事を言っているべきではないですし、そもそもが自業自得。
    さらに言えば、先輩のご友人まで行方不明なのですけれど?」


阿良々木「でも、仮にそうして比企谷が見つかったとして。
     僕は比企谷を助けた事にはならないだろう?」


雪ノ下「……」


 その無言から、僕は秘めた事柄を感じとれなかった。
彼女の感情を、見いだせずにいた。
だから僕は、恥ずかしくも言い訳をしてしまう。言い聞かせてしまう。


阿良々木「いや、最悪の場合はそうする。でも、まだお昼休憩も終わってないんだ。
     もう少し探してみよう。な?」


雪ノ下「何故、彼をそこまで贔屓……。
    いえ、世話を焼く。という方が正しいのでしょうか。
    とにかく何故そこまでしようと思うのですか?」


阿良々木「何故って……。
     先輩が後輩を助けるのは当たり前だろ?」


雪ノ下「当たり前。ですか。ええ、確かに当たり前ですね」


 何かを含むように、彼女はそう繰り返した。


阿良々木「ああ、当たり前だ」

 僕はなにも含めず、ありのままを口にした。

雪ノ下「阿良々木先輩。
    雑談のような、何気ない会話として聞いてほしいのですが」

 大層な前ふりを準備して、雪ノ下は改めて僕に話しかけた。


阿良々木「どうした?」


雪ノ下「先輩が後輩を助けるのは当たり前だとしても。
    助けるための自己犠牲は、当たり前ですか?」


 ついさっき、僕は彼女の同じ顔を見た。
悲しく、何か感情を暗に秘めているようで、上手に隠しているような顔。


阿良々木「当たり前ではないな。でも、そうまでして助けたいと思うのなら。
     いいんじゃないかな」


 前ふり。雪ノ下の言葉通り、僕は雑談のように、日常会話のように返答した。
昨日のテレビ番組とか、放課後どこへ行くと行った雑談のように応答した。


雪ノ下「そうまでして、助けたいのでしょうか。
    私には分かりかねますが」


 そこで僕は。何が分からないのかは、聞けなかった。
これ以上は、僕が恩着せがましく有難迷惑に聞き入っていい話じゃない気がした。
雪ノ下が言うように、これは雑談。それなら、その約束は守るべきだ。


阿良々木「さて、じゃあそろそろ捜索を再開しよう」


 だから僕は、この話に強制的にオチをつけて。
切り替えるように、前へ進んだ。

04

 突然。僕のポケットが振動する。
携帯電話の着信を知らせる合図だ。バイブレーション。今だこの感覚は、若干慣れないでいる。

 体を一瞬強張らせて僕はポケットから震える携帯電話を取りだす。


『HANEKAWA』


 羽川翼からの着信だった。
いや、特にそういう状況でもないし、僕にこの感情が芽生えるのは違うのかもしれない。
だが僕は、多少の胸の高鳴りを、今この状況で僕の口角が緩むのを、こう形容するしかない。


 羽川から電話が来て、嬉しかった。


雪ノ下「取らないでよろしいんですか?」


阿良々木「あ?ああ、なんだかすぐ取ったら、まるでサボっていると思われかねないだろ?
     敢えてさ」


 雪ノ下の怪訝な顔を華麗に見なかったことにして、僕は携帯を耳元に充てる。

阿良々木「もしもし、僕だ」


羽川「あ、私は羽川翼です。阿良々木暦さんの携帯電話でしょうか」


阿良々木「ああ、そうだ」


 固定電話じゃないのだから、正直この確認はさほど重要ではないと思うのだが。
羽川にそれを言うだけ無駄であるし、不要であれば不必要だった。


羽川「見つかったの。戦場ヶ原さんが」


阿良々木「本当か!?」


羽川「うん。待機していたら戻って来たんだよ。集合場所に。
   でもね……」


阿良々木「いないのか?比企谷は」


羽川「うん。そう……。
   逸れちゃったんだって、いつの間にか。比企谷君とは」


 孤独蜘蛛。存在を孤独にする怪異なのだから。
戦場ヶ原が比企谷と2人でいるハズがない。2人では、孤独ではない。

 いや、でも僕はどこかで期待していたのかもしれない。
孤独じゃなくなるからこそ、孤独蜘蛛が居なくなればと。
ある意味で、戦場ヶ原と一緒に居るという可能性を信じて、どこか楽観的だったのだろう。


 でも、これで本当に比企谷は1人だ。
改めて僕はその事実を噛みしめて、飲み込んだ。


阿良々木「分かった。一度僕たちもそこへ戻るよ」


羽川「分かった……」



 そうして電話が切れた。





物語Side 第6話
『はちまんスパイダーその壹』 ―完―

>>1です

今からあげます。

俺ガイルSide 第7話

『いつでも戦場ヶ原ひたぎは脱線する』


 さあ、これからどうしようか。
俺は1人、空を眺める。

 空はいいな。どこから見ても一緒だし、何より、誰が見ても一緒だ。
それに比べて、人間は怖い。誰が見るかによって対象の印象は著しく変化する。
例えば俺が対象だとすると、小町から見るととてもカッコイイ素敵なお兄様だけど。
雪ノ下から見れば、死んだ魚の目をした暗い奴……。
空と違って主観が入っちまうんだよな。空さんは誰からも平等に見てもらえるんですから大したものですよ。


 ふぅ。


 いやいや、現実逃避している場合じゃない。
この四面楚歌というか五里霧中な現状と向き合わなくては。


 結論から述べよう。


 俺は真の意味で遭難した。

 今俺が居る場所は不明だ。
いや、記憶喪失とかそういうんじゃない。そういうファンタジーというか飛んでる世界観は俺の性に合わない。

 ただ。ただ単純に足を踏み外したんだ。
結構高い所からダイビングした。

 で、落ちた先は森の中。
今時、こんな開拓された山でもやっぱり山ですね。
自然豊かで素晴らしい。俺も光合成しようかな。

 それにしても、あんなに綺麗に踏み外すもんなんだな。
これはアレだ。全国踏み外した大賞も夢じゃない。もう待ったなしのシードでインターハイ!

いや、そんな大会があったら。俺は人生の道部門で出るんだろうな。
……山の道を踏み外した部門の小物臭がヤバい。




 ああ、まただ。またこうやって、現実逃避をまた繰り返す。
いや、だってもう俺の置かれている状況が現実離れしてるんだもん。
俺自身でさえ理解しえない、いや。正確には納得しえない現象なんだもん。

 何が起こったかなんて記憶はもう何度となく思いだしてきた。
クラシックなら観客が空き缶投げ付けるくらいリフレインしている。

 それでも尚。やっちまった、やらかした今現在の状況を俺は飲み込めない。
いや、全部自業自得なんだけど。


 何度思い返しても一緒ってことは分かっているんだが。
今一度、思い返すことにする。

 以下、回想である。



比企谷「弁当取りに行く場所、俺が確認してきます」


戦場ヶ原「あら、じゃあ私も行くわよ。この状況で1人で行動するのはあまりにも浅はかだと思うのだけれど?
     本当に遭難しちゃうじゃない」


比企谷「そうなんすか?」


戦場ヶ原「……。それは……。
     その応答は、特に複数の意味はないと思っていいのかしら?」


比企谷「え?……あっ。違いますよ?」


戦場ヶ原「実はお茶目な子なのね。比企谷君は」


比企谷「否定したのに状況悪化かよ。
    この状況でしょうもない駄洒落言ってもしょうがないでしょうが」


戦場ヶ原「しょうもないとしょうがないは駄洒落にならないと思うのだけれど」


比企谷「否定の部分もしっかりリスニングしてくださいよ。
    センター試験の英語はそうやって間違えさせるんすよ?」


戦場ヶ原「日本語を話したつもりだったのだけれど。
     ごめんなさい、あなたには伝わらなかっ……」


比企谷「あーごめんなさいごめんなさい!一見様お断りな比喩表現でした……。
    先輩って俺の心、結構グイグイ抉るんすね……」


戦場ヶ原「でもまだ貫通はしないみたいね」


比企谷「いや既に出血多量で死亡寸前っすけど?」


 違う意味で怖いよこの人。
阿良々木先輩から聞いた話だけだと肉体攻撃が主かと思ったけど、この人精神攻撃もヤバい。
戦場ヶ原先輩と比べると、あの雪ノ下でさえ愛があったのではないかと勘違いしてしまう。


 いや、それにしてもこの人、初対面の後輩である俺によくもまあ言えるもんですね。
別に自分を特別視するわけじゃあないけど、大抵初対面の人間には「嫌われまい」という魂胆がある。
だから、こんなに素で話しかけてくるのは戦場ヶ原先輩くらいだろう。

 いや、違うな。
今日一緒の先輩3人。皆そうだったわ……。

戦場ヶ原「でも、本当に気に障っているのだったら謝るわ。
     正直、なんだか雰囲気が似てるからついつい話しちゃうのよ。
     似ているだけで全く違うのだけれど。それでも似てはいるから……」


比企谷「誰にですか?」


戦場ヶ原「阿良々木君。阿良々木暦によ」


比企谷「言う程似てますかね?」


戦場ヶ原「ええ、瓜二つと言ってもいい程にね。
     頭のてっぺんから生えている意思でも持っていそうな癖っ毛が」


比企谷「それだけかよ」


戦場ヶ原「あら、重要よ。最重要よ?」


比企谷「俺はこの際置いといて……。
    阿良々木先輩の主たる特徴が癖毛オンリーってのもなんか悲しいっすね」


戦場ヶ原「私は逆に。
     この際に、自分自身を置いてしまう比企谷君が悲しく見えてしまうのだけれど」



 ほっとけ。

比企谷「いやだって。
    俺が今、話をしている人は俺の先輩じゃないですか?
    その戦場ヶ原先輩に対して近い人は誰です?俺じゃなくて阿良々木先輩じゃないですか。
    だからこそ俺は自分を下げて戦場ヶ原先輩を敬うために阿良々木先輩を立てたんです。
    ホラ、一種の謙譲語って奴?」


戦場ヶ原「あらそれは心外ね。
     あなたに、わざわざ阿良々木君を献上される筋合いはないのだけど」


比企谷「謙譲の字が違うっつの。頭良いんじゃねーのかよ」



戦場ヶ原「……茶目っ気よ」


比企谷「聞き間違いとか勘違いって言えば丸く収まるのに……。
    なんで尖らしちゃうんですか」


戦場ヶ原「別に尖らせてないわよ。
     萌えの真髄をついただけよ」


比企谷「だとしたら尚更外しすぎっすよ……。
    心臓狙って右側さすくらい外してますよ」


戦場ヶ原「南斗の聖帝だったらそれでいいのだけれどね」


比企谷「サウザーかよ。ってか先輩本当に漫画知識豊富っすね」


戦場ヶ原「アニメしか見ていないけれど」


比企谷「……あ、うん。
    あの時代のアニメ見てるんだったら逆にマニアっすね」

比企谷「まあでもこんな雑談してても帰ってこないんじゃ。
    本当に探したほうがいいかもしれませんね」


戦場ヶ原「いやいや比企谷君。さっきから探すと簡単に口にしているのだけれど。
     道が無いじゃない。どう探すのよ」


比企谷「ああ、それなんですけどね。いや、こんなの言いにくいし。
    俺にも非があるって思うんですけど」


戦場ヶ原「何かしら」


比企谷「ここにベンチがあるじゃないですか。俺たち二人で今座ってる。
    まあ、景色も360度一緒みたいな感じで。まあ分かりにくいですよね。
    座るときに跨いで座っちゃいましたし。
    まあ、えっと……」




 そう。戦場ヶ原先輩はさっき、こう言った。
『確か4人共、左の道からお弁当を取りに行ったわよね?』と、確かにそう言った。

 だから俺も左側を確認した。
確かにそこには道はなかった。

 いや、なんていうか……。
左側から皆を見送った後、俺達は振り向いてベンチに座ったんだよ。



 さあ、皆も試してみよう。
左を向いて、前に向き直って、振りかえって着席。
さっきの左は今は……?



 そう。右だ。



 なんてことはない。なんてことはないトリックだ。
マジシャンだったら切断マジックで人が2人いるくらいありふれたトリック。
種明かしコーナーも不必要なくらいに、観客からネタバレコールされる並み。



 だから俺も。
静かに指を右に指した。
戦場ヶ原先輩に優しく教えるように。
諭すように手を右に、目線を促した。





戦場ヶ原「……茶目っ気よ」


比企谷「流行ってんすか?それ……」


 彼女は相も変わらずうろたえたりせず、慌てたりせず静かに喋った。

比企谷「まあ、でもこれでこの場所が住所不定の場所じゃなくなったじゃないですか。
    ということはですよ?
    逆に阿良々木先輩たちが弁当を取りに行って戻ってきていないのがおかしい。
    だから、ここは後輩である俺が見てきます」



 なんにせよ、やっと本題に入れた。
まあ、本題と言っても、この言葉は本意ではないけど。

 若干の不安と、壮大な恐怖を覚える戦場ヶ原先輩と2人っきりで居続けるのが辛いのである。
だからこそ俺はそうして1人になりたい。


 いや、そもそも俺は今日。1人でいる時間が無かった。ちょっとトイレも行きたい。
今までの生活で、ここまで他人と時間を共有した事もなかったからさ。
なんか落ち着かないんだよ。


 ぼっちも極めれば孤独を愛せるようになるんです。
……でも、この言葉って、よくよく考えると、孤独って俺だから。俺が好きってことだよな。
なんかただのナルシストみたいだな、俺。


戦場ヶ原「じゃあ、携帯電話の番号を交換しましょう。
     連絡手段は必須だと思うのよ」


比企谷「ああ、そうっすね」



 連絡手段。
言いきっちゃってくれますね戦場ヶ原先輩。いや、元々そんな流れは期待してませんけど。
でもそれは大事ですよね。
うん、すごく大事。

 俺みたいなやつに勘違いされまいと、しっかりと用途の確認をすることは大事です。
でも安心してください。俺は最先端なのでその勘違いすら違わないんで。


 俺も何食わぬ顔で携帯を出す。
そして親指でホームボタンを押して……。

 あれ?

戦場ヶ原「どうしたのかしら。
     血の気が引いているように見えるのだけれど。
     あ、ごめんなさい。元々血色が良い方ではないわね。これは失言ね」



比企谷「おい、謝罪なのになんで俺の心は抉られるんですか?
    ミスタードリラーでもそんなに掘り進まないんじゃないんすかね?」


戦場ヶ原「あれ、ミスタードリラーじゃなくて、ホリ=ススム君って言うのよ?」


比企谷「いや、そこに食いつかれても困っちゃうんですけど。
    でも、結局そいつの異名がミスタードリラーでしょうに……」


 いやいや違うんですよ。
そんな懐かしのゲーム談義をしている暇はない。
血の気が引くほどではないが、ちょっとマズイ。


 電池が切れている。


 ホームボタンを押しても、右上の電源ボタンを長押ししても。
うんともすんともワンともニャンとも言わない。いや、ワンッて言われても困るけど……。


 この状況じゃあ、元々来ないはずの俺への連絡が完全に遮断されている。
もしも由比ヶ浜とか雪ノ下が、何かしらの理由で遅れているとしても……。

 ん?あー……。俺、雪ノ下の連絡先は元々知らないから関係なかったわ。

比企谷「すいません。俺の携帯、電源切れているみたいなんですわ」


戦場ヶ原「それは奇遇ね」


比企谷「え?奇遇って、戦場ヶ原先輩も……?」


戦場ヶ原「ええ、携帯をどうやら家に忘れて来てしまったみたいなのよ。
     ちょっと寝坊してしまったから、急いでいたのよ」


比企谷「全然奇遇じゃねーし……。
    忘れると電源切れてるは結果は一緒でも過程は違いすぎですよ」


戦場ヶ原「まあでも、これで今の状況は悪化ね」


比企谷「ええ、2人とも携帯が通じないんじゃあ、他の4人から、連絡が来ようもないっすもんね……。
    とにかく、益々入れ違いになったら困るんで。俺が1人で行ってきます」


戦場ヶ原「ええ、でもそうね。
     わかったわ。私は待ちましょう。だから比企谷君。
     なるべく早く戻ってきてね」


比企谷「ええ、早めに戻りますよ。んじゃ、行ってきます」



 そう言って俺は右の道から4人を探しに行く……。





 以上。回想終了。

 で?っていう。
じゃなくて。

 そうなんだよ。ここまで良かったんだよ。その時までいつも通りの日常だったんだよ。
でも、それからなんやかんやで今に至る。




 鋭い斜面の森の中。ダイビングしてるから足も痛い。
更には携帯は電池切れ。




 迷子だ……。




 手すりに体重を掛けながら気だるく歩いたせいで、腐食した手すりが崩れてダイビング。
叫ぶ気力もない。


 …………。

 …………はぁ…。




 まあ、あれだ。

とどのつまり。
結局。
結果的に。



 俺は今日。厄日なんですね……。



 助けて……。戸塚。



俺ガイルSide 第7話

-完-

今日は以上です。
読んで下さる方、応援等々ありがとうございます。
しかしながら、お待たせして申し訳ありません。
なるべく早く書けるよう心がけます。

ではでは。

>>1です。

復活してたの気付かなかった。

今からあげます

物語Side 第鉢話
『はちまんスパイダーその貳』


 阿良々木君達の捜索を見送った後。
私たち。正確に名前を言えば、私こと羽川翼と。由比ヶ浜結衣さんの二人は待機と言う形を取っていた。
正直、友人の戦場ヶ原さんや後輩が行方不明になっている現状で、現場待機と言う役割はもどかしい。
私たちは、実質。実際には、今何もしていない状況なのだ。
いや、何もしていないと言えばそれは語弊を含むのかもしれない。
待つ事も立派な役割だし。そのおかげで、もし戦場ヶ原さん達がここへ戻って来たときに対応できる。

 だから私は、羽川翼としては。この愚痴を言葉にすべきではない。
それよりも、私は、私だからこそとも言える程なのだけど。

 今の自分の不安より、横に居る少女の。由比ヶ浜さんの友人である所の比企谷君。
彼の安否に内心焦っている由比ヶ浜さんの方が心配になってしまう。


羽川「大丈夫だよ。阿良々木君だったら。絶対と言えるほどにね」


 そんな確証はどこにもないけど。
私の猫や、戦場ヶ原さんの蟹のように、今回ももしかしたら怪異が絡んでいるかと思うと。
安易な言葉を口にするべきじゃないのかもしれない。

 でも、私はそう言ってあげたい。
そう言える立場に居てあげたい。今、由比ヶ浜さんの不安を取り除くために必要なのは。
不安な現実ではないから。

 それに、私は信じている。
阿良々木君なら、困っていなくとも助けてくれる。呼んでいなくとも目の前に来てくれる阿良々木君なら。
今回も何事もなかったかのように解決してくれるはずだから。

由比ヶ浜「でも、本当に遭難とかだったらヤバイっていうか……。
     ちょっと問題ですよね……」


羽川「大丈夫だよ。まだそれは私たちの中で解決できるかもしれない。
   いろんな問題とか事件は、渦中の人より周りの方が大きく捉えている場合が多いんだし」


由比ヶ浜「カチュウ?」


羽川「あ、えっと……。本当の所、比企谷君達が遭難してなかったとしても。
   私たちは最悪のケースを考えちゃうよねって話」


 この子は、良い意味で純粋無垢なのだと、私は自分に言い聞かせた。
いや、本当の所の現代の高校生というのは、彼女のような人が本来に値するのかもしれない。
私や私の周りの、戦場ヶ原さんや阿良々木君が、高校生らしくはないのかも知れない。


由比ヶ浜「でも、ヒッキーだったらもう帰っちゃってるパターンとかもあるし……」


羽川「そのパターンは、ある意味で最悪のケースだね……。
   そんなに自由な人なのかな、比企谷君は」


由比ヶ浜「自由って言うか、捻くれてるんですよ。
     もしかしたら、俺がこのメンバーに居たら迷惑とか思っちゃってるかもしれないし……。

     この前だって!ヒッキーとゆきのんと3人でカラオケ行こうって部室で誘ったのに!

     『すまんな。そうだよな、由比ヶ浜。
      流れ的に、同じ部屋に居る奴を一応誘ってあげないといけない。
      なんて考えがあるんだよな。誘われる前に部屋を出るべきだったよ。
      だから俺の事は気にせず2人で行ってこい』

     とか言うんですよ!」



 何度でも言うが。いや、何度も言わないと、確認しないといけないと思う。
彼女はいい意味で純粋無垢。だからこそ。ついさっきまで彼の事を、比企谷君の事を心配していたかと思うと。
瞬く間にそれは彼に対する愚痴へと変わっていた。


由比ヶ浜「今日だって。
     ヒッキーがあそぼって誘ってくれたと思ったらこんなだし……。
     あ、いやいや今のナシ!なんかぽくないってゆーか!ナシナシ!」


 今度は赤面して手を大きく振っている。
正直、彼女が羨ましくなった。ここまで感情表現を逐一正直に表せる事が。
嫌味でもなければ皮肉でもなく、素直に私はそう思った。

 私本意、私ありきの、私からの視点だけど。由比ヶ浜さんとは仲良くなれそうな気がした。

「おや、誰かと思えば羽川さんじゃない。
 何時から居たのかしら…というのは私が言われるべき台詞なのかもしれないのだけれど」


 と、不意に私は入口の方から聞き覚えのある彼女の声を聞いた。
その方向を私と由比ヶ浜さんは振り向く。そこに、彼女は居た。戦場ヶ原ひたぎ。
彼女がまるで堂々と、あたかも凛として入口に立っていた。


羽川「あら、こんな所で、奇遇だね戦場ヶ原さん」


戦場ヶ原「ええ、本当に奇遇ね」

 簡素な挨拶。ブラックジョークにしては上出来だった。
奇遇なわけがない。私たちは今の今まで、寧ろ今も尚。
目の前の戦場ヶ原さんを探していたのだから。


戦場ヶ原「もしかしていなくとも、私たちを探しているのかしら?」


羽川「うん。お弁当を取ってここに帰ってきたら居なかったからさ」


戦場ヶ原「あら、それはおかしな話ね。
     私と比企谷君は、今の今まで本来の待機場所に居たはずなのだけれど」


羽川「………?」


戦場ヶ原「ええ、噛み砕いて説明する必要がありそうね。
     ええと、そう。私はお手洗いに行ったのよ。
     コーヒーを買っていたじゃない?バスに乗る前に。
     それを飲んでしまったせいなの。ホラ、カフェインには利尿作用が……」


羽川「いやいや、待って戦場ヶ原さん。
   別に私は、戦場ヶ原さんがお手洗いに行った理由について疑問を抱いているわけじゃないの」


戦場ヶ原「ええ、分かっているわよ。ジョークよジョーク。ガハラジョーク」


羽川「あのね戦場ヶ原さん。敢えて言うんだけど。
貴方はガハラジョークなんて言葉、これまで本編では一度も使っていないんだよ?
オーディオコメンタリーでのキャラ付けが逆流してないかな?」


戦場ヶ原「あらあら羽川さん。そんなことを言うと羽川さん。
     本編でのメタ発言なんて、某蝸牛のみが許された技法であって。
     羽川さんが使うこと自体キャラ崩壊じゃないのかしら?」


 まあそれ以前に、ここが本編ではないのだけど。

 と、ここで閑話休題。


戦場ヶ原「戻って見れば2人がいるんだもの。驚きを隠せないわよ」


羽川「それにしては冷静な面持ちで。
   でも、とどのつまり。それじゃあ結局。私たちは別の場所に居たってことなのかな?」


戦場ヶ原「私はここに「戻って来た」はずなのだけれど。
     でも結局はそういう意味なのかしら」


由比ヶ浜「あの……じゃあヒッキーは?」


戦場ヶ原「そうなのよ……」


 驚きさえも上手に隠せた戦場ヶ原さんは、由比ヶ浜さんの発言に。
誰が見ても分かるくらいに。言葉を濁らせた。

 由比ヶ浜さんでさえ。さえと言えば蔑む意味合いも含まれるかもしれない。
でも、語弊を恐れず使うのならば。由比ヶ浜さんでさえ。
彼女でさえ不安を覚えるほどに、戦場ヶ原さんはたじろいだ。


 私も言及には不安と悪寒を感じる。
出来れば聞きたくないその返答を、だがしかし。私は言及する義務があった。


羽川「どこにいるのかな?」


戦場ヶ原「私より、私がお手洗いに行くよりも先に。
     彼は貴方達を探しに行ったのよ。いえ、行ったはずだったのよ。
     だから本来。私より先に見つけるべきは比企谷君だったのだけれど……」


由比ヶ浜「じゃあヒッキーがどこにいるか。先輩も知らないんですか?」


戦場ヶ原「言いにくいのだけれど。
     ええ、そう言う事よね」


羽川「と……とにかく。それでも戦場ヶ原さんは見つかった。
   それなら阿良々木君達に一度連絡しようよ!もしかしたら……」

 結果は、案の定というべきか。
比企谷君は見つかっていない。

 一縷の望みにかけた私の電話も、水泡に帰した。
孤独蜘蛛。そんな話を阿良々木君にメールで貰った。


 集合場所にずっといたはずの戦場ヶ原さんとの話も食い違う。
そして、比企谷君と別れてから戦場ヶ原さんは私たちと合流できた。


 どうやら、私の出る幕はなさそうだ。
阿良々木君に、私が自分を無力だと認めざるを得ないのだけど。
彼に任せるしかできる事がなさそうだ。

 私は、私にできるのは、横の由比ヶ浜さんを励ますことしか。


 悔しいけど出来そうになかった。




物語Side 第鉢話
『はちまんスパイダーその貳』 ―完―

>>1です。

今日中にあげます

俺ガイルSide 第9話
『やはり比企谷八幡は捻くれている』


 あれから数日後……。
と、突拍子もない嘘をつくのは俺の意に反している。

 俺は数十分前にダイビングして以来ずっとこのまま。
そう、比企谷八幡は。絶賛遭難中である。


 戦場ヶ原先輩を置いてきたことが気がかりだけど。
この場合はどうしても自分自身の方を心配してしまう。俺だって人間だもの。


 でもこの状況はマズイ。
俺はこのままだと死んでしまう。つまりは生死の境の真っただ中。
どうにかしてこの東西南北の木々完全包囲網を脱出しないと……。

 脱出ゲームならまずはドライバーとか、ハンガーとか見つかるんだけど……。
どうやらこのゲームはクリアさせる気が無いらしく、所持品だけで耐えなくてはいけないらしい。

 このままずっとここ……というわけはないにしても。多分当分は動けねー。
挫いた足が、エマージェンシーと言う名の痛み信号を俺の脳みそに急ピッチで送ってやがる。
非常事態なのは分かるが、今痛み信号を発せられても俺には苦痛でしかないんだが……。
体と言うのは、時に理性に反した行動を見せる。
物理的な痛みも、精神的な痛みも。

 改めて、この脱出ゲームに正面から向き合うことに決める。
まずは持ち物の確認だ。

その1。
所持金880円の財布。

 今朝までは1000円あったんだが……。MAXコーヒーのせいで120円減。
ってかこの遭難中に100万円あったとしても無意味か……。


その2。
電池の切れた携帯電話。

 携帯電話。という言葉はすごく救世主面なのに。
『電池の切れた』がつくと途端に役に立たなくなってしまう。


以上。



 自分でも泣きたくなってしまう程の最低限所持物である。
でも改めて考えると、ゲームよろしく。傷薬でHPがギュギュギュイィン!と回復しない現実世界で。
俺がここから脱出するために在ったらいい所持物なんて想像できないけどさ。


 そう。この状況で、俺自身が動けないと言う事がそもそも詰み。
逮捕時にチェックメイトとか言っちゃうほどに詰みなんですよ。

 更に遭難者が俺って事が詰み。
だってさ、普通の人、大抵の高校生だったらさ。まず叫ぶじゃん。
タスケテクレーって、まず叫ぶじゃん?

 俺にはそれが出来ない。
正確にいえば、救助は呼べない。
他人を頼るなんて事。俺には出来ない。

 とどのつまりから話す。
俺は偽善も慈善も慈悲も嫌いだ。

 今、俺が誰かに助けてもらったとして。
例えば由比ヶ浜。雪ノ下。例えば阿良々木先輩。

 誰かに今。この生命の危機を救出させてもらったとして。
俺は何も出来ない。


 由比ヶ浜は言うだろう。阿良々木先輩は言うかもしれない。
好きでやった事……。とか、助かったならそれが一番とか。

 助けた側はそれで終わるかもしれないが、助けられた側は大きく借りが出来る。
お返しに何かしたくなるのは当然の感情だ。

 そこで俺の場合。
なにも返せないのだ。

 肉体労働も精神奉仕も、俺にとって誰かに何かを出来る事はない。
自分にさえ何もしてやれないからボッチな俺なのに。
他人を助けるなんて出来やしない。

 自分を犠牲にしない限りには……な。


 まあもしも。俺がここから一歩も動けない。
足の骨が折れただとかそういう場合なら。俺は、俺だって身の安否は最重要だ。
叫び倒して助けを求めるが。

 俺の脚は幸い、挫いただけで時間とともに回復する。
これはドラクエではなく風来のシレンである。時間が解決する負傷だ。


 だから俺は、俺自身でここから脱出する。
他人に助けは求めない。逆に助けられても困るのだ。


 俺だって。
恩を買わされて対価を払わないわけにはいかない。
だからそもそも、恩は買わない。俺に対して売らせはしない。

 結論づいた所で。俺はそのゴールに向かって動かなくてはいけない。
救助を求めるためではなくて、救助を拒否するために。


 ここで俺の秘密道具。最終兵器。
いや、違うんだ。勘違いしないでくれ。嘘をつこうとしたわけじゃない。
内ポケットにあったのを今気付いただけなんだ。

 ウンパカパッカパンパカポーン!

 携帯充電器ぃ~!

 そういやこんなもの持ってたな、と。
単三電池型の充電器を見つけた。これがあればなんて事はない。

 ここから俺は、俺の方法で俺は助かる。
救助ではない。俺から俺への平穏のためへの行動。


 どうやら携帯充電器も寿命が乏しいようで、電話を掛けられたら幸運レベルだった。
でも、それだけで十分だ。
 
スパムメールみたいな名前を電話帳から見つける。
由比ヶ浜の番号。この名前欄のせいで、小町にメール着信を見られて一騒動あった。
その時は恨んだが、今であれば見つけやすさナンバーワンで逆に助かる。
まあ、探すほど電話帳に人の名前入ってないけど……。

 そして俺は静かに、発信ボタンを押す。





Prrrrrrrrrr。

ガチャッ。

 実際にはガチャッなんて言わないけど。まぁ、気分だよ気分。


由比ヶ浜「ヒッキー!?今どこに居るの!?」

 電話越しでも賑やかな奴だった。
反射的に電話から耳を離しちゃったよ。ボリューム調整機能はないのかよ。
お前の声量は……。


比企谷「ああ、由比ヶ浜。すまねーな心配かけてて」


由比ヶ浜「本当だよ!で!今どこに居るの!?」


比企谷「まあ待てよ由比ヶ浜」


 俺にも順序ってもんがある。


比企谷「戦場ヶ原先輩は?」


由比ヶ浜「え?先輩はさっき見つかったよ」


比企谷「そうか、なら良かった」


 この確認は大事だ。
もし戦場ヶ原先輩がまだ、合流してなければ。俺は見捨てたことになるからな。
いや、でも。この解決案は結果そうなっちまうのかな?


比企谷「まあ、俺なんだが。俺は今家に居る」


由比ヶ浜「ふぇ?い……家?」


比企谷「ああ、3年生担当の先生とばったり会ってな。
    体調がすぐれないなら帰ってもいいって言われたから甘えさせてもらった。
    俺の課題はボランティア活動へ『行く』事だったからな。最後までいろとは言われていない」


由比ヶ浜「え?ヒッキーもしかして帰ったって事!?」


 そうだ。そういうことにするんだ。


比企谷「ああ、心配かけたのはすまねーと思ってるよ。
    んじゃまた。学校でな」


由比ヶ浜「え!?あ、ちょっと!待ってヒッキー!」


 そこで電話が切れる。
電池残量ゼロの音を響かせながら。
丁度いい。最善のタイミングだった。

比企谷「電車ってここから880円で帰れたっけな……」


 ため息をつきながら、俺は帰路の心配をする。

由比ヶ浜や雪ノ下は、俺を軽蔑するのだろうか。
阿良々木先輩達は、俺に幻滅するだろうか。


 まあ、そうだとしても。元々友達なんかじゃないのだ。
嫌われようがどうってことはない。

 学校での生活は、一ミリの変化もない。
リセットというかデリートと言うか。とにかく。


 俺はこういう人間だと言う事だ。


 俺は家に帰った。そう言うことにすれば俺は救助されることはまずない。
あり得ない。
だから俺は、俺自身への評価を犠牲に、その選択肢を選んだ。

 俺には。
俺はやっぱり。


 こういう方法しか取れねーんですよ……。





俺ガイルSide 第9話
『やはり比企谷八幡は捻くれている』
―完―

物語Side 第拾話
『はちまんスパイダーその参』


 01

 比企谷の現状を知ったのは、由比ヶ浜の電話の後だった。
僕たちが合流した後。
見計らっているかのように、見張られていたかのように、完璧なタイミングで。
由比ヶ浜の携帯が、比企谷の着信を告げたのだった。


阿良々木「端的に、結論からいえば、比企谷は帰宅している。と言う事でいいのか?」


 僕は由比ヶ浜にそう質問する。


由比ヶ浜「そう言ってました……。ヒッキー勝手に帰っちゃったって……」


雪ノ下「はぁ……。最底辺の評価を、比企谷君に下していたはずなのだけれど。
    まさかそれ以下に評価が下がるなんて……。あの男を見誤っていたわね」


 2人、雪ノ下と由比ヶ浜は、比企谷に悪態をつく。
その様子から見てとれるに、彼はやはり、しかしながらそういう人間であるらしい。
いや、そういう人間。といえば、表現を濁しているとも取れるので、正確に言う。

 とどのつまり。彼は結局、自分勝手な人間。
仲間内での行動で、何も告げず事後報告の帰宅をする。
そうしても、疑問を抱かれない人間。そういう事なのかと、そういうイメージなのだと思う。



 いや、でもしかし。果たして、本当にそうなのだろうか……。
たかが数時間と言うが、僕が比企谷と話した際の感触は、そういう人間性は感じてはいない。
もしかしたら、彼は。というより、彼ならば。そうするかもしれないと思っている。
別の可能性に、別の真実が。
今の僕は、気が気でならないでいる。



阿良々木「でも、いや。それにしては早すぎないか?」


 だから僕は。素直に、率直にその疑問を語る事にする。
伝える事が最重要。声に出さないと伝わらない。僕の考えを。
ストレートに、包み隠さず、余すことなく語って見る。


阿良々木「戦場ヶ原と比企谷が分かれて、今の時間まで。多く見積もっても20分。
     家どころか学校にすらつくには、圧倒的に時間が少なすぎるんじゃないのか?」


戦場ヶ原「ええ、まあそうよね。3年の先生に言って……と。
     比企谷君は、そう言っていたのよね?
     個人のためにバスが出るはずもないのだし。
     そもそも、3年生の担任は。皆、バスで乗り合って来ていたはずよ。
     そう考えれば、比企谷君の帰宅方法が不明瞭……というか。不可能とさえいえそうね」


羽川「うん?でも、そうすれば比企谷君は、まだ家に帰っていないことになっちゃうよ?」


阿良々木「ああ、僕はそう思っている」


 5人が下を向く。それぞれが、各々の心中で思考する。

雪ノ下「そうなると、あの男は。
    比企谷君は本当に遭難していて、心配をかけたくないから。
    嘘をついたと?」


 雪ノ下は、その場を代表するかのように。
言い淀むことなく、総意のような可能性を提示する。
そう、僕の考える可能性そのものを、彼女は語り、代弁し、言い切った。


由比ヶ浜「でも、ヒッキーなら可能性ありそう……」


 同時に由比ヶ浜が、それをフォローする。


阿良々木「そうなれば、納得がいくんだ。僕も」


 すかさず僕も返事をする。
自分が言うとおり。己の意見と同じく。それならば全てに辻褄が合う。
比企谷の性格的にも。さらに言えば。孤独蜘蛛と言う怪異が絡んでいるという解釈でも。


雪ノ下「でも、あの男も一応は人間ですよ?生存欲は最低限あると思いますが……。
    故に、比企谷君には1人で帰る算段が既にあるのでしょう?
    まさか死の淵にもかかわらずこういう行動には出ないでしょうし」


由比ヶ浜「でも、ヒッキー。変な所で気を使うから……」


雪ノ下「これが気を使うとかそういうシチュエーションではない事を。
    あの男も分かっていると思いたいのだけど……。
    まあ。ですので、彼がそう言う限り。私たちは探さなくてよいと思いますが?」


 雪ノ下は続ける。
比企谷の言葉を、救助拒否の連絡だと推測したうえで。
それならばと。その推測ありきの、前提においてからの思考の結果を。

 彼女はそう。冷淡に、冷血に、冷静に。
言葉は取り繕ったが。確かにそう言った。

『比企谷を見捨てる』

と。

 いや、言葉上ではネガティブな、マイナスなイメージしか受け取れないが。
逆を返せば、それは信頼の証でもある。

 雪ノ下は比企谷を信じている。
比企谷の言葉が。今は嘘でも、それが結果だけを見れば真実になっていると。
結局、比企谷は自力で帰路につき、結果上で、過程を省いたうえで真実にするのだと。

 そう信じているからなのだ。
と、僕は思いたい。

羽川「まあ、でも。今は、現在の状況では。帰れないのには変わりはないよね。
   もしも現状、動けるのであれば、私たちと合流すること自体が一番のはずだもの」


戦場ヶ原「それをしない……。と言う事は、すなわちそれが出来ないってことよね」


雪ノ下「ですからそれは短期的な話であって……。
    本人が家に帰っていると言うなら。本当に帰ってしまった場合も含めて。
    まだこの山のどこかに居ると言う可能性に賭けて探すのは、合理的ではないと思います」


 雪ノ下雪乃。彼女の言う事は。つまりは正論。
本来、それが正しい。それが正解だ。


 本人が、わざわざ電話をかけて来て、『帰った』と言ったのだから。
当たり前のようだが、本来。その当事者は『帰っている』はずだ。

 そこに疑問を持つ、僕の方が不可思議な思考であり、異論になる。


 でも、既に事はイレギュラー。
僕しか知らない。さらに言えば、雪ノ下と由比ヶ浜には知りえもしない。

怪異が絡む事。

だからこそ僕は。その本来とか、普通とか、大抵に疑問を持ってしまうのだ。

阿良々木「ま、待て待て。それは雪ノ下の言うとおりなんだが。
     ちょっと待ってくれないか?」


 だから、それだから僕は止めた。その結論へ到達する事を、僕は咎めた。


比企谷の。比企谷が被っている怪異は、孤独蜘蛛。
自分の周りに全てを寄せ付けない。孤独にさせる怪異。

 比企谷が、孤独蜘蛛に取り付かれたまま。
本当に山を出られるのか。
いうなれば、八九寺真宵の、蝸牛のようなものなのだ。
誰とも会えないという事は、人のいる町に到達できないという事。


 だからこそ、本当に。
ここで5人全員が先に、比企谷を置いて帰宅すべきではない。



阿良々木「確かに不明瞭だが、それでも。僕だけ残ってもいいか?
     もしも本当に遭難していた場合。やはり誰かが見つけた方が安心だろう?」


雪ノ下「先輩だけ捜索して、私たちは先に帰ると言う事ですか?」


阿良々木「ああ」


由比ヶ浜「でも、本当に家に帰っているかもしれないのに。1人で探すってなると。
     阿良々木先輩まで遭難しちゃったら……」


阿良々木「いや、そうだな。
     多分とか、きっととか、そんな言葉を恐れずに言いかえれば。
     絶対だ。絶対、比企谷はまだ山の中に居る
     理由とか、そういうのはうまく説明できないが、そう言いきれる自信がある」


戦場ヶ原「まあでも。時間という概念で、比企谷君が帰った事を否定出来てしまった以上。
     楽観視さえすれども、帰っている可能性は考えづらいでしょうね」


雪ノ下「しかし、だとしても。
    比企谷君は嘘をついてまで探すことを拒んだんですよ?それならば……」


阿良々木「ああ、確かにもっともだ。
     でも、今現状。あいつは遭難しているんだ。困っているんだ。
     遭難している以上、それで幸せだとか言う奴なんていないだろ?
     そうしたら、そうなったら。僕は探したいんだ。助けてやりたいんだ」

雪ノ下「助ける……。ですか。
    どうしてそこまでするんですか?義務も責務もありませんが……。
    そもそも、探すのであればそれこそ全員で……」


阿良々木「確かに義務はないし、そもそも僕一人が探す必要もないかもしれない」



雪ノ下「でしたら……」





阿良々木「違うんだ、雪ノ下。僕はただ。
     僕はただ女子4人の前で、盛大にカッコつけたいだけなんだ。
     ここは任せて先に行けってな?」





雪ノ下「…………。カッコつけたいだけ…ですか。
    ええ……分かりました。納得しましょう……。
    阿良々木先輩と、比企谷君がそれを望むのであれば。
    私は構いません」


 雪ノ下は、何かを達観し、諦めたように発言する。
呆れ顔。という言葉はもしかしたら正しくはないのかもしれないが。
彼女はため息交じりにそんな顔で僕に語りかけて来た。


由比ヶ浜「でもでも!じゃあヒッキーが見つかったらすぐ連絡してくださいね!
     ヒッキーの事……やっぱ心配ですし……」


 由比ヶ浜もすんなりと了承してくれた。
てっきり、私も探すと。もう一悶着ありそうな勢いかに思えたのだが。



阿良々木「ああ、羽川か戦場ヶ原経由にでも伝えるよ。
     安心してくれ」


 しかしながら。
対する戦場ヶ原と羽川の顔は。どこか不安げだった。
2人の事だ。僕が無策で、無謀で無茶な提案をしているとは考えていないだろう。
でも、忍野もいない今の僕の対処法をいくつか知っている2人にとっては。

 生きて帰ることが可能なのかと。


多分、きっと、そう考えているのだろう。



阿良々木「戦場ヶ原、羽川。心配するな。大丈夫だ」



 だから僕は、その一言だけを、2人に向けた。

 02

羽川「じゃあ、私たちは先に戻るね。
   一応学校で待機してる。18時を回って連絡がなかったら。
   残念だけど先生に連絡して捜索させてもらうよ?」


 流石は羽川。
その一言で僕は分かった。
雪ノ下と由比ヶ浜がすんなりと、こうもあっさりと。僕一人に捜索を任せてくれたのはそういうわけだ。


 羽川は事前に、というより僕の話と同時進行で。
2人を説得してくれていたのだろう。


 もしもがあればその時は……。と。
 
 だからこそ2人は僕の提案を飲んでくれていたのだ。
僕の言葉足らずの提案を、離散してしまいそうな提案を。



阿良々木「ああ、分かった。ありがとう」


 二つ返事の短い了承をする。
その言葉を最後の別れ言葉に選んで、僕は4人の背中を見送った。

 後の雪ノ下と由比ヶ浜へのフォローは、戦場ヶ原と羽川に任せるとしよう。


だからこれから。それから僕は。僕のできる事を。僕にしかできない事を。
僕がやるべき事を、始めるとする。


03

忍「さて、我が主様よ?」


 4人の気配が消えた後、影から金髪の幼女が姿を現す。
元吸血鬼で、元怪異殺しの異名を持つ。キスショットアセロラオリオンハートアンダーブレードのなれの果て。
忍野忍が、僕の影から姿を見せた。


阿良々木「ああ……」


忍「言っておくが、賭けになるぞ?」


阿良々木「元から100パーセントなんて期待しちゃいないよ」


 そう言うと、静かに忍は、僕の首筋に噛みついた。

04

 以下、回想。




 忍がそれを僕に提案したのは、少し前。
雪ノ下と僕が、戦場ヶ原が見つかったと。羽川の電話で伝えられて踵をかえしている最中。
雪ノ下が、トイレに行っている間だった。

 雪ノ下のトイレについて行くような腐った人間ではない、紳士である所の僕は。
そこから大きく離れたベンチで待機していた。
その時、その時間だった。



忍「のう、我が主様よ」


阿良々木「ん?どうしたんだ?」


 不意に声で、忍は僕を呼んだ。


忍「さっき儂は言ったんじゃが。孤独蜘蛛は、自分から会う以外に対処法はない……と」


阿良々木「そうだな。僕はそう聞いた」


忍「じゃが、考えてみれば他の方法もあるかも知れん。
  まあ、アロハ小僧はそんなこといっとらんかったし、儂の憶測じゃが」


阿良々木「なんだそれは。教えてくれよ」


忍「うむ。孤独蜘蛛はな。孤独にさせる怪異じゃ。
  これはさっき言ったと思うがの?」


阿良々木「ああ、さっき言ったな」


忍「じゃが、良く考えてみれば、孤独蜘蛛が根暗小僧に取り付いているという事は。
  もう既に1人と一匹じゃろ?」


阿良々木「ん?まあ、そうだな」


忍「それに、アロハ小僧の言っておった昔話の中でも、蜘蛛と人間が出会っておる。
  そこで儂は、1つの仮説を立てたんじゃけども……」


阿良々木「間伸びさせる言い方だな」


忍「まあ聞け。だったらじゃ。儂らが限界まで吸血鬼化すれば。
  儂らは人間でも怪異でもない宙ぶらりんの状態と言うわけじゃ」


阿良々木「成程な」


忍「もしそうなれば、孤独蜘蛛の『孤独』の範疇から除外された存在になるかも知れん。
  例えばあの根暗小僧が今、蚊の一匹とも会えないという事もなかろうしの。
  そもそも出会えないのは『人間』だけで、もしかしたら『怪異』は会えるかも知れんし」


阿良々木「……試す価値はあるな」

忍「じゃのう。じゃが、やりすぎると儂らも。それ所じゃあなくなるがの」


阿良々木「そこは大丈夫だろう。
     やりすぎない程度にすれば」


忍「無茶を言うのう、我が主様よ。
  儂だってあの調整ちょっとしんどいんじゃぞ?
  チキンレースみたいなもんじゃぞ?」


阿良々木「一気に吸う必要ないんじゃないのか?」


忍「いや、そりゃあ何度も何度も。焦らしプレイのように噛み直してもよいならそうするがのう?」


阿良々木「いや、僕はそういう趣味嗜好じゃあないからな」


忍「じゃろ?じゃからまあ、やりすぎん程度に収めるつもりではあるが。
  はて、吸わなさ過ぎて主様のカウントが『人間』になってもいかんしのう」


阿良々木「まあ、でもその方法が可能性としてあるなら。
     そうして探してみよう。4人にはそう説得する」

忍「じゃのう。
  それじゃあそれまで。ちょっと儂は寝るぞ」


阿良々木「1時間も後じゃないと思うぞ?」


忍「今日は一日外に居ると思うから寝てても平気だ。
  と、昨晩言ったのは誰じゃったかのう?」

阿良々木「まあ、それを言ったのは他ならぬ、僕だ」


忍「じゃろ?
  じゃから儂は、今日はそもそも寝る気で。昨日夜通し遊んでおったんじゃ!」


阿良々木「僕の影の中でか!?」


忍「ああそうじゃ!明日は夜まで寝ていようと、ランラン気分で昨日は遊んだのに!」


阿良々木「人の影の中でパンダの名前みたいに遊ぶな!」


忍「マリカーしてたのに!」


阿良々木「月火ちゃんがDS無いって言ってたけどお前か!」


忍「なのに起こされて!そりゃ眠くもなるわい!」


阿良々木「わかったわかった……。
     ごめん。じゃあまた起こすよ」


忍「それだけか?」


阿良々木「何が言いたいんだ?」


忍「いや、まあ確かに今の儂は、いわば一心同体じゃ。
  お前様に協力するのは、まあ当たり前と言っても過言ではないかもしれん。
  じゃがのうお前様よ、なんというか。こう、形に残る礼と言うか……。
  感謝の意と言うか、誠意というかのう」


阿良々木「……ああ、わかったよ。理解した。
     今日の帰りにミスタードーナツに寄ってやるよ。それでいいか」


忍「わーい!頑張るぞー!」





 忘れず言うならば。怠らず言うならば。
彼女は昔。怪異の王で、鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼。
かのキスショットアセロラオリオンハートアンダーブレード。
だった存在である。




忍「わーい!ドーナツわーい!」



以上、回想終了。

 06

忍「さてと、こんなもんかのう」

 忍は僕の首筋から口を離す。
今だこの感覚は慣れないでいる僕だが、今はそれを言っている場合ではない。


阿良々木「さて、忍。行くか……」


忍「行くか……。と言っても、目星はあるのか?我が主様よ」


阿良々木「ああ、あるさ。
     実は通り道で一か所、不自然に手すりが無い場所があったんだ。
     もしかするとその下に、比企谷は落ちてしまったのかもしれない」


忍「ほぼ正解じゃのう……」


 問題は、出会えるかどうか。
その下に居るとしても。もしも僕たちが怪異の干渉に触れてしまえば。
因果関係とか、そういう何かで、僕は比企谷と出会えずに彷徨うことになるだろう。


 それでも。だとしても行くしかない僕たちは。
忍と僕は、その場所へ行って。

 その坂道。崖とも言えるほどの急な坂道を。


 滑り落ちた。

比企谷「…………」


阿良々木「…………」


忍「…………」


比企谷「え?………誘拐?」


阿良々木「待て」



 それが合流して初めての会話だった。




物語Side 第拾話
『はちまんスパイダーその参』
―完―

だいぶ遅くなってすみませんでした。
次話も気長にお待ちいただけると幸いです。

ではでは。

>>1です。

 長らく更新できなくてすいません。
今日中には次話あげようと思います。

 もう完結までのプロットは完成したので、これからは隔日ごとくらいにはあげられそうです

俺ガイルSide 第11話
『それでも彼の言い訳は間違っているし、
          彼の善意は間違っていない』


比企谷「状況把握の時間を、頂けますでしょうか……」


 俺はそう言う。寧ろ、そうとしか言えない状況だ。
目の前に突然。『凛ッ!』とかってオノマトペ入りそうに登場した阿良々木先輩をどうしようか。
どうしてやるべきか。寧ろ、俺がどうすればいいの?

 静かな、それは大層静かな。なんならこのせせらぎを、リラクゼーションCDにもできるくらいの静けさの中でしたよ?
そこに突如、金髪の幼女を連れて先輩が滑って来たんですよ?



阿良々木「ああ、待てと言われれば僕は待つが」


 うん。ええ。待ってくれてありがとうございます。
なんか素直に反射して返答されるとキョドる。
いや確かに『待って』とは言いましたが、そんな端的にストレートに待機されても。
おい、横のお譲さん。まっすぐ見るな。見つめるな……。

 何ですか?助けを求めてるの?このお嬢さんはやっぱり誘拐されているの?
だから俺をこんなまじまじと見つめるの?阿良々木先輩、やっぱ大変な変態さん?


比企谷「で、えっと。理解もままならぬままに質問しますが。
    何しに来たんですか?」


阿良々木「お前が遭難しているから助けに来たんだが」


 あらあらまあまあ、こりゃまた反射的に素直な回答でした。
直訳も直訳、Can You Help Me? を、私を手伝う事が貴方に可能ですか?
って訳すくらいの直訳ですわ。

 なんてーか。その……ねえ?


比企谷「いや、でも。『帰った』って。言いませんでしたっけ?」


 そう、俺が一番困惑して理解できない部分がここ。
俺は確かに言ったはずなんだ。
あれ?俺の記憶は改ざんでもされてるのか?怖すぎるじゃねーかよ。
それとも何か?無意識的に俺は助けを求めてましたか?
俺の『愛して』が、君に『助けて』と確かに聞こえたの?
何メロドラマティックだよ。ポルノ何フィティだよ。


阿良々木「ああ、言っていたな。由比ヶ浜から、僕は確かにそう聞いた。
     でも、事実お前はここにいる」


比企谷「いや、それはそうなんすけど。
    違う違う。それ以前っすよ。なんで俺がここに居る事が分かったのかっつぅ話で」


阿良々木「お前は帰ってないと思ったからだ。
     勘。……という回答は望んでいないようだが、しかしながら。そう思ったんだ」


 その勘、鋭すぎんだろ。鋭利すぎですよ。
包丁だったらまな板どころか、シンクまで一刀両断しちまうんじゃねーの?
売り物になんねーよそれ。世紀末の武器だよもう。

阿良々木「まあ、言葉を変えて言うと、僕には分かっていたんだよ。お前が帰れない事を」


比企谷「はあ……。超能力とか、そういうファンタジーなお話なんですか?」


 そんなことありえない。厨二病とか言うけど、結局それは、ただの妄想癖だ。
神々の能力とか、学園都市とか、悪魔の実とか、スタンドとか、異能力とか魔法とか。
そんなのはあり得ない話だ。


阿良々木「まあ、簡潔にいえばそうなるな」

比企谷「でしょうね。そんなファンタジーはありえね……って。なんて言いました?」


阿良々木「ん?いや、お前の言葉を肯定したつもりだ。
     巻き込まれてしまっているのであれば隠すつもりもないし、そもそも隠す必要はないからな」


 おいおい。ちょっとヤベーぞこれ。
あの材木座ですら、現実と妄想の区別はついてるってのに……。いや、材木座も危ないか?
いやいや、それよりも今だ。何故かこの先輩。阿良々木先輩の目は大変にまっすぐだ。
直進だ。寧ろ一方通行だ。アクセラレータだ。反射はしない。


比企谷「はぁ……。いやいや、あり得ないって言うか。なんていうかその……」


 言葉が出てこない。なんだ?同類と思われてしまったのか。
このおままごとに強制参加させられているのか俺は……。
やめてくれよ。ダークリユニオンなんかに所属する気は毛頭ありませんよ?どこの漆黒の翼ですか?
それ、クーリングオフはあるんすか?なかったら自己破産でお願いします……。


阿良々木「まあ、信じろとは言わないが」


 言われても信じませんが……。

比企谷「まあ、でも。確かに勝手に帰るのは人として信じがたい事ですしね。
    時間的に考えてもちょっと無理がありましたし……。
    帰ってないと考える方が辻褄は合いますよね……。
    コナンくんばりの名推理!阿良々木先輩やるじゃねーっすか」


 オッケーオッケー。そう言う事にしよう。
ファンタジックな、ファンタジスタな、そんな解答はなかったことにする。つまりは廃棄処分。
現実的に事を考えれば、まあ確かに思いつく事ではある。
そう言う事で、この場はお茶を濁そう。


阿良々木「いや、それにしても。何故こんな嘘をついたんだ?
     比企谷。お前に何かメリットがあるようには見えないんだが」


比企谷「はあ……。まあ、弱酸性なんか必要ないですからね」


阿良々木「シャンプーの話ではないのだが」


比企谷「水をかけるとアヒルにはならないと?」


阿良々木「それはムースだ!猫になるのがシャンプーだろ?」


比企谷「パンダになるのは」


阿良々木「玄馬だな。いや、クイズなんかするつもりはない。質問に答えてくれ」


比企谷「……」

 ほっておいてくれ。
というのが本心だ。

 何故か。
それは、阿良々木先輩に納得してもらえるとは思わないから。
俺が拒絶したにもかかわらず、助けに来たと豪語するこの人に。
俺の考えを理解してもらおうとも思わないし、そうしてもらえるとも思わないからだ。

 だから説明はしたくない。質問に答えたくはない。
ああ、どう言えばいいんだろうな。国語の成績はいいはずなのにな……。


忍「時に、根暗小僧よ」


比企谷「うわっ! ああ、喋るんだ……」


 ビックリしたー……。
この子さっきからじっと見つめてくるだけだから声帯が無いのかとさえ勘違いしていた所だったのに。
ってか根暗小僧って俺の事?え?何それ。失礼極まりないな。
俺のどこが根暗だ。根は明るいんだ。表面上が暗いだけだ。



忍「そりゃ喋るわい!なんじゃと思っておったんじゃ……。
  はあ……。お前、今からどうするつもりなんじゃ?」


比企谷「どうするって。帰るつもりっすよ。
    ここに住居を作って原始生活でもするように見えるんですか?」


忍「そんなことをしても、お前のような人間は数日と持たず、のたれ死ぬじゃろうのう」


比企谷「うるせーよ。
    まあ今すぐとはいかねーけど。別に俺は帰れないわけじゃないんだよ」


忍「じゃがお前は、現状況では。足を挫いておるのではないか?」


比企谷「まあ確かに。でも、軽い捻挫だぜ?痛みも引いて来たし。
    そろそろ立ち上がれるくらいだ」


 そう。俺は別に助けを求めちゃいない。
助けてもらうまでもない。勝手に自分に力で助かれるんだ。ほっといてくれ。


阿良々木「でも、今僕が手を差し伸べれれば。今すぐ帰れるんだろう?」


比企谷「え?ああ、まあ……。そうっすね。例えばおぶってもらったりしてくれれば。
    今から下山できますけどね……」


阿良々木「ならば、今僕が差し伸べる手を。受けてはくれるのか?」


比企谷「確かに断る理由はないんすけどね……。
    でも、そうだとしても、俺は断る」


 そんな大それた理由はない。
目の前のお人よし。目の前の善人。正義のヒーローは、俺を助けに来てくれた。
とてもありがたいことだ。


 でも。


 ちょっと遅いんだ。


 その手は、その助けの施しは。
この俺の人間が出来る前に差し伸べてほしかったんだよ。

阿良々木「何故だ?理由はなくとも。何故なのか聞かせてくれないか。
     例えばお前は僕の事が嫌いだとか。そう言う事でも構わない」


 目の前の善人。阿良々木先輩も、つまりは人間だ。
気にはなるんだろう、知りたくなってしまうんだろうな。
良かれと思って差し伸べた手を、かたくなに受け取らない俺の理由を……。


比企谷「理由はないと言いましたよ?大それた、納得のいく説明なんかできない。
    俺は、助けてもらうなんて事を、ただされたくないだけなんだよ」


阿良々木「…………」


 いや、もうこの際言ってやる。そうすることにしてやるよ。
俺の本心を、理解できないだとか意味が分からないだとか何とでも言えばいい。
俺が思う事を、阿良々木先輩が求めるのなら。
そのまま吐きだしてやる。


比企谷「施しを受けるなんて。俺はされたくない。
    だってよ。例えば、今アンタが俺を助けたとしよう。この場はそれで丸く収まるよな。
    でもさ?
    その後、後日に。俺が今日の事で、由比ヶ浜とか雪ノ下から罵倒されたとして。
    そんとき助けてくれんのか?
    アンタの目の届く範囲で、たまたま俺と阿良々木先輩が出会ったから。今回助けてもらえるかもしんねーけど。
    結局は『たまたま』だろ?救世主じゃねーんだから」


阿良々木「……」


比企谷「なあ。『今度』は助けてくれねーだろ?
    だって今度は何が起こるか。それにいつ起こるかさえ。俺ですらしらねーんだから。
    悪いとは言わねーっすよ。それが人間だから。
    手の届く範囲しか守れないのが人間。
    だからそれは結局、偽善だろうが。
    ならば、俺はそんなのには頼らない。良く言うじゃん?
    一度甘い蜜を吸うと、今後もそれに甘えてしまうって。
    今までこういう人生で生きて来たんだ。今更誰かの手なんて借りれねーよ」


阿良々木「……だから。だからお前は、お前の現状維持のために。
     雪ノ下や由比ヶ浜に、あんな嘘まで付いたのか?」


比企谷「そうっすよ。元々友達じゃねーんだ。ただのクラスメイト。雪ノ下に関してはそれ以下だ。
    関係が破綻しようが元々繋がってすらない。
    それよりも俺は、救われるという事の方が怖い。
    俺はそんなに、恩を返せる力はない。分不相応な恩は貰えないんすよ」


阿良々木「そうか。ならもしも、僕がここでお前を無理やり助けたとしても。
     とどのつまり。僕は助けてなんかいないというわけか」


比企谷「あーそうだよ。だから勝手にしてくれ。ほっておいてくれ。
    俺の人生の1日分も共有してねーのに。
    救世主面はしねーでくれよ」



 そうだよ。俺は。結局俺はそういうやつなんだよ。
異質だろうが、異様だろうが、異端だろうが。


 俺の考えはそう言う事なんだよ。



忍「あーもう煩わしいの!お前様!この根暗小僧がこう言っておるんじゃからもう帰るぞ!
  孤独蜘蛛も見当たらんし。儂らの出る幕じゃあない!
  儂! こいつ! 嫌いじゃい!」


 幼女に嫌われてしまった……。
まあ、そもそも好かれてなかったんだから0もマイナスも評価は一緒みたいなもんだ。

阿良々木「忍。今何て言ったんだ?
     孤独蜘蛛が……いない?」


忍「ああ、そうじゃ? 儂らと会った事でそれが消滅したと考えるのが一番じゃろう。
  ツンデレ娘の蟹のように神様じゃあないし、存在があやふやになったら消滅する怪異も珍しくないしのう。
  じゃから、儂らの出る幕は閉じた。あとはもう儂らだけ帰るぞ!」


 蜘蛛?何の話だよ。
だからそんな妄想世界の話に引き込むなよ。勘弁してくれ。


阿良々木「そうか……。うん。それなら尚更。僕に出来ることはなさそうだ。
     分かった。帰るよ……」


 諦めてくれたか……。というよりは。シラけた、という言葉が似合いそうだ。
引かれた。と言ってもいい。
目の前の先輩は正義の正論だ。


 でも、ただそれだけなんだよ。


 善意であっても、全能じゃない。
俺を助けてくれるんなら、神様にでもなってくれよ。蛇にも何にでもお願いしてさ。


比企谷「分かってくれてどうも。
    それじゃ……。さよならっす」



阿良々木「ああ、またな」




 そしておもむろに。
金髪幼女を肩車して、阿良々木先輩は崖をロッククライミングし始めた。
まじかよこの人。某B級映画の緑巨人かよお前。
まるでそんな構図だ。

 多分あの人と喧嘩したら勝てねーんだろうな。戸塚にさえ負けそうな俺だもの。
そもそも誰かに勝つこと自体が難しい話だけど。

 まあ、だからこそ戦場ヶ原先輩と付き合えているのか。ふむふむ。
と、俺は妙に納得してしまった次第である。

阿良々木「あ、そうだ。比企谷」


 そして身長ほど登った所で、先輩は不意に俺に話しかけて来た


比企谷「まだ何か?」


阿良々木「お前は僕に助けるなと言った。でも。
     結果的に。たまたま、不可抗力で助かってしまったことに、文句はないよな?」


比企谷「はぁ?何すかそれ。屁理屈で助けられても納得しないっすよ?」


阿良々木「屁理屈じゃないさ。
     ただ、カッコつける手前、偶発的にそうなった時に対しての正誤判定が欲しかったんだ」


比企谷「まあ、それなら俺も文句は言えないっすね。
    落し物を、偶然交番に届けてくれた人に対して、ふざけんなと思う程のひねくれ者じゃあねえっすから」


阿良々木「そうか。それだけ聞けて良かった。じゃあ、またな」


比企谷「ええ、さよならっす」


 それを最後に、先輩は上まで登りきってどこかへ消えてしまった。
いや、どこかへ。とか言ってみたけど、家に決まってた。言い換える。
先輩は、家に帰った。多分。

比企谷「そろそろ動けるかな……」


 あれから数十分……くらいか?
いや、携帯が切れてるから時間分かんねーけど……。
とにかく、俺の足は歩ける程度には回復した。うん、これならいける。


 しかも時間的に見てもまだ余裕はある。日の入りからそんなに経ってない。
終電が無いという最悪の事態は回避されそうだ。千葉を舐めちゃいけない。


比企谷「さて……と、適当に歩けば道に出るだろ」


 1人で居るのが長いと、不思議と独り言も多くなるんだな。
俺は思考の端々を声に出しながら、ゆっくりと立ち上がる。


 で。ここからだ。不意にだ。いや、本当に不意。
不意に目に入ったんだよ。何がって、崖っすよ。崖。
ダイビングした崖。


 確かにまあ石で出来てたりコンクリートじゃあない。土の崖。
でも。それでもこれはヤバいんじゃないんですか?


 俺がダイビングした崖。阿良々木先輩が滑り落ちて来た崖。
そして、阿良々木先輩が登った崖だ。



 なんとまあ、足場がくっきりと、階段みたいに残っていやがる。
どんな脚力と握力があればこんな掘れるんだよ。匠かよ、劇的ビフォーアフターかよ。
こりゃあもう既に、イージーモードロッククライミング……。むしろセーフティモード?ヘブンモード?


 俺は道を探す手間無く、そこを登ればいいだけだった。
ああ。成程な。



 そりゃ確かにそうだわ。



比企谷「これは助けたうちに入らねーってか。そう言いたかったのかよ」


 確かにこりゃ助けられたなんて言えないっすわ。
阿良々木先輩自身が、帰るために登ったわけだから。そこを俺が利用しようと不可抗力だよな。
こんな捻くれた意見の奴に、こうも捻くれた善意を見せるとは。


 一本取られたぜ……。なんつって……。




比企谷「はあ。さてと、帰るか……。小町が待ってるし……」


 逆に言えば、小町しか待ってねーけどさ。






俺ガイルSide 第11話
『それでも彼の言い訳は間違っているし、
          彼の善意は間違っていない』
―完―

>>1です。

残り2話+エピローグで終わりの予定です。
土曜日中には12話あげます。多分。出来れば。

乙!落ちさえしなけりゃいくらでも待てる


1のペースで書いてくれればいいからな

>>224
>>226
ありがとうございます。
でも、整合性を取るために最後まで書いて。もう完成したんで。
急いで書いたわけじゃないので安心してください……。

 それじゃ今から次話あげます。

物語Side 第拾貳話
『こよみボランティアその参』

01

山を下った場所には丁度。巡回バスのバス停があった。
そこに、また丁度のタイミングで、総武高校行きのバスが到着した。
だから僕は、僕と忍はそのバスに乗り込んだ。

 つまり僕は今、バスで帰路についている最中である。


忍「なんともまあ、あっさりじゃのう」


 忍野忍。彼女は、既に僕の影に帰宅済みである。
いや、僕の影の中が忍の家かどうか定かではないが。
それでもまあ、就寝場所を家と言うのであれば、忍の家だ。

 僕がバスに揺られる中、忍は影の中から僕に話しかける。


阿良々木「比企谷の事か?」


忍「それ以外に何があるんじゃ?お前様の事じゃ。
無理やり引っ張ってでも助けるんじゃと思ったが……。
  まあ、あの根暗小僧なんか、あのままのたれ死んでも構わんがのう」


阿良々木「言い過ぎだぞ、忍。
     まあ、それでも僕も実際。比企谷があそこまでだとは思ってなかった」


 そう。実際の所、僕も意外ではあった。
あそこまで常軌を逸脱……。と言えば言い方が悪いが。
普通とは違う考え方の人間を、僕は初めて見たからだ。


忍「じゃから呆れて、ああもあっさり身を引いたのか?」


阿良々木「いや、それは違うよ忍。
     僕は確かにあっさり身を引いたけど。それは呆れたからではないよ」


 そう、別に僕は呆れたとか、引いてしまっただとか。
そう言う理由で身を引いたわけじゃあなかった。

忍「言い訳か?」


阿良々木「弁解だよ。忍が勘違いしているんならな」


忍「なんじゃ?いってみい」


阿良々木「まあ、弁解と言っても、さして大義名分や大言壮語を吐くわけじゃないけどな。
     ただ、あの場所で僕のすることはなかっただけだ」


忍「ほう……」


阿良々木「もしも。比企谷に孤独蜘蛛が取り付いていたら。
     僕は助けた。アイツが嫌がろうが。
     でも、もう孤独蜘蛛はいなかったんだろ?それなら話は別だ。
     別に、僕は忍野の真似事をしているつもりはないんだけど……」


 と、僕はポロリと忍野の名前を口にした。
まあ。ポロリ、と擬音が入るほど僕は不意ではなかったのだけど。


 忍野メメ。アイツは、怪異については博識で、鮮明で、聡明だ。
忍野のおかげで、僕の友人は。戦場ヶ原は、八九寺は、神原は、千石は、羽川は助かった。
更に言えば、いや。まず言えば、そもそも僕はアイツに助けられた。

 それだから。だから多少なりとも、怪異と関係を持つ僕は。
怪異に絡んだ少年。比企谷を助けたいと思ったのだ。


阿良々木「でも、そうじゃないから僕は。怪異としての問題はなかったのだから。
     改めて、ただ1人の人間としてアイツに向き合った。
     そうした上で、僕はただ。他人が嫌がる事をしたくなかっただけだ。
     アイツが、比企谷が望まないのなら。僕は1人の男として、それに手は差し伸べられなかった」


 と、カッコよく言ってしまうが、結局は諦めてしまったという事は否定しきれない。
呆れはなくとも、諦めはあったのかもしれない。
いや、それでも僕は、このまましっぽを巻くつもりもなければ、背中を見せようとも思ってはいないのだが。

忍「他人が嫌がることはしたくない……か。
  よく言うわ。お前様、それ迷子っこの前で同じ事言えんのか?」


阿良々木「ん?何を言うんだ?別に言えるぞ?
     八九寺の前だと僕まで噛み易くなる。なんて特殊能力はないしな」


忍「いや、発音できるのか?という質問じゃなくてじゃのう……。
  迷子っこの嫌がる事をしておらんのか?と聞いたつもりなんじゃが」


阿良々木「おいおい。身に覚えのない濡れ衣はやめてくれよ。
     比企谷もそうだったが、まるで僕が八九寺に罪になる行為をしているようじゃないか。
     僕は八九寺を苛めた事はないぞ。愛でる事はあってもだ」


忍「そうかいそうかい……。まあよいわ」


阿良々木「何を言っているんだ?
     僕は冤罪だ。潔白だ。無罪放免だ。免罪だよ」


忍「免罪て……。
  罪を許してもらっとるじゃないか。
  人によっては、対象によっては罪になる行為だと。認めとるぞ?お前様」


阿良々木「いや、そりゃあでも。
     友達と手を繋いでも問題ないけど。見知らぬ人の手をいきなり握ったら問題だろ?
     そういう次元の話ならば、八九寺と友達じゃあなかったら罪に問われるのかもな」


忍「手を繋ぐ…。とは、例えにしても控えめ過ぎる気がするがのう。
  まあ、お前様は、妹達との、異常なスキンシップを正常と。普通、と表現するほどじゃから。
  今更、儂が疑問に思うほうがおかしいのかもしれんのう」


阿良々木「ああ、分かってくれたらいいんだ」


忍「はあ、それにしてもこりゃあ、重傷じゃのう……。
  いや、寧ろこれがお前様の正常なのかのう」

阿良々木「所で、孤独蜘蛛についてだけど」


忍「なんじゃ?」


阿良々木「結局。僕は孤独蜘蛛に遭う事もなく、忍も食べる必要なく。
     今回は解決したと思っていいのか?」


忍「いいのか?と言われれば。そこに対して素直に頷けん……。
  じゃが、おらんのはおらんかった。儂が存在を測れん怪異でもなかろうし……。
  じゃから、そもそもあの根暗小僧の捻くれた性格が招いた。
  起こるべくして起きた現実的な災難。と、言えなくもないからのう」


阿良々木「成程な。忍野も言うように、怪異に関わるものはそれ相応の理由がある。
     って。いう感じなのかな」


忍「かもしれんし、そうじゃないかもしれん。
  じゃから儂が断定できる事は、今はもう比企谷に孤独蜘蛛は付いておらんと言う事だけじゃ」


阿良々木「解法が何であれ、糸口が何であれ、道のりが何であれ。
     結果的にそれならば。いいんだが」


忍「まあ結果という部分だけを見れば。
  それはお前様の言う「良かった結果」になるじゃろうよ」


阿良々木「そうか……」


 そんな感じで、忍との会話を嗜んでいると。
見知った名前の停留所に到着する。


『次は 総武高校前 です』


 と、電光掲示板で右から左に文字が流れる。
それを視認して、目視してから僕は、150円を払ってバスを降りた。
見知った、馴染んだ僕の高校に、降りる。

02


忍「さて、じゃあ行くかの。待っておるんじゃろう?
  ツンデレ娘と元委員長と、団子娘と冷血娘が」


阿良々木「団子娘?冷血娘?
     ああ、由比ヶ浜と雪ノ下の事か……」


忍「なんじゃ?間違うてはおらんじゃろ?」


阿良々木「いや、それでも。そうだとしても既に1つ間違えているぞ?
     羽川は今でも委員長だ!そもそも。世界観的にはまだ髪切ってないぞ!?」


忍「世界観とか言うんじゃないわい!
  それなら尚更、儂とうぬがこうも喋っとる事の方がおかしいじゃろうに!」


阿良々木「いや……。えっと。
     ああ、そこらへん結構あやふやにしてるんだから突き詰めないでくれ」


忍「はあ? 誰があやふやにしとるんじゃ?」


阿良々木「僕じゃない。とだけ言っておくよ」

03


 とまあ、そんな具合で。
僕と忍は、高校前で待っている4人と合流出来た。


由比ヶ浜「あっ!先輩帰って来たー!」


羽川「阿良々木君。おかえりなさい。
   どうだったのかな?」


阿良々木「無事助け出せた……。という結末じゃあないのは見て分かるか?」


羽川「うん。そうみたいだね。でも多分、比企谷君には会えたんでしょ?」


阿良々木「何故それを!?エスパーか?」


羽川「いやいや、簡単なロジックだよ。
   阿良々木君が素直に私たちの前に1人で帰って来たって事は。
   つまりは何か、説明か言い訳か、はたまた愚痴でも言うつもりでしょ?
   そもそも、見つからなかったら多分、ここには帰ってきてないでしょうし」


阿良々木「成程な。いや、それも本当に、羽川。お前には恐れいるよ。
     お前は何でも知っているんだな」


羽川「何でもは知らないわよ。知ってる事だけ」


 つまりは様式美だ。


阿良々木「まあ、結局のところそうなんだ。
     比企谷には会えたけど、一緒には帰っていない」


雪ノ下「それは……。憶測なのだけれど……。
    いや、それでも有り得る分考えたくもない思考なのだけれど……」


 そう言って、言い淀む雪ノ下の考えは。多分正しい。
比企谷を知る彼女は、あの時。見捨てるという選択肢を選んだ彼女なら、比企谷の行動を予測できるはずなのだ。

 だからこそ、彼女の思考は、概ね正しいと思えた。

由比ヶ浜「ヒッキーは!?ヒッキーは無事なんですか!?」


雪ノ下「落ち着いて由比ヶ浜さん。
    羽川先輩も言った通り、阿良々木先輩が帰って来たのだから。無事のはずよ。
    ましてこの先輩が、あれほど豪語しておいても尚。
    見つからず諦めて遁走する、軟弱者であるなら話は別なのだけどね?」


由比ヶ浜「ゆきのん……。先輩に対してその言い方は……」


雪ノ下「あら?勘違いしないで頂戴。
    私はそうじゃないとおもっているからこそよ?
    そうだとしたら先輩の評価は比企谷君並みに落ちてしまうのだけれど……。
    と、先手を打っただけよ」


阿良々木「それはちが……」

戦場ヶ原「あら雪ノ下さん。阿良々木君を、あまり馬鹿にしないでもらえるかしら?」


 僕の言葉は。戦場ヶ原の言葉に遮られてしまった。
おいおい戦場ヶ原。ここで女子のトークバトルを始められても困るのだが……。
いや、しかしでも。

 戦場ヶ原が僕に対する口撃を庇ってくれた事は。
多少なりとも意外で、やはり嬉しいものがあったのは否めない。


戦場ヶ原「阿良々木君はね?そういう発言をされると興奮してしまう質なのよ。
     だからあまり言い続けちゃうと、段々と息が荒くなっていくわよ?」


 否。嬉しくはなかった。


阿良々木「なってたまるか!どうして僕に変なキャラ付けを押しつけるんだ!
     僕はMじゃないし、嬲られるのも焦らされるのも嫌いだ!」


戦場ヶ原「へえー。あーそうなんだ。
     あれもこれもそれもどれも。お願いしてきたのは誰だったかしらね?」


阿良々木「あれもこれもそれもどれなんだ!?いつ何をお願いしたんだよ!僕が!」


戦場ヶ原「まさか……。私に言わせる気?皆の前で……。
     あのお願いの数々を、ここで暴露しろと。そう言っているつもりなのかしら?」


阿良々木「何!?」


由比ヶ浜「高校3年生って……。なんか凄い……。大人の世界だ……」


雪ノ下「違うわよ由比ヶ浜さん。あの先輩はただ不潔で、破廉恥で、どうしようもないだけよ」


羽川「あはは……。
   立つ瀬もなければ、取り付く島もないって感じだね。阿良々木君」


阿良々木「おい!納得するな雪ノ下!
     引き笑いするな羽川!
     頬を赤らめるな由比ヶ浜!
     そして!
     ニヤけながらドヤ顔で首を傾げるな!戦場ヶ原ぁ!!」

04

阿良々木「とまあ、そういう経緯と結末だ」


 それから僕は、4人の女子に包囲される状況を、なんとか打破して。
簡単に、簡潔に。且つ明白に語った。
比企谷が足を挫いていた事と、1人で帰るという思いの旨を。


阿良々木「だから僕は、一度ここに戻って来たというわけだ」


 4人の顔は綺麗に分断されていた。
雪ノ下と由比ヶ浜は、やはりと言わんばかりにため息交じりに肩を落とし。
戦場ヶ原と羽川は、理解が追いつかないと言うかの如く、一歩後ろにたじろいだ。


雪ノ下「彼らしい。と言えば聞こえは言いですが……。
    やはりそんな事を」


由比ヶ浜「何でヒッキーいつもそうなんだろう……」


羽川「うーん。
   でもさ、それはそれでいいんじゃないかな」


戦場ヶ原「あら。何が良いのかしら。
     残念だけど、今の話だけでは、比企谷君の良い部分を、私は見つけられないのだけれど」


羽川「うーん。比企谷君の良い所。というよりも。
   彼が無事で帰ってこられるのなら。良かったねと言う話かな。
   何よりも私たちが危惧していたのは比企谷君の安否なわけだし」


阿良々木「まあ、羽川の言うとおりだ。
     僕が助ける隙もなく。比企谷は助かった……。と言うわけだ。
     まあ、そもそもアイツは家に帰っていると言ったわけだしな」


雪ノ下「狼少年の嘘も、真実になったように。
    彼の嘘もまた。真実にする……というわけでしょうか」


阿良々木「いや、そういうわけじゃない。
     別に、今僕が言った事を。比企谷には言わないでくれと言うつもりはない。
     寧ろ、今から僕がしたいのは、その逆だよ」


由比ヶ浜「逆?」


 そう、僕は。しっぽを巻くつもりも、背中を見せるつもりもない。
比企谷には腹を見せて、顔を見せるつもりだ。真正面で向き合うつもりだ。


 比企谷は言った。
別の理由でした行為を、たまたま助かったからと言って否定はしないと言った。
確かにあいつはそう答えてくれた。

だから、それだから僕は、彼を助けるのではなく。他の方法を取ることにしたのだ。

阿良々木「それじゃあ行こう。
     電車に乗れば、まだ間に合うからさ」


由比ヶ浜「へ? どこにいくんですか?」


雪ノ下「成程……」


 比企谷に間違っていると言われようとも。否定されようとも。
なにもおかしい事はない。


羽川「そうだね……。
   彼はバスではなく、電車を使って帰るんだろうから、まだ間に合いそうだね」


戦場ヶ原「あら、そういう話なの?横断幕とか準備しなくて平気かしら」


雪ノ下「高校選抜の野球部員の元へ行くわけではないのですから。
    そんな感動を生む物は不必要だと思いますが……」


戦場ヶ原「あら、感動は生まれないのかしら?」


雪ノ下「少なくとも私には……」


戦場ヶ原「素直じゃないのね」


羽川「貴方に言われるんだ。その台詞……」


 そう。別に助けに行くわけじゃあない。救助も救出も施しもしない。
ただ僕は。
彼を。比企谷を。



 友達を迎えに行くだけなのだから。



物語Side 第拾貳話
『こよみボランティアその参』
―完―

>>1です

 最終話とエピローグは同時にあげます。
遅くとも週末には……。

 そこで完結です。
ではでは。

追いついたと思ったらもうすぐ終わるのか……

キャラに一切不自然さが無いSSだった
ところでなんで八幡には八九寺が見えたんだっけ?

>>242

 単純にぶっちゃければ、掛合いが書きたかったというのが本心です。
それでも一応考えていた理由とすれば。

 人生そのものが、迷っているような比企谷だから会えた。
他には、八九寺の方から歩み寄ったからこそ見えた。

 等々。作中ではそこについて言及はしていません。あくまでも裏設定です。

 八九寺の最後の発言においては。
迷っている。という事実は、少なからず良いものではないので気をつけてね。という暗示でした。

>>1です
今日中に最終話を投下します

俺ガイルSide 第13話
『そして彼と彼らは再会する』


 俺はその後。
阿良々木先輩お手製の梯子のおかげで、難なくウォーキングコースに戻れた。
そっからはずっと一本道だ、多分。

 ひとまずは、昼にヒバッチャーの阿良々木先輩と通った道を戻って山を下る。
ウォーキングコースをさかのぼって、朝にバスを降りた場所に着いたら、今度は道路を下ればいいだけだ。
ここで迷うような方向音痴じゃあない。
 別に2年後の再開で片目が無くなった3刀流剣士でもなければ、仲間内で唯一20代のアイドルでもない。
ましてや水をかければ子ブタになる格闘家でもないのである。


 そんな俺は、それから何の障害もなく、町まで下って来れた。
やれば出来る子、比企谷八幡。



比企谷「バスはもう出てねーか……。
    はあ……。千葉を舐めるなとは思ったけど。流石に24時間バスなんて東京すらねーよな」


 ちなみに夜行バスは別。いや、まあ。あれだって24時間じゃねーし。
しかしながらバスが駄目となると、ここからまた歩いて駅まで行かなくてはいけない。
残金660円の財力では、タクシーなんて文明の利器のお世話になる事は出来ない。
はあ……。足はまだ完治したわけじゃねーんだけどな……。
迷わない事と疲れない事は全くの別問題だ。俺は既に体力ゲージが赤点滅。
純粋に嫌だ。もう動きたくない。

 それでも俺は駅まで歩く。俺は立ち止まらず歩き続ける。
なんてったって俺はやれば出来る子だ。
まあ、そうしないと本当に餓死する勢いだから歩かざるを得ない状況なだけだけど……。

 だから自己暗示ばりにそう言い聞かせる。


……。
はあ……。この道のり、俺は絶対に許さない。
千葉ふざけんなよ。マジふざけんな。
高低差作りすぎだ。平地にしとけよ。しんどすぎるじゃねーか……。

 某巨人のドシンさん見習え。あの黄色いデカイの。
アイツは変なビームで山も平地にするプロだ。
別の民族を勝手に一緒の集落に拉致するヤツでもあるんだけど……。

 久しぶりに息を切らした。
こんなの一昨日、遅刻寸前でチャリで全力疾走した以来。
ん?一昨日?……意外と最近だった。


比企谷「うへぇ……。やっと……着いた……」


 気付いた時には、もう辺りは夜。
電灯も少ない場所だし、結構な暗さの中、駅だけが強く光っていた。
ありがとう電気。おかげで迷わず駅についたよ。文明の利器、素晴らしい。


 後は切符を買って帰るだけ……。


 その時である。
端的に言えば……居たんだ。そこに彼らは居た。

いや、見つけたからと言って、俺の予定に変化はないんだけどね?
見覚えのある人が5人も集まって駅前で立っていたら気にはなる。


 阿良々木先輩御一行だ。別になんかのツアーじゃないけど。

阿良々木「やあ、比企谷」


 そして俺は、その五人組に見つかった。
いや、別に隣保制度は敷かれてねーけど……。江戸時代かっつの。


比企谷「何してんすか?」


 俺だって気になるわけで。
話しかけられたら返答ついでに疑問を投げかけようと思うわけで。
いや、本当に何?
なんで勢ぞろいで、更に総勢10個の瞳でこっちみんの?新手の苛め?視姦プレイか?
料金発生するんじゃねーのコレ……。440円で足りますか?


阿良々木「何って。聞かれるまでもなく、友達を迎えに来たんだが?」


比企谷「あ、そうっすか。んじゃまた、お疲れっす」


 そうか。まあ、大体そんな感じだと思ってたし。
駅前で待機なんて、待ち合わせか雨宿りか家が無いかの3択くらいだもん。
まあまあ、それなら俺は退散しよう。居ても邪魔になるだけ。
予定は変わりなく、小町の夕ご飯に向けて全速前進。


由比ヶ浜「えええっ!?何でヒッキー!待ってよ!」


 おいおい。けたたましいなお前は……。忙しいなあ由比ヶ浜。
ドリフか新喜劇かよ。そんなお笑いみたいなリアクション取っちゃうなっての。
公衆の面前で恥ずかしくねーのか?ホラ、めっちゃ見られてんじゃん。

 まあ、でも。由比ヶ浜の全力のリアクションに、心優しい俺は今一度疑問を投げかけよう。
スルーされるのが辛いのは俺が一番よく知っているんだから。
スルーはやめてあげよう、うん。俺って超絶優しい。


比企谷「なんで?」


由比ヶ浜「なんでって……」


比企谷「いや、友達待ってんだろ?んじゃあ俺が待つ意味ねーじゃん。
    その待ち人は俺の友達じゃねーんだから」


 共通の知り合いなんていねーしな。
いや、もしも戸塚とか待ってるんなら寧ろ俺は最前線に立って出迎えるけど。


雪ノ下「はあ……」


戦場ヶ原「いえ、まあ。確かに比企谷君の友達ではないわよね。
     奇特な趣味や性格じゃあ無い限り」


羽川「ややこしくなる事言わないで……。戦場ヶ原さん」


比企谷「でしょう?だから俺は先に帰りますよ」

 そういえば。そもそも……。
いや、まあ今ここで言及されないってことは、バレたんだろうな。
雪ノ下たちについた嘘。本来帰ってるはずのやつがこの駅に居るんだもん。
嘘だと分かるに決まっているはずだ。

 それなのにここで、そこについて触れられないのは。
もう知っているか、そもそも興味が無いかの2択。
どっちにしろどうってわけじゃねーし。

 友達じゃないんだし他人に興味持たれなくても嫌われても関係はない。
まあ、阿良々木先輩が全部告発したんだろう。告発ってほど重々しさは皆無だけどさ。



 まあ。でもだぞ?逆に考えればさ……。
俺が先に帰ったから。そんな嘘をついたからこそ。
だからこそ、その現在進行形で発生中のお迎えイベントが出来てるんじゃねーのか?。

 俺を呼ぶか、それともやんわり断るか…。なんていう問答が不必要になったんだろうから。
結果オーライと言えなくもない。いや、寧ろ言い切れるんじゃね?
だとしたら感謝されてもいいくらいじゃね?俺。
ん?いや、でもそれって俺の存在そのものが邪魔ってことだよな?
うん…。ホっとするくらいで勘弁してもらおうかな……。


阿良々木「うーん。じゃあ、言い方を変えよう。
     僕達はな比企谷。お前を、比企谷を迎えに来たんだ」


比企谷「はぁ!?」


 え?なんていったんです?

 俺を?そりゃまたなんでだよ……。
やめろよ。そんな突拍子もない事言うから、俺まで新喜劇的にリアクションしてしまったじゃねーか。
ホラ、皆がこっち見てんじゃんよ……。

え?なんだよそれ。今日ってエイプリルフールだっけ?それとも罰ゲーム?


阿良々木「お前の帰りを、僕たちはここで待っていたんだよ」


 だからなんでだよ、『帰った』って言ったじゃねーかよ。
いや、まあ帰ってなかったんだけどさ。それは隠された真実的なヤツで。そもそもアレで。
俺の帰りを待つ意味も筋合いも理由も、何も思いつかねーんだけど……。


由比ヶ浜「うん!ヒッキー、一緒に帰ろう?」


比企谷「お……おう」


 おい由比ヶ浜。ビッチスキル発動すんな。速攻トラップかお前。
その台詞を、高校生男子に軽々しく口にするな。
勘違いしちまうケースが後をたたねーんだから。


比企谷「俺を待ってたんですか?何で?俺を?」


阿良々木「理由はないさ」


 知ってるよ。だから聞いたんだよ……。
理由なんて見つからねーよ。お探しのページは404NotFoundだよ。



比企谷「尚更っすよ。なんでですか?」


阿良々木「いや。だからさ。
     友達を迎えに来た事に。理由なんてないだろう?」


比企谷「はあ? 友達って、もしかして俺の事っすか?」


阿良々木「ん?ああ、そのつもりの発言だ」


比企谷「はあ……」


 おいおいおいおい。マジで言ってんのか?
なんだよこの人……。なんだよこの先輩……。

 ガチ?マジ?
ドッキリプレートあるんならそろそろ見せてもらわないと立ち直れねーよ?



 いや、でも多分……本当なんだろう。
本当に。本当の本当に。マジでリアルにガチにモノホンに。
良い人なんだ。良い奴なんだろう……。

 俺はそう思う。
比企谷八幡は、そう思う次第でございます……。まる。

比企谷「でも雪ノ下。いや、由比ヶ浜はまだ分かるけど。
    雪ノ下、お前が俺を迎えに来るなんてな。病気か?」


雪ノ下「あら、この私がわざわざ出向いているのよ?感謝はされても罵倒される筋合いはないのだけれど。
    それに勘違いしないで。
    総意で、多数決であろうが決まった事実に。集団行動の最中なわけなのだし。
    それに反する行動はとれないだけよ。
    あなたは今日の活動の班員なわけなのだし。班単位での行動は順守すべきでしょう?
    だから別に個人的感情が含まれる事はないの。期待させてしまったのなら謝るわ」


 チッ……。コイツにちょっとでも人間味があることを期待したのが。
俺はそもそも間違いだった。


比企谷「よくもまあ舌と頭が回るなお前。逆に尊敬レベルだよそれ。
    まあ、大体言う事は分かってた気もするけどな……。
    だってよ、だからこそ。お前がいたからこそ。
    俺は『俺を迎えに来た』なんて事が。思い付かなかったんだよ」




阿良々木「まあ、そういう事だ。
     だから比企谷。それならば、これならば。この迎えは。
     今こうやって差し出す手は慈悲でも救助でも何でもないわけだ。
     さっき言っていたように。これなら。これだったらこの手は。
     拒否しないでくれるだろう?」


 そういって阿良々木先輩は手を差し出した。アメリカ人かよ。
その手を受け取った瞬間、ハグまで付いてくる勢いだ。


比企谷「ま……まあ、そっすね。
    これを拒否するのは、人間としてどうかとも思いますし」


雪ノ下「あら。比企谷君が人間を語るのには、既に遅すぎだと思うのだけれど」


比企谷「うるせーよ、ほっとけ。
    あ、でも。男と手を繋いで帰る趣味はないんで、その手は受け取らないっすけど」


阿良々木「ああ、分かったよ……。
     全く。素直じゃないな」



比企谷「いや、その気がないんです」


羽川「素っ気もないよね」


戦場ヶ原「玄人とも言い難いと思うのだけれどね」


 言葉で遊ぶな。
ほっとけっての……。

 でもまあ。
最後に手は取りませんとか言ってみたものの。変な悪あがきしてみたものの。
それでも俺の感情は、俺自身に嘘はつけない。
嘘付きも自分は騙せねーみたいだ。



 正直に、正直いうとすればだけどさ……。
まあ、嬉しかったんだよ。
この善人は、正義のヒーロー、アララギン仮面は、良い人だ。


 いやいや、勘違いしちまうってば……。本当に。
もしかしたら俺。この人と友達なんじゃねーのかって。マジで勘違っちゃうってば。
でも俺は、それでも俺は。そう思う事はしたくない。
裏切られる事があるんなら、信じないことが一番だから。


 いや、でも……。だけど。それでも。だとしても。しかしながら。However……。
否定系の言葉を並べるだけ並べて心に武装してから思う。



 今だけはそれもさ……。そんな事を信じることも。許してはくんねえかな?
なあ、神様さん……。

阿良々木「それじゃあ、帰ろう。比企谷。僕達の町へ」


比企谷「まるで異世界での冒険の末、帰宅する勇者御一行っすね。その台詞」


阿良々木「だとしたら、比企谷。お前が勇者なのか?」


比企谷「いや、俺は序盤めっちゃ強い敵キャラで、倒して仲間になったのに。
    ラスボス戦では解説するくらいしかする事が無いようなキャラっすね」


阿良々木「ヤムチャか?」


比企谷「寧ろクロコダイン?」


阿良々木「それだと勇者はこの世にいないな。ってことは僕はポップか」


比企谷「お似合いじゃないっすか」


阿良々木「褒めているのか?」


比企谷「アタリマエジャナイッスカ」


阿良々木「カタコトにすると、驚くほど否定意見に聞こえるな……。
     まあ、帰ろうじゃないか」


比企谷「言われなくとも、お腹がすいたので帰りますけどね……」


 6人で電車に乗る、まるで集団下校と言わんばかりの仲良し帰宅。
別に好きでボッチなわけじゃねーから。嬉しくないってのは嘘になる。

比企谷「まあ……。こんなのも。悪くねーわな……」


 電車に乗って、酷使し続けた足に休息のひと時を与えながら天井を仰ぐ。
リア充ってこんな毎日なんだろうな……。俺には体験入学くらいでちょうどいいけど。
それでもまあ、独り言に呟くレベルで、悪くはない。


由比ヶ浜「ん?何何?ヒッキー」


比企谷「うおおっ!なんだよ由比ヶ浜。
    聞いてんじゃねーよ、趣味悪ぃな……」


由比ヶ浜「別に盗み聞きしてたわけじゃないし!」



 まあね。でもやっぱり。それでもやはり。
俺の青春は。これが日常じゃない。
これは紛れもない非日常。

 化物が出てきたりとか、そんな事はない現実的な世界のままだけど……。
今日は日常じゃあねーんだ。



 だから皆で。こうやって仲良くボランティア活動が終わって帰宅するのは。
違う。



やはり、俺にとって。
こんな物語は。こんな青春ラブコメは。




 間違っている……。


俺ガイルSide 第13話
『そして彼と彼らは再会する』
―完―

終章
『やはり阿良々木暦のボランティア活動は間違っている』


後日談、というか。今回のオチ。

 あれから比企谷の生活。というより身の回りを取り巻く環境が変わったかと言うと。
端的に言えばそれは違った。

 寧ろ、何も変化はなかった。不変だ。
まるで数学の公式のように、前日までと一片も変化なく現状維持だった。


 確かに誤解は解けたのだから、由比ヶ浜達に嫌われたりなんて事はなかった。
でも、だからといってあれから。
別段、それを責めるわけでもなく、責められるわけでもなく。
逆に、それを評価するわけでも評価されるわけでもなかったようだ。


 つまり結局。比企谷は、いつもと変わらない日常を送り続けている。



忍「ふむ。じゃが、良かったのか?お前様よ」


阿良々木「何がだ?」


 登校中の朝の、駄菓子屋の前。
忍野忍。彼女は、僕の横でアイスキャンディーを頬張りながら。
麦わら帽子で、申し訳程度の避暑をしながら話しかける。


忍「あの根暗小僧を助けて。お前様に一体何の得があった?」


阿良々木「違うよ。そもそもが違うんだ忍。僕は助けてなんかいない。
     いや、まあでも。もしも助かったんなら。そうだとすれば。
     それは比企谷が、アイツが勝手に助かっただけだ」


忍「アロハ小僧の受け売りか?」


阿良々木「かもな。でも、だとしても僕は間違ったことはしていないつもりだ。
     損得とか、利害とか。そういうの以前にな」


忍「確かに正解と言えずともじゃ。
  まあ、間違いではなかったかも知れんのう」


 爽やかな朝。
アイスキャンディーを食べ終わった忍は、欠伸をしながら影に戻っていく。
ドーナツは忙しくて当分難しいから、学校への通学路途中の駄菓子屋のアイスで勘弁してもらったのだ。
多少不満げながら、それで納得してくれた。


阿良々木「さてと、遅刻する前に行かなくちゃあな……。今日は日直だし」


 駄菓子屋を後に、僕は学校へと向かう。

 ああ、それと。もう一つだけ後日談。
オチとして、僕の話も少しだけさせてもらおう。
あの日以来。僕の方はたった一つ。唯一だが、状況に変化がある。



阿良々木「……ん?あれは……」


 知った後ろ姿が目に入る。
僕はその後ろ姿の肩を、優しく叩いて声をかける。


阿良々木「おはよう、比企谷」


 確か彼には、挨拶するなと言われた気もしたが。
ここは通学路だし、それにもう挨拶してしまったし……。まあ、許して貰おう。


比企谷「うわっ……。って、先輩っすか。
    後ろからいきなり話しかけるなんて、不審者かと思いましたよ」


 目の腐った、全てを斜めに見てしまうようなヤツ。


阿良々木「なんで挨拶を不審者と取り違えるんだ。
     お前はそんなに『おはよう』を使わないのか?」


比企谷「そうっすね、挨拶は基本。『いってきます』と『ただいま』しかいわねーっすね」


阿良々木「食事は無言で初めて無言で終わるのか……」


比企谷「独り言をぶつぶつ言ってるやつになりかねないっすからね」


阿良々木「1人で食べる事は前提なんだな」


 比企谷八幡。他ならぬ、彼の名前だ。


比企谷「で?何の話でしたっけ?」


阿良々木「ん?ああ、いや。別に用があったわけじゃなく、そこに居たから挨拶しただけだ」


比企谷「そっすか」


 素っ気なくも、ぶっきらぼうでも冷たくても。
どこか嫌な顔は見せないような、そんな奴。そんな彼。
いつもと変わらない、比企谷八幡だった。

 そして僕は、肩を並べて歩き出す。
僕は。僕と比企谷の2人は、平行に立って歩きだす。


 そう、僕の状況で1つ変わった事。それは……。


阿良々木「それにしても、挨拶ってアレだな……」


比企谷「どれすか」


阿良々木「いや、ホラ。人と人とが…………」


 いつものように会話をする相手。
その相手が、僕には1人、増えたのだ。 
そう、それはつまり……。端的に言うとすれば。


比企谷「……。そんな細かいこと気にするんですか?
    良い事教えましょうか?
    疑問は廃棄処分。これが社会を生き抜くための知恵っす」


阿良々木「まさかお前に、生き方を解かれるとはな……」


 僕には友達が1人増えた。
彼が、比企谷八幡が、僕にとっての友達になったのだ。

 彼にとっては変化のない事柄だとしても。
僕は大切にしたいと思える存在になったのだ。


比企谷「あ、学校着いた」



阿良々木「ああ。じゃあ僕は日直だから急ぐよ。
     それじゃあ、またな!」


比企谷「うぃっす。また今度……」




 比企谷八幡。彼は、僕の。阿良々木暦の。

大切な、とても大事な。友達だ。




【俺ガイル】やはり阿良々木暦のボランティア活動はまちがっている【化物語】

―完―

>>1です。

 気付けば4カ月と、長い間停滞していて申し訳ありません。

 これで今回のクロスSSは完結です。 


 拙い文章でしたが、ここまで読んで下さった方は、ありがとうございました!

 ではでは。

>>262
次回作の予定は?



ヒッキーが怪異の存在を本格的に認めるようになっても面白そうだなと思った

>>264

 このクロスの次回作の予定は今のところないです。
自分が書く次回作と言う意味ではまだ何も考えてはいませんが。
何かしらのクロスオーバーしか書いていないので、次も多分何かのクロス物……ですかね。

>>265

 それも一案としてはあったんですけど。
俺ガイル側で怪異を取りあげると。物語Sideに寄りすぎで、クロスが曖昧になるかとも思ったんですよね。

乙乙

そういえばこれって小町の周りも詐欺の被害にあったのかな?


今まで書いたの宣伝してもええんやで

>>268

 その事とかEX話として書こうとか構想してたんですが。
月火と小町の会話が想像できなさ過ぎたのとタイミング的に見送りました。
まあでも。小町ならおまじないにお金を払うなんて…。と、スルーしてそうですけど。

>>269

 それじゃあお言葉に甘えて一作品だけ。

空条徐倫「ここがッ!765プロ……」
空条徐倫「ここがッ!765プロ……」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1380664012/)
 
 アイマス と ジョジョの奇妙な冒険 のクロスです。
これを読んで下さった方に対しては重要は少ないかもしれませんが…。同作品のクロスを書くことが少ないので…。


このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年03月21日 (金) 12:10:29   ID: _e2OGdqC

面白い!

2 :  SS好きの774さん   2014年04月17日 (木) 21:49:31   ID: 6_BWfMmE

完結おつです!

3 :  SS好きの774さん   2014年04月28日 (月) 22:12:14   ID: ou47XGcL

俺ガイルssではトップクラスで面白かった!乙です!

4 :  SS好きの774さん   2015年05月20日 (水) 21:54:14   ID: WtRe3lCV

両サイドとも違和感なく、内容も楽しめました!

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom