幼馴染「…………」クイクイ(167)

男「ん? ああ。おはよう、幼馴染」

幼馴染「おはよう、男」

男「それはいいが、せめて声をかけてくれ。無言で服の裾を引っ張られると、ちょっと驚く」

幼馴染「……ごめんなさい」シュン

男「ああいやいや、怒ってるわけじゃなくて。次から気をつけれくれればいいし、無理なら無理で別に構わないし」

幼馴染「分かった。頑張る」フンス

男「いや、別に頑張ることではない」

幼馴染「…………」シュン

男「そんなんで悲しそうにするな」ムニムニ

幼馴染「ほっへひっはははひへ(ほっぺ引っ張らないで)」

男「や、ついね、つい。にしても、最近は暖かいな。こうも暖かいと……ふああ。どうにも眠気が」

幼馴染「あくび。……寝不足?」

男「んー。なんとなくネットをぷらぷらとね」

幼馴染「テストも近いし、あんまり夜更かししたらダメだよ?」

男「そだな。お前と違ってそんな頭よくないからな、俺は。ちっとは勉強しないとなあ」

幼馴染「別に、私は頭よくないよ? 普通に授業を受けて、毎日ちょこっと復習してるだけ」

男「それができる奴を頭がいいっていうんだ」ナデナデ

幼馴染「……じゃ、私、頭いいんだ」

男「そゆこと」

幼馴染「…………」キラキラ

男「心なしか目が輝いてますね」

幼馴染「……頭がいいので」

男「なるほど」

幼馴染「じゃ、頭のいい私が、出来の悪い友人のため、勉強を教えてあげようか?」

男「あ、それはいいな。どうかこの頭の悪い子羊をお助けください」

幼馴染「ん。じゃあ、学校が終わったら私の部屋に集合。ね?」

男「了解。よろしくお願いします」

幼馴染「あ、ついでにご飯食べていく? おばさん、今日も遅いんでしょ?」

男「ん、まあ、そうなんだけど……いつもいつも世話になるのも悪いし、いいよ」

幼馴染「いいよ、気にしなくて。お父さんも男が来るの待ってるし」

男「嘘つけ。いっつもすげぇ威圧してくるじゃねえか、お前の親父さん」

幼馴染「……そかな? でも、言われてみれば、男がいる時は普段よりむーってしてるかも」

男「ほらな。あんま歓迎されてねーんだよ、俺は」

幼馴染「そんなことないよ? 男が来ない時、お父さんよく聞いてくるもん、男のこと」

男「ふーん。ま、いっか。じゃあ、今日は晩飯世話になるかな」

幼馴染「ん。……じゃ、頑張る」フンス

男「そんな気合を入れなくてもいいのに」

幼馴染「食べる人が増えると、料理人の血が騒ぐ」

男「誰が料理人だ、誰が」ムニムニ

幼馴染「ほっへひっはははひへ(ほっぺ引っ張らないで)」

──校門前──

男「着いた」

幼馴染「着いたね」

男「さて、今日も一日頑張るか」

幼馴染「……授業中に寝たらダメだよ?」

男「分かった、寝そうになってたら起こしてくれ」

幼馴染「席が離れてるから無理だよ」

男「残念だな」

幼馴染「うん」

──教室──

男「ふああ……んー。やっぱりというか当然というか、今日も授業中に寝てしまった。どうして歴史の授業というのはああも眠くなるのだろうか」

幼馴染「おはよ。お昼だよ?」

男「ああ、そだな」

幼馴染「はい、お弁当」

男「いつもサンキュな」

幼馴染「んんん。料理好きだし」

男「それでも、サンキュな」ナデナデ

幼馴染「……ん」

男「で、どこで食う?」

幼馴染「いつもの中庭でいいと思う」

男「そだな。今日は暖かいし、丁度いいな」

幼馴染「花粉がわんさか、だけど」

男「お互い花粉症じゃなくて助かったな」

幼馴染「くしゃみしてる人、いっぱいいるもんね」

男「そだな」

──中庭──

男「おお。桜がすごいな」

幼馴染「一面桜の花びらだね」

男「うちの学校の唯一といっていいアピールポイントだな」

幼馴染「そんなことないよ。他にもいいところあるよ?」

男「例えば?」

幼馴染「……授業中に寝てても叱られない?」

男「以後気をつけます」

幼馴染「じゃ、食べよっか?」

男「そだな。いただきます」

幼馴染「おあがりなさい」

男「ん、今日もうまそうだ」

幼馴染「…………」ドキドキ

男「んなじーっと見なくてもいいだろうに。どうせ今日もうまいに決まってるっての。味見したんだろ?」

幼馴染「したけど、絶対なんてことはないから。それに、もしまずくても男はおいしいって言うから。その嘘を暴くためにも、わずかな違和感も感じ取らないとダメだから」

男「どんだけ善人扱いされてんだ、俺は。まずけりゃまずいって言うぞ?」

幼馴染「はいはい」

男「コイツは……」

男「じゃ、とりあえずこの玉子焼きをば」

幼馴染「…………」ジーッ

男「あの、あまりじーっと見ないでいただけますか。緊張で箸が震える」

幼馴染「気にしないで」

男「無茶を言う。だが、幼馴染の願いだ、頑張って聞き入れよう」

幼馴染「…………」ジィーッ

男「……はぁ。あっ、あれはなんだ」ユビサシ

幼馴染「?」ユビノサキ キニナル

男「むしゃむしゃ」

幼馴染「あっ」

男「だいじょぶ。おいしい」

幼馴染「……騙された」シュン

男「やーいばーかばーか」ナデナデ

幼馴染「言動不一致」

幼馴染「反応をしっかり見たかったのに。どして見せてくれないの?」

男「あんまりじーっと見られると恥ずかしいんだよ」

幼馴染「そういうもの?」

男「そういうもの」

幼馴染「ふーん。それで、おいしい?」

男「おいしい」

幼馴染「……よかった」

男「そんな不安がることないのに。頭脳戦艦ガルなのに」

幼馴染「……がる?」

男「気にするな」

幼馴染「長年一緒にいるけど、いまだに男はよく分からないね」

男「ミステリアスで素敵だろう?」

幼馴染「……うん、今日もお弁当おいしい」

男「幼馴染のスルースキルが冴え渡る」

幼馴染「ふぅ。ごちそうさまでした」

男「今日も食い終わるの遅いな。俺より弁当箱小さいのに」

幼馴染「しょうがないよ。女の子だもん」

男「涙が出ちゃう?」

幼馴染「これは分かった。アタックナンバーワンだ」エッヘン

男「当たり」ナデナデ

幼馴染「……えへへ」

男「ふああ……あー、腹が膨れたら眠くなった」

幼馴染「授業中も寝てたのに」

男「社会の時間だけな。他の時間は起きてたぞ。偉かろう」

幼馴染「それが普通だよ。……あのね?」

男「ん?」

幼馴染「眠いならね、……膝枕、する?」

男「いいか? じゃ、頼む」

幼馴染「ん。じゃあ、ここに頭のっけて?」

男「ほい、っと」

幼馴染「ん。……どう? 硬くない?」

男「大丈夫、柔らかい」スリスリ

幼馴染「えっちだ」

男「そうなんだ」

幼馴染「えっちだえっちだ。……じゃ、チャイム鳴ったら起こすから、寝てていいよ」ナデナデ

男「分かった。んじゃ、ちょっと寝るわ。お休み、幼馴染」

幼馴染「お休み、男」ナデナデ

男「──……ん、ふあああああ……んあー」

幼馴染「あ、起きた。……おはよ?」スリスリ

男「あー。おはよ、幼馴染」

幼馴染「まだ寝ぼけてる。まだチャイム鳴ってないけど、もうちょっとしたら鳴るから、早めに目を覚ました方がいいよ?」スリスリ

男「そだな、あとで顔洗ってくるよ。ところで」

幼馴染「ん?」スリスリ

男「なんでさっきから俺の顔を両手で包み込んですりすりしてんだ」

幼馴染「……? ……ああ。目、覚めるかな、って」スリスリ

男「なるほど」

幼馴染「覚めた?」スリスリ

男「まだ」

幼馴染「寝ぼすけさんだね」スリスリ

男「そうなんだ」

男「顔を洗いーの……弁当箱も洗いーの、トツギー……いや、やめとこう。とにかく、終わり! 目も覚めた!」

男「急いで教室に戻ろう、と思ったのに。なんでまだ中庭にいる」

幼馴染「戻る、とは言ってないから」チョコン

男「なるほど」

幼馴染「あ。弁当箱洗ってくれて、ありがとう」ペコリ

男「作ってもらってるし、これくらいはな。こんなので感謝されても困る」

幼馴染「ご飯作るくらいで、感謝されても困る」

男「卑怯な」

幼馴染「だから、毎日ご飯食べに来てもいいよ?」

男「いや、流石にそれはね。気を使う」

幼馴染「気にしないでいいのに」

男「じゃ、戻るか」

幼馴染「ん」

男「ところで、次に時間なんだっけ?」

幼馴染「英語」

男「うわぁ」

幼馴染「苦手だよね、英語」

男「どうもね。なんかね。理解が及ばないね」

幼馴染「じゃ、今日の勉強会は英語にする?」

男「今から頭が痛くなってきた」

幼馴染「がんばれ、がんばれ」ナデナデ

男「頑張ります」

──教室──

男「無理でした」プシュー

幼馴染「頭から湯気出てる」

男「疲れた。よもや俺に当たろうとは。酷いもんだったよ」

幼馴染「そだね。でも、男は苦手なりに頑張った。私には分かるよ?」ナデナデ

男「ありがたい話だ。慰めてもらったことだし、今日はテスト勉強頑張るか!」

幼馴染「ん。じゃあ、私も張り切って教える」フンス

男「いや、そんな張り切らなくていいです」

幼馴染「…………」ションボリ

男「や、もうさっきの授業で俺の体力は0なんですよ」

幼馴染「ちぇ」

男「さっきのダメージが残っていたのか、気がつくと授業が終わっていた」

幼馴染「男、帰ろ?」

男「ああ、そだな」


──通学路──

幼馴染「あ、そだ。スーパーに寄ってっていい?」

男「ああ。晩飯の材料か?」

幼馴染「うん。それと、他にも色々」

男「おっけ。荷物持ちは任せろ」

幼馴染「ん。期待してる。……あ」

男「ん?」

幼馴染「ねこ」

男「へ? ……あ、本当だ」

幼馴染「ねこーねこー」トコトコ

男「おい」

幼馴染「ねこーねこー」コイコイ

猫「ふしゃー」

男「すげー威嚇してるぞ」

幼馴染「かわいい」

男「……そうか?」

猫「ふしゃー」

幼馴染「おいでおいで」

猫「ふしゃー」

男「全然だな……ふむ。猫、ちょっと来い」

猫「ふしゃ……にゃ? にゃー」トコトコ

男「来た」ナデナデ

幼馴染「なんで。ずるい」

猫「にゃー」

幼馴染「私もなでたい」

男「よしよし」ナデナデ

幼馴染「なでられたい、じゃなくて」

男「なんだ」

猫「にゃー」

男「じゃあ、抑えとくからなでてみ」ガシッ

猫「にゃっ!?」

幼馴染「ん」ワキワキ

猫「にゃーっ、にゃーっ!」

幼馴染「……はぁ。はぁ。はぁ」ドキドキ

猫「にゃっ、にゃっ!? にゃー! にゃー!」ジタバタ

男「…………」パッ

幼馴染「あ」

猫「にゃーっ!」

幼馴染「……逃げた」

男「逃げたな」

幼馴染「……わざと逃がした」ジワーッ

男「ちょ、ま、待て! 泣くな! 違う、あんまりにも嫌がってたから、つい!」

幼馴染「……なでたかった」プルプル

男「次! 次があったら絶対になでさせてやるから! だから泣かないでお願い!」

幼馴染「……本当?」

男「本当、本当!」ナデナデ

幼馴染「……じゃ、約束」ユビキリゲンマン

男「あ、ああ。約束だ」ハリセンボンノマス

幼馴染「ん。……でも、なでたかった」

男「代わりに俺でもなでとけ」

幼馴染「ん」ナデナデ

男「どうだ?」

幼馴染「……それほど悪くない」ナデナデ

男「その感想は予想外だ」

幼馴染「じゃ、スーパー、行こ?」

男「おお、切り替え早いな」

幼馴染「約束したから。次はなでる。ねこなでる」フンス

男「そんな猫が好きなら、家で飼えばいいのに」

幼馴染「……お父さん、猫アレルギー」

男「あー。ままならないなあ」

幼馴染「ままならない」ションボリ

男「ま、元気出せ。次はちゃんとするから」ナデナデ

幼馴染「ん。ところで」

男「ん?」ナデナデ

幼馴染「……ねこの毛、私の頭になすりつけてない?」

男「……シテナイヨ?」

幼馴染「もしねこの毛が私の頭についてたら、今日の勉強時間を倍にする」

男「つけましたごめんなさい勘弁してください」

幼馴染「……はぁ。男はしょうがないね?」

男「そうなんだ。しょうがないから許してくれ」

幼馴染「ん。しょうがないから許してあげる」

男「しょうがなくてよかった」

幼馴染「……しょうが、という言葉がゲシュタルト崩壊を」

男「しょうがないね」

幼馴染「ん、しょうがない。……そうだ、今日はしょうが焼きにしよう」

男「おお。あれおいしいよな」

幼馴染「ん。簡単だし、おいしいし。言うことなし」

男「今日の献立も決まったことだし、とっととスーパーに向かいますか」

幼馴染「ん」

──スーパー──

幼馴染「かご」

男「俺が持つよ」

幼馴染「んんん」プルプル

男「いや、んんんじゃなくて」

幼馴染「これくらいへーき」

男「いや、俺が持つ。性別:雄としてここは譲れない」

幼馴染「めんどくさい……じゃ、こういうのは?」


男「なるほど、二人で持つ、と」

幼馴染「重さも分散されるし、ちょうどいい」

男「しかし……なんというか」

幼馴染「?」

男(新婚さんみたい、とは言えないな。恥ずかしくて)

男「や、なんでもない」

幼馴染「ん。じゃ、野菜買お、野菜」

男「最近高いんじゃねえのか? よく知らないけど」

幼馴染「高い。キャベツが一玉248円。ありえない」プルプル

男「そんな震えるほど高いのか?」

幼馴染「例年より50円くらい高い。主婦には辛い」

男「学生だろ、お前は」フニフニ

幼馴染「台所を預かってるから。……ところで」

男「ん?」フニフニ

幼馴染「なんでまだ私のほっぺをふにふにしてるの?」

男「ん、ああ。なんか気持ちよくて」フニフニ

幼馴染「男はえっちだ」

男「そうなんだ」

幼馴染「えっちだえっちだ」

男「で、野菜はどうすんだ? 買わないのか?」

幼馴染「買う。……でも、少なめに」ヒョイヒョイ

男「高いもんな。あ、ピーマンは買わなくていいぞ? ほ、ほら、高いし?」

幼馴染「……子供?」

男「や、食べられるんだよ? ただ、あまりおいしくないなー……って、その、ね?」

幼馴染「…………」ヒョイヒョイ

男「あああああ」

幼馴染「男、ふぁいと」

男「ええい。くそ、頑張るさ」

幼馴染「ん、頑張れ。……んと、キャベツと、レタスと、それから……」

男「もやしだ。もやしパーティーをすべきだ。うっうー」

幼馴染「高い。もっと安い時があるから、今日はいい」

男「え、30円って高いのか?」

幼馴染「安い時は9円」

男「なるほど。あ、ニンジン」

幼馴染「」ビクッ

男「にんじん あります よ?」

幼馴染「にんじん いらない よ」

男「はいはい。幼馴染、ふぁいと」ヒョイヒョイ

幼馴染「…………」ムスー

男「無理なら俺が食うから。な?」

幼馴染「……んじゃ最初から買わなきゃいいのに」ムスー

男「はいはい。怒るない」フニフニ

幼馴染「怒ってないもん」ムスー

男「分かりやすいな、おまいは」フニフニ

幼馴染「分かりやすくないもん。怒ってないもん」ムスー

疲れたので今日はここまで。

男「さて、次は何を買うかな」

幼馴染「…………」ソーッ

男「そこ。黙ってニンジンを戻すな」

幼馴染「戻してない」モドシモドシ

男「いや、せめて見つかったのなら手を止めろ」ソレヲモドシモドシ

幼馴染「…………」ムスー

男「はぁ……本当におまいはニンジン苦手な」

幼馴染「男だって、ピーマン苦手じゃん。子供みたい」

男「子供みたいな奴に子供と言われても痛くもかゆくもない」

幼馴染「今日の男のおかずはピーマン炒めにピーマンの肉詰め、それにピーマン汁だ」

男「ごめんなさい俺が悪かったですからどうか普通のご飯でお願いします」

幼馴染「男が私に勝てるわけがないんだよ」フンス

男「胃袋を人質に取られていると辛いゼ」

幼馴染「じゃあ、勝者の権利としてニンジンを破棄」モドシモドシ

男「しません」ソレヲモドシモドシ

幼馴染「……おいしくないのに」ムスー

男「んと、次は……肉か」

幼馴染「…………」ペタペタ

男「いや、胸の肉の話はしてない」

幼馴染「……一向に大きくならない。呪い?」

男「知らん」

幼馴染「まあ、いっか」

男「いいのか」

幼馴染「ん。使うあてもないし」

男「使おうか?」

幼馴染「小さいよ?」

男「それくらいの大きさが好きなんだ」

幼馴染「そなんだ」

男「ああ」

幼馴染「……そなんだ」

男「じゃない。どうして胸の話になった。晩飯の話だ」

幼馴染「豚肉、豚肉……あった。あ、半額。らっきー」ヒョイヒョイ

男「えらく大量に買うのな」

幼馴染「男がたくさん食べるだろうし。余れば冷凍すればいいし」

男「……ん、まあ、そうだな。……あのさ、食費」

幼馴染「いらない」キッパリ

男「せめて最後まで言わせてくれよ……」

幼馴染「ダメ。いらない。次言ったら怒る」

男「もう怒ってるじゃねえか」

幼馴染「だって、男は家族みたいなものなのに、食費入れるとか他人行儀なこと言うんだもん」ムスー

男「いや、でも厳密には違うのだから、金銭関係はしっかりしとかないといけないのでは」

幼馴染「…………」ムスー

男「……はい。そういうの気にせず飯を食らうぜ」

幼馴染「ん」

男「はぁ……変に頑固だよな、お前」ナデナデ

幼馴染「普通だよ」

男「さて。野菜買った、肉買った。とりあえず、今日買うのはこれくらいか?」

幼馴染「そだね。……あ」

男「ん?」

幼馴染「んんん」プルプル

男「何がだ。……ああ、なるほど」

幼馴染「んんん」プルプル

男「お菓子か。やっぱりお前も女の子なのな。どれ買うんだ?」ナデナデ

幼馴染「……いい?」

男「いいも何も、お前の財布だからな」

幼馴染「ん、んー……でもなあ。どうしてもってわけじゃないし、いらないよ」

男「……はぁ。で、どれが欲しかったんだ?」

幼馴染「買わないから、いい」

男「どれだ」

幼馴染「……ましまろ」

男「ん」ヒョイ

幼馴染「あ」

男「俺も偶然食いたくなったの」

幼馴染「……うそつき」

男「そうなんだ」

幼馴染「……それで、男が本当にほしいお菓子はどれ?」

男「や、俺は別に」

幼馴染「ダメ。私が食べたいの買ったんだから、男のも買わないと」

男「……えーと、じゃあ、……えっと、幼馴染が好きな菓子って」

幼馴染「今は男が食べたいお菓子を選ぶ番」

男「はぁ……。んじゃ、このせんべいを」

幼馴染「……特価品から選んでない?」

男「え、選んでない」

幼馴染「…………」ジーッ

男「ああもう、選んだけどそこそこ好きだからいいの!」

幼馴染「やれやれ」

店員<マイドアリガトウサギ!

男「……うさぎ?」

幼馴染「いっぱい買えた。……じゃ、男はこっち持って」

男「待て。一回両方寄こせ」

幼馴染「断る」

男「断るな。ほれ、貸せ」

幼馴染「…………」ムー

男「んーと……やっぱ軽い方持たせようとしたか。野郎には重いの持たせておけばいいんだよ」ヒョイ

幼馴染「……私の買い物に付きあわせたんだし」

男「知るか。ほれ、軽い方」

幼馴染「…………」ムー

男「ほら、怒ってないで帰るぞ」

幼馴染「……勉強、たくさんいじめてやる」

男「勘弁して」

男「さて、幼馴染の家に着いたわけだが」

幼馴染「冷蔵庫に入れたいから、一回うちに来て」

男「だよね」

──幼馴染宅──

親父「ん、帰ったか幼馴染……なんだ、隣のドラ息子も一緒か」

男「いや、そうでもない」

親父「いやいやいや、いるだろ! いま本人が返事したろ!」

幼馴染「んじゃ男、こっち来て?」

男「ん」

親父「ふん……幼馴染、気をつけろ。二人っきりになった途端、そこの馬鹿に襲われるかもしれないぞ」

男「父親の許可を得た」

親父「違うッ! ええい腹立つ、貴様には一生許可などやらんからなッ!」

幼馴染「お父さん、うるさいです」

親父「」

男「落ち込むなよ、親父さん」

親父「お、落ち込んでなどおらんわッ! そもそも貴様に親父呼ばわりされる覚えはないッ!」

男「パパと呼べと? うわこのおっさん超気持ち悪い」

親父「んなこと頼んどらんッ! ああこの小僧本気で腹立つ! 死ねばいいのに!」

幼馴染「お父さん、冗談でも死ねとか言ったらダメです」

親父「え、あ、はい、ごめんなさい……」シュン

男「……ぷっ、くくっ」

親父「な、何を吹き出しているか! 言いたいことがあるならはっきり言え!」

男「娘に叱られてシュンとなってるいい年したおっさんが愉快で仕方がない。動画で保存して繰り返し見て笑いたい」

親父「はっきり言えとは言ったが多少はオブラートに包めッ! ええい、貴様など出ていけッ!」

幼馴染「お父さん」

親父「え、でもだって、こいつが……」

幼馴染「お父さん」ズイッ

親父「……わ、わし、ちょっと仕事があるの思い出したから仕事部屋にいるな! 怖くて逃げたとかじゃないからな!」ピュー

男「すげぇ、いい大人が娘の迫力に負けて逃げた」

幼馴染「まったく、お父さんは……」

男「いつもあんな感じだな、親父さん」

幼馴染「男がいない時は、普通なんだけどね。じゃ、野菜とか冷蔵庫に入れちゃおうか」

男「そだな」


男「完了ー」

幼馴染「ん。それじゃ、晩ご飯の下ごしらえしてるから、先に私の部屋に行ってて?」

男「いや、手伝うよ」

幼馴染「簡単だから、いいよ。先、行ってて?」

男「んー……そか。分かった」

──幼馴染部屋──

男「というわけで、やって来たわけだが……相変わらず色気のない部屋だな。もっと部屋全体ショッキングピンクで染めりゃいいのに」

男「……いや、落ち着かなすぎだな。部屋を漁るのもなんだし、漫画でも読んでるか」

男「んーと……あった、ドロヘドロ。何巻まで読んだっけ?」


幼馴染「お待たせ。……あれ?」

男「くー……ぐー……」

幼馴染「寝てる」

男「zzz……」

幼馴染「勉強しないと、って言ったのに」

男「ぐー……ぐー……」

幼馴染「……ぐっすり寝てる」

男「zzz」

幼馴染「……ふああ。んー。なんか私まで眠くなってきちゃった」

幼馴染「でも、ベッド占領されちゃってるし」

幼馴染「……んー。ま、いっか。男だし」

男(さて、目を覚ました俺なのだが)

幼馴染「くー……くー……」

男(なんで隣で幼馴染が寝てる)

幼馴染「ん……んや、んー……」

男(いや、それだけならまだいい。よくないが、まあいい。なんで俺に抱きついてんだ)

幼馴染「ん? んぅ? ……んー」

男(そのせいで一切身動きが取れない。あとなんかいい匂いがする。すげぇいい匂いがする)

幼馴染「ん……はふ。……ん♪」スリスリ

男「なんかすりすりしてきた!」

幼馴染「んぅ? ……んー。……ふああ。おはよ、男」

男「あ、ああ、おはよう」

幼馴染「んー。寝ちゃった」

男「いや、寝ちゃったじゃなくて。なんで俺に抱きついて寝てんだ」

幼馴染「ん? んー……男だし、いいかな、って」

男「いいかな、って……よくないだろ」

幼馴染「なんで?」

男「な、なんでって、そりゃその、男女七歳にして席を同じゅうせずというかなんというか、その」

幼馴染「男とだったら、別にいいと思うよ?」

男「え、ええと……そうなのか?」

幼馴染「男は、私と一緒に寝るの、嫌?」

男「まさか!」

幼馴染「ん。じゃ、別にいいじゃない」

男「……いいのか? いかん、なんかよく分からなくなってきた」

幼馴染「ふああ……。まだちょっと眠いな。もちょっと寝ていい?」

男「あ、いや、その……そうだ! ほら、勉強しないと」

幼馴染「んー……もちょっと寝てから。だめ?」コクビカシゲ

男「い……いいぃよ?」

幼馴染「ん」ダキツキ

男「な、なんで抱きつくのかな?」

幼馴染「二人で寝ると、ベッドが狭いから」スリスリ

男「そ、そっか。それなら仕方ないのか?」

幼馴染「ん。……なんでカクカクしてるの?」

男「そ、その、初期型のpsだから処理が遅いんだ」

幼馴染「人間だと思ってた」

男「俺もだ」

幼馴染「んふふ。……男にくっついてると、落ち着くね?」

男「俺は真逆だ」

幼馴染「一緒じゃない……」ムスー

男「そんなんで怒るな」ムニムニ

幼馴染「むー」

今日はここまで。

男「むーじゃねえ。ほら、寝るならさっさと寝ろ」ナデナデ

幼馴染「ん。……じゃ、私が寝るまで、なでていてね?」

男「ずっとですか」ナデナデ

幼馴染「なんか落ち着くの。なんでだろ」

男「俺の手から落ち着けビームが出てるからだ」

幼馴染「そっか。じゃ、そのビーム出しながらなでてね?」

男「しまった、選択肢を誤ったせいで幼馴染が寝るまでなでる羽目に」

幼馴染「がんばれ、がんばれ」スリスリ

男(なんかまた頬ずりされた。幼馴染の頬ずりマジヤバイ。超柔らかくって温かい。何これ死ぬる)

幼馴染「……ん。ん。……ね、男」

男「な、なんだ?」

幼馴染「……呼んだだけー」ニコッ

男(死ぬる。このままでは確実に死ぬる)

男「と、とにかく、お前が寝るまでなでてるから、もう寝れ」ナデナデ

幼馴染「ん。ね、男」

男「ん?」

幼馴染「お休み」

男「……ああ、お休み」

男(幼馴染のお休みマジ可愛い。いかん、幸せすぎて顔がにやける)

男(そして気がつくと俺まで寝てる罠)

男(時計を見ると時刻は8時を少し過ぎてる。腹も空いた。そろそろ幼馴染を起こさないと)

男(と思いつつなんとはなしに視線をドアの方に向けると、なんか鬼みたいな顔がドアの隙間からこっちを覗いてる)

男(一瞬叫びそうになったが、よく見たら幼馴染の親父だった。よかった)

男(いやよくない)

男(今の状況を確認してみよう。幼馴染と抱き合って寝てるところを、親父さんに見つかった。いかん、殺される)

幼馴染「……ん、んぅ」チュッ

親父「!!?」

男(そしてこの状況でさらに幼馴染が、無意識で、だろうが、俺の頬にキスをするというサプライズ油を火に投下。嬉しいけれど、こいつはマズイ)

親父「…………」ゴゴゴゴゴゴ

男(なんかドアの隙間の鬼が泣いてる気がする。そしてものすごい殺気も感じる。これは非常にヤクイ)

幼馴染「……ん。……ん、ふああああ。……あ、男だ」ギュー

親父「!!?」

男「あ、お、おはよう、幼馴染」

幼馴染「おはよ、男。……目が覚めてすぐ男がいるって、いいね」ギュー

男「そ、そか。そ、それより、その、抱きつくのはどうかと思いますよ?」

男(見てるからドアの隙間から鬼が見てるから気づいて幼馴染!)

幼馴染「んー。もちょっとしたら完全に目覚ますから、もちょっと抱っこ」ギュギュー

男「そ、そうか。もう少ししたら離れるなら大丈夫だな」

男(ということだ親父さん、もう少しだけ我慢してください!)

幼馴染「……あと2時間くらい」

親父「長ぇよッ!」

男「あ」

幼馴染「……お父さん?」

親父「あ、いや……こほん。男くん、嫁入り前の幼馴染に、なんてことをしてくれたんだ」

男「あ、いや、これは、その」

親父「言い訳か? 情けないな」

男「覗いてた奴の台詞とは思えないけど……確かに情けないですね」

親父「お前は一言多いッ! ……こほん。とにかく、貴様はこの家に立ち入り禁止だ。早く出ていけ!」

幼馴染「! お父さん、そんなの嫌です」

親父「お前は黙ってろ!」

幼馴染「お父さん」ズイッ

親父「ひっ! で、でも、コイツがお前に酷いことしたし! そんなの許せないし!」

幼馴染「……男、私に何かしたの?」

男「へ? いや、何かと言われても、頭なでて抱っこしたくらい……か?」

親父「ほら! ほーら! 超エッチなことしてんじゃん! ばーかばーか! 死ね!」

男「親父さんを見てると、人間どんなにアレでも運が良ければ人の親になれると自信をもらえますね」

親父「人をアレとか言うなッ! 運だけじゃないし! ……と、とにかく、早く出ていけ!」

幼馴染「お父さん、それらの行為は私が男に頼みました。男は酷いことなんて何をしてません。それでも男に出て行けと言うなら、私も出ていきます」

男・親父「「えええええっ!?」」

男「いやちょっと待て幼馴染悪いのは俺なんだし何もお前まで出ていく必要ないだろ」

親父「そうだぞ幼馴染? 悪いのはそこの馬鹿だけなんだから、お前は今まで通りこの家にいたらいいんだよ?」

男「そうそう! それに、出ていくってどこへ行くつもりなんだよ」

幼馴染「当然、男の家」

男・親父「「ダメェェェェェェェ!!!」」

親父「絶対ダメ! ダメのダメダメ! こんなのの家にいたら、一発でわしの大事な幼馴染ちゃんが妊娠しちゃう!」

男「うわ、このおっさん超きめぇ」

親父「てめぇ! ちゃんと援護射撃しろや!」

男「ああすいません、あまりに気持ち悪くて。じゃあ我慢して援護します」

親父「だから、お前はイチイチ一言多いんだよッ!」

男「こほん。……えっとな、幼馴染? ほら、年頃の男女が、その、一緒に住むとなると……ほら、色々問題があるから。な?」

親父「ほら! ほーら! こいつこんなエロい! こんなエロい奴と一緒に住むなんて馬鹿な考え捨てて、今まで通りパパと一緒にいよ? な?」

男「あ、親父さんちょっと耳塞いで超きめぇ上に馬鹿丸出し。そして一人称がパパ」

親父「早いッ! 塞ぐ時間を寄越せ! いいじゃん、パパ!」

男「まあいいんですけど、人には分相応というものがありますから」

親父「お前、『このおっさんまるで似合ってないのにパパとか言ってる(笑)』って暗に言ってるだろ!?」

男「直接言わないだけ偉いと思いませんか?」

親父「否定しろッ!」

親父「ああもうこの野郎マジ腹立つ! いいか、お前が幼馴染と結婚したらわしがお前の親になんだぞ! なのにそんな態度でいいのか!?」

男「う」

親父「あ?」

幼馴染「…………」

親父「ああいや違う今のナシ今のナシ! ノーカン! ノーカンだから!」

幼馴染「…………///」

親父「イヤァァァァァァァ!!! わしの幼馴染がこの馬鹿との新婚生活を想像して赤くなってるゥゥゥゥゥ!!!」

男「本来なら幼馴染の愛らしさに目が行く場面だが、親父さんの馬鹿さ加減がそれを邪魔している。親父さん、ちょっとだけ部屋から出ていってくれません?」

親父「酷ッ! 幼馴染、ちょっとコイツになんとか言ってやってくれ!」

幼馴染「……子供は何人くらい欲しい?///」

親父「イヤァァァァァァァァァ!!!!! わしの言葉で意識しちゃうどころかさらに先いって子作りの算段をするとこまでいってるゥゥゥゥゥ!!!!?」

幼馴染「……一緒に住んだら、たくさんできちゃいそうだね///」

親父「そっ、そんなのパパ絶対に許さんからね! そもそも一緒に暮らすことも許してないし! 結婚とか絶対の絶対に許さんし!」

幼馴染「……男の出禁を解除するなら、出て行きませんよ?」

親父「ぐ、む……し、しかし」

幼馴染「……朝から晩まで、だね、男?///」

親父「分かった、分かったからこれ以上精神攻撃はやめてくれ! わしのhpはもう0よ!」

男「いい年なのに嬉々としてアニメの引用とかするんですね」

親父「もうこれ以上わしを責めるなあああああ!!! あと、お腹空いたからご飯作ってくれ娘! 本当はそれ言いに来たの!」

男「逃げた」

幼馴染「逃げたね」

男「やれやれ。いじめすぎだぞ、幼馴染」

幼馴染「……やっぱ男は見抜いてた?」

男「なんとなくな。親父さんと交渉するために、わざと子作りの話したろ?」

幼馴染「ん。ああすれば、お父さんは折れると思ったから」

男「折れるっつーか、へし折った感じだったな。しかし、世話をかけたな」ナデナデ

幼馴染「男とご飯食べられなくなるの、嫌だから」

男「そか。奇特な奴だな、お前は」ナデナデ

幼馴染「……それに」

男「?」

幼馴染「んんん。なんでもない」

男「そか。ま、いいや。じゃ、飯作るか」

幼馴染「ん。手伝ってくれる、男?」

男「任せろ」

今日はここまで。

──居間──

幼馴染「今日のご飯はしょうが焼き」

親父「おお、美味そうだ。ただ、この食卓に異分子がいなけりゃもっと美味いに違いないのになあ」ジロリ

男「そう卑下しないでください、親父さん。誰も親父さんを邪魔者扱いなんてしてませんよ」

親父「なに都合よく解釈してんだよ! お前だよお前! 異分子さんはo・ma・e!」

幼馴染「いっぱい食べてね、男? 遠慮しておかわりしないとか、怒るからね?」

男「へーへー」

親父「あるェ? 何いい雰囲気作ってんの? 今はわしのターンじゃないの?」

幼馴染「食事の時に騒がないでください、お父さん」

親父「ご、ごめんなさい」

男「無様」

親父「てめェ! そういうことを言う時は普通聞こえないように言わね!? なんで真っ直ぐわしの目を見てはっきり言えるの!? 逆になんか嬉しいよ!」

男「いや、そんなm宣言されても困ります」

親父「してねーし! 野郎にそんな宣言しねーし! 幼馴染がわしを叩くとかならアリだけど!」

男「幼馴染、金槌ってこの家にあったっけ?」

親父「なにさらっと致命傷を与える鈍器を想起させてんの!? いやいやいや、そんなので叩かれたらさしものわしも死ぬし!」

幼馴染「お父さん、食事の時に騒がないでください」

親父「ご、ごめんなさい」

男「虫以下の学習能力」

親父「だから、なんでそういうことを人の目を見て言えんだよ!? ていうかさっきのは明らかにお前のせいだろーが!」

幼馴染「お父さん」

親父「す、すいません……」

男「虫未満の学習能力」

親父「とうとう虫に負けちゃったよ! どうしてくれんだよ! ていうかなんだよこの一連の流れ! 明らかにわしいじめだろ! 年長者は大事にしろよ!」

男「さくせん:おっさんだいじに」

幼馴染「ん。分かった」

親父「分からないで! いや大事にしてもらえるのは嬉しいけどトルネコと同じカテゴリに入れられるのはなんか辛い!」

男「大丈夫。一般兵は普通の鎧なのに、どういうことか一人だけピンク色の鎧に身を包んでるおっさんも同じカテゴリです」

親父「ピンクおっさん……? ライアンのことか……ライアンのことかーーーっ!!!」

幼馴染「しょうが焼きおいしい、男?」

男「ああ。幼馴染は料理上手だな」

幼馴染「普通だよ。……でも、嬉しいな?」

親父「あるェ? わしがスーパーおっさんになるところなのに見なくていいの? ていうか何いい雰囲気作ってるの? ここわしの家だよ? わしがせっせとお金稼いで建てた家だよ?」

幼馴染「お父さんも、しょうが焼き美味しいですか?」

親父「あ、おいしいおいしいー☆ミ」

男「…………」

親父「悲しそうな目でこっち見てないで、なんか言えよッ!」

男「道化」

親父「もうちょっと優しく! おっさんをもっとだいじに!」


親父「げふー。腹一杯だ。あ、男、そこのリモコン取って」

男「はい、どうぞ」

親父「さんくす。……あー、ドラマとニュースばっかだ。つまんね。ニコニコでも覗くか」

幼馴染「お父さん、締め切りが近いってこの前言ってたような」

親父「あっお腹痛い! だから部屋に戻るな! あと男、もう来んな!」

男「嫌です」

親父「ちょっとは躊躇しろよ! 早く帰ればか! お前ばーか!」

幼馴染「お父さん」

親父「ひぃ」ピュー

幼馴染「まったく……お父さんは」

男「面白いな、親父さんは」

幼馴染「普段は冗談なんて全然言わないんだけど、男が来るとあんな感じになっちゃうの。はしゃいでるのかな?」

男「全力で嫌われてるようだし、それはないだろ」

幼馴染「そんなことないよ? お父さん、本当に嫌いな人は相手にしないもん」

男「そなのか。そうだとしたら嬉しいけどな。俺は親父さん、結構好きだから」

幼馴染「んふふ、あんなに悪く言ってるのに。でも、それ聞いたらきっと喜ぶよ、お父さん。悪態つきながら、だろうけど」

男「あー、なんか想像できるな」

幼馴染「んふふ。ね?」

男「しかし、寝ちゃったせいでまるで勉強出来なかったな」

幼馴染「そだね。……ごめんね、寝ちゃって?」

男「最初に寝てた俺のせいだろ。まあ、なんでお前まで一緒に寝ちゃうか理解に苦しむが」

幼馴染「だって、気持ちよさそうだったし」

男「だからって、普通一緒には寝ないだろ。俺はお前の将来が不安だよ」

幼馴染「どゆこと?」

男「いや、だから、普通どんなに親しくても野郎と一緒には寝ないだろ、って話」

幼馴染「ああ。男は特別だから、へーきなの」

男「」

男「そ、そ、そなのか。ま、まあ、それなら、その、いいけど」ギクシャク

幼馴染「? またカクカクしてるよ?」

男「そ、その、cpuが熱暴走してて」

幼馴染「古いpsは大変だね」ナデナデ

男「そ、そうなんだ」

親父「死ね! 死ーね!」(小声)

幼馴染「お父さん」

親父「うわ見つかった」ピュー

幼馴染「もう、お父さんは……」

男「一回自室に行ったけど、寂しくなってこっちに戻ってきてたんだな。ドアの隙間から覗いてたみたいだ」

幼馴染「ごめんね?」

男「お前が謝ることでもないだろうに」ナデナデ

幼馴染「えへへ……」

男「今日はもう遅いから、勉強はまた明日だな」

幼馴染「あ、そだね。……ごめんね?」

男「だから、何度も何度も謝るな」グニー

幼馴染「ほっへ、ほっへひっはははひへ(ほっぺ、ほっぺ引っ張らないで)」

男「まったく。じゃ、俺帰るな。親父さんによろしく言っといて」

幼馴染「あ、帰っちゃうんだ」ションボリ

男「あ、う、うん。いや、その、どうせまた明日会うだろ」

幼馴染「……うん、そだね。……えへへ。また明日ね、男」バイバイ

──幼馴染宅 玄関前──

男「さっきバイバイってしてませんでしたっけ」

幼馴染「ん。でも、見送りたかったから」

男「見送るも何も、すぐ隣だろうに……」

幼馴染「そなんだけど。ダメ?」ションボリ

男「いや、ダメってことはないが……つか、そんなんで落ち込むな」ナデナデ

幼馴染「ん。それじゃ男、また明日ね?」バイバイ

男「んー。また明日」バイバイ

幼馴染「…………」バイバイ

男「……あの」

幼馴染「ん?」バイバイ

男「いつまで手を振っているのですか」

幼馴染「……男が家の中に入って、見えなくなるまで?」バイバイ

男「いいから。一回バイバイってしたら振らなくていいから」

幼馴染「……分かった」ションボリ

男「だーっ! 別に怒ってるとかじゃないから! してもいいから! だからんなことで悲しそうにするな!」

幼馴染「……えへへ。男は優しいね?」

男「勘弁しろよ……」

幼馴染「えへへへ。じゃあね、男」バイバイ

男「はいはい。じゃあな」バイバイ


──男宅──

男「はー……疲れた」

母「よっすよっす」

男「あ、母さん。帰ってたのか、おかえり」

母「ただーま。そしておかーり、我が息子よ」

男「ん、ただいま。飯は?」

母「食ってった」

男「そか。すぐに風呂の準備するから、ちょっと待っててくれ」

母「んー。でも、早くしないと缶タワーが完成しちゃうよ?」

男「タワーって……うわ、なんつー量の空き缶だ。どんだけ飲んでんだ」

母「ビールっていいよね、特に仕事の後のって超美味いよね。アンタも飲む?」

男「未成年に勧めるな」

母「かったいねー。アタシが学生のころは、もう毎日のように呑んでたのに……アンタ、アタシの子じゃないねっ!」

男「そうだと嬉しいんだが、残念ながら子だよ。つーか、風呂入るならあんまり飲むな。溺れても知らねーぞ」

母「その時は、アンタが優しく介抱してね? 緊急時だし、おっぱい触ってもいいよ?」

男「マザコンじゃないんで触っても嬉しくねーよ」

母「結構でかいのに……あ、でもアンタちっちゃいのが好きだからダメか。お隣の幼馴染ちゃんみたいなのがいいんだよね?」

男「親殺しの時間だ」ヒョイヒョイヒョイ

母「待って待ってその缶まだ残ってるー! ごめんごめん、もうからかいませんから返してー!」

男「ったく……こんなんで優秀ってんだから世の中分かんねーな」

母「サーセンw」

男「ああ鬱陶しい。んじゃ、風呂洗ってくるからちょっと待っててくれな。いいか、あんま飲むなよ」

母「任せてっ!」プシュ

男「言ってるそばから新しい缶開けてんじゃねー!」

母「てへぺろ(・ω<)」

──男部屋──

男「だー……無駄に疲れた」

男「宿題……まあいいや。明日幼馴染に見せてもらおう」

男「……いや、無理か。アイツそういうの厳しいからなあ。しゃーねえ、自分でやるか」

男「…………」ゴソゴソ

男「ない」

男「あー、そういや教科書類全部学校に置きっぱなしだったな……」

男「……今から行くのは超めんどくさい。結論:放棄」

男「よしっ! 寝ようっ!」


男「……んぐ、ぐー……」

???「…………」ガチャ

男「ぐー……ぐあー……」

???「……やっぱ寝てる。……朝だよ?」ユサユサ

男「ん? ……んあ」

???「もう遅い時間だよ? 遅刻しちゃうよ?」ユサユサ

男「ぐー……ぐー……」

???「……起きない。困ったな」ユサユサ

男「ん、……お、幼馴染……」

???「え?」

男「……ぐー、んぐー……」

幼馴染「……ね、寝言か。なんだ」

幼馴染「……男が見てる夢に、私が出てるの?」

幼馴染「…………」

幼馴染「…………あ、朝だよ。起きないと遅刻するよ///」ユサユサ

男「ん、んー……あ、んあ?」

幼馴染「あ、起きた。おはよ、男」

男「あ、ああ、おはよ、幼馴染。……なんで俺の部屋にいるの?」

幼馴染「……いつもの場所で待ってたけど、いつまでたっても来ないから」

男「そか。わざわざ悪いな。ふああ……」

幼馴染「おっきなあくび。ご飯用意してくるから、急いで着替えてね?」

男「ん、分かった。起こしてくれてサンキュな。あ、それとな」

幼馴染「ん? なぁに?」

男「なんで顔赤いんだ?」

幼馴染「……し、知らない///」プイッ

男「……?」


──居間──

男「着替えました」

幼馴染「ん。ご飯でいいよね?」

男「ああ。でも、飯食う時間あるか?」

幼馴染「朝ご飯は遅刻してでも食べなきゃダメ。はい、目玉焼き」

男「ん、サンキュ」

幼馴染「それと、海苔。インスタントだけど、味噌汁もあるよ」

男「おお、豪勢だな」

幼馴染「ホントは味噌汁はちゃんと作りたかったんだけど、ちょっと時間ないから。ごめんね?」

男「いやいや、十分すぎるくらいだって。じゃ、いただきまーす」

幼馴染「ん、おあがりなさい。ゆっくりでもいいから、しっかり食べてね?」

男「いやいや、ゆっくりはダメだろ。もう時間ねーんだし」

幼馴染「ダメ。急いで食べたら消化に悪い。遅刻してもいいから、ゆっくり。ね?」

男「俺だけならまだしも、お前まで巻き込むわけにはいかないっつーの」

幼馴染「…………」ムーッ

男「ああもう、分かった、分かったよ。ゆっくり食うよ。だから怒るなって」

幼馴染「分かればいいの。じゃ、いっぱい食べてね?」

男「朝からいっぱいは無理だよ」

幼馴染「がんばれ、がんばれ」

男「へーへー。適度に頑張るよ」


──通学路──

男「げふっ。うー、朝から食い過ぎた」

幼馴染「おかわりしたね。偉い偉い」ナデナデ

男「はいはい。んじゃ、急いで行くぞ」

幼馴染「ん。でも、小走りでいけば間に合うくらいの時間だから、そこまで急がなくてもいいよ?」

男「んー……そか。んじゃ、普段より少し早めに歩いて、それプラス公園通って近道するか」

幼馴染「ん」


──公園──

男「おお。すごいな」

幼馴染「一面、桜吹雪だね。すごいね……」

男「これは、目を奪われるな。……あー、花見してーなー」

幼馴染「……する? お弁当、作るよ?」

男「マジか? じゃ、今度の休み、花見しよっか?」

幼馴染「ん。……お弁当、頑張る」フンス

男「いや、別にそこまで気合は入れなくても」

幼馴染「頑張る」フンス

男「……そ、そか。じゃ、よろしく頼むな」

幼馴染「ん」フンス

今日はここまで。

──校門前──

男「ふぅ……どうにか間に合ったな」

幼馴染「ん。よかった」

男「全くだ。……あ、幼馴染、ちょっと動くな」

幼馴染「?」ピタッ

男「頭に桜の花びらがついてる」サッサ

幼馴染「…………」

男「……ん。おっけー」ナデナデ

幼馴染「……ありがと。男はどう?」

男「どうだろ? ちょっと見てくれ」

幼馴染「ちょっと屈んで。……ん、ついてる」サッサ

男「んー」

幼馴染「はい、とれたよ」ナデナデ

男「サンキュ。んで、なんでなでましたか」

幼馴染「男のマネ」

男「なるほど、なら仕方ないな」ナデナデ

幼馴染「ん。仕方ない」

──昇降口──

幼馴染「男はさ、私の頭よくなでるよね」

男「ん、そうか?」

幼馴染「そうだよ」

男「んー、言われてみるとそうかもな。なんかお前をなでるの好きなんだよなあ。……あ、嫌だったか?」

幼馴染「んんん。んんん。んんん」プルプルプル

男「いや、そんな否定しなくても大丈夫だが……」

幼馴染「……怒った?」

男「怒るわけねーだろ」ナデナデ

幼馴染「……ん」コクコク

──教室──

男「あ」

幼馴染「?」

男「……完っ全に宿題のこと忘れてた」

幼馴染「はぁ……ダメだよ? ちゃんとやらないと」

男「いや、やろうとはしたんだけど、そもそも教科書の類を持って帰ってなくて」

幼馴染「はぁ……」

男「とにかく、急いでやらないと」

幼馴染「宿題って、一時間目の数学の? じゃ、もう無理だよ」

男「なぜに」

幼馴染「だって」キーンコーンカーンコーン

教師「はいはい、授業を始めますよー」ガラッ

幼馴染「……ね?」

男「なるほど」

男「あ゛ー……」

幼馴染「お疲れ様」ナデナデ

男「ああ、なでられた所から疲れがとれていく……」

幼馴染「じゃ、いっぱいなでないとね」ナデナデナデ

男「ふぃぃ……いや、よもや宿題しなかった罰で追加の宿題を出されるとは」

幼馴染「しょうがないよ」ナデナデ

男「まあな。さて、それじゃ交代だ」

幼馴染「え? 私は疲れてないよ?」

男「俺がなでたくなった」ナデナデ

幼馴染「なで男が現れた」

男「あー楽し」ナデナデ

幼馴染「……♪」

男「くああ……ふぅ。さて、授業も半分終わった」

幼馴染「お昼だよ」トテトテ

男「そだな。今日も中庭で食うか」

幼馴染「ん」


──中庭──

男「ああ、今日もいい桜だな」

幼馴染「ん。はい、お弁当」

男「ん。いつもありがとな」

幼馴染「んんん。好きだから」

男「それでもな。他人の厚意にあぐらをかくのは恥ずかしいと思っているから、出来る限り感謝はしておきたいんだ」

幼馴染「……男のそういうとこ、好きだよ?」

男「かっこつけた甲斐があった」

幼馴染「騙された」

男「騙したった」ナデナデ

幼馴染「ん。……はい、お茶だよ、照れ屋さん」

男「サンキュ。じゃ、いただきます」

幼馴染「ん。いただきます」


男「そして訪れる満足げふー。ごちそうさま」

幼馴染「ん。おいしかった?」

男「ああ。今日も大満足だ」

幼馴染「んふふ。そか。嬉しいな」

男「はぁ……あー、茶がうまい」

幼馴染「なんか、もうこれが花見みたいだね?」

男「あー、そだな」

幼馴染「でも、それとは別でちゃんと花見するよ? ……するよね?」クイクイ

男「するよ。だからそんな不安そうな顔するない」ナデナデ

幼馴染「ん。……へへへ?」

男「なんスか」

幼馴染「んんん。なんでもない」ニコニコ

男「変な奴」フニフニ

幼馴染「んふふ。あのね、今日も膝枕、する?」

男「願ったり叶ったりだ」

幼馴染「ん。じゃ、ここに頭乗せて?」

男「ほいほい。よっと」

幼馴染「ん。じゃ、寝ていいよ? チャイムが鳴ったら、起こすから」

男「んー……それもいいが、今日はあんまり眠くないから、話でもしたい気分やも」

幼馴染「そう。じゃ、何の話しよっか?」

男「ふむ。そだな、お前のスペックの話でもするか」

幼馴染「すぺっく?」

男「そ。能力というか、性能というか。基本的に高くまとまってるよな」

幼馴染「そかな? 普通だよ?」

男「何言ってんだ。テストはいつも上位にいるし、運動だって……ああ、そういや以前いくつか運動部から勧誘されてたな」

幼馴染「ん。陸上部と、水泳部と、剣道部」

男「パーフェクトソルジャーですね」

幼馴染「男と一緒だね?」

男「俺のpsはカクカクしてすぐにフリーズするpsだからな。そっちのむせるpsとは格が違うよ」

幼馴染「んふふ」スリスリ

男「そういや、なんで部活入らないんだ? お前ほどの力があるなら、どこに入ろうが活躍できるだろうに」

幼馴染「だって、部活に入ったら家事する時間がなくなっちゃう」

男「あー……でも、もしどうしてもしたいなら俺がお前んちで家事やってもいいぞ? そりゃ最初は無理かもしれんが、教えてもらえりゃ頑張るし」

幼馴染「んんん。大丈夫。ありがと」

男「いや、うーん……」

幼馴染「それに、男と過ごす時間が減っちゃうから」

男「…………」

幼馴染「そんなの、嫌だから。だから、部活は入んないの」

男「……そ、そっか。そ、それはアレだな、仕方ないな」ギクシャク

幼馴染「またcpuが熱暴走してる。直れ直れ」スリスリ

男「その両手で俺の頬をすりすりする技は、逆に熱暴走が加速します」

幼馴染「残念」スリスリ

男「俺の話聞いてる?」

幼馴染「んふふ」

男「あ、そうだ。その、非常に自惚れ発言で死にたくなるが、俺と一緒に部活入りゃ悩みは解決するのでは?」

幼馴染「んんん。特に入りたい部活もないし、大丈夫だよ」

男「ただ俺のナルシストっぷりを振りまいただけで終わってしまった」

幼馴染「んふふ。ありがとね、男」スリスリ

男「世話になりっぱなしなんで、ほんの少しでも恩を返したいと思ったんだけどな。なかなかうまくいかないもんだ」

幼馴染「世話なんてしてないよ。私が好きでやってることなんだから」

男「それはそれ。まあ、将来に期待してくれ。どかーんと恩を返しますから」

幼馴染「ん。いっぱい期待するね?」

男「いっぱいは荷が重いなあ……」

幼馴染「男なら絶対大丈夫だよ。がんばれ、がんばれ」スリスリ

男「どこからその自信が出てくるのやら」

幼馴染「昔からずっと男のことを見てきた私の言うことだもん、間違いないよ。ね?」

男「そりゃ説得力があるな。じゃあ、のせられますか」

幼馴染「ん。もしダメだったら、私が養ってあげるね?」

男「ひどいヒモ宣言を見た」

幼馴染「んふふ」スリスリ

男「やれやれ。……ふああ。んー、なんか眠くなってきたな」

幼馴染「じゃ、寝る?」

男「そだな、悪いけど少し眠らせてもらうな。お休み、幼馴染」

幼馴染「ん。お休み、男」ナデナデ

男(そして起きた俺なのだが)

幼馴染「……くぅ、くぅ」ナデナデ

男(どうやら幼馴染も寝てしまったようだ。だが、寝ている状態でどうして手が動いている。無意識か?)

幼馴染「……ん。……くぅ」ナデナデ

男(よく分からないけど、寝てる幼馴染も可愛いなあ。ちゅーしてえ)

幼馴染「……ん、んぅ。……あ、寝ちゃった」

男「おはよ」

幼馴染「あ、男が起きてる。……おはよ」ナデナデ

男「んむ。さて、そろそろ戻るか」

幼馴染「んと。……まだ時間あるから、大丈夫」

男「ん、そうか? でも、早めに戻った方が」

幼馴染「ん。……でも、もちょっとだけ」ナデ

男「……ま、そだな。急ぐ理由もないしな」

幼馴染「ん」スリスリ

男「はぁー。なんつーか、桃源郷って、こんな感じなのかな」

幼馴染「……そかもね。辺り一面桃の花が咲き乱れて、だっけ?」

男「そうそう。空気はポカポカしてて、桜は舞ってて、お腹いっぱいで、幼馴染に膝枕されて。なんか、このまま死んでも後悔しない感じだ」

幼馴染「死んじゃダメ」ポカポカ

男「例えだ、例え。叩くな」

幼馴染「例えでも。死んじゃダメ」ポカポカ

男「いたいた。だから、叩くねい」

幼馴染「……死なない?」

男「最初から例えの話だっての。痛いの苦手だし、死ぬつもりなんかないよ」

幼馴染「……ん。……ダメだよ、死んだりしたら。怒るからね。いっぱい怒るからね。ご飯も作ってあげないし」

男「わーったよ。少なくとも、お前が死ぬまでは死なないよ」スリスリ

幼馴染「ん。……約束、だよ?」ユビキリゲンマン

男「了解了解うぐぅうぐぅ」ハリセンボンノマス

幼馴染「んふふ。kanon、だね?」

男「詳しいな……って、そっか、見たことあったか」

幼馴染「ん。前にね。一緒にアニメ見たよね」

男「そだったな……」

男(……そういえば、幼馴染のおばさん、小さい頃に病気で……)

男(……思い出させちゃったか。悪いことしたな)

幼馴染「……大丈夫だよ? 男がいるから。ね?」

男「お前、エスパーか」

幼馴染「男限定で、ね。顔見たら、何考えてるかなんとなく分かるの」

男「なんて厄介な」フニフニ

幼馴染「んふふ。ほっへひっはははひへ(ほっぺ引っ張らないで)」

男「さって、いい加減戻らないとな」ガバッ

幼馴染「ん。そだね」

男「弁当箱洗ってくるから先に」

幼馴染「んんん」プルプル

男「……戻らないよな。んじゃ、一緒に来るか?」

幼馴染「ん」コクコク


男「はー……暖かくなったとはいえ、水はまだ冷たいな」バシャバシャ

幼馴染「私が洗うよ?」

男「ダメ」

幼馴染「…………」ムーッ

男「お前飯作る人、俺洗う人。おっけー?」

幼馴染「……全部やるのに」ムスー

男「あんまり俺に楽を覚えさせるな。……はい、終わり」

幼馴染「お疲れ様。……わ、冷たいね、手」ムギュ

男「おいおい、俺の手握ったりしたらお前の手まで濡れるぞ」

幼馴染「冷たいの取れるまで。……ん、よし。……はい、ハンカチ」

男「いいよ、お前先使えよ」

幼馴染「はい、ハンカチ」

男「……本当、頑固だよな、お前」フキフキ

幼馴染「ん♪」

男「はい、拭き終わったよ。ありがとな」

幼馴染「んんん」フキフキ

男「じゃ、戻るか」

幼馴染「ん」


──教室──

男「そして教室に戻って授業を受けて放課後になったわけだが」

幼馴染「誰に説明してるの?」トコトコ

男「誰にだろう」

幼馴染「帰ろ?」

男「そだな」

今日はここまで。
あと4分の1程度で終わるハズなので、もう少しの間お付き合いを。

──通学路──

男「そういや、明日休みだな」

幼馴染「そだね。それじゃ、花見、する?」

男「そだな。じゃ、悪いけど弁当頼むな」

幼馴染「ん。頑張る」フンス

男「そんな気合入れなくていいから。ほどほどで大丈夫だから」

幼馴染「ん」フンス

男「何も分かっちゃいねえ……」

幼馴染「んふふ。あ、そだ。今日もご飯食べていってね?」

男「いや、昨日も行ったし、今日はいいよ」

幼馴染「んんん」プルプル

男「いや、んんんじゃなくて」

幼馴染「……私の作るご飯、おいしくない?」

男「んなわけないだろ! 毎日だって食いたいくらいだ!」

幼馴染「…………」

男「ん? ……あ、いや、その」

幼馴染「…………///」

男「ち、違うぞ!? そ、そういう意味じゃなくてだな!?///」

幼馴染「う、うん、分かってる。ちょっと、びっくりしただけ///」

男「そ、そか。俺もびっくりした」

幼馴染「……でも、その、あの」

男「ん?」

幼馴染「……な、なんでもない///」

男「……そ、そうか///」

幼馴染「ん。そ、そう///」

男「……ええい、恥ずかしい///」

幼馴染「んふふ。……あ、あのね? もし嫌だったらいいんだけどね? ……ご、ごめん。やっぱいい」

男「ダメだ。ちゃんと言え。よほどでない限り断らないから」

幼馴染「よほどだもん」

男「訂正。なんでも聞く」

幼馴染「……うー。……あ、あの。……ちょ、ちょっとだけの間でいいから、その……う、うぅ。やっぱいい///」

男「だーっ! 早くしないと俺からとんでもない提案するぞ!」

幼馴染「そ、そっちの方がいい。絶対そっちの方がいい。男のいうことなら、なんでも聞くもん」

男「ああもう、いいから言ってくれ。笑ったり馬鹿にしたりしないから」

幼馴染「…………。ホント?」

男「自身に誓って」

幼馴染「……ん。……じゃあ、あの、……て、手、繋いで、いい?///」

男「へ?」

幼馴染「……や、やっぱ、いい」ジワーッ

男「違う嫌とかじゃなくてびっくりしただけ! 泣くなッ!」ナデナデ

幼馴染「……ぐしゅ。泣いてないもん」

男「えらくもったいつけるから何を言うかと思えば。それくらい普通に言えばいいだろうに。昼間それ以上すごいことしたろ?」

幼馴染「だって、膝枕はよくするから。……それに、急にそんなこと言って、変だと思われたら悲しいし」

男「思わねーよ。ほら、繋ぐんだろ?」

幼馴染「……ん。いい?」

男「いいに決まってるだろ。こっちから頼みたいくらいだ」

幼馴染「……ん。それじゃ」ギュ

男「…………」

幼馴染「…………」

男「……いかん。なんか照れる///」

幼馴染「……ん///」

男「と、とはいえこの程度で動揺するような男さんではないですよ?」

幼馴染「……あ、あの」

男「は、はいっ!?」

幼馴染「あ、明日。お弁当、頑張るね?」

男「あ、ああ」

幼馴染「そ、それだけ」

男「そ、そか」

幼馴染「…………」

男「…………」ギュ

幼馴染「…………///」ギュー

男「…………///」ギュー

──幼馴染宅 玄関前──

男(結局、あれから会話もなく、黙ったまま家に着いてしまった)

男(どうにもこうにも頬が熱くて仕方ねえ。幼馴染の方も、まあ、ちらっと見た感じ、似た感じみたいだ)

幼馴染「……着いちゃった、ね」

男「……そだな」

男(正直、手を離したくない。とはいえ、いつまでも家の前にいるわけにもいかないか)

幼馴染「……はぁ。じゃ、入ろ?」

男「……ああ、そだな」


──居間──

親父「おお、お帰り幼馴染。……と、邪魔者も一緒か」

男「しょうがないですよ、なんか知らないけどこの家に住んでるみたいだし。我慢するしかないです」

親父「だから、わしじゃねーっての! お前だっての! 昨日もやったよこのやり取り! なんか知らないってわしの家だから住んでるの! お前が邪魔者なんですぅー!」

幼馴染「それじゃ、部屋行こ?」クイクイ

男「ああ、そだな」

親父「あるェ? もう? パパともっとお喋りしよーよ? ねーねー」

男「あ、ちょっと失礼ああもう吐き気をもよおすほど気持ち悪い。あ、もう大丈夫です。……いや、まだ気持ち悪いな。どうしよう」

親父「だから、ちょっとは小声で言うそぶりを見せるとか、せめてこっちをガン見しないとか、そういうおっさんに対する気遣いをもっと! more!」

幼馴染「じゃ、行こ、男?」クイクイ

男「ん、ああ、そだな」ナデナデ

親父「ahーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!! わしの幼馴染タンの頭をなでなでと! もう最近は触らせてもくれないのに! ずっり! ずっり! 超ずっり!」

男「ふむ。……幼馴染」

幼馴染「?」

男「えいっ」ナデナデ

親父「ahーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!!! また! まただよ! これみよがしになでなでと! こいつはメチャ許さんよなあ!?」

幼馴染「……は、はぅ///」

親父「しかも、しかもだ! あろうことかわしの幼馴染タンが頬を染めてうつむいちゃうとか! なにこの地獄絵図! 誰かわしを殺して! ころころしてェ!」

男「幼馴染、丈夫なロープとかあるかな?」

親父「あ、ごめんなさい冗談で言いました。殺さないでください」

男「違います、自殺用に使ってもらうだけですよ」

親父「何この『俺が手を下さないから経歴に傷がつかない。完全犯罪せーりーッ』って感じ。いやいや、他殺だろうが自殺だろうが死ぬつもりはじぇんじぇんないヨ? 死ぬの怖いもん」

幼馴染「……あ、あの」クイクイ

男「ん?」

幼馴染「……も、もっかい、いい?」コクビカシゲ

親父「gyaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!! はい死んだ、今わし確実に死ーんだ!!! もういーや、お前ら勝手にキャッキャウフフしてろばーか! あ、幼馴染には馬鹿って言ってないよ? そこの腹立つ馬鹿にしか言ってないよ? ばーかばーか! 死ね!」ダダダダダッ

男「逃げたな。ナイスアシストだ、幼馴染」

幼馴染「?」

男「天然か。一番怖いな」

幼馴染「あ、あの、なでなで……」オズオズ

男「え、あ、はい」ナデナデ

幼馴染「……♪」

男「しかし、珍しいな。幼馴染が自分からそんなのせがむなんて」ナデナデ

幼馴染「あ、ご、ごめんね? 嫌だったら別に全然」

男「逆だ、逆。嬉しいの」ナデナデナデ

幼馴染「……えへへ。……なんかね、なんか……なんだろ。……前より、もっと一緒にいたいな、って感じがするの」

男「そ、そか。光栄だな///」ナデナデ

幼馴染「あっ、前も一緒にいたいなって思ってたんだよ? でも、それより、もっと、もっといっぱい近くに……そ、その……そのね?///」

男「……あ、う、うん。なんとなく分かるから大丈夫///」ナデナデ

幼馴染「……う、うん///」

──幼馴染部屋──

男「ということが居間であって」

幼馴染「……え、えへへ」チョコン

男「現在、幼馴染の部屋において、あぐらをかく俺の膝の上に幼馴染が乗る、という仰天体験が始まっています」

幼馴染「だ、ダメかな? ダメだよね、ダメに決まってるもん。すぐにどくから」ワタワタ

男「許さん」ギュッ

幼馴染「あぅ……」

男「ほれ、諦めたらもっと俺にやってほしいことを言え。言いまくれ」

幼馴染「……なんでも、いい?」

男「ああ、なんでもなんでもオールオッケーだ」

幼馴染「じゃ、じゃあ、じゃあね?」

幼馴染「んー♪」スリスリ

男「…………」

幼馴染「えへへ♪ えへへぇ♪」スリスリ

男「あー……あの?」

幼馴染「や、やめないもん。なんでもいいって言ったもん」スリスリスリ

男「いや、そんなこと言わないが、その」

幼馴染「……こ、こんな時くらいしか、できないもん」スリスリ

男「いや、そうじゃなくて、その、……恥ずかしいのですよ。流石にこう、向かい合わせで抱き合って、頬ずりってのは」

幼馴染「……が、がまん///」

男「なるほど」スリスリ

幼馴染「ひゃっ!?」

男「あ、失敬。俺も我慢できなくなっちゃったので」スリスリ

幼馴染「……男も、頬ずりしたかったの?」

男「頬ずりというか、なんというか、その、ああいかん思考がまとまらない」スリスリ

幼馴染「……えへへ。幸せ、だね?」スリスリ

男「それはもう疑うことなく」スリスリ

幼馴染「このままね? 一年先も、十年先も、ずっとずっとこうして一緒だと嬉しいね?」スリスリ

男「それは勘違いしちゃう台詞だなあ」スリスリ

幼馴染「……し、しちゃうといい。……かも///」スリスリ

男「えっ」

幼馴染「…………///」

男「えー……っと」

幼馴染「……い、今のナシ。うそ。全部嘘」ジワーッ

男「……いや、そんな嘘はダメだ。許さん。訂正しろ」

幼馴染「……ち、違う。嘘。嘘だもん。調子乗っちゃっただけだもん。……男は、私みたいなちんちくりんより、もっと可愛くて、優しくて、素敵な子と一緒にならないとダメだもん」

男「知らん。俺はな、お前みたいなのがいいんだよ」

幼馴染「えっ?」

男「猫好きで、料理上手で、優しくて、可愛くて、いっつも俺のことを大事にしてくれる、そういうお前みたいなのがいいんだよ!」ギュッ

幼馴染「……うー。ばか」

男「なんだ、知らなかったのか?」

幼馴染「……知らなかった。こんなばかとは思わなかった。……ばか。ばかばか」ポロポロ

男「ある程度は自覚してるさな」ナデナデ

幼馴染「……ぐしゅ。……そんなこと言って。知らないよ? 私なんかより、もっともーっと素敵な人が現れて、男に告白しても、もう男の隣には私がいるよ? ……絶対に譲らないよ?」

男「お前より素敵な女性なんかいねーよ」ナデナデ

幼馴染「……ふん。ばか。大好き」チュッ

男「奇遇だな、俺も大好きなんだ」チュッ

………
……


──公園──

幼馴染「……晴れたね?」

男「そだな。はぁ……あー、いい日和りだ」

幼馴染「シート持ってきたから。そこに敷こ?」

男「ああ、分かった」


男「ん、完成」

幼馴染「ん。それじゃ……じゃじゃーん。お弁当だよ?」

男「おお、お重。頑張ったな」ナデナデ

幼馴染「えへへ。……か、彼女の、初仕事だもん///」

男「おお。俺の彼女は可愛くて料理がうまくて可愛くて可愛いなあ」ナデナデ

幼馴染「え、えへへ、えへへぇ……♪」

男「いかん、幼馴染の顔がどれんどれんだ。緩みすぎだろ」

幼馴染「だ、だって、男にあんなに褒められたら、誰でもああなっちゃうよ」ムー

男「なんねーよ。……しっかし、お前の親父さんにはなんて説明するかなあ」

幼馴染「……もう気づいてるよ?」

男「マジか」

幼馴染「ん。今日の朝も『隣の馬鹿息子は人の大事な大事な娘を奪っておいて、挨拶もろくにしに来ん!』って」

男「うわぁ……そのうち言うつもりだったが、なんで既にバレてるかな」

幼馴染「昨日の食卓の雰囲気で、悟ったみたい」

男「マジか。結構勘が鋭いんだな、親父さん」

幼馴染「ずっとニコニコしてたもん、男」

男「……なるほど、俺が馬鹿なだけだったか」

幼馴染「……あと、私もニコニコしてた、らしい」

男「あー、そういやずっと笑ってたな。なんかもう幸せで幸せで意識が半分飛んでたから気づかなかったが」

幼馴染「……私の方が幸せだもん」ムー

男「何の勝負だ」ムニムニ

幼馴染「ふにー」

男「さて、それじゃ食うか!」

幼馴染「ん。……あのね、男?」

男「ん?」

幼馴染「……えへへ。これからも、隣にいさせてね?」

男「知らなかったのか? 俺の隣は昔からお前の指定席だぞ」

幼馴染「奇遇だね? ……私も、そうなんだよ?」


おわり

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