八幡「もしもボックス?」 (122)

八幡「『もしもボックスです。ご自由にお使いください』……」

八幡「なにこれすげえ怪しい」

八幡(つうかいつの間にこんな所に空き地が?朝通った時はなかったはず)

八幡(そのど真ん中に鎮座するもしもボックス(仮)は、確かにアニメや漫画で見たあのもしもボックスに酷似している)

八幡(今やもうこの辺に設置されているはずもない、古い電話ボックスだ)

八幡(もしもボックスか……確か、電話をかけてもしも、の後に体験してみたい事柄を言えば、それが常識になっているパラレルワールドに行けるんだったな)

八幡「……」

八幡(はは、もしもボックスなんてあるわけがない。いきなり空き地ができてこんなのが設置されているということは、一般人を巻き込むどっきりかなにかか)

八幡(……でも今時そういうのやらないよな、テレビ)

八幡(もしも……か。もしも……)


もしも、↓2だったら

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1445635208

八幡「もしも俺の目が、腐っていなかったら……」

ガチャン

八幡(は、俺は何言ってんだ。こんなの、本物のはずがない)

八幡(もしこれがどっきりだとしたら、今の恥ずかしい発言がお茶の間に……死ねるわ)

ジリリリリリリ

八幡「え、鳴ってる?……止まった。なんだったんだ」

八幡「いいや、とにかく帰るか」

八幡(なんかすごい時間を無駄にした気がするわ)

八幡(だいたい、目付きが違ったくらいでそうそう変わらんだろ)キコキコ

八幡(俺はそんな程度のことで人生変わるほどやわなぼっちではない)キコキコ

八幡(か、悲しくなんてないんだかねっ!でも、涙が出ちゃう。男の子だもん)キッ

八幡(さーて、ついたっと)

ガチャッ

小町「お帰りお兄ちゃん!遅かったじゃんもー!」

八幡「お、おう?え、どうしたんだわざわざ出迎えなんて」

小町「え?出迎えなら毎日してるでしょ」

八幡(なん……だと……?そんなはずはない。だが、冗談で言っている雰囲気でもない……)

八幡(まさかこれは……本当に、さっきのもしもボックスで世界が変わった!?)

小町「まったくもう、こんな遅くまで寒い中外にいてー」

八幡(なにこれ。すっごい俺気遣われてる。まさか、目付きが変わっただけでこんな……)

小町「お兄ちゃんの目が乾燥しちゃったらどうするの!?お兄ちゃんのばか!」

八幡「は?」

小町「ほら、目薬するから!」

八幡「いや、いいよ別に」

小町「何言ってるの!お兄ちゃんは良くてもお兄ちゃんの目が大変だって言ってんの!」

八幡「……んん?」

八幡(え、なに?俺の目だけ大事にされてるの?どういう世界だよ)

八幡「目薬さしたぞ」

小町「よろしい。じゃあ後はアイマスクつけて、目暖めて休んでて。ごはんできるまで」

八幡「えっと、その前に顔と手、洗ってきたいんだが」

小町「そのくらいならいいけど……早くしてよね」

八幡「おう」

八幡(どんな目になったんだ俺)


鏡『ぺっかー』

八幡(うわ俺の目めっさキラキラしてる!なにこれキモいよ!)

八幡(え、腐らなかっただけでこんなキラキラアイズになるの?マジで?腐ってなかったら最強とか巨神兵かよ)

八幡(ていうかマジで宝石みたいな目してるジュエルペットなの?ってくらい)

八幡(いやでもだからって小町のあの入れ込み用はわからんが)バシャッ

八幡(この世界にいたらずっとあの調子で俺の目を守ろうとするんだろうか)

小町「遅い!」

八幡「あ、ああ。悪い」

小町「もうすぐアイマスクつけて!」

八幡「目隠したら歩けないんですけど」

小町「小町がつれてくからいいの」ギュッ

八幡(やだ!いきなり手を繋ぐなんて小町くんったら大胆!そんなことされたら八幡どきっとしちゃうよぉぉ)

八幡(……まあ大事にはされるみたいだし、もう少し様子を見るか。だが嫌になったらすぐ戻しに行こう)

この話のヒロイン↓1

小町「はーいお兄ちゃんご飯できましたよー」

八幡「おう」


八幡「……で」

八幡(なんかいつもより野菜多いなーといった夕食。おそらく目にいいものを選んでいるのだろう)

八幡(だがしかし。食卓の中央に鎮座する、己がメインディッシュであると主張をこれでもかとしている存在には目を瞑れなかった)

八幡「目玉じゃね?これ」

八幡(そう、目玉だけに)

小町「うんそうだよ。マグロの目玉の煮物。どうしたの?お兄ちゃんの好物じゃん」

八幡(マジかよ……)

小町「あ!お兄ちゃん今の表情やめて!目が曇ってた!」

八幡「あ、ああ。悪い……」

小町「ほら、早く食べよ」

八幡「はい……」

八幡(意外とうまかったけど、やっぱ目玉の形がまんま残ってるのはどうかと思うんですよ……)

八幡(おかげで食感もやたら気になったわ)

小町「ほらお兄ちゃん、あとこれ」

八幡(え、ご飯は全部食べましたよ残さずってこれは!)

八幡(ブルベリアイアイ!ブルベリアイ!わかさ生活!じゃないか!!)

小町「忘れるなんてお兄ちゃんらしくないね。なんか変だよ今日のお兄ちゃん」

八幡「疲れてんのかもな……」

小町「じゃあ早くお風呂入って寝たほうがいいよ」

八幡「そうだな……」


小町「あー!!なにゲームなんてやってんの!」

八幡「いや、眠れなくて」

小町「様子を見に来てみればもー!ゲームなんてやったら目が悪くなるでしょ!」

小町「ぼっしゅー!そして早く寝る!」

八幡「はいはい……なあ小町」

小町「あによ」

八幡「なんでそんなに俺の目を大事にするんだ?」

小町「なんでってきれいだからに決まってるでしょ」

小町「その目は我が家の、ううん千葉の宝だってお兄ちゃんも言ってたじゃない」

八幡(すげえな俺の目)


八幡「この時俺はまだ、己の目がどれだけの価値を持つものになったのか、まだ完全に把握できていなかった」

八幡「翌日学校に行った俺は、そのことを嫌というほど思いしらされたのであった」

次の日

小町「疲れがたまってるなら休んだ方がいいよお兄ちゃん」

八幡「いや大丈夫だ。行ってくる」

小町「でもさあ」

八幡「問題ないって」

八幡(今日の学校の様子次第では、この世界を元に戻さなきゃいけないしな)



八幡(で、登校したわけだが。俺は多くの視線が自分に突き刺さるのを感じた)


八幡(しかもつきささってくるのはただ一ヶ所。そう、目だ)

八幡(目に死線が突き刺さるとかだと怖すぎである)

八幡(俺が通ればみな一様に目を見る。通常目を見るというのは相手の心情をはかるとか、逆に自分の本気度を訴えるとか)

八幡(そういった心理的な意味もあったりするのだが、彼ら彼女たちの視線は目の前で見て、目の前のままぴったりストップする)

八幡(目の後ろについている俺の顔形はもちろん、さらにその奥にある脳、つまり俺の性格人格人物像はまるで無視なのだ)

八幡(なぜそれが分かるかと言うと、前述したように目からは実に様々な相手の心情を推し量れるからだ)

八幡(目は口ほどにものを言う。まさにその通り。ぶつかるEYES!で全てを見通すことができる)

八幡(一流の忍同士は拳を合わせるだけで一流空間と呼ばれる謎の精神世界で語り合える。だがぼっちの超一流たる俺は相手の視線で相手の語る言葉を理解する)

八幡(うぜえとか。邪魔とか。なんでいんのとかが主だ)

八幡(その俺の八幡眼で理解した。確かにみな俺を見るようになったが、結局俺の人となりは無視されていると)

八幡(その実例と言える事柄が先程あったので紹介しよう)

八幡(登校した俺は誰に声をかけることもなく席についた。いつものことだ)

八幡(すると視線を感じた。どうやら隣の席のなんとかさんが俺を見ていると感じた。正確には俺の目をだったが)

八幡(だが初めての体験にちょっとびっくりしてしまった俺は、思わず俺からも視線を送ってしまった)

八幡(重なる視線。相手は俺が見ても視線を反らさない。危ないところだった。俺でなければ惚れていただろう)

八幡(だがちょっと見つめ合ってるだけで間をもたすとか俺には無理すぎだったので、つい声をかけてしまった?)

八幡「何か用っすか?」

八幡(と。しかしこれは俺の記憶なので相手には「な、なんか用っすか?ふひひこぽぉ」とか聞こえたかもしれない)

八幡(というかむしろそうであって欲しい。だってそのあと)

「あ、ごめんしゃべるのやめて」

八幡(とめっちゃしかめっ面で言われました。ぐすん)

八幡(うんまあね。きれいなものを見てるときに俺の声なんて聞きたくなかったんだろうね。うん)

八幡(大丈夫。うん。よくあるよくある。こんな扱いくらい八幡気にしないから。うん)

八幡(まあそんな感じで朝から放課後までを過ごした)

八幡(クラスメイトや教師までもが俺の目に注目していたが、それだけで俺の元の生活とあんま大差ない一日を)

八幡(にしてもあれだよね。やっぱり俺のぼっちぶりは腐った目を治したくらいじゃ変わらないんだなー)

八幡(なんて思う分けねーだろ!なんだよこの異常な世界は!)

八幡(俺は目が腐ってなかったらって言っただけなのに、目だけ扱いよくなりすぎだろ!)

八幡(あまりにも極端な世界で逆に草生えるわ!腐った目だけに!)

八幡(ああもうこんな世界嫌だわ。部活終わったらとっとと元に戻す)

八幡(とか考えながら部室に向かう。ところで俺は、朝から再び目を腐らすくらいわけない量の陰気な思考をしてるはずなんだが)

八幡(俺の目だけはらんらんと輝き青春を感じさせる光を今も放ち続けてるのかな?気になるわー。鏡みたい)

八幡(昼間から鏡が見たいとか人生で初よ初。昔、夜中に鏡の前でポーズ取った黒歴史はあるけど)

「ヒッキー!」

八幡(不意に呼び掛けられた。相手は誰だかはすぐに分かったが……振り替えるのが怖かった)

八幡(彼女にまで、ほかの奴等と同じように、目の後ろに興味がないような視線を向けられたら。それが怖かった)

由比ヶ浜「もー、勝手に先行かないでよ!」

八幡「ああ、悪い……あれ、一緒に行く約束なんてしてたか」

由比ヶ浜「約束っていつものことでしょ。一人で行ったら危ないじゃん」

八幡(危ない、という意味はわからなかったが、とりあえず由比ヶ浜の表面上の態度に変化が見られなかったことで)

八幡(俺はほっとしていた)

八幡(由比ヶ浜と来れば次は雪ノ下である。まあ、雪ノ下は俺の目がどうにかなったくらいで、そんな変わるとも思えないが)

八幡(そして当然のように、やってきた俺に雪ノ下はこう挨拶をした)

雪ノ下「いらっしゃい、由比ヶ浜さん。比企谷くん」

雪ノ下「比企谷くんは今日も目以外は全く冴えないわね」

八幡「俺の頭脳でも冴え渡ったりしたら殺人事件でも起きそうで嫌だからな」

八幡(どうやら、雪ノ下も問題ないようだ。安心する俺)

八幡(しかし、狂気というものはパッと見でわからないものもあると俺は後で思いしらされた)


コンコン


八幡(しばらくして、ノックが部室に響き渡った)

八幡(誰の手もが止まる)

八幡(この後、いつも通りなら雪ノ下が来訪者に入室を薦める)

八幡(だが、いつも通りとはいかなかった)

由比ヶ浜・雪ノ下「……」

八幡(二人とも、完全にノックを無視した。返事をしない。別に依頼人に積極的に来て欲しいわけではなかったが)

八幡(わけがわからなかったので俺は二人に視線で何故かと問いかけた)

この後キャラ崩壊しますが、もしもボックスによる
パラレルワールドの住人たちなので許してください

八幡(雪ノ下から反ってきたのは、否定の首横振り。由比ヶ浜はしーっとポーズを取っている)

八幡(相手にしたくない人でも来たのかしらんととりあえず俺も無視)

八幡(しーんとした空気が流れたが、不意に扉は開かれた)

葉山「なんだ、いるじゃないか」

八幡(なんや葉山やんけ!確かに俺も別に会いたい相手ではなかったが)

雪ノ下「勝手に開けるなんてマナー違反よ」

葉山「居留守を使う相手にマナー違反もないんじゃないかな」

雪ノ下「別にわたしたちにはあなたをもてなす理由もないのだから、構わないでしょう」

雪ノ下「でもあなたはそんなわたしたちの部室に邪魔をする側。マナーを守るのは当然だわ」

葉山「ではマナーを守って諦めて帰れと?」

雪ノ下「そういうことになるわね。分かったら、帰ってちょうだい」

葉山「悪いけど、俺もそういうわけにはいかないんでね。比企谷」

八幡「え、は?」

八幡(いきなり呼び掛けられて、ぼけっと見ていた俺は変な返事をしてしまった。いや、でも、なんだよ。葉山が俺に用事?)

葉山「この間の頼み、聞いてくれないか」

八幡「頼み……?」

葉山「そうだ」

雪ノ下「それは断ったでしょう」

葉山「君はね。でも俺が聞いているのは比企谷だ」

八幡「えっと……なんの話だ」

葉山「次の日曜、サッカー部の練習試合を応援に来て欲しいって言ったじゃないか!」

八幡「俺がサッカー部の応援に?なんでだよ」

八幡(わっかんねー。マジ意味わっかんねー)

八幡(つうかまず日曜とか無理だわ。午前中いっぱいニチアサだから)

葉山「比企谷、君の目は君には見えないから分かりづらいかもしれないが……」

八幡(うん、当然だよね。なに重々しい表情と口調でアホなこと言ってんのこいつ)

葉山「君の瞳に見つめられてやる気が出ない人間はいない!!」

葉山「君に見つめてもらえれば俺たち勝てるというのが、サッカー部の総意なんだ!!」

八幡(絶句しました。いやていうかなにそれ。サッカー部が俄然ホモの集団に見えてきて怖いんですが)

葉山「比企谷はただその場に居て見ててくれさえすればいい。声援はいらない。だから、頼む」

八幡「いや、日曜は予定あるし……」

八幡(プリキュアという大事な用がな!)

雪ノ下「そうよ。彼には大事な用があるの。この間もそう言ったでしょう」

八幡(なんだ雪ノ下。お前もプリキュア見んのか)

葉山「あんなの、用じゃない」

八幡(なんだとお前。プリキュアバカにするならボーダーとダンサーと忍者とゴーストで総攻撃するぞ)

雪ノ下「いいえ大切な用よ。彼の瞳の観賞会はね」

八幡「待ておい」

雪ノ下「どうしたの?」

八幡「観賞会ってなんだよ」

雪ノ下「毎週末行っているでしょう?わたしと由比ヶ浜さんと小町さんであなたの瞳を一日中目で愛でるの」

八幡(初耳だよ!そんなアホなイベント企画したの誰だよ!!)

八幡「まじか由比ヶ浜」

由比ヶ浜「え、あ、うん。いつもじゃん」

八幡(ちょっとこの世界の俺、されるがまますぎませんかねぇ……)

雪ノ下「それに比企谷くん。サッカー部の練習試合は当然外出しなければならないわ」

雪ノ下「でもわたしたちの観賞会は、あなたができるだけ目を開いてさえいてくれれば、あなたの家で大丈夫なのよ」

雪ノ下「当然プリキュアとかも見ていいの。いつも通りね」

由比ヶ浜「ヒッキー、一緒にプリキュア見ようパフー」

八幡(く、だ、騙されんぞ!一瞬プリキュア見れるで傾きかけたが、それはつまりプリキュアを見ている俺も見られるということ!)

八幡(耐えられるか・・!そんな羞恥プレイ・・!)

「先輩練習試合に来てくれないってほんとですか!!?」

八幡(俺がどうどっちの案件も断ろうかと考えていると、そいつは突然部室に入ってきた)

いろは「先輩が来るっていうからわたしも行くって言っちゃったのに!!」

八幡「お前元々マネージャーだろ」

八幡(一色いろは、ここに見参!おそれ多くもわが校の生徒会長である)

いろは「最近は生徒会で忙しいからって断ってたんですよー」

いろは「って、ちょ、葉山先輩いるじゃないですか!先に言ってくださいよ!」

葉山「いろは」

いろは「は、はい?なんですかぁ?」

八幡(お前今さら愛想振り撒いても意味ないと思うぞ)

葉山「比企谷を練習試合に連れてくることができたら、さっきの発言は聞かなかったことにしよう」

いろは「え、ほんとですか!よーし!」

八幡(よーし!じゃねえ、お前憧れの先輩相手にそれでいいのか)

いろは「せんぱぁーい、わたしと一緒にぃ、サッカー部の応援しましょうよぉ」

いろは「先輩が応援してるとこ、わたしも隣でずーっと見たいなー」

八幡(お前それ試合の応援してねえじゃん。俺の目見てるじゃん、ずっと)

八幡「いや、行かない」

いろは「えー!?なんでですかあ?日曜日もわたしと会えるんですよ!」

八幡「なおさら行かない」

いろは「……分かりました。では、応援に来てくれたら、試合のあとわたしとデートができるということで」

雪ノ下「それはわたしたちが許さないわ」

由比ヶ浜「そ、そうだよ!ダメ!」

雪ノ下「それにサッカー部の応援は、わたしたちの観賞会があるからダメだと言っているのだけれど」

いろは「観賞会ってなんですか?」

雪ノ下「彼の瞳を一日中鑑賞する会よ。今のところの参加者はわたしと由比ヶ浜さんと彼の妹の小町さん」

いろは「……それって、わたしは参加しても?」

雪ノ下「……もちろんいいわよ」ニコッ

雪ノ下「でも、彼がサッカー部の練習に行くなら、中止にしないといけないわね」

いろは「……」

葉山「い、いろは?」

いろは「ごめんなさい、葉山先輩……わたし、やっぱり練習試合の日は生徒会で行けません!って言っておいてください!」

八幡(いや、今の流れでそれは無理だろう)

八幡(あと、俺がサッカー部の練習を応援に行って、その場で観賞会すればいいんじゃねえ?という案も浮かんだが)

八幡(俺に都合が悪すぎるので黙殺しよう)

葉山「頼む比企谷!俺たちには!いや、俺にはお前が必要なんだ!」

八幡(おいやめろ。頼むからちゃんと俺の目って言え。海老名さんが召喚されちゃうだろ)

葉山「お前がいてくれたら……俺はどんな相手だって勝てるんだ……」

八幡(だからぁ!やめてって言ってるでしょう!?)

雪ノ下「往生際の悪い男ね」

葉山「君たちこそ、いまだ奉仕部を名乗っているなら、少しは協力してくれてもいいんじゃないかな」

雪ノ下「悪いけれど、わたしたちはもう奉仕部ではないの」

八幡「え」

雪ノ下「彼の視線を奉る、奉視部になったのよ!」

八幡(……だせぇ)

八幡(その後葉山はまだ諦めきれないようだったが、今日はもう無理だと悟ったのか、しぶしぶ帰っていった)

八幡(帰り際、必ずお前を奪って見せるとか言ってた気がするが……あーあーきこえなーい)

八幡(とりあえず今日一日過ごして見思った)

八幡(この世界の住人は頭悪すぎだと思います)

八幡(結局もしもボックスはどこにも見つからなかった)

八幡(もうこの世界に骨を埋める覚悟をしなければならないというのか)

八幡(確かに、俺の目は腐っておらず、それどころか目が魅力がありすぎて光でも放っているらしく)

八幡(人は虫のように寄ってくる。この世界ならば、俺を養ってくれる相手を見つけるのも容易だろう)

八幡(まあ、相手が養いたいのは俺の目なんだろうが)

八幡(そんな素晴らしい目を手に入れたというのに。どうしてだろうか。俺は俺が求めるものが、余計に遠くなったような気がしてならなかった)


戸部「ヒキタニくーん!」

八幡(葉山が部室に来た翌日のことであった。朝、昇降口で声をかけられた)

八幡「なんだよ」

八幡(元の世界ならば、朝俺にわざわざ挨拶以上の声をかける相手ではない)

八幡(もっとも、戸部はサッカー部員だ。つまり……)


葉山『君に見つめてもらえれば俺たちは勝てるというのが、サッカー部の総意なんだ!!』


八幡(あれに賛成したはず……)

戸部「ヒキタニくん、応援来ないってマジなん?」

八幡「マジだよ。俺がどうしてサッカー部の練習試合を応援しなきゃならねーんだ」

戸部「ヒキタニくんきっついわー。そこをなんとか!おねしゃす!!」

八幡「無理だから。マジで」

八幡「だいたい俺が見てれば勝てるってなんだよ。ちゃんと実力があるなら俺の目とか関係なしに勝てなきゃおかしいだろ」

戸部「いたっ!いたいとこつくわーヒキタニくん」

戸部「いやでもさー、こう、もうきっついわこれって瞬間が試合中あるわけじゃん?」

八幡「ああ」

戸部「しかも日曜の相手はなかなか強いんすよこれが。で、これ負けんじゃね?って瞬間があったとするじゃん?」

八幡「で?」

戸部「そういう時!ヒキタニくんの目を見るとー!」

八幡(うっざ。ノリに乗せようって感じがマジうぜえ)

戸部「その目に!俺らのかっこわりー姿は見せらんねーべ!ってやる気がわいてくるわけなんすよこれが!」

八幡「お前そこはいつも応援してくれるマネージャーとかのために根性を燃やせよ」

戸部「いやいやそれはそれ、これはこれだって!ヒキタニくんおねしゃす!!」

八幡「なんて言われようと行く気はない。じゃあな」

八幡(こんな目ひとつで決まるような勝ち負けなんて、尚更見に行く気がしなかった)

八幡(すげなく断り、去ろうとする俺。そんな俺を、戸部は最早かける言葉もなーー

ドンッ

戸部「ヒキタニくん……マジ今回だけ来てくれって」

八幡(ええ……壁ドンされたんですけど……)

戸部「マジ負けらんねーんだわ」キリッ

八幡(やだっ、戸部くんったら、普段はチャラいのに、真剣な顔してる……そんなにあたしのこと……きゅん)

八幡(じゃねーわ。なに男に壁ドンしてんのこいつ。その強引さは海老名さんに発揮しろっつーの)

八幡「い、いや、悪いんだけど……」

戸部「……そっか。じゃあ俺らでがんばっかー」

八幡「お、おう、そうしろ」

戸部「んじゃ、また今度応援楽しみにしてっから!」ニカッ

八幡「まあ、機会があったらな」

戸部「おう、マジ頼むわー。あ、あとやっぱヒキタニくんの目って近くで見るとマジキレイでヤバイわ」

戸部「じゃ」

八幡(……いや、ヤバイのはお前の態度だよ。ちょっと自分が男相手になにしたのか思い返せ)

八幡(そういう意味で海老名さんに好かれてもどうしようもないぞ……)

八幡(この世界にいる住人とこの世界の俺との関係は、時に別の世界から来た俺には想像もできないほど変質していることがあるらしい)

八幡(葉山たちの一件でそれは重々思い知っていた俺だったが、他にもこんな人物が意外なことになっていたりした)

八幡(昼。いつも通り、いつもの場所で飯をもそもそ食う俺。ここは今や俺の唯一の癒しの場になっていた)

八幡(家でも、教室でも、部室でも、どこにいようとだいたい視線を感じるのだ)

八幡(しかもみんな見るのは俺の目なので嫌でも視界に入る。気になってしょうがない)

八幡(しかしこのベストプレイスにはそれがない)

八幡(いるのは俺だけで、俺の視線の先には練習する戸塚。ああ、これほどの楽園が他にあろうか……)

八幡(だが楽園と言うものはいつの世も汚い人間の手によって汚されるのだ……)

相模「ちょっとー、なんで来ないわけ?」

八幡「は?」

相模「ぜんっぜんこないから、うち探しちゃったじゃんもー」

八幡(この女、相模。クラスメイトではあるが、俺との接点は最早あってないようなものだったはずだ)

相模「ほら、早く行こ。昼休み終わるじゃん」

八幡「いや意味がわからん」

相模「は?なに?約束忘れたって言いたいの?」

八幡「約束……?」

相模「へー、ばっくれるつもりなんだ」

相模「うちのあんな姿まで見た癖に!」

八幡「ちょ、やめろ、大声出すなよ」

八幡(しかもそんな人聞きの悪いことを、戸塚が近くにいるここで。戸塚に聞かれたらどうすんだ)

八幡(それにしても、相模のあんな姿?委員を糞サボったりしてるのしか記憶にないぞ相模なんて)

相模「……」ニヤッ

相模「このまま忘れたっていうなら、大泣きしてやる」

相模「ここでわんわん泣いて、人あつめてやる」

八幡(おいやめろ!それ女子の最終奥義じゃねえか!それやられると俺が全面的に悪いことにされるんだよ……)

八幡「なんの約束だかわからんが、守るから、それだけはやめてくれ……」

相模「じゃあついてきて」

八幡「わかった……」

八幡(いったいこの面倒くさい女とどんな約束しちゃったのよ俺は……)

八幡(連れてこられたのは、ベストプレイスからほど近いトイレであった。日中は生徒が滅多によりつかないようなところである)

八幡(まあ、密かに大をしたいせいとかがこっそり来ているようではあるが)

八幡(その女子トイレに、俺は押し込められた。ほんともう誰か助けて……)

八幡「なあ、そろそろ約束がなんなのか教えてくれ」

相模「なに?まだその演技続けるわけ?別にいいけど、なら教えてあげるわよ」

相模「あんた、文化祭の最後に約束したじゃん」

八幡(文化祭の最後……まあ覚えてる。委員長の挨拶があるのに、バックレたこいつを探しに行ったんだったな俺は)

八幡(しかし、やはりその時に約束した記憶はない。つまり、俺がいた世界と、この世界では解決の方法が違ったと言うことか)

相模「うちが戻ったら、毎日あんたの瞳をうちが独占して見る時間を作ってくれるって」

八幡「ああ……」

八幡(なるほど。そういうことか。この世界の俺もまた、目的のためには手段を選ばんタイプなんだな……)

八幡(だがそれでも毎日はないだろ毎日は……)

相模「思い出した?」

八幡「まあな……じゃあ早く済ませてくれ」

相模「うん、あんたがすぐ来ないせいで時間足りないもんね」プチップチッ

八幡「やっぱ待て」

相模「なによ、まだなんかあるわけ?」

八幡「いや、なんで脱いでるんだよ……」

相模「は?別にいいでしょ?今はうちがあんたの視線を独占してるんだから、何を見せようとうちの勝手じゃんって言ったでしょ」

八幡「じゃあ、俺が見たお前のあんな姿って……」

相模「ちょっと、やめてよー。そういうプレイのつもり?悪いけど、うちあんた自体には興味ないんですけどー」スルッ

八幡(興味ない男の前で裸になるほうがどんなビッチだよ……)

相模「はぁはぁ、見られてる、うちのいやらしい姿、見られちゃってるぅ……」モミモミ

八幡(予想してたけど、やっぱ目的はそれかよ……)

相模「んん、こんな、こんなの、あぁ……」クチュクチュ

八幡(間がもたねえ……)

八幡「だいたい、なんでこんなこと……」

相模「なに、また?ほんとにそういうプレイしたいんだぁ」

八幡(やべ、口から出てた!)

八幡「待て、誤解だ。俺にはそんな欲求断じてない」

相模「いいよ、のってあげる」

相模「最初はさあ、あんたの目を見るのは好きだったけど、それだとあんたにも見られてるっていうのが」

相模「すっごくキモかった」

八幡(うんうん、ならそこでやめれば良かったのに)

相模「でも、あんたの目を見るのは好きだったから、見るのをやめるなんてできなかった」

八幡(なるほど。嫌なのに、見ちゃうよぉ……ふぇぇ状態か)

相模「そしたら、なんかだんだん……あんたのきれいな目を通して、嫌いなあんたにうちを見られてるってことにぃ、興奮してきてぇ」ビクッ

八幡(いや、そこでなぜそうなったし。その発展は超進化レベルだろ。むしろ暗黒進化。間違った勇気だっぴ)

相模「あんたを見て、うちを見られた日にこれすると超気持ちいいって気づいたのぉ」ビクビクッ

八幡(あかん。もうこの相模はダメだ。食べられないよ)

相模「その後は、早かったよね。あんたの目の前でして、その証拠、うちが握ってるから、あんたはもううちから逃げられなくなった……」

八幡(おい、待ておい。なにそれ。証拠握られてるの?俺迂闊すぎぃ……)

相模「でも、うちは、あんたに付き合ってもらいたいとかじゃないから。あんたのことなんて、まだキモいって思ってるし、んっ、んっ」

相模「こうやって、うちのするとこたまに見てくれさえすればそれで……あっ」

相模「んんっ!!」ビクビクッ

八幡「……」ドキドキ

相模「……じゃ、また次する時はメールするから」

八幡「あ、はい」

相模「はぁ、午後の授業たるいなー」ガチャッ

八幡(そう言い残すと、最早俺には見向きもせずに相模は去っていった)

八幡(一人女子トイレに取り残され、俺はこうつぶやくしかなかった)

八幡「……マジなんなんだよ、この世界」

八幡(やはり元の世界には戻らねばなるまい。この狂った世界で生きていくなど俺には無理だ)

八幡(その為にはもしもボックスを一刻も早く見つけなければならぬ。奉視部と化した奉仕部になど行っている暇などない!)

八幡(ない!のだが……)

由比ヶ浜「ほらヒッキー!早く行くよ」

八幡「いや、だから俺、今日は用事があってだな……」

由比ヶ浜「嘘。用事なんてないよね?ね?」

由比ヶ浜「さっきもそう言ってたけど、あたし、小町ちゃんにもちゃんと確認したんだよ?」

由比ヶ浜「そうしたら何もないはずですって返ってきたんだから。それなのにどうして嘘つくの?ねえ?どうして?」

由比ヶ浜「それとも本当に用があるなら、普通言えるよね?じゃあどんな用?ねえ、言ってよ?どんな用?」

由比ヶ浜「それとも言えない用なの?あたしたちに知られたらまずい用なの?なにそれ?答えてよヒッキー」

八幡(……あかん。この由比ヶ浜さんあかん)

八幡(昨日は由比ヶ浜のほうは、雪ノ下ほど狂った感じないかなーって思ったのに、やっぱ狂ってたよ!怖い)

八幡「あ、あー、そうだな。ぶっちゃけちょっと今日はサボりたかっただけっつーかな」

由比ヶ浜「あ、やっぱり。もう、そういうのよくないかんね」

八幡「ああ……」

八幡(お前も元の世界だと、割りと三浦とかと約束あるからーっていなかったりするのに……)

「結衣ー」

由比ヶ浜「あれ」

八幡「呼ばれてんぞ」

「結衣ー」

由比ヶ浜「優美子、かな?なんだろ」

「結衣いるー?」

由比ヶ浜「うん、ここー!」

八幡(あ、今由比ヶ浜さんったらうんこ言いましたですよ!うんこ!UNCO!って!小学生か)

「ちょっと来てー」

由比ヶ浜「……なんだろ」

八幡「行ってこいよ。俺は先に部室行くから」

由比ヶ浜「ほんとに?帰っちゃわない?」

八幡「今さら帰るかよ。ちゃんと行くわ」

「結衣ー」

由比ヶ浜「はーい!んー、わかった。じゃあ先行ってて」

八幡「おう」

由比ヶ浜「もし帰ったら……」ペロリ

八幡(ひぃ、なんですかその舌なめずりは。怖い)

由比ヶ浜「じゃ。優美子ー?」

八幡(行かなかったら、なにされんだろ……)

城廻「比企谷くん」スッ

八幡「城廻先輩。お久しぶりです」

八幡(不意に声をかけられた。ここしばらくとんとご無沙汰だった人の声を)

八幡(城廻めぐり先輩。謎のほんわかめぐりんパワーを擁する前生徒会長だ)

城廻「良かったー、比企谷くんに会えて。探してたんだよー」

八幡(め、めぐりんはぼきゅを探していらしたんですか!?ふひひ、光栄の至り!)

八幡「なんか用すか」

城廻「うん、すぐ終わるから、ついて来てくれるかな?」

八幡「……」

城廻「どうしたの?」

八幡「いえ……」

八幡(あれれー?なんだか八幡嫌な予感がするぞー?だってこのめぐり先輩も結局はこの狂った世界の住人なわけで……)

城廻「比企谷くん。すぐ済むから……お願い」ウルッ

八幡(俺は……めぐりんを疑うなんて、なんてことを)

八幡(相模はオナ狂いになっていたが、まさかこの大天使めぐりんに限って、世界が変わったくらいでそんなことはあるはずがない)

八幡(めぐりんパワーを信じろ、俺。ていうかマジでそろそろまともな人に会いたいんですよ……)

八幡「わかりました。少しくらいなら」

八幡(今度こそ何もありませんように……)

八幡(かーらーのー)

城廻「……」ジー

八幡(はい、あれから三十分経ちました。その間別に何かをされたわけじゃないけど、ひたすら見つめあっています)

八幡「あの、城廻先輩?そろそろ……」

城廻「あ、ごめんね、比企谷くん!こんな時間取らさせて……」

八幡「いえ。じゃあそろそろいいですよね」

城廻「そう……だね」ジワッ

八幡(くっ、また……)

城廻「ごめんね、卒業したらもう比企谷くんのこと、今までみたいにずっと見てられないんだなって思ったらつい……」

城廻「わたしは比企谷くんと学校くらいしか接点ないから……」

八幡「わかりました……じゃあもう少しだけ」

城廻「ほんとうに!?ありがとう、比企谷くん」ニコッ

八幡(あぁー、めぐり先輩が笑うとまるで花が咲いたみたいじゃー)

八幡(だがいつまでもこうしているわけにはいかない……なぜなら俺のスマホちゃんがさっきからバイブ機能全開にしているからだ)ヴィーンヴィーン

八幡(やだ、こんなに揺れたらまるで大人の玩具使用者って勘違いされて、善導課に通報されちゃう!)

八幡(だからいい加減止まってくれ。スマホの電池とかすぐ切れるんだから。たぶん由比ヶ浜あたりがかけまくってんだろうけど)

城廻「はぁ……本当にきれい……食べちゃいたいくらい……」ペロッ

八幡「」ゾクッ

八幡(やめてその舌なめずり。マジ怖いから。てへぺろとかかわいいもんじゃないし)

城廻「……ねえ比企谷くん」

八幡「なんですか……あ、もしかして終わりですか?」

城廻「ううん、まだ」

八幡(まだかよ!あんたのちょっと長いな!)

城廻「やっぱり、連絡先交換できないかな?そうしたら今日はとりあえず終わりでいいから」

八幡(こんだけやってとりあえずっすか)

城廻「ね、いいよね?」

八幡(うーん、別に連絡先を交換するくらいなら)

雪ノ下「その手には乗ってはダメよ比企谷くん!!」バンッ

由比ヶ浜「ヒッキー!無事!?」

八幡(無事って。なにかされる可能性あったの俺)

城廻「あ、二人とも久しぶりー。そっかー、ばれちゃったかー」ニコニコ

雪ノ下「ええ。彼がわたしたちの許可なく部活をサボるわけがありませんから」

八幡(この世界の俺って相当行動制限されてない?)

由比ヶ浜「優美子の声真似で騙すなんて卑怯です!」

八幡(なん……だと……?)

城廻「うふふふ」パチッ

八幡(めぐり先輩が指を鳴らすと、彼らは音もなくその場に現れた)

八幡(彼らには見覚えがあった。前生徒会役員、めぐりん親衛隊である)

八幡(その中の一人が、徐に声をあげた)

「結衣ー」

八幡(すげえ。マジであーしさんそっくり)

城廻「上手でしょ?彼女、声真似が得意なの」ニコニコ

城廻「じゃあ、比企谷くん。さっきの話だけど、考えておいてね」

比企谷「はぁ」

八幡(城廻先輩はその後、別にあせることもなく、にこにこめぐりんスマイルを浮かべたまま帰っていったが)

雪ノ下「まったく、気を付けなさいといつも言っているのに」

由比ヶ浜「そうだよヒッキー」

八幡「いや、なんで城廻先輩相手にお前らそこまで焦ってんだよ」

雪ノ下「なぜって、彼女はわたしたち奉視部にとっては敵じゃない」

由比ヶ浜「ヒッキーを独り占めしようとしてるんだよ!」

雪ノ下「あなたを自分の親衛隊に加えてね」

八幡(いつの間にそんなバトル展開になったんだ)

次はようやくはるのんがでるのん

八幡(部活も終わり、俺はもしもボックスがあった空き地を探しに向かった)

八幡(この世界で生きていく覚悟など俺にはない)

八幡(むしろ今日のことで全力でくじけたとも言える)

八幡(だって知り合いのほとんどが、声姿は一緒なのに、中身がエイリアンになってるくらいの変貌を遂げてるんだぜ。怖すぎる)

八幡(しかし見つからん。もしもボックスはおろか空き地までもない)

八幡(実は本当に、どっきりだったりしないだろうか?あいつらもどっきりのための演技をしているだけで……)

八幡(……いや、そこらの一般人である俺をどっきりにはめるためだけに、そんな壮大な仕掛けるをするやつなんていないか)

八幡(ただのテレビのどっきりだったならば、どれだけいいかと思う)

八幡(しかしただのどっきりなどありえないことだ。認めたくはないが、もしもボックスは確かにあった)

八幡(何者かが、この辺りに空き地を作り、もしもボックスを設置し、俺が使ったのを見計らって、空き地ももしもボックスも消した)

八幡(この奇妙キテレツ摩訶不思議なことをやり遂げた、猫型ロボット的な存在が、いるはずなのだ)

八幡(そいつは今も俺の行動を監視しているのだろうか。もしもボックスと空き地を消したということは、その可能性が高い)

八幡(ぬーべーの枕返しのように、パラレルワールドに戸惑う俺を見て、近くで笑っているのかもしれない)

八幡(もしこの仮定の通りだとするならば、どうするべきか。二つ道がある)

八幡(一つ目。相手が俺が戸惑っている姿を楽しんでいるのだとすれば、俺も受け入れて楽しんでいるように見せる)

八幡(つまりはエンジョイ勢になる)

八幡(相手が楽しんでいるのが俺が戸惑っている姿ならば、これで俺は用済みとなり、上手くいけば元の世界に戻れるようになる)

八幡(不安要素。もし相手が別に俺で遊んでいるのではなく、下等文明種族にもしもボックスを使わせたらどういう行動をするのか的な)

八幡(ただ実験の実験だった場合、俺の態度に関係なく実験は続くだろうということ。だがむしろ実験とかなら期間が決まっていそうだし、ありがたいのだが)

八幡(一番厄介なのは、相手に親切心があった場合。こっちは元の世界に戻してほしくて楽しいふりをしたのに)

八幡(楽しそうだからこのままにしておいてあげよっか!やだあたし気が利く~とかになったら最悪だ)

八幡(二つ目。すべてに無関心になる。あらゆるこの世界の事象に、そう……(無関心)を貫く)

八幡(俺の態度を楽しんでる奴だろうが、実験してる奴だろうが、俺がなんの反応を示さなくなれば、不要になるかもしれない)

八幡(不安要素。実験ならば、相手が俺がそういった考えに至ることさえも観察する意義を見いだしたら意味がない)

八幡(俺の反応で遊んでる奴の場合だと、俺に関心がなくなったからといって、律儀に元に戻してくれるとは限らない)

八幡(こちらの最悪は、相手がもういいやとなったのに置いていかれることだ)

八幡(結局どの場合でも相手が主導権を握っている以上、相手の親切心に期待するしかないわけだが……)

八幡(こんなことをしでかす奴に、そんなものを求めるのは、相手に期待しすぎとしか思えない)

八幡(一番いいのは、これの仕掛人と接触することなんだかな……)

八幡(相手がどんな人格であれ、そうなればやりようもあるが……まさか神の運命だとかだったなら、どうしようもない)

八幡(はぁ、どうすんべ……いっそ今ここで、発狂したふりでもするか……)

八幡(辺りを見回す。結局見つからないまま、人通りの多いところまで来てしまった)

八幡(泣きわめいたり、激怒したり、笑い転げてみたら、誰か見てればさすがにやばいと思ってくれるかも……)

八幡(いや、ダメだ。リスクが高すぎる。もしこの世界で生きていくことになった場合のために、そんな問題は起こすべきじゃない)

八幡(こうして変に注目されてみると、改めてぼっちとはなんて素晴らしい存在であったのかと思い知る)

八幡(こんな人を寄せる目を手に入れたところで、いいことなんて何もなかった)

八幡(相手は俺の目だけしか興味がない分、煩わしさのほうが大きい)

八幡(だからといって、腐った目がいいとは言えないだろうがな……)ヘッ

八幡(自嘲した瞬間、声をかけられた)

「あっれー、比企谷くんじゃーん!」

八幡(体が硬直した)

八幡(元の世界で、人畜無害な連中が、あの結果だ)

「久しぶりー」

八幡(この人は、どうなってしまっているんだ……)

陽乃「ちょっと、なんか挨拶ぐらいしてもいいんじゃない?」

八幡「はは、どうもっす……」

八幡(まさかきれいだからって目をくり貫かれたりしないだろうな……)

八幡(よし、とっとと逃げよう)

八幡「じゃあ俺、帰宅途中なんで」

陽乃「えー、なにそれ。つれなーい。少し話でもしようよ」

八幡「別に俺と話すことなんてないでしょ……」

陽乃「そう?わたしはなんかあると思うなー。比企谷くんには心当たりあるんじゃない?」

八幡「そんな心当たりなんて……」ハッ

八幡(仕掛人なら、もしもボックスなんて空想科学なものを用意できる相手ならば、俺の知り合いに姿形をまったくそっくりにして、俺に接触してきても、おかしくないのではないか?)

八幡(さもなくとも、例えば仕掛人が、未来からきた陽乃さん自身ということだってあり得る……)

八幡(このタイミングで俺と出くわし、話しかけてきたのは、本当に偶然なのか?)

陽乃「……」

八幡(陽乃さんの表情からは、何もわからない。いや、分かることはあった。この人は、俺の目を見ていない)

八幡(視線はまじわっているが、陽乃さんが見ようとしているのは、俺だ。俺が、今何を考えているのかを、見極めようとしている……?)

八幡(そんな人間にこの世界であったのは、これが初めてだ……)

八幡「まさか、雪ノ下さんが……?」

八幡(絞り出すように声が出た。しかし)

陽乃「ははーん、やっぱりなんか隠してるんだ。まさかわたしが?まさかってなに?」

八幡(やっちまったなー!!かまをかけられ、まんまとそれに乗ってしまったのだということを悟る)

八幡「い、いや、なんでもないです。ほらあれっすよ、中二的台詞がつい出ちゃって……」

陽乃「ええー、そんな雰囲気じゃ絶対なかった」

陽乃「最初比企谷くん見かけてから、しばらく観察したけど、なーんかふらふらしてるっていうか、まるで迷子にでもなったかに見えたんだよねー」

八幡「観察とかやめてくださいよ……」

八幡(ずっと俺見られてたの?なにそれ、獲物を品定め的な?怖いよー)

陽乃「だって最初っから様子が変だったし」

陽乃「それで極めつけは今の台詞ね。これで言い逃れされてもねー」

八幡(ぐぬぬぬ。脳細胞がトップギアってる陽乃さんにずばり看破され、言葉もない。まあ陽乃さんはセカンドとかサードくらいでこのくらいできそうだけど)

八幡(さて、じゃあどんな嘘をついてごまかしますかね……)

八幡「いや、実はちょっと日曜日のことを考えて憂鬱になってましてね」

陽乃「日曜日?」

八幡「おたくの妹さんが企画した俺の目の観賞会が日曜日だったのに、葉山が日曜にサッカー部の応援に来てくれって話で色々ありまして」

陽乃「ふーん」

八幡「ああ、あと今日は城廻先輩も来まして」

陽乃「めぐりが?諦めてないんだ、比企谷くんにこと」

八幡「それでこのタイミングで雪ノ下さんに話しかけられたんで、もしかしてこの話を聞いてきたのかと思って」

八幡「ついまさか、なんて言葉が出たわけです」

八幡(どうよ。ほぼ嘘はついてない。起こったことはすべて事実だ。これで嘘と見抜けるものなら見抜いてください)

陽乃「なるほどなるほど。君は相変わらずその目に振り回されてるねー」

八幡「そうっすね」

陽乃「んじゃあお姉さんが一肌脱いじゃおっかな」

八幡「え、もしかして雪ノ下も葉山も止めて」

陽乃「ううん、それはダメ。つまんなくなるし。それよりももっと面白いこと」

八幡「あなたが面白いと感じることって、厄介事としか思えないんですが……」

陽乃「厄介事にしてるのは比企谷くんでしょ。なに、簡単なことよ。逃げるの」

八幡「逃げる?」

陽乃「どっちも嫌なんでしょ、さっきの口ぶりだと。なら逃げちゃえばいいのよ」

陽乃「わたしが手引きしてあげるからさ」

八幡「え……」

八幡(それはそれで良し悪しで言ったら全力で嫌なんですが……)

陽乃「はい、決まりねー。じゃあ日曜の早朝抜け出してきて落ち合いましょう」ニコッ

八幡(ため息が出た。この人だけ元のまま魔王じゃないですか。やだー)

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年10月29日 (木) 02:17:54   ID: WiKgNqdk

色々と謎過ぎて面白い(笑)

2 :  SS好きの774さん   2015年11月03日 (火) 13:21:01   ID: f1YQRZDu

面白い

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom