八幡「漏れ出るサドが間違える」結衣「え、も、漏れ?」 (159)


 言い訳から始めようと思う。


 人は隙間が好きだ。


 それは生殖機能の副作用的な問題で、『入り込む』という事が関係しているのか。

 はたまた胎児の頃に感じていた『包まれる』という感覚を求めているのか。

 それは分からない。


 だが、人は何かに挟まれている時に安心し、警戒心を緩め、本当の自分になる。

 だから――、


結衣「ひ、ヒッキー……?」カァ///

八幡「……いや、その………」


 俺の右手が、由比ヶ浜の餅のような太ももに入り込んでしまったのも……。


八幡「例外じゃないんだ」

結衣「れ、例外?」アワワ///

結衣(ひ、ヒッキーに痴漢された!!)



 こんな感じです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1442051809


 するりと入り込んだ右手は、あたかも“これが自分の本来あるべき姿だ”と言わんばかりに歓喜のうねりをみせた。


結衣「ちょっ/// ひ、ひっきー!?///」モジモジ


 由比ヶ浜結衣。優しい女の子。

 俺が間違えて太ももを触ったのに怒るどころか殴ってすらこないなんて……。

 だが、それが俺の心の底で沈殿していた感情を湧き立たせた。


八幡「どうだ? 気持ち良いか?」

結衣「ふぇぇ!?」カァ///


 俺の問いに由比ヶ浜が赤面する。

 いつもならキモいやら、バカやら暴言を吐いてくる由比ヶ浜も、あまりに突然の出来事に思考が追いついていないようだ。

 俺はさらに追い打ちをかける。


八幡「いや、普段太もものマッサージとかされねーだろ?」


 行為の正当化。

 由比ヶ浜はマッサージという言葉を聞いた途端に、何かが腑に落ちた様子で苦笑いを見せた。


結衣「あ、あはは……そういう事だったんだ?」


 表情はぎこちないものの、さきほどまでの動揺は消えつつあった。


 それにしても、由比ヶ浜の太ももはモチモチしてて気持ち良い。

 ネットでは二の腕と乳房が同じ柔らかさとか書いていたが、太ももはどうなのだろう。


八幡「なぁ由比ヶ浜」

結衣「ん? な、何?」


 また気持ち良いのか聞かれると思ったのか、由比ヶ浜の表情が硬い。

 だが、俺がそれ以上の爆弾を投下する事で、彼女の思考は完全に故障する。


八幡「太ももとおっぱいって柔らかさ似てるのかな?」

結衣「ぬぇ!?」ビクッ///


 由比ヶ浜が驚きの声と同時に飛び上がった瞬間、


 ――ぷに。


八幡(い、今の感触は!?)


 柔らかさを内包する布。

 スカートの中に入り込んだ指が触れたモノ。

 それは、とても柔らかくてドキドキが止まりませんでした(小並感)。


 さすがに我慢の限界がきたのか、由比ヶ浜は俺から少し距離をとった。

 奉仕部の窓から初秋の涼しい風が入り込み、俺達の火照った身体を冷ます。

 由比ヶ浜が叫ぶ。


結衣「ひひひひ、ヒッキー!? ど、どうしたの一体!」


 その気持ちはよく分かる。

 俺でも、由比ヶ浜が突然に俺の太ももに触れてきたら通報するだろう。

 だが、俺は俺だ。考える葦でも、独裁者でも、神様でもない。


八幡(だから、言い訳もするし、それ以上の事もする)

八幡「いや、研究だよ。研究」

結衣「研究?」

八幡「今日は雪ノ下もこねーし、暇だろ?」

結衣「う、うん……」

八幡「本も持ってきてないし、することもない」

結衣「そ、そうだね」

八幡「だから、ここにあるもので暇つぶしでも出来ないかなって」

結衣「あたしの身体で暇つぶしすんなし!!」


 由比ヶ浜の叫びが、グラウンドの球児たちの掛け声と重なった。

 俺達は間接的ではあるが、青春を謳歌しているようだ。


八幡「いや、もちろんお前の身体は大切だ。弄んだりはしねーよ」

結衣「大切っ!?///」

八幡「だから、さ」


 ボタンを一つ一つ外していく――俺。

 ワイシャツを脱ぎ、シャツを捲る。


八幡「ちょっと確かめてくれねぇか。由比ヶ浜」


 夕陽が乳首を照らす。


結衣「」


 この日俺達は、――子供の世界から飛び出したのかもしれない。



結衣「ほ、本当に触っていいの!?」


 なんだ由比ヶ浜。その言い方だと触りたいみたいだぞ。

 心の中でツッコミを入れるが、言葉にすると由比ヶ浜のやる気を削ぐかもしれないのでやめておく。


八幡「ああ、確かめてくれないか」

結衣「じゃ、じゃあいくね……」モミ

八幡「……んっ///」ビクッ


 驚いた。

 我慢していた訳ではないが、予想外の声が漏れてしまった。


結衣「ヒッキー大丈夫!?」


 さすがに由比ヶ浜も男が胸を揉まれて声を出すとは思わなかったのか、心配そうに声をかけてきた。

 だが、ここで終わっては俺の計画も潰えてしまう。


八幡「だ、大丈夫だ。それより、どうだ?」

結衣「え、どうって……うーん」モミモミ


 大丈夫だと分かって遠慮なく揉んでくる由比ヶ浜。

 しかし、当然の事だが胸だけ揉んだ所で太ももとの比較ができるはずもなく。


結衣「ちょっと良く分からないかも……」アハハ…


 と、由比ヶ浜は苦笑いを浮かべて胸から手を離した。


八幡「だったら――」


八幡「太ももと同時に揉んで確かめてみろよ」


 俺は両手でシャツを捲っているため、彼女の手を誘導する事は出来ない。

 だが、由比ヶ浜はどういう状況になれば同時に揉む事ができるか把握したらしく、


結衣「え、で、でも……ズボンが…」カァ///


 視線を逸らしながらズボンを指差した。

 こいつ……ビッチの癖して純情だな。


八幡「……俺は痩せてるからベルトの意味を成していない。突っ込めば触れるだろ」


 あくまで冷静を装って指示をだす。

 もしかしてルルーシュがゼロとしてブリタニア人を屠っていた時もこんな気持ちだったのだろうか。


結衣「う……うん…分かった」


 由比ヶ浜は左手で俺の胸に触れたまま、そっと――比企谷八幡の聖域へと侵入した。

テンポ悪い


 人間の肩関節の可動域には限界がある。


結衣「ん……上手く入っていかないし…///」ゴソゴソ


 少なくとも、ズボンの隙間などという狭い部分に腕を突っ込むには、肩を俺の身体に密着させねばならないだろう。


結衣「ヒッキー、ちょっと近づいて良い?」ハァハァ///

八幡「……あ、ああ」コクリ


 左手で俺の胸を揉みながら、右手で太ももに触る為にはもはや、


 ――ふに、ふに。


 由比ヶ浜の大きな胸は俺の腹部に密着させなければいけない事は世界の理だった。


結衣「ん……しょ………ん?」モミ

結衣(これ……太ももにしては細いよね。前に出てるし硬いし……)モミモミ

八幡「ぐっ!?」モジッ///


 予想外の事が起きた。

 先ほどまで通常形態だった性器が、由比ヶ浜の胸と腹部が触れる事で戦闘態勢に入っていたのだ。


結衣「ねぇ、ヒッキーこれって……」ハッ

八幡「………」コクリ///


 認めざるを得ない。

 由比ヶ浜結衣。やはり貴様はビッチであると(自業自得)。



八幡「つーか触んなよ」


 ここまでくれば触って欲しいくらいだけど、ただ性欲に身を任せるのはその辺にいるリア充キョロ充と同じ発想だ。

 俺は由比ヶ浜とホンモノを手に入れてやるんだ。

 だから。


結衣「ひ、ヒッキーがおっきくしてるのが悪いんだし!」カァ///


 おっきくとかいう表現可愛すぎてさらに勃起するんでやめてもらえませんかねぇ。


八幡「悪い。俺も流石に男だ。由比ヶ浜にここまで近づかれたら反応する」

結衣「え、そ、それって!」パァ///


 生理的。という意味だったのだが、由比ヶ浜の表情を見ていると違う取り方をしたように思える。

 まぁ悪い方向には動きそうにないので、この件はそのまま放っておこう。


八幡「それより、太ももはどうだ?」

結衣「……どう…かなぁ? ヒッキー痩せてるから分かんないし」


 と、結論を出せなかった由比ヶ浜に向かって俺は、



八幡「じゃあ、お前で試してみて……いいか?」



 先ほどの布石を活かすのだった。

 


 人間は理性という皮を何枚も何枚も重ね着している生き物だ。

 その分厚さは知識と経験で異なるが、共通している点は一つ。


八幡(一度破れれば、元には戻らない……)


 由比ヶ浜は性に対して俺と深みに足を踏み入れた。

 その背徳心と快感、興味に関する実戦的な解答はまさに媚薬。

 今の由比ヶ浜結衣に、断る理由はなかった。


結衣「うん……優しく、ね?」ジッ///


 夕陽が彼女の白い頬を染めた。

 そっと、スカートに手を入れる。


結衣「……んっ///」ビクッ


 ブラウスを捲り、ゆっくりと手を入れる。

 汗ばんだ肌が、俺の手と張り付く。


結衣「ご、ごめんね。なんか暑くってさぁ///」


 俺にはそんな事、どうでもよかった。


八幡「触るぞ」

結衣「………」コクリ


 心臓が張り裂けそうなほど高鳴る。

 まさか高校生活で胸を触れる日が――――



雪乃「あらあなた達まだ残っ……」ガララッ

結衣「」

八幡「」

雪乃「」

雪乃「あ、あなた達……そんな…」ヨロヨロ

結衣「ちょ。ちょっと待ってゆきのん。あたしたちはそんな……」アセアセ

八幡「……落ちつけ、雪ノ下」

雪乃「お、落ちつけですって? 私達の神聖な奉仕部をこんな事で汚して……」プルプル

結衣「ゆきのん……」

八幡「………」



雪乃「……不潔だわ」ガララッピシャッ



結衣「……ヒッキー…」グスッ

八幡「……悪い」


 ほんの些細な心の揺れがもたらした事件。

 これが後ほど、とんでもなく(めんどくさい)事になろうとは、知る由もなかったのである。



 プロローグ 完



>>8テンポかぁ……考えてみます!


 半泣き状態の由比ヶ浜を駅まで送り、踵を返すと雪ノ下が睨んでいた。


八幡「ゆ……雪ノ下…さん」

雪乃「………」

八幡「………」


 先ほどの行為を正当化するつもりはないが、雪ノ下にそんな顔をされ続けるのは耐えられない。

 だったらどうするべきか……。


雪乃「……ちょっと歩きましょうか」

八幡「ああ」コクリ


 お互い合意の上だから良いだろう。

 由比ヶ浜もその気だった。

 俺達に悪意はなかった。


八幡(どれも違う……)


 その答え一つ一つが由比ヶ浜を貶め、自分を擁護する言葉だ。

 発端は俺であり、原因は俺であり、悪いのは俺だ。

 由比ヶ浜の優しさにつけこんで、利用して、悪用した。

 だから、罰せられるのは俺だけで、由比ヶ浜の名誉だけは護らなくては……。


八幡「なぁ雪ノ下」

雪乃「良いの。分かってるから」


 前方を歩いていた雪ノ下が、こちらに振り返り、そっと囁く。


雪乃「あなたは由比ヶ浜さんにだけしてあげて、私にしなかった事を悔やんでるのよね?」

八幡「あ、ああ………あ?」


 理解できるようで、出来ない言葉。

 雪ノ下はそのクールな表情を崩す事無く、俺の腕をそっと掴み、


雪乃「仲間はずれは……ずるいんじゃないかしら」


 と、呟いた。その頬は少しだけ……熱を帯びていた。


 じゃあ、どうする?

 俺の問いに、雪ノ下は即答する。


雪乃「私の家なら誰も来ないわ」


 ……随分積極的ですね雪ノ下さん。


八幡「いや、でも良いのか。そんな目的で男と二人きりになるなんて」

雪乃「あら、気づいてなかったかもしれないけれど、私はたまにあなたに唾液入りのコーヒーを飲ませていたのよ」

八幡「そ、そうだったのか。……………えっ?」ビクッ


 だ、唾液入り?

 この人、何を……?


雪乃「ふふっ、いつか誰かが私とあなたは似ていると言っていたけど、まさかこう言う所が似ていたなんて、ね」ニコッ

八幡「う、嘘だろ……」


 雪ノ下が俺に……そんな事を?


八幡「………」ゴクリ///


 何故だか俺は、彼女が垂れた髪を耳にかきあげながら、俺達に見えないように背を向けてマグカップに唾液を垂らす所をハッキリと想像してしまった。

 つー、と垂れるそれは、黒く染まったコーヒーの中に溶け、スプーンでさらに混ざり、俺の口へと運ばれていく。

 雪ノ下は何も知らない俺と由比ヶ浜の姿を微笑みながら眺め、その身体を火照らせる。


雪乃「もちろん由比ヶ浜さんに入れた事はないわよ」ニコッ


 この時の雪ノ下の笑顔ほど、自然で澄んだ笑みは見たことがなかった。



 雪ノ下の家に入るなり、俺は彼女に声をかける。どうしても抑えきれなかった。


八幡「な、なぁ雪ノ下」

雪乃「実際に見せて欲しいの?」ジッ


 彼女が唾液を入れる所。

 その常識とはかけ離れた姿を俺はどうしても見たかった。

 何故なら俺の知る中で雪ノ下ほど理性的な人間はおらず、知性的な人はいない。

 そんな人間がどんな表情で行為に及ぶと言うのか。


 だが、雪ノ下は俺の肩に手を置いて、ゆっくりと力を込めた。

 俺は抗わず、膝を床に着き、彼女を見上げた。

 俺を見下ろす雪ノ下は、垂れた髪を耳にかき上げ、ゆっくりと顔を近づけてきた。


八幡(……え、まさか…)


 その動きは俺の想像したコーヒーに唾液を入れる雪ノ下そのもので、だったら今の俺は――。


八幡「ゆきの……し…」ハァハァ///


 雪ノ下は大きな瞳をこちらに向けたまま、その小さな口を開き、そして――。



雪乃「可愛い顔だわ」ナデナデ


 と、俺の頬を撫でて奥の部屋へと入っていった。


八幡「………」ハァハァ


 俺はゆっくりと床へ座りこみ、高鳴る心臓を落ちつけることに全力を注いだ。

 美人が色気と駆け引きを覚えた時、もはや人間兵器と称されてもおかしくないだろう。

 雪ノ下雪乃は人間兵器だ。

 しかも、たまたま揺らぎに目覚めた俺とは違う。

 もっと前から、ゆっくりと研ぎ澄まし続けてきた名刀雪ノ下。


 このままではきっと俺は……。


八幡(どうする……俺は…)


 逃げるという選択肢もある。

 いや、むしろまともな人間でいたいなら逃げるしかないまである。

 例え奥へ進む道が、快楽と愛に満ちた世界だったとしても、だ。


雪乃「比企谷君?」ヒョコッ


 奥の部屋から顔を出す雪ノ下。

 その表情はいつもと変わらないクールな彼女だったが、俺には分かった。


八幡「……最初から…か」


 俺はきっと、初めて雪ノ下と会った瞬間から逃げるべきだったのだろう。

 だが、逃げなかった。

 だから今更背を向けた所で無意味なのである。


 部屋に入ると、制服を着崩した雪ノ下がこちらを見ていた。

 いつも完璧な着こなしで、背筋をぴんとして生きている彼女がだらしなくしている姿はギャップがあって可愛い。


雪乃「先に聞いておくのだけれど、あれはあなたからしでかした事なのかしら?」

八幡「あ、ああ」

雪乃「それは由比ヶ浜さんが簡単な女に見えたって事かしら?」

八幡「ち、違うっ」

雪乃「じゃあ、……好き?」


 ……しまった。

 雪ノ下の性質を大まかに理解したと言うのに、さっそく彼女の術中にハマっている。


八幡「言葉攻めでも気持ちよくなれんのか?」

雪乃「どちらかと言うと、葛藤するあなたを見ていると……かしら」ニコッ

八幡「えげつねぇ……」

雪乃「あら、今日あなたが由比ヶ浜さんにした事よりは見える傷になりにくいと思うのだけれど?」

八幡「見えない傷の方が治りにくいんだぞ……」

八幡(ソースは俺)

雪乃「そんな事は分かってるわ。だから――」


 俺はこの後の彼女の言葉を一生忘れないだろう。

 それは、俺にとっての真理でもあり、臆病だった俺を救ってくれた言葉。

 雪ノ下だからこそ説得力があった。

 雪ノ下だからこそ俺は受け入れることができた。

 そんな、言葉。




雪乃「あなたは私の傷でいっぱいなのよ。比企谷君」



 
 


 社会に生きる限り、誰かと触れ合わなければならない。

 触れあえば摩擦が生じ、摩擦によって傷はつく。

 それはごくわずかな傷であっても、確実につくのだ。

 傷は引っ掛かりとなり大きな傷になっていく。

 その傷を愛おしいと思った時、人はその傷をつけた相手を想い、同性だったら親友に、異性だったら恋をするのだろう。


雪乃「私にも沢山。あなたの傷がついてるのよ。比企谷君」


 そっと、彼女は自分で自分を抱きしめた。

 その表情は優しさに溢れ、俺の事を想ってくれているようだった。


八幡「でも、唾液はやりすぎじゃねぇか」

雪乃「あら、直接試してみようかと思っていたのだけ――」

八幡「お願いします」ペコリ

雪乃「自称ぼっちの割には、随分と交渉上手ね?」ナデナデ

八幡「……営業はいつだってぼっちなんだよ。ソースはネット。いつも車内で昼寝してるからな」

雪乃「つまらない冗談ね」

八幡「そこは変わらねぇのか……」



雪乃「あのね、比企谷君」


 ソファーに座った俺は雪ノ下の指示に従って天井を見上げた。サラリーマンが疲れた時にするポーズに似ている。

 雪ノ下はそんな俺の頭を抑えつけながら、俺の視界から天井を遮る。


雪乃「あなたにとっての私は、ぶれない所に価値があると思うの」

八幡「まぁ、実際にはブレブレだったがな」

雪乃「心の問題じゃない。行動の問題よ」

八幡「それは……そうかもしれない」


 何が言いたいのか分からないが、納得はできる。

 だが、だからと言って、今の行為に何が関係するというのだろう。


雪乃「だから、……その…失望しないでちょうだい」


 雪ノ下は小さく呟くと、俺の返答を待たぬまま口を塞いだ。


八幡「んっ///」

雪乃「……ん…」


 固く閉ざされた口と口が、ぶつかり合う。

 なれないモノ同士が行う、ぎこちない儀式。


雪乃「………ぷはっ」


 キスをしている間は呼吸を止めていたのだろう。雪ノ下は顔を赤くして俺から離れた。


八幡「……いや、え?」


 意味が分からない。

 キスは好きなモノ同士がするものであって、今の俺達に必要なモノではない。


雪乃「……私だって一線を越えるのには勇気がいる。それだけよ」


 そう言った雪ノ下は、先ほどまとは雰囲気が違った。

 いや、“俺の中の理想の雪ノ下”になったと言うべきか。

 信念の象徴。

 自分の意思を曲げず、媚びず、顧みない。


 そんな雪ノ下だからこそ。俺は彼女の本当が見たいと思った。


雪乃「それじゃあ……行くわね」ツーッ


 再び髪をかきあげた雪ノ下の唇から、唾液が滴る。

 俺はそれを避けることなく、口の中へ入れていく。

 決して飲み込む事をせず、口の中に溜めていく。

 雪ノ下がどんどんと溜まっていく。



 帰り道、俺は何も考える事ができなかった。

 いや、実際には脳がフル回転していたのだろう。

 雪ノ下の事、由比ヶ浜の事、これからどうするべきか、そのシミュレーション。

 繰り返し立てられる背徳的な予測。

 脳内で何度も行われる凌辱。またはその逆。


 もしかしたら、駅前を通らなかったら家に帰るまでずっと考え込んでいたかもしれない。


三浦「してねーし! マジで!」

店員「いやでもね。見た人がいたって言うんですよ」


 ドラッグストアから漏れる争う声。

 その声の主と目が合わなければ、全てが違っていたかもしれない。

 だが、俺は彼女を見てしまった。

 彼女は俺に結果を求めてしまった。


 だから、きっと――。


八幡「すみません。彼女の知り合いなんですけど、擁護させてもらっても良いっすか」


 漏れ出るサドが間違えたのだろう。


 ―――彼女を俺のモノにせよ、と。


 第一話 完

いったんここまで!

相模か三浦か迷ったけれど、ドラッグストアで相模が万引き容疑って下ネタになっちゃいそうなのでやめました!

では!

三浦「ヒキオ?」

店員「あなたは……?」

八幡「この人と同じ学校の者です。身分証もあります」


 店員に生徒手帳を渡す。


店員「はぁ、それは分かりましたけど、彼女は万引きしたので開放する訳には」

三浦「してねーし!」

八幡「三浦、悪いけど黙っててくれ」

三浦「はぁ!?」

八幡「護れる者も護れなくなっちまう」

三浦「っ!?」


 普段なら出てこない言葉がすんなりと出てくる。

 実際には三浦がどうなろうと全く気にならないが、彼女を手に入れるのは非常に面白い気がする。

 必要なのはタイミングとフィーリングとハプニング。

 ……恋、か?


八幡「店員さん。まず聞きたいのですが」

店員「なんですか?」


 女性店員の見た目は地味だ。化粧もしておらず、顔立ちも整っているとは言えない。

 多少なりとも三浦に対する劣等感が、正義の心を消さない理由になっているだろう。


八幡「誰かから聞いたって言いますが、法廷まで発展すればその人も証人として出てもらいますがそこら辺は考えてます?」

店員「……はぁ?」


 まるで、たかが万引きで裁判しようってのか、とでも言いたげだった。

 俺はこの時点で、勝利を確信したのだった。

八幡「なんですかその言い方、もしかして裁判沙汰になってるって気づいてませんか?」

店員「い、いや、あんたの知り合いが悪いのに、何で私が責められなきゃいけないんですか?」


 劣等感は力だ。

 三浦というお姫様に颯爽と現れる知り合い。

 この構図は店員にとっては楽しい事ではないだろう。

 その状態で、一般人にとって触れたくもない裁判という言葉は、“それだけで彼女を傷つける”には十分だった。


八幡「責めますよ。だってこの子はやってないんですから」


 と、強めに頭を抱きかかえる。

 三浦はしおらしく俺に抱きかかえられた。

 ……ちょっとウマルちゃんに似てるなお前。


八幡「あなたの言い方はまだこの子が万引きしたって確証があるようには思えませんでした。そこの所どうなんですか?」

店員「それはっ! 言い方はあれでしたけど――」


八幡「あ、これ全部録音させてもらってるので。法廷では嘘の証言は厳しく処罰されますから気をつけてくださいね」


 と、スマホの背を見せる。

 もちろん録音なんてしていない。こんな女の会話なんてスマホに保存したくもない。


店員「い、いや……そんな勝手に……」

八幡「勝手に決め付けたのはあんただろうが!」


 録音されてると思っている状態の彼女にとって、俺の強気は心に響くだろう。

 それほどまでに三浦が万引きをしてないと確信するには何か理由があるのではないか。

 例えば、三浦が警察官の娘とか。

 店員の右往左往する視線が、思考を顕わしていた。

八幡「後、彼女の中身を全部開示する用意がありますけど、どうします?」

店員「え、そ、それは……」


 店員はあからさまに狼狽していた。

 崩れかけた自信を鈍器で殴る行為。

 もし自分が勘違いしただけだったらどうなるのか。

 もはや店員は万引きを捕まえたヒーローではなかった。


八幡「今すぐ謝罪して解放するか、あなたの信念を証明するか、どちらにしますか?」


 答えを聞く必要は――無かった。



 三浦に引きずられてカラオケルームへと突入する。

 正直時間的に帰宅しないとマズいのだが、彼女は許してくれなかった。


三浦「あんた……なんであんな事を…?」

八幡「別に、感謝して欲しかった訳じゃねぇよ」

三浦「それは分かってる! だからこそ分かんないんじゃん!」


 いつもの強気で冷静な三浦優美子の影もなかった。

 目の前には、王子様に助けられた勝気な姫とでも言っておこうか。

 “心が剥き出し”の女性が俺に答えを求めていた。


八幡「分からないって何がだよ」

三浦「あんたがあーしを助ける理由」

八幡「は?」

三浦「正直あーしはあんたをバカにしてたし、クラスでバカにされても助けなかった」

八幡「………」

三浦「それなのに、あんな風に助けられたら訳が分かんなくなるし!」

八幡「あのな三浦……」


 俺は勿体付けて、彼女の肩に触れる。

 一度近づけたパーソナルスペースは中々戻らない。

 三浦は完全に俺を受け入れていた。


 ――後ひと押し。


 




八幡「俺が、助けたかったんだ」



三浦「………っ」ドキッ


八幡「これはあくまで持論なんだが、お前らって相手に感情を求め過ぎじゃね?」

三浦「……?」


 肩に乗せた手の行き場に迷った俺は、ゆっくりと腕を撫で、彼女の手を取る。

 三浦はそれに抵抗する事無く、むしろ絡める勢いで俺の手を握った。


八幡「相手が好きだから良い事するとかさ、相手の行動を見て自分の行動を決めるとか、


 それって自分の感情なの?」


三浦「……それは…」

八幡「今だって俺と手を握ってるけど、それは俺がお前に好意があると思ってんの?」

三浦「……え?」


 すがるような上目遣い。

 子供が親に愛情を確かめるように、目で訴えてくる。


 ―――私の事をどう思っているのか、と。


八幡「勘違いすんな。俺達の関係はお前の思ってる通りだ」

三浦「………」プルプル

八幡「いや、理由がねぇだろ。俺がお前に好意を抱く理由が」

三浦「だ……だったら…」


 彼女の心がぐらぐらと揺れていた。

 蓮の葉に人は乗れない。

 誰だって土台が安定しないと強くはなれないのだ。


八幡「だけど、お前は由比ヶ浜結衣の親友だ」

三浦「……あ」


 その瞬間、彼女は全てを察した。

 ――気づきは全て、勘違いだと言うのに。


三浦「……って事は、あんたは…」

八幡「だから勘違いすんなって」ギュッ

三浦「にゃっ///」ビクッ

八幡「ははは、可愛い声だな」

三浦「うー……まさかヒキオに遊ばれるなんて…」

八幡「俺は由比ヶ浜に恋心なんて抱いてねぇよ」

三浦「……そうなん?」

八幡「いや、というか……やっぱこんな立場だし、人を好きになるって事がないのかも」

三浦「………」

八幡「それでも」

三浦「……?」




八幡「あいつは俺を……見てくれた」



三浦「……ヒキオ」

八幡「だから俺は、あいつの大切なモノは護りたいんだ。何があってもな」

三浦「………」ホロリ


 彼女から零れる涙。

 その意味を俺はまだ知らない。


八幡「まぁつーわけだから、感謝する必要もない」

三浦「でも、……やっぱ悪いし…」

八幡「じゃあさ、一つ言う事、聞いてくれる?」

三浦「え、エッチな事以外なら」

八幡「女王がエッチとか言うなよ。萌えちゃうだろ」

三浦「ご、ごめん」


 可愛いが、求めてない。

 俺はあくまで女王三浦が欲しいんだ。

 だから、


八幡「由比ヶ浜にはこの事を秘密にしておいてくれないか」


 仕立て上げる。

 堕ちた女王三浦優美子を。


三浦「えっ、結衣に? なんで?」

八幡「……なんか、三浦と秘密を共有するって…ちょっと……な///」


 と、わざとらしく照れる。

 すると単純三浦は俺の言葉を拡大解釈し、裏設定を創作し、主人公を自分に置く。


三浦「ヒキオがそういうなら、あーしは良いけど?」フフッ


 この日、俺は一度に多くのモノを手に入れた。

 両腕に乗せたそれらは、いつかするりと抜け落ちるのだろうか……。


 第二話 完



 一方で、雪ノ下雪乃もまた、自身の利益の為に動いていた。

 全ては後で聞いた話であり、彼女の創作部分もあったかもしれないが、それでも俺にとっては迷惑で邪魔で抗いようのない救いだった。


雪乃「由比ヶ浜さん、今、大丈夫かしら?」


 電話越しに由比ヶ浜が弱弱しい声で返事をする。


結衣『ごめんね、ゆきのん。あたし……』


 そこには、元気の象徴であるやっはろーの姿はなく、ただただ傷心した乙女由比ヶ浜結衣がいた。

 雪ノ下はそこに、何かしらの感情を移入する。


雪乃「あの後ね、比企谷君と話したの」

結衣『えっ!?』

雪乃「彼、こう言ってたわ」

結衣『………』

雪乃「相模さんの事が好きなのに、自分はとんでもない事をしでかした、と」

結衣『……へ?』


 突然現れた第三者に、由比ヶ浜は何を想っただろうか。

 少なくとも雪ノ下は彼女の気の抜けた返事に快感を覚え、さらに追い打ちをかける言葉を続けた。


雪乃「由比ヶ浜さんにも好きな人がいただろうに、彼女の肌に触れてしまった。彼女を知ってしまった。俺はもう、どうすればいいか分からない、と」


 雪ノ下によって創作された『由比ヶ浜結衣にしでかした事を後悔し、心配する比企谷八幡』。

 間違いではないのだが、中身がかけ離れているために、由比ヶ浜の中でそいつはどんどんと変貌していく。


結衣『そっか……ヒッキーは……』グスッ


 その日、雪ノ下と由比ヶ浜は遅くまで電話を続けたらしい。

 雪ノ下がそれを嬉しそうに報告したのは、



 ――全て取り返しのつかない状態になってからだった。



 第二話+α 完


 翌日から由比ヶ浜の対応が明らかにおかしかった。


結衣「や、やっはろーヒッキー」

八幡「お、おう。昨日はその……」

結衣「あ、ううん。気にしないで」

八幡「でも……」

結衣「もしあたしの事を考えてくれるなら、あれはなかったことにして」ジッ


 泣きそうな顔。

 俺は後悔と共に、彼女に傷をつけた事実に喜びを感じていた。

 もちろん、由比ヶ浜が哀しい想いをするのは嫌だ。

 だから何とかしてフォローしようと思っていたが、由比ヶ浜も変わらず頑固だった。


結衣「じゃあねヒッキー、教室で」バイバイ

八幡「あ、ああ……」

八幡「………

最後表記ミス。

八幡「………」


雪乃「あら比企谷君。そんな所でボーっとしてると存在が邪魔だわ」

八幡「ずいぶんストレートだなおい」


 雪ノ下は昨日見せた“本当の部分”をおくびにも出さず、一言二言暴言を吐いて去っていった。


八幡「……なんだったんだ」

彩加「おはよー八幡♪」

八幡「おはよう」

三浦「おはよう八幡」

八幡「お、おお?」

三浦「……なに?」ジッ///

八幡「い、いや……」


 その日、三浦優美子は髪を黒くしていた。

 いつも巻いていた髪はスッと下ろし、化粧も薄い。


戸塚「わぁ三浦さん髪形変えたんだ。似合うね!」ニコッ

三浦「あんがと」ニコッ

三浦「………」ジッ///

八幡「あ……ああ、そうだな…」


 迷いどころだ。

 確かに黒髪三浦は可愛い。

 だが、彼女の存在をここまで変えたのは俺だ。

 結果には原因があり、原因には責任が伴う。

 このままでは俺は三浦を……。


八幡「……まぁ、可愛いんじゃねぇか」

三浦「ひひっ、八幡が可愛いって認めたし」ツンツン///


 う、うん、まぁいいか(錯乱)///


結衣「………」ジーッ


 問い。見失った自分を取り戻すにはどうしたらいいでしょうか。

 答え。なぜ俯瞰の視点なんですか。偉そうですね。他の会社で頑張ってください。


八幡「つまり、俺にはもう選択肢なんてないってことか」


 昼休みの屋上で、空を見上げると吐き気がしてくる。

 ああ、自分はなんてちっぽけで、無意味で、無価値なのだろうと。


八幡「だから、少しでも傷を残したいのか……?」


 そう口に出した瞬間、


相模「は? あんたにでっかい傷をつけられた立ち場になってみなさいよ」


 と、寝そべった俺に上から睨みつけてきたのは相模南だった。

 白の大人しいショーツが風に揺れるスカートの中でチラチラと見え隠れしていた。


八幡「何の用だよ……」

相模「は? あんたが呼んだんじゃないの?」

八幡「呼ぶと思ってんのかよ……」

相模「何その態度、マジでむかつくんだけど」

八幡「あ?」

相模「は?」


 昨日の出来事で塞がった両手は、俺の心に余裕を与えなかった。

 代わりに与えた自尊心は、相模のような相手に触れられると化学反応を起こして爆発するようだ。


八幡「お礼も言えないような高校生と話す事なんてねぇよ」


 あれからどれだけ責められたと思ってるんだ。

 決して咎めるつもりはなかったが、彼女にとっては禁句だったようだ。


相模「……それは…ごめん」

八幡「え?」ビクッ

相模「ほんと……ごめん」

八幡「………」


 またしても俺の中で、何かが揺らめき始めた。

 



相模「ウチが悪いのは分かってる。それをあんたに全部押し付けたことも」


 どうでもよかった。

 元々地に埋められたような評判なんて気にする事もなかったから。

 それよりもちょいちょい気になっていたが、弱き相模から発せられる“ウチ”という自称は非常に萌えてしまう。

 だから、つい。


八幡「 可愛い からって許されないこともあるからな」


 と、わざとらしく可愛いを強調して責めてみた。


相模「なっ……キモっ」


 ……久々に正当評価されると、少しきつい。

 だが、キモいと嬉しいは裏返しである事を俺は知っている。


八幡「二度と言うか、クソっ」


 人間、良いモノは何度でも欲しい生き物である。

 もしそれが二度と出ないと知った時、人は――、


相模「うそうそ、キモくないからもう一回言ってみ?」ネェネェ


 簡単に操作されてしまうのである。


八幡「可愛い」

相模「っ///」プイッ

八幡「もう良いか?」

相模「も、もう一回!」

八幡「ショートカットとか好き」

相模「/////」プシューッ

八幡「もう良いだろう、俺は行くぞ」

相模「……ね、ねぇ!」

八幡「あ?」



相模「あの時にウチの事を見つけてくれて、あんがとっ!」ニコッ///


中途半端ですが、ちょっと離れます。

ブログのssと同時進行のためゆっくり更新になります。

続きー


 屋上の扉を開けると、そこには由比ヶ浜がいた。


結衣「や、やっはろー……」フリフリ

八幡「何してんの? 覗き?」

結衣「ひ、ヒッキーみたいな事しないし!」

八幡「いや、俺がしたことあるみたいに言わないでくれる?」

結衣「ご、ごめん……」


 明らかに様子がおかしい。

 だが、この時の俺は由比ヶ浜に対して何かしらの負い目があったのか、


八幡「相模なら向こうにいるぞ」


 それ以上は追及しなかった。


結衣「み、南とはどうだった!?」

八幡「……は?」


八幡「何がどうなのか分からないけど、何もなかったぞ」

結衣「そ、そっか……」アハハ…


 思考を巡らせる。

 由比ヶ浜結衣は今、何を考えているか。

 挙動は少し慌てている様子だ。俺に見つかるつもりがなかったのだろうか。

 俺と相模が犬猿の仲であることは由比ヶ浜も理解しているはずだ。つーか関係者だったからな。

 つまり、導き出される答えは……。


八幡「ああ、いや、仲良くやってるぞ」

結衣「仲良くっ!?」グイッ

八幡「あ、ああ……だ、駄目なのか?」

結衣「だ、駄目じゃないけど……」ソワソワ

八幡「……?」

結衣「あ、あはは、あたし用事があるから行くねー」バイバイ

八幡「あ……そうすか」


 昨日よりも冷たい風が屋上から吹き下りた。


 由比ヶ浜と間違いを犯し、雪ノ下の本質を知った。

 三浦と接点を持ち、相模と少し歩み寄った。

 たった二日で世界はがらりと色を変えた。


八幡(だが、俺自身は何が変わったというのだろう……)


 本当の自分を知った?

 それなら何が変わるというのだろうか。

 少なくとも世界にとって比企谷八幡の価値は変わらないだろう。

 だったら……。


八幡(俺は……俺のやりたいようにやっていいのか?)


 いや、今までだって好きにやってきたはずだ。

 好きにやって、一人になって、他人と距離を置いた。

 そのベクトルを、再び他人に戻すだけだ。


三浦「あ、八幡っ!」タタタッ

八幡「………」

三浦「あんさー、あーし……」

八幡「似合ってねぇよ」

三浦「えっ?」



八幡「その髪、似合ってねぇよ」


三浦「………」ビクッ


 そうだ。俺は好きにやるだけだ。

 世間体も、相手の気持ちも、世界の在り方も気にしない。


 俺はただ、好きなものに傷をつけ、自分のものだと主張するだけ――。


八幡「髪、切った方が好きだわ」

三浦「そ、そう……かな?」


 どうせなら、当分消えることのない傷を。

 傷が多ければ多いほど、深ければ深いほど愛情は増していく。



 三浦、……お前はどこまでやれる?




 翌日、髪を切った三浦と教室で出会うも、彼女の笑顔を見ることは叶わなかった。


三浦「……え、何…これ」


 黒板に張り出された一枚の写真。

【三浦優美子、万引きの瞬間!】

 白色のチョークで書きなぐられたそれは、男の字とも女の字ともとれない機械的な字で書かれていた。


生徒「うそ、三浦さんが……」

生徒「でも写真に写ってるし……」


 それは、三浦が品物を鞄に入れている瞬間。

 場所は駅前のドラッグストア。俺が店員を説得したあの場所。


三浦「あ、あーしじゃねぇよ」


 確かに後頭部しか写っていない。

 恐らく、今までだったら誰も彼女の姿と信じなかっただろう。

 
 ――タイミングが悪かった。


生徒「だから髪切ったんじゃない?」

八幡「………」


 最悪だ。



 早退した三浦の空いた席を眺めながら、俺は沸々と湧き上がる怒りを抑えるのに必死だった。

 三浦が万引きをしたとか、ねつ造したとか、そんな些細な事はどうでも良い。

 
八幡(俺の三浦に傷をつけた? 誰が? 何のために?)


 怒りで思考が定まらない。

 落ち着け。

 濁った視界では悪意を見抜けない。


八幡(そうだ。これは悪意だ。俺の感情とは違う)


 ……いや、違わないのかもしれない。

 悪意があろうがなかろうが、相手の事を考えようが考えまいが、


 傷は傷だ。


 神が与えた完璧な世界を奪う行為。

 それこそが愛であり、欲だ。


八幡(……そうだ。俺も……変わらない)




 認めたら思考がクリアになってきた。


八幡(少なくとも店員の仕業じゃない。あの女はそんな勇気もないし、ここに入り込む技術もない)


 少なくとも教師か生徒。

 三浦優美子は唯我独尊であったが為に恨まれている可能性も高い。

 だが、ここまでやるならそれなりの理由があるはずだ。


八幡(……だが、いまどきラインやメールじゃなく実物を使った意味は……?)


 精神的ショックを与えるため。大いにありうる。

 ラインは足が付くし、メールだって警察沙汰になれば調べがつくかもしれない。

 だが、それ以上の意図を感じる。


八幡「……まさか、俺に?」


 腑に落ちる。

 ばらばらにすらなっていなかったパーツが、完全に枠に収まる。


八幡「……そういう事かよ…」





 雪ノ下。




 


 放課後、奉仕部へと訪れると雪ノ下雪乃が窓際に立っていた。

 夕陽に照らされる彼女は神々しささえ感じる。


雪乃「あら比企谷君。昼休みに来ると思っていたのだけれど、案外冷静なのね」


 その瞳は、すべてを認めていた。

 いや、“気づくのが遅いわ、比企谷君”と言いたげだった。


八幡「別に、意味ねーだろ。タイミングなんて」

雪乃「いいえ、あるわ」

八幡「……まさか、大切なモノに対する反応の方が早いとか乙女チックな事言うんじゃ――」

雪乃「逆よ。逆」

八幡「……?」

雪乃「あなたの本質は一つ。“耐える事”よ」

八幡「……分かったような口を」

雪乃「あなたは自分が大切だから耐えてきた。環境に、状況に、関係に」

八幡「………」

雪乃「あなたは奉仕部が大切だから耐えた。文化祭も、修学旅行も、いつもいつも」

八幡「だから大切なものを護る時ほど慎重になるって言うのか?」

雪乃「………」

八幡「俺は誰かを護るために動いた事なんてねーし、すべてが自分のためだ。だからそれ以上意味分かんねぇ事――」


雪乃「だから、逆だと言っているのよ。比企谷君」



雪乃「あなたは大切なモノの為に自分を犠牲にできる場合は、躊躇なくやりのけてきた。それが、少し遅いんじゃないかしら?」

八幡「………」


 気づいていた。

 俺にとって三浦優美子は何なのか。

 クラスメイトであり、葉山グループの一人であり、最近少し話しただけの女。


雪乃「本当に優しい人なのね、あなた」

八幡「俺は……」

雪乃「怖いんでしょう?」

八幡「……っ」ビクッ

雪乃「でも、残念だけれど、あれは私じゃないわ」

八幡「……え?」

雪乃「あなた、まだ気が付いていないようだから、はっきりと言っておくのだけれど」

八幡「……?」


雪乃「傷がついて怒っているのは、何もあなただけじゃないのよ?」ジッ


八幡「!」


 雪ノ下雪乃もまた、怒っていたのだ。

 それも、俺とは違い躊躇いもしなかったのだろう。

 自分のみが付けられる傷を、他の誰かが傷つけた。


 “俺についた傷”は、見るも耐えられないものだったのだろう。


八幡「じゃあ、誰が……」

雪乃「予想はつくわ。三浦優美子に恨みがあり、あなたに恨みのある学生」

八幡「……さが…み?」


 枠にはまったピースに裏面があっただけの話だ。

 相模南という女が、俺の思ったよりも業が深かっただけの……それだけの話だ。


 だったら俺は……。


 


 これも、後から聞いた話だ。

 俺が飛び出した後の奉仕部で、雪ノ下は静かにほほ笑んだ。

 そして、カバンから無数の写真を取り出し、愛おしそうにそれを抱く。



 ――比企谷八幡の写真を。



雪乃「だからあなたは耐える事しかできないというのよ、比企谷君」


 結局俺は、雪ノ下雪乃への疑念に対して“目をつぶってしまった”のだ。

 自分が間違ってさえいれば、大切なものが守れると、そう考えてしまったのだ。

 だから、あっさりと騙され、怒り、計画を立ててしまった。


 ――相模南を社会的に[ピーーー]、悪魔の計画を。


 第三話 完

ミスった、「殺す」です。


 一方で、由比ヶ浜結衣の暴走も極まっていた。

結衣(さがみんとヒッキーが両想いなんだったら、あたしの出る幕は……)

 むしろ、邪魔ものだろう。

 ヒッキーと変なことをしてしまったが故に、彼の足かせになってしまうかもしれない。

 三浦に傷がつく前日、由比ヶ浜は一睡もできなかったらしい。

 そして、登校した教室で、変わり果てた世界を目の当たりにする。

結衣「……何…これ」

 張り出された写真、ざわつく教室、絶望する親友。

 肩まで切った彼女の髪が風になびく。

 由比ヶ浜結衣にも、少なからず傷がついた瞬間だった。


 由比ヶ浜は考えた。

 怒りに震える俺をしり目に、冷静に淡々と計画を練った。

 犯人が誰かは分からない。

 最も肝心なところを空白にしたまま、彼女の世界は構築されていった。

 由比ヶ浜は犯人を許さないだろう。

 だが、彼女の本質が許容にある以上、それは自身を傷つける茨の棘にしかならない。


 それでも彼女は粛々と計画を練る。


 大切なモノのための計画を。

思ったより本題(調教)に行くまでに時間がかかる……。

特にここは重要でないので、読み流しておいてください。

では、また明日。



 教室にてクラスメイトの胸倉を掴む男が1人。

 ――葉山隼人だ。


葉山「なぜ君が優美子の自宅を知りたがるっ」グイッ

八幡「……ごほっ」


 ちょ、ちょっと頸動脈がやばいんですけど……あ、意識が…。


戸部「は、隼人くぅん、それはちょっとやりすぎじゃ……」

葉山「どう考えてもおかしいだろう!」

戸部「……っ!?」ビクッ

八幡「………」

結衣「このままじゃヒッキーが死んじゃうよ!!」グイッ

葉山「………」パッ

八幡「……ごほっごほっ…」


 葉山隼人。お前の怒りは“誰の為に”“何のために”沸いているんだ?


葉山「君がやったのか」

八幡「………」



 その瞳は殺意に似た敵意に満ちていて、今までの事件とは非にならないほど感情が高ぶっていた。

 葉山隼人の人望は異常で、すでにクラスメイトからの視線は“俺が犯人だ”と決めつけているようだった。

 その中でも、由比ヶ浜だけは俺を庇ってくれているようだが、昨日の事が少なからず尾を引いているようで、信じてはいなかった。


八幡「……へっ」

葉山「何がおかしい?」グイッ

結衣「ちょっと!!」バッ

八幡「……天下の隼人様が決めることだもんな。俺の言葉なんて全て言い訳にしかならねぇだろ」


 と、指摘した所で葉山が気づく。頭の良いお前なら、この状況がいかに深刻か分かるだろ。


葉山「……外に行こう」

八幡「は? お前が仕掛けた事だろうが、ここで良いだろ」

葉山「君の為を思っての事だ」

八幡「確かにな。“犯人である俺に情けを与える”隼人君は他人想いの良い奴だよ」

葉山「……君という奴は…」ギリッ

結衣「ヒッキー……」


八幡「そもそも、お前には関係ないだろ」

葉山「……は?」

八幡「これは三浦と俺の問題だ。部外者は情報提供だけして引っこんでろよ」

葉山「君の方こそ犯人じゃないのに関係ないだろ?」


 少なくともお前よりはあるけどな。あの時に助けたのは俺だし。

 だけど、それを説明するほど俺はお人よしじゃない。

 葉山隼人。お前に安心する情報なんて与えてはやらねぇよ。


八幡「それこそ余計なお世話だ。俺が関係あるかどうかは俺が決める。三浦が決める。お前が決める事じゃない」

葉山「屁理屈を……」ギリッ

戸部「隼人君……」

姫菜「ねぇ葉山君」

葉山「……?」

姫菜「そこまでヒキタニ君を犯人だと決めつけるんだから、理由があるんじゃない?」

葉山「……それは…」

八幡「………」


 今までなら、彼の話を聞き、吟味し、受け入れず、自分を犠牲にして物事を進めていっただろう。

 間違っているいないの問題じゃない。それしか生きる道を知らなかったからだ。

 だが、昨日から漏れ出る“何か”が、俺に選択肢を与えた。



 この男、殺したまへ。と。



八幡「確証があるとか、疑わしいとか――」

葉山「比企谷……?」

八幡「誰かが犯人とか、善とか悪とか、そういう問題なんですかねぇ?」

姫菜「どういう意味かな?」ニコニコ


 海老名の視線には、“君の言いたい事は分かってるが、それを言えば容赦はしない”という脅しが含まれていた。

 彼女にとって、真に大切にすべき人間は葉山であり俺じゃない。

 それは優先順位の問題で、日頃の人間関係、お互いに築いた信頼が関与している。

 だから、俺は海老名を憎らしいとも、邪魔だとも思わない。


 葉山グループは葉山グループだ。俺を犯人だと決めつけたリーダーの。


八幡「葉山隼人、お前はクラスメイトを疑った。それが真実だ」

葉山「………っ!」


 葉山隼人の動揺はクラスメイトの誰もが一瞬で気づいた。

 “クラスメイトから見た彼の本質”は“信じる”事にあった。

 どんな仲間でも、状況でも、彼は見捨てない。

 だからこそ信頼し、敬い、ついていこうと思った。


 その男が今、クラスメイトを疑っている。


 クラスのカースト底辺である俺だからとか、やりそうだからとか、そんな事は関係ない。

 なぜなら、俺がいないクラスでも底辺は存在する。

 葉山隼人は仲間を疑った。それだけがクラスメイトの心に強く残ったのだった。


葉山「……俺は…」


八幡「とりあえず犯人は俺で良いから三浦の住所を教えてくれ。謝りに行くから」


 瞬間、葉山の形相が険しくなる。


葉山「そういう問題じゃないだろう!」

八幡「は? お前がクラスの皆から信頼を失ったとか俺に関係ないんだけど」

葉山「……っ、だからそういう事じゃ…」

八幡「由比ヶ浜は三浦の住所知ってるか?」

結衣「あ、う、うん……でも…」ジッ

八幡「信じてくれ。“俺はやっていない”」

結衣「……う、うんっ!」

葉山「比企谷っ!!」ギリッ

姫菜「葉山君やめなよ。これ以上はよくないよ」グイッ

葉山「………」

姫菜「ヒキタニ君、君ってとことんダメな人だね」ニコッ

八幡「………」

姫菜「さ、葉山君、ジュースでも買いに行こう?」

戸部「お、俺もいくっしょ!」

大和「俺も!」


結衣「あ、あのさ……」

八幡「………?」


 電車に揺られながら、由比ヶ浜はいつもより早口で言葉を紡いでいた。

結衣「でさー、優美子が髪切ったの見た時は驚いちゃったなー」

八幡「………」

結衣「でも優美子って美人だから、けっこう何でも似合うって言うか、可愛かったよね?」

八幡「………」

結衣「なのに……あんな事になって…」ギュッ


 袖を掴む由比ヶ浜の指は、力がこもっていた。

 この時、俺は由比ヶ浜が現状に嘆いているモノだと思っていた。

 現状を受け入れ、最も幸せな方法を捜しているモノだと。


 だから、俺は聞くべきだった。そして言うべきだった。


 大丈夫か?

 俺は犯人じゃない、と。



 三浦優美子の家は思ったよりも小さかった。

 いや、一般家庭で考えれば普通の一軒家。車を一台止めるスペースがあり、小さいながらも庭も付いている。

 屋根の色は赤く、壁は白い。

 由比ヶ浜と二人で見上げた彼女の部屋の窓は、きっちりとカーテンが閉まっていた。


結衣「帰ってないのかな?」

八幡「連絡はしてないのか?」

結衣「うん……何度か電話もラインもしたんだけど。返事がなくって……」

八幡「そうか。まぁ、とりあえずはチャイムを鳴らしてみよう」

結衣「ね、ねぇヒッキー。本当に信じて良いんだよね」

八幡「……何をだ?」



結衣「…………全部を」ジッ



八幡「……どうかな?」ヘッ

結衣「お願い。嘘でも良いから……」グイッ

八幡「……それはお前の問題だろ。信じたいのなら信じれば良い」

結衣「……なら、信じてみる」エヘヘ

八幡「………」



三浦「……結衣…と、ヒキオ…」カァ///



 恐らくインターホンについたカメラからは俺が見えなかったのだろう。そういう風に由比ヶ浜を配置したから当然と言えば当然だったが。

 パジャマ姿の三浦は、化粧も落としていて髪もぼさぼさだった。

 以前のように脱色した髪は、肩辺りでうねっていて、サブカル女子みたいな雰囲気を醸していた。


三浦「み、見んなし///」クシャッ


 両手で髪の毛を頬に持って行き、顔を隠す。

 おいおい、なんだそのヒロイン系仕草は。そう言うのは一色とか小町がするから威力があるんだぞ。

 ……威力絶大だなこれ。


結衣「優美子……あたし、あたしねっ」

三浦「分かってるから」

結衣「……えっ?」

三浦「あーしは大丈夫だから、結衣は学校に行きな」グイッ

結衣「ちょ、ゆ、優美子!?」

三浦「……あんたはどうせ残るんでしょ」ボソッ

八幡「……ああ」

結衣「……ヒッキー! 優美子をお願いね!!」

八幡「責任重大だな…」ボソッ


 由比ヶ浜は何度もこちらを振り返りながら、学校へと戻っていった。

 残された俺は三浦に手を引かれ彼女の家へと入る。


三浦「……ねぇ八幡…」

八幡「ん?」

三浦「あーしって、嫌われてんのかなぁ?」


 階段に一歩足を踏み入れた三浦が、こちらを見ずに問いかける。

 俺は即答する。


八幡「少なくとも二学期の俺はお前を良い印象には思っていなかった」

三浦「理由は?」

八幡「理由がなくちゃ人を嫌いになったらいけないのか?」

三浦「……理由がなかったら直しようがないじゃん」ボソッ


 階段を昇っていくと、奥の扉に優美子の部屋と書いた札がかけられていた。


三浦「……ちょっとだけ待つし」

八幡「は? 心配して来てやったのに外で待たせるってのか?」

三浦「……好きにすればいいじゃん!」プイッ///


 三浦の部屋は、特に意外でもなければ想像通りでもない普通の部屋だった。

 白を基調としたカーテンにベッド。普通の学習机に花柄のカーペット。


八幡「もっと豹柄のベッドとか、チョッパーの人形とか置いているものだと思ってた」


 DQNのチョッパー率は異常。


三浦「あーし、中学の時はテニスばっかりしてたからさぁ、あんまり女の子趣味のモノって置いてないじゃん?」

八幡「いや、しらねぇけど」

三浦「じゃあ知ってよ。あーしの事」

八幡「拒否する」

三浦「あ?」ギロリ

八幡「いや、ちょっと悪戯写真貼られたくらいで家に帰る豆腐メンタルにすごまれても怖くないんですが」

三浦「あれを悪戯で済ませられる八幡の精神がどうかしてるし」

八幡「悪戯だ」

三浦「……当人じゃないからそんな事言えるっしょ」プイッ


八幡「あの程度で気に病んでたらキリがねぇぞ。ソースは俺」

三浦「あんたは変態だからっしょ」プッ

八幡「変態を家にあげてるお前は何なんですかねぇ」

三浦「……あーしは…」モジモジ


 つーかその薄手のパジャマから見えるシャツのラインから察するに、三浦さんノーブラなんじゃないんですか(錯乱)。


八幡「つーかそういう事を話に来たんじゃねぇよ」

三浦「……?」

八幡「あれの犯人の目星はついてる」

三浦「誰っしょ!!」グイッ


 ――ぽよん。


八幡「……あ」ジッ

三浦「……っ///」バッ


 プリンかな プリンじゃないよ プリンだよ (大混乱)


八幡「童貞には刺激が強すぎるだろ……」プイッ

三浦「ヒキオって彩加とばっかり一緒にいるから男好きだと思ってたし」

八幡「心外な。俺は毎日世界で一番可愛い妹にドキドキしながら起床する健全な男子高校生だ」ヘッ

三浦「余計変態じゃん……」ハァ…


八幡「じゃあ、俺は行くわ」

三浦「えっ!?」

八幡「お前が無事か確認したかっただけだし、ラッキースケベも体験したしな」

三浦「ちょ、ちょっと待つし! お茶くらい!」

八幡「……これ以上はまずいんだよ」

三浦「え?」


 この瞬間、多くの分岐点が現れたと思う。

 普通に学校へ行き、事件に対して活動する世界。

 三浦と一緒に過ごし、彼女の為に生きる世界。

 二つを放棄して、いつも通り生きる世界。


 だが、俺が選択したのは――漏れ出る“何か”に支配された世界だった。


八幡「……分かった、今から一緒に学校行くぞ」

三浦「は?」


 第四話 完


 時間は巻き戻り 朝


雪乃「……意外にチョークで綺麗に書くのって難しいのね」カキカキ

雪乃「比企谷君はいつ来るかしら。お昼頃だと思うのだけれど」

雪乃「ねぇ、どう思うかしら? “相模さん”」

相模「こ、こんな事してウチらがやったってバレたら……」

雪乃「ウチら? 何を言っているのかしら?」

相模「……え?」

雪乃「写真を撮ったのはあなただし、ここに写真を貼ったのもあなた。私はただ、写真の下に文字を書いただけよ」

相模「そんなっ! 屁理屈じゃん!」

雪乃「残念だけれど、あなたと私では社会的信頼度が違いすぎると思うわ」

相模「……最初からそれが狙いで…」ギリッ

雪乃「大丈夫。あなたは昔のようにカーストのトップになれる。しかも葉山君よりも上の存在に」

相模「……もしウチらだってバレたらその時は…」

雪乃「その時はお互いに大きな傷がつくかもしれないわね」ニコッ

相模「………」



 第3.9話 完



 三浦優美子と電車に揺られながら、俺はこれからの事を考えていた。

 雪ノ下の言葉を信じるなら犯人は相模だ。

 相模には動機もあるし、実行することもできる。


 だが、それならば昼休みのやりとりはなんだ?


 あんな風に印象に残れば、疑われても仕方がないだろう。

 由比ヶ浜が近くにいたことも気になる。

 一見してがっちりハマっていたピースは、実は“たまたまぴったりはまるだけ”だったとしたら……。


三浦「八幡……あーし」

八幡「怖いのか? 俺はずっとボッチだったけど、すぐになれたぞ?」


 正確には数週間かかったが。


三浦「それは大丈夫だけど、逆に質問されたら……」

八幡「その時は、女王としての品格を見せろよ」

三浦「あーしは女王なんかじゃないし」

八幡「自分でどう思っていようと、お前はカーストトップで唯我独尊だ。唯一同格かそれ以上だった葉山も地に堕ちた」

三浦「えっ、隼人が!?」

八幡「まぁ……正確には俺が落としたんだけど…」

三浦「隼人……」


 この時の三浦の顔は、葉山に対する想いに溢れていた。

 だからだろうか。俺の溢れるそれが暴走を始めたのは。

 だからだろうか。電車の中だと言うのに、俺の手が暴走を始めたのは。


三浦「……え?」ビクッ///


 スカートの中に侵入した俺の手は、ゆっくりとパンツをなぞり、そして――、


三浦「ちょ……はちっ///」


 彼女の秘部に、そっと触れたのだった。



 第五話 合意()の上の痴漢



 電車の振動が、指の位置を秘部から太ももへ、太ももからお尻へと移動させる。

 その度に刺激を受ける三浦の声が漏れたが、昼間の電車は人が少なく、誰も気づいてはいなかった。


三浦「なん……で…」ジッ///


 こちらを見る彼女の瞳は、少しの恐怖と多くの期待に満ちていた。

 リスクを冒してでも触りたいと思われる事に喜びを感じたのだろうか。


八幡「いや……なんとなく?」サワ

三浦「……んっ///」ビクッ


 もちろん、嫉妬だ。

 葉山隼人に対する三浦の信頼が妬ましかった。

 人生において、一度として受けた事のない大いなるそれは、何度も手を伸ばしては幻だと認識させられた絆。


 だから、許せない。


三浦「こ、こんなことするなら……家で…んっ」ヨロッ


 大きな電車の揺れで、強く秘部を押し込んでしまった俺の指は、ねっとりと何かで湿っていた。

 そのタイミングで三浦は俺の肩へと寄りかかる。


八幡「なぁ、“優美子”」ボソッ

三浦「……ん?」ハァハァ///


 止まらない。

 ああ、この感情、あれだ。


 誰かを支配する、欲望の―――。



八幡「首筋舐めさせてくんない?」


 止まらない。

痴漢描写をもっと濃厚に(切実)

>>92 あい^^


 痴漢の醍醐味……いや、痴漢に醍醐味があるかどうかはしらんが、それはリスクと対価だと思う。

 例えば、ゲームで雑魚敵一匹倒すのと、強敵を数体倒すのでは達成感が違う。

 メタルギアが流行ったのも、難攻不落と言われる砦を知恵と工夫でかいくぐっていく快感のおかげだ。

 だから、三浦に対して行っている痴漢は、箱に数人しか目撃者となりうる人間のいないイージーモードだ。

 置換する側にとってはさほど楽しくもない行為だろう。


 だが、置換される側にとっては、状況など問題としない。


三浦「……だ、誰か見てるかもしれないっしょ…」ハァハァ///


 首筋を舐めたいと言う要求に、イエスかノーではなく遠まわしに避けようとする姿勢。

 やはり三浦優美子の強さはハリボテか。


 電車の揺れに合わせて強く太ももを揉む。


八幡「……ん?」

三浦「…やっ///」カァ///


 窪んだ太ももとパンツの隙間からツーっと液体が垂れてくる。

 それは液体にしては粘着があり、俺の指にうっすらと絡まってきた。


八幡「……首筋を舐めても良いか?」


 もう一度聞くと、三浦はゆっくりと頷く。


三浦「バレたら責任とってくれるっしょ」


 知るか。

 ミディアムヘアーを空いた手でかきわけて、白く透き通るような首筋に顔を近づける。

 
 そして、彼女の汗を舌で感じるように舐める。


三浦「……んっ、ふぅっ///」ガクガクッ


 砕けるように三浦は座席へと腰を下ろした。

 その拍子に俺の手に引っ掛かったスカートがめくれ上がったが、彼女はお構いなしに座りこむ。


三浦「八幡……早く…」グイ///


 三浦に引っ張られた俺は、彼女と重なるように座り、彼女の太ももに俺の太ももを重ねた。

 もはや痴漢ではないような気がするが、彼女はきょろきょろと周りを見回していたから、未だに羞恥心はあるのだろう。


八幡「電車がすれ違う度に見られてるっつーの」スッ


 ブラウスの隙間から腹部に触れる。シャツ越しとはいえ、彼女の引き締まったお腹はさわり心地が気持ちいい。

 だが、強い刺激を受けてた彼女にとって、お腹を触れても満足できなかったようで、


三浦「こっち……」グイ///


 と、無理やり腹部から胸へと俺の手を移動させた。

 キスする前の重なるような体勢に移行した俺達は、はたから見ればラブラブなカップルのようだったろう。

 だが、その中身は歪で、特に俺の中には三浦に対する強い感情などなかった。

 むしろ葉山に対する怒りや嫉妬の方が強く、それは行動に現れた。


三浦「……んっ///」ビクッ


 ブラジャーを押し上げるようにずらすと、彼女の乳首を強く刺激したのか、三浦は再び喘いだ。

 完全にブラジャーの締めつけから解放された胸は、俺の手に重くのしかかり、彼女がいかに巨乳かを再確認させられる。

 ゆっくりと揉むと、それは太ももとは明らかに違う柔らかさだった。

 乳首のあたりだけが少し硬く、軽くつまんだだけで三浦は身体を捩じらせる。


 刺激と快感の違いも分からない童貞の俺にとって、乳首での反応こそが真理だと勘違いするのは仕方ない事だっただろう。


 何度も、何度も乳首に触れる。


三浦「だ……め///」

八幡「向こうで人が見てる」ボソリ


 もちろん嘘だが、三浦は身体を強張らせ、先ほどよりも乳首を硬く突起させた。

 ぷくりと膨らんだそれは、指で転がすと彼女の反応がさらに強くなる。

 もはや痴漢を通り越した性行為だったが、やめる事はできなかった。


雪乃『それじゃあ……いくわね』ツーッ


 浮かんだのは、唾液の事だった。

 彼女の口からゆっくりと糸を引いた甘い蜜。

 他人が侵入してくる圧倒的に淫靡な快感。

 
 三浦優美子の中を、俺で満たす。


 精液のような、性欲によるモノではない。

 唾液を彼女の中に注ぎ込む事で、真に彼女を犯す事ができる。


 だから、俺は――、


八幡「“優美子”」グイッ


 そのためには、何でもやれるような、そんな気がした。


三浦「……ん…」スッ


 目を閉じた彼女の口は、小さく閉じていた。


 今から彼女の扉を開ける。

 背徳的な快感が、背筋から全身へと駆け巡る。


 唇と唇が重なった――。


 



三浦「………ん///」チュッ


 触れあった唇は、お互いに少し乾いていた。

 緊張によるものか、疲労によるものか。

 俺はゆっくりと彼女の下唇を吸い込む。


 ――プルっ。


 口の中で弾けるように膨らんだ彼女の下唇。

 舌を這わせると、硬さがなくなっていく。


 三浦の鼻息が少し荒くなる。

 呼吸の仕方が分からないのか、鼻息を俺にかけるのが恥ずかしいのか。


 一度離れてやってもよかったが、彼女の望みを叶える義理はない。

 今度は上唇を吸い込む。下唇よりも口の中に入らなかったが、彼女の下唇が顎上に当たって少し気持ちが良かった。


三浦「……んっ///」


 完全に開いた扉へ、ゆっくりと舌を挿入する。


 ――ちゅぷり。


 由比ヶ浜の太ももに手を這わせたように、舌で三浦を犯す。

 彼女の舌が俺の舌に触れて、彼女はびくりと舌を奥へと逃がす。

 快感が羞恥心より勝ったのか、三浦の指が俺の指を絡めて掴む。


 ちゅぷり。

 つーっ。


 舌が触れあう度に、臆病に逃げる三浦が可愛い。

 だが、俺の目的は彼女の中を犯す事だ。

 口内を動かして、三浦に気づかれないように唾液を溜めこむ。


 そして――、



三浦「んっ……あっ///」ングッ///


 舌を伝うように彼女の中へ唾液が入っていく。

 ぐちゅぐちゅに満たされた彼女の口内で、二人の唾液が混じっていく。

 他人を受け入れる準備が出来ていなかったのか、三浦が強く俺の手を握った。

 俺は容赦なく何度も何度も唾液を送り込む。


三浦「……んっ///」ゴク


 三浦の喉が動く。

 舌が吸い込まれるように動き、口内の水分が一気に減少する。



 そして、彼女の舌が俺の舌に絡んできた。



三浦「んっ……ふぅっん///」チュプッチュプッ


 正面を、側面を、上を。

 何度も何度もお互いの舌が絡まる。

 確かめあうように唾液が行きかう。

 突起していた乳首が、さらに硬くなったような気がする。


 秘部はどうなっているだろうか。


 確かめたい衝動に身を任せ、スカートに手を差し伸べた時、


アナウンス「次は―――」


 総武に最寄りの駅まで、残す所一つとなってしまった。


三浦「……ぷはっ/// はぁはぁ…///」


 今にも泣き出しそうに潤んだ瞳が、こちらをじっと見つめている。

 楽しかった痴漢の時間も終わり、試練の時が迫る。



 だが、三浦優美子は負けないだろう。



 そして俺も――。



 第五話 完

やっと本題に近づいてきましたね^^

一旦はなれます!


 学校に戻ると、そのまま平塚先生に連行されてしまった。

 普段は職員室で済ませる先生が生徒指導室へと連れてきたのは、それだけ重大だと言うことだろう。

 まさか、あの悪戯を教師にまで?


八幡(いや、相模に限ってそこまでする勇気はないはずだ)


 彼女の本質は安心であり、常に自分が傷つかない所を探している。

 その癖に自己顕示欲だけは尊大で無分別。自分の実力以上を追い求めてしまう。


八幡(実際可愛いとは思うが、あの性格の限り誰と付き合っても満足できないだろうな)

平塚「おい比企谷。上の空とは良い度胸だな」


 ポキポキと指関節の音を聞いて、意識がグイと引きもどされる。


八幡「ひぇっ! い、いえ、聞いてます!」

三浦「ぷっ……」

八幡「笑わなくてもいいだろ」

三浦「だって……」プルプル

平塚「随分と仲良しさんじゃないか、妬ま……いや羨ましい」

八幡「言い直す必要ありました? それ

平塚「まぁ良い。本題に入るが、三浦。お前は万引きをやっていないのだろう?」

三浦「なっ!? なんで!」ガタッ

平塚「慌てるな。ドラッグストアから謝罪の電話があったんだよ。どこかの誰かさんがヒーローごっこしたみたいでな?」ギロリ

八幡「……っ」

平塚「比企谷。お前はクラスメイトの為に全力を尽くしたつもりかもしれないが、当事者の店員は辞めたらしいぞ」

三浦「………」

八幡「……別に、自業自得じゃないですかねぇ」

平塚「ああ、そうだな。三浦はやっていない。それを勝手に疑って責めた。彼女の自業自得だろう」

八幡「だったら――」

平塚「だが、彼女の両親はどう思う? 君がクラスメイトを信じたように、彼女にも信じてもらっている人がいたはずだ。そして、彼女が悪意をもって三浦を犯人に仕立てたかどうか証明できると言うのか?」

八幡「それは……」

平塚「責めている訳ではないんだ、比企谷」フッ

三浦「……?」

平塚「君は今まで、力を自分に向けてきた。その所為で多くの傷がついただろう。だから、私は逆に嬉しいくらいだよ」

八幡「……はぁ」

平塚「だが逆に、君は初めて歩く子供のように力の遣い方になれていない」

八幡「………」

平塚「だから、今回の事は正解とも不正解とも思わないことだ」スッ


平塚「私はいつだって、君達の味方だよ」ガチャッ


三浦「………」

八幡「………」


 残された指導室で、三浦と目が合う。

 三浦は先ほどの行為を思い出したのか、すぐに目を逸らしてしまった。


三浦「ヒーロー……だって」ボソ///

八幡「どうせならダークヒーローとか言って欲しかったけどな」

三浦「何それ、カッコいいん?」キョトン

八幡「まぁな」ナデ

三浦「……あ///」キュン

八幡「……いや、ちょっと待て、流石にここはまずいからな? バレたら退学だからな?」

三浦「わ、分かってるし!」カァ///


 その顔、絶対に分かってねぇ……。


 教室へと向かう廊下は、授業中もあってかシィンと静まり返っていた。

 一歩踏み出すごとにカツンと音が響き、三浦の足音とのズレが妙なリズムを生みだした。

 何故だかそれが、お互いに意図的な行動のように思えてむずかゆくなる。


八幡「なぁ優美子」

三浦「ん?」

八幡「付き合ったりはしないからな」

三浦「あー……別にいいんじゃね?」

八幡「良いのか?」

三浦「調子に乗りすぎだし」グイッ

八幡「……お前の問題だよ」

三浦「そりゃ、あーしの中では八幡は大きくなりすぎたけどさ」

八幡「………」

三浦「でも、健全な生き方だけが人生じゃないっしょ? あ、今あーし良い事言った?」

八幡「……ああ、まぁな」ヘッ

三浦「バカにしてるし!」バシッ

八幡「してねぇよ」

三浦「……教室に戻っても、また笑えるようになったらいいなぁ…」

八幡「……そうだな」



 この時の会話がホンモノだったら。

 俺達は“壊れる事”がなかったかもしれない。

 教室の扉に手をかけた瞬間、ぞわりと広がる嫌な予感。


 由比ヶ浜の叫び。


 相模の悲鳴。


 クラスメイト達の声。


 三浦と俺は目を合わせ、そしてすぐに扉を開いた。

 そこには――、



相模「ゆ、許して……」プルプル

結衣「無理なんだけど?」ニッコリ



八幡「……な…」

三浦「…結衣……?」


 下着姿で土下座をする相模と、それを上から見下ろす由比ヶ浜の姿。


 一つの世界はすでに崩壊していた。




 第六話 終わりの始まり。ありふれた物語。

いったんここまで! 続きは日付変わってからやれたらやります!


 イジメに理由があるのか。

 いじめる方が悪い?

 いじめられる方に理由がある?


 そんなものは結果論であり、しょせんは他人事だ。


 例えば虐げられるものに、「いじめっ子は悪いよね。分かるよ」とでもいえば、彼は納得するだろうか。

 答えは明白だ。


 相模南もまた、理由よりも結果よりも、ただただ虐げられる痛みに耐えているのだろう。


八幡「………」

三浦「結衣! なにしてんの!?」ダッ

結衣「……優美子! 来てくれたんだ!」ギュッ

三浦「う、うん……」

相模「……三浦…さん」

八幡(下着姿の相模を誰もかばおうとしない。……本当に納得できる証拠があったのか?)

結衣「優美子! 相模さんの所為で辛い思いしたね」グスッ

八幡(由比ヶ浜に悪意はなさそうだ。本心から三浦を想い、相模に怒りを感じる)

八幡「な、なぁ由比ヶ浜。相模は一体何をしたんだ?」

結衣「ああ、それはね、ヒッキー……」



結衣「相模さんが、全部教えてくれたんだ」


八幡「相模……が?」

相模「………」


 よく分からない。

 相模南に白状する勇気も、理由もないはずだ。

 万が一ばれそうになったらダンマリを決め込めばやり過ごせたはず。

 ……一体どういう事だ?


三浦「あんたが……」ギリッ

相模「……っ」ビクッ

八幡「ちが――」

 
 そうじゃない三浦。

 お前は誰かを咎めるために来たのか?

 女王は直接誰も裁かない。

 ただ頂点に君臨するのみなんだ――。


結衣「ヒッキーだめだよ」バッ

八幡「……由比ヶ浜?」

結衣「ヒッキーの気持ちは分かるけど……駄目」


 俺の気持ちが……分かる?


八幡「何を……?」


結衣「相模さん可愛いもんね。分かるよ」

八幡「いや、そういう問題じゃ……」

結衣「あたしだって本当はヒッキーの味方をしたいよ。でも、優美子にあんなことしたら許せないよ」

八幡「………」


 噛み合うようで噛み合わない会話。

 お互いに三浦を起点として相模の事で話している。

 だが、由比ヶ浜と俺には決定的な違いがあるような気がする。


 何かが……。



 ――バキッ!



相模「いやぁああ!」ドサッ

三浦「………」ハァハァ

八幡「優美子!」ダッ

結衣「……優美子?」


 違う。

 感情に任せて動くのは普通の人間がやる事だ。

 余裕のない奴のする防衛策だ。

 女王はいつだって余裕がある。力がある。


 相模が犯人だとしても、自分が手を下さずとも制裁を与えられるはずだ。


 クラスメイトを使っての集団苛めだってできる。

 男を使って暴行することだってできる。

 だが、手をだしたらその時は……。



「ただの人間になる」



八幡「………!?」ビクッ


 何かが脳裏に走った。

 あの言い方は……陽乃さん?


八幡「いや、違う。あれは……」




 雪ノ下がなぜあんなセリフを?


「ただの人間になる」


 ただの人間……。

 雪ノ下は世界を変えようとした。

 もともと人間の本質的な価値には平等だったはずだ。

 弱さは怠慢であり、変わることができると。

 それなのに、三浦を特別扱いしてたようなことを言うのか?


八幡(いや、俺の想像の事で悩む必要は……)


雪乃『傷がついて怒っているのは、何もあなただけじゃないのよ?』


八幡「……え…?」

八幡(いや待て、それは俺の事を言っていたはずだ)

八幡(俺が相模によって三浦が貶められた傷の事を……)

八幡「いや……違う…のか?」


 まさか、彼女の怒りの矛先は――。



葉山「優美子……」ハァハァ

三浦「隼人……」

海老名「優美子!」ギュッ

三浦「姫奈……あーし…あーし」


 教室に戻ってきた二人は、相模の姿を見て驚きの声を上げた。


葉山「何を!?」

生徒「い、いやっ、別に……」

姫菜「別にじゃないじゃん! 女の子が裸になる意味分かってる!?」バッ

結衣「姫菜! 駄目だよ!」

姫菜「結衣……?」

葉山「結衣……どうした?」

結衣「二人とも、優美子が大切じゃないの?」

葉山「大切に決まってるだろ!」

姫菜「だからってこれは――」

結衣「優美子はもっと傷ついた!!」

一同「「っ!」」ビクッ

八幡「………」


結衣「あたしは優美子になれないから、傷を分けてもらう事もできないの」

姫菜「だから、こんなことを?」

結衣「ゆきのんは言ってたもん。何もできないのは弱さだって」

八幡「……っ!」

結衣「今までのあたしじゃ何もできなかった。ただおろおろして泣いてるだけだった」

葉山「結衣……」

結衣「でも今は違うの! あ、あたしは友達のためだったらなんだってする! 何だってするもん!」ポロポロ


 そうだ。

 由比ヶ浜は友達想いの良い子だ。

 雪ノ下も唯一と言って良いほどの友達が由比ヶ浜だ。

 二人とも大切なモノのためならなんだってする。


 ――怒りの矛先に唾液を入れることくらい……。


八幡「くそっ!」ダッ

結衣「ヒッキー!」

八幡「由比ヶ浜! 相模の事は俺がきっちり終わらせてやる! だから服を着せて逃がすな!」


 こういう時は味方であることを示したほうが良い。

 あとで大きな裁きを下すから待機していろ、と。


結衣「う、うんっ!」

姫菜「さがみん、大丈夫?」ナデナデ

相模「う、うぅ……うち…うち」ポロポロ

優美子「八幡……?」


 由比ヶ浜を傷つけたのは俺だ。

 その傷に怒りを覚えたのは雪ノ下だ。

 雪ノ下は由比ヶ浜の為になんだってやった。


 俺に取り入り、知り合いを犠牲にし、すべてを壊した。


 だったら原因は誰で、何なんだ?

 裁かれるのは主犯の雪ノ下か?


 いや、違う。


 本当に裁かれるべきは――。




八幡「俺なんだろ……雪ノ下」

雪乃「……だから遅いと言ったのよ。比企谷君」パタン


 奉仕部の教室で、雪ノ下はいつものように文庫本を読んでいた。

 俺の姿を確認すると、それをそっと閉じた。


 閉められた窓から、冷たい風が吹くことはなかった。


 第六話 完

いや別にミステリーとか推理とかやるつもりはなかったんですけどね。

お風呂入ってくるので戻ったら本筋解決させて、本題に戻ります!


 あくまで俺の推測だが、由比ヶ浜の暴走には原因がある。

 雪ノ下、お前が何かを吹き込んだんだ。

 そして、由比ヶ浜は確信を得た。

 もしかしたらそれは証拠とかなかったのかもしれない。

 自分の中で折り合いさえつけば良かったのかもしれない。


 そして、相模という生贄を用意したのもお前だ。


 流石に三浦の万引き疑惑を仕込むことはできなかっただろうが、俺の後をつけていたんだな。

 後はきっかけさえ与え続ければ世界を壊すのは当人たちだ。

 お前は自分の手を汚すことなく目的を達成する。

 まったく、天才軍師かよ。


八幡「なぁ、雪ノ下」

雪乃「ええ、大体合ってるわ。違うのはあなたに対して怒りで行動したという事ね」

八幡「それ以外何があんだよ」

雪乃「簡単な事……嫉妬よ」フフッ

八幡「嫉妬……誰に?」

雪乃「難しい話ね」スッ


 雪ノ下は、その名の通り雪のようにすぅと俺に近づく。

 絡めてくる指は、ゆっくりと俺と重なる。


雪乃「雪解けする水は海に還るしかないというのかしら?」


 


雪乃「……んっ」チュプッ


 雪ノ下雪乃の舌は三浦よりも少し硬い。

 それは普段から口数の多い三浦の方が肉がほぐれているという事なのだろうか。

 だったら中学までテニスをしていて活動的な三浦の秘部の方が……。


雪乃「あら、誰を思ってここを大きくしてるのかしら?」サワ

八幡「三浦だよ……」

雪乃「随分正直ね。その犠牲の精神は昔のあなたみたいで好きなのだけれど」チュプッ

八幡「……んっ」


 唇は少し薄い気がする。

 唾液はさらさらとしていて歯並びはかなり良い。

 彼女の唾液が俺の初めてだったからか、なんだか安心する。


雪乃「……んっ」


 背中へと回した雪ノ下の腕はしっかりと俺の腰を掴んでいた。

 重なるように抱き合い、お互いを確かめ、貪る。


 完成された世界。小さく、醜く、何の価値もない。


八幡「………」ツーッ


 こんなんじゃない。

 俺が求めたのは――。


雪乃「由比ヶ浜さんのように大きくはないのだけれど」///

八幡「関係あるのか? 俺たちの関係に」

雪乃「……雰囲気づくりくらいしても良いと思うのだけれど」プイッ

八幡「……そうか」グイッ

雪乃「きゃっ///」

八幡「きゃとか可愛い声出すんだな。雪ノ下」ペロッ

雪乃「んっ/// ふぅ、ん///」

八幡「可愛いよ。雪ノ下」

雪乃「や……言わない…でぇ///」


 壊れたモノ達の喜劇。

 かつて求めていた形をなぞるように、だが思い出せない輪郭は歪で儚い。


八幡「いい匂いもする」

雪乃「や……ぁ///」クネ

八幡「柔らかい」ギュッ

雪乃「もっ……とぉ///」


 中身は何もない。

 飲み干したマックスコーヒーに想いを馳せるような、そんな。


八幡「触るぞ」スッ

雪乃「う、ん///」


 雪ノ下の秘部は三浦のように濡れてはいなかった。

 なぜならこれは演技だから。

 中身のない人形同士のそれだから。


 だから、無理やりねじ込む。


 ――ぐぐぐ。


雪乃「い……っ」ギューッ


 入らない。

 固く閉ざされた雪乃の秘部は、生半可な覚悟では入らないのだろう。


 人形に覚悟など必要ない。


 ――ぶ、ち。


雪乃「んっ……」ギューッ

八幡「柔らかいな」


 ゆっくりと熱いものが流れ落ちる。

 
 血か、魂か。




八幡「本当に良いのか?」

雪乃「……今更聞くの?」


 奉仕部の床に寝そべる彼女の裸体は美しい。

 だが、その美しさは芸術に近く、人間さの欠片もない。


八幡「きれいだよ、雪乃」


 作り笑顔で造り言葉を紡ぐ。

 俺には自分で発したきれいの意味が分からない。


八幡「お前をもら――」

結衣「ヒッキー!! ゆきのん!!」ガラッ

八幡「ゆい……がはま?」

雪乃「由比ヶ浜さん……」


 世界が、色を取り戻していく。



結衣「ゆきのんもヒッキーも馬鹿だよ。大馬鹿だよ」プクーッ

八幡「いや、お前に言われたくねぇよ」

雪乃「まったくね」

結衣「違うよ! 全然違う!」

八幡「お、おう……」ビクッ

結衣「あたしは全然馬鹿だけどさ! 何もわからないけどさ!」

雪乃「………」


結衣「形って変わるじゃん! ずっと一緒なんてありえないじゃん!」


八幡「……そうだな」


 確かに由比ヶ浜はあほだ。考えなしのあんぽんたんだ。

 だが、理屈を知らなくても車は乗れる。料理はできる。

 由比ヶ浜は分かっている。この喜劇の終わらせ方を。


 俺たちが堕ちて行くことで終わりを迎えようとした方法を真っ向から否定する。


結衣「だーかーらー……」


 真っ向から――。



結衣「三人で、しよ♪」


 ――全てを“受け入れる”。





 第七話 そして一から始める物語

一応本筋は終わりです。何も解決せず、進展せず、終わらず、始まらないお話でした。

後は好き勝手エロいことして飽きたら終わろうと思います。

誰にしようかな。


 結局、何もかもがうやむやのまま、俺たちは日常に戻った。

 だが、取り戻せないものもある。

 たとえば――、


結衣「優美子髪伸びたねー」

優美子「八幡が元に戻してほしいって言うからさー」クルクル

南「ウチも伸ばそうかなぁ」サワサワ

八幡「いや、別に好きにしたらいいけど……なんで…」


 一つの椅子に圧し掛かる三人の女子たち。


八幡「なんで俺の上に乗るんですかねぇ……」

優美子「だってあーしの八幡だし」

結衣「あ、あたしはただ……その…ね///」モジモジ

南「ウチの事嫌い?」ウルウル

八幡「……俺の世間的な立場は無視かよ」


三人「「そんなもの最初からなかったじゃん……」」ジトーッ


八幡「………」

葉山はとばっちりで評判落とされて一人負けじゃんww

>>136
葉山好きなんだけど……つい
ちょっと初めてじっくりIS見てるんだけど面白いから一気見してきます!では!

葉山下げは俺ガイルssの宿命なのか……


雑談でも紹介したのでこっちでも。


ここでまとめブログやらせてもらってるのでよかったら読んでやってください。
オリジナルの話も書いてます。

ISとガイルのクロス(シャルロットヒロイン)を書きたくなったけど、ISの知識がなかった……orz

少しだけ続きー。(本当に本筋の設定はほとんど関わって来ないと思います)



 いろいろあってから、一番変わったのは俺でも由比ヶ浜でも雪ノ下でもなく、


小町「ねぇねぇおにぃちゃん! 今日は誰と登校するのかな?」ニマニマ


 ――小町だった。


八幡「いや、俺は誰とも登校の約束なんかしてねぇし」

小町「小町としてはー、やっぱり愛しのお兄ちゃんと一緒に登校できないのは寂しいのだけれどぉ」ニコニコ

八幡「お、おう///」

小町「でも、面白い方が良いと思うので全然大丈夫でーす!」ブイブイ

八幡「」

小町「さてさて今日の獲物はーーーっ」ガチャッ

八幡(獲物とかいうな……)



相模「お、おはよう……比企谷…」フリフリ///



小町「相模先輩でしたーーーっ!」

八幡「お、おう」

相模「………」モジモジ///

相模「比企谷の妹って元気だね」

八幡「元気すぎて振り回されっぱなしだ」ハァ…

相模「あ、う、ウチと一緒じゃ余計疲れちゃうかなっ」アワワ

八幡「その変な気遣いの方が疲れるっつーの」

相模「ご、ごめん……」

八幡「俺は昔から一人だったから、少しくらい賑やかでいいんだよ」

相模「比企谷……」ギュッ

八幡(昔だったら、何の罠だろうと警戒してたんだろうなぁ……)


 相模南の真骨頂は隣に並んだ時に、ふと見える首筋にある。

 特にうなじ辺りから肩にかけて伸びる首筋はショートカットだからこそ見える相模の武器だ。


八幡「………」サワッ

相模「ひゃっ///」ビクッ


 相模の敏感さは、俺の漏れ出る“何か”を満たすにはちょうどよかった。


八幡「そこ、いい匂いしそうだな」ボソ

相模「っ/// ひ、比企谷の癖に!」ポカポカ///


 相模南は可愛い。

 外面ではない。イジメた時にふと見せる弱さがとても可愛いのだ。



相模「ウチってさ、やっぱ女の子として足りないと思う?」

八幡「胸が?」

相模「それなりにあるし!」グイッ


――ふにっ。


 ブレザー越しに触る相模の胸は、分厚い布の奥で暴れるように動いた。

 確かにそれなりに脂肪、または水分があるようだ。


八幡「じゃあ、髪の毛か?」

相模「うーん……、やっぱり比企谷は雪ノ下や優美子みたいな方が好きなの?」ウルウル///

八幡「どっちかというと、昔から男を勘違いさせる女子に惚れてきたから――」サワ

相模「にゃっ///」ビクッ

八幡「こういう活発そうな髪形の女の子ばっか好きになったかもな」ナデナデ

相模「ウチみたいな……」パァッ///

八幡「………」ポリポリ///

あかん、ISに引っ張られてる。ちょっと酒飲んできます

うるさい>>1だな

>>150 本編終わってるからえーやんか。

でもまぁ、ここまでにしときます。読んでくれてありがとうございました!

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年09月15日 (火) 08:37:41   ID: h9K4MkUU

ん〜イマイチよくわからん…

2 :  SS好きの774さん   2015年09月15日 (火) 18:22:53   ID: Qt4llQaJ

くっさ

3 :  SS好きの774さん   2015年09月25日 (金) 17:25:15   ID: HMNahp36

妄想中毒者の妄想って感じ。そこら辺の童貞でももうちょっと面白く書けるな。

4 :  SS好きの774さん   2016年08月20日 (土) 16:04:28   ID: S7UHz0Eo

童貞なのはいいけど風呂敷広げすぎるなよ

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