高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「誕生日の前の日に」 (53)

――おしゃれなカフェ――

高森藍子「…………えっと、皮肉ですか?」

北条加蓮「うん、第一声にそれが来たあたり、そろそろ藍子も私のことが分かってくれてるかな?」

藍子「いや……だって、これって」

加蓮「で、今日は後からやってきた藍子の為に『ショートケーキ』を用意してみた訳だけれど、どう? お眼鏡には叶った?」

藍子「あの……すっごく、コメントが難しいです、これ。……あ、そうだっ!」

藍子「じゃあ、これは私から加蓮ちゃんへのプレゼントにしちゃいますっ。前祝い、ってことで!」

加蓮「へー、藍子は人が悩んで悩んで考えに考えた物を自分はいらないからってぽいって突っ返す子だったんだ、へー」

藍子「……………………」ジトー

加蓮「ふふっ。こんにちは、藍子」

藍子「……こんにちは、加蓮ちゃん。今日は一段と訳分かんないです」


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以下の作品と同じ設定の物語です。

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「たまにはジャンクフードでも」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「今度は、室内の席で」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「今度は、室内の席」

加蓮「意趣返しって言うのかな。どうも夏休みが明けた頃からこの手の差し入れが増えちゃってねー、次の身体測定が怖い怖い」

藍子「加蓮ちゃん、前に私にいっぱい食べるようにって言っていましたけれど……加蓮ちゃんこそ、もうちょっと健康的になった方が」

加蓮「えー」

藍子「あんまり細いと、見てて心配になっちゃいます。つい支えたくなっちゃうっていうか……」

加蓮「あー……嫌なこと思い出した……」

藍子「えっ。……ご、ごめんなさい」

加蓮「へ? ああ、いや、別に藍子が謝ることじゃないわよ。ってか私の方こそごめんなさい……ほら、私ってあらゆるところに地雷が仕込まれてるからさ……」

藍子「地雷?」

加蓮「学校の話をすると地雷を踏む。昔の話をすると地雷を踏む。プライベートについて聞くと地雷を踏む」

加蓮「むしろ地雷原の上でどれだけダンスして生き残れるかってゲームができそうかな? そういうアプリとかどうだろ」

藍子「どうだろ、なんて言われても……」

加蓮「ほら、藍子。例えばさ、ドーム規模のLIVEがいきなり組まれたらすっごい緊張すると思うけど」

加蓮「定例LIVEを繰り返すんだったら慣れていくでしょ? それとおんなじ。超大規模な爆発があったら驚くし、その後のことも考える」

加蓮「でも私なんて毎日毎日そこら辺でちっちゃな爆発がぽんぽんしてるの。いちいち気にしない」

藍子「私は……加蓮ちゃんほど、割り切るのは得意じゃありませんけれど、でも、加蓮ちゃんがそう言うならそうしますね」

加蓮「……私が言うならって考えるんじゃなくてさー……ま、いっか」

加蓮「いっそぜんぶの地雷を晒し者にしよっか。ああダメだ、藍子が泣く」

藍子「私が泣くんですか!?」

加蓮「だってさー……私が死ぬのを想像、もとい妄想して泣いちゃう子でしょ?」

藍子「言い直さなくていいですっ」

加蓮「あ、分かった。私が地雷だって分からせないようにすればいいんだね。アイドルがファンに結果だけを見せて、努力している様を見せないように」

藍子「加蓮ちゃんの例えは、いつも驚きですね」

加蓮「え? そこまで変なこと言ってる?」

藍子「いえ。私には思いつかないことだから……でも、加蓮ちゃんの言っていることって、私に隠しちゃうってことですよね?」

加蓮「ん」

藍子「それは、ちょっとやだな……って」

加蓮「だってさー、人を傷つけてるって分かったらフツー対策を練るでしょ。で、選択肢がぜんぶ曝け出すかうまいこと隠すかの二択なんだし」

加蓮「前を選んだらナイフで突き刺すのを通り越してマシンガン連射するようなことになるし、だったら嘘をつく方がまだマシじゃない?」

藍子「でも加蓮ちゃん、嘘が大っ嫌いだって。それに、私、前に言いました。加蓮ちゃんのお話なら何でも聞くって」

藍子「私、加蓮ちゃんのお話を聞いて……よく、心が痛くなっちゃうんです。でも、それを嫌だって、あんまり思いませんよ」

加蓮「ふうん……」

藍子「それで加蓮ちゃんが、何かを変えられるなら、私で良ければ……って」

加蓮「……藍子ってやっぱり変だよね。私より、ずーっと変」

藍子「ええっ!? そんなっ」

加蓮「え、待って、マジでショック受けるとこ?」

藍子「わた、私、確かにPさんや現場のスタッフさんからもたまに変わった子だって言われることもありますけれど、でも加蓮ちゃんよりは……加蓮ちゃんよりは……!」

加蓮「うわーお、そこまで言うか。地雷原まみれの子と自分をマシンガンで蜂の巣にしてくれって言う子、どっちが変なんだろ」

藍子「そ、それよりもっ。思い出したことって何なんですか? その、いっぱい食べるようにって私が言った後のこと……」

加蓮「しかも埋め込まれた地雷を掘り始めたよこの子。もう明日から変な子って呼ぶようにしよ」

藍子「やめてくださいー! こっちは加蓮ちゃんとあんまり関係ないですっ、だってあんな言い方されたら気になっちゃうじゃないですか!」

加蓮「例えばそれが、思い出すだけで目元を拭いたくなるような話でも?」

藍子「~~~~っ! 加蓮ちゃん……っ!」

加蓮「……潮時みたいだね。ごめん藍子、やり過ぎた。……藍子も悪いんだよ? 何やってもいいって言うから」

藍子「そこまで言ったつもりは……! ううっ、でも、……ううう~~~~っ!」

加蓮「はー………………駄目だな私、際限がないわ……。今の、明らかに攻撃だよねぇ……」

加蓮「前言撤回するなら今だよ。私なんていっつも藍子を騙して弄んで、ケラケラ笑うことしか考えてないんだから」

藍子「加蓮ちゃんっ」

加蓮「ん、ん?」

藍子「嘘は大っ嫌いって言ったの、加蓮ちゃんですよ?」

加蓮「…………あー………………ごめん、今の私、ドツボだ……なんでうまくいかないんだろ…………少し、頭を冷やしてくるね」スタッ

藍子「はい、行ってらっしゃい、加蓮ちゃん」

(5分後)

加蓮「ただいま」

藍子「おかえりなさい」

加蓮「ごめん。……ホント、なんかごめん。頭冷やして冷静になってやっと気付いたよ。今日の私はさすがに酷すぎるって」

藍子「いいえ。私は大丈夫ですから。ねっ?」

加蓮「……ホントにありがとね」

藍子「あっ、でも、忘れてました!」

加蓮「何が」

藍子「加蓮ちゃん、ちょっと顔を前に出してみてください。こういう風に」ズイッ

加蓮「え? うん……」

藍子「えいっ」ペチ

加蓮「あたっ」

藍子「誰だって落ち着かない時はあります。それに、ついやりすぎちゃうことだって。それは、誰にだってあることかもしれません」

藍子「でも、そうやって自分のことを、嫌い、なんて言っちゃ駄目ですよ。だから、おしおきです!」

加蓮「むー……」サスリサスリ

加蓮「……ごめんね、気をつける」

藍子「はいっ」

加蓮「なんかいろいろ話があっちこっち飛んでったなー。何の話だっけ……ああそうそう、ご飯ねご飯」

加蓮「まー、ほら、昔さ、痩せすぎてる私にご飯を詰め込んでくる馬鹿がいて。トイレでお花畑の映像が必要になったことを思い出しました。終わり」

藍子「……ええと、それってもしかして、そのぉ……」

加蓮「大丈夫。辞職までは追い込んでない」

藍子「わ、わぉ……」

加蓮「もうさー、ほら、アイドルだから学校が遠いとかって言ったけどさ、それと関係なく学校ってロクな思い出がないんだよね。どいつもこいつも自分勝手っていうか、自己中心的って言うか」

加蓮「そんなに病弱の子は利用価値があるの? ホント、ばっかみたい……いいんだけどね。それはそれで。自分に価値があること自体は、悪いことじゃないから」



藍子「…………」スクッ


加蓮「あれ、藍子? ――あ……あの、私、その……ごめ」

藍子「よいしょ」(加蓮の隣に座る)

加蓮「え」

藍子「えいっ」ペチ

加蓮「あたっ」

藍子「……」スクッ

藍子「ふうっ……」(元の場所に戻る)


藍子「やり遂げました!」ドヤア


加蓮「…………え、それだけ!? 私をはたくためだけに!? 顔出してって言えばいいじゃん!」

藍子「ふふふっ。同じことは2度も通じないかなって」

加蓮「びっくりしたんだけど!? ってか藍子がいなくなっちゃいそうで今ちょっと軽く絶望しそうになったよ!?」

藍子「大丈夫です。もし加蓮ちゃんがそれくらい悪いことをしちゃったら、私は、いなくなっちゃうんじゃなくて、叱ってあげることにしましたから」

加蓮「え、ええ?」

藍子「加蓮ちゃん」

加蓮「何」

藍子「次は、もっとおしおきしちゃいますからね」

加蓮「…………はい」

藍子「私、前に言いました。自分を傷つけるくらいなら、ナイフは私に向けてくださいって」

加蓮「いや、さすがにそこまで割り切るのって無理でしょフツー……」

藍子「もう1つ、言ったことがあります」

加蓮「今度は何」

藍子「私、こう見えても頑固なんですよ?」

加蓮「…………はー」テンジョウミアゲ

加蓮「…………もうやめよっか、この話」

藍子「はいっ。加蓮ちゃんがやめたいなら、やめちゃってください」

加蓮「はー…………なんかごめんね、ホント…………」

藍子「いえいえ。私は、大丈夫ですよ。加蓮ちゃんの辛くないようにしてくださいね」

加蓮「うん、えいっ」(両頬を叩く)

加蓮「よし、落ち込みモード終了! ここからはいつもの意地悪な加蓮ちゃんでお送りするよ!」

藍子「いや素直で真面目で可愛い加蓮ちゃんでお送りしましょうよ!?」

加蓮「え? 誰それ。写真を撮ってネットでこれ誰って聞いたら高森藍子ってアイドルだよって返される子?」

藍子「なんですかそれー!」




加蓮「そろそろ食べてあげてよ。ショートケーキ」

藍子「いただきますね。はむっ! ……甘いですっ」

加蓮「コーヒー、飲みかけでいいならどーぞ」

藍子「ありがとうございます……ずず、苦っ」

加蓮「甘かったり苦かったり大変だ」

藍子「加蓮ちゃんって、お砂糖とミルクは入れない派ですか?」

加蓮「んーん、こだわりはないよ。でも最近、ちょっとブラックコーヒーにハマってるかも」

藍子「大人……!」

加蓮「前にPさんとミーティングしてる時、試しに飲んでみたんだ。そしたら思ったより美味しくて。もちろん苦いけど、それがクセになっちゃった」

藍子「Pさん、いつもコーヒーはブラックですよね。私もいつか一緒に……」

加蓮「それじゃ私とかぶるじゃん。藍子はお茶にしなよ」

藍子「お茶?」

加蓮「うん。Pさんが疲れてるなーって思ったら、私ならコーヒーを淹れて、藍子ならお茶を淹れる。そういうのってちょっと面白くない?」

藍子「面白いかは分からないけれど……あはっ、なんだか面白そうですね」

加蓮「面白そうって言ってんじゃん! でさ、ある日、急に逆にしてみるんだ。私がお茶を出して藍子がコーヒーを出す。どうなると思う?」

藍子「それは……Pさんが、私と加蓮ちゃんを間違える?」



※高森藍子の担当プロデューサーと日野茜の担当プロデューサーは別々であるという設定です。ご了承ください……。

※また忘れてた……申し訳ございません。訂正です。
>>7 5行目の藍子のセリフ
誤:Pさんや現場の~ 正:モバP(以下「P」)さんや現場の~



加蓮「『ありがとう藍子。そうだ、次のLIVEの件だが――あ、あれ? 加蓮!?』ぷくくっ」

藍子「あははっ……ふふっ! 試しにやってみましょう! その時のPさんの顔、ちゃんと写真に撮りますから!」

加蓮「おお乗り気だ。藍子にしては珍しいね、こういうイタズラに乗るのって」

藍子「加蓮ちゃんが具体的に言うから、すごく見たくなっちゃいました!」

加蓮「よし、全力でやろっか」

藍子「はいっ」

加蓮「そのまま私が藍子の代わりに『お散歩カメラ』を歌うんだ。で、藍子が」

藍子「『薄荷-ハッカ-』を歌うんですね?」

加蓮「ううん。『蛍火』にしよう」

藍子「jewelriesのですか?」

加蓮「あの歌、けっこう強敵だよ。お腹から声をどれだけ出しても表現しきれないもん。でも怒鳴ればいいって問題でもないし」

藍子「jewelries、しっかり買って聞きましたよ。今も、たまに聞いています。加蓮ちゃんの歌、すっごくすてきで」

加蓮「私より奈緒のを聞いてあげなよ。『君の知らない物語』だよ? 奈緒、最初に発表があった時ポカーンとしてたな。すっごく嬉しそうだった」

藍子「そんなに歌いたかった歌だったんですか?」

加蓮「っていうより、アニメの主題歌をカバーできることがすごく嬉しそうだった。ほら、奈緒ってさ、私とはまた違う意味でアイドルに憧れてたから」

加蓮「アイドルっていうか、二次元の世界? アイドルって二.五次元って誰かが言ってたような……まあ、とにかく、憧れてて、アイドルになった後は何か関わってみたかったとかなんとか。奈緒もまた夢を叶えたってことでしょ」

藍子「ふふっ。すてきなお話ですね」

加蓮「一方で私は人が死んだ歌を歌うのだった」

藍子「もう少し別の言い方をしてあげてください……」

加蓮「もし次にカバー依頼があったら何を歌いたいかなぁ。エレクトロ? ポップス? アニソンも悪くないっか」

藍子「私は……やっぱり、ゆっくり、ゆっくり、歌えるような物が」

加蓮「さてここで私と藍子を逆にしてみます」

藍子「私、今日から北条加蓮ですか?」

加蓮「何日務まるかな?」

藍子「…………さ、さんふん」

加蓮「もうちょっと頑張ろう。藍子がガンガンのアップテンポなアニソンを歌うんだ。初めてのお披露目は定例LIVEで。新曲を出すんだって言って、タイトルは歌うまで伏せておいてね 」

加蓮「藍子が歌い出す。客席、誰これと総じてポカーンとなる」

藍子「みんなびっくりしちゃいそうですね……」

加蓮「歌い終わったところで私が登場。客席、ああなるほどアイツの入り知恵か、と首を縦に振る。次に私が――」

藍子「あの……ファンの皆さん、きっと、加蓮ちゃんをそういう風に思っていませんよ?」

加蓮「藍子が歌うような――え? そういう風に、って……」

藍子「今のお話だと、加蓮ちゃんが出てきた時、これは加蓮ちゃんのイタズラだって皆さんが思うんですよね」

加蓮「うん。アイツならしょうがない的な」

藍子「でも、ファンの皆さん、たぶん、加蓮ちゃんをイタズラっ子だって見ていないんじゃ……ううん、間違えなくそうですっ」

加蓮「え、なんで? だって私だよ? 北条加蓮だよ?」

藍子「私、加蓮ちゃんのLIVEをよく見るんです。現地でも、DVDでも。そこにいる加蓮ちゃんは、いつもすっごく真剣で、全力で歌っていて」

藍子「それに雑誌でも、加蓮ちゃんは……よく見るのは"病気にも負けずに健気に頑張ってる女の子"って印象で、イタズラっ子なんてどこにも書いていませんよ」

加蓮「……………………え、マジで?」

藍子「気付いていなかったんですか!?」

加蓮「や、その、自分が出てる雑誌って見てたらどうしても照れちゃって……何か問題があったらPさんの方から言ってくるし、見なくていいかなって……」

加蓮「ファンレターだってさ、正面切って言う人なんかいる訳ないし……最近は握手会とかぜんぜんやってないし……」

藍子「LIVEの時は――」

加蓮「もちろんファンの皆の方は見てるけど、だっていつもいっぱいいっぱいだもん。っていうか私だって、誰か1人に注目しないとその時の心境とかその後の行動とか読めないしっ」

藍子「あ、あはは……でもほら、私は最初の頃、加蓮ちゃんってそういう子かなってイメージしてたから……」

加蓮「あれは藍子フィルターか何かかと!」

藍子「じゃあ、今度、Pさんに聞いてみてください。きっと、私と同じことを言うから」

加蓮「……い、いやっ、じゃあさ……例えばほら! この喫茶店の人とか! 私ら以外にも常連くらいいるでしょ! 私が藍子をからかってるのくらい何度も見て聞いてるでしょ!」

藍子「あ、すみませ~ん。はいっ、さくさくクッキーをお願いします。……え? ここで起きていることは私だけの秘密です、ですか?」

藍子「それに、他のお客さんも同じことを言っている、密かな楽しみだ、誰にも教えてたまるもんか、って……あはっ、だそうですよ、加蓮ちゃん」

加蓮「」

藍子「はい、クッキー、お願いしますね。……いいじゃないですか加蓮ちゃん。真面目で真剣で、すてきなアイドルだって思われているんですから」

加蓮「……今度トーク番組に出てやる。出て、藍子の恥ずかしいことぜんぶ暴露してやる……!」

藍子「ええええ!? とばっちりじゃないですか私!」

加蓮「……………………」ムスー

藍子「はい、加蓮ちゃん。クッキー、あーん♪」

加蓮「……………………」アーン

藍子「もうっ。いいじゃないですか。真面目な人だって思われて、何が嫌なんですか?」

加蓮「…………だってさー……それってさー、なんか、私の作ってる部分を見てるだけっていうか、表向きだけを見てるっていうかさー……」

藍子「真面目で、真剣なところだって、加蓮ちゃんの内側です。どれが表でどれが裏、なんてありませんよ」

藍子「それに、イタズラっ子なところとか、自分を嫌だって言っちゃうところとか、可愛い女の子だってところは、私やPさんがちゃんと見ていますから」

藍子「それじゃ、だめですか?」

加蓮「…………うぅぅ……それならいっかぁ……」

藍子「はいっ。クッキー、もう1つどうぞ」スッ

加蓮「ん……」アーン

藍子「もっと欲しかったら言ってくださいね。また、注文しちゃいますから」

加蓮「はぁい…………」

加蓮「…………もう、藍子。いつから私のお姉ちゃんっぽくなったのよー」

藍子「え? 加蓮ちゃんって、お姉さんがいるんですか?」

加蓮「いない! 物の例え!」

藍子「それにほら、明日が来るまでは、私の方がお姉ちゃんです♪」

加蓮「えー、明日って……ああ、明日ね」

藍子「そうですよ。明日の誕生日で、加蓮ちゃんが16歳になるまでは――」

加蓮「え? 待って待って、今って私16――あれ? 藍子の誕生日って7月25日だよね。7月25日を迎えて、16歳になった……んだよね?」

藍子「はい、そうですけれど……」

加蓮「でもその前から藍子は16歳で………………」

藍子「………………」

加蓮「………………」

藍子「………………と、とにかく、今は私の方がお姉ちゃんなんです!」

加蓮「だ、だよね! 年齢とか関係ないよね!」

藍子「そうですよもー加蓮ちゃんったら」アハハ

加蓮「だよねー私ってばどうかしてたー」アハハ

藍子「こういうことで悩んじゃったら、魔法の呪文を唱えちゃいましょう♪」

加蓮「そうしようそうしよう! せーのっ」

藍子・加蓮『うっさみ~ん☆』

加蓮・藍子「よしっ」

加蓮「誕生日かー……今年も来ちゃったって感じ。ううん、もういろんな人から差し入れは貰ってるからいまさらか」

藍子「あはっ、その気持ち分かります。私も、誕生日の1週間か2週間くらい前から、いろいろな人に言われちゃって。自分の誕生日がいつなのか、忘れそうになっちゃいました」

加蓮「逆にさ、こうしてると希釈されちゃうよね」

藍子「希釈?」

加蓮「ほら、誕生日を意識しててもさ。色んな人に言われて、そのうちに自分の誕生日がいつだったかなんて意識しなくなって。最終的に、誕生日っていう話が頭の中からなくなってさ」

藍子「えっと……ごめんなさい。加蓮ちゃんが言ってること、私には、ちょっと難しいみたいで……」

加蓮「ん。まぁアレだって。アイドルになってよかったなぁ、って話」

藍子「あれ? 今、ものすごくお話が飛んだような」

加蓮「ね、藍子。誕生日おめでとうって言うけどさ、なんで誕生日ってめでたいのかな」

藍子「どうして、って……その人が生まれたことを、お祝いするんじゃないですか?」

加蓮「じゃあさ、誰にも生まれたことを祝われない子がいたら?」

藍子「それは……それでも、私はお祝いしてあげたいです。その子が、生まれてきてよかった、って思えるように」

藍子「それに、誰からも祝われない子なんて、絶対にいない筈ですから……そのことも、教えてあげたいかな……」

加蓮「そっか。ならさ藍子」

藍子「はいっ」

加蓮「ちょっと12年くらい前に戻って今の言葉を私に言ってきて」

藍子「分かりまし――ええええ!? 12年くらい前にって、ど、どうやって行くんですかそれっ」

加蓮「そこはほら、我らが池袋ラボの力を借りるとか"でしてー"に神様を降ろしてもらうとか神社生まれのDさんとか」

藍子「いやいやいやいや無理ですって! ……ええと、無理、ですよね?」

加蓮「……うちの事務所って恐ろしいね。無理だって頷けないもん」

藍子「もうっ。どこまでが冗談ですか?」

加蓮「7割……くらい? ちっちゃい加蓮ちゃんが今の言葉を聞いたらどう思うかなーって興味がある程度かな」

藍子「小さな加蓮ちゃん……ってことは、子供の頃に」

加蓮「や、だってさ。フツーに考えてみてよ。ちっちゃい頃からベッドの上。なんにもできないし親の辛い顔は見ちゃうし。それで自分は生まれてきてよかったってどうやって思えばいい訳?」

藍子「…………」

加蓮「……っていうのは昔の話。今はほら、あまりにいろんな人がおめでとうって言うもんだから、誕生日って話が薄れちゃってさ」

加蓮「レアくなくなったっていうか、あ、そっか、9月5日って私が生まれた日なんだー、って軽く思えるくらいには」

加蓮「それが、むしろ嬉しいんだ。昔からの傷痕がなくなったみたいで。これってアイドルになって、いろんな人と出会ったからだよね」

加蓮「だから、アイドルになってよかったな、って思ったの」

加蓮「……ま、それでも、実際に近づいてきたらそわそわしちゃうんだけどね」

藍子「じゃあ、今日の加蓮ちゃんがちょっとおかしかったのって」

加蓮「の、影響があるかも。……うん、でもごめんね。言い訳にはできないよ」

藍子「いえっ。そわそわしちゃったんだから、しょうがないですっ」

藍子「…………加蓮ちゃんは」

加蓮「んー?」

藍子「いえ。今まで、誕生日おめでとう、なんて、あんまり考えないで言ってきましたから、私……。なんだかすごいなって思っちゃいました」

藍子「ち、ちょっと失礼ですよね、ごめんなさい……」

加蓮「んー、いや私が変なんだって。……え? マジで? 私、藍子より変なの?」

藍子「そのお話まだ続いていたんですか!?」

加蓮「これは一大事だよ。ちょっと事務所で、ううん、アイドルとしてアンケート取ろうよ。私と藍子、どっちが変ですか? って!」

藍子「だから、皆さんが知っている加蓮ちゃんは、すっごく真面目で真剣で頑張る子なんですってばっ」

加蓮「そ、そうだった。なら事務所になるけど……事務所こそ、藍子が変な子だって知ってるの、未央と茜ちゃんくらいしかいないでしょ!」

藍子「えええ!? 私、未央ちゃんと茜ちゃんにそういう風に思われているんですか!?」

加蓮「大丈夫。あの2人も十分に変な部類だから。特に茜ちゃん」

藍子「そんなことありませんよ!」

加蓮「トレーニングをやろうって言ったらじゃあまずランニング7時間とか言い出す子が普通? そんな世の中はヤダよ私」

藍子「あれはそのっ、茜ちゃんなりの頑張り方みたいなものですから!」

加蓮「むしろ事務所で変じゃないのがいない」

藍子「そこまで!?」

加蓮「あなたが考えるこの事務所の変人は誰ですか? って聞いたら、全員に票が入るよきっと」

藍子「ってことは、やっぱり私にも誰かが票を……!?」

加蓮「うん。私が入れる」

藍子「加蓮ちゃん主催のアンケートなら加蓮ちゃんが入れちゃ駄目です!」

加蓮「よし、凛と奈緒に吹聴しとこ。藍子って実はねー、みたいに」

藍子「やめてくださいっ凛ちゃんにまで変な目で見られちゃうー!」

加蓮「凛の変な物を見る目って辛いよねー。Pさんとか奈緒はまだほら、からかうように笑いながらって感じで、こっちも冗談っぽく振る舞えるんだけどさ」

加蓮「凛は素だもん。え? 何言ってるの? って冷たい目でこっち見いてくるもん。アレはキツイって」

藍子「……わ、私も実は、何回かそういう風に見られたことがあって……」

加蓮「藍子。認めよう。私達は変人だ」

藍子「うぅぅぅぅぅぅううぅ、なんだか納得いきません……っ!」

加蓮「ま、アレでしょ。生まれて来たことについてどうこう思うよりは、生まれた後のことをどうこう思いたいな、私は」

藍子「ぜーっ、ぜーっ……ええと、誕生日のお話、ですか?」

加蓮「うん。生まれてきて、生きてきて、Pさんに出会えて、アイドルになれて、そして藍子に出会えた。うーん、これは誕生日おめでとうってことになるのかな?」

藍子「……加蓮ちゃんがいろいろと考えるの、すごいって思いますけれど、でも、あんまり考え過ぎない方がいいことだってありますよ?」

加蓮「そっかぁ。じゃあ、誕生日おめでとうってことにしとこ」

藍子「はいっ。そうしちゃいましょう」

加蓮「誕生日おめでとう、私」

藍子「お誕生日おめでとうございます、加蓮ちゃん♪」

加蓮「まあ実際の誕生日は明日なんだけどね」

藍子「明日、事務所でパーティーをやるってPさんが言っていましたよ。楽しみですねっ」

加蓮「正直、誕生日がどうこうよりパーティーの方が楽しみだなー。でもまた甘いのいっぱい食べさせられるんだろーなぁ」

藍子「そう言うと思って、私、塩辛いおにぎりをいっぱい握ることにしましたっ」

加蓮「おお」

藍子「一口サイズだから、そんなにお腹もいっぱいにならなくて……その、加蓮ちゃんが、ええと、……お、お花畑を用意する必要もないかな、なんて、あはははは……」

加蓮「もー。私のご機嫌を取って何を買って欲しいの? 服? アクセ?」

藍子「…………明日の私は、塩と砂糖を間違えちゃいます」

加蓮「ごめんごめんっ。もう、ドジっ娘の属性は持ってないでしょ」

藍子「そういえば明日、歌鈴ちゃんも参加するみたいですよ。パーティー」

加蓮「へえ、そう……。……さて藍子。今の流れからどうして歌鈴ちゃんの名前が出てきたのかなー?」

藍子「え? ……あ、あはは、それは、その」

加蓮「んー?」

藍子「…………前にほらっ、加蓮ちゃん、歌鈴ちゃんとお話してみたいって言っていましたから! 絶好の機会ですね!」

加蓮「あ、かわしたなっ。別に話してみたいってことはないっていうか、別に話せない関係とかじゃないから話したいなら勝手に話してるけど……でもま、ちょっと釘くらいは刺しとこっかな」

藍子「え、釘……?」

加蓮「いつも藍子がお世話になってます、ただし藍子は私のなので取っていくようなら全力出します、って」

藍子「え、えぇぇ……」

加蓮「それにほら、歌鈴ちゃんって神社の子でしょ? じゃあ私のライバルだ」

藍子「……? 神社の子だったら、どうしてライバルになるんですか?」

加蓮「だって私って北条加蓮だもん。"蓮"だよ。蓮って確か、仏教の花なんだよね。なら神社の子とはライバル関係だ」

藍子「………………加蓮ちゃん」

加蓮「何?」

藍子「神様って信じていますか?」

加蓮「何言ってんの藍子。神様なんている訳ないじゃん。もしいたら過去の恨みを込めて全力でぶっ刺しにいくよ」

藍子「…………」ジトー

加蓮「…………ああ、うん」

藍子「…………」ジトォー

加蓮「…………むしろ私が神様になってやる」

藍子「ええ!?」

加蓮「ほら、蓮の花をモチーフに衣装を作って、後光を用意して、口元に指を置いて」

藍子「それ前に出した写真集のお話ですよね!?」

加蓮「いやでも実際、あれ撮影した時はちょっぴり神様気分だったかも。蓮の花がどうこうって意識したし、蓮の花と仏教の話はちょっとだけ知ってたし」

藍子「た、確かに、あの写真はまるで神様みたいでしたけど……」

加蓮「ね? だから私が神様だ。ってことで貢物ちょーだい」

藍子「……誕生日プレゼントが欲しいなら、素直にそう言えばいいじゃないですか」

加蓮「あ、バレた? 誕生日の話なんてしたら気になっちゃうじゃん」

藍子「もー。でも、実は用意してきているんです。明日のパーティーにみんなで渡そう、ってなったんですけれど、それとは別に、もう1つ」スッ

加蓮「え、2つも? いやいや藍子、そこまでしなくていいってば。私はあくまで前借りのつもりでっ」

藍子「私がそうしたいんですっ。その、それだけ私にとって加蓮ちゃんは特別な存在っていうかちょっぴり特別なことをしてみたかったっていうか……」ゴニョゴニョ

藍子「と、とにかくっ。これ、どうぞ!」つちょっと大きめの箱

加蓮「あ、ありがと……」

加蓮「…………」(包装紙を解く)

加蓮「……う、うん……?? ええと、藍子、これ…………うん? 入浴剤?」

わりと以前から読んでるけどこの作品の最近の加蓮はめんどくさかわいい通り越して痛い子になってるよなあ…
受け付けない人にはきっついんじゃないかなあ…

藍子「はいっ。前に加蓮ちゃん、お風呂の時間があんまり楽しめないって言っていたから……これなら、ちょっとは楽しめるかも、なんて」

藍子「……お母さんに相談したら、ちょっぴり、お、おばさんくさいって言われちゃいましたケド……」アハハ

加蓮「あ、あはは……。えっと、ラベンダーローズにクールミントに、わっ、なにこれ、ココアローズ? え、もしかして飲めたりする?」

藍子「お腹を壊しちゃいますよっ」

加蓮「それにこっちは……おお、こっちは温泉の入浴剤だ」

藍子「私、ちょっと前に地方のロケに行ったことがあって。一泊だったので、温泉に行ってみたんです。その時に思いついてっ」

加蓮「一泊ロケって……ってことは、Pさん同伴?」

藍子「はいっ」

加蓮「ふーん………………」

藍子「…………も、もちろんお風呂は別々ですよ!? そんなっ、混浴なんて――」

加蓮「え、何この友達が実はむっつりでしたって判明した時のノリ」

藍子「ちちち違いますっ違いますってば!」ブンブン

加蓮「私もロケに行った時はPさん誘ってみよっと。そっか、入浴剤かー…………」

藍子「やっぱり変化球すぎましたか……? その、明日のプレゼントはお母さんも苦笑いしなかった物を用意してますから、ええと、その……」

加蓮「ううん。渡されたことがなかったからびっくりしちゃっただけ。ふふっ、今日はゆっくりお湯に浸かっちゃお。ありがとね藍子。ねね、これお母さんにも渡しちゃっていい? 最近、美肌がどうこうってうるさくてさー」

藍子「もちろんですっ。よかった……」ホッ

加蓮「それに、藍子を誘う楽しみが1つ増えちゃったな」

藍子「え? どういうことですか……?」

加蓮「カフェと同じ。藍子がどういう気分かなって、どの入浴剤ならドンピシャかなって考えるの楽しそう!」

藍子「……あはっ♪」

加蓮「でもさー、私たち10代だよ。10代の女の子が10代の女の子に入浴剤をプレゼントって……ぷぷっ! やっぱり藍子って変な子だよ!」

藍子「えええーっ! もうっ、そんなこと言うなら返してください!」スクッ

加蓮「これは私がもらったものだー!」カクシッ

藍子「こらーっ!」ペチペチ

加蓮「藍子は変な子!」

藍子「加蓮ちゃんには言われたくないーっ」



おしまい。

作者です。いつも読んでくださり、またご感想やご意見を書いて頂き、ありがとうございます。

皆様からのご感想やご意見はすべて拝見し、勉強させていただいております。
ただ、なにぶん私は要領の悪い者でして……適切な返事が思いつかず、また作者として作外であれこれ語るのもあまり好きではないもので。
ご感想やご意見を頂けても、明確な質問でなければ返信できないことも多々あります。

それでも、皆様のご感想やご意見は、本当にすべて拝見しております。
そして、いつも感謝し、いつも勉強させていただいております。
そのことを、どうかご理解・ご承諾いただければ幸いです。

いつもありがとうございます。

乙です。
毎回この独特な雰囲気に癒される。
いつも楽しみにしています

乙乙
加蓮ちゃんお誕生日おめでとう

>>1のssで皆が駄弁ってるのが癒し

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